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特表2024-539018焼結による3D印刷用の熱可塑性ポリマー粉末
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  • 特表-焼結による3D印刷用の熱可塑性ポリマー粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】焼結による3D印刷用の熱可塑性ポリマー粉末
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20241018BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241018BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20241018BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241018BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241018BHJP
   B29B 13/10 20060101ALI20241018BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20241018BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y40/00
B33Y10/00
B29C64/314
B29B13/10
C08J3/12 A CFG
C08J3/20 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522461
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 FR2022051981
(87)【国際公開番号】W WO2023067284
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】2111186
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モルフィン, アレクシス
(72)【発明者】
【氏名】ブリュレ, ブノワ
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F213
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AB23
4F070AB24
4F070DA41
4F070DB09
4F070DC07
4F070DC13
4F070FA01
4F070FA17
4F070FC09
4F201AA29
4F201AA45
4F201BA04
4F201BC01
4F201BC13
4F201BN29
4F213AA29
4F213AA45
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL23
4F213WL26
(57)【要約】
本発明は主に、焼結による3D印刷での使用に適した熱可塑性ポリマー粉末に関し、該粉末は、次を示す:-ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して、150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90、並びに、-熱シグネチャであって、(i)2つの融解ピークTf及びTfにおいて、TfがTfより小さく、a.関連する融解エンタルピー間の比(式(I))が、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して決定して、0.5未満であること;並びに、b.2つの融解ピーク間の差(Tf-Tf)が40℃未満であることを特徴とする、2つの融解ピークTf及びTfの存在;又は、(ii)比σ(式(II))を特徴とする非対称融解ピークであって、外挿された融解開始温度Teim、ピーク融解温度Tpm及び外挿された融解終了温度Tefmが、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、20℃/分の加熱速度で測定したDSCサーモグラムから決定される、非対称融解ピークの存在、を特徴とする熱シグネチャ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結による3D印刷での使用に適した熱可塑性ポリマー粉末であって、
- ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して、150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90、並びに
- 熱シグネチャであって、
(i)2つの融解ピークTf及びTfにおいて、TfがTfより小さく、
a.関連する融解エンタルピー間の比:
が、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して決定して、0.5未満であること;並びに
b.2つの融解ピーク間のギャップ(Tf-Tf)が40℃未満であること;
を特徴とする、2つの融解ピークTf及びTfの存在、又は
(ii)比σ:
を特徴とする非対称融解ピークであって、外挿された融解開始温度Teim、ピーク融解温度Tpm、及び外挿された融解終了温度Tefmが、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、20℃/分の加熱速度で測定したDSCサーモグラムから決定される、
非対称融解ピークの存在、
を特徴とする熱シグネチャ
を示す、熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項2】
45μmから130μmの間の体積平均直径Dv50を示すことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項3】
比:
が0.05から0.2の間である、請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項4】
熱シグネチャが2つのピークTf及びTfの存在を特徴とし、これらの融解ピーク間のギャップが、5℃から30℃の範囲の温度間隔にわたって広がる、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項5】
熱シグネチャが、2.3を超える比σを示す非対称ピークを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項6】
一又は複数の融解ピークTf及びTfが、2℃から40℃、好ましくは5℃から30℃、特に10℃から20℃の範囲の温度間隔にわたって広がる、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項7】
少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項8】
少なくとも1つの特性、特に粘度によって区別される少なくとも2つの熱可塑性ポリマーを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項9】
化学的性質が異なる少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項10】
溶媒としてm-クレゾールを使用し、温度が20℃であることを除いて、ISO規格307:2019に準拠してウベローデ型の粘度計で測定して、0.65dl/gから1.8dl/gのインヘレント粘度を示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項11】
ポリアミド及び熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項12】
PA11、PA12、及びポリエーテルブロックアミドから選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項11に記載の熱可塑性ポリマー粉末。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末の製造方法であって、
a.少なくとも1つの熱可塑性ポリマーを粉砕し、ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90を示す粉末を得ること、並びに、適切であれば、
b.段階(i)の前、最中、又は後に、前記熱可塑性ポリマーを別の熱可塑性ポリマーとブレンドすること、
からなる段階を含み、
それにより、プロセスの終了時に得られる粉末が請求項1に記載の熱シグネチャを示す、
請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリマー粉末の製造方法。
【請求項14】
焼結による3D印刷のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の粉末の使用。
【請求項15】
レーザ焼結による3D印刷のための、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、焼結による3D印刷に用いられる熱可塑性ポリマー組成物、その製造プロセス、及び焼結による3D印刷におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3D物品の構築は、プロトタイプや部品のモデルを製造するため(「ラピッドプロトタイピング」)、又は小規模シリーズで完成部品を製造するため(「ラピッドマニュファクチャリング」)によく用いられ、例えば、自動車、航海、航空、航空宇宙、医療(プロテーゼ、聴覚システム、細胞組織など)、布地、衣類、ファッション、装飾、電子機器用ハウジング、電話、ホームオートメーション、コンピュータ、照明、スポーツ、及び産業用ツールの分野などである。
【0003】
3D物品の製造技法の中でも、焼結による製造プロセスは特に有利である。このプロセスによれば、ポリマー粉末の層が加熱され、次にチャンバ内で電磁放射線(例えば、レーザビーム、赤外線、紫外線)、が選択的かつ短時間照射され、その結果、放射線の衝撃を受けた粉末粒子が融解する。融解した粒子が合体して固化し、固体の塊が形成される。このプロセスでは、新しく塗布された粉末の層を連続して繰り返し照射することによって、単純な方法で3D物品を製造することができる。
【0004】
製造される部品の品質とその機械的特性は、ポリマー粉末の特性に依存する。熱可塑性ポリマーは、耐熱性及び耐薬品性と組み合わせた機械的特性について評価される。
【0005】
レーザ焼結による3D印刷における開発の主なブレーキは、粉末のコストである。ポリマー粉末のこのコストは、後者がリサイクル可能である場合、例えば、新しい粉末装入物に特定量の使用済み粉末を添加することによって、実質的に削減することができる。
【0006】
リサイクル率は、特に造形温度に依存し、これは、数時間続きうる造形プロセス全体で粉末が晒される温度である。温度の影響下で、ポリマー粉末は概して、特に色及び/又は粘度が変化し、したがって、再利用の利点又は可能性さえも制限される。
【0007】
実際、造形温度の調整はさらに困難である。これは、造形温度が低すぎると、カール現象、すなわちポリマー層が急速に結晶化するときに現れる内部応力の影響下で造形部品が変形する現象が発生するためである。カールが発生すると、概して、チャンバ内に組み込まれたすべての部品が損傷する。さらには、造形中の部品の支持に必要な粉末浴の凝集の問題、さらに印刷部品の機械的特性に影響を与える融解欠陥が、観察される場合がある。逆に、造形温度が高すぎると、ケーキング現象、すなわち粒子の部分的融解の影響下でポリマー粉末浴の凝集が観察される。このように凝集した粉末は、再利用することができない。
【0008】
焼結による3D印刷用の粉末の開発中は、ポリマーの熱特性を考慮することが知られている。融解ピークと結晶化ピークとの間のギャップに関連する作業ウィンドウの幅は、特にカール及びケーキングの問題を回避する上で、特に重要である。それにもかかわらず、多形性ポリマーの特定のケースは別として、融解ピークの特定の形状の影響及び他のピークの存在については、これまでほとんど関心が払われていなかった。
【0009】
したがって、より良好なリサイクル性を可能にしつつ、より低いコストを示す熱可塑性ポリマー粉末を提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本特許出願は、特定の熱シグネチャを示すポリマー粉末の使用により造形温度を下げることが可能になるという予期せぬ観察に基づいている。実際、浴温度を下げると、粉末の劣化を制限することができ、したがって、粉末のリサイクル性が高まる。さらに、浴温度を低くすると、所与のポリマーの作業ウィンドウを広げることができ、したがって、例えば浴内の温度の不均一性に関して、印刷プロセスをより堅牢にすること、及び/又はTとTとの間に小さいギャップを有するポリマーの使用を構想することが可能となる。
【0011】
したがって、第1の態様によれば、本発明の主題は、焼結によるp3D印刷での使用に適した熱可塑性ポリマー粉末であり、
- ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して、150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90、並びに
- 熱シグネチャであって、
(i)2つの融解ピークTf及びTfにおいて、TfがTfより小さく、前記融解ピークが、
a.関連する融解エンタルピー間の比:
が、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して決定して、0.5未満であること;及び
b.2つの融解ピーク(Tf-Tf)間のギャップが40℃未満であること;
を特徴とする2つの融解ピークTf及びTfの存在、又は
(ii)比σ:
を特徴とする非対称融解ピークの存在
を特徴とし、
ここで、外挿された融解開始温度Teim、ピーク融解温度Tpm、及び外挿された融解終了温度Tefmが、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、20℃/分の加熱速度で測定したDSCサーモグラムから決定される、
熱シグネチャ
を示す。
【0012】
好ましくは、熱可塑性ポリマー粉末は、45μmから130μmの間の体積平均直径Dv50を示す。
【0013】
特に、0.05から0.2の間の比:
を示す粉末が好ましい。
【0014】
好ましい実施形態によれば、熱シグネチャは、2つのピークTf及びTfの存在を特徴とし、これらの融解ピーク間のギャップが、5℃から30℃の範囲の温度間隔にわたって広がる。有利には、これは、2.3を超える比σを示す非対称ピークを特徴とする。
【0015】
有利には、(一又は複数の)融解ピークTf及びTfは、2℃から40℃、好ましくは5℃から30℃、及び特に10℃から20℃の範囲の温度間隔にわたって広がる。
【0016】
好ましくは、熱可塑性ポリマー粉末は、少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーを含む。
【0017】
一実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、少なくとも1つの特性、特に粘度又は化学的性質によって区別される、少なくとも2つの熱可塑性ポリマーを含む。
【0018】
有利には、熱可塑性ポリマー粉末は、0.65dl/gから1.8dl/gのインヘレント粘度を示す。
【0019】
好ましい実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、ポリアミド及び熱可塑性エラストマー、さらに好ましくはPA11、PA12、及びポリエーテルブロックアミドから選択される、少なくとも1つのポリマーを含む。
【0020】
第2の態様によれば、本発明は、
(i)少なくとも1つの熱可塑性ポリマーを粉砕し、ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90を示す粉末を得ること、並びに、適切であれば、
(ii)段階(i)の前、最中、又は後に、前記熱可塑性ポリマーを別の熱可塑性ポリマーとブレンドすること
からなる段階を含む、このような熱可塑性ポリマー粉末の製造方法を対象とし、
それにより、プロセスの終了時に得られる粉末が、上で定義した熱シグネチャを示すようになる。
【0021】
第3の態様によれば、本発明は、焼結、特にレーザ焼結による3D印刷のための上で定義した熱可塑性ポリマー粉末の使用を対象とする。
【0022】
本発明は、以下の説明及び図面に照らしてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】SLS(選択的レーザ焼結)方式の焼結による3D印刷のためのデバイス
図2】温度Tの関数として、20℃/分の所定の速度で試料を加熱するのに必要な熱流量Q(W/g単位)を示す、実施例1によるポリアミド粉末のサーモグラム
図3】温度Tの関数として、20℃/分の所定の速度で試料を加熱するのに必要な熱流量Q(W/g単位)を示す、実施例2によるポリアミド粉末のサーモグラム
図4】温度Tの関数として、20℃/分の所定の速度で試料を加熱するのに必要な熱流量Q(W/g単位)を示す、実施例3によるポリアミド粉末のサーモグラム
【発明を実施するための形態】
【0024】
[定義]
「粉末」という用語は、細かく分割された形態の固体物質を意味すると理解される;これは概して、非常に小さいサイズ、概して数百マイクロメートル以下程度の粒子の形態で提供される。
【0025】
「融解温度」という用語は、NF EN ISO規格11357-3:2018に従って測定した、少なくとも部分的に結晶性の化合物が粘稠な液体状態へと移行する温度を指すものと理解される。別段の指示がない限り、これは、より具体的には、以下に定義されるピーク融解温度である。
【0026】
より具体的には、融解温度に関連する次の用語は、ISO規格11357-1:2016に準拠して定義されているものと理解される:
・「ピーク」とは、示差走査熱量測定(DSC)によって得られたサーモグラムの、試験片のベースラインから逸脱して最大値又は最小値に達し、その後試験片のベースラインへと戻る部分を指す。このようなピークは、一次遷移を示しうる;
・「吸熱ピーク」とは、試験片のるつぼに供給される熱流量が基準のるつぼの熱流量よりも大きいピークを指す。これは熱を吸収する遷移に対応する;
・「ベースライン」は、いかなる遷移も伴わない、特にこの場合には融解タイプの一次遷移を伴わない、記録されたサーモグラムの部分を指す。遷移ゾーンでは、仮想ベースラインを決定ですることができる:これは、遷移ゾーンを通してプロットされた仮想の線であり、遷移による熱がゼロであると想定されている。仮想ベースラインは、試験片のベースラインを直線で補間することでプロットすることができる;
・「ピーク面積」は、ピークと補間された仮想ベースラインによって区切られた領域を示す。これは、J/gで表される遷移エンタルピーに相当する;
・「外挿された融解開始温度」Teimは、補間された仮想ベースラインとピーク開始の変曲点における接線との交点を示す;
・「ピーク融解温度」Tpmは、ピーク中にサーモグラムと仮想ベースラインとの間の距離が最大になる温度を示す;
・「外挿された終了温度」Tefmは、仮想ベースラインとピークエンドの変曲点における接線との交点を示す。
【0027】
「融解エンタルピー」という用語は、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して測定される、サーモグラム上の(一又は複数の)融解ピークの下の面積に対応する、組成物の融解に必要な熱を意味すると理解される。
【0028】
「Dv50」という用語は、体積で重み付けされた粒子の直径の累積分布関数が50%に等しくなるための粉末粒子の直径の値を意味すると理解される。「Dv50」の値は、ISO規格13320:2009に準拠して、例えばMalvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用したレーザ回折によって測定される。同様に、「Dv10」及び「Dv90」はそれぞれ、体積で重み付けされた粒子の直径の累積関数がそれぞれ10%及び90%に等しくなるための対応する直径である。粒度分布の結果の表現に関する規則は、ISO規格9276-パート1から6によって与えられている。
【0029】
「粘度」という用語は、ISO規格307:2007に準拠して測定されるインヘレント粘度を表すものと理解される。「粘度」という用語は、溶媒として m-クレゾールを使用し、温度が20℃であることを除いて、ISO規格307:2019に準拠してウベローデ型の粘度計で測定されるインヘレント粘度を表すものと理解される。インヘレント粘度は濃度の逆数の次元を有しており、相対粘度の自然対数を溶媒に溶解したポリマーの濃度で割った商に等しくなる。
【0030】
「焼結による3D印刷」という用語は、レーザ又は赤外光などの電磁放射線によって粉末を選択的に融解する積層造形による部品の製造を目的とした技法を指すものと理解される。
【0031】
「結晶化度」という用語は、Nano-inXider(登録商標)タイプのデバイスで、以下の条件で広角X線散乱(WAXS)測定から計算された結晶化度を表すものと理解される:
- 波長:銅の主Kα1線(1.54オングストローム)。
- 発電機の電力:50kV - 0.6mA。
- 観察モード:送信
- 計数時間:10分間
【0032】
このようにして、回折角の関数としての散乱強度のスペクトルが得られる。このスペクトルにより、非晶質のハローに加えて、スペクトル上にピークが見える場合に、結晶の存在を確認することが可能となる。このスペクトルでは、結晶ピークの面積(Aで示す)と非晶質ハローの面積(AHで示す)を測定することができる。試料中の結晶性ポリマーの割合(重量)は、比(A)/(A+AH)によって推定する。
【0033】
本特許出願で参照されるサーモグラムは、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、最初の加熱で約10mgの試験組成物を20℃/分の温度勾配を使用して示差走査熱量測定(DSC)分析することによって得られる。特に、開始温度は約20℃であり、終了温度は約260℃でありうる。図に示されているようなサーモグラムは、TA Instruments社が販売するQ2000示差走査熱量計を使用して取得することができる。
【0034】
「a」、「an」、又は「the」などの不定冠詞及び定冠詞は、本説明の文脈では、デフォルトで「少なくとも1つ」及びそれぞれ「前記少なくとも1つ」を意味する。
【0035】
A.熱可塑性ポリマー粉末
本発明に従って提供される熱可塑性ポリマー粉末は、
- ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で測定して、150μm未満の体積平均直径Dv50、15μmを超える体積平均直径Dv10、及び300μm未満の体積平均直径Dv90、並びに
- 熱シグネチャであって、
(i)2つの融解ピークTf及びTfにおいて、TfがTfより小さく、前記融解ピークが、
a.関連する融解エンタルピー間の比:
が、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して決定して、0.5未満であること;及び
b.2つの融解ピーク(Tf-Tf)間のギャップが40℃未満であること;
を特徴とする)2つの融解ピークTf及びTfの存在、又は
(ii)比σ:
を特徴とする非対称融解ピークの存在
を特徴とする、熱シグネチャ
を示し、
ここで、外挿された融解開始温度Teim、ピーク融解温度Tpm、及び外挿された融解終了温度Tefmは、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、20℃/分の加熱速度で測定したDSCサーモグラムから決定される。
【0036】
本発明の文脈において使用することができる熱可塑性ポリマーは、特に、ポリプロピレン及びポリエチレンなどのポリオレフィン(オレフィン系ベースワックスは本発明の範囲から逸脱するものではない)、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)などのポリアミド及び熱可塑性エラストマー、ポリエーテルブロック(COPE)を有するポリエステル、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、又はそれらのブレンドから選択することができる。
【0037】
脂肪族ポリアミド、特に長鎖脂肪族ポリアミド、すなわちアミド基当たり少なくとも8個の炭素原子を含む脂肪族ポリアミド、とりわけPA11及びPA12、さらにはポリエーテルブロックアミドが特に好ましい。
【0038】
ポリエーテルブロックアミドは、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むコポリマーである。好ましくは、それらは線状(非架橋)コポリマーである。
【0039】
PEBAコポリマーは、反応性末端を有するポリアミド(PA)ブロックと、反応性末端を有するポリエーテル(PE)ブロックとの重縮合から生じうる。例としては、以下が挙げられる:
- ジカルボン鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロックと重縮合したジアミン鎖末端を有するポリアミドブロック;
- ジアミン鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロックと重縮合したジカルボン鎖末端を有するポリアミドブロック;又は
- ポリエーテルジオールと重縮合したジカルボン鎖末端を有するポリアミドブロック(得られる生成物はこの場合ポリエーテルエステルアミドである)。
【0040】
ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミドブロックは、例えば連鎖制限ジカルボン酸の存在下でポリアミド前駆体の縮合から生じる。ジアミン鎖末端を有するポリアミドブロックは、例えば連鎖制限ジアミンの存在下でポリアミド前駆体の縮合から生じる。これらのポリアミドブロックは、ホモポリアミド又はコポリアミドでありうる。それは、特にポリアミドPA11、PA12、若しくはPA6ブロック、又はそれらのブレンドのうちの1つに関わることでありうる。
【0041】
PEBAのポリエーテルブロックは、アルキレンオキシド単位を本質的に含むか、又はアルキレンオキシド単位からなる。ポリエーテルブロックは、PEG(ポリエチレングリコール)、PPG(ポリプロピレングリコール)、PO3G(ポリトリメチレングリコール)、又はPTMG(ポリテトラメチレングリコール)などのアルキレングリコール、好ましくはPTMGから得られうる。それらはまた、鎖内に均一に、特にブロック内に、又はランダムに分布した、異なるアルキレンオキシドを含むコポリエーテルからも生じうる。ポリエーテルブロックは、ビスフェノールAなどのビスフェノールのオキシエチル化によっても得ることができる。これらの生成物は、特に、欧州特許出願公開第613919号明細書に記載されている。ポリエーテルブロックはまた、エトキシル化された第一級アミンであってもよい。ポリエーテルブロックは、最終的に、NH鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロックを含むか、又はそれから構成されてよく、そのようなブロックは、ポリエーテルジオールのシアノアセチル化によって得ることが可能である。このようなポリエーテルは、Jeffamine(登録商標)又はElastamine(登録商標)(例えば、Jeffamine(登録商標)D400、D2000、ED2003、又はXTJ 542)の名称でHuntsman社から販売されている。
【0042】
PEBA中のポリアミドブロックの数平均モル質量(Mn)は、好ましくは400から1500g/モル、より好ましくは500から1200g/モル、さらになお好ましくは500から1000g/モルである。ポリエーテルブロックの数平均モル質量(Mn)は、好ましくは400から1500g/モル、さらに好ましくは500から1200g/モル及びさらになお好ましくは500から1000g/モルである。
【0043】
PAブロックとPEブロックとの間にエステル結合を有するPEBAの2段階調製方法は、仏国特許出願公開第2846332号明細書に記載されている。PAブロックとPEブロックとの間にアミド結合を有するPEBAの調製方法は、EP欧州特許出願公開第1482011号明細書に記載されている。一段階プロセスでPEBAを調製するために、ポリエーテルブロックをポリアミド前駆体及び二酸連鎖制限剤と混合することもできる。
【0044】
PEBAは概して、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むが、それらはまた、2つ、3つ、4つ、実際にはさらに多くの異なるブロックを含むこともできる。
【0045】
一実施形態によれば、コポリマー中のポリエーテルブロックの重量割合は、コポリマーの総重量に対して、少なくとも50%である。好ましくは、ポリエーテルブロックの重量割合は、コポリマーの総重量に対して、55%から85%であり、より好ましくは、コポリマーの総重量に対して、60%から80%である。コポリマー中のブロックの重量割合は、ブロックの数平均モル質量から決定することができる。
【0046】
特に好ましいPEBAは、ISO規格868:2003に準拠して測定される瞬間硬度(ショアD硬度)が50未満、より好ましくは35から45の間を示すものである。
【0047】
当然ながら、本発明の本説明におけるPEBAという名称は、三洋電機株式会社が販売するPelestat(登録商標)タイプのPEBA製品、又は他の供給業者の任意のPEBA製品と同様に、Arkema社が販売するPebax(登録商標)製品、Evonik(登録商標)社が販売するVestamid(登録商標)製品、及びEMS社が販売するGrilamid(登録商標)製品にも関連する。
【0048】
一実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、25J/gを超える、又は25から30J/g、又は30から40J/g、又は40から50J/g、又は50から60J/g、又は60から70J/g、又は70から80J/g、又は80から90J/g、又は90から100J/g、又は100から110J/g、又は110から120J/g、又は120から130J/gの融解エンタルピーを示す。特に有利なのは、30から110J/gの間の融解エンタルピーを示す熱可塑性ポリマー粉末である。より具体的には、融解エンタルピーは、想定されるポリマーに応じて変化する。したがって、ポリアミドの融解エンタルピーは、特に、70から110J/gの間でありうるのに対し、PEBAの融解エンタルピーは、好ましくは25から50J/gの間になるであろう。
【0049】
熱可塑性ポリマー粉末は、概して、粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%の熱可塑性ポリマーを含む。幾つかの実施形態によれば、粉末は、本発明の熱可塑性ポリマー粉末の総重量に対して、少なくとも75重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも92.5重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも97.5重量%、又は少なくとも98重量%、又は少なくとも98.5重量%、又は少なくとも99重量%、又は少なくとも99.5重量%の熱可塑性ポリマーを含む。
【0050】
幾つかの実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、単一の熱可塑性ポリマー、例えば1つのポリオレフィン、1つのポリアミド、又は1つのポリエーテルブロックアミドのみを含むことができる。
【0051】
あるいは、熱可塑性ポリマー粉末は、2つ以上の異なる熱可塑性ポリマーを含むことができる。これらのポリマーは、特にそれらの化学的性質、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、又はポリエーテルブロックアミドのブレンドによって、区別することができる。
【0052】
幾つかの実施形態によれば、本発明による粉末は、化学的性質が同じであってもなくても、少なくとも1つの特性によって区別される幾つかのポリマーを含む。これらの特性は、特に、粘度、結晶化度、及び結晶化速度でありうる。したがって、本発明による粉末は、例えば、ポリアミド又はポリエーテルブロックアミド、及びポリオレフィンワックスを含むことができる。
【0053】
焼結による3D印刷に適するために、熱可塑性ポリマー粉末は、特に粒径分布に関して、ある特定の基準を満たさなければならない。
【0054】
本発明によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、150μm未満の体積平均直径Dv50を示す。幾つかの実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、45μmから130μmの間、特に50μmから120μmの間、さらに特に55μmから100μmの間の体積平均直径Dv50を示す。
【0055】
平均直径だけでなく、熱可塑性ポリマー粉末の粒径分布も焼結による3D印刷の性能品質に大きな影響を与える可能性がある。
【0056】
したがって、本発明によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、15μmを超える体積平均直径Dv10を示す。幾つかの実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、20μmから60μmの間、特に25μmから45μmの間、とりわけ30μmから40μmの間の体積平均直径Dv10を示す。
【0057】
したがって、本発明によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、300μm未満の体積平均直径Dv90を示す。幾つかの実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、100μmから300μmの間、特に120μmから250μmの間、とりわけ140μmから200μmの間の体積平均直径Dv90を示す。
【0058】
本発明によるポリマー粉末組成物はさらに、特定の熱シグネチャを特徴とする。このシグネチャは、従来の場合のように、融解ピークが対称的ではなく、独特であるため、特徴的である。本発明によれば、この熱シグネチャは、例えば、融点に近い別の遷移の存在により、2つの融解ピーク又は非対称融解ピークのいずれかを含む。
【0059】
このタイプの熱シグネチャは、例えば、他の相転移が融点の近くにある場合に観察される。通常、このような相転移は、満足のいく品質の焼結による3D印刷を妨げ、実際には禁じるリスクであると考えられる。
【0060】
実際、予想外にも、このような熱シグネチャにより、より低い温度での融解の開始を可能にしうるという点で、造形温度を下げることが可能となり、したがって造形プロセス中の粉末の熱劣化が軽減され、したがって再利用の可能性が高まり、それによって印刷材料のコストを大幅に削減することができることが判明した。
【0061】
本発明によれば、熱可塑性ポリマー粉末の熱シグネチャは、互いに近い、すなわち互いに40℃を超えて離れていない、2つの融解ピークTf及びTfの存在によって特徴付けることができ、また、低温での融解ピークTfが高温での融解ピークTfよりも著しく小さく、それによって、これらのピークに関連する融解エンタルピー間の比:
が0.5未満になることを特徴とする。
【0062】
あるいは、熱可塑性ポリマー粉末の熱シグネチャは、非対称ピークの存在を特徴とすることができる。非対称性は、比σ:
で表され、ここで、外挿された融解開始温度Teim、ピーク融解温度Tpm、及び外挿された融解終了温度Tefmは、NF EN ISO規格11357-3:2018に準拠して、20℃/分の加熱速度で測定したDSCサーモグラムから決定される。
【0063】
熱可塑性ポリマー粉末が幾つかの融解ピークを示す場合、好ましくは、融解ピークは、2℃から40℃、好ましくは5℃から30℃、とりわけ10℃から20℃の範囲の温度間隔にわたって広がる。
【0064】
これは、概して、融解ピークが離れすぎないことが好ましいためである。したがって、例えばレーザ融解(SLS)による3D印刷では、造形温度が融解温度Tfより低く、Tfの温度から離れすぎると、過度に大きいレーザ出力を使用するか、又はレーザを数回通過させる(マルチスキャン)必要がある。
【0065】
本発明によれば、これらのピークに関連する融解エンタルピー間の比:
は0.5未満である。有利には、この比は、0.02から0.4の間、特に0.05から0.2の間のものでありうる。
【0066】
一実施形態によれば、融解ピークTfに関連する融解エンタルピーは、2J/gを超えるか、又は2から5J/g、又は5から10J/g、又は10から15J/g、又は15から20J/g、又は20から25J/g、又は25から30J/g、又は30から35J/g、又は35から40J/g、又は40から50J/g、又は50から60J/g、又は60から70J/gである。特に有利なのは、2から40J/gの間の融解ピークTfに関連する融解エンタルピーを示す熱可塑性ポリマー粉末である。
【0067】
別の実施形態によれば、融解ピークTfに関連する融解エンタルピーは、15J/gを超えるか、又は15から20J/g、又は20から30J/g、又は30から40J/g、又は40から50J/g、又は50から60J/g、又は60から70J/g、又は70から80J/g、又は80から100J/g、又は100から120J/g、又は120から130J/gである。特に有利なのは、20から130J/gの間の融解ピークTfに関連する融解エンタルピーを示す熱可塑性ポリマー粉末である。
【0068】
熱可塑性ポリマー粉末が非対称ピークを示す場合、非対称ピークは、2.0より大きい、好ましくは2.3より大きいσ値を特徴とする。有利には、σは、2.0から6.0の間、特に2.2から5.0の間、とりわけ2.3から4.0の間のものである。
【0069】
幾つかの実施形態によれば、熱可塑性ポリマー粉末は、0.65dl/gから1.8dl/g、好ましくは0.9dl/gから1.4dl/g、さらに好ましくは1.0dl/gから1.3dl/gのインヘレント粘度を有する。これらの粉末は、焼結中の良好な合体特性(十分に低い粘度)と、焼結された物体の良好な機械的特性(十分に高い粘度)の両方を得るために、良好な妥協点を得ることを可能にするという点で特に有利である。
【0070】
熱可塑性ポリマー粉末は、(一又は複数の)熱可塑性ポリマーに加えて、1つ以上の通常の添加剤及び充填剤を含むことができる。
【0071】
添加剤は、概して、組成物の総重量に対して、5重量%未満に相当する。好ましくは、添加剤は、粉末の総重量に対して、1重量%未満に相当する。添加剤の中でもとりわけ、流動剤、安定剤(光安定剤、特にUV安定剤及び熱安定剤)、蛍光増白剤、染料、顔料、及びエネルギー吸収添加剤(UV吸収剤を含む)を挙げることができる。
【0072】
流動剤の中でもとりわけ、例えば、親水性又は疎水性のシリカを挙げることができる。有利には、流動化剤は、組成物の総重量に対して、0.01重量%から0.5重量%に相当する。好ましくは、熱可塑性ポリマー粉末は、0.1重量%から0.4重量%の流動化剤を含む。
【0073】
熱可塑性ポリマー粉末はまた、1つ以上の充填剤も含むことができる。充填剤は、概して、最終粉末の総重量に対して、50重量%未満、好ましくは40重量%未満に相当する。充填剤の中でもとりわけ、強化充填剤、特に、粉砕されていてもされていなくてもよい、カーボンブラック、タルク、カーボンナノチューブ又は非カーボンナノチューブ、繊維(ガラス、炭素など)などの無機充填剤を挙げることができる。
【0074】
B.熱可塑性ポリマー粉末の製造プロセス
熱可塑性ポリマー粉末は、特に、従来の技法に従い、押出した顆粒又はフレークの形態の熱可塑性ポリマーを粉砕することによって得ることができる。
【0075】
粉砕は、この目的で知られている装置品目、例えばピンミル、ハンマーミル、又はワールミルを用いて行うことができる。粉末が幾つかのポリマー及び/又はある特定の添加剤及び/又はある特定の強化充填剤を含む場合、一部又はすべてを融解混合、例えば押出(配合)及び顆粒化し、その後、顆粒を粉砕することによって組み込むことができる。あるいは、他のポリマー及び/又はある特定の添加剤及び/又はある特定の強化充填剤を、ドライブレンドによって添加することも可能である。好ましくは、流動化剤はドライブレンドによって添加される。
【0076】
一実施形態によれば、とりわけポリアミドでは、粉末組成物の製造プロセスは、
(a)熱可塑性ポリマーの(一又は複数の)モノマーの予備重合、及びそれに続く造粒;
(b)得られたプレポリマー粉末の粉砕、及びその後の任意選択的篩い分け;
(c)ポリマー粉末を得るために、得られた任意選択的に篩い分けされたプレポリマー粉末を固相重縮合に供する、
段階を含む。
【0077】
添加剤及び/又は強化充填剤は、粉砕前の融解ブレンド(配合)によって、又はドライブレンドによってプレポリマーに加えることができる。あるいは、添加剤及び/又は強化充填剤は、ドライブレンドによって、ポリマー粉末に続いて添加することもできる。
【0078】
C.粉末の使用
記載される熱可塑性ポリマー粉末は、焼結による3D印刷のためのプロセスにおいて特に有用である。
【0079】
好ましくは、本発明の組成物は、選択的レーザ焼結(SLS)プロセス、MJF(マルチジェットフュージョン)タイプの焼結プロセス、又はHSS(高速焼結)タイプの焼結プロセスに用いられる。
【0080】
SLSプロセスは広く知られている。これに関連して、特に、米国特許第6136948号明細書、及び国際公開96/06881号を参照することができる。
【0081】
このタイプのプロセスでは、造形温度と呼ばれる温度に加熱されたチャンバ内で維持された水平プレート上に、粉末の薄層が堆積される。ほとんどの場合、造形温度までの加熱は、概して750nmから1250nmの間の波長で発光最大値を有するIR放射ランプ、例えばハロゲンランプを用いて行われる。
【0082】
造形温度は、造形中の三次元物品の構成層の粉末床が、粉末の層ごとの焼結プロセス中に加熱される温度を示す。
【0083】
続いて、例えばレーザ形式の電磁放射が、例えば物体の形状をメモリに保持し、その形状をスライスの形で再形成するコンピュータを使用して、物体に対応する形状に従って粉末層の異なる点で粉末粒子を焼結するのに必要なエネルギーを供給する。続いて、水平プレートを粉末層の厚さに相当する高さだけ降下させ、同様に新たな粉末層を広げ、加熱し、その後焼結する。この手順は、物体が製造されるまで繰り返される。
【0084】
水平プレート上に堆積された粉末層は、焼結前に、例えば20μmから200μm、好ましくは50μmから150μmの厚さを有することができる。焼結後、凝集材料の層の厚さはわずかに薄くなり、例えば10μmから150μm、好ましくは30μmから100μmの厚さを有することができる。
【0085】
MJF及びHSSプロセスでは、造形材料の層全体が放射線に曝露されるが、融解剤で覆われた部分のみが融解して3Dパーツの層となる。融解剤は、放射線を吸収し、それを熱エネルギーへと変換することができる化合物、例えば黒インクなどである。これは、造形材料の選択された領域に選択的に適用される。融解剤は、造形材料の層に浸透することができ、吸収したエネルギーを隣接する造形材料に伝達し、それによって造形材料を融解又は焼結させる。造形材料の各層の融解、結合、及びそれに続く硬化によって、物体が形成される。
【0086】
MJFの特定のケースでは、パーツをより鮮明にすることができるようにするために、融解されるゾーンのエッジにディテイリング・エージェントがさらに追加される。
【0087】
有利には、これらのプロセスにおける本発明のポリマー粉末組成物の使用は、いかなる特別な改変も必要としない。一方、上で述べたように、より低い粗さとより良好な鮮明度を示す部品を得ることが可能となる。
【0088】
本発明によるポリマー粉末組成物は、再利用し、幾つかの連続したビルドアップで再使用することができる。この場合、単独で再使用することも、他のリサイクル粉末又は非リサイクル粉末と混合することもできる。
【0089】
例として、図1に概略的に示されているような、デバイス1内で電磁放射によって引き起こされる焼結によって三次元物体を層ごとに造形するためのプロセスに記載されている熱可塑性ポリマー粉末の使用を以下に説明する。
【0090】
電磁放射線は、例えば、赤外線、紫外線、又は好ましくはレーザ放射線でありうる。特に、図1に概略的に示されているようなデバイス1では、電磁放射線は、赤外線100とレーザ放射線200との組合せを含むことができる。
【0091】
焼結プロセスは、三次元物体80を造形するための層ごとの製造プロセスである。
【0092】
デバイス1は、熱可塑性ポリマー粉末を収容する供給タンク40と可動水平プレート30が配置される焼結チャンバ10を備える。水平プレート30は、造形される三次元物体80の支持体として機能することもできる。それにもかかわらず、熱可塑性ポリマー粉末から製造された物体は、概して追加の支持体を必要とせず、概して、前の層の未焼結粉末によって自己支持することができる。
【0093】
このプロセスによれば、熱可塑性ポリマー粉末が供給タンク40から引き出され、水平プレート30上に堆積され、造形される三次元物体80の構成粉末の薄層50が形成される。粉末層50は、赤外線100によって加熱されて、所定の最低造形温度Tに等しい実質的に均一な温度に達する。
【0094】
粉末層50のさまざまな点で熱可塑性ポリマー粉末の粒子を焼結するのに必要なエネルギーは、その後、物体の形状に対応する形状に従って、平面(xy)内のモバイルレーザ20のレーザ放射200によって寄与される。融解粉末は再凝固して焼結部品55を形成するが、層50の残りの部分は未焼結粉末56の形で残る。概して、粉末を確実に焼結するには、単一のレーザ放射200の単一パスで十分である。それにもかかわらず、幾つかの実施形態では、粉末の焼結を確実にするために、同じ場所を数回通過すること及び/又は同じ場所に複数の電磁放射が当たることも想定することができる。
【0095】
続いて、水平プレート30が粉末層の厚さに相当する距離だけ軸(z)に沿って下降し、新しい層が堆積される。レーザ20は、物体のこの新しいスライスに対応する形状に従って粉末粒子を焼結するのに必要なエネルギーを提供するなどである。この手順は、物体80が製造されるまで繰り返される。
【0096】
焼結チャンバ10内の、構築される層の下の層の温度は、造形温度よりも低くてもよい。しかしながら、この温度は概して、粉末のガラス転移温度よりも高いままであり、実際には転移温度よりはるかに高い。チャンバの底部の温度を、TがTより40℃未満だけ低い、好ましくは25℃未満だけ低い、さらに好ましくは10℃未満だけ低い、「タンク底部温度」として知られる温度Tに維持することが特に有利である。
【0097】
物体80が完成すると、それは水平プレート30から取り外され、未焼結粉末56は、少なくとも部分的に供給タンク40に戻されてリサイクル粉末として機能する前に、篩にかけられる。粉末のリサイクルは、造形温度Tが概して従来の造形プロセスよりも低いという事実によって可能となり、これにより、焼結による少なくとも1つの造形の温度条件に供された未焼結粉末の劣化を軽減することが可能となる。リサイクルされた熱可塑性ポリマー粉末は、そのまま使用することも、新しい粉末とブレンドして使用することもできる。
【0098】
特に、熱可塑性ポリマー粉末が粉末P1と粉末P2とのブレンドからなる実施形態では、造形温度は、粉末P1からなる組成物(本発明によるものではない)を使用する従来の造形プロセスに用いられる温度よりも低くなりうる。これにより、その後の造形における未焼結粉末組成物のリサイクルの改善を想定することが可能となる。有利には、再利用される粉末のブレンドは、従来の造形プロセスの造形温度よりも低い造形温度Tを維持するために、新鮮な粉末P及び/又はP2とブレンドされる。
【0099】
本発明は、以下の実施例においてさらに詳細に説明される。
【実施例
【0100】
以下の実施例では、異なる粒径分布と熱シグネチャを示す幾つかの熱可塑性ポリマー粉末を、焼結による3D印刷での挙動に関して検査した。
【0101】
実施例1
参考として、Arkema France社からRilsan(登録商標)Invent Natural(RIN)の名称で販売されている、3D印刷用に配合されたポリアミド11粉末を使用した。
【0102】
ポリアミド11粉末の熱シグネチャを、ISO規格11357-3:2013に準拠して、TA Instruments Q2000熱量計で行われる示差走査熱量測定(DSC)によって特性評価した。図2に示されるサーモグラムでは、点線はベースラインを表し、実線は変曲点における融解ピークの辺の接線を表す。温度Teim及びTefmは、ベースラインが辺の接線と交差する温度である。温度Tpmは融解ピークの最低温度である。温度Tpm、Teim、及びTefmは、図2に示されるサーモグラムから決定され、下記表2に示されている。
【0103】
さらに、この粉末は、Malvern Insitec回折計及びRTSizerソフトウェアでのレーザ回折によって、ドライルートで、ISO規格13320:2009に準拠して、7.5バールの圧力と10m/hの空気流量とを選択し、そのDv50平均直径が49μm、そのDv10平均直径が23μm、及びそのDv90平均直径が90μmであることを特徴とする。
【0104】
実施例2
可塑性ポリマー粉末は、Arkema France社からRilsan(登録商標)Invent Naturalの名称で販売されている、90重量%のポリアミド11粉末を、以下のプロセスに従って得られた10重量%の熱処理したポリアミド11とドライブレンドすることによって調製した。
【0105】
まず、0.5kgの水、5gの次亜リン酸、及び9.8gのリン酸の存在下、1.2kgの11-アミノウンデカン酸からポリアミド11プレポリマーを合成した。温度が160℃に達するか、又は圧力が8.5バールを超えるとすぐに、混合物を撹拌しながら2時間で190℃の温度に加熱した。合成中、最初に11-アミノウンデカン酸を加えた水を、定圧(P=10バール)でエバポレーションすることによって除去した。430gの水を取り出した後、融解したプレポリマーを二軸押出機で押出した。続いて、冷水を循環させつつ、2つのスチールローラを使用して混合物を冷却し、固化させ、冷却し、粉砕してフレークを得た。
【0106】
続いて、回収したプレポリマーを、49μmの体積メジアン径Dv50を有する粉末が得られるまで、内部セレクターを備えたハンマーミルで粉砕する。続いて、このようにして得られた粉末を、真空下、180℃の乾燥機内で固相重縮合に供して、ポリアミドの粘度を1.1dl/gに増加させる。
【0107】
続いて、得られたポリアミド11粉末を、150μm四方のメッシュ上で篩い分けした。
【0108】
得られた粉末は、表2に示される温度Tpm、Teim、及びTefmを特徴とする熱シグネチャを示す。これらの温度は、ISO規格11357-3:2013に準拠して、TA Instruments Q2000熱量計において示差走査熱量測定(DSC)で測定したサーモグラムから決定した。図3に示されるサーモグラムでは、点線はベースラインを表し、実線は変曲点における融解ピークの辺の接線を表す。温度Teim及びTefmは、ベースラインが辺の接線と交差する温度である。温度Tpmはピークの最低温度である。接線の角度は、融解ピークに先立つ低温の広がりを考慮するために調整されている。
【0109】
さらに、この粉末は、実施例1で説明したように、Malvern Insitec回折計上、ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で、そのDv50平均直径が49μm、そのDv10平均直径が23μm、及びそのDv90平均直径が90μmであることを特徴とする。
【0110】
実施例3
熱可塑性ポリマー粉末は、Arkema France社からRilsan(登録商標)Invent Naturalの名称で販売されている、90重量%のポリアミド11粉末を、Arkema社からOrgasol Invent Smoothの名称で販売されている、31μmのDv10、40μmのDv50、及び50μmのDv90を示す、10重量%のポリアミド12とドライブレンドすることによって調製した。
【0111】
得られた粉末は、表2に示される、2つの融解温度Tf及びTfを特徴とする熱シグネチャを示す。これらの温度は、ISO規格11357-3:2013に準拠して、TA Instruments Q2000熱量計において示差走査熱量測定(DSC)で測定した、図4に示されるサーモグラムから決定した。2つの融解ピークTf及びTf間の差は19℃である。TfのエンタルピーのTfのエンタルピーに対する比は、0.1である。
【0112】
さらに、この粉末は、実施例1で説明したように、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計上、ISO規格13320:2009に準拠したレーザ回折で、そのDv50平均直径が49μm、そのDv10平均直径が23μm、及びそのDv90平均直径が90μmであることを特徴とする。
[表1]
[表2]
【0113】
3D印刷における粉末の挙動
その後、得られたポリマー粉末を使用して、粉末層の厚さを100μmに調整しつつ、レーザ焼結による3D印刷によって、P100マシン(EOSによって販売される)で試験片1BA XY(ISO規格527-1BAに基づく、試験片1BA、プリンタの水平面に印刷されることから「XY」と呼ばれる)を製造した。用いられる印刷パラメータは次のとおりである:
レーザ出力:24W
レーザ速度:3000mm/秒
2つのレーザパス間の距離:0.25mm
【0114】
一方では、実施例2の粉末は、粉末1の温度より9℃低い造形温度で焼結することができることが判明した(粉末1の183℃に対し、実施例2の粉末では174℃)。それにも関わらず、粉末1及び2から得られた試験片は同等の機械的特性を有していた。実際、造形温度の低下により、造形プロセス中の熱劣化が少ない粉末2を再利用することが大幅に可能となり、このため、3D印刷用の材料コストを大幅に削減することができる。
【0115】
他方では、実施例3の粉末によっても、粉末1の温度よりも低い造形温度で良好な品質の試験片を得ることが可能になることが観察された。その結果、したがって、離れすぎない限り、幾つかの融解ピークの存在を利用することが可能である。
【0116】
これらの例は、40℃未満だけ離れた2つの融解ピークの存在、及び関連する融解エンタルピーΔHf1とΔHf2との間の比が<0.5を示すことを特徴とする、特定の粒径分布を示す粉末が複雑な熱シグネチャと組み合わされていることで、3D印刷中の造形温度を下げることが可能となり、したがって、熱劣化が制限され、その理由から材料コストを抑えることができることを示している。
【0117】
[引用文献リスト]
[米国特許第6136948号明細書]
[国際公開第96/06881号]
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】