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特表2024-538555高分子固体電解質積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】高分子固体電解質積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20241016BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241016BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241016BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241016BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241016BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241016BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/058
H01M10/052
H01B13/00 Z
B32B27/00 Z
H01M10/0565
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518486
(86)(22)【出願日】2023-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 KR2023007467
(87)【国際公開番号】W WO2023234707
(87)【国際公開日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】10-2022-0067054
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0070061
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スンヒョン・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ヒャウン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ドン・キュ・キム
【テーマコード(参考)】
4F100
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4F100AJ03A
4F100AJ06A
4F100AJ06B
4F100AJ07A
4F100AJ09A
4F100AK01A
4F100AK02A
4F100AK02B
4F100AK04B
4F100AK15B
4F100AK16B
4F100AK21A
4F100AK21B
4F100AK25B
4F100AK26A
4F100AK41B
4F100AK45B
4F100AK49B
4F100AK54A
4F100AK54B
4F100AK56B
4F100AK69B
4F100AR00B
4F100EJ05A
4F100GB41
4F100JD04B
4F100JG00A
4F100YY00B
5G301CA16
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM16
(57)【要約】
本発明は、高分子固体電解質積層体及びその製造方法に関し、より詳細には、前記高分子固体電解質積層体は、高分子固体電解質の少なくとも一面に形成された保護層を含み、前記保護層は、前記高分子固体電解質の大量生産のための連続工程中に、前記高分子固体電解質に対する後工程及び輸送などのその後の全ての過程で、水分及び外気から前記高分子固体電解質の物性が変化しないように保護することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子固体電解質;および前記高分子固体電解質の少なくとも一面に形成された保護層;を含む高分子固体電解質積層体であって、
前記高分子固体電解質は、架橋結合性官能基を含む高分子、リチウム塩及び溶媒を含み、
前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;および前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、
前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と溶媒との架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩との結合を含むものである、高分子固体電解質積層体。
【請求項2】
前記保護層は、前記高分子固体電解質に比べて比較的にモジュラス(modulus)の大きい高分子フィルム、又は低吸湿性高分子フィルムであり、
前記高分子固体電解質に比べて比較的にモジュラスの大きい高分子フィルムは、ポリエステルフィルム(polyester)、ポリカーボネートフィルム(polycarbonate,PC)、ポリエチレンフィルム(polyethylene,PE)、ポリメチルメタクリレートフィルム(polymethylmethacrylate,PMMA)、ポリエーテルエーテルケトンフィルム(polyetheretherketon、PEEK)、ポリエチレンナフタレートフィルム(polyethylenenaphthalate,PEN)、ポリエーテルイミドフィルム(polyetherimide,PEI)、ポリイミドフィルム(polyimide,PI)、トリアセチルセルロースフィルム(triacetylcellulose,TAC)、または延伸したポリビニルアルコールフィルム(polyvinyl alcohol,PVA)を含み、
前記低吸湿性高分子フィルムは、シクロオレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer,COP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterphthalate,PET)フィルム、ポリアクリレート(polyacrylate,PAC)フィルム、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)フィルム、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride,PVDC)フィルム、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,PVC)フィルムまたはエチレンビニルアルコール共重合体(ethylenevinylalcohol copolymer,EVOH)フィルムを含むものである、高分子固体電解質積層体。
【請求項3】
前記保護層の水蒸気透過率(water vapor transmission rate,WVTR)は、50g/m・day以下である、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項4】
前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合は水素結合を含み、
前記(b)架橋結合性官能基と溶媒との架橋結合は水素結合を含み、
前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩との結合はルイス酸-塩基相互作用(Lewis acid-base interaction)による結合を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項5】
前記架橋結合性官能基は、ヒドロキシル基(hydroxyl group)、カルボキシル基(carboxyl group)及びアミド基(amide group)からなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項6】
前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(エチレンオキシド)(poly(ethylene oxide))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acrylic amide))、ポリアクリル酸(poly(acrylic acid),PAA)、澱粉―カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸―メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N―イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項7】
前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)は、80,000 g/mol~130,000 g/molである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項8】
前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(エチレンオキシド)(poly(ethylene oxide))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acryl amide))、澱粉―カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸―メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N―イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項9】
前記リチウム塩は、(CFSONLi(Lithium bis(trifluoromethanesulphonyl)imide,LiTFSI)、(FSONLi(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide,LiFSI)、LiNO、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiSCN、及びLiC(CFSOからなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項10】
前記高分子の架橋結合性官能基([G])とリチウム塩のリチウム([Li])のモル比([Li]/[G])は0.1超過、0.5未満である、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項11】
前記溶媒は水を含む、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項12】
前記高分子固体電解質は、フリースタンディングフィルム(freestanding film)またはコーティング層(coating layer)状である、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項13】
前記高分子固体電解質は、液体電解質をさらに含む、請求項1に記載の高分子固体電解質積層体。
【請求項14】
(S1)架橋結合性官能基を含む高分子溶液にリチウム塩を添加して、高分子固体電解質形成用溶液を形成するステップ;
(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;
(S3)前記塗布膜を冷凍および解凍して高分子固体電解質を形成するステップ;及び
(S4)前記高分子固体電解質の少なくとも一面に保護層を積層するステップ;
を含む、高分子固体電解質積層体の製造方法。
【請求項15】
前記高分子固体電解質は、架橋結合構造を含み、
前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と前記溶媒との架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩との結合を含み、
前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合は水素結合を含み、
前記(b)架橋結合性官能基と溶媒との架橋結合は水素結合を含み、
前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩との結合は、ルイス酸-塩基相互作用(Lewis acid-base interaction)による結合を含むものである、請求項14に記載の高分子固体電解質積層体の製造方法。
【請求項16】
前記冷凍は、-30℃~-10℃で行われる、請求項14に記載の高分子固体電解質積層体の製造方法。
【請求項17】
前記解凍は、15℃~35℃で行われる、請求項14~16のいずれか一項に記載の高分子固体電解質積層体の製造方法。
【請求項18】
請求項1~13のいずれか一項に記載の高分子固体電解質を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年5月31日付韓国特許出願第10-2022-0067054号及び2023年5月31日付韓国特許出願第10-2023-0070061号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、高分子固体電解質積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液体電解質を使用するリチウム二次電池は、分離膜によって負極と正極が区画される構造により、変形や外部衝撃で分離膜が損なわれると短絡が発生することがあり、これにより過熱や爆発などの危険につながる可能性がある。したがって、リチウム二次電池分野で安全性を確保できる固体電解質の開発は非常に重要な課題であると言える。
【0004】
固体電解質を用いたリチウム二次電池は、電池の安全性が向上し、電解液の漏れを防ぐことができるため、電池の信頼性が向上し、薄型の電池製作が容易であるという利点がある。また、負極としてリチウム金属を使用できるため、エネルギー密度を向上させることができ、小型二次電池と共に電気自動車用の高容量二次電池などへの応用が期待され、次世代電池として注目されている。
【0005】
固体電解質の中でも高分子固体電解質の原料としては、イオン伝導性材質の高分子材料を使用してもよく、高分子材料と無機材料が混合されたハイブリッド型の材料も提案されている。前記無機材料としては、酸化物又は硫化物のような無機材料を使用してもよい。
【0006】
このような従来の高分子固体電解質は、塗布膜を形成した後、高温乾燥する工程を通じて製造された。しかし、従来の高分子固体電解質の製造技術は、結晶性高分子(crystalline polymer)または半結晶性高分子(semi-crystalline polymer)が持つ高い結晶性のため、イオン伝導度が向上した高分子固体電解質を製造することが難しいという限界があった。すなわち、高分子の結晶化度が高いほど高分子鎖の移動度(chain mobility)は低下し、これにより、高分子固体電解質の内部でリチウムイオンが移動するのに制約があり、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることが難しかった。
【0007】
例えば、従来の高分子固体電解質は、高分子として架橋結合性官能基であるヒドロキシル基(hydroxyl group)を含むポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)を使用して、塗布膜を形成した後、高温乾燥工程を通じて製造することができる。具体的には、前記PVAを水に溶解させてPVA水溶液を製造した後、前記PVA水溶液を基材上に溶液流延法(solution casting)で塗布して塗布膜を形成し、常温または高温で乾燥させ、PVAフィルム状の高分子固体電解質を製造することができる。このとき、高温とは、PVAのガラス転移温度(Tg)である80℃以上を意味するものであってもよい。前記乾燥工程で、水分が蒸発した後、PVAに含まれる架橋結合性官能基間の水素結合が形成され、前記水素結合により高分子鎖のフォールディング(chain folding)が発生し、高分子フィルムの結晶化度が高くなる現象が現れる。結晶化度が高くなるほど脆性(brittleness)を持つ高分子フィルムが形成される。結晶化度が高く脆性を持つ高分子フィルムでは、高分子鎖の移動度(chain mobility)が減少し、高分子フィルムの内部に解離したイオンが存在する場合、イオン移動性も著しく減少する現象が発生する。このため、前述のように塗布膜を形成した後、高温乾燥する工程によって製造された一般的なPVAフィルムは、リチウム二次電池用高分子固体電解質としては適さない物性を示すことになる。
【0008】
従来の高分子固体電解質のこのような限界を克服するために、結晶性高分子または半結晶性高分子に可塑剤(plasticizer)を添加して高分子鎖の移動度を改善させ、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させようとする技術が開発された。しかし、可塑剤を用いる場合、高分子と可塑剤の間の適切な分散度及び溶解度(miscibility)を確保しなければならないので、工程条件を設定することが難しい場合がある。また、液状の可塑剤を適用する場合、高分子との親和性(compatibility)が減少し、高分子固体電解質の製造工程を行うことが難しい場合がある。
【0009】
このため、可塑剤のような別途の添加剤なしで高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる技術開発が求められている。
【0010】
また、高分子固体電解質を製造するためのすべての工程を経る間、水分と外気によって高分子固体電解質の物性が変化することを防ぐことができる技術開発に対する需要も増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国公開特許 第112259788号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高分子固体電解質の製造過程において、水分及び外気によって前記高分子固体電解質の物性が変化することを防ぐことができる高分子固体電解質積層体を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、前記高分子固体電解質積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、架橋結合性官能基を含む高分子、リチウム塩及び溶媒を含む高分子固体電解質;及び前記高分子固体電解質の少なくとも一面に形成された保護層;を含む高分子固体電解質積層体であって、前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;及び前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合、及び(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含むものである、高分子固体電解質積層体を提供する。
【0015】
本発明はまた、(S1)架橋結合性官能基を含む高分子溶液にリチウム塩を添加して高分子固体電解質形成用溶液を形成するステップ;(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;(S3)前記塗布膜を冷凍及び解凍して高分子固体電解質を形成するステップ;及び(S4)前記高分子固体電解質の少なくとも一面に保護層を積層するステップ;を含む、前記高分子固体電解質積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による高分子固体電解質積層体は、高分子固体電解質の少なくとも一面に形成された保護層を含み、前記保護層は、前記高分子固体電解質の製造後、電極との積層工程につながる連続工程、及び輸送などの工程で水分及び外気から前記高分子固体電解質の物性が変化する現象を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をさらに詳しく説明する。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈されなければならない。
【0019】
本明細書で使用された用語「架橋結合構造」とは、高分子鎖によって形成された立体形状のフレーム(frame)と前記フレームの内部空間を含む構造を意味する。前記高分子鎖は、高分子に含まれる架橋結合性官能基を含む架橋結合により形成されたものであってもよい。前記架橋結合構造は三次元の立体形状を有し、高分子鎖が互いに絡み合っている形態を有するので、三次元ネットワーク構造とも言える。
【0020】
高分子固体電解質積層体
本発明は、高分子固体電解質積層体に関する。
【0021】
本発明による高分子固体電解質積層体は、架橋結合性官能基を含む高分子、リチウム塩及び溶媒を含む高分子固体電解質;及び前記高分子固体電解質の少なくとも一面に形成された保護層;を含む。また、前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;および前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含む。具体的には、前記架橋結合構造に形成された内部空間に、前記無定形高分子鎖とリチウム塩が含まれ、前記リチウム塩は解離した状態で含まれる。
【0022】
また、前記架橋結合構造は、後述するような冷凍工程で形成されてもよい。前記冷凍工程において、前記高分子に含まれる架橋結合性官能基の一部が局地的な微細結晶(localized crystallites)を形成し、前記局地的な微細結晶が架橋可能な接点(cross-linkable junction point)として作用して架橋結合することにより、前記架橋結合構造が形成されるものであってもよい。このとき、前記微細結晶とは、高分子鎖のフォールディング(folding)による結晶構造とは異なり、糸が絡まって結び目が作られたような形状を意味する。
【0023】
本発明において、前記保護層は、前記高分子固体電解質の少なくとも一面に形成され、前記高分子固体電解質が適用される電池の製造過程において、機械的摩擦や物理的損傷から前記高分子固体電解質を保護する役割を果たし、また、水分及び外気から前記高分子固体電解質の物性が変化する現象を防止する役割を果たすことができる。
【0024】
電池の製造工程の進行時、水分遮断がよくされている環境で前記高分子固体電解質を扱わなければならない場合、単なる機械的摩擦や損傷から前記高分子固体電解質を保護する役割を果たすことができる保護層であれば十分である。このとき、前記保護層の機械的強度は前記高分子固体電解質に比べて大きいものであってもよい。前記機械的強度は、モジュラス(modulus)を意味するものであってもよい。
【0025】
前記保護層は、前記高分子固体電解質に比べて比較的にモジュラス(modulus)の大きい高分子フィルム、又は低吸湿性高分子フィルムであってもよい。
【0026】
前記高分子固体電解質に比べて比較的にモジュラスの大きい高分子フィルムは、ポリエステルフィルム(polyester)、ポリカーボネートフィルム(polycarbonate, PC)、ポリエチレンフィルム(polyethylene, PE)、ポリメチルメタクリレートフィルム(polymethylmethacrylate, PMMA)、ポリエーテルエーテルケトンフィルム(polyetheretherketon、PEEK)、ポリエチレンナフタレートフィルム(polyethylenenaphthalate, PEN)、ポリエーテルイミドフィルム(polyetherimide, PEI)、ポリイミドフィルム(polyimide, PI)、トリアセチルセルロースフィルム(triacetylcellulose, TAC)、または延伸したポリビニルアルコールフィルム(polyvinyl alcohol, PVA)を含み、
前記低吸湿性高分子フィルムは、シクロオレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer, COP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterphthalate, PET)フィルム、ポリアクリレート(polyacrylate, PAC)フィルム、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)フィルム、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride, PVDC)フィルム、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride, PVC)フィルムまたはエチレンビニルアルコール共重合体(ethylenevinylalcohol copolymer, EVOH)フィルムを含んでもよい。
【0027】
また、前記低吸湿性高分子フィルムは、水分遮断特性に優れたものであってもよい。
【0028】
前記保護層は、水分遮断及び/又は低透湿特性を有するものであれば特に限定されない。例えば、前記保護層の水蒸気透過率(water vapor transmission rate, WVTR)は、50g/m・day以下、40g/m・day以下、30g/m・day以下、20g/m・day以下、また、10g/m・day以下であってもよい。前記保護層の水蒸気透過率が50g/m・day以下であれば、前記高分子固体電解質は水分がほぼ遮断された環境で製造される効果を示し、この場合、水分のような外部環境にさらされてもイオン伝導度の損失がないため、製造された高分子固体電解質はリチウム固有のイオン伝導度を示すことができる。
【0029】
一方、前記保護層の水蒸気透過率が50g/m・dayを超えると、前記高分子固体電解質を水分及び/又は外気から保護する機能が低下する可能性があるが、前記水分の影響により、前記高分子固体電解質のイオン伝導度はむしろ高くなる可能性がある。このように、前記保護層の水蒸気透過率が高いとき、前記高分子固体電解質のイオン伝導度が高く表れる理由は、リチウムイオンによるイオン伝導度だけでなく、前記吸湿された水分のプロトン(H)によるイオン伝導度(proton hopping)、すなわち水分によるイオン伝導度が加わって表れたからである。
【0030】
一般的に、高分子固体電解質のイオン伝導度が実際の電池性能の向上に直接的に関与できるためには、前記イオン伝導度がリチウムイオンによって表れるイオン伝導度であることが好ましい。前記高分子固体電解質のイオン伝導度が水分によって表れるものであれば、実際の電池性能の向上への寄与は微々たるか、ほとんどない場合がある。
【0031】
したがって、前記高分子固体電解質に含まれる保護層の水蒸気透過率が高いときに表れる前記高分子固体電解質の高いイオン伝導度は、リチウムイオンによってのみ表れるイオン伝導度ではないので、実際の電池性能の向上には影響が少ないイオン伝導度である可能性がある。つまり、前記保護層の水蒸気透過率が高い状態では、水分の含有量が高くなり、水分によってイオン伝導度が高くなるので、実際の電池性能に関連性のあるリチウムイオンによるイオン伝導度ではない。
【0032】
前記水蒸気透過率の測定方法は、当業界においてフィルムに類似した形態を有する測定対象物の水蒸気透過率を測定するために適用できる測定方法であれば特に限定されない。例えば、前記水蒸気透過率はMocon社のAquatron装備を用いて測定してもよい。前記装備は、二つのチャンバー間にフィルムを固定させた後、一方のチャンバーに水分を流入させながら、反対側のチャンバーに窒素を流して、フィルムを透過した水分の窒素中の濃度を測定することができる。
【0033】
また、前記保護層は、シクロオレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer, COP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterphthalate, PET)フィルム、ポリアクリレート(polyacrylate, PAC)フィルム、ポリエチレンナフタレート(polyethylenenaphthalate, PEN)フィルム、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride、PVDC)フィルム、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)フィルム及びエチレンビニルアルコール共重合体(ethylenevinylalcohol copolymer、EVOH)フィルムからなる群から選択される1種以上を含むものであってもよい。これらのフィルムは、非多孔性構造の高分子フィルムであってもよい。
【0034】
一般的に、非多孔性構造の高分子フィルムにおいて、水分または気体の透過性は、フィルムを構成する高分子の化学構造および/または結晶化度の影響を受けることが知られている。また、前記高分子の内部は、結晶領域(crystalline region)と無定形領域(amorphous region)に区分され、ガス透過はほとんど無定形領域で発生する。前記無定形領域の内部には透過する気体分子のサイズより大きい自由体積(free volume)が多く存在するため、気体分子の運動が活発で、前記高分子フィルム内の気体透過が容易である。前記高分子フィルムでの気体透過メカニズムは、気体分子がフィルムの内部に溶解(dissolve)していく過程と、フィルムの内部に拡散(diffusion)される過程に区分することができる。
【0035】
したがって、高分子フィルムの気体透過係数(permeability coefficient, P)は、下記式1のように、溶解度定数(S)と拡散係数(D)の積で表すことができる。
【0036】
[式1]
P = S・D
【0037】
このとき、前記高分子フィルムが水分遮断及び/又は低透湿特性を有するためには、前記溶解度定数(S)及び/又は拡散係数(D)が低く、気体透過係数(P)の値が低いことが好ましい場合があり、これらの物性は官能基の種類、結合強度、結晶化度、極性と配向などによって前記物性は影響を受ける可能性がある。
【0038】
したがって、本発明は、水蒸気透過率(water vapor transmission rate, WVTR)が低い高分子フィルムを高分子固体電解質の保護層として導入し、前記高分子固体電解質のイオン伝導度及び機械的物性を保護することができる高分子固体電解質積層体を提供することができる。
【0039】
本発明による高分子固体電解質は、架橋結合性官能基を含む高分子及びリチウム塩を含む。
【0040】
また、前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;および前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含む構造を有し、前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含む。具体的には、前記架橋結合構造に形成された内部空間に、前記無定形高分子鎖とリチウム塩が含まれ、前記リチウム塩は解離した状態で含まれる。
【0041】
本発明において、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合は、架橋結合性官能基間の水素結合を含んでもよく、例えば、前記水素結合は、OH-間の水素結合であってもよい。
【0042】
もし、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみからなる場合、前記高分子固体電解質の結晶性が発生し、イオン伝導度が減少する可能性がある。
【0043】
しかし、前記架橋結合構造は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみならず、前記(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合及び(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を共に含むので、前記高分子固体電解質の結晶性の発生を防止することができる。
【0044】
本発明において、前記(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合は、水素結合を含んでもよく、例えば、前記水素結合は、OH-とH+間の水素結合であってもよい。このとき、H+は水溶媒に由来するものであってもよい。
【0045】
前記(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合は、冷凍及び解凍工程で残留した一部の溶媒と架橋結合性官能基の間の水素結合を意味するものであってもよい。
【0046】
また、前記(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合を阻止し、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみからなることを阻止するので、高分子固体電解質の結晶性の増加を防止することができる。
【0047】
本発明において、前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、ルイス酸-塩基相互作用(Lewis acid-base interaction)による結合を含んでもよく、例えば、前記結合は、OH-とLi+の結合であってもよい。
【0048】
前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、ルイス酸-塩基相互作用による結合であり、金属-リガンド結合と同様な形の結合であってもよい。
【0049】
また、前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合及び(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合を阻止し、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみで構成されないようにするので、高分子固体電解質の結晶性の発生を防止すると同時に、無定形高分子鎖の形成を促進させることができる。前記無定形高分子鎖が形成されるほど、前記高分子鎖の移動度が向上するため、前記リチウムイオンのホッピング(hopping)効果が増大し、高分子固体電解質のイオン伝導度を改善することができる。
【0050】
本発明において、前記無定形高分子鎖も、後述するような冷凍工程で形成することができ、高分子鎖の規則的なフォールディング(folding)による結晶を形成せず、挙動が自由な状態で存在する高分子鎖を意味する。すなわち、前記無定形高分子鎖は、前記(a)、(b)および(c)のような結合を形成しない架橋結合性官能基を含む高分子を含むものであってもよい。
【0051】
前記架橋結合構造により、前記高分子固体電解質が簡単に途切れるか破壊されないので、リチウムイオンを安定的に含有する電解質支持体の役割を果たすことができる。
【0052】
また、前記無定形高分子鎖により、前記高分子固体電解質が弾性を示し、壊れやすい性質である脆性(brittleness)を最小化することができ、高分子鎖の移動度(polymer chain mobility)に優れて、電解質の内部でリチウムイオンの移動度が向上するため、イオン伝導度が改善した高分子固体電解質を提供することができる。
【0053】
本発明において、前記架橋結合性官能基を含む高分子に含まれる架橋結合性官能基は、前記(a)、(b)及び(c)のような結合をなして架橋結合構造を形成できる特性を有することができる。
【0054】
例えば、前記架橋結合性官能基は、ヒドロキシル基(hydroxyl group)、カルボキシル基(carboxyl group)及びアミド基(amide group)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0055】
また、前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)は、80,000g/mol~130,000g/molであってもよく、具体的には、80,000g/mol以上、83,000g/mol以上または85,000g/mol以上であってもよく、90,000g/mol以下、110,000g/mol以下または130,000g/mol以下であってもよい。前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)が80,000 g/mol未満であれば、架橋結合性官能基による結合が架橋結合構造を得られる程度に十分に形成されない場合がある。前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)が130,000 g/molを超えると、製造工程で使用される高分子溶液で高分子鎖の絡み(entanglement)が増加し、高分子鎖の内部への溶媒浸透率が低下する。これにより、高分子のゲル化(gelation)が加速化して前記高分子の溶解度が低下し、架橋結合性官能基による結合が円滑に行われないため、架橋結合構造の形成が容易でない可能性がある。
【0056】
また、前記架橋結合性官能基を含む高分子は、製造工程で使用される前記高分子溶液内で高分子と溶媒の間の相分離が円滑に行われ、冷凍時に前記相分離した高分子に含まれる架橋結合性官能基によって前記(a)、(b)及び(c)の結合がうまく形成される特徴を有するものであってもよい。
【0057】
例えば、前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(エチレンオキシド)(poly(ethylene oxide))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acrylic amide))、ポリアクリル酸(poly(acrylic acid)、PAA)、澱粉-カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸-メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。好ましくは、前記架橋結合性官能基を含む高分子はPVAであってもよく、前記PVAは、高分子固体電解質の製造過程において、冷凍時に前記PVAと溶媒の間の相分離が効率よく行われ、前記溶媒と相分離したPVAの架橋結合性官能基から誘導された前記(a)、(b)及び(c)の結合によって架橋結合構造を形成することに有利である可能性がある。
【0058】
本発明において、前記リチウム塩は、前記架橋結合構造の内部空間に解離した状態で含まれ、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる。
【0059】
また、前記リチウム塩は、(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を形成し、高分子固体電解質の結晶性の発生を防止すると同時に、無定形高分子鎖の形成を促進させることができる。
【0060】
前記リチウム塩は、(CFSONLi(Lithium bis(trifluoromethanesulphonyl)imide, LiTFSI)、(FSONLi(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide, LiFSI)、LiNO、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiSCN、及びLiC(CFSOからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0061】
本発明において、前記高分子固体電解質に含まれる前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合性官能基([G])とリチウム塩のリチウム([Li])のモル比([Li]/[G])は、0.1超過、0.5未満であってもよく、具体的には、0.1超過、0.2以上または0.3以上であってもよく、0.4以下または0.5未満であってもよい。前記モル比([Li]/[G])が0.1以下であれば、リチウム塩の含量が減少し、高分子固体電解質のイオン伝導度が低下する可能性があり、0.5以上であれば、架橋結合性官能基を含む高分子の含量が減少し、前記(a)、(b)及び(c)の結合が十分に形成されず、これにより結晶性が高くなり、イオン伝導度が低下する可能性がある。前記架橋結合性官能基がヒドロキシル基(OH-)であれば、前記[G]は[OH]または[O]と表記することができる。
【0062】
本発明において、前記高分子固体電解質は、フリースタンディングフィルム(free-standing film)状またはコーティング層(coating layer)状であってもよい。前記フリースタンディングフィルムとは、常温・常圧で別途の支持体なしにそれ自体でフィルム状を維持できるフィルムを意味する。前記コーティング層とは、基材上にコーティングして得られたレイヤーを意味する。前記高分子固体電解質がコーティング層状である場合、前記コーティング層は電極上にコーティングされたレイヤー状であってもよい。
【0063】
前記フリースタンディングフィルムまたはコーティング層は、弾性を示し脆性を最小化することができ、リチウムイオンを安定的に含有する支持体としての特性を有するため、高分子固体電解質として適した形態である。
【0064】
本発明において、前記高分子固体電解質は、液体電解質をさらに含んでもよく、前記液体電解質により、高分子固体電解質のイオン伝導度をさらに向上させることができる。前記液体電解質も前記架橋結合構造の内部空間に含まれてもよい。
【0065】
前記液体電解質は、当業界において通常使用される液体電解質であってもよく、前記液体電解質の組成は、リチウム二次電池に使用できるものであれば特に限定されない。例えば、前記液体電解質は、リチウム塩及び非水系溶媒を含んでもよい。前記リチウム塩は、前述したようなリチウム塩のいずれであってもよい。また、前記非水系溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホランからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0066】
また、前記液体電解質は、前記高分子固体電解質の全重量を基準として1~5重量%で含まれてもよい。前記液体電解質の含量が1重量%以下であれば、イオン伝導度の向上効果が微々たる場合があり、5重量%を超えると安定性が低下する場合がある。
【0067】
前述したような高分子固体電解質は、前記高分子に含まれる架橋結合性官能基によって形成される前記(a)、(b)及び(c)のような結合による架橋結合構造及び架橋結合を形成していない架橋結合性官能基を有する高分子を含む無定形高分子鎖を含む形態で製造することができる。このような形態的な特徴により、前記高分子固体電解質は、リチウムイオンを安定的に含有する支持体の役割を果たすことができ、弾性を示し脆性を最小化することができ、結晶性が発生することを防止してイオン伝導度を改善させることができる。
【0068】
高分子固体電解質積層体の製造方法
本発明はまた、高分子固体電解質積層体の製造方法に関し、(S1)架橋結合性官能基を含む高分子溶液にリチウム塩を添加して高分子固体電解質形成用溶液を形成するステップ;(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;(S3)前記塗布膜を冷凍及び解凍して高分子固体電解質を形成するステップ;及び(S4)前記高分子固体電解質の少なくとも一面に保護層を積層するステップ;を含む。
【0069】
前記高分子固体電解質積層体の製造方法では、前記高分子固体電解質の少なくとも一面に保護層を積層する簡素な方法で、前記高分子固体電解質を物理的接触や、水分及び外気から保護できる積層体を製造することができる。
【0070】
また、前記高分子固体電解質を製造する工程では、高分子の結晶性を低下させるために使用していた可塑剤(plasticizer)を添加することなく、冷凍工程を通じて、高分子に含まれる架橋結合性官能基による(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を誘導することで、高分子の結晶化を防止することができ、その結果、イオン伝導度が向上した高分子固体電解質を製造することができる。
【0071】
以下、各ステップ別に本発明による高分子固体電解質の製造方法をより詳細に説明する。
【0072】
本発明において、前記(S1)ステップでは、架橋結合性官能基を含む高分子溶液にリチウム塩を添加して、高分子固体電解質形成用溶液を形成することができる。前記架橋結合性官能基を含む高分子及びリチウム塩の種類及び物性は、前述した通りである。
【0073】
前記高分子溶液の製造時に使用される溶媒は極性溶媒であってもよく、例えば水であってもよい。つまり、前記高分子溶液は高分子水溶液であってもよい。
【0074】
前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度は、前記高分子固体電解質形成用溶液を基材に塗布する際に、塗布工程が円滑に進行できる程度を考慮して適切に調節することができる。例えば、前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度は、5%~20%であってもよく、具体的には、5%以上、7%以上または9%以上であってもよく、13%以下、17%以下または20%以下であってもよい。前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度が5%未満であれば、濃度が過度に希薄であり、基材上に塗布する際に流れ落ちる可能性があり、20%を超えると、高分子溶液内に所望の濃度のリチウム塩を溶解させ難く、粘度が高いため、均一な薄膜状で塗布することが困難である可能性がある。
【0075】
本発明において、前記(S2)ステップでは、前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成することができる。
【0076】
前記基材は、前記高分子固体電解質形成用溶液が塗布される支持体としての役割を果たすことができれば特に限定されない。例えば、前記基材は、SS(Stainless Steel)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン-酢酸ビニルフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、エチレン-アクリル酸エチル共重合体フィルム、エチレン-アクリル酸メチル共重合体フィルムまたはポリイミドフィルムであってもよい。
【0077】
また、前記塗布方法も、前記高分子固体電解質形成用溶液を前記基材上に膜状に塗布できる方法であれば特に限定されない。例えば、前記塗布方法は、バーコーティング(bar coating)、ロールコーティング(roll coating)、スピンコーティング(spin coating)、スリットコーティング(slit coating)、ダイコーティング(die coating)、ブレードコーティング(blade coating)、コンマコーティング(comma coating)、スロットダイコーティング(slot die coating)、リップコーティング(lip coating)または溶液流延法(solution casting)であってもよい。
【0078】
本発明において、前記(S3)ステップでは、前記塗布膜を冷凍及び解凍して架橋結合構造を形成することができる。すなわち、前記冷凍工程において、前記架橋結合性官能基によって前記(a)、(b)及び(c)の結合が誘導され、架橋結合構造が形成され、無定形高分子鎖を形成することができる。
【0079】
前記冷凍工程では、前記塗布膜を形成するために使用された架橋結合性官能基を含む高分子水溶液に含まれる高分子と水が相分離(phase separation)することができる。前記相分離は、前記架橋結合性官能基と水分子間の水素結合に比べて、前記水分子間の水素結合の強度がより強いために誘導されることがある。前記水分子間の水素結合によって凝集された水分子は、冷凍工程によって氷状態(ice phase)で存在する。その結果、前記水分子との相互作用を通じて水素結合を形成する架橋結合性官能基の数は著しく減少する。
【0080】
つまり、前記塗布膜の冷凍工程では、高分子水溶液に含まれる高分子と水が先に相分離しなければならず、前記相分離は水分子間の水素結合によって誘導されることができる。
【0081】
前記相分離により、前記塗布膜の内部は、(i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)と(ii)ポリマーリッチ相(Polymer-rich phase)に分けられる。
【0082】
前記 (i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)は、水分子間の水素結合によって凝集した水分子を含む部分で、氷状態(ice phase)で存在し、これをフリーウォーター(free water)の状態とも言える。
【0083】
前記(ii)ポリマーリッチ相(Polymer-rich phase)は、水と相分離した高分子を含む部分である。前記相分離した高分子は、水分子との相互作用から自由になった架橋結合性官能基を含む高分子であり、相分離後、自由な状態となり、規則的なフォールディング(folding)による結晶を形成せず、比較的挙動が自由な無定形状態で存在することになり、これを無定形高分子鎖という。
【0084】
また、前記相分離した高分子に含まれる架橋結合性官能基の一部は、局地的な微細結晶(localized crystallites)を形成する。前記局地的な微細結晶が架橋可能な接点(cross-linkable junction point)として作用し、前記(a)、(b)及び(c)の結合を含む架橋結合構造を形成する。
【0085】
また、前記冷凍工程後に解凍工程において、前記(i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)に含まれる氷は溶けて蒸発し、これに自由体積(free volume)が増加した高分子固体電解質を製造することができる。
【0086】
また、前記冷凍は、前記塗布膜を冷凍させることができる程度の条件を適切に選択して行ってもよい。例えば、前記冷凍温度は-30℃~-10℃の温度で行ってもよく、具体的には、前記冷凍温度は-30℃以上、-25℃以上または-23℃以上であってもよく、-18℃以下、-15℃以下または-10℃以下であってもよい。前記冷凍温度が-30℃未満であれば、塗布膜にクラック(crack)が発生する可能性があり、-10℃超過であれば、高分子と水の間に相分離が十分に行われず、無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)領域の形成が難しい場合がある。また、前記冷凍は20時間~30時間の範囲内で十分に冷凍される時間を考慮して実施することができる。
【0087】
また、前記解凍は、冷凍された塗布膜を高分子固体電解質として適用できる程度に解凍できる条件を適切に選択して行ってもよい。例えば、前記解凍温度は15℃~35℃であってもよく、または常温(25℃)であってもよい。前記解凍温度が15℃未満であれば、解凍(ice melting)後の水分乾燥効率が低下する可能性があり、35℃を超えると塗布膜が収縮してしわや反りが発生する可能性がある。
【0088】
また、前記高分子固体電解質の製造過程には、高分子の結晶性を低下させるために使用していた可塑剤(plasticizer)を添加することなく、(a)、(b)及び(c)の結合を誘導することで高分子の結晶化を防止することができ、結果としてイオン伝導度が向上した高分子固体電解質を製造することができる。
【0089】
前記(S3)ステップの以後は、前記高分子固体電解質を液体電解質に担持した後、乾燥させる工程をさらに含んでもよい。前記液体電解質の組成及び含量は前述の通りである。
【0090】
本発明において、前記(S4)ステップでは、前記高分子固体電解質の少なくとも一面に保護層を積層して、高分子固体電解質積層体を得ることができる。前記保護層の種類は前述の通りである。
【0091】
前記高分子固体電解質を製造した後は、前記高分子固体電解質と電極を積層する工程が連続工程で行われる。このとき、前記連続工程は、前記高分子固体電解質の製造工程、及び前記高分子固体電解質と電極とのラミネーション工程が連結されて一つのラインで進行する連続工程であるか、又は前記ロール・トゥ・ロール(roll to roll)工程で製造された高分子固体電解質を巻き取り(winding)して一時的に保管し、その後再び巻き戻し(unwinding)して電極との積層工程に投入する連続工程であってもよい。
【0092】
前記保護層は、前記のような連続工程及び輸送などの全ての工程で水分及び外気によって前記高分子固体電解質の物性が変化する現象を防止するために形成するものであってもよい。
【0093】
前記保護層はロールtoロールラミネーションで前記高分子固体電解質の少なくとも一面に積層されてもよく、前記高分子固体電解質自体が若干の粘着性(sticky)があり、前記高分子固体電解質自体の粘着力によって保護層が付着されてもよい。
【0094】
全固体電池
本発明はまた、前記高分子固体電解質を含む全固体電池に関し、前記全固体電池は、負極、正極および前記負極と正極の間に介在する高分子固体電解質を含み、前記固体電解質は、前述した特徴を有するものである。
【0095】
具体的には、前記高分子固体電解質は、冷凍及び解凍工程を経ることで物理的架橋結合が形成されて結晶性が低下し、これによりイオン伝導度が向上するため、全固体電池の電解質として適する。
【0096】
また、前記高分子固体電解質積層体を電池に適用する際には、前記保護層を除去するため、前記全固体電池には保護層が含まれていない。
【0097】
本発明において、前記全固体電池に含まれる正極は、正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、正極集電体の一面に形成されたものであってもよい。
【0098】
前記正極活物質層は、正極活物質、バインダー及び導電材を含む。
【0099】
また、前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、Li[NiCoMn]O (前記式において、MはAl、GaおよびInからなる群から選択されるいずれか1種またはこれらのうち2種以上の元素であり;0.3≦x<1.0、0≦y、z≦0.5、0≦v≦0.1、x+y+z+v=1である)、Li(Lib-a-b’M’b’)O2-c (前記式において、0≦a≦0.2、0.6≦b≦1、0≦b’≦0.2、0≦c≦0.2であり;MはMnと、Ni、Co、Fe、Cr、V、Cu、ZnおよびTiからなる群から選択される1種以上を含み;M’はAl、MgおよびBからなる群から選択される1種以上であり、AはP、F、SおよびNからなる群から選択される1種以上である。)などの層状化合物であるか、あるいは1またはそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+yMn2-y(ここで、yは0~0.33である)、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(LiCuO); LiV、LiFe、V、Cuなどのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-yMyO(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaであり、yは0.01~0.3である)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-y(ここで、MはCo、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、yは0.01~0.1である)またはLiMnMO(ここで、MはFe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土金属イオンで置換されたLiMn ; ジスルフィド化合物;Fe(MoOなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
また、前記正極活物質は、前記正極活物質層の全重量を基準として40~80重量%で含まれてもよい。具体的には、前記正極活物質の含量は、40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記正極活物質の含量が40重量%未満であれば、湿式正極活物質層と乾式正極活物質層の連結性が足りなくなる可能性があり、80重量%を超えると物質伝達抵抗が大きくなる可能性がある。
【0101】
また、前記バインダーは、正極活物質と導電材等の結合及び集電体への結合を助力する成分として、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル化スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリエチレンオキシド、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、 ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ラテックス、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロス、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリカルボン酸塩、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、リチウムポリアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。好ましくは、前記バインダーは、スチレン-ブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウムおよびポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0102】
また、前記バインダーは、前記正極活物質層の全重量を基準として1重量%~30重量%で含まれてもよく、具体的には、前記バインダーの含量は、1重量%以上または3重量%以上であってもよく、15重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記バインダーの含量が1重量%未満であれば、正極活物質と正極集電体との接着力が低下する可能性があり、30重量%を超えると接着力は向上するものの、その分正極活物質の含量が減少し、電池容量が低下する可能性がある。
【0103】
また、前記導電材は、全固体電池の内部環境での副反応を防止し、当該電池に化学的変化を誘発せず、かつ優れた電気伝導性を有するものであれば特に限定されず、代表的には、黒鉛または導電性カーボンを使用してもよく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック等のカーボンブラック;結晶構造がグラフェンやグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化炭素;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカ(whisker);酸化チタンなどの導電性酸化物;およびポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で、または2種以上を混合して使用してもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0104】
前記導電材は、通常前記正極活物質層の全重量を基準として0.5重量%~30重量%で含まれてもよく、具体的に、前記導電材の含量は0.5重量%以上または1重量%以上であってもよく、20重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記導電材の含量が0.5重量%未満で少なすぎると、電気伝導性の向上効果を期待し難いか、電池の電気化学的特性が低下する可能性があり、30重量%を超えて多すぎると、比較的に正極活物質の量が少なくなり、容量及びエネルギー密度が低下する可能性がある。正極に導電材を含有させる方法は特に制限されず、正極活物質へのコーティングなど、当該分野に公知の通常の方法を使用してもよく。
【0105】
また、前記正極集電体は、前記正極活物質層を支持し、外部導線と正極活物質層の間で電子を伝達する役割を果たすものである。
【0106】
前記正極集電体は、全固体電池に化学的変化を誘発せず、高い電子伝導性を有するものであれば特に限定されない。例えば、前記正極集電体として、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などを使用してもよい。
【0107】
前記正極集電体は、正極活物質層との結合力を強化させるために、正極集電体の表面に微細な凹凸構造を有するか、三次元多孔質構造を採用することができる。これにより、前記正極集電体は、フィルム、シート、箔、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態を含んでもよい。
【0108】
前記のような正極は、通常の方法に従って製造することができ、具体的には、正極活物質と導電材及びバインダーを有機溶媒上で混合して製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布及び乾燥し、選択的に電極密度の向上のために集電体に圧縮成形して製造することができる。この時、前記有機溶媒としては、正極活物質、バインダー及び導電材を均一に分散させることができ、容易に蒸発するものを使用することが好ましい。具体的には、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
【0109】
本発明において、前記全固体電池に含まれる前記負極は、負極活物質層を含み、前記負極活物質層は、負極集電体の一面に形成されたものであってもよい。
【0110】
前記負極活物質は、リチウム(Li)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含んでもよい。
【0111】
前記リチウムイオン(Li)を可逆的に挿入または脱挿入できる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオン(Li)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質は、例えば、酸化スズ、チタニウムナイトレート(titanium nitrate)またはシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金であってもよい。
【0112】
好ましくは、前記負極活物質はリチウム金属であってもよく、具体的には、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態であってもよい。
【0113】
前記負極活物質は、前記負極活物質層の全重量を基準として40~80重量%で含まれてもよい。具体的には、前記負極活物質の含量は40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記負極活物質の含量が40重量%未満であれば、湿式負極活物質層と乾式負極活物質層の連結性が足りなくなる可能性があり、80重量%を超えると物質伝達抵抗が大きくなる可能性がある。
【0114】
また、前記バインダーは、前記正極活物質層で前述した通りである。
【0115】
また、前記導電材は、前記正極活物質層で前述した通りである。
【0116】
また、前記負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、前記負極集電体は、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などを使用してもよい。また、前記負極集電体は、 正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸が形成されたフィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態を使用してもよい。
【0117】
前記負極の製造方法は特に限定されず、負極集電体上に当業界において通常使用される層または膜の形成方法を用いて負極活物質層を形成して製造してもよい。例えば、圧着、コーティング、蒸着などの方法を用いてもよい。また、前記負極集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって金属板上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0118】
また、本発明は、前記全固体電池を単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。
【0119】
このとき、前記デバイスの具体例としては、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle, EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle, HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle, PHEV)などを含む電気車;電動自転車(E-bike)、電動スクーター(E-scooter)を含む電動二輪車;電動ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システム等が挙げられるが、これらに限定されない。以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【0120】
下記実施例及び比較例では、下記表1に記載したように、保護層及び冷凍/解凍工程の適用有無により、高分子固体電解質を製造した。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1
PVA(Mw: 89,000 g/mol;加水分解度(degree of hydrolysis: >99%)を水に混合し、10% PVA水溶液を調製した。前記PVA水溶液にLiTFSIを添加した後に攪拌して、架橋結合性官能基を有する高分子であるPVAとリチウム塩であるLiTFSIを含む溶液を調製した。このとき、前記PVAの架橋結合性官能基である「OH」とリチウム塩の「Li」のモル比([Li]/[OH])は0.4となるようにした。
【0123】
前記溶液を基材であるSS foil上にバーコーティング法で塗布して塗布膜を形成した後、-20℃で24時間冷凍及び25℃で解凍し、高分子固体電解質を製造した。
【0124】
前記高分子固体電解質の一面に保護層としてシクロオレフィン系高分子(COP)フィルム(Zeon Film, Japan/JEONOR (50μm))を積層し、高分子固体電解質積層体を製造した。前記COPフィルムのWVTRは0.5 g/m ・dayである。
【0125】
実施例2
保護層としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(polyethylene terephthalate film (50 μm), Toyobo, Japan/T-PET)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質積層体を製造した。前記PETフィルムのWVTRは15 g/m・dayである。
【0126】
実施例3
保護層としてポリアクリレート(PAC)フィルム(polyethylene terephthalate film (50 μm), LG Chem, Korea/JEONOR (50μm))を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質積層体を製造した。前記PACフィルムのWVTRは50 g/m・dayである。
【0127】
実施例4
保護層としてトリアセチルセルロース(triacetyl cellulose, TAC)フィルム、LG Chem, Korea/JEONOR (50 μm))を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質積層体を製造した。前記TACフィルムのWVTRは300 g/m ・dayである。
【0128】
比較例1
保護層を積層していないことを除いては、実施例1と同様に行い、積層体ではない高分子固体電解質を製造した。
【0129】
比較例2
架橋結合性官能基を有する高分子であるPVAとリチウム塩であるLiTFSIを含む溶液を基材であるSS foil上に塗布した後、80℃で乾燥させたことを除いては、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質積層体を製造した。
【0130】
実験例1
実施例及び比較例で製造された高分子固体電解質積層体を水分露出環境下で72時間保管した後、保護層を除去し、前記高分子固体電解質の機械的強度、イオン伝導度及び水分によるイオン伝導度の変化量(△σi)を下記のような方法で測定し、測定結果は下記の表2に記載した通りである。
【0131】
(1)機械的強度
前記高分子固体電解質の機械的強度は、Dynamic mechanical analysis (DMA) (TA Instrument, RSA3)で測定したモジュラス(modulus)である。
【0132】
(2)イオン伝導度
前記イオン伝導度を測定するために、1.7671cmサイズの円形に前記高分子固体電解質を打ち抜き、二枚のステンレス鋼(stainless steel, SS)の間に前記打ち抜かれた高分子固体電解質を配置してコインセルを製造した。
【0133】
電気化学インピーダンススペクトロメーター(electrochemical impedance spectrometer, EIS, VM3, Bio Logic Science Instrument)を用いて、25℃でamplitude 10 mV及びスキャン範囲500 KHz~20 MHzの条件で抵抗を測定した後、下記式2を用いて、前記高分子固体電解質のイオン伝導度を計算した。
【0134】
【数1】
【0135】
前記式2において、σ は高分子固体電解質のイオン伝導度(S/cm)であり、Rは、前記電気化学インピーダンススペクトロメーターで測定した高分子固体電解質の抵抗(Ω)であり、Lは、高分子固体電解質の厚さ(μm)であり、Aは高分子固体電解質の面積(cm)を意味する。
【0136】
このとき、前記イオン伝導度は、リチウムイオンによるイオン伝導度と水分によるイオン伝導度を加えた値である。
【0137】
(3)水分によるイオン伝導度の変化量(△σ、%)
実施例1の高分子固体電解質に形成された保護層のWVTRは0.5g/m・dayであり、実施例1の高分子固体電解質は水分が完全に遮断された環境で製造された高分子固体電解質のイオン伝導度のレベルを示す。すなわち、実施例1の高分子固体電解質のイオン伝導度はリチウムイオンによるイオン伝導度と同一であり、水分によるイオン伝導度は実質的に0である可能性もある。
【0138】
下記式3に示すように、実施例1の高分子固体電解質のイオン伝導度を基準として、実施例2~4及び比較例1の高分子固体電解質のイオン伝導度のうち、水分によるイオン伝導度の変化量(△σ)をパーセントで計算した。
【0139】
【数2】
【0140】
前記xは、実施例2、3、4または比較例1である。例えば、△σ実施例2は実施例1に対する実施例2における水分によるイオン伝導度の変化量である。
【0141】
【表2】
【0142】
前記表2に記載されているように、比較例1のように保護層が形成されていない高分子固体電解質は、水分環境に露出すると水分の吸湿により、実施例1に比べて機械的強度(modulus)は1/10水準に減少し、イオン伝導度は4倍程度増加したことが分かった。しかし、前記イオン伝導度は、電池性能に関連のあるリチウムイオンのイオン伝導度ではなく、水分によるイオン伝導度が追加された結果であるため、実際の電池性能に関連のある高分子固体電解質の物性に有利なイオン伝導度ではない。
【0143】
また、比較例2のように、冷凍及び解凍工程ではなく、単なる乾燥工程を実施した場合、基材上で均一な高分子固体電解質のサンプルを形成することができなかった。また、粘性があり、途切れるサンプルの物性により、基材からサンプルを剥離することができず、物性を測定することもできなかった。
【0144】
以上、本発明に対して、たとえ限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれにより限定されず、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって、本発明の技術思想と以下に記載する特許請求の範囲の均等範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは当然である。
【国際調査報告】