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特表2024-539081転写因子の抑圧によってCNSグリア集団を若返らせるための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】転写因子の抑圧によってCNSグリア集団を若返らせるための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241018BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241018BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20241018BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 107
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/14
A61P21/00
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K35/76
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N9/22
C12N5/0797 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523275
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 US2022047079
(87)【国際公開番号】W WO2023069478
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/257,827
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/350,039
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/350,041
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/350,042
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521145462
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オヴ ロチェスター
【氏名又は名称原語表記】University of Rochester
【住所又は居所原語表記】601 Elmwood Avenue, Box URV, Rochester, NY 14642 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エー. ゴールドマン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エヌ. マリアーニ
(72)【発明者】
【氏名】アブデラティフ ベンライス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA221
4C084ZA222
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB221
4C084ZB222
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA22
4C086ZA94
4C086ZB22
4C087AA01
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA22
4C087ZA94
4C087ZB22
(57)【要約】
本発明は、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法、及びミエリン欠乏症を有する対象を処置する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法であって、
成体グリア前駆細胞の前記集団に、(i)ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)、(ii)Myc関連因子X(MAX)、(iii)E2F転写因子6(E2F6)、(iv)ジンクフィンガータンパク質アイオロス(IKZF3)及び(v)シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤の有効量を投与するステップ
を含む方法。
【請求項2】
グリア細胞関連障害を有する対象を処置する方法であって、
前記対象に、(i)ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)、(ii)Myc関連因子X(MAX)、(iii)E2F転写因子6(E2F6)、(iv)ジンクフィンガータンパク質アイオロス(IKZF3)及び(v)シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤の有効量を投与するステップ
を含む方法。
【請求項3】
前記グリア細胞関連障害がミエリン欠乏症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ミエリン欠乏症が、多発性硬化症、視神経脊髄炎、横断性脊髄炎、視神経炎、皮質下脳卒中、糖尿病性白質脳症、高血圧性白質脳症、加齢性白質病、脊髄傷害、放射線又は化学療法誘導性脱髄、感染後及びワクチン接種後白質脳炎、脳室周囲白質軟化症、小児白質ジストロフィー、リソソーム蓄積症、先天性髄鞘形成不全、炎症性脱髄、血管性脱髄、ならびに脳性麻痺からなる群から選択される状態に関連する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グリア細胞関連障害が、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される神経変性疾患である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記グリア細胞関連障害がハンチントン病である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象がヒトであり、前記グリア細胞関連障害が、統合失調症、自閉症スペクトラム障害及び双極性障害からなる群から選択される精神神経障害である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤が、miRNA、shRNA又はsiRNAをコードする核酸配列を含む核酸分子を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、Casタンパク質をコードする第1の核酸配列及びガイドRNAをコードする第2の核酸配列を含む1つ又は複数の核酸分子を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の核酸配列及び前記第2の核酸配列が、同じ核酸分子上に位置する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記Casタンパク質がヌクレアーゼデッドCasタンパク質である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が非ウイルス発現ベクターである、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤がウイルス発現ベクターである、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルス発現ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルス発現ベクターがAAVベクターである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
miRNA、shRNA又はsiRNAをコードする前記核酸配列、Casタンパク質をコードする前記第1の核酸配列、及びガイドRNAをコードする前記第2の核酸配列が、調節エレメントに作動可能に連結されている、請求項9から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記調節エレメントがグリア細胞特異的プロモーターである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記調節エレメントが誘導性プロモーターである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記誘導性プロモーターが、tet-オン又はtet-オフプロモーターである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、これにより参照により本明細書に組み込まれる、2021年10月20日出願の米国仮特許出願第63/257,827号、ならびに2022年6月8日出願の同第63/350,039号、同第63/350,041号、同第63/350,042号から優先権を主張する。
【0002】
本発明は、National Institutes of Healthによって付与されたNS110776及びAG072298の下で政府の支援によりなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
分野
本発明は、転写因子を抑圧する薬剤を用いてCNSグリア集団を若返らせるための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
グリア前駆細胞(オリゴデンドロサイト前駆細胞及びNG2細胞とも呼ばれるGPC)は、発生の間にヒト脳に定着し、成人期を通じて豊富に持続する。発生の間、ヒトGPC(hGPC)は、高度に増殖性の二分化能性細胞であり、新たなオリゴデンドロサイト及びアストロサイトを生じる(French-Constant及びRaff、「Proliferating Bipotential Glial Progenitor Cells in Adult Rat Optic Nerve」、Nature 319:499~502(1986)ならびにRaffら、「A Glial Progenitor Cell that Develops in Vitro into an Astrocyte or an Oligodendrocyte Depending on Culture Medium」、Nature 303:390~396(1983))。げっ歯類では、この能力は、正常な加齢の間に衰え、増殖、遊走及び分化コンピテンスはすべて、加齢したGPCでは弱まる(Chariら、「Decline in Rate of Colonization of Oligodendrocyte Progenitor Cell(OPC)-depleted Tissue by Adult OPCs With Age」、J.Neuropathol.Exp.Neurol.62:908~916(2003);Gao及びRaff、「Cell Size Control and a Cell-intrinsic Maturation Program in Proliferating Oligodendrocyte Precursor Cells」、J.Cell Biol.138:1367~1377(1997);Moyonら、「TET1-mediated DNA Hydroxymethylation Regulates Adult Remyelination in Mice」、Nature Communications 12:3359~3359(2021);Segelら、「Niche Stiffness Underlies the Ageing of Central Nervous System Progenitor Cells」、Nature 573:130~134(2019);Tangら、「Long-Term Culture of Purified Postnatal Oligodendrocyte Precursor Cells.Evidence for an Intrinsic Maturation Program that Plays Out Over Months」、J.Cell Biol.148:971~984(2000);Temple及びRaff、「Clonal Analysis of Oligodendrocyte Development in Culture:Evidence for a Developmental Clock that Counts Cell Divisions」、Cell 44:773~779(1986);Wolswijk及びNoble、「Identification of an Adult-Specific Glial Progenitor Cell」、Development 105:387~400(1989);ならびにWrenら、「In Vitro Analysis of the Origin and Maintenance of O-2Aadult Progenitor Cells」、J.Cell Biol.116,:167~176(1992))。同様に、成体ヒトGPCは、先天的に髄鞘形成不全のマウス宿主に移植された場合、その胎児カウンターパートよりも、増殖性が低く、遊走性が低く、より容易に分化することが、以前に見出された(Windremら、「Fetal and Adult Human Oligodendrocyte Progenitor Cell Isolates Myelinate the Congenitally Dysmyelinated Brain」、Nat.Med.10:93~97(2004))。しかし、胎児及び成体hGPCの明らかに異なるコンピテンシー、ならびに加齢のげっ歯類モデルにおけるGPC転写に関する豊富なデータ(Bouhraraら、「Evidence of Demyelination in Mild Cognitive Impairment and Dementia Using a Direct and Specific Magnetic Resonance Imaging Measure of Myelin Content」、Alzheimers Dement.14:998~1004(2018);de la Fuenteら、「Changes in the Oligodendrocyte Progenitor Cell Proteome with Ageing」、Mol.Cell Proteomics 19:1281~1302(2020);Neumannら、「Metformin Restores CNS Remyelination Capacity by Rejuvenating Aged Stem Cells」、Cell Stem Cell 25:473~485 e478(2019);及びSpitzerら、「Oligodendrocyte Progenitor Cells Become Regionally Diverse and Heterogeneous with Age」、Neuron 101:459~471 e455(2019))にもかかわらず、ヒト加齢の間のGPC遺伝子発現における変化を扱うデータ(Perlmanら、「Developmental Trajectory of Oligodendrocyte Progenitor Cells in the Human Brain Revealed by Single Cell RNA Sequencing」、Glia 68:1291~1303(2020)及びSimら、「Complementary Patterns of Gene Expression by Human Oligodendrocyte Progenitors and their Environment Predict Determinants of Progenitor Maintenance and Differentiation」、Ann.Neurol.59:763~779(2006))、又は胎児及び成体ヒトGPCによる転写の明確な1対1の比較を提供するデータは、ほとんど入手不能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、当該分野で欠乏症を克服することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法に関する。この方法は、成体グリア前駆細胞の集団に、(i)ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)、(ii)Myc関連因子X(MAX)、(iii)E2F転写因子6(E2F6)、(iv)ジンクフィンガータンパク質アイオロス(IKZF3)及び(v)シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤の有効量を投与するステップを含む。
【0007】
本発明の別の態様は、グリア細胞関連障害を有する対象を処置する方法に関する。この方法は、対象に、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及びSTAT3からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤の有効量を投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1-1】ヒト胎児GPCのバルクRNA-Seq特徴付けを示す図である。パネルA:CD140a+、CD140a-、及びA2B5+/PSA-NCAMのバルク及びscRNA配列決定のワークフロー--選択された第2三半期ヒト胎児脳分離物。パネルB:2つのバッチにわたるすべての試料の主成分分析。
図1-2】ヒト胎児GPCのバルクRNA-Seq特徴付けを示す図である。パネルC:CD140a+対CD140a-及びCD140+対A2B5+/PSA-NCAM-差次的発現遺伝子セットのベン図(p<0.01及び絶対Log2 変化倍率>1)。
図1-3】ヒト胎児GPCのバルクRNA-Seq特徴付けを示す図である。パネルD:両遺伝子セットの有意なIngenuityパスウエイ解析(Ingenuity Pathway Analysis)ターム。サイズは-log10 p値を表し、色は、活性化Zスコア(青色、CD140a+;赤色、A2B5+又はCD140a-)を表す。
図1-3】ヒト胎児GPCのバルクRNA-Seq特徴付けを示す図である。パネルE:両遺伝子セットの有意な遺伝子のLog2 変化倍率。バーがないものは有意でなかった。
図1-4】ヒト胎児GPCのバルクRNA-Seq特徴付けを示す図である。パネルF:パネルEの19個の選択された遺伝子の、変換された、100万個当たりの転写物(TPM)のヒートマップ。
図2-1】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルA:在胎期間20週のヒト胎児VZ/SVZに由来するFACS単離hGPCのscRNA-Seq分析中に同定された主な細胞タイプのUMAPプロット。
図2-2】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルB~パネルC:PSA-NCAM-/A2B5+(B)又はCD140a+(C)ヒト胎児細胞のみのUMAP。
図2-3】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルD:細胞タイプ選択マーカー遺伝子のバイオリンプロット。
図2-4】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルE:GPC集団対プレGPC集団の火山プロット。
図2-5】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルF:GPCとプレGPCとの間で差次的に発現された、選択された遺伝子の特徴プロット。
図2-6】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルG:有意に富化された、選択されたGPC IPAターム及びプレGPC IPAターム。その-log10 p値及び活性化Zスコアが示されている。
図2-7】CD140a及びA2B5で選択されたヒト胎児GPCの単一細胞RNA配列を示す図である。パネルH:胎児hGPCで有意に活性化されると予測された転写因子の選択された特徴プロット。SCENICパッケージを使用して計算された相対的転写因子レギュロン活性化が示されている。
図3-1】成体ヒトGPCが胎児GPCとは転写的及び機能的に異なることを示す図である。パネルA:ヒト成体GPC及び胎児GPCのバルクRNA-Seq分析のワークフロー。パネルB:3つのバッチにわたるすべての試料の主成分分析。
図3-2】成体ヒトGPCが胎児GPCとは転写的及び機能的に異なることを示す図である。パネルC:成体対胎児差次的発現遺伝子セットの両方のベン図。
図3-3】成体ヒトGPCが胎児GPCとは転写的及び機能的に異なることを示す図である。パネルD:厳選されたターム及び遺伝子のIPAネットワーク。ノードサイズはノード次数に比例する。標識色は、成体(赤色)集団又は胎児(青色)集団のいずれかの富化に対応する。
図3-4】成体ヒトGPCが胎児GPCとは転写的及び機能的に異なることを示す図である。パネルE:モジュールごとの有意なIPAタームの棒グラフ。Zスコアは、胎児(青色)hGPC又は成体(赤色)hGPCの活性化予測を示す。
図3-5】成体ヒトGPCが胎児GPCとは転写的及び機能的に異なることを示す図である。パネルF:ネットワーク遺伝子のTPMのLog2 変化倍率の棒グラフ及びヒートマップ。
図4-1】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルA:胎児GPC及び成体GPCにおいて活性であると予測された有意に富化された転写因子の正規化富化スコアプロット。各ドットはモチーフであり、そのサイズはそのモチーフが活性であると予測される遺伝子の数を示し、色はそのモチーフが富化されていることが見出されるプロモーター付近のウィンドウを表す。
図4-2】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルB:富化TF TPMのヒートマップ、
図4-3】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルC:両胎児hGPC分離物についての対数の変化倍率対成体GPC。
図4-4】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルD:胎児活性化因子。
図4-5】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルE:胎児リプレッサー。
図4-6】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルF:成体活性化因子。
図4-7】転写因子活性の推定により、成体hGPC同一性の確立に1セットの転写リプレッサーの関与が示唆されることを示す図である。パネルG:成体リプレッサーに分割された厳選された遺伝子の直接転写因子活性予測。色は、成体(赤色)hGPC又は胎児(青色)hGPCのいずれかにおける差次的発現を示す。形状はノードのタイプを示す(八角形、リプレッサー;長方形、活性化因子;楕円形、他の標的遺伝子)。四角で囲まれた遺伝子及び丸で囲まれた遺伝子は、グリア前駆細胞/オリゴデンドロサイト同一性、老化/増殖標的、又はそれらも活性化されていると考えられる上流もしくは下流TFのいずれかに寄与する機能的関連遺伝子を示す。
図5-1】成体hGPC富化リプレッサーによる加齢GPCトランスクリプトームの誘導を示す図である。パネルA:各々が転写リプレッサー:E2F6、IKZF3、MAX、又はZNF274の1つをコードする4つの異なるドキシサイクリン(Dox)誘導性EGFPレンチウイルス発現ベクターの構造の概略アウトライン。パネルB:誘導多能性幹細胞(iPSC)由来hGPC培養物(C27系(Chambersら、Nature biotechnology、27巻、275~280頁、2009年;Wangら、Cell Stem Cell 12巻、252~264頁、2013年))を、単一のレンチウイルス又はビヒクルで1日間にわたって形質導入し、次いで残りの実験のために、Doxで処理した。Dox誘導性導入遺伝子発現の開始の3、7、及び10日後に、hGPCをqPCRにかけるためにFACSで単離した。
図5-2】成体hGPC富化リプレッサーによる加齢GPCトランスクリプトームの誘導を示す図である。パネルC:一致時点対照と比べて各転写因子の発現を示すDox処理細胞のqPCR。パネルD:選択された加齢関連遺伝子のqPCRの変化倍率ヒートマップ。対照との時点内比較は、細胞バッチ効果の回帰後の線形モデルの事後最小二乗平均検定により計算した。FDR調整済みp値:<0.05、**<0.01、***<0.001。
図6-1】miRNAが転写因子活性と並行して成体GPC転写分岐を駆動することを示す図である。パネルA:ヒトA2B5+成体GPC及びCD140a+胎児GPCに由来するmiRNAマイクロアレイ試料の主成分分析。
図6-2】miRNAが転写因子活性と並行して成体GPC転写分岐を駆動することを示す図である。パネルB:差次的に発現されたmiRNAのLog2 変化倍率の棒グラフ及びヒートマップ。
図6-3】miRNAが転写因子活性と並行して成体GPC転写分岐を駆動することを示す図である。パネルC:その予測される遺伝子標的の平均log2FCに対する、miRNAの富化特徴付けバブルプロット。
図6-4】miRNAが転写因子活性と並行して成体GPC転写分岐を駆動することを示す図である。パネルD:胎児(上段)富化miRNA及びそれらの予測標的の厳選されたシグナル伝達ネットワーク。
図6-5】miRNAが転写因子活性と並行して成体GPC転写分岐を駆動することを示す図である。パネルE:成体(下段)富化miRNA及びそれらの予測標的の厳選されたシグナル伝達ネットワーク。
図7-1】図1と関連して、CD140a+又はA2B5+/PSA-NCAM-選択によるヒト胎児GPCの富化を示す図である。パネルA:CD140a+及びA2B5+胎児GPCの主成分分析。パネルB:有意なA2B5(緑色)及びCD140a(青色)富化遺伝子を示す火山プロット。
図7-2】図1と関連して、CD140a+又はA2B5+/PSA-NCAM-選択によるヒト胎児GPCの富化を示す図である。パネルC:CD140a+及びCD140a-胎児細胞の主成分分析。パネルD:有意なCD140a-(深紅色)及びCD140a(青色)富化遺伝子を示す火山プロット。パネルE.両遺伝子セットで有意に上方制御及び下方制御された遺伝子のアップセットプロット。
図8-1】図2と関連して、単一細胞RNA-Seq品質フィルタリングを示す図である。フィルタリング無しのパネルA:A2B5+/PSA-NCAM-捕捉のバイオリンプロット。パネルB:CD140a scRNA-seq捕捉のバイオリンプロット。
図8-2】図2と関連して、単一細胞RNA-Seq品質フィルタリングを示す図である。パネルC:A2B5+/PSA-NCAM-捕捉。パネルD:CD140a+捕捉の品質フィルタリング(ミトコンドリア遺伝子発現パーセント<15%及び>500個の固有遺伝子)後のバイオリンプロット。
図9-1】図2と関連して、PSA-NCAM-/A2B5+対CD140a+胎児hGPCの単離細胞RNA配列決定を示す図である。パネルA:A2B5+胎児hGPC及びCD140a+胎児hGPCのUMAPプロット。
図9-2】図2と関連して、PSA-NCAM-/A2B5+対CD140a+胎児hGPCの単離細胞RNA配列決定を示す図である。パネルB:各選別パラダイム分離物中の細胞タイプの頻度。パネルC:CD140a+胎児hGPC単離物とA2B5+胎児hGPC単離物との間で差次的に発現されたバルクRNA-Seq Log2 変化倍率対擬似バルクLog2 変化倍率の散布図。
図10図4と関連して、胎児hGPC又は成体hGPCにおける活性転写因子の共有モチーフ:胎児GPC及び成体GPCのすべての予測活性転写因子のマトリックスを示す図である。サイズ及び色は、転写因子間の共有モチーフの度合いを示す。
図11図5と関連して、成体リプレッサーアイソフォーム発現を示す図である。各GPCグループ中の成体リプレッサーアイソフォームをコードするすべてのタンパク質の100万個当たりの転写物(TPM)の棒グラフ。
図12図5と関連して、iPSC由来hGPCのバルクRNA-Seqが、加齢関連遺伝子の存在量の合致を明らかにすることを示す図である。iPSC由来hGPC(C27)をCD140a+FACSで単離し、バルクRNA配列決定でアッセイした。本発明者らの活性転写因子コホートにあるものを含む関連するグリア加齢関連遺伝子の存在量が、胎児hGPCデータ及び成体hGPCデータと並べて表示されている。
図13-1】図6と関連して、miRNAの転写因子調節がグリア加齢遺伝子発現の転写後モジュレーションを提供することを示す図である。パネル(A):差次的に発現された成体GPC miRNA対胎児GPC miRNAの上流にあることが予測された有意な成体対胎児のGPC転写因子のLog2 FCバイオリンプロット。
図13-2】図6と関連して、miRNAの転写因子調節がグリア加齢遺伝子発現の転写後モジュレーションを提供することを示す図である。パネル(B):図2の同定された転写因子のネットワーク及び差次的に発現された成体hGPC miRNA対胎児hGPC miRNAに関するそれらの調節予測。
図14】パネルA:CBh-BCL11 A-GFP及び対照CBh-GFPレンチウイルスの設計を示す図である。パネルB:AAVS1遺伝子座に由来するtRFP-mScarletを発現する、CRISPR-Cas9-改変C27 iPSC系の生成を示す図である。パネルC:Rag1マウスにおける長期キメラ化及びBCL11A過剰発現のための実験パラダイムを図示する概略図である。パネルD:in vitroではddPCRにより、パネルE:in vivoでは免疫組織化学により確認された、CBhBCL11A-GFPによるBCL11A過剰発現を示す図である。
図15】パネルA:CBh-BCL11A-GFP(L)又はCBH-GFP(R)による注射3週間後のRag1-C271RFPマウス脳梁(CC)の冠状断面を示す図である。パネルB:BCL11A-GFPの半球とGFPのみの半球との間の、RFPタグ付けヒト細胞及びOLIG2の差異を示す、(CC)の冠状断面の拡大図である。パネルD:BCL11A-GFPの半球とGFPのみの半球との間の、RFPタグ付けヒト細胞及びマウスNG2の差異を示す、(CC)の拡大冠状断面を示す図である。
図16-1】パネルA:CBh-BCL11A-GFP(L)又はCBh-GFP(R)による注射3週間後のキメラマウス脳梁(CC)の冠状画像を示す図である。ヒト細胞はtRFP/mScarletでマーキングされており、ヒト核抗原(hNA)は赤色で、OLIG2は緑色に染色されている。パネルB:注射6週間後のキメラマウスCCの冠状画像を示す図である。ヒト細胞はtRFP/mScarletで、hNAは赤色に、OLIG2は緑色にマーキングされている。
図16-2】パネルC:注射3週間後のキメラマウスCCの冠状画像を示す図である。ヒト細胞はtRFP/mScarletで、hNAは赤色に、PDGFRaは緑色にマーキングされている。パネルD:注射3週間後のキメラマウスCCの冠状画像を示す図である。ヒト細胞はtRFP/mScarletで、hNAは赤色に、NG2は緑色にマーキングされている。
図17】BCL11A発現ベクターの例示的な設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のある特定の態様及び例示的な実施形態を、添付の構造及び図面の例を示しながら、詳細に参照するものとする。本発明の態様は、方法、物質、及び例を含む例示的な実施形態と併せて説明されることになる。そのような説明は限定ではなく、本発明の範囲は、一般的に公知であるか又は本明細書に組み込まれているかのいずれかである、均等物、代替物、及び改変物をすべて包含することが意図されている。本発明の記載されている態様、特徴、利点、及び特質は、1つ又は複数のさらなる実施形態では任意の好適な様式で組み合わせることができる。当業者であれば、本発明は、特定の実施形態の特定の態様又は利点の1つ又は複数を用いずに実施することができることを認識するだろう。他の例では、本発明のすべての実施形態に存在していなくてもよい追加の態様、特徴、及び利点を、ある特定の実施形態において認識し、特許請求することができる。さらに、当業者であれば、本明細書に記載のものに類似するか等価である多数の技法及び物質を認識するだろう。それらは、本発明の態様及び実施形態の実施に使用することができる。本発明の記載されている態様及び実施形態は、記載されている方法及び物質に制限されない。
【0010】
別様に定義されていない限り、本明細書で使用される技術的用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0011】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」「an」、及び「the」は、状況が明白に別様に指示しない限り、複数の指示物を含む。したがって、例えば、「ペプチド」への言及は、「1つ又は複数の」ペプチド又は「複数の」そのようなペプチドを含む。
【0012】
I.定義
本明細書で使用される場合、以下の用語又は語句(括弧内の)は、以下の意味を有するものとする。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、状況が明白に別様に指示しない限り、複数の指示物を含む。したがって、例えば、「ペプチド」への言及は、「1つ又は複数の」ペプチド又は「複数の」そのようなペプチドを含む。
【0014】
「約」又は「およそ」という用語は、値の統計的に意味のある範囲内にあることを含む。そのような範囲は、所与の値又は範囲の同じ桁数内であってもよく、好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、またより好ましくは10%以内、さらにより好ましくは5%以内であってもよい。「約」又は「およそ」という用語により包含される許容可能なばらつきは、研究下の特定の系に依存し、当業者であれば容易に理解することができる。
【0015】
「及び/又は」という用語は、本明細書で使用される場合、列挙されている項目が個々に又は組合せで存在するか又は使用されることを意味する。したがって、この用語は、列挙されている項目の「少なくとも1つ」又は「1つもしくは複数」が使用されるか又は存在することを意味する。
【0016】
当業者であれば理解することになるように、書面による説明を提供することなど、ありとあらゆる目的のため、本明細書で開示されたすべての範囲は、ありとあらゆる考え得る部分範囲及びそれらの部分範囲の組合せも包含する。あらゆる列挙されている範囲は、同じ範囲が少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、及び10分の1などへと分割されることを十分に記述及び可能にすることを容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書で考察されている各範囲は、下位3分の1、中間3分の1、及び上位3分の1などに容易に分割することができる。また当業者であれば理解することになるように、「最大で」及び「少なくとも」などのすべての文言は、記載の数値を含み、その後上記で考察されているように部分範囲に分割することができる範囲を指す。最後に、当業者であれば理解することになるように、範囲は各々個々のメンバーを含む。
【0017】
本発明の範囲を理解するうえで、「含む(comprising)」という用語及びその派生形は、本明細書で使用される場合、述べられている特徴、要素、成分、群、整数、及び/又はステップの存在を指定するが、他の述べられていない特徴、要素、成分、整数、及び/又はステップの存在を除外しないオープンエンド用語であることが意図されている。上述の内容は、「含む(including)」、「含む(involving)」、「有する(having)」という用語、及びそれらの派生形など、類似の意味を有する単語にも当てはまる。「からなる(consisting)」という用語及びその派生形は、本明細書で使用される場合、述べられている特徴、要素、成分、群、整数、及び/又はステップの存在を指定するが、他の述べられていない特徴、要素、成分、整数、及び/又はステップの存在を除外するクローズド用語であることが意図されている。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、本明細書で使用される場合、述べられている特徴、要素、群、整数、及び/又はステップ、ならびに特徴、要素、群、整数、及び/又はステップの基本的で新規の特質(複数可)に対して実質的に影響を及ぼさないものの存在を指定することが意図されている。「含む(comprising)」という用語(など)が、移行句として使用されている実施形態又は請求項では、「含む(comprising)」という用語を、「からなる(consisting of)」又は「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えた実施形態も想起することができる。本開示の方法、キット、系、及び/又は組成物は、開示されている成分を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、又はからなっていてもよい。
【0018】
「追加の」又は「第2の」成分を含む実施形態では、第2の成分は、本明細書で使用される場合、他の成分又は第1の成分とは異なる。「第3の」成分は、他の、第1の、及び第2の成分とは異なり、さらに列挙されているか又は「追加の」成分は同様に異なる。
【0019】
核酸に関して使用される場合、「相補的」という用語は、AとT又はUとの、及びGとCとの塩基の対合を指す。「相補的」という用語は、完全に相補的である、即ち、AとT又はUの対合及びGとCとの対合が参照配列全体にわたって形成される核酸分子、ならびに部分的に(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%)相補的である分子を指す。
【0020】
「核酸」、「ヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」という用語は、別様に指定されていない限り、DNA及びRNAの両方を包含する。
【0021】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、又は「タンパク質」という用語は、同義的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。こうした用語は、あらゆる長さのタンパク質断片を含むあらゆる種類の天然に存在するタンパク質及び合成タンパク質、融合タンパク質、ならびに限定ではないが、糖タンパク質ならびにあらゆる他のタイプの修飾タンパ質(例えば、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、パルミトイル化、グリコシル化、酸化、ホルミル化、アミド化、ポリグルタミル化、ADPリボシル化、ペグ化、ビオチン化など)を含む修飾タンパク質を包含する。
【0022】
遺伝子又は遺伝子産物(例えば、RNA又はタンパク質)の発現に関して、「無効にする(abrogate)」、「無効化(abrogation)」、「排除する(eliminate)」、又は「排除(elimination)」という用語は、遺伝子の転写及び/又は翻訳の完全な喪失又は遺伝子産物(例えば、RNA又はタンパク質)の完全な喪失を指す。遺伝子又は遺伝子産物(例えば、RNA又はタンパク質)の発現は、対照、例えば未改変細胞と比較して、本明細書に記載のものなどの技術水準で公知の方法により検出することができる。
【0023】
「発現する」及び「発現」という用語は、対応する遺伝子又はDNA配列の転写及び/又は翻訳に関与する細胞機能を活性化することにより、遺伝子又はDNA配列中の情報が具現化されること、例えばRNA又はタンパク質が産生されることを可能にするか又は引き起こすことを意味する。DNA配列は、細胞中で又は細胞により発現され、RNA又はタンパク質などの「発現産物」を形成する。発現産物自体、例えば得られたタンパク質も、細胞により「発現された」と言うことができる発現産物は、細胞内、細胞外、又は膜貫通であるであると特徴付けることができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「グリア細胞」という用語は、支持体及び栄養を提供し、恒常性を維持し、ミエリンを形成するか又はミエリン形成を促進するかのいずれかであり、神経系でのシグナル伝送に参加する、非ニューロンの細胞の集団を指す。「グリア細胞」は、本明細書で使用される場合、オリゴデンドロサイト又は星状膠細胞などのグリア系統の完全に分化した細胞、ならびに各々を大グリア細胞と呼ばれる場合があるグリア前駆細胞を包含する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「成体グリア前駆細胞」という用語は、出生後の任意の発生段階の哺乳動物に存在するグリア前駆細胞を指す。一部の実施形態では、「成体グリア前駆細胞」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又は18歳以上であるヒト対象に存在するグリア前駆細胞を指す。一部の実施形態では、「成体グリア前駆細胞」という用語は、20歳以上、25歳以上、30歳以上、35歳以上、40歳以上、45歳以上、又は50歳以上であるヒト対象に存在するグリア前駆細胞を指す。一部の実施形態では、「成体グリア前駆細胞」という用語は、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、又は80歳以上の成体など、高齢のヒト対象に存在するグリア前駆細胞を指す。
【0026】
遺伝子産物(例えば、転写因子)の「機能的バリアント」という用語は、競合アッセイにおいて、未改変(野生型)転写因子の生物学的活性の少なくとも50%を保持する改変転写因子(例えば、欠失、置換、挿入、グリコシル化などによる改変)を指す。
【0027】
「有効量」という用語は、研究者、獣医、医師、又は他の臨床医により求められている組織、系、動物、個体、又はヒトの生物学的又は医学的応答を誘発する活性化合物又は医薬品の量を指す。
【0028】
「調節配列」又は「調節エレメント」という用語は、そのような調節配列又はエレメントにより調節される遺伝子の発現を制御するか、調節するか、引き起こすか、又は可能にする核酸配列又はエレメントを指す。調節エレメント/配列は、調節される遺伝子のコード領域の5’もしくは3’側又はコード領域内、又はイントロン内に見出すことができる。調節配列/エレメントの例としては、これらに限定されないが、プロモーター、エンハンサー、RNAポリメラーゼ開始部位、リボソーム結合部位、及びコードされたポリペプチドの発現を所与の発現系にて促進する他の配列が挙げられる。
【0029】
「プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、コード配列又は機能的RNAの発現を制御することが可能なヌクレオチド配列を指す。一般に、目的のポリヌクレオチドは、プロモーター配列の3’に位置する。一部の実施形態では、プロモーターは、その全体が天然遺伝子に由来する。一部の実施形態では、プロモーターは、異なる天然に存在するプロモーターに由来する異なるエレメントで構成されている。一部の実施形態では、プロモーターは、合成ヌクレオチド配列を含む。当業者であれば、異なるプロモーターは、異なる組織又は細胞タイプにおいて、あるいは異なる発生段階において、あるいは異なる環境条件に応答して又は薬物もしくは転写補因子の存在もしくは非存在に応答して、遺伝子の発現を指図することになることが理解されるだろう。遍在的、細胞タイプ特異的、組織特異的、発生段階特異的、及び条件付きプロモーター、例えば、薬物応答性プロモーター(例えば、テトラサイクリン応答性プロモーター)は、当業者に周知である。プロモーターの例としては、これらに限定されないが、ホスホグリセリン酸キナーゼ(phophoglycerate kinase)(PKG)プロモーター、CAG、NSE(神経特異的エノラーゼ)、シナプシン又はNeuNプロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えば、CMV即時初期プロモーター領域(CMVIE)、SFFVプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、及びハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。プロモーターは、ヒト由来のものであってもよく、マウス由来を含む他の種に由来するものであってもよい。加えて、マウスメタロチオネイン遺伝子プロモーターなどの非ウイルス遺伝子に由来する配列も本明細書で使用することができるだろう。一部の実施形態では、プロモーターは異種性プロモーターである。一部の実施形態では、プロモーター配列は、近位及びより遠位の上流エレメントからなり、エンハンサーエレメントを含んでいてもよい。
【0030】
「異種性プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、自然界では所与のコード配列に動作可能に連結していることが見出されないプロモーターを指す。
【0031】
用語「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激することができ、プロモーターの生得的エレメント、又はプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入された異種エレメントであり得る、ヌクレオチド配列を指す。
【0032】
用語「動作可能に連結された」又は「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方によって影響されるような、単一の核酸断片上での2つ又はそれよりも多くの核酸断片の関連を指す。例えば、プロモーターは、そのコード配列の発現に影響を与えることが可能である場合、コード配列と動作可能に連結している(例えば、コード配列は、プロモーターの転写制御下にある)。コード配列は、センス又はアンチセンス配向で、調節配列に動作可能に連結され得る。
【0033】
用語「転写因子」は、特定の遺伝子の発現を調節するDNA結合タンパク質を指す。
【0034】
転写因子は、遺伝子転写に対して正の影響を有し得、したがって、「転写活性化因子(transcription activator)」、「活性化因子(activator)」又は「転写活性化因子(transcriptional activation factor)」と呼ばれ得る。例示的な活性化因子(activator)(又は転写活性化因子(transcriptional activation factor))は、シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)である。本開示の図4Fに示されるように、成体グリア前駆細胞の文脈では、STAT3は、老化関連遺伝子(例えば、BIN1、DMTF1、CD47、CTNNA1、RUNX2、RUNX1、MAP3K7及びOGT)、グリア細胞関連遺伝子(例えば、PLP1、CNP、PMP22、SEMA4D、CLDN11、GPR37、MYRF、MAG、BCAS1、ST18、ERBB4、CERS2、LPAR1及びGJB1)及び下流の転写因子(例えば、MAX、E2F6及びIKZF3)のセットを活性化すると予測される。
【0035】
転写因子はまた、遺伝子発現に負に影響を与え得、したがって、「転写リプレッサー」、「リプレッサー」又は「転写抑制因子」と呼ばれ得る。グリア前駆細胞老化に関与する例示的なリプレッサー(又は転写抑制因子)には、限定なしに、ZNF274、MAX、E2F6及びIKZF3が含まれる。図4Gに示されるように、成体グリア前駆細胞の文脈では、ZNF274、MAX、E2F6及びIKZF3は、増殖関連遺伝子標的(例えば、YAP1、LMNB1、PATZ1、TEAD1、FN1、TP53、CDK1、CCND2、CDKN2D、CENPH、MKI67、CDK4、CENPF、CDK5、CDKN3及びCHEK1)、グリア細胞関連遺伝子(例えば、CHRDL1、ST8SIA1、PTPRZ1、CA10、PDGFRA、BCAN、NXPH1、CSPG4及びPCDH15)及び下流の転写因子(例えば、BLC11A、EZH2、HDAC2、NF1B、MYC、HMGA2及びTEAD)のセットを抑制すると予測される。
【0036】
用語「転写因子の阻害剤」又は「転写因子リプレッサー」は、転写因子の活性又は発現を阻害する薬剤を指す。「転写因子の阻害剤」又は「転写因子リプレッサー」は、小分子、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、shRNA又はmiRNAであり得る。
【0037】
本明細書、実施例及び特許請求の範囲において使用されるある特定の用語が、本明細書でまとめられる。他に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0038】
本明細書の所与の態様、特色、実施形態又はパラメーターについての選好及び選択肢は、文脈が他を示さない限り、本発明のすべての他の態様、特色、実施形態及びパラメーターについての任意の及びすべての選好及び選択肢と組み合わせて開示されているとみなすべきである。
【0039】
II.転写因子の活性化を含む方法
本発明の一態様は、ある特定の転写因子を活性化することによって、成体グリア前駆細胞における若返りを誘導する方法に関する。一部の実施形態では、この方法は、成体グリア前駆細胞において、B細胞リンパ腫/白血病11A(BCL11A)、ヒストンデアセチラーゼ2(HDAC2)、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEZH2(EZH2)、myc癌原遺伝子タンパク質(MYC)、高15移動度群タンパク質HMGI-C(HMGA2)、核因子1B型(NFIB)及び転写エンハンサー因子TEF-4(TEAD2)からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子の有効量を発現させるステップを含む。
【0040】
本明細書で記載される場合、用語「若返り」又は「若返らせる」は、特に増殖及び/又は分化能に関する、細胞正体の喪失を伴わない、細胞における加齢プロセスの逆転及び若々しい細胞状態への復帰を指す。
【0041】
本明細書に開示される方法における使用に適切な成体グリア前駆細胞には、哺乳動物グリア前駆細胞、例えば、ヒトグリア前駆細胞、げっ歯類グリア前駆細胞、非ヒト霊長類グリア前駆細胞、ヒツジグリア前駆細胞、ウシグリア前駆細胞、ブタグリア前駆細胞、イヌグリア前駆細胞及びネコグリア前駆細胞が含まれる。一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞は、成体ヒトグリア前駆細胞である。
【0042】
一部の実施形態では、グリア前駆細胞は、成体ヒトグリア前駆細胞である。一部の実施形態では、発現させるステップは、ex vivoで実施される。一部の実施形態では、発現させるステップは、in vivoで実施される。
【0043】
本発明の別の態様は、対象のグリア前駆細胞においてある特定の転写因子を活性化することによって、対象においてミエリン欠乏症を処置する方法に関する。一部の実施形態では、この方法は、対象のグリア前駆細胞において、BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子の有効量を発現させるステップを含む。
【0044】
一部の実施形態では、発現させるステップは、ex vivoで実施される。一部の実施形態では、発現させるステップは、in vivoで実施される。
【0045】
本発明のこの態様によれば、ミエリン欠乏症は、多発性硬化症、視神経脊髄炎、横断性脊髄炎、視神経炎、皮質下脳卒中(subcortical stroke)、糖尿病性白質脳症(diabetic leukoencephalopathy)、高血圧性白質脳症(hypertensive leukoencephalopathy)、加齢性白質病(age-related white matter disease)、脊髄傷害、放射線又は化学療法誘導性脱髄、感染後及びワクチン接種後白質脳炎、脳室周囲白質軟化症、小児白質ジストロフィー(leukodystrophiey)(例えば、ペリツェウス・メルツバッハ病、テイ・サックス病(Tay-Sach Disease)、サンドホフガングリオシドーシス、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症、ニーマン・ピック病A型、副腎白質ジストロフィー、カナバン病、白質消失病及びアレキサンダー病)、リソソーム蓄積症、先天性髄鞘形成不全、炎症性脱髄、血管性脱髄(vascular demyelination)、ならびに脳性麻痺からなる群から選択される状態に関連し得る。
【0046】
一部の実施形態では、ミエリン欠乏症は、神経変性疾患、例えば、ハンチントン病に関連する。本明細書で使用される場合、「ハンチントン病」は、典型的には成人期において顕在化する常染色体優性遺伝性脳障害を指す。ハンチントン病の病理は、髄鞘低形成、ならびにニューロン及び白質喪失によって特徴付けられる(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Osipovitchら、「Human ESC-Derived Chimeric Mouse Models of Huntington’s Disease Reveal Cell-Intrinsic Defects in Glial Progenitor Cell Differentiation」、Cell Stem Cell 24(1):107~122(2019)を参照されたい)。
【0047】
他の実施形態では、ミエリン欠乏症は、精神神経疾患、例えば、統合失調症に関連する。本明細書で使用される場合、「統合失調症」は、比較的少量の白質及びしばしば明らかな髄鞘低形成によって典型的には特徴付けられる状態を指す(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Windremら、「Human iPSC Glial Mouse Chimeras Reveal Glial Contributions to Schizophrenia」、Cell Stem Cell 21(2):195~208(2017)を参照されたい)。
【0048】
以下本明細書で使用される場合、ミエリン欠乏症を有する対象を「処置する」という用語は、以下を包含する:(1)ミエリン欠乏症に罹患している又はその素因がある可能性があるが、ミエリン欠乏症の臨床又は不顕性症状をいまだ経験も示しもしていない対象において発症するミエリン欠乏症の少なくとも1つの臨床又は不顕性症状の出現の発生率及び/又は可能性を予防する、遅延させる又は低減させること;あるいは(2)ミエリン欠乏症を阻害すること、即ち、ミエリン欠乏症もしくはその再発又はその少なくとも1つの臨床もしくは不顕性症状の発症を停止させる、低減させる又は遅延させること;あるいは(3)ミエリン欠乏症を軽減すること、即ち、ミエリン欠乏症、又はその臨床もしくは不顕性症状のうちの少なくとも1つの退縮を引き起こすこと。処置される対象にとっての利益は、統計的に有意、又は患者もしくは医師にとって少なくとも知覚可能のいずれかである。
【0049】
以下本明細書で使用される場合、用語「対象」は、個々の生物、例えば、個々の哺乳動物を指す。一部の実施形態では、対象は、ヒトである。一部の実施形態では、対象は、非ヒト哺乳動物である。一部の実施形態では、対象は、非ヒト霊長類である。一部の実施形態では、対象は、げっ歯類である。一部の実施形態では、対象は、ヒツジ、ヤギ、ネコ又はイヌである。一部の実施形態では、対象は、研究動物である。一部の実施形態では、対象は、遺伝子操作されている、例えば、遺伝子操作された非ヒト対象である。対象は、成体対象であり得る。一部の実施形態では、対象は、少なくとも1歳、少なくとも2歳、少なくとも4歳、少なくとも6歳、少なくとも8歳、少なくとも10歳、少なくとも12歳、少なくとも15歳、少なくとも18歳、少なくとも20歳、少なくとも25歳、少なくとも30歳、少なくとも35歳、少なくとも40歳、少なくとも45歳、少なくとも50歳、少なくとも55歳、少なくとも60歳、少なくとも65歳、少なくとも70歳、少なくとも75歳、少なくとも80歳、少なくとも85歳、少なくとも90歳、少なくとも95歳、少なくとも100歳、又はそれよりも年上である。一部の実施形態では、対象は、18~100歳の間、20~100歳の間、30~100歳の間、40~100歳の間、50~100歳の間、50~100歳の間、60~100歳の間、70~100歳の間、80~100歳の間、又は90~100歳の間の成体対象である。
【0050】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子をコードする1つ又は複数の核酸分子を投与することを含む。
【0051】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を発現する1つ又は複数の発現ベクターを投与することを含み、発現ベクターの各々は、(1)BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子をコードするヌクレオチド配列、ならびに(2)このヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列を含む。
【0052】
本明細書で使用される場合、本出願において言及される転写因子、例えば、BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2には、そのすべての転写物バリアント及び機能的バリアントが含まれる。本明細書で同定される1つ又は複数の転写因子をコードするヌクレオチド配列は、当該分野で周知でありアクセス可能である。以下の表1は、それらの遺伝子名、遺伝子ID番号及びNCBI参照転写物受託番号によって、転写因子及びそれらの転写物バリアントを同定する。
【0053】
【表1】
【0054】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、BCL11A、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、配列番号21のBCL11Aバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、配列番号20のヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0055】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、HDAC2、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0056】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、EZH2、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0057】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、MYC、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0058】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、HMGA2、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0059】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、HFIB、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0060】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、TEAD2、その転写物バリアント又は機能的バリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。
【0061】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、転写因子リプレッサーの阻害剤の有効量を投与することを含む。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「転写因子リプレッサー」は、転写因子の活性又は発現を阻害する薬剤を指す。「転写因子リプレッサー」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドであり得る。
【0063】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーの阻害剤は、小分子である。
【0064】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーの阻害剤は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドである。一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、(1)転写因子リプレッサーの阻害剤をコードするヌクレオチド配列、及び(2)このヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列を含む発現ベクターの有効量を投与することを含む。
【0065】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーは、アリール20炭化水素受容体(AHR)である。かかる実施形態によれば、転写因子リプレッサーの阻害剤は、AHR阻害剤である。一部の実施形態では、AHR阻害剤は、小分子阻害剤である。
【0066】
適切なAHR阻害剤は、当該分野で公知であり、限定なしに、小分子、例えば、BAY-218(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Abstract 1288:Blocking Tumor Associated Immune Suppression with BAY-218,a Novel,Selective Aryl Hydrocarbon Receptor(AhR)Inhibitor」、Proceedings of the American Association for Cancer 25 Research Annual Meeting 2019;2019年3月29日~4月3日;Atlanta,GA.Philadelphia(PA):AACR;Cancer Res.79(補遺13):Abstract nr 1288(2019)を参照されたい);ペリルアルデヒド(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Fuyunoら、「Perillaldehyde Inhibits AHR Signaling and Activates NRF2 Antioxidant Pathway in Human Keratinocytes」、Oxid.Med.Cell Longev.2018:9524657(2018)を参照されたい);ステムレゲニン(StemRegenin)1(SR1)(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Boitanoら、「Aryl Hydrocarbon Receptor Antagonists Promote the Expansion of Human Hematopoietic Stem Cells」、Science 329(5997):1345~1348(2010)を参照されたい);KYN-101(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Campesatoら、「Blockade of the AHR Restricts a Treg-Macrophage Suppressive Axis Induced by L-5 Kynurenine」、NatureComm.11:4011(2020)を参照されたい);CH-223191(例えば、その全体がこれにより10参照により本明細書に組み込まれる、Kimら、「Novel Compound 2-Methyl-2H-Pyrazole-3-Carboxylic acid(2-Methyl-4-o-Tolylazo-Phenyl)-Amide(CH-223191)Prevents 2,3,7,8-TCDD-Induced Toxicity by Antagonizing the Aryl Hydrocarbon Receptor」、Mol.Pharmaocl.69(6):1871~1878(2006)を参照されたい);BAY 2416964(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Bayer Aktiengesellschaftらに対する国際特許公報WO/2018/146010を参照されたい);PDM2(例えば、その全体がこれにより15参照により本明細書に組み込まれる、de Medinaら、「Synthesis and Biological Properties of New Stilbene Derivatives of Resveratrol as New Selective Aryl Hydrocarbon Modulators」、J.Med.Chem.48:287~291(2005)を参照されたい)及びGNF351(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Smithら、「Identification of a High-Affinity Ligand that Exhibits Complete Aryl Hydrocarbon Receptor Antagonism」、J.Pharmacol.Exp.Ther.338(1):318~327(2011)を参照されたい)が含まれる。例示的なAHR小分子阻害剤は、以下の表2に示される。
【0067】
【表2】
【0068】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーは、Mycボックス依存的相互作用タンパク質(BIN1)である。かかる実施形態によれば、転写因子リプレッサーの阻害剤は、BIN1阻害剤である。
【0069】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーは、miRNA分子である。かかる実施形態によれば、転写因子リプレッサーの阻害剤は、miRNAの阻害剤である。本明細書で記載される場合、転写因子リプレッサーとして機能するmiRNAには、限定なしに、以下の表3で同定されたものが含まれる。
【0070】
【表3】
【0071】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーの阻害剤は、上で同定されたmiRNA(標的miRNA)のうちのいずれか1つ又は複数の阻害剤である。miRNAの阻害剤は、「アンタゴミル(antagomir)」として当該分野で公知である。アンタゴミルは、特定のmiRNAに対する相補性を有し、そのmiRNAの活性を阻害する、RNAオリゴヌクレオチド又はRNAオリゴヌクレオチド模倣物である。
【0072】
一部の実施形態では、転写因子リプレッサーの阻害剤は、表3に列挙されるmiRNAのうちの1つ又は複数を標的化するアンタゴミルである。アンタゴミルは、それが阻害するmiRNAの相補配列からの、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10ヌクレオチドの差異を含み得る。さらに、アンタゴミルは、それが阻害するmiRNAと同じ長さ、それよりも長い長さ、又はそれよりも短い長さを有し得る。ある特定の実施形態では、アンタゴミルは、それが阻害するmiRNAの5’末端における6~8ヌクレオチドにハイブリダイズする。他の実施形態では、アンタゴミルは、miRNAに対して相補的であり、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50ヌクレオチド長である。他の実施形態では、アンタゴミルは、5~10、6~8、10~20、10~15又は5~500ヌクレオチド長である。
【0073】
一部の実施形態では、アンタゴミルは、標的miRNAに強固に結合しそれを不活性化する、標的RNAの合成逆相補体である。したがって、一部の実施形態では、アンタゴミルは、標的miRNAの発現又は活性を特異的に阻害又は遮断する。
【0074】
一部の実施形態では、アンタゴミルは、上記表3に提供されたmiRNA配列のうちのいずれか1つに対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%相補的である。
【0075】
一部の実施形態では、アンタゴミルは、表3に開示された1つ又は複数のmiRNAの発現を阻害することが可能である。
【0076】
特に、本発明のアンタゴミルは、miR-193a-5p、miR-23b-3p、miR-4687-3p、miR-4651、miR-4270もしくはmiR-24-3pから選択されるmiRNAに、又はその一部分に特異的な核酸配列に対して実質的に相補的であり得る。したがって、実質的に等価な又は変更された活性を示す核酸又はそのアナログも、同様に企図される。
【0077】
一部の実施形態では、アンタゴミルは、ヌクレアーゼ耐性及び結合親和性を改善する化学的改変を含む。適切な改変には、限定なしに、2’糖改変、例えば、2’-O-Me、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)又は2’-フルオロ(2’-F)が含まれる。
【0078】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、(1)転写因子リプレッサーの阻害剤の有効量、ならびに/又は(2)B細胞リンパ腫/白血病11A(BCL11A)、ヒストンデアセチラーゼ2(HDAC2)、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEZH2(EZH2)、myc癌原遺伝子タンパク質(MYC)、高15移動度群タンパク質HMGI-C(HMGA2)、核因子1B型(NFIB)及び転写エンハンサー因子TEF-4(TEAD2)からなる群から選択される1つもしくは複数の転写因子の有効量を投与することを含む。
【0079】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における発現させるステップは、それぞれ成体GPC又は対象におけるGPCに、(1)転写因子リプレッサーの阻害剤をコードする発現ベクターの有効量、ならびに/又は(2)B細胞リンパ腫/白血病11A(BCL11A)、ヒストンデアセチラーゼ2(HDAC2)、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEZH2(EZH2)、myc癌原遺伝子タンパク質(MYC)、高15移動度群タンパク質HMGI-C(HMGA2)、核因子1B型(NFIB)及び転写エンハンサー因子TEF-4(TEAD2)からなる群から選択される1つもしくは複数の転写因子をコードする発現ベクターの有効量を投与することを含む。
【0080】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における上記発現ベクターの調節配列は、グリア前駆細胞によって選択的又は特異的に発現される遺伝子のためのプロモーター及び/又はエンハンサーを含む。
【0081】
グリア前駆細胞によって選択的に発現される遺伝子には、血小板25由来増殖因子アルファ(PDGFRA)、ジンクフィンガータンパク質488(ZNF488)、Gタンパク質共役受容体(GPR17)、オリゴデンドロサイト転写因子2(OLIG2)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4)及びSRY-ボックス転写因子10(SOX10)が含まれる。
【0082】
かかる実施形態によれば、本明細書に開示される核酸阻害剤の発現を制御するために適切なプロモーター配列には、限定なしに、血小板由来増殖因子アルファ(PDGFRA)プロモーター、ジンクフィンガータンパク質488(ZNF488)プロモーター、Gタンパク質共役受容体(GPR17)プロモーター、オリゴデンドロサイト転写因子2(OLIG2)プロモーター、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4)プロモーター及びSRY-ボックス転写因子10(SOX10)プロモーターが含まれ、これらは、以下の表4で同定される。
【0083】
【表4】
【0084】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における上記発現ベクターの調節配列は、誘導性プロモーター又はプロモーター系、例えば、テトラサイクリン制御される誘導性の系、クメート(cumate)制御される誘導性の系及びラパマイシン制御される誘導性の系を含み、これらは、以下により詳細に記載される。
【0085】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における上記発現ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター又は細菌ベクターである。
【0086】
一部の実施形態では、成体GPCにおける若返りを誘導する方法又は対象においてミエリン欠乏症を処置する方法における上記発現ベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス及びヘルペスウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである。一部の実施形態では、発現ベクターは、レンチウイルスベクターである。一部の実施形態では、発現ベクターは、レトロウイルスベクターである。他の実施形態では、発現ベクターは、AAVベクターである。発現ベクターとしての使用に適切なウイルスベクターを生成及び単離するための方法は、以下により詳細に記載される。
【0087】
III.転写因子の抑圧を含む方法
本発明の別の態様は、ある特定の転写因子を抑圧することによって、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法に関する。この方法は、成体グリア前駆細胞の集団に、ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)、Myc関連因子X(MAX)、E2F転写因子6(E2F6)、ジンクフィンガータンパク質アイオロス(IKZF3)及びシグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤の有効量を投与することを含む。
【0088】
本発明の別の態様は、ある特定の老化遺伝子を抑圧することによって、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法に関する。この方法は、成体グリア前駆細胞の集団に、RUNX1、BIN1、VAMP3、DMTF1、CTNNA1、SERPINE1、CDK19、CDKN1C、RUNX2、EFEMP1、MAP3K7、AHR、OGT、PAK1、CBX7及びCYLDからなる群から選択される1つ又は複数の老化遺伝子の発現を阻害する薬剤の有効量を投与することを含む。
【0089】
本発明の別の態様は、ある特定の老化遺伝子を抑圧することによって、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導する方法に関する。この方法は、成体グリア前駆細胞の集団に、MBP、CD9、ENPP2、PLP1、ERBIN、ZNF365、UGT8、GDNF、DUSP10、PMP22、ERBB4及びMYRFからなる群から選択される1つ又は複数のグリア標的遺伝子の発現を阻害する薬剤の有効量を投与することを含む。
【0090】
本明細書に開示される方法における使用に適切な成体グリア前駆細胞には、哺乳動物グリア前駆細胞、例えば、ヒトグリア前駆細胞、げっ歯類グリア前駆細胞、非ヒト霊長類グリア前駆細胞、ヒツジグリア前駆細胞、ウシグリア前駆細胞、ブタグリア前駆細胞、イヌグリア前駆細胞及びネコグリア前駆細胞が含まれる。一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞は、成体ヒトグリア前駆細胞である。
【0091】
一部の実施形態では、当該投与は、ex vivoで実施される。本開示に従う方法の他の実施形態では、当該投与は、in vivoで実施される。
【0092】
本発明の別の態様は、ある特定の転写因子を抑圧することによって、対象においてミエリン欠乏症を処置する方法に関する。この方法は、ミエリン欠乏症を有する対象に、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及びSTAT3からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を抑圧する薬剤を投与することを含み、この薬剤は、対象の成体グリア前駆細胞において1つ又は複数の転写因子を抑圧するための有効量で投与される。
【0093】
本発明の別の態様は、ある特定の老化遺伝子を抑圧することによって、対象においてミエリン欠乏症を処置する方法に関する。この方法は、対象に、RUNX1、BIN1、VAMP3、DMTF1、CTNNA1、SERPINE1、CDK19、CDKN1C、RUNX2、EFEMP1、MAP3K7、AHR、OGT、PAK1、CBX7及びCYLDからなる群から選択される1つ又は複数の老化遺伝子の発現を阻害する薬剤を投与することを含み、この薬剤は、対象の成体グリア前駆細胞において1つ又は複数の老化遺伝子を抑圧するための有効量で投与される。
【0094】
本発明の別の態様は、ある特定のグリア標的遺伝子を抑圧することによって、対象においてミエリン欠乏症を処置する方法に関する。この方法は、対象に、MBP、CD9、ENPP2、PLP1、ERBIN、ZNF365、UGT8、GDNF、DUSP10、PMP22、ERBB4及びMYRFからなる群から選択される1つ又は複数の老化遺伝子の発現を阻害する薬剤を投与することを含み、この薬剤は、対象の成体グリア前駆細胞において1つ又は複数のグリア標的遺伝子を抑圧するための有効量で投与される。
【0095】
本発明のこの態様によれば、ミエリン欠乏症は、多発性硬化症、視神経脊髄炎、横断性脊髄炎、視神経炎、皮質下脳卒中、糖尿病性白質脳症、高血圧性白質脳症、加齢性白質病、脊髄傷害、放射線又は化学療法誘導性脱髄、感染後及びワクチン接種後白質脳炎、脳室周囲白質軟化症、小児白質ジストロフィー(例えば、ペリツェウス・メルツバッハ病、テイ・サックス病、サンドホフガングリオシドーシス、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症、ニーマン・ピック病A型、副腎白質ジストロフィー、カナバン病、白質消失病及びアレキサンダー病)、リソソーム蓄積症、先天性髄鞘形成不全、炎症性脱髄、血管性脱髄、ならびに脳性麻痺からなる群から選択される状態に関連し得る。
【0096】
一部の実施形態では、ミエリン欠乏症は、神経変性疾患、例えば、ハンチントン病に関連する。本明細書で使用される場合、「ハンチントン病」は、典型的には成人期において顕在化する常染色体優性遺伝性脳障害を指す。ハンチントン病の病理は、髄鞘低形成、ならびにニューロン及び白質喪失によって特徴付けられる。
【0097】
他の実施形態では、ミエリン欠乏症は、精神神経疾患、例えば、統合失調症に関連する。
【0098】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法又はミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、STAT3を抑圧する薬剤である。本開示の図4Fに示されるように、成体グリア前駆細胞の文脈では、STAT3は、老化関連遺伝子(例えば、BIN1、DMTF1、CD47、CTNNA1、RUNX2、RUNX1、MAP3K7及びOGT)、グリア細胞関連遺伝子(例えば、PLP1、CNP、PMP22、SEMA4D、CLDN11、GPR37、MYRF、MAG、BCAS1、ST18、ERBB4、CERS2、LPAR1及びGJB1)及び下流の転写因子(例えば、MAX、E2F6及びIKZF3)のセットを活性化すると予測される。一部の実施形態では、薬剤は、STAT3及び/又はSTAT3によって活性化される上で示された老化関連遺伝子のいずれかの活性を抑圧又はサイレンシングする薬剤である。
【0099】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、ZNF274、MAX、E2F6及びIKZF3のうちの1つ又は複数を抑圧する薬剤である。本出願の図4Gに示されるように、成体グリア前駆細胞の文脈では、ZNF274、MAX、E2F6及びIKZF3は、増殖関連遺伝子標的(例えば、YAP1、LMNB1、PATZ1、TEAD1、FN1、TP53、CDK1、CCND2、CDKN2D、CENPH、MKI67、CDK4、CENPF、CDK5、CDKN3及びCHEK1)、グリア細胞関連遺伝子(例えば、CHRDL1、ST8SIA1、PTPRZ1、CA10、PDGFRA、BCAN、NXPH1、CSPG4及びPCDH15)及び下流の転写因子(例えば、BLC11A、EZH2、HDAC2、NF1B、MYC、HMGA2及びTEAD)のセットを抑制すると予測される。
【0100】
一部の実施形態では、薬剤は、下流の増殖関連遺伝子標的の発現を可能にするために、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3、又はそれらの任意の組合せの活性を抑圧又はサイレンシングする薬剤である。
【0101】
一部の実施形態では、薬剤は、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3を抑圧する薬剤である。本明細書で記載される方法における使用に適切な薬剤には、限定なしに、ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及びSTAT3阻害剤が含まれる。
【0102】
ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及び/又はSTAT3阻害剤は、(1)小分子阻害剤、(2)核酸分子阻害剤(例えば、miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチド)、(3)ヌクレアーゼベースの遺伝子編集系(例えば、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/もしくはSTAT発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPR/Cas系)、又は(4)(2)もしくは(3)をコードする核酸分子、であり得る。
【0103】
小分子阻害剤
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及び/又はSTAT3阻害剤は、小分子阻害剤である。当該分野で公知であり、本明細書で記載される方法に従う使用に適切な、これらの転写因子の例示的な小分子阻害剤は、以下の表5に提供される。表5の小分子阻害剤のアナログ及び誘導体もまた、本明細書で記載される方法における使用のために企図される。
【0104】
【表5】
【0105】
一部の実施形態では、小分子阻害剤は、10058-F4(「10058-F4(1RH)」としても公知)(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Huangら、「A Small-Molecule c-Myc Inhibitor,10058-F4,Induces Cell-Cycle Arrest,Apoptosis,and Myeloid Differentiation of Human Acute Myeloid Leukemia」、Exp.Hematol.34(11):1480~1489(2006)を参照されたい);MYCMI-6、MYCMI-11及びMYCMI-14(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Castellら、「A Selective High Affinity MYC-Binding Compound Inhibits MYC:MAX Interaction and MYC-Dependent Tumor Cell Proliferation」、Sci.Rep.8:10064(2018)を参照されたい);12RH、22RH、27RH、28RH、1RH-S-Me、1RH-NCN-1、#015、#474、#764、12RH-NCN-1及び28RH-NCN-1(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Wangら、「Improved Low Molecular Weight Myc-Max inhibitors」、Mol.Cancer Ther.6(9):2399~2408(2007)を参照されたい)からなる群から選択される、Myc関連因子X(MAX)の小分子阻害剤である。
【0106】
一部の実施形態では、小分子阻害剤は、クリプトタンシノン(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Shinら、「Cryptotanshinone Inhibits Constitutive Signal Transducer and Activator of Transcription 3 Function through Blocking the Dimerization in DU145 Prostate Cancer Cells」、Cancer Res.69(1):193~202(2009)を参照されたい);STA-21(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Songら、「A Low-Molecular-Weight Compound Discovered through Virtual Database Screening Inhibits Stat3 Function in Breast Cancer Cells」、PNAS 102(13):4700~4705(2005)を参照されたい);NSC 7459(S3I-201)(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Siddiqueeら、「Selective Chemical Probe Inhibitor of Stat3,Identified through Structure-Based Virtual Screening,Induces Antitumor Activity」、PNAS 104(18):7391~7396(2007)を参照されたい);ナパブカシン(BBI608)(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Liら、「Suppression of Cancer Relapse and Metastasis by Inhibiting Cancer Stemness」、PNAS 112(6):1839~1844(2015)及びHubbardら、「Napabucasin:An Update on the First-in-Class Cancer Stemness Inhibitor」、Drugs 77(10):1091~1103(2017)を参照されたい);スタティック(Stattic)、ククルビタシンI、ククルビタシンQ、Phpr-pTyr-Leu-シス-3,4-メタノPro-Gln-NHBn(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、McMurray,J.、「A New Small-Molecule Stat3 Inhibitor」、Chem.Biol.13(11):1123~1124(2006)を参照されたい);LLL-3(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Fuhら、「LLL-3 Inhibits STAT3 Activity,Suppresses Glioblastoma Cell Growth and Prolongs Survival in a Mouse Glioblastoma Model」、Br.J.Cancer 100(1):106~112(2009)を参照されたい);LLL-12、S31-201、SF-1-066、S31-1757、STX-0119、Cpd30-12、LY5、Cpd9及びCpd1(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Orlovaら、「Direct Targeting Options for STAT3 and STAT5 in Cancer」、Cancers 11(12):1930(2019)を参照されたい);SF-1-087、SF-1-121、S3I-M2001、S3I-201.1066及びBP-1-102(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Wuら、「Negative Regulators of STAT Signaling Pathway in Cancers」、Cancer Manag.Res.11:4957~4969(2019)を参照されたい);HO-3867(例えば、Tierneyら、「HO-3867,a STAT3 Inhibitor Induces Apoptosis by Inactivation of STAT3 Activity in BRCA1-Mutated Ovarian Cancer Cells」、Cancer Biol.Ther.13(9):766~775(2012)を参照されたい;コリリフォル(corylifol)A(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Leeら、「Phenolic Compounds Isolated from Psoralea corylifolia Inhibit IL-6-Induced STAT3 Activation」、Planta.Med.78(9):903~906(2012)を参照されたい);ならびにSD 1008(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Liuら、「SOCS3 Promotes Inflammation and Apoptosis via Inhibiting JAK2/STAT3 Signaling Pathway in 3T3-L1 Adipocyte」、Immunobiology 220(8):947~953(2015)を参照されたい)からなる群から選択される、シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)の小分子阻害剤である。
【0107】
核酸阻害剤
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及び/又はSTAT3阻害剤は、核酸分子阻害剤である。
【0108】
本明細書で使用される場合、用語「核酸分子阻害剤」は、標的遺伝子の発現を低減させる又は排除する核酸分子を指す。核酸分子阻害剤は、典型的には、標的特異的阻害を達成するために、標的遺伝子又は標的遺伝子mRNA中の配列を特異的に標的化する領域を含有する。典型的には、核酸阻害剤分子の標的化領域は、核酸阻害剤分子の効果を、特定された標的遺伝子又は標的遺伝子mRNAへと指向させるために、標的遺伝子又は標的遺伝子mRNA上の配列に対して十分に相補的な配列を含む。例えば、「ZNF274の核酸分子阻害剤」は、ZNF274遺伝子の発現を低減させる又は排除する。核酸阻害剤分子には、天然リボヌクレオチド、天然デオキシリボヌクレオチド及び/又は改変ヌクレオチドが含まれ得る。改変ヌクレオチドには、改変、例えば、糖環上の位置上の置換、ヌクレオチド間のリン酸エステル連結の改変、非天然塩基、ならびに非天然の代替的炭素構造、例えば、ロック核酸(「LNA」)及びアンロック核酸(「UNA」)が含まれる。
【0109】
本明細書で使用される場合、用語「低減させる(reduce)」又は「低減させる(reduces)」は、当該分野で一般に受容される通りのその意味を指す。例示的な核酸阻害剤分子(例えば、miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の核酸分子阻害剤)に関して、低減させる(reduce)」又は「低減させる(reduces)」は一般に、核酸阻害剤分子の非存在下で観察された遺伝子の転写及び/又は翻訳と比較した、遺伝子の転写及び/もしくは翻訳又は遺伝子産物のレベルにおける抑圧を指す。一部の実施形態では、遺伝子の転写及び/もしくは翻訳又は遺伝子産物のレベルにおける低減は、本開示に従う核酸阻害剤分子の非存在下で観察されたものと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、最大で100%(即ち、検出可能な転写及び/又は翻訳なし)である、又は多くて2分の1、多くて5分の1、多くて10分の1、多くて20分の1、多くて30分の1、多くて40分の1、多くて50分の1もしくはそれよりも下への低減である。
【0110】
適切な核酸阻害剤分子には、限定なしに、(i)miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)から選択される、ZNF274の核酸分子阻害剤;(ii)miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される、MAXの核酸分子阻害剤;(iii)miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される、E2F6の核酸分子阻害剤;(iv)miRNA、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される、IKZF3の核酸分子阻害剤;ならびに(v)miRNA、miRNA阻害剤、shRNAi、siRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される、STAT3の核酸分子阻害剤、が含まれる。
【0111】
本明細書で使用される場合、用語「microRNA」又は「miRNA」は、遺伝子発現を負に調節し得る小さいRNA分子のクラスを指す(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Lamら、「siRNA Versus miRNA as Therapeutics for Gene Silencing」、Mol.Ther.Nucleic Acids 4(9):e252(2015)を参照されたい)。miRNA遺伝子転写が、核においてRNAポリメラーゼIIによって実施されて、一次miRNA(pri-miRNA)を生じ、これは、二本鎖ステム-ループ構造を有する、5’キャップされ3’ポリアデニル化されたRNAである。次いで、pri-miRNAは、マイクロプロセッサ(microprocessor)複合体(Drosha及びマイクロプロセッサ複合体サブユニットDCGR8を含む)によって切断されて、前駆体miRNA(pre-miRNA)を形成し、これは、散在したミスマッチを有する70~100ヌクレオチドを含有し、ループ構造をとる、二重鎖である。pre-miRNAは、引き続いて、エクスポーチン5によって核から細胞質に輸送され、この場所で、Dicerによって、18~25ヌクレオチドのmiRNA二重鎖へとさらにプロセシングされる。次いで、miRNA二重鎖は、RISCと会合して、miRISCと呼ばれる複合体を形成する。miRNA二重鎖はほどけ、パッセンジャー鎖(センス鎖)を放出及び放棄する。成熟一本鎖miRNAは、miRISCを標的mRNAにガイドする。成熟miRNAは、部分的な相補的塩基対合を介して標的mRNAに結合し得、その結果、標的遺伝子サイレンシングが、翻訳抑制、分解及び/又は切断を介して生じる。一部の実施形態では、核酸阻害剤分子は、miRNA分子である。本開示の方法における使用に適切なmiRNA阻害剤分子には、限定なしに、以下の表6で同定されたものが含まれる。
【0112】
【表6】
【0113】
一部の実施形態では、MAX阻害剤は、MAXの核酸分子阻害剤であり、適切なMAX核酸分子阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なMAX阻害剤miRNAは、miR-485-5p、pre-miR-485-5p又は成熟miR-485-5pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号7のヌクレオチド配列を有し得る。
【0114】
一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、E2F6の核酸分子阻害剤であり、適切なE2F6核酸分子阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なE2F6阻害剤miRNAは、miR-379-5p、pre-miR-379-5p又は成熟miR-379-5pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号8のヌクレオチド配列を有し得る。
【0115】
一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、STAT3の核酸分子阻害剤であり、適切なSTAT3阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なSTAT3阻害性miRNAは、miR-125b-5p、pre-miR-125b-5p、成熟miR-125b-5p、miR-106a-5p、pre-miR-106a-5p、成熟miR-106a-5p、miR-17-5p、pre-miR-17-5p、成熟miR-17-5p、miR-130a-3p、pre-miR-130a-3p、成熟miR-130a-3p、miR-130b-3p、pre-miR-130b-3p又は成熟miR-130b-3pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12又は配列番号13のヌクレオチド配列を有し得る。
【0116】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、(i)当該投与が、シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)シグナル伝達経路を抑圧する、miR-125b-5p、miR-106a-5p、miR-17-5p、miR-130a-3p及びmiR-130b-3pからなる群から選択される1つもしくは複数のmicroRNA;(ii)当該投与が、E2F転写因子6(E2F6)シグナル伝達経路を抑圧する、miR-379-5p;ならびに/又は(iii)当該投与が、Myc関連因子X(MAX)シグナル伝達経路を抑圧する、miR-485-5pをコードする1つ又は複数の発現ベクターを含む。
【0117】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、MAX阻害剤をコードする発現ベクターを含む。一部の実施形態では、MAX阻害剤は、核酸分子阻害剤である。一部の実施形態では、MAX核酸分子阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なMAX阻害剤miRNAは、miR-485-5p、pre-miR-485-5p又は成熟miR-485-5pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号7のヌクレオチド配列を有し得る。
【0118】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、E2F6阻害剤をコードする発現ベクターを含む。一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、核酸分子阻害剤である。一部の実施形態では、E2F6核酸分子阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なE2F6阻害剤miRNAは、miR-379-5p、pre-miR-379-5p又は成熟miR-379-5pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号8のヌクレオチド配列を有し得る。
【0119】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、STAT3阻害剤をコードする発現ベクターを含む。一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、核酸分子阻害剤である。一部の実施形態では、STAT3核酸分子阻害剤は、miRNAである。かかる実施形態によれば、例示的なSTAT3阻害性miRNAは、miR-125b-5p、pre-miR-125b-5p、成熟miR-125b-5p、miR-106a-5p、pre-miR-106a-5p、成熟miR-106a-5p、miR-17-5p、pre-miR-17-5p、成熟miR-17-5p、miR-130a-3p、pre-miR-130a-3p、成熟miR-130a-3p、miR-130b-3p、pre-miR-130b-3p又は成熟miR-130b-3pに対応するヌクレオチド配列を有する。例えば、miRNAは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12又は配列番号13のヌクレオチド配列を有し得る。
【0120】
一部の実施形態では、若返りを誘導する方法及びミエリン欠乏症を処置する方法において使用される薬剤は、以下の表7に示されるような、(1)miR-485-5p miR-379-5p、miR-125b-5p、miR-106a-5p、miR-17-5p、miR-130a-3p及びmiR-130b-3pからなる群から選択される1つ又は複数のmicroRNA、ならびに(2)miR-93-3p、miR-1260b、miR-767-5p、miR-30b-5p、miR-9-3p及びmiR-9-5pからなる群から選択される1つ又は複数のmicroRNAをコードする発現ベクターを含む。
【0121】
【表7】
【0122】
一部の実施形態では、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の核酸阻害剤分子は、shRNA分子である。低分子ヘアピン型RNA(shRNA)分子は、ループによって接続された、標的遺伝子由来のセンス配列及びアンチセンス配列を含む。いったん転写されると、shRNA分子は、核から細胞質中に輸送され、この場所で、酵素Dicerが、低分子ヘアピン型RNA干渉プロセスにおいて、それらを低分子(small/short)干渉RNA(siRNA)へとプロセシングする。本明細書で使用される場合、用語「低分子ヘアピン型RNA干渉」又は「shRNAi」は、遺伝子発現を負に調節する小さいRNA分子のクラスによって媒介されるプロセスである。
【0123】
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤は、ZNF274の核酸分子阻害剤であり、適切なZNF274阻害剤は、ZNF274 shRNAである。一部の実施形態では、MAX阻害剤は、MAXの核酸分子阻害剤であり、適切なMAX阻害剤は、MAX shRNAである。一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、E2F6の核酸分子阻害剤であり、適切なE2F6阻害剤は、E2F6 shRNAである。一部の実施形態では、IKZF3阻害剤は、IKZF3の核酸分子阻害剤であり、適切なIKZF3阻害剤は、IKZF3 shRNAである。一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、STAT3の核酸分子阻害剤であり、適切なSTAT3阻害剤は、STAT3 shRNAである。
【0124】
一部の実施形態では、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の核酸阻害剤分子は、siRNAである。本明細書で使用される場合、用語「低分子干渉RNA」又は「siRNA」は、3’-2ヌクレオチドオーバーハングを有する、典型的には21~23ヌクレオチド長の短い核酸分子を指す(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、McManus及びSharp、「Gene Silencing in Mammals by Small Interfering RNAs」、Nat.Rev.Genet.3(10):737~747(2002)を参照されたい)。siRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(「RISC」)と相互作用し、それを活性化する。RISCのエンドヌクレアーゼアルゴノート2(AGO2)成分は、siRNAのパッセンジャー鎖(センス鎖)を切断するが、ガイド鎖(アンチセンス鎖)は、RISCと会合したままである。
【0125】
引き続いて、ガイド鎖は、AGO2による切断のために、活性RISCをその標的mRNAにガイドする。ガイド鎖は、それに対して完全に相補的なmRNAのみに結合するので、siRNAは、特異的遺伝子サイレンシングを引き起こす(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Lamら、「siRNA Versus miRNA as Therapeutics for Gene Silencing」、Mol.Ther.Nucleic Acids 4(9):e252(2015)を参照されたい)。
【0126】
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤は、ZNF274 siRNAである。一部の実施形態では、MAX阻害剤は、MAX siRNAである。一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、E2F6 siRNAである。一部の実施形態では、IKZF3阻害剤は、IKZF3 siRNAである。一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、STAT3 siRNAである。
【0127】
一部の実施形態では、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の核酸阻害剤分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。本明細書で使用される場合、用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」又は「ASO」は、種々の機構を介して遺伝子発現をモジュレートするために使用され得る、多様な化学の小さい(約18~30ヌクレオチド)合成の一本鎖核酸ポリマーを指す(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Robertsら、「Advances in Oligonucleotide Drug Delivery」、Nature Reviews Drug Discovery 19:673~694(2020)を参照されたい)。ASOは、以下の2つの主要なカテゴリーへと下位分割され得る:RNase Hコンピテント及び立体遮断(steric block)。内因性RNase H酵素RNASEH1は、DNAベースのオリゴヌクレオチドがそれらのコグネートmRNA転写物に結合する際に形成されるRNA-DNAヘテロ二重鎖基質を認識し、RNAの分解を触媒する。ASO結合の部位における切断は、標的RNAの破壊を生じ、それにより、標的遺伝子発現をサイレンシングする。立体遮断オリゴヌクレオチドは、高い親和性で標的転写物に結合するように設計されているが、RNase Hコンピテンスを欠如するので、標的転写物分解を誘導しない、ASOである。したがって、かかるオリゴヌクレオチドは、連続するDNA様塩基の一続きが回避されるように、RNAと対合した場合にRNase H基質を形成しないヌクレオチド、又はヌクレオチド化学の混合物(即ち、「ミクスマー(mixmer)」)のいずれかを含む。
【0128】
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤は、ZNF274 ASOである。一部の実施形態では、MAX阻害剤は、MAX ASOである。一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、E2F6 ASOである。一部の実施形態では、IKZF3阻害剤は、IKZF3 ASOである。一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、STAT3 ASO、例えば、ダンバチルセン(danvatirsen)である(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Xuら、「Population Pharmacokinetic Analysis of Danvatirsen Supporting Flat Dosing Switch」、J.Pharmacokinet.Pharmacodyn.46(1):65~74(2019)を参照されたい)。
【0129】
核酸阻害剤を設計する方法は、当該分野で周知であり、本明細書で記載される方法における使用のための核酸阻害剤を設計するのに適切である(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Lamら、「siRNA Versus miRNA as Therapeutics for Gene Silencing」、Mol.Ther.Nucleic Acids 4(9):e252(2015)及びKulkarniら、「The Current Landscape of Nucleic Acid Therapeutics」、Nature Nanotechnology 16:630~643(2021)を参照されたい)。
【0130】
核酸阻害剤分子は、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3ならびにそれらの転写バリアントを、配列特異的様式で標的化するように設計される。ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3ならびにそれらの転写バリアントの配列は、当該分野で周知であり、種々のキュレートされたデータベース、例えば、NCBIヌクレオチド又は遺伝子データベースを介してアクセス可能である。一部の実施形態では、核酸阻害剤分子は、提供されたNCBI受託番号を介して入手可能な配列を使用して以下の表8で同定された転写因子のうちの1つ又は複数を標的化するように設計される。
【0131】
【表8】
【0132】
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及び/又はSTAT3阻害剤は、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の発現をサイレンシングすることが可能なヌクレアーゼベースの遺伝子編集系である。本明細書で使用される場合、用語「ヌクレアーゼベースの遺伝子編集系」は、ゲノム中の標的配列に動員され得るヌクレアーゼ又はその誘導体を含む系を指す。この系は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(「Cas」)タンパク質(例えば、Cas9、Cas12a及びCas12b)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(「ZFN」)又は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(「TALEN」)を含み得る。
【0133】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼベースの遺伝子編集系は、ZNF274発現、MAX発現、E2F6発現、IKZF3発現及び/又はSTAT3発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPR/Cas系である。CRISPR/Cas系は、Casタンパク質又はCasタンパク質をコードする核酸分子と、標的DNA配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含むガイドRNAとを含み得る。
【0134】
本明細書で記載される場合、Casタンパク質は、Casタンパク質を標的DNA配列にガイドするガイドRNAと共にリボヌクレオタンパク質複合体を形成する。適切なCasタンパク質には、Casヌクレアーゼ(即ち、標的核酸配列において二本鎖切断を導入することが可能なCasタンパク質)、Casニッカーゼ(即ち、標的核酸配列において一本鎖切断を導入することが可能なCasタンパク質誘導体)及びヌクレアーゼデッド(dead)Cas(dCas)タンパク質(即ち、ヌクレアーゼ活性を全く有さないCasタンパク質誘導体)が含まれる。
【0135】
一部の実施形態では、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。本明細書で使用される場合、用語「Cas9タンパク質」又は「Cas9」は、組換えのもしくは天然に存在する形態のCRISPR関連タンパク質9(Cas9)又はそのバリアントもしくはホモログのいずれかを含む。一部の実施形態では、バリアント又はホモログは、天然に存在するCas9タンパク質と比較して、配列全体又は配列の一部分(例えば、50、100、150又は200連続するアミノ酸の部分)にわたって少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、Cas9タンパク質は、UniProt参照番号Q99ZW2、G3ECR1、J7RUA5、A0Q5Y3もしくはJ3F2B0(これらは、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)によって同定されるタンパク質又はそれと実質的な同一性を有するバリアントもしくはホモログと実質的に同一である。一部の実施形態では、Cas9タンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ及びヌクレアーゼデッドCas9(「dCas9」)からなる群から選択される。
【0136】
一部の実施形態では、Casタンパク質は、Cas12aタンパク質である。本明細書で使用される場合、用語「Cas12aタンパク質」又は「Cas12a」は、組換えのもしくは天然に存在する形態のCRISPR関連タンパク質12(Cas12a)又はそのバリアントもしくはホモログのいずれかを含む。一部の実施形態では、バリアント又はホモログは、天然に存在するCas12aタンパク質と比較して、配列全体又は配列の一部分(例えば、50、100、150又は200連続するアミノ酸の部分)にわたって少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、Cas12aタンパク質は、UniProt参照番号A0Q7Q2、U2UMQ6、A0A7C6JPC1、A0A7C9H0Z9もしくはA0A7J0AY55(これらは、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)によって同定されるタンパク質又はそれと実質的な同一性を有するバリアントもしくはホモログと実質的に同一である。一部の実施形態では、Cas12aタンパク質は、Cas12aヌクレアーゼ、Cas12aニッカーゼ及びヌクレアーゼデッドCas12a(「dCas12a」)からなる群から選択される。
【0137】
一部の実施形態では、Casタンパク質は、Cas12bタンパク質である。本明細書で使用される場合、用語「Cas12bタンパク質」又は「Cas12b」は、組換えのもしくは天然に存在する形態のCRISPR関連タンパク質12(Cas12b)又はそのバリアントもしくはホモログのいずれかを含む。一部の実施形態では、バリアント又はホモログは、天然に存在するCas12bタンパク質と比較して、配列全体又は配列の一部分(例えば、50、100、150又は200連続するアミノ酸の部分)にわたって少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、Cas12bタンパク質は、UniProt参照番号T0D7A2、A0A6I3SPI6、A0A6I7FUC4、A0A6N9TP17、A0A6M1UF64、A0A7Y8V748、A0A7X7KIS4、A0A7X8X2U5もしくはA0A7X8UMW7(これらは、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)によって同定されるタンパク質又はそれと実質的な同一性を有するバリアントもしくはホモログと実質的に同一である。一部の実施形態では、Cas12bタンパク質は、Cas12bヌクレアーゼ、Cas12bニッカーゼ及びヌクレアーゼデッドCas12b(「dCas12b」)からなる群から選択される。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「ガイドRNA」又は「gRNA」は、核タンパク質に結合することが可能であり、それによりリボヌクレオタンパク質複合体を形成する、リボヌクレオチド配列を指す。本開示の方法及び系によれば、ガイドRNAは、(i)ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3又はSTAT3配列の標的核酸配列に対して相補的なDNA標的化配列、及び(ii)Casタンパク質(例えば、Cas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、dCas9、Cas12aヌクレアーゼ、Cas12aニッカーゼ又はdCas12a)のための結合配列を含む。
【0139】
一部の実施形態では、ガイドRNAは、「シングルガイドRNA」又は「sgRNA」が含まれ得る、シングルガイドRNA分子(単一のRNA核酸)である。他の実施形態では、本開示の核酸には、2つのRNA分子(例えば、結合配列におけるハイブリダイゼーションを介して一緒に接続されている)が含まれる。したがって、ガイドRNAという用語は、2分子核酸及び単一分子核酸(例えば、sgRNA)の両方を指して、包括的である。
【0140】
一部の実施形態では、gRNAは、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100又はそれよりも多くの核酸残基長である。一部の実施形態では、gRNAは、10~30核酸残基長である。一部の実施形態では、gRNAは、20核酸残基長である。一部の実施形態では、gRNAの長さは、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100又はそれよりも多くの核酸残基長又は糖残基長である。一部の実施形態では、gRNAは、5~50、10~50、15~50、20~50、25~50、30~50、35~50、40~50、45~50、5~75、10~75、15~75、20~75、25~75、30~75、35~75、40~75、45~75、50~75、55~75、60~75、65~75、70~75、5~100、10~100、15~100、20~100、25~100、30~100、35~100、40~100、45~100、50~100、55~100、60~100、65~100、70~100、75~100、80~100、85~100、90~100、95~100、又はそれよりも多くの残基長である。一部の実施形態では、gRNAは、10~15、10~20、10~30、10~40又は10~50残基長である。
【0141】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas系は、ZNF274遺伝子発現をサイレンシングするように標的化され、ガイドRNAは、ZNF274遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0142】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas系は、MAX遺伝子発現をサイレンシングするように標的化され、ガイドRNAは、MAX遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0143】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas系は、E2F6遺伝子発現をサイレンシングするように標的化され、ガイドRNAは、E2F6遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0144】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas系は、IKZF3遺伝子発現をサイレンシングするように標的化され、ガイドRNAは、IKZF3遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0145】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas系は、STAT3 DNA発現をサイレンシングするように標的化され、ガイドRNAは、STAT3遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0146】
一部の実施形態では、ZNF274発現、MAX発現、E2F6発現、IKZF3発現及び/又はSTAT3発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPR/Cas系は、CRISPRi系である。本明細書で使用される場合、用語「CRISPR干渉」又は「CRISPRi」は、遺伝子発現の配列特異的抑制を可能にする系を指す。CRISPRi系は、標的DNA配列を切断することなしに標的遺伝子の転写を遮断するために、ヌクレアーゼデッドCas(「dCas」)タンパク質(即ち、ヌクレアーゼ不活性化Casタンパク質)を含む。ヌクレアーゼ不活性化Casタンパク質及びヌクレアーゼ不活性化Casタンパク質を生成する方法は、当該分野で周知である(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Qiら、「Repurposing CRISPR as an RNA-Guided Platform for Sequence-Specific Control of Gene Expression」、Cell 152(5):1173~1183(2013)を参照されたい)。
【0147】
本明細書で記載される使用に適切なCRISPRi系は、(i)ヌクレアーゼデッドCas(dCas)タンパク質(即ち、ヌクレアーゼ不活性化Casタンパク質)又はdCasタンパク質をコードする核酸分子、ならびに(ii)ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及びSTAT3の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含むガイドRNAを含み得る。
【0148】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼデッドCas(dCas)タンパク質は、dCas9、dCas12a及びdCas12bからなる群から選択される。
【0149】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼデッドCas(dCas)タンパク質は、Casタンパク質と、標的遺伝子、即ち、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及びSTAT3の発現を抑圧又はサイレンシングする1つ又は複数のエピジェネティックモジュレーターとを含む融合タンパク質である。
【0150】
適切なエピジェネティックモジュレーターには、DNAメチルトランスフェラーゼ酵素(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ3アルファ(「DNMT3A」)及びDNAメチルトランスフェラーゼ3様(「DNMT3L」))、ヒストン脱メチル化酵素(例えば、リシン特異的ヒストンデメチラーゼ1(「LSD1」))、ヒストンメチルトランスフェラーゼ酵素(例えば、G9A及びSuV39h1)、転写因子動員ドメイン(例えば、クルッペル関連ボックスドメイン(「KRAB」)、KRAB-メチル-CpG結合タンパク質2ドメイン(「KRAB-MeCP2」)、Zesteのエンハンサー2(「EZH2」))、ジンクフィンガー転写リプレッサードメイン(例えば、スパルト(spalt)様転写因子1(「SALL1」)、ならびに欠損サイレンシングタンパク質のサプレッサー3(「SDS3」))(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Brezginら、「Dead Cas Systems:Types,Principles,and Applications」、Int.J.Mol.Sci.20:6041(2019)を参照されたい)が含まれるがこれらに限定されない。
【0151】
一部の実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、DNMT3A、DNMT2L、LSD1、KRAB、KRAB-MeCP2、EZH2、SALL1、SDS3、G9A及びSuv39h1からなる群から選択される(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Yeoら、「An Enhanced CRISPR Repressor for Targeted Mammalian Gene Regulation」、15(8):611~616(2018);Alerasoolら、「An Efficient KRAB Domain for CRISPRi Applications in Human Cells」、Nature Methods 17:1093~1096(2020);及びDukeら、「An Improved CRISPR/dCas9 Interference Tool for Neuronal Gene Suppression」、Frontiers in Genome Editing 2:9(2020)を参照されたい)。
【0152】
一部の実施形態では、ZNF274阻害剤は、ZNF274 DNA発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPRi系であり、ガイドRNAは、ZNF274遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0153】
一部の実施形態では、MAX阻害剤は、MAX DNA発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPRi系であり、ガイドRNAは、MAX遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0154】
一部の実施形態では、E2F6阻害剤は、E2F6 DNA発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPRi系であり、ガイドRNAは、E2F6遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0155】
一部の実施形態では、IKZF3阻害剤は、IKZF3 DNA発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPRi系であり、ガイドRNAは、IKZF3遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0156】
一部の実施形態では、STAT3阻害剤は、STAT3 DNA発現をサイレンシングするように標的化されるCRISPRi系であり、ガイドRNAは、STAT3遺伝子配列の一部分に対して相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0157】
一部の実施形態では、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3を抑圧する薬剤は、ZNF274阻害剤、MAX阻害剤、E2F6阻害剤、IKZF3阻害剤及びIKZF3阻害剤からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子阻害剤を発現する1つ又は複数の発現ベクターを含む。各発現ベクターは、(1)ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はIKZF3に対する1つ又は複数の核酸阻害剤をコードするヌクレオチド配列、ならびに(2)このヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列を含む。一部の実施形態では、調節配列は、PDGFRAプロモーター、ZNF488プロモーター、GPR17プロモーター、OLIG2プロモーター、CSPG4プロモーター及びSOX10プロモーターからなる群から選択されるグリア細胞特異的プロモーターを含む。一部の実施形態では、調節配列は、誘導性プロモーター又はプロモーター系、例えば、テトラサイクリン制御される誘導性の系、クメート制御される誘導性の系及びラパマイシン制御される誘導性の系を含み、これらは、以下により詳細に記載される。
【0158】
一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター又は細菌ベクターを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、アデノウイルス、AAV、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス及びヘルペスウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、レンチウイルスベクターを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、レトロウイルスベクターを含む。他の実施形態では、1つ又は複数の発現ベクターは、AAVベクターを含む。発現ベクターとしての使用に適切なウイルスベクターを生成及び単離するための方法は、以下により詳細に記載される。
【0159】
IV.発現ベクター
本発明の別の態様は、本明細書に記載される発現ベクターに関する。一部の実施形態では、発現ベクターは、BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子を発現し、発現ベクターは、(1)BCL11A、HDAC2、EZH2、MYC、HMGA2、NFIB及びTEAD2からなる群から選択される1つ又は複数の転写因子をコードするヌクレオチド配列、ならびに(2)このヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列を含む。
【0160】
一部の実施形態では、発現ベクターは、(1)ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はIKZF3に対する1つ又は複数の核酸阻害剤をコードするヌクレオチド配列、ならびに(2)このヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列を含む。
【0161】
一部の実施形態では、調節配列は、PDGFRAプロモーター、ZNF488プロモーター、GPR17プロモーター、OLIG2プロモーター、CSPG4プロモーター及びSOX10プロモーターからなる群から選択されるグリア細胞特異的プロモーターを含む。
【0162】
一部の実施形態では、調節配列は、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系配列を含む。本開示の方法を実施する際に使用され得る又は本開示の系に含まれ得る誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系には、ホルモン及びホルモンアナログ、例えば、プロゲステロン、エクジソン及びグルココルチコイドによって調節されるもの、ならびにテトラサイクリン、ヒートショック、重金属イオン、インターフェロン及びラクトースオペロン活性化化合物によって調節されるプロモーターが含まれる。誘導性プロモーター及び/オペレーター系は、それが動作可能にカップリングされた核酸分子の転写を、「調節剤」(例えば、化学的薬剤又は生物学的分子、例えば、代謝物、小分子)又は刺激に応答して直接的又は間接的に活性化することが可能である。「調節剤」又は刺激の非存在下では、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系に作動可能に連結されたヌクレオチド配列は、転写されない、又は実質的に発現されない。
【0163】
用語「転写されない」又は「実質的に発現されない」は、転写のレベルが、適切な刺激又は調節剤の存在下で観察される転写のレベルの多くて50分の1;好ましくは、適切な刺激又は調節剤の存在下で観察される転写のレベルの多くて100分の1、250分の1もしくは500分の1又はそれよりも下であることを意味する。これらの系の総説については、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Gingrich及びRoder、「Inducible Gene Expression in the Nervous System of Transgenic Mice」、Annu.Rev.Neurosci.21:377~405(1998)を参照されたい。
【0164】
本開示の発現ベクター中に含めるための適切な誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系は、当該分野で周知であり、限定なしに、テトラサイクリン制御されるオペレーター系、クメート制御されるオペレーター系、ラパマイシン誘導性の系、FKCsA誘導性の系及びABA誘導性の系が含まれる(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kallunkiら、「How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies?」Cells 8(8):796(2019);米国特許第8728759号;及び米国特許第7745592号を参照されたい)。
【0165】
一部の実施形態では、テトラサイクリン制御されるオペレーター系は、抑制ベースの構成を含み、Tetオペレーター(「TetO」)は、構成的プロモーターと目的の遺伝子との間に挿入され、オペレーターへのTetリプレッサー(「TetR」)の結合は、目的の核酸配列の下流の転写を抑圧する(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kallunkiら、「How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies?」Cells 8(8):796(2019)を参照されたい)。かかる実施形態によれば、テトラサイクリン(又は合成テトラサイクリン誘導体ドキシサイクリン)の添加は、TetRとTetOとの間の会合の崩壊を生じ、それにより、目的の核酸配列のTetO依存的転写を誘発する。
【0166】
一部の実施形態では、テトラサイクリン制御されるオペレーター系は、Tet-オフ構成を含み、タンデムTetO配列は、目的の核酸配列が後に続くミニマルプロモーターの上流に位置付けられる(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kallunkiら、「How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies?」Cells 8(8):796(2019)を参照されたい)。かかる実施形態によれば、TetRと、単純ヘルペスウイルス1型に由来する真核生物トランス活性化因子であるVP16(「tTA」)とからなるキメラタンパク質は、転写活性化因子に変換され、発現プラスミドは、オペレータープラスミドと一緒にトランスフェクトされる。したがって、テトラサイクリン(又は合成テトラサイクリン誘導体ドキシサイクリン)の存在は、この系又はその成分の発現のスイッチをオフにするが、テトラサイクリンの除去は、スイッチをオンにする。
【0167】
一部の実施形態では、テトラサイクリン制御されるオペレーター系は、Tet-オン構成を含み、この系又はその成分は、テトラサイクリンが存在する場合に転写される(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kallunkiら、「How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies?」Cells 8(8):796(2019)を参照されたい)。かかる実施形態によれば、タンデムTetO配列は、目的の核酸配列が後に続くミニマルプロモーターの上流に位置付けられる。テトラサイクリン(又は5合成テトラサイクリン誘導体ドキシサイクリン)の存在下では、突然変異体rTa(「rtTa」)は、TetO配列に結合し、それにより、ミニマルプロモーターを活性化する。
【0168】
一部の実施形態では、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系は、クメート制御されるオペレーター系である。テトラサイクリン制御されるオペレーター系と同様、クメート制御されるオペレーター系、クメートオペレーター(「CuO」)及びそのリプレッサー(「CymR」)は、リプレッサー構成、活性化因子構成及び逆活性化因子(reverse activator)構成へと操作され得る(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kallunkiら、「How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies?」Cells 8(8):796(2019)を参照されたい)。
【0169】
一部の実施形態では、クメート制御されるオペレーター系は、抑制ベースの構成を含み、クメートオペレーター(「CuO」)は、構成的プロモーターと目的の遺伝子との間に挿入され、オペレーターへのクメートリプレッサー(「CymR」)の結合は、本明細書で記載される系(又は系成分)の下流の転写を抑圧する。かかる実施形態によれば、クメートの添加は、CymRを放出し、それにより、系又は系成分のCuO依存的発現を誘発する。
【0170】
一部の実施形態では、クメート制御されるオペレーター系は、活性化因子構成を含み、キメラ分子(「cTA」)は、CymRとVP16との融合を介して形成される。この構成では、ミニマルプロモーターは、マルチマー化されたオペレーター結合部位(例えば、6×CuO)の下流に配置される。目的の核酸配列の転写は、クメートの非存在下で活性化されるミニマルプロモーターによって制御される。
【0171】
一部の実施形態では、クメート制御されるオペレーター系は、逆活性化因子構成を含み、核酸配列は、クメートが存在する場合に転写される。かかる実施形態によれば、タンデムCuO配列は、目的の核酸配列が後に続くミニマルプロモーターの上流に位置付けられる。クメートの存在下では、cTA突然変異体(「rcTA」)は、CuO配列に結合し、それにより、ミニマルプロモーターを活性化する。
【0172】
一部の実施形態では、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系は、ラパマイシン誘導性の系である。かかる実施形態によれば、プロモーターは、ラパマイシン誘導性プロモーター(例えば、ミニマルIL-2プロモーター)である。この系では、DNA 25結合ドメイン(ZFHD1)及び転写因子活性化ドメイン(NF-ΚBp65)は、それぞれFKBP12及びFRAP(mTOR)のラパマイシン結合ドメインとの融合タンパク質として、別々に発現される(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Kohら、「Use of a Stringent Dimerizer-Regulated Gene Expression System for Controlled BMP2 Delivery」、Mol.Ther.14(5):P684~691(2006)を参照されたい)。ラパマイシン(又はラパマイシンアナログFK506)の添加により、融合タンパク質は、可逆的に架橋されて、目的の核酸配列の転写を駆動する。mTOR活性化ドメイン融合タンパク質のラパマイシン結合領域の突然変異は、ラパマイシンとは異なり、内因性mTORタンパク質に結合せず、したがって、免疫抑制活性も抗増殖活性もほとんど有さないラパマイシン様化合物(ラパログ(rapalog))に対して応答性の系を生じる。
【0173】
一部の実施形態では、調節配列は、ヒト伸長因子1αプロモーター(「EF1A」)、5サイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、ヒトユビキチンCプロモーター(「UBC」)、ニワトリベータ-アクチンプロモーター、ハイブリッドニワトリベータ-アクチンプロモーター(CBh)及びホスホグリセロキナーゼ(phosphoglycerokinase)(「PGK」)プロモーターを含む。かかる実施形態によれば、プロモーターは、1つ、2つ、3つもしくはそれよりも多くのTetオペレーター(TetO)部位、又は1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つもしくはそれよりも多くのCuO部位を含むように改変され得る。
【0174】
本発明の発現ベクター中に含めるためのさらなる適切なプロモーターには、H1プロモーター及びU6プロモーターが含まれるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系が、Cas系中の1つ又は複数のガイドRNAをコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結される場合、プロモーターは、H1プロモーター又はU6プロモーターである。H1プロモーターは、1つ、2つ、3つ又はそれよりも多くのTetオペレーター(TetO)部位を含む改変されたH1プロモーターであり得る。U6プロモーターは、1つ、2つもしくは3つのTetオペレーター(TetO)部位、又は1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つもしくはそれよりも多くのCuO部位を含む改変されたU6プロモーターであり得る(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Sunら、「Development of Drug-20 Inducible CRISPR-Cas9 Systems for Large-Scale Functional Screening」、BMC Genomics 20:225(2019)を参照されたい)。
【0175】
一部の実施形態では、調節配列は、転写エンハンサー結合部位、RNAポリメラーゼ開始部位、リボソーム結合部位、及び/又は発現ベクター中の調節配列に作動可能に連結されたヌクレオチド配列の発現を促進する他の部位をさらに含み得る。
【0176】
一部の実施形態では、発現ベクターは、成体グリア前駆細胞の集団の若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系をコードする。
【0177】
一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞の集団の若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系は、ヌクレアーゼデッドCas(dCas)系である。この系は、エピジェネティックモジュレーターに融合されたヌクレアーゼデッドCas(dCas)タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第1の核酸分子;1つ又は複数のガイドRNAをコードする第2の核酸分子であって、1つ又は複数のガイドRNAが各々、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3のDNA配列の一部分にハイブリダイズするRNA配列を含む、第2の核酸分子;ならびに第1の核酸分子、第2の核酸分子又はその両方に動作可能に連結された誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系を含む。一部の実施形態では、不活性化Casタンパク質(dCas)は、dCas9、dCas12a及びdCas12bからなる群から選択される(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Brezginら、「Dead Cas Systems:Types,Principles,and Applications」、Int.J.Mol.Sci.20:6041(2019)を参照されたい)。
【0178】
適切なエピジェネティックモジュレーターは、上に詳細に記載される。一部の実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、DNMT3A、DNMT2L、LSD1、KRAB、KRAB-MeCP2、EZH2、SALL1、SDS3、G9A、Suv39h1、Cs及びWRPWからなる群から選択される(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Yeoら、「An Enhanced CRISPR Repressor for Targeted Mammalian Gene Regulation」、15(8):611~616(2018);Alerasoolら、「An Efficient KRAB Domain for CRISPRi Applications in Human Cells」、Nature Methods 17:1093~1096(2020);及びDukeら、「An Improved CRISPR/dCas9 Interference Tool for Neuronal Gene Suppression」、Frontiers in Genome Editing 2:9(2020)を参照されたい)。一部の実施形態では、遺伝子又は遺伝子プロモーターのメチル化が、その転写を抑圧するのに有効である場合、エピジェネティックモジュレーターは、メチルトランスフェラーゼである。
【0179】
一部の実施形態では、エピジェネティックモジュレーターは、Tetメチルシトシンジオキシゲナーゼ1(「TET1」)、SunTag-TET1、MS2/MCP-TET1、p300Core、4つのタンデムコピーの単純ヘルペスウイルスタンパク質16(「VP64」)、VP160、NF-ΚB p65活性化ドメイン(「p65」)、エプスタイン・バーウイルス由来Rトランス活性化因子(「Rta」)、SunTag-VP64、VP64-p65-Rta(「VPR」)、SunTag-p65-HSF1、TV、相乗的活性化メディエーター(「SAM」)、増強された発現のための3成分別用途技術(Three-Component Repurposed Technology for Enhanced Expression)(「TREE」)、Casilio、Scaffold及びCMVからなる群から選択される(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Brezginら、「Dead Cas Systems:Types,Principles,and Applications」、Int.J.Mol.Sci.20(23):6041(2019)を参照されたい)。一部の実施形態では、遺伝子又は遺伝子タンパク質の脱メチル化がその転写を抑圧するのに有効である場合、エピジェネティックモジュレーターは、デメチラーゼ(例えば、TET1)である。
【0180】
一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系は、dCasがメチルトランスフェラーゼに融合されている、dCas融合タンパク質を含む。任意の実施形態では、成体グリア前駆細胞の集団における若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系は、dCasがデメチラーゼに融合されている、dCas融合タンパク質を含む。
【0181】
本発明の方法に従って使用するための[例示的なdCas融合タンパク質及びdCas融合タンパク質系は、以下の表9で同定される。
【0182】
【表9】
【0183】
一部の実施形態では、dCasタンパク質は、dCas9又はdCas12タンパク質である。
【0184】
一部の実施形態では、このdCas系の第1及び第2の核酸分子は、単一の発現ベクター中に含有される。一部の実施形態では、この系の第1及び第2の核酸分子は、別々の発現ベクター中に含有される。
【0185】
一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞の集団の若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系は、Cas系である。この系は、Casタンパク質をコードする第1の核酸分子;1つ又は複数のガイドRNAをコードする第2の核酸分子であって、当該1つ又は複数のガイドRNAが各々、ZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3のDNA配列の一部分にハイブリダイズするRNA配列を含む、第2の核酸分子;ならびに第1の核酸分子、第2の核酸分子又はその両方に動作可能に連結された誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系を含む。
【0186】
一部の実施形態では、このCasヌクレアーゼ系は、Cas9タンパク質又はCas12タンパク質(例えば、Cas12a又はCas12b)を含む。本開示に従う系に含めるための適切なCasタンパク質及びその誘導体は、当該分野で周知であり、上により詳細に記載される。
【0187】
一部の実施形態では、このCasヌクレアーゼ系の第1及び第2の核酸分子は、単一の発現ベクター中に含有される。一部の実施形態では、第1及び第2の核酸分子は、別々の発現ベクター中に含有される。
【0188】
一部の実施形態では、成体グリア前駆細胞の集団の若返りを誘導するため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための系は、遺伝子編集ヌクレアーゼ系である。この系は、以下を含む:第1のDNA結合モチーフを含む第1の配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼをコードする第1の核酸分子であって、第1のDNA結合モチーフが、それぞれZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の第1のDNA配列に結合する、第1の核酸分子;第2のDNA結合モチーフを含む第2の配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼをコードする第2の核酸分子であって、当該第2のDNA結合モチーフが、それぞれZNF274、MAX、E2F6、IKZF3及び/又はSTAT3の第2のDNA配列に結合する、第2の核酸分子;ならびに第1の核酸分子、第2の核酸分子、又は第1及び第2の核酸分子の両方に動作可能にカップリングされた誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系配列。
【0189】
本発明に従う系に含めるための適切な配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼは、当該分野で周知であり、限定なしに、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(「ZFN」)及び転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(「TALEN」)が含まれる。
【0190】
一実施形態では、本明細書で記載される系の配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼは、ZFNである。ZFNは、ヌクレアーゼドメイン(例えば、FokI制限酵素の切断ドメイン)に融合された少なくとも1つのジンクフィンガーモチーフ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ又は5つのジンクフィンガーモチーフ)を含む人工的エンドヌクレアーゼである。標的核酸配列における2つの個々のZFNのヘテロダイマー化は、標的配列の切断を生じ得る。例えば、2つの個々のZFNは、標的DNA配列の対向する鎖に結合して、標的核酸配列中に二本鎖切断を誘導し得る。本開示の系に含めるための適切なZFNを設計する方法は、当該分野で周知である(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Urnovら、「Genome Editing with Engineered Zinc Finger Nucleases」、Nat.Rev.Genet.11(9):636~646(2010);Gajら、「Targeted Gene Knockout by Direct Delivery of Zinc-Finger Nuclease Proteins」、Nat.Methods 9(8):805~807(2012);米国特許第6,534,261号;米国特許第6,607,882号;米国特許第6,746,838号;米国特許第6,794,136号;米国特許第6,824,978号;米国特許第6,866,997号;米国特許第6,933,113号;米国特許第6,979,539号;米国特許第7,013,219号;米国特許第7,030,215号;米国特許第7,220,719号;米国特許第7,241,573号;米国特許第7,241,574号;米国特許第7,585,849号;米国特許第7,595,376号;米国特許第6,903,185号;及び米国特許第6,479,626号を参照されたい)。一部の実施形態では、第1及び第2の遺伝子編集ヌクレアーゼは、FokIヌクレアーゼである。かかる実施形態によれば、第1及び第2のDNA結合モチーフは、ジンクフィンガーモチーフである。
【0191】
一部の実施形態では、本明細書で記載される系の配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼは、TALENである。TALENは、DNA結合ドメイン及びヌクレアーゼドメイン(例えば、FokI制限酵素の切断ドメイン)を含む、操作された転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼである。DNA結合ドメインは、各々が単一塩基対を認識する一連の33~35アミノ酸のリピートドメインを含む。標的核酸配列における2つの個々のTALENのヘテロダイマー化は、標的配列の切断を生じ得る。例えば、2つの個々のTALENは、標的DNA配列の対向する鎖に結合して、標的核酸配列中に二本鎖切断を誘導し得る。本開示の系に含めるための適切なZFNを設計する方法は、当該分野で周知である(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Scharenbergら、「Genome Engineering with TAL-Effector Nucleases and Alternative Modular Nuclease Technologies」、Curr.Gene Ther.13(4):291~303(2013);Gajら、「Targeted Gene Knockout by Direct Delivery of Zinc-Finger Nuclease Proteins」、Nat.Methods 9(8):805~807(2012);Beurdeleyら、「Compact Designer TALENs for Efficient Genome Engineering」、Nat.Commun.4:1762(2013);米国特許第8,440,431号;米国特許第8,440,432号;米国特許第8,450,471号;米国特許第8,586,363号;及び米国特許第8,697,853号を参照されたい)。一部の実施形態では、第1及び第2の遺伝子編集ヌクレアーゼは、FokIヌクレアーゼである。かかる実施形態によれば、第1及び第2のDNA結合モチーフは、TALEモチーフである。
【0192】
一部の実施形態では、本明細書で記載される配列特異的遺伝子編集ヌクレアーゼ系の第1及び第2の核酸分子は、単一の発現ベクター中に含有される。一部の実施形態では、第1及び第2の核酸分子は、別々の発現ベクター中に含有される。
【0193】
グリア前駆細胞を若返らせるため又は対象においてミエリン欠乏症を処置するための本明細書で記載されるすべての系において、この系の第1及び/又は第2の核酸分子は、上により詳細に記載されるように、誘導性プロモーター及び/又はオペレーター系に動作可能にカップリングされる。
【0194】
一部の実施形態では、本発明の発現ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター又は細菌ベクターである。
【0195】
一部の実施形態では、本発明の発現ベクターは、レンチウイルスベクターである(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Fangらに対する米国特許第748,529号;Uraら、「Developments in Viral Vector-Based Vaccines」、Vaccines 2:624~641(2014);及びHuら、「Immunization Delivered by Lentiviral Vectors for Cancer and Infection Diseases」、Immunol.Rev.239:45~61(2011)、15を参照されたい)。
【0196】
一部の実施形態では、本発明の発現ベクターは、レトロウイルスベクター(例えば、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Fangらに対する米国特許第748,529号及びUraら、「Developments in Viral Vector-Based Vaccines」、Vaccines 2:624~641(2014)を参照されたい)、ワクシニアウイルス、複製欠損アデノウイルスベクター及びガットレス(gutless)アデノウイルスベクター(例えば、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,872,005号を参照されたい)である。
【0197】
他の実施形態では、本発明の発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである(例えば、その各々の全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Krauseら、「Delivery of Antigens by Viral Vectors for Vaccination」、Ther.Deliv.2(1):51~70(2011);Uraら、「Developments in Viral Vector-Based Vaccines」、Vaccines 2:624~641(2014);Buningら、「Recent Developments in Adeno-associated Virus Vector Technology」、J.Gene Med.10:717~733(2008)を参照されたい)。
【0198】
ベクターとしての使用に適切なウイルス発現ベクターを生成及び単離するための方法は、当該分野で公知である(例えば、その各々の全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Bulchaら、「Viral Vector Platforms within the Gene Therapy Landscape」、Nature 6:53(2021);Bouardら、「Viral Vectors:From Virology to Transgene Expression」、Br.J.Pharmacol.157(2):153~165(2009);Grieger及びSamulski、「Adeno-associated Virus as a Gene Therapy Vector:Vector Development,Production and Clinical Applications」、Adv.Biochem.Engin/Biotechnol.99:119~145(2005);Buningら、「Recent Developments in Adeno-associated Virus Vector Technology」、J.Gene Med.10:717~733(2008)を参照されたい)。
【0199】
V.遺伝子改変されたグリア前駆細胞
本開示の態様はまた、本出願の発現ベクター又は核酸分子で遺伝子改変されたグリア前駆細胞に関する。一部の実施形態では、発現ベクター又は核酸分子は、遺伝子改変されたグリア前駆細胞のゲノム中に組み込まれる。一部の実施形態では、発現ベクター又は核酸分子は、遺伝子改変されたグリア前駆細胞中に染色体外(epichromosomal)形態で存在する。
【0200】
一部の実施形態では、グリア前駆細胞は、本発明に従うヌクレアーゼデッドCas(dCas)系、Casヌクレアーゼ系又は遺伝子編集ヌクレアーゼ系で遺伝子改変される。
【0201】
一部の実施形態では、遺伝子改変されたグリア前駆細胞は、哺乳動物グリア前駆細胞である。任意の実施形態では、遺伝子改変されたグリア前駆細胞は、ヒトグリア前駆細胞である。
【0202】
本明細書に記載される遺伝子改変に適切なグリア前駆細胞は、当該分野で公知の又は本明細書で記載される方法を使用して、多分化能性細胞(例えば、神経幹細胞)又は多能性細胞(例えば、胚性幹細胞及び誘導多能性幹細胞)から誘導され得る。さらに別の実施形態では、グリア前駆細胞は、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Goldmanに対する米国特許出願公開第20040029269号及び同第20030223972号に記載されるように、プロモーター特異的分離技法を使用することによって直接、細胞の混合集団を含有する胚性組織、胎児組織又は成体脳組織から抽出され得る。この実施形態によれば、グリア前駆細胞は、脳の脳室もしくは脳室下ゾーンから又は皮質下白質から単離される。
【0203】
一部の実施形態では、遺伝子改変されたグリア前駆細胞は、遺伝子改変された二分化能性グリア前駆細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変されたグリア前駆細胞は、遺伝子改変された、オリゴデンドロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変されたグリア前駆細胞は、遺伝子改変された、アストロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞である。
【0204】
一部の実施形態では、本明細書で記載される発現ベクター又は系を含有するように改変されたグリア前駆細胞の濃度及び/又は純度を増加させるために、遺伝子改変の前又は後に、グリア前駆細胞を含む細胞調製物を富化することが好まれ得る。したがって、一実施形態では、発生又は分化プロセスの初期にグリア前駆細胞上に存在するガングリオシドを認識しそれに結合するA2B5モノクローナル抗体(mAb)が、細胞の混合集団からグリア前駆細胞を分離するために利用される(その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Nunesら、「Identification and Isolation of Multipotential Neural Progenitor Cells From the Subcortical White Matter of the Adult Human Brain.」、Nat Med.9(4):439~47(2003))。A2B5mAbを使用して、グリア前駆細胞は、細胞タイプの混合集団から分離、富化又は精製され得る。別の実施形態では、CD140α/PDGFRα陽性細胞の選択が、二分化能性グリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される。別の実施形態では、CD9陽性細胞の選択が、オリゴデンドロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される。さらに別の実施形態では、CD140α/PDGFRα及びCD9陽性細胞選択の両方が、オリゴデンドロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される。別の実施形態では、CD44陽性細胞の選択が、アストロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される(その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる、Liuら、「CD44 Expression Identifies Astrocyte-Restricted Precursor Cells」、Dev.Biol.276(1):31~46(2004))。別の実施形態では、CD140α/PDGFRα及びCD44陽性細胞選択の両方が、オリゴデンドロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される。別の実施形態では、CD140α/PDGFRα、CD9及びCD44陽性細胞選択は、オリゴデンドロサイトに向けて分化が偏ったグリア前駆細胞の精製又は富化された調製物を産生するために使用される。
【0205】
本発明のさらなる態様は、本発明に従う遺伝子構築物を発現するグリア前駆細胞の調製物に関する。
【0206】
以下の実施例は、本発明の実施形態の実施を例示することを意図するが、その範囲を限定することは決して意図しない。
【実施例
【0207】
物質及び方法
細胞系
ヒトiPSC系C27を使用してhGPCを生成し、hGPCにて目的の予測転写物を検証した。C27系は雄である。細胞を、ヒトiPSC由来GPC産生について詳述されているようにGPCへと分化させた(Chambersら、「Highly Efficient Neural Conversion of Human ES and iPS Cells by Dual Inhibition of SMAD Signaling」、Nat Biotechnol 27巻:275~280頁(2009年)。この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。
【0208】
細胞単離のための成体脳処理及び胎児脳処理
ヒト脳試料は、ロチェスター大学ストロング記念病院にて同意を得た患者から、施設内審査委員会承認のプロトコールに基づいて得た。脳組織は、正常GW18~24皮質及び/又はVZ/SVZ解剖又は成体白質/皮質てんかん切除から得た(mRNAの場合は、18F、19M、及び27F歳、miRNAの場合は、8M、20F、43M、及び54F歳)。胎児GPC入手、A2B5+/PSA-NCAM-細胞の解離及び免疫磁気選別は記載の通りだった(Windremら、「Fetal and Adult Human Oligodendrocyte Progenitor Cell Isolate Myelinate the Congenitally Dysmyelinated Brain」、Nat.Med.10巻:93~97頁(2004年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。二重免疫磁気選別戦略を使用してGPCを解離組織から単離した。マイクロビーズタグ付きラット抗マウスIgM(Miltenyi Biotech)を使用して、マウス抗PSA-NCAM+(Millipore、DSHB)細胞を枯渇させ、次いで記載のように、PSA-NCAM-プールからA2B5+(クローン105;ATCC、マナッサス、バージニア州)を選択した(Windremら、「Fetal and Adult Human Oligodendrocyte Progenitor Cell Isolates Myelinate the Congenitally Dysmyelinated Brain」、Nat.Med.10巻:93~97頁(2004年)及びWindremら、「Neonatal Chimerization with Human Glial Progenitor Cells can both Remyelinate and Rescue the Otherwise Lethally Hypomyelinated Shiverer Mouse」、Cell Stem Cell 2巻:553~565頁(2008年)。こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。選別後、細胞を10ng/ml bFGF及び20ng/ml PDGF-AAを有するDMEM-F12/N1中で1~14日間維持した。代替的に、CD140a/PDGF Rにより規定されるGPCを単離し、以前に記載のようにMACSを使用して選別して(Simら、「CD140a Identifies a Population of Highly Myelinogenic,Migration-Competent and Efficiently Engrafting Human Oligodendrocyte Progenitor Cells」、Nat.Biotechnol.29巻:934~941頁(2011年b)、この文献は、その全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、CD140+グリア前駆細胞の富化集団を得た。
【0209】
バルクRNA配列決定
Qiagen RNeasyキットによりRNAを単離物から精製し、バルクRNA配列決定ライブラリーを構築した。試料は、ロチェスター大学ゲノミクス研究センターのIllumina HiSeq2500で詳細に配列決定された。生FASTQファイルをトリミングし、fastpを使用してアダプターを除去し(Chenら、「fastp:An Ultra-fast All-in-one FASTQ Preprocessor」、Bioinformatics 34巻:i884~i890頁(2018年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、全試料にわたって2パスモードのSTARによりEnsembl95遺伝子注釈を使用してGRCh38にアラインさせ(Dobinら、「STAR:Ultrafast Universal RNA-seq Aligner」、Bioinformatics 29巻:15~21頁(2013年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、RSEMバージョンで定量化した(Li及びDewey、「RSEM:Accurate Transcript Quantification From RNA-Seq Data With or Without a Reference Genome」、BMC Bioinformatics 12巻:323頁(2011年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。その後の分析をRで実施し(R Core Team R:A Language and Environment for Statistical Computing.(ウィーン、オーストリア:R Foundation for Statistical Computing)(2017年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、この場合、RSEM遺伝子レベルの結果をtximportでインポートした(Sonesonら、「Differential Analyses for RNA-seq:Transcript-Level Estimates Improve Gene-Level Inferences,」F1000Research 4巻:1521頁(2015年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。DE分析をDESeq2で実施し(Loveら、「Moderated Estimation of Fold Change and Dispersion for RNA-seq Data With DESeq2」、Genome Biology 15:550巻(2014年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、この場合、ペア分析(胎児A2B5+対CD140a+、胎児CD140a+対CD140a-)ではペア情報をそれらのモデルに追加した。成体対胎児DE分析では、年齢を選別マーカー(CD140a-試料は含まれていなかった)と連結させてグループ変数を定義し、また、技術的ばらつきを考慮するために配列決定バッチをモデルに追加した。調整済みp値<0.01及び絶対Log2 変化倍率>1を有する遺伝子を、有意であるとみなした。次いで、こうしたデータを、少なくとも1つのグループでTPM中央値が1である(RSEMにより計算)と規定した意味のある存在量によりさらにフィルタリングした(20,663個の遺伝子がDE前にこの基準を満たしていた)。
【0210】
scRNA-Seq分析
胎児脳試料を、単一細胞が、CD140a+表面発現又はPSA-NCAM-/A2B5+表面発現のいずれかでFACSにより選別されるまで、バルクrna-seqのために上記のように処理した。次いで、単一細胞を、V2化学を使用して10X genomicsクロムコントローラーで捕捉し、製造業者の説明書に従ってライブラリーを生成した。
【0211】
試料を、Illumina HISeq2500システムで配列決定した。次いで、多重分離された試料を、Cell Rangerを使用して、タンパク質をコードするlncRNA又はmiRNAバイオタイプのみを使用して、GRCh38及びEnsembl95遺伝子注釈から生成されたインデックスに対してアライン及び定量化した。scRNA-Seq試料の分析は、R内のSeurat(Butlerら、「Integrating Single-cell Transcriptomic Data Across Different Conditions, Technologies,and Species」、Nat Biotechnol 36巻:411~420頁(2018年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)により実施した。両試料をマージし、ミトコンドリア遺伝子発現が15%よりも多いか、又は固有遺伝子が500個よりも少ないと規定される低品質細胞をフィルタリングして除外した。次いで、UMIの総数、ミトコンドリア遺伝子含有量パーセント、又は各細胞のS期スコア及びG2M期スコアの差による寄与を、回帰により除去するように注意しながら、SCTransformを使用して試料を正規化した。次いで、PCAを計算し、n.neighbors=60及びrepulsion.strength=0.8で最初の30次元を使用してUMAPを実行した。次いで、FindNeighborsを実行し、続いて解像度を0.35に設定してFindClustersを実行した。各クラスターの発現プロファイルに基づいて、一部の類似したクラスターをより広範な細胞タイプクラスターにマージした。クラスターの静的差次的発現を、MAST試験(Finakら、「MAST:A Flexible Statistical Framework for Assessing Transcriptional Changes and Characterizing Heterogeneity in Single-cell RNA Sequencing Data」、Genome Biology 16巻:278頁(2015年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)を使用して計算し、<0.01の調整済みp値及び>0.5の絶対Log2 変化倍率を有意であるとみなした。活性転写因子レギュロンの予測は、https://resources.aertslab.org/cistarget/.にあるhg38データベースを使用して、RのSCENICパッケージを用いて実施した(Aibarら、「SCENIC:Single-cell Regulatory Network Inference and Clustering」、Nat.Methods 14巻:1083~1086頁(2017年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。遺伝子は、少なくとも1%の細胞で発現された場合、共発現分析に含めた。
【0212】
Ingenuityパスウエイ解析及びネットワーク構築
差次的に発現された遺伝子を、Ingenuityパスウエイ解析(Qiagen)に入力して、有意な標準的、機能的、及び上流のシグナル伝達タームを決定した。IPAネットワークを構築するために、タームを、0.001を下回る調整済みp値でフィルタリングした。iGraphパッケージ(Csardi,GN,Tamas「The Igraph Software Package for Complex Network Research」、InterJournal Complex Systems 1695(2006年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)を使用して、無関連IPAタームを、ジャッカード類似性インデックスにより評価した高度に冗長な機能的タームと共に削除した。モジュール性をGephi内で確立し(Bastianら、「Gephi:An Open Source Software for Exploring and Manipulating Networks」、(2009年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、それにより最終的なネットワークをCytoscapeを使用して可視化した(Shannon P.、「Cytoscape:A Software Environment for Integrated Models of Biomolecular Interaction Networks」、Genome Res 13巻:2498~2504頁(2003年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。目的の遺伝子及びタームを、視覚化のために保持した。モジュールを相互に分割し、yFiles有機レイアウトを使用して整理した。
【0213】
転写因子活性の推定
成体富化遺伝子リスト及び胎児富化遺伝子リストを別々にRcisTargetに入力して(Aibarら、「SCENIC:Single-cell Regulatory Network Inference and Clustering」、Nat.Methods 14巻:1083~1086頁(2017年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、遺伝子のプロモーター付近のウィンドウ(500bp上流/100bp下流ならびに10kb上流及び10kb下流)におけるモチーフの過剰発現を同定した。次いで、有意に富化されたモチーフ(NES>3)に関連付けられた転写因子を、入力遺伝子リストの有意な差次的発現によりフィルタリングした。各ウィンドウ及び遺伝子リスト内には、適切なTF遺伝子相互作用(遺伝子を下方制御するリプレッサー及び遺伝子を上方制御する活性化因子)のみを保持した。次いで、スキャンウィンドウをマージして、予測胎児/成体リプレッサー/活性化因子のTF遺伝子エッジリストを作成した。目的のTFは、文献で主に活性化因子又はリプレッサーとしてのみ報告されているものに絞り込んだ。
【0214】
miRNAマイクロアレイ解析
A2B5+成体(n=3)細胞懸濁物及びCD140a+胎児(n=4)細胞懸濁物を上記のようにMACSで単離し、製造業者の使用説明書(QIAGEN)に従ってmiRNeasyキットを使用してそれらのmiRNAを単離した。次いで、精製miRNAを、Affymetrix GeneChip miRNA3.0アレイで標準的プロトコールによる指示に従って調製及びプロファイリングした。次いで、生CELファイルをオリゴ(Carvalho及びIrizarry、「A Framework for Oligonucleotide Microarray Preprocessing」、Bioinformatics 26巻:2363~2367頁(2010年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)パッケージでRに読み込み、試料を、ロバストなマルチアレイ平均化(RMA)で正規化した。次に、プローブを、Affymetrix注釈に従ってヒトmiRNAのみについてフィルタリングし、差次的発現をlimmaで実施し(Ritchieら、「Limma Powers Differential Expression Analyses for RNA-Sequencing and Microarray Studies」、Nucleic Acids Res 43巻:e47頁(2015年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、有意性を調整済みp値<0.01で確立した。最後に、miRNAtap(Pajak M.、「miRNAtap:miRNAtap:microRNA Targets-Aggregated Predictions」、R Package Version 1.22.0(2020年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)を使用し、min_srcを2に設定し、方法を「geom」に設定して、5つの独立したmiRNA予測データベースにわたって差次的発現miRNAを調査した。miRNAの転写因子調節は、TrasmiR V2.0データベースをクエリーすることにより実施した(Tongら、「TransmiR v2.0:An Updated Transcription Factor-microRNA Regulation Database」、Nucleic Acids Res 47巻:D253~D258頁(2019年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。
【0215】
探索的解析及び視覚化
バルクRNA-Seq試料又はマイクロアレイ試料のPCAは、DESeq2オブジェクトの分散安定化値の初期設定を用いてprcompで計算した。PCAを、ggfortifyパッケージのautoplotでプロットした。EnhancedVolcanoを使用して火山プロットを生成した。グラフを、ggplot2を使用してさらに編集又は新たに生成し、patchworkを使用してアラインした。
【0216】
ヒトiPSC由来GPC産生
ヒト誘導多能性幹細胞(C27(Chambersら、「Highly Efficient Neural Conversion of Human ES and iPS Cells by Dual Inhibition of SMAD Signaling」、Nat Biotechnol 27巻:275~280頁(2009年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる))を、本発明者らの以前に記載のプロトコールを使用してGPCへと分化させた(Osipovitchら、「Human ESC-Derived Chimeric Mouse Models of Huntington’s Disease Reveal Cell-Intrinsic Defects in Glial Progenitor Cell Differentiation」、Cell Stem Cell 24巻:107-122e107(2019年);Wangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12巻:252~264頁(2013年);及びWindremら、「Human iPSC Glial Mouse Chimeras Reveal Glial Contributions to Schizophrenia」、Cell Stem Cell 21巻:195-208.e196(2017年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。簡単に説明すると、細胞を、まず神経上皮細胞へと、次いでプレGPCへと、最終的にはGPCへと分化させた。GPCを、T3、NT3、IGF1、及びPDGF-AAで補完したグリア培地で維持した。
【0217】
レンチウイルス過剰発現
E2F6、ZNF274、IKZF3、又はMAXの過剰発現について、本発明者らは、まず、こうした遺伝子の各々の最も存在量の多いタンパク質コード転写物を成体hGPCデータセットから同定した。各転写物のcDNAを、pTANK-TRE-EGFP-CAG-rtTA3G-WPREベクターのテトラサイクリン応答エレメントプロモーターの下流にクローニングした。水疱性口内炎ウイルスG糖タンパク質でシュードタイピングしたウイルス粒子を、HEK293FT細胞の一過性トランスフェクションにより産生させ、超遠心分離により濃縮し、QPCR(qPCRレンチウイルス力価キット、ABM-Applied Biological Materials Inc)で滴定した。iPSC(C27)由来GPC培養物(in vitroで160~180日間)を、1.0MOIで24時間グリア培地中で感染させた。細胞をHBSSで洗浄し、残りの実験のために、1μg/mlのドキシサイクリン(Millipore-Sigma セントルイス、ミズーリ州)で補完したグリア培地中で維持した。形質導入hGPCを、ドキシサイクリンの初期添加の3日、7日、及び10日後に、DAPI-/EGFP+発現に対するFACSで単離した。ドキシサイクリン対照細胞はDAPIのみで選別した。
【0218】
定量的PCR
過剰発現実験のRNAを、RNeasyマイクロキット(Qiagen、ドイツ)を使用して抽出した。第一鎖cDNAを、TaqMan逆転写試薬(Applied Biosystems、米国)を使用して合成した。qPCR反応は、反応ごとにFastStart Universal SybrGreen Mastermix(Roche Diagnostics、ドイツ)と混合した1ngのRNAを負荷することにより三連で行い、リアルタイムPCR機器(CFX Connect Real-Time System Thermocycler;Bio-Rad)で分析した。結果を、各試料の18Sの発現に対して正規化した。
【0219】
定量化及び統計分析
qPCR実験では、細胞バッチ共変数の追加による過剰発現条件及び時点の相互作用により構築された線形モデルで、各遺伝子のデルタCTの有意差を分析した。lsmeansパッケージを使用して、時点内のDox対照に対する最小二乗平均検定により事後対比較を行った(Lenth,R.V.、「Least-Squares Means:The R Package lsmeans」、Journal of Statistical Software,Foundation for Open Access Statistics 69巻(i01)(2016年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。p値<0.05を有意とみなした偽発見率法を使用してP値を多重比較用に調整した。
【0220】
実施例1
CD140a選択は、A2B5よりも効率的にヒト胎児グリア前駆細胞を富化する
GPC加齢との転写付随物を同定するために、まず、バルクRNA-Seq及び単一細胞RNA-Seqを使用して、PDGFRαのCD140aエピトープ(Simら、「CD140a Identifies a Population of Highly Myelinogenic, Migration-Competent and Efficiently Engrafting Human Oligodendrocyte Progenitor Cells」、Nature Biotechnology 29巻:934~941頁(2011年a)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)又はモノクローナル抗体A2B5により認識されるグリアガングリオシド(Dietrichら、「Characterization of A2B5+ Glial Precursor Cells From Cryopreserved Human Fetal Brain Progenitor Cells」、Glia 40巻:65~77頁(2002年);Simら、「CD140a Identifies a Population of Highly Myelinogenic,Migration-Competent and Efficiently Engrafting Human Oligodendrocyte Progenitor Cells」、Nature Biotechnology 29巻:934~941頁(2011年a);及びWindremら、「Fetal and Adult Human Oligodendrocyte Progenitor Cell Isolates Myelinate the Congenitally Dysmyelinated Brain」、Nat.Med.10巻:93~97頁(2004年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)を標的とすることにより単離されたか否かにかかわらず、第2三半期胎児ヒト組織由来のhGPCを特徴付けた。この目的のため、在胎期間18~22週(g.a.)胎児脳の脳室/脳室下帯(VZ/SVZ)を解離させ、同じ胎児脳(n=3)から単離されたCD140a+及びA2B5+/PSA-NCAM-(A2B5+)GPC又はCD140a+ GPCのいずれか、ならびにCD140a枯渇残部(n=5;図1、パネルA)について蛍光活性化細胞選別(FACS)により選別した2つの試料一致実験を実施した。次いで、バルクRNA-Seqライブラリーを生成し、両実験について詳細に配列決定した。主成分分析(PCA)は、CD140a+細胞及びA2B5+細胞の分離を示し、CD140a枯渇試料からの両細胞のさらなる分離を示した(図1、パネルB)。両方の対コホートにおける差次的発現(p<0.01、絶対Log2 変化倍率>1)は、CD140a+ GPCとA2B5+ GPCとの間で差次的に発現される遺伝子として723個の遺伝子を同定した(CD140aでは435個、A2B5では288個、表S1)。対照的に、2,629個の遺伝子が、CD140a+ GPCとCD140a-細胞とを区別した(図1、パネルC)。CD140+細胞とA2B5+細胞又はCD140-細胞のいずれかとを比較すると、差次的遺伝子発現方向性は非常に一貫しており、4個の遺伝子を除くすべてが合致していた。
【0221】
こうした遺伝子セットの両方のIngenuityパスウエイ解析(IPA)を使用した経路富化解析は、CD140+ GPCにおいて比較的活性な同様の経路を同定した。こうした経路としては、細胞運動、オリゴデンドロサイト分化、脂質合成、及び下流のPDGF、SOX10、及びTCF7L2シグナル伝達が挙げられる(図1、パネルD)。予想通り、CD140a+ GPCを、A2B5+ GPCとではなくCD140a-細胞と比較すると、典型的にはより強力な活性化Zスコアが観察された。興味深いことに、CD140a+細胞も、おそらくは、ミクログリア表面でのPDGF Rエピトープの再発現の結果としての少量のミクログリア夾雑のため、免疫系に関連する少なからぬ経路を差次的に発現した。A2B5+試料は、A2B5合成を担う酵素であるST8SIA1の上方制御(Simら、「Fate Determination of Adult Human Glial Progenitor Cells」、Neuron Glia Biol 5巻:45~55頁(2009年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)ならびに前神経経路をさらに示した。
【0222】
CD140a+単離物において差次的に上方制御された遺伝子の中には、PDGFRA自体、ならびにOLIG1、OLIG2、NKX2-2、SOX10、及びGPR17を含む少なからぬ初期オリゴデンドログリア遺伝子があった(図1、パネルE-1、パネルF)。さらに、CD140a+画分も、MBP、GAL3ST1、及びUGT8を含む、後期ミエリン形成関連遺伝子の発現増加も呈した。CD140a分離物では、オリゴデンドログリア系統の富化だけでなく、CD68、C2、C3、C4、及びTREM2を含む、典型的にはミクログリアに関連付けられる多数の遺伝子も富化された。対照的に、A2B5+分離物は星状膠細胞(AQ4、CLU)及び初期ニューロン(NEUROD1、NEUROD2、GABRG1、GABRA4、EOMES、HTR2A)遺伝子の富化を呈し、未熟星状膠細胞及びニューロンによるならびにGPC及びオリゴデンドログリア系統細胞によるA2B5の発現が示唆された。全体として、オリゴデンドログリア富化は、各々を枯渇画分と比較した場合、A2B5により規定されるGPCよりも CD140a+ GPCにおいて有意により高く、CD140a分離物はhGPCにてより富化されており、したがってCD140aは成体hGPCとの直接比較のより適切な表現型であることが示唆された。
【0223】
実施例2
単一細胞RNA配列決定は、ヒト胎児GPC分離物内の細胞不均質性を明らかにした
胎児hGPC分離物の組成を単一細胞解像度でさらに詳しく記述するために、CD140a+ hGPC及びA2B5+ hGPCの両方を、FACSにより20週g.a.胎児VZ/SVZから単離し、各々のトランスクリプトームを、単一細胞RNA-Seqでアッセイした(図1、パネルA、10X Genomics V2)。各々の>1,000個の細胞を捕捉することが求められた。低品質細胞(固有遺伝子<500個、ミトコンドリア遺伝子パーセンテージ>15%)をフィルタリングした後、1,053個のPSA-NCAM-/A2B5+及び957個のCD140a+高品質細胞が残った(1細胞当たり中央値で6,845個の固有分子識別子及び2,336個の固有遺伝子)。均一マニフォールド近似及び投影(UMAP、uniform manifold approximation and projection)による次元削減、それに続くSeuratを使用したすべての細胞の共有最近傍モジュールベースクラスタリング(shared nearest neighbor modularity-based clustering)(Butlerら、「Integrating Single-cell Transcriptomic Data Across Different Conditions,Technologies,and Species」、Nat Biotechnol 36巻:411~420頁(2018年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)は、マーカー遺伝子の差次的富化により規定される8つの主要な細胞タイプを有する11個のクラスターを明らかにした。こうした主要な細胞タイプとしては、GPC、プレGPC、神経前駆細胞(NPC)、未熟ニューロン、ニューロン、ミクログリア、ならびに内皮細胞及び周皮細胞からなるクラスターが挙げられる。本発明者らは、CD140a+ FACS分離物では、胎児A2B5+/PSA-NCAM-細胞よりもGPC集団及びプレGPC集団がより富化されていたことを見出した(図2、パネルA-2、パネルD)。さらに、CD140a選別細胞は、主にGPC及びプレGPCに限定され、ミクログリア夾雑が散在するのみであったが、A2B5+/PSA-NCAM-分離物は星状膠細胞及び神経系統細胞も含んでいた。後者は神経系PSA-NCAMの事前枯渇にもかかわらず含まれていた。こうしたデータにより、A2B5ベースのGPC単離ではなく、CD140aベースのGPC単離の方が、より選択的で表現型が制限された性質であることが裏付けられた。
【0224】
これに基づき、次に、CD140a+胎児分離物、GPC、及びプレGPCにおける優勢な細胞集団の遺伝子発現プロファイルを探索した。こうした2つのプール間の差次的発現は269個をもたらした(143個が上方制御され、126個が下方制御された。p<0.01、Log2 変化倍率>0.5、図2、パネルE)。プレGPCからGPCへの移行中に、初期オリゴデンドログリア系統遺伝子は急速に上方制御されたが(OLIG2、SOX10、NKX2-2、PLLP、APOD)、プレGPCで発現された遺伝子は効果的に消失した(VIM、HOPX、TAGLN2、TNC)。興味深いことに、HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びB2Mを含む、ヒト白血球抗原系に関与する遺伝子は、細胞がGPC期へと移行すると共にすべて下方制御された(図2、パネルF)。IPA解析は、プレGPCでは、遊走、増殖、及び星状膠細胞同一性を予兆するものに関連するタームが比較的富化されていたのに対し(BMP4、AGT、及びVEGFシグナル伝達)、GPCでは、MYC及びMYCN経路の活性化に加えて、オリゴデンドログリア同一性の獲得に関連付けられるタームの富化を示した(PDGF-AA、FGFR2、CCND1)(図2、パネルG)。次に、SCENICパッケージを使用したプロモーターモチーフ富化と共に単一細胞共発現データを使用して(Aibarら、「SCENIC:Single-cell Regulatory Network Inference and Clustering」、Nat Methods 14巻:1083~1086頁(2017年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、プレGPCと比べてGPCにて相対的に活性化されると予測された262個の転写因子を同定した(ウィルコクソン順位和検定、p<0.01)。それらには、SATB1、ならびに初期GPC特異性因子であるOLIG2、SOX10、及びNKX2-2が含まれていた(図2、パネルH)。
【0225】
実施例3
ヒト成体及び胎児GPCは転写的に異なる
この研究では、次に、成体hGPCの転写が胎児hGPCとどのように異なり得るかを調べた。この目的のために、A2B5+ hGPCを外科的に切除した成体ヒト側頭新皮質から単離し(19~21歳、n=3)、4つの追加の胎児CD140a+試料と共に対にして、バルクRNA発現を評価した。A2B5選択は成体ヒト脳からGPCを単離するのに十分であり、成体hGPCにおけるPDGFRA発現の成熟関連下方制御を考慮すると、その点でCD140aよりもより感受性であることが以前に指摘されていた(Simら、「Complementary Patterns of Gene Expression by Human Oligodendrocyte Progenitors and their Environment Predict Determinants of Progenitor Maintenance and Differentiation」、Ann Neurol 59巻:763~779頁(2006年)及びWindremら、「Fetal and Adult Human Oligodendrocyte Progenitor Cell Isolates Myelinate the Congenitally Dysmyelinated Brain」、Nat.Med.10巻:93~97頁(2004年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。
【0226】
A2B5+成体GPCにおけるPDGFRAは、胎児A2B5+細胞のTPM中央値47.56と比較して、0.55のTPM中央値で発現されたことが見出された。これは、以前の観察を確認するものだった。配列決定と胎児CD140a選択細胞の分析とを対にすることにより、配列決定バッチ効果の回帰が可能になり、同時に検出力が向上した(図3、パネルA)。PSA-NCAMの発現は成体皮質及び白質では停止するため、PSA-NCAM+細胞の枯渇は、成体hGPC試料では必要なかった(Sekiら、「Distribution and Possible Roles of the Highly Polysialylated Neural Cell Adhesion Molecule (NCAM-H) in the Developing and Adult Central Nervous System」、Neurosci.Res.1巻:265~290頁(1993年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。その結果、ヒト成体及び胎児GPCのPCAは、成体GPCの緊密なクラスター化を示し、選別した胎児hGPCプールから両者を明確に分離した(図3、パネルB)。A2B5+又はCD140a+胎児GPC集団のいずれかと比較した成体GPCの差次的発現により、それぞれ3,142個及び5,282個の有意な遺伝子が得られた(p<0.01;絶対Log2 変化倍率>1)(図3、パネルC)。差次的発現を規定する際の正確性を増加させるために、共通する2,720個の遺伝子に対して下流分析を実施した(図3、パネルD、胎児hGPCと比較して、成体GPCでは1,060個が上方制御され、1,660個が下方制御された)。驚くべきことに、こうした2つの差次的発現遺伝子セット内では、遺伝子の100%が方向的に合致していた。
【0227】
成体GPCと胎児GPCとの間の差異をより良好に理解するために、非冗長で有意なIPAターム及びそれらが寄与する差次的発現遺伝子の遺伝子オントロジーネットワークを構築した(図3、パネルD-3、パネルE)。このネットワークのスピングラスコミュニティ検出(Spin glass community detection)(Reichardtら、「Statistical Mechanics of Community Detection」、Phys.Rev.E Stat.Nonlin.Soft Matter Phys.74巻:016110頁(2006年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)は、高度に接続された機能的ターム(図3E)及び遺伝子(図3F、表S3)の3つのモジュール(モジュールM1~M3)を明らかにした。M1には、グリア発生、増殖、及び運動に関係付けられるターム及び遺伝子が含まれていた。注目すべきことに、成体GPCでは、GPC個体発生に関連付けられる少なからぬ遺伝子が下方制御された。そうした遺伝子には、CSPG4/NG2、PCDH15、CHRDL1、LMNB1、PTPRZ1、及びST8SIA1が含まれていた(Huangら、「Origins and Proliferative States of Human Oligodendrocyte Precursor Cells」、Cell 182巻:594~608頁e511(2020年);McClainら、「Pleiotrophin Suppression of Receptor Protein Tyrosine Phosphatase-β/ζ Maintains the Self-renewal Competence of Fetal Human Oligodendrocyte Progenitor Cells」、J Neurosci 32巻:15066~15075頁(2012年);Nishiyamaら、「Co-Localization of NG2 Proteoglycan and PDGF α-Receptor on O2A Progenitor Cells in the Developing Rat Brain」、Journal of Neuroscience Research 43巻:299~314頁(1996年);Simら、「Fate Determination of Adult Human Glial Progenitor Cells」、Neuron Glia Biol 5巻:45~55頁(2009年);及びYattahら、「Dynamic Lamin B1-Gene Association During Oligodendrocyte Progenitor Differentiation」、Neurochem Res 45巻:606~619頁(2020年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。対照的に、成体GPCでは、MAG、MOG、MYRF、PLP1、CD9、CLDN11、CNP、ERBB4、GJB1、PMP22、及びSEMA4Dを含む、出現がオリゴデンドロサイト分化及びミエリン形成に先行しその間にわたって継続する数多くの遺伝子が上方制御された。
【0228】
モジュール2は、細胞加齢ならびに増殖及び老化のモジュレーションに関連付けられる数多くのタームを内包していた。MKI67、TOP2A、CENPF、CENPH、CHEK1、EZH2を含む増殖因子、ならびにCDK1及びCDK4を含む数多くのサイクリンが強力に富化されていたため、胎児GPCでは細胞周期進行及び有糸分裂が活性化されると予測された。さらに、増殖誘導性経路も活性化されると推定された。そうした経路には、MYC、CCND1、及びYAP1シグナル伝達が含まれており、そのうちYAP1転写物及びMYC転写物は両方が同様に上方制御された(Bretonesら、「Myc and Cell Cycle Control」、Biochim.Biophys Acta 1849巻:506~516頁(2015年);Buntら、「Regulation of Cell Cycle Genes and Induction of Senescence by Overexpression of OTX2 in Medulloblastoma Cell Lines」、Mol.Cancer Res.8巻:1344~1357頁(2010年);及びXieら、「YAP/TEAD-Mediated Transcription Controls Cellular Senescence」、Cancer Res 73巻:3615~3624頁(2013年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。この点に関して、最近では、加齢げっ歯動物GPCにおけるMYCの一過性過剰発現は、増殖及び分化の両方の能力を回復させることが示されている(Neumannら、「Myc Determines the Functional Age State of Oligodendrocyte Progenitor Cells」、Nature Aging 1巻:826~837頁(2021年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。逆に、成体GPCは、E2F6、MAP3K7、DMTF1/DMP1、OGT、AHR、RUNX1、及びRUNX2を含む老化関連転写物の上方制御を呈した(Ferrandら、「Screening of a Kinase Library Reveals Novel Pro-senescence Kinases and Their Common NF-κB-dependent Transcriptional Program」、Aging(Albany NY)7巻:986~1003頁(2015年);Inoueら、「Disruption of the ARF Transcriptional Activator DMP1 Facilitates Cell Immortalization,Ras Transformation,and Tumorigenesis」、Genes Dev 14巻:1797~1809頁(2000年);Lee及びZhang、「O-Linked N-Acetylglucosamine Transferase(OGT)Interacts With the Histone Chaperone HIRA Complex and Regulates Nucleosome Assembly and Cellular Senescence」、Proceedings of the National Academy of Sciences 113巻:E3213~E3220頁(2016年);Wottonら、「RUNX1 Transformation of Primary Embryonic Fibroblasts is Revealed in the Absence of p53」、Oncogene 23巻:5476~5486頁(2004年);及びKilbeyら、「Runx2 Disruption Promotes Immortalization and Confers Resistance to Oncogene-induced Senescence in Primary Murine Fibroblasts」、Cancer Res 67巻:11263~11271頁(2007年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。同時に、成体hGPCは、LMNB1、PATZ1、BCL11A、HDAC2、FN1、EZH2、及びYAP1、ならびにその補因子TEAD1を含んでいた胎児転写物の下方制御を呈した(Choら、「POZ/BTB and AT-hook-containing Zinc Finger Protein 1(PATZ1)Inhibits Endothelial Cell Senescence Through a p53 Dependent Pathway」、Cell Death Differ 19巻:703~712頁(2012年);Fanら、「EZH2-dependent Suppression of a Cellular Senescence Phenotype in Melanoma Cells by Inhibition of p21/CDKN1A Expression」、Mol.Cancer Res.9巻:418~429頁(2011年);Freundら、「Lamin B1 Loss is a Senescence-associated Biomarker」、Mol.Biol.Cell 23巻:2066~2075頁(2012年);Lucら、「Bcl11a Deficiency Leads to Hematopoietic Stem Cell Defects with an Aging-like Phenotype」、Cell Rep.16巻:3181~3194頁(2016年);Lukjanenkoら、「Loss of Fibronectin From the Aged Stem Cell Niche Affects the Regenerative Capacity of Skeletal Muscle in Mice」、Nat Med 22巻:897~905頁(2016年);Sundarら、「Genetic Ablation of Histone Deacetylase 2 Leads to Lung Cellular Senescence and Lymphoid Follicle Formation in COPD/Emphysema」、FASEB Journal:Official Publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology 32巻:4955~4971頁(2018年);及びXieら、「YAP/TEAD-Mediated Transcription Controls Cellular Senescence」、Cancer Res 73巻:3615~3624頁(2013年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。その結果、成体hGPCにて活性であることが予測された機能的タームには、老化、ハッチンソン-ギルフォード早老症で観察される急速な加齢の開始、及びCDKN1A/p21及びCDKN2A/p16の下流のサイクリン依存性キナーゼ阻害経路が含まれていた。さらに、AHR及びそのシグナル伝達経路は、MYCの阻害による老化の駆動に関与が示唆されており(Yangら、「The Aryl Hydrocarbon Receptor Constitutively Represses C-Myc Transcription in Human Mammary Tumor Cells」、Oncogene 24巻:7869~7881頁(2005年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、成体GPCでは同様に上方制御された。
【0229】
モジュール3は、加齢にも関連付けられる発生及び疾患関連シグナル伝達経路から主になっていた。これには、胎児hGPCではASCL1シグナル伝達及びBDNFシグナル伝達、ならびに成体GPCではMAPT/Tauシグナル伝達、APPシグナル伝達、及びRESTシグナル伝達の活性化の予測が含まれていた(Ahlinら、「High Expression of Cyclin D1 is Associated to High Proliferation Rate and Increased Risk of Mortality in Women With ER-positive But Not in ER-negative Breast Cancers」、Breast Cancer Res.Treat 164巻:667~678頁(2017年);Ericksonら、「Brain-derived Neurotrophic Factor is Associated With Age-related Decline in Hippocampal Volume」、J.Neurosci.30巻:5368~5375頁(2010年);及びHarrisら、「Coordinated Changes in Cellular Behavior Ensure the Lifelong Maintenance of the Hippocampal Stem Cell Population」、Cell Stem Cell(2021年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。全体として、成体GPCの転写及び機能プロファイリングは、増殖能力に関連付けられる転写物の低減、ならびに老化及びより成熟した表現型へのシフトを明らかにした。
【0230】
実施例4
転写因子活性の推定は成体GPC転写リプレッサーの関与を示唆する
成体GPCと胎児GPCとの間の有意な転写不同性を考慮して、この研究では、次に、どの転写因子がそれらの同一性を指図するかを推定することができるか否かを調べた。これを達成するために、成体又は胎児富化GPC遺伝子セットの2つのプロモーターウィンドウ(500bp上流/100bp下流、10kb上流/10kb下流)をまずスキャンして、有意に富化されたTFモチーフを推定した(Aibarら、「SCENIC:Single-cell Regulatory Network Inference and Clustering」、Nat.Methods 14巻:1083~1086頁(2017年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。これにより、スキャンされた共通データセットでも差次的に発現された48個のTFが同定された。これらの中で、まず、DNA相互作用の主な手段が排他的に抑制性又は刺激性のいずれかであったTFを、既知補因子の富化も考慮しつつ調査した。この分析により、探索すべき12個の潜在的な上流調節因子が得られた(図4、パネルA-4、パネルC):4個の成体リプレッサーE2F6、ZNF274、MAX、及びIKZF3;1個の成体活性化因子STAT3:3個の胎児リプレッサーBCL11 AHDAC2、及びEZH2;及び4個の胎児活性化因子MYC、HMGA2、NFIB、及びTEAD2。興味深いことに、こうした予測されたTFのうち、3つのグループは、それらの標的プロモーター内で高コンコーダンスのモチーフ類似性を共有していた:1)E2F6、ZNF274、MAX、及びMYC;2)STAT3及びBCL11A;ならびに3)EZH2及びHDAC2。これは、それらが、共有遺伝子座でのDNA結合を協調又は競合する可能性があることを示唆している(図4、パネルA)。
【0231】
次に、同定されたTFのセットにより標的とされる遺伝子を予測するために、厳選された転写相互作用に基づいて4つの潜在的なシグナル伝達経路を構築した(図4、パネルD-4、パネルG)。胎児GPCにて富化された活性化因子のうち(図4、パネルD)、増殖因子であるMYC(Dang,C.V.、「c-Myc Target Genes Involved in Cell Growth, Apoptosis, and Metabolism」、Molecular and Cellular Biology 19巻:1頁(1999年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、グリア形成の重要な決定因子であるNFIB(Deneenら、「The Transcription Factor NFIA Controls the Onset of Gliogenesis in the Developing Spinal Cord」、Neuron 52巻:953~968頁(2006年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)、YAP/TAZエフェクターであるTEAD2、及び別の増殖因子であるHMGA2は各々、有糸分裂関連転写物及び老化の開始を阻害することが示されているものの両方を含む、前駆細胞期遺伝子のコホートを活性化することが予測された(Dang,C.V.、「c-Myc Target Genes Involved in Cell Growth, Apoptosis, and Metabolism」、Molecular and Cellular Biology 19巻:1頁(1999年);Deneenら、「The Transcription Factor NFIA Controls the Onset of Gliogenesis in the Developing Spinal Cord」、Neuron 52巻:953~968頁(2006年);Diepenbruckら、「Tead2 Expression Levels Control the Subcellular Distribution of Yap and Taz, Zyxin Expression and Epithelial- mesenchymal Transition」、Journal of Cell Science 127巻:1523~1536頁(2014年);及びYuら、「HMGA2 Regulates the in Vitro Aging and Proliferation of Human Umbilical Cord Blood-Derived Stromal Cells Through the mTOR/p70S6K Signaling Pathway」、Stem Cell Res 10巻:156~165頁(2013年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。こうした4個の胎児活性化因子間では、NFIBがHMGA2及びTEAD2により駆動され、MYCがTEAD2及びNFIBにより駆動され、HMGA2がMYC及びTEAD2により駆動され、TEAD2がMYCにより相互に駆動されるという、こうした4個の胎児活性化因子間での直接的な正の調節も予測された(図4、パネルD)。こうした胎児活性化因子とは対照的に、C2H2型ジンクフィンガーBCL11A、ポリコーム抑制性複合体サブユニットEZH2、及びヒストン脱アセチル化酵素HDAC2を含む胎児期リプレッサーは各々、この段階でより成熟したオリゴデンドロサイト遺伝子発現を抑制することが予測された(図4、パネルE)(Lahertyら、「Histone Deacetylases Associated With the mSin3 Corepressor Mediate Mad Transcriptional Repression」、Cell 89巻:349~356頁(1997年);Laibleら、「Mammalian Homologues of the Polycomb-group Gene Enhancer of Zeste Mediate Gene Silencing in Drosophila Heterochromatin and at S.cerevisiae Telomeres」、EMBO J 16巻:3219~3232頁(1997年);及びNakamuraら、「Evi9 Encodes a Novel Zinc Finger Protein that Physically Interacts with BCL6,a known Human B-Cell Proto-Oncogene Product」、Mol Cell Biol 20巻:3178~3186頁(2000年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。さらに、こうしたTFの3個すべては、老化との関連が示唆される標的を阻害すると予測された。そのため、こうした因子は、下流の転写事象を直接的に調整して、循環前駆細胞(cycling progenitor)状態の維持に結び付くと考えられる。
【0232】
次に、こうした予測された成体GPCシグナル伝達ネットワークを、それらの加齢関連遺伝子発現変化の原因である潜在的な機序について評価した。STAT3は、初期分化関連及びミエリン形成関連オリゴデンドロサイト遺伝子の大規模コホートの上方制御により、GPC同一性をグリア成熟に向けてシフトさせることが予測された(図4、パネルF)。加えて、STAT3は、BIN1、RUNX1、RUNX2、DMTF1、CD47、MAP3K7、CTNNA1、及びOGTを含む、1セットの老化関連遺伝子も活性化すると推定された。同時に、成体GPCにおける抑制は、IkarosファミリージンクフィンガーIKZF3/Aiolos、KRAB(kruppel関連ボックス)ジンクフィンガーZNF274、MYC関連因子MAX、及び細胞周期調節因子E2F6を介して達成されることが予測された(図4、パネルG)(Blackwood及びEisenman、「Max:A Helix-loop-helix Zipper Protein That Forms a Sequence-specific DNA-binding Complex With Myc」、Science 251巻:1211~1217頁(1991年);Frietzeら、「ZNF274 Recruits the Histone Methyltransferase SETDB1 to the 3’Ends of ZNF Genes」、PLoS One 5巻:e15082頁(2010年);Maら、「Ikaros and Aiolos Inhibit Pre-B-cell Proliferation by Directly Suppressing c-Myc Expression」、Mol Cell Biol 30巻:4149~4158頁(2010年b);及びOgawaら、「A Complex with Chromatin Modifiers that Occupies E2F- and Myc-Responsive Genes in G0 Cells」、Science 296巻:1132~1136頁(2002年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。このセットの転写因子による標的化は、胎児GPCシグネチャに寄与する遺伝子セットの抑制を予測した。これは、初期前駆細胞遺伝子PDGFRA及びCSPG4、ならびに細胞周期遺伝子CDK1、CDK4、及びMKI67の下方制御において実際に観察された。また、これらの発現が老化の開始を緩徐又は防止するYAP1、LMNB1、及びTEAD1の抑制も予測された。興味深いことに、4個の成体リプレッサーのこのセットは、胎児富化リプレッサーBCL11A、EZH2、及びHDAC2に加えて、胎児富化活性化因子NFIB、MYC、TEAD2、及びHMGA2の各々の下方制御された発現を予測した。
【0233】
実施例5
成体富化リプレッサーの発現は、GPCにおいて加齢関連転写変化を誘導する
次に、図4のパネルGで同定された4個の成体富化転写リプレッサーE2F6、IKZF3、MAX、及びZNF274が個々に、そうでなければ若年のGPCによる遺伝子発現の加齢関連変化の側面を誘導するのに十分であるか否かを調べた。これを達成するために、ドキシサイクリン(Dox)誘導性過剰発現レンチウイルスを、各転写因子ごとに設計した(図5、パネルA)。簡単に説明すると、内因性加齢関連上方制御を最も良好に模倣するために、まず、どのタンパク質コードアイソフォームが成体GPCに最も多く存在するかを各リプレッサーごとに同定した。こうした候補は、E2F6-202、IKZF3-217、MAX-201、及びZNF274-201だった。こうしたcDNAを、テトラサイクリン応答エレメントプロモーターの下流であり、T2A自己切断性EGFPレポーターの上流にクローニングした(図5、パネルA)。次いで、以前に記載のように(Wangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12巻:252~264頁(2013年)、この文献はその全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)C27系から調製したヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)由来hGPC培養物を24時間感染させ、次いでDoxで処理して、導入遺伝子過剰発現を誘導した。C27 iPSC由来GPCを選択したのは、それらのトランスクリプトームが胎児のものと似ており、移植すると同様に生着し、髄鞘形成不全マウスをミエリン化することが可能であるためだった(Wangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12巻:252~264頁(2013年)及びWindremら、「Human iPSC Glial Mouse Chimeras Reveal Glial Contributions to Schizophrenia」、Cell Stem Cell 21巻:195-208.e196(2017年)、こうした文献はそれらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる)。Dox添加の3、7、及び10日後に、過剰発現細胞を、EGFP発現でのFACSにより選択した(図5、パネルB、n=3~5)。Doxを与えた非感染培養物を対照として使用した。
【0234】
RNAを抽出し、目的の加齢関連遺伝子をqPCRで分析した。各成体富化リプレッサーの有意な誘導が、Dox補完後の各時点で観察された(図5、パネルC)。MKI67及びCDK1は、その上方制御が活発な細胞分裂に関連付けられている遺伝子であり、各過剰発現パラダイムにおいて2つ又はそれよりも多くの時点で有意に抑制された(図5、パネルD)。これは、成体GPCにおけるそれらの発現減少と一致し(図3、パネルF)、E2F6、MAX、及びZNF274(MKI67)による、又は4つすべて(CDK1)によるそれらの直接的抑制を示唆した。PDGF-AAのコグネート受容体であるGPC期マーカーPDGFRAも、3日目のIKZF3形質導入GPCならびにE2F6形質導入GPCでは2つの時点で有意に抑制され、正常な成体GPCでの抑制と一致した。興味深いことに、老化関連サイクリン依存性キナーゼ阻害剤CDKN1A/p21は、試験したリプレッサーの各々に応答してすべての時点で上方制御されたが、CDKN2A/p16は、7日目には、ZNF274形質導入hGPCにおいてならびにE2F6過剰発現GPCにおいてすべての時点で同様に上方制御された(図5、パネルD)。加えて、両方とも胎児と比べて成体hGPCで強力に上方制御されるMBP及びIL1Aは両方とも、リプレッサー形質導入に応答して上方制御発現に対する明確な傾向を呈したが、時点関連変動性により、それらの増加は統計的有意性を達成することが妨げられた。まとめると、こうしたデータは、成体富化GPCリプレッサーE2F6、IKZF3、MAX、及びZNF274の強制的な未熟発現が個々に、若年iPSC由来GPCにおいて加齢GPCトランスクリプトームの複数の特徴を誘導するのに十分であるという本発明者らの予測を裏付けた。
【0235】
実施例6
胎児hGPCのmiRNA発現パターンは老化の抑制を予測する
遺伝子発現の潜在的な転写後調節因子を同定するために、本発明者らは、Affymetrix GeneChip miRNA 3.0アレイを使用して、成体GPCと胎児GPCとの間のmiRNA発現の違いを評価した(n=4)。PCAは、miRNA発現プロファイルにより規定すると、両GPC集団が分離されること示した(図6、パネルA)。両年齢間での差次的発現(調整済みp値<0.01)は、56個の遺伝子をもたらした(23個は成体GPCで富化されており、33個は胎児GPCで富化されていた。図6、パネルB~C)。注目すべきは、こうした差次的に発現されるmiRNAの中には、胎児前駆細胞期miRNA miR-9-3p、miR-9-5p(Lau,P.、Verrier,J.D.、Nielsen,J.A.、Johnson,K.R.、Notterpek,L.、及びHudson,L.D.(2008年).Identification of dynamically regulated microRNA and mRNA networks in developing oligodendrocytes.J Neurosci 28巻、11720~11730頁)、及びmiR-17-5p(Budde,H.、Schmitt,S.、Fitzner,D.、Opitz,L.、Salinas-Riester,G.、及びSimons,M.(2010年).Control of oligodendroglial cell number by the miR-17-92 cluster.Development 137巻、2127頁)に加えて、成体オリゴデンドロサイト調節因子miR-219a-3p及びmiR-338-5p(Dugas,J.C.、Cuellar,T.L.、Scholze,A.、Ason,B.、Ibrahim,A.、Emery,B.、Zamanian,J.L.、Foo,L.C.、McManus,M.T.、及びBarres,B.A.(2010年).Dicer1 and miR-219 Are required for normal oligodendrocyte differentiation and myelination.Neuron 65巻、597~611頁)があった。
【0236】
この研究では、次に、miRNAのこのコホートを使用して、それらの発現がmiRNA上方制御により抑制されることが予想され得る遺伝子を予測し、成体GPCプール及び胎児GPCプールの両方を別々に分析した。これを達成するために、miRNAtapを使用して、5つのmiRNA遺伝子標的データベースをクエリーした:DIANA(Maragkakis,M.、Vergoulis,T.、Alexiou,P.、Reczko,M.、Plomaritou,K.、Gousis,M.、Kourtis,K.、Koziris,N.、Dalamagas,T.、及びHatzigeorgiou,A.G.(2011年).DIANA-microT Web server upgrade supports Fly and Worm miRNA target prediction and bibliographic miRNA to disease association.Nucleic Acids Res 39巻、W145~148頁)、Miranda(Enright,A.J.、John,B.、Gaul,U.、Tuschl,T.、Sander,C.、及びMarks,D.S.(2003年).MicroRNA targets in Drosophila.Genome biology 5巻、R1)、PicTar(Lall,S.、Grun,D.、Krek,A.、Chen,K.、Wang,Y.L.、Dewey,C.N.、Sood,P.、Colombo,T.、Bray,N.、Macmenamin,P.ら(2006年).A genome-wide map of conserved microRNA targets in C.elegans.Current biology:CB16、460~471頁)、TargetScan(Friedman,R.C.、Farh,K.K.、Burge,C.B.、及びBartel,D.P.(2009年).Most mammalian mRNAs are conserved targets of microRNAs.Genome Res 19巻、92~105頁)、及びmiRDB(Wong,N.及びWang,X.(2015年).miRDB:an online resource for microRNA target prediction and functional annotations.Nucleic Acids Res 43巻、D146~152頁)。
【0237】
精度を最大化するために、遺伝子は、少なくとも2つのデータベースに出現した場合にのみ標的であるとみなした。この手法は、胎児富化miRNAでは、1miRNA当たり平均で36.3(SD=24.5)個の遺伝子が抑制されることを予測した。対照的に、成体hGPC富化miRNAでは、1miRNA当たり平均で46.4(SD=37.8)個の遺伝子が標的であると予測された(図6、パネルC)。まとめると、これは、胎児miRNAにより成体GPC富化遺伝子の48.8%が抑制される可能性があり、成体miRNAにより胎児GPC富化遺伝子の39.9%が抑制される可能性があることを同定した。
【0238】
こうしたmiRNA依存性転写後調節機序の機能的重要性を評価するために、この研究では、機能的に関連し、差次的に発現される遺伝子のmiRNA標的化に従って胎児及び成体ネットワークを厳選した(図6、パネルD~E)。提案された上流成体転写調節因子STAT3、E2F6、及びMAXは、胎児GPCにおいて7つのmiRNAにより阻害されることが予測された(図24、パネルD)。それらには、miR-126b-5p、miR-106a-5p、miR-17-5p、miR-130a-3p、及びmiR-130b-3pによる他の細胞タイプにおけるSTAT3の既に検証されている抑制が含まれる(Du,W.、Pan,Z.、Chen,X.、Wang,L.、Zhang,Y.、Li,S.、Liang,H.、Xu,C.、Zhang,Y.、Wu,Y.ら(2014年a).By Targeting Stat3 microRNA-17-5p Promotes Cardiomyocyte Apoptosis in Response to Ischemia Followed by Reperfusion. Cellular Physiology and Biochemistry 34巻、955~965頁)。並行して、少なからぬ初期及び成熟オリゴデンドロサイト遺伝子が同時に阻害の標的とされ、すべては前駆細胞状態の維持と一致していた。それらには、MBP、UGT8、CD9、PLP1、MYRF、及びPMP22が含まれていた(Goldman,S.A.及びKuypers,N.J.(2015年).How to make an oligodendrocyte. Development 142巻、3983~3995頁)。重要なことには、老化の誘導もしくは増殖の阻害のいずれか、又はその両方に関係付けられる遺伝子のコホートも、胎児GPCにおいて活発に抑制されることが予測された。それらには、RUNX1、RUNX2、BIN1、DMTF1/DMP1、CTNNA1、SERPINE1、CDKN1C、PAK1、IFI16、EFEMP1、MAP3K7、AHR、OGT、CBX7、及びCYLDが含まれていた(Eckers,A.、Jakob,S.、Heiss,C.、Haarmann-Stemmann,T.、Goy,C.、Brinkmann,V.、Cortese-Krott,M.M.、Sansone,R.、Esser,C.、Ale-Agha,N.ら(2016年).The aryl hydrocarbon receptor promotes aging phenotypes across species. Sci Rep 6巻、19618頁)。また、miR-17-5p、miR-93-3p、miR-1260b、miR-106a-5p、miR-767-5p、miR-130a-3p、miR-9-3p、miR-9-5p、及びmiR-130b-3pを含む、ここで同定されたmiRNAの幾つかにより、老化の阻害又は増殖の活性化が認められた。まとめると、こうしたデータは、胎児hGPCがそれらの特徴的な前駆細胞転写状態及びシグネチャを維持することができる補完的な機序を提供する。
【0239】
実施例7
成体miRNAシグナル伝達は、増殖前駆細胞状態を抑制し老化の前兆となる可能性がある
次に、この研究では、成体hGPC内の潜在的なmiRNA調節ネットワークを調査した(図6、パネルE)。これは、HDAC2、NFIB、BCLL1A、TEAD2、及びHMGA2を含む、5個の同定された活性胎児転写調節因子を制御する5つのmiRNAの関与を示唆し、miR-4651によるそれらのサイレンシングは増殖を阻害することが以前に示されている(Han,X.、Yang,R.、Yang,H.、Cao,Y.、Han,N.、Zhang,C.、Shi,R.、Zhang,Z、Fan,Z.(2020年).miR-4651 inhibits proliferation of gingival mesenchymal stem cells by inhibiting HMGA2 under nifedipine treatment.Int J Oral Sci 12巻、10頁)。miRNAのこのコホートは、PDGFRA、PTPRZ1、ZBTB18、SOX6、EGFR、及びNRXN1を含む、GPC前駆細胞状態の維持に関与する遺伝子の発現阻害に、成体転写リプレッサーと並行して作動することが予測された。さらに、成体miRNA環境は、増殖状態を誘導するか又は老化を遅延させることが知られている数多くの遺伝子を抑制することが予測された。そうした遺伝子としては以下のものが挙げられる:LMNB1(Freund,A.、Laberge,R.M.、Demaria,M.、及びCampisi,J.(2012年).Lamin B1 loss is a senescence-associated biomarker.Mol Biol Cell 23巻、2066~2075頁)、PATZ1(Cho,J.H.、Kim,M.J.、Kim,K.J.、及びKim,J.R.(2012年).POZ/BTB and AT-hook-containing zinc finger protein 1(PATZ1)inhibits endothelial cell senescence through a p53 dependent pathway.Cell Death Differ 19巻、703~712頁)、GADD45A(Hollander,M.C.、Sheikh,M.S.、Bulavin,D.V.、Lundgren,K.、Augeri-Henmueller,L.、Shehee,R.、Molinaro,T.A.、Kim,K.E.、Tolosa,E.、Ashwell,J.D.ら(1999年).Genomic instability in Gadd45a-deficient mice.Nat Genet 23巻、176~184頁)、YAP1及びTEAD1(Xie,Q.、Chen,J.、Feng,H.、Peng,S.、Adams,U.、Bai,Y.、Huang,L.、Li,J.、Huang,J.、Meng,S.ら(2013年).YAP/TEAD-mediated transcription controls cellular senescence. Cancer Res 73巻、3615~3624頁)、CDK1(Diril,M.K.、Ratnacaram,C.K.、Padmakumar,V.C.、Du,T.、Wasser,M.、Coppola,V.、Tessarollo,L.、及びKaldis,P.(2012年).Cyclin-dependent kinase 1 (Cdk1) is essential for cell division and suppression of DNA re-replication but not for liver regeneration. Proc Natl Acad Sci USA 109巻、3826~3831頁)、TPX2(Rohrberg,J.、Van de Mark,D.、Amouzgar,M.、Lee,J.V.、Taileb,M.、Corella,A.、Kilinc,S.、Williams,J.、Jokisch,M.L.、Camarda,R.ら(2020年).MYC Dysregulates Mitosis, Revealing Cancer Vulnerabilities.Cell Rep 30巻、3368~3382頁)、S1PR1(Liu,Y.、Zhi,Y.、Song,H.、Zong,M.、Yi,J.、Mao,G.、Chen,L.、及びHuang,G.(2019年).S1PR1 promotes proliferation and inhibits apoptosis of esophageal squamous cell carcinoma through activating STAT3 pathway.Journal of Experimental&Clinical Cancer Research 38巻、369頁)、RRM2(Aird,K.M.、Zhang,G.、Li,H.、Tu,Z.、Bitler,B.G.、Garipov,A.、Wu,H.、Wei,Z.、Wagner,S.N.、Herlyn,M.ら(2013年).Suppression of nucleotide metabolism underlies the establishment and maintenance of oncogene-induced senescence. Cell Rep 3巻、1252~1265頁)、CCND2(Bunt,J.、de Haas,T.G.、Hasselt,N.E.、Zwijnenburg,D.A.、Koster,J.、Versteeg,R.、及びKool,M.(2010年).Regulation of cell cycle genes and induction of senescence by overexpression of OTX2 in medulloblastoma cell lines. Mol Cancer Res 8巻、1344~1357頁)、SGO1(Murakami-Tonami,Y.、Ikeda,H.、Yamagishi,R.、Inayoshi,M.、Inagaki,S.、Kishida,S.、Komata,Y.、Jan,K.、Takeuchi,I.、Kondo,Y.ら(2016年).SGO1 is involved in the DNA damage response in MYCN-amplified neuroblastoma cells.Scientific Reports 6巻、31615頁)、MCM4及びMCM6(Mason,D.X.、Jackson,T.J.、及びLin,A.W.(2004年).Molecular signature of oncogenic ras-induced senescence.Oncogene 23巻、9238~9246頁)、ZNF423(Hernandez-Segura,A.、de Jong,T.V.、Melov,S.、Guryev,V.、Campisi,J.、及びDemaria,M.(2017年).Unmasking Transcriptional Heterogeneity in Senescent Cells. Current biology:CB 27巻、2652~2660頁)、PHB(Piper,P.W.、Jones,G.W.、Bringloe,D.、Harris,N.、MacLean,M.、及びMollapour,M.(2002年).The shortened replicative life span of prohibitin mutants of yeast appears to be due to defective mitochondrial segregation in old mother cells.Aging cell 1巻、149~157頁)、WLS(Poudel,S.B.、So,H.S.、Sim,H.J.、Cho,J.S.、Cho,E.S.、Jeon,Y.M.、Kook,S.H.、及びLee,J.C.(2020年).Osteoblastic Wntless deletion differentially regulates the fate and functions of bone marrow-derived stem cells in relation to age.Stem Cells.)、ならびにZMAT3(Kim,B.C.、Lee,H.C.、Lee,J.J.、Choi,C.M.、Kim,D.K.、Lee,J.C.、Ko,Y.G.、及びLee,J.S.(2012年).Wig1 prevents cellular senescence by regulating p21 mRNA decay through control of RISC recruitment. EMBO J 31巻、4289~4303頁)。より直接的には、老化の誘導又は増殖の阻害は、miR-584-5p(Li,Q.、Li,Z.、Wei,S.、Wang,W.、Chen,Z.、Zhang,L.、Chen,L.、Li,B.、Sun,G.、Xu,J.ら(2017年).Overexpression of miR-584-5p inhibits proliferation and induces apoptosis by targeting WW domain-containing E3 ubiquitin protein ligase 1 in gastric cancer.J Exp Clin Cancer Res 36巻、59頁)、miR-193a-5p(Chen,J.、Gao、S.、Wang、C.、Wang、Z.、Zhang,H.、Huang,K.、Zhou,B.、Li,H.、Yu,Z.、Wu,J.ら(2016年).Pathologically decreased expression of miR-193a contributes to metastasis by targeting WT1-E-cadherin axis in non-small cell lung cancers.J Exp Clin Cancer Res 35巻,173頁)、miR-548ac(Song,F.、Yang,Y.、及びLiu,J.(2020年).MicroRNA-548ac induces apoptosis in laryngeal squamous cell carcinoma cells by targeting transmembrane protein 158.Oncol Lett 20巻,69頁)、miR-23b-3p(Campos-Viguri,G.E.、Peralta-Zaragoza,O.、Jimenez-Wences,H.、Longinos-Gonzalez,A.E.、Castanon-Sanchez,C.A.、Ramirez-Carrillo,M.、Camarillo,C.L.、Castaneda-Saucedo,E.、Jimenez-Lopez,M.A.、Martinez-Carrillo,D.N.ら(2020年).MiR-23b-3p reduces the proliferation,migration and invasion of cervical cancer cell lines via the reduction of c-Met expression.Sci Rep 10巻,3256頁)、miR-140-3p(Wang,M.、Wang,X.、及びLiu,W.(2020a年).MicroRNA- 130a-3p promotes the proliferation and inhibits the apoptosis of cervical cancer cells via negative regulation of RUNX3. Mol Med Rep 22巻
,2990~3000頁),及びmiR-330-3p(Wang,Y.、Chen,J.、Wang,X.、及びWang,K.(2020年b).miR-140-3p inhibits bladder cancer cell proliferation and invasion by targeting FOXQ1.Aging 12巻,20366~20379頁)の上方制御に関係付けられている。総合すると、こうしたデータは、こうしたmiRが、胎児hGPCの前駆細胞状態の維持における活性参加因子であること、及びそれらのモジュレーションは、成体hGPCがそれらのシグネチャ遺伝子発現プロファイルを呈する考え得る機序であることを示唆している。
【0240】
実施例8
miRNAの転写因子調節はGPC同一性を確立及び強化する
次に、この研究では、TransmiR転写因子miRNA調節データベース(Tongら(2011年).TransmiR v2.0:an updated transcription factor-microRNA regulation database. Nucleic Acids Res 47巻、D253~D258頁)をクエリーすることにより、胎児GPC及び成体GPCで差次的に発現されるmiRNAの上流調節を予測しようとした。この手法では、胎児GPCと成体GPCとの間で有意に差次的に発現されることが同様に決定された66個の転写因子により、56個の年齢特異的GPC miRNAのうち54個が調節されることが予測された。興味深いことに、上位4つの予測されたmiRNA調節TFは、MAX、MYC自体、E2F6、及び胎児富化MYC関連ジンクフィンガータンパク質MAZを含む、すべてのMYC関連因子であり、それぞれ36、33、30、及び28個の固有の差次的発現miRNAを標的とした。
【0241】
12個のTF候補の状況にて提案された関係性を調査したところ、少なからぬ胎児hGPC富化miRNAが、胎児活性化因子及び成体リプレッサーの両方により標的とされると予測されたのに対し、成体GPCにて富化されたmiRNAはより固有に標的とされたことが示された。MYCは、胎児GPCにて数多くのmiRNAの発現を駆動することが予測され、それらの多くは成人期にはE2F6、MAX、又はその両方により抑制されることが予測された。特にmiR-130a-3pは、TEAD2による活性化に加えて、MYC、MAX、及びE2F6により標的とされることが予測された。注目すべきことには、他の細胞タイプで検証されたTF-miRNA相互作用の中で、若返りのmiR-17-5pのMYCによる上方制御及びMAXによるその抑制(Duら(2014年b).miR-17 extends mouse lifespan by inhibiting senescence signaling mediated by MKP7.Cell Death Dis 5巻、e1355頁)が報告されている。同様に、MYC又はTEAD2及びYAP1による増殖性miR-130-3pの並行した活性化(Shenら(2015年).A miR-130a- YAP positive feedback loop promotes organ size and tumorigenesis.Cell Res 25巻、997~1012頁)が報告されている。また、オリゴデンドロサイトの成熟性と共に減少する(Lau,P.ら(2008年).Identification of dynamically regulated microRNA and mRNA networks in developing oligodendrocytes.J Neurosci 28巻、11720~11730頁)、MYCによるmiR-9の両アームの活性化(Ma,L.ら(2010年a).miR-9,a MYC/MYCN-activated microRNA, regulates E-cadherin and cancer metastasis. Nat Cell Biol 12巻、247~256頁)も報告されている。
【0242】
成体GPCでは、本発明者らの有意に富化されたTFコホートにより調節されることが予測された富化miRNAは、胎児リプレッサーの成体活性化因子によってのみ標的化され、HMGA2の予測阻害剤であるmiR-151a-5p及びmiR-4687-3pのみは、それぞれBCL11A及びEZH2と対比してSTAT3により逆に標的とされる可能性がより高かった。これの他に、miR-1268bは、EZH2及びHDAC2の両方により並行して阻害されることが予測された。注目すべきことには、重要なオリゴデンドロサイトマイクロRNAであるmiR-219a-2-3pは、胎児GPCにおいてEZH2により阻害されたままであることが予測されたが、STAT3は、7つの他のmiRの発現を独立して駆動する可能性が高い。興味深いことに、その活性の増加が老化と関係付けられているSTAT3(Kojimaら(2013年).IL-6-STAT3 signaling and premature senescence.JAKSTAT 2巻、e25763頁)は、miR-584-5p、miR-330-3p、miR-23b-3p、及びmiR-140-3pを含む、独立して老化誘導と関連付けられているmiRNAのコホートの発現を駆動することも予測された。
【0243】
転写プロファイリング及びmiRNAプロファイリング、経路富化解析、及び標的予測を統合して、本発明者らは、胎児hGPCが、前駆細胞遺伝子発現を維持し、増殖プログラムを活性化し、老化を防止する一方、オリゴデンドロサイト及び老化遺伝子プログラムを転写的にもマイクロRNAにより転写後にも抑制するという、ヒトGPC加齢のモデルを提案する。成体成熟及び時間の経過ならびに集団倍加に伴い、hGPCは、こうした胎児前駆細胞関連ネットワークのリプレッサーを上方制御し始め、同時に、徐々により分化し最終的には老化表現型を促進するためのプログラムも活性化する。
【0244】
実施例9
キメラ動物モデルの脳におけるBCL11Aの発現は、宿主においてBCL11A発現GPCの増殖をもたらす
この研究では、新鮮な組織試料から選別された胎児及び成体ヒトグリア前駆細胞(GPC)のRNA配列決定データを分析することにより、「若年」GPCと「高齢」GPCとを区別する遺伝子調節ネットワークの中心をなすものとして、幾つかの転写因子を同定した。それらのうち、転写リプレッサーBCL11A(B細胞CLL/リンパ腫11A)は、最も顕著に差次的に発現された遺伝子の1つであり、胎児hGPCでは高く、成体細胞では低く、それが胎児hGPC表現型を保存する役割を果たしていることが示唆された。BCL11Aが中枢神経系において、又はグリア前駆細胞の拡大増殖、運命、及び加齢の調節においてそのような役割を果たすことは全く知られていなかった。
【0245】
次いで、BCL11Aが、加齢GPCにおいて自己再生を再開又は加速することができるか否かを調査するために、この研究では、CBhプロモーターにより駆動されるBCL11A及びGFPを発現するレンチウイルス(本明細書ではCBh-BCL11Aと呼ばれる)、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)のみの対照ウイルス(CBh-GFP)を生成した(図14a)。GPCを、ヒトC27 iPSC系から生成し、赤色蛍光発現導入遺伝子(RFP)でタグ付けし(図14b)、次いで生後1日目のRag1免疫不全マウスの脳梁(CC)に以前に記載のように移植した(Windremら、J.Neurosci 34巻、16153~16161頁(2014)、Windremら、Cell Stem Cell 21巻、195~208.e6頁(2017年))。キメラ化マウスは、生着後2年間の加齢を可能にさせ、その時点でマウスは、左半球にCBh-BCL11A及び右半球にCBh-GFP対照ウイルスの定位注射を受けた。ウイルスは、線条体、脳梁、及び皮質に沈着した。注射3週間後又は6週間後のいずれかで、マウスを単細胞分析のために解剖したか、又は切片化及び免疫組織化学のために4%PFAで灌流したかのいずれかだった(図14c)。
【0246】
この研究により、in vitroでのRNA発現(図14d)及びin vivoでのタンパク質染色(図14e)の両方によりBCL11Aの過剰発現が確認された。この研究では、感染の3週間後に、脳の対照側と比較して、CBh-BCL11A処理半球でのGPC集団の拡大増殖が観察された(図15a)。この研究では、GPC系統のRFPタグ付きヒト細胞及びOLIG2+細胞の存在のロバストな増加(図15b、15cで定量化)、ならびにマウスNG2抗原により同定された常在マウスGPCの増加(図15d、15eで定量化)が見出された。この効果は、感染の6週間後でも依然として存在しており(図16a)、CBh-BCL11A感染半球では、CBh-GFP処理対照よりも多くのRFP+及びOLIG2+細胞が検出された(図16b)。その6週間の時点では、ドナー細胞分散は、広範囲かつ比較的均一であり、腫瘍も異所性も見出されなかった。こうした観察は、BCL11A形質導入が、加齢常在ヒト及びマウスGPCを両方とも同様に活性化して、宿主脳の有糸分裂拡大増殖及び遊走性定着を再開させることを示した。さらに、BCL11A動員ヒトドナー細胞の(赤色)膜タグ付けにより、白質にあるドナー細胞の大部分の形態学的特徴がミエリン形成オリゴデンドロサイトであると規定することが可能だった。これは、こうした加齢マウスにおける典型的な加齢関連ミエリン喪失が少なくとも部分的に逆転したことを示唆している。
【0247】
種々の実施形態を上記で説明してきたが、そのような開示は例として提示されたものに過ぎず、限定ではないことが理解されるべきである。したがって、本発明の組成物及び方法の幅及び範囲は、上記に記載の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ規定されるべきである。
【0248】
上記の説明は、本発明をどのようにして実施するのかを当業者に教示することを目的としており、当業者にとって説明を読めば明らかになるであろう本発明のすべての自明な改変及び変形形態を詳述することを意図したものではない。しかしながら、そのような自明な改変及び変形形態はすべて、以下の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲内に含まれることが意図されている。特許請求の範囲は、状況が特にそうではないことを示さない限り、意図されている目的を達成するのに効果的なあらゆる順序の成分及びステップを網羅することが意図されている。
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【配列表】
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【国際調査報告】