(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】液滴蒸発により増強される核酸ハイブリダイゼーションカスケード
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6818 20180101AFI20241016BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241016BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12Q1/6818 Z ZNA
G01N33/53 M
G01N33/569 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519940
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 US2022076449
(87)【国際公開番号】W WO2023059973
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】508144129
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ロチェスター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ミラー, ベンジャミン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ビアード, ジェフリー ダブリュ.
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR39
4B063QR56
4B063QS34
(57)【要約】
本開示は、核酸配列の検出のための新規方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験試料中の標的核酸を検出する方法であって、
反応液滴を形成するために前記試験試料及び検出溶液を基質上に堆積した反応領域を有する基質を提供することであって、前記検出溶液が、前記標的核酸の鎖と相補的である配列を有する検出剤を含む、提供することと、
前記反応液滴をその蒸発を可能にする条件下でインキュベートすることと、
前記反応液滴中の前記標的核酸及び前記配列のハイブリダイゼーション複合体を検出することと、を含み、
これにより、前記ハイブリダイゼーション複合体の存在が、前記試験試料中の前記標的核酸の存在を示す、方法。
【請求項2】
前記提供するステップが、
前記試験試料を含む試料液滴を前記反応領域上に配置することと、
基質上の前記反応領域又は前記試験試料を前記検出溶液と接触させることと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触させるステップの前に、前記反応領域上の前記試料液滴を乾燥させることを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応領域が、親水性であり、疎水性領域によって囲まれている、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応領域又は前記基質が、不透過性境界によって囲まれる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応領域又は前記基質が、ガラス、プラスチック、金属、シリコン、及び紙からなる群から選択される材料を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基質が、前記反応領域として機能する円形の頂部を有する柱状又は台座状の構造を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記円形の頂部が、約0.5μm~4mmの直径を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応液滴又は前記試料液滴が、約1~25μlである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記検出溶液が、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)混合物を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記検出溶液が、約15~約800mM濃度のNaイオン及びKイオンの任意の組み合わせを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記検出溶液が、約0.1~約5.0×SSC、約1~約15mM Mg2+、PBS、TBS、界面活性剤、グリセロール、及びスクロースのうちの1つ以上を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記条件が、
約5%~約95%の湿度、
約10~約50℃の温度、及び/又は
約10~約300分の持続時間を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記標的核酸が、DNA又はRNAである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記標的核酸が、病原体の核酸である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記病原体が、ウイルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルスが、HIV、デング熱、SARS-CoV-2、又はエボラである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記試験試料が、血液試料、喀痰試料、尿試料、尿スワブ試料、又は唾液試料を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の基質及び検出溶液を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月8日に出願された米国仮出願第63/253,722号に対する優先権を主張する。本出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の利益
本発明は、米国国立衛生研究所による資金再配分第60058448号から主要な第U54 EB027049号の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、核酸系検出などの分子生物学及び診断の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
核酸系検出方法は、特定の核酸配列を検出し、それによって、生物の特定の種若しくは亜種(例えば、病原体)、又は細胞の生理学的/病理学的状態(例えば、がん性細胞)を検出及び特定するために使用される。がんスクリーニングから急性ウイルス感染の診断まで、核酸配列の感度的かつ正確な検出が重要な役割を果たす。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びループ媒介等温増幅(LAMP)などの核酸検出のために最も広く使用されるアッセイは、ポイントオブケア(POC)用途において維持が困難である環境に敏感で高価な酵素に依存する。DNAヘアピンアセンブリに基づくものなどの酵素を含まない核酸増幅戦略は、単一の核酸標的からのシグナルを有意に増幅する能力のために、生物学的センサにおいてますます魅力的になっている。しかしながら、酵素系核増幅アッセイは、DNAヘアピンアセンブリよりも依然としてはるかに高感度である。DNAヘアピンコポリマーアセンブリの感度を向上させる試みには、DNAザイム1、ヌクレアーゼ2、酵素媒介核酸増強3、及び金ナノ粒子4、5の組み込みが含まれる。しかしながら、これらのアプローチの各々は、反応に追加の要素を追加することを必要とし、アッセイワークフロー、アッセイコスト、及びより長い反応時間の全体的な複雑さを増加させる。したがって、迅速かつ単純でより費用対効果の高い診断の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、いくつかの態様において上記の必要性に対処する。
【0006】
一態様では、本開示は、試験試料中の標的核酸を検出するための方法を提供する。方法は、(i)反応液滴を形成するために試験試料及び検出溶液を基質上に堆積した反応領域を有する基質を提供することであって、当該検出溶液が、標的核酸の鎖と相補的である配列を有する検出剤を含む、提供することと、(ii)反応液滴をその蒸発を可能にする条件下でインキュベートすることと、(iii)反応液滴中の標的核酸及び配列のハイブリダイゼーション複合体を検出することと、を含む。ハイブリダイゼーション複合体の存在は、試験試料中の標的核酸の存在を示す。
【0007】
上記の方法では、提供するステップは、(a)試験試料を含む試料液滴を反応領域上に配置することと、(b)基質上の反応領域又は試験試料を検出溶液と接触させることと、を含み得る。方法は、接触させるステップの前に、反応領域上の試料液滴を乾燥させること(例えば、乾燥チャンバ内で)を更に含み得る。
【0008】
上記の方法では、反応領域は、親水性又は疎水性であり得る。それは疎水性領域によって囲まれ得る。一実施形態では、反応領域又は基質は、不透過性境界によって囲まれ得る。反応領域又は基質は、ガラス、プラスチック、金属、シリコン、及び紙からなる群から選択される材料を含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、反応領域として機能する円形の頂部を有する柱状又は台座状の構造を含む。円形の頂部は、約0.5μm~約4mm(例えば、約1μm~約3mm、約100μm~約2mm、又は約500μm~約1mm)の直径を有し得る。
【0009】
上記の方法では、反応液滴又は試料液滴は、約1~25μl(例えば、約2~20μl、約3~15μl、又は約4~10μl)であり得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、検出溶液は、以下の詳細に記載されるハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)混合物を含み得る。
【0011】
検出溶液は、約15mM~約800mM(例えば、約20mM~500mM又は約50mM~200mM)濃度のNa+及びK+イオンの任意の組み合わせを含み得る。検出溶液は、約0.1×~約5.0×SSC(例えば、約0.1×~約2×、約0.2×~1.0×、又は約0.25×~0.5×)、約1mM~約80mM、例えば、1mM~約15mM(例えば、約2mM~15mM、約5mM~10mM)、Mg2+又はZn2+、PBS、TBS、界面活性剤、グリセロール、及びスクロースのうちの1つ以上を含み得る。
【0012】
上記の条件は、約5%~約95%(例えば、約10%~約80%、約20%~約50%、又は約30%~約40%)の湿度、約10℃~約50℃(例えば、約15℃~約45℃、約20℃~約40℃、又は約30℃~約40℃)の温度、及び約10~約300分(例えば、約30~約240分、約60~約180分、又は約90~約120分)の持続時間のうちの1つ以上を含み得る。
【0013】
標的核酸は、DNA又はRNAであり得る。一実施形態では、標的核酸は、ウイルス、例えば、HIV、デング熱、SARS-CoV-2、又はエボラなどの病原体の核酸である。ウイルスの非限定的な例は、ノーウォーク、ロタウイルス、ポリオウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病、インフルエンザ、黄熱ウイルス、コロナウイルス、SARS、SARS-CoV-2、西ナイルウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)及びE型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、トガ(例えば風疹)、Rhabdo(例えば狂犬病及びVSV)、ピコルナ(ポリオ及びライノウイルス)、ミクソ(例えばインフルエンザ)、レトロ(例えばHIV、HTLV)、ブンヤ、コロナ、並びにD型肝炎ウイルス及び植物RNAウイルスのようなウイロイド様ウイルスと、Tobusウイルス、ルテオウイルス、トバモウイルス、ポテクスウイルス、トブラウイルス、コモウイルス、ネポウイルス、アルモウイルス、ククモウイルス、ブロモウイルス、及びイラルウイルスなどのウイロイドとを含む、ヒトの健康に重大な影響を及ぼすレオウイルスを含む。上記の試験試料は、血液試料、喀痰試料、尿試料、尿スワブ試料、又は唾液試料を含み得る。
【0014】
別の態様において、本開示は、上記の基質及び検出溶液のうちの1つ以上を含むキットを更に提供する。キットは、標的配列と相補的である配列を有する1つ以上のプローブを更に含み得る。一実施形態では、キットは、本明細書に記載されるHCR反応混合物を含む。
【0015】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】標的トリガー配列又はイニシエータ配列の蛍光検出のためのフォースター共鳴エネルギー移動(FRET)を使用するハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)の概略図を示す図である。H1は、イニシエータ配列と相補的な領域を有し、それがその二次構造から展開し、イニシエータとハイブリダイズすることを生じさせ、相補的な配列をH2に曝露する。H2はH1とハイブリダイズし、H1と相補的な配列を曝露することにより、カスケードを継続する。H2アクセプターフルオロフォアの強度は、H1/H2 HCR産物の長さに依存する。反応物は、固着性液滴(底部)中でインキュベートすることができる。
【
図2A-2B】キュベット中で室温で2.5時間インキュベートした(
図2A)、及び乾燥するまで(周囲条件で約1.5時間)5μLの固着性液滴中で(
図2B)インキュベートした、様々なトリガー濃度でのHCR産物を示すアガロースゲルの写真である。
【
図3A-3C】3μLのHCR混合液滴を含むカスタム3Dプリントされた固着性液滴台座状体を示す写真(
図3A)、乾燥HCR-FRET固着性液滴の0nM(
図3B)及び1nM(
図3C)トリガー濃度の蛍光顕微鏡画像である。
【
図4】10mM MgCl
2を含む0.25×SSC緩衝液を使用した固着性液滴増強HCR(S)とキュベットでインキュベートしたHCR(L)との直接的な比較を示す写真である。トリガー濃度は、100nMのトリガーから0nMのトリガーに左から右に減少する。
【
図5】10mM MgCl
2を含む0.25×SSC緩衝液を使用して、0nMトリガー濃度及び100nMトリガー濃度で液体キュベットでインキュベートしたHCR及び固着性増強HCRの相対的なFRET強度を示す図である。
【
図6】様々な濃度のナトリウム及びマグネシウムを含む緩衝液中でインキュベートした固着性液滴増強ハイブリダイゼーション連鎖反応を示す写真である。各ボックスは、0pM及び500pMのトリガー濃度とそれらに対応する緩衝液との間のHCR産物の比較を示す。
【
図7A-7B】固着性液滴実験デバイス及びセットアップの例を示す写真である。
図7Aは、乾燥剤で囲まれた1.5mmの直径の台座状体を含む3つのPDMSリングを示す。窓付きの蓋が、蒸発を制御するために台座状体を覆って置かれている。
図7Bは、台座状体上の懸濁された6つのHCR固着性液滴を含む1つのリングの拡大画像を示す。
【
図8A】従来のキュベットでのインキュベーションと比較した場合の、固着性液滴インキュベーションを介したHCRの向上されたハイブリダイゼーションを示すアガロースゲルの一連の写真である。
【
図8B-8C】固着性液滴及びキュベットの両方でインキュベートした場合の、合成プロウイルスDNA標的(
図8B)及び合成ウイルスRNA標的(
図8C)からのHCR産物の正規化されたFRET強度を示す分光蛍光光度計データを示す。
【
図9】湿潤条件(W)及び乾燥条件(D)の2つの異なる条件で合成DNAトリガーに対してインキュベートされたHCRを示すアガロースゲルを示す。
【
図10A】合成DNAトリガー配列中に0、1、及び2個のミスマッチを有するHCR固着性液滴インキュベーションを示す。
【
図10B】合成トリガーDNA及びサケDNAの合成トリガーDNAに対する5:1の質量比を有する固着性液滴中でインキュベートされたHCRの蛍光FRET結果を示し、オフターゲットハイブリダイゼーションに対する高い耐性を示す。
【
図11A】異なるイオン濃度の緩衝液中でインキュベートした場合の固着性液滴HCR産物のFRET強度を示す。
【
図11B】異なるナトリウム濃度でのH1ヘアピンの実験的融解温度を示す。
【
図12A】親水性材料上に固着性液滴が形成されることを可能にするために切断され、PDMS台座状体と接着された1.5mmの直径のパッドを示す。標的核酸は、紙ディスク上で乾燥させた。
【
図12B】5μLのHCR溶液(H1及びH2)を固着性液滴として各台座状体に適用し、完全に乾燥させたことを示す。
【
図12C】次いで乾燥させた紙を、FRETキューブを備えた蛍光顕微鏡を使用して画像化したことを示す。画像強度は、ImageJを使用して解析した。p値は、JMP Pro 16の両側のスチューデントt検定を使用して計算した。
【
図12D-12E】合成HIV RNA(
図12D)及びプロウイルスDNA(
図12E)をフィルタ紙(Fusion5、Cytiva)上で直接的に検出する固着性液滴HCR FRET強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、核酸系検出方法、デバイス、及びシステムなどの分子生物学並びに診断に関する。本明細書に記載の診断方法は、実行が簡単であり、計装又は高価な酵素を必要とせず、製造が安価であり、様々な環境条件で安定しており、熟練していないエンドユーザーによって容易に解釈することができる。ほとんどの従来の核酸検出試験は、熱貯蔵条件に対する極端な感度及び低い標的濃度での性能の低下に悩まされているため、本明細書に記載の方法、デバイス、及びシステムは、従来のアプローチよりもかなりの利点を有し、特に世界中の非工業化地域の迅速診断として、ポイントオブケア(POC)用途に好適である。
【0018】
本開示の特定の態様は、少なくとも一部が、核酸構造のハイブリダイゼーションの効率が、大気条件に曝露され、及び/又は蒸発させることが可能である、固着性液滴と称される溶液の低体積液滴(例えば、ピコリットルからマイクロリットル)中で反応を行うことによって増強させることができるという予期しない発見に基づいている。本明細書に記載の固着性液滴は、分子相互作用を増強することを可能にする内部電流及び蒸発時の体積を減少させる利点を提供する。マランゴニ効果(すなわち、液滴全体の熱力学的分散によって生成される蒸発誘発電流)は、固着性液滴中に自己混合環境を作り出し、そうでなければ拡散制限反応で分子相互作用を増加させると考えられている。7、8
【0019】
固着性液滴は、二分子相互作用を増強するために使用されてきたが、HCRなどの複雑なアセンブリプロセスには使用されなかった。例えば、固着性液滴の使用は、酵素駆動比色アッセイの関連で反応速度を増加させ、全体的な反応時間を減少させることが証明されている。6しかしながら、これまでのところ、これは2つの分子間の単純な相互作用に限定されている。本開示に開示される方法、デバイス、及びシステムは、固着性液滴蒸発の利点を利用して、核酸ナノ構造のコポリマーハイブリダイゼーションを増加させ、それによって酵素を含まない核酸検出の能力を向上する。
【0020】
基質及びデバイス
本明細書に記載される検出方法は、基質上に存在する固着性液滴中で核酸ハイブリダイゼーション反応を行うことを伴う。液滴を大気条件に曝露し、蒸発させる。
【0021】
蒸発を利用することで、検出標的の濃縮が可能になり、反応時間が大幅に短縮され、検出感度が増強する。加えて、蒸発時にマランゴニ電流から生じる自然な対流が液滴中の溶液を混合し、これは、アッセイ反応を高速化し、アッセイ時間を短縮し、検出限界を増加させる。蒸発速度の差により、固着性液滴中での動きが生じる。液滴の内容物(例えば、塩)、及び蒸発に影響を与える様々な環境要因(例えば、温度差)に応じて、蒸発は、一次放射状流又はマランゴニ流を生成し得る。これらの制御因子を変更して一方又は他方を生成することは、滴堆積に依存する低供給源アッセイにおける主要な設計上の考慮事項である。したがって、基質材料及び溶液成分を含む設計パラメータは、マランゴニ流を促進するように最適化され得る。設計上の考慮事項に応じて、この流れのパターンは、軸対称であり、空気液体界面に沿って半径方向外向きであり、基質に沿って半径方向内向きであり、又は反対方向に向けることができる。
【0022】
マランゴニ流場が生じる表面張力勾配は、滴表面に沿った不均一な蒸発フラックスによって引き起こされる冷却効果から生じる温度勾配によって引き起こされると考えられている。周囲の不飽和ガスの近位な位置により、空気-液体の界面に沿った不均一な蒸発をもたらすため、滴の蒸発速度は接触ラインで最大である(Deegan et al.,Physical Review E,62,(1),756-765,2000.)。不均一な蒸発冷却効果が滴表面に沿った温度勾配をもたらす程度は、等温基質から空気-液体界面への熱伝達率によって部分的に決定される(Ristenpart et al.,Physical Review Letters,99,(23),2007)。これらの熱伝達率は、部分的には、滴の高さ並びに基質及び液体の熱伝導率の両方の関数である。
【0023】
基質の熱伝導率が十分に低い場合、蒸発冷却が支配的になり、接触ラインで最低温度を発生させる。逆に、高い熱伝導性基質は、接触ラインで十分な熱伝達を促進し、蒸発冷却効果を克服し、滴の縁で最高温度、中央で最低温度をもたらす。これらの温度勾配は、表面張力勾配を引き起こし、それがマランゴニ流を駆動する。基質が、例えば、空気-液体界面に沿って半径方向外向き、基質界面に沿って液滴の中央に半径方向内向きに流れる流体をもたらす液体の1.45倍未満の熱伝導率を有する場合、滴は接触ラインで最も冷却される(Ristenpart et al.,Physical Review Letters,99,(23),2007及び米国特許第10101323号)。すなわち、流体は、基質に沿って滴の中心に向かって流れ、次いで空気-液体界面に向かって向きを変え、滴表面に沿って接触ラインの方向に流れる。基質が、例えば、液体の2倍を超える熱伝導率を有する場合、流れ方向は逆転する。更に、これらのマランゴニ流場は、滴中央の周りで軸対称であり、滴の上から見た場合にトロイダル配位をもたらす。
【0024】
したがって、本明細書で使用することができる基質は、温度勾配が十分な表面張力勾配を引き起こすことができ、それがマランゴニ流を駆動するように、好適な熱伝導率を有する基質を含み得る。
【0025】
基質は、水又は水溶液に対して透過性又は不透過性であり得る。それは、核酸、又は核酸を含む試料組成物、又はハイブリダイゼーション反応のための溶液を受け入れるように適合された反応領域を有する。いくつかの実施形態では、この反応領域は、平坦であり、水又は水溶液に対して不透過性である。いくつかの他の実施形態では、十分な液体が透過性基質を飽和させ、その基質の表面上に固着性液滴を生成することができる限り、水又は水溶液に透過性の基質を使用することができる。その場合、初期の毛細管力は、一部の核酸(標的及びDNAプローブなど)材料を透過性基質に引き込むことができるが、直後に、液滴中の蒸発力(必ずしもマランゴニ力ではない)が理論的に基質から材料を引き出すことができる。Fusion5フィルタ紙の切片などの薄い透過性層は、固着性液滴を支持することができ、非多孔質、疎水性表面と同様の方法で蛍光顕微鏡を使用して画像化することができる。TFN(血液スポット輸送紙)などのより厚い透過性基質は、前述の条件下でも使用可能であり得、次いで、反応物は、透過性ドットから溶出され、任意の好適な方法(例えば、蛍光顕微鏡法、ゲル電気泳動など)を使用して分析され得る。
【0026】
基質は、実質的に、試料組成物又は核酸の必要な流体力学及び付着を提供する任意の種類の材料で作製されるか、又はそれでコーティングされ得る。そのような材料の例としては、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン)、ラテックス、金属、ポリマー、シリカ、金属酸化物、セラミックス、又は適切な熱伝導率及び接触角(疎水性)を有する核酸若しくは他の材料と結合するのに好適な他の任意の物質が含まれる。領域は、異なる溶媒及び検出方法の使用を容易にするために誘導体化され得る。高い熱伝導率及び/又は高い接触角(疎水性)を有する基質が望ましい。いくつかの実施形態では、液滴は、70°以上の接触角を形成することができる。
【0027】
例えば、核酸反応領域は、ガラス、プラスチック、金属、シリコン、紙、布、織物、又は不織セルロース基質から形成され得る。いくつかの実施形態では、反応領域は、市販のフィルタ紙(例えば、ワットマン紙、ニトロセルロース、又は繊維ガラス)などの紙で形成され得る。いくつかの実施形態では、反応領域は、核酸の付着を容易にするために官能化され得る。例えば、核酸受容領域は、例えばキトサン又はポリエチレンイミン(PEI)で正に帯電させられるように官能化され得る。本明細書で使用される用語「官能基化された」又は「化学的に官能基化された」とは、化学反応によって物質の表面に官能基を付加することを意味する。当業者には容易に理解されるように、官能基化は、生体適合性及び湿潤性などの望ましい表面特性を達成するために、物質の表面修飾のために採用され得る。
【0028】
基質又は基質上の反応領域は、様々な幾何学的形状及びサイズであり得る。例えば、基質又は反応領域は、円形、半円形、三角形、正方形、長方形、五角形、又は六角形の形状を有し得る。いくつかの実施形態では、基質又は反応領域は、円形の形状を有し、例えば、約0.5μm~約4mm(例えば、約1μm~約2mm、約2μm~約1mm、及び約5μm~約500μm)の直径を有し得る。いくつかの実施形態では、基質又は反応領域は、ハイスループットアッセイに好適なマイクロアレイの形態で提供される。
【0029】
基質又は反応領域に適用される流体試料の量は、所望の体積及びアッセイの操作性を提供するのに十分である限り変更されてもよい。いくつかの実施形態では、基質又は反応領域は、小さな体積、例えば、約1μL~約25μL(例えば、約2μL~約20μL、約3μL~約15μL、及び約10μL)の試料に適合される。
【0030】
上記の基質は、核酸などのバイオマーカー分子を濃縮及び検出するためのバイオセンサデバイスに含めることができる。デバイスは、基質及び任意選択的に、基質を保持する支持体、基質を取り囲む疎水性表面、又は基質を収容するチャンバなどの他の構成要素を含み得る。例えば、そのようなデバイスは、支持体、支持体上に配置された1つ以上の基質、基質上に配置された1つ以上の反応領域、基質を取り囲む疎水性表面を含み得る。
【0031】
デバイスはまた、標的バイオマーカー分子と検出剤との間の反応を制御するための全ての他の構成要素を収容するチャンバを含み得る。
図7Aに示されるのは、例示的なデバイスである。デバイスは、3つのPDMSリング形状の支持体のためのハウジングを含む。各支持体には、乾燥剤で囲まれた9つの台座状体(1.5mmの直径)がある。窓付きの蓋が、蒸発を制御するために台座状体を覆って置かれている。
図7Bは、台座状体上の懸濁された6つのHCR固着性液滴を含む1つのリングの拡大画像を示す。
【0032】
反応領域は、試験試料又は/及び検出溶液を受け取るように構成することができる。反応領域は、標的バイオマーカーの分子を検出するための1つ以上の検出剤(例えば、プローブ又は他の薬剤)を固定するように構造化することもできる。反応領域は、標的バイオマーカー分子を含むバイオマーカー溶液の液滴のアレイを引き付けるように構成することもできる。反応領域を取り囲む疎水性表面は、蒸発前と比較して標的バイオマーカー分子の濃度が増加した濃縮された液滴のアレイがもたらされる液滴のアレイの蒸発を増強することによって、標的バイオマーカー分子を反応領域に濃縮するための粗い表面を有するナノ構造を含み得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、基質は、不透過性境界によって囲まれた反応領域を含み得る。いくつかの実施形態では、反応領域は親水性であり得、疎水性領域によって囲まれ得る。例えば、基質は、マイクロ又はナノパターンの、疎水性又は超疎水性の、黒いシリコン表面に囲まれた親水性(例えば、SiO2、金属、誘電体、又は他の親水性材料)パターンを含み得る。
【0034】
超疎水性表面は、水溶液の液滴に対して90度又は150度をはるかに超える大きな接触角を生成することができる。黒いシリコン及びナノ構造化ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面の場合、水の液滴の接触角は150度を超えることができる。超疎水性表面を達成するための一実施形態では、デバイスは、Siウェハ上に作製された超疎水性の黒いシリコンで囲まれた親水性マイクロアイランドのアレイ又は親水性アイランドのマイクロアレイを含むことができる。黒いシリコンを形成するために、例示的なボッシュエッチングプロセスを、例えば、米国特許第2016/0258020号に記載される様式で反応性イオンエッチング装置に採用することができ、その開示は参照により組み込まれる。エッチングプロセスは、エッチング(SF6)及び不動態化(C4F8)の交互のサイクルを含み、ナノピラー構造を形成する。リソグラフィによって定義されたSiO2パターンによって保護された領域では、エッチング又は不動態化は起こらないため、親水性特性は黒いシリコンプロセスの後に保持される。
【0035】
超疎水性表面を達成するための別の実施形態では、デバイスは、例えば、米国特許第2016/0258020号に記載されるような様式で、3Dプリンティング又はナノインプリンティング又はホットエンボス加工を使用して形成された超疎水性PDMS領域によって囲まれた親水性領域、アイランド、台座状体、又は柱状体のアレイを含むことができ、これらの開示は参照により組み込まれる。
【0036】
核酸を含む試料は、迅速な蒸発、続いて自己アセンブリ化液滴(例えば、マイクロリットル、ナノリットル、又はそれ以下)の形成を介して、そのようなデバイス上で濃縮及びハイブリダイゼーションすることができる。液滴中で、ハイブリダイゼーション反応は、体積の減少に起因して迅速に完了に進み、ハイブリダイゼーション時間の加速をもたらす。更に、自己アセンブリ化液滴(例えば、マイクロリットル、ナノリットル、又はそれ以下)アレイによって提供される正確な体積制御は、濃縮率に対する幅広い制御を可能にし、より高い感度及び拡張されたダイナミックレンジをもたらす。
【0037】
核酸の検出
核酸を検出するための様々な方法が当該技術分野で公知であり、本明細書で使用され得る。いくつかの実施形態では、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)によって作製されたものなどの核酸コポリマーアセンブリを使用して、酵素又は熱サイクルを使用せずに標的核酸からのシグナルを有意に増幅することができ、ポイントオブケア診断に理想的である。大気条件に曝され、蒸発させる固着性液滴中で反応を実施することは、コポリマーハイブリダイゼーションの効率を更に高める。
【0038】
HCR
本明細書に記載されるのは、固着性液滴内にハイブリダイゼーションを形成することによって、余分なアッセイ試薬又は反応時間を追加することなく、核酸検出感度を増加させるためのハイブリダイゼーション動態を強化するための新規かつ迅速な方法である。いくつかの実施形態では、生体試料中の1つ以上の核酸の検出は、
図1に示すハイブリダイゼーション連鎖反応と呼ばれる核酸増幅の非酵素的方法に基づいて実施される。
【0039】
核酸増幅技術であるHCRは、天然に存在するDNA自己アセンブリを利用して、拡張されたノッチdsDNAアセンブリを形成する。HCRは酵素を必要とせず、等温で操作することができる。HCRの様々な形式が当該技術分野で既知であり、本明細書に記載される方法で使用され得る。例えば、Dirks,R.and Pierce,N.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(43):15275-15278(2004)、米国特許第8,105,778号及び同第8,507,204号、米国特許公開第2019/02186080号及び同第2018/0010166号を参照されたく、これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
HCRは、イニシエータ配列、及び2つ以上の戦略的に設計された準安定性ヘアピンモノマー(例えば、
図1に示すH1及びH2)を含み得、その二次構造は準安定性ヘアピンを形成する。ヘアピンモノマーは、各々、少なくとも1つの一本鎖トーホールド、一本鎖ループ、及び二本鎖ステムを有する。自己アセンブリカスケードを駆動するためのエネルギーは、ヘアピンの一本鎖ループ及びトーホールドセグメントに格納される。各モノマーは動態学的なトラップに巻き込まれ、システムが急速に平衡化するのを妨げる。すなわち、モノマーの対は、イニシエータの非在下で互いにハイブリダイゼーションすることができない。イニシエータ鎖の導入により、モノマーはハイブリダイゼーション事象の連鎖反応を受け、ニックの入った二本鎖ポリマーを形成する。HCRは、例えば、HCRイニシエータを担持するプローブで分析物を検出することによって試料中の目的の分析物の存在を検出するために使用することができ、これは次にHCRシグナル増幅をトリガーする。HCRシグナル増幅は、試料から生じるバックグラウンド上のシグナルをブーストすることにより、分子検出及び画像化用途のためのシグナル対バックグラウンド比を増加させることを可能にする。
【0041】
本明細書で使用される場合、「モノマー」は、個々の核酸オリゴマーである。典型的には、少なくとも2つのモノマーがハイブリダイゼーション鎖反応に使用されるが、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のモノマーが使用されてもよい。典型的には、各モノマーは、HCR反応に使用される少なくとも1つの他のモノマーと相補的である少なくとも1つの領域を含む。
【0042】
「イニシエータ」又は「トリガー」は、モノマーの重合を開始することができる分子である。例示的なイニシエータは、HCRモノマーのイニシエータ相補領域と相補的である核酸領域を含み得る。イニシエータは、以下でより詳細に論じられるように、例えば、対象の分析物、又は対象の分析物の存在下でのみ第1のモノマー(例えば、
図1のHI)と接触することができる核酸であり得る。例えば、イニシエータは、それ自体が検出される核酸(例えば、ウイルスRNA)であってもよい。
【0043】
図1に示すように、H1は、イニシエータ(トリガー)配列と相補的な領域を有し、それがその二次構造から展開し、イニシエータとハイブリダイズすることを生じさせ、相補的な配列をH2に曝露する。H2はH1とハイブリダイズし、H1と相補的な配列を曝露することにより、カスケードを継続する(
図1)。本明細書に記載されるFRET実験の場合、H1は、ドナーフルオロフォアとコンジュゲートすることができ、H2は、アクセプターフルオロフォアとコンジュゲートすることができる。H2アクセプターフルオロフォアの強度は、得られるH1-H2 HCR産物の長さに依存する。
【0044】
一例では、標的核酸の単一コピーは、イニシエータ配列として機能し、2種類のDNAヘアピンプローブ、H1及びH2を含むHCRプローブセットを含む反応溶液又は反応混合物と接触させる。接触すると、標的核酸/イニシエータ配列は、二本鎖形成を介して第1のH1 DNAヘアピンの開放をトリガーし、次に第1のH2 DNAヘアピンの開放をトリガーする。この開放されたH2は次いで、第2のH1の領域と結合し、この第2のH1を開放し、カスケードが継続する。各ヘアピンは、上で説明したように、その末端又は末端でドナーフルオロフォア又はアクセプターフルオロフォアで標識することができ、したがって、カスケードが進行するにつれて、各ヘアピンの結合及び開放がFRETを引き起こし、例えば、スマートフォンのカメラなどの画像化デバイスによる定量化のためのシグナルを増加させ、これにより、共鳴エネルギーがドナーフルオロフォアの電子からアクセプターフルオロフォアに伝達され、ドナーフルオロフォアAによって放出される光子よりも長い波長を有する光子として放出される。
【0045】
いくつかの実施形態では、反応混合物は、HCR混合物を含む。いくつかの実施形態では、反応溶液/混合物は、核酸の標的配列と相補的である配列を有する1つ以上のプローブ(例えば、HCRプローブセット)を含む。
【0046】
「HCRプローブセット」又は「HCRイニシエータ/ヘアピンセット」は、核酸ヘアピンなどの1つ以上の準安定性HCRモノマーとともに、ハイブリダイゼーション連鎖反応ポリマーを形成することが可能な、核酸の1つ以上のイニシエータ鎖を含んでもよい。HCRプローブは、Integrated DNA Technologies(IDT、Coralville,Iowa)、W.M.Keck Foundation Oligo Synthesis Resource(New Haven,Connecticut)、又はMolecular Instruments(Pasadena,California)などの商用の供給源を含む、化学的核酸合成などの標準的な方法を使用して、合成されてもよい。あるいは、HCRプローブは、PCRに続いて1つの鎖をラムダエキソヌクレアーゼ消化してssDNAを得る(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(2014):14-23を参照されたく、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、又はインビトロ転写に続いて逆転写してssDNAを得る(例えば、Chen et al.,Science 348:6233(2015):aaa6090を参照されたく、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)などの標準的な酵素法を使用して合成及び/又は増幅することもできる。
【0047】
一実施形態では、迅速な診断用途のための酵素を含まない核酸検出を増強するために、mRNA又はゲノムDNA若しくはRNAの配列などの標的核酸配列(「標的」)を、疎水性材料に囲まれた親水性環状パッド、若しくは環状ポストのいずれかで構成される反応帯に適用及び/又は捕捉する。蒸発により液滴体積が減少するため、反応帯に適用した後に標的が濃縮される。標的は、DNAヘアピン反応溶液/混合物の固着性液滴が適用される前に、反応帯上で乾燥されるか、又は大部分が乾燥される。反応溶液/混合物の蒸発は、同時に反応溶液/混合物の内部混合を引き起こし、液滴体積の減少により反応濃度を増加させる。より多くのH1及びH2ヘアピンが、蒸発プロセス中にハイブリダイゼーションすることができ、HCR産物を増加させ、その後アッセイのシグナル出力を増加させる。本明細書に記載の例の場合では、シグナル出力は、H1/H2 FRET対のアクセプターフルオロフォアの強度である。
【0048】
特定の実施形態では、液滴の蒸発プロセスは、疎水性又は超疎水性表面によって促進され得、得られた液滴(例えば、ナノリットル体積以下)は、参照により組み込まれる米国特許第2016/0258020号に記載されている様式で、水不混和性液体(例えば、油)滴によってカプセル化され、安定した反応チャンバ(例えば、ナノリットル又はマイクロリットル体積)を形成することができる。
【0049】
試験試料、反応溶液/混合物、又は両方の混合物は、例えば、スポイト、ピペット、シリンジなどを介して、任意の便利なプロトコルを使用して、反応領域又は部位に適用され得る。
【0050】
一実施例では、試験試料は、反応領域に適用される前に、反応溶液/混合物と混合される。別の例では、試験試料は、反応溶液/混合物を反応領域に適用するのと同時に、又はその前に、若しくはその後に、反応領域又は部位に適用され得る。
【0051】
加えて、反応溶液/混合物の試験試料は、適切な反応又はハイブリダイゼーション条件を提供するために、例えば、緩衝液などの任意の好適な液体とともに領域に適用され得る。好適な液体の例としては、緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。緩衝液の例としては、トリス、トリシン、SSC、MOPS、HEPES、PIPES、MES、PBS、及びTBSなどを含む。
【0052】
一例では、好適な液体は、反応領域に適用される前に、試験試料又は反応溶液/混合物と混合され得る。別の例では、好適な液体は、試料を適用するのと同時に、又はその前に、若しくはその後に、反応領域又は部位に適用され得る。
【0053】
この液滴形式におけるHCRの明確な利点を考慮すると、PCRの代替として、分子診断において広範な有用性を有する。一実施形態では、HCRのこの形式は、例えば、HIVなどの病原体についてのPOC又は家庭でのウイルス負荷モニタリングに使用することができる。世界的に重要なこととして、固着性液滴アッセイ形式は、コスト、環境条件、及びアッセイの複雑さが標準的な酵素系核酸増幅戦略を困難にする、サブサハラアフリカなどの資源が限られた環境において特定の有用性を有し得る。
【0054】
したがって、更に本開示において提供されるものは、ウイルスに感染した患者又はウイルス感染が疑われる患者を同定するための方法である。本方法は、(i)患者の試料(例えば血液試料)を得ることと、(ii)上に説明された方法によって、血液試料中のウイルス負荷のレベル(例えばHIV RNAのレベル)を決定することと、(iii)決定されたウイルス負荷のレベルを対照レベルと比較し、決定されたレベルが対照レベルと比較して上昇しているか否かを決定することと、(iv)決定されたウイルス負荷のレベルが対照レベルと比較して上昇している場合、患者をウイルス感染症であると決定することと、を含み得る。
【0055】
「患者」、「個体」、及び「対象」という用語は、相互に交換可能に使用され、一般的に、本明細書に記載される診断又はモニタリング方法を実行するために、開示される方法論が体液試料を得るために利用される、任意の生体を指す。患者は、ヒトなどの動物であり得る。患者はまた、飼育動物又は家畜であり得る。「患者」又は「個体」は、対象とも呼ばれ得る。
【0056】
明細書で使用される場合、病原体、例えば、ウイルス負荷の「対照」レベルとは、いくつかの実施形態では、例えば、HIV感染などのウイルス感染のような、調査において対象となる疾患又は障害に罹患していない1体以上の個体から得られた試料から得られた病原体のレベルを指す。このレベルは、個体単位毎に測定されてもよいし、又は平均値などのように集合毎に測定されてもよい。「対照」レベルはまた、疾患又は障害を有してはいるが、疾患又は障害の急性期を経験していない、個体の集団の分析によって決定されてもよい。かかる「対照」レベルを得るために、「対照」試料が使用され得る。対照試料は、調査における対象となる疾患又は障害に罹患していない1体以上の個体から得られ得る。対照試料はまた、疾患又は障害を有してはいるが、疾患又は障害の急性期を経験していない個体の集団から得られ得る。いくつかの実施形態では、対照レベルは、診断が求められている、又はその状態がモニタリングされている個体と同じ個体からのものであるが、異なる時間に得られたものである。特定の実施形態では、対照レベル又は試料は、同じ患者から、より早い時期に、例えば、数週間、数ヶ月、又は数年前に得られた、レベル又は試料を指し得る。
【0057】
本明細書で使用される「決定されたレベルが対照レベルと比較して上昇している」とは、対照レベルからの値の正の変化を指す。
【0058】
検出
本明細書に開示されるアッセイの重要な利点の1つは、精巧な機器又は訓練された人員を必要としない単純で安価な検出方法の使用である。しかしながら、アッセイはまた、本開示の範囲内である、そのようなより精巧な手順にも適用可能である。
【0059】
HCRの産物は、例えば、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、及びゲル充填キャピラリー電気泳動を含む、核酸の検出のための当業者に公知の方法によって容易に検出可能である。ポリマーは核酸を含むため、エチジウムブロマイドで染色するなどの標準的な技法によって可視化することができる。光散乱分光法、例えば、動的光散乱(DLS)、粘度測定、比色システム、質量分析、並びに蛍光及び蛍光偏光分光法などを含む他の方法も好適であり得る。より詳細に説明されるように、インサイチュ画像化及び検出のためのいくつかの方法では、HCR産物は蛍光標識される。
【0060】
可視検出は最も簡単な検出アプローチのうちの1つである。可視検出は、色(有又は無)、色の変化、発光、又は蛍光に依存し得る。本開示は、滴蒸発から生成される産物の外観、色、又は光が、最小限の指示(すなわち、指示及び図を伴う添付文書)内でのアッセイの家庭及び現場での使用を可能にする、容易に認識可能な特徴を提供することを企図する。
【0061】
いくつかの実施形態では、光学顕微鏡又は光学顕微鏡を使用することができる。光学顕微鏡又は光学顕微鏡は、試料の拡大視野を可能にするために、単一又は複数のレンズを通して試料を透過又は反射する可視光を通過させることを伴う。得られる画像は、眼で直接的に検出されるか、写真乾板上で画像化されるか、又はデジタル的に捕捉することができる。単一レンズとその付属品、又はレンズ及び画像化機器のシステム、並びに適切な照明機器、試料ステージ、及び支持体により、基本的な光学顕微鏡が構成される。1つの例は、CCDカメラを使用して目的の物体に焦点を合わせるデジタル顕微鏡である。カメラはUSBポートを介してそれに取り付けることができるため、画像はコンピュータ画面上に示され得る。別の例は、デジタルカメラを搭載したスマートフォンである。明視野顕微鏡、暗視野顕微鏡、及び蛍光顕微鏡を含む任意の好適な画像化顕微鏡も使用され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、HCRは、FRETによってモニタリングされる。特定のモノマーは、蛍光色素で標識されているため、HCRに起因する構造変化を蛍光の変化を検出することでモニタリングすることができる。一実施形態では、1つのヘアピン分子(例えば、
図1のH1)がドナーフルオロフォアで標識され、別のヘアピン分子(例えば、
図1のH2)がアクセプターフルオロフォアで標識される。重合すると、ドナーフルオロフォア及びアクセプターフルオロフォアは、凝集した核酸構造内で近接して整列し、それによってFRETを提供する。この場合、単一のイニシエータの存在は、HCRによって引き起こされる蛍光事象の鎖によって増幅される。インサイチュ画像化の状況下では、単一の標的分子の存在は、一連の蛍光事象によって増幅され得る。
【0063】
試料及び診断標的
本明細書に開示される方法、デバイス、及びシステムは、DNA及びRNAなどのバイオマーカー分子の増幅並びに検出のために、それらの分子マーカーのコピー数を増加させるための任意の増幅ステップを必要とせずに使用することができる。そのような方法、デバイス、及びシステムは、試料中に存在するDNA又はRNA転写産物のコピー数を推定することによる遺伝子発現分析、分子検出への応用、臨床、実験室、及びポイントオブケア診断目的のための核酸バイオマーカー定量化、断片的な微生物ゲノム(DNA)及びRNA配列を含む内因性配列の直接的な同定による病原体及び感染症を検出するための開発、疾患及び傷害の早期診断のためのmiRNA及び他の形態の循環エピジェネティックマーカーを定量化する機能、並びにそれを使用したがん及び遺伝性疾患の変異分析を含むが、これらに限定されない様々な用途にとって特に魅力的である。
【0064】
本明細書に開示される方法では、様々試料を使用することができる。本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、本明細書で提供される方法によって分析されることができる任意のものを指す。いくつかの実施形態では、試料は、本方法によって分析することができる1つ以上の核酸を含むか、又はそれを含むことが疑われる。好ましくは、試料は、核酸(例えば、DNA、RNA、cDNA、microRNA、ミトコンドリアDNAなど)を含む。試料は、複数の異なる核酸配列を含む核酸を含む複雑な試料又は混合試料(例えば、宿主及び病原体の核酸、変異体及び野生型の種、不均一な腫瘍)であり得る。試料は、1つを超える供給源(例えば、異なる種、異なる亜種など)、対象、及び/又は個体由来の核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書中提供される方法は、任意選択で、試料を精製すること、又は試料から核酸を精製することを含む。いくつかの実施形態では、試料は、精製された核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、試料は、生物学的、臨床的、環境的、研究的、法医学的、又は他の供給源に由来する。
【0065】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法、組成物、システム、及びデバイスは、核酸鋳型を含む試料を利用する。試料は、任意の好適な供給源から得られ得、診断、研究、法医学、疫学、病理学、考古学などを含むがこれらに限定されない任意の分野に関連する目的のために得られ得る。試料は、生物学的、環境的、法医学的、獣医学的、臨床的などであり得る。試料は、真核生物、原核生物(例えば、感染性細菌)、植物、哺乳動物、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ウイルスなどを含む任意の好適な供給源に由来する核酸を含み得る。試料は、例えば、生物全体、臓器、組織、細胞、細胞小器官(例えば、葉緑体、ミトコンドリア)、合成核酸、細胞溶解物などを含み得る。試料中に存在する核酸(例えば、標的核酸、鋳型核酸、非標的核酸、汚染核酸は、任意の種類、例えば、ゲノムDNA、RNA、プラスミド、バクテリオファージ、合成起源、天然起源、及び/又は人工配列(天然に存在しない)、合成的に産生されるが天然に存在する配列などであり得る。
【0066】
生物学的標本は、例えば、糞便若しくは組織(生検を含む)などの固体物質、組織抽出物、又は全血、リンパ液、血清、血漿、口腔、汗、涙、唾液、喀痰、脳脊髄(CSF)液、羊水、精液、膣排泄物、漿液、関節液、心膜液、腹膜液、胸水、漏出液、滲出液、嚢胞液、胆汁、尿、胃液、腸液、糞便試料、スワブ、吸引液(骨髄、細針吸引)、若しくは洗浄液(例えば、口腔、鼻咽頭、気管支、気管支肺胞、眼、直腸、腸、膣、表皮など)を含む液体、及び/又は他の新鮮、凍結、培養、保存(PAXgene、RNAlater、RNasinなど)若しくは保管(ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)、固定細胞/リンパ球ペレットなど)の生体標本を伴い得る。そのような試料は、必要に応じて、本開示のアッセイを実施するために、可溶化又は希釈され得る。試料の可溶化又は希釈に使用される溶媒としては、水、アセトン、メタノール、トルエン、エタノールなどが含まれる。
【0067】
他の試料には、製造された試料、工業用試料、又は環境用試料が含まれ、生細胞又は生物体が含まれる場合と含まれない場合がある。そのような試料は、土壌、水、食品、アルコール飲料、建築製品、バルク化学物質、又は薬物を含む試薬を含み得る。繰り返しになるが、そのような試料は、必要に応じて、本開示のアッセイを実施するために、可溶化又は希釈され得る。
【0068】
好ましい実施形態では、本開示のアッセイを使用して、様々な感染因子を検出することができる。感染は、対象において生存可能な細胞内又は細胞外微生物の異常な集合又は集団が存在する任意の状態を指す。様々な種類の微生物は、細菌、ウイルス、真菌、及び寄生虫を含む感染を引き起こし得る。これらの微生物に関連する核酸の検出は、本開示の範囲内である。
【0069】
ウイルスの例として、限定されないが、以下が含まれる:レトロウイルス科(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、例えば、HIV-1(HTLV-III、LAV若しくはHTLV-III/LAV、又はHIV-IIIとも称される;及び他の分離株、例えば、HIV-LP;ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カリシウイルス科(例えば、胃腸炎を引き起こす株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(例えば、デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コロナウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えば、エボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器多核体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルス);ブニヤウイルス科(例えば、ハンタンウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルス、ナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例、レオウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス);ボルナウイルス科;ヘパドナウイルス科(B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(大部分のアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(単純ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス;ポックスウイルス科(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);及びイリドウイルス科(例えば、アフリカブタコレラウイルス);未分類のウイルス(例えば、デルタ型肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの欠陥サテライトであると考えられている)、C型肝炎;ノーウォーク及び関連ウイルス、アストロウイルス);及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV)。
【0070】
細菌の例としては、肺炎球菌、連鎖球菌、例えば、S.pyogenes、S.agalactiae、S.equi、S.canis、S.bovis、S.equinus、S.anginosus、S.sanguis、S.salivarius、S.mitis、S.mutans、他のビリダン連鎖球菌、ペプト連鎖球菌、他の連鎖球菌の関連種、腸球菌、例えば、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、ブドウ球菌、例えば、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus aureus、Hemophilus influenzae、Pseudomonas種、例えば、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas pseudomallei、Pseudomonas mallei、ブルセラ属、例えば、Brucella melitensis、Brucella suis、Brucella abortus、Bordetella pertussis、Borellia種、例えば、Borellia burgedorferi Neisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium ulcerans、Corynebacterium pseudotuberculosis、Corynebacterium pseudodiphtheriticum、Corynebacterium urealyticum、Corynebacterium hemolyticum、Corynebacterium equiなど、Listeria monocytogenes、Nocordia asteroides、Bacteroides種、Actinomycetes種、Treponema pallidum、Leptospirosa種、Haemophilus種、Helicobacter pyloriを含むHelicobacter種、Treponema種、及び関連生物体が含まれる。本発明はまた、グラム陰性細菌、例えば、Klebsiella pneumoniae、Escherichia coli、Proteus、Serratia種、Acinetobacter、Yersinia pestis、Francisella tularensis、Enterobacter種、Bacteroides及びLegionella種、Shigella種、Mycobacterium種(例えば、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium bovis又は他のMycobacteria感染症体)、Mycobacterium avium complex(MAC)、Mycobacterium marinum、Mycobacterium fortuitum、Mycobacterium kansaii、Yersinia感染症体(例えば、Yersinia pestis、Yersinia enterocolitica、又はYersinia pseudotuberculosis)などに対して有用であり得る。
【0071】
寄生生物の例としては、Cryptosporidium、Entamoeba、Plasmodium属、例えば、Plasmodium falciparum、Plasmodium malariae、Plasmodium ovale、及びPlasmodium vivax、並びにToxoplasma gondii、Giardia、Leishmania、Trypanasoma、Trichomonas、Naegleria、Isospora belli、Trichomonas vaginalis、Wunchereria、Ascaris、Schistosoma種、Cyclospora種、例えば、Chlamydia trachomatis、並びに他のChlamydia感染体、例えば、Chlamydia psittaci、又はChlamydia pneumoniaeが含まれる。もちろん、本発明は、特異的プローブ(例えば、本明細書に記載されるH1及びH2ヘアピンプローブ)を作製することができる任意の病原体に使用することができることを理解されたい。
【0072】
真菌性及び他の細菌性病原体(そのうちの一部は、Human Mycoses(1979;Opportunistic Mycoses of Man and Other Animals(1989)、及びScrip’s Antifungal Report(1992)に記載されている)もまた、診断の標的として企図される。本発明の文脈において企図される真菌疾患としては、これらに限定されないが、アスペルギルス症、黒色砂毛症、カンジダ症、黒色真菌症、クリプトコッカス症、爪真菌症、又は外耳炎(耳真菌症)、褐色糸状菌症、藻菌症、癜風、白癬、白癬性毛瘡、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、黄癬、渦状癬、手白癬、黒癬(手掌性)、足白癬、爪白癬、トルロプシス症、腋窩毛髪糸状菌症、白色砂毛症、並びに重度の全身性感染症又は日和見感染症に対するそれらの同義語、例えば、限定されないが、放線菌症、アスペルギルス症、カンジダ症、黒色真菌症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、エントモフトラ症、ゲオトリクム症、ヒストプラスマ症、ムコール症、菌腫、ノカルジア症、北アメリカブラストミセス症、パラコクシジオイデス症、褐色糸状菌症、藻菌症、ニューモシスチス肺炎、ピシウム感染症、スポロトリクム症、及びトルロプシス症、並びにそれらのうちのいくつかが致命的であり得るそれらの同義語が含まれる。既知の真菌性及び細菌性病原体としては、限定されないが、Absidia属、Actinomadura madurae、Actinomyces属、Allescheria boydii、Alternaria属、Anthopsis deltoidea、Apophysomyces elegans、Arnium leoporinum、Aspergillus属、Aureobasidium pullulans、Basidiobolus ranarum、Bipolaris属、Blastomyces dermatitidis、Candida属、Cephalosporium属、Chaetoconidium属、Chaetomium属、Cladosporium属、Coccidioides immitis、Conidiobolus属、Corynebacterium tenuis、Cryptococcus属、Cunninghamella bertholletiae、Curvularia属、Dactylaria属、Epidermophyton属、Epidermophyton floccosum、Exserophilum属、Exophiala属、Fonsecaea属、Fusarium属、Geotrichum属、Helminthosporium属、Histoplasma属、Lecythophora属、Madurella属、Malassezia furfur、Microsporum属、Mucor属、Mycocentrospora acerina、Nocardia属、Paracoccidioides brasiliensis、Penicillium属、Phaeosclera Dematioides、Phaeoannellomyces属、Phialemonium obovatum、Phialophora属、Phoma属、Piedraia hortai、Pneumocystis carinii、Pythium insidiosum、Rhinocladiella aquaspersa、Rhizomucor pusillus、Rhizopus属、Saksenaea vasiformis、Sarcinomyces phaeomuriformis、Sporothrix schenckii、Syncephalastrum racemosum、Taeniolella boppii、Torulopsosis属、Trichophyton属、Trichosporon属、Ulocladium chartarum、Wangiella dermatitidis、Xylohypha属、Zygomyetes属、及びそれらの同義語が含まれる。病原性の可能性を有する他の真菌としては、限定されないが、Thermomucor indicae-seudaticae、Radiomyces属、及び既知の病原性属の他の種が含まれる。
【0073】
他の医学的に関連する微生物は、文献に広く記載されており、例えば、Medical Microbiology(1983)を参照されたく、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
他の実施形態では、本明細書に記載される方法及びデバイスは、血液、生体液、又は脳脊髄液(CSF)中の循環細胞外小胞(EV)封入miRNAからの早期がん/前がん性検出に使用することができ、現在のコストのほんの一部で迅速かつ正確な診断を可能にする。開示される検出技術は、非常に感度が高く、信頼性が高く、増幅を必要とせず、したがって、増幅プロセスに関連する任意のバイアスを除去する。
【0075】
開示されるデバイスは、コンパクトで使いやすく、低コストであり、少量の試料から試験結果を迅速に生成する。したがって、開示される検出技術及びデバイスは、様々な病原体及びがんの種類/サブタイプについてのmiRNA及びDNAバイオマーカーに適用可能なプラットフォーム技術を提供する。
【0076】
反応溶液
ハイブリダイゼーション用途におけるプローブ標的用の溶液及び組成物は、当該技術分野で既知である。そのような組成物は、例えば、緩衝剤、促進剤、キレート剤、塩、界面活性剤、及び遮断剤を含み得る。マランゴニ流は、有機溶媒の液滴では比較的容易に達成することができるが、核酸ハイブリダイゼーションを含むバイオアッセイに使用される液体溶液の種類など、水溶液ではより困難であり得る。水性液滴中のマランゴニ流を促進するために、表面活性剤及び界面活性剤などの様々な促進添加剤を使用することができる。他の添加剤もまた、産物の視覚化を増強させるために(例えば、蛍光顕微鏡下でのFRET対を用いて)、又は液滴を安定させるために添加することができる。例としては、グリセロール、塩(例えば、NaCl及びLiCl)、及びポリマー(例えば、FICOLL(登録商標)、スクロース及びエピクロロヒドリンのコポリマー)が含まれる。
【0077】
緩衝剤の例としては、SSC、HEPES、SSPE、PIPES、TMAC、TRIS、SET、クエン酸、例えば、リン酸カリウム又はピロリン酸ナトリウムなどのリン酸緩衝液が含まれ得る。緩衝剤は、0.01×~50×、例えば、0.01×、0.1×、0.5×、1×、2×、5×、10×、15×、20×、25×、30×、35×、40×、45×、又は50×の濃度で存在し得る。典型的には、緩衝剤は、0.1×~10×の濃度で存在する。
【0078】
促進剤の例としては、ポリマー、例えば、FICOLL、PVP、ヘパリン、デキストラン硫酸、タンパク質、例えば、BSA、グリコール、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3プロパンジオール、プロピレングリコール、又はジエチレングリコール、それらの組み合わせ、例えば、デンハルト溶液及びBLOTTO、並びに有機溶剤、例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、DMSOなどが含まれ得る。促進剤は、1%~80%又は0.1×~10×、例えば、0.1%(又は0.1×)、0.2%(又は0.2×)、0.5%(又は0.5×)、1%(又は1×)、2%(又は2×)、5%(又は5×)、10%(又は10×)、15%(又は15×)、20%(又は20×)、25%(又は25×)、30%(又は30×)、40%(又は40×)、50%(又は50×)、60%(又は60×)、70%(又は70×)、又は80%(又は80×)の濃度で存在し得る。典型的には、ホルムアミドは、25%~75%、例えば、25%、30%、40%、50%、60%、70%、又は75%の濃度で存在するが、DMSO、デキストラン硫酸塩、及びグリコールは、5%~10%、例えば、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%の濃度で存在する。
【0079】
キレート剤の例としては、EDTA、EGTAなどが含まれ得る。キレート剤は、0.1mM~10mM、例えば、0.1mM、0.2mM、0.5mM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、又は10mMで存在し得る。典型的には、キレート剤は、0.5mM~5mM、例えば、0.5mM、1mM、1.5mM、2mM、2.5mM、3mM、3.5mM、4mM、4.5mM、又は5mMの濃度で存在する。
【0080】
塩の例としては、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウムなどが含まれ得る。塩は、1mM~800mMの濃度、例えば、1mM、5mM、10mM、15mM、20mM、30mM、40mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM、500mM、600mM、700mM、又は750mMで存在し得る。典型的には、塩は、10mM~500mM、例えば、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM、又は500mMの濃度で存在する。
【0081】
界面活性剤の例としては、TWEEN、SDS、TRITON、CHAPS、デオキシコール酸などが含まれ得る。界面活性剤は、0.001%~10%、例えば、0.001、0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10%などの濃度で存在し得る。典型的には、界面活性剤は、0.01%~1%、例えば、0.01%、0.02%、0.03%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%の濃度で存在する。
【0082】
核酸遮断剤の例としては、例えば、酵母tRNA、ホモポリマーDNA、変性サケ精子DNA、ニシン精子DNA、全ヒトDNA、COT1 DNAなどが含まれ得る。核酸遮断剤は、0.05mg/mL~100mg/mLの濃度で存在し得る。しかしながら、本発明の組成物及び方法は、驚くべきことに、遮断剤を必要とせずに、有意に低減されたバックグラウンドレベルを示す。
【0083】
上記の組成物は、少なくとも1つの極性非プロトン性溶媒と組み合わせて、上記の成分のうちのいずれをも含んでもよい。成分は、従来の変性溶液で使用されるのと同じ濃度で存在してもよく、又はより高い濃度若しくはより低い濃度で存在してもよく、又は完全に省略されてもよい。いくつかの実施形態では、固着性液滴は、分子相互作用の増強を可能にする蒸発時の内部電流及び体積の減少の利点を提供するため、1つ以上の成分を、はるかに低い濃度で基質又は反応領域に適用することができる。
【0084】
溶液は、非特異的相互作用を防ぐために存在するある程度の塩/糖を有し得るが、濃度は、液滴の完全な蒸発がアッセイを損なうのに十分な結晶化を引き起こさないほど低くてもよい。例えば、≦50mMの濃度のNa+は、非特異的相互作用をスクリーニングするのに十分であり得、滴の完全な蒸発時に有害な結晶化を引き起こさない。また、50mMのNaCl濃度は、PDMS上で蒸発させた液体担体の滴中に流動パターンを作製するのに十分であろう。
【0085】
キット
別の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法を実施するのに有用な様々な試薬を含むキットを提供する。キットは、誘導体化又は非誘導体化形態の好適な基質を含み得、試料の単離、精製又は調製用の試薬、プローブ、ハイブリダイゼーション溶液、液体担体、吸湿性材料、塩、洗浄液、遮断剤、HCT反応混合物、プローブ、レポーター分子、プローブ又はレポーター分子を検出するための手段を含み得る。
【0086】
キットの構成要素は、水性媒体又は凍結乾燥形態のいずれかで包装され得る。試薬及び/又は成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、好適な溶媒の添加によって再構成され得る。溶媒も提供され得ることが想定される。
【0087】
キットの容器手段は、概して、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、又は他の容器手段を含み、その中に構成要素を配置することができ、好ましくは適切に等分することができる。キット内に1つを超える構成要素が存在する場合、キットはまた、概して、追加の構成要素が別々に配置され得る第2、第3、又は他の追加の容器を含むであろう。しかしながら、構成要素の様々な組み合わせは、バイアルに含まれ得る。本発明のキットはまた、典型的には、試薬バイアル及び他のキット構成要素を商業販売のために密封して収容するための手段も含む。そのような容器は、所望のバイアルが保持される射出成形又はブロー成形されたプラスチック容器を含み得る。
【0088】
容器の数又は種類にかかわらず、本発明のキットはまた、様々な試薬の使用説明書を含むか、又はそれらとともに包装され得る。いくつかの実施形態では、キットはまた、組成物及び任意選択で情報材料を含む容器を含む。情報材料は、本明細書に記載される方法及び/又は薬剤の使用に関連する記述的、教授的、マーケティング的、又は他の材料であり得る。キットの情報材料は、その形態に限定されない。いくつかの実施形態では、情報材料は、組成物の製造、濃度、有効期限、バッチ又は製造場所の情報などに関する情報を含むことができる。情報は、印刷されたテキスト、コンピュータ可読材料、ビデオ録画、又は音声録音、又は実質的な材料へのリンク若しくはアドレスを含む情報を含む様々な形式で提供され得る。キットは、任意選択で、本明細書に開示される方法を実施するのに好適なデバイスを含む。
【0089】
定義
本明細書で使用される場合、「液」又は「液滴」という用語は、その周囲(例えば、気体、液体、表面など)と混和しない少ない体積の液体を指す。液滴は、表面上に存在するか、不混和性である流体(例えば、エマルジョン、ガス(例えば、空気、窒素)の連続相)、又はそれらの組み合わせによってカプセル化されてもよい。液滴は、典型的には球形又は実質的に球形の形状であるが、非球形であってもよい。そうでなければ球形又は実質的に球形の液滴の形状は、直径の小さい毛細血管チャネル内の表面上への堆積又は収縮によって変更され得る。液滴は、「単純液滴」又は「複合液滴」であり得、1つの液滴が1つ以上の追加のより小さい液滴をカプセル化する。本明細書に提供される液滴の体積及び/又は液滴のセットの平均体積は、典型的には、約100マイクロリットル未満(例えば、100μL、10μL、1μL、100nL、10nL、1nL、100pL、10pL、16L、100fL、10fL、又は1fL)である。本明細書に提供される液滴の直径及び/又は液滴のセットの平均直径は、典型的には、約1ミリメートル未満(例えば、1mm、100μm、10μm、又は1μm)である。液滴は、任意の好適な技法(例えば、乳化、マイクロ流体、注入など)によって形成されてもよく、単分散(例えば、実質的に単分散)又は多分散であってもよい。
【0090】
固着性液滴は、固体又は半固体基質の表面上に存在する液滴を指す。
【0091】
「水溶液」は、水、たとえ少量の水であっても含まれる溶液として理解されるべきである。例えば、1%の水を含む溶液は、水溶液として理解されるべきである。
【0092】
「ハイブリダイゼーション反応」、「ハイブリダイゼーションアッセイ」、「ハイブリダイゼーション実験」、「ハイブリダイゼーション手順」、「ハイブリダイゼーション技術」、「ハイブリダイゼーション方法」などは、核酸のハイブリダイゼーションを伴う任意のプロセスを指すものと理解されるべきである。特に明記しない限り、「ハイブリダイゼーション」及び「ハイブリダイゼーションステップ」という用語は、ハイブリダイゼーション手順の再アニーリングステップ並びに変性ステップ(存在する場合)を指すものとして理解されるべきである。
【0093】
「反応溶液」は、反応を行うための溶液又は組成物を指す。反応が検出又はハイブリダイゼーションを伴う場合、反応溶液は、「検出溶液」(すなわち、検出アッセイなどの反応を行うための溶液又は組成物)又はハイブリダイゼーション溶液(すなわち、ハイブリダイゼーションアッセイなどの反応を行うための溶液又は組成物)とも称される。
【0094】
「ハイブリダイゼーション溶液」とは、ハイブリダイゼーション組成物に使用するための水溶液を指す。ハイブリダイゼーション溶液は、本明細書で論じられ、例えば、緩衝剤、促進剤、キレート剤、塩、界面活性剤、及び遮断剤を含み得る。
【0095】
「ハイブリダイゼーション組成物」とは、例えば、プローブを核酸配列と結合させるためのハイブリダイゼーション手順を行うための水溶液を指す。ハイブリダイゼーション組成物は、例えば、少なくとも1つの極性非プロトン性溶媒、少なくとも1つの核酸配列、及びハイブリダイゼーション溶液を含み得る。ハイブリダイゼーション組成物は、生体試料中の核酸を増幅するための酵素又はデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)などの他の成分を含まない。
【0096】
本明細書で使用される「接触する」という用語は、成分の任意のセットに関して使用される場合、接触させられる成分が同じ混合物中に混合される(例えば同じ区画又は溶液に添加される)任意のプロセスを含み、言及された成分間の実際の物理的接触を必ずしも必要とするものではない。言及された成分は、任意の順序又は任意の組み合わせ(又はサブ組み合わせ)で接触させられてもよく、任意に他の言及された成分の添加に先立って、1つ又はいくつかの言及された成分が後続して混合物から除去される状況も含み得る。例えば、「AをB及びCと接触させる」とは、(i)AがCと混合され、次いでBが混合物に添加される状況、(ii)A及びBが混合物に混合され、Bが混合物から除去され、次いでCが混合物に添加される状況、及び(iii)BとCとの混合物にAが添加される状況、のうちのいずれか及び全てを含む。
【0097】
核酸又はポリヌクレオチドは、DNA分子(例えば、限定されないが、cDNA又はゲノムDNA)又はRNA分子(例えば、限定されないが、mRNA、rRNA、tRNA、miRNA、又はsiRNA)を指し、DNA又はRNA類似体を含む。DNA又はRNA類似体は、ヌクレオチド類似体から合成することができる。DNA又はRNA分子は、修飾塩基、修飾骨格、RNA中のデオキシリボヌクレオチドなどの、天然に存在しない部分を含み得る。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖であり得る。
【0098】
本明細書で使用される「疾患」という用語は、いずれも、正常な機能を損ない、典型的には明瞭な徴候及び症状によって明らかとなり、ヒト又は動物の生命の継続時間又は質を低下させる、ヒト若しくは動物の身体又はその一部の異常な状態を反映するという点で、(医学的状態における)「障害」及び「状態」という用語と一般的に同義であることが意図され、相互に交換可能に使用される。
【0099】
本明細書で使用される場合、「およそ」又は「約」という用語は、1つ以上の対象の値に適用される場合、言及された基準値と同様の値を指す。いくつかの実施形態では、「およそ」又は「約」という用語は、別段の言及がない限り、又は文脈からそうでないことが明らかでない限り(かかる数がとり得る値の100%を超える場合を除く)、いずれかの方向(より大きい又はより小さい)において、言及された基準値の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ未満に収まる値の範囲を指す。本明細書において別段の示唆がない限り、「約」という用語は、個々の成分、組成物、又は実施形態の機能性の観点から同等である、言及された範囲に近接した値、例えば重量パーセントを含むことが意図されている。
【0100】
本明細書において値及び範囲が提供される場合には、これらの値及び範囲に包含される全ての値及び範囲が、本開示の範囲内に包含されることを意図されていることは、理解されるべきである。更に、これらの範囲内に収まる全ての値、及び値の範囲の上限値又は下限値も、本出願によって企図されるものである。
【実施例】
【0101】
実施例1
本実施例は、実施例2~7で使用した材料及び方法を説明する。
【0102】
材料
全てのDNAオリゴは、IDT Integrated DNA Technology(Coralville,IA,USA)から購入した。3Dプリントした材料は全て、SOLIDWORKS 2018-2019 Student Editionにおいて設計し、ポリ乳酸(PLA)及びPrusa(Prague,Czech Republic)から購入したPrusa i3 MK3Sを使用してプリントした。液滴をW.A.Hammond Drierite Co.(Xenia,OH,USA)製のDrieriteを使用して蒸発させた。ゲル電気泳動を、Hoefer(Holliston,MA,USA)製のHE33ミニ水平アガロース電気泳動ユニット及びMIGHTY SLIM SX250電源を使用して実施した。UltraPure(商標)アガロース、Sybr Safe DNAゲル染色剤、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、及びAmplitron(登録商標)IIサーモサイクラは、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA,USA)から購入した。水は、Thermo Fisher Scientific製のBarnstead(商標)NANOpure IIを使用して精製した。10×トリスホウ酸EDTA(TBE)は、アガロースゲルの画像化に使用したCHEMIDOC MPと同様に、Bio-Rad Laboratories(Hercules,CA,USA)から購入した。Sylgard(商標)184シリコーンエラストマーキットは、Dow(Midland,MI,USA)から購入した。Horiba Scientific(Piscataway,NJ,USA)製のFLUOROMAX-4分光蛍光光度計をスペクトルデータの取得に使用した。DNAヘアピン融解分析には、Shimadzu(Kyoto,Japan)のUV-1800分光光度計を使用した。データを、JMP Pro 16を使用して分析した。
【0103】
DNAヘアピンアニーリング
H1及びH2 DNAヘアピンをサーモサイクラ内で95℃で5分間インキュベートし、次いで30分間にわたって室温まで冷却した。
【0104】
台座状体の製作
1.5mm台座状リング成形型及び乾燥チャンバを、コンピュータソフトウェア及び3Dプリントを使用して設計した。シリコーンエラストマーキットを7:1の比率(A部からB部)で混合し、台座状成形型に注ぎ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)台座状体を作製した。成形型中のPDMSを脱気し、一晩硬化させた。硬化したPDMS台座状体を成形型から取り出し、乾燥チャンバ内に配置した。
【0105】
HCR調製
アニーリングしたH1及びH2 DNAヘアピンを1500nM濃度に希釈し、イニシエータを規定のアッセイ緩衝液中でその最終濃度の3倍に希釈した。蛍光アッセイの場合、H1及びH2は、それぞれ、3’ ATTO 550Nフルオロフォア及び5’ ATTO 647Nフルオロフォアコンジュゲーションを有する。全ての緩衝液は、5×生理食塩水クエン酸ナトリウム(SSC)(750mM塩化ナトリウム及び75mMクエン酸ナトリウム)を水で希釈し、指示に応じて塩化マグネシウムを添加することによって作製した。次いで、希釈したヘアピン及びイニシエータを、1:1:1の比率で0.5μLのキュベット中で混合した。H1及びH2の最終濃度は500nMであり、イニシエータ濃度は結果の図に示されるとおりである。各反応物について2つの5μL液滴を台座状体上に分注し、10μLの各反応液を液体インキュベーション対照としてキュベット中に残した。乾燥剤を乾燥チャンバに加え、実験をチャンバの蓋で覆い、1時間にわたって完全に蒸発させた。5μLの水を各乾燥した固着性液滴台座状体上に分注し、覆ったままにして、乾燥した材料を再懸濁した。5分後、液滴をピペットに引き込み、反応物当たり2つの液滴(2つの別つの台座状体)をキュベットに加え、反応物当たり合計10μLの最終体積とした。
【0106】
アガロースゲル電気泳動
3%アガロースゲルを、マイクロ波を介して40mLの1×TBE中で1.2グラムのアガロースを沸騰させることによって調製した。4μLのSYBR SAFEを融解溶液に添加し、十分に混合してから、ゲル成形型に注ぎ、セットした。10μLの試料を、3.5μLの水及び1.5μLの40%スクロース水溶液を添加することによってゲル電気泳動用に調製した後、150ボルトで40分間、0.5×TBE泳動緩衝液中でアガロースゲル中で泳動した。
【0107】
フォースター共鳴エネルギー移動(FRET)
蛍光HCRアッセイでは、10μLの試料を690μLの水で希釈した。700μLの希釈液を石英キュベットに添加し、560nmの波長で試料を励起し、567nm~750nmまでの発光強度を走査することにより分光蛍光光度計によりスペクトル発光強度を収集した。スペクトル強度をピーク発光強度に対して正規化し、MATLAB R2020bを使用してグラフ化した。
【0108】
実施例2
本実施例では、HCRを使用して、従来の液体キュベットインキュベーションと比較して固着性液滴中でインキュベートした場合に拡張DNAヘアピンハイブリダイゼーションの有意な向上を示した。要約すると、HCRアッセイを、上記の様式で、固着性液滴(S)及びキュベットの両方で実施した。得られたハイブリダイゼーション産物を視覚化し、上記の様式で調査した。結果を
図2、3、及び4に示す。
【0109】
図2A及び2Bに示されるように、特に低いトリガー濃度(50nM)において、キュベットにおける従来のインキュベーション条件と比較して、固着性液滴中でインキュベートした場合、ヘアピンプローブによって有意に多くのHCR産物が形成された。
図2A及びBの両方の実験は、10mM MgCl2を含む0.5×SSC緩衝液を使用して同一の様式で調製した。
【0110】
図3Aは、HCR固着性液滴を乾燥させるために使用した2mmの直径の台座状体のカスタム設計され、3Dプリントされたアレイを示す。HCR産物から得られたFRETの蛍光画像を
図3B及びCに示す。
【0111】
図4は、様々な濃度のトリガー配列を用いて固着性液滴(S)及びキュベット(L)中でインキュベートしたHCR実験間の直接的な比較を示す。各固着性液滴レーンは、その液体キュベット相補レーンよりもより高い強度ではっきりと高い分子量のバンド形成を有し、固着性液滴インキュベーションによるハイブリダイゼーション活性の増加を示した。
【0112】
追加の結果を
図8A、8B、及び8Cに示す。
図8Aに示されるアガロースゲルの結果は、従来のキュベットインキュベーションと比較した場合の、固着性液滴インキュベーションを介したHCRの向上されたハイブリダイゼーションを経験的に示した。また、ハイブリダイゼーション緩衝液へのTween20界面活性剤の添加(+)は、Tween20なし(-)のハイブリダイゼーション緩衝液を介した固着性及びキュベットインキュベーションの両方において、向上したHCR産物を見出した。固着性液滴インキュベーションを介したHCRの向上したハイブリダイゼーションは、合成プロウイルスDNA標的(
図8B)及び合成ウイルスRNA標的(
図8C)からのHCR産物のFRET強度がFRET比を使用して正規化された、
図8B及び
図8Cに示される分光蛍光計データによって示される。
【0113】
実施例3
本実施例では、発明者らは更に、FRET-HCRを介した固着性液滴誘導ハイブリダイゼーション効果を実証した。ハイブリダイゼーションの増加は、互いに伝達可能な距離内でより多くのH1及びH2 FRET対をもたらす。より具体的には、ドナーフルオロフォア励起波長(560nm)で励起した場合、ハイブリダイズしたH1フルオロフォアは、共鳴エネルギーをハイブリダイズしたH2フルオロフォアに伝達し、ハイブリダイズしていないH1フルオロフォアが発するよりもはるかに長い波長(約664nm)で蛍光を発する。
図5に示すように、100nMトリガー固着性液滴実験は、100nMトリガー液体キュベット実験よりも有意に高いH2強度を有し、固着性インキュベーションによるHCRハイブリダイゼーションの比例的な増加を示した。
【0114】
実施例4
本実施例では、ハイブリダイゼーション効率に対する緩衝液イオン濃度の影響を調べるためにアッセイを実施した。高いナトリウム及びマグネシウム濃度を含む緩衝液は、DNAハイブリダイゼーションを向上することが知られている。しかしながら、蒸発する固着性液滴の体積が減少するにつれて、緩衝液のイオン濃度が増加し、DNAオリゴのハイブリダイゼーションに影響を及ぼす。発明者らは、固着性液滴増強ハイブリダイゼーションに対するイオンの影響を実証するために、塩化マグネシウムを含む又は含まない様々な濃度のSSC緩衝液を使用した。5×濃度のSSCが、ハイブリダイゼーション実験に一般的に使用される。しかしながら、
図6に示すように、最も高いイオン濃度の緩衝液(10mM MgCl
2を含む0.5×SSC)は、最大のHCRハイブリダイゼーション産物を有していたが、それはまた、より低いイオン緩衝液よりもその0nMの対照レーンにおいて有意により多くの未開始のハイブリダイゼーションを有する。10mMのMgCl
2を含む0.25XSSCは、500pMトリガー濃度での高い分子量のバンド形成、その0nMの対照レーンでの有意に低いバンド形成を有するように見え、より低い塩濃度の緩衝液が固着性液滴ハイブリダイゼーションアッセイに有益な影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0115】
同様のアッセイを、異なる濃度のNaCl若しくはMgCl
2、又はその両方の存在下で実施して、ハイブリダイゼーション効率に対するイオン濃度の影響を調べた。結果を
図11Aに示す。図に示すように、より高いイオン濃度は、全体的なハイブリダイゼーションを低減させた。
【0116】
追加のアッセイを実施して、異なるナトリウム濃度でのH1ヘアピンの実験的融解温度を調べた。結果を
図11Bに示す。塩分濃度が増加するにつれて、ヘアピンの融解温度が上昇し、ここでは、蒸発により固着性液滴の体積が減少していることを示している。塩に対する体積濃度を、開始濃度として75mMのNaClを使用して計算した。塩濃度を増加させることによるヘアピンの安定性の増加は、
図11Aの結果を支持し、より高い塩濃度がハイブリダイゼーションを減少させ得ることを示す。緩衝液中の塩濃度は、液滴が蒸発するにつれて増加し、固着性液滴インキュベーション中の緩衝液組成物の重要性を強調する。
図11Aの全ての緩衝液は0.1%のTween20を含んでいた。
図11Bの緩衝液は、過剰なミセル形成がUV/visデータを破壊するため、Tween20を含まない。データを、JMP Pro 16を使用して分析した。
【0117】
実施例5
HCRアッセイを、2つの異なる条件下で合成DNAトリガーに対して実施した。第1の「湿潤」条件(W)では、固着性液滴を20分毎に再水和して、元の体積5μLを維持した。第2の「乾燥」条件(D)では、固着性液滴を完全に蒸発させた。両方の液滴を70分インキュベートした後、アガロースゲルによって分析した。
図9に示す結果は、乾燥状態(D)でのHCR産物の有意な増加を示し、固着性液滴の体積を減少させることの重要性を実証する。
【0118】
実施例6
本明細書に記載されるHCR固着性液滴アッセイを、0、1、及び2個のミスマッチを有する以下の3つの合成DNAトリガーの存在下で実施した:AGGTTTGGGGAAGAGACA(配列番号1)、AGGTTTGGGGAGGAGACA(配列番号2)、及びAGGTCTGGGGTAGAGACA(配列番号3)。結果を
図10Aに示す。0nMトリガー対照と比較して、1及び2個のミスマッチを有するHCR産物において有意な増加はなかったことが見出された。この結果は、HCR固着性液滴アッセイの高い特異性を実証する。
【0119】
本明細書に記載されるHCR固着性液滴アッセイを、サケDNAの合成トリガーDNAに対する5:1の質量比でサケDNAなどの非特異的DNAの存在下で実施した。全てのデータを、JMP Pro 16を使用して解析し、p値を、両側スチューデントt検定を使用して計算した。結果を
図10Bに示す。
図10Bに示すように、HCR固着性液滴アッセイは、オフターゲットハイブリダイゼーションに対する高い耐性を示す。
【0120】
実施例7
本明細書に記載されるHCR固着性液滴アッセイを実施して、合成HIV RNA及びプロウイルスDNAをフィルタ紙(Fusion5、Cytiva)上で直接的に検出した。アッセイの設定を
図12A、12B、及び12Cに示す。簡潔に述べると、1.5mmの直径のパッドを切断し、PDMS台座状体と接着して、親水性材料上に固着性液滴が形成されることを可能にした(
図12A)。標的核酸は、紙ディスク上で乾燥させた。次いで、5μLのHCR溶液(H1及びH2)を固着性液滴として各台座状体に適用し、完全に乾燥させた(
図12B)。次いで乾燥させた紙を、FRETキューブを備えた蛍光顕微鏡を使用して画像化した(
図12C)。画像強度は、ImageJを使用して解析した。p値は、両側のスチューデントt検定を使用して計算した。結果を
図12D及び12Eに示す。図に示されるように、アッセイは、わずか2.5fmoleの合成HIV RNA及び0.75fmoleのプロウイルスDNAの検出に成功した。
【0121】
参考文献
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2.Guixiu Dong,Jianyuan Dai,Limin Jin,et al.A rapid room-temperature DNA amplification and detection strategy based on nicking endonuclease and catalyzed hairpin assembly.Anal Methods.2019;11(19):2537-2541.doi:10.1039/C9AY00507B
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5.Wang W-J,Li J-J,Rui K,Gai P-P,Zhang J-R,Zhu J-J.Sensitive Electrochemical Detection of Telomerase Activity Using Spherical Nucleic Acids Gold Nanoparticles Triggered Mimic-Hybridization Chain Reaction Enzyme-Free Dual Signal Amplification.AnalChem.2015;87(5):3019-3026.doi:10.1021/AC504652E
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doi:10.1021/acs.analchem.6b01657
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8.Mitre E,Schulze M,Cumme GA,Roβler F,Rausch T,Rhode H.Turbo-Mixing in Microplates.J Biomol Screen.2007;12(3):361-369.doi:10.1177/1087057106297565.
【0122】
好ましい実施形態の前述の実施例及び説明は、特許請求の範囲によって定義される本開示を限定するものではなく、例示するものとして理解されるべきである。容易に理解されるように、上記の特徴の多数の変形及び組み合わせは、特許請求の範囲に記載される本開示から逸脱することなく利用され得る。そのような変形例は、本開示の範囲から逸脱したものとはみなされず、全てのそのような変形例は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。本明細書で引用される全ての参照は、それらの全体が、参照により組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】