(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】リサイクル可能かつ選別可能な熱可塑性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241018BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20241018BHJP
C08H 7/00 20110101ALI20241018BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L97/00
C08H7/00
C08J3/22 CEZ
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522319
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 FI2021050705
(87)【国際公開番号】W WO2023067237
(87)【国際公開日】2023-04-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】ガル バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】ディール フロリアン
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA18
4F070AA19
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4J002GQ00
(57)【要約】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む熱可塑性組成物であって、この熱可塑性組成物の色は、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、この熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す、熱可塑性組成物が開示される。さらに、熱可塑性組成物の製造方法、及び上記リグニン系充填剤の使用が開示される。さらに、物品、及び上記熱可塑性組成物の使用が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む熱可塑性組成物であって、
前記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
前記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す
熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記リグニン系充填剤は、リグニンを含むか、又はリグニンからなる請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記リグニン系充填剤は、水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性組成物はリサイクル可能かつ選別可能な熱可塑性組成物である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に8%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性組成物は、1450~2450nmの波長範囲に3.0以上、又は5.0以上、又は6.0以上、又は9.0以上の近赤外標本コントラストを示す請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性組成物は、前記熱可塑性組成物の全重量に基づいて0.1~65重量%、又は0.3~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~40重量%、又は1.2~30重量%、又は1.5~20重量%、又は2~10重量%、又は2.5~5重量%の前記リグニン系充填剤を含有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、若しくはポリ塩化ビニル、又はこれらのいずれかの組み合わせ若しくは混合物である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む熱可塑性組成物の製造方法であって、
前記少なくとも1種のポリマー及び前記リグニン系充填剤を組み合わせて、熱可塑性組成物を形成する工程を含み、
前記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
前記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す
方法。
【請求項10】
前記リグニン系充填剤は、リグニンを含むか、又はリグニンからなる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リグニン系充填剤は、水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種のポリマー及び前記リグニン系充填剤を組み合わせることは、マスターバッチを調製することと、次いで、前記マスターバッチを前記少なくとも1種のポリマーと配合することとを含む請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種のポリマー及び前記リグニン系充填剤を組み合わせることは、前記ポリマー及び前記リグニン系充填剤を直接配合することを含む請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
リサイクル可能かつ選別可能な熱可塑性組成物を製造することを含む請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記熱可塑性組成物は近赤外検出システムによって検出することができ、そのため、前記熱可塑性組成物は物品の混合物から選別することができる請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に8%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記熱可塑性組成物は、1450~2450nmの波長範囲に3.0以上、又は5.0以上、又は6.0以上、又は9.0以上の近赤外標本コントラストを示す請求項9から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記熱可塑性組成物は、前記熱可塑性組成物の全重量に基づいて0.1~65重量%、又は0.3~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~40重量%、又は1.2~30重量%、又は1.5~20重量%、又は2~10重量%、又は2.5~5重量%の前記リグニン系充填剤を含有する請求項9から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、若しくはポリ塩化ビニル、又はこれらのいずれかの組み合わせ若しくは混合物である請求項9から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
熱可塑性組成物の製造のためのリグニン系充填剤の使用であって、前記熱可塑性組成物は少なくとも1種のポリマーと前記リグニン系充填剤とを含み、
前記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
前記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示し、前記熱可塑性組成物は近赤外検出システムによって検出することができ、そのため、前記熱可塑性組成物は物品の混合物から選別することができる
使用。
【請求項21】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物を含む物品。
【請求項22】
熱可塑性組成物が、押出、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、熱成形、真空成形、溶融紡糸、電界紡糸、メルトブロー法、フィルムブロー法、フィルムキャスト法、押出コーティング、回転成形、共押出、ラミネート加工、カレンダー成形、熱溶解積層法によって、又はこれらのいずれかの組み合わせによって前記物品に成形されている請求項21に記載の物品。
【請求項23】
パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス、台所用品、食器類、床材、布地、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性組成物に関する。本開示はさらに、少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む熱可塑性組成物の製造方法に関する。本開示はさらに、リグニン系充填剤の使用に関する。本開示はさらに、物品、及び上記熱可塑性組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能性及び循環型経済(サーキュラーエコノミー)の観点から、包装材料等の熱可塑性の組成物又は材料を、閉ループにおいて再利用することが望ましい。カーボンブラックは、黒色プラスチックにおける顔料又は充填剤として通常使用される。しかしながら、カーボンブラック充填ポリマー組成物は、近赤外(NIR)検出システムによる熱可塑性組成物に使用されるポリマーの検出が、カーボンブラックの強い吸光度のために不可能であるため、リサイクル施設において選別しリサイクルすることができない。それゆえ、本発明者らは、組成物中のポリマーの選別を可能にし、従って熱可塑性組成物のリサイクルを可能にする他の黒色に着色する充填剤又は顔料の必要性を認識した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む熱可塑性組成物が開示される。この熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表される。当該熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す。
【0004】
さらに、少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む熱可塑性組成物の製造方法であって、上記少なくとも1種のポリマー及び上記リグニン系充填剤を組み合わせて、熱可塑性組成物を形成する工程を含み、
・上記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
・上記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す
方法が開示される。
【0005】
さらに、熱可塑性組成物の製造のためのリグニン系充填剤の使用であって、この熱可塑性組成物は少なくとも1種のポリマーと上記リグニン系充填剤とを含み、
・上記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
・上記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示し、上記熱可塑性組成物は近赤外検出システムによって検出することができ、そのため、この熱可塑性組成物は物品の混合物から選別することができる
使用が開示される。
【0006】
さらに、本明細書に規定される熱可塑性組成物を含む物品が開示される。
【0007】
さらに、パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス、台所用品、食器類、床材、布地、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における本明細書に規定される熱可塑性組成物の使用が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
実施形態のさらなる理解を提供するために含まれ本明細書の一部を構成する添付の図面は、種々の実施形態を図示する。
【0009】
【
図1a】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図1b】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図2】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図3a】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図3b】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図4】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図5】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図6a】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図6b】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【
図7】実施例において実施された近赤外強度測定の結果を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
少なくとも1種のポリマーとリグニン系充填剤とを含む熱可塑性組成物が開示される。この熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表される。当該熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す。
【0011】
さらに、少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む熱可塑性組成物の製造方法であって、上記少なくとも1種のポリマー及び上記リグニン系充填剤を組み合わせて、熱可塑性組成物を形成することを含み、
・上記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
・上記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す
方法が開示される。
【0012】
さらに、熱可塑性組成物の製造のためのリグニン系充填剤の使用であって、この熱可塑性組成物は少なくとも1種のポリマーと上記リグニン系充填剤とを含み、
・上記熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表され、
・上記熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示し、上記熱可塑性組成物は近赤外検出システムによって検出することができ、そのため、この熱可塑性組成物は物品の混合物から選別することができる
使用が開示される。
【0013】
「物品の混合物」という表現は、本明細書において、特段の記載がない限り、異なる起源の物品を含む混合物を指すものとして理解されるべきである。異なる起源の物品は、例えば、異なる種類の熱可塑性組成物の物品であってもよい。物品の混合物は、異なるポリマー及び充填剤から調製された異なる種類の熱可塑性組成物を含有してもよい。
【0014】
さらに、本明細書に規定される熱可塑性組成物を含む物品が開示される。1つの実施形態では、熱可塑性組成物が、押出、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、射出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、熱成形、真空成形、溶融紡糸、電界紡糸、メルトブロー法、フィルムブロー法、フィルムキャスト法、押出コーティング、回転成形、共押出、ラミネート加工、カレンダー成形、熱溶解積層法によって、又はこれらのいずれかの組み合わせによって当該物品に成形されている。
【0015】
さらに、パッケージング、ハウジング、自動車部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、スポーツ機器、スポーツ機器部品、レジャー機器、レジャー機器部品、工具、工具の部品、パイプ、膜、チューブ、調度品(fitting)、ボトル、フィルム、バッグ、袋、テキスタイル(繊維製品)、ロープ、容器、タンク、電気部品、電子部品、エネルギー発生用部品、玩具、アプライアンス(器具)、台所用品、食器類、床材、布地(fabric)、医療用途、食品接触材、建築資材、飲料水用途、及び/又は家具における本明細書に規定される熱可塑性組成物の使用が開示される。
【0016】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、リサイクル可能かつ選別可能な熱可塑性組成物である。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、リサイクル可能な熱可塑性組成物である。1つの実施形態では、当該方法は、リサイクル可能かつ選別可能な熱可塑性組成物を製造することを含む。1つの実施形態では、当該方法は、リサイクル可能な熱可塑性組成物を製造することを含む。
【0017】
当該熱可塑性組成物が「選別可能」であるという表現は、本明細書において、特段の記載がない限り、物品の混合物から当該熱可塑性組成物を選別し、従ってこの熱可塑性組成物をリサイクル及び再使用することを可能にする可能性を指すものとして理解されるべきである。
【0018】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は近赤外検出システムによって検出することができ、そのため、この熱可塑性組成物は物品の混合物から選別することができる。
【0019】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物はカーボンブラックを含まない。
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに、熱可塑性組成物中の充填剤としてリグニン系材料を使用することによって、カーボンブラックの不存在下で、近赤外検出システムによってこの熱可塑性組成物を検出することができ、従ってこの熱可塑性組成物は、その使用後に物品の混合物から選別することができるということを見出した。本発明者らは、驚くべきことに、このリグニン系充填剤は、例えばカーボンブラックを充填剤として使用する場合のように熱可塑性組成物中のポリマーをマスクすることはなく、それにより、この熱可塑性組成物を認識するために近赤外検出システムが使用されてもよいということを見出した。
【0021】
近赤外波長域における最大反射強度値は、近赤外測定装置を使用することによって決定されてもよい。近赤外(NIR)分光法において、研究される材料又は組成物の固有の特徴は、特定の波長の赤外光で材料を照明することによって観察される。この不可視光の特定のパターンは物体によって反射され、このパターンは各材料に固有であり、すなわち指紋のようなものである。赤外光は赤外検出器で検出することができ、この赤外検出器は反射された放射線を電気信号に変換し、この電気信号はグラフとして提示されてもよい。
【0022】
従って、当該熱可塑性組成物は、近赤外照明を受けると、反射パターンによって特徴付けられてもよく、従って、最大反射近赤外強度値を示してもよい。この反射パターンから、最も高いピーク、すなわち最大反射強度値が決定されてもよい。このように、近赤外波長範囲における最大反射強度値は、近赤外測定装置によって決定されてもよい。近赤外検出システムは、近赤外分光装置であってもよい。近赤外測定システムの例としては、trinamiX GmbH(トリナミックス)(ルートヴィヒスハーフェン(Ludwigshafen)、ドイツ)によって提供されるもの、すなわちtrinamiX NIR分光計(ソフトウェアパッケージ:general plastic(ジェネラル・プラスチック))が挙げられる。近赤外装置は、少なくとも、照明源と、検出器と、測定された信号をグラフ、例えば、ある波長領域における反射グラフに処理するためのソフトウェアパッケージとを含んでもよい。ソフトウェアパッケージは、異なるポリマーのためのデータ参照ライブラリも含んでもよく、これにより、このソフトウェアが、測定結果をライブラリ内のデータと比較し、ポリマーの種類に対するフィードバックを与えることが可能になる。これは、「スコアリング」と呼ばれることがある。
【0023】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に8%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上の反射強度である最大反射強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの近赤外波長範囲に示す。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、電磁スペクトルの1450~2450nmの波長範囲に、又は1450~2100nmの波長範囲に、又は1450~1800nmの波長範囲に最大反射近赤外強度値を示す。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、近赤外検出システムで決定された場合に5%以上、又は8%以上、又は10%以上、又は15%以上、又は20%以上、又は25%以上の反射強度である最大反射近赤外強度値を、電磁スペクトルの1450~2450nmの波長範囲に、又は1450~2100nmの波長範囲に、又は1450~1800nmの波長範囲に示す。
【0024】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、1450~2450nmの波長範囲に3.0以上、又は5.0以上、又は6.0以上、又は9.0以上である近赤外(NIR)標本コントラスト(specimen contrast)を示す。このNIR標本コントラストは、バンド又はフィンガープリントのようなスペクトル特徴がバックグラウンド又は他の隣接する細部に対して目立つ能力を表し、下記式によってNIRスペクトルにおける最高強度と最低強度との間の関係によって決定されてもよい。
(Imax-Imin)/Imin
式中、
Imax=最大強度(最高強度)
Imin=最小強度(最低強度)
【0025】
熱軟化性プラスチック組成物とも呼ばれてもよい、熱可塑性組成物は、特定の高温で柔軟又は成形可能となり、冷却すると固化する可塑性ポリマー材料である。
【0026】
当該熱可塑性組成物は、ポリマー及びリグニン系充填剤を使用することによって調製されてもよい。さらなる成分又は材料、例えば添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等、も当該熱可塑性組成物を調製するために使用されてもよい。
【0027】
1つの実施形態では、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、マスターバッチを調製することと、その後、このマスターバッチを同じ又は異なるポリマーのいずれか及び任意選択でさらなる添加剤と配合(コンパウンディング)することを含む。上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、マスターバッチを調製することと、次いで、このマスターバッチを上記少なくとも1種のポリマーと配合することとを含む。1つの実施形態では、上記少なくとも1種のポリマー及びリグニン系充填剤を組み合わせることは、そのポリマー及びリグニン系充填剤を直接配合することを含む。
【0028】
当該熱可塑性組成物を調製する場合、ポリマー及び当該リグニン系充填剤を使用することによって、いわゆるマスターバッチがまず調製されてもよい。このマスターバッチは、上記ポリマー及びリグニン系充填剤を高温で混合することによって調製されてもよい。また、必要に応じて、他の添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等がマスターバッチに含められてもよい。マスターバッチは、一般に、顔料又は充填剤が担体材料中に高濃度で最適に分散している(通常、プラスチック、ゴム、又はエラストマー)の固体製品と考えられる。担体材料は、成形中にブレンドされる主プラスチックと相溶性があり、これにより最終プラスチック製品、すなわち熱可塑性組成物は、マスターバッチから色又は特性を得る。
【0029】
あるいは、当該熱可塑性組成物は、ポリマー及びリグニン系充填剤から高温で直接配合される。また、必要に応じて、他の添加剤、潤滑剤、安定剤、酸化防止剤、他の充填剤等が、ポリマー及びリグニン系充填剤と直接配合されてもよい。
【0030】
少なくとも1種のポリマー及び当該リグニン系充填剤を組み合わせる際に使用される温度は、使用されるポリマーの種類に応じて変わってもよい。各ポリマーに使用される適切な温度は、当業者に容易に入手可能である。また、ポリマー供給者は、異なるポリマーに適した加工温度を規定する。一般に、例えば150~440℃、又は180~350℃、又は200~300℃の温度が使用されてもよい。
【0031】
当該熱可塑性組成物は、その熱可塑性組成物の全重量に基づいて0.1~65重量%、又は0.3~60重量%、又は0.5~50重量%、又は1~40重量%、又は1.2~30重量%、又は1.5~20重量%、又は2~10重量%、又は2.5~5重量%の当該リグニン系充填剤を含有してもよい。
【0032】
本明細書において「全重量」は、特段の記載がない限り、熱可塑性組成物のすべての成分(入っている可能性がある水分を含む)の重量として理解されるべきである。
【0033】
当該熱可塑性組成物は、少なくとも1種のポリマー、例えば、少なくとも2種の異なるポリマー、少なくとも3種の異なるポリマー、少なくとも4種の異なるポリマー等を含んでもよい。当該熱可塑性組成物は、ポリマー又は1種のポリマーを含んでもよい。
【0034】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、ポリマー及びリグニン系充填剤を含む。1つの実施形態では、熱可塑性組成物は、1種のポリマー及びリグニン系充填剤を含む。
【0035】
上記ポリマーは、熱可塑性ポリマー又は異なる熱可塑性ポリマーの組み合わせの群から選択される任意のポリマーであってもよい。このポリマーは、以下の、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート、ポリ乳酸(PLA)、若しくはポリ塩化ビニル(PVC)、又はこれらのいずれかの組み合わせ若しくは混合物であってもよい。すなわち、1種類のポリマーが、当該熱可塑性組成物を製造するために使用されてもよく、又は2種以上の異なるポリマーの組み合わせが使用されてもよい。
【0036】
「リグニン系充填剤」という表現は、本明細書において、特段の記載がない限り、リグニンから調製された充填剤を指すものとして理解されるべきである。すなわちリグニン系充填剤の調製には、リグニン材料が使用されている。
【0037】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、リグニンを含むか、又はリグニンからなる。1つの実施形態では、このリグニン系充填剤は、水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される。当該リグニン系充填剤を調製するために使用されるリグニンは、クラフトリグニン、蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿(flash precipitated)リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化プロセスからのリグニン、ソーダ法からのリグニン、オルガノソルブパルプ化からのリグニン、アルカリプロセスからのリグニン、酵素加水分解プロセスからのリグニン、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されてもよい。1つの実施形態では、リグニンは木材系のリグニンである。リグニンは、針葉樹、広葉樹、一年生植物又はこれらのいずれかの組み合わせに由来することができる。
【0038】
「クラフトリグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、クラフト黒液に由来するリグニンと理解されるべきである。黒液は、リグニン残渣、ヘミセルロース、及びクラフトパルプ化プロセスにおいて使用される無機化学物質のアルカリ性水溶液である。パルプ化プロケスからの黒液は、様々な割合の異なる針葉樹種及び広葉樹種に由来する成分を含む。リグニンは、例えば沈殿及び濾過を含む異なる技術によって黒液から分離することができる。リグニンは通常、11~12未満のpH値で沈殿し始める。異なる特性を有するリグニン画分を沈殿させるために、異なるpH値を用いることができる。これらのリグニン画分は、分子量分布、例えばMw及びMn、多分散性、ヘミセルロース分及び抽出分によって互いに異なる。より高いpH値で沈殿したリグニンのモル質量は、より低いpH値で沈殿したリグニンのモル質量より高い。さらに、より低いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布は、より高いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布よりも広い。沈殿したリグニンは、酸性洗浄工程を用いて無機不純物、ヘミセルロース及び木材抽出物から精製することができる。さらなる精製は、濾過によって達成することができる。
【0039】
用語「フラッシュ沈殿リグニン」は、本明細書において、200~1000kPaの過圧の影響下で、二酸化炭素系酸性化剤、好ましくは二酸化炭素を用いてリグニンの沈殿レベルまで黒液流のpHを低下させることによって、及びリグニンを沈殿させるために上記圧力を突然解放することによって、連続プロセスで黒液から沈殿されるリグニンとして理解されるべきである。フラッシュ沈殿リグニンの製造方法は、フィンランド国特許出願第20106073号に開示されている。上記方法における滞留時間は300秒未満である。2μm未満の粒径を有するフラッシュ沈殿リグニン粒子は、凝集体を形成し、これは、例えば濾過を使用して黒液から分離することができる。フラッシュ沈殿リグニンの利点は、通常のクラフトリグニンと比較してそのより高い反応性である。フラッシュ沈殿リグニンは、さらなる処理のために必要であれば精製及び/又は活性化することができる。
【0040】
リグニンは、アルカリプロセスから誘導されてもよい。アルカリプロセスは、強アルカリでバイオマスを液化することから開始することができ、続いて中和プロセスを行うことができる。アルカリ処理の後、このリグニンは、上記に提示したのと同様に沈殿させることができる。
【0041】
リグニンは、蒸気爆砕から誘導されてもよい。蒸気爆砕は、木材及び他の繊維性有機材料に適用することができるパルプ化及び抽出技術である。
【0042】
「バイオリファイナリーリグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、バイオマスが燃料、化学物質及び他の材料に変換される精製施設又は精製プロセスから回収することができるリグニンと理解されるべきである。
【0043】
「超臨界分離リグニン」とは、本明細書において、特段の記載がない限り、超臨界流体による分離又は抽出技術を用いてバイオマスから回収することができるリグニンと理解されるべきである。超臨界状態は、所与の物質の臨界点を超える温度及び圧力に対応する。超臨界状態において、明確な液相及び気相は存在しない。超臨界水又は超臨界液体による抽出は、超臨界条件下の水又は液体を用いてバイオマスを分解し、セルロース系糖に変換する方法である。この水又は液体は、溶媒として作用し、セルロース植物物質から糖を抽出し、リグニンは固体粒子として残る。
【0044】
リグニンは加水分解プロセスから誘導されてもよい。加水分解プロセスから誘導されるリグニンは、紙パルププロセス又は木材化学プロセスから回収することができる。
【0045】
リグニンは、オルガノソルブプロセスに由来してもよい。オルガノソルブは、有機溶媒を使用してリグニン及びヘミセルロースを可溶化するパルプ化技術である。
【0046】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、リグニンを含むか、又はリグニンからなる。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、水熱炭化処理(hydrothermal carbonization treatment、HTC)に供されたリグニンから調製される。リグニン材料の水熱炭化処理は、水性懸濁液中のリグニン含有材料の熱化学的な変換プロセスを指す。リグニンの水熱炭化処理は、高い炭素含有量及び官能基を有するリグニン誘導体を生成する。
【0047】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、酵素加水分解プロセス及び/又はクラフトプロセスから誘導されたリグニンから調製される。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、酵素加水分解プロセス及び/又はクラフトプロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、酵素加水分解プロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、クラフトプロセスから誘導され水熱炭化処理に供されたリグニンから調製される。
【0048】
1つの実施形態では、酵素加水分解プロセスは、木材ベースの供給原料等の植物ベースの供給原料の酵素加水分解を含む。1つの実施形態では、酵素加水分解プロセスは、セルロースの酵素加水分解を含む。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、木材のパルプ化から誘導されるリグニン、例えばクラフトリグニンから調製される。
【0049】
本明細書に開示されるリグニン系充填剤を含むスラリーは、以下に開示されるように調製されてもよい。使用されるリグニンは、例えば、リグニンがリグノセルロース原料の酵素加水分解において形成されるプロセスから誘導されてもよく、又はリグニンは、クラフトプロセスから誘導されてもよい。他のリグニン源も使用されてもよい。
【0050】
誘導されたリグニンは、NaOH等のアルカリ溶液に溶解されてもよい。溶解は、リグニン及びアルカリ性溶液の混合物を約80℃に加熱し、pHを9~11等の7を超える値に調整し、リグニン及びアルカリ性溶液の混合物を所定の時間混合することによって達成されてもよい。混合時間は、約2~3時間継続されてもよい。正確なpH値は、製品のグレード目標に基づいて決定される。
【0051】
溶解したリグニンは、次いで、水熱炭化処理(HTC)に供されてもよい。
【0052】
水熱炭化処理は、バッチ式で作動する、反応器(HTC反応器)中で、又は必要であれば、いくつかの並列の反応器中で行われてもよい。溶解したリグニンは、予熱した後にHTC反応器に入れられてもよい。HTC反応器内の温度は150~250℃であってよく、圧力は20~30bar(バール)であってよい。HTC反応器における滞留時間は、約3~6時間であってもよい。HTC反応器において、リグニンは炭化され、これにより高い比表面積を有する安定化されたリグニン誘導体が沈殿されてもよい。炭化リグニンを含む形成されたスラリーは、次いで、取り出され、冷却されてもよい。
【0053】
これにより、リグニン系充填剤を含むスラリーが形成される。
【0054】
上記リグニン系充填剤を含むスラリーは、分離ユニットに供給されてもよく、この分離ユニットで、沈殿したリグニンはスラリーから分離されてもよい。分離されたリグニン系充填剤は、乾燥され回収されてもよい。乾燥前に、リグニン系充填剤は、必要に応じて洗浄されてもよい。回収されたリグニン系充填剤は、リグニン系充填剤として使用する前に、さらに処理されてもよく、例えば、破砕されてもよく、さらに乾燥されてもよく、粉砕されてもよい。
【0055】
上記のプロセスの間に、リグニンポリマーは互いに繋がれる。従って、リグニン系充填剤は、ともに連結されたリグニンポリマーを含むか、又はそれからなると考えられてもよい。ともに繋がれ又は連結されたリグニンポリマーは、もはや可溶性でなくてもよい。しかしながら、より小さいリグニンポリマー鎖は、依然として可溶性のままであり、従って、分析物を溶媒に溶解することを必要とするサイズ排除クロマトグラフィー又は核磁気共鳴分光法(NMR分光法)等の標準的な分析技術に供することができる。従って、当該リグニン系充填剤の可溶性画分の異なる特性が決定されてもよい。
【0056】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤を調製するための出発材料は、酵素加水分解プロセスから得られるリグニンである。酵素加水分解は、酵素(複数種可)が、水という要素の付加により分子中の結合を切断するのを助けるプロセスである。1つの実施形態では、酵素加水分解は、セルロースの酵素加水分解を含む。
【0057】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、水熱炭化処理に供された酵素加水分解プロセスから誘導されるリグニンから調製される。
【0058】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、全量で0.1~2.8重量%、又は0.2~2.5重量%、又は0.3~1.5重量%、又は0.4~1.0重量%の灰分を含む。灰分含有量は、規格DIN51719に従って決定することができる。
【0059】
本発明者らは、驚くべきことに、例えば酵素加水分解プロセスからのリグニンがリグニン系充填剤を製造するために使用される場合、リグニン系充填剤の灰分含有量を低くすることができるということを見出した。より低い灰分含有量は、例えば、リグニン系充填剤のより高い純度という付加的な有用性を有する。
【0060】
当該リグニン系充填剤は、全量で59~70重量%の炭素を含んでもよい。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、全量で59~70重量%、又は62~70重量%、又は63~69重量%、又は64~68重量%の炭素を含む。リグニン系充填剤中の炭素の量は、規格DIN51732(1997)に従って決定されてもよい。
【0061】
1つの実施形態では、0.1M NaOH中のリグニン系充填剤の溶解度は、1~45重量%、又は3~35重量%、又は5~30重量%である。溶解度は、以下のようにして測定されてもよい。まず、試料を60℃の温度で4時間乾燥させる。0.5グラムの試料質量を秤量し、1%の濃度で22℃の温度を有する50mlの0.1M NaOHに懸濁する。混合を1時間続け、その後、試料をガラスマイクロファイバーペーパー(1.6μm)上に置き、試料を含む濾紙を60℃の温度で2時間乾燥させる。溶解した試料の部分は、重量測定によって決定することができる。
【0062】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1000~4000Da、又は1300~3700Da、又は1700~3200Da、又は2500~3000Da、又は2600~2900Da、又は2650~2850Daの重量平均分子量(Mw)を有する。重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、溶離液としての0.1M NaOH及び0.1M NaOHに溶解される約1mg/mlの試料量を使用することによって決定されてもよい。分子量はポリスチレンスルホネート標準に対して測定される。280nmの波長のUV検出器が使用される。
【0063】
当該リグニン系充填剤の多分散性指数(PDI)は、リグニン系充填剤の可溶性画分に基づいて決定される場合、1.5~5.0、又は1.8~4.5、又は1.9~4.3、又は2.1~4.0、又は2.4~3.5、又は2.6~3.2であってもよい。多分散性指数は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定されてもよい。PDIは、所与のポリマー試料中の分子質量の分布の尺度である。PDIは、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割ったものとして計算される。PDIは、ポリマーのバッチにおける個々の分子質量の分布を示す。
【0064】
当該リグニン系充填剤は、3~150m2/g、又は5~100m2/g、又は7~60m2/g、又は20~30m2/gのSTSA数を有してもよい。STSA数は、規格ASTM D6556に従って決定されてもよい。
【0065】
1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、最大で1.5g/cm3の密度を有する。1つの実施形態では、当該リグニン系充填剤は、1.0~1.5g/cm3、又は1.1~1.4g/cm3の密度を有する。密度は、規格ISO21687に従って決定されてもよい。
【0066】
当該リグニン系充填剤は、カーボンブラックを充填剤として使用することによって調製された熱可塑性組成物の色に、成分は異なっても、類似する黒色を熱可塑性組成物に提供するという付加的な有用性を有する。
【0067】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、DIN EN ISO11664によって決定された、最大で36のL値、最大で10のa値、及び最大で15のb値によって表される。
【0068】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、最大で36、又は最大で35、又は最大で30、又は最大で25、又は最大で20、又は最大で15、又は最大で10のL値によって表される。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、最大で10、最大で9、又は最大で8、又は最大で7、又は最大で6、又は最大で5、又は最大で4.8、又は最大で4.5、又は最大で4.3のa値によって表される。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、最大で15、又は最大で13、最大で12、又は最大で10、又は最大で8、又は最大で7、又は最大で6.5、又は最大で6.3、又は最大で6.1のb値によって表される。
【0069】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、最大で36、又は最大で35、又は最大で30、又は最大で25、又は最大で20、又は最大で15、又は最大で10のL値、及び最大で10、最大で9、又は最大で8、又は最大で7、又は最大で6、又は最大で5、又は最大で4.8、又は最大で4.5、又は最大で4.3のa値、及び最大で15、又は最大で13、最大で12、又は最大で10、又は最大で8、又は最大で7、又は最大で6.5、又は最大で6.3、又は最大で6.1のb値によって表される。
【0070】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも2、又は少なくとも4のL値によって表される。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも1、又は少なくとも2のa値によって表される。1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも4、又は少なくとも6、又は少なくとも8、又は少なくとも10のb値によって表される。
【0071】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも2、又は少なくとも4のL値によって表され、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも1、又は少なくとも2のa値によって表され、当該熱可塑性組成物の色は、少なくとも4、又は少なくとも6、又は少なくとも8、又は少なくとも10のb値によって表される。
【0072】
L、a、及びbの値は、当該熱可塑性組成物の色の値を示す。これらの値は、DIN EN ISO11664によって決定されてもよく、CIELab色空間の測定を可能にする任意のデバイスによって測定されてもよい。本出願の発明者らは、驚くべきことに、当該リグニン系の使用が、非常に黒色の熱可塑性組成物をもたらすことを見出した。
【0073】
1つの実施形態では、当該熱可塑性組成物は、少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%の不透明度を有する。不透明度は、熱可塑性組成物がどの程度透明又は半透明であるかを示す。不透明度は、BYK Spectro-guide 45/0装置によって測定されてもよい。基準値は100%である。
【0074】
当該リグニン系充填剤の使用は、リグニン系充填剤が熱可塑性組成物中のポリマーのNIR反射率をマスクせず、従って、物品の混合物からの当該熱可塑性組成物の選別を可能にし、従って、この熱可塑性組成物のリサイクルを可能にするので、この熱可塑性組成物をNIR技術を通して選別可能にし、従ってリサイクル可能にするという付加的な有用性を有する。さらに、本明細書に開示される熱可塑性組成物は、カーボンブラックによって提供されるものにかなり類似する黒色を示すという付加的な有用性を有する。
【実施例】
【0075】
これより、様々な実施形態を詳細に参照する。
【0076】
以下の記載は、当業者が本開示に基づいて実施形態を利用することができる程度に詳細にいくつかの実施形態を開示する。多くの工程又は特徴が本明細書に基づいて当業者に明白となるであろうから、実施形態のすべての工程又は特徴が詳細に論じられるわけではない。
【0077】
実施例1 - 熱可塑性組成物の調製及びその試験
この実施例では、目的は、調製した熱可塑性組成物の異なる画分への選別が、近赤外検出システムを使用することによって行うことが可能か否かを評価することであった。
【0078】
熱可塑性組成物中の異なる量の異なるリグニン系充填剤の効果を試験した。加えて、比較例は、リグニン系充填剤の代わりに熱可塑性組成物中にカーボンブラック(CB)を使用することによって調製した。
【0079】
2つの異なるタイプのリグニン系充填剤を試験した。リグニン系充填剤(この実施例ではLBFと記す)は、木材の酵素加水分解プロセスからのリグニン材料を使用し、水熱炭化処理に供することによって、本明細書において上記で提供した説明に従うことによって調製した。純粋な(未変性の)リグニン(PL)をリグニン系充填剤として使用することによって、さらなる熱可塑性組成物を調製した。純粋なリグニンは、LBFリグニンと同じ木材の酵素加水分解プロセスから誘導したが水熱炭化処理に供さなかったリグニンであった。比較例に使用したカーボンブラックは、Cabot(キャボット)により提供されるMONARCH(登録商標)800であった。リグニン系充填剤、及び純粋なリグニンの特性を測定した。それらを下記表に示す。
【0080】
【0081】
カーボンブラックの炭素含有量は>95%であり、密度は1.8g/cm3であった。
【0082】
まず、以下のマスターバッチを調製した。
【0083】
【0084】
このように、マスターバッチは、40重量%の充填剤、52重量%のポリマー、及び合計で8重量%の添加剤パッケージ(2%のステアリン酸Ca(潤滑剤)、2%のIrganox 1010酸化防止剤、4%のポリエチレンワックス(潤滑剤)からなる)を含有していた。
【0085】
3kgの各種のマスターバッチを作製し、これを40重量%充填剤充填で行った。次いで、製造したマスターバッチを3重量%で物理的にドライブレンドした。以下の組成物を調製した。
・ポリプロピレン(PP)中のマスターバッチとしてのポリプロピレン(PP)(PP熱可塑性組成物)
・アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)中のマスターバッチとしてのポリスチレン(PS)(ABS熱可塑性組成物)
・高密度ポリエチレン(HDPE)中のマスターバッチとしてのポリエチレン(PE)(HDPE熱可塑性組成物)
・ポリアミド(PA12)中のマスターバッチとしてのポリアミド(PA)(PA12熱可塑性組成物)
・ポリ塩化ビニルPVC用のマスターバッチとしてのエチレン酢酸ビニル(EVA)(PVC熱可塑性組成物)
【0086】
調製した熱可塑性組成物はそれぞれ、表3~9に提示する量の異なる充填剤を含有した。
【0087】
異なるポリマー及び充填剤を使用することによって、並びに充填剤の量を変化させることによって、異なる熱可塑性組成物を調製した。試料のいくつかは平坦な板として調製し、いくつかは顆粒として調製した。
【0088】
顆粒は以下のように調製した。
【0089】
試料の配合は、水中ペレタイザーを備えたLeistritz(ライストリッツ) ZSE27で行った。試料の配合に使用した押出機は、Leistritz ZSE 27 MAXXであった。これは、27mmのスクリュー直径及び48のL/Dを有する高速同方向回転二軸押出機である。この押出機は、大気及び真空脱気ポート、充填剤のためのサイドフィーダを含み、溶融ポンプ及び発泡のためのガス注入ユニットを備えることができる。この装置は、押出された材料を顆粒にペレット化するためのGala PLU水中ペレット化システムを装備していた。
【0090】
平坦な板は以下のように調製した。
【0091】
上記で調製した顆粒試料をARBURG 420 M allrounder 1000-350上で射出成形した。この機械は、ISO認定試験片用の迅速交換できる(クイックチェンジ)金型を備えていた。PVCで調製したもの以外の他の熱可塑性組成物について、このようにして板を調製した。
【0092】
PVCで調製した熱可塑性組成物について、上記で調製した顆粒試料を、脱気ポートを備えたWeber CE5.2円錐形二軸(コニカルツインスクリュー)押出機で押出した。その最大RPMである30で、押出機の出力は約80kg/hであった。試料ストリップを70mm×5mmのダイで作製し、次いで、卓上CNCフライス盤でTバーに機械加工した。
【0093】
調製した試料を、trinamiX GmbH(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)製の手持ち式近赤外(NIR)分光装置、すなわちtrinamiX NIR分光計(ソフトウェアパッケージ:general plastic)を用いて行った測定に供することによって試料を分析した。
【0094】
異なる調製した試料並びにそれらの特性及び測定結果を下記表及び
図1~8に提示する。表中の「スコアリング」は、測定機器によって与えられた結果を表す。「ND」は「検出不能」として検出する。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
上記の結果及び
図1~7から、リグニン系充填剤(LBF又はPL)を用いて熱可塑性組成物を調製して黒色熱可塑性組成物を形成したすべての場合において、熱可塑性組成物の近赤外反射率は、カーボンブラックを使用するときに起こるような充填剤によってマスクされる、ということはないということが分かる。この結果、カーボンブラックを充填剤として使用する状況とは異なり、ポリマーの種類が確認される可能性があり、熱可塑性組成物の検出及び選別が可能である。上記の結果から、カーボンブラックを使用する場合、ポリマーはマスクされ、検出できない(検出されない(ND))ことが分かる。
【0110】
当業者には、技術の進歩とともに、基本的なアイデアが様々な方法で実行されてもよいことが明らかである。従って、実施形態は上記の例に限定されず、代わりに、実施形態は請求項の範囲内で変わってもよい。
【0111】
本明細書にこれまで記載された実施形態は、互いにいずれかの組み合わせで使用されてもよい。実施形態のうちのいくつかは、さらなる実施形態を形成するようにともに組み合わされてもよい。本明細書に開示される熱可塑性組成物、方法、又は使用は、本明細書の上記の実施形態のうちの少なくとも1つを含んでもよい。上記の利益及び利点は、1つの実施形態に関連してもよいし、又はいくつかの実施形態に関連してもよいことが理解されよう。実施形態は、記載された課題のいずれか若しくはすべてを解決するもの、又は記載された利益及び利点のいずれか若しくはすべてを有するものに限定されない。「ある」項目への言及は、1つ以上のこれらの項目を指すことがさらに理解されるであろう。用語「comprising(含む)」は、本明細書において、1つ以上の追加の特徴又は行為の存在を排除することなく、その語句に続く特徴又は行為を含むこと(including)を意味するために使用される。
【国際調査報告】