(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】HER2バリアントCAR
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20241018BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241018BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20241018BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20241018BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241018BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241018BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241018BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241018BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241018BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241018BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241018BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241018BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241018BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K19/00
C07K14/725
C07K14/705
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61P35/00
A61K35/17
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523266
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022079110
(87)【国際公開番号】W WO2023067007
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515202863
【氏名又は名称】オスロ ユニヴェルジテットサイケフス ホーエフ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】カイト、ヨン アムンド
(72)【発明者】
【氏名】ドラージ、エス.エスマエイル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92Y
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
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4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045CA42
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2に特異的に結合する、一緒になって抗原結合単位を形成する軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)とを含む、結合分子であって、VLは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号1、2及び3を含む3つの相補性決定領域(CDR)、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含み、VHは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号4、5及び6を含む3つのCDR、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含む、結合分子を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2に特異的に結合する、一緒になって抗原結合単位を形成する軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)とを含む、結合分子であって、
前記VLは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号1、2及び3を含む3つの相補性決定領域(CDR)、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
前記VHは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号4、5及び6を含む3つのCDR、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含む、
結合分子。
【請求項2】
前記VHは、配列番号7に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含み、
前記VLは、配列番号8に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項3】
抗体又はその断片である、請求項1又は2に記載の結合分子。
【請求項4】
前記抗原結合単位はscFvである、請求項1又は2に記載の結合分子。
【請求項5】
請求項1、2又は4のいずれか一項に記載の抗原結合単位を含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項6】
配列番号11のヒトCD8αヒンジ又はそれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項5に記載のCAR。
【請求項7】
N末端からC末端へと、ヒトCD8αヒンジ、ヒトCD8α膜貫通ドメイン、ヒト4-1BB共刺激ドメイン、及びヒトCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、請求項6に記載のCAR。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子又は請求項5から7のいずれか一項に記載のCARをコードする、核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項10】
請求項5から7のいずれか一項に記載のCARを、その細胞膜において発現する、細胞傷害性免疫細胞。
【請求項11】
細胞傷害性T細胞又はNK細胞である、請求項10に記載の細胞傷害性免疫細胞。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子を含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項8に記載の核酸又は請求項9に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の細胞傷害性免疫細胞を含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子、請求項10若しくは11に記載の細胞傷害性免疫細胞、又は請求項12から14のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、ヒト患者におけるがんの処置方法。
【請求項16】
ヒト患者におけるがんの処置方法であって、
a.がん細胞を含む試料を前記患者から得るステップと、
b.前記細胞を、検出に適切な部分をさらに含む請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子とex vivoで接触させることにより、前記がん細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、
c.前記がん細胞がp95HER2陽性である場合、化学療法を前記患者に投与するステップと、
を含む、方法。
【請求項17】
がんの診断方法であって、
a.細胞を含む試料をヒト患者から得るステップと、
b.前記細胞を、検出に適切な部分を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子とex vivoで接触させることにより、前記細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、
c.前記細胞がp95HER2を発現している場合、前記患者をがんと診断するステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
療法での使用向けの、請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子、請求項5から7のいずれか一項に記載のCAR、請求項10若しくは11に記載の細胞傷害性免疫細胞、又は請求項12から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2を発現するがんの処置での使用向けの、請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子、請求項5から7のいずれか一項に記載のCAR、請求項10若しくは11に記載の細胞傷害性免疫細胞、又は請求項12から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記がんは乳がんである、請求項19に記載の使用向けの、結合分子、CAR、細胞傷害性免疫細胞又は医薬組成物。
【請求項21】
対象におけるがんの診断方法であって、
(a)前記対象からの細胞の試料を、検出部分をさらに含む請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子と接触させるステップと、
(b)前記細胞がp95HER2を発現しているかどうかを決定するステップと、
(c)前記細胞がp95HER2を発現している場合、患者をがんと診断するステップと、
を含む方法。
【請求項22】
配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2に特異的に結合する、一緒になって抗原結合単位を形成するヒト化軽鎖可変ドメイン(VL)とヒト化重鎖可変ドメイン(VH)とを含む、結合分子であって、
前記VLは、配列番号72から75のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含み、
前記VHは、配列番号76から79のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む、
結合分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん療法及び診断の分野に関する。特に、新規標的化単位、及びそれを含むキメラ抗原受容体(CAR)、標的化単位をコードする核酸、CARをコードする核酸、CARを発現する免疫細胞、及びがんの処置に対するそれらの有用性に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのHER2+乳がんは、p95HER2と総称される、短縮型(truncated)カルボキシ末端断片(CTF)を有する、HER2のアイソフォームを発現する。
【0003】
p95HER2に結合するいくつかの抗原結合単位が公知であるが、そのすべてがCARへの実施に適切であるわけではない。それは、2019年10月17日に公開された研究開示RD667070に記載の失敗作により示されている。
【0004】
治療用CAR-T細胞(CAR-T)を達成するためには、細胞が、十分な量のCARを細胞膜において発現させる必要があり、かつ抗原結合単位が、標的抗原に対する十分な親和性及び特異性を仲介する必要がある。in vitroで活性を有するCAR-T細胞のうち、in vivoで腫瘍転移巣への遊走及び/又は固形腫瘍の敵対的腫瘍微小環境への浸潤に成功するのはごく一部であることが予想され得る。さらに、CAR-T細胞は、in vivoで治療効果を発揮するためには、おそらくその活性を経時的に持続させる必要がある。したがって、CARが免疫細胞の細胞膜において発現している場合にin vivoで固形腫瘍に対する治療効果をもたらし得る新規CARを得ることは、些細ではなく、非常に望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規抗原結合単位を含む結合分子が、本明細書で提供される。前記抗原結合単位、及びそれを含む結合分子は、生理的条件下、p95HER2の超活性611-CTFアイソフォームを発現する細胞に特異的に結合することができる。p95HER2は、短縮型膜貫通受容体であるため、そのような抗原結合単位を得ることは些細ではない。本明細書の抗原結合単位は、生理的条件下で全長HER2への結合をほとんど示さないか、又はまったく示さない、かつ健常組織との交差反応性をほとんど示さないか、又はまったく示さない。新規抗原結合単位を含む抗体は、p95HER2に対して、およそ2nMの親和性(KD)を示した。
【0006】
本明細書で実証されるように、抗原結合単位は、CARへの実施に適切であり、かつそのフォーマットで、p95HER2に対する十分な親和性及び特異性を保持する。CARは、T細胞内で十分に発現し、in vitro実験によりその機能性が確証され、かつin vivoモデルにおいてその治療効果が実証される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様では、配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2に特異的に結合する、一緒になって抗原結合単位を形成するVLとVHとを含む、結合分子を提供し、ただし、VLは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号1、2及び3を含む3つの相補性決定領域(CDR)、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含み、VHは、それぞれ、アミノ酸配列の配列番号4、5及び6を含む3つのCDR、つまりCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0008】
前記結合分子は、配列番号7に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含むVH、及び配列番号8に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含むVLを含み得る。前記抗原結合単位はscFvであり得る。
【0009】
第2の態様では、第1の態様による抗原結合単位を含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。CARは、ヒトCD8αヒンジを含み得る。
【0010】
CARは、N末端からC末端へと、ヒトCD8αヒンジ、ヒトCD8α膜貫通ドメイン、ヒト4-1BB共刺激ドメイン、及びヒトCD3ζシグナル伝達ドメインを含み得る。
【0011】
第3の態様では、第1の態様による結合分子又は第2の態様によるCARをコードする核酸を提供する。
【0012】
第4の態様では、第3の態様の核酸を含むベクターを提供する。
【0013】
第5の態様では、第2の態様によるCARを、その細胞膜において発現する細胞傷害性免疫細胞を提供する。
【0014】
第6の態様では、第1の態様による結合分子、第3の態様による核酸、第4の態様によるベクター、又は第5の態様による細胞傷害性免疫細胞、を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
第7の態様では、第5の態様の細胞傷害性免疫細胞又は第6の態様の医薬組成物を投与するステップを含む、ヒト患者におけるがんの処置方法を提供する。
【0016】
第8の態様では、ヒト患者におけるがんの処置方法であって、(a)がん細胞を含む試料を患者から得るステップと、(b)細胞を、検出に適切な部分をさらに含む第1の態様による結合分子とex vivoで接触させることにより、がん細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、(c)がん細胞がp95HER2陽性である場合、承認済み化学療法を患者に投与するステップと、を含む方法を提供する。
【0017】
第9の態様では、がんの診断方法であって、(a)細胞を含む試料をヒト患者から得るステップと、(b)細胞を、検出に適切な部分を含む第1の態様による結合分子とex vivoで接触させることにより、細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、(c)細胞がp95HER2を発現している場合、患者をがんと診断するステップと、を含む方法を提供する。
【0018】
第10の態様では、療法での使用向けの、第1の態様による結合分子、第2の態様によるCAR、第5の態様による細胞傷害性免疫細胞、又は第6の態様による医薬組成物を提供する。
【0019】
第11の態様では、p95HER2を発現するがんの処置での使用向けの、第1の態様による結合分子、第2の態様によるCAR、第5の態様による細胞傷害性免疫細胞、又は第6の態様による医薬組成物を提供する。
【0020】
第12の態様では、対象におけるがんの診断方法であって、(a)対象からの細胞の試料を、検出部分をさらに含む請求項1から4のいずれか一項に記載の結合分子と接触させるステップと、(b)細胞がp95HER2を発現しているかどうかを決定するステップと、(c)細胞がp95HER2を発現している場合、患者をがんと診断するステップと、を含む方法を提供する。したがって、第12の態様の方法は、試料に対して行われるex vivo方法である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、p95HER2に対する抗体の反応性及び特異性の図である。15種のHER2+/-細胞株のパネルに対するフローサイトメトリーを用いて、目的の抗体の反応性を試験した。抗体は、p95HER2-T47D細胞株のみに結合し、全長HER2を発現する細胞株(HER2+ SK-BR-3、MDA-MB-468及びA549)並びにHER2-乳がん細胞株T47D、MCF-7及びMDA-MB-231に対しては反応性でなかった。この抗体は同じく、試験した他の悪性細胞株のいずれかに対しても反応性でなかった。
【
図2】
図2は、抗体結合親和性の図である。抗体の結合親和性を決定するために、p95HER2ペプチドをアナライトとして、0.6から2500nMまでの段階希釈(serial dilution)で使用した。HER2細胞質ドメインに対する対照抗体(基準として)及び目的の抗体を、センサチップ上の2つの異なるフローセル表面に共有結合で固定化した。会合(ka)速度は、p95HER2ペプチド濃度の上昇と共に上昇した。二分子相互作用モデル1:1は、目的の抗体に関し、最大結合レスポンス(Rmax)は137RUと高い状態で低い平衡解離定数(KD=2 nM)を示した。2つの独立した実験を行った。
【
図3-1】
図3は、エピトープマッピングの図である。(a)p95HER2細胞外ドメインに基づく連続重複合成ペプチド(三つ組)のマップ。連続したペプチドは11aaを共有する。(b)シグナル強度に基づくと、目的の抗体は、全長HER2の3D構造において強調されているMPIW(配列番号33)(c)を含有する唯一のペプチドであるペプチド1に対してだけ反応性であった。
【
図3-2】(d)N末端から短縮されているC末端伸長p95HER2ペプチド(ペプチド1~20、各ペプチドは前のペプチドより1aa短い)、又はアラニンで2つのアミノ酸が置換されたペプチド(ペプチド21~39)のマップ。
【
図3-3】(e)短縮型ペプチドからのシグナル強度は、Wが軸であるPIWが抗体結合に重要であることを示した。他方、置換は、KFPDEE(配列番号34)も抗体結合に必要であることを明らかにした。連続重複ブロットには各ペプチドからの三つ組が含まれ、短縮化及び置換ブロットには各ペプチドからの二つ組が含まれる。
【
図4】
図4。(A)は、p95HER2 CAR構築物で形質導入されたT細胞の百分率を、非形質導入T細胞(NT)と比べて可視化する。(B)は、p95HER2-CAR-Tのin vitro細胞傷害性を実証する。p95HER2-CAR-T細胞、対照CD19-CAR-T細胞、及び非形質導入T細胞を、T47D-p95HER2及びT47D(p95HER2陰性)細胞と共培養した。p95HER2-CAR-Tは、一晩で90%超のT47D-p95HER2標的細胞においてアポトーシスを誘導したが、T47D細胞に対してはいかなる効果も有さなかった。同じく、T47D-p95HER2又はT47D細胞と共培養した、CD19-CAR-T又は非形質導入T細胞に関して、細胞傷害性は観察されなかった。CD19-CAR-Tは、p95HER2 CARと同じCAR骨格内にクローニングされたCD19特異的scFvを含み、ヒンジ、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインは同一である。
【
図5】
図5は、p95HER2-CAR-Tのサイトカイン産生を可視化する。CD4+及びCD8+ p95HER2-CAR-Tコンパートメントの両方とも、p95HER2を発現するT47D細胞と共培養した場合、p95HER2陰性T47D細胞と比べて著しく高いレベルのTNFα及びIFNγを発現した。非形質導入T細胞は、p95HER2陽性T47D又はp95HER2陰性T47Dのいずれかと共培養した場合、いかなるサイトカインも発現しなかった。
【
図6】
図6は、in vivoでのp95HER2-CAR-Tの抗腫瘍効果を可視化する。整形外科的p95HER2乳がん担持NSGマウスモデルにおける腫瘍増殖に対する、p95HER2-CAR-T及びCD19-CAR-Tの腫瘍制御を、in vivo生物発光イメージングにより評価した。CAR-Tを、2回(腫瘍移植から2週間及び5週間後、矢印で表示)、各時点において500万細胞、静脈内注射した。p95HER-CAR-Tは、最初の注射からわずか2週間後に著しい腫瘍制御を示し、最初の注射から5週間後にはp95HER+腫瘍を完全に根絶した。CD19-CAR-Tは、p95HER+の腫瘍進行にいかなる効果も示さなかった。CD19-CAR-T群と腫瘍のみの群との間で、腫瘍増殖に差異はなかった。データは、3つの独立したレプリケート(n=10)のうちの代表的実験の±SEMとして報告されている。
【
図7】
図7は、循環血液1μl中のCAR-Tの数を可視化する。p95HER2-CAR-Tの数は、p95HER2抗原を発現する標的細胞との相互作用による活性化を通して、時間経過の間に増加した。p95HER2-CAR-Tは、静脈内注射後の10週間を超えてin vivoで存続した。CD19-CAR-Tに関しては、p95HER2抗原を発現する標的細胞とのin vivo相互作用を通して、同じ傾向は観察されなかった。雌性マウスは、平均して、循環血液量2.5~3.75mlを有する。
【
図8】
図8。一部の乳がん細胞は、2つの異なる機構を通して生成されるHER2のアイソフォーム(示される配列-配列番号71)を発現する。メタロプロテイナーゼによる、HER2のタンパク質分解的切断が、発見された最初の機構であった。第2の機構は、611位、648位、676位又は687位に位置する内部メチオニンコドンからの選択的翻訳開始を伴う。活性の状態が異なるいくつかのアイソフォームが同定されており、p95HER2と総称される。最も強力かつ超活性のp95HER2アイソフォームは、611-HER2-CTF(カルボキシ末端断片)と呼ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書の新規抗原結合単位を含む結合分子は一般的に、1つ若しくは複数のタンパク質(すなわち、ポリペプチド鎖)を含む又はからなり、かつ抗体、scFv、Fab、免疫毒素、免疫複合体、二重特異性抗体、CAR等を含む、いずれかの適切なフォーマットを有し得る。したがって、一実施形態では、本明細書で提供される結合分子は、抗体又はその断片(すなわち、抗原結合断片)である。抗体の抗原結合断片の例には、Fab、Fab‘及びF(ab)‘2 部分が含まれる。他の実施形態では、結合分子はscFvである。さらに他の実施形態では、結合分子はCARである。
【0023】
本明細書で提供される結合分子は、配列番号17に記載のアミノ酸配列PIWKFPDEEを含むp95HER2に特異的に結合する。以下にさらに詳述するように、配列番号17は、本明細書で提供される結合分子により認識されるエピトープである。
【0024】
そのような結合分子、特に、可溶性結合分子、例えば、抗体、抗体の抗原結合断片、及びscFvなどは、がん細胞を標的にするために、その「ネイキッド」形態(すなわち、第2の薬剤にコンジュゲートしていない)で使用され得る。あるいは、そのような結合分子は、毒性ペイロード、例えば細胞毒素(サポリン若しくはゲロニンなど)、又は放射性同位体、例えば、177Lu、224Ra若しくは225Acなどを含む部分を担持し得る(例えばそれにコンジュゲートされ得る)。毒性ペイロードにコンジュゲートした結合分子は、免疫毒素と呼ばれ得る。
【0025】
さらに、新規抗原結合単位は、例えば、ネイキッド抗体、又は蛍光若しくは放射性部分のような検出可能標識を含む結合分子の形態で、診断剤として使用され得る。検出可能標識は、検出部分、又は検出に適切な部分と呼ばれ得る。
【0026】
重鎖可変領域(VH)(配列番号7)及び軽鎖可変領域(VL)(配列番号8)を含む抗体に関し、最大結合レスポンス(Rmax)は137RUと高い状態で、低い平衡解離定数(KD=2nM)が測定された。本明細書の抗原結合単位の標的エピトープは、配列PIWKFPDEE(配列番号17)であると思われる。前記エピトープは、611-HER2-CTF(配列番号20)と呼ばれるp95HER2アイソフォーム中に位置する。
MPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPLTSIISAVVGILLVVVLGVVFGILIKRRQQKIRKYTMRRLLQETELVEPLTPSGAMPNQAQMRILKETELRKVKVLGSGAFGTVYKGIWIPDGENVKIPVAIKVLRENTSPKANKEILDEAYVMAGVGSPYVSRLLGICLTSTVQLVTQLMPYGCLLDHVRENRGRLGSQDLLNWCMQIAKGMSYLEDVRLVHRDLAARNVLVKSPNHVKITDFGLARLLDIDETEYHADGGKVPIKWMALESILRRRFTHQSDVWSYGVTVWELMTFGAKPYDGIPAREIPDLLEKGERLPQPPICTIDVYMIMVKCWMIDSECRPRFRELVSEFSRMARDPQRFVVIQNEDLGPASPLDSTFYRSLLEDDDMGDLVDAEEYLVPQQGFFCPDPAPGAGGMVHHRHRSSSTRSGGGDLTLGLEPSEEEAPRSPLAPSEGAGSDVFDGDLGMGAAKGLQSLPTHDPSPLQRYSEDPTVPLPSETDGYVAPLTCSPQPEYVNQPDVRPQPPSPREGPLPAARPAGATLERPKTLSPGKNGVVKDVFAFGGAVENPEYLTPQGGAAPQPHPPPAFSPAFDNLYYWDQDPPERGAPPSTFKGTPTAENPEYLGLDVPV(配列番号20)
【0027】
したがって、生理的条件下、配列PIWKFPDEE(配列番号17)に特異的に結合できる抗原結合単位を提供する。一実施形態では、本明細書で提供される抗原結合単位を含む結合分子、例えば抗体は、少なくとも2nMのKDを有する。
【0028】
本明細書で使用する「抗原結合単位」とは、生理的条件下、細胞外標的エピトープに結合することができる、1つ若しくは複数のタンパク質若しくはその一部を含む又はからなる部分である。本明細書の抗原結合単位は、腫瘍環境における生理的条件下、細胞外標的エピトープに結合することができ得る。本明細書の抗原結合単位は、生理的条件下、がん細胞上で発現するp95HER2に特異的に結合することができる。すなわち、本明細書の抗原結合単位は、生理的条件下、全長HER2への結合をほとんど示さないか、又はまったく示さない。さらに、本明細書の抗原結合単位は、健常組織との交差反応性をほとんど示さないか、又はまったく示さない。
【0029】
特に、本明細書の抗原結合単位は、全長HER2ではマスクされているが、611-CTFでは露出しているエピトープに結合し得る。それが、超活性p95HER2アイソフォームに対して非常に特異的にさせる。特に、611-CTFは、悪性腫瘍の転移及び発生に関与する遺伝子の発現を広範囲に誘導する、p95HERの唯一の公知のアイソフォームである。
【0030】
したがって、本明細書で提供される抗原結合単位を含む結合分子は、配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2に特異的に結合するため、配列番号17のエピトープを含むp95HER2アイソフォーム(p95HER2-611-CTFなど)を発現するがん細胞を結合(又は標的に)し得る。特に、そのような抗原結合単位を含む、本明細書で提供されるCARは、そのようながん細胞を破壊するために、それらのがん細胞に対するCARを発現する細胞傷害性細胞を対象にし得る。
【0031】
本明細書で提供される抗原結合単位は、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。このような可変ドメインは、当業者には周知である。VL及びVHを含む抗体の抗原結合単位は、Fvと呼ばれる。本明細書で定義される抗原結合単位は、VL配列及びVH配列の両方ともを含む単一ポリペプチド鎖を含み得るか(例えば、scFvの場合)、又はVL及びVHが、別個のポリペプチド鎖上で準備され得る(Fvの場合)。
【0032】
本明細書の各VL及びVHは、フレームワーク配列が隣接する3つの相補性決定領域(CDR)を含む。フレームワーク配列は、ヒト配列、ヒト化配列、又はマウス配列であり得る。この6つのCDRは、以下の配列:
VL CDR1(配列番号1): KSSQSLLSSGNQKNNLA
VL CDR2(配列番号2): YASTRQS
VL CDR3(配列番号3): LQHYSSPYT
VH CDR1(配列番号4): DYFMN
VH CDR2(配列番号5): QIRNKNYNYATYFAESLEG
VH CDR3(配列番号6): LRYDY
を含む又はからなる。
【0033】
前記で指定したCDR配列は、Kabatシステムを用いて決定した。
【0034】
Framework1配列はCDR1に対するN末端であり、Framework2配列はCDR1とCDR2との間に位置し、Framework3配列はCDR2とCDR3との間に位置する。
【0035】
したがって、VL及びVHの両方とも、およそ次のように可視化され得て、CDRは枠で囲み、N末端はN-と示してある。
【化1】
【0036】
一実施形態では、抗原結合単位は、3つのCDRが枠で囲まれた以下の配列(配列番号7):
【化2】
を含む又はからなるマウスVHを含む。
【0037】
他の実施形態では、抗原結合単位は、配列番号7と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を含む又はからなるVHを含む。
【0038】
一実施形態では、抗原結合単位は、3つのCDRが枠で囲まれた以下の配列(配列番号8):
【化3】
を含む又はからなるマウスVLを含む。
【0039】
他の実施形態では、抗原結合単位は、配列番号8と少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を含む又はからなるVLを含む。
【0040】
VH及びVLは、ジスルフィド架橋又はペプチドリンカーにより連結され得る。あるいは、2本の鎖は、抗体のFab断片(又は抗体の他のいずれかの抗原結合断片)、又は抗体それ自体の内部に位置し得る。一実施形態では、抗原結合単位は、VL-リンカー-VH(N末端からC末端へと)を含む又はからなる。他の実施形態では、抗原結合単位は、VH-リンカー-VL(N-末端からC-末端へと)を含む又はからなる。このような抗原結合単位は、しばしば一本鎖Fv断片(scFv)と呼ばれる。VHとVLとが機能的な抗原結合単位を形成できるようにするためには、リンカーは、一定の長さを有する必要がある。一実施形態では、リンカーは、10~30アミノ酸残基を含む。一実施形態では、リンカーは、15~25アミノ酸残基、特に、グリシン及び/又はセリン残基を含む。
【0041】
特定の一実施形態では、リンカーは、G4Sリンカー、すなわち、配列GGGGS(配列番号21)を有する反復単位を含むペプチドリンカーである。例えば、リンカーは、(G4S)3(配列番号22)、(G4S)4(配列番号23)又は(G4S)5(配列番号24)リンカー(すなわち、それぞれ、3、4又は5個の隣接する反復G4S単位を含むリンカー)であり得る。
【0042】
あるいは、リンカーは、1つ又は複数のG4S単位における1つ又は複数のアミノ酸置換(場合により、以下に定義する保存的アミノ酸置換)を含む修飾G4Sリンカーであり得る(好ましくは、1つ又は複数のG4S単位における最高1つまでのアミノ酸置換)。特に、修飾G4S単位は、1つ又は複数の、グリシンに代わるアラニンの置換を含み得る。以下に示す、適切なリンカーの一例は、配列番号18に記載のアミノ酸配列を有し、これは1つのグリシン残基がアラニンに置換された修飾(G4S)4リンカーである。
GGGGSGGGGSAGGGSGGGGS(配列番号18)
【0043】
抗原結合単位において、フレームワーク配列は、標的抗原に対する特異性及び親和性を破壊することなしに変化を許容し得る。例えば、アミノ酸残基の置換は、アミノ酸残基の欠失や付加よりも良好に許容され得る。マウスフレームワーク配列を、好ましくは同様の長さのヒトフレームワーク配列に置き換えることは、ヒト化として公知である。
【0044】
本明細書で使用する「保存的アミノ酸置換」という用語は、あるアミノ酸残基が、類似の側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸置換を指す。
【0045】
類似の側鎖を有するアミノ酸は、類似の特性を有する傾向があるため、ポリペプチドの構造又は機能にとって重要なアミノ酸の保存的置換は、ポリペプチドの構造/機能への影響が、同じ位置での非保存的アミノ酸置換よりも少ないと予想され得る。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野で定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、及び芳香族側鎖(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸残基が、同じファミリーの異なるアミノ酸残基に置換されている置換であると見なされ得る。特に、参照配列に対する保存的アミノ酸置換を含む生成物が、この用語により網羅される。
【0046】
一実施形態では、本明細書の各VL及びVHは、ヒトフレームワーク配列が隣接する3つのCDRを含む。ヒトフレームワーク配列は、構造的に保存された領域であり、通常、生理的条件下で標的抗原に特異的に結合するためにCDRを精巧に配置するβシート構造を形成する傾向がある。多くのヒトフレームワーク配列は、公知のヒト抗体、及び国際ImMunoGeneTics(免疫遺伝学)情報システム(IMGT)オンラインデータベース(Giudicelliほか、Nucleic Acids Research、2006、第34巻、データベース特集号D781~D784を参照)から入手可能であるが、この用語は、アミノ酸置換を含むヒトフレームワーク配列も網羅する。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、天然配列に対して0~5個のアミノ酸置換を含み得る。アミノ酸置換とは、特定位置でのアミノ酸残基が、対応する位置において、異なるアミノ酸残基に置換されている配列であり、配列をアライメントすると明らかになる。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、1つのアミノ酸置換を含み得る。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、2つ又は最高2つまでのアミノ酸置換を含み得る。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、3つ又は最高3つまでのアミノ酸置換を含み得る。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、4つ又は最高4つまでのアミノ酸置換を含み得る。ヒトフレームワーク配列の各々は、場合により、5つ又は最高5つまでのアミノ酸置換を含み得る。置換は、保存的置換であり得る。たとえそのようなフレームワーク配列が、必ずしもヒト抗体から既知でなくても、マウスフレームワーク配列と比べて低い免疫原性リスクをもたらし得る。一実施形態では、ヒトフレームワーク配列中の0~5個のアミノ酸残基が、配列番号7及び8に見出されるマウス親配列からの対応するアミノ酸残基で置換される。
【0047】
一括して、マウス抗体由来のCDR及びヒトフレームワーク配列を含む、その各々は、場合により0~5個の置換を含み得るscFvをヒト化scFvと呼ぶ。一部の実施形態では、置換のいくつかは、親マウスアミノ酸残基に戻ったものであり得る(「復帰変異」としても知られる)。
【0048】
一実施形態では、ヒトフレームワーク配列は、公知のヒト抗体から入手可能な成熟ヒトフレームワーク配列である。理論に拘束されることなく、そのようなフレームワーク配列は、抗原結合単位に対する不要な免疫原性応答を誘発するきわめて低いリスクを仲介し、同時に細胞系で良好に発現する安定な結合単位を得る可能性を高めることができる。
【0049】
概して、ヒト化VH及びVL配列では、CDRは変更されず、親VH及びVL配列と同様に保持される。しかしながら、当技術分野では公知のように、CDR配列を決定するための異なるプログラム又はスキームが利用可能であり、それらは、すべての場合にまさに完全に一致した結果を与えるわけではないこともある。したがって、異なるCDR同定スキームは、異なるCDR配列をもたらし得る。例えば、VH配列又はVL配列において、CDR配列が短い若しくは長くあり得るか、又は位置がわずかに異なり得る(例えば、第2のスキームでは、CDR配列は、第1のスキームに対して部分的に上流又は下流に移動し得る)。ヒト化は、同定されたCDRの異なるバージョンを使用するCDR移植アルゴリズムを用いて行われ、それらのCDRを、元のフレームワークから、選択されたヒト配列上へと移植することができる。したがって、ヒト化配列は、CDR同定スキーム、例えばKabatスキーム、IMGTスキーム、及びChothiaスキームのいずれかに従って同定されたCDRを含有し得る。IMGT及びChothiaのスキームにより決定された、対応するCDR配列は、下の表2に提示されている。したがって、ヒト化VH及びVL配列、並びにそれらを含む抗原結合単位及び結合分子が本明細書に含まれ、それらは、前記又は下の表2に提示されるCDR配列を含む。すなわち、本明細書のVH配列又はVL配列は、本明細書で提示するVH CDR1~3又はVL CDR1~3のセットのいずれかを含み得る。
【0050】
ヒト化VHの4つの異なるバリアントの例を配列番号72~75に記載する。
【0051】
hu-VH1(配列番号72)
EVQIVESGGGLVQPGGSLRLSCATSGFNFNDYFMNWVRQAPGKGLEWIAQIRNKNYNYATYFAESVKGRFTISRDDSKSSVYLQMNSLKTEDTAVYYCTELRYDYWGQGTMVTVSS
【0052】
hu-VH2(配列番号73)
EVQIVESGGGLVQPGGSLRLSCATSGFNFNDYFMNWVRQAPGKGLEWVAQIRNKNYNYATYFAESVKGRFTISRDDSKNSVYLQMNSLKTEDTAVYYCTELRYDYWGQGTMVTVSS
【0053】
hu-VH3(配列番号74)
QVQIQESGPGLVKPSETLSLTCTTSGFNFNDYFMNWVRQPPGKGLEWIAQIRNKNYNYATYFAESLKSRFTISRDDSKSSVSLKLSSVTAADTAVYYCTELRYDYWGQGTMVTVSS
【0054】
hu-VH4(配列番号75)
QVQIQESGPGLVKPSETLSLTCTTSGFNFNDYFMNWIRQPPGKGLEWIAQIRNKNYNYATYFAESLKSRVTISRDDSKNQVSLKLSSVTAADTAVYYCTELRYDYWGQGTMVTVSS
【0055】
ヒト化VLの4つの異なるバリアントの例を配列番号76~79に記載する。
【0056】
hu-VL1(配列番号76)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLSSGNQKNNLAWYQQKPGQPPKLLIYYASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVADYYCLQHYSSPYTFGGGTKLEIK
【0057】
hu-VL2(配列番号77)
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLSSGNQKNNLAWYQQKPGQPPKLLIYYASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCLQHYSSPYTFGGGTKLEIK
【0058】
hu-VL3(配列番号78)
DIVMTQSPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLLSSGNQKNNLAWYLQKPGQSPQLLIYYASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGDYYCLQHYSSPYTFGGGTKLEIK
【0059】
hu-VL4(配列番号79)
DIVMTQSPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLLSSGNQKNNLAWYLQKPGQSPQLLIYYASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCLQHYSSPYTFGGGTKLEIK
【0060】
前記のヒト化VH及びVL配列では、CDRは、下の表2に提示するIMGTスキームにより決定されるとおりである。
【0061】
一実施形態では、抗原結合単位は、以下の、ヒト化VH及びVL配列の組合せを含む。
【0062】
【0063】
より一般的に、特定の態様では、表1に提示する、ヒト化VH及びVL配列の組合せを含む、抗原結合単位、特に、抗原結合単位を含む結合分子、が同じく本明細書で提供される。
【0064】
一実施形態では、抗原結合単位は、以下の配列(配列番号9、CDRは枠で囲み、リンカーは斜字体)を含む若しくはからなるscFvである又は含む。
【0065】
【0066】
他の実施形態では、抗原結合単位は、配列番号9に記載のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む若しくはからなるscFvである又は含む。
【0067】
一実施形態では、抗原結合単位は、以下の配列(配列番号10、CDRは枠で囲み、リンカーは斜字体)を含む若しくはからなるscFvである又は含む。
【0068】
【0069】
他の実施形態では、抗原結合単位は、配列番号10に記載のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む若しくはからなるscFvである又は含む。
【0070】
明らかなように、配列番号9は、N末端からC末端へと、配列番号7のVH、配列番号18のリンカー、及び配列番号8のVLを含み、配列番号10は、N末端からC末端へと、配列番号8のVL、配列番号18のリンカー、及び配列番号7のVHを含む。
【0071】
新規キメラ抗原受容体(CAR)が提供される。本明細書のCARが免疫細胞の表面上で発現する場合、そのような免疫細胞は、医学で使用され得る。特に、前記免疫細胞は、配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2を発現する固形腫瘍の処置に使用され得る。一実施形態では、前記免疫細胞は、p95HER2陽性乳がん、p95HER2陽性グリオーマ、又は他のp95HER2陽性がんの処置に使用される。
【0072】
本明細書で使用するCARは、細胞外抗原結合単位、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む人工受容体である。CARにおける抗原結合単位は、通常、scFvである。
【0073】
抗原結合単位は、膜貫通ドメインに直接に付着した状態であり得る。しかしながら、CARは、抗原結合単位を膜貫通ドメインと連結するヒンジドメインを含み得る。したがって、ヒンジドメインは、抗原結合単位の立体配座に影響を及ぼし得る。その結果、それがCARの、標的エピトープへの結合に続いて免疫細胞内へのシグナル伝達を誘発する能力に影響を及ぼし得る。標的エピトープが、標的細胞の細胞膜から離れすぎている場合、又は標的エピトープが、他のやり方で隠れている場合、CARを発現する免疫細胞は効率的でない可能性がある。したがって、標的エピトープが、CARを発現する免疫細胞にとって十分に接近しやすいことが好ましい。
【0074】
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインと連結する。抗原結合単位及びヒンジドメインの両方とも細胞外ドメインである。すなわち、免疫細胞の細胞膜において発現している場合、一般的に細胞外環境に面している。本明細書で使用する「膜貫通ドメイン」とは、免疫エフェクタ細胞により発現される場合、細胞膜に埋め込まれる傾向がある、CARの部分を意味する。適切な膜貫通ドメインは、当業者には周知である。特に、ヒトタンパク質CD8α、CD28又はICOSに由来する膜貫通ドメインが使用され得る。膜貫通ドメインは、抗原結合単位による標的の結合時に、免疫細胞内へとシグナルを伝えると見られている。
【0075】
「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、CARが細胞膜において発現している場合、免疫細胞内側に位置する、CARの一部を指す。これらのドメインは、標的の結合時にシグナルの伝達に関与する。様々なシグナル伝達ドメインが公知であり、免疫細胞での内因性シグナル伝達機構に合わせるために、それらを組み合わせて適合させることができる。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトタンパク質CD3ζ、FcR-γ、CD3ε等から得られるシグナル伝達ドメインのような「シグナル1」ドメインを含む。一般的に、「シグナル1」ドメイン(例えばCD3ζシグナル伝達ドメイン)は、抗原結合時にシグナルを伝達すると見られている。
【0076】
他の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインはさらに共刺激ドメインを含む。そのようなドメインは周知であり、しばしば「シグナル2」ドメインと呼ばれ、「シグナル1」ドメインに続いて、共刺激分子を介してシグナルを伝達すると見られている。「シグナル2」は、シグナルの維持、及び細胞の生存にとって重要である。第一世代CARにおけるように不在であると、CAR-T細胞は、殺滅及び早期サイトカイン放出の点では効率的であり得るが、頻繁には経時的に疲弊していく。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインは一般的に、「シグナル1」及び「シグナル2」ドメインの両方ともを含む。そのような一般的に使用されるヒト「シグナル2」ドメインの例には、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、及びICOSシグナル伝達ドメインが含まれる。
【0077】
本開示におけるCARは、前記の抗原結合単位のいずれかを含み得る。例えば、本開示におけるCARは、配列番号9若しくは配列番号10に記載のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を含む又はからなるscFvを含み得る。
【0078】
特に、本開示におけるCARは、CD8αヒンジに連結されたscFv(例えば、配列番号9又は配列番号10のscFv)の形態で、前記の抗原結合単位のいずれかを含み得る。CD8αヒンジは一般的に、配列番号11のヒトCD8αヒンジ、又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するそのバリアントである。
【0079】
SDPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDF(配列番号11)
【0080】
特に、本開示におけるCARは、前記で定義したscFv(例えば、配列番号9又は配列番号10のscFv)、及びCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。CD3ζシグナル伝達ドメインは一般的に、配列番号14のヒトCD3ζシグナル伝達ドメイン、又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するそのバリアントである。
【0081】
RVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号14)
【0082】
特定の一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインに加えて、前記で提示したようないずれかのドメインであり得る共刺激ドメインをさらに含むが、特定の一実施形態では、41BB共刺激ドメインである。41BB共刺激ドメインは一般的に、配列番号13のヒト41BB共刺激ドメイン、又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するそのバリアントである。
【0083】
KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL(配列番号13)
【0084】
本明細書で提供されるCARは、特に、CD8α膜貫通ドメイン、特に、配列番号12のヒトCD8α膜貫通ドメイン、又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【0085】
ACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYC(配列番号12)
【0086】
特定の一実施形態では、CARは、前記のCD8αヒンジ、及びCD8α膜貫通ドメインを含む。
【0087】
特に、本開示におけるCARは、CD8αヒンジ(配列番号11)に連結された、配列番号9又は配列番号10のscFvを含み得て、ただし、CARは、CD8α膜貫通ドメイン(配列番号12)をさらに含み、かつ細胞内シグナル伝達ドメインは、4-1BB共刺激ドメイン(配列番号13)及びCD3ζシグナル伝達ドメイン(配列番号14)を含む又はからなる。そのようなCARは、配列番号15:
【化6】
に記載のアミノ酸配列を有する。
【0088】
特定の一実施形態では、本明細書で提供されるCARは、配列番号15に記載のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の同一性を有する配列を含む又はからなる。
【0089】
配列同一性は、いずれかの便利な方法により評価され得る。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を決定するためには、配列のペアワイズアライメント又はマルチプルアライメントを行うコンピュータプログラムが有用であり、例えば、EMBOSS Needle又はEMBOSS stretcher(両方ともRice,P.ほか、Trends Genet.、16、(6)276~277頁、2000)がペアワイズ配列アライメントに使用され得て、Clustal Omega(Sievers Fほか、Mol. Syst. Biol.7:539頁、2011)又はMUSCLE(Edgar,R.C.、Nucleic Acids Res.32(5):1792~1797頁、2004)が多重配列アライメントに使用され得る。ただし、他の適切なプログラムを使用してもよい。他の適切なアライメントプログラムはBLASTで、タンパク質アライメントにはblastpアルゴリズムを、核酸アライメントにはblastnアルゴリズムを使用する。ペアワイズアライメントであろうとマルチプルアライメントであろうと、ローカルではなくグローバルに(すなわち参照配列の全体にわたって)行うべきである。
【0090】
配列アライメント、及び同一性%の計算は、例えば、Clustal Omega標準パラメータ、つまり、Gonnet行列、ギャップオープニングペナルティ6、ギャップ伸長ペナルティ1を用いて決定され得る。あるいは、EMBOSS Needle標準パラメータ、つまり、BLOSUM62行列、ギャップオープニングペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5が使用され得る。あるいは、他のいずれかの適切なパラメータが使用され得る。
【0091】
本明細書のCARを発現する免疫細胞は、白血球除去又は他の適切な方法により、患者又は適合ドナーから単離され得る。そのような初代細胞は、例えば、T細胞、NK細胞又はマクロファージであり得る。特に、自家T細胞(細胞傷害性T細胞、Tヘルパー細胞、又はそれらの混合物の両方)に、CARをコードする核酸を形質導入又はトランスフェクトしてから、それらの細胞を含む医薬組成物を患者に投与して戻すことができる。CARを発現する免疫細胞は、NK-92細胞のような、臨床用に適切な細胞株でもあり得る。一般的に、CARを発現する免疫細胞は(初代細胞であろうと細胞株であろうと)、T細胞(特に細胞傷害性T細胞)又はNK細胞である。当然のことながら、対象となる患者がヒトである場合、好ましい細胞はヒトである。
【0092】
本明細書の医薬組成物は、患者への治療用細胞の投与に適切な組成物であり得る。CAR T細胞の最も一般的な投与経路は、静脈内投与である。したがって、前記医薬組成物は、例えば、中性pHの無菌水溶液であり得る。例えば、患者の末梢血単核細胞は、標準的な白血球除去法で得られ得る。単核細胞は、CARをコードする、レンチウイルスベクター又はmRNAで形質導入又はトランスフェクトする前に、T細胞に関して濃縮してもよい。次いで、前記細胞は、抗CD3/CD28抗体コーティングビーズで活性化され得る。形質導入/トランスフェクトされたT細胞は、細胞培養中で増加させ、洗浄して、凍結保存可能である無菌懸濁液へと製剤化することができる。その場合、製品は、投与前に解凍される。
【0093】
腫瘍が限局性である場合、効果を改善するために、異なる投与方法を用いてもよい。例えば、CAR-T細胞の全身投与ではなく、局所投与が、効果を高め得る。
【0094】
医薬組成物は、本明細書の免疫細胞の薬学上有効用量を含み得る。薬学上有効用量は、例えば、CARを発現する免疫細胞1×106~1×1010個の範囲であり得る。薬学上有効用量は、例えば、CARを発現するT細胞1×107~1×109個の範囲であり得る。薬学上有効用量は、例えば、CARを発現するNK細胞1×107~1×109個の範囲であり得る。
【0095】
請求されるCARを、免疫細胞内で効率的に発現させるために、細胞膜での配置を促進する従来のリーダーペプチドが、N末端に導入され得る。適切なリーダーペプチドの一例は、MESQTQALISLLLWVYGTYG(配列番号16)である。リーダーペプチドは、切り取られると思われ、細胞膜における機能的CAR中にはおそらく存在しない。
【0096】
したがって、第二世代CARの発現には、以下をコードする核酸が使用され得る。
N-LEADER PEPTIDE-VH-LINKER-VL-HINGE-TRANSMEMBRANE DOMAIN-COSTIMULATORY DOMAIN-SIGNALING DOMAIN.
したがって、第二世代CARの発現には、以下をコードする核酸も使用され得る。
N-LEADER PEPTIDE-VL-LINKER-VH-HINGE-TRANSMEMBRANE DOMAIN-COSTIMULATORY DOMAIN-SIGNALING DOMAIN
【0097】
請求されるCARをコードする核酸は、mRNAなどの周知のRNA、又はDNA発現ベクターの形態であり得る。
【0098】
あるいは、本明細書で提供される医薬組成物は、本明細書で提供される結合分子(例えば抗体)の患者への投与に適切な組成物であり得る。そのような組成物は一般的に、当技術分野で公知の1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤等を含む。本明細書で提供される結合分子(抗体など)、又はそのような結合分子を含む医薬組成物は、医学/療法において、特に、配列番号17に記載のアミノ酸配列を含むp95HER2を発現するがんを処置するために使用され得る。結合分子又は医薬組成物は、特に、固形がん、例えば、乳がん又はグリオーマの処置に使用され得る。
【0099】
特定の一実施形態では、ヒト患者におけるp95HER2陽性がんの処置方法であって、a.T細胞、NK細胞又はマクロファージに、本明細書のCARのいずれかをコードするmRNAを形質導入又はトランスフェクトするステップと、b.前記細胞を含む医薬組成物の有効用量を、p95HER2陽性がんと診断された患者に繰り返し投与するステップと、を含む方法が提供される。
【0100】
特定の一実施形態では、ヒト患者におけるp95HER2陽性がんの処置方法であって、a.T細胞、NK細胞又はマクロファージに、p95HER2 CARをコードするmRNAを形質導入するステップと、b.前記細胞を含む医薬組成物の有効用量を、p95HER2陽性がんと診断された患者に繰り返し投与するステップと、を含む方法が提供される。
【0101】
特定の一実施形態では、乳がんと診断された患者の処置方法であって、a.がん細胞を含む試料を患者から得るステップと、b.がん細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、c.がん細胞がp95HER2陽性である場合、本明細書に開示されるCARのいずれかを発現するT細胞、NK細胞又はマクロファージの薬学上有効用量を含む医薬組成物を投与するステップと、を含む方法が提供される。
【0102】
特定の一実施形態では、乳がんと診断された患者の処置方法であって、a.がん細胞を含む試料を患者から得るステップと、b.がん細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、c.がん細胞がp95HER2陽性である場合、p95HER2 CARを発現するT細胞、NK細胞又はマクロファージの薬学上有効用量を含む医薬組成物を投与するステップと、を含む方法が提供される。
【0103】
特定の一実施形態では、乳がんと診断された患者の処置方法であって、a.がん細胞を含む試料を患者から得るステップと、b.細胞を、本明細書に記載される、VL及びVHを含む抗体とex vivoで接触させることにより、がん細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、並びにc.がん細胞がp95HER2陽性である場合、化学療法を患者に投与するステップと、を含む方法が提供される。
【0104】
前記のように、化学療法は、承認済み化学療法であり得る。化学療法は、p95HER2、又はそれを発現する細胞を特異的に標的とし得る。
【0105】
特定の一実施形態では、ヒト患者におけるがんの診断方法であって、a.細胞を含む試料を患者から得るステップと、b.細胞を、検出に適切な部分を含む本明細書で提供される結合分子とex vivoで接触させることにより、細胞がp95HER2を発現しているかどうかを分析するステップと、c.細胞がp95HER2を発現している場合、患者をがんと診断するステップと、を含む方法が提供される。
【0106】
前記すべての態様及び実施形態では、特に指定しない限り、CDRは、Kabatスキームを用いて同定される。
【0107】
他の態様では、CDRは、IMGT又はChothiaスキームを用いて同定され得る。特に、マウスVH(配列番号7)及びマウスVL(配列番号8)内に含まれるIMGT及びChothia CDR配列(配列番号80~91)を、下の表に提示する。
【0108】
【0109】
前記すべての態様及び実施形態において、CDRは、この態様で指定するように、IMGT又はChothia CDRであってもよい。
【実施例】
【0110】
実施例1:抗体の特異性及び親和性
方法
【0111】
細胞培養
細胞株は、DMEM(Sigma-Aldrich社)中で培養した。培地には、100U/mlのペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich社)及び10%の非働化済みウシ胎児血清(FBS)(Sigma-Aldrich社)を補足した。細胞株は、5%CO2及び湿度100%の37℃でインキュベートした。
【0112】
p95HER2抗体の作製
p95HER2抗体の開発は、611-CTF-HER2を発現する細胞でラットを免疫化することにより行った。免疫化及びハイブリドーマ作製は、Aldevron社(フライブルク、ドイツ)により行われた。簡単に言うと、8~12週齢のラットに、金粒子に固定した、611-CTF-HER2を発現する免疫化ベクターDNA 10μgを皮内注射した。選択したハイブリドーマ候補は、限界希釈によりサブクローニングした。回収したモノクローナルハイブリドーマ上清を、フローサイトメトリー及び/又はELISAによる最終スクリーニングに使用した。
【0113】
フローサイトメトリー
細胞を洗浄し、ペレット化して、100μlのFACSバッファー(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7、2%FBS、2mM EDTAを含有)中に再懸濁した。目的の抗体(10μg/ml)を加え、4℃の暗所中、30分間インキュベートした。細胞を、2回洗浄し、ヤギ抗ラットPE二次抗体(0.26μg/ml)及びFixable Viability Dye eFluor(商標)780を含有する100μLのFACSバッファー中に再懸濁し、4℃の暗所中、30分間インキュベートした。細胞を、洗浄し、200μLのFACSバッファー中に再懸濁して、LSR IIフローサイトメータ(BD Biosciences社、フランクリンレイクス、NJ、米国)で解析した。データは、FlowJoソフトウェア(v10.7.1、FlowJo LLC社)で解析した。
【0114】
表面プラズモン共鳴(SPR)
SPRは、Gomes & Andreu、Journal of Immunological Methods 259: 217~230頁、2002に以前に記載されたよう行った。簡単に言うと、アミンカップリングキット(BR-1000-50、GE Healthcare社)及びHBS-EP+バッファーを用いて、センサチップCM5(2104988、GE Healthcare社)上の2つの異なるフローセルの表面に、対照の抗HER2抗体(5μg/ml)及び目的の抗体(5μg/ml)を共有結合で固定化した。C末端にポリヒスチジンタグを含むp95HER2ペプチドの細胞外ドメイン(配列番号19)をアナライトとして、0.6から2500nMまでの段階希釈で使用した。
【0115】
MPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPLTHHHHHH(配列番号19)
【0116】
分子間相互作用の動態は、1:1の二分子相互作用モデルへのグローバルカーブフィッティングにより処理した。Biacore T200(GE Healthcare社)を使用して実験を行い、すべての手順は25℃で行った。
【0117】
結果
p95HER2特異的Abの作製は、611-HER2-CTFでトランスフェクトした細胞でラットを免疫化することにより行った。この目的のために、異なる611-HER2-CTF構築物でHEK-293細胞をトランスフェクトし、抗タグ抗体、及び対照としての非関連(irrelevant)抗タグ抗体を使用して、p95HER2の表面発現を測定した。mAbハイブリドーマを作製するためのラットの免疫化は、pB1-611-CTF-hum.ECDでトランスフェクトした細胞を用いて行った。p95HER2に対するポリクローナルハイブリドーマ培養上清(HCS)の最初のスクリーニングは、Intellicyt iQueフローサイトメトリープラットフォームを用いて行った。平均蛍光強度(MFI)値に基づいて、上位9つの陽性クローンを選択した。これらの9つのポリクローナルハイブリドーマ(pクローン)由来のHCSを、次いでフローサイトメトリーにより、細胞株p95HER2-T47D、SK-BR-3、T-47D、及びSUP-T1との結合に関して試験した。pクローン1、2、3及び8に由来するHCSは、p95HER2-T47Dに結合するが、T47Dには結合しないことが見出された。pクローン2及び8に由来するHCSのみが、全長HER2を発現する細胞株であるSK-BR-3に対する結合を示した。これらの結果を確証するために、p95HER2-T47D、SK-BR-3、及びT-47Dを用いて免疫蛍光(IF)染色を行った。ここで、pクローン1、2及び3に由来するHCSは、p95HER2-T47Dを染色するが、T-47D又はSK-BR3は染色しないことが見出された。
【0118】
これらのデータに基づき、限界希釈系列による、モノクローナル培養物(mクローン)へのサブクローニングのために、pクローン1、2及び3を選択した。mクローン1、2及び3のIntellicyt iQueスクリーニングは、mクローン1のみがトランスフェクト細胞に特異的に結合し、mクローン2は非トランスフェクト細胞に非特異的に結合し、mクローン3は陰性であることを実証した。3つすべてのmクローンをさらに試験するために、HCSを用いて、細胞株p95HER2-T47D、SK-BR-3、及びT-47Dのフローサイトメトリー解析を行った。フローサイトメトリーの結果は、iQueのスクリーニングデータを確証した。mクローン1のみがp95HER2-T47Dに特異的に結合し、mクローン2はp95HER2-T47D及びSK-BR-3の両方ともに結合した。さらに、mクローン1は、IFで評価した場合、pクローン1と比べて、p95HER2に対するより強い反応性を示した。これらのスクリーニング結果に基づき、mAb(本明細書ではOslo-2抗体と呼ぶ)を作製するためにmクローン1を選択した。
【0119】
したがって、p95HER2に対するモノクローナル抗体を、標準的なハイブリドーマ技術を用いて、ラットから作製した。抗体の反応性及び特異性は、異なる固形腫瘍又は血液悪性腫瘍に由来するHER2+/-細胞株のパネルへの結合に基づき、フローサイトメトリーにより評価した(
図1)。異なる乳がん細胞株にわたって、この抗体は、p95HER2-T47D細胞株に対する強い反応性を示したが、HER2+であるSK-BR-3及びMDA-MB-468株、又はHER2-であるT47D、MCF7、MDA-MB-231細胞株には結合しなかった(
図1)。さらに、この抗体は、HER2+である肺がん細胞株A549、又はHER2-である前立腺がん、膵がん、リンパ腫、及び白血病の細胞株には結合しなかった(
図1)。これは、抗体が、p95HER2に対して特異的であることを示した。
【0120】
配列番号19のp95HER2ペプチド(C末端Hisタグを含む)に対する、抗体の結合親和性を決定するためにSPR解析を行った。抗体をチップ上に固定化し、段階濃度での、p95HER2の細胞外ドメインをアナライトとして用いて、分子間相互作用の動態を試験した。HER2の細胞質ドメインに結合する、対照の抗HER2 mAb(ab214275、Abcam社、英国)を基準として用いた(
図2)。目的の抗体に関する親和性データは、対照との差引きにより補正した。予想どおり、会合(ka)速度は、p95HER2ペプチド濃度の上昇と共に上昇した。目的の抗体は、p95HER2ペプチドとの低い平衡解離定数(KD=2nM)を示し、137RUの最大結合レスポンス(Rmax)での高親和性相互作用を示した(
図2)。
【0121】
実施例2:エピトープマッピング
目的の抗体により認識される特異的エピトープを同定するために、p95HER2完全細胞外ドメインを網羅する合成重複ペプチドを用いてエピトープマッピングを行った。重複ペプチド戦略では、4つのアミノ酸が重複する順次連続した15merペプチドを作製し(
図3A)、セルロース膜上に固定化した。その結果は、抗体が、ペプチド1のみに結合したことを示し、4アミノ酸配列のMPIW(配列番号33)が結合にとって必須であることを示唆した(
図3A&B)。これにより、結合エピトープは、全長HER2の611~614位に位置づけられる(
図3C)。
図3Aに示す15merペプチドに対応する配列番号を下の表に提示する。
【0122】
【0123】
次に、抗体結合に関与するさらなるアミノ酸が存在するかどうかを調査したく、かつ結合エピトープが連続的又は不連続的であるかどうかを決定したいと考えた。この目的に向けて、p95HER2細胞外ドメインのN末端にまたがり、かつMPIW 4merエピトープ(配列番号33)を含有する、HER2中のグリシン-603からアラニン-622までの領域を選択した。この配列のN末端短縮化、又は各位置において2つのアラニン残基置換した連続ペプチドのいずれかを含有するペプチドを作製した。(
図3D)。
図3Dに示すペプチドに対応する配列番号を下の表に提示する。
【0124】
【0125】
N末端短縮化は、抗体結合において、メチオニン-611が重要な役割を果たしていないことを示した。なぜなら、結合の最初の低下は、プロリン-612の損失以降にのみ観察されたからである。イソロイシン-613を欠失させると結合はさらに低下し、トリプトファン-614を除去すると結合は完全に失われた(ペプチド11)(
図3E)。MPIW(配列番号33)エピトープの置換と同じ結果が、抗体結合が失われる二重アラニン置換により観察された。しかしながら、これらの研究はさらに、元のエピトープのリジン-622位からグルタミン酸-621位までにすぐ隣接するアミノ酸の置換も、抗体結合において重要であることを明らかにした(
図3E)。したがって、これらの研究から、抗体の結合エピトープは、連続的であって配列PIWKFPDEE(配列番号17)を有すると結論する。全長HER2及びp95HER2の3D構造は、このエピトープが、全長HER2では隠れていることを示す。
【0126】
実施例3:本発明の発現レベル及びin vitro活性
抗体からp95HER2-CAR-Tを作製するために、レトロウイルス発現ベクター内にRQR8、シグナルペプチド、p95HER2 scFv(抗体由来)、CD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン、及びCD3ζシグナル伝達ドメインを含むCAR構築物を用いて活性化T細胞に形質導入した。RQR8は、CD34及びCD20抗原に由来する最小標的エピトープを含有する、コンパクトな、エピトープベースのマーカー/自殺遺伝子である。この遺伝子は、CARと同じプロモータ下にあり、2Aと呼ばれる自己切断タンパク質によりCARから分離されている。RQR8を検出することにより(抗CD34抗体-QBENDを使用)、CAR発現を評価した(
図4A)。p95HER2-CAR-Tの機能性をin vitroで調査するために、p95HER2-CAR構築物で形質導入したT細胞、及び非形質導入T細胞を、関連(p95HER2+)標的細胞及び非関連(p95HER-)標的細胞と共培養した。p95HER2-CAR-Tの細胞傷害性及びサイトカイン産生能を、異なるアッセイ法により評価した。p95HER2-CAR-Tは、p95HER2+標的細胞においてアポトーシスを誘導し得て(
図4B)、炎症性サイトカインTNFα及びIFNγを分泌し得る(
図5)ことが観察された。
【0127】
実施例4:本発明に基づく、マウスでのモデルがんの処置方法
in vitroでの試験に成功したp95HER2-CAR-T(実施例3)をさらにin vivoで調べた。p95HER2-T47D細胞を、乳腺脂肪体内へと整形外科的に導入することにより、当グループでは、p95HER2陽性の整形外科的異種移植片マウスモデルを確立した。CAR-Tを、2回(腫瘍移植から2週間及び5週間後)、各時点において500万細胞、静脈内注射した。腫瘍増殖は、処置の時間経過の間、in vivo生物発光イメージングにより評価した。注目に値する腫瘍縮小は、最初のp95HER2-CAR-T注射から早くも2週間後に観察され、最大の腫瘍制御(腫瘍消失)は、最初のp95HER2-CAR-T注射から5週間後に観察された(
図6)。p95HER2-CAR-Tは、最初の注射から比較的長期間(10週間)にわたり、in vivoで存続して増加することができた(
図7)。
【0128】
図及び実施例において、「p95HER2-CAR-T」及び「p95HER-CAR-T-41BB」は両方とも、配列番号15のCARを発現するT細胞を意味する。
【0129】
実施例5:抗体のヒト化
表2に提示した、本発明のIMGT VH及びVL CDR(配列番号80~84)を、CDR移植アルゴリズムを用いて、ヒト生殖細胞系列配列に移植した。下の表5は、選択されたヒト生殖細胞系列配列に対する、親配列及びヒト化配列の同一性の百分率を提示する。
【0130】
【0131】
配列傾向分析
非常に望ましくない配列傾向が、ヒト化配列に導入されていないことを確保するために、親配列及びヒト化配列を、Absolute Antibody社の配列傾向ツールにかけた。最も懸念される配列傾向は、グリコシル化部位及び遊離システインであるが、そのいずれも、それらの配列中には存在しない。脱アミド化及び異性化のモチーフが、配列中に存在する。それらの修飾は、高リスクと指定され、製造中に破壊を引き起こし得るが、頻繁には対処可能である。望ましければ、変異導入により、それらのモチーフを除去することが可能であり得る。中リスク及び低リスクの配列傾向も存在するものの、抗体製造工程において問題を引き起こすとはほとんど報告されていない。
【0132】
抗体クローニング
計4本のヒト化重鎖及び4本のヒト化軽鎖を設計した(配列番号72~79)。それらの各々を、別個に合成し、それぞれ、ヒトIgG1重鎖及びヒトカッパ軽鎖発現ベクター内にクローニングした。トランスフェクションの時点で、ヒト化配列のあらゆる可能な組合せを作製し、上の表1に提示される計16種の異なるヒト化抗体を創出した。
【0133】
抗体の発現及び精製
抗体を、発現させ、プロテインAにより精製した。精製タンパク質は、緩衝液交換して濃縮した。すべての抗体は発現され、精製されたすべての生成物は、非還元及び還元のSDS-PAGE下、予想どおりに見えた。
【0134】
凝集分析
精製した抗体を、SEC-HPLCにより、凝集及び断片化について分析した。すべての精製抗体は、良好なモノマー含量を示した。
【配列表】
【国際調査報告】