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特表2024-539110ディンプリング機能を有する低危険性レーザ溶接システムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ディンプリング機能を有する低危険性レーザ溶接システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20241018BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20241018BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241018BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20241018BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20241018BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/352
B23K26/00 N
B23K26/064 K
B23K26/322
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523493
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2021078963
(87)【国際公開番号】W WO2023066468
(87)【国際公開日】2023-04-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】523114796
【氏名又は名称】アイピージー・レーザー・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・シュラム
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ラッシュ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168BA02
4E168BA52
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA88
4E168CB03
4E168CB04
4E168CB08
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA15
4E168EA17
(57)【要約】
開示されるレーザ溶接システムは、重なり合った被覆金属シート、例えばZiまたはZi合金で被覆された鋼シートを溶接するのに適している。開示される溶接システムは、CWまたはQCWのレーザビームを生成するレーザ源と、レーザビームを溶接システムのレーザヘッドに送達するレーザビーム送達ケーブルと、を備え、レーザヘッドは、中空加圧部分を備え、中空加圧部分は、第1の金属シートの表面上にディンプルを作り出すために第1の金属シートの表面を圧迫すると同時に中空加圧部分を通して第1の金属シートの表面にレーザビームを送達するように適合されている。レーザヘッドの中空加圧部分はまた、第1の金属シートおよび第2の金属シートをシーム溶接するステップ中にディンプルを有する第1の金属シートの表面上に位置決めされた第2の金属シートの表面を圧迫するように適合されている。本発明によれば、前処理のディンプリングステップ中のレーザビームの出力は、シーム溶接処理ステップ中のレーザビーム出力と比較して減少される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属シート(2)と前記第1の金属シート(2)に重なり合う第2の金属シート(3)とをレーザ溶接する方法であって、前記第1の金属シート(2)および/または前記第2の金属シート(3)が保護被覆層で被覆されており、
前記方法が、
- レーザビーム(6)により前記第1の金属シート(2)を前処理するステップであって、前記レーザビーム(6)が、レーザヘッド(12)の中空加圧部分(15)を通して前記第1の金属シート(2)の表面に送達され、前記レーザビーム(6)の特性が、前記第1の金属シート(2)の前記表面上に複数の離間したディンプル(23、23a)を作り出すように適合されている、ステップと、
- 前記第1の金属シート(2)の前処理された前記表面上に前記第2の金属シート(3)を位置決めするステップと、
- 前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)により、ピッカーレーザヘッド(12)構成の場合には好ましくは0.3kN~3kNの範囲内、より好ましくは0.3kN~1kNの範囲内で、またはCガンレーザヘッド(12)構成の場合には0.8kN~3kNの範囲内で、重なり合う前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)に機械力を印加するステップと、
- 前記レーザビーム(6)により前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)を溶接するステップであって、前記レーザビーム(6)が、前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)を通して前記第2の金属シート(3)の表面に送達され、前記レーザビーム(6)の特性が、前記第1の金属シート(2)と前記第2の金属シート(3)との間に好ましくはシーム溶接部(25)である溶接部(25)を作り出すように適合されている、ステップと
を含む、レーザ溶接する方法。
【請求項2】
前記第1の金属シート(2)の前記前処理中の前記レーザビーム(6)の出力が、前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)の前記溶接中の前記レーザビーム(6)の出力と比較して2分の1から5分の1の間に、好ましくは2kW~4kWから600W~1200Wに、特に好ましい事例では溶接のための2.5kW~3.5kWからディンプリングのための800W~1000Wに減少される、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記第1の金属シート(2)の前記前処理中の前記レーザビーム(6)の移動が、前記レーザビームが前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)の内壁に触れないのと同時に複数の離間したディンプル(23a)の直線的なまたはゆらぎのあるパターン(23)を作り出すように機械的に制御される、請求項1または2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記レーザビーム(6)の前記移動が、レーザビーム送達ケーブル(13)の末端部分(18)と、前記レーザビーム送達ケーブル(13)の前記末端部分(18)に取り付けられた光学部品(19)と、の機械的変位によって実施される、請求項3に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記レーザビーム(6)が、連続波(CW)モードまたは準連続波(QCW)モードにある、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記第1の金属シート(2)の前記前処理中の前記レーザビーム(6)が、いくつかのカットオフされた蛇行様のまたは正弦波様のレーザ光パルスを生成するように変調され、各レーザ光パルスが、前記第1の金属シート(2)の前記表面上にディンプル(23a)を作製し、好ましくは、前記レーザ光パルスの持続時間が、15ms~25msの間、好ましくは約20msに選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
- レーザビーム送達ケーブル(13)のファイバーコア内へ後方反射される光を収集するステップと、
- 所定の信号パターン(28)との前記収集された後方反射光の分析に基づいて制御信号(27)を生成するステップと、
- 前記収集された後方反射光の前記分析に基づく前記制御信号(27)が所定の閾値を超える量だけ所定の信号パターン(28)から逸脱する場合に前記レーザビーム(6)の特性を調整するステップと、
をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
前記保護被覆層が、前記金属シートの溶融温度未満の気化温度を有する亜鉛(Zn)ベースの被覆材料、亜鉛(Zn)合金ベースの被覆材料、または他の被覆材料の層を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項9】
第1の金属シート(2)と前記第1の金属シート(2)に重なり合う第2の金属シート(3)とを溶接するように適合されたレーザ溶接システム(10)であって、
- 連続波(CW)または準連続波(QCW)のレーザビーム(6)を生成するように適合されたレーザ源(11)と、
- 前記レーザビーム(6)を前記レーザ源(11)から前記レーザ溶接システム(10)のレーザヘッド(12)に送達するように適合されたレーザビーム送達ケーブル(13)であって、前記レーザヘッド(12)が、前記レーザを前記第1の金属シート(2)の表面および/または第2の金属シート(3)の表面に送達するように適合されている、レーザビーム送達ケーブル(13)と、
を備え、
- 前記レーザヘッド(12)が、中空加圧部分(15)を備え、前記中空加圧部分(15)が、前記第1の金属シート(2)の前記表面を圧迫すると同時に前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)を通して前記レーザビーム(6)を前記第1の金属シート(2)の前記表面に送達するように適合されており、前記レーザビーム(6)の特性が、前記第1の金属シート(2)の前記表面上に複数の離間したディンプル(23a)を作り出すように適合されており、
- 前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)が、前記ディンプル(23a)を含む前記第1の金属シート(2)の前記表面上に位置決めされた前記第2の金属シート(3)の前記表面を圧迫し、したがって重なり合っている前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)に機械力を印加するように、さらに適合されており、前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)が、前記第2の金属シート(3)の前記表面にレーザビーム(6)を送達するようにさらに適合されており、前記レーザビーム(6)の特性が、前記第1の金属シート(2)と前記第2の金属シート(3)との間に好ましくはシーム溶接部である溶接部(25)を作り出すように適合されている、
レーザ溶接システム(10)。
【請求項10】
前記第1の金属シート(2)の前記表面上にディンプル(23a)を作り出すように適合された前記レーザビーム(6)の出力が、前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)を溶接するように適合された前記レーザビーム(6)の出力の2分の1から5分の1の間に、好ましくは溶接の場合の2kW~4kWと比較してディンプリングの場合は600W~1200Wに、特に好ましい事例では溶接の場合の2.5kW~3.5kWと比較してディンプリングの場合は800W~1000Wに減少される、請求項9に記載のレーザ溶接システム(10)。
【請求項11】
前記レーザヘッド(12)が、前記第1の金属シート(2)を前処理するステップならびに前記第1の金属シート(2)および前記第2の金属シート(3)を溶接するステップ中に前記レーザビーム(6)が前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)の内壁に触れないように前記レーザビーム送達ケーブル(13)の末端部分(18)と前記レーザビーム送達ケーブル(13)の前記末端部分(18)に取り付けられた光学部品(19)とを機械的に変位させるように適合された機械的構成要素を含む、請求項9または10に記載のレーザ溶接システム(10)。
【請求項12】
前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)が、ピッカーレーザヘッド(12)構成の場合には0.3kN~3kNの範囲内、好ましくは0.3kN~1kNの範囲内、またはCガンレーザヘッド(12)構成の場合には0.8kN~3kNの範囲内の機械力を前記第1の金属シート(2)および/または前記第2の金属シート(3)の前記表面上に印加するように適合されており、前記機械力が、前記レーザ溶接システム(10)がレーザ安全性クラス1において動作することを確実にするのに十分である、請求項9から11のいずれか一項に記載のレーザ溶接システム(10)。
【請求項13】
吸引デバイス(22)が、前記レーザヘッド(12)の前記中空加圧部分(15)に接続され、前記吸引デバイス(22)が、前記前処理のディンプリングステップおよび/または前記溶接ステップの煤煙、フューム、および他の望ましくない生成物を前記第1の金属シート(2)または前記第2の金属シート(3)の前記表面から排除するように適合されている、請求項9から12のいずれか一項に記載のレーザ溶接システム(10)。
【請求項14】
前記レーザ源(11)が、前記第1の金属シート(2)の前記表面に送達される各レーザ光パルスが前記第1の金属シート(2)の前記表面上に所望のディンプル特性を有するディンプル(23a)を作製するのに適しているように変調された、好ましくはカットオフされた蛇行様のまたは正弦波様の、レーザ光パルスを前記前処理ステップ中に出力するように適合され、好ましくは、前記レーザ光パルスの持続時間が、15ms~25msの間、好ましくは約20msに選択される、請求項9から13のいずれか一項に記載のレーザ溶接システム(10)。
【請求項15】
- レーザビーム送達ケーブル(13)のファイバーコア内へ後方反射した光を収集するように適合された組立体(26)と、
- 前記収集された後方反射光の特性を所定の信号パターン(28)と比較するように適合された比較デバイスと、
- 前記収集された後方反射光が所定の閾値を超える量だけ所定のパターンから逸脱する場合に前記レーザビームの特性を調整するために警報信号または制御信号を生成するように適合された制御デバイスと
をさらに備える、請求項9から14のいずれか一項に記載のレーザ溶接システム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工業用途において材料を溶接するためのレーザ溶接のシステムおよび方法に関する。詳細には、本開示は、例えば亜鉛めっき鋼、被覆アルミニウム、または銅シートである被覆金属シート、他の被覆材料、および混合継手を溶接するための、低危険性レーザ溶接システムならびに方法に関する。以下で説明されるレーザ溶接システムおよび方法は、溶接品質の向上を可能にし、それと同時に、強力なレーザ放射に関連する危険性の大幅な低下を可能にする。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接技法は、多くの工業用途において需要が高まっている。例えば、有望な応用分野のうちの1つは、金属シートから製造された自動車部品の溶接、特に車体の溶接である。そのような用途の多くにおいて、金属シートは、例えば、腐食により良く耐えるために、または金属シート表面の特性を特定の工業用途の特別な要求(例えば、より良い接着)に適合させるために、亜鉛、クロム、または他の材料の保護層によって被覆される。
【0003】
オーバラップ継手構成における被覆材料のレーザ溶接に関連する問題は、材料被覆が溶接中に燃焼するときの例えば亜鉛ガスといったガスの放出である。例えば鋼である金属シート材料の溶融温度(約1500℃)と例えば亜鉛である被覆材料の気化温度(約907℃)との間の差に起因するこの作用は、被覆金属シート間の溶接部の著しい劣化、例えば溶接部における多孔性内包物をもたらし、これは、ガスのための唯一の逃げ道が溶融池を通り抜けるものであるためである。
【0004】
非特許文献1で説明されるように、溶融池が被覆材料(例えば、亜鉛)蒸気によって破壊されるのを防ぐために、相当な量の研究活動が行われ、いくつかの解決策が提案されてきたが、それらは次のように分類され得る:
- 「通気」:この方法は、溶融池を拡大すること、遮蔽ガスを用いることによりキーホールを安定させること、予め穿孔された通気チャネルを作り出すこと、適切なスペーサを接合面に適用すること、または吸引法を採用して蒸気を除去することのいずれかにより、いかなる溶接欠陥も生じさせずに媒体から被覆材料(亜鉛)蒸気のガス抜きを行うことに基づく;
- 「薄い金属箔の挿入」:これは、高い沸点を有する液体合金が形成されるように被覆材料(例えば、亜鉛)蒸気を吸収するかまたは被覆材料(例えば、亜鉛)蒸気と反応する別の材料(例えば、AlおよびCu)を接合面に追加することを伴う;
- 「タンデムビーム」:この手法は、デュアルレーザビームまたは2次熱源を用いる。第1のビームは、(例えば、亜鉛)被覆を気化させる予熱を適用し、第2のビームは、実際の溶接を行う;
- 「キーホール振動の制御」:溶融池形状は、より安定したキーホール振動が得られてキーホール閉鎖中に被覆材料(例えば、亜鉛)蒸気が脱出することを可能にすることができるように、レーザビームのパルス波モードに基づいて制御することができる;
- 「サーフスカルプト」:この方法は、短距離での低出力オンフォーカスレーザビームの繰返し移動によりベース材料から表面特徴を作り出す。これらの特徴は、材料の表面積を増大させ、ラップ継手における接合面間のスペーサとして利用され得る。
【0005】
上述の「通気」解決策の中でもいわゆる「ディンプリング」前処理技法は、溶接部の被覆材料蒸気劣化に関する問題を克服するために、業界で使用されている。ディンプルは金属シートの表面上のむらであり、これは、オーバラップ継手構成において金属シート間のスペーサとして働き、また、溶接プロセス中に被覆材料(例えば、亜鉛)蒸気が脱出するのを可能にすることにより溶接欠陥を防止する。
【0006】
金属シートの表面上にディンプルを作り出すための1つの可能性は、例えば、Christian Loeckerによる特許文献1で説明されているように、または、日本の会社である株式会社コニック(非特許文献2)によって製造されているように、機械ツールを使用することである。この場合、硬化された機械ヘッドが、小さなディンプルを作製するために金属シートの表面を叩いている。そのような機械ツールは、ディンプル形成の生産性および正確性を高めるために、ロボットアームに取り付けられ得る。
【0007】
機械的ディンプリング前処理技法の大きな欠点は、レーザ溶接設備に加えて高価な機械設備を必要とすることである。さらに、機械シート表面を叩く機械部品は摩損するので、機械的ディンプリングシステムの機械部品は、ディンプルの許容品質を維持するためにしばしば交換されなければならず、具体的には新たな部品に置き換えられなければならない。
【0008】
レーザ技術の進歩とともに、ディンプリングプロセスおよび溶接プロセスの両方のためにレーザ源が使用されるレーザ溶接システムの開発が進められている。そのようなシステムの例は、例えば、非特許文献3、Ford Global Technologiesによる特許文献2、または非特許文献1において説明されている。
【0009】
しかし、上述のレーザ溶接システム、ならびにディンプリングおよび溶接の両方のためにレーザ源を使用する、出願人に知られている他のレーザ溶接システムは、例えば図1Aおよび図1Bに示されるように、いわゆる「遠隔」または「ウェルディングオンフライ(welding-on-fly)」レーザシステム方式に基づいて設計されることに、留意すべきである。そのような遠隔レーザ溶接システムでは、レーザヘッドは、処理すべきワークピースから距離を置いて配置され、レーザヘッドは、通常、レーザビームを導くことを可能にする走査ガルボミラーシステムを備える。
【0010】
そのような遠隔またはウェルディングオンフライ構成の利点は、ワークピースの表面上でのレーザビームの高い走査速度を可能にし、したがって、高い溶接速度および生産性を可能にすることである。さらに、そのような遠隔システムにおけるレーザヘッドとワークピースとの間の距離は、レーザヘッドとその中に収容された特に感受性が高い光学部品とを、溶接に起因するフュームおよび飛び火から部分的に保護する。
【0011】
しかし、そのような遠隔レーザ溶接システムには、欠点もある。そのようなシステムの重要な欠点のうちの1つは、金属溶接のために通常使用される強力なレーザ放射の危険な影響からユーザを遮蔽するために特別な保護環境を必要とすることである。例えば、レーザ放射がそのような遠隔レーザ溶接システムを操作する人々を傷つけるのを防ぐために、レーザ溶接システムおよびワークピースは、例えば図1Cに示されるように保護セルによって取り囲まれることを必要とする。別の欠点は、そのようなシステムはまた、必要とされる溶接の品質を保証するために、重なり合った金属シートを溶接プロセス中に一緒に加圧するための追加の機械的設備を必要とすることである。この追加の機械的設備は、遠隔レーザ溶接システムをより複雑かつ高価なものにする。最後に、レーザビームを導くために使用されるレーザヘッド内の走査ガルボミラーシステムは通常、非常に敏感であり、複雑であり、また高価である。
【0012】
レーザは、波長および最大出力の両方により4つの基本的な安全クラス(例えば、非特許文献4参照)に分類され、それによれば、レーザは、レーザを操作する人々への損傷をもたらすそれらの能力に従って安全クラス1(すなわち、通常使用中の危険性なし)から安全クラス4(すなわち、目および皮膚に対して非常に危険)までに分類されることが、留意されるべきである。溶接、マーキング、および切断のために使用されるレーザは、一般にクラス4レーザである。クラス4レーザを操作する場合、光保護めがねを使用すること、およびレーザを室内に配置しかつ/または近くにいる人をレーザビームとの直接接触から保護するための特別な障壁によって取り囲むことにより、自分自身および領域内の他者を保護することが必須である。製造業において使用されるほとんどのレーザワークステーションは、クラス4レーザと統合されるように構築され、かつ、レーザ安全視界窓と連動されかつ固定されたエンクロージャまたは保護セル内にレーザビームを安全に収容する。例えば、溶接のための高出力クラス4 Nd:YAGレーザをクラス1のエンクロージャまたは保護セルに統合することにより、安全なクラス1環境が作り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第8166793号明細書
【特許文献2】米国特許第10512986号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3689530号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】E.C. Ozkatら、「Laser dimpling process parameters selection and optimization using surrogate-driven process capability space」、https://www.researchgate.net/publication/314373683_Laser_dimpling_process_parameters_selection_and_optimization_using_surrogate-driven_process_capability_space、Optics and Laser Technology、vol. 93 (2017)、149~164頁
【非特許文献2】https://www.conic.co.jp/en/tech/forming_tools/vol2.html
【非特許文献3】M. GillonおよびCh. Gross、「Remote laser welding boosts production of new Ford Mustang」、https://www.industrial-lasers.com/welding/article/16485079/remote-laser-welding-boosts-production-of-new-ford-mustang、Industrial Laser Solutions、vol. 32、No. 4、28~30頁(2017)
【非特許文献4】https://en.wikipedia.org/wiki/Laser_safety
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、上述の欠点を克服する、重なり合った被覆金属シートを溶接するように適合されたレーザシステムおよび方法が必要とされている。具体的には、一方では安全なまたは少なくとも危険性の低い作業環境、好ましくは上述のクラス1安全環境を保証するが、他方では被覆金属シート間での高品質の溶接部の正確かつ確実な作製をも可能にする、単純であるが頑強なレーザ溶接システムおよび方法を提供することが、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの要求は、本出願において開示されかつ特許請求されるレーザ溶接方法およびレーザ溶接システムによって満たされる。
【0017】
具体的には、本発明の方法は、第1の金属シートと、第1の金属シートと重なり合う第2の金属シートと、をレーザ溶接することに関し、ここで、第1の金属シートおよび/または第2の金属シートは、保護被覆層で被覆されている。
【0018】
本発明によれば、方法は、
- レーザビームにより第1の金属シートを前処理するステップであって、レーザビームが、溶接レーザヘッドの中空加圧部分(hollow pressure piece)を通して第1の金属シートの表面に送達され、レーザビームの特性が、複数の離間したディンプルを第1の金属シートの表面上に作り出すように適合されており、第1の金属シートの表面上の離間したディンプルが、好ましくは規則的なパターンを有する、ステップと、
- 第2の金属シートを第1の金属シートの前処理された表面上に位置決めするステップと、
- レーザヘッドの中空加圧部分により、重なり合った第1の金属シートおよび第2の金属シートに機械力を印加するステップと、
- レーザビームにより第1の金属シートおよび第2の金属シートを溶接するステップであって、レーザビームが、レーザヘッドの中空加圧部分を通して第2の金属シートの表面に送達され、レーザビームの特性が、第1の金属シートと第2の金属シートとの間にシーム溶接部を作り出すように適合されている、ステップと、
を含む。
【0019】
レーザヘッドの中空加圧部分は、ピッカーレーザヘッド(picker laser head)構成の場合には好ましくは0.3kN~3kNの範囲内、さらに好ましくは0.3kN~1kNの範囲内で、またはCガンレーザヘッド構成の場合には0.8kN~3kNの範囲内で、第1の金属シートおよび/または第2の金属シートの表面上に機械力を印加するように適合されることが好ましく、これは、レーザ溶接システム(10)がレーザ安全クラス1において動作することを保証するのに十分である。
【0020】
本発明によるレーザ溶接方法は、基本的に上述の遠隔またはウェルディングオンフライレーザ溶接プロセスよりもゆっくりとしたものであるが、出願人は、開示される方法の利点はそれでもなお処理速度に関連する欠点を過度に補償するであろうという結論に達した。例えば、本発明による溶接方法および溶接システムは、図4に示されるように複数のロボットアームの同時使用を特に伴う自動化コンベヤライン組立製造に特に適している。反対に、複数のロボットアームを含む遠隔溶接設備は、危険なレーザ放射から人々を保護するために例えば図1Cに示されるように大型の保護キャビンを必要としまたさらに大きいので、コンベヤライン組立製造には実用的ではないであろう。
【0021】
本発明によれば、第1の金属シート上での前処理のディンプリングステップ中のレーザビームの出力は、好ましくは2kw~4kwの間の範囲でありまた特に好ましい事例では2.5kW~3.5kWの間である第1の金属シートおよび第2の金属シートの溶接中のレーザビームの出力と比較して、2分の1から5分の1の間に減少されることが望ましい。出願人は、特にディンプル品質およびディンプル形状/輪郭の観点から、例えば600W~1200Wの範囲内、特に好ましい事例では800W~1000Wの間のレーザビームの出力が、例えば複数の直線的なまたはゆらぎのある離間したディンプルの規則的なパターンを作り出すのにより良く適するであろうことを見出した。さらに、前処理のディンプリングステップ中のレーザ出力の減少は、エネルギー消費量を低下させ、かつ、生産費の節約(production savings)をもたらす。
【0022】
本発明の別の態様によれば、前処理のディンプリングステップ中の第1の金属シートの表面上、ならびに第1の金属シートおよび第2の金属シートの溶接ステップ中の第2の金属シートの表面上でのレーザビームの移動は、レーザビームがレーザヘッドの中空加圧部分の内壁に触れないのと同時に複数の離間したディンプルの(好ましくは直線的なまたはゆらぎのある)パターンを作り出すように機械的に制御されることが、好ましい。
【0023】
本発明のレーザ溶接方法およびレーザ溶接システムの好ましい実施形態では、レーザビームの移動は、例えば、レーザビーム送達ケーブルの末端部分と、レーザビーム送達ケーブルの末端部分に最終的に取り付けられる光学部品(例えば、集束光学部品)と、の機械的変位によって実施される。例えば、レーザビーム送達ケーブルの末端部分および取り付けられた光学部品は、単一のマイクロモータまたは複数のマイクロモータにより、中空加圧部分の長手方向開口部に平行に位置するX軸に沿って(好ましくは5mm~100mm/sの間の速度で、より好ましくは約80mm/sの速度で)機械的に変位可能であり、また最終的には垂直なY軸に沿って変位可能であり、その結果、レーザビームは、処理されるべき金属シートの表面に対して平行に機械的に移動され得る。ゆらぎ機能を実施するために、X軸に沿った機械的変位に加えて、例えば偏心部品が使用され得る。レーザビーム移動のそのような機械的制御は、非常に単純であり、遠隔溶接用途において通常実施される高感度でかなり高価な光学部品(例えば、光学スキャナ)を必要としない。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、前処理のディンプリングステップおよび溶接ステップに使用されるレーザビームは、連続波(CW)モードまたは準連続波(QCW)モードにある。
【0025】
本発明のさらに別の好ましい実施形態では、第1の金属シートの前処理中のレーザビームは、いくつかのカットオフされた蛇行様のまたは正弦波様のレーザ光パルスを生成するように変調され、各レーザ光パルスは、第1の金属シートの表面上にディンプルを作製する。本発明の好ましい実施形態では、レーザ光パルスの持続時間は、15ミリ秒(ms)~25ミリ秒(ms)の間から選択可能であり、好ましくは約20msであり得る。隣接するレーザ光パルス間の持続時間も同様に変動し得る。例えば、1つの好ましい実施形態では、ディンプリングに使用されるレーザパルスの持続時間、および、隣接するレーザ光パルス間の持続時間は、どちらも約20msに選択された。そのような技法は、上記のレーザビームの機械的変位と一緒に、単純かつ確実な方法が所望の特性、特に所望の形状および輪郭を有する規則的な離間されたディンプルのパターンを作製することを可能にする。例えば、本発明の好ましい実施形態では、ディンプルの高さは、おおよそ0.1mm~0.2mm、特に0.15mm~0.16mmであり、これは、ZiまたはZi合金で被覆された金属(例えば、鋼)シートの溶接のための最適なディンプル高さと思われる。しかし、このディンプルの最適な形状および高さは、他の材料を溶接する場合には逸脱する可能性があり、前述の0.1mm~0.2mm、特に0.15mm~0.16mmよりも低いかまたは高い可能性がある。
【0026】
本発明による方法およびシステムは、被覆金属シート、特にZiまたはZi合金ベースの被覆金属シートの溶接に関連して使用されるだけでなく、他の工業用途に対しても使用され得ることも、言及しなくてはならない。例えば、本発明による前処理のディンプリングステップは、第1の金属シートの表面上にディンプルを作製するために使用可能であり、作製されたディンプルは、例えば第1の金属シートの表面上に粘着性物質の層を受け入れることを可能にする。この場合、ディンプルの輪郭(特に高さ)は、第2の金属シートが粘着剤層とともに第1の金属シート上に設置されたときおよび両方のシートが(例えば、溶接目的のために、または粘着性物質が両方のシートをより良く接合するために)互いに圧迫されたときに粘着性物質の層が実質的に押し出されることがないように、適合される。それに対応して、最適なディンプル形状、特に高さは、工業用途に応じて変動し得る。
【0027】
本発明の別の態様によれば、レーザ溶接方法は、
- レーザビーム送達ケーブルのファイバーコア内へ後方反射される光を収集するステップと、
- 収集された後方反射光を所定のパターンと比較するステップと、
- 収集された後方反射光が所定の閾値を超える量だけ所定のパターンから逸脱する場合にレーザビームの特性を調整するために警報信号または制御信号を生成するステップと、
をさらに含む。
そのような技法は、単純かつ確実な制御機構が前処理のディンプリングステップ中および後続の溶接ステップ中の両方においてレーザ溶接システムの機能不全を確認することを可能にする。
【0028】
説明した方法およびシステムは、例えば亜鉛(Zn)の耐食層、亜鉛(Zn)ベースの被覆、および車体を製造するために特に自動車産業において使用されることが多い何らかの他の被覆材料を含む保護層によって被覆された金属シートの溶接に特に適していることに、留意すべきである。しかし、本発明は、上述の被覆金属シートに限定されるものではなく、他の被覆とともに、また、自動車製造業以外の他の産業においても使用され得る。基本的に、本発明による方法およびシステムは、気化温度が金属シート材料の溶融温度未満である任意のタイプの被覆材料とともに使用され得る。例えば、溶融温度が約1500℃である鋼で金属シートが作られている場合、対応する被覆材料は、例えば亜鉛(気化温度は約907℃)であってもよく、または、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、および対応する合金、ならびに通常は可燃性である炭素化合物、有機被覆(例えば塗料、ポリマー)、粉末被覆、オイル、粘着性物質、もしくは例えば金属シート(例えば鋼)の溶融温度未満の気化温度を有する乾性潤滑剤などの他の材料であってもよい。
【0029】
上記およびその他の態様および特徴は、以下の図面と併せてより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】被覆金属シートの溶接のための従来技術の遠隔レーザ溶接システムにおける前処理のディンプリングステップおよび後続の溶接ステップのシーケンスの図である。
図1B】従来技術の遠隔レーザ加工システムの一例の図である。
図1C】従来技術の遠隔レーザ加工システムのための保護キャビンの一例の図である。
図2A】ロボットアームおよびピッカーレーザヘッドを有して構成された本発明のレーザ溶接システムの一実施形態の図である。
図2B】ロボットアームおよびCガンレーザヘッドを有して構成された本発明のレーザ溶接システムの別の実施形態の図である。
図3A】ピッカーレーザヘッドの詳細図である。
図3B】Cガンレーザヘッドの詳細図である。
図3C】ピッカーレーザヘッド(左)およびCガンレーザヘッド(右)を備えた本発明のレーザ溶接システムの側面概略図である。
図4】車体の自動コンベヤラインとの関連における本発明のレーザ溶接システムの図である。
図5A】ピッカーレーザヘッドの詳細図である。
図5B】ピッカーレーザヘッドの別の詳細図である。
図6A】開いた本体ハウジングを含むピッカーレーザヘッドの詳細側面図である。
図6B】閉じた本体ハウジングを含むピッカーレーザヘッドの詳細側面図である。
図6C】前処理のディンプリングステップの完了後のピッカーレーザヘッドを含む実験的セットアップの詳細図である。
図7A】直線的なディンプルパターンの一例の図である。
図7B】ゆらぎのあるディンプルパターンの一例の図である。
図7C】本発明のシステムによって作製されたディンプルの一例の図である。
図7D】3D顕微鏡によって測定された図7Cに示されたディンプルの高さ分析結果である。
図8A】第1の金属シートおよび第2の金属シートの溶接中のピッカーレーザヘッドを含む実験的セットアップの詳細図である。
図8B図8Aの実験的セットアップを用いて作製された溶接部を示す図である。
図8C図8Bの溶接部の断面を示す図である。
図9】開いた本体ハウジングを含むレーザ源ブロックの側面図である。
図10】後方反射光から生成された信号の所定の信号パターンとの比較の一例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、開示される発明コンセプトを詳細に参照する。可能な限り、同じまたは同様の部品またはステップに言及するために、同じまたは類似の参照番号が、図面および説明において使用される。図面は、決して正確な縮尺ではない簡易化された形態におけるものである。
【0032】
図1は、従来技術から知られている被覆金属シート2、3の溶接のためのいわゆる遠隔レーザ溶接システム1における前処理のディンプリングステップおよび後続の溶接ステップのシーケンスを示す。そのような遠隔レーザ溶接システム1では、レーザヘッド4は、加工されるべきワークピース2、3から距離を置いて配置され、ここで、レーザヘッド4は、レーザビーム6を導くことを可能にする走査ガルボミラーシステム5を通常備える。
【0033】
遠隔またはウェルディングオンフライ構成の利点は、ワークピース2、3の表面上でのレーザビーム6の高い走査速度を可能にし、したがって高い溶接速度および生産性をも可能にすることである。さらに、そのような遠隔システム1におけるレーザヘッド4とワークピース2、3との間の距離が、レーザヘッド4および特にレーザヘッド4内に収容された高感度の光学部品を溶接に起因するフューム、煤煙、および飛び火から保護する。
【0034】
遠隔レーザ溶接システム1におけるレーザヘッド4はまた、図1Bに示されるように溶接自動化の目的のためにロボットアーム7に取り付けられ得る。そのような構成では、レーザビーム6が、レーザ源からレーザビーム送達ケーブル8によりレーザ溶接システムのレーザヘッド4に送達される。そのような遠隔レーザ溶接構成の本質的な欠点は、従来技術の工業用遠隔レーザ溶接システム1の典型例を示す図1Cからはっきりと認められ得る。図1Cで分かるように、遠隔レーザ溶接システム1は、そのような遠隔システム1を操作する人々を危険なレーザ放射から保護するために、保護キャビン9によって取り囲まれなければならない。これは、遠隔レーザ溶接システム1をより複雑で高価なものにするだけでなく、遠隔レーザ溶接システム1を例えば図4に示されるような自動コンベヤライン組立製造にとって不向きまたは不利なものにする。
【0035】
本発明は、遠隔レーザ溶接システム1に関連する上述の問題および他の問題を解決する、レーザ溶接のシステムおよび方法を開示する。図2Aおよび図2Bは、本発明によるレーザ溶接システム10の好ましい実施形態を示す。本発明のレーザ溶接システムは、連続波(CW)または準連続波(QCW)のレーザビームを生成するように適合されたレーザ源11、およびレーザヘッド12を備える。レーザ放射は、レーザ源11からレーザビーム送達ケーブル13によりレーザヘッド12に送達される。多くの工業用途に対して、図2Aおよび図2Bに示されるように加工自動化の目的のためにロボットアーム14を使用することが、特に有利である。
【0036】
本発明によれば、レーザヘッド12は、図3Aに示されるいわゆる「ピッカー」構成および図3Bに示されるいわゆる「Cガン」構成の両方において、中空加圧部分15を備える。レーザヘッド12および中空加圧部分15は、ピッカーレーザヘッド(12)構成の場合には好ましくは0.3kN~3kNの範囲内、さらに好ましくは0.3kN~1kNの範囲内で、またはCガンレーザヘッド(12)構成の場合には0.8kN~3kNの範囲内で、クランプ力を印加するように適合される。これは、特別な機械的組立体16によって、あるいは例えばピッカー構成の場合にはロボットアーム14自体によって、達成され得る。レーザヘッドの内側部品は、ハウジング17によって保護される。「ピッカー」構成(図3A)および「Cガン」構成(図3B)の両方に対して「レーザシームステッパ」または短縮してLSSという用語も使用され得ることが、留意されるべきである。
【0037】
図3Cは、ピッカーレーザヘッド12(左)およびCガンレーザヘッド12(右)を備えた本発明のレーザ溶接システム10の側面概略図を示す。図に見られるように、レーザヘッド12は、第1の金属シート2上での前処理のディンプリングステップ中または重なり合う第1の金属シート2および第2の金属シート3の溶接ステップ中に、中空加圧部分15により金属シート2、3の表面上に機械力を印加することができる。レーザビーム6はレーザヘッド12の中空加圧部分15を通して金属シート2、3の表面に送達されるので、中空加圧部分15は、ディンプリングステップまたは溶接ステップ中に加工ゾーンから漏れる可能性のある危険なレーザ放射から外部環境を守る。この場合、中空加圧部分15によって印加される機械的な加圧力またはクランプ力は、十分なものでなければならない。そのような加圧力またはクランプ力は、好ましくは0.3kNから3kNの間に及び得る。しかし、出願人は、ピッカーレーザヘッド12構成を伴う多くの工業用途、例えば車体部品の溶接には、0.3kNから1kNの間のクランプ力で十分であろうことを見出した。しかし、Cガンレーザヘッド12構成には0.8kNから3kNの間のクランプ力がより良く適していると思われる。繰り返すが、本発明のレーザ溶接システムは、クラス1レーザデバイスとしての資格が与えられてよく、これは、このシステムを例えば図4に示されるような自動コンベヤライン組立用途に特に適したものにする。すでに言及したように、遠隔レーザ溶接システム1の使用は、前処理のディンプリングステップ中および溶接ステップ中に加工ゾーンから漏れる可能性のある危険な放射から人員を保護するために図4に示されるロボットアームの周りに非常に大きな保護キャビンを設置しなければならないので、そのような用途には非常に不利なはずである。
【0038】
図5Aおよび図5Bは、開いたハウジング17を含むピッカーレーザヘッド12の詳細図である。図に見られるように、本発明によるレーザ溶接システム10は、第1の金属シート2および第2の金属シート3の表面上でレーザビーム6を導く単純、確実、かつ頑強な機械的方式を実施する。具体的には、レーザビーム送達ケーブル13の末端部分18と、レーザビーム送達ケーブル13の末端部分18に取り付けられた光学部品19(例えば、焦点調節光学部品)と、が、第1の金属シート2を前処理するステップならびに第1の金属シート2および第2の金属シート3を溶接するステップ中に金属シート2、3の表面に送達されるレーザビームが溶接レーザヘッド12の中空加圧部分15の内壁に触れないように、レーザヘッド12内の機械的構成要素20によって機械的に変位される。機械的構成要素20は、例えば(前)処理されるべきワークピース2、3の表面に平行なX軸および/またはY軸に沿ったレーザビーム送達ケーブル13の末端部分18および光学部品19の線形変位をもたらすためのマイクロモータを含み得る。ゆらぎ機能を実施するために、例えば偏心部品21が、中空加圧部分15の長手方向開口部24に平行に位置するX軸に沿った(好ましくは5mm/s~100mm/sの速度での、さらに好ましくは約80mm/sの速度での)機械的変位に加えて、使用され得る。
【0039】
図6Aおよび図6Bは、開いた本体ハウジング17および閉じた本体ハウジング17を含むピッカーレーザヘッド12の詳細側面図をそれぞれ示す。図に見られるように、本発明のシステム10は、レーザヘッド12の中空加圧部分15に接続される吸引デバイス22(例えば、吸引ノズルおよび吸引スリーブ)の非常に単純な組込みを可能にし、ここで、吸引デバイス22は、前処理のディンプリングステップまたは溶接ステップの煤煙、フューム、および他の望ましくない生成物をワークピース2、3の表面から排除するように適合されている。
【0040】
図6Cは、前処理のディンプリングステップの完了後のピッカーレーザヘッド12を含む実験的セットアップを示す。図に見られるように、離間したディンプル23の規則的パターン(この事例では、ゆらぎのあるパターン)が、前処理の(すなわちディンプリングの)ステップ後の第1の金属シート2の表面上に作製されている。本発明のレーザ溶接システム10において作製されるディンプルの品質は、図7A(直線的なディンプルパターン)および図7B(ゆらぎのあるディンプルパターン)においてさらに良く見ることができる。
【0041】
図7Cは、本発明のシステム10によって作製されたディンプルのより大きな像であり、図7Dは、3D顕微鏡によって測定された図7Cに示されたディンプルの高さ分析結果である。図7Dから分かるように、ディンプルの高さはおおよそ0.15mm~0.16mmであり、この高さは、例えばZiまたはZi合金で被覆された金属シート、特に鋼シートの溶接を伴う溶接用途に最適であると思われる。そのようなディンプルを作り出すために、第1の金属シートの前処理中のレーザビームの出力は、通常は2kWから4kW、特に好ましい事例では2.5kW~3.5kWの間に及ぶ第1の金属シートおよび第2の金属シートの溶接中のレーザビームの出力と比較して、2分の1から5分の1の間に減少されるべきであることが、留意されるべきである。出願人は、通常100μm~200μmの間で変動する可能性があり好ましくは約150μmであるファイバーコア直径と前処理すべき材料とにもよるが、600W~1200W、特に約800W~1000Wの「ディンプリング」レーザ出力が本発明のレーザ溶接システム10を伴う多くの工業用途に有益であろうことを見出した。出願人は、上記のような前処理のディンプリングステップ中のレーザビームの出力の減少なしでは、ディンプルの品質、特にディンプルの形状および輪郭は、説明するレーザ溶接のシステムおよび方法によって実施される多くの工業的溶接用途には不十分であろうことを見出した。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、レーザ光パルスの持続時間は、15ミリ秒(ms)~25ミリ秒(ms)の間、好ましくはほぼ20msに選択された。隣接するレーザ光パルス間の持続時間もまた、変動し得る。例えば、ディンプリングに使用されるレーザパルスの持続時間、および隣接するレーザ光パルス間の持続時間は、約20msに選択され得る。
【0043】
図8Aは、第1の金属シートおよび第2の金属シートの溶接中のピッカーレーザヘッドを含む実験的セットアップの詳細図である。レーザヘッド12の中空加圧部分15は、第1の金属シート2に重なり合う第2の金属シート3の表面上に機械力(クランプ力)を印加する。中空加圧部分によって与えられるクランプ力は、レーザビーム6が実質的に溶接ゾーンから漏れることができないように、したがって、本発明のシステムが上述のクラス1レーザ安全性において動作し得ることを保証するように、選択される。出願人は、その目的には一般に0.3kN~3kNの範囲内の機械(クランプ)力で十分であろうこと、および、ピッカーレーザヘッド12構成の場合には0.3kN~1kNの範囲内、またはCガンレーザヘッド12構成の場合には0.8kN~3kNの範囲内で最適な結果が得られ得ることを、見出した。例えば、図8Aに示された実験的セットアップでは、保護めがねは必要とされなかった。
【0044】
図8Aの実験的セットアップによる溶接ステップの結果は、図8Bに証明されている。図8Bは、第1の金属シート2と第2の金属シート3との間のこの事例ではシーム溶接部である良好な品質の溶接部25を示す。
【0045】
図8Cは、図8Bの溶接部の断面を示す。図に見られるように、前処理のディンプリングステップ中に作製された第1の金属シート2の表面上のディンプル23aが、(例えば、ZiまたはZi合金の)被覆蒸気が溶接ゾーンから漏れることができることを保証し、したがって、第1の金属シート2と第2の金属シート3との間の溶接部25の良好な品質を可能にする。
【0046】
開示される高出力レーザ溶接システムはまた、システムの起こり得る動作上の異常を監視しかつ自動的に制御するように適合される。それらの目的のために、溶接システムは、例えば同出願人によって所有される特許文献3において説明されているように、前処理のディンプリングステップ中または溶接ステップ中にワークピース(ここでは、被覆された金属シート2、3)から後方反射した放射を受け取りかつ分析する監視組立体を備える。
【0047】
例えば上述の特許文献3において説明されているように、ワークピースから反射した放射は、光路に沿ってレーザヘッド、送達ファイバー、および最終的にはコンバイナを通りレーザモジュールに向かって後方へ移動し得ることが知られている。この後方反射した光は、例えば図9に示されるように別体の光ファイバー26によりストリッピングされて、分析のために送られ得る。例えば後方反射した放射のスペクトル分析であるそのような分析に基づき、警報信号または制御信号27が生成され、次いで図10に示されるように所定の信号パターン28と比較され得る。後方反射光分析に基づいて生成された信号27が所定の閾値28の外側に位置する場合、信号27は、溶接システム10における何らかが故障していることの指標として使用されてよく、警報信号、システムパラメータの自動調整、さらにはシステム停止が引き起こされ得る。
【0048】
動作の特定の詳細および構造が例示されかつ説明されてきたが、それらは例示の目的のためのものであったこと、および、本開示の範囲から逸脱することなしにそれらの変更および修正が当業者によって容易になされ得ることが、理解される。
【符号の説明】
【0049】
1 遠隔レーザ溶接システム
2 第1の金属シート
3 第2の金属シート
4 遠隔レーザ溶接システムのレーザヘッド
5 走査ガルボミラーシステム
6 レーザビーム
7 ロボットアーム
8 レーザビーム送達ケーブル
9 遠隔レーザ溶接システムの保護キャビン
10 本発明によるレーザ溶接システム
11 レーザ源
12 レーザヘッド
13 レーザビーム送達ケーブル
14 ロボットアーム
15 レーザヘッドの中空加圧部分
16 クランプ力を生成するための機械的組立体
17 レーザヘッドのハウジング
18 レーザビーム送達ケーブルの末端部分
19 レーザビーム送達ケーブルの末端部分に取り付けられた光学部品
20 レーザビーム送達ケーブルの末端部分および光学部品を変位させるための機械的構成要素
21 ゆらぎ機能を実施するための偏心部品
22 吸引デバイス
23 第1の金属シートの表面上の直線的なまたはゆらぎのあるディンプルパターン
23a 第1の金属シートの表面上のディンプル
24 中空加圧部分の長手方向開口部
25 第1の金属シートと第2の金属シートとの間の直線的なまたはゆらぎのある(シーム)溶接部
26 ワークピースから後方反射した放射のための光ファイバー
27 後方反射した放射の分析から生成された制御信号
28 所定の信号パターン
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9
図10
【国際調査報告】