(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】血管パラメータの決定
(51)【国際特許分類】
A61B 6/50 20240101AFI20241016BHJP
A61B 6/46 20240101ALI20241016BHJP
【FI】
A61B6/50 511
A61B6/50 500B
A61B6/46 536Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520014
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2022074841
(87)【国際公開番号】W WO2023057156
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジス アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】フローレント ラウル
(72)【発明者】
【氏名】ルヴリエ クレール
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ホルスト アーエン
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093AA24
4C093AA26
4C093CA37
4C093DA02
4C093FF20
4C093FF22
(57)【要約】
血管110の正規化された微小循環抵抗値を提供するシステム100が提供される。システムは1つ以上のプロセッサ120を含み、1つ以上のプロセッサは、注入されたボーラスが血管内の近位位置Posaと血管内の遠位位置Posdとの間を移動するのにかかる通過時間TTに基づいて血管110の微小循環抵抗値を計算すること(S110)と、計算された微小循環抵抗値を、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管の長さを表す通過長dTで割り、正規化された微小循環抵抗値を提供すること(S120)とを実行する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の正規化された微小循環抵抗値を提供するシステムであって、前記システムは1つ以上プロセッサを備え、前記1つ以上のプロセッサは、
注入されたボーラスが、前記血管内の近位位置と前記血管内の遠位位置との間を移動するのに要する通過時間に基づいて、前記血管の微小循環抵抗値を計算することと、
前記計算された微小循環抵抗値を、前記近位位置と前記遠位位置との間の前記血管の長さを表す通過長によって割ることにより、前記正規化された微小循環抵抗値を提供することとを実行する、システム。
【請求項2】
前記1つ以上のプロセッサは、前記通過時間に遠位管腔内圧力値を乗算することによって前記微小循環抵抗値を計算し、前記遠位管腔内圧力値は、前記血管内の前記遠位位置における前記血管内の圧力を表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記微小循環抵抗値は、微小循環抵抗指標IMR値である、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記1つ以上のプロセッサは、前記計算された微小循環抵抗値に基準血管長を乗じて、前記正規化された微小循環抵抗値を提供する、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記1つ以上のプロセッサはさらに、圧力データおよび/または温度データを含む管腔内センサデータを受信し、前記1つ以上のプロセッサは、前記受信した管腔内センサデータから、遠位腔内圧力値および/または前記通過時間をそれぞれ求める、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記管腔内センサデータが、近位温度センサおよび遠位温度センサを含む管腔内デバイスによって提供され、前記1つ以上のプロセッサはさらに、前記血管内の前記近位温度センサと前記血管内の前記遠位温度センサとの間を移動するように注入された前記ボーラスによって生じる温度変化にかかる時間に基づいて前記通過時間を求め、
前記通過長は、前記近位温度センサと前記遠位温度センサとの間の前記管腔内デバイスの長さに対応する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記1つ以上のプロセッサがさらに、前記血管内に注入された前記ボーラスの流れを表す時系列の画像を含むX線血管造影画像データを受信し、前記1つ以上のプロセッサはさらに、
前記X線画像データを解析して、前記通過時間および前記通過長の前記推定値を求める、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記注入されたボーラスは、注入された造影剤ボーラスを含み、前記1つ以上のプロセッサはさらに、前記X線画像データ内の前記血管内の前記近位位置および前記遠位位置を特定し、
前記X線画像データにおいて、前記注入された造影剤ボーラスが前記血管内の特定された前記近位位置と前記血管内の特定された前記遠位位置との間を移動するのに要する時間に基づいて前記通過時間を求め、
前記X線画像データにおいて、前記近位位置と前記遠位位置との間の前記血管の長さに基づいて前記通過長の前記推定値を計算する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記近位位置は、前記時系列内の早期X線画像の血管内の前記注入された造影剤ボーラスの検出された先頭の位置に対応し、前記遠位位置は、前記時系列内の後期X線画像の前記検出された先頭の位置に対応し、
前記通過時間は、前記早期X線画像と前記後期X線画像との間の時間差に対応し、
前記通過長の前記推定値は、
前記近位位置を前記早期画像から前記後期画像にマッピングして、前記後期画像内にマッピングされた近位位置を提供するか、または、前記遠位位置を前記後期画像から前記早期画像にマッピングして、前記早期画像内にマッピングされた遠位位置を提供し、
それぞれ、前記後期画像内の前記マッピングされた近位位置と前記遠位位置との間、または前記早期画像内の前記近位位置と前記マッピングされた遠位位置との間の前記血管の長さを求めることによって計算される、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記遠位位置が、
前記X線画像データにおける前記血管内の前記近位位置から最も遠位の位置、または
前記X線画像データにおける前記血管の遠位3分の2以内の位置、
基準通過長を超える前記通過長の推定値を提供する、前記X線画像データにおける前記血管内の位置、または
所定の基準短縮値を超えて局所的に短縮されない前記通過長の推定値を提供する前記血管内の最も遠位の特定可能な位置に対応する、請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
前記血管は血管樹の一部を形成し、前記時系列の画像は前記血管樹を表し、さらに、前記血管樹内に注入された前記造影剤ボーラスの流れを表し、
前記1つ以上のプロセッサはさらに、
前記時系列の画像から前記血管樹の時間-強度曲線を生成し、
前記時間-強度曲線から前記通過時間を計算し、前記通過時間は、前記時系列のうちの対応する画像において、前記ボーラスが前記血管樹の一部に入る第1の時点と、前記ボーラスが前記血管樹を飽和させる第2の時点との間の差によって定義される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記注入されたボーラスは、近位時間にて前記血管内の前記近位位置を通過し、前記注入されたボーラスは、遠位時間にて前記血管内の前記遠位位置を通過し、前記注入されたボーラスは、前記通過長と前記通過時間との比として定義される平均通過速度を有し、前記1つ以上のプロセッサはさらに、前記正規化された微小循環抵抗値が補正された通過時間に基づいて提供されるように前記通過時間を補正し、
前記1つ以上のプロセッサは、
前記血管に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータを受信することであって、前記測定された心周期サイクルデータは、測定された心周期と、前記心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間とを含む、受信することと、
前記1つ以上のシグネチャの前記時間、ならびに前記近位時間および前記遠位時間を、前記測定された心周期内の対応する時間にマッピングすることと、
基準心周期を有する基準心周期サイクルにわたる前記血管内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線を含む基準流体速度データを受信することと、
前記基準流体速度曲線において、前記測定された心周期サイクルデータ内の前記1つ以上の心臓状態のそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定することと、
前記基準流体速度曲線の時間軸を、前記基準心周期が前記測定された心周期と一致し、前記基準流体速度曲線内で特定された前記1つ以上の心臓状態のそれぞれの前記基準シグネチャの前記時間が、前記測定された心周期サイクルデータ内の前記1つ以上の対応する心臓状態のそれぞれの前記シグネチャの前記時間に対応するように、変換することと、
前記変換された基準流体速度曲線の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線を提供することであって、前記近位時間と前記遠位時間との間の時間間隔にわたって計算される前記振幅変換された基準流体速度曲線の平均速度が前記平均通過速度に対応するように、提供することと、
前記平均通過速度と、完全な心周期サイクルにわたる前記振幅変換された基準流体速度曲線の前記平均速度との比を前記通過時間に乗じて、補正された通過時間を提供することと
を実行することによって、前記補正された通過時間を提供する、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記画像は、X線イメージングシステムによって生成される投影画像を含み、前記1つ以上のプロセッサはさらに、
前記血管に対する前記X線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信すること、および
前記通過長の前記推定値を求めることであって、
前記X線投影画像のうちの1つ以上における前記血管と、前記X線イメージングシステム幾何学的データを用いて前記血管を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、前記X線投影画像のうちの前記1つ以上における前記血管の長さに沿った位置の長さスケール係数を求め、
前記血管の前記長さに沿った前記対応する位置で決定された前記長さスケール係数を使用して、前記1つ以上のX線投影画像内に表される前記血管をスケーリングすることにより、前記近位位置と前記遠位位置との間の前記血管の長さを計算し、前記通過長の前記推定値を提供することによって、前記通過長の推定値を求めること
を実行する、請求項7から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
血管の通過時間を補正するシステムであって、前記通過時間は、注入されたボーラスが、近位時間における前記血管内の近位位置と、遠位時間における前記血管内の遠位位置との間の前記血管の通過長に沿って、前記通過長と前記通過時間との比として定義される平均通過速度で移動するのにかかる時間を表し、前記システムは1つ以上のプロセッサを含み、前記1つ以上のプロセッサは、
前記血管に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータを受信することであって、前記測定された心周期サイクルデータは、測定された心周期と、前記心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間とを含む、受信することと、
前記1つ以上のシグネチャの前記時間、ならびに前記近位時間および前記遠位時間を、前記測定された心周期内の対応する時間にマッピングすることと、
基準心周期を有する基準心周期サイクルにわたる血管内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線を含む基準流体速度データを受信することと、
前記基準流体速度曲線において、前記測定された心周期サイクルデータ内の前記1つ以上の心臓状態のそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定することと、
前記基準流体速度曲線の時間軸を、前記基準心周期が前記測定された心周期と一致し、前記基準流体速度曲線内で特定された前記1つ以上の心臓状態のそれぞれの前記基準シグネチャの前記時間が、前記測定された心周期サイクルデータ内の前記1つ以上の対応する心臓状態のそれぞれの前記シグネチャの前記時間に対応するように、変換することと、
前記変換された基準流体速度曲線の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線を提供することであって、前記近位時間と前記遠位時間との間の時間間隔にわたって計算される前記振幅変換された基準流体速度曲線の平均速度が前記平均通過速度に対応するように、提供することと、
前記平均通過速度と、完全な心周期サイクルにわたる前記振幅変換された基準流体速度曲線の前記平均速度との比を前記通過時間に乗じて、補正された通過時間を提供することと
を実行する、システム。
【請求項15】
X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管の一部の長さを計算するシステムであって、前記システムは1つ以上のプロセッサを含み、前記1つ以上のプロセッサは、
前記血管の前記一部を含むX線投影画像を表すX線画像データを受信することと、
前記血管の前記一部に対する前記X線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信することと、
前記X線投影画像内の前記血管の前記一部と、前記X線イメージングシステム幾何学的データを用いて前記血管を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、前記X線投影画像内の前記血管の前記一部の長さに沿った位置の長さスケール係数を求めることと、
前記血管の前記長さに沿った前記対応する位置で決定された前記長さスケール係数を使用して、前記X線投影画像内に表されている前記血管をスケーリングすることにより、前記血管の前記一部の前記長さを計算することと
を実行する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は医療分野に関し、より具体的には血管パラメータの決定に関する。本開示の第1の態様は、血管の微小循環抵抗値を計算することに関する。本開示の第2の態様は、血管の通過時間を提供することに関する。本開示の第3の態様は、X線投影画像データから血管の一部の長さを計算することに関する。これらの態様のそれぞれについて、システム、コンピュータによって実装される方法、およびコンピュータプログラム製品が開示される。
【背景技術】
【0002】
冠動脈疾患「CAD」とは、冠動脈の病変、および、冠動脈が持つ、酸素を含んだ血液を心筋に輸送する能力の低下を指す。最終的には、酸素供給の不足により心筋虚血が生じる。心筋虚血の症状には息切れ、狭心症、さらには心筋梗塞が含まれる可能性がある。
【0003】
閉塞性CADは、心筋への血液供給の減少の一因としてよく認識されているが、閉塞性CADがなくても、虚血の証拠および/または胸痛の報告がある患者の数が増加しており、これは非閉塞性冠動脈疾患「NOCAD」とも呼ばれる。
【0004】
特にNOCADにおいて、冠微小循環障害「CMVD」、略してMVDが、心筋虚血および心筋機能不全の一因であることが示されている。したがって、冠微小血管の評価に大きな関心が寄せられている。
【0005】
微小血管の評価に使用するために、いくつかのフローパラメータが提案されている。これらには、冠血流予備能「CFR」、「TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)」血流グレード、TIMIフレームカウント、および微小循環抵抗指数「IMR」が含まれる。微小循環抵抗指数は、微小血管抵抗指数と同じ略語でも知られている。IMRは通常、CFR法またはTIMI法と比較して、より具体的で情報に富んでいると認識されている。IMRは通常、圧力/フローワイヤを使用して侵襲的に測定されるが、最近では血管造影による測定が研究されている。
【0006】
IMRなどの微小循環抵抗値の計算は、注入されたボーラスが血管内の近位位置と遠位位置との間を移動するのにかかる通過時間の測定に基づく。ガイドラインでは、近位位置の場所は、調査対象の血管の入口として明確に指定されているが、遠位位置の場所についてはそれほど明確ではない。Kobayashi,Y.、およびFearon,W.F.による“Invasive coronary microcirculation assessment-Current status of Index of Microcirculatory Resistance”、Circulation Journal、Official Journal of the Japanese Circulation Society、2014;78(5);1021~1028ページで述べられているように、現在の文献のほとんどでは、遠位位置は、ターゲット血管の「遠位3分の2」内の位置として選択すべきであると報告されている。
【0007】
このような測定における遠位位置の定義が不正確である結果、通過時間の値に依存する微小循環抵抗値(例えば、IMR)に誤差が生じることがよくある。この誤差は、第1に、ターゲット血管の指定された「遠位3分の2」内にある位置の幅に起因し、第2に、ターゲット血管の長さを正確に求めることが困難であることに起因し、そして第3に、そのような血管の長さが被検者ごとに大きく異なることに起因する。したがって、この誤差は、計算された微小循環抵抗値についてのユーザ間およびユーザ内の変動として現れ、最終的には血管の臨床診断に影響を与える可能性がある。
【0008】
よって、血管の微小循環抵抗値の計算を改善する必要がある。
【0009】
血管の微小循環抵抗値を計算するために使用される通過時間の測定にも誤差が生じる可能性がある。したがって、血管の補正された通過時間測定値を提供する必要がある可能性がある。また、微小循環抵抗値の計算とは関係のない他の理由で血管の通過時間を求めることが有用であり得る。したがって、一般に、血管の通過時間の決定を改善することは有用である可能性がある。
【0010】
血管の微小循環抵抗値の計算は、血管の一部の長さの決定にも依存する可能性がある。この長さは、X線投影画像から測定され得る。X線画像からのこの長さの測定にも、誤差が生じる可能性がある。したがって、X線投影画像から血管の一部の長さを計算することも必要である可能性がある。また、微小循環抵抗値の計算とは関係のない他の理由で血管の一部の長さを求めることが有用であり得る。したがって、一般に、X線投影画像から血管の一部の長さを求めることを改善することは有用である可能性がある。
【発明の概要】
【0011】
本開示の第1の態様によれば、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供するシステムが提供される。システムは、1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 注入されたボーラスが血管内の近位位置と遠位位置との間を移動するのにかかる通過時間に基づいて、血管の微小循環抵抗値を計算することと、
- 計算された微小循環抵抗値を、近位位置と遠位位置との間の血管の長さを表す通過長によって割ることによって、正規化された微小循環抵抗値を提供することと、を実行する。
【0012】
計算された微小循環抵抗値を通過長で割ることにより、結果として得られる正規化された微小循環抵抗値は、単に通過時間ではなく、通過速度に依存する。したがって、正規化された微小循環抵抗値は、不正確に定義された遠位位置の場所による影響を受けにくい。したがって、正規化された微小循環抵抗値は、血管に関するより信頼性の高い尺度を提供する。
【0013】
本開示の第2の態様によれば、血管の通過時間を補正するシステムが提供される。通過時間は、注入されたボーラスが、近位時間における血管内の近位位置と、遠位時間における血管内の遠位位置との間の血管の通過長に沿って、通過長と通過時間との比として定義される平均通過速度で移動するのにかかる時間を表す。このシステムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータを受信することであって、測定された心周期サイクルデータは、測定された心周期と、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間とを含む、受信することと、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間および遠位時間を、測定された心周期内の対応する時間にマッピングすることと、
- 基準心周期を有する基準心周期サイクルにわたる血管内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線を含む基準流体速度データを受信することと、
- 基準流体速度曲線において、測定された心周期サイクルデータ内の1つ以上の心臓状態のそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定することと、
- 基準流体速度曲線の時間軸を、基準心周期が測定された心周期と一致し、基準流体速度曲線内で特定された1つ以上の心臓状態のそれぞれの基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータ内の1つ以上の対応する心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間に対応するように、変換することと、
- 変換された基準流体速度曲線の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線を提供することであって、近位時間と遠位時間との間の時間間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線の平均速度が平均通過速度に対応するように、提供することと、
- 平均通過速度と、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線の平均速度との比を通過時間に乗じて、補正された通過時間を提供することと、を実行する。
【0014】
これらの動作の結果は、通過時間が測定される心周期サイクルの部分から独立した補正された通過時間を提供することである。これにより、血管にボーラスを繰り返し注入し、複数の通過時間の測定結果を平均化することに伴う既存のワークフローの複雑さの一部が解消される。
【0015】
本開示の第3の態様によれば、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管の一部の長さを計算するシステムが提供される。このシステムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管の一部を含むX線投影画像を表すX線画像データを受信することと、
- 血管の一部に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信することと、
- X線投影画像内の血管の一部と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像内の血管の一部の長さに沿った位置の長さスケール係数を求めることと、
- 血管の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管をスケーリングすることにより、血管の一部の長さを計算することとを実行する。
【0016】
このようにすることで、血管の一部の正確な長さを計算することができる。計算された長さは短縮効果を考慮しているため、正確である。
【0017】
本開示の他の態様、特徴、および利点は、添付図面を参照する以下の例の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は心臓を示す概略図であり、本開示の一部の態様に係る、血管110内の近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dの例を含む。
【
図2】
図2は、本開示の一部の態様に係る、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供するためのシステム100の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の一部の態様に係る、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本開示の一部の態様に係る、血管110への造影剤ボーラス140の注入、および血管110中の注入されたボーラス140の流れを表す時系列の血管造影画像130の例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本開示の一部の態様に係る、血管110を通る注入された造影剤ボーラスの流れを表す時系列の血管造影画像130の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、本開示の一部の態様に係る、時系列の血管造影画像130内の早期画像および後期画像を示す概略図である。
【
図7】
図7は、本開示の一部の態様に係る、時系列の血管造影画像130内の時間T
0における早期画像から、近位位置Pos
aを、時間T
1における後期画像内のマッピングされた位置Pos’
aにマッピングすることを示す概略図である。
【
図8】
図8は、本開示の一部の態様に係る、血管樹150および血管110を含む血管造影画像130’を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本開示の一部の態様に係る、血管樹160の時間-強度曲線160の例を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本開示の一部の態様に係る、血管樹150と、血管110の最長最小経路C
*(P
ref,P
*
d)の例とを含む血管造影画像130’を示す概略図である。
【
図11】
図11は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間の補正の第2の例に関連する動作を示す概略図である。
【
図12】
図12は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間の補正の第2の例に関連する動作を示す概略図である。
【
図13】
図13は、本開示の一部の態様に係る、基準血管170の3Dモデルを示す概略図である。
【
図14】
図14は、本開示の一部の態様に係る、X線イメージングシステムのX線源190の視点からの、X線イメージングシステムの検出器の仮想平面180上の基準血管170’の投影された3Dモデルを示す概略図である。
【
図15】
図15は、本開示の一部の態様に係る、血管110の一部に対するX線イメージングシステム220の向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを示す概略図であり、幾何学的データは、被写体230の長軸を中心とするX線イメージングシステム220の中心X線の回転角度αを含む。
【
図16】
図16は、本開示の一部の態様に係る、血管110の一部に対するX線イメージングシステム220の向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを示す概略図である。幾何学的データは、被写体230の頭尾軸に対するX線イメージングシステム220の中心X線の傾斜角度βを含む。
【
図17】
図17は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間を補正する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、本開示の一部の態様に係る、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管の一部の長さを計算する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の記載および図面を参照しながら、本開示の例を提供する。この記載では、説明を目的として、特定の例の多くの具体的な詳細が記載されている。明細書における「例」、「実装形態」、または類似の用語への言及は、ある例に関連して説明されている機能、構造、または特性が、少なくともその1つの例に含まれていることを意味する。また、1つの例に関連して説明した特徴は、別の例でも使用できる可能性があり、簡潔にするために、各例で全ての特徴が必ずしも複製されるとは限らないことを理解されたい。また、1つの態様に関連して説明した特徴は、別の態様でも使用できる可能性があり、簡潔にするために、各態様で全ての特徴が必ずしも複製されるとは限らないことを理解されたい。例えば、血管の正規化された微小循環抵抗値の提供に関連して説明される特徴、血管の通過時間TTの補正に関連して説明される特徴、およびX線投影画像データからの血管の一部の長さの計算に関連して説明される特徴を組み合わせて使用することもできる。さらに、システムに関連して説明される特徴は、対応するように、コンピュータによって実装される方法およびコンピュータプログラム製品に実装されてもよい。
【0020】
以下の記載では、血管パラメータを求めるための様々なシステムについて言及する。求められる血管パラメータは、血管の微小循環抵抗値、血管の通過時間、および血管の一部の長さを含む。一部の例では、冠状血管の血管パラメータが求められる。例えば、左冠動脈の形態の血管の例を参照する。ただし、これはあくまでも一例に過ぎないことに留意されたい。このシステムは、冠状血管だけでなく、体内の他の場所にある血管のパラメータを決定するために使用することもできる。より一般的には、システムは、血管系の血管のパラメータを決定するために使用され得る。このシステムは、例えば腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈、脛骨動脈、肺動脈、全身動脈を含む血管系内の動脈および静脈のパラメータを決定するために使用され得る。
【0021】
本明細書では、血管パラメータを決定するために血管造影データが使用される例についても言及する。この点において、血管造影データは様々なタイプのX線イメージングシステムによって生成され得ることが理解されよう。一例として、X線画像データは、オランダ、ベストのPhilips Healthcareが販売するPhilips Azurion 7 X線イメージングシステムによって生成することができる。血管造影データは、一般に、2D X線画像を生成する投影X線イメージングシステムによって、またはボリュメトリックX線画像、すなわち3D X線画像を生成するボリュメトリックX線イメージングシステムによって生成され得る。投影X線イメージングシステムは、通常、X線源-検出器構成を支持する、いわゆる「Cアーム」または「Oアーム」などの支持アームを含む。あるいは、投影X線イメージングシステムは、これらの例とは異なる形状の支持アームを含んでもよい。投影X線イメージングシステムは、通常、画像データの取得中にイメージング領域に対して支持アームが静止位置に維持された状態で、2D X線画像を生成する。対照的に、ボリュメトリックX線イメージングシステムは、通常、イメージング領域の周囲でX線源-検出器構成を回転またはステッピングさせながら画像データを生成し、その後、複数の回転角度から取得した画像データをボリュメトリック画像に再構成する。ボリュメトリックX線イメージングシステムの例は、コンピュータ断層撮影「CT」イメージングシステム、コーンビームCT「CBCT」イメージングシステム、およびスペクトルCTイメージングシステムを含む。
【0022】
なお、本明細書に開示される方法は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサに方法を実行させるコンピュータ可読命令が格納された非一時的コンピュータ可読記憶媒体として提供され得る。言い換えれば、コンピュータによって実装される方法は、コンピュータプログラム製品に実装される可能性がある。コンピュータプログラム製品は、専用ハードウェア、または適切なソフトウェアに関連付けてソフトウェアを実行可能なハードウェアによって提供されてもよい。プロセッサによって提供される場合、方法の特徴の機能は、単一の専用プロセッサ、単一の共有プロセッサ、または複数の個別のプロセッサ(その一部が共有されていてもよい)によって提供され得る。方法の1つ以上の特徴の機能は、例えば、クライアント/サーバアーキテクチャ、インターネット、またはクラウドなどのネットワーク化された処理アーキテクチャ内で共有されるプロセッサによって提供され得る。
【0023】
「プロセッサ」または「コントローラ」という用語の明示的な使用は、ソフトウェアを実行することができるハードウェアのみを指すものと解釈すべきではなく、暗黙的に、限定はされないが、デジタル信号プロセッサ「DSP」ハードウェア、ソフトウェアを保存するためのリードオンリーメモリ「ROM」、ランダムアクセスメモリ「RAM」、不揮発性記憶装置等を含み得る。さらに、本開示の例は、コンピュータ可用記録媒体またははコンピュータ可読記録媒体からアクセス可能なコンピュータプログラム製品の形態を取り得、コンピュータプログラム製品は、コンピュータまたは任意の命令実行システムによって使用されるまたはこれらに関連して使用されるプログラムコードを提供する。説明のために、コンピュータ可用記録媒体またはコンピュータ可読記録媒体は、命令実行システム、装置、またはデバイスによって使用されるまたはこれらに関連して使用されるプログラムを含む、格納する、通信する、伝搬する、または転送することができる任意の装置であり得る。媒体は、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、もしくは半導体システム、装置、または伝播媒体であり得る。コンピュータ可読媒体の例には、半導体または固体メモリ、磁気テープ、リムーバブルコンピュータディスク、ランダムアクセスメモリ「RAM」、リードオンリーメモリ「ROM」、剛性磁気ディスク、および光ディスクが含まれる。光ディスクの現在の例には、「CD-ROM」(compact disk-read only memory)、「CD-R/W」(compact disk-read/write)、Blu-Ray、およびDVDが含まれる。
【0024】
上述したように、本開示は一般に、血管パラメータの決定に関する。本開示の第1の態様は、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供するシステムに関する。微小循環抵抗指数「IMR」などの微小循環抵抗値は、通常、注入されたボーラスの計算が血管内の近位位置と遠位位置との間を移動するのにかかる通過時間の測定に基づく。例えば、IMRは次式によって定義される。
【数1】
ここで、P
dは、血管の遠位位置における遠位圧力を表し、T
Tは通過時間を表す。IMRは通常、最大充血時の心周期サイクルにわたる遠位圧力P
dの時間平均値を使用して、式1によって計算される。
【0025】
図1は心臓を示す概略図であり、本開示の一部の態様に係る、血管110内の近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dの例を含む。IMR測定は通常、主要動脈の1つに対して行われ、例えば、
図1に示す左前下行枝「LAD」、左回旋枝「LCX」、または右冠動脈「RCA」に対して行われる。一例として、IMRの値は、
図1に示されているLAD動脈について決定されてもよい。LAD動脈は左冠動脈樹(LCA)の枝である。
図1の近位位置の例Pos
aおよび遠位位置の例Pos
dは、LAD動脈に関して描かれており、Pos
aはLAD動脈の入口の近くに位置し、Pos
bはLAD動脈の下3分の2内に位置する。
【0026】
血管が重度の心外膜狭窄を起こしている場合、IMRの別の定義が提案されており、IMRは次の式を使用して計算される。
【数2】
【0027】
式2では、追加の項Paは、血管の近位位置における近位圧力を表し、追加の項Pwは、冠動脈楔入圧、すなわち、膨張したバルーンによって血管が閉塞されたときの狭窄部の遠位位置における圧力を表す。IMRは通常、最大充血時の心周期サイクルにわたる近位圧力Paの時間平均値を使用し、最大充血時の心周期サイクルにわたる遠位圧力Pdの時間平均値を使用し、膨張したバルーンによって血管が閉塞されているときの、血管内の遠位位置Posdにおける心周期サイクルにわたる圧力の時間平均値及び楔入圧Pwを使用して、式2によって計算される。IMRを計算するために代わりの式を使用することもでき、これらも同様に通過時間TTに依存する。
【0028】
IMRは、しばしば、管腔内圧力センサおよび2つの温度センサが血管内に挿入される熱希釈技術を使用して測定される。圧力センサは管腔内圧力を測定し、2つの温度センサは、通過時間TTを測定するために血管内の離れた位置に配置される。通過時間TTは、2つの温度センサ間を移動するように注入された、室温の生理食塩水ボーラスによって血液に引き起こされる温度変化にかかる時間である。この熱希釈技術では、IMRはしばしば、複数の個別の通過時間測定結果の平均として計算された通過時間TTを使用して計算される。より最近では、IMRを求めるための代替的な血管造影技術が研究されている。この技術では、注入された造影剤ボーラスの先頭の位置が血管造影画像内で検出され、先頭が血管内の近位位置と遠位位置との間を移動するのにかかる通過時間TTを求めるために使用される。血管造影画像では、血管に沿った血管造影画像の強度の変化に基づいて先頭を識別できる。
【0029】
通過時間TTを求めるためにどの技術が使用されるかに関係なく、通過時間は、注入されたボーラスが血管内の近位位置と遠位位置との間を移動するのにかかる時間を表す。ガイドラインでは、近位位置の場所は、調査対象の血管の入口として明確に指定されているが、遠位位置の場所についてはそれほど明確ではない。Kobayashi,Y.、およびFearon,W.F.による“Invasive coronary microcirculation assessment-Current status of Index of Microcirculatory Resistance”、Circulation Journal、Official Journal of the Japanese Circulation Society、2014;78(5);1021~1028ページで述べられているように、現在の文献のほとんどでは、遠位位置は、ターゲット血管の「遠位3分の2」内の位置として選択すべきであると報告されている。
【0030】
このような測定における遠位位置の定義が不正確である結果、通過時間の値に依存する微小循環抵抗値(例えば、IMR)に誤差が生じることがよくある。この誤差は、第1に、ターゲット血管の指定された「遠位3分の2」内にある位置の幅に起因し、第2に、ターゲット血管の長さを正確に求めることが困難であることに起因し、そして第3に、そのような血管の長さが被写体ごとに大きく異なることに起因する。したがって、この誤差は、計算された微小循環抵抗値についてのユーザ間およびユーザ内の変動として現れ、最終的には血管の臨床診断に影響を与える可能性がある。
【0031】
発明者らは、血管の近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管の長さを表す通過長dTを用いて微小循環抵抗値を正規化することによって、血管の微小循環抵抗値を改善できると判断した。本開示の第1の態様によれば、血管110の正規化された微小循環抵抗値を提供するシステムが提供される。システムは、1つ以上のプロセッサ120を含み、1つ以上のプロセッサ120は、
- 注入されたボーラスが、血管内の近位位置Posaと血管内の遠位位置Posdとの間を移動するのにかかる通過時間TTに基づいて、血管110の微小循環抵抗値を計算し(S110)、
- 計算された微小循環抵抗値を、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管の長さを表す通過長dTによって割ることによって、正規化された微小循環抵抗値を提供する(S120)ように構成されている。
【0032】
計算された微小循環抵抗値を通過長dTで割ることにより、結果として得られる正規化された微小循環抵抗値は、単に通過時間ではなく、通過速度に依存する。したがって、正規化された微小循環抵抗値は、不正確に定義された遠位位置の場所による影響を受けにくい。したがって、正規化された微小循環抵抗値は、血管に関するより信頼性の高い尺度を提供する。これは、微小循環抵抗値の役割を考慮すると特に重要であり、微小循環抵抗値は、他の指標の中でもとりわけ、血管の臨床診断を行う可能性がある臨床医に情報を提供する。
【0033】
正規化された微小循環抵抗値をこのように計算すると、以前の臨床研究からの微小循環抵抗値との比較も可能になる。具体的には、不正確に定義された遠位位置の場所についての臨床現場の解釈を変更する必要なく、正規化された微小循環抵抗値を計算することができる。したがって、正規化された微小循環抵抗値を計算するために使用されるデータは、既知の微小循環抵抗値を計算するためにも使用され得る。これにより、臨床医は正規化された微小循環抵抗値を、過去の臨床調査からの微小循環抵抗値と比較することができる。新たな正規化された微小循環抵抗値と既存の微小循環抵抗値との間に連続性を提供することにより、より信頼性の高い尺度を使用して、微小循環抵抗値に関する既存の臨床知識を拡張することができる。
【0034】
図2を参照してシステム100を説明する。
図2は、本開示の一部の態様に係る、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供するためのシステム100の一例を示す概略図である。システムによって実行される動作の説明では、
図3も参照される。
図3は、本開示の一部の態様に係る、血管の正規化された微小循環抵抗値を提供する方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すシステム100に従って実行される動作は、
図3に示す方法によっても実行される可能性があり、その逆も同様である。
【0035】
図2および
図3を参照して、動作S110において、注入されたボーラスが、血管内の近位位置Pos
aと血管内の遠位位置Pos
dとの間を移動するのにかかる通過時間T
Tに基づいて、血管110の微小循環抵抗値が計算される。
【0036】
動作S110において微小循環抵抗値が計算される血管は、例えば、
図1に示すように、左冠動脈内のLAD血管である。しかし、上述のように、血管は血管系内の別の血管であってもよい。
【0037】
一般的に、処理S110において通過時間T
Tを計算するために使用される近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dは、対応する血管の入口に対して定義される。したがって、
図1に示す例では、近位位置Pos
aはLAD入口に比較的近く、遠位位置Pos
dはLAD入口から比較的遠い。近位位置および遠位位置は、血管内の慣用的な血流に対する位置も指し、すなわち、近位位置は、血管内の慣用的な血流に対して比較的上流であり、遠位位置は、血管内の慣用的な血流に対して比較的下流である。IMRなどのフローパラメータを計算する場合、Kobayashi,Y.、およびFearon,W.F.による“Invasive coronary microcirculation assessment-Current status of Index of Microcirculatory Resistance”、Circulation Journal、Official Journal of the Japanese Circulation Society、2014;5;1021~1028ページで述べられているように、遠位位置Pos
dは具体的には、対応する血管の「遠位3分の2」内の位置を指す可能性がある。このようなフローパラメータを計算するために、血管造影画像内の対象血管内の最も遠位の位置である遠位位置が使用されることもある。
【0038】
ステップS110で計算される通過時間TTは、多様な技術を利用して求めることができる。一例では、通過時間は、上記で概説した熱希釈技術を使用して求められる。別の例では、通過時間は、上記で概説した血管造影技術を使用して求められる。注入されたボーラスの通過時間を求めるために他の技術が使用されてもよい。
【0039】
熱希釈技術では、管腔内圧力センサおよび2つの温度センサが血管内に挿入される。圧力センサは、例えば、いわゆる「圧力ワイヤ」の一部を形成してもよい。温度センサは圧力ワイヤ上に配置されてもよいし、または1つ以上のさらなる管腔内デバイスに含まれてもよい。圧力センサは管腔内圧力を測定し、2つの温度センサは血管に沿って離れた位置に配置される。2つの温度センサのうちの第1の近位温度センサは、血管内の近位位置Posaに配置され、2つの温度センサのうちの第2の温度センサは、血管内の遠位位置Posdに配置される。圧力センサおよび温度センサは通常、X線イメージングによるガイド下で挿入され、それぞれの位置は、近位温度センサおよび遠位温度センサが血管内の所望の近位位置および遠位位置に配置されるように位置が調整される。使用時には、室温の生理食塩水ボーラスが血管内に注入され、温度センサは、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間を移動するボーラスによって血液に引き起こされる温度変化にかかる通過時間TTを測定する。
【0040】
熱希釈技術を使用して通過時間T
Tを測定する代わりに、血管造影画像を使用して通過時間が測定されてもよい。血管造影画像は、
図2に示すX線イメージングシステム220を使用して生成されてもよい。この技術では、造影剤ボーラスが血管内に注入され、注入された造影剤ボーラスの先頭の位置が、時系列の血管造影画像内で検出される。対象の血管に応じて、一部の例では、血管造影画像は冠動脈造影画像である可能性がある。近位位置Pos
aは、時系列130内の早期X線画像で検出された先頭の位置として定義され、遠位位置Pos
dは、時系列130内の後期X線画像で検出された先頭の位置として定義される。通過時間T
Tは、早期X線画像と後期X線画像との間の時間差に相当する。造影剤は、ヨウ素、ガドリニウムなどのランタニド、または造影剤が注入される血管内の流れを可視化する別の物質を含み得る。
【0041】
熱希釈技術では、そして同様に血管造影技術でも、血管110に流体結合されたシリンジから、生理食塩水または造影剤ボーラスが注入され得る。シリンジは手動で操作されてもよいし、または
図1に示すインジェクタ210などのインジェクタを使用して操作されてもよい。インジェクタ210は、シリンジと、シリンジに圧力を加えるように構成されたシリンジドライバとを含む。シリンジは生理食塩水または造影剤を含み、注射カテーテルを介して血管に流体結合されているため、シリンジドライバがシリンジに圧力を加えると、シリンジは、生理食塩水または造影剤を注射カテーテルを介して血管210に注入する。インジェクタ210は、所望の用量の生理食塩水または造影剤を血管に送達するために、手動または自動で操作され得る。この目的に適したインジェクタの例は、オランダ、ベークのMedrad Europe,B.V.によって販売されているMedrad Mark 7 Arterion(登録商標) Injection Systemである。ただし、これはあくまで例に過ぎない。
【0042】
動作S110において、通過時間TTを用いて様々な微小循環抵抗値が計算され得る。一部の例では、微小循環抵抗値は、通過時間TTに遠位管腔内圧力値Pdを乗算することによって求められ、遠位管腔内圧力値Pdは、血管内の遠位位置Posdにおける血管内の圧力を表す。微小循環抵抗値は、例えば微小循環抵抗指数(IMR値)であるが、通過時間TTに基づく他の抵抗値が計算されてもよい。IMR値は、上記で定義した式1または式2を使用して計算可能であるが、他の式を使用してIMR値が計算されてもよい。
【0043】
一例では、1つ以上のプロセッサ120は、計算された微小循環抵抗値に基準血管長d
0を乗じて、正規化された微小循環抵抗値を提供するようにさらに構成される。基準血管長d
0は、例えば、血管の母集団平均長さであってもよい。この例では、式3を使用して、IMRの正規化値IMR
d0がIMRから計算されてもよい。
【数3】
式1のIMRを式3に代入すると次の式が得られる。
【数4】
ここで、HMRは充血微小血管抵抗指数である。したがって、このようにして、計算された正規化された微小循環抵抗値に基準血管長さd
0をさらに乗算すると、母集団平均にスケールされたフローパラメータが得られる。d
0を掛けることは、正規化されたIMRを、正規化されていないIMRの現在の範囲にスケールするという役割も果たす。このようにして得られた値は、正規化されていない値に慣れている医師または心臓専門医によって容易に理解される。例えば、同じカット値を使用して、患者が微小血管疾患を患っているかどうかを判断することができる。非急性患者の典型的な値はIMR
cut=25である。この値を超えると、微小血管抵抗指数が高いとみなされ、微小血管疾患の診断が陽性となる。d
0が適切に選択されている場合、IMR
d0に同じカット値を使用することができる。
【0044】
式1~式4で使用される遠位圧力Pdの値は、管腔内圧力センサを使用して測定されてもよいし、または推定されてもよい。遠位圧力Pdは、例えば、遠位位置に配置された管腔内圧力センサを使用して測定することができる。あるいは、遠位圧力Pdの値は、近位圧力Paの測定に基づいて推定されてもよい。近位圧力Paは、近位位置に配置された管腔内圧力センサを使用して測定されてもよいし、または造影剤を注入するシリンジ内の流体の圧力を測定する体外圧力センサから推定されてもよい。
【0045】
図1に示されるインジェクタ210などのインジェクタは、ボーラスの注射中の血管内の圧力を監視するために、そのような体外圧力センサを含むことが多い。体外圧力センサは血管に流体結合されており、流体は非圧縮性であるため、体外圧力センサは、体外位置から注入カテーテルの遠位端における管腔内圧力の測定値を提供する。注入カテーテルの遠位端は通常、近位位置Pos
aに近いため、体外圧力センサは近位圧力P
aの信頼できる測定値を提供する。
【0046】
上記したように、遠位圧力Pdの値は推定されてもよい。遠位圧力Pdは、血管の幾何学的モデルを使用して、測定された近位圧力Paから推定されてもよい。幾何学的モデルは、血管の1つ以上の血管造影画像をセグメント化することによって提供され得る。この目的用の様々な画像セグメント化技術が知られており、例えば、閾値処理、テンプレートマッチング、動的輪郭モデリング、モデルベースのセグメント化、およびニューラルネットワーク(例えば、U-Nets)などが挙げられる。血管の1つ以上のビューを表す血管造影画像は、流体の流れをモデル化するための血管モデルを構築するために使用される血管110の幾何学的測定値を提供するためにセグメント化され得る。一例として、血管は、3D中心線、および3D中心線の長さに沿った楕円形の断面によって表され得る。その後、ナビエ-ストークス偏微分方程式に基づき得る1Dまたは3D血行動態モデルを幾何学的モデルとともに使用し、血管内の流体の流れを決定し、最終的に遠位圧力Pdを推定することができる。3D血行力学モデルは、数値流体力学「CFD」技術を使用して3D空間で解くことができる。
【0047】
式2の楔入圧Pwの値は、遠位圧力Pdと同じように測定することができる。したがって、楔入圧Pwの値は、管腔内圧力センサを使用して測定することができる。あるいは、楔入圧Pwは、推定遠位圧力Pdと同様の方法で幾何学的モデルを使用して推定することもできる。
【0048】
引き続き
図3を参照し、動作S120において、動作S110で計算された微小循環抵抗値を、近位位置Pos
aと遠位位置Pos
dとの間の血管の長さを表す通過長d
Tによって割ることによって、正規化された微小循環抵抗値が提供される。
【0049】
動作S120で使用される通過長dTを求めるために、様々な技術が使用され得る。1つの技術では、熱希釈技術を使用して通過時間TTが測定され、通過長dTは、通過時間TTを測定するために使用される近位温度センサと遠位温度センサとの間の既知の間隔から求められる。この技術では、1つ以上のプロセッサ120が、温度データを含む管腔内センサデータを受信し、受信した管腔内センサデータから通過時間TTを求める。さらに、管腔内センサデータが、近位温度センサおよび遠位温度センサを含む管腔内デバイスによって提供され、1つ以上のプロセッサ120は、血管110内の近位温度センサと血管内の遠位温度センサとの間を移動するように注入されたボーラスによって生じる温度変化にかかる時間に基づいて通過時間TTを決定するようにさらに構成される。通過長dTは、近位温度センサと遠位温度センサとの間の管腔内デバイスの長さに対応する。この技術では、近位温度センサおよび遠位温度センサの位置は固定されていてもよいし、または既知の位置に移動可能であってもよく、よって通過長dTは既知であってもよい。例えば、近位温度センサおよび遠位温度センサは、管腔内デバイス上の既知の位置に配置されてもよい。あるいは、1つ以上の温度センサの位置が、既知の場所または計算可能な場所に調整可能であってもよい。例えば、温度センサは、管腔内デバイスの長さに沿って1つ以上の個別の位置に移動可能であってもよい。あるいは、長さの目盛りを管腔内デバイスの近位端に設け、管腔内の長さに沿った温度センサの移動量を測定するために使用し、それによって温度センサ間の間隔を測定することもできる。あるいは、管腔内デバイス上の既知の地点に基準マーカーを配置し、X線イメージングを使用して基準マーカーに対する温度センサの位置を特定し、それによって温度センサ間の間隔を求めることもできる。
【0050】
別の技術では、X線血管造影画像データを使用して、通過時間T
Tおよび通過長の推定値d
Tが求められる。血管造影画像データは、
図2に示すX線イメージングシステム220を使用して生成されてもよい。この技術では、プロセッサ120が、血管110を通る注入ボーラスの流れを表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データを受信し、1つ以上のプロセッサ120は、
- X線画像データを解析して、通過時間T
Tおよび通過長の推定値d
Tを求めるように構成される。
【0051】
この技術については、
図4~
図9を参照してさらに詳しく説明する。
図4は、本開示の一部の態様に係る、血管110への造影剤ボーラス140の注入、および血管110中の注入されたボーラス140の流れを表す時系列の血管造影画像130の例を示す概略図である。
図4の上部は、血管110への造影剤ボーラス140の注入を表す様々なタイミング信号を示す。
図4の上部では、濃い網掛けのパルスによって造影剤ボーラス140が示されており、パルスの縦軸は造影剤注入速度を表し、横軸は経過時間「時間(t)」を表す。注入は時間T1
0に開始され、時間T1
1で終了する。造影剤の注入は、
図3にも示されている注入トリガ信号I
1に応答して開始され得る。注入トリガ信号I
1は手動で、またはプロセッサ120によって生成され得る。この例では、造影剤注入速度はT1
0~T1
1までの期間中一定である。代わりに、造影剤注入速度が時間の経過とともに変化してもよい。
【0052】
図4の下部は、時系列の血管造影画像130を示す。時系列の取得は、
図4の上部に示すように、イメージングトリガ信号A1
Triggerによって開始されてもよい。イメージングトリガ信号A1
Triggerは手動で、またはプロセッサ120によって生成され得る。プロセッサ120を使用してイメージングトリガ信号A1
Triggerおよび/または注入トリガ信号I
1を生成することによって、システム100は、時系列130の生成と、造影剤注入140との確実な同期を提供することができる。これにより、これらの動作を手動でトリガすることに伴う潜在的なタイミングエラーを回避することができ、結果として生じ得る造影剤注入130の繰り返しを回避することができる。イメージングトリガ信号A1
Triggerは、造影剤の注入の開始前に生成されてもよい。時系列はまた、注入された造影剤ボーラスが血管110を通る流れを時系列が取得できるように、期間T1
0~T1
1の造影剤の注入の継続時間と重なる継続時間T
SEQを有する可能性がある。
【0053】
この血管造影技術の一例では、血管110内の近位位置Posa)および遠位位置PosdがX線画像データ内で特定されてもよい。この例では、注入されるボーラスは注入される造影剤ボーラス140を含み、プロセッサ120は、
- X線画像データにおいて、血管110内の近位位置Posaおよび遠位位置Posdを特定し、
- X線画像データにおいて、注入された造影剤ボーラス140が血管内の特定された近位位置Posaと血管内の特定された遠位位置Posdとの間を移動するのに要する時間に基づいて通過時間TTを求め、
- X線画像データにおいて、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さに基づいて通過長dTの推定値を計算するように構成されている。
【0054】
図5を参照してこの例を説明する。
図5は、本開示の一部の態様に係る、血管110を通る注入された造影剤ボーラスの流れを表す時系列の血管造影画像130の一例を示す概略図である。
図5に示す時系列は、
図4に関連して説明した注入の後に生成されてもよい。
図5では、注入された造影剤が時間の経過とともに血管110内を進んでいくのがわかる。時間T
0において、造影剤の先頭は、LADの入口に近い近位位置にある。2画像フレーム後の時間T
1では、造影剤の先頭が血管110内の遠位位置にある。先頭の位置は、既知の画像処理技術を使用して血管造影画像130内で検出され得る。一例として、血管内の近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dは、先頭の位置を検出し、先頭が入口から所定の距離以内にあるか、または血管の遠位3分の2内にあれば、その位置をそれぞれ近位位置または遠位位置として定義することによって自動的に検出されてもよい。血管内の近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dは、ユーザ入力に基づいて特定されてもよい。ユーザ入力は、キーボード、マウス、タッチスクリーンなどのユーザ入力デバイスから受信され得る。ユーザ入力は、画像フレームと、近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dのそれぞれに対応する画像フレーム内の先頭の位置とを指定してもよい。
図5を参照して、その後、通過時間T
Tが時間T
0と時間T
1との間の時間差として計算され得る。その後、X線画像データにおいて、近位位置Pos
aと遠位位置Pos
dとの間の血管110の長さに基づいて通過長d
Tの推定値が計算される。
【0055】
一例では、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さは、近位位置および遠位位置を共通の画像にマッピングすることによって求められる。この例では、近位位置Posaは、時系列130内の早期X線画像の血管内の注入された造影剤ボーラス140の検出された先頭の位置に対応し、遠位位置Posdは、時系列130内の後期X線画像の検出された先頭の位置に対応する。また、通過時間TTは、早期X線画像と後期X線画像との間の時間差に相当し、通過長dTの推定値は、
- 近位位置Posaを早期画像から後期画像にマッピングして、後期画像内にマッピングされた近位位置Pos’aを提供するか、または、遠位位置Posdを後期画像から早期画像にマッピングして、早期画像内にマッピングされた遠位位置Pos’dを提供し、
- それぞれ、後期画像内のマッピングされた近位位置Pos’aと遠位位置Posdとの間、または早期画像内の近位位置Posaとマッピングされた遠位位置Pos’dとの間の血管の長さを求めることによって計算される。
【0056】
図6および
図7を参照してこの例を説明する。
図6は、本開示の一部の態様に係る、時系列の血管造影画像130のうちの早期画像および後期画像を示す概略図である。
図7は、本開示の一部の態様に係る、時系列の血管造影画像130のうちの時間T
0における早期画像から、近位位置Pos
aを、時間T
1における後期画像内のマッピングされた位置Pos’
aへとマッピングすることを示す概略図である。
【0057】
図6の左側部分は、時間T
0にて生成される、時系列130のうちの早期X線画像を示す。この画像は、
図5の時間T
0における画像に対応する。
図6のこの画像では、造影剤の先頭は血管110内の近位位置Pos
aにある。
図6の右側部分は、時間T
1にて生成される、時系列130のうちの後期X線画像を示す。この画像は、
図5の時間T
1における画像に対応する。
図6のこの画像では、造影剤の先頭は血管110内の近位位置Pos
dにある。通過時間T
Tは、
図6の時間T
0における早期X線画像と時間T
1における後期X線画像との間の時間差に相当する。
【0058】
図7では、時間T
0における早期画像内の近位位置Pos
aと、時間T
1における後期画像内の対応するマッピングされた位置Pos’
aとの間の破線によってマッピング動作が示されている。このマッピングは様々な技術を使用して実行され得る。一例として、2つの画像が互いに重ね合わせられてもよい。この技術は、2つの画像間にわずかな動きがある場合でも信頼性の高い結果をもたらす可能性がある。別の例として、早期画像および後期画像のそれぞれで中心線が特定され、追跡される中心線マッピング法が使用されてもよい。この例示的技術は、経路探索技術によって実装されてもよい。一例として、Fast-Marchingなどの経路検索アルゴリズムを繰り返し使用することで、早期画像内の血管の中心線を、後期画像内の血管の中心線との類似性(例えば、位置、角度、曲率の類似性)によって制約しつつ、推定することができる。
図7を参照して説明したマッピング動作は、代わりに、後期画像の遠位位置Pos
dを早期画像のマッピングされた遠位位置Pos’
dにマッピングすることによって、同様に実行されてもよい。
【0059】
上記のようにマッピングを実行した後、近位位置Pos
aと遠位位置Pos
dとの間の血管110の長さを計算することによって、通過長d
Tが計算される。この長さは、マッピングされた位置を含む血管造影画像、すなわち、
図7に示す例では時間T
1における後期画像から、X線イメージングシステム220の既知の較正を使用して求めることができる。較正により、血管造影画像のピクセルと、現実世界の寸法、例えば患者のミリメートルまたはセンチメートル/画素などとの間のスケーリングを提供することができる。このような較正は、X線イメージングシステムの現在の幾何学的形状について知られている可能性がある。また、X線源、血管110、およびX線検出器の間の相対的距離、ならびにX線検出器の直線寸法などのパラメータを使用して、X線イメージングシステム220の幾何学的形状に基づいて計算することもできる。あるいは、このような較正は、血管造影画像に含まれる特徴の既知の寸法に基づいて決定されてもよい。
【0060】
上述のように、様々な位置が、血管110内の遠位位置Posdとして選択され得る。遠位位置Posdは、例えば以下に対応する可能性がある。
- X線画像データにおける血管110内の近位位置から最も遠位の位置、または
- X線画像データにおける血管の遠位3分の2以内の位置、
- 基準通過長を超える通過長dTの推定値を提供する、X線画像データにおける血管内の位置、または
- 所定の基準短縮値を超えて局所的に短縮されない通過長dTの推定値を提供する血管内の最も遠位の特定可能な位置。
【0061】
別の例では、通過時間TTは、血管樹を表す時系列の血管造影画像から決定される。この例では、血管110は血管樹150の一部を形成し、時系列の画像130は血管樹を表し、さらに、血管樹内に注入された造影剤ボーラス140の流れを表す。この例では、プロセッサ120は、
- 時系列の画像130から血管樹の時間-強度曲線160を生成し、
- 時間-強度曲線から通過時間TTを計算するように構成されており、通過時間は、時系列130のうちの対応する画像において、ボーラス140が血管樹の一部に入る第1の時点T0aと、ボーラス140が血管樹を飽和させる第2の時点T1aとの間の差によって定義される。
【0062】
図8および
図9を参照しながらこの例について説明する。
図8は、本開示の一部の態様に係る、血管樹150および血管110を含む血管造影画像130’を示す概略図である。
図8において、血管110はLAD動脈を表し、血管110は血管樹150の一部を形成している。
図8に示す血管造影画像130’では、血管樹が造影剤で飽和されている。
図9は、本開示の一部の態様に係る、血管樹の時間-強度曲線160の例を示す概略図である。
図9に示す時間-強度曲線では、縦軸「累積血管らしさ(Vesselness)(a.u.)」は造影剤の強度を任意単位で表し、横軸「時間(ms)」は時間をミリ秒単位で表す。
図9に示す時間-強度曲線は、時系列130のうちの複数の血管造影画像のそれぞれについて、取得時の血管造影画像に対応する「血管らしさ」画像の累積値を計算することによって生成される。「血管らしさ」画像内の画素は、血管造影画像内の対応する画素がターゲット血管に属する確率を表す。次に、各「血管らしさ」画像の累積値が計算され、
図9に図示されている「累積血管らしさ」値が得られる。コンピュータビジョンアプローチ、例えば二階導関数またはニューラルネットワークアプローチに基づくコンピュータビジョンアプローチは、このような血管らしさ画像を計算するためのよく知られた技術である。1つの適切な技術が、Iyer,K.らによる“AngioNet:A Convolutional Neural Network for Vessel Segmentation in X-ray Angiography”:medRxiv 2021.01.25.21250488;doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.25.21250488に記載されている。
【0063】
図9では、時間=0ミリ秒において、累積血管らしさ値はバックグラウンドレベルから始まる。時間T
0aにおいて、ボーラス140が、血管造影画像内に表される血管樹の一部に入る。累積血管らしさは、時間T
0a以降、時間T
1aまで増加し、この時点でボーラス140が血管樹を飽和する。時間T
1aは、
図8に示す血管造影画像130’の時間に対応する。時間T
1a以降、血管樹は造影剤ボーラスで飽和したままとなり、したがって累積血管らしさは最大値のまま一定となり、時間=約160ミリ秒でウォッシュアウトが開始されるまでこの状態が続く。ウォッシュアウト中、造影剤ボーラスの後端が血管樹を通過し、累積血管らしさが再びバックグラウンドレベルに向かって減少する。時間=約200ミリ秒後、ボーラスは血管造影画像内に表される血管樹から完全にウォッシュアウトされ、累積血管らしさはバックグラウンドレベルのままである。
【0064】
ボーラス140が血管樹の一部に入る時間T0aと、ボーラス140が血管樹を飽和させる時間T1aは、時間-強度曲線160を分析することによって決定することができる。時間T0aは、ボーラスが対象の血管の入口に入る時間を表す可能性がある。閾値レベルを使用して、時間-強度曲線が最初に閾値レベルを超える時間T0aが検出されてもよい。同様に、ボーラス140が血管樹を飽和させる時間T1aは、強度が、最大強度から所定の範囲内のレベルに最初に到達する時間を検出することによって決定することができる。時間T1aは、例えば、時間-強度曲線が最初に最大強度の90パーセントのレベルに到達する時間に対応し得る。その後、通過時間TTが時間T0aと時間T1aとの間の差として計算され得る。
【0065】
図9に示す時間-強度曲線160には、いくらかのノイズが含まれていることがわかる。時間-強度曲線を分析する際にノイズの影響を減らすために、当てはめ手順を使用して、時間-強度曲線160に線を当てはめることができる。時間T
0aおよびT時間
1aは近似直線から決定されてもよい。一例として、時間-強度曲線160への直線近似160’が
図9に示されている。時間-強度曲線160と同様に直線近似160’を分析することによって、時間T
0aおよびT
1aも決定することができる。時間-強度曲線160に曲線などの他の線を当てはめて、時間T
0aおよびT
1aを決定することもできる。
【0066】
通過時間T
Tが血管樹150から決定されるこの例では、時系列の血管造影画像130内に表された血管樹のうちの最長の血管の長さによって、対応する通過長d
Tが提供されてもよい。この点で、最長の血管は、血管樹内で特定可能な最長の血管である可能性がある。血管樹内で特定可能な最長の血管は、血管樹の入口に近い基準点と血管樹の任意の他の点との間の血管樹の最短経路のうちの最長のものとして推定されてもよい。
図10を参照してこれを説明する。
図10は、本開示の一部の態様に係る、血管樹150と、血管110の最長最小経路C
*(P
ref,P
*
d)の例とを含む血管造影画像130’を示す概略図である。基準点と、血管樹の任意の点との間の最短経路は、Fast-Marchingなどの最小経路技術を使用して計算できる。基準点から開始して、血管樹の全ての点について、その点への最小経路は、最短の測地線距離でこの点につながる経路である。経路上の測地線距離は、その経路に沿った累積ポテンシャル値として定義することができ、ここで、任意の画素のポテンシャル値は、例えば血管らしさの関数である。血管らしさが高いほど、ポテンシャル値は低くなる。一例として、血管樹に属する任意の点では、ポテンシャル値は小さなイプシロン値εに設定され、血管樹に属さない全ての点では大きな値、例えば20倍イプシロンに設定される。基準開始点P
refおよび任意の点P
dについて、最小経路C
*(P
ref,P
d)は、P
refをP
dに結びつつ、その経路上の全てのポテンシャル値の合計を最小にする。
図10では、血管樹150とともに、基準点P
ref、目的地点P
d、および最適目的地点P
*
dが示されている。血管樹の全ての点でポテンシャル値=εが設定され、血管樹に属さない全ての点でポテンシャル値=20×εが設定される。P
refとP
dとを結ぶ全ての経路C(P
ref,P
d)には、その経路上のポテンシャル値の合計に等しい数A(C(P
ref,P
d))が対応する。最小経路C
*(P
ref,P
d)は、P
refからP
dまでの全ての可能な経路の中でAが取り得る最小値に対応する。上記のように、この最小経路は、Fast-Marchingアルゴリズムを使用して効率的に見つけることができる。ここで、d
Tは、最小経路C
*(P
ref,P
*
d)の長さによって提供され得、ここで、P
*
dは、全ての血管樹点P
dにわたるA(C
*(P
ref,P
d))を最大化する血管樹に属する点である。言い換えると、d
Tは最長の最小経路に対応し、これは、測地線距離の観点から、P
refから出発し、血管樹の点で終わる最短経路の中で最も長い経路である。一例として、この長さは、
図8の血管110の点Aと点Bとの間の破線の長さとして示されている。点Aは、対象の血管の入口の位置に対応し、点Bは、時系列の血管造影画像130内の血管の最も遠位の特定可能な点に対応する。この血管の長さは、血管造影画像の画素と、実際の寸法(例えば、患者のミリメートルまたはセンチメートル/画素)との間のスケーリングをするための上記X線イメージングシステム較正技術のいずれかを使用して決定され得る。このようにして血管樹における最長の血管の長さを対応する通過長d
Tとして使用することにより、通過長d
Tと通過時間T
Tとの比率として定義される通過速度の信頼性の高い推定値が得られることが示された。なぜなら、これは血管樹のトポロジーの変化に対して堅牢であり、造影剤が2つの平行な枝を同時に進行する場合でも速度を過大評価しないからである。
【0067】
発明者らはまた、通過時間の値に依存するIMRなどの微小循環抵抗値も、他の原因による誤差の影響を受ける可能性があることを突き止めた。1つの他の誤差の原因は、血液速度が心周期サイクルを通じて変動するという事実に関係している。この結果、通過時間TTの測定値は、通過時間が測定される心周期サイクルの部分に依存する。さらに別の誤差の原因は、上記の正規化された微小循環抵抗値を計算するために使用される通過長dTの測定に関係する。以下に詳しく説明するように、これらの誤差の原因の1つまたは両方に対処することで、計算された微小循環抵抗値のさらなる改善が達成される可能性がある。
【0068】
上記したように、発明者らは、通過時間の測定値は、通過時間が測定される心周期サイクルの部分に依存することを突き止めた。これは、血液速度が心周期サイクルを通じて変動するという事実に起因する。そのため、例えば、収縮期の一部における通過時間TTの測定値は、拡張期の一部における通過時間の測定値とは異なる。この誤差は、通過時間の測定を複数回繰り返し、通過時間を平均化することで、ある程度補正できる。しかし、血管内にボーラスを繰り返し注入し、通過時間を平均化することで生じるワークフローの複雑さは非常に望ましくない。ボーラスの種類に応じて、既存のワークフローの複雑さには、ボーラスの複数回の注入の実行、X線量の増加および造影剤の増加を伴う複数回の血管造影取得の実行、医療処置中にそのような平均値を計算することの難しさ、および医療処置の時間の増加が含まれ得る。したがって、これらの問題のうちの1つ以上を回避する正確な移動時間測定を行うことは有利であろう。
【0069】
一例では、正規化された微小循環抵抗値は、補正された通過時間T’Tに基づいて提供される。この例では、注入されたボーラスは近位時間T0にて血管110内の近位位置Posaを通過し、注入されたボーラスは遠位時間T1にて血管110内の遠位位置Posdを通過し、注入されたボーラスは、通過長dTと通過時間TTとの比率として定義される平均通過速度VTを有する。この例では、1つ以上のプロセッサ120は、さらに、補正された通過時間T’Tに基づいて、正規化された微小循環抵抗値が提供されるように通過時間TTを補正するように構成される。1つ以上のプロセッサ120は、以下の手順で補正された通過時間T’Tを提供するように構成される。
- 血管110に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータCm(t)を受信することであって、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、測定された心周期TCmと、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間とを含む、受信することと、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T0および遠位時間T1を、測定された心周期TCm内の対応する時間にマッピングすることと、
- 基準心周期TCrefを有する基準心周期サイクルにわたる血管110内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を含む基準流体速度データを受信することと、
- 基準流体速度曲線Vref(t)において、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定することと、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準心周期TCrefが測定された心周期TCmと一致し、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれの基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の対応する心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間に対応するように、変換することと、
- 変換された基準流体速度曲線V’ref(t)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)を提供することであって、近位時間T0と遠位時間T1との間の時間間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VPrefが平均通過速度VTに対応するように、提供することと、
- 平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VrefFullの比率を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tを提供すること。
【0070】
この例で実行される動作を
図11を参照しながら説明する。
図11は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間の補正の第1の例に関連する動作を示す概略図である。この例で実行される動作は、
図12を参照して以下で説明され、かつ以下でより詳細に説明される動作によって同等に実行することも可能である。なお、
図11に関連して説明した補正通過時間T’
Tの使用は、血管の正規化された微小循環抵抗値を決定することに限定されないことに留意されたい。補正通過時間T’
Tは、医療分野一般における血管パラメータとしても応用できる。
【0071】
この例における測定された心周期サイクルデータC
m(t)の受信動作に関連して、
図11の上部には、測定された心周期サイクルデータC
m(t)の例が示されている。心周期サイクルデータC
m(t)は、血管110内の流体の圧力、速度、または温度を表すセンサデータ、心臓と連絡する1つ以上のセンサによって生成される心電図データ、および血管110を表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データなど、様々なソースによって提供され得る。この目的のために様々なセンサが知られている。あるいは、X線血管造影画像データを分析して心周期サイクルデータC
m(t)が提供されてもよい。例えば、X線血管造影画像データが心臓の一部に対応する場合、心臓を表す領域内の血管造影画像の時間的な強度変化から、信号C
m(t)を決定することができる。このような画像において、例えば冠動脈の位置が検出され、それらの動きを表す強度変動を検出することで、経時的に変化し、心周期サイクルを表す信号が提供されてもよい。
図11に示す例では、心周期サイクルデータC
m(t)は管腔内圧を表す。
【0072】
測定された心周期サイクルデータCm(t)は、有線、光、および無線通信を含む任意の形式のデータ通信を介して受信され得る。いくつかの例を挙げると、有線または光通信が使用される場合、通信は電気または光ケーブルで伝送される信号を介して行われ、無線通信が使用される場合、通信は例えばRFまたは光信号を介して行われる。
【0073】
図11に示す測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、時間の経過に伴って連続的に変化する信号を示している。測定された心周期サイクルデータC
m(t)はまた、測定された心周期T
Cmと、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間とを含む。心臓状態は、本明細書では心臓の生物学的状態として定義される。図示の例では、管腔内圧信号は周期T
cm、ならびに収縮期の開始のシグネチャSSおよび拡張期の開始のシグネチャSDを有する。一般に、測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、このような心臓状態のうちの1つ以上の心臓状態のシグネチャを含み得る。測定された心周期サイクルデータC
m(t)の起源に応じて、測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、代わりにまたは追加で、拡張期中の最大速度DMの瞬間、および収縮期中の最大速度SMの瞬間など、1つ以上の心臓状態のシグネチャを含み得る。
【0074】
なお、
図11に示す測定された心周期サイクルデータC
m(t)は時間の経過ともに連続的に変化する信号を含むが、1つ以上のプロセッサ120によって受信される測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、測定された心周期T
Cm、および心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間のみを含む可能性があることに留意されたい。
【0075】
1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T
0および遠位時間T
1を、測定された心周期T
Cm内の対応する時間にマッピングする動作が
図11の中央部分に示されている。
図11の中央部分の式は、それぞれの時間を、測定された心周期T
Cm内の対応する時間にマッピングするために使用され得る。近位時間T
0および遠位時間T
1は、これらの時間の測定を、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の時間測定に同期させることによって、測定された心周期T
Cm内の対応する時間T
0’およびT
1’にマッピングできる。図示の例では、近位時間T
0および遠位時間T
1はともに心周期サイクルの拡張期中に発生する。
【0076】
基準心周期T
Crefを有する基準心周期サイクルにわたる血管110内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線V
ref(t)を含む基準流体速度データを受信する動作において受信される時間依存基準流体速度曲線V
ref(t)の例が、
図11の左下部分に示されている。基準流体速度曲線V
ref(t)は血液速度のモデルであり、文献から取得することも、臨床データから求めることもできる。基準流体速度曲線V
ref(t)は、特定の条件下の血管を表す可能性があり、基準流体速度曲線V
ref(t)は、血管110に対応するように選択される。例えば、流体速度曲線V
ref(t)は、血管について、基礎状態および充血状態のそれぞれについて、ならびに血管開存性について指定され得る。これは、右冠動脈が一般に左冠動脈よりも拡張期血流成分が著しく少ないなどのファクタを考慮している。血管開存性は、冠血流予備量比の値によって定義され得る。
図11の左下部分に示すように、時間依存基準流体速度曲線V
ref(t)は周期T
Crefを有する。
【0077】
基準流体速度曲線V
ref(t)において、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定する動作も、
図11の左下部分に示されている。図示の例では、収縮期の開始に対応するシグネチャSSの時間が、基準流体速度曲線V
ref(t)内で円の記号によって識別されている。同様に、拡張期の開始に対応するシグネチャSDの時間が、基準流体速度曲線V
ref(t)内で四角形の記号によって識別されている。基準流体速度曲線V
ref(t)のこれらのシグネチャがこれらの心臓状態を表すという事実は、臨床研究から判断できる。
【0078】
基準流体速度曲線V
ref(t)の時間軸を変換する動作が
図11の中央下部に示されている。
図11の中央下部に示されている結果は、
図11の左下部分の基準流体速度曲線V
ref(t)が、
図11の中央部分に示されている時間軸上にマッピングされたものである。これにより、変換された基準流体速度曲線V’
ref(t)が得られる。この動作は、基準流体速度曲線V
ref(t)の時間軸の線形マッピングを実行することを含み得る。この場合、基準流体速度曲線V
ref(t)の時間軸を変換する動作は、以下の式で表すことができる。
【数5】
【数6】
ここで、mod(A,B)はAを法とするB、すなわちA-E(A/B)を表し、E(x)はxの整数部を表す。
【0079】
これにより、基準流体速度曲線の時間軸の線形再マッピングが提供され、基準流体速度曲線の周期TCrefが、測定された心周期サイクルデータCm(t)の測定された心周期TCmと一致するようになる。
【0080】
あるいは、この動作は、連続する選択された心臓状態のシグネチャ間の各時間間隔について、基準流体速度曲線V
ref(t)の時間軸の別個の区分線形マッピングを実行することを含み得る。一例として、拡張期の開始SDの両側の2つの時間間隔がこのようにマッピングされる場合、基準流体速度曲線V
ref(t)の時間軸を変換する動作は、上記で定義した式6と合わせて、次の式で表すことができる。
【数7】
【数8】
【0081】
式7および式8において、SDおよびSDrefは、それぞれ、測定された心周期サイクルデータCm(t)および基準流体速度曲線における拡張期の開始時間である。
【0082】
変換された基準流体速度曲線V’
ref(t)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(t)を生成する動作が、
図11の右下部分に示されている。この動作は、例えば次の式に従って、変換された基準流体速度曲線V’
ref(t)の振幅軸を線形スケーリングすることを含み得る。
【数9】
ここで、αは振幅のスケーリング係数である。
【0083】
この動作は、近位時間T0と遠位時間T1との間の時間間隔にわたって計算された振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VPrefが、平均通過速度VTと一致するまで反復して実行され得る。
【0084】
その後、平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VrefFullとの比率を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tが提供される。
【0085】
これらの動作の結果は、通過時間TTが測定される心周期サイクルの部分から独立した補正された通過時間T’Tを提供することである。したがって、血管にボーラスを繰り返し注入し、通過時間を平均化することに伴う既存のワークフローの複雑さの一部が解消される。
【0086】
上記したように、発明者らは、別の誤差の原因は、上記の正規化された微小循環抵抗値を計算するために使用される通過長dTの測定に関連することを突き止めた。一例では、正規化された微小循環抵抗値は、X線血管造影画像データを分析することによって決定される通過長dTの推定値を使用して提供される。この例では、1つ以上のプロセッサ120は、血管110を通る注入されたボーラスの流れを表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データを受信するように構成されており、1つ以上のプロセッサ120は、X線画像データを分析して通過時間TT、および通過長dTの推定値を決定するように構成されている。画像130は、X線イメージングシステムによって生成される投影画像を含み、1つ以上のプロセッサ120はさらに、以下を実行するように構成される。
- 血管110に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信すること、および
- 通過長dTの推定値を決定することであって、
- X線投影画像のうちの1つ以上における血管110と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管110を表す基準血管170の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像のうちの1つ以上における血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定し、
- 血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、1つ以上のX線投影画像内に表される血管110をスケーリングすることにより、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さを計算し、通過長さdTの推定値を提供することによって、通過長dTの推定値を決定すること。
【0087】
このようにすることで、正確な通過長dTが提供される。通過長dTは短縮効果を考慮しているため、正確である。このように計算された通過長を使用して、上記の正規化された微小循環抵抗値を計算することにより、これらの値の精度が向上する可能性がある。なお、このようにして決定された長さスケール係数の使用は、血管の正規化された微小循環抵抗値を計算することに限定されないことに留意されたい。長さスケール係数は、医療分野一般における血管の一部の長さを計算するためにも使用できる。
【0088】
図2および
図13~
図16を参照しながらこの例について説明する。
図2を参照すると、X線血管造影画像データは、X線イメージングシステム220から受信され得る。この例では、注入されるボーラスは造影剤ボーラスである。X線血管造影画像データはは、有線、光、および無線通信を含む任意の形式のデータ通信を介して受信され得る。いくつかの例を挙げると、有線または光通信が使用される場合、通信は電気または光ケーブルで伝送される信号を介して行われ、無線通信が使用される場合、通信は例えばRFまたは光信号を介して行われる。
【0089】
いくつかの例として、受信されたX線イメージングシステムの幾何学的データは、次のうちの1つ以上を含み得る。
- 被写体の長軸を中心とする、X線イメージングシステムの中心X線の回転角度α、および/または
- 被写体の頭尾軸に対するX線イメージングシステムの中心X線の傾斜角度β、および/または
- X線イメージングシステム220のX線検出器220bの画素サイズ、および/または
- X線イメージングシステムの検出器220bの長さもしくは幅、X線イメージングシステム220のX線源220aとX線検出器220bとの間の間隔、およびX線源220aと血管110との間の間隔。
【0090】
回転角度αおよび傾斜角度βの例が、それぞれ
図14および
図16に示されている。
図15は、本開示の一部の態様に係る、血管110の一部に対するX線イメージングシステム220の向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを示す概略図であり、幾何学的データは、被写体230の長軸を中心とするX線イメージングシステム220の中心X線の回転角度αを含む。
図16は、本開示の一部の態様に係る、血管110の一部に対するX線イメージングシステム220の向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを示す概略図である。幾何学的データは、被写体230の頭尾軸に対するX線イメージングシステム220の中心X線の傾斜角度βを含む。
【0091】
図15および
図16において、図示されている血管110は被写体230の一部を形成し、X線イメージングシステム220はX線源220aおよびX線検出器220bを含む。
【0092】
この例では、X線投影画像のうちの1つ以上における血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定する動作が、
図13および
図14を参照して説明されている。一部の例では、血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数は、X線投影画像のうちの1つのみの画像内で決定される。長さスケール係数を決定する操作には、X線イメージングシステム幾何学的データを使用して、血管110を表す基準血管170の3Dモデルを投影することを含む。
図13は、本開示の一部の態様に係る、基準血管170の3Dモデルを示す概略図である。
図13に示す3Dモデルは複数の心臓血管を含む。ラベルの付いた血管110は右冠動脈(RCA)を表す。
図14は、本開示の一部の態様に係る、X線イメージングシステムのX線源190の視点からの、X線イメージングシステムの検出器の仮想平面180上の基準血管170’の投影された3Dモデルを示す概略図である。基準血管170’の投影された3Dモデルは、X線イメージングシステム幾何学的データを使用して生成される。基準血管170’の投影された3Dモデルは、回転角度α、傾斜角度β、X線イメージングシステムの検出器220bの長さまたは幅、X線イメージングシステム220のX線源220aとX線検出器220bとの間の距離、およびX線源220aと血管110との間の距離などのデータを使用して生成され得る。投影された3Dモデルは、X線イメージングシステムの検出器に表示されるのと同じように、検出器220bの仮想平面180上の基準血管170の正確な描写を提供する。
【0093】
血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定する動作は、1つ以上のX線投影画像内の血管110と、投影された基準血管170’とをマッチングすることを含む。投影画像内の血管110は、
図14の検出器220bの仮想平面180上のオーバーレイとしても示されている。図示の例ではマッチング動作が完了していないため、投影された基準血管170’と血管110との間に不一致が存在する。したがって、
図14では、一致を得るために不一致を減らす必要がある。これは、投影後に基準血管の入口または開始点が血管110の入口または開始点に対応するように3Dモデルを位置合わせすることを含み得る。これは、投影後にモデルの解剖学的特徴が血管画像内の同じ解剖学的特徴に対応するように3Dモデルをスケーリングすることを含み得る。これは、基準血管の異なる3Dモデルまたは3Dモデルの一部を選択し、このモデルまたはこのモデルの一部を同様に投影して、血管110を表す改善された一致が見つかるまで、これを続けることを含み得る。
【0094】
最も近い一致が見つかると、血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数が決定される。このモデル内の血管の長さは既知であるため、長さスケール係数は基準血管170の3Dモデルから決定できる。
【0095】
その後、血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、1つ以上のX線投影画像内に表される血管110をスケーリングすることにより、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さが計算され、通過長さdTの推定値が提供される。
【0096】
血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定し、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さを計算する動作については、以下の例示的な実装形態でより詳細に説明されている。
【0097】
この実装形態では、複数の異なる被写体の血管(例えば、冠動脈樹)の3次元中心線が、3D座標のシーケンスとして保存される。中心線は、例えば心臓CT血管造影画像およびPhilips IntelliSpace Portal Comprehensive Cardiac Analysisソフトウェアなどの既知のイメージングおよび画像処理方法を使用して決定できる。血管セグメントは、例えば、Austen,W.G.らによる“A reporting system on patients evaluated for coronary artery disease”、Report of the Ad Hoc Committee for Grading of Coronary Artery Disease、Council on Cardiovascular Surgery、American Heart Association.(1975) Circulation.51(4 Suppl):5~40に開示されている冠動脈のAHA15セグメントモデルなどの標準化された命名方式を使用してラベル付けすることができる。ラベル付けは、冠動脈樹の各中心線点に固有のラベルを割り当てることによって実行され得る。この動作は専門家のユーザによって実行されてもよい。血管の分岐点は、血管樹に沿ってラベルが変化する場所として識別される。データベースは、個別の血管樹のセットとして、または平均血管樹の単一モデルとして、または血管樹タイプごとの平均モデル(例えば、平均左優勢モデル、平均右優勢モデルなど)として構築され得る。
【0098】
血管セグメントの中心線は3D座標のシーケンスPi,s,(i=0..N)として表されるため、血管セグメントsの3D長さl3D(s)は、隣接する中心線点間のユークリッド距離d(Pi,Pi-1)の和として計算できる。
【0099】
【0100】
3D血管セグメントは、血管固有であることに加えて、患者の性別などの他の基準によってさらに指定されてもよい。観測された2D中心線の短縮を予測するために使用する場合は、これらの追加基準を使用して正しいデータベースモデルを選択することができる。
【0101】
投影画像では、既知の方法によって血管セグメントが抽出される。2次元の場合、血管セグメントsは、2D検出器座標のシーケンスX
i,(i=0..M)として表される。その後、血管セグメントの観測された2D長さl
2D(s)(X線ファンビームによる短縮および拡大を含む)が、隣接する2D中心線点間のユークリッド距離d(X
i,X
i-1)の和として計算できる距離に、所与のオブジェクトおよび投影ジオメトリの画素-ミリメートルの対応を推定する較正係数d
calを乗じた値として計算され得る。
【数11】
【0102】
2D血管セグメントは、3D血管セグメントのデータベースと同じ血管セグメントラベル付けを使用する。較正係数dcalは、血管造影図内の注入カテーテルの既知のサイズから、または他の既知の較正方法から推定できる。
【0103】
図15および
図16に示すように、X線血管造影画像は通常、Cアームおよびファンビームを含むX線イメージングシステムを使用して生成される。したがって、投影単位は、X線焦点の位置、Cアームの回転アイソセンター、検出器のコーナー位置、ならびに各方向における画素サイズおよび画素数によって定義できる。短縮法にとって特に重要なのは、患者の長軸(RAO-LAO方向)を中心とした中心X線の回転角度α、および頭尾方向における傾斜角度βである。2つの角度によって、所与のシステムジオメトリを使用した投影の焦点F(α,β)の3D位置が決定される。
【0104】
短縮推定は、セグメントラベルsによって決定される適切な3D血管中心線モデルを選択することから始まる。まず、P
0,sがF(α,β)とX
0とを結ぶ線上にあること、およびセグメントの質量中心がアイソセンターを通る平面内にあり、Cアームシステムの検出器に平行である(深度推定)ことを保証するために、選択された中心線モデルのP
i,sが、あるオフセットだけシフトされる。シフトされた中心線は次の式で表される。
【数12】
【0105】
セグメントモデルの真の3D長さl
3D(s)は既知である。セグメントの短縮投影された長さ
【数13】
は、検出器平面上に
【数14】
を投影するために単純な光線ジオメトリを使用して計算でき、以下のような投影された点
【数15】
が得られる。
【数16】
【0106】
真の3D長さと短縮投影された長さとの比率を使用して、2Dで観察される血管セグメントの長さl
2D(s)の短縮および拡大を次のように補正することができる。
【数17】
【0107】
その後、この補正された長さは、最も正確な結果を得るために血管の真の3D長さが必要な場合に使用できる。
【0108】
なお、上記システム100はまた、インジェクタ210、X線イメージングシステム220、患者用ベッド240、計算された値の1つ以上が表示されるディスプレイ250、およびユーザ入力デバイス(図示せず)のうちの1つ以上を含み得ることに留意されたい。ユーザ入力デバイスはキーボード、マウス、タッチスクリーンなどであり得る。
【0109】
別の例では、血管110の正規化された微小循環抵抗値を提供する方法が提供される。方法は、
- 注入されたボーラスが、血管内の近位位置Posaと血管内の遠位位置Posdとの間を移動するのにかかる通過時間TTに基づいて、血管110の微小循環抵抗値を計算すること(S110)と、
- 計算された微小循環抵抗値を、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管の長さを表す通過長dTによって割ることによって、正規化された微小循環抵抗値を提供すること(S120)とを含む。
【0110】
上記したように、
図11に関連して説明した補正通過時間T’
Tの使用は、血管の正規化された微小循環抵抗値を決定することに限定されない。補正通過時間T’
Tは、医療分野一般における血管パラメータとしても応用できる。
【0111】
したがって、本開示の第2の態様によれば、血管110の通過時間TTを補正するシステムが提供される。本開示のこの第2の態様に係る様々な例が、以下に例1A~例15Aとして列挙されている。
【0112】
例1A.血管110の通過時間TTを補正するシステムであって、通過時間TTは、注入されたボーラスが、近位時間T0における血管内の近位位置Posaと、遠位時間T1における血管内の遠位位置Posdとの間の血管110の通過長dTに沿って、通過長dTと通過時間TTとの比として定義される平均通過速度VTで移動するのにかかる時間を表し、システムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管110に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータCm(t)を受信することであって、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、測定された心周期TCmと、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間Ta、Tbとを含む、受信すること(S210)と、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T0および遠位時間T1を、測定された心周期TCm内の対応する時間にマッピングすること(S220)と、
- 基準心周期TCrefを有する基準心周期サイクルにわたる血管110内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を含む基準流体速度データを受信すること(S230)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)において、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定すること(S240)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準心周期TCrefが測定された心周期TCmと一致し、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれの基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の対応する心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間に対応するように、変換すること(S250)と、
- 変換された基準流体速度曲線V’ref(t)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)を提供することであって、近位時間T0と遠位時間T1との間の時間間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VPrefが平均通過速度VTに対応するように、提供すること(S260)と、
- 平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VrefFullの比率を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tを提供すること(S270)とを実行するように構成されている、システム。
【0113】
例2A.例1Aに記載のシステムであって、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、収縮期の開始SS、拡張期の開始SD、拡張期中の最大速度の瞬間DM、および収縮期中の最大速度の瞬間SMから選択される2つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間を含み、1つ以上のプロセッサは、さらに、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の対応するシグネチャの時間に対応するように、変換するように構成されている、システム。
【0114】
例3A.例1Aに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、連続する選択された心臓状態のシグネチャ間の各時間間隔について、基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸の別個の区分線形マッピングを実行することによって、基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を変換するように構成されている、システム。
【0115】
例4A.例1A~例3Aのいずれか1つに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、血管110の時間依存基準流体速度曲線のデータベースから時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を選択することにより、基準流体速度データを特定するようにさらに構成されている、システム。
【0116】
例5A.例4Aに記載のシステムであって、血管110は患者の一部を形成し、血管110の時間依存基準流体速度曲線のデータベースから時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を選択することは、血管のタイプ、血管の寸法、患者のボディマス指数、患者の性別、患者の年齢、患者の血管優位性のタイプ、患者の血行動態状態、患者の石灰化指数、患者のプラーク負荷指数、患者の血管剛性パラメータ、患者の心機能パラメータのうちの少なくとも1つに基づいて行われる、システム。
【0117】
例6A.例1A~例5Aのいずれか1つに記載のシステムであって、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、
- 血管110を表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データと、
- 血管110内の流体の圧力、速度、または温度を表すセンサデータと、
- 心臓と連絡する1つ以上のセンサによって生成された心電図データと、のうちの少なくとも1つを含み、
- 1つ以上のプロセッサは、X線血管造影画像データ、センサデータ、および心電図データをそれぞれ分析することにより、測定された心周期TCm、および心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間を決定するように構成されている、システム。
【0118】
例7A.例1A~例6Aのいずれか1つに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、微小循環抵抗値は通過時間TTに基づき、微小循環抵抗値は補正通過時間T’Tを使用して計算される、システム。
【0119】
例8A.例7Aに記載のシステムであって、微小循環抵抗値は、微小循環抵抗指標(IMR)値である、システム。
【0120】
例9A.例1A~例8Aのいずれか1つに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサはさらに、
- 管腔内デバイスデータを受信するように構成されており、管腔内デバイスデータは、血管110内の近位位置Posaに配置された近位センサによって生成された近位センサデータと、血管内の遠位位置Posdに配置された遠位センサによって生成された遠位センサデータとを含み、
- 1つ以上のプロセッサは、さらに、近位センサでボーラスによって生成された信号と遠位センサでボーラスによって生成された信号との間の時間差に基づいて通過時間TTを決定するように構成されている、システム。
【0121】
例10A.例1A~例9Aのいずれか1つに記載のシステムであって、近位センサおよび遠位センサは、圧力センサ、流体速度センサ、温度センサ、および超音波センサのうちの少なくとも1つを含む、システム。
【0122】
例11A.例9Aまたは例10Aに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサはさらに、
- 近位センサの近位位置Posaおよび遠位センサの遠位位置Posdを表す1つ以上の画像を含むX線画像データを受信し、
- 1つ以上の画像を分析して、近位センサの近位位置Posaおよび遠位センサの遠位位置Posdの検出に基づいて通過長dTの推定値を決定するように構成されている、システム。
【0123】
例12A.例1A~例8Aのいずれか1つに記載のシステムであって、注入されるボーラスは注入される造影剤ボーラス140を含み、1つ以上のプロセッサはさらに、
- 血管110中に注入されたボーラス140の流れを表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データを受信し、
- 時系列の画像130を分析して、通過時間TT、および/または通過長の推定値dTを求めるように構成されている、システム。
【0124】
例13A.例12Aに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサはさらに、X線血管造影画像データ内の血管110内の近位位置Posaおよび遠位位置Posdを特定し、
- X線血管造影画像データにおいて、注入された造影剤ボーラス140が血管内の特定された近位位置Posaと血管内の特定された遠位位置Posdとの間を移動するのに要する時間に基づいて通過時間TTを求め、かつ/または
- X線血管造影画像データにおいて、近位位置Posaと遠位位置Posdとの間の血管110の長さに基づいて通過長dTの推定値を求めるように構成されている、システム。
【0125】
例14A.例13Aに記載のシステムであって、近位位置Posaは、時系列130内の早期X線画像の血管110内の注入された造影剤ボーラス140の検出された先頭の位置に対応し、遠位位置Posdは、時系列130内の後期X線画像の検出された先頭の位置に対応し、
- 通過時間TTは、早期X線画像と後期X線画像との間の時間差を計算することによって求められ、
- 通過長dTの推定値は、
- 近位位置Posaを早期画像から後期画像にマッピングして、後期画像内にマッピングされた近位位置Pos’aを提供するか、または、遠位位置Posdを後期画像から早期画像にマッピングして、早期画像内にマッピングされた遠位位置Pos’dを提供し、
- それぞれ、後期画像内のマッピングされた近位位置Pos’aと遠位位置Posdとの間、または早期画像内の近位位置Posaとマッピングされた遠位位置Pos’dとの間の血管110の長さを計算することによって求められる、システム。
【0126】
例15A.例1A~例8Aのいずれか1つに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、コンピュータ可読記憶媒体から、管腔内センシングデバイスから、またはユーザ入力デバイスから、通過長dTおよび/または通過時間TTを受信するようにさらに構成されている、システム。
【0127】
したがって、本開示の第2の態様によれば、血管110の通過時間TTを補正するシステムが提供される。通過時間TTは、注入されたボーラスが、近位時間T0における血管内の近位位置Posaと、遠位時間T1における血管内の遠位位置Posdとの間の血管110の通過長dTに沿って、通過長dTと通過時間TTとの比として定義される平均通過速度VTで移動するのにかかる時間を表し、システムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管110に流体結合された心臓の測定された心周期データCm(t)を受信することであって、測定された心周期データCm(t)は、測定された心周期TCmと、心周期内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間Ta、Tbとを含む、受信すること(S210)と、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T0および遠位時間T1を、測定された心周期TCm内の対応する時間にマッピングすること(S220)と、
- 基準心周期TCrefを有する基準心周期サイクルにわたる血管110内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を含む基準流体速度データを受信すること(S230)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)において、測定された心周期データCm(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定すること(S240)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準心周期TCrefが測定された心周期TCmと一致し、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれの基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の対応する心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間に対応するように、変換すること(S250)と、
- 変換された基準流体速度曲線V’ref(t)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)を提供することであって、近位時間T0と遠位時間T1との間の時間間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VPrefが平均通過速度VTに対応するように、提供すること(S260)と、
- 平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VrefFullの比率を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tを提供すること(S270)とを実行するように構成されている、システム。
【0128】
これらの動作の結果は、通過時間T
Tが測定される心周期サイクルの部分から独立した補正された通過時間T’
Tを提供することである。したがって、血管にボーラスを繰り返し注入し、通過時間を平均化することに伴う既存のワークフローの複雑さの一部が解消される。これらの動作は、
図11および
図2を参照して上記した動作に対応する。これらの動作は
図17にも示されており、
図17は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間を補正する方法の一例を示すフローチャートである。血管110の通過時間T
Tを補正するシステムに従って実行される動作は、
図17に示す方法によっても実行される可能性があり、その逆も同様である。
【0129】
上記のように、
図11では、補正された通過時間T’
Tが部分的に動作S220によって提供され、1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T
0および遠位時間T
1は、測定された心周期T
Cm内の対応する時間にマッピングされる。あるいは、補正された通過時間T’
Tは、1つ異常のシグネチャの時間、ならびに近位時間T
0および遠位時間T
1を、心周期サイクル内の対応する角度位相0、2πにマッピングすることによって同等に提供されてもよい。心周期サイクル内の対応する時間ではなく、対応する角度位相にマッピングしても同じ効果が得られ、動作は時間領域ではなく位相領域で実行される。
【0130】
図12を参照すると、血管の通過時間T
Tを補正するためのシステムが提供される。通過時間T
Tは、注入されたボーラスが、近位時間T
0における血管内の近位位置と、遠位時間T
1における血管内の遠位位置との間の血管の通過長d
Tに沿って、通過長d
Tと通過時間T
Tとの比として定義される平均通過速度V
Tで移動するのにかかる時間を表す。システムは、1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータC
m(t)を受信することであって、測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャのT
a、T
b時間を含む、受信することと、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T
0および遠位時間T
1を、心周期サイクル内の対応する角度位相0、2πにマッピングすることと、
- 基準心周期サイクルにわたる血管内の流体速度を表す角度位相依存基準流体速度曲線V
ref(φ)を含む基準流体速度データを受信することと、
- 基準流体速度曲線V
ref(φ)において、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの角度位相を特定することと、
- 基準流体速度曲線V
ref(φ)の位相軸を、基準流体速度曲線V
ref(φ)内で特定された1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれの基準シグネチャの角度位相が、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の1つ以上の対応する心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの角度位相に対応するように、変換することと、
- 変換された基準流体速度曲線V’
ref(φ)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(φ)を提供することであって、近位時間T0に対応する角度位相で開始し、遠位時間T
1に対応する角度位相で終了する角度位相間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(φ)の平均速度V
Prefが平均通過速度V
Tに対応するように、提供することと、
- 平均通過速度V
Tと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(φ)の平均速度V
refFullの比を通過時間T
Tに乗じて、補正された通過時間T’
Tを提供することとを実行するように構成されている。
【0131】
このようにすることで、通過時間T’
Tは、通過時間T
Tが測定される心周期サイクルの部分から独立して補正された。これにより、血管にボーラスを繰り返し注入し、通過時間を平均化することに伴う既存のワークフローの複雑さの一部が解消される。これらの動作を
図12を参照しながら説明する。
図12は、本開示の一部の態様に係る、血管の通過時間の補正の第2の例に関連する動作を示す概略図である。
【0132】
この例における測定された心周期データC
m(t)の受信動作に関連して、
図12の上部には、測定された心周期データC
m(t)の例が示されている。心周期サイクルデータC
m(t)は、血管110内の流体の圧力、速度、または温度を表すセンサデータ、心臓と連絡する1つ以上のセンサによって生成される心電図データ、および血管110を表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データなど、様々なソースによって提供され得る。この目的のために様々なセンサが知られている。あるいは、X線血管造影画像データを分析して心周期データC
m(t)が提供されてもよい。例えば、X線血管造影画像データが心臓の一部に対応する場合、心臓を表す領域内の血管造影画像の時間的な強度変化から、信号C
m(t)を決定することができる。このような画像において、例えば冠動脈の位置が検出され、それらの動きを表す強度変動を検出することで、経時的に変化し、心周期を表す信号が提供されてもよい。
図12に示す例では、心周期サイクルデータC
m(t)は管腔内圧を表す。
【0133】
測定された心周期サイクルデータCm(t)は、有線、光、および無線通信を含む任意の形式のデータ通信を介して受信され得る。いくつかの例を挙げると、有線または光通信が使用される場合、通信は電気または光ケーブルで伝送される信号を介して行われ、無線通信が使用される場合、通信は例えばRFまたは光信号を介して行われる。
【0134】
図12に示す測定された心周期データC
m(t)は、時間の経過に伴って連続的に変化する信号を示している。測定された心周期サイクルデータC
m(t)はまた、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間T
a、T
bを含む。心臓状態は、心臓の生物学的状態として定義される。図示の例では、管腔内圧信号は周期T
cm、ならびに時間T
aにおける収縮期の開始のシグネチャSSおよび時間T
bにおける拡張期の開始のシグネチャSDを有する。一般に、測定された心周期データC
m(t)は、このような心臓状態のうちの1つ以上の心臓状態のシグネチャを含み得る。測定された心周期サイクルデータC
m(t)の起源に応じて、測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、代わりにまたは追加で、拡張期中の最大速度DMの瞬間、および収縮期中の最大速度SMの瞬間など、1つ以上の心臓状態のシグネチャを含み得る。
【0135】
なお、
図12に示す測定された心周期サイクルデータC
m(t)は時間の経過ともに連続的に変化する信号を含むが、プロセッサによって受信される測定された心周期サイクルデータC
m(t)は、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間のみを含む可能性があることに留意されたい。
【0136】
1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T
0および遠位時間T
1を心周期サイクル内の対応する角度位相0、2πにマッピングする動作が、
図12の中央部分に示されており、特に、
図12の矢印φ’で示されており、位相軸φはマッピングされた位相軸φ’にマッピングされる。
図12の中央部分の式は、時間領域tにおけるシグネチャの時間を位相領域φにマッピングするために使用され得る。近位時間T
0および遠位時間T
1は、これらの時間の測定を、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の時間測定に同期させることによって、心周期サイクル内(すなわち、0~2πラジアンの範囲内)の対応する角度位相にマッピングできる。図示の例では、近位時間T
0および遠位時間T
1はともに心周期サイクルの拡張期中に発生する。
【0137】
基準心周期サイクルにわたる血管内の流体速度を表す角度位相依存基準流体速度曲線V
ref(φ)を含む基準流体速度データを受信する動作において受信される角度位相依存基準流体速度曲線Vref(φ)の例が、
図12の左下部分に示されている。基準流体速度曲線V
ref(φ)は血液速度のモデルであり、文献から取得することも、臨床データから求めることもできる。基準流体速度曲線V
ref(φ)は、特定の条件下の血管を表す可能性があり、基準流体速度曲線V
ref(φ)は、血管110に対応するように選択される。例えば、流体速度曲線V
ref(φ)は、血管について、基礎状態および充血状態のそれぞれについて、ならびに血管開存性について指定され得る。これは、右冠動脈が一般に左冠動脈よりも拡張期血流成分が著しく少ないなどのファクタを考慮している。血管開存性は、冠血流予備量比の値によって定義され得る。
【0138】
基準流体速度曲線V
ref(φ)において、測定された心周期サイクルデータC
m(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの角度位相を特定する動作も、
図12の左下部分に示されている。図示の例では、収縮期の開始に対応するシグネチャSSの時間が、基準流体速度曲線V
ref(φ)内で円の記号によって識別されている。同様に、拡張期の開始に対応するシグネチャSDの時間が、基準流体速度曲線V
ref(φ)内で四角形の記号によって識別されている。基準流体速度曲線V
ref(φ)のこれらのシグネチャがこれらの心臓状態を表すという事実は、臨床研究から判断できる。
【0139】
基準流体速度曲線V
ref(φ)の位相軸を変換する動作が
図12の中央下部に示されている。
図12の中央下部に示されている結果は、
図12の左下部分の基準流体速度曲線V
ref(φ)が、
図12の中央部分に示されている位相軸上にマッピングされたものである。これにより、変換された基準流体速度曲線V’
ref(φ)が得られる。この動作は、基準流体速度曲線V
ref(φ)の位相軸の線形マッピングを実行することを含み得る。
【0140】
あるいは、この動作は、連続する選択された心臓状態のシグネチャ間の各位相間隔について、基準流体速度曲線Vref(φ)の位相軸の別個の区分線形マッピングを実行することを含み得る。
【0141】
変換された基準流体速度曲線V’
ref(φ)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(φ)を生成する動作が、
図12の右下部分に示されている。この動作は、基準流体速度曲線V’
ref(φ)の振幅軸の線形マッピングを含み得る。この動作は、近位時間T
0に対応する角度位相で始まり、遠位時間T
1に対応する角度位相で終了する角度位相間隔にわたって計算された振幅変換された基準流体速度曲線V’’
ref(φ)の平均速度V
Prefが、平均通過速度V
Tに対応するまで反復して実行され得る。
【0142】
その後、平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(φ)の平均速度VrefFullの比を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tが提供される。
【0143】
これらの動作の結果は、通過時間TTが測定される心周期サイクルの部分から独立した補正された通過時間T’Tを提供することである。したがって、血管にボーラスを繰り返し注入し、通過時間を平均化することに伴うワークフローの複雑さの一部が解消される。
【0144】
引き続き本開示の第2の態様に関して、一例では、
測定された心周期サイクルデータCm(t)は、収縮期の開始SS、拡張期の開始SD、拡張期中の最大速度の瞬間DM、および収縮期中の最大速度の瞬間SMから選択される2つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャの時間を含み、1つ以上のプロセッサは、さらに、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の対応するシグネチャの時間に対応するように、変換するように構成されている。
【0145】
このように、2つ以上の心臓状態のそれぞれのシグネチャを使用すると、基準流体速度曲線Vref(t)と測定された心周期サイクルデータCm(t)との間の対応性が改善される。
【0146】
別の例では、1つ以上のプロセッサは、連続する選択された心臓状態のシグネチャ間の各時間間隔について、基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸の別個の区分線形マッピングを実行することによって、基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を変換するように構成されている。
【0147】
このように別個の区分線形マッピングを使用することによっても、基準流体速度曲線Vref(t)と測定された心周期サイクルデータCm(t)との間の対応性が改善される。
【0148】
血管内の流体速度は、血管のタイプ(例えば、LAD、LCA)および被写体の性別など、様々なファクタに依存する可能性がある。別の例では、1つ以上のプロセッサは、血管110の時間依存基準流体速度曲線のデータベースから時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を選択することにより、基準流体速度データを特定するようにさらに構成されている。
【0149】
データベースから時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を選択することで、血管110に適した速度曲線Vref(t)を使用することができる。
【0150】
一例では、血管110は患者の一部を形成し、血管110の時間依存基準流体速度曲線のデータベースから時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を選択する動作は、血管のタイプ、血管の寸法、患者のボディマス指数、患者の性別、患者の年齢、患者の血管優位性のタイプ、患者の血行動態状態、患者の石灰化指数、患者のプラーク負荷指数、患者の血管剛性パラメータ、患者の心機能パラメータのうちの少なくとも1つに基づいて行われる。
【0151】
このようにすることで、血管110に適した速度曲線Vref(t)がシステムによって使用される可能性がある。これにより、補正された通過時間が改善される。
【0152】
上記したように、測定された心周期サイクルデータCm(t)は様々なソースによって提供される可能性がある。一例では、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、
- 血管110を表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データと、
- 血管110内の流体の圧力、速度、または温度を表すセンサデータと、
- 心臓と連絡する1つ以上のセンサによって生成された心電図データと、のうちの少なくとも1つを含み、
- 1つ以上のプロセッサは、X線血管造影画像データ、センサデータ、および心電図データをそれぞれ分析することにより、測定された心周期TCm、および心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間を決定するように構成されている。
一部の例では、1つ以上のプロセッサは、血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、微小循環抵抗値は通過時間TTに基づき、微小循環抵抗値は補正通過時間T’Tを使用して計算される。
【0153】
一例では、計算される微小循環抵抗値は微小循環抵抗指数(IMR)値である。いくつかの例として、これは式1または式2を使用して計算され得る。IMR値の計算には他の式も使用できる。
【0154】
一例では、1つ以上のプロセッサは、さらに、
- 管腔内デバイスデータを受信するように構成されており、管腔内デバイスデータは、血管110内の近位位置Posaに配置された近位センサによって生成された近位センサデータと、血管内の遠位位置Posdに配置された遠位センサによって生成された遠位センサデータとを含み、
- 1つ以上のプロセッサは、さらに、近位センサでボーラスによって生成された信号と遠位センサでボーラスによって生成された信号との間の時間差に基づいて通過時間TTを決定するように構成されている。
【0155】
いくつかの例として、近位センサおよび遠位センサは、圧力センサ、流体速度センサ、温度センサ、および超音波センサのうちの少なくとも1つを含む。超音波センサは、例えばドップラー超音波流量センサであってもよい。
【0156】
別の例では、1つ以上のプロセッサは、さらに、
- 近位センサの近位位置Posaおよび遠位センサの遠位位置Posdを表す1つ以上の画像を含むX線画像データを受信し、
- 1つ以上の画像を分析して、近位センサの近位位置Posaおよび遠位センサの遠位位置Posdの検出に基づいて通過長dTの推定値を決定するように構成されている。
【0157】
X線画像データは、
図2に示すX線イメージングシステム220などのX線イメージングシステムを使用して受信されてもよい。特徴検出器を使用して画像内の近位位置および遠位位置を検出して、それぞれ近位位置および遠位位置を特定することができる。あるいは、関連するセンサの形状を検出するように人工知能アルゴリズムを訓練することもできる。通過長d
Tは、血管造影画像の画素と、実際の寸法(例えば、患者のミリメートルまたはセンチメートル/画素)との間のスケーリングをするための上記X線イメージングシステム較正技術のいずれかを使用して計算され得る。
【0158】
一例では、注入されるボーラスは注入される造影剤ボーラス140を含み、1つ以上のプロセッサはさらに、
- 血管110中に注入されたボーラス140の流れを表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データを受信し、
- 時系列の画像130を分析して、通過時間T
T、および/または通過長の推定値d
Tを求めるように構成されている。
通過時間T
Tおよび通過長d
Tを求めるのに適した技術は、
図5~
図9を参照して上述されている。
【0159】
一例では、1つ以上のプロセッサはさらに、X線血管造影画像データ内の血管110内の近位位置Pos
aおよび遠位位置Pos
dを特定し、
- X線血管造影画像データにおいて、注入された造影剤ボーラス140が血管内の特定された近位位置Pos
aと血管内の特定された遠位位置Pos
dとの間を移動するのに要する時間に基づいて通過時間T
Tを求め、かつ/または
- X線血管造影画像データにおいて、近位位置Pos
aと遠位位置Pos
dとの間の血管110の長さに基づいて通過長d
Tの推定値を求めるように構成されている。
通過時間T
Tおよび通過長d
Tを求めるのに適した技術は、
図5~
図9を参照して上述されている。
【0160】
一例では、近位位置Posaは、時系列130内の早期X線画像の血管内の注入された造影剤ボーラス140の検出された先頭の位置に対応し、遠位位置Posdは、時系列130内の後期X線画像の検出された先頭の位置に対応し、
- 通過時間TTは、早期X線画像と後期X線画像との間の時間差を計算することによって求められ、
- 通過長dTの推定値は、
- 近位位置Posaを早期画像から後期画像にマッピングして、後期画像内にマッピングされた近位位置Pos’aを提供するか、または、遠位位置Posdを後期画像から早期画像にマッピングして、早期画像内にマッピングされた遠位位置Pos’dを提供し、
- それぞれ、後期画像内のマッピングされた近位位置Pos’aと遠位位置Posdとの間、または早期画像内の近位位置Posaとマッピングされた遠位位置Pos’dとの間の血管の長さを計算することによって求められる。
【0161】
【0162】
一例では、1つ以上のプロセッサは、コンピュータ可読記憶媒体から、管腔内センシングデバイスから、またはユーザ入力デバイスから、通過長dTおよび/または通過時間TTを受信するようにさらに構成されている。この例では、受信される通過時間TTは、システムによって補正される通過時間である。管腔内センシングデバイスは、例えば、フローワイヤもしくは圧力/フローワイヤ、熱希釈ワイヤ、または別のタイプの管腔内デバイスであってもよい。
【0163】
別の例では、血管110の通過時間TTを補正する方法が提供される。通過時間TTは、注入されたボーラスが、近位時間T0における血管内の近位位置Posaと、遠位時間T1における血管内の遠位位置Posdとの間の血管110の通過長dTに沿って、通過長dTと通過時間TTとの比として定義される平均通過速度VTで移動するのにかかる時間を表す。方法は、
- 血管110に流体結合された心臓の測定された心周期サイクルデータCm(t)を受信することであって、測定された心周期サイクルデータCm(t)は、測定された心周期TCmと、心周期サイクル内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間Ta、Tbとを含む、受信すること(S210)と、
- 1つ以上のシグネチャの時間、ならびに近位時間T0および遠位時間T1を、測定された心周期TCm内の対応する時間にマッピングすること(S220)と、
- 基準心周期TCrefを有する基準心周期サイクルにわたる血管110内の流体速度を表す時間依存基準流体速度曲線Vref(t)を含む基準流体速度データを受信すること(S230)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)において、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれに対応する基準シグネチャの時間を特定すること(S240)と、
- 基準流体速度曲線Vref(t)の時間軸を、基準心周期TCrefが測定された心周期TCmと一致し、基準流体速度曲線Vref(t)内で特定された1つ以上の心臓状態SS、SDのそれぞれの基準シグネチャの時間が、測定された心周期サイクルデータCm(t)内の1つ以上の対応する心臓状態SS、SDのそれぞれのシグネチャの時間に対応するように、変換すること(S250)と、
- 変換された基準流体速度曲線V’ref(t)の振幅軸を変換して、振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)を提供することであって、近位時間T0と遠位時間T1との間の時間間隔にわたって計算される振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VPrefが平均通過速度VTに対応するように、提供すること(S260)と、
- 平均通過速度VTと、完全な心周期サイクルにわたる振幅変換された基準流体速度曲線V’’ref(t)の平均速度VrefFullの比率を通過時間TTに乗じて、補正された通過時間T’Tを提供すること(S270)とを含む。
【0164】
上述したように、上記長さスケール係数の使用は、血管の正規化された微小循環抵抗値を計算することに限定されない。長さスケール係数は、医療分野一般における血管の一部の長さを計算するためにも使用できる。したがって、本開示の第3の態様によれば、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管110の一部の長さを計算するシステムが提供される。本開示のこの第3の態様に係る様々な例が、以下に例1B~例12Bとして列挙されている。
【0165】
例1B.X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管110の一部の長さを計算するシステムであって、システムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管110の一部を含むX線投影画像を表すX線画像データを受信すること(S310)と、
- 血管110の一部に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信すること(S320)と、
- X線投影画像内の血管の一部と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像内の血管110の一部の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定すること(S330)と、
- 血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管110をスケーリングすることにより、血管110の一部の長さを計算すること(S340)とを実行するように構成されている、システム。
【0166】
例2B.例1Bに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、さらに、基準血管110の3Dモデルを特定するように構成されており、1つ以上のプロセッサは、基準血管のデータベースから最も近い3Dモデルを選択することによって、または基準血管のデータベースから複数のモデルを選択し、複数のモデルを組み合わせて3Dモデルを提供することによって、3Dモデルを特定するように構成されている、システム。
【0167】
例3B.例2Bに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、血管110の一部の長さ、X線イメージングシステム幾何学的データ、血管110の心位相、血管優位性、血管110に対応する被写体の性別、血管110に対応する被写体の年齢のうちの1つ以上に基づいて、最も近い3Dモデルを選択するか、または複数のモデルを選択するように構成されている、システム。
【0168】
例4B.例2Bまたは例3Bに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサはさらに、
- X線投影画像内の血管110の一部をセグメント化し、
- 血管110のセグメント化された部分の中心線を特定するように構成されており、
- X線投影画像内の血管110の一部と、基準投影画像内の基準血管との間のマッチングは、血管110のセグメント化された部分の中心線と、基準投影画像内の基準血管の中心線とをマッチングさせることによって実行される、システム。
【0169】
例5B.例1B~例4Bのいずれか1つに記載のシステムであって、血管110の一部の長さが血管110の一部の中心線に沿って計算される、システム。
【0170】
例6B.例3Bまたは例4Bに記載のシステムであって、データベース内の基準血管が、1つ以上の冠動脈樹の一部を形成する、システム。
【0171】
例7B.実施例6Bに記載のシステムであって、基準血管の3Dモデルが、冠動脈樹の一部を形成し、
- 血管110の長さに沿った対応する位置における長さスケール係数が平均化され、冠動脈樹の一部の平均長さスケール係数が提供され、
- 長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管をスケーリングすることによって血管110の一部の長さを計算することは、平均長さスケール係数を血管110の長さに沿った各位置に適用することを含む、システム。
【0172】
例8B.例1B~例7Bのいずれか1つに記載のシステムであって、受信されたX線画像データは解剖学的特徴を含み、
- 基準血管の3Dモデルは対応する解剖学的特徴を含み、
- 血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影することは、対応する3Dモデルから対応する解剖学的特徴を投影することを含み、
- 1つ以上のプロセッサは、受信されたX線画像データ内の解剖学的特徴の寸法を、3Dモデルから投影された対応する解剖学的特徴の寸法にスケーリングすることにさらに基づいて、X線投影画像内の血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定するように構成されている、システム。
【0173】
例9B.例1B~例8Bのいずれか1つに記載のシステムであって、受信されたX線画像データは、単一のX線投影画像のみを表す、システム。
【0174】
例10B.例1B~例9Bのいずれか1つに記載のシステムであって、受信されたX線イメージングシステム幾何学的データは、
- 被写体230の長軸を中心とする、X線イメージングシステム220の中心X線の回転角度α、および/または
- 被写体230の頭尾軸に対するX線イメージングシステム220の中心X線の傾斜角度β、および/または
- X線イメージングシステム220のX線検出器220bの画素サイズ、および/または
- X線イメージングシステム220の検出器220bの長さもしくは幅、X線イメージングシステム220のX線源220aとX線検出器220bとの間の間隔、およびX線源220aと血管110との間の間隔を含む、システム。
【0175】
例11B.例1B~例10Bのいずれか1つに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、微小循環抵抗値は、注入されたボーラスが血管内の近位位置Posaと血管内の遠位位置Posdとの間を通過するのにかかる通過時間TTに基づいており、1つ以上のプロセッサは、調整された通過時間T’’Tを使用して血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、調整された通過時間T’’Tは、長さスケール係数を使用して血管をスケーリングすることによって計算された血管110の一部の長さと、長さスケール係数を使用して血管をスケーリングしていない血管の一部の長さとの比によって求められた調整係数を通過時間TTに適用することによって計算される、システム。
【0176】
例12B.例11Bに記載のシステムであって、微小循環抵抗値は、微小循環抵抗指標(IMR)値である、システム。
【0177】
したがって、本開示の第3の態様によれば、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管110の一部の長さを計算するシステムが提供される。システムは、1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管110の一部を含むX線投影画像を表すX線画像データを受信すること(S310)と、
- 血管110の一部に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信すること(S320)と、
- X線投影画像内の血管の一部と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像内の血管110の一部の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定すること(S330)と、
- 血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管110をスケーリングすることにより、血管110の一部の長さを計算すること(S340)とを実行するように構成されている。
【0178】
このようにすることで、血管の一部の正確な長さを計算することができる。計算された長さは短縮効果を考慮しているため、正確である。これらの動作は、
図13~
図16および
図2を参照して上記した動作に対応する。これらの動作は
図18にも示されており、
図18は、本開示の一部の態様に係る、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管の一部の長さを計算する方法の一例を示すフローチャートである。血管110の一部の長さを計算するシステムに従って実行される動作は、
図18に示す方法によっても実行される可能性があり、その逆も同様である。
【0179】
図18を参照して、動作S310において、血管110の一部を含むX線投影画像を表すX線画像データが受信される。X線画像データは、
図2に示すX線イメージングシステム220から受信されてもよい。X線画像データはは、有線、光、および無線通信を含む任意の形式のデータ通信を介して受信され得る。いくつかの例を挙げると、有線または光通信が使用される場合、通信は電気または光ケーブルで伝送される信号を介して行われ、無線通信が使用される場合、通信は例えばRFまたは光信号を介して行われる。
【0180】
動作S320において、血管110の一部に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データが受信される。いくつかの例として、受信されたX線イメージングシステムの幾何学的データは、次のうちの1つ以上を含み得る。
- 被写体の長軸を中心とする、X線イメージングシステムの中心X線の回転角度α、および/または
- 被写体の頭尾軸に対するX線イメージングシステムの中心X線の傾斜角度β、および/または
- X線イメージングシステム220のX線検出器220bの画素サイズ、および/または
- X線イメージングシステムの検出器220bの長さもしくは幅、X線イメージングシステム220のX線源220aとX線検出器220bとの間の間隔、およびX線源220aと血管110との間の間隔。
【0181】
回転角度αおよび傾斜角度βの例は、
図14および
図16を参照して上記されている。
【0182】
動作S330において、X線投影画像内の血管の一部と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像内の血管110の一部の長さに沿った位置の長さスケール係数が決定される。これらの動作は、
図13および
図14を参照して上記されている。
【0183】
動作S340において、血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管110をスケーリングすることにより、血管110の一部の長さが計算される。これらの動作も、
図13および
図14を参照して上記されている。このようにすることで、血管110の
【0184】
一部の正確な長さを計算することができる。
【0185】
一例では、1つ以上のプロセッサは、さらに、基準血管110の3Dモデルを特定するように構成されており、1つ以上のプロセッサは、基準血管のデータベースから最も近い3Dモデルを選択することによって、または基準血管のデータベースから複数のモデルを選択し、複数のモデルを組み合わせて3Dモデルを提供することによって、3Dモデルを特定するように構成されている。
【0186】
3Dモデルの特定には様々なファクタが考慮され得る。いくつかの例として、1つ以上のプロセッサは、血管110の一部の長さ、X線イメージングシステム幾何学的データ、血管110の心位相、血管優位性、血管110に対応する被写体の性別、血管110に対応する被写体の年齢のうちの1つ以上に基づいて、最も近い3Dモデルを選択するか、または複数のモデルを選択する可能性がある。
【0187】
例えば、3Dモデルと現在の血管110とが同じ心位相に対応する場合、(例えば、近位位置の重ね合わせによって)重ね合わせが実行されると、モデルおよび現在の血管110によって表される曲線間の計算された距離に基づいて血管マッチングを実行できる。距離は、例えば、サンプル点間のユークリッド距離を使用して計算されてもよい。ただし、3Dモデルと現在の血管110とが心周期サイクルの異なる部分に対応する場合、血管投影の対応性は悪化する。この場合、血管の角度および/または曲率を比較することでマッチングが実現されてもよい。同様に、分岐の位置を使用して、1つ以上の分岐の位置に基づいて3Dモデルおよび現在の血管110が比較されてもよい。
【0188】
また、基準血管のデータベースが、様々な心位相に関連する血管の3Dモデルを含んでもよい。この場合、プロセッサは、血管110と同じ心位相を有する3Dモデルのみを選択する。
【0189】
一例では、1つ以上のプロセッサは、さらに、
- X線投影画像内の血管110の一部をセグメント化し、
- 血管110のセグメント化された部分の中心線を特定するように構成されており、
- X線投影画像内の血管110の一部と、基準投影画像内の基準血管との間のマッチングは、血管110のセグメント化された部分の中心線と、基準投影画像内の基準血管の中心線とをマッチングさせることによって実行される。
【0190】
このようにセグメント化された血管の中心線を使用すると、長さのスケール係数を決定するための正確な技術が得られることが分かった。
【0191】
一例では、血管110の一部の長さが、血管110の一部の中心線に沿って計算される。中心線を使用して血管の部分の長さを計算すると、正確な長さが得られることが分かった。
【0192】
一例では、データベース内の基準血管が、1つ以上の冠動脈樹の一部を形成する。この例では、基準血管の3Dモデルが、冠動脈樹の一部を形成し得る。この例では、血管110の長さに沿った対応する位置における長さスケール係数が平均化されて、冠動脈樹の一部の平均長さスケール係数が提供され、長さスケール係数を使用してX線投影画像内に表される血管をスケーリングすることによって血管110の一部の長さを計算することは、血管110の長さに沿った各位置に平均長さスケール係数を適用することを含む。
【0193】
一例では、受信されたX線画像データは解剖学的特徴を含む。解剖学的特徴は、心臓および骨などを表す可能性がある。この例では、基準血管の3Dモデルは対応する解剖学的特徴を含み、血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影する動作は、対応する3Dモデルから対応する解剖学的特徴を投影することを含む。また、この例では、1つ以上のプロセッサは、受信されたX線画像データ内の解剖学的特徴の寸法を、3Dモデルから投影された対応する解剖学的特徴の寸法にスケーリングすることにさらに基づいて、X線投影画像内の血管110の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定するように構成されている。
【0194】
一例として、特徴は、X線画像でしばしば見られる心臓の影であり得る。解剖学的特徴の寸法は既知であるので、長さスケール係数を較正するために使用することができる。
【0195】
一例では、受信されたX線画像データは、単一のX線投影画像のみを表す。
【0196】
一例では、1つ以上のプロセッサは、血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、微小循環抵抗値は、注入されたボーラスが血管内の近位位置Posaと血管内の遠位位置Posdとの間を通過するのにかかる通過時間TTに基づいており、1つ以上のプロセッサは、調整された通過時間T’’Tを使用して血管110の微小循環抵抗値を計算するようにさらに構成されており、調整された通過時間T’’Tは、長さスケール係数を使用して血管をスケーリングすることによって計算された血管110の一部の長さと、長さスケール係数を使用して血管をスケーリングしていない血管の一部の長さとの比によって求められた調整係数を通過時間TTに適用することによって計算される。
【0197】
一例では、微小循環抵抗値は微小循環抵抗指数(IMR)値である。IMR値は、上記の式1または式2を使用して計算できる。IMR値の計算には他の式も使用できる。
【0198】
別の例では、X線イメージングシステムによって生成されたX線投影画像データから血管110の一部の長さを計算する方法が提供される。方法は、
- 血管110の一部を含むX線投影画像を表すX線画像データを受信すること(S310)と、
- 血管110の一部に対するX線イメージングシステムの向きを表すX線イメージングシステム幾何学的データを受信すること(S320)と、
- X線投影画像内の血管の一部と、X線イメージングシステム幾何学的データを用いて血管110を表す基準血管の3Dモデルを投影することによって生成された基準投影画像内の基準血管との間のマッチングに基づいて、X線投影画像内の血管110の一部の長さに沿った位置の長さスケール係数を決定すること(S330)と、
- 血管110の長さに沿った対応する位置で決定された長さスケール係数を使用して、X線投影画像内に表されている血管110をスケーリングすることにより、血管110の一部の長さを計算すること(S340)とを含む。
【0199】
本開示の第4の態様によれば、血管内に注入された造影剤ボーラス140の通過速度の値を提供するためのシステムが提供される。この第4の態様では、血管は血管樹の一部を形成する。本開示のこの第3の態様に係る様々な例が、以下に例1C~例3Cとして列挙されている。
【0200】
例1C.血管内に注入された造影剤ボーラス140の通過速度の値を提供するシステムであって、システムは1つ以上のプロセッサを含み、1つ以上のプロセッサは、
- 血管を含む血管樹内に注入されたボーラス140の流れを表す時系列の画像130を含むX線血管造影画像データを受信することと、
- 時系列の画像130から血管樹の時間-強度曲線を生成することと、
- 時間-強度曲線から通過時間TTを計算することであって、通過時間は、時系列130のうちの対応する画像において、ボーラス140が血管樹の一部に入る第1の時点T0aと、ボーラス140が血管樹または血管を飽和させる第2の時点T1aとの間の差によって定義される、計算することと、
- 第1の時点T0aに対応する早期X線画像を特定することと、
- 第2の時点T1aに対応する後期X線画像を特定することと、
- 早期X線画像および後期X線画像の解析に基づいて血管の通過長dTの推定値を決定することであって、通過長dTは、第1の時点T0aと第2の時点T1aとの間でボーラス140が通過した血管の長さに対応する、決定することと、
- 推定された通過長dTと計算された通過時間TTとの比に基づいて、血管内に注入された造影剤ボーラス140の通過速度の値を計算することと、を実行するように構成されている。
【0201】
例2C.例1Cに記載のシステムであって、1つ以上のプロセッサは、
- 早期X線画像内の血管内に注入された造影剤ボーラス140の先頭の第1の位置A、および後期X線画像内の先頭の第2の位置Bを検出し、
- 第1の位置Aを早期画像から後期画像にマッピングして、後期画像内にマッピングされた第1の位置A’を提供するか、または、第2の位置Bを後期画像から早期画像にマッピングして、早期画像内にマッピングされた第2の位置B’を提供し、
- それぞれ、後期画像内のマッピングされた第1の位置A’と第2の位置Bとの間の長さとして、または早期画像内の第1の位置Aとマッピングされた第2の位置B’との間の長さとして、通過長dTの推定値を計算することによって、血管の通過長dTの推定値を求めるように構成されている。
【0202】
例3C.例1Cまたは例2Cに記載のシステムであって、第2の位置Bは、第2のX線画像内の近位位置から出発する血管樹における最長経路の末端に対応する。
【0203】
例3A~例3Cで実行される動作は、
図8~
図10を参照して上記されている。
【0204】
上記例は本開示を説明するものであり、限定するものではないと理解されたい。さらなる例も企図される。例えば、システムに関連して説明した例は、対応するように、コンピュータプログラム製品またはコンピュータ可読記憶媒体によっても提供され得る。いずれか1つの例に関連して説明されている特徴は、単独で使用されてもよいし、または他の説明されている特徴と組み合わせて使用されてもよく、また、別の例の1つ以上の特徴と組み合わせて使用されてもよいし、または他の例と組み合わせて使用されてもよいことを理解されたい。さらに、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上記で説明されていない均等物および変形形態も採用され得る。特許請求の範囲において、「備える/含む」という用語は他の要素または動作を排除するものではなく、単数形の要素は複数を除外しない。複数の特徴が互いに異なる従属請求項に記載されているからといって、これらの特徴の組み合わせを好適に使用することができないとは限らない。特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、それらの範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【国際調査報告】