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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】耐燃焼性熱可塑性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241018BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L97/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522156
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 FI2021050706
(87)【国際公開番号】W WO2023067238
(87)【国際公開日】2023-04-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】ガル バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】ディール フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ミエッティネン マウノ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01W
4J002AH00X
4J002BB12W
4J002BC03W
4J002DA036
4J002FD016
4J002GB01
4J002GC00
4J002GG02
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む耐燃焼性熱可塑性組成物が開示される。さらに、耐燃焼性熱可塑性組成物を製造するためのリグニン系充填剤の使用及び耐燃焼性熱可塑性組成物の製造方法が開示される。さらに、物品、及び上記耐燃焼性熱可塑性組成物の使用が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む耐燃焼性熱可塑性組成物であって、前記リグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、前記リグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、
前記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも20パーセント低く、前記対応する熱可塑性組成物は、前記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は前記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される
耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、前記対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも30パーセント、又は少なくとも40パーセント、又は少なくとも50パーセント、又は少なくとも60パーセント低い請求項1に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記耐燃焼性熱可塑性組成物は、前記耐燃焼性熱可塑性組成物の全重量に基づいて全量で0.1~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~45重量の前記リグニン系充填剤を含む請求項1又は請求項2に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記リグニン系充填剤を調製するために使用された前記リグニン材料は、酵素加水分解プロセス及び/又はクラフトプロセスから誘導される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記リグニン系充填剤は、全量で0.1~2.5重量%、又は0.2~2.0重量%、又は0.3~1.5重量%、又は0.4~1.0重量%の灰分を含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項6】
0.1M NaOH中の前記リグニン系充填剤の溶解度は、1~40重量%、又は3~35重量%、又は5~30重量%である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記リグニン系充填剤は、前記リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1000~4000Da、又は1300~3700Da、又は1700~3200Da、又は2500~3000Da、又は2600~2900Da、又は2650~2850Daの重量平均分子量(Mw)を有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記リグニン系充填剤の多分散性指数は、前記リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1.5~5.0、又は1.8~4.5、又は1.9~4.3、又は2.1~4.0、又は2.4~3.5、又は2.6~3.2である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物。
【請求項9】
熱可塑性組成物の耐燃焼性を改善するためのリグニン系充填剤の使用であって、前記熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマーと前記リグニン系充填剤とを含み、前記リグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、前記リグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、
前記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度と比較して少なくとも20パーセント低く、前記対応する熱可塑性組成物は、前記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は前記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される、使用。
【請求項10】
前記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、前記対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも30パーセント、又は少なくとも40パーセント、又は少なくとも50パーセント、又は少なくとも60パーセント低い請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記耐燃焼性熱可塑性組成物は、前記耐燃焼性熱可塑性組成物の全重量に基づいて全量で0.1~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~45重量%の前記リグニン系充填剤を含む請求項9又は請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記リグニン系充填剤を調製するために使用された前記リグニン材料は、酵素加水分解プロセス及び/又はクラフトプロセスから誘導される請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記リグニン系充填剤は、全量で0.1~2.5重量%、又は0.2~2.0重量%、又は0.3~1.5重量%、又は0.4~1.0重量%の灰分を含む請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
0.1M NaOH中の前記リグニン系充填剤の溶解度は、1~40重量%、又は3~35重量%、又は5~30重量%である請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記リグニン系充填剤は、前記リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1000~4000Da、又は1300~3700Da、又は1700~3200Da、又は2500~3000Da、又は2600~2900Da、又は2650~2850Daの重量平均分子量(Mw)を有する請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記リグニン系充填剤の多分散性指数は、前記リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1.5~5.0、又は1.8~4.5、又は1.9~4.3、又は2.1~4.0、又は2.4~3.5、又は2.6~3.2である請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む耐燃焼性熱可塑性組成物の製造方法であって、
少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を提供する工程であって、前記リグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、前記リグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含む、工程と、
前記少なくとも1種のポリマー及び前記リグニン系充填剤を組み合わせて、前記耐燃焼性熱可塑性組成物を形成する工程と
を含み、前記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度と比較して少なくとも20パーセント低く、前記対応する熱可塑性組成物は、前記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は前記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される、方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のポリマー及び前記リグニン系充填剤を組み合わせることは、前記少なくとも1種のポリマー、前記リグニン系充填剤及び添加剤を組み合わせることと、形成された耐燃焼性熱可塑性組成物を成形することとを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の耐燃焼性熱可塑性組成物を含む物品。
【請求項20】
熱可塑性組成物が、押出、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、熱成形、真空成形、溶融紡糸、電界紡糸、メルトブロー法、フィルムブロー法、フィルムキャスト法、押出コーティング、回転成形、共押出、ラミネート加工、カレンダー成形、熱溶解積層法によって、又はこれらのいずれかの組み合わせによって前記物品に成形されている請求項20に記載の物品。
【請求項21】
パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス、台所用品、食器類、床材、布地、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐燃焼性熱可塑性組成物に関する。本開示はさらに、熱可塑性組成物の耐燃焼性を改善するためのリグニン系充填剤の使用に関する。本開示はさらに、耐燃焼性熱可塑性組成物の製造方法に関する。本開示はさらに、物品及び上記耐燃焼性熱可塑性組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能性及び循環型経済(サーキュラーエコノミー)の観点から、包装材料等の熱可塑性の組成物又は材料にバイオベースの材料を使用することが望ましい。熱可塑性組成物の熱安定性も、これらの材料を加工するための重要な特性である。熱可塑性組成物に関して環境に優しい解決策を提供することが達成されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
耐燃焼性熱可塑性組成物が開示される。この耐燃焼性熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含み、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、当該耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される。
【0004】
さらに、熱可塑性組成物の耐燃焼性を改善するためのリグニン系充填剤の使用が開示される。この耐燃焼性熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含み、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、上記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される。
【0005】
さらに、少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む耐燃焼性熱可塑性組成物の製造方法であって、
・少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を提供する工程であって、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含む、工程と、
・上記少なくとも1種のポリマー及び上記リグニン系充填剤を組み合わせて、上記耐燃焼性熱可塑性組成物を形成する工程と
を含み、上記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度と比較して少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される、方法が開示される。
【0006】
さらに、本明細書に規定される耐燃焼性熱可塑性組成物を含む物品が開示される。
【0007】
さらに、パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス、台所用品、食器類、床材、布地、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における本明細書に規定される熱可塑性組成物の使用が開示される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
耐燃焼性熱可塑性組成物が開示される。この耐燃焼性熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含み、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、当該耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される。
【0009】
さらに、熱可塑性組成物の耐燃焼性を改善するためのリグニン系充填剤の使用が開示される。この耐燃焼性熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含み、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含み、上記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される。
【0010】
さらに、少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む耐燃焼性熱可塑性組成物の製造方法であって、
・少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を提供する工程であって、このリグニン系充填剤は水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製され、このリグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素及び全量で最大3重量%の灰分を含む、工程と、
・上記少なくとも1種のポリマー及び上記リグニン系充填剤を組み合わせて、上記耐燃焼性熱可塑性組成物を形成する工程と
を含み、上記耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度と比較して少なくとも20パーセント低く、この対応する熱可塑性組成物は、上記リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料が水熱炭化処理に供されていないこと以外は上記耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製される、方法が開示される。
【0011】
さらに、本明細書に規定される耐燃焼性熱可塑性組成物を含む物品が開示される。1つの実施形態では、熱可塑性組成物は、押出、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、熱成形、真空成形、溶融紡糸、電界紡糸、メルトブロー法、フィルムブロー法、フィルムキャスト法、押出コーティング、回転成形、共押出、ラミネート加工、カレンダー成形、熱溶解積層法によって、又はこれらのいずれかの組み合わせによって当該物品に成形されている。
【0012】
さらに、パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品(fitting)、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル(繊維製品)、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス(器具)、台所用品、食器類、床材、布地(fabric)、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における本明細書に規定される熱可塑性組成物の使用が開示される。
【0013】
従って、「対応する熱可塑性組成物」という用語は、リグニン系充填剤を調製するために水熱炭化処理が使用されていないこと以外は当該耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製されている熱可塑性組成物を指すものとして理解されるべきである。すなわち、他のすべての成分及びそれらの量並びに対応する熱可塑性組成物を調製するために使用されるプロセス工程は、当該耐燃焼性熱可塑性組成物を調製する場合と同じままであるが、リグニン材料の水熱炭化処理を使用する工程は、対応する熱可塑性組成物のためのリグニン系充填剤を調製する場合には省略される。
【0014】
燃焼速度は、規格ISO3795:1989(Road vehicles, and tractors and machinery for agriculture and forestry - Determination of burning behavior of interior materials(Horizontal burning test)(路上走行車並びに農林業用トラクタ及び機械 - 内蔵材料の燃焼挙動の測定);条件:23℃及び50%相対湿度(R.H)、試料サイズ:147mm×100mm×2mm)に従って決定されてもよい。
【0015】
1つの実施形態では、当該耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼速度は、対応する熱可塑性組成物の燃焼速度よりも少なくとも30パーセント、又は少なくとも40パーセント、又は少なくとも50パーセント、又は少なくとも60パーセント、又は少なくとも70パーセント低い。
【0016】
当該熱可塑性組成物は、その耐燃焼性熱可塑性組成物の全重量に基づいて0.1~65重量%、又は0.3~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~40重量%、又は1.2~30重量%、又は1.5~20重量%、又は2~10重量%、又は2.5~5重量%の当該リグニン系充填剤を含有してもよい。1つの実施形態では、当該耐燃焼性熱可塑性組成物は、その耐燃焼性熱可塑性組成物の全重量に基づいて全量で0.1~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~45重量%のリグニン系充填剤を含む。
【0017】
本明細書において「全重量」は、特段の記載がない限り、耐燃焼性熱可塑性組成物のすべての成分(入っている可能性がある水分を含む)の重量として理解されるべきである。
【0018】
熱軟化性プラスチック組成物とも呼ばれてもよい、熱可塑性組成物は、特定の高温で柔軟又は成形可能となり、冷却すると固化する可塑性ポリマー材料である。
【0019】
当該熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を使用することによって調製されてもよい。この熱可塑性組成物において、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤は、一緒に混合されてもよいが、それらは互いに反応していなくてもよい。さらなる成分又は材料、例えば添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等、も当該熱可塑性組成物を調製するために使用されてもよい。
【0020】
1つの実施形態では、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、マスターバッチを調製することと、次いで、上記ポリマー及びリグニン系充填剤を配合(コンパウンディング)することとを含む。1つの実施形態では、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、上記少なくとも1種のポリマー、リグニン系充填剤及び添加剤を組み合わせることと、形成された耐燃焼性熱可塑性組成物を成形することとを含む。1つの実施形態では、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を各ポリマーの種類に適した加工温度下で直接配合することを含む。加工温度は高温であり、各ポリマーのポリマー供給者によって定義される。
【0021】
当該耐燃焼性熱可塑性組成物を調製する場合、ポリマー及び当該リグニン系充填剤を使用することによって、いわゆるマスターバッチがまず調製されてもよい。このマスターバッチは、上記ポリマー及びリグニン系充填剤を高温で混合することによって調製されてもよい。また、必要に応じて、他の添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等がマスターバッチに含められてもよい。マスターバッチは、一般に、顔料又は充填剤が担体材料中に高濃度で最適に分散している(通常、プラスチック、ゴム、又はエラストマー)の固体製品と考えられる。担体材料は、成形中にブレンドされる主プラスチックと相溶性があり、これにより最終プラスチック製品、すなわち熱可塑性組成物は、マスターバッチから色又は特性を得る。
【0022】
あるいは、当該熱可塑性組成物は、ポリマー及びリグニン系充填剤から高温で直接配合される。また、必要に応じて、他の添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等が、ポリマー及びリグニン系充填剤と直接配合されてもよい。
【0023】
少なくとも1種のポリマー及び当該リグニン系充填剤を組み合わせる際に使用される温度は、使用されるポリマーの種類に応じて変わってもよい。各ポリマーに使用される適切な温度は、当業者に容易に入手可能である。また、ポリマー供給者は、異なるポリマーに適した加工温度を規定する。一般に、例えば150~440℃、又は180~350℃、又は200~300℃の温度が使用されてもよい。
【0024】
当該熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマー、例えば、少なくとも2種の異なるポリマー、少なくとも3種の異なるポリマー、少なくとも4種の異なるポリマー等を含んでもよい。このポリマーは、熱可塑性ポリマー又は異なる熱可塑性ポリマーの組み合わせの群から選択される任意のポリマーであってもよい。このポリマーは、以下の、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート、ポリ乳酸(PLA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のうちの1種以上から選択されてもよい。1つの実施形態では、上記ポリマーは、ポリプロピレン及び/又はポリスチレンから選択される。すなわち、1種類のポリマーが、当該耐燃焼性熱可塑性組成物を製造するために使用されてもよく、又は2種以上の異なるポリマーの組み合わせが使用されてもよい。
【0025】
「リグニン系充填剤」という表現は、本明細書において、特段の記載がない限り、水熱炭化処理(hydrothermal carbonization treatment、HTC)に供されたリグニン材料から調製された充填剤を指すものとして理解されるべきである。
【0026】
水熱炭化(HTC)処理は、「高温高圧での水性炭化」とも呼ばれてもよい。リグニン材料の水熱炭化処理は、水性懸濁液中のリグニン含有材料の熱化学的な変換プロセスを指す。リグニンの水熱炭化処理は、高い炭素含有量及び官能基を有するリグニン誘導体を生成する。従って、水熱炭化処理は、有機化合物の構造化炭素への変換のための化学プロセスである。
【0027】
当該リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニン材料は、クラフトリグニン、蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿(flash precipitated)リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化プロセスからのリグニン、ソーダ法からのリグニン、オルガノソルブパルプ化からのリグニン、アルカリプロセスからのリグニン、酵素加水分解プロセスからのリグニン、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されてもよい。1つの実施形態では、リグニンは木材系のリグニンである。リグニンは、針葉樹、広葉樹、一年生植物又はこれらのいずれかの組み合わせに由来することができる。
【0028】
「クラフトリグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、クラフト黒液に由来するリグニンと理解されるべきである。黒液は、リグニン残渣、ヘミセルロース、及びクラフトパルプ化プロセスにおいて使用される無機化学物質のアルカリ性水溶液である。パルプ化プロケスからの黒液は、様々な割合の異なる針葉樹種及び広葉樹種に由来する成分を含む。リグニンは、例えば沈殿及び濾過を含む異なる技術によって黒液から分離することができる。リグニンは通常、11~12未満のpH値で沈殿し始める。異なる特性を有するリグニン画分を沈殿させるために、異なるpH値を用いることができる。これらのリグニン画分は、分子量分布、例えばMw及びMn、多分散性、ヘミセルロース分及び抽出分によって互いに異なる。より高いpH値で沈殿したリグニンのモル質量は、より低いpH値で沈殿したリグニンのモル質量より高い。さらに、より低いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布は、より高いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布よりも広い。沈殿したリグニンは、酸性洗浄工程を用いて無機不純物、ヘミセルロース及び木材抽出物から精製することができる。さらなる精製は、濾過によって達成することができる。
【0029】
用語「フラッシュ沈殿リグニン」は、本明細書において、200~1000kPaの過圧の影響下で、二酸化炭素系酸性化剤、好ましくは二酸化炭素を用いてリグニンの沈殿レベルまで黒液流のpHを低下させることによって、及びリグニンを沈殿させるために上記圧力を突然解放することによって、連続プロセスで黒液から沈殿されるリグニンとして理解されるべきである。フラッシュ沈殿リグニンの製造方法は、フィンランド国特許出願第20106073号に開示されている。上記方法における滞留時間は300秒未満である。2μm未満の粒径を有するフラッシュ沈殿リグニン粒子は、凝集体を形成し、これは、例えば濾過を使用して黒液から分離することができる。フラッシュ沈殿リグニンの利点は、通常のクラフトリグニンと比較してそのより高い反応性である。フラッシュ沈殿リグニンは、さらなる処理のために必要であれば精製及び/又は活性化することができる。
【0030】
リグニンは、アルカリプロセスから誘導されてもよい。アルカリプロセスは、強アルカリでバイオマスを液化することから開始することができ、続いて中和プロセスを行うことができる。アルカリ処理の後、このリグニンは、上記に提示したのと同様に沈殿させることができる。
【0031】
リグニンは、蒸気爆砕から誘導されてもよい。蒸気爆砕は、木材及び他の繊維性有機材料に適用することができるパルプ化及び抽出技術である。
【0032】
「バイオリファイナリーリグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、バイオマスが燃料、化学物質及び他の材料に変換される精製施設又は精製プロセスから回収することができるリグニンと理解されるべきである。
【0033】
「超臨界分離リグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、超臨界流体による分離又は抽出技術を用いてバイオマスから回収することができるリグニンと理解されるべきである。超臨界状態は、所与の物質の臨界点を超える温度及び圧力に対応する。超臨界状態において、明確な液相及び気相は存在しない。超臨界水又は超臨界液体による抽出は、超臨界条件下の水又は液体を用いてバイオマスを分解し、セルロース系糖に変換する方法である。この水又は液体は、溶媒として作用し、セルロース植物物質から糖を抽出し、リグニンは固体粒子として残る。
【0034】
リグニンは加水分解プロセスから誘導されてもよい。加水分解プロセスから誘導されるリグニンは、紙パルププロセス又は木材化学プロセスから回収することができる。
【0035】
リグニンは、オルガノソルブプロセスに由来してもよい。オルガノソルブは、有機溶媒を使用してリグニン及びヘミセルロースを可溶化するパルプ化技術である。
【0036】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、酵素加水分解プロセス及び/又はクラフトプロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製される。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、酵素加水分解プロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製される。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、クラフトプロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニン材料から調製される。
【0037】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤を調製するための出発材料は、酵素加水分解プロセスから得られるリグニン材料である。1つの実施形態では、酵素加水分解は、木材ベースの供給原料等の植物ベースの供給原料の酵素加水分解を含む。1つの実施形態では、酵素加水分解は、セルロースの酵素加水分解を含む。酵素加水分解は、酵素(複数種可)が、水という要素の付加により分子中の結合を切断するのを助けるプロセスである。1つの実施形態では、酵素加水分解は、セルロースの酵素加水分解を含む。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、水熱炭化処理に供された酵素加水分解プロセスから誘導されるリグニン材料から調製される。
【0038】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、木材のパルプ化から誘導されるリグニン、例えばクラフトリグニンから調製される。
【0039】
本明細書に開示されるリグニン系充填剤は、以下に開示されるように調製されてもよい。使用されるリグニン材料は、例えば、リグニンがリグノセルロース原料の酵素加水分解において形成されるプロセスから誘導されてもよく、又はリグニンは、クラフトプロセスから誘導されてもよい。他のリグニン源も、本明細書に開示されるように、使用されてもよい。
【0040】
誘導されたリグニン材料は、NaOH等のアルカリ溶液に溶解されてもよい。溶解は、リグニン及びアルカリ性溶液の混合物を約80℃に加熱し、pHを9~11等の7を超える値に調整し、リグニン及びアルカリ性溶液の混合物を所定の時間混合することによって達成されてもよい。混合時間は、約2~3時間継続されてもよい。正確なpH値は、製品のグレード目標に基づいて決定される。
【0041】
溶解したリグニン材料は、次いで、水熱炭化処理(HTC)に供されてもよい。
【0042】
水熱炭化処理は、バッチ式で作動する、反応器(HTC反応器)中で、又は必要であれば、いくつかの並列の反応器中で行われてもよい。溶解したリグニン材料は、予熱した後にHTC反応器に入れられてもよい。HTC反応器内の温度は150~250℃であってよく、圧力は20~30bar(バール)であってよい。HTC反応器における滞留時間は、約3~6時間であってもよい。HTC反応器において、リグニンは炭化され、これにより高い比表面積を有する安定化されたリグニン誘導体が沈殿されてもよい。炭化リグニンを含む形成されたスラリーは、次いで、取り出され、冷却されてもよい。これにより、リグニン系充填剤を含むスラリーが形成される。
【0043】
上記リグニン系充填剤を含むスラリーは、分離ユニットに供給されてもよく、この分離ユニットで、沈殿したリグニン系充填剤はスラリーから分離されてもよい。分離されたリグニン系充填剤は、乾燥され回収されてもよい。乾燥前に、リグニン系充填剤は、必要に応じて洗浄されてもよい。破砕されたリグニン粒子が、乾燥されて、リグニン系充填剤として使用されてもよい。
【0044】
上記のプロセスの間に、リグニンポリマーは互いに繋がれる。従って、リグニン系充填剤は、ともに連結されたリグニンポリマーを含むか、又はそれからなると考えられてもよい。ともに繋がれ又は連結されたリグニンポリマーは、もはや可溶性でなくてもよい。しかしながら、より小さいリグニンポリマー鎖は、依然として可溶性のままであり、従って、分析物を溶媒に溶解することを必要とするサイズ排除クロマトグラフィー又は核磁気共鳴分光法(NMR分光法)等の標準的な分析技術に供することができる。従って、当該リグニン系充填剤の可溶性画分の異なる特性が決定されてもよい。
【0045】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、全量で0.1~3重量%、又は0.1~2.5重量%、又は0.2~2.0重量%、又は0.3~1.5重量%、又は0.4~1.0重量%の灰分を含む。灰分含有量は、規格DIN51719に従って決定することができる。
【0046】
本発明者らは、驚くべきことに、例えば酵素加水分解プロセスからのリグニン材料がリグニン系充填剤を製造するために使用される場合、リグニン系充填剤の灰分含有量を低くすることができるということを見出した。より低い灰分含有量は、例えば、リグニン系充填剤のより高い純度という付加的な有用性を有する。
【0047】
当該リグニン系充填剤は、全量で62~70重量%の炭素を含んでもよい。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、全量で63~69重量%、又は64~68重量%の炭素を含む。リグニン系充填剤中の炭素の量は、規格DIN51732(1997)に従って決定されてもよい。本発明者らは、驚くべきことに、当該リグニン系充填剤中のこの炭素の量が、炭素の量がより少ない他のリグニン含有充填剤と比較して、当該熱可塑性組成物の耐燃焼性に有益に影響を及ぼすという付加的な有用性を有することを見出した。従って、当該リグニン系充填剤中の上記炭素の量は、燃焼が起こるのを防止するのに役立つ可能性がある。
【0048】
1つの実施形態では、0.1M NaOH中のリグニン系充填剤の溶解度は、1~40重量%、又は3~35重量%、又は5~30重量%である。溶解度は、以下のようにして測定されてもよい。まず、試料を60℃の温度で4時間乾燥させる。0.5グラムの試料質量を秤量し、1%の濃度で22℃の温度を有する50mlの0.1M NaOHに懸濁する。混合を1時間続け、その後、試料をガラスマイクロファイバーペーパー(1.6μm)上に置き、試料を含む濾紙を60℃の温度で2時間乾燥させる。溶解した試料の部分は、重量測定によって決定することができる。
【0049】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1000~4000Da、又は1300~3700Da、又は1700~3200Da、又は2500~3000Da、又は2600~2900Da、又は2650~2850Daの重量平均分子量(Mw)を有する。重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、溶離液としての0.1M NaOH及び0.1M NaOHに溶解される約1mg/mlの試料量を使用することによって決定されてもよい。分子量はポリスチレンスルホネート標準に対して測定される。280nmの波長のUV検出器が使用される。
【0050】
当該リグニン系充填剤の多分散性指数(PDI)は、リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1.5~5.0、又は1.8~4.5、又は1.9~4.3、又は2.1~4.0、又は2.4~3.5、又は2.6~3.2であってもよい。多分散性指数は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定されてもよい。PDIは、所与のポリマー試料中の分子質量の分布の尺度である。PDIは、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割ったものとして計算される。PDIは、ポリマーのバッチにおける個々の分子質量の分布を示す。
【0051】
当該リグニン系充填剤は、3~150m/g、又は5~100m/g、又は7~60m/gのSTSA数を有してもよい。STSA数は、規格ASTM D6556に従って決定されてもよい。
【0052】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、最大で1.5g/cmの密度を有する。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、1.0~1.5g/cm、又は1.15~1.35g/cm、又は1.1~1.4g/cmの密度を有する。密度は、規格ISO21687に従って決定されてもよい。
【0053】
本明細書に開示される耐燃焼性熱可塑性組成物は、改善された耐燃焼性を示すという付加的な有用性を有する。従って、当該熱可塑性組成物は、熱的に安定であるという付加的な有用性を有する。本発明者らは、驚くべきことに、当該リグニン系充填剤が、当該熱可塑性組成物が燃焼に抵抗する能力に有益に影響を及ぼす炭素含有量を有することを見出した。
【0054】
本明細書に開示される耐燃焼性熱可塑性組成物は、例えばカーボンブラックを充填剤として使用することによって調製された組成物と比較して良好な安定性を示すという付加的な有用性を有する。
【実施例
【0055】
これより、様々な実施形態を詳細に参照する。
【0056】
以下の記載は、当業者が本開示に基づいて実施形態を利用することができる程度に詳細にいくつかの実施形態を開示する。多くの工程又は特徴が本明細書に基づいて当業者に明白となるであろうから、実施形態のすべての工程又は特徴が詳細に論じられるわけではない。
【0057】
実施例1 - 熱可塑性組成物の耐燃焼性の試験
この実施例では、目的は、対応する熱可塑性組成物の耐燃焼性と比較することによって、当該耐燃焼性熱可塑性組成物の耐燃焼性を評価することであった。上述のように、対応する熱可塑性組成物は、リグニン系充填剤の調製の際にリグニン材料を水熱炭化処理に供しなかったこと以外は当該耐燃焼性熱可塑性組成物と同様にして調製した。対応する熱可塑性組成物に使用した充填剤は、この実施例では、純粋な(未変性の)リグニンと呼ぶ。
【0058】
比較例として、充填剤をまったく含有しない合成したままの熱可塑性組成物、及び充填剤としてカーボンブラックを使用した熱可塑性組成物も調製した。
【0059】
リグニン系充填剤は、酵素加水分解からの水熱炭化処理に供したリグニン材料を使用することによって、本明細書において上記で提供した説明に従うことによって調製した。純粋なリグニンは、酵素加水分解から採取したが水熱炭化処理に供さなかったリグニンであった。使用したカーボンブラックは、Cabot(キャボット)により提供されるMONARCH(登録商標)800であった。リグニン系充填剤、及び純粋なリグニンの特性を測定した。それらを下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
カーボンブラックの炭素含有量は>95%であり、密度は1.8g/cmであった。
【0062】
まず、以下の熱可塑性組成物を調製した。
【0063】
【表2】
【0064】
上記熱可塑性組成物は、以下の成分を、各ポリマーの種類に適した加工温度下で組み合わせることによって調製した:40重量%の充填剤、52重量%のポリマー、及び合計で8重量%の添加剤パッケージ(2%のステアリン酸Ca(潤滑剤)、2%のIrganox 1010酸化防止剤、4%のポリエチレンワックス(潤滑剤)からなる)。
【0065】
3kgの各種の熱可塑性組成物を作製し、これを40重量%充填剤充填で行った。燃焼挙動は、水平燃焼試験ISO3795:1989に基づいて試験した。この試験は、PP及びPS並びにそれらの未充填対応物(比較例)の成形マスターバッチに対して行った。燃焼試験の結果を以下に提示する。
【0066】
【表3】
【0067】
試験結果から、当該耐燃焼性熱可塑性組成物の燃焼挙動は、対応する熱可塑性組成物よりもかなり良好であることが分かる。この結果は、カーボンブラックを充填剤として使用した熱可塑性組成物にかなり近い。
【0068】
当業者には、技術の進歩とともに、基本的なアイデアが様々な方法で実行されてもよいことが明らかである。従って、実施形態は上記の例に限定されず、代わりに、実施形態は請求項の範囲内で変わってもよい。
【0069】
本明細書にこれまで記載された実施形態は、互いにいずれかの組み合わせで使用されてもよい。実施形態のうちのいくつかは、さらなる実施形態を形成するようにともに組み合わされてもよい。本明細書に開示される熱可塑性組成物、使用、又は方法は、本明細書の上記の実施形態のうちの少なくとも1つを含んでもよい。上記の利益及び利点は、1つの実施形態に関連してもよいし、又はいくつかの実施形態に関連してもよいことが理解されよう。実施形態は、記載された課題のいずれか若しくはすべてを解決するもの、又は記載された利益及び利点のいずれか若しくはすべてを有するものに限定されない。「ある」項目への言及は、1つ以上のこれらの項目を指すことがさらに理解されるであろう。用語「comprising(含む)」は、本明細書において、1つ以上の追加の特徴又は行為の存在を排除することなく、その語句に続く特徴又は行為を含むこと(including)を意味するために使用される。
【国際調査報告】