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特表2024-538972摩耗性被膜表面にノッチ付きのブレードチップを備えた流体機械用ブレードとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】摩耗性被膜表面にノッチ付きのブレードチップを備えた流体機械用ブレードとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 5/20 20060101AFI20241018BHJP
   F01D 11/12 20060101ALI20241018BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F01D5/20
F01D11/12
F02C7/28 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521149
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022075072
(87)【国際公開番号】W WO2023066566
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】21203824.4
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521001582
【氏名又は名称】シーメンス エナジー グローバル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS ENERGY GLOBAL GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】バルニケル,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】リュッベ,ベルトルド
(72)【発明者】
【氏名】シュルケン,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】トイバー,ハネス
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202KK04
3G202KK25
(57)【要約】
本発明は流体機械用のブレード(1)に関し、ブレード(1)は半径方向軸に沿って形成され、ブレードチップ(4)と吐出側面(5)と吸入側面(6)を備えたブレード断面部分を有し、ブレード(1)は運転中にハウジング内壁に対向するブレードチップ表面(7)を有し、ブレードチップ表面(7)は摩耗性被膜(8)を有し、この摩耗性被膜(7)は運転中にハウジング内壁に接触する際に摩耗性被膜(8)の剥離が生じるように形成され、摩耗性被膜表面(11)を備えた摩耗性被膜(8)が形成され、摩耗性被膜表面(11)にノッチ(12)が配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレード(1)が半径方向軸(3)に沿って形成され、ブレードチップ(4)と、吐出側面(5)および吸引側面(6)を有するブレード断面プロフィールとを有し、
前記ブレード(1)が運転時にハウジング内壁と対向するブレードチップ表面(7)を有し、
前記ブレードチップ表面(7)が摩耗性被膜(8)を有し、
前記摩耗性被膜(8)が、運転中に前記ハウジング内壁と接触すると前記摩耗性被膜(8)の剥離が行われるように形成されている
流体機械用のブレード(1)において、
前記摩耗性被膜(8)が摩耗性被膜表面(11)を有し、前記摩耗性被膜表面(11)にノッチ(12)が配置されている、
ことを特徴とする流体機械用ブレード(1)。
【請求項2】
前記摩耗性被膜(8)が潤滑剤を備えている、請求項1に記載のブレード(1)。
【請求項3】
前記潤滑剤がグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素を含む、請求項2に記載のブレード(1)。
【請求項4】
前記ブレード断面プロフィールがコードラインで記述することができ、前記摩耗性被膜(8)が前記コードラインに沿って配置されている、請求項1から3の1つに記載のブレード(1)。
【請求項5】
前記ブレード(1)が流入エッジ(9)と流出エッジ(10)を有し、前記摩耗性被膜(8)は前記流入エッジ(9)から前記流出エッジ(10)まで配置される、請求項1から4の1つに記載のブレード(1)。
【請求項6】
前記コードラインの長さがDであり、前記摩耗性被膜(8)は前記流出エッジ(10)の前の領域にのみ配置され、ここでd=(0.4~0.9)×Dであり、dは前記流出エッジ(10)までの前記コードラインに沿った前記摩耗性被膜(8)の長さである、請求項1から4の1つに記載のブレード(1)。
【請求項7】
前記ノッチ(12)が前記コードラインに対してほぼ垂直に形成されている、請求項1から6の1つに記載のブレード(1)。
【請求項8】
前記ノッチ(12)の相互間隔が等距離である、請求項1から7の1つに記載のブレード(1)。
【請求項9】
前記摩耗性被膜(8)が前記吐出側面(5)から前記吸入側面(6)まで連続して形成されている、請求項1から8の1つに記載のブレード(1)。
【請求項10】
前記摩耗性被膜(8)は、運転中に発生する前記ハウジング内壁との摩耗によって剥離に至り、その結果剥離によって生じた接触面が形成され、前記接触面がさらなる剥離により前記半径方向軸(3)方向に前記ブレード脚部(2)に向って幅広になる、請求項1から9の1つに記載のブレード(1)
【請求項11】
前記摩耗性被膜(8)は、断面で見て鈍角のチップ(14)になるように、前記ブレードチップ表面(7)に形成されている、請求項1から10の1つに記載のブレード(1)。
【請求項12】
前記摩耗性被膜(8)はスリット(16)を有し、前記スリットは、前記摩耗性被膜(8)の剥離が前記スリット(16)の測定可能な長さLになるように配置され、前記摩耗性被膜(8)の高さがこの長さLを介して求められる、請求項1から11の1つに記載のブレード(1)。
【請求項13】
前記摩耗性被膜(8)がAPSまたはHVOFなどの熱射被膜処理によって前記ブレードチップ表面(7)に塗布され、前記摩耗性被膜(8)はグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素などの潤滑剤を備え、前記摩耗性被膜(8)は摩耗性被膜表面(11)を有するように形成され、前記被膜表面(11)に前記ノッチ(12)が配置される、
ブレードチップ表面(7)上に摩耗性被膜(8)を形成する方法。
【請求項14】
前記摩耗性被膜(8)にポリマーを添加し、前記摩耗性被膜(8)の多孔質構造を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項15】
前記ブレード(1)に前記摩耗性被膜(8)を取り付ける前に第1の熱処理を実施して、前記ブレード(1)を硬化し、前記第1の熱処理後に前記摩耗性被膜(8)が取り付けられ、前記摩耗性被膜(8)の取り付け後に第2の熱処理が前記ブレード(1)を低応力焼きなましする温度で行われ、前記温度はスプレーされた前記摩耗性被膜(8)内にポリマーが溶融し、その結果前記摩耗性被膜(8)の多孔構造が形成されるように選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項16】
前記摩耗性被膜(8)の上に前記コードラインに沿って配置された前ノッチ(12)が形成され、前記ノッチ(12)は、被覆処理中または被覆処理後にフライス加工などの切削方法によって形成される、請求項14から16の1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードが半径方向軸に沿って形成されるとともにブレードチップ並びに吐出側面および吸入側面付きのブレード断面プロフィールを有し、さらにブレードは運転時にハウジング内壁に対向するブレードチップ表面を有し、このブレードチップ表面が摩耗性被膜を有する流体機械用ブレードに関する。
【0002】
さらに本発明は、摩耗性被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液体および/または気体の流動媒体を加工および処理するための流体機械においては、しばしば可動部材と静止部材との間の間隙を流動媒体に対して密封しなければならない。流体機械としては、蒸気タービン、ガスタービン、圧縮機などが例示される。
【0004】
蒸気タービンでは、ロータとこれを取り囲むハウジングとの間の間隙は、蒸気のブレードリングを通過する経路を遮断するために密封される。この密封の精度は、このような流体機械の効率にかなりの影響を及ぼす。
【0005】
流体機械では、作動流体の内部エネルギーを回転部材の機械エネルギーに変換するために旋回を変化させる原理が用いられる。作動流体がプロセスに関与しなくならないように、流体案内部材は通常は閉じられるので、内部流が生じることがある。
【0006】
流体案内ジオメトリにおいて流体機械部品の擾乱のない旋回を可能にするためには、静止部材と回転部材の間に半径方向の間隙が絶対に必要である。この半径方向の間隙は、損失を低減するためにできるだけ小さくしなければならず、また完全性の観点からは、必要な限り大きくしなければならない。
【0007】
一般に、流体機械におけるブレードの動翼チップとこれに対向するハウジングとの間の半径方向間隙は、重要と思われる運転事例では半径方向間隙のオーバーブリッジが回避されるように設計される。
【0008】
流体機械の一例である低圧蒸気タービンにおいては、液滴による腐食の問題もある。これらの流体機械では膨張はしばしば水蒸気の二相領域において終わり、回転部材およびこれに隣接する静止部材に大きな腐食負荷をもたらす。
【0009】
蒸気タービンのような流体機械では、主に低圧領域において自立型の低圧ブレードが使用される。構造上このような流体機械は、ブレードチップとハウジングとの間の半径方向のギャップが比較的大きい。それにもかかわらず損失があまり大きくならないようにするため、ブレードチップに対向するハウジングに剥離可能な被膜を配置することが知られている。ブレードチップとハウジングとの接触時には、剥離可能な被膜だけが容易に剥離し、そのため比較的小さな半径方向ギャップが生じる。
【0010】
基本的には動力学の原理(遠心力と温度の影響下でのブレードの半径方向長さの増大)を考慮しながら、半径方向の遊びは主として受動的な設計手段によって最小化される。例えばハウジングの楕円化やシャフトの振動を最小限に抑えることに加えて、軸方向の膨張差の影響を最小限に抑える円筒状に短くしたブレードが使用される。
【0011】
積極的には、円錐状に短くされたブレード用のロータでは、ロータの軸方向位置に影響するための(水力)機械的装置が使用される。
【0012】
ハウジングでは、半径方向の遊びに影響を及ぼすための積極的並びに準受動的および受動的解決手段が取られる。
【0013】
積極的解決手段としては、流れが形成された場合にのみ閉じて定格回転速度での半径方向の遊びを減少させる「格納式シーリングセグメント」が挙げられる。オーバーブリッジの場合には、周方向のスプリング構造によりハウジングの形状を広げることができる。
【0014】
半径方向のばね構造がハウジングの幾何学的形状を広げることを可能にする半受動的な「弾性シールセグメント」も同様に機能する。
【0015】
受動的な解決手段としては、簡単に外せるインサート/アタッチメント部材およびコンポーネント並びに剥離可能な被膜が挙げられる。
【0016】
対向するハウジング側面には、多くの場合摩耗性の剥離可能な被膜が見られる。
【0017】
しかしながら液滴を有する流体では、これらの機能性被膜は、機能的に例えば液滴の衝突腐食によって引き起こされる高い機械的力に耐えることができないので、使用できない。
【0018】
補助手段としてはいわゆるハニカムシールセグメントが挙げられるが、これは異方性剥離特性を有し、ハウジング壁に埋め込むことができる。ここでの実用上の問題は、中空構造が形成されて作動媒体中に含まれる固形粒子がそこに充填し、本来の正の異方性特性が失われるおそれがあることである。
【0019】
場合によっては自立性の回転ブレードにも、同様にギャップ損失低減の役割を持つシールチップ状の構造物が対向するハウジング側面に設けられる。
【0020】
摩耗性被膜を施したタービンブレードは、以下の先行技術文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】独国特許第69826096T2号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/309759A1号明細書
【特許文献3】米国特許第9645685B2号明細書
【特許文献4】米国特許第5434210A号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/277871A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、流体機械において使用することが可能であり、運転中のギャップ損失が少ない流体機械用のブレードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この課題は、ブレードが半径方向軸に沿って形成され、ブレードチップと吐出側面と吸引側面を有するブレード断面形状を有するとともに、運転時にハウジング内壁に対向するブレードチップ表面を有し、このブレードチップ表面は摩耗性の被膜を有し、この被膜は運転時にハウジング内壁と接触するときに剥離するように形成され、摩耗性被膜(8)は摩耗性被膜表面(11)を有し、この被膜表面(11)にノッチ(12)が配置されることにより解決される。
【0024】
このように本発明は、ブレードチップに摩耗性被膜を施す対策を提案するものである。この摩耗性被膜は、ハウジングに摩耗性被膜が接触した場合に、摩耗性被膜が剥離または剥離可能になるように、すなわち摩耗性被膜の材料剥離が行われることにより、ラジアルギャップが最適化されるように形成されている。
【0025】
剥離作用によって形成され運転中に流体機械内に残る材料の個々のピースは、これらが流体機械内に何らの損傷を生じさせないように構成される。さらに個々の材料片は比較的小さいが、これは本発明による摩耗性被膜の構成によって達成されるものである。
【0026】
本発明による解決策は、今までは必要であればハウジング内壁を剥離性被膜で形成していたが、ここではハウジング輪郭の残留楕円形状を低コストで補償することができるので、新規な方法である。
【0027】
静止部分の被膜と比較して、ブレードの被覆は以下の状況において利点を有する。すなわち、ブレードの半径方向長さおよび/またはハウジングの楕円率に変動が生じても、摩耗性の場合には、最も長いブレードの被覆のみが剥離により除去される。残りのブレードのギャップは変わらない。
【0028】
本発明によれば、摩耗性被膜は摩耗性被膜表面を有し、この被膜表面にノッチが配置される。
【0029】
このようにすれば、ハウジング内壁との接触により生じる材料剥離が生じても、剥離される材料の個々のピースが大きくなり過ぎないことが達成される。ノッチは、基本的には意図された破断点のように動作し、材料片の剥離がノッチまでとなり、その結果ノッチは換言すれば摩耗性被膜の剥離が可能な境界線として作用する。
【0030】
摩耗性被膜は言い換えれば、通常は、ブレードチッププロフィールのコードライン(Chord line=Skelettlinie)にセグメント化される。その結果万一のはげ落ち、部分的な損失または剥離は限定される。この場合セグメント化は切削によりつくられるか、成層プロセスの間に既に形成することができる。
【0031】
有利な実施態様は従属請求項に明記されている。
【0032】
たとえば、第1の実施態様では、摩耗性被膜に潤滑剤が設けられる。
【0033】
この潤滑剤は研磨性を有する。これは、ハウジング内壁と摩耗性被膜の接触時に摩耗性被膜の材料剥離が生じることを意味し、この場合摩耗性被膜の材料特性は個々の材料片が十分に小さいので、剥離材料片の飛来による損傷リスクが最小化されることにある。
【0034】
さらに有利な実施態様では、潤滑剤はグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素を含む。
【0035】
まさにグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素は、流体機械における剥離被膜または剥離被膜の構成部分としての使用に理想的な材料特性を有する。グラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素における結晶構造および結合力は摩耗性被膜の材料の剥離を生じるが、剥離される個々の材料片は十分に小さい。
【0036】
さらに有利な実施形態では、ブレード断面プロフィールはコードラインで記述することができ、摩耗性被膜はコードラインに沿って配置される。
【0037】
さらに有利な実施形態では、ブレードは流入エッジと流出エッジとを有し、摩耗性被膜は流入エッジから流出エッジまで配置される。
【0038】
有利な実施態様では、コードラインは長さDを有し、摩耗性被膜は流出エッジの前の領域にのみ配置され、ここでd=(0.4~0.9)×Dであり、dは流出エッジまでのコードラインに沿った摩耗性被膜の長さである。
【0039】
この有利な実施形態により、ブレードチップ表面の全体に摩耗性被膜を設けずに、原理的には単に流出エッジの前の領域のみに設けることが提案される。
【0040】
同様に有利には、ノッチはコードラインに対してほぼ垂直に形成される。
【0041】
同様にノッチは、有利には互いに等間隔で形成される。
【0042】
別の有利な実施形態では、摩耗性被膜は吐出側面から吸入側面まで連続的に形成される。
【0043】
別の有利な実施形態では、摩耗性被膜は、運転中に生じるハウジング内壁との摩耗によって摩耗性被膜の剥離に至り、これにより剥離によって接触面が形成され、この接触面はさらなる剥離により半径方向にブレード脚部に向かってより広くなる。
【0044】
この措置により、摩耗性被覆がいわばすり減る初期プロセスが可能になる。これは、摩耗性被膜とハウジング内壁との間の接触面が、摩耗性被膜とハウジング内壁との間のさらなる接触の間にますます大きくなることを意味する。
【0045】
このため摩耗性被膜は、断面で見て摩耗性被膜が鈍角のチップを示すように、ブレードチップ表面上に形成されると有利である。
【0046】
換言すれば、摩耗性被膜は鈍角のチップのようにハウジング内壁に向いている。ハウジング内壁に被膜が摩耗すると、まずチップが剥離する。接触が増加すると、接触面はますます広くなる。
【0047】
特に有利な実施形態では、摩耗性被膜はスリットを有し、このスリットは、摩耗性被膜の剥離がスリットの測定可能な長さLに至り、この長さにより被膜の高さが測定できるように配置される。
【0048】
従ってこのスリットにより、摩耗性被膜がどの程度剥離されたか、または摩耗性被膜の厚さがどの程度かを判断するインジケータが提供される。
【0049】
スリットは、摩耗性被膜の全幅にわたって、また摩耗性被膜の幅の一部に亘って設けることができる。
【0050】
有利な実施形態では、ブレード毎に多数のスリットを摩耗性被膜に配置することもできる。
【0051】
このスリットは、吸入側面または吐出側面のブレード表面のエッジから先端チップに至るまで加工される。運転中にチップが剥離されると、摩耗性被膜の平面図において面内のスリット長さを測定することができ、それによって幾何学的特性および三角測量的な考察により摩耗性被膜の厚さを計算することができる。
【0052】
スリットは、ノッチの機能を果たすことができ、同様に設定破壊点としての役割を果たすことができる。従って破壊の大きさはスリットによって制限することができる。
【0053】
方法に関する課題は、摩耗性被膜がAPSまたはHVOFなどの熱溶射被膜法によってブレードチップに塗布され、この摩耗性被膜には、グラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素などの潤滑剤が施され、摩耗性被膜(8)は摩耗性被膜表面(11)とともに形成され、この摩耗性被膜表面(11)にノッチ(12)が配置されるようにした、ブレード表面上に摩耗性被膜を製造する方法によって解決される。
【0054】
摩耗性被膜に多孔質構造を形成するために、ポリマーを摩耗性被膜に添加すると有利である。
【0055】
特に有利な実施形態では、ブレードへの摩耗性被膜の塗布の前に、ブレードが硬化される第1の熱処理が行われ、第1の熱処理後に摩耗性被膜が塗布され、摩耗性被膜の塗布後にブレードが低応力焼きなましされる温度で第2の熱処理が行われ、この温度は、溶射された摩耗性被膜内でポリマーが溶融し、それにより摩耗性被膜の多孔質構造をもたらすように選択される。
【0056】
この有利な方法により、ポリマーが第2の熱処理中に溶融し、摩耗性被膜から除去されることが達成され、これにより簡単で費用効果の高い態様において摩耗性被膜は多孔質構造を付与される。
【0057】
別の有利な実施形態では、コードラインに沿って配置されたノッチが摩耗性被膜上に施され、ノッチは被膜プロセス中または被膜プロセス後にたとえばフライスのような切削方法によって形成される。
【0058】
以下に本発明を、図面を参照して特定の例示的な実施形態をもとに詳細に説明する。
【0059】
本発明の上述の特性、特徴及び利点、並びにこれらが達成される態様は、図面を参照して詳細に説明される実施例の以下の説明に関連して、より明瞭に理解しやすくなる。
【0060】
同一の部材または同一の機能を有する部材は、ここでは同一の符号を付けられる。
【0061】
以下に本発明の実施例が図面を参照して説明される。これらは、例示的な実施形態を実寸通りに図示するものではなく、説明のために用いられた図面は概略的および/または若干誇張しで作成したものである。図面において直接判別可能な教示の補充に関しては、関連する先行技術を参照するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明によるタービンブレードの全体図を示す。
図2】本発明によるタービンブレードの一部拡大図を示す。
図3】本発明によるブレードのブレード表面の平面図を示す。
図4】本発明によるブレードのブレード表面の平面図を示す。
図5】本発明によるブレードのブレードチップの概略図を示す。
図6】本発明によるブレードの一部概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1には、ブレード1が全体図で示されている。ブレード1は、図示しないロータに固定するのに適したブレード脚部2を有する。このブレード脚部2は、いわゆるクリスマスツリーの脚部形状を有している。ブレード脚部2に関しては差込形および鞍形脚部、ラバル脚部、鞘形脚部またはT脚部等の別の実施形態が知られている。このようなブレード1は、蒸気タービン、ガスタービンまたはコンプレッサのような流体機械に使用することができる。ブレード1は、半径方向軸3に沿って形成され、ブレードチップ4と、吐出側面5と吸入側面6とを備えたブレード本体とを有する。
【0064】
ブレード1は、半径方向軸3に沿って種々に形成されたブレード断面輪郭を有する。
【0065】
図2は、ブレード1のブレードチップ4の拡大図である。このブレードチップ4は、運転中にハウジング内壁(図示せず)に対向するブレードチップ表面7を有する。
【0066】
ブレードチップ表面7は、半径方向軸3に対して一定の角度で傾斜しており、その結果ブレードチップ表面7はハウジング内壁に対してほぼ平行に形成されている。
【0067】
ブレードチップ表面7には摩耗性被膜8が配置されている。この摩耗性被膜8は、主としてギャップ損失のさらなる改善のためにブレードチップ表面7に施される。この摩耗性被膜8は、剥離可能な摩耗性被膜として形成され、内部ハウジングとの接触時の損傷の危険を最小化する。従って摩耗性被膜8は、運転中にハウジング内壁と接触すると摩耗性被膜8の剥離が生じるように形成される。
【0068】
摩耗性被膜8の剥離を可能にするために、摩耗性被膜8は潤滑剤で作られている。この潤滑剤は、グラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素を含む。
【0069】
摩耗性被膜8の剥離特性を改善し、摩耗性被膜8の剥離を可能にするために、摩耗性被膜8は多孔性に形成される。これは、摩耗性被膜8に比較的多くの小さな空洞が形成されることを意味する。
【0070】
摩耗性被膜8の多孔性を形成する空洞は以下に説明するように形成される。
【0071】
第1の工程では、ブレード表面7に摩耗性被膜8を作るための方法が実行される。摩耗性被膜8はAPS又はHVOFのような熱溶射被膜形成法によってブレードチップ表面7に施されるが、ここで摩耗性被膜8にはグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素のような潤滑剤が施される。
【0072】
さらに摩耗性被膜8には摩耗性被膜8の多孔質構造を形成するためにポリマーが添加される。
【0073】
次の工程では、摩耗性被膜8を取り付ける前に第1の熱処理が行われ、ブレード1が硬化される。
【0074】
第1の熱処理の後に摩耗性被膜8が取り付けられ、摩耗性被膜8の取り付け後に第2の熱処理が、ブレード1が低応力焼きなましされる温度で行われる。この場合の温度は、ポリマーが溶射された摩耗性被膜8に溶融するように選択される。これにより摩耗性被膜8に小さな空洞が生じ、これが最終的に摩耗性被膜8の多孔質構造をもたらす。
【0075】
ブレード1は、鋼、チタンまたは複合材料からも製造することができる。
【0076】
図4は、ブレードチップ4を流入エッジ9の方向に見た様子を示す。
【0077】
ブレード1のブレード断面プロフィールは、流体機械構造において現在行われているコードライン(Chord line=Skelettlinie)で記述することができる。摩耗性被膜8は、ここではコードラインに沿って配置される。第1の実施形態においては、摩耗性被膜8は従ってブレードチップ表面7の全体を覆っている。
【0078】
ブレード1はさらに流入エッジ9および流出エッジ10を有しており、摩耗性被膜8は第1の実施形態においては流入エッジ9から流出エッジ10まで配置される。
【0079】
別の代替実施形態で摩耗性被膜8が流出エッジ10の前の領域にのみ配置されている場合、コードラインの長さはDであり、d=(0.4~0.9)×Dが成立するが、ここでdは流出エッジ10までのコードラインに沿った摩耗性被膜8の長さである。
【0080】
従ってこの代替実施形態では、ブレード1全体が摩耗性被膜8で形成される必要はなく、流出エッジ10の前の領域のみで良い。
【0081】
摩耗性被膜8は摩耗性被膜表面11を有し、この摩耗性被膜表面11上にノッチ12が配置される。
【0082】
これらのノッチ12は、摩耗性被膜表面11に施され、このようにして運転中に摩耗性被膜8の剥離が2つのノッチ12の間に配置されたセグメント13のみに生じるようにされる。ノッチ12は従って、摩耗性被膜8の破壊が意図された位置で、摩耗性被膜8が材料の剥離条件に付されることになる動作条件が発生する場合に、設定破壊点とみなすことができる。
【0083】
ノッチ12は、ここでは、コードラインに対して実質的に垂直に形成されるので、製造経費が減少する。さらにノッチ12は、コードラインに沿って等距離間隔で配置される。
【0084】
ノッチ12は、被覆工程中または被覆工程後に、フライスなどの切削方法を用いて形成される。
【0085】
ブレードチップ表面7上への摩耗性被膜8の製造時に、摩耗性被膜8は吐出側面5から吸入側面6まで連続的に形成される。
【0086】
摩耗性被膜8は、運転中に生じるハウジング内壁との接触が摩耗性被膜8の剥離を生じるように形成され、その結果剥離により生じる接触面(図示せず)が形成され、さらなる剥離により接触面は半径方向軸3の方向にブレード脚部2に向ってより幅広になる。
【0087】
このために摩耗性被膜8は断面で見て鈍角のチップ14を示すようにブレードチップ表面7上に形成される。
【0088】
摩耗性被膜8の状態を検出できるようにするために、剥離インジケータ15を有する摩耗性被膜8が形成される。このために、摩耗性被膜8はスリット16を有し、このスリットは、摩耗性被膜8の剥離がスリットの測定可能な長さLになるように配置され、摩耗性被膜8の高さは長さLを介して求めることができるようにされる。
【0089】
このためにスリット16は、図3に示されているように、吐出側面5のエッジからチップ14まで施される。剥離インジケータ15の側面図は図2に示されている。
【0090】
運転中に摩耗性被膜8を剥離させることができるので、図2のダッシュ線17で示される接触面はより幅広になる。この線17はブレードチップ表面7に対してほぼ平行に配置される。
【0091】
この状態で長さLの測定可能なスリット16が見られる。従ってLを求めることによって、摩耗性被膜8の高さHは単純な三角幾何学的形状の考察によって検出することができる。したがって、スリット16の長さLを単に見るだけで摩耗性被膜8の状態を推測することができる。
【0092】
図5および図6には、剥離インジケータ15をより詳細に模式的に示しており、図6は線17に沿った図5の断面図を示している。
【0093】
湾曲したブレードチップ4は、低圧蒸気タービンの低圧最終段ブレードに有利に使用できる。ここでのブレードチップ4の周速は、マッハ1よりも大きな値に成り得る。その結果、亜音速、遷音速、超音速流のエアロダイナミック領域での使用が可能になる。
【0094】
ブレード1の上記の特徴は、流体機械においてブレードの列内で変化させることができる。
【0095】
ブレード1は湿り蒸気流内で使用される。
【0096】
さらに上記の特徴は、機械構造及び運転要件に関係して、ブレード列からブレード列、およびタービン流からタービン流ごとに変えることができる。
【0097】
本発明は、摩耗性被膜8により、測定器からのブレードチップ4の距離を最小にすることができるので、非接触形ブレード振動測定システムと組み合わせることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-06-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレード(1)が半径方向軸(3)に沿って形成され、ブレードチップ(4)と、吐出側面(5)および吸引側面(6)を有するブレード断面プロフィールとを有し、
前記ブレード(1)が運転時にハウジング内壁と対向するブレードチップ表面(7)を有し、
前記ブレードチップ表面(7)が摩耗性被膜(8)を有し、
前記摩耗性被膜(8)が、運転中に前記ハウジング内壁と接触すると前記摩耗性被膜(8)の剥離が行われるように形成されている
流体機械用のブレード(1)において、
前記摩耗性被膜(8)が摩耗性被膜表面(11)を有し、前記摩耗性被膜表面(11)にノッチ(12)が配置されている、
ことを特徴とする流体機械用ブレード(1)。
【請求項2】
前記摩耗性被膜(8)が潤滑剤を備えている、請求項1に記載のブレード(1)。
【請求項3】
前記潤滑剤がグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素を含む、請求項2に記載のブレード(1)。
【請求項4】
前記ブレード断面プロフィールがコードラインで記述することができ、前記摩耗性被膜(8)が前記コードラインに沿って配置されている、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項5】
前記ブレード(1)が流入エッジ(9)と流出エッジ(10)を有し、前記摩耗性被膜(8)は前記流入エッジ(9)から前記流出エッジ(10)まで配置される、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項6】
前記コードラインの長さがDであり、前記摩耗性被膜(8)は前記流出エッジ(10)の前の領域にのみ配置され、ここでd=(0.4~0.9)×Dであり、dは前記流出エッジ(10)までの前記コードラインに沿った前記摩耗性被膜(8)の長さである、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項7】
前記ノッチ(12)が前記コードラインに対してほぼ垂直に形成されている、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項8】
前記ノッチ(12)の相互間隔が等距離である、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項9】
前記摩耗性被膜(8)が前記吐出側面(5)から前記吸側面(6)まで連続して形成されている、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項10】
前記摩耗性被膜(8)は、運転中に発生する前記ハウジング内壁との摩耗によって剥離に至り、その結果剥離によって生じた接触面が形成され、前記接触面がさらなる剥離により前記半径方向軸(3)方向にブレード脚部(2)に向って幅広になる、請求項に記載のブレード(1)
【請求項11】
前記摩耗性被膜(8)は、断面で見て鈍角のチップ(14)になるように、前記ブレードチップ表面(7)に形成されている、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項12】
前記摩耗性被膜(8)はスリット(16)を有し、前記スリットは、前記摩耗性被膜(8)の剥離が前記スリット(16)の測定可能な長さLになるように配置され、前記摩耗性被膜(8)の高さがこの長さLを介して求められる、請求項に記載のブレード(1)。
【請求項13】
摩耗性被膜(8)がAPSまたはHVOFなどの熱射被膜処理によってブレードチップ表面(7)に塗布され、前記摩耗性被膜(8)はグラファイトおよび/または六方晶窒化ホウ素などの潤滑剤を備え、前記摩耗性被膜(8)は摩耗性被膜表面(11)を有するように形成され、前記被膜表面(11)にノッチ(12)が配置される、
ブレードチップ表面(7)上に摩耗性被膜(8)を形成する方法。
【請求項14】
前記摩耗性被膜(8)にポリマーを添加し、前記摩耗性被膜(8)の多孔質構造を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
レード(1)に前記摩耗性被膜(8)を取り付ける前に第1の熱処理を実施して、前記ブレード(1)を硬化し、前記第1の熱処理後に前記摩耗性被膜(8)が取り付けられ、前記摩耗性被膜(8)の取り付け後に第2の熱処理が前記ブレード(1)を低応力焼きなましする温度で行われ、前記温度はスプレーされた前記摩耗性被膜(8)内に前記ポリマーが溶融し、その結果前記摩耗性被膜(8)の多孔構造が形成されるように選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記摩耗性被膜(8)の上に前記コードラインに沿って配置された前ノッチ(12)が形成され、前記ノッチ(12)は、被覆処理中または被覆処理後にフライス加工などの切削方法によって形成される、請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】