IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宝山鋼鉄股▲分▼有限公司の特許一覧

特表2024-538834高強度高硬補強型耐摩耗鋼及びその製造方法
<>
  • 特表-高強度高硬補強型耐摩耗鋼及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】高強度高硬補強型耐摩耗鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241016BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241016BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/58
C21D8/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526668
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-02
(86)【国際出願番号】 CN2022129272
(87)【国際公開番号】W WO2023078299
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】202111292512.6
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 紅 斌
(72)【発明者】
【氏名】丁 建 華
(72)【発明者】
【氏名】劉 自 成
(72)【発明者】
【氏名】呉 扣 根
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
(57)【要約】
本発明は、Feと不可避的不純物を含む高強度高硬補強型耐摩耗鋼であって、さらに、質量パーセントで、C:0.22~0.33%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.50~1.80%、Cr:0.80~2.30%、Al:0.010~0.10%、RE:0.01~0.10%、W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方を含む、高強度高硬補強型耐摩耗鋼を開示している。また、本発明は、以下の工程を備える前記高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法を開示している:(1)製錬と鋳造、(2)加熱、(3)圧延、(4)初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、M90<最終冷却温度<B、冷却速度が2~15℃/であるオンライン焼入れ;その後、室温までの空冷。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feと不可避的不純物を含む高強度高硬補強型耐摩耗鋼であって、
さらに、質量パーセントで、C:0.22~0.33%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.50~1.80%、Cr:0.80~2.30%、Al:0.010~0.10%、RE:0.01~0.10%、W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方を含む、高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項2】
各化学元素の質量パーセントは、C:0.22~0.33%,Si:0.10~1.00%,Mn:0.50~1.80%,Cr:0.80~2.30%,Al:0.010~0.10%,RE:0.01~0.10%,W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方であり、残部がFeと不可避的な不純物である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項3】
各化学元素の質量パーセントは、C:0.22~0.31%、Si:0.10~0.80%、Mn:1.00~1.80%、Cr:1.10~2.20%、Al:0.010~0.080%を満たす;あるいは、その各化学元素の質量パーセントは、C:0.23~0.31%、Si:0.15~0.80%、Mn:1.10~1.80%、Cr:1.10~2.00%、Al:0.015~0.075%を満たす;あるいは、各化学元素の質量パーセントは、C:0.23~0.30%、Si:0.15~0.65%、Mn:1.15~1.80%、Cr:1.15~2.00%、Al:0.015~0.070%を満たす、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項4】
化学元素の質量パーセントは、以下のいずれか1つまたは複数の特徴を有する、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
C含有量が0.23~0.28%である;Si含有量が0.15~0.65%である;Mn含有量が1.05~1.65%である;Cr含有量が1.25~2.10%である;及び、Al含有量が0.035~0.080%である。
【請求項5】
不可避的不純物中に、P≦0.030%、および/またはS≦0.010%である、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項6】
ミクロ組織が、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物である、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項7】
残留オーステナイトの体積分率≧5%、マルテンサイトの体積分率≦90%;好ましくは、残留オーステナイトの体積分率が5~15%であり、マルテンサイトの体積分率が60~90%である;より好ましくは、残留オーステナイトの体積分率が5.3~12.0%または5.5~8.5%であり、マルテンサイトの体積分率が70~88%または77.5~85.6%である、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項8】
ブリネル硬度が400~500HBWであり、引張強度が1200~1600MPaであり、伸び率が10~15%であり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40Jである;好ましくは、降伏強度が、800~1000MPaであり、好ましくは830~980MPa;好ましくは、その屈強比は≦0.75、好ましくは≦0.70である、請求項1又は2に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項9】
以下の工程を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法。
(1)製錬と鋳造;
(2)加熱;
(3)圧延;
(4)初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、M90<最終冷却温度<B、冷却速度が2~15℃/であるオンライン焼入れ;その後、室温までの空冷。
【請求項10】
工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1230℃に制御し、1~3時間保温する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1180℃に制御する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、粗圧延温度を930~1180℃に、仕上げ圧延温度を870~970℃に制御する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)において、粗圧延温度を930~1130℃に、仕上げ圧延温度を875~945℃に制御する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(3)において、粗圧延段階の圧延圧下率が35%超、仕上げ圧延段階の圧延圧下率が55%超に制御する、請求項9~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(4)において、初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+45)℃であり、(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-15℃)、冷却速度が2~12℃/Sである、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材及びその製造方法に関し、特に耐摩耗鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗鋼は、高強度、高耐摩耗性能の特性を持ち、その性能が非常に優れており、鉱業、農業、セメント生産、港湾、電力や冶金などの分野に有効に応用され、例えばブルドーザー、ローダー、掘削機、ダンプ車及びグラブ、スタックフィーダーなどの機械製品を製造でき、幅広い応用の見通しがある。
【0003】
ここ数年来、耐摩耗鋼の開発は急速に発展しており、現在最も通常に使用されているのはマルテンサイト耐摩耗鋼であり、このような耐摩耗鋼では、一般的に、炭素含有量を増加し、且つクロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ホウ素などの合金元素を適量に加えること、熱処理後の相変態強化を十分に活用するなどの方法で、耐摩耗鋼の力学性能を向上させる。
【0004】
しかし、作業状況が比較的過酷な場合、硬度が非常に高い耐摩耗鋼板を採用する必要があることが多く、このような耐摩耗鋼が備える超高硬度に応じて、機械切断、ドリル、曲げなどの加工設備に対する要求が非常に高く、機械加工は極めに困難であり、ユーザーに多大な困難をもたらしている。
【0005】
これに基づいて、本発明は、既存の耐摩耗鋼の不足と欠陥に対して、新たな高強度高硬補強型耐摩耗鋼を得ることを図る:それは、既存の従来的な超高硬度耐摩耗鋼板によりも強硬度が低く、機械加工においてユーザーに大きな便利をもたらすことができる;実際の使用中に、このような高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、塑性誘起相変態が発生しやすく、鋼板の強硬度を著しくを高め、さらに鋼板の耐摩耗性能を向上させることができる;この効果により、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、実際の使用中に同硬度レベルの耐摩耗鋼板よりもむしろ高い力学的及び耐摩耗性が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、優れた力学性能を有すると同時に、優れた機械加工性、熱安定性及び溶接性能を有し、高い強硬度と高い靭性のマッチングを実現し、優れた機械加工性能を有し、且つ実際の使用中に優れた力学性能と良好な耐摩耗性能を備え、非常に良好な普及見通しと応用価値を持つ、高強度高硬補強型耐摩耗鋼の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、加工が容易であり、一般的な機械加工に便利を提供するとともに、使用中に、塑性誘起相変態により優れた強靭性と耐摩耗性を得、性能が優れ、エンジニアリング機械における耐摩耗部品に幅広く応用できる。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、Feと不可避的不純物を含む高強度高硬補強型耐摩耗鋼であって、さらに、質量パーセントで、C:0.22~0.33%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.50~1.80%、Cr:0.80~2.30%、Al:0.010~0.10%、RE:0.01~0.10%、W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方を含む、高強度高硬補強型耐摩耗鋼を提供する。
【0009】
さらに、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、各化学元素の質量パーセントは、C:0.22~0.33%,Si:0.10~1.00%,Mn:0.50~1.80%,Cr:0.80~2.30%,Al:0.010~0.10%,RE:0.01~0.10%,W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方であり、残部がFeと不可避的な不純物である。
【0010】
本発明では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、C、Si元素とMn、Cr合金元素を主に添加し、必要に応じてMo、Niなどの貴金属元素を適宜に添加してもよく、これにより、合金のコストを低く抑えると同時に、鋼材の性能を確保することができる。
【0011】
本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、各化学元素の設計原理は以下の通りである:
C:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Cは、耐摩耗鋼の中で最も基本的で、最も重要な元素であり、適量のC元素を添加することにより鋼材の強度と硬度を高め、さらに鋼材の耐摩耗性を向上させることができる。しかし、C元素は、同時に鋼材の靭性と溶接性能に不利な影響を与えるので、鋼中のC元素の含有量を合理的に制御する必要があることに注意すべきである。これに基づいて、C元素の含有量の耐摩耗鋼の性能に対する影響を考慮して、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、C元素の質量パーセントを0.22~0.33%に、より好ましくは0.23~0.28%に制御する。いくつかの実施形態では、Cの質量パーセントが、0.22~0.31%である。いくつかの実施形態では、Cの質量パーセントが、0.23~0.31%である。いくつかの実施形態では、Cの質量パーセントが、0.23~0.30%である。
【0012】
Si:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Siは、フェライトとオーステナイトに固溶でき、そしてそれらの硬度と強度を高めることができるが、Si元素含有量が高すぎると鋼材の靭性が急激に低下する。同時に、Si元素のOとの親和性がFeよりも強い、溶接時に低融点のケイ酸塩が発生しやすく、スラグと溶融金属の流動性を増加させ、溶接品質に影響を与えることを考慮して、鋼中のSi元素の含有量が多すぎてはいけない。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Si元素の質量パーセントを0.10~1.00%に制御する。いくつかの実施形態では、Siの質量パーセントが、0.10~0.80%である。いくつかの実施形態では、Siの質量パーセントが、0.15~0.80%である。いくつかの実施形態では、Siの質量パーセントが、0.15~0.65%である。
【0013】
Mn:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、適量のMn元素を添加すると、鋼材の焼入れ性を強く向上させ、鋼材の変態温度と鋼の臨界冷却速度を低下させることができる。しかし、鋼中のMn元素の含有量が高すぎると、結晶粒が粗大化する傾向があるだけではなく、鋼の焼き戻し脆性感受性を増加させ、しかも鋳造スラブに偏析や亀裂が発生しやすくなり、鋼板の性能を低下させるので、鋼中のMn元素含有量が高すぎてはいけないことを注意すべきである。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Mn元素の質量パーセントを0.50~1.80%に、好ましくは1.05~1.65%に制御する。いくつかの実施形態では、Mnの質量パーセントが、1.00~1.80%である。いくつかの実施形態では、Mnの質量パーセントが、1.10~1.80%である。いくつかの実施形態では、Mnの質量パーセントが、1.10~1.80%である。いくつかの実施形態では、Mnの質量パーセントが、1.15~1.80%である。いくつかの実施形態では、Mnの質量パーセントが、0.65~1.65%である。
【0014】
Cr:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Cr元素は、臨界冷却速度を低下させ、鋼の焼入れ性を向上させることができる。Crは、鋼中に(Fe,Cr)C、(Fe,Cr)及び(Fe,Cr)23などの多種の炭化物を形成でき、鋼材の強度と硬度を効果的に高める。なお、鋼に適量のCrを添加することにより、焼戻し時に炭化物の析出と凝集を阻止または緩和して、鋼材の焼戻し安定性を向上させることができる。これに基づいて、Cr元素の有益な効果を考慮して、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Cr元素の質量パーセントを0.80~2.30%に、より好ましくは1.25~2.10%に制御してもよい。いくつかの実施形態では、Crの質量パーセントが、1.10~2.20%である。いくつかの実施形態では、Crの質量パーセントが、1.10~2.00%である。いくつかの実施形態では、Crの質量パーセントが、1.15~2.00%である。いくつかの実施形態では、Crの質量パーセントが、0.95~2.10%である。
【0015】
Al:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Al元素は、鋼中のN元素と微細に難溶性のAlN粒子を形成し、鋼の結晶粒を微細化させることができる。鋼に適量のAl元素を添加することにより、鋼の結晶粒を効果的に微細化させ、鋼中のNとOを固定し、鋼の切欠きに対する感受性を軽減し、鋼材の時効現象を減少または解消し、鋼材の靭性を高めることができる。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Al元素の質量パーセントを0.010~0.10%に、より好ましくは0.035~0.080%に制御する。いくつかの実施形態では、Alの質量パーセントが、0.010~0.080%である。いくつかの実施形態では、Alの質量パーセントが、0.015~0.075%である。いくつかの実施形態では、Alの質量パーセントが、0.015~0.070%である。いくつかの実施形態では、Alの質量パーセントが、0.025~0.080%である。
【0016】
RE:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、適量の希土類を添加するにより、硫黄、リンなどの元素の偏析を減少させ、非金属介在物の形状、大きさと分布を改善し、同時に結晶粒を微細化させ、硬度を高めることができる。また、希土類は、屈強比を高め、これが、低合金高強度鋼の強靭性の改善に有利であり、鋼板の熱安定性を向上させることができる。しかし、鋼中の希土類の含有量が多すぎると、深刻な偏析が発生して、鋳片の品質と力学性能を低下させるおそれがあるので、鋼中の希土類の含有量が多すぎてはいけないことを注意すべきである。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、REの質量パーセントを0.01~0.10%に、より好ましくは0.03~0.10%に制御する。いくつかの実施形態では、REの質量パーセントが、0.025~0.080%である。
【0017】
W:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、タングステンは、鋼の焼戻し安定性と熱強度を向上させ、そして一定の結晶粒を微細化させる役割を果たすことができる。また、タングステンは、硬質炭化物を形成して鋼材の耐摩耗性を向上させることができる。これにより、タングステンの有益な効果を発揮するために、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、W元素の質量パーセントを0.01~1.0%に、より好ましくは0.05~0.85%に制御する。いくつかの実施形態では、Wの質量パーセントが、0.05~0.85%である。
【0018】
Mo:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、適量のMoを添加することにより、結晶粒を効果的に微細化させ、鋼材の強度と靭性を高めることができる。Moは、鋼中に固溶体相と炭化物相に存在するため、Mo含有鋼は、固溶強化と炭化物分散強化の役割を同時に持つ。また、Moは、焼戻し脆性を減少させる元素であり、鋼に適量のMo元素を添加することにより、材料の焼戻し安定性を向上させることができる。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、添加すれば、Mo元素の質量パーセントを0.01~0.80%に、好ましくは0.08~0.55%に制御する。
【0019】
Ni:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Niは、Feと任意の割合で相互溶解し、そしてフェライト結晶粒を微細化させることにより鋼の低温靭性を改善させ、且つ冷脆変態温度を顕著に低減させる役割を果たすことができる。しかし、鋼中のNi元素含有量が高すぎると、鋼板の表面の酸化スケールが脱落しにくくなり、生産コストが著しく増加することを招きやすいので、鋼中のNi元素含有量が高すぎてはいけないことを注意すべきである。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼ではは、添加すれば、Ni元素の質量パーセントを0.01~1.00%に、好ましくは0.25~0.85%に制御する。
【0020】
Nb:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、適量のNb元素を添加することにより、結晶粒の微細化と析出強化の役割を果たすことができ、材料の強靭性の向上に対する寄与が極めて顕著である;Nb元素は、結晶粒の微細化の役割により鋼材の強度と靭性を効果的に高め、また、析出強化と相変態強化により鋼材の性能を向上、改善させることができるので、Nbは、すでに高強度低合金構造鋼の中に最も有効な強化剤の一つとなる;また、Nbは、強いC化物やN化物の形成元素でもあり、オーステナイト結晶粒の成長を強く抑制することができる。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、添加すれば、Nb元素の質量パーセントを0.005~0.080%に、好ましくは0.01~0.045%に制御する。
【0021】
V:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、適量のV元素を添加することにより、結晶粒を効果的に微細化させ、鋼ビレットの加熱段階でオーステナイト結晶粒の成長が粗大にならないようにすることができ、これにより、その後の複数回の圧延過程で、鋼の結晶粒をさらに微細化させ、さらに鋼材の強度と靭性を高めることができる。これに基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、添加すれば、V元素の質量パーセントを0.01~0.20%に、好ましくは0.03~0.15%に制御する。
【0022】
Ti:本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、Tiは、強炭化物形成元素の1つであり、Ti元素は、C元素と結合して微細なTiC粒子を形成することができる。その中で、TiC粒子は小さく、粒界に分布でき、これにより結晶粒を微細化させる効果を実現することができる;また、TiC粒子は硬く、鋼材の耐摩耗性を向上させることができる。これに基づいて、Ti元素の有益な効果を考慮して、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、添加すれば、Ti元素の質量パーセントを0.001~0.50%に、好ましくは0.015~0.45%に制御する。
【0023】
より好ましくは、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、各化学元素質量パーセントは、C:0.22~0.31%、Si:0.10~0.80%、Mn:1.00~1.80%、Cr:1.10~2.20%、Al:0.010~0.080%を満たす。
【0024】
さらに好ましくは、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、各化学元素質量パーセントは、C:0.23~0.31%、Si:0.15~0.80%、Mn:1.10~1.80%、Cr:1.10~2.00%、Al:0.015~0.075%を満たす。
【0025】
最も好ましくは、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、各化学元素質量パーセントは、C:0.23~0.30%、Si:0.15~0.65%、Mn:1.15~1.80%、Cr:1.15~2.00%、Al:0.015~0.070%を満たす。
【0026】
さらに、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、不可避的不純物中に、P≦0.030%、および/またはS≦0.010%である。
【0027】
本発明において、P及びSはいずれも不可避的不純物であり、耐摩耗鋼の品質を確保するために、条件が許す限り、鋼中の不純物元素の含有量は低いほど好ましい。P、Sはすべて有害元素であり、それらの含有量は厳格に制御すべきである。したがって、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、不可避な不純物元素を、P≦0.030%、および/またはS≦0.010%を満たすように制御する。
【0028】
さらに、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、ミクロ組織が、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物である。
【0029】
さらに、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、残留オーステナイトの体積分率≧5%、マルテンサイトの体積分率≦90%である。いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、残留オーステナイトの体積分率が5~15%であり、マルテンサイトの体積分率が60~90%である。いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、残留オーステナイトの体積分率が5.3~12.0%、例えば5.5~8.5%であり、マルテンサイトの体積分率が70~88%、例えば77.5~85.6%である。
【0030】
通常の同硬度レベルの低合金鋼板と比べて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、ミクロ組織が現在の一般的なマルテンサイト組織と異なり、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物のミクロ組織が形成される。
【0031】
上記ミクロ組織に基づいて、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼の力学性能を確保でき、この高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、強硬度はやや低く、機械加工においてユーザーに大きな便利さをもたらし、加工しやすい状況に適用する。
【0032】
また、実際の使用中に、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、耐摩耗性が非常に優れており、これは主に使用中にTRIP(相変態誘起塑性)効果が発生したためであり、即ち:この鋼板は、ある量のマルテンサイトまたはベイナイトに加えて、ある割合のオーステナイトも含むため、鋼板が使用中に衝撃、打圧、摩耗される際に、塑性誘起相変態が発生し、鋼板の強硬度を大幅に高め、さらに鋼板の耐摩耗性を向上させることができる。この効果により、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、実際の使用中に同硬度レベルの通常の耐摩耗鋼板よりもむしろ高い力学的及び耐摩耗性を得ることができる。
【0033】
なお、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、特殊なミクロ組織及び添加されるRE及びW元素を有することにより、ある程度の耐高温性を得ることができ、高い温度でも、この鋼板の強硬度損失が大きくない。
【0034】
さらに、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、ブリネル硬度が400~500HBWであり、引張強度が1200~1600MPa(例えば1300~1600 MPa)であり、伸び率が10~15%であり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40Jである。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、ブリネル硬度が420~480HBWであり、引張強度が1220~1450MPaであり、伸び率が10~15%、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40J、例えば41~60Jである。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、降伏強度が800~1000MPa、例えば830~980MPaである。いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、屈強比≦0.75、好ましくは≦0.70である。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、550Jの衝撃エネルギー打撃を行った後、鋼板表面のブリネル硬度が、試験前の鋼板のブリネル硬度よりも10%以上上昇し、好ましくは13%以上上昇したことを測定する。いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、550J衝撃エネルギー打撃を行った後、鋼板表面のブリネル硬度≧480HBW、例えば480~560HBWであると測定する。
【0038】
応じて、本発明のもう一つ目的は、簡単で実行可能な高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法の提供であり、この製造方法により製造された高硬補強型耐摩耗鋼は、総合性能が非常に優れ、ブリネル硬度が400~500HBWであり、引張強度がであり1200~1600 MPa(例えば1300~1600MPa)であり、伸び率が10~15%であり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40Jであり、非常に良好な普及見通しと応用価値を持つ。
【0039】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の工程を備える前記高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法を提供する:
(1)製錬と鋳造;
(2)加熱;
(3)圧延;
(4)初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、M90<最終冷却温度<B、冷却速度が2~15℃/であるオンライン焼入れ;その後、室温までの空冷。
【0040】
本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法では、各製錬原料を、発明者らが設計した化学成分の配合比に従って添加し、順に製錬、鋳造、加熱、圧延及びオンライン焼入れ工程を経て、前記高強度高硬補強型耐摩耗鋼を得ることができる。
【0041】
なお、本発明の上記工程(4)のオンライン焼入れ過程において、初回冷却が水冷を用いてもよく、油冷を用いてもよい。
【0042】
本発明において、Ar3’は、オンライン焼入れ中にオーステナイトがフェライトに変態し始める温度を表し、Bは、ベイナイが変態し始める温度を示し、M90は、マルテンサイト体積比が90%になる温度を表す。
【0043】
さらに、本発明に記載の製造方法では、工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1230℃に制御し、1~3時間保温する。いくつかの実施形態では、スラブ加熱温度を1050~1210℃に制御し、1~3時間保温する。
【0044】
さらに、本発明に記載の製造方法では、工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1180℃に制御する。
【0045】
応じて、いくつかの他の実施形態では、加熱温度を1030~1160℃に制御することがより好ましい;最も好ましくは、生産効率を高め、且つオーステナイト結晶粒の過度な成長及びスラブ表面の深刻な酸化を防止するために、加熱温度を1030~1140℃に制御する。
【0046】
さらに、本発明に係る製造方法では、工程(3)において、粗圧延温度を930~1180℃、仕上げ圧延温度を870~970℃に制御する。いくつかの実施形態では、工程(3)において、粗圧延温度を950~1150℃に、仕上げ圧延温度を885~955℃に制御する。
【0047】
さらに、本発明に係る製造方法では、工程(3)において、粗圧延温度を930~1130℃に、仕上げ圧延温度を875~945℃に制御する。
【0048】
さらに、本発明に係る製造方法では、工程(3)において、粗圧延段階の圧延圧下率が35%超、仕上げ圧延段階の圧延圧下率が55%超に制御する。さらに、本発明に係る製造方法では、工程(3)において、粗圧延段階の圧延圧下率を35~75%に、仕上げ圧延段階の圧延圧下率を55~80%に制御する。
【0049】
より好ましくは、いくつかの他の実施形態では、より優れた実施効果を得るために、本発明では、粗圧延温度を930~1110℃に、粗圧延段階の圧延圧下率を38%以上に、仕上げ圧延温度を875~935℃に、仕上げ圧延段階の圧延圧下率を58%以上に制御する。
【0050】
最も好ましくは、工程(3)において、圧延中の粗圧延温度を935~1105℃に、粗圧延段階の圧延圧下率を40%超に、制御精圧延温度を875~930℃に、精圧延段階の圧延圧下率を60%超に制御する。
【0051】
さらに、本発明に係る製造方法では、工程(4)において、初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+45)℃であり、(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-15℃)、冷却速度が2~12℃/Sである。
【0052】
いくつかの他の実施形態では、初回冷却冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+40)℃であり、最終冷却温度が(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-20℃)を満たすように制御し、冷却速度が2~11℃/Sであるように制御してもよい。
【0053】
最も好ましくは、初回冷却冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+38)℃であり、最終冷却温度が(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-23℃)を満たすように制御し、冷却速度を3~11℃/Sに制御してもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、最終冷却温度が350~450℃である。
いくつかの実施形態では、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、厚さが9~25mmである。
【0055】
本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼及びその製造方法は、従来技術に比べて、以下のような利点及び有益な効果を有する:
(1)化学成分の設計時、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、合金成分を十分に最適化させ、C、Si元素とMn、CI合金元素を主に添加し、必要に応じてMo、Niなどの貴金属元素を適宜に添加することにより、合金コストを低く抑えると同時に、鋼材の性能を確保することができる。
(2)ミクロ組織から見れば、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物のミクロ組織(ここで、マルテンサイトの体積分率<90%、残留オーステナイトの体積分率>5%、余分がベイナイトと炭化物)が得られ、使用中に鋼板にTRIP効果が発生し、鋼板の強硬度と耐摩耗性を高め、さらに鋼板の実用性と使用寿命を向上させる。また、大量に均一に分布するTi、Cr、Mo、Wの炭化物のような硬質相は、鋼板の耐摩耗性と使用寿命をさらに向上させることができる。
(3)本発明の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、従来のマルテンサイト耐摩耗鋼よりも硬度が低く、機械加工においてユーザーに大きな便利をもたらし、加工しやすい状況に適用する;また、REとW元素の添加により、本発明の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、さらに一定の耐高温性を有し、高い温度でも、この鋼板の強硬度損失が大きくない。
【0056】
以上から、本発明は、合理的な生産プロセス条件下で、炭素、合金成分及びそれらの配合比を科学的に設計し、合金コストを下げ、その生産プロセスが簡易で実行可能で、工業生産に有利である;応じて、本発明の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、優れた力学性能(例えば硬度、強度、伸び率、衝撃靭性及び一定の耐高温性)と、加工性能及び使用性を備え、ブリネル硬度が400~500HBWであり、引張強度が1200~1600MPa(例えば1300~1600MPa)であり、伸び率が10~15%であり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40Jである、非常に良好な普及見通しと応用価値を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1:実施例3で製造された高強度高硬補強型耐摩耗鋼の金相組織写真。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に、具体的な実施例を結合して本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼及びその製造方法について更なる解釈や説明を行うが、これら解釈や説明は、本発明の形態の構成に不当に限定するものではない。
【0059】
実施例1~8
実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、いずれも以下の工程で製造されたものである:
(1)表1に示す化学成分の配合比に従って製錬と鋳造を行った。
(2)加熱:得られたスラブを加熱し、スラブ加熱温度を1030~1230℃に制御し、1~3時間保温した;もちろん、スラブ加熱温度を好ましくは1030~1180℃に制御してもよい。
(3)圧延:加熱されたスラブを圧延し、粗圧延温度を930~1180℃に、仕上げ圧延温度を870~970℃に制御し、粗圧延段階の圧延圧下率を35%超に、仕上げ圧延段階の圧延圧下率を55%超に制御した;もちろん、粗圧延段階の圧延圧下率が35%超に、仕上げ圧延段階の圧延圧下率を55%超に制御する場合、粗圧延温度を好ましくは930~1130℃に制御してもよく、仕上げ圧延温度を好ましくは875~945℃に制御してもよい。
(4)初回冷却の冷却開始温度が((Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、M90<最終冷却温度<B、冷却速度が2~15℃/sであるオンライン焼入れ;その後、室温までの空冷を行った;もちろん、好ましくは、初回冷却冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、最終冷却温度が(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-15℃)を満たすように制御し、且つ冷却速度が2~12℃/Sであるように制御する。
【0060】
なお、本発明に係る実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、いずれも以上の工程で製造されたものであり、その化学成分及び関連プロセスパラメータは、すべて本発明の設計仕様管理要件を満たす。
【0061】
実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼における各化学元素の質量パーセントを表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼の上記製造方法における各工程中の具体的なプロセスパラメータを表2-1及び表2-2に示す。
【0064】
【表2-1】
【0065】
【表2-2】
【0066】
備考:表2-2では、Ar3’は、試験鋼のオンライン焼入れ中にオーステナイトがフェライトに変態し始める温度を表し、Bは、ベイナイトが変態し始める温度を表し、M90は、マルテンサイト体積比が90%になる温度を表す。
【0067】
最終的に得られた実施例1~8の高硬強化型耐摩耗鋼それぞれをサンプリングし、実施例1~8の高硬強化型耐摩耗鋼サンプルを観察し分析し、観察により、すべての実施例1~8の高硬強化型耐摩耗鋼では、ミクロ組織が、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物であることが分かった。実施例3の金相組織写真を図1に示す。
【0068】
応じて、実施例1~8の高硬強化型耐摩耗鋼のミクロ組織について更なる分析を行い、残留オーステナイト組織の体積分率とマルテンサイト組織の体積分率を得た。ここで、残留オーステナイトの体積分率がいずれも>5%であり、マルテンサイトの体積分率がいずれも<90%であり、残留オーステナイト組織の体積分率の結果を以下の表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
上記の表3から、本発明に係る実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、残留オーステナイトの体積分率が5.6~8.3%であることが分かる。
【0071】
本発明の前記の実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼のミクロ組織観察を完了した後、実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼サンプルについて力学性能をさらに試験して、実施例1~8の高硬補強型耐摩耗鋼の力学性能パラメータを得た。得られた試験結果は、下記の表4に示す。
【0072】
相関力学性能の試験手段は、以下の通る:
引張試験:室温でSCL 233200kN常温引張試験機を用いてGB/T 228.1規格に基づいて引張性能試験を行い、実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼サンプルの室温下での引張強度と伸び率を測定した。
【0073】
冷間曲げ試験:実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼それぞれに対して室温下で曲げ試験を行い、対応な結果を得た;室温下でYJW-2000電気油圧専用サーバー曲げ試験機を用い、GB/T232規格に基づいて曲げ試験を行った;曲げ試験後に拡大装置を使用せずに観察し、試料の外面に亀裂が見られないと、「合格」と評定した。
【0074】
ブリネル硬度試験:室温下でSCL 246ブリネル硬度試験機を採用し、GB/T 231.1規格に基づいてブリネル硬度試験を行った。実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼サンプルそれぞれに対して表面位置に硬度試験し、対応な実施例のブリネル硬度を得た。
【0075】
実施例1~8の高硬度高硬度補強型耐摩耗鋼サンプルのブリネル硬度を得た後、自作ハンマー設備を用いて各実施例の鋼板に550Jの衝撃エネルギー打撃を行った後、鋼板表面のブリネル硬度を測定し、補強後のブリネル硬度を得た。
【0076】
衝撃試験:-40℃でSCL 186750J計装衝撃試験機を採用し、GB/T 229規に基づいて衝撃性能試験を行った。実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼サンプルそれぞれに対して衝撃靭性を試験し、対応な衝撃エネルギーを得た。
【0077】
実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼の表面位置における力学的性能試験結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
備考:強化後硬度:自作ハンマー設備を用いて試料鋼板に550J衝撃エネルギー打撃を行った後に測定された鋼板表面のブリネル硬度。
【0080】
上記の表4から、本発明に係る実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、非常に優れた力学性能を備え、高強度、高硬、高伸び率などの特性を有するだけではなく、優れた低温衝撃靭性を有し、降伏強度が835~980MPaであり、引張強度が1240~1415MPaであり、伸び率が12~15%であり、表面のブリネル硬度が422~475HBWであり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギーが42~57Jであった。
【0081】
本発明に係る実施例1~8の高硬度高硬度補強型耐摩耗鋼は、強化後も良好なブリネル硬度を有し、自作ハンマー設備を用いて試料鋼板に550J衝撃エネルギー打撃を行った後に測定された各実施例の鋼板の強化後のブリネル硬度が493~545HBWであった。
【0082】
応じて、本発明に係る実施例1~8の高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、いずれも非常に優れた冷間曲げ性能を有し、曲げ試験後の試料の外面に亀裂が見られず、いずれも「合格」であった。本発明に係る鋼板は、降伏強度が極めて低いため、同硬度レベルの通常の耐摩耗鋼に比べて、鋼板折り曲げなどの成形加工性能が非常に優れた。
【0083】
以上より、本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼では、合理的な化学元素成分設計と配合の最適化技術により、ミクロ組織がマルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物である耐摩耗鋼が得られる;この高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、優れた力学性能(例えば、硬度、強度、伸び率、衝撃靭性及びある程度の耐高温性)を備えると同時に、良好な加工性能及び使用性を有する。
【0084】
本発明に係る高強度高硬補強型耐摩耗鋼は、加工しやすく、通常の機械加工に便利をもたらすだけではなく、使用中に優れた強靭性と耐摩耗性を有し、エンジニアリング機械における耐摩耗部品に幅広く応用できる。
【0085】
なお、本発明の保護範囲における先行技術部分は、本願書類に記載された実施例に限定されるものではなく、本発明の態様と矛盾しないすべての先行技術、先行特許文献、先行公開出版物、先行公開使用などを含むが、これらに限定されない、本発明の保護範囲に取り入れることができる。
【0086】
なお、本件における各技術的特徴の組み合わせ方式は、本件の請求の範囲に記載の組み合わせ方式や具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定されるものではなく、本件に記載のすべての技術的特徴は、相互間に矛盾が生じない限り、任意の方式で自由に組み合わせ又は結合してもよい。
【0087】
なお、上記に挙げされたのは、本発明の具体的な実施例のみであり、本発明は、上記の実施例に限定されず、それに伴って多くの類似の変化があることは明らかである。本発明の開示から当業者によって直接に導き出される、または考えられるすべての変更は、本発明の保護範囲に含まれる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feと不可避的不純物を含む高強度高硬補強型耐摩耗鋼であって、
さらに、質量パーセントで、C:0.22~0.33%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.50~1.80%、Cr:0.80~2.30%、Al:0.010~0.10%、RE:0.01~0.10%、W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方を含む、高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項2】
各化学元素の質量パーセントは、C:0.22~0.33%,Si:0.10~1.00%,Mn:0.50~1.80%,Cr:0.80~2.30%,Al:0.010~0.10%,RE:0.01~0.10%,W:0.01~1.0%;及び、Mo:0.01~0.80%、Ni:0.01~1.00%、Nb:0.005~0.080%、V:0.01~0.20%、Ti:0.001~0.50%のうちの少なくとも一方であり、残部がFeと不可避的な不純物である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項3】
各化学元素の質量パーセントは、C:0.22~0.31%、Si:0.10~0.80%、Mn:1.00~1.80%、Cr:1.10~2.20%、Al:0.010~0.080%を満たす;あるいは、その各化学元素の質量パーセントは、C:0.23~0.31%、Si:0.15~0.80%、Mn:1.10~1.80%、Cr:1.10~2.00%、Al:0.015~0.075%を満たす;あるいは、各化学元素の質量パーセントは、C:0.23~0.30%、Si:0.15~0.65%、Mn:1.15~1.80%、Cr:1.15~2.00%、Al:0.015~0.070%を満たす、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項4】
化学元素の質量パーセントは、以下のいずれか1つまたは複数の特徴を有する、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
C含有量が0.23~0.28%である;Si含有量が0.15~0.65%である;Mn含有量が1.05~1.65%である;Cr含有量が1.25~2.10%である;及び、Al含有量が0.035~0.080%である。
【請求項5】
不可避的不純物中に、P≦0.030%、および/またはS≦0.010%である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項6】
ミクロ組織が、マルテンサイト+ベイナイト+残留オーステナイト+炭化物である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項7】
残留オーステナイトの体積分率≧5%、マルテンサイトの体積分率≦90%;好ましくは、残留オーステナイトの体積分率が5~15%であり、マルテンサイトの体積分率が60~90%である;より好ましくは、残留オーステナイトの体積分率が5.3~12.0%または5.5~8.5%であり、マルテンサイトの体積分率が70~88%または77.5~85.6%である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項8】
ブリネル硬度が400~500HBWであり、引張強度が1200~1600MPaであり、伸び率が10~15%であり、-40℃におけるシャルピーV型縦衝撃エネルギー>40Jである;好ましくは、降伏強度が、800~1000MPaであり、好ましくは830~980MPa;好ましくは、その屈強比は≦0.75、好ましくは≦0.70である、請求項1に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼。
【請求項9】
以下の工程を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の高強度高硬補強型耐摩耗鋼の製造方法。
(1)製錬と鋳造;
(2)加熱;
(3)圧延;
(4)初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+50)℃であり、M90<最終冷却温度<B、冷却速度が2~15℃/であるオンライン焼入れ;その後、室温までの空冷。
【請求項10】
工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1230℃に制御し、1~3時間保温する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)において、スラブ加熱温度を1030~1180℃に制御する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、粗圧延温度を930~1180℃に、仕上げ圧延温度を870~970℃に制御する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)において、粗圧延温度を930~1130℃に、仕上げ圧延温度を875~945℃に制御する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(3)において、粗圧延段階の圧延圧下率が35%超、仕上げ圧延段階の圧延圧下率が55%超に制御する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(4)において、初回冷却の冷却開始温度が(Ar3’+5)~(Ar3’+45)℃であり、(M90+5℃)<最終冷却温度<(B-15℃)、冷却速度が2~12℃/Sである、請求項9に記載の製造方法。
【国際調査報告】