(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】血液ポンプにおける吸引事象を検出するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61M 60/538 20210101AFI20241018BHJP
A61M 60/17 20210101ALI20241018BHJP
A61M 60/216 20210101ALI20241018BHJP
A61M 60/39 20210101ALI20241018BHJP
【FI】
A61M60/538
A61M60/17
A61M60/216
A61M60/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519986
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 US2022047426
(87)【国際公開番号】W WO2023069713
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アルワトバン,モハマド
(72)【発明者】
【氏名】ダシェフスキー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】タン,シン
(72)【発明者】
【氏名】チュエフ,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】エル カタージ,アハマド
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077CC03
4C077DD08
4C077JJ08
4C077JJ19
(57)【要約】
ポンプモータ電流を監視することによって血液ポンプ内の吸引事象を検出するためのシステム及び方法。ポンプ吸引事象は、フィルタリングされたポンプモータ電流信号に基づいて計算される拍動指数と第1の所定の閾値との比較に基づいて、又は正規化されたバンドパスフィルタリングされたポンプモータ電流信号に関連付けられた計算された指数と第2の所定の閾値との比較に基づいて検出される。吸引事象はまた、計算された拍動指数及び正規化されたバンドパスフィルタリングされたポンプモータ電流信号に関連付けられた計算された指数の両方と、それぞれの第1及び第2の所定の閾値との比較に基づいて検出される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液ポンプであって、
入口及び出口と、
ロータと、
前記ロータの回転を駆動して前記入口から前記出口へ血液を搬送するモータと、
少なくとも1つのプロセッサとを備え、前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記モータのモータ電流信号を監視し、
前記モータ電流信号をフィルタリングし、
前記フィルタリングされたモータ電流信号に基づいて、前記モータ電流信号の拍動指数を計算し、
前記計算された拍動指数を所定の閾値と比較し、
前記比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成されている、血液ポンプ。
【請求項2】
前記モータ電流信号が、ローパスフィルタを使用してフィルタリングされる、請求項1に記載の血液ポンプ。
【請求項3】
前記ローパスフィルタが、2次バターワースフィルタである、請求項2に記載の血液ポンプ。
【請求項4】
前記ローパスフィルタが、0Hz~15Hzの周波数を通過させる、請求項2に記載の血液ポンプ。
【請求項5】
血液ポンプであって、前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記フィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内の最大モータ電流(最大MC)及び最小モータ電流(min MC)を検出し、
前記フィルタリングされたモータ電流信号の前記所定のウィンドウ内の平均モータ電流(平均MC)を計算し、
以下の式に従って、
【数1】
前記モータ電流信号の前記拍動指数を計算することによって、前記モータ電流信号の前記拍動指数を計算するように構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の血液ポンプ。
【請求項6】
前記所定のウィンドウが約2秒である、請求項5に記載の血液ポンプ。
【請求項7】
前記所定の閾値が約0.15である、請求項1又は5に記載の血液ポンプ。
【請求項8】
前記吸引事象の発生が、前記計算された拍動指数が前記所定の閾値未満であるときに検出される、請求項7に記載の血液ポンプ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのプロセッサが、検出された吸引事象の数を表す吸引カウントを含む吸引カウンタを維持するように構成されている、請求項1に記載の血液ポンプ。
【請求項10】
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記吸引カウンタが所定の吸引カウントに到達したときに、吸引事象が発生していることをユーザに警告するためにアラーム状態をトリガするように構成されている、請求項9に記載の血液ポンプ。
【請求項11】
前記所定の吸引カウントが4回である、請求項10に記載の血液ポンプ。
【請求項12】
前記少なくとも1つのプロセッサが、吸引事象の発生が検出されたときに前記吸引カウンタを1だけ増加させ、吸引事象の前記発生が検出されないときに前記吸引カウンタを1だけ減少させるように構成されている、請求項9に記載の血液ポンプ。
【請求項13】
前記少なくとも1つのプロセッサが、感知された血圧に関する情報なしに前記吸引事象の発生を検出するように構成されている、請求項1に記載の血液ポンプ。
【請求項14】
前記血液ポンプが、患者の心臓の心室に挿入可能な心臓ポンプである、請求項1に記載の血液ポンプ。
【請求項15】
血液ポンプであって、
入口及び出口と、
ロータと、
前記ロータの回転を駆動して前記入口から前記出口へ血液を搬送するモータと、
少なくとも1つのプロセッサとを備え、前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記モータのモータ電流信号を監視し、
前記モータ電流信号をローパスフィルタリングし、
前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、
前記バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、
前記正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいて指数値を計算し、
前記計算された指数値を所定の閾値と比較し、
前記比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成されている、血液ポンプ。
【請求項16】
前記モータ電流信号が、2次バターワースフィルタを使用してローパスフィルタリングされる、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項17】
前記モータ電流信号が、0Hz~15Hzの周波数を通過させるローパスフィルタを使用してローパスフィルタリングされる、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項18】
前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号が、6次楕円フィルタを使用してバンドパスフィルタリングされる、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項19】
前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号が、0.5Hz~5Hzの周波数を通過させるバンドパスフィルタを使用してバンドパスフィルタリングされる、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項20】
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内の最小値を検出し、前記所定のウィンドウ内の前記検出された最小値の絶対値を決定することによって、前記指数値を計算するように構成されている、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項21】
前記所定のウィンドウが約2秒である、請求項20に記載の血液ポンプ。
【請求項22】
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号内の各サンプルを、前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号内の対応する各サンプルで除算することによって、前記正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を計算する、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項23】
前記所定の閾値が約0.07である、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項24】
前記吸引事象の発生が、前記計算された指数値が前記所定の閾値未満であるときに検出される、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項25】
前記少なくとも1つのプロセッサが、検出された吸引事象の数を表す吸引カウントを含む吸引カウンタを維持するように構成されている、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項26】
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記吸引カウンタが所定の吸引カウントに到達したときに、吸引事象が発生していることをユーザに警告するためにアラーム状態をトリガするように構成されている、請求項25に記載の血液ポンプ。
【請求項27】
前記所定の吸引カウントが4である、請求項26に記載の血液ポンプ。
【請求項28】
前記少なくとも1つのプロセッサが、吸引事象の発生が検出されるときに前記吸引カウンタを1だけ増加させ、吸引事象の前記発生が検出されないときに前記吸引カウンタを1だけ減少させるように構成されている、請求項25に記載の血液ポンプ。
【請求項29】
前記少なくとも1つのプロセッサが、感知された血圧に関する情報なしに前記吸引事象の発生を検出するように構成されている、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項30】
前記血液ポンプが、患者の心臓の心室に挿入可能な心臓ポンプである、請求項15に記載の血液ポンプ。
【請求項31】
血液ポンプであって、
入口及び出口と、
ロータと、
前記ロータの回転を駆動して前記入口から前記出口へ血液を搬送するモータと、
少なくとも1つのプロセッサとを備え、前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記モータのモータ電流信号を監視し、
前記モータ電流信号をローパスフィルタリングし、
前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいて、前記モータ電流信号の拍動指数を計算し、
前記ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、
前記バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、
前記正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号に基づいて指数値を計算し、
前記計算された拍動指数を第1の所定の閾値と比較し、前記計算された指数値を第2の所定の閾値と比較し、
前記計算された拍動指数と前記第1の所定の閾値との前記比較、及び前記計算された指数値と前記第2の所定の閾値との前記比較に基づいて、吸引事象の発生を検出するように構成されている、血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月22日に出願された米国仮出願第63/270,940号の優先権及び利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本技術は、ポンプモータ電流を使用して、心臓ポンプなどの血液ポンプ内の吸引事象を検出するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血液ポンプなどの流体ポンプは、医療分野において広範な用途及び目的で使用されている。血管内血液ポンプは、患者の血管系、すなわち、静脈及び/又は動脈を通って、患者の心臓又は患者の循環系内の他の箇所の位置まで前進させることができるポンプである。例えば、血管内血液ポンプは、カテーテルを介して挿入され、心臓弁に及ぶように位置決めされてよい。血管内血液ポンプは、典型的に、カテーテルの端部に配設される。いったん定位置に置かれると、ポンプを使用して心臓を補助し、循環系を通して血液を圧送し、したがって、心臓が心臓発作後に回復することを可能にするなどのために、患者の心臓の作業負荷を一時的に低減してもよい。例示的な血管内血液ポンプは、Impella(登録商標)心臓ポンプの商品名でAbiomed,Inc.,Danvers,MAから入手可能である。
【0004】
このようなポンプは、心臓を補助するために、例えば、左心室などの心室内に位置決めすることができる。この場合、血液ポンプは、中空カテーテルによって大腿動脈を介して挿入され、患者の心臓の左心室まで及び左心室内に導入され得る。この位置から、血液ポンプ入口は血液を吸引し、血液ポンプ出口は血液を大動脈内に排出する。このようにして、心臓の機能は、ポンプの動作によって置換され得るか、又は少なくとも補助され得る。
【0005】
各血管内血液ポンプは、典型的にそれぞれの外部心臓ポンプ制御装置に接続され、それぞれの外部心臓ポンプ制御装置は、モータ速度など心臓ポンプを制御し、心臓信号レベル、バッテリ温度、血流速度、及びプラミング(plumbing)完全性などの、血液ポンプに関する動作データを収集し、表示する。例示的な心臓ポンプ制御装置は、Automated Impella Controller(登録商標)という商品名でAbiomed,Inc.から入手可能である。制御装置は、動作データ値が所定の値又は範囲を超えたとき、例えば、漏れ又は吸引の喪失が検出された場合、アラームを発する。制御装置は、動作データ及び/又はアラームが表示される、人間ユーザインターフェースとしてのビデオ表示画面を含む。
【0006】
血液ポンプが吸引を使用してポンプ内に血液を引き込むとき、ポンプ吸引入口が心臓組織に近すぎるか又は隣接している場合、吸引事象が起こり得る可能性がある。吸引事象は、ポンプ入口が心臓組織と相互作用し、ポンプ流の部分的又は完全な遮断を引き起こすときに生じ得る。持続的な吸引事象は、患者の心臓を損傷し、ポンプ機能を損ない、不十分な灌流を引き起こす可能性がある。加えて、吸引事象はまた、溶血をもたらし得る。したがって、吸引事象を解決することができるように吸引を検出する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
血液ポンプ内の吸引事象を検出するためのシステム及び方法が、本明細書に説明される。
【0008】
一態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するためのモータと、少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。少なくとも1つのプロセッサは、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をフィルタリングし、フィルタリングされたモータ電流信号に基づいてモータ電流信号の拍動指数を計算し、計算された拍動指数を所定の閾値と比較し、比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成される。
【0009】
別の態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するためのモータと、少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。少なくとも1つのプロセッサは、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をローパスフィルタリングし、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいて指数値を計算し、計算された指数値を所定の閾値と比較し、比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成される。
【0010】
別の態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するモータと、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をローパスフィルタリングし、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいてモータ電流信号の拍動指数を計算し、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号に基づいて指数値を計算し、計算された拍動指数を第1の所定の閾値と比較し、計算された指数値を第2の所定の閾値と比較し、計算された拍動指数を第1の所定の閾値と比較し、計算された指数値を第2の所定の閾値と比較したことに基づいて吸引事象の発生を検出するように構成された少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】心臓に挿入された従来技術のポンプを示す。
【
図2B】本技術による、
図2Aのポンプシステムの一部の断面図である。
【
図3】本技術によるポンプのモータ電流信号のグラフである。
【
図4】本技術によるポンプのモータ電流信号における拍動性を示すグラフである。
【
図5】本技術による拍動指数閾値に対する吸引検出を示すグラフである。
【
図6】本技術による吸引事象を検出するための方法のフローチャートである。
【
図7】本技術による、ノイズのあるモータ電流信号及びフィルタリングされたモータ電流信号を示すグラフである。
【
図8】本技術による楕円フィルタのフィルタ応答を示す。
【
図9】本技術によるバターワースフィルタのフィルタ応答を示す。
【
図10】本技術によるポンプのモータ電流信号のフィルタリング及び正規化を示す。
【
図11】本技術による吸引事象を検出するための別の方法のフローチャートである。
【
図12】本技術による吸引事象を検出するための別の方法のフローチャートである。
【
図13】本技術による吸引検出方法試験した結果を示す。
【
図14】本技術による吸引検出方法試験した結果を示す。
【
図15】本技術による吸引検出方法試験した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の態様は、同様の参照番号が類似又は同一の要素を識別する図面を参照して詳細に説明される。開示される態様は、様々な形態で具現化され得る本開示の単なる例であることを理解されたい。周知の機能又は構造は、不必要な詳細で本開示を不明瞭にすることを回避するために詳細に説明されない。したがって、本明細書で開示される特定の構造及び機能の詳細は、限定として解釈されるべきではなく、請求項の単なる根拠として、及び実質的に任意の適切に詳述された構造で本開示を様々に採用するために当業者を教示するための代表的な根拠として解釈されるべきである。
【0013】
従来、患者の心室に挿入されるカテーテルベースの心臓ポンプなどの血液ポンプでは、ポンプの入口と心臓組織との間の相互作用によって引き起こされ得る吸引事象は、圧力センサ及びモータ電流の両方を使用して検出される。
【0014】
例えば、従来技術のカテーテルベースの心臓ポンプが、
図1A及び1Bに示される。
図1A及び
図1Bの血液ポンプは、カテーテル10(カテーテルベースの血液ポンプ)に基づいており、それによって、血液ポンプは、大動脈12及び大動脈弁15を通して心臓の左心室16に一時的に導入される。
図1Bにより詳細に示すように、血液ポンプは、カテーテル10に加えて、カテーテルチューブ20の端部に固定された回転ポンプ装置50を備える。回転ポンプ装置50は、モータ部51と、そこから軸方向に離れて配置されるポンプ部52とを備える。フローカニューレ53は、その一端でポンプ部52に接続され、ポンプ部52から延在し、その他端に配置される流入ケージ54を有する。流入ケージ54には、非外傷性先端55が取り付けられている。ポンプ部52は、出口開口部56を有するポンプハウジングを備える。更に、ポンプ装置50は、モータ部51からポンプ部52のポンプハウジング内に突出する駆動シャフト57を備える。駆動シャフト57は、推進要素としてインペラ58を駆動し、それによって、血液ポンプの動作中、血液は、流入ケージ54(入口を形成する)を通して吸引され、大動脈弁15の他方の側の出口開口部56(出口を形成する)を通して排出されることができる。
【0015】
図1A及び
図1Bにおいて、カテーテル10のカテーテルチューブ20内には、ポンプ装置50まで、2本の信号線28A、28Bと、モータ部51に電流を供給するための電源線29との3本の線が通過する。2本の信号線28A、28B及び電源線29は、その近位端で制御装置100に取り付けられている。
【0016】
図1Bに示すように、信号線28A、28Bは、血圧センサを対応するセンサヘッド30及び60にそれぞれ結合され、センサヘッド30及び60は、ポンプ部52のハウジングの外部に配置される。第1の圧力センサのセンサヘッド60は、信号線28Bに関連付けられている。信号線28Aは、第2の血圧センサのセンサヘッド30に関連付けられ、接続される。圧力センサの信号は、センサの位置における圧力に関するそれぞれの情報を搬送し、任意の適切な物理的起源、例えば、光学的、液圧的又は電気的などの起源であってもよく、それぞれの信号線28A、28Bを介して制御装置100の対応する入力に伝送される。
【0017】
上述したように、センサ30、60によって感知された血圧と、電源線29を介してモータ部51に供給されるモータ電流とは、従来、吸引事象が発生しているか否かを判定するために制御装置100によって使用され得る。しかしながら、いくつかのポンプは、圧力センサを含まない場合があり、ポンプが患者に挿入され、患者から取り外されるときにポンプの最大外径を減少させるために、ポンプモータを患者の外側に配置する場合がある。
【0018】
例えば、本技術による制御ユニット200に結合されたポンプシステム100が
図2A及び
図2Bに示されている。ポンプ100は、遠位非外傷性先端102と、ロータ108を取り囲むコーティングされたポンプハウジング104と、流出チューブ106と、遠位ベアリング110と、近位ベアリング112と、入口116と、出口118と、カテーテル120と、ハンドル130と、ケーブル140と、モータ150とを含む。一態様では、ポンプハウジング104は、少なくとも部分的に弾性材料によって覆われ得る開口部を有するメッシュによって形成されるフレーム構造である。ポンプハウジング104の近位部分は、流出チューブ106の中空内部の中に延在し、その中に取り付けられ、ポンプハイジング104の遠位部分は、流出チューブ106の遠位端を越えて遠位に延在する。流出チューブ106を越えて遠位方向に延在するメッシュポンプハウジング104内の露出した開口部は、ポンプ100の入口116を形成する。流出チューブ106の近位端は、ポンプ100の出口118を形成する複数の開口部を含む。ロータ108は、ベアリング110、112の間に回転可能に取り付けられ、可撓性駆動シャフト114の遠位端に結合される。駆動シャフト114は、カテーテル120を通り、流出チューブ106の中空内部を通ってハンドル130内に延在し、ハンドル130に一体化されたモータ130に結合される。ハンドル130の近位端は、ケーブル140を介して制御ユニット200に結合される。
【0019】
制御ユニット200は、1つ以上のメモリ202、1つ以上のプロセッサ204、ユーザインターフェース206、及び1つ以上の電流センサ208を含む。プロセッサ(複数可)204は、1つ以上のマイクロコントローラ、1つ以上のマイクロプロセッサ、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)、1つ以上のデジタル信号プロセッサ、プログラムメモリ、又は他の同様の構成要素を備え得る。プロセッサ204は、制御ユニット200の他の構成要素(例えば、202、206、208)及びポンプ100の動作に通信可能に結合され、それらを制御するように構成される。一態様では、制御装置200は、Abiomed,Inc.(Danvers,MA)製のAutomated Impeller Controller(登録商標)である。いくつかの態様では、メモリ202は、プロセッサ204内部に含まれる。
【0020】
動作中、プロセッサ204は、ケーブル140内の電源線(図示せず)によってモータ150に送達される電力を(例えば、電源(図示せず)を制御することによって)制御する。モータ150に送達される電力を制御することによって、プロセッサ204は、モータ150の速度を制御することができる。一態様では、プロセッサ204は、モータ電流を測定及びサンプリングする1つ以上の電流センサ208を使用してモータ電流を監視し得る。電流センサ208は、制御ユニット200内に、又はケーブル140内の電源線の任意の部分に沿って含まれ得る。別の態様では、電流センサ208はモータ130に含まれてもよく、プロセッサ204は、プロセッサ204及びモータ150に結合されたケーブル140内のデータ線(図示せず)を介してモータ電流を監視及び測定してもよい。
【0021】
メモリ202は、制御ユニット200の構成要素の様々な機能のためのコンピュータ可読命令及び他の情報を記憶し得る。一態様では、メモリ202は、電気的消去可能プログラマブル読取り専用メモリ(EEPROM)などの揮発性及び/又は不揮発性メモリを含む。
【0022】
ユーザインターフェース206は、ボタン、スイッチ、ノブなどのユーザ入力を受信するための手段を含んでもよい。更に、ユーザインターフェース206は、情報を表示するためのディスプレイと、ポンプ100の動作に関する情報を搬送及び/又は警告を提供するための、光インジケータ、音声インジケータなどの1つ以上のインジケータとを含んでもよい。
【0023】
ポンプ100は、導入器システムを用いて患者の体内、例えば心臓の左心室内に挿入可能である。一態様では、ハウジング104、ロータ108、及び流出チューブ106は、ポンプ100が挿入中に例えば9Fr(3mm)の比較的小さい外径を達成することを可能にするように半径方向に圧縮可能である。
図1A及び
図1Bのポンプを参照して上述したのと同様に、ポンプ100が患者の体内、例えば左心室に挿入されると、ハンドル130及びモータ150は患者の体外に配置される。モータ150は、プロセッサ204によって制御され、駆動シャフト114及びロータ108の回転を駆動し、血液を入口116から出口118に搬送する。ロータ108は、血液を反対方向に搬送するためにモータ150によって逆に回転されてもよいことを理解されたい(この場合、118の開口部は入口を形成し、116の開口部は出口を形成する)。一態様では、ポンプ100は、6時間までの持続時間にわたって高リスク手順中に使用されることが意図されているが、本開示の技術は、いかなる特定のタイプの処置及び/又は使用期間にも限定されないことを理解されたい。
【0024】
ポンプ100は、
図1A及び1Bに示されるような従来のポンプに含まれる圧力センサを欠いているので、圧力信号に依存する従来の吸引検出方法又はアルゴリズムは、ポンプ100とともに使用することができない。しかしながら、ポンプ100が患者に挿入されるとき、吸引事象は依然として発生する可能性があり、患者及び/又はポンプ100への損傷のリスクが低減され得るように適時に解決されるように検出される必要がある。したがって、ポンプ100などの圧力センサを含まないポンプにおいて吸引検出を可能にする必要がある。
【0025】
この必要性に対処し、圧力センサを含まないそのような血液ポンプにおける吸引検出を可能にするために、本開示は、ポンプのモータ電流信号のみを使用して、血液ポンプにおける吸引事象を検出するためのシステム及び方法を説明する。一態様では、モータ電流信号の拍動指数を使用して吸引事象を検出するためのシステム及び方法が開示される。別の態様では、モータ電流信号の正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号の指数を使用して吸引事象を検出するためのシステム及び方法が開示される。更に別の態様では、拍動指数及び正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号の指数の両方を使用して吸引事象を検出するためのシステム及び方法が開示される。
【0026】
本明細書に説明される吸引検出方法(すなわち、以下に説明される方法600、1100、1200)は、ポンプシステム100の制御ユニット200において実装されてもよい。例えば、以下に説明される方法のうちの1つ又は全てのためのコンピュータ可読命令は、1つ以上のメモリ202に記憶され、吸引事象を検出するためにポンプの使用中に制御ユニット200の1つ以上のプロセッサ204によって実行されてもよい。更に、所定の閾値、所定のウィンドウ長ウィンドウ長、ビンサイズ、及び/又は以下で説明する方法の任意の他のパラメータ及び設定など、本明細書で説明する方法で使用される1つ以上のプロセッサのパラメータ及び設定は、メモリ202に記憶され得る。パラメータ及び設定、並びにプロセッサ204によって実行される特定の吸引検出方法は、制御ユニット200のユーザインターフェース206へのユーザ入力を介して、ユーザによって調節又は選択されてもよい。
【0027】
正規化
ポンプ100の標準の使用中であって、吸引事象の発生がない場合、モータ150のモータ電流は、時間の経過とともに下降する傾向があることなどによって、時間とともに変化し得る。例えば、本明細書で説明される方法による、下降する傾向のモータ電流が
図3に示されている。
図3のグラフにおいて、y軸はモータ電流(mA単位)を表し、x軸は時間を表す。したがって、下降する傾向のモータ電流は、吸引事象を検出するように構成されたプロセッサにおいて確実に実装され得る絶対閾値を達成することを困難にする。更に、異なるポンプモデルの特性及び性能、並びにそれらの異なるポンプの動作速度にはばらつきがある。したがって、以下でより詳細に説明するように、いくつかの態様では、本明細書で説明する方法によって提供されるプロセッサ出力の指数は、正規化し得、モータ電流の絶対値に依存しない。正規化された指数を使用することは、異なるポンプ速度にわたって、及び変動する(例えば、減少する)モータ電流を考慮して、異なるポンプとともに使用され得る吸引事象を検出するために使用される絶対又はグローバル閾値を組み込むことによって、より信頼性の高い吸引検出を生成する。
【0028】
拍動指数を使用する吸引検出
本技術の一態様において、拍動指数は、ポンプシステム100などのポンプシステムにおける吸引事象を検出するために使用される。例えば、血流の医療用超音波分析の分野では、拍動指数は、ピーク収縮期血流速度と拡張末期血流速度との間の差を時間平均流速で除算したものとして定義される。そのような拍動指数は、音響絶縁の位置から遠位の動脈における血管抵抗を反映すると仮定される。本明細書で説明されるように、収縮期及び拡張期の流速拍動性の原理は、モータ電流の拍動指数(PI)を計算するために血液ポンプのモータ電流信号に拡張されてもよく、吸引事象を検出するために使用される。
【0029】
例えば、本技術の一態様では、モータ電流信号のPIを計算するために、所定の持続時間ウィンドウ(所定のウィンドウ)内の最大モータ電流(最大MC)及び最小モータ電流(min MC)が各々プロセッサ204によって検出される。また、平均モータ電流(平均MC)は、プロセッサ204によって、所定のウィンドウ内のモータ電流サンプルを平均することによって計算される。
【0030】
【数1】
式中、Nは、所定の時間ウィンドウ内に収集されたサンプルの数を表す。一態様では、所定のウィンドウは2秒であり、所定の時間ウィンドウ内に収集されるサンプルの数Nは500である。2秒の時間ウィンドウは、本技術のアルゴリズムを使用して吸引事象を検出するために使用されるとき、感度と安定性との間のバランスを提供するように選択される。この点に関して、2秒の時間ウィンドウは、方法が吸引事象を検出するのに十分な感度であることを可能にするのに十分に短く、一方で、方法が安定であることを可能にするのに十分に長い。所定のウィンドウについて2秒未満又は2秒を超える他の持続時間(例えば、1秒、5秒など)が、本明細書で説明する方法の範囲内にあると企図されることを理解されたい。
【0031】
ここで計算された最大MC、最小MC、及び平均MCを用いて、プロセッサ204は、以下に定義されるように、モータ電流信号の正規化されたPIを計算する。
【0032】
【0033】
吸引事象が発生すると、モータ電流のPIを減少させ、最小モータ電流を増加させる。例えば、この効果は、本技術による
図4のグラフに示されている。
図4において、y軸はmA単位で測定されたモータ電流を表し、x軸は時間を表す。図示のように、ポンプの使用中、モータ電流は拍動挙動を示す。しかしながら、吸引事象中のモータ電流の拍動性は変化する。この点に関して、
図4に示すように、吸引事象402の間、モータ電流のPI(式2で計算される)は減少し、最小モータ電流は、吸引事象402の外側(前後)のPI及び最小モータ電流に対して増加する。
【0034】
吸引事象中に示されるモータ電流の拍動性の減少は、ポンプの使用中にそのような吸引事象を検出するために、本技術に従って使用される。計算されたPIは正規化されるので、グローバル閾値は、全てのポンプ速度にわたって、時間とともに減少するモータ電流を考慮して定義することができる。次いで、ポンプが使用中であるときに、グローバル閾値をモータ電流の計算されたPIと比較して、吸引事象が発生しているか否かを検出し得る。例えば、一態様では、閾値は約(例えば、+/-10%)0.15であり得る。
図5を参照すると、実験室試験の結果の本技術によるグラフが示されており、吸引事象中及び吸引事象なしの両方で、異なるポンプ速度(
図5のpレベルP9~P5として表される)及び血圧条件(すなわち、
図5の凡例に示される90/70、120/70、160/20mmHg)がシミュレートされた。
図5のグラフにおいて、y軸はモータ電流のPIを表し、x軸はポンプモータの最小モータ電流(mAで測定)を表す。
図5に示すように、吸引事象が存在しない場合、計算されたPIは0.15を超え、セクション事象が存在する場合、計算されたPIは0.15未満であった。したがって、0.15は、異なるポンプ速度及び血圧条件下で吸引事象の発生を予測するための適切なPIであることが見出された。0.15の閾値は、吸引事象を検出する際に使用される場合、感度と安定性又は特異性とのバランスをとることが見出される。計算されたPIとの比較のための他の閾値は、本開示の範囲内であると企図されることを理解されたい。
【0035】
図7を参照すると、本技術によるモータ電流信号及びフィルタリングされたモータ電流信号のグラフが示されている。
図7のグラフにおける結果は、ノイズのある環境における動物研究の間に得られた。y軸は、mAで測定されたモータ電流を表し、x軸は時間を表す。
図7のグラフの点線は、モータ電流信号である。図示のように、ノイズのある環境では、モータ電流信号は、モータ電流のPIを使用する上述の方法の精度を低減させ得るスパイク及びノイズを含む。信号は、
図7の実線に示されるように、吸引検出方法の精度を増加させ得、よりノイズが少なく、より平滑な信号を生成するようにフィルタリングされてもよい。例えば、モータ電流信号は、15Hzローパスフィルタを使用してローパスフィルタリングされてもよく、15Hzローパスフィルタは、モータ電流信号内のノイズスパイクを除去する一方で、信号内の関連する拍動性及び心拍情報も保存するように選択される。
【0036】
図6を参照すると、ポンプ100などの患者におけるポンプの使用中にモータ電流のPIを使用して吸引事象を検出するための方法600が、本技術に従って示されている。方法600は、ポンプのモータ電流を唯一の入力として使用して、プロセッサ204などのポンプシステムの1つ以上のプロセッサによって実施又は実行され得ることを理解されたい。
【0037】
最初に、ステップ602において、プロセッサ204は、患者の中へのポンプの展開及びポンプの起動後、ポンプモータのモータ電流を監視する。ステップ604において、モータ電流信号は、モータ電流信号からノイズ及びスパイクを除去するために、ローパスフィルタを使用してフィルタリングされる。例えば、一態様では、モータ電流信号をフィルタリングするために15Hzのローパスフィルタが使用され得るが、他の態様では他のローパスフィルタ(例えば、15Hz以外の周波数に基づくローパスフィルタ)が適切であり得ることを理解されたい。1つの例示的な態様において、ローパスフィルタは、
図9に示されるような2次バターワースフィルタであってもよい。更に、フィルタリングは、プロセッサ204によってデジタル的に実装されてもよいことを理解されたい。代替的に、プロセッサ204は、モータ電流信号をローパスフィルタリングするために、例えば、制御ユニット200に含まれるか又は制御ユニット200の外部にあるアナログフィルタ回路を制御してもよい。
【0038】
ステップ606において、プロセッサ204は、フィルタリングされたモータ電流信号の所定の時間ウィンドウ(例えば、2秒)内の最大MC及び最小MCを検出する。ステップ608において、プロセッサ204は、上記の式1に従って、フィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内のモータ電流サンプルの平均MCを計算する。ステップ610において、プロセッサ204は、上記の式2に従って、ステップ606の検出された最大MC及び最小MC並びにステップ608の計算された平均MCを使用して、所定のウィンドウに対するモータ電流のPIを計算する。ステップ612において、プロセッサ204は、ステップ610の計算されたPIを第1の閾値と比較する。上述のように、第1の閾値は、約0.15であってもよく、異なるポンプ速度、異なるポンプタイプにわたって、及び下降傾向のモータ電流を考慮して、確実に使用されてもよい。ステップ612において、プロセッサ204が、計算されたPIが第1の閾値を下回らない(すなわち、上回る)と判定した場合、プロセッサ204は、ステップ614において、吸引が検出されないと判定する。或いは、ステップ612において、プロセッサ204が、計算されたPIが第1の閾値未満であると判定した場合、プロセッサ204は、ステップ618において吸引が検出されたと判定する。
【0039】
一態様では、吸引検出方法600は、ステップ614、618からの非吸引/吸引検出のカウントを保持するカウンタ(プロセッサ204によって実装及び維持され、メモリ202に記憶される)を含んでもよい。例えば、一態様では、カウンタは、吸引が検出されない場合にプロセッサ204がカウンタを1だけ減少させ、吸引が検出される場合にカウンタを1だけ増加させるような段階的カウンタである。カウンタが0である場合、プロセッサ204は、カウンタを0未満に減少させない、すなわち、0がカウンタのフロアであることを理解されたい。カウンタが所定の吸引カウントに到達したとプロセッサ204が判定した場合、プロセッサ204によってアラーム状態がトリガされる。所定の吸引カウントは、吸引検出の感度と安定性とのバランスをとるように選択される。この点に関して、所定の吸引カウントは、吸引事象が発生していることを示すためのアラーム状態をトリガするために、ステップ612における比較のいくつかのクラスタ化された確認を要求することによって、偽陽性を防止し得る。一態様では、所定の吸引カウントは4回に設定されるが、本開示によれば、所定の吸引カウントは4回より多くても少なくてもよい。一態様では、所定の吸引カウントは、例えばユーザインターフェース206へのユーザ入力を介してユーザによって調整可能であってもよい。
【0040】
例えば、
図6の方法600に戻ると、ステップ612における比較に基づいて吸引が検出されないとき、プロセッサ204は、ステップ616において、カウンタを1だけ減少又は減分する。或いは、ステップ612における比較に基づいて吸引が検出された場合、プロセッサ204は、ステップ620においてカウンタを1だけ増加又は増分する。上述したように、カウンタが0である場合、プロセッサ204は、カウンタを0未満に減少させない、すなわち、0はカウンタのフロアである。ステップ622において、プロセッサ204は、カウンタが所定の吸引カウントに到達したか否かを判定する。ステップ622において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達していないと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ602におけるMC信号の監視に戻り、方法600が再び実行される。或いは、ステップ622において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達したと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ620において、アラーム状態をトリガし、吸引事象が検出されたことをポンプ100のユーザに警告し、プロセッサ204は、カウンタを0にリセットする。アラーム状態は、検出されたアラーム状態をユーザに警告するための1つ以上のインジケータをトリガすることを含んでもよい。例えば、インジケータは、光インジケータ(例えば、発光ダイオード(LED)、可聴アラーム、及び/又は例えば制御ユニット200のユーザインターフェース206内のディスプレイ装置への表示のために出力される通知若しくはメッセージ)を含んでもよい。可聴アラームを出力するための光インジケータ及び/又はスピーカは、ユーザインターフェース206制御ユニット200に含まれてもよい。インジケータは、(例えば、触覚フィードバックを介してユーザに警告するためにポンプ100のハンドル内に)振動又は触覚アクチュエータを更に含んでもよい。インジケータは、光インジケータ、可聴アラーム、触覚アクチュエータ、及び通知のうちの1つ、又はそのようなインジケータの組み合わせ若しくは部分的組み合わせを含んでもよい。ステップ624でアラーム状態をトリガし、カウンタを0にリセットした後、プロセッサ204は、方法600のステップ602でMC信号を監視することに戻る。
【0041】
方法600における使用のために段階的カウンタが上述されているが、本技術の他の態様では、アラーム状態をトリガするために他のタイプのカウンタが使用され得ることを理解されたい。例えば、一態様では、プロセッサ204は、(ステップ612における比較に基づいてステップ618において検出された)吸引の指数を含むとプロセッサ204によって判定されたフィルタリングされたモータ電流信号の以前のウィンドウ(例えば、上述したように2秒ウィンドウ)の数のカウントを保持するカウンタ(例えば、メモリ202に記憶される)を制御又は維持してもよい。プロセッサ204が、所定の総数の以前のウィンドウのうちの所定の数のウィンドウ(例えば、7つの以前のウィンドウのうちの4つ、8つの以前のウィンドウのうちの5つ、又は別の比率)が吸引の指数を含むと判定する場合、プロセッサ204は、吸引事象が発生したと判定し、アラーム状態をトリガする。
【0042】
方法600の一態様では、ステップ614及び618は除去されてもよく、この態様では、プロセッサ204は、ステップ622における所定の吸引カウントに到達した場合にのみ、吸引事象が発生したと判定してもよい。
【0043】
方法600の別の態様では、ステップ616、620、及び622(カウンタに関するステップ)は、方法600から除去されてもよく、この態様では、プロセッサ204は、(ステップ612における比較に基づいて)ステップ618において吸引が検出された場合にアラーム状態をトリガし、ステップ602におけるモータ電流の監視に戻る。プロセッサ204がステップ614において吸引条件を検出しない場合、本方法は、ステップ602におけるモータ電流の監視に戻る。
【0044】
正規化された最小バンドパス信号を使用する吸引検出
次に、追加の信号フィルタリングを含む吸引検出の別の態様について説明する。例えば、この第2の態様では、モータ電流(MC)信号を(例えば、上述のように15Hzローパスフィルタを使用して)ローパスフィルタリングすることに加えて、モータ電流信号は、0.5~5Hzなどの第2の所定の範囲内の周波数を通過させるバンドパスフィルタを使用してプロセッサ204によって更にフィルタリングされる。第2の所定の範囲、例えば0.5~5Hzは、30~300拍/分(BPM)の典型的な心拍周波数範囲に基づいて選択される。第2の所定の範囲は、0.5~3Hz、0.5~5Hz、0.5~8Hz、0.5~10Hz、又は患者の心拍の拍動性に関する十分な情報を含む任意の他の適切な範囲であってもよいことを理解されたい。0.5Hz~5Hzの範囲は、以下でより詳細に説明する吸引検出のこの態様において使用されるとき、感度と安定性とのバランスをとり得る。
【0045】
バンドパスフィルタリングは、30~300 BPMの典型的な心拍範囲を仮定して、モータ電流信号から拍動情報を抽出することに類似している。バンドパスフィルタ及びローパスフィルタは、プロセッサ204によって適用されるデジタルフィルタ(例えば、メモリ202に記憶され、プロセッサ204によって実行され得るフィルタソフトウェア)であり得る。代替的に、プロセッサ204は、例えば、制御ユニット200に含まれるか又は制御ユニット200の外部にあるアナログフィルタ回路(適切なローパスフィルタ及びバンドパスフィルタを含む)を制御して、モータ電流信号をローパスフィルタリング及びバンドパスフィルタリングしてもよい。
【0046】
一態様では、バンドパスフィルタは、第2の所定の範囲、例えば0.5~5Hz内の周波数を通過させる6次楕円フィルタであり得る。
図8は、そのような楕円フィルタのフィルタ応答のグラフを示し、y軸は利得(dB単位)を表し、x軸は0.5~5Hzの範囲の全ての周波数を通過させる楕円フィルタの周波数(Hz単位)を表す。更に、一態様では、ローパスフィルタは、第1の所定の範囲、例えば、0Hz~15Hzの周波数を通過させる2次バターワースフィルタであってもよい。
図9は、そのようなバターワースフィルタのフィルタ応答のグラフを示し、y軸は利得(dB単位)を表し、x軸は0~15Hzの範囲の全ての周波数を通過させるバターワースフィルタの周波数(Hz単位)を表す。
【0047】
上述したように、吸引検出方法使用される信号の正規化は、モータ電流が時間とともに変化し得る(例えば、下降する傾向がある)場合であっても、絶対閾値を使用して吸引事象を検出することを可能にする。したがって、本明細書で説明する方法のこの態様は、バンドパスフィルタリングされた信号を正規化することによって継続する。例えば、一態様では、プロセッサ204は、以下の式に従ってバンドパス信号を正規化する。
【0048】
【数3】
式中、式3は、正規化されたバンドパス信号を生成するために、バンドパスフィルタリングされた信号の各サンプルi式3中のMCバンドパス(i)が、ローパスフィルタリングされた信号の各サンプルMC(ローパス(i))によって除算されるように、点毎の演算として実行される。
【0049】
次いで、プロセッサ204は、信号の所定のウィンドウ内の正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号の最小値を検出し、閾値に対してMBS指数を評価することによって、正規化された最小バンドパス信号指数(本明細書ではMBS指数と呼ばれる)を計算する。一態様では、所定のウィンドウ内の検出された最小値の絶対値(すなわち、abs(MBS))が閾値と比較される。MBSの絶対値を使用することは、吸引事象の判定をより簡単にする。
図15を参照すると、正規化された最小バンドパス信号(MBS)の棒グラフにおいて、閾値を超える値は、吸引事象のしるしである。MBSによって表される電流は負であり得るので、「より負」である(すなわち、絶対値の意味で閾値より小さいが大きい)値は、「吸引なし」のしるしである。これらの負の値の絶対値を使用して、閾値を下回るMBS値の絶対値は、吸引事象のしるしであり、閾値を上回るabs(MBS)値は、非吸引のしるしである。MBS計算のための所定のウィンドウは、2秒であり得、これは、上記で説明されたように、吸引検出の信頼性と安定性とのバランスをとり得るウィンドウである。しかしながら、他のウィンドウ(例えば、1秒、3秒、4秒、5秒など)が本明細書で企図される。正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号が正規化されるので、第2の所定の閾値は、異なるポンプ速度、ポンプタイプにわたって、及び時間とともに変動する(例えば、減少する)モータ電流を考慮して、定義されることができる。次いで、第2の所定の閾値は、吸引事象が発生したか否かを検出するために、ポンプが使用中であるとき、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号のabs(MBS)値と比較され得る。例えば、一態様では、第2の閾値は、約(例えば、+/-10%)0.07であってもよく、第2の閾値を下回るabs(MBS)値は、吸引事象の発生を示し、第2の閾値を上回るabs(MBS)値は、吸引事象の不在を示す。0.07の第2の閾値は、吸引事象を検出するために使用されるとき、感度と安定性とのバランスをとることが見出される。abs(MBS)と比較するための他の閾値が本明細書で企図されることを理解されたい。例えば、第2の閾値は、0.05~0.12の範囲であってもよい。この範囲の下限の値は、abs(MBS)と比較するための第2の閾値として使用される場合、感度の増加をもたらし得るが、安定性の減少をもたらし得ることを理解されたい。更に、この範囲の上限の値は、abs(MBS)との比較のための第2の閾値として使用されるとき、感度の減少をもたらすが、安定性の増加をもたらし得る。
【0050】
本技術による、上述のモータ電流信号をフィルタリング及び正規化するプロセスが、
図10に示されている。例えば、
図10は、グラフ1002、1004、1006を含み、各グラフのy軸は、モータ電流(mA単位)であり、各グラフのx軸は、時間(2秒増分でマークされる)である。グラフ1002は、ポンプのモータ電流を示し、グラフ1004は、上述のバターワースフィルタを使用してローパスフィルタリングされ、上述の楕円フィルタを使用してバンドパスフィルタリングされた後のグラフ1002のモータ電流信号を示し、グラフ1006は、上述の式3に従って正規化された後のバンドパスフィルタリングされた信号を示す。グラフ1002の元のモータ電流信号は、(段階的なモータ電流変化に示されるように)モータ速度が段階的に制御された動物研究中に得られた。各速度変化の終了時に、下大静脈(IVC)閉塞(以下に説明されるように、閉塞ツールを使用する)及び/又は大動脈弁の近傍にポンプの入口を配置することによって、吸引事象がシミュレートされた。シミュレートされた吸引事象は、グラフ1004及び1006における信号の間隔が狭くなっていることに見ることができ、そこでは、モータ電流拍動性が各吸引事象中に減少する。グラフ1006に示されるように、バンドパスフィルタリングされた信号を正規化することによって、グラフ1006におけるフィルタリングされた信号は、実験中に変化するモータ速度を考慮しても、より均一な形状を得る。したがって、グラフ1004に示されるバンドパスフィルタリングされた信号の異なる拍動性は、上述の第2の閾値に対する比較のために正規化されている。この点に関して、グラフ1006に示される正規化されたバンドパス信号の最小値は、2秒ウィンドウ毎に検出され、最小値の絶対値(すなわち、計算されたMBS指数)は、第2の閾値と比較されて、評価されたウィンドウ内で吸引事象が発生した/発生しているか否かを判定する。
【0051】
図11を参照すると、本技術による、ポンプ100などのポンプの患者内での使用中に、上述のバンドパスフィルタリング、正規化、及びMBS指数値を使用して吸引事象を検出するための方法1100が示されている。方法1100は、ポンプのモータ電流を唯一の入力として使用して、ポンプ100のプロセッサ204などのポンプシステムの1つ以上のプロセッサによって実施又は実行され得ることを理解されたい。
【0052】
最初に、ステップ1102において、プロセッサ204は、患者の中へのポンプの展開及びポンプの起動後、ポンプモータのモータ電流を監視する。ステップ1104において、モータ電流信号は、ローパスフィルタを使用してフィルタリングされる。例えば、一態様では、上述の2次バターワースフィルタなどの15Hzローパスフィルタを使用して、モータ電流信号をフィルタリングし得る。ステップ1106において、ローパスフィルタリングされた信号は、上述のように、0.5~5Hzなどの所定の範囲内の信号の周波数を通過させるバンドパスフィルタを使用して、プロセッサ204によってバンドパスフィルタリングされる。例えば、別の態様では、0.5Hz~5Hzの範囲の周波数を通過させる6次楕円フィルタが、上記で説明したように、ローパスフィルタリングされた信号をフィルタリングするために使用され得る。
【0053】
方法1100におけるフィルタリングは、プロセッサ204によってデジタル的に実装され得ることが理解されるべきである。代替的に、プロセッサ204は、例えば、制御ユニット200に含まれるか又は制御ユニット200の外部にあるアナログフィルタ回路(適切なローパスフィルタ及びバンドパスフィルタを含む)を制御して、モータ電流信号をローパスフィルタリング及びバンドパスフィルタリングしてもよい。
【0054】
ステップ1108において、プロセッサ204は、上記の式3に従って、ステップ1106のバンドパスフィルタリングされた信号の各サンプルを、ステップ1104のローパスフィルタリングされた信号の対応する各サンプルで除算することによって、バンドパス信号の正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号を計算する。ステップ1109において、プロセッサ204は、正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号の所定の時間ウィンドウ(例えば、2秒)内の最小値を検出することによって、正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号のMBS指数を計算し、計算された値からabs(MBS)を決定する。ステップ1110において、プロセッサ204は、ステップ1109のabs(MBS)を第2の閾値と比較する。上述のように、第2の閾値は、0.07であってもよく、異なるポンプ速度、ポンプタイプにわたって、及び変動する(例えば、下降傾向にある)モータ電流を考慮して、確実に使用されてもよい。ステップ1110において、プロセッサ204が、abs(MBS)が第2の閾値を下回らない(すなわち、それ以上である)と判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1112において、吸引が検出されないと判定する。或いは、ステップ1110において、プロセッサ204が、abs(MBS)が第2の閾値未満であると判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1120において、吸引事象が検出されたと判定する。
【0055】
上述したように、吸引検出の信頼性と安定性とのバランスをとるために、カウンタがプロセッサ204によって実装されてもよい。カウンタは、上述のように、段階的カウンタ又は任意の他の適切なカウンタであってもよい。
【0056】
例えば、
図11の方法1100に戻ると、ステップ1110における比較に基づいて吸引が検出されないとき、プロセッサ204は、ステップ1114において、カウンタを1だけ減少又は減分する。或いは、ステップ1110における比較に基づいて吸引が検出された場合、プロセッサ204は、ステップ1122においてカウンタを1だけ増加又は増分する。上述したように、カウンタが0である場合、プロセッサ204はカウンタを0未満に減少させない、すなわち、0はカウンタのフロアである。ステップ1124において、プロセッサ204は、カウンタが所定の吸引カウントに到達したか否かを判定する。ステップ1124において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達していないと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1102におけるMC信号の監視に戻り、方法1100が再び実行される。或いは、ステップ1124において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達したと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1126において、アラーム状態をトリガし、吸引事象が検出されたことをポンプ100のユーザに警告し、プロセッサ204は、カウンタを0にリセットする。アラーム状態は、方法600のステップ624に関連して上述したように、検出されたアラーム状態をユーザに警告するための1つ以上のインジケータをトリガすることを含んでもよい。ステップ1126でアラーム状態をトリガし、カウンタを0にリセットした後、プロセッサ204は、方法1100のステップ1102でMC信号を監視することに戻る。
【0057】
方法1100の別の態様では、ステップ1112及び1120は、除去されてもよく、本側面では、プロセッサ204は、ステップ1124における所定の吸引カウントに到達した場合のみ、吸引事象が発生したと判定してもよい。
【0058】
方法1100の別の態様では、ステップ1114、1122、及び1124(カウンタに関するステップ)は、方法1100から除去されてもよく、この態様では、プロセッサ204は、(ステップ1110における比較に基づいて)ステップ1120において吸引事象が検出された場合にアラーム状態をトリガし、ステップ1102におけるモータ電流の監視に戻る。プロセッサ204がステップ1112において吸引条件を検出しない場合、本方法は、ステップ1102におけるモータ電流の監視に戻る。
【0059】
PI及びMBS指数の両方を使用する吸引検出
一態様では、
図6及び
図11に関連して上述したモータ電流のPI及びMBS指数を使用するアルゴリズムは、本明細書で説明する方法の別の態様に従って組み合わされる。単一の方法におけるPI及びMBS指数の組み合わせは、吸引検出のための更により高感度で安定した結果を生成し得る。
【0060】
図12を参照すると、本技術による、ポンプ100などの患者内のポンプの使用中にモータ電流のPI及びMBS指数を使用して吸引事象を検出するための方法1200が示されている。方法1200は、ポンプのモータ電流を唯一の入力として使用して、ポンプ100のプロセッサ204などのポンプの1つ以上のプロセッサによって実施又は実行され得ることを理解されたい。
【0061】
図12を参照すると、ポンプ100などのポンプの患者内での使用中に上述のモータ電流のPI及びMBS指数値の両方を使用して吸引事象を検出するための方法1200が、本技術に従って示されている。方法1200は、ポンプのモータ電流を唯一の入力として使用して、ポンプ100のプロセッサ204などのポンプシステムの1つ以上のプロセッサによって実施又は実行され得ることを理解されたい。
【0062】
最初に、ステップ1202において、プロセッサ204は、患者の中へのポンプの展開及びポンプの起動後、ポンプモータのモータ電流を監視する。ステップ1204において、モータ電流信号は、ローパスフィルタを使用してフィルタリングされる。例えば、一態様では、上述の2次バターワースフィルタなどの15Hzローパスフィルタを使用して、モータ電流信号をフィルタリングし得る。ステップ1206において、ローパスフィルタリングされた信号は、上述のように、0.5~5Hzなどの所定の範囲内の信号の周波数を通過させるバンドパスフィルタを使用して、プロセッサ204によってバンドパスフィルタリングされる。例えば、一態様では、0.5Hz~5Hzの範囲の周波数を通過させる6次楕円フィルタが、上記で説明したように、ローパスフィルタリングされた信号をフィルタリングするために使用され得る。
【0063】
方法1200におけるフィルタリングは、プロセッサ204によってデジタル的に実装され得ることが理解されるべきである。代替的に、プロセッサ204は、例えば、制御ユニット200に含まれるか又は制御ユニット200の外部にあるアナログフィルタ回路(適切なローパスフィルタ及びバンドパスフィルタを含む)を制御して、モータ電流信号をローパスフィルタリング及びバンドパスフィルタリングしてもよい。
【0064】
ステップ1208において、プロセッサ204は、上記の式3に従って、ステップ1206のバンドパスフィルタリングされた信号の各サンプルを、ステップ1204のローパスフィルタリングされた信号の対応する各サンプルで除算することによって、バンドパス信号の正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号を計算する。ステップ1210において、プロセッサ204は、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号の所定の時間ウィンドウ(例えば、2秒)内の最小値を検出し、所定の時間ウィンドウ内の検出された最小値の絶対値を決定することによって、正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号のMBS指数を計算することによってabs(MBS)を決定する。ステップ1212において、プロセッサ204は、上記の式2に従って、かつ上記のステップ606~610に関連して説明した方法で、ステップ1204のローパスフィルタリングされた信号のモータ電流のPIを計算する。
【0065】
ステップ1214において、プロセッサ204は、ステップ1212のモータ電流の計算されたPIを第1の所定の閾値(例えば、上述のように約0.15)と比較し、プロセッサ204は、ステップ1210において決定されたabs(MBS)を第2の所定の閾値(例えば、上述のように約0.07)と比較する。ステップ1214において、PI及びabs(MBS)の両方がそれぞれの第1及び第2の閾値未満である場合、1220において吸引事象が検出される。ステップ1214において、プロセッサ204が、モータ電流の計算されたPIが第1の所定の閾値を上回ること、及び/又は計算されたMBS指数の絶対値が第2の閾値を上回ることのうちの少なくとも1つを決定する場合、プロセッサ204は、ステップ1216において吸引が検出されないことを決定する。
【0066】
方法1200は、ステップ1220において吸引事象を検出するために、ステップ1214において、PIが第1の閾値未満であること、及びabs(MBS)が第2の閾値未満であることの両方を必要とするが、所望の特異性又は感度に応じて、他のアプローチが適切であり得ることを理解されたい。特に、描写される方法は、ステップ1220において吸引事象を検出する前に、両方の閾値条件が満たされることを要求することによって、特異性を促進し得る。感度の増加が好ましい場合などの他の態様では、吸引は、PIが第1の閾値未満であるか、又はabs(MBS)が第2の閾値未満である場合に検出され得る(すなわち、1つの閾値条件が満たされる限り吸引が検出される)。
【0067】
上述したように、吸引検出の信頼性と安定性とのバランスをとるために、カウンタがプロセッサ204によって実装されてもよい。カウンタは、上述のように、段階的カウンタ又は任意の他の適切なカウンタであってもよい。
【0068】
例えば、
図12の方法1200に戻ると、ステップ1214における比較に基づいて吸引が検出されないとき、プロセッサ204は、ステップ1218において、カウンタを1だけ減少又は減分する。或いは、ステップ2114における比較に基づいて吸引が検出された場合、プロセッサ204は、ステップ1222においてカウンタを1だけ増加又は増分する。上述したように、カウンタが0である場合、プロセッサ204はカウンタを0未満に減少させない、すなわち、0はカウンタのフロアである。ステップ1224において、プロセッサ204は、カウンタが所定の吸引カウントに到達したか否かを判定する。ステップ1224において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達していないと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1202におけるMC信号の監視に戻り、方法1200が再び実行される。或いは、ステップ1224において、プロセッサ204が、カウンタが所定の吸引カウントに到達したと判定した場合、プロセッサ204は、ステップ1226において、アラーム状態をトリガし、吸引事象が検出されたことをポンプ100のユーザに警告し、プロセッサ204は、カウンタを0にリセットする。アラーム状態は、方法600のステップ624に関連して上述したように、検出されたアラーム状態をユーザに警告するための1つ以上のインジケータをトリガすることを含んでもよい。ステップ1226でアラーム状態をトリガし、カウンタを0にリセットした後、プロセッサ204は、方法1200のステップ1202でMC信号を監視することに戻る。
【0069】
方法1200の一態様では、ステップ1216及び1220は除去されてもよく、この態様では、プロセッサ204は、ステップ1224における所定の吸引カウントに到達した場合にのみ、吸引事象が発生したと判定してもよい。
【0070】
方法1200の別の態様では、ステップ1218、1222、及び1224(カウンタに関するステップ)は、方法1200から除去されてもよく、この態様では、プロセッサ204は、(ステップ1214における比較に基づいて)ステップ1220において吸引事象が検出された場合にアラーム状態をトリガし、ステップ1202におけるモータ電流の監視に戻る。プロセッサ204がステップ1216において吸引条件を検出しない場合、本方法は、ステップ1202におけるモータ電流の監視に戻る。
【0071】
PI及びMBS閾値の選択
多くの場合、本明細書に記載される方法において感度と特異性との間にトレードオフが存在する。これに関して、方法の感度を増加させることは、その特異性を減少させ得る。上述の方法1200に関して、このトレードオフは、計算されたPI及びMBS指数とそれぞれ比較するために使用される第1及び第2の閾値の選択に依存する。第1の閾値が約0.15であり、第2の閾値が約0.07である場合、試験条件に応じて、方法1200は、約100%の特異性(+/-5%)及び約70~90%の感度(+/-5%)を有する。
【0072】
試験及び検証
吸引検出方法1200は、異なる吸引条件及び心臓又はパルス圧力条件を誘発し、吸引検出の性能を試験することによって、試験及び検証された。例えば、吸引検出は、ベースライン及び変更された心臓状態(薬学的介入を使用して)において、並びに機械的介入を使用してシミュレートされた誘発された吸引事象下で試験された。例えば、これは以下の表1に要約される。
【0073】
【0074】
上記の表に示されるように、以下3つのタイプの吸引、IVC閉塞(循環閉塞ツール(例えば、膨張可能バルーン)を使用して、心室への流れを遮断し、患者におけるIVC閉塞をシミュレートする)、心尖部へのポンプの設置、及び弁へのポンプの入口の設置が試験中に誘発された。更に、ベータ遮断薬(低圧を誘発するため)、フェニルエフリン(高圧を誘発するため)、及びマイクロビーズ注入(心源性ショック(CGS)を誘発するため)の導入によって、様々な心臓又はパルス圧力条件を誘発した。
【0075】
ポンプの速度が上昇されたとき、及び動物研究中に誘発された異なる吸引条件下で行われた試験の実施例が、本技術による
図13に示されている。示されるように、モータ電流信号及び正規化されたバンドパス信号のPIは、上記の式2及び3に従って取得され、信号の2秒ウィンドウ内で吸引事象(IVC閉塞及び弁の入口)を検出するために成功裏に使用された。
【0076】
以下の表2は、実施された試験中に使用された異なる圧力条件を示す。
【0077】
【0078】
結果
以下の表3は、異なるポンプを用いて、動物研究中に又はシミュレートされた環境下で、異なるタイプの誘発された吸引を用いて及び用いずに、及び異なる誘発圧力条件下で行われた吸引検出方法の様々な試験の結果の概要を含む。
【0079】
【0080】
上記の表において、「TP」は吸引が正確に検出された真の陽性結果であり、「TN」は吸引がないことが正確に検出された真の陰性結果であり、「FP」は吸引が不正確に検出された偽陽性であり、「FN」は吸引がないことが不正確に検出された偽陰性であることを理解されたい。
【0081】
表3に示されるように、2つの偽陽性結果のみが、実施された動物及びシミュレートされたベンチトップ試験の間に観察された。以下の表4は、本技術の吸引検出の試験中に達成された感度及び特異性の計算を示す。示されるように、98%の非常に高い特異性及び79%の良好な感度が、上記で要約された試験において本技術のPI及びMBS指数を使用する吸引検出方法によって達成された。
【0082】
【0083】
吸引事象の持続時間は、感度及び吸引検出に影響を及ぼし得ることを理解されたい。例えば、
図14を参照すると、実施された更なる動物研究の結果が示されており、ここでは、各誘発された吸引事象(IVC閉塞)の持続時間が(動物によって許容可能である限り)増加され、ポンプの速度が上昇された。この動物試験の間、PI及びMBS指数を使用する吸引検出は、様々なポンプ速度で高血圧状態における吸引を検出することができた。吸引検出の特異性は約100%(+/-5%)であり、吸引検出の感度は約89%(+/-5%)であった。
【0084】
図15を参照すると、本技術の吸引検出方法1200をヒト研究データに適用した結果が示されている。示されるように、吸引検出方法1200は、拍動指数情報から推測されたヒト研究データにおいて、吸引事象を遡及的に検出し、確認した。
【0085】
図13~
図15に示すように、前述のように、正規化された最小バンドパス信号の電流は負であり得る。したがって、上述のように、吸引検出における正規化された最小バンドパス信号の負電流を考慮するために、MBS指数は、信号の所定のウィンドウ内の正規化された最小バンドパス信号の最小値を検出することによって計算されてもよく、次いで、検出された最小値の絶対値(abs(MBS))が、第2の所定の閾値と比較して、吸引事象を検出するために決定される(abs(MBS)が閾値未満である場合)。
【0086】
上述の方法のいずれかにおいて、方法のパラメータ、例えば、吸引事象の検出のために使用される所定の時間ウィンドウ及び閾値は、制御ユニット200へのユーザ入力(例えば、ユーザインターフェース206へのユーザ入力)を介してユーザによって調整可能であり得ることを理解されたい。更に、使用される特定の吸引検出方法(例えば、方法600、1100、1200)はまた、制御ユニット200へのユーザ入力を介してユーザによって選択可能であってもよい。
【0087】
上述の方法のいずれにおいても、吸引事象が検出された(又はアラーム状態がトリガされた)ことに応答して、プロセッサ204は、吸引事象が解決され得るようにポンプの速度を低下させるために、ユーザに通知メッセージを出力するか(例えば、インターフェース206を介して表示される)、そうでなければユーザ(例えば、表示灯又は可聴メッセージなどを介して)に通信され得ることを理解されたい。一態様では、上述の方法におけるアラーム状態は、ポンプ速度を低下させるためのユーザへのメッセージ又は他の通信を含む。一態様では、吸引事象が検出された(又はアラーム状態がトリガされた)ことに応答して、プロセッサ204は、モータ電流を自動的に制御して、ポンプの速度を所定の速度閾値まで低下させて、吸引事象を解決し得る。
【0088】
一態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するためのモータと、少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。少なくとも1つのプロセッサは、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をフィルタリングし、フィルタリングされたモータ電流信号に基づいてモータ電流信号の拍動指数を計算し、計算された拍動指数を所定の閾値と比較し、比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成される。
【0089】
上記態様のいずれかにおいて、モータ電流信号は、ローパスフィルタを使用してフィルタリングされてもよい。
【0090】
上記いずれかの態様において、ローパスフィルタは、2次バターワースフィルタであってもよい。
【0091】
上記態様のいずれかにおいて、ローパスフィルタは、0Hz~15Hzの周波数を通過させてもよい。
【0092】
上記態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、フィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内の最大モータ電流(最大MC)及び最小モータ電流(min MC)を検出し、フィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内の平均モータ電流(mean MC)を計算し、以下の式4に従ってモータ電流信号の拍動指数を計算することによって、モータ電流信号の拍動指数を計算するように構成されてもよい。
【0093】
【0094】
上記態様のいずれかにおいて、所定のウィンドウは約2秒であってもよい。
【0095】
上記態様のいずれかにおいて、所定の閾値は約0.15であってもよい。
【0096】
上記の態様のいずれかにおいて、吸引事象の発生は、計算された拍動指数が所定の閾値未満であるときに検出され得る。
【0097】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、検出された吸引事象の数を表す吸引カウントを含む吸引カウンタを維持するように構成され得る。
【0098】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、カウンタが所定の吸引カウントに到達したときに、アラーム状態をトリガして、吸引事象が発生していることをユーザに警告するように構成され得る。
【0099】
上記いずれかの態様において、所定吸引カウントは、4回であってもよい。
【0100】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、吸引事象の発生が検出されるときにカウンタを1だけ増加させ、吸引事象の発生が検出されないときにカウンタを1だけ減少させるように構成され得る。
【0101】
上記態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、感知された血圧に関する情報なしに吸引事象の発生を検出するように構成されてもよい。
【0102】
上記態様のいずれかにおいて、血液ポンプは、患者の心臓の心室に挿入可能な心臓ポンプであってもよい。
【0103】
別の態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するためのモータと、少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。少なくとも1つのプロセッサは、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をローパスフィルタリングし、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいて指数値を計算し、計算された指数値を所定の閾値と比較し、比較に基づいて吸引事象の発生を検出するように構成される。
【0104】
上記態様のいずれかにおいて、モータ電流信号は、2次バターワースフィルタを使用してローパスフィルタリングされてもよい。
【0105】
上記態様のいずれかにおいて、モータ電流信号は、0Hz~15Hzの周波数を通過させるローパスフィルタを使用してローパスフィルタリングされてもよい。
【0106】
上記態様のいずれかにおいて、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号は、6次楕円フィルタを使用してバンドパスフィルタリングされてもよい。
【0107】
上記態様のいずれかにおいて、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号は、0.5Hz~5Hzの周波数を通過させるバンドパスフィルタを使用してバンドパスフィルタリングされてもよい。
【0108】
上記態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号の所定のウィンドウ内の最小値を検出し、所定のウィンドウ内の検出された最小値の絶対値を計算することによって、指数値を計算するように構成されてもよい。
【0109】
上記態様のいずれかにおいて、所定のウィンドウは約2秒であってもよい。
【0110】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、バンドパスされたモータ電流信号内の各サンプルを、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号内の対応する各サンプルで除算することによって、正規化されたバンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を計算し得る。
【0111】
上記態様のいずれかにおいて、所定の閾値は約0.07であってもよい。
【0112】
上記の態様のいずれかにおいて、吸引事象の発生は、計算された指数値が所定の閾値を下回るときに検出され得る。
【0113】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、検出された吸引事象の数を表す吸引カウントを含む吸引カウンタを維持するように構成され得る。
【0114】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、カウンタが所定の吸引カウントに到達したときに、アラーム状態をトリガして、吸引事象が発生していることをユーザに警告するように構成され得る。
【0115】
上記いずれかの態様において、所定の吸引カウントは、4回であってもよい。
【0116】
上記の態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、吸引事象の発生が検出されるときにカウンタを1だけ増加させ、吸引事象の発生が検出されないときにカウンタを1だけ減少させるように構成され得る。
【0117】
上記態様のいずれかにおいて、少なくとも1つのプロセッサは、感知された血圧に関する情報なしに吸引事象の発生を検出するように構成されてもよい。
【0118】
上記態様のいずれかにおいて、血液ポンプは、患者の心臓の心室に挿入可能な心臓ポンプであってもよい。
【0119】
別の態様では、入口と、出口と、ロータと、ロータの回転を駆動して入口から出口に血液を搬送するモータと、モータのモータ電流信号を監視し、モータ電流信号をローパスフィルタリングし、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号に基づいてモータ電流信号の拍動指数を計算し、ローパスフィルタリングされたモータ電流信号をバンドパスフィルタリングし、バンドパスフィルタリングされたモータ電流信号を正規化し、正規化されたバンドパスフィルタリングされた信号に基づいて指数値を計算し、計算された拍動指数を第1の所定の閾値と比較し、計算された指数値を第2の所定の閾値と比較し、計算された拍動指数を第1の所定の閾値と比較し、計算された指数値を第2の所定の閾値と比較したことに基づいて吸引事象の発生を検出するように構成された少なくとも1つのプロセッサとを備える血液ポンプが提供される。
【0120】
上記から、及び様々な図を参照して、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、本開示に対して特定の修正を行うこともできることを理解するであろう。本開示のいくつかの態様が図面に示されているが、本開示は当該技術分野が許容するのと同程度に広い範囲であるとされるべきであり、本明細書が同様に読み取られるべきであると意図されているので、本開示はこれらの実施形態に限定されることを意図していない。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではなく、単に特定の態様の例示として解釈されるべきである。当業者は、本明細書に添付された特許請求の範囲及び趣旨の範囲内で他の変更を想定するであろう。
【国際調査報告】