(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】透過型電子顕微鏡におけるレーザベースのコントラスト制御
(51)【国際特許分類】
H01J 37/26 20060101AFI20241016BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01J37/26
G02B21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523968
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 IL2022051157
(87)【国際公開番号】W WO2023079548
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ、オシップ
(72)【発明者】
【氏名】カリ、マイケル
【テーマコード(参考)】
2H052
5C101
【Fターム(参考)】
2H052AF10
5C101AA04
5C101AA13
5C101AA15
5C101BB01
5C101BB03
5C101EE15
5C101EE34
(57)【要約】
本開示によれば、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための新規なシステムまたは方法が提供される。本開示のシステムは、電子ビームを提供するように構成された電子源を含む透過型電子顕微鏡(TEM)と、少なくとも1つのレーザビームを提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置であって、レーザビームは、電子ビームの所定部分を、電子源によって提供された元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルにシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、元のエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させるが、元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させないように構成された、電子エネルギーフィルタと、を備えるシステムが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のためのシステムであって、
電子ビームを提供するように構成された電子源を含む透過型電子顕微鏡(TEM)と、
少なくとも1つのレーザビームを提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置であって、前記レーザビームは、前記電子ビームの所定部分を、前記電子源によって提供された元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルにシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、
前記元のエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させるが、前記元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させないように構成された、電子エネルギーフィルタと、を備える、システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置は、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または、前記後焦点面と共役な共役面の近傍に配置される、システム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザビームは、連続波レーザビームである、システム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、
前記電子ビームの前記所定部分は、前記電子ビームの非散乱電子波の所定部分である、システム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザビームは、前記電子ビームの一部に対して所定の位相シフトを与えるようにさらに構成されている、システム。
【請求項6】
請求項2に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置は、レーザ焦点を形成するとともに、前記レーザ焦点を前記透過型電子顕微鏡(TEM)の前記後焦点面の近傍または前記共役面の近傍に配置するように構成され、かつ、
前記レーザベース装置は、前記電子ビームの非散乱電子波が前記レーザ焦点を通過するように配置される、システム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置の材料構造体は、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の前記電子ビームが、前記レーザベース装置の任意の材料要素から、少なくとも0.1mm、少なくとも1mm、または少なくとも10mm離れるように構成及び配置される、システム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置及び前記電子エネルギーフィルタは、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームを所定のビーム電流まで減衰させるように、及び/または、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームを所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される、システム。
【請求項9】
請求項4または請求項6に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置及び前記電子エネルギーフィルタは、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームの前記非散乱電子波を所定の振幅まで減衰させるように、及び/または、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームの前記非散乱電子波を所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される、システム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムであって、
前記透過型電子顕微鏡(TEM)は、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の像平面に配置され、かつ、前記電子ビームを受光するように構成された電子検出器をさらに含む、システム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置は、少なくとも1つの光共振器をさらに含む、システム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムであって、
前記少なくとも1つの光共振器の各々は、
2つ以上のミラーを有し、
前記レーザビームが入射するように構成され、
前記透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または前記透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面と共役な共役面の近傍に配置され、かつ、
前記透過型電子顕微鏡(TEM)によって提供される前記電子ビームを通過させるように構成される、システム。
【請求項13】
請求項11に記載のシステムであって、
前記少なくとも1つの光共振器は、非球面ミラーを有する非球面略同心型共振器である、システム。
【請求項14】
請求項1に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置によって提供される前記レーザビームは、非単色レーザビームである、システム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムであって、
前記非単色レーザビームは、互いに異なる波長を有する2つ以上のレーザビームを1つの光共振器に結合する構成によって提供される、システム。
【請求項16】
請求項14に記載のシステムであって、
前記非単色レーザビームは、焦点が互いに重なる2つ以上の光共振器の構造によって提供される、システム。
【請求項17】
請求項11~16のいずれかに記載のシステムであって、
前記光共振器が、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜しているか、
前記光共振器の光軸が、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜しているか、または、
前記光共振器のレーザビーム伝搬方向が、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜している、システム。
【請求項18】
電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための方法であって、
請求項1~17のいずれかに記載のシステムを提供するステップと、
前記レーザベース装置及び前記電子エネルギーフィルタにより、前記電子ビームの前記所定部分を所定のビーム電流まで減衰させる、及び/または、前記電子ビームを所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む、方法。
【請求項19】
電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のためのシステムであって、
電子ビームを提供するように構成された電子源を含む透過型電子顕微鏡(TEM)と、
少なくとも1つのレーザビームを提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置であって、前記レーザビームは、前記電子ビームの所定部分を、前記透過型電子顕微鏡(TEM)によって前記電子ビームの前記所定部分に提供された元の運動量とは異なる運動量にシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、
前記透過型電子顕微鏡(TEM)によって提供された前記元の運動量を有する電子ビームは通過させるが、前記レーザベース装置によって前記元の運動量とは異なる運動量にシフトされた電子ビームは通過させないように構成されたアパーチャと、を備える、システム。
【請求項20】
請求項19に記載のシステムであって、
前記レーザベース装置は、前記透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または、前記後焦点面と共役な共役面の近傍に配置される、システム。
【請求項21】
請求項19に記載のシステムであって、
前記電子ビームの前記所定部分は、前記電子ビームの非散乱電子波の所定部分である、システム。
【請求項22】
電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光方法のための方法であって、
請求項19~21のいずれかに記載のシステムを提供するステップと、
前記レーザベース装置及び前記アパーチャにより、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームの非散乱電子波を所定の振幅まで減衰させる、及び/または、前記透過型電子顕微鏡(TEM)内の前記電子ビームの非散乱電子波を所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡におけるレーザベースのコントラスト制御に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)は、材料科学や生命科学に不可欠なツールである。とりわけ、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)の開発は、構造生物学の急速な進歩をもたらし、2018年にノーベル化学賞を受賞した。
【0003】
クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)の急速な進歩は、直接電子検出器や、試料の調製及び取り扱い技術の開発、並びに、データ処理ソフトウェアの段階的な改善によって促進された。同時に、TEMの電子光学も漸進的に進化した。収差補正器(クライオ電子顕微鏡ではあまり使用されていない)の開発を除けば、TEMの光学設計は、過去10~20年間にわたって緩やかにしか変化していない。
【0004】
クライオ電子顕微鏡の重要な特徴は、軽元素から成る試料のあらゆるTEMメージングと同様に、試料が電子ビームに対してほとんど透明であることである。試料の構造は、試料を通過する電子ビームの位相に刻み込まるが、検出器は電子束にのみ感度を持ち、位相には感度を持たないため、位相物体の焦点の合った画像には、その試料に関する情報がほとんど含まれていない。これに対する従来の解決策は、位相情報の一部を検出可能な振幅変調に変換するデフォーカスイメージングシステムで、ほとんどの画像を撮影することである。しかしながら、これは、高空間周波数情報に対しては効率的に機能するが、低周波数情報は利用できないままである。加えて、コントラスト伝達関数(CTF)は振動性であり、すべての情報の半分以下しか復元できない。
【0005】
光学顕微鏡で広く使われている、より優れた解決法として、ゼルニケ位相差法(1953年にノーベル賞を受賞)が知られている。このアプローチは、試料によって散乱された散乱波(試料に関する情報を含む)と、変化することなく試料を透過する照明波の一部(非散乱波)との間の相対位相を変化させることに基づいている。このためには、非散乱波の位相を90度シフトさせる(ずらす)必要があるが、光学位相遅延板(または単に位相板)を使用すれば、光学顕微鏡において容易に実現することができる。電子顕微鏡用の位相板の開発は、1947年から行われている。
【0006】
大きな進歩は、薄い炭素箔をベースにしたボルタ位相板の開発であった。しかしながら、この位相板は、蓄積した電子曝露によって位相シフトが変化するため、実用上の困難が生じる。また、この位相板は、有用な信号をある程度減衰させることも分かった。
【0007】
近年、カリフォルニア大学バークレー校のグループが、レーザ場との電子相互作用に基づく電子顕微鏡用位相板の実装を実証した。このアプローチでは、非散乱波のポンデロモーティブ遅延を用いて、焦点内位相コントラストイメージングを提供する。この研究では、レーザ出力を共振的に増強する高微細光共振器を使用することによって、必要な高レーザ強度を達成した。使用した光共振器(キャビティ)のタイプは、タイトフォーカスでモードをサポートする、略同心型共振器であった。このシステムは、300keVの電子ビームの位相を90度位相シフトさせるのに十分なレーザ強度に達した。この実験に使用したTEMは、特別な変換(磁気)レンズを備えており、TEMの対物レンズの後焦点面と共役な追加の面(共役面)を、さらに6倍の倍率で形成した。光共振器は、光共振器の焦点が共役後焦点面の中心に位置するように吊り下げて顕微鏡と一体化させた。
【0008】
しかしながら、最適な位相シフトであっても、クライオ電子顕微鏡画像のコントラストが極端に低いという問題があった。デフォーカスベースの位相コントラストを用いて得られた画像であっても、位相板を使用して得られた画像であっても、画像全体のグレーレベルのばらつきは、平均値に対して小さいままである。これは、クライオ電子顕微鏡の試料が弱位相物体であること、すなわち、試料が電子ビームに与える位相が小さいことの結果である。
【0009】
この低コントラストは、例えば、データ取得速度に大きな制約をもたらす。これは、マルチユーザ施設として運用され、撮像時間の配分を必要とするクライオ電子顕微鏡にとって極めて重要である。最先端の電子検出技術である直接電子カメラは、電子カウント方式で動作し、単位時間当たりに処理できる電子の数が限られている。検出される電子の大部分はバックグラウンド電子であるため、顕微鏡写真の取得時間は、スループットの大きなボトルネックとなる。低コントラストのもう1つの大きな弊害は、TEMにおける比例検出器の開発を妨げることである。バックグラウンドが高いということは、検出器のダイナミックレンジのごく一部しか使用できないことを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための新規なシステムであって、
電子ビームを提供するように構成された電子源を含む透過型電子顕微鏡(TEM)と、
少なくとも1つのレーザビームを提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置であって、レーザビームは、電子ビームの所定部分を、電子源によって提供された元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルにシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、
元のエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させるが、元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させないように構成された、電子エネルギーフィルタと、を備えるシステムが提供される。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置は、透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または、後焦点面と共役な共役面の近傍に配置される。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置から提供されるレーザビームは、連続波レーザビームである。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームの所定部分は、電子ビームの非散乱電子波の所定部分である。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザビームは、電子ビームの一部に対して所定の位相シフトを与えるようにさらに構成されている。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置は、レーザ焦点を形成するとともに、レーザ焦点を透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍または共役面の近傍に配置するように構成され、かつ、レーザベース装置は、電子ビームの非散乱電子波がレーザ焦点を通過するように配置される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置の材料構造体は、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子ビームが、レーザベース装置の任意の材料要素から、少なくとも0.1mm、少なくとも1mm、または少なくとも10mm離れるように構成及び配置される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置及び電子エネルギーフィルタは、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームを所定のビーム電流まで減衰させるように、及び/または、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームを所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置及び電子エネルギーフィルタは、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームの非散乱電子波を所定の振幅まで減衰させるように、及び/または、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームの非散乱電子波を所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、透過型電子顕微鏡(TEM)は、透過型電子顕微鏡(TEM)の像平面に配置され、かつ、電子ビームを受光するように構成された電子検出器をさらに含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置は、少なくとも1つの光共振器をさらに含む。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、
少なくとも1つの光共振器の各々は、
2つ以上のミラーを有し、
レーザビームが入射するように構成され、
透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面と共役な共役面の近傍に配置され、かつ、
透過型電子顕微鏡(TEM)によって提供される電子ビームを通過させるように構成される。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの光共振器は、非球面ミラーを有する非球面略同心型共振器である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置によって提供されるレーザビームは、非単色レーザビームである。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、非単色レーザビームは、互いに異なる波長を有する2つ以上のレーザビームを1つの光共振器に結合する構成によって提供される。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、非単色レーザビームは、焦点が互いに重なる2つ以上の光共振器の構造によって提供される。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、
光共振器が、透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜しているか、
光共振器の光軸が、透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜しているか、または、
光共振器のレーザビーム伝搬方向が、透過型電子顕微鏡(TEM)の光軸に対して傾斜している。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための新規な方法であって、
上記の実施形態のいずれかに記載のシステムを提供するステップと、
レーザベース装置及び電子エネルギーフィルタにより、電子ビームの所定部分を所定のビーム電流まで減衰させる、及び/または、電子ビームを所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む、方法が提供される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための別の新規なシステムであって、
電子ビームを提供するように構成された電子源を含む透過型電子顕微鏡(TEM)と、
少なくとも1つのレーザビームを提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置であって、レーザビームは、電子ビームの所定部分を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって電子ビームの所定部分に提供された元の運動量とは異なる運動量にシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、
透過型電子顕微鏡(TEM)によって提供された元の運動量を有する電子ビームは通過させるが、レーザベース装置によって元の運動量とは異なる運動量にシフトされた電子ビームは通過させないように構成されたアパーチャと、を備えるシステムが提供される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、レーザベース装置は、透過型電子顕微鏡(TEM)の後焦点面の近傍、または、後焦点面と共役な共役面の近傍に配置される。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームの所定部分は、電子ビームの非散乱電子波の所定部分である。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための別の新規な方法であって、
上記の実施形態のいずれかに記載のシステムを提供するステップと、
レーザベース装置及びアパーチャにより、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームの非散乱電子波を所定の振幅まで減衰させる、及び/または、透過型電子顕微鏡(TEM)内の電子ビームの非散乱電子波を所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明と見なされる主題は、明細書の結論部分で特に指摘され、明確に主張されている。しかしながら、本発明は、構成及び動作方法の両方に関して、また、その目的、特徴、及び利点と共に、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読むことによって最もよく理解されるであろう。
【0033】
【
図1】
図1は、本発明のいくつかの実施形態による電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のためのシステムの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のいくつかの実施形態による、照明電子ビームと、非散乱波と、散乱波との関係を示す概略図である。
【
図3】
図3(A)及び(B)は、本発明のいくつかの実施形態による、球形ミラーを有する略同心型共振器の概略図である。
【
図4】
図4(A)及び(B)は、本発明のいくつかの実施形態による、非球面ミラーを有する略同心型共振器の概略図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態による、TEMの光軸に対して直交する光共振器を有するシステムの一部の概略図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明のいくつかの別の実施形態による、TEMの光軸に対して傾斜した光共振器を有するシステムの一部の概略図である。
【
図6】
図6は、本発明のいくつかの実施形態による、TEMシステムの概略図である。
【
図7】
図7は、本発明のいくつかの実施形態による、二色性光共振器の概略図である。
【
図8】
図8(A)~(D)は、本発明のいくつかの実施形態による、光共振器内で2周波数レーザビームと相互作用する前後の電子ビームの時間プロファイル(
図8(A)及び8(B))及びエネルギースペクトル(
図8(C)及び8(D))を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明のいくつかの実施形態による、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための別のシステムの概略図である。
【0034】
図示の簡略化及び明確化のために、図示されている要素は必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではないこと、及び、互いに対応する要素または類似する要素を示すために参照符号が図面間で繰り返し使用されることを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、本開示の一部を構成する以下の例示的な実施形態の詳細な説明を読むことによって、より容易に理解することができるであろう。本発明は、本明細書に記載及び/または示した特定の製品、方法、条件、またはパラメータに限定されるものではない。また、本明細書で使用される用語は、単なる例示として特定の実施形態を説明することを目的としており、添付の特許請求の範囲に記載された本発明を限定することを意図したものではないことを理解されたい。さらに、文脈によって特に要求されない限り、単数形の用語は複数形も含み、複数形の用語は単数形も含むものとする。
【0036】
本開示の主題の実施形態は、とりわけ、電子ベースの顕微鏡法及び分光法の様々な側面を改善することを目的とした、電子ビーム/電子波のレーザベースの制御に関する。
【0037】
本明細書で使用するとき、いくつかの実施態様では、「キャビティ」、「光キャビティ」、「共振器」、及び「光共振器」という用語は、すべて同じ意味及び性質を有し、互換的に使用される。
【0038】
本明細書で使用するとき、いくつかの実施態様では、「波」及び「ビーム」という用語は、同じ意味及び性質を有し、互換的に使用される。
【0039】
本明細書で使用するとき、いくつかの実施態様では、「電子銃」及び「電子源」という用語は、同じ意味及び性質を有し、互換的に使用される。
【0040】
本明細書で使用するとき、いくつかの実施形態では、「物体」及び「試料」という用語は、同じ意味及び性質を有し、互換的に使用される。
【0041】
光学位相差顕微鏡では、位相シフトの適用に加えて、ゼルニケ板で非散乱波を減衰させることによって、低コントラストの問題に対処する(非散乱波は画像背景を形成する)。非散乱波を散乱波と同程度の振幅になるレベルまで減衰させると、高コントラストの画像が得られる。この減衰は、顕微鏡を、アンバランスな撮像干渉計からバランスの取れたものに変換する。しかし、TEMに有効な減衰器は存在しない。
【0042】
図1は、本発明のいくつかの実施形態による、試料の電子ビームイメージング及び/または電子ビーム分光のための新規なシステムの概略図である。
本システム100は、
・電子ビーム104を提供するように構成された電子銃102(電子源)を含む透過型電子顕微鏡(TEM)101と、
・少なくとも1つのレーザビーム114を提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置115であって、レーザビーム114は、電子ビーム104の所定部分を、TEM101の電子銃102によって提供された元のエネルギースペクトルとは異なるエネルギースペクトルにシフトさせるように構成されている、該レーザベース装置と、
・TEM101の電子銃102によって提供された元のエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させるが、レーザベース装置115によってシフトされたエネルギースペクトルを有する電子ビームは通過させないように構成され、それによって、受光した電子ビーム117の非散乱波107を減衰させる、電子エネルギーフィルタ116と、を備える。
ビーム117は、この例ではレンズ103Dによって再結合された散乱波108と非散乱波107とを示すことに留意されたい。
【0043】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置が複数のレーザビームを提供する場合、それらの複合作用は、電子ビームの所定部分のエネルギースペクトルを変化させるように構成される。
【0044】
いくつかの実施形態では、電子ビームの所定部分は、電子ビームの構成要素の所定の割合である。いくつかの実施形態では、電子ビームの構成要素は、
・非散乱電子波、
・散乱電子波、
・散乱電子波群、
・空間フィルタリングによって電子ビームから選択することができる電子波群、及び、
・それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである。
いくつかの実施形態では、所定の割合は、0.01%~1%、1%~10%、10%~50%、50%~90%、90%~99%の間、99%~99.99%、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0045】
いくつかの実施形態では、電子エネルギーフィルタは、シフトされたエネルギースペクトルを有する電子ビームの少なくとも50%、少なくとも90.0%、少なくとも99.0%、または少なくとも99.9%を除去するように構成される。
【0046】
いくつかの実施形態では、TEM101は、撮像される物体または試料105を照射するために電子ビーム104を調整及び方向付けるように構成された複数のレンズ103A~103Dを有し、物体/試料105は、試料ホルダ106によって支持及び/または位置決めされる。いくつかの実施形態では、複数のレンズは、磁気レンズである。
【0047】
図1及び
図2は、照明電子ビーム104と物体または試料105との相互作用により、照明電子ビームの一部が散乱されて複数の散乱波108が形成されるとともに、物体または試料105との相互作用によって散乱されない照明電子ビームの他の部分により非散乱波107が形成されることを示す。
【0048】
図1はさらに、いくつかの実施形態では、非散乱波107が、磁気レンズ103B、103Cによって後焦点面110の中心110Cに集光されることを示す。また、
図1は、散乱波108が、後焦点面110の中心110C以外の場所110Sに集光されることを示す。
【0049】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115は、
・TEM101の後焦点面110の近傍、すなわち、後焦点面110から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置、あるいは、
・後焦点面110と共役な面(共役面)の近傍、すなわち、共役面から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置に配置される。
【0050】
いくつかの実施形態では、レーザ銃(電子銃)によって提供されるレーザビーム114は、連続波レーザビームである。
【0051】
本発明の実施形態は、透過型電子顕微鏡(TEM)用の空間選択的な位相遅延器(レーザ位相板)を連続的に動作させる概念を拡張することにより、電子ビーム用の空間選択的な減衰器が提供されることを示す。
【0052】
いくつかの実施形態では、電子ビーム104のシフトされる所定部分は、電子ビーム104の非散乱電子波107の所定部分である。
【0053】
いくつかの実施形態では、レーザビーム114は、電子ビーム104の一部に対して所定の位相シフトを与えるようにさらに構成されている。いくつかの実施形態では、位相シフトは、非散乱波107の全体に適用/提供される。
【0054】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、レーザベース装置115は、レーザ焦点110Cを形成するとともに、レーザ焦点110Cを、
・TEM101の後焦点面110の近傍、すなわち、後焦点面から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、±0.001mmの範囲の位置、あるいは、
・後焦点面110の共役面の近傍、すなわち、共役面から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置に配置するように構成される。
また、レーザベース装置115は、電子ビーム104の非散乱電子波107がレーザ焦点110Cを通過するように配置される。
【0055】
いくつかの実施形態では、レーザビーム114は、350nm~2000nmの範囲、または、2000nm~15μmの範囲の波長を有するように選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115の材料構造体は、レーザベース装置の物理構造との相互作用による電子ビームのゆがみ、散乱、及び/または位相散逸を避けるために、TEM101の電子ビーム104がレーザベース装置115の任意の材料要素から、少なくとも0.1mm、少なくとも1mm、または少なくとも10mm離れるように構成及び配置される。
【0057】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115及び電子エネルギーフィルタ116は、TEM101内の電子ビーム104を所定のビーム電流まで減衰させるように、及び/または、TEM101内の電子ビーム104を所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される。
【0058】
いくつかの実施形態では、所定のビーム電流減衰係数は、1~3の範囲、3~10の範囲、10~30の範囲、30~100の範囲、100~300の範囲、300~1000の範囲、または、1000以上から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115及び電子エネルギーフィルタ116は、TEM101内の電子ビーム104の非散乱電子波107を所定の振幅まで減衰させるように、及び/または、TEM101内の電子ビーム104の非散乱電子波107を所定の減衰係数だけ減衰させるように構成される。
【0060】
いくつかの実施形態では、所定の振幅減衰係数は、1~3の範囲、3~10の範囲、10~30の範囲、30~100の範囲、100~300の範囲、300~1000の範囲、または、1000以上から選択される。
【0061】
いくつかの実施形態では、所定のビーム電流は、1pA未満、1nA未満、1μA未満、1mA未満、1A未満、少なくとも1pA、少なくとも1nA、少なくとも1μA、少なくとも1mA、または、少なくとも1Aから選択される。
【0062】
いくつかの実施形態では、非散乱波107の所定の振幅は、1pA未満、1nA未満、1μA未満、1mA未満、1A未満、少なくとも1pA、少なくとも1nA、少なくとも1μA、少なくとも1mA、または少なくとも1Aから選択されるビーム電流104に対応する。
【0063】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、TEM101は、TEM101の像平面に配置され、かつ、電子ビーム104を受光するように構成された電子検出器118をさらに含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、レーザベース装置115は、少なくとも1つの光共振器112を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、
・各光共振器112は、2つ以上のミラー112Mを有する。
・各光共振器112は、レーザビーム109が入射/結合するように構成される。
・各光共振器112は、TEM101の後焦点面110の近傍、すなわち、後焦点面110から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置、あるいは、TEM101の後焦点面110と共役な面(共役面)の近傍、すなわち、共役面から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置に配置される。
・各光共振器112は、TEM101によって提供される電子ビーム104を通過させるように構成される。
【0066】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、光共振器112は、その内部のレーザビーム109が、TEM101の後焦点面110の中心110Cの近傍、すなわち、後焦点面110の中心110Cから±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置に焦点を有するようにTEM101内に配置される。
【0067】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115は、互いに異なる波長を有する2つ以上のレーザビーム114を提供するように構成される。
【0068】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、TEM101はレーザポート113を有し、レーザビーム114はレーザポート113を通ってTEM101内に入射し、光共振器112(キャビティ)に誘導または結合される。
【0069】
いくつかの実施形態では、電子ビーム104の非散乱電子波107とレーザビーム114との相互作用により、非散乱波107の一部が、TEM101の電子銃102(電子源)によって提供された元のエネルギーとは異なるエネルギーに変換される。
【0070】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、レーザビーム114との相互作用の後、非散乱波111は、電子銃102によって提供された元のエネルギーを有する非散乱波107の部分と、元のエネルギーとは異なるエネルギーに変換された部分とを含む。その後、散乱波108と非散乱波111の両方は、電子エネルギーフィルタ116に導かれる。電子エネルギーフィルタ116は、非散乱波111のエネルギーシフトした部分を除去し、非散乱波111を減衰させるように構成されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、TEM101の電子銃102によって電子ビーム104に提供されるエネルギーは、10keV~500keVの範囲に選択される。
【0072】
いくつかの実施形態では、
図1に示すように、散乱波108及び減衰非散乱波107は、その後、TEM101によって再結合され、試料/物体の画像を形成する再結合ビームは、その後、電子検出器118に導かれる。
【0073】
いくつかの実施形態では、
図4(A)及び(B)に示すように、少なくとも1つの光共振器400は、非球面ミラー430を有する非球面略同心型共振器である。
【0074】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置115によって提供されるレーザビーム114は、非単色レーザビームである。いくつかの実施形態では、非単色レーザビームは、互いに異なる波長を有する2つ以上のレーザビームを1つの光共振器に結合する構成によって提供される。いくつかの他の実施形態では、非単色レーザビームは、焦点が互いに重なる2つ以上の光共振器の構造によって提供される。
【0075】
いくつかの実施形態では、
・光共振器535が、TEM560の光軸に対して傾斜しているか(
図5(B)参照)、
・光共振器の光軸がTEMの光軸に対して傾斜しているか、または、
・光共振器内のレーザビーム伝搬方向がTEMの光軸に対して傾斜している。
【0076】
図3(A)は、本発明のいくつかの実施形態による、球面形状の表面を持つ2つの球面ミラー330を有する略同心型共振器300の概略図である。この例では、2つの球面ミラー330は、互いに同一の曲率半径の表面を有する。この例では、光共振器300の略同心状の構成は、2つの球面ミラー330の各表面が、球面ミラー330の表面の曲率半径と同一の曲率半径を有する仮想球体310の表面上に位置するように、2つの球面ミラー330を配置することにより達成される。光共振器300は、球面ミラー330の各表面が仮想球体310の内側に位置しているときにのみ安定することに留意されたい。
【0077】
図3Bは、
図3Aに示したのと同一の略同心型共振器300の概略図であるが、本発明のいくつかの実施形態では、光共振器300の内部にレーザビーム350が示されている。
【0078】
図4(A)は、本発明のいくつかの実施形態による、非球面略同心型共振器400の概略図である。非球面略同心型共振器400は、非球面形状の表面を持つ非球面ミラー430を有するという点で、
図3(A)に示した従来の略同心型共振器とは異なる。図示の例では、2つの非球面ミラー430は、互いに同一の形状を有する。この例では、光共振器400の略同心状の構成は、2つの非球面ミラー430の略球形の各表面の中心部分が、非球面ミラー430の表面の中心部分の曲率半径と同一の曲率半径を有する仮想球体410の表面上に位置するように、2つの非球面ミラー430を配置することにより達成される。
【0079】
図4(B)は、
図4(A)に示したのと同一の非球面略同心型共振器400の概略図であるが、本発明のいくつかの実施形態では、光共振器400の内部にレーザビーム450が示されている。非球面略同心型共振器400の主な利点は、球面ミラーを有する従来の略同心型共振器よりも高い開口数を達成できること、またその結果、より小さな焦点サイズを達成できることである。
【0080】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態によるシステムの一部の概略図であり、TEM500の光軸560に対して直交する光共振器530を示す。この実施例では、光共振器530は、TEM500の対物レンズ510の後焦点面(細い破線で示す)に配置されている。対物レンズ510は、上側ポールピース510及び下側ポールピース520を含む。また、TEM500の光軸560と後焦点面との交点に焦点を有する、光共振器530内のレーザビーム550も示されている。
【0081】
図5Bは本発明のいくつかの実施形態によるシステムの一部の概略図である。
図5Bに示すシステムは、
図5Aに示したシステムに類似しているが、光共振器535がTEM500の光軸560に対して所定の角度だけ傾斜している点が異なる。したがって、この例では、光共振器535内のレーザビーム555は、TEM500の光軸560に対して所定の角度をなして交差する。
【0082】
図6は、本発明のいくつかの実施形態による、対物レンズの後焦点面に光共振器612を有するTEMシステム600を示す。光共振器612は、非散乱電子波のエネルギーを部分的にシフトするように構成される。電子エネルギーフィルタ616は、エネルギーがシフトされた非散乱波の成分を除去するように構成される。いくつかの実施形態では、元のエネルギーにおける非散乱波の残りの成分は、散乱波と干渉して、最適化されたコントラストを有する電子検出器618内の画像を形成する。
【0083】
図7は、本発明のいくつかの実施形態による二色性光共振器の概略図である。この二色性光共振器は、互いに異なる周波数を有する2つのレーザビームが、光共振器内を循環し、4つの光格子(2つの定在波と2つの伝搬波)を形成する。
図7では、1つの光格子のみが示されており、伝搬方向は赤色の矢印で示されている。光共振器の焦点を横切って伝搬する電子ビームは、その速度が次の条件を満たせば、効率的に時間的に変調される。
【0084】
【0085】
上記の式中、
【0086】
【0087】
は光格子の速度、velectronは電子の速度、θは両者間の角度、ω1及びω2は光共振器に結合された2つのレーザビームの周波数である。
【0088】
電子と、傾斜した二色性光共振器との相互作用は、相互作用前の滑らかなガウス様波束から相互作用領域の下流の振動波形への、波束形状の変化によって説明される。振動波形は、異なるエネルギーを有する電子ビームの成分の干渉によって発生する。
【0089】
図8(A)~(D)は、本発明のいくつかの実施形態による、光共振器内の2周波数レーザビームと相互作用する前後の電子波の時間プロファイル(
図8(A)及び(B))及びエネルギースペクトル(
図8(C)及び(D))を示す概略図である。図示のように、相互作用後は、電子の波動関数の時間プロファイルは、異なるエネルギー成分の干渉を示し、電子のエネルギースペクトルは、サイドバンドが発生する(
図8(B)及び(D)参照)。いくつかの実施形態では、電子波は、元のエネルギーに残っている電子のみを(例えばポストカラム分光計を使用して)スペクトル的に選択することによって減衰させることができる。エネルギーフィルタによって選択されたエネルギーの範囲は、
図8(C)及び(D)において丸(破線)で囲まれている。
【0090】
いくつかの実施形態では、本システムは、クライオ電子顕微鏡の低コントラストの問題を解決するように構成された、位相シフトと非散乱波の減衰とを同時に達成するレーザ装置を備える。このような実施形態により、透過電子顕微鏡におけるゼルニケ位相コントラストを実現することができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、連続自由空間電子ビームにおけるポンデロモーティブ位相操作の技術は、電子波の光学的に制御された偏向、時間的変調、及び減衰を可能にするように拡張される。実験的な実現には、試料面の前後で電子波を操作するために共振器増強レーザビームを配置した、カスタマイズされたTEMが含まれる。
【0092】
いくつかの実施形態では、TEMは、試料ホルダ及び汚染防止装置(クライオボックス)の挿入を可能にするためにレーザ装置間に十分なスペースを有して、対物レンズの後焦点面またはその共役面における強化光共振器の動作を可能にするように構成される。TEMは、TEMの動作を可能にしながら、光共振器に十分なスペースを提供するためにカスタマイズすることができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、CWレーザ(連続波レーザ)に基づく本発明の実現のユニークな側面は、自由空間における連続電子ビームのポンデロモーティブ操作を可能にすることである。いくつかの実施形態では、連続的な操作モードは、電界放出型電子銃(FEG)によってもたらされる高コヒーレンス及び高平均ビーム電流の恩恵を受けるように構成される。同時に、自由空間における電子とレーザとの相互作用により、電子ビームを、デフェージングや散乱を引き起こす可能性がある材料表面から遠ざけることができる。いくつかの実施形態では、これらの2つの因子の組み合わせは、電子ビームの原子分解能イメージング及びオングストロームスケール集束の能力を損なうことなく、最先端のTEMでのレーザ操作を可能にするように構成される。
【0094】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置は、1012W/cm2のオーダーの焦点レーザ強度に達することができる2つの略同心型共振器を含む。いくつかの実施形態では、光共振器は、例えば、1064nm及び532nmの2つの波長をサポートし、入力ビーム(レーザビーム)は、例えば、1064nmビームと周波数倍増ビームとを提供するファイバレーザシステムなどの二重出力CW(連続波)レーザシステムによって提供される。いくつかの実施形態では、レーザシステム及びロッキングエレクトロニクスは、既存のレーザ共振器周波数ロッキング技術に基づいてモデル化される。いくつかの実施形態では、光共振器は、試料との相互作用の前後に、それぞれ、電子位相操作のための対物レンズの後焦点面への光共振器の配置を可能にする微小位置決めシステムを備えている。また、いくつかの実施形態では、サスペンションシステム(微小位置決めシステム)は、TEM光軸に対する光共振器の向きの調整、及び、電子と二色性光共振器内を移動する光格子との間の速度整合を可能にするように構成される。
【0095】
いくつかの実施形態では、2つの単色レーザビームで励起された光共振器内の時間依存ポンデロモーティブ電位を用いて、空間的に選択的な方法で、電子ビームにエネルギーシフトを与えることができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、効率的な変調のためには、電子の速度を、周波数が互いに異なる一対の対向伝搬波によって形成される移動光格子に一致させる必要がある。例えば、1064nm及び532nmの波長(これらの波長では、高出力CWレーザ及び光共振器ミラーコーティングが容易に入手可能である)を用いる場合、光共振器はビーム方向に対して、次の条件を満たす角度だけ傾ける必要がある。
【0097】
【0098】
上記の式中、
【0099】
【0100】
は光格子の速度、velectronは電子の速度、θは両者間の角度、ω1及びω2は光共振器に結合された2つのレーザビームの周波数である。あるいは、いくつかの実施形態では、適切な角度の一対の単色光共振器を使用することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、レーザビームの焦点は、TEMの後焦点面の中心に配置され、これにより、レーザビームとの相互作用が、焦点の大きさ及び対物レンズの焦点距離によって決定されるカットオン空間周波数まで、非散乱波及び画像を含む最も低い空間周波数のみに対して影響を与えるようにする。
【0102】
いくつかの実施形態では、減衰は、2つの周波数におけるレーザビームの入力パワーまたは偏光を調整することによって、非散乱波の最適な位相シフトと組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、2つの電場の積が時間変調の深さを決定し、2つの強度の和が元のエネルギーにおける非散乱波成分の位相シフトを決定する。したがって、いくつかの実施形態では、光学顕微鏡におけるゼルニケプレートと極めて類似して、単一の二色性光共振器は、非散乱ビームの位相調整器及び減衰器の役割を果たす。
【0103】
いくつかの実施形態では、非散乱波の振幅をエネルギーサイドバンドに完全にシフトさせて非散乱波を完全に抑制することにより、暗視野顕微鏡が得られる。いくつかの実施形態では、この場合、画像は、散乱波と基準波(非散乱波)との干渉の結果として形成されず、その代わりに、画像平面内の各点に到達する散乱電子波のビーム電流密度に比例する。いくつかの実施形態では、理想的な場合には、暗視野顕微鏡はショットノイズの観点から位相コントラストイメージングと同等であるが、暗視野探索は、例えば、このイメージングモダリティが焦点ずれに対する感受性が低く、焦点の近くで動作することをより実用的にすることができるという事実によって動機付けられる。
【0104】
低コントラスト(または高バックグラウンド)の実用上の悪影響の1つは、TEMの電子検出器によって収集される電子のほとんどがバックグラウンド電子であるため、電子検出器は有用な画像を得るために多くの電子を処理する必要があることである。逆に、画像コントラストを高めることの利点は、同じ量の有用な情報をより少ない電子で伝達できることである。代表的な電子検出技術は直接電子カメラであり、これは、電子カウント方式で動作し、単位時間当たりに処理できる電子の数が限られている。多くのクライオ電子顕微鏡センター及び施設は、スループットを最大化すること、及び、時間の非効率性とオーバーヘッドを排除することに取り組んでいるため、画像取得時間は根本的なボトルネックとなる。いくつかの実施形態では、より高いコントラストを有するイメージングシステムは、1桁以上の画像取得の高速化を可能にするように構成される。
【0105】
また、いくつかの実施形態では、このようなスループットの増加は、高倍率(これは、有効画素サイズの縮小を意味する)で画像データを収集するために使用することができる。クライオ電子顕微鏡における画素サイズの縮小は、高い空間周波数での変調伝達関数の増加をもたらし、その結果、信号対雑音比が改善され、データ品質が向上する。通常、ピクセルサイズを小さくすると、キャプチャされる視野はより小さくなるため、TEMのスループットの低下という代償を伴う。けれども、TEMのスループットの低下は、画像コントラストの増加によって可能になるデータ取得速度の増加によって十分に補うことができる。
【0106】
本開示の主題の実施形態は、とりわけ、電子エネルギーフィルタと組み合わせて、TEM用の電子波減衰器を提供するように構成されたレーザベース装置に関する。
【0107】
いくつかの実施形態では、レーザ装置は、電子波の一部を異なるエネルギーに変化させる。したがって、シフトされたエネルギーを有する電子波の部分は、エネルギーフィルタによって除去される。
【0108】
上記の実施形態のいくつかでは、新規な減衰器は、
・電子の散乱(弾性及び/または非弾性)が無視できるほど小さい;
・電子ビームによる帯電及び/または損傷を受けにくい;
・情報伝達散乱波を減衰させることなく、非散乱波を減衰させるのに十分な空間選択性を有する(すなわち、減衰器が低カットオン周波数を有する);
・減衰レベルを制御可能(調整可能)である;
・レーザ位相板との互換性を有する、または減衰に加えてレーザ位相板として機能する。本装置は、最適な位相シフト及び最適な減衰を非散乱波に同時に適用することができる;
・暗視野イメージングのために、非散乱波をゼロ振幅(無視できる残留振幅)まで減衰させることができる;
・TEMの後付けまたは軽微な改変により、広く使用されているTEMモデルとの互換性がある;
・CTFにおける収差の増加や他の有害な特徴などの、イメージングシステムに対する悪影響が無視できるほど小さい;
・最小限の入力レーザパワーを必要とする;または、
・それらの任意の組み合わせを提供するように構成される。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のためのシステムが提供される。
本システムは、
・後焦点面を有する透過型電子顕微鏡(TEM)と、
・電子波の連続的に調整可能な減衰を提供するように構成された1つ以上の光共振器(すなわち、光キャビティ)であって、各光共振器は2つ以上のミラーを有し、各光共振器の焦点は、TEMの後焦点面(またはその共役面)に配置され、各光共振器は、TEMによって提供される非散乱波が光共振器の焦点を通過するように配置され、かつ、各光共振器は、レーザビームを入射させるように動作する、該光共振器と、
・光共振器に結合され、所定の波長のレーザビームを光共振器に入射させるように動作するレーザと、
・TEMの像平面に配置され、電子ビームを受光するように構成された電子検出器であって、非散乱波はレーザビームによって位相シフト及び/または減衰される、該電子検出器と、を備える。
【0110】
いくつかの実施形態では、例えば
図3(A)及び(B)、
図4(A)及び(B)、
図5A、
図5B、及び
図6に示すように、新規な本システム600は、以下のうちの1つ以上をさらに備える。
【0111】
新しいタイプの光共振器:光共振器内の焦点450をより小さくすることができるように構成された非球面略同心型共振器400。球面略同心型共振器と非球面略同心型共振器との比較は、
図3(A)及び(B)と
図4(A)及び(B)に示されている。いくつかの実施形態では、小さな焦点サイズは、電子ビームの特定の部分に対処する能力を高めるように構成される。
【0112】
電子ビーム560との空間的に選択的な相互作用を可能にするように構成された、1つ以上の光共振器530、535を用いて形成されたレーザビームの構成。いくつかの実施形態では、レーザビームは、非散乱波をエネルギーシフト及び/または運動量シフトを与えるように構成されている。より具体的には、いくつかの実施形態では、レーザビームは、非散乱電子波を、元のエネルギー及び運動量の振幅の小さい電子波と、異なるエネルギー及び/または運動量の複数の電子波とのコヒーレント重ね合わせに変換する。
【0113】
いくつかの実施形態では、本開示のシステムは、レーザビームとの相互作用の結果として運動量がシフトした非散乱波の部分を除去(排除)するように構成されたアパーチャを備える。
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示のシステムは、例えば、非弾性的に散乱された電子を除去するためにTEMで通常使用されるタイプの電子エネルギーフィルタ616を備える。いくつかの実施形態では、電子エネルギーフィルタ616は、レーザビームによって異なるエネルギーにシフトされた非散乱波の成分を除去する。
【0115】
いくつかの実施形態では、透過型電子顕微鏡(TEM)600は、対物レンズの後焦点面またはその共役面内またはその近傍にレーザ装置を一体化させることができるように特別に構成される。いくつかの実施形態では、
透過型電子顕微鏡(TEM)600は、
・対物レンズ510、520であって、下側ポールピース520の頂部の上方に少なくとも所定の距離を隔てて位置する後焦点面を有し、その後焦点面にレーザ装置を配置することができるように構成された、あるいは、いくつかの他の実施形態では、下側ポールピースの頂部の下方に少なくとも所定の距離を隔てて位置する後焦点面を有し、その後焦点面にレーザ装置を配置することができるように構成された機械的特徴(例えば、アパーチャ)を有する、該対物レンズ510、520と、
・レーザ装置の設置に適した倍率での、後焦点面に共役な顕微鏡内の面へのアクセスと、
・レーザ装置のための十分なスペースを確保するように構成された形状及び配置を有する汚染防止装置(例えば、クライオボックス)と、
・レーザ装置を挿入するための、あるいは、レーザ装置にレーザビーム、光ファイバ、または電気ケーブルを結合するためのポートと、を有する。
【0116】
本発明のいくつかの実施形態では、略同心型共振器を用いることにより、小さなモードウエスト(mode waist)に到達することが可能であるが、その製造公差に対する要件は、数マイクロメートルのモードサイズでは実用的ではない。いくつかの実施形態では、球面形状からの小さなずれ(非球面性)は、より安定したモード挙動をもたらし、これにより、従来の(球面形状の)略同心型共振器と比較して、実質的に小さいモードウエストを現在の技術で達成することができる。いくつかの実施形態では、所望の非球面性は回転対称であり、正の4次項を有する。いくつかの実施形態では、非回転対称面を使用することもでき、その場合、モードウエストは2つの横方向のうちの一方のみで狭くなる。
【0117】
必要な高曲率、低粗度、及び適切な非球面形状を有するミラー基板を製造(研磨)することは困難であるが、いくつかの実施形態では、球面状凹面基板を製造する技術を用いて、研磨された基板上に所望の非球面形状を形成することができる。例えば、次の方法が挙げられる。
・まず、圧縮リングまたは弾性変形を誘導するために他の方法によって発生させた応力を基板に加えながら、基板を研磨する。
・研磨後、弾性変形を緩和することにより、所望の非球面形状が得られる。
・サファイアなどの異方性熱膨張テンソルを有する材料からなる基板を、使用温度とは異なる温度で研磨する。異方性熱膨張は非球面性を誘起する。
・操作中に機械的または熱的に誘起された応力場を印加する。
・インプリント時に機械的または熱的に誘起された応力を加えることによって、所望の形状に成形された球面をインプリントすることにより、ミラー基板を製造する。
【0118】
いくつかの実施形態では、レーザ装置は、2つ以上の波長のビームを含む非単色光を生成することができる。いくつかの実施形態では、非単色レーザビームは、時間依存ポンデロモーティブ電位を生成する。いくつかの実施形態では、ポンデロモーティブ電位は、非散乱波中の電子の速度に一致する速度を有するフリンジ(光格子)の移動系を形成することができる。ポンデロモーティブ電位による非散乱波の伝播中の強化された相互作用は、元のエネルギーまたは運動量を有する非散乱波の振幅を効率的に減衰(枯渇)させる一方で、アパーチャまたは電子エネルギーフィルタによって除去することができる異なるエネルギーまたは運動量を有する複数の電子波を生成する。
【0119】
いくつかの実施形態では、レーザビームの所望の構成は、2つ以上の異なる波長のレーザビームを1つの光共振器に結合することによって形成され、光共振器は両波長をサポートするように設計される。あるいは、いくつかの実施形態では、2つ以上の光共振器を使用することができ、各光共振器に単色光または多色光が結合される。いくつかの実施形態では、非散乱体に与えられるエネルギーシフトがエネルギー分光器の分解能または電子銃のエネルギー拡散よりも大きくなるように、波長の差は十分である必要がある。いくつかの実施形態では、光共振器を傾斜させることにより、レーザ減衰器の機能に必要な電界構成を形成することができる。
【0120】
例示的な一実施形態では、レーザ装置は、シードレーザとファイバ増幅器とを含み、波長1064nmのレーザビームと波長532nmの周波数倍増ビームとを提供する。これらのレーザビームは、300keVの加速電圧で動作するTEMの後焦点面に配置された光共振器に結合される。光共振器は、その焦点(レーザビームの最大が強度となる位置)が、光軸とTEMの後焦点面との交点に位置するように配置される。光共振器は、その光軸に対して約65°の角度で傾けられ、これにより、電子と、光共振器内に生成される移動するレーザ格子のうちの1つとの速度整合が可能となる。レーザビームと電子との相互作用により、非散乱電子ビームは、TEM内の電子の元のエネルギーとは異なるエネルギーに部分的に変換され、エネルギーサイドバンドを生成する。エネルギーサイドバンドは、使用される2つの波長に対応する光子エネルギーの差(及びそのエネルギー差の倍数)だけ元のエネルギーから分離される。532nm及び1064nmの場合、両波長間の光子エネルギー差は1.17eVであった。これに対応して、サイドバンドは、±1.17eV、±2.33eVだけ元のエネルギーから分離される。TEMのエネルギーフィルタは、サイドバンド分離が、電子源によって提供されるエネルギー分布の幅と組み合わせた、エネルギーフィルタの分解能より大きい場合、サイドバンドに伝達される非散乱波の部分を除去することができる。この実施例では、1eVのスペクトル幅に対応するエネルギーフィルタのスリット幅は、元のエネルギーに残る非散乱波の部分の全部または大部分を許容しながら、サイドバンドを抑制するのに有効である。
【0121】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置は、光波の双方向伝搬をサポートする1つまたは複数の光共振器(これらは定在波光共振器とも呼ばれる)を含む。また、いくつかの実施形態では、レーザベース装置は、光波の一方向伝搬をサポートする1つまたは複数の光共振器(これらは、走行波光共振器またはリング光共振器とも呼ばれる)を含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、レーザ減衰器は、時間依存ポンデロモーティブ電位の平均が非散乱波の最適位相シフトを与えるように調整された場構成を形成することによって、位相板の機能性を実現するように構成される。
【0123】
いくつかの実施形態では、光共振器の使用は、入力レーザパワーを最小化するように構成される。だけども、いくつかの実施形態では、高出力レーザビーム(2つ以上の波長の光を含む)が利用可能な場合(例えば、パルス構成では)、それを用いて適切なレーザビーム構成を形成することもできる。
【0124】
いくつかの実施形態では、これらの開発は、構造生物学における重要な方法として、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)に対して、直ちに影響を与えることができる。クライオ電子顕微鏡の試料は、弱位相物体である傾向があるため、位相遅延及び非散乱電子波減衰を必要とするゼルニケ位相コントラスト法を用いて観測するのが最良である。位相遅延により、本発明のいくつかの実施形態は、非散乱波の減衰を調整することによって、干渉測定TEMにおける画像コントラストを向上させることができる。いくつかの実施形態では、非散乱波を完全に除去するレジームが示され、これにより、暗視野イメージングが可能になる。
【0125】
いくつかの実施形態では、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための方法であって、上記及び下記のシステム100の実施形態のいずれか1つによるシステム100を提供するステップと、レーザベース装置及びエネルギーフィルタにより、TEM内の非散乱電子波107を所定の振幅まで減衰させる、及び/または、非散乱電子波107を所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む方法が提供される。
【0126】
いくつかの実施形態では、
図9に示すように、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための新規なシステム900であって、
・電子ビーム104を提供するように構成された電子銃102(電子源)を含む透過型電子顕微鏡(TEM)101と、
・少なくとも1つのレーザビーム914を提供するように構成された少なくとも1つのレーザベース装置915であって、レーザビームは、電子ビームの所定部分を、TEM101によって電子ビームの部分に提供された元の運動量とは異なる運動量にシフトさせる(図示は、非散乱ビーム107の部分911へのシフト)ように構成されたレーザベース装置915と、
・TEMによって提供される元の運動量を有する電子ビームは通過させるが、レーザベース装置によって異なる運動量にシフトされた電子ビームは通過させないように構成されたアパーチャ916と、を備える、システムが提供される。
【0127】
いくつかの実施形態では、アパーチャ916は、レーザベース装置によって異なる運動量にシフトされた電子ビームを吸収により除去する。
【0128】
いくつかの実施形態では、所定部分は、電子ビームの構成要素の所定の割合であり、いくつかの実施形態では、電子ビームの構成要素は、
・非散乱電子波、
・散乱電子波、
・散乱電子波群、
・空間フィルタリングによって電子ビームから選択することができる電子波群、及び
・それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである。
いくつかの実施形態では、所定の割合は、0.01%~1%、1%~10%、10%~50%、50%~90%、90%~99%の間、99%~99.99%、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0129】
いくつかの実施形態では、アパーチャ916は、レーザベース装置によって異なる運動量にシフトされた電子ビームの少なくとも50%、少なくとも90%、または少なくとも99%を除去するように構成される。
【0130】
いくつかの実施形態では、レーザベース装置915は、
・TEM101の後焦点面110の近傍、すなわち、後焦点面110から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置、あるいは、
・後焦点面110と共役な面(共役面)の近傍、すなわち、共役面から±1mm、±0.1mm、±0.01mm、または±0.001mmの範囲の位置に配置される。
【0131】
いくつかの実施形態では、電子ビームの所定部分は、電子ビーム104の非散乱電子波107の所定部分である。
【0132】
図9に示すように、非散乱ビーム107のシフトされた部分は911で示され、散乱波108及び非シフト非散乱波107は、この例ではレンズ103Dにより再結合される(917)。
【0133】
また、本開示によれば、電子ビームイメージングまたは電子ビーム分光のための方法であって、
・上記のシステム900の実施形態のいずれか1つによるシステム900を提供するステップと、
・レーザベース装置及びアパーチャにより、TEM内の非散乱電子波107を所定の振幅に減衰させる、及び/または、非散乱電子波107を所定の減衰係数だけ減衰させるステップと、を含む方法が提供される。
【0134】
別々の実施形態に記載された特徴の組み合わせから形成される実施形態も、本開示の主題の範囲内であることを理解されたい。
【0135】
本明細書では、本開示の主題の特定の特徴を図示し、説明したが、必要な変更を加えて、様々な改変、置換、及び均等物が本開示の範囲に含まれる。
【国際調査報告】