(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-23
(54)【発明の名称】哺乳動物の心臓再生
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20241016BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241016BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241016BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20241016BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241016BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20241016BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241016BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12P21/02 C
C12N5/077
C12N5/10
A61K38/17
A61K35/76
A61K48/00
A61P9/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544355
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 NL2022050553
(87)【国際公開番号】W WO2023055239
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524123942
【氏名又は名称】コーニンクレイケ ネーデルランセ アカデミー ファン ウェテンスハッペン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バッケルス、イェルン ペートルス ヴィルヘルムス マリア
(72)【発明者】
【氏名】デ バッケル、デニス エデュアルト マリア
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
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4B064CC24
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4H045AA10
4H045AA20
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4H045DA00
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、構造的心筋欠損に罹患している個体を処置する方法であって、個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞に高移動度群A(HMGA)タンパク質を提供し、それにより前記心筋細胞の増殖を促進することを含む方法に関する。本発明はさらに、前記HMGAタンパク質の機能的発現のための発現構築物、HMGA又は前記発現構築物を含む医薬組成物、及び、インビトロで心筋細胞を培養する方法であって、HMGAタンパク質又は発現構築物を心筋細胞に提供することを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造的心筋欠損に罹患している個体における心筋細胞増殖を促進する方法において使用するための高移動度群A(HMGA)タンパク質であって、前記方法が、
前記個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞に前記HMGAタンパク質を提供することを含み、それにより前記心筋細胞の増殖を促進する、HMGAタンパク質。
【請求項2】
全身投与又は局所投与によって前記心筋細胞に提供される、請求項1に記載のHMGAタンパク質。
【請求項3】
前記心筋への注射又は注入によって前記心筋細胞に提供される、請求項1又は請求項2に記載のHMGAタンパク質。
【請求項4】
HMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質を含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のHMGAタンパク質。
【請求項5】
前記心筋細胞において前記HMGAタンパク質を発現する発現構築物によって前記心筋細胞に提供される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のHMGAタンパク質。
【請求項6】
前記発現構築物がウイルスベクター又は核酸構築物である、請求項5に記載のHMGAタンパク質。
【請求項7】
前記構造的心筋欠損が先天性心欠損である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のHMGAタンパク質。
【請求項8】
前記構造的心筋欠損が左心低形成症候群又は右心低形成症候群である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のHMGAタンパク質。
【請求項9】
前記個体が、心筋梗塞又は心不全に罹患している成人である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のHMGAタンパク質。
【請求項10】
心筋細胞における、高移動度群A(HMGA)タンパク質の機能的発現のための、好ましくはHMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質の機能的発現のための、発現構築物。
【請求項11】
高移動度群A(HMGA)タンパク質又は請求項10に記載の発現構築物と、
薬理学的に許容される添加剤と
を含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記発現構築物がウイルスベクター又は核酸構築物である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記発現構築物がアデノウイルス系ベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)系ベクターである、請求項11又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ベクターがmRNAベースの構築物である、請求項11又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
インビトロで心筋細胞を培養する方法であって、
HMGAタンパク質又は請求項10に記載の発現構築物を心筋細胞に提供すること、及び
前記心筋細胞を培養すること
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療処置の分野に関する。本発明は、具体的には、構造的心筋欠損(structural cardiac muscle defect)に罹患している個体の処置方法に関する。本発明はさらに、これらの方法での使用に適した医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患は、心筋梗塞の帰結であるものを含め、西洋における依然として最大の死因である(WHO、2019年、Lancet 7巻:E1332-E1345頁)。心筋梗塞に罹患している患者は、しばしば最初の損傷を乗り越えるが、数百万個の心筋細胞を永久に失う。実際、心臓は永久的な瘢痕の形成によって損傷を効率的に修復することができるが、新しい心筋細胞はほとんど再生されず(Kretzschmarら、2018年、PNAS 115巻:E12245~E12254頁)、虚血性心損傷を慢性的な苦痛として引き起こす。虚血性損傷を有する心臓は最終的に心不全を発症するため、この分野では、失われた心筋の再生及び/又は完全な機能の回復に焦点を合わせた処置が切実に必要とされている。
【0003】
興味深いことに、ゼブラフィッシュを含むいくつかの種は、心臓を再生する堅牢な内因性能力を有する(Possら、2002年、Science 298巻:2188~2190頁)。ゼブラフィッシュでは、損傷区域に隣接する生存している心筋細胞(CM)は、境界域(BZ)としても知られ、胚様状態に向かって脱分化し、増殖して失われた心筋細胞に置き換わる(Honkoopら、2019年、ELife、8巻:1~27頁;Joplingら、2010年、Nature 464巻:606~609頁;Kikuchiら、2010年、Nature、464巻:601~605頁;Wuら、2015年、Develop Cell 36巻:36~49頁)。さらに、BZ CMは、それらの再生応答の根底にあるそれらのクロマチン構成の堅牢な変化を受ける(Beisawら、2020年、Circulation Res 126巻:1760~1778頁)。
【0004】
これは、なぜゼブラフィッシュBZ CMが細胞周期にリエントリーする一方で、哺乳動物BZ CMはリエントリーしないのかという疑問を提起する。心筋細胞核の固有の特性を見ると、潜在的な答えが形成され得る。哺乳動物CMは主に多倍数体(ヒト)又は多核(マウス)であるところ、ゼブラフィッシュCMは単核及び二倍体であり、これらは効率的な増殖及びゼブラフィッシュ心臓再生に有害であることが示されている(Gonzalez-Rosaら、2018年、Developmental Cell 44巻:433~446頁;Pattersonら、2017年、Nature Gen、49巻:1346~1353頁;Windmuellerら、2020年、Cell Reports 30巻:3105~3116頁)。
【0005】
これらの制約にもかかわらず、成人ヒト心臓における低レベルの内因性CM代謝回転が観察された(Bergmannら、2009年、Science 324巻:98~102頁)。さらに、新生仔マウス心臓は、生後の短い時間窓でCM増殖及び心臓再生を誘導する能力を含むことが示されている(Porrelloら、2011年、Science、331巻:1078~1080頁)。まとめると、これらの観察結果は、哺乳動物の心臓が再生する潜在能力を保持し得ることを示唆している。
【0006】
実際、マウスにおける研究は、HIPPOシグナル伝達経路の阻害が哺乳動物の心臓の再生能力を解明し得ることを示している(Heallenら、2013年、Development 140巻:4683~4690頁;Leachら、2017年、Nature 550巻:260~264頁)。さらに、構成的に活性なErbb2受容体の過剰発現は、マウスにおいて効率的な心筋細胞増殖を誘導し、損傷した心臓のほぼ完全な再生を可能にする(D’Uvaら、2015年、Nat Cell Biol、17巻:627~638頁)。
【0007】
これらの研究は、とりわけ、BZ心筋細胞が刺激を受けると最も増殖しやすいことを報告している(D’Uvaら、2015年、Nat Cell Biol、17巻:627~638頁;Leachら、2017年、Nature 550巻:260~264頁;Linら、2014年、Circulation Res 115巻:354~363頁;Pasumarthiら、2005年、Circulation Res 96巻:110~118頁;Xiangら、2016年、Circulation 133巻:1081~1092頁)。哺乳動物BZ CMは、ゼブラフィッシュBZ CMのように内因的に増殖を開始しないが、トランスクリプトーム及び染色体構成において劇的な変化を受け(van Duijvenbodenら、2019年、Circulation 140巻:864~879頁)、分裂促進刺激に対する感受性を増強する可能性がある。
【0008】
Wuら、2019年(Wuら、2019年、J Mol Cell Cardiol 128巻:160~178頁)は、圧過負荷誘導性心臓リモデリングにおけるHMGA2の役割を記載している。著者らは、HMGA2の過剰発現、続いて大動脈の結紮が、細胞表面積の減少、心臓重量対体重比の減少及び肥大マーカーの発現の減少によって証明されるように、マウスの心筋肥大を減少させることを示した。対照的に、HMGA2のノックダウン、続いて大動脈の結紮は、心筋肥大の増加及び心臓重量対体重比の増加をもたらした。さらに、Wuら、2020年(Wuら、2020年、Cell Death Disease 160巻:1~13頁)は、マウス心臓におけるHMGA1の過剰発現がアポトーシスを増加させ、心機能障害を悪化させたことを報告した。これらの文献はいずれも、HMGAが細胞分裂の調節に関与することを開示せず、示唆すらしておらず、HMGAの上方制御が心筋細胞増殖を促進することも開示又は示唆していないことは言うまでもない。
【0009】
しかしながら、本発明者らは、ゼブラフィッシュ心臓と哺乳動物心臓との再生能力の顕著な違いを完全に理解するにはまだ程遠い。したがって、これらの種間のBZの分子差を研究することは、哺乳動物の心臓再生を刺激する可能性を有する因子の同定につながり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
再生中のゼブラフィッシュ心臓と非再生マウス心臓との間の転写の差を同定するためにスクリーニングを実施した。これにより、2つの種の間で重複及び分岐する様々な遺伝子及びプロセスの広範なリストが得られた。このデータセットは、心臓再生能力の新しいドライバーを同定するための豊富なリソースを形成する。この比較の生物学的関連性を機能的に検証し、心筋細胞(CM)増殖の重要なドライバーとして、高移動度群A(HMGA)タンパク質、特にHmga1を同定した。これらの結果は、ゼブラフィッシュ心臓再生中、Hmga1aが、クロマチン接近可能性(chromatin accessibility)を変化させ、深遠な遺伝子発現プログラムを誘導することによって、Nrg1シグナル伝達の下流でCM増殖を駆動することを実証している。さらに、損傷したマウス心臓のCMにおける強制的なHmga1発現は、CM増殖を促進し、その結果、機能的回復が増強される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、構造的心筋欠損に罹患している個体における心筋細胞増殖を促進する方法に使用するための高移動度群A(HMGA)タンパク質であって、前記方法は前記個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞に前記HMGAタンパク質を提供することを含み、それにより前記心筋細胞の増殖を促進する、高移動度群A(HMGA)タンパク質を提供する。
【0012】
前記HMGAタンパク質は、好ましくは、全身投与又は局所投与によって前記心筋細胞に提供される。前記HMGAタンパク質は、好ましくは、前記心筋への注射又は注入を含む局所投与によって提供される。
【0013】
前記HMGAタンパク質は、好ましくは、HMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質であるか、又はそれを含む。
【0014】
一実施形態では、前記HMGAタンパク質は、前記心筋細胞内で前記HMGAタンパク質を発現する発現構築物によって前記心筋細胞に提供される。前記発現構築物は、好ましくはウイルスベクター又は核酸構築物である。
【0015】
一実施形態では、前記構造的心筋欠損は、左心低形成症候群又は右心低形成症候群などの先天性心欠損である。
【0016】
一実施形態では、前記構造的心筋欠損は、心筋梗塞又は心不全に罹患している成人におけるものである。
【0017】
本発明はさらに、心筋細胞における、高移動度群A(HMGA)タンパク質の機能的発現のための、好ましくはHMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質の機能的発現のための発現構築物を提供する。
【0018】
本発明はさらに、本発明による発現構築物と、薬理学的に許容される添加剤(excipient)とを含む医薬組成物を提供する。前記発現構築物は、好ましくは、ウイルスベクター、例えばアデノウイルス系ベクター若しくはアデノ随伴ウイルス(AAV)系ベクター、又は核酸構築物、例えばmRNAベースの構築物である。
【0019】
本発明はさらに、インビトロで心筋細胞を培養する方法であって、HMGAタンパク質又は本発明による発現構築物を心筋細胞に提供すること、及び前記心筋細胞を培養することとを含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1-1】
図1:(A)損傷したマウス心臓における転写的に異なる領域(transcriptionally distinct regions)がTomo-seqによって明らかとなる。ワークフローの概略図。(B)ゼブラフィッシュの境界域とマウスの境界域との間の転写比較により、重複した多様な遺伝子発現が同定される。ワークフローの概略図。(C)相同遺伝子対についてのLogFCで示される、境界域発現を比較する散布図分析。
【
図2A】
図2:hmga1a発現は潜在的再生能力(regenerative potential)と相関する。(A)qPCR分析を、種々の出生後時点での全マウス心臓由来のcDNAライブラリーに対して行った。一元配置ANOVA分析は、異なる時点間でHmga1発現に有意差があることを示す(p値=0.0002)。Dunnettの多重比較検定を使用して、どの特定のカラムがP1時点と有意に異なるかを特定した。(B)(LAD閉塞によって誘導された)心筋梗塞の3、7又は14日後の損傷したマウス心臓の単離された境界域(BZ)及び遠隔心筋(RM)組織から得られたcDNAライブラリーについて、定量的PCRで候補遺伝子を分析した。Hmga1(P=0.263)、Foxp4(P=0.134)及びIgf2(P=0.143)について、BZとRMとの間の差は観察されなかった。Gpc1では、有意差が観察され、BZと比較して有意に高い発現がRMで見られた(P<0.001)。二元配置ANOVA試験を用いてP値を得た。提示された遺伝子のいずれについても、域とdpiの有意な相互作用は観察されなかった。
【
図3】
図3:8bp欠失はhmga1aコード領域にフレームシフトを引き起こし、損傷境界域におけるhmga1a mRNA発現の強い減少をもたらす。(A)3つのATフックDNA結合ドメイン及びC末端酸性尾部を含む、Hmga1aタンパク質構造。(B)開始コドンの後方のTALENベースの8bp欠失は、早期終始コドンを導くフレームシフトを引き起こす。(C、D)野生型心臓又はhmga1a-/-心臓における(C)hmga1a又は(D)hmga1bに対するin situハイブリダイゼーション。各条件についてn=3。点線は損傷区域を示す。スケールバーは100μmを表す。
【
図4-1】
図4:ゼブラフィッシュhmga1aは、心臓再生に必要であり、境界域心筋細胞が特定の細胞状態をとることを可能にする。(A)hmga1a-/-心臓及び兄弟心臓の酸性フクシンオレンジG(AFOG)染色、30dpi。スケールバーは100μmを表す。(B)瘢痕サイズの定量。(C)7dpiでの野生型心臓及びhmga1a-/-心臓からのnppa:mCitrine+心筋細胞の単離及び選別のワークフロー。(D)擬似時間分析。zスコアの一次元SOMにより、StemID分析によって生じた分化軌跡に沿って発現プロファイルを変換した。Y軸は、差次的に発現した遺伝子を有する8つのモジュールを表す。X軸は、細胞が並べられた擬似時間を表す。(E)擬似時間にわたる遺伝子型寄与の分布。(F)特定のモジュールにおける発現を示す遺伝子を表す遺伝子オントロジー。(G)ゼブラフィッシュ境界域におけるヘキソキナーゼ1(hk1)のin situハイブリダイゼーション。点線は損傷境界を示す。スケールバーは50μmを示す。(H)300μmの野生型及び変異体境界域におけるトロポミオシン+領域に対するリン酸化リボソームS6タンパク質陽性(pS6+)区域のパーセンテージ(左)。野生型境界域及び変異体境界域における基礎となるトロポミオシンシグナルに対するpS6シグナルの強度(右)。(I)トロポミオシン(最上段、1行目)及びpS6(2行目)の免疫蛍光染色。心筋のpS6シグナル(3行目)は、トロポミオシンについての総pS6のマスキング後に得られた。スケールバーは200μmを示す。
【
図5A】
図5:ゼブラフィッシュhmga1aは、損傷及びNRG1で誘導される心筋細胞増殖に必要である。(A)増殖境界域心筋細胞の定量。(B)PBS又はNRG1注射ゼブラフィッシュにおける、hmga1a-/-心臓又は野生型兄弟心臓のいずれかにおける増殖心筋細胞の定量。
【
図6A】
図6:ゼブラフィッシュhmga1aの過剰発現は、心筋細胞において増殖を誘導するのに十分である。増殖細胞の定量。(A)総心臓表面(心筋+内腔)。(B)心筋で覆われた総心臓表面のパーセンテージ。(C)増殖CMのパーセンテージ。(D)心筋細胞核の密度。(E)1年超後の対照心臓とHmga1a-eGFP過剰発現心臓との間の心筋で覆われた表面積の定量。
【
図7A】
図7:Hmga1過剰発現は、哺乳動物心筋細胞の細胞周期リエントリーを刺激し、MI後の機能的回復を促進する。(A)(B~D)で使用される新生仔ラット心筋細胞におけるHmga1-eGFP過剰発現のワークフロー。(B~D)eGFPのみをトランスフェクトされた細胞又はHmga1-eGFPをトランスフェクトされた細胞での増殖マーカー定量。EdU、Ki67及びpHH3の定量のために、2回の技術的反復のみが利用可能であったpHH3 Hmga1-eGFP条件を除いて、3回の技術的反復を条件ごとに定量した。(E)HA-Hmga1をトランスフェクトされた心臓の境界域(BZ)又は遠隔心筋(RM)内のEdU+細胞の定量。心臓1つあたり少なくとも3つの心臓切片を定量した。(F、H)駆出率(F)又は短縮率(H)を、BZ(損傷区域から200μm以下と定義)中に見出されるトランスフェクトされた細胞の平均量に対してプロットした。心臓1つあたり少なくとも3つの心臓切片を定量した。縦の灰色の線は、使用されたトランスフェクション効率のカットオフを示す。(G、I)偽手術心臓、又は対照ウイルス若しくはAAV9(CMV:HA-Hmga1)のいずれかを注射したMI心臓の駆出率(G)又は短縮率(I)の定量。無効なトランスフェクションを示した心臓を除外した(平均で30個未満のトランスフェクトされたBZ細胞)。
【
図8A】
図8:Hmga1過剰発現は、マウス心筋細胞の細胞周期リエントリーを刺激し、MI後の機能的回復を促進する。HA-Hmga1又はGFPを形質導入した心臓の境界域(BZ)内のEdU+(A)細胞又はKi67+(B)細胞の定量。心臓1つあたり3つの心臓切片を定量した。統計量は、一元配置ANOVA、続いてテューキーの多重比較検定を用いて得た。(C)42dpiでの代表的なHA-Hmga1及びGFP形質導入心臓のマッソントリクローム染色。切片間の距離は400umである。スケールバーは1mmを表す。HA-Hmga1又はGFPを形質導入した心臓の平均角瘢痕サイズ(D)又はMI長/正中線LV長の平均%(E)の瘢痕定量、42dpi。統計量は、対応のないt検定を用いて得た。HA-Hmga1又はGFPを形質導入した心臓のMI長/正中線LV長の平均%(D)の42dpiの瘢痕定量。HA-Hmga1又はGFP対照ウイルスを形質導入した偽心臓及びMI心臓の42dpiでの駆出率(E)、短縮率(F)、心拍出量(G)及び一回拍出量(H)の定量。統計量は、一元配置ANOVA、続いてテューキーの多重比較検定を用いて得た。
【発明を実施するための形態】
【0021】
4.1 定義
本明細書で使用される「高移動度群A(HMGA)タンパク質」という用語は、遺伝子転写の調節に関与するクロマチン関連タンパク質を指す。このタンパク質は、二本鎖DNA中のATリッチ領域の副溝に優先的に結合する。結合は、3つのいわゆるA-Tフックの存在によって媒介される。HMGAという用語は、A-Tフックを含むタンパク質の少なくとも中心部分を含む機能的変異体への言及を含む。2つの哺乳動物HMGAタンパク質、HMGA1及びHMGA2が存在する。HMGA1をコードする遺伝子はヒト染色体6p21.31上に存在し、HUGO Gene Nomenclature Committee(HGNC)受託番号5010、NCBI Entrez Gene受託番号3159及びEnsembl受託番号ENSG00000137309によって特徴付けられる。コードされたタンパク質は、UniProt受託番号P17096によって特徴付けられる。HMGA2をコードする遺伝子は、ヒト染色体12q14.3上に存在し、HGNC受託番号5009、NCBI Entrez Gene受託番号8091及びEnsembl受託番号ENSG 00000149948によって特徴付けられる。コードされたタンパク質は、UniProt受託番号P52926によって特徴付けられる。好ましいHMGAタンパク質は、HMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって少なくとも配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質によって提供される。
【0022】
本明細書で使用される「構造的心筋欠損(structural cardiac muscle defect)」という用語は、心筋細胞と呼ばれる筋細胞に関連する欠損又は障害を指す。構造的心筋欠損は先天性であるか、又は加齢、損傷又は感染の結果として後年に発症する。例としては、肥大型心筋症、心低形成症候群及び卵円孔開存が挙げられる。
【0023】
「心筋梗塞」又は心臓発作という用語は、心筋組織の突然の虚血死を指す。長時間の心筋虚血は、梗塞した心臓における心筋細胞のアポトーシス及び壊死をもたらす。成体哺乳動物の心臓は、再生能力をほとんど有していない。したがって、梗塞した心筋は、線維化、すなわち瘢痕の形成によって治癒する。梗塞の治癒は、拡張、生存セグメントの肥大、及び進行性機能不全によって特徴付けられる。
【0024】
本明細書で使用される「心不全」という用語は、心臓を十分な血液で満たすことができないため、又は心臓が適度に送り出すには弱すぎるために、心臓が十分な血液を送り出すことができないときに発症する状態を指す。心不全は、冠動脈心疾患、心臓炎症、高血圧、心筋症、又は不規則な心拍によって引き起こされ得る。
【0025】
本明細書で使用される「肥大型心筋症(HCM)」という用語は、収縮不全及び潜在的に致命的な不整脈に関連する、通常は左心室の心臓壁の肥厚を指す。HCMは、35歳未満の個体における心臓突然死の最も一般的な原因である。HCMはしばしば心不全の発症に先行する。
【0026】
本明細書で使用される「左心低形成症候群」という用語は、心臓を通る正常な血流に影響を及ぼす一連の先天性心欠損を指す。左心室の発達が不十分であり過度に小さいことは、左心低形成症候群の症状の1つである。
【0027】
本明細書で使用される「右心低形成症候群」という用語は、心臓を通る正常な血流に影響を及ぼす一連の先天性心欠損を指す。右心室が存在しない、又は発達が不十分であり過度に小さいことは、右心低形成症候群の症状の1つである。
【0028】
4.2 処置方法
構造的心筋欠損に罹患している個体を処置する方法は、心筋細胞の増殖能を少なくとも部分的に誘導することを目的とする。処置方法は、心筋細胞における高移動度群A(HMGA)タンパク質の発現を増加させる手段を含む。個体の心筋細胞におけるHMGAタンパク質の発現レベルの増加の提供は、個体の心筋細胞に前記HMGAタンパク質又は前記HMGAタンパク質をコードする核酸分子を提供することを含む。前記提供は好ましくは一過性であり、これは、心筋細胞におけるHMGAタンパク質の発現の前記増加が一時的、例えば1日~6ヶ月間、例えば1週間~3ヶ月間、であることを意味する。
【0029】
個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞にHMGAタンパク質を提供することは、前記心筋細胞、特に損傷境界域の心筋細胞の増殖を刺激すると考えられる。これらの細胞におけるHMGAの存在の増加は、クロマチン再編成を促進し、ストレス応答、細胞外マトリックス産生、代謝再プログラミング及び細胞増殖における役割を有する遺伝子の誘導をもたらす。
【0030】
したがって、本発明は、構造的心筋欠損に罹患している個体における心筋細胞増殖を促進するための医薬品の調製における、高移動度群A(HMGA)タンパク質の使用を提供する。前記個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞に前記HMGAタンパク質を提供することにより、前記心筋細胞の増殖が促進される。
【0031】
HMGAは、ゼブラフィッシュ境界域(BZ)で上方制御されるがマウスBZでは上方制御されない遺伝子についてのスクリーニングで同定された。合計371個の遺伝子が同定された(表1参照)。371個の遺伝子には、Ensembl遺伝子識別子ENSDARG00000033971、paired related homeobox 1(prrx1)が含まれ、これは、損傷したゼブラフィッシュ心臓の線維化と再生のバランスをとる重要な転写因子であることが示されている(de Bakkerら、2021年、Development 148巻(19号):dev198937頁)。ENSDARG00000028335(hmga1a)、ENSDARG00000076120(フォークヘッドボックスp4;foxp4)、ENSDARG00000033307(インスリン様増殖因子2;igf2)及びENSDARG00000090585(グリピカン1;gpc1)について、ゼブラフィッシュにおいてBZが豊富に発現していることを、in situハイブリダイゼーション及び定量的PCR分析を用いたマウスBZにおけるBZ富化の欠如によって確認した(
図2B及びデータは示さず)。興味深いのは、心筋細胞、特に損傷境界域の心筋細胞の増殖を刺激すると考えられている遺伝子ENSDARG00000076120(foxp4)、ENSDARG00000033307(igf2)、ENSDARG00000101482(ヘキソキナーゼ2;hk2)、ENSDARG00000036096(smadファミリーメンバー3a;smad3a)、ENSDARG00000034895(形質転換増殖因子ベータ1;tgfb1)及びENSDARG00000061508(形質転換増殖因子ベータ受容体関連タンパク質1;tgfbrap1)、特にENSDARG00000076120(foxp4)及びENSDARG00000101482(hk2)である。foxp4、igf2及びhk2遺伝子は、損傷境界域におけるCM増殖に必要とされる、インスリン増殖因子シグナル伝達、及び解糖の調節を介したエネルギー代謝の調節において役割を果たす(Huangら、2013年、PLoS One、8巻:e67266頁;Honkoopら、2019年、Elife 8巻:e50163頁;Fukudaら、2020年、EMBO Rep 21巻:e49752頁)。smad3a、tgfb1及びtgfbrap1遺伝子は、損傷境界域におけるCM増殖のための必須経路であるTGF-β増殖因子経路を介したシグナルの伝達において役割を果たす(Chablais及びJazwinska,2012年、Development 139巻:1921~1930頁;Pengら、2021年、Front Cell Dev Biol 9巻:632372頁)。個体の心筋の少なくとも一部分の心筋細胞における、表1に列挙される遺伝子のいずれか1つ、特にENSDARG00000076120(foxp4)、ENSDARG00000033307(igf2)、ENSDARG00000101482(hk2)、ENSDARG00000036096(smad3a)、ENSDARG00000034895(tgfb1)及びENSDARG00000061508(tgfbrap1)、特にENSDARG00000076120(foxp4)及びENSDARG00000101482(hk2)の過剰発現は、前記心筋細胞、特に損傷境界域の心筋細胞の増殖を刺激する。
【0032】
4.2.1 HMGAタンパク質の上方制御
HMGAタンパク質は、全身投与又は局所投与によって心筋細胞の増殖を誘導するために提供され得る。前記HMGAタンパク質は、好ましくは宿主細胞において発現される。異種タンパク質産生のために一般的に使用される発現系としては、大腸菌(E.coli)、バキュロウイルス、酵母及び哺乳動物細胞が挙げられる。異種系における組換えタンパク質の発現の効率は、転写レベル及び翻訳レベルの両方の多くの因子に依存する。
【0033】
HMGAタンパク質は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びピキア酵母(Pichia pastoris)を含む糸状菌又は酵母などの真菌において産生され得る。
【0034】
HMGAタンパク質は、好ましくは、哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞及びそれらの誘導体、例えばHEK293T、HEK293E、HEK-293F及びHEK-293FT(Creative Biolabs、ニューヨーク州、米国)を含むHEK293細胞、並びにPER.C6(登録商標)細胞(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)において産生される。
【0035】
HMGAタンパク質の産生は、好ましくは、前記HMGAタンパク質をコードする核酸分子を目的の細胞に提供することによって産生される。前記核酸、好ましくはDNAは、好ましくは、当業者に公知のように、ポリメラーゼ、制限酵素、及びリガーゼの使用を含む組換え技術によって産生される。或いは前記核酸は、当業者に公知のように、人工遺伝子合成によって、例えば部分的若しくは完全に重複するオリゴヌクレオチドの合成によって、又は有機化学と組換え技術との組み合わせによって提供される。前記核酸は、好ましくは、選択された細胞又は細胞系統におけるHMGAタンパク質の発現を増強するためにコドン最適化される。さらなる最適化には、好ましくは、潜在的スプライス部位の除去、潜在的ポリAテールの除去及び/又はmRNAの好ましくないフォールディングをもたらす配列の除去が含まれる。スプライス部位に隣接するイントロンの存在は、核からの搬出を促進し得る。さらに、核酸は、好ましくは、細胞から原核生物のペリプラズム又は増殖培地へのHMGAタンパク質の分泌のためのタンパク質搬出シグナルをコードし、HMGAタンパク質の効率的な精製を可能にする。
【0036】
HMGAタンパク質の精製方法は当技術分野で公知であり、一般に、汚染物質(contaminants)を除去するためのイオン交換などのクロマトグラフィーに基づく。汚染物質に加えて、分解生成物及び凝集物などの生成物自体の望ましくない誘導体を除去することも必要であり得る。適切な精製プロセス工程は、Berthold及びWalter、1994年、Biologicals 22巻:135~150頁に提供されている。
【0037】
代替として、又はさらに、組換えHMGAタンパク質は、遺伝子工学によって特定のタグでタグ付けされて、タンパク質が前記タグに特異的なカラムに結合することを可能にし、したがって不純物から単離され得る。次いで、精製されたタンパク質は、アフィニティーカラムからデカップリング試薬で交換される。この方法は、組換えタンパク質の精製に適用されている。ヒスチジンタグなどのタンパク質の従来のタグは、タグを特異的に捕捉するアフィニティーカラム(例えば、ヒスチジンタグについてはNi-IDAカラム)と共に使用されて、不純物からタンパク質を単離する。次いで、タンパク質は、特異的タグに応じたデカップリング試薬(例えば、ヒスチジンタグについてはイミダゾール)を使用して、カラムから交換される。この方法は、従来の精製方法と比較すると、より特異的である。適切なさらなるタグとしては、Chatterjee、2006年、Cur Opin Biotech 17巻:353~358頁)に提示されているように、c-mycドメイン、ヘマグルチニンタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、FLAGタグペプチド、ビオチンアクセプターペプチド、ストレプトアビジン結合ペプチド及びカルモジュリン結合ペプチドが挙げられる。これらのタグを採用する方法は当技術分野で公知であり、HMGAタンパク質を精製するために使用され得る。
【0038】
前記HMGAタンパク質は、心筋細胞への前記タンパク質の送達を促進するために細胞透過性ペプチドによって提供されてもよい。このために、前記HMGAタンパク質は、オルニチン、リジン又はアルギニンなどの正に荷電したアミノ酸を含む、極性の荷電したアミノ酸と非極性の疎水性アミノ酸との交互パターンを含む配列を含む、又は無極性アミノ酸残基のみを含む、3~50アミノ酸、好ましくは5~20アミノ酸、例えば6~12アミノ酸のペプチドに融合されてもよい。適切なペプチドとしては、ヒト免疫不全ウイルス1 tatの一部、単純ヘルペスウイルス1のテグメントタンパク質VP22、ショウジョウバエ(Drosophila)アンテナペディア、ポリアルギニンペプチド、ポリメチオニンペプチド、ポリグリシンペプチド、環状ポリアルギニン、アミノ酸配列RMRRMRRMRRを有するペプチド、及びそれらの変異体又は組み合わせが含まれる。
【0039】
前記HMGAタンパク質、好ましくは精製HMGAタンパク質は、全身投与又は局所投与によって、好ましくは局所投与によって提供され得る。前記HMGAタンパク質は、心筋への注射又は注入によって、例えばカテーテルを採用することによって提供され得る。前記注射又は注入は、外部ポンプ又は完全に埋め込み可能な装置の使用によって達成されてもよい。前記外部ポンプは、好ましくは、トンネル型若しくは非トンネル型の経皮カテーテルを備えているか、又は皮下注射ポート及び埋め込み型カテーテルを備えている。
【0040】
代替として、前記HMGAタンパク質、好ましくは精製HMGAタンパク質は、構造的心筋欠損を含む領域に血液を供給する冠動脈内に提供される。
【0041】
同様に、前記心筋細胞、特に損傷境界域の心筋細胞の増殖を刺激するために、発現系で産生される、表1に列挙された遺伝子のいずれか1つ、特にENSDARG00000076120(foxp4)、ENSDARG00000033307(igf2)、ENSDARG00000101482(hk2)、ENSDARG00000036096(smad3a)、ENSDARG00000034895(tgfb1)及びENSDARG00000061508(tgfbrap1)、特にENSDARG00000076120(foxp4)及びENSDARG00000101482(hk2)のタンパク質産物は、全身又は局所投与によって心筋細胞に投与されてもよい。前記タンパク質は、細胞透過性ペプチドでタグ付けされてもよく、及び/又は細胞透過性ペプチドが備わっていても良い。
【0042】
4.2.2 HMGAタンパク質の発現
代替として、心筋細胞におけるHMGAの発現は、心筋細胞におけるHMGAの機能的発現のための発現構築物によって提供されてもよい。前記発現構築物は、好ましくは心筋細胞におけるHMGAの機能的発現、好ましくは心筋細胞におけるHMGAの特異的発現を可能にする。前記心筋細胞特異的発現は、例えば、心筋トロポニンT(Tnnt2)プロモーター(Wuら、2010年、Genesis 48巻:63~72頁)、心筋細胞特異的Na(+)-Ca(2+)交換プロモーター(Agostiniら、2013年、Biomed Res Int、2013年:845816頁)又は心臓ミオシン軽鎖2プロモーター(Griscelliら、1997年、C R Acad Sci III 320巻:103~112頁)などの心筋細胞特異的プロモーターの制御下でHMGAを発現させることによって提供され得る。
【0043】
前記発現構築物は、核酸分子として提供されてもよく、又は核酸分子を個体の心筋細胞に送達するためのベクター、特にウイルスベクターによって提供されてもよい。前記ウイルスベクターは、好ましくは、核酸分子の一時的発現を提供する。前記ウイルスベクターは、好ましくは、組換えアデノウイルス系ベクター、アデノウイルス関連ウイルス系ベクター、アルファウイルス系ベクター、単純ヘルペスウイルス系ベクター、又はポックスウイルス系ベクターである。前記ウイルスベクターは、最も好ましくは、アデノウイルス系ベクター又は自己増幅性アルファウイルス系レプリコンベクターである(Ljungberg及びLiljestrom、2015年、Expert Rev Vaccines 14巻:177~194頁)。
【0044】
構造遺伝子及びパッケージング遺伝子を発現するパッケージング細胞のトランスフェクションを含む、ウイルス粒子又はウイルス様粒子中へのウイルスベクターのパッケージングは、当技術分野で公知である。
【0045】
HMGAを心筋細胞に形質導入するウイルスベクターの送達方法には、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、リンパ内、及び節内投与などの非経口経路による投与が含まれる。HMGAを形質導入する前記ウイルスベクターは、好ましくは、例えば心筋内、又は構造的心筋欠損を含む領域に血液を供給する冠動脈内への局所投与によって提供される。
【0046】
前記核酸分子はまた、心筋細胞に送達されると前記HMGAを発現するDNA分子として提供されてもよい。前記DNA分子は、例えば分子の半減期を増加させるために修飾ヌクレオチドを含んでもよい。例えば、前記核酸分子は、プラスミド中に、又は直鎖状DNAとして提供され得る。本発明によるDNA分子の非ウイルス媒介送達には、リポフェクション、マイクロインジェクション、及びDNAの薬剤増強取り込みが含まれる。リポフェクションは、例えば米国特許第5,049,386号、第4,946,787号及び第4,897,355号)に記載されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)、Lipofectin(商標)、及びSAINT(商標))。ポリヌクレオチドの効率的なリポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質には、国際公開第91/17424号及び国際公開第91/16024号のものが含まれる。送達は、細胞への送達(例えば、インビトロ投与又はエクスビボ投与)又は標的組織への送達(例えば、インビボ投与であり得る。前記DNA分子はまた、前記DNA分子の送達を必要とする個体への当該送達の前に、例えば、ビロソーム、リポソーム又はイムノリポソームなどの脂質小胞にパッケージングされてもよい。
【0047】
前記核酸分子はまた、心筋細胞に送達されるとHMGAを発現するRNA分子として提供されてもよい。前記RNA分子は、例えば、T7ポリメラーゼ、T3ポリメラーゼ、SP6ポリメラーゼ、又はそれらの変異体などのDNA依存性RNAポリメラーゼによってインビトロで合成され得る。そのような変異体としては、例えば、カノニカル及び非カノニカルなリボヌクレオチド及びデオキシヌクレオチドの両方を基質として利用することができる変異体T7 RNAポリメラーゼ(Kostyukら、1995年、FEBS Lett.369巻:165~168頁;Padillaら、2002年、Nucl.Acids Res 30巻(24号):e138頁)、又はより高い熱安定性を示すRNAポリメラーゼ変異体、例えばNew England BiolabsからのHi-T7(商標)RNAポリメラーゼ(Boulainら、2013年、Protein Eng Des Sel.26巻(11号):725~734頁)が挙げられ得る。
【0048】
前記RNA分子は、例えば、合成キャップ類似体(Stepinskiら、2001年、RNA 7巻:1486~1495頁)、前記RNA分子を安定化し、及び/若しくはタンパク質翻訳を増加させる5’非翻訳領域(UTR)及び/若しくは3’UTR内の1又は複数の調節エレメント(Ross及びSullivan、1985年、Blood 66巻:1149~1154頁)、並びに/又は安定性及び/若しくは翻訳を増加させる(Karikoら、2008年、Mol Ther 16巻:1833~1840頁)ための、及び/若しくは炎症応答を減少させる(Karikoら、2005年、Immunity 23巻:165~175頁)(2005年)ための修飾ヌクレオシドを包含し得る。さらに、前記RNA分子は、好ましくは、RNA分子を安定化し、及び/又はタンパク質翻訳を増加させるためのポリ(A)テール(Gallie、1991年、Genes Dev 5巻:2108~2116頁)を包含する。
【0049】
前記核酸分子は、担体の存在下又は非存在下で個体に送達され得る。前記担体は、好ましくは、心筋細胞におけるHMGAタンパク質のインビボでの長期発現を可能にする。前記担体は、プロタミン、プロタミンリポソーム、多糖、カチオン、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、コレステロール、ポリエチレングリコール、及びデンドリマーなどのカチオン性タンパク質の1つ又は複数であり得る。例えば、前記RNA分子は、Pardiら、2018年、Nature Reviews 17巻:261~279頁に記載されているように、ネイキッドRNA分子として、プロタミンと複合体化して、正に帯電した水中油型カチオン性ナノエマルジョンと会合して、化学修飾されたデンドリマーと会合して、及びポリエチレングリコール(PEG)脂質と複合体化して、PEG-脂質ナノ粒子中のプロタミンと複合体化して、ポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーと会合して、PEIなどのカチオン性ポリマー及び脂質成分と会合して、又は例えば、1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)脂質などのカチオン性脂質ナノ粒子中、例えばキトサンなどの多糖と会合して、カチオン性脂質及びコレステロールと複合体化して、並びにカチオン性脂質、コレステロール及びPEG-脂質と複合体化さして、送達され得る。
【0050】
核酸を細胞に導入する方法には、リポフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、及びDNAの薬剤増強取り込みが含まれる。リポフェクションは、例えば米国特許第5,049,386号、第4,946,787号及び第4,897,355号)に記載されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)、Lipofectin(商標)、及びSAINT(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質には、国際公開第91/17424号及び国際公開第91/16024号のものが含まれる。標的組織への送達は、好ましくは、心筋細胞を含む領域への全身投与又は好ましくは局所投与によるものである。
【0051】
心筋細胞への送達時にHMGAを発現する前記核酸分子は、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、リンパ内、節内投与を含む非経口経路によって投与され得る。当業者に公知のように、望ましい結果を達成するために、特定の投与様式に適した担体を選択することができる。
【0052】
同様に、前記心筋細胞、特に損傷境界域の心筋細胞の増殖を刺激するために、表1に列挙された遺伝子のいずれか1つ、特にENSDARG00000076120(foxp4)、ENSDARG00000033307(igf2)、ENSDARG00000101482(hk2)、ENSDARG00000036096(smad3a)、ENSDARG00000034895(tgfb1)及びENSDARG00000061508(tgfbrap1)、特にENSDARG00000076120(foxp4)及びENSDARG00000101482(hk2)のタンパク質産物をコードする核酸分子は、心筋細胞において発現するように、全身又は局所投与によって投与され得る。
【0053】
4.2.3 医薬組成物
さらに、HMGAタンパク質を含むか、又は、心筋細胞における高移動度群A(HMGA)タンパク質の機能的発現のための、好ましくはHMGA1、配列番号1の少なくとも21番目~89番目のアミノ酸残基を含むHMGA1の一部分、又は配列全体にわたって配列番号1の21番目~89番目のアミノ酸残基と75%以上同一であるタンパク質の機能的発現のための発現構築物と、薬理学的に許容される添加剤と、を含む医薬組成物が提供される。前記医薬組成物は、好ましくは滅菌等張溶液である。
【0054】
前記医薬的に許容される添加剤は、好ましくは、希釈剤、結合剤又は造粒成分、例えばデンプンのような炭水化物、例えば酢酸デンプン及び/又はマルトデキストリンのようなデンプン誘導体、例えばキシリトール、ソルビトール及び/又はマンニトールのようなポリオール、例えばα-ラクトース一水和物、無水α-ラクトース、無水β-ラクトース、噴霧乾燥ラクトース及び/又は凝集ラクトースのようなラクトース、例えばデキストロース、マルトース、デキストレート及び/又はイヌリンのような糖、流動促進剤(流動助剤)及び潤滑剤、並びにそれらの組み合わせから選択される。
【0055】
HMGAを含む医薬組成物は、好ましくは、タンパク質の安定性、溶解性、及び医薬的許容性を維持するための添加剤を含む。前記添加剤は、好ましくは、尿素、L-ヒスチジン、L-トレオニン、L-アスパラギン、L-セリン、L-グルタミン、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、又は上記の2つ以上の組み合わせから選択されるが、これらに限定されない。塩及び緩衝剤は、濃度の増加及びpH変化の可能性のために、特に凍結溶液及び凍結乾燥固体においてタンパク質安定性をもたらすことが知られている。さらに、様々な糖は、水溶液中及び凍結乾燥中のタンパク質の立体配座を保護することができる。例えば、スクロース及びトレハロースなどの非還元性二糖は、水溶液及び凍結乾燥固体中のタンパク質立体配座を保護するための強力且つ有用な添加剤であるが、マルトース及びラクトースなどの還元性糖は、貯蔵中にタンパク質を分解する可能性がある。前記添加剤は、イノシトールなどの糖アルコールをさらに含んでもよく、及び/又はアルギニンなどのアミノ酸は、脱水ストレスからタンパク質立体配座を保護し得る。さらなる添加剤は、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、及び/又はヒドロキシエチルデンプンなどのポリマーを含み得る。
【0056】
前記発現構築物は、好ましくは、例えば心筋細胞特異的プロモーターの制御下でHMGAを発現させることによって、心筋細胞におけるHMGAの特異的発現を媒介する。
【0057】
前記発現構築物は、DNA若しくはRNA分子などの核酸分子、又はウイルスベクターのいずれかである。前記ウイルスベクターは、好ましくは、心筋細胞における核酸分子の一時的発現を提供する。前記ウイルスベクターは、好ましくは、組換えアデノウイルス系ベクター、アデノウイルス関連ウイルス系ベクター、アルファウイルス系ベクター、単純ヘルペスウイルス系ベクター、又はポックスウイルス系ベクターである。前記ウイルスベクターは、最も好ましくは、アデノウイルス系ベクター、自己増幅性アルファウイルス系レプリコンベクター(Ljungberg及びLiljestrom、2015年、Expert Rev Vaccines 14巻:177~194頁)、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)系ベクターである。
【0058】
代替として、前記発現構築物はmRNAベースの発現構築物である。本明細書で上記に示されるように、前記mRNAベースの発現構築物又はRNA分子は、例えば、合成キャップ類似体(Stepinskiら、2001年、RNA 7巻:1486~1495頁)、前記RNA分子を安定化し、及び/若しくはタンパク質翻訳を増加させる5’非翻訳領域(UTR)及び/若しくは3’UTR内の1又は複数の調節エレメント(Ross及びSullivan、1985年、Blood 66巻:1149~1154頁)、並びに/又は安定性及び/若しくは翻訳を増加させる(Karikoら、2008年、Mol Ther 16巻:1833~1840頁)ための、及び/若しくは炎症応答を減少させる(Karikoら、2005年、Immunity 23巻:165~175頁)ための修飾ヌクレオシドを包含し得る。さらに、前記RNA分子は、好ましくは、RNA分子を安定化し、及び/又はタンパク質翻訳を増加させるためのポリ(A)テール(Gallie、1991年、Genes Dev 5巻:2108~2116頁)を包含する。
【0059】
mRNAベースの発現構築物などの発現構築物としての核酸分子のための添加剤には、脂質、脂質様化合物、及び脂質誘導体、特にカチオン性脂質材料又はイオン化可能な脂質材料、ポリアミン、デンドリマー、及びコポリマーを含むポリマー材料、特にポリエチレンイミン及び/又はポリアミドアミンなどのカチオン性ポリマー、並びにプロタミンなどのペプチドが含まれる。
【0060】
ネイキッドmRNA発現分子などのネイキッド核酸分子を発現構築物として含む医薬組成物は、当業者に公知のように、好ましくはリンゲル溶液及び乳酸リンゲル液などの添加剤を含む。
【0061】
同様に、前記医薬組成物は、表1に列挙された遺伝子のいずれか1つ、特にENSDARG00000076120(foxp4)、ENSDARG00000033307(igf2)、ENSDARG00000101482(hk2)、ENSDARG00000036096(smad3a)、ENSDARG00000034895(tgfb1)及びENSDARG00000061508(tgfbrap1)、特にENSDARG00000076120(foxp4)及びENSDARG00000101482(hk2)のタンパク質産物、又は前記タンパク質産物をコードする核酸分子の発現のための発現構築物を含み得る。
【実施例】
【0062】
実施例1
(材料及び方法)
動物実験
動物に関与する全ての手順は、地元の動物実験委員会によって承認され、国及び欧州の法律に従って動物福祉法、ガイドライン、及び方針に従って実施された。
【0063】
ゼブラフィッシュ系統及びマウス系統
以下のゼブラフィッシュ系統を使用した:TL、TgBAC(nppa:mCitrine)(Honkoopら、2019年、ELife、8巻:1~27頁)、Tg(myl7:CreER)pd10(Kikuchiら、2010年、Nature、464巻:601~605頁)、Tg(myl7:DsRed2-NLS)(Mablyら、2003年、Curr Biol、13巻:2138~2147頁)。hmga1a-/-は、TALENベースの戦略を使用して、転写開始部位に隣接する領域を標的とし、フレームシフト及び初期終止コドンをもたらすように産生された(データは示さず)。tg(ubi:Loxp-stop-Loxp-hmga1a-eGFP)は、pDESTp3Aデスティネーションベクター(Kwanら、2007年、Dev Dyn 236巻:3088~3099頁)及びp5E ubiプロモーター(Mosimannら、2011年、Development 138巻:169~177頁)を使用して、gBlocks及びGibson Assemblyを使用して産生された。以下のマウス系統を使用した:C57BL/6J雄(Charles River)、tg(Nppb:katushka)(Sergeevaら、2014年、Cardiovas Res 101巻:78~86頁)。
【0064】
マウスにおける心筋梗塞
心臓虚血性損傷は、7~12週齢の成体雄マウスを使用して、以前に(Sergeevaら、2014年、Cardiovas Res 101巻:78~86頁)に記載された左前下行枝(LAD)の永久閉塞によって達成された。
【0065】
経胸壁心エコー検査
経胸壁心エコー検査を実施して心機能に取り組んだ。手短に述べると、IP注射によってケタミンとキシラジンの混合物でマウスを麻酔し、胸郭から毛を剃毛した。30MHzトランスデューサ(VisualSonics Inc.、カナダ、トロント)を備えたVisual Sonic Ultrasoundシステムを使用した、鎮静状態の成体マウス(2%イソフルラン)に対する気管チューブ二次元経胸壁心エコー検査。Mmode測定値を記録し、心拍数、壁厚、並びに拡張末期径及び収縮末期径を決定するために、心臓を乳頭筋のレベルで胸骨傍長軸及び短軸視野で撮像した。短縮率(拡張末期径から拡張末期径に対して正規化された収縮末期径を引いたものとして定義される)並びに駆出率(拡張末期容積に対して正規化された一回拍出量として定義される)を心収縮機能の指標として使用した。
【0066】
新生仔ラット心筋細胞におけるHmga1のウイルス媒介過剰発現
1日齢の新生仔ラット心臓の心筋細胞をトリプシン(Thermo Fisher Scientific、#15400054)による酵素解離によって単離し、Gladkaら、2021年(Gladkaら、2021年、Nature Comm 12巻:84頁)に記載されているように培養した。Hmga1の過剰発現を、pHAGE2-EF1a:Hmga1-T2A-GFP構築物のレンチウイルス媒介送達によって達成した。
【0067】
マウスへのウイルス注射
Hmga1発現を誘導するために、本発明者らは、CMを優先的に標的とし、CMV:HA-Hmga1カセットを担持する、AAV9ウイルスを採用した。心筋梗塞に際しては、心臓に、虚血性損傷のリスクのある区域に接する領域に15μlのウイルス(1×10^11ウイルス粒子/マウス)を2回注射した。
【0068】
マウスへの5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)注射
MIの14日後の細胞周期リエントリーを評価するために、成体マウスに2日目から開始して1日2回の腹腔内注射を行った(マウス1匹あたり合計6回のEdU注射となる)。EdU濃度を、各マウスの個々の体重(50μg/g)に基づいて決定した。
【0069】
in situハイブリダイゼーション
パラフィン切片:4% PFAでのo/n固定後、心臓をPBSで2回洗浄し、EtOHで脱水し、パラフィンに包埋した。連続切片を10μmの厚さで作製した。in situハイブリダイゼーションを、使用したハイブリダイゼーション緩衝液がヘパリン及び酵母総RNAを含有しなかったことを除いて、以前に記載されたように(Moormanら、2001年、J Histochem Cytochem 49巻:1~8頁)パラフィン切片上で実施した。凍結切片を先に記載されたように得た。in situハイブリダイゼーションをパラフィンについて実施したが、切片をプロテイナーゼK処置前に4%PFA+0.25%グルタルアルデヒド中で10分間予め固定した。さらに、スライドを染色直後に4%PFA中で1時間固定した。
【0070】
qPCR
総RNAを、TRIzol試薬試薬(Life Technologies、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)を製造者の説明書に従って使用して心室から単離した。総RNA(1μg)を、iScript cDNA Synthesisキット(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を使用して逆転写した。リアルタイムPCRを、iQ SYBRgreenキット及びCFX96リアルタイムPCR検出システム(BioRAD)を使用して実施した。ハウスキーピング遺伝子Gapdh又はHprt及びEefe1eを使用してデータを正規化した。
【0071】
(免疫)組織化学
成体ゼブラフィッシュの心室を単離し、4%PFA(シェーカー上で4℃ O/N)で固定した。翌日、心臓を4%スクロースリン酸緩衝液で3×10分間洗浄し、その後、心臓が浮遊するまで30%スクロースリン酸緩衝液中室温で少なくとも5時間インキュベートした。次いで、それらを低温培地に包埋した(OCT)。心臓の凍結切片化を10ミクロン厚で実施した。使用される一次抗体には、抗PCNA(Dako #M0879、1:800)、抗GFP(Aves Labs #GFP-1010、1:1000)及び抗Mef2c(Santa Cruz #SC313、Biorbyt #orb256682、両方とも1:1000)が含まれる。心臓切片を含むスライドを、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6)中、85℃で15分間加熱することによって、抗原賦活化を実施した。マウスパラフィン切片に対して:4% PFA中でo/n固定した後、心臓をPBS中で2回洗浄し、EtOH及びキシレン中で脱水し、パラフィン中に包埋した。連続切片を6μmで作製した。心臓切片を含むスライドを、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6)中、加圧下、120℃で1時間加熱することによって、抗原賦活化を実施した。使用した一次抗体は、抗HMGA1(Santa Cruz #sc393213)、抗HA(Abcam #ab9111)及び抗PCM(Sigma #HPA023370)であった。EdUを、説明書に従って、Click-iT EdU細胞増殖イメージングキット、Alexa Fluor 647、ThermoFisher、#C10340を用いて可視化した。マウス組織及びゼブラフィッシュ組織の両方について、二次抗体には、1:500の希釈で使用される抗ニワトリAlexa488(Thermofisher、#A21133、1:500)、抗ウサギAlexa555(Thermofisher、#A21127、1:500)、抗マウスCy5(Jackson ImmunoR、#118090、1:500)が含まれる。DAB染色は、DAB基質キット(SK-4100)(Vector Laboratories)を用いて実施した。核をDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)染色によって示した。免疫蛍光染色の画像は、Leica Sp8顕微鏡で取得した単一の光学面である。
【0072】
定量及び統計
全てのデータを二重盲検様式で定量した。特に明記しない限り、統計的検定は対応のないT検定によって実施した。少なくとも3つの心臓の、心臓1つあたり3つの切片の創傷境界から150μm以内に位置する心筋細胞に対して、境界域特異的集団の組織学的定量化を実施した。出生後の発達を通してHmga1発現を比較するqPCRの結果(
図2)を、一元配置ANOVA及びDunnettの多重比較検定を使用して統計的に試験した。異なる時点での標的遺伝子発現を比較するqPCRの結果を、二元配置ANOVAを使用して統計的に試験した。
【0073】
NRG1のゼブラフィッシュ腹腔内注射
ヒト組換えNRG1(Peprotech:組換えヒトヘレグリン-b1、カタログ番号:100-03)の腹腔内注射を、Kinkelら(Kinkelら、2010年、J Vis Exp 42巻:e2126頁)によって記載されるように実施した。MS222(0.032% wt/vol)を使用して魚を鎮静させた。ハミルトンシリンジ(ゲージ30)を使用し、使用前に70%エタノールで洗浄し、引き続いてPBSで2回洗浄して、注射を実施した。注入量を魚の重量(30μl/g)に対して調整し、単回注射には60μg/kgのヒト組換えNRG1(PBS/BSA 0.1%で希釈)を含めた。
【0074】
Tomo配列決定
蛍光立体視鏡下で、損傷したマウス心臓を単離し、長手方向に切開し、katushkaシグナルに基づいて組織を選択した。損傷の一部分、katushkaシグナル及び遠隔心筋の一部分をそれぞれ含む損傷した心臓(n=3)から組織を単離した。Tomo-seqを以前に記載されたように実施し(Junkerら、2014年、Cell 159巻:662~675頁)、これにより組織をJung組織凍結培地(Leica)に包埋し、損傷した区域から遠隔心筋まで20umで切片化し、そのうち切片を5つごとに単一のチューブに回収した。下流処理中の技術的変動を補正するために規定量のスパイクインRNAを添加した後、Trizol(Ambion)を使用して各チューブからRNAを抽出した。RNA-seqを、チューブ特異的バーコードを含有するプライマーを使用した逆転写を含め、以前に記載されたように(Junkerら、2014年、Cell 159巻:662~675頁)実施した。後でバーコードを使用して標識転写物の位置的起源を決定することができるので、cDNAのバーコード化により材料のプールを可能にした。cDNAのプール後、線形増幅及び配列決定を行った。
【0075】
単一細胞RNA配列決定
高いmCitrine発現を示すTg(nppa:mCitrine)陽性細胞を、損傷した(cyoinjured)ゼブラフィッシュ心臓から単離した(損傷7日後)。12個のhmga1a-/-変異心臓から、768個の細胞を単離した。12個のhmga1a+/+野生型心臓から、768個の細胞を単離した。SORT-seq(Muraroら、2016年、Cell Systems 3巻:385~394頁)を使用して単一細胞配列決定ライブラリーを調製した。生細胞を、バーコード化プライマー、スパイクインRNA及びdNTPを含む液滴を含有するベーパーロック油(Vapor-Lock oil)を含む384ウェルプレートに選別し、続いてロボット液体ハンドラーを使用して熱誘導細胞溶解及びcDNA合成を行った。プライマーは、24bpポリTストレッチ、4bpランダム分子バーコード(UMI)、細胞特異的8bpバーコード、5’Illumina TruSeq低分子RNAキットアダプター及びT7プロモーターからなるものであった。65℃で5分間の細胞溶解後、RT及び第2の鎖混合物をNanodrop II液体処理プラットフォーム(Innovadyne)で分配した。1つのライブラリーに全ての細胞をプールした後、水相を油相から分離し、続いてIVT転写を行った。CEL-Seq2プロトコルをライブラリー調製に使用した(Hashimshonyら、2016年、Genome Biol 17巻:1~7頁)。Illumina配列決定ライブラリーを、TruSeq低分子RNAプライマー(Illumina)を用いて調製し、Illumina NextSeqプラットフォームで75bpのリード長でペアエンド配列決定した。
【0076】
ATAC配列決定及びRNA配列決定
タモキシフェン処置の14日後に全ゼブラフィッシュ心臓に対して核単離を実施した。魚に、hmga1a-eGFPの心筋細胞特異的過剰発現を可能にする3つの導入遺伝子、tg(ubi:Loxp-stop-Loxp-hmga1a-eGFP)、Tg(myl7:DsRed2-NLS);Tg(myl7:CreER)pd10を含ませるか、又は2つの導入遺伝子(Tg(myl7:DsRed2-NLS);Tg(myl7:CreER)pd10)のみを含有する対照魚を形成した。両方ともそれぞれ20個の心臓に由来する、合計50,000個のDsRed陽性対照核及び45,000個のDsRed/GFP+hmga1a核を選別した。DNAを単離し、Buenrostroら、2013年(Buenrostroら、2013年、Nat Methods 10巻:1213~1218頁)に以前に記載されたように、トランスポザーゼTDE1(NexteraキットからのNextera Tn5トランスポザーゼ;Illumina、カタログ番号FC-121-1030)で処置した。Illumina配列決定ライブラリーを作製し、NextSeqプラットフォームを用いて配列決定した。タモキシフェン処置の14日後に全ゼブラフィッシュ心室に対してバルクRNA配列決定を実施した。魚に、hmga1a-eGFPの心筋細胞特異的過剰発現を可能にする2つの導入遺伝子、tg(ubi:Loxp-stop-Loxp-hmga1a-eGFP);Tg(myl7:CreER)pd10を含ませるか、又は1つの導入遺伝子(Tg(myl7:CreER)pd10)のみを含有する対照魚を形成した。Trizol(Ambion)を用いてRNAを単離した。ライブラリーの調製を、(Junkerら、2014年、Cell 159巻:662~675頁)に記載されるCEL-Seq1プロトコルに従って実施した。ここでも、Illumina配列決定ライブラリーを生成し、NextSeqプラットフォームを用いて配列決定した。
【0077】
生物情報学的分析:Tomo配列決定データ
マッピングを、ゼブラフィッシュ参照アセンブリバージョン9(Zv9)及びマウス参照アセンブリバージョン9(mm9)に対して実施した。全ての遺伝子のZスコア(平均を上回る標準偏差の数)のlog2変換された倍数変化(zlfc)に基づいて、Tomo配列決定分析を行った。バイオインフォマティクス分析の大部分は、カスタムコード(R Core Team、2013年)を使用してRソフトウェアで実施した。全データセット(Zスコア変換後)に対する階層的クラスタ分析を、4未満の連続切片(Zスコア>1)にピークを有する全ての遺伝子に対して実施した。マーカー遺伝子発現(BZマーカーNppa、Nppb、Des)と共に、階層的クラスタリング分析に基づいて、本発明者らは、本発明者らのデータセット内の損傷区域(IA)、境界域(BZ)及び遠隔心筋(RM)の位置を定義した。ゼブラフィッシュの境界域とマウスの境界域とを転写的に比較する(transcriptionally compare)ために、本発明者らは最初に、異なる時点からの全ての損傷区域、境界域及び遠隔領域を種ごとに1つの種固有のデータセットにプールし、ゼブラフィッシュのデータセットで14(IA)、43(BZ)及び43(RM)の切片、並びにマウスのデータセットで14(IA)、65(BZ)及び54(RM)の切片を得た。RパッケージedgeR(Robinsonら、2009年、Bioinformatics 26巻:139~140頁)を使用して、これらの組み合わせリストに対して遺伝子オントロジー分析を実施した。これらの遺伝子リストを、オンラインツールDAVID(Huangら、2009年、Nature Protocols、4巻:44~57頁)を使用してGO分析に供した。ゼブラフィッシュの境界域とマウスの境界域との間の転写比較を、Ensembl(v89)で注釈を付けた注釈付き遺伝子対を散布図でプロットすることによって実施した。注釈付きホモログを有しない遺伝子を分析から除外した。複数の注釈付きホモログを有する遺伝子を、別々の遺伝子対としてプロットした。次に、以下の閾値を使用して遺伝子対を選択した。マウスBZ及びゼブラフィッシュBZの両方で上方制御:ゼブラフィッシュ logFC>0.5、P値<0.05;マウス:logFC>0.5、P値<0.05。マウスBZ及びゼブラフィッシュBZの両方で下方制御:ゼブラフィッシュ:logFC<-0.5、P値<0.05;マウス:logFC<-0.5、P値<0.05。ゼブラフィッシュBZで上方制御されたがマウスBZではそうではない:ゼブラフィッシュ:logFC>0.5、P値<0.05;マウス:logFC<0。マウスBZで上方制御されたがゼブラフィッシュBZではそうではない:ゼブラフィッシュlogFC<0;マウス:logFC>0.5、P値<0.05。さらに、ゼブラフィッシュ及びマウス特異的遺伝子対を決定した後、パラロガス遺伝子間の冗長な機能を考慮して、少なくとも1つのパラロガス遺伝子が選択閾値外の発現を示した遺伝子対を除去した。これらの遺伝子対を、オンラインツールDAVID(Huangら、2009年、Nature Protocols、4巻:44~57頁)においてそれらのマウス名を使用してGO分析に供した。
【0078】
生物情報学的分析:単一細胞RNA配列決定データ
ウェルあたり1つの細胞を含有する、合計で8つの384ウェルプレートを配列決定した。遺伝子型(hmga1a-/-又は野生型)ごとに4つのプレートを得た。野生型含有プレートのうちの1つの配列決定が失敗したので、データは得られなかった。マッピングは、ゼブラフィッシュ参照アセンブリバージョン9(Zv9)に対して実施した。頻度に対してプロットされたlog10総リードの分布に基づいて、本発明者らは、さらなる分析の前に細胞あたり最低600リードでカットオフを導入し、分析する細胞の量を野生型細胞653個及びhmga1a-/-細胞658個(合計1311個の細胞)に減少させた。バッチ効果を分析したところ、特定のクラスタのプレート特異的クラスタリングは示されなかった。次に、単一細胞RNA配列決定データを、以前に公開されたRaceIDアルゴリズム(Grunら、2015年、Nature 525巻:251~255頁)の更新版(RaceID2)を使用して分析し、転写的に異なる特徴(transcriptionally distinct characteristics)を有する6つの主要な細胞クラスタの特徴解析結果を得た。以前に公開されたように(Grunら、2016年、Cell Stem Cell 19巻:266~277頁)StemIDによって識別されるクラスタ間の一連の有意なリンクとして定義される特定の分化軌跡に沿って共発現遺伝子のモジュールを同定するために、これらのリンクに割り当てられた全ての細胞を、それらの投影座標(projection coordinate)に基づいて擬似時間的順序で組み立てた。次に、少なくとも1つの細胞に少なくとも2つの転写物が存在しない全ての遺伝子を、その後の分析から破棄する。次に、各遺伝子のz変換された発現プロファイルの局所回帰を分化軌跡に沿って計算する。これらの擬似時間的遺伝子発現プロファイルを、1000個のノードを有する一次元自己組織化マップ(SOM)を計算することによって位相的に順序付ける。クラスタ化されたプロファイルの数に対してノードの数が多いため、同様のプロファイルが同じノードに割り当てられる。共発現遺伝子モジュールの可視化のために、3つを超える割り当てられたプロファイルを有するノードのみが保持される。ピアソンの相関係数>0.9を示す平均プロファイルを有する隣接ノードを、共通の遺伝子発現モジュールにマージする。これらのモジュールは、最終擬似時間マップに示されている。分析を、以前に公開されているように実施した(Grunら、2016年、Cell Stem Cell 19巻:266~277頁)。
【0079】
生物情報学的分析:ATAC配列決定データ及びRNA配列決定データ
ATAC-seqデータ及びRNA-seqデータの両方を、ゼブラフィッシュ参照アセンブリバージョン10(DanRer10)に対してマッピングした。ATAC配列決定データをGalaxyウェブプラットフォームにアップロードし、本発明者らはusegalaxy.orgの公開サーバを使用してデータを分析した(Aughanら、2016年、Nucleic Acids Res 44巻:W3~W10頁)。Bowtie2(Langmead及びSalzberg、2012年、Nature Methods 9巻:357~959頁)を用いて、ATAC配列決定データのマッピングを行った。有意領域をコールするために0.05(最小FDR)カットオフの最小q値を使用して、MACS2ピークコーリングを使用してピークをコールした。Q値は、Benjamini-Hochberg手順(--q値)を用いてp値から計算した。接近可能な領域のゲノム分布を、Ensembl BioMart,DanRer10ビルドの注釈を使用して定義した。プロモーター接近可能性分析のために、ATAC-seqシグナルを、1500bp上流及び500bpのカノニカルTSSとして定義されるプロモータービンに分配した(BioMart、DanRer10ビルド)。モチーフ濃縮分析を、ウェブベースのMEME suite tool Analysis of Motif Enrichment(AME v5.3.0)(Baileyら、2009年、Nucleic Acids Res、43巻:W39~W49頁;McLeay&Bailey、2010年、BMC Bioinformatics.11巻:165頁)を使用して実施した。差次的に発現した遺伝子を、RパッケージedgeR(Robinsonら、2009年、Bioinformatics 26巻:139~140頁)を使用してRNA配列決定データから得た。これらの遺伝子リストを、オンラインツールDAVID(Huangら、2009年、Nature Protocols、4巻:44~57頁)を使用してGO分析に供した。
【0080】
(結果)
転写境界域プロファイルの比較により、種特異的遺伝子発現が明らかとなる
本発明者らは、以前に、空間分解トランスクリプトミクス(spatially resolved transcriptomics)(TOMO-seq)を使用して、損傷の3、7、及び14日後(dpi)のゼブラフィッシュBZにおける遺伝子発現を決定した(Junkerら、2014年、Cell 159巻:662~675頁;Wuら、2015年、Develop Cell 36巻:36~49頁)。ゼブラフィッシュBZとマウスBZとの比較を可能にするために、本発明者らは、損傷したマウス心臓に対して同様のTOMO-seq実験を実施した。マウスを、左冠動脈前下行枝の永久閉塞による心筋梗塞(myocardial infarction:MI)に供した。BAC-Nppb-KatushkaマウスにおけるNppb/Katushkaの空間パターンにより、BZの位置特定が可能となり(Sergeevaら、2014年)、周囲の損傷区域及び遠隔心筋(remote myocardium)を伴うBZをMIの3、7及び14日後に単離した(
図1A)。次に、単離した組織を損傷区域から遠隔区域まで凍結切片化し、各切片をRNA配列決定(RNA-seq)に供した。切片の各ペアワイズ組み合わせに対する全ての遺伝子にわたるピアソンの相関分析により、発現が異なる区域にある遺伝子のクラスタが明らかになった。これらの遺伝子クラスタ並びにマーカー遺伝子発現に基づいて、本発明者らは、TOMO-seqデータセット(Lacrazら、2017年、Circulation 136巻:1396~1409頁;van Duijvenbodenら、2019年、Circulation 140巻:864~879頁)内の損傷区域(クラスタ1、Rhoc、Fstl1、Tmsb4x)、境界域(クラスタ2、Nppa、Des、Ankrd1)及び遠隔心筋(クラスタ3、Tnnt2、Tnni3、Ech1)の位置を同定し、これをin situハイブリダイゼーションによって検証した(データは示さず)。
【0081】
次に、本発明者らは、EdgeRアルゴリズムを使用して、損傷区域及び遠隔区域と比較してマウスBZにおいて差次的に発現した全ての遺伝子を同定した(データは示さず)。損傷したゼブラフィッシュ心臓の以前に生成されたTOMO配列決定データセットに対して同様の分析を実施した(データは示さず。
図1B参照)(Wuら、2015年、Develop Cell 36巻:36~49頁)。異なる時点(3、7及び14dpi)からのマウスBZ及びゼブラフィッシュBZにおける差次的に発現した遺伝子をプールして、両種間の時間差を軽減した。マウス遺伝子及びゼブラフィッシュ遺伝子の発現を比較するために、本発明者らは、最初に、マウスゲノム及びゼブラフィッシュゲノムにおいて注釈付きホモログを有する全ての差次的に発現したBZ遺伝子を同定し、11779のホモログ遺伝子対を得た。次に、本発明者らは、これらの全ての遺伝子対についてそれらのLog倍数変化(LogFC)(BZ対組織の残りの部分)を散布図にプロットし(
図1C参照)、P値が0.05未満且つLogFCが0.5を超える全ての遺伝子を選択した。これにより、両種のBZにおいて発現が増強された331個の遺伝子対及び両種のBZにおいて発現が減少した326個の遺伝子対が明らかになった。遺伝子オントロジー分析により、前記331個の上方制御された遺伝子においてはカルシウム結合及びアポトーシスの調節という細胞外マトリックスにおける機能を有する遺伝子が豊富であり、一方前記326個の下方制御された遺伝子対は酸化的リン酸化及び好気性呼吸などのミトコンドリアにおける機能を有することが明らかになった(データは示さず)。まとめると、これらの結果は、ゼブラフィッシュBZ細胞及びマウスBZ細胞の両方がそれらの酸素依存性代謝の下方制御を通じて損傷に応答していることを示し、以前の研究と一致しており、ゼブラフィッシュBZ CM及びマウスBZ CMの両方が酸化的リン酸化における役割で遺伝子を下方制御することを示している(Honkoopら、2019年、ELife、8巻:1~27頁;van Duijvenbodenら、2019年、Circulation 140巻:864~879頁;Wuら、2015年、Develop Cell 36巻:36~49頁)。
【0082】
ゼブラフィッシュ境界域とマウス境界域との間で観察された差異(データは示さず)は、損傷した哺乳動物の心臓の限られた再生能力に光を当て得るものであるためより興味深い。本発明者らは、マウスBZでは上方制御されるが、ゼブラフィッシュBZでは上方制御されない366の遺伝子対を同定した。これらの遺伝子対は、創傷治癒、細胞外マトリックスの構成及びTGFbシグナル伝達における機能を有し、これらは共に、ゼブラフィッシュBZとマウスBZとの間の線維化促進応答における大きな違いを示唆している(Ikeuchiら、2004年、Cardiovascular Res 64巻:526~535頁;Okadaら、2005年、Circulation 111巻:2430~2437頁;Chablais&Jazwinska,2012年、Development 139巻:1921~1930頁)。逆も同様に、本発明者らは、ゼブラフィッシュBZでは上方制御されるがマウスBZでは上方制御されない371個の遺伝子対を同定した(表1参照)。これらの遺伝子のいくつかについて、本発明者らは、in situハイブリダイゼーションを通してゼブラフィッシュにおいてBZが豊富に発現していること(BZ-enriched expression)を確認し、定量的PCR分析を使用して、マウスBZにおけるBZ富化(BZ enrichment)の欠如を確認した(
図2B、及びデータは示さず)。ゼブラフィッシュBZに特異的な371個の遺伝子対は、収縮装置のリモデリングに関連し得るアクチンフィラメント結合及びミオシン複合体などのプロセスにおける機能を有する。さらに、インスリン刺激に対する応答などの遺伝子オントロジーは、ゼブラフィッシュ心臓再生中のCM増殖の調節におけるインスリンシグナル伝達及び代謝再プログラミングの重要な役割と一致している(Fukudaら、2020年、EMBO Rep 21巻:e49752頁;Honkoopら、2019年、ELife、8巻:1~27頁;Y.Huangら、2013年、PloS One、8巻:e67266頁)。
【0083】
要約すると、本発明者らは、TOMO-seqを使用して損傷した成体マウス心臓のBZのトランスクリプトームを解明し、これを再生中のゼブラフィッシュ心臓のBZと比較した。BZトランスクリプトームの比較により、ミトコンドリア酸化的リン酸化の減少などが共有されているプロセスであり、マウスBZにおける線維化応答の変化やゼブラフィッシュBZにおけるインスリンシグナル伝達などが種特異的なプロセスであることが明らかになった。まとめると、これらの結果は、心臓再生を促進するプロセス及び経路の同定につながり得る。
【0084】
Hmga1aはゼブラフィッシュ心臓再生に必要である
本発明者らは、ゼブラフィッシュ特異的BZ遺伝子のリストからhmga1aを選択したが、これはhmga1aがクロマチンに結合してクロマチンを弛緩させて細胞多能性及び自己再生を誘導及び維持する構造タンパク質をコードし(Battistaら、2003年、FASEB J 17巻:1~27頁;Kishiら、2012年、Nature Neuroscience、15巻:1127~1133頁;Shahら、2012年、PLoS ONE 7巻:e48533頁、Xianら、2017年、Nature Comm、8巻:15008頁)、心臓再生の調節における初期の役割を示唆しているためである。TOMO-seqの結果を確認するために、本発明者らは、in situハイブリダイゼーションによって、損傷したゼブラフィッシュ及びマウス心臓におけるhmga1a/Hmga1発現の空間的及び時間的な動態を特定した。損傷を受けていないゼブラフィッシュ心臓及び1dpiのゼブラフィッシュ心臓の両方において、hmga1a発現は検出不能であった(データは示さず)。3dpiでは、hmga1a発現は弱いが、BZでは一貫しており、BZ CMでは7dpiでさらに増加し、堅牢なhmga1a発現があった。対照的に、ゼブラフィッシュパラログhmga1bは、BZ CMにおいて発現を示さなかった(データは示さず)。さらに、Hmga1発現は、損傷した成体マウス心臓のBZではほぼ検出不能であり(データは示さず)、これはqPCRによって確認された(データは示さず)。次に、本発明者らは、Hmga1発現が再生中の新生仔マウス心臓の再生窓と相関するかどうかを考えた。実際、本発明者らは、損傷を受けていない新生仔P1心臓全体でモザイクHmga1発現を観察した(データは示さず)。重要なことに、qPCR分析により、Hmga1発現レベルは生後1週間で急速に低下し、マウス心臓の再生能力の喪失と一致することが実証された(
図2)(Porrelloら、2011年、Science、331巻:1078~1080頁)。これらの結果から、本発明者らは、ゼブラフィッシュhmga1a及びマウスHmga1の時間的及び空間的に制限された発現が、再生プロセスにおけるHmga1の潜在的役割とよく相関すると結論付ける。
【0085】
Hmga1がゼブラフィッシュ心臓再生に必須であるかどうかを調査するために、本発明者らは、TALENベースの戦略を用いてhmga1aの第1エクソンの開始を標的とすることによって機能喪失変異体系統を作製した。開始コドンの直後に生じる8bp欠失は、フレームシフト及び成熟前終止コドンの導入を引き起こし、短縮Hmga1aタンパク質をもたらす(101aaの代わりに7aa、
図3A、B)。ホモ接合hmga1a変異胚は正常に発達し、心臓再生中のHmga1の潜在的役割を研究するために成体期まで成長させることができた。重要なことに、hmga1aの発現は、野生型兄弟(wild-type siblings)と比較して、hmga1a-/-魚の損傷した心臓では強く低下し(
図3C)、これはおそらくナンセンス媒介mRNA崩壊に起因し、Hmga1a機能の喪失と一致する。hmga1a-/-心臓ではhmga1bの上方制御は観察されず、hmga1bがhmga1aの喪失を補償していないことを示唆した(
図3D)。
【0086】
次に、本発明者らは、凍結損傷の30日後に、損傷した心臓においてAFOGにより線維化を可視化することによって、hmga1a-/-魚が心臓再生不全を有するかどうかを評価した。実際、hmga1a-/-心臓では、その兄弟と比較して30dpiでの瘢痕サイズが有意に増加し、再生障害を示し(
図4A、B)、hmga1aがゼブラフィッシュ心臓再生に必要であることを示している。
【0087】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0088】
Hmga1aは心筋細胞増殖に必要である
心臓再生中のhmga1aの機能についての洞察を得るために、本発明者らは、BZ CMにおいてhmga1aに依存してどのプロセスが起こるかを特定することを目的とした。これを達成するために、本発明者らは、hmga1a-/-変異体を、BZ CMを示す以前に公開されたnppa:mCitrineレポーター系統(Honkoopら、2019年、ELife、8巻:1~27頁)と交雑させた。これにより、FACsortingを使用して、7dpiのhmga1a-/-心臓及び兄弟心臓のBZ CM(高mCitrine)を選別することができた。次に、本発明者らは、SORT-seq(SOrting and Robot-assisted Transcriptome SEQuencing)プラットフォームを使用して単離細胞を単一細胞RNA配列決定にかけた(
図4C)(Muraroら、2016年、Cell Systems 3巻:385~394頁)。本発明者らはRace-ID3アルゴリズムを使用して、細胞あたり600を超えるリードを有する1311個の細胞を分析し、その結果、それらのトランスクリプトームの特徴に基づいてグループ化された6つの細胞クラスタを同定した。分析された全ての細胞は、心筋細胞マーカーmyl7のリードを含んでおり、本発明者らがCMを特異的に選別したことを立証している。さらに、クラスタ5を除く全てのクラスタは、BZマーカーnppa及びdesmaの発現を示し、これらの細胞がBZ CMを表すことを示している。クラスタ5細胞は代わりに、NC_002333.17などの高レベルのミトコンドリアmRNAを発現し、これは起源がより遠いことを示唆している(データは示さず)。
【0089】
hmga1a-/-細胞がt-SNEマップにおいてどこに表されるかを調査するために、本発明者らは遺伝子型特異的寄与をプロットした。クラスタあたりの遺伝子型寄与の定量化(
図4D)は、hmga1a-/-細胞については大部分のクラスタがわずかに富化されているが、クラスタ1及び6はほぼ排他的に野生型CMによって形成されることを示す。本発明者らは、クラスタ6富化遺伝子fth1a、uba52及びgamtについてin situハイブリダイゼーションによってこれを検証し(データは示さず)、実際に、hmga1a-/-心臓のBZ CMにおいてこれらの遺伝子の発現の減少を観察した。細胞クラスタ間の転写の差に取り組むために、本発明者らは、クラスタ富化遺伝子について遺伝子オントロジー分析を実施した。重要なことに、クラスタ1及び6に特異的な遺伝子においては、細胞周期調節における役割を有する遺伝子が豊富であり、hmga1a-/-心臓においてCM増殖が影響を受けることを示唆している。
【0090】
Hmga1aによって調節されるプロセスについての洞察を得るために、本発明者らは、単一細胞の教師なし擬似時間順序付け(unsupervised pseudo-time ordering)を実施した。次に、遺伝子発現プロファイルを、同様に発現した遺伝子の自己組織化モジュール(SOM)に不偏に(unbiasedly)一緒にグループ化し、8つの転写的に異なるモジュール(transcriptionally distinct modules)を得た(データは示さず;
図4E参照)。モジュール1は、擬似タイムラインの開始時に高発現する、呼吸鎖における役割を有する遺伝子を表し、これが最も分化したCM状態を表すことを示す。重要なことに、モジュール5は、hmga1aと、細胞周期制御における役割を有する遺伝子(例えばpcna及びcdc14)とを含有し、これはHmga1aとCM増殖との間の密接な相関と一致する。次に、本発明者らは、hmga1a-/-細胞が擬似タイムラインにわたってどのように分布しているのかを考えた。この目的のために、本発明者らは、擬似時間を構成する100個のビンにわたる相対遺伝子型寄与をプロットした。興味深いことに、擬似時間が進むにつれて、hmga1a-/-細胞の寄与が徐々に失われる傾向が観察される。驚くべきことに、モジュール5の後、擬似タイムラインに寄与するhmga1a-/-細胞の数は、約50%(モジュール5の間)から約28%(モジュール6~8)に低下する。変異体細胞寄与の低下に直接先行して、変異細胞寄与のピークがモジュール5の端部で観察される(データは示さず)。これらのデータは、hmga1a-/-BZ CMは擬似時間では進行(progress)せず、代わりに初期段階で停止することを示唆している。実際、hk1(モジュール6マーカー)及びak1(モジュール7マーカー)のin situハイブリダイゼーションにより、7dpiでのhmga1a-/-心臓における発現の低下が明らかになった(
図4G;データは示さず)。hmga1aと細胞周期調節因子との共発現、及びhmga1a-/-心臓における律速解糖酵素ヘキソキナーゼをコードするhk1の発現低下は、Hmga1aが細胞周期の誘導及び/又は進行に特に必要であることをさらに示唆した。
【0091】
モジュール7及び8は、酸化代謝の翻訳及び再使用に関与する遺伝子から主になっていた。翻訳及び酸化的リン酸化の速度の増加は、有糸分裂に向かう細胞周期進行と相関している。hmga1a変異体におけるこれらの様々な遺伝子の誘導障害は、観察されたCM増殖の減少を十分に説明し得る。損傷したhmga1a変異体心臓において翻訳が影響を受けるかどうかを検証するために、本発明者らは最初に、翻訳の読み出しとして境界域CMにおけるリン酸化S6(pS6、Ser253/263)のレベルを評価した(
図4I)。リボソームS6タンパク質は40Sリボソームサブユニットの一部であり、そのSer235/Ser236残基でのリン酸化が翻訳開始速度を向上させる。境界域ではpS6の増加が観察されたが、心筋細胞に限定されていなかった。そのため、本発明者らは、心筋の寄与のみをサブセット化するために、トロポミオシン対比染色を使用してマスキングを実施した。本発明者らは、心筋pS6の区域及び強度の両方が変異体の境界域で有意に減少したことを観察し(
図4H)、これは翻訳速度がhmga1a変異体心臓の境界域CMで影響を受けることを示唆する。まとめると、これらの結果は、Hmga1aが、細胞周期リエントリー、解糖への代謝シフト及びタンパク質翻訳を活性化するために重要であることを示している。
【0092】
これを検証するために、本発明者らは、PCNAを用いた免疫組織化学によってBZ CM増殖を評価し、実際に、hmga1a-/-心臓においてはそれらの兄弟と比較してPCNA+CMが有意に減少していることを観察した(
図5A)。まとめると、これらのデータは、hmga1aがBZにおけるCM増殖を促進するが、損傷に対するBZ CMの早期応答には必須ではないことを示している。
【0093】
Hmga1aはNrg1シグナル伝達の下流で作用する
Nrg1増殖因子は、心臓損傷に応答して心外膜由来細胞によって産生及び分泌され、CM増殖を誘導する(Gemberlingら、2015年、ELife 4巻:1~17頁)。本発明者らによってBZ CM増殖がHmga1aを必要とすることが観察されたので、本発明者らは、Nrg1がhmga1a発現を誘導するかどうか、及びHmga1aがNrg1誘導CM増殖にも必要であるかどうかに取り組んだ。そのため、本発明者らは、魚にヒト組換えNRG1を1日1回、3日間連続して腹腔内注射した。遺伝的nrg1過剰発現モデルについて報告された(Gemberlingら、2015年、ELife、4巻:1~17頁)ものと同様に、心筋細胞増殖の増加がNRG1注射時に観察され、これは心臓の最も外側の心筋層で最も顕著であった(データは示さず)。さらに、異所NRG1(ectopic NRG1)は、最も外側の心筋層を含む心臓全体にわたってhmga1a発現を誘導した(データは示さず)。NRG1誘導CM増殖がhmga1aに依存するかどうかを調査するために、本発明者らは、hmga1a-/-魚にNRG1を注射した。重要なことに、NRG1は野生型兄弟においてCM増殖を誘導したが、異所NRG1はhmga1a-/-心臓においてCM増殖を誘導することができなかった(
図5B)。まとめると、これらの結果は、hmga1がNrg1シグナル伝達の下流で作用してCM増殖を誘導することを示している。Hmga1aは、クロマチン接近可能性を変化させ、損傷関連遺伝子プログラムを誘導する。Hmga1は、ATリッチドメインに優先的に結合する構造クロマチンタンパク質であり、インビトロ実験によって、Hmga1がヒストンH1とDNA結合について競合することが実証されている(Catezら、2004年、Mol Cell Biol、24巻:4321~4328頁)。クロマチン結合すると、Hmga1は、クロマチンリモデリング複合体及び転写因子の結合を促進して、遺伝子転写を誘導する(Catezら、2004年、Mol Cell Biol、24巻:4321~4328頁;Ozturkら、2014年、Front Cell Develop Biol 2巻:5頁;Reeves、2001年、Gene 277巻:63~81頁)。ゼブラフィッシュCMにおけるhmga1a過剰発現がクロマチン接近可能性及び遺伝子発現の変化をもたらすかどうかを明らかにするために、本発明者らは、Tg(ubi:Loxp-stop-Loxp-hmga1a-eGFP)系統を作製し、これは、タモキシフェン処置と組み合わせてTg(myl7:CreERT2)と交雑した場合、Hmga1a-eGFPのCM特異的過剰発現をもたらす。本発明者らは、組換え14日後のhmga1a過剰発現心臓及びCreのみの対照心臓から核を単離し、CM核レポーター系統Tg(myl7:DsRed-nls)を使用してCM核をFAC選別(FACsort)した。次に、CM核を、配列決定を使用したトランスポザーゼ接近可能クロマチンについてのアッセイ(assay for transposase-accessible chromatin using sequencing)(ATAC-seq)(Buenrostroら、2013年、Nat Methods 10巻:1213~1218頁)に供し、ゼブラフィッシュゲノム(GRCz10)にマッピングされた311,968,790個の配列決定リードを得た。ゲノム領域を、Bowtie2を使用してマッピングし、接近可能な領域を、MACS2ピークコーリングを使用して同定した。全体で、本発明者らは、hmga1a過剰発現データセットにおける35,014個の接近可能な領域及び対照データセットにおける37,718個の接近可能な領域を同定した(q値>0.05、Benjamini-Hochberg手順を用いて計算;Benjamini及びHochberg、1995年、J R Stat Soc B 57巻:289~300頁)。接近可能な領域の大部分は、遺伝子間領域及び遺伝子内領域にあるが、より小さい画分がプロモーター領域に見出された(データは示さず)。これらの接近可能なプロモーター領域の大部分(n=1,308)は、対照データセットとhmga1a過剰発現データセットとの間で共有される(データは示さず)。本発明者らは、hmga1a過剰発現時に出現している接近可能なクロマチン領域12,906個と消失している接近可能なクロマチン領域15,855個とを同定したが、22,430個のクロマチン領域は安定して接近可能なままであった。これらの結果は、クロマチン接近可能性を変化させることにおけるHmga1aの役割を支持するので、本発明者らは次に、これらの領域がこれらの領域に結合し得る特異的転写因子と相関するかどうかを知りたいと考えた。そのため、本発明者らは、ウェブベースのMEME suite tool Analysis of Motif Enrichment(AME v 5.3.0)(Baileyら、2009年、Nucleic Acids Res、43巻:W39~W49頁;McLeay&Bailey、2010年、BMC Bioinformatics.11巻:165頁)を使用して、出現するピーク及び消失するピーク内で富化されている転写因子の結合モチーフを同定した。驚くべきことに、出現するピーク及び消失するピークの両方が、転写因子NF-YA、FOXK1及びFOXK2の結合モチーフにおいて強い富化を示し、Hmga1a過剰発現がそれらのそれぞれの結合部位を調節することを示した(データは示さず)。
【0094】
プロモーターの接近可能性と転写との間の相関を調査するために、本発明者らはまた、hmga1a過剰発現心臓及び対照心臓に対してRNA-seqを実施し、これらのデータをATAC-seqデータと統合した。本発明者らは、接近可能なプロモーター領域を有する遺伝子について有意により高いRNA発現が観察されたので(データは示さず)、プロモーター接近可能性及び転写が対照データセット及びhmga1a過剰発現データセットの両方において十分に相関することを見出した。hmga1a過剰発現心臓では、1,647個の遺伝子が上方制御され(p値<0.05、LogFC>0.5)、これはDNA複製における役割を有する遺伝子を含み、細胞増殖におけるHmga1aの役割を裏付けている。驚くべきことに、ナトリウム利尿ペプチド遺伝子もhmga1a過剰発現によって誘導される。これは、分析に使用された心臓が損傷を受けていなかったが、損傷応答プログラムが誘導されたことを示すので、驚くべきことである。これは、ミトコンドリア酸化的リン酸化における機能を有する多くの遺伝子の下方制御と一致している。これらの適応は、損傷後にゼブラフィッシュBZで起こるプロセスを非常によく連想させるので、本発明者らは、hmga1a過剰発現トランスクリプトームをBZトランスクリプトームと比較した。驚くべきことに、本発明者らは、hmga1a誘導遺伝子及び損傷BZにおいて上方制御された遺伝子(11.5%の重複、p=6.6e-5)、並びにhmga1a抑制遺伝子及び損傷BZにおいて下方制御された遺伝子(18,2%の重複、p=4.0e-11)について、有意な重複を観察した(Baileyら、2009年、Nucleic Acids Res、43巻:W39~W49頁;McLeay&Bailey、2010年、BMC Bioinformatics.11巻:165頁)。要約すると、これらの結果は、CMにおけるhmga1a発現が、クロマチン接近可能性における大きな変化、及びその後の、ゼブラフィッシュBZにおいて見出される損傷誘導遺伝子発現プログラムと相関する遺伝子発現プログラムの調節をもたらすことを実証している。
【0095】
Hmga1a過剰発現は、ゼブラフィッシュ心筋細胞における増殖を駆動するのに十分である
hmga1a過剰発現は損傷関連遺伝子発現プログラムを誘導するので、本発明者らは、心臓の形態に対するhmga1a過剰発現の効果を調査したいと考えた。最初に、本発明者らは、hmga1aの過剰発現がゼブラフィッシュCMにおいて増殖を駆動するのに十分であるかどうかに取り組んだ。hmga1a過剰発現の影響を分析するために、本発明者らは、4~6月齢のTg(ubi:Loxp-stop-Loxp-hmga1a-eGFP、myl7:CreERT2)及びTg(myl7:CreERT2)対照魚をタモキシフェンで処置し、誘導の14日後に心臓を摘出し、続いてPCNA発現によるCM増殖の定量を行った。これにより、対照の約7%からhmga1a過剰発現心臓の約18%への、心臓全体のPCNA+CMの有意な増加が明らかになった(データは示さず)。次に、本発明者らは、hmga1a過剰発現の長期効果を決定し、誘導の1年後の心臓を分析した。本発明者らは、心筋表面積の有意な増加(データは示さず)を観察し、これは心臓の総表面積(心臓内腔を含む)のわずかであるが有意ではない増加と一致した(
図6A)。この心筋表面積の増加は、主に心臓内腔を犠牲にした肉柱領域の拡大に起因するものである(
図6B)。さらに、肉柱組織の増加は、CM増殖の中程度であるが有意な増加(
図6C)に起因する可能性が高いが、CMサイズの増加によるものではない(
図6D)。
【0096】
Hmga1a過剰発現OE心筋細胞における心臓発生に関連するゲノム領域の活性化は、ヒストン修飾の変化と並行していた。ヒストンH3タンパク質の4番目のリジン残基でのトリメチル化を示すH3k4me3(活性化ヒストンマーク)及びヒストンH3タンパク質上のリジン27のトリメチル化を示すH3k27me3(抑制性ヒストンマーク)のデータを、それぞれ対照心筋細胞(myl7:LifeAct-tdTomato+)及びHmga1a OE心筋細胞(myl7:LifeAct-tdTomato+/myl7:Hmga1a-EGFP+)に対してバルク(100細胞)選別支援単一細胞クロマチン免疫切断(sort assisted single-cell chromatin immunocleavage)(sortChic;Zellerら、2021年、bioRxiv 10.1101/2021.04.26.440606頁)を実施することによって得た。リードをゼブラフィッシュ参照ゲノム(danRer10)に対してマッピングし、Galaxyを使用して可視化した。続いて、H3k4me3トラックに対して不偏MACS2ピークコーリングを実施して、このヒストンマークが富化されている領域を同定した。胚性心臓転写因子tbx5及びnkx2.5のプロモーター領域のピークは、Hmga1a OE心筋細胞でのみコールされ、胚性心臓遺伝子がHmga1a OE心筋細胞で再発現することを示した。
【0097】
まとめると、これらの結果は、hmga1aの過剰発現がCM増殖を誘導し、これが心臓の形態に大きな影響を及ぼすことを示している。
【0098】
Hmga1は、心筋梗塞後の哺乳動物心筋細胞の細胞周期リエントリー及び機能的回復を誘導する
本発明者らの以前の結果は、ゼブラフィッシュにおいて、Hmga1aが効率的な心臓再生に必要であり、Hmga1a過剰発現がCM増殖を誘導するのに十分であることを実証している。ゼブラフィッシュとは異なり、マウスHmga1発現は心臓損傷によって誘導されず、これはNrg1に誘導されるErbB2シグナル伝達活性化の不在によって説明され得る(D’Uvaら、2015年、Nat Cell Biol、17巻:627~638頁)。そのため、本発明者らは最初に、マウス心筋細胞におけるErbB2シグナル伝達の活性化がHmga1発現を誘導するかどうかを調査したいと考えた。実際、構成的に活性な(ca)ERBB2受容体を発現するマウス心臓では、本発明者らにより、核Hmga1タンパク質蓄積の増強が観察された(データは示さず)。
【0099】
Hmga1が哺乳動物CMにおいて増殖を刺激することができるかどうかに取り組むために、本発明者らは、初代単離新生仔ラット心筋細胞(NRCM)において異所Hmga1発現(ectopic Hmga1 expression)を誘導した(
図7A)。CMをP1新生仔ラットから単離し、ウイルス処置前に2日間インキュベートした。Hmga1-eGFP過剰発現ウイルス(EF1a:Hmga1-eGFP)又はGFPのみの対照ウイルス(EF1a:eGFP)を培地に投与するとともに、新たに合成されたDNAを追跡するためにEdUを投与した。さらに2日間のインキュベーション後、細胞を固定し、増殖マーカーについて分析した。興味深いことに、eGFPのみをトランスフェクトされたCMと比較して、Hmga1-eGFPをトランスフェクトされたCMでは、EdU及びKi67の有意な増加が観察された(
図7B、C)。さらに、Hmga1-eGFPをトランスフェクトされた細胞における有糸分裂マーカーpHH3の増加について正の傾向が見出された(p値=0.064)(
図7D)。まとめると、これらの結果は、哺乳動物CMにおけるHmga1過剰発現がそれらの増殖能力を増加させ得ることを示している。
【0100】
次に、本発明者らは、成体マウス心臓における異所Hmga1発現がインビボでCM細胞周期リエントリーを誘導するかどうかに取り組みたいと考えた。Hmga1発現を誘導するために、本発明者らは、CMV:HA-Hmga1カセットを担持しCMを優先的に標的とするアデノ随伴ウイルス9(AAV9)(Bishら、2008年、Human Gene Therapy、19巻:1359~1368頁)を使用した。MI時に、心臓に、虚血性損傷のリスクのある区域に接する領域に15μlのウイルス(1×10
^11ウイルス粒子/マウス)を2回注射した。さらに、CM細胞周期活性を評価するために、マウスにEdUをMI後2週間にわたって1日2回注射した。MI及びウイルス注射の14日後、心臓を単離し、切片化し、EdU(新たに合成されたDNAを示す)、PCM-1(CM核をマークする)及びHAタグ(HA-Hmga1過剰発現を有する細胞をマークする)について染色した(データは示さず)。重要なことに、遠隔区域に位置するCMにおけるEdU取り込みはHA-Hmga1発現の影響を受けなかったが、BZに位置するCMにおけるEdU取り込みは、HA-Hmga1を発現するCMにおいて5倍増加した(0.2%から1.2%)(
図7E)。
【0101】
次に、本発明者らは、HA-Hmga1の過剰発現がMI後の機能的改善をもたらし得るかどうかを考えた。そのため、ウイルス処置マウスを42dpiで心エコー検査に供し、その後、心臓を単離し、組織学的分析のために切片化した。境界域におけるトランスフェクション効率を評価するために、HAタグに対する免疫組織化学を実施した。トランスフェクション効率は心臓間で高い変動性を示したので、トランスフェクション効率と瘢痕サイズ並びに心臓機能性との間の相関分析を実施した。さらに、非効率的にトランスフェクトされた心臓(平均で30個未満のトランスフェクトBZ細胞)を、AAV9(空)処置心臓とAAV9(CMV:HA-Hmga1)処置心臓とを比較するときに除外した。トランスフェクション効率と駆出率並びに短縮率との間に有意な相関が見出され、トランスフェクトされたBZ細胞の数が多い心臓は機能性の改善を示していた(
図7F、H)。AAV9(空)処置心臓と効果的にトランスフェクトされたAAV9(CMV:HA-Hmga1)処置心臓との間の直接比較は、駆出率の有意な増加(P値=0.015)(
図7G)並びに短縮率の正の傾向(p値=0.084)を示す(
図7I)。まとめると、これらの結果は、損傷した哺乳動物心臓における異所Hmga1発現が心筋細胞の細胞周期リエントリーを促進することを示しており、これが心筋梗塞後の機能的回復を刺激することを示唆する。
【0102】
より高いトランスフェクション効率がより良好な機能的回復をもたらすかどうかに取り組むために、MIを誘導した後、10倍高い用量のAAV9(CMV:HA-Hmga1)ウイルス(1×10^12ウイルス粒子/マウス)をマウス心臓のBZに注射した。さらに、偽手術マウス心臓にAAV9(CMV:HA-Hmga1)ウイルスを注射し、対照ウイルスとしてAAV9(CMV:GFP)ウイルスを使用した。MI及びAAV9(CMV:HA-Hmga1)又はAAV9(CMV:GFP)対照ウイルス心臓内送達の14日後に、心筋細胞増殖をさらに分析した。PCM-1(CM核をマークする)、HA(HA-Hmga1を発現するトランスフェクトされた細胞をマークする)及びEdU(新たに合成されたDNAを示す)に対する抗体染色は、HA-Hmga1又はGFPを形質導入した心臓の境界域(BZ)内にEdU+(
図8A)又はKi67+(
図8B)細胞があることを示していた。心臓1個あたり心臓切片3個を定量した。これらのデータは、損傷した哺乳動物心臓における異所Hmga1発現が、少なくとも14日間、心筋細胞の細胞周期リエントリーを促進することを明確に示している。
【0103】
CM増殖の増加が機能の改善及び瘢痕サイズの減少をもたらすかどうかに取り組むために、AAV9(CMV:HA-Hmga1)ウイルス又はAAV9(CMV:GFP)対照ウイルスを注射したマウスを心エコー検査に供し、その後、心臓を組織学的分析のために摘出した。心臓を、線維性瘢痕を可視化するためにマッソントリクロームを使用して染色して頂端から基部まで切片化した。瘢痕サイズを、2つの独立した方法を使用して定量した。第1の方法では、心筋を有する瘢痕の境界から心臓内腔の中央まで2本の線を引き、それらの角度を連続切片で測定した(データは示さず)。第2の方法では、瘢痕の長さを測定し、影響を受けていない左心室の壁の長さで割った(
図8D)。両方法とも、AAV9(CMV:HA-Hmga1)ウイルスを注射したMI心臓の瘢痕サイズが、AAV9(CMV:GFP)対照ウイルスを注射したMI心臓で形成された瘢痕と比較して小さいことを示した。心エコー検査データを使用して機能的回復を測定した。MIの42日後、AAV9(CMV:GFP)対照ウイルスを注射したMI心臓と比較して、AAV9(CMV:HA-Hmga1)ウイルスを注射したMI心臓では、心駆出率(
図8E)、短縮率(
図8F)、心拍出量(
図8G)及び一回拍出量(
図8H)の有意な改善が観察された。まとめると、これらの結果は、損傷した哺乳動物心臓における異所Hmga1発現が心筋細胞の細胞周期リエントリーを促進すること、及びこれが心筋梗塞後の機能的改善をもたらすことを実証している。
【0104】
配列
配列番号1 HMGA1
10 20 30 40 50
MSESSSKSSQ PLASKQEKDG TEKRGRGRPR KQPPVSPGTA LVGSQKEPSE
60 70 80 90 100
VPTPKRPRGR PKGSKNKGAA KTRKTTTTPG RKPRGRPKKL EKEEEEGISQ
ESSEEEQ
配列番号2 HMGA2
10 20 30 40 50
MSARGEGAGQ PSTSAQGQPA APAPQKRGRG RPRKQQQEPT GEPSPKRPRG
60 70 80 90 100
RPKGSKNKSP SKAAQKKAEA TGEKRPRGRP RKWPQQVVQK KPAQEETEET
SSQESAEED
【配列表】
【国際調査報告】