(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】プレコート鋼板のためのホットスタンピング成形方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20241016BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241016BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20241016BHJP
C22C 38/32 20060101ALI20241016BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C22C38/00 301T
C21D1/18 C
C22C38/32
C23C2/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523689
(86)(22)【出願日】2022-10-11
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 CN2022124636
(87)【国際公開番号】W WO2023066087
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202111226071.X
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505134165
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ホンコン
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF HONG KONG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】黄 明欣
(72)【発明者】
【氏名】王 舟
【テーマコード(参考)】
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB48
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA03
4K042CA01
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4K042CA06
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4K042DA01
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
4K042DD06
4K042DE02
4K042DE05
(57)【要約】
本発明はホットスタンピング成形の前にプレコート鋼板を予備熱処理することを含むプレコート鋼板のためのホットスタンピング成形方法を提供し、該予備熱処理は(1)プレコート鋼板を850~920℃に加熱して7~15分間保温するか、又は920~960℃に加熱して5~10分間保温する加熱保温、(2)前記加熱保温工程の後に、5℃/s以上の冷却速度で、前記プレコート鋼板を300℃以下に冷却する冷却、および(3)上記の加熱保温及び冷却工程を任意に1回以上繰り返すことを含む。前記予備熱処理は、プレコート層の合金化の程度を高め、鋼板基材中の炭化物組織を減らし、マルテンサイト及び/又はベイナイトの基材組織を得ることができ、それによって高温スタンピング変形時に、プレコート層のスタンピング金型に対する損耗を低減し、かつ結晶粒を微細化し、最終的なホットスタンピング成形部材の破断性能を高めることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート鋼板をホットスタンピング温度で金型を用いてホットスタンピング成形し、ホットスタンピング成形部材を得ることを含むホットスタンピング成形方法であって、
ホットスタンピング成形の前にプレコート鋼板を予備熱処理することをさらに含み、前記予備熱処理は
(1)プレコート鋼板基材がオーステナイト化し、プレコート層が合金化するように、前記プレコート鋼板を850~920℃に加熱して7~15分間保温するか、又は920~960℃に加熱して5~10分間保温する加熱保温、
(2)前記加熱保温工程の完了後に、5℃/s以上の冷却速度で、前記プレコート鋼板を300℃以下に冷却する冷却、および
(3)上記の加熱保温及び冷却工程を任意に1回以上繰り返すことを含むことを特徴とする、プレコート鋼板のためのホットスタンピング成形方法。
【請求項2】
前記プレコート鋼板基材は、鉄元素の他に、重量%で、炭素0.2~0.4%、マンガン0.5~1.5%、ホウ素0~0.005%、アルミニウム、ケイ素、クロム、モリブデン、ニオブ、バナジウムから選択される1種以上の合金元素1%以下、及びその他不可避な不純物元素をさらに含むか、又は
前記プレコート鋼板基材は、重量%で、炭素0.3~0.5%、マンガン0.5~2.5%、ホウ素0~0.005%、アルミニウム、ケイ素、クロム、モリブデン、ニオブ、バナジウムから選択される1種以上の合金元素3%以下、及びその他不可避な不純物元素をさらに含み、
好ましくは、前記プレコート鋼板基材の厚さは、0.8~2.5mmである、請求項1に記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項3】
前記プレコート層は、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、好ましくはアルミニウム合金であり、より好ましくはAl-Si合金であり、好ましくは、前記プレコート層の厚さは6~36μmであり、より好ましくは15~27μmである、請求項1に記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項4】
前記プレコート層の厚みが20μm未満の場合、前記加熱保温工程は850~920℃、7~15分間であり、前記プレコート層の厚みが20μm以上の場合、前記加熱保温工程は920~960℃、5~10分間である、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項5】
前記冷却速度が10℃/s以上であり、より好ましくは、前記冷却速度は25℃/s以上であり、最も好ましくは、前記冷却速度は25℃/s~50℃/sであり、
好ましくは、工程(2)の冷却過程中にスタンピング金型によりプレコート鋼板を変形させる、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項6】
前記予備熱処理後のプレコート鋼板基材のミクロ組織は、
(a)マルテンサイトもしくはベイナイトまたは両者の和の体積分率が30%以上であり、
(b)粒子径が0.5μmを超える球状炭化物粒子が存在せず、粒子径が1μmを超えるシート状パーライト領域が存在しないことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項7】
前記予備熱処理後のプレコート層のミクロ組織は、すべての金属間化合物中に占めるFeAl相の体積分率が60%以上である1種以上の金属間化合物、及びフェライトからなる、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項8】
前記方法は、前記予備熱処理の後に、プレコート鋼板基材を完全にオーステナイト化するように前記プレコート鋼板を780~940℃に再加熱して1~7分間保温し、そして、500℃以上の温度を保持して前記プレコート鋼板を金型に移してホットスタンピング成形することをさらに含み、
好ましくは、前記方法は、前記予備熱処理の後に、プレコート鋼板基材を完全にオーステナイト化するように前記プレコート鋼板を830~900℃に再加熱して1~4分間保温し、そして、600℃以上の温度を保持して前記プレコート鋼板を金型に移してホットスタンピング成形することをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項9】
ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材ミクロ組織がフルマルテンサイト組織であり、あるいは、
ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材ミクロ組織が、フェライト組織、ベイナイト組織、マルテンサイト組織、オーステナイト組織のうちの2相以上からなる混合組織である、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【請求項10】
ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材ミクロ組織の旧オーステナイト結晶粒サイズが18μmを超えなく、好ましくは、10μmを超えない、請求項1から3のいずれかに記載のホットスタンピング成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年10月21日に提出される第20211226071.X号中国特許出願の優先権を主張し、ここでは、本願の一部として上記中国特許出願が開示した内容を全部で援用する。
【0002】
本発明は、プレコート鋼板のためのホットスタンピング(hot stamping)成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
「CO2排出量ピークアウト」と「カーボンニュートラル」の目標が提唱されるにつれ、自動車の省エネルギー・排出削減がすでに急務となっており、自動車の軽量化が省エネルギー・排出削減を徹底する有効な手段となっている。多くの軽量化材料の中で、超高強度鋼はその強度が高く、コストが低く、プロセスが成熟しているなどの利点から、自動車の軽量化を実現すると同時に車両の安全性を保障する理想的な材料である。
【0004】
ホットスタンピング成形とは、高温下でフルオーステナイト化鋼板をスタンピング変形し、同時に急速に冷却し、最終的に超高強度鋼部材を得る成形プロセスをいう。ホットスタンピング成形は成形精度が高く、減量効果が良いなどの利点があり、特に自動車の白車体Aピラー、Bピラー、バックトップクロスビームなどの複雑な一体化薄肉部品の加工成形に適している。
【0005】
実際のホットスタンピング成形の過程では、高温による鋼表面の酸化と脱炭素を避けるために、通常、鋼板表面にプレコート処理が行われる。その中で、最も広く応用されているのはArcelorMittal社が1999年に発明した耐高温Al-Siめっき層特許であり、上記Al-Siめっき層をプレコートした熱成形鋼板は2007年に商業化された。しかし、Al-Siめっき層の発明から20年以上経っても、プレコート層の合金化の程度と鋼板基材の破断性能との矛盾を解決することはできなかった。
【0006】
まず、問題の1つ目は、プレコート層の合金化の程度を高めることである。
【0007】
合金化の程度が不足すると、プレコート鋼板は炉ロール、成形金型などの位置でスケール付着や摩耗などの問題が生じ、実際の生産に非常に不利である。同時に、合金化の程度が不足すると、プレコート層の金属間化合物中の靭性相の割合が低く、脆性相の割合が高く、めっき層のクラックが形成されやすくなり、プレコート鋼板の塗装、耐食性などの性能に影響を与える。
【0008】
プレコート鋼板のホットスタンピング成形の過程では、合金化の程度を保証するためには、通常、比較的高い加熱温度、比較的長い保温時間が必要である。例えば、CN 101583486 B(以下、特許文献1という)は、現在のプレコート鋼の主要な生産プロセスであり、Al-Siめっき層の厚さが20~33μmの場合、オーステナイト化加熱保温プロセスは、鋼板の厚さが0.7~1.5 mmであると、温度と時間は(3分間、930℃)、(6分間、930℃)、(13分間、880℃)、(4.5分間、880℃)からなる四角形内部に限定され、鋼板の厚さが1.5~3 mmであると、温度と時間は(4分間、940℃)、(8分間、940℃)、(13分間、900℃)、(6.5分間、900℃)からなる四角形内部に限定されることを明確にするプレコート鋼のホットスタンピング成形プロセスを開示した。上記の発明特許はホットスタンピング成形後のプレコート鋼部材の塗装、溶接、耐食性などの性能を保証するように、ホットスタンピング成形後のプレコート層ミクロ組織におけるFe2Al5相とFeAl相の割合をさらに規定した。
【0009】
問題の2つ目は、プレコート鋼板基材の破断性能をどのように向上させるかである。
【0010】
破断性能を向上させるためには、通常、オーステナイト結晶粒が高温で過度に成長することを回避するように、低い加熱温度と短い保温時間を採用する必要がある。しかし、上記の要求は、プレコート層の合金化の程度を高める要求と矛盾している。従来の技術は両者の間でバランスをとるしかなく、プレコート層の合金化の程度と鋼板基材の破断性能を同時に向上させることはできなかった。
【0011】
注目すべきは、現在のプレコート鋼のホットスタンピング成形部材がすべての自動車工場の破断性能基準を満たすことができないことである。上記の破断性能には、低温破断、曲げ破断、水素による遅延破断などが含まれる。理想的ではない低温破断、曲げ破断、または水素による遅延破断性能は、自動車の服役中や衝突中に車体部材に局所的な破断失効が発生し、乗客の安全に危害を及ぼす可能性がある。特に、Al-Siめっき層は高温で合金化して脆性金属間化合物、脆性高アルミニウム高シリカフェライト、脆性高炭素マルテンサイトを形成し、これらの脆性組織はホットスタンピング成形鋼部材の破断性能をさらに低下させる。実際の工業生産では、熱成形後に、プレコート鋼板の破断性能はプレコート層のない鋼板より明らかに低かった。
【0012】
また、従来の熱間成形プロセスの保温温度と時間プロセスの窓は狭く、実際の工業生産に対する要求は相対的に高い。
【0013】
例えば、CN 10646697 B(以下、特許文献2という)は900~950℃、2.5~10分間の加熱保温プロセスを明確にし、好ましくは加熱炉温度が935~950℃または945~950℃であり、好ましくは滞留時間は2.5~5分間である、別のAl-Siめっき層プレコート鋼板のホットスタンピング成形プロセスを開示した。特許文献2における加熱保温プロセスは特許文献1よりわずかに高いが、実際の生産において、特許文献2における加熱保温プロセスは鋼板基材オーステナイト結晶粒の過大化を招き、破断性能が理想的ではなく、車体部品への実用化が難しい。
【0014】
以上のように、従来の熱間成形プロセスは同時にプレコート層の合金化の程度と鋼板基材の破断性能を高めることができず、特に、プレコート鋼板の破断性能は自動車工業の破断性能基準を満たすするようにまだ強く向上させる必要がある。また、従来の熱間成形プロセスに加えて、熱間成形プロセスの窓を拡大することも実際の工業生産に有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記技術のボトルネック問題を解決し、ホットスタンピング成形鋼板のプレコート層の合金化の程度を改善するホットスタンピング成形方法、ホットスタンピング成形鋼板の破断性能を改善するホットスタンピング成形方法、またはホットスタンピング成形鋼板のプレコート層の合金化の程度と破断性能を同時に改善するホットスタンピング成形方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、ホットスタンピング成形プロセスの温度と時間プロセスの区間を拡大し、ホットスタンピング成形プロセスの安定性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、ホットスタンピング成形の前に、プレコート鋼板を予備熱処理することにより、上記目的を効果的に達成できることを見出した。この予備熱処理は主に加熱保温工程と冷却工程を含む。
【0017】
その上で、本発明はプレコート鋼板をホットスタンピング温度で金型を用いてホットスタンピング成形し、ホットスタンピング成形部材を得ることを含むホットスタンピング成形方法であって、
ホットスタンピング成形の前にプレコート鋼板を予備熱処理することをさらに含み、前記予備熱処理は
(1)プレコート鋼板基材がオーステナイト化し、プレコート層が合金化するように、前記プレコート鋼板を850~920℃に加熱して7~15分間保温するか、又は920~960℃に加熱して5~10分間保温する加熱保温、
(2)前記加熱保温工程の完了後に、5℃/s以上の冷却速度で、前記プレコート鋼板を300℃以下に冷却する冷却、および
(3)上記の加熱保温及び冷却工程を任意に1回以上繰り返すことを含む、プレコート鋼板のためのホットスタンピング成形方法を提供する。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記プレコート鋼板基材は、鉄元素の他に、重量%で、炭素0.2~0.4%、マンガン0.5~1.5%、ホウ素0~0.005%、アルミニウム、ケイ素、クロム、モリブデン、ニオブ、バナジウムから選択される1種以上の合金元素1%以下、及びその他不可避な不純物元素をさらに含む。
【0019】
本発明の別の実施形態において、前記プレコート鋼板基材は、鉄元素の他に、重量%で、炭素0.3~0.5%、マンガン0.5~2.5%、ホウ素0~0.005%、アルミニウム、ケイ素、クロム、モリブデン、ニオブ、バナジウムから選択される1種以上の合金元素3%以下、及びその他不可避な不純物元素をさらに含む。
【0020】
炭素、マンガン、シリコンの含有量を高めることで鋼板基材の焼入れ硬化性(hardening capacity)を高めることができるとともに、前記予備熱処理の後にマルテンサイトをより容易に得られ、結晶粒の微細化効果を実現することができる。しかし、炭素、マンガン、シリコンの含有量が高すぎると、鋼板基材の破断性能に悪影響を与える。極めて少量のホウ素を添加することで、破断性能に影響を与えることなく、鋼板基材の焼入れ硬化性を高めることができる。アルミニウムは製錬の過程中に脱酸素し、同時にホウ素の有効性を保護することができる。クロムとモリブデンなどの他の元素も焼入れ硬化性を高めることができるが、不利なことに、鋼板のコストを大幅に高めることができる。バナジウムとニオブは、一方ではオーステナイト結晶粒を微細化することができ、他方では析出強化作用を生じ、ホットスタンピング成形部材の強度を高めることができる。好ましい例として、前記プレコート鋼板基材は、22MnB5鋼、または34MnB5鋼として市販されているものを選択して用いることができる。
【0021】
本発明の実施形態では、前記プレコート鋼板基材の厚みは0.8~2.5mmであり、前記プレコート層の厚みは6~36μmである。いくつかの実施形態では、前記プレコート層の厚さは15~27μmである。いくつかの具体的な実施形態では、前記プレコート鋼板基材の厚さは、車体安全部材用鋼板の典型的な厚さである1.0~1.3mmである。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、前記プレコート層はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記プレコート層はプレコート鋼板の少なくとも一方の表面上に配置され、且つ各表面上のプレコート層の初期厚さが36μm未満である。
【0023】
いくつかの具体的な実施形態では、前記プレコート層はAl-Si合金めっき層であり、通常には、重量%で、Si 8~11%、Fe 2~4%、Al 85~90%及び不可避的な不純物を含む。Alは主にめっき層の高温安定性と抗酸化性能を提供するが、不利なことに、Alは高温で鋼板基体と合金化し、脆性金属間化合物を形成し、Siは金属間化合物の成長を抑制し、脆性金属間化合物の鋼板破断性能に対する危害を減らすことができる。
【0024】
一例として、Al-Siめっき層をプレコートした市販の22MnB5鋼を用いることができる。ここで、前記22MnB5鋼板基材の重量%で表されるC含有量は0.20~0.23%であり、Mn含有量は0.9~1.4%であり、Si含有量は0.20~0.28%であり、また、プレコートされたAl-Siめっき層の厚みは約25μmである。
【0025】
好ましい実施形態として、前記プレコート層の厚みが20μm未満の場合、前記加熱保温工程は850~920℃、7~15分間であり、前記プレコート層の厚みが20μm以上の場合、前記加熱保温工程は920~960℃、5~10分間である。いくつかの実施形態では、前記プレコート層はAl-Siめっき層であり、Al-Siめっき層の厚さが20μm未満の場合、保温温度範囲が870~915℃であり、総時間が2~7分間であり、Al-Siめっき層の厚みが20μm以上の場合、保温温度範囲が890~935℃であり、総時間が4~9分間である。
【0026】
予備熱処理の過程における加熱保温プロセスの選択は、主にめっき層の合金化を保証し、適切な金属間化合物組織を得ることにある。前記プレコート層がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合、前記金属間化合物は、体積分率が60%以上のFeAl相を含む。FeAl相は他の金属間化合物に比べて融点が高く、破断靭性が良いなどの利点があり、金型損耗を低減することができ、同時にめっき層のクラックを減少させ、鋼板の破断性能、耐食性などを向上させることができる。
【0027】
また、予備熱処理の過程中に鋼板基材のオーステナイト成長による悪影響は、冷却後に得られるマルテンサイトもしくはベイナイト組織により解消又は緩和することができる。上記のマルテンサイトまたはベイナイト組織は、後続のホットスタンピング成形時に、鋼板基材の破断性能を向上させるように、より多くのオーステナイト核形成サイトを提供し、オーステナイト組織を微細化することができる。従って、本発明の前記予備熱処理のプロセス範囲は従来のホットスタンピング成形プロセスより大きく、プロセス安定性の向上に有利である。
【0028】
予備熱処理における冷却速度は、主に鋼板基材の焼入れ硬化性に依存する。特に、約5℃/sの冷却速度では炭化物の形成を完全に回避することはできず、全部がマルテンサイトまたはベイナイトであるミクロ組織を得ることもできないことを指摘する必要がある。しかし、発明者らは、少量のマルテンサイトもしくはベイナイトミクロ組織(30%以上、又は両者の体積分率の和が30%以上)も、後続のホットスタンピング成形過程においてオーステナイト結晶粒を微細化する役割を果たすことができることを見出した。同時に、均一に分布する炭化物も加熱過程で大量のオーステナイト核形成サイトを提供し、オーステナイト結晶粒を微細化する役割を果たすことができる。
【0029】
好ましくは、前記冷却速度が10℃/s以上であり、この場合、冷却後のマルテンサイト体積分率が50%以上に達することができ、パーライトを形成することなく、且つ炭化物粒子サイズが0.1μm以下である。より好ましくは、前記冷却速度が25℃/s以上であり、この場合、冷却後のマルテンサイト体積分率が100%に近い。しかし、冷却速度を50℃/sに高めると、オーステナイト結晶粒をさらに微細化する作用は明らかではなく、後続のホットスタンピング成形後の破断性能はほとんどさらに改善されなかった。したがって、最適には、前記冷却速度は25℃/s~50℃/sである。
【0030】
実際の生産過程では、上記予備熱処理後の鋼板を室温まで冷却するのに長い時間がかかり、特に200℃以下では冷却速度が著しく遅くなる。生産効率を高めるためには、好ましい態様として、予備熱処理工程の後に、前記鋼板を300℃以下、200℃以上に冷却する時に、前記鋼板を加熱炉に移し、再加熱を開始する。この場合、冷却過程中のマルテンサイトへの転換はすべて完了したか、またはほとんど完了しており、オーステナイト結晶粒を微細化して鋼板の最終的な破断性能を向上させるのに十分な機能を発揮する。
【0031】
好ましくは、予備熱処理の冷却過程中にスタンピング金型を介して鋼板を変形させることができる。一方で、後続のホットスタンピング成形過程における変形量を減少させ、後続のホットスタンピング成形過程の温度に対する要求を低下させ、後続のホットスタンピング成形過程の加熱保温プロセスの窓をより大きくすることができる。他方では、後続のホットスタンピング成形過程における加熱保温は予備変形によるめっき層のクラックを充填することができ、同時に、後続の加熱成形プロセスに必要な変形量が減少し、それによるめっき層のクラックの数と深さが低下し、さらにプレコート層の耐食性を向上させ、めっき層のクラックが破断性能に与える悪影響を減少させることができる。
【0032】
好ましくは、前記鋼板に対して複数回の予備熱処理を行い、複数回の予備熱処理の間に同じまたは異なるプロセスパラメータを用いることができる。高温オーステナイトと室温マルテンサイトとの間の往復転換により、結晶粒の微細化程度を高めることができる。同時に、複数回の予備熱処理の間に異なるプロセスパラメータを採用することで、プレコート層(例えば、Al-Siめっき層)中のFe-Al拡散層、金属間化合物層の設計により多くの可能性を提供することができる。そのため、複数回の予備熱処理の後に、鋼板基材の化学成分とミクロ組織がより均一になり、結晶粒がより微細化されるとともに、プレコート層の合金化の程度もより高い。
【0033】
また、予備熱処理過程中に鋼材基板のオーステナイト成長による悪影響は、冷却後に得られるマルテンサイトもしくはベイナイト組織により解消又は緩和することができる。上記マルテンサイトまたはベイナイト組織は、後続のホットスタンピング成形時に、鋼板基材の破断性能を向上させるように、より多くのオーステナイト核形成サイトを提供し、オーステナイト組織を微細化することができる。従って、本発明の前記予備熱処理のプロセス範囲は従来のホットスタンピング成形プロセスより大きく、プロセス安定性の向上に有利である。
【0034】
本発明が提供するプレコート鋼板のためのホットスタンピング成形方法によれば、予備熱処理後のプレコート鋼板基材のミクロ組織は、
(a)マルテンサイトもしくはベイナイトまたは両者の和の体積分率が30%以上であり、
(b)粒子径が0.5μmを超える球状炭化物粒子が存在せず、粒子径が1μmを超えるシート状パーライト領域が存在しないことを特徴とする。
【0035】
ここで、前記予備熱処理後のプレコート層のミクロ組織は、すべての金属間化合物中に占めるFeAl相の体積分率が60%以上である1種以上の金属間化合物と、フェライトとからなる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態において、前記ホットスタンピング成形方法は、前記予備熱処理の後に、プレコート鋼板基材を完全にオーステナイト化するように前記プレコート鋼板を780~940℃に再加熱して1~7分間保温し、そして、500℃以上の温度を保持して前記プレコート鋼板を金型に移してホットスタンピング成形することをさらに含む。
【0037】
好ましくは、前記ホットスタンピング成形方法は、前記予備熱処理の後に、プレコート鋼板基材を完全にオーステナイト化するように前記プレコート鋼板を830~900℃に再加熱して1~4分間保温し、そして、600℃以上の温度を保持して前記プレコート鋼板を金型に移してホットスタンピング成形することをさらに含む。
【0038】
好ましくは、前記再加熱工程において、保温範囲は830~900℃であり、加熱保温の総時間は1~4分間である。
【0039】
さらに重要なのは、ホットスタンピング成形鋼のうちの旧オーステナイト結晶粒の微細化に伴い、マルテンサイトスラット束、スラット塊、スラットが微細化され、最終的にホットスタンピング成形部材の破断性能が向上することである。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材のミクロ組織はフルマルテンサイト組織である。
【0041】
本発明の別のいくつかの実施形態では、ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材のミクロ組織は、フェライト組織、ベイナイト組織、マルテンサイト組織、オーステナイト組織のうちの2相以上からなる混合組織である。この場合、ホットスタンピング成形部材の強度が低下し、破断性能が向上する。
【0042】
さらに、ホットスタンピング成形後のプレコート鋼板基材ミクロ組織の旧オーステナイト結晶粒サイズが18μmを超えない。好ましい態様としては、上記ホットスタンピング成形部材ミクロ組織中の旧オーステナイト結晶粒サイズは10μmを超えない。この場合、結晶粒の微細化度がより高いため、ホットスタンピング成形鋼の破断性能がより良い。
【0043】
上記ホットスタンピング成形鋼板基材のミクロ組織は、通常、すべてのマルテンサイト組織であり、この場合、ホットスタンピング成形鋼の強度は1.5GPaに達することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、前記予備熱処理の後に、鋼板を加熱炉に移して再加熱し、ホットスタンピング成形を行う。好ましい態様としては、予備熱処理工程の後に、前記鋼板を300℃以下、200℃以上に冷却する時に、前記鋼板を加熱炉に移し、再加熱を開始する。この場合、冷却過程中のマルテンサイトへの転換はすべて完了したか、またはほとんど完了しており、オーステナイト結晶粒を微細化して鋼板の最終的な破断性能を向上させるのに十分な機能を発揮する。200℃以上では鋼板を加熱炉に移すことで、生産効率を向上させるとともに、エネルギーを節約することができる。
【0045】
別の好ましい態様としては、予備熱処理工程の後に、前記鋼板を200℃以下、100℃以上に冷却する時に、前記鋼板を加熱炉に移し、再加熱を開始する。上記の態様よりも、本態様は、プレコート鋼板基材の合金含有量が高く、マルテンサイトへの転換温度が低い場合により適している。
【0046】
本発明の前記ホットスタンピング成形方法が旧オーステナイト結晶粒を微細化できるのは、主に以下の要素に関連する。(A)前記予備熱処理の加熱保温過程において、プレコート層はすでに合金化され、金属間化合物層及び拡散層を形成し、ホットスタンピング成形過程において、プレコート層の合金化を主な考慮要素とする必要はなく、そのため、比較的低い加熱保温温度と比較的短い加熱保温時間を採用し、オーステナイト結晶粒の成長を抑制することができる。(B)前記予備熱処理の冷却過程において、鋼板基材は完全または一部的なマルテンサイトまたはベイナイト組織を形成し、これらの組織は結晶粒が細かく、欠陥密度が高いなどの特徴を有し、かつ鋼板基材中の炭化物の分布はより細かく、均一であり、ホットスタンピング成形プロセスの再加熱過程において、より多くのオーステナイト核形成サイトを提供し、最終的には旧オーステナイト結晶粒を微細化する。
【0047】
本発明の技術が破断性能を改善する理由は以下の通りである。本発明の前記ホットスタンピング成形技術はホットスタンピング成形部材のミクロ組織中の旧オーステナイト結晶粒、マルテンサイトスラット束、マルテンサイトスラット塊及びマルテンサイトスラットを微細化することができる。一方で、上記結晶粒の微細化はリン、硫黄などの不純物元素と水素元素の粒界での濃縮を低下させ、不純物元素と水素元素の粒界破断に対する悪影響を緩和し、それによって脆性粒界破壊を抑制することができる。他方では、結晶粒の微細化により、クラックは拡張過程でより多くの大角粒界を通過する必要があり、その中には旧オーステナイト粒界、マルテンサイトスラット束界面、マルテンサイトスラット塊界面などが含まれるため、クラックの拡張にはより多くのエネルギーが必要であり、より困難であり、最終的にホットスタンピング成形部材の破断性能を向上させる。
【0048】
そこで、本発明が提供するホットスタンピング成形方法によれば、前記予備熱処理は、プレコート層の合金化の程度を高め、鋼板基材中の炭化物組織を減らし、マルテンサイト及び/又はベイナイトの基材組織を得ることができ、それによって高温スタンピング変形時に、プレコート層のスタンピング金型に対する損耗を低減し、かつ結晶粒を微細化し、最終的なホットスタンピング成形部材の破断性能を高めることができる。
【0049】
本発明のホットスタンピング成形方法は、自動車の安全構造物、補強構造物、車輪部材、高強靭自動車構造物などに用いることができ、その中には、自動車の白車体Aピラー、Bピラー、バックトップクロスビームなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、従来のホットスタンピング成形方法の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のホットスタンピング成形方法の模式図である。
【
図3】
図3は、実施例で用いた22MnB5鋼板のプレコート層と鋼板基材の最初ミクロ組織構造図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1~3の予備熱処理後のAl-Siめっき層ミクロ組織の模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1~3の予備熱処理後のプレコート層におけるFeAl相と金属間化合物の合計体積分率比値の保温時間による変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例2の予備熱処理後の鋼板基材のミクロ組織図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例4のホットスタンピング成形後の鋼板基材のミクロ組織図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例4のホットスタンピング成形後の鋼板基材のミクロ組織逆極点図である。
【
図9】
図9は、従来技術を用いたホットスタンピング成形後の鋼板基材のミクロ組織逆極点図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例4と従来技術で得られたプレコートホットスタンピング成形鋼板の3点曲げ試験結果との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、具体的な実施形態に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。提供される実施形態は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明を説明するためにのみ提供される。
【0053】
本発明のホットスタンピング成形方法を具体的に説明するために、
図1及び
図2に、本発明のホットスタンピング成形方法と従来のホットスタンピング成形方法の一実施形態をそれぞれまとめて示す。なお、本発明は図中に示した実施形態に限定されるものではなく、図中の傾きはあくまでも加熱または降温の平均速度の説明に用いるものであり、現実の昇温または降温曲線を表すものではない。
【0054】
実施例で用いた22MnB5鋼板のプレコートAl-Si層と鋼板基材の元のミクロ組織構造を
図3に示す。ここで、プレコート層は、鋼板基材側から順に、Siリッチ金属間化合物層、Al層である。このプレコートAl-Siめっき層構造は典型的な市販の22MnB5鋼のプレコートめっき層構造である。鋼板基材は主にフェライト、パーライト、炭化物からなる。このうち、シート状パーライト領域のサイズは2μm以上となり、球状炭化物の粒子径が0.5μm以上となることができる。
【実施例】
【0055】
実施例1~3
プレコート22MnB5鋼板に対して以下の予備熱処理を行った。
(1)前記プレコート鋼板3枚を930℃に加熱し、それぞれ1分間(実施例1)、5分間(実施例2)及び10分間(実施例3)保温し、プレコート鋼板基材をオーステナイト化し、プレコート層を合金化した。
(2)前記加熱保温工程が完了した後に、前記鋼板を300℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。
【0056】
予備熱処理の後に、上記鋼板中のAl-Siめっき層は合金化し、そのミクロ組織は
図4に示すようになった。鋼板基材側から順に、主にフェライト組織を含むFe-Al拡散層、主にFeAl、Fe
2Al
5を含む金属間化合物層であった。ただし、Fe-Al拡散層の厚みは4~30μmであり、金属間化合物層の厚みは15~40μmであった。
【0057】
図5は、FeAl相と金属間化合物の合計体積分率比値の保温時間による変化を示す。FeAlはFe
2Al
5相に比べて融点と破断靭性がより高く、炉ローラでのスケール付着、金型の摩耗などの問題による悪影響を小さくすることができる。本実施例では、Fe-Al金属間化合物全体に占めるFeAl相の体積分率は60%以上であった。
【0058】
実施例2の予備熱処理後の鋼板基材のミクロ組織は、
図6に示すように、粒子径が0.5μmより大きい球状浸炭体粒子が存在せず、粒子径が1μmより大きいシート状パーライト領域も存在しなく、マルテンサイトもしくはベイナイトの体積分率または両者の和の体積分率が30%以上であるものであった。
【0059】
多くの並列試験により、本実施例の冷却速度と温度は本発明の最適条件の範囲内ではないが、本実施例のミクロ組織と結論に影響を与えないことが明らかになった。すなわち、本発明の最適冷却速度範囲及び温度範囲で得られるミクロ組織及び結論は、上記実施例とほぼ同様である。しかし、それらの最適条件の範囲は工業化生産により有利である。
【0060】
実施例4
実施例2で得られた鋼板に対して再加熱及びホットスタンピング成形を行った。
(3)前記鋼板を完全にオーステナイト化するように、前記鋼板を850℃に再加熱して保温し、総時間が1.5分間であった。
(4)金型に移送する際、前記の加熱された鋼板の温度が500℃以上であることを保証するように、前記の加熱された鋼板を金型に移した。
(5)前記金型で前記の加熱された鋼板に対してホットスタンピング成形をし、最終的なホットスタンピング成形鋼部材を得た。
【0061】
図7は、前記ホットスタンピング成形プロセス後の鋼板基材のミクロ組織構造である。ホットスタンピング成形の後に、鋼板基材はすべてマルテンサイト組織を得え、ミクロ組織中の旧オーステナイト結晶粒が著しく微細化され、旧オーステナイト結晶粒サイズが予備熱処理後の15~25μmからホットスタンピング成形後の3~8μmに低減された。同時に、ホットスタンピング成形プロセスにおいて、比較的低い温度と比較的短い保温時間を採用したため、Al-Siめっき層の合金化の程度とミクロ組織構造はもはや明らかに変化しなかった。
【0062】
図8は、前記ホットスタンピング成形プロセス後の鋼板基材のミクロ組織逆極点図であり、図中に、
図7で観察された旧オーステナイト結晶粒サイズ3~8μmに一致する鋼板基材のミクロ組織における旧オーステナイト結晶粒サイズがより明瞭に観察されている。
【0063】
対照として、
図9は、
図2に示す従来のホットスタンピング成形技術を用いて得られた鋼板基材のミクロ組織逆極点図である。ここで、旧オーステナイト結晶粒サイズは約20μmである。従来のホットスタンピング成形プロセスは予備熱処理を経ておらず、比較的高い加熱保温温度と比較的長い加熱保温時間、例えば、900~940℃、5~10分間を採用する必要があり、また、従来のホットスタンピング成形プロセスの初期ミクロ組織はフェライト+シート状パーライト+球状炭化物組織であり、マルテンサイトまたはベイナイト組織がオーステナイト結晶粒を微細化する役割を果たすことができない。そのため、従来のホットスタンピング成形プロセスで得られた鋼板基材中の旧オーステナイト結晶粒は、本発明のホットスタンピング成形プロセスよりもはるかに大きい。
【0064】
図10は、従来のホットスタンピング成形方法と本発明の方法で得られたホットスタンピング成形後の鋼板の3点曲げ試験結果を比較したものである。前記ホットスタンピング成形後の鋼板の3点曲げ試験結果は、ホットスタンピング成形部材の破断性能を体現することができる。3点曲げ試験の結果、本発明の技術で得られたホットスタンピング成形後の鋼板は、従来のホットスタンピング成形技術に比べて、より大きな曲げ荷重とより大きな曲げ角を達成することができ、その中で、本発明の技術は最大曲げ荷重約1100N、曲げ角約58.4°を得え、従来の技術は最大曲げ荷重約1000kN、曲げ角約52.2°しか得られなく、すなわち最大曲げ荷重は10%向上し、曲げ角は同時に11.9%向上した。したがって、本発明の方法で得られるホットスタンピング成形後の鋼板の3点曲げ性能はより良好となり、その分、ホットスタンピング成形部材の破断性能も良好となる。
【0065】
上記の実施例から分かるように、本発明の方法は、プレコート層の合金化の程度と鋼板基材の破断性能を同時に向上させることができる。鋼板基材の破断性能を改善する理由は以下の通りである。本発明の前記ホットスタンピング成形技術は炭素元素を基材中により均一に分布させ、ホットスタンピング成形部材のミクロ組織中の旧オーステナイト結晶粒、マルテンサイトスラット束、マルテンサイトスラット塊及びマルテンサイトスラットを微細化することができる。一方で、上記結晶粒の微細化はリン、硫黄などの不純物元素と水素元素の粒界での濃縮を低下させ、不純物元素と水素元素の粒界破断に対する悪影響を緩和し、それによって脆性粒界破壊を抑制することができる。他方では、結晶粒の微細化により、クラックは拡張過程でより多くの大角粒界を通過する必要があり、その中には旧オーステナイト粒界、マルテンサイトスラット束界面、マルテンサイトスラット塊界面などが含まれるため、クラックの拡張にはより多くのエネルギーが必要であり、より困難であり、最終的にホットスタンピング成形部材の破断性能を向上させる。
【0066】
上述した実施例の説明は、例示及び説明の目的で提供されている。当業者は、本発明がこれらの実施例または実験データに限定されないことを明らかにすべきである。実施例に記載されたデータ及び各種パラメータは単なる例示であり、本発明に対する制限を構成するものではない。
【国際調査報告】