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特表2024-538708免疫寛容を誘導するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】免疫寛容を誘導するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241016BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P37/08
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520942
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 US2022045853
(87)【国際公開番号】W WO2023059769
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/253,431
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/288,915
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511000957
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルカーチ,ニコラス・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】エレセラ,シュリーカーント
(72)【発明者】
【氏名】ホーガン,サイモン
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BB31
4C085BB33
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG08
(57)【要約】
本開示は、抗原特異的IgA免疫複合体を含む組成物、及び本組成物を投与する前に1つ以上の粘膜部位において確立されたTh2偏向免疫応答を有する対象において、アレルゲンに対する免疫寛容を誘導するために本組成物を使用する方法に向けられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアレルギー反応を阻害する方法であって、方法が、免疫複合体及び薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含み、免疫複合体が、アレルゲンに対して特異的なIgA免疫グロブリンに結合したアレルゲンを含み、対象が、組成物を投与する前に、1つ以上の粘膜部位において確立されたTh2偏向免疫応答を有する、方法。
【請求項2】
アレルゲンが、食物アレルゲン、空中アレルゲン、動物製品、薬物、昆虫毒、又はラテックスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アレルゲンが、ピーナッツアレルゲン、木の実アレルゲン、乳製品アレルゲン、小麦アレルゲン、大豆アレルゲン、卵アレルゲン、貝アレルゲン、肉アレルゲン、ゴマアレルゲン、及びトウモロコシアレルゲンから選択される食物アレルゲンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象がヒトである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物を投与することが、対象におけるIL-10、TGF-β1、IFN-γ、IL-17、及び/又はCCL2の発現を増加させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組成物を投与することが、対象における制御性T細胞(Treg)の発生を誘導する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
対象に組成物を投与することが、対象におけるTh1型サイトカインの発現を増加させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
組成物が、対象に経鼻投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
その後アレルゲンに曝露された対象において、アレルゲンに対する過敏性が減少する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
対象における食物アレルゲンに対するアレルギー反応を阻害するための、薬学的に許容される担体、及びIgA免疫グロブリン若しくはその抗原結合断片に結合されたアレルゲンを含む、免疫複合体を含む組成物の使用であって、IgA免疫グロブリンが、アレルゲンに対して特異的である、組成物の使用。
【請求項11】
アレルゲンが、食物アレルゲン、空中アレルゲン、動物製品、薬物、昆虫毒、又はラテックスである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
アレルゲンが、ピーナッツアレルゲン、木の実アレルゲン、乳製品アレルゲン、小麦アレルゲン、大豆アレルゲン、卵アレルゲン、貝アレルゲン、肉アレルゲン、及びトウモロコシアレルゲンから選択される食物アレルゲンである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
組成物が、経腸投与用に製剤化されている、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
組成物が、経口投与用に製剤化されている、請求項10~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
組成物が、粘膜投与用に製剤化されている、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗原特異的IgA免疫複合体を含む組成物、及びアレルゲンに対する免疫寛容を誘導するために本組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎、喘息、及び食物アレルギーなどのアレルギー疾患の割合は、過去30年間に、特に西側諸国の乳児及び幼児において大幅に増加した。アレルギーの有病率の増加は、出生様式、母乳育児、及びマイクロバイオームの適切な構築を可能とする適切な環境への曝露を含む、いくつかの変数に起因すると考えられている。重篤な食物アレルギー関連反応は、食物誘発性アナフィラキシーとしても知られ、米国では年間30,000~120,000件の救急外来受診、2,000~3,000件の入院、及び約150件の死亡の原因となる生命を脅かす重篤な反応である(Sampsonら、Pediatrics、111:1601~1608頁(2003年);及びRossら、J.Allergy Clin.Immunol.、121:166~171頁(2008年))。症状の始まりは様々であり、食物アレルゲンに曝露してから数秒から数時間以内に起こり、多くの場合、消化器(GI)、皮膚、呼吸器、及び循環器を含む複数の臓器系が影響を受ける(Wangら、Clin.Exp.Allergy、37:651~660頁(2007年))。皮膚症状(例えば、蕁麻疹及び血管浮腫)が最も一般的であり、症例の約80%において生じる。けいれん、腹痛、吐き気、嘔吐、及び下痢を含む消化器症状が、40%もの症例で生じる(Sampsonら、The New England Journal of Medicine、327:380~384頁(1992年))。最近の臨床データは、消化管の症状と、低血圧及び低酸素症を含む、より重篤なアナフィラキシー表現型との間の関連を示唆している(Schranderら、J.Pediatr.Gastroenterol.Nutr.、10:189~192頁(1990年);Tronconeら、Allergy、49:142~146頁(1994年);Van Elburgら、Pediatr Allergy Immunol、4:79~85頁(1993年);Calvaniら、Pediatric Allergy and Immunology、22:813~819頁 LID - 810.1111/j.1399-3038.2011.01200.x[doi](2011年);及びBrown,S.G.A.、J Allergy Clin Immunol、114:371~376頁(2004年))。
【0003】
IgAは最も豊富な免疫グロブリンであり、主に粘膜表面に存在する。その機能は、病原体と結合して、病原微生物及び粘膜組織内の物質を凝集させて固定化し、肺及び腸管を含む下層の組織へのコロニー形成及び侵入を阻止することに関連していると思われる。多くの研究が、IgAレベルと修飾性又は免疫寛容誘発性の免疫反応の発現とを結びつけている。例えば、初乳中のIgAの総量は、感染性生物に対する早期の防御を提供し、生後2年間におけるアトピー性皮膚炎の発症に逆相関することが示されている(Orivuri、clin exp allergy、2014年)。母乳はTGFβ1も含んでいるが、これは、B細胞においてIgAクラススイッチを促進し、炎症性免疫応答を低減させる。最後に、乳酸菌などの特定の細菌を補充することで、樹状細胞との相互作用やレチノイン酸の産生を介して粘膜組織における総IgA及び特異的IgAのレベルが上昇し、アレルギー反応の減少につながることが示されている(Mikulicら、Cell Mol Immunol.、14(6):546~556頁(2017年);及びPrescottら、Clin Exp Allergy、38(10):1606~14頁(2008年))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sampsonら、Pediatrics、111:1601~1608頁(2003年)
【非特許文献2】Rossら、J.Allergy Clin.Immunol.、121:166~171頁(2008年)
【非特許文献3】Wangら、Clin.Exp.Allergy、37:651~660頁(2007年)
【非特許文献4】Sampsonら、The New England Journal of Medicine、327:380~384頁(1992年)
【非特許文献5】Schranderら、J.Pediatr.Gastroenterol.Nutr.、10:189~192頁(1990年)
【非特許文献6】Tronconeら、Allergy、49:142~146頁(1994年)
【非特許文献7】Van Elburgら、Pediatr Allergy Immunol、4:79~85頁(1993年)
【非特許文献8】Calvaniら、Pediatric Allergy and Immunology、22:813~819頁 LID - 810.1111/j.1399-3038.2011.01200.x[doi](2011年)
【非特許文献9】Brown,S.G.A.、J Allergy Clin Immunol、114:371~376頁(2004年)。
【非特許文献10】Orivuri、clin exp allergy、2014年
【非特許文献11】Mikulicら、Cell Mol Immunol.、14(6):546~556頁(2017年)
【非特許文献12】Prescottら、Clin Exp Allergy、38(10):1606~14頁(2008年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食物アレルギーなどのアレルギーを治療するための方法及び組成物に対する需要が、なお存在している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(簡単な概要)
本開示は、対象における食物アレルゲンに対するアレルギー反応を阻害するための、薬学的に許容される担体、及びIgA免疫グロブリン又はその抗原結合断片に結合されたアレルゲンを含む、免疫複合体を含む組成物の使用であって、IgA免疫グロブリンが、アレルゲンに対して特異的である、組成物の使用を提供する。本組成物は、局所及び全身送達を含む、1つ以上の投与経路用に製剤化されうる。例示的な製剤は、肺(例えば、吸入)投与用製剤、並びに経口投与用製剤を含む。
【0007】
本開示はまた、対象におけるアレルギー反応を阻害する方法を提供し、本方法は、免疫複合体及び薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含み、免疫複合体は、アレルゲンに特異的なIgA免疫グロブリンに結合したアレルゲンを含む。本開示の免疫複合体を含む組成物の投与は、対象におけるアレルギー性免疫応答を予防及び/又は低減(例えば、Th2型免疫応答の予防及び/又は低減)するために、対象を予防的に処置するために使用されうる。本開示の免疫複合体を含む組成物の投与はまた、対象におけるアレルギー性免疫応答(例えば、1つ以上の粘膜部位におけるTh2型免疫応答)を改善及び/又は低減するために、対象を治療的に処置するためにも使用されうる。本開示は、免疫複合体を含む組成物の投与経路又は投与手段によって限定されるものではない。投与経路の例は、肺投与(例えば、吸入による)、経腸投与(例えば、経口、胃又は十二指腸(例えば、栄養チューブ)、及び/又は直腸投与による)、並びに本明細書に記載される他の経路を含むが、これらに限定はされない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、(A)全身感作中のアレルギー動物の気道粘膜へのIgA免疫複合体の例示的な投与レジメンを示しており:(B及びC)それが、粘液分泌過多から動物を保護していること、(D)免疫サイトカイン応答を変化していること、及び(E)Treg細胞の総数が増加していることを示す。
図2図2は、(A)感作中の気道粘膜へのIgA免疫複合体の例示的な投与レジメンが、チャレンジ時の食物アレルギーの発症から動物を保護することを示している:(B)それが、アナフィラキシーを指し示す臨床的に関連する下痢及び体温低下をブロックしていること、(C)全身性のIgE及び肥満細胞脱顆粒の証拠(mMCPt1)を低減させていること、(D)抑制性のサイトカインであるIL-10を増加させながらTh2サイトカインを低減させていることを示す。異なるアレルゲンであるピーナッツ(PE)での効果の欠如は、応答のアレルゲン特異性を実証している。
図3図3は、(A)改変食物アレルギーモデルと、TCRトランスジェニックDO11 Balb/cマウス由来のTh2偏性細胞の移入がTreg細胞へと発生しないこと、並びにIgA免疫複合体が(B)有意な臨床的変化、及び(C)有意なサイトカイン変化を誘導すること、また、(D)IL-4+の移入されたDO11 Th2偏性細胞の低減が、寛容化応答中に発生したFoxp3+のTreg細胞と重なっていないことを示しており、これは、免疫複合体の寛容化効果に関連するTreg細胞の誘導が、非Th2偏性細胞から生成されることを指し示している。
図4図4は、(A)IgA免疫複合体が、肥満細胞の蓄積を変化させ、(B)IgE及びmMCPT-1を低減させ、及び(C)高度に偏ったアレルゲン特異的Th2細胞を感作マウスに移入した場合でも、食物アレルギーマウスの腸において寛容原性環境を促進することを示している。
図5図5は、(A)アナフィラキシーの臨床指標としての下痢及び体温低下の発生率が、IgA-TNP-ova免疫複合体処置動物でのみ制御されたことを示している。(B)血清IgE及びMcptの測定により、肥満細胞活性化因子及び産物の両方のレベルが減少することを指し示した。(C)腸間膜リンパ節におけるTreg細胞の増加は、経口のIgA免疫複合体で処置した動物において非常に有意であった。データは1群あたり5~6匹のマウスからの平均±SEを表している。P<0.05、**P<0.01、***P<0.005。
図6図6は、(A)TGFb又は(B)IL-10についてqPCR分析によって評価された単離mRNAを示している。(C)別の試験では、BMDCがIgA免疫複合体又は適切な対照と共にインキュベートされ、一晩のインキュベート後、細胞が洗浄され、オボアルブミンのTCRトランスジェニックであるDO11 IL-4-GFPレポーターマウス由来のナイーブ脾臓CD4+ T細胞と組み合わせられ、TNPを伴わないオボアルブミンの存在下で48時間インキュベートされた。データは3回の反復実験からの平均値±SEを表している。P<0.05、**P<0.01、***P<0.005。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(定義)
本技術の理解を容易にするために、数多くの用語及び語句が以下に定義される。追加の定義が、詳細な説明全体にわたって記載される。
【0010】
本明細書で使用される「アレルギー」という用語は、正常/健康な個体では通常無害である物質(すなわち、「アレルゲン」)に対する異常又は病的な免疫反応を伴う慢性状態を指す。アレルギーは、過敏反応と呼ばれる免疫系応答の一種である。本明細書で使用される「過敏症」及び「過敏反応」という用語は、組織傷害を生じ、重篤な疾患を引き起こしうる有害な免疫応答を指す。過敏反応は4つのタイプに分類されており、アレルギーはしばしばI型過敏症(IgEにより介される即時型過敏反応)と同一視される。「アレルゲン」とは、対象においてアレルギー反応を誘導するあらゆる物質(例えば、抗原)を指す。アレルゲンの例は、空中アレルゲン(例えば、ダニ、カビ、胞子、樹木、雑草、及び草の花粉などの植物花粉)、食品(牛乳、卵、大豆、小麦、ナッツ、又は魚のタンパク質)、動物産物(例えば、猫又は犬の毛)、薬物(例えば、ペニシリン)、昆虫毒、及びラテックスを含むが、これらに限定はされない。本明細書で使用される「アレルギー反応」という用語は、異物、典型的には無害な物質への個体の曝露によって引き起こされる免疫系の病理学的反応を指す。よって、アレルギー反応を「阻害する」とは、アレルゲンに対する病理学的反応の抑制、改善、又は予防を指す(例えば、対象(例えば、Th2媒介性の疾患を有する対象)におけるTh2偏向免疫応答をTh1型の免疫応答へと向け直す(例えば、Th1型の免疫応答へと偏性させる、及び/又は、よりバランスのとれたTh1/Th2型免疫応答を生成する)ことによる)。
【0011】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書において互換的に使用され、少なくとも2つ以上の連続したアミノ酸を含むアミノ酸のポリマー形態を指し、これは、コード化及び非コード化アミノ酸、化学的若しくは生化学的に修飾若しくは誘導体化されたアミノ酸、並びに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含み得る。
【0012】
本明細書で使用される「治療(treatment)」、「治療している(treating)」などの用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。好ましくは、効果は治療的であり、すなわち、効果は、傷害、疾患、又は状態、及び/又は傷害、疾患、又は状態に起因する有害症状を部分的又は完全に緩和又は治癒する。同様に、「治療薬」は、それを必要とする対象に投与された場合に、傷害、疾患、状態及び/又は有害症状を緩和又は治癒することができる物質、分子、又は化合物である。この目的のために、本明細書に記載の方法は、IgAを含む免疫複合体の「治療上有効な量」を投与することを含むことが望ましい。「治療上有効な量」とは、所望の治療結果(例えば、アレルギー反応の抑制)を達成するために必要な投与量及び投与期間において有効な量を指す。治療上有効な量は、個体の疾患又は状態の重篤度、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する治療薬の能力などの要因に従って変動しうる。
【0013】
本明細書で使用される場合、「免疫原」及び「抗原」という用語は、対象において免疫応答を誘発することができる活性作用剤(例えば、アレルゲン又は微生物(例えば、細菌、ウイルス又は真菌))及び/又はその部分若しくは成分を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリン」又は「抗体」という用語は、脊椎動物の血液又は他の体液中に見出されるタンパク質を指し、これは、細菌及びウイルスなどの異物を同定して中和するために免疫系によって使用される。典型的には、免疫グロブリン又は抗体は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むタンパク質である。CDRは抗体の「超可変領域」を形成し、これが抗原結合を担う。免疫グロブリンの全体は典型的には、4つのポリペプチドからなる:重鎖(H)ポリペプチドの2つの同一のコピーと軽鎖(L)ポリペプチドの2つの同一のコピー。各重鎖は1つのN末端可変(V)領域と3つのC末端定常(C1、C2、C3)領域を含み、各軽鎖は1つのN末端可変(V)領域と1つのC末端定常(C)領域を含む。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)とλ(ラムダ)の2つの異なるタイプのいずれかに1つに分類され得る。典型的な抗体では、各軽鎖はジスルフィド結合によって重鎖に連結されており、2つの重鎖はジスルフィド結合によって互いに連結されている。軽鎖可変領域は、重鎖の可変領域と整列され、軽鎖定常領域は、重鎖の第1定常領域と整列される。重鎖の残りの定常領域は、互いに整列される。
【0015】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、抗原上の単一のエピトープに対して向けられたBリンパ球の単一クローンによって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体は典型的には、KohlerとMilstein、Eur.J.Immunol.、5:511~519頁(1976年)で最初に報告されたように、ハイブリドーマ技術を用いて生産される。モノクローナル抗体はまた、組換えDNA法を用いて産生されても(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)、ファージディスプレイ抗体ライブラリーから単離されても(例えば、Clacksonら、Nature、352:624~628頁(1991年);及びMarksら、J.Mol.Biol.、222:581~597頁(1991年)を参照)、又は完全ヒト免疫グロブリン系を保有するトランスジェニックマウスから産生されたても(例えば、Lonberg、Nat.Biotechnol.、23(9):1117~25頁(2005年)、及びLonberg、Handb.Exp.Pharmacol.、181:69~97頁(2008年)を参照)よい。対照的に、「ポリクローナル」抗体は、動物内で異なるB細胞系列によって分泌される抗体である。ポリクローナル抗体は、同じ抗原上の複数のエピトープを認識する免疫グロブリン分子の集合体である。
【0016】
「抗体の断片」、「抗体断片」及び抗体の「抗原結合断片」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指すために、本明細書では互換的に使用される(一般に、Holligerら、Nat.Biotech.、23(9):1126~1129頁(2005年)を参照)。抗体断片は、例えば、1つ以上のCDR、可変領域(又はその一部)、定常領域(又はその一部)、又はそれらの組み合わせを含むことが望ましい。抗体断片の例は、(i)V、V、C、及びCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)断片、(iii)抗体の単一のアームのV及びVドメインからなるFv断片、(iv)穏やかな還元条件を用いてF(ab’)断片のジスルフィド結合を切断した結果生じるFab’断片、(v)ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv断片)、並びに(vi)抗原と特異的に結合する抗体単一可変領域ドメイン(V又はV)ポリペプチドであるドメイン抗体(dAb)を含むが、これらに限定はされない。
【0017】
本明細書で使用される場合、抗体又は他の実体(例えば、抗原結合ドメイン)が、抗原又はエピトープを「特異的に認識する」、「特異的に結合する」、又は抗原又はエピトープに「特異的である」場合、それはタンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物中の抗原を優先的に認識し、抗原又はエピトープを提示しない他の実体よりも実質的に高い親和性で抗原又はエピトープに結合する。この点に関して、「実質的に高い親和性」とは、所望のアッセイ又は測定装置を用いて、実体と区別される抗原又はエピトープの検出を可能にするのに十分高い親和性を意味する。典型的には、それは、少なくとも10-1(例えば、>10-1、>10-1、>10-1、>1010-1、>1011-1、>1012-1、>1013-1など)の結合定数(K)を有する結合親和性を意味する。特定のそのような実施形態では、異なる抗原がその特定のエピトープを含んでいる限り、抗体は異なる抗原に結合することができる。特定の例では、例えば、異なる種由来の相同なタンパク質は、同じエピトープを含みうる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「宿主」又は「対象」という用語は、本発明の組成物及び方法によって処置される(例えば、投与される)個体を指す。対象は、哺乳類(例えば、ネズミ、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)を含むが、それらに限定されるものではなく、最も好ましくはヒトを含む。本発明の文脈において、「対象」という用語は、一般に、アレルギー(例えば、食物アレルギー)に罹患している疑いがある、又は罹患していると診断された個人を指す。
【0019】
本明細書において使用される場合、「免疫応答」という用語は、対象の免疫系による応答を指す。例えば、免疫応答は、Toll様受容体(TLR)の活性化、リンホカイン(例えば、サイトカイン(例えば、Th1又はTh2型サイトカイン)若しくはケモカイン)の発現及び/又は分泌、マクロファージの活性化、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化(例えば、CD4+又はCD8+ T細胞)、NK細胞の活性化、及び/又はB細胞の活性化(例えば、抗体の生成及び/又は分泌)における検出可能な変化(例えば、増加)を含むが、これらに限定はされない。免疫応答のさらなる例は、MHC分子へ免疫原(例えば、抗原)が結合して、細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)応答を誘導すること、B細胞応答(例えば、抗体産生)及び/又はTヘルパーリンパ球応答、及び/又は免疫原性ポリペプチドが由来する抗原に対する遅延型過敏症(DTH)応答、免疫系の細胞(例えば、T細胞、B細胞(例えば、任意の発生段階のもの(例えば、形質細胞)))の拡大(例えば、細胞集団の増殖)、並びに抗原提示細胞による抗原の処理及び提示の増加を誘導することを含む。免疫応答は、対象の免疫系が、異物として認識する免疫原(例えば、微生物(例えば、病原体)からの非自己抗原、又は異物として認識される自己抗原)に対するものでありうる。よって、本明細書で使用される場合、「免疫応答」とは、自然免疫応答(例えば、Toll受容体シグナル伝達カスケードの活性化)、細胞媒介性免疫応答(例えば、T細胞(例えば、抗原特異的T細胞)及び免疫系の非特異的細胞によって媒介される応答)、並びに体液性免疫応答(例えば、B細胞によって媒介される応答(例えば、抗体の生成並びに血漿、リンパ液、及び/又は組織液中への分泌を介するもの))を含むが、これらに限定されない、あらゆるタイプの免疫応答を指すと理解されるべきである。「免疫応答」という用語は、抗原及び/又は免疫原に応答する対象の免疫系の能力(例えば、免疫原(例えば、病原体)に対する初期応答と、適応免疫応答の結果である獲得(例えば、記憶)応答の両方)のあらゆる側面を包含することを意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「粘膜免疫」という用語は、表皮、歯肉、鼻、腸、子宮及び前立腺などの環境と接触する表面で生じる免疫応答を指す。健康な状態では、粘膜免疫系は、病原体に対する保護を提供するが、無害な常在微生物及び良性の環境物質に対しては寛容性を維持する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「免疫寛容」又は「寛容」という用語は、免疫応答を誘導する可能性を有する物質又は組織に対する免疫系の無応答状態を指す。「中枢性寛容」とは、免疫系が自己と非自己を区別する主要な方法であり、自己反応性リンパ球クローンが完全な免疫担当細胞へと発達する前に、それらを除去することによって確立される。中枢性寛容は、Tリンパ球及びBリンパ球それぞれについて、胸腺及び骨髄におけるリンパ球の発達過程中に生じる。「末梢性寛容」は、様々な環境因子(アレルゲン、腸内微生物など)に対する免疫系の過剰反応を防ぐために重要であり、T細胞及びB細胞が成熟して末梢組織及びリンパ節に入った後に発生する。
【0022】
本明細書に記載されているように、任意の適切なサンプルタイプが、アレルギーを有すると疑われる対象から得られうる。対象(例えば、ヒト)が、アレルギーを経験する素因があるか、又はアレルギー症状を呈している場合、「アレルギーを有する疑い」がある。素因は、遺伝的なもの(例えば、アレルギーを経験する特定の遺伝的傾向)、又は他の要因(例えば、環境条件、特定の食品中存在する免疫原性化合物への曝露など)によるものでありうる。よって、本発明は、特定のリスクに限定されるものではなく、また、本発明は、特定のアレルギーに限定されるものでもない(例えば、あらゆるヒトが任意のアレルギーを経験しうる)。
【0023】
(詳細な説明)
本開示は、少なくとも部分的に、同族の抗原と複合体化したIgAが、既存のアレルギー応答を有する動物において免疫寛容を提供するという発見に基づいている。本開示を実施するためにメカニズムの理解は必要とされず、本開示は特定のメカニズムに限定されないが、いくつかの態様において、抗原と複合体化したIgAを含む組成物は、対象(例えば、既存のアレルギー応答を有する対象)において、寛容化シグナル及び/又は制御性T細胞(「Treg」又は「Treg細胞」)の生成を提供する。いくつかの態様において、本開示の組成物及び方法によって提供される免疫寛容(例えば、Treg細胞の誘導を介するもの)は、粘膜表面(例えば、肺及び腸)における慢性の重篤なアレルギー応答への進行を防ぎ、アナフィラキシーをブロックする。他の態様において、本開示の組成物及び方法によって提供される免疫寛容(例えば、Treg細胞の誘導を介するもの)は、対象内で全身的に生じる。
【0024】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象におけるアレルギー反応を阻害する方法であって、方法が、免疫複合体及び薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含み、免疫複合体が、アレルゲンに対して特異的なIgA免疫グロブリンに結合したアレルゲンを含み、対象が、組成物を投与する前に、1つ以上の粘膜部位において確立されたTh2極性化免疫応答を有する、方法を提供する。
【0025】
本明細書において使用される場合、「免疫複合体(IC)」という用語は、可溶性の抗原に結合した抗体を指す。免疫複合体は、「抗原-抗体複合体」又は「抗原-結合抗体」とも呼ばれうる。IgAは、産生される最も豊富な免疫グロブリンであり、主に粘膜表面に存在する。その機能は、病原体と結合して、病原微生物及び粘膜組織内の物質を凝集させて固定化し、肺及び腸管を含む下層の組織へのコロニー形成及び侵入を阻止することに関連していると思われる。IgAに加えて、粘膜表面は、タイトな上皮バリアを介した病原体からの保護と、粘液及びその他の物質の分泌を獲得して、コロニー形成を防いでいる。分泌型IgAの産生が部分的又は全体的に欠損している患者は、環境抗原(食品を含む)に対するアレルギーの増加、並びに自己免疫応答の有病率の増加を経験することが示されている。これら及び他のデータは、IgAが粘膜表面において免疫系応答の感作をブロックし、寛容性を誘導することに関与することを示唆している。特に、初乳及び母乳中のIgAの総量は、感染性生物に対する早期の防御を提供することができ、また、生後2年間におけるアトピー性皮膚炎の発症に逆相関することも示されている(Orivuri、clin exp allergy、2014年)。母乳はTGFβ1も含んでいるが、これは、B細胞においてIgAクラススイッチを促進する。また、研究は、Treg細胞の発生、TGFβの産生、IgAレベル、及び寛容誘導の間には、動的な相関関係があることも見出している。
【0026】
本組成物の免疫複合体は、IgA抗体全体、又は本明細書に記載の抗体断片のいずれかなど、IgA抗体の抗原結合断片を含みうる。IgA抗体又はその抗原結合断片が、1つ以上の抗原に特異的に結合される。いくつかの実施形態において、IgA免疫複合体によって誘導される寛容化応答がアレルゲン特異的であることを指し示す本明細書に記載の実験において実証されているように、IgA免疫グロブリンは単一のアレルゲンに対して特異的である。アレルゲンは、本明細書に開示されている、又は当該技術分野で知られている任意の適切なアレルゲンでありうる。いくつかの実施形態では、アレルゲンは、ダニ、カビ、胞子、樹木、雑草、及び草の花粉などの植物花粉などの空中アレルゲンである。他の実施形態では、アレルゲンは食物アレルゲンである。食物アレルギーは、セリアック病などの非アトピー性疾患とはメカニズム的に異なるアトピー性疾患であることが理解される。食物アレルギーは、IgEを介するもの、IgE依存的経路とIgE非依存的経路の両方を介するもの(混合型)、及びIgEを介さないものへと大別され得る。食物アレルギーの根底にある免疫メカニズムについては、例えば、Wongら、Nat Rev Immunol.、16(12):751~765頁(2016年)にさらに記載されている。免疫複合体は、IgA免疫グロブリンと食物アレルゲンのいずれか1つ若しくは組み合わせを含みうる。例えば、食物アレルゲンは、ピーナッツアレルゲン、木の実アレルゲン、乳製品アレルゲン、小麦アレルゲン、ゴマアレルゲン、大豆アレルゲン、卵アレルゲン、貝アレルゲン、肉アレルゲン、及び/又はトウモロコシアレルゲンでありうる。
【0027】
いくつかの態様において、本組成物は、薬学的に許容される担体などの担体を含むことが望ましい。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝生理食塩水、水、及び様々なタイプの湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、あらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、ラウリル硫酸ナトリウム、等張化剤及び吸収遅延剤、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム)、ポリエチレングリコールなどを含むが、これらに限定はされない標準的な薬学的担体のいずれかを指す。組成物はまた、安定剤及び保存剤も含み得る。担体、安定剤及びアジュバントの例は、記載されており、当技術分野で公知である(例えば、Martin、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第15版、Mack Publ.Co.、イーストン、ペンシルベニア州(1975年)を参照のこと)。
【0028】
担体の選択は、使用される特定の免疫複合体及び投与の方法によって部分的に決定される。例えば、医薬組成物は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、及び塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を含んでいてもよい。任意選択的に、2種以上の保存剤の混合物が使用されうる。さらに、組成物中において緩衝剤が使用されてもよい。適切な緩衝剤は、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、並びにその他の様々な酸及び塩を含む。任意選択的に2種以上の緩衝剤の混合物が使用されうる。投与可能な(例えば、非経口投与可能な)組成物を調製するための方法は、当業者に公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Lippincott Williams & Wilkins;第21版(2005年5月1日)に詳細に記載されている。
【0029】
いくつかの実施形態において、組成物は、組成物の送達が、処置されるべき部位の感作を引き起こす前に、そして十分な時間内に起こるように、時間-放出、遅延放出、及び持続放出送達系を採用し得る。多くのタイプの放出送達系が利用可能であり、当業者に知られている。そのような系は、組成物の反復投与を回避することができ、それにより、対象及び医師の利便性を高め、特定の実施形態にとって特に好適となりうる。
【0030】
本組成物は、望ましくは、免疫複合体の「有効量」、すなわち、レシピエント(例えば、ヒト)において所望の免疫応答(例えば、寛容)を引き起こす免疫複合体の用量又は濃度を含む。例えば、組成物は、上述のように、治療上有効な量の免疫複合体を含みうる。代替的に、薬理学的及び/又は生理学的効果は、予防的であってもよく、すなわち、その効果は疾患若しくは状態又はその症状を完全に又は部分的に予防する。この点で、本開示の組成物は、「予防上有効な量」の免疫複合体を含む。「予防上有効な量」とは、所望の予防結果(例えば、アレルギー又はアレルギー反応の予防)を達成するために必要な投与量及び投与期間において有効な量を指す。例えば、免疫複合体を含む組成物が、アレルギーを発症する前に対象(例えば、乳児)に投与されうる。
【0031】
有効量は、1回以上の投与(例えば、同じ経路又は異なる経路を介するもの)又は適用において投与され得るが、特定の製剤又は投与経路に限定されることは意図されていない。有効量のIgA-アレルゲン免疫複合体を含む組成物は、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、肺投与、経皮投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、頬投与、舌下投与、又は座薬投与を含む、標準的な投与技術を用いて、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与され得る。組成物は、好ましくは非経口投与に適している。本明細書で使用される場合、「非経口投与」という用語は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、膣内投与、及び腹腔内投与を含む。より好ましくは、本組成物は、静脈内、腹腔内又は皮下注射による末梢全身送達を用いて哺乳動物に投与される。いくつかの実施形態において、組成物は経鼻投与用に製剤化される。
【0032】
本開示は、本開示の免疫複合体を対象に提供する(例えば、それにより、Th2型アレルギー免疫応答を低減及び/若しくは改善すること、並びに/又は対象においてIgA標的化アレルゲンに対する粘膜寛容を促進する)ことを含む、アレルギーを有するか又はアレルギーを経験する素因を有する対象を(例えば、予防的及び/又は治療的に)処置するための組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、免疫複合体を含む組成物が経腸的に送達される。他の実施形態では、免疫複合体を含む組成物は、肺投与により(例えば、吸入により)送達される。なおさらなる実施形態において、免疫複合体を含む組成物は、本明細書に記載の2種以上の経路で投与される。
【0033】
いくつかの実施形態において、経口投与によるIgA免疫複合体の直接送達及び/又はカプセル化は(例えば、腸内で局所的に、及び/又は気道内などの遠隔の粘膜部位において)粘膜寛容を促進するために使用される。IgA免疫複合体の送達は、他の組成物に非依存的でありうる。いくつかの実施形態では、(例えば、生分解性微粒子による)カプセル化が使用されてもよい(例えば、胃の低いPHを通過する間のIgA免疫複合体の分解を緩和するため)。本開示は、特定のカプセル化技術に限定されるものではない。いくつかの実施形態において、免疫複合体のカプセル化は、ポリマーポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリカプロラクトン(PEG-b-PCL)ベースのナノ粒子又は1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(POPG)などの試薬を利用する。
【0034】
本開示の方法によれば、免疫複合体を含む組成物は、望ましくは、組成物を投与する前に(例えば、1つ以上の粘膜部位において)Th2偏向免疫応答が確立している対象に投与される。Tリンパ球には、CD4及びCD8として知られる細胞表面分子の存在によって区別される、2つの主要なサブセットがあることが理解される。CD4を発現するTリンパ球はヘルパーT細胞としても知られ、これは、最も多量にサイトカインを産生する細胞である。CD4+ T細胞はさらに、Th1細胞とTh2細胞へと細分化され得るが、それらが産生するサイトカインは、Th1型サイトカインとTh2型サイトカインとして知られている。Th1型サイトカイン(例えば、IFN-γ及び/又は腫瘍壊死因子(TNF))は、細胞内寄生虫を殺し、自己免疫応答を持続させる原因となる炎症性応答を生成する傾向がある。過剰な炎症促進性の応答は、制御不能な組織損傷につながる可能性があるが、これは、Th2型サイトカインによって打ち消されうる。Th2型サイトカインは、アトピーにおけるIgE及び好酸球応答の促進に関連するインターロイキン4(IL-4)、5(IL-5)、及び13(IL-13)を含み、また、より抗炎症性の応答を示すインターロイキン10も含む。よって、いくつかの実施形態において、IgA免疫複合体を含む組成物を投与すると、対象におけるIL-10、TGF-β1、IFN-γ、IL-17、及び/又はCCL2の発現が増加する。過剰になると、Th2応答はTh1が介在する殺微生物作用を打ち消す。ヒトは理想的には、バランスのとれたTh1及びTh2応答を生じる。Th2免疫応答は、IgE抗体の産生及び高レベルのTh2サイトカインによって特徴づけられ、いくつかの病原体、並びに、がん、大腸炎、喘息、及びアレルギーに対する不十分な防御と関連している。Th2細胞は、アレルギー及び喘息の患者のほとんどにおいて優勢であり、IL-4の影響下で未分化の前駆T細胞から分化する。Th2細胞は、Th2サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-9、及びIL-13の放出を通してアレルギー性の炎症を制御する。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の免疫複合体を含む組成物の投与は、対象における既存のTh2免疫応答の調節をもたらす。例えば、本開示の方法は、対象をIgA免疫複合体に曝露することを介して、対象における(例えば、Th2媒介性の疾患を有する対象における)Th2に偏向した免疫応答をTh1型の免疫応答へと向け直す(例えば、Th1型の免疫応答へと偏向させる、及び/又は、よりバランスのとれたTh1/Th2型免疫応答を生成する)能力を提供する。いくつかの実施形態において、免疫複合体を含む組成物を対象に投与すると、対象におけるTh1型サイトカイン(例えば、IFN-γ及び/又は腫瘍壊死因子(TNF))の発現が増加する。よって、本開示の方法は、アレルギー(例えば、ピーナッツ又は他の食物アレルギー、呼吸器アレルギーなど)に対して、個人を予防接種するために使用されうる。1つの実施形態において、本発明は、従来的なアレルギー注射で達成される利益よりも、より効果的な利益を提供する(例えば、アレルギーの徴候、症状又は原因がより有意に低減される、又はアレルギーの徴候、症状又は状態がより長期間持続して低減される)。
【0036】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のIgA免疫複合体を含む組成物の投与は、体液性免疫応答(例えば、特異的抗体の発生)及び細胞性免疫応答(例えば、細胞傷害性Tリンパ球)の両方の誘導をプライミング、可能化、及び/又は増強する(例えば、それによってアレルギー疾患の徴候、症状又は状態を改善する)。理想的には、IgA免疫複合体組成物を投与すると、対象における制御性T細胞(Treg)の発生が誘導される。本明細書で使用される場合、「制御性T細胞(Treg)」という用語は、免疫応答を抑制し、それによって恒常性と自己寛容を維持するように働く、T細胞の特殊な亜集団を指す。Tregは、T細胞の増殖とサイトカインの産生を阻害することができ、自己免疫の予防に重要な役割を果たす。Tregは、阻害性サイトカインによる抑制、細胞溶解による抑制、代謝の障害による抑制、樹状細胞(DC)の成熟若しくは機能の調節による抑制を介して、免疫応答を阻害し得る。阻害性サイトカインに関しては、インターロイキン-10(IL-10)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ)、及びIL-35がTreg細胞機能の重要なメディエーターである。マウス及びヒトのTreg細胞は両方とも、インビトロ及びインビボで、グランザイムA及び/又はグランザイムBとパーフォリンを介して細胞溶解を媒介することが示されている。
【0037】
Tregは、マスター転写因子であるフォークヘッドボックスP3(Foxp3)の発現によって特徴づけられる。Foxp3発現は、Treg系統のマーカーとして広く使われているが、最近のデータは、Tregの運命がサイトカイン、核内因子、及びエピジェネティック修飾を含む多因子のシグナル伝達経路によって決定されることを示している。FOXP3とCD45RAの発現レベルに基づいて、ヒトTreg細胞のいくつかの亜集団が同定されている。そのような亜集団は、ナイーブ/休止型(CD45RAFoxP3low)、エフェクター型(CD45RAFoxP3high)、及びサイトカイン産生型(CD45RAFoxP3low)として分類されている。ナイーブ型のTregは、完全に脱メチル化されたFoxP3遺伝子座を有しており、胸腺から生じる。エフェクター型のTregは、インビボにおいて活性な集団である一方、サイトカイン産生型のTregは、IL-17及びIFN-γのような炎症促進性サイトカインを産生しながらも、免疫応答を抑制することができる細胞を含んでいる。Tregについては、例えば、Kondelkovaら、ACTA MEDICA(Hradec Kralove)2010年;53(2):73~77頁;Vignaliら、Nat Rev Immunol.2008年7月;8(7):523~532頁.doi:10.1038/nri2343;及びRomanoら、Front.Immunol.、2019年1月31日;doi.org/10.3389/fimmu.2019.00043にさらに記載されている。
【0038】
さらに、いくつかの実施形態において、IgA免疫複合体を含む組成物は、(例えば、対象に投与された場合)全身性免疫応答と粘膜免疫応答の両方を誘導する(例えば、全身性免疫及び/又は粘膜免疫を生成する(例えば、それにより、アレルギー疾患の徴候、症状又は状態を低減又は予防する))。よって、いくつかの実施形態において、本開示の組成物の投与は、1種又は複数種のアレルゲン及び/又はアレルギー物質(例えば、食物アレルゲン)への曝露に対する保護をもたらす。理想的には、IgA免疫複合体を含む組成物の投与は、その後アレルゲンに曝露された対象におけるアレルゲンに対する過敏性の低下をもたらす。
【0039】
本開示の方法は、患者において所望の生物学的効果を達成するために、他の治療方法との組み合わせで実施され得る。理想的には、本開示の方法は、1つ以上の粘膜部位におけるアレルギーの症状及び徴候並びに/又はTh2偏向免疫応答を改善する1つ以上の治療薬又はレジメンを含む、又はそれらとの組み合わせで実施されうる。例えば、本開示の方法は、潜在的な食物アレルゲンに対する個体の減感作のために、1つ以上の免疫療法剤又は治療レジメンとの組み合わせで(例えば、同時に、同じ経路で、及び/又は同様な漸増用量スキームで)実施されうる。減感作免疫療法は一般に、舌下、経口、又は皮膚を通して送達される。舌下免疫療法、又はSLITは、アレルゲンの液体抽出物を舌下に投与し、それを数分間保持することを含む。1日のアレルゲン投与量は、ミリグラム未満の範囲から始まり、数日又は数週間かけて徐々に増加する。食物アレルギーに対するSLITの最初の二重盲検プラセボ対照試験は2005年に発表され(Enriqueら、J.Allergy Clin.Immunol.、116:1073~1079頁(2005年))、2013年の大規模な多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験が、ピーナッツアレルギーに対するSLITを評価した(Fleischerら、J.Allergy Clin.Immunol.、131:119~127頁(2013年))。経口免疫療法、又はOITでは、低用量(ミリグラムの範囲)のアレルゲンが毎日摂取され、数か月の期間をかけて(例えば2週間ごとに)徐々に投与量が増やされる。OITでは、他の形態の免疫療法に比べてアレルゲンの投与量が多いため、患者はしばしば、偶発的な曝露による生命を脅かす反応を避けるのに十分な量のアレルゲンに減感作されるだけでなく、グラム単位の量のアレルゲン性食品を摂取できる程度にまで減感作され得る。表皮免疫療法、又はEPITは、マイクログラム単位の量のアレルゲンを含む接着剤を用いて、抗原を皮膚表面に送達する。この投与経路は、OITよりも副作用が少なく、副作用の程度も軽いようであり、一部の対象は、同じ食物アレルゲンを毎日経口摂取するよりも、皮膚パッチを貼ることを好みうる。
【0040】
他の実施形態では、本開示の方法は、モノクローナル抗体療法との組み合わせで実施されうる。アレルギー性免疫応答に関連するプロセスをブロックするために、いくつかのモノクローナル抗体が開発されている。例えば、モノクローナル抗体のオマリズマブ(XOLAIR(登録商標))は、IgE抗体のFc領域に結合して、IgEのFcεRIへの結合をブロックし、よって、Fc受容体を介した肥満細胞及び好塩基球の活性化及び脱顆粒を防ぐ(Penningtonら、Nat Commun.、7:11610頁(2016年))。オマリズマブはもともと、アレルギー性喘息の治療薬として承認されたが、食物アレルギーの治療薬としてOITとの併用が一連の小規模な試験でテストされている(Nadeauら、Clin.Immunol.、127:1622~1624頁(2011年);Schneiderら、J.Allergy Clin.Immunol.、132:1368~1374頁(2013年);Woodら、J.Allergy Clin.Immunol.、137:1103~1110頁(2016年);及びBeginら、Allergy Asthma Clin.Immunol.、10:7(2014年))。また、食物アレルギーの上流のメディエーターを標的とするモノクローナル抗体も、本明細書に記載の方法において使用されうる。例えば、メポリズマブ(NUCALA(登録商標))及びレスリズマブ(CINQAIR(登録商標))などのIL-5に結合するモノクローナル抗体は、牛乳アレルゲンによって誘発され得る好酸球性食道炎(EoE)の治療について評価されている(Assa’adら、Gastroenterology、141:1593~1604頁(2011年);及びSpergelら、J.Allergy Clin.Immunol.、129:456~463頁(2012年))。治療用モノクローナル抗体は、上述の免疫療法との併用で投与されうる。食物アレルギーの現在及び将来における潜在的な治療薬が、例えば、Yuら、Nat Rev Immunol.、16(12):751~765頁(2016年)に詳細に記載されており、これらのいずれか1つ以上が、本明細書に開示の組成物及び方法との組み合わせで使用されうる。
【0041】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものであるが、もちろん、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0042】
実施例に記載の実験では、以下の材料及び方法を使用した。
【0043】
マウス
6~8週齢のBALB/cマウスを、The Jackson Laboratory(バーハーバー、メイン州)から入手した。DO11.10-Lky-IL-4GFPマウスは、ミシガン大学医学部(アナーバー、ミシガン州)のSimon Hogan博士から寄贈された。マウスを清潔なバリア施設において維持し、ミシガン大学動物施設の動物実験委員会の承認を受けたプロトコールの下で取り扱った。
【0044】
試薬
DNP-TNP置換タンパク質を認識する、MOPC315細胞(ECACC 85022106)からの精製IgAを、MP Biochemicals(米国)から購入した。オボアルブミンタンパク質にコンジュゲートした2,4,6-トリニトロフェニルハプテン(TNP-Ova)を、Biosearch Technologies(米国)から購入した。
【0045】
Ova誘発腸アナフィラキシー
6~8週齢のマウスを、滅菌生理食塩水中のOVA(ミョウバン1mgあたり50μgのOVA)に対して、0日目と14日目に腹腔内注射により2回感作させた。2回目の感作の際、マウスを、IgA+TNP-Ova;IgA単独;TNP-Ova単独;及び生理食塩水でそれぞれ、気管内投与(i.t)により処置した。処置から2週間後、マウスをOVA(生理食塩水250μl中50mgのOVA)を用いた繰り返しの強制経口投与(o.g.)チャレンジに付した。各O.g.チャレンジの前に、マウスを4~5時間、絶食させた。直腸温度をチャレンジの前に測定し、その後60分まで15分ごとに測定した。o.g.チャレンジ後60分までマウスを目視で観察することにより、下痢を評価し、大量の液状便を示したマウスを、下痢陽性として記録した。4回目のチャレンジ後に、アナフィラキシーの症状(>1.5℃の体温低下の低体温と下痢)を示したマウスを、アレルギーとみなした。液状便を示したマウスを、下痢陽性として記録した。
【0046】
養子移入
Tリンパ球を、雌のDO11.10-Lky-IL-4GFP雌マウスの脾臓から採取した。脾臓を冷却したRPMI1640(Bio-Whittaker、ウォーカーズビル、メリーランド州)中に置き、40μmのナイロンメッシュフィルターを通して細胞を単離した。赤血球溶解後、脾細胞をRPMI1640中に再懸濁し、5×10個の細胞をプレーティングし、インビトロのTh2偏性条件(IL-4(20ng/mL);抗IFN-γ(10ug/mL);IL-2(10U/mL))でOvaペプチド(100ug/mL)と共に72~96時間インキュベートした。CD4+KJ1.26+IL4-GFP+細胞を、セルソーター(BD Melody)を用いて選別し、養子移入の7日前にOva(ミョウバン1mgあたり50μgのOVA、腹腔内)で感作したマウスに、マウス1匹あたり1×10個の細胞を養子移入した。養子移入から24時間後、マウスをIgA+TNP-Ova;IgA単独;TNP-Ova単独;及び生理食塩水でそれぞれ、気管内投与(i.t.)により処置した(8日目)。14日目に、マウスをOVA(生理食塩水250μl中50mgのOVA)を用いた繰り返しの強制経口投与(o.g.)チャレンジに付し、直腸温度と下痢を、上記のように記録した。IL-4-GFP細胞を同定するために、腸間膜リンパ節に対してフローサイトメトリー分析を行った。
【0047】
リンパ節再刺激
1mg/mlのコラゲナーゼA(Roche)及び20U/mlのDNaseI(Sigma-Aldrich)を使用して、肺流入領域リンパ節(LDLN)、腸間膜リンパ節、及びパイエル板を、10%のFCSを含むRPMI1640中、37℃で45分間酵素分解した。組織を、18ゲージの針(1mlシリンジ)でさらに分散させた。赤血球を溶解し、サンプルを100μmのナイロンメッシュを通して濾過した。mLN細胞からの細胞(5×10)を96ウェルプレートに播種し、Ovaで48時間再刺激した。上清中のIL-4、IL-5、IL-13、IL-17A及びIFN-γのレベルを、Bio-Plexサイトカインアッセイ(Bio-Rad Laboratories)を用いて測定した。
【0048】
定量的PCR
肺組織を、TRIzol試薬中でホモジェナイズし、TRIzol試薬(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)を使用してRNAを抽出した。cDNAを、マウス白血病ウイルス逆転写酵素(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州)を使用して合成し、37℃で1時間インキュベートし、続いて反応を停止させるために95℃で10分間インキュベートした。Il10、foxp3、Il4、Il5、Il13、Il17a、Ifng、及びCcl2の転写を測定するために、FAM結合プローブと共にTaqmanプライマーを用いて、リアルタイム定量PCR(qPCR)を多重化した。倍数変化を、18s RNA又は未処置動物に対して正規化した2-ΔΔサイクル閾値(CT)法を使用して定量化した。Muc5acとGob5のmRNAレベルを測定するために、カスタムプライマーを記載のようにして設計した(Millerら、2004年)。すべての反応を、ABI Prism 7500 Sequence Detection System(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州)上で行った。
【0049】
血清IgE及びmMCPT-1アッセイ
心臓穿刺後に採取した血液の血清サンプルを、OVA特異的IgE(MD Bioproducts、オークデール、ミネソタ州、米国)及びmMCPT-1(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)のELISAキットを用いて分析した。製造元の指示に従って、総IgE(Bioscience、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)及びmMCPT-1について定常状態分析を行った。
【0050】
フローサイトメトリー
肺を摘出し、RPMI1640中2.5mg/mlのLIBERASE(商標)(Roche)及び20U/mlのDNaseI(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を用いて37℃で45分間、又はRPMI1640+10%FCS中1mg/mLのコラゲナーゼ(Roche)及び20U/mlのDNaseI(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を用いて37℃で60分間、酵素消化することにより、単一細胞を単離した。組織を、18ゲージの針(5mlシリンジ)を通してさらに分散させ、赤血球を溶解し、サンプルを100μmのナイロンメッシュを通して2回濾過した。細胞を、PBSに再懸濁した。生細胞を、LIVE/DEAD Fixable Yellow Dead Cell Stain kit(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて同定した後、洗浄し、1% FCSを加えたPBS中に再懸濁した。Fcレセプターを、精製抗CD16/32(クローン93;BioLegend、サンディエゴ、カリフォルニア州)でブロックした。表面マーカーを、以下の抗原(すべてBioLegendから)に対する抗体(クローン)を用いて同定した:抗CD3(145-2C11)、CD4(GK1.5)、CD8(53-6.7)、CD25(3C7)、CD69(H1.2F3)、CD19(1D3/CD19)、F4/80(BM8)、CD11c(N418)、MHC II(M5/114.15.2)、CD11b(M1/70)、CD45(30-F11)、CD127(A7R34)、CD90(30-H12)、ST2(DIH4)、Gr-1(RB6-8C5)、B220(RA3-6B2)、及びTer119(Ter-119)。自然リンパ球の染色のための系統マーカーは、抗CD3、CD11b、B220、Gr-1、及びTER119であった。ILC2:CD45+/Lin-/CD90+/ST2+。データを、NovoCyteフローサイトメーター(ACEA Bioscience,Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて収集した。データ解析を、FlowJoソフトウェア(Tree Star、オレゴン州、米国)を用いて実施した。
【0051】
固有層単核球の単離
パイエル板と腸間膜血管を除去するために、回腸ループ組織を縦に開き、LP濃縮画分を、Luissintら(2019年)による記載のようにして、機械的攪拌下、37℃で酵素的に解離した。簡単に説明すると、2%FBSと5mM DTT(Fisher BioReagents)を補充したPBS中で組織を20分間洗浄することにより、粘液を除去した。キレートバッファー(2%FBSと5mM EDTAを含むPBS)中での10分間、3回連続の洗浄により、IECライニングを除去した。組織を細かく切り刻み、10mM HEPES、LIBERASE(商標)(37.5U/mL;Roche Applied Science、インディアナポリス、インディアナ州)、DNase I(300Kuntz units/mL)を補充したHBSS+で30分間消化した。細胞懸濁液を濾過し、10%FBSと2mM EDTAを補充したPBS溶液中で洗浄し、細胞数を測定し、フローサイトメトリー解析のために染色した。
【0052】
組織学的検査
パラフィン包埋し、10%ホルマリン固定した左肺、及びH&Eで染色した小腸から、6μmの連続切片を得た。代表的なスライドを選択するため、マウス1匹につき肺/小腸を2切片ずつ、1匹につき5枚の切片を分析した。気道における粘液を同定するために、PAS染色を行った。小腸の肥満細胞を同定するために、クロロ酢酸エステラーゼ染色を実施した。
【0053】
統計分析
データを、Prism 7(GraphPad Software)によって分析した。提示されているデータは、平均値±SEMである。2つの群の比較を、対応のない両側スチューデントのt検定により実施した。3群以上の比較を、一元配置分散分析により解析し、その後、個々の比較を両側スチューデントのt検定により行った。p値<0.05を有意とみなした。
【0054】
[実施例1]
この実施例は、IgA免疫複合体の気道への投与が、マウスのアレルギー性喘息応答を阻害することを実証している。
【0055】
免疫応答の調節におけるIgAの役割の検討は、これまでの研究では解決されていない。IgAが寛容原性及び阻害性応答に重要な役割を持つことの裏付けのほとんどは、状況証拠に基づくものであり、欠乏に関連するもの、又はIgAレベルと相関するものであった。抗原を伴う、又は伴わない抗原特異的なIgAが、進行中のアレルギー性免疫応答を変化させるか否かを検討した。この目的のために、2種類のミョウバン-オボアルブミン全身感作によるアレルギー性気道応答のモデルを用いて、強力なTh2応答を惹起させた。2回目の腹腔内ミョウバン-オボアルブミン感作時に、動物に、TNP-オボアルブミンを伴う、又は伴わないTNP特異的IgAの気管内補充を与えた。後者の免疫複合体は、IgAが抗原曝露中に粘膜表面で起こるものと同様な特定の応答を誘発することを可能とした。他の対照は、TNP-ovaのみ及び生理食塩水(ビヒクル)であった。2回目のミョウバン-オボアルブミンチャレンジの2週間後、動物に、2週間にわたり7回のオボアルブミンチャレンジを気道に与えた。最終的なオボアルブミン気道チャレンジの24時間後、動物を、アレルギー性気道疾患の証拠について検討した(図1A)。PASで染色された病理組織学の検討は、IgA-TNP-ova免疫複合体で処置した動物が、他のすべての群と比べて、気道を染色する粘液の低減を有することを示唆し(図1B)、これを、杯細胞によって肺において発現される主要なムチンであるmuc5bの発現を調べることによって確認した(図1C)。肺流入領域リンパ節細胞の再刺激は、IgA/TNP-ova処置群が、Th2サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-13の有意な減少と、IL-10の増加を有することを実証した(図1D)。さらに、リンパ節細胞のフローサイトメトリー分析は、IgA/TNP-ova処置群でのみCD4+CD25+Foxp3+ T細胞の有意な増加が認められ、生理食塩水対照で処置したアレルギー動物に比べて10倍近い増加を実証した(図1E)。よって、ovaに対する全身性のアレルギー応答を有する動物におけるIgA/TNP-ovaの粘膜局所投与は、Treg細胞の対応する増加を伴って、局所的なアレルゲンチャレンジから動物を保護した。
【0056】
上記の粘膜気道チャレンジに対するIgA-免疫複合体感作マウスにおける確立された免疫応答の低減は、Treg細胞応答の発生との関連を指し示した。この反応が局所的なものなのか、又は気道に適用されたIgA免疫複合体が全身的な影響を有するのかを理解するために、同様な戦略を用いて、腸の食物アレルギーを調査する試験を設計した。気道モデルと同様に、ミョウバン-オボアルブミンをIP投与してアレルギー応答を誘導する全身感作モデルを用いて、同様なIgA免疫複合体の気道への適用を追跡した(図2A)。さらに、アレルゲン特異的応答を確認するために、ミョウバンで沈殿させたピーナッツアレルゲン(Greer)でマウスを免疫した(図2A)。2回目のミョウバン-ova感作の直前に、動物に、免疫複合体又は適切な対照を気道(IT)に投与した。胃内オボアルブミン食物チャレンジを、2週間後に開始し、表示のように、4回の強制経口投与を行った。IgA免疫複合体によるオボアルブミン応答の変化がアレルゲン特異的かどうかを確認するため、ピーナッツ-ミョウバン感作マウスに、PE-生理食塩水又はPE-IgA+TNF-Ovaを与えた。
【0057】
応答の主要な転帰は、経口オボアルブミンチャレンジ後30分以内の下痢の発症であった。異なる群における下痢の検討は、単独で気道に与えられたTNP-ovaは進行中のアレルギー応答を変化させないが、IgA-TNP-ova免疫複合体は下痢応答の発症を緩和することを実証した(図2B)。対照的に、IgA-TNP-ova免疫複合体で処置したピーナッツ-ミョウバン感作マウスは、ピーナッツ対照マウスと比較して下痢の低減を示さなかった(図2B)。アナフィラキシーの別の徴候である体温の低減は、動物をチャレンジした場合に有意に低減したが、IgA免疫複合体で処置した動物では見られなかった。アレルギー応答の発症をさらに調べるため、経口チャレンジ後60分における血清中のIgEを肥満細胞由来MCPtと共に調べた(図2C)。オボアルブミンでチャレンジした動物の気道にIgA免疫複合体を曝露した動物においてのみ、IgEとMCPtの両方が有意に低減していた。また、腸流入領域リンパ節細胞をオボアルブミンで再刺激することにより、全体的な免疫反応も調べた。得られた上清は、IgA免疫複合体で処置した動物において、IL-4とIL-13の有意な減少と、IL-10の増加を実証した(図2E)。対照的に、IgE、MCPT1、又はサイトカインを含む免疫パラメータはいずれも、IgA-TNP-ova免疫複合体によってピーナッツ感作マウス及びチャレンジされたマウスでは変化していなかった(図2C~E)。合わせて、これらのデータは、全身のアレルギー応答中に気道IgA/TNP-ova免疫複合体への曝露によって誘導される有意な変化が、重篤なTh2誘発性の経口抗原応答から動物を保護し、それがアレルゲン特異的であることを実証している。
【0058】
IgA免疫複合体が感作マウスのアレルギー応答をどのように変化させているかをよりよく理解するために、T細胞移入モデルを、Th2偏性DO11 ova特異的TCRトランスジェニックT細胞と共に利用した。このモデルを、GFP IL-4レポーターDO11ナイーブ脾臓細胞を単離することによって構築した。ナイーブDO11マウスの脾臓細胞を、rIL-4、抗IFN、rIL-2、及びTCR活性化(材料と方法を参照)を用いてインビトロで偏性し、GFP発現について選別し、これは、IL-4の産生を指し示した。本モデルは、既に偏性したTh細胞のサブセットを用いているため、免疫プロトコールを、ミョウバン-ova感作を1回行った後、7日目に選別したIL-4産生偏性T細胞のBalb/cマウスへのIP注射により動物を処置し、その24時間後にIgA/TNP-ova免疫複合体を気道に投与するように修正した(図3A)。14日目に強制経口投与によるチャレンジを開始し、4回目のチャレンジ時に動物が下痢を発症していないか検査した。IgA/TNP-ova組成物は、どちらもアナフィラキシーの徴候である激しい下痢と体温低下からマウスをほぼ完全に保護した(図3B)。流入領域リンパ節がエクスビボで再刺激されると、IL-4、IL-5、及びIL-13の有意な低減と、IL-10の有意な増加が観察された(図3C)。GFP+IL-4+ T細胞を同定するためにフローサイトメトリーを行った際には、IgA/TNP-ova処置群で有意な低減と、対応するFoxp3+ Treg細胞の増加が見出された(図3D)。重要なことに、Foxp3+ T細胞はいずれもIL-4+ではなく、これは、それらがナイーブな宿主T細胞由来であり、Th2偏性細胞由来ではないことを指し示している。
【0059】
疾患の病因をさらに説明するために、アナフィラキシー疾患応答の重症度と相関すると思われることから、小腸に蓄積した肥満細胞の数を調べるための試験を行った。IgA/TNP-ova免疫複合体で処置した動物は、小腸の肥満細胞に有意な減少を示した(図4A)。また、血清中のIgE及びmMCPt-1のレベルも、IgA/TNP-ova免疫複合体で処置した動物においてのみ有意に低減し(図4B)、これは、Th2と肥満細胞の活性化の低減をさらに実証している。さらに、IL-10、TGF-β、及びfoxp3の発現レベルを腸組織で調べた際には、これらの遺伝子の有意なアップレギュレーションが観察された(図4C)。よって、Th2免疫応答を制御する能力は、アレルギーマウスの小腸における肥満細胞数の増加の進展に対応しており、アレルゲン特異的IgA免疫複合体による粘膜の処置によって調節され得る。
【0060】
IgA免疫複合体がどのようにして変化した応答を促進するのかの1つの潜在的なメカニズムは、抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)の差次的な活性化を介するものである。これを調べるため、骨髄由来DCをGM-CSF中で6~7日間培養し、IgA免疫複合体又は適切な対照に曝露した。一晩のインキュベーション後、DCを、定量的PCR分析によって自然免疫系サイトカインの発現、IL-10及びTGFβについて評価した(図6)。このデータは、IgA免疫複合体がTGFβ(図6A)及びIL-10(図6B)のmRNA発現の有意な増加を誘導した一方、IgA単独は、はるかに少ない程度でそれらを増加させたことを実証している。免疫複合体の活性化が、抗原特異的一次免疫応答を引き起こすDCの能力を変化させるかどうかをよりよく理解するために、DO11オボアルブミンペプチドトランスジェニックTCRナイーブ脾臓CD4 T細胞を用いた。IgA免疫複合体又は適切な対照と共に一晩インキュベートした後、DCを洗浄し、プロセシングとT細胞への提示のために、新しいオボアルブミンを用いて、1:10の割合でDO11ナイーブCD4 T細胞と共に再播種した。図6Cのデータは、オボアルブミンに応答して、DCのみの対照(オボアルブミン投与無し)と比較して、すべてのサイトカインの実質的な産生が生じた一方で、IgA免疫複合体をプレインキュベートしたDCは、48時間のインキュベーション後の上清において、IL-4、IL-13、及びIL-17の有意な減少と、IL-10及びIFNγの増加を有していたことを指し示している。合わせて、これらのデータは、IgA免疫複合体が、T細胞応答の変化に対応する制御性サイトカインをDCにおいて誘導することを指し示している。
【0061】
[実施例2]
この実施例は、IgA免疫複合体の経口投与について記述する。
【0062】
アナフィラキシー疾患における同様な調節効果を促進するために、TNP-オボアルブミンとのIgA免疫複合体を、全身感作マウスに強制経口投与により与えた。全身感作動物に、14日目において、2回目のミョウバン-オボアルブミンIP感作の前に、IgA:TNP-オボアルブミン免疫複合体、又は適切な対照処置を強制経口投与により与えた。上記の図2のように、2回目のミョウバン-オボアルブミン感作から14日後のプロトコール28日目に、強制経口投与チャレンジをオボアルブミンにより与えた。最後のチャレンジの後、動物を、下痢と体温の変化について観察し、下痢の発生率と体温の変化により評価したところ、強制経口投与によってIgA ICを投与した動物のみが、アナフィラキシー性疾患から保護されることを示した(図5)。さらに、IgEとMCPT1も、IgA-TNP-ova IC処置動物でのみ有意に減少していた。IgA ICで処置した動物のリンパ節では、Treg細胞が約5倍に増加していた一方、IgAのみでもTreg細胞はより緩やかに増加していたが、重篤なアナフィラキシー性ova誘発疾患を変化させるには不十分であった。よって、重篤なアレルゲン誘発性後遺症から保護する調節応答を誘導するために、オボアルブミンに対するIgA ICが、気道と腸粘膜表面の両方において供給され得る。
【0063】
本明細書で引用される刊行物、特許出願、及び特許を含むすべての参考文献は、各参考文献が参照により組み込まれることが個別に具体的に指し示され、その全体が本明細書に記載される場合と同じ程度にまで、参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
本発明を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)「1つの(a)」及び「1つの(an)」並びに「その(the)」及び「少なくとも1つの(at least one)」という用語及び類似の参照語の使用は、本明細書において別段の記載がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を対象とするものと解釈されるべきである。「少なくとも1つ」という用語とその後に続く1つ以上の項目のリスト(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」)の使用は、本明細書において別段の記載がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、リストされた項目から選択される1つの項目(A又はB)、又はリストされた項目の2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味するものと解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、制限的でない用語(つまり、「含むがそれに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は単に、本明細書に別段の記載がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個別に参照する略記法として機能することを意図したものであり、各個別の値は、あたかも個別に本明細書に記載されているかのように、明細書に組み込まれる。本明細書に記載されているすべての方法は、本明細書に別段の記載がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適当な順序で実行することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例、又は例示的な文言(例えば、「などの(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく明らかにすることを意図しており、別段の請求がない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる文言も、請求の範囲に記載されていない要素が本発明の実施に不可欠であることを示していると解釈すべきではない。
【0065】
本発明の好ましい実施形態が、本発明を実施するための本発明者らに既知の最良の態様を含めて、本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の説明を読めば、当業者には明らかとなりうる。本発明者らは、当業者が適宜そのような変形を採用することを期待しており、本発明者らは、本明細書に具体的に記載された以外の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、適用される法律によって許可される限り、添付の特許請求の範囲に記載された主題のあらゆる修正及び均等物を含む。さらに、本明細書に別段の記載がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、上述の要素のあらゆる可能な変形におけるその組み合わせは、本発明により包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】