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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】運動発生機
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/12 20060101AFI20241018BHJP
   G09B 9/04 20060101ALI20241018BHJP
   F16H 21/54 20060101ALI20241018BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20241018BHJP
   A63G 31/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G09B9/12
G09B9/04 Z
F16H21/54
B25J11/00 D
A63G31/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521025
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2022025458
(87)【国際公開番号】W WO2023057086
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2114324.3
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】22020231.1
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521467456
【氏名又は名称】ディニズマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DYNISMA LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】アシュリー ウィリアム ホーカー ウォーン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ ゴールディング
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル チャームベリー ウォード
【テーマコード(参考)】
3C707
3J062
【Fターム(参考)】
3C707BS24
3C707HS26
3J062AB28
3J062AC10
3J062BA35
3J062CB03
3J062CB28
3J062CB33
3J062CG83
(57)【要約】
運動発生機のエフェクタ及び/又はエフェクタペイロードに、表面に対する相対的な力、モーメント及び運動を加えるための運動発生機であって、前記運動発生機の前記エフェクタは、1つ又は複数のロッカーによって設けられたロッカーアームの自由端に動作可能に連結され、各ロッカーは回動軸線の周りに回動して、それぞれの前記回動軸線周りの前記ロッカーの動きが前記エフェクタの動きをもたらすようにし、少なくとも1つのロッカーは、関連したロッカーの自由端によって掃過される円弧と同心状である関連した湾曲リニアモータによって駆動され、少なくとも1つのロッカーは、前記関連した湾曲リニアモータのコイル又は磁石路を担持する、備える又は含む、運動発生機が開示される。また、特に運転シミュレーションに使用するためのそのような運動発生機を含む運動システム及び運動シミュレータも開示される。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動発生機のエフェクタ及び/又はエフェクタペイロードに、表面に対する相対的な力、モーメント及び動きを加えるための運動発生機であって、前記運動発生機の前記エフェクタは、1つ又は複数のロッカーによって設けられたロッカーアームの自由端に動作可能に連結され、各ロッカーは回動軸線周りに回動して、それぞれの前記回動軸線周りの前記ロッカーの動きが前記エフェクタの動きをもたらすようにし、前記ロッカーのうちの少なくとも1つは、関連した湾曲リニアモータによって駆動され、前記関連した湾曲リニアモータは、関連したロッカーの自由端によって掃過される円弧と同心状であり、前記ロッカーのうちの少なくとも1つは、前記関連した湾曲リニアモータのコイル又は磁石路を担持する、備える又は含む、運動発生機。
【請求項2】
請求項1に記載の運動発生機において、上記少なくとも1つのロッカーは、前記関連したリニアモータのコイルを担持する又は備える、運動発生機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の運動発生機において、前記関連した湾曲リニアモータは、アイアンレス又はアイアンコアリニアモータであり、好ましくはアイアンレスモータである、運動発生機。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の運動発生機において、前記モータの前記コイル又は磁石路のうちの少なくとも1つは、場合によっては、関連したロッカーの前記回動軸線の実質的に又は完全に下方に配置される、運動発生機。
【請求項5】
請求項4に記載の運動発生機において、ロッカーの前記回動軸線を形成する関連したシャフトのための軸受は、場合によっては前記関連したモータの、対応するコイル又は磁石路の上方にある、運動発生機。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の運動発生機において、前記各ロッカーは複合材、樹脂、又は金属、好ましくはアルミニウムの構造である、運動発生機。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の運動発生機において、各ロッカーの前記回動軸線は前記表面と平行である、運動発生機。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の運動発生機において、前記エフェクタは、ロッカーアームの自由端に複数の支柱のうちの1つによって動作可能に連結される、運動発生機。
【請求項9】
請求項8に記載の運動発生機において、1~4つ又はそれより多数の、好ましくは6つの、細長い剛性の支柱を備える、運動発生機。
【請求項10】
請求項9に記載の運動発生機において、3対で配置された6つの支柱があり、各々の前記支柱はそれぞれの一方の端部で関連したロッカーに連結され、また対になった支柱それぞれの他方の端部は、前記エフェクタ上の又は前記エフェクタに連結される3つの取付けポイント又はジョイントに連結する、運動発生機。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載の運動発生機において、前記エフェクタ及びロッカーは中間の第1及び第2のジョイントによって連結される、運動発生機。
【請求項12】
請求項11に記載の運動発生機において、前記中間の第1及び第2のジョイント各々は、ユニバーサル、カルダン、若しくは球面ジョイント、スイベル、又は屈曲部、好ましくはオフセット回転軸線を有するカルダンジョイントを含み、他のジョイントは、ユニバーサル、球状、若しくはカルダンジョイント、スイベル、又は屈曲部、好ましくはまたオフセット回転軸線を有するカルダンジョイントである、運動発生機。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1項に記載の運動発生機において、前記又は各ロッカーはその中間平面に関して対称である、運動発生機。
【請求項14】
共に動作するように配置される1次運動発生機及び2次運動発生機を備える組合せであって、前記組合せの前記1次運動発生機又は前記2次運動発生機は、請求項1~13の何れか1項に記載の運動発生機である、組合せ。
【請求項15】
請求項14に記載の組合せにおいて、前記2次運動発生機は、請求項1~13の何れか1項に記載の運動発生機であり、前記組合せの前記1次運動発生機よりも高い周波数で動作するように配置される、組合せ。
【請求項16】
請求項1~13の何れか1項に記載の少なくとも1つの運動発生機又は請求項14若しくは15に記載の少なくとも1つの組合せと、及び制御システムとを含む、運動システム。
【請求項17】
請求項1~13の何れか1項に記載の運動発生機、請求項14又は15に記載の組合せ又は請求項16に記載の運動システムと、並びに視覚投影又は表示手段及び音声手段から選択される少なくとも1つの環境シミュレーション手段とを備える、運転シミュレータ。
【請求項18】
請求項1~13の何れか1項に記載の運動発生機の製造方法であって、前記製造方法は、ペイロードに対し、表面に対する相対的な力、モーメント及び動きを加えるのに適切なエフェクタを準備するステップと、1~4つ又はそれより多数の細長い剛性の支柱に連結するステップと、前記支柱の各々をその一方の端部で第1のジョイントによって前記エフェクタに、その他方の端部で第2のジョイントによって複数のロッカーのうちの1つに連結するステップと、を備え、前記ロッカーは関連した湾曲リニアモータのコイル又は磁石路を担持する、備える、又は含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は運動システム、特に運転又は飛行などの運動をシミュレートするための運動システムの分野に関する。特に、排他的ではないものの、本発明は運動発生機及びそのような運動発生機を含む運動システム、並びに特に運転シミュレータとしての使用のための運動発生機又は運動システムの使用方法、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運動発生機は、1つ又は複数の方向又は自由度において、エフェクタ又はエフェクタペイロードに動き、力及び加速度を加えることができる装置である。エフェクタは運動発生機の一部である。エフェクタペイロードは例えば、運動発生機を組み込んだ運動シミュレータで模擬運動体験を受ける人間とすることができる。あるいは、ペイロードは、他の運動発生機であって、第1の運動発生機と直列関係にあり、第1の運動発生機によってもたらされる運動に対して、追加的又は代替的な運動をエフェクタ又はペイロードに付与する、該他の運動発生機であってもよい。運動発生機は、運動システムにおいて使用される。本発明の文脈において、運動システムは、運動発生機を備え、運動発生機を制御するための制御システムを含む。現在運動シミュレーションで使用されている最も一般的なタイプの運動発生機は、スチュワート(Stewart)プラットフォーム(又は「ヘキサポッド」)運動発生機である。これは6つのアクチュエータを持つ並列マニピュレータの一種であり、通常はマニピュレータのベース上における3つの位置に対になって取り付けられ、プラットフォーム、又は天板(つまり「エンドエフェクタ」)上の3つの取付けポイントに向けて交差する。デバイス又はコックピット、運転席又はモデル車両などの形態を通常とるプラットフォーム上にいる人間の使用者のようなペイロードは、自由に浮いた物体が動くことができる6つの自由度、すなわちX、Y、Zの3つの動きの直線方向(横方向、縦方向及び垂直方向)及び3つの回転方向(ピッチ回転、ロール回転及びヨー回転)で動かされることができる。一般的には、並列マニピュレータを用いた運動システムにおいては、コンピュータ制御された複数のアクチュエータが並列に動作しペイロードを支持するように配置される。この文脈において「並列」とは、ペイロードとベースとの間におけるそれぞれ個別の負荷経路に1つのみアクチュエータが存在することを意味するとともに、直列マニピュレータでは、ペイロードとベースとの間にあり得る1つ又は複数の負荷経路が少なくとも2つのアクチュエータを含む。
【0003】
運動システムを含む運動シミュレータは、運動シミュレーション(例えば、固定翼機や回転翼機のフライトシミュレータ、車両及び運転シミュレータ)、振動、地震シミュレーションを含む様々な用途で使用される。運動シミュレータは、乗員に対して動いている車両又は航空機に乗っているような効果又は感覚を作り出すことができる少なくとも1つの運動発生機/運動システムを組み込んだシミュレーションシステムである。運動シミュレータは、ドライバー及びパイロットを訓練するため、それぞれ運転シミュレータ及びフライトシミュレータという形式で専門的に使用される。それらは工業的にも、車両そのものの製作、設計及び試験並びに車両部品の設計においても使用される。運転や飛行のシミュレーションに使用される専門的な運動シミュレータは、典型的には、(例えば投影システム及び関連したスクリーン並びに音声信号によって提供される)視覚表示と、運転手やパイロットが乗っているキャリッジ(又はシャーシ)の動きとを同期し、動きの効果のより良好な感覚を提供する。仮想現実(VR)ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の出現は、没入型シミュレーションの態様を現在の運動システムを用いて低コストにし、また、受動的な遊園地若しくはアーケードでの運転、一人称視点ライド又は飛行ライドや、1人又は複数人のプレーヤーが運転、乗馬、飛行又は一人称視点ゲーム体験に対する複数の制御を有する能動的なゲームのような、レジャーでの使用に仮想現実を適用する力がある。運動シミュレーションに使用される運動発生機のペイロード(例えば、シャーシやコックピット)は、例えばゲーム(例えば、モータースポーツのゲームシミュレーションの用途)のような特定の用途ではより軽量なペイロードが可能であるが、大抵は100kgのオーダーであり比較的重い。運動発生機の運動シミュレーションの用途では、このような比較的重いペイロードを、大抵は1メートル又はそれより上のオーダーの大幅な動き(又は「偏位運動(excursions)」)にわたり正確に制御することが要求される。
【0004】
人間の参加者の運動シミュレーションのために典型的に使用されるヘキサポッドのタイプは、従来的には約20Hzまでの比較的低い帯域幅を有する。つまり、それらは1秒間に20回までの周波数で、一定の振幅による往復の動き及び振動を作ることができ、それを超えると動きの振幅は周波数が増加するにつれて小さくなる。自動車の運動をシミュレートする場合、ほとんどの車のサスペンションの動きを再現するにはこれで十分かもしれないが、車のエンジンからの振動、タイヤの振動、路面のノイズ、及びレース場の鋭角な縁石などに関するようなより高い周波数の内容を伝達できない。低い帯域幅は、信号が遅延することも意味し、運転手が素早く反応できないことを意味する。
【0005】
現在の運動システム、特に車両、軍用、商用飛行指導及び訓練用途などの最先端での使用を意図したものは、典型的には非常に大きく、重く、複雑で、また非常に高価である。それらの複雑さは、大規模なプログラミングとメンテナンスを必要とし、使用者への費用をさらに増加させる。
【0006】
専門的運転シミュレータ運動システムは、McLaren/MTS Williams/ABD及びAnsibleなどによって開発されてきたが、これらは極めて機械的に複雑であり、精密機械加工された特注の部品や大抵は高価な特注のリニアモータを特徴とするため、高価である傾向がある。このような専門的運転シミュレータ運動システムは、ある方向に動く時にはヘキサポッドより反応性が高いが、他の方向にはまだ限度がある。このようなシステムにおける一般的なボールねじの使用は、位置決めには優れるものの、ボールねじが力の伝達を抑制し低い帯域幅しか達成できないという点で不利である。このような問題は、人間の使用者にとって自然な運動シミュレーション体験を著しく損なう。例えば、これらは遅延の悪化をもたらすため、乗り物酔いを最小化するための追加の補正措置が必要となる(非特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1(EP2486558)に開示された運動シミュレータは、ベルクランクによって駆動される3本の直立アームを含む3つの自由度の並列マニピュレータを用いてピッチ回転、上下動、及びロール回転の動きを制御する機構を備えることで、これらの自由度において応答性が良く高帯域幅を有する。リニアアクチュエータによって回転駆動される回転テーブルは、ヨー回転を提供するために必要である。当該運動シミュレータは比較的コンパクトであることが意図されている。しかし、水平自由度における動きが撓み、慣性、及び摩擦をもたらす直列マニピュレータによって提供されるため、水平自由度におけるシステムの応答性と帯域幅が制限される。
【0008】
特許文献2(US5919045)は、空気圧制御によってリニアガイド上をX方向及びY方向にそれぞれ動くように配置され「Xフレーム及びYフレーム(X and Y flames)」と呼ばれる重なった矩形フレームの単純な直列構成を備える1次運動発生機を含む、対話型レーシングカーシミュレータを開示する。この文献で開示されるタイプのXフレーム及びYフレームの単純な構成は、X方向とY方向に良好な偏位運動を提供する一方、フレームが互いの上に重ねられているため、直列の運動発生機は垂直方向において特にコンパクトではない。さらに、X方向とY方向の動きは特に正確ではなく、また当該シミュレータは比較的低い帯域幅を有する場合もある。
【0009】
運転シミュレータにおいて使用するための他の運動発生機との組合せにおける1次運動発生機の一例が、特許文献3(EP2810268A)において示されおり、特許文献3は、1次運動発生機を使用して水平面内の大きな動きを維持できる一方で同時に2次運動発生機の最大垂直移動を達成できる、6つの自由度の2次運動発生機と直列に配置される3つの自由度の1次運動発生機を開示する。したがって、直列的に働く2つの運動発生機により、同じような大きさのヘキサポッド1つの構成では不可能な、異なる自由度における動きの組合せを達成できる。しかし、当該文献に記載されているヘキサポッドは、リニアアクチュエータ、特に循環ボールねじ駆動リニアアクチュエータを使用する。上述したように、循環ボールねじアクチュエータはかなりの摩擦を有するため、応答性及び帯域幅の悪化をもたらす。ヘキサポッドの構造における他のリニアアクチュエータの使用は、さらなる問題をもたらす。リニアアクチュエータが可動支柱の一部として動くことができる場合、可動質量が大きいため低周波数での機械的共振をもたらし、システムの応答性及び帯域幅を制限する。あるいは、リニアアクチュエータがベースに対して相対的に固定され、ヘキサポッドの支柱の一端がリニアアクチュエータに沿って進む場合、システムの重量と慣性荷重は、やはりかなりの摩擦を伴う線形軸受による反作用を受ける。特許文献4(US2017/0053548A)は、プラットフォームの大幅な水平の動きを可能にする、大型で低摩擦の固定されたベース上で摺動可能なケーブル/アクチュエータ制御プラットフォームを含む運動システムを開示する。ケーブル及びアクチュエータは大型ベースの外周に設置されることで、このデザインにおけるプラットフォームの大幅な水平の動きを可能にしている。ヘキサポッドに基づいた2次運動発生機は、順番にプラットフォームに取り付けられ、コックピットのさらなる動きを提供するためにモデル車両のコックピットを支える。当該運動システムは、大型で低摩擦の固定されたベースのデザインによって提供される偏位運動のレベルにしてはコンパクトではない。特許文献5(US2012/0180593)は、フライトシミュレータ又は運転シミュレータにおいて使用するため(ただし、主にフライトシミュレーションのため)のヘキサポッドに基づいたシステムを開示し、当該システムでは、各々の脚がリニアガイドに沿って動き、いくつかの実施形態では脚がリニアモータによって動力を与えられる。このようなリニアガイドは重く、著しい摩擦を伴うため、応答性が特に重要な運転シミュレーション用途においては特に不利である。特許文献6(US2014/157916)は、クランクと噛み合う関連したサーボモータによって駆動される遊星ギアボックスを各々が有する一連のアクチュエータを含む運動シミュレーションシステムを開示する。この直接的駆動システムは、遊園地などの用途における使用を意図した高摩擦・高遅延の構成である(図17A~17G参照)。データは提供されていないが、特許文献6の構成は比較的低い帯域幅と長い遅延を有すると予想される。そのため、高帯域幅と低遅延が望ましい運転シミュレーション又はゲーム機器には好適でない。
【0010】
本出願人による特許文献7(WO2020/228992:EP20020225)は、ロッカー(rocker)に基づいた運動発生機であって、細長いベルト、ケーブル、ロープ駆動又はリニアモータの形態のアクチュエータによってロッカーが駆動される、運動発生機を開示する。当該運動発生機は、短い遅延で高い帯域幅の運動を提供する。特許文献8(US2005/0277092)並びに本出願人による特許文献9(EP3751543)及び特許文献10(EP3731213)は、当該発明の技術的背景に関し、他の運動発生機及び運動シミュレーションシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2486558号明細書
【特許文献2】米国特許第5919045号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2810268号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2017/0053548号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2012/0180593号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2014/157916号明細書
【特許文献7】国際公開第2020/228992号パンフレット
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0277092号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第3751543号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第3731213号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Lucas, G et al. - Study of latency gap corrections in a dynamic driving simulator - In: Driving Simulation Conference & Exhibition, France, 2019-09-04 - DSC 2019 EUROPE VR - 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、改善された運動発生機であって、特に運転及び車両運動タイプのシミュレーション用途に有用である運動発生機、並びに、そのような運動発生機を組み込んだ改善された運動システムであって、やはり、これらの用途に特に好適な運動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、エフェクタを備える運動発生機が提供され、この運動発生機の機構は、運動発生機のエフェクタ及び/又はエフェクタペイロードに、表面に対する相対的な力、モーメント及び動きを加えるように配置され、エフェクタは、複数のロッカーによって設けられたロッカーアームの自由端に動作可能に連結され、ロッカーの各々は回動軸線の周りに、それぞれの回動軸線周りのロッカーの動きがエフェクタの動きをもたらすように回動し、少なくとも1つのロッカーは、関連したロッカーの自由端によって掃過される円弧と同心状の湾曲リニアモータによって駆動され、少なくとも1つのロッカーは、関連した湾曲リニアモータのコイル又は磁石路を担持する、備える、又は含む。ロッカーの自由端は、ロッカーの自由端からロッカーの回動軸線までの長さの半径を有する円弧を掃過し得る。関連した湾曲リニアモータは、円弧と同心状とすることができる。
【0015】
この文脈でリニアモータ及びそのコンポーネントとの関係において使用される「湾曲(curved)」という用語は、概ね湾曲状、曲線状、円弧状、又は多角形状若しくは面刻み状(多くの「湾曲(curved)」リニアモータがその長さに沿う短い直線状の電磁石の構成という観点で見たとき)であるが完全な円を形成するようには延在してないリニアモータを包含する。典型的には湾曲リニアモータは約90°以下の円弧にわたり延在する。
【0016】
本発明による運動発生機では、ロッカー及び湾曲リニアモータの組合せが軸線方向磁束電気機械を形成することにより、アイアンレス(鉄を含まない)湾曲リニアモータのコイル(又は「フォーサー」、又は「巻線」)は、完全な円の一部のみ又は円弧を形成し、これにより直接的駆動機構が容易になる。この組合せは、ロッカーにおける大きな半径に、また典型的にはエンドエフェクタへの作動経路の近くに、コイルを置くことにより、従来の運動発生機と比較して著しく応答性を改善し、摩擦及び慣性を低減する。これにより、運動シミュレーション用途、特にドライビングシミュレーション用途において非常に望ましい大きなロッカー半径による偏位運動の最大化を許容する一方で、撓みを発生させたり応答性を妨げたりし得るロッカーの任意の曲げモーメントを最小化する。
【0017】
本発明によるこのような運動発生機は、低遅延であると共に、優れたレベルの帯域幅と位置制御を提供することが判明している。
【0018】
好ましくは、ロッカーは、関連した湾曲リニアモータの磁石路ではなく、コイルを備える又は含む。あるいは、ロッカーが磁石路を備えル又は含む場合、この構成はより簡単なケーブル管理を伴い得る。コイルはロッカーの構造と一体化されていてもよい。
【0019】
湾曲リニアモータは、アイアンレス又はアイアンコアのリニアモータであってもよい。実際には、複数の湾曲リニアモータが各ロッカーに関連付けられてもよく、本明細書ではこのようなリニアモータの組合せも依然としてリニアモータと呼ぶ。好ましくは、湾曲リニアモータは、磁石の存在下でアイアンコアによって引き起こされる望ましくない位置依存性のトルクの乱れであるコギングを示さないアイアンレスモータである。湾曲リニアモータの例としては、ACR820-5SやACR335-58などのアクリビス(Akribis)社のアイアンレスACRシリーズのモータがある。エアロテック(Aerotech)社やPBAシステム(PBA Systems)社などのメーカーの他の湾曲リニアモータも好適であり得る。
【0020】
この文脈では、ロッカーは従来通り、軸受内で動くシャフトのような細長い回転ジョイント又はピボット(回動軸)の一方の端部に取り付けられる中実の本体(ロッカーアームとも称し得る)であって、本体の自由端がこのジョイント又はピボット(回動軸)によってもたらされる回動軸線周りに回動する又は掃過することができ、それによって、ジョイント又はピボットの他方の端部に取り付けられる他の中実の本体に対して相対的に回転する、中実の本体を意味する。典型的にロッカーは本体に、典型的には自由端に、他の可動要素に取り付けられる他のジョイント及び持ち手部を有し得る。ロッカーは典型的には、機械システムにおいて、可動要素の相対的運動を制御し、機械的な長所を制御し、運動の方向を変えるために使用される。ベルクランクやレバーなどの機械要素はロッカーの一形態である。ロッカーは大抵の場合、例えばプッシュロッド又はプルロッド構成などの例えば車のサスペンションなどに使用される。また「ロッカー」という用語は本開示の目的上、屈曲部に取り付けられる又は一体化される中実の本体は、本体の自由端が屈曲部の中間ポイントにおける仮想軸線周りに円弧を描くことができ、この仮想軸線は他のロッカーにつき上述したような回動軸線に等しい。好ましい実施形態では、ロッカーは、軸受内で回転するシャフト上で回動し、軸受は、関連したモータコンポーネントの上方に配置される。後述するように、ロッカーはその中間平面に関して対称であることが好ましい。
【0021】
ロッカー、特にロッカー本体又はロッカーアームは、複合材料又は金属、好ましくはアルミニウムの構造によって作られてもよい。運動発生機の応答性を改善するため、軽量なロッカー構造が好ましい。例えば、ロッカーは、有孔「ティーバッグ」形状(2対の対向するほぼ三角形の面を備え、隣接する三角形の面が互いに対して反転している)であってもよく、ロッカーの回動シャフトは、「ティーバッグ」の下側の直線状の辺に沿って収容される一方、上側の外側の辺及び隣接する面は、回動軸線に直交する平面内において円弧状に形成され、円形のリニアモータコイルの取り付け座部を提供する。好ましい実施形態では、モータコンポーネントは、関連したロッカーの回動軸線の下方にある。この場合、ロッカーは「スイングボート(swing boat)」の形態を有してもよい。
【0022】
したがって、本発明は、各々が応答性の良いかつ高帯域幅の動きを生成できる2つ又はそれより多数の、典型的には6つの、湾曲リニアモータを備え、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は好ましくは6つの自由度を有する平行マニピュレータの形態である運動発生機を提供する。本発明による運動発生機では、エフェクタ(例えば、プラットフォーム又はシャーシなど)は典型的には、4つ以上の細長い剛性の支柱、より典型的には6つのそのような支柱に連結されてもよい。
【0023】
有利なことに、ロッカーは対称であり、対掌性はない。例えば、ロッカーはその中間平面に関して対称的である場合がある。したがって、1つのロッカーは、そのようなさらなるロッカーとすぐに交換可能であり、予備部品の費用を節約できる。
【0024】
本発明による運動発生機は、公知の運動発生機と比較して複数の点のうちのいくつか又は全てにおいて有利であり得る。したがって、本発明の運動発生機は、6つの自由度の全てにおいて応答性が良く高帯域幅の運動を提供することができる。特に、運動発生機は、非常に正確な位置決め及び低遅延を達成することができる。
【0025】
本発明の運動発生機における第1及び第2のジョイント、すなわち上部及び下部ジョイントは、少なくとも5つである自由度の合計数を合わせて有してもよい。好ましくは、第1又は第2のジョイントの一方は、ユニバーサル、カルダン、若しくは球面ジョイント、又は屈曲部を含み、他方は、例えば、球面ジョイントであってもよい。カルダンジョイントの2つの回転軸線をオフセットすることは、回転軸線が交差する従来のカルダンジョイントと比較しても、この構成により軸線方向運動においてジョイントがより強固になることができるで、特に好ましい。
【0026】
本発明による運動発生機は、典型的には複数のロッカーユニットを備える。多くの構成では、運動発生機は6つのロッカーを備える。少なくとも1つのロッカーユニットは、表面に取り付けられてもよい。あるいは、又はさらに、少なくとも1つのロッカーは、表面に固定されたフレーム、ベース又は他の支持体に取り付けられてもよい。関連したモータの上方で回動するように配置されるロッカーが好ましい。
【0027】
少なくとも1つの、好ましくは各個の、ロッカーの回動軸線は、表面に対して相対的に概ね平行に固定される。ここで、表面は運動発生機がその上に設置される物理的な表面であり、すなわち回動軸線は水平面内にある。あるいは、(典型的には1次運動発生機の上に2次運動発生機として取り付けられる本発明による運動発生機を含む組合せの文脈において)ロッカーの回動軸線は、そのような表面に対して相対的に固定されずに、物理的な表面の上方の平面に対して相対的に概ね平行に固定され、その平面は1次運動発生機と共に動いてもよい。ロッカーの回動(枢動)軸は、好ましくは回転ジョイント、軸受付きアクスルシャフト又は屈曲部である。低摩擦の回転軸受が特に好ましい。他の実施形態では各ロッカーは平面に垂直な平面内で回転してもよい。
【0028】
本発明による運動発生機は、典型的には4つ、5つ、6つ又はそれより多数の細長い支柱を備えてもよいが、1~3つの支柱を備える運動発生機も考えられる。例えば、運動発生機は、Xが6未満であるX個の細長い支柱と、Y=6-XでありエフェクタのY個の自由度を拘束する少なくとも1つの機械的拘束手段とを備えてもよい。あるいは、6つ以上の細長い支柱がある可能性もある。一対の細長い支柱は、エンドエフェクタの対向する側に配置してもよい。1つの典型的な実施形態では、運動発生機は3対のそのような細長い支柱を備える。
【0029】
運動発生機は、ロッカーの運動を遅らせるためのブレーキを含んでもよい。この用途には、ディスクブレーキ、回生ブレーキ、リニアブレーキなど、様々な形態のブレーキが考えられる。回生ブレーキは、安全ダイナミックブレーキとも呼ばれ、既存の湾曲リニアモータを使用して運動エネルギーをモーターコイル内の熱エネルギーに変換することによって達成することができる。典型的には、回生ブレーキのトルクはモータの速度に比例する。運動発生機では、回生ブレーキとディスクブレーキの組合せが好ましいと考えられる。
【0030】
エフェクタによって支持されるペイロードは、車両運動シミュレーション用途では、10kgより大きくてもよく、好ましくは80kgより大きくてもよく、好ましくは250kgより大きくてもよく、さらには500kgより大きくてもよい。典型的には、運動シミュレーション用途では、ペイロードは車両のシャーシ、コックピット又はそれらのモデルであってもよい。
【0031】
本発明による運動発生機は、本発明の他の態様において、1次運動発生機に対して直列の2次運動発生機として動作するように配置されてもよい。1次運動発生機及び2次運動発生機を備えるこのような組合せの構成は、エフェクタ/エフェクタペイロードに対してより大きな運動範囲を使用者に提供できる。例えば、適切な1次運動発生機を使用することにより、運動発生機の組合せは、運動シミュレーション、特に車両運動シミュレーションの用途で必要とされる1メートル又はそれより上のオーダーの偏位運動を達成できる。さらに、このような組合せの構成により、例えばX方向とY方向のみの運動を提供する比較的単純な、したがって費用効率が良い1次運動発生機を、より複雑な運動を提供する本発明による2次運動発生機と共に使用することを可能にできる。あるいは、1次運動発生機は、X及びY方向並びにヨー回転の自由度の動きを提供できる。2次運動発生機としての本発明による運動発生機と共に1次運動発生機として使用するのに適した公知の運動発生機の一例は、特許文献4(US2017/0053548)に開示される。このような組合せにおいて、本発明による運動発生機は2次運動発生機として配置され、2次運動発生機の少なくとも1つのロッカーユニットが1次運動発生機のフレーム、エンドエフェクタに、又は1次運動発生機のペイロードとして取り付けられる。例えば、1次運動発生機は、エンドエフェクタとして、フレーム又はプラットフォームを含み、2次運動発生機(本発明による運動発生機)の少なくとも1つのロッカーモータ構成は、1次運動発生機のフレームに回動可能に取り付けられてもよい。
【0032】
本発明の他の態様によれば、運動システムが提供され、運動システムは、本発明による少なくとも1つの運動発生機と、制御システムとを備える。制御システムは、少なくとも1つの運動発生機アクチュエータ(すなわち、湾曲リニアモータの1つ)の動作を、好ましくは全てのそのようなアクチュエータの動作を、制御してもよい。制御システムは、要求される運動プロファイルを発生するために各々の湾曲リニアモータで生成される必要がある位置、加速度及び/又は力を計算してもよい。運動発生機又は運動システムのロッカーは、ロッカーの位置に対して、使用時に特に高分解能の制御(例えばラジアン当たり約100万カウント)を行うリニアエンコーダ(特に湾曲リニアエンコーダ)を含んでもよい。
【0033】
本発明の他の態様によれば、本発明による運動発生機又は本発明による運動システムと、視覚投影又は表示手段及び音声手段から選択される少なくとも1つの環境シミュレーション手段とを含む運転又は車両シミュレータが提供される。運転又は車両シミュレータは、運動発生機のペイロードとして、コックピット又はシャーシ及び/又は車両シミュレーション要素を備えてもよい。運転又は車両シミュレータは、表示機器、仮想現実機器、投影機器及び仮想環境をモデル化するためのソフトウェア手段の少なくとも1つを備える環境をシミュレートするための手段と、車両モデルとを含んでもよい。
【0034】
本発明の他の態様は、本発明による運動発生機を製造又は準備するステップと、及び運動システムを製造するために制御システムを運動発生機に連結するステップとを備える、運動システムの製造方法を提供する。
【0035】
運動発生機、運動システム、及び運転シミュレータの他の特徴は、以下に示す説明及びさらなる特許請求の範囲から明らかになるであろう。運動発生機、運動システム、運動シミュレータなどの機器、及び本発明の特定の態様又は実施形態に言及する場合、当業者は、本発明の他の態様及び実施形態がそのような機器にも同様に適用され得ることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
これより、本発明による運動発生機、運動システム、及び運転シミュレータ、並びにそれらの動作及び製造について、単なる例示として、添付図面である以下の図1~14を参照しながら、説明する。
図1】本発明による運動発生機の上方かつ片側から見た概略的斜視図である。
図2図1の運動発生機のロッカーモータ構成の斜視図である。
図3図2のロッカーモータ構成の平面図である。
図4図2のロッカーモータ構成のロッカーの立面図である。
図5図4のロッカーの他の立面図である。
図6図2のロッカーモータ構成の磁石路の立面図である。
図7】本発明による運動発生機に使用するロッカーモータ構成の詳細断面図である。
図8】中立状態又は通常状態における上方かつ片側から見た本発明による他の運動発生機の斜視図である。
図8A図8の運動発生機のロッカーユニットにおけるコンポーネントの詳細分解斜視図である。
図8B図8の運動発生機のロッカーユニットにおけるコンポーネントのさらなる詳細図であり、特にブレーキ及びエンコーダのコンポーネントを示す。
図9図8の運動発生機を中立状態又は通常状態における様々な側面から示す。具体的には、Aは平面図であり、Bは背面図であり、Cは正面立面図であり、Dは一方側からの側面図であり、Eは他方側からの側面図である。
図10図8の運動発生機をヨー回転状態における様々な側面から示す。具体的には、Aは平面図であり、Bは背面図であり、Cは正面立面図であり、Dは一方側からの側面図であり、Eは他方側からの側面図である。
図11図8の運動発生機をロール回転状態における様々な側面から示す。具体的には、Aは平面図であり、Bは背面図であり、Cは正面立面図であり、Dは一方側からの側面図であり、Eは他方側からの側面図である。
図12】上昇及びスウェイ(前後左右移動)の複合偏位状態における様々な側面から示す。具体的には、Aは平面図であり、Bは背面図であり、Cは正面立面図であり、Dは一方側からの側面図であり、Eは他方側からの側面図である。
図13】組合せにおける1次運動発生機としての他の運動発生機を伴う、組合せにおける2次運動発生機としての本発明による運動発生機の組合せの上方かつ片側から見た斜視図である。
図14】本発明による運転シミュレータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書において、上側や下側などの特定の向きや位置への参照は、添付図面に示されたそれらの向きや位置を指す。
【0038】
<運動発生機>
本発明による運動発生機10を図1に示す。運動発生機は、典型的には運動発生機が位置する建物の床である表面12上に配置される。あるいは、表面12は、運動発生機のためのベースによって提供され得る。運動発生機は、6つのロッカーモータ構成RM1~6を備え、各々がそれぞれのロッカーR1~6と、それぞれの関連した湾曲リニアモータCLM1~6とを備える。この実施形態では、湾曲リニアモータは実際にはロッカーごとにACR335-5Sモータのような複数の適切なモータによって提供される。例えば、ロッカーごとに6個のモータがあってもよい。各々のロッカーR1~6は、ロッカー本体(又はアーム)RB1~6をそれぞれ備え、その一方の端部はそれぞれ関連したロッカー回動軸線RPA1~6の周りに回動する。ロッカーの自由端である各ロッカーR1~6の他方の端部は、下部ユニバーサルジョイントLJ1~6によって一連の6つの概ね上方に延びる細長い支柱S1~6のうちの1つに連結される。各細長い支柱S1~6の他方の端部は、それぞれ上部ユニバーサルジョイントUJ1~6によってコックピットを含むレーシングカーのシャーシであるエンドエフェクタ14に連結される。支柱S1~6は、エフェクタ14に対になって連結される。
【0039】
ロッカーモータ構成の1つ(RM5)を図2~6に詳細に示す。特に、図2は湾曲磁石路MW5(ロッカーモータ構成RM1~6の磁石路MW1~6の1つ)を示す。磁石路MW5は、モータの電磁石が配置される湾曲外端縁E5を有する。磁石路の外端縁E5は、ロッカー本体RB5の自由端FE5と一致する曲率半径を有する。湾曲リニアモータCLM5のためのコイルF5は、ロッカーR5の自由端FE5に、又はロッカーR5の自由端FE5に向けて配置される。この場合、コイルF5はロッカーR5の自由端FE5に取り付けられる。図3はロッカーモータ構成RM5を上方から示し、ロッカー本体RB5の3次元形状を図示する。図4はロッカーR5の半径RR5と、ロッカーR5の自由端FE5にある関連した下部ユニバーサルジョイントLJ5の取付けポイントAP5とを示す。湾曲コイルF5がロッカーR5の湾曲自由端FE5に、又は湾曲自由端FE5に向けて取り付けられる様子が図5に示される。同様に、図6は磁石路MW5の湾曲外端縁と、磁石路の半径MWR5とを示す。図7はロッカーモータ構成RMXであって、ロッカーRXが外側自由端FEXに湾曲コイルFXを含み、コイルFXが湾曲磁石路MWX内に受容され、コイルFXの周囲には空隙部がある、ロッカーモータ構成RMXを示す。図7の描画は、Akribisタイプの湾曲リニアモータの磁石路も示し、磁石路が磁石の周囲を取り囲むコイルの溝を通過することに留意されたい。図1~6の描画は同じタイプのモータを表しているが、これらの描画ではこの内部の詳細は見えない。
【0040】
運動発生機10は、本発明による運動システム、運転シミュレータ、又は運動発生機の組合せにおける使用に好適である。
【0041】
<他の運動発生機>
他の運動発生機について、図8においては通常状態で、図9~12のA~Eにおいては様々な動作状態で示す。運動発生機20は、典型的には運動発生機が位置する建物の床である表面21上に配置される。あるいは、表面21は運動発生機のためのベースユニットによって提供されてもよい。運動発生機20は、6つのモジュール式ロッカーモータユニット2RM1~6を備え、各々がそれぞれのロッカー2R1~6と、それぞれの関連した湾曲リニアモータ2CLM1~6とを備える。図8Aに示すように、各々のユニットのロッカー2Rは、その中間平面MPを中心に対称である。モジュール式ロッカーユニットのロッカーは概ね同一であるため、運動発生機において容易に交換可能であり、ユニットのうちの1つのみにおける主要コンポーネント2RM1が特定される。他のユニットの対応する構成部品2RM2~6は、(いくつかのコンポーネントの対掌性を除いて)ほぼ同一であり図8で個別には特定されない。各々の湾曲リニアモータ2CLMは、好ましくはアイアンレスモータである。ロッカー2R1~6の各々は、湾曲ロッカー本体2RB1~6を備え、その一方の端部はそれぞれロッカーシャフト2RS1~6によって形成される回動軸線の周りを回動する。各ロッカーシャフト2RSのどちらかの端部は、シャフト軸受2SBによって支持される。ロッカーの自由端である各々のロッカー2R1~6の他方の端部は、下部カルダンジョイント2LJ1~6によって、一連の6つの概ね上方に延びる細長い支柱2S1~6のうちの1つに連結される。あるいは、ジョイント2LJ1~6は、ユニバーサルジョイント、球面ベアリング又は屈曲部又は単純なロッドエンドであってもよい。ジョイント2LJ1~6は、ロッカー2R1~6によって担持されるピン2P1~6と、関連した球面軸受2SB1~6とに連結する。球面軸受2SB1~6は、ユニバーサルジョイント、球面軸受、又は屈曲部によって置き換えることができる。各細長い支柱2S1~6の他方の端部は、上部カルダンジョイント2UJ1~6によって連結される。あるいは、2UJ1~6は、コックピットを含むレーシングカーのシャーシ22の形態のエンドエフェクタ又はエフェクタペイロードにそれぞれ連結されたユニバーサルジョイント、球面軸受又は屈曲部であってもよい。支柱2S1~6は、シャーシ22に対になって連結される。
【0042】
モジュール式ロッカーモータユニットの1つにおけるコンポーネント2RM1が、図8A及びBにおいてより詳細に示される。図8Aは、湾曲磁石路2MW1を示す。磁石路2MW1は、モータの磁石が配置される湾曲外端縁2E1を有する。磁石路2MW1の外端縁2E2は、関連したロッカー本体2RB1の外端縁と一致する曲率半径を有する。磁石路2MW1は、磁石路支持部2MWS上で支持される。湾曲リニアモータ2CLM1のコイル(又は「フォーサー」)2C1は、ロッカーR5の湾曲自由端FE5に配置される。この実施形態では、各々の湾曲リニアモータ2CLM、すなわち磁石路2MW及びコイル2Cは、対応するロッカーシャフト2RSの下方に一般的な「スイングボート」構成で吊り下げられる。この構成は動力学的に有利である。この構成は、モータ及び支柱及びシャーシの上方での衝突を避けるという点で空間的にも有利である。関連した磁石路の上方に間隔があるため、この実施形態ではシャフト軸受2RBが比較的高い(すなわち、図1の実施形態の低いロッカーベアリングと比較した場合)ことに留意されたい。ロッカーの上方に高いシャフト軸受を配置することは、運動力学的にも有利である。ロッカーユニットのモジュール性も、ロッカーを容易に交換できるという点で非常に有利である。
【0043】
図8Bは、モジュール式ロッカーユニット2RM1のディスクブレーキユニットを示す。ディスクブレーキユニットは、ブレーキキャリパー2BCと、ロッカー本体2RB1に対する関係において固定されるブレーキディスク2BDとを備える。ディスクブレーキユニットは、ロッカー本体の位置の制御を補助するための制御システムの制御下で必要に応じて動作されることができる。また、湾曲リニアエンコーダ2LEテープがロッカー2RB1に取り付けられ、エンコーダ読み取りヘッド2ERHと連係して動作し、ロッカー本体の位置を非常に高い分解能(例えばラジアン当たり約100万カウント)で決定する。これにより、使用時のロッカーの位置の制御がさらに強化され、エフェクタの非常に高い帯域幅の運動を支える。
【0044】
運動発生機20も、本発明による運動システム、運転シミュレータ、又は運動発生機の組合せにおける使用に好適である。
【0045】
<運動発生機の動作>
動作において、運動発生機10又は20のような本発明による運動発生機は、運動発生機と共に運動システムを形成する関連した制御システム(図示しないが、例えば、特許文献7(WO2020/228992)に一般的に記載される)によって動作される。制御システムは、シミュレートされる車両及びその環境(例えばレーストラックや街道など)の物理学が計算される運転シミュレーションなどのシミュレーション環境とともに動作する。例えば、運転シミュレーションは、以下に説明するような本発明による運転シミュレータの文脈であってもよい。このような実施形態では、制御システムは、仮想車両の運動を表すものである運動要求をシミュレーション環境から受け取る。コンピュータプログラムは、仮想世界における車両の運動を決定し、次に、運動キューイングアルゴリズム(MCA、ウォッシュアウトフィルタとしても知られる)を適用して、シミュレートされた車両の運動を運動発生機によって表現可能な運動に変換する。これらの計算された運動は、運動要求として制御システムに提供される。MCAは、シミュレーション環境又は制御システムの一部であってもよいし、あるいは両方に分離されてもよい。シミュレーション環境は、ステアリング、スロットル又はブレーキ入力などの制御装置からの入力信号を受け取ることができ、オペレータ、すなわち、運転手、乗客又はパイロットなどの人間の使用者は、シミュレーション環境内の仮想車両を制御するためにこれを使用する。オペレータは、運動発生機(例えば、例示的な実施形態における運動発生機10又は20)のペイロードとしてシャーシに乗った乗客(運転手)となり得る。これらの入力は、制御システムを介し又は直接的にシミュレーション環境に戻されてもよい。シミュレーション環境は、運転手、同乗者、又は他の使用者もしくはオペレータのために、視覚表示上の出力も生成し得る。シミュレーション環境はまた、運動発生機の位置や制御装置の入力信号に関するものなど、制御システムからの追加データを必要としてもよい。
【0046】
運動発生機は、上述の通常状態からロール回転、ピッチ回転、ヨー回転、左右揺れ、上昇、下降、前進などの様々な運動又は状態を通してシャーシ14又は22などのエンドエフェクタを動かすように動作させられることができ、そのような状態の複数の組合せになるように動作させられてもよい。例えば、運動発生機は、上昇及び左ヨー回転の状態の組合せになるように動作させられてもよい。このような運動又は状態の例と、対応するエフェクタ、ロッカー、及び支柱の位置とが、図8の運動発生機20について図9A~Eから図12A~Eに示される。
【0047】
このような方法で動作する本発明の運動発生機は、ペイロード/エンドエフェクタの動作の精度/位置決めを高める高帯域幅、低摩擦、及び低慣性、並びに低遅延を含む長所を有する。
【0048】
<運動発生機の組合せ>
上述したように、本発明による運動発生機は、さらなる運動発生機と直列に使用してもよい。例えば、本発明による運動発生機は、組合せにおける2次運動発生機として使用されてもよく、すなわち、運動発生機そのものが1次運動発生機のペイロードとなる。この組合せは、1次運動発生機が比較的高価ではなくX方向及びY方向に良好な偏位運動範囲を提供し、1次運動発生機がより高い帯域幅、及び位置精度、及びより低いレベルの慣性及び摩擦を提供してペイロードに付与される動きの精度をさらに高める点で有利である。このような組合せ(又は「2段」運動発生機)を図13に示す。図13は、2段運動発生機40を示しており、この運動発生機40は、第1段低周波数運動発生機42を備え、低周波数運動発生機42の上にエフェクタペイロード(シャーシ45)を支持する第2段高周波数運動発生機44が取り付けられる。第1段運動発生機42は、3つの自由度の運動を提供するように配置され、回転可能プラットフォーム46を備え、回転可能プラットフォーム46は、垂直軸線周りに回転するように配置され、その軸線周りに360°以上動くことができる。回転可能プラットフォーム46は、表面48(典型的にはシミュレータ室の床)の上方でリニアレールLR1~4に沿って動くように動力を与えられるガイドキャリッジGC1~4上でX方向及びY方向に動く。回転可能プラットフォーム46は、第2段運動発生機が取り付けられる表面を提供し、第2段運動発生機にX方向及びY方向並びにヨー回転における動作を提供する。第2段運動発生機44は、本発明の運動発生機である。例えば、上述の運動発生機10又は20であり、そのエフェクタペイロード(シャーシ45)に高帯域幅の運動を提供する。
【0049】
<運転シミュレータ>
本発明によるドライビングシミュレータ30を図14に示す。ドライビングシミュレータ30は、本発明による運動発生機、例えば図1~7に関連して上述したような運動発生機、又は図8及び図9~12のA~Eに関連して上述したような運動発生機、又は例えば図13に関連して上述したような本発明による運動発生機を含む組合せを含む運動システム32と、制御システム(図示しないが、例えば特許文献7(WO2020/228992)に一般的に記載される)とを備える。運動発生機は、エフェクタペイロードとしてシャーシ34を有する。運動システムは、その上に運転環境の画像を表示することができる投影システム38(投影システムは、環境シミュレーション手段の一例を構成する)の前方における表面36に取り付けられる。オーディオシステム(不図示)は、運転環境の音を再現した音を使用者に提供し、環境シミュレーション手段の他の例を構成する。ドライビングシミュレータ30の運動発生機は(例えば、上述したように)制御システムの指令を受けて動作させられる。
【0050】
上記の実施形態で説明したような本発明による運動発生機は、運転シミュレータにおいて使用される場合、そのような用途のための公知の運動発生機と比較して、いくつかの点又は全ての点で有利であり得る。本発明による運動発生機を組み込んだ運転シミュレータは低遅延であり、他のドライビングシミュレータ、特に著しく高価なドライビングシミュレータで必要とされる遅延補正の必要性を回避し又は最小化する。
【0051】
<運動発生機の製造方法>
上述したような運動発生機及び制御手段を含む本発明による運動システムは、例えば従来の手段により上述したような特注及び標準のコンポーネントから組み立ててもよい。特に、運動システムは、本発明による運動発生機と上述の制御システムとを接続することによって製造してもよい。ロッカーユニットは、1つのロッカーを運動発生機の任意の位置にある他のそのようなユニットと交換できるという点で、好ましくはモジュール式であるという点に留意されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13
図14
【国際調査報告】