(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-24
(54)【発明の名称】冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241017BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20241017BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20241017BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/54
C22C38/52
C21D9/46 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525314
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 IB2021060008
(87)【国際公開番号】W WO2023073410
(87)【国際公開日】2023-05-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パナヒ,デイモン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヒョジン
(72)【発明者】
【氏名】チャラ,ベンカタ・サイ・アナンス
(72)【発明者】
【氏名】リン,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
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4K037FE03
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4K037FF02
4K037FG00
4K037FG01
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4K037FK02
4K037FK03
4K037FL01
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、重量パーセントで、0.2%≦C≦0.35%、0.5%≦Mn≦1.5%、0.1%≦Si≦0.6%、0%≦Al≦0.1%、0.01%≦Ti≦0.1%、0.0001%≦B≦0.010%、0%≦P≦0.02%、0%≦S≦0.03%、0%≦N≦0.09%を含み、任意元素を含むことができ、該鋼の微細組織は、面積率で、少なくとも80%の焼戻しマルテンサイト、3~15%のベイナイト、1%~7%のマルテンサイト、0~12%のフェライト及び0~2%の残留オーステナイトを含む冷間圧延熱処理鋼板を扱う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延熱処理鋼板であって、重量パーセントで表される以下の元素、すなわち、
0.2%≦C≦0.35%、
0.5%≦Mn≦1.5%、
0.1%≦Si≦0.6%、
0%≦Al≦0.1%、
0.01%≦Ti≦0.1%、
0.0001%≦B≦0.010%、
0%≦P≦0.02%、
0%≦S≦0.03%、
0%≦N≦0.09%
を含み、以下の任意の元素、すなわち、
0%≦Cr≦0.6%、
0%≦Nb≦0.09%、
0%≦Mo≦0.9%、
0%≦V≦0.1%、
0%≦Ni≦2%、
0%≦Cu≦2%、
0%≦Ca≦0.005%、
0%≦Ce≦0.1%、
0%≦Mg≦0.05%、
0%≦Zr≦0.05%
の1つ以上を含むことができ、残余の組成は、鉄及び加工によって生じる不可避の不純物から構成され、該鋼の微細組織は、面積率で、少なくとも80%の焼戻しマルテンサイト、3~15%のベイナイト、1%~7%のマルテンサイト、0~12%のフェライト及び0~2%の残留オーステナイトを含む冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
前記組成が、0.22%~0.33%の炭素を含む、請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
前記組成が、0.55%~1.4%のマンガンを含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
前記組成が、0%~0.06%のアルミニウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
前記組成が、0.1%~0.5%のケイ素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
前記マルテンサイトが1%~6%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
前記焼戻しマルテンサイトが80%~95%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
前記板が、1440MPa以上の極限引張強さ及び1120MPa以上の降伏強度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
以下の連続工程を含む冷間圧延熱処理鋼板の製造方法。
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼組成を提供する工程、
- 前記半製品を1000℃~1300℃の温度まで再加熱する工程、
- 熱間圧延仕上げ温度が850℃を超えるオーステナイト範囲で前記半製品を圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、
- 前記板を少なくとも5℃/秒の冷却速度で680℃以下の巻取り温度まで冷却し、及び前記熱間圧延板を巻き取る工程、
- 前記熱間圧延板を室温まで冷却する工程、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板にスケール除去プロセスを実施する工程、
- 任意選択で、熱間圧延鋼板に焼鈍を行ってもよい工程、
- 任意選択で、前記熱間圧延鋼板にスケール除去プロセスを実施する工程、
- 前記熱間圧延鋼板を35~90%の圧下率で冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る工程、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板を、室温から、Ac3+10℃~Ac3+150℃の温度TAまで、1℃/秒~30℃/秒の加熱速度HR1で加熱し、それを100~1000秒間保持する工程、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板をTAから、Ms~Ms-150℃までの温度CS1まで、5℃/秒~200℃/秒までの冷却速度CR1で冷却する工程、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板をCS1温度で1~500秒間保持する工程、
- 次いで、少なくとも1℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して冷間圧延熱処理鋼板を得る工程。
【請求項10】
前記巻取り温度が680℃~500℃である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
CS1が200℃~350℃である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
HR1が1℃/秒~20℃/秒である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
TAが800℃~900℃である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に従い得ることができる鋼板、又は請求項9~13のいずれか一項に記載の方法によって製造された鋼板の、車両の構造部品の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用鋼板として好適な冷間圧延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品には、2つの矛盾する要求、すなわち、成形の容易さ及び強度を満たす必要があるが、近年、地球環境問題を考慮して、自動車にも燃費向上という第三の要求が課せられている。したがって、現在、自動車部品は、複雑な自動車アセンブリに適合し易いという基準に適合するために、高成形性を有する材料から作製されなければならず、同時に、燃費の向上のために車両を軽量化しながら、車両の耐衝突性及び耐久性のために強度を改善しなければならない。さらに、鋼部品は液体金属脆化を起こさずに溶接可能でなければならない。
【0003】
そのため、材料の強度を高めることによって自動車に使用される材料の量を減らすために、懸命な研究開発の努力がなされている。逆に、鋼板の強度を高めると成形性が低下するため、高強度及び高成形性を兼ね備えた材料の開発が必要とされている。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における先行研究及び開発は、高強度及び高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法をもたらしており、そのうちのいくつかは、本発明の最終的な評価のために本明細書に列挙されている。
【0005】
EP3561119号は、低降伏比及び優れた均一伸びを有する焼戻しマルテンサイト鋼を提供し、該焼戻しマルテンサイト鋼は重量%で、0.2~0.6%のC、0.01~2.2%のSi、0.5~3.0%のMn、0.015%以下のP、0.005%以下のS、0.01~0.1%のAl、0.01~0.1%のTi、0.05~0.5%のCr、0.0005~0.005%のB、0.05~0.5%のMo、0.01%以下のNを含み、残余はFe及び不可避の不純物であり、0.4~0.6の降伏比を有し、引張強さと一様伸びの積(TS*U-El)が10,000MPa%以上であり、面積率で焼戻しマルテンサイトを90%以上、フェライトを5%以下、残余をベイナイトとした微細組織を有する。しかし、YS/TS比は達成されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3561119号明細書
【発明の概要】
【0007】
高強度及び高成形性鋼板の製造に関する既知の先行技術は、一方又は他方の欠落という欠点を有する。したがって、1440MPaを超える強度を有する冷間圧延鋼板及びその製造方法が必要とされている。
【0008】
本発明の目的は、以下を同時に有する冷間圧延熱処理鋼板を利用できるようにすることにより、上記課題を解決することにある。
- 1440MPa以上、好ましくは1470MPaを超える極限引張強さ、
- 1120MPaを超える、好ましくは1130MPaを超える降伏強度。
【0009】
好ましい実施形態では、冷間圧延熱処理鋼板は6.5%以上の全伸び率を有する。
【0010】
好ましい実施形態では、冷間圧延熱処理鋼板は0.70を超えるYS/TS比を示す。
【0011】
好ましくは、そのような鋼はまた、良好な溶接性及び被覆能力と共に、成形、特に圧延に良好な適合性を有することができる。
【0012】
本発明の別の目的はまた、製造パラメータのシフトに対してロバストでありながら、従来の工業用途に適合するこれらの板の製造方法を利用可能にすることである。
【0013】
本発明の冷間圧延熱処理鋼板は、その耐食性を改善するために、任意選択で亜鉛若しくは亜鉛合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金をコーティングしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0015】
炭素は、鋼中に0.2%~0.35%存在する。炭素は、焼鈍後の冷却時にフェライト及びベイナイトの形成を遅らせて鋼板の強度を高めるために必要な元素である。0.2%未満の含有率では、本発明の鋼は適度な引張強さ及び延性を有することはないであろう。一方、炭素含有率が0.35%を超えると、溶接部及び熱影響部が著しく硬化し、溶接部の機械的特性が損なわれる。炭素の好ましい限度は0.22%~0.33%であり、より好ましい限度は0.22%~0.3%である。
【0016】
本発明の鋼のマンガン含有率は0.5%~1.5%である。マンガンは強度を付与する元素であり、フェライトの形成を遅らせて鋼板の強度及び焼入性を付与するためには0.5%以上のマンガンが必要である。したがって、0.55~1.4%などのより高い割合のマンガンが好ましく、より好ましくは0.6%~1.3%である。しかし、マンガンが1.5%を超えると、ベイナイト変態の等温保持時にオーステナイトからベイナイトへの変態が遅くなり延性が低下するなどの悪影響を及ぼす。また、マンガンが1.5%を超えると、マルテンサイトの形成が目標限度を超え、したがって伸びが低下する。さらに、マンガン含有率が1.5%を超えると、中心偏析が起こり、本鋼の溶接性も低下する。さらに、高いマンガン含有率は、鋼製造業者及び自動車産業にとって重要な基準である水素遅れ破壊の点で有害である。
【0017】
本発明の鋼のケイ素含有率は0.1%~0.6%である。ケイ素は、固溶強化による強度向上に寄与する元素である。ケイ素は、焼鈍後の冷却中に炭化物の析出を遅らせることができる構成成分であり、したがって、ケイ素はマルテンサイトの形成を促進する。しかし、ケイ素はフェライト形成剤でもあり、またAc3変態点を上昇させ、これは焼鈍温度をより高い温度範囲に押し進め、これがケイ素の含有率が最大0.6%に維持される理由である。0.6%を超えるケイ素含有率はまた、脆化を強化する可能性があり、加えてケイ素はまたコーティング性を損なう。ケイ素の存在の好ましい限度は、0.1%~0.5%、より好ましくは0.15%~0.4%である。
【0018】
本発明の鋼のアルミニウムの含有率は0~0.1%である。アルミニウムは、鋼を脱酸して酸素を捕捉するために、製鋼中に添加することができる。0.1%を超えるとAc3点が高くなり、生産性が低下する。また、このような範囲内では、アルミニウムが鋼中の窒素と結合して窒化アルミニウムを形成して結晶粒のサイズを小さくし、またアルミニウムはセメンタイトの析出を遅らせるが、本発明ではアルミニウムの含有率が0.1%を超えると、窒化アルミニウムの量及びサイズは、穴広げ及び曲げに有害であり、またAc3を、達成するのに工業的に非常に高価であるより高い温度範囲に押しやり、さらに焼鈍均熱中に結晶粒の粗大化を引き起こす。アルミニウムの好ましい限度は0%~0.06%であり、より好ましくは0%~0.05%である。
【0019】
チタンは、本発明の鋼に0.01%~0.1%、好ましくは0.01%~0.09%添加される元素である。炭化物、窒化物及び炭窒化物の形成は、完全焼鈍がより細かくなった後の結果としての焼鈍均熱温度範囲の間の析出硬化によって本発明による鋼に強度を付与するのに適しており、製品の硬化につながる。しかし、チタンの含有率が0.1%を超えると、チタンが多量の析出物を形成することによって炭素を消費し、多量の析出物が鋼の延性を低下させる傾向があるため、本発明にとって好ましくない。
【0020】
ホウ素は必須元素であり、鋼を硬化させるために0.0001%~0.010%、好ましくは0.001%~0.004%添加することができる。ホウ素は前記窒化物を阻止して窒化ホウ素を形成し、これが本発明の鋼に強度を付与する。ホウ素はまた、本発明の鋼に焼入性を付与する。しかし、ホウ素を0.010%より多く添加すると、鋼板の圧延性が著しく低下することがわかった。さらなるホウ素偏析が粒界で起こり得、これは成形性にとって有害である。
【0021】
本発明の鋼のリン含有率は0.02%に制限される。リンは固溶体中で硬化する元素である。したがって、少なくとも0.002%の少量のリンが有利であり得るが、リンは、特にその粒界での偏析又はマンガンとの共偏析の傾向に起因して、スポット溶接性及び熱間圧延性の低下などのその悪影響も有する。これらの理由から、その含有率は、好ましくは最大0.015%に制限される。
【0022】
硫黄は必須元素ではないが、鋼中に不純物として含まれていてもよい。硫黄含有率は低いほど好ましいが、製造コストの観点から0.03%以下、好ましくは最大で0.005%である。さらに、より高い硫黄が鋼中に存在する場合、特に、Mn及びTiと結合して硫化物を形成し、本発明の鋼の曲げ、穴広げ及び伸びに悪影響を与える。
【0023】
窒素は、材料の経年劣化を避けるため、鋼の機械的特性にとって悪影響のある凝固中の窒化物の析出を最小限に抑えるために0.09%に制限される。
【0024】
モリブデンは任意元素であり、本発明の鋼において0%~0.9%存在する。モリブデンは焼入性及び硬度を向上させる上で有効な役割を果たし、少なくとも0.01%の量で添加すると焼鈍後の冷却時にフェライト及びベイナイトの形成を遅らせる。Moはまた、熱間圧延製品の靭性に有益であり、製造がより容易となる。しかし、モリブデンの添加は、合金元素の添加のコストを過度に増加させるので、経済的な理由から、その含有率は0.9%に制限される。モリブデンの好ましい限度は0%~0.7%であり、より好ましくは0%~0.6%である。
【0025】
クロムは、本発明の鋼の任意元素であり、0%~0.6%存在する。クロムは、鋼に強度及び硬化を提供するが、使用する場合0.5%を超えると、鋼の表面仕上げを損なう。クロムの好ましい限度は0.01%~0.5%、より好ましくは0.01%~0.4%である。
【0026】
ニオブは任意元素であり、0%~0.09%、好ましくは0.001%~0.08%、より好ましくは0.01%~0.07%存在し得る。炭窒化物の形成は、完全焼鈍がより細かくなった後の結果としての焼鈍均熱温度範囲の間の析出硬化によって本発明による鋼に強度を付与するのに適しており、製品の硬化につながる。しかし、ニオブ含有率が0.09%を超える場合、多量の炭窒化物を形成することによってニオブが炭素を消費することは、多量の炭窒化物が鋼の延性を低下させる傾向があるため、本発明にとって好ましくない。
【0027】
バナジウムは、本発明の鋼に0%~0.1%、好ましくは0.001%~0.1%添加され得る任意元素である。ニオブと同様に、バナジウムは炭窒化物に関与するため、硬化においてある役割を果たす。しかし、鋳造製品の凝固中に現れるVNを形成することにも関与する。Vの量は、穴広げに有害な粗いVNを回避するために0.1%に制限される。バナジウム含有率が0.001%未満である場合、バナジウムは本発明の鋼にいかなる効果も与えない。
【0028】
本発明の鋼の強度を高め、耐食性を向上させるために、任意元素として銅を0%~2%添加してもよい。このような効果を得るためには最低0.01%が好ましい。しかし、その含有率が2%を超えると、表面形態が悪化するおそれがある。
【0029】
任意元素としてニッケルを0~2%の量で添加すると、本発明の鋼の強度を高め、靭性を向上させることができる。このような効果を得るためには最低0.01%が好ましい。しかし、その含有率が2%を超えると、ニッケルが延性低下の原因となる。
【0030】
カルシウムは、本発明の鋼に0%~0.005%、好ましくは0.001%~0.005%添加され得る任意元素である。カルシウムは、特に介在物処理中に任意元素として本発明の鋼に添加される。カルシウムは、鋼の球状化の際に悪影響を及ぼす硫黄含有を補足することによって鋼の製錬に寄与する。
【0031】
セリウム、マグネシウム又はジルコニウムなどの他の元素は、以下の比率、すなわち、Ce≦0.1%、Mg≦0.05%及びZr≦0.05%で個々に又は組み合わせて添加することができる。示された最大含有率レベルまで、これらの元素は、凝固中に介在物粒子を微細化することを可能にする。
【0032】
鋼の組成の残余は、鉄及び加工から生じる不可避の不純物からなる。
【0033】
本発明による鋼板の微細組織は、面積率で少なくとも80%の焼戻しマルテンサイト、3%~15%のベイナイト、1%~7%のマルテンサイト、0%~12%のフェライト及び0~2%の残留オーステナイトを含む。
【0034】
微細組織中の相の表面分率は、以下の方法によって測定される。試料を鋼板から切り出し、研磨し、それ自体既知の試薬でエッチングして、微細組織を明らかにする。その後、断面を走査型電子顕微鏡、例えば、電界放出電子銃を有する走査型電子顕微鏡(「FEG-SEM」)を用いて、二次電子モードにおいて5000倍を超える倍率で、検査する。
【0035】
フェライトの画分の測定は、ニタール又はピクラル/ニタール試薬エッチング後のSEM観察により行われる。残留オーステナイトの測定はXRDによって行い、パーティションマルテンサイトについては、Metallurgical and Materials transactions、40A巻、2009年5月-1059の刊行物中のS.M.C.Van Bohemen及びJ.Sietsmaに従って、膨張率測定試験を行った。
【0036】
焼戻しマルテンサイトは、面積分率で微細組織の少なくとも80%を構成する。焼戻マルテンサイトは焼鈍後の特にMs温度未満、より具体的にはMs-10℃未満で冷却時に形成される、マルテンサイトから生じる。このようなマルテンサイトは保持中に200℃~Ms-10℃の焼戻し温度Ttemperで焼戻される。本発明の焼戻しマルテンサイトは、このような鋼に延性及び強度を付与する。好ましくは、焼戻しマルテンサイトの含有率は80%~95%、より好ましくは80%~90%である。
【0037】
ベイナイトは3%~15%の量で含まれる。本発明の枠組みにおいて、ベイナイトは、炭化物を含まないベイナイト及び/又はラスベイナイトと粒状ベイナイトとを含むことができる。存在する場合、ラスベイナイトは、1ミクロン~5ミクロンの厚さのラスの形態である。存在する場合、炭化物を含まないベイナイトは、非常に低い密度の炭化物を有し、100μm2の面積単位当たり100個未満の炭化物を有し、場合によっては島状オーステナイトを含有するベイナイトである。存在する場合、粒状ベイナイトは、粒内に炭化物が存在する粒の形態である。ベイナイトは改善された伸びを提供する。ベイナイトの好ましい存在は3%~12%であり、より好ましくは3%~11%である。
【0038】
フェライトは、本発明の鋼の面積分率で微細組織の0%~12%を構成する。フェライトは、本発明の鋼に強度及び伸びを付与する。本鋼のフェライトは、ポリゴナルフェライト、ラスフェライト、針状フェライト、板状フェライト又はエピタキシャルフェライトを含み得る。本発明のフェライトは、焼鈍後の冷却時に形成される。しかし、フェライトの含有率が本発明の鋼中に10%を超えて存在すると、焼戻しマルテンサイト、マルテンサイト、ベイナイト等の硬質相との硬度差が大きくなり、局部延性が低下し、全伸び及び降伏強度が低下するという事実により、降伏強度及び全伸びの両者を同時に得ることができない。本発明のフェライトの好ましい存在限度は、0%~11%、より好ましくは0%~10%である。
【0039】
マルテンサイトは、面積分率で微細組織の1%~7%を構成する。本発明は、冷間圧延鋼板の過時効保持後の冷却によりフレッシュマルテンサイトを形成する。マルテンサイトは、本発明の鋼に延性及び強度を付与する。しかし、フレッシュマルテンサイトの存在が10%を超える場合、フレッシュマルテンサイトが残留オーステナイトと同じ量の炭素含有量を有し、したがってフレッシュマルテンサイトが脆く硬いという理由により、それは過剰な強度を付与するが、本発明の鋼の許容限度を超えて伸びを低下させる。したがって、本発明の鋼に対するフレッシュマルテンサイトの好ましい限度は1%~6%、より好ましくは1%~5%である。
【0040】
残留オーステナイトは、鋼中に0%~2%存在し得る任意の微細組織である。
【0041】
本発明による冷間圧延鋼板は、任意の適切な方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成鋳造物を提供することにある。鋳造は、インゴットにするか、又は薄いスラブ若しくは薄いストリップの形態、すなわち、スラブに対する約220mmから薄いストリップに対する数十ミリメートルまでの範囲の厚さで連続的に行うことができる。
【0042】
例えば、スラブは半製品と見なされる。上記の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、スラブは、好ましくは、鋳造中に直接軽圧下を受け、中心偏析及び気孔率低下の排除を確実にした。連続鋳造プロセスによって提供されるスラブは、連続鋳造後に高温で直接使用することができるか、又は最初に室温まで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0043】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、好ましくは少なくとも1000℃、好ましくは1150℃を超え、及び、1300℃未満でなければならない。スラブの温度が1150℃未満であると、圧延機に過大な荷重がかかり、さらに仕上げ圧延時に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下することがあり、そのため鋼は、構造中に変態したフェライトが含まれた状態で圧延されることになる。さらに、工業的に高価であるため、温度は1300℃を超えてはならない。
【0044】
スラブの温度は、オーステナイト領域で熱間圧延を完全に完了することができ、最終熱間圧延温度が850℃を超えたままになるように充分に高い。最終圧延が850℃を超えて行われることが必要であるが、これは、この温度を下回ると鋼板の圧延性が著しく低下するからである。
【0045】
次いで、このようにして得られた板を少なくとも5℃/秒の冷却速度で680℃以下の温度まで冷却する。好ましくは、冷却速度は、100℃/秒以下かつ10℃/秒よりも高い。その後、熱間圧延鋼板は、680℃未満、好ましくは500℃~680℃、より好ましくは520℃~670℃の巻き取り温度で巻き取られる。その後、巻き取られた熱間圧延鋼板は、好ましくは室温まで冷却される。次いで、熱間圧延板を酸洗いなどの任意のスケール除去プロセスに供して、熱間圧延中に形成されたスケールを除去し、熱間圧延鋼板を任意のホットバンド焼鈍に供する前に熱間圧延鋼板の表面にスケールがないことを確実にすることができる。
【0046】
熱間圧延板は、1~96時間、350℃~750℃の温度で任意のホットバンド焼鈍に供され得る。このようなホットバンド焼鈍の温度及び時間は、熱間圧延板の軟化を確実にし、熱間圧延鋼板の冷間圧延を容易にするように選択される。次いで、熱間圧延板は、ホットバンド焼鈍の間に形成されたスケールを除去するために、酸洗いなどの任意のスケール除去プロセスに供され得る。
【0047】
次いで、この熱間圧延鋼板を室温まで冷却した後、熱間圧延鋼板を35~90%の圧下率で冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得る。
【0048】
次いで、冷間圧延鋼板を焼鈍に供して、本発明の鋼に目標とする微細組織及び機械的特性を付与する。
【0049】
焼鈍では、冷間圧延鋼板を室温から、Ac3+10℃~Ac3+150℃の均熱温度TAまで1℃/秒~30℃/秒の加熱速度HR1で加熱する。1℃/秒~20℃/秒、より好ましくは1℃/秒~10℃/秒の加熱速度HR1を有する。好ましいTA温度は800℃~900℃である。
【0050】
次いで、冷間圧延鋼板を焼鈍均熱温度TAに100~1000秒間保持して、均熱の終了時に100%のオーステナイトを形成するのに充分な変態を確実にする。次いで、冷間圧延鋼板は、5℃/秒~200℃/秒、好ましくは8℃/秒~100℃/秒、より好ましくは10℃/秒~70℃/秒の平均冷却速度CR1で、Ms~Ms-150℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは220℃~330℃である冷却停止温度範囲CS1まで冷却される。鋼はCS1温度で1秒~500秒の時間保持される。この冷却工程の間に、本発明のマルテンサイトが形成される。CS1温度がMs-40℃より高い場合、本発明の鋼は、全伸びに有害である多すぎるオーステナイトを有し、CS1がMs-150℃より低い場合、フレッシュマルテンサイトの量が多すぎ、全伸び目標が達成されない。
【0051】
次いで、冷間圧延鋼板を少なくとも1℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して冷間圧延熱処理鋼板を得る。
【0052】
次いで、得られた冷間圧延熱処理鋼板は、任意選択で、既知の方法のいずれかによってコーティングすることができる。コーティングは、亜鉛若しくは亜鉛系合金で、又はアルミニウム若しくはアルミニウム系合金で作製することができる。
【0053】
コーティングされた製品の脱気を確実にするために、好ましくは12時間~30時間の間170~210℃で行われる任意選択のポストバッチ焼鈍を、製品をコーティングした後に行うことができる。その後、室温まで冷却して冷間圧延被覆鋼板を得る。
【実施例】
【0054】
本明細書に提示される以下の試験及び実施例は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示し、広範な実験後に本発明者らによって選択されたパラメータの重要性を説明し、さらに本発明による鋼によって達成され得る特性を確立する。
【0055】
表1にまとめた組成及び表2に集めた加工パラメータを用いて、本発明による鋼板及びいくつかの比較グレードの鋼板の試料を調製した。これらの鋼板の対応する微細組織を表3にまとめ、特性を表4にまとめた。
【0056】
表1は、重量パーセントで表される組成を有する鋼を示し、各鋼についてのAc3及びMsも示し、Ac3温度及びMs温度は、Journal of the Iron and Steel Institute、203、721~727、1965で公開されたAndrewsによって導き出される式から計算する。
【0057】
Ac3(℃)=910-203×(%C)^(1/2)-15.2×(%Ni)+44.7×(%Si)+104×(%V)+31.5×(%Mo)+13.1×(%W)-30×(%Mn)-11×(%Cr)-20×(%Cu)+700×(%P)+400×(%Al)+120×(%As)+400×(%Ti)。
【0058】
Ms(℃)=539-423×(%C)-30.4×(%Mn)-12.1×(%Cr)-17.7×(%Ni)-7.5×(%Mo)
【0059】
【0060】
表2は、表1の鋼に実施された焼鈍プロセスパラメータをまとめたものである。
【0061】
さらに、本発明及び参考例の鋼の焼鈍処理を行う前に、試料を1150℃~1300℃の温度まで加熱し、熱間圧延した。全ての試行を、55%の冷間圧延圧下率で冷間圧延した。
【0062】
【0063】
表3は、面積率において、本発明の鋼及び参考試行の両方の微細構造組成を測定するための走査型電子顕微鏡等の異なる顕微鏡について標準に従って行われた試験の結果をまとめた。
【0064】
【0065】
上記の表から、本発明による試行が全て微細組織の目標を満たすことがわかり、これは参考例には当てはまらない。
【0066】
表4は、本発明の鋼及び参考鋼の両方の機械的特性及び表面特性をまとめている。
【0067】
<表4:試行の機械的特性>
降伏強度YS、引張強さTS及び全伸びTEを、2009年10月に公開されたISO規格ISO 6892-1に従って測定する。
【0068】
【0069】
上記の表から、本発明による試験が全て目標特性を満たすことがわかり、これは参考例には当てはまらない。
【国際調査報告】