(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】紫外線硬化性エナメル組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20241018BHJP
C08F 20/18 20060101ALI20241018BHJP
C08F 290/00 20060101ALI20241018BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20241018BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20241018BHJP
C08L 51/10 20060101ALI20241018BHJP
C08F 4/00 20060101ALI20241018BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20241018BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F20/18
C08F290/00
C08F292/00
C08K3/40
C08L51/10
C08F4/00
C09D11/101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523155
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 NL2022050568
(87)【国際公開番号】W WO2023068923
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521544562
【氏名又は名称】フェンジ・エイジーティ・ネザーランズ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Fenzi AGT Netherlands B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ローマン,アルベルト イェー ベー
(72)【発明者】
【氏名】マルケ,フィリップ ジェルマン ロベール
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J015
4J026
4J039
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG071
4J002BN191
4J002FD316
4J002GH00
4J011AA05
4J011AC04
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4J026GA02
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4J100AL08P
4J100BC07P
4J100BC28P
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4J100JA07
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4J127BB021
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4J127BB221
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4J127BF611
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4J127BG281
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4J127CB151
4J127CC021
4J127DA63
4J127DA66
4J127EA12
4J127FA12
(57)【要約】
エナメル組成物は、ガラスフリット、顔料、および有機キャリア媒体を含み、前記有機キャリア媒体がUV硬化性組成物を含み、前記UV硬化性組成物が少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーを含み、前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーが式(I):
または式(II):
(式中、nは0または1である。)
の化合物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリット、
顔料、および
有機キャリア媒体
を含み、
前記有機キャリア媒体がUV硬化性組成物を含み、前記UV硬化性組成物が少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーを含み、前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーが式(I):
または式(II):
(式中、nは0または1である。)
の化合物を含む、エナメル組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーが、トリシクロデカンメタノールモノアクリレートまたはヘキサヒドロ‐4,7‐メタノ‐1H‐インデニルアクリレートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エナメル組成物が、2時間後に25%未満の粘度変化を示す、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記粘度の変化が2%未満である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
スクリーン印刷によって塗布された後のエナメル組成物の粘度の変化が約25%未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエナメル組成物。
【請求項6】
2時間後の粘度変化が2%未満である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーが、トリシクロデカンメタノールモノアクリレートまたはヘキサヒドロ‐4,7‐メタノ‐1H‐インデニルアクリレートを含む、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記UV硬化性組成物が1つ以上のポリマーバインダーを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記UV硬化性組成物が1つ以上の硬化性ポリマーを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記硬化性ポリマーがアクリル化ポリマーまたはオリゴマーを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記UV硬化性組成物が、1つ以上の二官能性アクリルモノマーを更に含む、請求項1~4および6~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の二官能性アクリルモノマーが、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記UV硬化性組成物が、10~20重量%の量の1つ以上の二官能性アクリルモノマーを含む、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
前記UV硬化性組成物が、少なくとも1つの単官能アクリルモノマーを20~40重量%の量で含む、請求項1~4および6~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記UV硬化性組成物が、1つ以上の界面活性剤または分散剤を更に含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記UV硬化性組成物が、1つ以上の光開始剤および/または光増感剤を更に含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記UV硬化性組成物が、UV安定剤、接着促進剤、増粘剤、および消泡剤から成るリストから選択される1つ以上の添加剤を更に含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記有機キャリア媒体が、1つ以上の希釈剤または溶媒を更に含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
硬化前の前記組成物の粘度が10~20Pa・sの範囲である、請求項1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のエナメル組成物を基材上に付着させる工程、
前記エナメル組成物を硬化させる工程、および
硬化したエナメル組成物を焼成する工程
を含む、エナメルコーティングを形成する方法。
【請求項21】
スクリーン印刷によって、前記エナメル組成物を付着させる工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記硬化する工程が、前記エナメル組成物のUV硬化性組成物を紫外線源に曝露することにより硬化させることを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記硬化する工程の後に、エナメル組成物の少なくとも一部を、外側金属層を用いて印刷する工程を含む、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガラスへのスクリーン印刷用のためのUV硬化性エナメルインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のガラス工業(glazing industry)においては、フロントガラス、バックライト、サイドライト、およびその他のガラス構成要素を、構成要素の周辺領域の周囲に延在する黒色帯状の隠蔽エナメルで装飾することが一般的である。主な機能は、ガラス構成要素を固定する接着剤を、接着剤を分解する紫外線から保護することである。二次的な機能としては、ガラス構成要素に取り付けられた、あるいは埋め込まれた電気および電子部品の機能性を確保する電気回路、ワイヤ、コネクタを覆い、きれいな美観を確保することである。
【0003】
エナメルは平坦なガラス基板にスクリーン印刷やインクジェット法でペーストやインクとして塗布され、その後高温で焼成される。焼成工程により、基板は軟化し、曲げ加工により最終形状に成形することができる。
【0004】
エナメル組成物用の硬化性ビヒクルを提供することは当該技術分野で知られている。例えば、米国特許第4649062号明細書(Kosiorekら;特許文献1)および米国特許第4900763号明細書(Kraushaar;特許文献2)には、厚膜セラミック色を提供するために組成物に導入される紫外線硬化性有機ビヒクルが開示されている。特許文献1では、硬化性ビヒクルは:(a)少なくとも2つのアクリレートまたはメタクリレート官能性末端基を含む骨格を含む少なくとも1つの重合可能な液体オリゴマー;(b)アクリレートまたはメタクリレート官能性基を含む少なくとも1つの光重合可能な液体モノマーであって、前記モノマー成分(b)の官能性は1~6の範囲である、光重合可能な液体モノマー;および(c)光開始剤を含む。特許文献2では、ビヒクルは:(a)アクリレートまたはメタクリレート官能性末端基を含み、二官能性‐または三官能性‐ポリエステルアクリレートまたはメタクリレートおよび二官能性‐または三官能性‐ポリウレタンアクリレートまたはメタクリレートから選択される少なくとも2つの重合可能な液体オリゴマー;(b)少なくとも1つの単官能性ポリエーテルアクリレートまたはメタクリレート;(c)少なくとも1つの五官能性脂肪族ペンタアクリレートまたはペンタメタクリレート;および(d)光重合開始剤を含む。
【0005】
別の例では、国際公開第2017/009184号(Jainら;特許文献3)には、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーまたはオリゴマー;および(b)縮合した(that are fused or condensed)少なくとも3つの環を有する多環式部分を含む少なくとも1つの単官能性(メタ)アクリレートモノマー;を含む硬化性組成物が開示されている。ただし、この特許文献3は、エナメル組成物の分野やガラス基材へのスクリーン印刷に関するものではない。
【0006】
カナダ国特許第2807541号明細書(Brownら;特許文献4)には、加熱硬化性(heat-curable)アクリレート系印刷媒体が開示されている。一例として、この特許文献4には、(i)ガラス成分と(ii)低VOCの加熱硬化性媒体とを含むエナメルペースト組成物を第1のガラス基板に塗布することを含む、装飾ガラス構造体の形成方法が開示されている。加熱硬化性媒体は、少なくとも1つの官能性を有する官能性アクリレートモノマーを含む。しかしながら、この媒体はUV硬化性ではない。
【0007】
先行技術のいくらかの組成物の問題点は、ある一定の塗布条件下で塗布時にインク粘度の高い上昇を示す傾向があることであり、これは望ましくない。このような条件には、スクリーン印刷条件が含まれ、これにより、インクが印刷スクリーンの裏面に塗布され、次いで、ブレードがスクリーンの穴または開口部(印刷パターンを定義する)を通してインクを押し出すために使用される。スキージやゴムブレードを使ってスクリーンを基材に接触させ、それによってインクを基材に転写させる。この工程には、例えば、ブレードを使用したインクの薄層塗布や、真空または吸引装置を使用した過剰なインクの除去など、インクのレオロジーに影響を及ぼす可能性のあるいくつかの工程が含まれる。
【0008】
先行技術のもう1つの問題点は、いくらかのインク組成物が、例えばスクリーン印刷などで塗布された後に、満足できるレベルの硬度や構造的完全性を示さない場合があることである。これは、エナメルインクが、焼成工程の前に更なる加工を施される場合、例えば、バックライト除霜システムのバスバーおよび/または配線接続を形成する可能性のある導電性金属(例えば銀)層でオーバープリントされる場合に問題となる可能性がある。例えば、硬化エナメルインク層は、典型的には、後続の焼成工程において導電性金属インクを形成する銀ペーストでオーバープリントされることがある。銀ペーストは通常、溶剤ベースのインク配合であるため、ペーストのいくらかの成分、特に溶剤が、オーバープリント後、銀オーバープリントの乾燥前に、UV硬化エナメル層に浸透する可能性がある。従って、エナメルインク層の硬度、構造的完全性、および/または耐化学性(または耐薬品性)の程度が不十分であると、エナメルインク層に損傷を与える可能性があり、および/またはオーバープリント層の物質、例えば溶剤がエナメル層に浸透し、インク層に化学的破壊を引き起こす可能性があり、これらの両方が、例えばガラスなどの基材上の接着性に悪影響を及ぼすことによって、エナメル層の品質の低下をもたらす可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、先行技術の1つ以上の問題に対処する、またはそれらを軽減することである。
【0010】
本発明の目的は、スクリーン印刷用途において、粘度の変化が最小限であるか、または減少した状態を示すUV硬化性エナメルインク組成物を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4649062号明細書
【特許文献2】米国特許第4900763号明細書
【特許文献3】国際公開第2017/009184号
【特許文献4】カナダ国特許第2807541号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、スクリーン印刷中に、いくらかのエナメルインク組成物が粘度の増加を示しやすいことを見出した。本発明者らは、エナメルインク用のビヒクルとしてUV硬化性組成物を有利に提供し、スクリーン印刷用途において粘度の変化が最小限または低減されたものを示す解決策を見出した。
【0013】
本明細書の1つの態様によれば、
ガラスフリット、
顔料、および
有機キャリア媒体
を含み、
前記有機キャリア媒体がUV硬化性組成物を含み、前記UV硬化性組成物が少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーを含み、前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーが式(I):
または式(II):
(式中、nは0または1である。)
の化合物を含む、エナメル組成物が提供される。
【0014】
前記少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーは、式(Ia):
式(Ia)
の化合物を含んでもよい。
【0015】
式(Ia)の化合物は、一般にトリシクロデカンメタノールモノアクリレートと命名してもよい。
【0016】
少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーは、式(IIa):
式(IIa)
の化合物を含んでもよい。
【0017】
式(IIa)の化合物は、一般に、ヘキサヒドロ‐4,7‐メタノ‐1H‐インデニルアクリレートと命名してもよい。
【0018】
有利には、エナメル組成物は、例えば約30分後、例えば約1時間後、例えば約2時間後に、粘度の変化が最小限である可能性がある。有利には、エナメル組成物は、典型的にはスクリーン印刷によって、塗布される前、塗布される間、または塗布された後に、粘度の変化が最小限である可能性がある。エナメル組成物の粘度の変化は、50%未満、例えば25%未満、例えば10%未満、例えば5%未満、典型的には2%未満であってよい。観察される粘度の変化は、スクリーン印刷によって塗布されるエナメル組成物層の厚さなどの他のパラメータに依存する可能性があることが理解される。しかしながら、本発明者らは、有利なことに、UV硬化性組成物中の単官能アクリレートモノマーとして請求項に記載された化合物の1つ(トリシクロデカンメタノールモノアクリレートなど)を使用することが、他の組成物、例えばイソボルニルアクリレートを使用する組成物と比較して、スクリーン印刷工程中の粘度の変化を低減するのに役立つ可能性があることを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、UV硬化性組成物中の単官能アクリレートモノマーとして式Iまたは式IIの化合物(トリシクロデカンメタノールモノアクリレートなど)を提供することにより、低い蒸発速度を示すことによってUV硬化性組成物の粘度を安定化することが可能となると考えられる。例えば、トリシクロデカンメタノールモノアクリレートは、例えば、イソボルニルアクリレートよりも低い蒸発速度を示す可能性がある。更に、UV硬化性組成物中の単官能アクリレートモノマーとして請求項に記載される化合物(例えば、トリシクロデカンメタノールモノアクリレート)を提供することにより、得られるコーティングに優れた硬度、構造完全性、および/または耐化学性がもたらされる可能性があると考えられる。
【0019】
従って、本明細書の別の態様によれば、
ガラスフリット、
顔料、および
有機キャリア媒体
を含み、
前記有機キャリア媒体は、UV硬化性組成物を含み、
スクリーン印刷によって塗布された後のエナメル組成物の粘度の変化は、50%未満、例えば25%未満、例えば10%未満、例えば5%未満、典型的には2%未満である、エナメル組成物が提供される。
【0020】
エナメル組成物の粘度の変化は、スクリーン印刷によって塗布された後、例えば約30分後、例えば約1時間後、例えば約2時間後に測定してもよい。
【0021】
好ましくは、UV硬化性組成物は、少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーを含んでもよく、単官能アクリレートモノマーは、式(I)、(Ia)、(II)、または(IIa)の化合物を含んでもよい。
【0022】
本明細書の別の態様によれば、
本明細書中に記載されるようなエナメル組成物を基材上に付着させる工程、
前記エナメル組成物を硬化する工程、および
硬化したエナメル組成物を焼成する工程
を含むエナメルコーティングの形成方法が提供される。
【0023】
好ましくは、エナメル組成物は、スクリーン印刷によって付着される。好ましくは、硬化ステップは、エナメル組成物のUV硬化性組成物を硬化させることを含んでよい。本方法は、組成物を放射線源に曝露することによって、例えば組成物にUV光を照射することによって、エナメル組成物を硬化させることを含んでよい。
【0024】
硬化ステップに続いて、本方法は、エナメル組成物の少なくとも一部を、外側コーティングでコーティングすること、例えば印刷することを含んでよい。典型的には、外側コーティングは、例えば、バックライト除霜システムのバスバーおよび/または配線接続を形成する導電性金属(例えば銀)層を含むか、または導電性金属(例えば銀)層であってもよい。有利には、本発明のエナメル組成物は、このようなオーバープリント法を行うのに特に好適である優れた硬度および/または耐化学性をしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明をより良く理解するため、および本発明がどのように実施されることが可能であるかを示すために、本発明のいくらかの実施形態が、添付の図面を参照して例示の目的にのみ記載する。
【
図1】本明細書に記載の組成物の粘度の変化を示すグラフである。
【
図4】
図1~
図3の組成物の粘度増加をプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前述のように、本明細書は、ガラスフリット、顔料、および有機キャリアからなり、スクリーン印刷によって塗布された後に有利に良好な粘度安定性を示し、更に既存のエナメル組成物と比較して、ガラス上への良好な接着性、および高い硬度、構造完全性、および/または耐化学性を示すエナメル組成物を提供する。
【0027】
典型的には、有機キャリア媒体は、単官能アクリレートモノマーを含むUV硬化性組成物を含み、単官能アクリレートモノマーは、式(I)または式(II)の化合物、例えばトリシクロデカンメタノールモノアクリレートまたはヘキサヒドロ‐4,7‐メタノ‐1H‐インデニルアクリレートを含む。
【0028】
理論に拘束されることを望むものではないが、UV硬化性組成物中に単官能アクリレートモノマーとしてトリシクロデカンメタノールモノアクリレートを提供することは、低い蒸発速度を示すことによってUV硬化性組成物の粘度を安定化することが可能であると考えられる。例えば、トリシクロデカンメタノールモノアクリレートは、例えば、イソボルニルアクリレートよりも低い蒸発速度を示すことが可能である。更に、UV硬化性組成物中の単官能アクリレートモノマーとしてトリシクロデカンメタノールモノアクリレートを提供することにより、得られるコーティングに優れた硬度、構造的完全性、および/または耐化学性がもたらされると考えられる。
【0029】
有機キャリア媒体は、UV硬化性組成物から成ってもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上のバインダーを含んでもよい。典型的には、バインダーは、ポリマーを含んでもよいし、ポリマーであってもよい。バインダーは、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等を含んでもよい。バインダーは、セルロースアセテートブチレート樹脂、アクリル樹脂などから成るリストから選択される1つ以上の樹脂を含んでもよい。バインダーまたはバインダーの組み合わせは、所望の粘度またはレオロジーを有する、および/または所望のレベルの硬度を有する組成物を提供するように選択されてもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、約0.1~20重量%、例えば約1~10重量%、例えば約2~6重量%の量のバインダーを含んでよい。
【0030】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上の硬化性ポリマーを含んでもよい。硬化性ポリマーは、不飽和ポリマーまたはオリゴマー、例えばアクリル化ポリマーまたはオリゴマーを含んでもよい。硬化性ポリマーは、脂肪族ポリウレタンアクリレートを含んでもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、約5~60重量%、例えば約10~50重量%、例えば約20~40重量%の量の1つ以上の硬化性ポリマーを含んでもよい。
【0031】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上のアクリルモノマーを含んでもよい。1つ以上のアクリルモノマーは、少なくとも1つの単官能アクリレートモノマーを含んでもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、約20~70重量%、例えば約30~60重量%、例えば約40~50重量%の量の1つ以上のアクリルモノマーを含んでもよい。
【0032】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上の二官能性アクリルモノマー、例えばトリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)を含んでもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、約5~30重量%、例えば約10~20重量%の量の1つ以上の二官能性アクリルモノマーを含んでいてもよい。
【0033】
前述のように、好ましくは、UV硬化性組成物は、式(I)または式(II)の化合物、例えばトリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)またはヘキサヒドロ‐4,7‐メタノ‐1H‐インデニルアクリレートを含んでもよい。有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、約10~50重量%、例えば約20~40重量%の量の1つ以上の単官能アクリルモノマー、例えばTCDAを含んでもよい。
【0034】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上の界面活性剤または分散剤(例えば、大豆レシチン)を更に含んでもよい。
【0035】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、1つ以上の光開始剤および/または光増感剤を更に含んでもよい。
【0036】
有機キャリア媒体、例えばUV硬化性組成物は、UV安定剤(例えば4‐tert‐ブチルカテコール)、接着促進剤、増粘剤、消泡剤等から成るリストから選択される1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。
【0037】
エナメル組成物、例えばその有機キャリア媒体は、1つ以上の希釈剤、例えば溶媒を更に含んでもよい。あるいは、エナメル組成物、例えばその有機キャリア媒体は、希釈剤、例えば溶媒を含んでいなくてもよい。溶媒は、例えば、組成物の成分の1つ、例えば1つ以上のアクリルモノマーが、組成物の反応性希釈剤として作用する場合には、必要とされないことがある。
【0038】
例えば硬化前のエナメル組成物の粘度は、約5~25Pa・s、例えば約10~20Pa・s、例えば約15~18Pa・s、例えば約16~17Pa・sの範囲内であってよい。典型的には、粘度は、21℃でコーンプレート形状(CP 40mm、1°)を用いて連続せん断速度測定プログラム(0.10~50s-1)で測定し、せん断速度10s-1でのペースト粘度として記録してもよい。
【0039】
本発明によるエナメル組成物は、好ましくはスクリーン印刷を用いて、基材上に付着させてもよい。次いで、例えばUV光を照射することにより、組成物を硬化させる。
【0040】
必要に応じて、エナメル組成物の一部を、例えば、バックライト除霜システムのバスバーおよび/または配線接続部を形成することが可能である導電性金属(例えば銀)層などの外側コーティングで、コーティング、例えば印刷してもよい。有利なことに、本発明のエナメル組成物は、このようなオーバープリント法を行うのに特に好適である優れた硬度および/または耐化学性をしてもよい。
【実施例】
【0041】
本発明の異なる実施形態を説明するために、以下により詳細な多数の実施例を示す。
【0042】
(実施例1)第1の実施形態による組成物の調製
配合
エナメルインク組成物用配合の1つの実施形態を表1に示す。
【0043】
組成物の調製
表2は、表1の組成物を調製するための配合を示す。
【0044】
この配合は、100gのエナメルインク組成物の調製に基づいている。上記組成物は、#1~#7の中間成分を用いて調製される。これらの成分の一部、即ち#1、3、4、および5は、それぞれA、B、C、およびDとして識別される中間成分として提供される。中間成分A、B、C、およびDのそれぞれの配合は、以下の表2a、表2b、表2c、および表2dに提供される。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
成分♯1~7をプラスチック容器に秤量し、高速混合して均一な溶液を得た。エナメルパウダー(成分♯8)とThixatrol Max(成分♯9)を加え、混合物を3000rpmで20秒間高速混合した。ペースト混合物を3本ロールで2回均質化した。ペーストを混合物♯1~7に基づく媒体で希釈し、約15Pa・sの粘度にした。
【0050】
粘度の分析
エナメルペーストの粘度の経時変化は、以下の試験法を用いて評価した。
【0051】
ペーストの粘度安定性は、ガラス板上にペースト薄膜(200μm)を塗布し、0.5、1.0、1.5、2.0時間の間隔で30℃、65%RHの恒温槽に暴露した後の薄膜の粘度と重量損失を測定することにより評価した。
【0052】
粘度の測定は、21℃でコーンプレート形状(CP 40mm、1°)を用いた連続せん断速度測定プログラム(0.10~50s-1)で行い、せん断速度10s-1での粘度をペースト粘度として記録した。
【0053】
3つの異なる組成物の配合の詳細を以下の表3に示す。組成物1は表1の組成物に相当する。組成物2~4は同様のUV硬化性組成物であるが、異なるアクリレートモノマーをベースとしている。
【0054】
組成物1では、有機キャリア媒体は、3つのアクリルモノマー成分、即ち、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)の形態の二官能性アクリルモノマー、およびトリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)および単官能性ウレタンアクリレートの形態の2つの単官能性アクリルモノマーを含む。
【0055】
これに対して、組成物2は、アクリルモノマー成分としてTPGDAおよび単官能ウレタンアクリレートを含む。即ち、組成物2は、トリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)を含まない。
【0056】
組成物3では、有機キャリア媒体は、TPGDA、イソボルニルアクリレート(IBOA)および単官能ウレタンアクリレートの混合物を含む。即ち、組成物1と類似しているが、TCDAの代わりにIBOAを使用している。
【0057】
組成物4は組成物3(いずれも単官能アクリルモノマーとしてイソボルニルアクリレートを使用)と類似しており、使用する光重合開始剤が異なるだけで、粘度挙動にも硬度にも定性的には影響しない。
【0058】
表3の組成物1、2および3について経時的に測定した粘度を
図1~
図3に示す。
【0059】
図1からわかるように、単官能アクリルモノマーとしてトリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)を使用するUV硬化性組成物1の粘度は、2時間にわたって実質的に安定であった。
【0060】
図2を参照すると、UV硬化性組成物2の粘度も、経時的に比較的一定であった。しかしながら、組成物2は、アクリルモノマー成分としてTPGDAおよび単官能ウレタンアクリレートを含むため、得られるコーティングの耐溶剤性は、品質が劣ることが判明し(後に示す表5を参照)、従って、例えば金属バスバーによるその後のオーバープリントには最適ではなかった。
【0061】
これに対して、アクリルモノマー成分としてトリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)のみを使用するUV硬化性組成物3の粘度は、同じ期間にわたってかなりの増加を示した。理論に束縛されることを望まないが、これは、トリシクロデカンメタノールモノアクリレートと比較して、イソボルニルアクリレートの蒸発速度が比較的速いことが少なくとも一因であると考えられる。
【0062】
図4は、組成物1、2および3のそれぞれの粘度上昇をプロットしたグラフであり、
図1、2および3に関する上記の観察を更に示している。
【0063】
組成物1および4の経時的な粘度変化の比較を表4に示す。
【0064】
表4から観察できるように、単官能アクリルモノマーとしてトリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)を使用するUV硬化性組成物1の粘度は、2時間にわたって実質的に安定していた。これに対して、アクリルモノマー成分としてトリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)のみを使用するUV硬化性組成物4の粘度は、同じ期間にわたってかなりの増加を示した。
【0065】
これは、組成物4が組成物3(いずれも単官能アクリルモノマーとしてイソボルニルアクリレートを使用)と類似しており、使用する光開始剤が異なるだけで、粘度挙動や硬度のいずれにも影響しないと予想されることから、組成物3に関して得られた観察と一致する。
【0066】
耐溶剤性の評価
前述した組成物#1(単官能モノマーとしてTCDAを含む)および#2(TCDAを含まない)を用いてフィルムを作製し、これを硬化させた後、ブチルジグリコールアクリレート(BDGA)を用いて溶剤に曝した。耐溶剤性の定性的評価を行い、その結果を表5に示した。
【0067】
表5に示すように、単官能アクリルモノマーとしてトリシクロデカンメタノールモノアクリレート(TCDA)を用いたUV硬化性組成物1は、TCDAを含まない組成物2に比べて、BDGAに対する耐溶剤性が向上していることがわかる。
【0068】
エナメル層の塗布
スクリーン印刷工程におけるペーストの粘度安定性を模倣するため、ペーストの薄膜(湿潤膜厚:50ミクロン)をガラス基板上にキャストし、空気循環を制御した恒温室内で30℃、60%RHに暴露した。表4に示す結果によれば、組成物1に従って作製したペーストの粘度変化はほとんど無視できるものであったが、イソボルニルアクリレートベースのUVペースト(組成物4)はかなり高い粘度上昇を示した。
【0069】
UV硬化性ペースト(組成物1)を、スクリーンメッシュサイズ(77T、90T)を用いてガラスシート上にスクリーン印刷した。実際には、ガラス基材は、透明、緑色または濃色(即ちプライバシーガラス)のフロートガラスのような、自動車工業での使用に適した任意のガラスであってよいことが理解される。スクリーン印刷したフィルム(ウェットフィルム厚さ約20~22ミクロン)を、工業用UV硬化器を用いてUV硬化させた。
【0070】
硬化したフィルムに銀ペースト(AG330L‐80)をバスバー状にオーバープリントし(ウェットフィルム厚:25~30ミクロン)、工業用IRベルト乾燥機で乾燥させた。銀オーバープリントを施した硬化した黒色エナメルを、バックライト用エナメルを強化するのに好適な焼成サイクルに従って、ローラーキルンに入れた。
【0071】
本発明を特定の実施例および実施形態を参照して説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および細部における様々な変更を行ってもよいことが当業者には理解される。
【国際調査報告】