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特表2024-538493天然ガスエンジンの排気システムのための触媒物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】天然ガスエンジンの排気システムのための触媒物品
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/656 20060101AFI20241016BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20241016BHJP
   B01J 23/60 20060101ALI20241016BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241016BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20241016BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B01J23/656 A
B01J35/57 P ZAB
B01J23/60 A
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F02B43/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514474
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 GB2022052520
(87)【国際公開番号】W WO2023062340
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21202109.1
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】チュウマ、モヤハボ ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、グレン
(72)【発明者】
【氏名】ムーゴ、ジェーン ンギマ
(72)【発明者】
【氏名】ラジ、アグネス
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB02
3G091BA11
3G091GA06
3G091GB04W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB10W
4D148AA18
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4G169AA03
4G169AA11
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC22A
4G169BC23A
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC36A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BD09A
4G169CA03
4G169CA07
4G169CA11
4G169CA15
4G169DA06
4G169EA06
4G169EA19
4G169ED07
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB67
4G169FC08
(57)【要約】
本発明は、改良された硫黄及び/又は水分耐性を有する天然ガスエンジンの排気システムのための触媒物品に関する。本触媒物品は、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒を含み、当該アルミナ担持パラジウム触媒は、マンガン及び/又は亜鉛でドープされる。本発明は更に、排気ガス処理システム、天然ガス燃焼エンジン、及び天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの処理のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの処理のための触媒物品であって、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒を含み、前記アルミナ担持パラジウム触媒はマンガン及び/又は亜鉛でドープされている、触媒物品。
【請求項2】
前記触媒物品は、50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftのPd担持量を有する、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記触媒物品は、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftのMn及び/又はZnの総担持量を有する、請求項1又は請求項2に記載の触媒物品。
【請求項4】
Pd担持量とMn及び/又はZnの総担持量との比が、1:1超、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは2:1~5:1、最も好ましくは約3:1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、基材上のウォッシュコートとして提供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、押出基材の成分として提供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記基材は、フロースルーモノリスである、請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、白金を、好ましくは50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftの担持量で更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項9】
PtとPdとの重量比は1:1未満、好ましくは1:2~1:10である、請求項8に記載の触媒物品。
【請求項10】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、Se、Cu、Cd、Ge、Ba、Sr及びSnから選択される1種以上の更なるドーパント元素を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項11】
前記1種以上の更なるドーパント元素は、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftの担持量で存在する、請求項10に記載の触媒物品。
【請求項12】
前記1種以上の更なるドーパントは、1:1未満、好ましくは3:1未満、より好ましくは5:1未満のMn及び/又はZnの総量に対する質量比で存在する、請求項10又は請求項11に記載の触媒物品。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒物品を含む排気ガス処理システム。
【請求項14】
請求項13に記載の排気ガス処理システムを備える天然ガス燃焼エンジンであって、好ましくは希薄条件下で動作するように構成されている、天然ガス燃焼エンジン。
【請求項15】
天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの処理のための方法であって、前記排気ガスを請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒物品と接触させることを含む、方法。
【請求項16】
前記排気ガスは天然ガスの燃焼によって得られ、前記排気ガスは少なくとも0.5ppmの二酸化硫黄及び/又は5~12重量%の水を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記排気ガスを前記触媒物品と接触させる前記ステップの間、前記排気ガスの温度は550℃未満、好ましくは500℃未満である、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスエンジンの排気システムのための触媒物品に関し、特に、アルミナ担持Pd触媒中に追加のMn及び/又はZnが存在することによって硫黄及び水に対する耐性が改善された触媒物品に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、伝統的にガソリン及びディーゼル燃料を使用する車両及び定置エンジンのための代替燃料として関心が高まっている。天然ガスは、主にメタン(典型的には70-90%)から構成され、エタン、プロパン及びブタンなどの他の炭化水素(いくつかの鉱床では20%まで)及び他のガスを様々な割合で含む。これは、油田又は天然ガス田から商業的に生産することができ、発電、工業用コージェネレーション及び家庭用暖房のための燃焼エネルギー源として広く使用されている。また、車両燃料として使用することもできる。
【0003】
天然ガスは、圧縮天然ガス(compressed natural gas、CNG)及び液化天然ガス(liquefied natural gas、LNG)の形態で輸送燃料として使用することができる。CNGは、3600psi(約248バール)に加圧されたタンクで運ばれ、単位体積当たりガソリンの約35%のエネルギー密度を有する。LNGは、CNGの2.5倍のエネルギー密度を有し、主に大型車両に使用される。LNGは-162°Cで液体形態に冷却され、その結果、体積は600分の1に減少するが、これはLNGがCNGより容易に輸送されることを意味する。バイオLNGは、天然(化石)ガスの代替物となり得るものであり、バイオガスから生産され、埋立地廃棄物又は肥料などの有機物からの嫌気性消化によって得られる。
【0004】
天然ガスは、多くの環境上の利点を有しており、すなわち、典型的には不純物をほとんど含有しないよりクリーンな燃焼燃料であり、従来の炭化水素燃料よりも炭素当たりのエネルギー(Bti)が高く、結果として二酸化炭素排出量が低く(温室効果ガス排出量が25%少ない)、ディーゼル及びガソリンと比較してPM及びNOの排出量が低い。バイオガスは、このような排出を更に低減することができる。
【0005】
天然ガスを採用するための更なる推進力には、他の化石燃料と比較して高い存在量及びより低いコストが含まれる。
【0006】
天然ガスエンジンは、大型及び小型デューティディーゼルエンジンと比較して、非常に低いPM及びNOを放出する(それぞれ、最大95%及び70%未満)。しかしながら、NGエンジンによって生成される排気ガスは、かなりの量のメタン(いわゆる「メタンスリップ」)を含有することが多い。これらのエンジンからの排出を制限する規制は、現在、Euro VI及び米国環境保護庁(EPA)温室効果ガス法を含む。これらは、メタン、窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(PM)の排出制限を課す。
【0007】
メタン燃料エンジンに使用される2つの主な動作モードは、化学量論的条件(λ=1)及び希薄燃焼条件(λ≧1.3)である。パラジウム系触媒は、両方の条件下でメタン酸化のための最も活性なタイプの触媒として周知である。化学量論的圧縮天然ガスエンジンと希薄燃焼圧縮天然ガスエンジンの両方について規制された排出制限は、それぞれパラジウム-ロジウム三元触媒(three-way catalyst、TWC)又は白金-パラジウム酸化触媒のいずれかを適用することによって満たすことができる。
【0008】
このPdベースの触媒技術の発展は、コスト並びに硫黄、水及び熱老化による触媒失活に関する課題を克服することに依存する。
【0009】
メタンは最も反応性の低い炭化水素であり、一次C-H結合を切断するのに高エネルギーが必要である。アルカンの発火温度は、一般に、燃空比の増加及びC-H結合強度と相関する炭化水素鎖長の増加とともに低下する。Pd系触媒では、メタン転化のライトオフ温度が他の炭化水素よりも高いことが知られている(「ライトオフ温度」とは、転化率が50%に達する温度を意味する)。
【0010】
化学量論的条件(λ=1)で動作するとき、TWCは、メタンを燃焼させるための効果的かつ費用効率の高い後処理システムとして使用される。200gft-3を超える高い総白金族金属(platinum group metal、pgm)担持量を有する大部分の二元金属Pd-Rh触媒は、この炭化水素の非常に低い反応性並びに熱及び化学的影響による触媒失活に起因して、寿命末期の全炭化水素(total hydrocarbon、THC)規制を満たすために、高レベルのメタン転化に必要とされる。高いpgm担持量の使用は、化学量論的CNGエンジンにおける全HC転化率を改善する。しかしながら、高いメタン転化率は、エンジン較正に基づいて比較的低いpgmで達成することができ、すなわち、化学量論量付近又は化学量論量よりもリッチで動作するように空燃比を制御することで達成することができる。pgm担持量は、メタン及び非メタン転化に関する地域の法律要件に対応して変更することもできる。
【0011】
NOの還元及びメタンの酸化もまた、非常に酸化性の条件下ではより困難である。希薄燃焼CNG用途では、より低い温度でのメタン燃焼のために、高い総pgm担持量(>200gft-3)でのPd-Ptが必要とされる。化学量論的エンジンとは異なり、過剰酸素の存在下でNOを還元することができるように、還元剤も排気流に注入される必要がある。これは、通常、アンモニア(NH)の形態であり、したがって、希薄燃焼用途は、化学量論的なものとは完全に異なる触媒系を必要とし、ここで、効率的なNO還元は、わずかにリッチな又は化学量論的条件でCO又はHCを使用して達成することができる。
【0012】
低温におけるメタンの非反応(又は低反応)特性のために、主に排気温度が化学量論よりも低い希薄燃焼の場合、コールドスタート及びアイドル状態の間にメタン排出量の増加が生じる。より低い温度でのメタンの反応性を改善するために、選択肢の1つは、高いpgm担持量を使用することであるが、これはコストを増加させる。
【0013】
天然ガス触媒、特にPdベースの触媒は、特に希薄条件下で水(5~12%)及び硫黄(潤滑油中<0.5ppm SO)による被毒に悩まされる可能性があり、これは経時的な触媒の転化率の劇的な低下をもたらす。水による失活は、触媒表面上にヒドロキシル、カーボネート、ホルメート及び他の中間体が形成されるために顕著である。活性は可逆的であり、水が除去されると完全に回復することができる。しかしながら、これは、メタン燃焼供給物が、メタン中の高含有量のHに起因して高レベルの水を常に含有するので、非実用的である。
【0014】
Oは、空燃比、すなわちλに応じて、抑制剤又は促進剤のいずれかであり得る。化学量論的条件及び還元条件下で(λ>1)、HOは、CNGエンジン及びガソリンエンジンの両方において、水蒸気改質反応による炭化水素の酸化のための促進剤として作用することができる。しかしながら、λ>1で動作する希薄燃焼CNGでは、HOはメタン酸化の阻害剤として作用する。水抑制効果を理解し、HOの存在に対してより耐性のある触媒を設計することが重要である。これは、希薄燃焼CNGからのメタン排出を制御しようとするときの改善を可能にする。
【0015】
エンジン排気中の硫黄レベルは非常に低いが、Pdベースの触媒は、安定な硫酸塩の形成に起因して、硫黄曝露時に著しく失活する。硫黄被毒後に活性を回復させるための触媒の再生は困難であり、通常、高温、リッチ運転、又はその両方を必要とする。これは化学量論的運転では容易に達成可能であるが、希薄燃焼ではより困難である。希薄燃焼車両は、化学量論的車両よりもはるかに高い空燃比で動作し、リッチ動作に切り替えるためにはるかに高い濃度の還元剤の噴射を必要とする。不十分なエンジン過渡制御及び点火システムによる高レベルの失火事象から生じる熱失活は、触媒を破壊し、それに対応して高レベルの排気エミッションをもたらす。
【0016】
触媒は、両方の条件下で失活するが、硫黄被毒は、希薄運転における熱老化よりも劇的な影響を有する。硫黄被毒は、Pd触媒に少量のPtを添加することによって改善することができる。これは、硫酸パラジウムの形成による硫黄阻害が、Ptの添加により著しく低減され得るためである。しかしながら、Ptの添加は更にコストを増加させる。
【0017】
したがって、触媒のコストを増加させることなく、硫黄、水及び熱老化などによる触媒失活に取り組むことによってメタン排出を低減するために、天然ガス燃焼エンジン用の改善された触媒を提供することが望まれている。本発明の目的は、この問題に対処し、先行技術に関連する欠点に取り組み、あるいは少なくとも商業的に有用なその代替物を提供することである。
【発明の概要】
【0018】
第1の態様によれば、天然ガス燃焼エンジンからの排気の処理のための触媒物品であって、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒を含み、当該アルミナ担持パラジウム触媒はマンガン(Mn)及び/又は亜鉛(Zn)でドープされている、触媒物品、が提供される。
【0019】
以下の節では、異なる態様/実施形態がより詳細に定義される。そのように定義された各態様/実施形態は、別途明確に示されていない限り、任意の他の態様/実施形態又は態様/実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0020】
触媒物品は、排気ガスシステムにおける使用に適した構成要素である。典型的には、そのような物品はハニカムモノリスであり、「レンガ」と呼ばれることもある。これらは、処理されるべきガスを触媒材料と接触させて排気ガスの成分の変換又は転化を行うのに適した高表面積構成を有する。触媒物品の他の形態も知られており、プレート構成、並びにラップされた金属触媒基材を含む。本明細書に記載される触媒は、これらの既知の形態の全てにおいて使用するのに適しているが、コストと製造の単純さとの良好なバランスを提供するので、ハニカムモノリスの形態をとることが特に好ましい。
【0021】
好ましくは、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、基材上のウォッシュコートとして提供される。あるいは、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、押出基材の成分として提供される。好ましくは、いずれの場合も、基材は、フロースルーモノリスである。好ましくは、触媒が基材上のウォッシュコートとして提供される場合、基材はフロースルーセラミックモノリスである。
【0022】
触媒物品は、天然ガス燃焼エンジンからの排気の処理のためのものである。すなわち、触媒物品は、天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの触媒処理のためのものであり、排気ガス規制を満たすようにガスの成分を大気に放出する前に成分を転化又は変換するためのものである。天然ガスが燃焼されるとき、それによって二酸化炭素と水の両方が生成されるが、排気ガスはまた、排気ガスが大気に放出される前に触媒的に除去される必要がある量の追加のメタン(及び他の短鎖炭化水素)を含有する。排気ガスはまた、典型的には、蓄積して触媒を失活させ得るかなりの量の水及び硫黄を含有する。
【0023】
移動用途では、天然ガス燃焼は、希薄又は化学量論的構成で動作するように構成され得る。「移動用途」とは、システムが、概して、自動車又は他の車両(例えば、オフロード車両)における使用に好適であり得ることを意味し、そのようなシステムでは、加速等のオペレータ要件に応じて、動作中に燃料供給及び需要の変化があり得る。移動用途では、一般に、システムをリッチモードで一時的に稼働させることが可能であり、これは、触媒を汚染する硫黄を燃焼除去し、蓄積した水を除去するのに役立つ温度の大幅な上昇と関連付けられる。
【0024】
定置システムでは、天然ガス燃焼はまた、希薄条件又は化学量論的条件下で動作するように構成され得る。定置システムの例には、ガスタービン及び発電システムが含まれ、そのようなシステムでは、燃焼条件及び燃料組成は、一般に、長い動作時間にわたって一定に保たれる。これは、移動用途と比較して、硫黄及び水分汚染物質を除去するための再生工程を有する機会が少ないことを意味する。したがって、本明細書に記載される利益は、定置用途に特に有益であり得る。すなわち、触媒を再生する機会が限られている場合に、高い硫黄及び水分耐性を有する触媒を提供することが特に望ましい。
【0025】
上記の「希薄」及び「化学量論的」システムは、「移動」及び「定置」として説明されるが、両方のシステムタイプが、異なる用途の範囲にわたって使用され得ることを理解されたい。
【0026】
触媒物品は、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒を含む。すなわち、この物品は、成分として(好ましくは唯一の触媒活性成分として)、パラジウム及びドーパントを担持する担体として提供されるアルミナ担体を含む触媒を含む。アルミナは、触媒用途において使用するための極めて一般的な担体であり、適切なアルミナを選択することは、当該技術分野において一般的である。触媒を形成するためのアルミナの適切な量の選択は、本明細書で議論されるように、基材の形態に依存する。
【0027】
アルミナは、1つ以上の異なる結晶形で提供されてもよい。ガンマアルミナは、一般に、その熱安定性のために最も好ましい。アルミナは、その安定性を改善するのを助けるために1種以上のドーパントを含んでもよく、典型的なドーパントとしては、Si及びLaが挙げられる。アルミナを安定化させるためのドーパントは、好ましくはアルミナの15重量%未満、より好ましくは10重量%未満の量で存在する。アルミナに対するこれらのドーパントは、アルミナの1~10重量%の量で存在してもよい。
【0028】
触媒物品の形態に応じて、触媒は、追加の非触媒成分を更に含んでもよい。例えば、粘土及び他のアルミナ成分を含む結合剤をウォッシュコートに含めることは従来から行われている。例えば、押出成形された触媒モノリスに、ガラス繊維及び粘土などの追加の充填剤及び加工助剤を含めることは従来から行われている。
【0029】
好ましくは、触媒物品は、50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftのPd担持量を有する。これらのレベルは、排気ガス中のメタンを処理するのに有効であり、TWCの場合よりも著しく高い可能性がある。
【0030】
アルミナ担持パラジウム触媒は、マンガン及び/又は亜鉛でドープされている。最も好ましくは、触媒はMn又はZnのいずれかでドープされる。好ましくは、触媒物品は、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftのMn及び/又はZnの総担持量を有する。総担持量とは、存在するMn及びZnの全ての合計(例えば、Znが存在しない場合は存在するMnの量)を意味する。以下に説明するように、これらの2つの元素は、パラジウムを促進し、硫黄及び/又は水分にさらされたときに触媒の性能を向上させるのに特に有効であることが分かっている。
【0031】
好ましくは、触媒物品は、1:1超、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは2:1~5:1、最も好ましくは約3:1の、Pd添加量とMn及び/又はZnの総担持量との比を有する。Mn及び/又はZnは、Pdによって達成される反応を促進するために存在するので、ドーパントの量は、一般に、促進されたPdの量以下である。
【0032】
本発明者らは、より低い温度でメタンを燃焼させることができる天然ガスエンジン後処理システムを提供しようとした。本発明者らは、驚くべきことに、Mn及び/又はZnの含有が、(i)湿潤及び乾燥条件下でのメタン転化性能、並びに(ii)触媒の硫黄耐性、に対してプラスの効果を有することを見出した。特に、実験的なSCAT分析により、Mn及びZnドープされたPd/Al触媒が、乾燥条件下及び湿潤条件下の両方において、低温でメタンに対して改善されたライトオフ活性を示すことが明らかになっている。これは、Pd/AlにMn又はZnのいずれかをドープすることにより、PtドープされたPd/Al触媒よりも触媒の性能が向上することを示唆している。硫黄耐性試験もこれらの触媒で行われ、Mnドープされた触媒とZnドープされた触媒の両方が硫黄耐性に対して同様の向上を示した。
【0033】
理論に束縛されることを望むものではないが、PdにMnをドープすると、活性化エネルギー(E)が低下し、他のドーパントよりもOH被毒に対する耐性が向上すると考えられる。同様の性能がZnでも観察された。
【0034】
コンピュータシミュレーションを用いて、これらの反応の基礎を理解するのを助けるモデルを開発した。このモデルにおいて、PdO(100)表面は、表1に列挙される一連の+2酸化状態元素でドープした。ドープされた表面上のメタンの活性化エネルギー障壁(E)及び様々な中間種の吸着エネルギーを計算してモデルを構築した。モデルは、Mn又はZnのいずれかによるドーピングが活性化エネルギーを減少させ、OH又はSO被毒に対する耐性を向上させ得ることを予測した。
【0035】
【表1】
【0036】
これらのドープされたPdO(100)表面の活性を確認するために、次いで、3つの変数、すなわち、δG(CH_TS)、δG(OH)及びδG(O)を使用して速度論モデルを開発した。ここで、δG(CH_TS)は、速度決定ステップと考えられるCHの第1の解離ステップであり、δG(OH)は水被毒に対する耐性を表し、δG(O)は活性部位を生成するためのPd表面上の酸素の吸着である。Mnは、低温でPdO(100)表面の活性を高めることが示唆された。
【0037】
好ましくは、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、白金を、好ましくは50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftの担持量で更に含む。好ましくは、PtとPdとの重量比は、1:1未満、好ましくは1:2~1:10である。Ptは、触媒の酸化性能を全体として改善するために存在する周知の相補的なpgmである。
【0038】
Mn及びZnは、全ての状況下でPdO単独よりも良好であることが上記表に明確に示されている。しかしながら、示された他の要素は、長所と短所のバランスである。好ましくは、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、Se、Cu、Cd、Ge、Ba、Sr及びSnから選択される1種以上の更なるドーパント元素を含む。上の表に示されるように、これらのドーパントの各々は、活性化エネルギー、OH、O及びSO吸収のエネルギーに対する異なるバランスの効果を有する。これは、必要とされる特定の用途に応じて、いくつかの欠点によって相殺されても、特定の利益を有する構成成分を追加することが望ましい場合があることを意味する。例えば、Cdは、耐水性に関しては強い改善を与えるが、活性化エネルギーに対しては穏やかな欠点を与えるに過ぎない。
【0039】
好ましくは、1種以上の更なるドーパント元素が、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftの担持量で存在する。好ましくは、1種以上の更なるドーパントは、Mn及びZnの総量に対する質量比が1:1未満、好ましくは3:1未満、より好ましくは5:1未満で存在する。これは、Mn及びZnが一般にプラスの効果を有するのに対して、更なるドーパントは一般に二次的利益のために提供されるからである。
【0040】
更なる態様によれば、本明細書に記載の触媒物品を含む、排気ガス処理システムが提供される。排気ガス処理システムは、一般に、燃焼室から排気ガスを受け入れるように構成された入口端部と、処理済み排気ガスを大気に放出するための出口とを有する。排気ガスシステム内の触媒物品に沿って、排気ガスの他の成分を処理するか、あるいはスリップを回避するためにメタンに追加の処理を提供するのに適した1つ以上の他の触媒又は濾過構成要素があってもよい。
【0041】
更なる態様によれば、本明細書に記載される排気ガス処理システムを備える天然ガス燃焼エンジンが提供される。好ましくは、天然ガス燃焼エンジンは、希薄条件下で動作するように構成される。天然ガス燃焼エンジンは定置エンジンであってもよい。上述したように、触媒再生は定置システムではより困難であるので、触媒が硫黄及び水分汚染に対して安定であることが特に重要である。そうでなければ、触媒をオフラインにして別個に再生する必要があり、これはプロセスの非効率性及びコストにつながる可能性がある。
【0042】
更なる態様によれば、天然ガス燃焼エンジンからの排気の処理のための方法であって、排気ガスを、本明細書に記載の触媒物品と接触させることを含む、方法、が提供される。好ましくは、排気ガスは天然ガスの燃焼によって得られ、排気ガスは少なくとも0.5ppmの二酸化硫黄を含む。好ましくは、排気ガスは天然ガスの燃焼によって得られ、排気ガスは5~12重量%の水を含む。理解されるように、これらのタイプの排気ガスは、天然ガス燃焼からの排気を処理する際の従来通りのものであり、改善された水及び硫黄耐性を有する本明細書に記載の触媒物品から最も明らかに利益を得るのはこれらである。
【0043】
好ましくは、排気ガスを触媒物品と接触させるステップの間、排気ガスの温度は550℃未満、好ましくは500℃未満である。例えば、排気ガスは約450℃の温度を有してもよい。これらの条件は、希薄運転システムにおいて特に一般的である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の非限定的な図に関連して本発明を更に説明する。
図1】乾燥及び湿潤条件下での温度の関数としてのメタン転化率(%)を示す。この図では、50%転化率で左から右に、各線は、Znドープ(乾燥)、Mnドープ(乾燥)、非ドープ(乾燥)、Ptドープ(乾燥)であり、次いで、Znドープ(湿潤)、Mnドープ(湿潤)、非ドープ(湿潤)、及びPtドープ(湿潤)である。
図2】0.5ppmのSO反応ガス供給物を使用した温度の関数としてのメタン転化率(%)を示す。この図において、425°Cでは、最良の転化率はMnで得られ、次いでZnで得られる。
【実施例
【0045】
ここで、以下の非限定的な実施例に関連して本発明を更に説明する。
【0046】
-実施例1
非ドープアルミナ(SCFA 140)上に1重量%のMn-2.85重量%のPdを含む触媒組成物を以下のように調製した。
【0047】
0.9gの硝酸マンガン四水和物を最小量の水に溶解し、3.75gの硝酸Pdに添加し、続いて約1mLの水で更に希釈した。この混合物を20gのアルミナ担体に絶えず撹拌しながら滴下し、続いてすすいだ。混合物をオーブン中で3時間乾燥させ、続いて500℃で2時間焼成した。
【0048】
この触媒中のPdの総担持量は約128g/ftであり、Mnの総担持量は約45g/ftであった。
【0049】
-実施例2
非ドープアルミナ(SCFA 140)上に1重量%Zn-2.85重量%Pdを含む更なる触媒組成物を以下のように調製した。
【0050】
0.9gの硝酸亜鉛六水和物を最小量の水に溶解し、3.77gの硝酸Pdに添加し、続いて約1mLの水で更に希釈した。この混合物を20gのアルミナ担体に絶えず撹拌しながら滴下し、続いてすすいだ。混合物をオーブン中で3時間乾燥させ、続いて500℃で2時間焼成した。
【0051】
この触媒中のPdの総担持量は約128g/ftであり、Znの総担持量は約45g/ftであった。
【0052】
-触媒試験
実施例1及び2において調製された触媒組成物のペレット化された試料(0.2~0.4g、250~300μm)を、合成触媒活性試験(synthetic catalytic activity test、SCAT)装置において、水及び硫黄耐性について、ある温度範囲(傾斜速度10~15℃/分で150~450℃まで傾斜)において空間速度(space velocity、SV)45kで以下に記載される入口ガス混合物を使用して試験した。
【0053】
水耐性試験のために、以下の入口ガス混合物を使用した。
乾燥:4000ppm CH、8%O、残りN
湿潤:4000ppm CH、8%O、10%HO、残りN
【0054】
耐硫黄性試験のために、以下の入口ガス混合物を使用した:4000ppmのCH、30ppmのC、100ppmのC、1000ppmのCO、5%のCO、500ppmのNO、8%のO、10%のHO、0.5ppmのSO、残りはN
【0055】
これらの実施例は両方とも、図に示されるように、非ドープPd触媒と比較して、改善された硫黄耐性、改善された耐湿性及びより良好な触媒活性を示した。
【0056】
本開示の好ましい実施形態について本明細書で詳細に説明してきたが、本開示の範囲又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変形がなされ得ることが当業者には理解されるであろう。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの処理のための触媒物品であって、ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒を含み、前記アルミナ担持パラジウム触媒はマンガン及び/又は亜鉛でドープされている、触媒物品。
【請求項2】
前記触媒物品は、50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftのPd担持量を有する、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記触媒物品は、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftのMn及び/又はZnの総担持量を有する、請求項1又は請求項2に記載の触媒物品。
【請求項4】
Pd担持量とMn及び/又はZnの総担持量との比が、1:1超、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは2:1~5:1、最も好ましくは約3:1である、請求項に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、基材上のウォッシュコートとして提供される、請求項に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、押出基材の成分として提供される、請求項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記基材は、フロースルーモノリスである、請求項に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、白金を、好ましくは50~300g/ft、好ましくは70~250g/ft、より好ましくは100~200g/ftの担持量で更に含む、請求項に記載の触媒物品。
【請求項9】
PtとPdとの重量比は1:1未満、好ましくは1:2~1:10である、請求項8に記載の触媒物品。
【請求項10】
前記ドープされたアルミナ担持パラジウム触媒は、Se、Cu、Cd、Ge、Ba、Sr及びSnから選択される1種以上の更なるドーパント元素を含む、請求項に記載の触媒物品。
【請求項11】
前記1種以上の更なるドーパント元素は、5~100g/ft、好ましくは20~80g/ft、より好ましくは40~60g/ftの担持量で存在する、請求項10に記載の触媒物品。
【請求項12】
前記1種以上の更なるドーパントは、1:1未満、好ましくは3:1未満、より好ましくは5:1未満のMn及び/又はZnの総量に対する質量比で存在する、請求項10又は請求項11に記載の触媒物品。
【請求項13】
請求項に記載の触媒物品を含む排気ガス処理システム。
【請求項14】
請求項13に記載の排気ガス処理システムを備える天然ガス燃焼エンジンであって、好ましくは希薄条件下で動作するように構成されている、天然ガス燃焼エンジン。
【請求項15】
天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの処理のための方法であって、前記排気ガスを請求項に記載の触媒物品と接触させることを含む、方法。
【請求項16】
前記排気ガスは天然ガスの燃焼によって得られ、前記排気ガスは少なくとも0.5ppmの二酸化硫黄及び/又は5~12重量%の水を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記排気ガスを前記触媒物品と接触させる前記ステップの間、前記排気ガスの温度は550℃未満、好ましくは500℃未満である、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【国際調査報告】