(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】電解研磨用電解質媒体及びそれを用いた電解研磨方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/16 20060101AFI20241018BHJP
B23H 5/00 20060101ALI20241018BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241018BHJP
【FI】
C25F3/16 D
B23H5/00 F
B24B37/00 H
B24B37/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024523634
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 ES2022070649
(87)【国際公開番号】W WO2023067214
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518360830
【氏名又は名称】ドライライテ エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】サルサネダス ジムペラ マルク
(72)【発明者】
【氏名】リウ ペルドリックス ギオマー
(72)【発明者】
【氏名】ロア ロヴィラ ジョアン ジョセプ
【テーマコード(参考)】
3C059
3C158
【Fターム(参考)】
3C059AA03
3C059GA07
3C059GC01
3C158AA07
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA12
3C158ED08
3C158ED26
3C158ED28
(57)【要約】
電解研磨用電解質媒体及びそれを用いた電解研磨方法を開示する。前記電解研磨用電解質媒体は、液体を保持する能力を有する固体粒子と、前記固体粒子に保持される水と、非導電性液体と、を含み、一連の前記固体電解質粒子は、電位差が印加される場合に測定可能な電気伝導率を有する。前記方法は、研磨される表面に電源により電気的接続性を与えるステップAと、前記表面を前記固体電解質粒子を含む電解質媒体に接触させるステップBと、研磨される前記表面と前記固体電解質粒子との相対運動を生じさせるステップCと、電源が前記表面と電極の間の1つ又は複数の電位差を印加する一方、両方が一連の前記固体電解質粒子に接触するステップDを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持する能力を有する一連の固体粒子と、
前記固体粒子に保持される水と、
前記固体粒子を被覆する、混合しない非導電性液体と、を含み、
前記固体粒子が接触するか又は1つの固体粒子が研磨されるワークピースに接触する場合、非導電性液体が運動することにより、前記固体粒子間又は1つの前記固体粒子と研磨されるワークピースとの間の電気伝導性が得られる、ことを特徴とする金属-金属、セラミック-セラミック、及び金属-セラミック無機複合導電性材料の電解研磨用固体電解質媒体。
【請求項2】
前記非導電性液体は、研磨されるワークピースの少なくとも一部を被覆する、ことを特徴とする請求項1に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項3】
前記非導電性液体は、液体シリコーンを含む、ことを特徴とする請求項1~2のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項4】
前記非導電性液体の粘度が25℃で1~20cPである、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項5】
質量割合は、
固体粒子が45~80質量%であり、
水が20~55質量%であり、
非導電性液体が0.01~10質量%である、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項6】
前記固体粒子は、イオン交換樹脂、カチオン樹脂、アニオン樹脂、又はキレート樹脂を含む、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項7】
前記イオン交換樹脂は、スチレンとスルホン化ジビニルベンゼンのコポリマーを含む、ことを特徴とする請求項6に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項8】
前記固体粒子は、略球状であり、粒径分布が0.05~1mmである、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電解研磨用電解質媒体、すなわち、金属-金属、セラミック-セラミック、金属-セラミックの導電性無機複合材料の乾式研磨方法であって、
研磨される表面に電源により電気的接続性を与え、電解質媒体に電極により電気的接続性を与えるステップAと、
研磨される前記表面を請求項1~8に記載の電解質媒体に接触させるステップBと、
研磨される前記表面と固体電解質粒子との相対運動を生じさせるステップCと、
研磨される前記表面と電極との間の1つ又は複数の電位差を電源に印加するステップDと、を含み、
研磨される表面-電解質媒体-電極-電源という電源回路に電流が流れる、ことを特徴とする研磨方法。
【請求項10】
前記ステップDは、
研磨される前記表面に、正電圧を特定の時間印加すること、及び負電圧を別の特定の時間印加することを少なくとも含む、可変電圧を印加するサブステップD1と、
研磨される前記表面に0から負値の電圧、電極に0から正値の電圧を一定又は可変的に印加するサブステップD2と、を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の電解研磨用電解質媒体。
【請求項11】
前記ステップD1は、0.01~5秒続き、
電圧が0であり、時間長が0.1~100マイクロ秒であるt1と、
電圧が+5~+100Vであり、時間長が1~100マイクロ秒であるt2と、
電圧が0であり、時間長が0.1~100マイクロ秒であるt3と、
電圧が-10~250Vであり、時間長が1~100マイクロ秒であるt4との4つの時間に分けて波を印加する、ことを特徴とする請求項10に記載の電解研磨方法。
【請求項12】
前記ステップD2は、0.01~10秒続き、整流交流負電流を印加する、ことを特徴とする請求項10に記載の電解研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書の表題のように、電解研磨用電解質媒体及びそれを用いた電解研磨方法に関し、以下に詳細に説明される、現在の最先端技術の改善を意味する利点及び特徴に寄与する。
【0002】
〔発明の目的〕
本発明は、無機複合材料の異なる構成要素(constituents)を均一に除去して、完全な平坦度(サブマイクロメートルオーダーの粗さ)を得ることができるとともに、一部の構成要素に局部腐食(localized corrosion)が生じない、電解質媒体、及びそれを用いた、無機複合導電性金属-金属材料、セラミック-セラミック材料及び金属-セラミック材料の電解研磨方法を目的とする。
【0003】
本発明の適用分野は、表面処理、すなわち、導電性表面の電解研磨の工業分野に属し、切削工具及び穿孔工具の工業分野に直接適用され、限定されないが、例えば、医療、航空、歯科、自動車等の異なる分野に適用される。
【背景技術】
【0004】
無機複合金属-金属材料、セラミック-セラミック材料、金属-セラミック系材料は、産業関連性が大きく、いくつかの異なる相を示し、物理的特性、化学的特性、機械的特性、電気化学的特性を有する。
【0005】
従来の電解研磨によって上記材料の表面を研磨したい場合、異なる相が同じ方法(一部の相に選択的化学的浸食(attack)を引き起こす)及び同じ速度で浸食されないため、動作条件にばらつき及び技術的課題が生じる。
【0006】
産業関連性のより高い無機複合材料の1つは、硬質金属として知られる超硬合金であり、ウィディア(widia)「ドイツ語のウィディア」、金属炭化物、炭化タングステン、超硬合金等とも呼ばれる。それは、最終材料に優れた硬度及び耐摩耗性を提供する炭化タングステン(TC)の硬質セラミック粒子が不均一に分布している複合材料である。上記硬質セラミック粒子は、コバルト(Co)金属マトリックスに埋め込まれて、それらの破壊靱性(fracture toughness)が向上する。
【0007】
上記全てのことにより、全体として、それが耐熱材料であるため、商業用途のラジアルディスク、ドリル、オウル(awls)、ダイスタンプ(die-stamping)等の切削工具及び穴開け工具(drilling tools)と、TC-Co(英語では、ヌード(nude))と、コーティングに使用される基材として使用されたものと(ant)に有用であるという事実により、上記材料は、不必要な摩擦を回避するために表面の粗さが小さいことが要求され、これにより動作条件下でその耐用年数を延長することができる。TCは、極端な硬度を有するため、研磨材(abrasives)で研磨しにくい材料である。この材料を化学的又は電気化学的に研磨しようとする場合、金属結合材とセラミック粒子との機械的特性の違いにより、均一に研磨しないため、両方の構成要素の研磨の程度が異なる。同様に、研磨液のpH又は電気化学プロセスに用いられる媒体のpHにより、金属結合材に選択的浸食が生じることにより、研磨される材料の表面層に金属結合材が完全に溶解する。上記現象は、「浸出(leaching)」として知られ、その機械的特性を顕著に低下させ、また、動作条件下でTC-Coの耐用年数を低下させる。
【0008】
その他の無機セラミック-金属複合材料、例えば(Ti、Ta)TC-Co、(C、N)Ti-FeNi等に同じ問題がある。
【0009】
したがって、上記全てのことにより、超硬合金及びその他の類似のセラミック-金属無機複合材料を機械的特性、物理的特性及び化学的特性が表面レベルで変化しないように処理できる研磨プロセスが工業的に求められる。
【0010】
最近、同一出願人は、ガス環境下での固体電解質粒子からなる電解質媒体を用いた新しい乾式電解研磨技術を開発した(ES201630542)。これにより、粗さが小さく、鏡面仕上げの結果を得ることができる。このプロセスに用いられる粒子は、それぞれが異なる金属の研磨に適する、フッ酸(ES201630542)、硫酸(ES201830074)、スルホン酸(ES201831092)、塩酸(ES201831093)等の酸性導電性溶液を保持するポリマーを含む。
【0011】
しかしながら、これらの組成物には、一連の制限がある。
-粒子は、金属表面に酸性滲出物(acid exudates)を生成し、酸性滲出物が大気酸素とともに、制御不能な酸化、跡(marks)、孔食(pittings)等を引き起こす。
-媒体は、粒状材料として動作し、運動(移動、mobility)が制限され、機械抵抗が高いため、繊細なワークピースを研磨することができない。
-金属-セラミック無機複合材料、例えば、炭化タングステンでは、表面により近接して位置する金属結合材を優先して除去する(浸出)。
【0012】
該当分野の専門家にとって、上記制限に対する明らかな解決策は、電解研磨プロセスの電気的パラメータを変化させるか、又は酸濃度を低下させ、つまり、媒体の酸性度を低下させるということである。これは、一部の上記制限を部分的に改善することを意味するが、質的な飛躍を示すことではない。
【0013】
このため、無機複合材料の乾式電解研磨のための新しい方法と効果的な電解質媒体が工業的に求められ、特に金属-セラミック炭化タングステンが重要である。
【0014】
本発明は、金属-金属、セラミック-セラミック、金属-セラミック導電性無機複合材料の電解研磨の問題を解決する。上記材料は、いくつかの相を示し、物理的特性、化学的特性、機械的特性、電気化学的特性が異なる。従来の電解研磨では、異なる相が同じ速度で侵食されないため、構成要素間の局所的な粗さが異なり、また、動作条件に関与する材料の技術的課題がある。
【0015】
固体電解質粒子を用いた乾式電解研磨には、いくつかの制限があり、例えば、滲出物を生成し、運動不足の粒状材料がその無機複合材料における使用を制限する。
【0016】
したがって、本発明は、無機複合材料の異なる構成要素を均一に除去して、完全な平坦度(サブミクロンオーダーの粗さ)を得るとともに、一部の構成要素に局部腐食が生じない、新しい電解質媒体及び方法を目的とする。したがって、本発明により、現在の乾式電解研磨の制限を克服することが求められている。
【発明の概要】
【0017】
本発明が提案する電解質媒体及びそれを用いた電解研磨方法は、上記目的に対する適切な解決策として構成され、それらを区別する特徴的な詳細は、本明細書に添付された最終的な特許請求の範囲に記載されている。
【0018】
より具体的には、本発明が提案するものは、前述したように、一方では、電解研磨に適用可能な電解質媒体に関し、他方では、上記固体電解質媒体を用いた無機複合材料の電解研磨方法に関する。
【0019】
したがって、金属-金属、セラミック-セラミック、及び金属-セラミック導電性無機複合材料の電解研磨用電解質媒体は、その最小限の実施形態(minimum embodiment)において、
液体を保持する能力を有する一連の固体粒子と、
前記固体粒子に保持される水と、
前記固体粒子を被覆する、混合しない非導電性液体と、を含み、
2つの固体粒子が接触するか又は1つの固体粒子が研磨されるワークピースに接触する場合、非導電性液体が運動することにより、前記固体粒子間又は1つの前記固体粒子と研磨されるワークピースとの間の電気伝導性(電気伝導率、electrical conductivity)が得られる。
【0020】
粒子を被覆する、混合しない非導電性液体は、2つの接触する粒子間、又は、粒子と研磨されるワークピースとの間に形成される水性ブリッジ(aqueous bridges)が、空間内により集中し、より強固になることを引き起こす。
【0021】
これにより、本発明の電解質媒体は、電気化学的活性が、関連する液体が実質的に中性であること、混合しない非導電性液体が研磨される表面に保護効果を生み出すことにより、腐食作用を回避することなどのいくつかの理由により非常に抑制されるため、酸性滲出物を生成せず、金属結合材を優先して侵食しない。
【0022】
本発明の電解質媒体は、処理されるポリマー表面接触領域への作用(滲出物による作用ではなく)を抑制し、粗さのピークの幾何学的選択性を高める。
【0023】
また、固体電解質粒子の表面の混合しない非導電性液体は、粒状材料の運動性を向上させるが、驚くべき、かつ予期せぬ方式で固体電解質粒子間の導電性を阻害しない。
【0024】
固体粒子の内部には、本質的に刺激性の(aggressive)液体が保持されず、内部に水が含まれる固体粒子は、高分子電解質として機能するため、電解質媒体の電気伝導率及び化学的活性を保証する(確保する、ensuring)。
【0025】
要約すると、本発明は、固体電解質粒子の化学的活性、導電活性及び幾何学的活性を抑制して高レベルの選択性を達成し、無機複合材料と同じくらい複雑な系を研磨することができる。
【0026】
粒子の数に対する混合しない非導電性液体の量は、電解質媒体の状態を決定する。以下、2つの極端な状況について詳細に説明し、任意の中間の状況でも使用することができる。
【0027】
典型的な状況において、電解質媒体は、粒子の表面を被覆するために必要な最少量の混合しない非導電性液体を含む。したがって、媒体は、粒状材料として動作し、粒子間の隙間に空気(又は別のガス)が入っている。この粒状電解質媒体は、混合しない非導電性液体の潤滑剤作用(lubricant effect)により運動性が高いという利点がある。また、研磨される表面に接触することにより、この部分も混合しない非導電性液体によって被覆され保護される。
【0028】
一方、電解質媒体は、粒子間の隙間を充填するために必要な量よりも多くの混合しない非導電性液体を含むため、媒体は、流体として動作する。この媒体を液体ポンプシステムにより移動し、搬送しやすくなる。より多くの混合しない非導電性液体を有するため、研磨される表面に対する保護がより確実に確保される。
【0029】
好ましい実施形態において、非導電性液体は、研磨されるワークピースの少なくとも一部を被覆する。
【0030】
研磨される金属の表面を被覆し、好ましくはキャビティ(cavities)及びウェル(wells)に蓄積される非導電性液体は、表面を保護し、孔食を回避する。
【0031】
好ましい実施形態において、混合しない非導電性液体は、液体シリコーンである。シリコーンは、非導電性、熱的に安定で、化学的に不活性であるため、その使用に便利である。また、シリコーンは、粘度範囲が広いため、異なる実施形態に適切なものを選択することができる。
【0032】
本明細書では、電圧、電位差、及び「張力(tension)」は、同義語として使用され、同じ概念を定義する。
【0033】
以下、前述の固体電解質媒体の各構成要素の特徴を説明する。
【0034】
〔固体粒子について〕
固体粒子は、気孔、浸透、吸収、層間吸着等の保持機構に関わらず、液体を保持する必要がある材料である。
【0035】
保持機構が気孔(多孔性、porosity)である場合に、ミクロ気孔、メソ気孔、マクロ気孔、フラクタル気孔等の任意の範囲のものであってもよい。
【0036】
固体粒子は、セラミック、ポリマー、有機、無機、植物由来のもの等であってもよい。
【0037】
好ましくは、導電性粒子は、イオン交換樹脂であり、このように、イオン伝導率が良好であるからである。より好ましくは、粒子は、カチオン交換樹脂であり、このように、電解研磨プロセスにおいて抽出された金属のイオンを捕捉することができ、初期特性が維持されるからである。
【0038】
通常、マクロ気孔を有するイオン交換粒子は、マクロ多孔性粒子と呼ばれ、ミクロ気孔を有する粒子は、ゲル型粒子と呼ばれる。この2種類の粒子は、いずれも本発明の使用に適する。
【0039】
好ましくは、粒子は、全質量に対する水質量が40~70%である最大液体保持量を有する。
【0040】
交換樹脂に存在する官能基は、スルホン酸/スルホン酸塩、カルボン酸/カルボン酸塩等のカチオン交換基、アミン/アンモニウム、第4級アンモニウム等のアニオン交換基、又はイミノ二酢酸、アミノホスホン酸、ポリアミン、2-ピコリルアミン、チオ尿素、アミドキシム、イソチウロニウム若しくはジピコリルアミン等のキレート基であってもよく、これらの基は、イオンを捕捉することに適応され、電解研磨に寄与するためである。
【0041】
塩基性ポリマーは、スチレンと、ジビニルベンゼン、アクリレート系、メタクリレート及びその異なる官能基を有する誘導体等の誘導体と等の、モノマーをベースとしたポリマー、又はフェノール樹脂等であってもよい。好ましくは、固体粒子は、スチレンとスルホン化ジビニルベンゼンのコポリマーを含む樹脂であるか、又は微孔ゲル型構造、マクロ多孔性構造等を有する樹脂であり、これらの樹脂は、イオンを捕捉することができ、電気的安定性、化学的安定性及び機械的安定性が良好であるからである。
【0042】
電解質媒体が電解研磨プロセスに使用される場合、粒子/表面接触点、即ち、表面粗さピークのみに透過が生じる。したがって、粒子形状によって電解質媒体の作用を調整することができる。
【0043】
粒子は、研磨されるワークピースの表面に均一効果(homogenous effect)を生み出すように、研磨されるワークピースの表面を流れる必要がある。処理される表面上の粒子の運動に有利な形状は、通常、球状である。好ましくは、粒子は、顕著な(significantly)球体であるか、又はほぼ球状であり、これは、粒子が多様な形状で転がることを促進するからである。好ましくは、一連の球体は、中心値が50μm~1mmの範囲にある。幾何学に、このサイズは、加工に適切な粗さの除去に有利となる。
【0044】
好ましくは、一連の、2峰性(bimodal)粒径分布を持つ球体を用いて、大きい粒子が提供する速度と、小さい粒子が提供する詳細の(details)研磨とを実現することができる。
【0045】
研磨される表面の形状に応じて、そのニーズに最適な他の形状を用いることが有用である。例えば、ディスク、シリンダ、バー、繊維、円錐、尖った形状等が挙げられる。
【0046】
市場では、カチオン交換樹脂球体は、ゲル型スルホン化ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)又は本発明に好ましく使用される微孔型球体を使用することができる。
【0047】
〔保持水について〕
固体電解質粒子は、所定量の水を保持する。保持水は、電解研磨プロセスにおいて研磨される表面に形成された酸化物及び塩を溶解することを担当している。また、それは水、又は、水と粒子の組み合わせであり、おそらくイオン輸送機構を介した電気伝導率の伝達体である。
【0048】
電解質媒体を調製する前に、好ましくは、液体保持能力を有する固体粒子を蒸留水で洗浄し、導電性液体を保持できるように固体粒子を部分的に乾燥させる。このプロセスの後、粒子は、依然として、所定量の水を含み、該所定量の水は、電解粒子に保持され遊離せず、即ち、このプロセスの後、粒子から保持水が滴下(drip)しない。
【0049】
好ましくは、イオン交換樹脂粒子は、全質量に対する水質量が10~50%である量の水を保持する。この量により、塩可溶化効果(salts solubilizing effect)を生み出すのに十分な液体があることが確保される。
【0050】
粒子に保持された水は、粒子洗浄プロセスから得られる。即ち、液体を保持する能力を有する一連の粒子は、水による最終洗浄ステップを含む洗浄プロセスを受ける。
【0051】
好ましくは、洗浄に用いられる水は、導電率が10μS/cm未満の蒸留水である。この低い導電率により、電気化学プロセスを制御するように保持する。
【0052】
〔混合しない非導電性液体について〕
この液体は、電気伝導性がないことを主な特徴とする。電気化学プロセスに介入する(intervenes)ため、電解研磨プロセスにおいて局部予測可能な高温により、化学的安定性及び熱的安定性が高いことが要求される。また、液体は、粒子に保持された水に対して混合したり拡散したりしないように、水と混合しない必要がある。
【0053】
また、この非導電性液体は、動作範囲内で液体状態又は流体状態を維持する必要がある。プロセスには蒸留水が使用されるため、動作範囲は、最大で0~100℃になる。好ましくは、動作範囲は、60℃未満である。
【0054】
固体粒子が粒状材料として動作するため、非導電性液体が潤滑剤として機能すると便利である。
【0055】
この適用に使用できる非導電性液体は、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、シリコーン、有機溶剤、フッ素化溶剤等を含むが、これらに限定されない。
【0056】
電気的安定性、化学的安定性、熱的安定性の特性により、この適用ではシリコーンが好ましく使用される。
【0057】
液体シリコーンは、熱的安定性及び化学的安定性が高く、潤滑剤特性に加えて電気絶縁物として機能する。これらの特徴により、液体シリコーンは、この適用の優れた候補となる。この全ては、本発明の固体電解研磨プロセスにおける効果に寄与する。
【0058】
本明細書では、シリコーンとして広く知られているように、それら全ての複合体、オリゴマー、ポリマーのいずれかを包含するために、シロキサン基は、線状、分枝状、又は環状の一般式[-OSIR2]nを含む。R基は、好ましくは、ヒドロカルビル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert(ターシャリー)-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等であるが、これらに限定されない。
【0059】
好ましく使用される液体シリコーン基は、粘度が低く、毒性がない、ポリ(ジメチルシロキサン)を含むものである。
【0060】
好ましくは、動的粘度が20cP未満、好ましくは25℃で1~10cPである粘度のより低い液体シリコーンは、使用される。
【0061】
また、オクタメチルシクロテトラシロキサンD4、デカメチルシクロペンタシロキサンD5、又はドデアメチルシクロヘキサシロキサンD6等のシクロシロキサン型の環状液体シリコーンは、溶剤としての特性が良好であるため、好ましく使用される。揮発性(volatility)により、シクロヘキサンは、好ましくは、低温での適用に使用される。
【0062】
粒子に添加されるシリコーンの量は、研磨されるワークピースのサイズ及び形状によって異なってもよい。粒子の運動性の低下を引き起こす、キャビティ及び角部(corners)を有する表面は、高い割合のシリコーンにより最良の結果を得る。
【0063】
一方、前述したように、本発明の第2の態様は、上述した電解質媒体を用いた乾式電解研磨方法に関する。
【0064】
前述の電解質媒体は、単独で、無機複合材料において満足のいく電解研磨効果を生み出すのに十分ではない。電解質媒体を上記方法で補完し、すなわち、印加される電流の種類により、最大限の結果が得られる。
【0065】
電解研磨方法は、
研磨される表面に電源により電気的接続性を与え、電解質媒体に電極により電気的接続性を与えるステップAと、
請求項1~8に記載のように、研磨される表面を電解質媒体に接触させるステップBと、
研磨される表面と固体電解質粒子との間に相対運動を生じさせるステップCと、
研磨される表面と電極との間の1つ又は複数の電位差を電源に印加するステップDと、を含み、
研磨される表面-電解質媒体-電極-電源という電源回路に電流が流れる。
【0066】
一方、TC/Coの電解研磨方法について、以下の通り検討する。
【0067】
無機複合材料TC/Coの電解研磨プロセスの重要な要素は、処理される表面に印加される電流の種類である。
【0068】
好ましい実施形態において、例えば、TC/Co複合材料を研磨したい場合、好ましくは、ステップDは、以下のステップD1~ステップD2の2つのステップを少なくとも含む。
【0069】
可変電圧を印加するステップD1は、研磨される表面に、正電圧を特定の時間印加すること、及び負電圧を別の特定の時間印加することを少なくとも含む。
【0070】
ステップD1で印加された電流は、特に限定されないが、例えば、直流、交流、半波整流交流、全波整流交流、シャークフィン(shark fin)、単一矩形波電流、正負の矩形二重波電流、パルス電流、正負のパルス列電流などであってもよい。
【0071】
ステップD1の時間長は、0.01~5秒であり、好ましくは0.1~1秒である。
【0072】
好ましくは、
図2に示すように、印加された電流は、矩形波電流であり、電圧を印加しないt1時間と、研磨される表面に正電圧を印加するt2時間と、電圧を印加しないt3時間と、研磨される表面に負電圧を印加するt4時間との4つの時間に分けて印加されてもよい。これは、理想的な矩形波の概略図であり、プロセスにおいて実際に印加された波は、このようになる傾向がある波である。時間t1、t3は、ゼロであってもよく、即ち、中性電圧(neutral voltage)で時間をかけずに動作させることができる。
【0073】
TC/Co研磨に適用できるこの種類の波の顕著な例は、0.5マイクロ秒の時間t1と、18Vを印加する2マイクロ秒の時間t2と、0.5マイクロ秒の時間t3と、-50Vでの10マイクロ秒の負パルスとを有する波であるが、これに限定されない。
【0074】
このステップを、異なる電圧を印加するいくつかのサブステップに細分化することができる。
【0075】
ステップD2について、研磨される表面に0から負値の電圧、電極に0から正値の電圧を一定又は可変的に印加する。
【0076】
ステップD2で印加された電流は、直流電流、フィルタ交流電流(filtered alternating current)、整流交流電流、パルス電流、矩形波電流等であってもよい。
【0077】
TC/Co研磨において、好ましくは、ステップD2の時間長は、最小0.01秒であり、最大20秒である。好ましくは、ステップD2の時間長は、0.1秒~10秒である。
【0078】
好ましくは、TC/Co電解研磨において、
図3に示すように、電流は、整流交流電流である。実用的には、50Hzの周波数の波を使用してもよい。好ましくは、その波の最も負の値は、-10~-100Vである。
【0079】
ステップD1とステップD2は、交互に繰り返される。ステップD1において、炭化タングステンのセラミック粒子及びコバルト金属結合材と異なる酸化プロセスが生じる。ステップD2において、それらを上記酸化物から除去する。ステップ(set)D1、D2において、表面のレベリング効果(leveling effect)が生じる。
【0080】
電解質媒体及びその電解研磨プロセスにおける使用を含む本発明は、今まで、処理できないか又はより良い結果を得ることができない無機複合材料を処理することができる。その特別な工業的な意義は、TC/Co等の金属-セラミック無機複合材料、二相鋼を有する金属-金属、又はPcBN/TiN等のセラミック-セラミック材料の電解研磨である。
【0081】
最先端技術に対する大きな利点は、優先溶解(preferred dissolution)を回避することである。無機複合材料に金属結合材が溶解(浸出)することにより、粗さに関して均一なレベリングを得ることができる。粒子の幾何学的拘束効果(restraining geometric effect)とシリコーンの抑制効果(restraining effect)を組み合わせることにより、材料を少なく除去して非常に小さい粗さに到達することができる。
【0082】
本発明は、穴開け、切削、型抜き等の高付加価値の工具の素晴らしい仕上がりを実現する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
実施中の説明を補足し、本発明の不可欠な部分として添付された本発明の特徴を最もよく理解するために、図面を示し、これらの図面において、限定ではなく例示の目的のために、以下が示される。
【0084】
【
図1-A】研磨プロセスの前に所定の初期粗さを有する金属-セラミック複合材料の概略図を示す。
【
図1-B】
図1-Aに示す材料の従来技術による従来の電解研磨プロセスの後の状況の概略図を示す。
【
図1-C】
図1-Aに示す材料の本発明に係る電解研磨プロセスの後の状況の概略図である。
【
図2】固体粒子が非導電性液体によって被覆され、研磨されるワークピースが非導電性液体によって被覆される電解質媒体を示す概略図である。
【
図3】本発明の方法に係る、第1の区間D1に研磨される表面に4つの時間にわたって印加する電流の進展を示すグラフである。
【
図4】本発明の方法に係る、第2の区間D2において表面に印加する整流波電流の進展を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0085】
用いた数字に基づいて、
図1-Aは、研磨プロセスの前に所定の初期粗さを有する金属-セラミック複合材料(それぞれ1と2と呼ばれる)の概略図である。
【0086】
図1-Bの場合、上記同じ複合材料(1、2)の、金属結合材の優先溶解(浸出)を引き起こす、機械化学研磨又は従来の電解研磨の後の状況を示す。
【0087】
そして、
図1-Cの場合、上記材料(1-2)の本発明に係る電解研磨プロセスの後の状況を示し、上記プロセスは、浸出を引き起こさず、表面(3)を均一にレベリングする。
【0088】
以下、実例として、電解質媒体の具体例及び上記媒体を用いた電解研磨方法の具体例について説明する。具体的には、金属-セラミック無機複合材料の電解研磨用電解質媒体である。
【0089】
本実施形態において、液体を保持する能力を有する固体粒子は、イオン交換樹脂粒子である。好ましくは、これらの粒子は、カチオン交換樹脂であり、より好ましくは、スルホン化されたスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂球体である。好ましくは、球体は、直径が600~800μmのサイズ分布を有する。樹脂は、マクロ多孔性構造又はゲル型構造を有してもよい。
【0090】
好ましくは、電解研磨プロセスに用いる前に、固体粒子を蒸留水で洗浄して可溶性不純物を除去した。
【0091】
好ましくは、固体粒子は、ゲル型スルホン酸塩のスチレン-ジビニルベンゼンの球体であり、該固体粒子を100℃で蒸留水で3つのサイクル洗浄し、全質量に対する水質量が27%になるまで乾燥させた。
【0092】
この好ましい実施形態において、非導電性液体は、粘度が5cP未満のポリジメチルシロキサンの液体シリコーンである。例えば、カールルス社のシリコーンオイルM3(粘度(25℃)2.7cP、密度(25℃)0.90g/cm3、引火点62℃以上、及び流動点-100℃)又はその類似するものである。
【0093】
固体粒子(sold particles)を、液体シリコーンに添加する。好ましくは、集合が粒子表面上のシリコーンを均一化するプロセスを受ける。
【0094】
粒子に添加されるシリコーンの量は、研磨されるワークピースのサイズ及び形状であり得る、プロセスの異なるパラメータによって異なってもよい。一般的には、この1kgの樹脂に10gのシリコーンを添加する。
【0095】
【表1】
〔金属-セラミック無機複合材料の電解研磨方法〕
金属-セラミック無機複合材料の電解研磨に用いられる電流は、区間D1と区間D2の2つの区間に分けて印加されてもよい。
【0096】
区間D1の時間長は、0.01~5秒であり、好ましくは、0.1~1秒である。好ましくは、この区間において、矩形波電流を4つの時間に分けて印加する。そのステップに印加される、好ましい電圧、最小電圧及び最大電圧を以下の表に示す。
【0097】
【表2】
ステップD2の時間長は、0.01~20秒であり、好ましくは、0.1~10秒である。このステップにおいて、研磨されるワークピースに印加される電圧は、0から所定の負値まで変化してもよく、好ましくは、-10~-100Vである。
【0098】
好ましい実施形態において、この電流は、-10~-100Vのうちのより負の値に達する整流交流電流である。実用施設では、50Hzの周波数の波を使用してもよいが、この周波数は、数桁変化し、プラスの効果を生み出し続けることができる。
【0099】
例えば、TC/Co電解研磨の場合、D1において、0.5マイクロ秒の時間t1と、18Vを印加する2マイクロ秒の時間t2と、0.5マイクロ秒の時間t3と、-50Vでの10マイクロ秒の負パルスとに分けて波を印加することができ、時間D2において、-50Vで50Hzの整流交流波を印加することができる。
【0100】
最後に、
図2において、時間D1において印加される、電圧を印加しない時間t1と、研磨される表面に正電圧を印加する時間t2と、電圧を印加しない時間t3と、研磨される表面に負電圧を印加する時間t4との4つの時間に分けて印加される矩形波電流である電流のグラフ表現の一例が示されると指摘すべきである。
【0101】
一方、
図3には、時間D2において印加される、整流波電流である電流のグラフ表現の一例が示される。
【0102】
本発明の本質及び実現方式を十分に説明しており、当業者が本発明の範囲及び生じる利点を理解するために、それ以上説明を拡張する必要がないと考えられる。
【国際調査報告】