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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】耐食性に優れた導電性炭素系粒子
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20241016BHJP
   B22F 1/18 20220101ALI20241016BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20241016BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241016BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01B5/00 C
B22F1/18
C22C19/03 M
H01B13/00 501Z
H01B1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521761
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 KR2021013907
(87)【国際公開番号】W WO2023058797
(87)【国際公開日】2023-04-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524132092
【氏名又は名称】シーアンドシー マテリアルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】キム サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒュン-グン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ユン-ホ
【テーマコード(参考)】
4K018
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
4K018BA20
4K018BC22
4K018BC26
4K018BD04
4K018KA33
5G301BA01
5G301BA02
5G301BA03
5G307AA02
(57)【要約】
本発明は、表面に、電気伝導性に優れるとともに、耐食性と炭素系粒子との結合力に優れた、金属層が形成された導電性炭素系粒子を提供することを目的とする。上記のような目的を達成するために本発明では、炭素系粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、を含む導電性炭素系粒子を提供することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、
前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、
前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、
を含む、
導電性炭素系粒子。
【請求項2】
前記炭素系粒子は、黒鉛、グラフェン及びCNTからなる群から選択される1種以上である、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項3】
前記第1層は、金属銀を更に含み、前記金属銀における銀元素に対する前記酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))が、1~20の範囲である、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項4】
前記第1層は、錫を更に含む、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項5】
前記第1層に含まれる銀の含量は、前記導電性炭素系粒子の全体重量の10~1,000ppmである、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項6】
前記第3層は、前記ニッケルと共に燐を更に含む、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項7】
前記第3層は、0.1~13.0重量%の燐を含む、
請求項6に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項8】
(a)炭素系粒子の表面を親水化させる親水化段階と、
(b)前記表面が親水化した炭素系粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、
(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、
(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、
を含む、
導電性炭素系粒子の製造方法。
【請求項9】
上記(a)段階と(b)段階との間に、錫層を形成する段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性炭素系粒子の製造方法。
【請求項10】
上記(b)段階の後、上記(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液で前記第1層が形成された炭素系粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性炭素系粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属コート層を有する導電性炭素系粒子に関し、特に、高価なパラジウム触媒層なしに銅金属層が表面に形成されて、さらに銅金属層を保護するために、ニッケルまたは銀コート層がさらに形成される、多層構造の耐食性に優れた導電性炭素系粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粒子は、電子材料に非常に広く使用されている。そのうち、銅またはニッケルといった金属粒子は、高い導電性を有しており、価格競争力も高いことから、種々の電子部品における電気伝導性を要するフィルム、接着剤、コートスラリーなどに様々に活用されている。
【0003】
ところが、これらの金属粒子は、合成過程で、様々なサイズの粒子を製造し難いし、粒子間の粒度均一性と球状を維持し難いため、導電性フィルムや接着剤を製造するとき、均一な厚さのフィルムまたは接着層を作りにくくなり、接触特性も均一に維持しにくくなる。また、良くない接触特性を補うために、金属粒子を大きい体積でフィルムまたは接着剤に投入することになるが、これらの金属粒子による高い体積の割合は、フィルムまたは接着層を重くして、接着力を弱化させる問題を起こし得る。
【0004】
一方、密度が低く、耐化学性に優れ、かつ、一定以上の導電性を有する炭素系粒子も導電性物質として多く使用されているが、炭素系粒子では、黒鉛粒子、グラフェン粒子、CNT粒子などが可能である。しかし、これらの炭素系粒子で作られるフィルムまたは接着層は、依然として金属粒子に比べて導電性が低いという問題がある。
【0005】
斯かる問題を克服するために、密度が低くて、耐化学性に優れた黒鉛、グラフェン、CNTなどといった炭素系粒子の表面に銅、ニッケル、銀、金のような導電性金属層を形成した導電性炭素系粒子を適用する必要がある。
【0006】
しかし、母材である炭素系粒子と金属層は、互いに異なる異種の物質であって、結合力を維持しにくい問題がある。通常、炭素系物質やセラミックのような異種の物質の表面に金属コート層を形成するためには、パラジウムを用いた触媒層を形成した後、金属層を形成する方法が多く用いられているが、パラジウムは、高すぎるため、工程コストが増加する問題を有するようになる。
【0007】
一方、炭素系粒子の表面にコートされる金属層は、様々な金属からなり得るが、銅は、導電性が銀に近い程に優れるものの、酸化しやすい問題があり、ニッケルは、耐食性には優れるため、長期信頼性などに長所があるものの、電気伝導度が低い問題がある。さらに他の金属である銀(Ag)は、導電性と耐食性にいずれも優れるものの、値段が高すぎるという問題がある。
【0008】
このように、炭素系粒子の表面に形成される金属層もまた、所望の品質のいずれも満たすことは難しい点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、表面に、電気伝導性に優れるとともに、耐食性と炭素系粒子との結合力に優れた、金属層が形成された導電性炭素系粒子を提供することを目的とする。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、導電性炭素系粒子の表面に、電気伝導性に優れるとともに、耐食性と炭素系粒子との結合力に優れる、金属層を安価に形成することができる導電性炭素系粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するために本発明では、炭素系粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、を含む導電性炭素系粒子を提供することができる。
【0012】
また、前記炭素系粒子は、黒鉛、グラフェン、及びCNTからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0013】
また、前記第1層は、金属銀を更に含み、前記金属銀における銀元素に対する前記酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))が、1~20の範囲であってもよい。
【0014】
また、前記第1層は、錫を更に含んでいてもよい。
【0015】
また、前記第1層に含まれる銀の含量は、前記導電性炭素系粒子の全体重量の10~1,000ppmであってもよい。
【0016】
また、前記第3層は、前記ニッケルと共に燐を更に含んでいてもよい。
【0017】
また、前記第3層は、0.1~13.0重量%の燐を含んでいてもよい。
【0018】
本発明による導電性炭素系粒子の製造方法は、(a)炭素系粒子の表面を親水化させる親水化段階と、(b)前記表面が親水化した炭素系粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、を含んでいてもよい。
【0019】
また、上記(a)段階と(b)段階との間に、錫層を形成する段階を更に含んでいてもよい。
【0020】
また、上記(b)段階の後、上記(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液で前記第1層が形成された炭素系粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明による導電性炭素系粒子は、安価でありながら、電気伝導度と耐食性に優れて、電気伝導度を要する種々の電子部品に適用可能であり、表面金属層の結合力に優れて、適用される部品の軽量化と、導電性及び信頼性の向上を達成することができるようになる。
【0022】
また、本発明で提供する導電性炭素系粒子の製造方法により、安価の工程によって導電性及び信頼性に優れた導電性炭素系粒子の大量生産が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による実施例と比較例に従う導電性炭素系粒子の走査電子顕微鏡のイメージである。
図2】本発明による一実施例における導電性炭素系粒子に対するX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)による分析結果を示す図である。
【0024】
発明を実施するための最善の形態
以下では、本発明の実施例について添付の図面を参照して、その構成及び作用を説明することとする。下記では、本発明を説明するにあたって、関連する公知の機能または構成に関する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に逆の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素を更に含んでいてもよいことを意味する。
【0025】
炭素系粒子は、耐化学性に優れ、かつ、密度が低いという長所があるものの、電気伝導性が高くないため、導電性粒子として用いるのに制限がある。これを克服するために、表面に導電性金属層を形成すると、様々な形状とサイズの炭素系粒子に導電性を付与することができるようになる。
【0026】
しかし、炭素と金属は、異種の材料であって、その接着力が非常に低いため、金属層が炭素系粒子の表面に形成されることはとても難しい。これを克服するために従来は、導電性を付与する金属層と炭素系粒子との間に接着を円滑にする中間層を形成する方法を用いるが、これらの中間層としてパラジウムを含む触媒層を形成させた。これらのパラジウム触媒層は、金属層である銅、ニッケル、銀などの円滑な形成を導いた。しかし、周知のように、パラジウムは、高価な貴金属であって、近年は、金よりも高いため、これを用いて作るには工程コストが高すぎるという問題がある。
【0027】
斯かる問題を解決するために、本発明の発明者らは、パラジウムよりも安価でありながら、炭素系粒子の表面と十分な結合力を提供することができる中間層を検討した。酸化銀は、酸化物であって、炭素系粒子の表面に円滑に接着可能であるとともに、金属との結合力にも優れることが知られているため、これを中間層として形成した後、金属コート層を形成する技術の開発を行った。
【0028】
その結果、酸化銀の単独、または酸化銀と金属銀とが複合化した中間層が形成された場合、その後に形成される金属層が炭素系粒子と強く結合され得、従来のパラジウムを含む層を用いた場合に比べて同等であるか、それ以上の結合力を示すことが分かった。
【0029】
一方、炭素系粒子の表面に形成される金属層の種類によって、導電性炭素系粒子の特性が決定されるが、銅は、電気伝導性に優れる反面、酸化しやすくて、信頼性が問題となる。ニッケルは、逆に、耐食性に優れるものの、電気伝導性は、銅より低いという問題がある。銀は、耐食性と電気伝導度にいずれも優れるものの、高価という問題がある。このように、いずれか種類だけでは、産業で要求する特性のいずれも満たすことは難しい点がある。
【0030】
斯かる問題を克服するために、本発明の発明者らは、金属層を多層構造にして、先ず、銅金属層を形成し、これらの銅金属層を保護するために、ニッケルまたは銀金属層を銅金属層上に形成することによって、多層構造の金属層が表面に形成された導電性炭素系粒子を発明することになった。
【0031】
これによって、本発明では、炭素系粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、を含む導電性炭素系粒子を提供することができる。
【0032】
導電性炭素系粒子のコアを構成する炭素系粒子は、黒鉛、グラフェン、及びCNTからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0033】
導電性炭素系粒子は、密度が低い、かつ、耐化学性に優れて、様々な粒度を有することができるため、種々の電子部品に適用されるのに有利である。このために、コアを構成する炭素系粒子は、黒鉛、グラフェンまたはCNTであるのが好ましいが、これらは、いずれも様々な特性の製品が常用化していることから、これらを用いると、様々な導電性炭素系粒子の製品を作ることができるようになる。特に、黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛など、種類によって様々な粒度と形状の製品が常用化しており、特性と単価が様々であることから、様々な製品化と適用が可能になる。
【0034】
上述したように、炭素系粒子の表面は、材料の特性上、容易に金属層と結合し難い。これらの表面の特性を改質するために、触媒層の形成が必要であるが、本発明では、従来のパラジウムを含む触媒層ではなく、酸化銀を含む触媒層である第1層を先に形成することになる。酸化銀は、炭素だけでなく、金属との結合にも優れるため、コアを構成する炭素系粒子と表面の金属層との間の結合が強く維持されるようにすることができる。
【0035】
本発明において、酸化銀を含む第1層は、錫を更に含んでいてもよいが、錫は、酸化銀が円滑に炭素系粒子の表面に付着するように導くために使用される元素であって、水溶液でコーティング作業を行う場合、炭素系粒子の表面に親水化を与えて、銀元素の炭素系粒子の表面への付着を助けるようになる。これらの錫は、酸化銀と共に第1層を構成することもでき、酸化銀を含む第1層と炭素系粒子の表面との間に形成されていてもよい。
【0036】
本発明において、酸化銀を含む第1層は、酸化銀と共に金属銀を更に含んでいてもよいが、金属銀が更に含まれると、第2層に含まれる金属である銅との結合をよりさらに強化することができる。酸化銀は、炭素系粒子との結合を強化し、金属銀は、これらの酸化銀と強く結合されるとともに、同じ金属である銅との強い結合を提供することで、結果として、銅を含む第2層と炭素系粒子との結合力をさらに強化させるようになる。
【0037】
このとき、第1層における金属銀の銀元素に対する酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))は、1~20の範囲であるのが好ましい。
【0038】
上述したように、金属銀を含むことが、酸化銀を含む第1層と銅を含む第2層との結合を強化するものの、酸化銀における銀元素に比べて、金属銀における銀元素の割合が高すぎると、その分、酸化銀による第1層の炭素系粒子の表面との結合力が低下するため、好ましくない。よって、酸化銀の銀元素に対する金属銀における銀元素のモル比は、酸化銀における銀元素の割合がさらに高いように、1~20であるのが好ましく、より好ましくは、1~10である。これらのモル比の測定は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)で測定することができる。
【0039】
ここで、酸化銀における銀の酸化数は、+1~+3まで可能であり、非晶質相では、酸化数が定数でなくてもよいため、酸化銀における銀の酸化数は、0超かつ3以下であってもよい。
【0040】
また、第1層は、パラジウムを更に含んでいてもよいが、パラジウムを含むことで、炭素系粒子の表面と酸化銀との結合及び第2層の結合をさらに強化することができる。この際に含まれるパラジウムは、酸化銀のない従来の導電性炭素系粒子に含まれる量よりもさらに少なくなり得る。例えば、従来は、導電性炭素系粒子に製造工程で使用されるパラジウムの量は、導電性炭素系粒子を基準に、一般に100~1,000ppmの範囲であるが、本発明による導電性炭素系粒子には、0超かつ50ppm以下に用いることができる。
【0041】
また、第1層に含まれる銀の含量は、前記導電性炭素系粒子の全体重量の10~1,000ppmであってもよい。
【0042】
第1層に形成される金属銀または酸化銀は、一定含量以上であってこそ、第2層に満足できる程の結合力を提供することができ、多すぎると、工程コストが高くなるため、好ましくないからである。より好ましくは、10~500ppmであってもよい。
【0043】
また、本発明における第1層は、炭素系粒子の表面に不連続的に形成される島状であってもよい。第1層は、電気伝導性を付与する第2層に炭素系粒子との結合力を強化させる層であって、不連続的な島状であるとしても、十分第2層に結合力を提供することができる。
【0044】
一方、第1層は、連続的なフィルム状であってもよいが、この場合、第1層は、炭素系粒子の表面積の最小50%以上を占めるようになる。連続的なフィルム状である場合にも、少なくとも粒子の表面積の50%以上であってこそ、十分な結合力を第2層に提供することができるからである。
【0045】
酸化銀を含む第1層上には、電気伝導性に優れた金属である銅を含む第2層が形成される。銅は、金属のうち、特に、電気伝導性に優れた特性を有しているため、導電性炭素系粒子に優れた電気伝導性を有するようにする。
【0046】
これらの銅を含む第2層は、全体の導電性炭素系粒子における5~40重量%であってもよいが、5重量%未満であると、電気伝導性が落ち得、40重量%を超えると、全体の導電性炭素系粒子の密度が高くなり、第2層の脱落リスクが増加するため、好ましくない。よって、導電性炭素系粒子における第2層の含量は、好ましくは、5~30重量%、さらに好ましくは、8~20重量%である。
【0047】
一方、本発明において、銅を含む第2層における銅の含量は、90重量%以上であるが、90重量%未満であると、第2層の電気伝導性が落ちるからである。
【0048】
本発明において、銅を含む第2層上には、さらにニッケルまたは銀を含む第3層が形成されていてもよい。
【0049】
これらのニッケルまたは銀を含む第3層は、第2層で形成された金属銅の酸化を防止するとともに、優れた電気伝導性を有するようになることで、最終的に、導電性炭素系粒子が電気伝導性と信頼性をいずれも確保できるようにする。
【0050】
第3層として、耐食性に優れたニッケルを含む金属層が形成されると、第2層を保護する一方、金属であるニッケルが形成されることによって、一定水準以上の電導度を確保できるようになる。
【0051】
これらの第3層は、ニッケルだけでなく、燐を含んでいてもよいが、燐が含まれることで、電気伝導度は、やや低下するものの、耐化学性と耐酸化性とが向上するため、信頼性が重要とされる部品に使用される場合には、第3層にニッケルと共に燐を含むのが好ましい。燐を含む場合、第3層における燐の含量は、0.1~13.0重量%であるのが好ましいが、低すぎると、所望の耐化学性と耐酸化性とが向上せず、13重量%を越える燐を含むと、十分な電気伝導性を得ることができないからである。より好ましくは、燐の含量は、0.5~6重量%である。
【0052】
一方、第3層は、ニッケルでない金属銀を含んでいてもよいが、銀は、耐食性と電気伝導性にいずれも優れた金属であって、特性の面からは、理想的であるものの、高価という短所がある。したがって、電気伝導性の面からは、銀と同等の水準である銅からなる第2層上に銅を保護し、かつ、優れた電気伝導性を有する銀を第3層として形成すると、高い銀の使用量を最小化しつつ信頼性を確保することができ、導電性炭素系粒子の導電性を極大化することができるようになる。
【0053】
また、本発明では、(a)炭素系粒子の表面を親水化させる親水化段階と、(b)前記表面が親水化した炭素系粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、を含む、導電性炭素系粒子の製造方法を提供することができる。
【0054】
導電性炭素系粒子を製造するためには、先ず、炭素系粒子の表面に、化学官能基を導入して親水化させる親水化段階が必要である。これらの親水化段階は、pH3以下の強酸水溶液からなっていてもよい。強酸溶液によって炭素系粒子の表面の炭素結合を一部切断することによって、炭素系粒子の表面への化学官能基の付着を円滑にすることができるからである。したがって、安定した炭素系粒子の表面を処理するためには、硫酸、窒酸または塩酸といった無機酸によって作られるpH3以下の強酸雰囲気が好ましい。
【0055】
一方、炭素系粒子の親水化処理は、上述したように、強酸水溶液上で行うことができるものの、プラズマ処理によって炭素系粒子の表面を改質することによって、乾式で親水化することもできる。
【0056】
親水化処理の後は、酸化銀を含む第1層を形成するが、酸化銀と共に錫を併せてコートすることができる。錫は、親水化した炭素系粒子の表面における酸化銀の結合力を高めることができるようになる。
【0057】
また、より精密な制御のため、親水化した炭素系粒子の表面に錫層を先に形成した後、酸化銀を含む第1層を形成することができる。
【0058】
酸化銀を含む第1層の形成は、pH8以上のアルカリ水溶液で行うことができる。酸化銀は、pH8以上のアルカリ雰囲気で良く形成されるからである。より好ましくは、pH9~11の範囲の水溶液で行うことができる。
【0059】
また、導電性炭素系粒子の製造方法において、(b)段階の後、(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液で前記第1層が形成された炭素系粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含んでいてもよい。
【0060】
水溶液中で第1層を形成する場合、水溶液中の銀イオンが還元して、酸化銀でない金属銀として炭素系粒子の表面に付着していてもよい。これらの金属銀の割合が高くなりすぎると、炭素系粒子と第1層との結合力が低くなり得るため、好ましくない。よって、酸化銀の含量を所望の水準に高めるために、適宜な温度のアルカリ水溶液で処理することによって、酸化銀の量を調節することができる。
【0061】
このように、酸化銀の量を調節した後、導電性を有する銅を含む第2層を形成することによって、導電性を付与する金属コート層と炭素系粒子との結合力に優れた導電性炭素系粒子を提供することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下では、本発明を十分理解するために、本発明の好ましい実施例を添付の図面を参照して説明する。
【0063】
本発明の実施例は、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施例は、様々な異なる形態に変形し得、本発明の範囲は、下記の実施例に限定されるものではない。返って、これら実施例は、本開示をさらに充実かつ完全にして、当業者に本発明の思想を完全に伝達するために提供されるものである。
【0064】
[実施例1]
脱イオン水100gに塩酸(35%溶液)を3g投入して、60℃に昇温した。ここに、D50が20μmである黒鉛を10g投入して、撹拌しながら10時間維持し、黒鉛粉末の表面を親水化した。その後、親水化した黒鉛粉末を回収して、さらに脱イオン水100gで撹拌し、3回洗浄した後に回収した。
【0065】
回収した黒鉛粒子を脱イオン水100gに塩化第一錫(SnCl・2HO)1.5gと塩酸(35%溶液)6mlとを溶かした水溶液に投入して、30分間撹拌し、錫層を形成した。水溶液の温度を35℃に維持した。
【0066】
錫層が形成された黒鉛粒子をフィルタリングによって回収した後、脱イオン水100gに窒酸銀(AgNO)0.15gを溶解した窒酸銀溶液に投入して、撹拌した。このとき、28%濃度のアンモニア水を点滴方式で投入して、pHを9.3に調節した。
【0067】
温度は、40℃に維持して、1時間撹拌し、酸化銀層を形成した。1時間後、濾過回収して、その後、脱イオン水200gで撹拌して、3回洗浄した後に回収した。酸化銀層が形成された粉末を一部採取して、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)による表面分析を施した。
【0068】
酸化銀層まで形成された粉末を回収し、無電解めっき法を用いて銅コート層を形成した。脱イオン水溶液300gに錯体として、EDTA(Ethylene-diamine-tetraacetic acid)40g、NaOH30g、及び硫酸銅20gで硫酸銅錯体水溶液を製造して、酸化銀層が形成された黒鉛粉末を投入し、撹拌しながら、還元剤としてホルムアルデヒド(formaldehyde)溶液を点滴して、銅を含むコート層を形成した。
【0069】
銅コート層が形成された黒鉛粉末上に、さらにニッケルコート層を形成したが、このために、脱イオン水300gに塩化ニッケル(NiCl・6HO)20g、酢酸ナトリウム(sodium acetate)10g、マレイン酸(Maleic acid)5g、還元剤である次亜リン酸ナトリウム(sodium hypophosphite)30g、酢酸鉛(lead acetate)3mlを投入して、組成したニッケルめっき液に銅コート層まで形成された粉末を投入し、撹拌しながら、70~90℃で、2時間維持して無電解めっきした。
【0070】
[実施例2]
銅コート層の形成までは、実施例1と同様に行っており、その後、銀を含むコート層を無電解めっきで形成した。このために、脱イオン水300gにEDTA(Ethylene-diamine-tetraacetic acid)2g、28%濃度のアンモニア水2.5ml、窒酸銀(AgNO)3gで銀コーティング液を製造した後、ここに、銅コート層まで形成された黒鉛粒子を投入して、撹拌しながら、脱イオン水50gにグルコース(glucose)10gと水酸化ナトリウム2gとを溶かした還元溶液を1時間点滴して、銀を含む第3層を形成した。
【0071】
[実施例3]
実施例1と同様、黒鉛粒子の表面に酸化銀を含む第1層まで形成した後、アルカリ水溶液で後処理を施した。後処理のため、脱イオン水100gに28%濃度のアンモニア水を投入して、60℃に維持した後、第1層まで形成された黒鉛粒子を投入して、撹拌した。黒鉛粒子を投入する前、水溶液のpHは、10.1であった。
【0072】
その後、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層の形成は、実施例1と同様に施した。
【0073】
[比較例1]
実施例1と同様、親水化処理と錫層を形成した。その後、酸化銀層を形成することなく、すぐに無電解めっきを施して、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層とを順次に形成した。銅とニッケルの無電解めっきは、実施例1と同様に行った。
【0074】
[比較例2]
実施例1と同様、黒鉛粒子の表面に酸化銀を含む第1層まで形成した。その後、水溶液にアスコルビン酸(Ascorbic acid)を投入して、表面にある酸化銀のうち一部を金属銀状態に作り、その後、無電解めっきを施して、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層とを順次に形成した。銅とニッケルの無電解めっきは、実施例1と同様に行った。
【0075】
[比較例3]
実施例1と同様、銅コート層まで形成し、その後の工程を施していない。
【0076】
このように作られた導電性黒鉛粒子に対して、第1層を形成した後、酸化銀と金属銀との銀元素の割合の分析、銀元素の含量、ニッケルの含量及び燐の含量の分析、そして走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)によるコーティング状態の観察を行った。銀元素の割合は、第1層を形成した後、サンプルを採取して、XPSによって分析した。銀元素の含量、ニッケルの含量及び燐の含量は、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer,ICP)による分析を行った。
【0077】
信頼性は、実施例1~3と、比較例1及び2によって作られた導電性黒鉛粒子をアクリルバインダーと一定量混合して、ポリイミドフィルム上に塗布し、乾燥した後、これを溶融した鉛上で30秒間維持した後、電導度を測定するリフロー(reflow)テストによって評価した。
【0078】
その結果は、下記の表1に示した。ここで、Cuの含量は、全体の導電性黒鉛粒子を基準に銅元素が占める重量%を示したものである。
【0079】
【表1】
【0080】
図1では、実施例による導電性黒鉛粒子の走査電子顕微鏡のイメージを示す。図1(a)は、実施例1、図1(b)は、実施例2、図1(c)は、比較例1、図1(d)は、比較例2によるサンプルの走査電子顕微鏡のイメージである。
【0081】
実施例1と2によるサンプルは、いずれも緻密なコート層が形成されたものを示すが、酸化銀を含む第1層のない比較例1では、コート層が正しく形成されておらず、第1層における金属銀の含量が高い比較例2では、コート層が緻密でなく、結合が強くないことが分かる。
【0082】
図2は、実施例3によるサンプルにおける第1層の酸化銀と金属銀との銀元素の割合を測定した結果である。XPSの結果、還元した状態の銀の割合と、酸化状態の銀の割合とのピークの割合によって測定することができるようになる。実施例3におけるこれらモル比(Agx+/Ag)は、7.83であった。
【0083】
一方、表1に示したように、耐食性は、リフローテストによって評価したが、実施例1~3では、リフローテストの後にも、導電性黒鉛粒子を用いたフィルムの抵抗は、50mΩ以下と良好であったが、コート層の形成が不安定な比較例2では、抵抗が大きく増加し、保護層である第3層が形成されていない比較例3のサンプルでは、抵抗が高すぎるため、測定されていない。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、
前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、
前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、
を含む、
導電性炭素系粒子。
【請求項2】
前記炭素系粒子は、黒鉛、グラフェン及びCNTからなる群から選択される1種以上である、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項3】
前記第1層は、金属銀を更に含み、前記金属銀における銀元素に対する前記酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))が、1~20の範囲である、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項4】
前記第1層は、錫を更に含む、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項5】
前記第層に含まれる銀の含量は、前記導電性炭素系粒子の全体重量の10~1,000ppmである、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項6】
前記第3層は、前記ニッケルと共に燐を更に含む、
請求項1に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項7】
前記第3層は、0.1~13.0重量%の燐を含む、
請求項6に記載の導電性炭素系粒子。
【請求項8】
(a)炭素系粒子の表面を親水化させる親水化段階と、
(b)前記表面が親水化した炭素系粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、
(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、
(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、
を含む、
導電性炭素系粒子の製造方法。
【請求項9】
上記(a)段階と(b)段階との間に、錫層を形成する段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性炭素系粒子の製造方法。
【請求項10】
上記(b)段階の後、上記(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液で前記第1層が形成された炭素系粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性炭素系粒子の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】手続補正書
【補正対象項目名】手続補正2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
【手続補正2】
【補正対象書類名】手続補正書
【補正対象項目名】手続補正3
【補正方法】削除
【補正の内容】
【国際調査報告】