(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241016BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 T
C12N15/64 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522383
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 CN2022124873
(87)【国際公開番号】W WO2023061409
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202111190063.4
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524139600
【氏名又は名称】チアンス、ジェンスクリプト、プロビオ、バイオテック、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU GENSCRIPT PROBIO BIOTECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ワン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、パン
(72)【発明者】
【氏名】ロンナ、ディン
(72)【発明者】
【氏名】アージン、フウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チュンリン、スアン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC14
4B065BA23
4B065BB32
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC26
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株及びその応用である。具体的には、該細胞株を用いてアデノ随伴ウイルスベクターのようなウイルスベクターを作製する方法、及びこのような細胞株をスクリーニングする方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中国普通微生物菌種保蔵管理センターに寄託され、寄託番号がCGMCC NO.:23020である、新規ヒト胚腎HEK293細胞。
【請求項2】
無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株のスクリーニング方法であって、
血清含有培地で接着培養されたHEK293細胞を取り、無血清培地中に置いて浮遊培養するステップであって、無血清培地がOPM-293 CD03培地、LV-MAX生産培地、及びExpi293発現培地から選択されるステップi)と、
浮遊培養に適したモノクローナル細胞株を選択するステップii)とを含む、方法。
【請求項3】
ステップi)における血清含有培地は10%血清を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップi)における浮遊培養は、37℃、8%CO
2の条件下での振とう培養を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップi)における浮遊培養は、細胞の継代を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ステップii)は、少なくとも1ラウンドの有限希釈及び撮影イメージングによりモノクローナル細胞を選択するステップと、選択されたモノクローナル細胞を浮遊培養するステップとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ステップii)において、選択された細胞の浮遊培養は、細胞の継代を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記無血清培地はOPM-293 CD03培地である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、凝集防止剤を添加することなく実施される、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項2~9のいずれか一項に記載の方法によりスクリーニングされた細胞株。
【請求項11】
液体培地中で凝集しない、請求項10に記載の細胞株。
【請求項12】
LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択される培地の、浮遊培養に適したHEK293細胞株のスクリーニングにおける用途。
【請求項13】
請求項1、10及び11のいずれか一項に記載の細胞株を用いてウイルスベクターを作製する方法であって、
前記細胞株を浮遊培養するステップi)と、
前記細胞株にウイルスベクター発現系を導入するステップii)と、
ウイルスベクターが産生される条件下で前記細胞株を培養するステップiii)と、
ウイルスベクターを収集するステップiv)とを含む、方法。
【請求項14】
ステップiv)の後、ウイルスベクターに対して力価検出を行うステップv)をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ウイルスベクター発現系は、異種核酸含有のベクタープラスミド、rep-cap含有のパッケージングプラスミド及びヘルパープラスミドを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願及び参照による組み込み】
【0001】
本出願において引用又は言及される全ての文書(本明細書に引用される全ての文献、特許、開示された特許出願を含むが、これらに限定されない)(「本出願引用文書」)、本出願引用文書において引用又は言及される全ての文書、及び本出願又は任意の本出願引用文書において言及される任意の製品の製造業者によるマニュアル、明細書、製品仕様及び製品ページは、いずれも参照により本出願に組み込まれ、本発明を実践する際に用いることができる。さらに具体的には、全ての参照文献は、各文書が参照により組み込まれるのと同様に、いずれも参照により本出願に組み込まれる。本明細書において言及される任意のGenbank配列は、参照により本出願に組み込まれる。本出願は、2021年10月12日に提出された、出願番号が202111190063.4である中国特許出願の優先権を主張し、その内容の全てが参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本出願における任意の文書の引用は、これらの文書が本出願の従来技術であると認めることに等しいものではない。
【0003】
本出願は、無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株をスクリーニングする方法、及び該方法を用いてスクリーニングしたHEK293細胞株、特に寄託番号がCGMCC NO.:23020であるPowerSTM-293に関する。本出願は、スクリーニングした細胞株、特にPowerSTM-293を用いて、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルスベクターを生産する方法にさらに関する。
【背景技術】
【0004】
遺伝子治療と細胞治療は、急速に発展しており、生命医療の発展の最も有望な方向となっている。遺伝子治療の主な目的は、外来遺伝子を標的細胞又は組織に導入し、特定の遺伝子を代替、補償、遮断、修正して、疾患を治療するという目的を達成することである。遺伝子治療において、70%~80%の治療レジメンは、ウイルスベクターによって達成される。ウイルスベクターは、治療用外来遺伝子の目的部位への送達を実現する鍵であり、そのまま薬物として注射されてもよいし、薬物の生産に用いられてもよい。
【0005】
重篤で命を危険にさらす多くの疾患にとって、遺伝子治療は、現在最も有効で唯一の治療手段であるとともに、遺伝子治療の適応症が、希少/超希少疾患からより一般的な疾患へと変化しつつある。したがって、遺伝子治療用ウイルスベクターのより大規模な生産は該業界において切望されている。
【0006】
外来遺伝子を標的細胞に導入するためのウイルスベクターは、主にレトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターに由来し、ここで、アデノ随伴ウイルスベクターは最も広く使用されている。現在、主流となるAAV生産は、HEK293細胞を生産細胞として用い、角瓶、平皿などの系にウシ胎児血清を加えてHEK293細胞を接着培養し、複数のプラスミドの一過性トランスフェクション及びパッケージングによってウイルスを得る。細胞及び遺伝子治療開発企業にとっては、接着細胞HEK293を一過的にトランスフェクトする生産方式は、ウイルスベクターの需要量が限られているため、前臨床研究、IND申告及び臨床試験期間に適している。このような生産方式では、高価で、動物由来ウイルスに汚染されるリスクのあるウシ胎児血清を使用する必要がある。細胞の収量を増やす必要がある場合、主に細胞培養ユニットの数を増加することに依存し、占有するスペースが大きく、作業負荷が大きいなどの問題を引き起こすことが多い。より大規模なAAV生産が必要である場合、解決策の一つは生産細胞株を浮遊培養することである。接着培養に比べて、浮遊培養は、細胞密度を高めることができるだけでなく、細胞を無血清培地中で培養して、最終製品中の潜在的な免疫原性物質汚染及び動物由来成分を減少させ、下流の精製プロセスを簡略化し、製品の臨床レベルへの転換を大幅に推進することができる。なお、浮遊培養のスケールアップは、培養ユニットの増加による接着培養に比べて、バッチ間の差を減少させることもできる。
【0007】
以上に記載したように、HEK293細胞は、AAVベクターのよく使用される生産細胞であり、ヒト胚腎細胞293とも呼ばれ、ヒト胚腎細胞に由来する細胞系であり、トランスフェクション効率が高く、培養しやすいなどの特徴を有する。HEK293細胞の浮遊馴化プロセスでは、多くの問題が発生し、例えば、(1)現在、浮遊馴化の方法は、主に血清を減らした浮遊馴化を用い、馴化周期が長く、一般的には3ヶ月程度かかり、(2)浮遊馴化プロセスでは、HEK293細胞が凝集する現象が発生しやすく、これにより、ベクター生産のためのプラスミドの多くは細胞をトランスフェクトすることができなくなり、大きな塊の中央にある細胞は栄養不足で死亡し、現在細胞凝集を改善する主な方法は凝集防止剤を添加することであり、凝集防止剤の添加はトランスフェクション効率を明らかに低下させ、(3)培地は細胞成長状態、細胞密度及び凝集などの顕著な影響を与え、HEK293細胞を異なる培地に順応させると、その成長表現がそれぞれ異なり、(4)サブクローニングを行うプロセスでは、選択された細胞株がモノクローナルではれば、後期の毒素産生試験実験を行う場合、異なる継代数の細胞のウイルス発現量が不安定になる現象が発生する可能性がある。
【0008】
なお、現在遺伝子治療において、モノクローナル由来の要求に関する正確な法規がないが、モノクローナル由来は、製品の品質及び発現量の安定性の必須条件の一つである。現在、モノクローナル細胞をスクリーニングする方法は、(1)2ラウンドの有限希釈を行い、希釈された細胞密度を0.5細胞/ウェル未満に制御することと、(2)1ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージング撮影をプラスすることと、(3)FACSに1ラウンドの有限希釈又はモノクローナルイメージング撮影をプラスすることと、(4)半固体培養とを含む。存在する問題は、FACSソーティング後の細胞生存率が低く、半固体培地でHEK293を選択して撮影することができず、モノクローナル由来のデータを提供することができないことである。現在よく使用される方法は、1ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージング撮影をプラスすることである。
【発明の概要】
【0009】
多数の実験により、本出願の発明者は、無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株をスクリーニングするための方法を見出した。該方法により、分散性が高く、増殖密度が高い細胞株をスクリーニングすることができる。
【0010】
したがって、一態様では、本出願は、無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株をスクリーニングする方法を提供し、前記方法は、
血清含有培地において接着培養されたHEK293細胞を取り、無血清培地中に置いて浮遊培養するステップi)と、
無血清浮遊培養に適したモノクローナル細胞株を選択するステップii)とを含む。
【0011】
ステップi)における血清含有培地は、10%血清、例えば、10%ウシ胎児血清を含んでもよい。
【0012】
ステップi)中的浮遊培養は、37℃、8%CO2の条件下での振とう培養を含んでもよい。
【0013】
ステップi)における浮遊培養は、細胞の継代を含んでもよい。
【0014】
無血清培地は、OPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)、LV-MAX生産培地(Gibco、A35834-01)、及びExpi293発現培地(Gibco、A14351-01)から選択されてもよい。一実施形態において、無血清培地はOPM-293 CD03培地である。
【0015】
ステップii)は、少なくとも1ラウンドの有限希釈及び撮影イメージングにより、無血清浮遊培養に適したモノクローナル細胞を選択するステップと、選択されたモノクローナル細胞を浮遊培養するステップとを含んでもよい。一実施形態において、ステップii)は、2ラウンドの有限希釈及び撮影イメージングにより、無血清浮遊培養に適したモノクローナル細胞を選択するステップと、選択されたモノクローナル細胞を浮遊培養するステップとを含む。
【0016】
ステップii)は、選択されたモノクローナル細胞のウイルスベクター作製能力を試験し、例えば、それにより産生されたウイルスベクターの力価を検出することをさらに含んでもよい。
【0017】
ステップii)における選択された細胞の浮遊培養は、細胞の継代を含んでもよい。
【0018】
該方法の実施プロセスにおいて、凝集防止剤を添加する必要がない。
【0019】
本出願の方法では、1)血清含有培地の中で接着培養された細胞を直接無血清培養し、血清を漸減させるステップがなく、馴化及びスクリーニングプロセスを大幅に短縮させ、馴化及びスクリーニング周期を20日間まで短縮させることができ、2)無血清培地を用いて細胞を培養し、潜在的な免疫原性物質汚染と動物由来成分を回避し、下流の精製プロセスを簡略化し、3)LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択された無血清培地、特にOPM-293 CD03培地を用いて、浮遊培養に適し、即ち増殖密度が高く、分散性が高いHEK293細胞株のスクリーニングにさらに有利であり、4)凝集防止剤の使用を回避し、細胞のトランスフェクション効率に影響を与えなく、及び5)少なくとも1ラウンド、例えば、2ラウンドの有限希釈及びイメージングにより、モノクローナル由来が確保され、細胞が安定的なウイルス発現量を提供することを確保するとともに、モノクローナル由来の直感的なデータサポートも提供する。
【0020】
本出願はまた、LV-MAX生産培地(Gibco、A35834-01)、Expi293発現培地(Gibco、A14351-01)及びOPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)から選択された培地の、分散性が高く、増殖密度が高いHEK293細胞株のスクリーニングにおける用途を包含する。一実施形態において、スクリーニング培地はOPM-293 CD03培地である。
【0021】
異なる培地において細胞の成長状態及び凝集状況が全く同じではないため、本出願の発明者らは、OPM-293 CD03培地、LV-MAX生産培地及びExpi293発現培地において、HEK293細胞が、高い密度(~1×107個の細胞/ml)を実現することができ、且つ凝集細胞の割合が比較的に低いことを発見した。これらの三種類の培地において、OPM-293 CD03培地のスクリーニング効果が最も良好である。
【0022】
別の態様では、本出願は、上記方法によりスクリーニングされたHEK293細胞株に関する。
【0023】
本出願の方法によりスクリーニングされたHEK293細胞株は、無血清培地の中で浮遊培養して成長することができる。無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。一実施形態において、無血清培地はOPM-293 CD03培地である。
【0024】
該細胞株は、浮遊培養プロセス中に細胞塊が現れなくてもよい。一実施形態において、前記細胞株は、液体培地の中で凝集しない。
【0025】
該細胞株は、ウイルスベクター、特にアデノ随伴ウイルスベクターの産生に用いられてもよい。
【0026】
特に、本出願は、2021年8月9日にブダペスト条約に基づいて中国普通微生物菌種保蔵管理センター(CGMCC)に寄託され、寄託番号がCGMCC No.:23020である新規ヒト胚腎HEK293細胞株PowerSTM-293を提供する。PowerSTM-293細胞株は、無血清培地の中で浮遊培養して成長することができ、増殖密度が高く、生存率が良好であり、細胞塊が現れなく、即ち分散性が高い。したがって、その浮遊培養プロセスにおいて、凝集防止剤を追加して添加する必要がなく、該細胞株は、力価の高いアデノ随伴ウイルスを産生することができる。
【0027】
さらに別の態様では、本出願は、スクリーニングされたHEK293細胞株の、ウイルスベクターの作製における用途に関する。
【0028】
具体的には、本出願は、本出願でスクリーニングされた、PowerSTM-293を含む細胞株を用いて、ウイルスベクターを作製する方法を提供し、前記方法は、
前記細胞株を培養するステップi)と、
前記細胞株にウイルスベクター発現系を導入するステップii)と、
ウイルスベクターが産生される条件下で前記細胞株を培養するステップiii)と、
ウイルスベクターを収集するステップiv)とを含む。
【0029】
ステップi)は、細胞株の浮遊培養を含んでもよい。一実施形態において、細胞株は、37℃、8%℃O2の条件下で、無血清培地において振とう培養される。無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。一実施形態において、無血清培地はOPM-293 CD03培地である。
【0030】
ステップi)は、細胞株の継代をさらに含んでもよい。
【0031】
ステップii)は、例えば、リン酸カルシウム共沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性トランスフェクションによって細胞株にウイルス発現系を導入するステップを含んでもよい。一実施形態において、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性トランスフェクションによって細胞株にウイルス発現系を導入する。
【0032】
ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。アデノ随伴ウイルスベクターは、全ての血清型のアデノ随伴ウイルスベクター、そのキメラ及びハイブリッドであってもよい。一実施形態において、アデノ随伴ウイルスベクターは、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9及びAAV10から選択される。
【0033】
ウイルスベクター発現系は、異種核酸含有のベクタープラスミド、rep-cap含有のパッケージングプラスミド及びヘルパープラスミドを含んでもよい。ヘルパープラスミドは、VA、E2A及びE4OEF6を含むAd5遺伝子を含んでもよい。ベクタープラスミドにおける異種核酸の長さは約4.7kb以下である。
【0034】
異種核酸は、ターゲットタンパク質又は非翻訳性RNAをコードすることができる。一実施形態において、異種核酸は、ターゲットタンパク質又は非翻訳性RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む。異種核酸は、ポリペプチド又はタンパク質をコードし、該ポリペプチド又はタンパク質の過剰発現を実現することができる。異種核酸は、shRNAをコードし、標的遺伝子の発現を干渉することができる。異種核酸は、gRNA及びCas9をコードし、標的遺伝子のノックアウトを実現することができる。異種核酸は、gRNA及びdCas9をコードし、標的遺伝子の内因性過剰発現を実現することができる。ベクタープラスミドは、異種遺伝子の発現をガイドするプロモーター、例えば、細胞/組織の特異的発現を実現できるプロモーターを含んでもよい。
【0035】
ステップiii)は、細胞株の浮遊培養を含んでもよい。一実施形態において、細胞株は、無血清培地において浮遊培養される。一実施形態において、細胞株は、37℃、8%℃O2の条件下で、無血清培地において振とう培養される。無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。一実施形態において、無血清培地はOPM-293 CD03培地である。
【0036】
ステップiii)は、細胞の継代を含んでもよい。
【0037】
ステップiv)では、細胞を溶解することによってウイルスベクターを収集してもよいし、細胞株により分泌されたウイルスベクターを培地から収集してもよい。
【0038】
該方法は、ステップiv)の後、ウイルスベクターに対して力価検出、精製などを行うことさらに含んでもよい。
【0039】
以下の具体的な説明及び実施例に基づいて、現在の開示された他の特徴及び利点は非常に明白であり、これらの具体的な説明と実施例は、限定的であるとみなされるべきではない。本出願において引用される全ての引用文献、GenBank受託番号、特許及び公開特許出願は、いずれも参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0040】
注意すべきこととして、本出願、特に特許請求の範囲において、「包含」、「含む」などの用語、「実質的に…で構成される」などの用語は、明示的に記載されていない要素の存在を可能にする。本明細書に記載される本発明の態様と実施形態は、「包含」、「……で構成される」、及び「実質的に……で構成される」の態様と実施形態を含む。
【0041】
本出願の明細書及び添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形の「一」、「1つ」及び「該/前記」は、文脈が別途明確に規定しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「1つ/1種類の分子」について言及は、任意選択的に、2つ/2種類以上のこのような分子の組み合わせなどを含む。
【0042】
本出願に使用されるように、「約」という用語は、当業者に容易に知られている、該当する数値の従来の誤差範囲を指す。本明細書において言及された「約」ある数値又はパラメータは、該数値又はパラメータ自体に関する実施形態を含む(説明する)。
【図面の簡単な説明】
【0043】
以下の例として与えられるが、本発明を、記載される発明を実施するための形態の具体的な説明に限定することを意図しておらず、添付図面に関連してよりよく理解され得る。
【
図2】接着HEK293細胞がAAV2、AAV5、AAV8及びAAV9をパッケージングするウイルス力価を示した図である。
【
図3】異なる無血清培地において馴化された細胞の形態図である。
【
図4】三種類の無血清培地において馴化された細胞の成長曲線である。
【
図5】モノクローナル由来のスクリーニング図である。
【
図7】クローン13、クローン20及びクローン29の細胞成長/生存率曲線である。
【
図8】クローン13、クローン20及びクローン29のAAV2ウイルス力価収量図である。
【
図9】クローン13、クローン20及びクローン29のAA5、AAV8及びAAV9ウイルス力価収量図である。
【
図10】クローン13の第5継代、10継代、15継代及び20継代のAAV5ウイルス力価収量図である。
【0044】
寄託についての説明:本出願に係る新規ヒト胚腎HEK293細胞株PowerS-293は、2021年8月9日にブダペスト条約に基づいて中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託され、住所が中国北京市朝陽区北辰西路1号院3号中国科学院微生物研究所である。
【0045】
寄託番号がCGMCC No.:23020である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
特に断りのない限り、本発明で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0047】
本出願は、無血清浮遊培養に適した細胞株をスクリーニングするための方法、及びこれによりスクリーニングされた細胞株を提供する。該細胞株は、分散性が高く、増殖密度が高く、力価の高いウイルス粒子ベクター、特にアデノ随伴ウイルスベクター粒子を産出することに用いることができる。
【0048】
ウイルスベクター
ウイルスベクターは、分子生物学者が細胞に遺伝物質を送達するためのツールであり、外来遺伝子を運び、ウイルス粒子にパッケージングして、外来遺伝子のトランスファーと発現を媒介することができ、生体に病気を引き起こさない。既知のウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスなどを含む。
【0049】
本明細書における「ウイルスベクター」、「ウイルス粒子」又は「ウイルスベクター粒子」という用語は、本明細書において交換使用可能である。「異種核酸」、「異種遺伝子」、「外来核酸」又は「外来遺伝子」という用語は、ウイルスに天然に存在するわけではない核酸又は遺伝子を指す。一般的には、異種核酸又は外来遺伝子は、ターゲットタンパク質又は非翻訳性RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0050】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科ファミリーのメンバーの一つであり、自律複製できず、エンベロープがない二十面体パルボウイルスであり、約4.7kbの線状単鎖DNAゲノムを含有する。
【0051】
AAVのゲノムは、Rep及びCapという二つのオープンリーディングフレームからなり、フランキングは二つの145bpの逆方向末端反復(ITR)である。ITRは、ペアリングしてヘアピン構造を形成することにより、プライマーゼに依存しない第2の相補的DNA鎖の合成を可能にする。Rep及びCapは、様々なタンパク質を翻訳することができ、AAVライフサイクルに必要なRep78、Rep68、Rep52及びRep40、並びにカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3などを含む。
【0052】
本明細書で使用される「アデノ随伴ウイルス」又は「AAV」は、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV及び現在知られているか又は後に発見された他の任意のAAVを含むが、それらに限らない。複数のAAV血清型のゲノム配列、並びに天然ITR、Repタンパク質及びカプシドサブユニットの配列は、当分野で既知のものである。このような配列は、文献又は共通データベース、例えば、GenBankから見つけることができる。
【0053】
本明細書で使用される「末端反復」又は「TR」という用語は、任意のウイルス末端反復又は合成配列を含み、それは、ヘアピン構造を構成し、逆方向末端反復(ITR)として機能し、即ち、必要な機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み及び/又はプロウイルスレスキューなどを媒介する。ITRは、AAV ITR又は非AAV ITRであってもよい。非AAV ITR配列、例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス、ウシパルボウイルス、マウスパルボウイルス、ブタパルボウイルス、ヒトパルボウイルスB-19)の配列、又はSV40複製始点として機能するSV40ヘアピンは、ITRとして用いられてもよく、それは、短縮、置換、欠失、挿入及び/又は追加によってさらに修飾され得る。さらに、ITRは、部分的又は完全に合成されたものであってもよい。
【0054】
AAVゲノムは、その5’及び3’末端における回文配列を有する。配列の回文的性質は、ヘアピン構造の形成を引き起こし、前記ヘアピン構造は、相補的塩基対の間の水素結合の形成によって安定化される。該ヘアピン構造は、「Y」又は「T」字型をしていると考えられる。「AAV逆方向末端反復」又は「AAV ITR」は、任意のAAVに由来してもよく、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11又は13、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV及び現在知られているか又は後に発見された他の任意のAAVを含むが、それらに限らない。AAV ITRは、天然末端反復配列を有する必要がなく、例えば、天然AAV ITR配列は、末端反復が必要な機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み及び/又はプロウイルスレスキューなどを媒介すれば、挿入、欠失、短及び/又はミスセンス変異によって改変され得る。
【0055】
遺伝子療法で最もよく使用されるウイルスベクターの一つとして、AAVは以下の特徴を有する。
【0056】
1. AAV安全性が高く、免疫原性が低い。AAVは、複製欠損DNAウイルスであり、自律複製能力がなく、野生型AAVはrep遺伝子に依存して低周波の部位特異的組み込みを行う。現在、AAVによるヒト及び哺乳動物疾患の報告がなく、FDAにより販売が承認された遺伝子治療医薬品における最も安全的なウイルスベクターの一つでもある。
【0057】
2. AAVは、広い宿主範囲を有し、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に対して感染力を有する。
【0058】
3. AAVは、拡散能力が強い。AAVは、直径が約20~26nmであり、体積が小さく、力価が高く、良好な拡散能力を有し、AAV9のようないくつかのAAVは、血液脳関門を通過する能力を有し、神経科学分野で広く応用されている。
【0059】
4. AAVは、インビボで遺伝子を発現する時間が長い。AAVは、長期的な遺伝子転写発現を維持する能力を有し、インビボ発現が、一般的には3週間でピークに達し、その後高発現が続き、作用時間が5ヶ月を超える。
【0060】
5. AAVは多様な血清型を有する。カプシドタンパク質が結合する細胞受容体によって、AAVは様々な血清型に分けることができる。霊長類動物の体内には、血清型が異なる13種のAAV(即ちAAV1~AAV13)があり、ここで、AAV2、AAV3、AAV9がヒトに由来する。AAVのこのような特徴に基づいて、異なる血清型のAAVを選択して、異なる標的組織タイプをトランスフェクトすることができる。中枢神経系の場合、好ましくは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8及びAAV9を用い、心臓の場合、好ましくは、AAV1、AAV8及びAAV9を用い、腎臓の場合、好ましくは、AAV2を用い、肝臓の場合、好ましくは、AAV7、AAV8及びAAV9を用い、肺の場合、好ましくは、AAV4、AAV5、AAV6及びAAV9を用い、膵臓の場合、好ましくは、AAV8を用い、感光細胞の場合、好ましくは、AAV2、AAV5及びAAV8を用い、網膜色素上皮細胞の場合、好ましくは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5及びAAV8を用い、骨格筋の場合、好ましくは、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8及びAAV9を用いる。
【0061】
血清型2、即ちAAV2は、最も多く研究され、最も多く応用されるAAVである。現在、AAV2は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、インテグリンaVβ5、及び線維芽細胞増殖因子受容体1(FGFR-1)という3種類の細胞受容体に結合することが分かった。HSPGが主受容体であり、他の二つが補助受容体であり、それによりAAV2は、受容体媒介性エンドサイトーシス作用を経て細胞に入ることができる。研究によると、AAV2は、正常細胞を傷つけることなく癌細胞を殺すことができる。
【0062】
他の血清型はAAV2よりも遺伝子送達効率を有する。以上に記載したように、AAV6は、気道上皮細胞への感染により優れており、AAV7は、骨骼筋細胞に対するトランスフェクション効率が高く、AAV1及びAAV5に類似しており、AAV8は、心筋細胞のトランスフェクションに優れており、AAV1及びAAV5は、血管内皮細胞の遺伝子送達に非常に効率的であり、ほとんどの血清型は神経細胞をトランスフェクトすることができ、AAV5はまたアストロサイトをトランスフェクトすることができる。
【0063】
アデノ随伴ウイルスベクターの構築
AAVベクタープラスミドを構築する場合、ITRがゲノム複製及びパッケージングに必要な唯一のシス作用エレメントであるため、rep及びcap遺伝子は、取り出され、別々のプラスミドにクローニングされ得る。プロモーター及びプロモーターにより駆動される異種遺伝子は、二つのITRの間にクローニングされ、AAVカプシド内に有効にパッケージングされ得る。
【0064】
AAVは、複製能力を欠くため、ヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルス(Ad)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)とともに共感染する必要がある。Ad又はHSVとともに共感染した後、AAVは、いくつかのヘルパーウイルス初期遺伝子を利用してその自己複製を促進する。AAVを産生するためのAdの生産細胞内への感染は、AAV生産に有効であるが、その結果、過剰なAd粒子を産生する。Adの完全な除去は、物理的技術、例えば、CsCl勾配、カラムクロマトグラフィー及び熱変性ステップに依存して、まだ存在する可能性のある任意の残存Ad粒子を不活性化する。これらの操作の大部分は、ある程度で成功しているが、Ad感染の可能性が不要なリスクであり、且つAd変性タンパク質の存在は、臨床的使用には容認できない。
【0065】
AAV生産の発展における著しい改善は、トリプルプラスミドトランスフェクションの導入である。該方法はrep及びcapプラスミド並びにITRプラスミドの変異体を用い、Adの使用を回避する。具体的には、E1A、E1B、E4及びE2AのAdタンパク質並びにVA RNAを、XX680と呼ばれる単一のプラスミド内にクローニングする。XX680プラスミド上にAdヘルパー遺伝子を供給することによって、トランスフェクトされた細胞からAAVベクターを得て、Adの産生を回避する。HEK293細胞を用いてトランスフェクトし作製する場合、ヘルパープラスミドは、HEK293細胞がE1A/1Bを構成的に発現するため、VA、E2A及びE4OEF6のみを含むまでさらに簡略化される。ITR及び異種核酸を含有するベクタープラスミド、rep-cap含有のパッケージングプラスミド、並びにVA、E2A及びE4OEF6を含有するヘルパープラスミドは、AAVベクター発現系を構成する。
【0066】
本明細書では、「AAV発現系」は、一つ又は複数のポリヌクレオチドの系を指し、適切な宿主細胞内に導入される場合、前記系はAAVの生産をサポートするのに十分である。
【0067】
本明細書で使用されるように、AAVの「Rep遺伝子」又は「Repコード配列」は、AAV非構造タンパク質をコードする核酸配列を指し、該AAV非構造タンパク質は、ウイルス複製及び新たなウイルス粒子の産生を媒介する。AAV複製遺伝子及びタンパク質は、例えば、FieldsらVirology,第2巻,第69及び70章(第4版,Lippincott-Raven出版社)に記述されている。該「Repコード配列」は、全てのAAV Repタンパク質をコードする必要がない。例えばAAVの場合、Repコード配列は、全ての四種類のAAV Repタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)をコードする必要がない。Repコード配列は、少なくとも、ウイルスゲノム複製及び新たなウイルス粒子へのパッケージング必要なそれらの複製タンパク質をコードする。Repコード配列は、一般的には、少なくとも一つの大きなRepタンパク質(即ちRep78/68)及び一つの小さいRepタンパク質(即ちRep52/40)をコードする。いくつかの実施形態において、Repコード配列は、AAV Rep78タンパク質及びAAV Rep52及び/又はRep40タンパク質をコードする。他の実施形態において、Repコード配列は、Rep68及びRep52及び/又はRep40タンパク質をコードする。なおさらなる実施形態において、Repコード配列は、Rep68及びRep52タンパク質、Rep68及びRep40タンパク質、Rep78及びRep52タンパク質又はRep78及びRep40タンパク質をコードする。本明細書で使用されるように、「大きなRepタンパク質」という用語は、Rep68及び/又はRep78を指す。大きなRepタンパク質は、野生型又は合成されたものであってもよい。野生型の大きなRepタンパク質は、任意のAAVに由来してもよく、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11又は13及び現在知られているか又は後に発見された他の任意のAAVを含むが、それらに限らない。合成された大きなRepタンパク質は、挿入、欠失、短縮及び/又はミスセンス変異によって改変され得る。
【0068】
本明細書で使用されるように、AAV「cap遺伝子」又は「capコード配列」は、機能的AAVカプシドを形成する(即ち、DNAをパッケージングし標的細胞に感染することができる)構造タンパク質をコードする。通常、capコード配列は、全てのAAVカプシドサブユニットをコードするが、機能的カプシドが産生される限り、全てのカプシドサブユニットより少ないものをコードしてもよい。通常、capコード配列は、単一の核酸分子上に存在する。AAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69及び70章(第4版,Lippincott-Raven出版社)により詳細に記述されている。
【0069】
本明細書における「ベクタープラスミド」は、一般的には、ウイルスを生成するために、シスのITRのみを必要とし、全ての他のウイルス配列があってもなくてもよく、且つトランスで提供されてもよい。通常、AAVベクタープラスミドは、ベクターにより有効にパッケージングされ得る異種遺伝子のサイズを最大にするために、一つ又は複数のITR配列のみを保持する。構造及び非構造タンパク質コード配列は、トランスで(例えば、ベクター、例えば、プラスミドにより、又は配列をパッケージング細胞内に安定的に組み込むことにより)提供されてもよい本出願の実施形態において、AAVベクタープラスミドは、少なくとも一つのITR配列(例えば、AAV ITR配列)、任意選択的に、二つのITR(例えば、二つのAAV ITR)を含み、通常、それらは、ベクターゲノムの5’及び3’末端にあり、且つ異種核酸に隣接するが、それに接触している必要はない。ITRは、互いに同じであるか又は異なっていてもよい。
【0070】
研究が進むにつれて、異なる血清型のAAV同士がハイブリダイゼーション可能であり、ハイブリダイゼーション後のAAVが、ヘテロ接合した両方の特徴を兼ねていることが発見され、そのため、AAVサブタイプが勢いよく誕生した。サブタイプの産生は、通常、一つの血清型のゲノム及び別の血清型のカプシドタンパク質を組み合わせることによって実現される。現在、研究でよく使用されるAAVは、AAV2型ゲノムと異なるカプシドタンパク質との結合で産生されたハイブリッドウイルスベクターであり、一般的には、AAV2/N(Nが異なるカプシド血清型である)と表記される。組換えウイルスは、AAV2型の安定的な発現及び遺伝子組み込み能力を有するとともに、異なる血清型の組織感染指向性を獲得し、一定の臓器標的特異性を示す。例えば、AAV2/1は、神経系、筋肉、骨格筋、心筋、平滑筋の組織親和性を有し、AAV2/2は、網膜、神経系、筋肉、肝臓、血管平滑筋の組織親和性を有し、AAV2/3は、筋肉、肝臓、肺、眼の組織親和性を有し、AAV2/4は、神経系、筋肉、眼、脳の組織親和性を有し、AAV2/5は、神経系、肺、網膜、肝臓、滑膜関節の組織親和性を有し、AAV2/6は、神経系、肺、筋肉、心臓の組織親和性を有し、AAV2/7は、筋肉、肝臓の組織親和性を有し、rAAV2/8は、神経系、肝臓、筋肉、脂肪組織、膵臓、網膜の組織親和性を有し、AAV2/9は、神経系、心筋、肺、網膜、皮膚の組織親和性を有し、AAV-PHP.eBは、血液脳関門を通過することができ、AAV-PHP.Sは、全末梢神経を標的とすることができる。研究によると、AAV2に比べて、AAV2/5は、より多くの脳細胞タイプに感染することができ、感染正確度がより高い。AAV-DJは、8種類の異なるAAVからのハイブリッドカプシドタンパク質を有し、全身の多くの領域の細胞に感染することができる。AAVは、また、免疫系による検出をさらに回避するために表面アミノ酸残基を改造することができる。
【0071】
ウイルスベクターの作製
ウイルスベクター粒子の作製には、通常、以下のステップが必要である:
1)宿主細胞を培養し増幅し、2)ウイルスベクター発現系を宿主細胞に導入し、3)導入されたウイルスベクター発現系の宿主細胞を培養し増幅し、4)産生されたウイルスベクターを収集し精製する。
【0072】
現在、いくつかのウイルスベクター(例えば、AAVベクター)をインビトロで(無細胞)パッケージングすることが可能であるが、このようなパッケージングシステムは、依然として細胞抽出物を必要とし、且つパッケージング効率がかなり低く、産生可能なレベルには達していない。今まで、ウイルスベクターのパッケージングは、主に該ウイルスに敏感な宿主細胞中で行われてきた。宿主細胞は、ウイルス複製とパッケージングのための環境条件を提供するだけでなく、多くの細胞成分がウイルス複製とパッケージングのプロセスに直接関与した。
【0073】
ウイルス生産用の宿主細胞には二種類があり、一つはウイルスパッケージング系エレメントを安定的に発現する細胞系であり、もう一つは一過性トランスフェクトされた細胞系である。一過性トランスフェクションのパッケージング方法は、操作が簡単であり、且つ時間を節約し、ウイルスベクターを生産するために最もよく使用される方法である。
【0074】
ウイルスパッケージングエレメントを安定的に発現する宿主細胞は、生産/パッケージング細胞系とも呼ばれる。アデノ随伴ベクターとの関連において、「パッケージング細胞系」という用語は、rep及びcap遺伝子が導入されている細胞系を指してもよく、「生産細胞系」は、rep及びcap遺伝子、ITR及び外来遺伝子が導入されている細胞系を指してもよい。パッケージング細胞系は、AAVを作製するためにAAVベクタープラスミド及びヘルパープラスミドの同時トランスフェクションが必要であるが、生産細胞系は、ヘルパープラスミドのトランスフェクションのみでAAVを作製することができる。一実施形態において、「パッケージング細胞系」は、細胞ゲノムにrep及びcap遺伝子が挿入されている細胞系であり、「生産細胞系」は、細胞ゲノムにrep及びcap遺伝子、ITR及び外来遺伝子が挿入されている細胞系である。別の実施形態において、「パッケージング細胞系」は、細胞ゲノムにrep及びcap遺伝子が安定的に挿入されている細胞系であり、「生産細胞系」は、細胞ゲノムにrep及びcap遺伝子、ITR及び外来遺伝子が安定的に挿入されている細胞系である。AAVの安定的にトランスフェクトされた細胞系は、通常、Hela細胞である。
【0075】
AVVの一過性トランスフェクション作製は、一般的にはHEK293細胞を用いる。HEK293細胞は、ヒト胚腎細胞293細胞とも呼ばれる。このような細胞は、E1a/b、即ちAAV複製に必要なアデノウイルス機能遺伝子の一つを構成的に発現する。
【0076】
ウイルスベクター粒子作製の第1のステップは、宿主細胞を培養し増幅させることである。宿主細胞の培養は、一般的には接着培養及び浮遊培養に分けられる。ウイルスベクターの作製を増加するために、細胞が付着できる総表面積を増加するか、又は細胞の浮遊培養を行うことができる。
【0077】
AAV生産に最もよく使用される宿主細胞として、HEK293細胞は、通常、10%ウシ胎児血清培地を含有する細胞培養フラスコ中で接着培養され、ウイルス収量が小さい。細胞が付着できる表面積を増加させるために、HYPERFlaskTM(Corning)のような多層容器、及び細胞工場システムのような多層細胞工場システムを使用してもよい(Numc、EasyFill、ThermoScientific、Waltham、MA、USA)。HYPERFlaskTM(Corning)は、総成長面積が約1720cm2であり、通気性表面を有し、酸素と二酸化炭素の交換が可能であり、収量が凡そT-150培養ラスコの10倍以上である。細胞工場システム(Numc、EasyFill、ThermoScientific、Waltham、MA、USA)の層数は40まで高くなり得、約170個のT-150培養フラスコと同等な培養表面積を形成することができる。なお、iCELLis(Pall Life Sciences、Hoegaarden、ベルギー)及びScale-XTMバイオリアクターシステム(Univercells、Gosselies、ベルギー)のような固定床バイオリアクターも開発され、固定床上にポリエチレンテレフタレート(PET)繊維又はPET繊維層が充填され、細胞が付着するための大きな表面積を提供する。iCELLis500による細胞成長面積は約3000個のHYPERFlaskである。
【0078】
様々な機器の更新があり、血清依存性接着HEK293の拡大培養が可能になるが、時間と労力がかかっていた。したがって、研究者は、HEK293細胞を浮遊培養に適するように馴化する試みを開始した。HEK293E細胞は、最初に馴化され、無血清培地中で浮遊培養された。その後、HEK293SF-3F6などのような新たな細胞系が次々と開発される(Ansorge,S. et al.,(2009)Development of a Scalable Process for High-Yield Lentiviral Vector Production by Transient Transfection of HEK293 Suspension Cultures. J. Gene Med.11:868-876)。接着培養に比べて、浮遊培養は 複雑な計器を必要とせず、細胞の壁を除去するための機械的な力又は酵素を必要とせず、より容易に継代でき、容易にスケールアップできるなど、様々な利点を有する。
【0079】
細胞及び遺伝子治療開発企業にとっては、前臨床研究、IND申告及び臨床試験中のウイルスベクターの需要が限られているため、接着細胞HEK293の一過性トランスフェクションの方式によってアデノ随伴ウイルスベクターを生産することがほとんどである。HEK293細胞の接着培養は、通常、細胞工場の形で行われ、該産生方式は、主に培養ユニットの数を増やすことによって細胞量を増やす。したがって、より多くのウイルスベクターが必要な場合には、多くのスペースを占有する必要があり、生産労力も多大なものとなる。大きな成長面積を得るとともに作業量を減少させる方法の一つとして、アデノ随伴ウイルスを生産する細胞株を浮遊培養に適させる方法がある。接着培養に比べて、浮遊培養は、細胞密度を大幅に向上させることができる。
【0080】
ウイルスベクター粒子作製の第2のステップは、ウイルスベクター発現系を宿主細胞に導入し、即ちパッケージング核酸ベクター、ヘルパー核酸ベクター、異種遺伝子を担持している核酸ベクターなどで宿主細胞をトランスフェクトすることである。
【0081】
本明細書における「ウイルス発現系」は、一つ又は複数のポリヌクレオチドの系を指し、適切な宿主細胞内に導入される場合、該系は、ウイルスの複製及びパッケージングをサポートするのに十分である。ウイルス発現系は、異種遺伝子をさらに含んでもよく、それによりコードされる核酸、例えば、RNA又はポリペプチド/タンパク質は、一緒にウイルスベクター粒子にパッケージングすることができる。AAV発現系は、通常、AAV rep及びcap、ヘルパー遺伝子及びrAAVゲノム(ITRなど)をコードするポリヌクレオチドを含む。本明細書における「核酸ベクター」は、DNA又はRNAのベクターを指し、発明を実施するための形態において、プラスミド、又は細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1-由来人工染色体(PAC)、フォスミド又はコスミドなどであってもよい。核酸ベクターにおいて、必要に応じて、複製開始点、プロモーター、転写調節エレメントなどを含んでもよい。発現を制御できるように、任意のエレメントは、プロモーターに操作可能に連結されてもよい。本明細書で言及されるプロモーターは、既知のプロモーター(完全又は一部)を含んでもよく、それは、例えば、調節タンパク質の存在下で、持続的に活性化されるか又は誘導可能であり得る。一実施形態において、核酸ベクターはまた、効率的なプロモーター、例えば、CMVプロモーターを含む。該プロモーターは、非哺乳動物の核酸ベクター上でコードされるエレメントの高レベル発現を促進する利点を有する。別の実施形態において、CMVプロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス株AD169に由来する配列を含む。該配列は、Genome受託番号X17403、例えば、塩基対173731~174404から得ることができる。本出願では、外来遺伝子を担持している核酸ベクターは、ベクタープラスミドと呼ばれてもよい。ベクタープラスミドは、通常、プロモーター(例えば、CMV)、3’ITR、5’ITR、及びプロモーターに連結される潜在的な外来遺伝子を含有する。
【0082】
本明細書に記載の「トランスフェクション」又は「感染」は、外来遺伝物質、例えば、本明細書に記載の「ウイルス発現系」を、宿主細胞に導入することを指す。一般的に使用されるトランスフェクション方法は、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、細胞スクイージング、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、衝撃トランスフェクション、マグネトフェクション、遺伝子ガン又は粒子衝撃)、化学試薬(例えば、リン酸カルシウム、高分岐有機化合物又はカチオン性ポリマー)又はカチオン性脂質(例えば、リポフェクション)を含むが、これらに限定されないことが当業者に知られている。多くのトランスフェクション方法は、プラスミドDNA溶液を細胞と接触させ、そしてそれを成長させて、マーカー遺伝子発現のために選択する必要がある。
【0083】
外来核酸又は核酸ベクターの宿主細胞への導入は容易なことではなく、細胞膜という障壁を越えていなければならず、高力価ウイルスベクター粒子を産生するためには高いトランスフェクション効率が必要である。ウイルスプラスミドトランスフェクションの方法は、化学的方法と物理的方法の二つに大別される。一般的な化学的方法は、リン酸カルシウム共沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性トランスフェクション、及びLipofectamine(Invitrogen)媒介性トランスフェクションを含み、物理的方法は、エレクトロポレーション、例えば、フローエレクトロポレーション、マイクロインジェクション及び遺伝子ガンなどを含む。
【0084】
リン酸カルシウム共沈殿は、様々な細胞タイプに適し、大量の細胞を同時にトランスフェクションすることを可能にし、大規模なウイルス作製に用いることができる。しかしながら、リン酸カルシウムは、pH値の変化に敏感であり、細胞に対する毒性が大きい。毒性を回避するために、血清又はアルブミンを含む培地で宿主細胞を培養し、トランスフェクション後に培地を適時に交換する必要がある。
【0085】
PEI媒介性トランスフェクションは、リン酸カルシウムと同様に効率的である。該方法を使用する場合、適切なPEI/DNA比を選択する必要がある。PEIも細胞に対して毒性を示すが、トランスフェクション後に培地を交換しなくてもよい。なお、PEI方法は、pH値に敏感でない。PEI方法は、接着及び浮遊培養される細胞に用いることができ、培地における血清が不可欠なものである(Toledo,J. R. et al.,(2009)Polyethylenimine-Based Transfection Method as a Simple and Effective Way to Produce Recombinant Lentiviral Vectors. Appl. Biochem. Biotechnol.157:538-544)。
【0086】
Lipofectamine媒介性トランスフェクションは、最も効率的で便利であり、様々な細胞タイプに適し、トランスフェクション率が非常に高く、例えば、いくつかの例において、100%の細胞がアデノ随伴ウイルスによりトランスフェクトされることが見られる。しかし、大規模なウイルスベクター作製にとっては、Lipofectamineを使用するとコストが高くなる。
【0087】
フローエレクトロポレーション法は、リン酸カルシウム法と同様に効率的であるが、必要なDNA量がその三分の一以下であり、細胞に対して毒性がなく、浮遊培養される細胞に適する。
【0088】
なお、トランスフェクション後に培地にブタン酸ナトリウムを添加すれば、ウイルス力価を増加し得ることが報告されている。
【0089】
上記トランスフェクション方法において、硫酸カルシウム共沈殿は接着培養された細胞、例えば、HEK293細胞により適し、フローエレクトロポレーション法は浮遊培養された細胞により適し、Lipofectamineはコストの理由で小規模な応用により適する。本出願では、核酸ベクターによるHEK293細胞のトランスフェクジョンを媒介するためにPEIを選択する。
【0090】
宿主細胞に入ると、いくつかの核酸ベクターは、哺乳動物宿主細胞の内因性ゲノムにランダムに組み込まれる。そのため、例えば、zeocin耐性マーカーのような抗生物質耐性選択マーカーを使用して、核酸ベクター上でコードされる核酸が組み込まれている宿主細胞を選択する必要がある。当業者は、核酸ベクターの組み込みを促進する方法、例えば、核酸ベクター、例えば、プラスミドが天然の環状である場合、該核酸ベクターを線状化する方法を知っているであろう。核酸ベクターは、内因性ゲノム内に組み込まれた選択部位をガイドするために、宿主細胞の内因性染色体と相同性を共有する領域をさらに含んでもよい。なお、組換え部位は、核酸ベクター上に存在する場合、標的化組換えに用いることができる。他の標的化組み込み方法は、当分野で周知である。例えば、ゲノムDNAの標的化切断を誘導する方法を用いて、選択された染色体遺伝子座での標的化組換えを促進することができるこれらの方法は、通常、天然プロセス(例えば、非相同末端結合)又は修復鋳型(即ち、相同性指向性修復又はHDR)によって切断を修復するために、エンジニアリング切断システムを用いて内因性ゲノムにおける二本鎖切断(DSB)又は切開を誘導することに関する。切断は、エンジニアリングされたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子(例えば、エフェクターヌクレアーゼ)(TALEN)のような特定のヌクレアーゼを使用し、CRISPR/Cas9系及びエンジニアリングされたcrRNA/tracr RNA(‘シングルガイドRNA’)を用いて特異的切断をガイドし、及び/又はArgonaute系に基づくヌクレアーゼ(例えば、サーモフィラス(T.thermophilus)に由来し、‘TtAgo’と呼ばれ、Swarts DC et al.,(2014)DNA-guided DNA interference by aprokaryotic Argonaute. Nature.507(7491):258-261)を使用することによって行うことができる。これらのヌクレアーゼシステムの一つを使用する標的化切断は、HDR又はNHEJ媒介性プロセスを利用して、核酸を特定の標的位置に挿入することができる。そのため、一実施形態において、少なくとも一つのヌクレアーゼを用いて、核酸ベクター上でコードされる核酸配列を宿主細胞のゲノム(即ち内因性染色体)に組み込み、ここで、前記少なくとも一つのヌクレアーゼは、宿主細胞のゲノムを切断し、核酸配列を細胞のゲノムに組み込む。別の実施形態において、前記少なくとも一つのヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Casヌクレアーゼシステム及びその組み合わせから選択される。
【0091】
トランスフェクションはまた、一過性トランスフェクションと安定的トランスフェクションに分けられる。一過性トランスフェクションの場合に、外来遺伝子は、発現されるが、細胞ゲノムに組み込まれることがなく、複製されることもない。細胞で一過的に発現される外来遺伝子の発現時間は、限られており、通常、外来遺伝子が細胞分裂プロセスで様々な要因で失われるまで数日又は数ヶ月しか持続しない。安定的トランスフェクションは、一過性トランスフェクションを基礎とし、ただ一つの重要な偶発的プロセスが必要であり、即ち少数のトランスフェクション細胞において、外来遺伝子は、細胞のゲノムに組み込むことができる。外来遺伝子が細胞ゲノムの一部になって複製されることは、安定的トランスフェクション細胞のマーカーである。安定的トランスフェクション細胞の子孫細胞も同様に、外来遺伝子を発現し、これによって安定的な細胞系を形成する。
【0092】
一過性トランスフェクションは、一般的に、数日間持続し、一過性トランスフェクションを用いて遺伝子発現を研究し、通常、トランスフェクション後の24~96時間内に細胞を収穫し、その具体的な時間は、細胞タイプ、ベクター構築などの様々な要因に依存する。このため、一過性トランスフェクションは、一般的には、遺伝子又は遺伝子生成物の短期発現、遺伝子ノックアウト又はRNA媒介性遺伝子サイレンシングの研究、及びタンパク質の小規模な合成に用いられる。mRNAの一過性トランスフェクションは、従来のプラスミドDNAのトランスフェクションよりも結果が速く出され、これは、mRNAが核外で直接発現することができるためであり、いくつかのシステムにおいて、mRNAはトランスフェクション後の数分間で発現することができる。これに対し、長期遺伝子発現が必要な場合、安定的トランスフェクションを行う必要があり、例えば、大規模なタンパク質合成、長期的な薬理学的研究、遺伝子治療研究及び長期的な遺伝調節メカニズム研究などである。安定的トランスフェクションは、一過性トランスフェクションに比べて、より長い時間及びより労力を要する。
【0093】
AAVの安定的にトランスフェクトされた細胞系は、通常、Hela細胞、例えば、HelaS3細胞系であり、rep及びcap遺伝子、又はrep及びcapコード遺伝子が導入されていてもよく、AAVベクタープラスミド及びヘルパープラスミドの同時トランスフェクションでAAVを作製し、rep及びcap遺伝子、ITR及び外来遺伝子が導入されていてもよく、ヘルパープラスミドのトランスフェクションのみでAAVを作製することができる。
【0094】
安定的にトランスフェクトされた細胞系を得ることが困難であるため、現在主流のウイルス作製、例えば、アデノ随伴ウイルスベクター作製は、依然として浮遊培養されたHEK293細胞系の一過性トランスフェクションを用いる。
【0095】
ウイルスベクター作製の第3のステップは、ウイルスベクター粒子を産生する条件で、ウイルスベクター発現系に導入された宿主細胞を培養し増幅させ、第1のステップに類似している。
【0096】
第4のステップは、ウイルスベクターを単離し精製することである。
【0097】
一実施形態において、ウイルスベクターは、細胞を溶解し、例えば、培地から細胞を取り出した後、細胞を沈殿させることによって収集され得る。別の実施形態において、ウイルスベクターは、例えば、細胞により分泌されたベクターを単離することによって細胞培地から収集され得る。AAVを収集するために、培養物から一部又は全ての培地を一回又は複数回収集してもよく、例えば、培養ステップにおいて、定期的に(例えば、12、18、24又は36時間ごとに)、又は例えば、トランスフェクションから約48時間後に培地の収集を開始する。培地を収集した後、追加の栄養補充物を含むか又は含まない新鮮な培地を培養物に加えてもよい。一実施形態において、細胞は、培地が、細胞の上を絶えず流れ、且つ分泌されたAAVを単離するために収集されるように、灌流システムで培養されてもよい。AAVは、トランスフェクトされた細胞が生存率を維持している限り、持続的に、例えば、トランスフェクション後48、72、96もしくは120時間又はそれ以上、培地から収集されてもよい。いくつかの実施形態において、いくつかの分泌されたAAV血清型、例えば、AAV8及びAAV9を培地から収集し、これらのAAV血清型は、宿主細胞に結合しないか又は宿主細胞と緩く結合する。
【0098】
ウイルスベクター粒子を含む、収集された細胞培地には、様々な不純物、例えば、宿主細胞、宿主細胞により産生された他のタンパク質、プラスミドDNA、血清などが含まれてもよく、ここで血清は、成分が複雑であり、エンドトキシン及び免疫原性タンパク質などが含まれてもよい。これらの不純物を除去し、最終製品を濃縮する必要がある。これらの処理において、最大な問題は、どのようにウイルスベクターの活性/機能性を維持するかことであり、したがって可能な限り少ないステップを用いて可能な限り短い時間で処理を完了する必要がある。小規模な精製に用いられる方法は、大量生産には適さないことが明らかになった。いくつかの精製ステップ、例えば、遠心は、cGMP規格に適合せず、高速遠心分離は、ウイルスエンベロープをある程度破壊する。
【0099】
従来の大規模なウイルスベクター精製方法は、清澄化、濃縮及び精製を含む。
【0100】
清澄化は、上清を収集した後に宿主細胞と宿主細胞の残骸を除去することを指す。小規模な清澄化は遠心及び精密濾過などの方法で行うことができるが、大規模な清澄化は45μmの多孔質膜を用いることが好ましい。ウェルの目詰まりを回避するために、孔径が漸減する膜を使用して、濾過効率を向上させることができる。
【0101】
清澄化されたウイルスベクター粒子は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して濃縮し、適切な緩衝液に浸透することができ、1~100nm孔径の膜を使用することを含む。この技術は、ウイルス粒子を濃縮し、血清を除去し、DNA断片などを分解するために、体積を短時間で大幅に減少させることができる。最も重要なのは、TFFによる操作がcGMP規格に完全に準拠していることである。TFF操作における液体がフィルターに平行するため、他の限外濾過方法で問題となっていた膜の目詰まり問題を大幅に減少させることができ、液体流速を高いレベルに維持することができる。TFFにより、約90~100のアデノ随伴ウイルス粒子を回収することができる。現在、TFFは約100Lのウイルス製品を処理することができる(Valkama,A.J. et al.,(2020)Development of Large-Scale Downstream Processing for Lentiviral Vectors. Mol. Ther. Methods Clin. Dev.17:717-730)。
【0102】
ヒトに適用される医薬製品の場合、ウイルスベクター製品はさらに、クロマトグラフィー精製を行う必要がある。陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)は、ウイルスベクターが中性pHで正に荷電する特徴に基づいて、ウイルスベクター精製の効率的なツールである。ウイルスベクター上清が負に荷電するマトリクスのカラムを通過すると、正に荷電するウイルス粒子は、負に荷電するマトリックスに結合し、不純物が直接カラムを通って流出する。そのあと、ウイルスベクターを高塩濃度環境(0.5~1M NaCl)に曝露し、結合した粒子を陰イオン交換カラムから溶出させる。高塩はウイルス粒子を不活性化する可能性があり、これも該技術の唯一の欠点である。ウイルス粒子を室温で高塩溶出液に曝露し、50%のウイルスを不活性化し得る(Segura,M.D.L.M. et al.,(2005)A Novel Purification Strategy for Retrovirus Gene Therapy Vectors Using Heparin Afinity Chromatography. Biotechnol. Bioeng.90:391-404)。
【0103】
アフィニティークロマトグラフィーは、標的分子とクロマトグラフカラムに付着したリガンドとの間の特異的相互作用に基づいて生体分子を単離することに用いられる精製技術である。分子選択性が高いため、該技術は精製ステップをある程度簡略化することができる。アフィニティークロマトグラフィーは、相互作用の違いに応じていくつかのクラスに分類することができ、例えば、水素結合、静電気作用、ファンデルワールス力、又は抗体-リガンドなどに基づくアフィニティークロマトグラフィーである。抗体-リガンドの間の相互作用は、最も選択的なものであり、エンベロープタンパク質に結合する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによるウイルスベクター精製は見られなかった。ヘパリンは、安く、様々なウイルスタイプと相互作用する親和性リガンドであり、例えば、アデノ随伴ウイルスベクターの精製に用いられており、最大53%のウイルスベクターを回収し、最大94%のタンパク質不純物及び56%の残留DNAを除去することができる。ベクターとヘパリンとの間に、ウイルス粒子表面の正に荷電する分子と負に荷電するヘパリンとの相互作用が存在し、したがって、通常、NaClを用いてベクターをヘパリンカラムから溶出させる。通常、ウイルスベクターを溶出させるには、塩濃度が約0.5Mに達する必要がある。それによって、塩を除去するために、TFFを追加添加するステップのような追加の洗浄又は精製ステップを追加するが必要である。
【0104】
大規模なウイルスベクター精製において、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、洗浄ステップとして機能し、残される不純物を効果的に除去することができる。SECは、ゲル濾過クロマトグラフィーとも呼ばれ、ウイルスベクター精製に用いられる場合、ウイルス粒子の大きな体積と不純物の小さな体積との間の差に基づく。全ての不純物は孔径より小さく、したがってカラムを通過することができ、体積が大きいウイルス粒子のみが残る。SECの欠点は、スケールアップが困難であり、充填量がカラム体積のわずか10%であることである。なお、SEC精製は、線形低流量が必要であり、操作時間が長い。
【0105】
AVVの精製に関しては、塩化セシウム密度勾配遠心分離は最初に使用された。このような方法は、時間と労力がかかり、回収率が低く、塩化セシウムには人体に対する潜在的な毒性がある。Gimmらは、1998年にAAV構造タンパク質の特異性抗体を用い、免疫アフィニティークロマトグラフィーの精製法を開発し、細胞溶解液をさらに精製することができ、約70%のAAVを回収することができ、純度が約80%である。ヘパリンがAAVの天然受容体の類似体であるため、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーによりAAVを精製することができる。このような方法の潜在的な問題は、多くのタンパク質もヘパリンに結合することである。まずイオビトリドールで密度勾配遠心分離を行い、次にヘパリンアフィニティークロマトグラフィーを行う方法があり、約50~70%のAAVを迅速で簡単に回収することができ、純度が約99%である。別の方法として、まずデオキシコール酸で細胞を溶解し、遠心分離して上清を得た後に56℃で45分間加熱し、タンパク質を変性させた後に遠心分離して沈殿を除去し、次にヘパリンアフィニティークロマトグラフィーを行う。該方法は、同様に迅速で、再現性が高く、回収率が70%より高く、純度が99%に達することができる。また、ある実験室は、AAVがクロロホルム耐性を有する特性を利用し、クロロホルム処理-PEG/NaCl沈殿-クロロホルム抽出という三ステップの濃縮精製法を提案した。
【0106】
精製ステップ後、ウイルスベクターは-80℃で凍結保存する必要がある。
【0107】
本出願では、具体的には、PowerSTM-293を含む本出願の細胞株を用いてウイルスベクター粒子を作製する方法を提供し、前記方法は、
上記細胞株を培養するステップi)と、
上記細胞株にウイルスベクター発現系を導入するステップii)と、
ウイルスベクター粒子が産生される条件下で上記細胞株を培養するステップiii)と、
ウイルスベクター粒子を収集するステップiv)とを含む。
【0108】
ステップi)は、細胞株の浮遊培養を含んでもよい。一実施形態において、細胞株は、37℃、8%℃O2の条件下で、無血清培地において振とう培養される。無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。一実施形態において、無血清培地はOPM-293 CD03培地である。
【0109】
ステップi)は、細胞株の継代をさらに含んでもよい。
【0110】
ステップii)は、物理又は化学的トランスフェクション法によって細胞株にウイルス発現系を導入することを含んでもよい。物理的トランスフェクション法は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション及び遺伝子ガンなどを含んでもよい。化学的トランスフェクション法は、リン酸カルシウム共沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性トランスフェクション、及びLipofectamine(Invitrogen)媒介性トランスフェクションなどを含んでもよい。
【0111】
ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。アデノ随伴ウイルスベクターは、全ての血清型のAAV、キメラ及びハイブリッド、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、及びそれらの任意のキメラ及び/又はハイブリッド、例えば、AAV1-13などであってもよい。一実施形態において、アデノ随伴ウイルスベクターは、例えば、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9及びAAV10などである。
【0112】
ウイルスベクター発現系は、異種核酸含有のベクタープラスミド、rep-cap含有のパッケージングプラスミド及びヘルパープラスミドを含んでもよい。ヘルパープラスミドは、VA、E2A及びE4OEF6を含むAd5遺伝子を含んでもよい。ベクタープラスミドにおける異種核酸の長さは4.7kb以下である。
【0113】
一実施形態において、方法は、アデノ随伴ウイルスベクターの作製に用いられ、細胞株に三つ核酸ベクターを導入することを含み、それぞれrep-cap遺伝子、Ad5遺伝子(例えば、VA、E2A及びE4OEF6)、及び二つのITRの間の異種遺伝子を含む。
【0114】
異種核酸は、ターゲットタンパク質又は非翻訳性RNAをコードすることができる。一実施形態において、異種核酸は、ターゲットタンパク質又は非翻訳性RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む。異種核酸は、ポリペプチド又はタンパク質をコードし、該ポリペプチド又はタンパク質の過剰発現を実現することができる。異種核酸は、shRNAをコードし、標的遺伝子の発現を干渉することができる。異種核酸は、gRNA及びCas9をコードし、標的遺伝子のノックアウトを実現することができる。異種核酸は、gRNA及びdCas9をコードし、標的遺伝子の内因性過剰発現を実現することができる。ベクタープラスミドは、異種遺伝子の発現をガイドするプロモーター、例えば、細胞/組織の特異的発現を実現できるプロモーターを含んでもよい。
【0115】
ステップiii)は、細胞株の浮遊培養を含んでもよい。細胞株は、細胞株がウイルスベクターを産生するのに適する任意の条件下で培養することができ、当業者によって確定することができる。一実施形態において、細胞株は、37℃、8%℃O2の条件下で、無血清培地において振とう培養される。無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。
【0116】
ステップiii)は、細胞の継代をさらに含んでもよい。
【0117】
本出願は、ウイルスベクター発現系を含むPowerSTM-293宿主細胞に対してベンチ及びパイバッチ生産を行い、例えば、300mlの振とうフラスコで培養し、例えば、1L、2L、10L及び50Lのバイオリアクター(例えば、WAVEリアクター又はガラスリアクター)中で浮遊培養してウイルスベクターを産生する。
【0118】
ステップiv)では、細胞を溶解することによってウイルスベクターを収集してもよいし、細胞株により分泌されたウイルスベクターを培地から収集してもよい。
【0119】
該方法は、ステップiv)の後、ウイルスベクターに対して力価検出、精製などを行うことさらに含んでもよい。
【0120】
ウイルスベクターの応用
ウイルスベクター発現系は、異種核酸を含有する核酸ベクターを含んでもよく、治療もしくは研究用のタンパク質、又はsiRNAのような治療もしくは研究用の非翻訳性RNAをコードするためのものである。ウイルスベクターの応用は、主に異種核酸がコードするタンパク質と核酸に依存する。
【0121】
異種核酸は、治療ペプチドのような治療分子、又はsiRNAのような治療核酸をコードすることができる。「治療分子」は、細胞又は被験者におけるタンパク質欠如又は欠陥による症状を緩和又は軽減することができるペプチド又はタンパク質であってもよい。又は、異種核酸によりコードされる「治療」ペプチド又はタンパク質は、被験者に利益を与える物質であり、例えば、遺伝欠損を矯正し、遺伝子(発現又は機能)欠損を矯正し、又は抗癌効果を提供する。治療核酸は、例えば、siRNA、アンチセンス分子及びmiRNAを含んでもよい。異種核酸は、複数の有用な生成物をコードすることができる。
【0122】
異種核酸は、ホルモン、成長因子、分化因子をコードすることができ、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン(GH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン放出因子(GRF)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、血管内皮成長因子(VEGF)、アンギオポエチン、アンギオスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、エリスロポエチン(EPO)、結合組織成長因子(CTGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子α(TGF-α)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子IとII(IGF-IとIGF-II)、TGFβ、アゴニスト、抑制剤、又は骨形態形成タンパク質(BMP)BMP1-15の任意の一つを含む形質転換成長因子βスーパーファミリーの任意の一つ、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経栄養因子NT-3及びNT4/5、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、凝集タンパク質、スピンドルタンパク質-1及びスピンドルタンパク質-2、肝細胞成長因子(HGF)、エリスロフィシン酸、ノギン、及びチロシンヒドロキシラーゼを含み、それらに限らない。
【0123】
他の有用な異種核酸生成物は、免疫システムを調節するタンパク質を含み、サイトカインとリンフォカイン、例えば、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン(IL)IL-1~IL-17、単球走化性タンパク質、白血病抑制因子、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子、Fasリガンド、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、幹細胞因子、flk-2/fFlt3リガンド、免疫グロブリンIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE、キメラ免疫グロブリン、ヒト化抗体、単鎖抗体、T細胞受容体、キメラT細胞受容体、単鎖T細胞受容体、例えば、CCR5のようなGタンパク質共役受容体(GPCR)、クラスI及びクラスIIMHC分子、及びエンジニアリングされた免疫グロブリン及びMHC分子を含み、これらに限定されない。有用な異種核酸生成物は、調節タンパク質、例えば、補体調節タンパク質、膜補助タンパク質(MCP)、崩壊促進因子(DAF)、CR1、CF2及びCD59をさらに含む。
【0124】
他の有用な異種核酸生成物は、先天性代謝異常を補正することができる遺伝子生成物を含み、カルバモイルシンセターゼI、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、アルギナーゼ、フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、α-1アンチトリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ、凝血因子、例えば、因子V、因子VIIa、因子VIII、因子IX、因子X、因子XIII又はタンパク質C、シスタチオニン-β-シンターゼ、分枝鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリルAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルAカルボキシラーゼ、プロピオニルAカルボキシラーゼ、グルタリルAデヒドロゲナーゼ、インスリン、β-グルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ、Hタンパク質、Tタンパク質、グリシンデカルボキシラーゼ(CFTR)配列及びジストロフィンcDNA配列を含むが、それらに限らない。
【0125】
別の有用な異種核酸生成物は、機能又は活性の欠損、欠乏又は欠失を提供できるものを含み、例えば、抗体、網膜色素上皮特異的65kDaタンパク質(RPE65)、エリスロポエチン、低密度リポタンパク質受容体、リポプロテインリパーゼ、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、β-グロブリン、α-グロブリン、スペクトリン、α-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、金属輸送体(ATP7A又はATP7)、スルファターゼ、リソソーム蓄積症に関与する酵素(ARSA)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-25グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴホスフォリパーゼヘキソサミニダーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼ、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、ホルモン、成長因子(例えば、インスリン様成長因子1和2、血小板由来成長因子、上皮成長因子、神経成長因子、神経栄養因子3及び4、脳由来神経栄養因子、グリア細胞由来成長因子、形質転換成長因子α及びβなど)、サイトカイン(例えば、αインターフェロン、βインターフェロン、インターフェロンγ、インターロイキン2、インターロイキン4、インターロイキン12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、自殺遺伝子生成物(例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、シトシンデアミダーゼ、ジフテリア毒素、シトクロムP450、デオキシシチジンサイトキナーゼ、腫瘍壊死因子など)、薬剤耐性タンパク質(例えば、癌治療における薬剤耐性を提供するためのもの)、腫瘍抑制タンパク質(例えば、p53、Rb、Wt-1、NF1、VonHippel-Lindau(VHL)、腺腫性ポリープ(APC))、免疫調節ペプチド、耐性又は免疫原性ペプチド又はタンパク質Tregitopes、又はhCDR1、インスリン、グルコキナーゼ、グアニル酸シクラーゼ((LCA-GUCY2D)、Rab衛星タンパク質1、LCA5、オルニチンケト酸トランスアミナーゼ、網膜分離症1(X連鎖性網膜分離症)、USH1C(Usher症候群1C)、X-連鎖性色素性網膜炎GTP酵素(XLRP)、MERTK(RPのAR形態:連鎖性色素性網膜炎)、DFNB1(Connexin26難聴)、ACHM2、3及び4(色盲)、PKD-1又はPKD-2(多発性嚢胞腎)、TPP1、CLN2、多発性嚢胞腎による遺伝子欠損(例えば、スルファターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸トランスフェラーゼ、カテプシンA、GM2-AP、NPC1、VPC2、サポシンなど)、ゲノム編集用の一つ又は複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、又はゲノム編集の修復鋳型としてのドナー配列である。
【0126】
又は、異種核酸は、例えば、siRNA、アンチセンス分子及びmiRNAを含んでもよい。臨床的に有用なアデノ随伴ウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対するアンチセンス遺伝子(Levine BL et al.,(2006)Gene transfer in humans using aconditionally replicating lentiviral vector. Proc Natl Acad Sci U S A.103(46):17372-7)及びその他の重要なヒト病原体を発現することができる。Naldini(Naldini L.(2011)Ex vivo gene transfer and correction for cell-based therapies. Nat. Rev. Genet.12:301-315)において、アデノ随伴ウイルス及び関連ベクターのこれら及び他の有用な応用が論じられ援用されている。アデノ随伴ウイルスベクターに含まれるアンチセンス遺伝子は、以下の発現を抑制することができる:ハンチンチン(HTT)遺伝子、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症に関連する遺伝子(例えば、atrophin 1、ATN1)、球脊髄性筋萎縮症のX染色体のアンドロゲン受容体、ヒトAtaxin-1、-2、-3及び-7、(CACNA1A)によりコードされるCav2.1P/Q電圧依存性カルシウムチャネル、TATA結合タンパク質、ATXN8OSとも呼ばれるAtaxin8逆鎖、脊髄小脳失調におけるセリン/トレオニンプロテインホスファターゼ2A55kDa調節サブユニットBβアイソフォーム(タイプ1、2、3、6、7、8、12、17)、脆弱X症候群におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱X関連振戦/失調症候群におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、FMR1(脆弱X精神遅滞2)又は脆弱X精神遅滞におけるAF4/FMR2ファミリーメンバー2、筋強直性ジストロフィーにおける筋強直性タンパク質プロテインキナーゼ(MT-PK)、フリートライヒ運動失調における運動タンパク質、筋萎縮性側索硬化症のスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の突然変異、パーキンソン病及び/又はアルツハイマー病の発症メカニズムに関与する遺伝子、アポリポタンパク質B(APOB)及び枯草菌プロテアーゼ前駆タンパク質転換酵素/kexinタイプ9(PCSK9)、血中コレステロール過剰、HIV感染におけるHIVTat、転写遺伝子のヒト免疫不全ウイルストランス活性化因子、HIV感染におけるHIVTAR、HIVTAR、ヒト免疫不全ウイルストランス活性化因子応答エレメント遺伝子、HIV感染におけるC-Cケモカイン受容体(CCR5)、RSV感染におけるラウス肉腫ウイルス(RSV)、肝炎Cウイルス感染における肝臓特異的microRNA(miR-122)、p53、急性腎損傷、又は腎移植による移植機能の遅延、又は腎損傷急性腎不全、進行性又は転移性固形腫瘍におけるプロテインキナーゼN3(PKN3)、LMP2、LMP2は、プロテアソームサブユニットβタイプ9(PSMB9)、転移性黒色腫とも呼ばれ、LMP7は、プロテアソームサブユニットβタイプ8(PSMB8)、転移性黒色腫とも呼ばれ、MECL1は、プロテアソームサブユニットβタイプ10(PSMB10)、転移性黒色腫とも呼ばれ、固形腫瘍における血管内皮成長因子(VEGF)、固形腫瘍におけるキネシンスピンドルタンパク質、慢性骨髄性白血病におけるアポトーシス抑制B細胞CLL/リンパ腫(BCL-2)、固形腫瘍におけるヌクレオチドレダクターゼM2(RRM2)、固形腫瘍におけるFurin、肝臓腫瘍におけるPolo様キナーゼ1(PLK1)、C型肝炎ウイルス感染におけるジアシルグリセロール転移1(DGAT1)、家族性腺腫性ポリポーシスにおけるβ-カテニン、β2-アドレナリン受容体、緑内障、糖尿病性黄斑浮腫(DME)又は加齢黄斑変性におけるRTP801/Redd1、DNA損傷により誘導される転写因子4タンパク質とも呼ばれ、加齢黄斑変性又は脈絡膜新生血管における血管内皮成長因子受容体I(VEGFR1)、非動脈炎症性虚血性視神経症におけるカスパーゼ2、先天性厚硬爪甲症におけるケラチン6AN17K突然変異タンパク質、インフルエンザにおけるインフルエンザA型ウイルスAゲノム/遺伝子配列によるインフルエンザ感染、SARS感染における重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスゲノム/遺伝子配列、呼吸器合胞体ウイルス感染における呼吸器合胞体ウイルス感染ゲノム/遺伝子配列、エボラウイルス感染におけるエボラ糸状ウイルスゲノム/遺伝子配列、B型とC型肝炎ウイルス感染におけるB型とC型肝炎ウイルスゲノム/遺伝子配列、HSV感染における単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノム/遺伝子配列、コクサッキーB3ウイルス感染におけるコクサッキーウイルスB3ゲノム/遺伝子配列、原発性筋緊張性障害におけるトーシンA(TOR1A)の病原性対立遺伝子のサイレンシング(対立遺伝子の特異的サイレンシング)、移植における泛Iクラス及びHLA対立遺伝子、常染色体優性遺伝性網膜色素変性症(adRP)における突然変異ロドプシン遺伝子(RHO)、又は任意の上記遺伝子又は配列に結合する転写物の抑制核酸である。
【0127】
また、研究によると、異種核酸は、shRNAをコードし、標的遺伝子の発現を干渉することができ、異種核酸は、gRNA及びCas9をコードし、標的遺伝子のノックアウトを実現することができ、異種核酸は、gRNA及びdCas9をコードし、標的遺伝子の内因性過剰発現を実現することができる。
【0128】
宿主細胞系のスクリーニング
適切な宿主細胞を選択することにより、ウイルスベクターの収量を大幅に向上させることができる。好ましい細胞は、無血清培養に適し、及び/又は浮遊培養に適したものである。以上のように、無血清培地で細胞培養と増幅を行う場合、最終製品における潜在的な免疫原性物質汚染と動物由来成分を減少し、下流の精製プロセスを簡略化し、精製プロセスの簡略化は、ウイルスベクターの収率と活性を向上させることができる。なお、浮遊培養は、接着培養よりも、ウイルスベクターの大規模な作製に適する。
【0129】
無血清培養
一般的には、動物細胞の成長は、いずれも血清の存在に依存する。血清を添加しなければ、ほとんどの細胞は増殖することができない。血清含有培地には、通常、ウシ血清が添加される。
【0130】
血清は、成分が複雑であり、物質輸送に協力するタンパク質、栄養物質を有し、さらに、細胞成長を促進するホルモンと因子等を有し、血清という天然成分の複雑性のため、血清は細胞培養過程で様々な機能を発揮し、それは、細胞成長を維持するホルモンを提供して、培養細胞の成長を促進することと、基礎培地にないか又は含有量が少ない栄養物質を補うことと、結合タンパク質を提供し、細胞認識及びビタミン、脂質、および他のホルモンなどの利用を促進することと、いくつかの場合に、結合タンパク質が、有毒金属及び発熱性物質と結合し、解毒作用を果たすことができることと、細胞接着を促進し、細胞のプラスチック培養マトリクスでの広がりを促進できる因子を提供することと、酸アルカリ度緩衝液として機能することと、プロテアーゼ阻害剤を提供し、細胞が消化される時に残存するトリプシンを不活化し、細胞を傷害から保護することとを含む。しかし、ウシ血清の使用には、外来ウイルスと病原因子を汚染する恐れがあり、また異なるバッチのウシ血清の間の生物活性と因子が一致しないため、製品と実験結果の再現性が低く、製品に残留するウシ血清も、ウイルスベクター受容者の血清に対するアレルギー反応を引き起こしやすい。
【0131】
無血清培地は、SFMと略称され、血清を添加しない細胞培地である。天然培地、合成培地に続く第3種の培地である。従来の培地に比べて、無血清培地は、動物血清又はその生物抽出液を含まないが、細胞がインビトロで長時間成長し増殖するように維持することができる。SFMは、構成成分が明確であり、作製プロセスが簡単であり、現代のバイオテクノロジー分野で広く応用され、細胞の成長、増殖、分化及び遺伝子発現調節の基礎研究問題を解明する有力なツールでもある。
【0132】
目前に無血清培地には二種類があり、一つは動物由来のいかなる添加成分も添加せず、もう一つはいかなる不明確な添加成分も添加しない。現在、以下の四つが多く応用される。
【0133】
第1は、一般的な無血清培地であり、血清機能を代替できる様々な生体材料、例えば、ウシ血清アルブミン、トランスフェリン、インスリンなどの生体高分子物質、及び血清から抽出された、タンパク質を除去した後の混合脂質及び加水分解タンパク質などで細胞培地を作製する。その特徴は、培地におけるタンパク質含有量が高いことであるが、添加物質の化学成分が明確でなく、動物由来タンパク質を多く含んでいる。
【0134】
第2は、動物由来でない培地である。多くの企業により開発された、動物由来でない培地は、組換え薬物の生の安全性を考慮し、培地における添加成分が動物由来でなく、必要なタンパク質が組換えタンパク質又はタンパク質加水分解物に由来し、これらの成分は細胞成長及び増殖のニーズを確保することができる。
【0135】
第3は、動物タンパク質のない培地である。培地は、動物由来のタンパク質を完全に使用しないが、一部の添加物は、植物タンパク質の加水分解断片又は合成ポリペプチド断片などの他の誘導物に由来する。このような培地は、成分が安定的であるが、ステロイドホルモンと脂質前駆体を添加する必要があり、且つ培養細胞に対して高い特異性を有する。
【0136】
第4は、化学成分が限定される培地である。このような培地は、現在で最も安全で、最も理想的な培地であり、培地バッチ間の一致性を確保することができ、その中に添加された少量の動物由来のタンパク質加水分解物、タンパク質がいずれも成分が明確な成分である。その特徴は、培地の性質が明確であり、培地を配合する場合も便利であることである。
【0137】
無血清培地の利点は、血清バッチ間の品質変動を回避し、細胞培養と実験結果の再現性を向上させることと、血清による細胞への毒性作用及び血清由来汚染を回避することと、血清成分が実験研究に与える影響を回避することと、インビトロ培養細胞の分化に有利であることと、製品の発現レベルを向上させ、細胞製品の精製を容易にすることと、成分が安定的であり、大量生産が可能であることと、マイトジェン阻害剤を含まず、細胞増殖などを促進し得ることとを含む。このような培地の欠点として、細胞が無血清培地中で、いくつかの機械的要因と化学的要因の影響を受け、培地の保存と応用が従来の合成培地ほど便利ではなく、コストが高く、標的性が高く、一つの無血清培地がある特定の細胞の培養のみに適し、発育の異なる分化段階にある細胞が異なる処方が必要であり、成長因子とサイトカインの選択が特に重要である。血清を除去すると同時に、血清タンパク質によるいくつかの保護作用をも除去したため、試薬、水の純度、計器の清浄度に対する要求が高い。
【0138】
無血清培地は、完全栄養基礎培地に、ホルモン、成長因子、接着因子と結合タンパク質を添加して形成したものである。
【0139】
細胞培養に用いられる初期の基礎培地には、血漿血餅、リンパ液、大豆ペプトン、胚エキスなどの天然培地がある。1950年にMorganらは、以前の研究に基づいて199培地を開発し、動物細胞培地の発展の新しい段階、及び合成培地の段階になった。合成培地は、細胞成長の必要に応じて、一定の割合のアミノ酸、ビタミン、無機塩、グルコースなどを組み合わせた基本培地である。現在、合成培地の商品は百種以上市販されている。多くの合成培地において、MEM、DMEM、RPMI1640、F12、及びTC100は最も広く使用される。基礎培地の成分が完全に既知であるため、異なる細胞株を培養する時に、細胞株の栄養要件によりよく適合し又はターゲットタンパク質の発現量を向上させるために、基礎培地のいくつかの成分を適切に調整することができる。
【0140】
無血清培地における添加因子は、補充因子とも呼ばれ、代替血清の様々な因子の総称である。多くの無血清培養液は、3~8種の因子を追加して添加する必要があり、いずれの単一因子も血清を代替することはできない。このような因子は100種類以上知られており、その中にはインスリン、亜セレン酸ナトリウム、トランスフェリンなどの必須因子があり、その他の多くはヘルパー作用の因子である。補充因子は、機能によって四つに分類される。
【0141】
第1の補充因子は、ホルモンと成長因子である。無血清で培養する細胞の多くは、インスリン、成長ホルモン、グルカゴンなどのようなホルモンを添加する必要がある。ほとんどの細胞系は、インスリンを必要とし、それは、ポリペプチドであり、細胞におけるインスリン受容体と結合して複合体を形成し、RNA、タンパク質及び脂肪酸の合成を促進することができ、重要な細胞生存因子である。細胞の無血清培養において、インスリンの使用濃度は0.1~10μg/mlである。Janらは、バッチ培養において、インスリンの急速な枯渇が細胞比成長速度の低下の主な原因であると考えている。なお、チロキシンなど、及びステロイド系ホルモンのうちのプロゲステロン、ヒドロコルチゾン、エストラジオールなども無血清細胞培養における通常の補充因子である。異なる細胞株は、ホルモンの種類と数量に対する要求が異なる。成長因子は、細胞のインビトロ培養生存、増殖と分化を維持するために必要な補充因子である。化学的性質により、ポリペプチド系成長因子とステロイド系成長因子に分類され得る。無血清培地に添加される成長因子は、主にポリペプチド系成長因子であり、近年同定されたポリペプチド系成長因子は20~30種であり、その半数以上は遺伝子組換えの手法によって該当する組換え成長因子を得ることができる。無血清培地によく見られる成長因子は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)及び神経成長因子(NGF)などがある。成長因子は、有効なミトゲンであり、細胞集団の倍加時間を短縮することができる。
【0142】
第2の補充因子は、結合タンパク質である。結合タンパク質には二つがあり、一つは、トランスフェリンであり、もう一つはアルブミンである。大部分の哺乳動物細胞には、特定のトランスフェリン受容体が存在し、受容体と、トランスフェリンと鉄イオンとの複合体との結合は、細胞が必要とする微量元素である鉄を採取するための主たる供給源であり、なお、トランスフェリンはさらに、成長因子の性質を有し、バナジウムのような他の微量元素と結合することができる。トランスフェリンの必要量は細胞によって異なる。アルブミンも無血清培地において一般的に用いられる添加因子である。それは、ビタミン、脂質、ホルモン、金属イオン及び成長因子との結合によって、上記物質の無血清培地での活性を安定化し調節する作用を有し、なお、毒素と結合し、プロテアーゼの細胞への影響を軽減する作用を有する。
【0143】
第3の補充因子は接着因子である。大部分の真核細胞は、インビトロで成長する場合、適切な基材に定着する必要がある。細胞定着作用は、複雑なプロセスであり、接着因子が容器又はベクターの表面に付着することを含む。細胞と接着因子との結合などである。無血清培養に一般的に用いられる接着因子は、細胞間質と血清における成分、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、ポリリジンなどを有する。本出願のような浮遊培養において、培地に接着因子を添加する必要がない。
【0144】
いくつかの細胞系の無血清培養はさらに、微量元素、ビタミン、脂質などのいくつかの低分子量化学物質を補充する必要があり、ビタミンBは、主に補酵素の形式で細胞代謝に関与し、ビタミンCとビタミンEは、抗酸化効果を有する。ブタンジアミンとリノール酸などは、細胞膜合成に必要な脂質及び細胞成長に必要な水溶性脂質を提供する。
【0145】
現在、大規模な動物細胞の培養において、無血清培地に広く適用されている。ワクチン成長、マブ及び様々な生物活性タンパク質などの生物学的製品の応用分野において、無血清培地の成分の最適化は、細胞成長と目的生成物の発現に最も有利な環境において、異なる細胞の高密度培養を維持し、生産コストを削減することができる。ヒト細胞培養において、無血清培地の応用はさらに、線維芽細胞の過剰成長を選択的に制御及び回避することができる。無血清培養の条件下で、いくつかの細胞の成長量と抗体の収量は、血清がある時より数倍も高い。
【0146】
生物製品を産生する以外、無血清培地は、細胞生物学、薬理学、腫瘍学分野にも広く応用されている。例えば、無血清培地は、細胞の分化条件の研究に用いることができる。無血清培地の他の成分は、完全に確かに知られている化学物質であってもよく、したがって研究の必要に応じて、重要な生物活性を有する物質の種類と量を増減させることができる。これは、細胞分化の条件の研究のために有効な手段を提供した。また例えば、無血清培地は、様々な細胞が混在する培養から目的細胞を選択するために使用され得る。無血清培養におけるいくつかの成分の取捨によって、初代組織培養物中の目的外細胞の過剰成長を抑制し、目的細胞を選択する目的を達成することができる。無血清培養は、腫瘍病理学と病因学の研究にも用いられる。例えば、細胞に対する発癌性因子の影響を研究し、正常細胞の終末分化を誘発し得る末梢シグナルに対する腫瘍細胞の反応能を研究し、又は正常細胞と腫瘍細胞の成長及び移行と基底膜シグナルとの関係などを研究することに用いられる。なお、無血清培養は、ホルモン、成長因子及び薬物などと細胞との相互作用の研究にも用いることができる。
【0147】
市販の無血清細胞成長培地は、FreeStyleTM293(GibcoTM、Life Technologies)、DMEM/F12(GibcoTM、Life Technologies)、SFM4Transfx-293(HyCloneTM、ThermoScientific)、CDM4HEK293(HyCloneTM、ThermoScientific)、StemPro-34SFM(GibcoTM、Life Technologies)、FreeStyle F17(GibcoTM、Life Technologies)、293SFMII(GibcoTM、LifeTechnologies)、CD293(GibcoTM、LifeTechnologies)、LV-MAX(A35834-01、GibcoTM)、Expi293(GibcoTM、A14351-01)、EX-CELL(R)293(Sigma、14571C-1000mL)、BanlanCD HEK293(Irvine、91165)、Pro293s-CDM(Lonza、12-765Q)、OPM-293 CD03(奥浦邁、81070-001)、Celkey CD HEK293(健順、10804-19008)培地を含む。本明細書では、これらの無血清培地は、細胞のスクリーニング及び/又は培養に用いられ得る。
【0148】
浮遊培養
浮遊培養は、細胞を培地中に分散懸濁させ、単細胞及び小細胞ペレット組織培養を行うものを指し、非接着依存性細胞の培養方式である。いくつかの接着依存性細胞は、適合及び選択を経て、この方法で培養してもよい。浮遊培養の規模の増大は簡単であり、体積を増加すればよい。培地の深さが一定値を超える場合、振とう又は回転装置によって培地を揺動する必要がある。培地の深さがよい深くなる場合に、十分なガス交換を確保するために、二酸化炭素と酸素を導入する必要がある。
【0149】
浮遊培養技術は、細胞接着性により、懸濁細胞培養プロセスと接着細胞マイクロキャリア浮遊培養プロセスに分けられる。浮遊細胞(CHO細胞、BHK21l細胞、HEK293細胞など)は、リアクター中で直接生産し増殖することができ、細胞が自由に成長し、培養環境が均一であり、容易にサンプリングすることができ、培養操作が簡単で制御可能であり、スケールアップしやすく、汚染率及びコストが低く、それに対して、接着細胞は、リアクター中で浮遊培養する場合、マイクロキャリアを用いる必要があり、細胞と球体の接触部位の栄養環境が悪く、培養、サンプリング観察及びスケールアッププロセスが複雑であり、コストが高い。
【0150】
細胞浮遊培養プロセスは、培養方式により、バッチ培養、流加培養及び灌流培養に分けられる。バッチ培養は、細胞のバイオリアクター内で成長、代謝変化を直観的に反映でき、操作が簡単であるが、初期代謝の廃棄産物が多く、細胞成長を抑制し、細胞成長密度が高くなく、流加培養は、操作が簡単であり、収率が高く、スケールアップが容易であり、広く応用されているが、流加培地を設計する必要があり、灌注培養は培養体積が小さく、回収体積が大きく、製品のタンク内滞留時間が短く、適時に低温に回収して保存することができ、製品の活性維持に有利であるが、操作が煩雑であり、細胞培地の利用効率が低く、回転フィルターが目詰まりしやすいなどの問題がある。異なるウイルスベクターに対して、異なる細胞培養方式を用いる。例えば、分泌型で製品活性の低下が速い生物製品に対して、灌流培養を用いることが適当であり、灌流培養もマイクロキャリア培養にさらに適している。
【0151】
適切な産生プロセスを選定した後、プロセス制御は鍵となる。細胞が最適な環境で成長することを確保するために、リアクターのオンライン監視機能を利用して様々な動作パラメータを制御する必要がある。細胞は、温度に敏感であり、適切な加熱又は冷却方式を用いて培養温度を35℃~37℃に制御して、細胞損傷を回避する必要がある。動物細胞の成長に適切なpH範囲は、一般的には6.8~7.3であり、6.8より低いか又は7.3より高くなると、細胞増殖に悪影響を与える可能性がある。
【0152】
細胞培養をスケールアップできるか否かは、リアクターを選択する重要な前提であり、浮遊培養のスケールアップは、主にリアクター体積の増大又はリアクター数の増加によって行われ、リアクター体積の増大は、多くの設置工事及び人件費を節減することができ、複数台の小さいリアクターは、操作が柔軟であるが、コストが高い。海外の生物製品生産では、大規模で、段階的にスケールアップできるバイオリアクターを用いるのは一般的である。バイオリアクターの選択と配置はさらに、産生プロセスと生産能力の要件を考慮し、満たす必要がある。リアクターインターフェースの標準化、付属品の提供速度、アフターサービス品質などは、いずれもバイオリアクターを大量選択する際に考慮する要因になり、産生の遅延を回避する。
【0153】
液体浮遊培養プロセスにおいて、培養物が一定期間成長すると分裂の静止期に入るため、細胞の継代培養を適時に行うことに注意されたい。大多数の浮遊培養物では、細胞は培養の18~25日目に最大密度に達し、この時に、一回目の継代培養を行う必要がある。継代培養時、大きい細胞塊と接種残渣は除去されるべきである。
【0154】
細胞株のスクリーニング
細胞スクリーニング馴化の本質は、現代細胞生物学技術を適用し、異なる培養方式(例えば、懸濁)、異なる培地(例えば、無血清培地)への適応、アポトーシス率の低下、細胞生存率の向上、細胞ライフサイクルの延長、生成物濃度の向上などの面から研究し、産生に適した細胞株をスクリーニングすることである。馴化の安定化を実現するために、通常、高密度細胞培養から低密度細胞培養に移行し、高濃度血清培養から血清濃度を徐々に低下させた培養を行う。細胞傷害後の修復が困難であるため、馴化時の細胞生存率は90%以上に維持する必要がある。細胞の増殖能力は、生産能力に直接影響し、馴化時に、その増殖能力を測定することが必要である。馴化後の細胞発現特性の変化を回避するために、細胞を馴化する時にはその発現分泌能力を測定する必要がある。馴化後の細胞の増殖能力、生存率及び生産能力は、工業的な大量生産の要求を満たすことが求められている。特定の細胞の栄養需要が異なり、その馴化を実現する難易度も異なるため、馴化時に適切な細胞培地を選択し、いくつかの栄養成分を的確に補充して細胞の特定の需要を満たす必要があり、それにより馴化済みの細胞は、その懸濁又は無血清成長の特性を維持することができる。
【0155】
なお、浮遊培養において、細胞は凝集しやすい。細胞が凝集すると、ベクターの産生に用いられるプラスミドの多くが細胞にトランスフェクションできなくなり、大きな塊の間の細胞は栄養不足のために死に至り得る。現在、細胞凝集を改善する方法は、主に凝集防止剤を添加することによって行う。凝集防止剤の添加は、トランスフェクション効率を明らかに低下させ、その結果、細胞は、アデノ随伴ウイルスをトランスフェクトしパッケージングすることができなくなる。
【0156】
分散性が高く、増殖密度が高く、ウイルスベクターを高生産する細胞株を効率的且つ簡便に馴化/スクリーニングする方法が業界に求められている。
【0157】
本出願では、発明者らは、主に現在のアデノ随伴ウイルス作製に最も多く使用されるHEK293細胞に対して、その馴化/スクリーニング方法を改善した。
【0158】
発明者は、高濃度血清培養から血清濃度を徐々に低下させる業界の一般的な培養ステップを用いず、普通の培地で培養した接着細胞を無血清培地に直接加えて浮遊培養を行い、時間を大幅に節約し、分散性が高く(即ち凝集しにくい)、増殖密度が大きく、ウイルスベクターを高生産する細胞株のスクリーニングの成功にもある程度の寄与があると考える。
【0159】
なお、本出願の発明者はさらに、いくつかの特定の無血清浮遊培地、例えば、LV-MAX生産培地(Gibco、A35834-01)、Expi293発現培地(Gibco、A14351-01)及びOPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)を使用すると、分散性が高く、凝集しない細胞株のスクリーニングにより有利である。具体的には、この三種類の培地によりスクリーニングされた細胞は、高い密度(~1×107細胞/ml)に達することができ、凝集細胞の割合が低いため、凝集しないサブクローンのスクリーニングに有利である。これらの三種類の培地において、OPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)のスクリーニング効果が最も良好である。
【0160】
本出願がスクリーニングしたのは、主にアデノ随伴ウイルスベクターの作製によく用いられるHEK293細胞であり、それは、増殖が速く、トランスフェクション効率が高く、ウイルスベクターを効率的に作製することができ、ウイルスベクターを大規模に作製する可能性がある。
【0161】
具体的には、本出願では、無血清浮遊培養に適したHEK293細胞株をスクリーニング又は馴化する方法を提供し、前記方法は、
血清含有培地において接着培養されたHEK293細胞を取り、無血清培地中に置いて浮遊培養するステップi)と、
無血清浮遊培養に適したモノクローナル細胞株を選択するステップii)とを含む。
【0162】
ステップi)における血清含有培地は、10%血清、例えば、10%ウシ胎児血清を含んでもよい。
【0163】
ステップi)中的浮遊培養は、37℃、8%CO2の条件下での振とう培養を含んでもよい。
【0164】
ステップi)における浮遊培養は、細胞の継代を含んでもよい。
【0165】
無血清培地は、LV-MAX生産培地(Gibco、A35834-01)、Expi293発現培地(Gibco、A14351-01)及びOPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)から選択されてもよく、好ましくは、OPM-293 CD03培地(奥浦邁、81070-001)である。
【0166】
ステップii)は、無血清浮遊培養に適し、分散性が高い(即ち、凝集しない)モノクローナル細胞株を選択することを含んでもよい。
【0167】
ステップii)は、少なくとも1ラウンド、例えば、2ラウンドの有限希釈及び撮影イメージングによりモノクローナル細胞を選択するステップと、選択されたモノクローナル細胞を浮遊培養するステップとを含んでもよい。
【0168】
ステップii)における選択された細胞の浮遊培養は、37℃、8%CO2の条件下での振とう培養を含んでもよい。ステップii)における選択された細胞の浮遊培養は、細胞の継代を含んでもよい。
【0169】
該方法の実施プロセスにおいて、凝集防止剤を添加する必要がない。
【0170】
本出願の方法では、1)血清含有培地の中で接着培養された細胞を直接無血清培養し、血清を漸減させるステップがなく、馴化及びスクリーニングプロセスを大幅に短縮させ、馴化及びスクリーニング周期を20日間まで短縮させることができ、2)無血清培地を用いて細胞を培養し、潜在的な免疫原性物質汚染と動物由来成分を回避し、下流の精製プロセスを簡略化し、3)LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地から選択された無血清培地、特にOPM-293 CD03培地を用いて、浮遊培養に適し、即ち増殖密度が高く、分散性が高いHEK293細胞株のスクリーニングにさらに有利であり、4)凝集防止剤の使用を回避し、細胞のトランスフェクション効率に影響を与えなく、及び5)2ラウンドの有限希釈及びイメージングにより、モノクローナル由来が確保され、細胞が安定的なウイルス発現量を提供することを確保するとともに、モノクローナル由来の直感的なデータサポートも提供する。
【0171】
有限希釈及び撮影イメージング
浮遊馴化後、各HEK293細胞の、このような培養方式に対する適応度、成長速度、毒素産生能力などが均一ではなく、その結果、細胞全体の成長及び毒素産生レベルが高くない。モノクローナル由来は、製品の品質、発現量の安定性にとって必須の条件であり、凝集しなく、毒素産生能力が高いクローンをスクリーニングする必要がある。選択されたモノクローナルが「真の」モノクローナルでければ、後に該クローンを用いて毒素産生試験実験を行う場合、異なる継代数の細胞のウイルス発現量が不安定になる現象が発生する可能性があり、これは、後の製品の品質及び安定性に深刻な影響を与える。
【0172】
現在、モノクローナル細胞をスクリーニングする方法は、(1)2ラウンドの有限希釈を行い、希釈された細胞密度を0.5細胞/ウェル未満に制御することと、(2)1ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージング撮影をプラスすることと、(3)FACSに1ラウンドの有限希釈又はモノクローナルイメージング撮影をプラスすることと、(4)半固体培養とを含む。存在する問題は、FACSソーティング後の細胞生存率が低く、半固体培地でHEK293を選択して撮影することができず、モノクローナル由来のデータを提供することができないことである。
【0173】
現在、1ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージング撮影をプラスする方法を用いてモノクローナルをスクリーニングすることが多い。
【0174】
有限希釈は、実験室で一般的に使用される細胞クローン法である。しかし、有限希釈法は、一つのウェル内に複数の細胞を加える可能性があるため、モノクローナルの確率を向上させるためには、サブクローンを複数回行う必要がある。
【0175】
イメージング技術は、非常に直感的な方法を提供して、サポートデータを提供し、生産細胞系のクローンの由来を確保し、いくつかの追加の実験室作業を代替することができる。しかしながら、いくつかの要素は、画像の有効性(及び「正確性」)、例えば、キャリブレーション、フォーカス、照明、焦点深度、解像度などに影響を与える。
【0176】
本出願では、少なくとも1ラウンド、例えば、2ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージングを加える方式を用い、モノクローナル由来の直感的なデータサポートを提供することができるだけでなく、イメージング技術の欠陥をある程度で補い、モノクローナルの確率を大幅に向上させる。
【0177】
本出願のAVV作製細胞株
ECACCから購入したHEK293細胞から、本出願の細胞株スクリーニング/馴化方法によって、増殖密度が高く、分散性が高い様々な細胞株を得た。
【0178】
そのうちの一つは、PowerSTM-293と命名され、2021年8月9日にブダペスト条約に基づいて中国普通微生物菌種保蔵管理センター(CGMCC)に寄託され、寄託番号がCGMCC No.:23020である。
【0179】
PowerSTM-293細胞株は、無血清培地中で浮遊培養して成長することができる。前記無血清培地は、LV-MAX生産培地、Expi293発現培地及びOPM-293 CD03培地、特にOPM-293 CD03培地から選択されてもよい。
【0180】
PowerSTM-293細胞株は、浮遊培養プロセス中に細胞塊が現れなくてもよい。
【0181】
PowerSTM-293細胞株は、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルスの生産に用いられてもよい。
【0182】
PowerSTM-293細胞株は、無血清培地の中で浮遊培養して成長することができ、増殖密度が高く、生存率が良好であり、継代後のウイルス生産能力が安定的であり、細胞塊が現れなく、即ち分散性が高い。したがって、その浮遊培養プロセスでは、凝集防止剤を追加して添加する必要がない。
【0183】
次の指標について、スクリーニング/馴化されたPowerSTM-293細胞株を試験し、全てが基準を満たした:
1)細胞生存率>90%であり、
2)倍加時間が25~30hであり、
3)対数期の細胞密度が3~4×106細胞/mlであり、
4)最高密度>1×107細胞/mlであり、
5)凝集細胞の割合<10%であり、各細胞塊における細胞の数≦5個であり、
6)アデノ随伴ウイルスパッケージングの力価≧1×1011Vg/mlであり、
7)PCB(元の細胞バンク)は、無菌、マイコプラズマなどの全面的な検査を完了し、
8)細胞安定性≧50PDL(集団倍加レベル)である。
【0184】
具体的には、PowerSTM-293細胞は、OPM-293 CD03培地において倍加時間が短く、約24時間であり、細胞対数期の密度が1.31×107細胞/mlに達することができ、最高密度が1.6×107細胞/mlを超え、該細胞のウイルス生産能力が継代回数(少なくとも20継代以内)の増加に伴って低下しない。
【0185】
市販のウイルス生産細胞に比べて、PowerSTM-293は、ウイルスプラスミドをトランスフェクトした後により多くのウイルスベクター粒子を産生する。
【0186】
以下、実施例を通じて、図面を参照しながら、本発明の技術的解決手段をさらに詳しく説明する。特に断りのない限り、以下に説明する実施例の方法及び材料は、いずれも市販品として入手可能な一般的な製品である。当業者であれば理解できるように、以下に説明する方法及び材料は、単に例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0187】
実施例1.HEK293細胞の無血清浮遊馴化
ECACCから購入したHEK293細胞を37℃の水浴で1分間程度インキュベートし、クライオチューブ内の氷がなくなるまで、クライオチューブ中の細胞を迅速に融解した。
【0188】
細胞をクライオチューブから無心遠心管に移し、4~5ミリリットルの予熱されたDMEM(10% FBS含有)を加え、200gで5分間遠心分離した。
【0189】
培養フラスコ中の上清を捨て、細胞ペレットを3mlのDMEM(10%FBS含有)に再懸濁させた。細胞計数の結果に基づいて、必要な数の細胞をT75培養フラスコに加え、T75培養フラスコを37℃、5%CO2インキュベーターに入れた。
【0190】
細胞を三日間インキュベートし、細胞コンフルエンス>90%になる場合、培養フラスコ中の細胞培地を捨てた。ここでの細胞コンフルエンスは、単層で成長した細胞に対して、顕微鏡で観察された、該単層細胞で覆われた培養容器の表面積のパーセントを指す。DPBSで接着層を一回洗い流した。0.25%トリプシン(会社:Gibco、カタログ番号:12563-029)で細胞を2分間インキュベートし、細胞が離脱した後、10%FBSを含有する4~5mlのDMEMをT75培養フラスコに加えた。細胞を無心遠心管に移し、200gを5分間遠心した。
【0191】
上清を吸い出し、細胞ペレットを6mlのDMEM(10%FBS含有)に再懸濁させ、細胞計数の結果に基づいて、必要な数の細胞をT75培養フラスコに加え、T75培養フラスコを37℃、5%CO2インキュベーターに入れた。
【0192】
細胞が接着成長に完全に適し、コンフルエンス>90%になる場合に継代を行った。
【0193】
細胞を3代継代した後に成長曲線試験を行った。
図1に示すように、7日間の成長曲線試験において、接着細胞は、倍加時間が約17時間であり(24時間より小さい)、成長状態が良好であり、浮遊馴化に用いることができる。
【0194】
それとともに、接着細胞に対してAAV2、AAV5、AAV8、AAV9ウイルスパッケージング試験を行い、接着HEK293細胞のパッケージング能力を観察した。細胞が均一に成長し、コンフルエンス≧90%になれば、トランスフェクションを行ってもよく、そうでなければ24h以内に培養し続け、培養時間を記録する必要がある。トランスフェクション前に9mLのDMEMに交換した。
【0195】
まずトランスフェクション複合体A液を調製した。具体的には、各プラスミドを、ベクタープラスミド(pAAV-EGFP):パッケージングプラスミド(pRC2/pRC5/pRC8/pRC9):ヘルパープラスミド(pHelper)=1:1:1のモル比で、表1における数に従って、0.5mlのトランスフェクト培地DMEMを入れた15mLの遠心分離管に加え、3~5回軽くピペッティングしてプラスミドを均一に混合し、遠心分離管にAをマークし、ここで、全てのベクター配列は、いずれもaddgeneに由来し、金斯瑞により合成された。
【0196】
次にトランスフェクション複合体B液を調製した。具体的には、PEI proを、表1に示すように、トランスフェクション試薬:DNA=2:1の体積比、即ち30μlで、0.5mlのトランスフェクション培地DMEMを入れた15mLの遠心分離管に加え、3~5回軽くピペッティングして均一に混合し、遠心分離管にBをマークした。
【0197】
【表1】
B液をA液に加え、8~10回軽くピペッティングして均一に混合し、15min静置し、総体積が1.0mLであるトランスフェクション複合体を作製した。
【0198】
15min静置した後の4部のトランスフェクション複合体混合液を4個のT75培養フラスコに、T75フラスコあたり1.0mlでゆっくりと均一に加えた。6~8h後に混合液を交換し、即ち培養フラスコ中の古い培地を吸いて捨て、2%FBSを含有する15.0mLのDMEMに交換した。72h後にウイルスを収穫して力価検出を行った。
【0199】
図2に示すように、接着細胞のパッケージング力価の平均値は2.5×10
10vg/mlであり(単位は、ウイルス液1mlあたりに含有される標的ゲノムGFPコピー数を意味する)、その後の浮遊馴化されたモノクローナル細胞のパッケージング結果と比較することができる。
【0200】
その後、LV-MAX生産培地(会社:Gibco、カタログ番号:A35834-01)、Expi293発現培地(会社:Gibco、カタログ番号:A14351-01)、FreeStyleTM293発現培地(会社:Gibco、カタログ番号:12338-018)、BanlanCD HEK293培地(会社:Irvine、カタログ番号:91165)、OPM-293 CD03培地(会社:奥浦邁、カタログ番号:81070-001)を含む無血清培地(SFM)に細胞を移し、無血清培養を行った。具体的には、T75培養フラスコ中のコンフルエンスが85%以上に達した細胞を0.25%のトリプシンで消化し、そして200gを5分間遠心分離した。上清を吸い出し、新鮮なSFMを加えて細胞を再懸濁させ、細胞を125mlの振とうフラスコに移し、そして37℃、8%CO2のインキュベーターに入れ、振とう直径が19mmであり、回転速度が125rpmであるシェーカーで培養した。細胞密度が3~6×106細胞/mlに達した場合、継代を行い、細胞接種の密度が0.35~0.55×106細胞/mlであり、生存率が80%を超えるまで、3~4日間培養した。
【0201】
図3に示すように、接着ECACC293細胞は、OPM-293 CD03、LV-MAX及びExpi293培地で3代浮遊馴化した後、正常に増殖することができ、且つ細胞の生存率が80%を超えるが、BanlanCD及びFreeStyle培地において、細胞は成長が遅く、第2代を培養する時に細胞の成長が実質的に停止し、そのためBanlanCD及びFreeStyle培地は、浮遊HEK293細胞の成長に適せず、後続の実験を行わなかった。この場合、OPM-293 CD03、LV-MAX及びExpi293の三種類の無血清培地で培養した浮遊細胞を撮影してコロニー形態を保持し、
図3に示すように、三種類の培地において、浮遊細胞は成長状態が良好である。三種類の無血清培地で培養した浮遊細胞を0.35×10
6細胞/mlで細胞培養フラスコに接種し、7日間培養し、毎日サイトメーター(メーカー:Beckman、型番:Vicell)を用いて細胞の密度及び生存率を測定し、成長曲線及び生存率曲線を作成した。
図4に示すように、OPM-293 CD03培地中の浮遊細胞は、成長状態が良好であり、7日目に細胞密度が約1.3×10
7個の細胞/mlに達し、7日目に細胞生存率が依然として60%以上である。
【0202】
継代により、より高い密度に達することができる細胞を選択した。具体的には、OPM-293 CD03培地において浮遊密度が最大1.0×107細胞/mlである細胞系を選択し、それをHEK293浮遊細胞と命名した。細胞を最終密度が1.0×107細胞/mlであるまで凍結保存して、スクリーニングされた無血清浮遊培養細胞系とした。このステップにおいて、10~20個の細胞が集まっている場合があった。
【0203】
実施例2.無血清浮遊馴化HEK293のモノクローナル由来及び細胞凝集の最適化
無血清浮遊馴化HEK293細胞の凝集及びモノクローナル由来の問題をさらに解決するために、OPM-293 CD03培地に適した細胞を取り、2ラウンドの有限希釈にモノクローナルイメージングを加えてクローンスクリーニングを行い、具体的なステップは以下のとおりである。
【0204】
第1ラウンドの有限希釈
細胞を収穫した後、細胞密度を1×105細胞/mlに希釈した。細胞密度が1×105細胞/mlである細胞懸濁液を100μl吸い上げ、9.9mlのOPM-293 CD03細胞培地に入れ、細胞密度を1×103細胞/mlに調整した。
【0205】
細胞密度が1×103細胞/mlである細胞懸濁液を0.5ml吸い上げ、100mlの細胞培地に入れ、細胞密度を5個の細胞/mlに調整した。希釈された細胞懸濁液をウェルあたり100μlで96ウェルプレートの各ウェルに加えた。
【0206】
7日間後に観察し、単独で成長した細胞を顕微鏡により選び、単独で成長した細胞は96ウェルにおいて一つの細胞塊として現れ、単独で成長したわけではない細胞は二つ又は複数の細胞塊として現れた。
【0207】
7日ごとに培地を補充し、14日間後に細胞の成長速度が速くなった。
【0208】
単独で成長した細胞を、50%のコンフルエンスに達した場合に24ウェルプレートに移し、1.5mlの新鮮なスクリーニング培地を加え、静置して培養した。
【0209】
3日目から観察を開始し、2/3ウェル中の細胞が50%のコンフルエンスに達した場合、6ウェルプレートに移し、1mlの新鮮なスクリーニング培地を6ウェルプレートに加え、125rpmシェーカーに入れて培養した。
【0210】
細胞状態が良くなければ、6日目に6ウェルプレートに対して継代を行い、いくつかの密度の高いクローンに対して、希釈操作を行い、そして細胞状態が回復するまで培養し続け、1mlの新鮮なスクリーニング培地を加え、125rpmシェーカーに入れて培養した。
【0211】
6ウェルプレート中の2/3ウェルが80%のコンフルエンスに達した場合、6ウェルプレート中の細胞を125mlの浮遊培養用の振とうフラスコに移し、シェーカーに入れた後に毎日顕微鏡で観察し、細胞の成長密度及び状態を顕微鏡で検査し、成長速度が速く、凝集しないか又は軽く凝集するクローンをスクリーニングした。
【0212】
大多数の細胞の密度が3×106細胞/mlを超え、生存率が95%以上であれば、トランスフェクション操作を行ってもよい。具体的には、振とうフラスコから一部の細胞を取り出し、GFPメインプラスミドAAV2のトランスフェクション(元の振とうフラスコは継代処理を行い続ける)を以下のように行い、細胞分散性及びウイルス力価に基づいて、トランスフェクション力価が高く、分散性が高い5つの最適なモノクローナル細胞を選んだ。
【0213】
具体的には、無血清浮遊馴化されたHEK293細胞及び対照群細胞系(Cat#:A35347、Thermo fisher、即ちLV-MAXTMレンチウイルス生産系(Cat#:A35684)中のウイルス生産細胞であり、本明細書でVPCと略称される)を取り、0.55×106細胞/mlで125mlの振とうフラスコに接種し、三日間浮遊培養した。浮遊細胞培養振とうフラスコから細胞懸濁液を取り、計数し、細胞密度が3×106細胞/mL以上に達し、細胞生存率が95%より大きい場合のみに、トランスフェクションを行うことができる。
【0214】
細胞を適量の培地に入れ、トランスフェクション密度が3×106細胞/mLであり、トランスフェクション体積が30mlである。細胞培養フラスコをインキュベーターに入れて浮遊培養した。
【0215】
まずトランスフェクション複合体を調製した。培地及びPEIproトランスフェクション試薬を2~8℃で保存し、予熱する必要がなく、トランスフェクション試薬を使用前に4~5回軽く振って、十分に混ぜ合わせる必要があり、氷の上に置いて操作する必要がなく、冷蔵庫から取り出した後に可能な限り早く操作するように注意すればよい。
【0216】
培地に該当する量のプラスミドを加え、各プラスミドをベクタープラスミド(pAAV-EGFP):パッケージングプラスミド(pRC2/pRC5/pRC8/pRC9):ヘルパープラスミド(pHelper)=1:3:1の質量比で加え、プラスミド用量が0.5μg/1×106細胞であり、4~5回軽くピペッティングして均一に混合し、管1-DNAとしてマークし、全てのベクター配列はいずれもaddgeneに由来する。
【0217】
トランスフェクション緩衝液培地に90μlのPEIproトランスフェクション試薬を加え、4~5回軽くピペッティングして均一に混合し、管2-PEIproとしてマークした。
【0218】
管2中のトランスフェクション緩衝液を管1に移し、ピペットで8~10回以上繰り返してピペッティングし、可能な限り直ちにボルテックスミーターで10sボルテックスし、室温で15min静置した。
【0219】
細胞をトランスフェクトする場合、トランスフェクション複合体をトランスフェクトされる細胞液にゆっくりと加え、加えながら振とうフラスコを軽く揺れ、操作が完了した後、細胞培養フラスコを直接インキュベーターに入れて浮遊培養を行った。
【0220】
48h後にウイルスを収穫し、AVVpro(R)力価キット(AVVpro(R) Titration Kit、リアルタイムのPCRに用いられ、TAKARA、カタログ番号:6233)の取扱説明書の操作ステップを参照して力価検出を行った。
【0221】
5つの最適なモノクローナル細胞を確定した後、対応する振とうフラスコ中の細胞又はその継代を用い、上記ステップに従ってGFPメインプラスミドのウイルスAAV2のパッケージング試験を行った。パッケージング試験結果に基づいて、5つの最適なモノクローナル細胞を選び、それぞれA7、A26、A52、A62及びG1である。
【0222】
TOP5に対してPCBライブラリー調製を行い、それぞれ20本凍結保存した。
【0223】
第2ラウンドの有限希釈
第1ラウンドで確定した5つの最適なモノクローナル細胞塊に対して再び有限希釈を行い、第1ラウンドの有限希釈ステップを繰り返し(即ち細胞希釈から播種までのステップを繰り返し)、細胞成長の0、1、2、7日目にモノクローナル細胞株分析装置(Solentim、Cell Metric)を用いてイメージング撮影を行い、
図5に示すように、モノクローナル細胞をスクリーニングした。振とうフラスコ培養で3~5代継代した後、顕微鏡による観察撮影を行い、
図6に示すように、凝集しないか又は軽く凝集するクローンをスクリーニングし、それぞれクローン1、4、6、7、8、10、13、20及び29であり、ここで、クローン13は分散性が最も高かった。スクリーニングされたクローンを継代培養した後、振とうフラスコから一部の細胞を取り出してGFPメインプラスミドAAV2のトランスフェクションを行った(元の振とうフラスコは継代処理を行い続けた)。トランスフェクション力価の結果は
図8に示すとおりであり、スクリーニングされたクローンがAAV2ウイルスをトランスフェクトする場合の力価はいずれも対照群細胞系より高かった。トランスフェクション力価が高い3つの最適なクローンを選び、即ちクローン13、20及び29である。
【0224】
三つのモノクローナル細胞、即ちクローン13、20及び29に対して、OPM-293 CD03培地において7日間の成長曲線及び生存率曲線の試験を行った。
図7及び表2に示すように、三つの細胞は、成長状態が良好であり、7日目にクローン13の細胞密度が1.5×10
7細胞/mlを超え、クローン13の倍加時間が最も短く、三の細胞のクローンの細胞生存率がいずれも85%以上である。三つのクローン細胞に対してAA5、AAV8及びAAV9パッケージング試験を行い、結果によると、クローン13細胞は、この三つの血清型ウイルスをパッケージングする場合の力価がいずれも最も高く、平均値が約1.0×10
11vg/mlであり、対照群細胞系より明らかに高く、
図9に示すとおりである。
【0225】
【0226】
実施例3.クローン13の継代安定性実験
インビトロ培養された細胞には遺伝子突然変異及びエピジェネティックな変化が発生する確率が高く、これは培養条件の影響を受ける可能性があり、例えば、いくつかのタイプの細胞は、細胞密度、酸素ガス又は二酸化炭素濃度などの条件が変化すると分化し、それによりこれらの細胞は、バイオ製品を生産する中に、継代回数の増加につれて、細胞生産能力が低下し、製品の品質にはロット間で不安定になる現象が経時的に発生し、したがって、バイオ生産プロセスにおいてこのような細胞株の安定性を検証する必要があり、本発明者らは、AAV5ウイルスパッケージングにより、クローン13の毒素産生安定性を調べ、具体的なステップは以下のとおりであり、
クローン13を、それぞれ継代中の5代目、10代目、15代目、20代目で凍結保存し、20代目の凍結保存が完了した後、凍結保存された5代目、10代目、15代目、20代目のクローンを37℃の水浴で1分間程度インキュベートし、クライオチューブ中に氷がなくなるまで、クライオチューブ中の細胞を迅速に融解し、その後、細胞を0.55×106細胞/mlで125mlの振とうフラスコに接種し、三日間浮遊培養した。浮遊細胞培養振とうフラスコから細胞懸濁液を取り、計数し、細胞密度が3×106細胞/mL以上に達し、細胞生存率が95%より大きい場合のみに、トランスフェクションを行うことができる。
【0227】
細胞を適量のOPM-293 CD03培地に入れ、トランスフェクション密度が3×106細胞/mLであり、トランスフェクション体積が30mlである。細胞培養フラスコをインキュベーターに入れて浮遊培養した。
【0228】
まずトランスフェクション複合体を調製した。OPM-293 CD03培地及びPEIproトランスフェクション試薬を2~8℃で保存し、予熱する必要がなく、トランスフェクション試薬を使用前に4~5回軽く振って、十分に混ぜ合わせる必要があり、氷の上に置いて操作する必要がなく、冷蔵庫から取り出した後に可能な限り早く操作するように注意すればよい。
【0229】
培地に該当する量のプラスミドを加え、各プラスミドをベクタープラスミド(pAAV-EGFP):パッケージングプラスミド(pRC2/pRC5/pRC8/pRC9)::ヘルパープラスミド(pHelper)=1:3:1の質量比で加え、プラスミド用量が0.5μg/1×106細胞であり、4~5回軽くピペッティングして均一に混合し、管1-DNAとしてマークし、全てのベクター配列はいずれもaddgeneに由来する。
【0230】
トランスフェクション緩衝液培地に90μlのPEIproトランスフェクション試薬を加え、4~5回軽くピペッティングして均一に混合し、管2-PEIproとしてマークした。
【0231】
管2中のトランスフェクション緩衝液を管1に移し、ピペットで8~10回以上繰り返してピペッティングし、可能な限り直ちにボルテックスミーターで10sボルテックスし、室温で15min静置した。
【0232】
細胞をトランスフェクトする場合、トランスフェクション複合体をトランスフェクトされる細胞液にゆっくりと加え、加えながら振とうフラスコを軽く揺れ、操作が完了した後、細胞培養フラスコを直接インキュベーターに入れて浮遊培養を行った。
【0233】
48h後にウイルスを収穫し、AAVpro(R)力価キット(AAVpro(R) Titration Kit、リアルタイムのPCRに用いられ、TAKARA、カタログ番号:6233)の取扱説明書の操作ステップを参照して力価検出を行った。検出結果は
図10に示すとおりであり、
図10から、クローン13は、AAV5ウイルスを産生する能力が継代回数の増加につれて低下せず、クローン13の20代以内(20代目を含む)にAAVウイルスパッケージング能力が安定的であることが分かった。
【0234】
要するに、最終的にクローン13が最適なクローンであると確定し、クローン13細胞系をPowerS-293と命名し、その後に中国普通微生物菌種保蔵管理センター(CGMCC)に寄託し、番号が23020である。
【0235】
本発明の実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、当業者は、形態及び詳細において本発明に様々な変更及び改良を加えることができ、これらはいずれも本発明の保護範囲に入ると考えられる。
【国際調査報告】