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特表2024-538794タグ化エキソグリコシダーゼ酵素および固定化グリカン配列決定法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】タグ化エキソグリコシダーゼ酵素および固定化グリカン配列決定法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/24 20060101AFI20241016BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20241016BHJP
   C12N 11/04 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C12N9/24
C12N15/56
C12N11/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522434
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 HU2022050074
(87)【国際公開番号】W WO2023062397
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P2100356
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523473464
【氏名又は名称】パノン エジェテム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルヴァーシュ、ガーボル
(72)【発明者】
【氏名】シゲティ、マートン ゲーザ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンコヴィクス、ハジュナルカ
(72)【発明者】
【氏名】コバチ、ノエミ
(72)【発明者】
【氏名】ファルシャング、ローベルト
【テーマコード(参考)】
4B033
【Fターム(参考)】
4B033NA26
4B033NB32
4B033NB45
4B033NC04
4B033ND05
4B033NF02
(57)【要約】
本発明は、N-グリカン配列決定に使用することができる、および/またはN-グリカン配列決定に適したエキソグリコシダーゼ酵素のセットに関し、これらのエキソグリコシダーゼの各々は、異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、これらのエキソグリコシダーゼの各々はペプチドタグを含む。このペプチドタグ、好ましくはHISタグは、自動化目的および特別なワークフローを目標とする酵素の活性部位への最良のアクセス性を確保するための潜在的な固定化に使用され得る。
本発明は、水相および固定化形態の両方において迅速な酵素消化性能を提供する。固定化酵素は、長期間の貯蔵とすぐに使用できる予備混合を可能にする。
本発明の固定化法は、自動化の可能性、および酵素の固定化が重要である特別な実験ニーズを満たす可能性を開く。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-グリカン配列決定に使用するためのエキソグリコシダーゼ酵素(エキソグリコシダーゼ)のセットであって、前記エキソグリコシダーゼのそれぞれが、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、前記エキソグリコシダーゼのそれぞれが、マトリックス支持体上に前記エキソグリコシダーゼを固定化するためのペプチドタグを含み、前記ペプチドタグが、エキソグリコシダーゼ活性に影響を及ぼさないエキソグリコシダーゼ配列の位置に存在し、
前記エキソグリコシダーゼのセットが、
グリカンから末端シアル酸を切断する活性を有し、そのC末端に前記ペプチドタグが設けられている、ノイラミニダーゼ、好ましくはαノイラミニダーゼと、
そのN末端に前記ペプチドタグが設けられているβ-ガラクトシダーゼと、
ヘキソサミニダーゼのC末端に前記ペプチドタグが設けられているヘキソサミニダーゼと
を少なくとも含み、
前記セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なヘキソサミニダーゼ活性を有するように、ノイラミニダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼと比較してヘキソサミニダーゼのレベルが増加されている、エキソグリコシダーゼのセット。
【請求項2】
前記所定の期間が最大1.0時間、好ましくは最大40分、好ましくは最大30分であり、好ましくは温度範囲が37~60℃である、
請求項1に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項3】
前記所定の期間が最大30分であり、温度範囲が37~60℃である、
請求項1に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項4】
前記ペプチドタグが金属キレート化ペプチドタグであり、前記マトリックス支持体が金属含有マトリックス支持体である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項5】
前記ペプチドタグがHisタグであり、前記マトリックス支持体が遷移金属含有マトリックス支持体であり、前記遷移金属がより好ましくはCu2+、Ni2+、Zn2+およびCo2+から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項6】
前記エキソグリコシダーゼのそれぞれが前記マトリックス支持体上に固定化されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項7】
エキソグリコシダーゼの2つ以上のサブセットを含み、各サブセットは、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼが他の各サブセットと異なっており、サブセットは単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼが、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するのに特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
好ましくは、サブセットにおいて、各エキソグリコシダーゼが同じマトリックス支持体上に固定化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項8】
前記エキソグリコシダーゼのそれぞれが前記マトリックス支持体に固定化され、
サブセットにおいて、各エキソグリコシダーゼが同じマトリックス支持体に固定化されている、請求項7に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項9】
一緒に混合された前記エキソグリコシダーゼが一緒に透析(共透析)されて負の塩効果を減少させる、請求項1~8のいずれか、好ましくは請求項8に記載のエキソグリコシダーゼのセット。
【請求項10】
請求項6に定義されているエキソグリコシダーゼの複数のサブセットを用いたグリカン切断反応が、同時に行われ、反応混合物のそれぞれが分析されてグリカン配列情報が得られる、
グリカン配列決定のための請求項1~9のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセットの使用。
【請求項11】
前記グリカン切断反応の結果が、好ましくは蛍光検出を伴うHPLC、UPLCおよびキャピラリー電気泳動からなる群から選択される分離法によって、好ましくは蛍光検出を伴うキャピラリー電気泳動によって、グリカン配列情報を得るために分析される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
一緒に混合された前記エキソグリコシダーゼが一緒に透析(共透析)されて、前記キャピラリー電気泳動分析における負の塩効果を減少させる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、
前記エキソグリコシダーゼをコードする核酸配列が提供され、前記エキソグリコシダーゼが、グリカンから末端シアル酸を切断する活性を有する少なくとも1つのノイラミニダーゼ、好ましくはαノイラミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびヘキソサミニダーゼを含み、
前記ペプチドタグをコードする核酸配列が、前記エキソグリコシダーゼをコードする前記核酸配列に挿入され、その結果、前記ペプチドタグが、発現されると、エキソグリコシダーゼ活性に影響を及ぼさないエキソグリコシダーゼ配列の位置に存在し、
前記ペプチドタグが、前記ノイラミニダーゼのC末端に設けられており、
前記ペプチドタグが、前記β-ガラクトシダーゼのN末端に設けられており、
前記ペプチドタグが、前記ヘキソサミニダーゼのC末端に設けられており、
各エキソグリコシダーゼが発現系、好ましくは細菌発現系で発現され、
各エキソグリコシダーゼが単離され、
好ましくは、前記単離が、前記エキソグリコシダーゼが前記ペプチドタグを介してクロマトグラフィーマトリックスに結合する工程を含み、
前記エキソグリコシダーゼのレベルが、所定の温度範囲で前記セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に前記末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なエキソグリコシダーゼ活性を各エキソグリコシダーゼが有するように調節されており、ヘキソサミニダーゼのレベルが、前記セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なヘキソサミニダーゼ活性を有するように、ノイラミニダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼと比較して増加しており、
好ましくは、前記所定の期間が最大1.0時間、好ましくは最大40分、好ましくは最大30分であり、好ましくは、前記温度範囲が37~60℃であり、
前記エキソグリコシダーゼの少なくとも一部が一緒に混合されて、単一の切断反応混合物を形成する、方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、エキソグリコシダーゼのサブセットが請求項7に定義されるように一緒に混合され、
一緒に混合された前記エキソグリコシダーゼが、一緒に透析(共透析)されて、キャピラリー電気泳動分析中のシグナル強度に対する負の塩効果を減少させる、方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、前記エキソグリコシダーゼが前記ペプチドタグを介してマトリックス支持体に固定されており、
好ましくは、
エキソグリコシダーゼの2つ以上のサブセットが一緒に混合され、共透析され、
各サブセットが、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼにおいて互いに異なるサブセットであり、サブセットが単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼが、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼが、同じマトリックス支持体上に固定化されている、方法。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか一項に定義されるエキソグリコシダーゼの固定化セットを調製するためのキットであって、前記キットが、
請求項1~5に定義されるエキソグリコシダーゼのセットであって、前記エキソグリコシダーゼが、保存エキソグリコシダーゼ溶液または保存エキソグリコシダーゼ溶液のセットとして緩衝溶液中に可溶性形態で存在する、エキソグリコシダーゼのセットと、
前記エキソグリコシダーゼの中に操作されたペプチドタグに結合するか、またはそれによって結合することができるように官能化されたマトリックス支持体と、
任意選択で、固定化を行うための緩衝液および試薬、固定化の前または後に前記マトリックス支持体を洗浄するための緩衝液、ならびに好ましくは安定化剤、好ましくはグリセリンを含む前記保存緩衝液と
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明者らは、細菌発現系を使用して高収率および費用対効果の高い方法で産生することができる純粋、可溶性および機能的エキソグリコシダーゼ酵素を設計した。
【0002】
本発明は、N-グリカン配列決定に使用することができる、および/または適するエキソグリコシダーゼ酵素のセットに関し、これらのエキソグリコシダーゼの各々は、異なる末端炭水化物を切断するのに特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、これらのエキソグリコシダーゼの各々はペプチドタグを含む。このペプチドタグ、好ましくはHISタグは、自動化目的および特別なワークフローを目標とする酵素の活性部位への最良のアクセス性を確保するための潜在的な固定化に使用され得る。
【0003】
本発明は、水相および固定化形態の両方において迅速な酵素消化性能を提供する。固定化酵素は、長期間の貯蔵とすぐに使用できる予備混合を可能にする。
【0004】
本発明の固定化法は、自動化の可能性、および酵素の固定化が重要である特別な実験ニーズを満たす可能性を開く。
【背景技術】
【0005】
タンパク質のグリコシル化は、真核細胞における最も一般的な翻訳後修飾の1つであり、炭水化物構造は大量の生物学的情報を含むことが知られている。それらは、細胞間相互作用、シグナル伝達経路において重要な役割を果たしており、疾患進行に関与している[Gabius, H.J. The sugar code: Why glycans are so important, Biosystems 164 (2018) 102-111.]。N-およびO-グリコシル化は、タンパク質の適切な折り畳み、安定性および機能性にとって重要である[Vliegenthart, J.F. The complexity of glycoprotein-derived glycans, Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci 93(2) (2017) 64-86.]。そのようなグリカン部分は、単糖単位から構成され、単量体配列、連結型および位置は、複雑性および多様性を意味する。したがって、グリカンの構造分析は困難なタスクであるが、それらの生物機能の理解において極めて重要である。
【0006】
生物製剤は、その優れた特異性および有効性のおかげで小分子を凌駕してきた。ほとんどの場合、生物治療薬はグリコシル化モノクローナル抗体または融合タンパク質である。生物製剤の炭水化物部分は、治療薬の生物学的活性、溶解性および免疫原性において重要な役割を有する。したがって、糖タンパク質のグリカンプロフィールを特徴付けることが不可欠である。
【0007】
エキソグリコシダーゼ消化は、グリカンを特徴付けるための通常の方法である。Archer Hartmannら[Archer Hartmann et al. Microscale exoglycosidase processing and lectin capture of glycans with phospholipid assisted capillary electrophoresis separations, Anal Chem 83(7) (2011) 2740-7.]は、エキソグリコシダーゼによる末端グリカン残基のキャピラリー内切断法を教示している。
【0008】
Yamagami,Mらも、オンラインエキソグリコシダーゼ消化を、糖タンパク質由来オリゴ糖の分析のためのキャピラリー電気泳動(CE)のプラグ-プラグ速度モードと組み合わせたキャピラリー内法を記載している。[Yamagami, M. et al. Plug-plug kinetic capillary electrophoresis for in-capillary exoglycosidase digestion as a profiling tool for the analysis of glycoprotein glycans, J Chromatogr A 1496 (2017) 157-162.]
【0009】
Song Tら[Song T. et al. In-depth method for the characterization of glycosylation in manufactured recombinant monoclonal antibody drugs, Anal Chem 86(12) (2014) 5661-6.]は、8つの市販のrMab薬物に基づいてN-グリカンライブラリーを調製するための液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)法を記載している。完全なグリカン構造は、エキソグリコシダーゼ配列決定によって得られた。
【0010】
エキソグリコシダーゼ消化によるオリゴ糖配列決定は、複合グリカンの構造を決定するために最も一般的に使用される技術の1つである[Guttman, M. et al. Comparative glycoprofiling of HIV gp120 immunogens by capillary electrophoresis and MALDI mass spectrometry, Electrophoresis 36(11-12) (2015) 1305-13.; Varadi, C. Analysis of cetuximab N-Glycosylation using multiple fractionation methods and capillary electrophoresis mass spectrometry, J Pharm Biomed Anal 180 (2020) 113035.]。
【0011】
酵素消化は、オリゴ糖鎖の正確な配列および連結情報を提供する。エキソグリコシダーゼ酵素は、単糖単位および結合配向(α対β)特異性を有するので、グリカンの配列だけでなく、そのアノマー配置も明らかにすることができる[Gattu S. et al. Microscale Measurements of Michaelis-Menten Constants of Neuraminidase with Nanogel Capillary Electrophoresis for the Determination of the Sialic Acid Linkage, Anal Chem 89(1) (2017) 929-936., Lu, C.L. et al. Capillary Electrophoresis Separations of Glycans, Chem Rev 118(17) (2018) 7867-7885][11,21]。グリカン配列決定は、反応混合物の複数の分離を必要とし、CEは、その試料体積の必要性が低く、分離時間が短いために頻繁に使用される。構造情報は、連続するエキソグリコシダーゼ処理のピークシフトから導き出すことができる。
【0012】
工業的利用のための酵素の限界の1つは、酵素がそれらの活性を急速に失うことであり、これは分析コストを著しく増加させる可能性がある。酵素の固定化は、効率低下を回避し得る[Sheldon R.A., S. van Pelt, Enzyme immobilisation in biocatalysis: why, what and how, Chem. Soc. Rev. 42(15) (2013) 6223-6235.]。さらに、固定化は、反復使用を可能にし、変性に対する耐性を改善する。固定化は酵素活性を高める可能性があるが、これは明らかではない。多数の固定化技術が様々な用途について報告されている[Krenkova J., F. Foret, Immobilized microfluidic enzymatic reactors, Electrophoresis 25(21-22) (2004) 3550-63.]。
【0013】
Temporiniらは、プロナーゼ生成糖ペプチド中のグリカンおよびペプチド部分の同時特性評価のために、HPLC-MS/MS法と組み合わせたオンライン固定化酵素反応器技術を開発した。[Temporini, C. et al. Pronase-Immobilized Enzyme Reactor: an Approach for Automation in Glycoprotein Analysis by LC/LC-ESI/MSn, Analytical Chemistry 79(1) (2007) 355-363.]プロナーゼ酵素はエポキシ-シリカモノリシック材料に固定化された。プロナーゼの固定化により、反応時間が48時間から40分に短縮された。
【0014】
Krogh,T.Nら[Protein Analysis Using Enzymes Immobilized to Paramagnetic Beads Analytical Biochemistry 274, (1999) 153-162]は、タンパク質化学と酵素とを組み合わせたタンパク質分析方法を実証するために、トリプシンならびにエキソおよびエンドグリコシダーゼの常磁性ビーズへの化学的固定化を使用している。固定化は、糖ペプチドの高感度、より速いグリコシダーゼ消化、および試料汚染の低減をもたらしたと言われている。分析方法としては、MALDI-MSが用いられている。
【0015】
固定化酵素ピペットは、マイクロボリュームクロマトグラフィー分析のための効率的なツールとして、ならびに現代の実験室環境における酵素マイクロリアクタフィットとして開発されている。糖鎖研究において、ピペットチップにおけるPNGase Fなどの酵素の固定化は、糖タンパク質を迅速に分析するために以前に適用されている[Chen, J. et al. Solid phase extraction of N-linked glycopeptides using hydrazide tip, Anal Chem 85(22) (2013) 10670-4., Yamamoto, S. et al. A fast and convenient solid phase preparation method for releasing N-glycans from glycoproteins using trypsin- and peptide-N-glycosidase F (PNGase F)-impregnated polyacrylamide gels fabricated in a pipette tip, Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 179 (2020) 112995.]]。
【0016】
高スループット技術の開発を含む分析の自動化および速度は、グリカン配列決定の分野に継続的に存在する課題である。
【0017】
最近の研究では、ヒト免疫グロブリンG(IgG)およびエンブレル(エタネルセプト)融合タンパク質N-グリカンの迅速かつ自動化されたエキソグリコシダーゼ消化に基づく炭水化物配列決定が記載され、CE機器の試料貯蔵区画が反応温度制御に使用され、分離キャピラリーが酵素送達装置として使用された。[Szigeti, M and Guttman, A Automated N-Glycosylation Sequencing Of Biopharmaceuticals By Capillary Electrophoresis, Sci Rep 7(1) (2017) 11663.; Guttman A, Szigeti M: Fast Glycan Sequencing Using a Fully Automated Carbohydrate Sequencer, Sciex, https://sciex.com/products/consumables/fast-glycan-analysis-and-labeling-for-the-pa-800- plus 2017-09-14]しかし、固定化は適用されず、方法は一連の個別の消化および配列決定工程からなっていた。
【0018】
グリカン配列決定方法論は過去数年で著しく発展したが、当技術分野では、固定化エキソグリカナーゼに基づく高速で堅牢な配列決定方法論を提供する必要が依然としてある。
【0019】
本発明者らは、特にペプチドタグを介して固体マトリックス支持体に固定化された一連の操作されたタグ化エキソグリカナーゼの使用に基づくグリカン配列決定システム、およびN-グリカン配列決定のためのシステムを提供する。
【発明の概要】
【0020】
1.本発明は、N-グリカン配列決定に使用することができる、および/または適するエキソグリコシダーゼ酵素のセットであって、これらのエキソグリコシダーゼの各々は、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するのに特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、これらのエキソグリコシダーゼの各々は、マトリックス支持体上にエキソグリコシダーゼを固定化するためのペプチドタグを含み、ペプチドタグは、エキソグリコシダーゼ活性に影響を及ぼさないエキソグリコシダーゼ配列の位置に存在する、エキソグリコシダーゼ酵素のセットに関する。
【0021】
別の表現では、エキソグリコシダーゼ酵素のセットは、複数(すなわち、1超)のエキソグリコシダーゼ酵素、またはエキソグリコシダーゼ酵素の系列もしくは系である。
【0022】
ペプチドタグは、好ましくはメチルキレート化ペプチドタグ、非常に好ましくはHisタグである。
【0023】
非常に好ましい実施形態では、エキソグリコシダーゼ酵素のセットは、以下の酵素群:ノイラミニダーゼ、ガラクトシダーゼおよびヘキソサミニダーゼから選択される少なくとも2つの酵素を含む。
【0024】
好ましくは、このエキソグリコシダーゼのセットは、
グリカンから末端シアル酸を切断する活性を有し、そのC末端にペプチドタグが設けられている、ノイラミニダーゼ、好ましくはαノイラミニダーゼと、
そのN末端にペプチドタグが設けられているβ-ガラクトシダーゼと、
そのC末端にペプチドタグが設けられているヘキソサミニダーゼと
を少なくとも含み、
セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なヘキソサミニダーゼ活性を有するように、ノイラミニダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼと比較してヘキソサミニダーゼのレベルが増加されている。
【0025】
好ましい実施形態では、エキソグリコシダーゼ(好ましくはそれらのそれぞれ)は、マトリックス支持体上に固定化されている。
【0026】
好ましい実施形態では、エキソグリコシダーゼのセットは、エキソグリコシダーゼの2つ以上のサブセットを含み、各サブセットは、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼが他の各サブセットと異なっており、サブセットは単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼは、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するのに特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
好ましくは、サブセットにおいて、各エキソグリコシダーゼは同じマトリックス支持体上に固定化されている。
【0027】
好ましい実施形態では、エキソグリコシダーゼのそれぞれはマトリックス支持体に固定化され、好ましくはサブセットにおいて、各エキソグリコシダーゼは同じマトリックス支持体に固定化されている。
【0028】
2.好ましくは、本発明は、パラグラフ1に記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、
セット中のエキソグリコシダーゼのレベルは、各エキソグリコシダーゼが、セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の温度範囲および期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なエキソグリコシダーゼ活性を有するように調節されている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0029】
好ましくは、所定の期間は、最大1.0時間、好ましくは最大40分、好ましくは最大30分であり、好ましくは温度範囲は37~60℃である。好ましくは、温度範囲は37~60℃であり、時間範囲は5.0分~30分である。
【0030】
非常に好ましくは、所定の期間は最大30分であり、温度範囲は37~60℃である。
【0031】
好ましくは、エキソグリコシダーゼのレベルは調整されており、すなわち、それらのレベルは、同等の活性、またはそれぞれがある期間または時間範囲内で完全な消化を行うことができる活性が証明されるように互いに調節されている。
【0032】
3.好ましい実施形態において、本発明は、パラグラフ1~2のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、
エキソグリコシダーゼのセットは、N-グリカンから末端炭水化物を切断する活性を有するエキソグリコシダーゼを含む、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0033】
好ましくは、エキソグリコシダーゼのセットは、グリカンから末端シアル酸を切断する活性を有する少なくともノイラミニダーゼ、好ましくはαノイラミニダーゼ、および少なくとも1つのさらなるエキソグリコシダーゼを含み、好ましくは、ペプチドタグはノイラミニダーゼのC末端に設けられている。
【0034】
4.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ1、2、3、好ましくは3に記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、少なくとも1つのさらなるエキソグリコシダーゼは、少なくともβ-ガラクトシダーゼを含み、好ましくは、ペプチドタグはβ-ガラクトシダーゼのN末端に設けられている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0035】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのさらなるエキソグリコシダーゼは、β-ガラクトシダーゼおよびヘキソサミニダーゼからなる群から選択される。
【0036】
エキソグリコシダーゼの好ましいセットにおいて、ペプチドタグはHisタグであり、マトリックス支持体は遷移金属含有マトリックス支持体であり、遷移金属はより好ましくはCu2+、Ni2+、Zn2+およびCo2+から選択される。
【0037】
5.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ3~4のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、
エキソグリコシダーゼのセット、少なくとも1つのさらなるエキソグリコシダーゼは、少なくともヘキソサミニダーゼを含み、
好ましくは、ペプチドタグはヘキソサミニダーゼのC末端に設けられており、
エキソグリコシダーゼのセット、少なくとも1つのさらなるエキソグリコシダーゼは、少なくともヘキソサミニダーゼを含み、
好ましくは、ペプチドタグはヘキソサミニダーゼのC末端に設けられている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0038】
6.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ5に記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、セット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なヘキソサミニダーゼ活性を有するように、ヘキソサミニダーゼのレベルは、ノイラミニダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼと比較して増加している。したがって、酵素のレベルは調整されており、したがって、本質的に同じ期間中の所定の期間に切断反応を完了するように調節されている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0039】
7.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ1~6のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、ペプチドタグは金属キレート化ペプチドタグであり、マトリックス支持体は金属含有マトリックス支持体である、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0040】
特定の実施形態では、ペプチドタグは、金属キレート化ペプチドタグ、エピトープペプチドタグ、基質ペプチドタグ、リガンドペプチドタグ、修飾ペプチドタグからなる群から選択される。
【0041】
好ましくは、マトリックス支持体は、ペプチドタグの結合のための結合部分を含み、特定の実施形態では、マトリックス支持体は、金属イオン、抗体、またはエピトープ結合部位を有する任意の結合分子、基質結合分子、リガンドに結合する受容体、修飾ペプチドタグに結合する結合分子を含む。
【0042】
場合により、修飾ペプチドタグは、マトリックス支持体への共有結合を可能にするために修飾される。
【0043】
8.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ1~7のいずれかに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、エキソグリコシダーゼはマトリックス支持体上に固定化されており、好ましくは、一緒に混合されたエキソグリコシダーゼは、一緒に透析(共透析)されて負の塩効果を減少させる、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0044】
9.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ1~8のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、エキソグリコシダーゼの各々は、特にパラグラフ7に記載の手段によって、マトリックス支持体上に固定化されている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0045】
10.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ1~9のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、2つ以上のエキソグリコシダーゼは、同じマトリックス支持体上に固定化されている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0046】
11.好ましい実施形態では、本発明は、エキソグリコシダーゼの2つ以上のサブセットを含む、パラグラフ1~10のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットにであって、各サブセットは、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼが他の各サブセットと異なっており、サブセットは単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼは、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有する、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0047】
12.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ11に記載のエキソグリコシダーゼのセットであって、サブセット内で各エキソグリコシダーゼは同じマトリックス支持体上に固定化されている、エキソグリコシダーゼのセットに関する。
【0048】
13.さらなる態様において、本発明は、N-グリカン配列決定のための、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載のエキソグリコシダーゼのセットの使用に関する。好ましくは、エキソグリコシダーゼの複数のサブセットを用いたグリカン切断反応が同時に行われ、各反応混合物が分析されてグリカン配列情報が得られる。好ましくは、エキソグリコシダーゼは、パラグラフ1~12のいずれか、特に1、好ましくはその中の好ましい選択肢、またはパラグラフ6~12のいずれか、特にまたはパラグラフ7~12もしくは8~12のいずれかで定義される。
【0049】
14.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ13に記載のエキソグリコシダーゼのセットの使用であって、グリカン切断反応(消化)の結果(反応混合物)を分析してグリカン配列情報を得る、当該使用に関する。好ましくは、結果(得られた反応混合物、すなわち切断されたグリカン生成物)は、HPLC、UPLCおよびキャピラリー電気泳動からなる群から選択される分離法によって、好ましくは蛍光検出を用いて分析される。
【0050】
好ましくは、分析は、キャピラリー電気泳動によって、好ましくは蛍光検出を用いて行われる。
【0051】
15.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ13~14のいずれかに記載のエキソグリコシダーゼのセットの使用であって、パラグラフ11~12のいずれかに定義されているエキソグリコシダーゼの複数のサブセットを用いたグリカン切断反応(N-グリカン配列決定のため)を同時に(すなわち、並列に)行い、反応混合物のそれぞれを分析してグリカン配列情報を得る、当該使用に関する。
【0052】
この分析における好ましい実施形態において、分離結果(例えば、クロマトグラムまたは電気泳動図)は、配列を得るために行われる。複数の切断反応が行われる場合、これらの反応の結果を比較し、組み立てて配列情報を得る。
【0053】
例示的な実施形態において、逐次的な切断反応が行われ、各反応混合物において糖部分が同定される。
【0054】
好ましい実施形態では、配列決定は、エキソグリコシダーゼのセットおよびそのサブセットを用いて行われ、
各サブセットは、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼが他の各サブセットと異なっており、サブセットは単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼは、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するのに特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
各反応混合物は分析されてグリカン配列情報が得られ、
好ましくは、サブセットにおいて、各エキソグリコシダーゼは同じマトリックス支持体上に固定化されている。
【0055】
別の例示的な実施形態では、様々な酵素混合物との切断反応の結果が分析され、糖組成が評価(測定または同定)され、それにより、これらの組成データが比較され組み立てられると、グリカン配列が決定される。
【0056】
糖組成を評価するための例については、表1および関連する説明を参照されたい。
【0057】
16.さらなる態様において、本発明は、パラグラフ1~12のいずれかに記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製するための方法であって、
エキソグリコシダーゼをコードする核酸配列が提供され、
ペプチドタグをコードする核酸配列が、エキソグリコシダーゼをコードする核酸配列に挿入され(例えば、分子クローニングによって)、その結果、ペプチドタグは、発現すると、エキソグリコシダーゼ活性に影響を及ぼさないエキソグリコシダーゼ配列の位置に存在し、
各エキソグリコシダーゼは、発現系、好ましくは細菌発現系で発現され、
各エキソグリコシダーゼは単離されており(非常に好ましくは、金属キレートカラム上の操作されたHisペプチドタグを使用して)、
好ましくは、単離は、エキソグリコシダーゼがペプチドタグを介してクロマトグラフィーマトリックスに結合する工程を含み、
エキソグリコシダーゼのレベルは、各エキソグリコシダーゼが所定の温度範囲でセット中の各エキソグリコシダーゼについて定義された所定の期間中に末端炭水化物の完全な切断を達成するのに十分なエキソグリコシダーゼ活性を有するように調節されている、当該方法に関する。
【0058】
好ましくは、所定の期間は、最大1.0時間、好ましくは最大40分、好ましくは最大30分であり、好ましくは温度範囲は37~60℃である。好ましくは、温度範囲は37~60℃であり、時間範囲は5.0分~30分である。
【0059】
好ましくは、エキソグリコシダーゼのレベルは調整されており、すなわち、それらのレベルは、同等の活性、またはそれぞれがある期間または時間範囲内で完全な消化を行うことができる活性が証明されるように互いに調節されている。
【0060】
好ましくは、マトリックス支持体は、ペプチドタグの結合のための結合部分を含み、特定の実施形態では、マトリックス支持体は、金属イオン、抗体、またはエピトープ結合部位を有する任意の結合分子、基質結合分子、リガンドに結合する受容体、修飾ペプチドタグに結合する結合分子を含む。
【0061】
場合により、修飾ペプチドタグは、マトリックス支持体への共有結合を可能にするために修飾される。
【0062】
17.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ16に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、エキソグリコシダーゼの少なくとも一部は、一緒に混合されて単一の切断反応混合物を形成し、好ましくは、エキソグリコシダーゼのサブセットは、パラグラフ11~12のいずれかに定義されるように一緒に混合される、当該方法に関する。
【0063】
18.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ17に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、一緒に混合されたエキソグリコシダーゼは一緒に透析(共透析)されて、キャピラリー電気泳動分析中のシグナル強度に対する負の塩効果を減少させる、当該方法に関する。
【0064】
好ましい実施形態では、共透析は、CEおよび/またはHPLC分離分析に非常に好ましい。
【0065】
19.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ16~18のいずれかに記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、エキソグリコシダーゼは、ペプチドタグを介してマトリックス支持体に固定化されている、当該方法に関する。好ましくは、ペプチドタグは、請求項16に記載のタグである。
【0066】
20.好ましい実施形態では、本発明は、パラグラフ19に記載のエキソグリコシダーゼのセットを調製する方法であって、
エキソグリコシダーゼの2つ以上のサブセットを一緒に混合し、共透析し、
各サブセットは、少なくとも1つのエキソグリコシダーゼが互いに異なるサブセットであり、サブセットは単一のエキソグリコシダーゼを含んでもよく、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼは、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
サブセット内で、各エキソグリコシダーゼは、同じマトリックス支持体上に固定化されている、当該方法に関する。
【0067】
好ましくは、ペプチドタグは、請求項16に記載のタグである。
【0068】
非常に好ましい実施形態では、ペプチドタグは金属キレートタグ、特にHisタグである。
【0069】
21.パラグラフ11~12のいずれかに定義されるエキソグリコシダーゼの固定化セットを調製するためのキットであって、キットは、
エキソグリコシダーゼが保存エキソグリコシダーゼ溶液または保存エキソグリコシダーゼ溶液のセットとして緩衝溶液中に可溶性形態で存在する、パラグラフ1~10に定義される可溶性エキソグリコシダーゼのセットと、
エキソグリコシダーゼの中に操作されたペプチドタグに結合するか、またはそれによって結合することができるように官能化されたマトリックス支持体と、
任意選択で、固定化を行うための緩衝液および試薬、固定化の前または後にマトリックス支持体を洗浄するための緩衝液、ならびに好ましくは安定化剤、好ましくはグリセリンを含む保存緩衝液と
を含む。
【0070】
略語
APTS:8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸三ナトリウム塩;AmAc:酢酸アンモニウム;PNGase F:ペプチド-N-グリコシダーゼF;CE:キャピラリー電気泳動;MD:マルトデキストリン;NANase:ノイラミニダーゼ-TEV-6HIS酵素;GALase:6HIS-TEV-β-ガラクトシダーゼ酵素;HEXase:ヘキソサミニダーゼ-TEV-6HIS酵素;hIgG1:ヒト免疫グロブリンG1。
【0071】
定義
「エキソグリコシダーゼ酵素」(または略してエキソグリコシダーゼ)は、末端残基でグリコシド結合を壊す(または切断する)グリコシドヒドロラーゼ(EC 3.2.1)酵素である。
【0072】
エキソグリコシダーゼには、とりわけ、以下の特異性を有する酵素が含まれる。
ノイラミニダーゼ、特にαノイラミニダーゼ、ガラクトシダーゼ、特にβ-ガラクトシダーゼ、グルコサミニダーゼ、特にN-アセチルグルコサミニダーゼ、より具体的にはβN-アセチル-グルコサミニダーゼ、マンノシダーゼ、特にα-および/またはβ-マンノシダーゼ、フコシダーゼ、特にα-フコシダーゼなど。
【0073】
限定されないが、エキソグリコシダーゼは当技術分野で記載されている[Kobata A. (2013). Exo- and endoglycosidases revisited. Proceedings of the Japan Academy. Series B, Physical and biological sciences, 89(3), 97-117.]。
【0074】
「N-グリカン配列決定」は、エキソグリコシダーゼ酵素(エキソグリコシダーゼ)がグリカンの非還元末端から末端炭水化物を除去するが、炭水化物間の内部結合を切断せず、それにより、位置的に特異的なエキソグリコシダーゼを使用することによって、除去されたグリカン残基を、好ましくは結合および糖によって同定することができるプロセスである。
【0075】
本明細書で定義される「ペプチドタグ」は、そのコード配列がタンパク質、ここではエキソグリコシダーゼ酵素のコード配列に挿入または付加されており、それによって発現タンパク質もペプチドタグを含み、このペプチドタグは、マトリックス(マトリックス支持体)によって担持された結合部分に結合して、専門用語では、結合部分を有する樹脂またはマトリックス支持体を形成することができるペプチドである。好ましくは、「ペプチドタグ」は、マトリックス支持体への固定化に使用される。好ましくは、「ペプチドタグ」は、タンパク質を単離または精製するために使用され、マトリックス支持体はクロマトグラフィーマトリックスである。マトリックス支持体は、不活性担持材料と、ペプチドタグに結合または結合して樹脂を形成することができる結合部分とを含む。担持材料および結合部分は、リンカー(部分)によって連結されていてもよい。Hisタグのような金属キレートタグの場合、樹脂は金属含有樹脂である。
【0076】
固定化および好ましくは精製に適したペプチドタグには、とりわけ、FLAGタグ、HAタグ、Mycタグ、NEタグなどの抗体または他のエピトープ結合分子によって結合されたエピトープタグ、またはカルモジュリンタグなどのリガンド結合タンパク質対のタグ、カルモジュリンもしくはSBPタグもしくはStrepタグによって結合されたペプチド、ストレプトアビジンもしくはその修飾バージョンに結合するペプチド、または修飾ペプチドタグ、例えば共有結合に有用なペプチドタグ、またはHisタグなどの金属キレートタグが含まれ、好ましくは5-10 Hisアミノ酸、好ましくは6Hisアミノ酸を有する6Hisタグを含むかまたはそれらからなる。
【0077】
本明細書で使用される酵素の「セット」は、それ自体実体と考えられる酵素の群または集合である。したがって、好ましい実施形態では、セットの部材は協働することができ、および/またはセットの各部材が利用される結果を達成するのに有用である。セットは、類似の酵素(共通の性質を有する酵素のセット)から構成される。しかし、セットはキットであり、キット内では基本的性質が互いに異なり得る部品からなる(例えば、キットは、酵素、緩衝液、何らかのデバイス、樹脂などを含み得る)。
【0078】
「サブセット」は、セットの一部であるセットである。すなわち、それはセット、または(より狭い意味では)セット自体(全体)よりも少ない部材を含むセットのより小さい部分と同一であり得る。
【0079】
酵素のセットまたはサブセット中のエキソグリカナーゼ酵素の「レベル」の意味は、活性を調整し、理想的には各エキソグリコシダーゼの消化反応において末端糖部分の完全な切断に到達するために、異なる基質(炭水化物結合)特異性を有する個々のエキソグリカナーゼの量または濃度を指すことができる。
【0080】
「基」(または「部分」)は、本明細書では、水素原子(部分は通常負に帯電したイオンである)または金属イオン(部分はキレート剤であってもよい)または錯体の有機部分(部分は金属イオンであってもよい)のように、原則として別の部分または他の部分を再移動させることによって誘導することができる分子または錯体の部分として使用される。
【0081】
「キレート」は、少なくとも2つの「配位結合」または「供与結合」、すなわち2つの中心、2つの電子結合を含み、2つの電子は同じ原子に由来し、典型的には非結合電子対は金属イオンに配位している。このような結合は、式中の波線で示されている。
【0082】
単数形「1つの」、および「その」、または少なくとも「1つの」は、文脈上明確に異なる指示がない限り、複数の言及を含む。
【0083】
「含む(comprises)」または「含むこと(comprising)」または「含むこと(including)」という用語は、ここでは非網羅的な意味を有すると解釈されるべきであり、列挙された特徴または方法工程または構成要素を含むものへの更なる特徴または方法工程または構成要素の追加または関与を可能にする。「含む(Comprising)」は、所与の言語変形の実施が必要とする場合は「含む(including)」で置き換えることができ、本発明を実施するのに他の部材または構成要素が必須でない場合は「から本質的になる(consisting essentially of)」に限定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】NANase(左)、GALase(中央)およびHEXase(右)の遺伝子設計を示す図である。タンパク質発現のために、遺伝子をNdeI部位とXhoI部位との間の操作されたpET23bプラスミドに組み込んで、pET23b-NdeI-ノイラミニダーゼ-TEV-6HIS-XhoI(「NANase」)およびNdeI-ヘキソサミニダーゼ-SacI-TEV-6HIS-XhoI構築物(「HEXase」)を得た。一方、β-ガラクトシダーゼの発現については、操作されたpET17bベースのプラスミド[材料および方法]を使用したその機能部分へのN末端6HIS-TEVタグの融合を適用した(「GALase」)。
図2】酵素を個別に試料に適用し(パネルA)、予め混合して共透析した酵素を適用し(パネルB)、37℃で一晩消化させたhIgG1糖タンパク質試料のN-グリカン配列決定を示す図である。生成した共透析酵素混合物(10倍希釈後の50%グリセロール中)の効率を、個別に使用した混合物およびグリセロールを含まない酵素と比較した。分離条件:全長50cm(有効長40cm)のBFSキャピラリー、NCHO分離ゲル緩衝液、20℃のキャピラリーおよび試料温度、ならびに5.0psiを用いた5.0秒間の圧力注入。
図3】固定化酵素混合物を用いたhIgG1試料のグリカンのエキソグリコシダーゼ消化を示す図である。酵素をPhyNexusマイクロカラムに固定化した。分離条件は図2と同じであった。HEXaseの濃度を0.6μM(4倍)に上昇させることにより、固定化酵素を用いて30分で完全な反応が得られた。
図4】30分間の温度勾配法を用いた、水相中および固定化形態の予備混合および共透析した酵素を含むダラツムマブmAbグリカン(パネルA)、ヒト血清グリカン(パネルB)およびシナジスmAbグリカン(パネルC)のN-グリカン配列決定を示す図である。分離条件は図2と同じであった。全ての場合において、所与の時間枠で完全なエキソグリコシダーゼ消化が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明では、グリカン配列決定に使用するためのエキソグリコシダーゼのセットが提供され、エキソグリコシダーゼのセットは2つ以上のエキソグリコシダーゼを含み、
これらのエキソグリコシダーゼの各々は、グリカンの非還元末端から異なる末端炭水化物を切断するために特異的な異なるエキソグリコシダーゼ活性を有し、
これらのエキソグリコシダーゼの各々は、マトリックス支持体上にエキソグリコシダーゼを固定化するためのペプチドタグを含み、
ペプチドタグは、エキソグリコシダーゼ活性に影響を及ぼさないエキソグリコシダーゼ配列の位置に存在する。
【0086】
特定の実施形態では、本発明者らは、糖タンパク質のN-グリカン配列決定を迅速に行うために、ペプチドタグ化、非常に好ましくはHisタグ化または6HISタグ化エキソグリコシダーゼ酵素、例えばノイラミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびヘキソサミニダーゼの産生および適用を実証する。酵素は、水相および例えば自動化溶液のための固定化形態での高性能消化が可能である。
【0087】
β-グルコシダーゼ[Zhou Y et al: Synchronized purification and immobilization of His-tagged beta-glucosidase via Fe3O4/PMG core/shell magnetic nanoparticles. Sei Rep 7, 41741 (2017)]、βガラクトシダーゼ-1[R&D Systems:組換えヒトβ-ガラクトシダーゼ-1、Hisタグ化(cat.&6464-GH)]またはヘキソサミニダーゼ[R&D Systems:組換えヒトヘキソサミニダーゼA/HEXA、Hisタグ化(cat.#6237-GH)]の場合であっても、Hisタグ化は一般に当技術分野で公知である。
【0088】
さらに好ましい実施形態では、酵素を予備混合してエキソグリコシダーゼのサブセットを形成し、それによって消化すると、複数のエキソグリコシダーゼの活性の結果としての反応混合物が得られ得る。
【0089】
非常に好ましい実施形態では、キャピラリー電気泳動分析中のシグナル強度に対する負の塩効果を低減するために、適用した全ての酵素混合物を一緒に共透析した。一実施形態では、共透析を全く同じ濃度まで行った。
【0090】
さらに好ましい実施形態では、サブセットとしての混合物は、グリカン消化(末端炭水化物切断)の同時反応に使用される。
【0091】
固定化は酵素の触媒活性に影響を及ぼすため、最も効率的な酵素反応を達成するために適切な固定化技術を選択することが特に重要である。本発明において、エキソグリコシダーゼの固定化にはペプチドタグが使用される。ペプチドタグは、分子の任意の部分に対して遺伝子操作することができ、したがって、任意のエキソグリコシダーゼにおいて普遍的に適用可能である。これは、同様に、すなわち同じ方法で取り扱われるべきエキソグリコシダーゼの現在のセットにおいて重要である。各組換えエキソグリコシダーゼは、酵素活性を妨害しない部位にペプチドタグを導入するためにある程度設計されなければならない。
【0092】
好ましい実施形態では、マトリックス(またはマトリックス支持体およびその上に固定化された金属イオン)を含む金属含有樹脂に結合することができるタグが使用され、固定化は、特にキレートリガンドの使用を含む。
【0093】
金属含有樹脂に固定化された金属イオンは、例えば、Cu2+,Ni2+,Zn2+およびCo2+からなる群から選択される遷移金属、好ましくはNi2+である。例えば、HISタグは、これらの金属イオンとの親和性が高く、これらの樹脂と強く結合する。
【0094】
ペプチドタグがタンパク質の精製にも有用であることは、ペプチドタグの利点である。それにより、本発明のエキソグリコシダーゼセットの調製方法は、同じタグを単離(または精製)および固定化に適用することができるので、単純かつ簡単である。
【0095】
例えば細胞溶解物、例えば細菌溶解物から目的のタンパク質を単離する間、例えばHisタグの場合、溶解物中のほとんどの他のタンパク質は樹脂に結合しないか、または弱くしか結合しない。一例では、低濃度のイミダゾールを結合緩衝液および洗浄緩衝液の両方に添加して、他のタンパク質の弱い結合を妨害し、弱く結合する任意のタンパク質を溶出させる。次いで、タグ化された、例えばHisタグ化タンパク質を、例えばHisタグイミダゾールの場合、タグ-マトリックス結合を破壊するより高濃度の薬剤で溶出することができる。
【0096】
同じ方法をマトリックス支持体の再生に使用することができる。タグ化タンパク質は、マトリックス支持体に固定化されて樹脂を形成し、樹脂は複数回の切断反応に使用することができ、安定である。しかしながら、それらは、タグ化エキソグリカナーゼの新鮮な調製物を除去および再添加することによって再生することができ、それによって樹脂が再生する。
【0097】
マトリックス支持体は、任意の適切なマトリックス、例えば、限定されないが、アガロース、例えば、4%アガロースまたは6%高架橋アガロースから作製され得る。
【0098】
例示的なさらなるマトリックスに関して、そのような支持体には、金属酸化物などの無機材料、鉱物、炭素材料、セルロースなどの有機材料バイオポリマー、キトサン、アガロース、およびインプリントのない合成ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
特定の実施形態では、wi、例えばニトリロ三酢酸(NTA)またはイミノ二酢酸(IDA)。
【0100】
これらの3つの変数(マトリックス、リガンド、およびイオン)の組み合わせは、樹脂の集合体を提供する。
【0101】
他のタグも適用可能であり、例えば、後に化学修飾される人工タグである。そのようなタグは、例えば、アルデヒド化タグである。例えば、ホルミルグリシン生成酵素(FGE)は、システインを逆(conversed)6アミノ酸配列CXPXRからアルデヒド基(「アルデヒドタグ」とも呼ばれる)を有するホルミルグリシンに変換することができる。[Wang F, Li R, Jian H, Huang Z, Wang Y, Guo Z, Gao R. Design and Construction of an Effective Expression System with Aldehyde Tag for Site-Specific Enzyme Immobilization. Catalysts. 2020; 10(4):410]。
【0102】
固定化および結合に有用な他の種類のタグは周知であり、定義または で列挙されている。
典型的には一晩37℃のインキュベーションが行われるグリカンのエキソグリコシダーゼ消化に列挙されている。本発明では、CEによる高速で頑強なエキソグリコシダーゼ逐次法が開発された。この方法の好ましい実施形態は、アミノピレントリスルホネート(APTS)標識N-グリカンの蛍光検出によって達成された。エキソグリコシダーゼ酵素消化は、緩衝液のpHを調節し、温度勾配を適用し、酵素を固定化することによって迅速に行われた。
【0103】
特定の実施形態では、酵素のセットまたはサブセット中のエキソグリカナーゼ酵素は、活性を調整し、理想的には各エキソグリコシダーゼの消化反応において末端糖部分の完全な切断に到達するために、異なる基質(炭水化物結合)特異性を有する個々のエキソグリカナーゼのレベル(量または濃度)を調節することによって一緒に使用される。
【0104】
ペプチドタグを、エキソグリコシダーゼ活性を妨害(障害)せず、または低下させず、マトリックス支持体への結合も可能にするエキソグリコシダーゼの位置に操作することも重要である。これは任意のエキソグリコシダーゼに対して行うことができ、エキソグリコシダーゼの構造は、触媒部位、およびタグを介してマトリックスに結合するのに適しているように十分に露出した分子の一部を判定するのに十分な程度まで知られている。測定から3D構造が知られていない場合、機能および構造情報を分子の部分に割り当てるための相同性モデルまたは配列分析さえも、この目的に適している可能性がある。
【0105】
この操作方法の有用な部分は、活性に不要なエキソグリコシダーゼの部分を除去すること、すなわち分子を「単純化する」ことである。例として、以下の酵素が本明細書で使用されている。
【0106】
β-ガラクトシダーゼ-本発明者らは、細菌発現系、例えば大腸菌(E.coli)における高レベルの産生を達成するために細菌(ここでは、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae))酵素を使用した。酵素は細胞表面タンパク質であり、細胞外使用に有用である。17個のサブユニットから、最初の5つ(サブユニット1~5)が触媒活性を担うが、これらの5つのサブユニットはクローニングされているだけである。3D、すなわち、β-ガラクトシダーゼ活性を有する部分(137-985アミノサバク)のX線結晶構造(PDB:4cu6)に基づいて、N末端に付加されたペプチドタグ(例えば6His)が固定化に適し、活性中心がエキソグリカナーゼ反応に十分に利用可能であることが見出された。完全な酵素(2233アミノ酸)の構造、起源、機能は、Singh A.Kらによって記載されている[Singh A. K. et al. Unravelling the multiple functions of the architecturally intricate Streptococcus pneumoniae beta-galactosidase, BgaA PLoS Pathog. 10:e1004364-e1004364(2014)]。
【0107】
ノイラミニダーゼおよびヘキソサミニダーゼの設計-これらの酵素の配列も公開されている。本手法では、搬出シグナル、およびタンパク質を細胞壁に固定するペプチドを構築物から除外した。
【0108】
設計の開始として本明細書で使用される(細菌)ノイラミニダーゼのポリペプチド鎖および構造は、Christensen SおよびEgebjerg Jによって開示されている[Christensen S and Egebjerg J. Cloning, expression and characterization of a sialidase gene from Arthrobacter ureafaciens. Biotechnol Appl Biochem. 2005 Jun;41(Pt 3):225-31. doi: 10.1042/BA20040144. PMID: 15461582.]。
【0109】
3D構造については、相同性モデルがSWISS-MODELリポジトリで利用可能である(Q5W7Q2(Q5W7Q2_FLASK)Flavobacterium sp(strain K172),https://swissmodel.expasy.org/repository/uniprot/Q5W7Q2?template=2bf6.1.A&range=69-422)。
【0110】
相同性モデル3D構造に基づいて、酵素の触媒ドメインを酵素のN末端に見出すことができるが、C末端ドメインも活性に役割を果たす。
【0111】
[Iwamori M et al. Involvement of the C-terminal tail of Arthrobacter ureafaciens sialidase isoenzyme M in cleavage of the internal sialic acid of ganglioside GM1. J Biochem. 2005 Sep;138(3):327-34. doi: 10.1093/jb/mvi126. PMID: 16169883.]。6Hisタグ(およびTEV-プロテアーゼ切断部位)は、酵素の活性中心が固定化後の基質に利用可能であり得るように、分子のC末端付近に位置するように操作されている。驚くべきことに、構築物は活性タンパク質をもたらした。
【0112】
ヘキソサミニダーゼ-ヘキソサミニダーゼの場合、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来の酵素の触媒ドメインの結晶構造は利用可能であったが、分子全体については利用可能ではなかった。構造情報は利用可能である[Pluvinage B, et al. Conformational analysis of StrH, the surface-attached exo-β-D-N-acetylglucosaminidase from Streptococcus pneumoniae. J Mol Biol. 2013 Jan 23;425(2):334-49. doi: 10.1016/j.jmb.2012.11.005. Epub 2012 Nov 12. PMID: 23154168.]。スペーサーとして本発明者らによって再設計された酵素において、G5ドメインは、固定化後の基質に対する触媒ドメインのより良好な利用可能性を提供するために維持された。6HisタグおよびTEV酵素切断部位を分子のC末端部分に設計した。
【0113】
エキソグリコシダーゼの具体的かつ特定の設計は当技術分野に基づいて事前に明らかではないかもしれないが、当業者は、ペプチドタグが十分に露出され、触媒ドメインから十分に遠くに位置するのに適した部位が酵素中に存在するので、任意のエキソグリコシダーゼについていくつかの解決策が達成され得ることを理解するであろう。
【0114】
結果と考察
遺伝子設計および構築
本発明において、エキソグリコシダーゼ遺伝子は、固定化のためのペプチドタグを含むように調整されている。
【0115】
ノイラミニダーゼ(EC 3.2.1.18)、ヘキソサミニダーゼ(EC 3.2.1.52)およびβ-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.23)エキソグリコシダーゼの遺伝子は、発現したタンパク質が上記の原理に沿ってそれらのHISタグによって固定化されることを可能にするように設計された。活性中心の局在化を考慮して、6HISタグ、続いてTEVプロテアーゼ切断部位を、ノイラミニダーゼおよびヘキソサミニダーゼタンパク質の酵素的に機能的な部分のC末端に融合した。タンパク質発現のために、遺伝子をNdeI部位とXhoI部位との間の操作されたpET23bプラスミドに組み込んで、それぞれpET23b-NdeI-ノイラミニダーゼ-TEV-6HIS-XhoIおよびNdeI-ヘキソサミニダーゼ-SacI-TEV-6HIS-XhoI構築物を得た(図1)。発現させるタンパク質を本明細書では「NANase」および「HEXase」と呼ぶ。β-ガラクトシダーゼの場合、類似の構造的考察により、「GALase」の発現のために操作されたpET17bベースのプラスミド[PNGaseF cikk hiv]を使用して、N末端6HIS-TEVタグをその機能部分に融合した。
【0116】
大腸菌(E.coli)BL21株におけるタンパク質発現
NANaseの6つのシステインは、酸化による適切な折り畳みで3つのジスルフィド架橋を形成し、これは細菌細胞質ゾルの還元環境では支持されない。SHuffle T7 Expressなどの操作された大腸菌(E.coli)細胞は、適切なジスルフィド架橋形成を支持し、可溶性および触媒活性酵素をもたらし得る。正しい形態でNANaseを発現させようとする本発明者らの試みは非常に成功し、培養物1リットル当たり約40mgの純粋なタンパク質をもたらした。HEXaseは、単一のCysのみを含有する。SHuffle T7 Expressは、分子間S-S結合の形成を防止することによってタンパク質の正しい折り畳みを支援し、可溶性で触媒活性な酵素をもたらし得る。適切に折り畳まれた形態のHEXaseについては、培養物1リットル当たり35mgの純粋なタンパク質が達成された。SHuffleは通常、かなり少ない量の細胞塊を産生するので、誘導培養物をより高い遠心力(1万g)で回収した。GALaseはシステインを含まないため、4つの異なるBL21(DE3)株で酵素の発現を試みたところ、BL21(DE3)Codon+RILが最も有効であることがわかった。
【0117】
組換えNANase、HEXaseおよびGALaseの精製は、試料調製工程の後、HiTrap Chelating Ni-affinityカラムで行い、溶出は、緩衝イミダゾール溶液によって行った。
【0118】
溶出画分中のタンパク質の純度をSDS-PAGEによって評価し、タンパク質濃度を計算した。
【0119】
長期保存および一晩の参照分離
完全なAPTS標識グリカン消化のための各酵素の最適濃度を、変性したタンパク質試料を緩衝することなく1つずつ水相での予備実験によって決定した。N-グリカン配列決定のためのエキソグリコシダーゼ酵素消化の場合、損なわれないピーク同定のために完全な消化のみが許容されることに留意することが重要である。最適濃度は各酵素について0.15μMとなったので、これを予め混合し、20mMのTris-HCl、50mMのNaCl、pH=7.5の緩衝液中で共透析して、20倍の酵素濃度を有する同量の塩を含有させた。次いで、混合物をグリセロールで1:1に希釈し、使用時に-20℃で保存した。この手法の結果、1)希釈後にすぐに使用できる酵素の長期保存、2)CE分析用の注入中に無視できるほどの塩効果、および3)使用前の混合物の10倍希釈はその阻害効果を無視できるレベルまで低下させるのに十分であるので、保存混合物中のグリセロールの存在下でさえ高性能な酵素反応をもたらした。
【0120】
次のような溶液の3つの異なる組成物を調製した。A)NANaseのみ(0.3mg/mL)-混合物1;B)NANase(0.3mg/mL)およびGALase(0.3mg/mL)-混合物2;ならびにC)NANase(0.3mg/mL)およびGALase(0.3mg/mL)およびHEXase(0.42mg/ml)-混合物3。HEXaseの濃度は、他の2つの酵素よりもやや高かった。
【0121】
生成した共透析酵素混合物(10倍希釈後の50%グリセロール中)の効率を、個別に使用した混合物およびグリセロールを含まない酵素と、全く同じ酵素濃度を使用して37℃で一晩比較した(図2)。パネルAは、酵素を個別に試料に適用する37℃の一晩消化を用いた例示的なhIgG1糖タンパク質試料のN-グリカン配列決定を示し、パネルBは、予め混合し、共透析した酵素を適用した実験を示す。
【0122】
図2および表1に示す結果は、標準手法と共透析(1:1グリセロールで保存)手法との間で面積%に有意差がないことを示している。したがって、確立された貯蔵および予備混合方法は、さらなる使用および検査に使用することができる。
【0123】
【表1】
【0124】
高速水相および固定化エキソグリコシダーゼ消化
3つの6HISタグ化酵素混合物を使用する全ての酵素反応は、温度勾配法を使用して行った。
【0125】
また、並行して作用する酵素の全体的な反応速度を最大にするために、試料を10mM酢酸アンモニウムを用いてpH=4.5で緩衝した。6HISタグ化酵素の特性のために、温度勾配工程をさらに最適化し、30分に削減し、1)37℃で5.0分間、2)50℃まで3.0分間加熱、3)50℃で12分間、4)60℃まで3.0分間加熱、および5)60℃で7.0分間加熱して、優れた時間枠で完全なN-グリカン配列決定を得た。
【0126】
次いで、Ni-IMAC樹脂上の固定化酵素を使用して同じパラメータで実験を繰り返した。実施例では、この目的のためにPhyNexusマイクロカラムを使用した。分析には、1mlのピペットチップ容量を有する40μLのベッドボリュームで十分であった。この方法では、反応効率を改善する双方向フローを適用することができる。
【0127】
ピペット操作およびそれによる方法は、コントローラソフトウェアを用いて自動化することができる。
【0128】
個別に使用された固定化酵素は、温度勾配法を使用して30分で完全な消化をもたらしたが、HEXase酵素は、それが固定化され、GALaseおよびNANase酵素と混合した場合に不完全な消化を示した。3つの酵素が利用可能なNiイオンを競合し、HEXaseが遅れていると仮定する。HEXaseの濃度を0.6μM(4倍)に上昇させることにより、固定化酵素を用いて30分で完全な反応が得られた(図3)。
【0129】
したがって、本発明者らは、配列決定の目的でエキソグリカナーゼを混合して適用する場合、様々なタイプのエキソグリカナーゼの濃度または比の適合を調節して、分析に利用可能な限られた時間枠の間に完全な消化に到達させることができることを見出した。
【0130】
この固定化法は、自動化の可能性、および酵素の固定化が重要である特別な実験ニーズを満たす可能性を開く。
【0131】
mAbおよび生体由来試料を用いた試験方法
ダラツムマブmAbグリカン(パネルA)、ヒト血清グリカン(パネルB)およびシナジスmAbグリカン(パネルC)などの異なる起源からの他の糖タンパク質試料を、水相中および固定化形態で温度勾配法を用いて30分間、予備混合および共透析した酵素を用いて試験した。分離条件は図2と同じであった。全ての場合において、所与の時間枠で完全なエキソグリコシダーゼ消化が得られた(図4)。
【0132】
分離法によるグリカン配列決定
分離法として、反応混合物の分析には、検出としてレーザー誘起蛍光(LIF)を用いたキャピラリーゲル電気泳動(CE)をグリカン配列決定に用いた。
【0133】
CE-LIFは周知の技術であり、その変形を適用することは当業者の技能の範囲内である。このような方法の変形は、例えば概説に記載されている。[Lu, C.L. et al. Capillary Electrophoresis Separations of Glycans, Chem Rev 118(17) (2018) 7867-7885;]
【0134】
当業者は、この方法が、速度、信頼性および少量の試料のために非常に好ましいことを理解するであろう。現在、生物学的試料中のグリカンの構造および結合組成を同定するためにいくつかの分析法が適用されており、とりわけ、液体クロマトグラフィー(HPLC)またはキャピラリー電気泳動(CE)分離w/o質量分析(MS)分析[Qin, W. et al. Alteration of Serum IgG Galactosylation as a Potential Biomarker for Diagnosis of Neuroblastoma, J Cancer 9(5) (2018) 906-913.; Ashline, D.J. et al. Carbohydrate structural isomers analyzed by sequential mass spectrometry, Anal Chem 79(10) (2007) 3830-42.; Reinhold, V.N. et al. Structural characterization of carbohydrate sequence, linkage, and branching in a quadrupole Ion trap mass spectrometer: neutral oligosaccharides and N-linked glycans, Anal Chem 70(14) (1998) 3053-9.]とそれに続くグルコースユニット(GU)計算[Mittermayr, S. and Guttman, A. Influence of molecular configuration and conformation on the electromigration of oligosaccharides in narrow bore capillaries, Electrophoresis 33(6) (2012) 1000-7.; Jarvas, G. et al. Structural identification of N-linked carbohydrates using the GUcal application: A tutorial, J Proteomics 171 (2018) 107-115. and Jarvas, G. et al. Triple-Internal Standard Based Glycan Structural Assignment Method for Capillary Electrophoresis Analysis of Carbohydrates, Analytical Chemistry 88(23) (2016) 11364-11367.]が選択できる。
【0135】

材料および方法
化学物質および試薬
水(HPLCグレード)、アセトニトリル、ジチオスレイトール(DTT)、酢酸アンモニウム、酢酸、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(THF中1 M)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリシン、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)、過硫酸アンモニウム(APS)およびNonidet P-40(NP-40)は、Sigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)、N結合型炭水化物分離緩衝液(NCHO)およびFast GlycanキットのM1磁気ビーズは、Sciex(米国カリフォルニア州ブレア)から入手した。hIgG1糖タンパク質は、Molecular Innovations(米国ミシガン州Peary)から入手した。ダラツムマブ(ダラザレックス)およびパリビズマブ(シナジス)の糖タンパク質およびヒト血清は、University of Debrecen(デブレセン、ハンガリー)の厚意により提供された。PNGase F酵素は自社で製造したが、ThermoFisher ScientificまたはGibcoからも入手可能である。トリス-HCLおよびNaClはVWR(米国ペンシルベニア州ラドナー)から入手した。NaHPOは、Spektrum 3D(デブレセン、ハンガリー)から入手した。グリセロール、クマシーブリラントブルーR250およびイミダゾールは、メルク(ダルムシュタット、ドイツ)によって製造された。40%(37.5:1)アクリルアミドおよびビスアクリルアミド溶液は、Bio-Rad Laboratories(米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)からのものであり、ホウ酸はScharlab(デブレセン、ハンガリー)からのものであった。アガロースは、Nippon Genetics Europe(Duren、ドイツ)から入手した。
【0136】
エキソグリコシダーゼ酵素生成
微生物、ベクター、培地および酵素
発現ベクターpET23bおよびpET17bは、Novagen(米国ウィスコンシン州マディソン)から購入した。クローニング大腸菌(E.coli)TOP10株はInvitrogen(米国カリフォルニア州カールスバッド)製であった。制限エンドヌクレアーゼAgeI HF、SacI HF、NdeIおよびXhoI、ならびに発現宿主SHuffle(登録商標)T7 Express Competent大腸菌(E.coli)は、New England Biolabs(米国マサチューセッツ州イプスウィッチ)から購入した。BL21-CodonPlus(DE3)-RIL大腸菌(E.coli)細胞は、Agilent Technologies(米国カリフォルニア州サンタクララ)から入手した。T4 DNAリガーゼは、Thermo Scientific(米国マサチューセッツ州ウォルサム)製であった。細胞をLBブロス培地およびLB寒天(Scharlau、スペイン、バルセロナ)中で培養した。アンピシリン(Amp)およびクロラムフェニコール(Chl)は、Sigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。100g/LのAmpおよび30g/LのChlストック溶液を調製し、培養培地中1,000倍希釈で使用した。ノイラミニダーゼ(またはシアリダーゼ)およびヘキソサミニダーゼの機能部分のコードDNA配列は、Biomatik(カナダ、オンタリオ州ケンブリッジ)によって合成され、pUC57プラスミドで提供された。β-ガラクトシダーゼの機能部分のコード配列はTwist Bioscience(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)で合成され、pTwistプラスミドで提供された。DNA配列決定は、Macrogen Europe(オランダ、アムステルダム)によって行われた。
【0137】
異なるエキソグリコシダーゼ発現プラスミドの構築
ノイラミニダーゼ(EC 3.2.1.18)、ヘキソサミニダーゼ(EC 3.2.1.52)およびβ-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.23)エキソグリコシダーゼの遺伝子は、発現したタンパク質がそれらのHISタグによって固定化されることを可能にするように設計された。活性中心の局在化を考慮して、6HISタグ、続いてTEVプロテアーゼ切断部位を、ノイラミニダーゼおよびヘキソサミニダーゼタンパク質の酵素的に機能的な部分のC末端に融合した。
【0138】
ペナルスロバクター・ウレアファシエンス(Paenarthrobacter ureafaciens)由来のsia-AU遺伝子由来のノイラミニダーゼ(またはシアリダーゼ、その放出シグナルペプチドを含まない天然タンパク質)の39-990ポリペプチドセグメントのコード配列(UniProt ID:Q5W7Q2)およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)血清型4由来のstrH遺伝子由来のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの34-1,280ポリペプチドセグメントのコード配列(その放出シグナルペプチド、ソルターゼのLPXTG認識シグナルおよびC末端ペプチドグリカンを含まない天然タンパク質の配列)(UniProt ID:P49610)を、大腸菌(E.coli)に対してコドン最適化し、それらの3’末端にSacIヌクレアーゼおよびTEVプロテアーゼ切断部位コード配列を用いて拡大した。合成した遺伝子を、そのEcoRV部位の間のpUC57に提供した。これらのプラスミドおよびpET23b発現ベクターをNdeIおよびXhoI制限酵素によって消化し、アガロースゲルから精製し、C末端6HISタグコード配列を設計された遺伝子に融合してT4リガーゼによって連結した。TOP10大腸菌(E.coli)細胞をライゲーション混合物によって形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含有するLB寒天プレート上に広げた。選択されたコロニーからのプラスミドDNAをMonarch Plasmid Miniprepキット(New England Biolabs)によって精製し、制限消化および配列決定によって分析した。
【0139】
ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumonia)血清型4(UniProt ID:Q8DQP4)由来のbgaA遺伝子由来のβ-ガラクトシダーゼ(天然酵素の触媒ドメイン)の137-985ポリペプチドセグメントのコード配列を、大腸菌(E.coli)に対して最初にコドン最適化した。合成した遺伝子をpTwistプラスミドで提供し、AgeI HFおよびSacI HF制限酵素によって消化した。pET17bプラスミドを、開始コドンの後、段階的突然変異誘発によるN末端6-HIStidineタグ、TEVプロテアーゼ切断部位、折り畳みエンハンサーであるグリシン-セリン-HIStidine(GSH)トリペプチドおよびAgeI制限ヌクレアーゼ切断部位のコード配列の挿入によって本発明者らの研究室で改変し、N末端ポリペプチドMHHHHHHENLYFQGSHTGは、AgeI切断部位後のβ-ガラクトシダーゼの触媒ドメインに融合された。
【0140】
エキソグリコシダーゼタンパク質の発現
pET23bプラスミドをコードするノイラミニダーゼ-TEV-6HIS(NANase)およびヘキソサミニダーゼ-TEV-6HIS(HEXase)を使用して、製造業者によって推奨される標準プロトコルを適用してSHuffle T7 Competent大腸菌(E.coli)細胞を形質転換した。タンパク質発現を以下のように行った:5.0mLのLB/Amp培地に接種し、30℃、250rpmで一晩成長させた。0.5~0.75LのLB/Ampに1.0%(v/v)の一晩培養物を補充し、OD600が0.6~0.8に達するまで30℃で増殖させた。細胞培養物を0.4mMのIPTGによって誘導し、さらに16℃で16時間インキュベートした。細胞を、Heraus Biofuge primo R遠心分離装置で1万g、6.0℃で30分間の遠心分離によって回収し、続いて-20℃、次いで-80℃で凍結した。6HIS-TEV-GSH-ガラクトシダーゼ(GALase)をコードするpET17bプラスミドを使用して、BL21-CodonPlus(DE3)-RIL大腸菌(E.coli)コンピテント細菌を形質転換した。細胞を5.0mlのLB/Amp,Chl培地中、37℃、250rpmで一晩増殖させた。0.25LのLB/Amp,Chlに0.5%(v/v)の一晩培養物を接種し、37℃、250rpmで増殖させた。培養物のOD600が0.6~0.8に達したら、それを0.5mMのIPTGで誘導し、さらに30℃で16時間インキュベートした。Heraus Multifuge 3S-R遠心分離機で4,370g、6.0℃で30分間の遠心分離によって細胞を回収し、-20℃、次いで-80℃で凍結した。
【0141】
組換えエキソグリコシダーゼの精製
0.5LのSHuffle/ノイラミニダーゼ-TEV-6HISおよび0.75LのSHuffle/HEXase産生細胞培養物からの細胞ペレットを解凍し、それぞれ、Completeプロテアーゼ阻害剤を補充した10mLおよび15mLの氷冷緩衝液「A」(20mMのNaHPO、500mMのNaCl、25mMイミダゾール、pH=7.5)に懸濁し、氷上で一時間インキュベートした。2.0%(w/v)ガラスビーズ(直径0.5mm、Sigma-Aldrich)を添加した後、10W出力で30秒または45秒の10回の超音波処理(Cole-Parmer、米国イリノイ州バーノンヒルズ)によって細胞を破壊した。残りの細胞残屑を、MLA-80固定角ローターを使用したBeckman Coulter Optima(商標)Max-XP超遠心分離装置において111,000gでの超遠心分離によって10℃で30分間沈降させた。上清を直径0.45μmのシリンジフィルターで濾過し、予備平衡化した5mLのHiTrap Chelating Ni-affinityカラム(GEヘルスケア、米国イリノイ州シカゴ)に直接アプライした。NANaseは、50%B(緩衝液B:20mMのNaHPO、500mMのNaCl、500mMイミダゾール、pH=7.5)緩衝液で溶出し、これは約260mMイミダゾールに相当し、一方HEXaseは25%Bで単一ピークで溶出した(約140mMイミダゾール)。
【0142】
BL21-CodonPlus(DE3)-RIL/GALaseを産生する0.25L細胞培養物からの細胞ペレットを解凍し、Completeプロテアーゼ阻害剤を添加した10mL緩衝液「A」に懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。2%(w/v)ガラスビーズを添加し、10W出力で30秒~45秒の10回の超音波処理によって細胞を破壊した。残りの細胞残屑を、Beckman Coulter Optima(商標)Max-XP超遠心分離器において111,000gでの超遠心分離によって10℃で30分間沈降させた。上清を直径0.45μmのシリンジフィルターで濾過し、予備平衡化した5.0mLのHiTrap Chelating Ni-affinityカラム(GEヘルスケア、米国イリノイ州シカゴ)に直接アプライした。純粋なタンパク質の主な割合は、20%B緩衝液に相当する125mM緩衝イミダゾールで溶出した。
【0143】
溶出画分中のタンパク質の純度を8~10%SDS PAGEでチェックし、タンパク質濃度を、UV-Vis分光光度計(Jasco V-630、日本、東京)で280nmで測定された吸光度から、以下のパラメータを使用して計算した:NANaseについては分子量MW=102.14kDaおよびモル吸光係数ε=114,515 M-1cm-1、HEXaseについてはMW=139.65kDaおよびε=154,940 M-1cm-1、GALaseについてはMW=98.37kDa、ε=175,560 M-1cm-1
【0144】
N-グリカン試料調製
N-グリカン試料調製は、10μLの10mg/mL糖タンパク質溶液(hIgG1、ダラツムマブ、シナジス)を使用して、またはReiderら[B. Reider, M. Szigeti, A. Guttman, Evaporative fluorophore labeling of carbohydrates via reductive amination, Talanta 185 (2018) 365-369.]に基づいて10μLのヒト血清を50倍希釈で適用して行った。手短に言えば、糖タンパク質試料を、2.0μLの変性混合物(12.5mMのDTT、0.6%SDSおよび0.06%NP40)を使用して80℃で10分間変性させた。
【0145】
インキュベーション工程後、試料を20μLの20mM AmAc中、1.0μLのPNGase F(0.1mg/mL)で37℃にて2.0時間消化させた。消化工程後、20μLの標識溶液を添加し(1 M THF中に6mMのAPTS、100mMのシアノ水素化ホウ素ナトリウムおよび24%の酢酸を含有する)、37℃で一晩標識し、蓋を開けた。次に、20μLの10倍濃縮M1ビーズ(Sciex)および185μLのアセトニトリルを交互に合計4回の洗浄サイクルで使用して過剰な色素を除去した。次いで、100μLのHPLCグレードの水を用いてAPTS標識試料を溶出した。
【0146】
酵素の予備混合および共透析
まず、脱グリコシル化反応に必要な濃度よりも20倍高い濃度の酵素を含有する混合物中で酵素溶液を調製した(37℃で1.0時間の完全酵素反応の最適酵素濃度を目標とする予備実験に基づく)。次のような溶液の3つの異なる組成物を調製した。A)NANaseのみ(0.3mg/mL)-混合物1;B)NANase(0.3mg/mL)およびGALase(0.3mg/mL)-混合物2;ならびにC)NANase(0.3mg/mL)およびGALase(0.3mg/mL)およびHEXase(0.42mg/ml)-混合物3。エキソグリコシダーゼ溶液を20mMのTris-HCl、50mMのNaCl、pH=7.5の緩衝液中、4.0℃で一晩、一緒に透析した。透析後、-20℃での長期保存(2年まで)を容易にするために、グリセロールを最終濃度50%でタンパク質溶液に添加した。
【0147】
酵素固定化およびエキソグリコシダーゼ消化
固定化6HISタグ化エキソグリコシダーゼ酵素を使用する全てのN-グリカン配列決定のために、PhyNexus(米国カリフォルニア州サンノゼ)製の1mLサイズNi-IMACピペットチップを40μLのベッドボリュームで使用した。ピペット操作は、コントローラソフトウェア(Capture-Purify-Enrich、バージョン2.2.3、PhyNexus)を備えた1000個を超えるピペットヘッドを使用して自動的に行った。チップ(3つの酵素混合物のそれぞれについて3つのチップ)は、使用する前に、それぞれ1.4mL/分の吸引および2.8mL/分の分注速度(総体積700μL)を用いて2.0分間、1.0mLの20mM酢酸アンモニウム溶液(pH=7.0)で洗浄した。次いで、各酵素混合物から10μLの溶液を90μLのHPLCグレードの水(10倍希釈)に添加し、0.6mL/分の吸引および1.2mL/分の分注速度を用いて20分間、前洗浄したチップに固定化した(酵素と樹脂の広範な接触を確実にするために300μLのピペッティング体積)。最後に、ピペットチップを、チップ洗浄と同じ条件を用いて1.0mLの新鮮な酢酸アンモニウムで再度洗浄した。より長い保存が必要な場合には、調製したチップを、HPLCグレードの水中50%グリセロールを使用して、2~8℃で最大1ヶ月(試験期間)保存した。チップの調製中、N-グリカン試料調製物からの100μLの試料を20μLの部分に分割し、10mM酢酸アンモニウム(pH=4.5)で100μLに希釈した。次いで、調製した3つのチップを、温度勾配法を30分間適用して、消化のための固定化と同じ条件を用いて使用した。水相参照消化実験は、同じパラメータを用いて行ったが、その場合、同量の酵素を5.0μL容量で試料に添加した。
【0148】
キャピラリーゲル電気泳動によるグリカン配列決定
全てのキャピラリー電気泳動分離は、Sciex製の488nm励起および520nm発光を有するレーザー誘起蛍光(LIF)検出システムを備えたPA800プラスキャピラリー電気泳動システムで実施した。全ての分離について、NCHOゲルを分離媒体として使用し、内径50μm、全長50cm(有効長40cm)のベアフューズドシリカキャピラリーを使用した。試料の注入は、全ての測定の場合に5.0psiの圧力を5.0秒間加えることによって行った。キャピラリーおよび試料保管庫の温度はいずれも20℃であった。分離時の印加電界強度は逆極性(キャピラリー入口端のアノード)で600V/cm(30kV)であった。
【0149】
産業用途
糖タンパク質のN結合型炭水化物の包括的な分析は、生物医薬分野および生物医学分野の両方において近年高い関心を集めている。グリカン配列決定は、今日では非常に重要性が増しており、生物学的および医学的研究ならびに診断のいくつかの分野で応用されている。
【0150】
炭水化物配列決定は、十分に確立された方法であるが、依然としてほとんどが面倒な手動プロセスによって実施される。本発明は、高度な分析方法の特徴のいくつか、特にキャピラリー電気泳動(CE)装置の利用と併せて、適切なエキソグリコシダーゼ酵素を使用して、このプロセスおよびその適応を自動化炭水化物配列決定法に合理化するのに有用である。さらに、特にサブセットにおけるエキソグリコシダーゼ酵素の固定化は、プロセスを迅速化および単純化するという利点を有し、生成物を実験室でより容易に使用することができる。
【0151】
炭水化物配列決定は、とりわけ、個別化診断を含む研究、診断[Hennig, R. et al. Towards personalized diagnostics via longitudinal study of the human plasma N-glycome, Biochim Biophys Acta 1860(8) (2016) 1728-38.]、ならびに分析およびモニタリングなどのための生物学的薬物生産において応用が見出されている。
参考文献


図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
【国際調査報告】