(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】電気化学的発電装置の開封方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20241018BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241018BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241018BHJP
C22B 26/10 20060101ALI20241018BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C22B1/00 101
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B26/10
C22B26/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523495
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 FR2022051956
(87)【国際公開番号】W WO2023067275
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(71)【出願人】
【識別番号】319015935
【氏名又は名称】オラノ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・ビリー
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ・ポルトー
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001AA35
4K001BA22
4K001CA00
5H031RR02
(57)【要約】
リチウム又はナトリウムを含む負極(20)と、任意でリチウム又はナトリウムを含む正極(30)とを含む電気化学的発電装置(10)を開封するための方法であって、当該方法は以下の連続するステップを含んでいる:a)電気化学的発電装置を放電させるために、電気化学的発電装置(10)を、不活性液体と、任意で、負極で還元可能ないわゆる酸化性酸化還元種とを含む溶液に浸漬するステップ、b)溶液中で、1mΩと1kΩとの間、好ましくは5mΩと100Ωとの間の電気抵抗を有する切断要素(100)を用いて、電気化学的発電装置を開封するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム又はナトリウムを含む負極(20)と、任意でリチウム又はナトリウムを含む正極(30)とを含む電気化学的発電装置(10)を開封するための方法であって、以下の連続するステップ:
a)電気化学的発電装置を放電させるために、電気化学的発電装置(10)を、不活性液体と、任意で、負極で還元可能ないわゆる酸化性酸化還元種とを含む溶液に浸漬するステップ、
b)溶液中で、1mΩと1kΩとの間、好ましくは5mΩと100Ωとの間の電気抵抗を有する切断要素(100)を用いて、電気化学的発電装置を開封するステップ、
を含む方法。
【請求項2】
前記不活性液体が脱イオン水であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性液体がイオン液体であり、好ましくは[BMIM][TFSI]、[P66614][TFSI]、[ETMIm][TFSI]、[DEME][TFSA]、[PYR14][TFSI]、[PP13][TFSI]、[P13][FSI]及び[EMI][FSI]から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性液体が深共晶溶媒、好ましくは塩化コリンと水素結合供与体、特にグリコール又は尿素とによって生成される深共晶溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶液が、いわゆる酸化性酸化還元種と、正極で酸化され得る第2のいわゆる還元性酸化還元種とを含み、いわゆる酸化性酸化還元種といわゆる還元性酸化還元種とが酸化還元種対を形成し、前記酸化還元種対は、好ましくは金属対であり、例えば、Mn
2+/Mn
3+、Co
2+/Co
3+、Cr
2+/Cr
3+、Cr
3+/Cr
6+、V
2+/V
3+、V
4+/V
5+、Sn
2+/Sn
4+、Ag
+/Ag
2+、Cu
+/Cu
2+、Ru
4+/Ru
8+若しくはFe
2+/Fe
3+、有機分子対、Fc/Fc
+などのメタロセン対、又はCl
2/Cl
-若しくはCl
-/Cl
3
-などのハロゲン化分子対から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
切断要素(100)が、研磨ゾーン(102)及び導電ゾーン(103)で覆われた支持体(101)を含み、前記研磨ゾーン(102)及び前記導電ゾーン(103)が、ランダムに又は規則的に配置され、バインダ(104)によって前記支持体(101)に結合していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
切断要素(100)が研削機ディスクであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
切断要素(100)が切断ワイヤであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)が空気中又は不活性雰囲気中で実施されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)の後に、貯蔵ステップ及び/又は高温冶金ステップ及び/又は湿式冶金ステップを含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電気化学的発電装置を開封するための切断要素(100)であって、1mΩと1kΩとの間、好ましくは5mΩと100Ωとの間の電気抵抗を有する切断要素(100)。
【請求項12】
研磨ゾーン(102)及び導電ゾーン(103)で覆われた支持体(101)を含み、前記研磨ゾーン(102)及び前記導電ゾーン(103)は、ランダムに又は規則的に配置され、バインダ(104)によって前記支持体(101)に固定されていることを特徴とする、請求項11に記載の切断要素(100)。
【請求項13】
切断要素が、丸のこ刃、帯のこ、砥石車又は切断ワイヤであることを特徴とする、請求項11及び12のいずれか一項に記載の切断要素。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか一項に記載の切断要素を含み、好ましくは研削機又は鋸、例えば丸のこ若しくは帯のこである切断工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池、セル又はバッテリなどの電気化学的発電装置の開封方法に関するものであり、当該方法は、電気化学的発電装置を完全に安全に開封し、回収可能な画分をリサイクルすることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
本発明は、別々に又は混合して処理される蓄電池又はセルタイプの電気化学系のリサイクル、特にリチウムイオン、ナトリウムイオン又はリチウム金属タイプのバッテリ及び蓄電池のリサイクルに特に有利である。
【0003】
電気化学的発電装置は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する発電装置である。例には、セル又は蓄電池が含まれる。
【0004】
蓄電池市場、特にリチウムイオンタイプのリチウム蓄電池市場は、第一に、いわゆるローミング・アプリケーション(スマートフォン、コンピュータ、写真装置など)、第二に、モビリティ(電気自動車及びハイブリッド自動車)及びいわゆる定置アプリケーション(電力系統に接続されている)に関連する新しいアプリケーションのために、現在大きく拡大している。
【0005】
近年の蓄電池の数の増加によって、蓄電池のリサイクルが主要の課題となっている。
【0006】
従来、リチウムイオン蓄電池は、アノード、カソード、セパレータ、電解液及びケーシングを含んでいる。
【0007】
一般に、アノードは、銅シート上に堆積したPVDFタイプのバインダと混合されたグラファイトから形成されており、カソードは、バインダと混合され、アルミニウムシート上に堆積した金属リチウムインサート材(例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、0<x<1のLiNixCo1-xO2、Li3NiMnCoO6、又はLiFePO4)である。
【0008】
電解液は、非水溶媒とリチウム塩との混合物であり、任意で二次反応を遅らせるための添加剤でもある。
【0009】
作業は以下の通りである:充電の間、リチウムの金属酸化物からのデインターカレーションと、熱力学的に不安定なグラファイトへのインターカレーションとが行われる。放電の間には、プロセスは逆転し、リチウムイオンの金属酸化リチウムへのインターカレーションが行われる。
【0010】
使用しているうちに経年劣化により容量が低下するので、蓄電池のリサイクルが必要になる。
【0011】
従来、蓄電池のリサイクル方法はいくつかのステップを含んでいる:
‐分解段階及び安全確保段階を含む前処理ステップ、
‐これらのセル及び蓄電池に含まれる様々な回収可能材料及び金属を回収するための熱処理及び/又は湿式冶金処理のステップ。
【0012】
しかしながら、いくつかの状況がリサイクルを複雑にし得る:
‐リサイクルされる多数の蓄電池又は蓄電池のバッテリは、少なくとも部分的に依然として充電されている可能性があり、それらを研削すると、特に一次リチウム(Li-SOCl2)セルでは、火花が発生し、重大な点火又は爆発が生じることさえある、
‐損傷したセルが損傷する可能性があり、例えばアノードに金属リチウムが堆積している場合、空気又は水に晒されると非常に反応しやすくなる。
【0013】
したがって、寿命が尽きた、及び/又は、損傷した、リサイクルされるべき電気化学系は、最大限の注意を払って取り扱われなければならない。
【0014】
現在のところ、主な問題は、これらのリチウムベースの電気化学系(一次及び二次の)の安全を確保し、開封する段階にある。
【0015】
これはなぜなら、閉じ込めが失われると、有毒で引火性かつ腐食性の生成物であり、液状だが気体でもある電解液が漏れるからである。このように発生し、空気と混合した蒸気は、爆発性雰囲気(EXAT)を生成する可能性がある。これは、火花タイプの点火源又は高温表面に接触すると点火しやすい。その結果、熱的効果及び圧効果を引き起こす爆発が生じる。加えて、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6、テトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4、過塩素酸リチウムLiClO4、及びヘキサフルオロヒ酸リチウムLiAsF6などの電解質塩は、リン、フッ素及び/又はリチウムを含む特に有毒で腐食性のガスを発生させる可能性がある。例えば、リチウムイオンバッテリの熱劣化中にフッ化水素酸(HF)が生成される可能性がある。
【0016】
これらの欠点を改善するために、制御された雰囲気及び圧力の下で、バッテリをエンクロージャ内で研削することが可能である。例えば、特許文献1には、周囲温度かつ不活性雰囲気下で、リチウムアノードバッテリを湿式冶金的にリサイクルする方法が記載されている。研削の間、雰囲気はアルゴン及び/又は二酸化炭素を含んでいる。これら2つのガスは酸素を追い出し、研削成果物の上方に気体の防護天井を形成する。二酸化炭素の存在は、表面に炭酸リチウムを生成することによって金属リチウムの不動態化を開始させ、これによって、当該金属の反応性が鈍化する。リチウムを含む研削成果物の加水分解は、水素の生成につながる。水素の点火及び爆発の危険を回避するために、リチウムを含む研削成果物は、高度に制御された方法で水溶液に添加され、溶液槽の上方には非常に強い乱流が生じる。この処理は、雰囲気中の酸素の減少と関連している。水は水酸化リチウムに富むようになり、リチウムは炭酸ナトリウム又はリン酸を加えることによって回収される。
【0017】
特許文献2の方法では、セル及び蓄電池は極低温法で安全な状態にされる。セル及び蓄電池は、研削の前に-196℃の液体窒素中で凍結される。研削された材料は次に水に浸される。H2Sの生成を回避するために、LiOHを加えることによってpHが少なくとも10で維持される。生成されたリチウム塩(Li2SO4、LiCl)は、炭酸ナトリウムを添加することによって生成された炭酸塩の形で沈殿する。このような方法は特に高価である。
【0018】
特許文献3には、リチウムイオンセルをリサイクルするための方法が記載されている。セルはあらかじめ、水を欠く不活性雰囲気中で切断される。第1の有機溶媒(アセトニトリル)が電解質を溶解し、第2の有機溶媒(NMP)がバインダを溶解する。次に、粒子状のインサート材が溶液から分離され、電気分解によって還元される。
【0019】
特許文献4では、セルのケーシングから活性コアを除去するために回転絶縁切断工具が使用されている。当該方法は、セルに関する十分な知識と、切断刃に対する各単位セルの正確な位置決めとを必要とするので、高い作業率を伴う工業工程の文脈では想定できない。
【0020】
特許文献5には、いわゆる乾式法(「乾式技術」)が記載されている。この機械的方法は、2段階の破砕ラインと、それに続く磁気及び機械分離ユニットと、換気の適切な管理とに基づいている。当該方法では、リチウムイオンバッテリを放電するための前処理工程は不要である。バッテリは、例えば鋼鉄製の歯付き又は刃付き装置によって破砕(又は細断)される。研削機の温度は40℃~50℃に維持され、バッテリから放出される水素と酸素との混合物は、サイクロン式空気運動によって除去され、これによって、発火の危険性が最小限に抑えられる。ふるい分け後に回収されたバッテリ片及び粉塵は、周囲温度まで冷却される。リチウムの抽出は、空気中の酸素及び湿気との反応によって行われるようだが、水素、酸素及び熱が同時に存在するので、燃焼及び爆発につながる危険性がある。しかしながら、当該方法はいくつかの欠点を有する:
‐これらの蓄電池の研削が、破砕及び短絡を引き起こし、爆発を引き起こす可能性があること、
‐電解質が分解され、粉塵及びガスの管理に関して危険、損失及び困難が生じること、
‐このアプローチでは、バッテリをリスクなしに安全にすることができないこと、
‐研削機の温度を40℃~50℃に維持することは、将来予想される材料のフロー、特に電気自動車市場からの材料のフローに適合しないような限られた作業率でのみ可能であること。
【0021】
特許文献6には、リチウムセルから材料を回収するための方法が記載されている。セルは、発火を回避するために高圧水ジェット下か、又は不活性雰囲気下で切断される。その後、リチウムは水、アルコール又は酸と反応し、それぞれ水酸化リチウム、リチウムアルコキシド又はリチウム塩(例えばLiCl)を生成する。しかしながら、高圧水ジェットで切断する際に安全を確保するためには、大量の水を消費することが必要であり、空気中では水素ガスが発生する。
【0022】
現時点では、上述したセル/バッテリを開封するための様々な方法は、高温での処理、極低温での処理、及び/又は制御された雰囲気下での処理を実施することを必要とするが、これらの条件は工業的規模で達成することが困難であり、及び/又は高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2005/101564号
【特許文献2】米国特許第5888463号明細書
【特許文献3】カナダ国特許出願公開第2313173号明細書
【特許文献4】特開2010198865号公報
【特許文献5】国際公開第2011/113860号
【特許文献6】欧州特許出願公開第0613198号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の1つの目的は、従来技術の欠点を改善するための方法、特に、電気化学的発電装置を完全に安全に開封するための方法を提案することにあり、当該方法は、工業規模で容易に実施されなければならず、したがって、高い作業率に適合しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的は、リチウム又はナトリウムを含有する負極と、任意でリチウム又はナトリウムを含有する正極とを含む電気化学的発電装置を開封するための方法によって達成され、当該方法は、以下の連続するステップを含む:
a)電気化学的発電装置を、不活性液体と、任意で、電気化学的発電装置を放電させるように負極で還元され得る、いわゆる酸化性酸化還元種とを含む溶液に浸漬するステップ、
b)1mΩと1kΩとの間、好ましくは5mΩと100Ωとの間の電気抵抗を有する切断要素を用いて、電気化学的発電装置を完全に又は部分的に開封するステップであって、開封は溶液中で実施されるステップ。
【0026】
本発明は、第一に、非反応性液状媒体中で電気化学的発電装置(セル又は蓄電池)の開封を制御することによって、第二に、特定の切断工具を使用することによって、従来技術と根本的に区別される。後者は、決定された電気抵抗を有するように構成されており、これによって、不活性液体への系の制御された排出が可能になる。この切断工具によって、バッテリを切断すると同時に、当該バッテリの充電状態に作用することが可能になる。
【0027】
本方法の一実施態様によると、放電を促進するために当該発電装置が開封された後、特に溶液にいわゆる酸化性酸化還元種が含まれていない場合、切断要素は電気化学的発電装置と接触した状態で維持される。
【0028】
不活性液体は、脱イオン水、イオン液体、又は深共晶溶媒(DES)であり得る。
【0029】
脱イオン水は、例えば18MΩから20MΩの抵抗率を有する。
【0030】
イオン液体のカチオンは、例えば、イミダゾリウム、ピロリジニウム、アンモニウム、ピペリジニウム及びホスホニウムの群から選択される。好ましくは、イミダゾリウムカチオンのような、イオン液体の分解を回避又は最小化するカソード反応を想定するのに十分な、大きいカチオンウィンドウを有するカチオンの場合である。
【0031】
カチオンは、有機又は無機のアニオンと結合し、好ましくは大きなイオンウィンドウを有する。有利には、広い電気化学的ウィンドウ、適度な粘度、低い融点(周囲温度で液体)、及び他の種類の溶液との良好な溶解性を同時に得ることが可能で、イオン液体の加水分解(分解)を引き起こさないアニオンが用いられるであろう。
【0032】
TFSIアニオンは、上記の基準を満たす例である。イオン液体は、有利には、[BMIM][TFSI]、[P66614][TFSI]、イオン液体1-エチル-2,3-トリメチレンイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([ETMIm][TFSI])、イオン液体N,N-ジエチル-N-メチル-N-2-メトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド[DEME][TFSA]、イオン液体N-メチル-N-ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([PYR14][TFSI])、又はイオン液体N-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([PP13][TFSI])から選択される。
【0033】
アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSA又はFSI)のタイプでもあり得る。このようなアニオンを有するイオン液体としては、例えば、イオン液体N-メチル-N-プロピルピロリジニウムFSI([P13][FSI])、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムFSI([PP13][FSI])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムFSI([EMI][FSI])などが挙げられる。
【0034】
深共晶溶媒(DES)は、例えば、無毒のDESを非常に低コストで得るために、塩化コリンと、グリコール(例えばエチレングリコール若しくはグリセロール)又は尿素のような水素結合供与体とから生成される。
【0035】
不活性溶液は、1つ又は複数の不活性液体を含んでいてよい。不活性液体は以下の特性のうち1つ又は複数を有してよい:不揮発性かつ不燃性であり、200℃を超える温度(例えば200℃から400℃の間)で化学的に安定しており、及び/又は電気化学的安定性ウィンドウが大きい。
【0036】
不活性液体を使用することによって、水及び/又は空気との激しい反応を避けながら、開封の間に確実に放電させるために、切断要素を電気化学的発電装置の活物質のコアに導入することが可能になり、また、放電プロセス中にカロリーを排出することも可能になり、媒体の冷却が促進される。不活性液体は、電気化学的発電装置の開封を安全にする。
【0037】
切断要素は、電気化学的発電装置の正の要素と負の要素との間で過度に急激な放電を引き起こす危険性のある電気的短絡を回避するために、固有の電気抵抗を有する。それ以上上昇するとセルが爆発する危険性が存在するという暴走限界を温度が超えないように、放電速度を制御することが可能になる。切断要素に関して選択される抵抗は、処理されるべき対象物と、それらの対象物が耐え得る放電レジームとに依存する。このような本発明に係る切断要素の使用は、処理される対象物の開封と放電とを同時に可能にし、それらの安全性を保証する。
【0038】
本方法は同時に、不活性液状媒体中での電気化学的発電装置の開封と、対象物の電気容量の不活性化による安全の確保とを同時にもたらす。
【0039】
本発明は、バッテリ及び蓄電池タイプ又はセルタイプのすべての電気化学系を、それらが依然として機能しているか故障しているかにかかわらず、別々に又は混合物として処理し、安全にするための方法に関する。
【0040】
好ましくは、溶液は、負極(アノード)のリチウム又はナトリウムと反応可能な酸化還元種を含む。電気化学的発電装置を開封すると、電極へのアクセスが可能になる:酸化還元種は、リチウム(又はナトリウム)を含む電極との酸化還元によって放電作用を行う。このように、この反応種は、開封中の電気化学的発電装置の放電に寄与し、点火及び/又は爆発の危険性をさらに回避する。
【0041】
本発明によると、酸化還元種は負極でも還元可能である。すなわち、酸化還元種は、蓄電池のケーシングが開放されている場合には負極(アノード)で直接、又はアノード集電体、アノードの端子のようなアノードに電気的に接続された他の要素上で、又はアノードがアースに電気的に接続されている場合にはアース上で反応することができる。
【0042】
以下、リチウムについて記載する場合、リチウムをナトリウムに置き換えることができる。
【0043】
例えば、リチウム金属蓄電池の場合、いわゆる酸化性酸化還元種の還元反応によって、金属リチウムがイオンの形で酸化される。
【0044】
別の例によると、リチウムイオン蓄電池の場合、いわゆる酸化性酸化還元種の還元反応によって、負極の活物質のリチウムイオンが脱離する。
【0045】
アノードから抽出された遊離イオンは、イオン伝導性電解液中を移動し、カソードで固定化され、カソードにおいて熱力学的に安定した酸化リチウムを生成する。熱力学的に安定した、とは、酸化物が水及び/又は空気と激しく反応しないことを意味する。
【0046】
有利なことに、溶液は、正極で酸化され得る第2のいわゆる還元性酸化還元種を含み、いわゆる酸化性酸化還元種といわゆる還元性酸化還元種とは酸化還元種対を形成する。
【0047】
酸化還元対は、酸化還元メディエータ又は電気化学シャトルとも呼ばれ、溶液中の酸化剤/還元剤(Ox/Red)対を意味し、酸化剤はアノード(負極)で還元され、還元剤はカソード(正極)で酸化され得る。還元剤の酸化及び酸化剤の還元によって、新たな酸化剤/還元剤種の形成、及び/又は溶液中に最初に存在する種の再生が可能になる。当該方法は、溶液中の酸化還元対が同時に電気化学的発電装置の電極/端子での酸化還元反応の両方を供給するので、試薬の消費がゼロとなり、経済的である。当該溶液は、複数の電気化学的発電装置を連続して、及び/又は混合して開封するために使用できる。
【0048】
酸化還元種は、電気化学的発電装置を放電させることも可能にする。加えて、電気化学的発電装置が開封されると、酸化還元種は内部成分と反応し、電極(アノード及びカソード)間の電位差を減少させる。この内部放電は、電極の化学エネルギー(したがって電位差)を減少させ、内部短絡効果を減少させることによって、電気化学的発電装置の安全性にも寄与する。
【0049】
有利には、酸化還元種対は金属対であり、好ましくは、Mn2+/Mn3+、Co2+/Co3+、Cr2+/Cr3+、Cr3+/Cr6+、V2+/V3+、V4+/V5+、Sn2+/Sn4+、Ag+/Ag2+、Cu+/Cu2+、Ru4+/Ru8+若しくはFe2+/Fe3+、有機分子対、Fc/Fc+などのメタロセン対、又はCl2/Cl-若しくはCl-/Cl3
-などのハロゲン化分子対から選択される。
【0050】
第1の有利な変型例によると、電気化学的発電装置は空気中で開封される(ステップb)。
【0051】
第2の有利な変型例によると、電気化学的発電装置は、酸素含有量の制御が可能な不活性雰囲気中で開封される(ステップb)。こうして、組み立ては(ファイヤートライアングルに関して)安全になる。
【0052】
当該方法は熱的方法ではなく、電気化学蓄電池を開封するステップを管理することを可能にする。有利には、周囲温度(通常20℃~25℃)で実施され得る。
【0053】
イオン液体溶液は、任意で撹拌及び/又は冷却され得る。冷却を促進するために、有利な熱容量を有する種を溶液に添加することも可能である。
【0054】
電気化学的発電装置を開封する際、切断要素が電気化学的発電装置を貫通する。
【0055】
切断要素は、好ましくは電気絶縁性の研磨ゾーンで覆われた支持体を含んでいる。
【0056】
研磨ゾーンは、例えば、粒子によって形成されていてもよい。
【0057】
研磨ゾーンは、例えば、ケイ酸塩から形成されていてもよい。
【0058】
支持体は、例えばセラミック製、樹脂製、ゴム製、又は金属製である。
【0059】
特に有利な実施態様によると、切断要素は、研磨ゾーンと導電ゾーンとの両方で覆われた支持体を含んでいる。
【0060】
導電ゾーンは、例えば、導電性粒子によって形成される。
【0061】
研磨ゾーン及び/又は導電ゾーンは、支持体上にランダムに又は規則的に配置され得る。
【0062】
研磨ゾーン及び/又は導電ゾーンは、バインダによって支持体に固定されていてもよい。
【0063】
電気化学的発電装置を開封するために使用される切断要素は、例えばギロチンタイプの刃、円形若しくは帯状の刃などの刃、切断ワイヤ、ナイフ、又は砥石車であってよい。
【0064】
有利には、電気化学的発電装置は、砥石車又は切断ワイヤを用いて開封される。
【0065】
有利には、砥石車は、ランダムに又は規則的に配置された研磨ゾーン及び導電ゾーンで覆われた支持体ディスクを含み、研磨ゾーン及び導電ゾーンは、バインダによって支持体に結合される。好ましくは、研磨ゾーンは砥粒によって形成され、及び/又は導電ゾーンは導電性粒子によって形成される。
【0066】
切断要素は、工具の一部を形成してもよい。工具とは、貫通、研削及び/又は切断が可能な道具を意味する。短絡を避けるために、過度に大きな変形(破砕)をもたらさない技術が好まれる。網羅的ではなく、開封は、切断、のこ引き又は研磨によって行うことができる。好ましくは、工具によって、電気化学的発電装置を部分的又は全体的に切断することが可能になる。
【0067】
有利には、本方法は、ステップa)の前に、分解ステップ及び/又は選別ステップを備える。
【0068】
有利には、本方法は、ステップb)の後に、貯蔵ステップ及び/又は高温冶金ステップ及び/又は湿式冶金ステップを備える。
【0069】
本発明に係る開封方法は多くの利点を有する:
‐当該方法は、2つの作業を1つのステップで実施することを可能にする(セルを安全にすること及びセルの開封)ので、作業率が向上し、時間及び設備の大幅な節約が可能になり、当該方法の作業率は、将来的に予想される高い材料フローに適合している;
‐当該方法では、電気化学的発電装置の開封によって活物質に直接アクセスすることが可能であり、より高速の放電が保証される(セルの接続、特別な電気機器などが不要);
‐切断要素の電気抵抗を制御することによって、電気化学的発電装置の放電速度を細かく制御することが可能になり、短絡が発生した場合に生じる暴走現象を回避することができる;
‐当該方法は、放電を達成するためのセルの端子の使用に基づいていないので、放電状態であるかどうかにかかわらず、リサイクルに到達する可能性のあるすべての材料(モジュール、セルなど)を処理することが可能である(例えば、機械的分解、劣化した端子(腐食など)、トリガーされた内部安全部材などによって損傷したセル);
‐電気化学的発電装置の放電は、熱暴走につながる温度上昇のリスクを最小化するように制御される;
‐不活性液体中で開封ステップを実施することによって、水及び/又は空気との激しい反応が回避され、水素、酸素及び熱の管理に関連する問題、したがって爆発性雰囲気の管理に関連する問題(安全性、廃液の処理、追加的な経済コスト)が軽減される;
‐熱処理を用いないことによって、ガス(例えば温室効果ガス又は人間及び環境に有害なその他の有害ガス)の排出及びその処理に関連する問題を制限することが可能になり、当該方法の財務費用及びエネルギーコストが削減される;
‐安全で簡単に実施できる;
‐当該方法は、低い環境コスト及び経済コストで実施される;
‐当該処理は、後続の部品のリサイクルに関して有害(電解液の劣化など)ではない;
‐当該方法は、高温冶金及び/又は湿式冶金の手段によるリサイクルのために、セルを固定して開封し、目的の材料にアクセスすることを可能にする。
【0070】
さらに、溶液がリチウム(又はナトリウム)の抽出を提供する化学種を含む場合、当該方法は以下の利点も有する:
‐電気化学的発電装置の放電を促進することによって、電気化学的発電装置の安全性を向上させる;このような結合は、時間を節約し、投資額を大幅に減少させる;
‐活性種の幅広い選択が可能であり、活性種は単にリチウムの酸化還元電位よりも高い酸化還元電位を有していればよい(リチウムは最も負の標準酸化還元電位を有する種であり、したがって標準水素電極に対して-3.05Vよりも大きい電位まで還元可能なあらゆる種で抽出(酸化)することができる)。
【0071】
本発明はまた、電気化学的発電装置を開封するための、上述した切断要素にも関する。
【0072】
当該切断要素は、1mΩから1kΩの間、好ましくは5mΩから100Ωの間の電気抵抗を有する。
【0073】
有利には、切断要素は、研磨ゾーン(例えば砥粒)及び導電ゾーン(例えば導電粒子又はワイヤ)で覆われた支持体を含んでおり、研磨ゾーン及び導電ゾーンは、ランダムに又は規則的に配置され、バインダによって支持体に結合している。
【0074】
有利には、切断要素は、切断ワイヤ、研削機の砥石車、丸のこ刃(ディスクとも呼ばれる)又は帯のこである。
【0075】
本発明はまた、このような切断要素を含む切断工具にも関する。切断工具は、有利には研削機又は鋸、例えば丸のこ又は帯のこである。
【0076】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の残りの説明から明らかになるであろう。
【0077】
この補足説明は、本発明の目的を説明するためにのみ与えられるものであり、いかなる場合にも、この目的を限定するものとして解釈されてはならないことは言うまでもない。
【0078】
本発明は、添付の図面を参照しながら、純粋に指示のためであり、決して限定的に与えられるものではない例示的な実施態様の説明を読むことによって、最もよく理解されるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】本発明の特定の実施態様に係る研削砥石構成を概略的に示した図である。
【
図2A】本発明に係る方法の様々な実施態様による、導電ゾーン及び絶縁ゾーンの様々な分布を有する研削砥石を概略的に示した横断面図である。
【
図2B】本発明に係る方法の様々な実施態様による、導電ゾーン及び絶縁ゾーンの様々な分布を有する研削砥石を概略的に示した横断面図である。
【
図2C】本発明に係る方法の様々な実施態様による、導電ゾーン及び絶縁ゾーンの様々な分布を有する研削砥石を概略的に示した横断面図である。
【
図2D】本発明に係る方法の様々な実施態様による、導電ゾーン及び絶縁ゾーンの様々な分布を有する研削砥石を概略的に示した横断面図である。
【
図2E】本発明に係る方法の様々な実施態様による、導電ゾーン及び絶縁ゾーンの様々な分布を有する研削砥石を概略的に示した横断面図である。
【
図3A】本発明の特定の実施態様に係る、開封及び放電後の18650セルの写真である。
【
図3B】走査型電子顕微鏡によって得られた、
図3Aに係るセルの横断面の画像である。
【
図4】本発明の特定の実施態様による、リチウムイオンセルを開封した場合の電圧及び温度を時間の関数として監視する曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0080】
図に示された様々な部品は、図をより見やすくするために、必ずしも均一の縮尺で示されているわけではない。
【0081】
以下では、リチウムイオン蓄電池について説明するが、本発明は、公称動作電圧及び/又は供給すべきエネルギー量に応じて直列若しくは並列に接続された、例えば複数の蓄電池を含むバッテリ(蓄電池のバッテリともいう)又は電池など、あらゆる電気化学的発電装置に転用することができる。
【0082】
当該開封方法は、個別に、又は混合物として処理される蓄電池、バッテリ又はセルタイプのあらゆる電気化学系に関連する。これらは例えば、携帯機器に由来する電気化学系、又は、比較的高い電力定格及び反応性を有するので、それらの処理が安全性の面で複雑になる自動車産業に由来するセル若しくはモジュールであり得る。
【0083】
これらの様々な電気化学的装置は、例えばリチウムイオン若しくはナトリウムイオンなどの金属イオンタイプ、又はリチウム金属タイプなどであってよい。
【0084】
また、Li/MnO2などの一次系、又はレドックスフローバッテリであってよい。
【0085】
1.5V以上の電位を有する電気化学的発電装置が有利に選択されるであろう。
【0086】
電気化学的発電装置を開封するための方法は、以下のステップを含んでいる:
‐不活性液体と、好ましくはリチウムと反応して中和することができる酸化還元種とを含む溶液に、電気化学的発電装置を浸漬するステップ、
‐切断要素100によって電気化学的発電装置を開封するステップであって、開封は、電気化学的発電装置が溶液に浸漬されている際に実施されるステップ。
【0087】
溶液は、少なくとも1つの不活性液体を含んでいる。複数の不活性液体の混合物を含んでもよい。
【0088】
本発明に係る不活性液体は、良好な熱安定性、特に10℃から150℃の間の温度範囲における熱安定性と、主に高電位でのセルとの接触中及び放電中の媒体の劣化の影響を制限する良好な電気化学的安定性とによって特徴付けられる。
【0089】
不活性液体は、脱イオン水、イオン液体、又は深共晶溶媒(DES)であり得る。これらの混合物のうちの1つである場合もあり得る。
【0090】
脱イオン水(又は脱塩水)は、例えば15MΩ~21MΩ、好ましくは18MΩ~20MΩの抵抗を有する。
【0091】
イオン液体とは、融点が100℃以下又は100℃に近い液体を生成する、少なくとも1つのカチオンと少なくとも1つのアニオンとの結合を意味する。溶融塩が例に含まれる。イオン液体は、熱的及び電気化学的レベルにおいて安定しており、放電現象中の媒体の劣化の影響を最小限に抑えることができる。
【0092】
カチオンは、好ましくは、イミダゾリウム、ピロリジニウム、アンモニウム、ピペリジニウム及びホスホニウムの群から選択される。
【0093】
アニオンは、例えば、TFSI又はビス(フルオロスルホニル)イミド(FSA又はFSI)アニオンである。
【0094】
有利には、イオン液体は、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[BMIM][TFSI]、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[P66614][TFSI]、1-エチル-2,3-トリメチレンイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([ETMIm][TFSI])、N,N-ジエチル-N-メチル-N-2-メトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド[DEME][TFSA]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([PYR14][TFSI])、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([PP13][TFSI])、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムFSI([P13][FSI])、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムFSI([PP13][FSI])、及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムFSI([EMI][FSI])から選択されるであろう。
【0095】
DESは無毒性で生分解可能であり、低コストであるという利点を有する。例えば、グリコール(例えばグリセロール若しくはエチレングリコール)又は尿素のような毒性の非常に低い水素結合供与体と共に使用される塩化コリンが、毒性のないDESを非常に低コストで得るために選択される。このような溶液は、限定された電気化学的安定性ウィンドウを有しているが、開放型蓄電池の浸漬及び不活性化を保証することが可能である。共晶点に近い成分の割合は、有利には、伝導性又は粘性といった流体の特性を最適化するために選択され得る。したがって、これらの成分の様々なモル混合物を想定することができる。
【0096】
例えば、塩化コリンとエチレングリコールとを1:1から1:5の範囲のモル比で混合することができる。
【0097】
代替的に、塩化コリンをベタインで置き換えることもできる。
【0098】
溶液はさらに、溶液に特定の特性を付与するための他の成分/薬品を含んでもよい。例えば、溶液は電気化学シャトル又は難燃剤を含んでいてもよい。
【0099】
酸化還元反応を確実化することによって媒体の分解を減少させるために、電気化学シャトル(酸化還元メディエータとも呼ばれる)が添加され得る。酸化還元メディエータとは、蓄電池又はセルの端子上で還元及び酸化され得る溶液中のイオン又は種を意味する。メディエータは、例えば、Mn2+/Mn3+、Co2+/Co3+、Cr2+/Cr3+、Cr3+/Cr6+、V2+/V3+、V4+/V5+、Sn2+/Sn4+、Ag+/Ag2+、Cu+/Cu2+、Ru4+/Ru8+又はFe2+/Fe3+から選択される金属電気化学対であってもよい。溶液はまた、複数の金属電気化学対を含んでもよい。
【0100】
代替的に、酸化還元メディエータは、以下のような有機種であってもよい:2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、ニトロニルニトロキシド/2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、テトラシアノエチレン、テトラメチルフェニレンジアミン、ジヒドロフェナジン、メトキシなどの芳香族分子、N,N-ジメチルアミノ基(アニソールメトキシベンゼン、ジメトキシベンゼン、N,N-ジメチルアニリンN,N-ジメチルアミノベンゼン)。10-メチル-フェノチアジン(MPT)、2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-ジメトキシベンゼン(DDB)及び2-(ペンタフルオロフェニル)-テトラフルオロ-1,3,2-ベンゾジオキサボロール(PFPTFBDB)も挙げることができる。
【0101】
酸化還元メディエータは、メタロセン(Fc/Fc+、Fe(bpy)3(ClO4)2、Fe(phen)3(ClO4)2及びそれらの誘導体)の群から、又はハロゲン化分子(Cl2/Cl-、Cl-/Cl3- Br2/Br-、I2/I-、I-/I3)の群からであってもよく、又はテトラメチルフェニレンジアミンであってもよい。
【0102】
好ましくは、Fe2+/Fe3+及び/又はCu+/Cu2+が使用されるであろう。後者は、その2つの酸化状態で可溶性であり、毒性を有さず、不活性液体を分解せず、蓄電池を開封する場合にリチウムを抽出するのに適した酸化還元電位を有する。代替的に、V2+/V3+及びV4+/V5+の組み合わせのような酸化還元対を使用することが有利である。
【0103】
溶液は、特に蓄電池の開封の間の熱暴走を防止することを目的とした、例えば消火剤及び/又は難燃剤のような、いわゆる「活性」種を1つ又は複数含んでいてよい。これは、+アルキルホスフェート、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、又はトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェートなどの任意でフッ素化されたアルキルホスフェート(フッ素化アルキルホスフェート)であってもよい。活性種の濃度は、5質量%~80質量%、好ましくは30質量%~10質量%であってよい。
【0104】
任意で、溶液は、乾燥剤、及び/又は材料の輸送に有利な薬品、及び/又は例えばPF5、HF、POF3などのような腐食性種及び毒性種の安定剤/還元剤である保護剤を含んでもよい。
【0105】
材料の輸送に有利な薬品は、例えば、媒体の粘度を下げるために添加されるごく少量の共溶媒である。
【0106】
好ましくは、有機溶媒が、排出又は可燃性に関して危険を生じることなく効果的に作用するように選択されるであろう。ビニリデンカーボネート(VC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、プロピレンカーボネート(PC)、ポリエチレングリコール又はジメチルエーテルの場合であり得る。材料の輸送に有利な薬品の濃度は、有利には1質量%~40質量%、より有利には10質量%~40質量%の範囲である。
【0107】
腐食性要素及び/又は毒性要素を削減及び/又は安定化するのに適した保護剤は、例えば、ブチルアミンタイプの化合物、カルボジイミド(N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドタイプ)、N,N-ジエチルアミノトリメチルシラン、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト(TTFP)、1-メチル-2-ピロリジノンなどのアミンをベースとする化合物、フッ素化カルバメート又はヘキサメチル-ホスホルアミドである。ヘキサメトキシシクロトリホスファゼンなどのシクロホスファゼン系の化合物でもよい。
【0108】
不活性液体の存在下で実施される切断作業によって、水及び/又は空気との激しい反応が回避される。不活性液体は、セル/蓄電池の開封を安全にし、切断工具が材料の活性コアに導入される場合、開封中にセル/蓄電池が放電することを可能にする。最後に、不活性液体は媒体の冷却を促進し、放電プロセス中にカロリーを排出することを可能にする。
【0109】
不活性液体は、制御された雰囲気(空気、水)の維持及び排出に有利に寄与し、切断流体の役割(切断ゾーンの潤滑及び冷却)を果たす。
【0110】
切断要素100は、放電作業を可能にするために十分な導電性を有し、セルの爆発につながる固体短絡を回避するために十分な抵抗性を有する。言い換えると、切断要素100は非常に低い電気伝導性を有する。切断要素の電気伝導性は、切断される試料によって見られる平均伝導度となり、絶縁ゾーンと導電ゾーンとの比、回転速度、砥石車の前進速度などに依存する。
【0111】
切断要素の電気抵抗は、電気化学的発電装置を開封する当該方法に適合しており、1mΩから1kΩの間、好ましくは5mΩから100Ωの間である。こうして、切断の際にリーク電流が生じ、放電を制御することが可能になる。抵抗値は切断要素の平均抵抗値である。少なくとも、試料を切断するために貫通することを意図した切断要素の部分は、このような抵抗を有する。この抵抗は、2枚の同じ伝導板の間に試料を配置し、マルチメータで測定され得る。
【0112】
この開封を実現するために好まれる技術は、熱暴走及びセルの爆発につながる固体無制御短絡につながり得る変形(破砕、隣接材料への材料の広がりなど)を制限する技術である。
【0113】
切断要素100は切断工具の一部を構成する。
【0114】
切断工具とは、不活性媒体中で電気化学的発電装置を部分的又は完全に開封するために、材料を研削し、好ましくは切断する役割を果たすことができる工具を意味する。網羅的ではなく、切断は、ギロチンタイプ(ブレード)の切断、のこ引き作業(円形、帯付き)、貫通による切断、及び好ましくは、ワイヤー切断タイプ又は研削砥石を用いた研磨方法であってよい。
【0115】
切断要素100は、切断要素100に機械的特性を付与するベース支持体101を含んでいる。
【0116】
ベース支持体101は、導電性又は電気絶縁性とすることができる。ベース支持体101は、金属、レジノイド又はゴムタイプとすることができる。
【0117】
ベース支持体101は研磨ゾーン102で覆われている。研磨ゾーン102は、処理される対象物及び材料に適合した硬度を有する。
【0118】
研磨ゾーン102は、例えば、砂岩、エメリー、ダイヤモンド、炭化ケイ素及び/又はアルミナから形成される。
【0119】
好ましくは、研磨ゾーンは砥粒によって形成される。
【0120】
好ましくは、ベース支持体101は、研磨ゾーン102及び導電ゾーン103で覆われている。研磨ゾーン102は工具に機械的特性を付与し、導電ゾーン103は工具に電気的特性を付与する。
【0121】
導電ゾーン103は、例えば、導電性粒子によって形成される。
【0122】
導電ゾーン103は、例えば、金属又は金属合金によって形成される。例としては、銅、鉄、鋼及び/又はアルミニウム、より広範には導電体の場合がある。
【0123】
導電ゾーン103は、金属粒子103又は金属ワイヤによって形成され得る。
【0124】
砥粒及び/又は導電性粒子は、好ましくは、例えば数マイクロメートルから数センチメートルの範囲の寸法を有する粒子である。
【0125】
砥粒102及び/又は導電性粒子103は、有利には、バインダ104(
図1)によって支持体101上に機械的に保持される。バインダは、樹脂、ゴム、ケイ酸塩、粘土又はセラミックであってよい。
【0126】
研磨ゾーン102及び/又は導電ゾーン103は、支持体101上にランダムに又は規則的に配置され得る。
【0127】
研磨ゾーン102及び/又は導電ゾーン103は、連続的であっても不連続的であってもよい。
【0128】
第1の有利な変型例によると、電気化学的発電装置は、ワイヤ100を用いた研磨によって開封される。ワイヤ100は、機械的特性を付与する糸状の固体ベース101を含んでいる。研磨特性は、処理される対象物及び材料に適合する硬度を有する砥粒102を加えることによって付与される。
【0129】
第2の変型実施態様によると、電気化学的発電装置は、研削機を用いた研磨によって開封される。研削機のディスクは、円形のベース支持体101を含む。この支持体は、互いに平行な第1の主表面及び第2の主表面と、2つの主表面を接続する側面(エッジとも呼ばれる)とを含む。
【0130】
支持体101は、金属製、レジノイド製、又はゴム製であり得る。支持体101は、有利には、電気絶縁性研磨ゾーン102及び導電ゾーン103によって覆われている。
【0131】
例として、
図2A~
図2Eに示すように、研磨ゾーン102(好ましくは砥粒)と導電ゾーン103(好ましくは導電性ワイヤ又は粒子)とを含む砥石車の場合、様々な構成を想定することができる。
【0132】
研磨ゾーン102及び導電ゾーン103は、例えばランダムに分布している(
図2A)。
【0133】
研磨ゾーン102及び導電ゾーンは、制御して分配され得る(
図2B~
図2E)。
【0134】
変型実施態様によると、研磨ゾーン102及び導電ゾーンは、研磨ゾーンと非研磨ゾーンとの交互の配置を形成するように制御して配置される。
【0135】
別の変型実施態様によると、導電ゾーン103は、砥石車のディスク100の中心に対して同心円状に分配され得る(
図2C)。
【0136】
別の変型実施態様によると、導電性ゾーン103は、1つ若しくは複数の半径に沿って、又は1つ若しくは複数の直径に沿って(
図2D)、ランダムに、又はランダムにではなく分配され得る。
【0137】
別の変型実施態様によると、導電ゾーン103は、砥石車のディスク100の外周にのみ配置され得る(
図2E)。
【0138】
図示しない別の変型実施態様によると、導電ゾーン103は、砥石車のディスク101のエッジに配置される。
【0139】
研磨ゾーン102と導電ゾーン103との交互配置は、例えば物理気相成長(又はPVD)、原子層堆積(又はALD)、化学気相成長(又はCVD)、スピンコーティング、又は例えばディップコーティングなどのコーティング技術によって、薄層を堆積させる技術によって製造されたコーティングを用いて得られる。
【0140】
適合した電気抵抗は、切断工具の外面にコーティングされた導電性布によっても付与可能であり、これによって機械的特性(樹脂に含まれる砥粒によって付与される摩耗、制御された硬度)と電気的特性(外面布によって付与される適合した抵抗)とを分離することが可能になる。
【0141】
電気抵抗は、切断流体及び動作条件(温度、流体の粘度、摩耗速度、流体の更新など)によっても調整可能である。
【0142】
さらに安全性を高めるために、酸素含有量を制御できる気体雰囲気制御システム(不活性雰囲気又は適切な寸法の抽出システム)を、任意で開封システムに関連付けてもよい。このようにして、アセンブリは(ファイヤートライアングルに関して)安全なものとなり、セルの開封に起因するガスの発生を管理しながら、セル及び蓄電池の放電及び開封を同時に行うことが可能になる。
【0143】
当該方法は、不活性雰囲気下、例えばアルゴン、二酸化炭素、窒素、又はそれらの混合物の内の1つの下で実施され得る。
【0144】
当該方法は、5℃から80℃、好ましくは20℃から60℃の範囲の温度で実施可能であり、さらに好ましくは周囲温度(20℃~25℃)で実施される。
【0145】
溶液は、放電プロセスの間にカロリーを排出するために冷却され得る。
【0146】
溶液は、試薬の添加を改善するため及び/又は冷却を改善するために撹拌され得る。
【0147】
当該開封方法によって、電気化学的発電装置をリサイクル(高温冶金法、湿式冶金法、又はそれらの組み合わせによる)又は貯蔵することを視野に入れて、完全に安全に切断することが可能になる。例えば、様々な成分を回収するためのリサイクルプラントなどに移送可能になるまで、一時的に保管することができる。
【0148】
電気化学的発電装置の開封に先立ち、選別及び分解ステップが行われることがある。例えば、リサイクル方法は以下のステップを含んでいる:
‐選別するステップ、
‐予備分解のステップ、例えば電気自動車用途の場合、パックレベルからモジュールレベルへに移るステップ、
‐上述の方法に従って電気化学的発電装置を開封するステップ、
‐従来の方法(高温冶金、湿式冶金など)による材料のリサイクルのステップ、及び/又は、溶媒タイプ若しくは電解液タイプの有機生成物のリサイクルのステップであって、好ましくは、有機生成物を分解するような温度上昇を伴わない、穏やかな方法によって安全にリサイクルするステップ。
【0149】
電気化学的発電装置の回収可能な画分、特に活物質を構成する金属は、次に回収して再利用することができる。
【0150】
一実施態様の例示的かつ非限定的な例:
この例では、塩化コリン/エチレングリコール媒体中で銅を含んだレジノイド砥石車を用いてリチウムイオンセルを開封する。
【0151】
この砥石車はAl2O3砥粒を含んでおり、エッジにはCuが不連続に堆積している。
【0152】
切断が実施される溶液は、塩化コリンとエチレングリコールとを1:3のモル比で混合した溶液で、さらにその分解を制限するための鉄電気化学シャトルを含む。混合物の粘度は約40cPである。最も反応性の高いカソード材料を含むNMC811化学の18650リチウムイオンセルを100%(3Ah)まで充電し、溶液を満たしたタンク内に配置する。
【0153】
開封動作は、レジノイド砥石車を使用し、回転速度1000回転/分、加圧力7.5Nで2分間にわたって行われる。切断作業は、周囲温度(20℃~25℃)及び大気圧(1bar)で、切断流体の再循環又は熱化(劣化条件)を伴わずに実施される。砥石車の抵抗は1kOhm以上である。
【0154】
砥石車による開封動作によって、厚さ500μmで約1.5cm
2のノッチが形成される(
図3A及び3B)。切断部を走査型電子顕微鏡で観察すると、セルの各層に破砕及び変形がないことがわかる。
【0155】
切断中の電圧及び温度を監視すると(
図4)、切断段階の間に電圧が著しく低下することがわかる。その後、放電流体中で放電が行われる。この技術によって、爆発を起こすことなくセルを開封するだけでなく、開封の間の砥石車の適合した抵抗と開封後のステップの間の流体の適合した抵抗との複合作用によって、35分以内にセルを放電させることが可能になる。こうして、0Vの電圧は1時間以内に達成される。切断の際、及び/又は切断後の電圧降下が観察され得る。
【符号の説明】
【0156】
10 電気化学的発電装置
20 負極
30 正極
100 切断要素
101 支持体
102 研磨ゾーン
103 導電ゾーン
104 バインダ
【国際調査報告】