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特表2024-538615タウホスホペプチドコンジュゲートの安全な投与の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】タウホスホペプチドコンジュゲートの安全な投与の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20241016BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20241016BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20241016BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K47/62 ZNA
A61K47/60
A61P37/04
A61P25/28
A61K38/10
A61K39/39
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519447
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 US2022077279
(87)【国際公開番号】W WO2023056369
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/261,793
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(71)【出願人】
【識別番号】513022966
【氏名又は名称】エーシー イミューン エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】フェイファー,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ラムスバーグ,エリザベス アン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA18
4C084BA41
4C084BA42
4C084BA44
4C084CA04
4C084CA59
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZB051
4C084ZB052
4C084ZB091
4C084ZB092
4C085AA03
4C085AA38
4C085BB11
4C085DD59
4C085EE01
4C085EE03
4C085FF02
4C085FF14
4C085FF21
4C085FF24
4C085GG03
4C085GG04
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
抗リン酸化タウ抗体を、重篤な有害事象を誘発せずに、ヒトにおいて誘導するための方法が記載される。方法は、免疫原性担体とコンジュゲートされたタウホスホペプチドを含有する有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウ、好ましくはリン酸化タウおよび濃縮対らせん状細線維(ePHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法であって、薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートとを含む組成物を、前記ヒト対象に投与することを含み、コンジュゲートは、式(I):
【化1】
の構造を有するか、または
式(II):
【化2】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10、好ましくは2~6、最も好ましくは3の整数であり、
nは、3~15、好ましくは3~12の整数である)
担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197および髄膜炎菌(N. meningitidis)由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体からなる群から選択される免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、配列番号1~配列番号3および配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを表す、方法。
【請求項2】
前記担体がCRM197である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タウホスホペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コンジュゲートが、
【化3】
(式中、nは、3~7の整数であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは、配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアジュバントが、TLR9アゴニストを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記TLR9アゴニストが、配列番号14~配列番号18からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記CpGオリゴヌクレオチドが、配列番号14のヌクレオチド配列を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアジュバントが、水酸化アルミニウムを含む、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リン酸化タウおよび濃縮対らせん状細線維(ePHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法であって、薬学的に許容される担体と、配列番号14のヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドと、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートとを含む組成物を前記対象に投与することを含み、コンジュゲートは、
【化4】
(式中、nは、3~7の整数であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは、配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する、方法。
【請求項11】
前記組成物が、水酸化アルミニウムをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1用量当たり5μg、10μg、15μg、20μg、25μg、30μg、35μg、40μg、45μg、50μg、60μg、70μg、80μg、90μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、またはそれらの間の任意の値のコンジュゲートを含む前記組成物を前記ヒト対象に投与することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1用量当たり15μgのコンジュゲートを含む前記組成物を前記ヒト対象に投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1用量当たり45~60μg、例えば45μg、50μg、55μg、60μg、またはそれらの間の任意の値のコンジュゲートを含む前記組成物を前記ヒト対象に投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
1用量当たり120~150μg、例えば120μg、125μg、130μg、135μg、140μg、145μg、150μg、またはそれらの間の任意の値のコンジュゲートを含む前記組成物を前記ヒト対象に投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が筋肉内投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が皮下投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗pタウIgG力価を有する、前記リン酸化タウ(pタウ)に対するIgG抗体を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗タウIgG力価を有する、非リン酸化タウに対するIgG抗体を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20倍またはそれ以上の高さの抗濃縮対らせん状細線維(ePHF)IgG力価を有する、ePHFに対するIgG抗体を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgの前記コンジュゲートとを含む第2の用量の前記組成物を、前記組成物の初回投与の4~12週間後、例えば8週間後に前記対象に投与することをさらに含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物の前記第2の用量の投与が、前記組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは前記抗体応答が、前記第2の用量の前記組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgの前記コンジュゲートとを含む第3の用量の前記組成物を、前記組成物の初回投与の20~28週間後、例えば24週間後に前記対象に投与することをさらに含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記第3の用量の前記組成物の投与が、前記組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは前記抗体応答が、前記第3の用量の前記組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgのコンジュゲートとを含む第4の用量の前記組成物を、前記組成物の初回投与の44~52週間後、例えば48週間後に前記対象に投与することをさらに含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物の前記第4の用量の投与が、前記組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは前記抗体応答が、前記第4の用量の前記組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
リン酸化タウタンパク質(pタウ)に対する持続的な免疫応答を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法であって、
i.有効量のコンジュゲートを含むプライミングワクチンを前記対象に筋肉内投与すること、および
ii.前記プライミングワクチンの投与の6~10週間後に、前記有効量のコンジュゲートを含む第1のブースターワクチンを前記対象に筋肉内投与すること
を含み、
前記持続的な免疫応答が、前記プライミングワクチンの投与後に少なくとも約20週間持続し、
前記コンジュゲートが、式(I):
【化5】
の構造を有するか、または式(II):
【化6】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10、好ましくは2~6、最も好ましくは3の整数であり、
nは、3~15、好ましくは3~12の整数である)
担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197および髄膜炎菌由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体からなる群から選択される免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、配列番号1~配列番号3および配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを表し、
前記有効量のコンジュゲートが、1用量当たり5μg~200μgの前記コンジュゲートを含む、方法。
【請求項28】
前記担体がCRM197である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記タウホスホペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記コンジュゲートが、
【化7】
(式中、
nは3~7の整数であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、請求項27から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つのアジュバントがTLR9アゴニストを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記TLR9アゴニストが、配列番号14~配列番号18からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記CpGオリゴヌクレオチドが、配列番号14のヌクレオチド配列を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つのアジュバントが水酸化アルミニウムを含む、請求項31から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記有効量のコンジュゲートが、1用量当たり15μgの前記コンジュゲートを含む、請求項27から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記有効量のコンジュゲートが、1用量当たり60μgの前記コンジュゲートを含む、請求項27から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記有効量のコンジュゲートを含む第2のブースターワクチン組成物を、前記プライミングワクチンの投与の20~26週間後に前記対象に筋肉内投与することをさらに含み、前記持続的な免疫応答が、前記プライミングワクチンの投与後に少なくとも約36週間持続する、請求項27から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記第2のブースターワクチン組成物が前記プライミングワクチンの投与の24週間後に投与され、前記持続的な免疫応答が前記プライミングワクチンの投与後に少なくとも約48週間持続する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記有効量のコンジュゲートを含む第3のブースターワクチン組成物を、前記プライミングワクチンの投与の45~50週間後に前記対象に筋肉内投与することをさらに含み、前記持続的な免疫応答が、前記プライミングワクチンの投与後に少なくとも約67週間持続する、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記第3のブースターワクチン組成物が前記プライミングワクチンの投与の48週間後に投与され、前記持続的な免疫応答が前記プライミングワクチンの投与後に少なくとも約74週間持続する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記持続的な免疫応答が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗pタウIgG力価を有する、リン酸化タウ(pタウ)に対するIgG応答を含む、請求項27から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記持続的な免疫応答が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗タウIgG力価を有する、非リン酸化タウに対するIgG応答を含む、請求項27から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記持続的な免疫応答が、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20倍またはそれ以上の高さの抗ePHF IgG力価を有する、濃縮対らせん状細線維(ePHF)に対するIgG応答を含む、請求項27から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記対象がタウの凝集体の排除を必要とする、請求項1から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、神経原線維病変の形成によって引き起こされるかまたはそれと関連する神経変性疾患または障害の処置を必要とする、請求項1から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記対象がアルツハイマー病の処置を必要とする、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記対象が、早期アルツハイマー病、またはアルツハイマー病に起因する軽度認知障害(MCI)の処置を必要とする、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月29日に出願された米国仮特許出願第63/261,793号の優先権を主張する国際出願であり、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子配列表の参照
電子配列表(065794_8WO1.xml;サイズ:35,700バイト;および作成日:2022年8月29日)の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
発明の分野
本出願は医学の分野におけるものである。本出願は詳細には、神経変性疾患、障害または状態に罹患している対象において、免疫原性担体とコンジュゲートされたリン酸化タウ(pタウ)ペプチドを含む組成物を用いて、タウタンパク質に対する免疫応答を誘導するための方法に関する。
【0004】
背景
アルツハイマー病(AD)は、世界中で推定4400万人が患う進行性衰弱性神経変性疾患である(Alzheimers.net)。現在商業化されているAD療法は、臨床症状に作用することを目的としているが、疾患の根底にある発病過程(疾患修飾効果)を標的としていない。残念なことに、現在の療法は最小限度で有効であるに過ぎず、したがって追加の防止および治療措置を開発して試験する緊急の必要性が存在する。
【0005】
アルツハイマー病に特徴的な病態は、著しく凝集したアミロイドベータタンパク質を含む細胞外プラークの蓄積、および過剰リン酸化タウタンパク質の細胞内「濃縮体(tangle)」または凝集である。これらのタンパク質の蓄積を引き起こす分子事象は特徴付けが不十分である。アミロイドに関しては、アミロイド前駆体タンパク質の異常な切断がアミノ酸1~42を含む易凝集性断片の蓄積を引き起こすと仮定されている。タウに関しては、キナーゼ、ホスファターゼ、またはその両方の調節不全がタウの異常なリン酸化を引き起こすと仮定されている。タウは、過剰リン酸化すると、微小管と効果的に結合してそれを安定化させる能力を喪失し、代わりに影響を受けたニューロンの細胞質に蓄積する。未結合過剰リン酸化タウは、初めにオリゴマー、次いでより高次の凝集体を形成するようであり、これらの存在は、それらが形成されるニューロンの機能に、おそらくは正常な軸索輸送の中断を介して、負の影響を及ぼすと考えられる。
【0006】
先進諸国では、アルツハイマー病または他の認知症性タウオパチーと診断された個体は、一般的にコリンエステラーゼ阻害薬(例えばAricept(登録商標))またはメマンチン(例えばNamenda(商標))を用いて処置される。これらの薬物は、適度に良好な忍容性を示すが、非常にわずかな有効性を有する。例えば、Aricept(登録商標)は、処置された個体のうちのおよそ50%において、症状の悪化を6~12か月遅延させる。残りの処置は、非薬理的であり、患者の認知能力が低下する一方で患者が日々の課題をより処理できるようにすることに焦点を当てている。
【0007】
ADの防止および処置のための免疫療法は現在開発中である。ADと関連がある抗原を用いる能動免疫化は、ADに対する抗体性免疫と細胞性免疫の両方の応答を潜在的に賦活化することができる。しかし、最初の広く試験されたヒト抗アミロイドベータワクチンの評価は2002年に停止された。致死的となり得る中枢神経系炎症の一種である髄膜脳炎は、Aβを標的とする能動免疫療法剤AN-1792のAD患者における臨床研究において観察された(Orgogozo et al., 2003)。AN-1792に曝露された患者のうちの6%に生じた脳炎反応は、望まないAβ特異的T細胞活性化によって誘導されたと考えられる。
【0008】
今日まで、タウ病態を特異的に標的とする薬剤を用いて行われた研究はほとんど存在しない。現在、タウ免疫療法は臨床試験に移行しているが、この分野は依然として初期の段階にあり、様々な手法の有効性および安全性の機構的理解は十分に確立していない(Sigurdsson, Neurodegener Dis. 2016; 16(0): 34-38)。脳炎、すなわち脳の炎症は、全長タウタンパク質に対して免疫化されたマウスにおいても報告されている。しかし、有害作用は、CNS炎症誘発性環境下でリン酸化タウペプチドの単回注射を用いて免疫化された動物からは報告されなかった(Rosenmann H., 2013. Curr. Alzheimer Res. 10, 217-228)。
【0009】
軽度から中等度のアルツハイマー病を有するヒト患者における非タウホスホペプチドワクチン(AADvac1)の長期安全性プロファイルが公開されている(Novak et al., Alzheimer's Research & Therapy (2018) 10:108)。このワクチンは、N末端システインを介してキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)とカップリングしたタウ配列のアミノ酸294~305に由来する合成ペプチドを含有する。このワクチンは、0.3mlのリン酸緩衝液容量中、KLHとカップリングした40μgの用量のペプチド(CKDNIKHVPGGGS、配列番号13)において水酸化アルミニウムアジュバント(0.5mgのAl3+を含有する)と共に投与された。研究に登録され、第1相研究(FUNDAMANT研究)においてAADvac1処置と関連付けられた26名の患者から観察された有害事象(AE)は、注射部位反応(紅斑、腫脹、熱感、掻痒、疼痛、小結節)であった。これらのAEのうちの1つまたは複数が、AADvac1処置の患者のうちの50%に観察された。注射部位反応は可逆的であり、発現においては主に軽度であった。6つの重篤な有害事象(SAE)が観察された(腹部絞扼性ヘルニア、脱水、急性精神病、認知症の行動および精神症状、第2度房室ブロック、ならびに洞性徐脈)。SAEのいずれも、研究者によってAADvac1処置と関連があるとは判断されなかった。アレルギー反応もアナフィラキシー反応も観察されなかった。安全性シグナルは、臨床検査評価(凝固、血液生化学、血液学、および尿検査)においても、バイタルサイン評価においても、または神経学的および身体的検査においても出現しなかった。安全性シグナルは、MRI評価によって検出されなかった。浮腫状変化は生じなかった。髄膜変化および髄膜脳炎は観察されなかった。新たな微小出血が1名のApoE4ホモ接合体において観察され、脳表ヘモジデリンが1名のApoE4ヘテロ接合体において検出され、両事象は臨床的に無症状であった。このことは、AD患者集団におけるそのような病変の背景発生率と矛盾しないと考えられた。
【0010】
しかし、ヒト患者におけるタウホスホペプチドコンジュゲートの安全性プロファイルは報告されていない。アルツハイマー病等のニューロン変性疾患に対する安全かつ効果的な処置の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0011】
全般的な一態様では、本出願は、タウ、好ましくはリン酸化タウおよび濃縮対らせん状細線維(ePHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法であって、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートを含む組成物をヒト対象に投与することを含み、コンジュゲートは、式(I):
【0012】
【化1】
の構造を有するか、または式(II):
【0013】
【化2】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10、好ましくは2~6、最も好ましくは3の整数であり、
nは、3~15、好ましくは3~12の整数である)
担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197および髄膜炎菌(N. meningitidis)由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体からなる群から選択される免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、配列番号1~配列番号3および配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを表す、方法に関する。
【0014】
全般的な一態様では、本出願は、タウ、好ましくはリン酸化タウおよび濃縮対らせん状細線維(ePHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、それを必要とするヒト対象において誘導するための組成物であって、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートを含み、コンジュゲートは、式(I):
【0015】
【化3】
の構造を有するか、または式(II):
【0016】
【化4】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10、好ましくは2~6、最も好ましくは3の整数であり、
nは、3~15、好ましくは3~12の整数である)
担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197および髄膜炎菌由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体からなる群から選択される免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、配列番号1~配列番号3および配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを表す、組成物に関する。
【0017】
一実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0018】
本出願の一実施形態では、コンジュゲートは、リンカーを介してCRM197とコンジュゲートされた、配列番号1~配列番号3または配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを含む。好ましくは、タウペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドである。複数のタウホスホペプチド、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のタウホスホペプチドを、1つの担体タンパク質とコンジュゲートさせることができる。より好ましくは、コンジュゲートは、
【0019】
【化5】
(式中、
nは3~7の整数であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する。
【0020】
本出願の実施形態において、組成物は、少なくとも1つのアジュバントをさらに含む。例えば、少なくとも1つのアジュバントは、TLR9アゴニスト、例えば配列番号14~配列番号18からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドを含み得る。一実施形態では、組成物は、配列番号14のヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドをさらに含む。別の実施形態では、組成物は、水酸化アルミニウムをさらに含む。さらに別の実施形態では、組成物は、配列番号14~配列番号18からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチド、および水酸化アルミニウムをさらに含む。
【0021】
本出願の実施形態において、タウ、好ましくはリン酸化タウおよび対らせん状細線維(PHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法は、薬学的に許容される担体と、水酸化アルミニウムと、配列番号14のヌクレオチド配列を有するCpGオリゴヌクレオチドと、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートとを含む組成物を、ヒト対象に投与することを含み、コンジュゲートは、
【0022】
【化6】
(式中、nは3~7の整数であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する。
【0023】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、1用量当たり5μg、10μg、15μg、20μg、25μg、30μg、35μg、40μg、45μg、50μg、60μg、70μg、80μg、90μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、またはそれらの間の任意の値の本明細書に記載されるコンジュゲートを含む組成物を、ヒト対象に投与することを含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、組成物は筋肉内投与される。他の実施形態では、組成物は皮下投与される。
【0025】
ある特定の実施形態では、抗体は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗pタウIgG力価を有する、リン酸化タウ(pタウ)に対するIgG抗体を含む。
【0026】
ある特定の実施形態では、抗体は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗タウIgG力価を有する、非リン酸化タウに対するIgG抗体を含む。
【0027】
ある特定の実施形態では、抗体は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20倍またはそれ以上の高さの抗ePHF IgG力価を有する、濃縮対らせん状細線維(ePHF)に対するIgG抗体を含む。
【0028】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgのコンジュゲートとを含む第2の用量の組成物を、組成物の初回投与の4~12週間後、例えば8週間後に対象に投与することをさらに含む。
【0029】
ある特定の実施形態では、第2の用量の組成物の投与は、組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは抗体応答は、第2の用量の組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する。
【0030】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgのコンジュゲートとを含む第3の用量の組成物を、組成物の初回投与の20~28週間後、例えば24週間後に対象に投与することをさらに含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、第3の用量の組成物の投与は、組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは抗体応答は、第3の用量の組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する。
【0032】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、薬学的に許容される担体と、1用量当たり5μg~200μg、例えば15μgまたは60μgのコンジュゲートとを含む第4の用量の組成物を、組成物の初回投与の44~52週間後、例えば48週間後に対象に投与することをさらに含む。
【0033】
ある特定の実施形態では、第4の用量の組成物は、組成物によって誘導される抗体応答、例えば抗pタウIgG応答および/または抗ePHF IgG応答を含む抗体応答をブーストすることができ、好ましくは抗体応答は、第4の用量の組成物の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増加する。
【0034】
全般的な一態様では、本出願は、リン酸化タウタンパク質(pタウ)に対する持続的な免疫応答を、それを必要とするヒト対象において誘導する方法であって、
i.有効量のコンジュゲートを含むプライミングワクチンを対象に筋肉内投与すること、および
ii.プライミングワクチンの投与の6~10週間後に、有効量のコンジュゲートを含む第1のブースターワクチンを対象に筋肉内投与すること
を含み、
持続的な免疫応答が、プライミングワクチンの投与後に少なくとも約20週間持続し、
コンジュゲートが、式(I):
【0035】
【化7】
の構造を有するか、または式(II):
【0036】
【化8】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10、好ましくは2~6、最も好ましくは3の整数であり、
nは、3~15、好ましくは3~12の整数である)
担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197および髄膜炎菌由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体からなる群から選択される免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、配列番号1~配列番号3および配列番号5~配列番号12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを表し、
有効量のコンジュゲートが、1用量当たり5μg~200μgのコンジュゲートを含む、方法に関する。
【0037】
ある特定の実施形態では、担体はCRM197である。
【0038】
ある特定の実施形態では、有効量のコンジュゲートは、1用量当たり15μgのコンジュゲートを含む。
【0039】
ある特定の実施形態では、有効量のコンジュゲートは、1用量当たり60μgのコンジュゲートを含む。
【0040】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、有効量のコンジュゲートを含む第2のブースターワクチン組成物を、プライミングワクチンの投与の20~26週間後に対象に筋肉内投与することをさらに含み、持続的な免疫応答は、プライミングワクチンの投与後に少なくとも約36週間持続する。
【0041】
ある特定の実施形態では、第2のブースターワクチン組成物は、プライミングワクチンの投与の24週間後に投与され、持続的な免疫応答は、プライミングワクチンの投与後に少なくとも約48週間持続する。
【0042】
ある特定の実施形態では、本出願の方法は、有効量のコンジュゲートを含む第3のブースターワクチン組成物を、プライミングワクチンの投与の45~50週間後に対象に筋肉内投与することをさらに含み、持続的な免疫応答は、プライミングワクチンの投与後に少なくとも約67週間持続する。
【0043】
ある特定の実施形態では、第3のブースターワクチン組成物は、プライミングワクチンの投与の48週間後に投与され、持続的な免疫応答は、プライミングワクチンの投与後に少なくとも約74週間持続する。
【0044】
ある特定の実施形態では、持続的な免疫応答は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗pタウIgG力価を有する、リン酸化タウ(pタウ)に対するIgG応答を含む。
【0045】
ある特定の実施形態では、持続的な免疫応答は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも50、60、70、80、90、100倍またはそれ以上の高さの抗タウIgG力価を有する、非リン酸化タウに対するIgG応答を含む。
【0046】
ある特定の実施形態では、持続的な免疫応答は、好ましくはプラセボ対照のものよりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20倍またはそれ以上の高さの抗ePHF IgG力価を有する、濃縮対らせん状細線維(ePHF)に対するIgG応答を含む。
【0047】
ある特定の実施形態では、対象は、タウの凝集体の排除を必要とする。
【0048】
ある特定の実施形態では、対象は、神経原線維病変の形成によって引き起こされるかまたはそれと関連する神経変性疾患または障害の処置を必要とする。好ましくは、ヒト対象は、アルツハイマー病、例えば早期アルツハイマー病、アルツハイマー病に起因する軽度認知障害(MCI)、軽度アルツハイマー病、または軽度から中等度のアルツハイマー病の処置を必要とする。ある特定の実施形態では、対象は、脳においてアミロイド陽性であるが、顕著な認知障害をまだ示していない。他の実施形態では、対象は、AD病態と矛盾しない脳脊髄液(CSF)Aベータアミロイド42(Aβ42)の異常レベルを有する。別の実施形態では、対象は、神経原線維病変の形成によって引き起こされるかまたはそれと関連する神経変性疾患または障害の処置を必要とする。
【0049】
本発明のさらなる態様、特色、および利点は、本発明の以下の詳細な説明および特許請求の範囲を読むことでより良好に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本発明の前述の概要および以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読む場合、より良好に理解されるだろう。本発明を説明する目的で、現在好ましい実施形態が図面に示されている。しかし、本発明は図面に示される正確な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0051】
図1】JACI-35.054(15μgまたは60μg)またはプラセボ(ITT分析セット)のいずれかを用いた処置後のサブコホート2.1における、リン酸化タウペプチド(pタウ)を対象にする経時的な抗pタウIgG応答の幾何平均(±95%信頼区間)のグラフである。
図2】JACI-35.054(15μgまたは60μg)またはプラセボ(ITT分析セット)のいずれかによる処置後のサブコホート2.1における、非リン酸化タウペプチドを対象とする経時的な抗タウIgG応答の幾何平均(±95%信頼区間)のグラフである。
図3】JACI-35.054(15μgまたは60μg)またはプラセボ(ITT分析セット)のいずれかによる処置後のサブコホート2.1における、経時的な抗ePHF(濃縮対らせん状細線維)IgG力価の幾何平均(±95%信頼区間)のグラフである。
図4-1】ホスホ-ペプチドT3.30(配列番号19)およびT3.85(配列番号21)ならびに非ホスホ-ペプチドT3.56(配列番号20)およびT3.86(配列番号22)をカバー範囲とする短い8-mer重複ペプチドに関するエピトープマッピングELISAによって決定された、JACI-35.054(15μg)を用いたワクチン接種によって誘導された8名のAD患者における抗体のエピトープ認識プロファイルのグラフである。図4Aは、サブコホート2.1における抗リン酸化タウ抗体のエピトープ認識プロファイルを示す。図4Bは、サブコホート2.1における抗タウ抗体のエピトープ認識プロファイルを示す。O.D.=光学密度。
図4-2】(上記の通り。)
【0052】
発明の詳細な記述
様々な刊行物、論文、特許および特許出願が背景技術および本明細書全体にわたって引用または記載されるが、これらの参考文献のそれぞれはその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品等に関する考察は、本発明のための文脈を提供することを目的とする。そのような考察は、開示または特許請求されるいかなる発明に関しても、これらの事項のいずれかまたは全てが先行技術の一部を形成することを承認するものではない。
【0053】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。その他の場合、本明細書で使用するある特定の用語は本明細書に記載される意味を有する。
【0054】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別段の指示が明確にない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0055】
別段の記述がない限り、本明細書に記載されるあらゆる数値、例えば濃度または濃度範囲は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、数値は典型的には示された値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用する場合、数値範囲の使用は、文脈上別段の指示が明確にない限り、全ての可能な部分範囲、すなわち、そのような範囲内の整数およびその値の小数部を含むその範囲内の全ての個々の数値を明白に含む。
【0056】
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連のあらゆる要素を指すと理解されるべきである。当業者は、単に慣例的な実験を使用して、本明細書に記載される本発明の具体的な実施形態の多くの均等物を認識するかまたは確かめることができるだろう。そのような均等物は本発明によって包含されると意図される。
【0057】
本明細書で使用する場合、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」、もしくは「含有する(containing)」という用語、またはそれらの任意の他の変化形は、述べられた整数または整数群を含むがいかなる他の整数も整数群も除外するものではないということを含意すると理解することができ、非排他的または非限定的であると意図される。例えば、リストの要素を含む組成物、混合物、工程、方法、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的に列挙されていないかまたはそのような組成物、混合物、工程、方法、物品、もしくは装置に固有の他の要素を含むことができる。さらに、反対のことが明示的に述べられていない限り、「または」は、排他的な「または」ではなく、非排他的な「または」を指す。例えば、条件1または2は、以下:1が真である(または存在する)かつ2が偽である(または存在しない)、1が偽である(または存在しない)かつ2が真である(または存在する)、および1と2の両方が真である(または存在する)のうちのいずれか1つによって満たされる。
【0058】
好ましい発明の構成成分の寸法または特徴に言及する場合に本明細書で使用する「約」、「およそ」、「全般的に」、「実質的に」という用語、および同様の用語が、記載された寸法/特徴は、当業者によって理解され得るように、厳密な境界でもパラメータでもなく、機能的に同じであるかまたは類似するそこからのわずかな変動を除外しないことを示すということもまた理解されるべきである。少なくとも、数値パラメータを含むような指示対象は、当技術分野で受け入れられている数学的および工業的原理(例えば、丸め、測定または他の系統誤差、製作公差等)を使用する、最下位桁を変えることのない変動を含み得る。
【0059】
本発明は、タウ、好ましくはリン酸化タウおよび濃縮対らせん状細線維(ePHF)のうちの少なくとも1つに対する抗体を、脳炎等の重篤な有害事象を誘発せずに、それを必要とするヒト対象において誘導する方法を提供する。特定の実施形態では、方法は、直接的にまたはリンカーを介して免疫原性担体と共有結合により連結されたタウホスホペプチドを含む有効量のコンジュゲートを対象に投与することを含む。
【0060】
本明細書で使用する場合、「抗リン酸化タウ抗体」という用語は、タウのアミノ酸配列の1つまたは複数の位置のアミノ酸残基がリン酸化されているタウに結合する抗体を指す。リン酸化されるアミノ酸残基は例えば、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、またはチロシン(Tyr)であり得る。抗リン酸化タウ抗体が結合するリン酸化タウの部位は好ましくは、アルツハイマー病等の神経変性疾患において特異的にリン酸化される部位である。抗リン酸化タウ抗体が結合するリン酸化タウの部位の例としては、例えば、Tyr18、Ser199、Ser202、Thr205、Thr212、Ser214、Ser396、Ser404、Ser409、Ser422、Thr427が挙げられる。本出願全体にわたって使用する場合、アミノ酸位は、アミノ酸配列がGenBank受託番号NP_005901.2に表されるヒト微小管関連タンパク質タウアイソフォーム2の配列を参照して得られる。
【0061】
投与時に抗リン酸化タウ抗体を誘導できるかどうかは、対象由来の生体試料(例えば、血液、血漿、血清、PBMC、尿、唾液、糞便、間質液(ISF)、CSFまたはリンパ液)を、医薬組成物において投与された免疫原性タウペプチドを対象とする抗体、例えば、IgGまたはIgM抗体の存在に関して試験することによって決定することができる(例えば、Harlow, 1989, Antibodies, Cold Spring Harbor Pressを参照のこと)。例えば、免疫原を提供する組成物の投与に応答して産生される抗体の力価は、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、他のELISAに基づくアッセイ(例えば、MSD-Meso Scale Discovery)、ドットブロット、SDS-PAGEゲル、ELISPOT、または抗体依存性細胞貪食(ADCP)アッセイによって測定することができる。
【0062】
本明細書で使用する場合、「有害事象」(AE)という用語は、医薬製剤が投与された患者における、処置との因果関係を必ずしも有しないあらゆる好ましくない医療上の出来事を指す。本発明の実施形態において、AEは以下の定義を使用する、重症度が増加する3段階の尺度により評価される:軽度(グレード1)、対象によって容易に耐えられ、最小の不快感を引き起こし、日常活動を妨害しないAEを指す;中等度(グレード2)、正常な日常活動を妨害するほど十分に不快であり、介入が必要となる場合があるAEを指す;重度(グレード3)、正常な日常活動を妨げ、処置または他の介入が通例必要であるAEを指す。重篤なAE(SAE)とは、以下の転帰のいずれかをもたらす任意の用量において生じるいかなるAEであってもよい:事象ではなく転帰である死亡;事象の発現時点で患者が死亡のリスクにさらされているある事象を指す、生命を脅かすもの;生命を脅かすものは、仮により重度であった場合に死亡を引き起こした可能性がある事象を指さない;治療のための入院、例えば、計画外の一晩の入院、または現行の入院の延長;正常な生活機能を遂行する能力の、永続的もしくは顕著な機能不全または実質的な破壊;先天異常/先天性欠損;患者を危険にさらすおそれがあるか、または上に列挙した他の転帰のうちの1つを防止するための医学的もしくは外科的介入を必要とし得る重要な医学的事象(研究者によって判断される)(例えば、アレルギー性気管支痙攣のための緊急治療室もしくは自宅での集中処置、または入院に至らない血液疾患もしくは痙攣)。入院とは、病院への公式な受け入れである。入院または入院の延長は、AEが重篤となる基準を構成するが、それ自体はSAEとは見なされない。AEの非存在下では、入院または入院の延長は、参加している研究者によってSAEとして報告されるべきではない。これは、以下の状況において当てはまり得る:入院もしくは入院の延長がプロトコルによって必要とされる手順に必要である;または入院もしくは入院の延長が、中央施設が従う慣例的な手順(例えば外科処置後のステント除去)の一部である。このことは、研究ファイルに記録されるべきである。研究中に悪化しなかった既存の状態の待機的処置のための入院は、AEとは見なされない。
【0063】
入院中に生じる合併症はAEである。合併症が入院を延長させるか、または他のSAE基準のいずれかを満たす場合、その事象はSAEである。
【0064】
本明細書で使用する場合、「脳炎」という用語は、感染性および非感染性の原因に起因し得る脳の炎症を指す。本明細書で使用する場合、「髄膜脳炎」という用語は、脳髄膜および脳の感染症または炎症によって特徴付けられる状態を指す。脳炎または髄膜脳炎の診断は、本開示を考慮すると、当業者に公知の技法によって、例えば、臨床的、神経学的、および精神医学的検査、血液およびCSF試料採取を含む生体試料採取、MRI走査法、ならびに脳波記録法(EEG)によって決定することができる。
【0065】
本明細書で使用する場合、微小管関連タンパク質タウ、MAPT、神経原線維濃縮体タンパク質、対らせん状細線維-タウ、PHF-タウ、MAPTL、MTBT1としても公知である「タウ」または「タウタンパク質」という用語は、複数のアイソフォームを有する豊富に存在する中枢および末梢神経系タンパク質を指す。ヒト中枢神経系(CNS)では、352~441アミノ酸長のサイズの範囲の6種類の主要なタウアイソフォームが選択的スプライシングのために存在する(Hanger et al., Trends Mol Med. 15:112-9, 2009)。タウの例としては、これらに限定されないが、CNSにおけるタウアイソフォーム、例えば4つの反復配列と2つの挿入断片とを有する、微小管関連タンパク質タウアイソフォーム2とも命名される441アミノ酸の最も長いタウアイソフォーム(4R2N)、例えばアミノ酸配列がGenBank受託番号NP_005901.2に表されるヒトタウアイソフォーム2が挙げられる。タウの他の例としては、3つの反復配列を有し、挿入断片を有しない、微小管関連タンパク質タウアイソフォーム4とも命名される352アミノ酸の長さの最も短い(胎児型)アイソフォーム(3R0N)、例えばアミノ酸配列がGenBank受託番号NP_058525.1に表されるヒトタウアイソフォーム4が挙げられる。タウの例としてはまた、300の追加の残基(エクソン4a)を含有する、末梢神経に発現する「大型タウ」アイソフォームが挙げられる。Friedhoff et al., Biochimica et Biophysica Acta 1502 (2000) 122-132。タウの例としては、6762ヌクレオチドの長さのmRNA転写物(NM_016835.4)によってコードされる758アミノ酸の長さのタンパク質であるヒト大型タウ、またはそのアイソフォームが挙げられる。例示されるヒト大型タウのアミノ酸配列はGenBank受託番号NP_058519.3に表される。本明細書で使用する場合、「タウ」という用語には、ヒト以外の種、例えば、カニクイザル(Macaca Fascicularis)(カニクイザル)、リーサスザル、またはチンパンジー(Pan troglodytes)(チンパンジー)由来のタウの相同体が含まれる。本明細書で使用する場合、「タウ」という用語には、全長野生型タウの変異、例えば点変異、断片、挿入、欠失、およびスプライスバリアントを含むタンパク質が含まれる。「タウ」という用語にはまた、タウアミノ酸配列の翻訳後修飾が包含される。翻訳後修飾としては、これに限定されないが、リン酸化が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用する場合、「ペプチド」または「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して連結した、アミノ酸残基から構成されるポリマー、関連する天然に存在する構造バリアント、およびその天然に存在しない合成アナログを指す。この用語は、任意のサイズ、構造、または機能のペプチドを指す。典型的には、ペプチドは少なくとも3アミノ酸の長さである。ペプチドは、天然に存在するペプチド、組換えペプチド、もしくは合成ペプチド、またはそれらの任意の組合せであり得る。合成ペプチドは、例えば全自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。タウペプチドの例としては、約5~約30アミノ酸長、好ましくは約10~約25アミノ酸長、より好ましくは約16~約21アミノ酸長のタウタンパク質の任意のペプチドが挙げられる。本開示では、ペプチドは、リン酸残基が「p」で示される標準的な3または1文字アミノ酸略記法を使用してN末端からC末端へと列挙される。本発明に有用なタウペプチドの例としては、これらに限定されないが、配列番号1~12のいずれかのアミノ酸配列を含むタウペプチド、または配列番号1~12のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を有するタウペプチドが挙げられる。
【0067】
抗体のアビディティは、本開示を考慮すると、当技術分野で公知の方法を使用してアビディティ指数によって測定することができる。特定の抗原に対する抗体の力価は、コーティングされた抗原の2つの異なる濃度で測定される:一方は全ての抗体が抗原に結合することができる飽和濃度であり、もう一方は非常に高い結合能を有する抗体のみが抗原に結合することができる低濃度である。本明細書で使用する場合、「アビディティ指数」は、抗原の低密度コーティングおよび高密度コーティングで測定される抗体力価のレベルの比を指す。例えば、抗原、例えばePHFまたはpタウに対する抗体のアビディティを、1回の免疫化の後もしくは複数の免疫化の後に複数の異なる時点で測定して、アビディティ(アビディティ指数によって測定した場合)が経時的に増加するか否かを評価することができる。本明細書で使用する場合、抗原に対する「アビディティの増加」または「結合アビディティの増加」を有する抗体は、処置または免疫化の過程において経時的に、抗原に対するアビディティ指数の増加を有する抗体を指す。アビディティの増加は、抗体の親和性成熟の可能性があることを示唆する。
【0068】
本明細書で使用される場合、「ホスホペプチド」または「ホスホ-エピトープ」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基においてリン酸化されているペプチドを指す。タウホスホペプチドの例としては、1つまたは複数のリン酸化アミノ酸残基を含む任意のタウペプチドが挙げられる。当業者に公知の任意の好適なタウホスホペプチドは、本開示を考慮すると、コンジュゲートに使用することができる。特定の実施形態において、1つまたは複数のタウホスホペプチドは、配列番号1~3もしくは5~12のうちの1つのアミノ酸配列、または配列番号1~3もしくは5~12のうちの1つのアミノ酸配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、もしくは95%同一のアミノ酸配列を含み、1つまたは複数の示されたアミノ酸残基はリン酸化されている。好ましくは、タウホスホペプチドは、配列番号1~3のうちの1つのアミノ酸配列を含む。異常なリン酸化タウは、容易に凝集して不溶なオリゴマーとなり、これは神経毒性を有し、神経変性の一因となる(Goedert et al, 1991)。オリゴマーは、いわゆる対らせん状細線維(PHF)の濃縮体(tangle)へと進行する(Alonso et al., 2001)。神経原線維濃縮体病態の程度は、AD対象における認知症の程度と相関することが一貫して示されている(Bierer et al, 1995; Braak and Braak, 1991; Delacourte, 2001)。
【0069】
本発明に有用なタウペプチドは、固相ペプチド合成または組換え発現系によって合成することができる。自動ペプチド合成装置は数多くの供給業者、例えばApplied Biosystems(Foster City、Calif.)から市販されている。組換え発現系としては、細菌、例えば大腸菌(E. coli)、酵母、昆虫細胞、または哺乳動物細胞を挙げることができる。組換え発現の手順は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (C.S.H.P. Press, NY 2d ed., 1989)によって記載されている。
【0070】
コンジュゲート
本発明に有用なコンジュゲートの例としては、これらに限定されないが、米国特許出願公開第2019/0119341号明細書に記載されているタウホスホペプチドコンジュゲートが挙げられ、それぞれの開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0071】
特定の態様において、コンジュゲートは、以下の構造:
【0072】
【化9】
を有するか、または式(II):
【0073】
【化10】
の構造を有し、
(式中、
xは、0~10の整数であり、
nは、2~15、好ましくは3~11の整数である)
担体は、免疫原性担体を表し、
タウペプチドは、タウホスホペプチドを表す。
【0074】
本明細書で使用される場合、「免疫原性担体」という用語は、タウペプチドとカップリングさせることができる免疫原性物質を指す。タウペプチドとカップリングされた免疫原性部分は、免疫応答を誘導して、タウペプチドに特異的に結合することができる抗体の産生を誘発することができる。免疫原性部分は、外来性と認識され、それによって宿主からの免疫学的応答を誘発させる、タンパク質、ポリペプチド、糖タンパク質、複合多糖、粒子、核酸、ポリヌクレオチド等を含む作動部分である。当業者に公知の任意の好適な免疫原性担体は、本開示を考慮すると、本発明に使用することができる。特定の実施形態において、免疫原性担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド、CRM197(ジフテリア毒素の非毒性形態)、髄膜炎菌由来の外膜タンパク質混合物(OMP)、またはそれらの誘導体である。特定の実施形態において、免疫原性担体はCRM197である。
【0075】
特定の実施形態において、タウペプチドは、リンカーを介して免疫原性担体とコンジュゲートされる。本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、免疫原性担体をタウペプチドとつなぐ化学部分を指す。当業者に公知の任意の好適なリンカーは、本開示を考慮すると、本発明に使用することができる。リンカーは例えば、単一の共有結合、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル部分、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、ペプチドリンカー、糖ベースのリンカー、もしくは切断可能なリンカー、例えばジスルフィド連結もしくはプロテアーゼ切断部位、もしくはアミノ酸、またはそれらの組合せであり得る。リンカーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、スクシンイミジル3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(MBS)、または1つもしくは複数のアミノ酸、例えばCys、Lysもしくは時にはSerもしくはThr、あるいはそれらの組合せのうちの1つまたは複数を挙げることができる。
【0076】
特定の実施形態において、xは、1~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、または2~3の整数である。特定の実施形態において、xは3である。
【0077】
特定の実施形態において、複数のタウホスホペプチドが、1つの免疫原性担体とコンジュゲートされ得る。一部の実施形態では、nは、2~15、3~11、3~9、3~8、または3~7である。
【0078】
特定の実施形態において、コンジュゲートは、1つまたは複数のタウペプチドを含む。特定の実施形態において、コンジュゲートのタウペプチドは同じであることもでき、または異なることもできる。
【0079】
特定の実施形態において、タウホスホペプチドは、配列番号1~3のうちの1つのアミノ酸配列からなる。
【0080】
特定の実施形態において、リンカーは、(C2H4O)x-システイン-アセトアミドプロピオンアミドまたはm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル-システイン-(C2H4O)xを含み、ここでxは、0~10の整数、例えば0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0081】
特定の実施形態において、担体は、リンカーを介して、タウホスホペプチドのN末端と共有結合により連結される。
【0082】
他の特定の実施形態において、担体は、リンカーを介して、タウペプチドのC末端と共有結合により連結される。
【0083】
特定の実施形態において、コンジュゲートは、
【0084】
【化11】
(式中、
nは、2~15の整数、好ましくは3~11、より好ましくは3~7であり、VYKS(p)PVVSGDTS(p)PRHL-CONHは配列番号2のホスホ-タウペプチドを含む)
の構造を有する。
【0085】
本発明のコンジュゲートは、本開示を考慮すると、当技術分野で公知の方法によって作製することができる。例えば、上記のコンジュゲートは、スクシンイミジル-3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP):
【0086】
【化12】
をCRM197のアミノ基と反応させて、アミド連結を形成させることによって形成することができる。このCRM197前駆体をその後に、遊離求核性チオール基を有するPEG-システインリンカーとそのN末端またはそのC末端においてコンジュゲートされているタウペプチド(例えば、配列番号2のタウホスホペプチド)と反応させて、タウホスホペプチドコンジュゲートを形成することができる。
【0087】
医薬組成物
本発明に有用な有効量のコンジュゲートを、薬学的に許容される賦形剤および/または担体と共に含む医薬組成物は、本開示を考慮すると、当技術分野で公知の方法を使用して作製することができる。組成物中の各構成成分の最適な比は、本開示を考慮すると、当業者に周知の技法によって決定することができる。
【0088】
薬学的に許容される賦形剤および/または担体は当技術分野で周知である(Remington's Pharmaceutical Science (15th ed.), Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1980を参照のこと)。医薬組成物の好ましい製法は、所期の投与方法および治療用途に依存する。組成物は、動物またはヒト投与のための医薬組成物を製剤化するために一般的に使用されるビヒクルとして定義される、薬学的に許容される非毒性の担体または希釈剤を含むことができる。希釈剤は、組合せ体の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。加えて、医薬組成物または製剤はまた、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療性、および非免疫原性安定剤等を含んでもよい。担体、賦形剤、または希釈剤の特徴は特定の用途のための投与経路に依存し得ることが理解されるだろう。
【0089】
医薬組成物は、コンジュゲートと同じ免疫原性タウペプチドとの混合物を含有することができる。あるいは、医薬組成物は、コンジュゲートと本発明の異なる免疫原性タウペプチドとの混合物を含有することもできる。
【0090】
特定の実施形態において、コンジュゲートは、対象において所望の免疫応答を達成するために、好適なアジュバントと組み合わせて投与することができる。好適なアジュバントは、本発明のコンジュゲートの投与の前、後、または同時に投与することができる。好ましいアジュバントは、応答の質的な形式に影響を及ぼす免疫原の立体構造変化を引き起こさずに、免疫原に対する固有の応答を増大させる。
【0091】
一実施形態では、本出願の方法に有用なアジュバントは、アルミニウム塩(アラム)、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、および硫酸アルミニウムである。
【0092】
別の実施形態では、本出願の方法に有用なアジュバントは、TLRアゴニスト、例えばCpGオリゴヌクレオチドである。本明細書で使用する場合、「CpGオリゴヌクレオチド」、「CpGオリゴデオキシヌクレオチド」、または「CpG ODN」という用語は、少なくとも1つのCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドを指す。本明細書で使用する場合、「オリゴヌクレオチド」、「オリゴデオキシヌクレオチド」または「ODN」とは、複数の連結したヌクレオチド単位から形成されるポリヌクレオチドを指す。そのようなオリゴヌクレオチドは、現存する核酸源から取得することができるか、または合成法によって生産することができる。本明細書で使用する場合、「CpGモチーフ」という用語は、リン酸結合またはホスホジエステル骨格または他のヌクレオチド間連結、例えばホスホロチオエート(ps)、ホスホロジチオエート(ps2)、メチルホスホネート(mp)、またはメチルホスホロチオエート(rp)によって連結した非メチル化シトシン-リン酸-グアニン(CpG)ジヌクレオチド(すなわち、シトシン(C)の次にグアニン(G)が続く)を含有するヌクレオチド配列を指す。ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネートおよびメチルホスホロチオエートは、安定化性ヌクレオチド間連結であり、一方、ホスホジエステルは天然に存在するヌクレオチド間連結である。オリゴヌクレオチドホスホロチオエートは典型的にはRpおよびSpホスホロチオエート連結の無作為なラセミ混合物として合成される。本開示を考慮すると、当業者に公知のいかなる好適なCpGオリゴヌクレオチドも本発明に使用することができる。そのようなCpGオリゴヌクレオチドの例としては、これらに限定されないが、CpG2006(CpG 7909としても公知)、CpG 1018、CpG2395、CpG2216またはCpG2336が挙げられる。
【0093】
特定の実施形態において、CpGオリゴヌクレオチドは脂質化、すなわち、脂質部分とコンジュゲート(共有結合により連結)している。本明細書で使用する場合、「脂質部分」とは、親油性構造を含有する部分を指す。脂質部分、例えば、アルキル基、脂肪酸、トリグリセリド、ジグリセリド、ステロイド、スフィンゴ脂質、糖脂質、またはリン脂質、特にコレステロール等のステロールまたは脂肪酸は、高度に親水性の分子、例えば核酸に結合する場合、血漿タンパク結合、および結果として親水性分子の循環半減期を実質的に向上させることができる。加えて、ある特定の血漿タンパク質、例えばリポタンパク質に結合することは、対応するリポタンパク質受容体(例えば、LDL受容体、HDL受容体、またはスカベンジャー受容体SR-B1)を発現する特定の組織への取込みを増加させることが示されている。特に、ホスホペプチドおよび/またはCpGオリゴヌクレオチドとコンジュゲートした脂質部分は、前記ペプチドおよび/またはオリゴヌクレオチドをリポソームの膜に疎水性部分を介して固定することを可能にする。
【0094】
そのようなアジュバントは、他の特異的免疫賦活剤、例えば、MPLA類(3脱-O-アシル化モノホスホリルリピドA(MPL(商標))、モノホスホリルヘキサアシルリピドA 3-脱アシル合成(3D-(6-acyl)PHAD(登録商標)、PHAD(商標)、PHAD(登録商標)-504、3D-PHAD(登録商標))リピドA)、ポリマーもしくはモノマーアミノ酸、例えばポリグルタミン酸もしくはポリリジンと共にまたはこれらを伴わずに使用することができる。そのようなアジュバントは、他の特異的免疫賦活剤、例えば、ムラミルペプチド(例えば、N-アセチルムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’-2’ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、N-アセチルグルコサミニル-N-アセチルムラミル-L-Al-D-isoglu-L-Ala-ジパルミトキシプロピルアミド(DTP-DPP)Theramide(商標))、もしくは他の細菌細胞壁構成成分と共にまたはこれらを伴わずに使用することができる。水中油型エマルションとしては、マイクロ流動化装置を使用してマイクロメートル未満の粒子に製剤化される、5%スクアレン、0.5%Tween80、および0.5%Span85を含有する(任意選択で、様々な量のMTP-PEを含有する)MF59(国際公開第90/14837号パンフレットを参照のこと);マイクロメートル未満のエマルションにマイクロ流動化されるかまたはより大きな粒径のエマルションを生成するためにボルテックスされる、10%スクアレン、0.4%Tween80、5%pluronicブロックポリマーL121、およびthr-MDPを含有するSAF;ならびにRibi(商標)アジュバントシステム(RAS)(Ribi ImmunoChem、Hamilton、Mont.)0.2%Tween80、および、モノホスホリルリピドA(MPL(商標))、トレハロースジミコール酸(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL(商標)+CWS(Detox(商標))からなる群から選択される1つまたは複数の細菌細胞壁構成成分が挙げられる。他のアジュバントとしては、完全フロイントアジュバント(CFA)、ならびにサイトカイン、例えば、インターロイキン(IL-1、IL-2、およびIL-12)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
【0095】
ある特定の実施形態では、本出願の方法に有用な医薬組成物は、本明細書に記載される1つまたは複数の好適なアジュバント、例えばアルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、および/もしくは硫酸アルミニウム、ならびに/またはaCpG、例えば、CpG2006(CpG 7909としても公知)、CpG 1018、pG2395、CpG2216もしくはCpG2336をさらに含む。一実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、水酸化アルミニウム、CpG 7909、およびリンカーを介して共有結合によりCRM197と連結されたタウホスホペプチドのコンジュゲートを含む。
【0096】
他の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載されるコンジュゲート、1つもしくは複数のアジュバント、1つもしくは複数のアミノ酸、例えばヒスチジンもしくはグリシンを含む緩衝液、1つもしくは複数の炭水化物、例えばグルコースもしくはスクロースと、および/または界面活性剤、例えばポリソルベート80、ポリソルベート20などを含む。
【0097】
使用方法
本出願の全般的な一態様は、神経変性疾患、障害、または状態に罹患したヒト対象においてタウタンパク質に対する免疫応答を安全に誘導する方法であって、有効量のリン酸化タウコンジュゲートを含む医薬組成物を対象に投与することを含む方法に関する。特定の態様において、免疫応答は、タウタンパク質、好ましくはリン酸化タウタンパク質、より好ましくはePHFに対して誘導される。
【0098】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、対象において所望の生物学的または医学的応答を誘発する有効成分または構成成分の量を指す。特定の有効用量の選択は、処置または防止される疾患、関係している症状、患者の体重、患者の免疫状況、および当業者によって公知の他の因子を含むいくつかの因子の考慮に基づいて、当業者によって(例えば臨床試験を介して)決定することができる。製剤に用いられる正確な用量は、投与方法、投与経路、標的部位、患者の生理状態、投与される他の医薬、および疾患の重症度にも依存し得、実施者の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。例えば、免疫原性担体タンパク質とコンジュゲートされたタウホスホペプチドの有効量は、アジュバントもまた投与されるか否かにも依存し、アジュバントの非存在下ではより高い投薬量が必要とされる。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系に由来する用量応答曲線から外挿することができる。
【0099】
1つまたは複数のタウホスホペプチドに免疫原性担体をコンジュゲートさせることができるため、有効量のコンジュゲートは、免疫原性担体タンパク質の総重量、それとコンジュゲートされた1つまたは複数のタウホスホペプチド、およびコンジュゲート中の1つまたは複数のリンカー(使用される場合)を含む。本出願の実施形態において、コンジュゲートの有効量は、1用量当たり約5μg~約200μg、好ましくは1用量当たり約15μg~約150μg、例えば1用量当たり5μg、10μg、15μg、20μg、25μg、30μg、35μg、40μg、45μg、50μg、60μg、70μg、80μg、90μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、175μg、200μg、またはそれらの間の任意の値の免疫原性担体である。好ましくは、有効用量は、1用量当たり15μg、最大で60μg、例えば45μg、50μg、55μg、60μg、もしくはそれらの間の任意の値であるか、または最大で150μg、例えば120μg、125μg、130μg、135μg、140μg、145μg、150μg、もしくはそれらの間の任意の値である。
【0100】
本明細書で使用する場合、「誘導する」および「賦活化する」という用語ならびにそれらの変化形は、細胞活性の任意の測定可能な上昇を指す。免疫応答の誘導としては、例えば、免疫細胞の集団の活性化、増殖、もしくは成熟、サイトカインの産生を増加させること、および/または免疫機能の増加の別の指標を挙げることができる。ある特定の実施形態では、免疫応答の誘導としては、B細胞の増殖を高めること、抗原特異的抗体を産生させること、抗原特異的T細胞の増殖を高めること、樹状細胞抗原提示を向上すること、ならびに/またはある特定のサイトカイン、ケモカイン、および共刺激マーカーの発現を増加させることを挙げることができる。
【0101】
動物またはヒト生物体における投与時に抗タウ免疫応答を誘導または賦活化する能力は、当技術分野で標準的な種々のアッセイを使用して、in vitroまたはin vivoのいずれかで評価することができる。免疫応答の開始および活性化を評価するために利用可能な技法の一般的な記載については、例えば、Coligan et al.(1992 and 1994, Current Protocols in Immunology; ed. J Wiley & Sons Inc, National Institute of Health)を参照のこと。細胞性免疫の測定は、当技術分野で既知の方法によって、例えば、CD4+およびCD8+ T細胞に由来するものを含む活性化エフェクター細胞によって分泌されるサイトカインプロファイルの測定(例えば、ELISPOTによるIL-4またはIFNγ産生細胞の定量化)によって、免疫エフェクター細胞の活性化状態の決定(例えば、古典的[3H]チミジン取り込みによるT細胞増殖アッセイ)によって、感作された対象において抗原特異的Tリンパ球に関してアッセイすること(例えば、細胞傷害性アッセイにおけるペプチド特異的溶解等)によって、容易に行うことができる。
【0102】
細胞性および/または液性応答を賦活する能力は、対象由来の生体試料(例えば、血液、血漿、血清、PBMC、尿、唾液、糞便、CSF、またはリンパ液)を、医薬組成物において投与された免疫原性タウペプチドを対象とする抗体の存在に関して試験することによって決定することができる(例えば、Harlow, 1989, Antibodies, Cold Spring Harbor Pressを参照のこと)。例えば、免疫原を提供する組成物の投与に応答して産生される抗体の力価は、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、ドットブロット、SDS-PAGEゲル、ELISPOT、または抗体依存性細胞貪食(ADCP)アッセイによって測定することができる。
【0103】
コンジュゲート組成物は、防止および/または治療処置のために、非経口的、局所的、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、皮内、鼻腔内、または筋肉内手段によって投与することができる。免疫原性物質の最も典型的な投与経路は、皮下または筋肉内注射である。この後者のタイプの注射は、最も典型的には、腕または脚の筋肉において実施される。
【0104】
プライミングおよびブースティング投与に関するレジメンが投与後に測定される免疫応答に基づいて調整できることは当業者によって容易に理解される。例えば、ブースティング組成物は全般的に、プライミング組成物の投与の数週間もしくは数か月後、例えば、約1週間、もしくは2週間、もしくは3週間、もしくは4週間、もしくは8週間、もしくは16週間、もしくは20週間、もしくは24週間、もしくは28週間、もしくは32週間、もしくは36週間、もしくは40週間、もしくは44週間、もしくは48週間、もしくは52週間、もしくは56週間、もしくは60週間、もしくは64週間、もしくは68週間、もしくは72週間、もしくは76週間、またはプライミング組成物の投与の1~2年後に投与される。
【0105】
特定の態様において、1回または複数回の追加免疫が投与され得る。それぞれのプライミングおよびブースティング組成物における抗原は、いかに多くのブースティング組成物が用いられるとしても、同一である必要はなく、共通の抗原決定基を有するかまたは互いに実質的に類似するべきである。
【0106】
当業者には公知であるように、免疫原性、ブースト可能性および持続可能性は、ワクチンの有効性にとって重要な考慮事項である。本明細書に記載される有効量のコンジュゲートの投与は、pタウに対する強力な抗体応答を、それを必要とする患者、例えば、アルツハイマー病(例えば、軽度から中等度のアルツハイマー病または早期アルツハイマー病)またはアルツハイマー病に起因する軽度認知障害(MCI)を処置することを必要とする患者において誘導することができることが、本発明において発見された。抗体応答は持続可能であり、例えば、少なくとも6週間持続する。抗体応答はまた、1回または複数回の後続のブースティング投与によって、ブーストもされる。本明細書で使用する場合、抗体応答の文脈における「ブーストされる」は、後続投与の投与の少なくとも2週間後に測定した場合に、後続の投与の後に維持または強化される抗体応答を指す。例えば、後続投与の2週間後に測定した場合の抗体力価が後続投与の前の抗体力価と比較して増加している場合には、抗体応答は、後続投与によって「ブーストされる」。
【0107】
特定の実施形態において、ヒト対象は、神経変性疾患、障害、または状態の処置を必要とする。
【0108】
本明細書で使用する場合、「神経変性疾患、障害、または状態」には、本開示を考慮すると、当業者に公知のあらゆる神経変性疾患、障害、または状態が含まれる。神経変性疾患、障害、または状態の例としては、神経原線維病変の形成によって引き起こされるかまたはそれと関連する神経変性疾患または障害、例えばタウオパチーと称されるタウ関連疾患、障害、または状態が挙げられる。特定の実施形態において、神経変性疾患、障害、または状態としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ボクサー認知症、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、封入体筋炎、プリオンタンパク質脳アミロイド血管症、外傷性脳損傷、筋萎縮性側索硬化症、グアム島のパーキンソン認知症複合、神経原線維濃縮体を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、嗜銀顆粒性認知症、大脳皮質基底核変性症、レビー認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(Dementia Lewy Amyotrophic Lateral sclerosis)、石灰化を伴うびまん性神経原線維濃縮体、前頭側頭型認知症、好ましくは第17染色体と連鎖するパーキンソン症候群を伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)、前頭側頭葉型認知症、ハラーホルデン・スパッツ病、多系統萎縮症、ニーマン・ピック病C型、ピック病、進行性皮質下グリオーシス、進行性核上性麻痺、亜急性硬化性全脳炎、濃縮体型認知症(Tangle only dementia)、脳炎後パーキンソン症候群、筋強直性ジストロフィー、慢性外傷性脳症(CTE)、原発性年齢関連タウオパチー(PART)、脳血管症、またはレビー小体型認知症(LBD)を含むがこれらに限定されない、タウとアミロイド病理との共存を示す任意の疾患または障害が挙げられる。特定の実施形態において、神経変性疾患、障害、または状態は、アルツハイマー病または別のタウオパチーである。好ましい実施形態において、神経変性疾患、障害、または状態は、アルツハイマー病である。
【0109】
アルツハイマー病の臨床経過は、認知および機能障害の進行パターンにより複数の段階に分けることができる。段階は、例えばNIA-AA研究枠組みを含む当技術分野で公知の評価尺度(例えば、Dubois et al., Alzheimer's & Dementia 12 (2016) 292-323, Dubois et al., Lancet Neurol 2014; 13: 614-29, Jack et al., Alzheimer's & Dementia 14 (2018) 535-562を参照のこと)および臨床的認知症評価尺度(CDR)(例えば、Berg L. Clinical Dementia Rating (CDR). Psychopharmacol Bull. 1988;24(4):637-639を参照のこと)を使用して定義することができ、それぞれの内容の全体は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0110】
例えば、米国立老化研究所-アルツハイマー協会(National Institute on Aging-Alzheimer’Association)(NIA-AA)研究枠組みは、ADを神経病理学的変化またはバイオマーカーによって生物学的に定義しており、認知機能障害を疾患の定義ではなく疾患の症状/徴候として扱っている(例えば、Clifford RJ, NIA-AA Research Framework: Toward a biological definition of Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia 14 (2018) 535-562を参照、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。NIA-AAの定義によれば、Aβ沈着のみのバイオマーカーの初見(異常なアミロイドPETスキャン、またはCSF中のAβ42もしくはAβ42/Aβ40比が低い)を有し、病的タウのバイオマーカーが正常である個人には「アルツハイマー病的変化」というラベルが割り当てられ、Aβおよび病的タウの両方のバイオマーカーの初見が存在する場合には、「アルツハイマー病」という用語が適用される。NIA-AAはまた、ADの重症度を段階分けするためのシステムも開発した。特に、NIA-AAの定義(Clifford RJ, 2018、前記のText Box 2から転載)では、以下の通りである:
定義
A:Aβバイオマーカーは、個体がアルツハイマー連続体にあるか否かを決定する。
T:病的タウバイオマーカーは、アルツハイマー連続体にある者がアルツハイマー病を有するか否かを決定する。
重症度の段階分け:
(N):神経変性/神経細胞損傷バイオマーカー
(C):認知症状
AおよびTはアルツハイマー病を定義する特異的な神経病理学的変化を示すが、(N)および(C)はアルツハイマー病に特異的ではなく、そのため、括弧内に入れてある。
【0111】
好ましい実施形態において、神経変性疾患、障害、または状態は、早期アルツハイマー病、アルツハイマー病に起因する軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー病である。
【0112】
一部の実施形態では、神経変性疾患、障害、または状態は、軽度から中等度のアルツハイマー病である。
【0113】
一部の実施形態では、処置を必要とする対象は、脳においてアミロイド陽性であるが、顕著な認知障害をまだ示していない。脳におけるアミロイド沈着は、当技術分野で公知の方法、例えば、PET走査、免疫沈降質量分析、または他の方法を使用して(例えば、CSFバイオマーカーの使用)、検出することができる(Clifford RJ, NIA-AA Research Framework: Toward a biological definition of Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia 14 (2018) 535-562)。
【0114】
他の実施形態では、処置を必要とするヒト対象は、AD病態と矛盾しない異常レベルのCSF Aベータアミロイド42(Aβ42)を有する。例えば、対象は、AD病態と矛盾しない低いレベルのCSF Aβ42または低いAβ42/Aβ40比を有し得る(例えば、Clifford RJ, 2018、前記およびその中の参考文献を参照、そのそれぞれの内容はその全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0115】
特定の態様において、1つまたは複数の追加の処置を、タウホスホペプチドコンジュゲートと組み合わせて施すことができる。追加の処置は、コンジュゲートの投与の前、後または同時のタウ抗原の投与を含み得る。追加の組成物中の抗原は、同一である必要はないが、コンジュゲートのタウホスホペプチドと共有の抗原決定基を有するかまたは互いに実質的に類似するべきである。
【0116】
したがって、ある特定の実施形態では、本出願の方法は、リポソームの表面に提示されているタウホスホペプチドを含むリポソームを対象に投与することをさらに含む。本発明に有用なタウリポソームの例としては、これらに限定されないが、米国特許第8,647,631号および同第9,687,447号、ならびに米国特許出願公開第2019/0119341号明細書に記載されているタウリポソームが挙げられ、それぞれの開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。例えば、本出願に有用なリポソームは、タウホスホペプチド;ヘルパーT細胞エピトープ;脂質化CpGオリゴヌクレオチド;およびtoll様受容体4リガンドを含有するアジュバントを含むことができ、タウホスホペプチドはリポソームの表面に提示される。
【0117】
ある特定の実施形態では、本出願の有効量のコンジュゲートの対象への投与は、少なくとも20週間、例えば少なくとも20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30週間にわたって抗pタウIgGまたは抗タウIgG(非リン酸化タウペプチド)応答をもたらす。他の実施形態では、本出願の有効量のコンジュゲートの対象への投与は、ヒトAD脳に由来する病的ePHFタウを認識するIgG応答をもたらし、応答は、少なくとも20週間、例えば少なくとも20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30週間にわたって持続する。
【0118】
本明細書で使用する場合、2つまたはそれ以上の治療薬の対象への投与の文脈における「組み合わせて」は、複数の療法の使用を指す。「組合せにおいて」という用語の使用は、療法が対象に投与される順番を制限しない。
【0119】
組成物は、所望される場合、有効成分を含有する1つまたは複数の単位剤形を含有することができるキット、容器、または分注装置において提供することができる。キットは、例えば、ブリスターパックのように金属またはプラスチック箔を含むことができる。キット、容器、または分注装置には投与のための説明書を添付することができる。
【0120】
特定の実施形態において、キットは、本発明の実施形態におけるリポソームを含む医薬組成物、および本発明の実施形態におけるコンジュゲートを含む医薬組成物のうちの少なくとも1つを含む。
【実施例
【0121】
[実施例1]
コンジュゲートワクチンの調製
ペプチドおよびアジュバント
本研究において使用されるタウホスホペプチド(配列番号2)は、合成中にホスホ-残基を付加して合成的に生産された(Pepscan、NL)。リンカーを介して共有結合によりCRM担体と連結された配列番号2のアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドを含むコンジュゲートは、本明細書においてJACI-35.054と称される。
【0122】
ワクチンペプチドを、ポリエチレングリコール(PEG)-システイン-アセトアミドプロピオンアミドリンカーを介して担体タンパク質CRM197とコンジュゲートさせた。配列番号2のアミノ酸配列を有するタウホスホペプチドは、合成中にホスホ残基およびPEG3スペーサーを付加して合成的に生産された(Polypeptide Laboratories SAS)。JACI-35.054は、スクシンイミジル3-(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP)リンカーを介して担体タンパク質CRM197をペプチドのN末端上のシステインとコンジュゲートさせることによって製造された。SBAPを、NHSエステル反応化学を介してCRM197タンパク質第一級アミン(-NH2)と連結した。過剰なSBAPリンカーは、限外濾過および透析濾過(UF/DF)を使用して除去した。CRM197-SBAP中間体をタウホスホペプチドとコンジュゲートさせて、反応が完了したところで過剰量のL-シスチンを添加することによって反応を停止させ、コンジュゲーション反応を終了させた。粗CRM197-ペプチドがコンジュゲートされた生成物をCapto Q ImpRes(GE Healthcare)クロマトグラフィーカラムを使用して精製し、塩均一濃度法を使用して溶出させた。続いて、精製されたCRM197-ペプチド生成物を、UF/DFを使用して、pH 8.1の、トリスおよびスクロース、例えば、20mMトリス、250mMスクロースを含有する緩衝液中で製剤化した。ポリソルベート80(PS80)ストック緩衝液、例えば10% PS80ストック緩衝液を添加することによって0.01% PS80の最終濃度に達するようにして、CRM197-タウペプチド原薬(DS)ストック溶液を生成した。この溶液を濾過の前に十分に混合した。注射の前に、ストック溶液を、PBSおよびCpG/アラムで、例えば、CRM197-タウペプチドの第1濃度0.8mg/mLまで希釈し、続いて注射のためにPBSおよびCpG/アラムで、CRM197-タウペプチドの最終濃度30ug/mLまでさらに希釈した。あるいは、CRM197-タウペプチドストック溶液を、10mM PBS(pH 7.3)中で3.1mg/mLの濃度に維持し、所望の作業濃度に達するまでPBSでさらに希釈した。続いて、CpGオリゴヌクレオチド、アラムおよびPBSを添加してCRM197-pタウペプチドベースで30ug/mLの最終濃度に到達させて、最終的な製剤を注射の前に十分に混合した。
【0123】
活性ワクチンを用いてCNS抗原を標的化する上での1つの懸念は、非特異的なまたは標的外の炎症が望ましくない神経病理学的変化を引き起こす可能性があることである。このことについて調べるために、コンジュゲート組成物を用いて免疫化したマウスから全脳から採取し、血管周囲または他の細胞浸潤を可視化するために染色した。いずれの免疫化マウスにおいても、神経炎症、細胞浸潤、および他の望ましくない神経病理学的変化の徴候は全く認められなかった(データは示されず)。このことは、ワクチンにより誘導された抗体、およびワクチン接種に対する自然免疫応答が、マウスにおいて神経病理学的変化を引き起こさなかったことを示唆した。
【0124】
[実施例2]
アカゲザルにおけるJACI-35.054の6か月間筋肉内毒性研究
目的
研究全体の目的は、ナイーブ雄性および雌性アカゲザルにおよそ6か月間にわたり投与した7回の筋肉内(i.m.)注射の後のJACI-35.054(JACI-35.054)の毒性を決定すること、および4週間の回復期間後の変化の可逆性を評価することであった。
【0125】
被験物質および参照物質をi.m注射によって投与した。対照動物には、最終製剤中の活性部分を除去した化合物を投与される投薬群と同じ処置スケジュールで投薬した。
【0126】
デザイン
適用した研究プロトコルは、以下の通りであった(表1)。
【0127】
【表1】
【0128】
被験物質JACI-35.054組成物(15、50および150μgのJACI-35.054をそれぞれ低用量、中用量および高用量レベルで、ならびに500μgのCpG7909および562.5μgの水酸化アルミニウム懸濁液を含有する)および参照物質を、1、29、57、85、113、141および169日目に筋肉内注射によって投与した。対照群には、トリス緩衝液(活性部分の代わりに)、CpG7909および水酸化アルミニウム懸濁液の組合せである参照物質を投与した。
【0129】
体重を、順化期間から研究終了時まで毎週評価した。検眼鏡検査を、試験前に1回、ならびに4回目の投与および最終投与の5日後に実施した。心電図(四肢および増高導出)は、試験前に1回、ならびに4回目の投与および最終投与の後に各動物について記録した。血液および尿の試料を、臨床病理学(血液学、凝固、臨床化学および尿検査)のために全動物から、処置前に1回、90日目および174日目(主研究および回復研究)、ならびに全生存動物について207日目(回復研究)に採取した。ELISA法による抗pタウ、抗CRM197の決定のための血清に関する血液試料を、-14、8、22、36、50、64、78、92、99、106、120、134、148、162、176、183日目(主研究および回復研究)ならびに190、204および211日目(回復研究)に採取した。CSFは投薬前に1回および剖検前に採取した。免疫表現型検査用の血液は、投薬前、169日目および211日目(回復研究終了時)に採取した。PMBCは、-14日目および183日目(主研究および回復研究)ならびに211日目(回復研究)に採取した(T細胞応答に関するELISpot)。JACI-35.054によって誘導された抗体(150μgを投薬した動物の試験前および183日目に試料採取された血清)の、血縁関係のない3名の個体由来の42件のヒト凍結組織のパネルに対する潜在的な結合活性を、免疫組織化学(IHC)を使用して評価した。6か月間の投薬期間および4週間の回復研究期間の終了後に、主研究および回復研究の動物を安楽死させて剖検に供し、臓器重量および肉眼的観察初見を記録した。主研究および回復研究の全動物の脳、注射部位およびリンパ節について組織病理学的検査を実施した。
【0130】
JACI-35.054は、試験した全用量(15、50および150ug/mL)で、処置された全サルにおいて抗pタウIgG力価を誘導した。
【0131】
結果
監査付き報告書案からの結果は、1、29、57、85、113、141および169日目の7回のi.m.注射の後に、全ての用量レベルのJACI-35.054がアカゲザルによって良好に忍容され、予期せぬ死亡は認められず、体重、眼科学、心電図検査、免疫表現型検査、臨床病理学または脳脊髄液パラメータ、臓器重量ならびに肉眼的/顕微鏡的所見のいずれについてもJACI-35.054関連の臨床的徴候または影響は認められなかったことを示す。
【0132】
試験した全ての抗体パネルについて、研究群間で免疫細胞集団のサイズに顕著な差は認められなかった。被験物質処置群(第2群から第4群)で測定された種々の目的の細胞集団の濃度は対照群と同等であり、免疫細胞集団のサイズの変動はほとんどの集団で生物学的変動の範囲内に収まった。
【0133】
JACI-35.054で処置された一部の動物で観察された所見は、ごく軽度から中等度の皮膚感受性(紅斑および浮腫)に限られた。しかし、所見の性質が一過性であること、ならびに持続性および用量相関性の欠如から、JACI-35.054に対する明白な皮膚感受性の傾向は示唆されなかった。全ての肉眼的/顕微鏡的変化はアジュバントに関連し、実験手順による交絡を受けると考えられ、注射用量中のJACI-35.054の存在によるものではないと考えられた。回復相における顕微鏡的変化の発生率がわずかに低く、それらが筋層に限定される傾向があることは、4週間の回復期間の後に炎症および変性/壊死プロセスがある程度消失したことを示唆する可能性がある。
【0134】
血縁関係のない3名の個体由来の42件のヒト凍結組織に対して行われた免疫組織化学的検討により、1/300および1/100希釈で検査したJACI-35.054により誘導されるサル抗体は、試験組織のいずれにおいても標的外染色を生じなかったことが明確に示された。
結論
【0135】
総合すると、1、29、57、85、113、141および169日目の7回の筋肉内注射の後に被験物質に関連した明らかな変化が存在しなかったことから、JACI-35.054の最大用量レベル(150μg)は本研究についての無影響量(NOEL)と考えられた。
【0136】
[実施例3]
マウスにおける3か月間反復皮下投与毒性研究
目的
本研究の目的は、被験物質CRM197-pタウおよびCpG-7909、ならびにアジュバントとしての水酸化アルミニウムを用いて製剤化されたアジュバントワクチンであるJACI-35.054組成物のCD1マウスへの3か月間にわたる7回の皮下(SC)注射後の潜在的毒性を評価することであった。処置期間の終了後に、最終注射の2週間後(早期安楽死)またはさらなる2週間の無処置期間の後(後期安楽死)に指定動物を安楽死させ、所見の回復性または潜在的な遅発性影響について評価した。
デザイン
【0137】
適用した研究プロトコルは、以下の通りであった(表2)。
【0138】
【表2】
【0139】
実験デザインは、JACI-35.054(1.7、5および15μg/用量;CRM197-pタウの用量として表される[第2、3および4群])またはプラセボ/対照物質(トリス緩衝液、ならびにCpG7909および水酸化アルミニウムアジュバント[第1群]))を肩甲骨間領域(1、15、29、43、57、71および85日目)にSC注射する、4群に割り当てたSwiss CD1マウス(雄性60匹および雌性60匹)からなった。処置期間の終了時に、最終投与の2週間後に、最初に入手可能であった12匹/性別/群を安楽死させ(早期安楽死)、第1群および第4群の最後の6匹/性別を、2週間の無処置期間の後(すなわち、被験物または対照物の最終注射から4週間後)に安楽死させた。評価した毒性パラメータおよび評価項目には、罹患率/死亡率、臨床観察所見、局所注射反応、体重、摂食量、眼科学、血液学、血液生化学および解剖学的な病理学的評価(臓器重量を含む)が含まれた。全動物について完全な剖検を実施し、全組織について肉眼的異常を記録し、顕微鏡検査を行った(処置期間終了時に安楽死させた第1群、第2群、第3群および第4群の動物ならびに無処置投与期間の終了時に安楽死させた群の潜在的な標的臓器を含む)。抗CRM197 IgGおよび抗pタウIgGの生成によって測定される免疫原性の決定のために、処置前、処置中および無処置期間中に全動物から血液を採取した。
【0140】
結果
被験物質JACI-35.054(1.7、5、および15μg/用量)およびプラセボは、研究期間を通じて忍容性が概ね良好であり、SC投与後の大多数の動物において、体重、摂食量、眼科学、血液学および臓器重量に対する注目すべき臨床的徴候および影響は観察されなかった。研究中に2匹の動物の死亡が認められた(78日目[12週目]に第1群(対照)の雌1匹、および43日目(7週目)に第3群(5μg)の雄1匹)。これらの死亡は、1匹の動物が対照群に属し、第3群の死亡した雄には特有の臨床観察所見、生存中の所見および顕微鏡的所見がいずれも関連付けられず同定もされなかったことから、偶発的であってJACI-35.054投与とは無関係であると考えられた。さらに、JACI-35.054処置群の他の動物は、研究中に死亡もせず、人道的理由による安楽死も受けなかった。
【0141】
JACI-35.054投与の後に、抗pタウIgG力価は概ね用量依存的に増加したことから予期されたワクチン関連の免疫原性が確認され、抗CRM197 IgG力価も誘導された。処置終了時のさらなるCRM197-pタウ関連変化には、5μg/用量またはそれ以上を投与された雌および雄での中等度(グレード3)の肉芽腫性炎症の発生率の増加、ならびに総タンパク濃度の軽度上昇(+3.6%~+8.1%)、グロブリンに対するアルブミンの比の中等度低下(A/G;-7.9%~-21.2%)が含まれ、これらは抗原刺激に起因してCRM197-pタウにより誘導されるグロブリン濃度の上昇を反映すると考えられた。
【0142】
JACI-35.054の全処置群および対照群における、一般的なSC注射手順または同時投与したアジュバント(特に水酸化アルミニウム懸濁液)に関連するさらなる注目すべき所見には、以下が含まれた:1)研究中の少なくとも1回の紅斑、肥厚および/または腫脹の臨床観察所見(一般にJACI-35.054で処置された動物では、対照と比較してより高い頻度および/または重症度で観察され、用量依存的な傾向があった)、2)大多数の動物において剖検時の肥厚および白色腫瘤は、注射部位での壊死性/乾酪性中心を伴う肉芽腫および/または炎症性偽嚢胞によって特徴付けられる肉芽腫性炎症の顕微鏡観察としばしば相関した、ならびに3)腋窩リンパ節におけるリンパ球過形成および泡沫状マクロファージの浸潤。
【0143】
回復期間の後に、肥厚および腫脹の臨床的徴候は1.7μg/匹以上において、肉芽腫性炎症は5μg/匹以上において完全に可逆的であった。雌ではA/Gの低下が依然として認められ、いずれの群でも注射部位での回復はみられなかった。腋窩リンパ節におけるアジュバント関連所見(泡沫状マクロファージの発生率/重症度の低下)には部分的な回復がみられた。
【0144】
結論
以上の結論として、CpG7909および水酸化アルミニウムを伴うCRM197-pタウのアジュバントワクチンとして製剤化されたJACI-35.054(1.7、5および15μg/用量)のCD1マウスに対する2週間毎の7回のSC投与は、忍容性が良好であった。予期された免疫原性と一致して、JACI-35.054に関連する抗pタウIgG力価および抗CRM197 IgG力価は、概ね用量依存的に誘導された。他のCRM197-pタウ関連所見は、5μg/匹/投与以上での完全に可逆的であった肉芽腫性炎症、総タンパク濃度の軽度上昇、および部分的に可逆的であったグロブリンに対するアルブミンの比の中等度低下に限られた。全ての所見が非有害性と考えられたことから、JACI-35.054の最大用量レベルである15μgが、本研究についての無毒性量(NOAEL)と考えられた。
【0145】
[実施例4]
ヒトにおけるJACI-35.054の安全性および有効性
早期アルツハイマー病の対象における、50週間(すなわち、12か月)にわたるタウ標的ワクチンによる処置をプラセボと比較して評価するための多施設前向きプラセボ対照二重盲検ランダム化研究。研究集団は、米国立老化研究所-アルツハイマー協会(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association)(NIA-AA)の基準に従って軽度ADまたはADに起因するMCIと診断された50歳~75歳の者(男性および女性)である。免疫化は0か月目(0週目)、2か月目(8週目)、6か月目(24週目)および12か月目(48週目)に実施する。安全性および免疫原性の結果に基づいて、追加のレジメンを試験するためにプロトコルを改訂することができる。
【0146】
目的
主目的:研究ワクチンの安全性および忍容性を評価すること;ならびに研究ワクチンの免疫原性(血清中のpタウに対するIgG力価の誘導)を評価すること。
【0147】
副次的目的:研究ワクチンの免疫原性(血清中のタウに対するIgG力価ならびにpタウおよびタウに対するIgM力価の誘導)をさらに評価すること;および免疫化によって誘発される抗体のアビディティを評価すること。
【0148】
探索的目的:ADの進行の推定バイオマーカー、すなわち、総タウおよびpタウタンパク質の血中および/またはCSF中濃度に対する研究ワクチンの効果を調べること;血中のT細胞の活性化に対する研究ワクチンの効果を調べること;血中の炎症性サイトカイン(例えば、IL-1B、IL-2、IL-6、IL-8、IL-10、IFN-γ、およびTNF-α)に対する研究ワクチンの活性を調べること;免疫応答(例えば、ワクチン成分に対する抗体、ワクチンにより誘導される抗体の機能的能力)に対する研究ワクチンの効果をさらに調べること;ならびに行動、認知および機能的活動に対する研究ワクチンの効果を調べること。
【0149】
処置
筋肉内経路によって最大3種の用量レベルで投与されたJACI-35.054を、最大3つのサブコホートで試験する。本研究は現在進行中であり、2.1のサブコホートにおいて試験されている。
【0150】
サブコホート2.1(8名の対象):JACI-35.054を15μg/用量で6名の対象に投与し、プラセボを2名の対象に投与した。サブコホート2.1において全ての対象が2回目の注射を受けた後の安全性および忍容性データから、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)による検討を経て、用量漸増が可能となっている。
【0151】
サブコホート2.2(8名の対象)(任意選択):JACI-35.054を60μg/用量で6名の対象に投与し、プラセボを2名の対象に投与した。このサブコホートは、サブコホート2.1で観察された良好な安全性および忍容性に基づいて、ならびにこの以前のサブコホートにおける抗体応答が60μgの用量で最適化されると予期されることに基づいて、現在実施されている。
【0152】
サブコホート2.3(8名の対象)(任意選択):JACI-35.054を最大で150μg/用量で6名の対象に投与することができ、プラセボを2名の対象に投与することができる。このサブコホートは任意選択的であり、サブコホート2.2で観察された良好な安全性および忍容性に基づいて、ならびにこの以前のサブコホートにおける抗体応答がより高用量で最適化されると予期される場合に実施することができる。
【0153】
サブコホート拡大:各コホートの所与のサブコホートにおいて、最大16名の追加の対象(実薬処置が12名およびプラセボが4名)の任意選択的な追加募集を考慮することができる。目標は、免疫原性、安全性および忍容性の点で最も好ましいプロファイルを示すと予期される用量で追加データを収集することである。所与のサブコホートを拡大することの決定は、各々のコホートから得られる安全性/忍容性および免疫原性の累積データに基づく。
【0154】
ワクチンまたはプラセボを0、8、24および48週目にそれぞれ4回投与し、例えば、各投薬の間隔を8、16および24週間とする。処置期間は50週間(12か月)と予期され、その後に24週間(6か月)の安全性追跡期間が続く。対象全体の参加期間は、最初のスクリーニング評価から最後の安全性追跡来院までの最長約80週間とする。
【0155】
安全性追跡
全ての対象は、研究ワクチンの1回目の投与後の24時間、およびその後の研究ワクチンの投与後の4時間にわたり臨床観察下に置かれる。その後の安全性評価も、各免疫化の48~72時間後に全ての対象について電話で行う。各サブコホートにおいて、最初の4名の対象の1回目の投薬は、前の対象の48~72時間での安全性評価を実施した後に実施されるべきである。安全性試験用試料を、ベースライン、各注射の前および各注射の2~4週間後に採取する。処置された全ての対象は、処置期間の終了後に24週間(6か月)の安全性追跡期間を有する。この期間中、対象は、最終投与から19週間後の1回目の追跡来院と、追跡期間の終了時(最終投与の26週間後)の最終来院とをするように求められる。参加者の安全性は、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)による安全性データの定期的な検討によって研究全体にわたってモニタリングする。
【0156】
中間分析(IA)
安全性、忍容性および免疫原性データの中間分析を、各サブコホートにおいて以下の通りに行うことができる:
- サブコホートにおける全ての対象が4回目の来院(10週目)を完了してから、すなわち、2回目の注射から2~4週間後に
- サブコホートにおける全ての対象が6回目の来院(26週目)を完了してから、すなわち、3回目の注射から2~4週間後に
- サブコホートにおける全ての対象が9回目の来院(50週目)を完了してから、すなわち、48週目の最終の注射から2~4週間後に
- サブコホートにおける全ての対象が11回目の来院(74週目)を完了してから、すなわち、安全性の終了時に。
【0157】
追跡期間
利用可能なバイオマーカーデータを、これらのIAのいずれかの間に検討することもできる。上記のIAを、拡大されたサブコホートに対して実施することもできる。
【0158】
免疫応答データの持続可能性を検討するための追加のIAを、26~50週目の間および50~74週目の間に行うことができる。
【0159】
研究集団
研究集団は、米国立老化研究所-アルツハイマー協会(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association)(NIA-AA)基準に従って軽度ADまたはADに起因するMCIと診断され、臨床的認知症評価尺度(CDR)グローバルスコアが0.5または1である50~75歳(男性および女性)である。
【0160】
選択基準は以下の通りである:
1.50歳から75歳までの男性または女性。
2.NIA-AA基準に従ったADに起因する軽度認知障害(MCI)または軽度AD、かつそれぞれ0.5または1の臨床的認知症評価尺度(CDR)グローバルスコア。
3.22それ以上のミニメンタルステート検査(MMSE)スコア。
4.AD病態と矛盾しないスクリーニング時のCSF Aベータアミロイド42(Aβ42)の異常レベル。
・CSF Aβ42レベルに関して境界である症例では、アミロイド陽性を決定するのに役立つ他の結果、例えばAβ42/Aβ40比、および症例ごとの陽性アミロイドPET走査または陽性CSF Aβ42レベルの病歴を考慮してもよい。
・スクリーニング前6か月以内に実施したCSF試料採取の結果は、それらがアミロイド病理の存在と矛盾せず、かつ対応するCSF試料を検査のために研究に使用することができるという条件で、症例ごとに許容される。
5.ベースライン前の少なくとも3か月間に、販売されているADのためのいかなる処置も受けていないか、または安定用量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬および/もしくはメマンチンを受けている対象。
6.服薬遵守を保証し、臨床評価を支援し、安全性問題を報告する信頼できる情報提供者または介護者によって介護されている対象。
7.女性は閉経後少なくとも1年経過していなければならない、および/または外科的に不妊となっていなければならない。出産の可能性があるかまたは閉経後ではない女性は、スクリーニング時(ベースラインの-14日前から-3日前までの採血)に陰性の血液妊娠検査を有し、かつスクリーニング来院から参加の終了まで高度に効果的な避妊方法を使用する意思を有していなければならない。尿妊娠検査を処置期間の全体にわたって実施して、対象が研究ワクチンの受け続けることができるかどうかを決定する。出産の可能性がある女性パートナーを有する試験の男性参加者は、研究期間全体を通じて、女性パートナーによって使用される避妊措置に加えて、バリアー避妊法(殺精子剤入りコンドーム)を使用することが求められる。
8.研究者の見解において、書面によるインフォームドコンセントを理解して同意することができる対象。
9.対象および情報提供者または介護者は、研究の言語のうちの1つが流暢であり、腰椎穿刺を含む全ての研究手順に従うことができなければならない。
【0161】
除外基準は以下の通りである:
1.対象がプラセボのみを用いて処置され、プラセボワクチンがいかなる特異的免疫反応も誘導すると予期されないという文書化された証拠が存在する場合を除く、能動免疫化を使用したADおよび/または神経障害に関する以前の臨床試験への参加。
2.対象がプラセボのみを用いて処置され、プラセボがいかなる特異的免疫応答も誘導すると予期されないという文書化された証拠が存在する場合を除く、任意の受動的免疫化を使用したADおよび/または神経障害に関する以前の臨床試験へのスクリーニング前過去12か月以内の参加。
3.BACE-1阻害薬を含む任意の低分子薬を使用したADおよび/または神経障害に関する以前の臨床試験へのスクリーニング前過去3か月以内の参加。
4.実験的または承認された医薬または療法を使用する任意の他の臨床試験への同時参加。
5.自己免疫疾患の臨床症状を有しない対象における少なくとも1:160の希釈度での陽性抗核抗体(ANA)力価の存在。
6.自己免疫疾患、または自己免疫疾患の存在と矛盾しない臨床症状の現在または過去の病歴。
7.スクリーニング前に3か月を超えて一時的に処方されている場合を除く、免疫抑制薬または全身性ステロイドの使用を含むがこれに限定されない免疫抑制。
8.以前のワクチンおよび/または医薬に対する重度のアレルギー反応を含むがこれに限定されない重度のアレルギー反応(例えばアナフィラキシー)の病歴。
9.臨床的に重大な低血糖エピソードの前歴。
10.精神障害の診断・統計マニュアルV(DSM-V)基準に従って現在満たされているかまたは過去5年以内に満たされていた薬物またはアルコール乱用または依存。
11.研究処置の安全性および忍容性の評価、ならびに/または全研究来院予定の遵守を妨害する可能性が高い任意の臨床的に有意な医学的状態。
12.免疫系に影響を与える可能性が高い任意の臨床的に重大な医学的状態(例えば、後天性または自然免疫系障害の任意の病歴)。
13.ヒドララジン、プロカインアミド、キニジン、イソニアジド、TNF阻害薬、ミノサイクリンのスクリーニング直前12か月以内の使用。
14.安定用量の場合を除く、スクリーニング前の少なくとも3か月間のジルチアゼムの使用。
15.コロンビア自殺重症度評価尺度を使用して、対象が自殺念慮質問4もしくは5に「はい」と回答するかまたは過去12か月以内の自殺行動に「はい」と回答することとして定義される、顕しい自殺のリスク。
16.ADと関連があると考えられるもの以外の併発している精神または神経性障害(例えば、意識喪失を伴う頭部損傷、症候性脳卒中、パーキンソン病、重度の頸動脈閉塞性疾患、TIA)。
17.コントロール不良のてんかん発作の病歴または存在。てんかん発作の病歴の場合、てんかん発作は、発作の発生がスクリーニング前の2年以内に存在しないように良好にコントロールされていなければならない。抗てんかん薬の使用は、スクリーニング前の少なくとも3か月間安定用量である場合に容認される。
18.スクリーニング前過去10年以内の髄膜脳炎の病歴。
19.出血性および/または非出血性脳卒中の病歴を有する対象。
20.末梢神経障害の存在または病歴。
21.CNS関与の可能性を有する炎症性神経障害の病歴。
22.対象の症状を引き起こし得るADと矛盾する代替病態の構造的証拠を示すスクリーニングMRI走査。1cm未満の直径の良性髄膜腫、3つ以上のラクナ梗塞もしくは直径1cm超のただ1つの梗塞、または脳表ヘモジデリン沈着症の任意の単一の領域以外の空間占有性病変の証拠、あるいは10mm以上の以前の大出血の証拠。T2MRIにおける微小出血は、部位にかかわらず最大で10まで認められる。
23.MRI検査を、MRI研究が禁忌である金属インプラントおよび/または重度の閉所恐怖症を含むがこれらに限定されない何らかの理由のために行うことができない。
24.顕著な聴力もしくは視力障害、またはプロトコルに従うことおよびアウトカム測定を実施することを妨げることに関連すると研究者によって判断される他の問題。
25.スクリーニング前3か月以内の臨床的に有意な感染症または大きな外科手術。研究への参加中に行われることが予想される計画された外科処置は、スクリーニング時に医療監視者によって検討および承認されなければならない。
26.インフルエンザワクチンを含む、スクリーニング前の過去2週間以内に投与された任意のワクチン。
27.スクリーニング時のECGにおける臨床的に有意な不整脈または他の臨床的に有意な異常。
28.ベースライン前1年以内の心筋梗塞、不安定狭心症、または重大な冠動脈疾患。
29.過去5年以内の、処置された扁平上皮癌腫、基底細胞癌腫、および表皮内黒色腫、または完全に除去され、治療されたと考えられる非浸潤性前立腺癌もしくは非浸潤性乳癌以外の癌の病歴。
30.研究者の見解における、血液学的パラメータ、肝機能検査、および他の生化学的検査値に関する、臨床的に重大と判断される正常値からの臨床的に重大な逸脱。
31.スクリーニング時の血液検査によって妊娠が確認された者か、または妊娠を計画しているかもしくは授乳中の対象。
32.毎日100mgまたはそれ未満の用量のアスピリンを除く任意の抗凝固薬または抗血小板薬を受けている者(予定されているかまたは予定されていない腰椎穿刺中の出血のリスクを避けるため)。
33.不眠症の処置のための安定低用量の場合を除く、抗精神病薬を受けている者。
34.スクリーニング前30日間に血液もしくは血液製剤を提供したか、または研究に参加している間に血液を提供することを計画している者。
35.スクリーニング時の活動性梅毒と矛盾しない陽性の性病研究所(Venereal Disease Research Laboratory)(VDRL)値。
36.スクリーニング時の陽性のHIV検査。
37.スクリーニング時に活動性B型および/またはC型肝炎の臨床検査的または臨床的証拠。
38.正常の上限の1.5倍超の血清クレアチニン、異常な甲状腺機能検査結果、または血清B12もしくは葉酸レベルの臨床的に重大な低下(注:甲状腺補充剤、B12または葉酸の全ての経口用量は、スクリーニング前の少なくとも3か月間安定でなければならない)。
【0162】
研究評価項目
安全性および忍容性に関する以下の主要評価項目を評価する:有害事象、即時および遅発反応原性(例えば、アナフィラキシー、免疫複合体疾患を含む局所および全身性反応原性);自殺念慮(C-SSRS);行動(NPI);安全性を評価するための認知および機能評価(RBANS、CDR-SB);バイタルサイン;MRI画像診断;心電図;血液および尿における慣例的な血液学および生化学評価;血液における抗dsDNA抗体を含む自己免疫抗体の評価;血中およびCSF中の炎症性マーカー。
【0163】
免疫応答(すなわち、免疫原性)に関する以下の主要評価項目も評価する:血清中の抗pタウIgG力価(幾何平均、ベースラインからの変化、応答者率、ピークおよび曲線下面積)。
【0164】
免疫応答(すなわち、免疫原性)に関する以下の副次的評価項目を評価する:血清中の抗タウ IgG、抗pタウ、抗ePHF IgGおよび抗タウ IgM力価(幾何平均、ベースラインからの変化、応答者率、ピークおよび曲線下面積)、アビディティ検査によるIgG応答プロファイルの決定。
【0165】
以下の探索的評価項目を評価する:血中および/またはCSF中の推定的ADバイオマーカーの力価のベースラインからの変化(例えば、総タウ、pタウ)、血中の測定されたT細胞活性化レベルのベースラインからの変化、血中の炎症性サイトカイン力価のベースラインからの変化、血中の抗体価のベースラインからの変化、行動(NPI)、認知的および機能的活動(RBANS、CDR-SB)スコアのベースラインからの変化。
【0166】
結果/結論:
以下の主要評価項目を評価した/評価する:
・安全性および忍容性-有害事象、即時および遅延型反応原性(例えばアナフィラキシー、疼痛、発赤、免疫複合体疾患、腫脹、発熱を含む局所および全身性反応原性);忍容性の総合評価;自殺念慮(C-SSRS);行動(NPI);安全性を評価するための認知および機能評価(RBANS、CDR-SB);バイタルサイン;MRI画像診断;心電図;血液および尿における慣例的な血液学および生化学評価;血液における抗DNA抗体を含む自己免疫抗体の評価;血中およびCSF中の炎症性マーカー。
・免疫応答-血清中の抗pタウIgG力価(幾何平均、ベースラインからの変化、応答者率、ピーク、および曲線下面積)。
【0167】
以下の副次的評価項目を評価した/評価する:
・免疫応答:血清中の抗タウIgG、抗pタウ、抗ePHF IgGおよび抗タウIgM力価(幾何平均、ベースラインからの変化、応答者率、ピークおよび曲線下面積)、アビディティ検査によるIgG応答プロファイルの決定。
【0168】
以下の探索的評価項目を評価した/評価する:
・血中および/またはCSF中のバイオマーカー力価のベースラインからの変化(例えば総タウおよびpタウタンパク質)、血中のT細胞活性化レベルのベースラインからの変化、血中の炎症性サイトカイン(例えば、IL-1B、IL-2、IL-6、IL-8、IL-10、IFN-γ、およびTNF-α)力価のベースラインからの変化、自殺念慮(C-SSRS)、行動(NPI)、認知的および機能的活動(RBANS、CDR-SB)スコアのベースラインからの変化。
【0169】
研究は進行中である。現在までのところ、1つのサブコホートは、表3におけるように、15μgのコンジュゲートの投薬量レベルでのJACI-35.054(「15μg用量」)、およびプラセボ(リン酸緩衝生理食塩液(PBS))を受けた。サブコホート2.2における研究対象は、60μgのコンジュゲートの投薬量レベルでのJACI-35.054(「60μg用量」を投与されている。
【0170】
【表3】
【0171】
15μg用量について74週目(4回目の注射の2週間後)まで、および60μg用量について26週目(3回目の注射の2週間後)までの中間結果から、JACI-35.054は安全かつ忍容性良好であることが示されており、研究ワクチンに関連する臨床的に関連のある安全性上の懸念は観察されなかった。ベースラインに比しての抗pタウ特異的IgG力価の増加が、10週目のJACI-35.054の15μg用量での2回目の投与の後に全て応答者であり、後の24、26、36、48、50、67および74週目でもそうであった、実薬で処置された対象の血清において観察された。ベースラインに比しての抗pタウ特異的IgG力価の増加は、10週目のJACI-35.054の60μg用量での2回目の投与の後に同じく全て応答者であり、後の15、20、24および26週目でもそうであった、実薬で処置された対象の血清において観察された。抗タウ特異的IgG力価(配列番号4のアミノ酸配列を含む非ホスホペプチドタウペプチドに対する応答)の増加は、15μg用量で10、24、26、36、48、50、67および74週目に全て応答者であった実薬で処置された全ての研究対象、ならびに60μg用量で10、15、20、24および26週目に全て応答者であった実薬で処置された全ての研究対象においても観察された。実薬で処置された早期AD対象において病理的なpタウに対する抗ePHF IgG力価の増加が観察され、そのうちの83.3%は15μg用量で26、36および50週目に応答者であり、60μg用量ではそのうちの83.3%および100%がそれぞれ10および26週目に応答者であった。プラセボを受けた対象では抗体応答は観察されなかった。
【0172】
ヒトにおけるJACI-35.054の抗pタウIgG応答
表3のサブコホートにおいてJACI-35.054ワクチンによって誘導されたリン酸化タウペプチド(pタウ)を対象とする特異的IgG抗体応答を、MSDによって測定した。図1は、15μgおよび60μg用量のJACI-35.054、またはプラセボのいずれかを用いた免疫化の後の抗pタウIgG力価を示す。図1の結果によって示されるように、15μgまたは60μg用量のいずれかのJACI-35.054による免疫化は、配列番号2のアミノ酸配列を含むリン酸化タウペプチドのN末端に連結されたビオチンを含有する、配列番号19のアミノ酸配列を有するビオチン化リン酸化タウペプチドに対する強力な抗pタウIgG応答を誘導した。
【0173】
8週目、24週目および48週目の15μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目、26週目および50週目にそれぞれ測定した場合に、抗pタウIgG応答のブースティングをもたらす。同様に、8週目および24週目の60μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目および26週目にそれぞれ測定した場合に、抗pタウIgG応答のブースティングをもたらす。
【0174】
表4は、15μg用量、60μg用量のJACI-35.054、またはプラセボのいずれかを用いた免疫化の後の抗pタウIgG応答者率(ITT集団)を示す。
【0175】
【表4】
【0176】
表4における結果によって示されるように、15μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された対象のうちの50%が2週目に応答者であり、66.7%が8週目に応答者であった。15μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された全ての対象が、10週目から74週目まで応答者であった。表4における結果によって示されるように、60μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された対象のうちの66.7%が2週目で応答者であり、83.3%が8週目で応答者であった。60μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された全ての対象が、10週目から少なくとも26週目まで応答者であった。プラセボを用いて処置された対象で、抗pタウIgG応答が生じた者はなかった。
【0177】
ヒトにおけるJACI-35.054の抗タウIgG応答
表3のサブコホートにおいてJACI-35.054ワクチンによって誘導された非リン酸化タウペプチドを対象とする特異的IgG抗体応答を、MSDによって測定した。図2は、15μgもしくは60μgの用量のJACI-35.054、またはプラセボのいずれかを用いた免疫化の後の抗タウIgG力価を示す。図2の結果によって示されるように、15μgまたは60μgの用量のいずれかでのJACI-35.054を用いた免疫化は、配列番号4のアミノ酸配列を含む非リン酸化タウペプチドのN末端に連結されたビオチンを含有する、配列番号20のアミノ酸配列を有するビオチン化非pタウペプチドに対するIgG抗体応答を誘導した。したがって、15μgまたは60μg用量でのJACI-35.054を用いた免疫化は、配列番号2のアミノ酸配列を有するpタウペプチドに加えて、配列番号4のアミノ酸配列を有する非pタウペプチドも認識するIgG抗体応答を誘導した。
【0178】
8週目、24週目および48週目の15μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目、26週目および50週目にそれぞれ測定した場合に、抗タウIgG応答のブースティングをもたらした。8週目および24週目の60μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目および26週目にそれぞれ測定した場合に、抗タウIgG応答のブースティングをもたらした。
【0179】
表5は、15μgもしくは60μgの用量でのJACI-35.054またはプラセボのいずれかによる免疫化の後の抗タウIgG応答者率(ITT集団)を示す。表5における結果によって示されるように、15μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された対象のうちの66.7%が2週目で応答者であり、83.3%が8週目で応答者であった。15μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された全ての対象が、10週目から74週目まで応答者であった。60μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された対象のうちの66.7%が、2週目および8週目に応答者であった。60μg用量レベルでJACI-35.054を用いて処置された全ての対象が、10週目から少なくとも26週目まで応答者であった。プラセボを用いて処置された対象で、抗タウIgG応答を生じた者はなかった。
【0180】
【表5】
【0181】
ヒトAD脳に由来する病理的なpタウ(濃縮対らせん状細線維-ePHF)の認識
表3のサブコホートにおいてJACI-35.054を用いた免疫化によって誘導されたIgGポリクローナル抗体が、ヒトAD脳に由来するePHFに結合する能力を、MSDによって経時的に測定した。図3は、15μgもしくは60μg用量のJACI-35.054またはプラセボのいずれかを用いた免疫化の後の抗ePHF IgG力価(ITT集団)を示す。図3の結果から、15μgまたは60μg用量でJACI-35.054を用いた免疫化が、ヒトAD脳に由来する病理的なePHFタウを認識するIgG抗体応答を誘導することが示された。
【0182】
8週目、24週目および48週目の15μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目、26週目および50週目にそれぞれ測定した場合に、抗ePHF IgG応答のブースティングをもたらした。同様に、8週目および24週目の60μg用量レベルでの免疫化は、2週間後の10週目および26週目にそれぞれ測定した場合に、抗ePHF IgG応答のブースティングをもたらした。
【0183】
表6は、15μgもしくは60μg用量レベルでのJACI-35.054またはプラセボのいずれかを用いた免疫化の後の抗ePHF IgG応答者率(ITT集団)を示す。15μg用量でJACI-35.054を用いて処置された6名の対象における抗ePHF IgGの応答者率は、2週目(すなわち、1回目の注射の2週間後)の0%から26週目(すなわち、3回目の注射の2週間後)には83.3%に増加し、その後の応答者率は66.7%(48、67および74週目)から83.3%(36週目および50週目)の間であった。60μg用量でJACI-35.054を用いて処置された6名の対象における抗ePHF IgGの応答者率は、2週目の16.7%(すなわち、1回目の注射の2週間後)から26週目(すなわち、3回目の注射の2週間後)には100%に増加した。
【0184】
【表6】
【0185】
本明細書に記載された実施例および実施形態は例示のみを目的としていること、ならびにその広範な発明概念から逸脱することなく上記の実施形態に変更を加え得ることが理解される。したがって、本発明は開示されている特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲内にある変更をカバー範囲に含むことを意図していることが理解される。
【0186】
[実施例5]
JACI-35.054を用いたワクチン接種は、エピトープ認識において高度の不均一性を有する抗体を誘導する
病理的なpタウに対する幅広さおよび選択性について抗体応答をさらにプロファイリングするために、短いpタウおよび非pタウアミノ酸配列を有するヒト対象の血清に対してエピトープマッピングを実施した。ヒト対象においてJACI-35.054によって誘導される抗体のエピトープ認識プロファイルを決定するための研究を行った。8名のAD患者に対して、0、8、24、および48週目に1用量当たり15ugのJACI-35.054またはプラセボを用いて筋肉内免疫化を行った。抗体のエピトープ認識プロファイルを、第1の免疫化の前(V1、0週目)および第3の免疫化の後(V6、26週目)に、1アミノ酸のシフトを有し、ホスホ-タウペプチドT3.30(配列番号19)の全配列ならびにタウペプチドT3.56(配列番号20)の配列をカバーするN末端ビオチン化8-merペプチドのライブラリーを使用するエピトープマッピングELISAによって決定した。加えて、全長ホスホタウペプチドT3.30(配列番号19)およびタウペプチドT3.56(配列番号20)、ならびにホスホタウペプチドT3.85(配列番号21)およびタウペプチドT3.86(配列番号22)(追加のC末端アミノ酸を有する)への抗体の結合も決定した。
【0187】
データは、各ペプチドおよび各患者について、処理前のものを減算した光学密度(O.D.)値(初回免疫化の前に得られたO.D.(V1:0週目)を第3の免疫化の後に得られたO.D.(V6、26週目)から減算したもの)として表される。減算後の負の値は0.000に設定した。
【0188】
表7、表8および図4は、ホスホペプチドT3.30(配列番号19)および非ホスホペプチドT3.56(配列番号20)をカバー範囲とする短い8-mer重複ペプチド上のエピトープマッピングELISAによって決定された、JACI-35.054を用いたワクチン接種によって誘導された抗体のエピトープ認識プロファイルを示す。
【0189】
【表7】
【0190】
表7および図4Aは、2名のAD患者がホスホタウペプチドT3.30(配列番号19)およびT3.85(配列番号21)の配列に対するIgG抗体を産生しなかったことを示す(患者#1および#2)。6名のAD患者は、ホスホタウペプチドT3.30(配列番号19)およびT3.85(配列番号21)の配列に対するIgG抗体を生じ、少なくとも4名のAD患者ではホスホタウペプチドT3.85(配列番号21)の配列に対する結合が全体的に低かった。8-merペプチドで得られたO.D.値は、6名の全てのAD患者において、3回の免疫化の後に誘導されたIgG抗体が、ホスホタウペプチドT3.30(配列番号19)の配列のC末端部分に結合したことを示す。加えて、4名のAD患者において、ホスホタウペプチドT3.30(配列番号19)の配列のN末端部分へのある程度の結合が見出された。
【0191】
【表8】
【0192】
表8および図4Bは、2名のAD患者が、タウペプチドT3.56(配列番号20)およびT3.86(配列番号22)の配列に対するIgG抗体を産生しなかったことを示す(患者#1および#2)。6名のAD患者は、タウペプチドT3.56(配列番号20)およびT3.86(配列番号22)の配列に対するIgG抗体を生じ、タウペプチドT3.86(配列番号22)の配列への結合は全体的に低かった。8-merペプチドで得られたO.D.値は、6名の全てのAD患者において、3回の免疫化の後に誘導されたIgG抗体が、タウペプチドT3.56(配列番号20)の配列のC末端部分に結合したことを示す。加えて、3名のAD患者において、タウペプチドタウ393~400およびタウ396~403への結合が見出された。
【0193】
結果は、JACI-35.054を用いてワクチン接種された対象が、タウ抗原配列のC末端部分の強い認識を有し、リン酸化タウおよび非リン酸化タウペプチドに類似の様式で抗体が結合する抗体応答を実証したことを示す。
【0194】
参考文献
【0195】
【表9】
【0196】
配列表
【0197】
【化13-1】
【0198】
【化13-2】
【0199】
【化13-3】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
【配列表】
2024538615000001.xml
【国際調査報告】