(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】混合型水性有機媒体用のポリメラーゼ及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20241016BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20241016BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521246
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 US2022011076
(87)【国際公開番号】W WO2023059361
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524130696
【氏名又は名称】5プライム バイオサイエンシズ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティ、 ラジ
(72)【発明者】
【氏名】ウパディヤイ、 アロク
(72)【発明者】
【氏名】グアン、 シャンイン
(72)【発明者】
【氏名】ハドソン、 デビン
(72)【発明者】
【氏名】ボーズ、 ラフル
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ、 アニシャ
(72)【発明者】
【氏名】エリアス、 モハメド
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、タンパク質工学として公知の分子生物学の分野に関し、これまでに報告された酵素の特性を凌駕する特性を有する酵素を設計することと関係する。より詳細には、本発明は、これまでに報告されたポリメラーゼ酵素の特性を凌駕する様々な特性を有する工学的に作出されたポリメラーゼ酵素からなる組成物、及びそのような酵素を使用する、有機水性媒体内でのポリヌクレオチド増幅反応を行うための組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)G3D、M4I, L5Q, F8L, E9V, P10S, V14A, L16P, H21R, A23P, L22M, F27S, A29T, G32D, G38D, K53N, A54V, L55P, A61V, D67G, P71L, R74L,R74H,R74C, K82N, G84D, A86V, P87Q, P89S, E90D, A97T, V103A, D104G, A109V, R110Q, P114S, G115D, E117D, A118V, A118T, K128R, V136A, L149P, L162P, K171T, A180V, R183H, T186I, G187S, D191N, L193R, G195S, G200S, E201K, K202R, R205H, K206Q, G212D, S213N, S213G, N220D, L224Q, I228V, H235Y, D237G, W243R, D244E, D244V, L254P, K260N, F258S, R261H, P264S, E267K, E277G, L287Q, S290G, K292N, P302L, P302S, V310L, L311M, D320N, A326V, R328H, H333R, K346R, L351M, E363D, L365Q, P382T, N384D, E388D, T399A, A414S, A454E, A454L, A454V, A458V, L461Q, F482I, L461R, V474I, G499D A502T, I503T, E507K, S515N, S515G, A516G, E520G, A521V, I528T, K531R, Q534R, T539A, S543G, D551N, D551G, V586A, V586M, Q592R, L606M, A608T, S612R, I665V, F667Y, H676L, H676R, H676Y, Q680R, E681K, K702R, A705V, V720L, V730I, D732G, D732N, E734G, V737D, V737A, S739G, V740A, V740I, E742K, F749V, F749I, F749L, K762R, K767R, L768M, E773K, L781P, E797G, E797Q, V799A, P812Q, Q782H, A814V, L813M, E825Q、及びE832Kからなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼと、
b)アミド、スルホキシド、スルホン、及びジオールからなる群から選択される1つ又は複数の低分子量有機溶媒を含有するPCRバッファーであって、1つ又は複数の低分子量有機溶媒が、約0.05~約3.0モルの範囲の濃度で存在する、PCRバッファーと
を含む組成物。
【請求項2】
前記1つ又は複数の低分子量有機溶媒が、約0.1~約1.0モルの濃度で前記PCRバッファー中に存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、L5Q、F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, K31R, G38D, A61V, P89S, A97T, A118V, L162P, K171T, T186I, E201K, R205K, K206Q, G208S, K219E, N220D, I228V, M236T, D244E, D244V, R261H, D273G, L287Q, S290G, V310L, H333R, K346R, L351M, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, S543G, D551G, D551N, Q592R, L606M, A608V, S612R, H676L, Q680R, K702R, D732N, E734G, S739G, E742K, F749I, F749V, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H、及びE832Kからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、L5Q、F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, T186I, K31R, G38D, A97T, A118V, L162P, R205K, G208S, K219E, N220D, I228V, D273G, S290G, K346R, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, D551G, L606M, A608V, S612R, Q680R, K702R, E734G, S739G, E742K, F749V, F749I, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H、及びE832Kからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、L5Q、P10S、A23P、A29T、T186I、L461R、E507K、A608V、S612R、E742K、F749L、F749I、K762R、K767R、及びE832Kからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸変化の少なくとも1が、P10S、L16P, A29T, K31R, G38D, A61V, A118V, L162P, T186I, G208S, N220D, I228V, D244V, D273G, S290G, K346R, L351M, E388D, A454E, L461Q, L461R, F482I, I503T, S515N, A521V, Q534R, D551G, L606M, A608V, S612R, Q680R, E734G, S739G, F749V, F749I, L768M、及びE832Kからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸変化の少なくとも1つが、F8L、P10S、L16P、A29T、K31R、G38D、A61V、A97T、及びL162Pからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸変化の少なくとも1つが、A186I、D244V、R205K、G208S、K219E、N220D、I228V、D273G、S290G、K346R、P382T、E388D、E434D、A454E、L461Q、L461R、V474I、F482I、I503T、E507K、S515N、A521V、Q534R、D551G、及びL606Mからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記アミノ酸変化の少なくとも1つがA608Vである、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記アミノ酸変化の少なくとも1つが、S612R、Q680R、K702R、S739G、E742K、L768M、F749I、F749V、K762R、K767R、及びQ782Hからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記アミノ酸変化の少なくとも1つがE832Kである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
有機水性媒体中でのPCR反応に適する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む組成物であって、前記有機水性媒体が、アミド、スルホキシド、スルホン、及びジオールからなる群から選択される1つ又は複数の低分子量有機溶媒を含み、並びに前記改変されたTaq DNAポリメラーゼのアミノ酸配列が、
L30P、A54V、E434D、K206Q、S612R、V730I、及びF749V(配列番号42);
P10S、A61V、T186I、D244V、K314R、E520G、V586A、S612R、V730I、及びF749V(配列番号43);
G12T、A54V、T186I、D244V、F667Y、及びF749V(配列番号44);
P10S、A61V、F73S、T186I、R205K、K219E、M236T、A608V、S612R、及び2494ΔG(配列番号45);
P10S、L30P、A61V、L365P、V586A、S612R、及びE832K(配列番号46);
P10S、A61V、D244V、S612R、及びE832K(配列番号47);
L30P及び2494ΔG(配列番号48);
A29T、G200S、D237G、及びF749I(配列番号49);
L16P、F73S、E388D、Q680R、及びF749I(配列番号50);
F73S、K346R、A454E、及びF749V(配列番号51);
F73S、A118V、及びF749I(配列番号52);
A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768M(配列番号53);
K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I(配列番号54);
A23P及びF749I(配列番号55);
G38D、F73S、A454V、及びF749V(配列番号56);
N220D、I503T、S515N、及びF749V(配列番号57);
A29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、及びF749I(配列番号58);
E434D、A608V、及びK762R(配列番号59);
E434D、E507K、及びK762R(配列番号60);
E434D、E507K、E742K、及びF749I(配列番号61);
P10S、P382T、E434D、及びE507K(配列番号62);
R205K、K219E、E434D、V474I、A608V、inS661R、E742K、及びF749I(配列番号63);
A97T、A608V、K702R、及びK762R(配列番号64);
F8L、P10S、E434D、E507K、K762R、及びK767R(配列番号65);
P10S、E507K、Q680R、及びK762R(配列番号66);
E507K、A608V、Q782H、及びF749I(配列番号67);
E434D、A608V、E742 K、及びF749I(配列番号68);
E520G、V586A、S612R、及び2493ΔA(配列番号69);
P10S、V730I、及び2493ΔA(配列番号70);
V586A、S612R、S674S、及び2494ΔGA(配列番号71);
E434D及び2494ΔGA(配列番号72);
Y116Stop2494ΔG(配列番号73);
A54V(配列番号74);
A61V(配列番号75);
F749V(配列番号76);
E832K(配列番号77);
T186I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号78);
A64V及び2493ΔA(配列番号79);
D244V、K314R、V586A、及びS612R(配列番号80);
A61V、T161I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号81);
G12T、A61V、及び2494ΔG(配列番号82);
A29T、K53R、R205K、K219E、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、及びA608V(配列番号83);
A29T、K53R、R205K、K219E、D244E、D320N、A326V、N415D、L461R、及びA608V(配列番号84);
A29T、K53R、R223P、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、及びA608V(配列番号85);
A29T、D238E、R328H、L461R、A608V、E745K、及びF749I(配列番号86);
A29T、F73S、D238E、R328H、D551N、A608V、E745K、及びF749I(配列番号87);
A29T、D238E、R328H、D551N、A608V、及びF749V(配列番号88);
A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、及びF749I(配列番号89);
A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、S739G、及びF749I(配列番号90);
A29T、L224Q、T399A、A454E、A608V、S739G、及びF749I(配列番号91);
K53R、F73S、A141P、P382S、A472G、R556G、及びF749I(配列番号92);
R110L、K219E、M236T、E274K、R492L、A608V、E626D、K767R、及びE825K(配列番号93);
R110L、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、K767R、及びE832N(配列番号94);
K82I、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、E626V、及びK793R(配列番号95);
P10S、F73S、K219E、M236T、E337D、E507K、A608V、及びK767R(配列番号96);
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、V474I、A608V、及びK767R(配列番号97);
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、A608V、及びK767R(配列番号98);
P10S、V14A、R205K、K219E、M236T、N384D、V474I、A608V、S612R、及びK762R(配列番号99);
P10S、V14A、K219E、N384D、E434D、V474I、A608V、S612R、K762R、及びK767R(配列番号100);
P10S、V14A、R205K、K219E、N384D、V474I、A608V、S612R、及びF749I(配列番号101);並びに
R110L、R205K、K219E、N415Y、S543I、A608V、E626D、K767R、及びE825K(配列番号102)
からなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、組成物。
【請求項13】
0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中で、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して熱安定性が増加している1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、P10S、G12T、L16P、A23P、A29T、L30P、K31R、G38D、A61V、A64V、F73S、Y116Stop、A118V、T161I、L162P、T186I、G200S、N220D、I228V、D237G、D244V、S290G、K314R、K346R、E388D、E434D、A454E、A454V、L461R、F482I、I503T、S515N、E520G、A521V、Q534R、D551G、V586A、L606M、A608V、S612R、Q680R、V730T、E734G、S739G、F749I、F749V、L768M、2493ΔA、及び2494ΔGからなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物。
【請求項14】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、P10S、A29T、L30P、K31R、F73S、A118V、G200S、G237G、K346R、S434D、A454E、F482I、E520G、Q534R、V586A、A608V、S612R、V730I、F749I、F749V、2493ΔA、及び2494ΔGからなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、
F749V(配列番号76);
F30L及び2494ΔG;
E520G、V586A、S612R、及び2493ΔA;
E434D及び2494Δ(配列番号72);
P10S、V730I、及び2493ΔA(配列番号70);
Y116Stop及び2494ΔG(配列番号73);
A64V及び2493ΔA(配列番号79);
T186I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号78);
V586A、S612R、及び2494ΔG;
D244V、K314R、V586A、及びS612R(配列番号80);
A61V、T161I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号81);
G12T、A61V、及び2494ΔG(配列番号82);
A29T、G200S、D237G、及びF749I(配列番号49);
L16P、F73S、E388D、Q680R、及びF749I(配列番号50);
F73S、K346R、A454E、及びF749V(配列番号51);
F73S、A118V、及びF749I(配列番号52);
A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768M(配列番号53);
K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I(配列番号54);
A23P及びF749I(配列番号55);
G38D、F73S、A454V、及びF749V(配列番号56);
N220D、I503T、S515N、及びF749V(配列番号57);並びに
A29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、及びF749I(配列番号58)
からなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記有機性共溶媒が、低分子量アミド、低分子量スルホキシド、低分子量スルホン、及び低分子量ジオールからなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中で、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して忠実性が増加している1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、P10S、G12T、A23P、K31R、A54V、A61V、F73S、Y116Stop、A118V、L162P、T186I、K206Q、I228V、D244V、K314R、L461R、F482I、A521V、Q534R、V586A、A608V、S612R、E734G、F749I、L768M、E832K、2494ΔG、A23P、K31R、L162P、I228V、L461R、F482I、A521V、E734G、F749I、及びL768Mからなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物。
【請求項18】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、K31R、A54V、F73S、A118V、T186I、K206Q、D244V、K314R、F482I、Q534R、V586A、A608V、S612R、F749I、E832K、及び2494ΔGからなる群から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、A54V、T186I、及びE832Kからなる群から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、
A54V(配列番号74);
T186I(配列番号103);
E832K(配列番号77);
D244V、K314R、V586A、及びS612R(配列番号80);
K206Q及び2494ΔG(配列番号104);
G12T、A61V、及び2494ΔG(配列番号82);
P10S(配列番号105);
K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I(配列番号54);
F73S、A118V、及びF749I(配列番号52);並びに
A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768M(配列番号53)
からなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記有機性共溶媒が、低分子量アミド、低分子量スルホキシド、低分子量スルホン、及び低分子量ジオールからなる群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中で、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して、ヌクレオチド組込み速度が増加し、処理能力が増加している1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、A29T、V310L、A454L、H676R、E687K、D732G、V737D、V740A、F749V、及び2494ΔGからなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号1)のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物。
【請求項23】
前記1つ又は複数のアミノ酸変化が、V310L、F749Y、及び2494ΔGからなる群から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、
F749V(配列番号76);
F310L(配列番号106);
2494ΔG;
A454L、F749V、及び2494ΔG(配列番号107);
H676R及びD732G(配列番号108);
E687K及び2494ΔG(配列番号109);
A29T及びV737D(配列番号110);並びに
V740A及びF749V(配列番号111)
からなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記有機性共溶媒が、低分子量アミド、低分子量スルホキシド、低分子量スルホン、及び低分子量ジオールからなる群から選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記アミドが、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、イソブチルアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン(NMP)、N-ヒドロキシエチルピロリドン(HEP)、N-ホルミルピロリジン、N-ホルミルモルホリン; δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、及び2-アザシクロオクタノンからなる群から選択され、
前記スルホキシドが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n-プロピルスルホキシド、n-ブチルスルホキシド、メチルsec-ブチルスルホキシド、及びテトラメチレンスルホキシドからなる群から選択され、
前記スルホンが、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジ(n-イソプロピル)スルホン、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、2,4-ジメチルスルホラン、及びブタジエンスルホン(スルホレン)からなる群から選択され、
前記ジオールが、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及び2-メチル-2,4-ペンタンジオールからなる群から選択される、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記アミド溶媒が、約0.5~約1.5モル濃度の濃度のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF);約0.1~約1.0モル濃度の濃度のイソブチルアミド;約0.1~約1.0モル濃度の濃度の2-ピロリドン;又は約0.1~約1.0モルの濃度のN-メチルピロリドンである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記スルホキシドが、約0.5~約3.0モル濃度の濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)、又は約0.1~約1.0モルの濃度のテトラメチレンスルホキシドである、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記スルホンが、約0.1~約1.0モルの濃度のテトラメチレンスルホン(スルホラン)である、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記ジオールが、約0.5~約3.0モル濃度の濃度の1,3-プロパンジオール;約0.5~約2.0%モル濃度の濃度の1,4-ブタンジオール;又は約0.5~約1.0%モル濃度の濃度の1,5-ペンタンジオールである、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
a)請求項1、2、3、4、又は5に記載の少なくとも1つの改変されたTaq DNAポリメラーゼと、
b)PCR反応での使用に適する1つのバッファーであって、任意選択的に、請求項1及び26に記載の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有し得る、バッファーと
を含むキット。
【請求項32】
a)改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む1つ又は複数のDNAポリメラーゼであって、前記改変されたTaq DNAポリメラーゼのアミノ酸配列が、
L30P、A54V、E434D、K206Q、S612R、V730I、及びF749V(配列番号42);
P10S、A61V、T186I、D244V、K314R、E520G、V586A、S612R、V730I、及びF749V(配列番号43);
G12T、A54V、T186I、D244V、F667Y、及びF749V(配列番号44);
P10S、A61V、F73S、T186I、R205K、K219E、M236T、A608V、S612R、及び2494ΔG(配列番号45);
P10S、L30P、A61V、L365P、V586A、S612R、及びE832K(配列番号46);
P10S、A61V、D244V、S612R、及びE832K(配列番号47);
L30P及び2494ΔG(配列番号48);
E520G、V586A、S612R、及び2493ΔA(配列番号69);
P10S、V730I、及び2493ΔA(配列番号70);
V586A、S612R、S674S、及び2494ΔGA(配列番号71);
E434D及び2494ΔGA(配列番号72);
Y116Stop2494ΔG(配列番号73);
A54V(配列番号74);
A61V(配列番号75);
F749V(配列番号76);
E832K(配列番号77);
T186I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号78);
A64V及び2493ΔA(配列番号79);
D244V、K314R、V586A、及びS612R(配列番号80);
A61V、T161I、V586A、S612R、及び2494ΔG(配列番号81);
G12T、A61V、及び2494ΔG(配列番号82);
T186I(配列番号103);
K206Q及び2494ΔG(配列番号104);
P10S(配列番号105);
F310L(配列番号106);
2494ΔG;
A454L、F749V、2494ΔG(配列番号107);
H676R及びD732G(配列番号108);
E687K及び2494ΔG(配列番号109);
A29T及びV737D(配列番号110);
V740A及びF749V(配列番号111);
A29T、K53R、R223P、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、及びA608V(配列番号85);
A29T、D238E、R328H、L461R、A608V、E745K、及びF749I(配列番号86);
A29T、F73S、D238E、R328H、D551N、A608V、E745K、及びF749I(配列番号87);
A29T、D238E、R328H、D551N、A608V、及びF749V(配列番号88);
A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、及びF749I(配列番号89);
A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、S739G、及びF749I(配列番号90);
A29T、L224Q、T399A、A454E、A608V、S739G、及びF749I(配列番号91);
K53R、F73S、A141P、P382S、A472G、R556G、及びF749I(配列番号92);
R110L、K219E、M236T、E274K、R492L、A608V、E626D、K767R、及びE825K(配列番号93);
R110L、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、K767R、及びE832N(配列番号94);
K82I、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、E626V、及びK793R(配列番号95);
P10S、F73S、K219E、M236T、E337D、E507K、A608V、及びK767R(配列番号96);
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、V474I、A608V、及びK767R(配列番号97);
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、A608V、及びK767R(配列番号98);
P10S、V14A、R205K、K219E、M236T、N384D、V474I、A608V、S612R、及びK762R(配列番号99);
P10S、V14A、K219E、N384D、E434D、V474I、A608V、S612R、K762R、及びK767R(配列番号100);
P10S、V14A、R205K、K219E、N384D、V474I、A608V、S612R、及びF749I(配列番号101);
R110L、R205K、K219E、N415Y、S543I、A608V、E626D、K767R、及びE825K(配列番号102)
K31R、F482I、Q534R、A608V、F749I;
F73S、A118V、F749I;
A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、L768M;
A29T、G200S、D237G、F749I;
L16P、F73S、E388D、Q680R、F749I;
F73S、K346R、A454E、F749V;
A23P、F749I;
G38D、F73S、A454V、F749V;
N220D、I503T、S515N、F749V;並びに
A29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、F749I
からなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列を含むアミノ酸配列と少なくとも90%同一である、
1つ又は複数のDNAポリメラーゼと、
b)PCR反応での使用に適する1つのバッファーであって、任意選択的に、請求項1及び26に記載の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有し得る、バッファーと
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子産物をコードする核酸を選択するための分子生物学、及び分子生物学の方法と一般的に関連する。より詳細には、本発明は、有機水性媒体中でのポリヌクレオチド増幅反応を増強するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA配列を増幅するためのin vitro法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、現代生物学の中核技術である。この技術は、1985年にKary Mullisのグループにより最初に発見された(Saikiら、1985年、1986年)。要約すれば、該プロセスは、増幅される標的DNAの領域を選択するステップ、それを2つのオリゴヌクレオチドプライマー(そのそれぞれはDNAポリメラーゼ酵素によりその3'末端から伸長する)と隣接させるステップからなる。典型的なPCR反応は、標的DNA、2つのオリゴヌクレオチドプライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、反応バッファー、及びマグネシウム塩を含む。PCR反応は、3つの基本的なステップ:二本鎖DNA(dsDNA)から一本鎖に変性させるステップ、プライマーを一本鎖(ssDNA)にアニーリングするステップ、及びDNAポリメラーゼを用いてプライマーを伸長させるステップからなる。典型的なプロセスでは、変性ステップは、反応バッファー内で反応混合物を一般的に92℃~97℃の温度まで加熱すること、混合物を約50℃~60℃まで冷却することによりプライマーを単一のDNA鎖にアニーリングすること、及び約72℃においてDNAポリメラーゼによりプライマーを伸長させることと関係する。3ステップサイクルを繰り返すことで、目的とする配列の量が倍化する。プロセスが何度も繰り返される場合、20~35回反復サイクル操作を行った際の理論的収量は、選択された領域について、10億倍を越えるほど多量の増幅に達し得る。Mullisのチームがその初期の研究で使用したポリメラーゼである、DNAポリメラーゼIのKlenow断片はDNA変性温度において不安定であり、したがって各サイクルにおいて新たな酵素を添加しなければならなかった。したがって、そのコンセプトは非常に興味深かったが、そのプロセスは非効率的であり、そしてルーチン検査技術としては当初有望ではなかった。1988年に、Taq DNAポリメラーゼ(テルムス・アクウァーティクス(Thermus aquaticus)-イエローストーン国立公園内の温泉中で見出された好熱性バクテリア-から取り出された)から始まる耐熱性ポリメラーゼの導入は、PCRを受け入れ可能な検査技術とするのに有用であった(Saikiら、1988年)。
【0003】
基本的なPCRプロセスは驚くほどに単純と思われるが、研究及び業界におけるその実用化は、数え切れないほどの障壁や困難をはらんでいた。もちろん、多方面において進歩を遂げ、当該技術の有用性も改善したが、引用された文献が示唆するように、更なる進歩がなおも続いている。一般的に、生じた進歩は、3つの主要なカテゴリー:a)より良好な反応媒体(反応バッファー)に改善するか又はそれを工学的に創出すること; b)より良好なポリメラーゼを発見及び/又は開発すること; 並びにc)改良されたプロトコール、及び新規であり改良された機器を開発することに分割され得る。本発明は、(a)及び(b)の両方と関係するが、しかし特に(b)に重点が置かれる。
【0004】
PCRプロセスの1つの主要な問題は、増幅される標的が高GC含有量を有するとき、生成物の収率が低いか若しくはまったく得られず、及び/又はその忠実性に乏しいことである(Henkeら、1997年)。DNA内の相補鎖内には、AとTとの間には2つの水素結合しか存在しない一方、GヌクレオチドとCヌクレオチドを結びつける3つの水素結合が存在するので、DNAの高GC含有領域は熱的変性に抵抗する。ある領域のGC含有量が50%を上回るとき、95copまで加熱しても、必ずしも完全な変性を引き起こさず、またより高い温度まで加熱すると、脱プリン及び脱アミノ、並びにホスホジエステル結合のゆっくりとした加水分解に起因して、核酸鎖の分解を含むその他の問題を多くの場合引き起こす(Lindahlら、1972年、1974年)。よりいっそう悩ましいこととして、95℃を上回る温度では、DNAポリメラーゼが急速に失活し始めるという事実が挙げられる。例えば、Taqポリメラーゼの半減期は、95℃で40分、97.5℃で9分、及び100℃では0.3分である(Innisら、1995年)。高GC標的に伴うなおも別の問題として、変性したDNA一本鎖(ssDNA)内での二次構造形成(ヘアピン、ダンベル等)が挙げられる。このような構造は、伸長反応期間中にポリメラーゼの進行を妨害し、また非特異的生成物の生成に関与する可能性がある(Fryら、1992年)。
【0005】
初期の研究者は、ホルムアミド(HCONH2)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びベタインのようなある特定の有機化合物を添加することで、増幅するのが困難ないくつかのDNA標的の増幅に役立ち得ることを見出した(Sarkarら、1990年; Pompら、1991年; Henkeら、1997年)。
【0006】
上記進展にもかかわらず、このようなアジュバントの助けを借りてさえも、多くの高GC標的を増幅することができなかった(Chakrabarti、2002年)。Chakrabarti及びSchuttは、ある特定の低分子有機溶媒が、GCを高度に含有し、別途増幅するのが不可能なDNA標的のPCR増幅を劇的に改善すること、及び増幅された生成物の忠実性も、このような溶媒の存在下で顕著に改善したことを見出した;両者は、低分子量溶媒の4つの基(アミド、スルホキシド、スルホン、及びポリオール(特にジオール))が特に有効であり、またこれまでに記載されている他のものよりも有意に強力であることを見出した(Chakrabarti、2002年、2004年; Chakrabartiら、2001年 Nucleic Acids Research; Chakrabartiら、2001年Gene; Chakrabartiら、米国特許第6,949,368号; 同第7,276,357 B2号;及び同第7,772,383 B2号)。これらの発明者は大手バイオテクノロジー会社よりライセンス付与されており、また現在のところ、工業界及び大学研究室の両方において、高GC DNA標的を増幅するための一般的に選好される手法である。
【0007】
上記低分子量有機溶媒は、多くの高GC DNA標的の増幅において大いに奏功的ではあったが、それが存在することでDNAポリメラーゼの半減期が減少し、その応用範囲が限定されるという事実に苦慮している。これはより高い温度において特に当て嵌まる。
【0008】
必要とされるのは、耐熱性であり、そして上記概説の溶媒存在下、及び水性有機媒体一般において実施するためのより良好な全体的適合性を有する改変されたDNAポリメラーゼである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、遺伝子産物をコードする核酸を選択するための分子生物学及び分子生物学の方法と一般的に関連する。より詳細には、本発明は、有機水性媒体中でのポリヌクレオチド増幅反応を増強するための組成物及び方法に関する。
【0010】
本明細書に記載される組成物及び方法は、特定の用途で使用するための、特性が改善したバリアントDNAポリメラーゼを提供する。
【0011】
例えば、いくつかの実施形態では、
a)例えば、G3D, M4I, L5Q, F8L, E9V, P10S, V14A, L16P, H21R, A23P, L22M, F27S, A29T, G32D, G38D, K53N, A54V, L55P, A61V, D67G, P71L, R74L,R74H,R74C, K82N, G84D, A86V, P87Q, P89S, E90D, A97T, V103A, D104G, A109V, R110Q, P114S, G115D, E117D, A118V, A118T, K128R, V136A, L149P, L162P, K171T, A180V, R183H, T186I, G187S, D191N, L193R, G195S, G200S, E201K, K202R, R205H, K206Q, G212D, S213N, S213G, N220D, L224Q, I228V, H235Y, D237G, W243R, D244E, D244V, L254P, K260N, F258S, R261H, P264S, E267K, E277G, L287Q, S290G, K292N, P302L, P302S, V310L, L311M, D320N, A326V, R328H, H333R, K346R, L351M, E363D, L365Q, P382T, N384D, E388D, T399A, A414S, A454E, A454L, A454V, A458V, L461Q, F482I, L461R, V474I, G499D A502T, I503T, E507K, S515N, S515G, A516G, E520G, A521V, I528T, K531R, Q534R, T539A, S543G, D551N, D551G, V586A, V586M, Q592R, L606M, A608T, S612R, I665V, F667Y, H676L, H676R, H676Y, Q680R, E681K, K702R, A705V, V720L, V730I, D732G, D732N, E734G, V737D, V737A, S739G, V740A, V740I, E742K, F749V, F749I, F749L, K762R, K767R, L768M, E773K, L781P, E797G, E797Q, V799A, P812Q, Q782H, A814V, L813M, E825Q、及びE832K(例えば、L5Q, F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, K31R, G38D, A61V, P89S, A97T, A118V, L162P, K171T, T186I, E201K, R205K, K206Q, G208S, K219E, N220D, I228V, M236T, D244E, D244V, R261H, D273G, L287Q, S290G, V310L, H333R, K346R, L351M, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, S543G, D551G, D551N, Q592R, L606M, A608V, S612R, H676L, Q680R, K702R, D732N, E734G, S739G, E742K, F749I, F749V, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H、又はE832K; 例えば、L5Q、F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, T186I, K31R, G38D, A97T, A118V, L162P, R205K, G208S, K219E, N220D, I228V, D273G, S290G, K346R, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, D551G, L606M, A608V, S612R, Q680R, K702R, E734G, S739G, E742K, F749V, F749I, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H、又はE832K;例えば、L5Q、P10S、A23P、A29T、T186I、L461R、E507K、A608V、S612R、E742K、F749L、F749I、K762R、K767R、又はE832K)からなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼと、
b)例えば、アミド、スルホキシド、スルホン、又はジオールから選択される1つ又は複数の低分子量有機溶媒を含有するPCRバッファーであって、1つ又は複数の低分子量有機溶媒が、約0.05~約3.0モル(例えば、0.05~2.5モル、0.05~2モル、0.05~1.5モル、0.05~1.0モル、0.1~3.0モル、0.1~2.5モル、0.1~2.0モル、0.1~1.5モル、0.1~1.0モル、0.5~3.0モル、0.5~2.5モル、0.5~2.0モル、0.5~1.5モル、0.5~1.0モル、1.0~3.0モル、1.0~2.5モル、1.0~2.0モル、1.0~1.5モル、1.5~3.0モル、1.5~2.5モル、1.5~2.0モル、又は2.0~3.0モル)の範囲の濃度でPCRバッファー中に存在する、PCRバッファーと
を含む組成物が本明細書に提示される。
【0012】
いくつかの実施形態では、アミノ酸変化の少なくとも1つは、例えばP10S、L16P、A29T、K31R、G38D、A61V、A118V、L162P、T186I、G208S、N220D、I228V、D244V、D273G、S290G、K346R、L351M、E388D、A454E、L461Q、L461R、F482I、I503T、S515N、A521V、Q534R、D551G、L606M、A608V、S612R、Q680R、E734G、S739G、F749V、F749I、L768M、又はE832Kから選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸変化の少なくとも1つは、例えばF8L、P10S、L16P、A29T、K31R、G38D、A61V、A97T、又はL162Pからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、突然変異の少なくとも1つは、例えばA186I、D244V、R205K、G208S、K219E、N220D、I228V、D273G、S290G、K346R、P382T、E388D、E434D、A454E、L461Q、L461R、V474I、F482I、I503T、E507K、S515N、A521V、Q534R、D551G、又はL606Mから選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸変化の少なくとも1つはA608Vである。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換の少なくとも1つは、例えば、S612R、Q680R、K702R、S739G、E742K、L768M、F749I、F749V、K762R、K767R、又はQ782Hから選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸変化の少なくとも1つはE832Kである。いくつかの実施形態では、最大12個のアミノ酸置換が、Taqポリメラーゼ内に存在し得る。
【0013】
更なる実施形態は、有機水性媒体中でのPCR反応に適する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む組成物であって、有機水性媒体が、例えばアミド、スルホキシド、スルホン、及びジオールからなる群から選択される1つ又は複数の低分子量有機溶媒を含み、並びに改変されたTaq DNAポリメラーゼのアミノ酸配列が、例えば、L30P、A54V、E434D、K206Q、S612R、V730I、及びF749V; P10S、A61V、T186I、D244V、K314R、E520G、V586A、S612R、V730I、及びF749V; G12T、A54V、T186I、D244V、F667Y、及びF749V; P10S、A61V、F73S、T186I、R205K、K219E、M236T、A608V、S612R、及び2494ΔG; P10S、L30P、A61V、L365P、V586A、S612R、及びE832K; P10S、A61V、D244V、S612R、及びE832K; L30P 及び2494ΔG; A29T、G200S、D237G、及びF749I; L16P、F73S、E388D、Q680R、及びF749I; F73S、K346R、A454E、及びF749V; F73S、A118V、及びF749I; A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768M; K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I; A23P 及びF749I; G38D、F73S、A454V、及びF749V; N220D、I503T、S515N、及びF749V; A29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、及びF749I ; E434D、A608V、及びK762R ; E434D、E507K、及びK762R ; E434D、E507K、E742K、及びF749I ; P10S、P382T、E434D、及びE507K ; R205K、K219E、E434D、V474I、A608V、inS661R、E742K、及びF749I ; A97T、A608V、K702R、及びK762R ; F8L、P10S、E434D、E507K、K762R、及びK767R; P10S、E507K、Q680R、及びK762R ; E507K、A608V、Q782H、及びF749I ; E434D、A608V、E742 K、及びF749I ; E520G、V586A、S612R、及び2493ΔA ; P10S、V730I、及び2493ΔA ; V586A、S612R、S674S、及び2494ΔGA ; E434D及び2494ΔGA ; Y116Stop2494ΔG ; A54V ; A61V; F749V ; E832K ; T186I、V586A、S612R、及び2494ΔG ; A64V及び2493ΔA ; D244V、K314R、V586A、及びS612R ; A61V、T161I、V586A、S612R、及び2494ΔG ; G12T、A61V、及び2494ΔG ; A29T、K53R、R205K、K219E、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、及びA608V ; A29T、K53R、R205K、K219E、D244E、D320N、A326V、N415D、L461R、及びA608V ; A29T、K53R、R223P、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、及びA608V ; A29T、D238E、R328H、L461R、A608V、E745K、及びF749I ; A29T、F73S、D238E、R328H、D551N、A608V、E745K、及びF749I ; A29T、D238E、R328H、D551N、A608V、及びF749V ; A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、及びF749I ; A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、S739G、及びF749I ; A29T、L224Q、T399A、A454E、A608V、S739G、及びF749I ; K53R、F73S、A141P、P382S、A472G、R556G、及びF749I ; R110L、K219E、M236T、E274K、R492L、A608V、E626D、K767R、及びE825K ; R110L、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、K767R、及びE832N ; K82I、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、E626V、及びK793R ; P10S、F73S、K219E、M236T、E337D、E507K、A608V、及びK767R ; P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、V474I、A608V、及びK767R ; P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、A608V、及びK767R ; P10S、V14A、R205K、K219E、M236T、N384D、V474I、A608V、S612R、及びK762R ; P10S、V14A、K219E、N384D、E434D、V474I、A608V、S612R、K762R、及びK767R ; P10S、V14A、R205K、K219E、N384D、V474I、A608V、S612R、及びF749I ;及びR110L、R205K、K219E、N415Y、S543I、A608V、E626D、K767R、及びE825Kからなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と90%同一である、組成物を提示する。
【0014】
追加の実施形態は、0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中に、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して熱安定性が増加している1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、例えば、P10S, G12T, L16P, A23P, A29T, L30P, K31R, G38D, A61V, A64V, F73S, Y116Stop, A118V, T161I, L162P, T186I, G200S, N220D, I228V, D237G, D244V, S290G, K314R, K346R, E388D, E434D, A454E, A454V, L461R, F482I, I503T, S515N, E520G, A521V, Q534R, D551G, V586A, L606M, A608V, S612R, Q680R, V730T, E734G, S739G, F749I, F749V, L768M, 2493ΔA、又は2494ΔG(例えば、P10S、A29T、L30P、K31R、F73S、A118V、G200S、G237G、K346R、S434D、A454E、F482I、E520G、Q534R、V586A、A608V、S612R、V730I、F749I、F749V、2493ΔA、又は2494ΔG)からなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態では、1つ又は複数のDNAポリメラーゼは、例えば、F749V; F30L及び2494ΔG; E520G、V586A、S612R、及び2493ΔA; E434D及び2494Δ; P10S、V730I、及び2493ΔA; V116Stop及び2494ΔG; A64V及び2493ΔA; T186I、V586A、S612R、及び2494ΔG; V586A、S612R、及び2494ΔG; D244V、K314R、V586A、及びS612R; A61V、T161I、V586A、S612R、及び2494ΔG; G12T、A61V、及び2494ΔG; A29T、G200S、D237G、及びF749I; L16P、F73S、E388D、Q680R、及びF749I; F73S、K346R、A454E、及びF749V; F73S、A118V、及びF749I; A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768M; K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I; A23P及びF749I; G38D、F73S、A454V、及びF749V; N220D、I503T、S515N、及びF749V;又はA29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、及びF749Iからなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する。
【0015】
その他の実施形態は、0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中に、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して忠実性が増加している1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、例えば、P10S、G12T、A23P、K31R、A54V、A61V、F73S、Y116Stop、A118V、L162P、T186I、K206Q、I228V、D244V、K314R、L461R、F482I、A521V、Q534R、V586A、A608V、S612R、E734G、F749I、L768M、E832K、2494ΔG、A23P、K31R、L162P、I228V、L461R、F482I、A521V、E734G、F749I、又はL768M(例えば、K31R、A54V、F73S、A118V、T186I、K206Q、D244V、K314R、F482I、Q534R、V586A、A608V、S612R、F749I、E832K、又は2494ΔG; 例えば、A54V、T186I、又はE832K)からなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態では、1つ又は複数のDNAポリメラーゼは、例えば、A54V ; T186I ; E832K ; D244V、K314R、V586A、及びS612R ; K206Q及び2494ΔG ; G12T、A61V、及び2494ΔG ; P10S ; K31R、F482I、Q534R、A608V、及びF749I ; F73S、A118V、及びF749I ;又はA23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、及びL768Mからなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号1)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する。
【0016】
ある特定の実施形態は、1つ又は複数のDNAポリメラーゼを含む組成物であって、0~10重量%の1つ又は複数の有機性共溶媒を含有するPCRバッファー中に、野生型Taq DNAポリメラーゼと比較して、ヌクレオチド組込み速度が増加し、処理能力が増加しており、1つ又は複数のDNAポリメラーゼが、例えば、A29T、V310L、A454L、H676R、E687K、D732G、V737D、V740A、F749V、又は2494ΔG(例えば、V310L、F749Y、又は2494ΔG)からなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を有する改変されたTaq DNAポリメラーゼを含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態では、1つ又は複数のDNAポリメラーゼは、例えば、F749V ; F310L ; 2494ΔG ; A454L、F749V、及び2494ΔG ; H676R及びD732G ; E687K及び2494ΔG ; A29T及びV737D ;又はV740A及びF749Vからなる群から選択されるアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する。
【0017】
本発明は特定の有機性共溶媒に限定されない。例として、低分子量アミド(Low Molecular Weight Amides)、低分子量スルホキシド(Low Molecular Weight Sulfoxides)、低分子量スルホン(Low Molecular Weight Sulfones)、又は低分子量ジオール(Low Molecular Weight Diols)が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、アミドは、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、イソブチルアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン(NMP)、N-ヒドロキシエチルピロリドン(HEP)、N-ホルミルピロリジン、N-ホルミルモルホリン; δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、又は2-アザシクロオクタノンから選択され;スルホキシドは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n-プロピルスルホキシド、n-ブチルスルホキシド、メチルsec-ブチルスルホキシド、又はテトラメチレンスルホキシドから選択され;スルホンは、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジ(n-イソプロピル)スルホン、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、2,4-ジメチルスルホラン、又はブタジエンスルホン(スルホレン)から選択され;及びジオールは、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、又は2-メチル-2,4-ペンタンジオールから選択される。いくつかの実施形態では、アミド溶媒は、約0.5~約1.5モル濃度の濃度のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF);約0.1~約1.0モル濃度の濃度のイソブチルアミド;約0.1~約1.0モル濃度の濃度の2-ピロリドン;又は約0.1~約1.0モルの濃度のN-メチルピロリドンである。いくつかの実施形態では、スルホキシドは、約0.5~約3.0モル濃度の濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)、又は約0.1~約1.0モルの濃度のテトラメチレンスルホオキシドである。いくつかの実施形態では、スルホンは、約0.1~約1.0モルの濃度のテトラメチレンスルホン(スルホラン)である。いくつかの実施形態では、ジオールは、約0.5~約3.0モル濃度の濃度の1,3-プロパンジオール;約0.5~約2.0%モル濃度の濃度の1,4-ブタンジオール;又は約0.5~約1.0%モル濃度の濃度の1,5-ペンタンジオールである。
【0018】
本出願のTaqポリメラーゼバリアントは、溶媒及び/又は反応媒体の検討と共に上記に記載されているが、Taqポリメラーゼバリアントは、上記溶媒/反応媒体の検討のいずれとも独立して、それ自体組成物であるものとして本明細書では検討される。
【0019】
更なる実施形態では、本明細書に記載される改変されたDNAポリメラーゼ及び有機性共溶媒を含むキット又はシステムが本明細書に提示される。いくつかの実施形態では、改変されたDNAポリメラーゼは、1つ又は複数のアミノ酸変化を有する野生型Taq DNAポリメラーゼ(配列番号41)のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を有し、その場合、1つ又は複数のアミノ酸変化は、例えば、L30P, A54V, E434D, K206Q, S612R, V730I, F749V ; P10S, A61V, T186I, D244V, K314R, E520G, V586A, S612R, V730I, F749V ; G12T, A54V, T186I, D244V, F667Y, F749V ; P10S, A61V, F73S, T186I, R205K, K219E, M236T, A608V, S612R, 2494ΔG ; P10S, L30P, A61V, L365P, V586A, S612R, E832K ; P10S, A61V, D244V, S612R, E832K ; L30P, 2494ΔG ; E520G, V586A, S612R, 2493ΔA ; P10S, V730I, 2493ΔA ; V586A, S612R, S674S, 2494ΔGA ; E434D, 2494ΔGA ; Y116Stop2494ΔG ; A54V ; A61V ; F749V ; E832K ; T186I, V586A, S612R, 2494ΔG ; A64V, 2493ΔA ; D244V, K314R, V586A, S612R ; A61V, T161I, V586A, S612R, 2494ΔG ; G12T, A61V, 2494ΔG ; T186I ;K206Q及び2494ΔG ; P10S ; F310L ; 2494ΔG ; A454L、F749V、2494ΔG ; H676R及びD732G ; E687K及び2494ΔG ; A29T及びV737D ; V740A及びF749V ;
A29T、K53R、R205K、K219E、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、A608V ;
A29T、K53R、R205K、K219E、D244E、D320N、A326V、N415D、L461R、A608V ;
A29T、K53R、R223P、D320N、A326V、N415D、L461R、E602D、A608V ;
A29T、D238E、R328H、L461R、A608V、E745K、F749I ;
A29T、F73S、D238E、R328H、D551N、A608V、E745K、F749I ;
A29T、D238E、R328H、D551N、A608V、F749V ; A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、F749I ;
A109V、L224Q、T399A、A502T、A608V、S739G、F749I ;
A29T、L224Q、T399A、A454E、A608V、S739G、F749I ;
K53R、F73S、A141P、P382S、A472G、R556G、F749I ;
R110L、K219E、M236T、E274K、R492L、A608V、E626D、K767R、E825K ;
R110L、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、K767R、E832N ;
K82I、K219E、M236T、N415Y、R492L、A608V、E626V、K793R ;
P10S、F73S、K219E、M236T、E337D、E507K、A608V、K767R ;
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、V474I、A608V、K767R ;
P10S、F73S、K219E、E337D、E434D、A608V、K767R ;
P10S、V14A、R205K、K219E、M236T、N384D、V474I、A608V、S612R、K762R ;
P10S、V14A、K219E、N384D、E434D、V474I、A608V、S612R、K762R、K767R ;
P10S、V14A、R205K、K219E、N384D、V474I、A608V、S612R、F749I ;
R110L、R205K、K219E、N415Y、S543I、A608V、E626D、K767R、E825K ;
K31R、F482I、Q534R、A608V、F749I ; F73S、A118V、F749I ; A23P、L162P、I228V、L461R、A521V、E734G、F749I、L768M ; A29T、G200S、D237G、F749I ; L16P、F73S、E388D、Q680R、F749I ; F73S、K346R、A454E、F749V ; A23P、F749I ; G38D、F73S、A454V、F749V ; N220D、I503T、S515N、F749V ; A29T、F73S、S290G、L461R、D551G、L606M、S739G、F749Iからなる群から選択される。
【0020】
追加の実施形態が本明細書に記載されている。
【0021】
特許又は出願ファイルは、彩色が施された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を含むこの特許又は特許出願公開のコピーは、要請及び必要手数料の支払いに応じてオフィスより提供される。
【0022】
本開示の主題を一般論としてこのように記載してきたが、ここで添付の図面(必ずしも正確な縮尺で表されてはいない)を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】Taq DNAポリメラーゼの結晶構造を示す図である。この図は、アミノ酸834個からなるTaq DNAポリメラーゼの結晶構造を記載する。描写は、各ドメインが「掌(palm)」、「親指(thumb)」、及び「指(fingers)」として識別される、部分的に閉じた右手と見立てることができる。掌はポリメラーゼ活性部位である。長さ方向に1~288番目のアミノ酸ドメインは、掌の基部に位置する5'から3'への(エキソヌクレアーゼ)活性の場所(触媒アミノ酸のシート)である。親指及び指は伸長したDNAコンフォメーションをその場に保持する。
【
図2】Taqポリメラーゼの3D構造を示す図である。この図は、Taqポリメラーゼの3D構造における、ある特定の重要な突然変異体の場所について記載する。
【
図3】有機性共溶媒の構造(部分的なリスト)を示す図である。この図は、本発明の実施形態において有用である例示的有機性共溶媒の化学構造についてリスト化する。
【
図4】エマルジョン(emulsion)形成のWinsorのR理論を示す図である。Rは、(界面活性剤(Surfactant)単層が油に向かって凸面となる傾向)と(同一の層が水に向かって凸面となる傾向)との間の比として表される。R=1のとき、結晶性層状ミセル(端部開放型)を引き起こす; R>1又は<1のとき、閉鎖型の球状ミセル-油中水型(Oil-External)又は水中油型(Water-external)-が形成される。更なる詳細については「好ましい実施形態の詳細な説明」を参照されたい。
【
図5】本発明のCSRにおいて使用可能である乳化剤のリストを示す図である。この図は、本発明のW/Oエマルジョンを作成するのに使用され得る乳化剤のリストを提示する。それらは非イオン性界面活性剤と呼ばれる界面活性剤のクラスに属する。好ましい乳化剤は、
図5に示す化学基に属する1つ又は複数の分子からなり得る。
【
図6】本発明のCSRにおいて乳化剤として使用可能であるフッ素系界面活性剤のリストを示す図である。この図は、特に使用される油がフッ素化された合成油であるとき、本発明のW/Oエマルジョンを作成するのに使用可能であるフッ素系界面活性剤の例を提示する。フッ素系界面活性剤は、従来の親水性尾部、例えばポリエチレンオキシ鎖や高度に疎水性のフルオロカーボン鎖等を有することにより特徴付けられる。水-油系内にごく低い濃度であっても存在するとき、フルオロカーボン尾部の低表面エネルギーの恩恵により、油相と水相との間に非常に低い界面張力を実現する。世界中で数多くの会社がフルオロカーボン界面活性剤を今日作成するが、フッ素系界面活性剤の最初で最も広く知られた生産者は3M社である。3m製品はNovac(登録商標)ブランドとして販売されている。代表的な例は、3M(登録商標)フッ素系界面活性剤4430、4432、及び4434である。これらの製品は、工業、医療、及びバイオテクノロジーにおける様々な用途において、その使用が見出されている。
【
図7】単一細胞を収容する安定な油中水型逆相エマルジョン:多分散系のエマルジョンを示す図である。油相は軽油でありまた乳化剤は非イオン性界面活性剤の混合物である。これらの図は、極性内部ドロップレットが、有機水性媒体(1,4-ブタンジオールが有機性コンポーネントであり、組成物5%を構成した)中で、20mMトリス-HCl、50mM KCl、50μMテトラメチルアンモニウムクロリド、250μM dNTP、1μMの隣接するPCRプライマーの対を含有する「複合1×Taqバッファー」、及び発現細胞からなる油中水型逆相エマルジョンの構造を示す。油相は軽油であった。使用した乳化剤は、スパン80、ツイーン80、及びトリトンX100の混合物であった。内部の相の平均ドロップレットサイズは25μMであり、個々のドロップレットのサイズは、15μM~50μMの範囲であった。A及びBは、溶液中及びエマルジョン中のGFP発現大腸菌(E.coli)細胞について、その微視的蛍光画像を示す。C及びDは、PCRサイクル経由前後において光学顕微鏡下で得られたエマルジョンの明視野画像を示す。見てわかる通り、高温変性ステップは細胞壁を溶解し、したがってCSR後には元のままの細胞はもはや認めらない。
【
図8】エマルジョンの完全性- PCR期間中にドロップレット間でクロスオーバーが認められないことを示す図である。この図は、
図7のエマルジョンドロップレットを、PCR反応を実施するためのスタンドアローン型容器として用いた場合のその完全性を示し、PCR反応期間中に1つのドロップレットから別のドロップレットへの反応物質のクロスオーバーが存在しないことを意味する。レーン1:DNAマーカーレーン2及び3:有機性共溶媒の非存在下で行ったPCRのエマルジョン。レーン4及び5:有機性共溶媒(1,4-ブタンジオール)の存在下で行ったPCRのエマルジョン。ここでは、レーン2 qn3と同一の実験を繰り返したが、但しその際、taqバッファーには5%1,4-ブタンジオールが含まれた点を除く。レーン6、7、及び8:有機性共溶媒の非存在下で行ったPCRの溶液。これらは、レーン2及び3の実験に対するコントロール実験であった。レーン6は、T1、T2、及びその各プライマー、並びにポリメラーゼを有した。ゲルは、期待通り、両アンプリコンが増幅されたことを示す。レーン7は、T1のみ、そのプライマー、及びポリメラーゼを有した。ゲルは、期待通り、1つの増幅バンドのみ、T1の増幅バンドを示す。レーン8は、T2のみ、そのプライマーを有したが、しかしポリメラーゼは有さなかった。ゲルは、期待通り、増幅バンドが存在しないことを示す。レーン9、10、及び11:有機性共溶媒(1,4-ブタンジオール)の存在下で行ったPCRの溶液。レーン9、10、及び11はレーン6、7、及び8の繰返しであったが、いずれの場合にも、反応混合物内に5%1,4-ブタンジオールが存在した点を除く。結果は、6、7、及び8の結果に類似した。
【
図9A】上段:単一細胞を収容する安定な油中水逆相エマルジョン(PCR前後):Dolomite Microfluidics社(UK)製のμEncapsulatorを使用することにより作成された単分散エマルジョンを示す図である。油相は低粘度フッ素化合成油であり、乳化剤は非イオン性フッ素系界面活性剤である。この図は、製造業者の指示書に従って、機械式デバイス(Dolomite Microfluidics社(U.K.)製のμEncapsulator)を使用することにより作成された単分散油中水逆相エマルジョンの構造を示す。図の最初の2つのプレートは、ドロップレットが5%の有機性共溶媒(1,4-ブタンジオール)を含むか又は含まないかにかわらず、単分散ドロップレットは単一のGFP発現細菌を収納し、1ドロップレット当たりの細菌数が1個を超えないことを示す。第2の2つのプレートは、模擬的なPCR [95℃で5分間、25×(94℃で30秒間、55℃で30秒間、及び72℃で3分間)]を行い、次に4℃で保持した後の同一のドロップレットを示す。PCR後のプレートでは、PCR期間中に細胞壁が熱的に溶解されたので、ドロップレット内部に細胞はもはや認められない。
図9の第2の部分は、発現細胞を、パーフルオロ1-オクタノール(Sigma Cat #370533)を用いたエマルジョンの抽出により単離し、その後遠心分離した後の、発現細胞の増幅後ポリメラーゼDNAを示す。増幅後DNAを含有する最上部の水層を、1%アガロースゲルで分析した。NC =陰性コントロール; PC =陽性コントロール; M=1kb DNAマーカー。
【
図9B】下段:Dolomite Microfluidics(UK)を使用する安定な水性-油性-水性エマルジョン(二重エマルジョン)の調製。一次エマルジョン(PE)を調製し(A)、それにPCRが後続した。一次エマルジョンの一部分を、DNAを単離するのに使用し、そして1%のアガロースゲル上で泳動した(B)。パネルB:レーン1 DNAマーカー、レーン2 陰性コントロール、及びレーン3は、陽性コントロールである。PCR後、「材料及び方法」のセクションに記載されるように、一次エマルジョンを収集して二重エマルジョンを調製した(C)。二重エマルジョンを(D)に示す。PCR後、陽性コントロールをSYBR Green Iで染色し、そして蛍光顕微鏡下で可視化した(E)。ソーティング前及びソーティング後の画像を、パネルF及びパネルGにそれぞれ示す。二重エマルジョンにFACSソーティングを施し、そして合計1.6百万事象を無作為に捕捉し、親DEをゲーティングするために5000の閾値を適用し(H及びI)、SYBR陽性二重エマルジョンのソーティングがそれに後続した(J)。SSC:側方散乱光; FSC:前方散乱光; A:面積; H:高さ。
【
図10】CSR模式図を示す図である。epPCRとそれに後続するXbaI及びSalI制限酵素を用いたPCR産物の消化、次にpASK-IBA5Cプラスミド内へのクローニングによりTaqポリメラーゼ遺伝子を多様化させた。
【
図11】5%1,4-ブタンジオール内でCSR選択するための選択圧力の策定を示す図である。5%1,4-ブタンジオールの非存在及び存在下でのWT Taq DNAポリメラーゼの活性を決定し、CSR選択実験用のふさわしい選択圧力を策定した。
【
図12】DNA量とその融解曲線ピーク面積を示す図である。DNA量とその融解曲線ピーク面積との間に線形相関が存在する。
【
図13】DNAの融解及び酵素効率に対する水性有機媒体の効果を示す図である。A)本試験で使用されたc-Jun断片のGC含有量のコンピュテーショナル予測。B)c-Jun DNA Tmを0~10%のBD内で決定した。C)BD濃度とDNA融解温度(Tm)の低下との間の線形対応より、プロットのスロープ(dTm/[BD])は5.9K/Mであると決定された。D)選択された突然変異体の重合効率を0~1.2M(0~10%)の有機溶媒内で評価し、突然変異体と比較して野生型Taqポリメラーゼの融解温度が低下することが明らかとなり、突然変異体ポリメラーゼはBDの変性効果に抵抗することが示唆される。及びE)BD濃度範囲全体にわたる突然変異体のCq変化率。
【
図14】Taq及びc-junテンプレート上、共溶媒存在下での工学的に作出されたポリメラーゼの増幅効率を示す図である。選択されたクローンを、2つの異なるテンプレートを用いて、共溶媒濃度を変化させながら、野生型及びそのバリアントについて、その増幅効率を評価するのに使用した。リアルタイムPCRアッセイにおいて使用したクローンの代表的なqPCR結果を表す。効率を評価するために、同一条件において、等活性のポリメラーゼそれぞれをテストした。(A)5%BD内のTaqテンプレート(B)初期スクリーニングラウンドに由来する選択されたクローン及び関連する合成クローンを用いた、0~8%BD中でのc-junテンプレート;(C)Taqテンプレート、及び(D)後期スクリーニングラウンドに由来する選択されたクローンを用いた、0~10%BD中でのc-junテンプレートに対して、下記のPCRサイクル:98.3℃で1分間、95℃で6分間、それに後続する17サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間、を使用した。
【
図15】NGS分析用に創出したTaqバリアント遺伝子のセグメント(6)を示す図である。親野生型Taqポリメラーゼ内の配列に対応する断片(NGS用のアンプリコン)を示す。
【
図16】下記のPCRサイクリングプロトコール(98.3℃で1分間+ 95℃で6分間、それに後続する25サイクルの94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で50秒間)を用い、高い変性温度を使用しながら、最大5%及び7%BDをそれぞれ用いて、WT Taqポリメラーゼ及びTaqポリメラーゼバリアントL-5-2-F01を、ヒトゲノムDNAに由来するGC富化標的の増幅において評価したことを示す図である。最終伸長を72℃で2分間実施した後に、4℃で保持した。50μLの反応容積において、PCR混合物には、1×PCRバッファー(Invitrogen社)、1.5mM MgCl
2、0.25mM dNTP、25ngのヒトgDNA(Promega社#G1471)、0.5μMの各フォアワード及びリバースプライマー、及び2.5Uのポリメラーゼが含まれた。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分析した。予想されるアンプリコンサイズを図中に記載する(塩基対として)。WT Taq:(A)0%BD(B)5%BD; L-5-2-F01:(C)0%BD(D)7%BD。M=1kb DNAラダー、0.5及び1の数字の単位はkbpである。1%及び2%BD中では、WT Taqを用いた場合、標的の増幅はいずれも不可能であった(データ図示せず)。標的の特性を
図19に記載する。
【
図17】下記のPCRサイクリングプロトコール(98.3℃で1分間+95℃で6分間、それに後続する25サイクル94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で50秒間)を用い、高い変性温度を使用しながら、最大7%及び10%BDをそれぞれ用いて、WT Taqポリメラーゼ及びTaqポリメラーゼバリアントL-5-2-F01を、ヒトゲノムDNAに由来するGC富化標的の増幅において評価したことを示す図である。最終伸長を72℃で2分間実施した後に、4℃で保持した。50μLの反応容積において、PCR混合物には、1×PCRバッファー(Invitrogen社)、1.5mM MgCl
2、0.25mM dNTP、25ngのヒトgDNA(Promega社#G1471)、0.5μMの各フォアワード及びリバースプライマー、及び2.5Uのポリメラーゼが含まれた。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分析した。予想されるアンプリコンサイズを図中に記載する(塩基対として)。WT Taq:(A)0%BD(B)7%BD; L-5-2-F01:(C)0%BD(D)10%BD(D)。M=1kb DNAラダー、0.5及び1の数字の単位はkbpである。標的の特性を
図19に記載する。
【
図18】下記のPCRサイクリングプロトコール(94℃で2分間、それに後続する30サイクルの95℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で50秒間)を用い、中程度の変性温度を使用しながら、最大7%BDを用いて、WT Taqポリメラーゼ及びTaqポリメラーゼバリアントL-5-2-F01を、ヒトゲノムDNAに由来するGC富化標的の増幅において評価したことを示す図である。最終伸長を72℃で2分間実施した後に、4℃で保持した。50μLの反応容積において、PCR混合物には、1×PCRバッファー(Invitrogen社)、1.5mM MgCl
2、0.25mM dNTP、25ngのヒトgDNA(Promega社#G1471)、0.5μMの各フォアワード及びリバースプライマー、及び2.5Uのポリメラーゼが含まれた。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分析した。予想されるアンプリコンサイズを図中に記載する(塩基対として)。WT Taq:(A)0%BD(B)7%BD; L-5-2-F01:(C)0%BD(D)7%BD。M=1kb DNAラダー、0.5及び1の数字の単位はkbpである。標的の特性を
図19に記載する。
【
図19】GC富化テンプレートについてテンプレート領域毎のGC含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の主題について、ここで、本発明の一部(すべてではない)の実施形態を表す添付の図面を参照しながら、以下においてより完全に記載する。全体を通じて、類似する数字は類似する要素を指す。本開示の主題は、多くの異なる形態において具体化され得、本明細書に記載される実施形態に限定されものと解釈すべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が該当する法律上の要件を満たすように提供される。実際、本明細書に記載される本開示の主題について、多くの改変及びその他の実施形態(それらは本開示の主題と関係し、また上記説明及び関連する図において提示された教示のベネフィットを有する)が当業者において想起される。したがって、本開示の主題は、開示された特定の実施形態に限定されず、並びに改変及びその他の実施形態は添付の特許請求の範囲内に含まれるように意図されているものと理解される。
【0025】
1.定義
アミノ酸:本明細書で使用される場合、該用語は、タンパク質界全体を構成する20種の天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方を指す。
【0026】
カセット突然変異誘発:本明細書で使用される場合、カセット突然変異誘発という用語は、二本鎖プラスミドからカセットを切り出し、そしてそれを、その中に突然変異体を含む別の(合成)カセットと置換するプロセスを指す。
【0027】
コドン:本明細書で使用される場合、コドンという用語は、1つのアミノ酸をコードするDNA配列内の3つのヌクレオチド塩基のセットを指す。タンパク質の遺伝子配列は、ATGコドン(メチオニンMをコードする)から一般的に開始し、そしてTAA、TAG、TGAコドン(これらのコドンはいずれのアミノ酸もコードせず、コーディング遺伝子の終了を合図するに過ぎない)で終了する。
【0028】
コドン最適化:本明細書で使用される場合、コドン最適化という用語は、特定のアミノ酸をコードするコドンの選択を最適化するプロセスを指す。タンパク質内の20種のアミノ酸をコードする61種のコドンが存在する。コドンの種類はアミノ酸に対してそれより多いが、それは1種類のアミノ酸を2種類以上のコドンがコードすることができることを意味する。異なる生物毎に、特定のアミノ酸をコードするのに使用したがるコドンに対する偏りが認められる。この偏りは、生物内でのタンパク質の発現に影響を及ぼす可能性がある。分子生物学では、遺伝子が新規生物に挿入されるとき、同一のアミノ酸において生物が正の偏りを有するようなコドンについて、当該生物内での新規遺伝子の発現が改善するように、最適化がしばしば行われる。
【0029】
コンティグ:本明細書で使用される場合、コンティグという用語は、DNAのコンセンサス領域を共に表す重複DNAセグメントのセットを指す。
【0030】
共溶媒:本明細書で使用される場合、共溶媒という用語は、PCR反応バッファーに添加されたとき、いくつかの実施形態では、様々な方法で増幅反応を強化することができる低分子量有機化合物を指す。
【0031】
CSR:区画化自己複製(Compartmentalized Self-Replication)に対する略号である.
【0032】
ディープシークエンシング:ハイスループットシークエンシング又は次世代シークエンシング(NGS)とも呼ばれる。ゲノム部位を複数回(多くの場合、数千回)シークエンシングすることを意味する。このプロセスにより、研究者はオリジナルサンプルの0.1%を占めるほどの少量を含む稀なクローンタイプを検出することができる。
【0033】
DNAシャッフリング:本明細書で使用される場合、DNAシャッフリングという用語は、DNase 1による遺伝子のランダムな断片への消化、並びに通常プライマーレス及び改変されたPCRによる断片の完全長遺伝子への再会合を指す。断片は配列ホモロジーに基づき相互にプライマーの役目を果たし、また遺伝子の1つのコピーに由来する断片が別のコピーに由来する断片にアニールするとき、組み換えが生ずる。PCRの改変は互い違いの伸長プロセス(StEP)と関係し、同プロセスでは、互い違いのDNA断片を生成し、そしてテンプレート配列の全長に沿ってクロスオーバー事象(シャッフリング又は断片のスイッチング)を促進するために、アニーリング及び伸長ステップが有意に短縮される。DNAシャッフリングは制限酵素を使用しても生成可能であり、その場合、断片はDNAリガーゼを用いて再結合可能である。DNAシャッフリングは、指向的進化実験にとって多様化を創出するための重要な技術である。多様化は、2つ以上の遺伝子に由来する有用な突然変異を組み合わせて単一の遺伝子にすることに起因する。
【0034】
共溶媒の有効範囲とは、本明細書で使用される場合、増幅反応におけるある特定の共溶媒の最適な濃度を指す。いくつかの実施形態では、最適な濃度は選択された共溶媒に基づき変化する。有効濃度は、例えば、本明細書に記載される方法を使用して決定可能である。
【0035】
酵素活性(ポリメラーゼ活性):ポリメラーゼ活性の1ユニットは、30分内に10mmoleの生成物を合成するのに必要なポリメラーゼの量として定義される。したがって、該用語はDNAポリメラーゼの効率及び選択性を指す。
【0036】
酵素の誘導及び発現:酵素の誘導は、分子(例えば、薬物)が酵素の発現を誘導する(開始又は強化する)プロセスである。発現は生成効率に対して関連性を有する-関連する遺伝子のハイレベルな発現が過剰生成を創出するのに必要とされる。
【0037】
発現細胞:本文書の目的に照らせば、多様化した突然変異体Taq DNAポリメラーゼ遺伝子のプールを含有する大腸菌細胞である。
【0038】
忠実性:該用語は、テンプレート依存性DNAポリメラーゼによるDNA重合の正確性を指す。忠実性は、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性及びDNAポリメラーゼの活性の両方により維持される。忠実性はエラー率として測定される。高忠実性とは、突然変異4.45×10-6個未満/nt/1回の2倍化、を指す。低忠実性酵素がエラープローンPCRに使用される(例えば、突然変異誘発を目的として)。
【0039】
フレームシフト突然変異:塩基対の数が3で割り切れないDNA配列の付加(挿入)又は欠損(例えば、1、2、4、5、7等の数のヌクレオチドの付加又は欠損等)を有する種類の突然変異。細胞は遺伝子を3塩基群毎に読み取るので、「3で割り切れること」が大きな意義を有する。各3塩基群は、タンパク質を構築するのに使用される20種類の異なるアミノ酸の1つに対応する。突然変異がこのリーディングフレームを破壊する場合には、突然変異以後の配列全体が不正確に読み取られる。したがって、フレームシフト突然変異は、新たなナンセンスコドン又は連鎖停止コドン(TAA、TAG、TGA)を組み込み、翻訳の早期終了を引き起こすことによりタンパク質を劇的に変化させる可能性がある。そのような突然変異の結果として生み出されたポリペプチドは、非機能的である可能性が極めて高い。配列内で欠損又は挿入が早期に生ずるほど、タンパク質の変化の程度は大きい。フレームシフト突然変異は危険であると共に、有益であり得る。フレームシフト突然変異は、そのような危険な遺伝性疾患(テイ・サックス病等)、及びいくつかの種類のがん及び家族性高コレステロール血症に罹患する傾向の根本原因であると考えられている。プラスの効果が、いくつかの血友病において見出された。このような人々は、HIVウイルスに対する耐性を示し、またCCR5遺伝子から32塩基対が欠損していることを意味する稀なフレームシフト突然変異CCR5 Δ32を有した。CCR5タンパク質は、アンカーとして作用する細胞表面タンパク質であり、AIDSウイルス(HIV)はそれを経由して細胞へのアクセスを獲得する。CCR5遺伝子から32塩基対が欠損すると、CCR5タンパク質の作成が無効化し、したがってHIVのドッキングポイントも破壊される。[Collins, F.S., The Language of Life, Harper Perennial, New York, pp. 169~173頁、2010年].
【0040】
本ケースにおいて、本発明者らは、本発明者らのバリアントの多くがDel A @2493、Del G @ 2494、及びDel GA @ 2494-2425を有することを観測した。Taq遺伝子の末端部のこのような欠損が意味することとして、下記に示すように、終止コドンがより遠方に移動したことで突然変異体遺伝子はより長くなり、結果として生じたバリアント酵素は親タンパク質よりも13個多いアミノ酸を有するようになることが挙げられる。
【0041】
【0042】
遺伝子タイリング:この場合、ゲノム全体が断片(タイル)に分解される。これは全ゲノムマイクロアレイである。
【0043】
高GC標的:ゲノムDNAの平均GC含有量は約40%である。40%を上回るGC含有量を有する任意のポリヌクレオチド、特に50%を超えるGC含有量を有するポリヌクレオチドが、高GC標的と呼ばれる。高GC遺伝子の例として、64%のGC含有量を有する996塩基対のc-junや、58%のGC含有量を有する660塩基対のGTPが挙げられる。極めて高GC遺伝子の例として、90%を超えるGC含有量を有する自閉症患者における脆弱なX遺伝子座の拡張(長いCGGの反復を有する)が挙げられる。
【0044】
Hisタグ化ポリメラーゼ:これはポリヒスチジンがタグ化されたポリメラーゼに対する略号である。このタグは、ポリメラーゼ分子を金属に対してより良好に結合させ、したがってカラムクロマトグラフィーによってそれをより容易に精製可能にするのに役立つ。
【0045】
ライゲーション:DNAセグメントをプラスミド内に挿入すること。
【0046】
マイクロアレイ:DNA断片をテスト及びマッピングするのに使用される既知の配列からなるDNAセグメントのグリッド。
【0047】
次世代シークエンシング(NGS):DNA配列変化を解読するハイスループット法。
【0048】
共溶媒の効力:チャプター「好ましい実施形態の詳細な説明」内の「有機水性媒体」と題するテキストにおいて定義される。
【0049】
ポリメラーゼの処理能力:処理能力とは、成長するDNA鎖から解離することなく、重合ステップのシーケンスを実施するDNAポリメラーゼの能力を指す。その能力は、DNAポリメラーゼの解離によって中断することなく重合化したヌクレオチド鎖の長さ(例えば、20nt、30nt等)により測定される。高処理能力とは20ntよりも高いことを指す。より高い処理能力を有する酵素は、低濃度でも効率的に作動する可能性がある。
【0050】
飽和突然変異誘発:単一部位飽和突然変異誘発とも呼ばれ、特定部位内の単一のアミノ酸を、すべての考え得るアミノ酸に置換することよりライブラリーが生成されるプロセスである。
【0051】
合成による配列:これは、Illumina corporation社独自のハイスループット次世代シークエンシング法である。該プロセスは、改変されたPCRプロセスにより遺伝子を合成するために、リバーシブルな個々に分離した蛍光タグ化dNTPを使用し、そして4パス/バンドフィルターカメラ/センサーが、超並列方式で、一度に数千ものテンプレートを対象に、4種類のヌクレオチドすべてについてあらゆるヌクレオチド事象を記録する。
【0052】
サイレント突然変異:サイレント突然変異は、遺伝子のタンパク質コーディング部分において1つの塩基が変化しているが、コードされるタンパク質内のアミノ酸の配列には影響を及ぼさない点突然変異の1種である。そのような突然変異は、それがコードするタンパク質又は生物の表現型に対して何らかの効果を有さない。
【0053】
部位指向性突然変異:部位特異的又はオリゴヌクレオチド指向的突然変異とも呼ばれ、二本鎖DNAプラスミド内の特定部位において所望の突然変異を導入するために、特別設計されたプライマーを使用するin vitroプロセスである。指示書を含む市販キットが該プロセスを実施するのに利用可能である。
より詳細には、「好ましい実施形態の詳細な説明」において提示される。
【0054】
StEP:これは互い違いの伸長プロセスに対する略号であり、アニーリングステップ及び伸長ステップが、互い違いのDNA断片を生成するために、及びテンプレート配列の全長に沿ってクロスオーバー事象を促進するために有意に短縮している、改変されたPCRの1形態である。より詳細にはシャッフリングの項を参照されたい。
【0055】
形質転換:ライゲートされたDNAを細胞内に導入すること。
【0056】
非天然アミノ酸:これは、天然タンパク質において生じないが、しかし非天然(合成)タンパク質を作成するためにタンパク質構造内に導入され得るアミノ酸である。
説明
【0057】
本発明は、遺伝子産物をコードする核酸を選択するための分子生物学及び分子生物学の方法と一般的に関連する。より詳細には、本発明は、有機水性媒体中でのポリヌクレオチド増幅反応を増強するための組成物及び方法に関する。
【0058】
混合型有機水性媒体中で使用するのに特に適する、人工的に設計されたDNAポリメラーゼが本明細書に提示される。ここでは、本発明者らが関心を寄せる水性有機媒体の性質について、及び詳細には、本発明の好ましいポリメラーゼ組成物に到達するために、単独で又は組み合わせて、独特の方法で本発明者らが使用した様々な技術(指向的進化、進化した種の富化、次世代シークエンシング(NGS)、遺伝子合成、及び理論的計算)について記載する。
【0059】
いくつかの実施形態では、PCR反応において、特定の有機溶媒の存在下、in vitroで使用するのに特に適するDNAポリメラーゼバリアントを工学的に作出するための方法が、本明細書に提示される。指向的進化実験では、溶媒及び温度を「選択圧力」として使用した。主たる目的は、優れた温度耐性兼溶媒耐性を提供するバリアント及び/又は突然変異のリストを開発することであったが、生き残った配列は新たな媒体に対する適合性試験に合格して生き延びたというまさにその事実は、それらの一部又は多くが、追加の適合性をそれに付与するその他の表現型上の特性を有することも意味した。熱安定性に付加して、そのような表現型上の特性として、とりわけ酵素活性、DNA結合親和性、処理能力、長いテンプレートを増幅する能力、伸長速度(Vmax、ヌクレオチド数/秒)、及び忠実性が挙げられる。耐塩性、阻害剤に対する忍容性、及び増幅収率のようなその他の特性は、過酷なin vitro条件に対するより良好な適合性にやはり起因するか又はそれに付随し得るその他の特性に含まれる。
【0060】
親ポリメラーゼ:本発明者らは、所望のバリアントを開発するためにプロトタイプ親ポリメラーゼとしてTaqポリメラーゼを使用した。それは、好熱性ユーバクテリウムであるテルムス・アクウァーティクス(Thermus aquaticus)(Taq)系統YT1から単離されたタイプA834アミノ酸ポリメラーゼである(Lawyerら、1989年)。Taqポリメラーゼのいくつかの重要な特性として、97.5℃における半減期が9分;最適活性温度が75℃~80℃;処理能力が50~60ヌクレオチド;伸長速度が75ヌクレオチド/秒であること;5'から3'へのニック翻訳エキソヌクレアーゼ活性を有するが、しかし3'→5'プルーフリーディングエキソヌクレアーゼ活性を有さないことが挙げられる(Chakrabarti、2002年を参照されたい)。
【0061】
本発明に基づくバリアントの開発に使用可能であるDNAポリメラーゼは、Taq DNAポリメラーゼ1つに限定されない。そのようなDNAポリメラーゼは、天然に存在する(野生型)ポリメラーゼを含むDNAポリメラーゼ、及び天然ポリメラーゼに由来するトランケートされた断片を含む人工的に創出されたポリメラーゼの任意の種類から選択可能である;やはりリストに含まれるものとして、キメラDNAポリメラーゼ、融合ポリメラーゼ、及びその他の改変されたポリメラーゼが挙げられる。
【0062】
PCR反応において一般的に使用される天然に存在するポリメラーゼ(野生型)は、Aファミリー又はBファミリーのいずれかに属する耐熱性ポリメラーゼ、すなわち大腸菌Pol I及びIIそれぞれと相同性を有するものである。最も一般的なBファミリーポリメラーゼは、古細菌(extremophile)起源のものである。細菌TaqポリメラーゼはAファミリーに属する。一般的な古細菌ポリメラーゼ- Pfu(Stratagene社)、Vent/Deep Vent(New England Biolab社)、KOD(Toyobo社)、Tgo(Roche社)、及びPwo(Roche社)-はBファミリーに属する。
【0063】
トランケートされたPolは、ある特定のセグメントを取り除くことによる、天然ポリメラーゼに由来するポリメラーゼである。例として、大腸菌Pol Iに由来するKlenow断片のほか、834アミノ酸Taq DNAポリメラーゼに由来するセグメントを取り除くこと(熱安定性を改善するのに役立つ)により作成された544アミノ酸Stoffel断片が挙げられる。
【0064】
キメラポリメラーゼは、2つ以上の天然ポリメラーゼに由来する配列を含有するポリメラーゼである。例として、KOD由来の1セグメント及びPfu由来の1セグメントを有するKofuが挙げられる。
【0065】
融合ポリメラーゼは、非ポリメラーゼタンパク質のある特定のセグメントを天然又はキメラポリメラーゼに付加して、それにある特定の望ましい特性を付与することにより作成されたポリメラーゼである。例として、小型の塩基性クロマチン様Sso7dタンパク質をDeep Vent及びPfu由来のキメラに融合させることにより作成されたPhusion(New England Biolab社); PfuUltra(登録商標)II Fusion(Stratagene社);及びHerculase II Fusion(Stratagene社)が挙げられる。
【0066】
改変されたポリメラーゼの例として、
a)6個の突然変異 - F73S、R205K、K219E、M236T、E434D、及びA608Vを含有する、指向的進化により派生したバリアントTaqポリメラーゼT8(Ghadessyら、2001年; Hollingerら、米国特許第7,514,210B2号);
b)Bournらにより記載されるKofu及びTaq polのバリアント(KAPA Biosystems社に付与された米国特許8,481,685B2号、同第10,457,968B2号);
c)Areziら(2014年)により記載される高速サイクリングTaqバリアント;並びに
d)古細菌ファミリーBポリメラーゼのバリアント、例えばノックアウトウラシル結合ポケットに進化したPfu及びShIB等(Connollyら、2009年; Tubeleviciuteら、2010年)。
が挙げられる。
【0067】
上記ポリメラーゼにまったく限定されることなく、Deep Vent、Herculase II Fusion、Klenow断片、KOD、Kofu、Pfu、PfuUltra II Fusion、Phusion、Pwo、Stoffel断片、Taq、Tgo、T8、Vent、及び工学的に作出された様々なDNAポリメラーゼのバリアントが、本発明において使用可能である。しかしながら、Taq DNAポリメラーゼが最も一般的であり、最も幅広く用いられているPCR反応用の「ワークホース」ポリメラーゼであるので、本発明者らの実験用としてこれを選択する。
【0068】
有機溶媒及び有機水性媒体:酵素は水中で反応を触媒するために自然界で進化した。水になじまず、そして有機溶媒ドメイン内に進入する媒体の使用は、研究用途及び工業用途の両方を目的として、酵素をin vitroで応用するという特別なニーズに適合させるためのヒトの発明である。この観点からすれば、有機水性媒体内の酵素反応は、それ自体独立した探求分野である。
【0069】
有機溶媒の存在下で生ずる酵素反応は、ほぼ有機性から始まりほぼ水性に至る全スペクトルにまたがる可能性がある。水及び水に非混和性の有機溶媒からなる二相性混合物(前者が後者内に懸濁状態で維持される場合もあれば、その逆の場合もある)内の反応も含めることができる(Koskinen及びKlibanov、1996年)。
【0070】
有機媒体の場合、若干量の水、たとえそれが痕跡濃度であっても、酵素が機能するために常に必要である。したがって、有機媒体内での酵素反応の分野は、100%有機媒体ではなくほぼ有機媒体から開始する。Kuntz及びKauzmannが述べるように、水は「酵素分子潤滑剤」である(Kuntzら、1974年)。酵素反応のための有機溶媒の有用性に関する初期の研究の優れたレビューは、Klibanovにより提供される(Klibanov、2001年)。
【0071】
これまでに試験された酵素反応のほとんどは加水分解酵素である。その場合でも、その他の種類の反応を生体分子上で実施するいくつかの酵素と比較して、その反応で基質として用いられた有機分子は小型のものに限定された。PCR反応はその他の種類の反応に属するが、それは、有機溶媒が関与する先行技術の酵素反応媒体は、本発明者らにとって若干の意義を有したものの、何らかの具体的なガイダンスを提供し得ないことを意味する。
【0072】
本発明者らの初期の研究において、本発明者らは、水と混和したときに、多くの基質、特に高GC含有量の基質のPCR増幅に対する優位性が証明されたある種の有機性共溶媒を特定した。このような有機性共溶媒は、低分子量アミド、スルホキシド、スルホン、及びポリオール(特にジオール)として本発明者らが定義した4つの化学的分類に特に属する(Chakrabarti、2002年、2004年; Chakrabartiら、2001年 Nucleic Acid Res、2001年 Gene、2002年 Biotechniques; 米国特許第6,949,368号;米国特許第7,276,357B2号;及び米国特許第7,772,358B2号)。初期のDMF、DMSO、及びグリセロールは、高GC標的のPCR増幅において若干の有益な効果を有することも報告された(Sarkerら、1990年、Pompら、1991年、Henkelら、1997年)。このような低分子量有機性共溶媒の中でもより有用なメンバーの網羅的なリストを下記に提示し、またその一部の化学構造を
図3に示す。
a)低分子量アミドから選択されるとき、そのメンバーは、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、イソブチルアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン(NMP)、N-ヒドロキシエチルピロリドン(HEP)、N-ホルミルピロリジン、N-ホルミルモルホリン; δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、2-アザシクロオクタノンである(16化合物)。
b)低分子量スルホキシドから選択されるとき、そのメンバーは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n-プロピル スルホキシド、n-ブチルスルホキシド、メチルsec-ブチルスルホキシド、及びテトラメチレンスルホキシドである(5化合物:
図3b)。
c)低分子量スルホンから選択されるとき、そのメンバーは、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジ(n-プロピル)スルホン、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、及び2,4-ジメチルスルホラン、及びブタジエンスルホン(スルホレン)である(6化合物:
図3c)。
d)低分子量ジオールから選択されるとき、そのメンバーは、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及び2-メチル-2,4-ペンタンジオールである(13化合物;
図3d)。
e)ジオール以外では、トリオール、すなわちグリセロール(すでに記載の通り)もまた、特定の高GC標的の増幅を増強するのに役立つことが判明した。
f)好ましい有機コンポーネントに属し得るその他の有機化合物として、とりわけベタインが挙げられる。
【0073】
PCRバッファーの一部分として使用されるとき、これらの共溶媒は本質的に主として水性(これまでに記載した主として有機性反応媒体の対向するスペクトルに対峙する)である有機水性反応媒体を提供する。これらの共溶媒は、下記のベネフィットを提供することにより、高GC含有ポリヌクレオチド標的を増幅する際に特に有効であることが判明した:
●二本鎖DNAの融解温度降下:これは、非常に高温融解性のDNA標的であっても、DNA損傷を引き起こさない温度、すなわち95℃以下において、そのような標的はより良好でありより完全に変性することを意味した。標準的な水性バッファー内で増幅不可能であった目標物も、このような改変されたバッファー内で増幅可能であった。
●特に、このような混合型有機水性バッファーは、伸長反応の停止、したがって非特異的生成物の形成の主原因であるssDNA鎖内の二次構造を容易に開放したという事実に鑑み、生成物の特異性はより良好となる。
●このような混合型溶媒中のポリメラーゼ分子は忠実性の改善を示す。
【0074】
しかしながら、このようなシステムには、そのより広範囲に及ぶ応用を妨げた重大な制約が存在する。主たる制約は、このようなシステムにおけるDNAポリメラーゼの熱安定性である。この制約は、リストの異なるメンバー毎に、異なる次元においてそれ自体を顕在化させる。このような次元は、化合物が異なれば異なる、各共溶媒の有効範囲、効力、及び特異性という用語で表現される(Chakrabarti R.、2004年)。
【0075】
共溶媒の有効範囲は、所与の標的の増幅がその最高ポイントに到達する濃度であって、それを上回る濃度では増幅が阻害され始める濃度の範囲として定義される。換言すれば、共溶媒の有効範囲は、ある濃度範囲(その範囲外では何らかの有益な効果を示さなかった)を有した。化合物が異なればこの範囲も異なり、また同一の化合物であっても標的が異なれば異なった。
【0076】
共溶媒の効力は、当該共溶媒の有効範囲内で、任意の標的増幅について取得可能であった標的バンド増幅の最大濃度測定容積として定義される。それは、その有効範囲内の最も有効な濃度における共溶媒の最大の有効性であった。
【0077】
特定の濃度における共溶媒の特異性は、望ましくない非特異的バンドを含むすべてのバンドの総容積に対する標的バンド増幅の容積の比として定義される(パーセントとして表される)。例えば、PCRに基づく疾患診断における偽陽性及び偽陰性は、反応特異性不良の結果である。共溶媒に基づくPCRの使用はこの領域において極めて役立ち、また共溶媒特許のライセンサーの一部は、この目的のために特別にライセンス取得した。
【0078】
上記で定義したようなPCR共溶媒のほとんどは、増幅の範囲及び増幅された生成物の特異性に関して優れた増幅をもたらしたが、DNA標的、特に高GC含有量であり、標準的な条件下で増幅に対して抵抗性を有するDNA標的の場合、共溶媒が有効である濃度範囲が狭いことから、その性能は多くの場合極めて限定された。
【0079】
更なる調査により、このような欠陥は、このような共溶媒の存在下で、酵素の安定性が減少すること(半減期の短縮)に起因したことが判明した(Chakrabarti、2002年、2004年)。ポリメラーゼの半減期は温度が上昇すると共に減少するが、それは、酵素は共溶媒の存在下では、温度が高くなるほど熱安定性が低下したことを意味する。実際、92℃~95℃でのDNAポリメラーゼの熱安定性(PCR反応の変性ステップが通常実施される範囲)は、最も効力が高く、最も特異的な共溶媒を添加することにより大幅に低下した。本発明者らは、このような欠陥に対する理由は、PCRに使用されるほとんどのDNAポリメラーゼは、天然由来であるか又は天然物の単純な操作から作成されたという事実にあることを主張した。自然界は、水性環境内での性能についてこのような酵素を進化させた。本発明者らは、上記で概説したような有機水性媒体内で機能するように、DNAポリメラーゼを人工的及び最適に設計できたとしたら、このような新規ポリメラーゼが適用される機会及び範囲は有意に広がるであろうことを更に主張した。設計には、効力及び特異性に付加して増幅のスピード(高速PCR)等の追加因子が含まれ得る。
【0080】
共溶媒の特性を、PCR反応における酵素の挙動に対するその影響について、その最も重要な特性(DNA融解、熱安定性、効力(活性)、有効範囲、及び処理能力)に関して綿密に試験すると、共溶媒の各群は、その群を最も代表する1つ又は2つのメンバーを有したことが示唆される(Chakrabarti, R.、2002年、2004年)。このようなメンバーとして、アミドの場合N-メチルピロリドン及び2-ピロリドン;スルホキシドの場合ジメチルスルホキシド(DMSO)及びテトラメチレンスルホキシド;スルホンの場合スルホラン(テトラメチレンスルホン);並びにジオールの場合1,3-プロパンジオール及び1,4-ブタンジオールが挙げられる。これらは、本出願の授権者でもあるChakrabarti Advanced Technology社からのライセンス付与を受けつつ、自閉症スペクトラム疾患の診断や増幅するのが困難なその他の標的の増幅等を用途とする市販バッファーにおいて今日幅広く使用される化合物である。
【0081】
別の顕著な観察事項として、共溶媒の代表的なメンバーは、異なる種類の基質に対して異なる挙動を有したものの、そのポリメラーゼに対する影響に関しては極めて類似した挙動を有することが挙げられた。こうしたことから、これらの溶媒がdsDNA、及び酵素一般、特にポリメラーゼを不安定化させる機構は類似している。両者は、dsDNAの場合、二重らせんを共に保持し、また酵素の場合には、その折り畳み構造(その活性に関与する)を保持する水素結合の弛緩と関係する。したがって、DNA又は酵素の二次構造を不安定化させる溶媒の能力は、移転可能な特性であり、溶媒固有の係数を掛け算することで1つの溶媒から別の溶媒に移転可能である。係数は様々な要因、その中でもとりわけ複雑な3次元構造内部での分子の幾何学的適合に依存し得る(Chakrabarti、2002年)。
【0082】
溶媒固有の係数を使用することにより、DNA不安定化データを1つの溶媒から別の溶媒に移転する際の移転可能性に関する結論を実験的に確認するために、4つの異なるオリゴヌクレオチドdsNDA(0%、50%、70%、及び100%のGC含有量を有する)を用いながら、本発明者らのリストの溶媒のうち、その代表的なメンバーのいくつかについて融点(Tm)降下実験を実施した。結果(実施例14)は、これらの溶媒の任意の1つによる融点降下はその濃度に直接比例し、したがって各溶媒に固有の係数を含む一般化された式で表され、そして標的のGC含有量とは多かれ少なかれ無関係であることを明確に示している。本発明者らのこれまでの研究(Chakrabarti 2002年)において、本明細書の異なる有機性共溶媒のモル濃度と72℃及び95℃における野生型Taqポリメラーゼの半減期の低下(t1/2の低下)との間に直接的な相関が存在することを実証した。実施例15において、本発明者らは、例として1,4-ブタンジオールを使用しながら、有機性共溶媒によるDNAのTm降下がDNAのGC含有量とは無関係であるのとまったく同様に、t1/2の低下は、ポリメラーゼが野生型Taq又はある特定の突然変異が導入されたそのバリアントのいずれであっても、それとは無関係であることを実証する。XがYに直接比例し、Zにも直接比例する場合には、YはZに直接比例するはずであることは自明の理である。本ケースにおいて、DNAのTm降下及びDNAポリメラーゼのT1/2低下のいずれも溶媒のモル濃度に比例するので、前者の関数(Tm及びT1/2)は両方とも相互に直接比例する関係にあるはずである。これは、dsDNAのTm降下の知見は、ポリメラーゼのt1/2特性に全体として移転可能であるはずであることを意味する。したがって、本発明者らのリストに上る溶媒のうちの1つに対して耐性を有するDNAポリメラーゼを開発したとすれば、それは、本発明者らのリスト内のその他の溶媒に対しても、まったく同一ではないかもしれないが類似した耐性を示すであろうことは必然である。
【0083】
このような実験は、混合型水性有機媒体用のポリメラーゼを設計するという課題をより容易なものにする。1,4-ブタンジオールは、本発明者らが有効なPCRエンハンサーであることを見出したすべての溶媒の範囲の中でほぼ中央に位置するDNA融点降下を示した溶媒のうちの1つであったので、本発明者らは、このような目的のために1,4-ブタンジオールを共溶媒として選択した。
【0084】
これまでにすでに記載したように、有機性共溶媒の存在下で特に有効なDNAポリメラーゼを設計するために、本発明者らは様々な技術の組合せを使用した。このような技術には、指向的進化、CSR富化、NGS、遺伝子合成と部位指向的突然変異誘発、及び理論的計算(ΔΔG及びΔΔSvibの)が含まれたが、そのそれぞれは以下で詳細に記載される。
【0085】
指向的進化:タンパク質工学は、in vitro用途の酵素の安定性及び機能を改善するために、タンパク質の異なる位置においてアミノ酸を操作することと関係する。指向的進化は、この目標を実現するための最も幅広く用いられている方法である。操作は、タンパク質の遺伝子レベルで、すなわちコーディングDNAにおいて実施される。指向的進化の技術は、最も一般的には、ランダム突然変異誘発(下記参照)と、それに後続するハイスループットスクリーニング、及び望ましい特性を有するタンパク質をコードするライブラリーのそのようなメンバーを特定するための選択を通じて、バリアント遺伝子の大規模なライブラリーを構築することに立脚する。プロセスは、望ましい性能レベルが達成されるまで、数回反復され得る。
【0086】
指向的進化の理論的フレームワークはごく初期に確立されたが(Eigen 1984年)、その技術のパワーはFrances H Arnoldのグループにより初めて実際に実証されたが、彼らは、加水分解酵素サブチリシンEに指向的進化を施すことで、有機水性媒体(使用した有機溶媒はDMFであった)という極めて非自然的(変性性)環境においても活性なバリアント酵素をもたらすことを報告した。彼らは、サブチリシンEを進化させるために、3ラウンドのランダム突然変異誘発及びスクリーニングを通じて、DNA配列ライブラリーを創出し、再多様化させたが、そのためにエラープローンPCRを使用した。使用した選択基準はミルクタンパク質カゼインの加水分解であった。細菌コロニーにより分泌された酵素を、DMF及びカゼインの両方を含有する寒天プレートに移した。活性なバリアントが、DMFの存在下、寒天プレート上で、該バリアントがカゼインと共に生成したハローにより検出された。プラスミドDNAは、親酵素周囲のハローよりも大きなハローを生成した酵素バリアントを分泌するクローンから単離され、そしてそれに突然変異誘発の更なるラウンドを施した。最終的なバリアント酵素は、60%(v/v)DMFにおいて、野生型よりも256倍高い活性を有した(Artnold 1993年)。この実験(それに対して、後にArnoldは2018年ノーベル化学賞が授与された)は、技術の更なる探索及び探求分野の開発に乗り出し、それは以来指数関数的に増加した。
【0087】
指向的進化の必要不可欠な部分のうちの1つは、遺伝的(DNA)レベルでの多様性生成である。この目的のために様々な方法が利用可能である。多様性生成のための最も一般的に使用される2つの方法として、エラープローンPCR(epPCR)及びDNAシャッフリング(StEP PCR)が挙げられる。
【0088】
エラープローンPCR(epPCR)は、遺伝子内にランダム突然変異を導入するのに使用される最も一般的であり効率的な方法である。これは、コピーエラーを意図的に導入するために、低忠実性ポリメラーゼ、すなわちプルーフリーディング又は3'→5'エキソヌクレアーゼ機能を欠くポリメラーゼを用いてPCR反応を実施することと関係する。エラーの程度は、改変されたヌクレオチドを添加することにより更に増加させることができる。プルーフリーディング機能を欠くことで、伸長プロセス期間中にヌクレオチドをランダムに誤取り込みさせることが可能になる。この方法の1つ欠点は、自明なように、指向的進化用として多様性ライブラリーを開発するのに使用されるとき、導入された多数のランダム突然変異(多くの場合、95%を上回るほど多くの)は、意図された特別な特性にとって開始遺伝子ほどには望ましくないことが証明されており、したがって該方法は、好ましくない遺伝子を好ましい遺伝子から容易に分離及び/又は除去することができる方法と連携して使用されることである。同じ理由から、望ましいものが望ましくないものから単離された後に、望ましいプールをepPCRにより更に多様化させた場合、より良好なクローンの一部が不活性化することにより、多くの場合、有益となるよりは有害となり得る。
【0089】
DNAシャッフリングは、DNase Iによる遺伝子のランダムな断片への消化、並びに通常プライマーレス及び改変されたPCRによる、断片の完全長遺伝子への再会合(Stemmer、1994年)と関係する。断片は配列ホモロジーに基づき相互にプライマーの役目を果たし、また遺伝子の1つのコピーに由来する断片が別のコピーに由来する断片にアニールするとき、組み換えが生ずる。PCRの改変は、アニーリングステップ及び伸長ステップが、互い違いのDNA断片を生成するために、及びテンプレート配列の全長に沿ってクロスオーバー事象(シャッフリング又は断片のスイッチング)を促進するために有意に短縮している互い違いの伸長プロセス(StEP)と関係する(Zhaoら、2006年)。
【0090】
非常に短いSt-PCRサイクルを多数使用することにより、プライマーとして作用する断片内の隣接するセグメントは、最終的に完全長遺伝子配列が生成されるまでいくつかのヌクレオチドにより伸長されるに過ぎない。低忠実性ポリメラーゼを使用するepPCRとは異なり、StEP PCRは、StEP PCRサイクル(約150サイクル)が多数回繰り返される結果として過剰に多くの新規突然変異が加わるのを回避するために、高忠実性ポリメラーゼを使用することを好む。DNAシャッフリングは、制限酵素を使用しても生成可能であり、その場合、断片はDNAリガーゼを用いて再結合可能である。
【0091】
DNAシャッフリングは、指向的進化実験のために多様化を創出するのに重要な技術である。多様化は、2つ以上の遺伝子に由来する有用な突然変異を組み合わせて単一の遺伝子にすることに起因する。シャッフリングの主たる目的は既存の突然変異を再構成することであるが、新規突然変異の導入を回避することはほとんど不可能である。本発明者らの場合、StEP PCRを実施したとき、ほぼすべてのアミノ酸位置において、非常に低い強度ではあるものの、突然変異が導入されたことを見出した。本発明者らは、シャッフリングされた生成物の新規CSRは計画よりも多くの多様性に遭遇したので、これを有益な現象とみなした。
【0092】
StEPによるシャッフリングは、2つ以上の標的配列からキメラライブラリーを生成するのに好都合な方法である。本発明において、本発明者らは、複数の好ましい突然変異を含有する新規のバリアントポリメラーゼ構造を生成するために、2つ以上の突然変異体ポリメラーゼ(2つ以上の好ましい突然変異をそれぞれ有する)間でDNAシャッフリングを使用した。
【0093】
epPCR及びDNAシャッフリングは、とりわけ、多様性生成のための最も幅広く用いられている2つの方法であるが、同じことを行うためにその他の方法も利用可能である。2つそのような方法は下記の通り:
a)ランダムプライミングin vitro組み換え。これは、ランダム配列プライマーを用いてテンプレートポリヌクレオチド(複数可)をプライミングするステップ、及びコントロールされたレベルの点突然変異を含有する短いDNA断片のプールを生成するための伸長ステップと関係する。断片は、変性、アニーリング、及び更なる酵素触媒式のDNA重合のサイクル期間中に再構成されて、完全長配列のライブラリーを生成する(Shaoら、1998年)。
b)飽和突然変異誘発:飽和突然変異誘発は部位飽和突然変異誘発とも呼ばれ、多様化ライブラリーを調製するのに使用される方法であり、任意の特定部位又は事前に決定された数の部位におけるアミノ酸変化のより深い考察が、指向的進化プロジェクトにおいて望まれる(Reetzら、2007年)。ここでは、単一のコドン(又はコドンのセット)が、可能性のあるすべてのアミノ酸と置換され、事前に決定された部位の1つ又はいくつかのにおいて20種類の天然アミノ酸すべてを含有するライブラリーを提供する。飽和は、プライマー内にランダム化したコドンを用いた部位指向的PCRにより、又は人工的遺伝子合成により達成され得る。
【0094】
選択圧力:多様化したライブラリーを創出した後に、指向的進化における次の主たる課題は、選択基準を選択することである。これは、新たに進化した酵素が満たすものと予測される基準である。サブチリシンEの進化についてFrancis Arnoldが行った精液の研究の場合、当該グループが選択した選択基準は、野生型酵素にとって通常有毒な有機溶媒DMFの存在下でのカゼインの加水分解であった。酵素及びその天然基質(複数可)とは異なる可能性がある基質(複数可)上、又はその天然媒体とは異なる媒体中でのその性能の望ましさに応じて、選択される選択基準は異なる可能性がある。本ケースでは、選択圧力(高温及び溶媒)を、CSRのPCR反応の期間中(下記参照)、並びにRT qPCRによる生成物のスクリーニング期間中に適用した。選択圧力は、突然変異を通じ新規基準に対する「適合性」を発達させたバリアントのみが生き延びるのを可能にした;野生型を含む、それほど適合性を有さないその他のバリアントは選択圧力(複数可)下で生き残らず、コロニーから消滅した。選択圧力は、最終的な選択基準に最終的に到達することを目標として、ステップ毎に強度を増加させながら、徐々に、数ステップにおいて加えることができる。多様化は、開始時又は選択ラウンド間において1回だけ実施可能である。ランダム突然変異(epPCR)が多様性生成に使用されるとき、これまでに記載したように、追加の中間的な多様化ステップは、追加の突然変異を通じて良好なバリアントの一部が不活性化することにより、有益となるよりはむしろ有害となるおそれがある。これは、いくつかのその他の多様化法(好ましい配列のDNAシャッフリング等)には当て嵌まらない可能性がある。
【0095】
指向的進化における2つの重大な課題として、したがって:
a)好ましい突然変異を有するバリアント遺伝子を含有する可能性がある強靭な多様化ライブラリーを生成する能力;及び
b)それほど適合性を有さない遺伝子を排除し、そして選択圧力を生き延びることに対してより良好な適合性を有する遺伝子を回収する創造的手法
が挙げられる。多くの酵素、特にDNAポリメラーゼの指向的進化の場合、区画化された自己複製法(CSR)が、特に適することが見出されている。
【0096】
区画化された自己複製法(CSR)を使用する選択:油中水型逆相エマルジョン系を使用するこの選択技術は、DNAポリメラーゼのような酵素の指向的進化に比類なく適すると思われる。このプロセスを、天然型ポリメラーゼよりも熱安定性及びヘパリン耐性が改善したTaq DNAポリメラーゼのバリアントを調製するために使用することに、英国のPhillip Hollinger及びその共同研究者らが初めて成功した(Ghadessyら、2001年、2007年)。彼らが発見した最良の性能を有するバリアントT8は、6個の突然変異:F73S、R205K、K219E、M236T、E434D、及びA608Vを有した。これらの突然変異の最初の4個(F73S、R205K、K219E、及びM236T)は5'→3'エキソヌクレアーゼドメイン内でクラスター化しており、位置1から位置288まで延在する。これに関連して、エキソヌクレアーゼドメインを欠くTaqバリアント(すなわち、Stoffel断片)は、改善した熱安定性を示すことに留意されたい。これら2つの事実は、Taqポリメラーゼのエキソヌクレアーゼドメインは、酵素の構造の残りの部分よりも耐熱性が低いか、又は熱的不安定性の起源であり得ることを示唆する。T8は、熱不安定性エキソヌクレアーゼ断片内の6個の突然変異のうちの4個を有することから、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性障害を発現したものと思われる。
【0097】
W/Oエマルジョン:CSRは、コロニーに由来する個々の細菌をエマルジョンドロップレット内に区画化することができ、したがって遺伝子型と表現型との間の関連性の維持を可能にする油中水型逆相エマルジョンを調製することが可能であるという事実に依存する。次に、CSRの最も重要な側面は、連続的な油性媒体内に数百万個もの水性エマルジョンドロップレットを有する逆相(W/O)エマルジョン[一般的な水中油型(O/W)エマルジョンとは対照的]であって、ドロップレットがいかなる化学的意味合いにおいても相互に連通不能である、W/Oエマルジョンを設計することである。Ghadessyら(2001年)の場合、Sweasyら(1993年)により記載されたエマルジョンを若干改変することで、その系内でうまく機能したが、しかしその他のコンポーネント、例えば本明細書における有機溶媒と同様の有機溶媒等が導入されるので、プロセスが複雑化するおそれがある。エマルジョン技術に伴う問題は、生成物は、多くの場合、例えば薬物製剤に含まれる等、非常に高価であるので、ほとんどの場合、安定なエマルジョンを作成することの背後にある正確な科学は秘密のベールに覆われたままであるという事実に依拠する。ミセル溶液(Micellar solution、Hartley)、ナノエマルジョンs(Graves、2004年)、マイクロエマルジョン(Microemulsion、Schulman、1940年)、膨潤ミセル(Adamson、1969年)、及びミニエマルジョン(Ugelstad、1973年)等の用語の定義でさえ、ユーザー間で何らかのコンセンサスが得られないまま混在した方式で使用されている。何らかの幅広い一般的化がなされなければならないとすれば、それはその熱力学的及び動力学的安定性に関しておおまかなガイダンスを提供するエマルジョンドロップレットの直径を用いた分散相の粒子サイズに基づく。分散相の粒子サイズが直径1μを下回るとき、エマルジョンは熱力学的に安定であり、またそのサイズを上回るエマルジョンは準安定であり、そして様々な程度の動力学的安定性を示し得ると考えられている(McClements、2012年)。もちろん、熱力学的安定性が終焉し、そして動力学的安定性が開始する接合点は、本発明者らが本明細書において理解するように明確なものではないが、分散相の粒子サイズが15μ~50μの範囲であるエマルジョンは、特にそれが設計される目的に照らし実証的に安定である。
【0098】
エマルジョンの性質は、非極性(油性)相の性質、水相の組成、使用した乳化剤の性質及び組成(様々な種類の陰イオン性、陽イオン性、又は非イオン性界面活性剤であり得る)、並びにこれら3コンポーネントの相対的な量を含む、但しそれに限定されない様々な要因に依存するので、ある特定の基準に基づきエマルジョンを定義する問題は非常に困難なものである。もちろん、ある特定の小型の有機化合物、特に短鎖脂肪族アルコールが系に添加されるとき、物事はよりいっそう複雑となる。このようなアルコール(指向性の極性を有するモノオール)はそれ自体メリットを有し、水相及び/又は油相のいずれにおいても分子溶解性しか示さず、エマルジョン系に添加されたとき、補助界面活性剤としてふるまう。実際、このような短鎖アルコール(ブタノール及びオクタノールのような)はマイクロエマルジョンの重要なコンポーネントであり、また多くの場合、系が油中水型(W/O)エマルジョン又は水中油型(O/W)エマルジョンのどちらを形成する傾向を有するか決定する(Prince、1977年)。本明細書のエマルジョン系の必須コンポーネントは、ある特定の低分子有機溶媒からなり、該低分子有機溶媒は必ずしもモノオールのような一方向極性分子ではないが、それにもかかわらず4つの化学的構造群(アミド、スルホキシド、スルホン、及びジオール)に属する低分子量極性有機溶媒であるので、このような現象は本明細書にとって特に興味深い。このような溶媒の存在下では、エマルジョン安定性は我々にとって未知の領域内に置かれる。そのような混合型溶媒系はこれまでに試験されたことはなく、したがって若干のより深い考察を必要とする。
【0099】
主にコロイド系を取り扱う様々な理論的モデルは公知であり、またその開発は恒常的に継続するが、それは、コンポーネントの複雑な混合物から安定なエマルジョンを設計する際には、それほど実用的価値を有さない。この点に関して役立ったと思われる1つの理論は、1950年代にP.A.Winsorにより開発されたものである(Winsorの「可溶化のR理論」として公知)。それは、一方の側面としてW/O、他方の側面としてO/W、及びその中間の端部開放型(及び連通式)の液晶構造を含む、エマルジョン系のすべての相を包含する、最も有名で理解しやすい理論としてなおも存続する(Wnidsor、1948~1960年)。
【0100】
WinsorのR理論:Winsorの理論は、界面活性剤、油、及び水の間の引力(静電気及び電気運動現象の両方)の分子間プロセスについて検討する。静電相互作用はイオン及び双極子間の作用であり、そして親水性特性に寄与する。それをA
Hと表す。電気運動相互作用は、分子内の電子の運動に起因し、またそれはなじみ深いvan der Wallの相互作用(非極性物質、例えば炭化水素分子等間の引力に関与し、したがって疎水性特性に寄与する)である。そのidをA
Lと表す。
例えば、二成分系溶液の単位量内では、分子相互作用は以下により表される:
【数1】
【0101】
相互作用AAA又はABBは、A分子又はB分子それぞれのクラスタリング、及び最終的には相分離を促進する。相互作用AABはA分子及びB分子の混合を促進する。しかしながら、これらの相互作用のいずれも濃度及び温度依存性である。
【0102】
Winsorは、3種類のミセル、すなわち層状ミセル(液晶構造)、球状Hartleyミセル(水中油)、及び球状逆ミセル(油中水)の間の平衡を仮定することから開始する。3コンポーネント系(界面活性剤、油、及び水)において、次に以下のように比Rを定義する:
R=(界面活性剤単層が油に向かって凸となる傾向)/(同一の層が水に向かって凸となる傾向)
これを
図4に示す。
【0103】
液晶溶液の安定性にとって必須の条件はR=1であり、すなわち、その場合、界面活性剤単層はその油性又は水性環境に向かって凸又は凹となる傾向を示さない。界面活性剤単層が油相に向かって凸となる傾向は、界面活性剤と油分子との間の相互作用により支援を受け、及び油分子間の相互作用により妨げられる。同様に、界面活性剤層が水に向かって凸となる傾向は、界面活性剤-水相互作用により支援を受け、及び水-水相互作用により妨げられる。組成物に伴うRの変化は、したがって下式
【数2】
により表され、式中S=界面活性剤、W=水、及びO=油である。
【0104】
水に溶解した界面活性剤の希薄溶液(油が限定された量で存在する)において、Rは質量作用効果に起因して減少し、そして外部水相に向かって「極性の側が外部に向いた」球状ミセル(O/W Hartleyミセル又は水中油のミセル溶液)をもたらす。高濃度の界面活性剤において(水と油はいずれも限定された量で存在する)、R=1で、液晶構造は安定となる。界面活性剤濃度がなおもより高い(水が限定された量で存在する)場合、油相に向かって「疎水性の側が外部に向いた」球状逆ミセル(W/O エマルジョン)が形成される。層状又は液晶構造の形成に資する条件下で、低分子量アルコール(それ自体界面活性剤ではない)が導入されたとき、興味深いケースが生じ、この場合、このようなアルコールは補助界面活性剤として作用し、そしてそれ自体が界面活性剤単層内で整列して膨潤ミセル(多くの場合、マイクロエマルジョンと呼ばれる)をもたらす。アルコールの炭化水素尾部の正確な鎖長又は疎水性に依存して、層状ミセルは、球状の水中油又は油中水型エマルジョンドロップレットを含むマイクロエマルジョンに変化し得る。より短い鎖長のアルコール(C
3~C
5)は水中油型マイクロエマルジョンをなす傾向を有する一方、より長い鎖長のアルコール(C
6~C
10)は油中水型マイクロエマルジョンを形成する傾向を有する。その他の要因、例えば水の塩分、温度、油(脂肪族、芳香族、混合物、又はその他)の正確な性質、界面活性剤の性質(陰イオン性、陽イオン性、双性イオン性、非イオン性、及びこれらの様々な構造的形態)等も、エマルジョンの正確な性質の決定において役割を演ずる。
図4は、WinsorのR理論について極めて単純化した概略図を表す。
【0105】
短鎖アルコールの効果より、本明細書に記載される有機溶媒は、本発明者らが追い求めるO/Wエマルジョンの形成及び安定性に対して強い効果を有するはずであることが示唆されるが、それは何らかの具体的なガイダンスをもたらさない。本発明者らの系に関する限り、イオン性界面活性剤は、いずれも本発明者らのCSR反応物質と追加の相互作用を有し得るので、本発明者らは非イオン性界面活性剤以外のあらゆる界面活性剤について検討することには消極的である。非極性相として炭化水素、極性相として有機水性媒体、及び乳化剤として非イオン性界面活性剤からなる本発明者らのエマルジョン組成物は新規の組成物であるが、またそれらは、油中水型エマルジョン(極性のドロップレット(有機溶媒又は生体分子をその中に含む)の内容物がそれらの間で置換及び/又は共有され得ない)を形成するように設計されなければならなかった。
【0106】
乳化剤:本発明のW/Oエマルジョンを作成するのに有用であることが判明している乳化剤は、非イオン性界面活性剤と呼ばれる界面活性剤のクラスに属する。それは、
図5に示す化学基に属する1つ又は複数の分子から構成され得る。
【0107】
本発明において乳化剤として使用可能である非イオン性界面活性剤は、
図6に示すような非イオン性フッ素系界面活性剤であってもよい。このような界面活性剤は、フルオロカーボンからなる疎水性尾部(R'')を有する点で、
図5にリスト化する従来の非イオン性界面活性剤とは異なる。例として、3M社のNovac(登録商標)ブランドのフッ素系界面活性剤が挙げられ、最も一般的な代表的メンバーのうちの3例として下記のものが挙げられる:
●3M(登録商標)フッ素系界面活性剤FC-4430;
●3M(登録商標)フッ素系界面活性剤FC-4432;及び
●3M(登録商標)フッ素系界面活性剤FC-4434
【0108】
油:本発明のエマルジョンにおいて連続的な外部相として作用する油は、低~中程度の粘度を有する疎水性の液体である。油は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、又は両者の混合物であり得る。一般的なタイプは、200℃を上回る沸点を有する、精製されたパラフィン系及びナフテン系炭化水素の混合物である、低~中程度の粘度を有する鉱物油である。
【0109】
当目的にとって特に有用な鉱物油は、軽油(40℃において最低粘度15cP、25℃において比重0.85、及び約215℃の引火点(クローズドカップ)を有する)である。
【0110】
本発明のエマルジョンを作成するのに使用可能である興味深い油のクラスは、合成油である。合成油の中でも特に注目すべきものは、高沸点フッ素化炭化水素(PFC)、又はPFCとパーフルオロポリエーテル(PFPE)との混合物である。これらの従来のフッ素化合成化合物に対する代替品として、工学的に作出された液体(3M社製のNovac(登録商標)7500液状物)が挙げられる。乳化剤としてフッ素系界面活性剤と共に用いられるNovac(登録商標)7500液状物は、エマルジョンが英国のDolomite Microfluidics社製μEncapsulatorを使用して作成されるとき、特に有用である(下記を参照されたい)。
【0111】
機械エネルギー:エマルジョンを調製する場合、油、水性系、及び乳化剤の適切な選択だけでなく、連続相内での内部相の分散に役立つ機械エネルギーの適用も必要とされる。これは、撹拌ロッドを用いて手動により撹拌すること、通常のマグネチックスターラー又はモーター付きのブレードスターラー(ブレードは、金属、テフロン、又はガラスから作成され得る))のような機械式デバイスを使用して、又はいわゆるHersbergスターラー(ロッドの一方の端部に連結したワイヤーであって、その他方の端部がモーターに連結しているワイヤーからなるデバイス)を使用して、又は日常の研究室現場において使用されるその他の多くの形態のスターラーを用いて撹拌することによって、乳化剤と共に2相を混合することにより実施可能である。
【0112】
上記の類のスターラーは、ほとんどの乳化作業にとって十分であり得るが、単分散ドロップレットを含む非常に均一なエマルジョンが望ましいとき、高度に洗練された機器が必要とされる。1つのそのような機器は、英国のDolomite Microfluidics社より販売されているμEncapsulatorである。本明細書において、本発明者らは、ドロップレットサイズが15~30μの範囲内の単分散エマルジョンを作成するのにμEncapsulatorを使用し、大いなる成功を収めた(
図9)。
【0113】
エマルジョンの安定性:エマルジョンは、その完全性を維持しなければならず、また室温よりもかなり高い温度であっても、少なくともPCRにおける変性温度まで、化学的意味合いにおいて相互に連通(すなわち、その内容物が交換)してはならないが、それは、エマルジョンドロップレットは、好ましくは室温~100℃のすべての温度において、その同一性及び組成的完全性を維持すべきであることを意味する。理論はそのような系を設計するのに役立ち得るが、但しそのような完全性を実証する厳格なテストに最終的に合格しなければならない。
【0114】
本発明者らが本発明者らの逆相エマルジョン製剤において有機性共溶媒として1,4-ブタンジオールを使用した本明細書において、本発明者らは、Sweasyら(1993年)やGhadessyら(2001年)の場合に通用し、本発明者らの場合にも通用した同一の油と界面活性剤の組合せが、ドロップレットサイズが幅広く分布したにもかかわらず相互に連通しない球状のエマルジョンドロップレットを含む安定な油中水エマルジョンをもたらすという思いがけない一致を見出した(
図7)。界面活性剤と油の若干異なる組合せ、並びに異なる相を混合及び分散するために機械式の機器(Dolomite社製のμEncapsulator(登録商標)システム)を使用しながら、更なる試行錯誤実験を行い、その後より均一なドロップレットサイズ分布を実現した(
図9)。
【0115】
本明細書におけるエマルジョン組成は複雑であるが、それは、コンポーネント(油、乳化剤、有機相/水相)、及びその相対的な割合を組み合わせる際により高い自由度を提供する。この作用の自由度を用いて、エマルジョン科学の当業者は、本発明に適する非連通性油中水エマルジョンドロップレットを提供する2以上の組合せを開発することができる。そのようなエマルジョンの2つの例を
図7及び
図9に示す。このようなエマルジョンは、混合方法のみならず、油及び乳化剤からなる組成物においても変化する。本明細書のこのような及びその他のエマルジョンは、異なる割合の共溶媒、水、油、界面活性剤、及びその他の必須試薬を組み合わせること(いずれもそれらに課された制約の範囲内で)により、その他のエマルジョンから区別される。何がこのようなエマルジョンを新規組成物となすかと言えば、それはまさに、油、水、ある特定の有機溶媒、定義された構造の群から選択される界面活性剤、及びその他の必須CSR試薬が組み合わさったその組成物である。
【0116】
CSRの模式図:CSRプロセスの概略を
図10に示す。Taq DNAポリメラーゼ遺伝子の多様化したライブラリーが大腸菌に組み込まれ、そして細菌のプールが逆相油中水型エマルジョンに添加される。1つのバリアントpol遺伝子のみを含有する各大腸菌が、ここで、エマルジョンの単一の水性コンパートメント内に組み込まれる。やはり水性コンパートメント中に含まれるものとして、dNTPを含有するPCRバッファー、隣接プライマー、及び有機性共溶媒(本明細書に別途記載される通り)が挙げられる。PCR反応は、ここで、このようなエマルジョン内で選択圧力を加えながら実施される。本明細書において、使用した選択圧力は有機性共溶媒と徐々に上昇させた温度の組合せであり、後者はPCRサイクルの各ラウンドの冒頭において適用された。PCRの最初のステップ、すなわち変性(又は熱的細胞壁溶解の追加ステップを含む)において、加えられた熱が細胞壁を破壊し、そして放出されたポリメラーゼ酵素及びコーディング遺伝子がエマルジョンドロップレット内で自己複製を引き起こす。不適合DNAポリメラーゼ(不活性又は活性が不十分なDNAポリメラーゼのバリアント)を含む細菌を含有するコンパートメント内では複製が生じない。選択圧力条件下で複製できないこのようなポリメラーゼバリアントは、したがって増幅されたプールから除去される。生き残った子孫ポリメラーゼ遺伝子は、CSRの別のサイクルのために放出及び再クローン化される。所望の場合には、追加の突然変異多様化が、CSRサイクル間に組込み可能である。個々のクローンに由来するポリメラーゼは、次にしかるべき方法により、選択条件に対するその適合性についてランク付けされ得る。
【0117】
富化CSR:選択圧力下に置かれたCSRは、選択圧力を生き延びることができるポリメラーゼバリアントのプールを生成するのに最も適するが、該プールは、非常に少量で存在するある特定の好ましい突然変異体を含有し得るので、その単離及び特徴付けが難しくなる。より良好な適合性を有するバリアントのプールについて、選択条件を変化させることなく、若干多くのCSRラウンドを行えば、増幅プロセスを通じて微量の突然変異体を富化する際に役立ち得る。したがって、選択CSRラウンドには、富化CSRが後続するか又は後続するのが有利であり得る。
【0118】
DNAポリメラーゼの指向的進化:その他の例:CSRは、DNAポリメラーゼの指向的進化において今や標準的な選択法となった。Holligerグループによるその研究が公開されて以降(Ghadessyら、2001年)、いくつかのその他のグループが、その他の特性を有するポリメラーゼを設計するためにこの技術を使用した。下記は、指向的進化を使用して開発されたDNAポリメラーゼバリアントについて記載する特許及び公開資料の選択リストである。いずれの場合にも、プロトコールは、そのシステムのニーズ及び特定の選択圧力の要件を満たすように改変された。
【0119】
Agilent Technology社(カリフォルニア州)のArezi及びその共同研究者らは、CSR法を使用して、Taqポリメラーゼから高速PCR用のポリメラーゼを開発する方法について記載した。彼らは、最初の多様性プールを生成するのにランダム突然変異誘発(epPCR)を使用した。PCR伸長時間を徐々に短縮しながら5ラウンドの選択CSRを行った後、コンビナトリアルライブラリーを開発するために、最速サイクリングクローンのうちの上位8種の各クローンに対して複数部位指向的突然変異を施した。最良の性能を有するコンビナトリアル突然変異体は、プライムドテンプレート(549bp GAPDH遺伝子)に対して35~90倍高い親和性(より低いKd)、及び野生型Taqと比較して非常に小幅な(2倍)伸長速度の増加を示した。上位3種の突然変異体Taqポリメラーゼは、その性能(サイクリング時間)順に下記の突然変異:#1:G59W、V155I、L245M、E507K''; #2 G59W、V155I、L245M; L375V、E507K、E734G、E749I; #3 V155I、L245M、E507K、F749Iを有した。上位3つのいずれも、2個の突然変異(V155I及びE507K)を共通して有したことに留意されたい(Areziら、2014年)。
【0120】
多くの耐熱性古細菌ファミリーB DNAポリメラーゼは、そのN末端ドメイン内にウラシル結合ポケット(「リードアヘッド」として作用して、ウラシル残基に接近した際にDNA複製を停止させる)を有する。ウラシルはDNA構造の標準コンポーネントではないが、PCR変性ステップにおいて使用される高い温度は、多くの場合シトシンの脱アミノを引き起こし、非常に微量ではあるがウラシルを生成する。ウラシルの形成は歓迎されない(生成物の忠実性を低下させる)が、PCRを使用する多くの診断テストにとってそれほど大きな実用的意義を有さない。しかしながら、重合停止(停止(stoppage))によって中断が生じると、多くの日常的用途で用いられるこのような古細菌ファミリーBポリメラーゼの有用性が低下する。CSRに基づく指向的進化を使用しながら、Tubeleviciuteら(2010年)は、ウラシル結合特性を、古細菌ShIB DNAポリメラーゼ(サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)に由来する)に奏功的にノックインすることができた。彼らはランダム突然変異(epPCR)により多様性を生み出し、そしてdNTP混合物内のdTTPをdUTPに徐々に置換するという選択圧力を加えた。PCR反応においてdTTPがdUTPに完全に置換し得る第5回のCSR選択ラウンドの後に、「リードアヘッド」(又はウラシル結合性)機能を有さない、突然変異体P36Hを含有するShIBポリメラーゼバリアントが選択された。結果は、相同的Pfu DNAにおいて、ウラシル誘発性のDNA複製の失速を部分的(Y7A)又は完全(V93Q)に除去する突然変異(部位指向的突然変異により実施される)(Connollyら、2009年)は、ShIBの場合有効ではなく、指向的進化のパワーを示唆する(Tubeleviciuteら、2010年)という事実に鑑み興味深い。
【0121】
Bournら(KAPA Biosystems社、マサチューセッツ州、米国が出願した米国特許第8,481,685B2号及び米国特許第10,457,968B2号)は、Kofu及びTaqポリメラーゼのバリアントを開発するのに指向的進化を使用した。彼らは、epPCRを使用することにより、遺伝子内にランダムな多様性を導入した。その研究の顕著な特徴は、彼らは選択圧力を一切導入せず、その代わりに、PCR増幅で一般的に使用される標準的な変更に適応させるために、バッファー組成において軽微な改変を加えた標準条件を使用しながら、数回のPCRラウンドを使用したことにある。その根拠は、Taqのような天然ポリメラーゼは、自然環境の下で機能するように本来設計されており、PCR反応のためのin vitro条件はそれ自体選択圧力を構成するということであった。彼らは、2つの天然ポリメラーゼ(KOD及びPfu)の機能的領域を組み合わせることにより、Kofuのようなキメラポリメラーゼに導入された小さな変化は、自然条件に対するその選好を変化させないものと、やはり理由付ける。数ラウンドのPCRの後に、より適合性を有するバリアントはin vitro条件を生き延び、それほどの適合性を有さないものは消滅する。次に、彼らは、生き延びたクローンに対して3つの初期表現型テスト:a)酵素活性(増加又は減少); b)DNAに対する結合性、及びc)忠実性を施した。これらの結果に基づき、彼らは、その他の表現型特性についてもテストし、そしてin vitro条件に対して優れた適合性を有する、異なる用途に適するバリアントを特定する。このように、彼らは、野生型と比較して、それよりも良好な耐塩性、増加したヘパリン結合親和性を有するTaqバリアント、及び長いDNA基質(2キロベース以上)を増幅するのによりふさわしいバリアントを見出した(米国特許第10,457,968B2号)。彼らは、親Kofuポリメラーゼと比較して、それよりもより良好なDNA結合親和性及び酵素活性変化、忠実性、処理能力、伸長速度、及び安定性を有するKofuポリメラーゼのバリアントも単離した(米国特許第8,482,685B2号)。
【0122】
指向的進化とその他の技術の組合せ:いくつかの実施形態では、ディープシークエンシングとも呼ばれる次世代シークエンシング(NGS)、並びに遺伝子合成を、本発明者らのバリアント配列のプールについて、そのサイズ及び質を強化するのに使用した。これら技術の独特な組合せ、及びそれらを使用する方法は、本発明者らがその選択目標を実現するために追い求める新規アプローチを構成する。これらは、それらについて議論しながら、本明細書全体を通じて明らかとなる。
【0123】
次世代シークエンシング(NGS):ディープシークエンシングとしても公知のNGSは、ハイスループットシークエンシング法である。それは、ゲノム部位を複数回(多くの場合、数千回)シークエンシングすることを意味する。該プロセスにより、研究者は、オリジナルサンプルの0.1%ほどの少量を占める稀なクローンタイプを検出することが可能になる(Mardis, E.R.、2011年)。
【0124】
NGSにおけるシークエンシングの基本的原理は、NGSが、大型のDNAセグメントの場合、それをより小さな小片に切断し、そして超並列方式で一度に何十万もの複数の断片をシークエンシングすることからなるハイスループット法である点を除き、Frederick Sanger(Sangerら、1977年)により開発された連鎖停止シークエンシング法における原理と同一である。Qiagen社、ThermoFisher社、及びIllumina社のような会社は、いずれも様々な様式で相互に異なる、各社独自のハイスループットシークエンシングプラットフォームを提供するが、但し独自開発の合成によるシークエンシング(SBS)プラットフォームを使用するIllumina社が供するものは最も人気が高い。
【0125】
サンガーシークエンシング法は、3'ブロッカーケミストリーを使用する。同法は、通常のコンポーネント(すなわち、プライマーのセット、DNAポリメラーゼ、dNTP、及び標準的なPCRバッファー)に付加して、反応混合物内への連鎖停止ヌクレオチドddNTP(ジデオキシリボヌクレオチド)の導入を除き、遺伝子を増幅するためのPCR反応を実施することに基づく。PCR鎖伸長反応では、成長鎖のヘッド部において、デオキシヌクレオチド部分内の3'ヒドロキシ基において鎖の伸長が生ずる。ddNTPの分子は3'ヒドロキシ基を欠いており、したがってddNTP分子が鎖伸長期間中に導入されるときは常に、生じた鎖はそれ以上伸長することができない。代表的なサンガー分析では、分析されるDNAセグメントは、5つのパラレルチューブ内で増幅される。1つのチューブは、通常のPCR反応混合物を含有する。他方の4つのチューブのそれぞれは、通常の混合物に付加して、4つのddNTP(ddATP、ddTTP、ddCTP、及びddGTP)のうちの1つもその中に含有する。増幅反応が完了した後、生成物は、分子量によりDNA分子を分離する標準的なアガロースゲル上で泳動される。ddNTPチューブに由来するこのようなゲルが、ddNTPフリーのゲルと比較されるとき、鎖内のA、T、C、及びGの位置が決定可能である。見ての通り、これは冗長なプロセスであり、またハイスループットとは言い難い。
【0126】
NGSには、それをハイスループットとなす2つの極めて重要な特徴が存在する。
【0127】
1つ目は、標準的なddNTPを使用するのではなく、NGSは蛍光タグ化ddNTPを使用し、その場合、各ddNTP(ddATP、ddTTP、ddCTP、及びddGTP)は、4つのヌクレオチドすべてについて、あらゆるヌクレオチド付加事象を記録する4パス/バンドフィルターカメラ/センサーと結びついた異なる蛍光タグを有する。より新しいバージョンは、リバーシブル蛍光標識dNPPを使用する。蛍光標識dNTP(それぞれ異なる発光波長を有する)の使用により、4つの異なる反応を行う必要性及びゲルに基づく連鎖停止部位を読み取る必要性も除去される。
【0128】
NGSが有する第2のハイスループットの特徴として、多くの場合チップと呼ばれるフローセルの固体表面上でのDNAの増幅が挙げられる。NGSのLuminaプラットフォームでは、分析されるDNAは小片(アンプリコンと呼ばれる)に、長さ最長500ntまで分解される。DNAの小片は、フローセルの二次元表面(チップ)上に展開され、そしてアダプターと呼ばれる特別な小DNA分子の助けを借りてそれに連結する。後続する反応は、この表面上で実施される。
【0129】
NGS用のIlluminaプラットフォームには5つの基本的なステップが存在する。
1.DNA断片/DNAサンプル-アンプリコンの調製。NGSの場合、長いDNAは、すべて無作為に、アンプリコンライブラリーのより小さな小片に切断される必要があり、各セグメントの長さは500nt以下である。このような小片は、重複プライマーセットを使用しながらPCRにより生成可能である。アンプリコンの質、そのサイズ及び純度は、最終的なNGS結果の質を決定する上で極めて重要である。
2.アダプター分子のDNA断片に対する連結:アダプターは、DNAライゲーションケミストリーを使用して一本鎖DNA断片の両端部に連結された小型のDNA分子である。これは、フローセル上で短い相補的DNAにハイブリダイゼーションするための、断片の粘着性末端部となる(次のステップを参照されたい)。
3.フローセル及び短いDNAセグメントの固定化。アダプターDNA分子に対して相補的である短いssDNAセグメントのプールが、8チャンネルフローセルの表面上に係留(固定化)される。このような分子の一方の末端は係留され、そして他方の末端はフリーである。これは、次ステップにおいてクラスターを形成するための「ブリッジ増幅」を行う際に、PCR伸長におけるプライマーとして作用する。結果は、フローセル表面上の固定化されたオリゴマーDNAプライマーのローンである。
4.クラスターの生成/ブリッジ増幅:アダプターを含む一本鎖アンプリコンは、ここでフローセルに添加される。それは、そのアダプター末端部において、フリーの3'末端を有する、フローセル表面上のその相補的オリゴとハイブリダイズする。高忠実性DNAポリメラーゼを使用しながら、ハイブリダイズしたオリゴのフリーの3'末端(ここではプライマーとして作用する)が等温的に伸長し、そうすることでアンプリコンの完全長コピー(フローセルの表面に係留されている)が形成される。このコピーは、テンプレートアンプリコンのハイブリダイズしていない末端からアダプター分子もコピーした。アンプリコンテンプレートは、ここで変性により分離される。新規に形成されたDNA分子は、ここで周囲に巻き付き(周囲に折れ曲がり)、そしてそのフリーの末端(アダプターコピーを含む)は、別の係留された相補的オリゴと細胞表面上でハイブリダイズし、逆U字形の形成を伴いつつ、2つの固定化オリゴ間にブリッジを形成する。ループが伸長することで、アダプター末端を有する完全長アンプリコンの別のコピーが生み出され、したがって、係留されたループから変性を受けた後に、2つの他の係留された相補的オリゴに連結した別の逆U字形が形成され得る。このプロセスは、数百万でなくても何十万もの各テンプレートのループ化したコピーが形成されるまで、それ自体反復する。これはブリッジ増幅であり、そしてテンプレートアンプリコンの複数のコピーは、同一DNAのクラスターとなる。数千ものそのようなクラスターが、添加された数千ものアンプリコンDNAの周囲に形成される。dsDNAブリッジの各クラスターは化学的変性を受け、そしてリバースストランドは、特異的塩基切断により除去され、フォアワードDNA鎖が残る。DNA鎖及び細胞結合オリゴヌクレオチドの3'末端は、次ステップにおけるシークエンシング反応の妨害を防止するためにブロックされる。
5.シークエンシング反応/合成によるシークエンシング:Illumina社の合成によるシークエンシング技術は、ターミネーターヌクレオチドとしてddNTPを使用しない。代わりに、同技術は、固有の発光波長を有する各タグを用いて蛍光タグ化された全4つのdNTPを用いながら、Illumina社独自開発のリバーシブルターミネーターに基づく方法を使用する。ヌクレオチドのリバーシブルターミネーター特性とは、1回に1つの塩基のみが添加可能であることを意味する。カメラが各蛍光標識ヌクレオチドの付加を記録する-発光波長及び強度が塩基を特定するのに使用される。塩基「n個」の読み取り長さを創出するのに、サイクルは「n」回繰り返される。シークエンシングは、完全に自動化された操作であり、またプロセスが開始したら、オペレーターがなし得ることはほとんどない。実際のプロセスは、ステップ間の洗浄及び試薬添加、並びに技術提供者により機密及び社外秘とされるその他詳細事項に関する情報と若干より多くの関りを有する。
6.コンピュテーショナル分析/アライメント/データ分析/品質スコア/塩基コーリング/突然変異コーリング。シーケンサーからのアウトプットは、「読み取り」のセットであり、その長さは使用した具体的なプラットフォームに依存する。Illumina社プラットフォームは、2つ以上の読み取りオプション、例えばHiSeq、MiSeq等を提供する。本発明者らの研究では、250bpの読み取り長さを有するMiSeqを使用した。100,000個ほどの多くの読み取りが単回操作から取得可能である。読み取りは生データであり、したがって更に変換せずにそのまま使用できない。変換は、自社保有の機密情報として多くの会社が保持するバイオインフォマティクスソフトウェアを使用することにより実施される。ソフトウェアは、読み取りを参照配列に対してアライメントし、その独自の配列を特定する。これは、読み取り内の一塩基多型(SNP)、又は挿入-欠損(インデル)、及びその発生頻度について、その同定を可能にする。発生は、その出現率に関してランク序列化され得る。コンピュータープログラムは、同定された各塩基に対してPhredスコアと呼ばれる品質スコア(Qスコア)を割り振る。Phredの値が高いほど、塩基の同一性に関する予測の質は良好である。理論的には、Phredスコアは0~無限大の範囲であり得る。しかし、実際には、プラットフォームの信頼性のある検出限界により上限が設定される-Illumina社の場合、この限界は40である。Phredスコア10は、不正確な塩基コーリングの確率が10分の1であることを意味し、スコア20の場合、これは100分の1であり、スコア30の場合、それは1,000分の1であり、そしてスコア40の場合、不正確な塩基コーリングの確率は10,000分の1である。フィルターは、ある特定の数値を下回るスコアを除去することができる。したがって、フィルターを20に配置することにより、20未満のすべてのスコアはブロック可能であり、そうすることですべての塩基コーリングにおいて、不正確なコーリング確率は1%未満となる。
【0130】
NGSを使用する本発明者らの目的は2つの部分からなった。1つ目は、選択圧力を生き延びたバリアント遺伝子内の突然変異を同定及び確認することであった。この目的は、CSR生成物のqPCRスクリーニングにより検出されたバリアント遺伝子内に見出された突然変異を確認することであった。ほとんどの分子生物学実験は、正確な詳細情報を得るために繰り返される可能性はほとんどなく、したがってその結果を確認する代替的方法が重要な目的としての役目を果たすので、これは取るに足らない課題ではない。NGSの第2の目的は、標準的なスクリーニングプロセスにおいて検出から漏れた可能性のある突然変異を検出することであった。このような失われた突然変異は、CSRにより大幅に富化される場合、特に興味深い突然変異である可能性があり、また本発明者らが改善しようと努力する適合性指標を増強する際に若干の重要な役割を演ずる可能性がある。突然変異の希少性は、それが将来有益となることを必ずしも意味しない。事実、その多くは、本発明者らが追い求める適合性の実現に対して実際には有害となるおそれがある。その目的は、もちろん有益な特性を有する可能性のある稀な突然変異を逸することではない。NGS実験の実施は、しかしながら本発明者らが認識した通り単純ではない。洗練された機器及び専門オペレーターを必要とすることから、本発明者らは業務の一部を実施するのに社外サービス提供業者、GeneWiz社を使用した。同社は、そのAmplicon-EZ Serviceにおいて、NGS用として合成によるシークエンシング法を用いたIllumina Technology Platformを使用することを一部理由に、本発明者らはGeneWizを選択した。
【0131】
プロセスはおよそ以下のように機能する。本発明者らは、選択CSRのいくつかのラウンドを施した後、そして多くの場合、選択された生成物に更なるCSR富化サイクルを施した後のポリメラーゼ遺伝子のバリアントプールから開始する。本発明者らは、PCR及び適するプライマーのセットを使用して、バリアントプールの小さな重複断片(それぞれ450~468ntの長さ)を調製する。本発明者らのサービス提供業者、GeneWiz社(Illumina Technology Platformを使用する)は、次に、アダプターのプールに由来する5'及び3'アダプター分子に対するライゲーションを介してそれをリンクさせる。GeneWiz社は次にNGSの残りのステップ、すなわちアンプリコンをフローセル表面上に連結するステップ、クラスターを生成するステップ、最終的にIllumina社の合成によるシークエンシング法によりシークエンシングするステップを実施する。同社は、本発明者らが独自開発のソフトウェアを使用して分析する「読み取り」を我々に提供する。分析のアウトプットは、生き延びた突然変異の識別情報だけではなく、その場所及びランク序列化されたフォーマットで表された発生の頻度(任意所定の部位における所定の突然変異について、当該部位において生ずる突然変異の合計数と比較したときのその発生率(パーセンテージ)として表される)でもある。特別なソフトウェアが、次に遺伝子配列内のヌクレオチド位置を対応する酵素内のアミノ酸位置に変換する。
【0132】
NGSの1つの問題は、それが突然変異体のリスト及びその位置しかもたらさず、ほとんどの場合、任意特定の遺伝子サンプル内でのその存在に関する情報はまったく又は非常にわずかしかもたらさない。本発明で観察されたこととして、本明細書においてあらゆる方法(それが何かを問わない)が使用されたことにより、特定の位置において突然変異が検出され(及び有機溶媒及び温度の選択圧力を生き延びた)場合、ほぼ常に、既存のアミノ酸の置換は、主に考え得る19種類のうちのたった1つの特定アミノ酸によるものであったことが挙げられる。但し、いくつかの例外も存在した。NGSはそのような稀な例外を検出及び確認する際に有用であった。
【0133】
NGSにより検出された突然変異が、サンガーシークエンシングを通じて選択CSRから特定されたバリアント遺伝子内に見出されるものと同一であるとき、それはCSR選択データを確認及び補強するのに役立つが、しかし選択配列内に見出されるものに付加する場合、それは特に興味深いものとなり、そして本発明者らはここで、配列の順番をどうすれば、それが、我々が追い求める有益な特性(本当にそうであるならば、そのいくつかは有益である)を実現し得るか決定する必要がある。後者は困難な課題であるが、ここで、本発明者らは、従来の遺伝子合成法によってヌクレオチド毎に新規ポリヌクレオチド鎖を構築することによるか、又は親ポリメラーゼ(本ケースではTaq)の部位指向的突然変異誘発により、新規配列を調製するために、遺伝子合成法を使用した。更に、本発明者らは、特定の突然変異がその安定性(堅牢性)にとって有益か又は有害か判定するために、酵素のΔΔG及びΔΔSvib値(下記を参照されたい)を計算した。
【0134】
遺伝子合成と部位指向的突然変異誘発:CSRは、各バリアントにおいて、ある特定の突然変異が特別に配置構成されたバリアント遺伝子をもたらした。CSR由来のバリアントをシャッフリングすることで、バリアント内の突然変異の数及び配置構成が一つの配列内に再構成された新規配列をもたらした。NGSは、好ましい点突然変異のリストを主にもたらした。本明細書では、従来の遺伝子合成によるか又は部位指向的突然変異誘発により、多様化した更なる配列を構築した。これを目的とした場合、開始点は、CSR及びNGSに由来する突然変異及びその位置のリストであった。表現型テスト用の新規配列を得るため、並びに点突然変異及びそれが組み合わさったときの長所又は短所の重要性に関する新たな見識を提供するために、このような位置的な点突然変異を、単一の配列内に望ましい任意数で配置構成した。したがって、CSR又はシャッフリングを単独で用いたのでは単離され得なかった、極めて望ましい特性を有する配列が生み出された。
【0135】
従来の遺伝子合成の場合、業務はサービス提供業者GenScript社に請け負わせた。部位指向的突然変異誘発の場合、本発明者らは、本発明者らの社内能力を使用するか、又はGenScript社のような外部サービス提供業者を使用した。
【0136】
部位指向的突然変異誘発(部位特異的突然変異誘発又はオリゴヌクレオチド指向的突然変異誘発とも呼ばれる)を実施する様々な方法が存在し、またより新しい方法又は改変法が恒常的に開発されている。当業者はこのような開発に精通している。その単純でありオリジナルなスキームの1つにおいて、方法は、二本鎖DNAプラスミド内の特定部位に所望の突然変異を導入するために、カスタム設計されたプライマーを使用する。それは、任意の部位に任意の突然変異(1塩基置換、短い欠損、又は挿入を含む)を実際的に導入する強力な技術である。基本的な概念は、一例を提示するに過ぎないが下記記載の通りである。
【0137】
対象とする遺伝子(この場合、DNAポリメラーゼの遺伝子)が、一本鎖ベクター、例えばファージM13等内に最初にクローニングされる。次に、所望の突然変異部位に位置するクローニングされた遺伝子に対して順序通りに相補的であるオリゴヌクレオチドプライマーが化学的に合成されるが、但し、プライマーが、遺伝子内に組み込まれる所望の突然変異を提示する中央付近に1つ又は2つの計画的なミスマッチを含有する点を除く。プライマーは、PCRによりアニーリング、伸長操作を受け、そして伸長したストランドはライゲーションにより閉環して円形のループを形成する。この二本鎖プラスミドは細菌内にクローニングされ、所望の突然変異を含む遺伝子の複数のコピーを生成する。方法は、同一遺伝子上に複数の突然変異を導入するのに使用可能である(Mathewsら、1999年)。上記は1つのアプローチに過ぎないことが特記される。部位指向的突然変異誘発のためのその他のアプローチも利用可能であり、またそれは当業者に周知されている。
【0138】
有機水性媒体に対するDNAポリメラーゼの適合性を増加させるのに役立ち得る点突然変異のリストの構築:CSR選択プロセスを生き延び、そしてリアルタイムqPCRスクリーニングにおいて良好にランク付けされたTaqポリメラーゼのバリアントは、有機水性媒体において性能を発揮するためのより良好な適合性を本質的に有したが、このようなバリアント内のすべての点突然変異がそのような適合性に対してプラスに寄与するとは自信をもって言い難い(下記も参照すること)。このようなバリアント内の点突然変異の一部は、ポリメラーゼの適合性に対してマイナスの寄与を実際に有したが、しかしこのマイナスの寄与は、その他の強いプラスの寄与により相殺されたということも考えられ得る。CSR富化及びDNAシャッフリングは、それぞれ、バリアントを検出し、そしてバリアントの多様性を改良する機会を改善し得るに過ぎず、またそれらは、酵素の適合性指標に対して概ねプラスの寄与を有する点突然変異を同定するのに役立ち得なかった。
【0139】
遺伝子合成及び/又は部位指向的突然変異誘発は、新しい遺伝子を作成するための手段だけでなく、どの突然変異及びその組合せが最も有益であるかという本発明者らの推測を確認するための手段も提供した。本発明者らが合成アプローチを使用した1つの方法は、本発明者らの望ましい特性に関して非常に有用である単一突然変異のリストを確認するためであった。これを行うことで、このような突然変異のあらゆる並び替え及び組合せは有益であり、すべての並び替え及び組合せが有益であるかどうか証明するために、極めて多数の配列を作成する手間が省かれると自信をもって言うことができよう。
【0140】
酵素安定性に対してマイナスの寄与を有し得る突然変異を除去するために本明細書で使用される別のアプローチは、酵素のΔΔG値又はΔΔSvibに対する突然変異の影響を計算することであった。これは、下記の別のセクションにおいて詳細に記載される。
【0141】
酵素の適合性指標に対して概ねプラスの寄与をもたらす可能性があり、なおも酵素の安定性に有害効果を有さない突然変異のリストを生成することの重要性は非常に大きかった。PCRの歴史において初めて、適合性指標を増加させるだけでなく、特に有機水性媒体中での酵素の安定性も増加させ得る点突然変異をランダムに組み合わせる機会を我々にもたらした。有望な組合せに別の突然変異を付加しても、新たな突然変異が付加される配列は、新たな付加によるあらゆるマイナスの寄与を相殺し得る強靭なプラスの寄与をすでに有しており、それでなおもプラスの性能を有し得ることを意味し得るに過ぎないので、新たな有用組成物を構成することはなく、またしないであろうことも再度指摘され得る。
【0142】
要するに、本明細書では、本明細書に記載される有機水性媒体内で性能を発揮するためのTaq DNAバリアントの適合性指標に対してプラスにのみ寄与し得る点突然変異のリストを生成するために、様々な分子生物学技術(epPCR、DNAシャッフリング、CSR選択、CSR富化、リアルタイムqPCRスクリーニング、NGS、遺伝子合成、部位指向的突然変異、ΔΔG/ΔΔSvib値の計算(下記参照)、及び表現型テスト)を独自に組み合わせた。
【0143】
点突然変異に起因するΔΔG及びΔΔSvib:指向的進化は、酵素が進化した(さもなければ設計された)環境とは異なる環境に対する酵素の全体的な適合性を改善しようとする最適化プロセスである。特定の選択圧力(溶媒及び温度)を加えることにより、本発明者らは、ある特定の有機溶媒の存在下でより良好な熱安定性が得られるように進化を誘導したが、進化をたった1つのそのような次元に限定しようとすることは不可能であり、またそうもしなかった。これは、最適化は必然的に多次元的課題であるためである。本ケースでは、最適化とは、より高温度及び溶媒の存在下における安定性に付加して、ほんの数例を挙げるに過ぎないが、酵素活性、DNA結合親和性、処理能力、長いテンプレートを増幅する能力、伸長速度(Vmax、ヌクレオチド/秒)、及び忠実性等の特性の改善を意味する。本明細書に記載の有機水性媒体に対するより良好な全体的な適合性を選択されたバリアントにもたらすのは、これらの特性の組合せである。これは、選択されたバリアントは、これらのその他特性のいくつかを改善する突然変異(たとえそれが溶媒の存在下で考え得る最良の熱安定性を提供することと引き換えに生じるとしても)をおそらくは有することを意味する。したがって、突然変異の組合せを含むバリアント配列であって、選択条件を最良に生き延びたバリアント配列は、単独であっても又は本明細書の有機水性媒体の存在下においても、本質的に新規組成物である。
【0144】
本明細書では、本発明者らは、特別な溶媒/温度フィルターを用いて行われたリアルタイムqPCRスクリーニングを通過したTaqバリアントライブラリーについて記載する。本発明者らの選択基準(有機水性媒体内での高い熱安定性)を最良に満たし、そして最適化された適合性特性をなおももたらしたクローンを選択した。本明細書においてこれまでにしかるべく記載したように、本発明者らは、指向的進化及び合成の両方によってこれらのバリアントを開発した。
【0145】
好ましいバリアントを上記のように選択したが、本発明者らの目標は、これらの突然変異のリストであって、その突然変異の少なくとも1つが、それが本発明者らの要求事項のうちの最重要事項、すなわち有機水性媒体内での高い熱安定性を満たすように、いずれかのバリアント内に存在しなければならないリストを特定することでもあった。酵素に対してそれを不安定化させる効果を有する何らかの突然変異がこのリストに含まれることは、バリアント内でのその存在が全体的な適合性のその他特性を付加し得るとしてもあり得ない。この目標を実現するために、本発明者らは、理論的アプローチ、すなわち特定の突然変異が親ポリメラーゼ内に導入されたときのフォールディング自由エネルギーの変化(ΔΔG)及び振動エントロピーの変化(ΔΔSvib)を計算することの長所を取り入れなければならなかった。本発明者らは両方の指標について検討したが、その理由は、それぞれがそれ独自のメリット及びデメリットを有し、また両指標が実質的に同一の結論を示唆したときに、本発明者らの結論における信頼水準が顕著に増加したためであった。
【0146】
酵素の折り畳まれた構造は静的構造により慣習的に表されるが、実際には極めて動的な分子であり、その折り畳まれた全体的な構造内で様々な動的コンフォメーションを呈する酵素の能力は、酵素が効果的触媒として機能するのに重要である。この柔軟性の中で、本発明者らは、安定性にふさわしい構造の堅牢性(熱力学的用語において、そのフォールディング自由エネルギー(ギブス自由エネルギー)の減少(<0)、又はその振動エントロピーの低下を意味し、これらの関数のいずれも、基本的分子力に由来するコンピュテーショナル計算になじみやすい)についても探求する。
【0147】
構造的堅牢性、又はフォールディング自由エネルギーの変化(kcal/molで表されるΔΔG)、又は振動エントロピーの変化(kcal/mol/Kで表されるΔΔSvib)を決定することが公知の様々なアプローチ(個々にメリット及び弱点を有する)が存在するが、本発明者らは、タンパク質の動力学及び安定性に対する点突然変異の効果を分析するために、DynaMut(ユーザーフレンドリーで自由に利用可能なウェブサーバー(http://biosig.unimelb.edu.au/dynamut))を使用した。DynaMutは、そのオペレーションを実施するために2つのアプローチ(Bio3D及びENCoM)を使用する一体型コンピュテーショナル法である(Rodriguesら、2018年)。この方法は、その触媒機能の改善を伴いつつ、SIR2酵素等のタンパク質構造を堅牢化(安定化)する際の突然変異の影響を説明するためにテストされ、良好な成功を収めた(Ondracekら、2017年)。
【0148】
まとめとして、本発明者らの目的に照らして、Taqポリメラーゼ内の選抜された点突然変異のリストに含まれるには、突然変異は下記2つの同時テストに適合しなければならない:a)第1に、突然変異は、選択圧力及びいくつかのフィルターを適用しながら行われるリアルタイムqPCRスクリーニングを通過可能なバリアントに属さなければならない、並びにb)突然変異は、ギブス自由エネルギーを野生型のそれを下回り減少させなければならず(通常ΔΔG<0)、その振動エントロピーも野生型のそれを上回り増加させてはならない(通常ΔΔSvib<0)。第1の基準は、バリアント酵素がその配列内に特定の突然変異を含有しても、それが全体的な適合性指標を達成するのを妨害しない
ことを保証する。第2の基準は、バリアント酵素が酵素の安定性に対してプラスの効果を有することを保証する。
【0149】
本発明者らの現在の知識水準では、ΔΔG又はΔΔSvibは、本明細書の有機水性媒体中ではなく、その天然(水性)環境内のタンパク質について計算可能であるに過ぎない。但し、熱安定性に翻訳される構造的堅牢性は、熱から溶媒へと移転可能な特性であるという十分なエビデンスが存在する。したがって、熱安定性が得られるように工学的に作出された酵素は、リパーゼ、スクロースホスホリラーゼ、ハロアルカンデハロゲナーゼ、カナマイシンヌクレオチジルトランスフェラーゼ等の場合に見出されたように、有機溶媒に対しても耐性を有することが明らかにされている(Reetzら、2010年; Koudelakovaら、2013年; Liao、1993年)。この移転可能性は、本発明者らのケースでは、選択圧力として温度を使用することのみで完結し得ることを意味しない。一つには、本発明者らの目的にとって必要とされる選択圧力の厳格性は、温度にのみ適用することはできない(沸点の制約)。一方、適合性の最適化は媒体固有の試みである。しかしながら、逆の提案、すなわち耐熱性についてのみ(溶媒を含まない)行われた本実験から得られた進化バリアントを使用することはかなりうまく行くはずである。
【0150】
1遺伝子当たりの突然変異の数はいくつか?これまでにすでに指摘したように、ポリメラーゼタンパク質内のすべてのアミノ酸が、19種類のその他の考え得るアミノ酸と置換された場合、バリアント酵素の数は、気が遠くなるほど大きく、数十億にもなる。しかしながら、CSR選択生成物に対して、CSR富化、NGS、及び理論的検討(ΔΔG及びΔΔSvib値の計算)を適用することにより、本発明者らは、本発明において、有機水性媒体内でPCR反応を実施するのに特に適するごく限られた数の固有の突然変異(実施例に示す)を特定した。したがって、本発明に記載される突然変異は、ある特定の位置に限定されるだけでなく、選択位置において既存のアミノ酸に置き換わる、特定の単一固有アミノ酸にも限定される。この規則に対するごくわずかの例外が判明したが、しかし当該位置内の既存アミノ酸に置き換わるアミノ酸の考え得る数は2を超えなかった。そのような例外の例は以下の通り:
●D244からD244E及びD244V
●F413からF413S及びF413L
●A454からA454E及びA454L
●V586からV586A及びV586M
●H767からH767L及びH767R
●D732からD732G及びD732N
●E832からE832K及びE832X
【0151】
いくつかの実施形態では、任意特定の酵素バリアント内の突然変異の最大数は10であった。点突然変異がランダムに組合せ可能であることを証明するために、単一遺伝子内の固有突然変異の様々な組合せについて合成及びテストを行い、組合せから予想される好ましい特性は概ね保持されたことを明らかにした。12を上回る突然変異負荷は、その個々の寄与以外の検討から望ましくないと考えられる。
【0152】
例示的バリアントポリメラーゼを、下記の表及び実施例に記載する。
【0153】
設計されたTaqバリアントは、本明細書の人工的有機水性媒体において使用する際の野生型ポリメラーゼの欠点を除去するために開発されたが、その有用性はそのような媒体のみに決して限定されない。有機水性媒体に限定的であるというよりはむしろ、Taqバリアントは標準的な水性媒体並びに有機水性媒体の両方について包含的である。この意味で、このような進化したポリメラーゼは、PCR反応のin vitro用途において、その親よりもはるかに汎用的である。
【0154】
Taq以外のその他の親DNAポリメラーゼ:本発明者らの本実験において、本発明者らは、有機水性媒体内で使用した際の親の欠点を含まないバリアントを設計するために、親としてTaq DNAポリメラーゼを使用した。本発明者らは、アミノ酸834個の親内のアミノ酸位置であって、特定の突然変異が、本発明者らが追い求めたベネフィット(主に、遺伝物質のPCR増幅で使用したときに、親の望ましいその他特性の犠牲を伴わない、有機水性媒体内での優れた熱安定性)をもたらしたアミノ酸位置のリストを決定した。本発明者らは、「対応する位置」(結晶構造の3Dアライメントを使用することにより決定される)の原理が、有機水性媒体内で同一又は類似の有益な性能を付与するその他のDNAポリメラーゼからバリアントを抜き出すのに使用可能であることを主張する。
【0155】
用途:バリアントTaq DNAポリメラーゼ又は上記掲載のその他の親ポリメラーゼに由来するその他のバリアントが、i)標準的なPCR; ii)ホットスタートPCR; iii)タッチダウンPCR、iv)ネステッドPCR; v)リバースPCR; vi)恣意的プライムドPCR(AP-PCR); vii)RT-PCR; viii)RACE(cDNA末端の高速増幅); ix)ディファレンシャルディスプレイPCR(DD-PCR); x)マルチプレックスPCR; xi)Q/C PCR(定量的/相対的PCR); xii)帰納的PCR; xiii)非対称PCR; xiv)in situ PCR; xv)TaqManアッセイ; xvi)SYBR Greenを使用する定量的PCR; xvii)COLD PCR(より低い変性温度における同時増幅法); xviii)エラープローンPCR;及びxix)NGSを非限定的に含む、様々な種類のPCR増幅プロセスで使用可能である。当業者はこのような用語に精通しているはずである。関連する図書又はGoogleにおいて定義を見つけることも可能である。
【0156】
本発明の製品は、上記用途の多くについてキットフォーマットでも使用可能である。キットは、バッファー、有機溶媒、dNTP、プライマー等のその他のPCR反応成分をふさわしいパッケージング形態で含有し得る。
【0157】
本明細書の主たる目標は、混合型有機水性媒体内で機能するように、優れた適合性を有する、デザインされたDNAポリメラーゼ、特により良好な熱安定性を有するものを提供することである。本明細書において、本発明者らは、a)CSRに基づく指向的進化を経由して既存のポリメラーゼ(この場合、Taq DNAポリメラーゼの)バリアントを特定すること、並びにb)溶媒及びより高い温度に対する耐性を主に提供し得る個別の特定突然変異を特定することにより、本発明者らの目標に到達した。第2の目標に到達するために、本発明者らは様々な技術を独自に組み合わせなければならなかった。本明細書は、人工媒体用のDNAポリメラーゼを開発するためにこれまでに行われた最も大規模で多面的であり網羅的な試験について提示する。本明細書に提示される様々な主張は、複雑な問題を解決するためのこの多岐にわたるアプローチの結果である。下記の実施例は、この他に類を見ない取り組みを例証するために提供される。
【実施例】
【0158】
下記の実施例は、本開示の主題に関する代表的実施形態を実践するためのガイダンスを当業者に提供するために組み込まれた。本開示及び当業者の一般的なレベルを考慮すれば、当業者は、下記の実施例は単なる例示であるように意図されていること、また本開示の主題の範囲から逸脱せずに非常に多くの変更、改変、及び改造が採用され得ることを認識し得る。下記の合成的記載及び具体的実施例は、例証目的で提示するように意図されているに過ぎず、またその他の方法による本開示の化合物の作成に対する制限とはいずれにせよみなされない。
【0159】
実施例1
epPCRによるTaq DNAポリメラーゼのバリアントライブラリーの調製及び発現細胞の生成
a)Taq DNAポリメラーゼの多様性ライブラリーを調製する場合、コドン最適化WT Taqポリメラーゼ(大腸菌内で発現させるために、Genscript社、NJ 米国により合成された)を親酵素として使用した。エラープローンPCR(epPCR)を、初期の多様性ライブラリーを創出するのに使用した。この目的のために、本発明者らは多様性epPCRキット(Takara BIO USA Inc.社、CA、米国から購入)を使用し、そして製造業者の推奨手順に従った。そのように生成されたepPCR多様化遺伝子ライブラリーをDpnI消化し、そしてQiagen社のPCR精製キットを使用するカラム精製がこれに後続した。精製済みの生成物をXbaI及びSalIにより消化し、次にXbaI及び/SalI消化したpASK-IBA5Cベクターにライゲートした。ライゲート後の生成物を電気穿孔して大腸菌TG1細胞中に組み込んだ。1時間回復させた後、5μLの細胞を連続稀釈してLB-クロラムフェニコール(50μg/ml)プレート上に展開し、ライブラリーサイズを評価した。
b)発現細胞を生成するために(定義を参照されたい)、250RPM及び37℃、一晩振盪することにより、形質転換後のライブラリーを、50mLコニカルフラスコ内のLB-クロラムフェニコール(20mL)中にイノキュレーションした。増殖後、細胞懸濁物(0.5mL)をLB-クロラムフェニコール(50mL)中にイノキュレーションした。細胞を、アンヒドロテトラサイクリン(300ng/ml)により誘発して、OD600が0.4~0.5に達するまで(およそ4時間)、Taqポリメラーゼを発現させた。4時間後、細胞を遠心分離により採取し、洗浄し、及び1×Taqバッファー[50mM KCl、1.5mM MgCl2、及び1%トリトンX-100を含有する10mMトリス-HCl(pH8.5)]中に再懸濁した。
【0160】
実施例2
CSR選択実験:区画化された自己複製
この実験を、様々な選択圧力を使用して実施した。該プロセスの概略を
図10に示す。3つの例を下記に提示する。
a)選択圧力として、95℃で6分間、又は98.3℃で1分間、及び95℃で6分間、5%1,4-ブタンジオールに曝露する:
【0161】
選択圧力の選択を、以下のように確立した。5%1,4-ブタンジオールの存在下では、野生型Taq DNAポリメラーゼは生き延びて何らかのPCR産物を生成できないことが判明した。1,4-ブタンジオールの非存在下では生き延びた(
図11)。いくつかの予備的なCSR実験に基づき、本発明者らは、98.3℃のPCR前曝露温度、並びに98.3℃で1分間及び95℃で6分間の滞留時間が、5%1,4-ブタンジオール中で生き残るための厳格な選択圧力を任意のTaqバリアントに対してもたらすことを更に立証した。この条件下では、WT Taqは生き残れず、1,4-ブタンジオールに対する強靭な耐性を有するバリアントのみが生き残る。
【0162】
この実験では、逆相エマルジョンを使用した。それに加えて、同一組成物(但しdNTPを含まない)を使用する陰性コントロールを主要な実験と並行して測定した。
【0163】
エマルジョンを、98.3℃で1分間及び95℃で6分間事前インキュベートし(選択圧力として及び細胞壁を溶解するため)、CSR PCRがそれに後続した。CSRの場合、1サイクル毎に下記の条件:94℃で1分間の変性、55℃で1分間のプライマーアニーリング、及び72℃で5分間の鎖伸長を使用しながら、25サイクルのPCRを実施した。
CSR PCRで使用したプライマーセットは以下の通りであった:
フォアワード:CAGGAAACAGCTATGACAAAAATCTAGATAACGAGGGCAA(配列番号6)
リバース:GTAAAACGACGGCCAGTAGCTTAGTTAGATATCAGAGACCATGGT(配列番号7)
CSR-PCRの後に、反応混合物をジエチルエーテルで抽出し(軽質石油及び有機溶媒を取り除くため)、残留物をQiagen社のPCR精製キットをして精製した。PCR産物をゲル精製した後、下記のプライマーセット:
フォアワード:GAATAGTTCGACAAAAATCTAGATAACGAGGGCAAAAAATG(配列番号8)
リバース:CCTG CAGG TCGA CTTA TTCT TTCG CGCT CAGC CAGTC(配列番号9)
と共に高忠実性Q5 DNAポリメラーゼを使用して再増幅した。
【0164】
再増幅後の産物をXbaI及びSalIにより消化し、そして同じ制限酵素を用いて消化したpASKベクターにライゲートした。ライゲート後の産物を形質転換し、そしてLB-クロラムフェニコールペトリ皿上に播種した。個々のコロニーを取り出し、そして下記の実施例5に示すように、リアルタイムqPCRに基づく方法によりスクリーニングを行って、その熱安定性及び選ばれた有機溶媒に対する忍容性についてそれらをランク順位付けするために、それを96ディープウェルプレート内で増殖させた。
b)選択圧力として、98.3℃で1分間、及び95℃で6分間の7%1,4-ブタンジオールに曝露する:
【0165】
この実験では、逆相エマルジョンを使用した。それに加えて、同一組成物(但しdNTPを含まない)を使用する陰性コントロールを主要な実験と並行して測定した。CSR反応については、条件は実施例2(a)のそれと同一であった。
【0166】
実施例3
CSR富化
CSR選択生成物上でのみCSR富化実験を実施した(実施例4a及び4b)。これまでに記載したように、Taq DNA遺伝子の精製済みバリアントを新規大腸菌細胞に組み込んで、新たな発現細胞を調製した(実施例1b)。CSR富化実験用の手順は、実施例2で使用したそれと同一であった。生成物の回収及び精製ステップも不変であった。これが富化CSRと呼ばれる理由は、本発明者らは、このCSR期間中に、更なる多様化を一切使用しないか又はより厳格な(又は新規の)選択圧力を一切加えなかったためである。
【0167】
実施例4
DNAシャッフリング(StEP PCR)によるTaq DNAポリメラーゼバリアントライブラリーの調製
互い違いの伸長プロセスPCR(StEP PCR)によるDNAシャッフリングを、実施例2(a)及び2(b)において選択した上位ランキングのTaqポリメラーゼバリアントを更に多用化させるのに使用した。このプロセスは、開始配列中に存在する突然変異体のシャッフリングを通じて追加の多様性を提供し、そして新規配列(一部は、1配列当たり、開始配列内の突然変異体よりも多数の突然変異体を含むと考えられる)を生成するように設計される。下記を代表的な実施例として提示する。
【0168】
実施例4(a)[5%1,4-ブタンジオール中でのCSR選択]に由来し、それぞれの中に1個から4個の突然変異を有する9個の上位ランキングクローンにシャッフリングを施した。個々のクローン内の突然変異は以下の通りであった:
Y116停止;
E832K;
L365P;
G12T-A61V-2494delGA;
K206Q;
T186A;
D244V-K314R-V586A-S612R;
P10S;及び
A54V。
【0169】
これらのクローンから単離されたプラスミドを、XbaI及びSalIを用いて制限消化して、StEPテンプレートを生成した。1×Thermopolバッファー内の反応混合物は、等モル量の各断片(全0.15pmole)、250μM dNTP、1.5ユニットのVentポリメラーゼ、及び各25pmoleの下記のプライマー(5'→3'):
GAAT AGTT CGAC AAAA ATCT AGAT AACG AGGG CAAA AAAT G(41nt)(配列番号8)
CCTG CAGG TCGA CTTA TTCT TTCG CGCT CAGC CAGT C(37nt)(配列番号9)
から構成された。
【0170】
PCR伸長プロトコールは以下の通りであった:95℃で5分間の初期変性; [95℃で1秒間; 55℃で5秒間; 72℃で2秒間]で150サイクル、及び72℃で2.5分間の最終伸長。PCR産物(シャッフリング後の組成物)を、DpnIで処理し、酢酸ナトリウムを用いて析出させ、そしてXbaI及びSalIを用いて消化し、次ラウンドのCSR用としてpASKベクター中にクローニングした。
【0171】
実施例5
進化したクローン(形質転換体)のリアルタイムqPCRスクリーニング:上位にランクされたクローン(ヒットクローン)のリスト
SYBR GREEN Iに基づくリアルタイムqPCRアッセイを、実施例2及び/又は3に提示するように、CSR選択及びCSR富化を行った後に取得された形質転換体をスクリーニングするのに使用した。
【0172】
形質転換されたコロニーを取り出し、そしてLB-クロラムフェニコール媒体(500μL)を含有する96ディープウェル培養プレート内にイノキュレーションした。細胞を増殖させ、そしてOD600が0.4~0.5に達したら、それをアンヒドロテトラサイクリンにより誘発してポリメラーゼを発現させた。次に、細胞を遠心分離により採取し、そしてqPCRによるスクリーニングアッセイ用として、1×Taqバッファー(10mMトリス-HCl(pH8.0)、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.1%トリトンX-100)(200μL)中に再懸濁した。リアルタイムqPCRアッセイ(96ウェルプレート内で実施)を実施するのに使用されるPCR混合物は、10μLの細胞懸濁物及び40μLのマスター混合物を含有した。マスター混合物は、1,4-ブタンジオール(5%v/v又は7%v/v)、0.25mM dNTP、1mg/mL BSA、3.5mM MgCl2、0.5×SYBR GREEN I、及び各0.5μMの下記のプライマー(5'→3')から構成された。
GGTCACCCGTTCAACCTGAACAG(23nt)(配列番号10)
GTCAACCGCCTTCACGCGGAAC(22nt)(配列番号11)
【0173】
Bio-Rad CFX96(登録商標)リアルタイムPCR検出システムを使用しながら、5%1,4-ブタンジオールマスター混合物に対して下記のプログラム:95℃で6分間とそれに後続する16サイクルの[94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間]を使用してqPCRを実施した。極めて厳格な7%1,4-ブタンジオール実験の場合、qPCR条件は、98.3℃で1分間、95℃で6分間、それに後続する16サイクルの[94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間]であった。55℃~95℃の間、0.1℃/秒の融解速度において融解曲線分析を実施した。
【0174】
温度に対して第1の誘導体の絶対的相対的蛍光値(RFU)をプロットすることにより、融解ピークを可視化した。ピーク面積をGraphPad Prismソフトウェアを使用して計算し、そしてクローンをランク付けするために、ピーク面積を細胞数に対して正規化した。Taq DNA量と融解曲線面積との間の相関関係を立証するために、Taq DNAポリメラーゼ遺伝子を、上記2つのプライマーと同一のプライマーを使用しながら、バルクの状態で増幅した。PCR産物をカラム精製し、そしてTaqバッファーに溶解し、それに後続してTeCan機器を使用しながら定量した。SYBR Greenと混合された異なる濃度のアンプリコンを使用して、融解曲線及びそのピーク面積を生成して相関(線形相関を示した)を立証した(
図12)。線形相関が立証されたら、数千ものクローンをこの方法でスクリーニングした。PCR産物の質及び特異性をアガロースゲル電気泳動により評価した。ランキングバイアス及び変動をできる限り多く取り除くために、96ウェルプレートから得られた上位のヒットクローンを再イノキュレーションし、単一のプレート内で増殖させ、そしてスクリーニングアッセイを繰り返した。
【0175】
融解曲線ピーク面積に基づく上位50個のクローンを下記の表に示す。リストはいくつかの実験の結果を含有するので、すべての融解曲線ピーク面積を正規化した。正規化済みのものをランク順位形式で表Aに示す。残りのクローンについては、クローンを横断する精密なランク付け法は確立されなかったので、ランク順位を含めずに表Bに示す。結果はランク順位形式で表Aに表示されるが、ランク付けはおおまかなランク付けに過ぎないものとして考慮されるべきことも指摘されなければならない。ここでの主たる目的は、更なる調査用として上位のクローンのみを選択することである。
【0176】
表に示すサンプルは下記のシリーズに属する。様々なプロセスは実施例2、3、及び4に記載されている。
Nシリーズ:
【0177】
野生型Taq Pol -(エラープローンPCR)→N-epPCR→5%BDを用いて行われる1ラウンドの選択CSR→N-1st.
同一のライブラリーに、多様性及び選択圧力を変化させることなく7ラウンドのCSRを施す。
【0178】
富化ラウンドの後に、クローンをスクリーニングし、そしてN-ラウンド#-プレート#-ウェル#と命名した。より良好な視覚的明瞭化のために、上記フローチャートを下記ブロック図によって表すことも可能である。
【0179】
【0180】
このライブラリーは、下記において「ライブラリー#1」と呼ばれる場合がある。
Lシリーズ:
【0181】
野生型Taq Pol -(エラープローンPCR)→N-epPCR -(5%BDを用いて行われる選択CSR)→N-1st →スクリーニングから選ばれた上位11種のクローン-(StEP PCR/シャッフリング)→L-StEP -(7%BDを用いて行われる選択CSR)→L-1st→スクリーニング。
【0182】
同一のライブラリーに、多様性及び選択圧力を変化させることなく5ラウンドのCSRを施す。
【0183】
スクリーニング後のクローンは、L-ラウンド#-プレート#-ウェル#と命名される。
【0184】
より良好な視覚的明瞭化のために、上記フローチャートを下記ブロック図で表すことも可能である。
【0185】
【0186】
このライブラリーは、下記において「ライブラリー#2」と呼ばれる場合がある。
T8シリーズ:
【0187】
それは、下記の固有の突然変異:F73S、R205K、K219E、M236T、E434D、及びA608Vを有する野生型Taqポリメラーゼのバリアントである;それは、野生型Taqポリメラーゼと比較して、水性媒体内で優れた熱安定性を有する(Ghadessyら、2001年)。T8ポリメラーゼに、エラープローンPCR、次に1ラウンドのCSR選択を施し、上記Nシリーズライブラリーと同様のスクリーニングがそれに後続した。
【0188】
本発明者らは、オリジナルのepPCRライブラリーに多様性が何回導入されたか、その回数に関して「世代」を定義する-例えば、WT配列をランダム突然変異誘発により最初に多様化させたとき、それは「第1世代」と呼ばれる-一方「ラウンド」数はライブラリーがCSRを経た回数を表す-例えば、第1のCSRラウンド後とは、ライブラリーが1ラウンドのCSR後に選択されたことを意味する。
【0189】
スクリーニングから得られたヒットクローンは、下記の表記法:ライブラリー# -ラウンド# -プレート# -ウェル#を使用して表された。例えば、N-7-1-E10とは、ウェルE10内のプレート1上で7回のCSRラウンドを経た後のepPCR ライブラリー(N)から単離されたクローンを指す;一方、L-1-14-H10とは、ウェルH10内のプレート14上で1回のCSRラウンドを経た後のシャッフリングライブラリー(L)から単離されたクローンを指す。
【0190】
本発明者らは、epPCRライブラリー及びシャッフリング後のライブラリーについて、第1ラウンドのCSR富化から得られたスクリーニング結果をまず提示する。
【0191】
A.5%及び7%の1,4-ブタンジオール内でのNMPAに基づきランク付けされた第1ラウンドクローン
[NMPA=正規化後の融解曲線ピーク面積; BD=1,4-ブタンジオール]
【表1】
【0192】
B.5%及び7%の1,4-ブタンジオール内でのNMPAに基づきランク付けされなかった第1ラウンドクローン
【表2】
【0193】
次に、本発明者らは、シャッフリング後及びepPCRライブラリーの後続ラウンドの富化から得られたスクリーニング結果を提示する。[注記:これらのクローンの一部は、N-7th及びL-5thライブラリーシリーズにおいて同定された突然変異の組合せに基づき合成的に生成された。詳細には実施例7Aを参照されたい]
【0194】
C.シャッフリング後のライブラリーについて第5ラウンドの富化CSRを行った後のランク付けされたクローン
【表3】
【0195】
D. epPCRライブラリーについて第7ラウンドの富化CSRを行った後のランク付けされたクローン
【表4】
最終的に、すべてのライブラリー及びラウンドから得られた最良のクローンを、比較のために共にスクリーニングした。
【0196】
E. epPCRライブラリー及びシャッフリング後のライブラリーの複合式スクリーニング。第1回、第7回CSR epPCR、及び第5回CSR SL1プライムライブラリークローンに由来する上位のヒットクローンを、2つの異なる条件においてPCR性能を比較するために単一の96ウェルプレート内で増殖させた。細胞を「材料及び方法」に記載するように増殖させた。5%BD内で、95℃で6分間、それに後続する16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で30秒間のプログラム、又は7%BD内では、98.3℃で1分間、95℃で6分間、それに後続する16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で30秒間のプログラムに従い、PCRを実行した。いずれのケースにおいても、72℃で2分間最終伸長を実施した後、4℃で保持した。本発明者らはPCR産物(30μL)を使用し、そして融解曲線を測定して面積を求めるために1×SYBR GREEN Iと混合した。融解曲線面積を細胞の合計数により正規化した。(注記:SPCとは、epPCRライブラリー上で第1ラウンドのCSRを行った後に同定された突然変異の組合せに基づき構築された合成クローンを指す; 詳細には実施例7を参照されたい)
【表5】
【0197】
結論:
1.実施例5においてスクリーニングされたサンプルは精製されない。したがって、1,4-ブタンジオールにおいてNMPAスコアが高ければ、それは極めて望ましいクローンを必然的に示唆する。そのようなクローンは、表A内のL-1-36-A08、L-1-17-A09、L-1-23-H10、N-1-1-D5、L-1-15-A07、及びL-1-14-H10である。それらは、本質的に奏功的なクローンである。
2.表A内のその他のクローン、及び表B内のランク順位付けされないクローンも、CSR選択プロセスを生き延びたという意味合いにおいてのみ優良である。その相対的なメリットについては別途評価が待たれる。これらのクローン中に存在する個々の突然変異も、実施例11において批判的に評価される(Taqポリメラーゼの1,4-ブタンジオール忍容性バリアントにおける突然変異の複合リスト)。
3.実施例5のクローンにおいて検出された個々の突然変異は、
i)実施例7の合成クローン中への組込み、及び
ii)実施例8における理論的計算(ΔΔG及びΔΔSvib)の実施
を目的として突然変異を選択するための起源ともなる。
4.実施例11における表現型テストのために選択されたバリアント配列も、この実施例5から選択された。
5. NGS用のライブラリー(実施例6)にも、この実施例7のコロニーに由来する若干の改変が施された。
6. epPCRライブラリーについて7ラウンドの富化CSRを行った後、WTと比較して5%BDではより高いNMPAが認められる(表C)。同じことが、シャッフリング後のライブラリーについて5ラウンドの富化CSRを行った後に取得されたクローンにも当て嵌まる(表D)。
7.富化がクローンの性能を改善させた程度を比較するために、本発明者らは各ライブラリーからクローンを選択し、そして5%及び7%BDの存在下でそのクローンをスクリーニングした(表E)。富化後に取得されたクローンは、両BD濃度においてより高いNMPAを有することがデータから明白である。
【0198】
実施例6
Taqポリメラーゼバリアント内の突然変異体を同定するためのNGS実験
NGS実験を実施するために、3つのCSR選択及びCSR選択/CSR富化を経たTaqバリアントライブラリーを使用した。これらのライブラリーに辿り着くために実施されたステップ(多様化及びCSR選択)の説明を下記にリスト化する。NGS用に使用されたライブラリーを実施例5に基づき導入した。
注記:
1. BD=1,4-ブタンジオール。
2.選択PCR及び富化PCRは実施例2及び3に記載されている。
3. StEP PCR又はDNAシャッフリング手順は実施例4に記載されている。
4.ライブラリー#1及び#2のそれぞれは、適用した富化のラウンド数に対応する様々なサブライブラリーを含有する。ライブラリー#1の場合、7ラウンドの富化が存在する一方、ライブラリー#2の場合、5ラウンドの富化が適用された。
5. T8 Taqバリアントは、下記の固有の突然変異:F73S、R205K、K219E、M236T、E434D、及びA608Vを含有する野生型Taqポリメラーゼのバリアントである(Ghadessyら、2001年)。ライブラリー#3は、親配列としてT8を用いながら、エラープローンライブラリー上で行った1ラウンドのCSRに基づく。
【0199】
バリアントの上記ライブラリーのそれぞれには、MiSeq読み取りオプションを備えたIllumina社の技術プラットフォームを使用する次世代シークエンシング(NGS)を個別に施した。
【0200】
第1のステップとして、バリアントプール内の各DNAを6つの断片にセグメント化した-そのうちの5つは450bpとそれぞれ測定され、そして6番目は468bpと測定された。これを、高忠実性DNAポリメラーゼ(New England Biolab社から入手したQ5)、dNTPの標準混合物、及び下記の6セットの重複プライマーを使用して実施した。
NGS R1:FWD(AAA TCT AGA TAA CGA GGG CAA AAA)(配列番号12)
REV(GTC TGC GGT CAG AAT ACG)(配列番号13)
NGS R2:FWD(GAG AAA GAA GGT TAC GAG GTT)(配列番号14)
REV(ACC GAA CTC CAG ACG TTC)(配列番号15)
NGS R3:FWD(CTG CGT GCG TTC CTG)(配列番号16)
REV(ACC CCA CAG GTT CGC)(配列番号17)
NGS R4:FWD(CTG AGC GAA CGT CTG TTC)(配列番号18)
REV(GGT ACG CGG GTG AAT CAG)(配列番号19)
NGS R5:FWD(GAC CCG CTG CCG GAC)(配列番号20)
REV(GTA ACG TTC GAT GAA CGC TTG)(配列番号21)
NGS R6:FWD(GCG ATT CCG TAC GAG GAA)(配列番号22)
REV(CCC CTG CAG GTC GAC)(配列番号23)
【0201】
サンガーシークエンシングデータに基づき、本発明者らが使用したTaqバリアント内に存在する突然変異体のほとんどがどこに位置するかだいたい把握した。DNA増幅期間中のプライマーのハイブリダイゼーションに起因して、突然変異データが失われるのを防止するために、6つの重複領域を生成するようにプライマーを設計した。Phredスコア13の品質フィルターを使用しながら、テンプレートTaqポリメラーゼ遺伝子に対する6つの重複領域のアライメントを介して、Taq DNAポリメラーゼ遺伝子の全長にわたり突然変異を同定した。
【0202】
PCRのサイクリング条件は以下の通りであった:98℃で30秒間+29サイクル[98℃で5秒、55℃で15秒間、72℃で15秒間]+ 72℃で2分間。
【0203】
6つのセグメントの統合された長さは2,718bpであることに留意すること。WT Taq遺伝子はアミノ酸832個の長さであり、2496bpの遺伝子と同等である。2つの数(2,718及び2,496)の間の差異は、PCRにより遺伝子をセグメント化している間に生じたオーバーラップの結果である。
【0204】
バリアントプールのそれぞれに対応する上記6つのセグメントを、Illumina社の合成によるシークエンシングプラットフォームを使用する次世代シークエンシング用として、GeneWiz社に送付した。GeneWiz社より提供された「読み取り」を、本発明者らの独自開発ソフトウェアを使用して社内分析した。
【0205】
NGSは統計的手法である。結果の信頼性を高めるためには、サンプルの多様性を増加させることが重要である。本ケースでは、3つのバリアントライブラリーを使用することによりこれを実施した。NGSは大量のデータも生成する。このようなデータを完全に分析することは本特許明細書の範囲の逸脱であり、1つ又は複数の後続する学術的出版物に譲る。本明細書では、NGSにより検出され、上位の単一突然変異に限り、検討対象とした。ここでも、知見に優先順位を付ける標準的又は一般的に受け入れられた方法が存在せず利用できないので、本発明者らは、当該突然変異の有意性の一般的な指標として、突然変異の発生頻度(F)[全体に占める割合(%)]を使用し、また限られた数のケースでは、検知された突然変異の希少性の指標として富化倍率(Fe)も使用した。ここでも、取り扱い可能な限界内にデータ数を保つために、各ライブラリー(又はサブライブラリー)において上位50にランクされた頻度、また各ケースにおいてより少ない数の富化倍率(Fold-enrichment)についてのみ検討対象とした。富化倍率の場合、報告されたデータは、10倍以上の富化倍率に限定される。非常に低い頻度は非常に高い富化倍率を引き起こすおそれがあるので、本発明者らは頻度及び富化倍率の両方について検討を加えた。突然変異の頻度がNGS後に測定可能であったが、しかしこの突然変異がNGS前のサンプル中で見出されなかった(事前欠損)場合、それは非常に高い富化倍率を意味する可能性があり、したがってそのような突然変異はリスト化される。
【0206】
頻度(発生の)は、突然変異の合計数に対する任意特定の突然変異の割合(%)として定義される。富化倍率は、NGSにより引き起こされた特定の突然変異の富化を意味する。それは、NGS後の当該突然変異の発生の頻度をNGS前のその頻度で割り算することにより測定される。
【0207】
上記制約内で行われたNGS試験の結果を、下記の表A、B、及びCに示す。これらの結果は、それ自体、本発明者らが任意特定の突然変異の重要性を見出すのに使用した情報の一部分を構成するに過ぎない。その重要性は、実施例9(1,4-ブタンジオール忍容性Taqポリメラーゼバリアント内の突然変異の複合リスト)において指摘されるように、その他の指標に照らして使用されるときより顕著となる。
【0208】
A. NGS結果の表[個々のライブラリーに由来する上位の突然変異]:
a)頻度及び富化倍率カラム内の3つのスペースは、3つの対応するライブラリーから得られた結果を表す。
b)頻度及び富化倍率カラム内の3つのスペースにおいて、第1のスペースはライブラリー#1の第7回CSR富化ラウンドを表し、第2のスペースはライブラリー#3(+頻度-強化について検討する際は、ライブラリー#1、#2と#3とのいくつかの組合せ)を表し、及び第3のスペースはライブラリー#2の第5回富化ラウンドを表す。
c)頻度の場合、ブランク(-)は未検出を意味する。(ブランク(-)は、頻度の場合、カットオフ未満の頻度を意味する)
d)ブランク(-)は、富化倍率の場合、測定用として選択されないことを意味する(又はFE <10)。
e)富化倍率カラム内の「Missing in Pre」は、非常に高い富化倍率を意味し得る。
【表6】
【0209】
B.頻度のランク付け(>0.8)に基づく全ライブラリーからの上位のNGS突然変異の表。T8突然変異を除く。NGS
+リスト
【表7】
【0210】
C.高頻度(>5.0)及び高強化倍率(>10)を同時に有することに基づく全ライブラリーからの上位のNGS突然変異の表。NGS
++リスト
【表8】
【0211】
結論:
1.下記の突然変異(表Aの頻度カラム内)は、ライブラリー#3において親ポリメラーゼとして使用されたT8バリアントに由来した可能性があるので、更なる評価を検討すべきでない:F73S、R205K、K219T、E434D、及びA608V。しかしながら、T8ポリメラーゼから調製されたライブラリーのNGS反応生成物内にこのような突然変異が存在することにより、ハイスループットシークエンシングにおけるNGS法の頑健性が確認される。
2.表「A」は数百もの突然変異をリスト化する。これらは、3つのライブラリー(及び場合によってはそのサブライブラリー)に由来する上位の最高頻度ランキング突然変異(適用された選択プロセスに起因して、1,4-ブタンジオール忍容性に関する最も厳しい評価基準)から集約された。全ライブラリーから得られた数が、3つのライブラリーすべてに由来する上位の突然変異の数の合計よりも小さいのは、オーバーラップに起因する。これは、リストが大き過ぎるためでもあり、また表「A」にリスト化される最低頻度は0.25%である。
3.表「B」は、このリストをより合理的な数まで減量するため、及び突然変異毎に単一の頻度数(3つの中で最高)を用い、同様に単一の頻度強化数(3つの中で最高)を用いてリストを開発するためにも、表「A」から作成される。この表において、TaqのT8バリアントに由来する突然変異を除去した。このような制約を用いながら、表Bは、上位52種の突然変異のリストを提供するが、その最低頻度は0.8%である。このリストは、有機溶媒に対する忍容性をもたらす様々な突然変異の重要性を評価するその他の方法により取得されたリストと共に、実施例9の表(1,4-ブタンジオール忍容性Taqポリメラーゼバリアントにおける突然変異の複合リスト)に組み込まれる。表B内のリストは「NGS+リスト」と命名される。
4.表「C」は、表Bにおいて使用された頻度よりもなおも高い頻度(>5%)を組み合わせること、及び突然変異の相対的希少性に対する重要性を付与する高頻度強化性(>10)の別の制限も設けることにより生成される。このリスト(表「C」)は、より少ない数の突然変異- NGSにより検出された最も重要な突然変異を含有する。このリストは「NGS++」リストと命名される。これは実施例9の表にも表示される。これらの突然変異は、理論的計算(ΔΔG計算-実施例8を参照されたい)により強く否定されない限り、本質的に、有機水性媒体内のTaqバリアントに対する安定性の付与にとって極めて好ましいと考えられるはずである。
5. 2つの表(表B及び表C)にリスト化されている突然変異は、本明細書におけるNGSの2つの主要目的、すなわち選択されたTaqバリアント内に溶媒忍容性に対して強く寄付する突然変異が存在することを確認するという目的、並びに同じ特性を提供するが、しかしその他の方法による検出から漏れたおそれのある稀な突然変異を検出するという目的についてその役目を適切に果たす。
6. NGSが果たす最も重要な機能は、別のやり方では見逃された可能性のある突然変異を特定することであった。このような突然変異(高頻度及び高富化倍率を有するものであっても)は、後ほど触れるように、酵素の安定性に対して有用であったりまた有害であったり両様であり得るが、しかしそれは、その有益又は有害な効果を評価するために理論的計算(ΔΔG及びΔΔSvib)をなし得るだけの合理的な数を提供した。そのようなスクリーニング法を行わなければ、理論的計算を行う際に数十億もの考え得る突然変異に直面することとなる。
【0212】
実施例7 [A?]
合成により作成されたTaqポリメラーゼ遺伝子のバリアント:リアルタイムqPCRによるバリアント酵素の評価
選択圧力を生き延びた個々の突然変異からより多くのバリアントを作成するために、選ばれたクローンに由来する個々の突然変異(実施例5及び6)を、1遺伝子当たり5~7個の突然変異がもたらされるように選択的に組み合わせた。目的は、複数の突然変異を含むバリアントが、選ばれた突然変異に由来する望ましい特性を有しながら構築され得るかどうか判定することであった。したがって、設計には、溶媒及び温度に対して優れた耐性を提供すると考えられる組合せだけでなく、劣等性の耐性をもたらす組合せも含まれた。陰性コントロールを提供し、並びに本発明者らの設計戦略の妥当性を証明するために、後者の群(耐性が劣ると予想される)を含めた。提案された組合せをGenscript社において合成した。合計14個のそのような遺伝子(本実施例において試験した合成クローンを追跡する際にわかりやすいように、SPC1~SPC14と表す)を、epPCRライブラリー(スクリーニング、NGS分析、又はその両方に由来する)上で1ラウンドのCSRを行った後に同定された突然変異に基づき合成した。合成遺伝子を、pASKベクター内のXbalとSall制限部位との間にクローニングした。(多くの追加の合成クローンを、後続するラウンド内のスクリーニング及びNGS分析の両方から同定された突然変異に基づき生成した;実施例7Aを参照されたい)。表記を簡略化するために、これらのラウンドに由来する合成クローンであって、スクリーニング並びにNGSにおいて観察された突然変異を含む合成クローンを、実施例5に記載されるように、ライブラリー、CSRラウンド#(これから構成的突然変異が同定される)、及び最大数の突然変異を合成配列に反映させたスクリーニング後のクローンのプレート/ウェル#に基づき、従来のフォーマットを使用して表した。
【0213】
実施例5と同じ手順に従ってクローンをスクリーニングするために、SYBR GREEN Iに基づくリアルタイムqPCRアッセイを使用した。要するに、コロニーを取り出し、そしてLB-クロラムフェニコール媒体(500μL)を含有する96ディープウェル培養プレート内にイノキュレーションした。細胞を増殖させ、そしてOD600が0.4~0.5に達したら、それをアンヒドロテトラサイクリンにより誘発してポリメラーゼを発現させた。次に、細胞を遠心分離により採取し、そしてリアルタイムqPCRによるスクリーニングアッセイ用として、1×Taqバッファー(10mMトリス-HCl(pH8.0)、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.1%トリトンX-100)(200μL)中に再懸濁した。96ウェルプレート内でリアルタイムqPCRアッセイを実施するのに使用されるPCR混合物には、細胞懸濁物(10μL)及びマスター混合物(40μL)が含まれた。マスター混合物は、1,4-ブタンジオール(5%(v/v、又は7%v/v)、0.25mM dNTP、1mg/mL BSA、3.5mM MgCl2、0.5×SYBR GREEN I、及び各0.5μMの下記のプライマー(5'→3')から構成された。
GGTCACCCGTTCAACCTGAACAG(23nt)(配列番号10)
GTCAACCGCCTTCACGCGGAAC(22nt)(配列番号11)
【0214】
Bio-Rad CFX96(登録商標)リアルタイムPCR検出システムを使用しながら、5%1,4-ブタンジオールマスター混合物の場合、下記のプログラム:95℃で6分間、それに後続する16サイクルの[94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間]を使用してqPCRを実施した。極めて厳格な7%1,4-ブタンジオール実験の場合、qPCR条件は、98.3℃で1分間、95℃で6分間、それに後続する16サイクルの[94℃で30秒間、57.8℃で30bb秒間、及び72℃で30秒間]であった。
【0215】
融解曲線分析を、0.1℃/秒の融解速度において55~95℃の間で実施した。融解曲線を実施例7に記載されるように分析した。融解曲線ピーク面積(Melt Curve Peak Area)を下記の表に示す。テスト用の酵素の精製に失敗したので、遺伝子のうちの1つ(SPC11)が廃棄されたことに留意されたい。4つの遺伝子- SPC10、12、13、及び14を、qPCRスクリーニングを生き延びないと予測しながら(実際に生き延びなかった)設計した。陰性コントロールを導入し、また陽性結果の妥当性を確認するために、これを実施した。
【0216】
[NMPL = 正規化された Melt Curve Peak Area; BD = 1,4-Butanediol]
【表9】
【0217】
結論:
1.実施例9の表に由来する(下記を参照されたい)、合成用に選択された突然変異の特性を分析したとき、合成遺伝子は予想通りの性能を有した。こうして、無作為に組合せ可能な好ましい突然変異のリストを開発して、Taqポリメラーゼについて溶媒耐性兼温度耐性バリアントをもたらすことができるという自信を得た。
2. SPC3、4、6、7、8、及び9内の突然変異を組み合わせることで、親Taqポリメラーゼと比較して溶媒及び温度に対して優れた耐性を有するTaqバリアントがもたらされた。
【0218】
実施例7A [B?]
NGS分析から得られたTaqポリメラーゼ遺伝子のバリアント
最適化された突然変異配列を評価及び決定するために、ライブラリーN-7th及びL-5thから同定されたターミナルライブラリー突然変異に、4つのコンピュテーショナルアプローチを適用した。これまでの結果に基づき、これまでに決定された頻度、累積富化、及びターミナルN1-7thライブラリー並びにアクティブマニュアルスクリーニングされた上位のバリアントについて取得されたFoldX & Maestroエネルギー計算値を使用しながら突然変異を選択した。マニュアルスクリーニング及びデジタルスクリーニングの両方から収集されたこのプールデータを使用して、4つの選択アプローチを個々の固有突然変異を選択するように設計し、次にそれをランダムな組合せ(エネルギー予測ソフトウェアのFoldX及びMaestroを使用して更にデジタルスクリーニングされる)を生成するのに利用した。組み合わせたときに、1,4-ブタンジオール耐性及び活性において最大の改善をもたらすバリアントが得られるような突然変異を選択する機会を最大化するように、4つの選択アプローチすべてを設計した。4つのアプローチを以下に詳記する。
【0219】
選択アプローチ1は、本発明者らが行ったターミナルN-7th又はL-5thライブラリーのNGSデジタルスクリーンにより同定された上位の累積富化突然変異体に基づく。6領域のそれぞれに存在する最も高度に累積富化された固有種上位50種を、2つのツール(FoldX及びMaestro)を使用しながら、タンパク質安定性に対する突然変異の予測された効果について計算した。Taqポリメラーゼを安定化させ、及び高累積富化倍率を処理すると予測された固有種を網羅的に組み合わせてコンビナトリアル配列を生成した。
【0220】
選択アプローチ2は、本発明者らが行ったターミナルN-7th又はL-5thライブラリーのNGSデジタルスクリーンにより測定されるように、累積富化された最高頻度の上位の突然変異体に基づく。2つの表のセットをTaqポリメラーゼ領域について生成し、一方のセットは上位10種の最も累積的に富化された固有の突然変異体を含有する一方、他方は所与のライブラリーシリーズ毎に上位10種の最高頻度(突然変異体)を含有する。高頻度の表及び高累積富化倍率の表の両方に見出された固有種を網羅的に組み合わせて、ライブラリーシリーズ毎にコンビナトリアル配列を生成した。
【0221】
選択アプローチ3は、N-7th及びL-5thライブラリーに由来するバリアントの活性アッセイによりマニュアルスクリーニングを行い、それによって特定された上位のパフォーミング配列に基づく。活性アッセイ(「方法」の項を参照されたい)により与えられたスコアは、正規化後のピーク面積(NPA)である。陽性コントロールT8について決定されたNPAスコアよりも高いNPAスコアをもたらしたスクリーニング後の配列をプールし、そしてこの配列内の突然変異を、次世代シークエンシングにより収集された累積的富化データに対して比較した。領域毎に特定された固有種をその決定された累積富化値と比較し、そしてプラスの値を有する固有種のみを保持し、それを網羅的に組み合わせてコンビナトリアル配列を生成した。
【0222】
選択アプローチ4は、下記の改変を除きアプローチ1と類似する。上位3種の固有種が高累積富化を伴うと特定され、ゼロを上回る最低ΔΔG予測値が網羅的に組み合わされた場合、アプローチ1の選択から除外された固有種を再評価した。FoldX予測により決定されるように、プラスの値が最小である上位10種のバリアントを保持し、そしてそれを網羅的に組み合わせて、N-7th及びL-5thライブラリーシリーズの両方についてコンビナトリアル配列を生成した。
【0223】
網羅的に生成されたコンビナトリアル配列の配列多様性は、アプローチ1、2、3、及び4に対する配列類似性に基づき、10個のサブグルーピング内で配列をクラスタリングすることにより優先順位付けされる。このサブグループクラスター化群の最も安定化しているメンバーが保持され、初期の突然変異プールの大部分をサンプリングする組合せの多様なセットがもたらされる。各選択システムに由来する10個の保持されたメンバー及びその予測された安定化値を、表A及び表Bに示す。
【0224】
下記の表は、本手順により生成された合成クローンの網羅的なリストを構成するものではない。スクリーニング並びにNGSにおいて観察された突然変異を含むN-7th及びL-5thライブラリーシリーズにおいて、スクリーニング及びNGS分析の両方から同定された突然変異に基づき生成された合成クローンを、ライブラリー、CSRラウンド#(これから構成的突然変異が同定される)、及び最大数の突然変異を合成配列に反映させたスクリーニング後のクローンのプレート/ウェル#に基づき、実施例5に記載されるような従来フォーマットを使用して表した。それに加えて、この合成クローンの一部は、NGS領域2~5内に、NGSにおいて高くランク付けされなかったが、しかしこれらの領域のNGSにおいて観察された突然変異のリストから無作為に選択されたいくつかの突然変異を含んだが、その理由は、そのような領域内の突然変異は、領域1、6と比較してそれほど多くの富化を示さなかった(すなわち、領域2~5内の観測された突然変異の一部は、適合性に関してより中立であった)ためである。
【0225】
表A:N-7番目に基づく組み合わせバリアント
【表10】
【0226】
表B:L-5
thに基づく組み合わせアルバリアント
【表11】
全コンビナトリアル突然変異
L5Q,P10S,V14A,A23P,A29T,G32D,G38D,K53R,D58Y,S72N,F73S,K82I,A97T,V103A,A109V,R110L,A118T,A141P,R205K,E210D,S213G,K219E,R223P,L224Q,M236T,D238E,D244E,A246P,A259P,E274K,G304D,D320N,A326V,R328H,V332I,E337D,E363D,G364D,P382S,N384D,G389D,T399A,A414G,N415Y,N415D,E434D,A454E,L461R,A472G,V474I,A478V,H480R,R492L,A502T,A521T,A454V,E507K,S543I,P548R,D551N,R556G,A568G,V586A,E602D,L606M,V607I,A608V,S612R,E626D,E626V,L657M,H676Y,Q680R,E708K,D732G,E734G,S739G,E745K,F749I,F749V,K762R,K767R,K793R,E832N,E825K
【0227】
実施例8
選ばれた突然変異のΔΔG及びΔΔSvib値
野生型Taq DNAポリメラーゼ内のある特定の点突然変異により引き起こされたギブス自由エネルギー、すなわちフォールディング自由エネルギーの変化ΔΔG、並びに振動エントロピーの変化ΔΔSvibを、DynaMut法及びENCoM法を使用して決定した。合計87個の点突然変異をそのような計算のために選択した。それらを、CSR生成物のリアルタイムqPCRスクリーニングにより選択された上位のクローンのリストから選択した(実施例5)。
【0228】
ΔΔG値及びΔΔSvib値のいずれも、構造の堅牢化に対する突然変異の効果を表し、それはひいては熱安定性を示唆し、構造が堅牢なほどその熱安定性は高い。堅牢化はこのような関数のマイナスの値で表される-マイナスの値が大きいほど構造は安定である。安定性の指標としてΔΔG(又はそのマイナスの値)のみを使用することを当業者は一般的に好むが、本発明者らはΔΔGの重要性を否定することなく同じ目的でΔΔSvibも使用した。この背後にある理由は、計算は必ずしも現実を表さないことにあり、したがって本発明者らの論拠は、計算したΔΔG値及びΔΔSvib値のいずれもが同一方向を指し示すとき、結論の妥当性に対する本発明者らの信頼性が増すということである。これが生じるとき、本発明者らは、定量的予測を目的としてΔΔGを気軽に使用することができる。
【0229】
酵素の安定性に関する点突然変異の計算値を3つの表に示す。第1の表(表A)は、ΔΔG及びΔΔSvibの両方についてマイナスの値をもたらした点突然変異のみをリスト化する。第2の表(表B)は、一方の関数がマイナスであり(安定化を示す)、及び他方がプラスである(不安定化を示す)突然変異をリスト化する。第3の表(表C)は、ΔΔG及びΔΔSvibの両方についてプラスの値を有する(いずれも不安定化を示す)突然変異をリスト化する。
【0230】
A. Taqポリメラーゼの安定性に対する点突然変異の効果:ΔΔG及びΔΔS
vibの両者は安定性(堅牢性)を示唆する。
【表12】
【0231】
B. Taqポリメラーゼの安定性に対する点突然変異の効果:ΔΔG及びΔΔS
vibは安定性に対して反対の効果を示す。見やすいように不安定化を赤色でマークする。
【表13】
【0232】
C. Taqポリメラーゼの安定性に対する点突然変異の効果:ΔΔG及びΔΔS
vibの両者は酵素に対して不安定化効果を示す。比較しやすくするために不安定化を赤色で表示する。
【表14】
【0233】
結論:
1.ΔΔG指標及びΔΔSvib指標の両者より、テストした87箇所のうち52箇所(表A)が安定化効果を有した。そのうち7箇所の突然変異(A29T、A61V、T186I、D244V、A608V、S612R、及びE832K)が非常に強い安定化効果を示し、ΔΔGは-1.0kcal/molに近いか又はそれよりもマイナスが大きい数値を有する。突然変異P10Sの状態は、ΔΔSvibについてすべての中で最も大きいマイナスの値を有する(-1.053kcal/mol/K)が、ΔΔG値はそこそこマイナスである(-0.372kcal/mol)に過ぎないという意味合いから独特である。したがって、本発明者らは、P10Sも、強い安定化効果を有する他の7つからなる群内に留めた。
2.テストした87箇所のうち、表A内の別の17個の突然変異(A23P、P87Q、P89S、K171T、E201K、M236T、D244E、R261H、L287Q、V310L、H333R、L351M、S543G、D551N、Q592R、H676L、及びD732N)は、強い安定化効果を有し、ΔΔGは-0.5~-1.0 kcal/mol(ΔΔG)であった。
3.二重安定化位置(表A)のほとんどは、単一のアミノ酸置換を有したが、2つのアミノ酸置換を有した4つの位置(D244、A454、V586、及びH767)が存在した。
4.テストした87箇所のうち35箇所(表B及び表C)が、全体的に不安定化させる効果を示した。不安定化効果を有するこれら35個の突然変異のうち、少なくとも8個(V14A、L106Q、I163V、L254Q、E277P、L376V、T644G、及びF749V)は、非常に強い不安定化効果を有した。目標が酵素の熱安定性を改善することである場合、これらの突然変異は特に回避されるべきである。
5.突然変異A206Q(表B)、V586A(表A)、E687K(表A)、及びK709N(表A)は、酵素安定性に対して何らかの意味のある効果を有するには小さ過ぎるΔΔG(<±0.1kcal/mol)及びΔΔSvib(<±0.1kcal/mol/K)を有する。
【0234】
実施例9
1,4-ブタンジオール忍容性Taqポリメラーゼバリアントにおける突然変異の複合リスト
この表では、qPCRスクリーニング(実施例5)、NGS分析(実施例6)、合成(実施例7)、及びΔΔG計算(実施例8)を行った際に、上位のクローン内で見出された突然変異について、特に媒体の有機コンポーネントが1,4-ブタンジオールである場合に、有機水性媒体中でのPCR反応に対する適合性を開発する際のその重要性を評価するために、横並びにリスト化する。クローン命名法の定義については、実施例5、6、及び7を参照されたい。
【0235】
【表15】
1分析したすべてのサンプルの中で最もマイナス(高度に安定化)のΔΔS
vib(-1.053)を有する。
2強い安定化ΔΔS
vib(-0.676)値を有する。
3強い安定化ΔΔS
vib(-0.658)値を有する。
4ΔΔS
vib(-0.305)は安定化を示唆する。
5ΔΔS
vib(-0.121)は軽度の安定化を示唆する。
6ΔΔS
vib(-0.174)は軽度の安定化を示唆する。
7ΔΔS
vib(-0.231)は中程度の反安定化効果を示唆する。
8ΔΔS
vib(-0.793)は強い反安定化効果を示唆する。
9ΔS
vib(-0.176)はほぼ類似した安定化効果を示唆する。
10ΔS
vib(-0.143)は安定化効果を示唆する。
【0236】
結論
1.すべての要因を考慮すれば、下記の突然変異(Taqバリアント中に存在するとき)は、PCRに対する優れた適合性及び有機水性媒体内での優れた安定性を提供する:(注記:アミノ酸位置の選択基準:リスト内に存在する)。aaは下記事項を満たさなければならない-
A)位置はいずれにせよ2つ又は2つ以上の独立したクローン内に存在しなければならない
B)高いNGS頻度を有さなければならない(実施例9におけるNGS
++)
C)ΔΔGは安定化している
D)上記のいずれか
注記:
下線付き-N-シリーズ第7ラウンド富化CSRに由来する固有のaa。
イタリック体- L-シリーズ第5ラウンドCSRに由来する固有の突然変異、
上記リスト内で好ましい突然変異は以下の通り:
L5Q, F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, K31R, G38D, A61V, P89S, A97T, A118V, L162P, K171T, T186I, E201K, R205K, K206Q, G208S, K219E, N220D, I228V, M236T, D244E, D244V, R261H, D273G, L287Q, S290G, V310L, H333R, K346R, L351M, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, S543G, D551G, D551N, Q592R, L606M, A608V, S612R, H676L, Q680R, K702R, D732N, E734G, S739G, E742K, F749I, F749V, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H及びE832K。
及びより好ましい突然変異は以下の通り:
L5Q, F8L, P10S, L16P, A23P, A29T, T186I, K31R, G38D, A97T, A118V, L162P, R205K, G208S, K219E, N220D, I228V, D273G, S290G, K346R, P382T, E388D, E434D, A454E, L461Q, L461R, V474I, F482I, I503T, E507K, S515N, A521V, Q534R, D551G, L606M, A608V, S612R, Q680R, K702R, E734G, S739G, E742K, F749V, F749I, F749L, K762R, K767R, L768M, Q782H及びE832K。
及び最も好ましい突然変異は以下の通り:
L5Q、P10S、A23P、A29T、T186I、L461R、E507K、A608V、S612R、E742K、F749L、F749I、K762R、K767R、及びE832K。
E)有機水性媒体内でのTaqバリアントの安定性にとって有害である突然変異として、
R13H、V14A、L30P、R85S、L106Q、A126G、I163V、Y182H、K187R、G200S、K219E、L254Q、E277P、E365P、L376V、E434D、T664G、F749Iが挙げられる。これは、それらが好ましいバリアント内に存在し得ないことを意味しない;好ましい突然変異の存在が、好ましくないものの有害効果を凌駕する場合がある。
F)T8中に存在する4個の突然変異についても上記表内で分析した。それらは、F73S、K219E、M236T、及びE434Dである。これらのうち、F73S及びM236Tのみが有機水性媒体内での適合性にとって好ましい;他の2つK219E及びE434Dは有機水性媒体内での適合性に対して有害である。
G)本発明者らは、本発明者らの突然変異体を2群:1)5'→3'エキソドメイン内に存在するもの;及び2)ポリメラーゼドメインに属するものに分割することができる(
図1、
図2)。N末端1~288のアミノ酸の欠損(Stoffel断片と同様)がより耐熱性のポリメラーゼドメインを引き起こすので、カテゴリー1)内の突然変異、例えばP10、P30、A54、A61、F73、I186等は熱安定性に影響を及ぼす可能性がある。この点において、Stoffel断片は、97.5℃において、WT Taqポリメラーゼのおよそ2×の半減期を有することが報告された一方、本発明者らの工学的に作出されたポリメラーゼは当該温度において最大7×長い半減期を示したことが指摘される。エキソドメイン内であっても、熱安定性ホットスポットは定義されない。本発明者らは、本発明者らの突然変異体を、熱安定性に寄付する残基位置の増大するリストの一部として提案する。興味深いことに、Reetz及び共同研究者は、熱安定性と酵素活性の有機溶媒耐性との間に正の相関関係が存在すること;例えば、より高い熱安定性を示したリパーゼ突然変異体は有機溶媒に対する酵素活性の忍容性の増加もやはり示すことを明らかにした。一方、カテゴリー2)(ポリメラーゼドメインに属する)内の突然変異体は、基質結合ポケット周辺に特に集中している(
図1、
図2)。ポリメラーゼの熱安定性の増強におけるこの残基の役割は明白ではないが、しかし触媒反応、例えばDNA結合性、dNTPの識別等におけるその効果は、上記議論の通り立証される。Taqポリメラーゼにおける有機溶媒耐性に関する分子決定因子は不明であるものの、ヒドロラーゼ、酸化還元酵素、トランスフェラーゼ、及びリアーゼを含む工業用酵素のいくつかのその他のクラスが、有機溶媒に対して忍容性を有するように遺伝子工学的に操作されている。その他の軽微な構造要素を除いて、大部分は表面残基(疎水的コア内での相互作用の改善又は基質結合ポケットの改変)を含む。水混和性の有機溶媒は、酵素の活性部位を貫通し、そしてコンフォメーションを変化させ、タンパク質に結合した水分子を取り除くことにより、おそらくは活性に影響を及ぼす傾向を有する。本発明者らは、Taqポリメラーゼにおいても同じ機構が、親水性有機溶媒、例えば1,4-ブタンジオール等に遭遇したときに考えられ得る(例えば、BDは、表面残基に対するその効果を介して、及び/又は活性部位残基近傍の水と置換することにより、酵素の熱安定性及び活性に影響を及ぼす可能性がある)と推測する。この報告において特定されたポリメラーゼドメイン残基は、局所的環境変化に抵抗し、溶媒の活性に対する阻害効果に対抗する可能性がある。
【0237】
実施例10
表現型テストのための選ばれた配列の調製及び精製
機能的特性の決定では、ランキングTaqバリアントを、下記の手順に従い大量に調製及び精製した。
【0238】
増幅後の遺伝子にHisタグを付加するために、下記のプライマーを使用しながら、Q5部位指向的突然変異誘発キット(NEB社)を使用するPCRにより、選択されたクローンを増幅した。
フォアワード:CACCACCACCGTGGTATGCTGCCGCTG(配列番号24)
リバース:ATGATGATGCATTTTTTGCCCTCGTTATCTAGATTTTTGCT(配列番号25)
【0239】
Hisタグを含有する増幅後の遺伝子をXbal及びSallにより消化し、pASKベクターにライゲートし、そして同一のベクターと共に消化した。ライゲート後の生成物を、これまでに記載されたように形質転換した。WT Taqポリメラーゼ又はそのバリアントを発現する単一のコロニーをLB-クロラムフェニコール(5mL)内、37℃、一晩増殖させた。
【0240】
一晩増殖させた後の培養物を、LB-クロラムフェニコール(200mL)中に再イノキュレーションした。OD600が0.4~0.5に達したら、アンヒドロテトラサイクリン(300ng/ml)によりタンパク質の発現を誘発した。細胞を遠心分離により採取し、バッファー(50mMトリス-HCl(pH7.9)、50mMデキストロース、1mM EDTA、1mM PMSF)で洗浄し、そして同一バッファー(2.5mL)中に再懸濁した。細胞懸濁物に凍結-融解を2サイクル施すことにより、部分的に溶解した。部分的に溶解した細胞を、1mg/mLのリゾチームと共に、室温で15分間インキュベートした。インキュベーション後、等しい容積の溶解バッファー(10mMトリス-HCl(pH7.9)、50mM KCl、1mM EDTA、1mM DTT、1mM PMSF、0.5%Tween-20、0.5%Nonidet P40)を添加した;サンプルを氷上で30分間保持した。未精製ライセートを次に75℃で30分間インキュベートし、上清液体を収集する遠心分離がそれに後続した。ストレプトマイシン濃度が4%に達し、そして核酸の沈殿が完了するまで、20%ストレプトマイシン硫酸塩溶液(10mMトリス-HCl(pH7.90)中)を、4℃で一定撹拌しながらゆっくりと添加することにより、核酸を上清液体から析出させた(Upadhyayら、2010年)。溶液を遠心分離し、そして上清をIMACカラム上に負荷した。平衡バッファー(10mMトリス-HCl(pH7.9)、50mM KCl、20mMイミダゾール)を用いてカラムを洗浄し、そして10mMトリス-HCl(pH7.9)、50mM KCl、300mMイミダゾールを用いて溶出させた。タンパク質を、20mMトリス-HCl(pH8.0)、1mM DTT、0.1mM EDTA、100mM KCl、0.5%NP40、0.5%Tween-20、及び50%グリセロールを含有する透析バッファーに対して透析した。Biorad社のDCタンパク質アッセイを使用してDNAポリメラーゼを定量した。タンパク質の純度を、分解能SDS―PAGEにより確認した。
【0241】
Hisタグがポリメラーゼの機能的特性に影響を及ぼすかどうか確認するために、別の実験において、下記のプライマーセットを使用しながら、プロテアーゼ切断可能なHisタグをWTポリメラーゼのN末端に導入した。
リバース:TCGTGGTGGTGATGATGATGCATTTTTTGCCCTCGTTATCTAGATTTTTGTC(配列番号26)
フォアワード:GAACCTGTACTTCCAGTCCCGTGGTATGCTGCCGCTG(配列番号27)
【0242】
残りの手順はこれまでと同一であった。ベンダーの勧告に従って、切断可能な精製済みタンパク質に対してTEVプロテアーゼ(NEB社)処理を施した。IMACカラム上に負荷することにより切断されたHisタグを除去し、フロースルーを収集し、透析がそれに後続した。Hisタグの最大90%が除去されたことが、InVision His-Tag In-Gel Stain(Invitrogen社)により確認された。
【0243】
実施例11
表現型テスト
下記の性能テストを、実施例10に記載する手順に基づき調製された精製済みの酵素(Taqポリメラーゼのバリアント)を使用して実施した。
【0244】
実施例11a
精製済みポリメラーゼのqPCRアッセイ
精製済み酵素のPCR効率を評価するために、等しい活性の野生型及び突然変異体を使用して、長さがヌクレオチド531個のTaqオープンリーディングフレームの断片を増幅した。共溶媒及び高温と共存させた際に、各バリアントが同一の活性部位を有することを保証するために、等しい活性の各バリアントについて検討した。酵素に、2つの異なるPCRプログラム; 5%BDの存在下で、95℃で6分間、それに後続する16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間、並びに7%BDの存在下では、98.3℃で1分間、次に95℃で6分間、それに後続するPCR 16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、及び72℃で30秒間を施した。酵素の有効性を評価するために形成される生成物の量を制限するために、PCRサイクル数を制限した。本発明者らは非常に厳格な基準を適用したが、また野生型(共溶媒と共存しない)と比較してそれと同じか又はそれ以下のCq値を有する突然変異体は、共溶媒と共存する場合、より良好な性能を有するバリアントであると推論した。Cq値は増幅効率と相関関係を有するので、スクリーニングランクを確認し、そしてより良好な性能を有する突然変異体を特定するのに、リアルタイムPCRアッセイが採用され得る。このアッセイにおいて、本発明者らは、BDが存在しない場合、WT TaqポリメラーゼCq値として10.61±0.76サイクルを観測した一方、5%BDの存在下では、この数値は11.85±1.34まで増加した。本発明者らの論拠に従い、野生型Taqポリメラーゼ(0%BD内)と類似するか又はそれより低いCq値を有する10個の突然変異体クローン(5%BD内)を特定した。このクローンは、初回epPCR(第1世代、第1ラウンド)並びにStEP多様化(第2世代、第1ラウンド)ライブラリーの両方に由来し、データを表Aに示す。代表的なqPCRの結果を
図14Aに示す。WT及びSPCクローンに関するCq値は、四重測定の平均±SDである。それ以外では、Cq値は2つの独立した実験の平均である。WT酵素のCq値は7%BD内で15.5サイクルであり、該酵素は16サイクルまでは効率的でなかったことを示唆する。野生型Taqポリメラーゼは、PCRの最終に非常に近いCqを示し、また本発明者らの突然変異体は継続して標的配列を増幅したので、7%BD内でのWT及び突然変異体のCq値を比較した。そうすることにより、7%BDの存在下で標的DNAを増幅することができる11個のクローンを特定した。一方、合成されたポリメラーゼクローンSPC3、4、5、及び9が7%BDまで忍容可能であり、標的DNAを継続して増幅した。全体として、epPCRライブラリーに由来するクローンの0.37%がWTよりも良好な性能を有した一方、この比は、SL1'及び合成されたクローンにおいてそれぞれ0.13%及び40%であった。
【0245】
qPCRアッセイにより高GCテンプレートc-junの断片を増幅する際の、本発明者らの突然変異体の一部の性能について更にテストした。BD 0%~8%の範囲の異なる濃度の存在下で実験を行った(
図14B)。WT酵素は、0%BDにおいてc-junテンプレートを増幅することができない一方、BD濃度が1~5%のとき、実質的な量の生成物が生成された。WTによるテンプレートの増幅は、7%BD及びそれ以上では無視し得る。しかしながら、突然変異体は最大7%BDの存在下でテンプレートを増幅することができ、そして8%BDにおいて有意な量の生成物を生成した。本発明者らのデータは、5%BDにおいてさえも、突然変異体のPCR効率は、WTよりも良好(より低いCq)であることを更に示す。総じて、本発明者らは、少なくとも最大7~8%のBDにおいてGC富化標的の増幅に適する有機溶媒耐性Taqポリメラーゼを工学的に作出したと結論する。
【0246】
温度及びBDに対してより良好な耐性を有する、合計7つの上位の突然変異体を、リアルタイムPCR分析用として、3つの異なる世代及びラウンドのCSRスクリーニング(パイプライン1-第1世代ライブラリー-第1回富化から1クローン、及び第7回富化ラウンドから3クローン、第5回富化CSRラウンド後の第2世代から2クローン、及びSPC9と表される第1回富化に由来する合成クローン)から選択した(これらの突然変異体を選択するのに使用した統合スクリーニング結果については実施例5を参照されたい)。pASK-Taq(
図14C)及びテンプレートとしてc-jun(
図14D)を使用した、種々の濃度のBDを用いたPCRサイクルの前に、2つの異なる初期温度処理(95℃で6分間、又は98.3℃で1分間+95℃で6分間)の下、これらの突然変異体PCRのCq値をWT-Taqと比較した。全データを表Bに示す。そのCq値より、突然変異体(L-5-2-F01及びL-5-26-D04)(第5回富化CSRラウンド後の第2世代に由来する)は、pASK-Taqバックグラウンド及びc-junテンプレートバックグラウンドの両バックグラウンドにおいて、残りの突然変異体よりも良好な温度及びBD耐性を有することが明らかとなった。これら7つの突然変異体のうち、L-5-2-F01-2は、10%BDにおいてさえもPCR産物を生成することができた。
【0247】
A.リアルタイムPCRアッセイによる高ランク付けされたクローンのアセスメント。Taqオープンリーディングフレームの長さが531個のヌクレオチド断片上で酵素の増幅効率を評価するために、等しい活性のWT及び工学的に作出されたポリメラーゼを使用した。WT及びSPCクローンに関するCq値は、四重測定の平均±SDである。それ以外では、Cq値は2つの独立した実験の平均であり、SDwはSynek(2008年)の記載に従い計算した。NA =バックグラウンドを上回るCq値は観測されなかった; * =ポリメラーゼのCq値は、5%BD内では、1,4-ブタンジオール非存在下での野生型のCq値に等しいかそれ未満である一方、†=ポリメラーゼは、7%BD内のWTよりも良好なCqを有する。
【0248】
【0249】
B.種々の濃度のBDが存在する中での、GC含有量が異なるテンプレートに対する上位にランクされたTaq突然変異体の有効性。酵素の増幅効率を評価するのに、等しい活性のWT及び工学操作的に作出されたポリメラーゼを使用した。WT及びパイプライン1-第1世代ライブラリー(第1回富化に由来する1クローン、及び第7回富化ラウンドに由来する3クローン)、第5回富化CSRラウンド後の第2世代に由来する2クローン、及び合成クローンSPC9(表2)から選択された上位のクローンに関するCq値。(A)pASK-Taqテンプレートを増幅する場合:Q1及びQ2プライマーを使用しながら、95℃で6分間、17サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で60秒間、(B)c-Junテンプレートを増幅する場合:J1及びJ3プライマーを使用しながら、95℃で6分間、16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で60秒間、(C)pASK-Taqテンプレートを増幅する場合:Q1及びQ2プライマーを使用しながら、98.3℃で1分間、95℃で6分間、17サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で60秒間、並びに(D)c-Junテンプレートを増幅する場合:J1及びJ3プライマーを使用しながら、98.3℃で1分間、95℃で6分間、17サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で60秒間のPCRプログラムを使用した。Cq値は三重実験に由来する。NA =第17回PCRサイクルまでCq値は観測されなかった。
【0250】
【0251】
本発明者らは、BDにおいて最良の性能を有した工学的に作出されたポリメラーゼのうちの1つについて、そのPCR効率を、2つのその他の極めて強力な有機性共溶媒(2-ピロリドン及びスルホラン)中でも測定した(表C)。
C.異なる濃度の共溶媒(2-ピロリドン又はスルホラン)存在下でのWT-Taq及び突然変異体L-5-2-F01の効率。
【0252】
酵素の増幅効率を評価するために等しい活性のWT-Taq及び上位の突然変異体L-5-2-F01-2を使用した。Cq値は三重測定の平均±SDである。NA =バックグラウンドを上回るCq値は観測されなかった。下記のPCRプログラムを、上段(2-ピロリドン; c-junテンプレート)、下段(2-ピロリドン; c-jun テンプレート)を増幅するのに使用した。いずれのケースにおいても、PCRを、95℃で6分間、又は98.3℃で1分間+95℃で6分、それに後続する16サイクルの94℃で30秒間、57.8℃で30秒間、72℃で60秒間のいずれかにおいて実施した。
【0253】
【0254】
結論:
1.酵素がPCR用途に適するためには、PCR効率は、特異性及び忠実性に次ぐ最も重要なパラメーターの1つである。極めて効率的なポリメラーゼは、最低数のPCRサイクル内で高収率のアンプリコンを生成する。PCRを16サイクルに限定しながら、非最適化バッファー内で、Cq値に基づきPCR効率を評価した。特定された突然変異体は、pPCRライブラリー及びシャッフリング後ライブラリーの両方の一部分であった。それに加えて、5%BD又は7%BDのいずれかにおいて、PCR効率に関してWTよりも良好な性能を有した本発明者らの合成クローンのうちの4つも、このやり方で特定した。本発明者らの突然変異体は、一般的なPCR用途に適するだけでなく、GC富化標的DNAの増幅において使も用可能である。本発明者らは、本発明者らの突然変異体の一部は、最大8%のBDの存在下で(
図14B)、その他の突然変異体は最大10%のBDの存在下で(
図14C; 表B)、c-junテンプレート(PCR添加物の非存在下ではTaqポリメラーゼにより増幅され得ないテンプレート)を効率的に増幅することができることを実証した。非常にGC富化配列の増幅を可能にすることに付加して、
図14において実証されたGC含有量が非常に異なる2つのテンプレートについて増幅効率が概ね等しいことは、NGS富化ワークフローにおけるGCバイアス低下に対して重要な意味合いを有することに留意されたい。高度にGC富化されたテンプレートのその他の例として、トリプレットリピート障害、例えば脆弱X症候群等の診断に関連するものが挙げられる。
2.表Cに示すように、この工学的に作出されたポリメラーゼは、WT Taqポリメラーゼの場合よりも7~10倍高い濃度のこのような共溶媒に対して忍容性を有した。
【0255】
実施例11b
熱安定性テスト
蛍光に基づく方法を使用しながら、上位ランクのバリアントの一部についてその熱安定性(テスト)を実施した(Chakrabarti、2002年、2003年)。Pico Greenの代わりにEva Greenを使用する(この色素(Eva Green)は若干感度が劣るもののより耐熱性であるので)ことにより、方法を若干改変した。この実験のために、10mUロット(2μL中)のDNAポリメラーゼを、95℃又は97.5℃のいずれかにおいて、a)5%1,4-ブタンジオールの存在下で0、1、3、5、10、20、40、又は60分間;及びb)1,4-ブタンジオールの非存在下では0、5、10、20、40、60、又は90分間、1×Taqバッファー内でインキュベートした。3mM MgCl2、250μMの各dNTP、1×バッファー中の1×Evagreen、及び100nMの下記SATPプライマーを含有する基質混合物(xμl)を添加することにより反応を開始するまで、熱処理されたサンプルを氷上に保持した(Upadhyayら、2010年):
TagcgaaggatgtgaacctaatcccTGCTCCCGCGGCCGatctgcCGGCCGCGGGAGCA
(配列番号28)
(下線付きの小文字セグメントは、プライマー伸長のためのオーバーハングを形成する)
【0256】
残存活性を決定した後、特定の温度において、残存活性の割合(%)を熱曝露時間に対してプロットすることにより、半減期(t1/2)を計算した。
【0257】
結果を下記の表に示す(t
1/2は分表示):
【表19】
【0258】
本プロジェクトにおける本発明者らの目標は、有機水性媒体に対してより良好な複合適合性を有するTaqバリアントを設計することであったが、本発明者らの選択圧力に設定した最も重要な基準は、有機溶媒が存在した際の熱安定性であった。この実施例において、WT Taqよりも有意に高い熱安定性(有機溶媒が存在する場合、存在しない場合の両方において)を有した12のバリアントを提示する。
【0259】
結論:
1.上記でテストしたサンプル(これらは好ましい選択物にも含まれる-実施例9の結論を参照されたい)において、それぞれは、有機性共溶媒1,4-ブタンジオールの存在並びに非存在下の両方においてより良好な熱安定性をもたらした。その配列内に存在した18個の突然変異は、P10S、G12T、L30P、A61V、A64V、Y116Stop、T161I、T186I、D244V、K314R、E434D、E520G、V586A、S612R、V730I、F749V、2493ΔA、及び2493ΔGである。これらは、実施例9内の複合リストから判断されるように、水性有機媒体内でのPCRに対して最良の全体的適合性を提供するという点で最良の突然変異にも該当する。
2.溶媒及び温度に対してより耐性であったサンプル、すなわち任意のテスト条件(0%~7%1,4-ブタンジオール及び95℃~97.5℃))の下で2倍を超える半減期を有した5つのクローンは、10個の突然変異からなる下記のリスト:P10S、L30P、E434D、E520G、V586A、S612R、V730I、F749V、2493ΔA、及び2494ΔGから2個以上の突然変異を有した。
3.単一の突然変異F749Vを含む1つのサンプル(クローンN-1-5-E9)は、すべての条件下で2番目に最良の熱安定性を有した。
【0260】
野生型Taqポリメラーゼ及び突然変異を含有するそのバリアントの熱安定性も、上記記載の手順に従い、ポリメラーゼのより広いスペクトルについて、0.565モルの1,4-ブタンジオールの存在下、95℃において測定した。総合した結果を下記の表に示す。
【0261】
【0262】
熱安定性アッセイ法は、ポリメラーゼの耐熱性の評価において十分に立証されており、また幅広く受け入れられているものの、同法は酵素のプライマー伸長能力に依存する。有機溶媒は活性及び熱安定性の両方に独立して影響を及ぼす可能性がある。これを実証するために、熱安定性を活性とは独立にアッセイした。nanoDSFを使用して、Hisタグ化及び非Hisタグ化WT及び突然変異体ポリメラーゼの熱融解温度をプロファイル化した。5μMの各酵素を使用し、そして熱を徐々に加えながらアンフォールディングをモニタリングした。
【0263】
野生型及び工学的に作出されたポリメラーゼの融解温度(TM)プロファイルについても試験した。野生型ポリメラーゼ並びにバリアント(5μMを20mMトリス-HCl(pH8.0)、1mM DTT、0.1mM EDTA、100mM KCl、0.5%Nonidet P40(又はIpegal CA-630)、0.5%Tween-20、及び50%グリセロールに溶解)の熱的アンフォールディング実験を、Prometheus NT.48装置上でナノスケール示差走査型蛍光定量法(nanoDSF)(これまで、タンパク質の安定性を評価するのに適用された技術)を使用しながら、110℃まで熱的アンフォールディング及び凝集の分析を可能にした高温パッケージ及び後方散乱光学を用いて実施した。各タンパク質の熱変性を、30℃~110℃に温度を変化させながら、1℃/分の加熱スピード、及び10%の感度設定(蛍光励起パワー)を用いて330及び350nmにおける蛍光の変化を測定することにより決定した。この測定を、1%、2%、3%、5%、7.5%、及び10%の1,4-ブタンジオールの非存在下及び存在下で完了した。nanoDSF高感度ガラス毛細管を、バッファー及びサンプルの蒸発を防止するために密閉した。実験を2Bind GmbH社において三重で実施した(https://2bind.com、Regensburg、ドイツ)。350/330nmの比及び散乱データを、PR安定性分析ソフトウェア(v.1.1、Nanotemper Technologies社、Munich ドイツ)を使用して分析した。
【0264】
【0265】
第7ラウンドCSR富化に由来するクローンのTMを評価するために、タンパク質を、若干の改変を行ったnanoDSFプロトコールに付した。界面活性剤の存在下、50%グリセロール内でTMを測定する代わりに、本発明者らは界面活性剤を排除し、そしてグリセロール濃度を5%に限定した。これにより、これまでに報告されたデータと一致する2つの明確なTMピークを得た。この場合、TM,1は5'-3'エキソヌクレアーゼドメインに対応する一方、TM,2はポリメラーゼドメインの安定性を表す。
【0266】
【0267】
結論:
1.上記表に示すように、Hisタグは熱安定性に影響を及ぼさない; Hisタグ化及び非Hisタグ化TaqポリメラーゼのポリメラーゼドメインのTMは、それぞれ104.30±0.34℃及び104.39±0.08℃である。
2.本発明者らのデータは、ポリメラーゼについてこれまでに報告された2ドメインアンフォールディングパターンと一致する。本発明者らは、Hisタグ化及び非Hisタグ化Taqポリメラーゼのいずれも2ドメイン様式で変性すること、すなわち5'-3'エキソヌクレアーゼドメインは、ポリメラーゼドメインと比較してより初期の温度においてアンフォールディング状態にあることを認めた。
3.水及び混合型水性有機媒体内の工学的Taqポリメラーゼにおいて、半減期と融解温度結果との間に一般的な一致が存在する。
4.上位の突然変異体の大部分において、WTと比較して優れた熱安定性を有することが観測され、BDの割合(%)が高いほど改善のマージンが増加した。
【0268】
実施例11c
核酸伸長時間-高速PCR用途及び処理能力の増強
qPCRスクリーニングテストを生き延びた上位にランクされるバリアント(第1ラウンド)に由来する18サンプル(実施例5)を、PCR反応におけるヌクレオチド伸長速度についてテストした。
【0269】
選択された突然変異体の伸長時間を決定するために、一連のPCR反応を96ウェルPCRプレート内で実施した。実験には2つの部分が含まれた:
(1)突然変異体細胞培養物の調製
(2)望ましいPCRプログラムに基づくPCR反応混合物
第1の部分:突然変異体ヒット細胞培養物の調製
ステップ1.各突然変異体(シリアル番号1~20)の一晩の培養物(35μL)をLB/CPL 96ディープウェルプレート(500μL)中に移し、そして250rpm、37℃で2時間15分増殖させた。
ステップ2.最終濃度300ng/mLのアンヒドロテトラサイクリンにより誘発する。
ステップ3. 4時間インキュベートした後、4,000rpm、4℃で15分間の遠心分離により細胞を採取する。
ステップ4.細胞ペレットを1×taqバッファー+0.1%トリトン(200μL)中で再懸濁する。次に、使用するまで氷上に配置する。
第2の部分:PCR反応混合物の調製
0.1%トリトンを含む1×Taqバッファー内に1mg/mL BSA、0.25mMのdNTP混合物、0.5μMのフォアワード及びリバースプライマー(P1及びP2)、並びに10μLの細胞懸濁物(部分1ステップ4に由来する)を含む総容積(50μL)内で、PCR反応を実施した。
【0270】
使用したPCRプログラム及び共溶媒条件は下記の通りであった:
【表23】
【0271】
PCR増幅産物をDNAゲルにより検出した。標的アンプリコンサイズは約2.5kbである。突然変異体毎の伸長時間が決定可能である。コントロールとして、1分/kbdの伸長速度(2.5kbのアンプリコンの場合、伸長時間は2.5分と計算される)を有するWT Taqポリメラーゼを使用した。結果は下記の通りであった(表A)。
【0272】
【0273】
次に、全ラウンドにわたり、上位にランクされたクローンのポリメラーゼ比活性について特徴付けした(表B)。
【0274】
B.WT及び工学的に作出されたポリメラーゼの比活性に対する1,4-ブタンジオールの効果。
タンパク質を精製及び定量した。等量のタンパク質を、5%BDの非存在及び存在下で酵素のプライマー伸長活性を評価するのに使用した。
【0275】
【0276】
それに加えて、これまでに記載した方法に若干の改変を加えながらそれを使用して、工学的に作出されたポリメラーゼの処理能力を評価した。ポリメラーゼが1回の結合事象においてテンプレートを伸長させることを保証するために、本発明者らはトラップ剤としてヘパリンを含めた。WTの処理能力を1結合事象当たり14個のヌクレオチドとして記録したが、それは報告された数値に近い。本発明者らの知見を検証及び比較するために、NEB社の市販Taqポリメラーゼも使用した。一般的に、突然変異体の処理能力はWT Taqポリメラーゼと類似しているが、しかし突然変異体、例えばSPC5、SPC9、N-7-3-C8、N-7-1-F6等はより高い処理能力を示した。これらの配列内に見出された共通する突然変異としてA61V、T186I、K314R、E520G、A608V、S612R、及びF749Iが挙げられる。これらの突然変異は、熱安定性及び1,4-ブタンジオールによる不活性化に対する耐性を強化するものとして、本研究に示す配列においてこれまでに特定された。それに付加して、ここで特定された突然変異は、ポリメラーゼ活性部位に対して近位側及び遠位側の両方の領域において生ずることが指摘され得る。これまでに、ポリメラーゼのDNA結合強度が増加すると、その結果処理能力及びPCR阻害剤に対する耐性が増加することが明らかにされている。この結果より、このような突然変異はDNA結合性又は処理能力の改善を引き起こすその他のポリメラーゼ特性を増強し得ることが示唆される。この分析から得られた結果を下記の表(表C)に示す。
【0277】
D. WT及び選択されたTaq突然変異体の処理能力。様々な配列のメジアン伸長長さ及び決定された処理能力値。
【0278】
【0279】
結論:
1.高速PCRに対する上記速度の意義を決定するために、これまで報告された高速PCRにおいて最速とされる伸長速度の1つを有するTaqバリアントについて検討した(Areziら、2014年)。このバリアントは単一固有の突然変異E507Kを含み; Taq遺伝子のサイズ(長さ2.5kb)の標的に対して、最大1.25分の伸長時間計算値を有した。Areziらは、伸長速度を測定するために549bpアンプリコンを使用した。本発明者らの手持ちの技術では、Arerziらが使用したサイズの小さなアンプリコンは信頼性のある指針を提供しなかった-不自然により高速な伸長速度を示した。このような理由により、本発明者らはかなり長めの2.5kbアンプリコンを使用した。したがって、本発明者らの結果はどちらかと言えば保守的である。
【0280】
2.伸長速度は、1,4-ブタンジオールの存在下及び非存在下でのWT Taqの伸長速度からわかる通り、有機性共溶媒(1,4-ブタンジオール)の存在下では若干より速いと思われる。
【0281】
3.上記結果からわかる通り(表A)、テストした18バリアントのいずれも、親WT Taqよりも有意に高速な伸長速度を示し、その適合性指標の改善にはより高速なヌクレオチド組込み速度が含まれることを示唆する。
【0282】
4.テストした18サンプルのうち少なくとも8サンプルが、完全長2.5kb Taq遺伝子に対して、1,4-ブタンジオール非存在下で1.5分未満、及び1,4-ブタンジオール存在下では2.1分未満の伸長時間を有した。それらは、有機溶媒が存在する場合、存在しない場合のいずれにおいても、ほとんどの高速PCR反応における使用にとってふさわしく好ましいものとみなすことができる。そのクローンは以下の通りである:
●固有の突然変異A454L、F749Y、2494ΔGを含むクローンN-1-1-D12
●固有の突然変異H676R及びD732Gを含むN-1-4-H07
●固有の突然変異E687K及び2494ΔGを含むN-1-1-E11
●固有の突然変異A29T及びV737Dを含むN-1-1-G10
●固有の突然変異V740A及びF749Yを含むN-1-5-E09
●単一の固有の突然変異F749Yを含むN-1-5-H07
●単一の固有の突然変異V310Lを含むN-1-1-E08
●単一の固有の突然変異2494ΔGを含むN-1-1-C10
【0283】
5. 1,4-ブタンジオールの非存在下で1.5分未満及びその存在下で1.7分未満の伸長を実現する、FAST PCR 9にとってより好ましいクローンは以下の通り:
●単一固有の突然変異F749Yを含むN-1-5-H07
●単一固有の突然変異V310Lを含むN-1-1-E08
●単一固有の突然変異2494ΔGを含むN-1-1-C10
このようなより好ましいクローンのそれぞれは、単一固有の突然変異を有する。
【0284】
6.高速PCRに資する別の特性である比活性に関し(表B)、5%BDにおいてWT Taqよりも高いランクを示した30を超える上位にランクされるポリメラーゼをスクリーニングから取得した。最終ラウンドに由来する全富化クローンは、WTよりも良好な性能を有する。
【0285】
7.処理能力分析(表C)より、少なくとも8つのポリメラーゼがWTよりも良好な処理能力を有し、その他のほとんどはWTの数値と類似した数値を示すことが判明した。処理能力が高いほど、特に長いテンプレートにおいて伸長ステップのより迅速な終了をもたらすので、処理能力もまた高速PCRに関連する。
【0286】
実施例11d
忠実性アッセイ
(注記:このテストを、有機性共溶媒1,4-ブタンジオールの非存在下で計画的に実施した)
野生型並びにその突然変異体誘導体の忠実性を、Barnes及び共同研究者らが記載する方法により評価した(Kermekchiev、Tzekov、及びBarnes、2003年)。プラスミドpWB407に由来するカナマイシン及びアンピシリン遺伝子の一部分と共にLacZ遺伝子全体をコピーするために、等量の野生型及び突然変異体ポリメラーゼを使用した。lacZ遺伝子をコピーするために、下記のPCRプログラム:94℃で3分間、16サイクルの94℃で45秒間、30℃で57秒間、72℃で6分間、を使用した。最終伸長を72℃で10分間実施した。PCR産物を精製し、ScaI及びPstIを用いて制限消化し、そして同一の制限酵素を用いて消化されたpWB407に再ライゲートした。エレクトロコンピテントSS320大腸菌細胞内に形質転換した後、形質転換体をカナマイシン(50mg/mL)、アンピシリン(100mg/mL)、及びX-gal(20μg/ml)を含有するLBプレート上に播種した。
過去の記載(Barnes、1992年)に従い、下記の式:
【数3】
を使用しながらエラー率を計算するために、青色~白色コロニー[白色= 突然変異;青色=突然変異無し]をスコア化した。
【0287】
式中、Fは青色コロニーの割合であり; 1000はLacZ遺伝子内の非発現停止標的部位の推定された数であり; Eはポリメラーゼの見かけのエラー率であり(組み込まれたヌクレオチド1個当たりのエラー); mはPCRサイクルの数であり、数量m-1は、野生型ストランドに対して潜性であり、最終サイクルにおいて生じたエラーは発現されない、という仮説の下で使用される。結果を下記の表に示す。
【0288】
野生型Taqポリメラーゼ及び突然変異体誘導体の忠実性。第1世代ライブラリーから選択された上位のクローン、及び第7回富化ラウンドに由来する2クローン、第5回富化CSRラウンド後の第2世代に由来する2クローン、及び合成クローンSPC9について、それらの忠実性を決定した。上記式を使用して見かけのエラーを計算した。コントロールとして、多用化キットポリメラーゼ(LacZ遺伝子全体を増幅し、3.5突然変異/kbを生成する)を含め、見かけのエラー率アセスメントがそれに後続した。T及びWは、全コロニー及び白色コロニーの数をそれぞれ表す。見かけのエラー(Error app.)は組み込まれた塩基対1個当たりの変化として与えられ、例えばWTの場合、組み込まれた19173個のヌクレオチドにつき1個のヌクレオチド変化であると予想される。*- epPCR第1ラウンドCSRから取得されたクローン、**-合成されたポリメラーゼクローン、§-第7ラウンドのepPCR富化の後に取得されたクローン、l-シャッフリングライブラリー富化の第5ラウンドのCSR後に取得されたクローンを表す。
【0289】
【0290】
結論:
1.本発明の改変された酵素(Taqポリメラーゼバリアント)が本質的に優れた忠実性又は劣った忠実性を有するかどうか判定するために、有機性共溶媒非存在下で上記実験を計画的に実施した。
2.結果は、本発明者らが実施した選択プロセス(実施例2、3、及び4)は、溶媒-温度耐性(実施例5及び11b)だけでなく、忠実性にも優れた酵素をもたらしたことを明確に示唆する。
3.上記でテストしたサンプルにおいて、ほぼすべてが親WT Taqポリメラーゼよりも良好な忠実性を有し、そして少なくとも5サンプル(N-1-2-G2、N-1-1-B1、N-1-2-G4、N-1-1-G5、及びN-1-1-G11)は25%を超える忠実性の改善を有した。そのうちの3サンプル(N-1-1-B1、N-1-2-G4、及びN-1-1-G5)は、単一の突然変異(A54V、T186I及びE832K)を有した。これら3つの突然変異(A54V、T186I、及びE832K)は、それ自体が保有する個々のメリットとして優れた溶媒-温度耐性を有することから、やはり選択された単一の突然変異に該当する(実施例11の結論を参照されたい)。
4.N-1-2-G02は、おそらくはこのクローンは基質と相互作用する2個の突然変異(V586A及びS612R)を有するので、WTよりも低いエラー率(より高い忠実性)を有する。本発明者らの知見は、CSRのオリジナルの概念(必須特性、例えば忠実性等を損なうことなく酵素は進化し、そしてバリアントを富化させなければならないという全体的な適合性)と整合する。
【0291】
実施例11e
工学的に作出されたポリメラーゼを用いたGC富化テンプレートの増幅
ゲノムDNAに由来するGC富化テンプレートの広範囲にわたるセット(表A)を、WT Taq及び1つのすでに報告されている工学的に作出されたポリメラーゼ(L-5-2-F01)を用い、1,4-ブタンジオール(BD)の存在下でPCR増幅した。様々なBD濃度を用いながら、2種類のPCRサイクリング条件(高い変性温度、中程度の変性温度)を採用した。
【0292】
図16は、高い変性温度の下では、WT Taqは、5%BDが存在する中で表示の7つのGC富化テンプレートのいずれも増幅することができないことを表す。標的は、WT Taqを用いた場合、1~4%BDにおいて、やはりすべて増幅不可能であった。一方、工学的に作出されたポリメラーゼバリアントは、高い変性温度の下、7%BDが存在する中で表示の7つのGC富化テンプレートのうち5つを効率的に増幅する。
【0293】
図17は、高い変性温度の下、WT Taqは、これら7つのGC富化テンプレートのいずれも、7%BDが存在する中にあってもなおも増幅することができないことを示す。一方、BD濃度を10%まで増加させることにより、工学的に作出されたポリメラーゼバリアントは、7つのGC富化テンプレートすべてを増幅する能力を有する(但し、とりわけ、平均64%/最大88%、及び平均79%/最大約100%の最高GC含有量をそれぞれ有するCD5R2及びDACT3についてある程度の非特異性を有する; 表A及び
図19)。BAIP3及びLF14を含む追加のGC富化テンプレート(GC含有量:それぞれ平均64%/最大80%及び平均72%/最大90%、; 表A及び
図19)についても、工学的に作出されたポリメラーゼを用いてこの条件の下で試験した。BAIP3テンプレートは強い増幅を示し、1つの非特異性のバンドのみを認めた一方、KLF14はこの条件下で有意により低い特異性を示した。
【0294】
最終的に、より低い変性温度(ポリメラーゼの熱安定性がより高い)の下(
図18)、このポリメラーゼを使用してPCR増幅を比較した。WT Taqの場合、これはより高いBD濃度(7%)の使用を可能にする。
図17に由来するDACT3及びKLF14、並びにCDN1C及びPO3F3(GC含有量は、それぞれ77%/最大98%及び平均78%/最大93%;表A及び
図19)を含む、4つの高度にGC富化されたテンプレートについて試験した。この条件下、KLF14は、工学的に作出されたポリメラーゼを使用したとき、高い特異性を有して強く増幅された。CDN1C及びPO3F3もまた高い特異性を有して効率的に増幅された。DACT3(試験したすべてのテンプレートの中で最大のGC含有量を有した)はこの条件下では増幅され得なかったが、工学的に作出されたポリメラーゼを使用してその増幅に成功したことは、
図17(より高い変性温度及び10%BD)にすでに示されていることに留意されたい。WT Taqは、7%BD中、このようなサイクリング条件の下では、4つのテンプレートのうちの1つのみ(KLF14)を若干増幅できた; KLF14の場合、増幅収率は、同一条件下における、工学的に作出されたポリメラーゼの増幅収率よりも有意に小さかった。したがって、試験したすべてのGC富化配列は、工学的に作出されたポリメラーゼを使用して効率的に増幅されたが、しかしWT Taqを使用した場合、それらのほぼすべてが効率的に増幅されなかった。限られたPCR最適化のみがこれらの結果を実現するのに必要とされた。
【0295】
【0296】
結論:
1.全体として、上記結果より、PCRは、WT Taqを使用したのでは多くのGC富化遺伝子を増幅するように最適化することができない一方、報告する工学的に作出されたポリメラーゼは、ほぼ任意のGC含有量のテンプレートを増幅する能力を有することが実証される。したがって、このような共溶媒耐性の工学的に作出されたポリメラーゼは、PCRの長期にわたるGC富化テンプレート問題を、議論の余地はあるにしても解決する。
2.それに加えて、これらの結果は、文献(酵素の熱安定性/活性、及びDNA融解に対する共溶媒の効果の観点から増幅収率を説明する)に提示されたPCR増幅に対する第1原理モデルと完全に整合する。これは、GC富化テンプレート増幅の合理的最適化を可能にする。
3. WT Taqを用いてより高い%BDを使用する場合、より低い変性温度を必要とし(BD内ではWT Taqの熱安定性が低下することによる)、またWT Taqを用いてより高い温度を使用する場合、より低い%BDを使用する必要があるので、WT Taqは試験したGC富化テンプレートのほとんどを増幅することができない。また、使用した変性温度を問わず、共溶媒はWT Taq 酵素活性に対して非常に大きな阻害効果を有するので、使用可能な最大%BDが制限される。対照的に、工学的に作出されたポリメラーゼは、強靭なGC富化テンプレート増幅を妨げるこのような制限を克服する。特に:
4.
図16(高い変性温度)において、ほとんどのGC富化テンプレートを増幅するのに十分なテンプレートTmの低下を実現するために、この変性温度のままBD濃度を上昇させることはWT Taqポリメラーゼの場合不可能である一方、これは工学的に作出されたポリメラーゼの場合可能である。こうしたことから、5%のBDはテンプレートTmを約3~4℃低下させるが(
図13)、それは、変性温度を97℃以上に設定した場合(テンプレートの50%しかこのTmにおいて変性しないという事実に起因して)、一部のテンプレートにとっては十分であり得るが、しかしWT Taqの熱安定性は、このような温度において5%BD中に存在するとき、無視し得るほど低いことに留意されたい。
5.
図17(高い変性温度、高い%BD)及び
図18(より低い変性温度、高い%BD)において、選択した変性温度において、熱安定性を過度に損なうことなくTmを十分に低下させることにより、DACT3(又はその他のGC富化テンプレート)を増幅する温度と%BDの組合せを見つけることは、WT Taqポリメラーゼの場合不可能である。対照的に、
図17において、テンプレートTmは10%BDを使用することにより約6~7℃低下し得る(98℃-工学的に作出されたポリメラーゼが耐えることができる温度-において有意なテンプレート変性を可能にする)ので、DACT3は工学的に作出されたポリメラーゼを使用して奏功的に増幅された。95℃におけるWT Taqの熱安定性は5%BDにおいて妥当であるが、5~7%BDはテンプレートTmを4~5℃しか低下させないことを踏まえれば、テンプレートTmが十分に低下しても、PO3F3及びDACT3のような高度にGC富化された遺伝子を増幅するのに十分ではないことに留意されたい。それに加えて、WT Taq活性は5%BDにおいて有意に低下する。
6.この分析は、上記報告のポリメラーゼの特徴付けは、最適条件を予測して、別途増幅困難なGC富化配列の増幅を可能とするのに使用可能であることから、非常に幅広くそして重要な実用的価値を有することを表す。
7.最後に、DACT3及びPO3F3はGCが90%を超える領域を有し、したがって、多くのその他の高度にGC富化された配列も、このようなポリメラーゼを使用して増幅可能となる可能性が高いことに留意されたい。
参考資料
【0297】
本明細書に記載するすべての公開資料、特許出願、特許、及びその他の参考資料は、本開示の主題が関係する当業者のレベルを示唆する。すべての公開資料、特許出願、特許、及びその他の参考資料は、個々の公開資料、特許出願、特許、及びその他の参考資料のそれぞれが、参照により組み込まれるものと特別且つ個別に示されたかのように、それと同じ程度まで、本明細書において参照により組み込まれる。いくつかの特許出願、特許、及びその他の参考資料が本明細書で引用されるものの、そのような参考資料は、本文書のいずれかが当技術分野おける共通の一般的知識の一部分を形成することの承認を構成しないものと理解される。
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Rodriogues et al., DynaMut: predicting the Impact of mutations on protein conformation, flexibility and stability. 2018 Nucleic Acids Research, Web Server issue, vol. 46, pp W350-W355.
【0298】
本開示の例証的実施形態の上記説明は例証及び説明目的で提示されている。上記説明は、網羅的であるか又は開示された精密な形態に本開示を限定するように意図するものでなく、また改変及び変更は、上記教示に鑑み、可能であるか又は本開示の実践から取得され得る。実施形態は、本開示の原理を説明するため、並びに当業者が、特別な用途に適するように様々な改変を加えながら、様々な実施形態において本開示を利用するのを可能にするために、本開示の実用的応用例として、選択及び記載されている。本開示の範囲は本明細書に添付の特許請求の範囲及びその等価物により定義されることが意図される。
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【配列表】
【国際調査報告】