(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】バイオマーカーとして抱合胆汁酸を使用して気分障害及び/又は気分障害の状態の改善を検出及び/又は定量する方法、並びにその改善された方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20241016BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241016BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20241016BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241016BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241016BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241016BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N33/50 S
G01N27/62 V
G01N27/62 X
A61K35/741
A61P25/00
A61K47/18
A61K31/198
A61P43/00 121
A23L33/10
A23L33/135
A61K35/745
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516532
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2022076515
(87)【国際公開番号】W WO2023046897
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【氏名又は名称】安藤 祐子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソア‐ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ベルゴンゼリ デゴンダ, ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】コミネッティ アレンデ, オルネラ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B018
4C076
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
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4B018LB03
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4C206ZA02
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、グリシン抱合胆汁酸の使用に関する。本発明はまた、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法、特に対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするための方法であって、介入が、プロバイオティクスの投与を含む、方法にも関する。本発明はまた、必要とする対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをグリシン又はその誘導体と組み合わせた組成物の有効量を対象に投与することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抱合胆汁酸である、バイオマーカー。
【請求項2】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、少なくとも1種類の抱合胆汁酸の使用。
【請求項3】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量する方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度を評価することと、
前記対象の抱合胆汁酸濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
i)前記試料中の抱合胆汁酸コール酸(CA)及び/又はケノデオキシコール酸(CDCA)の濃度が前記所定の参照値と比較して増加していること、及び/又は
ii)前記試料中の抱合胆汁酸ウルソデオキシコール酸(UDCA)の濃度が前記所定の参照値と比較して減少していることは、
前記対象の前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法。
【請求項4】
前記気分障害が、軽度から重度である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の参照値が、同じ対象から以前に得られたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の参照値が、対照集団における同様の体液中の平均抱合胆汁酸濃度に基づくものである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中及び前記参照中の前記バイオマーカーの前記濃度が、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーを用いて、質量分析法によって測定される、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の参照値が、検査を受ける対象から得られた生体試料中の抱合胆汁酸の濃度と同様の体液から得られた少なくとも1種類の抱合胆汁酸濃度に基づくものである、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の所定の参照値が、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入が開始する前に前記対象から採取された生体試料から得られたものである、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の所定の参照値が、気分障害の状態及び/過度の情動反応を治療又は寛解するための介入中に、前記対象から採取された生体試料から得られたものであり、ただし前記対象から前記生体試料が得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも4週間前のものである、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料が、糞便、全血、血清、及び血漿からなる群から選択される、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするためのものであり、前記介入が、プロバイオティクスの投与を含む、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記プロバイオティクスが、BL NCC3001である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、ヒト、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌである、請求項3~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
必要とする対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをグリシン又はその誘導体と組み合わせた組成物の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記気分障害が、軽度から重度である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物の投与を開始する前に、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法を使用して前記対象を診断することを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記グリシンが、L-グリシンの形態、又はタンパク質、ペプチドなどのグリシンに富む任意の供給源の形態;又はグリシン誘導体の形態である、請求項15又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、経口投与される、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、食品添加物、食品原材料、機能性食品、ダイエタリーサプリメント、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、経口栄養補助食品(ONS)若しくは栄養補助食品、又は乳児用フォーミュラを含む食品製品又は飲料製品である、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロバイオティクスが、BL NCC3001である、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、ヒト、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌである、請求項15~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、グリシン抱合胆汁酸の使用に関する。本発明はまた、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法、特に対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするための方法であって、介入が、プロバイオティクスの投与を含む、方法にも関する。本発明はまた、必要とする対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをグリシン又はその誘導体と組み合わせた組成物の有効量を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0002】
世界保健機関(WHO)が2018年に発表したファクトシートによれば、世界の3億人超が抑うつである(GBD 2017 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators(2018)。Global,regional,and national incidence,prevalence,and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories,1990-2017:a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017.The Lancet)。気分障害の1つである抑うつは、日常生活中の困難に対する気分及び一時的情動応答において、正常な変化と差異がある一般的な病気である。しかしながら、潜在性抑うつ、軽度の気分障害もまた、生活の質に影響を及ぼすことがある。
【0003】
気分障害は、患者、及び当該患者と定期的に交流がある人々に深刻な影響を及ぼすことがある。典型的な帰結は、職場又は学校での成績の不振、社会的交流の減少、個人的な悩み、及び友人又は家族との関係性に対する悪影響である。
【0004】
最悪の場合、気分障害は自殺につながることがある。自殺により毎年800,000人に迫る人々が亡くなっており、自殺は15~29歳で2番目に多い死因である(Suicide worldwide in 2019:global health estimates.Geneva:World Health Organization;2021.Licence:CC BY-NC-SA 3.0 IGO)。
【0005】
気分障害は、男性よりも女性でよくみられるようであり(Journal of the American Medical Association,2003;Jun 18.289(23):3095-105)、周産期、及び閉経期が特にかかりやすい時期である。また、小児も1,900万人が抑うつと診断されている。特に、気分障害はまた、後に他の疾患につながることもある。例えば、気分障害により、冠動脈疾患を発症するリスクが大きくなることは公知である。
【0006】
現在、気分障害は、通常は十分に治療することができる。例えば、気分障害は、運動又は対話療法(talking therapy)によって、理想的にはサイコロジストによる指導を受けて、治療することができる。心理療法、例えば認知行動療法は、1つの選択肢である。現在では、抗うつ薬が薬剤としてうまく使用されている多くの場合、上記に参照したアプローチの組み合わせは、併用療法の枠組みで使用されている。最近の学術研究により、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum、BL)NCC3001は、過敏性腸症候群の患者において抑うつスコア(depression score)を低下させることが明らかになった(Gastroenterology 2017;153:448-459)。
【0007】
現在では、医師は、患者との対話、及び典型症状のスクリーニングによって、気分障害を診断している。現在では、治療応答は、確立された自己評価尺度を用いて患者の応答を体系的にモニタリングすることによって測定する必要がある(J Clin Psychiatry.2013 Jul;74(7))。
【0008】
一方で、気分障害を検出すること、及び/又は気分障害を治療又は寛解する治療の成功を評価すること、更にはかかる治療を改善することを可能にする、生化学ツールを利用可能にすることが望ましい。
【0009】
本発明者らは、これらの課題に取り組んだ。
【0010】
本明細書における先行技術文献のいかなる参照も、かかる先行技術が周知であること、又は当該技術分野で共通の全般的な認識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【0011】
このことから、本発明は現在の技術水準を改善することを目的とし、特に、対象の気分障害の診断又は気分障害の状態の改善及び/若しくは過度の情動反応の改善を可能にする生化学的ツールの提供、又は少なくとも有用な代替物の提供を目的とした。本発明はまた、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための方法を改善することも目的とする。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の目的が独立請求項の主題によって達成され得ることを見出した。従属請求項は、本発明の着想を更に展開させるものである。
【0013】
したがって、一態様では、本発明は、血中で測定することができるバイオマーカーであって、抱合胆汁酸、特にグリシン抱合胆汁酸である、バイオマーカーを提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は更に、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、抱合胆汁酸の使用を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量する方法であって、検査を受ける対象から得られた生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度を評価することと、対象の抱合胆汁酸濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
i)試料中の抱合胆汁酸コール酸(CA)及び/又はケノデオキシコール酸(CDCA)の濃度が所定の参照値と比較して増加していること、及び/又は
ii)試料中の抱合胆汁酸ウルソデオキシコール酸(UDCA)の濃度が所定の参照値と比較して減少していることは、
対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法を提供する。
【0016】
最後の態様において、本発明は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスとグリシン又はその誘導体とを組み合わせた組成物の有効量を、必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「含む/備える(comprises)」、「含んでいる/備えている(comprising)」という単語、及び類似の単語は、排他的又は網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、これらは「含むが、これらに限定されない」ことを意味することを意図している。
【0018】
本明細書で使用される場合、疾患又は障害を「治療する」、「治療すること」又は「治療」は、次の1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度及び/又は持続期間を低減すること;(b)治療される障害(複数可)に特徴的な症状の発症を制限又は予防すること;(c)治療される障害に特徴的な症状の悪化を抑制すること;(d)過去に障害(複数可)を有していた患者における障害(複数可)の再発を制限又は予防すること;及び(e)過去に障害(複数可)の症状を示した患者における症状の再発を制限又は予防すること。本明細書で使用される場合、疾患又は障害の「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」、「予防(prevention)」、又は「発症予防(prophylaxis)」は、対象において疾患又は障害が生じることを予防することを意味する。
【0019】
「有効量」又は「治療量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められている組織、系、動物又はヒトの生理学的応答を誘発する物質の量を意味することを意図する。「予防有効量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって、組織、系、動物又はヒトにおいて予防されることが求められる生物学的事象又は医学的事象の発生のリスクを予防又は低減する物質の量を意味することを意図する。
【0020】
本発明の目的で、「気分障害」という用語は、主に人の情動状態に影響する精神の健康問題を含むと理解されるものとする。気分障害には、躁エピソード(多動、会話心迫、及び自尊心の肥大を伴う、高揚した、開放的な、又は易怒的な気分)、又は抑うつエピソード(生活への無関心、虚無感、興味や喜びの喪失、悲しみ、食欲又は体重の変化、無気力又は気力低下、睡眠障害、焦燥/興奮(agitation)、及び無価値感又は罪責感、無力感、思考力若しくは集中力の減退又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、を伴う、落ち込んだ気分)などの情動障害/撹乱を含み、多くの場合、これら2つの組み合わせを含む。
【0021】
用語「気分」とは、特定の時点における、感情の状態又は質(情動状態)を意味する。気分は、さほど具体的でない、さほど激しくない、及び特定の刺激又は出来事によりさほど誘発されないという点で、単純な情動とは異なる。臨床的抑うつ及び双極性障害は、気分障害(すなわち、気分の長期変調)の例である。気分障害は、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)の分類システムにおける診断群であり、気分における変調を主要な特徴とする。抑うつ障害の非限定的な例としては、うつ病のような重度の抑うつ、及び軽度から中等度の気分障害である潜在性抑うつ、重篤気分変調症、うつ病、単一及び再発エピソード、持続性抑うつ障害(気分変調症)、季節性感情障害(SAD)、月経前不快気分障害、物質・医薬品誘発性抑うつ障害、他の医学的疾患による抑うつ障害、他の特定される抑うつ障害又は特定不能の抑うつ障害が挙げられる。
【0022】
本発明の目的に関し、「過度の情動反応」という用語は、過度の恐怖、不安、怒り、又は悲しみを特徴とする情動調節不全を含む。不安障害の非限定的な例としては、分離不安障害、場面緘黙、限局性恐怖症、社交不安障害(社交恐怖)、パニック障害、パニック発作、広場恐怖症、全般性不安障害、物質・医薬品誘発性不安障害、他の医学的疾患に起因した不安障害、他の特定される不安障害、又は特定不能の不安障害が挙げられる。過度の情動反応はまた、ストレス、過度のストレスの感覚、易怒性、不穏状態、又は身体的健康に対する過度の心配も指し得る。
【0023】
あるいは、気分障害は、神経障害、代謝異常、機能性胃腸障害、内分泌疾患、循環器疾患、肺疾患、がん、自己免疫性疾患、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される基礎疾患により発症した二次的疾患であり得る。例えば、気分障害は、基礎疾患から生じた1つ以上の抑うつ症状であり得る。
【0024】
本発明者らは、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとして、抱合胆汁酸を使用することができることを示した。
【0025】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは現在、血中の抱合胆汁酸、特にグリシン抱合胆汁酸が、腸内微生物叢(microbiota)によるタンパク質及び芳香族アミノ酸の代謝の推移を示す読み出し情報になり得、したがって、プロバイオティクスにより誘導され、気分障害の状態の改善に関連する、代謝による腸-脳相互作用を、直接的又は間接的に説明し得ると考えている。また、グリシン抱合胆汁酸、コール酸、ケノデオキシコール酸は、食事性脂肪の乳化に関与するなかでも最も豊富に存在する分子種であり、プロバイオティクスと共に増加する。いくつかの作用様式は、BL NC3001などのプロバイオティクスによってもたらされる胆汁酸組成物の調節によって介される可能性があり、こうした調節には、例えば(i)正常な神経伝達物質代謝のため、並びにその補給が気分及び認知の改善、及び睡眠に関連する、グリシンのバイオアベイラビリティに影響を与えること(Bannai et al.Front Neurol.2012;3:61)、(ii)PUFAなどの食事性脂肪が血液脳関門を通過し、気分、抑うつ及び不安に関わる脳機能に関与するための、乳化、吸収、及びバイオアベイラビリティの調節(Kuan-Pin Su et al.Clin Psychopharmacol Neurosci.2015 Aug;13(2):129-137)、(iii)不安様挙動及び抑うつ様挙動、並びに疼痛知覚及び感覚変換を調節することが知られている、腸細胞におけるオレイルエタノールアミン脂質及びパルミトイルエタノールアミン脂質の合成の調節(Hill MN et al.,Psychoneuroendocrinology.2009 Sep;34(8):1257-62、及びCoppola M,et al.Med Hypotheses.2014 May;82(5):507-11)、(iv)及び受容体のFXR又はTGR5などの特異的受容体との直接相互作用によるもの(Kiriyama Y,et al.Biomolecules.2019)がある。
【0026】
本発明者らは、本明細書に示される治験を、プロバイオティクス、一例としてBL NCC3001による介入を用いて実施した。結果として、本発明の目的のためには、プロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、例えば、BL NCC3001であってもよい。
【0027】
また、コンパニオンアニマルも気分障害になることがある。本発明の目的に関し、コンパニオンアニマルは、主に人の仲間として、喜びのため、又は思いやりのある行為として飼われている動物である。コンパニオンアニマルの典型的な例は、ネコ若しくはイヌ、更にウサギ、フェレット、ブタ、齧歯類、例えば、アレチネズミ、ハムスター、チンチラ、ラット、マウス、及びモルモット、又は鳥類である。例えば、イヌは、抑うつ状態になると、多くの場合引きこもり、遊びへの関心が失われ、及び/又は無気力若しくは悲しんでいるようにみえる。場合により、コンパニオンアニマルは、通常よりも少なく食べ及び/又は飲み、それにより様々な身体的疾患になることがある。結果として、今日では、コンパニオンアニマルも気分障害の治療を受ける。したがって、本発明の一実施形態では、対象は、ヒトであってよく、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】
図1Aは、マーカー(A)GCAの血中濃度を示し、濃度データの群をその四分位数を通して描く箱ひげ図として報告している。
【
図1B】
図1Bは、マーカー(B)GCDCAの血中濃度を示し、濃度データの群をその四分位数を通して描く箱ひげ図として報告している。
【
図1C】
図1Cは、マーカー(C)GUDCAの血中濃度を示し、濃度データの群をその四分位数を通して描く箱ひげ図として報告している。
【0029】
結果として、本発明は、部分的には、抱合胆汁酸であるバイオマーカーに関する。抱合胆汁酸は、胆汁酸のタウリン抱合体又はグリシン抱合体、好ましくはグリシン抱合胆汁酸である。
【0030】
一実施形態では、胆汁酸は、コール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、及びこれらのグリシン抱合体から選択される。
【0031】
バイオマーカーは、当業者に公知である。バイオマーカーは通常、正常な生物学的プロセス、発症プロセス、又は介入に対する応答の指標として客観的に測定及び評価される特徴として理解される。更なる手引きは、Curr Opin HIV AIDS.2010 Nov;5(6):463-466から得ることができる。
【0032】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、少なくとも1種類の抱合胆汁酸の使用にも関する。このことから、抱合胆汁酸は、気分障害を検出するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0033】
好ましい実施形態において、気分障害は軽度から重度である。病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale,HADS)を使用して、気分障害のレベルを測定することができる。HADSは14項目の自己評価尺度であり、7項目が抑うつサブスケールを形成し、別の7項目が不安を測定する(Zigmond&Snaith,1983)。各項目は、0~3の範囲の4段階スケールで評価され、3はより高い症状頻度を意味する。各サブスケールの合計得点は0~21の範囲であり、正常(0~7)、軽度(8~10)、中等度(11~14)、又は重度(15~21)に分類される(The Hospital Anxiety and Depression Scale,Occupational Medecine 2014,64:393-394)。
【0034】
更に、気分障害の状態の改善を検出及び/又は定量するために、抱合胆汁酸を使用することができる。
【0035】
更に、対象の気分障害の状態から生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するために、抱合胆汁酸を使用することができる。例えば、Gastroenterology 2017;153:448-459の著者は、扁桃体の関与の変化が気分障害スコアの変化と相関することを報告している。扁桃体は、情動応答において主要な役割を果たすので、気分障害の状態の改善は、対象の気分障害の状態から生じた情動的反応の改善に対応すると推論することができる。
【0036】
本発明の主題は更に、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度を評価することと、
対象の抱合胆汁酸濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
i)試料中の抱合胆汁酸CA及び/又はCDCAの濃度が所定の参照値と比較して増加していること、及び/又は
ii)試料中の抱合胆汁酸UDCAの濃度が所定の参照値と比較して減少していることは、
対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法に関する。
【0037】
本発明の主題は更に、対象における気分障害を検出するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度を評価することと、
対象の抱合胆汁酸濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
i)試料中の抱合胆汁酸CA及び/又はCDCAの濃度が所定の参照値と比較して増加していること、及び/又は
ii)試料中の抱合胆汁酸UDCAの濃度が所定の参照値と比較して減少していることは、
対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法に関する。
【0038】
本発明の方法は、生体試料中のバイオマーカーの濃度又はバイオマーカーの濃度の変化に基づいて気分障害を診断することを可能にするという利点を有する。また、対象における気分障害の治療の成功を制御することも可能になる。したがって、このような生化学的方法は、気分障害を正確に診断する際に医師を支援するため、及び/又は医師が指示する治療の成功を追跡するため有用なツールになり得る一方で、この方法以外では、医師は主として主観的な問診票及び患者による症状の説明に頼るしかない。また、本発明の方法は、気分障害をはっきり伝えることができず、かつ気分障害になっている対象、例えば、コンパニオンアニマルを助けるのに非常に価値がある。
【0039】
本発明の方法では、検査を受ける対象から得られた生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度を参照値と比較する。
【0040】
例えば、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量することを目的とする場合、参照値も治療される対象から得られたものであると好ましい場合がある。
【0041】
したがって、本発明の方法に関し、所定の参照値は、同じ対象から以前に得られたものであってもよい。このことは、現時点の抱合胆汁酸濃度を以前の抱合胆汁酸濃度と比較することによって、ある個体について、GCA及びGCDCAからなる群から選択される少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度の増加、及び/又はGUDCAなどの少なくとも1種類の抱合胆汁酸の濃度の減少を、高信頼度で測定することができるという利点を有する。
【0042】
あるいは、所定の参照値は、対照集団における同様の生体試料中の平均抱合胆汁酸濃度に基づくものであってもよい。このことは、ある個体について測定された抱合胆汁酸濃度を、一般に適用可能な標準と比較することができ、すなわち、ある個体の抱合胆汁酸濃度を全体平均と比較することができるという利点を有する。これにより、多くの個別患者における多くの測定値の容易な比較が可能になる。これによりまた、個別の参照値を得るための予めの検査の必要がないため、わずか1回の検査での迅速な評価も可能になる。
【0043】
生体試料中の少なくとも1種類の抱合胆汁酸濃度の分析は、当業者に公知の任意の好適な方法によって実施することができる。本発明者らは、質量分析を用いた。したがって、本発明の一実施形態では、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、質量分析によって測定することができる。速度上昇、精度、及びノイズ低減のために、質量分析は、質量分析に先立つクロマトグラフィーステップと連結することができる。例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。更に、例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結したガスクロマトグラフィーによって測定することができる。例えば、試料中の抱合胆汁酸濃度の定量的測定は、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)及び/又はガスクロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(GC-TOFMS)のいずれを用いて実施してもよい。
【0044】
有利なことに、参照値と生体試料から得られた抱合胆汁酸濃度との最適な比較能力を確保するために、参照値及び現時点の抱合胆汁酸濃度の両方を同様の生体試料から得ることができる。したがって、所定の参照値は、検査を受ける対象から得られた生体試料中の抱合胆汁酸の濃度と同様の生体試料から得られた抱合胆汁酸濃度に基づくものであってもよい。
【0045】
本発明の方法を用いて、気分障害治療の成功をモニタリングすることができる。モニタリングを行うために、現時点の抱合胆汁酸濃度を、治療を受ける対象から治療の開始前に得られた抱合胆汁酸濃度と比較可能であることが好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の所定の参照値は、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応の開始を治療又は寛解するための介入の前に対象から採取された生体試料から得ることができる。
【0046】
本発明が既に開始された後の、気分障害の状態の更なる改善を評価することが可能であるように、治療を受ける対象から得られた参照を利用可能にすることが更に好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の所定の参照値は、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入中に、対象から採取された生体試料から得られたものであってもよく、ただし、対象から生体試料が得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも2週間前、少なくとも4週間前、又は少なくとも6週間前のものである。このことは、気分障害の治療の継続的な進行を継続的にモニタリングすることができるという利点を有する。
【0047】
一般に、GCA及びGCDCAからなる群から選択される少なくとも1種類の抱合胆汁酸の検出濃度の増加、及び/又は1種類の抱合胆汁酸GUDCAの検出濃度の減少は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す。しかしながら、本発明のバイオマーカーの1つの利点は、成功した治療において測定することができる生体試料中のバイオマーカー濃度の差がかなり顕著であることである。したがって、例えば、本発明の方法では、試料中の抱合胆汁酸濃度の、所定の参照値と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、又は少なくとも30%の増加及び/又は減少が、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す。
【0048】
本発明者らは、本発明の目的のために使用することができる典型的な生体試料は、全血、血清、及び血漿からなる群から選択することができることを見出した。
【0049】
有利なことに、参照及び現時点の抱合胆汁酸濃度の両方は、いずれも同様の生体試料から得られ、例えば、参照及び現時点の抱合胆汁酸濃度の両方が、いずれも全血から得られ、参照及び現時点の抱合胆汁酸濃度の両方が、いずれも血清から得られ、又は、参照及び現時点の抱合胆汁酸濃度の両方が、いずれも血漿から得られる。
【0050】
例えば、血液、血清、又は血漿から、約5~10mLを採取することができる。十分に大きな試料サイズにより、アーチファクトが生じることを回避する。これらの試料から、約20~10μLを更なる解析に用いることができる。
【0051】
全血、血清、及び/又は血漿は、検査されるバイオマーカーのシグナル対ノイズ比が特に高いという利点を有する。本発明の方法は、選択される生体試料を問わず、対象からかかる体液を得ることが十分に確立された手順であるという利点を有する。次いで、実際の診断方法は、身体外部において生体試料で実施される。
【0052】
本発明の方法は、気分障害の任意の治療の進行をモニタリングするのに好適である。例えば、気分障害の治療は、運動、会話療法、心理療法、認知行動療法、抗うつ薬投与、例えばプロバイオティクスを用いる栄養介入、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0053】
プロバイオティクスは、気分障害の症状に効果があることが見出されている(Neuropsychobiology.2019 Feb 13:1-9)(Gastroenterology 2017;153:448-459)。これらのプロバイオティクスは、気分障害を含む、広範囲の精神の健康の状態を治療する助けになり得る。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは現時点で、脳腸軸により、胃腸管と脳との間の強いつながりがみられると考えている。したがって、本発明の一実施形態では、方法は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解する介入の進行をモニタリングするためのものであり、介入は、プロバイオティクスの投与を含む。
【0054】
最後の態様において、本発明は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスとグリシン又はその誘導体とを組み合わせた組成物の有効量を、必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0055】
好ましい実施形態において、気分障害は軽度から重度である。
【0056】
組成物は、対象の気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を改善するために投与することができる。したがって、本方法のいくつかの実施形態は、組成物の投与を開始する前に、対象を診断することを含む。
【0057】
一実施形態では、気分の改善は、抑うつレベルの低減、不安レベルの低減、ストレスレベルの低減、知覚エネルギーレベル(「活力」)の増大、より肯定的な情動状態、自尊感情の増強、否定的思考及び/又は否定的な緊張感(tension)の量の低減及び/又は強度の低減、気分変動のリスク低減、又は肯定的な気分の保持のうちの1つ以上を含み得る。
【0058】
更に、この点に関し、組成物を、不安及び/又はストレスを低減する必要のある個体において不安及び/又はストレスを低減するために投与することができる。方法は、不安を低減する及び/又はストレスを低減する必要があるものとして、個体を識別すること、を含み得る。
【0059】
上記のとおり、組成物を、過度の情動的苦痛を制御(例えば、恐怖症を予防又は治療)するために投与することができる。したがって、本明細書で開示される過度の情動的苦痛を制御する方法についてのいくつかの実施形態は、例えば、組成物の投与を開始する前に、過度の情動的苦痛を有する個体を診断すること、を含む。
【0060】
一実施形態では、グリシンは、L-グリシンの形態、又はタンパク質、ペプチドなどのグリシンに富む供給源の形態、若しくはグリシン誘導体の形態で提供される。
【0061】
好適なグリシンの機能性誘導体の非限定的な例としては、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-a-シクロヘキシルグリシン、L-a-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-a-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、Z-a-ホスホノグリシントリメチルエステル、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、グリシンは、ジペプチド、例えばN-アセチルシステイニルグリシン又はシステイニルグリシンとして提供され得る。
【0062】
グリシン(GLY)又はその機能性誘導体は、対象の体重1キログラム(kg)当たり約0.1~100ミリグラム(mg)のグリシン又はその機能性誘導体の量で投与することができる。実施形態では、グリシン又はその類似体は、約10μmol/kg体重~約500mmol/kg体重、好ましくは10μmol/kg体重~100mmol/kg体重、より好ましくは10μmol/kg体重~10mmol/kg体重、より好ましくは50μmol/kg体重~2mmol/kg体重の用量で投与するために配合することもできる。
【0063】
一実施形態において、本発明のプロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、B.インファンティス(infantis)、B.アニマリス(animalis)亜種ラクティス(lactis)、又はB.ブレーベ(breve)であり得る。最も好ましくは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、例えば、B.ロンガム亜種ロンガム、B.ロンガム亜種インファンティス、又はB.ロンガム亜種スイス(suis)、好ましくは、B.ロンガム亜種ロンガムである。B.ロンガム亜種ロンガムは、B.ロンガムATCC BAA-999、B.ロンガムATCC 15707、及びB.ロンガムCNCM I-2618から選択することができる。最も好ましくは、B.ロンガムATCC BAA-999(NCC3001)である。
【0064】
B.ロンガムATCC BAA-999は、本願の譲受人によりNCC3001として2001年1月29日にInstitut Pasteur,28rue du Docteur Roux,F-75024 Paris Cedex15,Franceに寄託された。この寄託物に対する公衆による利用についての全ての制限は、本願特許の付与をもとに取り消し不能(irrevocably)の形で撤回され、生存活性のあるサンプルが受託者により頒布不能になった場合には、寄託物は新たに補充されることになる。
【0065】
B.ロンガムATCC BAA-999は、任意の好適な方法を用いて培養され得る。B.ロンガムATCC BAA-999は、例えば、組成物を形成するにあたり凍結乾燥形態又は噴霧乾燥形態で食品製品に添加され得る。
【0066】
理想的な用量が、例えば、治療する対象、その健康状態、性別、年齢、又は体重、及び投与経路によって異なることは、当業者には明らかである。その結果、理想的に使用される用量は様々であり得るが、当業者によって容易に決定することができる。
【0067】
しかしながら、一般に、本発明の組成物は、B.ロンガム亜種ロンガムを、1日用量当たり106~1010cfu、及び/又は106~1010個で含む場合が好ましい。本発明の組成物はまた、B.ロンガム亜種ロンガムを、組成物の乾燥重量1g当たり106~1011cfu、及び/又は106~1011個で含んでもよい。あるいは、組成物の1日用量は、好ましくは104~1012cfu(コロニー形成単位)、より好ましくは104~1011cfu、最も好ましくは104~1010cfuのB.ロンガム、例えば、ATCC BAA-999を提供する。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010cfu、好ましくは102~109cfu、より好ましくは102~108cfuのB.ロンガム、例えば、ATCC BAA-999を含んでよい。
【0068】
不活性化された、及び/又は非増殖性のB.ロンガム、例えば、ATCC BAA-999の場合、組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010個、好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり103~108個、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり105~108個の、B.ロンガムの非増殖性の細胞を含み得る。
【0069】
組成物は、1週間に少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日若しくは4日(例えば、1日おき)、最も好ましくは1週間に少なくとも5日、1週間に6日、又は1週間に7日、投与してよい。投与期間は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1カ月間、より好ましくは少なくとも2カ月間、最も好ましくは少なくとも3カ月間、例えば、少なくとも4カ月間であってもよい。一実施形態では、投与は少なくとも毎日であり、例えば、対象は1日に1回以上投与を受けてもよい。いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続される。他の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。具体的な実施形態では、投与は、少なくとも1つの症状について検出可能な改善が生じるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0070】
本明細書に開示される組成物及び方法のそれぞれにおいて、組成物は、好ましくは、食品添加物、食品原材料、機能性食品、ダイエタリーサプリメント、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、経口栄養補助食品(ONS)若しくは栄養補助食品、又は乳児用フォーミュラを含む食品製品又は飲料製品である。
【0071】
本明細書に開示される組成物は、経口投与、経腸投与、若しくは眼内投与、局所投与又は吸入投与により対象に投与され得る。したがって、組成物の形態の非限定的な例としては、自然食品、加工食品、天然果汁、濃縮物及び抽出物、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、硬膏、吸入形態、点鼻スプレー、点鼻剤、点眼剤、舌下錠、及び持続放出性製剤が挙げられる。
【0072】
本明細書に開示される組成物には、治療目的での投与のための様々な製剤のいずれかを使用することができる。より詳細には、医薬組成物は、適切な薬理上許容可能な担体又は希釈剤を含むことができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤などの固体形態、半固体形態、液体形態又は気体形態の製剤として処方され得る。したがって、組成物の投与は、経口投与、バッカル投与、直腸投与、経腸投与、及び気管内投与を含む様々な方法で達成することができる。活性成分は、投与後に全身性のものであってもよく、又は局所投与の使用、壁内(intramural)投与の使用、若しくは埋め込み部位において有効用量を保持するように作用する埋入物(インプラント)の使用によって局在化させてもよい。
【0073】
医薬の投与剤形では、化合物は、薬理上許容可能な塩として投与されてもよい。これらはまた、別の薬理上活性な化合物と適切に関連させて使用してもよい。以下の方法及び添加物は、単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0074】
経口製剤では、化合物は、単独で使用することができ、又は、錠剤、散剤、顆粒剤若しくはカプセル剤を製造するための適切な添加剤との組み合わせ、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤との組み合わせ、結晶セルロース、セルロース機能性誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどのバインダーとの組み合わせ、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤との組み合わせ、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤との組み合わせ;並びに所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味剤との組み合わせで、使用できる。
【0075】
非ヒト動物を対象とする組成物としては、動物の必要栄養量を補給する食品組成物、動物用トリート(例えば、ビスケット)、及び/又はダイエタリーサプリメントが挙げられる。組成物は、ドライ組成物(例えば、キブル)、セミモイスト組成物、ウェット組成物、又はそれらの任意の混合物であってよい。一実施形態では、組成物は、グレイビー、飲料水、飲料、ヨーグルト、粉末、顆粒、ペースト、懸濁液、噛むもの(chew)、一口で食べるもの(morsel)、トリート、スナック、ペレット、丸薬、カプセル、錠剤、又は他の適切な送達形態のものなどのダイエタリーサプリメントである。ダイエタリーサプリメントは、動物に投与する前に、水又は他の希釈剤と混合する必要がある場合があり、又は混合することができる。
【0076】
当業者は、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明のバイオマーカーについて記載された特徴点は、本発明の使用及び本発明の方法と組み合わせることができ、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。
【0077】
本発明を例で説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変更及び改変を加えることができることが理解されるべきである。
【0078】
更に、既知の均等物が特定の特徴に対して存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図面及び非限定的な実施例から明らかである。
【0079】
実施例
方法
試験監督
本発明者らは、非便秘型過敏性腸症候群(IBS)を有する患者において、無作為化、二重盲検プラセボ対照単施設パイロット試験を実施した(Pinto-Sanchez et al.,Gastroenterology 2017)。
【0080】
参加者
本発明者らは、非便秘型IBS(Rome III診断基準(Longstreth GF,Thompson WG,Chey WD,et al.Functional bowel disorders.Gastroenterology 2006;130(5):1480-91)の診断を受け、且つ病院不安抑うつ(HAD)尺度(Snaith RP,Zigmond AS.The HAD scale with the Irritability depression - anxiety scale and the Leeds situational anxiety scale manual.GL assessment Ltd.により出版、1994)に基づく軽度から中等度の不安及び/又は抑うつスコア(HAD-A又はHAD-Dスコア8~14)を有する、成人患者を募集した。器質性疾患、免疫不全、腹部の大手術、不安又は抑うつ以外の精神医学的状態、免疫抑制剤、グルココルチコステロイド、オピオイド、抗うつ剤又は抗不安剤の常用量での使用、アルコール又は違法薬物摂取の履歴を有する患者は除外した。ロペラミド及び緩下剤は、レスキュー薬として許可された。その他のいかなる形態のプロバイオティクスも、1ヶ月の導入期間及び試験の間、禁止された。抗菌剤は、導入期間及び試験前の3ケ月間、禁止された。
【0081】
試験デザイン
この試験は、4回の通院を含んだ。スクリーニング来診時に、病歴及び症状を評価し、身体検査及び完全血液検査(complete bloodwork)を実施した。2回目の来診時(0週目)に、適格基準・除外基準及び症状を再評価し、糞便試料、尿試料及び血液試料を採取し、fMRI検査を実施した。
【0082】
次いで患者に、噴霧乾燥したB.ロンガム(1グラムのマルトデキストリン当たり1.0E+10CFU)、又は、1グラムのマルトデキストリンを含有するプラセボの、いずれかの小袋42個を無作為に割り付けた。被験製品(Treatment product)を、包装、色、味、及び粘稠度により区別することはできなかった。患者に、小袋の内容物を、20℃に予熱した100~200mLのラクトースフリーミルク、豆乳、又はライスミルクに溶かすように指示した。患者に、各自の食習慣又は繊維摂取を変えないように求めた。参加者は被験製品の摂取を記録し、3回目の来診時(6週目)に、空の小袋を使用してコンプライアンスを評価し、参加者の症状を評価し、血液試料、尿試料及び糞便試料を採取し、fMRI試験を実施した。最後に、フォローアップ来診時(10週目)に患者の症状を再評価した。
【0083】
定期的な通院に加えて、カナダ保健省の要求により、病院不安抑うつ尺度(HAD)スコアも、治療の3週間目に評価した。HADアンケートは、来診1回目には患者に渡し、その次は試験担当医師に郵送又は電子メールで送付した。
【0084】
試験エンドポイント
プライマリーエンドポイントは、6週目の時点での、HADスケールで≧2ポイントの不安及び/又は抑うつスコアの低下とした(Longstreth GF,Thompson WG,Chey WD,et al.Functional bowel disorders.Gastroenterology 2006;130(5):1480-91)。これは、HADスケールの不安スコア及び抑うつスコアについて過去に確立された臨床的に意味のある平均差である、それぞれ1.3及び1.4を根拠とした(Puhan M,Frey M,Buchi S,et al.The minimal important difference of the hospital anxiety and depression scale in patients with chronic obstructive pulmonary disease.Health Qual Life Outcomes.2008;6:46.)。セカンダリーエンドポイントには、不安及び抑うつスコア(HAD、連続データ)、不安(状態-特性不安尺度、STAI)、IBSの全体的な十分な緩和、IBS症状、身体化、生活の質、脳活性化パターンの変化(機能的磁気共鳴画像法、fMRI)、血清炎症マーカー、神経伝達物質及びBDNF、並びに血漿メタボノミクス及び便微生物叢プロファイル、における改善が含まれた。
【0085】
無作為抽出
無作為化シーケンスは、コンピュータプログラム(Proc Plan,SAS,V.9.1)を用いて実施した。ブロック無作為化を性別とIBS状態(下痢又は混合型の糞便パターン)とによって層別化した。コードは、層に従って患者に割付けられた、密封した不透明な封筒内に保持された。無作為化シーケンスを用いて各パックに番号を割付けた。募集時に、患者を4つの層のうちの1つに割付け、その層に利用可能な次の連続無作為化番号を与えた。投与の割付は、参加者及び試験スタッフには秘匿した。
【0086】
パッケージ、色、味、及び粘稠度では区別できない被験製品を、1アーム当たり2つのノンスピーキング(non-speaking)コードで識別した。識別情報は、対象、治験担当医師及びサポートスタッフに知らせなかった。
【0087】
試験評価
不安及び抑うつを、それぞれHAD-A及びHAD-Dサブスコアによって評価した。不安のさらなる尺度として、本発明者らは、状態不安及び特性不安の両方を評価するSTAI(Gaudry E,Spielberger CD,Vagg P.Validation of state-trait distinction in anxiety distinction.Multivariate Behav Res 1975;10:331-41)を使用した。
【0088】
脳活動は、32のパラレルな受信チャネルを有する全身用ショートボアスキャナ、General Electric 3-Tesla Discovery MR 750(General Electric,Milwaukee,WI)を用いた機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって評価した。1時間のプロトコルは、7分間のT1強調構造スキャン後に、恐怖顔の逆行マスキングパラダイムの反復4回(Hall GB,Doyle KA,Goldberg J,et al.Amygdala engagement in response to subthreshold presentations of anxious face stimuli in adults with Autism Spectrum Disorders:preliminary insights.PloS One 2010;5(5):e10804)を、血中酸素レベルに依存したfMRIスキャン4回(He X,Yablonskiy DA.Quantitative BOLD:mapping of human cerebral deoxygenated blood volume and oxygen extraction fraction:default state.Magn Reson Med 2007;57:115-26)(BOLD EPI;TR/TE=2800/35ms、フリップ角=90°、3mm厚のスライス、ギャップなし、視野=24cm、マトリックス=64×64)中に含んだ。MRIデータの前処理は、Brain Voyager QXバージョン2.8.2、32ビット(Brain Innovation,Maastricht,Netherlands)を使用して完了した。解剖学的データ及び機能的データを検査し、アーチファクトを有するスキャン又は6つの平面いずれかにおいて5mmを超える移動を有するfMRIスキャンを分析から除外した。解剖学的スキャンを標準矢状方向(sagittal orientation)に変換し、タライラッハ標準空間への空間標準化を行った。fMRIデータに対してスライススキャンの時間補正及び3D動き補正を行い、ガウシアンフィルタ(FWHM=6mm)を使用して空間の平滑化を適用した。扁桃体を関心領域(ROI)として選択し、最初にWFUPick Atlasから導き出し、全群の平均を変換したT1画像上の解剖学的ランドマークに従って精密化した。
【0089】
一晩絶食後に血液試料を採取した。処理後、評価まで試料を-80℃で保管した。
【0090】
特定の胆汁酸パネルを測定するために、血液でメタボノミクス分析を行った。試料を抽出し、過去に公開された方法(Xie,Zhong et al.2013、Zhao,Ni et al.2017)に従って調製した。胆汁酸分析のために、全ての標準をSteraloids Inc.(Newport,RI)及びTRC Chemicals(Toronto,ON,Canada)から入手し、9種類の安定同位体標識胆汁酸標準を入手した。較正曲線のサンプルをブランクマトリックスで調製し、実際の生体試料と同じ方法で処理した。タンデム質量分析計に連結した超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)システム(ACQUITY UPLC-Xevo TQ-S、Waters Corp.、Milford,MA)を使用して、過去に公開されたプロトコル(Xie,Zhong et al.2013、Ferslew,Xie et al.2015)に基づいてヒト血漿試料/尿試料中の胆汁酸を定量した。MassLynxバージョン4.1を使用してデータ取得を行い、TargetLynxアプリケーションマネージャバージョン4.1(Waters,Milford,MA)を使用して胆汁酸の定量を実施した。
【0091】
統計解析
メタボノミクスデータに関する化学分析は、ソフトウェアパッケージSIMCA-P+(バージョン16.0、Sartorius Stedim Biotech,Sweden)を用いて行った。主成分分析(principal component analysis、PCA)、及びフィッティングプロセス中に応答変数に対して直交するすべての情報を除去する部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression、PLSR)の改良版を用いた。この変形であるO-PLS(Orthogonal Projection to Latent Structures)(Trygg and Wold 2003)は、PLSRと同程度の適合度でより狭いモデル(それらの解釈可能範囲の改善)を提供する。モデルにおける個々の変数の重みを強調するために、射影における変数重要度(Variable Importance in Projection、VIP)を使用し、1を超える値は慣例により閾値として使用した。対応のないt検定と対応のあるt検定とを使用して群比較のために一変量解析を実施し、代謝産物とHAD、STAI、扁桃体エンドポイントとの間のスピアマン相関を計算し、細菌数を計算した。統計解析は、R4.0.5(2021-03-31)を用いて実施した。
【0092】
結果
試験患者及び生物学的試料
試験を完了した38名の被験患者(BL=18名、プラセボ=20名)のうち、介入前及び介入後の両方で試料が入手可能であった36名の参加者(BL=18名、プラセボ=18名)に対して、血液試料のメタボノミクス分析を行うことができた。35名の参加者(BL=16、プラセボ=19)で糞便中のBLの定量を実施した。
【0093】
糞便試料中のBLの定量と、臨床転帰との関連
多量のB.ロンガムは、プラセボ群の1名の対象を例外としてプロバイオティクス群でのみ検出され、介入の良好なコンプライアンスを示した。
【0094】
試験の成功基準としてのHAD-Aサブスコア又はHAD-Dサブスコアのいずれかにおける2ポイント以上の低下は、BLの存在量の増加と関連していた(それぞれp=0.0034及びp=0.0026)。いずれのスコアの減少も、糞便中のBLの存在量と相関した(それぞれ、rho=-0.4、p=0.018及びrho=0.55、p=6e-04)。fRMIによって測定された、負の情動的刺激に応答した扁桃体活性化の減少も、BL存在量と相関した(rho=0.48、p=0.016)。
【0095】
治療及び血漿中代謝産物の表現型
1つの予測成分及び1つの直交成分を用いたOPLS判別分析を適用して、2群間の血液代謝の差をモデル化した。モデルは、投与後分析についてのみ統計的にロバストであった(R
2X=0.19、R
2Y=0.76、Q
2Y=0.26、ここで、R
2X:メタボノミクスデータ(尿代謝産物)における分散説明率、R
2Y:群分散説明率(explained group variance)(プラセボ及びプロバイオティクス)、及びQ
2Y:モデルのロバスト性)。投与前に2群間に差はなかった(Q
2Y<0)。最も判別可能な変数(the most discriminant variables)から、対応のあるt検定を使用して群間の統計学的有意差を検定し、結果を血液濃度及びOPLS由来パラメータと共に表1に報告する。BL投与患者の方が、グリシン抱合胆汁酸種(GCA、GCDCA)の血中濃度が高く(p<0.1)、胆汁酸GUDCAの血中濃度が低かった(p=0.0.108)(
図1)。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
注目すべきことに、2種類の一次胆汁酸であるグリシン抱合コール酸(GCA、rho=0.47、p=0.052)及びグリシン抱合ケノデオキシコール酸(GCDCA、rho=0.44、p=0.065)の介入後血漿中濃度は、プロバイオティクス群のIBS対象における不安症状の改善と正に相関していた(表2)。したがって、BL NCC3001の摂取は、腸におけるこれらの胆汁酸の再吸収を増加させ、他の腸内細菌によるグリシン脱抱合を減少させると仮定される。
【0100】
グリシン抱合胆汁酸、コール酸、ケノデオキシコール酸は、食事性脂肪の乳化に関与する最も豊富に存在する分子種の一部であり、BL NCC3001と共に増加する。胆汁酸は、胆汁中に分泌される前に、アミノ酸のタウリン又はグリシンと結合する(Hofmann et al.2010)。抱合は、生体膜を通した分子の受動的再吸収を実質的に低減させる。この再吸収の低減により、腸内の胆汁酸は、脂質の吸収に必要とされるミセルを形成する。そして、多種多様な腸内微生物は胆汁酸を脱抱合する能力を有しており、脱抱合した胆汁酸は再抱合のために肝臓に戻される(Hofmann et al.2010)。いくつかの作用様式は、BL NC3001などのプロバイオティクスによってもたらされる胆汁酸組成物の調節によって介される可能性があり、こうした調節には、例えば、
(i)正常な神経伝達物質代謝のための、及びその補給が気分及び認知の改善、並びに睡眠に関連する、グリシンのバイオアベイラビリティに影響を与えること、(Bannai et al.Front Neurol.2012;3:61)、
(ii)PUFAなどの食事性脂肪が血液脳関門を通過し、気分、抑うつ及び不安に関わる脳機能に関与するための、乳化、吸収、及びバイオアベイラビリティの調節(Kuan-Pin Su et al.Clin Psychopharmacol Neurosci.2015 Aug;13(2):129-137)、
(iii)不安様挙動及び抑うつ様挙動、並びに疼痛知覚及び感覚変換を調節することが知られている、腸細胞におけるオレイルエタノールアミン脂質及びパルミトイルエタノールアミン脂質の合成の調節(Hill MN et al.,Psychoneuroendocrinology.2009 Sep;34(8):1257-62、及びCoppola M,et al.Med Hypotheses.2014 May;82(5):507-11)、(iv)及び受容体FXR又はTGR5などの特異的受容体との直接相互作用によるもの(Kiriyama Y,et al.Biomolecules.2019)がある。
【国際調査報告】