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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】シリンダブロックを有する内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20241016BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F02F1/14
F01P3/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523977
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2022079358
(87)【国際公開番号】W WO2023067131
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】A50839/2021
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597083976
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS-LIST-PLATZ 1,A-8020 GRAZ,AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ザントナー,ローランド
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA36
3G024AA38
3G024AA40
3G024CA05
3G024FA14
(57)【要約】
本発明は、冷却液ジャケット(20)が設けられたシリンダブロック(12)を有する内燃機関(10)に関し、冷却液ジャケットは、シリンダヘッドシール面(17)とクランク室(160)との間に配置された、隣接して配置された少なくとも二つのシリンダ(13)を含むシリンダシステム(130)を少なくとも部分的に包囲し、仕切り(3)によってクランク室から遠い第一のジャケット部(21)とクランク室に近い第二のジャケット部(22)とに分割されており、仕切り(3)は、少なくとも部分的に少なくとも一つのシリンダ(13)の円周に沿って延伸する、冷却液ジャケット(20)内に嵌設されている嵌め込みエレメント(30)の間仕切り壁(31)によって形成され、嵌め込みエレメント(30)は、シリンダヘッドシール面(17)に隣接するシリンダブロック(12)のカバープレート(122)の領域に配置されている、嵌め込みエレメント(30)のシリンダヘッド側の端部(301)と間仕切り壁(31)との間においてシリンダ(13)に対して実質的に平行に延伸する、少なくとも一つの保持壁(32)を有する。少ない製造の手間で良好な冷却を可能にするために、嵌め込みエレメント(30)は、カバープレート(122)の領域において少なくとも一つの、好ましくは少なくとも二つの保持壁(32)に形成された止めピン(33)を有し、止めピンは、止めピン(33)と相反的に形成されたシリンダブロック(12)の収容ポケット(123)に載置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液ジャケット(20)が設けられたシリンダブロック(12)を有する内燃機関(10)であって、前記冷却液ジャケット(20)は、シリンダヘッドシール面(17)とクランク室(160)との間に配置された、隣接して配置された少なくとも二つのシリンダ(13)を含むシリンダシステム(130)を少なくとも部分的に包囲し、仕切り(3)によってクランク室から遠い第一のジャケット部(21)とクランク室に近い第二のジャケット部(22)とに分割されており、前記仕切り(3)は、少なくとも部分的に少なくとも一つの前記シリンダ(13)の円周に沿って延伸する、前記冷却液ジャケット(20)内に嵌設されている嵌め込みエレメント(30)の間仕切り壁(31)によって形成され、前記嵌め込みエレメント(30)は、前記シリンダヘッドシール面(17)に隣接する前記シリンダブロック(12)のカバープレート(122)の領域に配置されている、前記嵌め込みエレメント(30)のシリンダヘッド側の端部(301)と前記間仕切り壁(31)との間において前記シリンダ(13)に対して実質的に平行に延伸する、少なくとも一つの保持壁(32)を有する内燃機関において、前記嵌め込みエレメント(30)は、前記カバープレート(122)の領域において少なくとも一つの、好ましくは少なくとも二つの前記保持壁(32)に形成された止めピン(33)を有し、止めピンは、前記止めピン(33)と相反的に形成された前記シリンダブロック(12)の収容ポケット(123)に載置されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
少なくとも一つの止めピン(33)は、前記保持壁(32)から半径方向外側に突出するように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関(10)。
【請求項3】
少なくとも一つの収容ポケット(123)は、前記シリンダブロック(12)の前記カバープレート(122)内に形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関(10)。
【請求項4】
前記間仕切り壁(31)は、鋸歯状に形成されており、前記間仕切り壁(31)は、好ましくは前記第一のジャケット部(21)側へ凹状に湾曲していることを特徴とする、請求項1から3のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項5】
少なくとも一つの流入領域(211)に対して前記第一のジャケット部(21)に前記シリンダブロック(2)の少なくとも一つの冷却液入口(124)がつながり、前記保持壁(32)は、好ましくは前記流入領域(221)において少なくとも一つの凹部(321)を有することを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項6】
前記流入領域(211)は、少なくとも一つの止めピン(33)を通る、シリンダ(13)のシリンダ軸(13a)への法平面(13b)と前記間仕切り壁(31)との間において前記第一のジャケット部(21)に配置されていることを特徴とする、請求項5に記載の内燃機関(10)。
【請求項7】
前記第二のジャケット部(22)から少なくとも一つの流出領域(221)において前記シリンダブロック(12)の少なくとも一つの冷却液出口(125)が外に伸びていることを特徴とする、請求項1から6のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項8】
前記第一のジャケット部(21)と前記第二のジャケット部(22)とは、少なくとも一つの冷却液合流部(36)を介して互いに流体連通されており、少なくとも一つの冷却液合流部(36)は、好ましくは前記間仕切り壁(31)における少なくとも一つのオーバーフロー開口部によって形成されることを特徴とする、請求項1から7のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項9】
前記少なくとも一つの冷却液合流部(36)は、少なくとも一つのオーバーフロー流路(362)によって隣接する二つのシリンダ(13)の間に形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の内燃機関(10)。
【請求項10】
前記シリンダブロック(12)を上から見た場合少なくとも一つの流入領域(211)と少なくとも一つの流出領域(221)とは、互いに離間しており、好ましくは少なくとも一つの流入領域(211)が第一のシリンダ(13)の領域に、また少なくとも一つの流出領域(221)が別の、好ましくは最終のシリンダ(13)の領域に配置されていることを特徴とする、請求項1から9のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項11】
少なくとも一つの流入領域(211)と少なくとも一つの流出領域(221)とは、前記シリンダブロック(12)の同一の長手方向側面(19)に配置されていることを特徴とする、請求項10に記載の内燃機関(10)。
【請求項12】
前記第一のジャケット部(21)および/または前記第二のジャケット部(22)において円周に沿って少なくとも一つの絞りまたはブロック要素(34、35)が設けられ、前記絞りまたはブロック要素(34、35)は、一つのジャケット部(21、22)の二つの領域を互いに分離することを特徴とする、請求項1から11のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項13】
前記第一のジャケット部(21)において第一の絞りまたはブロック要素(211)が配置されており、前記冷却液入口(124)は、冷却液合流部(36)とは反対方向に向く前記第一の絞りまたはブロック要素(34)の第一の面(341)において前記第一のジャケット部(21)につながり、前記冷却液入口(124)は、好ましくは前記第一の絞りまたはブロック要素(34)に隣接して前記第一の絞りまたはブロック要素(34)の前記第一の面(341)において配置されていることを特徴とする、請求項5から12のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項14】
前記第一の絞りまたはブロック要素(34)は、半径方向内側に突出する、前記嵌め込みエレメント(30)の前記保持壁(32)の好ましくはバー状である第一の成形部より形成されることを特徴とする、請求項13に記載の内燃機関(10)。
【請求項15】
前記第二のジャケット部(22)において第二の絞りまたはブロック要素(35)が配置され、前記冷却液出口(125)は、前記冷却液合流部(36)とは反対方向に向く前記第二の絞りまたはブロック要素(35)の第一の面(351)において前記第二のジャケット部(22)から外に延びて、好ましくは前記冷却液出口(125)が前記第二の絞りまたはブロック要素(35)の前記第一の面(351)において前記絞りまたはブロック要素(35)に隣接して配置されていることを特徴とする、請求項5から14のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項16】
前記第二の絞りまたはブロック要素(35)は、好ましくはシリンダ軸(13a)に対して平行に、前記第二のジャケット部(22)に延伸する、前記嵌め込みエレメント(30)の前記保持壁(31)の好ましくはバー状である第二の成形部より形成されることを特徴とする、請求項15に記載の内燃機関(10)。
【請求項17】
前記嵌め込みエレメント(30)は、以下の特性のうち少なくとも一つを有する材料から製造されることを特徴とする、請求項1から16のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10):非金属材料、前記第一のジャケット部(21)を記第二のジャケット部(11)から熱的に断熱する絶縁効果を有する材料、または、特にばね鋼、プラスチック、もしくは複合材料である、弾性材料。
【請求項18】
前記間仕切り壁(31)の少なくとも一つのシール縁(313)は、シリンダ軸(13a)への法平面(13b)において配置されていることを特徴とする、請求項1から17のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【請求項19】
前記冷却液ジャケット(20)は、シリンダヘッド側に対して開口した形状を有するように形成されていることを特徴とする、請求項1から18のうちいずれか一つに記載の内燃機関(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液ジャケットが設けられたシリンダブロックを有する内燃機関に関し、冷却液ジャケットは、シリンダヘッドシール面とクランク室との間に配置された、隣接して配置された少なくとも二つのシリンダを含むシリンダシステムを少なくとも部分的に包囲し、仕切りによってクランク室から遠い第一のジャケット部とクランク室に近い第二のジャケット部とに分割されており、仕切りは、少なくとも部分的に少なくとも一つのシリンダの円周に沿って延伸する、冷却液ジャケット内に嵌設されている嵌め込みエレメントの間仕切り壁によって形成され、嵌め込みエレメントは、シリンダヘッドシール面に隣接するシリンダブロックのカバープレートの領域に配置されている、嵌め込みエレメントのシリンダヘッド側の端部と間仕切り壁との間においてシリンダに対して実質的に平行に延伸する、少なくとも一つの保持壁を有する。
【背景技術】
【0002】
従来技術より稼働中に内燃機関におけるシリンダシステムを効率的に冷却するための様々な解決策が公知である。
【0003】
例えば、独国特許第3310957号明細書は、ウォータージャケットを有するシリンダブロックを開示しており、間仕切り壁がウォータージャケットを上部のボア部と下部のボア部とに分割する。間仕切り壁は、連続的に上昇して(すなわち、シリンダヘッドシール面に対して斜めに延び)開口部を有し、開口部を介して上部のボア部と下部のボア部とが連結されている。このように形成された間仕切り壁をウォータージャケット内に製造することは、手間を要して高価である。上部と下部のボア部との連結により制御されない流れの合流が生じて内燃機関の最適で空間的要件に対して適合された冷却を妨げる。
【0004】
オーストリア国実用新案第15665号明細書は、シリンダシステムの周囲における冷却液ジャケットを有する内燃機関のための冷却構造を開示しており、冷却液ジャケットは、仕切りによって上部のジャケット部と下部のジャケット部とに分割されている。仕切りは、平らな嵌め込みエレメントによって形成されており、嵌め込みエレメントは、冷却液ジャケット内に嵌設されており、下部および上部のジャケット部との間における周囲を囲む突部の上に載置されている。冷却液ジャケットの下部および上部のジャケット部の間における類似した仕切りは、特表平11―294254号公報より公知である。
【0005】
オーストリア国特許発明第521945号明細書は、シリンダハウジングにおける冷却液ジャケットを有する内燃機関を開示しており、冷却液ジャケットは、鋸歯状の嵌め込みエレメントによって第一および第二のジャケット部に分割されている。
【0006】
独国特許出願公開第102015200811号明細書は、シリンダブロックのウォータージャケット内に挿入されるウォータージャケット中間片を開示している。ウォータージャケット中間片を用いてウォータージャケット内における冷却水の流量を調整することが可能である。ウォータージャケット中間片は、中間片本体と、中間片本体の一面に設けられたポケット状の修正装置とを有する。修正装置は、冷却水入口連結部よりも低い位置にある。
【0007】
独国特許出願公開第102018118804号明細書にはシリンダブロックのウォータージャケットのための嵌め込み部分を有する内燃機関が開示されており、嵌め込み部分は、上部の流路と下部の流路とを互いに分離する段差部を有する。
【0008】
欧州特許出願公開第3822473号明細書は、ウォータージャケットのための嵌め込みエレメントを有するシリンダブロックを開示している。嵌め込みエレメントの上端および下端には突出したフランジが設けられており、フランジは、ウォータージャケット内部における嵌め込みエレメントの位置決めに寄与する。フランジは、組み込まれた状態においてウォータージャケット内部にあり、載置体としてではなく横方向におけるスペーサ要素として機能する。
【0009】
国際公開第2008/010584号、米国特許第7032547号明細書、および欧州特許出願公開第3239507号明細書は、それぞれ下部および上部のジャケット部との間における仕切りを開示しており、仕切りは、スペーサを介して冷却液ジャケットの床に支持されている。
【0010】
公知である仕切りは、製造の手間が比較的高いおよび/または下部および上部のジャケット部との間における永続的な分離が不十分であるという欠点を有するため、冷却に悪影響を及ぼす、仕切りと冷却液ジャケットの壁との間における漏れ流を排除することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許第3310957号明細書
【特許文献2】オーストリア国実用新案第15665号明細書
【特許文献3】特表平11―294254号公報
【特許文献4】オーストリア国特許発明第521945号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102015200811号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第102018118804号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第3822473号明細書
【特許文献8】国際公開第2008/010584号
【特許文献9】米国特許第7032547号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第3239507号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、本発明の課題は、製造が容易であり、漏れ流を防止することが可能である冷却液ジャケットを有する内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、本発明によると冒頭で述べた内燃機関においてカバープレートの領域において嵌め込みエレメントが少なくとも一つの、好ましくは少なくとも二つの保持壁に形成された止めピンを有し、止めピンは、止めピンと相反的に形成されたシリンダハウジングの収容ポケットに載置されていることにより解決される。
【発明の効果】
【0014】
カバープレートとは、シリンダヘッドに隣接してトップランドの領域に形成されたシリンダブロックの上面のことを指す。カバープレートは、いわゆる「オープンデッキ」構造またはいわゆる「クローズドデッキ」構造として形成され得る。「クローズドデッキ」版の場合、シリンダを包囲するウォータージャケットは、上に向かって閉止されており、よってエンジンブロックを上から見た場合、シリンダボアとエンジンオイルおよび冷却水流路のボアだけが見える。「オープンデッキ」ブロックの場合、シリンダは自立しており、ウォータージャケットは上に向かって開口しており、その後組立時に特殊なヘッドガスケットを用いてシリンダヘッドによって閉止される。
【0015】
本書において止めピンとは、保持壁において突出する材料成形部のことを指す。止めピンは、嵌め込みエレメントと一体鋳造されるか接着や溶接などにより保持壁に対して接続され得る。
【0016】
止めピンは、対応する収容ポケット内において定義されたわずかな遊びのみを有して収容される。収容ポケットは、実質的に止めピンと相反的に形成されており、収容ポケットの寸法は、止めピンと定義の遊びとを合わせた寸法に相当する。
【0017】
少なくとも一つの止めピンは、保持壁から半径方向外側に突出するように形成されていることが好ましい。
【0018】
止めピンと対応する収容ポケットとは、相補結合を形成し、冷却液ジャケット内における嵌め込みエレメントの正確且つ不動の位置決めを可能にする。
【0019】
本発明の一変形態様において収容ポケットは、シリンダブロックのカバープレート内に形成されている。
【0020】
間仕切り壁は、冷却液ジャケットを「上部の」第一のジャケット部と「下部の」第二のジャケット部とに分割する。
【0021】
「上部の」第一のジャケット部は、クランク室から離れて、すなわちカバープレートの近くに形成される。これに対して「下部の」第二のジャケット部は、クランク室の近く、すなわちカバープレートから離れて配置される。第一のジャケット部は、カバープレートに隣接する、高温の上部のシリンダ領域を冷却し、第二のジャケット部は、クランク室に隣接する、より低温である下部のシリンダ領域を冷却する機能を有する。
【0022】
本明細書における冷却液ジャケットとは、稼働時に冷却液(特に水、場合によっては適切な添加剤を含む)が配置されるまたは冷却液が循環する空間を指す。冷却液ジャケットは、鋳物またはブロックにおけるシリンダシステムを包囲する空洞部として形成される。嵌め込みエレメントは、一体ものとして構成されており、(好ましくは冷却液合流部を除いて)閉止された(リング状または「マルチリンク」状の)輪郭を有することが好ましい。輪郭は、シリンダ壁の延伸に沿うことが有利である。
【0023】
よって、例えばシリンダブロック内に形成された冷却液ジャケットは、嵌め込みエレメントによって下部および上部の領域に分割される。よって、冷却液ジャケットを一体的な鋳造コア(シリンダブロック)において「オープンデッキ」形状として形成することが可能である。嵌め込みエレメントは、間仕切り壁またはパネルの機能を果たす。仕切りによって、好ましくは異なる温度基準を有する、二つの冷却液空間(第一のジャケット部と第二のジャケット部)を形成することが可能である。よって、本発明による嵌め込みエレメントを用いて、第一および第二のジャケット部のための別個の冷却方策を極めて容易に実施することが可能である。この際、シリンダヘッドとシリンダブロックとにおいて異なる温度基準を得ることが可能である。例えば、加熱工程において第一のジャケット部内、よって、シリンダヘッドの近くにおいて冷却が実施される間に、第二のジャケット部を通る流れをまだ抑制してシリンダブロックのより迅速な加熱を達成することにより摩擦を低減することが可能である。両ジャケット部が完全に異なる温度回路によって供給されるような種変形態様も考えられる。製造を容易にするためには、下部の第二のジャケット部と上部の第一のジャケット部の少なくとも一部とが好ましくは一体的な鋳物により形成されることが有利である。これにより、嵌め込みエレメントの利点を特に良好に強調する。好ましい一実施態様において、下部のジャケット部と上部のジャケット部の少なくとも一部とがシリンダブロック内に形成されている。
【0024】
嵌め込みエレメントの安定性を高めるためには、間仕切り壁が鋸歯状に形成されていることが有利であり、間仕切り壁は、第一のジャケット部側へ凹状または第二のジャケット部側へ凸状に湾曲していることが好ましい。換言すると、間仕切り壁は、上方に(すなわち第一のジャケット部に向けて)開口し、下方に(すなわち第二のジャケット部に向けて)閉止した断面を有する。これにより、熱的、水圧的あるいは機械的な負荷による間仕切り壁の変形を回避することが可能である。間仕切り壁は、特にU字またはV字形状断面を有し得る。U字形状またはV字形状の断面の開放端部は、嵌め込みエレメントが嵌設された状態において冷却液ジャケットの互いに対向する壁に対してクランプ効果を及ぼす。U字形状またはV字形状断面によって嵌め込みエレメントのクランピングが可能であるため、冷却液ジャケット内における間仕切り壁の安定した位置が保証される。
【0025】
上方に開口した断面により開口したカバープレート側またはシリンダヘッドシール面側から嵌め込みエレメントを問題なく冷却液ジャケット内に嵌設することが可能である。間仕切り壁の少なくとも一つのシール縁は、実質的にシリンダ軸へ法平面において延伸している。これによりそれぞれのジャケット部の高さが全周に亘って一定に保たれるため、軸方向に延伸する温度勾配が考慮され、特にクランク室から離れた第一のジャケット部を通る冷却液による均一な熱放出が得られる。
【0026】
冷却液ジャケットは、冷却液流入のための少なくとも一つの流入領域と冷却液流出路のための少なくとも一つの流出領域とを有し、第一のジャケット部は(好ましくはカバープレートの領域において)流入領域を、また第二のジャケット部は(好ましくは間仕切り壁から離れた領域において)流出領域を有することが好ましい。これにより冷却液を的確にトップランドに近い、より高い熱負荷を受ける領域に供給し、その後、より少ない冷却しか必要としないクランク室に近い部分へと送ることが可能である。
【0027】
本発明の一変形態様によると少なくとも一つの流入領域に対して第一のジャケット部にシリンダブロックの少なくとも一つの冷却液入口がつながり、流入領域において保持壁は、少なくとも一つの収容ポケットを有することが好ましい。流入領域は、少なくとも一つの止めピンを通るシリンダのシリンダ軸への法平面と間仕切り壁との間において第一のジャケット部に配置されていることが有利である。これにより第一のジャケット部における冷却液の良好で均一な分配が可能となる。
【0028】
第二のジャケット部からは嵌め込みエレメントの少なくとも一つの流出領域においてシリンダブロックの少なくとも一つの冷却液出口が外に出ていることが有利である。
【0029】
本発明の一実施態様によると第一のジャケット部と第二のジャケット部とは、少なくとも一つの例えばオーバーフロー開口部によって形成された冷却液合流部を介して互いに流路接続されており、オーバーフロー開口部は、間仕切り壁内に配置され得る。
【0030】
よって、冷却液は、冷却液ジャケットを通って上から下へと流れる。冷却液は、流入領域における冷却液入口を介して第一のジャケット部に供給され、冷却液ジャケットの円周に沿って流れて冷却液合流部を介して第二のジャケット部内に到達する。冷却液ジャケットの円周に沿って第二のジャケット部内を流れた後、冷却液は、冷却液ジャケットの流出領域における冷却液出口を通って第二のジャケット部を離れる。
【0031】
本書において「円周」とは、シリンダシステムの周りを少なくとも部分的に延伸する冷却液ジャケットの円周であると理解される。
【0032】
本発明の一変形態様では、(シリンダブロックを上から見た場合)少なくとも一つの流入領域と少なくとも一つの流出領域とが互いに離間しており、(複数列に配置されたシリンダの場合)少なくとも一つの流入領域が第一のシリンダの領域に、また少なくとも一つの流出領域が別の、好ましくは最終の、シリンダの領域に配置されていることが好ましい。
【0033】
パッケージングの観点からは(すなわちコンパクトで省スペースである配置に関しては)内燃機関のその他の構成要素に関して少なくとも一つの流入領域および/または少なくとも一つの流出領域がシリンダシステムの長手方向側面に配置されていることが有利である。特に少なくとも一つの流入領域および少なくとも一つの流出領域がシリンダブロックの同一の長手方向側面に配置されていることが有利である。
【0034】
本発明の別の変形態様においては、第一のジャケット部および/または第二のジャケット部において円周に沿って少なくとも一つの絞りまたはブロック要素が設けられ、絞りまたはブロック要素は、一つのジャケット部の二つの領域を互いから分離する。
【0035】
第一の絞りまたはブロック要素は、(シリンダブロックを上から見た場合)第一のジャケット部において少なくとも一つの流入領域と少なくとも一つの流出領域との間に配置されていることが好ましい。第一の絞りまたはブロック要素は、半径方向内側に突出する、特にバー状である嵌め込みエレメントの保持壁の第一の成形部より形成されることが好ましい。半径方向内側とは、成形部がシリンダ軸に対して半径方向に方向づけられて配置されていることを意味する。さらに、第二の絞りまたはブロック要素は、(シリンダブロックを上から見た場合)第二のジャケット部において少なくとも一つの流入領域と少なくとも一つの流出領域との間に配置され得る。第二の絞りまたはブロック要素は、(好ましくはシリンダ軸に対して平行に)延伸する、好ましくはバー状である嵌め込みエレメントの保持壁の第二の成形部より形成され得る。
【0036】
絞りまたはブロック要素は、定義された少量の冷却液量のみあるいは冷却液量を全く通過させず、流入領域と流出領域との間の直接的な短絡流を妨げるか防止する。
【0037】
シリンダシステムの周りにおける冷却液ジャケットの円周に沿って少なくとも一つの第一の絞りまたはブロック要素が第一のジャケット部に、少なくとも一つの第二の絞りまたはブロック要素が第二のジャケット部に設けられる。
【0038】
これによりジャケット部内において定義された冷却回路を形成することが可能である。例えば(例えば第一または第二のジャケット部における)少なくとも一つの絞りまたはブロック要素を冷却液のための流入領域と流出領域との間に配置することにより、シリンダシステムの周りを(一回)流れるようにした後、冷却液がジャケット部から再び流出する。
【0039】
少なくとも一つの絞りまたはブロック要素が冷却液合流部の領域において、好ましくは冷却液合流部に直接隣接するように配置されることが特に有利である。
【0040】
第一および第二のジャケット部における、全てのシリンダの周りにおける正確に定義された冷却液回路を可能にするためには、冷却液合流部が流出領域に対向する第一の絞りまたはブロック要素の第二の面および/または第二の絞りまたはブロック要素の流出領域とは反対方向に向く第二の面に設けられることが有利である。
【0041】
第一のジャケット部において第一の絞りまたはブロック要素の冷却液合流部から反対方向に向く第一の面に流入領域が配置されていることにより第一のジャケット部における全てのシリンダの周りにおける特に良好な流れを得ることが可能であり、流入領域は、第一の絞りまたはブロック要素の第一の面において直接第一の絞りまたはブロック要素に隣接するように配置されることが有利である。冷却液合流部は、第一の絞りまたはブロック要素の第一の面とは反対方向に向く第二の面において、好ましくは第一の絞りまたはブロック要素に直接隣接するように、配置されることが有利である。
【0042】
さらに第一のジャケット部において流出領域が第二の絞りまたはブロック要素の冷却液合流部とは反対方向に向く第一の面に配置されていることにより第二のジャケット部における全てのシリンダの周りにおける良好な流れを得ることが可能であり、流出領域は、第二の絞りまたはブロック要素の第一の面において直接第二の絞りまたはブロック要素に隣接するように配置されることが有利である。冷却液合流部は、第二の絞りまたはブロック要素の第一とは反対方向に向く第二の面において、好ましくは第二の絞りまたはブロック要素に直接隣接するように、配置されることが有利である。
【0043】
部品を節約し、製造および組み立てを簡略化するためには、第一および/または第二の絞りまたはブロック要素が嵌め込みエレメントと一体的に形成されることが特に有利である。本発明の簡単な変形態様では、第一および/または第二の絞りまたはブロック要素が嵌め込みエレメントの間仕切り壁または保持壁によって形成され、シリンダ軸に対して実質的に平行であるように形成される。第一の絞りまたはブロック要素は、第一のジャケット部の総高さ、第二の絞りまたはブロック要素は、第二のジャケット部の総高さを超えて延伸し得る。
【0044】
これにより全てのシリンダの周りを冷却液が均一に流れるため、最適な冷却を得ることが可能である。
【0045】
嵌め込みエレメントは、以下の特性のうち少なくとも一つを有する材料から製造されることが好ましい:非金属材料、第一のジャケット部を第二のジャケット部から熱的に断熱する絶縁効果を有する材料、特にばね鋼またはプラスチック、または複合材料である弾性材料。嵌め込みエレメントを、シリンダブロックを形成する鋳物とは別の材料を用いて製造することも可能である。容易な嵌設を可能にするには、例えば嵌め込みエレメントが、例えば、ばね鋼または金属シートなどの弾性材料からなることが有利である。複合材料、すなわち鋼とゴムまたはプラスチックとゴムからなる複合材料を使用することも可能であり、複合材料を例えば層状に配置することが可能である。
【0046】
第一および第二のジャケット部の間の熱的分離が望まれる場合、嵌め込みエレメントがシリンダブロックよりも熱伝導率が低い(あるいは熱伝導係数が低い)(例えば非金属)材料からなることにより、嵌め込みエレメントが第一および第二のジャケット部を互いから封止するだけではなく、互いに対して熱的に断熱するようにもすることが有利である。例えば嵌め込みエレメントは、プラスチックまたはセラミック(例えば、炭化チタン化合物をベースとする弾性セラミック)からなり得る。
【0047】
本発明の一変形態様において嵌め込みエレメントは、第一および第二のジャケット部を空間的に分けるだけではなく、水圧的に互いに完全に分離し、嵌め込みエレメントの間仕切り壁は、シリンダブロックの冷却液ジャケットの壁に封止するように密着する。よって、本実施態様において、上部の第一のジャケット部は、下部の第二のジャケット部に対して完全に封止されている。第一のジャケット部と第二のジャケット部とは、それぞれ別個の流入領域および/または流出領域を有し得る。これによりシリンダブロックまたはシリンダヘッドの領域を互いに独立して、および異なる強度において冷却することが可能となる。
【0048】
これにより、それぞれのジャケット部において(要求に応じてまたは運転モードおよび/または運転段階に適合して)異なる冷却方策を実施することが可能であり、流体力学的な影響が完全に排除されて相互的な熱的結合が最小化される。よって、第一のジャケット部と第二のジャケット部に対して共通のポンプまたは別々のポンプから供給され得る冷却水を別々に供給することが可能となる。
【0049】
上部の第一のジャケット部から冷却液を例えば入口側においてシリンダヘッドへさらに送ることが可能であり、そこから出口側において再びシリンダブロック内へと到達して出口開口部を介して冷却液ジャケットを離れることが可能である。下部の第二のジャケット部は、別途供給される:ここでは冷却液が片側から流入して反対側から流出するか流入および流出開口部が隣接して配置されているが、その間には第二の絞りまたはブロック要素が設けられるため、冷却液は、流入後に一旦シリンダシステムの周りを流れた後、再び流出する。本発明の機能を限定することなく、その他の流入および流出に関する解決策も可能である。
【0050】
基本的に、本発明によって簡単で安価な方法で(一体的に鋳造されているもののパネル状の嵌め込みエレメントによって分割されたシリンダブロックにおいて)二つの別個の温度基準または別個の冷却回路を得ることが可能である。
【0051】
上述の変形態様においては、冷却液ジャケットがシリンダヘッド側に対して開口した形状を有するように形成されていることが有利である。これは、シリンダブロックとその内部に構成された冷却液ジャケットとがシリンダヘッドシール面に対向する側において開口するように構成されており、よって、意図された使用時にシリンダヘッドシール材またはシリンダヘッドによって閉止されることを意味する。よって、上部の第一のジャケット部は、シリンダヘッドに対向する。開口した形状により、嵌め込みエレメントを問題なく嵌設することが可能である。これは、例えばシリンダヘッドの上方または側面から実施され得て、その後シリンダヘッドが取り付けられる。上部の第一のジャケット部は、シリンダヘッド内に形成された冷却空間に合流することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
以下、図に図示されている非限定的である実施様態を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。
【0053】
図1】本発明による内燃機関の縦断面図である。
図2】ブロック冷却ジャケットの嵌め込みエレメントとコアとを第一の長手方向側面から見た分解図。
図3】ブロック冷却ジャケットの嵌め込みエレメントとコアとを第二の長手方向側面から見た別の分解図。
図4】嵌め込みエレメントの軸測図。
図5】本発明による内燃機関のシリンダブロックの軸測図。
図6】シリンダブロックの平面図。
図7】シリンダブロックの別の平面図。
図8図9の線VIII-VIIIによるシリンダブロックの断面図。
図9図6の線IX-IXによるシリンダブロックの断面図。
図10図9の詳細X。
図11】冷却液流が第一のジャケット部にあるエンジンブロックの軸測図。
図12図9の線XII-XIIによる、冷却液流が第二のジャケット部にあるエンジンブロックの軸測図。
図13図9の線XIII-XIIIによる、エンジンブロックの断面軸測図。
図14図9の線XIII-XIIIによる、エンジンブロックの断面図。
図15図9の線XV-XVによる、エンジンブロックの断面軸測図。
図16図9の線XV-XVによる、エンジンブロックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、本発明による内燃機関10を概略的に図示しており、内燃機関は、シリンダヘッド11とここではシリンダ・クランク室として形成されたシリンダブロック12とを有し、シリンダブロックは、往復運動するピストン14のための複数の互いに隣接して列状に配置されたシリンダ13を有するシリンダシステム130を有し、シリンダは、連接棒15を介してシリンダブロック12のクランク室160内に配置されたクランクシャフト16に作用し、クランクシャフトの回転軸が16aで表されている。シリンダ軸は、13aで表されている。
【0055】
シリンダ13を冷却するために、シリンダブロック12内にシリンダ13を包囲する冷却液ジャケット20が配置されており、冷却液ジャケットは、シリンダ13を少なくとも部分的に包囲する。図示される実施例において冷却液ジャケット20は、シリンダヘッド側、すなわちシリンダヘッドシール面17に向かって開口する形状(「オープンデッキ」)を有するように形成されており、図5および図6から見受けられるようにシリンダブロック12とともに鋳造されている。
【0056】
冷却液ジャケット20は、仕切り3によってクランク室から遠い第一のジャケット部21とクランク室に近い第二のジャケット部22に分割される。仕切り3は、シリンダ13の円周に沿って少なくとも部分的に延伸する、冷却液ジャケット20内に嵌設されている嵌め込みエレメント30の鋸歯状の間仕切り壁31によって形成されている(図2から図4図9および図10を参照)。図2および図3において冷却液ジャケット20は、コアとして、すなわち冷却液ジャケット20を形成する砂中子によって図示されており、シリンダ13の位置が示されている。冷却液ジャケット20が、全てのシリンダ13を包囲することが明確に示されている。シリンダヘッド11の方向に開口するように構成された冷却液ジャケット20は、シリンダブロック12のカバープレート122またはシリンダヘッドシール面17とクランク室側のジャケット床部25との間においてシリンダ軸13aの方向に延伸する。図2および図3から見受けられるように(シリンダブロックの長手方向側面から見た場合)冷却液ジャケット20のジャケット床部25は、波形に形成されており、自身の最小軸方向延伸部E1(図2)は、シリンダ軸13aを通って延伸する第一のエンジン横平面ε図1)の領域にある。シリンダ13とシリンダシステム130の端部との間における第二のエンジン横平面ε図1)の領域において、冷却液ジャケット20は、自身の最大軸方向延伸部E2(図2)を有する。
【0057】
間仕切り壁31は、第一のジャケット部21と第二のジャケット部22との間において、シリンダヘッドシール面17に対して実質的に平行であるように形成された分離領域310を形成する。本実施例において間仕切り壁31は、第一のジャケット部21側に凹状にまたは第二のジャケット部22側に凸状に形成されており、例えば湾曲している。図面に図示される実施例において間仕切り壁31は、実質的にU字形状の断面を有する。しかしながら断面は、V字形状でもあり得る。嵌め込みエレメント30は、シリンダブロック12のカバープレート122の領域における間仕切り壁31とシリンダヘッド側の端部301との間においてシリンダ13に対して実質的に平行に延伸する少なくとも一つの保持壁32を有する。保持壁32は、冷却液ジャケット20の外側の内壁24に密着して、間仕切り壁31を正しい位置に位置付けする機能を果たす。特に間仕切り壁31の軸方向位置(すなわちシリンダヘッドシール面17からの間仕切り壁31の距離)が保持壁32の軸方向の延伸によって決定される。
【0058】
前述のとおり図面に図示されている変形態様において間仕切り壁31は、鋸歯状に形成されており、第一のジャケット部21側に凹状に湾曲している(図9図10図15図16を参照)。しかしながら、本発明の範囲においてその他の形状も可能である。本発明の図示されない変形様態において、間仕切り壁31は、実質的に平坦に形成され、(横断面から見た場合)保持壁32とともにL字形状の輪郭を形成し、間仕切り壁31が「L」の短辺を表す。間仕切り壁31は、保持壁32に対しておおむね垂直に、あるいは保持壁32に対して90度に等しくない角度で傾斜して、換言すればわずかに上方(すなわち第一のジャケット部21に向けて)あるいは下方(すなわち第二のジャケット部22に向けて)角度をなすものであり得る。
【0059】
換言すると、一実施例において間仕切り壁31は、保持壁32とともに実質的にL字形状の輪郭を形成し、間仕切り壁31が「L」の短辺を表す。間仕切り壁31は、保持壁32に対して実質的に垂直に延伸するように配置されることが好ましい。
【0060】
仕切り3によって冷却液空間が小さくなり、冷却液は、冷却液ジャケット20の内壁24へ、ひいては最も大きな熱負荷が生じるシリンダ13とカバープレート122の領域へと向けられる。
【0061】
嵌め込みエレメント30は、間仕切り壁31の凹状の側面311がシリンダヘッド11に、また凸状の側面312が内燃機関10のクランク室に対向するように上方(すなわちシリンダヘッドシール面17に向けて)に開口する冷却液ジャケット20内に嵌設される。
【0062】
取り付けられていない、すなわちまだ冷却液ジャケット20内に嵌設されていない状態における嵌め込みエレメント30の間仕切り壁31の上方に開口する断面のシール縁313と保持壁32との間の(シール縁313を通って延伸するシリンダ軸13aへの法平面13bにおいて計測される)間隔は、取り付けられた状態において法平面13bの領域における冷却液ジャケット20の二つの互いに対向する内壁23、24の間で計測される冷却液ジャケット20の幅より少し大きいことが有利である。嵌め込みエレメント30を冷却液ジャケット20内に挿設する際には、間仕切り壁31のシール縁313がシリンダ13に隣接する、冷却液ジャケット20の内側の内壁23に対して弾性的に押圧されることにより、一方では嵌め込みエレメント30が冷却液ジャケット20の内壁23、24の間に弾性的にクランプされて固定される。保持壁32は、冷却液ジャケット20のシリンダから遠い外側の内壁24に当接する(図9図10図15図16)。他方では内側の内壁23に対して弾性的に押圧されたシール縁313と外側の内壁24に対して押圧された保持壁32とが第一のジャケット部21を第二のジャケット部22から分離および封止する効果を及ぼす。嵌め込みエレメント30は、弾性材料、例えば、非金属材料または、好ましくはプラスチックまたはセラミックなどの、熱伝導率の低い材料からなることが好ましい。
【0063】
嵌め込みエレメント30は、シリンダヘッド側の端部301の領域において保持壁32における(各シリンダ軸13aに対して)半径方向外側に突出して形成された複数の止めピン33を有し、止めピンは、それぞれシリンダブロック3の対応する収容ポケット123内に載置されている。シリンダブロック12のカバープレート122内に形成された収容ポケット123は、実質的に止めピン33に対して相反的に形成されているため、シリンダヘッドシール面17に対して平行であるシリンダ軸13aへの法平面における動作に対向する相補結合が生じる。これにより嵌め込みエレメント30は、組み立てられた状態においてシリンダブロック12内に正しい位置に位置づけられて横方向へのスライド動作に対して固定される。止めピン33が収容ポケット123内に係合することにより嵌め込みエレメント30の簡単で再現性のある組み立てが保証される。
【0064】
第一のジャケット部21に対して流入領域211に、シリンダブロック12の冷却液入口124がつながる。シリンダヘッド側の端部301と間仕切り壁31との間に配置された冷却液ジャケット20の流入領域211において保持壁32は、相応して形成された凹部321を有する。
【0065】
第二のジャケット部22からは、冷却液ジャケット20の流出領域221においてシリンダブロック12の冷却液出口125が外に伸びる。
【0066】
本実施例において流入領域211と流出領域221とがシリンダブロック12の同一の長手方向側面19に設けられる。流入領域211と流出領域221とは、シリンダ軸13aの方向にあり(シリンダブロック12を上から見た場合)互いに離隔している。図示される実施例において流入領域211は、第一のシリンダ13の領域、流出領域211は、最後(ここでは3番目)のシリンダ13の領域に配置されている。
【0067】
シリンダブロック12を上から見た場合、第一のジャケット部21において流入領域211と流出領域221との間に第一の絞りまたはブロック要素34が配置されている。第一の絞りまたはブロック要素34は、例えば嵌め込みエレメント30の保持壁32の半径方向内側に突出するバー状の第一の成形部によって形成され得る。
【0068】
冷却液入口124は、冷却液合流部36とは反対方向に向く第一の絞りまたはブロック要素34の第一の面341において第一のジャケット部21につながる。冷却液入口124は、第一の絞りまたはブロック要素34に隣接して第一の絞りまたはブロック要素34の第一の面341において配置されている。
【0069】
さらに図4において見受けられるよう、に第二のジャケット部22において(シリンダブロック12を上から見た場合)流入領域211と流出領域221との間において第二の絞りまたはブロック要素35が配置されている。第二の絞りまたはブロック要素35は、例えば第二のジャケット部22にシリンダ軸13aに対して平行に延伸する、嵌め込みエレメント30の間仕切り壁31の第二の成形部によって形成されている。
【0070】
冷却液出口125は、第二のジャケット部22から第二の絞りまたはブロック要素35の冷却液合流部36とは反対方向に向く第一の面351から外に延びる。冷却液出口125は、第二の絞りまたはブロック要素35に隣接して第二の絞りまたはブロック要素35の第一の面351において配置されている。
【0071】
第一のジャケット部21は、第二のジャケット部22に対して少なくとも一つの冷却液合流部36を介して流体連通されている。少なくとも一つの冷却液合流部36は、例えば嵌め込みエレメント30の間仕切り壁31におけるオーバーフロー開口部361によって形成され得る。本変形様態における嵌め込みエレメント30の間仕切り壁31は、第一のジャケット部21および第二のジャケット部22との間において閉止されるように構成されているのではなく(取り付けられた状態において)冷却液ジャケット20の第一のジャケット部21と第二のジャケット部22とを流体連通する、少なくとも一つのオーバーフロー開口部361を有する。
【0072】
冷却液合流部36は、流入領域211とは反対方向に向く第一の絞りまたはブロック要素34の第二の面342、および流出領域221とは反対方向に向く第二の絞りまたはブロック要素35の第二の面352に配置されている。
【0073】
図7図8図11および図12から見受けられるように冷却液は、矢印Sにしたがって冷却液入口124を通って上部の第一のジャケット部21内に流れる。第一の絞りまたはブロック要素34によってオーバーフロー開口部361への短絡流が防止される。よって冷却液は、矢印Sにしたがってシリンダシステム130の全てのシリンダ13の周りを円周方向に第一のジャケット部21に沿ってオーバーフロー開口部361、さらに冷却液ジャケット20の下方の第二のジャケット部22へと流れる。ここで図12において矢印Sによって示されるように冷却液流が分かれて第二のジャケット部22において一部が短いルート、別の一部が長いルートにおいてシリンダシステム130のシリンダ13の周りを流れ、冷却液出口125を通って第二のジャケット部22から離れる。
【0074】
したがって冷却液の第一のジャケット部21への流入は、シリンダヘッドシール面17の近くまたはシリンダ13の高温のトップランド領域の近くにおいて、流出は、下方の第二のジャケット部22において生じる。これにより冷却液は、比較的低い温度の場合、シリンダシステム130の特に高温である領域においてまだ多くの熱を吸収することが可能であり、その後により低いあるいはより重要でない領域を通って流れるという利点が得られる。
【0075】
冷却液入口124、冷却液出口125および冷却液合流部36の配置は、冷却液の流入、合流および流出ができるかぎり完全にシリンダ13の周りを流れた後に実施されるように調整される。理想的な場合、最大の周辺流を達成するために、冷却液入口124および冷却液合流部36あるいは冷却液合流部36および冷却液出口125は、第一の絞りまたはブロック要素34または第二の絞りまたはブロック要素35に関して互いに直接対向するように、すなわち絞りまたはブロック要素34、35の異なる側面341、342;351、352に配置されている。
【0076】
絞りまたはブロック要素34、35によって定義された流れ方向が設定される。第一の絞りまたはブロック要素34を直接冷却液入口124に隣接して、配置することにより冷却液が停滞する休止領域が形成されることが防止される。オーバーフロー開口部361を第二のジャケット部22において直接第二の絞りまたはブロック要素35に隣接して設けることにより、冷却液は、強制的にシリンダ13の周囲を一回完全に流れることにより圧力損失または休止領域が形成されることなく最良の熱放散が可能になる。よって第二のジャケット部22への合流は、ほぼ冷却液入口124の領域、したがって実質的に冷却液出口125に対向して実施されるため、第二のジャケット部22においてもシリンダ13の周りの実質的に完全な流れが実施される。
【0077】
図13および図14は、オーバーフロー開口部361の別法としてまたはさらに加えて間仕切り壁31において少なくとも一つの冷却液合流部36が第二のエンジン横平面εの領域においてシリンダブロック12内のオーバーフロー流路362によって形成される変形態様を図示している。シリンダヘッドシール面17に対して傾斜して構成されるオーバーフロー流路362は、シリンダブロック12の長手方向側面18における第一のジャケット部21とシリンダブロック12の対向する長手方向側面19における第二のジャケット部22と接続し、シリンダ軸13aによって張り渡されたエンジン縦平面εと交差する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】