(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】チロロン及びその塩の合成に有用な2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの製造のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 45/64 20060101AFI20241018BHJP
C07C 49/747 20060101ALI20241018BHJP
C07C 213/00 20060101ALI20241018BHJP
C07C 217/38 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07C45/64
C07C49/747 C
C07C213/00
C07C217/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523808
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 IN2022050931
(87)【国際公開番号】W WO2023067624
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202111047809
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャイサンカール、パラスラマン
(72)【発明者】
【氏名】デブ、インドゥブフサン
(72)【発明者】
【氏名】ブタッチャルジー、ピナキ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB28
4H006AB29
4H006AC41
4H006BB16
4H006BB31
4H006BE03
4H006BE10
4H006BE90
4H006BJ50
4H006BP30
4H006BU36
(57)【要約】
本発明は、チロロン二塩酸塩及びチロロンのその他の塩(臭化物、ヨウ化物、フッ化物、クエン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、トリフラート、トリフルオロ酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩)の合成のための、2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの構成要素の製造に関する方法を提供する。2,7―ビス―[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―フルオレノン―9とその様々な塩を製造するための、効果的で、安全で、費用効率が高い方法が開発される。方法は、フルオレンの酸化、フルオロレノンのニトロ化、続く2,7―ビス―[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9―フルオレノン二塩酸塩(チロロン二塩酸塩)及びその他のチロロンの塩の形成のための、鍵となる中間体である2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの構造に向けた、還元とジアゾ化を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノン(e)の製造のためのプロセスであって、前記プロセスは:
【化1】
i.化学式(a)のフルオレン、有機溶媒及び無機アルカリを20から30℃の範囲の室温で反応させ、続いて濾過し、氷を混ぜ、混合し、再度濾過して化学式(b)のフルオレノンを得る工程;
【化2】
ii.工程(i)で得られた化学式(b)のフルオレノン、水、及び濃硫酸と濃硝酸の比率1:1の混合酸を還流し、続いて濾過して、化学式(c)の2,7―ジニトロ―9―フルオレノンを得る工程;
【化3】
iii.工程(ii)で得られた化学式(c)の2,7―ジニトロベンゼン―9―フルオレノンをアルコール水溶液に溶解し、続いて還流条件下で鉄粉及び濃塩酸を加え、次いで吸引濾過して化学式(d)の2,7―ジアミノ―9―フルオレノンを得る工程;
【化4】
iv.工程(iii)で得られた化学式(d)の2,7―ジアミノ―9―フルオレノンを、亜硝酸ナトリウムの添加と共に、比率1:1.33の水及び鉱酸に溶解し、-10℃から0℃の範囲の温度で冷却して、続いて鉱酸及び水と還流し、濾過して、化学式(e)の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンを得る工程、を含むプロセス。
【請求項2】
工程(i)において使用される無機アルカリは、1.2当量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(iii)で使用される前記アルコールは、エタノール、メタノール、イソプロパノールからなる群から選択され、好ましくはエタノールである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
工程(iv)において、使用される前記鉱酸は、濃塩酸、濃硫酸又は臭化水素酸からなる群から選択され、好ましくは硫酸である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
工程(iv)において、還流に使用される前記鉱酸は硫酸である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
免疫調節物質として、及び広範囲の抗ウィルス剤としての、化学式(f)のチロロン及び化学式(g)のその塩の合成のためのプロセスであって、前記プロセスは:
【化5】
i.請求項1に記載の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンを、有機溶媒に溶解し、2―ブロモ―N,N―ジエチルエチルアミン臭化水素酸塩及び無機アルカリを添加し、続いて75℃から160℃、好ましくは85℃―110℃の範囲の温度で還流して、化学式(f)の2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン[チロロン]を得て、次いで酸で酸性にして化学式(g)のチロロンの塩を得る工程、を含むプロセス。
【請求項7】
前記有機溶媒は、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、トルエン、ベンゼン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル又はアセトンからなる群から選択され、好ましくはアセトニトリルである、請求項1及び6に記載のプロセス。
【請求項8】
使用される無機アルカリはKOHである、請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
チロロンの塩は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、クエン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、トリフラート、トリフルオロ酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項10】
チロロン二塩酸塩は経口で有効なインターフェロン誘導剤である、請求項6に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式(e)の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの多段階製造方法に関する。本発明は特に、化学式(f)のチロロン(tilorone)、及びその臭化物、ヨウ化物、フッ化物、クエン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、トリフラート、トリフルオロ酢酸塩、及びテトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択される化学式(g)の塩の合成に有用な、2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの製造方法に関する。本発明はとりわけ、経口で有効なインターフェロン誘導物質であるチロロン二塩酸塩の製造方法に関する。
【0002】
【0003】
【0004】
【背景技術】
【0005】
コールタールの分離生産物の1つとして、フルオレン生産物は、量が多く、安価であり、そしてその誘導体は非常に重要で優れた化学物質の中間体であり、多くの用途がある。(2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン)はフルオレン誘導体の1つである。期待の持てる医薬物質であるチロロン二塩酸塩(2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9オン)は、経口投与可能なインターフェロン誘導物質である小さな分子であり(410.549Da)、ここではフルオレンからシステマティックな方法で合成される。よく知られた医薬物質であるチロロンは、幅広い抗ウィルス活性を有する。チロロンの抗ウィルス活性は、IFN関連の自然免疫経路を介して作用していることが報告されている。文献からのIn vivoでの有効性の研究は、中東呼吸器症候群、チクングニア、エボラ及びマールブルグを含む広範囲の感染症に対するチロロン活用の可能性を示し、また更に最近では、この古くからの薬が現在のパンデミック事態の原因である新型のウィルスに対抗して、再度利用し得ることを強調する、MERS―CoVを含むヒトコロナウィルスに対する利用可能性を示した。新型コロナウィルスSARS―CoV―2により引き起こされた、進行中のCOVID―19の爆発と闘うための急を要する研究をサポートするために、私たちの焦点となるのは、新規、かつ環境及び産業に優しい方法でチロロンを合成することである。この化合物は中間段階でも、染料、プラスチック、医薬、及びエレクトロルミネセント材料等の製造に広く用いられる。そのため、その合成方法の研究は薬剤開発及び材料合成の観点から、幅広い用途を有している。
【0006】
本発明のプロセスは、チロロン二塩酸塩(II)及びその他のチロロンの塩の形態の全合成のための、2,7―ジヒドロキシフルオレノン(II)を製造する効果的で、安全で、費用効率の高い方法を提供する。化合物(I)は、経口で有効なインターフェロン誘導物質として知られる、最終化合物(II)の中間体である。
【0007】
文献の手順は、目標化合物チロロンが様々な観点から製造されたことを裏付ける。チロロンの合成に関するAndrewsの方法(J.Med.Chem.1974,17,8,882―886)によると、4,4―ジヒドロキシ―[1,1―ビフェニル]―2―カルボン酸が中間段階の1つとして合成されたが、化合物4,4―ジヒドロキシ―[1,1―ビフェニル]―2―カルボン酸はZnCl2とは充分に混合されず、200℃で2,7―ジヒドロキシ―9―H―フルオレノンに変換されることが追加で分かり、特に反応スケールが大きいときにそうであった。その後Burkeらが、チロロン塩酸塩への合成経路を示したが(Synthetic Communications,1976,6(5),371―376)、彼らは実際の収率及び合成に関連する中間段階の条件について、明確には言及しなかった。更にチロロンの全合成は、多段階酸化法の新しい方法を用いることによって整えられた(J Material Chem.2008,18,3361―3365;中国特許、特許番号:CN102424651A、ロシア特許、特許番号:RU2444512C1)。高コスト(Tetrahedron,2019,75(2),236―245,Organic Letters,2017,19(5),1140―1143)、危険な操作、高温反応、複雑さ、及び大量の溶媒という欠点のため、工業的な製造において満足な結果を得ることは困難である。
【0008】
以前に報告された手順は長たらしい工程を含んでおり、また各工程はカラムクロマトグラフィーによって精製する必要があり、それは商業的な運用には高価で時間がかかるものである。
【0009】
発明の目的
本発明の主要な目的は、化学式(e)の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの製造のためのプロセスを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、化学式(f)のチロロン及び化学式(g)のその塩、特にチロロン二塩酸塩((2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン)の製造に有用な2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンを高収率で製造するためのプロセスを提供することである。
【0011】
本発明の更に別の目的は、インターフェロン誘導物質であるチロロン医薬物質((2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン)の合成のための合成方法を提供することである。
【0012】
本発明の更に別の目的は、(2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン)を高い化学収率で提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン合成のための2,7―ジヒドロキシフルオレノンの合成に関する、商業的に実行可能なプロセスを提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、(2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン)の合成のための、ユーザーフレンドリーであり操作の上で害がない各工程を提供することである。
【0015】
本発明の更に別の目的は、より安価な出発物質を用いる新規の方法を提供することである。
【発明の概要】
【0016】
従って本発明は、次の工程を含む、2,7―ジヒドロキシフルオレノンの製造のためのプロセスを提供する:
【0017】
【0018】
i.化学式(a)のフルオレン、有機溶媒及び無機アルカリを20から30℃の範囲の室温で反応させ、続いて濾過し、氷を混ぜ、混合し、再度濾過して化学式(b)のフルオレノンを得る工程;
【0019】
【0020】
ii.工程(i)で得られた化学式(b)のフルオレノン、水、及び濃硫酸と濃硝酸の比率1:1の混合酸を還流し、続いて濾過して、化学式(c)の2,7―ジニトロ―9―フルオレノンを得る工程;
【0021】
【0022】
iii.工程(ii)で得られた化学式(c)の2,7―ジニトロベンゼン―9―フルオレノンをアルコール水溶液に溶解し、続いて還流条件下で鉄粉及び濃塩酸を加え、次いで吸引濾過して化学式(d)の2,7―ジアミノ―9―フルオレノンを得る工程;
【0023】
【0024】
iv.工程(iii)で得られた化学式(d)の2,7―ジアミノ―9―フルオレノンを、亜硝酸ナトリウムの添加と共に、比率1:1.33の水及び鉱酸に溶解し、-10℃から0℃の範囲の温度で冷却して、続いて鉱酸及び水と還流し、濾過して、化学式(e)の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンを得る工程。
【0025】
本発明の態様の1つでは、工程(i)において、使用される無機アルカリは、1.2当量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0026】
本発明の別の態様では、工程(iii)で使用されるアルコールは、エタノール、メタノール、イソプロパノールからなる群から選択され、好ましくはエタノールである。
【0027】
本発明の更に別の態様では、工程(iv)において、使用される鉱酸は、濃塩酸、濃硫酸又は臭化水素酸からなる群から選択され、好ましくは硫酸である。
【0028】
本発明の更に別の態様では、工程(iv)において、還流に使用される鉱酸は硫酸である。
【0029】
本発明の更に別の態様では、2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンは、免疫調節物質として、そして広範囲の抗ウィルス剤として役立つ、化学式(f)のチロロン及び化学式(g)のその塩の合成のために有用であり、前記プロセスは以下の工程を含む:
【0030】
【0031】
i.請求項1で得られた2,7―ジヒドロキシフルオレノンを、有機溶媒に溶解し、2―ブロモ―N,N―ジエチルエチルアミン臭化水素酸塩及び無機アルカリを添加し、続いて75℃から160℃、好ましくは85℃―110℃の範囲の温度で還流して、化学式(f)の2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン[チロロン]を得て、次いで酸で酸性にして化学式(g)のチロロンの塩を得る工程。
【0032】
本発明の更に別の態様では、有機溶媒は、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、トルエン、ベンゼン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル又はアセトンからなる群から選択され、好ましくはアセトニトリルである。
【0033】
本発明の更に別の態様では、使用される無機アルカリはKOHである。
【0034】
本発明の更に別の態様では、チロロンの塩は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、クエン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、トリフラート、トリフルオロ酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択される。
【0035】
本発明の更に別の態様では、チロロン二塩酸塩は経口で有効なインターフェロン誘導剤である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、チロロン及びその塩の全合成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、化学式(a)のフルオレンからの、2,7―ビス[2―(ジエチルアミノ)エトキシ]―9H―フルオレン―9―オン(f)及び化学式(g)のその塩の合成のための化学式(e)の2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンの合成方法を提供する。
【0038】
フルオレンは、o―ジブロモベンゼン、2―メチルアリールボロン酸、K2CO3、酢酸パラジウム(II)、トリシクロヘキシルホスフィン、及びトリメチル酢酸を含んだ瓶にDMAを加える、以下の手順を利用することにより生成することができる。反応混合物を140―150℃で5時間撹拌した後、混合物を室温まで冷却する。水を加えて反応混合物をクエンチする。混合物をCH2Cl2で抽出し、溶媒を蒸発乾固して、更にカラム精製することで、目的の化学式(a)のフルオレンを非常に良い収率(90%)で得る。
【0039】
鍵となる工程は、酸素雰囲気、室温で、フルオレンをDMF有機溶媒及びKOHのような無機塩基と反応させることである。反応が完了した後に、酸による中和を行い、吸引濾過で9H―フルオレノンを得る。
【0040】
使用する有機溶媒はDMFである。
【0041】
還流条件での9H―フルオレノンと濃硫酸及び濃硝酸との反応で、2,7―ジニトロフルオレノンを得る。反応完了後、吸引と濾過を行い、黄色固体を得る。
【0042】
2,7―ジニトロフルオレノンはアルコール溶液に溶解され、還流条件下で鉄粉及び濃HClが加えられる。反応が完了したら、吸引により濾過して2,7―ジアミノフルオレノンを得る。これを更に、亜硝酸ナトリウム溶液及び無機酸の処理でジアゾ化し、その後50%無機酸[鉱酸]溶液と還流して、2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンを得る。アセトニトリル中、還流条件下での、2―ブロモ―N,N―ジエチルエチルアミン臭化水素酸塩を用いた2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノンへのアルキル化で、目的のチロロンを得る。これを酸性にして、チロロン二塩酸塩及びチロロンの他の塩を得る。
【0043】
ジアゾ化の工程では、硫酸、塩酸、テトラフルオロホウ酸及び臭化水素酸が使用される。
【0044】
例
以下の実施例は本発明を説明するために示されるものであり、従って本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0045】
例1:フルオレン(a)の製造
DMA(2mL)を、o―ジブロモベンゼン(0.5mmol)、2―メチルアリールボロン酸(0.55mmol)、K2CO3(3mmol)、酢酸パラジウム(II)(0.015mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(0.03mmol)及びトリメチル酢酸(0.5mmol)を含む瓶に加えた。反応混合物を140―150℃で5時間撹拌した後、混合物を室温まで冷却した。水を加えて反応混合物をクエンチした。混合物をCH2Cl2で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄した。溶媒を除去した後、粗反応混合物を、溶出液としてヘキサンを用いるシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーによって精製して、目的のフルオレン(1)を非常に良い収率(90%)で得た。
【0046】
【0047】
例2:工程I:9―フルオレノン(化学式b)の製造
電磁式スターラー及び空気冷却器を備えた250mLの丸底フラスコに、9H―フルオレン(1gm)、KOH(412mg、1.2当量)及びDMF(15mL)を加え、酸素雰囲気下(酸素パージ)、室温(30℃)で撹拌した。反応完了後、氷が入っているビーカーの中にこの反応物を注ぎ、そしてpH紙でpHを確認することにより、濃HClで中和を行った。その後沈殿物が現れ、焼結漏斗(sintered funnel)を通して濾過した。黄色の沈殿物は減圧下で乾燥された。カラム精製の必要はない。収率:1.07g(97%)。
【0048】
【0049】
例3:工程II:2,7―ジニトロ―9―フルオレノン(化学式c)の製造
メカニカルスターラー、還流冷却器を備えた250ml丸底フラスコに、2.5gmのフルオレノンを加え、6mLの水を加え、撹拌を開始し、油浴を80℃まで加熱し、混合酸(濃硝酸及び濃硫酸(1:1)=19mL)を加える。120℃で24時間還流後。黄色のケーキ状の反応物が得られ、これを、氷水を使って焼結漏斗に通して濾過し、2,7ジニトロフルオレノンを黄色固体として得た。カラム精製の必要はない。収率:3.38g(90%)
【0050】
【0051】
例4:工程III及びIV:2,7―ジヒドロキシ―9―フルオレノン(化学式e)の製造
エチルアルコール水混合物(5:1)(60mL)中に2,7―ジニトロフルオレノン(1.5g)を含む溶液に、鉄粉(9.3g)を添加し、そして窒素雰囲気下で濃HClを38ml加えた。混合物は還流温度(110℃)で24時間撹拌された。水酸化ナトリウム水溶液を加えて混合物のpHを塩基性とし、最後に酢酸エチルで抽出した。有機層(紫色の酢酸エチル層)を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固して2,7―ジアミノフルオレノンを褐色の固体として得た(収率:89%)。カラム精製をせずに、ジアゾ化反応を行うためにそのまま用いられた。
【0052】
2,7―ジアミノフルオレノン(1g)を57mLの水(氷浴)に懸濁させ、これに76mLの濃H2SO4を加え、その時点ですべての固体が溶解した。水38mLにNaNO2(850mg)が入った水溶液を、撹拌しながら5分間かけて滴下して加えた。撹拌は更に150分間続けられ、その時に淡黄色が消え、黄褐色の溶液が残った。この溶液を、1:1(v/v)濃H2SO4―H2O(150mL)の沸騰溶液(110℃)に(15分間かけて)滴下して加えた。添加後、混合物を更に15分間沸騰させ、次いで放冷した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、併せた有機層をNaOH溶液で抽出して塩基性のpHを維持した。次いで水の抽出物の酸性化(10%HCl)によって、粗製2,7―ジヒドロキシフルオレノンを酢酸エチルで抽出し、そして風乾した。
【0053】
【0054】
例5:工程V及びVI:チロロン二塩酸塩(化学式g)の製造
攪拌子(stir bar)を備えた250mLの丸底フラスコに、2,7―ジヒドロキシ―9H―フルオレノン(1g)、2―ブロモ―N,N―ジエチルエチルアミン臭化水素酸塩(4.55g)及びKOH(2.26g)を加え、続いてアセトニトリル15mLと蒸留水3.2mLを加えた。次いで反応物を勢いよく撹拌し、20時間加熱して還流した。室温まで冷却した後、反応混合物を水に注ぎ、Et2Oで抽出した。併せた有機層をNa2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた残留物を十分に乾燥して、目的の生成物をオレンジ色のゴム状固体として得た(1.6g、83%)。これを乾燥エーテルに溶解し、2MのHClエーテル溶液を一滴ずつ加えて、99%を超える収率(1.88g)でチロロン二塩酸塩を得て、オレンジ色の生成物を無水エタノールで再結晶させた。
【0055】
【0056】
本発明の利点
本発明の主な利点は以下の通りである:
・より環境に優しく、工業的に実行可能な方法が至急必要とされている。我々が確立した方法は、高収率、単純な反応操作、低コストで、環境汚染をより抑えて、フルオレンからチロロンを合成するためのシンプルな戦略を提供する。フルオレンは、コールタールの分離生成物の一つとして、生産量が多く、そして価格が安い。その誘導体は重要で優れた化学物資の中間体として広く利用されている。この反応の効率性と実行可能性を向上させるために、我々は、低コスト、高収率で、工業生産に適した、簡便かつ実現可能な新たな方法を提供する以下の有用な方法を見出した。
・発明の合成方法は、比較的操作が簡単で、反応条件が穏やかで、収率が高く、シンプルなプロセスであり、収率80―99%である。
・この方法のその後の生成物の分離には、大量の水洗浄とカラム分離を必要とする既存の方法、低い収率、有害な化学物質を回避する、濾過と晶析法を利用する。
・新しい方法はシンプルで実現可能なものである。これは小規模な実験室での製造に適するだけでなく、規模の大きな生産にも適している。
・本発明が解決すべき技術的課題は、高温及び多量の溶媒、複雑な多工程操作、化学物質の高額な費用を用い、工業化が困難である、チロロンを製造するための既存の合成方法、及びその他の欠点を克服することである。本発明は、チロロン(f)及びその塩の形態(g)を、高収率、簡単な反応操作、低コストで、そして環境汚染をより抑えて生産する。
・特許された方法の収率は明確には言及されておらず、水準に達していなかった。そのため、不便な手法や高温が原因の重量物の衝突の存在を含んだ問題が、依然として存在した。
【国際調査報告】