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特表2024-539089修飾複製可能RNAの機能および関連する組成物を増加させるための変異を決定する方法ならびにそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】修飾複製可能RNAの機能および関連する組成物を増加させるための変異を決定する方法ならびにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20241018BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241018BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241018BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 39/35 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/40 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/48
C12N15/87 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12N9/12
C12N15/54
A61K31/7105
A61K31/711
A61K31/7115
A61K48/00
A61P37/04
A61P35/00
A61K47/44
A61K39/00
A61K39/00 H
A61K39/12
A61K39/02
A61K39/00 K
A61K39/35
C12N15/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523403
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2022078869
(87)【国際公開番号】W WO2023066874
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/078828
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509146023
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH SE
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(71)【出願人】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】バイセルト, ティム
(72)【発明者】
【氏名】ペルコビッチ, マリオ
(72)【発明者】
【氏名】ガウレッタ, ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ソーン, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ブリル, シルケ
(72)【発明者】
【氏名】ネット, エヴリン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ54
4B063QR32
4C076CC06
4C076CC27
4C076EE51
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C085AA03
4C085BA01
4C085BA07
4C085BA49
4C085BA51
4C085BB01
4C085DD62
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、修飾ヌクレオチド含有複製可能RNAの複製および/または翻訳される能力を回復または改善するための方法に関する。この方法は、修飾ヌクレオチド含有複製可能RNA分子の複製するおよび/または翻訳される能力の低下を補償する、複製可能RNAにおけるヌクレオチド変化を同定することを含む。本発明はまた、そのような同定されたヌクレオチド変化を組み込んだ修飾ヌクレオチド含有複製可能RNA分子、および治療におけるそのような複製可能RNA分子の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾された複製可能RNA(rRNA)の機能を少なくとも部分的に回復または増加させる修飾ヌクレオチドを含むrRNA(修飾rRNA)における配列変化を同定するための方法であって、
(a)RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)を発現する細胞に、目的の遺伝子をコードする修飾rRNAをトランスフェクトする工程;および
(b)前記目的の遺伝子を発現する前記トランスフェクトされた細胞中に存在する前記目的の遺伝子をコードするrRNA分子内の配列変化を同定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記配列変化が、工程(a)でトランスフェクトされた前記修飾rRNAの配列に対して決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、トランスフェクト後に、前記目的の遺伝子をコードするrRNA分子を、前記目的の遺伝子を発現する前記トランスフェクトされた細胞から単離して、単離されたrRNA分子を提供することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が、前記レプリカーゼを発現する細胞に、前記目的の遺伝子をコードし、前記修飾ヌクレオチドを含むrRNA分子の後続世代をトランスフェクトする工程をさらに含み、前記後続世代が、前記単離されたrRNA分子を複製することによって提供される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項3および4の工程を繰り返すことをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程をn回繰り返す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
nが少なくとも1の整数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記単離されたrRNA分子を複製することが、(i)前記目的の遺伝子をコードする前記単離されたrRNA分子を逆転写して、インビトロ転写され得るDNA分子を形成すること;および(ii)同じ修飾ヌクレオチドの存在下で前記DNA分子をインビトロ転写して、前記修飾ヌクレオチドを含み、前記目的の遺伝子をコードする修飾rRNA分子の後続世代を生成することを含む、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(c)少なくとも1つの同定された配列変化を工程(a)の前記修飾rRNAに組み込む工程;
(d)前記レプリカーゼを発現する細胞に、工程(c)で生成された前記修飾rRNAをトランスフェクトする工程;および
(e)工程(d)で生成された前記目的の遺伝子を発現する前記トランスフェクト細胞から単離された前記rRNA分子内の配列変化を同定する工程
をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数が、前記rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数が、前記rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも30%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数が、前記rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも50%である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記修飾ヌクレオチドが、修飾ウリジン残基、修飾アデニン残基、修飾グアニン残基、修飾シトシン残基、または前述の2つ以上の任意の組合せである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記修飾ヌクレオチドが修飾ウリジンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記修飾ウリジンがシュードウリジンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シュードウリジンがN1-メチル-シュードウリジンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数が、ウリジン残基の総数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数が、ウリジン残基の総数の少なくとも30%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数が、ウリジン残基の総数の少なくとも50%である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記レプリカーゼが、自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスに由来する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記アルファウイルスが、SFVまたはVEEVまたはEEEVまたはシンドビスウイルスである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記rRNAが、開始コドンを有しない5’調節領域を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記レプリカーゼおよび複製のために前記レプリカーゼが必要とする前記rRNA中の調節配列が、同じアルファウイルスまたは異なるアルファウイルスに由来する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記コードされた目的の遺伝子が、細胞表面発現タンパク質またはルシフェラーゼまたはGFPである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞における前記レプリカーゼの発現が、一過性発現または構成的発現である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、前記rRNAのトランスフェクションの前に、トランスフェクションと同時に、またはトランスフェクションの後に、前記レプリカーゼをコードする核酸分子でトランスフェクトされ、好ましくは、前記核酸分子はRNAである、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
工程(a)が、目的の遺伝子をコードする自己増幅RNAで細胞をトランスフェクトすることを含み、自己複製RNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
部分的に回復または増加する前記rRNAの機能が、前記レプリカーゼによって複製される能力である、および/または翻訳される能力である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記機能が少なくとも10%回復するか、または少なくとも10%増加する、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記配列変化を同定する工程が、前記rRNA分子の少なくとも一部を配列決定することを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
配列決定される前記rRNAの一部が5’調節領域である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
配列決定される前記rRNAの一部が3’調節領域である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記配列変化が、配列決定によって生成された配列特異的リード頻度を分析することによって決定される、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む自己増幅RNAの複製効率を高めるために実施される、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記修飾ヌクレオチドを含む前記rRNAまたは自己複製RNAの機能を部分的に回復または増加させる少なくとも1つの同定された配列変化を組み込むことによって、同じ修飾ヌクレオチドを含むrRNAまたは自己複製RNAのヌクレオチド配列を修飾することをさらに含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含み、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法によって得られる、複製可能RNA(rRNA)分子。
【請求項37】
修飾された複製可能RNA(rRNA)の機能を少なくとも部分的に回復または増加させる配列変化を有するrRNAであって、
(a)RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)を発現する細胞に、目的の遺伝子をコードする修飾rRNAをトランスフェクトする工程;および
(b)前記目的の遺伝子を発現する前記トランスフェクト細胞に存在する前記目的の遺伝子をコードするrRNA分子内の配列変化を同定する工程
を含む方法によって得られる、rRNA。
【請求項38】
自己複製RNAウイルスの修飾5’調節領域を含む複製可能RNA(rRNA)分子であって、前記修飾調節領域が、前記5’調節領域(配列番号2)の67位、244位、245位、246位、248位の1つ以上に点突然変異を含む、複製可能RNA(rRNA)分子。
【請求項39】
前記自己複製RNAウイルスがアルファウイルスである、請求項38に記載のrRNA分子。
【請求項40】
前記5’調節領域(配列番号2)の67位と、244位、245位、246位、248位の1つ以上とに点突然変異を含む、請求項38または39に記載のrRNA分子。
【請求項41】
前記5’調節領域が、前記5’調節領域(配列番号2)の4位に点突然変異をさらに含む、請求項38~40のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項42】
前記点突然変異が67位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項43】
前記点突然変異が67位および244位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項44】
前記点突然変異が67位および246位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項45】
前記点突然変異が67位および248位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項46】
前記点突然変異が67位、245位および248位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項47】
前記点突然変異が4位および67位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項48】
前記点突然変異が4位、67位および244位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項49】
前記点突然変異が4位、67位および246位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項50】
前記点突然変異が4位、67位および248位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項51】
前記点突然変異が4位、67位、245位および248位にある、請求項38~41のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項52】
前記点突然変異が、G4A、A67C、G244A、C245A、G246A、またはC248Aである、請求項38~51のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項53】
前記自己複製RNAウイルスが、SFVまたはEEEVまたはVEEVまたはシンドビスウイルスである、請求項36~52のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項54】
1つ以上のコード領域をさらに含む、請求項36~53のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項55】
目的の遺伝子をコードする、請求項36~54のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項56】
前記コードされた目的の遺伝子が、抗原または治療用タンパク質または核酸、好ましくは腫瘍、ウイルス、細菌もしくは真菌抗原、またはアレルゲンである、請求項55に記載のrRNA分子。
【請求項57】
RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)、好ましくはアルファウイルスレプリカーゼをコードする、請求項36~56のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項58】
5’調節領域を含み、レプリカーゼをコードする請求項36~57のいずれか一項に記載のrRNA分子であって、前記5’調節領域および前記コードされたレプリカーゼが同じ自己複製RNAウイルス、好ましくは同じアルファウイルスに由来する、rRNA分子。
【請求項59】
5’調節領域を含み、レプリカーゼをコードする請求項36~57のいずれか一項に記載のrRNA分子であって、前記5’調節領域および前記コードされたレプリカーゼが異なる自己複製RNAウイルスに由来する、rRNA分子。
【請求項60】
自己増幅RNAである、請求項36~59のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項61】
インビトロ転写rRNAである、請求項36~60のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項62】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項36~61のいずれか一項に記載のrRNA分子。
【請求項63】
前記修飾ヌクレオチドがN1-メチル-シュードウリジンである、請求項62に記載のrRNA分子。
【請求項64】
全てのウリジン残基がN1-メチル-シュードウリジン残基である、請求項63に記載のrRNA分子。
【請求項65】
請求項36~64のいずれか一項に記載のrRNA分子をコードするDNA分子。
【請求項66】
前記rRNAまたはDNA分子が線状または環状である、請求項36~64のいずれか一項に記載のrRNA分子または請求項65に記載のDNA分子。
【請求項67】
脂質と共に製剤化される、請求項36~66のいずれか一項に記載のrRNAまたはDNA分子。
【請求項68】
請求項36~67のいずれか一項に記載のrRNAまたはDNA分子と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項69】
治療に使用するための、請求項36~67のいずれか一項に記載のrRNAもしくはDNA分子または請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
対象において免疫応答を惹起するための方法であって、抗原をコードするrRNA分子を前記対象に投与することを含み、前記rRNA分子が、自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、前記修飾調節領域が、(配列番号2の)67位、244位、245位、246位、248位の1つ以上に点突然変異を含む、方法。
【請求項71】
対象における癌を治療するための方法であって、腫瘍抗原をコードするrRNA分子を前記対象に投与することを含み、前記rRNAが自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、前記修飾調節領域が、(配列番号2の)67位、244位、245位、246位、248位の1つ以上に点突然変異を含む、方法。
【請求項72】
遺伝子機能を欠く対象にそのような遺伝子機能を提供するための方法であって、遺伝子産物(治療用タンパク質)をコードするrRNA分子を前記対象に投与して前記遺伝子機能を提供することを含み、前記rRNA分子が自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、前記修飾調節領域が、(配列番号2の)67位、244位、245位、246位、248位の1つ以上に点突然変異を含む、方法。
【請求項73】
前記rRNA分子が、5’調節領域(配列番号2)の67位と、244位、245位、246位、248位の1つ以上とに点突然変異を含む、請求項70~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記rRNA分子が、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、好ましくはN1-メチル-シュードウリジンを含む自己増幅RNA分子である、請求項70~73のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ヌクレオチド含有複製可能RNAの複製および/または翻訳される能力を回復または改善するための方法に関する。この方法は、修飾ヌクレオチド含有複製可能RNA分子の複製するおよび/または翻訳される能力の低下を補償する、例えば複製可能RNAにおけるヌクレオチド変化を同定することを含む。本発明はまた、そのような同定されたヌクレオチド変化を組み込んだ修飾ヌクレオチド含有複製可能RNA分子、および治療におけるそのような複製可能RNA分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、mRNAベースのワクチンは、Covid-19の流行に対抗するための臨床試験においてそれらの免疫原性を証明した。これらのRNAワクチンは非常に有効であり、非常に強いT細胞免疫応答および高レベルの中和抗体を誘導する(Walsh et al.,2020,N Engl J Med 383:2439-2450;Sahin et al.,2020,Nature 586:594-599)。規制当局の承認を得た最初の2つのmRNAワクチンは、ウリジンの代わりに化学修飾されたヌクレオチド、N1-メチル-シュードウリジン(1mψ)を含有する。この修飾は、インターフェロン応答をもたらす自然免疫経路の刺激をほとんど回避することによって、免疫担当細胞におけるmRNAの翻訳を改善する(Andries et al.,2015,J Control Release 217:337-344)。
【0003】
これらの承認されたRNAワクチンは、用量当たり30~100μgのRNAを必要とし、数週間の間隔を空けて2回の連続した投与を必要とする(プライムブーストレジメン)。これにより、100万人を免疫するのに必要な60~200gのRNAが得られる。したがって、1μg未満への用量減少は、新規病原体に対するワクチンを集団に供給するのに必要な生産時間に大きな影響を与えるであろう。
【0004】
有意な用量減少を達成することを約束する試験中のワクチンアプローチは、自己増幅RNA(saRNA)を使用することである。saRNAは、アルファウイルス構造遺伝子を免疫応答が所望される抗原で置き換えることによって、アルファウイルスゲノムから操作することができる。saRNAは、saRNA分子を複製するための全ての酵素機能を有するアルファウイルスレプリカーゼをコードし、したがって投入ワクチン量の増幅をもたらす。残念なことに、saRNAによって引き起こされる自然免疫応答はsaRNAワクチンの有効性を強く阻害し、これが、非ヒト霊長動物におけるsaRNA Covid-19ワクチンの前臨床試験でかなり大量のsaRNAが使用された理由であり得る(Erasmus et al.,2020,Sci Transl Med 12:eabc9396)。
【0005】
アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表である。アルファウイルスの宿主には、昆虫、魚、ならびに家畜およびヒトなどの哺乳動物を含む広範囲の生物が含まれる。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,2009,Future Microbiol.4:837-856を参照)。多くのアルファウイルスの全ゲノム長は、典型的には11,000~12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には5’キャップおよび3’ポリ(A)尾部を有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾および複製ならびにタンパク質修飾に関与する)および構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。典型的には、ゲノム中に2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1~nsP4)は、典型的には、ゲノムの5’末端付近から始まる第1のORFによって一緒にコードされ、一方アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流に見出され、ゲノムの3’末端付近に延びる第2のORFによって一緒にコードされる。典型的には、第1のORFは第2のORFよりも大きく、比率はおよそ2:1である。
【0006】
アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質のみがゲノムRNAから翻訳され、構造タンパク質は、真核生物メッセンジャRNAに類似したRNA分子であるサブゲノム転写物から翻訳可能である(mRNA;Gould et al.,2010,Antiviral Res.87:111-124)。感染後、すなわちウイルス生活環の初期段階には、(+)鎖ゲノムRNAは、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためにメッセンジャRNAのように直接作用する。一部のアルファウイルスでは、nsP3のコード配列とnsP4のコード配列との間にオパール終止コドンが存在する:翻訳がオパール終止コドンで終結すると、nsP1、nsP2、およびnsP3を含むポリタンパク質P123が生成され、さらにこのオパールコドンのリードスルー時にnsP4も含むポリタンパク質P1234が生成される(Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562;Rupp et al.,2015,J.Gen.Virology 96:2483-2500)。nsP1234は、nsP123断片およびnsP4断片へと自己タンパク質分解的に切断される。ポリペプチドnsP123およびnsP4は会合して、(+)鎖ゲノムRNAを鋳型として使用して、(-)鎖RNAを転写する(-)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。典型的には、後の段階で、nsP123断片は、個別のタンパク質nsP1、nsP2およびnsP3に完全に切断される(Shirako&Strauss,1994,J.Virol.68:1874-1885)。4つ全てのタンパク質が集合して、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、新しい(+)鎖ゲノムを合成する(+)鎖レプリカーゼ複合体を形成する(Kim et al.,2004,Virology 323:153-163,Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.278:41636-41645)。
【0007】
感染細胞では、nsP1によってサブゲノムRNAおよび新しいゲノムRNAに5’キャップが与えられ(Pettersson et al.,1980,Eur.J.Biochem.105:435-443;Rozanov et al.,1992,J.Gen.Virology 73:2129-2134)、nsP4によってポリアデニル酸[ポリ(A)]尾部が与えられる(Rubach et al.,2009,Virology 384:201-208)。したがって、サブゲノムRNAとゲノムRNAの両方がメッセンジャRNA(mRNA)に類似する。
【0008】
アルファウイルス構造タンパク質(全てウイルス粒子の成分である、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質E2およびエンベロープタンパク質E1)は、典型的にはサブゲノムプロモータの制御下で単一のオープンリーディングフレームによってコードされる(Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562)。サブゲノムプロモータは、シスで作用するアルファウイルス非構造タンパク質によって認識される。特に、アルファウイルスレプリカーゼは、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して(+)鎖サブゲノム転写物を合成する。(+)鎖サブゲノム転写物は、アルファウイルス構造タンパク質をコードする(Kim et al.,2004,Virology 323:153-163,Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.278:41636-41645)。サブゲノムRNA転写物は、構造タンパク質を1つのポリタンパク質としてコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として働き、ポリタンパク質は、切断されて構造タンパク質を生じる。宿主細胞におけるアルファウイルス感染の後期段階には、nsP2のコード配列内に位置するパッケージングシグナルが、構造タンパク質によってパッケージングされた出芽ビリオンへのゲノムRNAの選択的パッケージングを確実にする(White et al.,1998,J.Virol.72:4320-4326)。
【0009】
感染細胞では、(-)鎖RNAの合成は、典型的には感染後最初の3~4時間にのみ観察され、後期段階では検出不能であり、この時点では(+)鎖RNA(ゲノムおよびサブゲノムの両方)のみの合成が観察される。Frolov et al.,2001,RNA 7:1638-1651によれば、RNA合成の調節についての一般的なモデルは、非構造ポリタンパク質のプロセシングへの依存性を示唆する:非構造ポリタンパク質nsP1234の最初の切断はnsP123およびnsP4を生じる;nsP4は、(-)鎖合成には活性であるが、(+)鎖RNAの生成には非効率的なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)として作用する。nsP2/nsP3接合部での切断を含む、ポリタンパク質nsP123のさらなるプロセシングは、(+)鎖RNAの合成を増加させ、(-)鎖RNAの合成を減少または終結させるようにレプリカーゼの鋳型特異性を変化させる。
【0010】
アルファウイルスRNAの合成はまた、4つの保存配列要素(CSE;Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562;およびFrolov,2001,RNA 7:1638-1651)を含むシス作用性RNA要素によって調節される。アルファウイルスゲノムは、宿主細胞におけるウイルスRNA複製に重要であると理解されている4つの保存配列要素(CSE)を含む。ウイルスゲノムの5’末端またはその近くに見出されるCSE 1は、(-)鎖鋳型からの(+)鎖合成のためのプロモータとして機能すると考えられている。CSE 1の下流に位置するが、nsP1のコード配列内のゲノムの5’末端に依然として近いCSE 2は、ゲノムRNA鋳型からの(-)鎖合成の開始のためのプロモータとして作用すると考えられている(CSE 2を含まないサブゲノムRNA転写物は、(-)鎖合成のための鋳型として機能しないことに留意されたい)。CSE 3は、非構造タンパク質および構造タンパク質のコード配列の間の接合領域に位置し、サブゲノム転写物の効率的な転写のためのコアプロモータとして作用する。最後に、アルファウイルスゲノムの3’非翻訳領域のポリ(A)配列のすぐ上流に位置するCSE 4は、(-)鎖合成の開始のためのコアプロモータとして機能すると理解されている(Jose et al.,2009,Future Microbiol.4:837-856)。アルファウイルスのCSE 4およびポリ(A)尾部は、効率的な(-)鎖合成のために一緒に機能すると理解されている(Hardy&Rice,2005,J.Virol.79:4630-4639)。アルファウイルスタンパク質に加えて、おそらくはタンパク質である宿主細胞因子も、保存配列要素に結合し得る。アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列は、翻訳開始に関与するだけでなく、ウイルスRNAの合成に関与する2つの保存配列要素、CSE 1およびCSE 2も含む。CSE 1およびCSE 2の機能にとって、二次構造は直鎖状配列よりも重要であると考えられている(Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562)。
【0011】
アルファウイルス由来のベクターは、外来遺伝情報を標的細胞または標的生物に送達するために提案されている。単純なアプローチでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームによって置き換える。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別個の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列要素に依存する:一方の核酸分子はウイルスレプリカーゼをコードし(典型的にはポリタンパク質nsP1234として)、他方の核酸分子はトランスで前記レプリカーゼによって複製されることができる(したがってトランス複製系という名称)。トランス複製は、所与の宿主細胞中にこれらの両方の核酸分子が存在することを必要とする。トランスでレプリカーゼによって複製され得る核酸分子は、アルファウイルスレプリカーゼによる認識およびRNA合成を可能にするために特定のアルファウイルス配列要素を含まなければならない。
【0012】
修飾mRNAワクチンの成功を考えると、自然免疫応答を低下させるためにsaRNAを修飾することは魅力的に見える。しかしながら、修飾ヌクレオチドは、saRNAの複製および翻訳を阻害することが観察されている(Erasmus et al.,2020,Sci Transl Med 12:eabc9396)。現在までのところ、RNA修飾がsaRNA機能と適合しない理由について公表された調査はない。したがって、修飾ヌクレオチドを含有するにもかかわらず、十分な複製および/または翻訳機能を有するsaRNA分子が当技術分野で依然として必要とされている。本発明は、そのような必要性を満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Walsh et al.,2020,N Engl J Med 383:2439-2450
【非特許文献2】Sahin et al.,2020,Nature 586:594-599
【非特許文献3】Andries et al.,2015,J Control Release 217:337-344
【非特許文献4】Erasmus et al.,2020,Sci Transl Med 12:eabc9396
【非特許文献5】Jose et al.,2009,Future Microbiol.4:837-856
【非特許文献6】Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87,pp.111-124
【非特許文献7】Strauss & Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562
【非特許文献8】Rupp et al.,2015,J.Gen.Virology 96:2483-2500
【非特許文献9】Shirako & Strauss,1994,J.Virol.68:1874-1885
【非特許文献10】Kim et al.,2004,Virology 323:153-163
【非特許文献11】Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.278:41636-41645
【非特許文献12】Pettersson et al.,1980,Eur.J.Biochem.105:435-443
【非特許文献13】Rozanov et al.,1992,J.Gen.Virology 73:2129-2134
【非特許文献14】Rubach et al.,2009,Virology 384:201-208
【非特許文献15】White et al.,1998,J.Virol.72:4320-4326
【非特許文献16】Frolov et al.,2001,RNA 7:1638-1651
【非特許文献17】Hardy & Rice,2005,J.Virol.79:4630-4639
【発明の概要】
【0014】
本発明は、一般に、ウラシル、アデノシン、シトシンおよびグアニン以外のヌクレオチドを含む、レプリコンまたは複製可能なRNA(rRNAまたはsaRNA)とも呼ばれる自己複製RNA分子が、複製し、および/または翻訳されてコードされたタンパク質を発現する能力を改善することに関する。したがって、本発明は、修飾ヌクレオチドを含む複製可能RNA分子の複製するおよび/または翻訳される能力の低下を回復または改善する配列変化を同定するための方法に関する。さらに、本発明は、これらの配列変化を含む複製可能RNA分子、ならびに細胞内でタンパク質を発現させるための、または複製可能RNA分子によってコードされるタンパク質に対する免疫応答、好ましくは細胞傷害性免疫応答を惹起するための、およびそのような免疫応答が疾患または障害のそのような治療または予防につながる/治療または予防をもたらす疾患または障害を治療または予防するための方法におけるそのような複製可能RNA分子の使用に関する。
【0015】
本発明は、一部には、5’または3’保存配列要素(CSE)内のRNA二次構造が、ヌクレオチドの修飾時にそれらの形状または安定性を変化させるという仮説に基づく。RNA複製は、RNA鋳型とレプリカーゼとの相互作用に依存する。したがって、RNAとレプリカーゼとの不適切な相互作用は、RNA依存性RNA転写に大きな影響を及ぼす。RNA構造はヌクレオチド配列に依存するので、本発明者らは、修飾RNAが、A、C、GおよびUのカノニカルヌクレオチドをN1-メチル-シュードウラシルなどの修飾ヌクレオチドで置換することによって、配列の変化時にレプリカーゼと適切に相互作用する構造を適合させることができると提案した。本発明者らは、本明細書に開示される実験結果によって実証されるように、インビトロ進化法が、rRNAの機能を回復または改善させる配列変化の同定を可能にすることを示した。
【0016】
一態様では、本発明は、修飾された複製可能RNA(rRNA)の機能を少なくとも部分的に回復または増加させる修飾ヌクレオチドを含むrRNA(修飾rRNA)における配列変化を同定するための方法であって、(a)RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)を発現する細胞に、目的の遺伝子をコードする修飾rRNAをトランスフェクトする工程;および(b)目的の遺伝子を発現するトランスフェクトされた細胞中に存在する目的の遺伝子をコードするrRNA分子内の配列変化を同定する工程を含む、方法に関する。rRNAは、翻訳され得る(+鎖)一本鎖RNA分子であり得、RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)をコードしてもコードしなくてもよいが、別個に提供されるレプリカーゼによってトランスで、または同じrRNAによってコードされるレプリカーゼによってシスで分子が複製されることを可能にするヌクレオチド配列を含む。rRNA分子は、トランスレプリコン(TR)またはレプリコンとも呼ばれ得る。さらに、rRNAは、遺伝子配列、例えば抗原をコードする野生型またはコドン最適化配列を含み得、rRNAは、安定性および翻訳効率に関してrRNAの最大有効性のために最適化された1つ以上の構造要素を含み得る(5’キャップ、5’UTR、3’UTR、ポリ(A)尾部)。一実施形態では、配列変化は、レプリコンの5’調節領域に存在する。
【0017】
一実施形態では、rRNAまたはヌクレオチド修飾rRNAの機能の回復または改善は、例えばトランスフェクション後の一定期間後、例えばトランスフェクション後1、2、3、4、5、6、12、18、24時間後またはトランスフェクション後1、2、3、4もしくは5日後に、目的の遺伝子の発現レベルの回復または改善によって決定され得る。一実施形態では、rRNAの機能の回復または改善は、例えば、トランスフェクション後1、2、3、4、5、6、12、18、24時間または1、2、3、4もしくは5日などの一定期間後のトランスフェクト細胞におけるrRNAの総コピー数によって測定される、rRNAが複製される能力の回復または改善によって決定され得る。
【0018】
一実施形態では、配列変化は、工程(a)でトランスフェクトされた修飾rRNAの配列に対して決定され得る。配列変化はまた、参照配列に対して決定され得る。一実施形態では、本方法の工程(a)は、トランスフェクト後に、目的の遺伝子を発現するトランスフェクト細胞から目的の遺伝子をコードするrRNA分子を単離して、単離されたrRNA分子を提供することをさらに含み得る。一実施形態では、工程(a)は、レプリカーゼを発現する細胞に、目的の遺伝子をコードし、修飾ヌクレオチドを含むrRNA分子の後続世代をトランスフェクトする工程をさらに含み得、後続世代は、単離されたrRNA分子を複製することによって提供され得る。
【0019】
一実施形態では、本方法は、目的の遺伝子を発現するトランスフェクトされた細胞から目的の遺伝子をコードするrRNA分子を単離して、単離されたrRNA分子を提供する工程、およびレプリカーゼを発現する細胞に、目的の遺伝子をコードし、修飾ヌクレオチドを含むrRNA分子の後続世代をトランスフェクトする工程を反復することをさらに含み得、後続世代は、単離されたrRNA分子を複製することによって提供され得る。工程は、(n)回繰り返されてもよく、nは少なくとも1の整数であり得る。工程は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20回またはそれ以上繰り返すことができる。一実施形態では、単離されたrRNA分子を複製することは、(i)目的の遺伝子をコードする単離されたrRNA分子を逆転写して、インビトロ転写され得るDNA分子を形成すること;および(ii)同じ修飾ヌクレオチドの存在下でDNA分子をインビトロ転写して、修飾ヌクレオチドを含み、目的の遺伝子をコードする修飾rRNA分子の後続世代を生成することを含む。逆転写は、ワンステップ逆転写PCR(RT-PCR)を含む方法によって達成され得る。
【0020】
一実施形態では、本方法は、(c)少なくとも1つの同定された配列変化を工程(a)の修飾rRNAに組み込む工程;(d)レプリカーゼを発現する細胞に、工程(c)で生成された修飾rRNAをトランスフェクトする工程;および(e)工程(d)で生成された目的の遺伝子を発現するトランスフェクトされた細胞から単離されたrRNA分子内の配列変化を同定する工程をさらに含み得る。一実施形態では、この方法において使用される細胞は、インターフェロン応答を伴わない細胞である。
【0021】
いくつかの実施形態では、複製可能RNA(rRNA)中の修飾ヌクレオチド(1つ以上)は、5’キャップ構造ではないか、または5’キャップ構造以外である。一実施形態では、本方法において有用な修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数は、rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%であり得る。好ましくは、本方法において有用な修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数は、rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも30%であり得る。より好ましくは、本方法において有用な修飾rRNA中の修飾ヌクレオチドの数は、rRNA中のヌクレオチドの総数の少なくとも50%であり得る。修飾ヌクレオチドは、修飾ウリジン残基、修飾アデニン残基、修飾グアニン残基、修飾シトシン残基、または前述の2つ以上の任意の組合せであり得る。一実施形態では、修飾ヌクレオチドは、シュードウリジンまたはN1-メチル-シュードウリジンなどの修飾ウリジンである。一実施形態では、インビトロ転写された修飾rRNA中の修飾ウリジン残基の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%であり得る。インビトロ転写された修飾rRNA中の修飾ウリジン残基(例えばシュードウリジンまたはN1-メチル-シュードウリジン残基)の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも30%であり得る。好ましくは、インビトロ転写された修飾rRNA中の修飾ウリジン残基(例えばシュードウリジンまたはN1-メチル-シュードウリジン残基)の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも50%であり得る。インビトロ転写された修飾rRNA中の修飾ウリジン残基(例えばシュードウリジンまたはN1-メチル-シュードウリジン残基)の数は、ウリジン残基の総数の約100%(すなわち、実質的に全て)であり得る。一実施形態では、インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%であり得る。好ましくは、インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも30%であり得る。より好ましくは、インビトロ転写された修飾rRNA中のN1-メチル-シュードウリジン残基の数は、ウリジン残基の総数の少なくとも50%であり得る。
【0022】
一実施形態では、本方法において有用なrRNAは、本質的に、ウイルスの機能的構造タンパク質をコードしていなくてもよい、一本鎖プラス鎖RNAウイルス、例えばアルファウイルス、ピコルナウイルス、フラビウイルスのゲノムである。
【0023】
一実施形態では、本方法において有用なレプリカーゼは、アルファウイルス、例えばセムリキ森林ウイルス(SFV)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、シンドビスウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス(EEEV)、西部ウマ脳炎ウイルス、またはチクングニアウイルスなどの自己複製RNAウイルスに由来し得る。一実施形態では、アルファウイルスは、SFVまたはVEEVまたはEEEVまたはシンドビスウイルスであり得る。
【0024】
一実施形態では、本方法において有用なrRNAは、開始コドンを有しない5’調節領域を含む。一実施形態では、レプリカーゼおよび複製のためにレプリカーゼが必要とする本方法において有用なrRNA中の調節配列は、同じアルファウイルスまたは異なるアルファウイルスに由来する。
【0025】
rRNAがレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームも含む実施形態では、レプリカーゼオープンリーディングフレームの翻訳を内部リボソーム進入部位(IRES)の翻訳制御下に置くことによって、レプリカーゼオープンリーディングフレームの翻訳を5’末端キャップから切り離す。一実施形態では、rRNAはキャップされていなくてもよい。一実施形態では、rRNAは、IRESの上流のさらなる遺伝子の発現のためのオープンリーディングフレームを有し得る。
【0026】
一実施形態では、コードされた目的の遺伝子は、抗原またはレポータ遺伝子、例えば細胞表面発現タンパク質またはルシフェラーゼまたはGFPであり得る。
【0027】
一実施形態では、本方法において有用な細胞におけるレプリカーゼの発現は、一過性発現または構成的発現によるものであり得る。一実施形態では、細胞を、rRNA(必ずしもレプリカーゼをコードしない)のトランスフェクションの前に、トランスフェクションと同時に、またはトランスフェクションの後に、レプリカーゼをコードする核酸分子でトランスフェクトする。一実施形態では、レプリカーゼをコードする核酸分子は、mRNA分子などのRNA分子である。一実施形態では、本方法の工程(a)は、目的の遺伝子をコードする自己増幅RNAで細胞をトランスフェクトすることを含み、自己複製RNAは少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む。
【0028】
一実施形態では、部分的に回復または増加されるrRNAの機能は、レプリカーゼによって複製される能力であり得、および/または、例えば5’調節領域によって指示される、翻訳される能力であり得る。一実施形態では、機能を少なくとも10%回復させることができ、または少なくとも10%増加させることができる。
【0029】
一実施形態では、配列変化を同定する工程は、rRNA分子の少なくとも一部を配列決定することを含み得る。一実施形態では、配列決定されるrRNAの一部は5’調節領域であり得、および/または配列決定されるrRNAの一部は3’調節領域である。一実施形態では、配列変化は、次世代シーケンシングなどの配列決定によって生成された配列特異的リード頻度を分析することによって決定され得る。
【0030】
一実施形態では、本方法は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む自己増幅RNAの複製効率を高めるために実施され得る。
【0031】
一実施形態では、本方法は、修飾ヌクレオチドを含むrRNAまたは自己複製RNAの機能を部分的に回復または増加させる少なくとも1つの同定された配列変化を組み込むことによって、同じ修飾ヌクレオチドを含むrRNAまたは自己複製RNAのヌクレオチド配列を修飾することをさらに含む。
【0032】
一態様では、本発明は、1つ以上の修飾ヌクレオチドを含む、上記の本発明の方法によって得られる複製可能RNA(rRNA)分子に関する。一実施形態では、得られるrRNA分子は、自己複製RNAウイルスの変異した5’調節領域を含む。一実施形態では、変異した5’調節領域は、1つ以上の点突然変異を含む。特定の実施形態では、1つ以上の修飾ヌクレオチドを含む本発明の方法によって得られるrRNA分子は、この方法に供されない親rRNA分子と比較して増加したレベルでレプリカーゼによって複製/転写され得る。一実施形態では、rRNA分子は、rRNA分子の全ヌクレオチドのうちの少なくとも30%、50%、75%の修飾ヌクレオチドを含む。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の本発明の方法によって得ることができる複製可能RNA(rRNA)分子であって、rRNA分子中のウリジン残基の総数の少なくとも50%(好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは約100%)が修飾ウリジン残基(例えばシュードウリジンまたはN1-メチル-シュードウリジン残基)であり、この方法に供されない親rRNA分子と比較して同様のまたは増加したレベルでレプリカーゼによって複製/転写され得る、複製可能RNA(rRNA)分子を提供する。いくつかの実施形態では、rRNA分子は、rRNA分子の野生型5’調節領域を含む対応するrRNA分子と比較して、任意で配列番号1または配列番号2を含む5’調節領域(VEEVトリニダードロバ株(アクセッション番号L01442)の5’調節領域の野生型または改変型)を有する対応するrRNA分子と比較して、同様のまたは増加したレベルでレプリカーゼによって複製/転写され得る。レプリカーゼはアルファウイルスレプリカーゼであり得る。いくつかの実施形態では、レプリカーゼは、セムリキ森林ウイルス(SFV)、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、東部ウマ脳炎ウイルス(EEEV)、またはチクングニアウイルス(CHIKV)、好ましくはSFV、VEEVまたはEEV、より好ましくはSFV由来の非構造タンパク質を含む。
【0033】
本発明の一態様では、修飾された変異rRNA分子は、自己複製RNAウイルスの修飾された5’調節領域を含み、この修飾された調節領域は、5’調節領域(配列番号2)の67、244、245、246、248位、または配列番号2のそれらの位置に対応するアルファウイルスの5’調節領域の位置の1つ以上に点突然変異を含み得る。
【0034】
一実施形態では、rRNA分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチドを含み得る。
【0035】
配列番号2は、とりわけ、野生型配列の5’末端(配列番号1)と比較して、G残基の付加によってウイルス5’末端が改変されているVEEVトリニダードロバ株(アクセッション番号L01442)の5’調節配列である。RNAのDNA鋳型におけるこの修飾は、T7ポリメラーゼを使用した効率的なインビトロ転写を可能にする。
【0036】
一実施形態では、rRNA分子は、5’調節領域において、5’調節領域(配列番号2)の4位または配列番号2のその位置に対応するアルファウイルスの5’調節領域の位置に点突然変異、好ましくはグアニン残基のアデノシン残基による置換(G4A)をさらに含み得る。
【0037】
一実施形態では、rRNA分子は、5’調節領域において、5’調節領域(配列番号2)の4位または配列番号2のその位置に対応するアルファウイルスの5’調節領域の位置に点突然変異を含まず、好ましくはグアニン残基のアデノシン残基による置換(G4A)を含まない。
【0038】
自己複製RNAウイルスはアルファウイルスであり得る。
【0039】
配列番号1は、最も5’側のG残基を含まない、VEEVトリニダードロバ株(アクセッション番号L01442)の野生型5’調節領域である。したがって、配列番号2の4、67、244、245、246および248位は、それぞれ配列番号1の3、66、243、244、245および247位に対応し、配列番号2の4、67、244、245、246および248位におけるヌクレオチドの同一性は、それぞれ配列番号1の3、66、243、244、245および247位におけるヌクレオチドの同一性と同じである。
【0040】
様々な実施形態では、点突然変異は、配列番号2の67位、67および244位、67および246位、67および248位、67、245および248位、4および67位、4、67および244位、4、67および246位、4、67および248位、4、67、245および248位、またはそれらの任意の組合せ、または配列番号2のそのような位置に対応するアルファウイルスの位置に存在し得る。
【0041】
様々な実施形態では、点突然変異は、配列番号2の以下の位置の1つ以上もしくは位置の組合せ、またはアルファウイルスの5’調節領域の対応する位置に存在し得る:
67位;244位;245位;246位;248位;67および244位;67および245位;67および246位;67および248位;244および245位;244および246位;244および248位;245および246位;245および248位;246および248位;67、244および245位;67、244および246位;67、244および248位;67、245および246位;67、245および248位;67、246および248位;244、245および246位;244、245および248位;244、246および248位;245、246および248位;67、244、245および246位;67、244、245および248位;67、244、246および248位;67、245、246および248位;244、245、246および248位;67、244、245、246および248位。
【0042】
一実施形態では、rRNA分子の修飾された調節領域は、配列番号2の67位または配列番号2のこの位置に対応するアルファウイルスの5’調節領域の位置、および5’調節領域(配列番号2)の244、245、246、248位の1つ以上または配列番号2のそれらの位置に対応するアルファウイルスの5’調節領域の位置に点突然変異を含む。
【0043】
上記の各位置または位置の組合せにおいて、点突然変異は、配列番号2の4位またはアルファウイルスの5’調節領域の対応する位置にさらに存在し得る。
【0044】
一実施形態では、様々な位置における点突然変異は、G4A、A67C、G244A、C245A、G246A、またはC248Aであり得る。
【0045】
一実施形態では、自己複製RNAウイルスは、SFVまたはVEEVまたはEEEVまたはシンドビスウイルスであり得る。
【0046】
一実施形態では、別のアルファウイルスの対応する位置は、5’調節領域の最初のヌクレオチドに対して同じ位置および/または他のアルファウイルスの5’調節領域に見出されるステム/ループ構造の1つに見出される同じ相対位置であり得る。
【0047】
一実施形態では、rRNA分子は、1つ以上のコード領域、例えば目的の遺伝子をコードする配列を含む1つ以上のコード領域をさらに含むことができる。コードされる目的の遺伝子は、例えば、抗原または治療用タンパク質または核酸またはレポータ遺伝子であり得る。一実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原もしくは真菌抗原、またはアレルゲンである。
【0048】
一実施形態では、rRNA分子は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)、例えばアルファウイルスレプリカーゼをコードすることができる。一実施形態では、rRNA分子は、5’調節領域およびレプリカーゼのコード配列を含むことができ、5’調節領域およびコードされたレプリカーゼは、同じ自己複製RNAウイルス、例えば同じアルファウイルスに由来する。一実施形態では、rRNA分子は、5’調節領域およびレプリカーゼのコード配列を含むことができ、5’調節領域およびコードされたレプリカーゼは、異なる自己複製RNAウイルス、例えば異なるアルファウイルスに由来する。
【0049】
一実施形態では、rRNA分子は、自己増幅RNA、すなわちレプリカーゼをコードするものであり得る。一実施形態では、rRNA分子は、インビトロ転写反応で生成される、すなわち細胞内で生成されないインビトロ転写rRNAであり得る。
【0050】
rRNAがレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームも含む場合、レプリカーゼオープンリーディングフレームの翻訳を内部リボソーム進入部位(IRES)の翻訳制御下に置くことによって、レプリカーゼオープンリーディングフレームの翻訳を5’末端キャップから切り離すことができる。一実施形態では、rRNAはキャップされていなくてもよい。一実施形態では、rRNAは、IRESの上流のさらなる遺伝子の発現のためのオープンリーディングフレームを有し得る。
【0051】
一実施形態では、rRNA分子は、例えば上記のように、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、すなわちアデノシン、グアニン、シトシンまたはウラシルではないヌクレオチドを含む。本明細書で使用される場合、修飾ヌクレオチドは、骨格結合、糖部分または塩基において修飾され得、修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、修飾ヌクレオチドはN1-メチル-シュードウリジンであり得る。一実施形態では、rRNAのウリジン残基の全てがN1-メチル-シュードウリジン残基である。
【0052】
一実施形態では、rRNAは安定化rRNAであり得る。一実施形態では、rRNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含むことができる。一実施形態では、rRNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含むことができる。一実施形態では、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψまたは1mY)および5-メチル-ウリジン(m5U)から独立して選択され得る。
【0053】
一態様では、本発明は、4、67、244、245、246および248位の1つ以上が点突然変異を有する、配列番号2に示される配列を含むRNA分子に関する。様々な実施形態では、点突然変異は、67位;244位;245位;246位;248位;67および244位;67および245位;67および246位;67および248位;244および245位;244および246位;244および248位;245および246位;245および248位;246および248位;67、244および245位;67、244および246位;67、244および248位;67、245および246位;67、245および248位;67、246および248位;244、245および246位;244、245および248位;244、246および248位;245、246および248位;67、244、245および246位;67、244、245および248位;67、244、246および248位;67、245、246および248位;244、245、246および248位;67、244、245、246および248位に存在し得る。一実施形態では、RNA分子は、67位ならびに4、244、245、246および248位の1つ以上が点突然変異を有する、配列番号2に示される配列を含む。前述の位置の各々または位置の組合せにおいて、さらなる点突然変異が4位に存在し得る。一実施形態では、点突然変異は、G4A、A67C、G244A、C245A、G246A、および/またはC248Aであり得る。
【0054】
一態様では、本発明は、配列番号2の本明細書に開示される位置に1つ以上の点突然変異を含むrRNA分子をコードするDNA分子に関する。一実施形態では、rRNA分子またはDNA分子は、直鎖状または環状であり得る。
【0055】
一実施形態では、rRNAまたはDNA分子は、rRNAまたはDNA分子と共に粒子を形成することができる試薬を用いて製剤化されてもよく、例えば、試薬は脂質またはポリアルキレンイミンであり得る。様々な実施形態では、脂質はカチオン性頭部基を含むことができ、および/または脂質はpH応答性脂質であり得、および/または脂質はPEG化脂質であり得る。一実施形態では、試薬をポリサルコシンにコンジュゲートすることができる。一実施形態では、rRNAまたはDNA分子および試薬から形成される粒子は、ポリマーベースのポリプレックス(PLX)または脂質ナノ粒子(LNP)であり得、LNPは、好ましくはリポプレックス(LPX)またはリポソームである。一実施形態では、粒子は、少なくとも1つのホスファチジルセリンをさらに含み得る。一実施形態では、粒子は、ナノ粒子であって、(i)ナノ粒子中の正電荷の数がナノ粒子中の負電荷の数を超えず、および/または(ii)ナノ粒子が中性もしくは正味の負電荷を有し、および/または(iii)ナノ粒子の正電荷対負電荷の電荷比が1.4:1以下であり、および/または(iv)ナノ粒子のゼータ電位が0以下である、ナノ粒子であり得る。一実施形態では、ナノ粒子中の正電荷対負電荷の電荷比は、1.4:1~1:8、好ましくは1.2:1~1:4であり得る。
【0056】
一実施形態では、rRNAまたはDNAは、液体、固体、またはそれらの組合せとして製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、rRNAまたはDNAは、注射用に製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、rRNAまたはDNAは、筋肉内投与用に製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、rRNAまたはDNAは、粒子として製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、粒子は、脂質ナノ粒子(LNP)またはリポプレックス(LPX)粒子である。一実施形態では、LNP粒子は、((4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート)、2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、およびコレステロールを含む。
【0057】
一実施形態では、rRNAリポプレックス粒子は、rRNAをリポソームと混合することによって得ることができる。一実施形態では、rRNAリポプレックス粒子は、rRNAを脂質と混合することによって得ることができる。
【0058】
一実施形態では、rRNAは、コロイドとして製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、rRNAは、コロイドの分散相を形成する粒子として製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、50%以上、75%以上、または85%以上のrRNAが分散相に存在する。一実施形態では、rRNAは、rRNAおよび脂質を含む粒子として製剤化され得るか、または製剤化されるべきである。一実施形態では、粒子は、水相に溶解したrRNAを有機相に溶解した脂質と共に曝露することによって形成され得る。一実施形態では、有機相はエタノールを含むことができる。一実施形態では、粒子は、水相に溶解したrRNAを水相に分散した脂質と共に曝露することによって形成され得る。一実施形態では、水相に分散した脂質はリポソームを形成する。
【0059】
一態様では、本発明は、本明細書に記載の点突然変異を含むrRNA分子またはそのようなrRNA分子をコードするDNA分子と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0060】
一態様では、本発明は、細胞内で目的の遺伝子産物を発現させるための方法であって、自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含むrRNAを細胞に提供することを含み、修飾調節領域が、配列番号2の67、244、245、246、248位の1つ以上、好ましくは配列番号2の67位と、244、245、246、248位の1つ以上とに点突然変異、ならびに目的の遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む、方法に関する。
【0061】
一態様では、本発明は、治療において使用され得る、本明細書に記載の点突然変異を含むrRNA、またはコードDNA分子、またはrRNAもしくはDNA分子を含む医薬組成物に関する。一態様では、本発明は、対象において免疫応答を惹起するための方法であって、抗原をコードするrRNA分子を対象に投与することを含み、rRNA分子が自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、修飾調節領域が、配列番号2の67、244、245、246、248位の1つ以上、好ましくは配列番号2の67位と、244、245、246、248位の1つ以上とに点突然変異を含む、方法に関する。
【0062】
一態様では、本発明は、対象における癌を治療するための方法であって、腫瘍抗原をコードするrRNA分子を対象に投与することを含み、rRNAが自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、修飾調節領域が、配列番号2の67、244、245、246、248位の1つ以上、好ましくは配列番号2の67位と、244、245、246、248位の1つ以上とに点突然変異を含む、方法に関する。
【0063】
一態様では、本発明は、遺伝子機能を欠く対象にそのような遺伝子機能を提供するための方法であって、遺伝子産物(治療用タンパク質)をコードするrRNA分子を対象に投与して遺伝子機能を提供することを含み、rRNA分子が自己複製RNAウイルス、好ましくはアルファウイルスの修飾5’調節領域を含み、修飾調節領域が、配列番号2の67、244、245、246、248位の1つ以上、好ましくは配列番号2の67位と、244、245、246、248位の1つ以上とに点突然変異を含む、方法に関する。
【0064】
一実施形態では、点突然変異は、配列番号2の4位にさらに存在し得る。一実施形態では、遺伝子産物の発現または治療に有用なrRNA分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、例えばN1-メチル-シュードウリジンを含む。そのようなrRNAは、レプリカーゼをコードする配列をさらに含むという点で、自己増幅RNA分子であり得る。
【0065】
rRNA分子の前述の特徴のいずれもが、rRNAの機能を回復または改善するための配列変化を同定するために使用される本発明の方法で使用されるrRNA、ならびにその配列に組み込まれたそのような同定された配列変化を有するrRNA分子に等しく適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】ベクターの設計(縮尺通りに描かれていない)。(図1A)アルファウイルスゲノムから構築された自己増幅RNA(saRNAまたはrRNA)。saRNAは、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)をコードする5’-オープンリーディングフレーム(ORF)および目的の遺伝子をコードする3’-オープンリーディングフレーム(ORF)を有するバイシストロン性RNAである。ORFはAUG開始コドンで印付けられている。saRNAのコード領域は、ウイルスの5’および3’非翻訳領域(vUTR)に隣接している。さらに、これは、RNA複製に必要な保存配列要素(CSE)(ゲノムプラス鎖プロモータ(5’複製認識配列RRS)を含むCSE1および2、コアゲノムマイナス鎖プロモータCSE4ならびにサブゲノムプロモータCSE3)からなる調節領域を含む。注目すべきことに、5’-CSEと3’-CSEの両方が協同して、マイナス鎖合成を開始する。レプリカーゼのORFの開始コドンは5’調節領域内にある。(図1B)指向性進化に使用されるトランス増幅RNA系。アルファウイルスレプリカーゼは、非ウイルス5’および3’UTR、ならびに長いポリA尾部(pA)を有する非複製mRNAによってコードされる。このmRNAを、選択可能な表面マーカとして使用される細胞表面発現CD90.1をコードするトランスレプリコンと共に同時トランスフェクトする。トランスレプリコンは、5’RRSがAUGを欠き、コード配列がそれら自体の明確なAUGから始まって下流に挿入されるように構築した。構築物は、選択マーカ遺伝子に影響を及ぼすことなくヌクレオチドを変化させることを可能にする。
図2】トランスレプリコン鋳型およびRNA合成。(図2A)トランスレプリコンをコードするCD90.1を、T7-RNAポリメラーゼプロモータを5’末端に結合させるフォワードプライマ、および終結コドンと重複するCD90.1 ORFの3’末端に結合するリバースプライマによってPCR増幅されるプラスミドに挿入する。リバースプライマは、最小の3’CSEおよび短いポリA(30個のアデノシン)を3’末端に結合する。得られたPCR産物は、通常のヌクレオチドATP、CTP、GTPおよびUTP、またはATP、CTP、GTPおよびN1-メチル-シュード-UTPのいずれかを使用して、T7ポリメラーゼ駆動RNAインビトロ転写(IVT)の鋳型として機能する。(図2B)レプリカーゼmRNA合成。T7プロモータ、5’UTR、レプリカーゼORF、3’UTRおよび長いポリA尾部(100A)をコードするプラスミドを、ポリA尾部の末端で制限酵素を用いて線状化する。通常のヌクレオチドを使用して、この線状化プラスミドを、レプリカーゼを発現する非修飾(UTP含有)mRNAにインビトロ転写する。
図3】インビトロ進化手順。PCR産物によって鋳型化されて、CD90.1をコードする最初の(N=0)トランスレプリコン(TR-CD90.1)が、非修飾RNA(ウリジン(U))含有、または修飾RNA(N1-メチルシュードウリジン(1mY(もしくはm1ψ)含有)にインビトロ転写される(IVT)。インビトロ転写RNAのそれぞれを、レプリカーゼコードmRNAと共に細胞にエレクトロポレーションする。翌日、CD90.1の表面発現をフローサイトメトリによって評価する。最初に、Uを含む複製可能RNAまたはトランスレプリコン(TR)による発現は、理想化した棒グラフに示されているように、代わりに1mYを含むTRによる発現よりもはるかに高い。修飾RNA対非修飾RNAによる全発現の比(1mY指数)は1をはるかに下回る。次に、CD90.1を発現する修飾TRトランスフェクト細胞を磁気支援細胞選別(MACS)によって濃縮し、溶解し、細胞TRコピーを、TR特異的プライマを使用するワンステップRT-PCRによってcDNAおよび新規PCR産物に変換する。次いで、このサイクルN+1 PCR産物を再び使用して、細胞の新規エレクトロポレーションのためのUおよび1mY TR-RNAを合成する。サイクル数の増加に伴う1mY指数の堅固で再現性のある増加が、理想化した棒グラフに示されているように観察されるまで、この手順をN回繰り返し、本明細書で実証されるように観察した。
図4A】(図4)TR-CD90.1は、11サイクルのインビトロ進化後に1mY修飾との適合性の増加を獲得する。11サイクルのインビトロ進化の後、得られた細胞抽出逆転写TRを、UTPの代わりに漸増量の1mYを使用してインビトロ転写した。これらの徐々に修飾されたTRを、レプリカーゼコードmRNAと共にK562細胞にエレクトロポレーションした。(図4A)翌日、CD90.1の発現をフローサイトメトリによって評価した。
図4B】(図4Bおよび4B-1)図4B-1は、統計分析を伴う反復実験を表す)1mY指数を、非修飾TRに対する修飾TRによるCD90.1発現の比として計算した。
図5】11サイクルのインビトロ進化後の5’CSE領域に関する点突然変異の蓄積。11サイクルのインビトロ進化の後、得られた細胞抽出逆転写TRをPCR増幅し、NGSによって配列決定した。変異TR転写物をそれらの頻度に従ってランク付けした。ここに示される突然変異は、4つの最も高頻度の転写物であるか、または4つの最も高頻度の転写物に存在し、さらなる分析のために選択した。他の全ての変異は、0.85%未満の最大頻度で見出され、ここに列挙した。数はヌクレオチド位置に等しく、1は最初のインビトロ転写Gである。
図6A】(図6)5’CSE内で同定された点突然変異は、修飾されたトランスレプリコンの複製および発現を増加させる。(図6A)K562細胞に、SFVレプリカーゼをコードする2.6μgの非修飾mRNAおよびCD90.1をコードする0.03μgの修飾(1mY)または非修飾(UTP)VEEV-NTRをエレクトロポレーションした。NTRは、非変異体(WT)であるか、または示されるように5’CSE内に同定されたインビトロ進化変異を有していた。
図6B】(図6B)翌日、NTRに起因するCD90.1発現をフローサイトメトリによって評価した。トランスフェクション率は、ヒストグラム内のマーカバーの上の数字によって示されている。
図6C】(6Cおよび6C-1)図6C-1は、統計分析による反復実験を表す。)フローサイトメトリデータに基づいて1mY指数を算出した。この指数は、非修飾NTRに対する修飾NTRによる発現の比を定量化する。
図7A】(図7)VEEV-TC-83株に由来する単一の5’ヌクレオチド交換は、SFVレプリカーゼに応答して修飾および非修飾トランスレプリコンの発現を改善する。(図7A)K562細胞に、SFVレプリカーゼをコードする2.6μgの非修飾mRNAおよびCD90.1をコードする0.03μgの修飾(1mY)または非修飾(UTP)VEEV-NTRをエレクトロポレーションした。NTRは、非変異体(WT)であるか、またはTC-83特異的5’変異(ベクターの5’末端Gから数えて4位でのGのaへの交換)を有していた。
図7B】(図7B)翌日、NTRに起因するCD90.1発現をフローサイトメトリによって評価した。トランスフェクション率は、ヒストグラム内のマーカの上の数字によって示されている。
図7C】(図7C、7C-1)図7C-1は、統計分析による反復実験を表す。フローサイトメトリデータに基づいて1mY指数を算出した。この指数は、非修飾NTRに対する修飾NTRによる発現の比を定量化する。
図8A】(図8)TC-83特異的5’変異は、インビトロ進化によって同定された点突然変異と協働して、SFVレプリカーゼによって増幅された修飾トランスレプリコンの発現をさらに増加させる。(図8A)K562細胞に、SFVレプリカーゼをコードする2.6μgの非修飾mRNAおよびCD90.1をコードする0.03μgの修飾(1mY)または非修飾(UTP)VEEV-NTRをエレクトロポレーションした。NTRは、非変異体(WT)であるか、VEEV-TC-83の5’変異(TC-83)を担持するか、またはさらに、示されているように5’CSE内の同定されたインビトロ進化変異を担持していた。
図8B】(図8B)翌日、NTRに起因するCD90.1発現をフローサイトメトリによって評価した。トランスフェクション率は、ヒストグラム内のマーカバーの上の数字によって示されている。
図8C】(図8C、8C-1)図8C-1は、統計分析による反復実験を表す。フローサイトメトリデータに基づいて1mY指数を算出した。この指数は、非修飾NTRに対する修飾NTRによる発現の比を定量化する。
図9A】(図9)レプリカーゼmRNAおよびインビトロで進化したトランスレプリコンRNAの両方が修飾されている場合、トランス増幅RNA発現はヒト線維芽細胞において大幅に増加する。(図9A)初代ヒト包皮線維芽細胞を50,000細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、翌日、4μlのMessengerMaxおよび1μgの総RNA/ウェル(0.9μgのSFVレプリカーゼmRNAおよび0.1μgのトランスレプリコン)でリポフェクトした。SFVレプリカーゼmRNA(REPL)またはNTRを、示されているように様々なバリエーションで使用した。翌日、NTRに起因するCD90.1発現をフローサイトメトリによって評価した。トランスフェクション率は、ヒストグラム内のマーカの上の数字によって示されている。
図9B】(図9B)棒グラフとして表示したトランスフェクション率。略語:UTP:非修飾RNA;1mY:修飾RNA;WT:非変異体;-dsRNA:二本鎖RNAの除去;TC-83:G4A変異体;3xMut=67、245、248位におけるインビトロ進化変異体)。
図10A】(図10)VEEV-TC-83の5’CSEは、キメラVEEV/SFV修飾自己増幅RNAの発現を増加させる。(図10A)ルシフェラーゼをコードするキメラVEEV/SFV saRNAを構築するために、レプリカーゼN末端をコードする部分を含む、SFV-saRNAの5’CSEを除去した。この部分は、欠失したレプリカーゼN末端に対応する配列によって置き換えられ、その前に開始コドンが枯渇したVEEV 5’CSEが存在した。第2の同様の構築物は、VEEV-TC-83特異的5’変異G4Aを担持していた。
図10B】(図10B)両方の構築物のRNAを、MessengerMaxを使用してK562細胞(10B)または初代ヒト包皮線維芽細胞(HFF)(10C)にリポフェクトした。ルシフェラーゼ発現を72時間にわたって測定し、曲線下面積(AUC)を線グラフから計算して、総発現を推定した。
図10C】(図10C)両方の構築物のRNAを、MessengerMaxを使用してK562細胞(10B)または初代ヒト包皮線維芽細胞(HFF)(10C)にリポフェクトした。ルシフェラーゼ発現を72時間にわたって測定し、曲線下面積(AUC)を線グラフから計算して、総発現を推定した。
図10D】(図10D)K562またはHFF細胞に、図10Bおよび10Cと同等であるがGFPをコードするVEEV/SFV saRNAを12ウェルプレート中でリポフェクトした。細胞を24時間後に回収し、トランスフェクション率をフローサイトメトリによって評価した。
図10E】(図10E)K562またはHFF細胞に、図10Bおよび10Cと同等であるがGFPをコードするVEEV/SFV saRNAを12ウェルプレート中でリポフェクトした。細胞を24時間後に回収し、トランスフェクション率をフローサイトメトリによって評価した。
図11図11Aは、VEEVトリニダードロバ株(アクセッション番号L01442)の5’調節領域である配列番号1の配列を示す(45~47位はnsP1の開始コドンである)。 図11Bは、実施例で使用される配列番号2の配列を示し、これは、VEEVトリニダードロバ株(アクセッション番号L01442)の5’調節領域の改変型である。例えば、1位のG残基を、T7 RNAポリメラーゼを使用した効率的なインビトロ転写のために加えた。配列番号2の280~282位は、実施例におけるコードされたレポータ遺伝子の開始コドンである。一実施形態では、この開始コドンは、コードされたレプリカーゼにも使用することができる。
図12A】(図12図12A~12Dは、完全に修飾された1mY適合複製RNAがマウスにおいて堅固な免疫応答を誘導することを示す。マウスを免疫して、100%修飾rRNAをワクチン接種に使用できるかどうか、および性能が非修飾rRNAに匹敵するかどうかを評価した。
図12B】(図12A図12B)体液性免疫を(12A)ELISAによって評価して、HA特異的IgG抗体を定量化または(12B)ウイルス中和力価(VNT)によって評価した。
図12C】(図12C)T細胞免疫を、(12C)MHC-Iまたは(12D)MHC-IIに特異的なHAペプチドで刺激した脾細胞を用いたIFN-γ ELISpotによって評価した。
図12D】(図12D)T細胞免疫を、(12C)MHC-Iまたは(12D)MHC-IIに特異的なHAペプチドで刺激した脾細胞を用いたIFN-γ ELISpotによって評価した。略語:HA:A型インフルエンザウイルスの赤血球凝集素;UTP:非修飾RNA;1mY:修飾RNA;WT:非変異体;TC-83:G4A変異体;3xMut:67、245、248位におけるインビトロ進化変異体;ELISA:酵素結合免疫吸着アッセイ;ELISpot:酵素結合免疫吸着スポット;IFN-γ:インターフェロンガンマ;MHC:主要組織適合遺伝子複合体。
図13】(図13図13A~13Cは、TR-3xmutが、EEEVレプリカーゼと共に18サイクルのインビトロ進化を受け、VEEVレプリカーゼと共に15サイクルのインビトロ進化を受けた場合に、1mY修飾との適合性の増加を獲得することを示す。(図13A)K562細胞に、SFVレプリカーゼまたはVEEVレプリカーゼをコードする2.6μgのmRNA、および抽出された細胞RNAからのRT-PCR産物から転写された54ngの修飾または非修飾TRを、最終的にTR-3xmutの同定をもたらした示されている回数のインビトロ進化プロセスの後にエレクトロポレーションした。翌日、コードされたCD90.1選択マーカの発現をフローサイトメトリによって評価し、1mY指数を先のように算出した。グラフは、3つの独立した実験の平均およびSDを示す。パネルAの手順と同様に、K562細胞に、EEEV(図13B)またはVEEV(図13C)のレプリカーゼをコードする1.3μgのmRNA、および示されているサイクルのインビトロ進化の後に細胞由来cDNAから得られた5ngまたは15ngの修飾および非修飾TRをエレクトロポレーションした。ここで、TR-3xmutを出発TRとして使用してインビトロ進化を開始した。再度、トランスフェクションの翌日に1mY指数を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0068】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”,H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0069】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当分野の文献(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989を参照)で説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0070】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、さらなる実施形態を創出するためにそれらを任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を開示し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記載される全ての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、この説明によって開示されているとみなされるべきである。
【0071】
「約」という用語は、およそまたはほぼを意味し、本明細書に記載の数値または範囲の文脈では、好ましくは列挙または特許請求される数値または範囲の+/-10%を意味する。
【0072】
本発明を説明する文脈で(特に特許請求の範囲の文脈で)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に入る各別個の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個々の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0073】
特に明記されない限り、「含む」という用語は、「含む」によって導入されたリストのメンバーに加えて、さらなるメンバーが任意に存在し得ることを示すために本文書の文脈で使用される。しかしながら、「含む」という用語は、さらなるメンバーが存在しない可能性を包含することが本発明の特定の実施形態として企図され、すなわちこの実施形態の目的のためには、「含む」は「からなる」の意味を有すると理解されるべきである。
【0074】
総称によって特徴付けられる成分の相対量の表示は、前記総称でカバーされる全ての特定の変異体またはメンバーの合計量を指すことが意図されている。総称によって定義された特定の成分が特定の相対量で存在すると特定され、かつ、この成分が総称でカバーされる特定の変異体またはメンバーであるとさらに特徴付けられる場合、総称でカバーされる他の変異体またはメンバーが、総称でカバーされる成分の合計相対量が特定された相対量を超えるように付加的に存在しないこと、より好ましくは総称でカバーされる他の変異体またはメンバーが全く存在しないことを意味する。
【0075】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明がそのような開示に先行する権利を有さなかったことの承認と解釈されるべきではない。
【0076】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上のレベルの全体的な減少を引き起こす能力を意味する。「阻害する」という用語または同様の語句は、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの減少を含む。
【0077】
「増加させる」または「増強する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%の増加または増強に関する。
【0078】
「正味電荷」という用語は、化合物または粒子などの物体全体の電荷を指す。
【0079】
全体的な正味の正電荷を有するイオンはカチオンであり、全体的な正味の負電荷を有するイオンはアニオンである。したがって、本発明によれば、アニオンは陽子よりも多くの電子を有するイオンであり、正味の負電荷を与え、カチオンは陽子よりも少ない電子を有するイオンであり、正味の正電荷を与える。
【0080】
所与の化合物または粒子に関して、「帯電した」、「正味電荷」、「負に帯電した」または「正に帯電した」という用語は、pH7.0の水に溶解または懸濁した場合の所与の化合物または粒子の正味の電荷を指す。
【0081】
本発明による「核酸」という用語はまた、ヌクレオチド塩基上、糖上またはリン酸塩上の核酸、ならびに非天然ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含有する核酸の化学的誘導体化を含む。いくつかの実施形態では、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。一般に、核酸分子または核酸配列は、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である核酸を指す。本発明によれば、核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、ウイルスRNA、組換えによって調製された分子および化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖の線状または共有結合閉環分子の形態であり得る。
【0082】
本発明によれば、「核酸配列」は、核酸、例えばリボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)中のヌクレオチドの配列を指す。この用語は、核酸分子全体(核酸分子全体の一本鎖など)またはその一部(例えば断片)を指し得る。
【0083】
本発明によれば、「RNA」または「RNA分子」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基からなる分子に関する。「リボヌクレオチド」という用語は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAなどの組換え生産されたRNAを含む。そのような改変は、例えばRNAの末端(一方もしくは両方)または内部への、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドにおける非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。RNA分子中のヌクレオチドはまた、非天然のヌクレオチドまたは化学合成されたヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドなどの非標準のヌクレオチドを含み得る。これらの改変されたRNAは、類似体、特に天然に存在するRNAの類似体と呼ばれ得る。
【0084】
本発明によれば、RNAは一本鎖または二本鎖であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、一本鎖RNAが好ましい。「一本鎖RNA」という用語は、一般に、相補的な核酸分子(典型的には相補的なRNA分子)が結合していないRNA分子を指す。一本鎖RNAは、RNAの一部が折り返され、塩基対、ステム、ステムループおよびバルジを含むがこれらに限定されない二次構造モチーフを形成することを可能にする自己相補的配列を含み得る。一本鎖RNAは、マイナス鎖[(-)鎖]またはプラス鎖[(+)鎖]として存在することができる。(+)鎖は、遺伝情報を含むかまたはコードする鎖である。遺伝情報は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であり得る。(+)鎖RNAがタンパク質をコードする場合、(+)鎖は翻訳(タンパク質合成)の鋳型として直接機能し得る。(-)鎖は(+)鎖の相補体である。二本鎖RNAの場合、(+)鎖と(-)鎖は2つの別個のRNA分子であり、これらの両方のRNA分子が互いに会合して二本鎖RNA(「二重鎖RNA」)を形成する。
【0085】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量、または数の半分を除去するのに必要な期間に関する。本発明に関連して、RNAの半減期は、前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を及ぼし得る。長い半減期を有するRNAは長期間発現されると予想することができる。
【0086】
「翻訳効率」という用語は、特定の期間内にRNA分子によって提供される翻訳産物の量に関する。
【0087】
核酸配列に関する「断片」は、核酸配列の一部、すなわち5’末端および/または3’末端で短縮された核酸配列を表す配列に関する。好ましくは、核酸配列の断片は、前記核酸配列からのヌクレオチド残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。本発明では、RNAの安定性および/または翻訳効率を保持するRNA分子の断片が好ましい。
【0088】
アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)に関して、「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわちN末端および/またはC末端で短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えば、オープンリーディングフレームの3’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、例えば、トランケートされたオープンリーディングフレームが翻訳を開始するように働く開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。アミノ酸配列の断片は、例えばアミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。
【0089】
例えば、本発明による核酸およびアミノ酸配列に関する「変異体」という用語は、任意の変異体、特に突然変異体、ウイルス株変異体、スプライス変異体、立体配座、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。対立遺伝子変異体は、遺伝子の正常な配列の変化に関連し、その重要性はしばしば不明である。完全な遺伝子配列決定は、所与の遺伝子について多数の対立遺伝子変異体を同定することが多い。核酸分子に関して、「変異体」という用語は縮重核酸配列を含み、本発明による縮重核酸は、遺伝暗号の縮重のためにコドン配列が参照核酸とは異なる核酸である。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。ウイルスホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なるウイルスを起源とする核酸またはアミノ酸配列である。
【0090】
本発明によれば、核酸変異体は、参照核酸と比較して、単一または複数のヌクレオチドの欠失、付加、変異、置換および/または挿入を含む。欠失は、参照核酸からの1つ以上のヌクレオチドの除去を含む。付加変異体は、1つ以上のヌクレオチド、例えば1、2、3、5、10、20、30、50またはそれ以上のヌクレオチドの5’末端および/または3’末端融合を含む。置換の場合、配列中の少なくとも1つのヌクレオチドが除去され、少なくとも1つの他のヌクレオチドがその場所に挿入される(トランスバージョンおよびトランジションなど)。変異には、脱塩基部位、架橋部位、および化学的に改変または修飾された塩基が含まれる。挿入には、参照核酸への少なくとも1つのヌクレオチドの付加が含まれる。
【0091】
本発明によれば、「ヌクレオチド変化」は、参照核酸と比較して、単一または複数のヌクレオチドの欠失、付加、変異、置換および/または挿入を指し得る。いくつかの実施形態では、「ヌクレオチド変化」は、参照核酸と比較して、単一ヌクレオチドの欠失、単一ヌクレオチドの付加、単一ヌクレオチドの変異、単一ヌクレオチドの置換および/または単一ヌクレオチドの挿入からなる群より選択される。本発明によれば、核酸変異体は、参照核酸と比較して1つ以上のヌクレオチド変化を含み得る。
【0092】
特定の核酸配列の変異体は、好ましくは前記特定の配列の少なくとも1つの機能的特性を有し、好ましくは前記特定の配列と機能的に等価であり、例えば特定の核酸配列の特性と同一または類似の特性を示す核酸配列である。
【0093】
以下に記載されるように、本発明のいくつかの実施形態は、とりわけ、他の核酸配列と相同な核酸配列によって特徴付けられる。これらの相同な配列は、他の核酸配列の変異体である。
【0094】
好ましくは、所与の核酸配列と前記所与の核酸配列の変異体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。同一性の程度は、好ましくは少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300、または少なくとも約400ヌクレオチドの領域について与えられる。好ましい実施形態では、同一性の程度は、参照核酸配列の全長について与えられる。
【0095】
「配列類似性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。2つのポリペプチドまたは核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドの割合を示す。
【0096】
「%同一」という用語は、特に、比較する2つの配列間の最適なアラインメントにおいて同一であるヌクレオチドのパーセンテージを指すことが意図されており、前記パーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列間の相違は配列の全長にわたってランダムに分布していてもよく、比較する配列は、2つの配列間の最適なアラインメントを得るために、参照配列と比較して付加または欠失を含んでいてもよい。2つの配列の比較は、通常、対応する配列の局所領域を同定するために、最適なアラインメント後に、セグメントまたは「比較ウィンドウ」に関して前記配列を比較することによって行われる。比較のための最適なアラインメントは、手作業によって、またはSmith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482による局所相同性アルゴリズムを用いて、Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443による局所相同性アルゴリズムを用いて、およびPearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索アルゴリズムを用いて、または前記アルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)を援用して行われ得る。
【0097】
同一性パーセントは、比較する配列が一致する同一の位置の数を決定し、この数を比較する位置の数で除して、この結果に100を乗じることによって得られる。
【0098】
例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgiで入手可能なBLASTプログラム「BLAST 2 sequences」を使用し得る。
【0099】
2つの配列が互いに相補的である場合、核酸は別の核酸に「ハイブリダイズすることができる」または「ハイブリダイズする」。2つの配列が互いに安定な二重鎖を形成することができる場合、核酸は別の核酸に「相補的」である。本発明によれば、ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件(ストリンジェントな条件)下で行われる。ストリンジェントな条件は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,Editors,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,Editors,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkに記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH2PO4(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中65°Cでのハイブリダイゼーションを指す。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後、DNAが転写された膜を、例えば室温で2×SSC中で洗浄し、次いで68℃までの温度で0.1~0.5×SSC/0.1×SDS中で洗浄する。
【0100】
相補性パーセントは、第2の核酸配列と水素結合(例えばワトソン-クリック塩基対合)を形成することができる核酸分子中の連続する残基の割合を示す(例えば、10個のうちの5、6、7、8、9、10個が50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補的である)。「完全に相補的」または「全面的に相補的」とは、核酸配列の全ての連続する残基が、第2の核酸配列中の同じ数の連続する残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明による相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。最も好ましくは、本発明による相補性の程度は100%である。
【0101】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基上、糖上またはリン酸塩上の核酸の任意の化学的誘導体化を含む。「誘導体」という用語はまた、天然には存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含有する核酸を含む。好ましくは、核酸の誘導体化はその安定性を高める。
【0102】
「核酸配列に由来する核酸配列」とは、それが由来する核酸の変異体である核酸を指す。好ましくは、RNA分子中の特定の配列を置換する場合、特定の配列に対する変異体である配列は、RNAの安定性および/または翻訳効率を保持する。
【0103】
「nt」は、1つのヌクレオチドの略語であるか、または複数のヌクレオチド、好ましくは核酸分子中の連続するヌクレオチドの略語である。
【0104】
本発明によれば、「コドン」という用語は、リボソームでのタンパク質合成中に次にどのアミノ酸が付加されるかを指定する、コード核酸中の塩基トリプレットを指す。
【0105】
「転写」および「転写する」という用語は、特定の核酸配列を有する核酸分子(「核酸鋳型」)がRNAポリメラーゼによって読み取られ、その結果、RNAポリメラーゼが一本鎖RNA分子を生成するプロセスに関する。転写中に、核酸鋳型中の遺伝情報が転写される。核酸鋳型はDNAであってもよい;しかしながら、例えばアルファウイルス核酸鋳型からの転写の場合、鋳型は、典型的にはRNAである。その後、転写されたRNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが無細胞系においてインビトロで合成されるプロセスに関する。好ましくは、クローニングベクターが転写物の生成に適用される。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと呼ばれ、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。クローニングベクターは、好ましくはプラスミドである。本発明によれば、RNAは、好ましくはインビトロ転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0106】
転写中に生成される一本鎖核酸分子は、典型的には、鋳型の相補的配列である核酸配列を有する。
【0107】
本発明によれば、「鋳型」または「核酸鋳型」または「鋳型核酸」という用語は、一般に、複製または転写され得る核酸配列を指す。
【0108】
「核酸配列から転写された核酸配列」および同様の用語は、適切な場合、鋳型核酸配列の転写産物である完全なRNA分子の一部としての核酸配列を指す。典型的には、転写された核酸配列は一本鎖RNA分子である。
【0109】
「核酸の3’末端」は、本発明によれば、遊離ヒドロキシ基を有するその末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示では、3’末端は常に右側にある。「核酸の5’末端」は、本発明によれば、遊離リン酸基を有するその末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示では、5’末端は常に左側にある。
【0110】
5’末端 5’--P-NNNNNNN-OH-3’ 3’末端
3’-HO-NNNNNNN-P--5’
「上流」は、核酸分子の第1の要素と第2の要素の両方が同じ核酸分子中に含まれ、核酸分子の第1の要素がその核酸分子の第2の要素よりも核酸分子の5’末端の近くに位置する、核酸分子の第1の要素の、その核酸分子の第2の要素に対する相対的な位置を表す。その場合、第2の要素は、その核酸分子の第1の要素の「下流」にあると言われる。第2の要素の「上流」に位置する要素は、同義的に、その第2の要素の「5’側」に位置すると呼ぶことができる。二本鎖核酸分子については、「上流」および「下流」のような指示は、「+」鎖に関して与えられる。
【0111】
本発明によれば、「機能的連結」または「機能的に連結された」は、機能的関係内での連結に関する。核酸は、別の核酸配列と機能的に関連している場合、「機能的に連結されて」いる。例えば、プロモータは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、前記コード配列に機能的に連結されている。機能的に連結された核酸は、典型的には互いに隣接しているが、適切な場合にはさらなる核酸配列によって分離されており、特定の実施形態では、RNAポリメラーゼによって転写されて単一のRNA分子(共通転写物)を与える。
【0112】
特定の実施形態では、核酸は、本発明によれば、核酸に関して同種または異種であり得る発現制御配列に機能的に連結される。
【0113】
「発現制御配列」という用語は、本発明によれば、プロモータ、リボソーム結合配列、および遺伝子の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する他の制御要素を含む。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、通常、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写配列ならびに5’および3’非翻訳配列を含む。より具体的には、5’非転写発現制御配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモータ配列を包含するプロモータ領域を含む。発現制御配列は、エンハンサ配列または上流活性化配列も含み得る。DNA分子の発現制御配列は、通常、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの5’非転写配列ならびに5’および3’非翻訳配列を含む。アルファウイルスRNAの発現制御配列は、サブゲノムプロモータおよび/または1つ以上の保存配列要素を含み得る。本発明による特定の発現制御配列は、本明細書に記載されるように、アルファウイルスのサブゲノムプロモータである。
【0114】
本明細書で特定される核酸配列、特に転写可能なコード核酸配列は、前記核酸配列と相同または異種であり得る任意の発現制御配列、特にプロモータと組み合わせてもよく、「相同」という用語は、核酸配列が天然でも発現制御配列に機能的に連結されているという事実を指し、「異種」という用語は、核酸配列が天然では発現制御配列に機能的に連結されていないという事実を指す。
【0115】
転写可能な核酸配列、特にペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列と発現制御配列とは、それらが、転写可能な、特にコード核酸配列の転写または発現が発現制御配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合されている場合、互いに「機能的に」連結されている。核酸配列が機能的なペプチドまたはタンパク質に翻訳される場合、コード配列に機能的に連結された発現制御配列の誘導は、コード配列のフレームシフトを引き起こすことなく、またはコード配列が所望のペプチドまたはタンパク質に翻訳されるのを不可能にすることなく、前記コード配列の転写をもたらす。
【0116】
「プロモータ」または「プロモータ領域」という用語は、RNAポリメラーゼの認識および結合部位を提供することによって、転写物、例えばコード配列を含む転写物の合成を制御する核酸配列を指す。プロモータ領域は、前記遺伝子の転写の調節に関与するさらなる因子のためのさらなる認識または結合部位を含み得る。プロモータは、原核生物または真核生物遺伝子の転写を制御し得る。プロモータは「誘導性」であり得、誘導物質に応答して転写を開始し得るか、または転写が誘導物質によって制御されない場合、「構成的」であり得る。誘導性プロモータは、誘導物質が存在しない場合、ごくわずかしか発現されないかまたは全く発現されない。誘導物質の存在下では、遺伝子の「スイッチが入る」か、または転写のレベルが増加する。これは通常、特定の転写因子の結合によって媒介される。本発明による特定のプロモータは、本明細書に記載されるように、例えばアルファウイルスのサブゲノムプロモータである。他の特定のプロモータは、例えばアルファウイルスのゲノムプラス鎖またはマイナス鎖プロモータである。
【0117】
「コアプロモータ」という用語は、プロモータに含まれる核酸配列を指す。コアプロモータは、典型的には、転写を適切に開始するのに必要なプロモータの最小部分である。コアプロモータは、典型的には、転写開始部位およびRNAポリメラーゼの結合部位を含む。
【0118】
「ポリメラーゼ」は、一般に、モノマー構築ブロックからのポリマー分子の合成を触媒することができる分子実体を指す。「RNAポリメラーゼ」は、リボヌクレオチド構築ブロックからのRNA分子の合成を触媒することができる分子実体である。「DNAポリメラーゼ」は、デオキシリボヌクレオチド構築ブロックからのDNA分子の合成を触媒することができる分子実体である。DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼの場合、分子実体は、典型的にはタンパク質または複数のタンパク質の集合体もしくは複合体である。典型的には、DNAポリメラーゼは、典型的にはDNA分子である鋳型核酸に基づいてDNA分子を合成する。典型的には、RNAポリメラーゼは、DNA分子(その場合、RNAポリメラーゼはDNA依存性RNAポリメラーゼ、DdRPである)、またはRNA分子(その場合、RNAポリメラーゼはRNA依存性RNAポリメラーゼ、RdRPである)のいずれかである鋳型核酸に基づいてRNA分子を合成する。
【0119】
「RNA依存性RNAポリメラーゼ」または「RdRP」または「レプリカーゼ」は、RNA鋳型からのRNAの転写を触媒する酵素である。アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの場合、ゲノムRNAの(-)鎖相補体および(+)鎖ゲノムRNAの逐次合成によってRNA複製がもたらされる。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、同義的に「RNAレプリカーゼ」または単に「レプリカーゼ」と呼ばれる。自然界では、RNA依存性RNAポリメラーゼは、典型的には、レトロウイルスを除く全てのRNAウイルスによってコードされている。RNA依存性RNAポリメラーゼをコードするウイルスの典型的な代表はアルファウイルスである。
【0120】
本発明によれば、「RNA複製」は、一般に、所与のRNA分子(鋳型RNA分子)のヌクレオチド配列に基づいて合成されたRNA分子を指す。合成されるRNA分子は、例えば鋳型RNA分子と同一または相補的であり得る。一般に、RNA複製は、DNA中間体の合成を介して起こり得るか、またはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介されるRNA依存性RNA複製によって直接起こり得る。アルファウイルスの場合、RNA複製はDNA中間体を介して起こるのではなく、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介される:鋳型RNA鎖(第1のRNA鎖)-またはその一部-は、第1のRNA鎖またはその一部に相補的な第2のRNA鎖の合成のための鋳型として働く。第2のRNA鎖-またはその一部-は、次に、任意で、第2のRNA鎖またはその一部に相補的な第3のRNA鎖の合成のための鋳型として働く。それにより、第3のRNA鎖は、第1のRNA鎖またはその一部と同一である。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、鋳型の相補的RNA鎖を直接合成することができ、(相補的中間体鎖を介して)同一のRNA鎖を間接的に合成することができる。
【0121】
本発明によれば、「鋳型RNA」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって転写または複製され得るRNAを指す。
【0122】
本発明によれば、「遺伝子」という用語は、1つ以上の細胞産物の産生および/または1つ以上の細胞間もしくは細胞内機能の達成を担う特定の核酸配列を指す。より具体的には、前記用語は、特定のタンパク質または機能的もしくは構造的RNA分子をコードする核酸を含む核酸部分(典型的にはDNA;ただしRNAウイルスの場合はRNA)に関する。
【0123】
本明細書で使用される「単離された分子」は、他の細胞物質などの他の分子を実質的に含まない分子を指すことが意図されている。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってインビトロで増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動分画によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換え技術による操作に利用可能な核酸である。
【0124】
「ベクター」という用語は、本明細書ではその最も一般的な意味で使用され、例えば核酸を原核生物および/または真核生物宿主細胞に導入し、適切な場合にはゲノムに組み込むことを可能にする、前記核酸のための任意の中間ビヒクルを含む。そのようなベクターは、好ましくは細胞内で複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、およびそれらの画分を含む。
【0125】
本発明の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作を介して作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈における組換え細胞などの「組換え物」は、天然には存在しない。
【0126】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。「自然界で見出される」という用語は、「自然界に存在する」ことを意味し、公知の物体ならびに自然からまだ発見および/または単離されていないが、天然源から将来発見および/または単離される可能性がある物体を含む。
【0127】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNAおよび/またはタンパク質の産生を含む。この用語はまた、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であり得る。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、コードRNA(例えばメッセンジャRNA)の鎖が、ペプチドまたはタンパク質を生成するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指示する、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0128】
本発明によれば、「mRNA」という用語は「メッセンジャRNA」を意味し、典型的にはDNA鋳型を使用することによって生成され、ペプチドまたはタンパク質をコードする転写物に関する。典型的には、mRNAは、5’-UTR、タンパク質コード領域、3’-UTR、およびポリ(A)配列を含む。mRNAは、DNA鋳型からのインビトロ転写によって生成され得る。インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。本発明によれば、mRNAは、安定化修飾およびキャッピングによって修飾され得る。
【0129】
本発明によれば、「ポリ(A)配列」または「ポリ(A)尾部」という用語は、典型的にはRNA分子の3’末端に位置するアデニル酸残基の連続的または断続的な配列を指す。連続的な配列は、連続するアデニル酸残基を特徴とする。自然界では、連続的なポリ(A)配列が典型的である。ポリ(A)配列は通常真核生物のDNAにはコードされていないが、細胞核における真核生物の転写中に、転写後の鋳型非依存性RNAポリメラーゼによってRNAの遊離3’末端に結合し、本発明は、DNAによってコードされるポリ(A)配列を包含する。
【0130】
本発明によれば、核酸分子に関して「一次構造」という用語は、ヌクレオチドモノマーの直鎖状配列を指す。
【0131】
本発明によれば、核酸分子に関して「二次構造」という用語は、塩基対合、例えば一本鎖RNA分子の場合、特に分子内塩基対合を反映する核酸分子の二次元表示を指す。各RNA分子は単一のポリヌクレオチド鎖のみを有するが、分子は、典型的には(分子内)塩基対の領域を特徴とする。本発明によれば、「二次構造」という用語は、塩基対、ステム、ステムループ、バルジ、内部ループおよび多分岐ループなどのループを含むがこれらに限定されない構造モチーフを含む。核酸分子の二次構造は、塩基対合を示す二次元図面(平面グラフ)によって表すことができる(RNA分子の二次構造の詳細については、Auber et al.,2006;J.Graph Algorithms Appl.10:329-351を参照)。本明細書に記載されるように、特定のRNA分子の二次構造は本発明の文脈に関連する。
【0132】
本発明によれば、核酸分子、特に一本鎖RNA分子の二次構造は、RNA二次構造予測のためのウェブサーバ(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)を使用した予測によって決定される。好ましくは、本発明によれば、核酸分子に関して「二次構造」は、具体的には前記予測によって決定される二次構造を指す。予測はまた、MFOLD構造予測(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold)を使用して実施または確認し得る。
【0133】
本発明によれば、「塩基対」は、2つのヌクレオチド塩基が塩基上のドナー部位とアクセプタ部位との間の水素結合を介して互いに会合する二次構造の構造モチーフである。相補的な塩基であるA:UおよびG:Cは、塩基上のドナー部位とアクセプタ部位との間の水素結合を介して安定な塩基対を形成する;A:UおよびG:C塩基対はワトソン-クリック塩基対と呼ばれる。より弱い塩基対(ウォブル塩基対と呼ばれる)は、塩基GおよびU(G:U)によって形成される。塩基対A:UおよびG:Cは、カノニカル塩基対と呼ばれる。G:Uのような他の塩基対(RNAにはかなり頻繁に存在する)および他のまれな塩基対(例えばA:C;U:U)は、非カノニカル塩基対と呼ばれる。
【0134】
本発明によれば、「ヌクレオチド対合」は、2つのヌクレオチドの塩基が塩基対(カノニカルまたは非カノニカル塩基対、好ましくはカノニカル塩基対、最も好ましくはワトソン-クリック塩基対)を形成するように互いに会合する、2つのヌクレオチドを指す。
【0135】
本発明によれば、核酸分子に関して「ステムループ」または「ヘアピン」または「ヘアピンループ」という用語は、全て互換的に、核酸分子、典型的には一本鎖RNAなどの一本鎖核酸分子の特定の二次構造を指す。ステムループによって表される特定の二次構造は、ステムおよびヘアピンループとも呼ばれる(末端)ループを含む連続する核酸配列からなり、ステムは、ステム-ループ構造のループを形成する短い配列(例えば3~10ヌクレオチド)によって分離された2つの隣接する完全にまたは部分的に相補的な配列要素によって形成される。2つの隣接する完全にまたは部分的に相補的な配列は、例えばステムループ要素のステム1およびステム2として定義され得る。ステムループは、これらの2つの隣接する完全にまたは部分的に逆相補的な配列、例えばステムループ要素のステム1とステム2とが互いに塩基対を形成する場合に形成され、ステムループ要素のステム1とステム2との間に位置する短い配列によって形成されるその末端に不対ループを含む二本鎖核酸配列をもたらす。したがって、ステムループは2つのステム(ステム1およびステム2)を含み、これらは、核酸分子の二次構造のレベルでは、互いに塩基対を形成し、核酸分子の一次構造のレベルでは、ステム1またはステム2の一部ではない短い配列によって分離されている。説明のために、ステムループの二次元表示はロリポップ形状の構造に類似している。ステムループ構造の形成は、それ自体で折り返して対合した二本鎖を形成することができる配列の存在を必要とする;対合した二本鎖はステム1とステム2によって形成される。対合したステムループ要素の安定性は、典型的には、長さ、すなわちステム2のヌクレオチドと塩基対(好ましくはカノニカル塩基対、より好ましくはワトソン-クリック塩基対)を形成することができるステム1のヌクレオチドの数に対する、ステム2のヌクレオチドとそのような塩基対を形成することができないステム1のヌクレオチド(ミスマッチまたはバルジ)の数によって決定される。本発明によれば、最適なループ長は3~10ヌクレオチド、より好ましくは4~7ヌクレオチド、例えば4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、6ヌクレオチドまたは7ヌクレオチドである。所与の核酸配列がステムループを特徴とする場合、それぞれの相補的な核酸配列も、典型的にはステムループを特徴とする。ステムループは、典型的には一本鎖RNA分子によって形成される。例えば、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列には、いくつかのステムループが存在する。
【0136】
本発明によれば、核酸分子の特定の二次構造(例えばステムループ)に関して「破壊」または「破壊する」とは、特定の二次構造が存在しないかまたは改変されていることを意味する。典型的には、二次構造は、二次構造の一部である少なくとも1つのヌクレオチドの変化の結果として破壊され得る。例えば、ステムループは、ステムを形成する1つ以上のヌクレオチドの変化によって破壊され得、その結果、ヌクレオチドの対合は不可能である。
【0137】
本発明によれば、「二次構造破壊を補償する」または「二次構造破壊の補償」とは、核酸配列中の1つ以上のヌクレオチド変化を指す;より典型的には、これは、核酸配列中の1つ以上の第2のヌクレオチド変化であって、1つ以上の第1のヌクレオチド変化が、1つ以上の第2のヌクレオチド変化の非存在下で、核酸配列の二次構造の破壊を引き起こすが、1つ以上の第1のヌクレオチド変化と1つ以上の第2のヌクレオチド変化との同時発生は、核酸の二次構造の破壊を引き起こさないことを特徴とする、1つ以上の第1のヌクレオチド変化も含む、核酸配列中の1つ以上の第2のヌクレオチド変化を指す。同時発生とは、1つ以上の第1のヌクレオチド変化および1つ以上の第2のヌクレオチド変化の両方の存在を意味する。典型的には、1つ以上の第1のヌクレオチド変化と1つ以上の第2のヌクレオチド変化は、同じ核酸分子内に一緒に存在する。特定の実施形態では、二次構造破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化は、1つ以上のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化である。したがって、一実施形態では、「二次構造破壊の補償」とは、「ヌクレオチド対合破壊の補償」、すなわち1つ以上のヌクレオチド対合破壊、例えば1つ以上のステムループ内の1つ以上のヌクレオチド対合破壊の補償を意味する。1つ以上のヌクレオチド対合破壊は、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入されていてもよい。二次構造破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化の各々は、1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、置換および/または挿入からそれぞれ独立して選択され得るヌクレオチド変化である。例示的な例では、ヌクレオチド対合A:UがAからCへの置換によって破壊されている場合(CおよびUは、典型的にはヌクレオチド対を形成するのに適していない)、ヌクレオチド対合破壊を補償するヌクレオチド変化は、GによるUの置換であり得、それによってC:Gヌクレオチド対合の形成が可能になる。したがって、GによるUの置換は、ヌクレオチド対合破壊を補償する。代替的な例では、ヌクレオチド対合A:UがAからCへの置換によって破壊された場合、ヌクレオチド対合破壊を補償するヌクレオチド変化は、AによるCの置換であり得、それによって元のA:Uヌクレオチド対合の形成が回復される。一般に、本発明では、元の核酸配列を回復せず、新規のAUGトリプレットも創出しない、二次構造破壊を補償するヌクレオチド変化が好ましい。上記の一連の例では、UからGへの置換がCからAへの置換よりも好ましい。
【0138】
本発明によれば、核酸分子に関して「三次構造」という用語は、原子座標によって定義される核酸分子の三次元構造を指す。
【0139】
本発明によれば、RNA、例えばrRNAなどの核酸は、ペプチドまたはタンパク質をコードし得る。したがって、転写可能な核酸配列またはその転写物は、ペプチドまたはタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。
【0140】
本発明によれば、「ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸」という用語は、核酸が、適切な環境、好ましくは細胞内に存在する場合、翻訳プロセス中にペプチドまたはタンパク質を産生するようにアミノ酸のアセンブリを指示することができることを意味する。好ましくは、本発明によるコードRNAは、コードRNAの翻訳を可能にする細胞翻訳機構と相互作用して、ペプチドまたはタンパク質を生成することができる。
【0141】
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いに連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは20個以上、および最大で好ましくは50個、好ましくは100個または好ましくは150個までの連続するアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、好ましくは少なくとも151個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0142】
「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本発明によれば、アミノ酸成分だけでなく、糖およびリン酸構造体などの非アミノ酸成分も含有する物質を含み、エステル、チオエーテルまたはジスルフィド結合などの結合を含有する物質も含む。
【0143】
本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語は、同義的に、リボソームによって翻訳される最初のコドンである可能性があるRNA分子のコドン(塩基トリプレット)を指す。そのようなコドンは、典型的には、真核生物のアミノ酸メチオニンおよび原核生物の修飾メチオニンをコードする。真核生物および原核生物における最も一般的な開始コドンはAUGである。AUG以外の開始コドンを意味すると本明細書で特に明記されない限り、RNA分子に関して「開始コドン」および「出発コドン」という用語はコドンAUGを指す。本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語はまた、デオキシリボ核酸の対応する塩基トリプレット、すなわちRNAの開始コドンをコードする塩基トリプレットを指すために使用される。メッセンジャRNAの開始コドンがAUGである場合、AUGをコードする塩基トリプレットはATGである。本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語は、好ましくは機能的な開始コドンまたは出発コドン、すなわち翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されるかまたは使用されるであろう開始コドンまたは出発コドンを指す。例えばコドンからキャップまでの距離が短いために、翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されないAUGコドンがRNA分子中に存在し得る。これらのコドンは、機能的な開始コドンまたは出発コドンという用語には包含されない。
【0144】
本発明によれば、「オープンリーディングフレームの出発コドン」または「オープンリーディングフレームの開始コドン」という用語は、コード配列、例えば自然界で見出される核酸分子のコード配列におけるタンパク質合成のための開始コドンとして働く塩基トリプレットを指す。RNA分子では、オープンリーディングフレームの開始コドンの前に5’非翻訳領域(5’-UTR)が存在することが多いが、これは厳密には必要ではない。
【0145】
本発明によれば、「オープンリーディングフレームの天然の出発コドン」または「オープンリーディングフレームの天然の開始コドン」という用語は、天然のコード配列におけるタンパク質合成のための開始コドンとして働く塩基トリプレットを指す。天然のコード配列は、例えば自然界で見出される核酸分子のコード配列であり得る。いくつかの実施形態では、本発明は、天然の開始コドン(天然のコード配列中に存在する)が除去されている(その結果、変異体核酸分子には存在しない)ことを特徴とする、自然界で見出される核酸分子の変異体を提供する。
【0146】
本発明によれば、「最初のAUG」は、メッセンジャRNA分子の最も上流のAUG塩基トリプレット、好ましくは翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されるかまたは使用されるであろうメッセンジャRNA分子の最も上流のAUG塩基トリプレットを意味する。したがって、「最初のATG」とは、最初のAUGをコードするコードDNA配列のATG塩基トリプレットを指す。いくつかの場合には、mRNA分子の最初のAUGは、オープンリーディングフレームの開始コドン、すなわちリボソームタンパク質合成中に開始コドンとして使用されるコドンである。
【0147】
本発明によれば、核酸変異体の特定の要素に関して「除去を含む」または「除去を特徴とする」という用語および同様の用語は、参照核酸分子と比較して、前記特定の要素が核酸変異体において機能性でないかまたは存在しないことを意味する。限定されることなく、除去は、特定の要素の全部もしくは一部の欠失、特定の要素の全部もしくは一部の置換、または特定の要素の機能的もしくは構造的特性の改変で構成され得る。核酸配列の機能的要素の除去は、除去を含む核酸変異体の位置で機能が発揮されないことを必要とする。例えば、特定の開始コドンの除去を特徴とするRNA変異体は、リボソームタンパク質合成が除去を特徴とするRNA変異体の位置で開始されないことを必要とする。核酸配列の構造要素の除去は、構造要素が除去を含む核酸変異体の位置に存在しないことを必要とする。例えば、特定のAUG塩基トリプレット、すなわち特定の位置のAUG塩基トリプレットの除去を特徴とするRNA変異体は、例えば、特定のAUG塩基トリプレット(例えばΔAUG)の一部もしくは全部の欠失、または特定のAUG塩基トリプレットの1つ以上のヌクレオチド(A、U、G)の、任意の1つ以上の異なるヌクレオチドによる置換を特徴とし得、その結果、得られる変異体のヌクレオチド配列は前記AUG塩基トリプレットを含まない。1つのヌクレオチドの適切な置換は、AUG塩基トリプレットをGUG、CUGもしくはUUG塩基トリプレットに、またはAAG、ACGもしくはAGG塩基トリプレットに、またはAUA、AUCもしくはAUU塩基トリプレットに変換するものである。それに応じて、より多くのヌクレオチドの適切な置換を選択することができる。
【0148】
本発明によれば、「自己複製ウイルス」という用語は、宿主細胞内で自律的に複製することができるRNAウイルスを含む。自己複製ウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)ゲノムを有し得、アルファウイルス、フラビウイルス、麻疹ウイルス(MV)およびラブドウイルスを含む。アルファウイルスおよびフラビウイルスは正の極性のゲノムを有するが、麻疹ウイルス(MV)およびラブドウイルスのゲノムはマイナス鎖ssRNAである。典型的には、自己複製ウイルスは、細胞の感染後に直接翻訳され得る(+)鎖RNAゲノムを有するウイルスであり、この翻訳は、感染RNAからアンチセンス転写物およびセンス転写物の両方を産生するRNA依存性RNAポリメラーゼを提供する。以下では、自己複製ウイルス由来ベクターの例としてアルファウイルス由来のベクターを参照することによって本発明を説明する。しかしながら、本発明はアルファウイルス由来のベクターに限定されないことが理解されるべきである。
【0149】
本発明によれば、「アルファウイルス」という用語は広く理解されるべきであり、アルファウイルスの特徴を有する任意のウイルス粒子を含む。アルファウイルスの特徴には、RNAポリメラーゼ活性を含む、宿主細胞における複製に適した遺伝情報をコードする(+)鎖RNAの存在が含まれる。多くのアルファウイルスのさらなる特徴は、例えば、Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562に記載されている。「アルファウイルス」という用語は、自然界で見出されるアルファウイルス、およびその任意の変異体または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、変異体または誘導体は自然界では見出されない。
【0150】
一実施形態では、アルファウイルスは、自然界で見出されるアルファウイルスである。典型的には、自然界で見出されるアルファウイルスは、動物(ヒトなどの脊椎動物、および昆虫などの節足動物を含む)などの任意の1つ以上の真核生物に感染性である。自然界で見出されるアルファウイルスは、好ましくは以下からなる群より選択される:バーマフォレストウイルス複合体(バーマフォレストウイルスを含む);東部ウマ脳炎複合体(7つの抗原型の東部ウマ脳炎ウイルスを含む);ミデルブルグウイルス複合体(ミデルブルグウイルスを含む);ヌドゥムウイルス複合体(ヌドゥムウイルスを含む);セムリキ森林ウイルス複合体(ベバルウイルス、チクングニアウイルス、マヤロウイルスおよびそのサブタイプであるウナウイルス、オニョンニョンウイルスおよびそのサブタイプであるイグボオラウイルス、ロスリバーウイルスおよびそのサブタイプであるベバルウイルス、ゲタウイルス、サギヤマウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびそのサブタイプであるメトリウイルスを含む);ベネズエラウマ脳炎複合体(カバソウウイルス、エバーグレーズウイルス、モッソダスペドラスウイルス、ムカンボウイルス、パラマナウイルス、ピクスナウイルス、リオネグロウイルス、トロカラウイルスおよびそのサブタイプであるビジューブリッジウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む);西部ウマ脳炎複合体(アウラウイルス、ババンキーウイルス、キジラガッチェウイルス、シンドビスウイルス、オケルボウイルス、ワタロアウイルス、バギークリークウイルス、フォートモーガンウイルス、ハイランドJウイルス、西部ウマ脳炎ウイルスを含む);ならびにサケ膵臓病ウイルスを含むいくつかの未分類ウイルス;睡眠病ウイルス;ミナミゾウアザラシウイルス;トナテウイルス。より好ましくは、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルス複合体(セムリキ森林ウイルスを含む、上記に示したウイルス型を含む)、西部ウマ脳炎複合体(シンドビスウイルスを含む、上記に示したウイルス型を含む)、東部ウマ脳炎ウイルス(上記に示したウイルス型を含む)、ベネズエラウマ脳炎複合体(ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む、上記に示したウイルス型を含む)からなる群より選択される。
【0151】
さらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはセムリキ森林ウイルスである。代替的なさらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはシンドビスウイルスである。代替的なさらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはベネズエラウマ脳炎ウイルスである。
【0152】
本発明のいくつかの実施形態では、アルファウイルスは、自然界で見出されるアルファウイルスではない。典型的には、自然界では見出されないアルファウイルスは、ヌクレオチド配列、すなわちゲノムRNAの少なくとも1つの変異によって自然界で見出されるアルファウイルスとは区別される、自然界で見出されるアルファウイルスの変異体または誘導体である。ヌクレオチド配列における変異は、自然界で見出されるアルファウイルスと比較して、1つ以上のヌクレオチドの挿入、置換または欠失から選択され得る。ヌクレオチド配列における変異は、ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドまたはタンパク質における変異と関連していてもよく、または関連していなくてもよい。例えば、自然界では見出されないアルファウイルスは、弱毒化アルファウイルスであり得る。自然界では見出されない弱毒化アルファウイルスは、典型的にはそのヌクレオチド配列中に少なくとも1つの変異を有し、それによって自然界で見出されるアルファウイルスと区別され、全く感染性でないか、または感染性であるが疾患を引き起こす能力がより低いかもしくは疾患を引き起こす能力を全く有さないアルファウイルスである。例示的な例として、TC83は、自然界で見出されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)とは区別される弱毒化アルファウイルスである(McKinney et al.,1963,Am.J.Trop.Med.Hyg.12:597-603)。
【0153】
アルファウイルス属のメンバーはまた、ヒトにおけるそれらの相対的な臨床的特徴に基づいて、主に脳炎に関連するアルファウイルスと、主に発熱、発疹、および多発性関節炎に関連するアルファウイルスとに分類され得る。
【0154】
「アルファウイルス性」という用語は、アルファウイルスに見出されるか、またはアルファウイルスに由来するか、または例えば遺伝子操作によってアルファウイルスから誘導されることを意味する。
【0155】
本発明によれば、「SFV」はセムリキ森林ウイルスを表す。本発明によれば、「SIN」または「SINV」はシンドビスウイルスを表す。本発明によれば、「VEE」または「VEEV」はベネズエラウマ脳炎ウイルスを表す。
【0156】
本発明によれば、「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルスを起源とする実体を指す。説明のために、アルファウイルスのタンパク質は、アルファウイルスに見出されるタンパク質および/またはアルファウイルスによってコードされるタンパク質を指し得、アルファウイルスの核酸配列は、アルファウイルスに見出される核酸配列および/またはアルファウイルスによってコードされる核酸配列を指し得る。好ましくは、「アルファウイルスの」核酸配列は、「アルファウイルスのゲノムの」および/または「アルファウイルスのゲノムRNAの」核酸配列を指す。
【0157】
本発明によれば、「アルファウイルスRNA」という用語は、アルファウイルスゲノムRNA(すなわち(+)鎖)、アルファウイルスゲノムRNAの相補体(すなわち(-)鎖)、およびサブゲノム転写物(すなわち(+)鎖)のいずれか1つ以上、またはそれらのいずれかの断片を指す。
【0158】
本発明によれば、「アルファウイルスゲノム」は、アルファウイルスのゲノム(+)鎖RNAを指す。
【0159】
本発明によれば、「天然のアルファウイルス配列」という用語および同様の用語は、典型的には、天然に存在するアルファウイルス(自然界で見出されるアルファウイルス)の(例えば核酸)配列を指す。いくつかの実施形態では、「天然のアルファウイルス配列」という用語は、弱毒化アルファウイルスの配列も含む。
【0160】
本発明によれば、「5’複製認識配列」という用語は、好ましくは、アルファウイルスゲノムなどの自己複製ウイルスのゲノムの5’断片と同一または相同である連続する核酸配列、好ましくはリボ核酸配列を指す。「5’複製認識配列」は、アルファウイルスレプリカーゼなどのレプリカーゼによって認識され得る核酸配列である。5’複製認識配列という用語は、天然の5’複製認識配列ならびにその機能的等価物、例えば自然界で見出される自己複製ウイルス、例えば自然界で見出されるアルファウイルスの5’複製認識配列の機能的変異体を含む。本発明によれば、機能的等価物は、本明細書に記載の少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする5’複製認識配列の誘導体を含む。5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体の合成に必要であり、(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖ウイルスゲノムRNAの合成に必要である。天然の5’複製認識配列は、典型的には少なくともnsP1のN末端断片をコードするが、nsP1234をコードするオープンリーディングフレーム全体は含まない。天然の5’複製認識配列が、典型的には少なくともnsP1のN末端断片をコードするという事実を考慮すると、天然の5’複製認識配列は、典型的には少なくとも1つの開始コドン、典型的にはAUGを含む。一実施形態では、5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムの保存配列要素1(CSE 1)またはその変異体、およびアルファウイルスゲノムの保存配列要素2(CSE 2)またはその変異体を含む。5’複製認識配列は、典型的には4つのステムループ(SL)、すなわちSL1、SL2、SL3、SL4を形成することができる。これらのステムループの番号付けは、5’複製認識配列の5’末端から始まる。
【0161】
「保存配列要素」または「CSE」という用語は、アルファウイルスRNAに見出されるヌクレオチド配列を指す。これらの配列要素は、オルソログが異なるアルファウイルスのゲノムに存在し、異なるアルファウイルスのオルソログCSEが、好ましくは高い割合の配列同一性および/または類似の二次もしくは三次構造を共有するため、「保存された」と呼ばれる。CSEという用語は、CSE 1、CSE 2、CSE 3およびCSE 4を含む。
【0162】
本発明によれば、「CSE 1」または「44-nt CSE」という用語は、同義的に、(-)鎖鋳型からの(+)鎖合成に必要なヌクレオチド配列を指す。「CSE 1」という用語は、(+)鎖上の配列を指し、CSE 1の相補配列((-)鎖上)は、(+)鎖合成のためのプロモータとして機能する。好ましくは、CSE 1という用語は、アルファウイルスゲノムの最も5’側のヌクレオチドを含む。CSE 1は、典型的には保存されたステムループ構造を形成する。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 1の場合、二次構造が一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。モデルアルファウイルスであるシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、CSE 1は、ゲノムRNAの最も5’側の44個のヌクレオチドによって形成される、44個のヌクレオチドの連続する配列からなる(Strauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562)。
【0163】
本発明によれば、「CSE 2」または「51-nt CSE」という用語は、同義的に、(+)鎖鋳型からの(-)鎖合成に必要なヌクレオチド配列を指す。(+)鎖鋳型は、典型的にはアルファウイルスゲノムRNAまたはRNAレプリコンである(CSE 2を含まないサブゲノムRNA転写物は(-)鎖合成のための鋳型として機能しないことに留意されたい)。アルファウイルスのゲノムRNAでは、CSE 2は、典型的にはnsP1のコード配列内に局在する。モデルアルファウイルスであるシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、51-nt CSEは、ゲノムRNAのヌクレオチド位置155~205に位置する(Frolov et al.,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651)。CSE 2は、典型的には2つの保存されたステムループ構造を形成する。これらのステムループ構造は、アルファウイルスゲノムRNAの5’末端から数えて、それぞれアルファウイルスゲノムRNAの3番目および4番目の保存されたステムループであるため、ステムループ3(SL3)およびステムループ4(SL4)と呼ばれる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 2の場合、二次構造が一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。
【0164】
本発明によれば、「CSE 3」または「接合配列」という用語は、同義的に、アルファウイルスゲノムRNAに由来し、サブゲノムRNAの開始部位を含むヌクレオチド配列を指す。(-)鎖におけるこの配列の相補体は、サブゲノムRNA転写を促進するように作用する。アルファウイルスゲノムRNAでは、CSE 3は、典型的にはnsP4のC末端断片をコードする領域と重複し、構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流に位置する短い非コード領域にまで及ぶ。
【0165】
本発明によれば、「CSE 4」または「19-nt保存配列」または「19-nt CSE」という用語は、同義的に、アルファウイルスゲノムの3’非翻訳領域内のポリ(A)配列のすぐ上流の、アルファウイルスゲノムRNAからのヌクレオチド配列を指す。CSE 4は、典型的には19個の連続するヌクレオチドからなる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 4は、(-)鎖合成の開始のためのコアプロモータとして機能すると理解されており(Jose et al.,2009,Future Microbiol.4:837-856)、および/またはアルファウイルスゲノムRNAのCSE 4およびポリ(A)尾部は、効率的な(-)鎖合成のために一緒に機能すると理解されている(Hardy&Rice,2005,J.Virol.79:4630-4639)。
【0166】
本発明によれば、「サブゲノムプロモータ」または「SGP」という用語は、核酸配列(例えばコード配列)の上流(5’側)の核酸配列であって、RNAポリメラーゼ、典型的にはRNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能性アルファウイルス非構造タンパク質の認識および結合部位を提供することによって前記核酸配列の転写を制御する核酸配列を指す。SGPは、さらなる因子のためのさらなる認識または結合部位を含み得る。サブゲノムプロモータは、典型的にはアルファウイルスなどのプラス鎖RNAウイルスの遺伝要素である。アルファウイルスのサブゲノムプロモータは、ウイルスゲノムRNAに含まれる核酸配列である。サブゲノムプロモータは、一般に、RNA依存性RNAポリメラーゼ、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で転写の開始(RNA合成)を可能にすることを特徴とする。RNA(-)鎖、すなわちアルファウイルスゲノムRNAの相補体は、(+)鎖サブゲノム転写物の合成のための鋳型として働き、(+)鎖サブゲノム転写物の合成は、典型的にはサブゲノムプロモータにおいてまたはその近傍で開始される。本明細書で使用される「サブゲノムプロモータ」という用語は、そのようなサブゲノムプロモータを含む核酸内の特定の局在化に限定されない。一部の実施形態では、SGPは、CSE 3と同一であるか、CSE 3と重複するか、またはCSE 3を含む。
【0167】
「サブゲノム転写物」または「サブゲノムRNA」という用語は、同義的に、RNA分子を鋳型(「鋳型RNA」)として使用した転写の結果として得られるRNA分子を指し、鋳型RNAは、サブゲノム転写物の転写を制御するサブゲノムプロモータを含む。サブゲノム転写物は、RNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で得ることができる。例えば、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、アルファウイルスに感染した細胞で調製されるRNA転写物を指し得る。しかしながら、本明細書で使用される「サブゲノム転写物」という用語はそれに限定されず、異種RNAを鋳型として使用することによって得られる転写物も含む。例えば、サブゲノム転写物は、本発明によるSGP含有レプリコンの(-)鎖相補体を鋳型として使用することによっても得ることができる。したがって、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの断片を転写することによって得られるRNA分子、ならびに本発明によるレプリコンの断片を転写することによって得られるRNA分子を指し得る。
【0168】
「自己」という用語は、同じ対象に由来するものを表すために使用される。例えば、「自己細胞」は、同じ対象に由来する細胞を指す。自己細胞を対象に導入することは、これらの細胞が、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するので、有利である。
【0169】
「同種異系」という用語は、同じ種の異なる個体に由来するものを表すために使用される。2つ以上の個体は、1つ以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、互いに同種異系であると言われる。
【0170】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体もしくは組織、すなわち一卵性双生児もしくは同じ近交系の動物、またはそれらの組織もしくは細胞に由来するものを表すために使用される。
【0171】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものを表すために使用される。一例として、ある個体の細胞を異なる個体に導入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0172】
配列変化を同定するための方法において使用され得る細胞は、ヌクレオチド修飾の有無にかかわらず、rRNAが複製および/または翻訳され得る任意の適切な細胞である。細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞であり得る。細胞は、複製のためにrRNA中に存在する配列を認識するレプリカーゼを構成的に発現し得るか、またはそのようなレプリカーゼを一過性に発現し得る。
【0173】
以下は、本発明の個々の特徴の特定のおよび/または好ましい変形を提供する。本発明はまた、特に好ましい実施形態として、本発明の特徴の2つ以上について記載される特定のおよび/または好ましい変形の2つ以上を組み合わせることによって生成される実施形態を企図する。
【0174】
RNAレプリコン
複製可能なRNA(rRNA)は、RNAが複製されるようにレプリカーゼによって認識され得るヌクレオチド配列を含むことによって、RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)によって複製され得るRNAである。rRNAは必ずしもレプリカーゼをコードしないので、rRNAは、シスで(コードされたレプリカーゼによって)またはトランスで(別の方法で提供されるレプリカーゼ、例えば核酸をコードする別個のレプリカーゼによって)複製され得る。「RNAレプリコン」、「レプリコン」および「複製可能RNA分子」という用語は互換的に使用することができる。
【0175】
一実施形態では、複製可能RNA(rRNA)分子は、参照修飾調節領域と比較して配列変化を含む自己複製一本鎖プラスセンスウイルスの修飾調節領域を含み、この配列変化は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含むrRNA分子の機能を回復または改善する。これらの変化は、そのような配列変化を同定するための本明細書に記載の方法によって同定され得る。一実施形態では、修飾調節領域は、アルファウイルス調節領域、例えば5’または3’調節領域である。一実施形態では、アルファウイルス5’調節領域の配列変化は、配列番号2の67、244、245、246、248位に対応する1つ以上の位置に点突然変異を含む。一実施形態では、5’調節領域は、VEEVアルファウイルス5’調節領域である。一実施形態では、5’調節領域は、配列番号1または2に示される配列を有する。一実施形態では、5’調節領域は、配列番号2に示される配列を有するVEEV 5’調節領域の67、244、245、246、248位の1つ以上、または配列番号2のそれらの位置に対応する別のアルファウイルスの5’調節領域の位置に点突然変異を含む。一実施形態では、rRNA分子は、5’調節領域において配列番号2の4位に点突然変異をさらに含む。
【0176】
様々な実施形態では、点突然変異は、配列番号2の67位、67および244位、67および246位、67および248位、67、245および248位、4および67位、4、67および244位、4、67および246位、4、67および248位、4、67、245および248位、またはそれらの任意の組合せ、または配列番号2のそのような位置に対応するアルファウイルスの位置に存在し得る。
【0177】
様々な実施形態では、点突然変異は、配列番号2の以下の位置の1つ以上もしくは位置の組合せ、またはアルファウイルスの5’調節領域の対応する位置に存在し得る:
67位;244位;245位;246位;248位;67および244位;67および245位;67および246位;67および248位;244および245位;244および246位;244および248位;245および246位;245および248位;246および248位;67、244および245位;67、244および246位;67、244および248位;67、245および246位;67、245および248位;67、246および248位;244、245および246位;244、245および248位;244、246および248位;245、246および248位;67、244、245および246位;67、244、245および248位;67、244、246および248位;67、245、246および248位;244、245、246および248位;67、244、245、246および248位。上記の各位置または位置の組合せにおいて、点突然変異は、配列番号2の4位またはアルファウイルスの5’調節領域の対応する位置にさらに存在し得る。
【0178】
一実施形態では、様々な位置における特定の点突然変異は、G4A、A67C、G244A、C245A、G246A、またはC248Aであり得る。
【0179】
一実施形態では、RNAレプリコンは、内部リボソーム進入部位(IRES)と、自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームとを含み得、IRESは機能性非構造タンパク質、例えばレプリカーゼの発現を制御する。好ましくは、RNAレプリコンは、機能性非構造タンパク質による複製を可能にする配列要素を含む。一実施形態では、自己複製ウイルスはアルファウイルスであり、機能性非構造タンパク質による複製を可能にする配列要素はアルファウイルスに由来する。
【0180】
アルファウイルスレプリカーゼはキャッピング酵素機能を有し、典型的には、ゲノムおよびサブゲノム(+)鎖RNAがキャップされる。5’キャップは、mRNAを分解から保護し、その後近傍の開始コドンから翻訳を開始することができるリボ核タンパク質複合体をmRNA上に形成するために、リボソームサブユニットおよび細胞因子をmRNAに誘導するように働く。この複雑なプロセスは、文献に広く記載されている(Jackson et al.,2010,Nat Rev Mol Biol;Vol 10;113-127)。キャップ依存性翻訳の非常に精巧で効率的な機構にもかかわらず、細胞は、5’キャップと完全にまたは部分的に独立して翻訳を開始する手段を有する(Thompson 2012;Trends in Microbiology 20:558-566)。それにより、キャップ依存性翻訳の全体的な下方制御をもたらす細胞ストレスの状況では、細胞は、しばしばIRESの助けを借りて、選択された遺伝子を依然として選択的に発現し得る。
【0181】
ウイルスはまた、ウイルス遺伝子の翻訳のための細胞機構を利用するための異なる手段を進化させた。ウイルス感染は、細胞の抗ウイルス応答(インターフェロン応答;ストレス応答)をもたらす細胞によって感知されることが多いので、多くのウイルスはまた、キャップ非依存性翻訳、特にRNAウイルスを利用する。キャップ非依存性翻訳は、ウイルスに、それらの生活環を全うし、感染細胞から放出される機会を与える、細胞ストレス応答時のウイルスRNA翻訳にとっての利点を保証する。
【0182】
内部リボソーム進入部位(IRES)は、翻訳開始コドン、AUGなどの近傍に開始前複合体を誘引する適切な二次構造を形成するRNA配列である。共通の特徴を共有する4つのクラスのIRESが文献に記載されている。原型IRESは、ポリオウイルスIRES(I型)、脳心筋炎ウイルス(EMCV)IRES(II型)、C型肝炎ウイルス(HCV)IRES(III型)およびジシストロウイルスの遺伝子間領域に見出されるIRES(IV型)である(Thompson,2012;Trends in Microbiology 20:558-566;Lozano et al.2018;Open Biology 8:180155)。
【0183】
I型~III型IRESは、AUG開始コドンで翻訳を開始するという共通点を有するが、IV型IRESは非AUGコドン(例えばGCU)で開始する。それにより、I型~III型は、eIF2/GTP(eIF2/GTP/Met-tRNAiMet)の助けによってメチオニンを送達するイニシエータtRNAを必要とする。ストレス下でのeIF2キナーゼの活性化は、AUGで開始する翻訳を阻害するeIF2のαサブユニットをリン酸化する。それにより、IV型IRESによって誘導される翻訳は、eIF2リン酸化によって阻害されない。
【0184】
本発明によれば、「内部リボソーム進入部位」、略して「IRES」という用語は、リボソームをmRNAの内部領域に動員して、キャップ非依存的に翻訳を開始するRNA要素に関する。IRESは、一般にRNAウイルスの5’-UTRに位置する。しかしながら、ジシストロウイルス科(dicistroviridae family)由来のウイルスのmRNAは2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を有し、それぞれの翻訳は2つの異なるIRESによって指示される。また、いくつかの哺乳動物細胞mRNAもIRESを有することが示唆されている。これらの細胞IRES要素は、ストレス生存および生存に重要な他のプロセスに関与する遺伝子をコードする真核生物mRNAに位置すると考えられている。IRES要素の位置は、しばしば5’-UTRにあるが、mRNAの他の場所にも存在し得る。
【0185】
「内部リボソーム侵入部位」という用語は、ポリオウイルス(PV)および脳心筋炎ウイルスなどのピコルナウイルス科(Picornaviridae family)のウイルスならびにヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)および口蹄疫ウイルスを含む病原性ウイルスに存在するIRESを含む。これらのウイルスIRESは多様な配列を含むが、それらの多くは同様の二次構造を有し、同様の機構を介して翻訳を開始する。さらに、IRESの活性は、IRESトランス作用因子(ITAF)として公知の他の因子からの支援をしばしば必要とする。翻訳開始因子(IF)およびITAFの構造および必要条件に基づいて、ウイルスIRESは、本明細書に記載される4つのタイプに分類される。これらのIRESタイプのいずれもが、本発明によれば有用であり、IV型IRESが特に好ましい。
【0186】
ウイルスIRESの2つの群、I型およびII型は、40S小リボソームサブユニットに直接結合することができない。代わりに、それらは、異なるITAFを介して40S小リボソームサブユニットを動員し、キャップ依存性翻訳においてカノニカルIFを必要とする(すなわちeIF2、eIF3、eIF4A、eIF4B、およびeIF4G)。I型IRESとII型IRESとの間の主な違いは40Sリボソームスキャニングの必要性であり、II型IRESには40Sリボソームスキャニングは不要である。I型IRESの例としては、ポリオウイルス(PV)およびライノウイルスに見出されるIRESが挙げられる。II型IRESの例としては、脳心筋炎ウイルス(EMCV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)およびタイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)に見出されるIRESが挙げられる。
【0187】
III型IRESは、特殊なRNA構造を有する40S小リボソームサブユニットと直接相互作用することができるが、それらの活性は、通常、eIF2およびeIF3ならびにイニシエータMet-tRNAiを含むいくつかのIFの支援を必要とする。例としては、C型肝炎ウイルス(HCV)、豚コレラウイルス(CSFV)および豚テスコウイルス(PTV)に見出されるIRESが挙げられる。
【0188】
IV型ウイルスIRESは一般に強い活性を有し、さらなるITAFまたはeIF2/Met-tRNAi/GTP三元複合体さえも必要とせずに非AUG開始コドンから翻訳を開始することができる。これらのIRESは、40S小リボソームサブユニットと直接相互作用するコンパクトな構造に折り畳まれる。例としては、コオロギ麻痺ウイルス(CrPV)、チャバネアオカメムシ(plautia stali)腸管ウイルス(PSIV)、およびタウラ症候群ウイルス(TSV)などのジシストロウイルスに見出されるIRESが挙げられる。
【0189】
「内部リボソーム進入部位」という用語はまた、細胞mRNAに見出されるIRESも含み、その多くは、例えばアポトーシス、有糸分裂、低酸素および栄養制限の状態でストレス応答に必要なタンパク質をコードする。細胞IRESは、リボソーム動員の機構に基づいて2つのタイプに大別することができる:I型IRESは、シスエレメント、例えばRNA結合モチーフに結合したITAFおよびN-6-メチルアデノシン(m6A)修飾を介してリボソームと相互作用するが、II型IRESは、18S rRNAと対合してリボソームを動員する短いシスエレメントを含む。
【0190】
一実施形態では、本明細書に記載のrRNAは、修飾されたヌクレオチド/ヌクレオシド/骨格修飾を有し得る。本明細書で使用される「RNA修飾」という用語は、骨格修飾ならびに糖修飾または塩基修飾を含む化学修飾を指し得る。
【0191】
これに関連して、本明細書で定義される修飾rRNA分子は、ヌクレオチド類似体/修飾、例えば骨格修飾、糖修飾または塩基修飾を含み得る。本発明に関連する骨格修飾は、本明細書で定義されるrRNA分子に含まれるヌクレオチドの骨格のリン酸が化学的に修飾される修飾である。本発明に関連する糖修飾は、本明細書で定義されるrRNA分子のヌクレオチドの糖の化学修飾である。さらに、本発明に関連する塩基修飾は、rRNA分子のヌクレオチドの塩基部分の化学修飾である。これに関連して、ヌクレオチド類似体または修飾は、好ましくは、転写および/または翻訳に適用可能なヌクレオチド類似体から選択される。
【0192】
糖修飾:本明細書に記載の修飾rRNA分子に組み込まれ得る修飾ヌクレオシドおよびヌクレオチドは、糖部分で修飾され得る。例えば、2’ヒドロキシル基(OH)は、いくつかの異なる「オキシ」または「デオキシ」置換基で修飾または置換することができる。「オキシ」-2’ヒドロキシル基修飾の例としては、アルコキシまたはアリールオキシ(-OR、例えば、R=H、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールまたは糖);ポリエチレングリコール(PEG)、-O(CH2CH2 O)nCH2CH2 OR;2’ヒドロキシルが、例えばメチレン架橋によって、同じリボース糖の4’炭素に結合している「ロックド」核酸(LNA);およびアミノ基(-O-アミノ、ここで、アミノ基、例えばNRRは、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノもしくはジヘテロアリールアミノ、エチレンジアミン、ポリアミノであり得る)またはアミノアルコキシが挙げられるが、これらに限定されない。「デオキシ」修飾には、水素、アミノ(例えばNH2;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノもしくはアミノ酸)が含まれ、またはアミノ基は、リンカーを介して糖に結合していてもよく、リンカーは原子C、NおよびOのうちの1つ以上を含む。糖基はまた、リボース中の対応する炭素のものとは反対の立体化学配置を有する1つ以上の炭素を含むことができる。したがって、修飾RNA分子は、例えば糖としてアラビノースを含有するヌクレオチドを含むことができる。
【0193】
骨格修飾:リン酸骨格は、本明細書に記載の修飾RNA分子に組み込まれ得る修飾ヌクレオシドおよびヌクレオチドでさらに修飾され得る。骨格のリン酸基は、酸素原子の1つ以上を異なる置換基で置換することによって修飾することができる。さらに、修飾されたヌクレオシドおよびヌクレオチドは、本明細書に記載の修飾リン酸による非修飾リン酸部分の完全な置換を含み得る。修飾リン酸基の例としては、ホスホロチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホン酸水素、ホスホロアミデート、ホスホン酸アルキルまたはホスホン酸アリールおよびホスホトリエステルが挙げられるが、これらに限定されない。ホスホロジチオエートは、両方の非結合酸素が硫黄で置換されている。リン酸リンカーはまた、結合している酸素を窒素(架橋ホスホロアミデート)、硫黄(架橋ホスホロチオエート)および炭素(架橋メチレンホスホネート)で置換することによって修飾することもできる。
【0194】
塩基修飾:本明細書に記載の修飾rRNA分子に組み込まれ得る修飾されたヌクレオシドおよびヌクレオチドは、核酸塩基部分においてさらに修飾され得る。RNAに見出される核酸塩基の例としては、アデニン、グアニン、シトシンおよびウラシルが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、本明細書に記載のヌクレオシドおよびヌクレオチドは、主溝面上で化学修飾することができる。いくつかの実施形態では、主溝化学修飾は、アミノ基、チオール基、アルキル基、またはハロ基を含むことができる。
【0195】
本発明の特定の実施形態では、ヌクレオチド類似体/修飾は、好ましくは、2-アミノ-6-クロロプリンリボシド-5’-三リン酸、2-アミノプリン-リボシド-5’-三リン酸、2-アミノアデノシン-5’-三リン酸、2’-アミノ-2’-デオキシシチジン-三リン酸、2-チオシチジン-5’-三リン酸、2-チオウリジン-5’-三リン酸、2’-フルオロチミジン-5’-三リン酸、2’-O-メチルイノシン-5’-三リン酸、4-チオ-ウリジン-5’-三リン酸、5-アミノアリルシチジン-5’-三リン酸、5-アミノアリルウリジン-5’-三リン酸、5-ブロモシチジン-5’-三リン酸、5-ブロモウリジン-5’-三リン酸、5-ブロモ-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-ブロモ-2’-デオキシウリジン-5’-三リン酸、5-ヨードシチジン-5’-三リン酸、5-ヨード-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-ヨードウリジン-5’-三リン酸、5-ヨード-2’-デオキシウリジン-5’-三リン酸、5-メチルシチジン-5’-三リン酸、5-メチルウリジン-5’-三リン酸、5-プロピニル-2’-デオキシシチジン-5’-三リン酸、5-プロピニル-2’-デオキシウリジン-5’-三リン酸、6-アザシチジン-5’-三リン酸、6-アザウリジン-5’-三リン酸、6-クロロプリンリボシド-5’-三リン酸、7-デアザアデノシン-5’-三リン酸、7-デアザグアノシン-5’-三リン酸、8-アザアデノシン-5’-三リン酸、8-アジドアデノシン-5’-三リン酸、ベンズイミダゾール-リボシド-5’-三リン酸、N1-メチルアデノシン-5’-三リン酸、N1-メチルグアノシン-5’-三リン酸、N6-メチルアデノシン-5’-三リン酸、N6-メチルグアノシン-5’-三リン酸、シュードウリジン-5’-三リン酸、またはピューロマイシン-5’-三リン酸、キサントシン-5’-三リン酸から選択される塩基修飾から選択される。5-メチルシチジン-5’-三リン酸、7-デアザグアノシン-5’-三リン酸、5-ブロモシチジン-5’-三リン酸、およびシュードウリジン-5’-三リン酸からなる塩基修飾ヌクレオチドの群より選択される塩基修飾のためのヌクレオチドが特に好ましい。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドとしては、ピリジン-4-オンリボヌクレオシド、5-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン、4-チオ-シュードウリジン、2-チオ-シュードウリジン、5-ヒドロキシウリジン、3-メチルウリジン、5-カルボキシメチル-ウリジン、1-カルボキシメチル-シュードウリジン、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-シュードウリジン、5-タウリノメチルウリジン、1-タウリノメチル-シュードウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン、1-タウリノメチル-4-チオウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチル-シュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、ジヒドロウリジン、ジヒドロ-シュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、および4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジンが挙げられる。
【0196】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドとしては、5-アザ-シチジン、シュードイソシチジン、3-メチル-シチジン、N4-アセチルシチジン、5-ホルミルシチジン、N4-メチルシチジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、1-メチル-シュードイソシチジン、ピロロ-シチジン、ピロロ-シュードイソシチジン、2-チオ-シチジン、2-チオ-5-メチル-シチジン、4-チオ-シュードイソシチジン、4-チオ-1-メチル-シュードイソシチジン、4-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードイソシチジン、1-メチル-1-デアザ-シュードイソシチジン、ゼブラリン、5-アザ-ゼブラリン、5-メチル-ゼブラリン、5-アザ-2-チオ-ゼブラリン、2-チオ-ゼブラリン、2-メトキシ-シチジン、2-メトキシ-5-メチル-シチジン、4-メトキシ-シュードイソシチジン、および4-メトキシ-1-メチル-シュードイソシチジンが挙げられる。
【0197】
他の実施形態では、修飾ヌクレオシドとしては、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-アデニン、7-デアザ-8-アザ-アデニン、7-デアザ-2-アミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2-アミノプリン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2,6-ジアミノ-プリン、1-メチルアデノシン、N6-メチルアデノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、N6-グリシニルカルバモイルアデノシン、N6-トレオニルカルバモイルアデノシン、2-メチル-チオ-N6-トレオニルカルバモイルアデノシン、N6,N6-ジメチルアデノシン、7-メチルアデニン、2-メチルチオ-アデニン、および2-メトキシ-アデニンが挙げられる。他の実施形態では、修飾ヌクレオシドとしては、イノシン、1-メチル-イノシン、ワイオシン、ワイブトシン、7-デアザ-グアノシン、7-デアザ-8-アザ-グアノシン、6-チオ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-8-アザ-グアノシン、7-メチル-グアノシン、6-チオ-7-メチル-グアノシン、7-メチルイノシン、6-メトキシ-グアノシン、1-メチルグアノシン、N2-メチルグアノシン、N2,N2-ジメチルグアノシン、8-オキソ-グアノシン、7-メチル-8-オキソ-グアノシン、1-メチル-6-チオ-グアノシン、N2-メチル-6-チオ-グアノシン、およびN2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシンが挙げられる。
【0198】
いくつかの実施形態では、ヌクレオチドは、主溝面上で修飾することができ、ウラシルのC-5上の水素をメチル基またはハロ基で置換することを含み得る。特定の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、5’-O-(1-チオホスフェート)-アデノシン、5’-O-(1-チオホスフェート)-シチジン、5’-O-(1-チオホスフェート)-グアノシン、5’-O-(1-チオホスフェート)-ウリジンまたは5’-O-(1-チオホスフェート)-シュードウリジンである。
【0199】
さらなる実施形態では、修飾rRNAは、6-アザ-シチジン、2-チオ-シチジン、a-チオ-シチジン、シュード-イソ-シチジン、5-アミノアリル-ウリジン、5-ヨード-ウリジン、N1-メチル-シュードウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、a-チオ-ウリジン、4-チオ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン、デオキシチミジン、5-メチル-ウリジン、ピロロ-シチジン、イノシン、a-チオ-グアノシン、6-メチル-グアノシン、5-メチル-シチジン、8-オキソ-グアノシン、7-デアザ-グアノシン、N1-メチル-アデノシン、2-アミノ-6-クロロ-プリン、N6-メチル-2-アミノ-プリン、シュード-イソ-シチジン、6-クロロ-プリン、N6-メチル-アデノシン、a-チオ-アデノシン、8-アジド-アデノシン、7-デアザ-アデノシンから選択されるヌクレオシド修飾を含み得る。
【0200】
特定の好ましい実施形態では、rRNAは、少なくとも1つの(例えば全ての)ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0201】
本明細書で使用される「ウラシル」という用語は、RNAの核酸中に存在し得る核酸塩基の1つを表す。ウラシルの構造は:
【化1】
である。
【0202】
本明細書で使用される「ウリジン」という用語は、RNA中に存在し得るヌクレオシドの1つを表す。ウリジンの構造は:
【化2】
である。
【0203】
UTP(ウリジン5’-三リン酸)は、以下の構造:
【化3】
を有する。
【0204】
シュードUTP(シュードウリジン5’-三リン酸)は、以下の構造:
【化4】
を有する。
【0205】
「シュードウリジン」は、ウリジンの異性体である修飾ヌクレオシドの一例であり、ウラシルは、窒素-炭素グリコシド結合の代わりに炭素-炭素結合を介してペントース環に結合している。
【0206】
別の例示的な修飾ヌクレオシドはN1-メチル-シュードウリジン(m1Ψ)であり、これは、構造:
【化5】
を有する。
【0207】
N1-メチル-シュードUTPは、以下の構造:
【化6】
を有する。
【0208】
別の例示的な修飾ヌクレオシドは5-メチル-ウリジン(m5U)であり、これは、構造:
【化7】
を有する。
【0209】
特定の好ましい実施形態では、本明細書に記載のrRNA中の1つ以上のウリジンは、修飾ヌクレオシドで置き換えられる。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは修飾ウリジンである。
【0210】
特定の好ましい実施形態では、RNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。いくつかの実施形態では、RNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0211】
特定の好ましい実施形態では、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)および5-メチル-ウリジン(m5U)から独立して選択される。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドはシュードウリジン(ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドはN1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、2種類以上の修飾ヌクレオシドを含んでもよく、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)および5-メチル-ウリジン(m5U)から独立して選択される。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)およびN1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)および5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)および5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、シュードウリジン(ψ)、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)および5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。
【0212】
特定の好ましい実施形態では、rRNA中の1つ以上、例えば全てのウリジンを置換する修飾ヌクレオシドは、3-メチルウリジン(mU)、5-メトキシウリジン(moU)、5-アザウリジン、6-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン(sU)、4-チオウリジン(sU)、4-チオシュードウリジン、2-チオシュードウリジン、5-ヒドロキシウリジン(hoU)、5-アミノアリルウリジン、5-ハロウリジン(例えば5-ヨードウリジンもしくは5-ブロモウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmoU)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmoU)、5-カルボキシメチルウリジン(cmU)、1-カルボキシメチルシュードウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chmU)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchmU)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcmU)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン(mcmU)、5-アミノメチル-2-チオウリジン(nmU)、5-メチルアミノメチルウリジン(mnmU)、1-エチルシュードウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン(mnmU)、5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン(mnmseU)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(cmnmU)、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルシュードウリジン、5-タウリノメチルウリジン(τmU)、1-タウリノメチルシュードウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオシュードウリジン)、5-メチル-2-チオウリジン(mU)、1-メチル-4-チオシュードウリジン(mΨ)、4-チオ-1-メチルシュードウリジン、3-メチルシュードウリジン(mΨ)、2-チオ-1-メチルシュードウリジン、1-メチル-1-デアザシュードウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザシュードウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロシュードウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチルジヒドロウリジン(mD)、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロシュードウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシシュードウリジン、4-メトキシ-2-チオシュードウリジン、N1-メチルシュードウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acpU)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)シュードウリジン(acpΨ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inmU)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオウリジン(inmU)、α-チオウリジン、2’-O-メチルウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチルウリジン(mUm)、2’-O-メチルシュードウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチルウリジン(sUm)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチルウリジン(mcmUm)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン(ncmUm)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン(cmnmUm)、3,2’-O-ジメチルウリジン(mUm)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチルウリジン(inmUm)、1-チオウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジン、または当技術分野で公知の任意の他の修飾ウリジンのいずれか1つ以上であり得る。
【0213】
一実施形態では、rRNAは、他の修飾ヌクレオシドを含むか、またはさらなる修飾ヌクレオシド、例えば上記のものなどの修飾シチジンを含む。例えば、一実施形態では、rRNAにおいて、シチジンが5-メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換されている。一実施形態では、rRNAは、5-メチルシチジンと、シュードウリジン(ψ)、N1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、および5-メチル-ウリジン(m5U)から選択される1つ以上とを含む。一実施形態では、rRNAは、5-メチルシチジンおよびN1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、rRNAは、各シチジンの代わりに5-メチルシチジンを含み、各ウリジンの代わりにN1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)を含む。
【0214】
機能性非構造タンパク質
「非構造タンパク質」という用語は、ウイルスによってコードされるがウイルス粒子の一部ではないタンパク質に関する。この用語は、典型的には、RNAレプリカーゼまたは他の鋳型指向性ポリメラーゼなどの、ウイルスがそれ自体を複製するために使用する様々な酵素および転写因子を含む。「非構造タンパク質」という用語は、非構造タンパク質の糖鎖修飾(グリコシル化など)および脂質修飾形態を含む、ありとあらゆる同時翻訳または翻訳後修飾形態を含み、好ましくは「アルファウイルス非構造タンパク質」に関する。
【0215】
いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、アルファウイルス起源の個々の非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)のいずれか1つ以上、またはアルファウイルス起源の複数の非構造タンパク質のポリペプチド配列を含むポリタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123および/またはnsP4を指す。他の実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1234を指す。一実施形態では、オープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、単一の、任意で切断可能なポリタンパク質:nsP1234としてのnsP1、nsP2、nsP3およびnsP4の全てからなる。一実施形態では、オープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、単一の、任意で切断可能なポリタンパク質:nsP123としてのnsP1、nsP2およびnsP3からなる。その実施形態では、nsP4はさらなる目的のタンパク質であり得、さらなるオープンリーディングフレームによってコードされ得る。
【0216】
いくつかの実施形態では、非構造タンパク質は、例えば宿主細胞において、複合体または会合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123(同義的にP123)とnsP4の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、およびnsP3の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4からなる群より選択されるいずれか1つ以上の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、アルファウイルス非構造タンパク質は、少なくともnsP4を含む。
【0217】
「複合体」または「会合体」という用語は、空間的に近接している2つ以上の同じまたは異なるタンパク質分子を指す。複合体のタンパク質は、好ましくは、互いに直接または間接的に物理的または物理化学的に接触している。複合体または会合体は、複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)および/または1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)で構成され得る。アルファウイルス非構造タンパク質の文脈において、「複合体または会合体」という用語は、多数の、そのうちの少なくとも1つがアルファウイルス非構造タンパク質である少なくとも2つのタンパク質分子を表す。複合体または会合体は、1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)および/または複数の異なるタンパク質の複数のコピー(ヘテロ多量体)で構成され得る。多量体の文脈において、「多」は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個または10個超などの、1個より多いことを意味する。
【0218】
「機能性アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、レプリカーゼ機能を有する非構造タンパク質を含む。したがって、「機能性非構造タンパク質」は、アルファウイルスレプリカーゼを含む。「レプリカーゼ機能」は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、すなわち(+)鎖RNA鋳型に基づいて(-)鎖RNAの合成を触媒することができる、および/または(-)鎖RNA鋳型に基づいて(+)鎖RNAの合成を触媒することができる酵素の機能を含む。したがって、「機能性非構造タンパク質」という用語は、(+)鎖(例えばゲノム)RNAを鋳型として使用して(-)鎖RNAを合成するタンパク質もしくは複合体、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して新しい(+)鎖RNAを合成するタンパク質もしくは複合体、および/またはゲノムRNAの(-)鎖相補体の断片を鋳型として使用してサブゲノム転写物を合成するタンパク質もしくは複合体を指すことができる。機能性非構造タンパク質は、1つ以上のさらなる機能、例えばプロテアーゼ(自己切断のため)、ヘリカーゼ、末端アデニリルトランスフェラーゼ(ポリ(A)尾部の付加のため)、メチルトランスフェラーゼおよびグアニリルトランスフェラーゼ(核酸に5’キャップを提供するため)、核局在化部位、トリホスファターゼなどをさらに有し得る(Gould et al.,2010,Antiviral Res.87:111-124;Rupp et al.,2015,J.Gen.Virol.96:2483-2500)。
【0219】
「レプリカーゼ」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼを含む。本発明によれば、「レプリカーゼ」という用語は、天然に存在するアルファウイルス(自然界で見出されるアルファウイルス)由来のRNA依存性RNAポリメラーゼ、および弱毒化アルファウイルス由来などのアルファウイルスの変異体または誘導体由来のRNA依存性RNAポリメラーゼを含む、「アルファウイルスレプリカーゼ」を含む。
【0220】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルス感染細胞によって発現されるか、またはアルファウイルスレプリカーゼをコードする核酸でトランスフェクトされた細胞によって発現される、アルファウイルスレプリカーゼの全ての変異体、特に翻訳後修飾変異体、立体配座、アイソフォームおよびホモログを含む。さらに、「レプリカーゼ」という用語は、組換え法によって生成された、および生成され得る全ての形態のレプリカーゼを含む。例えば、実験室でのレプリカーゼの検出および/または精製を容易にするタグ、例えばmycタグ、HAタグまたはオリゴヒスチジンタグ(Hisタグ)を含むレプリカーゼは、組換え法によって生成され得る。
【0221】
任意で、アルファウイルスレプリカーゼは、アルファウイルスの保存配列要素1(CSE 1)またはその相補的な配列、保存配列要素2(CSE 2)またはその相補的な配列、保存配列要素3(CSE 3)またはその相補的な配列、保存配列要素4(CSE 4)またはその相補的な配列のいずれか1つ以上に結合する能力によってさらに機能的に定義される。好ましくは、レプリカーゼは、CSE 2[すなわち(+)鎖]および/もしくはCSE 4[すなわち(+)鎖]に結合することができるか、またはCSE 1の相補体[すなわち(-)鎖]および/もしくはCSE 3の相補体[すなわち(-)鎖]に結合することができる。
【0222】
アルファウイルスレプリカーゼの起源は、特定のアルファウイルスに限定されない。好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するセムリキ森林ウイルスおよび弱毒化セムリキ森林ウイルスなどのセムリキ森林ウイルスの変異体または誘導体を含む、セムリキ森林ウイルス由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するシンドビスウイルスおよび弱毒シンドビスウイルスなどのシンドビスウイルスの変異体または誘導体を含む、シンドビスウイルス由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)および弱毒化VEEVなどのVEEVの変異体または誘導体を含む、VEEV由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するチクングニアウイルス(CHIKV)および弱毒化CHIKVなどのCHIKVの変異体または誘導体を含む、CHIKV由来の非構造タンパク質を含む。
【0223】
レプリカーゼはまた、複数のウイルス、例えば複数のアルファウイルス由来の非構造タンパク質を含み得る。したがって、アルファウイルス非構造タンパク質を含み、レプリカーゼ機能を有する異種複合体または会合体も、同様に本発明に含まれる。単に例示目的のために、レプリカーゼは、第1のアルファウイルス由来の1つ以上の非構造タンパク質(例えばnsP1、nsP2)、および第2のアルファウイルス由来の1つ以上の非構造タンパク質(nsP3、nsP4)を含み得る。複数の異なるアルファウイルス由来の非構造タンパク質は、別個のオープンリーディングフレームによってコードされ得るか、またはポリタンパク質、例えばnsP1234として単一のオープンリーディングフレームによってコードされ得る。
【0224】
いくつかの実施形態では、機能性非構造タンパク質は、機能性非構造タンパク質が発現される細胞内で膜複製複合体および/または液胞を形成することができる。
【0225】
機能性非構造タンパク質、すなわちレプリカーゼ機能を有する非構造タンパク質が本発明による核酸分子によってコードされる場合、レプリコンのサブゲノムプロモータは、存在する場合、前記レプリカーゼと適合性であることが好ましい。この文脈において適合性であるとは、レプリカーゼが、サブゲノムプロモータが存在する場合、サブゲノムプロモータを認識できることを意味する。一実施形態では、これは、サブゲノムプロモータが、レプリカーゼが由来するウイルスに天然である、すなわちこれらの配列の天然起源が同じウイルスである場合に達成される。代替的な実施形態では、サブゲノムプロモータは、ウイルスレプリカーゼがサブゲノムプロモータを認識することができる限り、ウイルスレプリカーゼが由来するウイルスに天然ではない。言い換えれば、レプリカーゼはサブゲノムプロモータと適合性である(交差ウイルス適合性)。異なるアルファウイルスに由来するサブゲノムプロモータおよびレプリカーゼに関する交差ウイルス適合性の例は、当技術分野で公知である。交差ウイルス適合性が存在する限り、サブゲノムプロモータとレプリカーゼの任意の組合せが可能である。交差ウイルス適合性は、サブゲノムプロモータからのRNA合成に適した条件で、試験されるレプリカーゼを、試験されるサブゲノムプロモータを有するRNAと共にインキュベートすることにより、本発明を実施する当業者によって容易に試験され得る。サブゲノム転写物が生成される場合、サブゲノムプロモータとレプリカーゼは適合性であると決定される。交差ウイルス適合性の様々な例が公知である。
【0226】
レプリコンは、好ましくは、機能性非構造タンパク質によって複製され得る。特に、機能性非構造タンパク質をコードするRNAレプリコンは、レプリコンによってコードされる機能性非構造タンパク質によって複製され得る。好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、レプリコンは、目的のタンパク質をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む。この実施形態は、本発明による目的のタンパク質を生産するためのいくつかの方法に特に適する。一実施形態では、目的のタンパク質をコードするさらなるオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列の下流かつIRESの上流(および自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流)ならびに/または自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの下流に位置する。5’複製認識配列の下流かつIRESの上流(および自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流)に位置する目的のタンパク質をコードするさらなるオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列によってコードされる配列との融合タンパク質として発現され得る。5’複製認識配列の下流かつIRESの上流(および自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流)に位置する目的のタンパク質をコードするさらなるオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータによって制御されてもよく、または制御されなくてもよい。自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの下流に位置する1つ以上の目的のタンパク質をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、一般に、サブゲノムプロモータによって制御される。
【0227】
機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列と重複しないことが好ましい。一実施形態では、機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータが存在する場合、サブゲノムプロモータと重複しない。その実施形態は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/162460号に開示されている。
【0228】
複製およびタンパク質コード領域に必要な配列エレメントの脱カップリング
nsP1234をコードするオープンリーディングフレームは、アルファウイルスゲノムの5’複製認識配列(nsP1のコード配列)と重複し、典型的にはCSE 3を含むサブゲノムプロモータ(nsP4のコード配列)とも重複するため、多用途アルファウイルス由来のベクターを開発することは困難である。
【0229】
本明細書に記載のRNAレプリコンは、一般に、レプリカーゼによる複製に必要な配列要素、特に5’複製認識配列を含む。一実施形態では、非構造タンパク質のコード配列はIRESの制御下にあり、したがってIRESは非構造タンパク質のコード配列の上流に位置する。したがって、一実施形態では、アルファウイルス非構造タンパク質のN末端断片のコード配列と通常重複する5’複製認識配列は、IRESの上流に位置し、非構造タンパク質のコード配列と重複しない。
【0230】
一実施形態では、nsP1コード配列などの5’複製認識配列のコード配列は、IRESの上流に位置する目的の遺伝子にインフレームで融合される。
【0231】
一実施形態では、5’複製認識配列は、アルファウイルス非構造タンパク質またはその断片などのタンパク質またはその断片をコードしない。したがって、本発明によるRNAレプリコンでは、レプリカーゼおよびタンパク質コード領域による複製に必要な配列要素は切り離されていてもよい。切り離しは、天然のウイルスゲノムRNA、例えば天然のアルファウイルスゲノムRNAと比較して、5’複製認識配列中の少なくとも1つの開始コドンの除去によって達成され得る。
【0232】
したがって、rRNAは5’複製認識配列を含み得、5’複製認識配列は、天然のウイルス5’複製認識配列、例えば天然のアルファウイルス5’複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0233】
天然のウイルス5’複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする5’複製認識配列は、本明細書では「修飾5’複製認識配列」または「本発明による5’複製認識配列」と呼ばれ得る。本明細書で以下に記載されるように、本発明による5’複製認識配列は、任意で、本発明の方法によって検出されるものなどの1つ以上のさらなるヌクレオチド変化の存在を特徴とし得る。
【0234】
レプリカーゼ、好ましくはアルファウイルスレプリカーゼによって複製され得る核酸構築物は、複製可能なRNAまたはレプリコンと呼ばれる。本発明によれば、「レプリコン」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって複製され、DNA中間体なしで、RNAレプリコンの1つまたは複数の同一または本質的に同一のコピーを生じることができるRNA分子を定義する。「DNA中間体なしで」とは、RNAレプリコンのコピーを形成する過程でデオキシリボ核酸(DNA)のコピーもしくはレプリコンの相補体が形成されないこと、および/またはRNAレプリコンのコピーもしくはその相補体を形成する過程でデオキシリボ核酸(DNA)分子が鋳型として使用されないことを意味する。レプリカーゼの機能は、典型的には、機能性非構造タンパク質、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって提供される。
【0235】
本発明によれば、「複製され得る」および「複製されることができる」という用語は、一般に、核酸の1つ以上の同一または本質的に同一のコピーを生成することができることを表す。「レプリカーゼ」という用語と共に使用される場合、例えば「レプリカーゼによって複製されることができる」などにおいて、「複製され得る」および「複製されることができる」という用語は、レプリカーゼに関する核酸分子、例えばRNAレプリコンの機能的特徴を表す。これらの機能的特徴は、(i)レプリカーゼがレプリコンを認識することができること、および(ii)レプリカーゼがRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として作用することができることの少なくとも1つを含む。好ましくは、レプリカーゼは、(i)レプリコンを認識すること、および(ii)RNA依存性RNAポリメラーゼとして作用することの両方が可能である。
【0236】
「認識することができる」という表現は、レプリカーゼがレプリコンと物理的に結合することができること、および好ましくは、レプリカーゼが、典型的には非共有結合的に、レプリコンに結合することができることを表す。「結合」という用語は、レプリカーゼが、保存配列要素1(CSE 1)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列要素2(CSE 2)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列要素3(CSE 3)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列要素4(CSE 4)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)のいずれか1つ以上に結合する能力を有することを意味し得る。好ましくは、レプリカーゼは、CSE 2[すなわち(+)鎖]および/もしくはCSE 4[すなわち(+)鎖]に結合することができるか、またはCSE 1の相補体[すなわち(-)鎖]および/もしくはCSE 3の相補体[すなわち(-)鎖]に結合することができる。
【0237】
一実施形態では、「RdRPとして作用することができる」という表現は、レプリカーゼがアルファウイルスゲノム(+)鎖RNAの(-)鎖相補体の合成を触媒することができ、(+)鎖RNAが鋳型機能を有すること、および/またはレプリカーゼが(+)鎖アルファウイルスゲノムRNAの合成を触媒することができ、(-)鎖RNAが鋳型機能を有することを意味する。一般に、「RdRPとして作用することができる」という表現はまた、レプリカーゼが(+)鎖サブゲノム転写物の合成を触媒することができ、(-)鎖RNAが鋳型機能を有し、(+)鎖サブゲノム転写物の合成が、典型的にはサブゲノムプロモータで開始されることを含み得る。一実施形態では、ウイルスはアルファウイルスである。
【0238】
「結合することができる」および「RdRPとして作用することができる」という表現は、通常の生理学的条件における能力を指す。特に、それらは、機能性非構造タンパク質を発現するか、または機能性非構造タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされた細胞内の状態を指す。細胞は、好ましくは真核細胞である。結合する能力および/またはRdRPとして作用する能力は、例えば無細胞インビトロ系または真核細胞において実験的に試験することができる。任意で、前記真核細胞は、レプリカーゼの起源である特定のウイルスが感染性である種に由来する細胞である。例えば、ヒトに対して感染性である特定のウイルス由来のウイルスレプリカーゼが使用される場合、通常の生理学的条件はヒト細胞内の条件である。より好ましくは、真核細胞(一例ではヒト細胞)は、レプリカーゼの起源である特定のウイルスが感染性である同じ組織または器官に由来する。
【0239】
本発明によれば、「天然のアルファウイルス配列と比較して」および同様の用語は、天然のアルファウイルス配列の変異体である配列を指す。変異体は、典型的にはそれ自体天然のアルファウイルス配列ではない。
【0240】
一実施形態では、RNAレプリコンは3’複製認識配列を含む。3’複製認識配列は、機能性非構造タンパク質によって認識され得る核酸配列である。言い換えれば、機能性非構造タンパク質は3’複製認識配列を認識することができる。好ましくは、3’複製認識配列は、レプリコンの3’末端(レプリコンがポリ(A)尾部を含まない場合)、またはポリ(A)尾部のすぐ上流(レプリコンがポリ(A)尾部を含む場合)に位置する。一実施形態では、3’複製認識配列は、CSE 4からなるか、またはCSE 4を含む。
【0241】
一実施形態では、5’複製認識配列および3’複製認識配列は、機能性非構造タンパク質の存在下で本発明によるRNAレプリコンの複製を指示することができる。したがって、単独でまたは好ましくは一緒に存在する場合、これらの認識配列は、機能性非構造タンパク質の存在下でRNAレプリコンの複製を指示する。
【0242】
レプリコンの5’複製認識配列および3’複製認識配列の両方を認識することができる機能性非構造タンパク質が提供されることが好ましい。一実施形態では、これは、3’複製認識配列が、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然である場合、および5’複製認識配列が、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然であるか、または機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然である5’複製認識配列の変異体である場合に達成される。天然とは、これらの配列の天然の起源が同じアルファウイルスであることを意味する。代替的な実施形態では、5’複製認識配列および/または3’複製認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質がレプリコンの5’複製認識配列と3’複製認識配列の両方を認識することができる限り、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然ではない。言い換えれば、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、5’複製認識配列および3’複製認識配列に適合性である。非天然の機能性アルファウイルス非構造タンパク質がそれぞれの配列または配列要素を認識することができる場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は適合性であると言われる(交差ウイルス適合性)。(3’/5’)複製認識配列およびCSEと、機能性アルファウイルス非構造タンパク質とのそれぞれ任意の組合せは、交差ウイルス適合性が存在する限り可能である。交差ウイルス適合性は、RNA複製に適した条件で、例えば適切な宿主細胞において、試験される機能性アルファウイルス非構造タンパク質を、試験される3’および5’複製認識配列を有するRNAと共にインキュベートすることにより、本発明を実施する当業者によって容易に試験され得る。複製が起こる場合、(3’/5’)複製認識配列と機能性アルファウイルス非構造タンパク質は適合性であると決定される。
【0243】
5’複製認識配列内の少なくとも1つの開始コドンの除去は、いくつかの利点を提供する。nsP1*(nsP1のN末端断片)をコードする核酸配列に開始コドンが存在しないことは、典型的にはnsP1*が翻訳されないことを引き起こす。さらに、nsP1*は翻訳されないので、目的のタンパク質(「GOI 2」)をコードするオープンリーディングフレームは、リボソームがアクセス可能な最も上流のオープンリーディングフレームである;したがって、レプリコンが細胞内に存在する場合、翻訳は、目的の遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(RNA)の最初のAUGで開始される。
【0244】
少なくとも1つの開始コドンの除去は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって達成することができる。例えば、本発明によるレプリコンをコードする、すなわち開始コドンの除去を特徴とする適切なDNA分子をインシリコで設計し、その後インビトロで合成することができる(遺伝子合成);あるいは、レプリコンをコードするDNA配列の部位特異的突然変異誘発によって適切なDNA分子が得られ得る。いずれの場合も、それぞれのDNA分子はインビトロ転写のための鋳型として働くことができ、それによって本発明によるレプリコンを提供する。
【0245】
天然の5’複製認識配列と比較した少なくとも1つの開始コドンの除去は、特に限定されず、1つ以上のヌクレオチドの置換(DNAレベルで、開始コドンのAおよび/またはTおよび/またはGの置換を含む)、1つ以上のヌクレオチドの欠失(DNAレベルで、開始コドンのAおよび/またはTおよび/またはGの欠失を含む)、ならびに1つ以上のヌクレオチドの挿入(DNAレベルで、開始コドンのAとTとの間および/またはTとGとの間の1つ以上のヌクレオチドの挿入を含む)を含む、任意のヌクレオチド修飾から選択され得る。ヌクレオチド修飾が置換、挿入または欠失であるかどうかにかかわらず、ヌクレオチド修飾は新たな開始コドンの形成をもたらしてはならない(例示的な例として:DNAレベルでの挿入はATGの挿入であってはならない)。
【0246】
少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5’複製認識配列(すなわち本発明による修飾5’複製認識配列)は、好ましくは自然界で見出されるアルファウイルスのゲノムの5’複製認識配列の変異体である。一実施形態では、本発明による修飾5’複製認識配列は、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのゲノムの5’複製認識配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。
【0247】
一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とし得るRNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの5’末端、すなわちアルファウイルスゲノムの5’末端の約250個のヌクレオチドに相同な配列を含む。好ましい実施形態では、これは、アルファウイルスの5’末端、すなわちアルファウイルスゲノムの5’末端の約250~500個、好ましくは約300~500個のヌクレオチドに相同な配列を含む。「アルファウイルスゲノムの5’末端」とは、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドから始まり、それを含む核酸配列を意味する。言い換えれば、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドは、ヌクレオチド番号1と呼ばれ、例えば「アルファウイルスゲノムの5’末端の250個のヌクレオチド」とは、アルファウイルスゲノムのヌクレオチド1~250を意味する。一実施形態では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのゲノムの5’末端の少なくとも250個のヌクレオチドと80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。少なくとも250個のヌクレオチドは、例えば250個のヌクレオチド、300個のヌクレオチド、400個のヌクレオチド、500個のヌクレオチドを含む。
【0248】
自然界で見出されるアルファウイルスの5’複製認識配列は、典型的には、少なくとも1つの開始コドンおよび/または保存された二次構造モチーフを特徴とする。例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)の天然の5’複製認識配列は、5つの特定のAUG塩基トリプレットを含む。Frolov et al.,2001,RNA 7:1638-1651によれば、MFOLDによる分析は、セムリキ森林ウイルスの天然の5’複製認識配列が、ステムループ1~4(SL1、SL2、SL3、SL4)と呼ばれる4つのステムループ(SL)を形成すると予測されることを明らかにした。Frolov et al.によれば、MFOLDによる分析は、異なるアルファウイルスであるシンドビスウイルスの天然の5’複製認識配列も、4つのステムループ:SL1、SL2、SL3、SL4を形成すると予測されることを明らかにした。
【0249】
アルファウイルスゲノムの5’末端が、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によるアルファウイルスゲノムの複製を可能にする配列要素を含むことは公知である。本発明の一実施形態では、RNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスの保存配列要素1(CSE 1)に相同な配列および/または保存配列要素2(CSE 2)に相同な配列を含む。
【0250】
アルファウイルスゲノムRNAの保存配列要素2(CSE 2)は、典型的には、アルファウイルス非構造タンパク質nsP1の最初のアミノ酸残基をコードする天然の開始コドンを少なくとも含むSL2が先行するSL3およびSL4によって表される。しかしながら、この説明において、いくつかの実施形態では、アルファウイルスゲノムRNAの保存配列要素2(CSE 2)は、SL2からSL4に及び、アルファウイルス非構造タンパク質nsP1の最初のアミノ酸残基をコードする天然の開始コドンを含む領域を指す。好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、CSE 2またはCSE 2に相同な配列を含む。一実施形態では、RNAレプリコンは、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのCSE 2の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする、CSE 2に相同な配列を含む。
【0251】
一実施形態では、5’複製認識配列は、アルファウイルスのCSE 2に相同な配列を含む。アルファウイルスのCSE 2は、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの断片を含み得る。
【0252】
したがって、一実施形態では、RNAレプリコンは、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列を含むことを特徴とする。非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、典型的には、自然界で見出されるアルファウイルスの非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片の変異体である。一実施形態では、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスの非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。
【0253】
一実施形態では、本発明のレプリコンに含まれる非構造タンパク質のオープンリーディングフレームに相同な配列は、非構造タンパク質の天然の開始コドンを含まず、より好ましくは非構造タンパク質のいかなる開始コドンも含まない。好ましい実施形態では、CSE 2に相同な配列は、天然のアルファウイルスCSE 2配列と比較して全ての開始コドンの除去を特徴とする。したがって、CSE 2に相同な配列は、好ましくはいかなる開始コドンも含まない。
【0254】
オープンリーディングフレームに相同な配列がいかなる開始コドンも含まない場合、オープンリーディングフレームに相同な配列は、翻訳の鋳型として機能しないので、それ自体オープンリーディングフレームではない。
【0255】
一実施形態では、5’複製認識配列は、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列を含み、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、天然のアルファウイルス配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0256】
一実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの少なくとも天然の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。好ましくは、前記配列は、nsP1をコードするオープンリーディングフレームの少なくとも天然の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0257】
天然の開始コドンは、宿主細胞にRNAが存在する場合に宿主細胞のリボソーム上での翻訳が始まるAUG塩基トリプレットである。言い換えれば、天然の開始コドンは、例えば天然の開始コドンを含むRNAが接種された宿主細胞において、リボソームタンパク質合成中に翻訳される最初の塩基トリプレットである。一実施形態では、宿主細胞は、天然のアルファウイルス5’複製認識配列を含む特定のアルファウイルスの天然宿主である真核生物種由来の細胞である。一実施形態では、宿主細胞は、American Type Culture Collection,Manassas,Virginia,USAから入手可能な細胞株「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」由来のBHK21細胞である。
【0258】
多くのアルファウイルスのゲノムは完全に配列決定されており、公的にアクセス可能であり、これらのゲノムによってコードされる非構造タンパク質の配列も公的にアクセス可能である。そのような配列情報により、天然の開始コドンをインシリコで決定することが可能である。
【0259】
一実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然の開始コドン以外の1つ以上の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。一実施形態では、前記核酸配列は、天然の開始コドンの除去をさらに特徴とする。例えば、天然の開始コドンの除去に加えて、任意の1つまたは2つまたは3つまたは4つまたは4つより多い(例えば5つの)開始コドンが除去されていてもよい。
【0260】
レプリコンが、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然の開始コドンの除去、および任意で天然の開始コドン以外の1つ以上の開始コドンの除去を特徴とする場合、オープンリーディングフレームに相同な配列は、翻訳のための鋳型として機能しないので、それ自体オープンリーディングフレームではない。
【0261】
好ましくは天然の開始コドンの除去に加えて、除去される天然の開始コドン以外の1つ以上の開始コドンは、好ましくは翻訳を開始する可能性を有するAUG塩基トリプレットから選択される。翻訳を開始する可能性を有するAUG塩基トリプレットは、「潜在的な開始コドン」と呼ばれ得る。所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかは、インシリコまたは細胞ベースのインビトロアッセイで決定することができる。
【0262】
一実施形態では、所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかはインシリコで決定される:その実施形態では、ヌクレオチド配列が調べられ、AUG塩基トリプレットがAUGG配列の一部、好ましくはコザック配列の一部である場合、塩基トリプレットは翻訳を開始する可能性を有すると決定される。
【0263】
一実施形態では、所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかは細胞ベースのインビトロアッセイで決定される:天然の開始コドンの除去を特徴とし、天然の開始コドンの除去位置の下流に所与のAUG塩基トリプレットを含むRNAレプリコンが宿主細胞に導入される。一実施形態では、宿主細胞は、天然のアルファウイルス5’複製認識配列を含む特定のアルファウイルスの天然宿主である真核生物種由来の細胞である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、American Type Culture Collection,Manassas,Virginia,USAから入手可能な細胞株「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」由来のBHK21細胞である。天然の開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。天然の開始コドンの除去を特徴とし、所与のAUG塩基トリプレットを含むRNAレプリコンの宿主細胞への移入後、翻訳が所与のAUG塩基トリプレットで開始される場合、所与のAUG塩基トリプレットは翻訳を開始する可能性を有すると決定される。翻訳が開始されるかどうかは、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって決定され得る。例えば、レプリコンは、所与のAUG塩基トリプレットの下流に、所与のAUG塩基トリプレットとインフレームで、翻訳産物(存在する場合)の検出を容易にするタグ、例えばmycタグまたはHAタグをコードし得る;コードされたタグを有する発現産物が存在するかどうかは、例えばウェスタンブロットによって決定され得る。この実施形態では、所与のAUG塩基トリプレットとタグをコードする核酸配列との間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。細胞ベースのインビトロアッセイは、複数の所与のAUG塩基トリプレットについて個別に実施することができる:各々の場合に、天然の開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。これは、天然の開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間の全てのAUG塩基トリプレット(存在する場合)を除去することによって達成され得る。それにより、所与のAUG塩基トリプレットは、天然の開始コドンの除去位置の下流の最初のAUG塩基トリプレットである。
【0264】
好ましくは、本発明によるRNAレプリコンの5’複製認識配列は、全ての潜在的な開始コドンの除去を特徴とする。したがって、本発明によれば、5’複製認識配列は、好ましくは、タンパク質に翻訳され得るオープンリーディングフレームを含まない。
【0265】
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンの5’複製認識配列は、ウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の(予測される)二次構造に相当する二次構造を特徴とする。この目的のために、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入された1つ以上のステムループ内のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化を含み得る。
【0266】
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の二次構造に相当する二次構造を特徴とする。好ましい実施形態では、本発明によるRNAレプリコンの5’複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5’複製認識配列の予測される二次構造に相当する予測二次構造を特徴とする。本発明によれば、RNA分子の二次構造は、好ましくはRNA二次構造予測のためのウェブサーバ、http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.htmlによって予測される。
【0267】
天然のアルファウイルス5’複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5’複製認識配列の二次構造または予測二次構造を比較することによって、ヌクレオチド対合破壊の有無を同定することができる。例えば、天然のアルファウイルス5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの塩基対、例えばステムループ内、特にステムループのステム内の塩基対が所与の位置に存在しない場合がある。
【0268】
一実施形態では、5’複製認識配列の1つ以上のステムループは、欠失または破壊されない。より好ましくは、ステムループ3および4は欠失または破壊されない。好ましくは、5’複製認識配列のステムループのいずれも欠失または破壊されない。
【0269】
一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5’複製認識配列の二次構造を破壊しない。代替的な実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5’複製認識配列の二次構造を破壊する。この実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、天然の5’複製認識配列と比較して、所与の位置に少なくとも1つの塩基対、例えばステムループ内の塩基対が存在しない原因となり得る。ステムループ内に塩基対が存在しない場合、天然の5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去は、ステムループ内にヌクレオチド対合破壊を導入すると決定される。ステムループ内の塩基対は、典型的にはステムループのステム内の塩基対である。
【0270】
一実施形態では、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入された1つ以上のステムループ内のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化を含む。
【0271】
少なくとも1つの開始コドンの除去がステムループ内にヌクレオチド対合破壊を導入する場合、天然の5’複製認識配列と比較して、ヌクレオチド対合破壊を補償すると予想される1つ以上のヌクレオチド変化が導入され得、それによって得られる二次構造または予測二次構造を天然の5’複製認識配列と比較し得る。
【0272】
共通の一般的知識および本明細書の開示に基づいて、特定のヌクレオチド変化は、ヌクレオチド対合破壊を補償すると当業者によって予想され得る。例えば、天然の5’複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの所与の5’複製認識配列の二次構造または予測二次構造の所与の位置で塩基対が破壊された場合、好ましくは開始コドンを再導入することなく、その位置で塩基対を復元するヌクレオチド変化は、ヌクレオチド対合破壊を補償すると予想される。
【0273】
一実施形態では、レプリコンの5’複製認識配列は、翻訳可能な核酸配列、すなわちペプチドもしくはタンパク質、特にnsP、特にnsP1、またはそのいずれかの断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。ヌクレオチド配列が「翻訳可能」であるためには、開始コドンの存在を必要とする;開始コドンは、ペプチドまたはタンパク質の最もN末端側のアミノ酸残基をコードする。一実施形態では、レプリコンの5’複製認識配列は、nsP1のN末端断片をコードする翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。
【0274】
いくつかの状況では、RNAレプリコンは少なくとも1つのサブゲノムプロモータを含む。好ましい実施形態では、レプリコンのサブゲノムプロモータは、翻訳可能な核酸配列、すなわちペプチドもしくはタンパク質、特にnsP、特にnsP4、またはそのいずれかの断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。一実施形態では、レプリコンのサブゲノムプロモータは、nsP4のC末端断片をコードする翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。翻訳可能な核酸配列、例えばnsP4のC末端断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まないサブゲノムプロモータを有するRNAレプリコンは、nsP4のコード配列の一部(典型的にはnsP4のN末端部分をコードする部分)を欠失させることによって、および/または欠失されていないnsP4のコード配列の一部のAUG塩基トリプレットを除去することによって生成され得る。nsP4のコード配列またはその一部のAUG塩基トリプレットが除去される場合、除去されるAUG塩基トリプレットは、好ましくは潜在的な開始コドンである。あるいは、サブゲノムプロモータがnsP4をコードする核酸配列と重複しない場合、nsP4をコードする核酸配列全体を欠失させてもよい。
【0275】
一実施形態では、RNAレプリコンは、トランケートされた非構造タンパク質、例えばトランケートされたアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施形態の文脈において、RNAレプリコンがnsP1のN末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まず、任意でnsP4のC末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが特に好ましい。nsP1のN末端断片は、トランケートされたアルファウイルスタンパク質である;nsP4のC末端断片も、トランケートされたアルファウイルスタンパク質である。
【0276】
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは、アルファウイルスのゲノムの5’末端のステムループ2(SL2)を含まない。上記のFrolov et al.によれば、ステムループ2は、CSE 2の上流の、アルファウイルスのゲノムの5’末端に見出される保存された二次構造であるが、複製に必須ではない。
【0277】
本発明によるRNAレプリコンは、好ましくは一本鎖RNA分子である。本発明によるRNAレプリコンは、典型的には(+)鎖RNA分子である。一実施形態では、本発明のRNAレプリコンは、単離された核酸分子である。本発明によるRNAレプリコンは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含み、好ましくは1つ以上の配列変化、特に少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含むrRNAの機能を回復または改善する配列変化を同定するための本明細書に開示される方法によって検出される配列変化を含む。
【0278】
少なくとも1つの目的の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレーム
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、目的のペプチドまたは目的のタンパク質などの目的の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む。好ましくは、目的のタンパク質は異種核酸配列によってコードされる。目的のペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子は、同義的に「目的の遺伝子」または「導入遺伝子」と呼ばれる。様々な実施形態では、目的のペプチドまたはタンパク質は異種核酸配列によってコードされる。本発明によれば、「異種」という用語は、核酸配列が天然ではウイルス核酸配列、例えばアルファウイルス核酸配列に機能的または構造的に連結されていないという事実を指す。
【0279】
本発明によるレプリコンは、単一のポリペプチドまたは複数のポリペプチドをコードし得る。複数のポリペプチドは、単一のポリペプチド(融合ポリペプチド)として、または別個のポリペプチドとしてコードされ得る。いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは複数のオープンリーディングフレームを含み得、その各々は独立して、サブゲノムプロモータの制御下にあるか否かが選択され得る。あるいは、ポリタンパク質または融合ポリペプチドは、2A自己切断ペプチド(例えば口蹄疫ウイルス2Aタンパク質由来)またはプロテアーゼ切断部位またはインテインによって分離された個々のポリペプチドを含む。
【0280】
目的のタンパク質は、例えば、レポータタンパク質、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質、細胞内インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤からなる群より選択され得る。本発明によれば、目的のタンパク質は、好ましくは、自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質を含まない。
【0281】
レポータタンパク質
一実施形態では、オープンリーディングフレームは、レポータタンパク質、例えばCD90などの細胞表面発現タンパク質をコードする。その実施形態では、オープンリーディングフレームはレポータ遺伝子を含む。特定の遺伝子がそれらを発現する細胞または生物に付与する特徴は容易に同定および測定され得るため、またはそれらが選択マーカであるため、特定の遺伝子はレポータとして選択され得る。レポータ遺伝子は、特定の遺伝子が細胞または生物の集団によって取り込まれたかまたはそれらにおいて発現されたかどうかの指標として使用されることが多い。好ましくは、レポータ遺伝子の発現産物は視覚的に検出可能である。一般的な視覚的に検出可能なレポータタンパク質は、典型的には、蛍光または発光タンパク質を有する。具体的なレポータ遺伝子の例としては、それを発現する細胞を青色光下で緑色に発光させるクラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンとの反応を触媒して光を生成する酵素ルシフェラーゼ、および赤色蛍光タンパク質(RFP)をコードする遺伝子が挙げられる。これらの特異的レポータ遺伝子のいずれかの変異体は、視覚的に検出可能な特性を有する限り可能である。例えば、eGFPはGFPの点突然変異体である。レポータタンパク質の実施形態は、発現を試験するのに特に適する。
【0282】
ペプチドまたはタンパク質または核酸などの薬学的に活性な遺伝子産物
本発明によれば、一実施形態では、rRNAは、薬学的に活性なrRNAを含むか、またはそれからなる。「薬学的に活性なRNA」は、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードするRNAであり得る。好ましくは、本発明によるRNAレプリコンは、薬学的に活性なペプチドもしくはタンパク質または他の遺伝子産物をコードする。好ましくは、オープンリーディングフレームは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする。好ましくは、RNAレプリコンは、任意でサブゲノムプロモータの制御下で、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0283】
「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」は、治療有効量で対象に投与された場合、対象の状態または病態に対してプラスのまたは有利な効果を及ぼす。好ましくは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、治癒特性または緩和特性を有し、疾患または障害の1つ以上の症状を改善する、軽減する、緩和する、逆転させる、発症を遅延させるまたは重症度を軽減するために投与され得る。薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、予防特性を有し得、疾患の発症を遅延させるため、またはそのような疾患もしくは病的状態の重症度を軽減するために使用され得る。「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、タンパク質またはポリペプチド全体を含み、その薬学的に活性な断片も指すことができる。この用語はまた、ペプチドまたはタンパク質の薬学的に活性な類似体を含み得る。「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、抗原であるペプチドおよびタンパク質を含み、すなわち、ペプチドまたはタンパク質は、治療的または部分的もしくは完全に保護的であり得る免疫応答を対象において誘発する。
【0284】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、免疫学的に活性な化合物または抗原またはエピトープであるか、またはそれらを含む。
【0285】
本発明によれば、「免疫学的に活性な化合物」という用語は、好ましくは免疫細胞の成熟を誘導および/もしくは抑制する、サイトカイン生合成を誘導および/もしくは抑制する、ならびに/またはB細胞による抗体産生を刺激することにより体液性免疫を変化させることによって、免疫応答を変化させる任意の化合物に関する。一実施形態では、免疫応答は、抗体応答(通常、免疫グロブリンG(IgG)を含む)の刺激を含む。免疫学的に活性な化合物は、抗ウイルス活性および抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない強力な免疫刺激活性を有し、また、免疫応答の他の局面を下方制御する、例えば免疫応答をTh2免疫応答からシフトさせることもでき、これは、広範囲のTh2媒介疾患を治療するのに有用である。
【0286】
本発明によれば、「抗原」または「免疫原」という用語は、免疫応答を誘発する任意の物質を包含する。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含有する任意の分子を含む。好ましくは、本発明の文脈における抗原は、任意でプロセシング後に、好ましくは抗原に特異的な免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、免疫反応の候補である任意の適切な抗原を使用することができ、免疫反応は体液性および細胞性免疫反応の両方であり得る。本発明の実施形態の文脈において、抗原は、好ましくは細胞によって、好ましくは抗原提示細胞によって、MHC分子に関連して提示され、抗原に対する免疫反応をもたらす。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するまたは由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物ならびに他の感染性因子および病原体を含んでもよく、もしくはそれらに由来してもよく、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は、天然に存在する生成物、例えばウイルスタンパク質、またはその一部に対応し得る。好ましい実施形態では、抗原は、表面ポリペプチド、すなわち細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、または腫瘍の表面に天然に提示されるポリペプチドである。抗原は、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲンまたは腫瘍に対する免疫応答を誘発し得る。
【0287】
「病原体」という用語は、生物、好ましくは脊椎動物において疾患を引き起こすことができる病原性の生物学的物質を指す。病原体には、細菌、単細胞真核生物(原生動物)、真菌、ならびにウイルスなどの微生物が含まれる。
【0288】
「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」および「MHC結合ペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用され、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち免疫系によって認識される、例えば、特にMHC分子に関連して提示された場合にT細胞によって認識される、免疫学的に活性な化合物の一部または断片を指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25アミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。本発明によれば、エピトープは、細胞の表面上のMHC分子などのMHC分子に結合することができ、したがって、「MHC結合ペプチド」または「抗原ペプチド」であり得る。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子はペプチドに結合し、T細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面上に発現され、自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)および非自己抗原(例えば侵入微生物の断片)の両方をT細胞に表示する。好ましいそのような免疫原性部分は、MHCクラスIまたはクラスII分子に結合する。本明細書で使用される場合、免疫原性部分は、そのような結合が当技術分野で公知の任意のアッセイを使用して検出可能である場合、MHCクラスIまたはクラスII分子に「結合する」と言われる。「MHC結合ペプチド」という用語は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には8~10アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドが有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には10~25アミノ酸長であり、特に13~18アミノ酸長であるが、より長いおよびより短いペプチドが有効であり得る。
【0289】
一実施形態では、本発明による目的のタンパク質は、標的生物のワクチン接種に適したエピトープを含む。当業者は、免疫生物学およびワクチン接種の原理の1つが、治療される疾患に関して免疫学的に関連する抗原で生物を免疫することによって疾患に対する免疫保護反応が生じるという事実に基づくことを理解している。本発明によれば、抗原は、自己抗原および非自己抗原を含む群から選択される。非自己抗原は、好ましくは細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、アレルゲンまたは寄生生物抗原である。抗原は、標的生物において免疫応答を誘発することができるエピトープを含むことが好ましい。例えば、エピトープは、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、または腫瘍に対する免疫応答を誘発し得る。
【0290】
いくつかの実施形態では、非自己抗原は細菌抗原である。いくつかの実施形態では、抗原は、鳥類、魚類、および家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する細菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発される細菌は病原性細菌である。
【0291】
いくつかの実施形態では、非自己抗原はウイルス抗原である。ウイルス抗原は、例えばウイルス表面タンパク質由来のペプチド、例えばカプシドポリペプチドまたはスパイクポリペプチド、例えばコロナウイルス属(Coronavirus)由来のペプチドであり得る。いくつかの実施形態では、抗原は、鳥類、魚類および家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染するウイルスに対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発されるウイルスは病原性ウイルスである。
【0292】
いくつかの実施形態では、非自己抗原は、真菌由来のポリペプチドまたはタンパク質である。いくつかの実施形態では、抗原は、鳥類、魚類および家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する真菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、免疫応答が誘発される真菌は病原性真菌である。
【0293】
いくつかの実施形態では、非自己抗原は、単細胞真核生物寄生虫由来のポリペプチドまたはタンパク質である。いくつかの実施形態では、抗原は、単細胞真核生物寄生虫、好ましくは病原性単細胞真核生物寄生虫に対する免疫応答を誘発する。病原性単細胞真核生物寄生虫は、例えば、プラスモジウム属(genus Plasmodium)、例えば熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)もしくは卵形マラリア原虫(P.ovale)、リーシュマニア属(genus Leishmania)、またはトリパノソーマ属(genus Trypanosoma)、例えばクルーズトリパノソーマ(T.cruzi)もしくはブルーストリパノソーマ(T.brucei)に由来し得る。
【0294】
いくつかの実施形態では、非自己抗原は、アレルゲン性ポリペプチドまたはアレルゲン性タンパク質である。アレルゲン性タンパク質またはアレルゲン性ポリペプチドは、減感作としても公知のアレルゲン免疫療法に適する。
【0295】
いくつかの実施形態では、抗原は自己抗原、特に腫瘍抗原である。腫瘍抗原およびそれらの決定は当業者に公知である。
【0296】
本発明に関連して、「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下では限られた数の組織および/もしくは器官において、または特定の発生段階において特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍抗原は、正常条件下では胃組織、好ましくは胃粘膜、生殖器官、例えば精巣、栄養膜組織、例えば胎盤、または生殖系列細胞で特異的に発現され得、1つ以上の腫瘍または癌組織で発現されるかまたは異常発現される。これに関連して、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明に関連して腫瘍抗原としては、例えば、分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の分化段階で特定の細胞型において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣および時には胎盤において特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が挙げられる。本発明に関連して、腫瘍抗原は、好ましくは癌細胞の細胞表面と会合しており、好ましくは正常組織では発現されないか、またはまれにしか発現されない。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原の異常発現は、癌細胞を同定する。本発明に関連して、対象、例えば癌疾患に罹患している患者において癌細胞によって発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明に関連して腫瘍抗原は、正常条件下では非必須である組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合に対象の死をもたらさない組織もしくは器官において、または免疫系がアクセスできないかもしくはほとんどアクセスできない身体の器官もしくは構造において特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍抗原と癌組織で発現される腫瘍抗原とで同一である。
【0297】
本発明において有用であり得る腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、β-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン-6、クローディン-18.2およびクローディン-12などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTEおよびWTである。特に好ましい腫瘍抗原としては、クローディン18.2(CLDN18.2)およびクローディン6(CLDN6)が挙げられる。
【0298】
いくつかの実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、免疫応答を誘発する抗原である必要はない。適切な薬学的に活性なタンパク質またはペプチドは、サイトカインおよび免疫系タンパク質、例えば免疫学的に活性な化合物(例えば、インターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレシン、セレチン、ホーミング受容体、T細胞受容体、キメラ抗原受容体(CAR)、免疫グロブリン)、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、栄養ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロピン、レプチンなど)、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、成長因子(例えば上皮成長因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子など)、成長因子受容体、酵素(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、コレステロール生合成または分解性酵素、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、シトクロム、アデニル酸またはグアニル酸シクラーゼ、ノイラミニダーゼなど)、受容体(ステロイドホルモン受容体、ペプチド受容体)、結合タンパク質(成長ホルモンまたは成長因子結合タンパク質など)、転写および翻訳因子、腫瘍成長抑制タンパク質(例えば血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチン、ミオシンなど)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、第VII因子、第VIII因子、インスリン、第IX因子、第X因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、プロテインC、フォン・ヴィレブランド因子、アンチトロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)または修飾第VIII因子、抗凝固因子などからなる群より選択され得る。一実施形態では、本発明による薬学的に活性なタンパク質は、リンパ系ホメオスタシスの調節に関与するサイトカイン、好ましくはT細胞の発生、プライミング、拡大、分化および/または生存に関与し、好ましくはそれらを誘導または増強するサイトカインである。一実施形態では、サイトカインは、インターロイキン、例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15、またはIL-21である。
【0299】
インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤
オープンリーディングフレームによってコードされる目的のさらなる適切なタンパク質は、インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤である。発現のためにRNAが導入された細胞の生存能力が、特に細胞がRNAで複数回トランスフェクトされた場合、低下し得ることが報告されているが、IFN阻害剤は、RNAが発現される細胞の生存能力を高めることが見出された(国際公開第2014/071963 A1号)。好ましくは、阻害剤は、I型IFNシグナル伝達の阻害剤である。細胞外IFNによるIFN受容体の係合を防止し、細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、細胞内でのRNAの安定な発現を可能する。あるいはまたはさらに、細胞外IFNによるIFN受容体の係合を防止し、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、特に細胞がRNAで繰り返しトランスフェクトされる場合、細胞の生存を増強する。理論に拘束されることを望むものではないが、細胞内IFNシグナル伝達は、翻訳の阻害および/またはRNA分解をもたらし得ることが想定される。これは、1つ以上のIFN誘導性の抗ウイルス活性エフェクタタンパク質を阻害することによって対処することができる。IFN誘導性の抗ウイルス活性エフェクタタンパク質は、RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)、2’,5’-オリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS)およびRNaseLからなる群より選択することができる。細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、PKR依存性経路および/またはOAS依存性経路を阻害することを含み得る。目的の適切なタンパク質は、PKR依存性経路および/またはOAS依存性経路を阻害することができるタンパク質である。PKR依存性経路を阻害することは、eIF2-αリン酸化を阻害することを含み得る。PKRを阻害することは、少なくとも1つのPKR阻害剤で細胞を処理することを含み得る。PKR阻害剤は、PKRのウイルス阻害剤であり得る。PKRの好ましいウイルス阻害剤は、ワクシニアウイルスE3である。ペプチドまたはタンパク質(例えばE3、K3)が細胞内IFNシグナル伝達を阻害するものである場合、ペプチドまたはタンパク質の細胞内発現が好ましい。ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合し、これを隔離してPKRおよびOASの活性化を妨げる25kDaのdsRNA結合タンパク質(遺伝子E3Lによってコードされる)である。E3は、PKRに直接結合することができ、その活性を阻害し、eIF2-αのリン酸化の低減をもたらす。IFNシグナル伝達の他の適切な阻害剤は、単純ヘルペスウイルスICP34.5、インフルエンザウイルスNS1、トスカナウイルスNS、カイコ核多角体病ウイルスPK2、およびHCV NS34Aである。
【0300】
rRNA分子中の少なくとも1つのオープンリーディングフレームの位置
rRNAレプリコンは、任意でサブゲノムプロモータの制御下で、目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の発現に適する。様々な実施形態が可能である。それぞれが目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードする1つ以上のオープンリーディングフレームがRNAレプリコン上に存在し得る。RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームは、「第1のオープンリーディングフレーム」と呼ばれる。一実施形態では、目的のタンパク質をコードする第1のオープンリーディングフレームは、5’複製認識配列の下流かつIRES(および自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム)の上流に位置する。いくつかの実施形態では、「第1のオープンリーディングフレーム」は、RNAレプリコンの唯一のオープンリーディングフレームである。任意で、1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームが第1のオープンリーディングフレームの下流に存在してもよい。第1のオープンリーディングフレームの下流の1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、それらが第1のオープンリーディングフレームの下流に存在する順序(5’から3’へ)で、「第2のオープンリーディングフレーム」、「第3のオープンリーディングフレーム」などと呼ばれ得る。一実施形態では、1つ以上の目的のタンパク質をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、自己複製ウイルス由来の機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの下流に位置し、好ましくはサブゲノムプロモータによって制御される。好ましくは、各オープンリーディングフレームは、開始コドン(塩基トリプレット)、典型的にはATG(それぞれのDNA分子中)に対応するAUG(RNA分子中)を含む。
【0301】
レプリコンが3’複製認識配列を含む場合、全てのオープンリーディングフレームが3’複製認識配列の上流に局在することが好ましい。
【0302】
いくつかの実施形態では、レプリコンの少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータ、好ましくはアルファウイルスサブゲノムプロモータの制御下にある。アルファウイルスサブゲノムプロモータは非常に効率的であり、したがって高レベルでの異種遺伝子発現に適する。好ましくは、サブゲノムプロモータは、アルファウイルスにおけるサブゲノム転写物のためのプロモータである。これは、サブゲノムプロモータが、アルファウイルスに天然であり、好ましくは前記アルファウイルス中の1つ以上の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの転写を制御するものであることを意味する。あるいは、サブゲノムプロモータは、アルファウイルスのサブゲノムプロモータの変異体であり、宿主細胞におけるサブゲノムRNA転写のためのプロモータとして機能する任意の変異体が適切である。レプリコンがサブゲノムプロモータを含む場合、レプリコンは、保存配列要素3(CSE 3)またはその変異体を含むことが好ましい。
【0303】
好ましくは、サブゲノムプロモータの制御下にある少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータの下流に局在する。好ましくは、サブゲノムプロモータは、オープンリーディングフレームの転写物を含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0304】
いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはサブゲノムプロモータの制御下にある。一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモータの制御下にある場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、レプリコンおよびそのサブゲノム転写物の両方から発現され得る(後者は機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で)。それぞれがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータの制御下にあり得る第1のオープンリーディングフレームの下流に存在し得る。1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームによって、例えば第2のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、それぞれサブゲノムプロモータの制御下で、1つ以上のサブゲノム転写物から翻訳され得る。例えば、RNAレプリコンは、目的の第2のタンパク質をコードする転写物の産生を制御するサブゲノムプロモータを含み得る。
【0305】
他の実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはサブゲノムプロモータの制御下にない。一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモータの制御下にない場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子はレプリコンから発現され得る。それぞれがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在し得る。1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、サブゲノム転写物から発現され得る。
【0306】
本発明によるレプリコンを含む細胞では、レプリコンは機能性非構造タンパク質によって増幅され得る。さらに、レプリコンがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のオープンリーディングフレームを含む場合、1つ以上のサブゲノム転写物は機能性非構造タンパク質によって生成されると予想される。
【0307】
レプリコンが目的のタンパク質をコードする複数のオープンリーディングフレームを含む場合、各オープンリーディングフレームは異なるタンパク質をコードすることが好ましい。例えば、第2のオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質とは異なる。
【0308】
本発明による複製可能なRNA分子の他の特徴
本発明によるRNA分子は、任意で、以下に詳述するように、さらなる特徴、例えば5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列、ならびに/またはRNA分子の最適化された翻訳および/もしくは安定化のためのコドン使用頻度の適合によって特徴付けられ得る。
【0309】
キャップ
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは5’キャップを含む。
【0310】
「5’’キャップ」、「キャップ」、「5’キャップ構造」、「キャップ構造」という用語は、前駆体メッセンジャRNAなどのいくつかの真核生物一次転写物の5’末端に見出されるジヌクレオチドを指すために同義的に使用される。5’キャップは、(任意で修飾された)グアノシンが5’-5’三リン酸結合(または特定のキャップ類似体の場合は修飾三リン酸結合)を介してmRNA分子の最初のヌクレオチドに結合している構造である。これらの用語は、従来のキャップまたはキャップ類似体を指すことができる。
【0311】
「5’キャップを含むRNA」または「5’キャップを備えたRNA」または「5’キャップで修飾されたRNA」または「キャップされたRNA」は、5’キャップを含むRNAを指す。例えば、RNAに5’キャップを提供することは、前記5’キャップの存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成され得、前記5’キャップは、生成されたRNA鎖に共転写的に組み込まれるか、または、例えばインビトロ転写によってRNAが生成され得、5’キャップは、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに結合され得る。キャップされたRNAでは、(キャップされた)RNA分子の最初の塩基の3’位置は、ホスホジエステル結合を介してRNA分子の次の塩基(「第2の塩基」)の5’位置に連結されている。
【0312】
一実施形態では、RNAレプリコンは5’キャップを含む。一実施形態では、RNAレプリコンは5’キャップを含まない。
【0313】
「従来の5’キャップ」という用語は、天然に存在する5’キャップ、好ましくは7-メチルグアノシンキャップを指す。7-メチルグアノシンキャップでは、キャップのグアノシンは修飾グアノシンであり、修飾は7位のメチル化からなる。
【0314】
本発明の文脈において、「5’キャップ類似体」という用語は、従来の5’キャップに類似するが、好ましくはインビボおよび/または細胞内で、RNAに結合した場合にRNAを安定化する能力を有するように修飾された分子構造を指す。キャップ類似体は従来の5’キャップではない。
【0315】
真核生物mRNAの場合、5’キャップは一般にmRNAの効率的な翻訳に関与すると記載されている:一般に、真核生物では、翻訳は、内部リボソーム進入部位(IRES)が存在しない限り、メッセンジャRNA(mRNA)分子の5’末端でのみ開始される。真核細胞は、核内での転写中にRNAに5’キャップを提供することができる:新たに合成されたmRNAは通常、例えば転写物が20~30ヌクレオチドの長さに達すると、5’キャップ構造で修飾される。最初に、5’末端ヌクレオチドpppN(pppは三リン酸を表す;Nは任意のヌクレオシドを表す)は、RNA 5’-トリホスファターゼおよびグアニリルトランスフェラーゼ活性を有するキャッピング酵素によって細胞内で5’GpppNに変換される。GpppNは、その後、(グアニン-7)-メチルトランスフェラーゼ活性を有する第2の酵素によって細胞内でメチル化されて、モノメチル化mGpppNキャップを形成し得る。一実施形態では、本発明で使用される5’キャップは、天然の5’キャップである。
【0316】
本発明では、天然の5’キャップジヌクレオチドは、典型的には、非メチル化キャップジヌクレオチド(G(5’)ppp(5’)N;GpppNとも呼ばれる)およびメチル化キャップジヌクレオチド(mG(5’)ppp(5’)N;mGpppNとも呼ばれる)からなる群より選択される。mGpppN(NはGである)は、以下の式:
【化8】
によって表される。
【0317】
本発明のキャップされたRNAは、インビトロで調製することができ、したがって、宿主細胞におけるキャッピング機構に依存しない。キャップされたRNAをインビトロで作製するために最も頻繁に使用される方法は、4つ全てのリボヌクレオシド三リン酸およびmG(5’)ppp(5’)G(mGpppGとも呼ばれる)などのキャップジヌクレオチドの存在下で、細菌またはバクテリオファージRNAポリメラーゼのいずれかでDNA鋳型を転写することである。RNAポリメラーゼは、次の鋳型ヌクレオシド三リン酸(pppN)のα-リン酸に対するmGpppGのグアノシン部分の3’-OHによる求核攻撃で転写を開始し、中間体mGpppGpN(NはRNA分子の第2の塩基である)をもたらす。競合するGTP開始産物pppGpNの形成は、インビトロ転写中のキャップ対GTPのモル比を5~10に設定することによって抑制される。
【0318】
本発明の好ましい実施形態では、5’キャップ(存在する場合)は5’キャップ類似体である。これらの実施形態は、RNAがインビトロ転写によって得られる、例えばインビトロ転写RNA(IVT-RNA)である場合に特に適する。キャップ類似体は、最初に、インビトロ転写によってRNA転写物の大規模合成を促進すると記載されている。
【0319】
メッセンジャRNAについては、いくつかのキャップ類似体(合成キャップ)がこれまでに一般的に記載されており、それらは全て本発明の文脈で使用することができる。理想的には、より高い翻訳効率および/またはインビボ分解に対する増大した耐性および/またはインビトロ分解に対する増大した耐性に関連するキャップ類似体が選択される。
【0320】
好ましくは、一方向でのみRNA鎖に組み込むことができるキャップ類似体が使用される。Pasquinelli et al.(1995,RNA J.1:957-967)は、インビトロ転写中に、バクテリオファージRNAポリメラーゼが転写の開始のために7-メチルグアノシン単位を使用し、それによりキャップを有する転写物の約40~50%がキャップジヌクレオチドを逆方向に有する(すなわち最初の反応産物はGpppmGpNである)ことを実証した。正しいキャップを有するRNAと比較して、逆キャップを有するRNAは、核酸配列のタンパク質への翻訳に関して機能的ではない。したがって、キャップを正しい方向に組み込むこと、すなわち、mGpppGpNなどに本質的に対応する構造を有するRNAが得られることが望ましい。キャップジヌクレオチドの逆方向組み込みは、メチル化グアノシン単位の2’-OH基または3’-OH基のいずれかの置換によって阻害されることが示されている(Stepinski et al.,2001,RNA J.7:1486-1495;Peng et al.,2002,Org.Lett.24:161-164)。そのような「アンチリバースキャップ類似体」の存在下で合成されるRNAは、従来の5’キャップmGpppGの存在下でインビトロ転写されるRNAよりも効率的に翻訳される。そのために、メチル化グアノシン単位の3’OH基がOCHで置き換えられた1つのキャップ類似体が、例えば、Holtkamp et al.,2006,Blood 108:4009-4017によって記載されている(7-メチル(3’-O-メチル)GpppG;アンチリバースキャップ類似体(ARCA))。ARCAは、本発明による適切なキャップジヌクレオチドである。
【化9】
【0321】
一実施形態では、本発明のRNAは、本質的にキャップ除去を受けにくい。一般に、培養哺乳動物細胞に導入された合成mRNAから産生されるタンパク質の量はmRNAの自然分解によって制限されるため、これは重要である。mRNA分解の1つのインビボ経路は、mRNAキャップの除去から始まる。この除去は、調節サブユニット(Dcp1)および触媒サブユニット(Dcp2)を含むヘテロ二量体ピロホスファターゼによって触媒される。触媒サブユニットは、三リン酸架橋のαリン酸基とβリン酸基との間を切断する。本発明では、この種の切断を受けにくいか、またはより受けにくいキャップ類似体が選択され得るか、または存在し得る。この目的のための適切なキャップ類似体は、式(I):
【化10】
に従うキャップジヌクレオチドから選択され得、
ここで、Rは、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはRとRは一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)、およびC(CHからなる群より選択される]を形成するか、またはRは、Rが結合している環の4’位の水素原子と結合して-O-CH-または-CH-O-を形成し、
は、S、Se、およびBHからなるグループから選択され、
およびRは、O、S、Se、およびBHからなる群より独立して選択される。
【0322】
nは、1、2、または3である。
【0323】
、R、R3、R、R、Rの好ましい実施形態は、国際公開第2011/015347 A1号に開示されており、本発明ではそれに応じて選択され得る。
【0324】
例えば、一実施形態では、本発明のRNAは、ホスホロチオエートキャップ類似体を含む。ホスホロチオエートキャップ類似体は、三リン酸鎖の3つの非架橋O原子の1つがS原子で置換されている、すなわち式(I)のR、RまたはRの1つがSである特定のキャップ類似体である。ホスホロチオエートキャップ類似体は、望ましくないキャップ除去プロセスに対する解決策、したがってインビボでのRNAの安定性を高めるための解決策として、J.Kowalska et al.,2008,RNA,14:1119-1131によって記載されている。特に、5’キャップのβリン酸基における硫黄原子を酸素原子に置換すると、Dcp2に対する安定化をもたらす。本発明において好ましいその実施形態では、式(I)のRはSであり、RおよびRはOである。
【0325】
さらなる実施形態では、本発明のRNAは、RNA 5’キャップのホスホロチオエート修飾が「アンチリバースキャップ類似体」(ARCA)修飾と組み合わされたホスホロチオエートキャップ類似体を含む。それぞれのARCA-ホスホロチオエートキャップ類似体は、国際公開第2008/157688 A2号に記載されており、それらは全て本発明のRNAに使用することができる。その実施形態では、式(I)のRまたはRの少なくとも一方はOHではなく、好ましくはRおよびRの一方はメトキシ(OCH)であり、RおよびRの他方は、好ましくはOHである。好ましい実施形態では、酸素原子は、βリン酸基において硫黄原子に置換される(したがって、式(I)のRはSであり、RおよびRはOである)。ARCAのホスホロチオエート修飾は、α、β、およびγホスホロチオエート基が翻訳機構およびキャップ除去機構の両方でキャップ結合タンパク質の活性部位内に正確に配置されることを確実にすると考えられている。これらの類似体の少なくともいくつかは、本質的にピロホスファターゼDcp1/Dcp2に耐性である。ホスホロチオエート修飾ARCAは、ホスホロチオエート基を欠く対応するARCAよりも、eIF4Eに対してはるかに高い親和性を有すると記載された。
【0326】
本発明において特に好ましいそれぞれのキャップ類似体、すなわちm2’ 7,2’-OGpppGは、β-S-ARCAと呼ばれる(国際公開第2008/157688 A2号;Kuhn et al.,2010,Gene Ther.17:961-971)。したがって、本発明の一実施形態では、本発明のRNAはβ-S-ARCAで修飾されている。β-S-ARCAは以下の構造:
【化11】
によって表される。
【0327】
一般に、架橋リン酸塩の硫黄原子を酸素原子に置き換えると、HPLCにおけるそれらの溶出パターンに基づいて、D1およびD2と呼ばれるホスホロチオエートジアステレオマーをもたらす。手短に言えば、β-S-ARCAのD1ジアステレオマー」または「β-S-ARCA(D1)」は、β-S-ARCAのD2ジアステレオマー(β-S-ARCA(D2))と比較してHPLCカラムで最初に溶出し、したがってより短い保持時間を示すβ-S-ARCAのジアステレオマーである。HPLCによる立体化学的配置の決定は、国際公開第2011/015347 A1号に記載されている。
【0328】
本発明の第1の特に好ましい実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCA(D2)ジアステレオマーで修飾される。β-S-ARCAの2つのジアステレオマーは、ヌクレアーゼに対する感受性が異なる。β-S-ARCAのD2ジアステレオマーを担持するRNAは、Dcp2切断に対してほぼ完全に耐性である(非修飾ARCA 5’キャップの存在下で合成されたRNAと比較してわずか6%の切断)が、β-S-ARCA(D1)5’キャップを有するRNAは、Dcp2切断に対して中程度の感受性を示す(71%の切断)ことが示されている。Dcp2切断に対する安定性の増加は、哺乳動物細胞におけるタンパク質発現の増加と相関することがさらに示されている。特に、β-S-ARCA(D2)キャップを担持するRNAは、哺乳動物細胞においてβ-S-ARCA(D1)キャップを担持するRNAよりも効率的に翻訳されることが示されている。したがって、本発明の一実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCAのD2ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、式(I)の置換基Rを含むP原子における立体化学的配置を特徴とする、式(I)に従うキャップ類似体で修飾される。その実施形態では、式(I)のRはSであり、RおよびRはOである。さらに、式(I)のRまたはRの少なくとも一方は、好ましくはOHではなく、好ましくはRおよびRの一方はメトキシ(OCH3)であり、RおよびRの他方は、好ましくはOHである。
【0329】
第2の特に好ましい実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCA(D1)ジアステレオマーで修飾されている。この実施形態は、ワクチン接種目的などのための、キャップされたRNAの未成熟抗原提示細胞への移入に特に適する。β-S-ARCA(D1)ジアステレオマーは、それぞれキャップされたRNAを未成熟抗原提示細胞に移入すると、RNAの安定性を高め、RNAの翻訳効率を高め、RNAの翻訳を延長し、RNAの総タンパク質発現を増加させ、および/または前記RNAによってコードされる抗原もしくは抗原ペプチドに対する免疫応答を増加させるのに特に適することが実証されている(Kuhn et al.,2010,Gene Ther.17:961-971)。したがって、本発明の代替的な実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、式(I)の置換基Rを含むP原子における立体化学的配置を特徴とする、式(I)に従うキャップ類似体で修飾される。それぞれのキャップ類似体およびその実施形態は、国際公開第2011/015347 A1号およびKuhn et al.,2010,Gene Ther.17:961-971に記載されている。置換基Rを含むP原子における立体化学的配置がβ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、国際公開第2011/015347 A1号に記載されている任意のキャップ類似体を本発明で使用し得る。好ましくは、式(I)のRはSであり、RおよびRはOである。さらに、式(I)のRまたはRの少なくとも一方は、好ましくはOHではなく、好ましくはRおよびRの一方はメトキシ(OCH3)であり、RおよびRの他方は、好ましくはOHである。
【0330】
一実施形態では、本発明のRNAは、任意の1つのリン酸基がボラノホスフェート基またはホスホセレノエート基によって置換されている、式(I)に従う5’キャップ構造で修飾される。そのようなキャップは、インビトロおよびインビボの両方で安定性が増加している。任意で、それぞれの化合物は2’-O-または3’-O-アルキル基を有する(アルキルは、好ましくはメチルである);それぞれのキャップ類似体は、BH-ARCAまたはSe-ARCAと呼ばれる。mRNAのキャッピングに特に適する化合物には、国際公開第2009/149253 A2号に記載されている、β-BH-ARCAおよびβ-Se-ARCAが含まれる。これらの化合物については、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、式(I)の置換基Rを含むP原子における立体化学的配置が好ましい。
【0331】
一実施形態では、5’キャップは、以下の構造:
【化12】
を有し得る。
【0332】
このタイプのキャップが使用される実施形態では、アルファウイルスの第2のヌクレオチドに対応するUは、修飾から除外され、例えば、N1-メチル-シュードウリジンへの修飾から除外される。
【0333】
UTR
「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子内の領域、またはmRNA分子などのRNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5’側(上流)(5’-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3’側(下流)(3’-UTR)に存在し得る。
【0334】
3’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終止コドンの下流の、遺伝子の3’末端に位置するが、「3’-UTR」という用語は、好ましくはポリ(A)尾部を含まない。したがって、3’-UTRはポリ(A)尾部(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)尾部に直接隣接している。
【0335】
5’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の、遺伝子の5’末端に位置する。5’-UTRは5’キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5’キャップに直接隣接している。
【0336】
5’および/または3’非翻訳領域は、本発明によれば、これらの領域が、オープンリーディングフレームを含むRNAの安定性および/または翻訳効率を高めるような方法でオープンリーディングフレームと会合するように、前記オープンリーディングフレームに機能的に連結され得る。
【0337】
いくつかの実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、5’-UTRおよび/または3’-UTRを含む。
【0338】
UTRは、RNAの安定性および翻訳効率に関与する。本明細書に記載の5’キャップおよび/または3’ポリ(A)尾部に関する構造修飾に加えて、特定の5’および/または3’非翻訳領域(UTR)を選択することによって、両方を改善することができる。UTR内の配列要素は、一般に、翻訳効率(主に5’-UTR)およびRNA安定性(主に3’-UTR)に影響を及ぼすと理解されている。RNAレプリコンの翻訳効率および/または安定性を高めるために、活性な5’-UTRが存在することが好ましい。独立してまたはさらに、RNAレプリコンの翻訳効率および/または安定性を高めるために、活性な3’-UTRが存在することが好ましい。
【0339】
第1の核酸配列(例えばUTR)に関して、「翻訳効率を高めるために活性な」および/または「安定性を高めるために活性な」という用語は、第1の核酸配列が、第2の核酸配列と共通の転写物において、前記第1の核酸配列の非存在下での前記第2の核酸配列の翻訳効率および/または安定性と比較して翻訳効率および/または安定性が増加するような方法で、前記第2の核酸配列の翻訳効率および/または安定性を改変することができることを意味する。
【0340】
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して異種または非天然である5’-UTRおよび/または3’-UTRを含む。これは、所望の翻訳効率およびRNA安定性に従って非翻訳領域を設計することを可能にする。したがって、異種または非天然UTRは高度の柔軟性を可能にし、この柔軟性は、天然のアルファウイルスUTRと比較して有利である。
【0341】
好ましくは、本発明によるRNAレプリコンは、ウイルス起源ではない、特にアルファウイルス起源ではない5’-UTRおよび/または3’-UTRを含む。一実施形態では、RNAレプリコンは、真核生物の5’-UTRに由来する5’-UTRおよび/または真核生物の3’-UTRに由来する3’-UTRを含む。
【0342】
本発明による5’-UTRは、任意でリンカーによって分離された、複数の核酸配列の任意の組合せを含み得る。本発明による3’-UTRは、任意でリンカーによって分離された、複数の核酸配列の任意の組合せを含み得る。
【0343】
本発明による「リンカー」という用語は、2つの核酸配列を連結するために前記2つの核酸配列の間に付加される核酸配列に関する。リンカー配列に関して特に制限はない。
【0344】
3’-UTRは、典型的には200~2000ヌクレオチド、例えば500~1500ヌクレオチドの長さを有する。免疫グロブリンmRNAの3’非翻訳領域は比較的短い(約300ヌクレオチド未満)が、他の遺伝子の3’非翻訳領域は比較的長い。例えば、tPAの3’非翻訳領域は約800ヌクレオチド長であり、第VIII因子の3’非翻訳領域は約1800ヌクレオチド長であり、エリスロポエチンの3’非翻訳領域は約560ヌクレオチド長である。哺乳動物mRNAの3’非翻訳領域は、典型的には、AAUAAAヘキサヌクレオチド配列として公知の相同領域を有する。この配列は、おそらくポリ(A)付着シグナルであり、ポリ(A)付着部位の10~30塩基上流に位置することが多い。3’-非翻訳領域は、エキソリボヌクレアーゼに対するバリアとして働くかまたはRNA安定性を高めることが公知のタンパク質(例えばRNA結合タンパク質)と相互作用するステムループ構造を与えるように折り畳むことができる、1つ以上の逆方向反復配列を含み得る。
【0345】
ヒトβグロビン3’-UTR、特にヒトβグロビン3’-UTRの2つの連続する同一のコピーは、高い転写物安定性および翻訳効率に寄与する(Holtkamp et al.,2006,Blood 108:4009-4017)。したがって、一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、ヒトβグロビン3’-UTRの2つの連続する同一のコピーを含む。したがって、これは、5’→3’方向に:(a)任意で5’-UTR;(b)オープンリーディングフレーム;(c)3’-UTRを含み、前記3’-UTRは、ヒトβ-グロビン3’-UTR、その断片、またはヒトβ-グロビン3’-UTRの変異体もしくはその断片の2つの連続する同一のコピーを含む。
【0346】
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、翻訳効率および/または安定性を高めるために活性であるが、ヒトβ-グロビン3’-UTR、その断片、またはヒトβ-グロビン3’-UTRの変異体もしくはその断片ではない3’-UTRを含む。
【0347】
一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、翻訳効率および/または安定性を高めるために活性な5’-UTRを含む。
【0348】
ポリ(A)配列
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは3’-ポリ(A)配列を含む。レプリコンが保存配列要素4(CSE 4)を含む場合、レプリコンの3’-ポリ(A)配列は、好ましくはCSE 4の下流に存在し、最も好ましくはCSE 4に直接隣接する。
【0349】
本発明によれば、一実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも20個、好ましくは少なくとも26個、好ましくは少なくとも40個、好ましくは少なくとも80個、好ましくは少なくとも100個、および好ましくは最大500個、好ましくは最大400個、好ましくは最大300個、好ましくは最大200個、特に最大150個、特に最大約120個のAヌクレオチドを含むか、または本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。この文脈において、「から本質的になる」とは、ポリ(A)配列中のほとんどのヌクレオチド、典型的には「ポリ(A)配列」中のヌクレオチド数で少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%がAヌクレオチド(アデニル酸)であるが、残りのヌクレオチドが、Uヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、Cヌクレオチド(シチジル酸)などのAヌクレオチド以外のヌクレオチドであることを許容することを意味する。この文脈において、「からなる」とは、ポリ(A)配列中の全てのヌクレオチド、すなわちポリ(A)配列中のヌクレオチド数の100%がAヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」または「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0350】
実際に、約120個のAヌクレオチドの3’ポリ(A)配列は、トランスフェクトされた真核細胞中のRNAのレベル、ならびに3’ポリ(A)配列の上流(5’側)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに有益な影響を及ぼすことが実証されている(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。
【0351】
アルファウイルスでは、少なくとも11個の連続するアデニル酸残基、または少なくとも25個の連続するアデニル酸残基の3’ポリ(A)配列が、マイナス鎖の効率的な合成に重要であると考えられている。特に、アルファウイルスでは、少なくとも25個の連続するアデニル酸残基の3’ポリ(A)配列が、保存配列要素4(CSE 4)と共に機能して(-)鎖の合成を促進すると理解されている(Hardy&Rice,2005,J.Virol.79:4630-4639)。
【0352】
本発明は、コード鎖に相補的な鎖内に反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)を含むDNA鋳型に基づいて、RNAの転写中、すなわちインビトロ転写RNAの生成中に付着される3’ポリ(A)配列を提供する。ポリ(A)配列をコードするDNA配列(コード鎖)は、ポリ(A)カセットと呼ばれる。
【0353】
本発明の好ましい実施形態では、DNAのコード鎖に存在する3’ポリ(A)カセットは、本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の等しい分布を有するランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、好ましくは10~30、より好ましくは10~20ヌクレオチド長であり得る。そのようなカセットは、国際公開第2016/005004 A1号に開示されている。国際公開第2016/005004 A1号に開示されている任意のポリ(A)カセットを本発明で使用し得る。本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の等しい分布を有し、例えば5~50ヌクレオチドの長さを有するランダムな配列によって中断されているポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)におけるプラスミドDNAの持続的な増殖を示し、RNAレベルでは、RNAの安定性および翻訳効率の支持に関する有益な特性と依然として関連している。
【0354】
結果として、本発明の好ましい実施形態では、本明細書に記載のRNA分子に含まれる3’ポリ(A)配列は、本質的にAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)の等しい分布を有するランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、好ましくは10~30、より好ましくは10~20ヌクレオチド長であり得る。
【0355】
コドン使用頻度
一般に、遺伝暗号の縮重は、同じコード能力を維持しながら(置換するコドンが置換されるコドンと同じアミノ酸をコードするように)、RNA配列中に存在する特定のコドン(アミノ酸をコードする塩基トリプレット)を他のコドン(塩基トリプレット)で置換することを可能にする。本発明のいくつかの実施形態では、RNA(rRNA)分子に含まれるオープンリーディングフレームの少なくとも1つのコドンは、オープンリーディングフレームが由来する種のそれぞれのオープンリーディングフレーム内のそれぞれのコドンとは異なる。その実施形態では、オープンリーディングフレームのコード配列は「適合された」または「改変された」と言われる。レプリコンに含まれるオープンリーディングフレームのコード配列を適合させ得る。
【0356】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、頻繁に使用されるコドンを選択し得る:国際公開第2009/024567 A1号は、より頻繁に使用されるコドンによる希少コドンの置換を含む、核酸分子のコード配列の適合を記載している。コドン使用頻度は宿主細胞または宿主生物に依存するので、この種の適合は、核酸配列を特定の宿主細胞または宿主生物における発現に適合させるのに適している。一般的に言えば、より頻繁に使用されるコドンは、典型的には、宿主細胞または宿主生物においてより効率的に翻訳されるが、オープンリーディングフレームの全てのコドンの適合は必ずしも必要ではない。
【0357】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、G(グアニル酸)残基およびC(シチジル酸)残基の含有量は、各アミノ酸について最も高いGCリッチ含有量を有するコドンを選択することによって変更し得る。GCリッチなオープンリーディングフレームを有するRNA分子は、免疫活性化を低下させ、RNAの翻訳および半減期を改善する可能性を有することが報告された(Thess et al.,2015,Mol.Ther.23,1457-1465)。
【0358】
特に、非構造タンパク質のコード配列は、所望に応じて適合させることができる。非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームはレプリコンの5’複製認識配列と重複しないため、この自由度が可能である。
【0359】
本発明の実施形態の安全性特徴
以下の特徴は、単独でまたは任意の適切な組合せで、本発明において好ましい:
本発明のレプリコンは粒子形成性ではない。これは、本発明のレプリコンによる宿主細胞の接種後、宿主細胞が次世代ウイルス粒子などのウイルス粒子を産生しないことを意味する。一実施形態では、本発明によるRNAレプリコンは、ウイルス構造タンパク質、例えばコアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、および/またはエンベロープタンパク質E1などのアルファウイルス構造タンパク質をコードする遺伝情報を全く含まない。好ましくは、本発明によるレプリコンは、ウイルスパッケージングシグナル、例えばアルファウイルスパッケージングシグナルを含まない。例えば、SFVのnsP2のコード領域に含まれるアルファウイルスパッケージングシグナル(White et al.1998,J.Virol.72:4320-4326)は、例えば欠失または突然変異によって除去し得る。アルファウイルスパッケージングシグナルを除去する適切な方法は、nsP2のコード領域のコドン使用頻度の適合を含む。遺伝暗号の縮重は、コードされたnsP2のアミノ酸配列に影響を及ぼすことなく、パッケージングシグナルの機能を欠失させることを可能にし得る。
【0360】
DNA
本発明はまた、本発明によるRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0361】
好ましくは、DNAは二本鎖である。
【0362】
好ましい実施形態では、DNAはプラスミドである。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、一般に、染色体DNAとは独立して複製することができる染色体外遺伝物質の構築物、通常は環状DNA二重鎖に関する。
【0363】
本発明のDNAは、DNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され得るプロモータを含み得る。これは、コードされたRNA、例えば本発明のRNAのインビボまたはインビトロでの転写を可能にする。IVTベクターは、インビトロ転写の鋳型として標準化された方法で使用され得る。本発明による好ましいプロモータの例は、SP6、T3またはT7ポリメラーゼのプロモータである。
【0364】
一実施形態では、本発明のDNAは、単離された核酸分子である。
【0365】
RNAを調製する方法
本発明によるRNA分子は、インビトロ転写によって得られ得る。インビトロ転写RNA(IVT-RNA)は、本発明において特に興味深い。IVT-RNAは、核酸分子(特にDNA分子)からの転写によって得ることができる。本発明のDNA分子(1つ以上)は、特にDNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され得るプロモータを含む場合、そのような目的に適する。
【0366】
本発明によるrRNAは、インビトロで合成することができる。これは、インビトロ転写反応にキャップ類似体を添加することを可能にする。典型的には、ポリ(A)尾部は、DNA鋳型上のポリ(dT)配列によってコードされる。あるいは、キャッピングおよびポリ(A)尾部の付加は、転写後に酵素的に達成することができる。
【0367】
インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、国際公開第2011/015347 A1号に記載されているように、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0368】
キット
本発明はまた、本発明によるRNAレプリコンを含むキットを提供する。
【0369】
一実施形態では、キットの構成要素は別個の実体として存在する。例えば、キットの1つの構成要素が1つの実体に存在してもよく、キットの別の構成要素が別の実体に存在してもよい。例えば、開放容器または閉鎖容器は適切な実体である。閉鎖容器が好ましい。使用される容器は、好ましくはRNAse不含であるかまたは本質的にRNAse不含であるべきである。
【0370】
一実施形態では、本発明のキットは、細胞の接種および/またはヒトもしくは動物対象への投与のためのRNAを含む。
【0371】
本発明によるキットは、任意でラベルまたは他の形態の情報要素、例えば電子データキャリアを含む。ラベルまたは情報要素は、好ましくは説明書、例えば印刷された書面の説明書、または任意で印刷可能な電子形式の説明書を含む。説明書は、キットの少なくとも1つの適切で可能な使用に言及し得る。
【0372】
医薬組成物
本明細書に記載のRNAレプリコンは、医薬組成物の形態で存在し得る。本発明による医薬組成物は、本発明による少なくとも1つの核酸分子を含み得る。本発明による医薬組成物は、薬学的に許容される希釈剤および/または薬学的に許容される賦形剤および/または薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容されるビヒクルを含む。薬学的に許容される担体、ビヒクル、賦形剤または希釈剤の選択は特に限定されない。当技術分野で公知の任意の適切な薬学的に許容される担体、ビヒクル、賦形剤または希釈剤を使用し得る。
【0373】
本発明の一実施形態では、医薬組成物は、水性溶媒またはrRNAの完全性を保存することを可能にする任意の溶媒などの溶媒をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、医薬組成物は、RNAを含む水溶液である。水溶液は、任意で溶質、例えば塩を含み得る。
【0374】
本発明の一実施形態では、医薬組成物は凍結乾燥組成物の形態である。凍結乾燥組成物は、それぞれの水性組成物を凍結乾燥することによって得ることができる。
【0375】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1つのカチオン性実体を含む。一般に、カチオン性脂質、カチオン性ポリマーおよび正電荷を有する他の物質は、負に帯電した核酸と複合体を形成し得る。カチオン性化合物、好ましくはポリカチオン性化合物、例えばカチオン性またはポリカチオン性ペプチドまたはタンパク質などとの複合体化によって、本発明によるRNAを安定化することが可能である。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、ヒストンまたはカチオン性脂質からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性分子を含む。
【0376】
本発明によれば、カチオン性脂質は、カチオン性両親媒性分子、例えば、少なくとも1つの親水性および親油性部分を含む分子である。カチオン性脂質は、モノカチオン性またはポリカチオン性であり得る。カチオン性脂質は、典型的には、ステロール鎖、アシル鎖またはジアシル鎖などの親油性部分を有し、全体として正味の正電荷を有する。脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。カチオン性脂質は、好ましくは1~10価の正電荷、より好ましくは1~3価の正電荷、より好ましくは1価の正電荷を有する。カチオン性脂質の例としては、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)が挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性脂質には、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)を含む、第三級アミン基を有する脂質も含まれる。カチオン性脂質は、リポソーム、エマルジョンおよびリポプレックスなどの本明細書に記載の脂質製剤にRNAを製剤化するのに適している。典型的には、正電荷には少なくとも1つのカチオン性脂質が寄与し、負電荷にはRNAが寄与する。一実施形態では、医薬組成物は、カチオン性脂質に加えて、少なくとも1つのヘルパー脂質を含む。ヘルパー脂質は、中性またはアニオン性脂質であり得る。ヘルパー脂質は、リン脂質などの天然脂質、または天然脂質の類似体、または完全合成脂質、または天然脂質と類似性のない脂質様分子であり得る。医薬組成物がカチオン性脂質とヘルパー脂質の両方を含む場合、カチオン性脂質対中性脂質のモル比は、製剤の安定性などを考慮して適切に決定することができる。
【0377】
一実施形態では、本発明による医薬組成物はプロタミンを含む。本発明によれば、プロタミンはカチオン性担体剤として有用である。「プロタミン」という用語は、アルギニンに富み、魚などの動物の精子細胞中で体細胞ヒストンの代わりに特にDNAと会合して見出される、比較的低分子量の様々な強塩基性タンパク質のいずれかを指す。特に、「プロタミン」という用語は、強塩基性で、水に可溶性であり、熱によって凝固せず、複数のアルギニンモノマーを含む、魚の精子中で見出されるタンパク質を指す。本発明によれば、本明細書で使用される「プロタミン」という用語は、その断片を含む、天然源または生物源から得られるまたはそれに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列、および前記アミノ酸配列またはその断片の多量体形態を含むことが意図されている。さらに、この用語は、人工であり、特定の目的のために特別に設計され、天然源または生物源から単離することができない(合成された)ポリペプチドを包含する。
【0378】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、1つ以上のアジュバントを含み得る。免疫系の応答を刺激するためにアジュバントをワクチンに添加してもよい;アジュバントは、典型的にはそれ自体免疫を提供しない。例示的なアジュバントとしては、限定されないが、以下が挙げられる:無機化合物(例えばミョウバン、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化リン酸カルシウム);鉱油(例えばパラフィン油)、サイトカイン(例えばIL-1、IL-2、IL-12);免疫刺激性ポリヌクレオチド(RNAもしくはDNA;例えばCpG含有オリゴヌクレオチドなど);サポニン(例えばキラヤ(Quillaja)、ダイズ、セネガ(Polygala senega)由来の植物サポニン);油エマルジョンもしくはリポソーム;ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル製剤;ポリホスファゼン(PCPP);ムラミルペプチド;イミダゾキノロン化合物;チオセミカルバゾン化合物;Flt3リガンド(国際公開第2010/066418 A1号);または当業者に公知の任意の他のアジュバント。本発明によるRNAの投与のための好ましいアジュバントは、Flt3リガンド(国際公開第2010/066418 A1号)である。Flt3リガンドを、抗原をコードするRNAと共に投与すると、抗原特異的CD8+T細胞の強い増加が観察され得る。
【0379】
本発明による医薬組成物は緩衝化することができる(例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液を用いて)。
【0380】
RNA含有粒子
いくつかの実施形態では、保護されていないRNAの不安定性のために、本発明のRNA分子を複合体または封入形態で提供することが有利である。それぞれの医薬組成物が本発明において提供される。特に、いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、核酸含有粒子、好ましくはRNA含有粒子を含む。それぞれの医薬組成物は、粒子製剤と呼ばれる。本発明による粒子製剤では、粒子は、本発明による核酸と、核酸の送達に適した薬学的に許容される担体または薬学的に許容されるビヒクルとを含む。核酸含有粒子は、例えば、タンパク質性粒子の形態または脂質含有粒子の形態であり得る。適切なタンパク質または脂質は、粒子形成剤と呼ばれる。タンパク質性粒子および脂質含有粒子は、粒子形態のアルファウイルスRNAの送達に適することが以前に記載されている(例えばStrauss&Strauss,1994,Microbiol.Rev.58:491-562)。特に、アルファウイルス構造タンパク質(例えばヘルパーウイルスによって提供される)は、タンパク質性粒子の形態でRNAを送達するための適切な担体である。
【0381】
一実施形態では、本発明の粒子製剤はナノ粒子製剤である。その実施形態では、本発明による組成物は、ナノ粒子の形態の本発明による核酸を含む。ナノ粒子製剤は、様々なプロトコルによって、および様々な複合体化化合物を用いて得ることができる。脂質、ポリマー、オリゴマー、または両親媒性物質は、ナノ粒子製剤の典型的な構成成分である。
【0382】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、粒子を、特に核酸の全身投与、特に非経口投与に適したものにする直径、典型的には1000ナノメートル(nm)以下の直径を有する任意の粒子を指す。一実施形態では、ナノ粒子は、約50nm~約1000nm、好ましくは約50nm~約400nm、好ましくは約100nm~約300nm、例えば約150nm~約200nmの範囲の平均直径を有する。一実施形態では、ナノ粒子は、約200~約700nm、約200~約600nm、好ましくは約250~約550nm、特に約300~約500nmまたは約200~約400nmの範囲の直径を有する。
【0383】
一実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子の多分散指数(PI)は、動的光散乱によって測定した場合、0.5以下、好ましくは0.4以下、さらにより好ましくは0.3以下である。「多分散指数」(PI)は、粒子混合物中の個々の粒子(リポソームなど)の均一または不均一なサイズ分布の測定値であり、混合物中の粒子分布の幅を示す。PIは、例えば、国際公開第2013/143555 A1号に記載されているように決定することができる。
【0384】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子製剤」という用語または同様の用語は、少なくとも1つのナノ粒子を含有する任意の粒子製剤を指す。いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物は、ナノ粒子の均一な集合体である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物は、リポソーム製剤またはエマルジョンなどの脂質含有医薬製剤である。
【0385】
脂質含有医薬組成物
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの脂質を含む。好ましくは、少なくとも1つの脂質はカチオン性脂質である。前記脂質含有医薬組成物は、本発明による核酸を含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、小胞、例えばリポソームに封入されたRNAを含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、エマルジョンの形態のRNAを含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、カチオン性化合物との複合体中にrRNAを含み、それにより、例えばいわゆるリポプレックスまたはポリプレックスを形成する。リポソームなどの小胞内へのRNAの封入は、例えば脂質/RNA複合体とは異なる。脂質/RNA複合体は、例えば、RNAを、例えばあらかじめ形成されたリポソームと混合した場合に得ることができる。
【0386】
一実施形態では、本発明による医薬組成物は、小胞に封入されたrRNAを含む。そのような製剤は、本発明による特定の粒子製剤である。小胞は、球状の殻に巻かれた脂質二重層であり、小さな空間を囲み、その空間を小胞の外側の空間から分離する。典型的には、小胞内部の空間は水性空間であり、すなわち水を含む。典型的には、小胞の外側の空間は水性空間であり、すなわち水を含む。脂質二重層は、1つ以上の脂質(小胞形成脂質)によって形成される。小胞を取り囲む膜は、原形質膜と同様のラメラ相である。本発明による小胞は、多層小胞、単層小胞、またはそれらの混合物であり得る。小胞に封入された場合、rRNAは、典型的には外部媒体から分離される。したがって、天然アルファウイルスの保護された形態と機能的に同等の、保護された形態で存在する。適切な小胞は、本明細書に記載の粒子、特にナノ粒子である。
【0387】
例えば、RNA(rRNA)は、リポソームに封入され得る。その実施形態では、医薬組成物はリポソーム製剤であるか、またはリポソーム製剤を含む。リポソーム内への封入は、典型的には、RNAをRNase消化から保護する。リポソームは一部の外部RNAを含む(例えばその表面に)ことが可能であるが、RNAの少なくとも半分(理想的にはその全て)がリポソームのコア内に封入される。
【0388】
リポソームは、しばしばリン脂質などの小胞形成脂質の1つ以上の二重層を有する微視的脂質小胞であり、薬物、例えばRNAを封入することができる。多重層小胞(MLV)、小型単層小胞(SUV)、大型単層小胞(LUV)、立体的に安定化されたリポソーム(SSL)、多小胞性小胞(MV)および大型多小胞性小胞(LMV)、ならびに当技術分野で公知の他の二重層形態を含むがこれらに限定されない様々な種類のリポソームを本発明に関連して使用し得る。リポソームのサイズおよびラメラ性は、調製方法に依存する。ラメラ相、六方晶相および逆六方晶相、立方相、ミセル、単層からなる逆ミセルを含む、脂質が水性媒体中に存在し得るいくつかの他の形態の超分子構造が存在する。これらの相は、DNAまたはRNAと組み合わせて得られてもよく、RNAおよびDNAとの相互作用は、相状態に実質的に影響を及ぼし得る。そのような相は、本発明のナノ粒子RNA製剤中に存在し得る。
【0389】
リポソームは、当業者に公知の標準的な方法を使用して形成され得る。それぞれの方法には、逆蒸発法、エタノール注入法、脱水-再水和法、超音波処理または他の適切な方法が含まれる。リポソームの形成後に、リポソームをサイズ分けして、実質的に均一なサイズ範囲を有するリポソームの集団を得ることができる。
【0390】
本発明の好ましい実施形態では、rRNAは、少なくとも1つのカチオン性脂質を含むリポソーム中に存在する。それぞれのリポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質が使用されることを条件として、単一の脂質からまたは脂質の混合物から形成され得る。好ましいカチオン性脂質は、プロトン化され得る窒素原子を有し、好ましくは、そのようなカチオン性脂質は、第三級アミン基を有する脂質である。第三級アミン基を有する特に適切な脂質は、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)である。一実施形態では、本発明によるRNAは、国際公開第2012/006378 A1号に記載されているようなリポソーム製剤中に存在し、リポソームは、RNAを含む水性コアを封入する脂質二重層を有し、脂質二重層は、好ましくは第三級アミン基を有する、5.0~7.6の範囲のpKaを有する脂質を含む。第三級アミン基を有する好ましいカチオン性脂質には、DLinDMA(pKa 5.8)が含まれ、国際公開第2012/031046 A2号に一般的に記載されている。国際公開第2012/031046 A2号によれば、それぞれの化合物を含むリポソームは、RNAの封入、したがってRNAのリポソーム送達に特に適している。一実施形態では、本発明によるRNAはリポソーム製剤中に存在し、リポソームは、その頭部基が、プロトン化され得る少なくとも1つの窒素原子(N)を含む少なくとも1つのカチオン性脂質を含み、リポソームおよびRNAは、1:1~20:1のN:P比を有する。本発明によれば、「N:P比」は、国際公開第2013/006825 A1号に記載されているように、カチオン性脂質中の窒素原子(N)対脂質含有粒子(例えばリポソーム)に含まれるRNA中のリン酸原子(P)のモル比を指す。1:1~20:1のN:P比は、リポソームの正味電荷および脊椎動物細胞へのRNAの送達効率に関与する。
【0391】
一実施形態では、本発明によるrRNAは、ポリエチレングリコール(PEG)部分を含む少なくとも1つの脂質を含むリポソーム製剤中に存在し、RNAは、国際公開第2012/031043 A1号および国際公開第2013/033563 A1号に記載されているように、PEG部分がリポソームの外側に存在するようにPEG化リポソーム内に封入される。
【0392】
一実施形態では、本発明によるrRNAは、国際公開第2012/030901 A1号に記載されているように、リポソームが60~180nmの範囲の直径を有するリポソーム製剤中に存在する。
【0393】
一実施形態では、本発明によるrRNAは、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように、rRNA含有リポソームがゼロに近いまたは負の正味電荷を有するリポソーム製剤中に存在する。
【0394】
他の実施形態では、本発明によるrRNAは、エマルジョンの形態で存在する。エマルジョンは、rRNA分子などの核酸分子を細胞に送達するために使用されることが以前に記載されている。本明細書では、水中油型エマルジョンが好ましい。それぞれのエマルジョン粒子は、油コアおよびカチオン性脂質を含む。本発明によるRNAがエマルジョン粒子に複合体化されているカチオン性水中油型エマルジョンがより好ましい。エマルジョン粒子は、油コアおよびカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、負に帯電したrRNAと相互作用することができ、それによってrRNAをエマルジョン粒子に固定する。水中油型エマルジョンでは、エマルジョン粒子は水性連続相中に分散される。例えば、エマルジョン粒子の平均直径は、典型的には約80nm~180nmであり得る。一実施形態では、本発明の医薬組成物は、国際公開第2012/006380 A2号に記載されているように、エマルジョン粒子が油コアおよびカチオン性脂質を含むカチオン性水中油型エマルジョンである。本発明によるrRNAは、国際公開第2013/006834 A1号に記載されているように、エマルジョンのN:P比が少なくとも4:1である、カチオン性脂質を含むエマルジョンの形態で存在し得る。本発明によるrRNAは、国際公開第2013/006837 A1号に記載されているように、カチオン性脂質エマルジョンの形態で存在し得る。特に、組成物は、カチオン性水中油型エマルジョンの粒子と複合体化したrRNAを含んでもよく、油/脂質の比は少なくとも約8:1(モル:モル)である。
【0395】
他の実施形態では、本発明による医薬組成物は、リポプレックスの形態のRNAを含む。「リポプレックス」または「RNAリポプレックス」という用語は、脂質と、RNAなどの核酸との複合体を指す。リポプレックスは、カチオン性(正に帯電した)リポソームおよびアニオン性(負に帯電した)核酸から形成され得る。カチオン性リポソームは、中性の「ヘルパー」脂質も含み得る。最も単純な場合、特定の混合プロトコルで核酸をリポソームと混合することによってリポプレックスが自発的に形成されるが、様々な他のプロトコルも適用し得る。正に帯電したリポソームと負に帯電した核酸との間の静電的相互作用がリポプレックス形成の駆動力であることが理解されている(国際公開第2013/143555 A1号)。本発明の一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の正味電荷はゼロに近いかまたは負である。RNAおよびリポソームの電気的に中性または負に帯電したリポプレックスは、全身投与後に脾臓樹状細胞(DC)における実質的なRNA発現をもたらし、正に帯電したリポソームおよびリポプレックスについて報告されている毒性の増加には関連しないことが公知である(国際公開第2013/143555 A1号を参照)。したがって、本発明の一実施形態では、本発明による医薬組成物は、(i)ナノ粒子中正電荷の数がナノ粒子の負電荷の数を超えず、および/または(ii)ナノ粒子が中性もしくは正味の負電荷を有し、および/または(iii)ナノ粒子の正電荷対負電荷の電荷比が1.4:1以下であり、および/または(iv)ナノ粒子のゼータ電位が0以下である、ナノ粒子、好ましくはリポプレックスナノ粒子の形態のRNAを含む。国際公開第2013/143555 A1号に記載されているように、ゼータ電位は、コロイド系における界面動電位の科学用語である。本発明では、(a)ゼータ電位および(b)ナノ粒子中のRNAに対するカチオン性脂質の電荷比の両方を、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように計算することができる。要約すると、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように、粒子の正味電荷がゼロに近いかまたは負である、定義された粒径を有するナノ粒子リポプレックス製剤である医薬組成物が、本発明に関連して好ましい医薬組成物である。
【0396】
一実施形態では、本明細書に記載のrRNAなどの核酸は、脂質ナノ粒子(LNP)の形態で投与される。LNPは、1つ以上の核酸分子が結合している、または1つ以上の核酸分子が封入されている粒子を形成することができる任意の脂質を含み得る。
【0397】
一実施形態では、LNPは、1つ以上のカチオン性脂質と、1つ以上の安定化脂質とを含む。安定化脂質には、中性脂質およびペグ化脂質が含まれる。
【0398】
一実施形態では、LNPは、カチオン性脂質、中性脂質、ステロイド、ポリマーコンジュゲート脂質、および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0399】
一実施形態では、LNPは、40~55mol%、40~50mol%、41~49mol%、41~48mol%、42~48mol%、43~48mol%、44~48mol%、45~48mol%、46~48mol%、47~48mol%、または47.2~47.8mol%のカチオン性脂質を含む。一実施形態では、LNPは、約47.0、47.1、47.2、47.3、47.4、47.5、47.6、47.7、47.8、47.9または48.0mol%のカチオン性脂質を含む。
【0400】
一実施形態では、中性脂質は、5~15mol%、7~13mol%、または9~11mol%の範囲の濃度で存在する。一実施形態では、中性脂質は、約9.5、10または10.5mol%の濃度で存在する。
【0401】
一実施形態では、ステロイドは、30~50mol%、35~45mol%または38~43mol%の範囲の濃度で存在する。一実施形態では、ステロイドは、約40、41、42、43、44、45または46mol%の濃度で存在する。
【0402】
一実施形態では、LNPは、1~10mol%、1~5mol%、または1~2.5mol%のポリマーコンジュゲート脂質を含む。
【0403】
一実施形態では、LNPは、40~50mol%のカチオン性脂質;5~15mol%の中性脂質;35~45mol%のステロイド;1~10mol%のポリマーコンジュゲート脂質;および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0404】
一実施形態では、モルパーセントは、脂質ナノ粒子中に存在する脂質の総モルに基づいて決定される。
【0405】
一実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPE、DOPG、DPPG、POPE、DPPE、DMPE、DSPE、およびSMからなる群より選択される。一実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPEおよびSMからなる群より選択される。一実施形態では、中性脂質はDSPCである。
【0406】
一実施形態では、ステロイドはコレステロールである。
【0407】
一実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質はペグ化脂質である。一実施形態では、ペグ化脂質は、以下の構造:
【化13】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体もしくは立体異性体を有し、ここで、
12およびR13は、それぞれ独立して、10~30個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和または不飽和アルキル鎖であり、アルキル鎖は、1つ以上のエステル結合によって中断されていてもよく、wは、30~60の範囲の平均値を有する。一実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、12~16個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖である。一実施形態では、wは、40~55の範囲の平均値を有する。一実施形態では、平均wは約45である。一実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、約14個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖であり、wは約45の平均値を有する。
【0408】
一実施形態では、ペグ化脂質は、例えば以下の構造:
【化14】
を有する、DMG-PEG 2000である。
【0409】
いくつかの実施形態では、LNPのカチオン性脂質成分は、式(III)の構造:
【化15】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体を有し、ここで、
またはLの一方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-であり、LまたはLの他方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-または直接結合であり;
およびGは、それぞれ独立して、非置換C-C12アルキレンまたはC-C12アルケニレンであり;
は、C-C24アルキレン、C-C24アルケニレン、C-Cシクロアルキレン、C-Cシクロアルケニレンであり;
は、HまたはC-C12アルキルであり;
およびRは、それぞれ独立して、C-C24アルキルまたはC-C24アルケニルであり;
は、H、OR、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NRC(=O)Rであり;
はC-C12アルキルであり;
は、HまたはC-Cアルキルであり;ならびに
xは、0、1または2である。
【0410】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIA)または(IIIB)の1つを有し:
【化16】
【化17】
ここで、
Aは、3~8員のシクロアルキルまたはシクロアルキレン環であり;
は、各出現において、独立して、H、OHまたはC-C24アルキルであり;
nは、1~15の範囲の整数である。
【0411】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は構造(IIIA)を有し、他の実施形態では、脂質は構造(IIIB)を有する。
【0412】
式(III)の他の実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIC)または(IIID)の1つを有し:
【化18】
【化19】
ここで、yおよびzは、それぞれ独立して、1~12の範囲の整数である。
【0413】
式(III)の前述の実施形態のいずれかでは、LまたはLの一方は-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-O(C=O)-である。前述のいずれかのいくつかの異なる実施形態では、LおよびLは、それぞれ独立して、-(C=O)O-または-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-(C=O)O-である。
【0414】
式(III)のいくつかの異なる実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIE)または(IIIF)の1つを有する:
【化20】
【化21】
【0415】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIG)、(IIIH)、(IIII)、または(IIIJ)のうちの1つを有する:
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【0416】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、nは、2~12、例えば2~8または2~4の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、nは、3、4、5または6である。いくつかの実施形態では、nは3である。いくつかの実施形態では、nは4である。いくつかの実施形態では、nは5である。いくつかの実施形態では、nは6である。
【0417】
式(III)の前述の実施形態のいくつかの他の実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、2~10の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、4~9または4~6の範囲の整数である。
【0418】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、RはHである。前述の実施形態の他の実施形態では、RはC-C24アルキルである。他の実施形態では、RはOHである。
【0419】
式(III)のいくつかの実施形態では、Gは非置換である。他の実施形態では、G3は置換されている。様々な異なる実施形態では、Gは、直鎖C-C24アルキレンまたは直鎖C-C24アルケニレンである。
【0420】
式(III)のいくつかの他の前述の実施形態では、RもしくはR、またはその両方がC-C24アルケニルである。例えば、いくつかの実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立して、以下の構造を有し:
【化26】
ここで、
7aおよびR7bは、各出現において、独立して、HまたはC-C12アルキルであり;ならびに
aは2~12の整数であり、
ここで、R7a、R7bおよびaはそれぞれ、RおよびRがそれぞれ独立して6~20個の炭素原子を含むように選択される。例えば、いくつかの実施形態では、aは、5~9または8~12の範囲の整数である。
【0421】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、R7aの少なくとも1つの出現はHである。例えば、いくつかの実施形態では、R7aは、各出現においてHである。前述の実施形態の他の異なる実施形態では、R7bの少なくとも1つの出現はC-Cアルキルである。例えば、いくつかの実施形態では、C-Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0422】
式(III)の異なる実施形態では、RもしくはR、またはその両方が、以下の構造の1つを有する。
【化27】
【0423】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、Rは、OH、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NHC(=O)Rである。いくつかの実施形態では、Rは、メチルまたはエチルである。
【0424】
様々な異なる実施形態では、式(III)のカチオン性脂質は、以下の表に示される構造の1つを有する。
【0425】
式(III)の代表的な化合物。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0426】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(III)の脂質、RNA、中性脂質、ステロイドおよびペグ化脂質を含む。いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は化合物III-3である。いくつかの実施形態では、中性脂質はDSPCである。いくつかの実施形態では、ステロイドはコレステロールである。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質はALC-0159である。
【0427】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約40~約50mol%の量で存在する。一実施形態では、中性脂質は、LNP中に約5~約15mol%の量で存在する。一実施形態では、ステロイドは、LNP中に約35~約45mol%の量で存在する。一実施形態では、ペグ化脂質は、LNP中に約1~約10mol%の量で存在する。
【0428】
いくつかの実施形態では、LNPは、約40~約50mol%の量の化合物III-3、約5~約15mol%の量のDSPC、約35~約45mol%の量のコレステロール、および約1~約10mol%の量のALC-0159を含む。
【0429】
いくつかの実施形態では、LNPは、約47.5mol%の量の化合物III-3、約10mol%の量のDSPC、約40.7mol%の量のコレステロール、および約1.8mol%の量のALC-0159を含む。
【0430】
様々な異なる実施形態では、カチオン性脂質は、以下の表に示される構造の1つを有する。
【表7】
【表8】
【0431】
いくつかの実施形態では、LNPは、上記の表に示されるカチオン性脂質、例えば式(B)または式(D)のカチオン性脂質、特に式(D)のカチオン性脂質、RNA、中性脂質、ステロイドおよびペグ化脂質を含む。いくつかの実施形態では、中性脂質はDSPCである。いくつかの実施形態では、ステロイドはコレステロールである。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質はDMG-PEG 2000である。
【0432】
一実施形態では、LNPは、イオン化可能な脂質様物質(リピドイド)であるカチオン性脂質を含む。一実施形態では、カチオン性脂質は、以下の構造を有する:
【化28】
【0433】
N/P値は、好ましくは少なくとも約4である。いくつかの実施形態では、N/P値は、4~20、4~12、4~10、4~8、または5~7の範囲である。一実施形態では、N/P値は約6である。
【0434】
本明細書に記載のLNPは、一実施形態では、約30nm~約200nm、または約60nm~約120nmの範囲の平均直径を有し得る。
【0435】
RNA標的化
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示されるrRNA(例えば、ワクチン抗原および/または免疫賦活剤をコードするRNA)の標的化送達を含む。
【0436】
一実施形態では、本開示は、肺を標的とすることを含む。投与されるRNAがワクチン抗原をコードするRNAである場合、肺を標的とすることが特に好ましい。RNAは、例えば、本明細書に記載の粒子、例えば脂質粒子として製剤化され得るRNAを吸入によって投与することによって肺に送達され得る。
【0437】
一実施形態では、本開示は、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることを含む。投与されるRNAがワクチン抗原をコードするRNAである場合、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることが特に好ましい。
【0438】
一実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓内のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓の樹状細胞である。
【0439】
「リンパ系」は、循環系の一部であり、リンパを運ぶリンパ管のネットワークを含む免疫系の重要な部分である。リンパ系は、リンパ器官、リンパ管の伝導ネットワーク、および循環リンパからなる。一次または中枢リンパ器官は、未成熟な前駆細胞からリンパ球を生成する。胸腺および骨髄は、一次リンパ器官を構成する。リンパ節および脾臓を含む二次または末梢リンパ器官は、成熟したナイーブリンパ球を維持し、適応免疫応答を開始する。
【0440】
RNAは、いわゆるリポプレックス製剤によって脾臓に送達され得、製剤中でRNAはカチオン性脂質および任意でさらなる脂質またはヘルパー脂質を含むリポソームに結合して、注射可能なナノ粒子製剤を形成する。リポソームは、脂質のエタノール溶液を水または適切な水相に注入することによって得られ得る。RNAリポプレックス粒子は、リポソームをRNAと混合することによって調製され得る。脾臓を標的とするRNAリポプレックス粒子は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/143683号に記載されている。正味の負電荷を有するRNAリポプレックス粒子は、脾臓組織または脾臓細胞、例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞を選択的に標的とするために使用し得ることが見出された。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現させるために使用され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺および/または肝臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現は、全く起こらないかまたは本質的に起こらない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓ではプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞においてRNAを発現させるために使用され得る。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞および/またはマクロファージである。
【0441】
本開示のRNAリポプレックス粒子の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する電荷とRNA中に存在する電荷との合計である。電荷比は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する正電荷対RNA中に存在する負電荷の比である。少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する正電荷対RNA中に存在する負電荷の電荷比は、以下の式によって計算される:電荷比=[(カチオン性脂質濃度(モル))*(カチオン性脂質中の正電荷の総数)]/[(RNA濃度(モル))*(RNA中の負電荷の総数)]。
【0442】
生理学的pHでの本明細書に記載の脾臓を標的とするRNAリポプレックス粒子は、好ましくは、約1.9:2~約1:2、または約1.6:2~約1:2、または約1.6:2~約1.1:2の正電荷対負電荷の電荷比などの正味の負電荷を有する。特定の実施形態では、生理学的pHでのRNAリポプレックス粒子中の正電荷対負電荷の電荷比は、約1.9:2.0、約1.8:2.0、約1.7:2.0、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、または約1:2.0である。
【0443】
免疫賦活剤は、肝臓または肝臓組織へのRNAの選択的送達のための製剤中の免疫賦活剤をコードするRNAを対象に投与する工程によって対象に提供され得る。そのような標的器官または組織へのRNAの送達は、特に、大量の免疫賦活剤を発現することが望ましい場合、および/または免疫賦活剤の全身的な存在、特に有意な量での存在が望ましいもしくは必要とされる場合に好ましい。
【0444】
RNA送達システムは、肝臓に対して固有の選択性を有する。これは、脂質ベースの粒子、カチオン性および中性ナノ粒子、特にリポソーム、ナノミセルおよびバイオコンジュゲート中の親油性リガンドなどの脂質ナノ粒子に関連する。肝臓蓄積は、肝血管系の不連続な性質または脂質代謝(リポソームおよび脂質もしくはコレステロールコンジュゲート)によって引き起こされる。
【0445】
肝臓へのRNAのインビボ送達のために、薬物送達システムを使用して、その分解を防止することによってRNAを肝臓に輸送し得る。例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)被覆表面およびmRNA含有コアからなるポリプレックスナノミセルは、生理学的条件下でRNAの優れたインビボ安定性を提供するので、有用な系である。さらに、高密度PEGパリセードで構成されるポリプレックスナノミセル表面によって提供されるステルス特性は、宿主の免疫防御を有効に回避する。
【0446】
肝臓を標的とするための適切な免疫賦活剤の例は、T細胞の増殖および/または維持に関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例としては、IL2またはIL7、その断片および変異体、ならびにこれらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質、例えば延長PKサイトカインが挙げられる。
【0447】
別の実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓へのRNAの選択的送達のために製剤中で投与され得る。そのような標的組織への免疫賦活剤の送達は、特に、この器官または組織における免疫賦活剤の存在が望ましい(例えば、免疫応答を誘導するために、特にT細胞プライミング中にまたは常在免疫細胞の活性化のためにサイトカインなどの免疫賦活剤が必要とされる場合)が、免疫賦活剤が全身的に、特に有意な量で存在することは望ましくない(例えば、免疫賦活剤が全身毒性を有するため)場合に好ましい。
【0448】
適切な免疫賦活剤の例は、T細胞プライミングに関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例としては、IL12、IL15、IFN-α、またはIFN-β、その断片および変異体、ならびにこれらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質、例えば延長PKサイトカインが挙げられる。
【0449】
タンパク質を生成するための方法
本発明はまた、細胞において目的のタンパク質を生成するための方法であって、
(a)目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む本発明によるRNAレプリコンを得る工程、および
(b)RNAレプリコンを細胞に接種する工程
を含む、方法を提供する。
【0450】
本方法の様々な実施形態では、RNAレプリコンは、RNAレプリコンが目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、任意で機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性非構造タンパク質によって複製され得る限り、本発明のRNAレプリコンについて上記で定義された通りであり、rRNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドと、修飾rRNAの機能を回復または改善する調節配列中の1つ以上の点突然変異とを含み得る。
【0451】
1つ以上の核酸分子を接種することができる細胞は、「宿主細胞」と呼ばれ得る。本発明によれば、「宿主細胞」という用語は、外因性核酸分子で形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞を指す。「細胞」という用語は、好ましくは無傷の細胞、すなわち酵素、細胞小器官、または遺伝物質などのその正常な細胞内成分を放出していない無傷の膜を有する細胞である。無傷の細胞は、好ましくは生存細胞、すなわちその正常な代謝機能を実行することができる生細胞である。「宿主細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌)または真核細胞(例えばヒトおよび動物細胞、植物細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジおよびヤギを含む家畜、ならびに霊長動物由来の細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は、多数の組織型に由来してもよく、初代細胞および細胞株を含み得る。具体的な例としては、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚性幹細胞が挙げられる。他の実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は、単一またはいくつかのコピーで宿主細胞中に存在してもよく、一実施形態では、宿主細胞中で発現される。
【0452】
細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。原核細胞は、本明細書では、例えば本発明によるDNAの増殖に適しており、真核細胞は、本明細書では、例えばレプリコンのオープンリーディングフレームの発現に適している。
【0453】
本発明の方法では、本発明によるRNAレプリコン、または本発明によるキット、または本発明による医薬組成物のいずれかを使用することができる。RNAは、医薬組成物の形態で、または例えばエレクトロポレーションのための裸のRNAとして使用することができる。
【0454】
本発明に従って細胞内でタンパク質を生成するための方法では、細胞は抗原提示細胞であり得、この方法は、抗原をコードするRNAを発現させるために使用し得る。この目的のために、本発明は、抗原をコードするRNAを樹状細胞などの抗原提示細胞に導入することを含み得る。樹状細胞などの抗原提示細胞のトランスフェクションには、抗原をコードするRNAを含む医薬組成物を使用し得る。
【0455】
一実施形態では、細胞内でタンパク質を生成するための方法は、インビトロ法である。一実施形態では、細胞内でのタンパク質生成のための方法は、手術または治療によるヒトまたは動物対象からの細胞の除去を含まない。
【0456】
この実施形態では、本発明に従って接種された細胞は、対象においてタンパク質を生成し、対象にタンパク質を提供するために対象に投与され得る。細胞は、対象に関して自己、同系、同種異系または異種であり得る。
【0457】
他の実施形態では、細胞内でタンパク質を生成するための方法における細胞は、患者などの対象に存在し得る。これらの実施形態では、細胞内でタンパク質を生成するための方法は、RNA分子を対象に投与することを含むインビボ法である。
【0458】
この点で、本発明はまた、対象において目的のタンパク質を生成するための方法であって、
(a)目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む本発明によるRNAレプリコンを得る工程、および
(b)RNAレプリコンを対象に投与する工程
を含む、方法を提供する。
【0459】
本方法の様々な実施形態では、RNAレプリコンは、RNAレプリコンが目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、任意で機能性非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性非構造タンパク質によって複製され得る限り、本発明のRNAレプリコンについて上記で定義された通りであり、rRNAは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドと、修飾rRNAの機能を回復または改善する調節配列中の1つ以上の点突然変異とを含み得る。
【0460】
本発明によるRNAレプリコン、または本発明によるキット、または本発明による医薬組成物のいずれも、本発明に従って対象においてタンパク質を生成するための方法で使用することができる。例えば、本発明の方法では、RNAは、例えば本明細書に記載の医薬組成物の形態で、または裸のRNAとして使用することができる。
【0461】
対象に投与される能力を考慮して、本発明によるRNAレプリコン、または本発明によるキット、または本発明による医薬組成物のそれぞれは、「薬剤」などと呼ばれ得る。本発明は、本発明のRNAレプリコン、キット、医薬組成物が薬剤として使用するために提供されることを予測する。薬剤は、対象を治療するために使用することができる。「治療する」とは、本明細書に記載の化合物または組成物または他の実体を対象に投与することを意味する。この用語は、治療によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法を含む。
【0462】
上記の薬剤は、典型的にはDNAを含まず、したがって、先行技術(例えば国際公開第2008/119827 A1号)に記載されているDNAワクチンと比較してさらなる安全性の特徴を伴う。
【0463】
本発明による代替的な医学的用途は、本発明に従って細胞内でタンパク質を生成するための方法を含み、細胞は樹状細胞などの抗原提示細胞であり得、続いて前記細胞を対象に導入する。例えば、抗原などの薬学的に活性なタンパク質をコードするRNAを、エクスビボで抗原提示細胞、例えば対象から採取された抗原提示細胞に導入(トランスフェクト)してもよく、任意でエクスビボでクローン増殖させた抗原提示細胞を同じまたは異なる対象に再導入してもよい。トランスフェクトされた細胞は、当技術分野で公知の任意の手段を使用して対象に再導入し得る。
【0464】
本発明による薬剤は、それを必要とする対象に投与され得る。本発明の薬剤は、対象の治療の予防的および治療的方法に使用することができる。
【0465】
本発明による薬剤は、有効量で投与される。「有効量」は、単独で、または他の用量と共に、反応または所望の効果を生じさせるのに十分な量に関する。対象における特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望の効果は、疾患進行の阻害である。これは、疾患進行の減速、特に疾患進行の中断を含む。疾患または状態の治療における所望の効果はまた、疾患の発症の遅延または疾患の発症の阻害であり得る。
【0466】
有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与方法ならびに他の因子に依存する。
【0467】
ワクチン接種
「免疫化」または「ワクチン接種」という用語は、一般に、治療上または予防上の理由で対象を治療するプロセスを指す。治療、特に予防的治療は、好ましくは、例えば1つ以上の抗原に対する対象の免疫応答を誘導または増強することを目的とする治療であるか、またはそれを含む。本発明によれば、本明細書に記載のrRNAを使用することによって免疫応答を誘導または増強することを所望する場合、免疫応答は、rRNAによって誘発または増強され得る。一実施形態では、本発明は、好ましくは対象のワクチン接種であるかまたはそれを含む予防的治療を提供する。レプリコンが、目的のタンパク質として、免疫学的に活性な化合物または抗原である薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする本発明の実施形態は、ワクチン接種に特に有用である。
【0468】
病原体または癌を含む外来因子に対するワクチン接種のためのRNAは以前に記載されている(最近、Ulmer et al.,2012,Vaccine 30:4414-4418によって総説されている)。先行技術の一般的なアプローチとは対照的に、本発明によるレプリコンは、本明細書に記載の機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製される能力のために、効率的なワクチン接種のための特に適切な要素である。本発明によるワクチン接種は、例えば弱免疫原性タンパク質に対する免疫応答の誘導に使用することができる。本発明によるRNAワクチンの場合、タンパク質抗原は決して血清抗体に曝露されず、RNAの翻訳後にトランスフェクト細胞自体によって産生される。したがって、アナフィラキシーは問題ではないはずである。したがって、本発明は、アレルギー反応のリスクなしに患者の反復免疫化を可能にする。
【0469】
本発明によるワクチン接種を含む方法では、本発明の薬剤は、特に抗原が関与する疾患を有するか、または抗原が関与する疾患に罹患する危険性がある対象を治療することを所望する場合に、対象に投与される。
【0470】
本発明によるワクチン接種を含む方法では、本発明によるレプリコンによってコードされる目的のタンパク質は、例えば、免疫応答が向けられる細菌抗原、または免疫応答が向けられるウイルス抗原、または免疫応答が向けられる癌抗原、または免疫応答が向けられる単細胞生物の抗原をコードする。ワクチン接種の有効性は、生物由来の抗原特異的IgG抗体の測定などの公知の標準的な方法によって評価することができる。本発明によるアレルゲン特異的免疫療法を含む方法では、本発明によるレプリコンによってコードされる目的のタンパク質は、アレルギーに関連する抗原をコードする。アレルゲン特異的免疫療法(減感作としても公知)は、原因アレルゲンへのその後の曝露に関連する症状が緩和された状態を達成するために、1つ以上のアレルギーを有する生物に、好ましくは漸増用量のアレルゲンワクチンを投与することと定義される。アレルゲン特異的免疫療法の有効性は、生物由来のアレルゲン特異的IgGおよびIgE抗体の測定などの公知の標準的な方法によって評価することができる。
【0471】
本発明の薬剤は、例えば対象のワクチン接種を含む対象の治療のために、対象に投与することができる。
【0472】
「対象」という用語は、脊椎動物、特に哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの飼い慣らされた哺乳動物、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物、ならびに動物園の動物などの捕らわれている動物である。「対象」という用語はまた、鳥類(特にニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなどの飼い慣らされた鳥)および魚類(特に養殖魚、例えばサケまたはナマズ)などの非哺乳類脊椎動物に関する。本明細書で使用される「動物」という用語は、ヒトも含む。
【0473】
いくつかの実施形態では、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなどの家畜、または野生動物、例えばキツネへの投与が好ましい。例えば、本発明による予防的ワクチン接種は、例えば農業における動物集団または野生動物集団にワクチン接種するのに適し得る。愛玩動物または動物園の動物などの捕らわれている他の動物集団にワクチン接種し得る。
【0474】
投与方法
本発明による薬剤は、任意の適切な経路で対象に適用することができる。
【0475】
例えば、薬剤は、全身的に、例えば静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)または吸入によって投与され得る。
【0476】
一実施形態では、本発明による薬剤は、骨格筋などの筋肉組織、または皮膚、例えば皮下に投与される。皮膚または筋肉へのRNAの移入は、体液性および細胞性免疫応答の強力な誘導と並行して、高くかつ持続的な局所発現をもたらすことが一般に理解されている(Johansson et al.,2012,PLoS.One.7:e29732;Geall et al.,2012,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 109:14604-14609)。
【0477】
筋肉組織または皮膚への投与の代替法には、皮内、鼻腔内、眼内、腹腔内、静脈内、間質、口腔内、経皮、または舌下投与が含まれるが、これらに限定されない。皮内および筋肉内投与が2つの好ましい経路である。
【0478】
投与は様々な方法で達成することができる。一実施形態では、本発明による薬剤は注射によって投与される。好ましい実施形態では、注射は針を介する。代替法として、無針注射を使用し得る。
【0479】
本発明を詳細に説明し、図面および実施例によって例示するが、これらは例示目的のためにのみに使用され、限定することを意図しない。説明および実施例によって、同様に本発明に含まれるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能である。
【実施例
【0480】
材料および方法
以下の材料および方法を実施例で使用した。
【0481】
プラスミドのクローニング、インビトロ転写、RNA精製:標準的な技術を用いてプラスミドをクローニングした。本発明の実施例で使用される個々のプラスミドのクローニングに関する詳細は、国際公開第2017/162265 A1号および国際公開第2017/162266 A1号の実施例1に記載されている通りである。手短に言えば、1つのプラスミドは、非複製mRNAの骨格に挿入されたベネズエラウマ脳炎ウイルストリニダードロバ株(VEEV;GenBankアクセッション番号L01442)のレプリカーゼをコードし、第2のプラスミドは、マウスCD90.1を発現する複製可能RNAまたはトランスレプリコンRNA TR(ΔATG-RRS ΔSGP)をコードする。インビトロ進化手順中に同定された点突然変異を、遺伝子合成およびサブクローニングによって5’ΔATG-RRSに挿入した。必要に応じて、CD90.1 ORFをGFPに交換した。「TC-83」と命名されたベクター型は、VEEVの弱毒化ワクチン株TC-83において同定された5’末端付近の単一ヌクレオチド交換によって他と異なる。それにより、合成RNAの5’末端の最初の4ヌクレオチドは、5’GAUG(トリニダードロバ)または5’-GAUA(TC-83)のいずれかである。
【0482】
インビトロ転写のために、これらのプラスミドをポリAの下流での制限消化によって線状化するかまたはPCRによって増幅し、T7 RNA-ポリメラーゼの鋳型として使用した。RNA合成および精製を以前に記載されているように実施した(Holtkamp et al.,2006,Blood 108:4009-4017;Kuhn et al.,2010,Gene Ther.17:961-971)。二本鎖(ds)RNA除去を、以前に記載されているようにセルロース精製によって行った(Baiersdorfer et al.,2019,Mol Ther Nucleic Acids 15:26-35)。必要に応じて、UTPを、示されているように異なる比率でN1-メチルシュード-UTPによって交換した。
【0483】
精製されたインビトロ転写RNAの品質を分光光度法によって評価し、5200 Fragment Analyzer(Advanced Analytical)で分析した。実施例において細胞にトランスフェクトされた全てのRNAは、インビトロ転写RNA(IVT-RNA)であった。
【0484】
細胞培養:特に明記される場合を除いて、全ての増殖培地、抗生物質および他の補助物質は、Life Technologies/Gibcoによって供給された。ウシ胎児血清(FCS)は、Sigma-Aldrichから購入した。ヒト包皮線維芽細胞をSystem Bioscienceから入手し(HFF、新生児)、15%FCS、1%非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウムを含有する最少必須培地(MEM)中、37°Cで培養した。細胞を、5%CO2に平衡化した加湿雰囲気中、37°Cで増殖させた。K-562細胞(ATCC;CCL-243)を、10%FCSを添加したRPMI培地で増殖させた。
【0485】
エレクトロポレーションまたは脂質媒介トランスフェクションによって実施される細胞へのRNA移入。エレクトロポレーションのために、RNAを62.5μl/mmキュベットギャップサイズの最終容量で再懸濁し、矩形波エレクトロポレーション装置(BTX ECM 830、Harvard Apparatus,Holliston,MA,USA)を使用して室温で細胞にエレクトロポレーションした。異なる細胞型について、以下の設定を適用した:HFF(500V/cm、24ミリ秒(ms)の1パルス);K562(650V/cm、8msの3パルスおよび400msの間隔)。Lipofectamine MessengerMAXを製造業者の指示に従って使用して(Life Technologies,Darmstadt,Germany)、RNAリポフェクションを実施した。接着細胞を約20,000細胞/cmの増殖領域に播種し、24時間後に総量250ng/cmのRNAおよび1μl/cmのMessengerMAXでトランスフェクトした。RNA種をRNAse不含のエッペンドルフチューブ中で混合した。
【0486】
ルシフェラーゼアッセイ:トランスフェクト細胞におけるルシフェラーゼの発現を評価するために、トランスフェクト細胞を96ウェル黒色マイクロプレート(Nunc,Langenselbold,Germany)に播種した。Bright-Gloルシフェラーゼアッセイシステムを製造業者の指示に従って用いて、ホタルルシフェラーゼの検出を実施した。生物発光を、マイクロプレートルミネセンスリーダInfinite M200(Tecan Group,Mannedorf,Switzerland)を使用して測定した。所与の時点で決定されたルシフェラーゼ活性を時間に対してプロットし、曲線下面積を台形公式によって計算した。ルシフェラーゼ陰性細胞を使用してバックグラウンドシグナルを評価した。
【0487】
磁気支援細胞選別(MACS):CD90.1発現細胞を、最初に生細胞を選択し(死細胞除去キット、Miltenyi Biotec,Bergisch-Gladbach;Germany)、続いて、抗CD90.1マイクロビーズ(Miltenyi Biotec,Bergisch-Gladbach;Germany)を製造業者の指示に従って使用するMACSによってトランスフェクト細胞バルクから単離した。
【0488】
フローサイトメトリ(CD90.1;GFP):フローサイトメトリのために、細胞を、CD90.1/Thy-1.1-PE Clone OX-7抗体(BD;Heidelberg;Germany)を使用して染色したか、またはGFPを発現している場合は染色しないままにした。マーカ発現を、BD FACS Canto IIフローサイトメータを使用して測定した。データ分析は、コンパニオンFACS DivaソフトウェアまたはFlowJoソフトウェアを使用して行った。
【0489】
ワンステップ逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(ワンステップRT-PCR):CD90.1発現細胞を、iScript(商標)RT-qPCR試料調製試薬(BioRad)を使用して溶解した。溶解物を、Platinum(商標)Taq DNAポリメラーゼを含むSuperScript(商標)IIIワンステップRT-PCRシステム(Invitrogen)を使用して、事前のRNA抽出なしでワンステップRT-PCRに使用した。
【0490】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR):インビトロ転写のためのDNA鋳型を作製するために、TR(ΔATG-RRS ΔSGP)を、T7プロモータを含む特異的フォワードプライマ、およびCD90.1の3’末端に結合し、最小の3’CSEおよび30個のアデノシン残基の短いポリAを導入する特異的リバースプライマによって増幅した。PCRのために、Q5(登録商標)高忠実度DNAポリメラーゼ(NEB)を製造業者の指示に従って使用した。
【0491】
次世代シーケンシング:11サイクルのインビトロ進化の際の変異の蓄積を同定するために、5’-RRSに対応するcDNAをPCRによって増幅し、得られた産物を、MiSeq Reagent Kit v3(Illumina)を使用してIllumina MiSeqで配列決定した。
【0492】
実施例1
アルファウイルスゲノムから構築された自己増幅RNA(saRNA)は、図1Aに記載されているように、以下の必須構造ドメインおよびコード領域を特徴とする。コード領域に関して、その最も一般的な形態のsaRNAは、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を有するバイシストロン性RNAである。5’-ORFは、RNA依存性RNA転写に必要な全ての酵素機能を有する4つのサブユニットからなるアルファウイルス非構造ポリタンパク質(nsP)をコードする。nsPは段階的に成熟し、細胞膜に関連するタンパク質複合体(いわゆるレプリカーゼ)へと構築され、そこでRNA増幅のための区画として機能する球状体を形成する。レプリカーゼORFの下流にあり、サブゲノムプロモータ(SGP)によってレプリカーゼORFから分離された第2のORFは、抗原であることが非常に多い目的の遺伝子の遺伝情報を取り込む。アルファウイルス種間で保存されたいくつかのRNA構造ドメイン(保存配列要素;CSE)は、レプリカーゼとの相互作用を支配し、それによってRNA複製を支配する。5’末端において、2つのCSEは、レプリカーゼのORFと重複するより長い高度に構造化された領域(5’複製認識配列と呼ばれる;RRS)内にある。この領域は、他のより下流のCSE(CSE 3=サブゲノムプロモータおよびCSE 4=3’末端CSE)よりもはるかに長く、より構造化されている。さらに、saRNAは、5’キャップおよび3’ポリアデニル化されている。キャップはレプリカーゼ翻訳に必要であるが、さもなければ複製には必須ではない。レプリカーゼの効率的な翻訳を可能にすることに加えて、ポリA尾部の最初の約15個のアデノシンは3’CSEの一部である。
【0493】
インビトロ進化の手順のために、本発明者らは、国際公開第2017/162265 A1号に記載されているレプリカーゼを発現するための非複製mRNA(図1B)、およびレプリカーゼによってトランスで複製され得る短い複製可能RNA(rRNA)(トランスレプリコン;TR)を使用した。このTRは、5’-RRSを欠く開始コドン(ΔATG-RRS)を特徴とし、国際公開第2017/162266 A1号に例示的に記載されているようなサブゲノムプロモータ(SGP)を有さず(ΔSGP)、下流には、検出可能なレポータ表面タンパク質(ここでは:CD90.1)についてのORFが続き、3’末端には最小の3’CSEおよび30個のアデノシンの短いポリAが存在する。
【0494】
実施例2
プラスミドにクローニングされたCD90.1-TRをPCR増幅する。フォワードプライマは、5’調節領域のすぐ上流の5’末端にT7-RNAポリメラーゼプロモータを結合する。リバースプライマは、CD90.1 ORFの3’末端に相補的であり、最小の3’CSEおよび短いポリA(30個のアデノシン)を含む非結合オーバーハングを有する。得られたPCR産物は、通常のヌクレオチドATP、CTP、GTP、およびUTPまたはN1-メチルシュード-UTPのいずれかを使用したインビトロ転写のための鋳型DNAである(図2A)。レプリカーゼをコードするmRNAは、非アルファウイルス5’UTRのすぐ上流にT7プロモータを有するプラスミドを使用して合成される。プラスミドを、ポリA尾部の末端で制限酵素を用いて線状化する。通常のヌクレオチドを使用して、この線状化プラスミドを、レプリカーゼを発現する非修飾(UTP含有)mRNAにインビトロで転写する(図2B)。
【0495】
実施例3
本明細書に記載のインビトロ進化は、インビトロ転写中にN1-メチルシュードウリジンなどの修飾ヌクレオチドを組み込む場合に複製能力を保存する自己複製またはトランス複製RNAを選択することを目的とする。そのような修飾ヌクレオチドの存在により、RNAは、自然免疫受容体を刺激する能力を大幅に喪失し、それによってインビトロ転写RNAに対する自然免疫応答を低下させ、したがってRNAの投与による副作用を減少させる。しかしながら、そのような修飾ヌクレオチドの存在はまた、RNAが複製/翻訳されてレプリカーゼおよび/またはコードされた目的の遺伝子、例えば抗原を産生する能力の低下をもたらし得る。
【0496】
長さがより長いため、5’調節領域は、短く単純に構造化された3’CSEよりも配列進化のためのより多くの選択肢を提供するという仮説が立てられた。さらに、5’CSEは、修飾されたインビトロ転写RNAを鋳型として使用する最初のRNA転写であるマイナス鎖合成に関与する。トランスレプリコンおよびレプリカーゼ-mRNAベクター、ならびに上記のRNA合成手順は、反復的で周期的な手順で5’調節領域を特異的に標的とする指向性進化戦略に適している(図3)。この手順は、非修飾(U)および修飾(1mY)RNAにインビトロ転写されるCD90.1をコードするトランスレプリコンにまたがる第1のPCR産物から開始する(サイクル数N=0)。各RNAを、非修飾レプリカーゼをコードするmRNAと共にK562細胞にエレクトロポレーションする。翌日、CD90.1の表面発現をフローサイトメトリによって評価する。最初に、TR(U)による発現はTR(1mY)による発現よりもはるかに高く、修飾RNA対非修飾RNAによる全発現の比(1mY指数)は1をはるかに下回る。次に、CD90.1を発現する修飾TRでトランスフェクトした細胞を磁気支援細胞選別(MACS)によって濃縮し、溶解し、細胞TRコピーを、TR特異的プライマを使用したワンステップRT-PCRによってcDNAおよび新規PCR産物に変換する。次いで、このサイクルN+1 PCR産物を再び使用して、細胞へのエレクトロポレーションのためのUおよび1mY TR-RNAを合成する。この手順を繰り返すことによって、1mY指数が工程ごとに上昇すると予想される。
【0497】
実施例4
TR-CD90.1は、11サイクルのインビトロ進化後、1mY修飾との適合性の増加を獲得する。インビトロ進化手順は、1mY指数の堅固で再現性のある増加が観察されるまで実施した。11サイクル後、CD90.1を発現する細胞からのTR-RNAを得、逆転写して、その後の分析のために十分な量のPCR産物を生成した。第一に、インビトロ進化手順から、TRが、修飾率(修飾ヌクレオチドの割合)が増加する際に複製を維持するトランス複製RNAに進化したことを独立して確認することを目的とした。11サイクルのインビトロ進化から得られたTR(N=11)、ならびにUTPの代わりに1mYの増加率(50~100%)を使用した初期TR鋳型(N=0)のインビトロ転写を実施した。徐々に修飾されたTRを、レプリカーゼコードmRNAと共にK562細胞にエレクトロポレーションした。翌日、初期TRのCD90.1発現は、フローサイトメトリによって評価され、1mY指数の増加によって可視化されたように、11サイクル後のTRと同様に1mY修飾の増加に対してより感受性であることが証明された(図4)。1mY指数が1mYの全てのパーセンテージについて増加したので、本発明者らは、初期配列が実際に進化し、1mYの組み込みのためのより大きな適合性を獲得したと結論付けた。
【0498】
実施例5
11サイクルのインビトロ進化後の5’CSE領域に関する点突然変異の蓄積が実証された。11サイクルのインビトロ進化が1mY修飾に対する適合性を増加させることを実施例4で確認したので、PCR産物を配列決定し、5’調節領域に関して特定の変異が蓄積していたかどうかを分析することを決定した。次世代シーケンス(NGS)分析により、リードの数パーセントの頻度で存在する多数の点突然変異体が明らかになった。関連する変異を有する4つの配列の群が全リードの17.4%に見出され、クローン頻度は5.1%~3.6%であった。これらの4つのクローンは二重または三重の変異を有しており、1番目は常に67位でのAからCへの交換であり、2番目または3番目は244~248位でのヌクレオチド交換であった(図5)。全てに共通する変異A67Cは、それ自体は24位にランク付けされていた。4つの最も高頻度のクローンおよび低頻度であるが共通の変異をクローン分析のために選択した。
【0499】
実施例6
5’CSE内で同定された点突然変異は、修飾されたトランスレプリコンの複製および発現を増加させる。同定された変異残基を親TR配列に挿入し、試験した。全てのクローンの非修飾および修飾RNAを構築し、レプリカーゼコードmRNAと共にK562細胞に同時トランスフェクトした。翌日、トランスフェクション率および1mY指数をフローサイトメトリによって評価し、これは、全てのクローンが初期の非変異TR(WT)よりも1mYによる修飾に対して耐性であることを示した(図6)。
【0500】
実施例7
VEEV-TC-83株に由来する単一の5’ヌクレオチド交換は、SFVレプリカーゼに応答して修飾および非修飾トランスレプリコンの発現を改善する。トランスで複製する複製可能RNAは、アルファウイルスであるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)から操作し、レプリカーゼをコードするmRNAは、アルファウイルスであるセムリキ森林ウイルス(SFV)に由来した。VEEVについては、弱毒化表現型を示すワクチン株、いわゆるTC-83株が数十年前に選択された(Berge et al.,1961,American Journal of Epidemiology 73:209-218)。TC-83は、VEEVの毒性トリニダードロバ株と比較していくつかの変異を有する。第1のCSE内の5’末端に近いヌクレオチド交換は非常によく特徴付けられている。この変異はCSE1の5’末端ステムループの二次構造を変化させ、これは、VEEV-TC-83ゲノムRNAの複製の増加と相関していた(Kulasegaran-Shylini et al.,2009,Virology 387:211-221)。本発明者らは、この5’変異がSFVレプリカーゼに応答してトランスでの複製を増強し、1mY修飾複製可能RNAの複製を増加させることを認めた。次いで、11サイクルのインビトロ進化後にTRにTC-83 5’変異が存在する場合、1mY指数がわずかにさらに増加することが観察された(図4Bおよび4C)。興味深いことに、VEEVレプリカーゼをコードするmRNAに応答して、TRの1mY指数は、TC-83変異の組み込み時に変化しないままであった(図4D)。
【0501】
実施例8
TC-83特異的5’変異は、インビトロ進化によって創出された点変異と協働して、SFVレプリカーゼによって増幅された修飾トランスレプリコンの発現をさらに増加させる。次に、TC-83特異的5’変異がインビトロ進化によって選択された変異TRクローンの適合性をさらに増加させるかどうかを評価した。PCRを使用して、TC-83変異を有するおよび有しないクローンTRを、非修飾RNAまたは修飾RNAのいずれかとして作製した。K562細胞に、レプリカーゼコードmRNAおよび同量の全てのクローンを同時エレクトロポレーションした。この場合もやはり、TC-83特異的変異のみが、非修飾TRと比較してより高いトランスフェクション率および1mY指数によって示される修飾TRの発現を増加させることが観察された。さらに、インビトロ進化点変異体は、トランスフェクション率および1mY指数をさらに増加させることができた(図8)。
【0502】
実施例9
レプリカーゼおよびトランスレプリコンRNAが修飾されており、インビトロ進化変異を担持している場合、トランス増幅RNA発現はヒト線維芽細胞において大幅に増加する。インビトロ進化に使用されたK562細胞は、自己複製およびトランス複製RNA分子の非常に効率的な発現を可能にし、これは、これらの細胞がRNAに対して弱い抗ウイルス応答を有することを示す。そのような細胞系は、ヌクレオチド修飾に耐性である複製RNAを選択することを可能にするが、パターン認識受容体によって引き起こされる強力な細胞自然免疫応答の存在下で修飾RNAの発現を検討するのには適していない。したがって、初代ヒト包皮線維芽細胞を使用してインビトロで進化したTRの発現を検討した。実験の最初の分岐では、非修飾SFVレプリカーゼmRNAおよび非修飾または修飾TRを使用して線維芽細胞をリポフェクトした。TRは、初期非変異体配列(WT)、初期配列のTC-83変異体(TC-83)、およびTC-83変異を有するか(TC-83+3xMut)またはTC-83変異なし(WT+3xMut)のいずれかの、10サイクルのインビトロ進化後に同定された三重変異体クローンのいずれかであった。実験の第2の分岐では、同じRNAの組合せを同時リポフェクトしたが、レプリカーゼをコードするmRNAも1mY修飾し、さらに精製して二本鎖RNA夾雑物を除去したという違いがあった(Baiersdorfer et al.,2019,Mol Ther Nucleic Acids 15:26-35)。修飾レプリカーゼと修飾TRとを組み合わせた場合、RNAトランスフェクションは理論的に最も免疫原性が低い。線維芽細胞の最大のトランスフェクション率は、低免疫原性分岐内および三重変異体の修飾TC-83変異体で達成されることが分かった(図9)。これらのデータは、複製を維持し、堅固な導入遺伝子発現を可能にする非免疫原性のトランス複製RNAが生成されたことを示す。
【0503】
実施例10
VEEV-TC-83 5’CSEは、キメラVEEV/SFV修飾自己増幅RNAの発現を増加させる。修飾時にRNA複製を可能にする5’調節領域を同定したので、対応する自己複製RNAを構築することを目指した。最初に、VEEV 5’調節領域を使用して、SFVレプリカーゼによって複製されるRNAを構築した。VEEVとSFV saRNAとの間の5’末端領域の単純なドメイン交換は、非機能的ベクターをもたらす可能性が最も高いので、VEEVまたはVEEV-TC83の完全な5’調節領域をSFV saRNAに融合した。より正確には、CSE1を含むSFV非翻訳領域を欠失させ、VEEV配列をSFVレプリカーゼ開始コドンのすぐ上流で融合させた。得られたVEEV/SFVキメラsaRNAは、5’VEEV由来調節領域を有するが、SFVレプリカーゼならびにSFV由来のCSE3(SGP)およびCSE4(3’CSE)をコードする(図10A)。これらのベクターを、ウリジンの代わりに0%から100%までの1mYの増加率を有する非修飾または修飾RNAにインビトロ転写した。修飾の増加は、TC-83特異的5’変異を含まない限り、K562細胞におけるキメラsaRNAの複製能力を低下させることが観察された(図10B)。インターフェロンコンピテント初代線維芽細胞にリポフェクトした場合、キメラsaRNAのTC-83変異体はより良好に発現され、修飾に対して耐性であったが、非TC83対応物は100%修飾時に発現低下を示した(図10C)。1mYの存在による複製の阻害は、K562細胞よりも顕著でなく、これは、修飾saRNAの自然免疫刺激の減少から生じるバイアスに起因する可能性が最も高かった。全体として、これらのデータは、トランス複製RNA中のヌクレオチド修飾に対する耐性が増加した5’調節領域が、自己複製RNAまたはシス複製RNA上に成功裏に転位されたことを示す。
【0504】
GFPをコードする類似のキメラVEEV/SFV saRNAを用いて、同等の実験を行った。K562およびHFF細胞をリポフェクトし、翌日GFP発現を評価して、細胞のトランスフェクション率を決定した。TRDの5’CSEによるVEEV/SFV saRNAのトランスフェクション率は、1mY取り込みの増加と共に減少したが、TC-83の5’CSEは、1mY修飾に対する耐性、ならびに全体的なトランスフェクション率の増加を提供した(図10D、10E)。これらの結果は、ホタルルシフェラーゼをコードする構築物で確認された。
【0505】
本明細書で参照される文書および試験の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることの承認として意図されていない。これらの文書の内容に関する全ての記述は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0506】
以下の説明は、当業者が様々な実施形態を作成および使用することを可能にするために提示される。特定の装置、技術、および用途の説明は、例としてのみ提供される。本明細書に記載される例に対する様々な変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、様々な実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の例および用途に適用され得る。したがって、様々な実施形態は、本明細書に記載され、示される例に限定されることを意図するものではなく、特許請求の範囲と一致する範囲を与えられるべきである。
【0507】
実施例11
材料および方法:
免疫:6~8週齢の雌BALB/cマウスを、FELASAの勧告に従って、およびGerman animal welfare act and Directive 2010/63/EUを遵守して、特定病原体除去条件下で飼育した。全ての作業は、参照番号G-20-8-043の下にLandesuntersuchungsamt Rhineland-Palatinateによって承認された。マウスを、レプリカーゼ-mRNAとインフルエンザウイルス、A/California/7/2009由来のHAを抗原としてコードするTRとの100ngのLNP製剤化混合物を用いて前脛骨に筋肉内(i.m.)免疫した。マウスを28日間空けて2回免疫した。各注射のためのRNAの組成は、1mYを有する78ngのSFVレプリカーゼmRNAおよびUまたは1mYのいずれかを有する22ngのそれぞれのTRであった。全てのRNAを共転写的にキャップした。
【0508】
ELISpot分析:脾細胞を56日目に単離し、Mabtech Mouse IFN-γ ELISpotPLUSキットを使用してELISpot分析を実施した。脾細胞を予め被覆したELISpotプレートに播種し、37°Cの加湿インキュベータ内で一晩、示されているペプチドプールで刺激した。
【表9】
【0509】
対照測定は、無関係のペプチドプール、培地のみまたはコンカナバリンAを用いて行った。ビオチン結合抗IFN-γ抗体でスポットを可視化し、続いてストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(ALP)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)基質とインキュベートした。CTL ImmunoSpot(登録商標)Analyzerを用いてプレートをスキャンし、ImmunoCapture V6.3ソフトウェアによって分析した。全ての試験を3連で実施し、スポット数を各3連の中央値として要約した。
【0510】
抗体分析:抗体分析のために、最初の免疫後56日目にイソフルラン麻酔下で血液試料を採取した。血清中の中和抗体を決定するためのウイルス中和試験(VNT)を、WHOのManual for the Laboratory Diagnosis and Virological Surveillance of Influenza(WHO Global influenza Surveillance Network)に基づいて実施した。HA中和抗体の血清レベルを、マウス血清の連続希釈物を100組織培養感染用量50(TCID50)の活性Cf4/H1N1インフルエンザウイルスと共に2時間インキュベートすることによって定量化し、次いで、96ウェルプレート中のコンフルエントなMDCK細胞単層上に適用した。MDCKと3日間インキュベートした後、細胞培養上清を回収し、0.5%ニワトリ赤血球(RBC;Lohmann Tierzucht,Cuxhaven,Germany)と1:2で混合した。RBC凝集を丸底96ウェルプレートで視覚的に観察し、VN血清力価を、凝集を阻害した最低希釈の逆数として記録した(VNT力価/50μl血清)。
【0511】
ELISA:組換えCf4/H1N1-HAタンパク質(Life Sciences,Idstein,Germany)を、EZ-Link Sulfor-NHS-LC-ビオチン化キットを供給業者のプロトコル(Thermo Fisher Scientific,Germany)に従って利用してビオチン化した。96ウェルのストレプトアビジンプレート(VWR,Darmstadt,Germany)を、4°Cで一晩ビオチン化HAタンパク質で被覆した。洗浄およびブロッキングの際に、血清試料を37°Cで1時間、プレート上でインキュベートすることによってHA特異的抗体についてスクリーニングした。インキュベーション後、アッセイ対照を含めて、プレートをHRP標識二次抗マウスIgG抗体と37°Cでさらに45分間インキュベートした後、TMB one substrate(BIOTREND,Cologne,Germany)を適用した。比色検出を観測し、450nmで読み取った光学密度を620nmの波長基準(λ450~620nm)まで計算した。
【0512】
結果:TC-83特異的5’変異および3xMutと略される3つの変異を有するインビトロで進化したTR(TC-83+3xMut)の使用が、ワクチンベクターとしての修飾複製RNAの効力を改善するかどうかの疑問に取り組むために、A型インフルエンザウイルスの赤血球凝集素遺伝子をTR-TC83+3xMutおよび親TR(WT)に挿入した。TR-TC83+3xMut RNAを1mY-TPの存在下で作製し、WT TRについてはmRNA UTPを使用した。各TRを、1mYを有するSFVレプリカーゼmRNAと等モル比で合わせ、LNPに製剤化した。プライムブーストレジメンでのi.m.ワクチン接種のために、注射当たり100ngの各混合物の総用量を使用した。56日後、血液を採取して血清を得て、体液性免疫を決定し、脾細胞を単離して細胞性免疫を評価した。ELISAによって測定されたHA特異的抗体のエンドポイント滴定は、Uを含有するWT-TRと比較して、1mYを含有するTR-TC83+3xMutでワクチン接種したマウスの末梢血中の循環HA特異的IgGのより高い平均濃度を明らかにした(図12A)。抗体濃度の増加は、平均ウイルス中和力価(VNT)の増加に反映された(図12B)。(図12C)CD8+T細胞および(図12C)CD4T細胞に特異的なELISpot分析によって示されたように、T細胞免疫も増加した。
【0513】
要約すると、データは、1mY修飾TR-TC83+3xMutによる免疫が、免疫原性を誘導する能力を失うことなく、ワクチンベクターとして100%の1mY修飾複製RNAの使用を可能にしたことを示す。
【0514】
実施例12
SFVレプリカーゼを使用して11サイクル実施したインビトロ進化手順は、1mYで修飾した場合に堅固に複製されるTRをもたらした(図4B)。この修飾に対する適合性の増加がSFVレプリカーゼに特異的であるかどうかを評価するために、数サイクルのインビトロ進化後にトランスフェクト細胞のcDNAから増幅された修飾および非修飾TRをSFVレプリカーゼまたはVEEVレプリカーゼと同時トランスフェクトした(図13A)。SFVレプリカーゼを使用した場合、1mY修飾への連続的な適応は、インビトロ進化のサイクルと共に連続する1mY指数に反映され、これは、同じ進化したTRを複製するためにVEEVレプリカーゼを使用した場合には観察されなかった。これは、進化過程中に使用されるレプリカーゼと併せて有効な適応を示唆する。しかしながら、インビトロ進化プロセスは、他のアルファウイルス種のレプリカーゼにも適用可能であるべきである。したがって、本発明者らは、SFVレプリカーゼ(3xmutと呼ばれる変異67、245および248を獲得している)を使用して同定されたTRが、VEEV(ベネズエラウマ脳炎ウイルス)またはEEEV(東部ウマ脳炎ウイルス)のレプリカーゼを使用して1mYとのより良好な適合性へと進化するかどうかを評価することを目指した。したがって、TR-3xmutを、SFVレプリカーゼの代わりにVEEVおよびEEEVレプリカーゼをコードするmRNAを使用して、記載されているインビトロ進化のさらなるサイクルに供した。サイクル数をリセットし、各回のインビトロ進化の後に、非修飾TRおよび修飾TRによるCD90.1選択マーカ発現に基づいて1mY指数を決定した。本発明者らは、(図13B)EEEVレプリカーゼまたは(図13C)VEEVレプリカーゼを使用して実施されたサイクルが多いほど1mY指数が増加することを観察した。したがって、本明細書に記載のインビトロ進化プロセスは、使用されるレプリカーゼに関係なく、1mYに適応したTRの複製をもたらす。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
【配列表】
2024539089000001.xml
【国際調査報告】