(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】セルロースパルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20241018BHJP
D01F 2/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D01F2/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024523112
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 FR2022051918
(87)【国際公開番号】W WO2023062316
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524142530
【氏名又は名称】インデュオ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】マージョリー・セゾン
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB04
4L035BB06
(57)【要約】
本発明は、50%超の質量百分率でセルロース繊維を含有する廃棄織物からのセルロースパルプの調製方法に関する。本方法は、廃棄織物を細断して細断された繊維と残留物との第1の混合物を得る工程と、第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部を分離してセルロース繊維の質量割合が第1の混合物中のセルロース繊維の質量割合よりも高い第2の混合物を得る工程と、第2の混合物を濾過してセルロース繊維を含有する固体相を回収する工程と、固体相のセルロース繊維を溶解させて溶解していない粒子を含有するセルロースパルプを得る工程と、セルロースパルプを濾過して溶解していない粒子から分離されたセルロースパルプを得る工程とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%超の質量百分率でセルロース繊維を含む廃棄織物からのセルロースドープの製造方法であって、以下の工程:
(S1)廃棄織物を細断して、細断された繊維と残留物との第1の混合物を得る工程、
(S2)第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部を分離して、セルロース繊維の質量百分率が第1の混合物中のセルロース繊維の質量百分率よりも高い第2の混合物を得る工程、
(S3)第2の混合物を濾過して、セルロース繊維を含む固体相を回収する工程、
(S4)固体相のセルロース繊維を溶解させて、溶解していない粒子を含むセルロースドープを得る工程、及び
(S5)セルロースドープを濾過して、溶解していない粒子から分離されたセルロースドープを得る工程
を含む、セルロースドープの製造方法。
【請求項2】
工程(S4)が、
- セルロース繊維を含む固体相を、水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液と接触させて、アルカリ性セルロース繊維の固体相を得る工程(S4-11)、
- アルカリ性セルロース繊維の固体相を加圧して、過剰量のアルカリ溶液を除去し、アルカリ性セルロース繊維の密度が高い固体相を得る工程(S4-12)、
- 工程(S4-12)の終わりで得られる固体相よりも密度が低いアルカリ性セルロース繊維の固体相を得るために、工程(S4-12)の終わりで得られるアルカリ性セルロース繊維の固体相を粉砕する工程(S4-13)、
- 工程(S4-13)の終わりで得られるアルカリ性セルロース繊維を含む固体相をエージングする工程(S4-14)、
- エージングされたアルカリ性セルロース繊維の固体相を二硫化炭素と接触させて、セルロースキサントゲン酸繊維の固体相を得る工程(S4-15)、
- セルロースキサントゲン酸繊維の固体相を、水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液と接触させて、溶解していない粒子を含むセルロースドープを得る工程(S4-16)、及び
- 溶解していない粒子を含むセルロースドープを熟成させる工程(S4-17)
を含む、請求項1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項3】
工程(S4)が、
- セルロース繊維を含む固体相を、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)を含む水溶液と接触させる工程(S4-21)、及び
- (NMMO)を含む水溶液及びセルロース繊維を含む固体相に含まれる水を蒸発させる工程(S4-22)
を含む、請求項1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項4】
廃棄織物が、85%未満の質量百分率でセルロース繊維を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項5】
工程(S2)が、第1の混合物をアルカリ水溶液と接触させることにより、前記第1の混合物の非セルロース成分の一部を溶解させることよって実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項6】
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液であり、前記水酸化ナトリウムの質量百分率が3から25%の間である、請求項5に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項7】
工程(S2)が50から150℃の間の温度において実施される、請求項5又は6に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項8】
工程(S2)が15から240分の間の時間区間で実施される、請求項5~7のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項9】
アルカリ水溶液が相転移触媒を含み、前記相転移触媒が四級アンモニウムである、請求項5~8のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項10】
四級アンモニウムがベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムブロマイド、又はそれらの混合物である、請求項9に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項11】
四級アンモニウムがベンジルトリブチルアンモニウムクロライドであり、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライドの質量百分率が0.1から2%の間である、請求項10に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項12】
工程(S5)が、孔の大きさが5から100μmの間であるフィルターを使用して実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶解したセルロースドープ(cellulose dope)、特に廃棄織物から作られるセルロースドープを製造する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で、何百万トンもの廃棄織物の繊維が毎年生み出されている。例えば、購入された衣類の85%が購入から1年以内に廃棄されていると推定されている。この廃棄織物の多くは、コットン繊維と、主にポリエステル繊維である合成繊維との混合物に基づく廃棄織物を含む。服飾産業では、コットンに基づく衣類は、例えば市場の35%を占める。
【0003】
コットン繊維は、多くの植物種で見出される天然に存在するポリマーであるセルロースから構成されている。セルロースは、植物バイオマスの35から50%を占めており、このことがセルロースを植物バイオマスで最もありふれた化合物にしている。コットンシードの毛には、ほぼ純粋な形態で、繊維状で存在する。これらのコットン繊維はコットン植物から収穫され、長い撚り合わされたセルロースポリマー鎖からなる。これらの繊維は紡糸され、着色されて、最終的に織られ、編まれ、織物へと組みあげられる。天然繊維、特にコットンに基づく繊維は、気候変動及び主要な生産地域の政治や社会経済不安のために、一般的に価格が変動する原材料である。
【0004】
コットン栽培は、資源及びエネルギーを多く消費する作物である。例えば、およそ500グラムのコットン繊維を生産するためにはおよそ3000リットルの水が必要であると推定されている。加えて、この植物の栽培は、大量の殺虫剤の使用及び広い栽培面積を要し、大量の温室効果ガスを生み出す。農地の需要の高まり、水へのアクセスの減少、及び世界人口の増大、それゆえのコットンの需要の高まりを受けて、コットン生産のコストは上昇している。このように、コットンの生産は、持続可能でないとみられており、将来的にコットンは利益を生み出さなくなると想定されている。
【0005】
したがって、コットンを含む廃棄織物からコットンを再利用する方法を探す必要がある。しかし、コットンを含む織物は、主にコットン繊維と合成繊維との混合物の形で存在する。したがって、コットンを再利用するためには、織物中に潜在的に存在する合成繊維及び化学物質からコットンを分離することが必要である。しかし、これらの織物は、それらの組成及びリサイクル方法の能力のため、リサイクルが難しいという欠点を有する。したがって、コットン繊維及び合成繊維に基づく織物は、通常中古品として販売されるか、又は低品質の織物として再利用するために引き裂かれる。
【0006】
しかし、コットン繊維及び合成繊維に基づく織物をリサイクルする最近のいくつかの方法は、より良い結果を示している。それらは、コットンのセルロースを溶解させて合成繊維からセルロースを単離することにより実施される。この方法の大きな欠点は、得られるセルロースが低品質であることである。実際、廃棄織物中に存在する化学物質又は合成繊維等の大量の不純物は、溶解したセルロース溶液中に存在し、再生セルロース繊維の品質を劣化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、他の材料の中でもコットン繊維及び合成繊維を含み、より高品質のセルロースドープ(cellulose dope)を製造することを可能にする、織物をリサイクルする方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は上記の状況を改善する。
【0010】
50%超の質量百分率でセルロース繊維を含む廃棄織物からセルロースドープを製造する方法であって、
- S1 廃棄織物を細断して細断された繊維と残留物との第1の混合物を得る工程、、
- S2 第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部(a portion)を分離してセルロース繊維の質量百分率(パーセンテージ)が第1の混合物中のセルロース繊維の質量百分率よりも高い第2の混合物を得る工程、
- S3 第2の混合物を濾過してセルロース繊維を含む固体相を回収する工程、
- S4 固体相のセルロース繊維を溶解させて、溶解していない粒子を含むセルロースドープを得る工程、及び
- S5 セルロースドープを濾過して、溶解していない粒子から分離されたセルロースドープを得る工程
を含む方法が提案される。
【0011】
本発明による方法は、多量の非セルロース繊維を含む廃棄織物から高品質のセルロースドープを得ることを可能にする。これは、リサイクルするための織物のより広い種類の利用を可能にする。上記の分離工程及び濾過工程は、非セルロース繊維の除去のおかげで、この品質のセルロースドープを得ることを可能にする。
【0012】
他の任意選択による且つ非限定的な特徴は以下のとおりである。
【0013】
廃棄織物は、85%未満、又は更には80%未満の質量百分率でセルロース繊維を含んでいてもよい。
【0014】
廃棄織物は、セルロース繊維、ポリエステル繊維、及びその他の種類の合成繊維を含んでいてもよい。
【0015】
上記の方法は、工程S1の前に、又は工程S1と同時に、ボタン及びジッパー等の硬い部分を除去する(以下、「平滑化」(smoothing)と表記する)ことによって廃棄織物を調製する工程S0を更に含んでいてもよい。
【0016】
工程S1は、ナイフシュレッダー又はボールミル等の細断装置によって実施される。
【0017】
工程S2は、第1の混合物から非セルロース成分の一部を化学的に分離する工程を含んでいてもよい。工程S2は、第1の混合物の非セルロース成分の一部を溶解させる工程により実施されてもよい。第1の混合物の非セルロース成分の一部の溶解は、第1の混合物をアルカリ水溶液と接触させることにより実施されてもよい。上記アルカリ水溶液は、水酸化物イオンを含有するアルカリ水溶液であってもよい。上記アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、又は水酸化カリウムを含んでいてもよい。上記アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムの質量百分率が3から25%の間、特に5から15%の間、好ましくは6から10%の間、より具体的には8%であってもよい水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液であってもよい。工程S2は、50から150℃の間、好ましくは70から100℃の間の温度で実施されてもよい。より具体的には、工程S2は、ある場合には、70から90℃の間の温度で、或いは、他のある場合には、80℃から100℃の間の温度で実施されてもよい。工程S2は、40から240分の間、好ましくは40から90分の間、より具体的には90分の時間区間(time interval)で実施されてもよい。ある場合には、工程S2は、15から240分の間、好ましくは20から60分の間、より具体的には30分の間の時間区間(time interval)で実施されてもよい。アルカリ水溶液は更に、相転移触媒を含有していてもよい。相転移触媒は、四級アンモニウム、例えば、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムブロマイド、又はそれらの混合物、特にベンジルトリブチルアンモニウムクロライドであってもよい。相転移触媒の質量百分率は、0.1から2%の間、特に0.5%から2%の間であってもよい。より具体的には、転移触媒の質量百分率は、ある場合には0.7%であってもよく、或いは、他のある場合には、1から2%の間、好ましくは1.25から1.75%の間、より具体的には1.61%であってもよい。
【0018】
上記方法は、廃棄織物を脱色する工程S2’を更に含んでもよく、上記脱色工程は、工程S2の前、又は工程S3の後であってもよい。
【0019】
上記の方法は、第2の混合物を細断する第2の細断工程S1’を更に含んでもよく、第2の細断工程は、工程S3の後でもよい。
【0020】
工程S3の終わりに得られるセルロース繊維を含有する固体相は、細断されたセルロース繊維以外の材料を、8%未満、好ましくは5%未満、より具体的には2%未満の質量百分率で含有していてもよい。
【0021】
工程S5は、孔の大きさが5から100μmの間であるフィルターを用いて実施されてもよい。特に、孔の大きさは、ある場合には10から50μmの間であってもよく、より具体的には19μmであってもよく、或いは、他のある場合には、6から60μmの間であってもよく、より具体的には6μmであってもよい。
【0022】
工程S4は、
- セルロース繊維を含有する固体相を、水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と接触させて、アルカリ性セルロース繊維の固体相を得る工程S4-11、
- アルカリ性セルロース繊維の固体相を加圧して、過剰量のアルカリ溶液を除去し、アルカリ性セルロース繊維の密度が高い固体相(compact solid phase)を得る工程S4-12、
- 工程S4-12の終わりに得られる固体相よりも密度が低い(less compact)アルカリ性セルロース繊維の固体相を得るために、工程S4-12の終わりに得られるアルカリ性セルロース繊維の固体相を粉砕(grinding)する工程S4-13、
- 工程S4-13の終わりに得られるアルカリ性セルロース繊維を含有する固体相をエージングする工程S4-14、
- エージングされたアルカリ性セルロース繊維の固体相を二硫化炭素と接触させて、セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)繊維の固体相を得る工程S4-15、
- セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)繊維の固体相を、水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と接触させて、溶解していない粒子を含有するセルロースドープを得る工程S4-16、及び
- 溶解していない粒子を含有するセルロースドープを熟成させる工程S4-17と
を含むことができる。
上記の方法は、紡糸工程S6を更に含んでいてもよく、上記の紡糸工程は湿式紡糸法により実施される。
【0023】
第1の混合物の細断された繊維及び残留物、又はセルロース繊維を含有する固体相のセルロース繊維は、大きさが1mm未満であってもよい。工程S4は、
- セルロース繊維を含有する固体相をN-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)を含有する水溶液と接触させる工程S4-21、
- (NMMO)を含有する水溶液及びセルロース繊維を含有する固体相に含まれる水を蒸発させる工程S4-22
を含んでもよい。
上記の方法は、紡糸工程S6を更に含んでもよく、上記の紡糸工程はドライージェット湿式紡糸法により実施される。
【0024】
工程S5の終わりに得られるセルロースドープは、粘度が2Pa・S以上であってもよい。
【0025】
その他の特徴、詳細及び利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析すれば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、廃棄織物をセルロースドープに転化させる、本発明による方法の工程を表す概略図である。
【
図2】軸がそれぞれ水の質量百分率、セルロースの質量百分率、及びNMMOの質量百分率、並びにリヨセルプロセスを実施する最中のこれらの割合の進展を表す、三角グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<定義>
本発明では、セルロースドープは、当業者にとって既知の最先端材料である。それは通常、溶媒に溶解しているセルロース分子又はセルロース由来の分子を含有する粘性のある溶液であり、セルロース繊維を含まない。したがって、当業者が、用語「セルロースドープ」が何を指すかを明確に理解することは可能である。特に、当業者は、例えば国際公開第2021/181007号に記載されている「溶解パルプ」が「セルロースドープ」ではないことを理解している。「溶解パルプ」は、実際には、流動性がなく、織り合わさったセルロース繊維を含有する材料である。
【0028】
廃棄織物は、2つの主要な供給源からの任意の種類の織物:織物産業からの新品の廃棄織物及び製造スクラップ、及び家庭又は事業者からの使用済みの織物を含む。これらの織物は、任意の種類の織物、例えば、衣類、家庭用リネン、又はラグであってもよい。本発明において理解される廃棄織物は、通常、非フィラメント性成分、例えば、着色顔料、及び非繊維成分、例えば、ボタン又はラベルを含む。
【0029】
本発明は、50%超の質量百分率でセルロース繊維を含有する廃棄織物からセルロースドープを調製する方法であって、
- S1 廃棄織物を細断して細断された繊維と残留物との第1の混合物を得る工程、
- S2 第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部を分離してセルロース繊維の質量百分率が第1の混合物中のセルロース繊維の質量百分率よりも高い第2の混合物を得る工程、
- S3 第2の混合物を濾過してセルロース繊維を含有する固体相を回収する工程、
- S4 固体相のセルロース繊維を溶解させて溶解していない粒子を含有するセルロースドープを得る工程、及び
- S5 セルロースドープを濾過して溶解していない粒子から分離されたセルロースドープを得る工程
を含む方法に関する。
【0030】
このように廃棄織物は、広い範囲内で変動し得るセルロース繊維の質量百分率により特徴づけられる。このように、本発明による方法は、セルロース繊維全体の質量百分率が上述の範囲内にある多くの織物に適用できるという利点を有する。したがって、このことは、上記の方法の前に分別する工程を避けることを可能にし、分別工程は、セルロース繊維を非常に高い質量百分率で含有する廃棄織物のみを収集するために従来の方法において必要とされている。
【0031】
本発明による廃棄織物は、85%未満、又は更には80%未満の質量百分率でセルロース繊維を含有していてもよい。
【0032】
一般に、セルロース繊維は、主に織物製造に用いられるコットンに由来する。セルロース繊維は、その他の材料、例えばビスコース又はリヨセルに由来するものであってもよい。
【0033】
廃棄織物は、セルロース繊維、ポリエステル繊維、及びその他の種類の合成繊維を含むものであってもよい。廃棄織物はまた、非繊維部品(例えば、ボタン、ファスナー、装飾要素)を含むものであってもよい。
【0034】
ポリエステルは、鎖の繰り返し単位がエステル官能基(-C(O)-O-)を含むポリマーのファミリーである。ポリエステルは、一般的にセルロース繊維と混合することで織物の品質が向上する。たしかに、セルロース繊維及びポリエステル繊維に基づく織物は、両種類の繊維の利点を有し、他方でそれらのそれぞれの欠点を軽減する。最も一般的に使用されているポリエステルの例としては、半芳香族系コポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びテレフタル酸とエチレングリコールとの共重合体が挙げられる。当業者は、どのポリマーがポリエステルファミリーに属するかを決定することができる。
【0035】
ポリエステル繊維以外の合成繊維は、合成材料から製造される繊維である。これらの合成材料は、ほぼ、炭化水素から得られる生成物のみである。ポリエステル繊維以外の合成繊維は特にポリアミド繊維、クロロ繊維、アクリル繊維、ビニル繊維、エラスタン、アラミド繊維、又はポリエチレン繊維であってもよい。
【0036】
ここで、
図1を参照する。
図1は、本発明による廃棄織物からセルロースドープを調製する方法の工程を表す図を概略的に示している。上記の工程を、任意選択による工程も含めて、完了する順に説明する。
【0037】
セルロースドープの調製方法は、工程S1の前に又は工程S1と同時に廃棄織物を平滑化させる工程S0を更に含んでもよい。
【0038】
平滑化工程は、特に縫い目及び硬いポイント、例えばボタン又はジッパーを廃棄織物から除去する工程からなる。この工程は、廃棄織物から非フィラメント性成分を除去できるという利点を有する。この平滑化工程は、手作業により、又は硬いポイントを引き抜く装置を用いて自動で実施されてもよい。
【0039】
一つの実施形態によれば、平滑化工程S0は、引きちぎり装置、例えば/Laroche Cadette又は/Laroche Exel型の装置を用いて実施される。
【0040】
細断工程S1:
本発明によれば、細断工程S1は、廃棄織物を細断して細断された繊維及び残留物の第1の混合物を得る工程を含む。
【0041】
細断工程S1は、特に廃棄織物を粉末及び/又はフィラメントに細断することを可能にする。廃棄織物の予備的な細断が、最終的にはセルロースドープの品質を向上させると思われる。工程S1の後、粉末及び/又はフィラメント状の細断された繊維と残留物との第1の混合物が収集される。
【0042】
工程S1は、ナイフシュレッダー又はボールミル等の細断装置を用いて実施することができる。
【0043】
上記装置は、廃棄織物等の繊維材料を細断するのに特に好適である。これらの2種類の装置は、細断された材料の細かさを非常に良好に制御することを可能にする。
【0044】
細断された繊維と残留物との第1の混合物はまた、例えば水で洗浄することもできる。
【0045】
分離工程S2:
本発明によれば、分離工程S2は、第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部を分離して、セルロース繊維の質量百分率が第1の混合物中のセルロース繊維の質量百分率よりも高い第2の混合物を得る工程を含む。
【0046】
このように、この工程は、非セルロース繊維の比率が低減された第2の混合物を収集することを可能にする。この工程は、廃棄織物中の他の成分からセルロース繊維を部分的に分離できるという利点を有する。したがって、セルロースドープの調製を可能にする処理に付すことができる上記の繊維は、セルロースがより高濃度であるために、より高品質のセルロースドープの調製につながる。
【0047】
工程S2は、第1の混合物から非セルロース成分の一部を化学的に分離する工程であってもよい。
【0048】
「化学的に分離する工程」は、ある要素が、通常は状態変化を伴いながら1つ又は複数の他の要素に変換されることによって分離される化学分離メカニズムを用いる分離工程を意味すると理解される。化学的分離は、機械的分離よりも効率的であり、かつセルロース繊維に対する損傷が少ないという利点をもたらす。たしかに、機械的分離工程は、セルロース繊維及び合成繊維が密接に混合している場合、特にそれらが一緒に紡糸され、又は一緒に織られている場合の廃棄織物にはあまり適していない。このように、化学的分離工程は、異なる要素の異なる化学的特性によって他の要素から廃棄織物の1つの要素を選択的に分離することを可能にする。
【0049】
一つの実施形態によれば、工程S2は、第1の混合物の非セルロース成分の一部を溶解させることにより実施される。
【0050】
この溶解工程は、特にセルロース繊維及び溶解していない非セルロース繊維で構成される固体相、及び溶解した非セルロース繊維を含有する液体相を含む第2の混合物を生成することを可能にする。一部の非セルロース成分の溶解は、溶解した非セルロース成分が、セルロース繊維の相とは別の相に存在するため、特により効率的な分離を可能にする。
【0051】
一つの実施形態によれば、第1の混合物の非セルロース成分の一部の溶解は、第1の混合物をアルカリ水溶液と接触させることにより実施される。
【0052】
アルカリ水溶液は、特に第1の混合物からのポリエステル繊維の抽出を可能にする。たしかに、繊維のアルカリ水溶液との接触は、ポリエステルを溶解させ、それを解重合する効果を有する。特に、PETはアルカリ水溶液の作用の下で解重合し、その構成モノマー:テレフタル酸及びエチレングリコールを生成する。第1の混合物に対するアルカリ水溶液の作用は、アルカリ水溶液、テレフタル酸、及びエチレングリコールから構成される液体相、及びセルロース繊維及び溶解していない非セルロース繊維から構成される固体相を生成することを可能にする。一般的に、この工程の終わりには、質量百分率が90から100%、好ましくは100%の量のポリエステルが除去される。
【0053】
アルカリ水溶液は、水酸化物イオンを含むアルカリ水溶液であってもよい。
【0054】
上記の場合では、アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、又は水酸化カリウムを含有してもよい。
【0055】
水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化カリウムは強塩基である。したがって、それらは、ポリエステル、特にPETのほぼ全てを、そうでない場合は全てを溶解させることを可能にする。このように、セルロース繊維及び溶解していない非セルロース繊維から構成される固体相は、ポリエステル、特にPETを含有しない。
【0056】
水溶液中の強塩基のモル濃度は、1.25から3.75モル/Lの間、好ましくは1.5から2.5モル/Lの間、より具体的にはある場合には2モル/L、又は他のある場合には2.5モル/Lであってもよい。
【0057】
アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液であってもよい。水酸化ナトリウムの質量百分率は、5から15%の間、好ましくは6から10%の間、より具体的にはある場合には8%、又は他のある場合には10%であってもよい。
【0058】
アルカリ水溶液の量は、細断された繊維及び残留物の量によって選択されうる。細断された繊維及び残留物の量が多いほど、アルカリ水溶液の量も多くなりうる。アルカリ水溶液中の塩基の質量百分率は、好ましくは塩基が第1の混合物中のPETの質量に対して過剰量になるように選択される。
【0059】
工程S2は、50から150℃の間、好ましくは70から100℃の間の温度で実施されてもよい。より具体的には、工程S2は、ある場合には、70から90℃の間の温度で、或いは、他のある場合には、80℃から100℃の間の温度で実施されてもよい。
【0060】
工程S2の加熱工程は、還流加熱によって実施されてもよい。
【0061】
工程S2は、40から240分の間、好ましくは40から90分の間、より具体的には90分の時間区間で実施されてもよい。
ある場合には、工程S2は、15から240分の間、好ましくは20から60分の間、より具体的には30分の時間区間で実施されてもよい。
【0062】
工程S2の時間は、ほぼ全ての、そうでない場合は全てのポリエステル繊維、特にPETが溶解するように選択されうる。時間があまりに短い場合は、大部分のポリエステルが固体状で残存しうる可能性がある。
【0063】
アルカリ水溶液は、更に相転移触媒を含有してもよい。
【0064】
相転移触媒の使用は、反応を加速化させることを可能にする。特に、1つの初期の相から別の相、例えば固体相から液体相へと化学種を変換する化学反応を加速させる。主要な相転移触媒はホスホニウム塩又は四級アンモニウム塩である。相転移触媒の添加は、収率を向上させるだけでなく、アルカリ水溶液に含有される塩基によるコットンの劣化を減らすことを可能にする。
【0065】
相転移触媒は、四級アンモニウム、特にベンジルトリブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)、トリオクチルメチルアンモニウムブロマイド(TOMAB)、又はそれらの混合物、特にBTBACであってもよい。
【0066】
アルカリ水溶液中の相転移触媒のモル濃度は0.005から0.13モル/Lの間であってもよい。特に、このモル濃度は、ある場合には、0.04から0.08モル/Lの間、好ましくは0.05から0.075モル/Lの間であってもよく、より具体的には0.07モル/Lであってもよく、或いは、他のある場合には、0.025から0.07モル/Lの間であってもよく、より具体的には0.025モル/Lであってもよい。
【0067】
例えば、触媒がBTBACである場合、アルカリ水溶液中の相転移触媒の質量百分率は、0.1から2%の間、特に0.5%から2%の間であってもよい。より具体的には、BTBACの質量百分率は、ある場合には0.7%であってもよく、或いは、他のある場合には、1から2%の間、好ましくは1.25から1.75%の間であってもよく、より具体的には1.61%であってもよい。
【0068】
本発明によるセルロースドープの調製方法は、廃棄織物の脱色工程S2’を更に含んでいてもよく、上記の脱色工程は分離工程S2の前又は後であってよい。
【0069】
上記の脱色工程は、廃棄織物を脱色する、すなわち着色顔料等の有色織物に使用される非フィラメント性成分を除去する、又は不活化することを可能にする。したがって、上記脱色工程は、着色剤の除去又は分解により第1の混合物又は第2の混合物の繊維の白色度を調節することを可能にする。
【0070】
工程S2’は、酸化による脱色、還元による脱色、酸処理又は塩基性処理による脱色、又は酵素的脱色による脱色、好ましくは酸化による脱色、還元による脱色、又は酸処理又は塩基性処理による脱色によって達成されうる。
【0071】
工程S2’は、2工程、3工程、4工程、又は5工程で実施されてもよい。
【0072】
工程S2’の工程は、酸処理、水酸化ナトリウム処理、過酸化水素処理、オゾン処理、及び亜ジチオン酸ナトリウム処理のなかから選択してもよい。
【0073】
本発明によるセルロースドープの調製方法は、第2の混合物を細断する第2の細断工程S1’を更に含んでもよく、上記の第2の細断工程は、工程S3の後であってもよい。
【0074】
第2の混合物を細断するこの第2の細断工程は、溶解工程S4を容易に実施することができるように、特に固体相の細断の細かさを調節することを可能にする。この工程は、濾過工程S3の後に実施される。上記の方法が工程S2の後に脱色工程S2’を含む場合、細断工程S1’は好ましくは脱色工程S2’の後に実施される。
【0075】
工程S1’は、ナイフシュレッダー又はボールミル等の細断装置により実施することができる。
【0076】
濾過工程S3:
本発明によれば、濾過工程S3は、第2の混合物を濾過して、セルロース繊維及びその他の材料を含有する固体相を回収する工程を含む。
【0077】
濾過工程S3は、第2の混合物の液体相から固体相を分離してセルロース繊維がより濃縮された固体相を回収することを可能にする。
【0078】
工程S3は、工程S1又は工程S1’において達成される細断の細かさよりも小さい孔を有するフィルターにより実施されうる。
【0079】
好ましくは、工程S3の終わりで得られるセルロース繊維を含有する固体相は、8%未満、好ましくは5%未満、より具体的には2%未満の質量百分率でセルロース繊維以外の材料を含有する。
【0080】
セルロース繊維以外のこれらの材料は、特に、ポリアミド、エラスタン、毛(wool)、又は絹であってもよい。これらの材料は工程S2において溶解しないので、固体相中に残存する。したがって、セルロース繊維以外の材料の質量百分率は非常に低いので、不純物の含有量の少ない、高品質のセルロースドープを調製することを可能にする。
【0081】
セルロース繊維を含有する固体相は、更に、例えば酢酸の水溶液で洗浄してもよい。その後、それを濾過した後に、例えば蒸留水で洗浄してもよい。その後、それを濾過した後に、乾燥させてもよい。
【0082】
溶解工程S4:
本発明によれば、溶解工程S4は、固体相のセルロース繊維を溶解させて、溶解していない粒子を含有するセルロースドープを得る工程を含む。
【0083】
溶解工程S4は、セルロース繊維を溶解させてセルロースドープを回収することを可能にする。セルロースドープは、溶解していない粒子、例えば溶解工程中に反応しなかった上述の不純物、及び溶解した粒子を含む。溶解していない不純物は少ないが、それでもセルロースドープから除去される必要がある。
【0084】
溶解工程は、当業者に知られている2つのプロセス:最初に説明される「ビスコース」プロセスと、2番目に説明される「リヨセル」プロセスに従い、2通りの方法で実施されてもよい。
【0085】
ビスコースプロセスによる溶解工程S4
ビスコースプロセスによれば、工程S4は、
- セルロース繊維を含有する固体相を、水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と接触させてアルカリ性セルロース繊維の固体相を得る、マーセライズ加工と称される工程S4-11、
- アルカリ性セルロース繊維の固体相を加圧して過剰量のアルカリ溶液を除去し、アルカリ性セルロース繊維の密度が高い固体相を得る工程であって、セルロースの質量百分率が20から40%、好ましくは25%から35%、より具体的には約30%である工程S4-12、
- 工程S4-12の終わりで得られる固体相よりも密度が低い、すなわち密度が80から180g/Lの間であるアルカリ性セルロース繊維の固体相を得るために、工程S4-12の終わりに得られるアルカリ性セルロース繊維の固体相を粉砕する工程S4-13、
- 工程S4-13の終わりで得られるアルカリ性セルロース繊維を含有する固体相をエージングする工程S4-14、
- エージングされたアルカリ性セルロース繊維の固体相を二硫化炭素と接触させてセルロースキサントゲン酸繊維の固体相を得る工程S4-15、
- セルロースキサントゲン酸繊維の固体相を、水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と接触させて、溶解していない粒子を含有するセルロースドープを得る工程S4-16、及び
- 溶解していない粒子を含有するセルロースドープを熟成させる工程S4-17
を含む。
【0086】
工程S4-11は、固体相のセルロース繊維をアルカリ水溶液と反応させる。好ましくは、アルカリ水溶液に含有される塩基は強塩基である。この工程は、セルロース繊維を、アルカリ水溶液に含有される塩基に含浸させて、セルロース繊維単体と比較して膨潤したアルカリ性セルロース繊維を生成させることを可能にする。
【0087】
水酸化ナトリウムの質量は、水酸化ナトリウムがセルロース繊維を含有する固体相の質量に対して過剰量となるように選択してもよく、それはセルロース繊維の膨潤度を確実に最大化する。工程S4-11のアルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムの質量百分率が15から25%の間である水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液であってもよい。
【0088】
工程S4-11は、30から50℃の間の温度において、20から60分の間の時間区間で実施されてもよい。
【0089】
上記の溶液は、工程S4-12において加圧されて過剰量の水酸化ナトリウムが除去され、工程S4-13において粉砕される。その後、アルカリ性セルロース繊維は、工程S4-14において、酸素雰囲気下で、例えば3時間40分、或いはある場合には15時間30分エージングされる。
【0090】
工程S4-15において、アルカリ性セルロース繊維が二硫化炭素と接触することによって処理されて、セルロースキサントゲン酸繊維が形成される。
【0091】
二硫化炭素の質量は、セルロース繊維の溶解に影響する可能性がある。二硫化炭素の質量は、セルロース繊維を含有する固体相の初期の質量の少なくとも30%に等しいことが好ましい。二硫化炭素のアルカリ性セルロース繊維に対する質量比は0.2から0.5の間であることが好ましい。
【0092】
工程S4-15の時間は、セルロースキサントゲン酸繊維の転化に影響を及ぼす。したがって、工程S4-15の時間は、セルロース繊維がセルロースキサントゲン酸繊維に多く転化するように選択される。セルロースキサントゲン酸繊維のガンマ価は、25から50%の間、好ましくは30から45%の間である。温度もまた、アルカリ性セルロース繊維のセルロースキサントゲン酸繊維への転化に影響する。温度は、二硫化炭素が工程S4-15の最中に気体状で存在するように選択される。このように、工程S4-15は、25から50℃の間、特に25から35℃の間の温度で、100から200分の間の時間区間で実施されうる。これらの操作条件は、工程S4-15を真空下で実施するには好適である。
【0093】
工程S4-16は、セルロースキサントゲン酸繊維をアルカリ水溶液と接触させることにより、それを溶解させる。その後、セルロースキサントゲン酸塩は、セルロースドープと称される粘性のあるペースト状で存在する。このセルロースドープはまた、上述の溶解した不純物及び溶解していない不純物も含有する。
【0094】
一つの実施形態によれば、工程S4-16のアルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムの質量百分率が2から15%の間、特に5から15%の間である水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液である。
【0095】
セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)繊維の溶解は、セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)を塩基と接触させること、及び混合することより達成される。当業者は、質量百分率が5から12%の間であるセルロース、及び質量百分率が2から8%の間、特に4から6%の間である塩基を含有するセルロースドープを得るために、塩基の濃度をどのように調節するかを知っている。好ましくは、選択される塩基は水酸化ナトリウムである。
【0096】
一つの実施形態によれば、工程S4-16は、0から10℃の間の温度において、150から200分の間の時間区間(time interval)で実施される。
【0097】
工程S4-17において、セルロースドープは、工程S4-16の後、例えば16時間静置される。
【0098】
リヨセルプロセスによる溶解工程S4
リヨセルプロセスによって溶解工程S4が実施される場合は、細断工程S1の間又は実施される場合には細断工程S1’の後、細断工程S1’が実施される場合の細断された繊維と残留物との第1の混合物又は第2の混合物の繊維の大きさが1mm未満となるように廃棄織物が細断されることが必要である。
【0099】
そのような場合は、工程S4は、
- セルロース繊維を含有する固体相を、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)を含有する水溶液と接触させる工程S4-21、
- セルロースを溶解させて、セルロースドープを得るために、NMMO及びセルロースを含有する水溶液中に含まれる水の一部を蒸発させる工程S4-22、
を含む。
【0100】
工程S4-21は、セルロース繊維を、NMMOを含有する水溶液と接触させて、水、NMMO、及びセルロース、並びに不純物を含有する溶液を得ることによってセルロース繊維を分散させて、次の反応を容易にする。
【0101】
NMMOの質量百分率は、NMMO中のセルロースの溶解が可能なゾーンに近くなるように選択されうることが好ましい。水溶液中のNMMOの質量百分率は、好ましくは60から90%の間、好ましくは70から80%の間、より具体的には76%である。
【0102】
工程S4-22は、NMMOを含有する水溶液から水を蒸発させることによってセルロースを溶解させる。水が蒸発した後、上述した溶解した不純物及び溶解していない不純物を含むセルロースドープが得られる。
【0103】
図2は、軸がそれぞれ水の質量百分率、セルロースの質量百分率、及びNMMOの質量百分率、並びにリヨセルプロセスを実施しているあいだのこれらの割合の進展を表す、三角グラフを示している。
【0104】
斜線を付した領域は、NMMO中へのセルロースの溶解範囲を表している。点a)は、溶解前のセルロース繊維及び水を含有する混合物を表している。水の量を減らすことにより、上記混合物は、溶解範囲内に含まれる点b)へ移動して、セルロースが溶解する。セルロースの溶解の間、NMMOがセルロースと完全に反応する点c)に到達するまでNMMOの量は低下する。したがって、点c)の混合物は、水及びセルロースを含有する。蒸発工程S4-22は、点d)に到達するまで水を蒸発させてセルロースを濃縮する。
【0105】
パルプは、どの工程S4が実施されたかによって、異なる粘度を有する。パルプが工程S4-22の終わりで得られる場合、工程S4-17の終わりにおけるよりもずっと高い粘度を有する。
【0106】
濾過工程S5:
本発明によれば、工程S5は、セルロースドープを濾過して、溶解していない粒子から分離されたセルロースドープを得る工程を含む。
【0107】
濾過工程S5は、溶解工程S4の終わりで得られるセルロースドープを濾過して、パルプ状のセルロース及び溶解した不純物を含有するセルロースドープを回収する。このようにして溶解していない不純物はセルロースドープから分離され、より高品質のセルロースドープを得ることを可能にする。工程S5の終わりで得られるセルロースドープは、溶解した微量の不純物を依然として含有する。
【0108】
工程S5は、特にセルロースドープを通すフィルターによって実施されてもよい。フィルターは、大きさが5から100μmの間、特に5から54μmの間、好ましくは10から50μmの間、より具体的には19μm、或いは、ある場合には、6μmである孔を有していてもよい。そのような孔の大きさは、メッシュサイズで、150から3000メッシュの間、特に270から3000メッシュの間、好ましくは300から1500の間、より具体的には789メッシュ、或いは、ある場合には、2500メッシュに相当する。
【0109】
好ましくは、このフィルターは金属フィルターであり、特に金網から形成されており、孔は四角形を有する。したがって、孔の大きさは、四角形の孔の大きさに相当する。そのようなフィルターの孔の細かさは、セルロースドープからほぼ全ての溶解していない不純物を除去することを有利に可能にする。有利なことに、得られるセルロースドープは高品質である。
【0110】
セルロースドープが工程S4-22の終わりで得られる場合、比較的高い粘度を有する。セルロースドープを加熱し、圧力を加えて、セルロースドープをフィルターに通す補助をすることが有利である可能性がある。
【0111】
好ましくは、工程S5の終わりで得られるセルロースドープは、2Pa・Sより高い粘度を有する。
【0112】
ビスコースプロセスに従ってセルロースドープが得られる場合、ISO 12058-1:2018規格に準拠して、直径が14mmのスチールボール、ストップウォッチを用い、20℃の温度において行うことによって、粘度を測定してもよい。
【0113】
リヨセルプロセスに従ってセルロースドープが得られる場合、直径が25mmの平板、平板間隔が1mmの平行平板配置を用いて、90℃で行い、0.5%のトラクションを選択することにより、振動レオメトリーにより、ISO 6721-10:2015規格に準拠してその粘度を測定してもよい。
【0114】
工程S5の終わりで得られるセルロースドープがビスコースプロセスによって事前に溶解していた場合、上記のセルロースドープの調製方法は、紡糸工程S6を更に含んでもよく、紡糸工程は湿式紡糸法によって実施される。
【0115】
一つの実施形態によれば、工程S5の終わりで得られるセルロースドープがリヨセルプロセスによって事前に溶解していた場合、上記のセルロースドープの調製方法は、紡糸工程S6を更に含んでもよく、紡糸工程はドライ-ジェット湿式紡糸法により実施される。
【0116】
紡糸法は、ポリマーフィラメントを形成するための従来法である。この方法は、その2つの変形である、湿式紡糸法及びドライ-ジェット湿式紡糸法として当業者に知られている。
【0117】
紡糸法は、スピンドープ(Spin dope)とも称される、ポリマー溶液を押し出す工程からなる。押し出しは、金型のキャピラリーを通して実施される。ポリマーの溶融温度がその分解温度よりも高い場合、ポリマーは、湿式紡糸法とも称される、溶液中での紡糸がされて、繊維を形成しなければならない。使用される方法が湿式紡糸法である場合、ポリマー溶液は凝固浴槽中で直接押し出され、一方、ドライ-ジェット湿式紡糸法の場合、ポリマー溶液は、凝固浴槽中に浸漬される前に蒸発チャンバーの中へ押し出される。
【0118】
本発明の方法によって調製したセルロースドープを用いて別の方法で、特にコーティングによって、繊維を再生成することも可能である。
【実施例】
【0119】
(実施例1a:ビスコースプロセスによる溶解工程を用いたセルロースドープの調製)
細断工程S1:
セルロース繊維を60%の質量百分率で含有する20gの廃棄織物をナイフシュレッダーに入れる。廃棄織物を細断し、大きさが2cm未満である細断された繊維と残留物との第1の混合物を回収する。
【0120】
分離工程S2:
細断された繊維と残留物との20gの混合物を、予め90℃に加熱した、8質量%の水酸化ナトリウム及び1.61質量%のBTBACを含有する2kgの水溶液中に導入する。その溶液を90℃において1.5時間保持し、且つ100rpmで撹拌する。
【0121】
濾過工程S3:
上記溶液を濾過してセルロース繊維を含む固体相を回収する。固体相を2重量%の酢酸浴中で10分間洗浄する。その後、溶液を濾過して、セルロース繊維を含む固体相を回収する。固体相を蒸留水浴中で10分間洗浄する。溶液を濾過してセルロース繊維を含む固体相を回収した後、オーブン内で105℃において乾燥させる。
【0122】
溶解工程S4:
工程S4-11:
セルロース繊維を含む3gの固体相を、予め40℃に加熱した、質量百分率が18%の水酸化ナトリウムを含む100gの水溶液中に導入する。溶液を100rpmで撹拌しながら、40分間40℃において保持する。
【0123】
工程S4-12:
9gのアルカリ性セルロース繊維が回収されるまで、上記溶液を加圧して過剰量の水酸化ナトリウムを除去する。
【0124】
工程S4-13:
アルカリ性セルロース繊維を粉砕する。
【0125】
工程S4-14:
それらを次に酸素の存在下で50℃において3時間40分エージングさせる。
【0126】
工程S4-15:
アルカリ性セルロース繊維を32℃においてフードの下の密閉反応器に入れる。3gの二硫化炭素を反応器に導入する。反応器を真空下に置き、2.5時間静置して、セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)繊維を生成させる。
【0127】
工程S4-16:
8質量%の水酸化ナトリウムを含有する18gの水溶液を反応器中に導入する。反応器を10分間静置する。反応器の内容物を5℃において3時間撹拌して、セルロースキサントゲン酸(セルロースキサンテート)繊維を溶解させる。
【0128】
工程S4-17:
次に、セルロースドープを反応器から抜き取り、フードの下で、有孔フィルムで被覆された容器内に室温において16時間置いておく。
【0129】
濾過工程S5:
セルロースドープを、加圧濾過が可能な装置に入れる。フィルターの孔は、側長が19μmである四角形である。次に、5barの圧力を加えて、セルロースドープをフィルターに通す。
【0130】
(実施例1b:ビスコースプロセスによる溶解工程を用いたセルロースドープの調製)
実施例1aで実施した手順を、下記変更点と共に、実施例1bにおいて実施する。
分離工程S2のあいだ:水溶液は2kgではなく400g、溶液は1.5時間ではなく40分間90℃において維持する。
工程S4-14のあいだ:粉砕したアルカリ性セルロース繊維を、酸素の存在下で50℃でなく30℃において、3時間40分でなく15時間30分エージングさせる。
濾過工程S5のあいだ:フィルターの孔の側長は6μmである。
【0131】
(実施例2:リヨセルプロセスによる溶解工程を用いたセルロースドープの調製)
実施例1bに記載した方法に基づいて、セルロース繊維を溶解させる工程S4を変更することが可能である。
【0132】
細断工程S1:
実施例1のとおりである。
【0133】
分離工程S2:
実施例1のとおりである。
【0134】
濾過工程S3:
実施例1のとおりである。
【0135】
細断工程S1’:
セルロース繊維を含有する固体相を、ナイフシュレッダーを用いて細断して、大きさが1mm未満のセルロース繊維を含む固体相を得る。
【0136】
溶解工程S4:
工程S4-21:NMMOを50%の質量百分率で含有する116gの水溶液をロータリーエバポレーターのナス形フラスコに入れる。水を真空下で99℃において蒸発させて39gの水を除去する。セルロース繊維を含む10gの固体相を0.26gの没食子酸プロピルと共にナス形フラスコに導入する。
【0137】
工程S4-22:
ナス形フラスコの内容物を、ロータリーエバポレーターを使用して真空下で蒸発させて15gの水を取り除く。
【0138】
濾過工程S5:
予め110℃に加熱したセルロースドープを、加圧濾過が可能な装置に入れる。フィルターの孔は、側長が19μmである四角形である。次に、15barの圧力を加えてセルロースドープをフィルターに通す。
【符号の説明】
【0139】
- S0 平滑化工程
- S1 細断工程
- S1’ 細断工程
- S2 分離工程
- S2’ 脱色工程
- S3 濾過工程
- S4 溶解工程
- S4-11 アルカリ水溶液と接触させる工程
- S4-12 アルカリ性セルロースを加圧する工程
- S4-13 アルカリ性セルロースを粉砕する工程
- S4-14 アルカリ性セルロースをエージングする工程
- S4-15 二硫化炭素と接触させる工程
- S4-16 アルカリ水溶液と接触させる工程
- S4-17 セルロースドープを熟成させる工程
- S4-21 NMMO水溶液と接触させる工程
- S4-22 蒸発工程
- S5 濾過工程
- S6 紡糸工程
【手続補正書】
【提出日】2024-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%超の質量百分率でセルロース繊維を含む廃棄織物からのセルロースドープの製造方法であって、以下の工程:
(S1)廃棄織物を細断して、細断された繊維と残留物との第1の混合物を得る工程、
(S2)第1の混合物から非セルロース成分の少なくとも一部を分離して、セルロース繊維の質量百分率が第1の混合物中のセルロース繊維の質量百分率よりも高い第2の混合物を得る工程、
(S3)第2の混合物を濾過して、セルロース繊維を含む固体相を回収する工程、
(S4)固体相のセルロース繊維を溶解させて、溶解していない粒子を含むセルロースドープを得る工程、及び
(S5)セルロースドープを濾過して、溶解していない粒子から分離されたセルロースドープを得る工程
を含
み、
前記工程(S2)が、第1の混合物を、水酸化物イオンを含有するアルカリ水溶液と接触させることにより、前記第1の混合物の非セルロース成分の一部を溶解させることよって実施され、
前記工程(S4)が、以下の工程:
- セルロース繊維を含む固体相を、水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液と接触させて、アルカリ性セルロース繊維の固体相を得る工程(S4-11)、
- アルカリ性セルロース繊維の固体相を加圧して、過剰量のアルカリ溶液を除去し、アルカリ性セルロース繊維の密度が高い固体相を得る工程(S4-12)、
- 工程(S4-12)の終わりで得られる固体相よりも密度が低いアルカリ性セルロース繊維の固体相を得るために、工程(S4-12)の終わりで得られるアルカリ性セルロース繊維の固体相を粉砕する工程(S4-13)、
- 工程(S4-13)の終わりで得られるアルカリ性セルロース繊維を含む固体相をエージングする工程(S4-14)、
- エージングされたアルカリ性セルロース繊維の固体相を二硫化炭素と接触させて、セルロースキサントゲン酸繊維の固体相を得る工程(S4-15)、
- セルロースキサントゲン酸繊維の固体相を、水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液と接触させて、溶解していない粒子を含むセルロースドープを得る工程(S4-16)、及び
- 溶解していない粒子を含むセルロースドープを熟成させる工程(S4-17)
を含み、
かつ、工程(S4-11)のアルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムの質量百分率が15から25%の間である水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液である、
セルロースドープの製造方法。
【請求項2】
廃棄織物が、85%未満の質量百分率でセルロース繊維を含む、請求項
1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項3】
工程(S2)で使用するアルカリ水溶液が水酸化ナトリウムに基づくアルカリ水溶液であり、前記水酸化ナトリウムの質量百分率が3から25%の間である、請求項
1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項4】
工程(S2)が50から150℃の間の温度において実施される、請求項
1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項5】
工程(S2)が15から240分の間の時間区間で実施される、請求項
1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項6】
工程(S2)で使用するアルカリ水溶液が相転移触媒を含み、前記相転移触媒が四級アンモニウムである、請求項
1に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項7】
四級アンモニウムがベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムブロマイド、又はそれらの混合物である、請求項
6に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項8】
四級アンモニウムがベンジルトリブチルアンモニウムクロライドであり、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライドの質量百分率が0.1から2%の間である、請求項
7に記載のセルロースドープの製造方法。
【請求項9】
工程(S5)が、孔の大きさが5から100μmの間であるフィルターを使用して実施される、請求項
1~8のいずれか一項に記載のセルロースドープの製造方法。
【国際調査報告】