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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】炎症性疾患治療用の薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/32 20060101AFI20241016BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241016BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241016BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241016BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241016BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A61K33/32 ZNA
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/36
A61K9/10
A61P29/00
A61P13/12
A61P17/04
A61P17/00
A61P37/08
A61P11/06
A61P27/02
A61P1/02
A61P11/02
A61P27/16
A61P11/00
A61P1/04
A61P1/00
A61P19/06
A61P19/08
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P19/02
A61P21/00
A61P1/16
A61P13/10
A61P25/00
A61K45/00
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519271
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2022009070
(87)【国際公開番号】W WO2023054849
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0128246
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.WINDOWS
(71)【出願人】
【識別番号】308026861
【氏名又は名称】インダストリー ファウンデーション オブ チョンナム ナショナル ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】パク, イン キュ
(72)【発明者】
【氏名】サジ, ウタマン
(72)【発明者】
【氏名】アンスジャ, マチュー
(72)【発明者】
【氏名】キム, ス ワン
(72)【発明者】
【氏名】ベ, ウン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ホン サン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076CC04
4C076EE09
4C076EE11
4C076EE23
4C076EE25
4C076EE30
4C076EE41
4C076FF70
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA21
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA08
4C084ZA33
4C084ZA34
4C084ZA59
4C084ZA66
4C084ZA67
4C084ZA68
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB13
4C084ZB15
4C084ZC31
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA09
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA21
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA08
4C086ZA33
4C086ZA34
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB15
4C086ZC31
(57)【要約】
本発明の炎症性疾患治療用の薬学組成物は、疎水性酸化マンガンがミセルに担持されることによって生体内で安定的に保護され、標的部位への送達が容易である。また、ミセルの親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されて炎症部位の活性酸素に反応して分解されることにより、効率よく疎水性酸化マンガン粒子を放出することができ、放出された疎水性酸化マンガンが酸素を発生させ、それによって標的部位の微小環境を変化させてミセルに担持された生理活性物質の効果を向上させることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子と、前記酸化マンガン粒子を内部に担持し、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されたミセル形成分子で形成されたミセル(micelle)とを含む、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記疎水性置換基は、置換もしくは非置換のC1~C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30のアリール基、または置換もしくは非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基、またはハロゲン含有基である、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項3】
前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかである、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項4】
前記酸化マンガン粒子は、粒径が10~30nmである、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項5】
前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal)、TSPBAリンカー(N-(4-boronobenzyl)-N-(4-boronophenyl)-N,N,N,N-tetramethylpropane-1,3-diaminium)、またはAAリンカー(aminoacrylate)である、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項6】
前記親水性部位は水溶性高分子を含み、前記疎水性部位は疎水性炭化水素基を含み、前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカーである、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項7】
前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体、またはポリグリセロールである、請求項6に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項8】
前記疎水性炭化水素基は、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)、ヘプタデシルアミン(heptadecylamine)、ステアラミン(stearamine)、ノナデシルアミン(nonadecylamine)、ドデシルアミン(dodecylamine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(N,Nbis(2-hydroxyethyl)laurylamine)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エイコセン酸(eicosenoic acid)またはエルカ酸(erucic acid)由来の炭化水素基である、請求項6に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項9】
前記ミセル100重量部に対して、前記酸化マンガン粒子を5~10重量部含む、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項10】
前記ミセルは粒径が150~250nmである、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項11】
前記炎症性疾患は、腎不全、アトピー性皮膚炎、浮腫、皮膚炎、アレルギー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大膓炎、痔、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛症(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、または多発性硬化症である、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【請求項12】
前記ミセルの内部に担持された生理活性物質をさらに含む、請求項1に記載の炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患治療用の薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、外部からの物理的刺激、様々なアレルギー誘発物質との接触のような化学的刺激、あるいはバクテリア、カビまたはウイルスのような微生物の侵入などによって生体組織が損傷することを防ぐための生体の防御反応の一つである。
【0003】
炎症は、反応期間によって、急性炎症(acute inflammation、即時反応、非特異反応、数日~数週間)、慢性炎症(chronic inflammation、遅延反応、特異反応、数週間以上)、亜急性炎症(subacute inflammation、急性炎症と慢性炎症の中間段階、多核球と単核球の混合型産物の特徴)に分類される。
【0004】
急性腎不全は、腎機能が数時間~数日の短期間で急激に低下し、体液、電解質、酸塩基の不均衡、老廃物の体内への蓄積、さらには患者の死亡を引き起こす疾患である。急性腎不全は、病院入院患者の約20%に出現するほど多く、軽度の腎機能低下から透析を必要とする重篤な疾患まで様々な経過を有する。透析を必要とする急性腎不全の場合は、致命率が50%に達するが、急性腎不全に特異的な治療法はないのが現状である。急性腎不全の原因は様々であるが、共通の機序として組織の炎症が寄与することが知られており、損傷組織で発生する活性酸素種による酸化ストレスが主な原因の一つとして判明している。このため、酸化ストレスを制御する様々な治療法が試みられてきたが、短い半減期および全身副作用などの問題により、治療薬としては使用されていない。
【0005】
そこで、酸化ストレスによる炎症組織に効率的に送達され、低酸素環境を効果的に抑制し、それによって標的組織の微小環境を変化させ、薬物の効果を最大化できる製剤の研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、疎水性置換基で表面改質された酸化マンガン粒子がミセル内に担持され、生体内で安定性を維持して循環しながら炎症部位で放出され、活性酸素を分解して炎症の増幅を最小限に抑える炎症疾患治療用の薬学組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、疎水性酸化マンガン粒子が炎症部位で活性酸素と反応して酸素発生を誘導し、それによって標的組織の微小環境を変化させ、ミセルに担持された生理活性物質の効果を向上させる炎症性疾患治療用の薬学組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子と、前記酸化マンガン粒子を内部に担持し、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されたミセル形成分子で形成されたミセル(micelle)とを含む、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0009】
2.前記項目1において、前記疎水性置換基は、置換もしくは非置換のC1~C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30のアリール基、または置換もしくは非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基、またはハロゲン含有基である、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0010】
3.前記項目1において、前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、Mn、およびMnのいずれかである、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0011】
4.前記項目1において、前記酸化マンガン粒子は、粒径が10~30nmである、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0012】
5.前記項目1において、前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal)、TSPBAリンカー(N-(4-boronobenzyl)-N-(4-boronophenyl)-N,N,N,N-tetramethylpropane-1,3-diaminium)またはAAリンカー(aminoacrylate)である、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0013】
6.前記項目1において、前記親水性部位は水溶性高分子を含み、前記疎水性部位は疎水性炭化水素基を含み、前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカーである、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0014】
7.前記項目6において、前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体、またはポリグリセロールである、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0015】
8.前記項目6において、前記疎水性炭化水素基は、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)、ヘプタデシルアミン(heptadecylamine)、ステアラミン(stearamine)、ノナデシルアミン(nonadecylamine)、ドデシルアミン(dodecylamine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(N,Nbis(2-hydroxyethyl)laurylamine)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エイコセン酸(eicosenoic acid)またはエルカ酸(erucic acid)由来の炭化水素基である、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0016】
9.前記項目1において、前記ミセル100重量部に対して、前記酸化マンガン粒子を5~10重量部含む、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0017】
10.前記項目1において、前記ミセルは、粒径が150~250nmである、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0018】
11.前記項目1において、前記炎症性疾患は、腎不全、アトピー性皮膚炎、浮腫、皮膚炎、アレルギー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大膓炎、痔、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛症(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、または多発性硬化症である、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【0019】
12.前記項目1において、前記ミセルの内部に担持された生理活性物質をさらに含む、炎症性疾患治療用の薬学組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、炎症性疾患治療用の薬学組成物に関するものであり、疎水性酸化マンガンがミセルに担持されることによって生体内で安定的に保護され、標的部位への送達が容易である。
【0021】
また、ミセルの親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合され、炎症部位の活性酸素に反応して分解されることにより、疎水性酸化マンガン粒子を効率的に放出することができ、放出された疎水性酸化マンガンが酸素を発生させて標的部位の微小環境を変化させることにより、ミセルに担持された生理活性物質の効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、疎水性酸化マンガンの製造工程を示す。
図2図2は、疎水性酸化マンガンの製造工程を示す。
図3図3は、PTCの製造工程を示す。
図4図4は、PTC-Mの製造工程及び作用メカニズムを概略的に示す。
図5図5は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図6図6は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図7図7は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図8図8は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図9図9は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図10図10は、製造例1の方法により製造された疎水性酸化マンガン及び高分子複合体の分析結果を示す。
図11図11は、PTC-M及びPTCの特性の分析結果を示す。
図12図12は、PTC-M及びPTCの特性の分析結果を示す。
図13図13は、PTC、PTC-M、PC及びPC-MのH処理による変化の分析結果を示す。
図14図14は、PTC、PTC-M、PC及びPC-MのH処理による変化の分析結果を示す。
図15図15は、PTC、PTC-M、PC及びPC-MのH処理による変化の分析結果を示す。
図16図16は、PTC、PTC-M、PC及びPC-MのH処理による変化の分析結果を示す。
図17図17は、PTC、PTC-M、PC及びPC-MのH処理による変化の分析結果を示す。
図18図18は、PTC-MのH除去特性を確認した結果を示す。
図19図19は、PTC-MのH除去特性を確認した結果を示す。
図20図20は、PTC-MのH除去特性を確認した結果を示す。
図21図21は、PTC-MのH除去特性を確認した結果を示す。
図22図22は、PTC、PC、PTC-M、PC-Mの細胞生存率を確認した結果を示す。
図23図23は、PTCの細胞内への取り込みを確認した結果を示す。
図24図24は、PTCの細胞内への取り込みを確認した結果を示す。
図25図25は、PTCの細胞内への取り込みを確認した結果を示す。
図26図26は、PTCの細胞内への取り込みを確認した結果を示す。
図27a図27aは、インビトロ研究により、酸化ストレス条件下でのPTC-Mの炎症改善およびアポトーシス保護効果を確認した結果を示す。
図27b図27bは、インビトロ研究により、酸化ストレス条件下でのPTC-Mの炎症改善およびアポトーシス保護効果を確認した結果を示す。
図27c図27cは、インビトロ研究により、酸化ストレス条件下でのPTC-Mの炎症改善およびアポトーシス保護効果を確認した結果を示す。
図27d図27dは、インビトロ研究により、酸化ストレス条件下でのPTC-Mの炎症改善およびアポトーシス保護効果を確認した結果を示す。
図28図28は、IRIマウスにおけるPC-IR780、IR780の生体分布を確認した結果を示す。
図29図29は、正常マウスにおけるPTC-IR780の生体分布を確認した結果を示す。
図30図30は、IRIマウス腎臓におけるPC-IR780、IR780及びPTC-IR780の蛍光強度を定量化して比較した結果を示す。
図31a図31aは、IRIマウスにおけるPTC-Mの生体分布を確認した結果を示す。
図31b図31bは、IRIマウスにおけるPTC-Mの生体分布を確認した結果を示す。
図31c図31cは、IRIマウスにおけるPTC-Mの生体分布を確認した結果を示す。
図31d図31dは、IRIマウスにおけるPTC-Mの生体分布を確認した結果を示す。
図32a図32aは、PTC-Mの腎損傷軽減効果を確認した結果を示す。
図32b図32bは、PTC-Mの腎損傷軽減効果を確認した結果を示す。
図32c図32cは、PTC-Mの腎損傷軽減効果を確認した結果を示す。
図33a図33aは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
図33b図33bは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
図33c図33cは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
図34a図34aは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
図34b図34bは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
図34c図34cは、IRIマウスにおけるPTC-Mの腎炎症及びアポトーシス改善効果を確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明は、炎症性疾患治療用の薬学組成物を提供する。
【0025】
本発明の組成物は、表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子(以下、「疎水性酸化マンガン」という。)を含む。
【0026】
疎水性酸化マンガン粒子は、酸化マンガンをミセル内に安定に担持するために、酸化マンガンの表面に疎水性置換基が存在するように処理される。
【0027】
疎水性置換基は、例えば、置換もしくは非置換のC1~C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のC6~C30のアリール基、または置換もしくは非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基、またはハロゲン含有基などであってもよい。
【0028】
前記疎水性置換基は、例えば、ハロゲン原子、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、アミノ、チオール、カルボキシル、アミド、ニトリル、スルフィド、ジスルフィド、スルフェニル、ホルミル、ホルミルオキシ、ホルミルアミノ、ホルミルアミノ、アリールで置換されていてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態では、酸化マンガンは、例えば、1-ドデカンチオール(1-Dodecanethiol)、1-オクタデカンチオール(1-Octadecanethiol)、または1-ヘキサンジオール(1-hexanediol)を処理して表面に疎水性置換基を有することができる。
【0030】
酸化マンガンは、これらに限定されるものではないが、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかであってもよく、好ましくはMnであってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態では、酸化マンガンは、塩化マンガンをアルカリ性溶液(例えば、NaOH)で還元してMn(OH)を生成し、MnOに分解した後、大気中の酸素によって酸化されて合成されたMnであってもよい。
【0032】
酸化マンガン粒子は、前記のように疎水性置換基で表面改質され、ミセル内に安定に担持することができる。酸化マンガン粒子は、ミセル内の疎水性部位全体に広がっていてもよく、コアに担持されていてもよい。酸化マンガンが生体内で安定して循環しながら炎症部位で放出されるように、コアに担持されることがより好ましい。
【0033】
疎水性酸化マンガン粒子の粒径は10~30nmであってもよい。疎水性酸化マンガン粒子の粒径が前記範囲であると、ミセル内で均一に分布して安定に担持され、標的部位での活性酸素との反応性が高くなり、酸素発生を増加させることができる。
【0034】
本発明は、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されたミセル形成分子で形成されたミセルを含む。
【0035】
ミセル形成分子は、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカーにより結合されたものであり、内部が疎水性を、外部が親水性を有するミセルを形成する。
【0036】
ミセル形成分子は、親水性部位が水溶性高分子を含み、疎水性部位が疎水性炭化水素基を含むことができる。
【0037】
リンカーは、親水性部位と疎水性部位を繋ぐ連結基であり、活性酸素に対する感受性が高く、活性酸素と反応してその結合を切断する。
【0038】
リンカーは、例えば、チオケタールリンカー(thioketal)、TSPBAリンカー(N-(4-boronobenzyl)-N-(4-boronophenyl)-N,N,N,N-tetramethylpropane-1,3-diaminium)、またはAAリンカー(aminoacrylate)などであってもよいが、これらに限定されない。
【0039】
ミセル形成分子は、水溶性高分子および疎水性炭化水素基がそれぞれチオケタールリンカー(thioketal linker、TL)と共有結合した両親媒性高分子化合物であってもよい。具体的には、前記水溶性高分子の一端と疎水性炭化水素基の一端が、それぞれアミド基でチオケタールリンカーと共有結合し、水相中で自己集合(Self-assembly)してミセルを形成することができる。
【0040】
チオケタールリンカーは、水溶性高分子と疎水性炭化水素基を繋ぐ連結基であり、活性酸素に対する感受性が非常に高く、正常な生理的条件下で優れた結合安定性を有し、血液循環中にミセルから疎水性酸化マンガン粒子が早期に放出されることを防止することができる。
【0041】
水溶性高分子は、重量平均分子量の範囲が500~10,000g/molであってもよく、好ましくは800~5,000g/molであってもよく、より好ましくは1,000~3,000g/molであってもよい。前記水溶性高分子は、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロール、又はこれらの誘導体などであってもよい。
【0042】
水溶性ポリペプチドは、限定されるものではないが、具体的には、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)、ポリアスパラギン酸(polyaspartic acid)、ポリアスパルトアミド(polyaspartamide)、及びこれらの共重合体から選択できるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
水溶性多糖体は、具体的には、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン、ペクチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート及びこれらの誘導体から選択できるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
疎水性炭化水素基は、疎水性炭化水素化合物由来の炭化水素基であり、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を有してもよく、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基を有してもよく、具体的には、直鎖状の脂肪族炭化水素基を有してもよい。
【0045】
疎水性炭化水素化合物は、これらに限定されるものではないが、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)、ヘプタデシルアミン(heptadecylamine)、ステアラミン(stearamine)、ノナデシルアミン(nonadecylamine)、ドデシルアミン(dodecylamine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(N,Nbis(2-hydroxyethyl)laurylamine)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エイコセン酸(eicosenoic acid)、またはエルカ酸(erucic acid)などであってもよい。
【0046】
疎水性炭化水素化合物は、重量平均分子量の範囲が100~500g/molであってもよく、好ましくは150~350g/molであってもよく、より好ましくは180~300g/molであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0047】
疎水性炭化水素基が疎水性コアを形成することにより、疎水性コア部がある程度の流動性(fluidity)を有することができる。この流動性は、特に活性酸素に反応して疎水性コアに位置する疎水性酸化マンガンを迅速に放出できる点から、疎水性高分子が形成する流動性の低い疎水性コア部に比べて有利な利点を有する。長鎖の脂肪族炭化水素基が疎水性コアを形成することにより、疎水性コアに十分な疎水性を提供し、疎水性酸化マンガンを安定に担持しながらも、ある程度の流動性を提供することにより、活性酸素に分解性(ROS-labile)を有するチオケタールリンカーが標的組織の周辺の活性酸素に敏感に反応して容易に分解され得る。
【0048】
また、大きな疎水性高分子を用いた場合と比較して、水相で自己集合して形成されたミセルの大きさが相対的に小さくても、脂肪族炭化水素基のある程度の流動性により、疎水性コアに十分な量の疎水性酸化マンガンを安定的に捕集することができる。
【0049】
水溶性高分子と疎水性炭化水素化合物との重量平均分子量の比は、下記式1を満たすことができる。
【0050】
[式1]
0.01<HC/WSP<0.3
【0051】
(前記式1中、WSPは水溶性高分子の重量平均分子量を意味し、HCは疎水性炭化水素化合物の分子量を意味する。)
【0052】
前記式1において、HC/WSPの値は0.01~0.3、具体的には0.04~0.25、より具体的には0.08~0.2であってもよい。前記式1を満たす水溶性高分子と疎水性炭化水素基から形成されたミセルは、従来のミセルとは異なり、疎水性炭化水素基の分子量が小さく、疎水性物質を含む水相での自己集合性に優れ、速度論的に制御(kinetically controlled)されるよりは熱力学的に制御(thermodynamically controlled)されることにより、再現性に優れているという利点を有する。さらに、生成されるミセルの疎水性領域の分子量が小さく、二次粒子に凝集せず、分散性および安定性にさらに優れており、粒子サイズが小さく、顕著に向上したコロイド安定性を有するため好ましい。
【0053】
本発明は、前記ミセル100重量部に対して酸化マンガン粒子を5~10重量部含むことができる。ミセルに疎水性酸化マンガンが前記範囲内で含まれると、ミセルは疎水性酸化マンガンを安定的に捕集することができ、炎症部位で疎水性酸化マンガンを効果的に放出することができる。また、疎水性酸化マンガンが適切な含有量で含まれ、標的部位で放出された疎水性酸化マンガンによる酸素発生量を増加させ、それによって標的部位の微小環境を変化させて生理活性物質の効果を向上させることができる。
【0054】
本発明のミセルは150~250nmの直径を有することができる。ミセルの直径が前記範囲内にあることにより、生体内循環が容易であり、活性酸素によるチオケタールリンカーの分解および疎水性酸化マンガンの放出を良好に行うことができる。
【0055】
炎症性疾患とは、炎症によって媒介されるあらゆる疾患を意味する。例えば、腎不全、アトピー性皮膚炎、浮腫、皮膚炎、アレルギー、喘息、結膜炎、歯周炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、肺炎、胃潰瘍、胃炎、クローン病、大膓炎、痔、痛風、強直性脊椎炎、リウマチ熱、ループス、線維筋痛症(fibromyalgia)、乾癬性関節炎、骨関節炎、関節リウマチ、肩関節周囲炎、腱炎、腱鞘炎、筋肉炎、肝炎、膀胱炎、腎炎、シェーグレン症候群(sjogren’s syndrome)、多発性硬化症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明は、前記ミセル内に担持された生理活性物質をさらに含む、炎症性疾患治療用の薬学組成物を提供する。
【0057】
本発明の組成物は、ミセル内に多様な生理活性物質が担持された組成物であってもよい。生理活性物質は、標的部位の低酸素部位で疎水性酸化マンガンと共に放出され、疎水性酸化マンガンによる酸素発生によって組織の微小環境を変化し、より高い効果を示すことができる。
【0058】
生理活性物質は、ミセル内に担持され、個体に送達されて活性を示すことができる生理活性物質/生体機能調節物質であり、低分子量薬物、遺伝子薬物、タンパク質薬物、抽出物、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、抗体、抗原、RNA、DNA、PNA、アプタマー、化学薬品、酵素、アミノ酸、糖、脂質、化合物(天然化合物及び/又は合成化合物)、及びこれらを構成する要素からなる群より選択される少なくとも一つであってもよく、例えば、ドキソルビシン、イリノテカン、ソラフェニブ、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、エピルビシン、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェンマスタード、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、バルルビシン、ピラルビシン、ミトザントロン、ゲムシタビン、イダルビシン、テモゾロミド、パクリタキセル、デキサメタゾン、アルデスロイキン、アベルマブ、ベバシズマブ、カルボプラチン、レゴラフェニブ、ドセタキセル、ドキシル、ゲフィチニブ、イマチニブメシレート、ハーセプチン、イマチニブ、アルデスロイキン、キイトルーダ、オプジーボ、マイトマイシンC、ニボルマブ、オラパリブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、スニチニブ、アテゾリズマブ、ラパチニブ、およびイピリムマブからなる群より選択される少なくとも一つであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0059】
生理活性物質は、ヒトまたは動物有機体に直接的または間接的、治療学的、生理学的及び/又は薬理学的な効果を提供できる治療学的活性剤であり得る。
【0060】
治療学的活性剤は、例えば、一般的な医薬、薬物、プロドラッグまたは標的基、または標的基を含む薬物またはプロドラッグであってもよい。
【0061】
治療学的活性剤は、例えば、抗炎症剤、特に非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)、より具体的にはCOX-2阻害剤;ステロイド系抗炎症剤;予防的抗炎症剤;アレルギー性鼻炎の医薬;抗関節炎薬剤;痛風の処置薬;抗痔核の処置薬;プロトンポンプ阻害剤のような胃潰瘍および炎症のための処置薬;心血管治療薬、特に抗高血圧剤(例えば、カルシウムチャネル遮断薬またはカルシウム拮抗薬)および抗不整脈剤;うっ血性心不全の医薬;強心剤;血管拡張薬;ACE阻害剤;利尿薬;炭酸脱水酵素阻害剤;強心配糖体;ホスホジエステラーゼ阻害剤;遮断薬;β-遮断薬;ナトリウムチャネル遮断薬;カリウムチャネル遮断薬;β-アドレナリン作動薬;血小板阻害剤;アンギオテンシンII拮抗薬;抗凝固薬;血栓溶解剤;出血の処置薬;貧血の処置薬;トロンビン阻害剤; 抗寄生虫剤;抗菌剤;抗緑内障剤;マスト細胞安定剤;散瞳薬;呼吸器系に影響を及ぼす薬剤;αアドレナリン拮抗薬;コルチコステロイド;慢性閉塞性肺疾患の医薬;キサンチン-オキシダーゼ阻害剤;自能性薬物および自能性薬物拮抗薬;抗マイコバクテリア剤;抗真菌剤;抗原虫薬;駆虫剤;抗ウイルス剤、特に呼吸器抗ウイルス剤、ヘルペス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルスおよび肝炎感染のための抗ウイルス剤;白血病およびカポジ肉腫のための処置薬;疼痛管理剤、特に麻酔薬および鎮痛剤、オピオイド受容体作動薬、オピオイド受容体部分作動薬、オピオイド拮抗薬、オピオイド受容体混合作動薬-拮抗薬を含めたオピオイド類; 神経弛緩剤;交感神経刺激性の医薬;アドレナリン拮抗薬;神経伝達物質の取込みまたは放出に影響を及ぼす薬物;抗コリン作用医薬;放射線または化学療法の作用を防止または処置するための薬剤;脂肪生成薬物;脂肪を低減する処置薬;リパーゼ阻害剤のような抗肥満剤;交感神経刺激剤;プロスタグランジン;VEGF阻害剤; 抗過脂質血症剤、特にスタチン;中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす薬物、例えば抗精神病薬、抗てんかん薬および抗発作薬(抗けいれん薬)、向精神薬物、刺激薬、抗不安薬および睡眠薬物、抗うつ薬物;抗パーキンソンの医薬;性ホルモンのようなホルモンおよびその断片;成長ホルモン拮抗薬;ゴナドトロピン放出ホルモンおよびその類似体;ステロイドホルモンおよびそれらの拮抗薬;選択的エストロゲンモジュレーター;成長因子;インスリン、インスリンフラグメント、インスリン類似体、グルカゴン様ペプチドおよび低血糖剤のような抗糖尿病の医薬;H1、H2、H3およびH4抗ヒスタミン薬;ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、核酸およびオリゴヌクレオチド医薬;天然タンパク質、ポリペプチド、オリゴヌクレオチドおよび核酸などの類似体、フラグメントおよび変異体;片頭痛を処置するために使用される薬剤;喘息の医薬;コリン性拮抗薬;グルココルチコイド;アンドロゲン;抗アンドロゲン;アドレノコルチコイド生合成の阻害剤;ビスホスホネートのような骨粗鬆症の処置薬;抗甲状腺の医薬;日焼け止め、日焼け防止薬およびフィルター;サイトカイン拮抗薬;抗がん薬物;抗アルツハイマー薬物;HMGCoAレダクターゼ阻害剤;フィブレート系薬剤;コレステロール吸収阻害剤;HDLコレステロール上昇剤;トリグリセリド低減剤;老化防止または皺取り剤;ホルモン産生のための前駆体分子;コラーゲンおよびエラスチンのようなタンパク質;抗菌剤;抗座瘡剤;抗酸化剤;ヘアトリートメントおよび美白剤;日焼け止め、日焼け防止薬およびフィルター;ヒトアポリポタンパク質の変異体;ホルモン産生のための前駆体分子;タンパク質およびそのペプチド;アミノ酸;ブドウ種子エキスのような植物エキス;DHEA;イソフラボン;ビタミン、フィトステロールおよびイリドイドグリコシドを含めた栄養剤、セスキテルペンラクトン、テルペン、フェノール性グリコシド、トリテルペン、ヒドロキノン誘導体、フェニルアルカノン;レチノール、ならびにレチノイン酸および補酵素Q10を含むレチノイドのような抗酸化剤;オメガ-3-脂肪酸;グルコサミン;核酸、オリゴヌクレオチド、アンチセンス医薬;酵素;補酵素;サイトカイン類似体;サイトカイン作動薬;サイトカイン拮抗薬;免疫グロブリン;抗体;抗体医薬;遺伝子治療薬;リポタンパク質;エリスロポエチン;ワクチン;アレルギー/喘息、関節炎、がん、糖尿病、成長機能障害、心血管疾患、炎症、免疫学的障害、脱毛症、疼痛、眼疾患、てんかん、婦人科障害、CNS疾患、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染、GI疾患、肥満、および血液疾患のようなヒトおよび動物の疾患の治療または予防のための小分子治療剤などがあるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の薬学組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬学組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。薬学的に許容される適切な担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)に詳細に記載されている。本発明の薬学的組成物の適度の投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、通常の熟練した医師によって、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。なお、本発明の薬学組成物の投与量はこれに限定されず、1日当たり0.01~2000mg/kg(体重)であってもよい。
【0063】
本発明の薬学組成物は、経口または非経口投与することができ、非経口投与される場合、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などで投与することができる。本発明の薬学組成物は、適用される疾患の種類に応じて投与経路が決定されることが好ましい。本発明の薬学組成物は、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって、単位容量の形態で製造されてもよく、或いは多用量容器内に内入して製造されてもよい。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、またはエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含んでもよい。
【0064】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明することとする。
【実施例
【0065】
製造例
製造例1.疎水性酸化マンガンの製造
C6、C12またはC18アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子を製造するために、下記表1の材料を使用した。疎水性酸化マンガン粒子の模式図およびアルキル基の長さによる疎水性酸化マンガンの製造工程は、図1及び2に示す通りである。
【0066】
【表1】
【0067】
MnClを完全に溶かし、2mmolのMnClに4mmolのNaOHを加えて強くかき混ぜ、還元してMn(OH)を得て、試料が褐色に変化することを確認した。その後、Mn(OH)はMnOに分解され、MnOは大気中の酸素によってMnに酸化した(Reduction工程)。
【0068】
前記で得られた4mmolのMnを強く撹拌しながら1-ヘキサンチオール、1-ドデカンチオール、又は1-オクタデカンチオールの1mmolを反応させ、Mnの表面に各C6、C12またはC18アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子(dMn)を製造した(安定化(Stabilization)工程)。形成された沈殿物をエタノールで洗浄(5000rpm、5分、5回)した後、真空乾燥または空気風乾した。乾燥した沈殿物をさらに蒸留水で2回洗浄した後、凍結乾燥して、最終的に疎水性酸化マンガン粒子を得た(精製(Purification)工程)。
【0069】
製造例2.ミセルの製造
ステップ1:チオケタールリンカー(TL)の製造
49mmolの3-メルカプトプロピオン酸(3-mercaptopropionic acid)を98mmolの無水アセトンに溶解し、23℃で6時間一定に撹拌しながら生成した生成物を結晶化するまで冷却した。結晶化した生成物をろ過し、n-ヘキサン(n-hexane)ですすぎ、冷蒸留水でもう一度すすいだ後、凍結乾燥した。
【0070】
ステップ2:チオケタールリンカーで接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)の合成
前記ステップ1で製造したチオケタールリンカー(TL)の254mgと分子量2kDaのメトキシ-ポリエチレングリコールアミン(PEG-AM)の200mgを10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide、DMF)に入れて室温で混合して混合溶液を製造した。その後、製造した混合溶液に、278mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC)および345mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、NHS)を加えた後、16時間撹拌した。撹拌後、混合溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off、MWCO)が1,000の条件下で透析して反応副生物を除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥した粉末を1mlのDMFに再溶解し、冷ジエチルエーテル(Diethyl ether)に5回繰り返し沈殿させた。その後、真空乾燥して、チオケタールリンカーが接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)を製造した。
【0071】
ステップ3:ポリエチレングリコール-TL-C18(PTC)の製造
前記ステップ2で製造したPEG-TLの100mg、トリエチルアミン(triethylamine、TEA)の80ml、及びステアラミン(stearamine、octadecylamine、C18)の80mgを10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide、DMF)に添加し、80℃で混合した。完全に混合した混合溶液に、240mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC)および145mgのヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、NHS)を加え、一日間撹拌した。反応後、溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular weight cut-off、MWCO)が12-14kDaの条件下で2日間透析して精製し、凍結乾燥した。これにより、両端に親水性部位および疏水性部位を有し、中間にROS感受性部位を有するポリエチレングリコール-TL-C18(PTC)を製造した(図3)。
【0072】
PTCから製造された高分子ミセルは、CMC(critical micelle concentration)を測定するために、様々な濃度の高分子ミセルを含む水溶液を製造した。蛍光プローブとしては6×10-7Mのピレン(pyrene)を使用し、蛍光分析器(Fluorescence spectrophotometer)における励起波長は336nmに設定し、発光波長は360~450nmの範囲で観察した。測定の結果、PTS高分子ミセルのCMCは0.2mg/mLであった。
【0073】
高分子ミセルの形成を確認するために、DO溶媒上でPTCを自己集合した溶媒を製造した後、PTCのDO溶液の1H-NMRを測定した。PTCは、DO溶媒中でステアリック基が疎水性コアを形成することによってDO中で完全に遮断(shielding)され、アルキレン基によるピークであるδ=0.83及び1.23でのピークがほとんどなくなっていた。この結果は、PEGが親水性シェルを形成し、ステアリック基が疎水性コアを形成して高分子ミセルを形成したことを示唆している。
【0074】
製造例3.疎水性酸化マンガン-ミセル複合体(PTC-M)及びPC-Mの製造
製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガン2mgを500μLの無水(anhydrous)DMSOに溶解し、10mgのPTS高分子ミセルを500μLの無水DMSOに溶解し、両溶液を混合して合計1mLの混合溶液とする。20mLの三次蒸留水を50mLチューブに入れた後、プローブ超音波処理(Probe sonication)下で1mLの混合溶液を1滴ずつ滴下する。このとき、プローブ超音波処理の条件は、30%アンプリチュード(amplitude)、5秒オン(on)、5秒オフ(off)パルスモードで5分間とした。前記の製造工程を経た溶液は、膜透析(membrane dialysis、12~14kDa MWCO)を1日間行ってDMSOおよび残りの不純物を除去する。また、定性濾紙(6~10μm)を用いて異常サイズの粒子をもう一度ろ過する。最終的にろ過した粒子を凍結乾燥して、固相の疎水性酸化マンガンが担持されたミセル複合体(PTC-M)を得た(図4A)。
同様の方法で、疎水性酸化マンガンナノ粒子をロードしたROS非感受性ナノミセル(PC-M)を対照群として製造した。
【0075】
製造例4.ポリエチレングリコール-C18(PC)の製造
対照群として、ステアリン酸(stearic acid)をポリエチレングリコールアミン(PEG-AM)に接合したROS非感受性ポリマー(PC)を製造した。製造方法を簡単に説明すると、200mgのm-PEGアミンおよび160mgのステアリン酸を、20mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide、DMF)中の160μlのトリエチルアミン(Triethylamine、TEA)、480mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド[1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC]、および290mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、NHS)と窒素パージ(purging)下で撹拌しながら37℃で一日間反応させた。反応後、溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off、MWCO)が12-14kDaの条件下で1日間透析して精製し、凍結乾燥した。これにより、ポリエチレングリコール-C18(PC)を製造した。製造されたPTCとPCの化学構造は、クロロホルム中でプロトン核磁気共鳴(Proton nuclear magnetic resonance)(1H NMR)分光法(400Hz、Bruker:Billerica、MA、USA)を用いて確認した。ROS非感受性PCの空ミセルは、超音波処理および透析下でPCの自己集合によって製造された。
【0076】
実験方法
1.細胞培養および試薬
イン・ビトロ(In vitro)研究では、簡単に説明すると、ヒト腎臓近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞、American Type Culture Collection、Manassas、VA、USA)を使用した。HK-2細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS;Welgene)、100U/mlのペニシリン、および100mg/mlのストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)で補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)およびHams F-12培地(Welgene、Daegu、Korea)の組み合わせを含む100mmのディッシュで3~4日ごとに継代培養した。次いで、HK-2細胞を5%COおよび95%空気の加湿雰囲気中で37℃において24時間培養し、70~80%合流するまで継代培養を行った。HK-2細胞を、10%FBSを含む培地で60mmのディッシュにプレーティングし、24時間インキュベートした。次いで、細胞をFBSなしのDMEM-F12培地で培養し、さらにH(1mM)で24時間処理した(ERK、JNKおよびp38の場合は15分を除く)。PTC-M(2μg)をH処理の1時間前に添加した。再現性を決定するためにすべてのin vitro実験を2回繰り返し、細胞の30継代内に行った。
【0077】
2.細胞生存力
イン・ビトロ(In vitro)細胞生存力を、DMEM-F12培地で一晩インキュベートしたHK-2細胞(1×10細胞/ウェル)で評価した。培地を吸引し、細胞を様々な濃度のPTC及びPTC-Mと共に24時間培養した後、メーカーのプロトコルに従ってWST-1分析を行った。TK結合の影響を比較するために、PC及びPC-Mで処理した細胞の生存力も比較した。サンプルのIC50値は、細胞生存率データで分析した。未処理の細胞を陽性対照群とし、0.1%Triton x100で処理した細胞を陰性対照群とした。
【0078】
3.細胞取り込み(uptake)
PTCにおける細胞内分布およびペイロード(payload)放出を調べるために、近赤外(NIR)染料であるIR780ヨウ化物を備えたPTC(PTC-IR780)を開発した。取り込みの研究のために、HK-2細胞(3×10細胞/ウェル)をLab-Tek(登録商標)チェンバースライド(Chamber Slides)に接種し、一晩培養した。培地を吸引し、ウェル当たり4μg/ml等価のIR780を含むIR780、PTC-IR780およびPC-IR780の他のサンプルをウェルに添加し、4時間培養した。未処理の細胞を対照群として使用した。インキュベーションの後、培地を吸引し、DPBS洗浄および4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定を行った。次いで、細胞を4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4’,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)で対比染色した。IR780の蛍光強度を蛍光顕微鏡(Evos FL Auto 2、Thermo Fisher Scientific)で分析して、細胞によるIR780の取り込みを決定した。細胞内分布および放出におけるROSの効果を確認するために、2時間前に200μMのHで細胞を処理するか、または処理前に2日間低酸素症のチャンバで細胞を培養してROS条件を模倣した。細胞取り込みは、フローサイトメトリーによってさらに定量化した。簡単に説明すると、1×10のHK-2細胞/ウェルを12ウェルプレートに接種し、一晩インキュベートした。培地を吸引し、他のサンプルを加えて4時間インキュベートした。次いで、細胞を収集し、遠心分離してペレットを得た後、2回のDPBS洗浄を行った。次いで、細胞を、3%FBSを含有するFACS緩衝液に再懸濁し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を行い、各群の取り込み能力を測定した。データは、APC-Cy7フィルターでゲートした。最終のPTC-Mナノ複合体の細胞取り込みは、ICP-MS分析によって決定した。簡単に説明すると、1×10個のHK-2細胞/ウェルを12ウェルプレートに接種した後、一晩インキュベートした。次いで、培地を除去し、異なる濃度のPTC-Mをウェルに添加し、さらに4時間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を収集し、遠心分離してペレットを得、それをDPBSで2回洗浄した。王水(Aqua regia)1mlを消化のために最終のペレットに添加した後、サンプルを希釈し、ICP-MSによりマンガン含有量を分析した。未処理の細胞を対照群として使用した。
【0079】
4.フローサイトメトリー
フローサイトメトリーは、アネキシンV結合レベルを測定するために、メーカーの指示に従ってアネキシンV FLUOS染色キット(Sigma-Aldrich)を使用して行った。簡単に説明すると、2μgのPTC-M前処理を行うかまたは行わずに、0または1mMのHで24時間処理した後、HK-2細胞を回収し、予め冷却したリン酸緩衝食塩水で2回洗浄し、アネキシンVを含有する結合緩衝液に再懸濁した。暗室で15分間培養した後、細胞をフローサイトメーター(Becton-Dickinson、San Jose、CA、USA)で分析した。機器の設定を最適化し、Windowsベースのプラットフォームのゲーティングを決定するために、いくつかのコントロールが使用された。アポトーシス性細胞(apoptotic cell)は、PI陰性およびアネキシンV-FITC陽性と定義された。
【0080】
5.細胞内ROS生成の決定
ROS生成を決定するために、フルオロプローブDCF-DA(Molecular Probes、Eugene、OR、USA)を使用した。HK-2細胞を2μgのPTC-M前処理を行うかまたは行わずに、0または1mMのHと共に24時間インキュベートし、HBSS(Hank’s balanced salt solution)で2回洗浄し、DCF-DAを含むHBSS(フェノールレッドを除く)と共に37℃の暗室で30分間インキュベートした。蛍光顕微鏡(Nikon、Tokyo、Japan)で画像を得た。
【0081】
6.実験動物及びプロトコル
全ての実験は、関連するガイドライン及び規定に従って行った。実験プロトコルは、韓国の全南大学病院の動物保護規定委員会の承認を受けた(CNUHIACUC-20009)。
【0082】
体重20~22gの7週齢雄C57BL6マウスをSamtako(韓国)から購入した。マウスは全南大学医科大学の動物保護施設で飼育され、水を自由に摂取できる標準食が与えられた。マウスを偽(n=4)、IRI(n=4)、およびPTC-M処理を伴うIRI(n=4)の3つの群に分けた。IRIマウスモデルを誘導するために、以下のように手術を行った。ケタミン(ketamine)(70mg/kg;Yuhan、Seoul、South Korea)及びキシラジン(xylazine)(7mg/kg;Bayer、Leverkusen、Germany)を腹腔内注射し、麻酔誘導した後、腹腔と両方の神経を露出させるために正中切開を行った。体温を維持するために、温度調節テーブル(38.5℃)でマイクロクリップ(ROBOZ、Gaithersburg、MD、USA)で30分間固定した。偽群(n=4)はクリップを適用しなかったこと以外は同じ手順を実施した。
【0083】
7.生体内(in vivo)生体分布
生体分布分析のために、IRI群に0.5mg/kg(IR780等価)の用量でPTC-IR780を静脈注射した。マウスを所定の時間(6、12、24及び48時間)に安楽死させ、主要臓器を収集した。収集した臓器からの蛍光シグナルを、蛍光標識生物体バイオイメージング機器(FOBI、NEO science、Gyeonggi、Korea)を用いて分析した。PTC-IR780の臓器蓄積を評価するために、解剖した主要臓器の蛍光強度を測定した。生体分布は、等価量のIR780を投与した後、PC-IR780またはIR780と追加に比較した。PTC-IR780生体分布も静脈投与後の正常マウスで比較した。
【0084】
最終のPTC-Mサンプルの生体分布分析も行った。簡単に説明すると、IRI群に0.5mg/kgのPTC-M(Mn等価物)サンプルを注入し、前述の所定の時間間隔でマウスを安楽死させ、主要臓器を収集した。次いで、臓器をアクアレジアで処理し、ICP-MSを用いてサンプルを分析して組織のMn濃度を決定した。
【0085】
PTC-Mの生体内治療効果を確認するために、手術後、尾静脈注射により治療群に0.5mg/kgのPTC-Mを単回投与した。48時間の再灌流後、マウスを安楽死させた。心臓から血液サンプルを収集し、左腎臓を迅速に除去し、ウェスタンブロットのために処理するか、または免疫組織化学(IHC)のために4%パラホルムアルデヒド溶液に固定した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の分析のために、右腎臓を-80℃で凍結した。
【0086】
8.プラズマNGALの測定
血漿好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)レベルは、メーカーによって提供されたプロトコルに従って市販のELISAキット(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)を用いて測定した。血漿NGALを測定するために、1:400のサンプル希釈を行った。
【0087】
9.半定量免疫ブロット(Semiquantitative immunoblotting)
ウェスタンブロット分析は、以下のように行った。腎臓組織を0.3Mのスクロース、25mMのイミダゾール、1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、8.5mMのロイペプチン(leupeptin)、および1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(pH7.2)を含有する氷のように冷たい分離溶液中で均質化した。均質物を4℃において15分間4000xgで遠心分離して全細胞、核およびミトコンドリアを除去した。総タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(Bicinchoninic acid、BCA)アッセイキット(Pierce;Rockford、IL、USA)によって測定した。全てのサンプルは、同じ最終タンパク質濃度に達するように調整した。次いで、それをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)含有サンプル緩衝液に65℃で15分間溶解し、-20℃で保存した。タンパク質のローディングが等しいことを確認するために、初期のゲルをクマシーブルーで染色した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)は、9%または12%ポリアクリルアミドゲルで行った。Bio-Rad Mini Protean II装置(Bio-Rad;Hercules、CA、USA)を用いて、タンパク質を電気泳動によりニトロセルロース膜(Hybond ECL RPN3032D;Amersham Pharmacia Biotech;Little Chalfont、UK)に移した。ブロットは、PBS-T(80mM NaHPO、20mM NaHPO、100mM NaClおよび0.1%Tween-20、pH7.5)中の5%ミルクで1時間ブロックした。一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、その後、二次抗ウサギ、抗マウスまたは抗ヤギホースラディッシュ(horseradish)ペルオキシダーゼ接合抗体と共にインキュベートした。次いで、免疫ブロットを、向上した化学発光システムを用いて可視化した。濃度計を用いてタンパク質レベルを定量化した。免疫ブロットシグナルの相対強度は、Windowsソフトウェア用のScion Image(Scion Corporation、2000-2001.version Alpha 4.0.3.2.MD、USA)を用いて濃度計で測定し、対照群に対する倍数変化として表した。免疫ブロットに使用される一次および二次抗体を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
10.リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(real-time PCR)
ポリメラーゼ連鎖反応の分析は以下のように行った。腎皮質は、Trizol試薬(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)で均質化した。RNAをクロロホルムで抽出し、イソプロパノールで沈殿して75%エタノールで洗浄した後、蒸留水に溶解した。RNA濃度は、260nmにおける吸光度によって決定された(Ultraspec2000;Pharmacia Biotech、Cambridge、UK)。炎症性サイトカインおよび接着分子のmRNA発現は、リアルタイムPCRによって決定された。cDNAは、オリゴ(dT)プライミング及びスーパースクリプト・リバース・トランスクリプターゼIII(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を用いて5μgの全RNAを逆転写することによって作製した。cDNAは、Smart Cycler II System(Cepheid、Sunnyvale、CA、USA)を用いて定量化し、SYBR Greenを検出に使用した。各PCR反応は、10pMのフォワードプライマー、10pMのリバースプライマー、2X SYBR Green Premix Ex Taq(TAKARA BIO INC、Seta 3-4-1、Japan)、0.5μlのcDNAおよび水を用いて最終体積が20μlとなるように行った。mRNAの相対レベルは、Rotor-GeneTM 3000 Detector System(Corbette Research、Mortlake、NSW、Australia)を用いてリアルタイムPCRによって決定した。使用したプライマーの配列を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
PCRは以下のステップにより行った:1)5分間95℃;2)20秒間95℃;3)20秒間58~60℃(各プライマー対に対して最適化)、4)SYBRグリーンを検出するために30秒間72℃。ステップ2~4をさらに40回繰り返し、最後の周期が終わると、温度を60℃から95℃に上げて溶融曲線を生成した。反応データを収集し、Corbett Research Softwareで分析した。四重測定で得られた比較しきい値を用いて、内部対照群としてGAPDHで正規化して遺伝子発現を計算した。増幅反応の特異性を高めるために溶融曲線分析を行った。
【0092】
11.組織学
腎臓組織を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋し、3μm厚の切片に切断した。PAS(Periodic acid-Schiff)染色は、メーカーの指示(Abcam、Cambridge、MA、USA)に従って行った。免疫組織化学の場合は、脱パラフィン化した組織切片を100℃で15分間、クエン酸塩緩衝液、pH6.0(Sigma-Aldrich)で加熱して抗原を回収した。切片をブロッキング緩衝液(PBS[0.3% PBS-T]で製造した0.3%[v/v]Triton X-100に溶解した1%[w/v]ウシ血清アルブミン)で希釈した一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。切片を0.3%PBS-Tで簡単に3回洗浄した後、ブロッキング緩衝液に希釈された二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。管損傷スコアは、以下のように計算した。管損傷スコアは、PAS染色部位における皮質髄質接合部の≧10HPFの検査(X 200 magnification)によって測定した(n=5~7)。免疫組織化学的な分析に使用した一次抗体および二次抗体を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
メーカーの指示に従って、ApopTag Plus Peroxidase In Situ Apoptosis Kit(Sigma-Aldrich)を用いたTUNEL染色により、管状上皮細胞のアポトーシスが検出された。すべての主要臓器の組織切片をパラフィンで包埋して収集し、組織学的な変化を比較するためにヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した。
【0095】
12.統計分析
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)で表す。3つのグループ間の多重比較は、一元分散分析(ANOVA)とpost-hocテューキー検定(Tukey’s honestly significant difference test)を用いて行った。p-値が0.05未満の差は有意と見なした。
【0096】
実験結果
1.疎水性酸化マンガンと高分子複合体の分析
製造例1の方法で製造された疎水性酸化マンガン粒子のTEM画像分析を行った。図5(スケールバー50nm)に示すように、アルキル基の長さに関係なく疎水性酸化マンガンナノ粒子が安定して形成されることを確認できる。
【0097】
製造例1の方法で製造されたC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子(dMn NPs)のXPSスペクトル分析、EDS(Energy dispersive X-ray spectroscopy)元素分析、FE-TEM画像分析およびXRD分析を行った。
【0098】
XPSスペクトル分析の結果(図6)、Mn 2p、O 1sおよびC 1sで高いピークを確認した。Mn 2PのXPSスペクトルは、641.42eVと653.23eVに位置する2つのピークで構成され、これらのピークは、Mn 2P3/2とMn 2P1/2にそれぞれ起因することが分かった。これらの両ピークの間のエネルギー差は11.81eVであり、これはMnに関する報告された文献とよく一致した。
【0099】
EDS元素分析の結果(図7)、疎水性酸化マンガンナノ粒子の電子像(Electron image)の位置と検出元素の位置比較によりMnにMnが存在することと、S及びC元素は疎水性酸化マンガンの表面を覆っているSH-C12に存在することが示された。
【0100】
FE-TEM画像分析の結果(図8;スケールバー200nm、100nm、50nm、20nm)、疎水性酸化マンガンナノ粒子の実測サイズは20nm未満(18.0±0.6nm)であることが観察された。
【0101】
XRD分析の結果(図9)、dMnナノ粒子のXRD(X-ray powder diffraction)パターンで測定された全ての回折ピークは、ハウスマンナイト(Hausmannite)Mnの標準パターン[ICDD:#001-1127]とよく一致していた。これにより、前記ナノ粒子の高い結晶性を確認した。
【0102】
dMnナノ粒子のX線回折パターンは、XRDパターンにおいて鋭い強いピークを示し、合成サンプルが本質的に高い結晶性を有することを示す。観察されたすべてのピークは、正方晶系の結晶構造によくインデックスされる。(hkl)平面に相当する18.0°、28.9°、32.5°、36.1°、38.1°、44.6°、50.9°、58.7°、60.0°及び64.6°の2θ角度で回折ピーク(101)、(112)、(103)、(211)、(004)、(220)、(105)、(321)、(224)、(314)は、正方晶系(tetragonal)のスピネル(spinel)構造であり、(Mn)ハウスマンナイトの空間群は141/amdである。X線回折分析により、従来報告されている酸化マンガンの結晶構造を有することが分かった。
【0103】
PTCとPCの組成は、H核磁気共鳴(NMR)分光法により分析した(図10)。NMRスペクトルは、C18のメチルおよびメチレンプロトンに相当するδ0.83および1.23ppmにおいて特徴的なピークを示した。δ3.6のピークは、PEGのO-CH-CH-に相当する。PTC及びPCにおけるC18の置換度(DS%)は、それぞれ78%および46%と計算された。
【0104】
2.PTC-Mナノ複合体の特性
PTC-Mは、ROS感受性ナノミセル(PTC)にdMnをロードして生成した。PTC-Mの製造には、PTCのdMn供給率(20%)を使用した。準備したPTC及びPTC-Mの流体力学的直径(253.4±52.2nm及び272.8±86.4nm)、ゼータ電位(-5.0±2.6mV及び-5.3±1.8mV)およびFE-TEM画像(スケールバー1μm)を図11に示す。PTCのFE-TEM画像は、粒子サイズが均一な球状のナノミセルを示した。PTC-Mの流体力学的直径は、疎水性空間にdMnが充填されているため、dMnをロードした後にわずかに増加したが、ゼータ電位はPEG遮蔽により両方のナノミセルで負に維持された。PTCとPTC-MのFE-TEM画像では、粒子が均一に分布していることが示さられた。質量分析により、ロード含有量およびカプセル化効率を計算したところ、それぞれ10±3%及び17±6%であった。dMnの存在は、PTC-MのFE-TEM画像から明確に確認された。PTC-MのEDS分析により、MnのMn、SH-C12の硫黄および炭素、PEGの炭素、窒素および酸素を示すことをさらに確認した。熱重量測定装置(TGA)により、dMnロードは12%であると計算された(図12)。
【0105】
PTC-MのROS反応性の不安定化およびdMnの放出におけるTK結合の役割を確認するために、Hを添加してPTC-MをROS条件に曝露した。対照群として、ROS非感受性のPC-Mを使用した。PTC-MとPC-Mはいずれも、ナノミセルにdMnが密に充填された球状を示したが、H処理後はPTC-Mの上部集合が歪み、dMnが放出されて凝集した。FE-TEM画像に示されるように、PC-MはHに曝露された後でも安定した構造を示した(図13;スケールバー200nm)。PTC-MのROS感受性は、表5および図14に示すように、PC-Mの流体力学的直径およびゼータ電位の変化を比較することによってさらに確認した。ROS非感受性PC-Mの流体力学的直径およびゼータ電位は、Hの添加後に有意な差を示さなかった。これに対し、ROS感受性PTC-Mは、TK破壊によるPEG遮蔽の除去により構造の不安定化が引き起こされ、流体力学的サイズの減少を示した。
【0106】
【表5】
【0107】
の添加後、ゼータ電位は陰電荷から陽電荷に戻ったが、これはPEGの除去およびステアラミンへの曝露によるものである可能性がある。Hの存在有無にかかわらず、流体力学的直径を追跡して経時安定性を確認することによって、大きさの変化をさらに確認した(図15)。Hの添加後、流体力学的直径は最大6日目まで経時変化を伴わずに10秒以内に非常に減少したが、PTC-M単独の場合は、実験中に安定した大きさを示した。これはPTC-Mの優れたコロイド安定性を示唆している。また、10%FBSでの安定性を確認し、PTC-Mが4日目まで良好な安定性を示すことを観察した(図16)。流体力学的直径およびゼータ電位の変化は、表6および図17に示すように、ROS感受性および非感受性の空ナノミセルにおいても確認された。このようなROSの存在および不在下での比較研究は、製造されたナノミセルまたは最終dMn PTC-Mナノザイムの安定性およびROS感受性を明確に証明した。
【0108】
【表6】
【0109】
dMn NPローディングによる最終PTC-Mナノ複合体のH除去特性をさらに確認した。これはテレフタル酸(terephthalic acid、TA)を蛍光プローブとして使用してテストした。TAはHと反応して425nmで蛍光ピークを有する2-ヒドロキシテレフタル酸を形成した。dMnは、Hを水と酸素に変換するので、蛍光強度が減少し、図18Aのようにカタラーゼのような活性を示す。PTC-Mは、時間が経過するにつれて、Hが存在する空ミセルPTCと比較して蛍光強度の強い減少を示した。PTC-Mのカタラーゼ様活性度も、図18Bに示されるように濃度依存的であった。PTC-Mの酸素生産能力は、Hの存在状態でO特異的蛍光プローブRu(ddp)を用いて追加に確認した。Ru(ddp)の蛍光強度はOの存在下で減少し、Oが効率的に生産されることを示唆している。図19に示すように、Ru(ddp)の蛍光強度は、PTC-M群ではHの存在下で時間と共に減少したが、PTC単独群ではHの存在は蛍光の減少をほとんど示さなかった。このことから、PTC-Mで酸素生成を引き起こすカタラーゼ活性を確認することができた。最後に、酸素検出器を用いてPTC-MのH除去性を確認した。図20に示すように、PTC-Mによる酸素生成は、初期時間内に増加して徐々に増加したのに対し、空ミセルPTCは酸素生成を示さなかった。Hの不均衡は、図21Aに示すように、PTC-M群において、Hの存在下の酸素気泡の形成によって観察された。さらに、PTC-Mは、dMn単独よりも高い酸素生産を示すことも観察されたが(図21B)、これはおそらく、PTC-MにおけるdMnの緻密な充填により、遊離のdMnと比較して反応にさらに有用であるためである可能性がある。H処理によりナノミセルが緩められたが、FE-TEMから確認できるように、dMnは依然としてPTC-Mの内部に存在し得るので、遊離のdMnに比べてカタラーゼ活性が高い。これらの結果はすべてPTC-Mの優れたカタラーゼ模倣活性を確認した。
【0110】
3.試験管内(In vitro)細胞生存および細胞取り込み
細胞取り込みおよび細胞内分布されたROS感受性PTCのROS感受性およびペイロード(payload)の放出パターンを確認するために、in vitro条件でPTCをPCと比較した。まず、準備されたPTC、PC、PTC-M、PC-Mの細胞生存率をWST-1アッセイによりHK-2細胞で確認した(図22A;各濃度における左のバー:PTC-M、PTC;右のバー:PC-M、PC)。空ミセルはアポトーシスがほとんどなく、dMnローディング後の細胞生存力が減少したが、その変化は統計的に有意ではなかった。空ミセルは細胞毒性がなかったので、細胞生存力のわずかな変化は、表面に吸着したdMnまたはグループ内の予期せぬステアラミンへの曝露によるものである可能性がある。PTC-M及びPC-MのIC50値は、それぞれ130.41および247.17μg/mlと測定された(図22B)。ナノミセルの細胞内取り込みおよび分布を追加に調べるために、蛍光顕微鏡(Evos FL Auto 2、Thermo Fisher Scientific、USA)を使用してPTC-IR780でIR780の蛍光強度を可視化するために、IR780をロードしたナノミセルを準備した(図23)。対照群として、ROS非感受性のPC-IR780の取り込みを分析した。PC-IR780と比較して、PTC-IR780はHK-2細胞においてより広範囲でより高い取り込み率を示した。非ROS条件下でのPTC-IR780の向上した取り込みの正確な理由は明確ではないが、PTCが細胞培養条件下で正常なROSレベルにわずかな感受性を示す可能性があり、PEGが剥がれて表面電荷がわずかに陽電荷として残ったことによる可能性がある。PC-IR780は、H処理によって誘導されたROSや低酸素状態で誘導されたROS条件にかかわらず類似した取り込みパターンを示したが、PTC-IR780は細胞内でのIR780の向上した放出によって細胞内部で異なる分布パターンを示した。細胞生存率データから観察されたように、ステアラミンによるPTC取り込みの増加は、PTC-Mによる 細胞死(アポトーシス)増加の原因でもあり得る。疎水性染料であるIR780 iodideは、ナノミセルのローディングに関係なく、より高い取り込み率を示した。PTC-IR780はPC-IR780と比較してより高い蛍光強度を示した。蛍光顕微鏡から得られたデータを裏付ける蛍光活性化細胞分類(FACS)分析により、平均蛍光強度(MFI)を確認し、細胞取り込みを追加に分析した(図24)。図に示すように、MFIは、他の群と比較してROS感受性のPTC-IR780群で最も高かった。このことから、細胞におけるIR780の放出が向上したことを確認することができた。PC-IR780はROS誘導条件下でも細胞取り込みに有意差を示さなかったが、PTC-IR780はROS誘導条件下で処理した場合、細胞取り込みにおいて有意な増加を示したことを示唆する顕微鏡データを裏付ける様々なグループのMFIをさらに定量化した(図25;左のバーから順にNormal、H、Hypoxia)。PTCの細胞取り込みは、またPTC-Mで処理した後、細胞中の残留Mnを確認することによって決定された。図26に示すように、PTC-MはHK-2細胞において濃度依存的な取り込みを示した。このような結果は、ナノミセルの強化された内在化およびナノミセルのROS媒介分解による細胞内のIR780の加速化した放出を示唆している。
【0111】
4.PTC-Mナノ複合体が過酸化水素で刺激されたHK-2細胞の炎症およびアポトーシスに及ぼす影響
細胞レベルでの酸化ストレス条件に対するPTC-Mの影響を調べるために、HK-2細胞でイン・ビトロ(in vitro)研究を行った。HK-2細胞は、代表的なROSであるHで刺激した。Hはヘムオキシゲナーゼ(HO)-1の発現を向上し、これはPTC-Mの同時処理によって改善された(図27A)。細胞内のROSの変化は、2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセイン・ジアセテート(DCF-DA)アッセイにより確認した。Hにより刺激されたHK-2細胞は高い蛍光強度を示したが、PTC-Mと共に処理した後は蛍光強度が減少した(図27B)。Cleaved caspase3/Caspase3比、pErk/Erk比、pP38/P38比、BAX/BCL-2比、およびpJnk/Jnk比は、H処理によって増加した。これはPTC-Mの同時処理によっても回復し、アポトーシスに対する保護を示した(図27C)。Hで処理したHK-2細胞は、アネキシンV/PI染色において有意な漸進的増加を示した。これはPTC-Mによって防止された(図27D)。Hにより誘導されたERK、JNKおよびp38リン酸化もPTC-Mとの同時処理によって抑制されたが、リン酸化P38の有意な減少は観察されなかった(図27C)。これらのデータは、PTC-Mが腎尿細管上皮細胞におけるROSによって誘導されるアポトーシス過程を阻害することを示唆している。
【0112】
5.IRIマウスにおけるPTC-Mナノ複合体の生体分布
蛍光染料IR780をモデル薬物としてロードし、IRIマウスにおけるPTCの生体分布を調べた(PTC-IR780)。PC-IR780及びIR780単独の生体分布を比較したところ、全群が主要臓器(肝臓、肺、心臓、脾臓、腎臓)で蛍光を示したが、PTC-IR780は、PC-IR780またはIR780群とは異なり、腎臓において向上した蓄積を示した(図28)。また、正常マウスにおけるPTC-IR780の生体分布プロファイルを確認したところ、静脈注射後のナノ粒子において一般的なより高い肝臓蓄積を示したが、腎臓には多く蓄積しなかったことが見出された(図29;肝臓、肺、腸、心臓、脾臓、腎臓)。このことから、PTCの向上した腎臓蓄積が主に腎炎症によって媒介されるという結論に至ることができた。本実施例において、PTCナノミセルは、血液を循環しながら炎症部位に徐々に蓄積するように設計されており、炎症部位に到達した後は強化されたROSの存在によりPTCが不安定になり、腎臓に残っているロードされたIR780がより長時間放出されて蛍光を向上させた。生体外蛍光強度を定量化して全群における腎臓蓄積を比較したところ、PTCは全身注射の場合に避けられない他の主要臓器で蛍光を示すが、優勢な腎臓蓄積を示すことを観察した(図30;左のバーから順にIR780、PC-IR780、PTC-IR780)。
【0113】
図31Aに示すように、PTC-IR780注入後6時間から腎臓において強いIR780蛍光強度が観察された。主要臓器(肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、脳)の蛍光強度は、肝臓、肺、脾臓、腎臓の順に高いことが示された。他の臓器の蛍光強度は時間が経過するにつれて減少したが、腎臓の蛍光強度は48時間まで比較的一定に維持された。したがって、肝臓対腎臓の蛍光強度は、時間が経過するにつれて漸進的に増加する傾向にあった(図31B)。生体分布は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)の分析により、他の臓器のMn含有量を確認することによって追加に確認した。図31Cに示すように、両方の腎臓におけるMn濃度は注射後6時間でピークに達し、48時間まで徐々に減少した。組織のMn濃度を他の主要臓器と比較すると、ある時点で腎臓が肝臓、肺、脾臓よりも高い組織Mn濃度に達した。PCT-Mのクリアランスを確認するために、研究終了時と1週間後にすべての臓器、糞便および尿に対してICP-MS分析を行ったところ、ほとんどのMnが腸と糞便中に出現したことを確認した(図31D)。Mnのクリアランスは、主に腎臓のクリアランスよりも肝胆道経路をとることが観察された。
【0114】
6.PTC-Mナノ複合体は腎損傷マーカーを減少させ、IRIマウス腎臓の形態学的変化を軽減する。
腎臓IRIにおける腎損傷の軽減におけるPTC-Mの有効性を決定するために、生体内実験を行った(図32A)。IRI腎臓の全体的な損傷状態を調べるために、AKIにおける尿細管損傷のよく知られたマーカーである血漿好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)を測定した。血漿NGALレベルは、偽群よりもIRI群の方が有意に高かったが、PTC-M処理によって減少した(図32B)。形態学的変化を確認するために、腎臓切片に対してPAS(periodic acid-Schiff)染色を行った(図32C)。偽マウスとは対照的に、腎尿細管浮腫および壊死物質で満たされた腫れが観察された。IRIマウスの腎臓では、間質空間に浸潤している炎症細胞が観察された。これらの変化はPTC-M処理によって改善された。PTC-Mを処理したIRIマウスでは、尿細管浮腫、尿細管壊死物質および炎症細胞浸潤が相対的に軽減された。尿細管の変化とは異なり、各群の糸球体では形態学的に有意な差異が観察されなかった。
【0115】
7.PTC-Mは、IRIマウス腎臓における炎症とアポトーシスを改善する。
IRIマウス腎臓における酸化ストレスの程度を評価するために、免疫ブロット分析によってHO-1の発現レベルを調べた。PTC-M処理によって弱められたIRIマウスの腎臓において、HO-1の増加した発現レベルを見出した(図33A)。HO-1に対する免疫組織化学染色は、糸球体のメサンギウム(mesangium)、糸球体周囲空間およびIRIマウス(I/R)腎臓の尿細管周囲の間質において増加した発現を示し、これはPTC-M処理されたマウス腎臓において非常に減少した(図33B)。IRIマウス腎臓における活性炎症の証拠として、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)分析によって、前炎症性サイトカインおよび接着分子の転写体レベルがより高いこととして示された(図33C)。インターロイキン(IL)-6、単球化学誘引物質タンパク質(monocyte chemoattractant protein、MCP)-1、腫瘍壊死因子(TNF)-α、細胞内接着分子(ICAM)-1、血管細胞接着分子(VCAM-1)およびトランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor、TGF)-βのmRNA発現レベルは、IRIマウスの腎臓において有意に増加し、PTC-Mの投与はこの増加を抑制した(図33C)。murineマクロファージのマーカーであるF4/80に対する免疫組織化学的染色は、IRIマウスの腎臓の糸球体周囲および間質空間で増加した発現を示したが、これもPTC-M処理によって弱められた(図33B)。まとめると、これらのデータは、PTC-MがIRIマウスにおける腎炎症および酸化ストレスを抑制することを示唆している。
【0116】
IRIマウスにおける尿細管細胞死の程度を評価するために、アポトーシスタンパク質の変化を評価した。免疫ブロットは、IRIマウスの腎切片において増加したBax/Bcl-2比および切断されたカスパーゼ3(caspase3)/カスパーゼ3(caspase3)比を示し、アポトーシスが悪化したことを示唆している(図34A)。この変化はPTC-Mで処理されたマウスでは観察されなかった。PTC-Mの処理は、酸化ストレスによって誘発された腎尿細管細胞のアポトーシスの過程を明らかに減少させた。
【0117】
PTC-Mが分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(mitogen-activated protein kinase;MAPK)によりROS媒介アポトーシスを阻害するかどうかを確認するために、MAPKシグナル伝達経路の変化を分析した。MAPK経路のメンバー及びリン酸化(活性化)された形態の免疫ブロット分析を行った(図34B)。リン酸化されたERK、JNKおよびP38のレベルは、PTC-Mによって弱められた偽マウスと比較してIRIマウスの腎臓で向上したが、リン酸化されたJNKの有意な減少は観察されなかった。TUNEL(Terminal deoxynucleotidyl transferase dUDP nickend labeling)染色は、偽マウスと比較してIRIマウスの腎皮質においてより多くのTUNEL陽性尿細管上皮細胞を示したが、PCT-M処理はTUNEL陽性細胞の数を減少させた(図34c)。
【0118】
これらの結果は、PTC-MがMAPKシグナル伝達経路に影響を及ぼすことにより、IRIマウス腎臓におけるアポトーシスを減少させたことを示唆している。IRIマウス腎臓におけるこの発見は、Hで刺激されたヒト腎細胞の結果と一致しており、PTC-M腎保護の一般的なメカニズムを示している。
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【国際調査報告】