(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】免疫刺激剤としてのアゴニスト性CD40抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20241016BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241016BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241016BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241016BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241016BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241016BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241016BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C07K16/28
A61P35/00 ZNA
A61P31/00
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K39/395 M
A61P37/04
C07K16/18
C12P21/08
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518745
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2022077270
(87)【国際公開番号】W WO2023052581
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517452497
【氏名又は名称】マブ ディスカバリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAB Discovery GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、シュテファン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB36
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045BA50
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトCD40受容体に特異的に結合し、Fcyを介するCD40受容体クロスリンクに非依存的にCD40シグナル伝達を誘導し、免疫刺激剤として使用することができる、ヒト化モノクローナルアゴニスト性抗体、又はその抗原結合断片に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬用途、特に免疫刺激剤としての使用のための、
ヒトCD40受容体に特異的に結合し、Fcγを介するCD40受容体クロスリンクに非依存的にCD40シグナル伝達を誘導することができる、アゴニスト性モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、
a)配列番号3のCDR1H領域、配列番号4のCDR2H領域及び配列番号5のCDR3H領域を含むVH領域と、
b)配列番号6のCDR1L領域、配列番号7のCDR2L領域及び配列番号8のCDR3L領域を含むVL領域と
を含み、
該CDRは本発明によるそれらの活性を損なわない任意の1以上のアミノ酸変異を含んでもよく、
0.1~1mg/kg体重の用量で投与される、該抗体又はその断片。
【請求項2】
抗体又はその断片が、0.2~0.9mg/kg体重、好ましくは0.3~0.7mg/kg、又はまたは0.4~0.5mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項3】
抗体がヒト化IgG1LALA抗体である、請求項1又は2に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項4】
抗体が、少なくともヒトIgG1 Fc領域のL234A及びL235A、またはヒトIgG4 Fc領域のS228P及びL235Eのアミノ酸置換を含む、請求項3に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項5】
抗体が、配列番号1の重鎖可変(VH)領域と少なくとも85%同一であるVH領域を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項6】
抗体が、配列番号2の軽鎖可変(VL)領域と少なくとも85%同一であるVL領域を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項7】
感染症及び/又はがんの予防又は治療における、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項8】
がんが固形腫瘍である、請求項7に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項9】
がんが、膵臓がん、進行膵臓がん、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、気管支肺胞細胞肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内黒色腫、卵巣がん、直腸がん、肛門部がん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫、肝臓がん、胆のうがん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん、唾液腺がん、又は子宮がんを含む群から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項10】
先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片であって、該抗体又はその断片が、細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤、放射線療法、標的療法、免疫療法又は手術と組み合わせて使用される、抗体又はその断片。
【請求項11】
抗体又はその断片が、少なくとも1つの免疫チェックポイント阻害剤、好ましくは抗TIGIT、抗PD-L1、抗PD-1、抗CTLA-4、抗CD137、抗LAG-3、抗TIM-3、抗OX40、および/または抗GITRからなる群から選択される少なくとも1つの免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用される、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項12】
抗体又はその断片が、単回投与又は複数回投与として投与される、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用のための抗体又はその断片。
【請求項13】
薬学的に許容される担体と、先行する請求項のいずれか一項に記載の抗体又は断片の治療有効量とを含む医薬組成物であって、該医薬組成物が、0.1~1mg/kg体重の用量の抗体又は断片の投与に適合される、医薬組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の医薬組成物であって、より長期間にわたる抗体又は断片の放出制御、好ましくは抗体又は断片の持続放出のためのデポー製剤である、医薬組成物。
【請求項15】
静脈内投与又は皮下投与に適合された、請求項13又は14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫刺激剤としての使用のための、ヒトCD40受容体に特異的に結合し、Fcγを介したCD40受容体クロスリンクに非依存的なCD40シグナル伝達を誘導し得るヒト化モノクロ-ナルアゴニスト性抗体、又はその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
がん免疫療法における近年の成功により、免疫系は、大部分とは言わないまでも多くのがんを制御することができるという仮説が復活し、多くの低分子薬では見られない方法で持続的な応答を生み出す場合もある。アゴニスト性のCD40モノクローナル抗体(mAb)は、様々な機序により抗がん免疫を生みだす可能性を有する、新たな治療の選択肢を提供する。
【0003】
CD40は細胞表面分子であり、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバーである。それは、樹状細胞、B細胞、及び単球等の抗原提示細胞(APC)、並びに多くの非免疫細胞や広範囲の腫瘍上に広く発現している。
【0004】
CD40の天然のリガンドはCD154であり、それは活性化されたTリンパ球の表面上に主として発現し、免疫応答のためにT細胞を「助ける」主要な成分を提供する。APC上のCD40を介したシグナル伝達は、主に、ヘルパーT細胞がAPCをライセンシングする能力を仲介する。DC上のCD40のリガンドとの結合(ligation)は、例えば、共刺激性及びMHC分子の表面発現の増加、炎症誘発性サイトカインの産生、及びT細胞トリガリングの増強を誘導する。休止しているB細胞上のCD40のリガンドとの結合は、抗原提示機能と増殖を増大させる。
【0005】
CD40シグナル伝達の結果は多面的であり、CD40を発現している細胞の型と、CD40シグナルが提供されている微小環境に依存する。TNF受容体ファミリーの幾つかの他のメンバーと同様に、CD40シグナル伝達は、CD40細胞質末端の内在的なシグナル伝達活性によるというよりも、むしろアダプター分子により仲介される。受容体が会合すると下流のキナーゼ群が活性化され、多成分のシグナル伝達複合体はCD40からサイトゾルに移動し、特性がよく知られた幾つかのシグナル伝達経路が活性化される。
【0006】
拮抗性のヒトCD40抗体は、当該技術分野で知られている。データによると、毒性とFcγとの架橋形成との間に相関があることが示されているが、臨床試験された治療用の抗CD40抗体のほとんどは、Fcγとの架橋形成を介して作用する。それゆえ、Fcγを介したCD40受容体架橋形成が低減した、サイレントなFc変異体が開発されている。ヒトIgG1のFc領域の個別の変異は、例えば米国出願公開第2018/0118843号に記載されている。
【0007】
最近計画された免疫調節的なアプロ-チでは、免疫系ががん細胞を認識して破壊する能力を増強するために、CD40を標的としたアゴニストモノクローナル抗体(mAb)が使用されている。各々の前臨床研究は、アゴニスト性のCD40 mAbはAPCを活性化して、抗腫瘍性T細胞応答を促進し、T細胞免疫の非存在下でがんを制御する能力を有する細胞傷害性骨髄細胞を育てることができると示している。従って、アゴニスト性のCD40 mAbは、CTLA-4又はPD-1等の、ネガティブなチェックポイント分子を遮断することにより免疫賦活化を達成するmAbとは根本的に異なっている。
【0008】
国際公開第2019/057792号は、ヒトCD40受容体に特異的に結合し、Fcγを介したCD40受容体架橋形成に非依存的なCD40シグナル伝達を誘導し得るヒト化モノクローナルアゴニスト性抗体又はその抗原結合断片を記載する。
【0009】
このように、アゴニスト性のCD40 mAbは、新規な免疫療法、特にがん免疫療法のための有望な戦略を提示する。しかしながら、それらの潜在的な細胞傷害性の副作用に関して懸念が提起されている。アゴニスト性のモノクローナルCD40抗体は、サイトカイン放出症候群、自己免疫反応、血栓塞栓性症候群(血小板と内皮細胞によるCD40の発現による)、活性化誘導性の細胞死又は寛容(tolerance)をもたらす過剰免疫刺激、及び腫瘍血管新生を引き起こす、という可能性がある。これらの効果は、不都合な毒性又は腫瘍増殖の促進を引き起こし得る。機序としては、アゴニスト性の、CD40及び他のTNF受容体ファミリーを標的化する抗体が、Fcγ受容体と相互作用する能力が、動物研究における毒性の発生と関連付けられている(Li & Ravetch 2012, Xuら, 2003, Byrneら, 2016)。
【0010】
従って、毒性の副作用が最少であるか、もしくは無い、有効な免疫療法を提供する必要性がある。本出願では、アゴニスト性のCD40抗体の免疫調節能力を評価した。ある抗体は、過剰な毒性作用を引き起こすことなく免疫刺激効果を引き出す、意外にも広い治療域を有することがわかった。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、免疫刺激剤としての使用のための、ヒトCD40受容体に特異的に結合し、Fcγを介したCD40受容体架橋形成に非依存的なCD40シグナル伝達を誘導するモノクローナル抗体、又はその抗原結合断片を提供する。本発明によれば、該抗体又は抗体断片は、患者への投与のために、患者のkg体重あたり約0.1~1mgの1回用量で提供される。この範囲で、それらは、毒性の副作用があったとしても無視できる程度でありつつ、強力な免疫刺激効果を引き出すことができる。本発明はまた、免疫系を刺激することが望まれる状態や疾患の処置、例えば、感染症の予防又は治療における使用、並びに、がんに罹患した患者の治療のための使用に適した、前記抗体を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)示したゲーティング戦略に従って、フローサイトメトリーによりアカゲザルPBMC中のCD20+B細胞、CD14+古典的単球(CM)、CD11c+骨髄性樹状細胞(MDC)およびCD123+形質細胞様樹状細胞(PDC)の表現型を同定した。代表的な動物1頭を示す。(B)異なるアカゲザル免疫細胞におけるCD40のベースライン発現。CD40の平均蛍光強度(MFI)を示す。
【0013】
まず、MAB273をアカゲザルPBMCに対してin vitroで試験し、この抗体が交差反応性を示すかどうか、またアカゲザルモデルを用いてin vivoでこの抗体を研究できるかどうかを確認した。フローサイトメトリーによるゲーティング戦略を
図1Aに示す。
【0014】
B細胞はCD40のベースライン発現が最も高く、次いで形質細胞様樹状細胞(PDC)、骨髄性樹状細胞(MDC)と続くが、古典的単球(CM)はCD40のベースライン発現が比較的低い(
図1B)。
【0015】
【
図2】アカゲザルPBMCをMAB273(1、10、20μg/ml)、アイソタイプコントロールAb(1、10、20μg/ml)、またはTLR7/8L(5μg/ml)で24時間刺激した。MDCおよびB細胞上の細胞活性化マーカー(CD86、CD70)、リンパ節ホーミングマーカー(CCR7)およびCD40の表面発現量をフローサイトメトリーで評価した。データは4つの独立した実験から得られた。MFI値はn=4匹で示した。統計解析には両側対のt検定を用いた。
【0016】
次に、MAB273で24時間刺激した後の細胞の表現型分化をin vitroで解析した。異なる細胞亜集団にゲーティングを行い、特にCD40を発現する細胞に注目した(
図1)。その結果、次のことがわかった。
・MAB273はMDCとB細胞を活性化し、CD86、CD70、CCR7の発現をアップレギュレートした(
図2A)。アイソタイプ・コントロール抗体ではアップレギュレーションは見られなかった。
・CD40染色に関しては、データは、CD40染色抗体はMAB273の結合によってブロックされるため、MAB273で培養した後の細胞ではCD40発現を検出できないことを示している。
・PDCとCMの活性化は見られないか、限定的であった(
図2B)。
【0017】
【
図3】アカゲザルPBMCを抗CD40 Ab(1、10、20μg/ml)、アイソタイプコントロールAb(1、10、20μg/ml)、またはTLR7/8L(5μg/ml)で24時間刺激した。細胞培養から採取した上清中のTNFおよびIL-12 p70のレベルを測定した。n=4動物。
【0018】
これは次のことを示している。
・MAB273は1μg/mlでも10μg/mlでも低レベルのTNF分泌を刺激したが、20μg/mlでは毒性のためと思われるさらに低いレベルであった。陽性対照としてTLR7/8リガンドを用いた。対照的に、アイソタイプコントロール抗体はTNFを誘導しなかった。
・培養物からはIL-12p70は検出されなかった。そのELISAキットの検出レベル以下で産生された可能性がある。
・いずれにせよ、大量のIL-12p70の分泌は、MAB273によるアカゲザルPBMCのin vitro刺激では誘導されなかったと結論できる。
【0019】
【
図4】(A)ゲーティング戦略。(B)ヒトPBMCを0.25μMのCellTrace Violetで37℃、20分間標識した後、MAB273(1、0.1、0.01、0.001μg/ml)、抗CD40 Ab(1、0.1、0.01、0.001μg/ml)、CpG B(1μg/ml)またはSEB(0.2μg/ml)で6日間刺激した。B細胞の増殖状態はフローサイトメトリーで評価した。
【0020】
MAB273で6日間培養した後のB細胞増殖アッセイも行った。これは次のことを示している。
・検出可能なB細胞増殖は、異なる濃度のMAB273で処理したPBMC、特に0.1μg/ml群で観察された(
図4)。しかし、抗CD40 Ab群では増殖は観察されなかった。陽性対照としてのCpG群では、予想通り強い増殖が認められた。
【0021】
【
図5】新鮮な血液サンプル(350μl)を臨床化学検査のためにAdlego Biomedical AB(Karolinska Institutet Science Parkに本拠を置く)に送った。
【0022】
in vitro試験の後、6頭のアカゲザルを3つのグループに分け、MAB273をin vivoで3つの異なる条件で試験した。まず1mg/kgを静脈内投与し、2番目のグループには10倍低用量、3番目のグループにも10倍低用量を静脈内投与した。肝機能と腎機能の一連の検査である臨床化学検査を行った。
【0023】
これは次のことを示している。
・1mg/kg i.v.投与群では、いくつかのパラメータが健康な基準範囲を超えて上昇した。この群では、食欲不振、嘔吐、行動の変化といった副作用も見られた。
・0.1mg/kg i.v.に減量した用量では、顕著な副作用は認められなかった。
・0.1mg/kgのs.c.投与では顕著な副作用は認められなかった。
・0.1mg/kg投与群(i.v.とs.c.の両方)では、ほとんどすべてのパラメータが正常範囲内にとどまった(
図5)。
【0024】
【
図6】新鮮な血液サンプル(350μl)をAdlego Biomedical AB(Karolinska Institutet Science Park所在)に送り、全血球計算(CBC)を行った。
【0025】
全血球計算では、MAB273投与後の細胞数の変動は顕著であった。
【0026】
これは次のことを示している。
・血小板の急激な減少と顆粒球の急激な増加は、すべての群で投与後30分から4時間ですでに観察された(
図6)。
・細胞数の変動は用量依存的で、1mg/kg i.v.投与群では顕著に効果が拡大した。
【0027】
【
図7】投与後の血漿中MAB273濃度を自社のカスタムELISAアッセイで測定した。ULOD=検出上限(67967.1ng/mL),LLOD=検出下限(0.047ng/mL),LLOQ=定量下限(0.261 ng/mL)。n=2匹/群。
【0028】
投与後の血漿中MAB273濃度の測定にはELISA法を用いた。
【0029】
これは次のことを示している。
・MAB273は投与後30分で、特に経静脈投与群ではすでに十分に検出可能であった(
図7)。
・高用量投与群では、MAB273濃度のピークは30分から4時間頃に現れ、その後徐々に低下し始め、14日目には検出されなくなった。
・低用量静脈内投与群では、30分後に最高濃度が検出され、7日目に検出されなくなるまで継続的に減少した。
・低用量s.c.投与群では、MAB273濃度のピークはより遅く(3日目頃)現れ、7~14日目に検出されなくなるまでこの濃度が長く続いた。最高濃度は他の2群に比べて比較的低かった。
【0030】
【
図8】(A)ゲーティング戦略。(B)アカゲザルPBMCの細胞頻度をフローサイトメトリーで評価した。n=2動物/群。
【0031】
免疫細胞数の変動をサブセット・レベルでさらに細分化し、その活性化状態を解析するために、14パラメータのフローサイトメトリーパネルを用いて、PBMCサンプルを縦断的に追跡した(
図8A)。解析された細胞サブセット頻度は、全血球数(CBC)データに対して正規化された(
図6)。
【0032】
これは次のことを示している。
・細胞の変動は、好中球の急激な増加とB細胞およびMDCの一過性の減少という、CBCデータと同様の傾向をたどった(
図8B)。
・観察された動態は、循環から組織への免疫細胞の再分布、そして骨髄からの新しい免疫細胞の再増殖と解釈できる。
【0033】
【
図9】アカゲザルPBMC上のCD40の細胞表面発現をフローサイトメトリーで評価した。CD40の平均蛍光強度(MFI)を示す。n=2動物/群。
【0034】
MAB273による細胞表面CD40のターゲティングは、フローサイトメトリーで競合蛍光抗体の結合消失を定量することで評価した(
図2に記載)。
【0035】
これは次のことを示している。
・MAB273はB細胞とMDC上のCD40を迅速かつ効果的に封鎖した(
図9)。
・CD40検出の動態は、血漿中のMAB273の薬物動態に従った(
図7)。
・検出可能なCD40発現の回復は、骨髄からの新しい細胞の出現、および生体内での抗体の半減期によるものかもしれない。
【0036】
【
図10】共同刺激マーカーであるCD80のアカゲザルPBMCにおける細胞表面発現をフローサイトメトリーで評価した。CD80の平均蛍光強度(MFI)を示す。n=2動物/群。
【0037】
フェノタイピングによる活性化もフローサイトメトリーで解析した。
【0038】
これは次のことを示している。
・共刺激マーカーであるCD80の発現は、MAB273投与直後から増加し、その後、特にi.v.投与群でB細胞が減少した(
図10)。
・APCの表現型が急速に成熟した後、細胞は循環から離れ、新しい未熟なAPCの再増殖が起こる。
【0039】
【
図11】リンパ節ホーミングマーカーであるCCR7をアカゲザルPBMC上でフローサイトメトリーにより評価した。CCR7の平均蛍光強度(MFI)を示す。n=2動物/群。
【0040】
CD80の発現と同様に、我々は次のことを見出した。
・リンパ節ホーミングマーカーであるCCR7の発現も、B細胞で急速に増加し、後に減少した(
図11)。
・理由はおそらくCD80と同じだろう。
【0041】
【
図12】血漿中サイトカイン(IFN-γおよびIL-6)濃度は、ELISAキットを用いて製造業者のプロトコールに従って測定した。n=2動物/群。
【0042】
血漿中の炎症性サイトカインの全身レベルをELISAで評価した。我々は次のことを検出した。
・IFN-γとIL-6はいずれも、高用量投与の1日目または2日目のみに有意に増加した(
図12)。
・TNF-αとIL-12 p70は、高感度ELISAキット(TNF ELISAキット:BMS223HS、BMS654、3512M-1H-6、IL-12 p70 ELISAキット:BMS646)を追加しても検出範囲外であった。
【0043】
これは次のことを示している。
・低用量群で全身性のサイトカイン放出がなかったことは、観察されたより良好な安全性プロファイルと一致している。
【0044】
【
図13】PBMC(A)とBAL(B)におけるAg特異的T細胞の経時的変化。集計データはバックグラウンド減算。プライム免疫とブースター免疫は、それぞれ0週目と7週目に行った(3匹の動物には0.1mg/kgのHIVエンベロープペプチドを単独でs.c.投与し、別の3匹の動物には0.1mg/kgのHIVエンベロープペプチドと0.1mg/kgのMAB273のs.c.投与をプライムとブースターの両方で併用した)。
【0045】
2回目のブースター免疫も行った。今回は、6匹すべての動物に1mg/kgのHIVエンベロープペプチドをs.c.投与し、11週目に0.1mg/kgのMAB273をs.c.投与した。個々のデータは点で示した。n=3動物/群。
【0046】
これは次のことを示している。
・エンベロープ特異的CD4およびCD8 T細胞応答は両群で誘導されたが、そのレベルは低かった。HIV1-エンベロープペプチド0.1mg/kgの用量が最適ではなかったのかもしれない。
・にもかかわらず、エンベロープ特異的CD4およびCD8 T細胞の頻度は、ペプチドのみを投与されたグループと比較して、MAB273グループの方が全体的に高かった。
・MAB273とより高用量のペプチドを全動物に投与した2回目のブースターでは、両群の動物でT細胞応答のブースター効果が認められた。
・PBMCでの反応に加えて、T細胞反応もBALで検出された。
【0047】
【
図14】異なる組織における異なる細胞集団からのAlexa Fluor 680シグナルのヒストグラム。コントロール=同じ動物の末梢血B細胞(ただし追跡免疫の直前)。n=3動物。
【0048】
最後に、投与後のMAB273の生体内分布を評価するために、3匹の動物に0.1mg/kgのAlexa Fluor 680標識MAB273をs.c.投与した。動物は24時間後または48時間後に投与を中止し、剖検を行って組織にMAB273が存在するかどうかを評価した。
【0049】
これは次のことを示している。
・Alexa Fluor 680シグナルは、注射部位(L.皮膚)および注射部位を排出する特定のLN(L.鼠径部、L.com.腸骨およびParaaortic LN)でのみ検出された。
・Alexa Fluor 680シグナルは、注射部位からLNが離れるほど徐々に減少した。
・24時間後と比較して、48時間後ではより多くのMAB273がより遠くのLNに到達していた。
・インビボでMAB273の標的となった主な細胞集団は、単球、MDC、好中球であった。
・これらの非ナイーブ動物では、抗MAB273 IgGが全身への播種を妨げているためと思われる。
【0050】
【
図15】配列(アミノ酸は1文字コード)
可変領域(VR)の完全な配列: 重鎖: VH全長: 配列番号1 軽鎖: VL全長: 配列番号2
【0051】
相補性決定領域(CDR):
CDR-H1: 配列番号3
重鎖: CDR-H2: 配列番号4
CDR-H3: 配列番号5
【0052】
CDR-L1: 配列番号6
軽鎖: CDR-L2: 配列番号7
CDR-L3: 配列番号8
【発明を実施するための形態】
【0053】
定義
用語「抗体」は、抗体全体及び抗体断片を含むが、それらに限定されるものではなく、本発明の特性を示す限り、様々な形態の抗体構造を包含する。
【0054】
「抗体断片」とは、無傷抗体が結合する抗原に結合する、無傷抗体の部分を含む、無傷抗体以外の分子を言う。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディー;直鎖抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成される多重特異的な抗体が挙げられるが、それらに限定される訳ではない。
【0055】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」又は「モノクロ-ナル抗体組成物」とは、単一のアミノ酸組成の抗体分子の調製物を言う。
【0056】
用語「ヒト化抗体」又は「ヒト化バージョンの抗体」とは、抗体エンジニアリングの結果として、重鎖と軽鎖の両方がヒト化されている抗体を言う。ヒト化された鎖は典型的にはV領域のアミノ酸配列が変えられている鎖であって、それによって、全体として解析されると、元の種の生殖系列配列よりもヒトの生殖系列配列に、ホモロジーにおいてより近いものである。ヒト化の評価は、結果として得られたアミノ酸配列に基づいて行われ、方法論それ自体に基づいて行われるものではない。
【0057】
本明細書で使用される用語「標的又は抗標的抗体に対して特異的に結合する」とは、ELISAにより測定された、それぞれの抗原(標的)又は抗原発現細胞への抗体の結合を言うものであり、ここで前記ELISAは好ましくは、それぞれの抗原を固相担体へ被覆すること、それぞれの抗原又はタンパク質との免疫複合体の形成を許容する条件下において前記抗体を添加すること、本発明による抗体に対して結合する二次抗体を使用し、且つペルオキシダーゼに仲介される発色を使用して、光学密度値(OD)の測定による前記免疫複合体を検出することを含む。
【0058】
本発明における用語「抗原」とは、免疫接種のために使用される抗原、又はタンパク質であって前記抗原をそのタンパク質配列の一部として含むものを言う。例えば、免疫接種のために、タンパク質の細胞外ドメインの断片(例えば最初の20アミノ酸)を使用することができ、検出/アッセイ等のために、そのタンパク質の細胞外ドメイン又は全長タンパク質を使用することができる。
【0059】
本明細書における「特異的に結合する」又は「特異的に認識される」とは、抗原について適切な親和性を示す抗体、好ましくは顕著な交差反応性を示さない抗体を意味する。
【0060】
「顕著な交差反応性を示さない」抗体とは、望ましくない他のタンパク質と、かなりの結合しない(と思われる)ものである。特異的な結合は、そのような結合を測定するための任意の分野で認識される手段、例えばELISA等の競合的結合アッセイにより測定することができる。
【0061】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、ある抗体であって、参照抗体のその抗原への結合を競合アッセイにおいて50%以上阻害する抗体、及び逆に、参照抗体が、その抗体のその抗原への結合を競合アッセイにおいて50%以上阻害する抗体を言う。
【0062】
本明細書で使用される「本発明による抗体の可変領域(又はドメイン)」(軽鎖の可変領域(VL)、重鎖の可変領域(VH))とは、抗原の抗体への結合に直接的に関与する、軽鎖と重鎖の領域のペアのそれぞれを意味する。可変軽鎖及び重鎖領域は同じ一般構造を有し、それぞれの領域は4つのフレームワーク(FR)領域を含み、その配列は広く保存され、3つの相補性決定領域であるCDRにより連結されている。
【0063】
本明細書で使用する用語「抗体の抗原結合部分」とは、抗原結合を担っている抗体のアミノ酸残基を言う。抗体の抗原結合部分は、好ましくは「相補性決定領域」又は「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。CDR配列は、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)により規定される。この番号付けシステムを使用して、実際の直鎖のアミノ酸配列は、可変領域のFR又はCDRの短縮、又はそれへの挿入に相当する、より少ない又は追加のアミノ酸を含んでもよい。例えば重鎖可変領域は、H2の残基52の後の単一のアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)と、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatによる残基82a、82b、及び82c等)を含んでもよい。所定の抗体についての残基のKabatの番号付けは、「標準」のKabat番号付けがされた配列との、その抗体の配列の相同な領域におけるアラインメントにより決定されてもよい。
【0064】
「定常領域(定常部分)」は抗体の抗原への結合に直接的には関与していないが、例えばエフェクター機能も示す。ヒトIgG1に対応する重鎖定常領域遺伝子断片はγ1鎖と呼ばれる。ヒトIgG3に対応する重鎖定常領域遺伝子断片はγ3鎖と呼ばれる。ヒト定常γ重鎖は、Kabat, E.A.ら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)により、及びBrueggemann, M.ら, J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361; Love, T.W.ら Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527により詳細に述べられている。
【0065】
本明細書中の用語「Fc領域」とは、少なくとも定常領域の一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。その用語は天然配列のFc領域と変異体Fc領域を含む。
【0066】
本明細書中で特定されない限り、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の中に述べられている通りの、EUインデックスとも呼ばれる、EU番号付けシステムに従う。
【0067】
「変異体Fc領域」はアミノ酸配列を含み、そのアミノ酸配列は、本明細書中で規定された少なくとも1つの「アミノ酸修飾」のために、「天然」又は「野生型」のFc領域配列のそれとは異なっている。
【0068】
本明細書中で使用される用語「Fc変異体」とは、Fcドメインの中に修飾を含んでいるポリペプチドをいう。その修飾は付加、欠失、又は置換であることができる。置換は天然に存在するアミノ酸及び天然に存在しないアミノ酸を含むことができる。変異体は非天然アミノ酸を含んでもよい。
【0069】
用語「Fc領域含有ポリペプチド」は、抗体等のFc領域を含むポリペプチドをいう。
【0070】
用語「Fc受容体」又は「FcR」とは、抗体のFc領域に結合する受容体を述べるために使用される。IgG抗体に結合するFcR(ガンマ受容体)には、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体(これらの受容体の対立遺伝子の変異体及びオルタナティブスプライシング型を含む)が含まれる。FcγRII受容体はFcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「抑制性受容体」)を含み、それらは類似したアミノ酸配列を有するが、主としてその細胞質ドメインにおいて異なっている。活性化受容体であるFcγRIIAは、その細胞質ドメインの中に、免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を含む。抑制性受容体であるFcγRIIBは、その細胞質ドメインの中に免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を含む(Daeron, M., Annu. Rev. Immunol. 15 (1997) 203-234の中の総説を見よ)。FcRは、Ravetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol 9 (1991) 457-492; Capelら, Immunomethods 4 (1994) 25-34;及びde Haasら J. Lab. Clin. Med. 126 (1995) 330-41に総説されている。将来に同定されるべきものを含めて他のFcRは、本明細書中の用語「FcR」に包含される。その用語は新生児の受容体であるFcRnも含み、それは母親のIgGの胎児への運搬を担っている(Guyerら, J. Immunol. 117 (1976) 587 及びKimら, J. Immunol. 24 (1994) 249)。
【0071】
本明細書中で使用される「IgG Fcリガンド」とは、任意の生物に由来する、IgG抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。FcリガンドにはFcγR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌タンパク質A、連鎖球菌タンパク質G、及びウイルスFcγRが含まれるが、それらに限定される訳ではない。FcリガンドはFc受容体のホモログ(FcRH)も含むが、それはFcγRと相同性を有するFc受容体のファミリーである(Davisら, Immunological Reviews 190 (2002) 123-136、全体として参
照することにより組み込まれる)。FcリガンドはFcに結合する未発見の分子を含んでもよい。特定のIgG FcリガンドはFcRnとFcガンマ受容体である。本明細書中で使用される「Fcリガンド」は、任意の生物に由来し、抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。
【0072】
本明細書中で使用される「Fcガンマ受容体」、「FcγR」、又は「FcガンマR」とは、IgG抗体のFc領域に結合し、FcγR遺伝子によりコードされるタンパク質のファミリーの任意のメンバーを意味するものである。ヒトにおいてこのファミリーは、アイソフォームであるFcγRIA、FcγRIB、及びFcγRICを含むFcγRI(CD64);アイソフォームであるFcγRIIA(アロタイプH131とR131を含む)、FcγRIIB(FcγRIIB-1とFcγRIIB-2を含む)、及びFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);並びにアイソフォームであるFcγRIIIA(アロタイプV158とF158を含む)、及びFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIB-NA1とFcγRIIB-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferisら, Immunol Lett 82(2002))のみならず、任意の未発見のヒトFcγR若しくはFcγRアイソフォーム又はアロタイプを含むが、それらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含むが、それらに限定されるものではなく、任意の生物に由来してよい。マウスFcγRは、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、及びFcγRIII-2(CD16-2)のみならず、任意の未発見のマウスFcγR若しくはFcγRアイソフォーム又はアロタイプを含むが、それらに限定されるものではない。
【0073】
本明細書中で使用される「FcRn」又は「新生児のFc受容体」とは、IgG抗体Fc領域に結合し、少なくとも部分的にFcRn遺伝子によりコードされるタンパク質を意味するものである。FcRnは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含むが、それらに限定されるものではなく、任意の生物に由来してもよい。本技術分野で知られているように、機能を有するFcRnタンパク質は、しばしば重鎖と軽鎖と呼ばれる2つのポリペプチドを含む。軽鎖はベータ-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によりコードされている。本明細書中で特に明記しない限り、FcRn又はFcRnタンパク質は、FcRn重鎖とベータ-2-ミクログロブリンの複合体をいう。
【0074】
ペプチド又はポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列の同一性パーセント(%)」とは、配列のアラインメントとギャップの導入を行った後に、もし必要ならば、最大パーセントの配列同一性を達成するために、如何なる保存的置換も配列同一性の一部分として考慮することなく、候補配列の中のアミノ酸残基が、特定のペプチド又はポリペプチド配列の中のアミノ酸残基と同一であるパーセンテージであると規定される。アミノ酸配列の同一性のパーセントを決定する目的のアラインメントは、例えば、公表されているコンピューターソフトウェアであるBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等を使用して、本技術分野の技能の範囲内である種々な方法により達成することができる。
【0075】
「抗体依存性細胞仲介性細胞傷害」と「ADCC」とは、細胞に仲介される反応をいい、その反応においてFcRを発現する非特異的な細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、引き続いてその標的細胞の溶解を引き起こす。ADCCを仲介するための主要な細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、RavetchとKinet, Annu. Rev. Immunol 9 (1991) 457-492の464ページの表3に要約されている。
【0076】
用語「抗体依存性細胞貪食」と「ADCP」とは、抗体に被覆された細胞が、免疫グロブリンFc領域に結合する貪食性免疫細胞(例えば、マクロファージ、好中球、及び樹状細胞)により、全体的又は部分的のいずれにせよ取り込まれる(internalized)プロセスをいう。
【0077】
本明細書中で使用される用語「抗体エフェクター機能(複数可)」又は「エフェクター機能」とは、IgGのFcエフェクタードメイン(複数可)(例えば免疫グロブリンのFc領域)が寄与している機能をいう。そのような機能は、例えば、Fcエフェクタードメイン(複数可)の、貪食若しくは溶解活性を有する免疫細胞上のFc受容体への結合により、又はFcエフェクタードメインの補体系の成分のへの結合によりもたらされる。典型的なエフェクター機能は、ADCC、ADCP、及びCDCである。
【0078】
「C1q」は、免疫グロブリンのFc領域のための結合部位を含むポリペプチドである。C1qは2つのセリンプロテアーゼであるC1rとC1sと共に、複合体C1を形成し、それは補体依存性細胞障害(CDC)経路の最初の成分である。
【0079】
抗体の「クラス」とは、それの重鎖が持つ定常ドメイン又は定常領域の型をいう。抗体の主要なクラスは5つあり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、これらの幾つかをさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けてもよい。免疫グロブリンの異なったクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0080】
薬剤例えば医薬製剤の「有効量」とは、望まれる治療又は予防の結果を達成するために、投与量において必要な期間有効である量をいう。
【0081】
本明細書において使用される用語「感染症」は、感染性生物によって引き起こされるあらゆる疾患を指す。感染性生物は、ウイルス(例えば、RNAウイルス、DNAウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型、B型およびC型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV))、寄生虫(例えば、Plasmodia種、Leishmania種、Schistosoma種、Trypanosoma種などの原虫およびメタゾア病原体)、細菌(例えば、Mycobacteria、特にM.tuberculosis、Salmonella、Streptococci、E.coli、Staphylococci)、真菌(例えば、Candida種、Aspergillus種)、Pneumocystis carinii、並びにプリオンを含み得る。
【0082】
本明細書中において使用される用語「がん」は、例えば、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、細気管支肺胞細胞(bronchioloalviolarcell)肺がん、骨がん、膵臓がん(pancreatic cancer)、進行膵臓がん腫皮膚がん、頭部又は頸部のがん、皮膚又は眼内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、子宮がん、卵管のがん腫、子宮内膜のがん腫、子宮頸部のがん腫、膣のがん腫、外陰部のがん腫、ホジキン病、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、前立腺がん、膀胱のがん、腎臓又は尿管のがん、腎細胞がん腫、腎盂のがん腫、中皮腫、肝細胞がん、胆道がん、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫(schwanomas)、上衣腫(ependymonas)、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮がん、下垂体線腫、リンパ腫、リンパ球性白血病(上記のがんの何れかの難治性のバージョンを含む)又は上記のがんの1つ以上の組み合わせであってもよい。
【0083】
本明細書において、「免疫療法」という用語は、免疫応答(例えば、能動的または受動的免疫応答)を意図した、および/または免疫応答を生じる、疾患または異常の処置、例えば、治療的または予防的処置を指す。
【0084】
「免疫療法剤」という用語は、免疫療法に使用するための1つ以上の免疫原、免疫グロブリン、抗体、抗体フラグメント、またはそれらの組み合わせを含むか、またはそれらからなる薬剤を指す。従って、本明細書で使用される用語「免疫療法剤」には、免疫原、免疫グロブリン、抗体、または抗体フラグメントをコードする核酸も含まれる。このような核酸は、DNAまたはRNAであり得る。免疫原をコードする核酸セグメントは、典型的には、被験体または患者の意図する標的細胞におけるDNAセグメントの発現を可能にするプロモーターおよびエンハンサーなどの調節エレメントに連結される。
【0085】
「免疫原性薬剤」または「免疫原」は、患者への投与時に、それ自体に対する免疫学的応答を誘導することが可能であり、任意でアジュバントと併用される。「免疫原性組成物」とは、免疫原性薬剤を含む組成物である。
【0086】
「アジュバント」とは、免疫原と一緒に投与すると免疫原に対する免疫応答を増強するが、単独で投与すると免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントは、リンパ球の動員、B細胞および/またはT細胞の刺激、マクロファージの刺激など、いくつかのメカニズムによって免疫応答を増強することができる。
【0087】
発明の詳細な説明
本発明は、医療における免疫刺激剤としての、アゴニスト性CD40抗体またはその抗原結合断片を提供する必要性に応えるものである。本発明によれば、抗体または抗体断片は、患者の体重1kgあたり約0.1~1mgの用量で患者に投与するために提供される。この範囲において、本明細書に記載の特異的抗体は、有意な細胞毒性を惹起することなく、所望のシグナル伝達能および臨床効果を提供することが可能である。
【0088】
WO2019/057792のうち、アゴニスト性CD40抗体の1つが特に大きな治療域を有することが見出された。それは、患者の体重あたり0.1mgという非常に少量ですでに有効であり、主要な毒性作用は10倍を超える用量でのみ生じる。本発明に従って使用するための抗体またはその抗原結合断片は、配列番号3のCDR1H領域、配列番号4のCDR2H領域、及び配列番号5のCDR3H領域を含むVH領域、並びに、配列番号6のCDR1L領域、配列番号7のCDR2L領域、及び配列番号8のCDR3L領域を含むVL領域を含み、ここでCDRは本発明によるそれらの活性を減少させない任意の1つ以上のアミノ酸変異を含んでもよい。
【0089】
好ましくは、CDRは、それらの各々の配列番号と、少なくとも91%、好ましくは92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。
【0090】
好ましくは、抗体は、配列番号3のCDR1H領域、配列番号4のCDR2H領域および配列番号5のCDR3H領域を含むVH領域、ならびに配列番号6のCDR1L領域、配列番号7のCDR2L領域および配列番号8のCDR3L領域を含むVL領域を含む。
【0091】
他の態様において、本発明による使用のための抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列と、少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変(VH)領域を含む。
【0092】
特定の態様では、少なくとも60%、70%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して置換(例えば保存的置換)、挿入、又は欠失を含み、それによって本抗体は各々の抗原と特異的に結合する能力を保持する。好ましくは、重鎖可変領域(VH)配列は配列番号1である。
【0093】
本発明はまた、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する軽鎖可変(VL)領域を含む抗体に関する。
【0094】
特定の態様では、少なくとも60%、70%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含み、それによって抗体は、各々の抗原に対して本発明に従って特異的に結合する能力を保持する。好ましくは、軽鎖可変領域(VL)配列は配列番号2である。
【0095】
特定の態様では、前記VL配列において、1~10個のアミノ酸が置換、挿入および/または欠失されている。他の態様では、前記VH配列において、1~10個のアミノ酸が置換、挿入および/または欠失されている。特定の態様では、前記VHまたはVL配列の各々において、1~10個のアミノ酸が置換、挿入および/または欠失されている。前記置換、挿入、または欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR内)で生じてもよい。
【0096】
好ましい態様において、抗体はヒト化IgG1LALA抗体、特にヒト化IgG1型抗体であり、ヒトFc1領域の234位および235位に少なくとも2つのアラニンアミノ酸を有する。したがって、好ましい態様によれば、IgG1LALAは、ヒトFc1領域の変異L234AおよびL235Aを含む。別の態様では、抗体は、少なくともヒトIgG4 Fc領域のS228PおよびL235Eのアミノ酸置換を含む。
【0097】
さらに好ましくは、抗体は組換え分子である。
【0098】
本発明による使用のためのアゴニスト性モノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、ヒトCD40受容体に結合し、Fcγ媒介CD40受容体クロスリンクとは非依存的にCD40シグナル伝達を誘導することができる。さらに、野生型IgG Fcγレセプターシグナル伝達、または先行技術の抗体のFcγシグナル伝達と比較した場合、ヒトFcγレセプターを介したシグナル伝達能の減少または枯渇を示す可能性がある。
【0099】
特定の態様において、本発明による使用のためのアゴニスト性モノクローナルCD40抗体、またはその抗原結合断片は、野生型IgG Fcγと比較して、ヒトFcγ受容体に対する親和性の減少または枯渇を示す。好ましい態様によれば、抗体はFcγレセプターに結合せず、それに対応して抗体はFcγを介するCD40レセプターのクロスリンクを誘発しない。
【0100】
本発明による使用のための抗体は、投与後、アカゲザルCD40発現免疫細胞に迅速に結合し、コスティミュレイトリーマーカーおよびホーミングマーカー(例えば、CD80、CCR7)のアップレギュレーションを示す。薬物動態学的解析によると、本発明の抗体または抗体断片は約1週間循環中に持続する。全身性のサイトカイン分泌(例えばTNF、IL-12)は低い。高用量を投与した場合のみ、IFNγとIL-6の一過性の増加が観察される。抗体は、末梢において血小板とリンパ球の一過性の減少と顆粒球の増加を誘導し、免疫活性化を示す。さらに、抗原特異的免疫を増強するアジュバント効果が観察される。0.1~1mg/kg(静脈内投与または皮下投与)の上記範囲の投与により、同等かつ長期にわたる強固な細胞性およびサイトカインの全身性免疫応答が誘導される。このことは、抗体による古典的シグナル伝達が非常に強力なCD40活性化を誘導することを示している。
【0101】
まとめると、上記で定義した抗体またはその断片によるCD40の古典的活性化は、毒性作用を伴わずに、NHPにおいて適切な全身性免疫応答を誘導する。本発明のアゴニスト性抗CD40抗体(MAB273)は、抗原提示細胞の強力な活性化プロファイルを示し、抗原特異的T細胞応答を増強することから、細胞傷害性T細胞免疫を誘導するためのユニークなアジュバント候補となり得る。
【0102】
本発明による使用のための抗体のさらなる特徴は、WO2019/057792に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
本発明によれば、抗体またはその断片は、患者の体重1kgあたり約0.1~1mgの用量で患者に投与するために提供される。好ましくは、用量は1mg未満、例えば0.9mg/kg未満、または0.8mg/kg未満である。好ましい態様では、用量は約0.2~0.7mg/kg、0.3~0.6mg/kg、または0.4~0.5mg/kgの範囲である。
【0104】
上記抗体の有利な特性により、上記抗体は免疫調節剤として、特に感染症および/または癌の治療または予防に使用することができる。
【0105】
一態様において、抗体またはその断片は、感染症の予防または治療に使用される。感染症には、ウイルス感染(例えば、RNAウイルス、DNAウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型、B型及びC型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、ヒトパピローマウイルス(HPV))、寄生虫感染(例えば、Plasmodia種、Leishmania種、Schistosoma種、Trypanosoma種などの原虫およびメタゾア病原体)、細菌感染(例えば、Mycobacteria、特にM.tuberculosis、Salmonella、Streptococci、E.coli、Staphylococci)、真菌感染(例えば、Candida種、Aspergillus種、Pneumocystis carinii)、およびプリオンが含まれる。
【0106】
上記で定義した抗体またはその断片は、感染症に罹患した患者の免疫応答をサポートすることができる。さらに、抗体またはその断片は、患者に投与される免疫原に対する免疫学的応答を増強することができる。例えば、抗体またはその断片は、それゆえ、感染症から保護するために患者の免疫応答を誘発することを意図した免疫原を含むワクチン中またはそれに加えて投与することができる。任意に、抗体またはその断片は、この目的のためにさらなるアジュバントおよび賦形剤と組み合わせることができる。
【0107】
患者はまた、1つ以上のさらなる治療、例えば免疫療法剤などの医薬を受けることができることがさらに理解されよう。免疫療法は、例えば、免疫チェックポイント阻害を含むことができ、抗TIGIT、抗PD-L1、抗PD-1、抗CTLA-4、抗CD137、抗LAG-3、抗TIM-3、抗OX40、および/または抗GITRなどの1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤を使用することができる。
【0108】
別の態様では、抗体またはその断片は、がんに罹患している患者の治療に使用される。
【0109】
前記がんは、膵臓がん、進行膵臓がん腫、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、細気管支肺胞細胞(bronchioloalviolarcell)肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内黒色腫、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫、肝臓がん、胆嚢がん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん、唾液腺がん、又は子宮がんを含む群から選択される1つ以上の型のがんであり得る。
【0110】
特定の態様では、がんは固形腫瘍である。
【0111】
態様によっては、がんはCD40発現がんであることも可能である。しかしながら、これは本発明の抗体の効果的な機能のためには必要ではない。
【0112】
さらに、抗体は、患者の単独治療として、あるいは併用治療(この併用治療は、医薬的な細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤、放射線治療、標的治療、および/または手術であってもよい)の一部として使用できることが理解されよう。
【0113】
よって、患者はまた、(特に感染症やがんに対する)1以上のさらなる治療、例えば、医薬(細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤、放射線治療、標的治療、および/または手術等)を受けることができる。
【0114】
よって、いくつかの態様では、本発明の抗体は、細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤、放射線療法、標的療法および/または免疫療法と組み合わせて、がんの治療に使用される。
【0115】
本発明の抗体は、細胞毒性剤又は細胞増殖抑制剤、放射線療法、標的療法、及び/又は免疫療法に対して応答が不十分である及び/又は耐性である患者の治療において使用することもできる。
【0116】
前記放射線療法は、外部照射療法、接触x線近接照射療法、近接照射療法、全身放射線療法、又は術中放射線療法を含む群から選択されてもよい。
【0117】
本発明の細胞毒性又は細胞増殖抑制抗がん剤は、タキサン、アントラサイクリン、アルキル化剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、キナーゼ阻害剤、ヌクレオチドアナログ、ペプチド抗生物質、及び白金に基づく薬剤を含む群に由来してもよい。
【0118】
好ましくは標的とされる抗がん剤が標的療法の中で使用され、下記:セツキシマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、パニツムマブ等の抗EGFR化合物、トラスツズマブ、アド-ラスツズマブ、エムタンシン、ペルツズマブ等の抗HER2化合物、ベバシズマブ、アフリベルセプト、及びペガプタニブ等のVEGF標的化化合物、並びにスニチニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、及びレゴラフィニブ等のチロシンキナーゼ阻害剤、の1つ又はその組み合わせから選択される。
【0119】
患者が免疫療法を受けている場合には、これは免疫チェックポイント阻害剤であり得、1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤を使用してもよい。1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-L1、抗PD-1、抗CTLA-4、抗CD137、抗LAG-3、抗TIM-3、抗OX40、及び/又は抗GITRを含む群から選択されてもよい。
【0120】
本発明の抗体を、ヒトPD-L1、CTLA-4、LAG-3、TIM-3、CD137、OX40、GITRと特異的に結合する抗体と組み合わせて、及び/又は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ウレルマブ、ウトミルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ、イピリムマブの薬剤と組み合わせて使用することもできる。
【0121】
本発明のいくつかの態様では、抗体またはその断片は、週1回から月1回の投与レジメンで使用される。投与量は、患者における用量が常に1mg/kg体重を超えないようにする。好ましくは、患者の投与量は常に1mg/kg体重未満、例えば0.9mg/kg未満である。実質的な効果を得るためには、投与量を長期にわたって患者の0.1mg/kg体重以上に保つことができる。
【0122】
別の態様において、本発明は、薬学的に許容される担体および治療有効量の抗体または抗体断片を含む医薬組成物に関し、医薬組成物は、0.1~1mg/kg体重の用量の抗体または断片の投与に適合される。
【0123】
本発明の医薬組成物は、抗体または断片を長期間にわたって制御放出するために適合させることができ、好ましくは抗体または断片を持続放出するためのデポー製剤である。
【0124】
具体的な態様では、医薬組成物は、免疫原と組み合わせて、上記の抗体またはその断片を含むワクチンである。このようなワクチンは、特に感染症の予防に使用することができる。この場合、免疫原は、免疫学的応答を誘導することができる疾患関連抗原である。
【0125】
別の態様において、医薬組成物は、がんに罹患している患者の治療に使用するためのものである。そのようながんは固形腫瘍であり得る。がんはまた、膵臓がん、進行膵臓がん腫、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、気管支肺胞細胞肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼内黒色腫、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、腎臓がん、ホジキンリンパ腫、肝臓がん、胆のうがん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん、唾液腺がん、又は子宮がんを含む群から選択され得る。
【0126】
本組成物はまた、化学療法、放射線療法、標的療法および/または免疫療法と組み合わせてがんの治療に使用することもできる。前記免疫療法は、免疫チェックポイント阻害であり得る。
【0127】
前記組成物で治療される患者は、化学療法、放射線療法、標的療法および/または免疫療法に対して不十分な応答および/または耐性を示すものであり得る。
【0128】
本発明の医薬組成物はまた、1種以上の細胞毒性、細胞増殖抑制性または標的化抗がん化合物と組み合わせてがんの治療に使用することもできる。
【0129】
それは1つ以上の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて使用することができ、前記免疫チェックポイント阻害剤は、抗TIGIT、抗PD-L1、抗PD-1、抗CTLA-4、抗CD137、抗LAG-3、抗TIM-3、抗OX40、および/または抗GITRを含む群から選択することができる。
【0130】
該組成物はまた、ヒトPD-L1、TIGIT、CTLA-4、LAG-3、TIM-3、CD137、OX40、GITRに特異的に結合する抗体と組み合わせて、および/または薬剤ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ウレルマブ、ウトミルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ、イピリムマブと組み合わせて使用することもできる。
【0131】
また、週1回から月1回の投与で使用することもできる。
【0132】
別の態様では、本発明は、治療が必要な個体に有効量の抗体を投与することを含む治療方法にも関し、その投与量は0.1~1mg/kg体重の範囲である。そのような個体は、感染症および/またはがんに罹患している患者であってもよい。したがって、本発明はまた、感染症およびがん(例えば固形がん)の治療方法に関する。
【0133】
それを必要とする個体に投与するステップは、局所投与、例えば、患者の腫瘍への局所投与(例えば、腫瘍内または腫瘍周囲)を含み得る。好ましくは、投与は皮下投与または静脈内投与である。
【0134】
例えば、がんは、前立腺がん;乳がん;結腸直腸がん;膵臓がん;卵巣がん;肺がん;子宮頸がん;横紋筋肉腫;神経芽腫;多発性骨髄腫;白血病、急性リンパ芽球性白血病、黒色腫、膀胱がんおよび膠芽腫からなる群から選択され得る。
【0135】
本発明の治療方法は、患者への本発明の抗体ベースの薬剤の単独投与、または併用治療(このさらなる治療は、免疫療法、薬学的細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤、放射線療法、標的治療および/または手術であってもよい)の一部として構成され得ることがさらに理解されるであろう。
【0136】
実際、上記で詳述した本発明の抗体のすべての特徴および有利な特性は、本発明による抗体の治療方法および使用方法にも反映され、かつ含まれる。
【実施例】
【0137】
下記の実施例は図と表と共に本発明を説明するために使用される。
【0138】
材料と方法
動物
本研究は、動物実験に関する現地倫理委員会の承認を得た。インド原産アカゲザル雄6頭(毒性試験)/雄3頭及び雌3頭(免疫原性/生体分布試験)をカロリンスカ研究所Astrid Fagraeus Laboratoryで飼育した。すべての処置は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Careのガイドラインに従って行った。
【0139】
予防接種とサンプル採取[1-4]
毒性試験は時間をずらして行い、動物を3群に分けた。最初の2匹には1mg/kgの抗CD40 mAb(MAB273、Icano MAB GmbH)を静脈内(i.v.)投与し、続く2匹には0.1mg/kgのMAB273をi.v.投与し、最後の2匹には0.1mg/kgのMAB273を皮下(s.c.)投与した。i.v.投与では、伏在静脈に抗体を点滴し、総量は25mlで、5分ごとに1分間に約4mlずつ段階的に投与し、30分間に25mlを投与した。s.c.投与の場合は、抗体を左四頭筋上の皮膚に0.5mlの皮下注射を1回行った。採血はMAB273投与前、30分後、4時間後、24時間後、48時間後、72時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後に4mLヘパリンチューブで行った。免疫原性試験のため、プライミング免疫は0日目に行った。6頭のアカゲザルを2群(n=3)に分けた。グループ1には0.1mg/kgのHIVエンベロープペプチド(GenScript社、ペプチド合成サービス)を単独で、グループ2には0.1mg/kgのHIVエンベロープペプチドと0.1mg/kgのMAB273を組み合わせてs.c.投与した。2回目のブースター免疫は11週目に行い、6頭すべてのアカゲザルに1mg/kgのHIVエンベロープペプチドと0.1mg/kgのMAB273のs.c.投与を組み合わせたs.c.投与を行った。採血は、0日目、プライム投与48時間後、1週目、2週目、3週目、7週目、8週目、9週目、11週目、ブースター投与48時間後、12週目、13週目に行い、気管支肺胞洗浄液(BAL)は9週目と13週目に採取した。生体内分布研究では、Alexa Fluor 680標識MAB273を0.1mg/kg s.c.投与し、24時間後または48時間後に動物を剖検し、その後組織を採取し、分析した。
【0140】
安全性臨床化学及び血液学検査[5,6]
ヘパリン添加血液の血液学的分析は、Boule Vet Con対照血液を用いたQC後、Exigo Vet装置(Model H400, Boule Diagnostics AB, Spanga, Sweden)を用いて採取後8時間以内に行った。分析したパラメータは、RBC、HCT、MCV、RDW%、RDWa、HGB、MCH、MCHC、PLT、MPV、WBC、LYM、GRAN、MONOであった。
【0141】
ヘパリン化血漿サンプルはABAXIS Vetscan VS2 3.1.35 Chemistry analyzer (Triolab, Solna, Sweden)を用いて分析した。分析したパラメータは、Mammalian Liver Profileローター(Triolab)上のTBIL、BUN、BA、ALP、ALB、ALT、CHOL、およびGGTで、個々のQCコントロールを有する。
【0142】
血液サンプルの処理[2-4,7]
末梢血単核球(PBMC)は、Ficoll-Paque(GE Healthcare, Fairfield, CT)密度勾配遠心により、血液サンプルを2200rpmで25分間、ブレーキや加速なしで分離した。PBMCを洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で維持した。サンプルは直ちに染色するか、90%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)と10%DMSO(Sigma-Aldrich)を用いて凍結し、-170℃で保存した。
【0143】
自然細胞プロファイルのためのフローサイトメトリー[2,3,7,8]
新鮮なPBMCをLIVE/DEADTM Fixable Blue Dead Cell Stain Kit(Invitrogen,L23105)で染色した後、メーカーのプロトコールに従ってFcR Blocking Reagent(Miltenyi Biotec,130-059-901)でブロッキングした。その後、以下のように表面染色パネルを行った。
【0144】
【0145】
染色と洗浄後、PBMCを1%パラホルムアルデヒド(PFA)に再懸濁し、LSRFortessaフローサイトメーター(BD)で取得した。データ解析はFlowJo v10を用いて行った。
【0146】
B細胞増殖アッセイ[2,4]
細胞濃度100万/mlのヒトPBMCを、0.25μM CellTrace Violet(Invitrogen社製)により、37℃で20分間標識した。標識したヒトPBMCを、1μg/ml、0.1μg/ml、0.01μg/ml、または0.001μg/mlのMAB273または抗CD40 Ab(クローン5C3、BioLegend、334306)で刺激した。コントロールとして、細胞を1μg/ml CpG B(Invivogen)、0,2μg/ml SEB(Sigma)で刺激するか、あるいは刺激せずに、完全培地(RPMI1640、10% FBS、1% L-グルタミン、1% ペニシリン/ストレプトマイシン)中で6日間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、LIVE/DEADTM Fixable Blue Dead Cell Stain Kit(Invitrogen, L23105)で染色した後、メーカーのプロトコールに従ってFcR Blocking Reagent(Miltenyi Biotec, 130-059-901)でブロッキングした。その後、以下のように表面染色パネルを行った。
【0147】
【0148】
染色と洗浄後、PBMCを1%パラホルムアルデヒド(PFA)に再懸濁し、LSRFortessaフローサイトメーター(BD)で取得した。データ解析はFlowJo v10を用いて行った。
【0149】
T細胞刺激[2-4,7]
100万細胞/mLの新鮮なPBMCまたはBALサンプルの細胞を、0,2% DMSO+CD107a染色抗体+R10(unstim)、2ug/mL HIV Envelope peptides+CD107a染色抗体+R10、または1ug/mL SEB+CD107a染色抗体+R10中、37℃で一晩培養した。染色の6時間前に、10ug/ml Brefeldin A(BFA;Invitrogen)と10ug/ml monensin(Invitrogen)を培養液に添加した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、LIVE/DEADTM Fixable Blue Dead Cell Stain Kit(Invitrogen, L23105)で染色した。その後、以下のように表面染色パネルを行った。
【0150】
【0151】
染色・洗浄後、Cytofix/Cytoperm kit(BD Biosciences)を用いて細胞を透過処理し、下のパネルのように細胞内を染色した。
【0152】
【0153】
染色と洗浄後、細胞を1%パラホルムアルデヒド(PFA)に再懸濁し、LSRFortessaフローサイトメーター(BD)で取得した。データ解析はFlowJo v10を用いて行った。
【0154】
追跡実験のフローサイトメトリー[2,4]
異なる組織から採取した新鮮細胞を、LIVE/DEADTM Fixable Blue Dead Cell Stain Kit(Invitrogen, L23105)で染色した後、メーカーのプロトコールに従ってFcR Blocking Reagent(Miltenyi Biotec, 130-059-901)でブロッキングした。その後、以下のように表面染色パネルを行った。
【0155】
【0156】
染色と洗浄後、細胞を1%パラホルムアルデヒド(PFA)に再懸濁し、LSRFortessaフローサイトメーター(BD)で取得した。データ解析はFlowJo v10を用いて行った。
【0157】
MAB273の薬物動態解析のためのELISAアッセイ[5,9]
血漿中のMAB273濃度は、自社のカスタムELISAアッセイにより測定した。Greiner-Bio One 96 well half-area ELISA plate(VWR, 738-0032)を、新鮮なPBS中のCD40タンパク質(ThermoFisher, A42565)で、4℃で一晩コーティングした。プレートを、5%牛乳を含むPBSで室温(RT)で1時間ブロッキングした。希釈した血漿をプレートに加え、室温で2時間インキュベートした。MAB273は、サルの交差吸着ポリクローナルヤギ抗ヒトIgG HRP抗体(Southern Biotech,2049-05)の1:5,000希釈液を加えて検出し、TMB基質(BioLegend)を加えてシグナルを発現させた。等容量の1M H2SO4の添加で反応を停止し、光学密度(OD)を450nmで、バックグラウンドを550nmで読み取った。各インキュベーションステップの間に、0.05% Tween 20を添加したPBSを用いてプレートを3回洗浄した。
【0158】
血漿中サイトカイン検出のためのELISA測定法[2,3,7]
アカゲザルの血漿サンプルを、ELISAキット(ThermoFisherのEP8RB、BMS223HS、BMS654およびBMS646、ならびにMabtechの3460-1H-6および3512M-1H-6)により、IFN-γ、IL-6、TNFおよびIL-12p70レベルについて評価した。アッセイはメーカーのプロトコールに従って行った。
【0159】
参考文献
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3. EA, T., et al., Monocytes Acquire the Ability to Prime Tissue-Resident T Cells via IL-10-Mediated TGF-βRelease. Cell reports, 2019. 28(5).
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【配列表】
【国際調査報告】