(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】量子計算システムにおける量子勾配演算を使用した特性推定の実行
(51)【国際特許分類】
G06N 10/60 20220101AFI20241018BHJP
【FI】
G06N10/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523952
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022047416
(87)【国際公開番号】W WO2023211486
(87)【国際公開日】2023-11-02
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502208397
【氏名又は名称】グーグル エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Google LLC
【住所又は居所原語表記】1600 Amphitheatre Parkway 94043 Mountain View, CA U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビル・ハギンズ
(72)【発明者】
【氏名】ジャロッド・ライアン・マクレーン
(57)【要約】
物理システムの状態を決定するための量子計算システムおよび方法が提供される。いくつかの例では、方法は、物理システムに関連付けられた定義された関数を取得するステップを含むことができ、定義された関数は、定義された関数の勾配として量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を符号化する。この方法は、量子計算システム内の複数のキュービット上に量子回路を実装して、複数のキュービット上で量子演算(たとえば、Gilyen量子勾配アルゴリズム)を実行するステップを含むことができる。量子演算は、定義された関数の勾配を決定するように動作可能である。この方法は、量子演算の実装後に、複数のキュービットのうちの少なくとも1つに少なくとも基づいて、少なくとも1つの特性の推定値を決定するステップを含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理システムの状態を判定するための方法であって、
1つまたは複数の計算デバイスによって、前記物理システムに関連付けられた定義された関数を取得するステップであり、前記定義された関数が、前記定義された関数の勾配として量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を符号化する、取得するステップと、
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子計算システム内の複数のキュービット上で量子演算を実行するために、前記複数のキュービット上に量子回路を実装するステップであり、前記量子演算が、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、実装するステップと、
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子演算の実装後に、前記複数のキュービットのうちの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの特性の前記推定値を決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記シミュレートされるべき特性が、前記物理システムの量子オブザーバブルの期待値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シミュレートされるべき特性が、不等時間相関関数に関連付けられた1つまたは複数の要素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記量子演算が、Gilyen量子勾配アルゴリズムを使用して、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、量子回路を実装するステップが、前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子回路を使用して前記複数のキュービットの少なくともサブセットに対して複数の状態準備動作を実装するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記量子回路が、前記定義された関数の確率オラクルを実装する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記量子回路が、M個の第1のキュービットレジスタ、N個の第2のキュービットのシステムレジスタ、および少なくとも1つの補助キュービット上に実装され、Mがいくつかの量子オブザーバブルであり、Nが整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記量子回路が、前記定義された関数を前記補助キュービットの振幅に符号化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記量子回路が、1つまたは複数のアダマールゲートおよび1つまたは複数の位相ゲートを使用して、前記補助キュービット上でアダマールテストを実装する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記N個の第2のキュービットがゼロに初期化され、前記量子回路が、前記N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装するように動作可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記量子回路が、前記M個の第1のキュービットレジスタ上の少なくとも1つの二重制御量子ゲートを使用して、前記量子オブザーバブルのための制御された時間発展を実装する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの二重制御ゲートが、前記N個の第2のキュービットおよび前記補助キュービットのうちの1つに少なくとも部分的に基づく、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記特性の前記推定値を決定するステップが、前記複数のキュービットのうちの少なくとも1つの測定を実行するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
量子計算システムであって、
第1のキュービットのM個のレジスタと、N個の第2のキュービットのレジスタと、少なくとも1つの補助キュービットとを含む複数のキュービットと、
量子演算を使用して定義された関数の勾配を決定するために、前記複数のキュービット上に量子回路を実装するように構成された1つまたは複数の制御デバイスであり、前記定義された関数の前記勾配が、前記量子計算システムによってシミュレートされるべき特性の推定値を符号化する、制御デバイスと
を備える量子計算システム。
【請求項15】
前記特性が、物理システムの複数のオブザーバブルの期待値を含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項16】
前記特性が、不等時間相関関数に関連付けられた1つまたは複数の要素を含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項17】
前記量子演算が、Gilyen量子勾配アルゴリズムを使用して、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項18】
前記量子回路が、前記定義された関数を前記補助キュービットの振幅に符号化する、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項19】
前記量子回路が、1つまたは複数のアダマールゲートおよび1つまたは複数の位相ゲートを使用して、前記補助キュービット上でアダマールテストを実装する、請求項18に記載の量子計算システム。
【請求項20】
前記N個の第2のキュービットがゼロに初期化され、前記量子回路が、前記N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装するように動作可能であり、前記量子回路が、前記M個の第1のキュービットレジスタ上の少なくとも1つの二重制御量子ゲートを使用して量子オブザーバブルのための制御された時間発展を実装し、前記二重制御ゲートが、前記N個の第2のキュービットおよび前記補助キュービットのうちの1つに少なくとも部分的に基づいており、1つまたは複数の計算デバイスによって、前記特性の前記推定値を決定することが、前記M個の第1のキュービットレジスタのうちの少なくとも1つの測定を実行することを含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2021年10月22日に出願された「Performing Property Estimation Using Quantum Gradient Operation on Quantum Computing System」という名称の米国仮出願第63/270,877号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本開示は、一般に、量子計算システムに関し、より詳細には、物理システム(たとえば、量子システム)のシミュレーションを実行するように動作可能な量子計算システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
量子計算は、古典的なデジタルコンピュータよりも効率的に一定の計算を行うために、基底状態(basis state)の重ね合わせおよび絡み合いなど、量子効果を活用する計算方法である。ビットの形態、たとえば、「1」または「0」で情報を記憶し操作するデジタルコンピュータとは対照的に、量子計算システムは、量子ビット(「キュービット(qubits)」)を使用して情報を操作し得る。キュービットは、複数の状態、たとえば、「0」と「1」の両方の状態のデータの重ね合わせを可能にする量子デバイス、および/または複数の状態のデータの重ね合わせ自体を指すことがある。従来の用語によれば、量子システムにおける「0」および「1」の状態の重ね合わせは、たとえば、|0〉+b|1〉として表すことができる。デジタルコンピュータの「0」および「1」の状態は、それぞれ、キュービットの|0〉および|1〉の基底状態に類似している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gilyenら「Optimizing quantum optimization algorithms via faster quantum gradient computation」、In Proceedings of the 30th ACM-SIAM Symposium on Discrete Algorithms(SODA 2019)、1425-1444頁
【非特許文献2】S. P. Jordan、Phys. Rev. Lett. 95、050501(2005)
【非特許文献3】J. van Apeldoorn、「Quantum probability oracles & multi-dimensional amplitude estimation」、16th Conference on the Theory of Quantum 2021(「Apeldoorn」)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態の態様および利点が、以下の説明において部分的に記載され、または説明から学ぶことができ、または実施形態の実践を通して学ぶことができる。
【0006】
本開示の例示的な一態様は、物理システムの状態を決定するための方法を対象とする。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、物理システムに関連付けられた定義された関数を取得するステップであり、定義された関数が、定義された関数の勾配として量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を符号化する、取得するステップを含むことができる。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、複数のキュービット上で量子演算を実行するために、量子計算システム内の複数のキュービット上に量子回路を実装するステップを含むことができる。量子演算は、定義された関数の勾配を決定するように動作可能である。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、量子演算の実装後に、複数のキュービットのうちの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの特性の推定値を決定するステップを含むことができる。
【0007】
本開示の他の態様は、様々なシステム、方法、装置、非一時的コンピュータ可読媒体、コンピュータ可読命令、および計算デバイスを対象とする。
【0008】
本開示の様々な実施形態のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲を参照してよりよく理解されよう。本明細書に組み込まれるとともにその一部をなす添付の図面は、本開示の例示的な実施形態を示しており、説明とともに、関連原理を説明する。
【0009】
当業者を対象とする実施形態の詳細な説明が本明細書に記載され、本明細書は添付の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の例示的な実施形態による例示的な量子計算システムを示す図である。
【
図2】本開示の例示的な実施形態によるシステムおよび方法の概要を示す図である。
【
図3】本開示の例示的な実施形態による量子計算システムによって実装される例示的な量子回路を示す図である。
【
図4】本開示の例示的な実施形態による方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の例示的な態様は、たとえば、物理システム(たとえば、量子システム)における実験をシミュレートするために使用され得る量子計算システムおよび方法を対象とする。量子計算システムおよび方法は、たとえば、量子システムの状態に関するオブザーバブルの期待値または不等時間相関関数(unequal time correlation function)に関連付けられた要素など、システムに関連付けられた推定された特性を決定するために使用することができる。一例として、量子計算システムを使用して、双極子モーメントおよび分極率、電子密度、古典的な原子核が経験する力、または基底状態に関連付けられた他の特性を測定するなど、電子基底状態問題における特性を決定することができる。別の例として、相関関数に関連付けられた要素は、たとえば、物性物理学およびそれ以降における量子多体現象の態様を理解するために決定することができる。
【0012】
量子計算システムを使用して物理システムのシミュレーションを実行することに関連付けられた複雑さは、物理システムの状態をシミュレートするための量子計算システム内のキュービットの状態準備に起因し得る。キュービットの状態準備は、計算上および動作上高価であり得、たとえば、位相推定および/または他の状態準備動作をキュービット上で高精度で実行することを必要とし得る。
【0013】
量子計算システムを使用して複数のオブザーバブルの期待値を決定するための1つのアプローチは、キュービットの状態を繰り返し準備すると同時に、各状態準備後に推定値を決定するための測定を実行することも伴うサンプリングアプローチを含むことができる。しかしながら、サンプリングアプローチでは、定義された誤差許容範囲に対して指数関数的にスケーリングするいくつかの状態準備ステップを実行することが必要である。振幅推定技法は、誤差許容範囲で良好なスケーリングを提供することができる。しかしながら、振幅推定技法は、一度に単一のオブザーバブルの推定値をただ1つのみ測定するのに適している場合がある。結果として、複数のオブザーバブル(たとえば、M個のオブザーバブル)の期待値を決定するために振幅推定を使用することは、オブザーバブルの数に直接関連付けられた係数によるスケーリングが必要となる可能性がある。
【0014】
本開示の例示的な態様によれば、物理システムの複数の特性の推定値は、量子計算システムに実装されるパラメータ化された量子回路において、その勾配が複数の特性の推定値をもたらす、定義された関数を符号化することによって決定され得る。次いで、量子回路の実装を介して量子演算を実行して、勾配を決定することができる。推定値は、次いで、量子演算の実装後に、量子計算システム内の1つまたは複数のキュービットの測定によって決定され得る。
【0015】
たとえば、量子計算システムは、各キュービット上のパウリZ演算子の期待値(たとえば、基底状態問題の用途において電子密度を得ることができる)またはフェルミオンk還元密度行列など、物理システムのオブザーバブルの期待値を対象の特性として決定するために使用され得る。本開示の例示的な態様によれば、量子システムにおいて、その勾配が複数のオブザーバブルの期待値をもたらす定義された関数を符号化することができる。量子演算は、勾配を決定するために、量子計算システム内の複数のキュービット上に量子回路を実装することによって実行することができる。次いで、期待値は、量子演算の実装後に複数のキュービットから決定することができる。
【0016】
より具体的には、いくつかの実施形態では、量子演算は、定義された関数の勾配を決定するための量子アルゴリズムを実装することができる。いくつかの実施形態では、量子アルゴリズムは、たとえば、参照により本明細書に組み込まれる、Gilyenら、「Optimizing quantum optimization algorithms via faster quantum gradient computation」、In Proceedings of the 30th ACM-SIAM Symposium on Discrete Algorithms(SODA 2019)、1425-1444頁に記載されているGilyenらの勾配アルゴリズムとすることができる。Gilyen量子勾配アルゴリズムは、参照により本明細書に組み込まれる、特定のブラックボックスアクセスモデルにおける関数の勾配を計算するための指数関数的な量子高速化を実証する、S. P. Jordan、Phys. Rev. Lett. 95、050501(2005)に開示された量子勾配アルゴリズムを基礎とする。Jordan量子勾配アルゴリズムは、量子位相において目的関数をもたらすブラックボックスオラクルをクエリし、位相キックバックおよび量子フーリエ変換を使用して、勾配ベクトルの次元に依存しないいくつかのクエリを使用して、この目的関数の勾配の1次近似を達成することができる。Gilyen量子勾配アルゴリズムは、高次微分公式から生じる最適化も含みながら、量子オブザーバブルの期待値に関数の値が符号化される場合に、Jordan量子勾配アルゴリズムの修正版を適用する。
【0017】
量子演算(たとえば、量子勾配アルゴリズム)は、量子計算システム内の複数のキュービット上に、複数の量子ゲートを含む量子回路を実装することによって実行することができる。いくつかの実施形態では、複数のキュービットは、第1のキュービットのM個のレジスタと、N個の第2のキュービットのシステムレジスタと、補助キュービットとを含むことができ、ここで、Mは、決定されるべきオブザーバブルの数であり、Nは、整数(たとえば、2の整数乗)である。N個の第2のキュービットは、ゼロに初期化することができ、たとえば、物理システムをシミュレートするために、キュービットの状態を準備するための状態準備動作を受け得る。第1のキュービットのM個のレジスタは、量子オブザーバブルの各々の期待値を提供することができる。M個のレジスタの各々は、b個の第1のキュービットを含むことができ、ここで、bは、それぞれのキュービットレジスタに関連付けられたオブザーバブルのバイナリ表現で使用される桁数である。
【0018】
量子回路は、物理システムの状態をシミュレートするために、量子計算システム内のキュービットの状態を準備するための状態準備動作として、N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装することができる。量子回路は、その勾配がオブザーバブルの期待値を符号化する定義された関数の確率オラクルを実装することができる。量子回路は、第1のキュービットのM個のレジスタにおいてM個のオブザーバブルの各々の期待値を符号化することができる。量子回路は、補助キュービットの振幅における定義された関数の勾配を符号化するために、補助キュービット上でアダマールテスト(たとえば、1つまたは複数のアダマール(Hadamard)ゲートおよび/または位相ゲートを使用して)を実装することができる。二重制御ゲートは、第1のキュービットレジスタ上のオブザーバブルによる時間発展を実装することができる。二重制御ゲートは、N個のキュービットのレジスタおよび補助キュービットに基づいて制御することができる。
【0019】
本発明者らは、定義された関数に対する勾配として複数のオブザーバブルの期待値を符号化し、本開示の例示的な態様による量子演算を使用して勾配を解くことが、オブザーバブルの期待値を決定するための量子コンピューティングリソースのより効率的な使用につながり得ることを発見した。より詳細には、本開示の例示的な態様による量子演算は、複数の状態準備動作を実装することを含むことができる。定義された誤差許容範囲内にあるオブザーバブルの期待値を決定するために必要とされる状態準備動作の数は、量子計算デバイスを使用して決定されるオブザーバブルの数の平方根の関数としてスケーリングすることができる。これは、たとえば、サンプリングアプローチまたは振幅推定アプローチと比較して、改善されたスケーラビリティおよび量子コンピューティングリソースのより効率的な使用を提供する。
【0020】
本開示の態様について、例示および議論の目的のために、量子計算システムを使用して、物理システムにおけるオブザーバブルの期待値を決定することを参照して議論される。本明細書で提供される開示を使用する当業者は、本開示の態様が他の用途に使用され得ることを理解するであろう。たとえば、本開示の態様は、たとえば、不等時間相関関数の評価に使用され得る。
【0021】
より具体的には、いくつかの実施形態では、不等相関関数を評価するために、その勾配が対象の要素(たとえば、対象の行列要素)をもたらす定義された関数が構築され得る。次いで、量子回路の実装を介して量子演算(たとえば、Gilyen量子勾配アルゴリズム)を実行して、勾配を決定することができる。推定値は、次いで、量子演算の実装後に、量子計算システム内の1つまたは複数のキュービットの測定によって決定され得る。
【0022】
本開示の態様は、いくつかの技術的効果および利益を提供する。たとえば、本開示の例示的な態様による量子計算システムおよび方法は、サンプリングアプローチまたは振幅推定アプローチなどの他のアプローチと比較して、より少ない量子計算リソース(たとえば、複数のキュービットにおけるより少ない状態準備動作)を使用して、定義された誤差許容範囲内にあるオブザーバブルまたは他の対象の項目の推定値を決定するために使用され得る。結果として、量子コンピューティングリソースは、誤り訂正、他の量子アルゴリズムの実行など、量子計算システムの他の機能を実行するために使用され得る。さらに、オブザーバブルの期待値を決定するために必要とされる量子コンピューティング動作がより少なくて済むので(たとえば、より少ない状態準備動作)、量子計算を妨害する誤差の機会がより少なくなり、量子コンピューティング動作のコヒーレンスが改善される。
【0023】
本開示の例示的な態様は、量子計算から複数の特性を正確かつ効率的に推定することを対象とする。いくつかの例では、純粋な状態ψに関するM個のエルミート演算子{Oj}の集合の期待値が評価される。各期待値は、ψ(またはその逆)の状態準備オラクルへのできるだけ少ない呼び出しを使用して、加法誤差ε以内に評価され得る。1つのアプローチは、ψを繰り返し準備し、{Oj}の相互に交換可能なサブセットを投影的に測定することである。代替的に、振幅推定に基づく戦略は、εに関して二次的な高速化を達成するが、各オブザーバブルを別々に測定することを伴う。
【0024】
様々な「シャドウトモグラフィ」技法は、ψの複数のコピーのジョイント測定を使用して、好ましくない1/ε4スケーリングを犠牲にして、Mに関する多対数スケーリングを達成する。特定の状況では、状態の「古典的なシャドウ」の概念に基づくランダム化された方法は、決定論的な測定設定によるサンプリングプロトコルを改善しながら、1/ε2スケーリングを取得する。
【0025】
本発明者らは、本明細書に開示される複数の特性を推定するための例示的なシステムおよび方法では、振幅推定に基づく方法と同じ1/εスケーリングを達成することができるが、
【0026】
【0027】
から
【0028】
【0029】
へのMに関するスケーリングも改善し得ることを発見しており、ここで、
【0030】
【0031】
におけるティルデは対数因子を隠す。例示的な実施形態によれば、その勾配が対象の期待値をもたらす関数fが構築され、fは、パラメータ化された量子回路に符号化される。Gilyen量子アルゴリズムは、所望のスケーリングを取得するために勾配推定に適用される。以下は、例示的な定理である。
【0032】
定理1:{Oj}を、すべてのjについてスペクトルノルム||Oj||≦1である、N個のキュービット上のM個のエルミート演算子のセットとする。
【0033】
【0034】
であるxの様々な値について、jごとの形式
【0035】
【0036】
の
【0037】
【0038】
ゲートとともに、Uψおよび
【0039】
【0040】
への
【0041】
【0042】
のクエリを使用して、すべてのjについて、少なくとも2/3の確率で、
【0043】
【0044】
となるように、ユニタリUψによって準備された任意のNキュービット量子状態ψについて、推定値
【0045】
【0046】
を出力する量子アルゴリズムが存在する。
【0047】
以下の推論3に示されるように、このクエリの複雑さは、最悪の場合に最適である(
【0048】
【0049】
の高精度レジームの対数係数まで)。
【0050】
上記で参照した主題の下限は、当然の結果として取得され得る。より詳細には、J. van Apeldoorn、「Quantum probability oracles & multi-dimensional amplitude estimation」、16th Conference on the Theory of Quantum 2021(「Apeldoorn」)は、古典的な確率分布の特定の量子アクセスモデルに関して結果が表現される下限を確立した。
【0051】
定義1(確率分布のサンプルオラクル): pを、M個の結果にわたる確率分布、すなわち、||p||1=1のp∈[0,1]Mであるとする。pについてのサンプルオラクルUpは、次のように機能するユニタリ演算子である。
【0052】
【0053】
式中、|φj〉は、任意の正規化された量子状態である。ここで、および本開示の全体を通じて、ユニタリオラクルUおよびその逆U†へのクエリは、コストが同等としてカウントされる。これに基づいて、定理2を確立することができる。
【0054】
定理2: Mを2の正の整数乗とし、
【0055】
【0056】
とする。以下が真であるように、既知の行列A∈{-1,+1}M×Mが存在する。
【0057】
【0058】
は、サンプルオラクルUpを介してアクセスされるすべての確率分布pについて、
【0059】
【0060】
となるような
【0061】
【0062】
を(少なくとも2/3の確率で)出力するアルゴリズムであるとする。そのとき、最悪の場合に、
【0063】
【0064】
は、
【0065】
【0066】
のクエリをUpに使用する必要がある。この定理は、以下の推論を導出するために使用され得、特定のレジームにおけるアルゴリズムのほぼ最適性が確立される。
【0067】
推論3: Mを2の正の整数乗とし、
【0068】
【0069】
とする。
【0070】
【0071】
は、M個のオブザーバブル{Oj}の任意のセットを入力とする任意のアルゴリズムとする。状態準備オラクルUψを介してアクセスされるすべての量子状態|ψ〉について、
【0072】
【0073】
が各〈ψ|Oj|ψ〉の推定値を加法誤差ε以内で(少なくとも2/3の確率で)出力すると仮定する。次いで、{Oj}に適用される
【0074】
【0075】
がUψへの
【0076】
【0077】
のクエリを使用する必要があるようなオブザーバブル{Oj}のセットが存在する。以下は、例示的な数学的実証を提供する。
【0078】
矛盾を導くために、任意の{Oj}およびUψについて、アルゴリズム
【0079】
【0080】
は、
【0081】
【0082】
のクエリをUψに使用して、すべての〈ψ|Oj|ψ〉を誤差ε以内に推定する(少なくとも2/3の成功確率で)と仮定する。式(1)の形式の任意のサンプルオラクルUpについて、次の状態を考慮する。
【0083】
【0084】
迅速な計算により、ベクトルApのi番目のエントリが〈ψ(Up)│Zi│ψ(Up)〉に等しいことが検証され、ここで、Ziはi番目のキュービットに作用するパウリZ演算子を示す。行列Aは既知であるので、既知のユニタリUA:
【0085】
【0086】
の
【0087】
【0088】
であることは明らかである。
したがって、アルゴリズム
【0089】
【0090】
は、j∈{1,…,M}についてOj=Zj、および
【0091】
【0092】
で適用され得る。これは、Upへの
【0093】
【0094】
のクエリの使用によって、すべてのUpについてApの各エントリを誤差ε以内に推定するアルゴリズムが、定理2に矛盾し、証明を完了させることを示している可能性がある。
【0095】
複数の期待値を同時に推定するためのフレームワークは、勾配推定のための改善されたGilyen量子アルゴリズムを使用する。Gilyenアルゴリズムは、特定のブラックボックスアクセスモデルにおける勾配を計算するための指数関数的な量子高速化を実証したJordanアルゴリズムを基礎とする。具体的には、Jordanアルゴリズムは、勾配∇fの近似値を取得するために、位相キックバックおよび量子フーリエ変換とともに、関数fのバイナリオラクルに対して1つのクエリを使用する。
【0096】
Gilyenアルゴリズムの確率オラクルの定義を以下に示す。定義2(例示的な確率オラクル):関数
【0097】
【0098】
を考慮する。fの確率オラクルUfは、次のように機能するユニタリ演算子であり、
【0099】
【0100】
式中、|x〉は、キュービットのレジスタに符号化された変数xの離散化を示し、|0〉は、補助キュービットのレジスタのすべてゼロの状態を示し、|φ0(x)〉および|φ1(x)〉は任意の量子状態である。
【0101】
Gilyenアルゴリズムは、そのような確率オラクルを使用して、補助レジスタの位相におけるfの方向導関数への有限差分近似を符号化し、たとえば、1次近似は、以下によって実装される。
【0102】
【0103】
Jordanアルゴリズムと同様に、次いで、量子フーリエ変換を使用して、基底状態の適切な重ね合わせに蓄積された位相から近似勾配を抽出することができる。高次の有限差分公式を使用することによって、Gilyenアルゴリズムは、特定の平滑関数群に最適なスケーリング(対数係数まで)で勾配を推定し得る。Gilyenアルゴリズムの例示的な特性は、以下の定理で提供される。
【0104】
定理4: ε,
【0105】
【0106】
を固定定数とし、ε≦cとする。
【0107】
【0108】
かつ
【0109】
【0110】
とする。
【0111】
【0112】
が、すべての
【0113】
【0114】
について、xにおけるfのすべてのk次偏導関数に対して以下の限界(
【0115】
【0116】
によって示される)が当てはまるような解析関数であるとする。次いで、少なくとも1-δの確率で、
【0117】
【0118】
となるような推定値
【0119】
【0120】
を出力する量子アルゴリズムがある。このアルゴリズムは、fについて、確率オラクルへの
【0121】
【0122】
のクエリを行う。
【0123】
本開示の例示的な態様は、量子勾配アルゴリズム(たとえば、Gilyenアルゴリズム)を使用して期待値を決定するために使用され得る。たとえば、対象の期待値をその勾配が符号化する関数について確率オラクルが構築され得、勾配の量子勾配アルゴリズムが適用され得る。定理1の例示的な実証を以下に提供する。
【0124】
パラメータ化されたユニタリは、
【0125】
【0126】
の場合、
【0127】
【0128】
として定義され得る。
【0129】
【0130】
に関するこのユニタリの導関数は、次の通りである。
【0131】
【0132】
状態ψに関するOjの期待値を決定するために、以下の関数fが定義され得る。
【0133】
【0134】
上記の式(7)を使用すると、次のようになる。
【0135】
【0136】
したがって、勾配∇f(0)は、まさに対象の期待値の集合である。
【0137】
fは、定理4の条件を満たし得る。fは解析的であり、指数α∈{1,…,M}kの任意の集合に関するfのk次偏導関数は、aとxの両方に依存するいくつかの演算子V(x,α)について、以下の形式をとることに留意されたい。
∂α f(x)=(-2)k-1 Im(ik〈ψ|V(x,α)|ψ〉), (10)
Vは、ユニタリであるか、{Oj}からのいずれかの項の積であることに留意されたい。すべてのjについて||Oj||≦1であるので、||V||≦1であり、したがって、すべてのkおよびaについて|∂α f(0)|≦2k-1である。c=2を設定することによって、理論4の導関数条件を満たす。
【0138】
場合によっては、fの確率オラクルを構築するために、量子回路は、f(x)を補助の振幅に符号化し得る。〈ψ|U(x)|ψ〉の虚数成分に対するアダマールテストを使用して量子回路が構成され得る。
【0139】
【0140】
とし、式中、Hはアダマールゲートを表し、c-U(x)は第1のキュービット上で制御されるU(x)ゲートを表し、S:=|0〉〈0|+i|1〉〈1|は位相ゲートを表す。
【0141】
【0142】
に適用すると、回路は、いくつかの正規化状態|φ0(x)〉および|φ1(x)〉の場合、第1のキュービット
【0143】
【0144】
の計算基底状態に関する振幅でf(x)を符号化し得る。F(x)は、オラクルUψへの単一の呼び出しであり得ることに留意されたい。
【0145】
F(x)がxを符号化するレジスタで制御されるように、量子制御がF(x)の回転に追加され得る。たとえば、ユニタリ
【0146】
【0147】
について検討し、式中、
【0148】
【0149】
は、
【0150】
【0151】
で、M次元単位超立方体に分散された2nM点のセットであり、xmaxは再スケーリング係数である。xmaxおよびnの値は、勾配アルゴリズムの要件を満たすように選択され得る。ここでは、
【0152】
【0153】
の場合、|k〉=|k
1〉…|k
M〉は、M個のnキュービットインデックスレジスタにkのバイナリ表現を記憶する基底状態を示す。各O
jについての制御された時間発展演算子は、
図3に示すように、各々がj番目のインデックスレジスタの適切なキュービット上で制御される、xの指数関数的に離間した値を有するn個の
【0154】
【0155】
のゲートの積として実装することができる。
【0156】
Ufは、関数fの確率オラクルであり、Ufへの各呼び出しは、状態準備オラクルUψへの単一の呼び出しを伴う。定理4は、少なくとも2/3の確率で、fの勾配のすべての成分、したがってすべての期待値〈ψ|Oj|ψ〉が、Ufへの
【0157】
【0158】
のクエリを使用して誤差ε以内に推定され得ることを意味する。制御された時間発展に関する複雑さは、Ufへの各クエリに必要な制御された時間発展の数、すなわち、
【0159】
【0160】
に、クエリの総数、すなわち、
【0161】
【0162】
を乗算することによって得られる。
【0163】
【0164】
は定理4の証明の詳細の結果である。これにより、定理1の例示的な実証が完了する。さらに、勾配アルゴリズムの空間複雑度は、加法対数係数までの確率オラクルの空間複雑度と同じであってもよい。したがって、本開示の例示的な態様によるシステムおよび方法は、
【0165】
【0166】
のキュービットを使用し得る。
【0167】
本開示の態様は、純粋状態ψに関する複数のオブザーバブルの期待値を同時に推定することを対象とする。アルゴリズムは、Uψおよびその逆数の
【0168】
【0169】
の適用を使用することができ、式中、Mは、オブザーバブルの数を示し、εは、目標誤差を示し、Uψは、ψを準備するユニタリである。Apeldoornで提起された密接に関連する問題の下限は、Uψへのブラックボックスアクセスを与えられたアルゴリズムについて、このクエリの複雑さは、
【0170】
【0171】
のときの対数係数まで最悪の場合で最適であることを意味する。実際、本開示の態様は、古典的な確率変数の同時推定のためのこの限界の達成可能性に関して、Apeldoornからの未解決の問題を肯定的に解決する。結果は、ε-2の代わりにε-1となるスケーリングを要求するとき、期待値推定のための最適コストがMに関して指数関数的に悪化する可能性があることを示唆している。さらに、下限を確立する際に使用されるインスタンスは、相互に交換可能なオブザーバブルのセットを伴う可能性があり、これは、ε-1スケーリングを実装する際に、可換性が役に立たない可能性があることを意味する。
【0172】
期待値の推定のための他のアプローチとの比較を、以下のTable I(表1)に提供する。
【0173】
【0174】
Table I(表1)は、複数のオブザーバブルを測定するための異なるアプローチの、状態準備オラクルクエリに関する(最悪の場合の)複雑さの比較を提供する。3つの用途、M個の可換または非可換のオブザーバブルの期待値を推定すること、およびNモードシステムのフェルミオンk-RDMを決定することが提供される。ここで、εは、各量が推定される加法誤差を示す。ナイーブサンプリング、振幅推定、およびシャドウトモグラフィに基づく戦略が、本開示の例による勾配ベースのアプローチと比較される。
【0175】
本開示の態様は、
【0176】
【0177】
の状態準備クエリを使用して、Nモードシステムのk体フェルミオン還元密度行列(k-RDM)の各要素を誤差ε以内に推定することができる。これは、ε=o(N-k/3)のとき、既存の方法と比較して無条件の漸近的な高速化を提供する。これは、1または2-RDMを測定し、Ω(N)要素を合計することによって、大量の固定誤差を達成したい実用的な用途において特に有用であり得る。
【0178】
本開示の例による、期待値を推定するための勾配ベースのアプローチは、他の特性に拡張され得る。たとえば、2点動的相関関数の集合を評価するタスクを考える。これらの関数は次の形式をとり、
CA,B (t):=〈ψ|U(0,t)A† U(t,0)B|ψ〉, (14)
式中、AおよびBは、いくつかの単純な演算子であり、U(t,t')は、システムを時間t'から時間tにマッピングする時間発展演算子である。これらの相関関数は、角度分解光電子分光法の場合のように、実験で直接アクセス可能であることが多く、動的平均場理論に基づくハイブリッド量子古典的方法の中心となる可能性もある。
【0179】
本開示の例は、M個のオブザーバブルの各々による時間発展を含み得る。必要な時間発展の合計持続期間は、
【0180】
【0181】
としてスケールされる。追加の
【0182】
【0183】
のキュービットが使用され得るが、このアプローチは、空間とクエリの複雑さの間のトレードオフのために修正され得る。O(N)個の期待値を同時に推定するとき、空間複雑さの漸近的スケーリングは、システム自体を記憶するものよりも対数的に大きいだけであり得る。これは、たとえば、運動量分布の評価など、様々な状況で当てはまり得る。他の状況では、空間オーバーヘッドは、より大きくなる可能性があるが、いわゆる「汚い補助ビット」(任意の状態でキュービットを一時的に借りる)を使用する現代のシミュレーションアルゴリズムの能力は、いくつかの状況では、この課題を相殺し得る。
【0184】
いくつかの例では、対象の観察値は、異なるノルムを有し得るか、または所望の精度が変化する。これらの例では、本開示の態様は、本開示の態様を使用して特定のオブザーバブルを測定することと、サンプリングベースの方法を使用して他のオブザーバブルを測定することとを含み得る。いくつかの例では、Gilyen勾配推定アルゴリズムは、勾配成分が必ずしも一様に限定されない関数に適応するように一般化され得る。これは、
【0185】
【0186】
のクエリを使用して、任意のノルム||Oj||(おそらく1よりも大きい)を有するオブザーバブル{Oj}の期待値の同時推定を可能にすることができる。
【0187】
量子計算、特に量子シミュレーションから有用な情報を抽出することは、多くの用途にとってボトルネックである。これは、量子化学および材料科学などの分野において特に当てはまり、マクロな物理現象を記述するために、高レベルの量子計算を他の長さスケールでより粗い近似と結合させることが望ましい場合がある。本開示の例による期待値の推定に対する勾配ベースのアプローチは、他の問題に対する関連するアプローチのための有用なツールおよび出発点であり得る。
【0188】
本開示の例示的な一実施形態は、物理システムの状態を決定するための方法を対象とする。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、物理システムに関連付けられた定義された関数を取得するステップであり、定義された関数が、定義された関数の勾配として量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を符号化する、取得するステップを含むことができる。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、複数のキュービット上で量子演算を実行するために、量子計算システム内の複数のキュービット上に量子回路を実装するステップであり、量子演算が、定義された関数の勾配を決定するように動作可能である、実装するステップを含むことができる。方法は、1つまたは複数の計算デバイスによって、量子演算の実装後に、複数のキュービットのうちの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの特性の推定値を決定するステップを含むことができる。
【0189】
いくつかの実施形態では、シミュレートされるべき特性は、物理システムの量子オブザーバブルの期待値を含む。いくつかの実施形態では、シミュレートされるべき特性は、不等時間相関関数に関連付けられた1つまたは複数の要素を含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、量子演算は、Gilyen量子勾配アルゴリズムを使用して、定義された関数の勾配を決定するように動作可能である。
【0191】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の計算デバイスによって、量子回路を実装することが、1つまたは複数の計算デバイスによって、量子回路を使用して複数のキュービットの少なくともサブセットに対して複数の状態準備動作を実装することを含む。
【0192】
いくつかの実施形態では、量子回路は、定義された関数の確率オラクルを実装する。
【0193】
いくつかの実施形態では、量子回路は、M個の第1のキュービットレジスタ、N個の第2のキュービットのシステムレジスタ、および少なくとも1つの補助キュービット上に実装され、Mがいくつかの量子オブザーバブルであり、Nが整数である。量子回路は、定義された関数を補助キュービットの振幅に符号化することができる。量子回路は、1つまたは複数のアダマールゲートおよび1つまたは複数の位相ゲートを使用して、補助キュービット上でアダマールテストを実装することができる。N個の第2のキュービットは、ゼロに初期化することができる。量子回路は、N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装するように動作可能であり得る。
【0194】
いくつかの実施形態では、量子回路は、M個の第1のキュービットレジスタ上の少なくとも1つの二重制御量子ゲートを使用して、量子オブザーバブルのための制御された時間発展を実装することができる。二重制御ゲートは、N個の第2のキュービットおよび補助キュービットのうちの1つに少なくとも部分的に基づくことができる。
【0195】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の計算デバイスによって、特性の推定値を決定することは、複数のキュービットのうちの少なくとも1つの測定を実行することを含む。
【0196】
本開示の別の例示的態様は、量子計算システムを対象とする。量子計算システムは、複数のキュービットを含み、複数のキュービットは、第1のキュービットのM個のレジスタと、N個の第2のキュービットのレジスタと、少なくとも1つの補助キュービットとを含む。量子計算システムは、量子演算を使用して定義された関数の勾配を決定するために、複数のキュービット上に量子回路を実装するように構成された1つまたは複数の制御デバイスを含み、定義された関数の勾配は、量子計算システムによってシミュレートされるべき特性の推定値を符号化する。
【0197】
次に図を参照しながら、本開示の例示的な実施形態についてさらに詳細に説明する。本明細書で使用する、値と併せた「約」という用語の使用は、その値の20%以内を指している。
【0198】
図1は、例示的な量子計算システム100を示す。システム100は、以下で説明するシステム、構成要素、および技法を実装することができる、1つまたは複数の場所における1つまたは複数の古典的なコンピュータおよび/または量子計算デバイス上のシステムの一例である。本明細書で提供する開示を使用する当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、他の量子計算デバイスまたは量子計算システムが使用され得ることを理解されよう。
【0199】
システム100は、1つまたは複数の古典的なプロセッサ104とデータ通信する量子ハードウェア102を含む。古典的なプロセッサ104は、本明細書で説明する動作のいずれかなどの動作を実行するために、1つまたは複数のメモリデバイスに記憶されたコンピュータ可読命令を実行するように構成され得る。量子ハードウェア102は、量子計算を行うための構成要素を含む。たとえば、量子ハードウェア102は、量子システム110と、制御デバイス112と、読出しデバイス114(たとえば、読出し共振器)とを含む。量子システム110は、キュービット(たとえばキュービット120)のレジスタなど、1つまたは複数のマルチレベル量子サブシステムを含み得る。いくつかの実装形態では、マルチレベル量子サブシステムは、磁束キュービット、電荷キュービット、トランズモンキュービット、ジーモン(gmon)キュービットなど、超伝導キュービットを含み得る。
【0200】
システム100が利用するマルチレベル量子サブシステムのタイプは、異なり得る。たとえば、場合によっては、1つまたは複数の超伝導キュービット、たとえば、トランズモンキュービット、磁束キュービット、ジーモンキュービット、エックスモン(xmon)キュービット、または他のキュービットにアタッチされた1つまたは複数の読出しデバイス114を含むことが好都合であり得る。他の場合には、イオントラップ、フォトニックデバイス、または(たとえば、キュービットを必要とせずに状態を準備することができる)超伝導キャビティが使用されてもよい。マルチレベル量子サブシステムのさらなる実現例には、フラックスモンキュービット、シリコン量子ドット、またはリン不純物キュービットがある。
【0201】
量子回路が構築され、1つまたは複数の制御デバイス112に結合された複数の制御ラインを介して量子システム110内に含まれたキュービットのレジスタに適用され得る。キュービットのレジスタ上で動作する例示的な制御デバイス112は、量子ゲート、または複数の量子ゲート、たとえばパウリ(Pauli)ゲート、アダマールゲート、制御NOT(CNOT)ゲート、制御位相ゲート、Tゲート、マルチキュービット量子ゲート、カプラ(coupler)量子ゲートなどを有する量子回路を実装するために使用され得る。1つまたは複数の制御デバイス112は、1つまたは複数のそれぞれの制御パラメータ(たとえば、1つまたは複数の物理制御パラメータ)を通して量子システム110に対して動作するように構成され得る。たとえば、いくつかの実装形態では、マルチレベル量子サブシステムは、超伝導キュービットであってもよく、制御デバイス112は、キュービットの周波数を調整するための磁場を生成するために制御ラインに制御パルスを提供するように構成されてもよい。
【0202】
量子ハードウェア102は、読出しデバイス114(たとえば、読出し共振器)をさらに含み得る。測定デバイスを介して取得された測定結果108は、処理および分析のために古典的なプロセッサ104に提供され得る。いくつかの実装形態では、量子ハードウェア102は、量子回路および制御デバイス112を含んでもよく、読出しデバイス114は、量子ハードウェア102内に含まれたワイヤを介して送られる物理制御パラメータ(たとえば、マイクロ波パルス)を通して量子ハードウェア102に対して動作する、1つまたは複数の量子論理ゲートを実装してもよい。制御デバイスのさらなる例には、DAC(デジタルアナログ変換器)が信号を作り出す、任意の波形生成器が含まれる。
【0203】
読出しデバイス114は、量子システム110に対して量子測定を行い、測定結果108を古典的なプロセッサ104に送るように構成され得る。加えて、量子ハードウェア102は、物理制御キュービットパラメータ値106を指定するデータを古典的なプロセッサ104から受信するように構成され得る。量子ハードウェア102は、受信された物理制御キュービットパラメータ値106を使用して、量子システム110に対する制御デバイス112および読出しデバイス114のアクションを更新し得る。たとえば、量子ハードウェア102は、制御デバイス112内に含まれた1つまたは複数のDACの電圧強度を表す新しい値を指定するデータを受信することができ、それに応じて、量子システム110に対するDACのアクションを更新し得る。古典的なプロセッサ104は、たとえば、パラメータ106の初期セットを指定するデータを量子ハードウェア102に送ることによって、量子システム110を初期量子状態に初期化するように構成され得る。
【0204】
いくつかの実装形態では、読出しデバイス114は、キュービットなど、量子システムの要素の|0〉状態および|1〉状態に対するインピーダンス内の差を利用して、要素(たとえば、キュービット)の状態を測定することができる。たとえば、キュービットが状態|0〉または状態|1〉にあるとき、読出し共振器の共振周波数は、キュービットの非線形性により、異なる値をとることがある。したがって、読出しデバイス114から反射されるマイクロ波パルスは、キュービット状態に依存する振幅および位相シフトを伝達する。いくつかの実装形態では、キュービット周波数におけるマイクロ波伝搬を妨げるために読出しデバイス114と併せて、パーセルフィルタが使用され得る。
【0205】
いくつかの実施形態では、量子システム110は、たとえば、2次元グリッド122内に配置された複数のキュービット120を含むことができる。明確にするために、
図1に示される2次元グリッド122は、4×4キュービットを含むが、いくつかの実装形態では、システム110は、より少ないまたはより多い数のキュービットを含み得る。いくつかの実施形態では、複数のキュービット120は、複数のキュービットカプラ、たとえば、キュービットカプラ124を介して互いに対話することができる。キュービットカプラは、複数のキュービット120間の最近傍相互作用を定義することができる。いくつかの実装形態では、複数のキュービットカプラの強度は、調整可能なパラメータである。場合によっては、量子計算システム100に含まれる複数のキュービットカプラは、固定された結合強度を有するカプラであり得る。
【0206】
いくつかの実装形態では、複数のキュービット120は、キュービット126などのデータキュービットと、キュービット128などの測定キュービットとを含み得る。データキュービットは、システム100によって実行される計算に参加するキュービットである。測定キュービットは、データキュービットによって実行される計算の結果を決定するために使用され得るキュービットである。すなわち、計算中に、データキュービットの未知の状態が、適切な物理的動作を使用して測定キュービットに転送され、測定キュービット上で実行される適切な測定動作を介して測定される。
【0207】
いくつかの実装形態では、複数のキュービット120内の各キュービットは、アイドリング周波数および/または相互作用周波数および/または読出し周波数および/またはリセット周波数などのそれぞれの動作周波数を使用して動作することができる。動作周波数は、キュービットごとに異なり得る。たとえば、各キュービットは、異なる動作周波数でアイドルになり得る。キュービット120の動作周波数は、計算が実行される前に選択することができる。
【0208】
図1は、本開示の例示的な態様による方法および動作を実装するために使用され得る1つの例示的量子計算システムを示す。本開示の範囲から逸脱することなく、他の量子計算システムが使用され得る。
【0209】
図2は、本開示の例示的な実施形態によるシステムおよび方法の概要を示す。図示のように、本開示の態様は、たとえば、量子計算システムを使用して、物理システム202の実験をシミュレートすることができる。物理システムは、量子オブザーバブル204.a, 204.b, 204.c, ... 204.MなどのM個の量子オブザーバブルを有し得る。いくつかの例では、量子オブザーバブルは、たとえば、双極子モーメントおよび分極率、電子密度、古典的な原子核が経験する力、または基底状態に関連付けられた他の特性を含み得る。M個の量子オブザーバブル204.a, 204.b, 204c., ... 204dの各々の期待値208を定義された関数の勾配210として符号化する、定義された関数206が生成され得る。
【0210】
量子演算212は、量子計算システムの1つまたは複数のキュービット216上に量子回路214を実装することによって実行され得る。量子演算212は、定義された関数206の勾配210を決定するように動作可能であり得る。たとえば、量子演算212は、Gilyen量子勾配アルゴリズム218を使用して勾配210を決定するように動作可能であり得る。量子回路214は、キュービット216に対して複数の状態準備動作220を実装し得る。量子回路214は、定義された関数206の確率オラクル222を実装することができる。例示的な量子回路214について、
図3を参照しながら説明する。
【0211】
図2を参照すると、M個の量子オブザーバブル204.a, 204.b, 204.c, ... 204.Mの期待値226は、量子演算212の実装後に決定され得る。たとえば、M個の量子オブザーバブル204.a, 204.b, 204.c, ... 204.Mの期待値226は、キュービット216の測定値224に少なくとも部分的に基づいて取得され得る。
【0212】
図3は、本開示の例示的な実施形態による例示的な量子回路214を示す。量子回路214は、
図1に示した量子計算システムなど、量子計算システム内の1つまたは複数のキュービット上で実装することができる。量子回路214は、たまたま素のキュービットに作用するオブザーバブルを測定するための定義された関数の確率オラクルを実装することができる。量子回路214は、第1のキュービット302、304、306のM個のレジスタと、N個の第2のキュービット308のレジスタと、補助キュービット310とを含む。第1のキュービット302、304、および306のM個のレジスタは、パラメータごとにbビット(たとえば、4ビット)の精度を含む。楕円312は、定義された関数の入力値を表す。楕円314は、N個の第2のキュービット308のレジスタ上のゼロ初期化キュービットを表す。ブロック316は、物理システムをシミュレートするためにN個の第2のキュービット308のレジスタの状態を準備するための状態準備ユニタリを示す。補助キュービット310は、その振幅において、定義された関数の値を符号化する。
【0213】
補助キュービット310上のゲート318および320は、補助キュービットに対するアダマールテストのためのアダマールおよび位相ゲートを表す。一連の楕円は、第1のキュービット302、304、および306のM個のレジスタに作用する、オブザーバブルによる時間発展を実装する二重制御ゲート322を表す。各一連のゲート322は、それぞれ第1のキュービット302、304、および306のM個のレジスタに作用し、異なるオブザーバブルに対応する。一連のゲート内の回転角度は、ゲートごとに2の累乗で変化する。
【0214】
図4は、本開示の例示的な実施形態による量子計算システム内の1つまたは複数のキュービットを動作させるための例示的な方法400のフロー図を示す。方法400は、
図1に示したシステムなど、任意の好適な量子計算システムを使用して実装され得る。本明細書で使用される「計算デバイス」という用語は、古典的計算デバイス、量子計算デバイス、または古典的計算デバイスと量子計算デバイスとの組合せを指し得る。
図4は、例示および説明の目的で特定の順序で実行される動作を示す。本明細書で提供する開示を使用する当業者は、本明細書で説明する方法のうちのいずれかの動作が、拡張され、本開示の範囲から逸脱することなく、図示されていない、省略され、再配列され、および/または様々な方法で変更されるステップを含み得ることを理解されよう。
【0215】
402において、方法400は、量子計算システムによってシミュレートされるべき物理システムに関連付けられた定義された関数にアクセスするか、またはそれを取得することを含む。定義された関数は、量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を、定義された関数の勾配として符号化することができる。
【0216】
404において、方法400は、複数のキュービット上で量子演算を実行するために、量子計算システム内の複数のキュービット上に量子回路を実装することができる。量子演算は、関数の勾配を決定するように動作可能であり得る。たとえば、いくつかの実施形態では、量子演算は、Gilyen量子勾配アルゴリズムを含むことができる。
【0217】
406において、方法400は、量子演算の実装後に、複数のキュービットのうちの少なくとも1つの測定値に少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの特性の推定値を決定することができる。たとえば、いくつかの実施形態では、推定値は、物理システム(たとえば、量子システム)内のオブザーバブルの期待値を含むことができる。いくつかの実施形態では、推定値は、時間依存相関関数に関連付けられた要素を含むことができる。
【0218】
本明細書で説明するデジタルの、古典的、および/または量子力学的主題、ならびにデジタル機能動作および量子演算の実装形態は、デジタル電子回路、適切な量子回路、またはより一般的には、量子計算システム、有形に実装されたデジタルおよび/または量子コンピュータソフトウェアもしくはファームウェア、本明細書で開示する構造およびそれらの構造的等価物を含む、デジタルおよび/または量子コンピュータハードウェア、あるいはそれらのうちの1つもしくは複数の組合せで実装され得る。「量子計算システム」という用語は、限定はしないが、量子コンピュータ/計算システム、量子情報処理システム、量子暗号システム、または量子シミュレータを含み得る。
【0219】
本明細書で説明するデジタルおよび/または量子主題の実装形態は、1つまたは複数のデジタルおよび/または量子コンピュータプログラム、すなわち、データ処理装置による実行のために、またはデータ処理装置の動作を制御するために、有形の非一時的記憶媒体上に符号化されたデジタルおよび/または量子コンピュータプログラム命令の1つまたは複数のモジュールとして実装することができる。デジタルおよび/または量子コンピュータ記憶媒体は、機械可読記憶デバイス、機械可読記憶基板、ランダムまたはシリアルアクセスメモリデバイス、1つまたは複数のキュービット/キュービット構造、あるいはそれらの1つまたは複数の組合せとすることができる。代替的にまたは追加として、プログラム命令は、データ処理装置による実行のために、好適な受信機装置への送信のためにデジタルおよび/または量子情報を符号化するために生成された、デジタルおよび/または量子情報を符号化することができる人工的に生成された伝搬信号(たとえば、マシン生成の電気、光、または電磁信号)上で符号化され得る。
【0220】
量子情報および量子データという用語は、量子システムによって搬送され、量子システム内に保持され、または記憶される情報またはデータを指し、最小の非自明なシステムは、キュービット、すなわち量子情報の単位を定義するシステムである。「キュービット」という用語は、対応する文脈において2レベルシステムとして適切に近似され得るすべての量子システムを包含することが理解される。そのような量子システムは、たとえば、2つ以上のレベルを有するマルチレベルシステムを含み得る。例として、そのようなシステムは、原子、電子、光子、イオン、または超伝導キュービットを含むことができる。多くの実装形態では、計算基底状態は、基底状態および第1の励起状態で識別されるが、計算状態がより高いレベルの励起状態(たとえば、キュービット)で識別される他の設定も可能であることが理解される。
【0221】
「データ処理装置」という用語は、デジタルおよび/または量子データ処理ハードウェアを指し、例として、プログラマブルデジタルプロセッサ、プログラマブル量子プロセッサ、デジタルコンピュータ、量子コンピュータ、または複数のデジタルおよび量子プロセッサもしくはコンピュータ、ならびにそれらの組合せを含む、デジタルおよび/または量子データを処理するためのすべての種類の装置、デバイス、および機械を包含する。装置はまた、特殊目的論理回路、たとえば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、もしくはASIC(特定用途向け集積回路)、または量子シミュレータ、すなわち、特定の量子システムに関する情報をシミュレートまたは生成するように設計された量子データ処理装置であってもよく、またはそれをさらに含むことができる。特に、量子シミュレータは、汎用量子計算を実行する能力がない専用量子コンピュータである。装置は、場合によってはハードウェアに加えて、デジタルおよび/または量子コンピュータプログラムのための実行環境を作成するコード、たとえば、プロセッサファームウェアを構成するコード、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、またはそれらのうちの1つもしくは複数の組合せを含むことができる。
【0222】
デジタルまたは古典的コンピュータプログラムは、プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、モジュール、ソフトウェアモジュール、スクリプト、またはコードとも呼ばれるか、または記載され得、コンパイラ型もしくはインタープリタ型言語、または宣言型もしくは手続き型言語を含む、任意の形態のプログラミング言語で書かれ得、スタンドアロンプログラムとして、またはモジュール、構成要素、サブルーチン、もしくはデジタル計算環境において使用するのに好適な他のユニットとしてなどの、任意の形態で展開され得る。量子コンピュータプログラムは、プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、モジュール、ソフトウェアモジュール、スクリプト、もしくはコードとも呼ばれるか、または記載され得、コンパイラ型もしくはインタープリタ型言語、または宣言型もしくは手続き型言語を含む、任意の形態のプログラミング言語で書かれ得、適切な量子プログラミング言語に変換され得、または量子プログラミング言語、たとえばQCL、Quipper、Cirqなどで書き込まれ得る。
【0223】
デジタルおよび/または量子コンピュータプログラムは、必須ではないが、ファイルシステム内のファイルに対応し得る。プログラムは、他のプログラムもしくはデータ、たとえば、マークアップ言語ドキュメントに記憶された1つもしくは複数のスクリプトを保持するファイルの一部分の中に記憶されるか、当該のプログラムに専用の単一のファイル内に記憶されるか、または複数の協調ファイル(coordinated file)、たとえば、1つもしくは複数のモジュール、サブプログラム、もしくはコードの部分を記憶するファイル内に記憶され得る。デジタルおよび/または量子コンピュータプログラムは、1つのデジタルまたは1つの量子コンピュータ上で、あるいは、1つのサイトに配置されるかもしくは複数のサイトにわたって分散され、デジタルおよび/もしくは量子データ通信ネットワークによって相互接続される複数のデジタルならびに/または量子コンピュータ上で実行されるように展開され得る。量子データ通信ネットワークは、量子システム、たとえば、キュービットを使用して量子データを送信することができるネットワークであると理解される。一般に、デジタルデータ通信ネットワークは、量子データを送信することはできないが、量子データ通信ネットワークは、量子データとデジタルデータの両方を送信することができる。
【0224】
本明細書で説明するプロセスおよび論理フローは、1つもしくは複数のプログラム可能なデジタルおよび/または量子コンピュータによって実行することができ、1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子プロセッサで動作し、必要に応じて、1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子コンピュータプログラムを実行して、入力デジタルおよび量子データ上で動作し、出力を生成することによって機能を実行する。プロセスおよび論理フローは、特殊目的論理回路、たとえばFPGAもしくはASIC、または量子シミュレータによって、あるいは特殊目的論理回路または量子シミュレータと1つもしくは複数のプログラムされたデジタルおよび/または量子コンピュータとの組合せによって実行することもでき、装置は、特殊目的論理回路、たとえばFPGAもしくはASIC、または量子シミュレータとして実装することもできる。
【0225】
1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子コンピュータまたはプロセッサのシステムが、特定の動作またはアクションを行う「ように構成される」または「ように動作可能である」とは、システムが、その上に、動作中にシステムに動作もしくはアクションを行わせるソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはそれらの組合せをインストールしていることを意味する。1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子コンピュータプログラムが、特定の動作またはアクションを行うように構成されるとは、1つまたは複数のプログラムが、デジタルおよび/または量子データ処理装置によって実行されると、装置に動作またはアクションを行わせる命令を含むことを意味する。量子コンピュータは、量子計算装置によって実行されると、装置に動作またはアクションを行わせる命令をデジタルコンピュータから受信し得る。
【0226】
デジタルおよび/または量子コンピュータプログラムの実行に適したデジタルおよび/または量子コンピュータは、汎用もしくは専用のデジタルおよび/もしくは量子マイクロプロセッサまたはその両方、あるいは任意の他の種類の中央デジタルおよび/または量子処理ユニットに基づき得る。一般に、中央デジタルおよび/または量子処理ユニットは、読取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、または量子データ、たとえば光子、あるいはそれらの組合せを送信するのに適した量子システムから、命令およびデジタルならびに/または量子データを受信する。
【0227】
デジタルおよび/または量子コンピュータのいくつかの例示的要素は、命令を行うまたは実行するための中央処理装置と、命令ならびにデジタルおよび/または量子データを記憶するための1つまたは複数のメモリデバイスである。中央処理装置およびメモリは、特殊目的論理回路または量子シミュレータによって補足されるか、または特殊目的論理回路もしくは量子シミュレータに組み込まれ得る。一般に、デジタルおよび/または量子コンピュータは、たとえば、磁気、光磁気ディスク、光ディスク、または量子情報を記憶するのに適した量子システムなど、デジタルおよび/または量子データを記憶するための1つまたは複数の大容量記憶デバイスを含むか、またはそれらからデジタルおよび/もしくは量子データを受信するか、またはそれらにデジタルおよび/もしくは量子データを転送するか、あるいはそれらの両方を行うように動作可能に結合される。しかしながら、デジタルおよび/または量子コンピュータは、そのようなデバイスを有する必要はない。
【0228】
デジタルおよび/または量子コンピュータプログラム命令ならびにデジタルおよび/または量子データを記憶するのに好適なデジタルおよび/または量子コンピュータ可読媒体は、例として、半導体メモリデバイス、たとえば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス、磁気ディスク、たとえば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROMおよびDVD-ROMディスク、ならびに量子システム、たとえば、トラップされた原子または電子を含む、すべての形態の不揮発性デジタルおよび/または量子メモリ、媒体ならびにメモリデバイスを含む。量子メモリは、高い忠実度および効率で長時間量子データを記憶することができるデバイス、たとえば、光が伝送のために使用される光物質界面、ならびに重ね合わせまたは量子コヒーレンスなどの量子データの量子特徴を記憶および保存するための物質であることが理解される。
【0229】
本明細書で説明する様々なシステム、またはその一部の制御は、1つまたは複数の有形の、非一時的な機械可読記憶媒体上に記憶され、1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子処理デバイス上で実行可能な命令を含む、デジタルおよび/または量子コンピュータプログラム製品で実装することができる。本明細書で説明するシステム、またはその一部は、各々、本明細書で説明する動作を行うための実行可能命令を記憶するための1つもしくは複数のデジタルおよび/または量子処理デバイスならびにメモリを含むことができる装置、方法、または電子システムとして実装することができる。
【0230】
本明細書は、多くの特定の実装形態の詳細を含むが、これらは、特許請求され得るものの範囲に対する限定として解釈されるものではなく、むしろ、特定の実装形態に特有であり得る特徴の説明として解釈されるものとする。別々の実装形態の文脈で本明細書において説明される特定の特徴は、単一の実装形態で組み合わせて実装することもできる。逆に、単一の実装形態の文脈で説明される様々な特徴は、複数の実装形態で別々に、または任意の適切な部分組合せで実装することもできる。さらに、特徴は、特定の組合せで動作するものとして上記で説明され、さらにそのようなものとして最初に特許請求される場合があるが、特許請求される組合せからの1つまたは複数の特徴は、場合によっては、その組合せから削除されることがあり、特許請求される組合せは、部分組合せまたは部分組合せの変形を対象とする場合がある。
【0231】
同様に、動作は、特定の順序で図面に示されるが、このことは、望ましい結果を達成するために、そのような動作が図示の特定の順序で、もしくは順番に実行されること、または例示したすべての動作が実行されることを必要とするものと理解されるべきではない。いくつかの状況では、マルチタスキングおよび並列処理が有利であり得る。さらに、上述の実装形態における様々なシステムモジュールおよび構成要素の分離は、すべての実装形態においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではなく、説明されたプログラム構成要素およびシステムは、一般に、単一のソフトウェア製品に一緒に統合され得るか、または複数のソフトウェア製品にパッケージ化され得ることを理解すべきである。
【0232】
主題の特定の実装形態について説明した。他の実装形態が、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。たとえば、特許請求の範囲に記載されたアクションは、異なる順序で実行することができ、依然として望ましい結果を達成することができる。一例として、添付の図面に示すプロセスは、所望の結果を達成するために、図示の特定の順序または順番を必ずしも必要としない。場合によっては、マルチタスキングおよび並列処理が有利であり得る。
【符号の説明】
【0233】
100 量子計算システム
102 量子ハードウェア
104 古典的なプロセッサ
106 物理制御キュービットパラメータ値
108 測定結果
110 量子システム
112 制御デバイス
114 読出しデバイス
120 キュービット
122 2次元グリッド
124 キュービットカプラ
126 キュービット
128 キュービット
202 物理システム
204 量子オブザーバブル
206 定義された関数
208 期待値
210 勾配
212 量子演算
214 量子回路
216 キュービット
218 量子勾配アルゴリズム
220 状態準備動作
222 確率オラクル
224 測定値
226 期待値
302 第1のキュービット
304 第1のキュービット
306 第1のキュービット
308 第2のキュービット
310 補助キュービット
312 楕円
318 ゲート
320 ゲート
322 二重制御ゲート
【手続補正書】
【提出日】2024-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理システムの状態を判定するための方法であって、
1つまたは複数の計算デバイスによって、前記物理システムに関連付けられた定義された関数を取得するステップであり、前記定義された関数が、前記定義された関数の勾配として量子計算システムによってシミュレートされるべき少なくとも1つの特性の推定値を符号化する、取得するステップと、
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子計算システム内の複数のキュービット上で量子演算を実行するために、前記複数のキュービット上に量子回路を実装するステップであり、前記量子演算が、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、実装するステップと、
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子演算の実装後に、前記複数のキュービットのうちの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの特性の前記推定値を決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記シミュレートされるべき特性が、前記物理システムの量子オブザーバブルの期待値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シミュレートされるべき特性が、不等時間相関関数に関連付けられた1つまたは複数の要素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記量子演算が、Gilyen量子勾配アルゴリズムを使用して、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、量子回路を実装するステップが、前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記量子回路を使用して前記複数のキュービットの少なくともサブセットに対して複数の状態準備動作を実装するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記量子回路が、前記定義された関数の確率オラクルを実装する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記量子回路が、M個の第1のキュービットレジスタ、N個の第2のキュービットのシステムレジスタ、および少なくとも1つの補助キュービット上に実装され、Mがいくつかの量子オブザーバブルであり、Nが整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記量子回路が、前記定義された関数を前記補助キュービットの振幅に符号化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記量子回路が、1つまたは複数のアダマールゲートおよび1つまたは複数の位相ゲートを使用して、前記補助キュービット上でアダマールテストを実装する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記N個の第2のキュービットがゼロに初期化され、前記量子回路が、前記N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装するように動作可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記量子回路が、前記M個の第1のキュービットレジスタ上の少なくとも1つの二重制御量子ゲートを使用して、前記量子オブザーバブルのための制御された時間発展を実装する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの二重制御
量子ゲートが、前記N個の第2のキュービットおよび前記補助キュービットのうちの1つに少なくとも部分的に基づく、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の計算デバイスによって、前記特性の前記推定値を決定するステップが、前記複数のキュービットのうちの少なくとも1つの測定を実行するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
量子計算システムであって、
第1のキュービットのM個のレジスタと、N個の第2のキュービットのレジスタと、少なくとも1つの補助キュービットとを含む複数のキュービットと、
量子演算を使用して定義された関数の勾配を決定するために、前記複数のキュービット上に量子回路を実装するように構成された1つまたは複数の制御デバイスであり、前記定義された関数の前記勾配が、前記量子計算システムによってシミュレートされるべき特性の推定値を符号化する、制御デバイスと
を備える量子計算システム。
【請求項15】
前記特性が、物理システムの複数のオブザーバブルの期待値を含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項16】
前記特性が、不等時間相関関数に関連付けられた1つまたは複数の要素を含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項17】
前記量子演算が、Gilyen量子勾配アルゴリズムを使用して、前記定義された関数の前記勾配を決定するように動作可能である、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項18】
前記量子回路が、前記定義された関数を前記補助キュービットの振幅に符号化する、請求項14に記載の量子計算システム。
【請求項19】
前記量子回路が、1つまたは複数のアダマールゲートおよび1つまたは複数の位相ゲートを使用して、前記補助キュービット上でアダマールテストを実装する、請求項18に記載の量子計算システム。
【請求項20】
前記N個の第2のキュービットがゼロに初期化され、前記量子回路が、前記N個の第2のキュービット上に状態準備ユニタリを実装するように動作可能であり、前記量子回路が、前記M個の第1のキュービットレジスタ上の少なくとも1つの二重制御量子ゲートを使用して量子オブザーバブルのための制御された時間発展を実装し、前記二重制御
量子ゲートが、前記N個の第2のキュービットおよび前記補助キュービットのうちの1つに少なくとも部分的に基づいており、1つまたは複数の計算デバイスによって、前記特性の前記推定値を決定することが、前記M個の第1のキュービットレジスタのうちの少なくとも1つの測定を実行することを含む、請求項14に記載の量子計算システム。
【国際調査報告】