(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】転帰不良のリスクが高い対象における進行性心不全の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20241016BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20241016BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/04
A61P9/10
A61K47/20
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529656
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 US2022080089
(87)【国際公開番号】W WO2023092043
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】ケネス・ボロウ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076CC11
4C076DD55
4C076EE41
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本開示は、転帰不良のリスクが高い対象における進行性心不全を治療及び/または予防する方法に関する。そのような方法は、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象における進行性心不全を治療または予防するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における進行性心不全を治療または予防する方法であって、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を前記対象に投与することを含み、前記対象が、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する、前記方法。
【請求項2】
対象における心臓死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中のリスクを低減する方法であって、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を前記対象に投与することを含み、前記対象が、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する、前記方法。
【請求項3】
細胞療法による治療のために心不全患者を選択する方法であって、i)微小血管疾患及び/または大血管疾患について前記対象を評価すること、並びにii)微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象を治療のために選択することを含み、好ましくは、前記治療が、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記対象が心筋虚血及び/または糖尿病を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象のCRPレベルが2mg/L以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象のLVEFが約45%未満、好ましくは40%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象のLVESVが70mlを超える、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象のLVESVが70ml~160mlである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
i)治療のために微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象を選択する工程、及びii)間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を前記対象に投与する工程を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルが、
-1000pg/mL超、または、
-1000pg/ml~2500pg/mlである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが5mg/L未満、好ましくは4mg/L未満、好ましくは3mg/L未満である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、過去9ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が持続性左室機能不全を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象の心不全が、虚血性事象または非虚血性事象に起因する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象の心臓死のリスクが治療後に低下する、請求項1または3~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記リスクの低下が、間葉系前駆細胞または幹細胞を投与されていない対象の心臓死のリスクとの相対である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象の虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクが治療後に低下する、請求項1または3~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が経心内膜投与及び/または静脈内投与される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記間葉系前駆細胞または幹細胞が間葉系前駆細胞(MPC)である、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記MPCが、抗STRO-3抗体を用いて骨単核細胞から単離される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記間葉系前駆細胞または幹細胞が間葉系幹細胞(MSC)である、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が同種異系である、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が培養増殖される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、それらが培養増殖される前、STRO-3+である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が凍結保存されている、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
1×10
7~2×10
8細胞を投与することを含む、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、前記HSA溶液が5%HSA及び15%緩衝液を含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、6.68×10
6個/mLを超える生存可能細胞を含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が、抗STRO-3抗体によって骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、凍結保存されたヒト骨髄由来の同種異系間葉系前駆細胞(MPC)を含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法であって、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を前記対象に投与することを含み、前記対象が、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する、前記方法。
【請求項33】
前記対象が心筋虚血及び/または糖尿病を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記対象のCRPレベルが2mg/L以上である、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記虚血性事象が動脈閉塞の形成である、請求項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記虚血性事象が脳血管閉塞または心臓閉塞の形成である、請求項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記虚血性事象が脳卒中または心筋梗塞である、請求項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が経心内膜投与される、請求項32~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度またはIII度の心不全を有する、請求項32~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルが、
-1000pg/mL超、または、
-1000pg/ml~2500pg/mlである、請求項32~38のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月17日に出願されたオーストラリア特許出願第2021903706号及び2022年11月17日に出願された米国特許出願第63/384,200号の優先権利益を主張し、これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、転帰不良のリスクが高い対象における進行性心不全を治療及び/または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心筋梗塞(MI)は、依然として先進国における死亡率及び罹患率の主な原因の1つである。急性MIで入院し、事象後に生存退院した65歳超の患者350,509件に関するデータを評価した、米国メディケア記録の最新版が発表された(Schuster et al.(2004)Physiol Heart Circa Physiol.,287(2):525-32)。インデックス事象後1年以内に、MI患者の25.9%が死亡し、50.5%が再入院した。MI後の月において、総メディケア年齢集団中と比較して、死亡の可能性は21倍高く、入院の可能性は12倍高かった。
【0004】
過去10年間に、新規薬物療法を評価する多数の臨床試験が、進行性心不全(HF)の患者において行われてきた。HF患者の罹患率及び死亡率の低減には進歩が見られるものの、進行した疾患を有する者は、頻繁な入院及び早期死亡を特徴とする好ましくない臨床経過を経験し続けている。
【0005】
明らかに、当該技術分野では進行性心不全を治療または予防する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、細胞療法が進行性心不全を有する特定の対象、特に微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象など、転帰不良の対象において特に有効であることを発見した。例えば、細胞療法は、心筋虚血及び/または糖尿病に加えて、進行性心不全を有する対象において特に有効である。したがって、一例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療または予防する方法に関し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。
【0007】
別の例では、本開示は、対象における心臓死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中のリスクを低減する方法に関し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。一例では、方法は、後続のMIまたは脳卒中などの非致死性事象の非致死性リスクを低減する。したがって、別の例では、本開示は、対象における心筋梗塞または脳卒中のリスクを低減する方法に関し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。
【0008】
別の例では、本開示は、細胞療法による治療のために心不全患者を選択する方法に関し、方法は、i)微小血管疾患及び/または大血管疾患について対象を評価すること、並びにii)微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象を治療のために選択することを含み、好ましくは、治療は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を投与することを含む。
【0009】
これらの例では、微小血管疾患及び/または大血管疾患は、心筋虚血及び/または糖尿病である。
【0010】
一例では、対象のCRPレベルは2mg/L以上である。別の例では、対象のCRPレベルは5mg/L未満である。別の例では、対象のCRPレベルは4mg/L未満である。別の例では、対象のCRPレベルは3mg/L未満である。別の例では、対象のCRPレベルは2~5mg/Lである。別の例では、対象のCRPレベルは2~4mg/Lである。別の例では、対象のCRPレベルは2~3mg/Lである。
【0011】
別の例では、対象のLVEFは約45%未満である。別の例では、対象のLVEFは40%未満である。一例では、LVEFは二次元心エコー図によって測定される。一例では、対象のLVEFは35%以下であり、LVEFはマルチゲート収集スキャンによって測定される。
【0012】
一例では、対象のLVESVは70mlを超える。別の例では、対象のLVESVは100mlを超える。別の例では、対象のLVESVは130mlを超える。別の例では、対象のLVESVは70ml~160mlである。一例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する。
【0013】
別の例では、対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、
-1000pg/mL超、または、
-1000pg/ml~2500pg/mlである。
【0014】
一例では、対象は過去9ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた。別の例では、対象は静脈内利尿薬、血管拡張薬を必要とするHF外来緊急治療を少なくとも1回受けたことがある。別の例では、対象は、治療の1~9ヶ月前に陽性変力療法を受けていた。
【0015】
一例では、対象は、持続性左室機能不全を有する。
【0016】
一例では、治療後に対象の心臓死のリスクが低下する。この例では、リスクの低下は、間葉系前駆細胞または幹細胞を投与されていない対象の心臓死のリスクとの相対であり得る。
【0017】
別の例では、治療後に対象の虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクが低下する。
【0018】
一例では、組成物は経心内膜及び/または静脈内で投与される。例えば、組成物は経心内膜投与されてもよい。
【0019】
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、間葉系前駆細胞(MPC)である。一例では、MPCは、抗STRO-3抗体を用いて骨単核細胞から単離される。
【0020】
別の例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療または予防する方法に関し、方法は、細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。一例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度またはIII度の心不全を有する。一例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるIII度未満の心不全を有し得る。一例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する。したがって、一例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療または予防する方法に関し、方法は、細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する。
【0021】
別の例では、本開示は、対象における心不全の進行を低減する方法に関し、方法は、細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する。
【0022】
別の例では、本開示は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する対象の心臓死を減少させる方法であって、細胞を含む組成物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0023】
別の例では、本開示は、細胞療法による治療のために心不全患者を選択する方法に関し、方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールに従って心不全を評価すること、及びii)NYHAによるII度の心不全を有する対象を選択することを含む。一例では、方法は、細胞を含む組成物を投与することをさらに含む。
【0024】
一例では、細胞は、標的組織に新しい血管形成を誘導する。一例では、細胞は動脈形成を促進する。一例では、細胞は、危険にさらされている心筋を保護する因子を分泌する。したがって、一例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療または予防する方法に関し、方法は、細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有し、細胞は、標的組織に新しい血管形成を誘導し、及び/または危険にさらされている心筋を保護する因子を分泌する。
【0025】
一例では、細胞は、間葉系前駆細胞または幹細胞(MLPSC)である。一例では、MLPSCはSTRO-1+である。一例では、MLPSCは間葉系幹細胞(MSC)である。一例では、MLPSCは同種異系である。一例では、細胞は培養増殖される。この例では、細胞は、培養増殖される前にTNAP+であり得る。一例では、細胞は凍結保存されている。
【0026】
別の例では、本開示の方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全を有する対象を選択すること、及びii)標的組織における新しい血管形成を誘導する細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。
【0027】
別の例では、組成物の投与によって、対象のNYHAのIII度進行性心不全への進行が抑制される。
【0028】
一例では、対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、2200pg/ml未満である。別の例では、細胞を投与する前の対象のNT-proBNPは、2000pg/ml未満である。別の例では、細胞を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、1000pg/ml~2000pg/mlである。
【0029】
本発明者らはまた、驚くべきことに、C反応性タンパク質(CRP)レベルが上昇した進行性心不全の初期段階にある対象において、細胞療法が特に効果的であることを発見した。したがって、一例では、対象のCRPレベルは上昇している。一例では、対象のCRPレベルは1mg/L超である。一例では、対象のCRPレベルは1.5mg/L超である。一例では、対象のCRPレベルは2mg/L以上である。一例では、対象のCRPレベルは2mg/L超である。別の例では、対象のCRPレベルは1.5~5mg/Lである。別の例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルは5mg/L未満、好ましくは4mg/L未満である。別の例では、対象のCRPレベルは1~5mg/Lである。別の例では、対象のCRPレベルは1.5~5mg/Lである。
【0030】
別の例では、対象は過去9ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた。
【0031】
別の例では、対象のLVEFは約45%未満、好ましくは40%未満である。別の例では、対象は、持続性左室機能不全を有する。
【0032】
別の例では、対象の心不全は虚血性事象に起因する。
【0033】
別の例では、対象の心不全は非虚血性事象に起因する。
【0034】
一例では、治療後に対象の心臓死のリスクが低下する。一例では、リスクの低下は、NYHAのIII度進行性心不全を有する対象における心臓死のリスクとの比較である。別の例では、治療後に対象の虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクが低下する。
【0035】
一例では、III度の心不全の対象の虚血性MACE(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)のリスクが低下する。別の例では、治療後にIII度の心不全の対象の心臓死のリスクが低下する。別の例では、治療後にIII度の心不全の対象の虚血性MACE及び心臓死のリスクが低下する。一例として、III度の心不全対象のCRPレベルは2mg/L以上である。
【0036】
一例では、組成物は経心内膜及び/または静脈内で投与される。一例では、組成物は経心内膜投与される。
【0037】
本発明者らはまた、驚くべきことに、細胞療法によって、心筋症を有する対象における虚血性事象のリスクが低下することを特定した。したがって、一例では、本開示はまた、対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法を包含し、方法は、細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。一例では、対象は心筋症を有する。別の例では、対象は微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。例えば、対象は心筋虚血及び/または糖尿病を有し得る。一例では、対象は心筋虚血を有する。別の例では、対象は糖尿病を有する。
【0038】
一例では、虚血性事象は、脳血管閉塞または心臓閉塞の形成である。一例では、虚血性事象は、脳卒中または心筋梗塞である。一例では、対象は非虚血性心筋症を有する。一例では、細胞は経心内膜投与される。一例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度またはIII度の心不全を有する。一例では、対象は活動性炎症を有する。一例では、対象はII度の心不全及び「活動性炎症」を有する。一例では、活動性炎症は、CRPのレベルが1.5mg/Lを超えることを特徴とする。別の例では、活動性炎症は、CRPのレベルが2mg/Lを超えることを特徴とする。例示的な細胞については、上記及び本開示全体にわたって説明されている。一例では、細胞は、標的組織に新しい血管形成を誘導する。一例では、細胞は動脈形成を促進する。一例では、細胞は、危険にさらされている心筋を保護する因子を分泌する。一例では、細胞はMLPSCである。一例では、MLPSCはSTRO-1+である。一例では、MLPSCは間葉系幹細胞(MSC)である。一例では、MLPSCは同種異系である。一例では、細胞は培養増殖される。この例では、細胞は、培養増殖される前にTNAP+であり得る。一例では、細胞は凍結保存されている。
【0039】
一例では、対象の細胞投与前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、1000pg/ml~2000pg/mlである。別の例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが上昇している。別の例では、対象のCRPレベルは1mg/L以上である。別の例では、対象のCRPレベルは2mg/L以上である。別の例では、対象のCRPレベルは2~5mg/Lである。別の例では、対象のCRPレベルは3~5mg/Lである。
【0040】
上記の例の一実施形態では、本開示の方法は、1×107~2×108個の細胞を投与することを含む。
【0041】
別の例では、投与される組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む。一例では、投与される組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、HSA溶液は5%HSA及び15%緩衝液を含む。一例では、組成物は、6.68x106個/mL超の生存可能細胞を含む。
【0042】
別の例では、組成物は、抗STRO-3抗体によって骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、凍結保存されたヒト骨髄由来の同種異系間葉系前駆細胞(MPC)を含む。
【0043】
一例では、虚血性事象は、心臓発作、脳卒中、または心臓死のうちの1つ以上である。一例では、方法は、3点MACEのリスクを低減する。
【0044】
本発明者らはまた、驚くべきことに、CRPレベルの上昇が心臓死リスク、心筋梗塞または脳卒中の増加と関連していることを特定した。したがって、一例では、本開示は、対象における心臓死、心筋梗塞または脳卒中の1つ以上の上昇したリスクを決定するための方法に関し、方法は、対象から得られた試料中のCRPのレベルを測定することを含み、ここでCRPの上昇は、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、対象は進行性心不全を有する。一例では、対象の心不全はNYHAのII度の心不全である。別の例では、1mg/Lを超えるCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。別の例では、1.5mg/Lを超えるCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。別の例では、2mg/L以上のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、方法は心臓死のリスク上昇を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下。
【
図2A】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;NYHAのII度。
【
図2B】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;NYHAのIII度。
【
図3A】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;虚血性。
【
図3B】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;非虚血性。
【
図4A】治療を受けた全患者(n=537)における心臓死。
【
図4B】II度の患者(n=206)における心臓死。
【
図4C】III度の患者(n=331)における心臓死。
【
図4D】治療を受けた全患者(n=537);II度の患者(n=206);III度の患者(n=331)における心臓死。
【
図5A】NYHAのII度の患者における心臓死;虚血性。
【
図5B】NYHAのII度の患者における心臓死;非虚血性。
【
図7C】ベースラインCRP≧2mg/L対CRP≦2mg/mlを用いた全治療患者についての曲線。
【
図7D】非致死性MIまたは非致死性脳卒中について示す曲線。
【
図7E】CV死または非致死性MIまたは非致死性脳卒中の3点TTFE複合IMM MACE。
【
図7F】CV死または非致死性MIまたは非致死性脳卒中の3点TTFE複合IMM MACE。
【
図8C】全治療患者(n=537)の不可逆的罹患率TTFE MACE(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)についての曲線。
【
図8D】II度の患者(n=206)の不可逆的罹患率TTFE MACE(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)についての曲線。
【
図8E】III度の患者(n=331)の不可逆的罹患率TTFE MACE(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)についての曲線。
【
図8F】全治療患者(n=537);II度の患者(n=206)、III度の患者(n=331)の不可逆的罹患率TTFE MACE(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)。
【
図9A】複合心臓死または虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;全治療患者(n=537)。
【
図9B】複合心臓死または虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;II度の患者(n=206)。
【
図9C】複合心臓死または虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;III度の患者(n=331)。
【
図9D】複合心臓死または虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低下;全治療患者(n=537);II度の患者(n=206);III度の患者(n=331)。
【
図10】NYHAのII度の患者の心臓死-複数年の追跡調査。
【
図11A】2mg/L以上のベースラインhsCRPを有するNYHAのII度の患者は、心臓死への進行のリスクが有意に高い。
【
図11B】2mg/L以上のベースラインhsCRPを有するNYHAのII度の患者は、心臓死への進行のリスクが有意に高い。
【
図12A】2mg/L以上のベースラインhsCRPを有するNYHAのII度の患者は、3点MACE(心臓死/MI/脳卒中)のリスクが有意に高い。
【
図12B】2mg/L以上のベースラインhsCRPを有するNYHAのII度の患者は、3点MACE(心臓死/MI/脳卒中)のリスクが有意に高い。
【
図13】心筋虚血及び/または糖尿病を有する心不全患者は、3点IMM MACEで測定すると、他の心不全患者よりも転帰が悪化する。
【
図14A】細胞療法によって、心筋虚血及び/または糖尿病を有する高リスク患者における3点TTFE複合IMM MACEのリスクが36%低下した。
【
図14B】細胞療法によって、心筋虚血及び/または糖尿病を有する高リスク患者における3点TTFE複合IMM MACEのリスクが36%低下した。
【
図15A】複合3点MACE及び炎症:2mg/L超のhsCRPを有する心筋虚血及び/または糖尿病患者では、細胞療法によって、3点MACEのTTFEのリスクが54%低下した。
【
図15B】複合3点MACE及び炎症:2mg/L超のhsCRPを有する心筋虚血及び/または糖尿病患者では、細胞療法によって、3点MACEのTTFEのリスクが54%低下した。
【
図15C】複合3点MACE及び炎症:2mg/L超のhsCRPを有する心筋虚血及び/または糖尿病患者では、細胞療法によって、3点MACEのTTFEのリスクが54%低下した。
【
図16】虚血性CHF患者における3点複合MACE(MI、脳卒中またはCV死)の高リスク:細胞療法は、2mg/L以上のCRPレベルを有するこれらの対象において3点MACEを予防する。
【
図17】全ての糖尿病性CHF患者における非致死性MACE(MIまたは脳卒中)の高リスク:細胞療法は、2mg/L以上のCRPレベルを有する糖尿病性CHF患者における非致死性MACE(MIまたは脳卒中)を予防する。
【
図18】糖尿病性CHF患者における3点複合MACE(MI、脳卒中またはCV死)の高リスク:細胞療法は、2mg/L以上のCRPレベルを有するこれらの対象において3点MACEを予防する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
一般的な技術及び定義
特段明記されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子生物学、幹細胞培養、免疫学、及び生化学における)により一般に理解されているのと同じ意味を持つと解釈されるべきである。
【0047】
特に指示されない限り、本開示において利用される細胞培養技術及びアッセイは、当業者に周知の標準的な手順である。このような手法は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編集者),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(編集者)、及びF.M.Ausubel et al.(編集者),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,現在までの全ての改定版を含む),Ed Harlow and David Lane(編集者)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(編集者)Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons(現在までの全ての改定版を含む)などのソースの文献にわたって記載及び説明されている。
【0048】
「及び/または」、例えば、「X及び/またはY」という用語は、「X及びY」または「XまたはY」のいずれかを意味すると理解されるべきであり、両方の意味またはいずれかの意味に明確なサポートを提供するものと解釈されるものとする。
【0049】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、別段明記されない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは、+/-5%を指す。
【0050】
「レベル」及び「量」という用語は、対象からの試料または細胞培養培地(またはそこからの試料)内の特定の物質の量を定義するために使用される。例えば、特定の濃度、重量、パーセンテージ(例えば、v/v%)または比率を使用して、試料中の特定の物質のレベルを定義することができる。一例では、レベルは、特定のマーカーが培養条件下で本開示の細胞によってどの程度発現されるかに関して表される。一例では、発現は細胞表面発現を表す。別の例では、レベルは、培養条件下で本明細書に記載の細胞から放出される特定のマーカーの量に関して表される。一例では、試料は患者または対象から得られ(例えば、血液試料)、試料中の物質のレベルを測定して試料中の物質のレベルを決定する。
【0051】
一例では、レベルはpg/mlで表される。例えば、NT-proBNPのレベルは、pg/mlで表すことができる。一例では、レベルはmg/Lで表される。例えば、CRPのレベルはmg/Lで表すことができる。別の例では、レベルは細胞106個あたりのpgで表される。
【0052】
一例では、細胞培養培地中の特定のマーカーのレベルは、培養条件下で決定される。「培養条件」という用語は、培養中で増殖している細胞を指すために使用される。一例では、培養条件は、活発に分裂している細胞集団を指す。このような細胞は、一例では、指数関数的増殖段階にあり得る。例えば、特定のマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。別の例では、特定のマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、細胞溶解物中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。分泌されたマーカーは培養培地をサンプリングすることによって測定され、一方、細胞の表面上に発現されたマーカーは細胞溶解物の試料を評価することによって測定され得ることは、当業者には明らかである。一例では、試料は、細胞が指数関数的増殖段階にあるときに採取される。一例では、試料は、培養の少なくとも2日後に採取される。
【0053】
凍結保存された中間体からの細胞の培養増殖は、低温凍結された細胞を解凍し、細胞の増殖に適した条件下でインビトロ培養することを意味する。
【0054】
一例では、特定のマーカーの「レベル」または「量」は、細胞が凍結保存され、次いで培養に再び播種された後に決定される。例えば、レベルは、細胞の最初の凍結保存後に決定される。別の例では、レベルは、細胞の2回目の凍結保存後に決定される。例えば、細胞は凍結保存された中間体から培養増殖され得、培養条件下で特定のマーカーのレベルを決定できるように、培養に再播種される前に再度凍結保存され得る。
【0055】
本明細書において使用される場合、用語「治療すること」、「治療する」、「治療」、「進行を低減する」は、間葉系幹細胞または前駆細胞、及び/またはそれらの後代、及び/またはそれらに由来する可溶性因子、及び/またはそれらに由来する細胞外小胞の集団を投与して、それによって進行性心不全の少なくとも1つの症状を軽減もしくは排除すること、または進行を低減するという文脈では、進行性心不全の発症を遅らせることを含む。
【0056】
一例では、本開示は、進行性心不全の特定の対象を、本明細書に開示される細胞組成物による治療のために選択することを包含する。一例では、II度の心不全を有する対象が治療のために選択される。別の例では、活動性炎症を有する対象が治療のために選択される。例えば、2mg/L以上のCRPレベルを有する対象が治療のために選択される。別の例では、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象が治療のために選択される。例えば、心筋虚血及び/または糖尿病を有する対象が治療のために選択される。一例では、活動性炎症、並びにII度の心不全及び/または微小血管疾患及び/または大血管疾患のいずれかを有する対象が治療のために選択される。
【0057】
本明細書において使用される「対象」という用語は、ヒト対象を指す。例えば、対象は成人であり得る。別の例では、対象は子供であり得る。別の例では、対象は青年であり得る。「対象」、「患者」、または「個体」などの用語は、文脈上、本開示において互換的に使用することができる用語である。治療を必要とする対象には、すでに進行性心不全を有している者だけでなく、進行性心不全が予防、遅延、または停止されるべき者も含まれる。
【0058】
一例では、本開示の組成物は、遺伝子組換えされていない間葉系前駆細胞または幹細胞を含む。本明細書で使用される場合、「遺伝子組換えされていない」という用語は、核酸でのトランスフェクションによって組換えられていない細胞を指す。誤解を避けるために、本開示の文脈では、タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされた間葉系前駆細胞または幹細胞は、遺伝子組換えされているとみなされる。
【0059】
本明細書において使用される場合、用語「試料」は、CRPレベルを測定できる対象からの抽出物を指す。「試料」には、試料の抽出物及び/または誘導体及び/または画分が含まれる。本開示では、対象から採取され、対象のCRPのレベルを測定するためにアッセイされ得る限り、任意の生物学的材料を上記の試料として使用することができる。一例では、試料は血液試料である。一例では、血液試料は、NYHAのII度の心不全の対象から得られる。
【0060】
本明細書を通じて、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載した要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群を包含するが、いかなる他の要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群をも排除することを意味するものではないことが理解されよう。
【0061】
本明細書全体を通じて、別途具体的な定めのない限り、または文脈上そうでないとする要求がない限り、単一の工程、問題の組成物、工程の群または問題の組成物の群への言及は、1つ及び複数の(すなわち1つ以上の)それらの工程、問題の組成物、工程の群または問題の組成物の群を包含すると解釈されるべきである。
【0062】
本明細書に記載される開示は、具体的に記載されるもの以外の変形及び変更が可能であることを、当業者は理解するであろう。本開示が全てのこのような変形及び変更を含むことを理解されたい。本開示はまた、本明細書で個別にまたは集合的に言及または示される工程、特徴、組成物及び化合物の全て、並びに上記工程または特徴のあらゆる組み合わせまたは任意の2つ以上を含む。
【0063】
本開示は、本明細書に記載の、例示のみを目的とする特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。機能的に同等の製品、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内である。
【0064】
本明細書に開示されるいずれの例も、特に明記されない限り、任意の他の例に準用されるものとみなされる。
【0065】
進行性心不全
心筋症は、心臓が体の残りの部分に血液を圧送することを困難にする、心筋の疾患である。心臓が、血流を身体の需要を満たすように維持するのに十分に圧送できない場合、心不全が起こり得る。心筋症は、虚血性または非虚血性事象の後に起こり得る。虚血性心不全の原因の1つは、心筋梗塞(MI)後の収縮機能障害である。MIは、血液が心臓の一部に適切に流れなくなったときに起こる。血液供給の不足により、梗塞(infarct)または梗塞(infarction)と呼ばれる心筋壊死の局所領域が生じる。梗塞した心臓は、身体の需要を満たすための血流を維持するのに十分に圧送することができず、複数の病態生理学的反応、最終的には心不全に至る。非虚血性心筋症は、既知の冠動脈疾患とは関連していない。一例は、心臓の主要なポンプ室である左室が拡大、拡張し、弱くなるため、心臓の血液を圧送する能力が低下する、拡張型心筋症(DCM)である。
【0066】
心臓が身体の需要を満たすための血流を維持するのに十分に圧送することができなくなると、一連の代償機序が開始され、心拍出量の低下の緩和に貢献し、重要臓器を灌流させるのに十分な血圧の維持を助ける。その結果、心不全の患者は長期間進行しない可能性がある。しかしながら、代償機序は、結局は損傷した心臓を補償することができず、「進行性心不全」と呼ばれる心拍出量の進行性減退をもたらす。本開示の文脈において、慢性心不全、うっ血性心不全(congestive heart failure)、うっ血性心不全(congestive cardiac failure)、収縮機能障害、及び進行性心不全という用語は、「進行性心不全」と互換的に使用することができる。
【0067】
本開示の方法を使用して、MI対象の特定の集団における進行性心不全を治療することができる。治療を必要とする対象には、すでに進行性心不全を有している者だけでなく、進行性心不全が予防、遅延、または停止されるべき者も含まれる。これらの例では、対象は、NYHAに基づくII度またはIII度の進行性心不全を有し得る。例えば、対象は、II度の進行性心不全を有し得る。
【0068】
第1の例では、本開示は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールに基づいて定義される対象の治療に関する。一例では、対象の進行性心不全はIII度未満である。一例では、対象はII度の心不全を有する。一例では、NYHA分類は、対象の症状に基づいて割り当てられる。例えば、NYHA分類は、以下の表に基づいて割り当てることができる。
【表1】
【0069】
一例では、対象の心不全は虚血性事象に起因する。一例では、対象の心不全は心筋梗塞(MI)に起因する。例えば、対象はMI対象であり得る。「心筋梗塞(MI)対象」という用語は、心筋梗塞を有したことがある対象を定義するために使用される。一例では、対象の心不全は非虚血性心筋症に起因する。
【0070】
第2の例では、本開示は、進行性心不全及び活動性炎症を有する対象の治療に関する。「活動性炎症」は、C反応性タンパク質レベルの上昇によって定義される。一例では、活動性炎症は、2mg/L以上のCRPレベルを特徴とする。したがって、この第2の例において、本開示は、進行性心不全及び2mg/L以上のCRPレベルを有する対象の治療に関する。一例では、これらの対象は、NYHAに基づくII度またはIII度の進行性心不全を有し得る。別の例では、これらの対象は、微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。例えば、これらの対象は、虚血及び/または糖尿病を有し得る。したがって、一例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度もしくはIII度の進行性心不全、及び微小血管疾患及び/または大血管疾患を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度もしくはIII度の進行性心不全、及び虚血及び/または糖尿病を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度またはIII度の進行性心不全、及び虚血を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度またはIII度の進行性心不全、及び糖尿病を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度の進行性心不全、及び虚血を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、II度の進行性心不全、及び糖尿病を有し得る。
【0071】
「C反応性タンパク質」または「CRP」は、炎症性メディエーターであり、そのレベルは急性炎症再発の条件下で上昇し、炎症が鎮静すると急速に正常化する。一例では、本開示に従って治療される対象は、上昇したリスクまたは心臓死を有する。一例では、本開示に従って治療される対象は、上昇したCRPを有し得る。「上昇したCRP」という用語は、本開示の文脈では、ベースラインCRPレベルと比較して増加したCRPレベルを指すために使用される。一例では、1mg/L以上のCRPレベルは上昇している。別の例では、1.5mg/L以上のCRPレベルは上昇している。別の例では、2mg/L以上のCRPレベルは上昇している。
【0072】
第3の例では、本開示は、進行性心不全及び微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する対象の治療に関する。「微小血管疾患」(小動脈疾患または小血管疾患と呼ばれることもある)は、より大きな冠動脈から分岐する小さな冠動脈血管の壁及び内膜に影響を及ぼす心疾患である。冠動脈MVDでは、心臓の冠動脈血管は、必ずしもプラークを有するとは限らず、むしろ血管の内壁に損傷を有する可能性があり、これは攣縮及び心筋への血流の減少をもたらし得る。一例では、微小血管疾患は「心筋虚血」、すなわち冠動脈の部分的または完全な閉塞による心筋(心筋)への血流の閉塞を特徴とする状態である。心筋虚血の例としては、虚血性心不全、狭心症及び脳卒中が挙げられる。「大血管疾患」は、冠動脈血管系の動脈壁の狭窄に至る、アテローム性動脈硬化症のプロセスを特徴とする。アテローム性動脈硬化症は、冠動脈血管系における慢性炎症及び動脈壁(複数可)への損傷に起因すると考えられている。糖尿病は、炎症を引き起こし、血流を遅らせることによって、アテローム性動脈硬化症を劇的に加速させ、したがって大血管疾患の一例を代表する。一例では、糖尿病は、I型糖尿病またはII型糖尿病である。一例では、糖尿病は、II型糖尿病である。
【0073】
したがって、一例では、対象は、進行性心不全及び微小血管疾患及び/または大血管疾患を有し得る。別の例では、対象は、進行性心不全及び虚血及び/または糖尿病を有し得る。別の例では、対象は、進行性心不全及び虚血を有し得る。別の例では、対象は、進行性心不全及び糖尿病を有し得る。これらの例では、対象は、活動性炎症も有し得る。例えば、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、及び微小血管疾患及び/または大血管疾患を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、及び虚血及び/または糖尿病を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、及び虚血を有し得る。別の例では、対象は進行性心不全、2mg/L以上のCRPレベル、及び糖尿病を有し得る。
【0074】
上記の第1、第2、及び第3の例の対象は、以下のようにさらに特徴付けることができる。一例において、本開示に従って治療される対象は、2mg/L以上の初期CRPレベルを有する。例えば、対象は、II度またはIII度の心不全及び2mg/L以上の初期CRPレベルを有し得る。別の例において、対象は、II度の心不全及び2mg/L以上の初期CRPレベルを有し得る。一例において、本開示に従って治療される対象は、5mg/L未満の初期CRPレベルを有する。別の例において、対象は、4mg/L未満の初期CRPレベルを有する。別の例において、対象は、2~6mg/Lの初期CRPレベルを有する。別の例において、対象は、3~6mg/Lの初期CRPレベルを有する。別の例において、対象は、4~5mg/Lの初期CRPレベルを有する。
【0075】
CRPレベルを測定するために利用可能な様々なアッセイ、例えば抗体ベースのイムノアッセイがある。例えば、CRPレベルは、酵素結合免疫吸着(ELISA)アッセイを使用して血液試料で測定することができる。一例では、患者から血液試料を得、抗CRP抗体と接触させる前に精製する。抗体結合の程度を使用して、血液試料中のCRPのレベルを定量する(例えばmg/L)。
【0076】
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、心臓によって産生されるホルモンである。N末端(NT)プロホルモンBNP(NT-proBNP)は、BNPを産生する同じ分子から放出される非活性プロホルモンである。BNP及びNT-proBNPの両方が、心臓内の圧力の変化に応答して放出される。これらの変化は、心不全及び他の心臓問題に関連し得る。心不全が発症または悪化するとレベルが上昇し、心不全が安定するとレベルは低下する。したがって、BNPは心不全の進行の有効なマーカーである。一例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2500pg/ml未満である。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2400pg/ml未満である。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2000pg/ml未満である。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、1900pg/ml未満である。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2200pg/ml~1000pg/mlである。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2200pg/ml~1100pg/mlである。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2100pg/ml~1200pg/mlである。別の例では、本開示の組成物を投与する前の対象のNT-proBNPレベルは、2000pg/ml~1500pg/mlである。
【0077】
別の例では、本明細書に開示される組成物の投与前、対象は過去12ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた。別の例では、本明細書に開示される組成物の投与前、対象は過去9ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた。別の例では、本明細書に開示される組成物の投与前、対象は過去6~12ヶ月にわたって心不全入院事象を有していた。一例では、心不全入院事象は、心不全の悪化する兆候及び症状である。別の例における、心不全入院事象
【0078】
別の例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも320メートル歩くことができる。別の例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも330メートル歩くことができる。別の例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも340メートル歩くことができる。別の例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも350メートル歩くことができる。
【0079】
一例では、対象は、持続性左室機能不全を有し得る。左室機能不全は、心筋収縮性の低下を特徴とする。左室内で心筋収縮性が低下すると、左室駆出率(LVEF)の減少が生じる。したがって、LVEFは、左室機能不全を判定する1つの方法を提供する。左心室機能の別のパラメータは、収縮機能に関連する、心臓排出の適切性の測定値である左室収縮末期容積(LVESV)である。LVEF及びLVESVは、左室収縮性能の評価を提供し、持続性左室機能不全を特徴付けるために一緒に使用されることが多い。
【0080】
LVEF及びLVESVは、当技術分野で公知のいくつかの方法、例えば心エコー図(例えば二次元心エコー図)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、心臓磁気共鳴画像法(cMRI)またはマルチゲート収集スキャンによって測定することができる。
【0081】
一例では、45%未満のLVEFを有する対象は、左室機能不全を有する。他の例では、LVEFが約44%、43%、42%、41%未満の対象は左室機能不全を有する。別の例では、約40%未満のLVEFを有する対象は左室機能不全を有する。他の例では、約39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%未満のLVEFを有する対象は、左室機能不全を有する。
【0082】
本開示の文脈において、「持続性左室機能不全」という用語は、一定期間または一連の測定にわたって持続する左室機能不全を定義するために使用される。例えば、「持続性左室機能不全」には、約1日~約14日間またはそれ以上持続する左室機能不全が含まれ得る。
【0083】
一例では、対象は、45%未満のLVEFを有する。別の例では、対象は、40%未満のLVEFを有する。他の例では、対象は、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%未満のLVEFを有する。
【0084】
一例では、対象のLVESVは70mlを超える。別の例では、対象のLVESVは100mlを超える。別の例では、対象のLVESVは130mlを超える。別の例では、対象のLVESVは70ml~160mlである。これらの例では、対象は上記のLVEFを有することもできる。例えば、対象は、70ml超のLVESV及び45%未満のLVEFを有し得る。
【0085】
一例では、対象の心不全は、虚血性事象または非虚血性事象に起因する。一例では、対象の心不全は、以下に開示される虚血性事象に起因する。
【0086】
本開示の方法は、進行性心不全の特徴である心拍出量の進行性低下の治療に関する。したがって、本開示の文脈における「治療する」及び「治療」は、治療的処置及び予防的または防止的手段の両方を指す。
【0087】
一例では、治療は、本開示の組成物を投与することを含む。一例では、本開示の方法は、進行性心不全の進行を軽減または抑制する。一例では、治療によって、対象のNYHAのIII度の進行性心不全への進行が抑制される。別の例では、治療によって心臓死のリスクが低下する。一例では、心臓死のリスクの低下は、NYHAのIII度の進行性心不全を有する対象における心臓死のリスクとの比較である。別の例では、治療後に虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクが低下する。一例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも50%低下する。別の例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも55%低下する。別の例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも60%低下する。別の例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも65%低下する。別の例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも70%低下する。別の例では、虚血性MACE(MIまたは脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して少なくとも50%~70%低下する。
【0088】
別の例では、治療後に3点MACE(心臓死/MI/脳卒中)のリスクが低下する。本開示の文脈において、「3点MACE」は、心血管死、非致死性心筋梗塞、及び非致死性脳卒中(心臓死/MI/脳卒中)の複合として定義されることを指すために使用される。一例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して少なくとも30%低下する。別の例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して少なくとも40%低下する。別の例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して少なくとも45%低下する。別の例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して少なくとも50%低下する。別の例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して少なくとも30%~50%低下する。
【0089】
一例では、治療により患者の生存率が向上する。一例では、治療により、対象が治療開始後少なくとも1000日間生存する確率が高くなる。別の例では、治療により、対象が治療開始後少なくとも2000日間生存する確率が高くなる。一例では、確率の向上は、本開示の組成物で治療されていない対象と比較して決定される。一例では、確率の向上は、III度の心不全を有する対象と比較して決定される。
【0090】
一例では、治療は、心臓関連死または蘇生された心臓死、または非致死性非代償性心不全事象の複合として定義される、心不全関連の主要有害心血管事象(HF-MACE)の可能性またはリスクを低下させる。一例では、HF-MACEの可能性またはリスクは、本明細書に開示される組成物の投与後、少なくとも6ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも24ヶ月、少なくとも36ヶ月にわたって低下する。一例では、治療により、全死因死亡の可能性またはリスクが低下する。
【0091】
虚血性事象
一例では、本開示は、対象、特に心筋症を有する対象における虚血性事象のリスクまたは発生率を低下させる方法に関する。一例では、本開示は、心筋症及びCRP上昇を有する対象における虚血性事象のリスクまたは発生率を低下させる方法に関する。一例では、本開示の組成物を投与されない対象と比較して、リスクまたは発生率が低下する。例えば、リスクまたは発生率は、未治療の対象と比較して低下し得る。一例では、虚血性事象は閉塞の形成によって引き起こされる。一例では、閉塞は動脈閉塞である。一例では、虚血性事象は、脳血管閉塞の形成である。別の例では、虚血性事象は、心臓閉塞の形成である。例えば、閉塞は冠動脈に生じ得る。
【0092】
閉塞の形成によって引き起こされる虚血性事象の例としては、心臓発作及び脳卒中が挙げられる。したがって、一例では、本開示は、心筋症を有する対象における心臓発作または脳卒中のリスクまたは発生率を低下させる方法に関する。
【0093】
心筋症を有する対象における虚血性事象のリスクまたは発生率は、本開示の組成物などの細胞療法を投与することによって低下する。
【0094】
一例では、虚血性事象は非致死性である。一例では、虚血性事象は致死性であり、この例では、本開示の方法は、虚血性事象による心臓死のリスクを低減する。したがって、一例では、本開示の方法は、対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法を包含し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。一例では、対象は、以下の1つ以上または全部を有する:
-II度の心不全
-微小血管疾患及び/または大血管疾患;
-活動性炎症。
【0095】
例えば、本開示は、対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法を包含し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象はII度の心不全を有する。
【0096】
別の例では、本開示は、対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法を包含し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は微小血管疾患及び/または大血管疾患を有する。
【0097】
別の例では、本開示は、対象における心臓死または非致死性虚血性事象のリスクを低減する方法を包含し、方法は、間葉系前駆細胞または幹細胞を含む組成物を対象に投与することを含み、対象は活動性炎症を有する。
【0098】
一例では、対象は非虚血性心筋症を有する。例えば、対象の心筋症は、拡大した左室(拡張型心筋症)によって引き起こされ得る。別の例では、心筋症はウイルス感染によって引き起こされる。
【0099】
別の例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度またはIII度の心不全を有する。
【0100】
別の例では、対象の細胞投与前のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、1000pg/ml~2000pg/mlである。別の例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが上昇している。別の例では、対象のCRPレベルは1.5mg/L以上である。別の例では、対象のCRPレベルは2mg/L以上である。別の例では、対象のCRPレベルは1~5mg/Lである。別の例では、対象のCRPレベルは3~5mg/Lである。
【0101】
一例では、細胞は経心内膜投与される。
【0102】
一例では、リスクの低減は、3年リスクの低減である。別の例では、リスクの低減は、5年リスクの低減である。これらの例では、虚血性事象のリスクは、定義された期間にわたって低下する。
【0103】
間葉系前駆細胞
本明細書において使用される用語「間葉系前駆細胞または幹細胞(MLPSC)」は、多能性を維持しながら自己複製する能力と、間葉起源、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱、または非中胚葉起源、例えば肝細胞、神経細胞及び上皮細胞のいずれかの、多数の細胞型に分化する能力とを有する未分化多能性細胞を指す。誤解を避けるために、「間葉系前駆細胞」とは、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞などの間葉系細胞、並びに線維性結合組織に分化することができる細胞を指す。
【0104】
「間葉系前駆細胞または幹細胞」という用語は、親細胞及びそれらの未分化後代の両方を含む。この用語はまた、間葉系前駆細胞、多能性間質細胞、間葉系幹細胞(MSC)、血管周囲間葉系前駆細胞及びそれらの未分化後代を含む。
【0105】
間葉系前駆細胞または幹細胞は、自家、同種異系、異種、シンジェニックまたは同種同系であり得る。自家細胞は、それらが再移植される同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同じ種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。シンジェニックまたは同種同系細胞は、遺伝的に同一の生物、例えば、双生児、クローンまたは高度に近交系の研究動物モデルから単離される。
【0106】
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は同種異系である。一例では、同種異系間葉系前駆細胞または幹細胞を培養増殖させ、凍結保存する。
【0107】
間葉系前駆細胞または幹細胞は、主に骨髄に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、小柱骨及び歯髄を含む多様な宿主組織に存在することも示されている。それらは、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜にも見られ、中胚葉及び/または内胚葉及び/または外胚葉などの生殖細胞系に分化することができる。したがって、間葉系前駆細胞または幹細胞は、脂肪性、骨性、軟骨性、弾性、筋肉性及び線維性結合組織を含むがこれらに限定されない、多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が入る特定の分化系列決定(lineage-commitment)及び分化経路は、機械的影響及び/または内因性生物活性因子、例えば増殖因子、サイトカイン及び/または宿主組織によって確立された局所微小環境条件からの様々な影響に依存する。
【0108】
本明細書では、用語「濃縮された」、「濃縮」またはその変形は、1つの特定の細胞型の割合またはいくつかの特定の細胞型の数の割合が、未処理の細胞の集団(例えば、それらの生来の環境にある細胞)と比較して増加している細胞の集団を説明するために使用される。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞が濃縮された集団は、少なくとも約0.1%、または0.5%、または1%、または2%、または5%、または10%、または15%、または20%、または25%、または30%、または50%、または75%の間葉系前駆細胞または幹細胞を含む。これに関して、用語「間葉系前駆細胞または幹細胞が濃縮された細胞の集団」は、用語「X%の間葉系前駆細胞または幹細胞を含む細胞の集団」の明示的な裏付けを提供すると解釈され、X%は本明細書に記載されるパーセンテージである。間葉系前駆細胞または幹細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニーを形成することができ、例えば、CFU-F(線維芽細胞)またはそのサブセット(例えば、50%または60%または70%または70%または90%または95%)は、この活性を有することができる。
【0109】
本開示の一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均質な組成物であり得るか、またはMSCが濃縮された混合細胞集団であり得る。接着性骨髄細胞または骨膜細胞を培養することによって均質なMSC組成物を得ることができ、MSCは、固有のモノクローナル抗体によって特定される特異的な細胞表面マーカーによって識別され得る。MSCが濃縮された細胞集団を得る方法は、例えば米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCの代替供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、軟骨膜が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、MSCは同種異系である。一例では、MSCは凍結保存される。一例では、MSCは培養増殖され、凍結保存される。
【0110】
別の例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+MSCである。
【0111】
単離されたまたは濃縮された間葉系前駆細胞または幹細胞は、培養によってインビトロで増殖させることができる。単離または濃縮された間葉系前駆細胞または幹細胞は、凍結保存され、解凍され、その後、培養によってインビトロで増殖され得る。
【0112】
一例では、単離または濃縮された間葉系前駆細胞または幹細胞を、培養培地(無血清または血清補充)、例えば、5%のウシ胎児血清(FBS)及びグルタミンを補充したアルファ最小必須培地(αMEM)に1cm2あたり50,000個の生存可能細胞で播種し、37℃、20% O2で一晩培養容器に付着させる。その後、必要に応じて培養培地を交換及び/または変更し、細胞を37℃、5% O2でさらに68~72時間培養する。
【0113】
当業者によって理解されるように、培養された間葉系前駆細胞または幹細胞は、インビボ細胞と表現型が異なる。例えば、一実施形態では、それらは、CD44、NG2、DC146、及びCD140bの1つ以上のマーカーを発現する。培養された間葉系前駆細胞または幹細胞はまた、インビボの細胞と生物学的に異なり、インビボの非周期(静止)細胞の大部分よりも高い増殖速度を有する。
【0114】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。これに関して、用語「選択可能な形態」は、STRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を細胞が発現することを意味すると理解される。マーカーはSTRO-1であり得るが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/または例示されているように、STRO-2及び/またはSTRO-3(TNAP)及び/またはSTRO-4及び/またはVCAM-1及び/またはCD146及び/または3G5を発現する細胞(例えば、間葉系前駆細胞)はまた、STRO-1(STRO-1brightであり得る)を発現する。したがって、細胞がSTRO-1+であるという表示は、細胞がSTRO-1発現のみによって選択されることを意味しない。一例では、細胞は少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらはSTRO-3+(TNAP+)である。例えば、MPCは、抗STRO-3抗体を用いて骨単核細胞から単離され得る。
【0115】
細胞またはその集団の選択への言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要とするわけではない。本明細書に記載の通り、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択、単離、または濃縮することができる。とはいえ、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、間葉系前駆細胞)を含む任意の組織、または血管組織、または周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織、または本明細書に列挙された組織のいずれか1つ以上からの選択への支援を提供する。
【0116】
一例では、本開示で使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から個別にまたは集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0117】
「個別に」とは、本開示が列挙されたマーカーまたはマーカー群を別々に包含すること、及び個々のマーカーまたはマーカー群を本明細書に別々に列挙することができなくても、添付の特許請求の範囲がそのようなマーカーまたはマーカー群を互いから別々に、かつ分割可能に定義し得ることを意味する。
【0118】
「集合的に」とは、本開示が列挙されたマーカーまたはマーカー群の任意の数または組み合わせを包含すること、及びそのようなマーカーまたはマーカー群の数または組み合わせが本明細書に具体的に列挙され得ないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲がそのような組み合わせまたは下位組み合わせを、マーカーまたはマーカー群の任意の他の組み合わせとは別に、かつ分割可能に定義し得ることを意味する。
【0119】
本明細書中で使用される場合、用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、本明細書中で使用されるTNAPは、ブダペスト条約の規定の下、寄託アクセッション番号PTA-7282で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に結合することができる分子を指す。
【0120】
さらに、一例では、STRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0121】
一例では、STRO-1+細胞のかなりの割合が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。STRO-1+細胞が決定され得る系統の非限定的な例としては、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に多能性である肝細胞前駆体;希突起膠細胞及び星状膠細胞に発展するグリア細胞前駆体を産生じ得る、神経制限細胞;ニューロンに発展するニューロン前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答性インスリン分泌膵臓ベータ細胞株が挙げられる。他の系統としては、限定されないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに以下:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、皮膚細胞、例えばケラチノサイト、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋及び骨格筋細胞、精巣前駆体、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、神経膠、ニューロン、星状細胞及び希突起膠細胞の前駆細胞が挙げられる。
【0122】
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、単一のドナーまたは複数のドナーから得られ、ドナー試料または間葉系前駆細胞または幹細胞はその後プールされ、次いで培養増殖される。
【0123】
本開示に包含される間葉系前駆細胞または幹細胞は、対象に投与する前に凍結保存することもできる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、対象に投与する前に培養増殖させ、凍結保存する。
【0124】
一例では、本開示は、間葉系前駆細胞または幹細胞、並びにそれらの後代、それらに由来する可溶性因子、及び/またはそれらから単離された細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系前駆細胞または幹細胞、並びにそこから単離された細胞外小胞を包含する。例えば、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞を、細胞培養培地へ細胞外小胞を分泌するのに適した期間及び条件下で培養増殖させることが可能である。その後、分泌された細胞外小胞を、療法に使用するために培養培地から得ることができる。
【0125】
本明細書で使用される「細胞外小胞」という用語は、細胞から自然に放出され、サイズが約30nm~10ミクロン程度の範囲である脂質粒子を指すが、典型的にそれらは200nm未満のサイズである。それらは、放出細胞(例えば、間葉系幹細胞;STRO-1+細胞)からのタンパク質、核酸、脂質、代謝産物または細胞小器官を含有し得る。
【0126】
本明細書で使用される「エキソソーム」という用語は、一般にサイズが約30nm~約150nmの範囲であり、それらがそこから細胞膜に送られ、放出される、哺乳動物細胞のエンドソーム区画に由来する細胞外小胞のタイプを指す。それらは、核酸(例えば、RNA;マイクロRNA)、タンパク質、脂質、及び代謝産物を含有し得、1つの細胞から分泌され、それらのカーゴを送達するために他の細胞によって取り込まれることによって細胞間コミュニケーションで機能し得る。
【0127】
一例では、本開示の組成物は、標的組織に新しい血管形成を誘導する細胞を含む。一例では、標的組織は心臓である。別の例では、細胞は、リスクのある、または損傷した心筋を保護する因子を分泌する。一例では、リスクのある、または損傷した心筋は、虚血性事象に起因する血流不足にさらされている。一例では、細胞は、心筋細胞のアポトーシスを減少させる因子を分泌する。
【0128】
細胞の培養増殖
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、培養増殖される。「培養増殖された」間葉系前駆細胞または幹細胞培地は、それらが細胞培養培地中で培養され、継代されている(すなわち継代培養)という点で、新たに単離された細胞とは区別される。一例では、培養増殖された間葉系前駆細胞または幹細胞を、約4~10継代増殖させる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代培養する。例えば、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~10継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~8継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~7継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、10継代を超えて培養増殖させることができる。別の例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、7継代を超えて培養増殖させることができる。これらの例では、幹細胞を凍結保存する前に培養増殖させて、中間凍結保存されたMLPSC集団を提供することができる。一例では、本開示の組成物は、中間凍結保存されたMLPSC集団、言い換えれば、凍結保存された中間体からの細胞を培養することによって作製される。
【0129】
一例では、本開示の組成物は、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系前駆細胞または幹細胞を含む。一例では、凍結保存された中間体から培養増殖される細胞を、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代培養増殖する。例えば、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~10継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~8継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、少なくとも5~7継代培養増殖させることができる。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、10継代を超えて培養増殖させることができる。別の例では、間葉系前駆細胞または幹細胞を、7継代を超えて培養増殖させることができる。
【0130】
一例では、凍結保存中間体から培養増殖させた間葉系前駆細胞または幹細胞を、動物タンパク質を含まない培地中で培養増殖させることができる。一例では、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系前駆細胞または幹細胞は、ゼノフリー培地中で培養増殖させることができる。一例では、凍結保存中間体から培養増殖させた間葉系前駆細胞または幹細胞を、ウシ胎児血清を含まない培地中で培養増殖させることができる。
【0131】
一実施形態では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、単一のドナーまたは複数のドナーから得ることができ、ドナー試料または間葉系前駆細胞または幹細胞はその後プールされ、次いで培養増殖される。一例では、培養増殖プロセスは以下を含む:
i.生存可能細胞の数を、継代増殖であって、単離された間葉系前駆細胞または幹細胞の初代培養物を確立すること、次いで連続的に、先の培養物から単離された間葉系前駆細胞または幹細胞の最初の非初代(P1)培養物を確立することを含む継代増殖によって増大させて、少なくとも約10億個の生存可能細胞の調製物を提供すること;
ii.単離された間葉系前駆細胞または幹細胞のP1培養物を、間葉系前駆細胞または幹細胞の第2の非初代(P2)培養物へ継代増殖することによって増殖すること;及び、
iii.間葉系前駆細胞または幹細胞のP2培養物から得られる、プロセス中の中間間葉系前駆細胞または幹細胞調製物を調製し、凍結保存すること;及び、
iv.凍結保存されたプロセス中の中間間葉系前駆細胞または幹細胞調製物を解凍し、プロセス中の中間間葉系前駆細胞または幹細胞調製物を継代増殖によって増殖させること。
【0132】
一例では、増殖した間葉系前駆細胞または幹細胞調製物は、以下を含む抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する:
i.CD45+細胞が約0.75%未満;
ii.CD105+細胞が少なくとも約95%;
iii.CD166+細胞が少なくとも約95%。
【0133】
一例では、増殖した間葉系前駆細胞または幹細胞調製物は、対照と比較して、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2-Rα発現を少なくとも約30%阻害することができる。
【0134】
一例では、培養増殖された間葉系前駆細胞または幹細胞は、約4~10継代培養増殖され、間葉系前駆細胞または幹細胞は、少なくとも2または3継代後に凍結保存され、その後さらに培養増殖される。一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、本開示の方法に従って培養される前に、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代培養増殖され、凍結保存され、次いで、さらに少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代培養増殖される。
【0135】
間葉系前駆細胞または幹細胞の単離及びエクスビボ増殖のプロセスは、当技術分野で公知の任意の装置及び細胞ハンドリング方法を使用して実施することができる。本開示の様々な培養増殖実施形態は、細胞の操作を必要とする工程、例えば、播種、供給、接着培養物の解離、または洗浄の工程を使用する。細胞を操作するあらゆる工程は、細胞を損傷する可能性を有する。間葉系前駆細胞または幹細胞は、一般に、調製中にある程度の損傷に耐えることができるが、細胞への損傷を最小限に抑えながら、所定の工程(複数可)を適切に実行するハンドリング手順及び/または装置によって細胞を操作することが好ましい。
【0136】
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、細胞源バッグ、洗浄溶液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する回転膜フィルター、濾液バッグ、混合ゾーン、洗浄された細胞用の最終生成物バッグ、及び適切なチュービングを含む装置で、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,251,295号に記載されているように洗浄される。
【0137】
一例では、本開示に従って培養される間葉系前駆細胞または幹細胞組成物は、CD105陽性かつCD166陽性かつCD45陰性であることについて95%均質である。一例では、この均質性はエクスビボ増殖を通して、すなわち、複数回の集団倍加でも持続する。
【0138】
一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、3D培養で培養増殖される。例えば、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、バイオリアクター内で培養増殖させることができる。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、3D培養でさらに増殖される前に、最初に2D培養で培養増殖される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、マスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、3D培養に播種される前に、2D培養でマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、バイオリアクター中の3D培養に播種される前に、少なくとも3日間2D培養でマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、バイオリアクター中の3D培養に播種される前に、少なくとも4日間2D培養でマスター細胞バンクから培養増殖される。一例では、本開示の間葉系前駆細胞または幹細胞は、バイオリアクター中の3D培養に播種される前に、3~5日間2D培養でマスター細胞バンクから培養増殖される。これらの例では、2D培養をセルファクトリーで行うことができる。様々なセルファクトリー製品が市販されている(例えば、Thermofisher、Sigma)。
【0139】
一例では、本開示の細胞はSTRO-3+であり、それらを後に培養増殖して凍結保存中間体を提供する。この例では、中間体をその後解凍し、さらなる培養増殖(例えば、医薬品への培養増殖)に供することができる。
【0140】
細胞培養培地
本明細書に開示される間葉系前駆細胞または幹細胞は、様々な適切な増殖培地中で培養増殖させることができる。
【0141】
本開示の文脈で使用される用語「培地(medium)」または「培地(media)」には、細胞を取り囲む環境の成分が含まれる。培地は、細胞を増殖させるのに適した条件に寄与し、及び/またはそれを提供する。培地は固体、液体、気体、または相と材料との混合物であり得る。培地は、液体増殖培地、並びに細胞増殖を維持しない液体培地を含み得る。培地には、寒天、アガロース、ゼラチン、及びコラーゲンマトリックスなどのゼラチン培地も含まれる。例示的な気体媒体は、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体上で増殖する細胞がさらされる気相を含む。
【0142】
培養増殖に使用される細胞培養培地は、全ての必須アミノ酸を含有し、非必須アミノ酸も含有し得る。一般的に、アミノ酸は必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys、His)と非必須アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Cys、Gln、Asn、Asp、Tyr、Arg、Pro)とに分類される。
【0143】
当業者は、最適な結果のために、基礎培地が目的の細胞株に適切でなければならないことを理解するであろう。例えば、基礎培地中のグルコース(または他のエネルギー源)のレベルを増加させること、または培養過程中にグルコース(または他のエネルギー源)を添加することが、このエネルギー源が枯渇し、したがって増殖を制限することが判明した場合に必要であり得る。一例では、溶存酸素(DO)レベルも制御することができる。
【0144】
一例では、細胞培養培地にはヒト由来添加物が含まれる。例えば、ヒト血清及びヒト血小板細胞溶解物を細胞培養培地に添加することができる。
【0145】
一例では、細胞培養培地はヒト由来添加物のみを含有する。したがって、一例では、細胞培養培地はゼノフリーである。誤解を避けるために、これらの例では、培養培地は動物タンパク質を含まない。一例では、本開示の方法で使用される細胞培養培地は動物成分を含まない。
【0146】
一例では、培養培地は血清を含む。他の例では、培養培地は、ウシ胎児血清を含まない、間葉系前駆細胞または幹細胞の増殖を促進する成長因子を含む培養培地である。一実施形態では、培養培地は無血清幹細胞培養培地である。一例では、細胞培養培地は以下を含む:
基礎培地;
血小板由来増殖因子(PDGF);
線維芽細胞増殖因子2(FGF2)。
【0147】
一例では、培養培地は血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含み、FGF2のレベルは約6ng/ml未満である。例えば、FGF2レベルは、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1ng/ml未満であり得る。他の例では、FGF2レベルは、約0.9ng/ml未満、約0.8ng/ml未満、約0.7ng/ml未満、約0.6ng/ml未満、約0.5ng/ml未満、約0.4ng/ml未満、約0.3ng/ml未満、約0.2ng/ml未満である。
【0148】
別の例では、FGF2のレベルは、約1pg/ml~100pg/mlである。別の例では、FGF2のレベルは、約5pg/ml~80pg/mlである。
【0149】
一例では、PDGFはPDGF-BBである。一例では、PDGF-BBのレベルは約1ng/ml~150ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは約15ng/ml~60ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約10ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約15ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約20ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約21ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約22ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約23ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約24ng/mlである。別の例では、PDGF-BBのレベルは少なくとも約25ng/mlである。
【0150】
別の例では、PDGFはPDGF-ABである。一例では、PDGF-ABのレベルは約1ng/ml~150ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは約15ng/ml~60ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約10ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約15ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約20ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約21ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約22ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約23ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約24ng/mlである。別の例では、PDGF-ABのレベルは少なくとも約25ng/mlである。
【0151】
他の例では、追加の因子を細胞培養培地に添加することができる。一例では、培養培地はEGFをさらに含む。EGFは、細胞の増殖を、その受容体EGFRに結合することによって刺激する増殖因子である。一例では、本開示の方法は、EGFをさらに含む、ウシ胎児血清非含有細胞培養培地中で幹細胞の集団を培養することを含む。一例では、EGFのレベルは約0.1~7ng/mlである。例えば、EGFのレベルは少なくとも約5ng/mlであり得る。
【0152】
別の例では、EGFのレベルは約0.2ng/ml~3.2ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは約0.4ng/ml~1.6ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは約0.2ng/mlの間である。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.3ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.4ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.5ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.6ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.7ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.8ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約0.9ng/mlである。別の例では、EGFのレベルは少なくとも約1.0ng/mlである。
【0153】
上記の例では、Alpha MEMまたはStemSpan(商標)などの基礎培地に、参照量の増殖因子を補充することができる。一例では、培養培地は、32ng/mlのPDGF-BB、0.8ng/mlのEGF、及び0.02ng/mlのFGFを補充したAlpha MEMまたはStemSpan(商標)を含む。
【0154】
他の例では、追加の因子を細胞培養培地に添加することができる。例えば、細胞培養培地は、上皮増殖因子(EGF)、lα、25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-lβ(IL-lβ)及び間質由来因子lα(SDF-lα)からなる群から選択される1つ以上の刺激因子を補充され得る。別の実施形態では、細胞は、細胞の成長を支援するのに十分な量の、少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養することもできる。別の実施形態では、細胞は、ヘパリンまたはその誘導体の存在下で培養することができる。例えば、細胞培養培地は、約50ng/mlのヘパリンを含み得る。他の例では、細胞培養培地は、約60ng/mlのヘパリン、約70ng/mlのヘパリン、約80ng/mlのヘパリン、約90ng/mlのヘパリン、約100ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約120ng/mlのヘパリン、約130ng/mlのヘパリン、約140ng/mlのヘパリン、約150ng/mlのヘパリンまたはその誘導体を含む。一例では、ヘパリン誘導体は硫酸塩である。ヘパリン硫酸塩の様々な形態が当該技術分野で知られており、ヘパリン硫酸塩2(HS2)が含まれる。HS2は、例えば雄哺乳動物及び/または雌哺乳動物の肝臓を含む、様々な供給源に由来し得る。したがって、例示的なヘパリン硫酸塩は、雄肝臓ヘパリン硫酸塩(MML HS)及び雌肝臓ヘパリン硫酸塩(FML HS)を含む。
【0155】
別の例では、本開示の細胞培養培地は、幹細胞を未分化状態に維持しながら幹細胞の増殖を促進する。幹細胞は、特定の分化系統に決定されていない場合、未分化であるとみなされる。上述のように、幹細胞は、それらを分化細胞と区別する形態学的特徴を示す。さらに、未分化幹細胞は、分化状態を検出するためのマーカーとして使用され得る遺伝子を発現する。ポリペプチド産物は、分化状態を検出するためのマーカーとしても使用され得る。したがって、当業者は、慣例的な形態学的分析、遺伝学的分析及び/またはプロテオーム分析を使用して、本開示の方法が幹細胞を未分化状態に維持するかどうかを容易に判断することができる。
【0156】
細胞の改変
本明細書に開示される間葉系前駆細胞または幹細胞は、投与時に細胞の溶解が阻害されるように変更され得る。抗原の変更は免疫学的非応答性または耐性を誘導することができ、それによって、正常な免疫応答において最終的に外来細胞の拒絶の役割を果たす免疫応答のエフェクター段階(例えば、細胞傷害性T細胞の産生、抗体産生など)の誘導を防止する。この目的を達成するために変更され得る抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0157】
間葉系前駆細胞または幹細胞はまた、横紋骨格筋細胞の分化及び/または維持に重要なタンパク質を発現するように遺伝子組換えされてもよい。例示的なタンパク質としては、増殖因子(TGF-β、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、FGF)、筋原性因子(例えば、myoD、ミオゲニン(myogenin)、筋原性因子5(Myf5)、筋原性調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、カルディオトロピン(cardiotropin)-1)、ニューレグリンファミリーのメンバー(例えば、ニューレグリン1、2及び3)、ホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、tinman及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0158】
組成物
本明細書に開示される間葉系細胞または幹細胞を、凍結保存された中間体から培養増殖させて、少なくとも1回の治療用量を含む調製物を製造することができる。
【0159】
一例では、本開示の組成物は、10×106細胞~35×106細胞を含む。別の例では、組成物は、20x106細胞~30x106細胞を含む。他の例では、組成物は、少なくとも100x106細胞を含む。別の例では、組成物は、50x106細胞~500x106細胞を含む。他の例では、本開示の組成物は、1億5000万の細胞を含む。
【0160】
一例では、開示の組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を含む。「担体」及び「賦形剤」という用語は、活性化合物の保存、投与、及び/または生物学的活性を容易にするために当技術分野で従来使用されている物質の組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、16th Ed.、Mac Publishing Company(1980)を参照)。担体はまた、活性化合物の望ましくない副作用を低減し得る。適切な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療に使用される投与量及び濃度で、レシピエントに有意な局所的または全身的有害作用をもたらさない。
【0161】
本開示に適した担体としては、従来使用されているものが挙げられ、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナン及びグリコールが、特に(等張の場合)溶液用の例示的な液体担体である。好適な薬学的担体及び賦形剤は、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。
【0162】
別の例では、担体は、例えば細胞が増殖または懸濁される培地組成物である。このような培地組成物は、投与される対象にいかなる悪影響も誘発しない。例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存率及び/または疾患を治療もしくは予防する細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0163】
一例では、担体または賦形剤は、細胞及び/または可溶性因子を適切なpHに維持し、それによって生物学的活性を発揮する緩衝活性を提供し、例えば、担体または賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSが魅力的な担体または賦形剤を代表するのは、細胞及び因子と最小限に相互作用し、細胞及び因子の迅速な放出を可能にするからであり、そのような場合、本開示の組成物は、例えば注射による、血流または組織または組織の周囲もしくは隣接領域への直接適用のための液体として製造され得る。
【0164】
本開示の組成物は凍結保存され得る。間葉系前駆細胞または幹細胞の凍結保存は、当技術分野で公知の低速冷却法または「高速」凍結プロトコルを使用して実施することができる。好ましくは、凍結保存の方法は、非凍結細胞と比較して、凍結保存細胞の同様の表現型、細胞表面マーカー及び増殖速度を維持する。
【0165】
凍結保存組成物は、凍結保存溶液を含んでもよい。凍結保存溶液のpHは、典型的には6.5~8であり、好ましくは7.4である。
【0166】
凍結保存溶液は、例えばPlasmaLyte ATMなどの滅菌非発熱原性等張液を含み得る。100mLのPlasmaLyte ATMは、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7);368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(C2H3NaO2・3H2O)、37mgの塩化カリウム、USP(KCl)、及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl2・6H2O)を含有する。抗菌剤は含まれない。pHを水酸化ナトリウムで調整する。pHは7.4(6.5~8.0)である。
【0167】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含み得る。凍結保存溶液は、追加的または代替的に培養培地、例えばαMEMを含み得る。
【0168】
凍結を促進するために、通常、凍結保護剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)が凍結保存溶液に添加される。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者に対して非毒性であり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後に高い生存率を提供し、無洗浄での移植を可能にしなければならない。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤であるDMSOは、いくらかの細胞傷害性を示す。ヒドロキシエチルデンプン(HES)を代替物として、またはDMSOと組み合わせて使用して、凍結保存溶液の細胞傷害性を低減することができる。
【0169】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分、及びその他のタンパク質増量剤の1つ以上を含み得る。一例では、凍結保存溶液は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み、HSA溶液は5%HSA及び15%緩衝液を含む。
【0170】
一例では、凍結保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースのうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0171】
凍結保存組成物を解凍し、対象に直接投与してもよく、または、例えばヒアルロン酸を含む別の溶液に添加してもよい。あるいは、凍結保存された組成物を解凍し、投与前に間葉系前駆細胞または幹細胞を代替担体に再懸濁してもよい。
【0172】
本明細書に記載の組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与され得る。異なる型の細胞は、投与のすぐ前もしくは投与の直前に本開示の組成物と混合されてもよく、または投与前に一定期間一緒に共培養されてもよい。
【0173】
一例では、組成物は、有効量、または治療上もしくは予防上有効な量の間葉系前駆細胞または幹細胞及び/またはそれらの後代及び/またはそれらに由来する可溶性因子を含む。例えば、組成物は、約1×105~約1×109幹細胞、または約1.25×103~約1.25×107幹細胞/kg(対象80kg)を含む。投与される細胞の正確な量は、対象の年齢、体重及び性別、並びに治療される障害の程度及び重症度を含む、様々な因子に依存する。
【0174】
組成物中に提供される細胞の数にもかかわらず、一例では、50×106~200×107細胞が投与される。他の例では、60×106~200×106細胞または75×106~150×106細胞が投与される。一例では、75x106細胞が投与される。別の例では、150x106細胞が投与される。
【0175】
一例では、組成物は、5.00x106個/mL超の生存可能細胞を含む。別の例では、組成物は、5.50x106個/mL超の生存可能細胞を含む。別の例では、組成物は、6.00x106個/mL超の生存可能細胞を含む。別の例では、組成物は、6.50x106個/mL超の生存可能細胞を含む。別の例では、組成物は、6.68x106個/mL超の生存可能細胞を含む。
【0176】
一例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を構成する。
【0177】
一例では、組成物は、場合により、所望の目的のための書面の指示と共に適切な容器に包装されていてもよい。
【0178】
本開示の組成物は、例えば静脈内投与などによって全身投与され得る。一例では、組成物は経心内膜投与される。
【0179】
心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク
一例では、本開示の方法は、対象のCRPのレベルに基づいて、心臓死、心筋梗塞、または脳卒中のうちの1つ以上のリスクを評価する方法に関する。例えば、本開示の方法は、対象のCRPのレベルに基づいて心臓死のリスクを評価する方法に関する。一例では、本開示は、対象における心臓死、心筋梗塞または脳卒中の1つ以上の上昇したリスクを決定するための方法を包含し、方法は、対象から得られた試料中のCRPのレベルを測定することを含み、ここでCRPの上昇は、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、対象は進行性心不全を有する。例えば、対象は、NYHAのII度の進行性心不全を有し得る。したがって、一例では、試料は、NYHAのII度の進行性心不全を有する対象から得られる。一例では、試料は血液試料である。
【0180】
一例では、1mg/Lを超えるCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、1.5mg/Lを超えるCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、2mg/L以上のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、2mg/L以上~5mg/LのCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスク上昇を示す。一例では、CRPのレベルは虚血事象後に測定される。一例では、虚血性事象は心筋梗塞である。
【0181】
一例では、標的組織に新しい血管形成を誘導する細胞を含む組成物を、心臓死、心筋梗塞または脳卒中のリスクが高いと評価された対象に投与する。したがって、一例では、本開示は、進行性心不全を治療する方法に関し、方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類スケールによるII度の心不全及び上昇したCRPレベルを有する対象を選択すること、並びにii)本開示による組成物を対象に投与することを含む。一例では、対象のCRPレベルは2mg/ml以上である。
【0182】
当業者であれば、広範に説明される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び/または修正が特定の実施形態に示されるように本発明に加えられてもよいことを理解するであろう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0183】
本明細書で論じられ、及び/または参照される全ての出版物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0184】
本出願は、2021年11月17日に出願されたオーストラリア特許第2021903706号及び2022年11月17日に出願された米国特許第63/384,200号の優先権を主張し、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0185】
本明細書に包含される文献、行為、材料、装置、品物等のいずれの考察も、単に本発明に前後関係を提供するためである。これらの事項の一部または全ては、本出願の各請求項の優先日前に存在していた本発明に関連する分野における先行技術の基礎の一部または共通の一般的知識であったことが承認されたものとはみなさない。
【実施例】
【0186】
組成物
組成物は、抗STRO-3抗体によって骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖させ、凍結保存されたヒト骨髄由来の同種異系MPCからなる。
【0187】
患者
ベースラインデータ
全ての患者(18~80歳)は、繰り返し入院及び死亡リスクの増加につながる進行性疾患である、駆出率(HFrEF)低下を伴う心不全を有していた。
【表2】
【0188】
重要な選択基準には、二次元心エコー図による40%以下、またはマルチゲート収集スキャンによる35%以下の左室駆出率が含まれた。さらに、試験集団は登録時に強化され、(a)スクリーニング前の1~9ヶ月間の少なくとも1回のHF入院、及び/または(b)スクリーニング前の1~9ヶ月間の少なくとも1回の、静脈内利尿薬、血管拡張薬、及び/または陽性変力療法を必要とする外来緊急HF治療来院、及び/または(c)心房細動患者について、1000pg/mL超または1200pg/mL超の血漿NT-proBNPレベル、の1つ以上の存在による、より重篤な疾患を有する患者を対象とした。
【0189】
主要及び副次的転帰測定は次のとおりである:
1)非致命性主要有害心血管事象(MACE):
-心不全MACE(再発性非代償性心不全事象または高グレード不整脈);
-虚血性MACE(心臓発作または脳卒中)。
【0190】
2)心臓原因による死
細胞療法は、対照と比較して、虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率を予想外に60%低下させた(N=537患者;p=0.002;
図1)。
図2は、NYHAのII及びIII度における、対照と比較して観察された虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の有意な低下を示す。これらのデータは、細胞療法が心筋症患者における虚血性事象のリスクを低下させ得ることを示唆している。
図3は、虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の有意な低下が虚血患者及び非虚血患者の両方で観察されたことを示す。心筋症患者は、これらの患者における進行中の炎症プロセスに起因する閉塞性プラーク発生のリスクがある。これらの問題のあるプロセスは、虚血性心筋症患者及び非虚血性心筋症患者の両方で観察される虚血性MACEの一般的な減少を考慮して、細胞療法によって阻害されるようである。したがって、本データは、細胞療法を投与して、心筋症に罹患している患者の虚血性事象(複数可)のリスクを下げることができるという一般的な概念を裏付けているように見える。
【0191】
驚くべきことに、細胞療法によって、NYHAのII度の患者の心臓死は減少したが、NYHAのIII度の患者の心臓死は減少しなかった(
図4及び
図6)。この結果は驚くべきものであった。なぜなら、細胞療法で心臓死を減らすには、生存可能心筋の閾値レベルが必要であることを示唆していたからである。換言すれば、III度の心不全の患者が、細胞療法が生存率を改善するには疾患連続体を進行しすぎていた可能性がある。これらの知見は、細胞療法がNYHAのII度の患者において特に有効であることを示唆している。投与された細胞が標的組織に新しい血管形成を誘導する能力があることを考慮すると、本発明者らの知見は、細胞療法を投与することによって、NYHAのIII度よりも低いグレードの患者の心臓死を減らすための一般的な概念を示唆している。この概念のさらなる裏付けとして、本発明者らは、NYHAのII度の患者で観察された心臓死の減少が心筋症の原因にもかかわらず維持され、虚血性及び非虚血性NYHAのII度の患者における心臓死の減少が観察されることに注目した(
図5)。
【0192】
3)転帰の改善
3点MACE
その後の分析により、細胞療法の単回注射により、治療された全537人の患者にわたり、対照と比較して、3点不可逆的罹患率または死亡率MACEの複合転帰のリスクが大幅に減少することが明らかになった。リスクの減少は、2mg/ml以上のCRPを有する対象でさらに明白であった。3点MACEのリスクは、最初の事象までの時間を使用して33%低下し[HR 0.667;95% CI(0.472,0.941);P=0.021;
図7A]、追跡調査の時間に対して正規化された再発事象率分析(すなわち、100患者年あたりの事象)では35%低下した[HR 0.646;95% CI(0.466,0.895);P=0.009;
図7B]。2mg/L超または2mg/L未満の血漿hsCRPレベルを有する患者における、この複合転帰のカプラン・マイヤー曲線を
図7Cに示す。
図7Cに示すように、2mg/Lを超えるCRPを有する治療された全ての患者において、細胞療法により、
・非致死性MI及び非致死性脳卒中(
図7C1);及び、
・心臓死または虚血性MACE(MIまたは脳卒中)の複合(
図7C2)のリスクが著しく低下した。
【0193】
虚血性MACE
治療を受けた537人の患者全てにおいて、細胞療法の単回注射は、対照と比較して不可逆的罹患率(非致死性MIまたは非致死性脳卒中)の発生リスクを、最初の事象までの時間(TTFE)解析を使用して65%低下させ[HR 0.346;95% CI(0.180,0.664);P=0.001;
図8A]、再発事象率正規化を使用して69%低下させた[HR 0.306;95% CI(0.162,0.579);P<0.001;
図8B]。
【0194】
治療時の炎症の有無に基づいて、全ての治療患者について事前に指定されたサブグループ分析を実施した。炎症を有する301人の患者(CRP≧2mg/L)における細胞療法の単回注射は、非致死性MIまたは非致死性脳卒中のリスクをTTFEを使用して79%低下させ[HR 0.206;95% CI(0.070,0.611);P=0.004;
図8A]、再発事象率正規化を使用して83%低下させた[HR 0.170;95% CI(0.059,0.492);P=0.001;
図8B]。上述の3点MACE分析と合わせて考慮すると、これらのデータは、好ましくはCRP≧2mg/Lによって定義される、心不全、活動性炎症患者を選択し治療するための理論的根拠を裏付けている。
【0195】
細胞療法により、全患者における心臓死または虚血性MACE(MIまたは脳卒中)の複合が33%有意に減少した(
図9)。患者群のさらなる分析により、細胞療法によって、NYHAのII度の患者における心臓死または虚血性MACE(MIまたは脳卒中)の複合が、対照と比較して60%有意に減少したことが次いで明らかになり、NYHAのII度の心不全の患者を選択治療する理論的根拠をさらに裏付けている(
図9)。細胞療法が、複数年の追跡調査にわたってNYHAのII度の患者の心臓死の進行を予防したことも注目された(
図10)。
【0196】
細胞療法によって、CRPレベルが上昇した、特にCRPレベルが2mg/L以上のNYHAのII度の患者における心臓死(
図11)及び3点MACE(心臓死/MI/脳卒中、
図12)のリスクが予想外に減少した。これらの有益な効果は、ベースラインの2mg/未満のCRP患者では明白ではなく、細胞療法が活動性炎症の存在下で特に有益であり得ることを示唆している。
【0197】
さらなるデータ分析により、CRPが心臓死の重要なマーカーであることが明らかになった。
図11に示すように、上昇したCRPレベル(2mg/L以上)を有する患者は、心臓死のリスクが有意に増加した。これらのデータは、細胞療法によるNYHAのII度の患者の治療を、特にそれらの患者が上昇したCRPレベル、例えば2mg/L以上のCRPを有する場合、さらに裏付ける。これらのデータはまた、指標としてのCRPレベルの有用性または心臓死のリスクがある患者を指示する。
【0198】
心筋虚血及び/または糖尿病
微小血管疾患または大血管疾患(心筋虚血または糖尿病)有するHF患者は、転帰不良(治療患者の最高ハザード比(表1))の観点から、治療が最も困難な患者の一部を代表する。実際、本患者集団の分析により、心筋虚血及び/または糖尿病を有する未治療の対照心不全患者(n=276)は、3点IMM MACEによって測定すると、他の心不全対照患者(n=84)よりも悪い転帰と有意に関連付けられることが明らかになった。特に、心筋虚血及び/または糖尿病を有する未治療の対照心不全患者は、心血管死または非致死性MIまたは非致死性脳卒中の発生率が有意に増加した(
図13)。しかしながら、細胞療法は、心筋虚血及び/または糖尿病を有するこれらの患者において驚くほどに有効であり(n=385;表1)、3点複合IMM MACEのリスクを36%低下させた(
図14)。これらのデータは、細胞療法が、微小血管疾患または大血管疾患、特に心筋虚血及び/または糖尿病を有するHF患者において特に有益であることを示唆し、これらの患者を治療のために選択することの理論的根拠を裏付けている。
【表3】
【0199】
図15に示すように、上記の治療有効性は、微小血管疾患(心筋虚血;
図16)または大血管疾患(糖尿病;
図17及び
図18)に加えて、活動性炎症(すなわち、2mg/L以上のCRPレベル)を有するHF患者においても、より顕著であった。これらのデータは、活動性炎症患者における細胞療法の治療有効性のさらなる裏付けを提供する。さらに、それらは、細胞療法が、活動性炎症微及び小血管疾患または大血管疾患、特に心筋虚血または糖尿病のいずれかを有するHF患者において特に有益であることを示唆し、これらの患者を治療のために選択することの理論的根拠をも裏付けている。
【0200】
比較データ
駆出率低下を伴う心不全(HFrEF)は、繰り返し入院及び死亡リスクの増加につながる進行性疾患である。不可逆的罹患率(非致死性心筋梗塞(MI)または非致死性脳卒中)及び死亡率を低下させる治療は、依然として不明である。したがって、細胞療法が、3点IMM MACE(心血管死または非致死性MIまたは非致死性脳卒中についてのTTFE複合)を使用して、心血管リスク低減について評価された他の治験薬よりも優れていたことは特に驚くべきことである(表2)。
【表4】
【国際調査報告】