(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】合金鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241016BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20241016BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241016BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/12
C22C38/38
C21D8/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521241
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2021077627
(87)【国際公開番号】W WO2023057062
(87)【国際公開日】2023-04-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524130113
【氏名又は名称】ヴァンテージ アロイズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミドルトン、アーロン ジョン
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA02
4K032CD02
4K032CD03
4K032CE01
4K032CE02
4K032CG00
4K032CH04
(57)【要約】
鋼のミクロ組織がバナジウムを含む整合相界面析出物を含む、炭素およびバナジウムを含むバナジウム合金鋼が提供される。さらに、出発鋼を提供するステップと、出発鋼を加熱して出発鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化するステップと、温度を650℃±200℃に約25分以下保持するステップとを含む、バナジウム合金鋼を製造する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素およびバナジウムを含むバナジウム合金鋼であって、該バナジウム合金鋼のミクロ組織が、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む、バナジウム合金鋼。
【請求項2】
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと
を含む、請求項1に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項3】
前記バナジウム合金鋼は、約210GPaを超える平均弾性率を備えた弾性率強化鋼であり、任意選択で、前記バナジウム合金鋼は、最大約300GPaの平均弾性率を備える、請求項1または2に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項4】
前記整合相界面析出物は、約9nm以下の粒子サイズを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項5】
前記整合相界面析出物は、約5nm~約9nmの範囲の粒子サイズを有する、請求項4に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項6】
前記整合相界面析出物は、バナジウム炭化物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項7】
前記整合相界面析出物は、化学式V
xC
y(式中、x>y)を有する高レベルのバナジウムを有する析出物を含む(例えば、前記整合相界面析出物は、V
4C
3を含む)、請求項6に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項8】
前記整合相界面析出物は、V
6C
5および/またはV
5C
3を含む、請求項7に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項9】
前記バナジウム合金鋼の組成は、
約0.015重量%以下の窒素、
約1.6重量%以下のモリブデン、
約1重量%以下の銅、
約1.2重量%以下のケイ素、
約0.3重量%以下のクロム、および/または、
約1.6重量%以下のマンガン
のうちの少なくとも1つ以上を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項10】
前記バナジウム合金鋼の組成は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウム、
約0.015重量%以下の窒素、
約1.6重量%以下のモリブデン、
約1重量%以下の銅、
約1.2重量%以下のケイ素、
約0.3重量%以下のクロム、および、
約1.6重量%以下のマンガン
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項11】
前記整合相界面析出物はMoを含み、任意選択で、前記整合相界面析出物は、化学式(Mo,V)
xC
y(式中、x>y)、例えば、(Mo,V)
4C
3/(Mo,V)Cを有する析出物を含む、請求項9または10に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項12】
前記バナジウム合金鋼のミクロ組織はVN析出物を含み、任意選択で、前記ミクロ組織は粒内VN有核針状フェライトを含む、請求項9~11のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項13】
前記バナジウム合金鋼はフェライト相を含み、前記整合相界面析出物は、前記フェライト相中に形成されて、球状フェライトまたは節状フェライトを形成する、請求項1~12のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項14】
前記フェライト相は、約20μm未満、例えば約5μm~約20μmの範囲の平均サイズを有する結晶粒を含む、請求項13に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項15】
前記バナジウム合金鋼は、単相フェライト鋼(例えば、HSLA、AHSS)を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項16】
前記バナジウム合金鋼は、パーライト相を含み、任意選択で、前記バナジウム合金鋼は、バナジウム強化セメンタイトを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項17】
前記バナジウム強化セメンタイトは、セメンタイト中に固溶したバナジウムを含み、例えばFe
2VCおよび/またはFeV
2Cを形成する、請求項16に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項18】
前記バナジウム合金鋼は、約360MPa~約2000MPaの範囲の引張強さを備える、請求項1~17のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載のバナジウム合金鋼を調製する方法であって、
出発鋼を提供するステップと、
前記出発鋼を加熱して前記出発鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化するステップと、
温度を650℃±200℃に約25分以下保持するステップと
を含む、方法。
【請求項20】
前記出発鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
任意選択で、
約0.015重量%以下の窒素、
約1.6重量%以下のモリブデン
約1重量%以下の銅、
約1.2重量%以下のケイ素、
約0.3重量%以下のクロム、および/または
約1.6重量%以下のマンガン
のうちの1つ以上と
を含む組成を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記温度を650℃±200℃に保持する前に、前記出発鋼を約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で、任意選択で650℃±200℃の温度まで、冷却する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記出発鋼を加熱した後、前記出発鋼は、任意選択で再結晶制御圧延および/またはV(C,N)析出制御圧延によって、再結晶停止温度(RST)を超える温度で熱間圧延される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記出発鋼を熱間圧延することは、実質的にV(C,N)析出温度時間ノーズで熱間圧延することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記温度を保持する間または保持した後に、磁場を前記出発鋼の組成物に印加する、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記温度を650℃±200℃で約25分以下保持した後、前記出発鋼を再加熱して、前記出発鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化する、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記出発鋼を再加熱した後、再び前記温度を650℃±200℃に約25分以下保持する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記出発鋼を再加熱した後、前記出発鋼を約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で、任意選択で650℃±200℃の温度まで、冷却する、請求項25または26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金鋼およびその製造方法に関するものである。より具体的には、弾性率が向上したバナジウム合金鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
より強力で軽量な構造用鋼板の使用に向けた脱炭素化の傾向を考慮すると、耐火性、耐座屈性、耐たわみ性などの特性を向上させた鋼材を開発する必要性が存在する。
【0003】
土木工学における耐火構造用鋼の開発と使用は、建設業界で特に問題となっている。また、鉄鋼業界では固形炭素の使用を削減する傾向が強い。
【0004】
優れた耐火性を備えたリーン合金高張力鋼の開発は、経済的に大きな利益をもたらし、より細い柱および梁の設計の使用を可能にし、世界的な脱炭素化目標に向けた進歩を加速する。しかしながら、耐火性能要件と脱炭素化の目標は両立しないことがよくある。
【0005】
さらに、座屈やたわみに対する耐性が強化された鋼材を提供することは、例えば自動車産業と風力発電塔の建設の両方において有益となるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、従来技術に関連する問題に対処するか、または少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様では、炭素およびバナジウムを含む、好ましくは炭素およびバナジウムから本質的になる、より好ましくは炭素およびバナジウムからなるバナジウム合金鋼であって、鋼のミクロ組織が、バナジウムを含む整合相界面析出物(coherent interphase precipitates)を含む、バナジウム合金鋼が提供される。
【0008】
いくつかの実施形態では、炭素、バナジウム、および残部の鉄を含む、好ましくはそれらから本質的になる、より好ましくはそれらからなるバナジウム合金鋼であって、鋼のミクロ組織が、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む、バナジウム合金鋼が提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、バナジウム合金鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
を含み、好ましくはそれらから本質的になり、より好ましくはそれらからなり、
鋼のミクロ組織は、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、バナジウム合金鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
残部の鉄と
を含み、好ましくはそれらから本質的になり、より好ましくはそれらからなり、
鋼のミクロ組織は、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、バナジウム合金鋼は、バナジウムおよび炭素と、任意選択で、窒素、モリブデン、銅、ケイ素、クロム、および/またはマンガンのうちの1つ以上と、残部の鉄とを含み、好ましくはそれらから本質的になり、より好ましくはそれらからなり、鋼のミクロ組織は、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、バナジウム合金鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
任意選択で、
約0.015重量%以下の窒素、
約1.6重量%以下のモリブデン、
約1重量%以下の銅、
約1.2重量%以下のケイ素、
約0.3重量%以下のクロム、および/または
約1.6重量%以下のマンガン
のうちの1つ以上と、
残部の鉄と
を含む、好ましくはそれらから本質的になる、より好ましくはそれらからなり、
鋼のミクロ組織は、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む。
【0013】
以下に説明されるように、本明細書に開示される鋼では、鋼の平均弾性率(すなわち、ヤング率)が向上する。整合バナジウム析出物は、鋼中に大きなひずみ場を生成し、その結果、格子パラメータの変化が生じ、鋼の体積弾性率が変化する可能性があると考えられている。
【0014】
焼戻しおよび粗大化に対する整合析出物の安定性が高まるため、弾性率の向上は高温でも適用可能であり、それによって鋼の耐座屈性が向上すると考えられている。このようにして、例えば低合金化の実施形態を使用して、改良された耐火性能が達成される。
【0015】
本明細書に開示されるようなより高弾性率の鋼の提供は、例えばより高合金化された実施形態を使用して、より高い耐座屈性などの強化された構造的利点を提供するのにも有益であり得る。これにより、より背の高い風力タービンの建設が可能になり得る。
【0016】
本明細書に開示されるようなより高弾性率の鋼の提供は、例えばより高合金化された実施形態を使用して、強化された耐たわみ性を提供するのにも有益であり得る。これは、より軽量でより剛性の高い自動車構造を作り出すのに有益であり得る。
【0017】
図1に示されるように、格子パラメータの変化効果は、周囲の鋼マトリックス中の析出物の弾性調節によって引き起こされるマトリックスの膨張と収縮の直接的な結果であると考えられている。バナジウム2を含む析出物は、周囲の鋼(例えば、フェライト)マトリックス4とは異なる格子パラメータを有する。換言すれば、バナジウムを含む析出物と周囲の鋼との間には格子パラメータのミスフィットが存在し、その結果、バナジウムを含む整合析出物が形成される場合に、大きなひずみ場(
図1の符号6で示される斜線領域で示される)が生成される。その結果、鋼全体の平均格子パラメータが変化し、鋼の体積弾性率が変化する。対照的に、非整合析出物が形成される場合、そのようなひずみ場は観察されない。
【0018】
この格子パラメータの変化は、異方性であると考えられている。しかしながら、鋼などの多結晶材料では予想されるように、ランダムな結晶方位によってこの異方性を中和することができ、マクロスケールでの弾性率の向上が促進される。
【0019】
この物理的効果と組み合わされて、整合界面付近の電子分布が変化し、体積弾性率の向上にさらに寄与する。
【0020】
図2は、例えばフェライトおよびオーステナイトと比較して、バナジウムを含む析出物の格子パラメータ間のミスフィットが比較的小さいというバナジウムの独自性を示している。フェライトのミスフィットに関するデータ点は、黒丸と三角で示され、オーステナイトのミスフィットに関するデータ点は、白抜きの丸と三角で示されている。さらに、
図2は、鋼で一般的に使用される他の元素を含む析出物と比較した、(この場合はフェライト内に)バナジウムを含む整合析出物の高い限界サイズを示している。これは、整合性限界が大きいほど、確立された製鋼方法によって整合性を維持することが容易になるという効果があるため、整合析出物形成の生成を促進すると考えられている。
【0021】
図3を見てみると、これは、強化効果と析出物のサイズとの間の関係を示している。見て分かるように、せん断強度は、臨界粒子サイズまで粒子サイズが大きくなるにつれて増加する。これは、上記のように、整合性ひずみ硬化によるものである。粒子のサイズが臨界粒子サイズを超えると、非整合析出物が形成され、弾性率強化効果が見られなくなる。
【0022】
バナジウムを含む析出物は、他の析出物と比較して、その高い整合限界と高いせん断弾性率の作用によって鋼の弾性率を高めるのに非常に効率的であると考えられている。
【0023】
析出物が小さく、周囲のマトリックスと整合している場合、転位機構は、十分に確立されたアシュビー・オロワン・ルーピング機構(非整合析出物に適用できる)から粒子せん断機構に移行する。秩序化された整合粒子をせん断する転位に起因する強化機構は、秩序および弾性率強化機構の作用をもたらす。結果として得られる弾性率強化の増加は、Knowles-Kelly方程式(1)によって説明され得る。
【数1】
ここで、b≒0.248nmは、転位のバーガースベクトルであり、rは、バナジウムを含む析出物(例えば、VC粒子(≒3.1±1.0nm))の平均半径であり、G≒81.6GPaは、フェライトマトリックスのせん断弾性率である。ΔGは、マトリックスと析出物の間のせん断弾性率の差である(175.7GPa-81.6GPa=94.1GPa)。f=(4/3)πnr
3は、VCナノ析出物の体積分率であり、nは、析出物の数密度(≒1.18±0.03×10
-4nm
-3)である。
【0024】
これは、バナジウムを含む析出物(例えば、炭化物)の数密度、その平均サイズ、そのせん断弾性率(バナジウム析出物のV:C比に依存する)、およびその後の弾性率強化の間に直接的な関係があることを示している。
【0025】
例として、
図5aは、本明細書に開示されるようなフェライト鋼のシミュレーションを示し、本実施形態ではナノサイズの小板として形成される、バナジウムを含む整合相界面析出物に関連する弾性ひずみ場を示す。小板は、符号22で示される列間の間隔をあけて列状に配置される。明確にするために、2列の相界面析出物のみが示されている。
【0026】
炭化バナジウムおよび/または炭窒化バナジウムなどのバナジウムを含む析出物では、析出物の配向に応じて原子のミスフィットの平行成分と垂直成分に大きな相対差が生じます。小板析出物の表面と平行に、非常に低いミスフィットが存在し、これが大きな整合性臨界サイズ限界と拡張効果につながる。析出物に垂直に、比較的大きなミスフィットと低い整合性サイズ限界が観察され、その結果、析出物の広いプレートレット表面に垂直な格子間隔に収縮効果が生じる。この収縮により平均格子間隔、つまりバーガースベクトルが減少し、その結果単位セルの弾性率が増加し、これをマクロスケールで複数の結晶粒に適用すると、マクロレベルでヤング率が顕著に増加する。
【0027】
格子パラメータの変化は、線A-Aに沿って示されている。これは、異方性ミスフィットひずみの結果として平均格子間隔が縮小し、体積弾性率が変化することを示している。
【0028】
いくつかの実施形態では、鋼は、耐火鋼である。上記のような弾性率の向上は、焼き戻しおよび粗大化に対する整合析出物の安定性が高まるため、高温にも適用でき、それによって耐火鋼の耐座屈性が向上する。
【0029】
火災時の建物およびその他の構造物の安定性は、火災によって生じる温度まで加熱されたときに鋼構造物がどの程度軟化するかによって決まる。鋼は、一般的に、そのような温度に加熱したときの短期強度が室温での強度の約0.6~0.7である場合、耐火性があるとみなされる。
【0030】
例示的な実施形態では、平均弾性率は、約600℃~約700℃の範囲の温度で120GPa以上である。
【0031】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.1~約0.3(重量%)の範囲のバナジウムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0032】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.3~約1.5(重量%)の範囲のバナジウムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0033】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.1~約1.5(重量%)の範囲のバナジウムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0034】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.1~約1(重量%)の範囲のバナジウムを含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0035】
バナジウムは、変態温度(つまり、鋼がオーステナイトからフェライトに変態する温度)に与える影響が比較的低いため、バナジウムを使用して相界面析出物を形成することは、ニオブおよびチタンなどの他の合金元素と比較して有利であると考えられている。変態温度を下げると、相界面析出ではなくランダム析出の確率が増加するという不利な効果がある。したがって、バナジウムの使用は、変態温度を所望の範囲に維持するのに有益である。
【0036】
炭素の存在は、鋼の硬度、強度、焼入れ性に寄与する。炭素は、オーステナイト安定剤としても機能する。
【0037】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.06~約0.2(重量%)の範囲の炭素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0038】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.06~約0.3(重量%)の範囲の炭素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0039】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.06~約0.3(重量%)の範囲の炭素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0040】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.6~約1.1(重量%)の範囲の炭素を含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0041】
いくつかの実施形態では、鋼は、約210Paを超える、例えば約220GPa以上、例えば約210GPa~約300GPaの範囲、例えば約220GPa~約300GPaの範囲の平均弾性率(すなわち、測定された体積弾性率)を備えた弾性率強化鋼である。
【0042】
弾性率は、動的共鳴法を使用して測定できる。均一な断面(例えば、円形、正方形、または長方形)を備えた鋼の試験片が調製され、鋼の固有の振動周波数が決定され、既知の方程式を使用して弾性率に関連付けられる。ASTM規格C1259は、長方形および円形断面の棒材について、振動のインパルス加振によるアドバンストセラミックスの動的ヤング率、せん断弾性率、およびポアソン比の標準試験方法を規定している。
【0043】
任意選択で、鋼は、弾性率強化AHSS鋼である。任意選択で、鋼は、約600℃~約700℃の範囲の温度で約120GPa以上の平均弾性率を備えた耐火鋼(例えば、HSLA鋼)である。
【0044】
任意選択で、整合相界面析出物は、約9nm以下、任意選択で約5nm~約9nmの範囲、任意選択で約5nmを超える粒子サイズを有する。これは、高分解能透過型電子顕微鏡、X線回折、または他の適切な方法で測定できる。
【0045】
整合相界面析出物の粒子サイズは、粒子の代表的なサンプルの最大粒子寸法の平均値とみなされる。
【0046】
フェライトの整合相界面析出物の場合、通常、集束イオンビーム(FIB)顕微鏡を使用してラメラ試料が調製される。薄いラメラの分析も通常、プローブ補正された高解像度走査型透過電子顕微鏡(HRSTEM)を備えた冷陰極電界放出銃をインサイチューで使用して実行される。この方法により、適切な収集角度で高角度環状暗視野(HAADF)画像を取得できる。整合析出物のサイズ、形態、数密度は、そのようなHAADFおよびSTEM顕微鏡写真から得られ、これにより平均数密度は、様々な結晶粒から得られた平均値から導き出される。濃度プロファイルは、そのようなHAADFデータからも取得でき、結合したナノ粒子の性質を検証できる。原子プローブ断層撮影法は、コアシェルナノ粒子内の原子濃度プロファイルを(HAADF顕微鏡写真から)検証し、その3D空間分解能を向上させるために使用することもできる。
【0047】
図2に示され、また前述したように、これは、他の一般的に使用される元素から形成される析出物と比較して比較的大きく、(
図3に示されるように)バルク鋼の弾性率の増加に寄与すると考えられている。
【0048】
任意選択で、整合相界面析出物は、炭化バナジウムを含み、任意選択で、整合相界面析出物は、化学式VxCy(式中、x>y)を有する高レベルのバナジウムを有する析出物を含む(例えば、整合相界面析出物は、V4C3、V6C5、および/またはV5C3を含む)。整合粒子から非整合粒子への転移中に、析出物とマトリックスの界面エネルギーが増加するため、析出物の安定性にはより多くの空孔が必要となり、結果的に炭素対バナジウムの比率がわずかに徐々に減少し、こうして安定性が向上する。
【0049】
フェライト鋼内のバナジウム含有量がわずかに増加すると、析出物内の炭素対バナジウムの比率が低下し、これは析出物のせん断弾性率を増強する働きをし、結果的に弾性率が強化され得るとも考えられている。
【0050】
いくつかの実施形態では、鋼は、例えば高合金の実施形態を使用する、耐水素鋼である。鋼内のバナジウム炭化物は、水素を不可逆的にトラップすることができる水素トラップとして機能すると考えられている。
【0051】
相界面析出物のV:C比を増加させることにより、鋼(例えば、フェライト)の格子マトリックスの整合界面に大量の炭素空孔が生成される。これらの空孔は、水素トラップとして機能し、耐水素脆化性の向上につながる。
【0052】
これを
図4aおよび
図4bに示す。
図4bは、V
4C
3の整合相界面析出物2内の炭素空孔を占有する水素原子8の3D図を示す。
図4aは、TiC析出物14、NbC析出物12、およびV
4C
3析出物10に関連するポテンシャルエネルギー井戸を示す。見てわかるように、V
4C
3析出物10に関連するポテンシャルエネルギー井戸は、他の析出物のポテンシャルエネルギー井戸よりも深いため、より効果的な水素トラップとして機能する。
【0053】
さらに、強化されたバナジウムを含む炭化バナジウム析出物は、火に曝露される条件下で本質的により熱的に安定な炭素空孔を含むと考えられている。
【0054】
任意選択で、鋼は、フェライト相を含み、整合相界面析出物がフェライト相内に形成されて、例えば球状(nodular)フェライトまたは節状(knotted)フェライトを形成する。
【0055】
いくつかの実施形態では、整合相界面析出物は、オーステナイト相がフェライト相に転移するときに、換言すれば、オーステナイトとフェライトとの間の移動相境界に対応する条件で形成される。
【0056】
冷却すると、整合相界面析出物の形成によって引き起こされる蓄積された弾性ひずみに適応するために、球状フェライト(NF)が形成され、成長中にその配向が変化すると考えられている。球状フェライトは、これまで共晶鋳鋼でのみ確認されており、鉄炭化物(つまり、セメンタイト内のもの)に起因する格子パラメータのミスフィットによって引き起こされる。整合合金炭化物によって生成されるミスフィットによっても球状フェライトが生成され得ることが見出された。球状フェライトは、無秩序な結晶方位と無秩序な結晶粒界の不配向によって特徴付けられる。結晶粒は、同形体ではなく、節状の外観に似ている。相界面析出を伴うフェライト変態は、高炭素鋼の変性パーライトに類似した一種の共析変態であり、鉄炭化物、セメンタイトの代わりに合金炭化物が形成される。したがって、この球状または節状フェライトは、高炭素鋼で観察されるパーライトに類似していると考えることができる。
【0057】
NFのこの分岐、したがって相界面析出のためのフェライト/オーステナイト界面の変化は、水素脆化耐性を高めるためにミクロ組織の組織を最適化すると考えられている。より低い相対粒界エネルギーを示すより低い角度の結晶粒界およびCoincidence Site Lattices(CSL)は、フェライト鋼の耐水素脆化性を大幅に強化できると考えられている。これについて考えられる機構の1つは、CSL結晶粒界(例えばΣ5とΣ13の間)に配置される原子の数が増加し、これにより空孔密度が減少し、結晶粒界での水素原子の偏析がさらに緩和され得ることである。
【0058】
いくつかの実施形態では、鋼組成物は、Mo、Cr、および/またはCuを含む。このようにして、鋼は、より高い毛管駆動粗大化抵抗と格子パラメータの収縮を示すコアシェルナノ粒子からの恩恵を受ける可能性があると考えられている。
図7bを参照すると、いくつかの例示的な実施形態では、コアシェルナノ粒子16は、VNのコア18を含むことができる。例えば、コアシェルナノ粒子は、Mo、Cr、および/またはCuを含むシェル20を含むことができる。
【0059】
毛管駆動による粒子粗大化は、Mo、Cr、および/またはCuの界面偏析によって妨げられ、界面エネルギーの低下によりさらなる粒子の粗大化への推進力が減少する。耐粗大化は、オーステナイト化中の結晶粒の微細化と事前のオーステナイト結晶粒サイズ制御の助けとなる。発達したコアシェルナノ粒子は、本質的に粗大化に耐性があり、オーステナイト結晶粒界にツェナーピンニング機構を発揮して結晶粒サイズを制限する。
【0060】
したがって、靱性の向上が達成される。
【0061】
銅は、フェライト格子とのミスフィットが少ないため、高密度の整合相界面粒子を形成することによって弾性ミスフィットひずみに寄与することができると考えられている。Cuの低い磁気モーメントは、複雑なナノ粒子の数密度の増加にプラスの役割を果たしていると考えられている。特定の理論に束縛されるものではないが、磁場の印加により系のギブズ自由エネルギーが増加すると考えられている。ギブズ自由エネルギーの増加は、Cuを含む合金元素の析出を促進し、Cuは、磁気モーメントが低いため、析出は、磁場によって妨げられない。
【0062】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.5(重量%)までの範囲の銅を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0063】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約1(重量%)までの範囲の銅を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0064】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約1(重量%)までの範囲の銅を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0065】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.5(重量%)までの範囲の銅を含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0066】
マンガンの存在は、例えばより高いコイリング(巻き取り)温度が使用される場合に、フェライト結晶粒の微細化に寄与すると考えられている。
【0067】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.4~約1.6(重量%)の範囲のマンガンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0068】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.8(重量%)までの範囲のマンガンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0069】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約1.6(重量%)までの範囲のマンガンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0070】
いくつかの実施形態では、鋼は、約0.6~約1.6(重量%)の範囲のマンガンを含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0071】
ケイ素の存在は、例えばよりコイリング温度が使用される場合に、整合相界面析出物の数密度を増加させると考えられている。ケイ素は、パーライトの形成を遅らせ、冷却速度を遅くすることができる可能性があり、整合相界面析出物の形成が促進される。
【0072】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.5(重量%)までの範囲のケイ素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0073】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.5(重量%)までの範囲のケイ素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0074】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約1.5(重量%)までの範囲のケイ素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0075】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約1.2(重量%)までの範囲のケイ素を含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0076】
クロムの存在は、他のマイクロアロイング元素の固溶度を高め、析出物のサイズを小さくすると考えられている。このようにして、平均析出物サイズを整合性の制限サイズ未満に保つことができ、その結果、整合析出物の割合が増加する。
【0077】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.3(重量%)までの範囲のクロムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0078】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.3(重量%)までの範囲のクロムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0079】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.3(重量%)までの範囲のクロムを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0080】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.1(重量%)までの範囲のクロムを含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0081】
モリブデンの存在は、析出物の拡散速度を改善することができる析出物と複合体を形成することによって、整合相界面粒子の数密度の増加に寄与すると考えられる。
【0082】
任意選択で、整合相界面析出物は、Moを含み、任意選択で、整合相界面析出物は、化学式(Mo,V)xCy(式中、x>y)、例えば、(Mo,V)4C3/(Mo,V)Cを有する析出物を含む。
【0083】
これは、相界面析出物とフェライト相との間の格子不整合を減少させる効果があり、その結果、整合性が向上すると考えられている。
【0084】
さらに、Moの存在により、変態中のオーステナイトからフェライト相界面への移動速度が低下し、より多くの相界面析出物の形成が可能になると考えられている。
【0085】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.2(重量%)までの範囲のモリブデンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0086】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.5(重量%)までの範囲のモリブデンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0087】
いくつかの実施形態では、鋼は0より大きく約0.5(重量%)までの範囲のモリブデンを含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0088】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.2(重量%)までの範囲のモリブデンを含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0089】
任意選択で、フェライト相は、約20μm未満の平均サイズを有する結晶粒を含む。例えば、約5μm~約20μmの範囲の平均結晶粒サイズを有する。結晶粒サイズは、例えば走査型電子顕微鏡および電子後方散乱回折を使用するなど、任意の適切な方法によって測定することができる。次に、切片法を使用して平均結晶粒サイズを計算できる。この方法では、顕微鏡写真上に直線を引き、その直線と交差する結晶粒界の数を数える。平均結晶粒サイズは、交点の数を実際の線の長さで割ることによって求められる。
【0090】
任意選択で、鋼のミクロ組織は、VN析出物を含み、任意選択で、ミクロ組織は、粒内VN有核針状フェライト(例えば、V(C,N))を含む。任意選択で、VN析出物は、針状フェライト形成のための粒内核剤としてオーステナイト中に形成される。これは、バナジウム炭化物と比較して、オーステナイト中でのVNの固溶度が低いためであると考えられている。
【0091】
粒内VN核形成針状フェライト構造は、相界面粒子の整合性を改善し、フェライト結晶粒を微細化し、結果として鋼の弾性率と靱性に利益をもたらすと考えられている。
【0092】
このようにして、針状ミクロ組織がナノスケール相界面析出物の系と同時に形成される。この針状ミクロ組織を
図7aに模式的に示す。
【0093】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.015(重量%)までの範囲の窒素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐火合金HSLA(高強度低合金))である。
【0094】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.015(重量%)までの範囲の窒素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、AHSS(高度高張力鋼))である。
【0095】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.015(重量%)までの範囲の窒素を含む。例えば、鋼は、フェライト鋼(例えば、耐水素鋼)である。
【0096】
いくつかの実施形態では、鋼は、0より大きく約0.01(重量%)までの範囲の窒素を含む。例えば、鋼は、パーライト鋼である。
【0097】
いくつかの実施形態では、針状フェライト形成のための粒内核剤としてVN析出物を形成するために窒素のすべてが使用されるわけではない場合、相界面バナジウム炭窒化物が整合相界面析出物として形成される可能性がある。窒素はまた、析出の駆動力をさらに増加させ、高い数密度の相界面析出物を得るのに有益である。
【0098】
任意選択で、鋼は、単相フェライト鋼(例えば、HSLA、AHSS、および/または耐水素鋼)を含む。
【0099】
任意選択で、鋼は、パーライト鋼を含む。したがって、鋼は、フェライト相とセメンタイト相を含む。フェライト相の弾性率は、整合相界面粒子の存在と上記機構によって強化される。
【0100】
任意選択で、パーライト鋼は、バナジウム強化セメンタイト相を含み、任意選択で、バナジウム強化セメンタイト相は、セメンタイト中に固溶したバナジウムを含み、例えばFe2VCおよび/またはFeV2Cを形成する。
【0101】
フェライト相の平均格子間隔は、バナジウムを含む整合相界面析出物とセメンタイトの両方からのミスフィットひずみの結果として縮小する。また、バナジウムは、適切な等温保持体制が与えられるとセメンタイトに容易に固溶する可能性があり、セメンタイトの格子パラメータの変化によるミスフィット誘発格子ひずみの原因となる可能性がある。
【0102】
セメンタイトは、その異方性で有名であり、これは結晶方位の関数としての弾性率成分の異方性にも当てはまる。バナジウムがセメンタイトに固溶すると、この異方性が減少する。これは、セメンタイトの組成が経年変化に伴って変化するため、等温保持期間の関数として展開すると考えられている。
【0103】
合金炭化物またはV強化セメンタイトの弾性ミスフィットに関連する格子ひずみは、それぞれ高解像度走査型透過電子顕微鏡(HRSTEM)とX線回折(XRD)を使用して検証できる。原子プローブ断層撮影法もまた、3次元内の原子濃度を定量化するための追加の方法として使用できる。
【0104】
炭化鉄に関連する格子ひずみと、高炭素パーライト鋼のV強化セメンタイトによって引き起こされるひずみの形成については、電子後方散乱回折(XRD)を使用するとよい。弾性ひずみは、XRDで測定されるフェライト回折ピークの半値全幅(FWHM)から定量化される。XRD測定によって定量化される層状フェライトの格子ひずみも耐力と相関するであろう。弾性率の向上は、従来の引張試験装置によって取得できる耐力にも寄与するであろう。
【0105】
図5bを参照すると、鋼がセメンタイトコロニーを含む例示的な一実施形態が示されている。セメンタイトによりフェライト格子に加えられる追加のひずみが示されている。これにより、セメンタイトコロニーに近い領域のフェライトマトリックスの平均格子間隔が減少する。
【0106】
線A-Aに沿った格子パラメータの変化が示されている。これは、平均格子間隔が、整合バナジウム合金炭化物とセメンタイトの両方からのミスフィットひずみの結果として収縮し、体積弾性率が変化することを示している。
【0107】
図5bは、V強化セメンタイトを含むパーライトのミクロ組織の概略図も示している。
【0108】
任意選択で、鋼は、約690MPa~約2000MPaの範囲、例えば約690MPa~約1800MPaの範囲の引張強度を備える。
【0109】
引張強度は、引張試験機で適切に調製された標準試験片の端部を掴み、その後、破壊が起こる時点まで連続的に増加する一軸荷重を印加することによって測定できる。ASTM E8/E8M-13:「金属材料の引張試験の標準試験方法」を使用できる。
【0110】
より大きな数密度および最適化された析出組成物の最終結果は、本明細書に開示される鋼の耐火用途または水素輸送/貯蔵用途への適用性に明白に影響を与える可能性がある。
【0111】
本明細書に記載される鋼合金の構造は、例えば、光学顕微鏡法、TEM、SEM、AP-FIM、およびX線回折などの従来のミクロ組織評価技術(これらの技術のうちの2つ以上の組み合わせを含む)によって決定することができる。
【0112】
別の一態様では、本明細書に開示されるようなバナジウム合金鋼を調製する方法であって、
出発鋼を提供するステップと、
出発鋼を加熱して鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化するステップと、
鋼の温度を650℃±200℃に約25分以下保持するステップと
を含み、
バナジウム合金鋼は、バナジウムを含む整合相界面析出物を含む、方法が提供される。
【0113】
任意選択で、出発鋼は、バナジウムおよび炭素を含み、好ましくはそれらから本質的になり、より好ましくはそれらからなる。
【0114】
任意選択で、出発鋼は、バナジウム、炭素、および残部の鉄を含み、好ましくはそれらから本質的になり、より好ましくはそれらからなる。
【0115】
任意選択で、出発鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
を含む、好ましくはそれらから本質的にからなる、より好ましくはそれらからなる。
【0116】
任意選択で、出発鋼は、
約0.06重量%~約1.1重量%の範囲の炭素と、
約0.1重量%~約1.5重量%の範囲のバナジウムと、
残部の鉄と、
を含む、好ましくはそれらから本質的にからなる、より好ましくはそれらからなる。
【0117】
任意選択で、出発鋼は、バナジウムおよび炭素と、窒素、モリブデン、銅、ケイ素、クロム、および/またはマンガンのうちの1つ以上と、残部の鉄とを含む。
【0118】
任意選択で、出発鋼は、
約0.06~約1.1の範囲の炭素と、
約0.1~約1.5の範囲のバナジウムと、
約0.015以下の窒素、
約1.6以下のモリブデン、
約1以下の銅、
約1.2以下のケイ素、
約0.3以下のクロム、および/または
約1.6以下のマンガン
のうちの1つ以上と、
残部の鉄と、
を含む、好ましくはそれらから本質的にからなる、より好ましくはそれらからなる。
【0119】
任意選択で、出発鋼を加熱して鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化することは、温度を少なくとも約900℃まで、任意選択で約920℃~約1300℃の範囲の温度まで、例えば約1100℃~約1300℃の範囲の温度まで上昇させることを含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、出発鋼は、ビレット、スラブ、ブルーム、または任意の他の適切な形態で提供することができる。
【0121】
いくつかの実施形態では、上記加熱は、誘導加熱および/またはローラハース炉によって実行することができる。
【0122】
鋼の温度を650℃±200℃に約25分間以下保持(つまり、等温保持)すると、整合相界面析出物の数密度が増加し、その結果、(上記の式(1)によると)弾性率が向上する。
【0123】
フェライト/オーステナイト界面が急速に進むと、フェライト/オーステナイト界面での析出物の形成が妨げられることが見出された。したがって、このように等温保持すると、相界面析出(例えば、炭化バナジウムおよび/または炭窒化バナジウムの析出)が促進され、その結果、鋼の特性が改善される。
【0124】
相界面析出物の列間のシート間隔は、変態時間が増加するにつれて減少する。したがって、等温保持は、相界面析出物の列間の間隔を減少させる効果があり、それによって相界面析出物の数密度が増加する。
【0125】
さらに、このような等温保持は、鋼(例えば、フェライト)の格子マトリックスの整合相界面に大量の炭素空孔が生成されるように、相界面析出物中のV:C比を増加させる効果があると考えられている。これらの空孔は、水素トラップとして機能し、耐水素脆化性の向上につながる(例えば、
図4aおよび
図4bを参照)。
【0126】
いくつかの実施形態では、温度は、650℃±200℃で約20分以下維持される。
【0127】
いくつかの実施形態では、温度は、鋼を断熱されたサーマルボックス内に置くことによって保持される。
【0128】
いくつかの実施形態では、バッチアニーリングは、例えば、鋼に印加される温度を制御するために断熱されたサーマルボックスを使用して実行される。例えば、ベル型炉を使用してコイル全体に熱処理を適用することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、温度は、誘導加熱システム(例えば、誘導炉)を使用することによって保持される。
【0130】
任意選択で、温度は、650℃±200℃で約15分間以下保持される。いくつかの実施形態では、温度は、650℃±200℃で約5分間~約20分間、例えば約10分~約20分間維持される。任意選択で、等温保持に続いて、鋼は空冷される。
任意選択で、温度は、650℃±100℃に保持される。
【0131】
任意選択で、鋼は、温度を650℃±200℃に保持する前に、約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で、任意選択で、約2℃/秒~約50℃/秒の範囲の冷却速度で冷却される。
【0132】
フェライト/オーステナイト界面が急速に進むと、フェライト/オーステナイト界面での析出物の形成が妨げられることが見出された。したがって、このように冷却速度を制御すると、相界面析出(例えば、炭化バナジウムおよび/または炭窒化バナジウムの析出)が促進され、その結果、鋼の特性が改善される。
【0133】
さらに、このように鋼を急速に冷却すると、望ましくない相の形成が防止または妨げられる、および/または針状フェライトの形成が促進される。
【0134】
いくつかの実施形態では、冷却は、空冷、強制空冷、層状冷却、および/または任意の他の適切な冷却方法によって実行される。
【0135】
鋼組成物中にMnが存在する場合、これにより、より速い冷却速度でより高い数密度が促進され得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、出発鋼を加熱した後、任意選択で再結晶制御圧延および/またはV(C、N)析出制御圧延によって、再結晶停止温度(RST)を超える温度で鋼を熱間圧延する。
【0137】
RSTを超える温度で熱間圧延を実行することにより、結晶粒変形が制限され、それによって相界面析出物の生成が促進される。
【0138】
任意選択で、鋼を650℃±200℃に冷却する前に、鋼の熱間圧延が実行される。
【0139】
いくつかの実施形態では、熱間圧延は、約820℃~約1200℃の範囲の1つまたは複数の温度で実行される。
【0140】
いくつかの実施形態では、熱間圧延は、粗ステップ、中間ステップ、および/または仕上げステップを含む。
【0141】
任意選択で、比較的多量の窒素を含む組成物の場合、V(C,N)析出制御圧延を使用してもよい。これにより、低い結晶粒変形レベルが達成される。
【0142】
いくつかの実施形態では、鋼の熱間圧延は、実質的にV(C,N)析出温度時間ノーズでの熱間圧延を含む。
【0143】
例えば、V(C、N)析出制御圧延が使用される場合、これは、実質的にV(C、N)析出温度時間ノーズで実行することができる。
【0144】
V(C,N)の析出温度時間ノーズで、系は、VNが析出するのに最適な自由エネルギーを有する。したがって、この温度で熱間圧延すると、針状フェライトの形成が促進される。
【0145】
V(C,N)の析出温度時間ノーズは、鋼の特定の組成によって異なるが、通常は約850℃である。
【0146】
いくつかの実施形態では、温度の保持中または保持後に、鋼組成物に磁場が印加される。
【0147】
任意選択で、磁場は、約0.2T~約16Tの範囲の静磁場である。任意選択で、磁場は、例えば誘導加熱システムによって印加される、可変磁場である。いくつかの実施形態では、可変磁場は、鋼の温度も制御する(例えば、温度を650℃±200℃に保持するために使用される)誘導加熱システムによって印加される。
【0148】
磁場の印加により、整合析出物の数密度の増加が促進され、構成要素であるナノサイズの析出物の組成も最適化される。
【0149】
実際には、長期間の等温保持は、生産性に悪影響を与える可能性がある。この等温保持期間を加速するために提案された環境に優しい方法は、オーステナイトからフェライトへの変態速度を減速するように作用し得る磁場を利用することである(これにより、析出物の間の間隔が調整され、相界面析出物の数密度が最大化される)。これにより、常磁性効果により、より高いV:C比の炭化物の範囲が広がる可能性もある。
【0150】
溶液中のバナジウムは、析出する前に、キュリー温度Tcを上昇させるように作用する(しかしながら、磁気モーメントには小さな影響を与え、外部磁場との相互作用エネルギーも小さくなる)ため、Tcとキュリー点以下の所与の変態温度との間の温度範囲が増加するため、変態点での磁化がより大きくなる。外部磁化エネルギーは、系のギブズ自由エネルギーを大幅に増加させ、ナノ粒子の核生成全体の自由エネルギーを増加させるように働き、これによりその後、核生成速度が増加し、整合相界面バナジウム析出物の量的数密度が大幅に増加する。
【0151】
より多量の炭素を含む鋼組成物(すなわち、パーライト鋼)では、磁場の印加は、(セメンタイトの核生成速度の増加により)パーライトの層間間隔を微細化するようにも作用する。これは、前記したように、セメンタイトコロニーに近い領域のフェライト格子にひずみが加えられた結果として、格子ひずみおよび弾性率の向上にさらに寄与する可能性がある。
【0152】
任意選択で、温度を650℃±200℃で約25分間以下保持した後、鋼を再加熱して、鋼を少なくとも部分的にオーステナイト化する。
【0153】
任意選択で、この再加熱ステップは、温度を約920℃~約1150℃の範囲に上昇させることを含む。
【0154】
任意選択で、鋼を再加熱した後、再び温度を650℃±200℃に約25分間以下保持する。
【0155】
いくつかの実施形態では、温度は、650℃±200℃で約20分間以下維持される。任意選択で、温度は、650℃±200℃で約15分間以下保持される。いくつかの実施形態では、温度は、650℃±200℃で約5分間~約20分間の範囲で、例えば約10分間~約20分間の範囲で維持される。任意選択で、等温保持に続いて、鋼は、空冷される。
【0156】
任意選択で、温度は、650℃±100℃に保持される。
【0157】
この方法での等温保持は、前記したように、相界面析出(例えば、炭化バナジウムおよび/または炭窒化バナジウムの析出)を促進する。
【0158】
任意選択で、鋼を再加熱した後、約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で、任意選択で650℃±200℃の温度まで、冷却する。
【0159】
任意選択で、冷却速度は、約2℃/秒~50℃/秒の範囲にある。制御された冷却は、前記したように、相界面析出(例えば、炭化バナジウムおよび/または炭窒化バナジウムの析出)を促進し、望ましくない相の形成を抑制する。
【0160】
再加熱すると、鋼中に以前に生成された析出物の少なくとも一部が残るため、再加熱、後続の冷却および/または後続の等温保持のステップにより、最終的な鋼中の析出物の数密度の増加をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【
図1】整合析出物および非整合析出物と周囲のフェライト格子マトリックスとの相互作用を示す概略図を示す。
【
図2】Ti、V、Zr、またはNbを含む析出物の格子パラメータのミスフィットと制限された整合析出物サイズの比較を示している。
【
図4a】水素トラップとして作用する整合相界面析出物の能力を示す概略図である。
【
図4b】水素トラップとして作用する整合相界面析出物の能力を示す概略図である。
【
図5a】フェライト鋼の平均格子パラメータに対するフェライトマトリックスのひずみ場の影響を示す。
【
図5b】パーライト鋼の平均格子パラメータに対するフェライトマトリックスのひずみ場の影響を示す。
【
図6】3つの典型的なビーム構成(ユーロコード3に準拠)を示している。
【
図7a】VN有核針状フェライト構造の概略図を示す。
【
図8】本開示に係る鋼の製造プロセスを表すプロセス図を示す。
【
図9】
図8のプロセスに適用できる追加のステップを説明するフローチャートを示す。
【
図10】本開示に係る、弾性率強化熱間圧延高炭素線鋼の製造プロセスを表すプロセス図を示す。
【
図11】
図10のプロセスに適用できる追加のステップを説明するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0162】
本明細書で開示されるバナジウム合金鋼および製造プロセスを、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0163】
本開示に係る4つの例示的な鋼組成物を表1に記載する。各々の組成物にはまた、残りの量の鉄が含まれている。
【表1】
【0164】
表1に示したフェライト組成物は、表2に示した特徴および特性を有することが確認されている。
【表2】
【実施例2】
【0165】
高弾性率AHSS鋼の典型的な組成を表3に示す。このような組成物にはまた、残りの量の鉄が含まれている。この場合、残りの量の鉄は、97.6955重量%となる。
【表3】
【実施例3】
【0166】
グレードS690MC(EN10051に準拠)の従来の鋼を、本明細書に開示されるようなナノ構造化強化弾性率鋼と比較した。従来のS690MC鋼は、公称弾性率が210GPaであるとみなされる(欧州規格EN1993-1-1:ユーロコード3:鋼構造の設計、および欧州規格EN1993-1-12:一般-高張力鋼に準拠)。弾性率が向上した鋼は、平均弾性率が230GPa、つまり20GPa増加したとみなされる。
【0167】
図6は、(ユーロコード3に準拠した)3つの典型的な梁構成を示している。弾性率の向上によるたわみの減少に関する結果を表4に示す。これらの結果は、コンピュータシミュレーションによって得られたものである。
【表4】
【実施例4】
【0168】
図8を参照して、本明細書に開示される強化弾性率鋼を製造するための例示的な方法をここで説明する。
【0169】
鋳鋼のスラブ(または代替的にビレット)は、約1100~約1300℃の範囲の再加熱温度(Treh)まで加熱される。これは、
図8の符号102によって示されている。この温度は、鋼スラブがその厚さ全体に完全に加熱されるまで(つまり、
図8に示されるようにTeqで)維持される。このように鋼スラブを加熱することにより、鋼は加熱されて、符号104で示される概略図に示されるような結晶粒ミクロ組織を有するオーステナイト(γ)を形成する。
【0170】
加熱された鋼は、その後、約820℃~約1200℃の範囲の温度で、最初に符号106で示される粗圧延機で熱間圧延され、続いて、符号108で示される仕上げ圧延機で熱間圧延される。熱間圧延中、鋼の温度は、標準的な空冷下で、例えば約0.7℃/秒で冷却される。
【0171】
仕上げ圧延機108における熱間圧延は、従来の再結晶制御圧延を使用して実行することができる。あるいはまた、特に鋼が比較的多量の窒素を含む組成を有する場合、V(C,N)析出制御圧延を実行することができる。これは、VNが析出するのに最適な自由エネルギーが存在するV(C,N)析出時間温度ノーズ110で実行される。V(C,N)析出時間温度ノーズは、特定の鋼の組成によって異なる、通常は約850℃である。
【0172】
鋼が、特に仕上げ圧延機で、熱間圧延されるとき、VNが針状フェライト形成のための粒内核剤としてオーステナイト中に析出する。この段階では、鋼は、符号112で概略的に示されるようなミクロ組織を有する。
【0173】
再結晶停止温度(RST)に達する前、かつ熱間圧延が完了した後、鋼は、650±100℃の温度に達するまで、約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で急冷される(114)。これは、強制空冷、層状冷却、またはその他の適切な冷却手段によって行うことができる。このように鋼を急速に冷却すると、望ましくない相の形成が防止または妨げられ、および/または符号116で概略的に示される針状フェライトの形成が促進される。
【0174】
650±100℃の温度に達すると、鋼はコイルに成形される。次いで、鋼の温度を約10分~約20分の範囲の時間の間、650±100℃に保持し(118)、その後鋼を空冷する。上記のように、このように等温保持すると、相界面析出物の生成が促進される。
【0175】
このようにして、弾性率が向上したナノ構造鋼が製造される。
【0176】
任意選択で、この方法は、相界面析出物の数密度を増加させるために、
図9に示すステップをさらに含んでもよい。
【0177】
等温保持ステップ118の後、コイリングされた鋼は冷却され、次いで、デコイリングされたストリップからブランクが型抜きまたは切断される(120)。任意選択で、このステップを省略することもできる。
【0178】
次いで、鋼は、例えばローラハース炉および/または誘導加熱装置を使用して、約920℃~約1150℃の範囲の温度に加熱することによって2回目のオーステナイト化を実行することができる(122)。次いで、再加熱された鋼は、650±40℃の温度に達するまで、約2℃/秒~約50℃/秒の範囲の速度で冷却される(124)。冷却は、強制空冷、層状冷却、またはその他の適切な方法を使用して実行できる。
【0179】
次いで、約0.2T~約16Tの範囲の静磁場を鋼に印加することができる(26)。磁場が印加されている間、温度は、約15分以内、650±40℃に保持される。例えば、これは断熱されたサーマルボックスを使用して実行されてもよい。
【0180】
あるいはまた、ブランクがデコイリングされたストリップからスタンピングまたは切断された(120)後、可変磁場が鋼に印加される(128)。例えば、これは、誘導加熱システムを使用して印加されてもよい。可変磁場が印加されている間、温度は、15分以内、650±100℃に保持される。
【0181】
代替実施形態では、等温保持ステップ(118)中に、静磁場または可変磁場のいずれかを使用して、鋼に磁場が印加される。
【0182】
得られた弾性率強化ナノ構造鋼は、次に空冷され(130)、必要に応じて冷間スタンピングおよび/または成形の準備が整う。
【0183】
あるいはまた、鋼からブランクをデコイリングしてスタンピングする代わりに、コイル全体を再加熱(すなわち、オーステナイト化)し(122)、冷却し(124)、その後、必要な時間の間650±100℃に保持することもできる。これは、断熱されたサーマルボックス(例えば、コイル全体への熱処理の適用に適したベル型炉)を使用したバッチアニーリングプロセスとして実行できる。
【0184】
この方法は、フェライト鋼とパーライト鋼の両方に適用できる。
【実施例5】
【0185】
図10は、弾性率強化熱間圧延高炭素線鋼の製造方法を示している。実施例4に関連して説明したように、鋳鋼のビレットが再加熱温度まで加熱される(202)。
【0186】
加熱された鋼は、次いで、粗圧延機、中間圧延機、仕上げ圧延機、および/または無ねじれVブロック圧延機を使用して、約840℃~約1200℃の範囲の温度で熱間圧延される(206)。熱間圧延は、結晶粒変形が最小限に抑えられるように、再結晶停止温度よりも高い温度で実行される。
【0187】
熱間圧延が完了した後、鋼は、650±100℃の温度に達するまで、約2℃/秒~約80℃/秒の範囲の冷却速度で急冷される(214)。
【0188】
次に、例えばインライン誘導加熱コイルを使用して、温度を650±100℃に保持する(218)。
図11を参照すると、次に鋼は、空冷される(230)。
【0189】
任意選択で、次に鋼を冷間引抜き加工することもできる(132)。このプロセスでは、鋼線を誘導加熱してオーステナイト化し、ファンで600±50℃まで冷却し、その後、温度を650±200℃に5分未満保持する。これらのステップは、連続的でゆっくりとした動きで適用される。任意選択で、パーライトの層間間隔を微細化するために、この段階で静磁場を印加することもでき、これにより、格子ひずみと弾性率の向上にさらに寄与することができる。
【0190】
特に明記しない限り、当業者には理解されるように、本明細書に記載の整数の各々は、他の任意の整数と組み合わせて使用することができる。さらに、本発明のすべての態様は、その態様に関連して説明された構成を「含む」ことが好ましいが、特許請求の範囲に概説された構成から「なる」または「本質的になる」ことが可能であることが特に想定される。また、本明細書で特に定義しない限り、すべての用語には、当技術分野で一般的に理解されている意味が与えられることを意図している。
【0191】
さらに、本発明の議論において、別段の記載がない限り、パラメータの許容範囲の上限または下限の選択肢の値の開示は、選択肢の小さい方と大きい方の間にある、そのパラメータの各々の中間値もまた、それ自体がパラメータの可能な値として開示されていることを暗に表明しているものと解釈される。
【0192】
また、別段の記載がない限り、本出願に記載されるすべての数値は、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。
【国際調査報告】