(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】SARS-COV-2、COVD-19疾患を引き起こすウイルスによる感染を抑制するペプチド
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20241018BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20241018BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20241018BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20241018BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K38/16
C07K14/165 ZNA
A61K47/60
A61K47/54
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523931
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022047449
(87)【国際公開番号】W WO2023069728
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】306018457
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲルマン、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】アウトロー、ビクター
(72)【発明者】
【氏名】モスコナ、アン
(72)【発明者】
【氏名】ポロット、マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、チェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA10
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA36
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB33
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA19
4H045BA50
4H045BA57
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA33
4H045GA01
4H045GA45
(57)【要約】
抗SARS-CoV-2 α/βポリペプチド、それを含有する医薬組成物、および、ヒトを含む哺乳類におけるSARS-CoV-2感染を阻害、処置、および改善する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に示されるポリペプチド、または、配列番号2との配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%であるが100%未満であるポリペプチド、を含む組成物であって、前記ポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている、組成物。
【請求項2】
前記ポリペプチドにおける1つから10個までのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、環状に拘束されるβ-アミノ酸残基に置換されている、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、2-アミノシクロペンタンカルボン酸および3-アミノピロリジン-4-カルボン酸からなる群から選択される環状に拘束されるβ-アミノ酸残基に置換されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、2-アミノイソ酪酸に置換されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリペプチドは、脂質部分をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリペプチドは、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリペプチドは、脂質部分と、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分と、をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記脂質部分は、前記ポリペプチドの末端に結合される、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記脂質部分は、コレステロール、トコフェロール、およびパルミテートからなる群から選択される、請求項6、8、または9記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリペプチドは、配列番号5~34からなる群から選択される化合物を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
配列番号34、または、配列番号34との配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%であるが配列番号7、23、24、32、および34との配列同一性が100%未満であるポリペプチドを含む、組成物。
【請求項13】
ヒト対象を含む哺乳類の対象におけるCoV2による感染を阻害する方法であって、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を、CoV2の感染を阻害する量で、前記対象に投与すること、を含む方法。
【請求項14】
ヒト対象を含む哺乳類の対象におけるCoV2の感染の症状を改善する方法であって、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を、CoV2の症状を改善する量で、前記対象に投与すること、を含む方法。
【請求項15】
薬学的に適切な担体と組み合わせて請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ゲルマン、サミュエル
アウトロー、ビクター
ユ、チェン
ポロット、マッテオ
モスコナ、アン
【0002】
[連邦政府からの資金提供であることの陳述文]
本発明は、米国の国立衛生研究所によって授与されたAI114736、GM056414、およびAI121349のもとでの政府の支援でなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
[配列表]
本出願は、XMLファイルの形でパテントセンターを通じて米国特許商標庁に提出されたおよびその全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表、を含む。配列表のXMLファイルは、2022年10月6日に作成され、そのファイル名は「PCT--221022--Anti-Covid_Alpha_Beta_Peptides--SEQUENCE_LISTING_ST26.xml」であり、そのサイズは98キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
SARS-CoV-2(「CoV2」)は、「エンベロープ」ウイルスである:各ウイルス粒子は、「エンベロープ」として知られる膜によって囲まれている。感染は、ウイルスのエンベロープが宿主の細胞膜と融合させられるまで起きることはできない。融合により、細胞の細胞質の中へのウイルスゲノムの導入が可能となる。CoV2は、I型のメカニズムを使用して膜融合を引き起こす。融合は、ウイルス粒子の表面上の単一の三量体タンパク質(スパイク、即ち、「S」)によって引き起こされる。それによってウイルスが細胞に進入する融合プロセスが、
図1に模式的に示される。融合プロセスにおいて、上記のSタンパク質三量体は、膜融合を引き起こす重大なコンフォメーション変化を受ける(
図2)。当該Sタンパク質の一時的な形態は、より安定的でコンパクトな「6-ヘリックスバンドル」(6HB)へと再配列される。6HBの形成は、宿主細胞膜およびウイルスのエンベロープの融合のための推進力をもたらす。
【0005】
ウイルス融合のこのメカニズムは、CoV2に特有のものではない。多くの病原性エンベロープウイルスは、細胞感染のためにI型のメカニズムを使用する。膜融合プロセスを画策するタンパク質は、これらウイルス間で相違する一方で、当該融合メカニズムの基本的な原理は、これらウイルス間で類似する。
図3は、6HBが、CoV2と同様に、HIV融合タンパク質およびHIPV3融合タンパク質において形成される、ことを示す。HIVにおいて、たとえば、ウイルス性の融合を引き起こす鍵となるタンパク質は、gp41である。エンフビルチドは、エイズを治療するための薬剤であるが、gp41のCHRドメイン由来の36-残基のペプチドをその活性因子として有する。エンフビルチドは、ウイルスを細胞に融合させるのに必要な6HBの形成を妨げることによってHIVの感染を阻害する。この阻害のメカニズムが、
図4に模式的に示される。
【0006】
エンフビルチドは、一生涯、1日に2回、注射によって投与されなければならない。この煩わしい投与スケジュールは、臨床的な使用を制限する。しかし、エンフビルチドは血流中において非常に急速に分解されるために、注射によって頻繁に行われるこの投与は必要とされる。プロテアーゼによる急速な分解が、従来のペプチド薬に共通する不利益である。タンパク質を構成するアルファ-アミノ酸残基のみを含むペプチドは、プロテアーゼにとって自然な基質であり、したがって、一般的に、非常に短い半減期を有する。
【0007】
ポリペプチド薬のin vivо安定性は、非天然型アミノ酸残基を当該ポリペプチドの配列中へ置換することによって改善できる。たとえば、"Structural and Biological Mimicry of Protein Surface Recognition by a/b-Peptide Foldamers," W. S. Horne, L. M. Johnson, T. J. Ketas, P. J. Klasse, M. Lu, J. P. Moore and S. H. Gellman Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2009, 106, 14751 and "Enhancement of a-Helix Mimicry by an a/b-Peptide Foldamer via Incorporation of a Dense Ionic Side Chain Array," L. M. Johnson, D. E. Mortenson, H. G. Yun, W. S. Horne, T. J. Ketas, M. Lu, J. P. Moore and S. H. Gellman J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 7317を参照。Gellmanらに対する米国特許第10,723,779号明細書、Horneらに対する米国特許第10,647,743号明細書、および、Gellmanらに対する米国特許第10,501,518号明細書も参照。
【発明の概要】
【0008】
CoV2の感染力を阻害するポリペプチド化合物が、本明細書に開示される。本ペプチド化合物は、(環状に拘束されてもよいし、あるいは環状に拘束されなくてもよい)非天然型β-アミノ酸残基を含む。これらβ-アミノ酸残基の存在が、これら化合物を、in vivоでタンパク質分解に対して耐性があるようにし、したがって、それらの薬理活性を向上させる。主題の化合物のペプチド骨格は、α-アミノ酸残基をβ-アミノ酸残基に置換することによって変更される。β-アミノ酸残基を含ませるための骨格の変更は、プロテアーゼによる開裂への感受性を大いに減らす。
【0009】
CoV2におけるスパイクタンパク質6HBバンドルの構造は知られている。CoV2スパイクタンパク質のHR2ドメインをモデルにしたペプチドであって、スパイクタンパク質によって媒介される細胞融合の強力な阻害因子であるペプチドが、本明細書において開示される。
【0010】
改善された溶解性を有する、SARS-CoV-2 HR2ペプチドの改良型が、本明細書に開示される。これら化合物は、コレステロール部分を担持するが、スパイクタンパク質が媒介する細胞融合の強力な阻害を発揮する。主題の化合物は、ヒトにおけるCoV2の感染を阻害し、CoV2に感染したヒトを処置するのに有効でもあり、タンパク質分解酵素による分解に対するそれらの耐性により生体内においてより長く存続する。
【0011】
したがって、本明細書において、
配列番号2に示されるポリペプチド、または、配列番号2との配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%であるが100%未満であるポリペプチド、を含む組成物であって、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている、組成物
が開示される。
【0012】
ある態様において、上記のポリペプチドにおける1つから10個までのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている。
【0013】
ある態様において、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、環状に拘束されるβ-アミノ酸残基に置換されている。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、2-アミノシクロペンタンカルボン酸および3-アミノピロリジン-4-カルボン酸からなる群から選択される環状に拘束されるβ-アミノ酸残基に置換されている。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、2-アミノイソ酪酸に置換されている。
【0016】
ある態様において、上記のポリペプチドは、脂質部分をさらに含む。
【0017】
ある態様において、上記のポリペプチドは、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分をさらに含む。
【0018】
ある態様において、上記のポリペプチドは、脂質部分と、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分と、をさらに含む。
【0019】
上記の脂質部分は、上記のポリペプチドの末端に結合される。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記の脂質部分は、コレステロール、トコフェロール、およびパルミテートからなる群から選択される。
【0021】
ある態様において、上記のポリペプチドは、配列番号5~34からなる群から選択される化合物を含む。
【0022】
配列番号34、または、配列番号7、23、24、32、および34との配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%であるが100%未満であるポリペプチドを含む、組成物も、本明細書に開示される。
【0023】
ヒト対象を含む哺乳類の対象におけるCoV2による感染を阻害する方法であって、本開示に従う組成物を、CoV2の感染を阻害する量で、上記の対象に投与することを含む方法も、本明細書に開示される。
【0024】
ヒト対象を含む哺乳類の対象におけるCoV2の感染の症状を改善する方法であって、本開示に従う組成物を、CoV2の症状を改善する量で、上記の対象に投与することを含む方法も、本明細書に開示される。
【0025】
薬学的に適切な担体と組み合わせて、本開示に従う組成物を含む医薬組成物も、本明細書に記載される。
【0026】
本開示の目的および利点が、添付図面と併せてなされた本開示の好適実施形態の以下の詳細な記載から、より完全に現れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】細胞の中への入口孔をつくるためにウイルス性の融合タンパク質(それ自体、三量体)を用いて当該細胞に感染するエンベロープウイルスの模式的な図である。
【
図2】SARS-CoV-2スパイクタンパク質の、融合前のモデル(
図2の左側)、および同様のタンパク質の、融合後のモデル(
図2の右側)、を描写する。当該タンパク質は、ウイルス感染をもたらすために、複数のコンフォメーション変化を経なければならないことに注意する。
【
図3】HIV融合タンパク質、HIPV3融合タンパク質、およびSARS-CoV-2融合タンパク質のモデルを描写し、6-ヘリックスバンドルが病原性ウイルスの間で一般的であるように見えることを示す。
【
図4】孔形成プロセスを完了させるのに必要な6-ヘリックスバンドルをウイルス性の融合タンパク質三量体が形成することを阻害する作用物質を用いた当該孔形成プロセスの妨害を描写する模式的図である。エイズの薬であるエンフルビチドは、このメカニズムを介して作用すると考えられる。
【
図5】ヒト気道上皮(「HAE」)試験方法(当該方法については、実施例の項を参照)を用いた天然のCoV2 HRCペプチド(配列番号1)によるCoV2の広まり(ex vivо)の阻害の結果を示す。当該ペプチドは、添加されたC末端コレステロール部分を有する。蛍光を放っているウイルス(明るいドット)の広まりが、ペプチド処理の有無にかかわらず、示された日にちにおいて示される。
【
図6】天然のCoV2 HRCペプチド(配列番号1;-◆-)から修飾が行われたペプチド1(配列番号2;-■-)の細胞毒性および細胞融合の阻害を描写し、EK1(配列番号4;-●-)との比較も行われている。EK1の配列は、ヒトコロナウイルスHCoV-OC43 HCRドメインに由来し、CoV2感染に対する阻害を発揮することが報告されている。ペプチド1およびEK1は、天然のCoV2 HRCペプチドに比べて改善した溶解性を有する。天然のCoV2 HRCペプチド、ペプチド1、およびEK1は、α-アミノ酸のみを含む。
【
図7】その効力と半減期とを向上させるためにウイルス性の融合タンパク質阻害物質の中に組み込まれてもよい可能な残基変異体を描写する。
【
図8】本開示に従う代表的な抗CoV2ポリペプチドを示す。当該ポリペプチドは、C末端ポリ(エチレングリコール)-コレステロール「テール」とともに、脂肪族β-アミノ酸の置換、および環状に拘束されたβ-アミノ酸の置換、を含む。
【
図9】Sタンパク質が媒介する細胞間融合の、本開示に従う代表的な抗CoV2ポリペプチドによる阻害、を示す。これらポリペプチドはすべて、「GSGSGC」リンカーを通じて添加されたC末端ポリ(エチレングリコール)-コレステロール「テール」、を有する。「VKO5144-SARS2 HRC QE 5 peg4 chol」:配列番号22;「VKO5146-SARS2 HRC QE 6 peg4 chol」:配列番号23;「VKO5148-SARS2 HRC QE 7 peg4 chol」:配列番号24;「VKO5150-SARS2 HRC QE 8 peg4 chol」:配列番号25;「SARS mod peg 4 chol dimer」:対照の配列。
【
図10A】Sタンパク質が媒介する細胞間融合を阻害するための代表的な抗CoV2ポリペプチドのIC
50を示す。楕円によって強調された「Z」以外のアミノ酸残基は、それらのα-アミノ酸類似体と同じ側鎖を共有するβ
2-またはβ
3-アミノ酸残基を表す。楕円によって強調された「Z」は、プロトンが付加されてもよいしあるいはプロトンが付加されなくてもよい(「APC」としても知られる)3-アミノピロリジン-4-カルボン酸である。
【
図10B】Sタンパク質が媒介する細胞間融合を阻害するための代表的な抗CoV2ポリペプチドのIC
50を示す。楕円によって強調された「Z」以外のアミノ酸残基は、それらのα-アミノ酸類似体と同じ側鎖を共有するβ
2-またはβ
3-アミノ酸残基を表す。楕円によって強調された「Z」は、プロトンが付加されてもよいしあるいはプロトンが付加されなくてもよい(「APC」としても知られる)3-アミノピロリジン-4-カルボン酸である。
【
図10C】Sタンパク質が媒介する細胞間融合を阻害するための代表的な抗CoV2ポリペプチドのIC
50を示す。楕円によって強調された「Z」以外のアミノ酸残基は、それらのα-アミノ酸類似体と同じ側鎖を共有するβ
2-またはβ
3-アミノ酸残基を表す。楕円によって強調された「Z」は、プロトンが付加されてもよいしあるいはプロトンが付加されなくてもよい(「APC」としても知られる)3-アミノピロリジン-4-カルボン酸である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
略語および定義
ACPC=2-アミノシクロペンタンカルボン酸。
Aib=2-アミノイソ酪酸(即ち、2-メチルアラニン)。
APC=3-アミノピロリジン-4-カルボン酸。
βアミノ酸またはβアミノ酸残基に言及するとき、用語「環状に拘束される」は、βアミノ酸の骨格におけるα位のおよびβ位の炭素原子が置換または非置換のC4~C10シクロアルキル部分、置換または非置換のC4~C10シクロアルケニル部分、または置換または非置換のC4~C10複素環部分の中に組み込まれているβアミノ酸またはβアミノ酸残基、を意味し、ここで、複素環部分は、N、S、およびOから成る群から選択される1つ、2つ、または3つのヘテロ原子を有してもよい。環状に拘束されるβアミノ酸のうち一般的に好ましいものは、ヘテロ原子として1つまたは複数のN、S、またはOを有する置換または非置換のC5~C8シクロアルキル部分、置換または非置換のC5~C8シクロアルケニル部分、または置換または非置換のC5~C8複素環部分の中に組み込まれている骨格中のα位のおよびβ位の炭素原子、を有する。本明細書に開示される任意の所定の抗CoV2ペプチドの範囲内において、環状に拘束されるβアミノ酸残基は、同じであってもよいし、または異なってもよい。
【0029】
本明細書に開示される化合物におけるアミノ酸残基は、それらのD型の立体配置またはそれらのL型の立体配置のいずれの型で存在してもよい。用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は同義的に使用され、アミド結合を介して結合されたアミノ酸の重合体を指す。
【0030】
用語「同一な」または「同一性」パーセントは、最大の一致に対して比較しアラインされたときに、以下の配列比較アルゴリズムのうちいずれかを用いてもしくは目視検査によって測定される、同一か特定の割合で同一のアミノ酸残基を有する2以上の配列について、言及する。配列比較については、一般的に、1つの配列は、被検配列と比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを使用するとき、被検配列および参照配列がコンピュータに入力され、もし必要であれば、配列の座標が指定され、そして、配列アルゴリズムのプログラムのパラメータが指定される。配列比較のアルゴリズムは、そのとき、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する(複数の)被検配列のパーセント配列同一性を算出する。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2: 482のローカル相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48: 443の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 85: 2444の類似法の検索により、これらアルゴリズムのコンピュータへの実装により、または目視検査により、行われることができる。
【0031】
用語「薬学的に適切な塩」は、ヒトを含む哺乳類に投与されたときにその添加が望ましくない効果を有さない酸または塩基を用いて形成される塩、を意味する。ヒトへの使用に対する米国薬局方(または任意の他の一般的に認知されている薬局方)に載っている酸または塩基を有する塩が、好ましい。多くの薬学的に最適な塩が、従来技術において良く知られている。基本的な有効成分については、たとえば、特定の塩が精製および同定の目的のためのみに形成されるときに、またはイオン交換法によって薬学的に適切な塩を調製する際に当該特定の塩が中間体として使用されるときに、当該特定の塩が、それ自体、中間生成物としてのみ望まれるとしても、全ての酸付加塩が、遊離塩基形態の源として有用である。薬学的に適切な塩には、制限はないが、ハロゲン化水素が明示的に含まれる鉱酸または有機酸から誘導されたもの、たとえば、塩酸塩および臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、サリチル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マイレン酸塩、メチレン-ビス-b-ヒドロキシナフトエート、ゲンチシン酸塩、イセチオン酸塩、ジ-p-トルオイル酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、キナ酸塩、など、が含まれる。塩基付加塩には、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルモルホリンなどの、アルカリ金属塩基もしくはアルカリ土類金属塩基または従来の有機塩基から誘導されたものが、含まれる。他の適切な塩は、たとえば、"Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, 2nd Ed." P.H. Stahl and C.G. Wermuch, Eds.,(コピーライト) 2011,Wiley-VCH (ISBN-13: 978-3906390512) および "Pharmaceutical Salts and Co-Crystals," Johan Wouters, Editor,(コピーライト) The Royal Society of Chemistry (U.K.) (ISBN-13: 978-1849731584)の中に見出される。
【0032】
本明細書において使用される、病気を「処置すること」または病気の「処置」は、病気を防ぐこと、病気の発症または病気の進行速度を遅らせること、病気の発症のリスクを減らすこと、病気に関連した症状の発症を防ぐまたは遅らせること、病気に関連した症状を軽減するまたは終わらせること、病気の完全なまたは部分的な退縮を引き起こすこと、またはそれらのいくつかの組み合わせ、を指すことができる。
【0033】
本明細書において使用される数値範囲は、具体的に開示されていようとなかろうと、その範囲内に含まれる全ての数値、およびその範囲内に含まれる数値のサブセットを含むように意図される。さらに、これら数値範囲は、その範囲内の任意の数値、またはその範囲内の数値の任意のサブセットに向けられる請求項に裏付けを与えるものと解釈されるべきである。たとえば、1つから10個までの開示は、2個から8個までの、3個から7個までの、1つから9個までの、3.6個から4.6個までの、3.5個から9.9個までの、などの範囲を裏付けると解釈されるべきである。
【0034】
本発明の並外れた特徴または限定の全ての言及は、その中で言及がなされている文脈によってそれとは反対に特に明記されないかまたは明確に暗示されない限り、対応する複数の特徴または限定を含むべきであり、また、逆もまた同様である。
【0035】
本明細書において使用される方法またはプロセスのステップの全ての組み合わせは、その中で言及された組み合わせが行われる文脈によってそれとは反対に特に明記されないかまたは明確に暗示されない限り、任意の順番で行われることができる。
【0036】
本発明の方法は、本明細書に記載される方法の本質的要素および限定はもちろん、本明細書に記載されるかまたはさもなければ有機合成化学、薬学、薬理学などにおいて有用な任意の追加的なまたは選択的な構成要素、成分、もしくは限定、を含む、これら任意の追加的なまたは選択的な構成要素、成分、または限定から成る、またはこれら任意の追加的なまたは選択的な構成要素、成分、または限定から本質的に成ることができる。
【0037】
CoV2感染を阻害する化合物
CoV2の感染性を阻害するポリペプチド化合物を含有する組成物が、本明細書において開示される。当該ペプチドは、CoV2のスパイクタンパク質の部分を擬態し、感染プロセスの間に生じる三量体の一時的な形態に結合する。ペプチド結合が、より安定でコンパクトな「6-ヘリックスバンドル」(6HB)へのSの一時的な形態の再配列を防ぐ;当該ペプチドがないときには、6HBの形成により、宿主細胞膜とウイルスエンベロープとの融合のための駆動力がもたらされる。
【0038】
Cov2におけるスパイクタンパク質6HBバンドルの構造は、知られていて、ペプチドを設計するための分子標的をもたらす。ペプチドは、Cov2スパイクタンパク質のHR2ドメインをもとにして形成される。Cov2 Sタンパク質のHRCドメインの範囲内の残基1168~1203に対応する36-残基ペプチド(配列番号:1)が、Sタンパク質によって媒介される細胞融合の強力な阻害因子であることが判明した。
図5、およびOutlaw et al., mBio 2020, 11: e01935-20を参照。しかし、このペプチドは、低い溶解性のために、作製するには極めて困難である。CoV2HR2ペプチドの修飾バージョンが、改善された溶解性を発揮するように設計された(配列番号:2~4)。
図6、国際公開第2021/216891号、およびOutlaw et al., mBio 2020, 11: e01935-20を参照。完全にαアミノ酸から成る修飾ペプチドは、天然のペプチドの活性に匹敵する活性で、S媒介細胞融合の強力な阻害を発揮するが、プロテアーゼによって急速に分解される。
【0039】
したがって、非天然βアミノ酸残基を含むポリペプチド化合物が、本明細書に開示される。これらβアミノ酸残基の存在が、これら化合物を、生体内でプロテアーゼに対して耐性があるようにし、したがって、それらの薬理活性を向上させる。
【0040】
好ましい形態において、ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を有するか、または、配列番号2との当該ポリペプチドの配列同一性が、少なくとも80%、85%、90%、もしくは95%であるが100%未満であり、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている。
【0041】
様々な実施形態において、ポリペプチドは、配列番号2と少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも96%、もしくは少なくとも97%同一である配列同一性、を有し、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている。
【0042】
様々な実施形態において、上記のポリペプチドにおける1つから10個までのαアミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されていてもよく、たとえば、上記のポリペプチドにおける1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10αアミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている。
【0043】
β-アミノ酸残基は、骨格のα位もしくはβ位の炭素原子において(即ち、β
2炭素原子もしくはβ
3炭素原子において)直線状であってもよいし、置換されていなくてもよいし、もしくは置換されていてもよいし、または、挿入されたβ-アミノ酸残基のαおよびβ骨格炭素原子を取り囲む環状基によって立体配座的に制約されていてもよい(
図7)。
環状に拘束されたβ-アミノ酸残基の例には、2-アミノシクロペンタンカルボン酸(ACPC)および3-アミノピロリジン-4-カルボン酸(APC)が、含まれる。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記のポリペプチドにおける少なくとも1つのα-アミノ酸残基は、2-アミノイソ酪酸(即ち、2-メチルアラニン;「Aib」としても知られる)に置換されている。
【0045】
好ましくは、本明細書に開示されるポリペプチドは、脂質部分をさらに含有する。脂質共役阻害ペプチドに関するより初期の研究が、脂質がペプチドを細胞膜へと向かわせて抗ウイルス効果を高める、ということを証明した(米国特許第8,629,101号明細書;Ingallinella et al. PNAS 2009, 106: 5801; Park and Gallagher, Virology 2017, 511: 9-18)。脂質部分の例には、コレステロール、トコフェロール、およびパルミチン酸塩が含まれる。脂質コンジュゲーションについては、上記のポリペプチドは、一般的に、C末端において、たとえば、Gly-Ser-Gly-Ser-Gly-Cysセグメント(配列番号35)によって伸長される。介在するテトラエチレングリコールセグメントで脂質部分、たとえば、コレステロールを付加するために、システイン側鎖が、求核ハンドルとして使用される。脂質部分は、細胞膜にペプチドを固定させるように意図される。いくつかの実施形態において、C末端セグメント(たとえば、配列番号35)の少なくとも1つのα-アミノ酸残基が、β-アミノ酸残基に置換されている。
【0046】
ポリ(エチレングリコール)部分(たとえば、PEG4)が、上記のポリペプチドと上記の脂質部分との間に付加されることができる。上記のポリペプチドと上記の脂質部分との間に挿入された当該PEG部分は、向上した広域スペクトル活性および効力をもたらすことが示された(国際公開第2021/216891号)。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのPEG部分が、上記のポリペプチドと上記の脂質部分との間に付加される。
【0047】
表1において以下に示されるように、配列番号5~34は、本開示に従う一連の例示的なポリペプチドである。当該ポリペプチドは、配列番号2から誘導され、少なくとも1つのα-アミノ酸残基をβ-アミノ酸残基に置換させられる。これら化合物は例示的であり、余すところなく記載しているわけではない。
【0048】
【0049】
医薬組成物
本明細書に記載される抗CoV2ポリペプチドまたはその薬学的に適切な塩を含有する医薬組成物も、本明細書に開示される。より具体的には、上記の医薬組成物は、抗CoV2ポリペプチドはもちろん、標準的な良く知られた非毒性の薬学的に適切な担体、アジュバントまたは賦形剤、たとえば、リン酸緩衝生理食塩水、水、エタノール、ポリオール、植物油、湿潤剤、または水/油エマルションなどのエマルション、などのアジュバントまたは賦形剤、のうちの1つまたは複数を含有することができる。本組成物は、液体、固体、または半固体の形態のいずれであってよい。たとえば、本組成物は、錠剤、カプセル、摂取可能な液体もしくは粉末、注入可能な座薬、または局所軟膏もしくはクリームの形態であってよい。たとえば、分散の場合において適切な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性が維持できる。等張剤、たとえば、糖類、塩化ナトリウム、などを含むことが望ましい場合もある。そのような不活性希釈剤以外に、本組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味料、香味剤、芳香剤などのアジュバントを含むこともできる。
【0050】
活性化合物に加えて、懸濁液が、たとえば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、およびトラガカント、またはこれら物質の混合物、などの懸濁化剤を含有することもできる。
【0051】
錠剤およびカプセルなどの固形の剤形が、薬学の技術において良く知られた技法を用いて作製できる。たとえば、本明細書に記載されるようにして作製された抗CoV2ポリペプチドは、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤と、片栗粉またはアルギン酸などの崩壊剤と、ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤と組み合わせて、ラクトース、スクロース、およびコーンスターチなどの従来のタブレットベースを用いて、錠剤化できる。カプセルは、これら賦形剤を酸化防止剤および上記の関連するポリペプチドとともにゼラチンカプセルの中に組み入れることによって、作製できる。
【0052】
静脈内投与の場合には、本ポリペプチドは、市販の製剤の中に組み入れられることができる。望ましい場合には、上記の製剤の個々の成分が、1回または複数回の使用のために、キットの形で、個々に供給されてもよい。
【0053】
本医薬組成物は、経口投与されることが可能である。たとえば、液体製剤が、経口投与されることが可能である。さらに、均質な混合物が、噴霧液または吸入剤を形成するために、水の中で完全に分散させられ、生理学的に許容される希釈剤、防腐剤、緩衝液、または推進剤と無菌状態下で混ぜられることができる。投与の経路は、もちろん、所望の効果および処置される対象者の医学的状態に依存するだろう。患者に投与されるべき本組成物の投与量は、当業者によって決定されることが可能であり、患者の体重、患者の年齢、患者の免疫状態、などの様々な要因に依存し、最終的には、処置を施す医療専門家の裁量に委ねられる。
【0054】
形態に関しては、本組成物は、たとえば、溶液、分散、懸濁液、エマルション、またはそれから再溶解される無菌パウダーであってもよい。本組成物は、毎日1回の服用または複数の服用で投与されてもよい。
【0055】
本開示は、本明細書に記載される抗CoV2ポリペプチドのうちの1つまたは複数を、阻害する量および/またはCoV2症状を改善する量で、投与することによってヒトを含む哺乳類においてCoV2を処置することも、含む。特に、本開示の組成物は、任意のおよび全ての記載のCoV2状態を処置するために使用できる。
【0056】
上記の医薬組成物は、ヒトと同様に、国内向けおよび非国内向けの両方で、ヒト以外の動物に関連して使用できることに注意すべきである。
【実施例】
【0057】
本実施例において、例示的な抗CoV2ポリペプチドが、CoV2S-タンパク質媒介融合を阻害する際に評価された。本実施例において試験されたポリペプチドは、脂肪族β-アミノ酸置換および/または環状に拘束されたβ-アミノ酸置換を含み、「GSGSGC」(配列番号35)のC末端リンカーを通じてポリ(エチレングリコール)-コレステロール「テール」に結合される。
図8は、ポリ(エチレングリコール)-コレステロール「テール」を有する例示的なポリペプチドの1つを示す。
【0058】
図9は、細胞-細胞融合アッセイからの結果を示し、阻害率は、任意の阻害物質がない場合に観察される発光シグナルの抑制の程度に相当する(即ち、0%の阻害は、最大の発光シグナルに相当する)。
【0059】
SARS2 HRC QE6およびQE7(配列番号23-24)は、約20nMの50%阻害濃度(IC50)および約100nMの90%阻害濃度(IC90)で、S媒介融合を強力に阻害した。SARS2 HRC QE8(配列番号25)も、約100nMのIC50でS媒介融合を阻害する際に効果を示す。SARS2 HRC QE5(配列番号22)は、約1000nMのIC50で効果が低い。
【0060】
図10A~10Cは、より広範囲の例示的な抗CoV2ポリペプチドを試験した細胞-細胞融合アッセイからのより多くの結果を示す。配列番号7、24、および34のポリペプチドは、S媒介融合を阻害する際に、約10nMのIC
50で、最大の効力を示し、次いで、配列番号8、10、および32のポリペプチドが、約50nMのIC
50で、効力を示す。
【0061】
方法
ペプチド合成。以前に報告された、Fmocに基づくペプチド固相合成のためのマイクロ波アシスト条件を用いて、ペプチドが、NovaPEGリンクアミドレジン(NovaBiochem、Merck KGaAの完全所有子会社、ダルムシュタット、ドイツ)上に作製された。Horne, W.S., Boersma, M.D., Windsor, M.A. & Gellman, S.H. Sequence-Based Design of α/β-Peptide Foldamers that Mimic α-Helical BH3 Domains, Angew. Chem. Int. Ed. 47, 2853-6, (2008); Horne, W.S., Johnson, L.M., Ketas, T.J., Klasse, P.J., Lu, M., Moore, J.P., Gellman, S. H. Structural and biological mimicry of protein surface recognition by α/β-peptide foldamers. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 106, 14751-6, (2009); Johnson, L.M., Mortenson, D.E., Yun, H.G., Horne, W.S., Ketas, T.J., Lu, M., Moore, J.P., & Gellman, S.H. Enhancement of α-Helix Mimicry by an α/β-Peptide Foldamer via Incorporation of a Dense Ionic Side-Chain Array. J. Am. Chem. Soc. 134, 7317-20, (2012); Boersma, M.D., Haase, H.S., Peterson-Kaufman, K.J., Lee, E.F., Clarke, O.B., Colman, P.M., Smith, B.J., Horne, W.S., Fairlie, W.D., & Gellman, S.H. Evaluation of diverse α/β-backbone patterns for functional α-helix mimicry: analogues of the Bim BH3 domain. J. Am. Chem. Soc. 134, 315-23, (2012); and Horne, W.S., Price, J.L., & Gellman, S.H. Interplay among side chain sequence, backbone composition, and residue rigidification in polypeptide folding and assembly. Proc. Natl Acad Sci USA 105, 9151-6, (2008)を参照。
【0062】
鎖が組み立てられた後、ペプチドが上記のレジンから切断され、上記のレジンを、2mLのトリフルオロ酢酸(TFA)、50μLの水、および50μLのトリイソプロピルシランで、3時間処理することによって、側鎖が、脱保護された。TFA溶液は、そのとき、脱保護されたペプチドを沈殿させるために、冷たいエーテルの中へとしたたり落とさせられる。ペプチドは、逆相-HPLCを用いてprep-C18カラム(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)上で精製された。純度が、RP-HPLC(溶媒A:水中の0.1%TFA、溶媒B:アセトニトリル中の0.1%TFA、C18分析カラム(4.6×250mm)、流速1mL/分、勾配50分間にわたる10~60%B溶媒)によって評価された。質量が、MALDI-TOF-MSによって測定された(データは示さない)。
【0063】
ペプチドアッセイ。上記の文献からのHPLC法が、選択された化合物へのプロテアーゼの作用を評価するために使用された。Murage, E.N., Gao, G.Z., Bisello, A., & Ahn, J.M. Development of Potent Glucagon-like Peptide-1 Agonists with High Enzyme Stability via Introduction of Multiple Lactam Bridges. J. Med. Chem. 53, 6412-20, (2010) を参照。
【0064】
プロテアーゼが添加される前に、2nmolの固体ペプチドが、40μLのTBS pH8.0に溶解させられた(ペプチドの結果生じる濃度=40μM)。キモトリプシンが、Promegaフィッチバーグ、ウィスコンシン州、;カタログ#V1062)から購入され、ネプリライシンが、Reprokine(バレー・コテージ、ニューヨーク州;カタログ#RKP08473)から購入された;水中の250μg/mLのキモトリプシン原液および200μg/mLのネプリライシンの原液が調製された。プロテアーゼ保存液の10μLのアリコートが、反応を開始させるために、40μLの40μMペプチド溶液に添加された。定期的に、上記の溶液の10μLのアリコートが除去され、プロテアテーゼの作用は、100μLの1%水性TFA溶液にこのアリコートを添加することによって、止められた。急冷された上記の溶液の一部(100μL)が、「ペプチド合成」の項において記載された条件を用いて、HPLCカラム上に注入され、ピークが、MALDI-TOF-MSを用いて分析された。ペプチドの分解の時間的経過は、一連のHPLCトレースにおける各ピークのエリアを統合することによって、実験的に決定された。(初期トレースに対する)親ペプチドの面積パーセントが、各トレースに対して算出され、半減期の値を決定するために、GraphPad Prismソフトにおいて指数関数的減衰として曲線で表された。
【0065】
細胞。ヒト胎児腎臓(HEK)293T細胞、およびVero(アフリカミドリザルの腎臓)細胞が、5%CO2中で10%のウシ胎児血清(FBS)および抗生物質を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Invitrogen;Thermo Fisher Scientific)において生育された。Vero E6 細胞(ATCC CRL-1586)が、5%CO2中で6%FBSおよび抗生物質で補われたアール塩(EMEM;Gibco)を用いて、最小必須培地において生育された。
【0066】
プラスミド。蛍光タンパク質Venusに融合されたhACE2、蛍光タンパク質VenusおよびSARS-CoV-2 Sに融合されたジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)のためのcDNAのコーディング(哺乳類発現に対して最適化されたコドン)のクローンが、(セレクションのためのピューロマイシン耐性を有する)pCAGGSの修飾バージョンにおいて作られた。
【0067】
ウイルス。SARS-CoV-2 strain USA_WA1/2020が、テキサス大学医学部(UTMB)の新生のウイルスおよびアルボウイルスのためのワールドリファレンスセンタ(World Reference Center for Emerging Viruses and Arboviruses:WRCEVA)から得られ、Vero E6細胞に伝播された。ウイルスストックが、接種3日後または4日後に採取された浄化された細胞培養上清から、生成された。ネオングリーン(icSARS-CoV-2-mNG)を発現させる組換えウイルスが、Pei-Yong Shiおよびその同僚によって開発され(Xie X. et al., An infectious cDNA clone of SARS-CoV-2. Cell Host Microbe 27: 841-848.e3, 2020)、Vero E6細胞に伝播された。感染ウイルスを用いた全ての作業(伝播、滴定、およびプラーク減少アッセイ)が、UTMBのガルベストン国立研究所におけるバイオセーフティーレベル3(BSL3)の施設において行われた。
【0068】
β-Gal相補性に基づく融合アッセイ(細胞-細胞融合アッセイ)。我々は、以前、-ガラクトシダーゼ(β-Gal)のアルファ相補性に基づいて融合アッセイを適合させた(Porotto M. et al., Inhibition of Nipah virus infection in vivo: targeting an early stage of paramyxovirus fusion activation during viral entry. PLoS Pathog 6: e1001168, 2010)。このアッセイにおいて、hACE2またはDDP4受容体を有しかつβ-Galのオメガペプチドを発現させる細胞が、β-Galの糖タンパク質Sおよびアルファペプチドを共発現させる細胞と混合させられ、細胞融合が、アルファ-オメガ相補性へと導く。融合は、細胞を溶解させることによって停止させられ、基質(Tropix Galacto-Star化学発光レポーターアッセイシステム;Applied Biosystem)の追加後に、発光が、Tecan M1000PROマイクロプレートリーダー上で定量化される。
【0069】
ウイルス滴定およびプラーク減少中和アッセイ。ウイルスストックの力価は、6ウェル組織培養プレートにおいて培養されたVero E6細胞において、プラークアッセイによって決定された。ウイルスストックは、PBSにおいて10倍に段階希釈され、0.2mlの各希釈物が、4ウェルへ播種され、15分おきに揺動させて、37℃で1時間、吸着された。単分子層が、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Corning)で濯がれ、それから、MEM、5%FBS、抗生物質、およびMEアガロース(0.6%)を含有する半固形培地で覆われた。培養菌が、37℃で3日間培養され、染色剤としてニュートラルレッド(3.33g/リットル;Thermo Fisher Scientific)(10%)を含有するDPBSで覆われ、4~5時間後にプラークが数えられた。
【0070】
ペプチドは、SARS-CoV-2に対する阻害活性について、プラーク減少中和アッセイを用いて試験された。ペプチドは、分子生物学グレードの水(10,000nMから5nMまで、または1、000nMから0.5nMまで)で段階希釈され、各ペプチド用量は、500プラーク形成単位(PFU)/mlのウイルス含量の等量と、MEMで混合され、そのペプチド/ウイルス混合物は、37℃で1時間培養された。各ペプチド用量/ウイルス混合物は、6ウェルプレートのVero E6細胞の3組の中へと撒かれ(1ウェル当たり0.2ml)、15分ごとに揺動させて、37℃で1時間、吸着された。MEM、5%FBS、抗生物質、およびMEアガロース(0.6%)を含有する培地への交換の前に、単分子層は、DPBSでリンスされた。培養菌は、37℃で3日間培養され、染色剤としてニュートラルレッドを含有する培地が重ねられ、プラークが、4~5時間後に数えられた。ウイルスコントロールは、ペプチドの代わりに滅菌水と混合されたものとした。
【0071】
HAE培養物。EpiAirway AIR-100システム(MatTek)は、in vivоで上皮組織と極めて近い疑似重層の高分化型粘膜繊毛性上皮を形成するために培養された正常ヒト由来気管/気道上皮細胞からなる。製造業者から受け取ると、HAE培養物は、我々が以前行ったように処理された(Outlaw V. K. et al., Dual inhibition of human parainfluenza type 3 and respiratory syncytial virus infectivity with a single agent. J Am Chem Soc 141: 12648-12656. 2019; Moscona A. et al., A recombinant sialidase fusion protein effectively inhibits human parainfluenza viral infection in vitro and in vivo. J Infect Dis 202: 234-241, 2010; Palermo L. M. et al., Human parainfluenza virus infection of the airway epithelium: the viral hemagglutinin-neuraminidase regulates fusion protein activation and modulates infectivity. J Virol 83: 6900-6908, 2009)。培養物は、一時的に、1ウェル当たり1.0mlの培地(基底外側で培地交換、頂端面は空気に曝露されたままの状態で)を含む6ウェルプレートに移され、実験の前に、37℃、5%CO2下で24時間、順化させられた。
【0072】
HAEのウイルス感染。HAE培養物は、安定なmNeonGreen受容体遺伝子(icSARS-CoV-2-mNG)(Xie X. et al., An infectious cDNA clone of SARS-CoV-2. Cell Host Microbe 27: 841-848.e3, 2020)を発現させる感染性クローン由来のSARS-CoV-2を2,000PFUだけ含有する200μlのEpiAirwayリン酸緩衝生理食塩水(MatTek TEER緩衝液)を頂端面に37℃で90分間塗布することによって感染させられた。90分の時点で、接種材料を含有する培地が除去され、上記の頂端面が、200μlのTEER緩衝液で洗浄され、20μlのペプチド(10,000nM)または相当量のTEER緩衝液のいずれかが、処理として添加された。採取後、培養物には、基底外側に毎日1.0ml培地を補充することによって、培地交換がなされた。最終的なペプチド濃度は、200nMであった。
【0073】
ウイルスは、1ウェル当たり200μlのTEER緩衝液をHAE培養物の頂端面に添加することによって採取され、37℃で30分間、平衡させられた。そのとき収集された懸濁液は、TRIzol試薬(Thermo Fisher)で不活性化され、RT-qPCRのために処理された。このウイルスの収集は、接種後毎日、細胞の同じウェルに対して順次行われた。頂端の懸濁液および基底外側の懸濁液を採取した後、細胞は、接種から7日目にTRIzolを使用して溶解された。頂端側および基底外側から収集されたHAE上清からの感染性ウイルスの合計量は、1ウェル当たり0.1mlで播種し12ウェルプレートで培養されたVero E6細胞のプラークアッセイによって決定された(3系列をPBSでそれぞれ10倍希釈)。
【0074】
定量RT-PCR。細胞抽出物および上清液におけるウイルス力価が、定量RT-PCR(RT-qPCR)によって推定された。全RNAが、製造業者の取り扱い説明書に従ってRNeasyミニキット(Qiagen)を使用して、抽出された。逆転写は、GoScript逆転写システム(Promega)を用いて行われた。得られたcDNAは、1:10で希釈された。定量PCR(qPCR)は、ROXキット(Invitrogen)とともにPlatinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDGを使用して行われた。qPCRは、以下のプロトコルを用いて、ABI7000PCRシステム(Applied Biosystems)上で動かされた:(i)95℃、5分;(ii)95℃、15秒と60℃、1分 40サイクル;(iii)0.8℃間隔での95℃までの融解曲線。標準的な参照(「the CDC 2019-nCoV Real-Time」kitからの2019-nCoV Positive Control-nCoVPC)が、結果を標準化するために各実行に含まれた。
【0075】
細胞毒性アッセイ。HEK293T細胞またはVero細胞は、37℃で、ペプチドまたは溶媒(ジメチルスルホキシド)の所定の濃度で、培養された。細胞毒性は、製造業者の取り扱い説明書に従ってVybrant MTT細胞増殖アッセイキットを使用して、24時間後に決定された。吸光度は、Tecan M1000PROマイクロプレートリーダーを使用して、540nmで読み取られた。HAE培養物は、1、10、または100Mの濃度のペプチドの存在下または非存在下において、37℃で培養された。ペプチドは、栄養供給培地に添加された。7日目の細胞生存率が、製造業者の取り扱い説明書に従ってVybrant MTT細胞増殖アッセイキットを使用して、決定された。吸光度は、Tecan M1000PROマイクロプレートリーダーを使用して、540で読み取られた。
【配列表】
【国際調査報告】