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特表2024-538944可視域の反射率および透過率が低い反射防止膜を有する赤外線検知システム用高硬度光学窓
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】可視域の反射率および透過率が低い反射防止膜を有する赤外線検知システム用高硬度光学窓
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20241018BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241018BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
G02B1/115
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519296
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 US2022046039
(87)【国際公開番号】W WO2023069262
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/257,814
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/344,147
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/410,320
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ハート,シャンドン ディー
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,カール ウィリアム ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】コシク ウィリアムズ,カルロ アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】リン,リン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】プライス,ジェイムズ ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー,ニコラス マイケル
【テーマコード(参考)】
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2K009AA09
2K009BB02
2K009CC03
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC04
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA12
4G059EB03
(57)【要約】
基板と、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含む第1の多層膜と、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含む第2の多層膜とを含む検知システム用の窓を開示する。第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓の最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜および第2の多層膜は、対象の赤外波長域での窓の反射防止・透過特性を好適なものとしながら、可視スペクトルでの窓の反射率と透過率を比較的小さく抑えることにより、窓に暗色の外観を与えるとともに信号ノイズを低減するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と第2の面とを有する基板であって、前記第1の面と前記第2の面が前記基板の主面である、基板と、
前記基板の前記第1の面上に配置された第1の多層膜であって、該第1の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第1の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第1の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第1の多層膜と、
前記基板の前記第2の面上に配置された第2の多層膜であって、該第2の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第2の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第2の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第2の多層膜と、
を備える検知システム用の窓であって、
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される前記窓の最大硬さが、少なくとも8GPaであり、
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が90%を上回り、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均反射率が1%を下回り、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる前記窓の平均透過率が5%を下回るように構成される、窓。
【請求項2】
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように構成される、請求項1に記載の窓。
【請求項3】
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記窓のCIELABのL*値が45以下となるように構成され、
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜の側から見た場合の前記窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように構成される、請求項1又は2に記載の窓。
【請求項4】
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる前記窓の平均反射率が10%以下となるように構成される、請求項1又は2に記載の窓。
【請求項5】
前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が約1.7~約4.0であり、前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率が約1.3~約1.6であり、
前記1つ以上の高屈折率材料のいずれかと前記1つ以上の低屈折率材料のいずれかとの屈折率の差が約0.5以上である、請求項1又は2に記載の窓。
【請求項6】
前記第1の多層膜における前記交互層のうち、前記基板から最も遠い位置にある1層が前記窓の端面の材料を構成し、前記窓の前記端面の材料が前記低屈折率材料を含む、請求項1又は2に記載の窓。
【請求項7】
前記第1の多層膜が耐擦傷層を含み、該耐擦傷層は、前記1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、1500nm以上5000nm以下の厚さを有しており、
前記第1の多層膜における前記1つ以上の低屈折率材料と前記1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた前記交互層のうちの複数層により、前記耐擦傷層が前記端面から離間している、請求項6に記載の窓。
【請求項8】
前記耐擦傷層が前記端面から少なくとも1000nm離間している、請求項7に記載の窓。
【請求項9】
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含み、
前記第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、請求項1又は2に記載の窓。
【請求項10】
前記第2の多層膜に含まれる前記ケイ素層の合計厚さが250nm以上であり、
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、請求項9に記載の窓。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2021年10月20日を出願日とする米国特許出願第63/257814号、2022年5月20日を出願日とする同第63/344147号、および2022年9月27日を出願日とする同第63/410320号の米国特許法第120条に基づく優先権の利益を主張するものであり、これらのすべての開示内容は、参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、可視域の反射率および透過率が低い反射防止膜を有する赤外線検知システム用高硬度光学窓に関する。
【背景技術】
【0003】
光による検知と測距(light detection and ranging:「LIDAR」)システムは、電磁波放射器と検知器とを備えている。電磁波放射器は、電磁波放射器ビームを出射する。出射された電磁波放射器ビームは、物体で反射される場合があり、反射された電磁波放射器ビームを検知器が検出する。電磁波放射器ビームは、パルス状などにより径方向の範囲に広がり、視野全体にわたって物体を検出する。そして、検出された反射電磁波放射器ビームの特性から、物体に関する情報を解読することができる。電磁波放射器から物体までの距離は、電磁波放射器ビームが出射されてから反射された電磁波放射器ビームが検出されるまでのビームの飛行時間から求めることができる。物体が動いている場合には、その物体の移動経路と速度は、出射された電磁波放射器ビームが反射ビームとして検出される位置が径方向にどのようにシフトするかを時間の関数として求めたり、ドップラー周波数を測定したりすることにより求めることができる。
【0004】
自動車に搭載されるLIDARシステムなどの、露出した環境に搭載される赤外線検知システム(例えば、航空宇宙用途やホームセキュリティ用途の赤外線検知システム)は、環境や様々な損傷要因から保護する必要があり、例えば、カバーレンズやカバーガラス窓により保護される。また、他にも、LIDARシステムを車両に搭載することにより、LIDARシステムが提供する空間マッピング機能によって、アシスト運転、半自律運転、または完全自律運転を実現するという用途も考えられる。このような用途では、電磁波放射検知器は、車両のルーフまたは車両前方部の低い部分に取り付けられる。車両用のLIDARの用途では、905nmや1550nmなどの可視光域外の波長を持つ電磁波を出射する電磁波放射器が検討されている。また、石などの物体の衝突から電磁波放射検知器を保護するため、電磁波放射検知器と外界との間の電磁波放射検知器の視線上の位置には、窓が設置される。同様に、航空宇宙用途やホームセキュリティ用途のような他のLIDARシステム用途でも、電磁波放射器/検知器と外界との間に窓が設置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、石などの物体が窓に衝突すると、窓に擦傷などの損傷が生じて、出射された電磁波放射器ビームや反射されて返ってきた電磁波放射器ビームが窓で散乱することにより、LIDARシステムの有効性が損なわれてしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、第1の多層膜および第2の多層膜を含む窓により上記の問題を解決するものである。窓をLIDARシステムに取り付ける場合には、第1の多層膜を電磁波放射器/検知器とは反対の側に向けることができ、第1の多層膜に耐擦傷層を組み込むことにより、窓に耐損傷性を与えることができる。したがって、石などの物体が窓に衝突しても、出射された電磁波放射器ビームや反射されて返ってきた電磁波放射器ビームを散乱させるような欠陥が窓に生じにくくなるため、性能が向上する。さらに、第1の多層膜および第2の多層膜は、異なる屈折率を有する複数の材料(硬さと耐擦傷性を与える材料を含む)を交互に重ねた交互層を含んでいる。交互層の層数と層厚は、所望の波長域(例えば、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の波長域)において、窓が、高い透過率と低い反射率とを有するように構成することができる。さらに、交互に重ねた材料層は、可視スペクトルの波の透過量および反射量が比較的小さくなるように選択することができる。これにより、LIDARシステムの検出器に入射する可視光による信号ノイズを低減するとともに、美観上好ましい暗色の外観を窓に与えることができる。
【0007】
本開示の一実施形態によれば、検知システム用の窓が開示される。本窓は基板を備え、基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。また、本窓は、第1の多層膜も備える。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、本窓は、第2の多層膜も備える。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓の最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が90%を上回り、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が1%を下回り、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓の平均透過率が5%を下回るように構成される。
【0008】
本開示の他の実施形態によれば、検知システム用の窓が開示される。本窓は基板を備え、基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。また、本窓は、第1の多層膜も備える。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、本窓は、第2の多層膜も備える。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓が示す最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が0.5%を下回り、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する窓のCIELABのL*値が45以下となり、第1の多層膜の側から見た場合の窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように構成される。
【0009】
本開示の他の実施形態によれば、検知システム用の窓が開示される。本窓は基板を備え、基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。また、本窓は、第1の多層膜も備える。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、本窓は、第2の多層膜も備える。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高く、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓が示す最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が1%を下回り、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が90%を上回るように構成される。
【0010】
以下の詳細な説明において、さらなる特徴および利点の説明を行う。下記のさらなる特徴および利点は、当業者であれば、ある程度はその説明からただちに理解するであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、および添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することによって理解するであろう。
【0011】
上述の概略的な説明および以下の詳細な説明はいずれも、例示的なものに過ぎず、特許請求の範囲に記載の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図するものであることを理解されたい。添付の図面は、理解をより深めるために付するものであり、本明細書に組み込まれ、その一部をなすものとする。なお、図面は、1つ以上の実施形態を例示的に示すものであり、以下の詳細な説明と併せて、種々の実施形態の原理および作用を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】外界における車両の側面図であり、本開示の1つ以上の実施形態に係る、車両のルーフ上のLIDARシステムおよび車両の前方部上の別のLIDARシステムを示す図
図2】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図1のLIDARシステムの1つを示す模式図であり、筐体内の電磁波放射検知器が電磁波を出射し、出射された電磁波が窓を通って筐体から出て、反射波として窓を通って返ってくる様子を示す図
図3】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図2の領域IIIにおける図2に示す窓の断面図であり、窓が、基板を備え、基板の第1の面上に多層膜を備え、基板の第2の面上に第2の多層膜を備えることを示す図
図4】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図3の領域IVにおける図3に示す窓の断面図であり、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含む多層膜であって、多層膜の外界に最も近い端面が1つ以上の低屈折率材料の層のうちの1層により得られる、多層膜を示す図
図5】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図3の領域Vにおける図3に示す窓の断面図であり、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含む第2の多層膜であって、第2の多層膜の電磁波放射検知器に最も近い端面が1つ以上の低屈折率材料の層のうちの1層により得られる、第2の多層膜を示す図
図6】本開示の1つ以上の実施形態に係る、第1の多層膜と第2の多層膜をガラス基板上に配置して構成される実施例1の窓において、第2の多層膜に使用したケイ素材料の波長の関数としての屈折率および消衰係数を示すグラフ
図7】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例1の窓に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率および透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図8】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例1の窓の第1の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面透過率を示すグラフ
図9】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例1の窓の第1の多層膜に60度の入射角で入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面のP偏光透過率およびS偏光透過率を示すグラフ
図10】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例1の窓の第1の多層膜および第2の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面反射率を示すグラフ
図11】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例1の窓の第1の多層膜に垂直に入射する可視スペクトルの光に対する二面透過率を示すグラフ
図12A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例1の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図12B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例1の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
図13】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例1の窓に従って構築した2つのサンプルの第1の多層膜内への深さの関数としてのナノインデンテーション硬さを示すグラフ
図14】本開示の1つ以上の実施形態に係る、第1の多層膜と第2の多層膜をガラス基板上に配置して構成される実施例2の窓において、第2の多層膜に使用したケイ素材料の波長の関数としての屈折率および消衰係数を示すグラフ
図15】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例2の窓に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率および透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図16】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例2の窓の第1の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面透過率を示すグラフ
図17】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例2の窓の第1の多層膜に60度の入射角で入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面のP偏光透過率およびS偏光透過率を示すグラフ
図18】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例2の窓の第1の多層膜および第2の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面反射率を示すグラフ
図19】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例2の窓の第1の多層膜に垂直に入射する可視スペクトルの光に対する二面透過率を示すグラフ
図20A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例2の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図20B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例2の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
図21】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例3の窓に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率および透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図22】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例3の窓の第1の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面透過率を示すグラフ
図23】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例3の窓の第1の多層膜に60度の入射角で入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面のP偏光透過率およびS偏光透過率を示すグラフ
図24】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例3の窓の第1の多層膜および第2の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面反射率を示すグラフ
図25】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例3の窓の第1の多層膜に垂直に入射する可視スペクトルの光に対する二面透過率を示すグラフ
図26A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例3の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図26B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例3の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
図27】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例4の窓に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率および透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図28】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例4の窓の第1の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面透過率を示すグラフ
図29】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例4の窓の第1の多層膜に60度の入射角で入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面のP偏光透過率およびS偏光透過率を示すグラフ
図30】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例4の窓の第1の多層膜および第2の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面反射率を示すグラフ
図31】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例4の窓の第1の多層膜に垂直に入射する可視スペクトルの光に対する二面透過率を示すグラフ
図32A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例4の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図32B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例4の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
図33】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例5の窓に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率および透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図34】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例5の窓の第1の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面透過率を示すグラフ
図35】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例5の窓の第1の多層膜に60度の入射角で入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面のP偏光透過率およびS偏光透過率を示すグラフ
図36】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例5の窓の第1の多層膜および第2の多層膜に垂直に入射する光に対する、対象波長域である1500nm~1600nmの赤外波長域での二面反射率を示すグラフ
図37】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、実施例5の窓の第1の多層膜に垂直に入射する可視スペクトルの光に対する二面透過率を示すグラフ
図38A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例5の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図38B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例5の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
図39】本開示の1つ以上の実施形態に係る、第1の多層膜と第2の多層膜をガラス基板上に配置して構成される実施例6の窓において、第2の多層膜に使用したケイ素材料の波長の関数としての屈折率および消衰係数を示すグラフ
図40】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例6の窓に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図41】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例6の窓に入射する光に対する400nm~1600nmの波長域全域での二面反射率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図42】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例6の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図43】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例7の窓に入射する光に対する1500nm~1600nmの波長域全域での二面透過率に関する赤外性能を示すグラフ
図44】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例7の窓に入射する光に対する1500nm~1600nmの波長域全域での二面反射率に関する赤外性能を示すグラフ
図45】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例7の窓に入射する光に対する350nm~1600nmの波長域全域での二面透過率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図46】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例7の窓に入射する光に対する350nm~1600nmの波長域全域での二面反射率に関する可視~赤外性能を示すグラフ
図47】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モデリングにより得られた、第1の多層膜と第2の多層膜とを含む実施例7の窓に入射する光に対する400nm~700nmの波長域全域での二面透過率に関する可視性能を示すグラフ
図48】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例7の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB色空間a*値およびb*値を示すグラフ
図49】本開示の1つ以上の実施形態に係る、実施例7の窓の第1の多層膜に複数の入射角で入射する光に対するCIELAB明度L*値を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、LIDAR検知器に使用する窓の実施形態について詳しく説明する。なお、図面全体を通して、同一または類似の箇所は、可能な限り同一の参照番号を用いて示している。本明細書に記載の窓は、高屈折率材料と低屈折率材料を交互に重ねた交互層で構成される第1の多層膜および第2の多層膜を含むことができる。第1の多層膜および第2の多層膜は、対象となる所望の赤外波長域において比較的高い透過率と低い反射率が得られるように構成される。LIDARシステムにこの窓を取り付ける場合には、第1の多層膜を検知器/電磁波放射器とは反対の側である外界に曝される方の側に向ける一方、第2の多層膜を検知器/電磁波放射器の側に向けることができる。つまり、LIDARシステムを外側から見る人の目に映るのが第1の多層膜となるように取り付けることができる。電磁波放射器から出射した光は、最初に第2の多層膜に入射し、その後、基板内を伝搬することができる。本開示によれば、本明細書に記載の窓の第1の多層膜は、高屈折率材料の比較的厚い(例えば、500nm以上の)耐擦傷層を1層以上含むことができる。第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓の最大ナノインデンテーション硬さが、8GPa以上(例えば、10GPa以上、12GPa以上、14GPa以上)となるように、第1の多層膜に耐擦傷層を埋め込むことができる。このようなナノインデンテーション硬さを持たせることには、耐擦傷性が得られるとともにLIDARシステムの性能が向上するという利点がある。
【0014】
また、複数の態様において、本明細書に記載の窓の第1の多層膜と第2の多層膜における交互層は、赤外スペクトルにおいてLIDARシステムの動作にとって望ましい光学性能属性が得られるように構成される。複数の実施形態において、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が90%を上回る(例えば、95%以上となる)ように構成される。また、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に60度以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回る(例えば、90%以上、93%以上となる)ように構成される。
【0015】
また、さらなる態様において、本明細書に記載の窓の第1の多層膜および第2の多層膜は、可視光の反射率および透過率が比較的低くなるように構築することができる。これにより、窓の外観を美観上好ましい暗色の外観とすることができるうえ、信号ノイズが除去することができる。複数の実施形態において、例えば、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓の平均透過率が5%を下回るように構成される。このように低い可視光透過率は、本明細書に記載の量のケイ素層を第2の多層膜に組み込むことにより達成することができる。これにより、第1の多層膜から(すなわち、LIDAR検知器の外側から)60度以下の角度で見たときに本明細書に記載の窓が示すCIELAB明度L*値を、45以下(例えば、40以下、35以下、30以下)とすることができる。また、第1の多層膜から見たときに本明細書に記載の窓が示すCIELAB色空間a*値およびb*値を、-6以上6以下(例えば、-5以上5以下、-4以上4以下、-3以上3以下、-2.5以上2.5以下)とすることができる。外側から見る人に窓が目立たないように、第1の多層膜の側から見た窓の色は、黒色または比較的暗い色とすることができる。
【0016】
このように、本明細書に記載の窓は、1400nm~1600nmの範囲における所望の波長域に対して耐久性の高い反射防止性能を提供すると同時に、美観上好ましいうえに性能向上効果もある黒色または暗色の外観を提供するものである。本明細書に記載の窓は、検知器への可視光の入射を防いで信号対ノイズ比を向上することにより、LIDAR検知器の性能を既存の検知器に比べて向上させることができる。さらに、本明細書に記載の窓は、外側から見る人の目に不快なグレアが入るのを抑えることもできる。
【0017】
特に断りのない限り、本明細書に示している全反射率、鏡面反射率、および平均反射率の値は、窓の各材料界面(例えば、空気と多層膜の界面、多層膜と基板の界面など)に関連する反射率を含む、窓全体の全反射率を表す二面反射率の値である。また、特に断りのない限り、赤外における反射率値は、本明細書に記載の第2の多層膜の側(例えば、LIDARシステムの検知器兼放射器に面する側)から測定し、可視域での反射率値は、本明細書に記載の第1の多層膜の側(例えば、LIDARシステムの外界に面する側)から測定している。
【0018】
本明細書において特に断りのない限り、平均透過率および平均反射率の値を、指定された波長域内の様々な波長における反射率の値(%)や透過率の値(%)を用いて求めている。平均透過率および平均反射率の値は、所望の波長域内で少なくとも3つの反射率の値や透過率の値を測定し、それらの値を平均することにより求めることができる。
【0019】
本明細書において特に断りのない限り、CIELAB色空間a*値、b*値および明度L*値を、D65光源を用いて10度視野標準観察者の条件で測定/シミュレーションしている。
【0020】
本明細書において、「暗色の外観(dark appearance)」または「黒色の外観(black appearance)」という用語は、外表面から見たときの窓の反射外観を指す。本開示に係る暗色の外観または黒色の外観を有する窓は、60°以下の角度から見たときのCIELAB明度L*値が45を下回っている。
【0021】
なお、別段の明示的な記載がない限り、本明細書に記載のいかなる方法も、各ステップ(工程)を特定の順序で実施することを要請していると解釈されることを意図していない。したがって、方法クレームにおいてそのステップの順序を実際に記載している場合を除き、または、その他、各ステップが特定の順序に限定される旨の記載が請求の範囲または発明の詳細な説明において明確になされている場合を除き、各ステップの順序が推測されることは、いかなる点においても意図していない。これは、各ステップの並びまたは操作の流れについての論法の問題、文法的な構成または句読点から導き出される通俗的な意味、本明細書に記載の実施形態の数または種類など、解釈の根拠となり得るあらゆる非明示的事項に対して該当する。
【0022】
本明細書において、「および/または」という用語を2つ以上の項目の列記において使用する場合、列記された項目のうちいずれか1つを単独で使用してもよく、または列記された項目のうち2つ以上を任意の組み合わせで使用してもよいことを意味している。例えば、組成物が成分A、Bおよび/またはCを含有すると記載している場合、この組成物は、A単独、B単独、C単独、AとBとの組み合わせ、AとCとの組み合わせ、BとCとの組み合わせ、またはAとBとCとの組み合わせを含有することができる。
【0023】
当業者および本開示の製造または使用を行う者であれば、本開示の変形例を想起するであろう。したがって、当然ながら、図面に示す上述の各実施形態は、例示を目的としたものに過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本開示の範囲は、後述の特許請求の範囲により規定されるものであり、特許請求の範囲は、均等論(doctrine of equivalents)を含む特許法原則に従って解釈されるものである。
【0024】
本明細書において、第1の(first)と第2の(second)、上(top)と下(bottom)などの関係性用語は、或る実体または動作を他の実体または動作と区別するためにのみ用いるものであり、これらの実体または動作間の何らかの実際の関係または順序を必ずしも要求または示唆するものではない。「備える」「含む」「有する」(comprise、comprising)という用語またはこれらの他の変化形は、非限定的(non-exclusive)に含むという意味を有する。よって、プロセス、方法、物品、または装置が、列挙された要素を「備える」(「含む」「有する」)場合、列挙された要素のみを含むのではなく、明示的には列挙されていない他の要素や、かかるプロセス、方法、物品、または装置に固有の要素も含むことができる。冠詞「a」で導かれる要素を「備える」(「含む」「有する」)と記載している場合、さらなる制限条件を設けている場合を除き、当該要素を含むプロセス、方法、物品、または装置に、当該要素と同一の要素がさらに存在することを排除するものではない。
【0025】
本明細書において、「約(about)」という用語は、量、サイズ、配合、パラメータなどの数量や特性が、必ずしも厳密なものではなく、厳密にその値である必要もなく、むしろ、公差や、換算係数、端数処理、測定誤差などの当業者に公知の他の因子を必要に応じて織り込んだ、その数量や特性の近似値および/またはそれに前後する値とすることができることを意味している。よって、「約」という用語が、或る値または或る範囲の一端点の記述に使用されている場合には、その特定の値または特定の端点が本開示に含まれるものと理解されたい。なお、本明細書において、或る数値または或る範囲の一端点が「約」で導かれているか否かにかかわらず、当該数値または範囲の端点は、「約」による修飾を受けた実施形態と「約」による修飾を受けない実施形態という2つの実施形態を含むことが意図されている。また、各範囲の両端点が持つ意味は、互いに相関しているとともに互いに独立でもあることも理解されるであろう。
【0026】
また、「から形成される(formed from)」という用語は、「を備える(comprise)」、「本質的に~からなる(consist essentially of)」、「からなる(consist of)」のうちの1つ以上を意味することができる。例えば、或る構成要素が特定の材料「から形成される」場合、当該構成要素は、特定の材料を備える、本質的に特定の材料からなる、特定の材料からなる、のいずれであってもよい。
【0027】
また、本明細書において、「物品(article)」、「ガラス物品(glass-article)」、「セラミック物品(ceramic-article)」、「ガラスセラミック(glass-ceramic)」、「ガラス要素(glass element)」および「ガラスセラミック物品(glass-ceramic article(s))」という用語は、その最も広い意味で同義的に用いており、全体または一部がガラスおよび/またはガラスセラミック材料で作られた任意の物体を含むものである。
【0028】
本明細書において、「配置する(disposed)」という用語は、コーティング、蒸着、形成などの方法により表面に設けられる層または副層を指すために用いられる。「配置する」という用語は、層/副層を隣接する層/副層に直接接するように設ける場合、または介在材料(介在材料は層を形成してもしなくてもよい)により切り離して層/副層を設ける場合を含むことができる。
【0029】
本明細書において特に断りのない限り、本明細書に記載の材料の屈折率は、1550nmで測定した屈折率である。
【0030】
ここで図1を参照すると、車両10は1台以上のLIDARシステム12を備えている。この1台以上のLIDARシステム12は、車両10の上または内部のいずれの場所でも配置することができる。例えば、1台以上のLIDARシステム12を、車両10のルーフ14、車両10の前方部16またはその両方に配置することができる。
【0031】
ここで図2を参照すると、1台以上のLIDARシステム12のそれぞれが、当技術分野において公知の電磁波放射検知器18を備えている。電磁波放射検知器18は、筐体20内に収容することができる。電磁波放射検知器18は、或る波長または波長域を有する電磁波22を出射する。出射された電磁波22は、電磁波の出射経路上にある窓24を通って筐体20から出る。外界26にある物体(図示せず)が電磁波22の出射経路上にある場合、出射された電磁波22が当該物体で反射し、反射波28として電磁波放射検知器18に返ってくる。反射波28もやはり窓24を通って、電磁波放射検知器18に到達する。複数の実施形態において、出射波22および反射波28は、適切な対象波長域内の光を含むことができる。例えば、複数の実施形態において、出射波22および反射波28は、1400nm以上1600nm以下(例えば、1500nm以上1600nm以下、1525nm以上1575nm以下、約1550nm、1550nm)とすることができる。なお、反射波28以外の電磁波(例えば、可視スペクトル、一部の紫外域の波長を有する電磁波など)も窓24と相互作用することが考えられる。本明細書で説明しているように、窓24は、可視スペクトル光を吸収して比較的少量の可視スペクトル光を反射することにより、筐体20の外側から見たときの窓の外観が暗色または黒色の外観となるように設計された層構造を有する多層膜を備えることができる。
【0032】
「可視スペクトル(visible spectrum)」とは、人間の目に見える電磁スペクトル部分であり、一般に、約380nmまたは400nm~約700nmの範囲内の波長を有する電磁波を指す。「紫外域(ultraviolet range)」とは、電磁スペクトルにおける約10nm~約400nmの波長を有する部分である。電磁スペクトルの「赤外域(infrared range)」は、約700nm以上の長波長の領域である。太陽は、一般に「太陽光(sunlight)」と呼ばれる太陽電磁波を発生させるが、その波長はこれら3つの領域内に収まる。
【0033】
ここで図3を参照すると、1台以上のLIDARシステム12のそれぞれの窓24は、基板30を備えている。基板30は、第1の面32と第2の面34とを有している。第1の面32および第2の面34は、基板30の主面である。第1の面32は、外界26に最も近い面である。第2の面34は、電磁波放射検知器18に最も近い面である。出射波22は、第2の面34に遭遇してから第1の面32に遭遇する。一方、反射波28は、第1の面32に遭遇してから第2の面34に遭遇する。また、基板30は、基板30の第1の面32上に配置された第1の多層膜36と、基板30の第2の面34上に配置された第2の多層膜38とをさらに備えている。なお、本明細書に記載の窓24は、車両用途に限定されるものではなく、窓24を採用することにより、本明細書で詳細に説明する耐衝突性能および光学性能の改良に役立つと考えられるいかなる用途にも利用できることを理解されたい。
【0034】
基板30は、本開示の内容に合致する様々に異なる材料から構成することができる。複数の実施形態において、基板30は、任意の種類のガラス、ガラスセラミック、セラミック、または適切なポリマー系材料で構成することができる。次に、基板30の構造および組成の様々な例について詳細に説明する。
【0035】
複数の実施形態において、基板30はガラス組成物を含む、または基板30はガラス物品である。基板30は、例えば、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、化学強化ホウケイ酸塩ガラス、化学強化アルミノケイ酸塩ガラス、または化学強化ソーダ石灰ガラスを含むことができる。複数の実施形態において、基板30のガラス組成物は、イオン交換プロセスにより化学的に強化することが可能な組成物である。複数の実施形態において、この組成物を、リチウムイオンを含まない組成物とすることができる。
【0036】
基板30に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、アルミナと、少なくとも1つのアルカリ金属と、SiOとを含む。このガラス組成物は、複数の実施形態では、50モル%超のSiO、他の実施形態では、少なくとも58モル%のSiO、さらに他の実施形態では、少なくとも60モル%のSiOを含み、比(Al+B)/Σ修飾物質(すなわち、修飾物質の合計)が1より大きく、成分比はモル%で表され、式中の修飾物質は、アルカリ金属酸化物である。特定の実施形態では、この組成物は、58~72モル%のSiOと、9~17モル%のAlと、2~12モル%のBと、8~16モル%のNaOと、0~4モル%のKOとを含み、比(Al+B)/Σ修飾物質が1より大きい。
【0037】
基板30に適した他のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、64~68モル%のSiOと、12~16モル%のNaOと、8~12モル%のAlと、0~3モル%のBと、2~5モル%のKOと、4~6モル%のMgOと、0~5モル%のCaOとを含み、66モル%≦SiO+B+CaO≦69モル%、NaO+KO+B+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(NaO+B)-Al≦2モル%、2モル%≦NaO-Al≦6モル%、かつ4モル%≦(NaO+KO)-Al≦10モル%である。
【0038】
基板30に適した他のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、2モル%以上のAlおよび/もしくはZrO、または4モル%以上のAlおよび/もしくはZrOを含む。
【0039】
ガラス組成物の一例は、SiOと、Bと、NaOとを含み、(SiO+B)≧66モル%、かつNaO≧9モル%である。一実施形態では、組成物は、少なくとも6質量%の酸化アルミニウムを含む。さらなる実施形態において、1種以上のアルカリ土類酸化物の組成、例えばアルカリ土類酸化物の含有量は、少なくとも5質量%である。複数の実施形態において、適切な組成物は、KO、MgO、およびCaOのうちの少なくとも1つをさらに含む。特定の実施形態では、基板30の組成物は、61~75モル%のSiOと、7~15モル%のAlと、0~12モル%のBと、9~21モル%のNaOと、0~4モル%のKOと、0~7モル%のMgOと、0~3モル%のCaOとを含む。
【0040】
基板30に適したさらに他の例示的組成物は、60~70モル%のSiOと、6~14モル%のAlと、0~15モル%のBと、0~15モル%のLiOと、0~20モル%のNaOと、0~10モル%のKOと、0~8モル%のMgOと、0~10モル%のCaOと、0~5モル%のZrOと、0~1モル%のSnOと、0~1モル%のCeOと、50ppm未満のAsと、50ppm未満のSbとを含み、12モル%≦(LiO+NaO+KO)≦20モル%、かつ0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0041】
また、基板30に適したさらに他の例示的ガラス組成物は、63.5~66.5モル%のSiOと、8~12モル%のAlと、0~3モル%のBと、0~5モル%のLiOと、8~18モル%のNaOと、0~5モル%のKOと、1~7モル%のMgOと、0~2.5モル%のCaOと、0~3モル%のZrOと、0.05~0.25モル%のSnOと、0.05~0.5モル%のCeOと、50ppm未満のAsと、50ppm未満のSbとを含み、14モル%≦(LiO+NaO+KO)≦18モル%、かつ2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0042】
基板30は、実質的に平坦またはシート状の基板とすることができるが、他の実施形態では、湾曲形状などの他の形状に成形または整形された基板を利用することもできる。基板30の長さと幅は、窓24の要求寸法に応じて変えることができる。基板30の成形は、フロートガラスプロセスやダウンドロープロセス(例えば、フュージョンドロー、スロットドロー)などの様々な方法を用いて行うことができる。基板30には非強化状態のものを使用することができる。窓24に適した非強化基板30の市販品の例としては、ナトリウムアルミノケイ酸塩ガラス基板であるコーニング社(Corning)(登録商標)のガラスコード2320がある。
【0043】
基板30を形成するガラスは、第1の面32に連続する領域および/または第2の面34に連続する領域が圧縮応力(compressive stress:「CS」)を受けるように改質を施すことができる。かかる場合、圧縮応力を受ける領域は、第1の面32および/または第2の面34から圧縮深さまで延在する。また、このように圧縮応力が発生することにより、引張応力を受ける領域が中心部に形成される。引張応力は、この中心領域の中心で最大値をとり、この値を中心張力(central tension、center tension:CT)と呼ぶ。中心領域は、圧縮深さと圧縮深さの間に延在し、引張応力を受ける。中心領域の引張応力は、圧縮応力を受ける領域の圧縮応力と釣り合っている(圧縮応力を打ち消すように働く)。本明細書において、「圧縮深さ(depth of compression)」および「DOC」とは、基板30の内部で応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さを指す。圧縮深さは、正の応力(圧縮応力)から負の応力(引張応力)に応力が変化する深さであり、よって圧縮深さでは応力値がゼロとなる。圧縮深さは、基板30の第1の面32および/または第2の面34に鋭い衝撃が加わることにより生じたひびが圧縮深さを超えて進展することがないよう基板30を保護するものであり、圧縮応力は、成長したひびが圧縮深さを突破してしまう可能性を最小限に抑えるものである。複数の実施形態において、各圧縮深さは少なくとも20μmである。複数の実施形態において、圧縮応力を受ける領域内の最大圧縮応力CSの絶対値は、少なくとも200MPa、少なくとも約400MPa、少なくとも600MPa、または最大約1000MPaである。
【0044】
圧縮応力を受ける領域を持つ基板30の詳細かつ正確な応力プロファイル(深さの関数としての応力)を抽出する方法としては、2つの方法が米国特許第9140543号明細書に開示されている。米国特許第9140543号明細書(発明の名称「Systems and Methods for Measuring Stress Profile of Ion-Exchanged Glass(イオン交換ガラスの応力プロファイルを測定するためのシステムおよび方法)」、出願日:2012年5月3日、発明者:ダグラス クリッピンガー アラン他)は、米国仮特許出願第61/489800号(発明の名称:同上、出願日:2011年5月25日)の優先権の利益を主張するものであり、そのすべての開示内容は、参照により本明細書に援用するものとする。
【0045】
複数の実施形態において、圧縮応力を受ける領域を基板30に生成する工程は、基板30にイオン交換による化学強化プロセス(ion-exchange chemical tempering process)を行う工程を含む(化学強化(chemical tempering)は、「化学強化(chemical strengthening)」と呼ぶことも多い)。イオン交換による化学強化プロセスでは、基板30の第1の面32および第2の面34またはその近傍にあるイオンが、通常は価数や酸化状態の等しい、より大きなイオンに置換される。基板30が、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリホウケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス、またはアルカリケイ酸塩ガラスを含む(または、から本質的になる、または、からなる)実施形態では、ガラスの表層部のイオンおよび上述のより大きなイオンは、Na(Liがガラス中に存在する場合)、K、Rb、Csなどの一価のアルカリ金属カチオンである。あるいは、これに代えて、第1の面32および第2の面34の中またはその近傍の一価のカチオンを、アルカリ金属カチオンとは異なる一価のカチオン(Agなど)に置換することもできる。
【0046】
複数の実施形態において、イオン交換プロセスは、基板30中の小さいイオンと置換されることになる大きいイオンを含有する溶融塩浴に基板30を浸漬することにより行われる。イオン交換プロセスのパラメータとしては、限定されるものではないが、浴の組成と温度、浸漬時間、(1つ以上の)塩浴へのガラスの浸漬回数、複数の塩浴の使用、アニール工程や洗浄工程などの追加工程が挙げられる。そして、当業者であれば、かかるイオン交換プロセスのパラメータが、通常、基板30の組成、ならびに強化処理の結果として望まれる基板30の圧縮深さおよび圧縮応力によって定められることが理解されよう。一例を挙げれば、アルカリ金属を含有するガラス基板のイオン交換は、大きなアルカリ金属イオンの塩(例えば、限定されるものではないが、硝酸塩、硫酸塩、塩化物など)を含有する少なくとも1つの溶融浴に浸漬することにより行うことができる。複数の実施形態において、溶融塩浴は、硝酸カリウム(0~100質量%)、硝酸ナトリウム(0~100質量%)、および硝酸リチウム(0~12質量%)を含み、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの合計質量%は88質量%~100質量%の範囲内である。複数の実施形態において、溶融塩浴の温度は通常、約350℃~約500℃の範囲であり、浸漬時間は約15分~約40時間の範囲、例えば約20分~約10時間である。ただし、上記とは異なる温度や浸漬時間を用いることもできる。基板30は、酸研磨(acid polish)などの処理を行って、表面欠陥の影響を除去または軽減することができる。
【0047】
複数の実施形態において、基板30は、ガラス相とセラミック相の双方を有するガラスセラミック材料を含んでいる。例示的なガラスセラミックとしては、ガラス相が、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、またはアルミノホウケイ酸塩により形成され、セラミック相が、βスポジュメン、β石英、ネフェリン、カルシライト、またはカーネギアイトから形成される材料が挙げられる。「ガラスセラミック(glass-ceramic)」は、制御されたガラスの結晶化を利用して製造される材料を含む。適切なガラスセラミックの例としては、LiO-Al-SiO系(すなわち、LAS系)ガラスセラミック、MgO-Al-SiO系(すなわちMAS系)ガラスセラミック、ZnO×Al×nSiO(すなわちZAS系)、および/またはβ-石英固溶体、β-スポジュメン、コージライト、二ケイ酸リチウムなどを主要結晶相として含むガラスセラミックを挙げることができる。ガラスセラミック基板は、化学強化プロセスを用いて強化することができる。
【0048】
複数の実施形態において、基板30は、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、および/または炭窒化物などの無機結晶のようなセラミック材料を含む。例示的なセラミックとしては、アルミナ相、チタン酸アルミニウム相、ムライト相、コージライト相、ジルコン相、スピネル相、ペロブスカイト相、ジルコニア相、セリア相、炭化ケイ素相、窒化ケイ素相、酸窒化ケイ素アルミニウム相、またはゼオライト相を有する材料が挙げられる。
【0049】
複数の実施形態において、基板30は有機または適切なポリマー材料を含む。適切なポリマーの例としては、限定されるものではないが、ポリスチレン(PS)(スチレンコポリマーおよびブレンドを含む)、ポリカーボネート(PC)(コポリマーおよびブレンドを含む)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートコポリマーおよびポリエチレンテレフタレートコポリマーなどのコポリマーおよびブレンドを含む)、ポリオレフィン(PO)および環状ポリオレフィン(環状PO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリルポリマー(コポリマーおよびブレンドを含む)、熱可塑性ウレタン(TPU)、ポリエーテルイミド(PEI)、およびこれらのポリマー同士のブレンドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。また、他の例示的なポリマーとして、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。
【0050】
複数の実施形態において、基板30は複数の層または副層を含んでいる。基板30の複数の層または副層は、互いに同一であっても異なるものであってもよい。複数の実施形態において、例えば、基板30はガラス積層構造を有している。複数の実施形態において、ガラス積層構造は第1のガラス板と第2のガラス板を含み、第1のガラス板と第2のガラス板は、第1のガラス板と第2のガラス板との間に配置された適切な中間膜(例えば、ポリマー中間膜)を介して互いに接合されている。複数の実施形態において、ガラス積層構造は、ガラスの上にガラスを重ねた(glass-on-glass)積層構造(例えば、フュージョンドロープロセスにより形成した積層構造)を有している。また、ガラスとポリマーの(glass-polymer)積層体も、本開示の範囲に含まれる。本明細書に記載の光学的要件を満たすことができる材料であれば、任意の材料を基板30に使用することができる。
【0051】
複数の実施形態において、基板30は、約30GPa~約120GPaの範囲の弾性率(ヤング率)を示す。いくつかの例では、基板の弾性率は、約30GPa~約110GPa、約30GPa~約100GPa、約30GPa~約90GPa、約30GPa~約80GPa、約30GPa~約70GPa、約40GPa~約120GPa、約50GPa~約120GPa、約60GPa~約120GPa、約70GPa~約120GPaの範囲内、ならびにこれらの間のすべての範囲および部分範囲内とすることができる。
【0052】
複数の実施形態において、基板30は、可視波長領域において、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、約90%以上、約91%以上、または約92%以上の平均透過率を示す。複数の実施形態において、基板30は、着色成分(例えば、着色層または着色剤)を含み、任意選択的に、白色、黒色、赤色、青色、緑色、黄色、橙色などの色を示すことができる。
【0053】
図3に示すように、基板30は、第1の面32と第2の面34との間の最短直線距離として定義される厚さ35を有している。複数の実施形態において、基板30の厚さ35は、約100μm~約5mmである。複数の実施形態において、基板30の物理的な厚さ35は、約100μm~約500μmの範囲(例えば、100μm、200μm、300μm、400μm、または500μm)とすることができる。他の実施形態では、厚さ35は、約500μm~約1000μmの範囲(例えば、500μm、600μm、700μm、800μm、900μm、または1000μm)である。厚さ35を、約1mm超(例えば、約2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、または7mm)とすることもできる。1つ以上の具体的な実施形態では、厚さ35は、2mm以下または1mm以下である。
【0054】
複数の実施形態において、厚さ35は、基板30が平板な形状となるだけの均一性を有する(例えば、基板全体における厚さ35のばらつきが1%未満である)。複数の実施形態において、厚さ35は不均一な厚さであり、基板30上の位置の関数として変化する値を有する。美観上および/または機能上の理由から、厚さ35は、厚さ35の寸法のうちの1つ以上に沿って変化することができる。例えば、基板30の端部を、基板30の中央部に比べて厚くすることができる。また、物品30の用途(利用法)に応じて、基板30の長さ、幅および物理的厚さの寸法を変化させることもできる。
【0055】
複数の実施形態において、基板30は、可視光を吸収して赤外線を透過する材料層を含んでいる。このような材料の例としては、ePlastics社からPlexiglas(登録商標)IR acrylic 3143およびCYRO社のACRYLITE(登録商標)IR acrylic 1146の商品名で市販されているアクリル板などの、赤外線を透過して可視光を吸収するアクリル板が挙げられる。「Plexiglas」IR acrylic 3143は、約700nm以下の波長の電磁波の透過率は約0%(少なくとも10%未満、または1%未満)であるが、800nm~約1100nmの範囲内(905nmを含む)の波長の透過率は約90%(85%超)である。
【0056】
複数の実施形態において、基板30は、約1.45~約1.55の範囲の屈折率を示す。複数の実施形態において、1400nm~1600nmのスペクトル範囲全域において基板が示す平均透過率は、95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上)である。
【0057】
ここで図4および図5を参照すると、第1の多層膜36と第2の多層膜38はいずれも、1つ以上の高屈折率材料40と1つ以上の低屈折率材料42の層を交互に或る数量だけ重ねた構成を有している。なお、1つ以上の高屈折率材料40と1つ以上の低屈折率材料42について、各高屈折率材料40の層や各低屈折率材料42の層を、同一の参照番号を用いて識別しているが、同一の参照番号を用いているからといって、各層を同じ材料で構成していることや、各層が同一構造を有していることを示唆するものではないことを理解されたい。第1の多層膜36と第2の多層膜38のいずれにおいても、各高屈折率材料40の異なる層や各低屈折率材料42の異なる層は、層ごとに異なる組成特性または構造特性を有することができる。
【0058】
本明細書において、「高屈折率(higher refractive index)」および「低屈折率(lower refractive index)」という用語は、互いに対して相対的な屈折率値を指すものであり、1つ以上の高屈折率材料40の屈折率が、1つ以上の低屈折率材料42の屈折率よりも高いことを意味している。複数の実施形態において、1つ以上の高屈折率材料40の屈折率は約1.7~約4.0である。複数の実施形態において、1つ以上の低屈折率材料42の屈折率は約1.3~約1.6である。複数の実施形態において、1つ以上の低屈折率材料42の屈折率が約1.3~約1.7、1つ以上の高屈折率材料40の屈折率が約1.9~約3.8である。1つ以上の高屈折率材料40のうちの任意の高屈折率材料40と、1つ以上の低屈折率材料42のうちの任意の低屈折率材料42との屈折率の差は、約0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.5以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、さらにまたは2.3以上とすることができる。1つ以上の高屈折率材料40と1つ以上の低屈折率材料42の間で屈折率が異なっているため、交互に重ねる層の数量(層数)とその厚さを操作することにより、或る波長域内の電磁波を選択的に窓24に透過させることができ、さらにこれとは独立に、或る波長域内の電磁波を選択的に第1の多層膜36で反射させることができる。したがって、第1の多層膜36(第2の多層膜38を利用する場合は、これに加えて第2の多層膜38)は、1つ以上の高屈折率材料40および1つ以上の低屈折率材料42として選択される数量、厚さ、層数、および材料の関数として構成される所定の光学特性を有する薄膜光学フィルタである。
【0059】
1つ以上の低屈折率材料42として使用するのに適した材料の例をいくつか挙げれば、SiO、Al、GeO、SiO、AlO、SiO、SiAl、MgO、MgAl、MgF、BaF、CaF、DyF、YbF、YF、CeFなどがある。1つ以上の低屈折率材料42として使用する材料の(例えば、AlO、SiO、SiAlなどの材料における)窒素含有量は、最小限に抑えることができる。
【0060】
1つ以上の高屈折率材料40として使用するのに適した材料の例をいくつか挙げれば、Si、アモルファスシリコン(a-Si)、SiN、SiN:H、AlN、SiAl、Ta、Nb、AlN、Si、AlO、SiO、HfO、TiO、ZrO、Y、Al、MoO、ダイヤモンドライクカーボンなどがある。高屈折率材料40として使用する材料の(特に、SiN材料またはAlN材料における)酸素含有量は、最小限に抑えることができる。AlO材料は、酸素をドープしたAlNとみなすことができる。つまり、AlNの結晶構造(例えば、ウルツ鉱型構造)を有することができるが、AlONの結晶構造を有している必要はない。1つ以上の高屈折率材料40として使用するのに好適な例示的なAlO材料は、約0原子%~約20原子%の酸素、または約5原子%~約15原子%の酸素を含むとともに、30原子%~約50原子%の窒素を含むことができる。1つ以上の高屈折率材料40として使用するのに好適な例示的なSiAlは、約10原子%~約30原子%または約15原子%~約25原子%のケイ素と、約20原子%~約40原子%または約25原子%~約35原子%のアルミニウムと、約0原子%~約20原子%または約1原子%~約20原子%の酸素と、約30原子%~約50原子%の窒素とを含むことができる。また、上記の材料に対して、約30質量%まで水素を添加することができる。なお、1つ以上の高屈折率材料40の屈折率と1つ以上の低屈折率材料42の屈折率は、互いに対して相対的な屈折率であるため、同じ材料(例えば、Al)が、1つ以上の低屈折率材料42として選択した材料の屈折率に基づいて、1つ以上の高屈折率材料40に適していると考えられる場合もあれば、1つ以上の高屈折率材料40に選択した材料の屈折率に基づいて、1つ以上の低屈折率材料42に適していると考えられる場合もある。
【0061】
複数の実施形態において、第1の多層膜36の1つ以上の低屈折率材料42はSiO層からなり、第1の多層膜36の1つ以上の高屈折率材料40はSiO層またはSiN層からなる。複数の実施形態において、第1の多層膜36の1つ以上の低屈折率材料42はSiO層からなるとともに、第1の多層膜36の1つ以上の高屈折率材料40はSiN層またはSiO層からなり、第2の多層膜38の1つ以上の低屈折率材料42はSiO層からなるとともに、第2の多層膜38の1つ以上の高屈折率材料40はケイ素層(例えば、a-Si層)を含む。複数の実施形態において、第1の多層膜36の1つ以上の低屈折率材料42はSiO層からなるとともに、第1の多層膜36の1つ以上の高屈折率材料40はSiN層またはSiO層からなり、第2の多層膜38の1つ以上の低屈折率材料42はSiO層からなるとともに、第2の多層膜38の1つ以上の高屈折率材料40はアモルファスシリコン層(a-Si層)とSiN層またはSiO層とを含む。
【0062】
第1の多層膜36または第2の多層膜38のいずれにおいても、高屈折率材料40と低屈折率材料42を交互に重ねた交互層の数量は、特に限定されるものではない。複数の実施形態において、第1の多層膜36内における、かかる交互層の層数は、7層以上、9層以上、11層以上、13層以上、15層以上、17層以上、19層以上、21層以上、23層以上、25層以上、または51層以上、または81層以上である。複数の実施形態において、第2の多層膜38内における交互層の数量は、7層以上、9層以上、11層以上、13層以上、15層以上、17層以上、19層以上、21層以上、23層以上、または25層以上、または51層以上、または81層以上である。複数の実施形態において、窓24(基板30を除く)を構成する第1の多層膜36および第2の多層膜38における交互層の数量は、14層以上、20層以上、26層以上、32層以上、38層以上、44層以上、50層以上、72層以上、または100層以上である。一般に、第1の多層膜36および第2の多層膜38内の層の数量が多くなるほど、1つ以上の特定の波長または波長域に合わせて、窓24の透過率・反射率特性の範囲が狭められる。
【0063】
第1の多層膜36の交互層と第2の多層膜38の交互層は、厚さを有している。交互に重ねられる各層の厚さとして選択される厚さにより、窓24を通って伝搬する光の光路長が決まるとともに、窓24の各材料界面で反射された様々な光線の間で生じる干渉による増幅や減衰が決まる。したがって、交互に重ねられる各層の厚さと、1つ以上の高屈折率材料40および1つ以上の低屈折率材料42の屈折率との組み合わせにより、窓24の反射率スペクトルおよび透過率スペクトルが決まる。
【0064】
図3図4図5を参照すると、反射波28が窓24と相互作用する場合、最初に第1の多層膜36の端面44に遭遇する。端面44は、外界26に開放されていてもよい。一実施形態では、1つ以上の低屈折率材料42の層のうちの1層によって端面44を構成することにより、端面44の屈折率を外界26の空気の屈折率により近づけて、端面44に入射する電磁波(反射波28であるか否かを問わない)の端面44での反射を低減する。1つ以上の低屈折率材料42の層のうち端面44を構成する層は、第1の多層膜36の中で基板30から最も遠い位置にある層である。同様に、複数の実施形態において、1つ以上の低屈折率材料42がSiOである場合、1つ以上の低屈折率材料42の層であるSiO層が、基板30(通常、基板30ではSiOが大きなモル%を占める)の第1の面32上に直接配置される。理論に束縛されるものではないが、基板30とこれに隣接する1つ以上の低屈折率材料42の層がともにSiOを含んでいることにより、接合強度を高めることができると考えられる。
【0065】
一方、出射波22が窓24と相互作用する場合、最初に第2の多層膜38の端面48に遭遇する。一実施形態では、1つ以上の低屈折率材料42の層のうちの1層によって端面48を構成することにより、端面48の屈折率を筐体20内の空気の屈折率により近づけて、端面48に入射する出射波22の端面48での反射を低減する。1つ以上の低屈折率材料42の層のうち端面48を構成する層は、第2の多層膜38の中で基板30から最も遠い位置にある層である。同様に、複数の実施形態において、1つ以上の低屈折率材料42がSiOである場合、1つ以上の低屈折率材料42の層であるSiO層が、基板30の第2の面34上に直接配置される。
【0066】
比較的高い屈折率を持つ材料は、比較的高い硬さも兼ね備えており、耐擦傷性と耐衝突性をもたらすことができる。1つ以上の高屈折率材料40の1つとすることのできる高硬度材料の例として、SiOが挙げられる。また、1つ以上の高屈折率材料40の1つとすることのできる高硬度材料の他の例として、SiN、SiN:H、Siが挙げられる。比較的厚い(例えば、500nm以上の)SiO層(または、他の適切な高屈折率材料層)を採用することにより、窓24の耐擦傷性、耐損傷性、またはその両方を高めることができることが分かっている。このような耐擦傷性や耐損傷性の向上は、外界26からの破片の衝突に遭遇する可能性がより高い第1の多層膜36において特に有益であると考えられる。したがって、複数の実施形態において、第1の多層膜36における1つ以上の高屈折率材料40のうちの1つの層の厚さは、500nm以上(例えば、1000nm以上、1500nm以上、2000nm以上)である。このような500nm以上の厚さを有する高屈折率層を、本明細書では「耐擦傷層(scratch resistant layer)」と呼ぶ。
【0067】
複数の実施形態において、第1の多層膜36内における耐擦傷層の厚さと位置を最適化することにより、第1の多層膜36ひいては窓24全体に所望のレベルの硬さと耐擦傷性を持たせることができる。窓24に硬さと耐擦傷性を与える層として機能する高屈折率材料40の耐擦傷層の望ましい厚さは、窓24の用途によって異なる可能性がある。例えば、車両10上のLIDARシステム12を保護する窓24に要求される高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さは、オフィスビルのLIDARシステム12を保護する窓24に要求される厚さとは異なり得る。複数の実施形態において、窓24に硬さと耐擦傷性を与える層として機能する高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さは、500nm~50000nmとすることができ、例えば500nm~10000nm、例えば2000nm~5000nmとすることができる。複数の実施形態において、この高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さは、第1の多層膜36の厚さの30%以上、40%以上、50%以上、65%以上、または85%以上、または86%以上である。なお、窓24に硬さと耐擦傷性を与える層として機能する高屈折率材料40の耐擦傷層は、通常は、筐体20によって保護される第2の多層膜38ではなく、外界26に面する第1の多層膜36の一部とされるが、必ずしもそうであるとは限らない。
【0068】
以下にさらに詳述するように、第1の多層膜36および第2の多層膜38の残りの層の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に所望の光学特性(所望の波長における所望の透過率および反射率)を与えるように設定することができる。かかる設定は、窓24に硬さと耐擦傷性を与える層として機能する高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さとしてどのような厚さを選択するかにほとんど関係なく行うことができる。窓24全体の光学特性が、窓24に硬さと耐擦傷性を与える層として機能する高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さの影響を受けにくくなるのは、標的の波長または波長域(例えば、1400nm~1600nm、1550nm)の電磁波に対して、耐擦傷層の材料の光吸収が比較的小さいかまたは無視できる程度である場合である。例えば、Siの波長700nm~2000nmの電磁波の吸収は、無視できる程度である。
【0069】
このように、全体としての光学特性が、第1の多層膜36における高屈折率材料40の耐擦傷層の厚さの影響を受けにくいことから、所定の硬さ要件または耐擦傷性要件を満たすように耐擦傷層の厚さを予め設定することが可能となる。例えば、車両10のルーフ14で利用される窓24用の第1の多層膜36と車両10の前方部16で利用される窓24用の第1の多層膜36では、硬さ要件や耐擦傷性要件が異なると考えられ、したがって、高屈折率材料40の耐擦傷層に要求される厚さも異なると考えられる。第1の多層膜36全体としての透過率・反射率特性を大きく変化させることなく、かかる要件にしたがって耐擦傷層の厚さを設定することができる。
【0070】
高屈折率材料40の耐擦傷層を有する第1の多層膜36ひいては窓24の硬さは、定量化することができる。複数の実施形態において、高屈折率材料40の耐擦傷層を有する第1の多層膜36に対して、50nm~2000nm(端面44から測定)、さらには2000nm~5000nmの範囲の1つ以上の押し込み深さでバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓24の最大硬さは、約8GPa以上、約10GPa以上、約12GPa以上、約14GPa以上、約15GPa以上、約16GPa以上、または約18GPa以上とすることができる。本明細書において、「バーコビッチ圧子硬さ試験(Berkovich Indenter Hardness Test)」は、ダイヤモンドバーコビッチ圧子を材料の表面に押し込むことにより、その表面における材料の硬さを測定することを含む用語である。バーコビッチ圧子硬さ試験は、ダイヤモンドバーコビッチ圧子を第1の多層膜36の端面44に約50nm~約2000nm(または第1の多層膜36の全厚さ)の範囲の押し込み深さまで押し込んで圧痕をつける工程と、押し込み深さ範囲全体またはこの押し込み深さ範囲内の一部の区間(例えば、約100nm~約600nmの範囲)の圧痕から、最大硬さを計測する工程とを含み、通常、Oliver, W. C., Pharr, G. M.著「An improved technique for determining hardness and elastic modulus using load and displacement sensing indentation experiments.」J. Mater. Res.、Vol.7、No.6、1992年、1564-1583頁、およびOliver, W. C., Pharr, G. M.著「Measurement of Hardness and Elastic Modulus by Instrument Indentation: Advances in Understanding and Refinements to Methodology.」J. Mater. Res.、Vol.19、No.1、2004年、3-20頁に記載の方法を用いて実施される。上記のレベルの硬さを持たせることにより、LIDARシステム12を本来の目的(例えば、車両10に設置する(図1参照)など)で使用している間に遭遇する、砂、小石、破片などの物体に衝突した場合の窓24の耐損傷性が向上する。したがって、上記のレベルの硬さを持っていない場合には、衝突による損傷のためにLIDARシステム12に光の散乱が生じ、性能が低下する恐れがあったが、上記のレベルの硬さを持たせることにより、それを低減または防止することができる。
【0071】
複数の実施形態において、第1の多層膜36の少なくとも一部を、高屈折率材料40の耐擦傷層と端面44との間に配置する。複数の実施形態において、第1の多層膜36は、端面44と耐擦傷層との間に、1つ以上の低屈折率材料42と1つ以上の高屈折率材料40を交互に複数重ねた交互層を含んでいる。耐擦傷層と端面44の間に配置されたこのような交互層スタックを、本明細書では「光制御層(optical control layers)」と呼ぶ。複数の実施形態において、耐擦傷層と端面44との間に配置された光学制御層の厚さは合計で、500nm以上(例えば、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1000nm以上、1100nm以上、1200nm以上、1300nm以上)である。光学制御層の数量、組成、および厚さは、1400nm~1600nmの範囲にあるLIDARシステム12の動作波長において、本明細書に記載の所望の反射防止性能属性が得られるように選択することができる。これにより、可視スペクトルおよび/またはUVスペクトルにおいて、本明細書で説明しているような望ましい光学性能特性が得られるように、第1の多層膜36を設計することができる。
【0072】
複数の実施形態において、第1の多層膜36の厚さ46の少なくとも25%(例えば、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%)が、耐擦傷層と端面44との間に配置される。第1の多層膜36における耐擦傷層の位置をこのような深さとすることにより、第1の多層膜36内の比較的長い深さ範囲にわたって、第1の多層膜36の(バーコビッチ圧子硬さ試験により測定される)ナノインデンテーション硬さを比較的高くすることが促進されると考えられる。複数の実施形態において、第1の多層膜36の深さ250nm~深さ2000nmの範囲における第1の多層膜36のナノインデンテーション硬さは、8GPa以上である。複数の実施形態において、第1の多層膜36の深さ1000nm~深さ2000nmの範囲における第1の多層膜36のナノインデンテーション硬さは、8.5GPa以上である。このような硬さ値とすることにより、比較的広い範囲の深さのひびに対する耐擦傷性や耐損傷性が得られやすくなる。
【0073】
ここで図4および図5を参照すると、第1の多層膜36は厚さ46を有しており、第2の多層膜38は厚さ50を有している。1つ以上の高屈折率材料40の耐擦傷層を含むことが想定される第1の多層膜36の厚さ46について、本明細書で説明する透過率・反射率特性が得られる厚さ46は、約1μm以上とすることができる。複数の実施形態において、厚さ46は1μm~50μm強の範囲内にあり、例えば、約1μm~約10μm、約2800nm~約5900nmの範囲内にある。下限の約1μmは、窓24に硬さと耐傷性をもたらすことのできる略最小の厚さ46である。一方、厚さ46の上限は、第1の多層膜36の何層かの層を基板30上に配置するのに要するコストと時間により制限される。またこれに加えて、厚さ46の上限は、第1の多層膜36によって基板30に反りが発生しないようにするための制限も受ける。この制限は、基板30の厚さに依存する。第2の多層膜38の厚さ50は、窓24に所望の透過率・反射率特性を付与するのに必要とみなされる任意の厚さとすることができる。複数の実施形態において、第2の多層膜38の厚さ50は、約800nm~約7000nmの範囲内である。
【0074】
第1の多層膜36および第2の多層膜における層の数量、厚さ、層数、および材料については、上記の『発明が解決しようとする課題』の欄に記載した課題を、高屈折率材料40の厚さを最大限大きくして、窓24に硬さと耐衝突性と耐擦傷性とを付与することにより解決するとともに、1400nm~1600nmにおける窓24の赤外線透過率が比較的高くなるように構成する。複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の厚さ、層数、および材料は、第1の面32および第2の面34の法線に対して15°以内の角度で第1の面32および第2の面34に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓24の平均透過率が90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上)となるように構成される。
【0075】
複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の厚さ、層数、および材料は、第1の面32および第2の面34の法線に対して15°以内の角度で第1の面32および第2の面34に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓24の平均反射率が0.5%以下(例えば、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.08%以下)となるように構成される。複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32および第2の面34の法線に対して60°以内の角度(例えば、0°~60°、0°~50°、0°~40°、0°~30°の入射角)で第1の面32および第2の面34に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回る(例えば、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上となる)ように構成される。本明細書において、「反射率(reflectance)」という用語は、所定の波長域内の波長の入射光のうち、材料(例えば、窓24、基板30、第1の多層膜36、第2の多層膜38、またはそれらの一部)で反射される光パワーの割合として定義される。
【0076】
複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の厚さ、層数、および材料は、第1の面32および第2の面34に垂直に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓24の平均透過率が95%以上(例えば、95.5%以上、96%以上、96.5%以上、97.5%以上、98%以上)となるように構成される。本明細書において、「透過率(transmittance、percentage transmission)」という用語は、所定の波長域内の波長の入射光のうち、材料(例えば、窓24、基板30、第1の多層膜36、第2の多層膜38、またはそれらの一部)を透過する光パワーの割合を示す用語として同義的に用いている。
【0077】
また、複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38の交互層の厚さ、層数、および材料は、さらに(本明細書に記載の赤外における光学性能要件を満たすように構成されるとともに)、窓24の外観が所望の暗色の外観となるように構成される。例えば、外界26(図1参照)から見たときに、第1の面32に0°~90°の入射角で入射する光に対して窓24が示すCIELAB色空間a*値を、-6.0以上6.0以下とすることができる。また、第1の面32に0°~90°の入射角で入射する光に対して窓24が示すCIELAB色空間b*値を、-6.0以上6.0以下(例えば、-5.0以上5.0以下、-4.0以上4.0以下、-3.0以上3.0以下、-2.5以上2.5以下、-2.5以上0.以下)とすることができる。このような色空間値は、基板30が可視スペクトル全域にわたって比較的高い透過率(例えば、90%以上)と比較的低い反射率(例えば、22%以下)を有している実施形態であっても実現することができる。
【0078】
複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の厚さ、層数、および材料は、60°以下の入射角から見たときの窓24のCIELAB明度L*値が45以下(例えば、40以下、35以下、30以下)となるように構成される。複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層の厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜36に垂直に入射する光を反射する窓24のCIELAB明度L*値が20未満となるように構成される。上記に挙げたCIELAB色空間値と明度値の組は、様々な入射角から見た窓24の外観が、比較的暗色となることを表している。
【0079】
窓24の外観は、1つ以上の高屈折率材料40の1つとして第2の多層膜38にケイ素を(例えば、a-Siの形で)含めることにより暗色の外観とすることができる。アモルファスシリコン(a-Si)は、屈折率が比較的高い(1550nmで約3.8)ことに加え、紫外域と可視光域での光吸収が比較的高い一方、900~1800nmの領域での光吸収は許容できる程度に小さい。したがって、第1の多層膜36および第2の多層膜38における他の層に加えて、アモルファスシリコン層(a-Si層)の厚さと数量により、紫外域と可視光域での電磁波の透過率が低い(これには、両波長域においてアモルファスシリコンが持つ吸光度がある程度貢献している)一方、赤外域の所望区間での透過率が高い窓24を提供することができる。複数の実施形態において、第2の多層膜38は、1つ以上の高屈折率材料40の1つとして1層以上のアモルファスシリコン層(a-Si層)を含む一方、第1の多層膜36はアモルファスシリコン層(a-Si層)を含まない。かかる構造には、ケイ素が基板30の裏側のみに配置されるため、外界26からケイ素が保護されるという利点がある。よって、第1の多層膜36に耐擦傷層を組み込むことにより本明細書で説明するナノインデンテーション硬さ値を実現し、第2の多層膜38にケイ素を含めることにより暗色の外観を実現することができる。
【0080】
複数の実施形態において、第2の多層膜38における交互層のうちケイ素から形成される層の厚さは合計で、250nm以上(例えば、300nm以上、325nm以上、350nm以上、375nm以上、400nm以上、500nm以上)である。複数の実施形態において、第2の多層膜38中のケイ素から形成される層の厚さは合計で、250nm以上とすることができる。複数の実施形態において、第2の多層膜におけるケイ素層の厚さは合計で、第2の多層膜38の厚さ50の少なくとも35%(例えば、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%)を占める。本出願人は、このようなケイ素の厚さとすれば、可視光を十分に吸収して、第1の面32および第2の面34の法線に対して15°以内の角度で第1の面32および第2の面34に入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓24の平均透過率が5%を下回る(例えば、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.0%0以下.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下となる)ことを見出した。これにより、反射波28(図2参照)のうちの可視光を含む部分が、放射検知器18に到達しなくなるため、LIDARシステム12の信号対ノイズ比が向上する。
【0081】
複数の実施形態において、第2の多層膜38は、ケイ素から形成される層を2層以上含む。複数の実施形態において、ケイ素から形成される2層以上の層のうちの少なくとも1層の厚さは、150nm以上(例えば、160nm以上、170nm以上、180nm以上、190nm以上、200nm以上)である。複数の実施形態において、第2の多層膜38のケイ素から形成される2層以上の層のうちの少なくとも2層(ただし、全層数よりは少ない数の層)の厚さが150nm以上である。複数の実施形態において、第2の多層膜38における交互層のうちの少なくとも7層が、150nm以上の厚さを有するケイ素層のうちの1層と第2の面34との間に配置される。複数の実施形態において、第2の多層膜38において第2の面側にある厚さが150nm未満のケイ素層の各厚さは、70nm以下(例えば、65nm以下、60nm以下、55nm以下、50nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下)である。このように基板30と比較的厚いケイ素層を離間させることにより、可視スペクトルにおける反射率の低減が促進されると考えられる。
【0082】
複数の実施形態において、第1の多層膜36と第2の多層膜38における交互層は、可視スペクトルにおける平均反射率が比較的低くなるように構築される。例えば、複数の実施形態において、400nm~700nmの波長域で求められる窓の平均反射率は、10%以下(例えば、9%以下、8%以下、7%以下)となる。この反射率を低く抑えることには、外界26(図1参照)から見たときに窓24の外観に色が付いているように見えるのを防ぎ、本明細書で説明しているCIE色空間a*値およびb*値、ならびに明度L*値の実現を促進するという利点がある。
【0083】
複数の実施形態において、可視スペクトルにおける窓の反射率を抑制するため、第2の多層膜38において基板30に最も近いケイ素層を、第2の多層膜38の中で最も薄いケイ素層とする。すなわち、第2の多層膜38において、1つ以上の高屈折率材料40がケイ素である層のうち、基板30に最も近い層の厚さが最も薄い。複数の実施形態において、第2の多層膜38において基板30に最も近いケイ素層の厚さは、10nm以下(例えば、8nm以下、7nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下)である。出願人は、かかる構造に、可視透過率を本明細書に記載の比較的低い値に抑えるのに寄与しながら、第2の多層膜38におけるケイ素含有層により着色反射率が生じるのを防ぐという利点があることを見出した。
【0084】
複数の実施形態において、第2の多層膜38における1つ以上の高屈折率材料40の層のうち基板30に最も近い層は、ケイ素の層ではない。複数の実施形態において、例えば、この1つ以上の高屈折率材料40の層のうち基板30に最も近い層は、第1の多層膜で使用される高屈折率材料と同一の高屈折率材料(例えば、SiN、SiO、Si)で構成することができる。複数の実施形態において、第2の多層膜38における1つ以上の高屈折率材料40の層のうち基板30に最も近い層は、第2の多層膜38の高屈折率層中で、ケイ素で構成されていない唯一の層である。理論に束縛されることを望むものではないが、出願人は、かかる構造は、第2の多層膜38にケイ素を含める場合、特に、第2の多層膜38が有する各ケイ素層の厚さが8nm以上である場合に、可視スペクトルにおける反射率の抑制に貢献することができると考えている。
【0085】
第1の多層膜36および第2の多層膜38における各層(すなわち、高屈折率材料40の層および低屈折率材料42の層)は、不連続蒸着プロセスまたは連続蒸着プロセスなどの、当技術分野において公知の任意の方法により形成することができる。1つ以上の実施形態では、連続蒸着プロセスのみまたは不連続蒸着プロセスのみによって、層を形成することができる。
【実施例
【0086】
以下の実施例はすべて、コンピュータ支援モデリングを利用して、第1の多層膜36および第2の多層膜38の層の数量、厚さ、層数、および材料をどのように設定すれば、入射する電磁波の波長および入射角の関数としての窓24の平均透過率および平均反射率を所望のものとすることができるかについて実証を行ったモデリング実施例である。
【0087】
各材料の屈折率と消衰係数は、400nm~1600nmのスペクトル範囲全域にわたる波長の関数として測定した。SiO、SiN、SiO、Si、アルミノケイ酸塩ガラス基板(コーニングコード2320)の屈折率と吸光度を、以下の表Aに示す。以下の実施例のうちのいくつかでは、これらの材料を、高屈折率材料40、低屈折率材料42、基板30に利用した。
【0088】
【0089】
【0090】
次に、これらの屈折率を用いて、透過率スペクトルと反射率スペクトルを計算した。なお、モデリング実施例を記載した各表では、便宜上、屈折率分散曲線から波長約1550nmの点に対応する屈折率値のみを選択し、この値を屈折率として使用している。
【0091】
実施例1-実施例1の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例1の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiO(上記表AにおけるSiO(1)材料)と高屈折率材料40としてのSiOを交互に25層重ねた構成とした。第18層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40の耐擦傷層とした。第1層~第17層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第17層の合計厚さは、1398.6nmであった。第19層~第25層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第19層~第25層の合計厚さは、252.1nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの54.78%を占めた。
【0092】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に15層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiOとし、高屈折率材料40はSiOとSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第28層(基板30(本実施例では、第26層)に最も近い高屈折率材料40の層)をSiOとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第30層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ8.1nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは595nmで、第2の多層膜38の総厚さの46.2%を占めた。
【0093】
実施例1で使用したSi材料の屈折率と消衰係数の値を図6に示す。図示されているように、本実施例で使用したSi材料の700nmでの消衰係数は0.23である。これは、実施例1のケイ素層の合計厚さの内部透過率(ケイ素のみの透過率)が約1.37%であることに相当する。また、400nmでの消衰係数は2.2である。よって、複数のケイ素層の合計透過率は、700nmでの透過率に比べて400nmでの透過率が大幅に低くなると予想される。
【0094】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表1に示すように設定され、これを用いて、図7図13に示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値および明度値と、ナノインデンテーション硬さ値を計算した。
【0095】
【表1】
【0096】
図7には、実施例1に係る窓24についての第1の曲線702と、第2の曲線704と、第3の曲線706とを含むグラフが示されている。第1の曲線702は、モデリングにより得られた、窓24に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率を示す。第2の曲線704は、モデリングにより得られた、第2の多層膜38に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。第3の曲線706は、モデリングにより得られた、第1の多層膜36に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。図示されているように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に垂直に入射する光に対する1420nmを上回る波長での窓24の透過率が90%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が2%を下回っている。また、曲線704と曲線706に示しているように、第1の多層膜36から見た場合と第2の多層膜38から見た場合のいずれにおいても、1500nm以上の波長に対する実施例1に係る窓24の反射率は、1%を下回っている。また、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36から見たときの実施例1に係る窓の反射率は、9%を下回っている。したがって、図7に示す結果は、実施例1に係る窓24が、可視スペクトルにおいて透過や反射を効果的に防ぐとともに、赤外波長において本明細書に記載の反射防止性能を有効に発揮するという効果を有していることを実証するものである。
【0097】
図8から明らかなように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32または第2の面34に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、1500nm~1600nmの波長域全域にわたり92.25%を上回るように構成されている。また、図9から明らかなように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1600nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が87%を上回るように構成されている。
【0098】
さらに、図10から明らかなように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率が、概ね1500nm~1600nmの波長域内において0.8%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。図示されているように、モデリングにより得られた反射率は、約1550nmで最小値約0.1%に達するとともに、1525nm~1575nmの波長域では、その全域にわたり0.25%を下回った。
【0099】
図11から明らかなように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり窓24の透過率が実質的に1.0%を下回るように構成されている。また、400nm~650nmの可視スペクトルにおける透過率は、0.2%を下回っている。さらに、600nmよりも短い波長の可視スペクトルにおける透過率は、0.1%を下回っている。これらの低い透過率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収がある程度貢献していると考えられる。
【0100】
図12Aおよび図12Bから明らかなように、実施例1の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が暗色の外観となるように構成されている。図12Aは、シミュレーションにより得られた、実施例1の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、0°~90°の範囲の複数の異なる光源入射角でシミュレーションを行うことにより生成した。図示されているように、a*値は約-2.25~約0.4の範囲をとり、b*値は約-2.2~約1.25の範囲をとっている。これは、実施例1に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに彩度の低い外観を有していることを示している。
【0101】
図12Bは、モデリングにより得られたCIELAB明度L*値を、端面44への入射角の関数として示した図である。図示されているように、60°以下の入射角に対する明度L*値は30以下となる。これは、実施例1に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに暗色の外観を有していることを示している。
【0102】
図13は、本明細書の実施例1に従って構築した2つのサンプルについて、深さの関数として計測したナノインデンテーション硬さを示している。硬さ値は、本明細書において説明しているバーコビッチ圧子硬さ試験を行った結果をシミュレーションしたものである。第1のサンプルの計測は50nm~1000nmの深さ範囲で行い、第2のサンプルの計測は50nm~2000nmの深さ範囲で行った。図13に示すように、両サンプルともに、深さ約250nmで8GPaを上回る第1の最大硬さ1104を示した。また、第2のサンプルは、深さ約1050nmで10GPaを上回る第2の最大硬さ1102を示した。理論に束縛されることを望むものではないが、最大硬さが耐擦傷層より上方の位置にあるのは、深さが1050nmに達すると、圧子による応力場が耐擦傷層より下方に伝播するためであると考えられる。図11に実証されているように、実施例1に係る窓24は、250nm~2000nmの深さ範囲全域にわたって8GPaを上回るナノインデンテーション硬さを示している。また、実施例1に係る窓24は、750nm~2000nmの深さ範囲全域にわたって9GPaを上回るナノインデンテーション硬さを示している。これは、本実施例により、様々な用途に好適な耐擦傷性/耐損傷性が得られることを示している。
【0103】
実施例2-実施例2の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例2の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiO(表AのSiO(2)材料)と高屈折率材料40としてのSiN(表AのSiN(1)材料)を交互に21層重ねた構成とした。第14層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40の耐擦傷層とした。耐擦傷層は、表AのSiN(2)材料で構成した。第1層~第13層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第13層の合計厚さは、1063.9nmであった。第15層~第21層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第15層~第21層の合計厚さは、241.8nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの60.5%を占めた。
【0104】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に13層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiO(表AのSiO(2)材料)とし、高屈折率材料40はSiN(表AのSiN(1)材料)とSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第24層(基板30(本実施例では、第20層)に最も近い高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第26層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ8.0nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは414.6nmで、第2の多層膜38の総厚さの39.49%を占めた。
【0105】
実施例2で使用したSi材料の屈折率と消衰係数の値を図14に示す。図示されているように、本実施例で使用したSi材料の700nmでの消衰係数は0.29である。これは、実施例2のケイ素層の合計厚さの内部透過率(ケイ素のみの透過率)が約2.29%であることに相当する。また、400nmでの消衰係数は2.2である。よって、複数のケイ素層の合計透過率は、700nmでの透過率に比べて400nmでの透過率が大幅に低くなると予想される。
【0106】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表2に示すように設定され、これを用いて、図15図20Bに示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値および明度値と、ナノインデンテーション硬さを計算した。
【0107】
【表2】
【0108】
図15には、実施例2に係る窓24についての第1の曲線1502と、第2の曲線1504と、第3の曲線1506とを含むグラフが示されている。第1の曲線1502は、モデリングにより得られた、窓24に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率を示す。第2の曲線1504は、モデリングにより得られた、第1の多層膜36に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。第3の曲線1506は、モデリングにより得られた、第2の多層膜38に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。図示されているように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に垂直に入射する光に対する1380nmを上回る波長での窓24の透過率が90%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が2%を下回っている。また、曲線1504と曲線1506に示しているように、第1の多層膜36から見た場合と第2の多層膜38から見た場合のいずれにおいても、1500nm以上の波長に対する実施例2に係る窓24の反射率は、1%を下回っている。また、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36から見たときの実施例2に係る窓の反射率は、22%を下回っている。したがって、図15に示す結果は、実施例2に係る窓24が、可視スペクトルにおいて透過や反射を効果的に防ぐとともに、赤外波長において本明細書に記載の反射防止性能を有効に発揮するという効果を有していることを実証するものである。
【0109】
図16から明らかなように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32または第2の面34に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、1500nm~1600nmの波長域全域にわたり99.6%を上回るように構成されている。また、図17から明らかなように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1600nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が91.75%を上回るように構成されている。
【0110】
さらに、図18から明らかなように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44(および、窓24内の各層)での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率が、概ね1500nm~1600nmの波長域内において0.4%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。図示されているように、モデリングにより得られた反射率は、約1550nmで最小値約0.1%に達するとともに、1510nm~1600nmの波長域では、その全域にわたり0.25%を下回った。
【0111】
図19から明らかなように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり窓24の透過率が実質的に1.0%を下回るように構成されている。また、400nm~650nmの可視スペクトルにおける透過率は、0.2%を下回っている。さらに、550nmよりも短い波長の可視スペクトルにおける透過率は、0.1%を下回っている。これらの低い透過率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収が少なくともある程度は貢献していると考えられる。
【0112】
図20Aおよび図20Bから明らかなように、実施例2の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が暗色の外観となるように構成されている。図20Aは、シミュレーションにより得られた、実施例2の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、0°~90°の範囲の複数の異なる光源入射角でシミュレーションを行うことにより生成した。図示されているように、a*値は約-2.0~約0.75の範囲をとり、b*値は約-2.1~約1.3の範囲をとっている。これは、実施例2に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに彩度の低い外観を有していることを示している。
【0113】
図20Bは、モデリングにより得られたCIELAB明度L*値を、端面44への入射角の関数として示した図である。図示されているように、60°以下の入射角に対する明度L*値は35以下となる。これは、実施例2に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに暗色の外観を有していることを示している。
【0114】
実施例3-実施例3の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例3の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiO(表AのSiO(1)材料)と高屈折率材料40としてのSiN(表AのSiN(1)材料)を交互に25層重ねた構成とした。第18層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40(の表AのSiN(2)材料)の耐擦傷層とした。第1層~第17層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第17層の合計厚さは、1387.5nmであった。第19層~第25層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第19層~第25層の合計厚さは、249.5nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの54.99%を占めた。
【0115】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に15層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiO(表AのSiO(2)材料)とし、高屈折率材料40はSiN(表AのSiN(1)材料)とSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第28層(基板30(本実施例では、第20層)に最も近い高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第30層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ8.0nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは584.28nmで、第2の多層膜38の総厚さの46.62%を占めた。実施例3で使用したケイ素材料は、上記の実施例2に関する説明で述べたものと同一のもの(図14に示す特性を有するケイ素材料)であった。
【0116】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表3に示すように設定され、これを用いて、図21図26Bに示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値および明度値と、ナノインデンテーション硬さを計算した。
【0117】
【表3】
【0118】
図21には、実施例3に係る窓24についての第1の曲線2102と、第2の曲線2104と、第3の曲線2106とを含むグラフが示されている。第1の曲線2102は、モデリングにより得られた、窓24に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率を示す。第2の曲線2104は、モデリングにより得られた、第1の多層膜36に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。第3の曲線2106は、モデリングにより得られた、第2の多層膜38に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。図示されているように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に垂直に入射する光に対する1420nmを上回る波長での窓24の透過率が90%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が2%を下回っている。また、曲線2104と曲線2106に示しているように、第1の多層膜36から見た場合と第2の多層膜38から見た場合のいずれにおいても、1500nm以上の波長に対する実施例3に係る窓24の反射率は、1%を下回っている。また、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36から見たときの実施例3に係る窓の反射率は、10%を下回っている。したがって、図21に示す結果は、実施例3に係る窓24が、可視スペクトルにおいて透過や反射を効果的に防ぐとともに、赤外波長において本明細書に記載の反射防止性能を有効に発揮するという効果を有していることを実証するものである。
【0119】
図22から明らかなように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32または第2の面34に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、1500nm~1600nmの波長域全域にわたり99.0%を上回るように構成されている。また、図23から明らかなように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1600nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が88%を上回るように構成されている。
【0120】
さらに、図24から明らかなように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44(および、窓24内の各層)での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率が、概ね1500nm~1600nmの波長域内において1.0 %を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。図示されているように、モデリングにより得られた反射率は、約1540nmで最小値約0.1%に達するとともに、1530nm~1600nmの波長域では、その全域にわたり0.2%を下回った。
【0121】
図25から明らかなように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり窓24の透過率が実質的に0.5%を下回るように構成されている。また、400nm~600nmの可視スペクトルにおける透過率は、0.1%を下回っている。これらの低い透過率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収がある程度貢献していると考えられる。
【0122】
図26Aおよび図26Bから明らかなように、実施例3の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が暗色の外観となるように構成されている。図26Aは、シミュレーションにより得られた、実施例3の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、0°~90°の範囲の複数の異なる光源入射角でシミュレーションを行うことにより生成した。曲線2602に示しているように、a*値は約-2.25~約0.4の範囲をとり、b*値は約-2.0~約0.5の範囲をとっている。これは、実施例3に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに彩度の低い外観を有していることを示している。
【0123】
図26Bは、モデリングにより得られたCIELAB明度L*値を、端面44への入射角の関数として示した図である。図示されているように、60°以下の入射角に対する明度L*値は30以下となる。これは、実施例3に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに暗色の外観を有していることを示している。
【0124】
実施例4-実施例4の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例4の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiO(表AのSiO(2)材料)と高屈折率材料40としてのSiN(表AのSiN(1)材料)を交互に29層重ねた構成とした。第20層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40(の表AのSiN(2)材料)の耐擦傷層とした。第1層~第19層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第19層の合計厚さは、1361.8nmであった。第21層~第29層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第21層~第29層の合計厚さは、326.0nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの54.23%を占めた。
【0125】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に15層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiO(表AのSiO(2)材料)とし、高屈折率材料40はSiN(表AのSiN(1)材料)とSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第32層(基板30(本実施例では、第30層)に最も近い高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第34層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ8.23nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは585nmで、第2の多層膜38の総厚さの45.41%を占めた。実施例4で使用したケイ素材料は、上記の実施例2に関する説明で述べたものと同一のもの(図14に示す特性を有するケイ素材料)であった。
【0126】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表4に示すように設定され、これを用いて、図27図32Bに示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値および明度値と、ナノインデンテーション硬さを計算した。
【0127】
【表4】
【0128】
図27には、実施例4に係る窓24についての第1の曲線2702と、第2の曲線2704と、第3の曲線2706とを含むグラフが示されている。第1の曲線2702は、モデリングにより得られた、窓24に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率を示す第2の曲線2704は、モデリングにより得られた、第1の多層膜36に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。第3の曲線2706は、モデリングにより得られた、第2の多層膜38に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。図示されているように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に垂直に入射する光に対する1400nmを上回る波長での窓24の透過率が90%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が1%を下回っている。また、曲線2704と曲線2706に示しているように、第1の多層膜36から見た場合と第2の多層膜38から見た場合のいずれにおいても、1500nm以上の波長に対する実施例4に係る窓24の反射率は、1%を下回っている。また、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36から見たときの実施例4に係る窓の反射率は、22%を下回っている(さらに、約420nmよりも長い波長では、反射率は10%を下回っている)。したがって、図27に示す結果は、実施例4に係る窓24が、可視スペクトルにおいて透過や反射を効果的に防ぐとともに、赤外波長において本明細書に記載の反射防止性能を有効に発揮するという効果を有していることを実証するものである。
【0129】
図28から明らかなように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32または第2の面34に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、1500nm~1600nmの波長域全域にわたり99.4%を上回るように構成されている。また、図29から明らかなように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1600nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が92.2%を上回るように構成されている。S偏光透過率およびP偏光透過率は、1530nm~1600nmの波長域全域で93.5%を上回っている。実施例4は、偏光に関係なく、高い入射角での反射防止性能が、すべての実施例の中で最も高くなると思われる。
【0130】
さらに、図30から明らかなように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44(および、窓24内の各層)での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率が、概ね1500nm~1600nmの波長域内において0.6%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。図示されているように、モデリングにより得られた反射率は、約1550nmで最小値約0.08%に達するとともに、1535nm~1565nmの波長域では、その全域にわたり0.1%を下回った。
【0131】
図31から明らかなように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、実質的に0.3%を下回るように構成されている。また、400nm~650nmの可視スペクトルにおける透過率は、0.1%を下回っている。これらの低い透過率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収が貢献していると考えられる。
【0132】
図32Aおよび図32Bから明らかなように、実施例4の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が暗色の外観となるように構成されている。図32Aは、シミュレーションにより得られた、実施例4の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、0°~90°の範囲の複数の異なる光源入射角でシミュレーションを行うことにより生成した。曲線3202に示しているように、a*値は約-3.15~約1.5の範囲をとり、b*値は約-4.0~5.6の範囲をとっている。これは、実施例4に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに彩度の低い外観を有していることを示している。
【0133】
図32Bは、モデリングにより得られたCIELAB明度L*値を、端面44への入射角の関数として示した図である。図示されているように、60°以下の入射角に対する明度L*値は42以下となる。これは、実施例4に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに暗色の外観を有していることを示している。
【0134】
実施例5-実施例5の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例5の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiO(表AのSiO(2)材料)と高屈折率材料40としてのSiN(表AのSiN(1)材料)を交互に27層重ねた構成とした。第18層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40(表AのSiN(2)材料)の耐擦傷層とした。第1層~第17層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第17層の合計厚さは、1300nmであった。第19層~第27層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第19層~第27層の合計厚さは、376.2nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの54.40%を占めた。
【0135】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に15層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiO(表AのSiO(2)材料)とし、高屈折率材料40はSiN(表AのSiN(1)材料)とSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第30層(基板30(本実施例では、第28層)に最も近い高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第32層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ8.03nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは518.35nmで、第2の多層膜38の総厚さの36.67%を占めた。実施例5で使用したケイ素材料は、上記の実施例2に関する説明で述べたものと同一のもの(図14に示す特性を有するケイ素材料)であった。
【0136】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表5に示すように設定され、これを用いて、図33図38Bに示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値および明度値と、ナノインデンテーション硬さを計算した。
【0137】
【表5】
【0138】
図33には、実施例5に係る窓24についての第1の曲線3302と、第2の曲線3304と、第3の曲線3306とを含むグラフが示されている。第1の曲線3302は、モデリングにより得られた、窓24に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率を示す第2の曲線3304は、モデリングにより得られた、第1の多層膜36に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。第3の曲線3306は、モデリングにより得られた、第2の多層膜38に垂直に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での反射率を示す。.図示されているように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に垂直に入射する光に対する1400nmを上回る波長での窓24の透過率が90%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が5%を下回っている(さらに、400nm~630nmの波長では、透過率は1%を下回っている)。また、曲線3304と曲線3306に示しているように、第1の多層膜36から見た場合と第2の多層膜38から見た場合のいずれにおいても、1500nm以上の波長に対する実施例5に係る窓24の反射率は、1%を下回っている。また、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36から見たときの実施例5に係る窓の反射率は、22%を下回っている。したがって、図33に示す結果は、実施例5に係る窓24が、可視スペクトルにおいて透過や反射を効果的に防ぐとともに、赤外波長において本明細書に記載の反射防止性能を有効に発揮するという効果を有していることを実証するものである。
【0139】
図34から明らかなように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面32または第2の面34に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、1500nm~1600nmの波長域全域にわたり99.1%を上回るように構成されている。また、図35から明らかなように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1600nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が91.8%を上回るように構成されている。
【0140】
さらに、図36から明らかなように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44(および、窓24内の各層)での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率が、概ね1500nm~1600nmの波長域内において1.0%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。図示されているように、モデリングにより得られた反射率は、約1545nmで0.05%未満の最小値に達するとともに、1530nm~1565nmの波長域では、その全域にわたり0.1%を下回った。
【0141】
図37から明らかなように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり、基板30に垂直に入射する光に対する窓24の透過率が、実質的に3%を下回るように構成されている。また、400nm~650nmの可視スペクトルにおける透過率は、0.3%を下回っている。これらの低い透過率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収が貢献していると考えられる。
【0142】
図38Aおよび図38Bから明らかなように、実施例5の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が暗色の外観となるように構成されている。図38Aは、シミュレーションにより得られた、実施例5の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、0°~90°の範囲の複数の異なる光源入射角でシミュレーションを行うことにより生成した。曲線3802に示しているように、a*値は約-3.1~約0.5の範囲をとり、b*値は約-4.5~2.6の範囲をとっている。これは、実施例5に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに彩度の低い外観を有していることを示している。
【0143】
図32Bは、モデリングにより得られたCIELAB明度L*値を、端面44への入射角の関数として示した図である。図示されているように、60°以下の入射角に対する明度L*値は45以下となる。これは、実施例5に係る窓24が、外界26(図1参照)から見たときに暗色の外観を有していることを示している。
【0144】
実施例6-実施例6の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例6の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiOと高屈折率材料40としてのSiNを交互に27層重ねた構成とした。第18層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40の耐擦傷層とした。第1層~第17層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第17層の合計厚さは、1818.92nmであった。第19層~第27層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第19層~第27層の合計厚さは、328.77nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの48.21%を占めた。
【0145】
第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に19層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiOとし、高屈折率材料40はSiNとSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第30層と第32層と第34層(基板30(本実施例では、第28層)に最も近い3層の高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第36層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ12.02nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは708.03nmで、第2の多層膜38の総厚さの27.52%を占めた。
【0146】
実施例6で使用したSi材料の屈折率と消衰係数の値を図39に示す。図示されているように、本実施例で使用したSi材料の700nmでの消衰係数は約0.37である。これは、実施例6のケイ素層の合計厚さの内部透過率(ケイ素のみの透過率)が低いことに相当する。また、400nmでの消衰係数は約3.2である。よって、複数のケイ素層の合計透過率は、700nmでの透過率に比べて400nmでの透過率が特に低くなると予想される。
【0147】
第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表6に示すように設定され、これを用いて、図40図41図42に示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値を計算した。
【0148】
【表6】
【0149】
図40には、実施例6に係る窓24についての第1の曲線4000と、第2の曲線4002と、第3の曲線4004とを含むグラフが示されている。第1の曲線4000は、モデリングにより得られた、窓24に15°の入射角で入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での窓24の透過率(両偏光の平均透過率)を示す。第2の曲線4002は、モデリングにより得られた、窓24に60°の入射角で入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での透過率(S偏光透過率)を示す。第3の曲線4004は、モデリングにより得られた、窓24に60°の入射角で入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での透過率(P偏光透過率)を示す。図示されているように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に15°の入射角で入射する1500nm~1575nmの波長域の光に対する窓24の平均透過率が99.5%を上回るように構成されている。一方、可視スペクトルでは、その全域で透過率が5%を下回っている(さらに、400nm~750nmの波長では、透過率は1%を下回っている)。また、曲線4002および曲線4004から明らかなように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1575nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が90%を上回るように構成されている。
【0150】
さらに、図41の曲線4100から明らかなように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に15°の入射角で入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44(および、窓24内の各層)での反射率が、概ね1500nm~1575nmの波長域内において0.5%を下回るように構成されている。また、図41の曲線4102から明らかなように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に15°の入射角で入射する光に対する窓24の第2の多層膜38の端面48(および、窓24内の各層)での反射率が、概ね1500nm~1575nmの波長域内において0.5%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。また、図41の曲線4100にさらに示されているように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36に15°の入射角で入射する光に対する窓24の平均透過率が、3%を下回るように構成されている。これらの低い反射率値には、第2の多層膜38のケイ素層による可視光の吸収が貢献していると考えられる。
【0151】
図42から明らかなように、実施例6の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が彩度の低い外観となるように構成されている。図42は、D65光源下および1964標準観察者の条件(本明細書に記載のすべてのCIELAB色測定値がこの条件で表されている)で行ったシミュレーションにより得られた、実施例6の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。色空間におけるa*軸は、緑から赤の色成分を表しており、負のa*値が緑色、正のa*値が赤色に対応する。色空間におけるb*軸は、青から黄の色成分を表しており、負のb*値が青色、正のb*値が黄色に対応する。a*値とb*値が原点に近いほど、反射光を見た人が感じる色の彩度が低くなる。このCIELABa*値およびb*値を、D65光源の入射角を0°~90°の範囲の複数の異なる角度でシミュレーションを行うことにより生成した。図42の曲線に示しているように、b*値は約-0.7~約1.25の範囲をとり、a*値は約-1.1~3.1の範囲をとっている。また、実施例6は、0°~55°の対象角度範囲全域において、30.5以下のL*値を示した。
【0152】
実施例1~6では、第1の多層膜36における低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に重ねた交互層について、層数を21層~29層の範囲で変化させるとともに、層厚を3305.7nm~4147.69nmの範囲で変化させた。また、これらの実施例において、第2の多層膜38における低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に重ねた交互層については、層数を13層~19層の範囲で変化させるとともに、層厚を1049.9nm~2572.77nmの範囲で変化させた。したがって、上記の実施例において、第1の多層膜36の厚さは、第2の多層膜38の1.5倍以上であった。これは、第2の多層膜38のケイ素層の屈折率が比較的高いためであると考えられる。各実施例の第2の多層膜38において、ケイ素層の合計厚さは414.6nm~708nmの範囲であった。また、第1の多層膜36の層数が最も多い実施例4が、偏光に関係なく高い入射角で優れた反射防止性能を発揮するようであった。なお、上記の実施例は、1550nm付近の特定の波長域用に設計されたものであり、これに代わる窓として、層の数、数量、および材料が異なる窓も企図される。かかる代替例の窓は、本欄に記載の範囲には収まらない場合もあるが、そのような窓も本開示の範囲内にあることを理解されたい。上記の実施例は、限定を意図したものではない。
【0153】
実施例7-実施例7の窓24は、アルミノケイ酸塩ガラス(コーニングコード2320)の基板30の第1の面32上に第1の多層膜36を有するものとした。また、実施例7の窓24は、基板30の第2の面34上に第2の多層膜38を有していた。第1の多層膜36は、低屈折率材料42としてのSiOと高屈折率材料40としてのSiNを交互に27層重ねた構成とした。第18層を、厚さ2000nmの高屈折率材料40の耐擦傷層とした。第1層~第17層を、耐擦傷層を端面44から離間させる光制御層とした。第1~第17層の合計厚さは、1825.13nmであった。第19層~第27層を、耐擦傷層を第1の面32から離間させる屈折率マッチング層とした。第19層~第27層の合計厚さは、314.7nmであった。本実施例では、耐擦傷層が、第1の多層膜36の厚さの48.31%を占めた。
【0154】
実施例7の第2の多層膜38は、低屈折率材料42と高屈折率材料40を交互に25層重ねた構成とした。本実施例では、低屈折率材料42はSiOとし、高屈折率材料40はSiNとSiとを組み合わせて用いた。表に示しているように、第30層と第32層と第34層(基板30(本実施例では、第28層)に最も近い3層の高屈折率材料40の層)をSiNとし、他の高屈折率材料40の層をSiとした。第36層(基板30に最も近いSi層)は、厚さ12.03nmの最も薄いSi層であった。ケイ素層の合計厚さは1199.18nmで、第2の多層膜38の総厚さの43.89%を占めた。
【0155】
実施例7の第1の多層膜36は、耐擦傷層を屈折率のより高いSiN材料(実施例6では屈折率1.96であったのに対し、実施例7では屈折率2.04658)で形成した点が、実施例6の第1の多層膜36と異なっている。実施例7のSiN材料の方が硬いため、実施例6よりも耐擦傷性が向上すると考えられる。また、実施例7の第2の多層膜38は、第2の多層膜38に消衰係数のより低いケイ素を用いた点が、実施例6の第2の多層膜38と異なっている。図39に示す材料とは異なり、本実施例のSi材料の1550nmでの消衰係数は、0.05を下回る(例えば、0.01未満、0.005未満)。このような消衰係数の低い材料を使用することにより、1550nm付近での高透過率帯域幅が広がり、波長ずれの影響を受けにくくなると考えられる。
【0156】
実施例7では、第1の多層膜36と第2の多層膜38における各層の厚さは、下記の表7に示すように設定され、これを用いて、図43図49に示す透過率と、反射率と、CIELAB色空間値を計算した。
【0157】
【表7】
【0158】
図43は、モデリングにより得られた、窓24に入射する光に対する400nm~1600nmのスペクトル範囲全域での実施例7に係る窓24の透過率を示すグラフである。このグラフは、窓24に15°の入射角で入射する光に対する予測性能(両偏光に対する平均性能)と、窓24に60°の入射角で入射する光に対する予測性能(S偏光とP偏光に対する性能)とを示している。図示されているように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に15°の入射角で入射する1500nm~1575nmの波長域の光に対する窓24の平均透過率が99.5%を上回るように構成されている。また、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面の法線に対して60°以内の角度で第1の面および第2の面に入射する光に対して、1500nm~1575nmの対象波長域で求められる窓24の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が91%を上回るように構成されている。
【0159】
図44は、モデリングにより得られた、実施例7に係る窓24の端面44と端面48での反射率(例えば、窓24の内表面と外表面での反射率)を示すプロットである。図44から明らかなように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、基板30に15°の入射角で入射する光に対する窓24の第1の多層膜36の端面44での反射率および第2の多層膜38の端面48での反射率(図44において、これらの曲線は重なっている)が、概ね1500nm~1575nmの波長域内において0.5%を下回るように構成されている。端面44での反射率が端面48での反射率と同程度となったのは、第1の多層膜36と第2の多層膜38が上述の波長域において比較的低い吸光度を有する材料で構成されていたためである。
【0160】
図45は、モデリングにより得られた、350nm~1600nmの波長域での実施例7に係る窓24の透過率を示すグラフである。図45に示すように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36に15°の入射角で入射する光に対する窓24の平均透過率が(両偏光の平均で)、5%を下回るように構成されている。図46は、モデリングにより得られた、350nm~1600nmの波長域での実施例7に係る窓24の反射率を示すグラフである。図46に示すように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、可視スペクトル全域にわたり、第1の多層膜36に15°の入射角で入射する光(窓24の外からの光)に対して窓24が示す平均反射率が(両偏光の平均で)、5%を下回るように構成されている。図47は、モデリングにより得られた、実施例7に係る窓24の二面透過率のグラフである。図示されているように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、窓24に15°の入射角で入射する光に対して窓24が400nm~650nmの波長域で示す平均透過率が0.1%を下回るように構成されている。実際、400nm~700nmの波長域では、その全域で窓24が示す透過率が1%を下回っている(さらに、400nm~650nmの波長域では、その全域で透過率が0.1%を下回っている)。
【0161】
図48から明らかなように、実施例7の窓24の第1の多層膜36および第2の多層膜38の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の多層膜の端面44から見たときの窓24の外観が彩度の低い外観となるように構成されている。図48は、D65光源下および1964標準観察者の条件(本明細書に記載のすべてのCIELAB色測定値がこの条件で表されている)で行ったシミュレーションにより得られた、実施例7の端面44で反射した光についてのCIELAB単面反射色データである。単面反射光の色についての特性評価は、CIELAB色座標を用いて行うことができる。図示されているように、b*値は約-1.0~約0.6の範囲をとり、a*値は約-1.5~3.6の範囲をとっている。図49は、D65光源下および1964標準観察者の条件で行ったシミュレーションにより得られた、実施例7の端面44で反射した光についてのL*値を示している。実施例7が示すL*値は、0°~60°の入射角範囲全域にわたり35以下(0°~50°の入射角範囲ではその全域にわたり25以下)であった。
【0162】
本開示の態様(1)は、検知システム用の窓に係る。本窓は、基板と、第1の多層膜と、第2の多層膜と、を備える。基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓の最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が90%を上回り、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が1%を下回り、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓の平均透過率が5%を下回るように構成される。
【0163】
本開示の態様(2)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(1)に記載の窓に係る。
【0164】
本開示の態様(3)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が92%を上回る、態様(2)に記載の窓に係る。
【0165】
本開示の態様(4)は、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する窓のCIELABのL*値が45以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(1)~(3)のいずれかに記載の窓に係る。
【0166】
本開示の態様(5)は、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対するCIELABのL*値が30以下である、態様(4)に記載の窓に係る。
【0167】
本開示の態様(6)は、第1の多層膜の側から見た場合の窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(1)~(5)のいずれかに記載の窓に係る。
【0168】
本開示の態様(7)は、第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる窓の平均反射率が10%以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(1)~(5)のいずれかに記載の窓に係る。
【0169】
本開示の態様(8)は、第1の面および第2の面に垂直に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が95%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(1)~(7)のいずれかに記載の窓に係る。
【0170】
本開示の態様(9)は、基板がガラス基板である、態様(1)~(5)のいずれかに記載の窓に係る。
【0171】
本開示の態様(10)は、基板の第1の面に連続する領域が、圧縮応力を受ける領域とされ、圧縮応力の最大値の絶対値が少なくとも600MPaである、態様(9)に記載の窓に係る。
【0172】
本開示の態様(11)は、基板の厚さが約100μm~約5mmである、態様(1)~(10)のいずれかに記載の窓に係る。
【0173】
本開示の態様(12)は、1550nmの波長を持つ電磁波に対する基板の屈折率が約1.45~約1.55である、態様(1)~(11)のいずれかに記載の窓に係る。
【0174】
本開示の態様(13)は、1つ以上の高屈折率材料の屈折率が約1.7~約4.0であり、1つ以上の低屈折率材料の屈折率が約1.3~約1.6である、態様(1)~(12)のいずれかに記載の窓に係る。
【0175】
本開示の態様(14)は、1つ以上の高屈折率材料のいずれかと1つ以上の低屈折率材料のいずれかとの屈折率の差が約0.5以上である、態様(1)~(13)のいずれかに記載の窓に係る。
【0176】
本開示の態様(15)は、第1の多層膜における交互層のうち、基板から最も遠い位置にある1層が窓の端面の材料を構成し、窓の端面の材料が低屈折率材料を含む、態様(1)~(14)のいずれかに記載の窓に係る。
【0177】
本開示の態様(16)は、第1の多層膜が耐擦傷層を含み、耐擦傷層は、1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、500nm以上の厚さを有する、態様(15)に記載の窓に係る。
【0178】
本開示の態様(17)は、耐擦傷層の厚さが1500nm以上5000nm以下である、態様(16)に記載の窓に係る。
【0179】
本開示の態様(18)は、第1の多層膜における1つ以上の低屈折率材料と1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた交互層のうちの複数層により、耐擦傷層が端面から離間している、態様(17)に記載の窓に係る。
【0180】
本開示の態様(19)は、耐擦傷層が端面から少なくとも1000nm離間している、態様(18)に記載の窓に係る。
【0181】
本開示の態様(20)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む、態様(1)~(19)のいずれかに記載の窓に係る。
【0182】
本開示の態様(21)は、第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、態様(20)に記載の窓に係る。
【0183】
本開示の態様(22)は、基板に最も近い第2の多層膜のケイ素層が、2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、態様(21)に記載の窓に係る。
【0184】
本開示の態様(23)は、第2の多層膜に含まれるケイ素層の合計厚さが250nm以上である、態様(21)に記載の窓に係る。
【0185】
本開示の態様(24)は、合計厚さが500nm以上である、態様(22)に記載の窓に係る。
【0186】
本開示の態様(25)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、態様(21)~(24)のいずれかに記載の窓に係る。
【0187】
本開示の態様(26)は、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される最大硬さが、少なくとも10GPaである、態様(1)~(25)のいずれかに記載の窓に係る。
【0188】
本開示の態様(27)は、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、300nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも8GPaである、態様(1)~(26)のいずれかに記載の窓に係る。
【0189】
本開示の態様(28)は、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、750nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも9GPaである、態様(1)~(27)のいずれかに記載の窓に係る。
【0190】
本開示の態様(29)は、検知システム用の窓に係る。本窓は、基板と、第1の多層膜と、第2の多層膜と、を備える。基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される最大硬さが、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が0.5%を下回り、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する窓のCIELABのL*値が45以下となり、第1の多層膜の側から見た場合の窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように構成される。
【0191】
本開示の態様(30)は、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対するCIELABのL*値が30以下である、態様(29)に記載の窓に係る。
【0192】
本開示の態様(31)は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が95%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(29)~(30)のいずれかに記載の窓に係る。
【0193】
本開示の態様(32)は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓の平均透過率が5%を下回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(29)~(31)のいずれかに記載の窓に係る。
【0194】
本開示の態様(33)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(29)~(32)のいずれかに記載の窓に係る。
【0195】
本開示の態様(34)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が92%を上回る、態様(33)に記載の窓に係る。
【0196】
本開示の態様(35)は、第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる窓の平均反射率が10%以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(29)~(34)のいずれかに記載の窓に係る。
【0197】
本開示の態様(36)は、第1の面および第2の面に垂直に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が95%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(29)~(35)のいずれかに記載の窓に係る。
【0198】
本開示の態様(37)は、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される最大硬さが、少なくとも10GPaである、態様(29)~(36)のいずれかに記載の窓に係る。
【0199】
本開示の態様(38)は、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、300nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも8GPaである、態様(29)~(37)のいずれかに記載の窓に係る。
【0200】
本開示の態様(39)は、第1の多層膜における交互層のうち、基板から最も遠い位置にある1層が窓の端面の材料を構成し、窓の端面の材料が低屈折率材料を含み、第1の多層膜が耐擦傷層を含み、耐擦傷層は、1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、1500nm以上5000nm以下の厚さを有する、態様(29)~(38)のいずれかに記載の窓に係る。
【0201】
本開示の態様(40)は、第1の多層膜における1つ以上の低屈折率材料と1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた交互層のうちの複数層により、耐擦傷層が端面から離間しており、耐擦傷層が端面から少なくとも1000nm離間している、態様(39)に記載の窓に係る。
【0202】
本開示の態様(41)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む、態様(29)~(40)のいずれかに記載の窓に係る。
【0203】
本開示の態様(42)は、第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、態様(41)に記載の窓に係る。
【0204】
本開示の態様(43)は、基板に最も近い第2の多層膜のケイ素層が、2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、態様(42)に記載の窓に係る。
【0205】
本開示の態様(44)は、第2の多層膜に含まれるケイ素層の合計厚さが250nm以上である、態様(43)に記載の窓に係る。
【0206】
本開示の態様(45)は、合計厚さが500nm以上である、態様(44)に記載の窓に係る。
【0207】
本開示の態様(46)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、態様(42)~(45)のいずれかに記載の窓に係る。
【0208】
本開示の態様(47)は、検知システム用の窓に係る。本窓は、基板と、第1の多層膜と、第2の多層膜と、を備える。基板は第1の面と第2の面とを有し、第1の面と第2の面は基板の主面である。第1の多層膜は、基板の第1の面上に配置される。第1の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第1の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第1の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い。第2の多層膜は、基板の第2の面上に配置される。第2の多層膜は、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、第2の多層膜の1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高く、第2の多層膜の1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む。また、第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される窓の最大硬さは、少なくとも8GPaである。第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、第1の面および第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均反射率が1%を下回り、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均透過率が90%を上回るように構成される。
【0209】
本開示の態様(48)は、第1の面および第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる窓の平均透過率が5%を下回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(47)に記載の窓に係る。
【0210】
本開示の態様(49)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(47)~(48)のいずれかに記載の窓に係る。
【0211】
本開示の態様(50)は、第1の面および第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が92%を上回る、態様(49)に記載の窓に係る。
【0212】
本開示の態様(51)は、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する窓のCIELABのL*値が45以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(47)~(50)のいずれかに記載の窓に係る。
【0213】
本開示の態様(52)は、第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対するCIELABのL*値が30以下である、態様(51)に記載の窓に係る。
【0214】
本開示の態様(53)は、第1の多層膜の側から見た場合の窓のCIELABのa*値およびb*値が-6以上6以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(47)~(52)のいずれかに記載の窓に係る。
【0215】
本開示の態様(54)は、第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる窓の平均反射率が10%以下となるように、第1の多層膜と第2の多層膜における交互層の数量、厚さ、層数、および材料が構成される、態様(47)~(53)のいずれかに記載の窓に係る。
【0216】
本開示の態様(55)は、第1の多層膜における交互層のうち、基板から最も遠い位置にある1層が窓の端面の材料を構成し、窓の端面の材料が低屈折率材料を含み、
第1の多層膜が耐擦傷層を含み、耐擦傷層は、1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、1500nm以上5000nm以下の厚さを有する、態様(47)~(54)のいずれかに記載の窓に係る。
【0217】
本開示の態様(56)は、第1の多層膜における1つ以上の低屈折率材料と1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた交互層のうちの複数層により、耐擦傷層が端面から離間しており、
耐擦傷層が端面から少なくとも1000nm離間している、態様(55)に記載の窓に係る。
【0218】
本開示の態様(57)は、第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、態様(47)~(56)のいずれかに記載の窓に係る。
【0219】
本開示の態様(58)は、基板に最も近い第2の多層膜のケイ素層が、2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、態様(57)に記載の窓に係る。
【0220】
本開示の態様(59)は、第2の多層膜に含まれるケイ素層の合計厚さが250nm以上である、態様(57)に記載の窓に係る。
【0221】
本開示の態様(60)は、合計厚さが500nm以上である、態様(59)に記載の窓に係る。
【0222】
本開示の態様(61)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、態様(57)~(60)のいずれかに記載の窓に係る。
【0223】
本開示の態様(62)は、第2の多層膜における1つ以上の高屈折率材料の層のうちケイ素ではない層が、1つ以上の高屈折率材料の層のうち基板に最も近い層である、態様(61)に記載の窓に係る。
【0224】
当業者であれば、特許請求の趣旨および範囲から逸脱しない範囲で、種々の変形および変更を行うことができることは明らかであろう。
【0225】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0226】
実施形態1
第1の面と第2の面とを有する基板であって、前記第1の面と前記第2の面が前記基板の主面である、基板と、
前記基板の前記第1の面上に配置された第1の多層膜であって、該第1の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第1の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第1の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第1の多層膜と、
前記基板の前記第2の面上に配置された第2の多層膜であって、該第2の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第2の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第2の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第2の多層膜と、
を備える検知システム用の窓であって、
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される前記窓の最大硬さが、少なくとも8GPaであり、
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が90%を上回り、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均反射率が1%を下回り、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる前記窓の平均透過率が5%を下回るように構成される、窓。
【0227】
実施形態2
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように構成される、実施形態1に記載の窓。
【0228】
実施形態3
前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の前記平均P偏光透過率および前記平均S偏光透過率が92%を上回る、実施形態2に記載の窓。
【0229】
実施形態4
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記窓のCIELABのL*値が45以下となるように構成される、実施形態1~3のいずれかに記載の窓。
【0230】
実施形態5
前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記CIELABのL*値が30以下である、実施形態4に記載の窓。
【0231】
実施形態6
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜の側から見た場合の前記窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように構成される、実施形態1~5のいずれかに記載の窓。
【0232】
実施形態7
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる前記窓の平均反射率が10%以下となるように構成される、実施形態1~5のいずれかに記載の窓。
【0233】
実施形態8
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に垂直に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が95%を上回るように構成される、実施形態1~7のいずれかに記載の窓。
【0234】
実施形態9
前記基板がガラス基板である、実施形態1~8のいずれかに記載の窓。
【0235】
実施形態10
前記基板の前記第1の面に連続する領域が、圧縮応力を受ける領域とされ、該圧縮応力の最大値の絶対値が少なくとも600MPaである、実施形態9に記載の窓。
【0236】
実施形態11
前記基板の厚さが約100μm~約5mmである、実施形態1~10のいずれかに記載の窓。
【0237】
実施形態12
1550nmの波長を持つ電磁波に対する前記基板の屈折率が約1.45~約1.55である、実施形態1~11のいずれかに記載の窓。
【0238】
実施形態13
前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が約1.7~約4.0であり、前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率が約1.3~約1.6である、実施形態1~12のいずれかに記載の窓。
【0239】
実施形態14
前記1つ以上の高屈折率材料のいずれかと前記1つ以上の低屈折率材料のいずれかとの屈折率の差が約0.5以上である、実施形態1~13のいずれかに記載の窓。
【0240】
実施形態15
前記第1の多層膜における前記交互層のうち、前記基板から最も遠い位置にある1層が前記窓の端面の材料を構成し、前記窓の前記端面の材料が前記低屈折率材料を含む、実施形態1~14のいずれかに記載の窓。
【0241】
実施形態16
前記第1の多層膜が耐擦傷層を含み、該耐擦傷層は、前記1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、500nm以上の厚さを有する、実施形態15に記載の窓。
【0242】
実施形態17
前記耐擦傷層の前記厚さが1500nm以上5000nm以下である、実施形態16に記載の窓。
【0243】
実施形態18
前記第1の多層膜における前記1つ以上の低屈折率材料と前記1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた前記交互層のうちの複数層により、前記耐擦傷層が前記端面から離間している、実施形態17に記載の窓。
【0244】
実施形態19
前記耐擦傷層が前記端面から少なくとも1000nm離間している、実施形態18に記載の窓。
【0245】
実施形態20
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む、実施形態1~19のいずれかに記載の窓。
【0246】
実施形態21
前記第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、実施形態20に記載の窓。
【0247】
実施形態22
前記基板に最も近い前記第2の多層膜のケイ素層が、前記2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、実施形態21に記載の窓。
【0248】
実施形態23
前記第2の多層膜に含まれる前記ケイ素層の合計厚さが250nm以上である、実施形態21に記載の窓。
【0249】
実施形態24
前記合計厚さが500nm以上である、実施形態22に記載の窓。
【0250】
実施形態25
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、実施形態21~24のいずれかに記載の窓。
【0251】
実施形態26
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される前記最大硬さが、少なくとも10GPaである、実施形態1~25のいずれかに記載の窓。
【0252】
実施形態27
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、300nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも8GPaである、実施形態1~26のいずれかに記載の窓。
【0253】
実施形態28
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、750nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも9GPaである、実施形態1~27のいずれかに記載の窓。
【0254】
実施形態29
第1の面と第2の面とを有する基板であって、前記第1の面と前記第2の面が前記基板の主面である、基板と、
前記基板の前記第1の面上に配置された第1の多層膜であって、該第1の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第1の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第1の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第1の多層膜と、
前記基板の前記第2の面上に配置された第2の多層膜であって、該第2の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第2の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第2の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第2の多層膜と、
を備える検知システム用の窓であって、
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される最大硬さが、少なくとも8GPaであり、
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる前記窓の平均反射率が0.5%を下回り、
前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記窓のCIELABのL*値が45以下となり、
前記第1の多層膜の側から見た場合の前記窓のCIELABのa*値およびb*値が-6.0以上6.0以下となるように構成される、窓。
【0255】
実施形態30
前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記CIELABのL*値が30以下である、実施形態29に記載の窓。
【0256】
実施形態31
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が95%を上回るように構成される、実施形態29~30のいずれかに記載の窓。
【0257】
実施形態32
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる前記窓の平均透過率が5%を下回るように構成される、実施形態29~31のいずれかに記載の窓。
【0258】
実施形態33
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように構成される、実施形態29~32のいずれかに記載の窓。
【0259】
実施形態34
前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の前記平均P偏光透過率および前記平均S偏光透過率が92%を上回る、実施形態33に記載の窓。
【0260】
実施形態35
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる前記窓の平均反射率が10%以下となるように構成される、実施形態29~34のいずれかに記載の窓。
【0261】
実施形態36
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に垂直に入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が95%を上回るように構成される、実施形態29~35のいずれかに記載の窓。
【0262】
実施形態37
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される前記最大硬さが、少なくとも10GPaである、実施形態29~36のいずれかに記載の窓。
【0263】
実施形態38
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される硬さが、300nm~2000nmの深さ範囲にわたり少なくとも8GPaである、実施形態29~37のいずれかに記載の窓。
【0264】
実施形態39
前記第1の多層膜における前記交互層のうち、前記基板から最も遠い位置にある1層が前記窓の端面の材料を構成し、前記窓の前記端面の材料が前記低屈折率材料を含み、
前記第1の多層膜が耐擦傷層を含み、該耐擦傷層は、前記1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、1500nm以上5000nm以下の厚さを有する、実施形態29~38のいずれかに記載の窓。
【0265】
実施形態40
前記第1の多層膜における前記1つ以上の低屈折率材料と前記1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた前記交互層のうちの複数層により、前記耐擦傷層が前記端面から離間しており、
前記耐擦傷層が前記端面から少なくとも1000nm離間している、実施形態39に記載の窓。
【0266】
実施形態41
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む、実施形態29~40のいずれかに記載の窓。
【0267】
実施形態42
前記第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、実施形態41に記載の窓。
【0268】
実施形態43
前記基板に最も近い前記第2の多層膜のケイ素層が、前記2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、実施形態42に記載の窓。
【0269】
実施形態44
前記第2の多層膜に含まれる前記ケイ素層の合計厚さが250nm以上である、実施形態43に記載の窓。
【0270】
実施形態45
前記合計厚さが500nm以上である、実施形態44に記載の窓。
【0271】
実施形態46
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、実施形態42~45のいずれかに記載の窓。
【0272】
実施形態47
第1の面と第2の面とを有する基板であって、前記第1の面と前記第2の面が前記基板の主面である、基板と、
前記基板の前記第1の面上に配置された第1の多層膜であって、該第1の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第1の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第1の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高い、第1の多層膜と、
前記基板の前記第2の面上に配置された第2の多層膜であって、該第2の多層膜が、1つ以上の高屈折率材料と1つ以上の低屈折率材料を交互に重ねた交互層を含み、該第2の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料の屈折率が、該第2の多層膜の前記1つ以上の低屈折率材料の屈折率よりも高く、該第2の多層膜の前記1つ以上の高屈折率材料がケイ素を含む、第2の多層膜と、
を備える検知システム用の窓であって、
前記第1の多層膜に対してバーコビッチ圧子硬さ試験を行うことにより測定される前記窓の最大硬さが、少なくとも8GPaであり、
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の角度で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の対象波長域で求められる前記窓の平均反射率が1%を下回り、
前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均透過率が90%を上回るように構成される、窓。
【0273】
実施形態48
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に15°以下の入射角で入射する光に対して、400nm~700nmの範囲で求められる前記窓の平均透過率が5%を下回るように構成される、実施形態47に記載の窓。
【0274】
実施形態49
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の平均P偏光透過率および平均S偏光透過率が85%を上回るように構成される、実施形態47~48のいずれかに記載の窓。
【0275】
実施形態50
前記第1の面および前記第2の面に60°以下の入射角で入射する光に対して、1400nm~1600nmの範囲内の50nm幅の前記対象波長域で求められる前記窓の前記平均P偏光透過率および前記平均S偏光透過率が92%を上回る、実施形態49に記載の窓。
【0276】
実施形態51
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記窓のCIELABのL*値が45以下となるように構成される、実施形態47~50のいずれかに記載の窓。
【0277】
実施形態52
前記第1の多層膜に対して60°以下の入射角に対する前記CIELABのL*値が30以下である、実施形態51に記載の窓。
【0278】
実施形態53
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜の側から見た場合の前記窓のCIELABのa*値およびb*値が-6以上6以下となるように構成される、実施形態47~52のいずれかに記載の窓。
【0279】
実施形態54
前記第1の多層膜と前記第2の多層膜における前記交互層の数量、厚さ、層数、および材料は、前記第1の多層膜に垂直に入射する光に対して、可視スペクトル全域で求められる前記窓の平均反射率が10%以下となるように構成される、実施形態47~53のいずれかに記載の窓。
【0280】
実施形態55
前記第1の多層膜における前記交互層のうち、前記基板から最も遠い位置にある1層が前記窓の端面の材料を構成し、前記窓の前記端面の材料が前記低屈折率材料を含み、
前記第1の多層膜が耐擦傷層を含み、該耐擦傷層は、前記1つ以上の高屈折率材料のうちの1つから形成され、1500nm以上5000nm以下の厚さを有する、実施形態47~54のいずれかに記載の窓。
【0281】
実施形態56
前記第1の多層膜における前記1つ以上の低屈折率材料と前記1つ以上の高屈折率材料を交互に重ねた前記交互層のうちの複数層により、前記耐擦傷層が前記端面から離間しており、
前記耐擦傷層が前記端面から少なくとも1000nm離間している、実施形態55に記載の窓。
【0282】
実施形態57
前記第2の多層膜が2層以上のケイ素層を含む、実施形態47~56のいずれかに記載の窓。
【0283】
実施形態58
前記基板に最も近い前記第2の多層膜のケイ素層が、前記2層以上のケイ素層のうちの最小の厚さを有している、実施形態57に記載の窓。
【0284】
実施形態59
前記第2の多層膜に含まれる前記ケイ素層の合計厚さが250nm以上である、実施形態57に記載の窓。
【0285】
実施形態60
前記合計厚さが500nm以上である、実施形態59に記載の窓。
【0286】
実施形態61
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料の層にケイ素ではない層がある、実施形態57~60のいずれかに記載の窓。
【0287】
実施形態62
前記第2の多層膜における前記1つ以上の高屈折率材料の層のうちケイ素ではない前記層が、該1つ以上の高屈折率材料の層のうち前記基板に最も近い層である、実施形態61に記載の窓。
【符号の説明】
【0288】
10 車両
12 LIDARシステム
14 車両のルーフ
16 車両の前方部
18 電磁波放射検知器
20 筐体
22 出射電磁波
24 窓
26 外界
28 反射電磁波
30 基板
32 基板の第1の面
34 基板の第2の面
35 基板の厚さ
36 第1の多層膜
38 第2の多層膜
40 高屈折率材料
42 低屈折率材料
44 第1の多層膜の端面
46 第1の多層膜の厚さ
48 第2の多層膜の端面
50 第2の多層膜の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
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図12A
図12B
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図20A
図20B
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図23
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図26A
図26B
図27
図28
図29
図30
図31
図32A
図32B
図33
図34
図35
図36
図37
図38A
図38B
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
【国際調査報告】