(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-24
(54)【発明の名称】コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20241017BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F16F7/12
E04H9/02 321F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517523
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 CN2022139512
(87)【国際公開番号】W WO2023125066
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111616457.1
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524104653
【氏名又は名称】上海材料研究所有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RESEARCH INSTITUTE OF MATERIALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 99, Handan Road, Hongkou District Shanghai 200437 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】楊 旗
(72)【発明者】
【氏名】王 敏
(72)【発明者】
【氏名】丁 孫▲い▼
(72)【発明者】
【氏名】楊 凱
(72)【発明者】
【氏名】塗 田剛
(72)【発明者】
【氏名】洪 彦昆
(72)【発明者】
【氏名】徐 斌
【テーマコード(参考)】
2E139
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA06
2E139BD13
3J066AA26
3J066BA04
3J066BB01
3J066BC03
3J066BD07
3J066BF01
(57)【要約】
本発明は、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーに関し、軸方向鋼製ダンパーがコアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントを含み、コアでのエネルギー吸収構造が少なくとも1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および1枚のフェライト組織を有する鋼板を含み、かつオーステナイト組織を有する鋼板とフェライト組織を有する鋼板とが拘束されなく接続される。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は主に準安定オーステナイトであり、フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は、220MPa以上であり、伸び率は40%以上であり、フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は180Mpa未満であり、伸び率は30%以上である。本発明による軸方向鋼製ダンパーは、降伏変位が小さく、延性と累積塑性変形能力に優れ、コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断可能であり、ダンパー載荷を制限することができ、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことが可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けるときに外部振動エネルギーを吸収する、軸方向鋼製ダンパー用の、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造であって、
前記コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造は、少なくとも1枚のオーステナイト組織を有する鋼板と1枚のフェライト組織を有する鋼板を含み、かつ前記フェライト組織を有する鋼板と前記オーステナイト組織を有する鋼板とが拘束されなく接続され、
前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織構造は、準安定オーステナイトと体積率15%以下の熱誘起εマルテンサイトから構成され、準安定オーステナイトの平均粒径が400μm以下であり、引張または圧縮塑性変形時、前記オーステナイト組織を有する鋼板の準安定オーステナイトは、ひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が誘起され、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けると、前記オーステナイト組織を有する鋼板の内部にオーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイト間の可逆的な相変態が発生し、
前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織構造は主にフェライトであり、フェライトの平均粒径が200μm以下であり、
前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は、220MPa以上であり、伸び率は40%以上であり、前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は180Mpa未満であり、伸び率は30%以上であり、
すべてのフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、すべてのオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計との比は、0.4以上である、ことを特徴とするコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って変化しない場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部が即ち、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の全長であり、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って、両端が広く、中央が狭いという特徴を有する場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部は、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の中央部の狭い部分である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項3】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分の質量百分率は、C≦0.15%、20.0%≦Mn≦34.0%、3.5%≦Si≦6.0%、Al≦2.5%、Ni≦5.0%、Cu≦2.0%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%であり、残部はFeおよび不可避的不純物元素であり、ここで、Al、NiおよびCuの質量含有率は、Ni/Cu≧0.25およびAl+0.4Ni+0.25Cu≦3.5%を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項4】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分の質量百分率は、C≦0.1%、Mn≦1.0%、Si≦0.8%、Ti≦0.15%、Nb≦0.1%、V≦0.2%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%であり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項5】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、軸対称の幾何学的形状として選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項6】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さl0は、オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さL0以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントを含み、前記周囲拘束コンポーネントがコアでのエネルギー吸収構造の横方向の変位を拘束し、コアでのエネルギー吸収構造が座屈して不安定になることを防止する、ことを特徴とする部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパー。
【請求項8】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートの組み合わせによって形成された拘束ケーシング、または鉄筋コンクリート拘束ケーシング、または純鋼構造拘束部材として選択される、ことを特徴とする請求項7に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパー。
【請求項9】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、かつ限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、
前記限界許容変位の条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、かつ載荷能力の低下が15%未満であり、
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件で、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、かつ載荷能力の低下が15%未満である、ことを特徴とする請求項7に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパー。
【請求項10】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、単独で使用されるか、または他の鋼製ブレースと組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成して建物または構造物に設置され、建物または構造物の柱梁主要構造と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収させる役割を果たす、ことを特徴とする請求項7に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設構造工学の技術分野に属し、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
高震度の地震と長時間にわたる外部振動はいずれも、高層の建物や構造物に大きな被害をもたらす。エネルギー吸収および衝撃吸収装置および技術を使用すると、外部の振動エネルギーを効果的に吸収し、建物や構造物への損傷を最小限に抑えることができる。エネルギー吸収座屈拘束ブレースは、一般的な軸方向エネルギー吸収および衝撃吸収要素であり、その直接的な力の伝達経路、大きな追加剛性および優れた経済性により、土木構造物に広く使用されている。
【0003】
現在、エネルギー吸収座屈拘束ブレースは、主にLY225低降伏点鋼およびQ235鋼などの鋼材をエネルギー吸収コア材として使用する(上記鋼種はいずれも、低炭素フェライト鋼である)。上記の種類の鋼で製造されたエネルギー吸収座屈拘束ブレースは、頻繁に発生する地震(「小規模地震」)または強化震度の地震(「中程度の地震」)が発生した場合に、多くの場合、ただ一定の剛性を与え、地震エネルギー吸収のための実質的な降伏変形が非常に少ない。さらに重要なことは、鋼種のより低い延性と低サイクル疲労変形能力に制約され、上記の鋼種の繰り返し変形による累積塑性変形と累積塑性エネルギー吸収効果が制限されることである。したがって、稀な地震(「大地震」)が発生した場合、上記の種類の鋼で製造されたエネルギー吸収座屈拘束ブレースは、比較的少数のサイクルの引張と圧縮の繰り返し荷重の後に疲労破壊が発生する。また、稀な地震、または非常に稀な地震では、エネルギー吸収座屈拘束ブレースは、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことを達成できない(つまり、エネルギー吸収座屈拘束ブレースが建物の主要構造よりも早く破壊し、それにより、建物の主要構造は、エネルギー吸収座屈拘束ブレースからさらに保護することができない)。さらに、従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースの限界載荷は、多くの場合比較的に大きい。限界載荷が大きくなると接合部への負担が大きくなり、エネルギー吸収コンポーネントよりも先に接合部が破壊する可能性があり、「ノードを強め、コンポーネントを弱める」という耐震の基本的な考え方が実現できなくなる。ここで、接合部とは、エネルギー吸収座屈拘束ブレース(または軸方向エネルギー吸収および衝撃吸収要素)を建物の柱梁構造に固定接続させるコンポーネントを指す。以上、従来の低炭素フェライト鋼のコア材料で製造されるエネルギー吸収座屈拘束ブレースは、異なる震度の地震の下でも制震保護の役割を果たすことができない。また、従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースは、主要構造フレームの対角寸法に合わせて設計および製造する必要があり、エネルギー吸収ブレースコンポーネントのサイズは一般に大きく、現場での設置と地震後の交換には適していない。
【発明の概要】
【0004】
上記の技術的状況に基づいて、降伏変位が小さく、延性と累積塑性変形能力に優れ、ダンパー載荷を制限可能であり、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つ軸方向鋼製ダンパーの開発が急務となっている。したがって、本発明は、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーを提供する。
【0005】
本発明によって提供される軸方向鋼製ダンパーは、異なる震度の地震の下で、エネルギー吸収および衝撃吸収の役割を果たし、建物に耐震保護を提供することができ、軸方向鋼製ダンパーの載荷が一定レベルに達すると、ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断し、ダンパーの限界載荷が制限され、稀な地震または極稀な地震下での接合部の信頼性が確保される。
【0006】
従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースと比較して、本発明のコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーは、降伏変位が小さく、延性および累積塑性変形能力に優れ、建物の主構造と同じ破壊冗長性を持つことができる。本発明の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、異なる震度の地震下でもエネルギー吸収および衝撃吸収効果を発揮し、建物に耐震保護を提供することができ、軸方向ダンパーの載荷が一定レベルに達すると、ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に破断、ダンパーの限界載荷が制限される。さらに、本発明の2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、他の鋼製ブレースと接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成することができ、プレハブ建物および地震後の迅速な交換の要件を満たす。
【0007】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって達成することができる。
【0008】
本発明はまず、軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けるときに外部振動エネルギーを吸収する、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造を提供し、
前記コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造は、少なくとも1枚のオーステナイト組織を有する鋼板と1枚のフェライト組織を有する鋼板を含み、かつ前記フェライト組織を有する鋼板と前記オーステナイト組織を有する鋼板とが拘束されなく接続され、
前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織構造は、準安定オーステナイトと体積率15%以下の熱誘起εマルテンサイトから構成され、準安定オーステナイトの平均粒径が400μm以下であり、引張または圧縮塑性変形時、前記オーステナイト組織を有する鋼板の準安定オーステナイトは、ひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が誘起され、かつα′マルテンサイト相変態が抑制される。引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けると、前記オーステナイト組織を有する鋼板の内部にオーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイト間の可逆的な相変態が発生し、前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織構造は主にフェライトであり、フェライトの平均粒径が200μm以下であり、
前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は、220MPa以上であり、伸び率は40%以上であり、前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は180Mpa未満であり、伸び率は30%以上であり、
コアでのエネルギー吸収構造において、すべてのフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、すべてのオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計との比は、0.4以上である。
【0009】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造において、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って変化しない場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部が即ち、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の全長であり、この場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面が即ち、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の断面であり、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って、両端が広く、中央が狭いという特徴を有する場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部は、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の中央部の狭い部分であり、この場合、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面は即ち、前記フェライト組織を有する鋼板またはオーステナイト組織を有する鋼板の中央部の狭い部分の断面であることを規定する。
【0010】
本発明は、コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造が少なくとも1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および1枚のフェライト組織を有する鋼板を含むように制限する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は、準安定オーステナイトおよび体積率が15%以下の熱誘起εマルテンサイトであり、その目的は、引張と圧縮の荷重を交互に受けることで、鋼板の内部に結晶学的特徴を持つひずみ誘起εマルテンサイトの薄片状単一バリアントの生成を促進し、元のマトリックス組織内の熱誘起εマルテンサイトとの影響を避け、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態を促進し、組織内のオーステナイト鋼板のマトリックス結晶欠陥の発生を低減し、および疲労き裂の進展を抑制し、それにより、オーステナイト組織を有する鋼板が優れた低サイクル疲労性能と累積塑性変形能力を発揮できる。さらに、本発明は、オーステナイト組織を有する鋼板内部の準安定オーステナイトが引張または圧縮の変形時に、α′マルテンサイト相変態を抑制するように制限する。これは、準安定オーステナイトが塑性ひずみの作用により過剰なα′マルテンサイト相変態を起こすと、鋼板内部に局所的な変形が発生しやすくなり、オーステナイト組織を有する鋼板の低サイクル疲労性能が急激に低下するためである。本発明は、準安定オーステナイトの平均粒径が400μmを超えないように制限する。これは、オーステナイト結晶粒が粗大すぎると、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態が著しく抑制され、オーステナイト組織を有する鋼板の耐疲労性能が著しく低下するためである。本発明は、オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織を厳しく制限し、その目的は、オーステナイト組織を有する鋼板が大きなひずみ疲労変形に耐えられることを保証し、中、高震度の地震および極稀な地震下でも軸方向鋼製ダンパーが早期疲労破壊を起こすことなく機能でき、軸方向鋼製ダンパーが建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことを保証することである。
【0011】
前記フェライト組織を有する鋼板は、降伏強度が低く、ヤング率が高く、繰返し変形サイクル中の加工硬化の度合いが低い。したがって、前記軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、フェライト組織を有する鋼板は、コアでのエネルギー吸収構造全体(コアでのエネルギー吸収構造が軸方向鋼製ダンパーに使用される場合、即ち軸方向鋼製ダンパー)の降伏荷重、降伏変位および繰返し変形サイクル中の加工硬化の度合いを低減することに寄与し、それにより、鋼製ダンパーが中小規模の地震下でも降伏とエネルギー吸収を実現できる。ただし、オーステナイト組織を有する鋼板に比べてフェライト組織を有する鋼板の低サイクル疲労特性が劣る。これは、フェライト組織を有する鋼板の繰り返し変形中に、交差すべりが頻繁に発生し、微視的な塑性変形が不可逆的であるため、材料の組織安定性が継続的に低下し、塑性ひずみの局在化が継続的に増加し、繰り返し累積ひずみの増加とともに、疲労き裂は、材料表面組織の界面のひずみ互換性のない箇所(例えば、結晶粒界、フェライト/セメンタイト相境界)または固執すべり帯で核生成し、材料の粒界破壊または粒内破壊が発生するまで、結晶粒界に沿って成長するかまたは粒内に成長するためである。本発明は、フェライトの平均粒径が200μmを超えないように制限する。これは、フェライト結晶粒が粗大すぎると粒界から疲労き裂が発生および拡大しやすくなり、フェライト組織を有する鋼板の耐疲労性が著しく低下するためである。したがって、フェライトの粒径(および伸び率)についての制限は、フェライト組織を有する鋼板の適切な耐疲労性を確保することを目的とする。
【0012】
本発明によるコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造において、前記フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。これは、オーステナイト組織を有する鋼板とフェライト組織を有する鋼板とが何らかの手段(例えば、溶接)により拘束接続されると、オーステナイト組織を有する鋼板がフェライト組織を有する鋼板よりも比較的に高い降伏強度(および耐変形性)および加工硬化度合いを持つため、オーステナイト組織を有する鋼板がフェライト組織を有する鋼板の変形を拘束し、この拘束により、コアでのエネルギー吸収コンポーネントは同じ部分でほとんど瞬時に疲労破壊し、即ち、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板が同時に同じ部分で破断することがよくあり、したがって、軸方向鋼製ダンパーの載荷を制限する要件を実現するのは容易ではないためである。フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とが拘束されなく接続される場合、フェライト組織を有する鋼板の変形に対するオーステナイト組織を有する鋼板の拘束メカニズムがなくなる。オーステナイト組織を有する鋼板に比べてフェライト組織を有する鋼板の降伏強度や耐疲労性が著しく低いため、引張と圧縮の塑性変形を交互に受ける際に、フェライト組織を有する鋼板は、先に降伏変形と疲労破壊が発生し、その結果、ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断し、軸方向鋼製ダンパーの載荷が制限され、その後、最終的に鋼製ダンパーが完全に破壊するまで、コアでのエネルギー吸収構造におけるオーステナイト組織を有する鋼板は、周期的な引張圧縮変形に耐え続け、外部振動エネルギーを吸収させる。通常、オーステナイト組織を有する鋼板とフェライト組織を有する鋼板は異なる部分で破断する。したがって、本発明の材料選択およびコアでのエネルギー吸収構造の設計は、軸方向鋼製ダンパーが段階的なエネルギー吸収および載荷制限の効果を確実に有すると同時に、異なる震度の地震下でも、軸方向鋼製ダンパーがエネルギー吸収と衝撃吸収の役割を果たすことができることを保証する。
【0013】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度が220Mpa以上、伸び率が40%以上、フェライト組織を有する鋼板の降伏強度が180Mpa未満、伸び率が30%以上になるように制限する。2種類の鋼板の機械的特性を制限する主な目的は、2種類の鋼板材料が可能な限り、それぞれ優れた塑性変形能力と疲労性能を持つことを確保し(フェライト組織を有する鋼板に比べてオーステナイト組織を有する鋼板の塑性変形能力および疲労性能が著しく優れているが)、それにより、コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前および部分的に溶断した後にも、軸方向鋼製ダンパーが良好な累積塑性変形能力を持ち、次の技術性能指標を満たす。限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、限界許容変位は、軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、この限界許容変位の条件では、軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満であり、軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件では、軸方向鋼製ダンパーはまだ、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満である。限界許容変位が軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であるため、本発明によるコアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造は、軸方向鋼製ダンパーに使用されると、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことを実現可能である。
【0014】
なお、ここでは、フェライト組織を有する鋼板の降伏強度が小さいほど、フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板の間の降伏強度の差が大きいほど、軸方向鋼製ダンパーの降伏変位が小さくなり、小規模の地震および中程度の地震では、より多くのエネルギーを吸収することができる。それどころか、フェライト組織を有する鋼板の強度を高めると、降伏変位が増加するだけでなく、通常、フェライト組織を有する鋼板の伸び率と低サイクル疲労性能も低下し、コアでのエネルギー吸収構造の十分な累積塑性変形能力を示すことに寄与しない。
【0015】
本発明において、すべてのフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、すべてのオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計との比が小さすぎる場合(0.4未満)、コアでのエネルギー吸収構造は、部分的に溶断する前に、その変形と載荷が主にオーステナイト組織を有する鋼板によって支配され、それにより、コアでのエネルギー吸収構造の降伏変位が大幅に増加し、その結果、小さな変位条件(即ち、「小さな地震」)の下では、コアでのエネルギー吸収構造のエネルギー吸収効果が顕著ではないだけでなく、また、コアでのエネルギー吸収構造と軸方向鋼製ダンパーの延性も大幅に低下する。したがって、本発明は、すべてのフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、すべてのオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計との比を、0.4以上に制限し、さらに、コアでのエネルギー吸収構造の降伏変位を低減する観点から、すべてのフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、すべてのオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計との比が、0.8以上であることは好ましい。
【0016】
本発明は、軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位(u
d,max)および降伏変位(u
dy)を次のように定義する。前記軸方向鋼製ダンパーの載荷が一定レベルに達すると、ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断するため、上記限界許容変位(u
d,max)は、コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、繰り返し引張圧縮塑性変形を継続して受ける際に軸方向鋼製ダンパーの許容される最大変位であり、この許容される最大変位の条件では、鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルの引張と圧縮の繰り返し変形を破壊することなく受けることができる。繰り返し変形変位が上記限界許容変位を超えると、軸方向鋼製ダンパーは、疲労破壊に至るまで3サイクルの引張と圧縮の繰り返し変形を完了できない。コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、軸方向鋼製ダンパーが最大許容変位で引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けるとき、ダンパーの降伏変形に対応する変位は降伏変位(u
dy)と呼ばれる。ここで、鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前の最大許容変位は、鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、少なくとも3サイクルの引張と圧縮の繰り返し塑性変形に耐えることができる際に許容される最大変位であると依然として規定する。
図1は、コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、軸方向鋼製ダンパーが最大許容変位で引張圧縮変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線、およびその後にコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、軸方向鋼製ダンパーが同じ変位で引張圧縮変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、最大許容変位で繰り返し変形を受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線の除荷部から、軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性を求める。繰り返し応力ーひずみ曲線の引張部分の除荷部に対応する弾性剛性はK
d
(t)であり、繰り返し応力ーひずみ曲線の圧縮部分の除荷部に対応する弾性剛性はK
d
(c)である。K
d
(t)≠K
d
(c)である場合、軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性K
dは1/2(K
d
(t)+K
d
(c))で計算され、K
d
(t)=K
d
(c)である場合、軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性はK
d=K
d
(t)=K
d
(c)となる。座標原点を通り弾性剛性K
dの傾きを持つ直線を引き、当該直線と繰り返し応力ーひずみ曲線の引張部分との交点が繰り返し変形引張時の降伏変位u
dy
(t)となり、当該直線と繰り返し応力ーひずみ曲線の圧縮部分との交点が繰り返し変形圧縮時の降伏変位u
dy
(c)となる。前記軸方向鋼製ダンパーの降伏変位u
dyは1/2(u
dy
(t)+u
dy
(c))で計算される。限界許容変位u
d,maxおよび降伏変位u
dyから、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位u
d,maxと降伏変位u
dyとの比(鋼製ダンパーの延性を表す)を求めることができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、さらに、本発明は、前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分の質量百分率を、C≦0.15%、20.0%≦Mn≦34.0%、3.5%≦Si≦6.0%、Al≦2.5%、Ni≦5.0%、Cu≦2.0%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物元素であり、ここで、Al、NiおよびCuの質量含有率は、Ni/Cu≧0.25およびAl+0.4Ni+0.25Cu≦3.5%を満たす。
【0018】
上記の成分要求を満たす材料のミクロ組織は、準安定オーステナイトおよび体積分率が15%以下の熱誘起εマルテンサイトであり、準安定オーステナイトは、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、可逆的なεマルテンサイト相変態が発生し、(即ち、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトは、荷重が交互に加えられると二相相互変態が発生する)、およびα′マルテンサイト相変態が抑制され、それにより、鋼板材料は、優れた低サイクル疲労性能を有する。
【0019】
上記の基本的なミクロ組織特性を変えることなく、オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分は少量のCr元素を含むことができ、本発明は、Cr元素の質量百分率をCr≦2%に制限する。上記の合金成分を有し、かつ準安定オーステナイトの平均粒径が400μm以下である場合、オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は220MPa以上であり、伸び率は40%以上である。
【0020】
本発明の一実施形態において、さらに、本発明は、フェライト組織を有する鋼板の化学成分の質量百分率をC≦0.1%、Mn≦1.0%、Si≦0.8%、Ti≦0.15%、Nb≦0.1%、V≦0.2%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。
【0021】
上記の成分要求を満たす材料のミクロ組織は主にフェライトである。上記の基本的なミクロ組織特性を変えることなく、フェライト組織を有する鋼板の化学成分は、少量のCu、CrおよびNi元素を含むことができ、本発明は、Cu、CrおよびNi元素の質量百分率をCu≦0.5%、Cr≦1%、Ni≦1%に制限する。上記の合金成分を有し、かつフェライト平均粒径が200μm以下の場合、フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は180MPa未満であり、伸び率は30%以上である。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、任意の種類の軸対称の幾何学的形状を有することができる。前記任意の種類の軸対称の幾何学的形状を有する断面形状としては、主に十字型、工字型などが挙げられる。
【0023】
本発明の一実施形態において、
図2に示すように、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、中央が狭く、両端が広い断面形状を採用できる。2種類の鋼板は、両端が広く、中央が狭い幾何学的形状を有する場合(鋼板の中央の狭い部分がコアでのエネルギー吸収部と呼ばれる)、2種類の鋼板から構成されるコアでのエネルギー吸収構造の中央の狭い部分が前記コアでのエネルギー吸収構造のコアでのエネルギー吸収部と呼ばれる。軸方向鋼製ダンパーが、接合部やその他の接続コンポーネントを介して建物の柱梁主要構造やその他の鋼製ブレースと接続されるため、鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の前述の断面の幾何学的設計は、軸方向鋼製ダンパーの塑性変形がコアでのエネルギー吸収構造のコアでのエネルギー吸収部にのみ集中するようにし、鋼製ダンパーの使用中に、接合部または他の接続コンポーネントの、重大な降伏変形乃至破壊の発生を回避する。前記コアでのエネルギー吸収構造のコアでのエネルギー吸収部と両端の断面積との比についての合理的な選択は、主にコアでのエネルギー吸収構造と接合部または他の接続コンポーネントの材料強度、および両者の間の接続強度によって決まれる。原則として、接合部または他の接続コンポーネントの降伏時の降伏荷重は、コアでのエネルギー吸収構造の降伏時の降伏荷重よりも大きい必要がある。
【0024】
本発明において、
図2に示すように、コアでのエネルギー吸収構造におけるオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さL0とフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さl0との比を大きくすることは、小規模の地震および中程度の地震の下での、軸方向鋼製ダンパーによるエネルギー吸収に寄与する。
【0025】
本発明は、前記コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントを含む部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーをさらに提供し、前記コアでの部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収構造は、軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける場合、外部の振動エネルギーを吸収する役割を果たし、前記周囲拘束コンポーネントがコアでのエネルギー吸収構造の横方向の変位を拘束し、コアでのエネルギー吸収構造が座屈して不安定になることを防止する。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートの組み合わせによって形成された拘束ケーシング、または鉄筋コンクリート拘束ケーシング、または純鋼構造拘束部材として選択される。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、建物または構造物に設置され、建物または構造物の柱梁主要構造および接合部と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収させる役割を果たし、建物または構造物の耐震性能を大幅に向上させることができる。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、フランジまたは中間接続板を介して他の鋼製ブレースと接続し、組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成することができ、プレハブ建物や地震後の迅速な交換の要件を満たす。したがって、本発明による軸方向鋼製ダンパーの構造サイズは一般に、従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースの構造サイズよりも小さく、自重はより軽い。
図3は、交換可能な部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースを組み合わせて形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図であり、その三次元モデルの概略図を
図4に示す。前記軸方向鋼製ダンパーの一端は、中間接続板と球面ヒンジを介して建物ガセットプレートと接続され、前記軸方向鋼製ダンパーの他端は、中間接続板またはフランジを介して他の鋼製ブレースと接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成する。
【0029】
従来の技術と比較して、本発明の有益な効果は次のとおりである。
1)従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレース(コアでのエネルギー吸収構造は通常、LY225またはQ235鋼板で製造される)と比較して、本発明による部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、降伏変位が小さく、延性と累積塑性変形能力に優れ、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことができ、軸方向ダンパーの載荷が一定レベルに達すると、ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断し、ダンパーの限界載荷が制限される。従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースには、上記の技術的特徴がない。
2)本発明による軸方向鋼製ダンパーは、他の鋼製ブレースと接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成し、プレハブ建物および地震後の迅速な交換の要件を満たす。本発明による軸方向鋼製ダンパーの構造サイズおよび自重は、従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースの構造サイズおよび自重よりも小さくすることができる。
3)本発明において、前記鋼製ダンパーにおける、コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板は、引張と圧縮の塑性変形を交互に受ける際に、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態が発生するため、前記オーステナイト組織を有する鋼板が優れた疲労変形性能を有し、それにより、前記鋼製ダンパーは、非常に高い限界許容変位を有し、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことを実現できる。軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造で使用されるオーステナイト組織を有する鋼板は、繰り返し荷重下で転位面すべりの変形のみが発生する場合、対応するオーステナイト組織を有する鋼板の化学成分の質量百分率は、0.4%≦C≦0.7%、16.0%≦Mn≦26.0%、Si≦2.0%、P≦0.02%、S≦0.03%、N≦0.03%であってもよく、残部がFeおよび不可避的不純物元素であり、当該軸方向鋼製ダンパーの延性および累積塑性変形能力は、従来のエネルギー吸収座屈拘束ブレースよりも優れることが可能であるが、本発明の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーよりも著しく低い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する前に、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーが最大許容変位で引張と圧縮変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線、およびその後にコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、同じ変位で引張と圧縮変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。
【
図2】
図2は、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の概略図である。
【
図3】
図3は、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図である。
【
図4】
図4は、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの三次元モデルの概略図である。
【
図5】
図5は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を示す。
【
図6】
図6は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を示す。
【
図7】
図7は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の正面図である。
【
図8】
図8は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の上面図である。
【
図9】
図9は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の側面図である。
【
図10】
図10は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの正面図である。
【
図11】
図11は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの上面図である。
【
図12】
図12は、実施例1における、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのA-A断面図である。
【
図13】
図13は、実施例1における、部分的に溶断する前に、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線である。変形の繰り返し応力ーひずみ曲線に対応する引張(または圧縮)変位はそれぞれ、3mm、9mm、17mm、25mmおよび31mmである。各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形が加えられる。
【
図14】
図14は、実施例1における、部分的に溶断する時の、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線である。変形の繰り返し応力ーひずみ曲線に対応する引張(または圧縮)変位はそれぞれ、34mmおよび37mmである。各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形が加えられる。
【
図15】
図15は、実施例1における、部分的に溶断した後、部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線である。変形の繰り返し応力ーひずみ曲線に対応する引張(または圧縮)変位はそれぞれ、41mm、50mm、56mm、63mmおよび67mmである。各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形が加えられる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面および具体的な実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0032】
(実施例1)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0033】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。
図2に示すように、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板2および2枚のフェライト組織を有する鋼板1から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板2とフェライト組織を有する鋼板1は、長手方向に沿って長さが同じであり、オーステナイト組織を有する鋼板2の長手方向の中心線を対称軸として、2枚のフェライト組織を有する鋼板1がそれぞれ、オーステナイト組織を有する鋼板2の上方および下方に配置され、2枚のフェライト組織を有する鋼板1とオーステナイト組織を有する鋼板2は、拘束されなく接続される。
【0034】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0=160mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0035】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は304Mpaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径は76μmである。
【0036】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6に示す。フェライト組織を有する鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さは、l0=1530mmであり、幅はw0/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmでる。
【0037】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は157Mpaであり、伸び率は47%である。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径は50μmである。
【0038】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さと同じである。前記オーステナイト組織を有する鋼板の厚さは、前記フェライト組織を有する鋼板の厚さと同じである。2枚のフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は、1.0(0.4よりも大きい)である。
【0039】
コアでのエネルギー吸収構造の正面図、上面図および側面図をそれぞれ、
図7、
図8および
図9に示す。
【0040】
前記周囲拘束コンポーネントは、周囲拘束鋼管4と内部充填コンクリート3とを組み合わせて形成された拘束ケーシングであり、コアでのエネルギー吸収構造の横方向の変位を拘束し、コアでのエネルギー吸収構造の座屈を防止する役割を果たす。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には、非結合材料層が設けられる。
【0041】
組み立てられた後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの正面図、上面図、および平面A-Aに沿った断面図をそれぞれ
図10、
図11および
図12に示す。
【0042】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーはそれぞれ、3mm、5mm、7mm、9mm、11mm、17mm、20mm、23mm、25mm、28mmおよび31mmの変位で、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形が加えられて最大荷重が低下せず、前記軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断しない。
図13は、変位がそれぞれ3mm、9mm、17mm、25mm、31mmの場合、前記軸方向鋼製ダンパーが張力と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の対応する繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。引張と圧縮の繰り返し塑性変形の変位を34mmまで増加させると、コアでのエネルギー吸収構造を構成する1枚のフェライト組織を有する鋼板は、繰り返し変形の2サイクル目で疲労破壊が発生し、ここで、34mmの変位条件で、前記軸方向鋼製ダンパーは合計3サイクルの繰り返し変形を受けた。引き続き引張と圧縮の繰り返し塑性変形の変位を37mmまで増加させると、コアでのエネルギー吸収構造を構成する2枚目のフェライト組織を有する鋼板も繰返し変形の2サイクル目で疲労破壊が発生し、ここで、37mmの変位条件で、前記軸方向鋼製ダンパーは合計3サイクルの繰り返し変形を受けた。前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造はそれぞれ、34mmおよび37mmの変位で部分的に溶断し、それに応じて、軸方向鋼製ダンパーの載荷能力が低下することがわかる。
図14は、部分的に溶断する時の、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線である。部分的に溶断する前の前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の最大許容変位は、31mm~34mmである必要がある。変位34mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位は、約3.0mm(実際には、変位31mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位も3.0mmに非常に近い)である。
【0043】
コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、オーステナイト組織を有する鋼板の優れた低サイクル疲労性能により、前記軸方向鋼製ダンパーはそれぞれ38mm、41mm、44mm、47mm、50mm、53mm、56mm、59mm、63mmおよび67mmの変位で引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に続けて受け、各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形を受けて最大荷重が低下せず、この時、前記軸方向鋼製ダンパーはまだ、疲労破壊が発生しない。上記の塑性変形変位はいずれも、前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60(約33.3mm)を超え、即ち、前記軸方向鋼製ダンパーが部分的に溶断した後、鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件で、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に完了することができる。
図15は、変位がそれぞれ41mm、50mm、56mm、63mm、67mmの場合、前記軸方向鋼製ダンパーが張力と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際の繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は、67mm(前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/30に相当する)よりも大きい。計算された前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は22(18よりも大幅に大きい)よりも大きい。
【0044】
したがって、本実施例による部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、かつ限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、かつ載荷能力の低下が15%未満である。前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件で、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、かつ載荷能力の低下が15%未満である。前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、異なる震度の地震でもエネルギー吸収および衝撃吸収の役割を果たすことができ、建物の主要構造と同じ破壊冗長性を持つことができ、鋼製ダンパーの限界載荷を制限し、建物の主要構造の接合部の信頼性を確保することができる。
【0045】
図3および
図4は、本実施例における軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図である。前記軸方向鋼製ダンパー5の一端は、中間接続板6と球面ヒンジ8を介して建物ガセットプレートと接続され、前記軸方向鋼製ダンパー5の他端は、中間接続板6を介して他の鋼製ブレース7と接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成する。
【0046】
(実施例2)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0047】
前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および1枚のフェライト組織を有する鋼板から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト組織を有する鋼板がオーステナイト組織を有する鋼板に垂直に配置され、フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。
【0048】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長は、L=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さは、L0=1530mmであり、幅はW0=80mmであり、鋼板の厚さはT=14mmである。
【0049】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、27.5%Mn、4.0%Si、0.6%Al、0.002%C、2.0%Ni、0.7%Cu、0.007%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は229Mpaであり、伸び率は58%である。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径は126μmである。
【0050】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6に示す。フェライト組織を有する鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはl0=1000mmであり、幅はw0/2=100mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0051】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、0.18%Mn、0.05%Si、0.01%C、0.04%Ti、0.01%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は122Mpaであり、伸び率は50%である。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織であり、前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径は86μmである。
【0052】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さよりも大きい。前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積とオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は1.43(0.4よりも大きい)である。
【0053】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0054】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーはそれぞれ、5mm、10mm、25mmおよび35mmの変位で3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けた後、引張と圧縮の繰り返し塑性変形の変位を38mmまで増加させると、コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板は、3サイクル目の繰り返し変形で疲労破壊が発生し、即ち、前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断し、それに応じて、軸方向鋼製ダンパーの載荷能力が低下する。変位38mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位は、約3.1mmとなる。変位35mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた鋼製ダンパーの降伏変位も約3.1mmとなる。
【0055】
コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記軸方向鋼製ダンパーは続けて48mmの変位で30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、前記軸方向鋼製ダンパーはまだ、疲労破壊が発生しなく、かつ載荷能力が低下されない。上記の塑性変形変位はいずれも、前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60(約33.3mm)を超える。前記軸方向鋼製ダンパーはまた、70mmの変位で、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、4サイクル目で鋼製ダンパーは破壊する。したがって、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は、約70mm(70mmの変位が前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/29に相当する)であり、計算された前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比が約22(18よりも大幅に大きい)である。
【0056】
したがって、本実施例に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、かつ限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、かつ前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満である。
【0057】
(実施例3)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0058】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および2枚のフェライト組織を有する鋼板から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板は、長手方向の長さが同じであり、オーステナイト組織を有する鋼板の長手方向の中心線を対称軸として、2枚のフェライト組織を有する鋼板はそれぞれ、オーステナイト組織を有する鋼板の上方および下方に配置され、2枚のフェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。
【0059】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0=160mmであり、鋼板の厚さはT=12mmである。
【0060】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、23.4%Mn、5.4%Si、2.3%Al、0.04%C、0.01%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は284MPaであり、伸び率は44%である。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径は216μmである。
【0061】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6に示す。フェライト組織を有する鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはl
0=1530mmであり、幅はw
0/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=12mmである。
【0062】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、0.50%Mn、0.3%Si、0.095%C、0.1%Ti、0.06%Nb、0.01%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は175Mpaであり、伸び率は31.5%である。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径は192μmである。
【0063】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さと同じである。前記オーステナイト組織を有する鋼板の厚さは、前記フェライト組織を有する鋼板の厚さと同じである。2枚のフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は、1.0(0.4よりも大きい)である。
【0064】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0065】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーはそれぞれ、3mm、9mm、15mm、18mmおよび22mmの変位で、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、各変位条件で、3サイクルの繰り返し変形を受け、かつ最大荷重が低下せず、前記軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は部分的に溶断しない。引張と圧縮の繰り返し塑性変形の変位を26mmまで増加させると、コアでのエネルギー吸収構造を構成する1枚目と2枚目のフェライト組織を有する鋼板は順次に、繰り返し変形の3サイクル目と4サイクル目で疲労破壊が発生し、即ち、前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、26mmの変位で部分的に溶断する。26mmの変位の繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位は約3.0mmである。
【0066】
コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記軸方向鋼製ダンパーは続けて38mmの変位で30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、前記軸方向鋼製ダンパーはまだ、疲労破壊が発生しなく、かつ載荷能力が低下されない。上記の塑性変形変位はいずれも、前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60(約33.3mm)を超える。前記軸方向鋼製ダンパーはまた、58mmの変位で、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、6サイクル目で鋼製ダンパーが破壊する。したがって、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は、58mm(前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/35に相当する)よりも大きく、計算された前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は、約19よりも大きい。
【0067】
したがって、本実施例に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、かつ限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、前記限界許容変位の条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、かつ載荷能力の低下が15%未満である。前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満である。
【0068】
(実施例4~6)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0069】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および2枚のフェライト組織を有する鋼板から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板は、長手方向の長さが同じであり、オーステナイト組織を有する鋼板の長手方向の中心線を対称軸として、2枚のフェライト組織を有する鋼板はそれぞれ、オーステナイト組織を有する鋼板の上方および下方に配置され、2枚のフェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。
【0070】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0=160mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0071】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6に示す。フェライト組織を有する鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはl0=1530mmであり、幅はw0/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0072】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さと同じである。前記オーステナイト組織を有する鋼板の厚さは、前記フェライト組織を有する鋼板の厚さと同じである。2枚のフェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積の合計と、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は、1.0(0.4よりも大きい)である。
【0073】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の主な化学成分(鋼には微量のP、S、Nおよび他の不純物元素が不可避的に含まれている)および機械的特性を表1に示す。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織である。降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径を表1に示す。
【0074】
前記フェライト組織を有する鋼板の主な化学成分(鋼には微量のP、S、Nおよび他の不純物元素が不可避的に含まれている)および機械的特性を表1に示す。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径を表1に示す。
【表1】
【0075】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0076】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際に部分的に溶断する。軸方向鋼製ダンパーが部分的に溶断する前に、繰り返しの変形中に鋼製ダンパーの軸方向の載荷能力が低下されない。軸方向鋼製ダンパーが部分的に溶断している中に、ダンパーの載荷能力が低下する。軸方向鋼製ダンパーが部分的に溶断した後、鋼製ダンパーは、35mmの変位で続けて30サイクルの繰り返し引張と圧縮の塑性変形を受けて疲労破壊が発生せず、鋼製ダンパーの載荷能力が低下されなく、そして、続けて繰り返し塑性変形を受け、鋼製ダンパーの限界許容変位を求める。軸方向鋼製ダンパーの降伏変位、限界許容変位、および限界許容変位と降伏変位との比を表2に示す。
【表2】
【0077】
表2から、実施例4~6に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18以上であり、かつ限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、この限界許容変位の条件では、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満であり、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件で、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満であることがわかる。
【0078】
(実施例7)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0079】
前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および1枚のフェライト組織を有する鋼板から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト組織を有する鋼板がオーステナイト組織を有する鋼板に垂直に配置され、フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。
【0080】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0=100mmであり、鋼板の厚さはT=14mmである。
【0081】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、27.5%Mn、4.0%Si、0.6%Al、0.002%C、2.0%Ni、0.7%Cu、0.007%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は229MPaであり、伸び率は58%である。前記オーステナイト組織を有する鋼板のミクロ組織は単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトは、ひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、引張と圧縮の荷重が交互に加えられると、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径は126μmである。
【0082】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6に示す。フェライト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0/2=42mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0083】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、0.18%Mn、0.05%Si、0.01%C、0.04%Ti、0.01%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は122MPaであり、伸び率は50%である。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径は86μmである。
【0084】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さよりも大きい。前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積とオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は、0.48(0.4よりも大きい)である。
【0085】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0086】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、30mmの変位で、3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、また、38mmの変位で交互に引張と圧縮の塑性変形を受け、コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板が38mmの変位で繰り返し変形の4サイクル目で疲労破壊が発生し、即ち、前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する。変位38mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位は、約4.1mmである。
【0087】
コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記軸方向鋼製ダンパーは続けて38mmの変位で30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、前記軸方向鋼製ダンパーは、まだ疲労破壊が発生しなく、かつ載荷能力が低下されない。上記の塑性変形変位はいずれも、前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60(約33.3mm)を超える。前記軸方向鋼製ダンパーはまた、75mmの変位で、3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受けて、ちょうど破壊が発生した。したがって、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は、75mm(75mmの変位が前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/27に相当する)であり、計算された前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18.2である。
【0088】
したがって、本実施例に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と初期降伏変位との比は18以上であり、限界許容変位が前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/50以上であり、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60の変位条件で、前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を交互に受けることができ、載荷能力の低下が15%未満である。
【0089】
(比較例1)
部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0090】
前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト組織を有する鋼板および1枚のフェライト組織を有する鋼板から構成され、オーステナイト組織を有する鋼板およびフェライト組織を有する鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト組織を有する鋼板がオーステナイト組織を有する鋼板に垂直に配置され、フェライト組織を有する鋼板とオーステナイト組織を有する鋼板とは拘束されなく接続される。
【0091】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図5に示す。オーステナイト組織を有する鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはL0=1530mmであり、幅はW0=100mmであり、鋼板の厚さはT=14mmである。
【0092】
前記オーステナイト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、27.5%Mn、4.0%Si、0.6%Al、0.002%C、2.0%Ni、0.7%Cu、0.007%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト組織を有する鋼板の降伏強度は229MPaであり、伸び率は58%である。前記オーステナイト組織を有する鋼板のオーステナイトの平均粒径は126μmである。
【0093】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板の幾何学的形状を
図6所示。フェライト組織を有する鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、コアでのエネルギー吸収部)の長さはl0=1530mmであり、幅はw0/2=34mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0094】
前記フェライト組織を有する鋼板の化学成分およびその質量百分率は、0.18%Mn、0.05%Si、0.01%C、0.04%Ti、0.01%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト組織を有する鋼板の降伏強度は122MPaであり、伸び率は50%である。前記フェライト組織を有する鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト組織を有する鋼板のフェライトの平均粒径は86μmである。
【0095】
前記オーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さは、前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の長さと同じである。前記フェライト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積とオーステナイト組織を有する鋼板のコアでのエネルギー吸収部の断面積との比は0.389(0.4未満)である。
【0096】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0097】
前記部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーは、30mmの変位で、3サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、また、38mmの変位で引張と圧縮の塑性変形を交互に受け、コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト組織を有する鋼板が38mmの変位で繰り返し変形の6サイクル目で疲労破壊が発生し、即ち、前記鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断する。変位38mmの繰り返し変形の繰り返し応力ーひずみ曲線から求めた軸方向鋼製ダンパーの降伏変位は約4.5mmである。
【0098】
コアでのエネルギー吸収構造が部分的に溶断した後、前記軸方向鋼製ダンパーは続けて38mmの変位で30サイクルで引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、前記軸方向鋼製ダンパーはまだ、疲労破壊が発生しなく、かつ載荷能力が低下されない。前記軸方向鋼製ダンパーはまた、75mmの変位で、引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受け、3.5サイクル目で破壊する。したがって、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は約75mmである。計算された前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は約16.7である。したがって、本比較例に記載の部分的に溶断可能な2段階エネルギー吸収のための軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は18未満である。
【0099】
実施例の上記の説明は、当業者が本発明を理解し、使用できるようにするためのものである。当業者であれば、創意工夫をすることなく、これらの実施例に様々な変更を容易に加え、本明細書に記載の一般原理を他の実施例に適用できることは明らかである。したがって、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の開示に基づいて、本発明の範囲を逸脱しない範囲で当業者が行う改良や修正は本発明の保護範囲内にあるものとする。
【符号の説明】
【0100】
1、フェライト組織を有する鋼板、
2、オーステナイト組織を有する鋼板、
3、コンクリート、
4、周囲拘束鋼管、
5、軸方向鋼製ダンパー、
6、中間接続板、
7、鋼製ブレース、
8、球面ヒンジ。
【国際調査報告】