(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】上皮組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、および癌を処置するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241018BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/4192 20060101ALI20241018BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241018BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241018BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20241018BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241018BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241018BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K45/06
A61K31/5025
A61K31/4192
A61K9/06
A61K9/08
A61K47/69
A61P1/04
A61P29/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523621
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 US2022078542
(87)【国際公開番号】W WO2023239422
(87)【国際公開日】2023-12-14
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511248249
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ヒューストン システム
(71)【出願人】
【識別番号】520232699
【氏名又は名称】トラクト ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】シーアン ワ
(72)【発明者】
【氏名】マッケオン フランク
(72)【発明者】
【氏名】ワン シャン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ オードリー-アン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント マシュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA65
4C076BB01
4C076BB04
4C076BB11
4C076BB32
4C076CC04
4C076CC16
4C076CC27
4C076FF35
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
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4C084NA14
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4C084ZC132
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4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA17
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4C086MA67
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、食道組織および胃組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌のうち、1つまたは複数を患う患者を処置するための方法および製剤を提供し、方法は、病原性バレット食道幹細胞(BESC)または胃腸上皮化生幹細胞(GIMSC)が見出される組織中の正常な再生食道幹細胞または胃幹細胞に対して、BESCもしくはGIMSCを選択的に死滅させるか、またはBESCもしくはGIMSCの増殖もしくは分化を阻害する剤を、患者に投与する段階を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌のうち、1つまたは複数を呈する患者を処置するための方法であって、
上皮組織の正常な再生幹細胞に対して、該食道組織における病原性食道幹細胞(PESC)を選択的に死滅させるか、または病原性食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を該患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
その必要がある対象において、病原性食道幹細胞(PESC)の増殖、生存、遊走、またはコロニー形成能力を低減させる方法であって、
正常な再生食道幹細胞に対して、PESCを選択的に死滅させるか、またはPESCの増殖もしくは分化を阻害する、治療的有効量のIAP阻害剤と、
該細胞を接触させる段階を含む、方法。
【請求項3】
上皮組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬学的調製物であって、
正常な再生食道幹細胞に対して、食道組織における病原性食道幹細胞(PESC)を選択的に死滅させるか、または病原性食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を含む、薬学的調製物。
【請求項4】
上皮組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬物溶出装置であって、
該食道組織の正常な再生食道幹細胞に対して、食道組織における病原性食道幹細胞(PESC)を選択的に死滅させるか、または病原性食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を含む、薬物放出手段を含み、
患者内に配置された場合に、病的な食道組織の表面の近位に該薬物放出手段を位置づけし、該剤への該病的な食道組織の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で該剤を放出する、薬物溶出装置。
【請求項5】
食道炎、バレット食道、食道異形成、食道癌、胃腸上皮化生、または胃癌のうち、1つまたは複数を呈する患者を処置するための方法であって、
正常な食道幹細胞または胃幹細胞に対して、バレット食道幹細胞(BESC)、胃腸上皮化生(GIM)幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞を選択的に死滅させるか、またはバレット食道幹細胞、胃腸上皮化生(GIM)幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を該患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項6】
その必要がある対象において、バレット食道幹細胞(BESC)、胃腸上皮化生(GIM)幹細胞、食道癌細胞、および胃癌細胞の、増殖、生存、遊走、またはコロニー形成能力を低減させる方法であって、
正常な食道幹細胞または胃幹細胞に対して、BESC、GIM幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞を選択的に死滅させるか、またはBESC、GIM幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞の増殖もしくは分化を阻害する、治療的有効量のIAP阻害剤と、
該細胞を接触させる段階を含む、方法。
【請求項7】
食道炎、バレット食道、食道異形成、食道癌、胃腸上皮化生、または胃癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬学的調製物であって、
正常な食道幹細胞または胃幹細胞に対して、バレット食道幹細胞(BESC)、GIM幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞を選択的に死滅させるか、またはバレット食道幹細胞、GIM幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を含む、薬学的調製物。
【請求項8】
食道炎、バレット食道、食道異形成、食道癌、胃腸上皮化生、または胃癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬物溶出装置であって、
正常な食道幹細胞または胃幹細胞に対して、バレット食道幹細胞(BESC)、胃腸上皮化生幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞を選択的に死滅させるか、またはバレット食道幹細胞、胃腸上皮化生幹細胞、食道癌細胞、もしくは胃癌細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤
を含む、薬物放出手段を含み、
患者内に配置された場合に、食道の管腔表面の近位に、または胃領域中に該薬物放出手段を位置づけし、該剤への該管腔表面の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で該剤を放出する、薬物溶出装置。
【請求項9】
バレット食道および胃腸上皮化生の処置のための、請求項5~8のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項10】
食道腺がんおよび胃癌の処置のための、請求項5~8のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項11】
前記IAP阻害剤が、食道組織および胃組織の内視鏡的切除療法、例えば、ラジオ波焼灼術、光線力学的療法、または凍結融解壊死治療の間または後に投与される、請求項5または6記載の方法。
【請求項12】
前記IAP阻害剤が食道組織および胃組織の粘膜下注射によって投与される、請求項5または6記載の方法。
【請求項13】
前記IAP阻害剤が食道組織および胃組織の粘膜下注射のために製剤化される、請求項7記載の調製物。
【請求項14】
前記IAP阻害剤が生体接着性製剤の一部として製剤化される、請求項1~3、5~7、または9~13のいずれか一項記載の方法または調製物。
【請求項15】
前記IAP阻害剤が、薬物溶出粒子、薬物溶出マトリックス、または薬物溶出ゲルの一部として製剤化される、前記請求項のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項16】
前記IAP阻害剤が、局所適用によって前記食道組織および胃組織に投与される、請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記IAP阻害剤が食道組織および胃組織への局所適用のために製剤化される、請求項3記載の調製物。
【請求項18】
前記IAP阻害剤が生体接着性製剤の一部として製剤化される、請求項16記載の方法または請求項17記載の調製物。
【請求項19】
前記IAP阻害剤が薬物溶出粒子、薬物溶出マトリックス、または薬物溶出ゲルの一部として製剤化される、請求項16記載の方法または請求項17記載の調製物。
【請求項20】
前記IAP阻害剤が、鎮痛剤、抗感染剤、または両方と同時投与される、請求項1、2、5、または6記載の方法。
【請求項21】
前記IAP阻害剤が、鎮痛剤、抗感染剤、または両方と共製剤化される、請求項3または7記載の調製物。
【請求項22】
前記IAP阻害剤が、前記上皮組織、例えば前記食道および胃への経口送達のための液剤として製剤化される、請求項3、7、13、14、15、17、18、または19記載の調製物。
【請求項23】
前記IAP阻害剤が単回経口用量として製剤化される、請求項3、7、13、14、15、17、18、19、または22記載の調製物。
【請求項24】
前記薬物溶出装置が薬物溶出ステントである、請求項4または8記載の装置。
【請求項25】
前記薬物溶出装置が、IAP阻害剤を含む表面コーティングを有するバルーンカテーテルである、請求項4または8記載の装置。
【請求項26】
前記IAP阻害剤が、同じ組織中の正常な再生食道幹細胞に対するIC
50の1/5以下、より好ましくは、1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500、またはさらに1/1000であるIC
50で、BESCの増殖もしくは分化を選択的に阻害するか、またはBESCを選択的に死滅させる、前記請求項のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項27】
前記IAP阻害剤が、10
-6M以下、より好ましくは、10
-7M以下、10
-8M以下、または10
-9M以下のIC
50で、BESCの増殖もしくは分化を阻害するか、またはBESCを死滅させる、前記請求項のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項28】
前記IAP阻害剤が、細胞透過性であり、例えば、10
-9以下、より好ましくは、10
-8以下または10
-7以下の透過係数を特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項29】
前記IAP阻害剤がXIAP阻害薬である、請求項1~28のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項30】
前記IAP阻害剤がSM-164またはAZD5582である、請求項1~29のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項31】
標的組織中のBESCに対するよりも少なくとも5倍強力なEC
50で、より好ましくは、BESCに対するよりも10倍、50倍、100倍、またはさらに1000倍強力なEC
50で標的中の正常な再生食道幹細胞の増殖を選択的に促進する第2の薬剤と、前記剤を組み合わせることをさらに含む、請求項1~30のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項32】
前記第2の薬剤が、10
-6M以下、より好ましくは、10
-7M以下、10
-8M以下、または10
-9M以下のEC
50で、正常な食道幹細胞の増殖を促進する、請求項1~31のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項33】
前記第2の薬剤がTAK1阻害薬またはRET阻害薬である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項34】
前記第2の薬剤がABLキナーゼ阻害薬の汎阻害薬、好ましくは、BCR-ABLキナーゼ阻害薬であり、例えば、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ならびにポナチニブ、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物からなる群より選択され、好ましくは、ポナチニブ、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項35】
前記第2の薬剤がFLTキナーゼ阻害薬、好ましくは、FLT3キナーゼ阻害薬であり、例えば、キザルチニブ(AC220)、クレノラニブ(CP-868596)、ミドスタウリン(PKC-412)、レスタウルチニブ(CEP-701)、4SC-203、TTT-3002、ソラフェニブ(Bay-43-0006)、ポナチニブ(AP-24534)、スニチニブ(SU-11248)、および/もしくはタンズチニブ(MLN-0518)、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物からなる群より選択され、好ましくは、キザルチニブ、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項36】
前記IAP阻害薬が二価のSMAC模倣物であり、前記第2の剤がTAK1阻害薬またはRET阻害薬である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項37】
前記剤を、1種または複数種の鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、解熱剤、鎮痛剤、抗感染剤、および/または化学療法剤と組み合わせることをさらに含む、請求項1~36のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項38】
前記剤および前記第2の剤が別々の製剤として患者に投与される、請求項31~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記剤および前記第2の剤が一緒に共製剤化される、請求項31~36のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項40】
前記剤および前記1種または複数種の鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、解熱剤、鎮痛剤、抗感染剤、および/または化学療法剤が一緒に共製剤化される、請求項37記載の方法、調製物、または装置。
【請求項41】
前記患者がヒト患者である、前記請求項のいずれか一項記載の方法、調製物、または装置。
【請求項42】
ヒト粘膜表面で測定された10N/m
2から100,000N/m
2の間の粘着力と等しい粘着力を伴うポリマー表面を有する、生体接着性ナノ粒子であって、その中またはその上で分散しているIAP阻害剤をさらに含み、粘膜組織に粘着した場合に、該IAP阻害剤を粘液ゲル層中に溶出する、生体接着性ナノ粒子。
【請求項43】
IAP阻害剤および1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、粘膜下保持性製剤であって、粘膜下に注射可能であり、有効量の前記IAP阻害剤を前記組織、注射部位に放出する粘膜下デポーを形成する、粘膜下保持性製剤。
【請求項44】
IAP阻害剤および任意で1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、粘膜下注射のための注射可能なサーモゲルであって、室温で低粘性流体を有し(および容易に注射され)、注射後に体温で非流動ゲルになる、注射可能なサーモゲル。
【請求項45】
IAP阻害剤を含む薬物放出手段を含む、薬物溶出装置であって、患者内に配置された場合に、該薬物放出手段を処置される標的上皮組織の近位に位置づけし、該IAP阻害剤への該標的組織の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で、該IAP阻害剤を放出する、薬物溶出装置。
【請求項46】
IAP阻害剤、ESO再生剤、および薬学的に許容される賦形剤を含む、単一経口投薬製剤であって、成人患者に服用される単一経口投薬製剤が、食道組織において、食道の化生、異形成、癌、またはそれらの組み合わせの進行を遅らせるか、または逆転させるのに有効な、該IAP阻害剤および該ESO再生剤の濃度
をもたらす、単一経口投薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所によって与えられた助成金番号1R01DK115445-01A1、1R01CA241600-01およびU24CA228550、ならびに国防総省によって与えられた助成金番号W81XWH-20-1-0755のもとで、政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
優先権の主張
本出願は、2021年10月22日に出願された米国仮出願第63/270,762号および2022年3月2日に出願された第63/315,777号に対する優先権の恩典を主張し、両方の出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
化生は、ある分化細胞型と通常は特定の組織に存在しない別の成熟分化細胞型との置き換えである。典型的には、化生は、微生物および炎症の有害効果と協調して作用し得る環境刺激によって誘発される。化生の顕著な特徴は細胞の同一性の変化である。
【0004】
一般に、化生は、高悪性度異形成および癌腫に結果的になる可能性がある低悪性度異形成の前駆体である。
図7を参照されたい。典型的には、患者が癌を発生する危険性は、炎症性疾患または異形成への化生の進行に従って、顕著に増加する。
【0005】
多くの癌に対して処置の失敗が続くことにより、前駆病変に対して行われる予防的ストラテジーへの関心が生じている。癌は、少なくとも時間的に、前駆病変の遷移によって支配される、数十年にわたる進化的プロセスの後期症状発現であることが今や明らかである。結腸直腸癌については、このプロセスは、APC突然変異と関連する小さな腺腫として開始し、KRAS突然変異の活性化および上皮極性の消失を特徴とする大きな腺腫に進行し、最終的に、p53およびSMAD4などの遺伝子中に突然変異を獲得し、浸潤癌を発症する。慢性のピロリ菌(H. pylori)感染と関係している胃腺がんに対する類似プロセスは、Correaによって、低および高危険性の胃腸上皮化生(GIM)、異形成、および浸潤癌からの直線的経路として定義され、進行は、腫瘍抑制因子および癌原遺伝子中の突然変異の獲得によって部分的にもたらされる。食道腺がん(EAC)に対する「腸上皮化生」前駆病変であるバレット食道(BE)は大体70年前に発見され、腸胃腺がんに対するCorreaの順序(Correa sequence)に対応する一連の段階で癌への経路に沿って進行すると考えられている。
【0006】
図8は、バレット食道(BE)と関連する危険性の統計学的概観を提供する。BEは慢性の胃食道逆流性疾患(GERD)の結果であり、この疾患の自然経過の最終段階に相当する。米国の人口の20%が胃食道逆流を患っていること、およびこれらの患者の約10%がBEと診断されることが推定されている。一般に、BEは、GERDの症状の評価のための内視鏡検査中に発見される。
【0007】
胃酸度への食道粘膜の長期にわたる曝露は、重層扁平上皮の細胞損傷をもたらし、腸上皮化生の形態での修復を刺激する異常な環境を作り出すことが実証されている。結果は、生理学的に食道粘膜を覆う重層扁平上皮が、心臓タイプのものでも胃タイプのものでもないが、腸タイプの上皮の特色を示す病的な特殊化円柱上皮に置き換えられることである。この病的なタイプの上皮は、悪性病変になりやすくするDNA変化を通常示す。BEの変化は、異形成を示すか示さないかに応じて、組織学的に3つのカテゴリーに分類される:(1)異形成をともなわないBE;(2)低悪性度異形成をともなうBE;および(3)高悪性度異形成(HGD)をともなうBE。HGDをともなうBEでは、異形成は、基底膜を横断することなく、粘膜に限定される。異形成が、入ってくるリンパネットワークを通じて基底膜を越えて粘膜固有層中に延びる場合は、これは粘膜内(表在性)腺がんと定義され、一方で、これが粘膜筋板層に侵入する場合は、これは浸潤性腺がんになる。したがって、HGDをともなうBEは、浸潤性腺がんの前駆体であると考えられる。
【0008】
BEおよびHGDを有する患者の6~20パーセントは、経過観察の17~35か月の範囲の短期間で腺がんを発生する危険性が最も高い。BEおよびHGDを有する患者からの食道切除検体によって、症例の30%~40%で浸潤性腺がんが明らかになった。最近のメタ解析によって、BEおよびHGDを有する患者は、内視鏡的監視の最初の1.5~7年の間で、1年あたり100人の患者につき6人の平均発生率で、食道腺がんを発生することが示された。さらに、食道腺がんの大部分は、バレット化生を受けた細胞から発達したと考えられている。
【0009】
BEはまた、食道胃接合部の上部の腸上皮化生の広がりに従って2つのカテゴリーに分類される:(1)腸上皮の広がりが3cmより大きい場合、長いセグメントのBE;および(2)腸上皮の広がりが3cm未満の場合、短いセグメントのBE。GERDの症状について内視鏡検査を受ける患者の中で、長いセグメントのBEの発生率は3%~5%であり、一方で、短いセグメントのBEは10%~15%で生じる。長いセグメントのBEと短いセグメントのBEが、悪性病変に対する同じ病原性変化または同じ素因を共有するかどうかは、依然として不明なままであるが、両方の状態は現在同じように処置されている。
【0010】
ある特定のバレット食道患者を処置するための一般的かつ侵襲的な手段は、食道組織の内視鏡的切除療法、例えば、ラジオ波焼灼術、光線力学的療法、または凍結融解壊死治療を介する。しかし、療法後に寛解に達する患者のパーセンテージがかなり高いにもかかわらず、これらの患者の多くは数年以内に再発する。他の患者については、切除療法に難治性であるためか、または重度の併存症により不適格であるためかに関わらず、治療選択はさらに少なく、存在する治療選択は、結果がよりよいおよび/または寛解の持続期間が長い、より有効な療法を依然としてかなり必要としているままである。
【0011】
化生から異形成、さらに癌への類似した移行は、様々な他の上皮組織の全体にわたって観察される。化生は、天然に傷害性であることが多い環境作用物質に常に曝露されている組織内で生じる傾向がある。例えば、肺系(肺および気管)ならびに胃腸管は、それぞれ空気および食物と接触するために、化生の一般的な部位である。卵巣では、卵巣表面上皮と下にある卵巣支質の間の動的相互作用は、上皮分化、化生、および最終的に悪性形質転換の起源であるように思われる。
【0012】
上皮組織の癌に有効な処置だけでなく、それらの組織の化生および異形成に向けられた処置に対して、未だ対処されていない相当な医学的必要性が存在する。
【発明の概要】
【0013】
概要
本発明の一局面は、上皮組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌を患う患者を処置するための方法を提供し、方法は、PESCが見出される組織中の正常な上皮幹細胞に対して、病原性上皮幹細胞(PESC)を選択的に死滅させるか、または病原性上皮幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する抗PESC剤を、患者に投与する段階を含む。代表的な上皮組織としては、肺、尿生殖器、胃腸、膵臓、および肝臓組織が挙げられる。
【0014】
例えば、本開示はこれらの個別の幹細胞集団からの拡大に由来し、バレット食道がEACの進行に関与するすべての腫瘍性病変に対して特定の幹細胞に依拠するという概念を、少なくとも部分的に前提としている。バレット、異形成、およびEACの患者に対応した(patient-matched)内視鏡生検材料から、本発明者らは、それぞれが、無限の増殖能とそれらが由来した腫瘍性病変への絶対的な拘束とを示すクローン原性細胞を有することを示す。予想外に、これらの幹細胞クローンは、インビトロとインビボの両方において、コピー数および一塩基多様性のレベルで著しく安定であることが分かった。この特性によって、EACの進化を高精度で説明するために、それらの系統発生的関係のアセンブリーが可能になり、ひいては、「低悪性度異形成」と呼ばれる危険性の高い組織学的実体におそらく対応する、バレットと異形成の間の個別の中間体が明らかになった。本開示は、PESC(すなわち、バレット病原性幹細胞)を選択的に死滅させる一方で正常な再生食道幹細胞には危害を加えず、かつ患者に対応した異形成および食道癌幹細胞(例えば、EAC幹細胞)も排除することを示す薬物の組み合わせを特定するための、ハイスループットスクリーニングプラットフォームへの、これらのクローン-正常な再生食道幹細胞と病原性食道幹細胞(PESCの一例)の両方-の適応性の開発に関する。
【0015】
したがって、本開示のある特定の態様では、食道組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌を患う患者を処置するための方法を提供し、方法は、正常な再生食道幹細胞に対して、病原性食道幹細胞を選択的に死滅させるか、または病原性食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を、患者に投与する段階を含む。
【0016】
ある特定の態様では、IAP阻害薬はTAK1阻害薬と組み合わせて投与される。
【0017】
ある特定の態様では、IAP阻害薬はRET阻害薬と組み合わせて投与される。
【0018】
ある特定の態様では、標的上皮組織は上皮由来腫瘍、例えば、卵巣腫瘍、肺腫瘍、胃腫瘍、もしくは食道腫瘍、またはそれらの転移部位であり、PESCは癌幹細胞である。
【0019】
本開示の別の局面は、その必要がある対象において、PESCの増殖、生存、遊走、またはコロニー形成能力を低減させる方法を提供し、方法は、PESCが見出される食道組織中の正常な再生食道幹細胞に対して、PESC集団を選択的に死滅させるか、またはPESC集団の増殖もしくは分化を阻害する、治療的有効量のIAP阻害剤と、PESCを接触させる段階を含む。
【0020】
例えば、本開示は、食道炎(好酸球性食道炎またはEoEを含める)、バレット食道、食道異形成、または食道癌のうち、1つまたは複数を患う患者を処置するための方法を提供し、方法は、正常な食道幹細胞に対して、バレット食道幹細胞(BESC)を選択的に死滅させるか、またはバレット食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を、患者に投与する段階を含む。ある特定の態様では、患者は食道炎を呈する。ある特定の態様では、患者はバレット食道を呈する。ある特定の態様では、患者は食道異形成を呈する。ある特定の態様では、患者は食道癌を呈する。ある特定の態様では、患者は食道がん、例えば、食道腺がんまたは食道扁平細胞がんを呈する。
【0021】
本開示の別の局面は、その必要がある対象において、BESCの増殖、生存、遊走、またはコロニー形成能力を低減させる方法を提供し、方法は、正常な食道幹細胞に対して、BESCを選択的に死滅させるか、またはBESCの増殖もしくは分化を阻害する、治療的有効量のIAP阻害剤と、BESCを接触させる段階を含む。
【0022】
本発明の別の局面は、上皮組織の慢性炎症性傷害、化生、異形成、または癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬学的調製物提供し、調製物は、正常な上皮幹細胞に対して、PESCを選択的に死滅させるか、またはPESCの増殖もしくは分化を阻害する、抗PESC剤を含む。
【0023】
ある特定の態様では、本開示は、食道炎、バレット食道、食道異形成、または食道癌のうち、1つまたは複数を処置するための薬学的調製物を提供し、調製物は、正常な食道幹細胞に対して、PESCを選択的に死滅させるか、またはPESCの増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を含む。ある特定の態様では、患者は食道炎を呈する。ある特定の態様では、患者はバレット食道を呈する。ある特定の態様では、患者は食道異形成を呈する。ある特定の態様では、患者は食道癌を呈する。ある特定の態様では、患者は食道がん、例えば、食道腺がんまたは食道扁平細胞がんを呈する。ある特定の態様では、本開示は、肺組織に関与する異形成、化生、または癌のうち、1つまたは複数を処置するための、例えば、非小細胞肺がん(NSCLC)または小細胞肺がん(SCLC)の処置のための、薬学的調製物を提供し、調製物は、肺の疾患もしくは障害に関与するPESCを選択的に死滅させるか、または肺の疾患もしくは障害に関与するPESCの増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を含む。
【0024】
ある特定の態様では、本開示は、卵巣、卵管、および/または子宮頸部組織に関与する異形成、化生、または癌のうち、1つまたは複数の処置のための、例えば、子宮頸部化生、子宮頸癌、卵管(fallopian)癌、ならびに/または卵巣癌(タキソールおよび/もしくはシスプラチン抵抗性卵巣癌を含める)の処置のための、薬学的調製物を提供し、調製物は、卵巣、卵管、および/もしくは子宮頸部の疾患または障害に関与するPESCを選択的に死滅させるか、または卵巣、卵管、および/もしくは子宮頸部の疾患または障害に関与するPESCの増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を含む。
【0025】
ある特定の態様では、本開示は、胃組織に関与する異形成、化生、または癌のうち、1つまたは複数を処置するための、例えば、胃化生または胃癌の処置のための、薬学的調製物を提供し、調製物は、胃の疾患もしくは障害に関与するPESCを選択的に死滅させるか、または胃の疾患もしくは障害に関与するPESCの増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤を含む。
【0026】
本開示のさらに別の局面は、例えば、食道炎、バレット食道、食道異形成、または食道癌のうち、1つまたは複数を処置するための、薬物溶出装置を提供し、装置は、正常な再生食道幹細胞に対して、PESCを選択的に死滅させるか、またはPESCの増殖もしくは分化を阻害するIAP阻害剤を含む、薬物放出手段を含み、装置は、患者内に配置された場合に、食道の管腔表面の近位に薬物放出手段を位置づけし、剤への管腔表面の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で剤を放出する。ある特定の態様では、患者は食道炎を呈する。ある特定の態様では、患者はバレット食道を呈する。ある特定の態様では、患者は食道異形成を呈する。ある特定の態様では、患者は食道癌を呈する。ある特定の態様では、患者は食道がん、例えば、食道腺がんまたは食道扁平細胞がんを呈する。薬物溶出装置の例は、薬物溶出ステント、薬物溶出カラー、および薬物溶出バルーンである。
【0027】
他の態様では、管腔内ではなく、管腔外に(すなわち、粘膜下に、または輪状筋もしくは縦走筋の中もしくは上に)埋植されるなど、食道の管腔表面の病的な部分の近位に埋植され得る薬物溶出装置が提供される。
【0028】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、PESCが見出される組織中の正常な再生食道幹細胞を選択的に死滅させるためのIC50の1/5以下である、より好ましくは、正常な再生食道幹細胞を死滅させるためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、PESCを選択的に死滅させるためのIC50を有する。
【0029】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、正常な食道幹細胞を選択的に死滅させるためのIC50の1/5以下、より好ましくは、正常な食道幹細胞を死滅させるためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、BESCを選択的に死滅させるためのIC50を有する。
【0030】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、PESCが見出される組織中の正常な再生食道幹細胞を阻害するためのIC50の1/5以下、より好ましくは、正常な再生食道幹細胞の増殖を阻害するためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、PESCの増殖を選択的に阻害に対するIC50を有する。
【0031】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、正常な食道幹細胞の増殖を阻害するためのIC50の1/5以下、より好ましくは、正常な食道幹細胞の増殖を阻害するためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、BESCの増殖を選択的に阻害に対するIC50を有する。
【0032】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は正常な再生食道幹細胞の分化を阻害するためのIC50の1/5以下、より好ましくは、正常な再生食道幹細胞の分化を阻害するためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、PESCの分化を選択的に阻害に対するIC50を有する。
【0033】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、正常な食道幹細胞の分化を阻害するためのIC50の1/5以下、より好ましくは、正常な食道幹細胞の分化を阻害するためのIC50の1/10、1/20、1/50、1/100、1/250、1/500またはさらに1/1000またはそれ以下である、BESCの分化を選択的に阻害に対するIC50を有する。
【0034】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、食道炎、バレット食道、食道異形成、および/または食道癌の処置に対して少なくとも2の治療指数(TI)を有し、より好ましくは、食道炎、バレット食道、食道異形成、および/または食道癌の処置に対して、少なくとも5、10、20、50、100、250、500、または1000の治療指数を有する。ある特定の態様では、抗PESC剤とESO再生剤の併用投与は、卵巣、卵管、およびまたは子宮頸部の化生または異形成の処置に対して少なくとも2の治療指数(TI)を有し、より好ましくは、少なくとも5、10、20、50、100、250、500、または1000の治療指数を有する。
【0035】
ある特定の態様では、抗PESC剤とESO再生剤の併用投与は、卵巣癌(例えば、タキソールおよび/またはシスプラチン抵抗性卵巣癌)の処置に対して少なくとも2の治療指数(TI)を有し、より好ましくは、少なくとも5、10、20、50、100、250、500、または1000の治療指数を有する。
【0036】
ある特定の態様では、抗PESC剤とESO再生剤の併用投与は、肺癌(例えば、NSCLCまたはSCLC)の処置に対して少なくとも2の治療指数(TI)を有し、より好ましくは、少なくとも5、10、20、50、100、250、500、または1000の治療指数を有する。
【0037】
ある特定の態様では、抗PESC剤とESO再生剤の併用投与は、肺の化生または異形成の処置に対して少なくとも2の治療指数(TI)を有し、より好ましくは、少なくとも5、10、20、50、100、250、500、または1000の治療指数を有する。
【0038】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、10-6M以下、より好ましくは、10-7M以下、10-8M以下または10-9M以下のIC50で、PESCの増殖もしくは分化を阻害するか、またはPESCを死滅させる。
【0039】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、10-6M以下、より好ましくは、10-7M以下、10-8M以下、または10-9M以下のIC50で、BESCの増殖もしくは分化を阻害するか、またはBESCを死滅させる。
【0040】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、食道組織の内視鏡的切除療法、例えば、ラジオ波焼灼術、光線力学的療法、または凍結融解壊死治療の間または後に投与される。
【0041】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、例えば食道組織に、局所適用によって投与される。
【0042】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、例えば食道組織中に、粘膜下注射によって投与される。
【0043】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、生体接着性製剤の一部として製剤化される。
【0044】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、薬物溶出粒子、薬物溶出マトリックス、または薬物溶出ゲルの一部として製剤化される。
【0045】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、生体侵食性薬物溶出粒子、生体侵食性薬物溶出マトリックス、または生体侵食性薬物溶出ゲルの一部として製剤化される。
【0046】
ある特定の態様では、本開示は、食道の管腔表面への局所適用のための食道局所保持性製剤を提供し、製剤は、(i)正常な食道幹細胞に対して、病原性上皮幹細胞を選択的に死滅させるか、または病原性上皮幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する、IAP阻害剤、(ii)生体接着剤、および(iii)任意で、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0047】
例えば、製剤は、食道組織上で、少なくとも30分間、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分の粘膜表面滞留半減期を有し得る。
【0048】
例えば、製剤は、それが適用される食道組織において、少なくとも30分間、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分間、IAP阻害剤の少なくとも最小有効濃度(MEC)をもたらすことができる。
【0049】
例えば、製剤は、それが適用される食道組織において、少なくとも2時間、より好ましくは、少なくとも4、6、8、10、またはさらに12時間のT1/2で、IAP阻害剤濃度をもたらすことができる。
【0050】
ある特定の態様では、製剤は、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/3未満、さらにより好ましくは、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/5、1/10、1/20、1/50、またはさらに1/100未満である、IAP阻害剤の全身濃度をもたらす。
【0051】
ある特定の態様では、局所製剤は、食道の表面を覆うための粘稠性の生体接着性液体である。
【0052】
ある特定の態様では、局所製剤は抗PESC溶出多微粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはマイクロディスクを含む。
【0053】
さらなる態様では、ヒト粘膜表面で測定された10N/m2から100,000N/m2の間の粘着力と等しい粘着力を伴うポリマー表面を有する生体接着性ナノ粒子が提供され、ナノ粒子は、その中またはその上で分散している少なくとも1種のIAP阻害剤をさらに含み、粘膜組織に粘着した場合にIAP阻害剤を粘液ゲル層中に溶出する。
【0054】
いくつかの態様では、IAP阻害薬は式Iの化合物:
またはその薬学的に許容される塩であり、式中:
R
1およびR
2は独立に、HまたはC
(1~6)アルキルであり;
R
3はHまたはC
(3~8)シクロアルキルであり;
R
4は-OC
(3~10)アルキルO-、-OC
(3~10)アルケニルO-、または-OC
(3~10)アルキニルO-であり;
R
5はHまたはC
(3~8)シクロアルキルであり;
R
6およびR
7は独立に、HまたはC
(1~6)アルキルである。
【0055】
いくつかの態様では、R1およびR2の一方はC(1~6)アルキルであり、R1およびR2の他方はHである。いくつかの化合物では、R1およびR2の一方はメチルであり、R1およびR2の他方はHである。いくつかの態様では、R1およびR2のそれぞれはHである。
【0056】
いくつかの態様では、R3はC(3~8)シクロアルキルである。いくつかの態様では、R3はシクロヘキシルである。
【0057】
いくつかの態様では、R
4は
である。いくつかの態様では、R
4は
である。
【0058】
いくつかの態様では、R5はC(3~8)シクロアルキルである。いくつかの態様では、R5はシクロヘキシルである。
【0059】
いくつかの態様では、R6およびR7の一方はC(1~6)アルキルであり、R6およびR7の他方はHである。いくつかの態様では、R6およびR7の一方はメチルであり、R6およびR7の他方はHである。いくつかの態様では、R6およびR7のそれぞれはHである。
【0060】
いくつかの態様では、R1およびR2の一方はC(1~6)アルキルであり、R1およびR2の他方はHであり、R3はC(3~8)シクロアルキルであり、R4は-OC(3~10)アルキニルO-であり、R5はC(3~8)シクロアルキルであり、R6およびR7の一方はC(1~6)アルキルであり、R6およびR7の他方はHである。
【0061】
いくつかの態様では、R
1およびR
2の一方はメチルであり、R
1およびR
2の他方はHであり、R
3はシクロヘキシルであり、R
4は
であり、R
5はシクロヘキシルであり、R
6およびR
7の一方はメチルであり、R
6およびR
7の他方はHである。いくつかの態様では、式Iの化合物は、
またはそれらの薬学的に許容される塩より選択される。
【0062】
いくつかの態様では、本開示は、式Iaの化合物:
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、およびR
7のそれぞれは、上記で定義され、本明細書に記載される通りである。
【0063】
いくつかの態様では、本開示は、式Ibの化合物:
またはその薬学的に許容される塩を提供し、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、およびR
7のそれぞれは、上記で定義され、本明細書に記載される通りである。
【0064】
いくつかの態様では、式Iの化合物は、
またはそれらの薬学的に許容される塩より選択される。
【0065】
ある特定の態様では、IAP阻害剤はXIAPの強力なアンタゴニストであり、250nM以下、より好ましくは、100nM、50nM、10nM、または1nM以下のKDで、XIAPに結合する。
【0066】
ある特定の態様では、IAP阻害剤はXIAPの強力なアンタゴニストであり、250nM以下、より好ましくは、100nM、50nM、10nM、または1nM以下のXIAP阻害に対するIC50を有する。
【0067】
ある特定の態様では、IAP阻害剤はXIAPおよびcIAP1の強力なアンタゴニストであり、250nM以下、より好ましくは、100nM、50nM、10nM、または1nM以下のKDで、XIAPおよびcIAP1のそれぞれに結合する。
【0068】
ある特定の態様では、IAP阻害剤はXIAPおよびcIAP1の強力なアンタゴニストであり、250nM以下、より好ましくは、100nM、50nM、10nM、または1nM以下のXIAP阻害およびcIAP1阻害のそれぞれに対するIC50を有する。
【0069】
いくつかの態様では、本開示は、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を提供し、該化合物は≦250nMのXIAP KDを有する。ある特定の態様では、式Iの化合物は、≦100nM、≦50nM、≦10nM、または≦1nMのXIAP KDを有する。
【0070】
いくつかの態様では、本開示は、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を提供し、該化合物は≦250nMのcIAP1 KDを有する。ある特定の態様では、式Iの化合物は、≦100nM、≦50nM、≦10nM、または≦1nMのcIAP1 KDを有する。いくつかの態様では、本開示は、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を提供し、該化合物は≦250nMのXIAP KDを有する。ある特定の態様では、式Iの化合物は≦100nM、≦50nM、≦10nM、または≦1nMのXIAP KDおよび≦100nM、≦50nM、≦10nM、または≦1nMのcIAP1 KDを有する。
【0071】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、LCL161阻害薬、AZD5582、SM-164、BV6、キセビナパント、GDC-0152、ASTX660、CUDC-427、エンベリン(またはエンベリン酸)、MX69、MV1、ポリガラシンD、UC-112、HY-125378mトリナパント(Tolinapant)(ASTX660)、およびSBP-0636457、またはそれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される。
【0072】
ある特定の態様では、IAP阻害薬は、選択的XIAP阻害薬(CIAP阻害に対するIC50よりも少なくとも10倍低い、より好ましくは、少なくとも20、50、または100倍低い、XIAP阻害に対するIC50を有する)、例えばSM-164である。
【0073】
ある特定の態様では、本開示の製剤は、その中またはその上で分散している少なくとも1種のESO再生剤をさらに含み、該製剤は、IAP阻害剤とESO再生剤の両方を食道組織中に送達する。
【0074】
ある特定の態様では、生体接着性ナノ粒子は、その中またはその上で分散している少なくとも1種のESO再生剤をさらに含み、該ナノ粒子は、粘膜組織に粘着した場合に、IAP阻害剤とESO再生剤の両方を粘液ゲル層中に溶出する。
【0075】
ある特定の態様では、生体接着性ナノ粒子は、その中またはその上で分散している少なくとも1種のESO再生剤をさらに含み、該ナノ粒子は、粘膜組織に粘着した場合に、IAP阻害剤とESO再生剤の両方を粘液ゲル層中に溶出する。
【0076】
ある特定の態様では、ESO再生剤は、ABLキナーゼ阻害薬の汎阻害薬、好ましくは、BCR-ABLキナーゼ阻害薬である。例示的な汎阻害薬としては、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、およびポナチニブが挙げられ、好ましくは、これはポナチニブである。
【0077】
ある特定の態様では、ESO再生剤は、BACE阻害薬、FAK阻害薬、VEGR阻害薬、またはAKT阻害薬である。
【0078】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、ESO再生剤の最大耐用量(MTD)の1/3未満、さらにより好ましくは、ESO再生剤の最大耐用量(MTD)の1/5、1/10、1/20、1/50、またはさらに1/100未満である、ESO再生剤、例えばポナチニブの全身濃度をもたらす。
【0079】
さらに他の態様では、少なくとも1種のIAP阻害剤および1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、粘膜下保持性製剤が提供され、製剤は、粘膜下に注射可能であり、有効量のIAP阻害剤を周辺組織中に放出する、粘膜下デポーを形成する。
【0080】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、少なくとも1種のIAP阻害剤および1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、粘膜下注射のための注射可能なサーモゲルであり、サーモゲルは、室温で低粘性流体を有し(および容易に注射され)、注射後に体温で非流動ゲルになる。
【0081】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、その中で分散している少なくとも1種のESO再生剤をさらに含み、該粘膜下保持性製剤は、IAP阻害剤とESO再生剤の両方を粘膜下注射部位の周辺組織中に放出する。
【0082】
ある特定の態様では、ESO再生剤はTAK1阻害薬である。例示的なTAK1阻害薬としては、5Z-7-オキソゼアエノール、デヒドロアビエチン酸、NG25、サルササポゲニン、タキニブ、TAK1-IN1、ミネライド(minnelide)、およびトリプトリド、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは混合物が挙げられる。
【0083】
ある特定の態様では、ESO再生剤はRET阻害薬である。
【0084】
いくつかの態様では、RET阻害薬は式IIの化合物:
またはその薬学的に許容される塩であり、式中:
R
1’およびR
2’は独立に、水素または置換もしくは無置換アルキルであり;
R
3’は置換または無置換アルキルであり;
各R
4’は独立に、水素、ハロゲン、-C(X)
3、-CN、-OH、-COOH、-CONH
2、-NO、-NO
2、-C(O)H、-SH、-SO
2Cl、-SO
3H、-SO
4H、-SO
2NH
2、-NHNH
2、-ONH
2、-NHC=(O)NHNH
2、-C(O)CH
3、-NHC=(O)NH
2、-NHSO
2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)OH、-NHOH、-OCF
3、-OCHF
2、または置換もしくは無置換アルキルであり;
各R
5’は独立に、ハロゲン、-CN、-C(X
a)
3、-S(O)
2H、-NO、-NO
2、-C(O)H、-C(O)NH
2、-S(O)
2NH
2、-OH、-SH、-SO
2Cl、-SO
3H、-SO
4H、-NHNH
2、-ONH
2、-NHC=(O)NHNH
2、-NHC=(O)NH
2、-NHSO
2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)-OH、-NHOH、-OCF
3、-OCHF
2、-CO
2H、または置換もしくは無置換(C
1~C
6)アルキルであり;
各R
6’は独立に、ハロゲン、-CN、-C(X
b)
3、-S(O)
2H、-NO、-NO
2、-C(O)H、-C(O)NH
2、-S(O)
2NH
2、-OH、-SH、-SO
2Cl、-SO
3H、-SO
4H、-NHNH
2、-ONH
2、-NHC=(O)NHNH
2、-NHC=(O)NH
2、-NHSO
2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)-OH、-NHOH、-OCF
3、-OCHF
2、または-CO
2Hであり;
L
1は独立に、結合または置換もしくは無置換アルキレンであり;
z
1は0~4の整数であり;
z
2は0~5の整数であり;
z
3は0~4の整数であり;
X、X
a、およびX
bのそれぞれは独立に、-F、-Cl、-Br、または-Iである。
【0085】
「置換」アルキルまたはアルキレンは、-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R”、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R”R’’’、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R”、-OC(O)NR'R”、-NR”C(O)R'、-NR'-C(O)NR”R’’’、-NR”C(O)2R'、-NR-C(NR'R”R’’’)=NR’’’’、-NR-C(NR'R”)=NR’’’、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R”、-NRSO2R'、-NR'NR”R’’’、-ONR'R”、-NR'C=(O)NR''NR’’’R’’’’、-CN、および-NO2より選択される基で置換されていてもよく、式中各R、R'、R”、R’’’、およびR’’’’は独立に、水素、置換もしくは無置換ヘテロアルキル、置換もしくは無置換シクロアルキル、置換もしくは無置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは無置換アリール(例えば、1~3個のハロゲンで置換されたアリール)、置換もしくは無置換ヘテロアリール、置換もしくは無置換アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基である。
【0086】
「置換」アリールおよびヘテロアリールは、-OR'、-NR'R”、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R”R’’’、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R”、-OC(O)NR'R”、-NR”C(O)R'、-NR'-C(O)NR”R’’’、-NR”C(O)2R'、-NR-C(NR'R”R’’’)=NR’’’’、-NR-C(NR'R”)=NR’’’、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R”、-NRSO2R'、-NR'NR”R’’’、-ONR'R”、-NR'C=(O)NR''NR’’’R’’’’、-CN、および-NO2、-R'、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1~C4)アルコキシ、およびフルオロ(C1~C4)アルキルより選択される基で置換されていてもよい。
【0087】
いくつかの態様では、本開示は、式IIaの化合物:
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、R
1’、R
2’、R
3’、R
4’、R
5’、R
6’、L
1、z
1、およびz
2のそれぞれは、上記で定義され、本明細書に記載される通りである。
【0088】
いくつかの態様では、本開示は、式IIbの化合物:
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、R
1’、R
2’、R
3’、R
4’、R
5’、L
1、およびz
2のそれぞれは、上記で定義され、本明細書に記載される通りである。
【0089】
いくつかの態様では、本開示は、式IIcの化合物:
またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、R
1’、R
2’、R
3’、R
4’、R
5’、L
1、およびz
2のそれぞれは、上記で定義され、本明細書に記載される通りである。
【0090】
いくつかの態様では、R1’は水素である。いくつかの態様では、R1’は置換または無置換アルキルである。いくつかの態様では、R1’は無置換アルキルである。いくつかの態様では、R1’は無置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R1’は無置換(C1~C4)アルキルである。いくつかの態様では、R1’はメチルである。いくつかの態様では、R1’はエチルである。いくつかの態様では、R1’はn-プロピルである。いくつかの態様では、R1’はイソプロピルである。いくつかの態様では、R1’はn-ブチルである。いくつかの態様では、R1’はt-ブチルである。いくつかの態様では、R1’はn-ペンチルである。いくつかの態様では、R1’は置換アルキルである。いくつかの態様では、R1’は置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R1’は置換(C1~C4)アルキルである。
【0091】
いくつかの態様では、R2’は水素である。いくつかの態様では、R2’は置換または無置換アルキルである。いくつかの態様では、R2’は無置換アルキルである。いくつかの態様では、R2’は無置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R2’は無置換(C1~C4)アルキルである。いくつかの態様では、R2’はメチルである。いくつかの態様では、R2’はエチルである。いくつかの態様では、R2’はn-プロピルである。いくつかの態様では、R2’はイソプロピルである。いくつかの態様では、R2’はn-ブチルである。いくつかの態様では、R2’はt-ブチルである。いくつかの態様では、R2’はn-ペンチルである。いくつかの態様では、R2’は置換アルキルである。いくつかの態様では、R2’は置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R2’は置換(C1~C4)アルキルである。
【0092】
いくつかの態様では、L1は結合である。いくつかの態様では、L1は置換または無置換アルキレンである。いくつかの態様では、L1は無置換アルキレンである。いくつかの態様では、L1は無置換(C1~C6)アルキレンである。いくつかの態様では、L1は無置換(C1~C4)アルキレンである。いくつかの態様では、L1はメチレンである。いくつかの態様では、L1はエチレンである。いくつかの態様では、L1はn-プロピレンである。いくつかの態様では、L1はイソプロピレンである。いくつかの態様では、L1はn-ブチレンである。いくつかの態様では、L1はt-ブチレンである。いくつかの態様では、L1はn-ペンチレンである。いくつかの態様では、L1は置換アルキレンである。いくつかの態様では、L1は置換(C1~C6)アルキレンである。いくつかの態様では、L1は置換(C1~C4)アルキレンである。
【0093】
いくつかの態様では、R3’は置換または無置換アルキルである。いくつかの態様では、R3’は無置換アルキルである。いくつかの態様では、R3’は無置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R3’は無置換(C1~C4)アルキルである。いくつかの態様では、R3’はメチルである。いくつかの態様では、R3’はエチルである。いくつかの態様では、R3はn-プロピルである。いくつかの態様では、R3’はイソプロピルである。いくつかの態様では、R3’はn-ブチルである。いくつかの態様では、R3’はt-ブチルである。いくつかの態様では、R3’はn-ペンチルである。いくつかの態様では、R3’は置換アルキルである。いくつかの態様では、R3’は置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R3’は置換(C1~C4)アルキルである。
【0094】
いくつかの態様では、R4’は独立に、水素、ハロゲン、-C(X)3、-CN、-OH、-COOH、-CONH2、-NO、-NO2、-C(O)H、-SH、-SO2Cl、-SO3H、-SO4H、-SO2NH2、-NHNH2、-ONH2、-NHC=(O)NHNH2、-C(O)CH3、-NHC=(O)NH2、-NHSO2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)-OH、-NHOH、-OCF3、-OCHF2、または置換もしくは無置換アルキルである。いくつかの態様では、R4’は独立に、ハロゲン、-CN、-C(X)3、-NO、-NO2、-C(O)H、または-CO2Hである。いくつかの態様では、R4’はハロゲンである。いくつかの態様では、R4’は-CNである。いくつかの態様では、R4’は-NOである。いくつかの態様では、R4’は-NO2である。いくつかの態様では、R4’は-C(O)Hである。いくつかの態様では、R4’は-CO2Hである。いくつかの態様では、R4’はハロゲンまたは-C(X)3である。いくつかの態様では、R4’は-C(X)3である。いくつかの態様では、Xは-Fである。したがって、いくつかの態様では、R4’は、例えば-CF3である。いくつかの態様では、Xは-Clである。いくつかの態様では、Xは-Brである。いくつかの態様では、Xは-Iである。いくつかの態様では、R4’は-Fである。いくつかの態様では、R4’は-Clである。いくつかの態様では、R4’は-Brである。いくつかの態様では、R4’は-Iである。いくつかの態様では、R4’は置換または無置換アルキルである。いくつかの態様では、R4’は無置換アルキルである。いくつかの態様では、R4’は無置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R4’は無置換(C1~C4)アルキルである。いくつかの態様では、R4’はメチルである。いくつかの態様では、R4’はエチルである。いくつかの態様では、R4’はn-プロピルである。いくつかの態様では、R4’はイソプロピルである。いくつかの態様では、R4’はn-ブチルである。いくつかの態様では、R4’はt-ブチルである。いくつかの態様では、R4’はn-ペンチルである。いくつかの態様では、R4’は置換アルキルである。いくつかの態様では、R4’は置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R4’は置換(C1~C4)アルキルである。
【0095】
いくつかの態様では、R5’は独立に、水素、ハロゲン、-C(Xa)3、-CN、-OH、-COOH、-CONH2、-NO、-NO2、-C(O)H、-SH、-SO2Cl、-SO3H、-SO4H、-SO2NH2、-NHNH2、-ONH2、-NHC=(O)NHNH2、-C(O)CH3、-NHC=(O)NH2、-NHSO2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)-OH、-NHOH、-OCF3、-OCHF2、または置換もしくは無置換アルキルである。いくつかの態様では、R5’は独立に、ハロゲン、-CN、-C(Xa)3、-NO、-NO2、-C(O)H、または-CO2Hである。いくつかの態様では、R5’はハロゲンである。いくつかの態様では、R5’は-CNである。いくつかの態様では、R5’は-NOである。いくつかの態様では、R5’は-NO2である。いくつかの態様では、R5’は-C(O)Hである。いくつかの態様では、R5’は-CO2Hである。いくつかの態様では、R5’はハロゲンまたは-C(Xa)3である。いくつかの態様では、R5’は-C(Xa)3である。いくつかの態様では、Xaは-Fである(すなわち、R5’は-CF3である)。いくつかの態様では、Xaは-Clである。いくつかの態様では、Xaは-Brである。いくつかの態様では、Xaは-Iである。いくつかの態様では、R5’は-Fである。いくつかの態様では、R5’は-Clである。いくつかの態様では、R5’は-Brである。いくつかの態様では、R5’は-Iである。いくつかの態様では、R5’は置換または無置換アルキルである。いくつかの態様では、R5’は無置換アルキルである。いくつかの態様では、R5’は無置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R5’は無置換(C1~C4)アルキルである。いくつかの態様では、R5’はメチルである。いくつかの態様では、R5’はエチルである。いくつかの態様では、R5’はn-プロピルである。いくつかの態様では、R5’はイソプロピルである。いくつかの態様では、R5’はn-ブチルである。いくつかの態様では、R5’はt-ブチルである。いくつかの態様では、R5’はn-ペンチルである。いくつかの態様では、R5’は置換アルキルである。いくつかの態様では、R5’は置換(C1~C6)アルキルである。いくつかの態様では、R5’は置換(C1~C4)アルキルである。
【0096】
いくつかの態様では、R6’は独立に、水素、ハロゲン、-C(Xb)3、-CN、-OH、-COOH、-CONH2、-NO、-NO2、-C(O)H、-SH、-SO2Cl、-SO3H、-SO4H、-SO2NH2、-NHNH2、-ONH2、-NHC=(O)NHNH2、-C(O)CH3、-NHC=(O)NH2、-NHSO2H、-NHC=(O)H、-NHC(O)-OH、-NHOH、-OCF3、または-OCHF2である。いくつかの態様では、R6’はハロゲン、-CN、-C(Xb)3、-NO、-NO2、-C(O)H、または-CO2Hである。いくつかの態様では、R6’はハロゲンである。いくつかの態様では、R6’は-CNである。いくつかの態様では、R6’は-NOである。いくつかの態様では、R6’は-NO2である。いくつかの態様では、R6’は-C(O)Hである。いくつかの態様では、R6’は-CO2Hである。いくつかの態様では、R6’はハロゲンまたは-C(Xb)3である。いくつかの態様では、R6’は-C(Xb)3である。いくつかの態様では、Xbは-Fである(すなわち、R6’は-CF3である)。いくつかの態様では、Xbは-Clである。いくつかの態様では、Xbは-Brである。いくつかの態様では、Xbは-Iである。いくつかの態様では、R6’は-Fである。いくつかの態様では、R6’は-Clである。いくつかの態様では、R6’は-Brである。いくつかの態様では、R6’は-Iである。
【0097】
いくつかの態様では、z1は1~4である。いくつかの態様では、z1は1~3である。いくつかの態様では、z1は1~2である。いくつかの態様では、z1は0~4である。いくつかの態様では、z1は0~3である。いくつかの態様では、z1は0~2である。いくつかの態様では、z1は0~1である。いくつかの態様では、z1は0である。いくつかの態様では、z1は1である。いくつかの態様では、z1は2である。いくつかの態様では、z1は3である。いくつかの態様では、z1は4である。
【0098】
いくつかの態様では、z2は1~5である。いくつかの態様では、z2は1~4である。いくつかの態様では、z2は1~3である。いくつかの態様では、z2は1~2である。いくつかの態様では、z2は0~5である。いくつかの態様では、z2は0~4である。いくつかの態様では、z2は0~3である。いくつかの態様では、z2は0~2である。いくつかの態様では、z2は0~1である。いくつかの態様では、z2は0である。いくつかの態様では、z2は1である。いくつかの態様では、z2は2である。いくつかの態様では、z2は3である。いくつかの態様では、z2は4である。いくつかの態様では、z2は5である。
【0099】
いくつかの態様では、z3は1~4である。いくつかの態様では、z3は1~3である。いくつかの態様では、z3は1~2である。いくつかの態様では、z3は0~4である。いくつかの態様では、z3は0~3である。いくつかの態様では、z3は0~2である。いくつかの態様では、z3は0~1である。いくつかの態様では、z3は0である。いくつかの態様では、z3は1である。いくつかの態様では、z3は2である。いくつかの態様では、z3は3である。いくつかの態様では、z3は4である。
【0100】
いくつかの態様では、R
4’はCF
3である。いくつかの態様では、R
5’はハロゲンである。いくつかの態様では、各R
1’およびR
2’は水素である。いくつかの態様では、L
1は結合である。いくつかの態様では、R
3’は無置換アルキル(例えば、C
1~C
6アルキルである)。いくつかの態様では、式IIの化合物は、
またはそれらの薬学的に許容される塩より選択される。
【0101】
例示的なRET阻害薬としては、AD80、レゴラフェニブ(BAY 73-4506)、カボザンチニブリンゴ酸塩(XL184)、フェドラチニブ(TG101348)、ダヌセルチブ(Danusertib)(PHA-739358)、TG101209、アゲラフェニブ(Agerafenib)(RXDX-105)、レゴラフェニブ塩酸塩、セルペルカチニブ(LOXO-292)、プラルセチニブ(BLU-667)、GSK3179106、レゴラフェニブ(BAY-734506)一水和物、バンデタニブ、RXDX-105、レンバチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、ドビチニブ、アレクチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ニンテダニブ、アパチニブ、モテサニブ、BLU-667、およびLOXO-292、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは混合物が挙げられる。
【0102】
ある特定の態様では、ESO再生剤は、ABLキナーゼ阻害薬の汎阻害薬、好ましくは、BCR-ABLキナーゼ阻害薬である。例示的な汎阻害薬としては、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、およびポナチニブが挙げられ、好ましくは、これはポナチニブである。
【0103】
ある特定の態様では、ESO再生剤は、BACE阻害薬、FAK阻害薬、VEGR阻害薬、またはAKT阻害薬である。
【0104】
例えば、粘膜下保持性製剤は、少なくとも30分、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分の、食道組織中の粘膜下滞留半減期を有し得る。
【0105】
例えば、粘膜下保持性製剤は、それが注射される食道組織において、少なくとも30分間、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分間、IAP阻害剤の少なくとも最小有効濃度(MEC)をもたらすことができる。
【0106】
例えば、粘膜下保持性製剤は、それが注射される食道組織において、少なくとも2時間、より好ましくは、少なくとも4、6、8、10、またはさらに12時間のT1/2で、IAP阻害剤濃度をもたらすことができる。
【0107】
本開示は、IAP阻害剤に加えて1種または複数種のESO再生剤をさらに含む粘膜下保持性製剤も提供する。例えば、該製剤は、(i)BCR-ABLキナーゼ阻害薬、および(ii)1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含むことができ、この製剤は、粘膜下に注射可能であり、有効量のBCR-ABLキナーゼ阻害薬を周辺組織に放出する粘膜下デポーを形成する。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬はポナチニブである。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬は、FLT3阻害薬、例えば、キザルチニブ(AC220)、クレノラニブ(CP-868596)、ミドスタウリン(PKC-412)、レスタウルチニブ(CEP-701)、4SC-203、TTT-3002、ソラフェニブ(Bay-43-0006)、ポナチニブ(AP-24534)、スニチニブ(SU-11248)、および/もしくはタンズチニブ(MLN-0518)、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。好ましくは、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)阻害薬は、キザルチニブ(AC220)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。
【0108】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、それが注射される食道組織において、少なくとも30分間、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分間、ESO再生剤の少なくとも最小有効濃度(MEC)ももたらすことができる。
【0109】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、それが注射される食道組織において、少なくとも2時間、より好ましくは、少なくとも4、6、8、10、またはさらに12時間のT1/2で、ESO再生剤濃度もたらすこともできる。
【0110】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、ESO再生剤の最大耐用量(MTD)の1/3未満、さらにより好ましくは、ESO再生剤の最大耐用量(MTD)の1/5、1/10、1/20、1/50、またはさらに1/100未満である、ESO再生剤、例えばポナチニブの全身濃度をもたらす。
【0111】
上記の粘膜下保持性製剤のそれぞれでは、製剤は、流動性および/または粘稠性ゲルを形成することができる。
【0112】
ある特定の態様では、製剤は注射可能なサーモゲルである。サーモゲルとしては、単に例示するために、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)-ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA-PEG-PLGA)トリブロックコポリマーが挙げられる。
【0113】
ある特定の態様では、製剤はヒドロゲルである。
【0114】
ある特定の態様では、製剤は内視鏡的切開に適する。
【0115】
ある特定の態様では、製剤は抗凝固剤をさらに含む。
【0116】
ある特定の態様では、製剤は、1種または複数種の鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、解熱剤、鎮痛剤、抗感染剤、および/または化学療法剤をさらに含む。
【0117】
本開示の別の局面は、IAP阻害剤(例えば、SM-164)およびポナチニブ、ならびに(任意で)1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、粘膜下注射のための注射可能なサーモゲルを提供し、サーモゲルは、室温で低粘性流体を有し(および容易に注射され)、注射後に体温で非流動ゲルになる。
【0118】
ある特定の態様では、本開示は、(i)IAP阻害剤および(任意で)ESO再生剤、(ii)生体接着剤、ならびに(iii)任意で、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む、食道の管腔表面への局所適用のための食道局所保持性製剤、を提供する。
【0119】
例えば、製剤は、選択的XIAP阻害薬(CIAP阻害に対するIC50よりも少なくとも10倍低い、より好ましくは、少なくとも20、50、または100倍低い、XIAP阻害に対するIC50を有する)IAP阻害薬、例えばSM-164を含むことができる。
【0120】
製剤がESO再生剤を含む場合、そのような剤は、(i)BCR-ABLキナーゼ阻害薬、および(ii)1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含み、この製剤は、粘膜下に注射可能であり、有効量のBCR-ABLキナーゼ阻害薬を周辺組織に放出する粘膜下デポーを形成する。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬はポナチニブである。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬は、FLT3阻害薬、例えば、キザルチニブ(AC220)、クレノラニブ(CP-868596)、ミドスタウリン(PKC-412)、レスタウルチニブ(CEP-701)、4SC-203、TTT-3002、ソラフェニブ(Bay-43-0006)、ポナチニブ(AP-24534)、スニチニブ(SU-11248)、および/もしくはタンズチニブ(MLN-0518)、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。好ましくは、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)阻害薬は、キザルチニブ(AC220)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。
【0121】
ある特定の態様では、局所製剤は、食道の表面を覆うための粘稠性の生体接着性液体である。
【0122】
ある特定の態様では、局所製剤は、IAP阻害剤を溶出する多微粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはマイクロディスクを含む。
【0123】
ある特定の態様では、局所製剤は抗凝固剤をさらに含む。
【0124】
ある特定の態様では、局所製剤は、1種または複数種の鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、解熱剤、鎮痛剤、抗感染剤、および/または化学療法剤をさらに含む。
【0125】
さらなる態様では、ヒト粘膜表面で測定された10N/m2から100,000N/m2の間の粘着力と等しい粘着力を伴うポリマー表面を有する、生体接着性ナノ粒子が提供され、ナノ粒子は、その中またはその上で分散している少なくとも1種のIAP阻害剤をさらに含み、粘膜組織に粘着した場合にIAP阻害剤を粘液ゲル層中に溶出する。
【0126】
例えば、製剤は、(i)IAP阻害薬、例えばSM-164、および(ii)1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含むことができ、この製剤は、粘膜下に注射可能であり、有効量のIAP阻害剤を周辺組織に放出する粘膜下デポーを形成する。ある特定の好ましい態様では、製剤は、BCR-ABLキナーゼ阻害薬、例えばポナチニブも含む。
【0127】
ある特定の態様では、粘膜下保持性製剤は、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/3未満、さらにより好ましくは、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/5、1/10、1/20、1/50、またはさらに1/100未満である、IAP阻害剤、例えばSM-164の全身濃度もたらす。
【0128】
ある特定の態様では、生体接着性ナノ粒子は抗凝固剤をさらに含む。
【0129】
ある特定の態様では、生体接着性ナノ粒子は、1種または複数種の鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、解熱剤、鎮痛剤、抗感染剤、および/または化学療法剤をさらに含む。
【0130】
さらなる態様では、IAP阻害剤を含む薬物放出手段を含み、患者内に配置された場合に、標的食道組織の近位に薬物放出手段を位置づけし、標的食道組織の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で剤を放出する薬物溶出装置が提供される。
【0131】
例えば、薬物溶出装置は、それが適用される標的食道組織において、少なくとも30分間、より好ましくは、少なくとも60、120、180、240、またはさらに300分間、IAP阻害剤の少なくとも最小有効濃度(MEC)をもたらすことができる。
【0132】
例えば、薬物溶出装置は、それが適用される食道組織において、少なくとも2時間、より好ましくは、少なくとも4、6、8、10、またはさらに12時間のT1/2で、IAP阻害剤濃度をもたらすことができる。
【0133】
ある特定の態様では、薬物溶出装置は、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/3未満、さらにより好ましくは、IAP阻害剤の最大耐用量(MTD)の1/5、1/10、1/20、1/50、またはさらに1/100未満である、IAP阻害剤の全身濃度をもたらす。
【0134】
ある特定の態様では、薬物溶出装置は、食道炎、バレット食道、食道異形成、または食道癌のうち、1つまたは複数を処置するためのものであり、この装置は、正常な食道幹細胞に対して、バレット食道幹細胞(BESC)を選択的に死滅させるか、またはバレット食道幹細胞の増殖もしくは分化を阻害する抗BESC剤を含む、薬物放出手段を含み、この装置は、患者内に配置された場合に、食道の管腔表面の近位に薬物放出手段を位置づけし、剤への管腔表面の治療的に有効な曝露を達成するのに十分である量で剤を放出する。
【0135】
例示的な薬物溶出装置としては、生分解性ステント、自己拡張型ステント、例えば、自己拡張型金属ステント(SEMS)または自己拡張型プラスチックステント(SEPS)、粘膜下埋植のためのチップおよびウェーハなどが挙げられる。
【0136】
他の態様では、薬物溶出装置は、管腔外配置のための装置、例えば、マイクロニードルカフ(microneedle cuff)である。
【0137】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、鎮痛剤および抗感染剤または両方と同時投与される。これらは、別々の製剤として投与されてもよく、または任意で、IAP阻害剤は、鎮痛剤もしくは抗感染剤もしくは両方と共製剤化されてもよい。
【0138】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、食道への経口送達のための液剤として製剤化される。
【0139】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は単回経口用量として製剤化される。
【0140】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、薬物溶出ステントである薬物溶出装置によって送達される。
【0141】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、IAP阻害剤を含む表面コーティングを有するバルーンカテーテルである薬物溶出装置によって送達される。
【0142】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、細胞透過性であり、例えば、10-9以上、より好ましくは、10-8以上または10-7以上の透過係数を特徴とする。
【0143】
本開示の一局面は、(i)IAP阻害剤、(ii)ESO再生剤、および(iii)薬学的に許容される賦形剤を含む単一経口投薬製剤を提供し、成人ヒト患者によって服用される単一経口投薬製剤は、食道組織において、食道の化生、異形成、癌またはそれらの組み合わせの進行を遅らせるか、または逆転させるのに有効な、IAP阻害剤およびESO再生剤の濃度をもたらす。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬はポナチニブである。ある特定の好ましい態様では、BCR-ABLキナーゼ阻害薬は、FLT3阻害薬、例えば、キザルチニブ(AC220)、クレノラニブ(CP-868596)、ミドスタウリン(PKC-412)、レスタウルチニブ(CEP-701)、4SC-203、TTT-3002、ソラフェニブ(Bay-43-0006)、ポナチニブ(AP-24534)、スニチニブ(SU-11248)、および/もしくはタンズチニブ(MLN-0518)、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。好ましくは、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)阻害薬は、キザルチニブ(AC220)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。
【0144】
ある特定の態様では、本開示の方法、調製物、および装置は、ヒト患者における使用が意図される(および該使用に適する)。
【0145】
本明細書および特許請求の範囲においてここで使用する場合、「1つ(a)」または「1つ(an)」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書および特許請求の範囲においてここで使用する場合、単語「含む」とともに使用される場合、単語「1つ(a)」または「1つ(an)」は、1つまたは1つより多いを意味し得る。本明細書および特許請求の範囲において、ここで使用する場合、「別の」または「さらなる」は、少なくとも第2のものまたはそれ以上を意味し得る。
【0146】
本明細書および特許請求の範囲においてここで使用する場合、用語「約」は、値が、値を決定するために用いられる装置、方法に関する誤差の固有の変動、または研究対象中に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0147】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなると考えられる。しかし、この詳細な説明から、本開示の趣旨および範囲内の様々な変更および修正が当業者に明らかとなると考えられるので、詳細な説明および特定例は、本開示のある特定の態様を示すが、例示のためのみに与えられることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0148】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある特定の局面をさらに示すために含まれる。本明細書において提示される特定の態様の詳細な説明とともにこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本開示をより良く理解することができる。
【
図1】
図1a~f。EACにおける患者に対応した病変のクローン原性細胞。
図1a。共存する粘膜病変の生検部位を示す食道末梢部の白色光イメージング。EAC、食道腺がん;DYS、異形成;BE、バレット;ESO、正常な食道。
図1b。示される生検材料のコロニー形成細胞からのクローン原性細胞の単一細胞由来ライブラリーの生成。
図1c。単一細胞クローンに由来するコロニーの位相差画像。
図1d。E-カドヘリン(赤)およびKi67(緑)に対する抗体の分布を示す、BE1、BE2、異形成、およびEACの個別クローンの気相液相界面(ALI)分化由来の上皮切片に関する免疫蛍光顕微鏡写真。
図1e。免疫不全マウスにおけるBE1、BE2、DYS、およびEACクローンの幹細胞の異種移植によって生じた小結節の組織切片。
図1f。免疫不全マウス中への幹細胞異種移植後の小結節増殖のグラフ表示。エラーバー、SD。
【
図2】
図2a-i。病変性幹細胞のクローン変動およびゲノム安定性。
図2a。ローパス全ゲノムシークエンシングから決定された、示される生検ライブラリーからサンプリングされたクローン試料のコピー数変動(CNV)プロファイル。CN、コピー数。
図2b。エキソームシークエンシングによって決定された、選択されたクローンのCNVプロファイル。
図2c。症例1からの35クローン全体にわたるすべての体細胞単一ヌクレオチド突然変異についてのアレル頻度分布のヒストグラム。
図2d。単一の1mm生検材料に由来するEACクローン間のSNVイベントの重複パーセンテージ。
図2e。単一の異形成クローンおよびEACクローンにおける、16番染色体上でのクロモスリプシスイベントのコピー比プロファイル。
図2f。インビトロでの連続継代を通した、およびマウスにおける腫瘍形成後の、EACクローンの遺伝的安定性の解析についての概略図。
図2g~h。全エキソームシークエンシングから決定された、EACクローンC1D1-7のコピー比プロファイル。
図2i。インビトロ増殖およびマウスにおける腫瘍形成のための異種移植後のEACクローンC1D1-7のコピー数変動プロファイル。
図2h。
図2iに示されるサブクローンクローンの変異体アレル割合のプロファイル。
【
図3】
図3a~e。患者に対応した病変性幹細胞のEACへのゲノム的進行。
図3a。445個の体細胞SNVに基づく、34個のクローン化幹細胞系列の系統樹。p16、ERBB2、p53、および他の遺伝子に影響する維持される突然変異の位置を示す。
図3b。445個の体細胞SNVの変異体アレル割合を反映するヒートマップ。
図3c。示される病変性幹細胞の全体にわたる40個の増幅された遺伝子座(数値的におよび単一マーカー遺伝子によって、指定される)のヒートマップ。赤で示されたものはChr.16由来である。
図3d。示される病変性幹細胞の全体にわたる40個の欠失遺伝子座(数値的におよび単一マーカー遺伝子によって、指定される)のヒートマップ。
図3e。系統発生解析で使用された35個の病変性幹細胞クローン全体にわたる、示される腫瘍抑制遺伝子のCNV媒介性欠失状態。
【
図4】
図4a~c。EAC症例2における、患者に対応した病変性幹細胞のゲノム的進行。
図4a。515個の体細胞SNVに基づく、第2のEAC症例の生検材料からの44個の患者に対応した幹細胞クローンの系統樹。p16、ARID1A、ERBB2、p53、および他の遺伝子に影響する維持される突然変異の位置を示す。CT8、Chr.8のクロモスリプシス;GD、ゲノム重複。
図4b。515個の体細胞SNVの変異体アレル割合のヒートマップ。
図4c。エキソームシークエンシングから決定されたクローン全体にわたるCNVプロファイル。
図4d。示される病変からのクローン全体にわたる個別の増幅イベントの進行。
図4e。それぞれ1つの含まれる遺伝子によって示される、クローン全体にわたるCNV欠失イベント。
【
図5】
図5a~e。患者に対応した病変間の移行。
図5a。バレットからEACへの上皮の移行の表示。
図5b。2つの症例における、EACの進化をともなう病変における突然変異イベントの概要。
図5c。より進行した病変への各移行で維持される突然変異イベント(非同義突然変異、ストップゲイン、indel、CNVイベント)の概略図。
図5d。BE1、BE2(LGD)、DYS、およびEACの代表であるALI分化クローンならびに患者に対応した正常なESOの全ゲノムRNAシークエンシングプロファイリングの主成分分析。
図5e。症例1からのBE1およびBE2のALI分化クローン間の差次的遺伝子発現のボルケーノプロット。赤で強調した遺伝子は、増幅された遺伝子座からのものである。
【
図6】
図6a~g。前駆病変のための薬物開発。
図6a。薬物ライブラリー由来の化合物とのインキュベーション後にBE1幹細胞を有する代表的な384ウェルプレートであり、拡大されたウェルは、中性の薬物および有害な薬物の効果を示す。
図6b。BE1対正常な食道(ESO)幹細胞における、化合物の生存に対する影響を比較する2次元プロットであり、潜在的に関心のある薬物(丸で囲まれる)を強調する。
図6c。候補薬物(CEP-18770)の用量応答曲線。
図6d。Selleck生理活性化合物ライブラリーの全1832化合物に応じた、食道幹細胞の生存ヒストグラム。顕微鏡写真は、ESOコロニーの増殖に対するポナチニブの影響を示す。
図6c。ポナチニブの存在下でのESOおよびBE1に対する薬物スクリーニングの2次元生存プロットであり、潜在的な「ヒット」を強調する。
図6f。上部パネル:ポナチニブの存在および非存在下での、食道幹細胞(ESO)およびBE1幹細胞に対するXIAP阻害薬SM-164の用量応答プロット。下部パネル:ESO、BE1、BE2、DYS、およびEAC幹細胞クローンに対するSM-163/ポナチニブの用量応答曲線。
図6g。上部パネル:SM-164およびポナチニブの存在および非存在下で72時間後の、BE1(KRT7+、緑)幹細胞とESO(KRT14+、赤)幹細胞の共培養。下部パネル:SM-164/ポナチニブの非存在(上部)および存在(下部)下での、BE2/ESO、DYS/ESO、およびEAC/ESO幹細胞の共培養。ESO幹細胞はKRT14の発現(赤)で示され;腫瘍幹細胞はKRT7(緑)で示される。
【
図7】
図7は、ある特定の上皮組織における化生から異形成そして癌への連続性を表す図解である。
【
図8】
図8は、疾患がバレット食道から高悪性度異形成に進行するに従って、患者が食道腺がんを発生する危険性が統計的に増大することを示す図解である。
【
図9】
図9a~d。食道癌および胃癌におけるインビボ試験。
図9a。食道癌の異種移植モデルは、ポナチニブとSM-164の併用処置後に腫瘍サイズの有意な低減を示す。
図9b。ポナチニブおよびSM-164の処置の際のクローン形成能の消失。
図9c。胃癌におけるポナチニブおよびSM-164の処置後の腫瘍サイズの劇的な低減。
図9d。胃癌におけるポナチニブおよびSM-164による処置後の、上皮癌小結節および関連する平滑筋アクチン陽性線維化の劇的な低減。
【発明を実施するための形態】
【0149】
詳細な説明
病変生検材料の細胞的および遺伝的異質性をデコンヴォルーションする(deconvolute)ための最近の試みにおいて、本発明者らは、正常な胃腸幹細胞のクローン化を可能にする技術をバレット食道の内視鏡生検材料に適用した。この研究によって、バレット食道は、計り知れない増殖能を有する非常に未成熟の幹細胞の個別の集団にその再生性増殖を依存していること、およびこれらの幹細胞は、バレット食道と区別不能な腸上皮化生に分化することが示された。
【0150】
I. 概観
バレット食道は、癌生物学と患者ケアの接点において重要な位置にある。バレットは1950年代に最初に発見され、1970年代では腺がんの危険性と関連づけられた。バレットは、長い年月を必要とするプロセスにおいて次第により進行した病変を生じさせる前癌病変に対する代表的な例(paradigm)になってきており、これは、非癌性病変が、その一部が低および高悪性度異形成へのより不吉で決定的な移行をもたらし、次いで、これが、急速にほとんど容赦なく悪性疾患に発達する確率的変化の長期的プロセスを受ける全体的なエスカレーションモデルを支持する。これらの前癌性病変を標的にする予防的療法が重要であるという認識は、癌予防の基礎である。本当であれば、食道腺がんの発症を予防するための臨床的解決策は単純かつ直接的であると考えられ、すなわち、より侵襲性の病変に発達し得る前にバレットを切除する。
【0151】
バレットに対する標的療法の開発の進歩には、バレットの起源の概念的進歩およびバレット幹細胞の存在を認識することが必要となる。EACの前癌性ステージが、この疾患に対する唯一の扱いやすい解決策に相当するならば、BEの起源のなぞを解き、特にその幹細胞を標的にする新しい治療ストラテジーを開発することは必須である。しかし、BEの個体発生は、食道扁平幹細胞のトランスコミットメント(transcommitment)、下部胃腸部位からの遊走、粘膜下腺の修復的出現、骨髄からの播種性転移を含む様々な仮説をともなう興味深い難問である。本発明者らは、BEは食道胃接合部に先在する残存胚細胞の日和見性の増殖が起源であることを最近示した(Wang et al., Cell. 2011 Jun 24;145(7):1023-1035)。加えて、正常なヒト胃腸管の幹細胞のクローン化を可能にした基底状態幹細胞技術を使用して、本発明者らは、BE中の幹細胞の存在を示し(Yamamoto et al., Nat Commun. 2016 Jan 19; 7:10380)、これらは、この不可逆的で危険な化生の発生および進行を予防するように設計された治療計画で標的にするための重要な要素であることを示唆した。
【0152】
物理的切除プロトコールと相乗作用を示して疾患をさらに軽減する可能性がある、BE幹細胞を特異的に標的にする薬物を明らかにするために、これらのBE病変の生存を支配する特定の経路を選択的に標的にする化合物および化合物の組み合わせを特定するための、確立された薬物および実験薬物またはそれらの組み合わせのマルチプレックススクリーニングが本明細書に提供される。これらのBE幹細胞を正常な上皮扁平幹細胞とのハイブリッドモデルで使用して、そのような薬物の組み合わせが食道末梢部におけるそのような病変の競合状態を変化させる潜在能力をモデル化した。
【0153】
患者に対応したBE、異形成、およびEACの幹細胞の類似した選択的脆弱性を示すスクリーニング方法も本明細書に提供され、これは、物理的切除または粘膜切開療法を増強すると考えられる薬理学的組成物の幅広い使用法を示唆する。実際に、本明細書において提示されるデータによって示されるように、単一の剤または併用療法に対する病原性幹細胞の差次的感受性は、複数の組織の全体にわたって、およびそのような組織由来の化生、異形成または腫瘍試料の全体にわたって保持されている。
【0154】
II. 定義
別段の記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される以下の用語は、本出願の目的のために定義され、以下の意味を有する。
【0155】
化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、かつ親化合物の望ましい薬理学的活性を持つ塩を意味する。そのような塩としては、以下が挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などのような無機酸で形成される;もしくはギ酸、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、グルコヘプトン酸、4,4'-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-l-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第三級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などのような有機酸で形成される酸付加塩;または親化合物中に存在する酸性プロトンのいずれかが、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、もしくはアルミニウムイオンに置き換えられる場合に;もしくはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどのような有機塩基と配位結合する場合に形成される塩。薬学的に許容される塩は無毒であることが理解されよう。適切な薬学的に許容される塩に関する追加的な情報は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA, 1985に見出すことができ、これは、参照により本明細書に組み入れられる。本開示の化合物は共結晶としても存在し得る。
【0156】
本開示の化合物は不斉中心を有し得る。非対称的に置換された原子を含む本開示の化合物は、光学活性なラセミ体または異性体の他の混合物の状態で単離され得る。材料の分割などによって光学活性形態を調製する方法は、当技術分野において周知である。すべてのキラル、ジアステレオマー、ラセミ形態は、特定の立体化学または異性体形態が特に示されない限り、本開示の範囲内である。
【0157】
ある特定の化合物は、互変異性体および/または幾何異性体として存在することができる。個々の形態およびそれらの混合物としてのすべての可能な互変異性体ならびにシスおよびトランス異性体は、本開示の範囲内である。さらに、本明細書で使用する場合、アルキルという用語は、ほんの数例しか記載されていないが、前記アルキル基のすべての可能な異性体形態を含む。
【0158】
「薬学的に許容される担体または賦形剤」は、一般に安全で無毒であり、生物学的にも、その他の点でも望ましくないものでない、薬学的組成物の調製で有用な担体または賦形剤を意味し、ヒトの薬学的使用だけでなく獣医学的使用にも許容される担体または賦形剤を含む。本明細書および特許請求の範囲で使用される「薬学的に許容される担体/賦形剤」は、1種のそのような賦形剤と1種より多いそのような賦形剤の両方を含む。
【0159】
「置換」。本明細書に記載されるように、本開示の化合物は、置換されていてもよいおよび/または置換された部分を含むことができる。一般に、用語「置換された」は、用語「されてもよい」が先行していようがいまいが、指定された部分の1つまたは複数の水素が適切な置換基と置き換えられることを意味する。別段指示がない限り、「置換されていてもよい」基は、基のそれぞれの置換可能な位置に適切な置換基を有することができ、任意の所与の構造において1つより多い位置が、特定の基より選択される1つより多い置換基で置換され得る場合、置換基は、すべての位置で同じであってもよいか、または異なっていてもよいかのいずれかである。本開示で想定される置換基の組み合わせは、好ましくは、安定な、または化学的に実現可能な化合物の形成をもたらすものである。本明細書で使用する場合、用語「安定な」は、その生成、検出、およびある特定の態様では、その回収、精製、ならびに本明細書において開示される目的の1つまたは複数のための使用を可能にする条件に供された場合に実質的に変化しない化合物を指す。
【0160】
疾患を「処置すること」または疾患の「処置」は以下を含む:疾患を予防すること、すなわち、疾患にさらされているかもしくは疾患にかかりやすい可能性があるが、疾患の症状をまだ経験もしておらず、呈してもいない哺乳動物において、疾患の臨床症状を発生させないようにすること;疾患を阻害すること、すなわち、疾患もしくはその臨床症状の発生を阻止するかもしくは低減させること;または疾患を緩和すること、すなわち、疾患もしくはその臨床症状の退縮を引き起こすこと。
【0161】
III. 例示的な態様
A. IAP阻害薬
抗アポトーシスタンパク質のファミリーである、IAP(アポトーシスの阻害薬)タンパク質は、アポトーシスシグナリング経路の遮断と生存の促進の両方を行うことができるので、アポトーシスの回避において重要な役割を有する。ヒトにおいて、このファミリーの8メンバーが記載されている(BIRC1/NAIP、BIRC2/cIAP1、BIRC3/cIAP2、BIRC4/XIAP、BIRC5/サバイビン、BIRC6/アポロン、BIRC7/ML-IAP、およびBIRC8/ILP2)。ある特定の態様では、剤はIAP阻害薬(すなわち、IAPアンタゴニスト)である。例示的なIAP阻害薬としては、XIAP阻害薬、CIAP阻害薬、ならびにXIAPおよびCIAP二重阻害薬として作用する剤が挙げられる。
【0162】
例示的なIAP阻害薬およびアンタゴニストとしては、ビリナパント(それぞれ45nMおよび1nM未満のKdを有する、XIAPおよびcIAP1に対する強力なアンタゴニストである、二価のSMAC模倣物)、LCL161阻害薬(35および0.4nMのIC50でXIAPおよびcIAP1を阻害するIAP阻害薬)、AZD5582(BIR3ドメインcIAP1、cIAP2、およびXIAPに結合するIAPアンタゴニストであるAZD5582)、SM-164(BIR2ドメインとBIR3ドメインの両方を含むXIAPタンパク質に1.39nMのIC50値で結合し、XIAPの極度に強力なアンタゴニストとして機能する、細胞透過性Smac模倣化合物)、BV6(cIAP1およびXIAPのアンタゴニスト)、キセビナパント(またはAT-406。これは、強力で、経口的に生物が利用可能なSmac模倣物およびIAPのアンタゴニストであり、XIAP、cIAP1、およびcIAP2タンパク質に結合する)、GDC-0152(強力なIAP阻害薬であり、XIAP、cIAP1、cIAP2のBIR3ドメインおよびML-IAPのBIRドメインに結合する)、ASTX660(経口的に生物が利用可能な、cIAPおよびXIAPの二重アンタゴニスト)、CUDC-427(強力な第2世代汎選択的IAPアンタゴニスト)、エンベリン(またはエンベリン酸。強力な非ペプチド性XIAP阻害薬)、APG-1387(二価のSMAC模倣物およびIAPアンタゴニスト、これは、IAPファミリータンパク質(XIAP、cIAP-1、cIAP-2、およびML-IAP)の活性を遮断する)、MX69(MDM2/XIAPの阻害薬)、AEG40826(HGS1029)MV1、ポリガラシンD、UC-112、AZD5582ジヒドロクロリド、HY-125378mトリナパント(ASTX660)ならびにSBP-0636457が挙げられる。いくつかの態様では、例示的なIAP阻害薬およびアンタゴニストとしては、WO2011098904;WO2009136290;WO2007106192;WO2008014238;WO2008128121 WO2012080271;US8202902;WO2013103703;US20140303090;WO2022130411;WO2017117684およびWO2015092420の1つまたは複数に記載されているものが挙げられる。
【0163】
ある特定の態様では、IAP阻害薬は、選択的XIAP阻害薬(CIAP阻害に対するIC50よりも少なくとも10倍低い、より好ましくは、少なくとも20、50、または100倍低い、XIAP阻害に対するIC50を有する)、例えばSM-164である。
【0164】
B. 併用療法-ESO再生剤
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、正常な再生食道幹細胞の増殖または他の再生性および創傷治癒活性を選択的に促進する1種または複数種の剤と共同で投与することができる。これらの「ESO再生剤」の共同投与は、単一共製剤の投与によって、同時投与によって、または別々の時間での投与によって達成することができる。
【0165】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、正常な食道幹細胞の増殖または他の再生性および創傷治癒活性を選択的に促進する、1種または複数種の剤と共同で投与することができる。これらの「食道ESO再生剤」の共同投与は、単一共製剤の投与によって、同時投与によって、または別々の時間での投与によって達成することができる。
【0166】
TAK1阻害薬。ある特定の態様では、IAP阻害剤はTAK1阻害薬と共同で投与される。
【0167】
「トランスフォーミング増殖因子活性化キナーゼ-1」および「TAK1」は互換的に使用される。TAK1は、TGFベータおよび形成タンパク質(BMP)によって誘導されるシグナル伝達を媒介し、転写調節およびアポトーシスを含めた様々な細胞機能を制御するMLKファミリーのプロテインキナーゼである。TAK1の例示的非限定例は、ヒトTAK1タンパク質、Uniprotデータベースアクセッション番号043318である。本明細書で使用する場合、「TAK1阻害薬」は、TAK1活性を低減させるかまたは防止する剤である。
【0168】
TAK1阻害薬の例示的な態様としては、5Z-7-オキソゼアエノール、2-[(アミノカルボニル)アミノ]-5-[4-(モルホリン-4-イルメチル)フェニル]チオフェン-3-カルボキサミド、2-[(アミノカルボニル)アミノ]-5-[4-(1-ピペリジン-1-イルエチル)フェニル]チオフェン-3-カルボキサミド、3-[(アミノカルボニル)アミノ]-5-[4-(モルホリン-4-イルメチル)フェニル]チオフェン-2-カルボキサミド、および3-[(アミノカルボニル)アミノ]-5-(4-{[(2-メトキシ-2-メチルプロピル)アミノ]メチル}フェニル)チオフェン-2-カルボキサミドが挙げられる。
【0169】
さらに他の態様では、TAK1阻害薬は、デヒドロアビエチン酸、NG25(CAS番号1315355-93-1)、サルササポゲニン、タキニブ、1-(3-(tert-ブチル)-1-(3-シアノフェニル)-1H-ピラゾール-5-イル)-3-(3-メチル-4-(ピリジン-4-イルオキシ)フェニル)尿素(PF-05381941またはCAS:1474022-02-0)、5Z-7-`、TAK1-IN1、ミネライド、トリプトリド、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは混合物である。
【0170】
一局面では、式:
による化合物、またはその立体異性体もしくは塩が提供され;
式中、
XはNR
1またはSであり;
R
1はH、C1~4アルキル、C1~4カルボニル、またはC1~4カルボキシルあり;
R
2はH、C1~4アルキル、C1~4アルコキシ、またはハロゲンであり;
R
3はOH、C1~4アルコキシ、またはアミノであり;
R
4はH、C1~4アルキル、C1~4アルコキシ、またはハロゲンであり;
式中、各C1~4アルキルは独立に、ハロ、ヒドロキシ、またはアミノによって置換され得る。
【0171】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬はタキニブであり、化学構造
を有する。
【0172】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬はNG25であり、化学構造
を有する。
【0173】
例えば、TAK1阻害薬は5Z-7-オキソゼアエノールであり、構造:
を有する。
【0174】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬は、ATP結合ポケット内に結合し、TAK1活性化の律速段階を減速させることによって阻害する、自己リン酸化および非リン酸化TAK1の阻害薬である。
【0175】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬はTAK1のATP競合的な不可逆的阻害薬である。
【0176】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬は、TAK1ならびにIRAK4、IRAK1、GCK、CLK2、およびMINK1に対して10μM以下のKiを有する。
【0177】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬は、TAK1に対するKiよりも少なくとも5倍大きい、さらにより好ましくは、少なくとも10、25、50またはさらに100倍大きい、IRAK4、IRAK1、GCK、CLK2、およびMINK1に対するKiを有する。
【0178】
ある特定の好ましい態様では、TAK1阻害薬は、100nM以下、さらにより好ましくは、50nM、25nMまたはさらに10nM以下の最大半量阻害濃度(IC50)値を有する。
【0179】
ある特定の態様では、TAK1阻害薬は、アポトーシスのTNF-α依存的誘導を誘導する。
【0180】
あるいは、TAK1阻害薬は、例えば、アンチセンスTAK1核酸、TAK1特異的低分子干渉RNA、またはTAK1特異的リボザイムである。用語「siRNA」は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を意味する。DNAが、siRNAが転写される鋳型であるものを含めて、siRNAを細胞中に導入する標準的な技法が使用される。siRNAは、センスTAK1核酸配列、アンチセンスTAK1核酸配列、または両方を含む。任意で、siRNAは、単一転写産物が、標的遺伝子由来のセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築され、例えば、ヘアピン(shRNA)である。
【0181】
c-RET阻害薬。ある特定の態様では、IAP阻害剤は、RET阻害薬、すなわち、阻害薬または癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼ受容体Ret(カドヘリファミリーメンバー12または癌原遺伝子c-Ret;UniprotKB-P07949としても公知である)と共同で投与される。例えば、そのようなRETキナーゼ阻害薬を開示する総説が公開されており(Roskoski et Sadeghi-Nejad, Pharmacol Res. 2018 Feb;128:1-17; Zschabitz et Grullich; Recent Results Cancer Res. 2018;211:187-198; Grullich, Recent Results Cancer Res. 2018;211:67-75; Pitoia et Jerkovich, Drug Des Devel Ther. 2016 Mar 11;10:1119-31)、これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる。特許出願もRETキナーゼ阻害剤を開示しており、例えば、網羅的ではないが、WO18071454、WO18136663、WO18136661、WO18071447、WO18060714、WO18022761、WO18017983、WO17146116、WO17161269、WO17146116、WO17043550、WO17011776、WO17026718、WO14050781、WO07136103、WO06130673であり、これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0182】
ある特定の態様では、RET阻害薬は、AD80、レゴラフェニブ(BAY 73-4506)、カボザンチニブリンゴ酸塩(XL184)、フェドラチニブ(TG101348)、ダヌセルチブ(PHA-739358)、TG101209、アゲラフェニブ(RXDX-105)、レゴラフェニブ塩酸塩、セルペルカチニブ(LOXO-292)、プラルセチニブ(BLU-667)、GSK3179106、レゴラフェニブ(BAY-734506)一水和物、バンデタニブ、RXDX-105、レンバチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、ドビチニブ、アレクチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ニンテダニブ、アパチニブ、モテサニブ、BLU-667、またはLOXO-292からなる群より選択される。
【0183】
ある特定の態様では、RET阻害薬は、WHI-P180、アパチニブ、CS-2660(JNJ-38158471)、2-D08であり得る。
【0184】
ある特定の態様では、RET阻害薬はAD80であり、化学構造
を有する。
【0185】
ある特定の態様では、RET阻害薬は、100nM以下、さらにより好ましくは、50nM、25nM、10nM、またはさらに5nM以下の最大半量阻害濃度(IC50)値を有する。
【0186】
あるいは、RET阻害薬は、例えば、アンチセンスRET核酸、RET特異的低分子干渉RNA、またはRET特異的リボザイムである。用語「siRNA」は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を意味する。DNAが、siRNAが転写される鋳型であるものを含めて、siRNAを細胞中に導入する標準的な技法が使用される。siRNAは、センスRET核酸配列、アンチセンスRET核酸配列、または両方を含む。任意で、siRNAは、単一転写産物が、標的遺伝子由来のセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築され、例えば、ヘアピン(shRNA)である。
【0187】
ABLキナーゼ阻害薬。ある特定の態様では、ESO再生剤は、ABLキナーゼ阻害薬の汎阻害薬、好ましくは、BCR-ABLキナーゼ阻害薬である。例示的な汎阻害薬としては、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、およびポナチニブが挙げられ、好ましくは、これはポナチニブである。
【0188】
FLT3阻害薬。ある特定の態様では、ESO再生剤はFLT3阻害薬である。本明細書において使用される例示的なFLT3阻害薬は、キザルチニブ(AC220)、クレノラニブ(CP-868596)、ミドスタウリン(PKC-412)、レスタウルチニブ(CEP-701)、4SC-203、TTT-3002、ソラフェニブ(Bay-43-0006)、ポナチニブ(AP-24534)、スニチニブ(SU-11248)、および/もしくはタンズチニブ(MLN-0518)、またはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。好ましくは、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)阻害薬は、キザルチニブ(AC220)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、および/もしくは水和物である。
【0189】
本明細書において使用されるこれらのおよびさらなる例示的な阻害薬は、より詳細に以下に記載される。
【0190】
商品名:キザルチニブ
構造:
親和性:FLT3(1.6nM)、KIT(4.8nM)、PDGFRB(7.7nM)、RET(9.9nM)、PDGFRA(11nM)、CSF1R(12nM)
【0191】
商品名:クレノラニブ
構造:
親和性:FLT3、PDGFRb
【0192】
商品名:ミドスタウリン
構造:
親和性:PKNl(9.3nM)、TBKl(9.3nM)、FLT3(11nM)、JAK3(12nM)、MLKl(15nM)、および15~110nMの範囲内の30種の標的
【0193】
商品名:レスタウルチニブ
親和性:FLT3、TRKA、TRKB、TRKC
【0194】
商品名:4SC-203
構造:
親和性:FLT3、VEGFR
【0195】
構造:
親和性:FLT3(Wall, Blood (ASH Annual Meeting Abstracts). 2012; 120:866);
LRRK2(Yao, Human molecular genetics. 2013;22(2):328-44)
臨床フェーズ:前臨床
開発者:Tautatis(創製企業)
【0196】
商品名:ソラフェニブ
コード名:Bay-43-0006
構造:
IUPAC名:4-[4-[3-[4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレイド]フェノキシ]-N-メチルピリジン-2-カルボキサミド
親和性:DDRl(1.5nM)、HIPK4(3nM)、ZAK(6nM)、DDR2(7nM)、FLT3(13nM)、および13~130nMの範囲内の15種の標的(Zarrinkar, Gunawardane et al. 2009, loc. cit.)臨床フェーズ:上市(腎臓および肝細胞がん)、フェーズI/O(血液癌)開発者:Bayer
【0197】
商品名:ポナチニブ
コード名:AP-24534 構造:
IUPAC名:3-[2-(イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-3-イル)エチニル]-4-メチル-N-[4-(4-メチルピペラジン-l-イルメチル)-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド
親和性:BCR-ABL、FLT3、KIT、FGFR1、PDGFRa(Gozgit, Mol Cancer Ther. 2011 ;10(6):1028-35)
臨床フェーズ:フェーズII(AML)
開発者:Ariad Pharmaceuticals(創製企業)
【0198】
商品名:スニチニブ
コード名:SU-11248
構造:
IUPAC名:(Z)-N-[2-(ジエチルアミノ)エチル]-5-(5-フルオロ-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-lH-インドール-3-イリデンメチル)-2,4-ジメチル-lH-ピロール-3-カルボキサミド2(S)~ヒドロキシブタン二酸(1:1)N-[2-(ジエチルアミノ)エチル]-5-[(Z)-(5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-3H-インドール-3-イリデン)メチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドL-リンゴ酸
親和性:PDGFRB(0.075nM)、KIT(0.37nM)、FLT3(0.47nM)、PDGFRA(0.79nM)、DRAK1(1.0nM)、VEGFR2(1.5nM)、FLT1(1.8nM)、CSF1R(2.0nM)(Zarrinkar, Gunawardane et al. 2009, loc. cit.)
臨床フェーズ:上市(腎細胞がん、胃腸管間質癌、神経内分泌膵臓)、フェーズI(AML)
開発者:Pfizer(創製企業)
【0199】
商品名:タンズチニブ
コード名:MLN-0518
構造:
IUP AC名:N-(4-イソプロポキシフェニル)-4-[6-メトキシ-7-[3-(l-ピペリジニル)プロポキシ]キナゾリン-4-イル]ピペラジン-1-カルボキサミド
親和性:PDGFRA(2.4nM)、KIT(2.7nM)、FLT3(3nM)、PDGFRB(4.5nM)、CSF1R(4.9nM)(Zarrinkar, Gunawardane et al. 2009, loc. cit.)
臨床フェーズ:中止
開発者:Kyowa Hakko Kirin(創製企業)、Millennium Pharmaceuticals(創製企業)
【0200】
【0201】
国立癌研究所、Takeda(創製企業)。本開示に従って使用されるFLT3阻害薬は、本明細書に記載されるか、またはさらなる公知の例示的な阻害薬に限定されない。したがって、さらなる阻害薬またはさらには依然として未知の阻害薬も本開示に従って使用することができる。そのような阻害薬は、本明細書に記載され、提供される方法、および当技術分野において公知である方法、例えば、FLT3の阻害についての生化学的なアッセイを使用するハイスループットスクリーニングによって特定することができる。
【0202】
潜在的FLT3阻害薬をスクリーニングための、特に、本明細書において定義されるFLT3阻害薬を特定するためのアッセイは、例えば、試験化合物と組換発現キナーゼの間の相互作用を定量的に測定するためのインビトロ競合結合アッセイ1(Fabian et al; Nat Biotechnol. 2005 23(3):329-36)を含む。これによって、固定化された捕捉化合物および遊離試験化合物との競合が行われる。キナーゼ活性部位と結合する試験化合物は、固体支持体上に捕捉されるキナーゼの量を低減させるが、キナーゼに結合しない試験分子は、固体支持体上に捕捉されるキナーゼの量に影響がない。さらに、阻害薬の選択性は、一連の組換えキナーゼについて、並行酵素アッセイで評価することもできる(Davies et al., Biochem. J. 2000 35(1): 95-105; Bain et al. Biochem. J. 2003 37(1): 199-204)。これらのアッセイは、キナーゼ阻害薬の阻害効果の測定に基づき、関心対象のプロテインキナーゼの50%阻害に必要とされる化合物の濃度を決定する。プロテオミクス方法も、キナーゼ阻害薬の細胞標的を特定するための効率的なツールである。キナーゼは、固定化された捕捉化合物によって細胞可溶化液から濃縮されるので、キナーゼ阻害薬のネイティブな標的スペクトルを決定することができる4(Godl et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2003 100(26): 5434-9)。
【0203】
潜在的な阻害薬をスクリーニングするための、特に、本明細書において定義される阻害薬を特定するためのアッセイは、例えば、以下の論文に記載されている:
・Fabian et al., Nat Biotechnol. 2005 23(3):329-36
・Davies et al., Biochem. J. 2000 351: 95-105.
・Bain et al., Biochem. J. 2003 371: 199-204.
・Godl et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2003 100(26): 15434-9
上記の論文は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0204】
IV. 併用療法-他の剤
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、食道において他の有益な局部的活性を有する1種または複数種の剤と共同で投与することができる。活性薬物の例示的カテゴリーおよび特定例としては、以下が挙げられる:(a)鎮咳剤、例えば、デキストロメトルファン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、および塩酸クロフェジアノール;(b)抗ヒスタミン剤、例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、酒石酸フェニンダミン、マレイン酸ピリラミン、コハク酸ドキシラミン、およびクエン酸フェニルトロキサミン;(c)解熱剤および鎮痛剤、例えば、アセトアミノフェン、アスピリン、およびイブプロフェン;(d)制酸剤、例えば、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム、(e)抗感染剤、例えば、抗真菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、および抗生物質、(f)化学療法剤。
【0205】
V. 例示的な製剤
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、生体接着性製剤の一部として、局所投与のために製剤化される。生体接着性ポリマーは、経粘膜的薬物送達システムで広く用いられており、食道、特に、病変および腫瘍増殖の領域への対象のIAP阻害剤の送達での使用に容易に適合させることができる。一般的には、組織へのポリマーの粘着は、(i)物理的もしくは機械的結合、(ii)一次もしくは共有結合性化学結合、および/または(iii)二次化学結合(すなわち、イオン性)によって達成することができる。物理的または機械的結合は、粘液の間隙または粘膜のひだにおける接着性材料の沈着および包含から生じ得る。生体接着特性に寄与する二次化学結合は、分散相互作用(すなわち、ファンデルワールス相互作用)および水素結合を含むより強い特異的相互作用からなる。水素結合の形成に関与する親水性官能基はヒドロキシル(-OH)およびカルボキシル基(--COOH)である。これらの材料が薬学的製剤に組み込まれる場合、粘膜細胞による薬物吸収が増強され得る、および/または長期間にわたってその部位で薬物が放出され得る。単に例示するために、生体接着剤は、親水性ポリマー、ヒドロゲル、コポリマー/ポリマー間複合体、またはチオール化ポリマーであり得る。
・親水性ポリマー:これは、水と接触すると膨潤し、最終的に完全溶解される水溶性ポリマーである。このポリマーでコーティングされたシステムは、乾燥状態の粘膜に高い生体接着性を示すが、溶解し始めるに従って生体接着性の性質は悪化する。その結果、その生体接着性は一時的である。例はポリ(アクリル酸)である。
・ヒドロゲル:これは、化学的結合または物理的結合のいずれかによって架橋結合している親水性ポリマーの3次元ポリマーネットワークである。このポリマーは、水と接触すると膨潤する。膨潤の程度は、架橋の度合に依存する。例は、ポリカルボフィル、カーボポール、およびポリオックスである。
・コポリマー/ポリマー間複合体:ブロックコポリマーは、反応が段階的に行われる場合に形成され、1つのモノマーの長い配列またはブロックがもう1つの長い配列と交互になっている構造がもたらされる。グラフトコポリマーも存在し、1つの種類の鎖(例えば、ポリスチレン)全体が別の種類の鎖(例えば、ポリブタジエン)の側面から生じるように作製され、その結果、脆性が低く、より衝撃抵抗性である生成物が得られる。水素結合はポリマー間相互作用の主要な原動力である。
・チオール化ポリマー(チオマー):これは、ポリマー骨格上に遊離チオール基を示す親水性高分子である。チオール/ジスルフィド交換反応および/または単純な酸化プロセスに基づいて、ジスルフィド結合は、そのようなポリマーと粘液ゲル層を構築する粘液糖タンパク質のシステインリッチなサブドメインとの間で形成される。今までに、陽イオン性チオマー、キトサン-システイン、キトサン-チオブチルアミジン、およびキトサン-チオグリコール酸、ならびに陰イオン性チオマー、ポリ(アクリル酸)-システイン、ポリ(アクリル酸)-システアミン、カルボキシメチルセルロース-システインおよびアルギネート-システインが生成されている。粘膜付着性ベースのポリマー上へのチオール基の固定化により、その粘膜付着特性は、2~140倍まで向上する。
【0206】
ある特定の態様では、生体接着性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)、トラガント、ポリ(メチルビニルエーテルコマレイン酸無水物)、ポリ(エチレンオキシド)、メチル-セルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カラヤガム、メチルエチルセルロース(およびセルロース誘導体、例えば、メトローズ)、可溶性デンプン、ゼラチン、ペクチン、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチル-メタクリレート)、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、またはキトサンより選択することができる。
【0207】
他の適切な生体接着性ポリマーは、その教示が参照により本明細書に組み入れられる、Mathiowitzらに対する米国特許第6,235,313号に記載されており、該生体接着性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸、例えば、ポリ(乳酸)、ポリスチレン、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ酸無水物、ポリアクリル酸、アルギネート、キトサン;ポリアクリレート、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ-(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、およびポリ(アクリル酸オクタデシル);ポリアクリルアミド;ポリ(フマル酸-コ-セバシン)酸、ポリ(ビスカルボキシフェノキシプロパン-コ-セバシン無水物)、ポリオルトエステル、ならびにそれらのコポリマー、ブレンド物、および混合物が挙げられる。
【0208】
ある特定の態様では、生体接着剤はアルギネートである。アルギン酸およびその塩は、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムと結合し、より酸性の環境に入った後、胃粘膜上で保護活性を発揮する粘稠性懸濁液(またはゲル)を形成することが示されている。これらの特性は、食道、特に下部食道への局所送達のために容易に適合させることができる。その活性に関する科学文献および特許文献は幅広い。したがって、例えば、食道への送達については:参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、Mandel K. G.; Daggy B. P.; Brodie D. A; Jacoby, H. L., 2000. Review article: Alginate-raft formulations in the treatment of heartburn and acid reflux. Aliment. Pharmacol. Ther. 14 669-690;および参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、Bioadhesive esophageal bandages: protection against acid and pepsin injury. Man Tang, Peter Dettmar, Hannah Batchelor-International Journal of Pharmaceutics 292 (2005)-169-177である。
【0209】
ある特定の態様では、生体接着剤は生体接着性ヒドロゲルである。生体接着性ヒドロゲルは本技術分野で周知であり、本開示のIAP阻害剤の送達に使用される適切なヒドロゲルは、その活性に関して広範囲におよぶ科学文献および特許文献に記載されており、幅広い。例示的なヒドロゲル製剤は、Collaud et al. “Clinical evaluation of bioadhesive hydrogels for topical delivery of hexylaminolevulinate to Barrett's esophagus” J Control Release. 2007 Nov 20; 123(3):203-10に記載されている。
【0210】
生体接着性マイクロ粒子製剤。ある特定の態様では、IAP阻害剤(任意で、他の活性剤をともなう)は、以下に詳細に記載されているように、化学組成および物理的特徴、例えば表面積の関数として形成される物理的および化学的結合に基づいて選択された接着性ポリマーミクロスフェアに製剤化される。これらのミクロスフェアは、食道組織上での11mN/cm2より大きい、粘膜への粘着力を特徴とする。これらのミクロスフェアのサイズは、ナノ粒子からミリメートルの直径の範囲にわたり得る。粘着力は、ポリマー組成物、生物学的基材、粒子形態、粒子の幾何学的形状(例えば、直径)および表面修飾の関数である。
【0211】
生体接着性ミクロスフェアを形成するために使用することができる適切なポリマーとしては、可溶性および不溶性、生分解性および非生分解性のポリマーが挙げられる。これらは、天然または合成の、ヒドロゲルまたは熱可塑性物質、ホモポリマー、コポリマーまたはブレンド物であり得る。好ましいポリマーは、制御された合成および分解特徴を有する合成ポリマーである。最も好ましいポリマーは、フマル酸とセバシン酸のコポリマーであり、これは、胃腸に投与された場合に著しくよい生体接着特性を有する。
【0212】
これまで、2つのクラスのポリマー:親水性ポリマーおよびヒドロゲルが有用な生体接着特性を示すように思われている。親水性ポリマーの大きなクラスでは、カルボキシル基を含むもの(例えば、ポリ[アクリル酸])は、最もよい生体接着特性を示す。最高濃度のカルボキシル基を有するポリマーは、軟組織上の生体接着のための最適な材料であるはずであると推測することができる。他の研究では、最も有望なポリマーは、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびメチルセルロースであった。これらの材料には水溶性であるものもあれば、ヒドロゲルであるものもある。
【0213】
その滑らかな表面が侵食されるに従って、カルボキシル基が外部表面上で曝露される、急速生体侵食性ポリマー、例えば、ポリ[ラクチド-コ-グリコリド]、ポリ酸無水物、およびポリオルトエステルは、生体接着性薬物送達システムのための優れた候補である。加えて、不安定な結合を含むポリマー、例えば、ポリ酸無水物およびポリエステルは、それらの加水分解反応性について周知である。それらの加水分解の分解速度は、一般に、ポリマー骨格中の単純な変化によって変化させることができる。
【0214】
代表的な天然ポリマーとしては、タンパク質、例えば、ゼイン、修飾ゼイン、カゼイン、ゼラチン、グルテン、血清アルブミン、またはコラーゲン、および多糖、例えば、セルロース、デキストラン、ポリヒアルロン酸、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルのポリマー、およびアルギン酸が挙げられる。これらは、最終生成物の特徴および投与後の分解の変動性レベルが高いので、好ましくない。合成的に修飾された天然ポリマーとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、およびニトロセルロースが挙げられる。
【0215】
代表的な合成ポリマーとしては、ポリホスファゼン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン、およびこれらのコポリマーが挙げられる。関心対象の他のポリマーとしては、限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、およびポリビニルフェノールが挙げられる。代表的な生体侵食性ポリマーとしては、ポリラクチド、ポリグリコリドおよびこれらのコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(酪酸(butic acid))、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリ[ラクチド-コ-グリコリド]、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、それらのブレンド物およびコポリマーが挙げられる。
【0216】
これらのポリマーは、Sigma Chemical Co., St. Louis, Mo.、Polysciences, Warrenton, Pa., Aldrich, Milwaukee, Wis.、Fluka, Ronkonkoma, N.Y.、およびBioRad, Richmond, Calif.などの供給源から得ることができ、またはそうでなければ、これらの供給業者から得たモノマーから標準的な技法を使用して合成することができる。
【0217】
ある場合には、ポリマー材料は、ミクロスフェアの製造前または後のいずれかで、生体接着を向上させるように修飾することができる。例えば、生分解中に、またはポリマー表面上でアクセス可能なカルボキシル基の数を増加させることによって、ポリマーを修飾することができる。ポリマーにアミノ基を結合させることによって、ポリマーを修飾することもできる。生体接着特性を有するリガンド分子をポリマーミクロスフェアの表面に曝露された分子に共有結合的に付着させる、いくつかの異なるカップリング化学作用のいずれかを使用して、ポリマーを修飾することもできる。
【0218】
1つの有用なプロトコールは、DMSO、アセトン、またはTHFなどの非プロトン溶媒に入れた作用物質、すなわち、カルボニルジイミダゾール(CDI)を用いた、ポリマー鎖上のヒドロキシル基の「活性化」をともなう。CDIは、タンパク質などのリガンドの遊離アミノ基に結合することによって取って代わられる可能性があるヒドロキシル基と、イミダゾリルカルバメート複合体を形成する。この反応は、N求核置換であり、ポリマーへのリガンドの安定なN-アルキルカルバメート連結をもたらす。「活性化された」ポリマーマトリックスへのリガンドの「カップリング」は9~10のpH範囲で最大であり、通常は、少なくとも24時間を要する。得られたリガンド-ポリマー複合体は安定であり、長期間にわたって加水分解に抵抗する。
【0219】
別のカップリング方法は、N-ヒドロキシルスルホスクシンイミド(スルホNHS)とともに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)または「水溶性CDI」を使用して、7.0の生理的pHの完全に水性の環境で、ポリマーの曝露されたカルボキシルをリガンドの遊離アミノ基とカップリングさせることをともなう。手短に言えば、EDACおよびスルホ-NHSは、ポリマーのカルボン酸基とともに活性化エステルを形成し、このカルボン酸基がリガンドのアミン末端と反応して、ペプチド結合を形成する。得られたペプチド結合は加水分解に抵抗性である。該反応におけるスルホ-NHSの使用は、EDACカップリングの効率を10倍増加させ、リガンド-ポリマー複合体の生存能を保証する、並外れて穏やかな条件を提供する。
【0220】
これらのプロトコールのいずれかを使用することによって、ポリマーマトリックスを溶解しない適切な溶媒系において、ヒドロキシル基またはカルボキシル基のいずれかを含むほとんどすべてのポリマーを「活性化する」ことが可能である。
【0221】
遊離ヒドロキシル基およびカルボキシル基を有するリガンドをポリマーに付着させるための有用なカップリング手順は、架橋結合作用物質、すなわち、ジビニルスルホンの使用をともなう。この方法は、生体接着特性を有する糖または他のヒドロキシル化合物をヒドロキシルマトリックスに付着させるのに有用であろう。手短に言えば、活性化は、ポリマーのビニルスルホニルエチルエーテルを形成する、ポリマーのヒドロキシル基へのジビニルスルホンの反応をともなう。ビニル基は、アルコール、フェノール、さらにはアミンとカップリングすると考えられる。活性化およびカップリングは、pH11で起こる。連結は、1~8のpH範囲で安定であり、腸を通過するのに適する。
【0222】
UV架橋の使用を含めて、リガンドとポリマーを二重結合でカップリングするための当業者に公知である任意の適切なカップリング方法を、本明細書に記載されるポリマーミクロスフェアへの生体接着性リガンドの付着に使用することができる。薬物送達またはイメージングのために、レクチンの付着によって修飾することができる任意のポリマーを生体接着性ポリマーとして使用することができる。
【0223】
ミクロスフェアに共有結合的に付着させて、それらをムチンおよび粘膜細胞層に特異的な標的にすることができるレクチンを、生体接着剤として使用することができる。有用なレクチンリガンドとしては、トウアズキ(Abrus precatroius)、マッシュルーム(Agaricus bisporus)、ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)、ピーナッツ(Arachis hypogaea)、バンデイラエア・シンプリシフォリア(Pandeiraea simplicifolia)、ムラサキソシンカ(Bauhinia purpurea)、オオムレスズメ(Caragan arobrescens)、ヒヨコマメ(Cicer arietinum)、ミル(Codiurn fragile)、シロバナヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)、ヒマラヤフジマメ(Dolichos biflorus)、サンゴシトウ(Erythrina corallodendron)、アメリカデイゴ(Erythrina cristagalli)、セイヨウマユミ(Euonymus europaeus)、ダイズ(Glycine max)、ヒメリンゴマイマイ(Helix aspersa)、リンゴマイマイ(Helix pomatia)、スイートピー(Lathyrus odoratus)、レンズマメ(Lens culinaris)、アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)、トマト(Lysopersicon esculentum)、アメリカハリグワ(Maclura pomifera)、ニガウリ(Momordica charantia)、マイコプラズマ・ガリセプチカム(Mycoplasma gallisepticum)、モザンビークコブラ(Naja mocambique)、ならびにレクチンコンカナバリンA、スクシニル-コンカナバリンA、トリチカム・ブルガリス(Triticum vulgaris)、ハリエニシダ(Ulex europaeus)I、II、およびIII、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、イヌエンジュ(Maackia amurensis)、コウラナメクジ(Limax fluvus)、アメリカンロブスター(Homarus americanus)、キャンサー・アンテナリウス(Cancer antennarius)、ならびにロータス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)から単離されたレクチンが挙げられる。
【0224】
正に荷電した任意のリガンド、例えば、ポリエチレンイミンまたはポリリジンの任意のミクロスフェアへの付着は、粘液の正味負電荷への、ビーズをコーティングする陽イオン性基の静電引力により、生体接着を向上させることができる。ムチン層のムコ多糖およびムコタンパク質、特にシアル酸残基は、負電荷コーティングに関与する。ムチンに対して結合親和性が高い任意のリガンドはまた、CDIなどの適切な化学物質を用いて大抵のミクロスフェアに共有結合させることができ、消化管へのミクロスフェアの結合に影響することが予想され得る。例えば、ムチンの成分またはそうでなければインタクトなムチンに対して産生させたポリクローナル抗体は、ミクロスフェアに共有結合した場合に、生体接着を増大させると考えられる。同様に、腸管の管腔表面に曝露された特定の細胞表面受容体に対する抗体は、適切な化学物質を使用してミクロスフェアにカップリングした場合に、ビーズの滞留時間を延ばすと考えられる。リガンド親和性は、静電荷だけに基づく必要はなく、他の有用な物理的パラメーター、例えば、ムチン中の溶解度、またはそうでなければ炭水化物基への特異的親和性にも基づく必要がある。
【0225】
純粋であるかまたは部分的に精製された形態のいずれかでのムチンの天然成分のいずれかの、ミクロスフェアへの共有結合は、ビーズ-消化管の境界面の表面張力を低下させ、ムチン層におけるビーズの溶解度を増大させると考えられる。有用なリガンドのリストとしては、限定されないが、以下のものが挙げられるであろう:シアル酸、ノイラミン酸、n‐アセチル-ノイラミン酸、n-グリコリルノイラミン酸、4-アセチル-N-アセチルノイラミン酸、ジアセチル-N-アセチルノイラミン酸、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクトース、グルコース、マンノース、フコース、天然に存在するムチン、例えば、ムコタンパク質、ムコ多糖およびムコ多糖-タンパク質複合体の化学的処理によって調製された部分的精製画分のいずれか、ならびに粘膜表面上のタンパク質または糖構造に対して免疫反応性の抗体。
【0226】
余分なペンダントカルボン酸側基を含むポリアミノ酸、例えば、ポリアスパラギン酸およびポリグルタミン酸の付着も、生体接着性を増大させる有用な手段を提供するはずである。15,000~50,000kDaの分子量範囲のポリアミノ酸を使用することによって、ミクロスフェアの表面に付着した120~425アミノ酸残基の鎖が得られるであろう。ポリアミノ鎖は、ムチン鎖における鎖のもつれによって、およびカルボキシル電荷の増大により、生体接着を増大させるであろう。
【0227】
本明細書で使用する場合、用語「ミクロスフェア」は、最大で5mmまでのナノメートル範囲の直径を有するマイクロ粒子およびマイクロカプセル(外壁と異なる材料のコアを有する)を含む。ミクロスフェアは、全体的に生体接着性ポリマーからなっていてもよく、または生体接着性ポリマーの外部コーティングのみを有していてもよい。
【0228】
以下の例で特徴づけられるように、ミクロスフェアは、様々な方法を使用して様々なポリマーから製造することができる。ポリ乳酸ブランクミクロスフェアは、以下の3つの方法を使用して製造された:E. Mathiowitz, et al., J. Scanning Microscopy, 4, 329 (1990); L. R. Beck, et al., Fertil. Steril., 31, 545 (1979);およびS. Benita, et al., J. Pharm. Sci., 73, 1721 (1984)によって記載される、溶媒蒸発;E. Mathiowitz, et al., Reactive Polymers, 6, 275 (1987)によって記載される、ホットメルトマイクロカプセル化;ならびに噴霧乾燥。20:80 P(CPP-SA)(20:80)(分子量20,000)のモル比でビス-カルボキシフェノキシプロパンおよびセバシン酸でできているポリ酸無水物は、ホットメルトマイクロカプセル化によって調製された。ポリ(フマル酸-コ-セバシン酸)(20:80)(分子量15,000)ブランクミクロスフェアは、ホットメルトマイクロカプセル化によって調製された。ポリスチレンミクロスフェアは、溶媒蒸発によって調製された。
【0229】
ある特定の態様では、組成物は、IAP阻害剤を含む粒子(例えば、ナノ粒子)が分散している生体接着性マトリックスを含む。これらの態様では、生体接着性マトリックスは、食道の粘膜とナノ粒子の間の接触を促進する。
【0230】
ある特定の態様では、薬物含有粒子は、例えば生体侵食性の生体接着性マトリックスとしてのマトリックスである。適切な生体侵食性の生体接着性ポリマーとしては、生体侵食性ヒドロゲル、例えば、その教示が参照により本明細書に組み入れられるSawhney, et al., in Macromolecules, 1993, 26:581-587によって記載されているものが挙げられる。代表的な生体侵食性の生体接着性ポリマーとしては、限定されないが、合成ポリマー、例えば、ポリヒドロキシ酸、例えば、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ酸無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリ(エチレン-コ-無水マイレン酸)、ポリ(エチレン無水マイレン酸-コ-L-ドーパミン)、ポリ(エチレン無水マイレン酸-コ-フェニルアラニン)、ポリ(エチレン無水マイレン酸-コ-チロシン)、ポリ(ブタジエン-コ-無水マイレン酸)、ポリ(ブタジエン無水マイレン酸-コ-L-ドーパミン)(pBMAD)、ポリ(ブタジエン無水マイレン酸-コ-フェニルアラニン)、ポリ(ブタジエン無水マイレン酸-コ-チロシン)、ポリ(フマル酸-コ-セバシン酸)無水物(P(FA:SA))、ポリ(ビスカルボキシフェノキシプロパン-コ-セバシン酸無水物)(20:80)(ポリ(CCP:SA))、およびこれらのポリマーを含むブレンド物;ならびにこれらのポリマーのモノマーを含むコポリマー、ならびに天然ポリマー、例えば、アルギネートおよび他の多糖、コラーゲン、これらの化学的誘導体(置換、化学基、例えば、アルキル、アルキレンの付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって日常的に行われる他の修飾)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインならびに他のプロラミンおよび疎水性タンパク質、これらのコポリマー、ブレンド物、および混合物が挙げられる。一般に、これらの材料は、インビボでの酵素的加水分解または水への暴露のいずれかによって、表面またはバルク侵食によって、分解する。
【0231】
10nm~10ミクロンの平均粒径を有する粒子は、本明細書に記載される組成物で有用である。ある特定の態様では、粒子は、約10nm~1ミクロン、好ましくは、約10nm~約0.1ミクロンの範囲のサイズを有するナノ粒子である。特に好ましい態様では、粒子は、約500~約600nmの範囲のサイズを有する。粒子は任意の形状を有し得るが、一般に、球状の形状である。
【0232】
本明細書に記載される組成物は、単分散の複数のナノ粒子を含む。好ましくは、ナノ粒子を形成するために使用される方法は、ナノ粒子の単分散の分布をもたらすが;多分散のナノ粒子分布をもたらす方法を使用してもよい。方法が単分散のサイズ分布を有する粒子を生成しない場合、粒子は、粒子形成後に分離されて、望ましいサイズ範囲および分布を有する複数の粒子が生成される。
【0233】
本明細書に記載される組成物で有用なナノ粒子は、当技術分野において公知である任意の適切な方法を使用して調製することができる。一般的なマイクロカプセル化技法としては、限定されないが、噴霧乾燥、界面重合、ホットメルトカプセル化、相分離カプセル化(自然エマルジョンマイクロカプセル化、溶媒蒸発マイクロカプセル化、および溶媒除去マイクロカプセル化)、コアセルベーション、低温ミクロスフェア形成、ならびに転相ナノカプセル化(PIN)が挙げられる。これらの方法の簡単な概要を以下に示す。
【0234】
噴霧乾燥。噴霧乾燥技法を使用してミクロスフェア/ナノスフェアを形成するための方法は、Mathiowitzらに対する米国特許第6,620,617号に記載されている。この方法では、ポリマーを塩化メチレンなどの有機溶媒に、または水に溶解させる。粒子に組み込まれる公知の量の1種または複数種の活性剤をポリマー溶液に懸濁させる(不溶性活性剤の場合)かまたは共溶解させる(可溶性活性剤の場合)。圧縮ガスの流動によって動かされる微粒化ノズルを通して溶液または分散体をポンピングし、加熱した空気のサイクロン中に得られたエアロゾルを懸濁させ、微小小滴から溶媒を蒸発させ、粒子を形成する。この方法を使用して、0.1~10ミクロンの範囲のミクロスフェア/ナノスフェアを得ることができる。
【0235】
界面重合。界面重合も1種または複数種の活性剤をカプセル化するのに使用することができる。この方法を使用して、モノマーおよび活性剤を溶媒に溶解させる。第1のものと非混和性である第2の溶媒(典型的には水性)に第2のモノマーを溶解させる。第2の溶液中での撹拌を通じて第1の溶液を懸濁させることによって、エマルジョンを形成する。一旦エマルジョンが安定化すれば、開始剤を水性相に添加し、エマルジョンの各小滴の界面で界面重合を引き起こす。
【0236】
ホットメルトマイクロカプセル化。Mathiowitz et al., Reactive Polymers, 6:275 (1987) に記載されているように、ホットメルトマイクロカプセル化方法を使用して、ポリエステルおよびポリ酸無水物などのポリマーからミクロスフェアを形成することができる。この方法では、3~75,000ダルトンの分子量を有するポリマーの使用が好ましい。この方法では、最初にポリマーを融解し、次いで、50ミクロン未満にふるい分けられた、組み込まれる1種または複数種の活性剤の固体粒子と混合する。混合物を非混和性溶媒(シリコン油など)に懸濁させ、連続的に撹拌し、ポリマーの融点を5℃上回る温度に加熱する。一旦エマルジョンが安定化すれば、ポリマー粒子が凝固するまでこれを冷却する。石油エーテルでデカントすることによって、得られたミクロスフェアを洗浄して、自由流動性粉末を得る。
【0237】
相分離マイクロカプセル化。相分離マイクロカプセル化技法では、ポリマー溶液を、任意で、カプセル化される1種または複数種の活性剤の存在下で、撹拌する。撹拌によって材料を均一に懸濁させ続ける間に、ポリマー用の非溶媒を溶液に緩徐に添加して、ポリマーの溶解度を低下させる。溶媒および非溶媒中のポリマーの溶解度に応じて、ポリマーは、沈殿するかまたはポリマーが豊富な相とポリマーが乏しい相に相分離するかのいずれかである。適切な条件下で、ポリマーが豊富な相の中のポリマーは、連続相との界面に移動し、外部ポリマーシェルを有する小滴中に活性剤をカプセル化する。
【0238】
自然エマルジョンマイクロカプセル化。自然乳化は、温度を変化させること、溶媒を蒸発させること、または化学的架橋結合作用物質を添加することによって、上記で形成された乳化された液体ポリマー小滴を凝固させることをともなう。カプセル化物質の物理的および化学的特性ならびに新生粒子中に任意で組み込まれる1種または複数種の活性剤の特性によって、カプセル化の適切な方法が規定される。疎水性、分子量、化学的安定性、および熱安定性などの因子は、カプセル化に影響をおよぼす。
【0239】
溶媒蒸発マイクロカプセル化。溶媒蒸発技法を使用してミクロスフェアを形成するための方法は、E. Mathiowitz et al., Scanning Microscopy, 4:329 (1990); L. R. Beck et al., Fertil. Steril., 31:545 (1979); L. R. Beck et al., Am J Obstet Gynecol 135(3) (1979); S. Benita et al., Pharm. Sci., 73:1721 (1984);およびMorishitaらに対する米国特許第3,960,757号に記載されている。塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒にポリマーを溶解させる。組み込まれる1種または複数種の活性剤を任意で溶液に添加し、この混合物をポリ(ビニルアルコール)などの表面活性剤を含む水溶液に懸濁させる。有機溶媒の大部分が蒸発するまで、得られたエマルジョンを撹拌し、固体のミクロスフェア/ナノスフェアを残す。この方法は、ポリエステルおよびポリスチレンのような比較的安定なポリマーに有用である。しかし、ポリ酸無水物などの不安定なポリマーは、水の存在により、製造プロセス中に分解する可能性がある。これらのポリマーについては、完全に無水の有機溶媒中で行われる以下の方法のいくつかがより有用である。
【0240】
溶媒除去マイクロカプセル化。溶媒除去マイクロカプセル化技法はポリ酸無水物のために主として設計されており、例えば、Brown University Research Foundationに対するWO 93/21906に記載されている。この方法では、組み込まれる物質を塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒中の選択されたポリマーの溶液中に分散または溶解させる。シリコン油などの有機油中で撹拌することによって、この混合物を懸濁させて、エマルジョンを形成する。この手順によって、1~300ミクロンの範囲のミクロスフェアを得ることができる。ミクロスフェア中に組み込むことができる物質としては、医薬品、農薬、栄養素、イメージング作用物質、および金属化合物が挙げられる。
【0241】
コアセルベーション。コアセルベーション技法を使用した様々な物質に対するカプセル化手順は、当技術分野において、例えば、GB-B-929 406; GB-B-929 40 1;ならびに米国特許第3,266,987号、第4,794,000号、および第4,460,563号において、公知である。コアセルベーションは、2つの非混和性液相への高分子溶液の分離をともなう。1つの相は、高濃度のポリマーカプセル化物質(および任意で1種または複数種の活性剤)を含む高密度コアセルベート相であり、一方で、第2の相は、低濃度のポリマーを含む。高密度のコアセルベート相内で、ポリマーカプセル化物質はナノスケールまたはマイクロスケールの小滴を形成する。コアセルベーションは、温度変化、非溶媒の添加、もしくはマイクロ塩の添加(単純コアセルベーション)によって、または別のポリマーを添加し、それによって、ポリマー間複合体を形成すること(複合コアセルベーション)によって、誘導することができる。
【0242】
ミクロスフェアの低温鋳造。制御放出ミクロスフェアの極低温鋳造のための方法は、Gombotzらに対する米国特許第5,019,400号に記載されている。この方法では、任意で1種または複数種の溶解または分散された活性剤を含む溶媒中で、ポリマーを溶解する。次いで、ポリマー小滴を凍結するポリマー物質溶液の凝固点を下回る温度で、液体非溶媒を含む容器中に、混合物を霧化する。小滴およびポリマー用の非溶媒が温まるに従って、小滴中の溶媒が解け、非溶媒中に抽出され、その結果、ミクロスフェアの硬化がもたらされる。
【0243】
転相ナノカプセル化(PIN)。転相ナノカプセル化(PIN)方法を使用して、ナノ粒子を形成することもでき、ポリマーを「良」溶媒中に溶解させ、薬物などの組み込まれる物質の微細粒子をポリマー溶液中に混合するかまたは溶解させ、ポリマー用の強力な非溶媒中に混合物を注ぎ、好ましい条件下でポリマーミクロスフェア自発的に生成させ、ポリマーを粒子でコーティングするか、またはポリマー中に粒子を分散させる。例えば、Mathiowitzらに対する米国特許第6,143,211号を参照されたい。本方法は、例えば、約100ナノメートル~約10ミクロンを含めて、広範囲におよぶサイズのナノ粒子およびマイクロ粒子の単分散集団を生成するために使用することができる。好都合なことに、エマルジョンは、沈殿より前に形成される必要はない。本プロセスは、熱可塑性ポリマーからミクロスフェアを形成するために使用することができる。
【0244】
連続転相ナノカプセル化(sPIN)。多層ナノ粒子は、本明細書において「連続転相ナノカプセル化」(sPIN)と称されるプロセスによって形成することもできる。このプロセスは、以下のセクションIVで詳細に記載されている。sPINは、ナノ粒子の単分散集団の形成に特に適しており、ナノ粒子の単分散集団を達成するための追加的な分離段階の必要性を回避する。
【0245】
溶解性錠剤またはロゼンジ。ある特定の態様では、IAP阻害剤は、溶解性錠剤中で提供される。例えば、該錠剤は、ポリビニルピロリドン(PVP:ポビドン)と組み合わせて、治療的有効量のIAP阻害剤を含むことができ、該錠剤は、食道の管腔表面への抗PESCの送達に適した局所食道療法をもたらすために特定の体積の液体中で急速に溶解するように製剤化される。例えば、錠剤が溶解する液体の体積は、5~50mL、5~25mL、またはさらに5~15mLであり得る。好ましくは、液体は水である。溶解性錠剤は、溶解性錠剤を美味にする賦形剤、特に、局所食道療法の粘性を増大させる少なくとも1つの賦形剤をさらに含むこともできる。例示的な粘性増強賦形剤はマンニトールである。
【0246】
ある特定の態様では、IAP阻害剤は、以下を含む、局所的、非全身的、経口的、徐放性、固体、ソフトロゼンジの薬学的組成物中で提供される:(a)約900,000~約8,000,000の分子量を含むポリエチレンオキシドポリマーを含む、約1質量%~約質量5%の1種または複数種の放出調節剤;(b)ゼラチンを含む、約10質量%~約60質量%の1種または複数種の膜形成性ポリマー;(c)グリセロール、ソルビトール、またはそれらの組み合わせを含む、約5質量%~約20質量%の1種または複数種の可塑剤;および(d)1質量%未満の1種または複数種のIAP阻害剤。例示的な可塑剤としては、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの組み合わせが挙げられる。ロゼンジは、1種または複数種の甘味剤、例えば、マルチトール、キシリトール、マンニトール、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、またはそれらの組み合わせを含むこともできる。ロゼンジは、1種または複数種の有機酸を含む1種または複数種のpH調節剤を含むこともできる。
【実施例】
【0247】
VI. 実施例
以下の実施例は、好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例で開示される技法は、態様の実施において十分に機能すると本発明者によって発見された技法を示し、それにより、その実施のための好ましい様式を構成すると考えられ得ることを当業者は理解されたい。しかし、本開示に照らして、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなしに、開示される特定の態様において多くの変更を行うことができ、かつ同様のまたは類似した結果を依然として得ることができることを当業者は認識するべきである。
【0248】
概観
進行性転移性癌によって提示される課題により、前癌病変を特定し、予防的に排除するための試みが推し進められた。本明細書において、本発明者らは、内視鏡的に選択される、患者に対応した食道腺がん(EAC)およびその前駆病変の機能的に定義された幹細胞のライブラリーを生成するための技術を用いる。これらのライブラリーからのクローンは、すべての幹細胞判定基準を満たし、その病変同一性を維持し、コピー数および一塩基多様性のレベルで、注目すべきかつ予期しないゲノム安定性を示す。これらのクローンによって可能になった高精度系統発生解析は、緩徐進行性前駆体、個別の「進行性」バレット、異形成、および癌の間の移行に対する、連続的に減少する突然変異閾値を定義する。重要なことに、複数の患者に由来するバレット幹細胞を選択的に排除する薬物の組み合わせは、「進行性」バレットの幹細胞、ならびに異形成およびEACに対して類似した有効性を示し、これは、より増殖的な侵襲性の病変における共通の系列脆弱性を特定するために緩徐進行性前駆病変を利用する可能性を示唆する。
【0249】
方法
患者に対応した内視鏡生検材料からのインビトロ幹細胞のクローン化。インフォームドコンセントならびにMD Anderson Cancer Center(IRB 5 IRB00006023;LAB01-543)およびUniversity of Connecticut Health Sciences Center(16-065-03)のIRBによって認められたプロトコールのもとで、本発明者らは、食道腺がん(EAC)およびその前駆病変の療法未経験試料を得た。症例1および2は、正常な食道粘膜とともに、EAC、異形成、およびバレットであるとみなされる隣接病変の1mmの内視鏡生検材料からであった。症例3からの組織は、胸水中で得られた、原発EACからの肺転移の形態であった。生検材料または胸水細胞を、記載されるように27、28、1mg/mlのコラゲナーゼタイプIV(Gibco、USA)中で、撹拌しながら37℃で30~45分間消化することによって、単一細胞に分離した。分離した細胞は、70μmのナイロンメッシュ(Falcon、USA)を通過させて、凝集物を除去し、冷却F12培地中で5回洗浄し、StemECHO培地(Multiclonal Therapeutics、Hartford、CT、USA)28中で、致死的に照射した3T3-J2細胞のフィーダー層上に播種し、2日ごとに培地を交換しながら、7.5%CO2インキュベーターにおいて37℃で増殖させた。10日以内に出現したコロニーをTrypLE Express溶液(Gibco、USA)によって37℃で10~15分間消化し、細胞懸濁液を30μmのフィルター(Miltenyi Biotec、Germany)を通過させてから、新しいフィーダー叢(feeder lawns)上に継代した。単一細胞のクローン化は、ファインチップピペッティングによって、または照射した3T3-J2細胞を予め播種した384ウェルプレート中へのフローソーティングによって、行った。
【0250】
幹細胞分化。気相液相界面(ALI)培養を使用して、幹細胞分化の可能性を評価した27。トランスウェルインサート(Corning Incorporated、USA)を20%マトリゲル(BD biosciences、USA)でコーティングし、37℃で10分間インキュベートして、重合させた。200,000個の照射した3T3-J2細胞を各トランスウェルインサートに播種し、37℃の7.5%CO2インキュベーターで一晩インキュベートした。QuadroMACSスターティングキット(LS)(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、フィーダー細胞の除去により、幹細胞を精製した。300,000個の幹細胞を各トランスウェルインサート中に播種し、幹細胞培地で培養した。集密度(5日目)で、インサート上の頂端側の培地を慎重なピペッティングによって除去し、分化培地(ニコチンアミドなしの幹細胞培地)中でさらに8~14日間培養を続けてから、回収した。分化培地は、1日または2日ごとに交換した。
【0251】
免疫不全マウスにおける異種移植。すべての動物実験は、University of Houstonにおいて動物実験委員会(Institutional Animal CareおよびUse Committee)(IACUC)で認められたプロトコール16-002に従って行った。300万個の幹細胞を氷上で維持し、50%マトリゲル(Becton Dickinson、Palo Alto、USA)と十分に混合して、150μlの体積にし、NSG(NODscid IL2raヌル)マウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、USA)に皮下注射した。異種移植片のサイズをキャリパーで測定し、体積を以下の式:腫瘍体積(mm3)=1/2×A(mm)×B2(mm2)で決定し、式中、「A」は最大の寸法を示し、「B」は最小の寸法を示す。
【0252】
組織学的検査および染色。組織学的検査、ヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色、ローダミン染色、アルシアンブルー染色(VECTOR、USA)および免疫蛍光染色は、標準的な技法を使用して行った。免疫蛍光については、4%パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織スライドをクエン酸緩衝液(pH6.0、Sigma-Aldrich、USA)中で20分間120℃で抗原賦活化に供し、ブロッキング手順をDPBS(-)(Gibco、USA)中で5%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich、USA)および0.05%Triton X-100(Sigma-Aldrich、USA)を用いて室温で1時間行い、次いで、一次抗体を用いて4℃で一晩免疫染色した。本研究で使用した一次抗体の供給源としては、以下が挙げられる:ウサギモノクローナルKi67(1:500、ab16667、Abcam)、ウサギポリクローナルラミニン(1:500、ab11575、Abcam)、マウスモノクローナルCdh17(1:300、SC74209、Santa Cruz Biotechnology)、ヤギポリクローナルE-カドヘリン(1:500、AF648、R&D Systems)。すべての画像は、Lumencor SOLAライトエンジンおよびAndor Technology Clara Interline CCDカメラ、およびNIS-Elements Advanced Research v.4.13ソフトウェア(Nikon、Japan)を備えた倒立Eclipse Tiシリーズ(Nikon、Japan)顕微鏡、またはLSMソフトウェアを備えたLSM 780共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)を使用することによって、取得した。明視野細胞培養画像は、Digital Sight DSFi1カメラ(Nikon、Japan)およびNIS-Elements F3.0ソフトウェア(Nikon、Japan)を備えたEclipse TS100顕微鏡(Nikon、Japan)で得た。
【0253】
DNA含量の解析。幹細胞を回収し、冷却リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄した。-20℃の70%冷却エタノール中で少なくとも1.5時間固定した後、試料をヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーキット(ab139418)を使用して染色し、次いで、SH800 FACSセルソーター(Sony、Japan)によって解析した。
【0254】
全エキソームシークエンシング。エキソームの捕捉およびハイスループットシークエンシングのために、QIAGENのキットを使用して約1ugのゲノムDNAを抽出した。製造業者の推奨されるプロトコールに従って、Agilent SureSelect Human All Exon V6キット(Agilent Technologies、CA、USA)を使用して、ゲノムDNAを切断し、末端修復し、Aテール化し(A-tailed)、アダプターライゲーションを行い、エキソームを捕捉した。手短に言えば、流体力学的切断システム(Covaris、Massachusetts、USA)によって断片化を行って、180~280bpの断片を生成した。エキソヌクレアーゼ/ポリメラーゼ活性を介して、残存突出を平滑末端に変換した。DNA断片の3’末端のアデニル化の後、アダプターをライゲーションした。ライゲーションされたアダプターを両末端に有する断片をPCR反応で選択的に増やした。捕捉されたライブラリーをPCR反応で増やして、ハイブリダイゼーションの準備のためにインデックスを加えた。AMPure XPシステム(Beckman Coulter、Beverly、USA)を使用して生成物を精製し、Agilent Bioanalyzer 2100システムでAgilent高感度DNAアッセイを用いて、これを定量化した。Illumina HiSeq Xプラットフォーム(150bpペアエンドリード、Illumina、California、USA)で、マルチプレックスライブラリーをシークエンスした。チャスティティ(Chastity)フィルターを通過しないクラスターは、下流の解析から除去した。各試料について少なくとも2000万ペアリードを生成した。
【0255】
ローパス全ゲノムシークエンシング。製造業者のプロトコールに従って、TruSeq Nano DNA HT Sample Prepキット(Illumina、California、USA)によって、シークエンシングライブラリーを調製した。最初に、1000ngのゲノムDNAを超音波処理によって350bpに断片化した。次いで、断片を末端修復し、Aテール化し、アダプターライゲーションを行い、続いて、さらにPCR反応を行った。AMPure XPシステム(Beckman Coulter、Beverly、USA)を使用して精製した後、ライブラリーをAgilent 2100 Bioanalyzerを使用してサイズ選択し、リアルタイムPCRによって定量化した。製造業者の標準プロトコールに従って、Hiseq PE Clusterキットを使用したcBot Cluster Generationシステム(Illumina、California、USA)で、インデックスコード化された試料のクラスタリングを行った。次に、150bpペアエンドモデルで、Illumina Hiseq Xプラットフォーム(Illumina、California、USA)でライブラリーをシークエンスした。各試料について少なくとも2000万ペアエンドリードを生成した。
【0256】
SNV/Indel/CNVおよび倍数性コーリング。データの前処理。Trimmomatic51バージョン0.36を使用して、アダプターの塩基および低品質塩基(Phred値<10)をリード末端から除去することによって、および内部に>10%の不明瞭な塩基を有するリードを削除することによって、生のシークエンシングリードを品質管理した。デフォルトパラメーターを用いてxenome52バージョン1.0.1を使用して、マウス配列をフィルタリングした。マップ品質>=40(Phred値)を必要とするmemモデルのもとでBWA53バージョン0.7.15-r11403を使用して、残りのリードをヒト参照ゲノム(UCSC hg19)に対して整列させた。Picardツールバージョン2.15.0(broadinstitute.github.io/picard/)を使用して、PCR重複を除去した。GATK54、55バージョン3.8.04を使用して、indelの近くのリードを再整列させ(GATKパイプライン内にバンドルされたMills_and_1000G_gold_standard indels)、ベストプラクティスプロトコール55に従って、デフォルト設定で塩基品質を再較正した。
【0257】
SNV/Indelコーリング。ソフトウェアManta56バージョン1.3.25および体細胞コーリングモデルのデフォルトパラメーター値を用いたStrelka57,58バージョン2.9.26によって、SNVおよびIndelをコールした。得られたvcfファイルのMantaおよびStrelkaのデフォルトフィルターを通過したSNV/Indelのみを下流の解析で使用した。本発明者らはまた、2つのみの遺伝子型の存在、変異体品質(Phred値)>30、全リード深度>15、オルタナティブアレル深度>5、およびオルタナティブアレル比率>5%を必要とする、より厳しいフィルターを、変異体に対して適用した。また、相当する対応した正常試料が突然変異部位でホモ接合性野生型であることも必要とした。体細胞突然変異をさらにフィルタリングし、27個の正常試料のパネルに基づいて、あり得る生殖系列突然変異を除去した。1000ゲノムデータベースまたはgnomADデータベースにおいて0.01未満のアレル頻度を有する体細胞突然変異も同様に削除した。SNVおよびIndelをANNOVARウェブバージョンでアノテートした。
【0258】
CNVコーリング。GATK59体細胞コピー数変異体コーリングパイプラインバージョン4.0.4.0(gatkforums.broadinstitute.org/gatk/discussion/9143/)を使用して、CNVをコールした。本発明者らは、同じプラットフォームでシークエンスした17個の正常な女性試料を使用して、追加のパラメーター「--ミニマム-インターバル-メディアン-パーセンタイル10.0(--minimum-interval-median-percentile 10.0)」を用いて、正常型のCNVパネル(PoN)を構築した。さらなる解析のために、46709983bpより短いコンティグを除外した。1000Gフェーズ1ハイクオリティSNP(1000G phase1 high-quality SNP)(GATKパイプライン内で構築された1000G_フェーズ1.snps.ハイ_コンフィデンス(1000G_phase1.snps.high_confidence))を使用して、アレル数情報を収集した。セグメント化段階では、本発明者らは、患者に対応した正常試料を使用し、パラメーター「--ナンバー-オブ-スムージング-イテレーションズ-パー-フィット(number-of-smoothing-iterations-per-fit)1--ミニマム-トータル-アレル-カウント(minimum-total-allele-count)15--ウインドウ-サイズ(window-size)7500」を適用した。他の段階は、デフォルト設定を使用した。15未満のSNVを有するセグメントを除外した。コピー比およびアレル割合情報のセグメント化された信頼区間を得た後、コピー比およびアレル割合の一貫性ならびに異なるコピー数(CN)パターンにおけるユニークな特色(例えば、CN1のアレル割合=0または1、CN3のアレル割合=0.33または0.66)を考慮することによって、絶対アレルコピー数を推測し、手動でキュレーションを行った。手短に言えば、GATKパイプラインからセグメント化されたコピー比(sCR)およびアレル割合(sAF)の結果を生成した後、CN0領域が、周辺領域の増幅にかかわらずシークエンシングリードを有さないこと、CN1領域がホモ接合性であること、およびCN2領域の一部がヘテロ接合性を示すことの期待値に基づいて、それぞれのバレットクローン、異形成クローン、およびEACクローンにおける生殖系列のヘテロ接合性部位での生のシークエンシングリードのゲノムワイドな解析によって、CN0(コピー数=0)、CN1、およびCN2領域について絶対コピー数を最初に決定した。次いで、均等に分布されたコピー比ピークおよび各ピークの明瞭に分離された信頼区間、ならびにsAFパターンとのその一貫性に基づいて、絶対コピー数の整数をCN3、CN4、CN5などに割り当てた。例えば、異形成クローンD1-5では、sCRパターンの一様な間隔(ほぼ0.35)を考慮して、リードを欠く位置R5にCN0を、ホモ接合性によりR8にCN1を(sCR=0.35、sAF=0.00/0.99)、ヘテロ接合性の理由でR6にCN2を(sCR=0.71、sAF=0.48/0.51)、R2にCN3を(sCR=1.05、sAF=0.32/0.67)、R1にCN4を(sCR=1.34、sAF=0.24/0.75)、R9にCN5を(sCR=1.71、aAF=0.40/0.59)割り当てた。デフォルトパラメーターを用いてABSOLUTE37アルゴリズムによって、CNVの結果をさらに確認した。ABSOLUTEの出力の最良モデルの選択において、本発明者らは、各コピー数ピークが整数未満でなければならないこと、コピー数に対する最下部ピークがゼロに近くなければならないこと、データが単一細胞由来のクローンから得られたので、倍数性値が1に非常に近く(>0.95)なければならないことを必要とした。これらの判定基準を満たす最上位のモデルを最良モデルとみなした。
【0259】
倍数性コーリング。コピー数プロファイルを得た後、各セグメントの絶対コピー数をゲノムの長さのその比率に掛け、倍数性数として、得られた積を合計した。
【0260】
体細胞突然変異の系統樹作成および順序づけ。StrelkaによってすべてのWESデータから特定された、フィルターを通過した体細胞SNVの三元遺伝子型を系統樹作成で使用した。正常試料(例えば、対応した血液または線維芽細胞)の遺伝子型をアウトグループとして加えた。系統樹は、進化の有限サイトモデルのもとで最尤(ML)系統樹を推測するために発見的探索アルゴリズムを用いるSiFit60によって構築した。イテレーションの数は10000に設定した。系統樹構築段階において系統樹を学習する間にSiFitによって報告された偽陰性率、欠失率、およびLOH率に基づいて、系統発生の枝における体細胞突然変異の順番を推測するために、SiFitの「InferAncestralStates」プログラムを使用した。
【0261】
クローン性解析。各系統が単一細胞由来であったことを確実にするために、各試料において特定された体細胞突然変異の変異体アレル割合(VAF)の分布を解析した。モノクローナル系統については、二倍性(2n)系統のVAFは約50%に分布するはずであり、三倍性(3n)系統は約0.33および0.66のVAFを有すると考えられる。ポリクローナル系統については、体細胞突然変異の多くは、0.5未満のVAFを有するはずである。ポリクローナル系統は、さらなる解析から除外した。
【0262】
発現解析。マイクロアレイ解析のために、未成熟の幹細胞コロニーから全RNAを抽出した。WT Pico RNA Amplification System V2およびEncore Biotin Module(NuGEN Technologies、CA、USA)を使用して、RNAを増幅した。すべての試料は、製造者の指示書に従って調製し、GeneChip Human Exon 1.0 STアレイ(Affymetrix、CA、USA)上にハイブリダイズさせた。GeneChipオペレーティングソフトウェをすべてのCelファイルを処理するために使用し、Affymetrix Expression Consoleソフトウェアをマイクロアレイデータの品質管理解析のために使用した。遺伝子発現解析は、Partek Genomics Suite 6.6(Partek Incorporated、USA)を使用して行った。すべてのプローブ強度値を正規化し、log2変換した。差次的に発現している遺伝子を特定するために、一元配置ANOVAを行った(カットオフ値:log2倍率変化>1.5およびp<0.05)。すべての比較はペアワイズ方式で行い、各比較由来の遺伝子セットをオーバラップさせ、各試料についてユニークな遺伝子シグネチャーを選択した。教師なしクラスタリングおよびヒートマップの生成は、平均連結クラスタリングに基づくユークリッド距離によって、ソートされたデータセットを用いて行い、主成分分析(PCA)マップは、すべてのプローブセットを使用して作成した。パスウェイエンリッチメント解析は、Enrichr61を使用して行った。
【0263】
結果
患者に対応した病変からのクローン原性細胞。バレット、異形成、および食道腺がんの隣接領域からの一連の1mmの内視鏡生検材料を、初期食道腺がんの疑いがある療法未経験患者から得た(
図1a)。各生検材料を分離して、100,000~500,000個の上皮細胞を得て、照射された3T3-J2線維芽細胞の叢(lawns)上にこれをプレーティングして、10日間の増殖後、100~500個の上皮性コロニーのライブラリーを生成した
15、29、30。これらの生検材料からの上皮細胞のプレーティング効率は、これらの細胞の1:1,000~1:5,000が本培養系でコロニーを形成することができることを示し、これは、正常な腸粘膜からのクローン原性細胞のものと類似した数であった
29。これらのライブラリーからの単一細胞由来クローンは、384ウェルプレートへのフローソーティングによって得て(
図1b)、少なくとも1年間個別の株として増殖することができ(
図1c)、クローン形成能は25~50パーセントであった。これらのクローンをさらに特徴づけるために、3次元(3D)の上皮を生成することが公知である気相液相界面(ALI)培養
27でそれらの分化を誘発した(
図1d)。バレット生検材料からのクローンは、高いかまたは中程度のいずれかの細胞極性を特徴とする腸上皮化生を生じさせたが、異形成クローンおよびEACクローンは、増殖マーカーKi67のレベルがより高く、細胞極性の全体的な喪失がある、密に細胞化した上皮に分化した。非常に免疫不全の(NODscid IL2rg
ヌル;NSG)マウス
29へのこれらの同じクローンの移植は、バレット食道、異形成、および食道腺がんの組織学的特徴を有する小結節をもたらした(
図1e)。異形成幹細胞とEAC幹細胞の両方からALIで生成した上皮において極性がないにもかかわらず、EACクローンのみがこれらのマウスで侵襲性腫瘍を形成し、一方で、異形成クローンはより緩徐進行性の嚢胞様小結節を形成した(
図1e~f)。
【0264】
クローン間異種性およびクローンのゲノム安定性。これらの病変特特異的幹細胞ライブラリー内および該ライブラリーの全体にわたってクローンの異種性を評価する目的で、拡大およびローパス全ゲノムシークエンシング(lpWGS;平均1.6×のカバー度;
図2a)のために症例1から76個の単一細胞由来クローン(食道6個、バレット20個、異形成19個、およびEAC32個)を選択した。コピー数比プロファイルの精査によって、食道クローンはCNVを欠くが、バレットクローン、異形成クローン、およびEACクローンはすべて、複数の、多くの場合類似したCNVイベントを示すことが示された。特に、今後は「進行性バレット」または「BE2」症例1とみなされるバレットクローンのサブセットは、一部の形成異常クローンおよびすべてのEACクローン中にも存在する、Chr.5、10、17、および21に影響するCNVイベントを示した(
図2a)。これらのクローン間の潜在的な関係をより詳細に調べるために、全エキソームシークエンシング(WES、平均120×のカバー度;
図2b)用に、これらの76個のクローンのうちの35個をサンプリングした。これらの35クローンの一塩基多様性(SNV)解析によって、約0.5あたりを推移しているアレル頻度が示され、これは、単一細胞からのこれらのクローンの誘導と矛盾がない(
図2c)。重要なことに、本発明者らは、バレット、異形成、およびEACの特定の生検材料からのクローンが内部に持っている大抵の同義および非同義突然変異が、同じ生検材料から独立に得られたクローンの間で共有されていることを見出し、これは、これらの突然変異が生検材料の細胞に先在していたという概念を支持するものである(
図2d)。類似した結論が、別個の病変由来のクローン、および多くの場合別個の病変の全体にわたるクローンに共通している、これらのクローンで見られる主要なCNVイベントにあてはまる(前掲書、
図2a~b)。
【0265】
これらのクローンは患者の生検材料中の新生物細胞の突然変異プロファイルを正確に反映するように思われたが、癌の公知のゲノム不安定性
32-34が、長期の増殖にわたって、これらのクローンのプロキシ値を下げるかどうかはあまり明らかではなかった。この関連で、本発明者らは、一部の異形成クローンおよびすべてのEACクローンが、複雑な再編成および転座を特徴とする、16番染色体のクロモスリプシスイベントを示すことに注目した(例えば、
図2b)
35~36。このクロモスリプシスイベントは、ゲノム不安定性のセンチネルであり得ると仮定して、患者中で数年の違いでおそらく分岐した1つの形成異常クローン(A1S-12)および1つのEACクローン(D1-1C)の全ゲノムシークエンシング(WGS、40×のカバー度)プロファイルを調べた
37、38。注目すべきことに、これらの2つのクローンのWGSからアセンブルされた16番染色体の構造はほとんど区別不能であった(
図2e)この発見から、本発明者らは、インビトロでの大規模な増殖の全体にわたる、およびマウスにおける異種移植片としての、症例1クローンの全体的なゲノム安定性を疑問視した。この問題に取り組むために、本発明者らは、個々のクローン(例えば、EACクローンC1-D1-6)のゲノムプロファイルが、インビトロでの連続的な継代の間に、および免疫不全マウスにおける異種移植片として6週間後に、複数の細胞分裂にわたってどのように変化するかを検討した(
図2f~g)。インビトロ培養の個別の継代において、および異種移植片における腫瘍形成後、クローン原性細胞のライブラリーの生成を通じて、および単一細胞へのフローソーティングによって、細胞を再クローン化した(
図2f)。得られたサブクローンからDNAを収集し、これを、WES(142×のカバー度)に供した。驚いたことに、異形成クローンとEACクローンの両方は、インビトロまたは異種移植片のインビボでの増殖の間のいずれにおいても、アームレベルの点でも染色体全体の点でも消失も獲得もほとんど示さなかった(
図2i)。加えて、これらのクローンは、インビトロでの長期の継代後でも、インビボでの異種移植片としても、エクソン内の単一ヌクレオチドレベルで最小限の変化しか示さず、開始時の82個の非同義SNPの完全な保存があり、50日の培養で平均7個のSNPの獲得があり、41日のマウスにおける腫瘍増殖の間に6個のSNPの獲得があった。これらのデータは、異形成クローンおよびEACクローンが、正常な胃腸幹細胞のものと同様のゲノム安定性を示したこと
27、およびこれらのクローンが、全体として、疾患のゲノミクスを反映することを示唆するものである。
【0266】
癌へのクローン系統発生。バレットクローンと異形成クローンとEACクローンの間の進化的関係を評価するために、35クローンのWESデータからの679個の体細胞SNV(アレル頻度>0.2)に基づいて、症例1のWESデータを用いて、35クローンの全体にわたって系統発生解析を行い(
図3a~b)、予想通り、これらの多くは、約0.5の変異体アレル割合(VAF)を有するヘテロ接合性突然変異であった(
図3b)。系統樹で得られた6クレードによって、この患者において最終的に腫瘍につながった「インライン」クレード(BE1、BE2、DYS1、およびEAC2)ならびに提示腫瘍に寄与しなかった1つの追加的なクレード(DYS2)に進化する共通の祖先が示唆された。バレット食道と関連するp16およびARID1A突然変異
9に加えて、BE1クローンは、より進行した「BE2」クローンに伝達される49個の体細胞由来のコード変更突然変異(CAM;非同義SNV、ストップゲイン、およびindel)、ならびにBE2クローンの生成後にBE1クローンが獲得した多くの他のものを内部に持っていた。本発明者らはまた、すべてのBE2、DYS、およびEACクローンにおけるERBB2遺伝子座の増幅(
図3c~d)におけるERBB2遺伝子座の増幅(
図3c~d)、ならびに4つのBE1クローンのうちの1つと同じ切断点を有するもの(B1-2:6×のERBB2増幅)に注目した。BE2クローンは、明らかにより悪い突然変異プロファイルを示した。異形成クローンにインラインで最終的に伝達された、BE2クローン中の変化の中には、p53突然変異(ストップゲイン/欠失)、14コピーへのERRB2遺伝子座のさらなる倍率増幅、27個の追加的なCAM、および592遺伝子に影響をおよぼす15個の追加的なCNVイベントがあった。BE1からの49個のCAMおよびBE2からの27個のCAMに加えて、インライン異形成(DYS1)クローンは、16番染色体(Chr16)に影響するクロモスリプシスイベントの発生を示し、追加的な28個のCAMおよび214遺伝子に影響する8個の新しいCNVイベントを獲得し、それらすべては、EACクローンに伝達された。最終的に、異形成からEACへのインライン移行は、わずか5つの追加的な非同義突然変異、35~40コピーへのERRB2遺伝子座のさらなる増幅、および53遺伝子に影響をおよぼすわずか1つの新しいCNVイベントをともなった。重要なことに、すべてのクローンは、BE1祖先で見出された49個のCAMのうちの42個を共有しており、これは、前駆体クローンと解析した16個のEACクローンの間の関連を強調するものである。DYS2クレードのクローンはこの患者において腫瘍を生じさせなかったが、多くの他の遺伝子と同様に、p53、ARID1A、ARIDB、ERBB2を含むそれらの突然変異プロファイルは、進行に対するそれらの可能性を強調する。
【0267】
食道腺がんの第2の症例から、463個の体細胞SNVに基づいて、ライブラリーからサンプリングした45クローンの間の系統発生的関係を決定した(
図4a~b)。この解析によって、症例1で見られたBE1、BE2、DYS、およびEACクレードに対応し、症例2のBE1で特定された42個のCAMのうちの35個の絶対的な存在によって関連づけられた、4つのインラインクレードが示された。症例1と同様に、BE1クローンは、p16の両アレルの消失、ARID1A中の非同義突然変異、および41個のCAMを示し、それらすべてはBE2に伝えられた。症例1のように、進行性バレット(BE2)への移行は、p53中の突然変異(ストップゲイン/欠失)およびERBB2の活性化をともない、後者は、非同義(G776V)
37突然変異による。加えて、症例2のBE2は、追加的な44個のCAM、および720遺伝子に影響する21個の中間部(interstitial)CNVイベント(
図4a~d、
図5b)を獲得し、それらすべてはDYSクローンに伝えられた。症例2における異形成への移行は、症例1と同様に、クロモスリプシスイベントの発生(Chr.8)、ならびに1013遺伝子に影響する38個のCAMおよび9個のCNVイベントの獲得をともなう。症例1と異なり、症例2における異形成は、ゲノム重複イベントを特徴とし、これは、50%を超えるEACに共通している現象である
40,42。異形成におけるこれらの突然変異はEACに伝達されたが、EACへの移行は、追加的なCAMがないこと、および494遺伝子に影響をおよぼす6個のCNVイベントのみの獲得のために、注目すべきことであった。
【0268】
発癌におけるBE2および閾値。詳細なクローン原性解析はEACの2つの症例に限定されるが、BE1、BE2、DYS、およびEACクローンからの移行で見られた類似点は、おそらく臨床的相関があるパターンを示唆する(
図5a~b)。例えば、バレット食道は、西洋諸国おいて、個体の推定1~3%に共通の臨床的な所見であり、さらに、無併発性のバレットのEACへの進行の危険性は低い(1年あたり約0.1%)
1、42。これに対して、形成異常性バレットを有する個体は、EACの進行の非常に高い危険性(約10%/年)を示し、本所見により、ラジオ波焼灼術(RFA)または内視鏡的粘膜切除術(EMR)の形で即時介入が行われる
1、35、38。バレット食道の臨床的リスク評価は、BE1クローンの挙動および突然変異プロファイル(非腫瘍形成性;野生型p53、増幅した癌原遺伝子がない)と矛盾がない。同様に、形成異常性バレットと関連する高い危険性は、DYSクローンの突然変異プロファイル(他の変化とともに、突然変異型p53、複数の癌原遺伝子の増幅、クロモスリプシスイベント)ならびにDYSクローンをEACクローンと区別するごくわずかな変化と矛盾がない。
【0269】
危険性の低いバレット食道および危険性の高い異形成とは別に、進行の前兆として「低悪性度異形成(LGD)」および「異形成の不確定要因(indeterminant)」として公知である組織学的中間体の存在に多くの臨床的関心がある。LGDについての観察者間の一致は低い可能性があるが、LGDは、異形成およびEACへの進行の危険性が増大する(0.4~13.4%/年)という一般的な意見の一致がある43、44。本明細書で調べた両方のEAC症例から特定されたBE2クローンは、LGDと矛盾なく、3D培養における分化の際に極性の部分的な消失を呈し、BE1よりもさらに進行するその危険性をおそらく増大するであろう突然変異プロファイル(p53突然変異、ERRB2増幅、または突然変異的活性化、複数のCAMおよびCNVイベント)を示す。LGDの検出に役立ち得るBE2バイオマーカーを特定するために、BE1(BE1-5)クローンおよびBE2(BE2-8)クローンによって形成された3D上皮の全ゲノム発現プロファイルを比較した。これらのデータのボルケーノプロットによって、BE1上皮は、バレット食道の公知のマーカー(例えば、TFF1、TFF2、およびTFF3、SPINK1およびSPINK4、ならびにCLDN18)を発現するが、BE2上皮は、増幅された遺伝子座中のものを除いて、数ある中でも、NRCAM、CEACAM6、CDH17、PTPRS、およびFABP1を含めて、数々の遺伝子を発現することが示される。本発明者らは、そのようなバイオマーカーのパネルは、バレット食道の患者の危険性を層別化するために、BE1クローンの領域においてBE2クローンを検出するのに役立ち得ると予測する。
【0270】
前駆体幹細胞に対する小分子スクリーニング。バレット食道がEACの必須の前駆体であることを考えて、本発明者らは、予防的療法のための概念実証の糸口(leads)を特定するために、BE1幹細胞をハイスループットスクリーニングプラットフォームに適合させた。小分子コレクションに対する、384ウェルプレートおけるBE1と正常な食道幹細胞の並行スクリーニングによって、非対角の一連の非対角ノミナルヒットが得られ、それらの多くは、BE1幹細胞に対して差次的致死性を示した。しかし、これらの分子の中の最も優れたものは、用量応答アッセイの際に、正常な食道幹細胞と比べて20倍のIC50の優位性があることを示した。スクリーニングのプロセスにおいて、本発明者らは、正常な食道幹細胞の増殖を増強するが、標的BE1幹細胞の増殖をごくわずかにしか阻害しない、いくつかの化合物に注目した。8症例からのバレット食道幹細胞のスクリーニングの全体で、本発明者らは、これらの食道幹細胞「促進因子」の最も優れたものとして、チロシンキナーゼ阻害薬ポナチニブ45を特定した。本発明者らは、ポナチニブの存在下でBE1および正常な食道幹細胞を再スクリーニングして、BE1幹細胞を効果的に阻害するが、食道幹細胞には危害を加えない新しい一連のヒットを得た。これらのうちの1つ、SM-164は、カスパーゼ媒介性細胞死を調節することが公知である47一連の8つのIAPタンパク質のうちの1つであるXIAPの阻害薬である。ポナチニブと組み合わせて、SM-164は1nM未満のIC50でBE1幹細胞を効果的に排除し、正常な食道幹細胞に対しては最小限の影響しかない。食道末梢部におけるBE1と正常な食道幹細胞の間の相互作用を模倣する可能性がある、BE1と正常な食道幹細胞の共培養において、この薬物の組み合わせは、BE1細胞を選択的に排除し、一方で、正常な食道幹細胞の拡大を促進する。
【0271】
BE1幹細胞に対するSM-164/ポナチニブの組み合わせの有効性を考量して、本発明者らは、より進行したBE2、DYS、およびEAC病変の幹細胞に対して何らかの効果を有するかどうかを問うた。注目すべきことに、これらの化合物は、BE1に対するその効果について特定されたにもかかわらず、該組み合わせは、BE1からEACの全系列に対して類似した有効性を示した。
【0272】
考察
本研究は、正常な粘膜幹細胞の単一細胞のクローン化のための技術を、食道腺がんの発癌に関与する、患者に対応した複数の病変に適用した。高いクローン形成能、無限の増殖能力、ならびにインビトロとインビボの両方でのそれぞれのBE1、BE2、DYS、およびEAC病変への絶対的運命拘束を含めて、これらの病変からクローン化された細胞の顕著な特色によって、癌幹細胞の概念が、発癌におけるすべての病変に対して一般化される15、46、47。これらの細胞によってもたらされたクローン解析によって、これらのクローン中に存在する単一ヌクレオチドおよびコピー数変動イベントの大多数は、患者の病変に先在しており、これらの細胞が培養へ適応した結果ではなかったことが示される。さらに、インビトロでの連続継代およびインビボでのクローン腫瘍をともなう大規模な増殖を通じて個々のDYSおよびEACクローンを追跡することによって、CNVとSNVの両方レベルにおいて、それらの計り知れない、予期しないゲノム安定性が明らかになる。これらの特色によって、これらの患者に対応した前駆病変と何年も、さらには何十年もかけておそらく発達した提示腫瘍との間の系統発生的関係の高精度アセンブリーが可能になった。詳細に評価した2つのEAC症例において、この解析によって、BE1から発達し、DYSクローンを生じさせた幹細胞の個別のクレードが明らかになった。「BE2」と呼ばれるこの中間体は、多くの他の単一ヌクレオチドおよびコピー数の変動イベントに加えて、p53の消失およびERBB2活性の獲得によって、BE1クローンと区別され、高悪性度異形成およびEAC1への進行の危険性の増大と関連する「低悪性度異形成」の臨床実体におそらく相当する43、44。これらのBE1およびBE2クローンの遺伝子発現プロファイルについての本発明者らの比較によって、これらの2人の患者の間で遺伝子の共通のパネルが特定され、その発現が、異形成およびEACへの進行の危険性があるバレット食道を有する患者の特定を支援し得る。BE1、BE2、DYS、およびEACクレードの全体にわたるインライン突然変異プロファイルの検査によって、BE1からBE2およびBE2からDYSへの主要な変化が明らかになったが、DYSからEACへの変化はごくわずかであり、後者は、新しいコード変更突然変異は少数であり、CNVイベントはほとんどまたはまったくないということになった。全体的に見て、移行のそれぞれにおける突然変異プロファイルの規模および特異性は、BE2ステージが一旦達成されれば、DYSおよびEACへの引き続く移行は、次第に可能性が高くなると思われることを示す。これらの発見は、バレット、特にBE2の初期スクリーニング、およびこれらの病変の個別の幹細胞集団を標的にする治療剤の開発を支持する。最後に、本研究でクローン化した幹細胞クローンは、それらが由来した病変の将来の再生性増殖におそらく必須であり、したがって、予防的治療剤と事後治療剤の両方に対する適切な標的に相当する。
【0273】
本明細書において開示および主張される方法のすべては、本開示に照らして、必要以上の実験をしないで、作製および実行することができる。本開示の組成物および方法は、好ましい態様の観点から記載されているが、本開示の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法に、および該方法の段階または一連の段階に変形を適用することができることは、当業者に明らかであろう。より具体的には、同じまたは類似した結果が達成される限り、化学的および生理的の両方に関連するある特定の作用物質を本明細書に記載される作用物質の代わりに用いることができることは明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような類似した置換および修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨、範囲、および概念の範囲内にあるとみなされる。
【0274】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に記載されるものを補う例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する範囲において、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【0275】
【0276】
【国際調査報告】