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特表2024-538576膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置、システム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A61B5/022 300Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518775
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2022077132
(87)【国際公開番号】W WO2023057303
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21200851.0
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ベルクロ
2.HDMI
3.VELCRO
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィドウ ヴァレンティナ ゲータ
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】クント スタニスラフ
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB01
4C017AC01
4C017AD01
4C017AD11
4C017BB01
4C017BC11
4C017BD04
4C017BD06
4C017CC01
4C017DD11
4C017DD14
4C017DD17
4C017DE01
4C017FF01
4C017FF05
(57)【要約】
本発明は、膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置、システム及び方法に関する。さらに、本発明は、ファントムアームデバイスに関する。膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置は、カフ内の目標圧力を示す目標圧力信号を取得するように構成される目標圧力入力部、カフ内の圧力を測定するように構成されるセンサから、カフ内の圧力を示すカフ圧信号を取得するように構成されるセンサ入力部、警告信号を出力するように構成される出力部、並びにカフ圧信号及び目標圧力信号を分析し、前記分析に基づいてカフを検出し、及び前記欠陥が検出された場合、前記警告信号を出力するよう前記出力部を制御するように構成される処理ユニットを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置であって、前記装置は、
前記カフ内の目標圧力を示す目標圧力信号を取得するように構成される目標圧力入力部、
カフ内の圧力を測定するように構成されるセンサから、前記カフ内の圧力を示すカフ圧信号を取得するように構成されるセンサ入力部、
警告信号を出力するように構成される出力部、及び
前記カフ圧信号及び前記目標圧力信号を分析するように構成される処理ユニット
を有し、前記処理ユニットは、カフの膨張中又はカフの収縮中の前記カフ圧信号を分析し、前記分析に基づいて前記カフの欠陥を検出し、及び前記欠陥が検出された場合、前記警告信号を出力するよう前記出力部を制御するように構成される、装置。
【請求項2】
前記カフ内に前記目標圧力を供給するよう圧力送達ユニットを制御するように構成される制御ユニットをさらに有し、前記制御ユニットは、前記カフを所定の膨張速度で膨張させる、及び/又は前記カフを所定の収縮速度で収縮させる、及び/又は前記目標圧力を一定レベルに維持するよう前記圧力送達ユニットを制御するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記処理ユニットは、前記カフ圧信号の変化、特に前記変化の大きさ及び/又は形状、より具体的には前記カフ圧信号の降下若しくは増大の大きさ及び/又は形状に基づいて前記欠陥を検出するように構成される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理ユニットは、前記カフ圧信号の変化がしきい値よりも高い場合、前記欠陥を検出するように構成され、前記しきい値は、静的しきい値又は適応しきい値である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記処理ユニットは、前記カフ圧信号のスペクトル分析、前記カフ圧信号とテンプレートとのマッチング、及びフィルタリングされたカフ圧信号の変動性の評価の何れかに基づいて前記欠陥を検出するように構成される、請求項1乃至4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記カフは、円筒形形状に巻き付けられるように構成され、前記円筒形形状は、ファントムアームデバイスを有し、前記ファントムアームデバイスは、
第1の材料を有する内側シリンダ、
前記内側シリンダのシェル表面に巻き付けられる、第2の材料を有する中間層、及び
前記中間層に巻き付けられる、第3の材料を有する外側層
を有し、前記第1の材料の硬度は、前記第2の材料の硬度よりも高く、前記第2の材料の硬度は、前記第3の材料の硬度よりも高い、請求項1乃至5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記欠陥は、クロージング要素が開くこと、特に突然開くことを有し、前記クロージング要素は、互いに接触する2つの表面、面ファスナ、磁気留め具及びボタンの何れかを有する、請求項1乃至6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記処理ユニットは、異なる膨張速度及び/又は異なる収縮速度で前記カフ圧信号を分析するように構成される、請求項2乃至7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記処理ユニットは、検出される前記欠陥の数をカウントするように構成される、請求項1乃至8の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するためのファントムアームデバイスであって、前記ファントムアームデバイスは、
第1の材料を有する内側シリンダ、
前記内側シリンダのシェル表面に巻き付けられる、第2の材料を有する中間層、及び
前記中間層に巻き付けられる、第3の材料を有する外側層
を有し、前記第1の材料の硬度は、前記第2の材料の硬度よりも高く、前記第2の材料の硬度は、前記第3の材料の硬度よりも高い、ファントムアームデバイス。
【請求項11】
前記第1の材料は、ポリテトラフルオロエチレンを有し、前記第2及び/又は第3の材料は、シリコーンゴムを有し、
前記内側シリンダの直径は、1cm~3cm、好ましくは2cmである、及び/又は
前記中間層の厚さは、2cm~4cm、好ましくは3cmである、及び/又は
前記外側層の厚さは、0.5mm~1.5mm、好ましくは1cmである、
請求項10に記載のファントムアームデバイス。
【請求項12】
血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するためのシステムであって、
硬質の円筒形形状、又は請求項10若しくは11に記載のファントムアームデバイスに巻き付けられるカフ内の圧力を測定するように構成されるセンサ、
前記カフ内に目標圧力を供給するように構成される圧力送達ユニット、及び
請求項1乃至9の何れか一項に記載の装置
を有する、システム。
【請求項13】
血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための方法であって、前記方法は、
前記カフ内の目標圧力を示す目標圧力信号を取得するステップ、
カフ内の圧力を測定するように構成されるセンサから、前記カフ内の圧力を示すカフ圧信号を取得するステップ、
前記カフの膨張中又は前記カフの収縮中のカフ圧信号、及び前記目標圧力信号を分析するステップ、
前記分析に基づいて、前記カフの欠陥を検出するステップ、並びに
前記欠陥が検出された場合、警告信号を出力するように制御するステップ、
を有する方法。
【請求項14】
プログラムコード手段を有するコンピュータプログラムにおいて、前記プログラムコード手段は、前記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、請求項13に記載の方法のステップを前記コンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張式カフ(inflatable cuff)の材料及び/又は製造上の(workmanship)の欠陥を検出するための装置、システム及び方法に関する。さらに、本発明は、ファントムアーム(phantom arm)デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
血圧(BP)は、殆ど全ての診察中に測定される最も重要なバイタルサインの1つである。動脈圧は、動脈カテーテルを介して侵襲的に、又は非侵襲的に(NIBP)の何れかによって得ることができる。侵襲的な血圧モニタリングは、通常、高リスク患者の場合、又は複雑な外科手術においてのみ必要とされる。従って、BPを測定するために最も使用され、一般的である方法は、非侵襲的方法(NIBP)である。2つの異なる自動NIBP方法、すなわち、膨張(deflation)ベースのNIBPである従来の方法と、収縮(inflation)ベースのNIBPである(iNIBP)第2の方法が市場で入手可能である。iNIBPの目的は、従来の収縮ベースのNIBPに対して、測定時間及び患者の不快感を実質的に減らすことである。実際、NIBPの代わりにiNIBPを使用することは、同じ測定精度を維持しつつ、平均の測定時間を45秒から20秒に短縮するだろう。
【0003】
殆どの場合、血圧は、オシロメトリック方式の血圧カフを使用して上腕を閉塞することによって非侵襲的にモニタリングされる。自動化されるオシロメトリック技術のBP測定値は、例えば、病院環境において、1分から数時間まで様々である一定の時間間隔で得られる。血圧測定は、近頃、ユーザが都合のよいときにいつでも測定を行うことができる在宅モニタリングにも非常に人気がある。
【0004】
不正確な血圧測定は、一般に、誤診をもたらす可能性があり、従って、心血管合併症又は臨床的増悪につながる可能性がある。実際、本当の血圧を5mmHgだけ過剰に評価することは、略3000万人のアメリカ人において降圧薬による不適切な治療につながるであろう(例えば、J. Handler, “The Importance of Accurate Blood Pressure Measurement”, The Permanente Journal, Volume 13, No. 3, pp. 51-54, 2009を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膨張式カフを使用して行われる血圧測定及び、例えば血行動態パラメータ(例えば、心拍出量又は一回拍出量)のような他のバイタルサインの測定の精度は、カフの材料及び/又は製造上の欠陥の影響を大きく受ける。
【0006】
BP測定の精度は、例えば、“ベルクロクラック(velcro crack)”又は”カフクラック(cuff crack)”と呼ばれるアーチファクトによって引き起こされるカフ圧の急激な低下の影響を受ける。“ベルクロクラック”は、通常、カフのベルクロ材料によって、特に、例えば、カフのクロージング(閉じ)要素のベルクロ材料によって、例えばカフの面ファスナによって生じる。“カフクラック”は、カフの他の部分、特にカフの他の組織部分によって引き起こされる。例えば、カフクラックは、特にカフの膨張又は収縮中に、互いにしっかりと取り付けられてなく、ある程度互いに対して移動することができる(異なる)材料の幾つかの層を有するカフによって引き起こされる。これは、内部空気嚢(bladder)がカフの外側シェル内に挿入されている二重空気嚢(dual bladder)設計を持つカフの場合である。内部空気嚢の膨張/収縮中、この空気嚢は、外側シェル内でわずかに移動することができる。場合によっては、空気嚢の表面と外側シェルの表面との間の摩擦が、カフクラック(スリップスティック現象)につながる場合がある。同様に、カフクラックは、カフの膨張又は収縮中に互いに対して移動する、カフのクロージング要素の重なり合う部分によって引き起こされるスリップスティック現象によって引き起こされる。さらに、ボタン、特に押しボタンを有するクロージング要素は、膨張中に開き、同様に測定結果をゆがめることがある。
【0007】
両方(ベルクロクラック及びカフクラック)のアーチファクトは、例えば、血圧カフの膨張プロセス中に面ファスナが突然開いてしまうような、機械的クラックと理解することができる。このアーチファクトが非常に深刻な場合、特徴的な引き裂き“ripping”音として聞こえる。さらに、これらクラックのアーチファクトは、本来の圧力信号に重畳され、従って、最終的な血圧値(収縮期及び/又は拡張期)の誤った推定が得られる。故に、膨張式カフを使用することによって与えられるバイタルサイン測定の精度は、カフの材料の欠陥、又はカフに使用される材料、特に組織の製造上の悪さの影響を受ける可能性がある。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0211096号明細書は、適切な警告及び適時のユーザ確認を用いて、ユーザが通常の最高圧力レベルより上の、カフ内の個別の最大圧力レベルを確立することを可能にする統合止血帯システムを開示している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置、ファントムアームデバイス、システム及び方法を提供することであり、従って、バイタルサインの測定(例えば、BP測定)に使用されるカフが正確な測定結果を提供することを保証することである。
【0010】
本発明の第1の態様において、血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置が提示され、この装置は、
カフ内の目標圧力を示す目標圧力信号を取得するように構成される目標圧力入力部、
前記カフ内の圧力を示すカフ圧信号を、前記カフ内の圧力を測定するように構成されるセンサから取得するように構成されるセンサ入力部、
警告信号を出力するように構成される出力部、並びに
前記カフ圧信号及び前記目標圧信号を分析するように構成された処理ユニット
を有し、前記処理ユニットは、前記カフの膨張中又は前記カフの収縮中の前記カフ圧信号を分析し、前記分析に基づいて前記カフの欠陥を検出し、及び前記欠陥が検出される場合、前記警告信号を出力するように前記出力部を制御するように構成される。
【0011】
本発明のさらなる態様において、血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するためのファントムアームデバイスが提示され、このファントムアームデバイスは、
第1の材料を有する内側シリンダ、
前記内側シリンダのシェル表面に巻き付けられる、第2の材料を有する中間層、及び
前記中間層に巻き付けられる、第3の材料を有する外側層
を有し、前記第1の材料の硬度は、前記第2の材料の硬度よりも高く、前記第2の材料の硬度は、第3の材料の硬度よりも高い。
【0012】
本発明のさらなる態様において、血圧測定のために構成される膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するためのシステムが提示され、このシステムは、
ファントムアームデバイスに巻き付けられるカフ内の圧力を測定するように構成されるセンサ、
前記カフ内に目標圧力を供給するように構成される圧力送達ユニット、及び
膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置
を有する。
【0013】
本発明のさらなる態様において、対応する方法及びコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、本明細書に開示される方法のステップをコンピュータに行わせるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム、並びに、プロセッサによって実行されるとき、本明細書に開示される方法を行うコンピュータプログラム製品を格納する非一時的なコンピュータ可読記録媒体を提供する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に定義される。特許請求される方法、システム、コンピュータプログラム及び媒体は、特許請求される装置、特に従属請求項に定義され、本明細書に開示されるものと類似及び/又は同一の好ましい実施形態を持つと理解される。
【0015】
本発明は、カフ、例えばカフのクロージング要素の材料及び/又は製造上の欠陥、例えば、面ファスナの突然の開放がカフ内の圧力に影響を及ぼすという考えに基づく。例えば、カフが、クロージング要素の突然の開放によって患者の腕上で緩む場合、膨張することができるカフの内側の体積は大きくなり、従って、そのような開放時に、カフ内の圧力は、突然減少する。特に、カフの膨張中に、クロージング要素の部分が引き裂かれ、例えば血圧のようなバイタルサインの誤った測定結果を引き起こす可能性がある。同様に、例えば、スリップスティック現象によって引き起こされる、カフのシェル内の空気嚢の突然の移動は、カフの膨張可能な部分の体積に突然の変化を生じさせ、従って、カフ内の圧力に突然の変化を引き起こす。
【0016】
従って、カフ内の圧力を、特に公称圧力、すなわち目標圧力に対して分析することによって、例えば、クロージング要素のベルクロ材料のような、カフ材料の欠陥を検出することができる。
【0017】
提案されるシステム、装置及び方法は、非常に一般的であり、既存の全ての市販のカフに使用することができるだけでなく、新しい試作品に対しても、カフの品質を正確で、ロバストで、再現可能な方法で評価するための使用することができる。特に、カフの材料及び設計は、信頼性のあるバイタルサイン測定を提供することに対する適合性に関して分析することができ、カフの品質を評価するために人間を使った実験を回避することができる。提案される方法、装置、及びシステムは、新しい改善されたカフを開発するための洞察も提供することができる。本発明では、新しい種類のクロージング要素、例えば、面ファスナ用の新しい材料を試験することができる。さらに、肉眼では観察することができない、クロージング要素の欠陥、或いはシェル及び/又は空気嚢材料の欠陥を検出することができる。その他には、例えばカフの設計のようなカフの他の特徴を評価することができる。
【0018】
従って、本発明は、カフのクロージング要素又はカフの材料の機能不良を抱えているカフを検出し、機能不良及び/又は欠陥のないカフを開発することを可能にする。従って、カフを用いたバイタルサイン測定の精度を向上させることができる。カフの材料、或いはその材料に関する不出来(poor workmanship)により引き起こされる機能不良及び/又は欠陥、例えば、ベルクロクラックは、一般に特定のパターンに従わないので、ソフトウェアアルゴリズムによって、それが、これらの機能不良/欠陥により引き起こされる、カフ圧信号におけるアーチファクトを修正することは非常に困難である。しかしながら、本発明は、そのような機能不良/欠陥についてカフを試験するための体系的な方法を提供し、従って、カフ圧信号を修正するためのソフトウェアアルゴリズムを改善するのに十分な情報を得るのに役立つ。
【0019】
膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置において、前記目標圧力入力部は、例えば、圧力送達ユニットから目標圧力信号を取得してもよい。この圧力送達ユニットは、カフの内部に空気を入れて、従ってカフを膨張させるように構成される空気ポンプシステムを有することができる。カフ内の目標圧力を示す目標圧力信号は、カフが膨張する(収縮する)ように構成される最大(最小)圧力、及び目標圧力速度、すなわちカフが膨張する(収縮する)圧力を示す膨張速度に関する情報を含むことができる。この情報から、前記処理ユニットは、目標圧力(すなわち、(膨張又は収縮中の)特定の時点でカフ内にあるべき公称圧力)を推測することができる。前記目標圧力信号は、同様に、膨張中にカフに入る(又は収縮中にカフから出る)ガス流を示し、この装置の処理ユニットは、前記目標圧力信号に基づいて目標圧力(公称圧力)を計算し、この目標圧力に基づいてカフ圧信号を分析するように構成される。しかしながら、この目標圧力信号は、処理ユニットがさらなる計算を行わずに、目標圧力、すなわち、ある時点でカフ内にあるべき圧力を既に示すことができる。
【0020】
一般に、目標圧力信号は、欠陥を検出するための基準圧力信号と見なすことができる。目標圧力信号は、圧力送達ユニットからの情報を使用して前記装置から導出される。さらに、測定されたカフ圧信号からの情報を使用することができる。しかしながら、装置が、例えば特定のアルゴリズムを使用して、前記測定されたカフ圧信号から(単独で)目標圧信号を推測又は計算する可能性もある。この場合、目標圧力入力は、例えば、カフ圧信号を処理することによって目標圧力信号を取得するように構成されてもよい。
【0021】
目標圧力信号とは別に、処理ユニットは、欠陥を検出するための評価(測定)中に記録されたカフ圧力信号を使用する。通常、カフは、所与の圧力速度で所定の圧力まで膨張し、その膨張中、カフ圧信号が記録される。次いで、このカフ圧信号は、カフの欠陥を示す不規則性に関して分析される。
【0022】
測定時間中、特に膨張中、収縮中又はカフ内の圧力を一定にする時間中に、センサ入力部は、カフ内の圧力を測定するように構成されるセンサからカフ圧信号を取得する。一般に、(圧力)センサは、カフと空気圧で接続されている限り、どこにでも位置することができる。例えば、センサは、カフに接続される空気圧システム、例えば、圧力送達ユニットの空気圧システムにおける(どこかに)位置してもよい。しかしながら、他の位置も同様に考えられる。例えば、センサは、空気をポンプの出口からカフの外側コネクタに伝えるホース(チューブ)に接続されてもよい。実際、カフ内に直接配される圧力センサは、ポンプ(バックグラウンド)ノイズが最も少なく、感度が最も良い。しかしながら、そのような位置決めは、(ほとんどの場合)圧力センサを挿入するためにカフを修正する必要があるので、実現するのが困難である。
【0023】
良好な感度のための実用的な場所は、カフの(圧力測定用の)ちょうど入口である。一般に、圧力センサの位置は、技術的実現可能性及び所望の感度に依存する。
【0024】
カフ圧信号及び目標圧信号は共に、前記装置の処理ユニットによって分析されてもよい。例えば、処理ユニットは、特に測定時間中、カフ圧信号を目標圧信号と比較し、この比較に基づいて欠陥を検出するように構成されてもよい。しかしながら、処理ユニットは、同様に、目標圧力信号によって示されるように、カフが膨張する圧力速度が一定であるかどうかをチェックし、この情報を考慮してカフ圧信号を分析することができる。前記カフ圧信号は一定のカフ圧速度を示していないと分析される場合、欠陥が検出される。
【0025】
欠陥が検出された場合、前記装置の出力は、特に出力インターフェースに警告信号を供給するように構成され、次いで、出力インターフェースは、装置によって検出された欠陥を発行することができる。
【0026】
一実施形態において、前記装置は、カフ内に目標圧力を供給するよう圧力送達システムを制御するように構成される制御ユニットをさらに有し、この制御ユニットは、圧力送達ユニットを制御して、所定の膨張速度でカフを膨張させる、及び/又は所定の収縮速度でカフを収縮させる、及び/又は所定(一定)レベルに目標圧力を保持するように構成される。
【0027】
前記膨張速度及び/又は収縮速度は、一定の速度とすることができる。しかしながら、制御ユニットは、可変速度でカフを膨張及び/又は収縮させるよう前記圧力送達ユニットを制御するように構成されてもよい。特に、制御ユニットは、例えば、カフのサイズ又はカフの材料に応じた速度でカフを膨張及び/又は収縮させるよう圧力送達ユニットを制御するように構成されてもよい。さらに、前記速度は、測定中、カフが巻き付けられる硬質の円筒形形状又はファントムアームデバイスのサイズに依存してもよい。好ましくは、前記膨張速度は、0.5mmHg/秒~30mmHg/秒の範囲である。さらに、制御ユニットは、カフを膨張及び/又は収縮させる、及び/又は所定の時間、カフ内を所定の圧力で維持するよう、圧力送達ユニットを制御するように構成されてもよい。
【0028】
前記装置の一実施形態において、処理ユニットは、カフ圧信号の変化、特にその変化の大きさ及び/又は形状、より具体的にはカフ圧信号の降下又は増大の大きさ及び/又は形状に基づいて、欠陥を検出するように構成される。
【0029】
好ましくは、処理ユニットは、カフ圧信号の導関数を(計算及び)分析し、この導関数に基づいて欠陥を検出するように構成される。例えば、処理ユニットは、カフ圧信号の導関数における負インパルス(部分)を検出し、このインパルスが圧力送達ユニットのポンプノイズ振動より大きい場合、すなわち、前記インパルスが既定のしきい値より大きい場合、欠陥を検出するように構成されここで、しきい値は、バックグラウンドノイズ振動の大きさに依存する。このように、カフのクロージング要素又は他の部分によって引き起こされる欠陥は、バックグラウンドノイズと混同されない。
【0030】
別の実施形態において、処理ユニットは、カフ圧信号の変化がしきい値よりも高い場合、欠陥を検出するように構成され、ここで、前記しきい値は、静的しきい値又は適応しきい値である。処理ユニットは、例えば、(圧力送達ユニットなどによって引き起こされる)バックグラウンドノイズに関して前記しきい値を適応させるように構成されてもよい。一般に、(静的又は適応)しきい値は、0.1mmHg/秒という低さである。例えば0.1mmHg~5mmHg又は1mmHg~10mmHgの範囲の他のしきい値も考えられる。しきい値は、カフ圧信号を測定するために使用されるセンサの感度及び/又は関心のある最小の欠陥に応じて適合される。しきい値を増大させることによって、より小さいクラックは無視されるだけでなく、装備のノイズに起因する偽陽性の検出も減少する。
【0031】
好ましくは、処理ユニットは、カフ圧信号の変化と目標圧信号の変化との比較に基づいて欠陥を検出するように構成される。特に、処理ユニットは、(測定時間中の特定の時間における)カフ圧信号の変化と目標圧力信号の変化との差が所定のしきい値よりも高い場合、欠陥を検出するように構成される。両方の信号を比較することにより、圧力送達ユニットによって引き起こされる機能不良(欠陥)の検出を排除することができる。これは、カフ圧力信号及び目標圧力信号が同時に急激な変化を有する場合、カフ圧力信号の変化は、材料及び/又はこの材料の製造上の欠陥によってではなく、目標圧力信号の変化によって引き起こされるという事実に起因する。
【0032】
一実施形態において、処理ユニットは、カフ圧信号のスペクトル分析、カフ圧信号とテンプレートとのマッチング、及びフィルタリングされたカフ圧信号の変動性の評価の何れかに基づいて、欠陥を検出するように構成される。
【0033】
言い換えると、処理ユニットは、カフ圧信号のスペクトル分析を行い、この分析に基づいて欠陥を検出するように構成される。より具体的には、カフ圧信号は、(短時間)フーリエ変換又は同様のスペクトル法を用いて分析されてもよい。典型的にはカフの材料又は製造上の欠陥を示す、周波数での振幅の増大が欠陥として示される。
【0034】
さらに、前記装置は、以前のカフ圧信号からなる様々なテンプレートを記憶又は取得するように構成されてもよく、これらテンプレートは、カフの欠陥に関連付けられた、これらの信号におけるアーチファクトに関する情報を有する。そのようなテンプレートを取得するために、所定の(欠陥)パターン、すなわち、欠陥を示すカフ圧信号の短い信号抜粋(一部)が、既存のカフ圧信号内で検索される。カフ圧信号は、事前にフィルタリングされてもよい。この抜粋を検索するために、相互相関又は他の方法を使用することができる。続いて、カフ圧信号をテンプレートと比較することによって、処理ユニットは、類似するものを検出する、従って、欠陥を検出することができる。
【0035】
しかしながら、前記装置の処理ユニットは、カフ圧信号をフィルタリングするように構成されるフィルタユニットをさらに有することができ、このフィルタユニットは、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの何れかを有し、処理ユニットは、フィルタリングされた信号の変動性の評価に基づいて欠陥を検出するように構成される。特に、処理ユニットは、フィルタリングされたカフ圧信号の変化に基づいて、より具体的には、フィルタリングされたカフ圧信号の変化と目標圧力信号の変化との比較に基づいて、欠陥を検出するように構成される。
【0036】
一般に、圧力信号は、その信号を分析する前に、前処理及び/又はフィルタリングされる。例えば、高周波ノイズ及びポンプが誘発する外乱は、ローパスフィルタ又はバンドストップ(帯域除去)フィルタを使用して信号から取り除かれる。カフ圧信号は、同様に、ハイパスフィルタによってフィルタリングされて、膨張ランプ(勾配)を取り除き、トレンドが除去された信号(トレンド除去した(detrended)カフ圧信号)をもたらすことができる。この場合、信号の変化が強調される。
【0037】
如何なる欠陥も持たない理想的なカフを備える理想的な装備において、結果生じるカフ圧信号は、横線(0定数)となる。しかしながら、バックグラウンドノイズによって、ベースライン(0)の周りに不規則な振動が存在する。そのような振動の振幅がバックグラウンドノイズの振幅よりも大きい場合、欠陥は、その振動と区別される。カフがどの程度欠陥の影響を受けているかを表すスコアを得るために、RMS(二乗平均平方根)、ピークツーピーク又は信号変動性の同様の計算が、トレンド除去された信号に対して行われる。
【0038】
より正確には、トレンド除去した後、カフ圧信号は、トレンド除去されたカフ圧信号の変化を、同時にこの信号のバックグラウンドノイズに適応しているしきい値と比較するように構成されるアルゴリズムに入力することができる。しきい値を超えるたびに、処理ユニットは欠陥を検出(及び記録)する。例えば、欠陥が生じた振幅、持続時間及び/又は圧力レベルのような、欠陥に関するさらなる情報を記録することもできる。他方、トレンド除去されたカフ圧信号から、幾つかのノンパラメトリック特徴が計算され、信号における変動性-不安定(unrest)、例えば、二乗平均平方根(RMS)、ピークツーピーク(信号における最大値と最小値との間の差)を評価する。欠陥が多いほど、信号の変動性は大きくなる。この方法の利点は、如何なるパラメータも必要としないこと、及びトレンド除去されたカフ圧信号に影響を及ぼす全ての種類の欠陥に作用することである。しかしながら、欠陥は、特定の特性に関して局在化されたり、分析されたりすることはない。
【0039】
一実施形態において、カフは、円筒形形状に巻き付けられ(及び特に測定時間中、クロージング要素によって閉じら)るように構成され、この円筒形形状は、ファントムアームデバイスを有し、前記ファントムアームデバイスは、
第1の材料を有する内側シリンダ、
前記内側シリンダのシェル表面に巻き付けられる、第2の材料を有する中間層、及び
前記中間層に巻き付けられる、第3の材料を有する外側層
を有し、
前記第1の材料の硬度は、前記第2の材料の硬度よりも高く、前記第2の材料の硬度は、前記第3の材料の硬度よりも高い。
【0040】
前記円筒形形状は、人間の腕を模倣するように構成される。この円筒形形状は、プラスチック材料又は金属を有することができる。前記(生き物ではない)形状にカフを巻き付けることによって、人の動き、脈拍又は他の如何なる種類の人的要因によって引き起こされるカフ圧信号のひずみを防ぐことができる。
【0041】
膨張中に縮まない任意の材料からの単純な硬質のシリンダをカフの品質を評価するのに使用することができるが、柔らかい外層を有するファントムアームデバイスは、この外層に(しっかりと)巻き付けられたカフが(膨張中にへこむことがない硬質のシリンダとは対照的に)シリンダに向かって膨張することができるという利点を持つ。さらに、膨張又は収縮中のカフの挙動は、人間の腕に巻き付けられたときのカフの挙動により近い。
【0042】
別の実施形態において、欠陥は、クロージング要素が開く、特に突然開くことを有し、ここで、前記クロージング要素は、互いに接触する2つの表面、面ファスナ、磁気留め具及びボタンの何れかを有する。
【0043】
ボタンの一例は、特に、押しボタンを有することができる。従って、欠陥は、ボタンが外れる、又はフックがループからほどけることを有する。欠陥は、同様に、スリップスティック現象を有する、すなわち、2つの物体(表面)が互いに摺動している間に生じる自発的なジャーキング運動(jerking motion)である。これらの欠陥の何れも、カフ内部の体積の(突然の)変化、及び故に、測定されるカフ圧力(及びカフ圧信号)の突然の変化を引き起こす。
【0044】
さらに別の実施形態において、処理ユニットは、異なる膨張速度及び/又は異なる収縮速度でカフ圧信号を分析するように構成される。特に、制御ユニットは、カフを6mmHg/秒、15mmHg/秒及び25mmHg/秒の膨張速度で膨張させるよう圧力送達ユニットを制御し、処理ユニットは、これらの速度(の何れか)でカフ圧信号を分析するように構成される。このように、カフの挙動をより詳細にテストすることができる。
【0045】
さらに別の実施形態において、処理ユニットは、特に測定時間中に検出された欠陥の数をカウントするように構成される。さらに、処理ユニットは、検出された欠陥に対応する全ての変化の大きさの総計を決定するように構成されてもよい。その他には、処理ユニットは、欠陥が検出されるカフ圧のレベルを評価するように構成されてもよい。
【0046】
これらの分析は、テストされるカフの品質に関して有意な統計を提供するのに役立つ。特に、全ての機能不全の大きさの総計を決定することは、カフの品質を評価するのに役立つ。例えば、総計の大きさが非常に高い場合、これは、カフは、重度な欠陥を抱えていて、信頼できる方法でバイタルサインを測定するために使用することができないという指標である。
【0047】
ファントムアームデバイスの一実施形態において、前記第1の材料は、(硬質の)ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)を有し、前記第2及び/又は第3の材料は、シリコーンゴムを有し、ここで、前記内側シリンダの直径は、1cm~3cm、好ましくは2cmであり、及び/又は前記中間層の厚さは、2cm~4cm、好ましくは3cmであり、及び/又は前記外側層の厚さは、を含み含み、0.5mm~1.5mm、好ましくは1cmである。このように、実際の人間の腕の幾何学的形状が正確に模倣される。好ましくは、中間層及び外側層の厚さは一定であり、ファントムアームデバイスは円筒形形状を有する。
【0048】
別の実施形態において、ファントムアームデバイスは、1つ以上のさらなる層を有する。これらの層の何れかが、前記中間層の下、又は前記中間層の上、及び/又は前記外側層の下、及び/又は前記外側層の上に位置することができる。さらなる層は、前記内側シリンダ全体に巻き付けられる、又は前記内側シリンダの一部にのみ巻き付けられてもよい。前記1つ以上のさらなる層の材料は、例えば、シリコーンゴムを有してもよい。特に、前記中間層及び/又は前記外側層は、(医用)シリコーンエラストマーを有することができる。より具体的には、前記中間層は、Silpuran(登録商標)2420を有し、外側層は、Silpuran(登録商標)2400を有することができる。
【0049】
好ましい実施形態において、ファントムアームデバイスは、ファントムアームデバイスの全長に沿って一定である直径を有するシリンダを有する。言い換えると、ファントムアームデバイスの前記シリンダのシェル表面上の如何なる点も、前記内側シリンダに対して同じ距離を持つ。
【0050】
システムの一実施形態において、このシステムは、本明細書で特許請求されるような硬質の円筒形形状又はファントムアームデバイスをさらに有し、これら硬質の円筒形形状又はファントムアームデバイスは、人間の腕を模倣するために使用され、カフは、測定時間中に硬質の円筒形形状又はファントムアームデバイスに巻き付けられる。
【0051】
システムの一実施形態において、圧力送達ユニットは、所定の一定(目標)圧力速度を維持する及び/又は所定の一定ガス流量を維持するように構成される。一般に、圧力送達ユニットは、カフの制御される膨張及び/又は収縮を保証するように構成される。例えば、圧力送達ユニットは、所定の一定圧力速度(mmHg/秒)を維持するように構成されるプログラム可能なシステムを有することができる。このプログラム可能なシステムは、リアルタイムでユーザ定義のアルゴリズムを実行する、ユニバーサル信号入力部及び出力部を備えるハードウェアモジュールと、制御、視覚化及び記録ソフトウェアを実行するパーソナルコンピュータとを有することができる。前記プログラム可能なシステムは、膨張及び/又は収縮を制御する、膨張及び/又は収縮の圧力を記録する、信号を処理する、並びに信号に特定のアルゴリズムを実行するために使用されることができる。
【0052】
他方、圧力送達ユニットは、(入力圧力とは無関係に)カフ内への一定ガス流量(ml/秒又はcm/秒)を維持するように構成される(熱)質量流量(マスフロー)コントローラを有することができる。質量流量コントローラにおけるコントローラユニットを介して、流量値を定義することができ、次いで、この流量値は、調整器ユニット(例えば、電子弁)を介して調整することができる。故に、この質量流量コントローラは、明確な膨張挙動を保証することができる。質量流量コントローラの利点は、空気ポンプがない(圧縮した空気の流入を使用する)ことであるため、カフ圧信号における(通常、プログラム可能なシステムの装備における前記空気ポンプによって引き起こされる)バックグラウンドノイズがより低いことである。従って、質量流量コントローラが使用される場合、前記システムは、より感度が高くなる、すなわち、例えば、小さなベルクロクラックのような小さな欠陥であっても検出することができる。一定圧力速度を維持するプログラム可能なシステムの利点は、カフが患者に使用され、膨張中に測定が行われるとき、通常、カフは一定流量ではなく一定圧力速度で膨張するので、この膨張モードは、実際のカフの使用により近いことである。
【0053】
好ましくは、システムの圧力送達ユニット及び/又は装置の制御ユニットは、目標圧力の供給をリアルタイムで制御するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかになり、これを参照して説明される。
図1図1は、本発明による膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するシステムの実施形態の概略図を示す。
図2図2は、本発明による、膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置の実施形態の概略図を示す。
図3A図3Aは、開いた状態である、クロージング要素を有する標準的な膨張式カフを示す。
図3B図3Bは、閉じた状態である、図3Aの標準的な膨張式カフを示す。
図4図4は、本発明によるファントムアーム装置の実施形態を示す。
図5図5は、本発明による、膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための方法の実施形態の概略図を示す。
図6図6は、カフ圧信号を示す図である。
図7A図7Aは、生のカフ圧信号及び導出される信号を示す。
図7B図7Bは、トレンド除去後の図7Aのカフ圧信号を示す。
図7C図7Cは、図7Bの信号において検出される欠陥、対応する圧力振幅、及びカフ内の対応する圧力を示す。
図8A図8Aは、図7Aと同様の信号を示す。
図8B図8Bは、図7Bと同様の信号を示す。
図8C図8Cは、図7Cと同様の信号を示す。
図9A図9Aは、膨張プロセス中の様々な市販のカフの平均圧力降下を示す。
図9B図9Bは、図9Aに示されるカフの圧力信号の二乗平均平方根誤差を示す。
図10A図10Aは、さらなる市販のカフの平均圧力降下及び対応する誤差を示す。
図10B図10Bは、さらなる市販のカフの平均圧力降下及び対応する誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、本発明による膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するためのシステム1の実施形態の概略図を示す。
【0056】
システム1は、センサ10、圧力送達ユニット20並びに膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置30を有する。任意選択で、システム1は、硬質シリンダ又はファントムアームデバイス(図示せず)、及び出力インターフェース(40)をさらに有する。
【0057】
この実施形態において、カフは、硬質シリンダに巻き付けられ、カフのクロージング要素によって固定される。しかしながら、このカフは、同様に、(完全な)円筒形形状ではない棒(stick)に又はファントムアームデバイスに巻き付けられてもよい。さらに、カフは、如何なる種類の物体にも巻き付けることなく、単に閉じられる可能性がある。
【0058】
カフ内の(ガスの)圧力を測定するように構成されるセンサ10がカフ内に配されている。センサ10は、このカフ内で測定される圧力を示すカフ圧信号11を提供するようにさらに構成される。
【0059】
カフ50内部の圧力は、圧力送達ユニット20によって供給される、すなわち、圧力送達ユニット20が、(例えば、チューブを介して)カフを膨張又は収縮させるように、又はカフ50内の圧力を一定に保つように構成される。この実施形態において、圧力送達ユニット20は、膨張のために一定流量のガスをカフに供給することを確実にするように構成されるマスフローコントローラを有する。圧力送達ユニット20によって提供され、カフに入るガス流に基づいて、圧力送達ユニット20は、カフ内の圧力を計算し、膨張によるカフ内の目標圧力を示す目標圧力信号21を提供し、目標圧力は、公称圧力又は基準圧力である。
【0060】
装置30は、圧力送達ユニット20から目標圧力信号21を、及びセンサ10からカフ圧信号11を取得する、すなわち取り出す又は受信するように構成される。次いで、両方の信号を使用して、カフの材料の欠陥及び/又はカフの製造上(例えば、カフのクロージング要素)の欠陥を検出する。特に、装置30は、圧力信号11を目標圧力信号21と比較し、これら信号間の差を検出するように構成することができる。その差が所定のしきい値よりも高い場合、装置30によって、カフの材料及び/又は製造上の欠陥を示す警告信号31が生成される。
【0061】
しかしながら、装置30は、同様に、前記目標圧力信号がカフの一定の膨張率を示すかどうかを分析し、前記カフ圧信号が不連続性を有するかどうか、特に変化が所定のしきい値よりも高いかどうかを分析し、カフ圧信号に不連続性が検出される場合、機能不良を検出するように構成される。
【0062】
カフは、人間の腕に取り付けられるのではなく、生命のない物体に取り付けられるので、腕の動き、腕の筋肉の動き或いは血圧変動、又は人的要因による他の任意の種類の外乱による圧力測定値の破損を防ぐことができる。測定装備が破損していないと仮定する場合、すなわち、圧力送達ユニット20及びシステム1の他の部分が適切に機能すると仮定する場合、カフ圧信号におけるアーチファクト、特に、測定される圧力と目標圧力との間の差は、カフ50の欠陥によって説明されることができる。さらに、カフ50が如何なる漏れも持たないと仮定する場合、クロージング要素の機能不良があり得る。このことは、カフ圧信号21の急激な降下又は上昇がある場合に特に当てはまる。
【0063】
任意選択で、システム1の装置30は、制御信号37を介して圧力送達ユニット20を制御する、特に、カフの膨張及び/又は収縮を、例えば、カフが膨張する加圧速度を制御するようにさらに構成されてもよい。
【0064】
システム1は、前記装置によって提供される警告信号に基づいて、一般的に、検出された機能不良を出力する任意の手段である出力インターフェース40をさらに有することができる。この出力は、視覚的又は聴覚的な形態、例えば、テキスト形態で、画像又は図で、音声又は話し言葉などでもよい。例えば、出力インターフェースは、ディスプレイ、スピーカー、タッチスクリーン、コンピュータのモニター、スマートフォン又はタブレットのスクリーン等でもよい。
【0065】
図2は、本発明による膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための装置30の実施形態の概略図を示す。装置30は、目標圧力信号31を取得するように構成される目標圧力入力部32、及びカフ圧信号11を取得するように構成されるセンサ入力部33を有する。目標圧力入力部32及びセンサ入力部33は、夫々圧力送達ユニット20及びセンサ10に直接結合或いは接続されてもよいし、又は記憶装置、バッファ、ネットワーク或いはバスなどからこれら信号を取得(取り出す又は受信)してもよい。従って、入力部32及び33は、例えば、Bluetooth(登録商標)インターフェース、WiFiインターフェース、LANインターフェース、HDMIインターフェース、直接的なケーブル接続又は装置30への信号転送を可能にする他の任意の適切なインターフェースのような(有線又は無線の)通信インターフェース又はデータインターフェースでもよい。
【0066】
装置30は、カフ圧信号11と目標圧力信号21との比較に基づいて、このカフ圧信号11を分析するように構成される処理ユニット34をさらに有する。処理ユニット34は、前記信号を処理及び分析し、そこからカフのクロージング要素の機能不良を検出するように構成される如何なる種類の手段でもよい。それは、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット、ラップトップ、PC、ワークステーションなどの、プログラムされたプロセッサ或いはコンピュータ、又はユーザデバイス上のアプリのように、ソフトウェア及び/又はハードウェアに実装される。
【0067】
装置30は、警告信号31、すなわち、クロージング要素51の機能不良が検出されたことを示す信号を出力するように構成される出力部35をさらに有する。出力部35は、一般に、警告信号31を提供する、例えば、警告信号を別のデバイスに送信する、又は別のデバイス(例えば、スマートフォン、コンピュータ、タブレットなど)による検索のために警告信号を提供する、任意のインターフェースである。従って、出力部は、一般に、任意の(有線若しくは無線)通信又はデータインターフェースとすることができる。
【0068】
任意選択で、装置30は、制御信号37を圧力送達ユニット20に供給し、故に、圧力送達ユニット20を制御して、カフ内に目標圧力を提供するように構成される制御ユニット36をさらに有する。
【0069】
図3Aは、開いた状態である、クロージング要素51を有する標準的な膨張式カフ50を示す。カフ50の品質は、本発明による装置30、システム1及び方法100を用いて評価されることができる。特に、カフの材料及び/又は製造上の欠陥が検出される。図3Aに示されるカフ50は、クロージング要素51として面ファスナを有する。フック部をループ部に取り付けることによって、カフ50は閉じられる。
【0070】
図3Bは、閉じた状態である、図3Aの標準的な膨張式カフ50を示す。カフ50は、ファントムアームデバイス60に巻き付けられる。カフ50は、チューブ65を有することができ、カフの空気嚢(図示せず)は、圧力送達ユニット(図示せず)によって、前記チューブを介して膨張又は収縮されてもよい。
【0071】
図4は、本発明によるファントムアームデバイスの実施形態を示す。ファントムアームデバイス60は、シリンダの形態である。この実施形態において、このシリンダの直径は(約)10cmである。しかしながら、ファントムアームデバイス60のシリンダの直径は、概ね7cm~20cmの範囲とすることができる。ファントムアームデバイス60は、人間の腕を模倣するように構成され、3つの異なる材料を有する。第1の材料は、ファントムアームデバイス60の内側シリンダ61に用いられる。この内側シリンダは、人間の腕の骨を模倣するように構成される。従って、この第1の材料は、人間の骨の硬さに相当する硬さを持つ、かなり硬い材料が選択される。好ましくは、第1の材料としてポリテトラフルオロエチレンが使用される。内側シリンダ61のシェル外面(shell surface)の周りに、第2の材料を有する中間層62が巻き付けられている。この第2の材料は、第1の材料よりも柔らかく、人間の腕の筋肉を模倣するように構成される。中間層62の周りに、第3の材料を有する外側層63が巻き付けられている。外側層の材料は、第2の材料よりも柔らかく、人間の皮膚及び脂肪層を模倣するように構成される。中間層62及び外側層63は、シリコーンゴムを有することができる。
【0072】
この実施形態において、内側シリンダの直径は2cmであり、中間層の厚さは3cmであり、外側層の厚さは1cmである。ファントムアームデバイス60は、台座64をさらに有する。これにより、ファントムアームデバイス60は、安定して立つことができる。
【0073】
シリンダの軸に沿った中間層62及び外側層63の長さは、同じでもよいし、異なってもよい。例えば、図4に示されるファントムアームデバイス60は、同じ長さの中間層62及び外側層63と、この中間層及び外側層よりも長い長さを持つ内側シリンダ61とを有する。
【0074】
図5は、本発明による、膨張式カフの材料及び/又は製造上の欠陥を検出するための方法100の実施形態の概略図を示す。方法100のステップは、装置30によって実行することができ、方法100の主なステップは、処理ユニット34によって実行される。方法100は、コンピュータ又はプロセッサ上で実行するコンピュータプログラムとして実装されることができる。
【0075】
第1のステップ101において、目標圧力信号21が、圧力送達ユニット20から取得、例えば、取り出される又は受信される。ステップ101の前、その後又はそれと並行して実行される第2のステップ102において、カフ圧信号11が、センサ10から取得、例えば、取り出される又は受信される。続いて、ステップ103において、カフ圧信号11及び目標圧信号21が分析される。ステップ103は、特に、両方の信号を比較するステップを有してもよい。ステップ103における分析、特に両方の信号の比較に基づいて、ステップ104において、カフ50の材料及び/又は製造上の欠陥が検出(決定)される。最後に、ステップ105において、欠陥の決定に基づいて、警告信号31が出力される。
【0076】
方法100の好ましい実施形態において、ステップ103は、カフ圧信号11を目標圧力信号21と比較するステップ、両方の信号間に差があるかどうかを決定するステップ、及び前記差が所定のしきい値よりも高い場合に欠陥を検出するステップを有する。
【0077】
図6は、カフ50内のセンサ10によって測定されるカフ圧信号を例示する図を示す。特に、図6は、カフ50内の生の(振動)圧力を示す。カフ圧は常に経時的に上昇している一方、信号において、幾つかの落ち込みもある。図6の右側にあるボックスには、ズームしたカフ圧信号11が示される。このズームは、(約)25.5秒及び27秒に対応する時点での2つの圧力降下を示す。カフ内の目標圧力は、特に降下することなく、(例えば、圧力送達ユニットによる一定の膨張により)常に上昇すると考えると、図6のグラフに示される降下は、例えば、カフがさらなる方向に伸張することを可能にするクロージング要素が突然開くような、カフの欠陥によって引き起こされる降下とみなすことができる。この場合、カフ内の空気の体積Vが増大し、カフ内の圧力Pの低下につながる。
P∝(1/V)
【0078】
図7Aは、(生の)カフ圧信号及び導出される信号を示す。特に、図7Aは、センサによって測定される生のカフ圧信号と、(前処理及びフィルタリング後の)導出されるカフ圧信号とを示す。これら信号は、約45秒の測定期間にわたって示される。
【0079】
図7Bは、トレンド除去後の図7Aのカフ圧信号を示す。特に、図7Bは、バンドパスフィルタリングされたカフ圧信号を示す。カフには、膨張ランプ(勾配)以外の(速い)圧力変化があることが明らかになっている。図7Bに示される信号を用いて、この信号における変動性を評価し、変動性が高いほど、カフのベルクロクラック又は他の欠陥が多いことを示す。
【0080】
図7Cは、検出された欠陥/機能不良の圧力レベル及び振幅を示す。特に、例えば、振幅は、カフのクロージング要素の機能不良を示す。しかしながら、欠陥は、カフの他の要素によっても引き起こされる。欠陥/機能不良の重症度は、振幅の高さによって示される。振幅が高いほど、対応する機能不良の重症度が高くなる。見て分かるように、使用されるカフは、カフ内の異なるレベルの圧力における欠陥を抱えている。情報は、(信号変動性及び他の方法とは対照的に)上記したしきい値を用いて評価した。欠陥(“クラック”)の振幅は、クラック中の最も高い正又は負のたわみの点とクラックの直前の圧力レベルとの間の差である。
【0081】
図8A、8B及び8Cは、それぞれ図7A、7B及び7Cと同様の信号を示す。図8Cから分かるように、この場合における測定に使用されるカフは、如何なる欠陥も明らかにしない。
【0082】
図9Aは、膨張プロセス中の様々な市販のカフの平均の圧力降下を示す。見て分かるように、カフCは、カフ圧信号において25mmHgよりも高く、膨張プロセス中の(例えば)クロージング要素の欠陥によって引き起こされる圧力降下を抱えている。
【0083】
図9Bは、図9Aに示されるカフの圧力信号の二乗平均平方根誤差(RMS)を示す。(同様に使用することができる分散又は標準偏差に類似する)RMSは、信号変動性(不安定)の尺度である。この変動の主な原因はカフの欠陥である。一般に、ベクトルxの二乗平均平方根レベルは、
【数1】
として定義される。
【0084】
図10A及び10Bは、テストを受けたさらなる市販のカフの平均の圧力降下及び対応する誤差を示す。
【0085】
図9A及び図10Aから分かるように、カフの膨張時間中に圧力降下が5mmHg未満となる機能不良/欠陥を抱えていない、テストを受けたカフはなかった。
【0086】
本発明は、図面及び上述した説明において詳細に例示及び説明されてきたが、そのような例示及び説明は、例示的又は説明的であり、限定的ではないと考えられるべきである。本発明は、開示される実施形態に限定されるものではない。開示される実施形態に対する他の変形は、図面、本開示及び添付の請求項を検討することにより、請求項に記載された発明を実施する際に当業者によって理解及び実施されることができる。
【0087】
請求項において、“有する”という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べないことが、それらが複数あることを排除するものではない。単一の要素又は他のユニットが、請求項に列挙される幾つかの項目の機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。
【0088】
コンピュータプログラムは、例えば、他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体のような適切な非一時的な媒体上に記憶/配布することができるが、他の形態で、例えば、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムを介して配布されてもよい。
【0089】
請求項における如何なる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
【国際調査報告】