(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】新規方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4985 20060101AFI20241018BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241018BHJP
A61P 25/36 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61P25/00
A61P25/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523484
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022078177
(87)【国際公開番号】W WO2023069880
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507401225
【氏名又は名称】イントラ-セルラー・セラピーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】INTRA-CELLULAR THERAPIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】リ,ポン
(72)【発明者】
【氏名】フィーンバーグ,アレン エイ
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー,グレッチェン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,ロバート イー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
(57)【要約】
本発明は、フェンタニル類似体誘発過剰摂取および関連続発症の治療および/または予防のための方法において使用するための、本明細書に記載の遊離形態、固体形態、薬学的に許容される塩形態および/または実質的に純粋な形態の特定の置換複素環縮合γカルボリン、その医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) F/FA過剰摂取の処置または逆転;
(b) F/FA誘発性呼吸抑制の処置または逆転;
(c) F/FA誘発性筋硬直の処置または逆転;
(d) F/A誘発性喉頭痙攣の処置または逆転;
(e) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害;
(f) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害;
(g) F/FA過剰摂取による死亡の予防;および
(h) (例えば、手術後の)麻酔回復
のうち1つ以上のための方法であって、
該方法が、必要とする患者に、遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)、例えば、単離または精製された遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)の、式I:
【化1】
[式中、
R
1は、H、C
1-6アルキル、-C(O)-O-C(R
a)(R
b)(R
c)、-C(O)-O-CH
2-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-C(R
6)(R
7)-O-C(O)-R
8であり;
R
2およびR
3は、独立して、H、D、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Lは、C
1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)、C
1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)、C
2-3アルコキシC
1-3アルキレン(例えば、-CH
2CH
2OCH
2-)、C
1-6アルキルアミノまたはN-C
1-6アルキルC
1-6アルキルアミノ(例えば、プロピルアミノまたはN-メチルプロピルアミノ)、C
1-6アルキルチオ(例えば、-CH
2CH
2CH
2S-)、C
1-6アルキルスルホニル(例えば、-CH
2CH
2CH
2S(O)
2-)であり、これらの各々は、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
各R
4は、独立して、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Zは、アリール(例えば、フェニル)およびヘテロアリール(例えば、ピリジル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル)から選択され、ここで、該アリールまたはヘテロアリールは、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
R
8は、-C(R
a)(R
b)(R
c)、-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-N(R
d)(R
e)であり;
R
a、R
bおよびR
cは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
dおよびR
eは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
6およびR
7は、各々独立して、H、C
1-6アルキル、カルボキシおよびC
1-6アルコキシカルボニルから選択される]
の化合物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項2】
式Iの化合物において、R
1がHである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Iの化合物において、R
1が、-C(O)-O-C(R
a)(R
b)(R
c)、-C(O)-O-CH
2-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-C(R
6)(R
7)-O-C(O)-R
8である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式Iの化合物において、Lが、各々が1個以上のR
4部分で置換されていてもよい、C
1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)またはC
1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)であり、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
式Iの化合物において、R
2およびR
3が、各々、Hである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
式Iの化合物において、Zが、1個のフルオロで置換されているフェニル(例えば、2-フルオロフェニル、3-フルオロフェニルまたは4-フルオロフェニル)である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
式Iの化合物において、Zが、1個以上のR
4部分で置換されていてもよい、ヘテロアリール(例えば、ピリジル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル)である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式Iの化合物が、各々独立して遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化2】
からなる群から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
式Iの化合物が、各々独立して遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化3】
からなる群から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
式Iの化合物が、遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化4】
である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
式Iの化合物が、塩形態、例えば、薬学的に許容される塩の形態である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
式Iの化合物が、式Iの化合物を薬学的に許容される希釈剤または担体と混合して含む医薬組成物の形態で投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
医薬組成物が、単一用量投与用に製剤化されている(例えば、錠剤、カプセル剤、ウエハー剤、使い捨て注射剤、使い捨て鼻腔内投与用アンプル剤またはバイアル剤、使い捨て注射用アンプル剤またはバイアル剤、使い捨て鼻腔内スプレー剤である)、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
医薬組成物が、鼻腔内または肺内投与用に(例えば、吸入用のエアゾール剤、ミスト剤または散剤として)製剤化されている、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
医薬組成物が、注射による投与用に、例えば滅菌水溶液として、例えば静脈内注射、皮下注射または筋肉内注射用に、製剤化されている、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
医薬組成物が、プレフィルド注射シリンジとして、自己注射器として、または注射もしくは鼻腔内投与のためのバイアル内の滅菌溶液として、製剤化および/またはパッケージ化されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
患者が胸壁硬直を示している、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
患者が喉頭痙攣を示している、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
患者が、ウッドチェスト症候群(wooden chest syndrome)(WCS)、フェンタニル誘発性筋硬直(FIMR)またはフェンタニル誘発性呼吸器筋硬直(FIRMR)と診断されているかまたはその疑いがあるかまたはそれに罹患している、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
患者が、いずれかの経路(例えば、鼻腔内、静脈内、皮下、または筋肉内)により投与された、ナロキソンなどのμオピオイドアンタゴニスト(例えば、0.1~4mg)の単回投与または複数回投与に(例えば、呼吸抑制の徴候または症状に関して)反応していないかまたは十分に反応していない、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
式Iの化合物の有効量が、呼吸停止、呼吸抑制、骨格筋痙攣、胸壁硬直、喉頭痙攣、瞳孔収縮、心停止、徐脈、または意識不明のうち1つ以上を逆転するのに有効な量である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
F/FAが、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニル、チアフェンタニル、ロフェンタニル、オクフェンタニル、トレフェンタニル、およびブリフェンタニルから選択される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
該方法が、患者において、誘発離脱、例えば、頻脈、悪心、嘔吐、下痢、極度の不安、レストレスレッグス、筋痛、および多量の発汗から選択される離脱症状を引き起こさない、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
F/FAの供給源が、コカイン、ヘロイン、オキシコドン、アンフェタミン、メトアンフェタミン、またはマリファナなどのF/FAが混ざっている別の違法薬物である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本国際出願は、2021年10月19日に出願された米国仮出願第63/262,732号の優先権および利益を主張する(出典明示によりその内容全体を本明細書の記載とする)。
【0002】
発明の分野
本発明は、本明細書に記載の遊離形態もしくは薬学的に許容される塩形態および/または実質的に純粋な形態の特定の置換複素環縮合γカルボリン、その医薬組成物の、フェンタニル類似体誘発過剰摂取および関連続発症の治療および/または予防のための使用に関する。
【背景技術】
【0003】
置換複素環縮合γカルボリンは、中枢神経系障害の治療において、5-HT2受容体、特に5-HT2A受容体のアゴニストまたはアンタゴニストであることが知られている。これらの化合物は、例えば、米国特許第6,552,017号;米国特許第7,183,282号;および米国再発行特許第39680号において、不安、うつ病および精神病などの5-HT2A受容体調節に関連する障害の治療に有用な新規化合物として開示されている。米国特許第7,081,455号は、嗜癖行動および睡眠障害のような中枢神経系障害のコントロールおよび予防に有用なセロトニンアゴニストおよびアンタゴニストとして他のγカルボリンを開示している。米国特許第8,598,119号は、精神病とうつ病性障害の併発、ならびに精神病患者またはパーキンソン病患者における睡眠障害、うつ病性障害および/または気分障害の治療のための特定の置換複素環縮合γカルボリンの使用を開示している。米国特許第8,309,722号は、置換複素環縮合γカルボリンの製造方法を開示している。米国特許第8,648,077号もまた、これら置換複素環縮合γカルボリンのトルエンスルホン酸付加塩結晶の製造方法を開示している。
【0004】
さらに、米国特許出願公開第2021/00600009号(出典明示により本明細書の記載とする)は、上記の置換縮合複素環γカルボリンのいくつかが、部分的には、ケタミンと同様に、mTOR1シグナル伝達を介したNMDA受容体アンタゴニズムを介して作用し得ることを開示している。ケタミンは、選択的NMDA受容体アンタゴニストである。ケタミンは、一般的な心因性モノアミン(セロトニン、ノルエピネフリンおよびドパミン)とは無関係の系を介して作用し、これが、より迅速な作用をもたらす主な理由である。ケタミンは、シナプス外グルタミン酸作動性NMDA受容体と直接アンタゴナイズし、また、AMPA型グルタミン酸受容体の活性化を間接的にもたらす。下流作用には脳由来神経栄養因子(BDNF)とmTORC1キナーゼ経路が関与する。ケタミンと同様に、本開示の化合物に関連する化合物がD1受容体の活性化を介してラット内側前頭前皮質錐体ニューロンにおけるNMDA誘発電流およびAMPA誘発電流の両方を増強すること、および、これがmTORC1シグナル伝達の増加と関連していることを、最近の証拠は示唆している。
【0005】
米国特許第10,245,260号および米国特許第10,799,500号は、セロトニン受容体阻害、SERT阻害およびドパミン受容体調節をもたらすことに加えて、μオピオイド受容体においても有意な活性を示すことも予想外に見出されたさらなる新規縮合複素環γカルボリンを開示している。これらの新規化合物の類似体もまた、例えば、米国特許第10,961,245号および米国特許第10,906,906号、および米国特許第11,376,249号および米国特許第11,427,587号、および米国特許出願公開第2021/0163481号に開示されている(出典明示によりそれらの各内容全体を本明細書の記載とする)。これらの刊行物に開示されている適応の中には、一般に、疼痛、神経障害性疼痛および慢性疼痛の治療がある。米国特許出願公開第2021/0145829号、米国特許出願公開第2021/0093634号、および国際公開第2021/206391号(米国特許出願公開第2022/0184072号)には、これらの化合物のさらなる治療適応が開示されている(出典明示によりそれらの各内容全体を本明細書の記載とする)。国際公開第2020/131895号(米国特許出願公開第2022/0041600号)には、このような化合物の合成方法もまた開示されている(出典明示によりそれらの内容全体を本明細書の記載とする)。
【0006】
例えば、下記に示す式Aの化合物は、強力なセロトニン5-HT
2A受容体アンタゴニストおよびμオピオイド受容体部分的バイアスアゴニストである。この化合物は、ドパミン受容体、特定にドパミンD1受容体とも相互作用する。
【化1】
【0007】
式Aの化合物は、そのD1受容体活性を介して、mTOR経路を介したNMDAおよびAMPA媒介シグナル伝達をも増強し得るとも考えられる。したがって、式Aの化合物は、オピオイド使用障害のようなオピオイド嗜癖を含む中枢神経系障害の治療または予防、ならびに慢性疼痛および神経障害性疼痛などの疼痛障害の治療に有用である。
【0008】
式Aの化合物および関連化合物は、バイアスμオピオイド受容体活性の特性のため、特に有用である。細胞型に応じて、または、同じ細胞型内でさえ、活性化μオピオイド受容体の細胞内ドメインは、阻害性Gたんぱく質またはβアレスチンと相互作用することができる。非バイアスアゴニストがμオピオイド受容体に結合すると、Gたんぱく質シグナル伝達とβアレスチンシグナル伝達の両方がほぼ等しく活性化される。
【0009】
対照的に、バイアスアゴニストがμオピオイド受容体に結合すると、βアレスチンではなくGたんぱく質と相互作用するように該受容体の細胞内ドメインにバイアスをかけるように結合する。したがって、式Aの化合物および関連化合物は、μオピオイド受容体のGたんぱく質共役型シグナル伝達の部分的または完全なアゴニストとして作用するが、該受容体のβアレスチンシグナル伝達のアンタゴニストとして作用する。これは、Gたんぱく質シグナル伝達経路およびβアレスチンシグナル伝達経路の両方を強く活性化する傾向があるモルヒネおよびフェンタニルなどの伝統的オピオイドアゴニストとは対照的である。このような薬物によるβアレスチンシグナル伝達の活性化は、典型的にはオピオイド薬物によって媒介される消化器障害、嗜癖および呼吸抑制作用を媒介すると考えられるが、一方、μオピオイド受容体アゴニストの鎮痛作用および麻酔作用はGたんぱく質シグナル伝達経路によって媒介される。
【0010】
これと同じ作用が、バイアスμ受容体アゴニストであるオリセリジンの全臨床研究ならびに第II相および第III相臨床試験においても示された。オリセリジンは、モルヒネと比較してβアレスチンシグナル伝達が減少したGたんぱく質共役型シグナル伝達を介してバイアスμオピオイド受容体アゴニズムをもたらすことが示されており、これは、モルヒネと比較して呼吸器系副作用を減少させた鎮痛をもたらす能力と関連している。
【0011】
さらにまた、バイアスアゴニストは、βアレスチン経路をアンタゴナイズするので、オピオイドによって引き起こされる呼吸抑制を逆転させることにより、オピオイド過剰摂取の治療に一般的に有用であることが知られている。しかしながら、有益なことに、それらは、疼痛を緩和しながら、そうする。バイアスβアレスチンアンタゴニストは、最も重度のオピオイド有害作用を阻害しながらも疼痛を緩和するので、オピオイド過剰摂取の治療に有用であると予想される。
【0012】
米国は、現在、1990年代後半に始まった広範なオピオイド乱用に苦しんでおり、過剰処方された処方オピオイド(例えば、Purdue Pharmaによってオキシコンチンとして販売されているオキシコドン)、安価な輸入違法ヘロイン、および合法フェンタニルと違法フェンタニルの組み合わせの組み合わせによって加速されている。ヘロインおよびオキシコドンは(コデイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、オキシモルフォンおよびいくつかの他の薬物と同様に)、モルヒネの天然または半合成類似体であるが、フェンタニルは、新しいクラスの合成オピオイドの最初で最も著名なものであった。天然オピオイドおよび半合成オピオイドとは異なり、フェンタニルおよびフェンタニル類似体は、モルヒネの完全な古典的五環式コア骨格を有していない。代わりに、フェンタニルおよびフェンタニル類似体は、共通の4-アミノフェニル(ピペリジン)コアを共有する。最も一般的なフェンタニル類似体は、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニルおよびカルフェンタニルである:
【化2】
【0013】
フェンタニルおよびその類似体は、より強いμオピオイド受容体結合もしくはより高い親油性、またはその両方によって、モルヒネおよびヘロインの両方よりも実質的に強力である。これらの薬物は、モルヒネおよびヘロインと比較して親油性が高いため、血液脳関門をはるかに速く通過し、受容体結合が同等であってもより強力である。フェンタニルは一般に、ヘロインの約50倍およびモルヒネの100倍の効力があると考えられている(いくつかの情報源ではモルヒネの150倍の効力を示している)。スフェンタニルは、フェンタニルの5~10倍の効力があり、カルフェンタニルは、フェンタニルの約100倍(したがって、モルヒネの10,000倍)の効力があると考えられる。
【0014】
非常に高い効力と広範で安価な入手可能性のために、アンフェタミン、ヘロインおよび他のストリートドラッグは様々で予測不可能な量のフェンタニルを混ぜられることがますます一般的になっている。こうした傾向の結果、フェンタニルは、米国におけるオピオイド過剰摂取、特にオピオイド関連死の主要な原因となっている。フェンタニルは、2016年までにオピオイドによる死亡の少なくとも50%の原因となっており、2017年および2018年には死亡の70%超に上昇した。Torralva & Janowsky, J. Pharmacol. Exp. Ther. 371:453-475 (2019)を参照。実際、アンフェタミン過剰摂取の割合は、ここ数年で大幅に増加しており、これは主にアンフェタミンへのフェンタニルの混入によるものである。わずか5年間で、主にフェンタニル混入に関連するアンフェタミンによる死亡が4倍に上昇した。
【0015】
フェンタニル類似体のうち、3種類だけがヒト用として承認されており(スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル)、1種類が動物用としてのみ承認されている(カルフェンタニル)。それにもかかわらず、これらおよび他の多くの新規合成フェンタニル類似体が、アンフェタミン、ヘロイン、コカイン、アルプラゾラム(ザナックス(Xanax))およびヒドロコドン/パラセタモール(ノルコ(Norco))を含む数多くのストリートドラッグにおいて混入物として発見されている。Armenian et al., Neuropharmacology (2017)を参照。2013年までは、米国のヘロイン供給源へのフェンタニルまたはフェンタニル類似体の混入のアウトブレイクが散発的に起こっただけであったが、それ以来、このような化合物は、北米に広く浸透し、ヘロインおよびコカインの両方に混入している。フェンタニルが混入されたヘロインおよびコカインによる死亡者数は、2012年から2014年にかけて倍増した。2015年~2016年には、カリフォルニア州において街角購入の偽造ザナックスおよびノルコが2つのアウトブレイクを引き起こした。非オピオイド薬へのフェンタニルおよびフェンタニル類似体の混入は特に懸念される。なぜなら、このような薬物の使用者がオピオイドナイーブである(したがって、薬物耐性がほとんどまたは全く確立していない)可能性が高く、その結果、臨床アウトカムが著しく悪いためである。標準的なフェンタニル類似体の試験(医療現場および法医学現場の両方で)の普及が拡大するにつれて、違法製造業者は、検出を逃れ得るために新規の合成フェンタニル誘導体に切り替え始めており、今日では、このような違法化合物は、数多く知られており、中国およびその他の国の製造業者から闇市場で入手できる。現在、少なくとも21種類の合成オピオイド化合物が米国麻薬取締局によって予定されている。
【0016】
高い効力および高い親油性のために、フェンタニル誘発性過剰摂取は、モルヒネ、ヘロインまたはオキシコドン過剰摂取よりも治療がはるかに困難である。フェンタニルは、作用発現が非常に速いため、μ受容体アンタゴニスト(例えば、ナロキソンまたはナルトレキソン)治療による逆転は外来環境では困難である(EMSまたは警察への対応時間は重度の呼吸抑制が発現するまでの時間よりも長いことが多い)。フェンタニル過剰摂取を逆転させるには、より大量のμ受容体アンタゴニストが必要でもあり、安全に投与できるμオピオイドアンタゴニストの速度および用量には限界がある。モルヒネがピーク作用の80%に達するのに平均19分間かかるのに対し、フェンタニルは、はるかに急速に重度の呼吸抑制を引き起こす。
【0017】
しかしながら、さらにいっそう憂慮すべきことは、フェンタニルおよびその類似体は、現在続いているオピオイドの蔓延において極めて重要となっているさらなる作用機序を有しているということである。全てのオピオイドは、理由がまだ完全には明らかになっていないが、脳内のβアレスチンシグナル伝達経路のμオピオイド受容体活性化によって呼吸抑制を引き起こすが、一方、フェンタニルおよびその類似体はまた、声帯閉鎖(喉頭痙攣)と胸壁および横隔膜の重度の筋硬直を急激に併発させることもある。これは、フェンタニルおよびフェンタニル類似体の静脈内投与、経皮投与または吸入投与によって起こり得る。モルヒネも、ヘロインも、古典的なモルヒネ骨格を有する他のどのオピオイドも、この性質を持っていない。この重度の胸壁硬直は、フェンタニル誘発性呼吸器筋硬直(FIRMR)(または、単純に、フェンタニル誘発性筋硬直(FIMR))と称されており、FIRMRと喉頭痙攣の併発は、臨床的には、ウッドチェスト症候群(wooden chest syndrome)(WCS)として知られている。WCSは、フェンタニル、フェンタニル類似体、または、フェンタニルもしくはその類似体が混入されたヘロインまたは他の薬物の注射からわずか1~2分以内に発症し得る。WCSは、わずか50μgの静注用フェンタニル投与後に実証されている。
【0018】
WCSにおける死亡の主な原因は、声門構造および上気道の閉鎖によって引き起こされる機械的な換気妨害によると思われる。喉頭痙攣は、声門開口部の不随意的な閉鎖または閉塞と定義されており、これは喉頭の内在筋によって制御されている。これらの筋肉は、交感神経(アドレナリン作動性)と副交感神経(コリン作動性)の両方の神経線維によって神経支配されており、したがって、これらの筋肉の最終的な活動は、交感神経の入力と副交感神経の入力のバランスによって決定される。
【0019】
FIRMRおよびWCSは、外科麻酔コミュニティでは長い間知られている(外科麻酔のための治療量範囲内でよく起こるため)が、これらの状態は、第一対応者または緊急医療コミュニティにおいては、よく知られていない。これは、薬物乱用者を処置する者がフェンタニルのこれらの作用を知らないため(しばしば、患者がフェンタニルを含むものを摂取したことを認識していないことによっても悪化する)、しばしば薬物乱用者の急死につながる。過剰摂取の多数の目撃者および生存者の証言は、薬物注射の直後に、チアノーゼ、意識消失、重度の筋硬直、および、てんかん発作(seizure)様行動の非常に急速な発症を報告している。この急速な死の発生は、モルヒネ、ヘロインおよびオキシコドンの過剰摂取に通常伴う呼吸抑制とは非常に異なる。実際、フェンタニルまたはフェンタニル類似体の過剰摂取における呼吸の機構的不全(mechanical failure of respiration)は、通常、薬物投与後2分未満で発症し、中枢媒介性呼吸抑制の前に見つかる(呼吸器(respiratory mechanics)の50%低下は発生に7~9分間かかる)。
【0020】
さらにいっそう憂慮すべきことに、オピオイド過剰摂取に対する標準的な第一選択療法であるナロキソン、ナルトレキソンおよびナルメフェンは、これらのフェンタニル誘発性作用を逆転させるのに効果的ではない。重度の胸壁硬直は、心肺蘇生における胸部圧迫の有効性も損なう。結果として、ヘロイン関連過剰摂取についての緊急外来受診と死亡の比率は約10:1と報告されているが、フェンタニル関連過剰摂取についてのその比率は、わずか1:1である。
【0021】
オピオイド過剰摂取に対して投与された静注用ナロキソンの標準的な用量は、0.4~2mgであり、2~3分間隔で最大10mgまで追加投与される。しかしながら、第一対応者が広く使用する鼻腔内用ナロキソンは、推奨される最大総用量はわずか4mgである。例えば、Williams et al., Prehospital Emergency Care 23(6):749-63 (2019)を参照。しかしながら、ある研究では、モルヒネの上気道作用はナロキソン0.1mg/kg(例えば、70kgの人で7mg)の投与で完全に遮断できるが、フェンタニルの上気道作用を完全に遮断するにはナロキソン0.8~1.6mg/kg(70kgの人で56~112mg)が必要であることが分かった。2006年のフェンタニル過剰摂取アウトブレイクを調査した研究では、病院の救急治療室でナロキソン0.4~12mgを患者に投与したところ、投与量0.4mgに反応した患者はわずか15%であり、患者26人中6人が呼吸抑制を逆転するのに少なくとも6mgを必要としたことが報告された。フェンタニルが混入している偽造ヒドロコドン/パラセタモールを過剰摂取した患者18人を調査した別の研究では、ナロキソンの静脈ボーラス注射0.4~8mgが必要であり、該患者のうち4人は26~40時間続くナロキソン注入を必要とした。
【0022】
しかしながら、残念なことに、実際のオピオイド使用者にわずか0.4mgのナロキソン(70kgの成人で0.0057mg/kg)を急速注射すると、一般的に喉頭痙攣、肺水腫、血行動態不安定および心不整脈(すべて、カテコールアミン放出に起因する)を引き起こすため、高用量のナロキソンは、治療用としては実用的ではない。したがって、高用量ナロキソン治療は、特に現場では、禁忌である。したがって、現場では、追加の医学的および薬理学的サポートがなければ、致死的になる前にナロキソンを使用してフェンタニル誘発過剰摂取を逆転させることは、不可能ではないにしても、通常は極めて困難である。
【0023】
他の強力なμオピオイドアゴニスト(例えば、モルヒネ)はWCSを引き起こさないので、また、強力なμオピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソン)は通常の用量範囲ではWCSを逆転させないので、WCSが単にμオピオイド受容体アゴニズムの結果ではないことは明らかである。したがって、フェンタニルおよびその類似体は、他の神経伝達物質系が関与する何らかの他のメカニズムによってWCSを引き起こすに違いない。
【0024】
フェンタニルが脳の青斑核(LC)領域におけるノルアドレナリン作動性活性およびおそらくコリン作動性活性の刺激を介してこれらの作用を発揮することを示している、インビトロ研究および種々の動物モデルの両方からの証拠がある。理論に縛られることなく、LCにおいて、フェンタニルはμオピオイド受容体のアゴニストとして作用し、その結果生じるLCニューロンの過分極は、具体的には、胸壁および腹部にて終わる脊髄運動ニューロンに接続された青斑核脊髄(coerulospinal)線維、ならびに上頚神経節および中頚神経節を介して迷走神経に寄与する喉頭神経線維において、遠心性ノルアドレナリン作動性ニューロン活動をもたらすと考えられる。これらの喉頭神経線維は喉頭の内在筋を直接支配する。
【0025】
α1アドレナリン作動性受容体の役割は、特に、フェンタニルの10分前に静脈内投与された選択的α1アドレナリン作動性アンタゴニストであるプラゾシンがFIMRの発生を阻害し、脳のLC領域のアブレーションでも同じ結果が生じることを立証している動物実験によって示されている。他の研究は、L3脊髄レベルでのプラゾシンの髄腔内投与もまたFIMRを阻害するが、α2アドレナリン作動性アンタゴニストであるヨヒンビンの投与は阻害しないことを示している。また、フェンタニル自体が、弱いながらも、α1アドレナリン作動性受容体のアンタゴニストであり、(α1D受容体ではなく)α1B受容体およびα1A受容体に対して選択性を有することを示す動物実験による証拠もある。残念ながら、これらの研究は、オピオイド過剰摂取の処置におけるα1アドレナリン作動性アンタゴニストの有益な使用を直接予測するものではない。なぜなら、動物実験で使用された対応するヒト用量は、ヒトでは致死的な低血圧を引き起こすからである。
【0026】
WCSの発症(pathogenesis of WCS)におけるGABA介在ニューロンの中間的役割に関する証拠も増加している。GABA介在ニューロンは脳全体の阻害ネットワークの一部であり、特にLCに豊富に存在する。LCは脊髄運動ニューロンのノルアドレナリン作動性活性化を介して胴体の基礎骨格筋緊張を維持する役割を担っているが、LCシナプス前終末からのノルエピネフリン放出はGABA遠心性シグナル伝達(efferent signaling)により阻害される。したがって、GABA介在ニューロンの阻害は、LCノルアドレナリン作動性活性の増加を介して骨格筋緊張の増加をもたらす。理論に縛られることなく、フェンタニルはGABA介在ニューロン上のμオピオイド受容体に結合し、これにより、GABA介在ニューロン求心性神経(interneuron afferents)が阻害され、その結果、LC交感神経細胞の阻害が解除されると考えられている。
【0027】
また、LCニューロンにはムスカリン性およびニコチン性のアセチルコリン受容体も多いという証拠もある。LCは橋網様体のような他の脳領域からコリン作動性入力を受けるため、これらの隣接領域におけるフェンタニル誘発性μ受容体アゴニズムがアセチルコリン放出を刺激し得、その結果、LCによるノルエピネフリン放出をさらに刺激すると考えられている。また、フェンタニルがM3ムスカリン受容体アンタゴニストとして直接作用し、その結果、喉頭内在筋の副交感神経緊張を阻害し得、これらの筋肉の交感神経活性化によって生じる痙攣をさらに増大させるという証拠もある。
【0028】
NMDAおよび非NMDAグルタミン酸受容体活性も、WCSの発症に関与している。
【0029】
WCSの発症におけるこれらの他の神経伝達物質(例えば、ノルエピネフリン、アセチルコリン、GABAなど)の中間的役割のため、WCSがμオピオイドアンタゴニスト処置に反応しないもう一つの理由は、フェンタニルによって間接的に刺激されたこれらの作用が(μ受容体アゴニズムによって)いったん始まると、μ受容体アンタゴニズムだけではすでに動き出した該作用を逆転させることはできないからかもしれない。
【0030】
最後に、モルヒネではなくフェンタニルがノルエピネフリン再取り込み阻害薬としてある程度の活性を有するという証拠もある。この作用がナロキソンによってアンタゴナイズされないことが、種々の神経細胞株において示されており、これがμ受容体アゴニズムの間接的作用ではないことを示している。したがって、フェンタニルがLCにおけるニューロンに対して直接作用しており、FIMRおよびWCSに関与する筋肉の活動亢進を刺激している可能性もある。
【0031】
したがって、依然として、急性フェンタニル過剰摂取の影響を逆転させるのに特に適した治療薬が必要とされている。
【発明の概要】
【0032】
本開示は、フェンタニルおよびフェンタニル類似体の乱用および過剰摂取に関連する障害の処置に関する。フェンタニル類似体としては、本明細書でさらに説明するように、化合物であるスフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニル、およびこれらの化合物の誘導体があげられるが、これらに限定されない。本明細書において、フェンタニルおよびフェンタニル類似体は、まとめて「F/FA」と称される。
【0033】
本開示は、
(a) F/FA過剰摂取の処置または逆転;
(b) F/FA誘発性呼吸抑制の処置または逆転;
(c) F/FA誘発性筋硬直の処置または逆転;
(d) F/A誘発性喉頭痙攣の処置または逆転;
(e) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FAのμオピオイド受容体への結合の逆転または阻害;
(f) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害;
(g) F/FA過剰摂取による死亡の予防;および
(h) (例えば、手術後の)麻酔回復
のうち1つ以上のための方法であって、
該方法が、必要とする患者に式Iの化合物またはその医薬組成物の有効量を投与することを含み、該式Iの化合物が、遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)の、例えば単離または精製された遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)の、
【化3】
[式中、
R
1は、H、C
1-6アルキル、-C(O)-O-C(R
a)(R
b)(R
c)、-C(O)-O-CH
2-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-C(R
6)(R
7)-O-C(O)-R
8であり;
R
2およびR
3は、独立して、H、D、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Lは、C
1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)、C
1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)、C
2-3アルコキシC
1-3アルキレン(例えば、CH
2CH
2OCH
2)、C
1-6アルキルアミノまたはN-C
1-6アルキルC
1-6アルキルアミノ(例えば、プロピルアミノまたはN-メチルプロピルアミノ)、C
1-6アルキルチオ(例えば、-CH
2CH
2CH
2S-)、C
1-6アルキルスルホニル(例えば、-CH
2CH
2CH
2S(O)
2-)であり、これらの各々は、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
各R
4は、独立して、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Zは、アリール(例えば、フェニル)およびヘテロアリール(例えば、ピリジル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル)から選択され、ここで、該アリールまたはヘテロアリールは、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
R
8は、-C(R
a)(R
b)(R
c)、-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-N(R
d)(R
e)であり;
R
a、R
bおよびR
cは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
dおよびR
eは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
6およびR
7は、各々独立して、H、C
1-6アルキル、カルボキシおよびC
1-6アルコキシカルボニルから選択される]
である、前記方法を提供する。
【0034】
さらなる態様において、本開示は、また、本明細書に開示された方法のための医薬の製造における、本開示の化合物、例えば式Iの化合物の使用を提供する。本開示は、また、本明細書に開示された方法に用いるための、本開示の化合物、例えば式Iの化合物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、実施例1の化合物によるμオピオイド受容体のフェンタニル誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害についての用量反応曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
第1の態様において、本開示は、
(a) F/FA過剰摂取の処置または逆転;
(b) F/FA誘発性呼吸抑制の処置または逆転;
(c) F/FA誘発性筋硬直の処置または逆転;
(d) F/A誘発性喉頭痙攣の処置または逆転;
(e) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害;
(f) 中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害;
(g) F/FA過剰摂取による死亡の予防;および
(h) (例えば、手術後の)麻酔回復
のうち1つ以上のための方法であって、
該方法が、必要とする患者に式Iの化合物または該式Iの化合物を含む医薬組成物の有効量を投与することを含み、該式Iの化合物が、遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)の、例えば単離または精製された遊離形態または塩形態(例えば、薬学的に許容される塩形態)の、
【化4】
[式中、
R
1は、H、C
1-6アルキル、-C(O)-O-C(R
a)(R
b)(R
c)、-C(O)-O-CH
2-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-C(R
6)(R
7)-O-C(O)-R
8であり;
R
2およびR
3は、独立して、H、D、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Lは、C
1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)、C
1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)、C
2-3アルコキシC
1-3アルキレン(例えば、CH
2CH
2OCH
2)、C
1-6アルキルアミノまたはN-C
1-6アルキルC
1-6アルキルアミノ(例えば、プロピルアミノまたはN-メチルプロピルアミノ)、C
1-6アルキルチオ(例えば、-CH
2CH
2CH
2S-)、C
1-6アルキルスルホニル(例えば、-CH
2CH
2CH
2S(O)
2-)であり、これらの各々は、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
各R
4は、独立して、C
1-6アルキル(例えば、メチル)、C
1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)、ハロ(例えば、F)、シアノまたはヒドロキシから選択され;
Zは、アリール(例えば、フェニル)およびヘテロアリール(例えば、ピリジル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル)から選択され、ここで、該アリールまたはヘテロアリールは、1個以上のR
4部分で置換されていてもよく;
R
8は、-C(R
a)(R
b)(R
c)、-O-C(R
a)(R
b)(R
c)または-N(R
d)(R
e)であり;
R
a、R
bおよびR
cは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
dおよびR
eは、各々独立して、HおよびC
1-24アルキルから選択され;
R
6およびR
7は、各々独立して、H、C
1-6アルキル、カルボキシおよびC
1-6アルコキシカルボニルから選択される]
である、前記方法を提供する。
【0037】
本開示は、以下のものを含むさらなる例示的実施態様方法1を提供する:
【0038】
1.1 式Iの化合物において、R1がHである方法1;
【0039】
1.2 式Iの化合物において、R1がC1-6アルキル、例えば、メチルである、方法1;
【0040】
1.3 式Iの化合物において、R1が-C(O)-O-C(Ra)(Rb)(Rc)である、方法1;
【0041】
1.4 式Iの化合物において、RaがHであり、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルまたはC16アルキルから選択される、方法1.3;
【0042】
1.5 式Iの化合物において、RaおよびRbがHであり、RcがC1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルである方法1.3;
【0043】
1.6 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルから選択される、方法1.3;
【0044】
1.7 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々、Hである、方法1.3;
【0045】
1.8 式Iの化合物において、RaおよびRbがHであり、RcがC10-14アルキルである(例えば、RcがCH3(CH2)10またはCH3(CH2)14である)、方法1.3;
【0046】
1.9 式Iの化合物において、R1が-C(O)-O-CH2-O-C(Ra)(Rb)(Rc)である、方法1;
【0047】
1.10 式Iの化合物において、RaがHであり、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルから選択される、方法1.9;
【0048】
1.11 式Iの化合物において、RaおよびRbがHであり、Rcが、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルである、方法1.9;
【0049】
1.12 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルから選択される、方法1.9;
【0050】
1.13 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々、Hである、方法1.9;
【0051】
1.14 式Iの化合物において、R1が-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8であり、R8が-C(Ra)(Rb)(Rc)である、方法1;
【0052】
1.15 式Iの化合物において、R1が-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8であり、R8が-O-C(Ra)(Rb)(Rc)である、方法1;
【0053】
1.16 式Iの化合物において、RaがHであり、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルから選択される、方法1.14または1.15;
【0054】
1.17 式Iの化合物において、RaおよびRbがHであり、Rcが、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくはC16アルキルである、方法1.14または1.15;
【0055】
1.18 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくC16アルキルから選択される、方法1.14または1.15;
【0056】
1.19 式Iの化合物において、Ra、RbおよびRcが、各々、Hである、方法1.14または1.15;
【0057】
1.20 式Iの化合物において、R6がHであり、R7がC1-3アルキルであり(例えば、R7がメチルまたはイソプロピルであり)、R8がC10-14アルキルである(例えば、R8がCH3(CH2)10またはCH3(CH2)14である)、方法1.14~1.19のいずれか;
【0058】
1.21 式Iの化合物において、R1が-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8であり、R8が-N(Rd)(Re)である、方法1;
【0059】
1.22 式Iの化合物において、RdがHであり、Reが、独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくC16アルキルから選択される、方法1.21;
【0060】
1.23 式Iの化合物において、RdおよびReが、各々独立して、C1-24アルキル、例えば、C1-20アルキル、C5-20アルキル、C9-18アルキル、C10-16アルキル、またはC11アルキル、C12アルキル、C13アルキル、C14アルキル、C15アルキルもしくC16アルキルから選択される、方法1.21;
【0061】
1.24 式Iの化合物において、RdおよびReが、各々、Hである、方法1.21;
【0062】
1.25 式Iの化合物において、R6がHであり、R7がHである、方法1.14~1.24のいずれか;
【0063】
1.26 式Iの化合物において、R6がC1-6アルキルであり、R7がC1-6アルキルである、方法1.14~1.24のいずれか;
【0064】
1.27 式Iの化合物において、R6がHであり、R7がC1-6アルキルである、方法1.14~1.24のいずれか;
【0065】
1.28 式Iの化合物において、R6がHであり、R7がカルボキシである、方法1.14~1.24のいずれか;
【0066】
1.29 式Iの化合物において、R6がHであり、R7がC1-6アルコキシカルボニル、例えば、エトキシカルボニルまたはメトキシカルボニルである、方法1.14~1.24のいずれか;
【0067】
1.30 式Iの化合物において、R2およびR3がHである、方法1または方法1.1~1.29のいずれか;
【0068】
1.31 式Iの化合物において、R2がHであり、R3がDである、方法1または方法1.1~1.29のいずれか;
【0069】
1.32 式Iの化合物において、R2およびR3がDである、方法1または方法1.1~1.29のいずれか;
【0070】
1.33 式Iの化合物において、Lが、1個以上のR4部分で置換されていてもよい、C1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)、C1-6アルコキシ(例えば、プロポキシ)、C2-3アルコキシC1-3アルキレン(例えば、CH2CH2OCH2)C1-6アルキルアミノ(例えば、プロピルアミノまたはN-メチルプロピルアミノ)、またはC1-6アルキルチオ(例えば、-CH2CH2CH2S-)である、方法1または方法1.1~1.32のいずれか;
【0071】
1.34 式Iの化合物において、Lが非置換C1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)である、方法1.33;
【0072】
1.35 式Iの化合物において、Lが、1個以上のR4部分で置換されている、C1-6アルキレン(例えば、エチレン、プロピレンまたはブチレン)である、方法1.33;
【0073】
1.36 式Iの化合物において、Lが、非置換C1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)である、方法1.33;
【0074】
1.37 式Iの化合物において、Lが、1個以上のR4部分で置換されている、C1-6アルコキシ(例えば、プロポキシまたはブトキシ)である、方法1.33;
【0075】
1.38 式Iの化合物において、Lが、非置換C2-3アルコキシC1-3アルキレン(例えば、CH2CH2OCH2)である、方法1.33;
【0076】
1.39 式Iの化合物において、Lが、1個以上のR4部分で置換されている、C2-3アルコキシC1-3アルキレン(例えば、CH2CH2OCH2)である、方法1.33;
【0077】
1.40 式Iの化合物において、R1、R2およびR3が、各々、Hである、方法1または方法1.1~1.39のいずれか;
【0078】
1.41 式Iの化合物において、Lが(CH2)n-X-であり、ここで、nが、2、3および4から選択される整数であり、Xが、-O-、-S-、-NH-、-N(C1-6アルキル)-、およびCH2から選択される、方法1または方法1.1~1.40のいずれか;
【0079】
1.42 式Iの化合物において、Lが-(CH2)n-X-であり、ここで、nが、2、3および4から選択される整数であり、Xが-O-である、方法1.41;
【0080】
1.43 式Iの化合物において、Lが-(CH2)n-X-であり、ここで、nが3であり、Xが、-O-、-S-、-NH-および-N(C1-6アルキル)-(例えば、-N(CH3)-)から選択される、方法1.41;
【0081】
1.44 式Iの化合物において、Lが-(CH2)n-X-であり、ここで、nが3であり、XがCH2である、方法1.41;
【0082】
1.45 式Iの化合物において、Zが、1個以上のR4部分で置換されていてもよい、アリール(例えば、フェニル)である、方法1または方法1.1~1.44のいずれか;
【0083】
1.46 式Iの化合物において、Zが、1個以上のR4部分で置換されている、アリール(例えば、フェニル)である、方法1.45;
【0084】
1.47 式Iの化合物において、Zが、1個、2個、3個または4個のR4部分で置換されているフェニルである、方法1.46;
【0085】
1.48 式Iの化合物において、該1個、2個、3個または4個のR4部分が、独立して、ハロ(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)およびシアノから選択される、方法1.47;
【0086】
1.49 式Iの化合物において、Zが、ハロ(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)およびシアノから選択される1個のR4部分で置換されているフェニルである(例えば、Zが、4-フルオロフェニル、または4-クロロフェニル、または4-シアノフェニルである)、方法1.46;
【0087】
1.50 式Iの化合物において、Zが、1個のフルオロで置換されているフェニル(例えば、2-フルオロフェニル、3-フルオロフェニルまたは4-フルオロフェニル)である、方法1.46;
【0088】
1.51 式Iの化合物において、Zが4-フルオロフェニルである、方法1.46;
【0089】
1.52 式Iの化合物において、Zが、1個以上のR4部分で置換されていてもよい、ヘテロアリール(例えば、ピリジル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル)である、方法1または方法1.1~1.44のいずれか;
【0090】
1.53 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、単環式5員または6員ヘテロアリール(例えば、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チオフェニル、ピロリル、フラニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル)である、方法1.52;
【0091】
1.54 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、およびチオフェニルから選択される、方法1.53;
【0092】
1.55 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、二環式9員または10員ヘテロアリール(例えば、インドリル、イソインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンゾジオキソリル、2-オキソ-テトラヒドロキノリニル)である、方法1.52;
【0093】
1.56 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、インダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、キノリニル、ベンゾジオキソリル、および2-オキソ-テトラヒドロキノリニルから選択される、方法1.55;
【0094】
1.57 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、インダゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、およびキノリニルから選択される、方法1.55;
【0095】
1.58 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、1個、2個、3個または4個のR4部分で置換されている、方法1.52~1.57のいずれか;
【0096】
1.59 式Iの化合物において、該1個、2個、3個または4個のR4部分が、独立して、ハロ(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)、シアノ、ヒドロキシ、またはC1-6アルコキシ(例えば、メトキシ)から選択される、方法1.58;
【0097】
1.60 式Iの化合物において、該ヘテロアリールが、ハロ(例えば、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)およびシアノから選択される1個のR4部分で置換されている(例えば、該ヘテロアリールが、6-フルオロ-3-インダゾリル、6-クロロ-3-インダゾリル、6-フルオロ-3-ベンゾイソオキサゾリル、または5-クロロ-3-ベンゾイソオキサゾリルである)、方法1.58または1.59;
【0098】
1.61 式Iの化合物が、各々独立して遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化5】
からなる群から選択される、方法1または方法1.1~1.60のいずれか;
【0099】
1.62 式Iの化合物が、各々独立して遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化6】
からなる群から選択される、方法1または方法1.1~1.60のいずれか;
【0100】
1.63 式Iの化合物が、各々独立して遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化7】
からなる群から選択される、方法1または方法1.1~1.60のいずれか;
【0101】
1.64 式Iの化合物が、遊離形態または薬学的に許容される塩形態の、
【化8】
である、方法1または方法1.1~1.61のいずれか;
【0102】
1.65 式Iの化合物が遊離形態である、方法1または方法1.1~1.64のいずれか;
【0103】
1.66 式Iの化合物が、塩形態、例えば、薬学的に許容される塩形態である、方法1または方法1.1~1.64のいずれか;
【0104】
1.67 式Iの化合物が、酸付加塩形態であり、例えば、該酸が、塩酸、トルエンスルホン酸、グルタミン酸、酒石酸、リンゴ酸またはアスコルビン酸である、方法1または方法1.1~1.64のいずれか;
【0105】
1.68 式Iの化合物が実質的に純粋なジアステレオマー形態である(すなわち、他のジアステレオマーを実質的に含まない)、方法1または方法1.1~1.67のいずれか;
【0106】
1.69 式Iの化合物が、70%超、好ましくは80%超、より好ましくは90%超。最も好ましくは95%超のジアステレオマー過剰率を有する、方法1または方法1.1~1.67のいずれか;
【0107】
1.70 式Iの化合物が、固体形態、例えば結晶形態である、方法1または方法1.1~1.69のいずれか;
【0108】
1.71 式Iの化合物が、単離または精製された形態である(例えば、少なくとも90%純粋な形態、または少なくとも95%または少なくとも98%または少なくとも99%純粋な形態である)、方法1または方法1.1~1.70のいずれか;
【0109】
1.72 式Iの化合物が、式Iの化合物を薬学的に許容される希釈剤または担体と混合して含む医薬組成物の形態で投与される、方法1、または方法1.1~1.71のいずれか;
【0110】
1.73 式Iの化合物が、薬学的に許容される希釈剤または担体と混合された薬学的に許容される塩形態である、方法1.72;
【0111】
1.74 医薬組成物が、即時放出製剤である、方法1.72または1.73;
【0112】
1.75 医薬組成物が、単一用量投与用に製剤化されている(例えば、錠剤、カプセル剤、ウエハー剤、使い捨て注射剤、使い捨て鼻腔内投与用アンプル剤またはバイアル剤、使い捨て注射用アンプル剤またはバイアル剤、使い捨て鼻腔内スプレー剤である)、方法1.72~1.74のいずれか;
【0113】
1.76 医薬組成物が、錠剤、カプセル剤またはウエハー剤(例えば、経口、舌下、または頬側用の錠剤、カプセル剤またはウエハー剤)の形態である、方法1.72~1.75のいずれか;
【0114】
1.77 医薬組成物が、急速溶解経口錠剤(例えば、急速溶解舌下錠)である、方法1.76;
【0115】
1.78 医薬組成物が、鼻腔内または肺内投与用に(例えば、吸入用のエアゾール剤、ミスト剤または散剤として)製剤化されている、方法1.72~1.75のいずれか;
【0116】
1.79 医薬組成物が、注射による投与用に、例えば滅菌水溶液として、例えば静脈内注射、皮下注射または筋肉内注射用に、製剤化されている、方法1.72~1.75のいずれか;
【0117】
1.80 医薬組成物が、静脈内注射、髄腔内注射、筋肉内注射、皮下注射または腹腔内注射用に製剤化されている、方法1.79。
【0118】
1.81 医薬組成物が、プレフィルド注射シリンジとして、自己注射器として、または注射もしくは鼻腔内投与のためのバイアル内の滅菌溶液として、製剤化および/またはパッケージ化されている、方法1.72~1.80のいずれか。
【0119】
1.82 医薬組成物が、看護師、救急医療技術者または救急救命士による投与のためのキットとしてパッケージ化されている、方法1.72~1.81のいずれか。
【0120】
1.83 医薬組成物が、非医療第一対応者(例えば、警察官または消防隊員)による投与のためのキットとしてパッケージ化されている、方法1.72~1.81のいずれか。
【0121】
1.84 医薬組成物が、一般大衆による投与のためのキット(例えば、薬物乱用者用、薬物乱用者の家族および友人用、ならびに礼拝所、コミュニティーセンター、スポーツイベント会場などの公共の場用などの、使い捨て持ち帰りキット(single-use take-home kit))としてパッケージ化されている、方法1.72~1.81のいずれか。
【0122】
本明細書で使用される場合、「本開示の化合物」という用語は、方法1に記載されている化合物または方法1.1~1.71の実施態様のいずれかに記載されている化合物のいずれかを指す。
【0123】
フェンタニルおよびフェンタニル類似体は、本明細書において、まとめて「F/FA」と称される。フェンタニル類似体としては、米国麻薬取締局(U.S. Drug Enforcement Administration)および/または国連薬物犯罪事務局(United Nations Office on Drug and Crime)(UNODC)によってそのようなものと認められているすべての化合物が含まれる。F/FA化合物には、フェンタニル、α-メチルフェンタニル、3-メチルフェンタニル、アセチルフェンタニル(デスメチルフェンタニルとしても知られている)、アセチル-α-メチルフェンタニル、チオフェンタニル、α-メチルチオフェンタニル、β-ヒドロキシフェンタニル、パラフルオロフェンタニル、β-ヒドロキシ-3-メチルチオフェンタニル、β-ヒドロキシチオフェンタニル、ブチリルフェンタニル、フラニルフェンタニル、4-フルオロイソブチリルフェンタニル、4-フルオロブチリルフェンタニル、4-メトキシブチリルフェンタニル、4-メチルブチリルフェンタニル、アクリルフェンタニル、4-クロロイソブチリルフェンタニル、テトラヒドロフラニルフェンタニル、シクロペンチルフェンタニル、バレリルフェンタニル、メトキシアセチルフェンタニル、3-カルボメトキシフェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニル、チアフェンタニル、ロフェンタニル、オクフェンタニル、トレフェンタニル(trefantinil)、ブリフェンタニル、AH-7921、U-47700、MT-45、およびフェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニルまたはカルフェンタニルに「実質的に類似する」その他の化合物が含まれるが、これらに限定されない。F/FAは、また、本明細書に記載されたF/FA化合物が混入しているかまたはそれと混合されている、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、ヒドロモルフォン、マリファナもしくはカンナビス製品、テトラヒドロカンナビノール、コカイン、アンフェタミン、メトアンフェタミン、メチレンジオキシメトアンフェタミン、アルプラゾラム、または他の違法薬物または合法薬物など、F/FA化合物を含有しているすべての薬物組成物または混合物も含む。
【0124】
第1の態様のさらなる実施態様において、本開示は、以下のような、方法1のさらなる実施態様を提供する:
【0125】
1.85 患者が、意識不明である、方法1、または方法1.1~1.84のいずれか;
【0126】
1.86 患者が、急性F/FA過剰摂取に苦しんでいる疑いがある、方法1、または方法1.1~1.84のいずれか;
【0127】
1.87 患者が、胸壁硬直を示している、方法1、または方法1.1~1.86のいずれか;
【0128】
1.88 患者が、喉頭痙攣を示している、方法1、または方法1.1~1.87のいずれか;
【0129】
1.89 患者が、ウッドチェスト症候群(wooden chest syndrome)(WCS)と診断されているかまたはその疑いがあるかまたはそれに罹患している、方法1、または方法1.1~1.88のいずれか;
【0130】
1.90 患者が、フェンタニル誘発性筋硬直(FIMR)またはフェンタニル誘発性呼吸器筋硬直(FIRMR)(ここで、該FIMRまたはFIRMRは、フェンタニルによって引き起こされているかまたはフェンタニル類似体によって引き起こされている)と診断されているかまたはその疑いがあるかまたはそれに罹患している、方法1、または方法1.1~1.88のいずれか;
【0131】
1.91 患者が、非病院または非緊急クリニックに入院している(in a non-hospital or non-emergency clinic setting)、方法1、または方法1.1~1.90のいずれか;
【0132】
1.92 患者が、オピオイド使用障害の疑いがあるかもしくはそれに罹患しているか、またはオピオイド使用障害歴を有する、方法1、または方法1.1~1.91のいずれか;
【0133】
1.93 患者が、ナイーブオピオイド使用者である疑いがある、方法1、または方法1.1~1.92のいずれか;
【0134】
1.94 患者が、F/FAが混入しているかまたはそれと混合されている合法薬物または違法薬物(例えば、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、ヒドロモルフォン、マリファナまたはカンナビス製品、テトラヒドロカンナビノール、コカイン、アンフェタミン、メトアンフェタミン、メチレンジオキシメトアンフェタミン、アルプラゾラム、または他の違法薬物または合法薬物)を過剰摂取したかまたはその疑いがある、方法1、または方法1.1~1.93のいずれか;
【0135】
1.95 F/FAが、全身麻酔(例えば、外科麻酔)として投与されるかまたは投与された、方法1、または方法1.1~1.94のいずれか;
【0136】
1.96 全身麻酔が、さらに、吸入麻酔薬(例えば、イソフルラン、セホフルラン、デスフルラン、亜酸化窒素、ハロタン、メトキシフルラン)、別のオピオイドアゴニスト(例えば、モルヒネ、オキシコドン)、鎮静薬または睡眠薬(例えば、プロポホール、ミダゾラム、ケタミン、エトミデート)、または筋弛緩薬(例えば、アトラクリウム、ミバクリウム、パンクロニウム、ロクロニウム、ベクロニウム、シサトラクリウム(cistracurium)、サクシニルコリン)のうち1種類以上を含むかまたは含んだ、方法1.95;
【0137】
1.97 患者が、例えば持続的な呼吸抑制に起因して、麻酔から抜け出すのが困難である、方法1.95または1.96;
【0138】
1.98 患者が、いずれかの経路(例えば、鼻腔内、静脈内、皮下、または筋肉内)により投与されたμオピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソンまたはナルトレキソン、例えば、0.1~4mg)の単回投与に(例えば、呼吸抑制の徴候または症状に関して)反応していないかまたは十分に反応していない、方法1、または方法1.1~1.97のいずれか;
【0139】
1.99 患者が、いずれかの経路(例えば、鼻腔内、静脈内、皮下、または筋肉内)により投与されたμオピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソンまたはナルトレキソン、例えば、合計0.4~20mg)の複数回投与に(例えば、呼吸抑制の徴候または症状に関して)反応していないかまたは十分に反応していない、方法1、または方法1.1~1.97のいずれか;
【0140】
1.100 患者が、いずれかの経路によって投与されたμオピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソンまたはナルトレキソン、例えば、鼻腔内、静脈内、皮下、または筋肉内)の単回投与または複数回投与後に呼吸抑制の再発を経験したことがある、方法1、または方法1.1~1.99のいずれか;
【0141】
1.101 患者が、いずれかの経路によって投与されたμオピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソンまたはナルトレキソン、例えば、鼻腔内、静脈内、皮下、または筋肉内)の単回投与または複数回投与後に1つ以上のオピオイド離脱症状または他の有害事象(例えば、激越、闘争的なこと、喉頭痙攣、肺水腫、血行動態不安定、または心不整脈)を経験したことがある、方法1、または方法1.1~1.100のいずれか;
【0142】
1.102 該μオピオイドアンタゴニストが、ナロキソン、ナルトレキソン、またはナルメフェンである、方法1.98~1.101のいずれか;
【0143】
1.103 該μオピオイドアンタゴニストが、ナロキソンである、方法1.98~1.101のいずれか;
【0144】
1.104 患者が、少なくとも1回のナロキソン投与を受けており、ナロキソンのさらなる投与が禁忌とされるような1つ以上のオピオイド離脱症状または有害事象に罹患している、方法1、または方法1.1~1.103のいずれか;
【0145】
1.105 ナロキソンの使用が、何らかの理由で禁忌である、方法1、または方法1.1~1.104のいずれか;
【0146】
1.106 患者が、以前にオピオイド過剰摂取に罹患したことがある、方法1、または方法1.1~1.105のいずれか;
【0147】
1.107 患者が、毒物学的または法医学的方法により(例えば、患者の血液中、または患者の薬物もしくは薬物道具中のF/FAの存在を確認することにより)、F/FA過剰摂取に罹患していることが確認されている、方法1、または方法1.1~1.106のいずれか;
【0148】
1.108 式Iの化合物の有効量が、呼吸停止、呼吸抑制、骨格筋痙攣、胸壁硬直、喉頭痙攣、瞳孔収縮、心停止、徐脈、または意識不明のうち1つ以上を逆転するのに有効な量である、方法1、または方法1.1~1.107のいずれか;
【0149】
1.109 式Iの化合物の有効量が、0.1mg~200mg、例えば、1~200mg、または10~150mg、または25~100mg、または50~100mg、または75~100mg、または25~75mg、または25~50mg、または1~50mg、または1~25mg、0.1~50mg、2.5mg~50mgであるか、または、長期作用性製剤については、25mg~1500mg、例えば、50mg~500mg、または250mg~1000mg、または250mg~750mg、または75mg~300mgである、方法1、または方法1.1~1.108のいずれか;
【0150】
1.110 有効量が、単回投与として投与される、方法1.109;
【0151】
1.111 有効量が、30分間未満(例えば、20分間未満、または15分間未満、または10分間未満)の間に2回以上投与される、方法1.109;
【0152】
1.112 式Iの化合物の有効量が、(例えば、吸入用のエアゾール剤、ミスト剤または散剤として)鼻腔内投与により投与される、方法1、または方法1.1~1.111のいずれか;
【0153】
1.113 式Iの化合物の有効量が、例えば急速溶解経口錠剤(例えば、急速溶解舌下錠)により、口腔粘膜を介して投与される、方法1、または方法1.1~1.111のいずれか;
【0154】
1.114 式Iの化合物の有効量が、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、髄腔内注射、腹腔内注射または皮下注射)により投与される、方法1、または方法1.1~1.111のいずれか;
【0155】
1.115 方法が、他のピオイドアンタゴニスト(例えば、ナロキソン、ナルトレキソン、ナルメフェン、メサドン、ナロルフィン、レバロルファン、サミドルファン、ナロデイン(nalodeine)、シプロジム、またはノルビナルトルフィミン)の同時投与を含まない、いずれかの上記方法;
【0156】
1.116 方法が、R1がHである式Iの化合物と、同式Iの化合物のプロドラッグ(すなわち、R1が、上記されている、-C(O)-O-C(Ra)(Rb)(Rc)、-C(O)-O-CH2-O-C(Ra)(Rb)(Rc)または-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8であるもの)の両方を含む医薬組成物を投与することを含む、いずれかの上記方法;
【0157】
1.117 式Iの化合物が、過剰摂取に対する唯一の薬理学的治療(例えば、酸素投与、心肺蘇生、胸部圧迫および輸液などの支持的インターベンション以外の)である、いずれかの上記方法;
【0158】
1.118 方法が、F/FA過剰摂取の処置または逆転のための方法である、いずれかの上記方法;
【0159】
1.119 方法が、F/FA誘発性呼吸抑制の処置または逆転のための方法である、いずれかの上記方法;
【0160】
1.120 方法が、F/FA誘発性筋硬直の処置または逆転のための方法である、いずれかの上記方法;
【0161】
1.121 方法が、F/A誘発性喉頭痙攣の処置または逆転のための方法である、いずれかの上記方法;
【0162】
1.122 方法が、中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害のための方法である、いずれかの上記方法;
【0163】
1.123 方法が、中枢神経系における(例えば、青斑核における)F/FA誘発性βアレスチンシグナル伝達の阻害のための方法である、いずれかの上記方法;
【0164】
1.124 方法が、F/FA過剰摂取による死亡の予防のための方法である、いずれかの上記方法;
【0165】
1.125 方法が、麻酔回復(例えば、手術後のような、麻酔覚醒)のための方法である、いずれかの上記方法
【0166】
1.126 F/FAが、本明細書全体に開示されているF/FAである、いずれかの上記方法;
【0167】
1.127 F/FAが、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニル、チアフェンタニル、ロフェンタニル、オクフェンタニル、トレフェンタニル、およびブリフェンタニルから選択される、いずれかの上記方法;
【0168】
1.128 F/FAが、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニルおよびカルフェンタニルから選択される、いずれかの上記方法;
【0169】
1.129 F/FAが、フェンタニルである、いずれかの上記方法;
【0170】
1.130 方法が、患者において、誘発離脱、例えば、頻脈、悪心、嘔吐、下痢、極度の不安、レストレスレッグス、筋痛、および多量の発汗から選択される離脱症状を引き起こさない、いずれかの上記方法;
【0171】
1.131 F/FAの供給源が、コカイン、ヘロイン、オキシコドン、アンフェタミン、メトアンフェタミン、またはマリファナなどのF/FAが混ざっている別の違法薬物である、方法1または1.1~1.130のいずれか;
【0172】
1.132 方法が、
(a) 薬物過剰摂取の処置または逆転;
(b) 薬物誘発性呼吸抑制の処置または逆転;
(c) 薬物誘発性筋硬直の処置または逆転;
(d) 薬物誘発性喉頭痙攣の処置または逆転;または
(e) 薬物過剰摂取による死亡の予防
の方法であって、
該薬物が、F/FAが混ざっている違法薬物である、方法1または1.1~1.130のいずれか;
【0173】
1.133 違法薬物が、ヘロイン、コカイン、アンフェタミン、メトアンフェタミン、オキシコドン、またはマリファナである、方法1.132;
【0174】
1.134 過剰摂取、呼吸抑制、筋硬直、喉頭痙攣、および/または死亡リスクが、主にまたは専ら、違法薬物におけるF/FA混入に起因している(例えば、F/FA混入がなければ、該違法薬物は過剰摂取、呼吸抑制、筋硬直、喉頭痙攣、および/または死亡リスクを引き起こさなかった)、方法1.132または1.133。
【0175】
本開示の化合物が1種類以上の第2の治療薬とともに投与される、方法1以降の実施態様のいずれかにおいて、該1種類以上の第2の治療薬は、本開示の化合物を含む医薬組成物の一部として投与され得る。別法として、該1種類以上の第2の治療薬は、本開示の化合物の投与と同時に、連続して、または別々に投与される別個の医薬組成物(丸剤、錠剤、カプセル剤および注射剤など)で投与され得る。
【0176】
第2の態様において、本開示は、方法1または方法1.1~1.134のいずれかによる使用のための医薬の製造における、本開示の化合物、例えば、式Iの化合物、または方法1.1~1.71の実施態様のいずれかに記載されている化合物のいずれかの使用を提供する。
【0177】
第3の態様において、本開示は、方法1または方法1.1~1.134のいずれかによる使用のための、本開示の化合物、例えば、式Iの化合物、または方法1.1~1.71の実施態様のいずれかに記載されている化合物のいずれかを提供する。
【0178】
理論に縛られることなく、式Aの化合物などの本開示の化合物は、それらの強力な5-HT2A、D1およびμオピオイド調節活性に起因して、また、特にそれらのバイアスμオピオイド受容体活性に起因して、F/FA過剰摂取の症状、特に、呼吸抑制、胸壁硬直および喉頭痙攣を逆転させるのに予想外に有効であると考えられる。これは、特に、βアレスチンシグナル伝達を介したμ受容体アンタゴニストとしてのこれらの化合物の活性に起因していると考えられる。これらの化合物のα1アドレナリン作動性アンタゴニストとしての活性、間接的なNMDAおよびAMPAアンタゴニストとしての活性、および潜在的にはGABA発現ニューロンに対する間接的な作用に起因する可能性があると考えられる。これらの特性は、非常にユニークであり、ナロキソンのような、オピオイドの過剰摂取治療およびオピオイドアゴニズムの外科的逆転の両方に使用される従来のμオピオイド受容体アンタゴニストとは共通していない。
【0179】
本明細書に開示された化合物はまた、オピオイドの中止またはオピオイドアンタゴニスト治療が誘発し得るようなオピオイド離脱症状を誘発しないので、急性過剰摂取および慢性オピオイド嗜癖の治療に非常に有益である。オピオイド離脱症候群は、耽溺患者には非常に激しいものであり得、頻脈、悪心、嘔吐、下痢、極度の不安、レストレスレッグス、筋痛、および多量の発汗などの症状を含み得る。これらの離脱症状は、オピオイドの存在に対する身体の適応の結果であり、耐性と身体依存をもたらす。重症の場合、オピオイド乱用の突然の中止またはオピオイドアンタゴニストによる治療により、離脱症状が数週間または数か月続くことがある。ナロキソンまたはナルトレキソンのようなオピオイドアンタゴニストの投与は、特に高用量では、特にF/FAの急性過剰摂取に苦しむ患者において、急性離脱作用を促進する可能性がある。ヘロインのような弱いオピオイドアゴニストの過剰摂取に苦しむ患者では、そのような離脱症候群を回避または最小化するために、少量の反復投与を用いてアンタゴニスト治療を行うことができる。しかしながら、急性F/FA過剰摂取では、このような低用量のアンタゴニストは無効であり、したがって、過剰摂取を逆転させる何らかの機会を得るためには、伝統的なアンタゴニスト治療で重度の離脱を回避することはしばしば不可能である。
【0180】
本開示のいくつかの実施態様において、式Iの化合物は、1つ以上の生物学的に不安定な官能基が該化合物内に配置されており、その結果、自然の代謝活性が該不安定な官能基を除去し、式Iの別の化合物となる。例えば、基R1がC(O)-O-C(Ra)(Rb)(Rc)、-C(O)-O-CH2-O-C(Ra)(Rb)(Rc)または-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8である場合、生物学的条件下では、この置換基は、加水分解を受けて、R1がHである同じ化合物を生じ、したがって、R1がHである化合物の元の化合物プロドラッグとなる。このようなプロドラッグのいくつかは、生物学的活性がほとんどもしくは全くないかまたは中程度しかないが、R1がHである化合物に加水分解すると、該化合物は強い生物学的活性を有し得る。このように、選択される化合物に応じて、それを必要とする患者への本開示の化合物の投与は、即時の生物学的および治療的効果、または即時および遅延の生物学的および治療的効果、または遅延の生物学的および治療的効果のみがもたらされ得る。このようなプロドラッグ化合物は、したがって、R1がHである式Iの薬理学的に活性な化合物のリザーバとして機能する。特定の実施態様において、基R1の性質は、得られる式Iの化合物が、R1がHである式Iの対応する化合物よりも実質的に親油性であり、その結果、プロドラッグ化合物が血液脳関門を通過して中枢神経系(CNS)組織にはるかに迅速に蓄積し、次いでCNSを獲得する不安定基の迅速な加水分解が起こるようなものであり得る。全体として、これは、μ受容体活性化の作用を逆転させる化合物のより迅速な作用をもたらし得る。
【0181】
別の実施態様において、本開示の方法は、式Iの化合物および同化合物のプロドラッグの両方を含む医薬組成物の投与を提供する。したがって、該組成物は、R1がHである式Iの特定の化合物、およびR1が-C(O)-O-C(Ra)(Rb)(Rc)、-C(O)-O-CH2-O-C(Ra)(Rb)(Rc)または-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8である式Iの第2の化合物を含み得るが、これらの化合物は他の点では同一である。このような実施態様において、プロドラッグの基R1の性質に依存して、該組成物は、R1がHである式Iの化合物の迅速な吸収および作用に起因する即時放出効果を、該化合物のプロドラッグバージョンの遅い加水分解に起因する持続放出または遅延放出効果と合わせて提供し得、時間の経過(例えば、1~3時間、6~12時間、12~48時間、2~3日間)にわたって、R1がHである式Iのさらなる化合物を生成する。したがって、特定の態様において、本開示は、また、R1がHである式Iの第1の化合物、およびR1が-C(O)-O-C(Ra)(Rb)(Rc)、-C(O)-O-CH2-O-C(Ra)(Rb)(Rc)または-C(R6)(R7)-O-C(O)-R8である式Iの第2の化合物を含む、医薬組成物を提供する。この態様のさらなる実施態様において、R1がHである式Iの化合物および式Iのプロドラッグ化合物の両方は、実施態様1.1~1.70のいずれかに記載されているとおりであり得、それを含む医薬組成物は、本明細書に記載の他の医薬組成物実施態様に記載されているとおりであり得る。
【0182】
本明細書で使用される「アルキル」は、特記しない限り、飽和または不飽和炭化水素部分であり、例えば、長さが1~21個の炭素原子である;このようなアルキルは、特記しない限り、直鎖または分枝鎖(例えば、n-ブチルまたはtert-ブチル)であり得、好ましくは直鎖である。例えば、「C1-21アルキル」は、1~21個の炭素原子を有するアルキルを示す。一の実施態様において、アルキルは、1個以上のヒドロキシまたはC1-22アルコキシ(例えば、エトキシ)基で置換されていてもよい。別の実施態様において、アルキルは、1~21個の炭素原子を含有し、好ましくは直鎖であり、飽和であっても不飽和であってもよく、例えば、いくつかの実施態様において、R1は、1~21個の炭素原子、好ましくは6~15個の炭素原子、16~21個の炭素原子を含有するアルキル鎖であり、例えば、その結果、例えば、式Iの化合物から切断されたとき、それが結合する-C(O)-とともに、天然または非天然の、飽和または不飽和脂肪酸の残基を形成する。
【0183】
「薬学的に許容される希釈剤または担体」という用語は、医薬製剤において有用であり、アレルゲン性、発熱性または病原性であって潜在的に病気を引き起こすかまたは促進することが知られている物質を含まない、希釈剤および担体を意味することが意図されている。したがって、薬学的に許容される希釈剤または担体は、血液、尿、髄液および唾液などの体液、ならびに血球および循環タンパク質などのそれらの構成成分を除外する。適切な薬学的に許容される希釈剤および担体は、医薬製剤に関するいくつかの周知の論文、例えば、Goodman and Gilman, eds., The Pharmacological Basis of Therapeutics, Tenth Edition, McGraw Hill, 2001;Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th Ed., Lippincott Williams & Wilkins., 2000;およびMartindale, The Extra Pharmacopoeia, Thirty-Second Edition (The Pharmaceutical Press, London, 1999)のいずれかに見出され得る;これらはすべて出典明示によりその内容全体を本明細書の記載とする。
【0184】
化合物についての「精製された」、「精製された形態で」または「単離され精製された形態で」という用語は、合成プロセスから(例えば、反応混合物から)、または天然源から、またはそれらの組み合わせから単離された後の前記化合物の物理的状態を指す。したがって、化合物についての「精製された」、「精製された形態で」、または「単離され精製された形態で」という用語は、本明細書に記載されるかまたは当業者に周知の標準的な分析技術によって特徴付けられるのに十分な純度で、本明細書に記載されるかまたは当業者に周知の精製プロセス(例えば、クロマトグラフィー、再結晶、LC-MSおよびLC-MS/MS技術など)から得られた後の前記化合物の物理的状態を指す。
【0185】
特記しない限り、本開示の化合物は、遊離塩基形態で、または薬学的に許容される塩形態のような塩形態で、例えば酸付加塩として、存在し得る。十分に塩基性である本開示の化合物の酸付加塩は、例えば、例えば無機酸または有機酸、例えば塩酸またはトルエンスルホン酸との酸付加塩である。加えて、十分に酸性である本開示の化合物の塩は、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩もしくはカリウム塩、または生理学的に許容される陽イオンをもたらす有機塩基との塩である。特定の実施態様において、本開示の化合物の塩は、トルエンスルホン酸付加塩である。
【0186】
本開示の化合物は、医薬として使用することを意図しており、したがって、薬学的に許容される塩が好ましい。医薬用途に適さない塩は、例えば、本開示の遊離化合物の単離または精製のために有用であり得、したがって、本開示の化合物の範囲内にも含まれる。
【0187】
本開示の化合物は、1個以上の不斉炭素原子を含み得る。したがって、該化合物は、個々の異性体として、例えば、エナンチオマー形態またはジアステレオマー形態で、または個々の形態の混合物、例えば、ラセミ/ジアステレオマー混合物として存在する。不斉中心が(R)-、(S)-または(R,S)-配置にある異性体が存在してもよい。本発明は、個々の光学活性異性体ならびにそれらの混合物(例えば、ラセミ/ジアステレオマー混合物)の両方を包含すると理解される。したがって、本開示の化合物は、ラセミ混合物であってもよいか、または、主として、例えば、純粋なまたは実質的に純粋な異性体の形態であってもよく、例えば、70%超エナンチオマー/ジアステレオマー過剰率(「ee」)、好ましくは80%超ee、より好ましくは90%超ee、最も好ましくは95%超eeであってもよい。前記異性体の精製および前記異性体混合物の分離は、当該技術分野で公知の標準的な技術(例えば、カラムクロマトグラフィー、分取TLC、分取HPLC、および模擬移動床など)によって達成することができる。
【0188】
二重結合または環に関する置換基の性質による幾何異性体は、シス型(Z)またはトランス型(E)で存在し得、両方の異性体型は本発明の範囲に包含される。
【0189】
また、本開示の化合物は、それらの安定同位体および不安定同位体を包含することが意図される。安定同位体は、同じ種(すなわち、元素)の豊富な核種と比較して、1つのさらなる中性子を含む非放射性同位体である。このような同位体を含む化合物の活性は保持されることが期待され、このような化合物は非同位体アナログの薬物動態を測定するために有用でもある。例えば、本開示の化合物のある位置の水素原子は重水素(非放射性の安定同位体)で置き換えられ得る。既知の安定同位体の例としては、重水素(2HまたはD)、13C、15N、18Oが挙げられるが、これらに限定されない。別法として、同じ種(すなわち、元素)の豊富な核種と比較してさらなる中性子を含む放射性同位体である不安定同位体、例えば、123I、131I、125I、11C、18Fは、I、CおよびFの対応する豊富な種と置き換わることができる。本開示の化合物の有用な同位体の別の例は、11C同位体である。これらの放射性同位体は、本開示の化合物のラジオイメージングおよび/または薬物動態学的研究に有用である。さらに、天然の同位体分布を有する原子をより重い同位体で置換することは、これらの置換が代謝的に責任のある部位で行われる場合、薬物動態速度に望ましい変化をもたらすことができる。例えば、水素の代わりに重水素(2H)を組み込むと、水素の位置が酵素活性または代謝活性の部位である場合、代謝分解を遅らせることができる。
【0190】
「有効量」とは、「治療上有効な量」、すなわち、疾患または障害に罹患している対象体に投与された場合に、治療を意図した期間にわたって疾患または障害の軽減、寛解、または退行を引き起こすのに有効である、本開示の化合物の量(例えば、医薬組成物または剤形に含まれる)を意味する。
【0191】
本発明の実施において採用される投与量は、もちろん、例えば、処置される特定の疾患または状態、使用される本開示の特定の化合物、投与様式、および所望の療法に応じて変化する。特記しない限り、投与のための本開示の化合物の量(遊離塩基として投与されるか塩形態として投与されるかにかかわらず)は、遊離塩基形態の本開示の化合物の量を指すか、またはそれに基づく(すなわち、量の計算は遊離塩基量に基づく)。
【0192】
本開示の化合物は、経口、非経口(静脈内、筋肉内または皮下)または経皮を含む満足な経路により投与され得る。特定の実施態様において、本開示の化合物は、例えば、デポー製剤では、好ましくは非経口的に、例えば、注射、例えば筋肉内注射または皮下注射により、投与される。
【0193】
本開示の化合物の薬学的に許容される塩は、慣用の化学的方法により、塩基性または酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離塩基形態を、水中もしくは有機溶媒中、またはこれらの混合物中で、化学量論量の適切な酸と反応させることによって調製することができる;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。
【0194】
本開示の化合物を含む医薬組成物は、慣用の希釈剤または賦形剤(例としては、ゴマ油が挙げられるが、これらに限定されない)およびガレノス技術分野で公知の技術を用いて調製され得る。従って、経口剤形としては、錠剤、カプセル剤、液剤、および懸濁剤などが挙げられる。
【0195】
治療的使用に言及する場合の「同時投与」という用語は、2つ以上の活性成分が同じ時間に投与されるか異なる時間に投与されるかにかかわらず、または同じ投与経路で投与されるか異なる投与経路で投与されるかにかかわらず、疾患または障害の治療のためのレジメンの一部として2つ以上の活性成分を患者に投与することを意味する。2つ以上の有効成分の同時投与は、同じ日の異なる時間であってもよいし、異なる日付であってもよいし、異なる頻度であってもよい。
【0196】
治療的使用に言及する場合の「同時に」という用語は、2つ以上の活性成分を同じ投与経路で同時またはほぼ同時に投与することを意味する。
【0197】
治療的使用に言及する場合の「別々に」という用語は、2つ以上の有効成分を異なる投与経路により同時またはほぼ同時に投与することを意味する。
【0198】
本開示の化合物の製造方法:
式Aの化合物、および以下に記載する合成スキームで使用される中間体の合成を含むその合成方法は、例えば、米国特許第8,309,722号および米国特許第10,245,260号、米国特許出願公開第2021/00009592号および国際公開第2020/131895号に開示されている。類似の縮合γカルボリンの合成は、例えば、米国特許第8,309,722号、米国特許第8,993,572号、米国特許第10,077,267号、米国特許第10,961,245号、米国特許第10,906,906号、米国特許出願公開第2021/0163481号、および国際公開第2020/132605号(米国特許出願公開第2022/0048910号)に開示されている(各記載内容は出典明示によりその内容全体を本明細書の記載とする)。本開示の化合物は、同様の手順を用いて製造することができる。
【0199】
本開示の化合物のジアステレオマーの単離または精製は、当該技術分野で公知の慣用の方法、例えば、カラム精製、分取薄層クロマトグラフィー、分取HPLC、結晶化、トリチュレーション、キラル塩分割、および模擬移動床などによって達成され得る。
【0200】
本開示の化合物の塩は、米国特許第6,552,017号;米国特許第7,183,282号;米国特許第8,648,077号;米国特許第10,654,854号;および米国特許第11,014,925における記載と同様に製造することができる;各記載内容は出典明示によりその内容全体を本明細書の記載とする。
【0201】
製造した化合物のジアステレオマーは、例えばHPLCにより分離することができる。例えば、室温で操作し、エタノール/ヘキサン/ジメチルエチルアミン溶媒系で溶離するCHIRALPAK(登録商標)AY-H、5μ、30×250mmカラムを使用することができる。
【実施例】
【0202】
実施例1: (6bR,10aS)-8-(3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンの合成
【化9】
(6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(100mg、0.436mmol)、1-(3-クロロプロキシ)-4-フルオロベンゼン(100μL、0.65mmol)およびヨウ化カリウム(KI)(144mg、0.87mmol)のジメチルホルムアミド(DMF)(2mL)中混合物をアルゴンで3分間脱気し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(150μL、0.87mmol)を添加する。得られた混合物を78℃に加熱し、この温度で2時間撹拌する。該混合物を室温に冷却し、次いで、濾過する。濾過ケーキを、溶離液として0~100%酢酸エチルのメタノール/メタノール中7N NH
3の混合物(1:0.1 v/v)中勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、部分精製生成物を生成し、さらに、16分間かけて0.1%ギ酸含有水中0~60%アセトニトリル勾配液を使用して半分取HPLCシステムを用いて精製して、標記生成物を固体として得る(50mg、収率30%)。MS (ESI) m/z 406.2 [M+1]
+。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d
6) δ 10.3 (s, 1H), 7.2-7.1 (m, 2H), 7.0-6.9 (m, 2H), 6.8 (dd, J=1.03, 7.25 Hz, 1H), 6.6 (t, J=7.55 Hz, 1H), 6.6 (dd, J=1.07, 7.79 Hz, 1H), 4.0 (t, J=6.35 Hz, 2H), 3.8 (d, J=14.74 Hz, 1H), 3.3-3.2 (m, 3H), 2.9 (dd, J=6.35, 11.13 Hz, 1H), 2.7-2.6 (m, 1H), 2.5-2.3 (m, 2H), 2.1 (t, J=11.66 Hz, 1H), 2.0 (d, J=14.50 Hz, 1H), 1.9-1.8 (m, 3H), 1.7 (t, J=11.04 Hz, 1H)。
【0203】
実施例2: (6bR,10aS)-8-(3-(6-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンの合成
【化10】
【0204】
工程1: BCl3・MeS(10.8g、60mmol)の0~5℃のトルエン中撹拌溶液に3-フルオロアニリン(5.6mL、58mmol)を添加し、次いで、4-クロロブチロニトリル(7.12g、68.73mmol)および塩化アルミニウム(AlCl3)(8.0g、60.01mmol)添加する。該混合物を130℃で一夜撹拌し、50℃に冷却する。塩酸(3N、30mL)を注意して添加し、得られた溶液を90℃で一夜撹拌する。得られた茶色の溶液を室温に冷却し、蒸発乾固させる。残留物をジクロロメタン(DCM)(20mL)に溶解し、飽和Na2CO3でpH7~8に塩基性化する。有機相を分取し、Na2CO3で乾燥させ、次いで、濃縮する。残留物を、溶離液としてヘキサン中0~20%酢酸エチル勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、2'-アミノ-4-クロロ-4'-フルオロブチロフェノンを黄色固体として得る(3.5g、収率28%)。MS (ESI) m/z 216.1 [M+1]+。
【0205】
工程2: 2'-アミノ-4-クロロ-4'-フルオロブチロフェノン(680mg、3.2mmol)の0~5℃の濃HCl(14mL)中懸濁液に水(3mL)中NaNO2(248mg、3.5mmol)を添加する。得られた茶色の溶液を0~5℃で1時間撹拌し、次いで、濃HCl(3mL)中SnCl2・2H2O(1.74g、7.7mmol)を添加する。該混合物を0~5℃でさらに1時間撹拌し、次いで、ジクロロメタン(30mL)を添加する。該反応混合物を濾過し、濾過ケーキをK2CO3で乾燥させ、蒸発乾固させる。残留物を、溶離液としてヘキサン中0~35%酢酸エチル勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、3-(3-クロロプロピル)-6-フルオロ-1H-インダゾールを白色固体として得る(400mg、収率60%)。MS (ESI) m/z 213.1 [M+1]+。
【0206】
工程3: (6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(100mg、0.436mmol)、3-(3-クロロプロピル)-6-フルオロ-1H-インダゾール(124mg、0.65mmol)およびKI(144mg、0.87mmol)の混合物をアルゴンで3分間脱気し、DIPEA(150μL、0.87mmol)を添加する。得られた混合物を78℃で2時間撹拌し、次いで、室温に冷却する。生じた沈殿物を濾過する。濾過ケーキを、16分間かけて0.1%ギ酸含有水中0~60%アセトニトリル勾配液を使用して半分取HPLCシステムで精製して、(6bR,10aS)-8-(3-(6-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンをオフホワイト色固体として得る(50mg、収率28%)。MS (ESI) m/z 406.2 [M+1]+。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 12.7 (s, 1H), 10.3 (s, 1H), 7.8 (dd, J=5.24, 8.76 Hz, 1H), 7.2 (dd, J=2.19, 9.75 Hz, 1H), 6.9 (ddd, J=2.22, 8.69, 9.41 Hz, 1H), 6.8-6.7 (m, 1H), 6.6 (t, J=7.53 Hz, 1H), 6.6 (dd, J=1.07, 7.83 Hz, 1H), 3.8 (d, J=14.51 Hz, 1H), 3.3-3.2 (m, 1H), 3.2 (s, 2H), 2.9 (dt, J=6.35, 14.79 Hz, 3H), 2.7-2.6 (m, 1H), 2.4-2.2 (m, 2H), 2.1 (t, J=11.42 Hz, 1H), 2.0-1.8 (m, 3H), 1.8-1.7 (m, 1H), 1.7 (t, J=10.89 Hz, 1H)。
【0207】
実施例3: (6bR,10aS)-8-(3-(6-フルオロベンゾ[d]イソオキサゾール-3-イル)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンの合成
【化11】
【0208】
(6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(148mg、0.65mmol)、3-(3-クロロプロピル)-6-フルオロベンゾ[d]イソオキサゾール(276mg、1.3mmol)およびKI(210mg、1.3mmol)の混合物をアルゴンで脱気し、次いで、DIPEA(220μL、1.3mmol)を添加する。得られた混合物を78℃で2時間撹拌し、次いで、室温に冷却する。該混合物を真空濃縮する。残留物をジクロロメタン(50mL)に懸濁し、次いで、水(20mL)で洗浄する。有機相をK2CO3で乾燥させ、次いで、真空濃縮する。粗生成物を、1%7N NH3含有酢酸エチル中0~10%メタノール勾配液を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、標記生成物を固体として得る(80mg、収率30%)。MS (ESI) m/z 407.2 [M+1]+。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.3 (s, 1H), 8.0-7.9 (m, 1H), 7.7 (dd, J=2.15, 9.19 Hz, 1H), 7.3 (td, J=2.20, 9.09 Hz, 1H), 6.8 (d, J=7.22 Hz, 1H), 6.6 (t, J=7.54 Hz, 1H), 6.6 (d, J=7.75 Hz, 1H), 3.8 (d, J=14.53 Hz, 1H), 3.3 (s, 1H), 3.2 (s, 1H), 3.2-3.1 (m, 1H), 3.0 (t, J=7.45 Hz, 2H), 2.9-2.8 (m, 1H), 2.7-2.5 (m, 1H), 2.4-2.2 (m, 2H), 2.2-2.0 (m, 1H), 2.0-1.8 (m, 3H), 1.8-1.6 (m, 2H)。
【0209】
実施例4: 4-(3-((6bR,10aS)-2-オキソ-2,3,6b,7,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]-ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-8(9H)-イル)プロポキシ)ベンゾニトリルの合成
【化12】
【0210】
工程1: (4aS,9bR)-6-ブロモ-3,4,4a,5-テトラヒドロ-1H-ピリド[4,3-b]インドール-2(9bH)-カルボン酸エチル(21.5g、66.2mmol)、クロロアセトアミド(9.3g、100mmol)、およびKI(17.7g、107mmol)のジオキサン(60mL)中脱気懸濁液を104℃で48時間撹拌する。溶媒を除去し、残留物をジクロロメタン(200mL)に懸濁し、水(100mL)で抽出する。分取したジクロロメタン相を炭酸カリウム(K2CO3で1時間乾燥させ、次いで、濾過する。濾液を蒸発させて、粗生成物を茶色の油として得る。該茶色の油に酢酸エチル(100mL)を添加し、次いで、該混合物を2分間超音波処理する。該混合物から黄色固体が徐々に沈殿し、室温でさらに2時間放置した後、ゲルになる。さらなる酢酸エチル(10mL)を添加し、得られた固体を濾過する。濾過ケーキを酢酸エチル(2mL)ですすぎ、さらに高真空下で乾燥させて、(4aS,9bR)-5-(2-アミノ-2-oxoエチル)-6-ブロモ-3,4,4a,5-テトラヒドロ-1H-ピリド[4,3-b]インドール-2(9bH)-カルボン酸エチルをオフホワイト色の固体として生成する(19g、収率75%)。該生成物を、さらなる精製を行わずに、次工程で直接使用する。MS (ESI) m/z 382.0 [M+H]+。
【0211】
工程2: (4aS,9bR)-5-(2-アミノ-2-オキソエチル)-6-ブロモ-3,4,4a,5-テトラヒドロ-1H-ピリド[4,3-b]インドール-2(9bH)-カルボン酸エチル(12.9g、33.7mmol)、KI(10.6g、63.8mmol)、CuI(1.34g、6.74mmol)のジオキサン(50mL)中混合物をアルゴンで5分間バブリングする。該混合物にN,N,N,N’-テトラメチルエチレンジアミン(3mL)を添加し、得られた懸濁液を100℃で48時間撹拌する。該反応混合物を室温に冷却し、シリカゲルパッド上に注いて濾過する。濾過ケーキを酢酸エチル(1L×2)ですすぐ。合わせた濾液を濃縮乾固して、生成物(6bR,10aS)-2-オキソ-2,3,6b,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H,7H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-8-カルボン酸エチルエステルを白色固体として得る(8g、収率79%)。MS (ESI) m/z 302.1 [M+H]+。
【0212】
工程3: (6bR,10aS)-2-オキソ-2,3,6b,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H,7H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-8-カルボン酸エチルエステル(6.4g、21.2mmol)をHBr/酢酸溶液(64mL、33%w/w)に室温で懸濁させる。該混合物を50℃で16時間加熱する。冷却し、酢酸エチル(300mL)で処理した後、該混合物を濾過する。濾過ケーキを酢酸エチル(300mL)で洗浄し、次いで、真空乾燥する。次いで、得られたHBr塩をメタノール(200mL)に懸濁し、イソプロパノール中にてドライアイスで冷却する。強撹拌下で、該懸濁液にアンモニア溶液(10mL、メタノール中7N)をゆっくりと添加して、混合物のpHを10に調整する。得られた混合物を、さらなる精製を行わずに真空乾燥して、粗(6bR,10aS)-2-オキソ-2,3,6b,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H,7H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン(8.0g)を得、これを次工程で直接使用する。MS (ESI) m/z 230.2 [M+H]+。
【0213】
工程4: (6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(100mg、0.436mmol)、4-(3-ブロモプロポキシ)ベンゾニトリル(99mg、0.40mmol)およびKI(97mg、0.44mmol)のDMF(2mL)中混合物をアルゴンで3分間バブリングし、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(80μL、0.44mmol)を添加する。得られた混合物を76℃に加熱し、この温度で2時間撹拌する。溶媒を除去し、残留物を、酢酸エチル中0~100%混合溶媒[酢酸エチル/メタノール/7N NH3(10:1:0.1 v/v)]勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、標記生成物を白色の泡沫体として得る(35mg、収率45%)。MS (ESI) m/z 389.1 [M+1]+。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.3 (s, 1H), 7.8 (d, J=8.80 Hz, 2H), 7.1 (d, J=8.79 Hz, 2H), 6.8 (d, J=7.39 Hz, 1H), 6.6 (t, J=7.55 Hz, 1H), 6.6 (d, J=6.78 Hz, 1H), 4.1 (t, J=6.36 Hz, 2H), 3.8 (d, J=14.53 Hz, 1H), 3.3-3.2 (m, 3H), 3.0-2.8 (m, 1H), 2.7-2.6 (m, 1H), 2.5-2.3 (m, 2H), 2.2-2.0 (m, 1H), 2.0-1.8 (m, 3H), 1.8-1.7 (m, 1H), 1.7 (t, J=11.00 Hz, 1H)。
【0214】
実施例5: (6bR,10aS)-8-(3-(4-クロロフェノキシ)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンの合成
【化13】
【0215】
(6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ-[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(110mg、0.48mmol)、1-(3-ブロモプロポキシ)-4-クロロベンゼン(122mg、0.49mmol)およびKI(120mg、0.72mmol)のDMF(2.5mL)中脱気混合物にDIPEA(100μL、0.57mmol)を添加する。得られた混合物を76℃まで加熱し、この温度で2時間撹拌する。溶媒を除去し、残留物を、酢酸エチル中0~100%混合溶媒[酢酸エチル/メタノール/7N NH3(10:1:0.1 v/v)]勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製する。標記生成物を白色固体として得る(41mg、収率43%)。(ESI) m/z 398.1 [M+1]+。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.3 (s, 1H), 7.4-7.2 (m, 2H), 6.9 (d, J=8.90 Hz, 2H), 6.8-6.7 (m, 1H), 6.6 (t, J=7.53 Hz, 1H), 6.6 (dd, J=1.04, 7.80 Hz, 1H), 4.0 (t, J=6.37 Hz, 2H), 3.8 (d, J=14.53 Hz, 1H), 3.3-3.2 (m, 3H), 2.9-2.8 (m, 1H), 2.7-2.6 (m, 1H), 2.4 (ddt, J=6.30, 12.61, 19.24 Hz, 2H), 2.1-2.0 (m, 1H), 2.0-1.9 (m, 1H), 1.9-1.7 (m, 3H), 1.7 (t, J=10.98 Hz, 1H)。
【0216】
実施例6: (6bR,10aS)-8-(3-(キノリン-8-イルオキシ)プロピル)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オンの合成
【化14】
【0217】
(6bR,10aS)-6b,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-1H-ピリド[3',4':4,5]ピロロ[1,2,3-de]キノキサリン-2(3H)-オン(120mg、0.52mmol)、8-(3-クロロプロポキシ)キノリン(110mg、0.50mmol)およびKI(120mg、0.72mmol)のDMF(2.5mL)中混合物をアルゴンで3分間バブリングし、DIPEA(100μL、0.57mmol)を添加する。得られた混合物を76℃まで加熱し、この温度で2時間撹拌する。溶媒を除去し、残留物をジクロロメタン(30mL)に懸濁し、水(10mL)で洗浄する。ジクロロメタン相をK2CO3で乾燥させる。分取した有機相を蒸発乾固させる。残留物を、酢酸エチル中0~100%混合溶媒[酢酸エチル/メタノール/7N NH3(10:1:0.1 v/v)]勾配液を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、標記生成物を薄茶色の固体として生成する(56mg、収率55%)。(ESI) m/z 415.2[M+1]+。1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 10.1 (s, 1H), 8.9 (dd, J=1.68, 4.25 Hz, 1H), 8.3 (dd, J=1.71, 8.33 Hz, 1H), 7.7-7.5 (m, 3H), 7.3 (dd, J=1.50, 7.44 Hz, 1H), 7.0-6.8 (m, 1H), 6.8-6.5 (m, 2H), 4.4 (t, J=5.85 Hz, 2H), 3.9 (d, J=14.55 Hz, 1H), 3.8-3.6 (m, 2H), 3.5 (s, 1H), 3.4 (d, J=14.47 Hz, 1H), 2.9 (b, 1H), 2.3 (d, J=23.61 Hz, 5H), 1.3 (d, J=7.00 Hz, 3H)。
【0218】
実施例7: 受容体結合プロファイル
実施例1の化合物(式Aの化合物)および実施例2~6の化合物について受容体結合を決定する。以下の文献手順が使用される(その各々は、出典明示によりその内容全体を本明細書の記載とする): 5-HT2A:Bryant, H.U. et al. (1996), Life Sci., 15:1259-1268;D2:Hall, D.A. and Strange, P.G. (1997), Brit. J. Pharmacol., 121:731-736;D1:Zhou, Q.Y. et al. (1990), Nature, 347:76-80;SERT:Park, Y.M. et al. (1999), Anal. Biochem., 269:94-104;μオピオイド受容体:Wang, J.B. et al. (1994), FEBS Lett., 338:217-222。
【0219】
一般に、結果は、試験化合物の存在下で得られた、対照特異的結合のパーセントとして:
【数1】
および対照特異的結合の阻害パーセントとして:
【数2】
表される。
【0220】
IC
50値(対照特異的結合の最大半量の阻害を引き起こす濃度)およびHill係数(nH)は、Hill方程式曲線フィッティングを用いて、平均レプリケート値(mean replicate values)で作成された競合曲線の非線形回帰分析によって決定される:
【数3】
式中、Yは特異的結合であり、Aは曲線の左漸近線であり、Dは曲線の右漸近線であり、Cは化合物濃度であり、C
50はIC
50であり、nHは勾配係数である。この分析は自社ソフトウェアを使用して実施され、Windows(登録商標)用の市販ソフトウェアSigmaPlot(登録商標)4.0(著作権:1997 by SPSS Inc.)によって作成されたデータとの比較によって検証された。阻害定数(Ki)はCheng Prusoff式を用いて計算した:
【数4】
式中、Lはアッセイにおける放射線リガンドの濃度であり、K
Dは受容体に対する放射線リガンドの親和性である。K
Dを決定するためにScatchardプロットを用いる。
【0221】
以下の受容体親和性の結果が得られる:
【表1】
式Iのさらなる化合物は、実施例1~6に記載したものと類似の手順によって調製される。これらの化合物に対する受容体親和性の結果を下表に示す:
【表2】
【0222】
実施例8: μオピオイド受容体活性アッセイ
実施例1の化合物をHTRFベースのcAMPアッセイキット(cAMP Dynamic2 Assay Kit、Cisbioから、#62AM4PEB)を用いて、hOP3(ヒトμオピオイド受容体μ1サブタイプ)を発現するCHO-K1細胞において試験する。凍結細胞を37℃の水浴中で解凍し、10%FBSを含有する10mLのHam's F-12培地に再懸濁させる。細胞を遠心分離によって回収し、アッセイバッファー(5mM KCl、1.25mM MgSO4、124mM NaCl、25mM HEPES、13.3mM グルコース、1.25mM KH2PO4、1.45mM CaCl2、0.5g/L プロテアーゼ不含BSA、1mM IBMXで補足)中に再懸濁させる。μオピオイド受容体部分アゴニストであるブプレノルフィン、およびμオピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソン、および合成オピオイドペプチド完全アゴニストであるDAMGOを対照として使用する。
【0223】
アゴニストアッセイについては、細胞懸濁液12μL(2500細胞/ウェル)をホルスコリン6μL(最終アッセイ濃度10μM)と混合し、漸増濃度の試験化合物6μLを384ウェルの白色プレートのウェル中で合わせ、プレートを室温で30分間インキュベートする。溶解バッファーを添加し、さらに1時間インキュベートした後、キットの使用説明書に従ってcAMP濃度を測定する。すべての測定点をトリプリケートで測定する。XLfitソフトウェア(IDBS)を用いて曲線当てはめを行い、EC50値を、4パラメータロジスティック当てはめを用いて決定する。アゴニストアッセイは、ホルスコリン刺激cAMP蓄積を阻害する試験化合物の能力を測定する。
【0224】
アンタゴニストアッセイについては、細胞懸濁液12μL(2500細胞/ウェル)を、漸増濃度の試験化合物6μLと混合し、384ウェルの白色プレートのウェル中で合わせ、プレートを室温で10分間インキュベートする。DAMGO(D-Ala2-N-MePhe4-Gly-ol-エンケフェリン、最終アッセイ濃度10nM)とホルスコリン(最終アッセイ濃度10μM)の混合物6μLを添加し、プレートを室温で30分間インキュベートする。溶解バッファーを添加し、さらに1時間インキュベートした後、キットの使用説明書に従ってcAMP濃度を測定する。すべての測定点をトリプリケートで測定する。XLfitソフトウェア(IDBS)を用いて曲線当てはめを行い、IC50値を、4パラメータロジスティックフィットを用いて決定する。見かけの解離定数(KB)を修正Cheng-Prusoff方程式を用いて計算する。アンタゴニストアッセイは、DAMGOによって引き起こされるホルスコリン誘導cAMP蓄積の阻害を逆転させる試験化合物の能力を測定する。
【0225】
その結果を下表に示す。結果は、実施例1の化合物がMu受容体の弱いアンタゴニストであり、ナロキソンと比較してはるかに高いIC
50を示すこと、および、中程度に高い親和性であるが部分アゴニストであり、DAMGOと比較して約22%のアゴニスト活性しか示さない(DAMGOと比較してブプレノルフィンが約79%の活性であること比較して)ことを実証している。実施例1の化合物は、中程度に強い部分アゴニスト活性を有することも示されている。
【表3】
【0226】
ブプレノルフィンはオピオイド離脱に用いられる薬物であるが、高い部分アゴニスト活性のため、使用者が依存症になりやすいという問題を抱えている。これを相殺するために、ブプレノルフィンとナロキソンの市販配合剤が使用されている(Suboxoneとして販売されている)。理論に縛られることなく、ブプレノルフィンよりも弱い部分Muアゴニストであり、ある程度の中程度のアンタゴニスト活性を有する本発明の化合物は、嗜癖のリスクが低いオピオイド離脱に対して患者をより効果的に治療することを可能にすると考えられる。
【0227】
これらの結果は、本発明の化合物がμオピオイド受容体のGPCRシグナル伝達経路の部分アゴニストとして作用するが、完全アゴニスト(DAMGO)の存在下では、これらの化合物は受容体結合に関して効果的に競合し、したがって完全アゴニストのアンタゴニストとして作用することを示す。事実上、これは、フェンタニルまたはフェンタニル類似体のようなオピオイド薬物の存在下で、本発明の化合物は、μオピオイド受容体に競合的に結合し、これらの完全アゴニストをμオピオイド受容体から移動させることを意味する。したがって、実際には、これらの化合物はフェンタニルおよびフェンタニル類似体の過剰摂取を逆転させる目的のためのアンタゴニストとして有効である。
【0228】
実施例9: GPCRβアレスチンシグナル伝達アッセイ
実施例1の化合物を、βアレスチンアッセイを用いて研究する。このアッセイは、機能的レポーターとしてのβガラクトシダーゼに基づく専有技術を用いて、均質な非画像アッセイフォーマットで、選択されたGタンパク質共役受容体(GPCR)の活性化をモニターする。この酵素はEAおよびPKという2つの不活性な相補的部分に分かれており、細胞内で融合タンパク質として発現する。EA部分はβアレスチンに融合され、PK部分は目的のGPCRであるヒトμオピオイド受容体に融合される。GPCRが活性化され、βアレスチンが受容体に動員されると、該酵素の該2つの部分が補完されて酵素活性が回復し、化学発光試薬を介して検出される。
【0229】
専有細胞株を20μLの容量で384細胞マイクロプレートに播種し、37℃でインキュベートする。アゴニストを決定するために、細胞を実施例1の化合物と共にインキュベートして応答を誘導する。化合物ストックの中間希釈を行って、アッセイバッファー中で5X化合物を生成する。5X化合物溶液5μLを細胞に添加し、37℃で1.5~3時間インキュベートする。ビヒクル濃度は1%である。アンタゴニスト決定のために、細胞を実施例1の化合物と共にプレインキュベートし、次いで、アゴニスト([Met]-エンケファリン)をEC80濃度のアゴニストでチャレンジする。化合物ストックの中間希釈を行って、アッセイバッファー中で5X化合物を生成する。5X化合物溶液5μLを細胞に添加し、37℃または室温で0.5時間インキュベートする。ビヒクル濃度は1%である。次いで、アッセイバッファー中の6X EC80アゴニスト5μLを添加し、細胞を37℃で1.5~3時間インキュベートする。両方のフォーマットにおいて、アッセイシグナルは、専有検出試薬カクテル12.5~15μLの単回添加、続いて室温での1時間のインキュベーションによって生成される。次いで、マイクロプレートを読み取って化学発光信号を検出する。データは、CBISデータ分析ソフトウェアスイート(ChemInnovation, CA)を用いて分析される。アゴニストフォーマットの陽性対照として[Met]-エンケファリンを用い、アンタゴニストフォーマットの陽性対照として塩酸ナロキソンを用いて、対照用量応答曲線を作成する。
【0230】
【0231】
これらの結果は、実施例1の化合物が10μMまでの濃度でμオピオイド受容体を介したβアレスチンシグナル伝達を刺激しないが、189nMのIC50を有するアンタゴニストであることを実証している。対照的に、完全オピオイドアゴニスト[Met]-エンケファリンは、84nMのEC50でβアレスチンシグナル伝達を刺激する。
【0232】
実施例10: α1-アドレナリン作動性受容体活性
【0233】
実施例10a: 受容体結合アッセイ
実施例1の化合物をヒトα1Aアドレナリン作動性受容体アンタゴニスト放射性リガンドアッセイにおいて試験する。Schwinn, DA et al., J. Biol. Chem. 265:8183-89 (1990)による標準手順に従う。ヒト組換えCHO細胞をアッセイに使用する。アッセイインキュベーションを室温で60分間行う。アンタゴニスト放射性リガンドは、[3H]プラゾシンであり、非特異的対照はエピネフリン(0.1 mM)である。実施例1の化合物は、DMSO中0.01Mのストック溶液から使用する。
【0234】
式1の化合物は、28nMの結合Kiを有するα1Aアドレナリン作動性受容体のアンタゴニストであることを見出される。
【0235】
実施例10b: 機能アッセイ
エクオリン発光を用いて細胞内カルシウム応答を測定する機能的α-1Aアドレナリン作動性受容体アッセイにおいて更なる研究を行う。
【0236】
アゴニストアッセイのために、ヒトα1Aアドレナリン受容体を発現するCHO-K1細胞を、10%FBSを含有するHam's F-12培地に懸濁させる。次いで、細胞を遠心分離によって回収し、Falcon管中の3×105細胞/mLで、予め温めたアッセイバッファー(DMEM/HAM's F12 w/HEPES)中に再懸濁させる。コエレンテラジンhを最終濃度5μMになるまで添加し、チューブをアルミホイルで包み、回転ホイール上に室温で4時間置く。次いで、細胞をアッセイバッファー中で3倍に希釈し、アルミホイルで包んだビーカーに移す。1時間撹拌した後、細胞50μL(5,000細胞/ウェル)を、96ウェルプレート中で漸増濃度の実施例1の化合物50μLに注入する。発光を、直ちに発光検出器を用いて20秒間記録する。アッセイバッファー中50μMのジギトニンを陽性対照として用いて、受容体非依存性細胞性カルシウム応答を測定する。フェニレフリンを受容体活性の陽性対照として用いる。アゴニスト活性は、試験化合物によって刺激される発光の程度として測定される。
【0237】
アンタゴニストアッセイのために、細胞50μL(5,000細胞/ウェル)を、96ウェルプレート中で漸増濃度の実施例1の化合物50μLと混合し、室温で15分間インキュベートする。次いで、フェニレフリン50μLを50nM(フェニレフリンのEC80に相当)の最終濃度で添加する。発光を、直ちに発光検出器を用いて20秒間記録する。アンタゴニスト活性は、フェニレフリンによって生じる発光の減少によって測定される。陽性対照としてタムスロシンを用いる。
【0238】
結果は、式1の化合物は受容体でアゴニスト活性を有さないが、33nMのIC50を有するアンタゴニストであることを示す。
【0239】
実施例11: フェンタニル結合の競合阻害
実施例10に記載の手順を用いて、フェンタニル誘発性βアレスチンシグナル伝達を機能的に阻害する実施例1の化合物の能力を調べる。
【0240】
アゴニストプロトコルに従って、フェンタニルの機能的活性を、実施例1の化合物10μMの非存在下および存在下で試験する。結果を下記の表および
図1に示す。
【表5】
【0241】
結果は、実施例の化合物が、μオピオイド受容体βアレスチンシグナル伝達経路のフェンタニル誘発性アゴニズムを完全に阻害することを実証している。
【0242】
実施例12: 薬物動態
実施例1の化合物の経口薬物動態を、標準的手順を用いてカニクイザルにおいて研究した。経口投与は、PEG-400中に処方された2.8mg/kgの用量のトシル酸塩形態の実施例1の化合物を用いて実施した。45%トラップソール(βシクロデキストリン)および1% DMSOを含む滅菌水中で1mg/kgの用量のトシル酸塩形態の実施例1の化合物を用いて静脈内(IV)投与を行った。結果を下記の表に示す。
【表6】
【0243】
式Iの化合物はまた、91.6%のヒト血漿タンパク質結合を有することが見出される。
【0244】
実施例13: マウスにおけるナロキソン誘発性オキシコドン依存性離脱試験
1日目~2日目、3日目~4日目、5日目~6日目、および7日目~8日目にそれぞれ9、17.8、23.7、33mg/kg、1日2回(注射の間隔は7時間)の漸増用量レジメンでオキシコドンを成体雄C57BL/6Jマウスに8日間投与する。9日目の朝、マウスに実施例1の化合物を0.3、1または3mg/kgのいずれかで皮下投与する。これに続いて30分後にビヒクルの注射またはナロキソン3mg/kgの注射を行う。別のコホートのマウスを陰性対照とし、これらのマウスにオキシコドンの代わりに生理食塩水を1~8日目に投与する。9日目に、これらのマウスにビヒクル(続いて上記のようにナロキソン)または実施例1の化合物3mg/kg(続いて上記のようにナロキソン)を皮下投与する。
【0245】
9日目、ナロキソン(またはビヒクル)の注射直後に、マウスを個別に透明なプラスチックケージに入れ、30分間継続的に観察する。マウスを、ジャンプ、激しい震え(wet dog shakes)、足振戦、背屈(backing)、眼瞼下垂(ptosis)、および下痢を含むオピオイド離脱の一般的な身体徴候についてモニターする。このような行動はすべて、少なくとも1秒の間隔が空いた場合、または正常な行動によって中断された場合に、新たな発生として記録される。動物の体重も、ナロキソン(またはビヒクル)注射の直前および30分後に記録する。必要に応じて、データをANOVAで分析した後、多重比較のためにTukey検定を行う。有意水準はp<0.05で確立される。
【0246】
【0247】
徴候の総数には、足振戦、ジャンプ、激しい震え(wet dog shakes)が含まれる。オキシコドン処理マウスでは、ナロキソンは有意な総徴候数、足振戦、跳躍および体重変化を誘発し(それぞれp≦0.0001)、誘発性離脱を示したことが見いだされる。試験した全ての用量において、実施例1の化合物は、ナロキソンによって誘発される徴候総数および足振戦を有意に減少させる。さらに、3.0mg/kgで、この化合物はジャンプの有意な減少と体重減少の減弱も生じる。
【0248】
これらの結果は、実施例1の化合物が、オピオイド依存性ラットにおけるオピオイド投与の突然の中止後のオピオイド離脱の徴候および症状を用量依存的に減少させ、ナロキソンにより誘発されるオピオイド離脱の徴候および症状を防止することを実証している。
【0249】
実施例14: オキシコドンによる誘発性離脱の欠如
実施例13と同様の研究デザインにおいて、オキシコドンまたは生理食塩水で慢性的に処置されたマウスをITI-333またはビヒクル(Veh)でチャレンジし、離脱の身体徴候(ジャンプ、激しい震え(wet dog shakes)、足振戦、背屈(backing)、眼瞼下垂(ptosis)、および下痢を含む)の発現について観察する。
【0250】
成体雄C57Bl/6マウス(Jackson Labs, Bar Harbor, ME)に、実施例13に記載のようにオキシコドンを投与する。9日目の朝、マウスにオキシコドン(33mg/kg、s.c.)を投与し、2時間後に実施例1の化合物(3、10または17.8mg/kg、s.c.;各々、n=8)またはビヒクル(n=8)を注射する。別の群のマウスに、オキシコドンの代わりに生理食塩水を慢性的に投与し、9日目に実施例1の化合物(17.8mg/kg、s.c.;n=8)またはビヒクル(n=8)でチャレンジして、実施例1の化合物のみの効果を評価する。9日目のビヒクルまたは化合物注射の30分後、マウスを個々にプラスチックケージに入れ、実施例13に記載したように離脱の身体徴候について観察した。データは、ANOVAで分析され、次いで、多重比較のためにTukey検定で分析される。
【0251】
結果は、オキシコドンを慢性的に投与され、実施例1の化合物(用量<10mg/kg)を与えられたマウスが、足振戦またはジャンプの数に関してビヒクルを投与されたマウスと異ならないことを示している。実施例1の化合物(<10mg/kg)もまた、オキシコドンを慢性的に受けているマウスにおいて、さらなる体重減少を誘導しない。しかしながら、用量の増加と共に、実施例1の化合物は、より大きな総離脱徴候を誘導した(p<0.0001)。10mg/kgでは、モルヒネ単独と比較して有意に多くの総離脱徴候を誘発し(p<0.05)、これは主に激しい震え(wet dog shakes)の増加に起因する。生理食塩水による長期処理後、実施例1の化合物は、9日目にビヒクルを投与されたマウスと比較して、身体徴候または体重減少に対して有意な作用を生じない(p>0.05)。
【0252】
実施例15: ラットにおけるフェンタニル誘発性呼吸抑制の逆転
意識のあるラットにおいて、実施例1の化合物を静脈内投与し、フェンタニルにより誘発される呼吸抑制に対する潜在的効果を決定するために試験を行う。
【0253】
投与開始前に最低5日間にわたり、動物を飼育環境および実験室の手順に馴化させる。動物は体重および見かけ上の健康状態によって選択され、無作為に試験群に割り当てられる。Charles River LaboratoriesからのCrl:CDラット(投与開始時体重150~255g、6~7週齢)を試験に用い、6つのグループに分ける。陰性対照であるグループ(1)では、動物を3mL/kgのビヒクル(s.c.)で前処置し、次いで、5mL/kgのビヒクル(i.v.)で処置する。陽性対照であるグループ(2)では、動物を0.15mg/kgのフェンタニル(s.c.、0.05mg/mL)で前処理し、次いで、ビヒクル(i.v.)で処理する。第1の試験グループであるグループ(3)では、動物を0.15mg/kgのフェンタニル(s.c.、0.05mg/mL)で前処理し、次いで、1mg/kgの実施例1の化合物(i.v.)で処理する。グループ(4)および(5)では、実施例1の化合物のより高い用量3.0mg/kgおよび5.0mg/kgを使用すること以外は、グループ(3)と同じプロトコールを行う。最終グループであるグループ(6)において、動物をビヒクル(i.v.)で前処理し、次いで、実施例1の化合物5.0mg/kg(i.v.)で処理する。静脈内処置は全て5分かけて点滴で行われる。
【0254】
動物は、最初に、試験直前の2日間、毎日約10~15分間、ヘッドアウトプレチスモグラフチャンバー(head-out plethysmograph chamber)で訓練される。投与当日、各動物を計量し、プレチスモグラフチャンバーに入れ、少なくとも5分間安定させる。安定化後、呼吸パラメータ(呼吸数、1回換気量、および分時換気量)を5分間連続して測定して、投与前のベースライン値を得る。次いで、動物をチャンバーから取り出し、グループ割り当てに従って投与する。投与後、各動物を所定のプレチスモグラフチャンバーに戻し、呼吸パラメータを5分間隔で15分間測定する。各読み取り後、動物をプレチスモグラフチャンバーから取り出す。次の予定された読み取りの前に、動物をプレチスモグラフチャンバーに戻し、次の読み取りが行われる前に少なくとも5分間安定させる。呼吸データを取得し、PONEMAH Physiology Platform(Ponemah v.5.20 pulmonary)を用いて分析する。試験物質投与群の1回換気量および分時換気量の個々の値を、対応のないT検定を用いてビヒクル対照およびベースラインと比較する。
【0255】
結果を以下の表に示す(TV:1回換気量;MV:分時換気量):
【表8】
【0256】
結果は、フェンタニルが、分時換気量(1分間に送達される空気の量)の減少および1回換気量(1回の呼吸で送達される空気の量)の減少によって示される呼吸抑制を迅速に誘発することを示している。実施例1の化合物は、この呼吸抑制を明らかに防止し、両高用量で動物をほぼ正常な1回換気量およびわずかに低下した分時換気量に維持し、試験した最低用量で部分的な効果を示している。
【国際調査報告】