(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素製剤の乾燥工程
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20241016BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241016BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A61K38/48
A61K9/14
C12N9/50
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525894
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 KR2022010991
(87)【国際公開番号】W WO2023085552
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0155208
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524021327
【氏名又は名称】イニバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INIBIO CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】キム チョンセ
(72)【発明者】
【氏名】イム ヒョンア
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンジェ
(72)【発明者】
【氏名】アン ヨンドク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA30
4C076BB16
4C076CC01
4C076DD23
4C076EE41
4C076FF04
4C076FF65
4C076GG05
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA04
4C084DC09
4C084MA43
4C084NA20
4C084ZA231
4C084ZA232
(57)【要約】
本発明は、ボツリヌス毒素減圧乾燥方法に関する。本発明の減圧乾燥方法によるボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法を用いる場合、ボツリヌス毒素の効能を維持しながらも乾燥時間を大きく短縮させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素を1,500mTorr~60,000mTorrの圧力条件で減圧乾燥させるステップを含むことを特徴とする、ボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項2】
前記減圧乾燥は、3℃~25℃の温度条件で行われることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項3】
前記減圧乾燥は、0.5時間以上、または0.5時間~4時間の間行われることを特徴とする、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項4】
前記ボツリヌス毒素の濃度は、250U/mL~5,000U/mLであることを特徴とする、請求項1乃至3のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項5】
製造されたボツリヌス毒素乾燥ケーキは、80%~120%、または85%~115%の基準力価を有することを特徴とする、請求項1乃至4のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項6】
前記減圧乾燥は、ボツリヌス毒素乾燥ケーキの含湿度が3%以内に到達する時点まで行われることを特徴とする、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項7】
前記ボツリヌス毒素生成菌株は、ボツリヌス菌(C.botulinum)Type Aであることを特徴とする、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項8】
前記減圧乾燥のための圧力条件は、常圧から目標圧力まで安定的に制御された状態で一定速度に到達することで形成されることを特徴とする、請求項1乃至7のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項9】
前記減圧乾燥は、1,500~60,000mTorr、1,500~55,000mTorr、1,500~50,000mTorr、1,500~45,000mTorr、1,500~40,000mTorr、1,500~35,000mTorr、1,500~30,000mTorr、1,500~25,000mTorr、1,500~20,000mTorr、1,500~15,000mTorr、1,500~14,000mTorr、1,500~13,000mTorr、1,500~12,000mTorr、1,500~11,000mTorr、1,500~10,000mTorr、1,500~9,000mTorr、1,500~8,000mTorr、1,500~7,000mTorr、1,500~6,000mTorr、1,500~5,000mTorr、1,500~4,000mTorr、1,500~3,500mTorr、1,500~3,000mTorr、1,500~2,500mTorr、1,500~2,000mTorr、2,500~3,000mTorr、2,500~3,500mTorr、2,500~4,000mTorr、2,500~4,500mTorr、2,500~5,000mTorr、2,500~6,000mTorr、2,500~7,000mTorr、2,500~8,000mTorr、2,500~9,000mTorr、2,500~10,000mTorr、2,500~11,000mTorr、2,500~12,000mTorr、2,500~13,000mTorr、2,500~14,000mTorr、2,500~15,000mTorr、2,500~20,000mTorr、2,500~25,000mTorr、2,500~30,000mTorr、2,500~35,000mTorr、2,500~40,000mTorr、2,500~45,000mTorr、2,500~50,000mTorr、2,500~55,000mTorr、または2,500~60,000mTorrの圧力で行われることを特徴とする、請求項1乃至8のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項10】
前記減圧乾燥は、5℃~25℃、7℃~25℃、9℃~25℃、11℃~25℃、12℃~25℃、3℃~20℃、5℃~20℃、7℃~20℃、9℃~20℃、11℃~20℃、12℃~20℃、3℃~18℃、3℃~16℃、3℃~14℃または3℃~12℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1乃至9のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【請求項11】
前記減圧乾燥は、0.5時間~4時間、0.5時間~3時間、0.5時間~2時間、0.5時間~1時間、1時間~4時間、2時間~4時間、または3時間~4時間の範囲で行われることを特徴とする、請求項1乃至10のうち何れか1項に記載のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒素製剤の乾燥工程に関し、具体的には減圧乾燥方法によるボツリヌス毒素乾燥ケーキ(Cake)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素(Botulinum toxin、BTX)は、ボツリヌス菌(C.botulinum)という嫌気性バクテリアで作られる神経毒素であって、計7個の種類(A~G型)があり、現在、このうちボツリヌムA(BTX-A)、B(BTX-B)型の2種が精製されて医学的に使用される。
【0003】
ボツリヌス毒素は、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を抑制することで、筋肉収縮シグナル伝達を遮断して筋肉を弛緩させる役割をする。すなわち、神経筋接合部(neuromuscular junction)でシナプス前終末(presynaptic terminal)で分泌する神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を遮断して、神経麻痺を誘発する。フィラーが皮膚のボリュームの足りない部位に所定の物質を埋める医療機器であるのに対し、ボツリヌス毒素製剤は、筋肉を収縮させる神経伝達物質の放出を防いで筋肉の使用を低下させる成分を含有した医薬品であるという違いがある。
【0004】
ボツリヌス毒素は、眉間のシワ、目元のシワを抑制または除去するのに主に活用されており、脳卒中の上肢硬直、まぶたの痙攣、尖足の奇形などの治療にも活用されており、徐々に適応症を広げている。
【0005】
商業的に入手可能なボツリヌス毒素製品は、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを含む賦形剤とともに溶液形態で提供されるか、乾燥工程を経て固体(乾燥ケーキ)として提供されることができる。ほとんどのボツリヌムトキシン製造会社の場合、凍結乾燥工程を経た製品を生産している。例えば、メディトキシン(登録商標)、ゼオミン(登録商標)、ディスポート(Dysport(登録商標))などが挙げられる。
【0006】
一方、ボツリヌス毒素の乾燥工程において、従来の凍結乾燥方法に関して多数公知になっているが(KR10-2012-0112248 Aなど)、該当方法は、凍る(freezing)過程を必須に伴い、気化(Sublimation)過程を通じて水分を除去するので、かなり長時間(略18~48時間)が所要される。特に、凍結乾燥工程の必須過程である凍る工程は、氷核(Ice nucleus)が形成されるか、凍る間に部分的に発生する賦形剤濃度の不均衡により、タンパク質構造の損傷を通じた活性減少を引き起こすことができる。
【0007】
このような凍結乾燥工程は、一般的にはタンパク質医薬品の乾燥剤形のための進歩した形態の乾燥方式として知られているが、極微量のタンパク質を使用するボツリヌス毒素製剤には不適合である。
【0008】
したがって、ボツリヌス毒素製剤の特性に適した乾燥工程の開発が必要な実情である。また、凍結乾燥工程の特性により1次乾燥および2次乾燥を進行する長い工程時間を効率的に使用できる方案が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、有効性および安定性を維持する最適化したボツリヌス毒素減圧乾燥方法を開発しようと、鋭意研究に努めた。その結果、圧力、(棚)温度などの乾燥工程と関連したパラメーターを効率的に調節することで、工程中に発生する外部刺激からタンパク質であるボツリヌス毒素を保護して乾燥時間を大きく短縮させることができることを究明することで、本発明を完成した。
【0010】
よって、本発明の目的は、ボツリヌス毒素乾燥ケーキ(Cake)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、有効性および安定性を維持する最適化されたボツリヌス毒素減圧乾燥方法を開発しようと、鋭意研究に努めた。その結果、圧力、(棚)温度などの乾燥工程と関連したパラメーターを効率的に調節することで、工程中に発生する外部刺激からタンパク質であるボツリヌス毒素を保護して乾燥時間を大きく短縮させることができることを究明した。
【0012】
本発明は、ボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法に関する。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明しようとする。
【0014】
本発明の一様態によれば、本発明は、ボツリヌス毒素を1,500~60,000mTorrの圧力および3℃~25℃の温度条件で減圧乾燥させるステップを含む、ボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法を提供する。
【0015】
本明細書において、用語「ボツリヌス毒素(Botulinum toxin、BTX)」とは、ボツリヌス菌(C.botulinum)菌株から精製して得られる毒素を意味する。ボツリヌス菌(C.botulinum)菌株が生成するボツリヌス毒素の場合、約150kDaのサイズを有する。ボツリヌス毒素と一つまたはそれ以上の非-毒素タンパク質が結合された状態の複合物質であるボツリヌス毒素複合体の場合、約300kDa~900kDaのサイズを有する。
【0016】
前記ボツリヌス毒素は、眉間のシワ、目元のシワの抑制または改善だけでなく、多様な医療目的のために使用されることができる。
【0017】
本明細書において、用語「ケーキ(Cake)」とは、バイアル(vial)乾燥剤形の底面に乾燥した物質を意味し、粉末(powder)剤形と区分されて使用されることができる。
【0018】
本発明の一具現例において、本発明のボツリヌス毒素生成菌株は、ボツリヌス菌(C.botulinum)である。さらに具体的に、Clostridium botulinum Type A(ATCC 19397)菌株を使用することができるが、これに制限されるものではない。ボツリヌス毒素A型は、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって12歳以上の患者の本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣に対して承認され、頸部ジストニア、眉間(顔面)シワの治療および多汗症の治療に対して承認された。
【0019】
本発明の他の一具現例において、本発明のボツリヌス毒素は、従来知られている多様な工程を使用して製造されたものであってよく、特に制限されない。
【0020】
具体的に例を挙げると、ボツリヌス毒素生成菌株を培養し、1回または2回以上の沈殿、フィルタリング、再溶解、精製過程を経たボツリヌス毒素生成菌株培養液であってよい。
【0021】
より具体的に例を挙げると、本発明のボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌(C.botulinum)を培養するのに適したものであって、当業者が理解することが自明な特定培地で培養されたボツリヌス菌(C.botulinum)の培養物から、一連の酸沈殿を通じてボツリヌス毒素複合体を活性高分子量毒素タンパク質および関連赤血球凝集素タンパク質で構成される結晶形複合体で精製し、精製された結晶形複合体を塩水および安定化剤を含む溶液に溶解して製造されたボツリヌス毒素生成菌株培養液であってよい。
【0022】
前記ボツリヌス毒素生成菌株培養液の培養条件は、培養環境によって当業者の技術常識に即して適切に調節可能である。
【0023】
本発明のまた他の一具現例において、本発明の前記ボツリヌス毒素の濃度は、250U/mL~5,000U/mLであってよい。
【0024】
具体的に好ましい実施形態において、前記ボツリヌス毒素の濃度は、250U/mL~5,000U/mL、300U/mL~5,000U/mL、400U/mL~5,000U/mL、500U/mL~5,000U/mL、600U/mL~5,000U/mL、700U/mL~5,000U/mL、800U/mL~5,000U/mL、900U/mL~5,000U/mL、1,000U/mL~5,000U/mL、1,000U/mL~4,500U/mL、1,000U/mL~4,000U/mL、1,000U/mL~3,500U/mL、1,000U/mL~3,000U/mL、1,000U/mL~2,500U/mL、1,000U/mL~2,000U/mL、1,000U/mL~1,500U/mL、1,000U/mL~1,200U/mL、800U/mL~1,200U/mL、800U/mL~1,100U/mL、800U/mL~1,000U/mL、800U/mL~900U/mL、900U/mL~1,200U/mL、1,000U/mL~1,200U/mL、または1,100U/mL~1,200U/mLであってよい。
【0025】
本発明のまた他の一具現例において、本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法は、上述したボツリヌス毒素を1,500以上60,000未満mTorrの圧力で減圧乾燥して製造されたものであってよい。
【0026】
具体的に好ましい実施形態において、本発明の減圧乾燥は、1,500~60,000mTorr、1,500~55,000mTorr、1,500~50,000mTorr、1,500~45,000mTorr、1,500~40,000mTorr、1,500~35,000mTorr、1,500~30,000mTorr、1,500~25,000mTorr、1,500~20,000mTorr、1,500~15,000mTorr、1,500~14,000mTorr、1,500~13,000mTorr、1,500~12,000mTorr、1,500~11,000mTorr、1,500~10,000mTorr、1,500~9,000mTorr、1,500~8,000mTorr、1,500~7,000mTorr、1,500~6,000mTorr、1,500~5,000mTorr、1,500~4,000mTorr、1,500~3,500mTorr、1,500~3,000mTorr、1,500~2,500mTorr、1,500~2,000mTorr、2,500~3,000mTorr、2,500~3,500mTorr、2,500~4,000mTorr、2,500~4,500mTorr、2,500~5,000mTorr、2,500~6,000mTorr、2,500~7,000mTorr、2,500~8,000mTorr、2,500~9,000mTorr、2,500~10,000mTorr、2,500~11,000mTorr、2,500~12,000mTorr、2,500~13,000mTorr、2,500~14,000mTorr、2,500~15,000mTorr、2,500~20,000mTorr、2,500~25,000mTorr、2,500~30,000mTorr、2,500~35,000mTorr、2,500~40,000mTorr、2,500~45,000mTorr、2,500~50,000mTorr、2,500~55,000mTorr、または2,500~60,000mTorrの圧力で行われるものであってよい。
【0027】
前記範囲を外れる場合、沸き立つなどの現象によるタンパク質の損傷が発生することができ、十分な乾燥が進行されないことから完璧な建造物を得ることができない問題がある。
【0028】
一方、前記減圧乾燥は、一般大気条件である常圧(normal[atmospheric]pressure)で目標圧力まで安定的に制御された状態で一定速度に到達しなければならない必要がある。
【0029】
本発明のまた他の一具現例において、本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法は、上述したボツリヌス毒素を3~25℃の温度で減圧乾燥して製造されたものであってよい。
【0030】
具体的に好ましい実施形態において、本発明の減圧乾燥は、3℃~25℃、5℃~25℃、7℃~25℃、9℃~25℃、11℃~25℃、12℃~25℃、3℃~20℃、5℃~20℃、7℃~20℃、9℃~20℃、11℃~20℃、12℃~20℃、3℃~18℃、3℃~16℃、3℃~14℃、または3℃~12℃の温度で行われるものであってよい。
【0031】
前記範囲を外れる場合、温度の高低によってボツリヌス毒素の構造的な不安定性を増加させるか、物理的損傷および変形を発生させることができ、これによる効能減少が発生し得る問題がある。
【0032】
本発明のまた他の一具現例において、本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法は、本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの含湿度が3%以内に到達する時点まで行われるものであってよい。
【0033】
具体的に、本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法は、上述したボツリヌス毒素を0.5時間以上、好ましくは0.5時間~4時間の間減圧乾燥して製造されたものであってよい。
【0034】
具体的に好ましい実施形態において、本発明の減圧乾燥は、0.5時間~4時間、0.5時間~3時間、0.5時間~2時間、0.5時間~1時間、1時間~4時間、2時間~4時間、または3時間~4時間の範囲で行われるものであってよい。
【0035】
本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法によって製造された最終産物、すなわち、ボツリヌス毒素乾燥ケーキは、80%~120%、または85%~115%の基準力価を有するものであってよい。
【0036】
本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造過程において、製品の乾燥のための溶媒の体積ないし表面積によって、溶存酸素量または乾燥工程中に濃縮される組成物の濃度変化によって沸きこぼれが発生することができ、凍る点が変化して期待しない氷核形成などが発生することができる。このような状態で、製品の乾燥などが進行されれば、製品の性状の不均一性とタンパク質損傷などによる製品力の低下を誘発することができる。したがって、乾燥工程は、製品の乾燥のための溶媒体積または表面積が適切に維持された状態で進行されることが好ましく、これは、本明細書の内容を熟知した通常の技術者が容易に調節して行うことのできる範囲内のものである。
【0037】
本発明のボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法は、上述した減圧乾燥工程を使用し、よって、従来技術である凍結乾燥工程を廃棄する。本発明の一様態において、本発明は減圧乾燥工程を使用し、よって、工程時間を短縮してタンパク質医薬品の乾燥中の損傷を最小化して、本発明は従来技術に比べてさらに効率的且つ商業的な生産の長所を持つことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、ボツリヌス毒素減圧乾燥方法に関する。本発明の減圧乾燥方法によるボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造方法を用いる場合、ボツリヌス毒素の効能を維持しながらも乾燥時間を大きく短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】減圧乾燥製品と凍結乾燥製品のケーキ性状の差を確認した結果を示す。
【
図2a-b】一般的な低真空減圧乾燥条件によるボツリヌス毒素の変性および損失可能性を確認した結果を示す。
【
図3a-b】本発明の減圧乾燥において、1,000~70,000mTorr範囲の圧力条件によるケーキ性状の差(
図3a)およびバイアル内温度の変化(
図3b)を確認した結果を示す。
【
図4】本発明の減圧乾燥において、50,000~70,000mTorr範囲の圧力条件によるバイアル内温度の変化を確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、実施例を通じて、本発明をより詳しく説明しようとする。これらの実施例は、ひたすら本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0041】
実施例において別に提示されなければ、「毒素」または「ボツリヌス毒素」は、約900kDaの分子量を持つボツリヌス毒素A型複合体を意味する。本明細書に開示された方法は、約150kDa、約300kDa、約500kDaだけでなく、他の分子量の毒素、複合体、ボツリヌス毒素血清型およびボツリヌム神経毒素成分の製剤に用意された適用性を持つ。
【0042】
準備例.ボツリヌス毒素の最終原液製造
0.9%塩化ナトリウム(Merck、1.37017.5000)、0.5%ヒト血清アルブミン(緑十字、161B19508)、1000U/mLボツリヌス毒素A型原液((株)イニバイオ、大韓民国)を添加してボツリヌス毒素の最終原液を製造した。
【0043】
比較例1.凍結乾燥によるボツリヌス毒素の力価比較
1-1.乾燥実験
凍結乾燥条件と減圧乾燥条件で乾燥を行った製剤をそれぞれ比較した。凍結乾燥の条件と減圧乾燥条件は、下記表1に示した。
【0044】
【0045】
図1から確認できるように、凍結乾燥(
図1の右側バイアル)の場合、減圧乾燥(
図1の左側バイアル)に比べて厚い白色乾燥ケーキ状を形成した。このような乾燥ケーキは、バイアルに加えられる衝撃などによって割れやすく、割れた乾燥ケーキの飛散が起きる可能性がある。
【0046】
1-2.力価実験
前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液に対して、凍結乾燥条件(下記表2参照)で乾燥を行った製剤を生理食塩水2.8mLに溶かしてそれぞれ10匹のICR-マウス(4週齢、体重18~22g;(株)コアテック、大韓民国)の腹腔に投与(0.1mL/匹)し、3日間死亡および生存動物数を確認した。統計プログラム(CombiStats 6.1、EDQM)を使用して力価を算出した。適した力価の基準は動物試験の誤差範囲を含む区間に設定し(下記表3参照)、その結果を下記表4に表示した。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表4から確認できるように、一般的な従来の凍結乾燥工程を行ったボツリヌス毒素製剤の力価は56~65%であって、前記表3に記載された範囲を外れていることからタンパク質の損傷による効果が減少されたことが分かる。
【0051】
このような結果は、ボツリヌス毒素の減圧乾燥剤形が凍結乾燥剤形に比べてボツリヌス毒素の活性をさらに優秀に維持させることができることを示す。
【0052】
参考例.減圧乾燥によるボツリヌス毒素の変性および損失の確認
前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液をバイアル内に5mLまたは1mLずつ充填して、一般的な低真空乾燥圧力変化による物理学的変化および凍る点変化を確認した。
【0053】
具体的に、1barから0.0019bar(約1500mTorr)まで圧力を変化させて減圧乾燥を行った。このとき、棚温度は5℃で行った。対照群としては、蒸溜水(Distilled water、DW)および0.9% NaCl溶液を使用した。
【0054】
図2aは、それぞれの溶液を5mLずつバイアル充填した後、圧力に応じた相変化を確認したものである。前記条件において10,000mTorr以下でボツリヌス毒素の最終原液で溶液の沸騰現象が現れ、対照群では現れなかった。
【0055】
図2bは、それぞれの溶液を1mLずつバイアル充填した後、圧力に応じた相変化を確認したものである。前記条件において1,500mTorrで最終原液の沸騰と氷の結晶形成が現れ、対照群では現れなかった。
【0056】
このような現象は、溶媒の体積ないし表面積が溶媒の特性と乾燥条件に適していないため発生したものと理解され、これは乾燥過程を適切に制御することができないようにするか、工程中に発生する氷の結晶発生などで完全な蒸発(Evaporation)ではなく昇華(sublimation)を発生させて正常な減圧乾燥を履行し難くすることができる。また、このように適切な制御が不可能な状態で製品の乾燥などが進行されれば、製品の性状の不均一性とタンパク質損傷などによる製品力低下を誘発することができる。
【0057】
実施例1.ボツリヌス毒素の力価確認を通じた減圧乾燥条件の確立
前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液をバイアル内に0.1mLずつ充填して下記表5に記載された条件による減圧乾燥を行った製剤に対して、前記比較例1-2と同じ方法で力価を算出した。適した力価の基準は、動物試験の誤差範囲を含む区間に設定し(前記表3参照)、その結果を下記表5に表示した。
【0058】
【0059】
表5から確認できるように、1,500~30,000mTorr、3~25℃で1時間の間乾燥工程を行ったボツリヌス毒素製剤の力価が前記表3に記載された範囲を満たした。これに対し、1,500~30,000mTorr外の範囲で乾燥工程を行った場合(比較例4および5)にはボツリヌス毒素製剤の力価が適合範囲を満たさないことが分かった。
【0060】
実施例2.本発明の減圧乾燥条件による乾燥時間の確認#1
乾燥は、大きく2つのステップから成り得る。水素結合(hydrogen bonding)で連結された水分子の分離、および最終原液を構成する他の賦形剤およびタンパク質と多様な相互作用をしている水分子の除去である。水分子同士結合を成す場合、相対的に他の分子と相互作用を成す水分子より少ないエネルギーで分離が可能である。水分子同士結合を成す場合が大多数であり、これを分離することで一次的に蒸発が移行される。この過程で液体状の製品が気体状に変化過程を見せる。二次蒸発は、水分子とその他の賦形剤との間の相互作用中の結合が切れて現れ、この過程がほとんど仕上がると、乾燥が完了したと判定する。含湿度測定結果、3%以内の含湿度を有してこそ乾燥ケーキ注射剤の基準を満たす。
【0061】
よって、製品の相変化を通じて水分蒸発の速度や適合性を確認することができる。
【0062】
2-1.圧力条件別の相変化(液体→気体)時間の確認
前記実施例1の結果に基づいて、空バイアルと前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液をバイアル内に0.1mLずつ充填して、圧力条件別の相変化時間を確認した。
【0063】
具体的に、下記表6のように1,000~70,000mTorr、25℃条件で1時間の間乾燥工程を行い、バイアル内に温度センサーを設置して相変化による温度の変化を確認した。相変化が起きる速度は圧力が低いほど速く、これを通じて蒸発が起きていることを確認することができる。
【0064】
【0065】
表6、および
図3aおよび3bから確認できるように、ほとんどのバイアル底面に白色乾燥ケーキが形成されて蒸発による相の変化が現れ、相変化が発生するのにかかる時間は11~43分と示された。しかし、1時間以内には50,000mTorr、60,000mTorrおよび70,000mTorrでは該当過程が現れなかった。
【0066】
このような結果は、圧力が高いほど完全乾燥(蒸発)に必要な時間が増加され、さらに一定範囲を超える圧力(比較例7)では本発明が目的とするボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造が難しいという事実を示唆すると言える。
【0067】
2-2.製造されたボツリヌス毒素乾燥ケーキの含湿度の確認
前記実施例1および2-1の結果に基づいて、空バイアルと前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液をバイアル内に0.1mLずつ充填して3,500mTorr、5℃条件で減圧乾燥を行ったボツリヌス毒素乾燥ケーキが入れられたバイアルに対して、湿度10%以内環境における水分を測定した。下記計算式を通じて含湿度(%)を算出し、適した含湿度基準は薬局方を参考して、下記表7に表示した。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表8から確認できるように、0.5~4時間の間乾燥工程を行ったボツリヌス毒素製剤の含湿度が前記表7に記載された範囲を満たした。
【0072】
実施例3.本発明の減圧乾燥条件による乾燥時間の確認#2
前記実施例2の結果に基づいて、空バイアルと前記準備例で製造したボツリヌス毒素の最終原液をバイアル内に0.1mLずつ充填して、圧力条件別の相変化時間を確認した。
【0073】
具体的に、下記表9のように50,000~70,000mTorr、25℃条件で3時間の間乾燥工程を行い、バイアル内に温度センサーを設置して相変化による温度の変化を確認した。相変化が起きる速度は圧力が低いほど速く、これを通じて蒸発が起きていることを確認することができる。
【0074】
【0075】
表9、および
図4から確認できるように、50,000および60,000mTorr条件で相変化が発生するのにかかる時間は、それぞれ143分、183分と示された。しかし、70,000mTorrでは該当過程が現れなかった。
【0076】
このような結果は、圧力が高いほど完全乾燥(蒸発)に必要な時間が増加され、さらに一定範囲を超える圧力(比較例8)では本発明が目的とするボツリヌス毒素乾燥ケーキの製造が難しいという事実を示唆すると言える。
【国際調査報告】