(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】非担持水素化触媒、その調製と応用
(51)【国際特許分類】
B01J 31/04 20060101AFI20241018BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20241018BHJP
C10G 45/46 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B01J31/04 M
B01J37/04 102
C10G45/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524417
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 CN2022126654
(87)【国際公開番号】W WO2023071930
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】202111244128.9
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111244521.8
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523143774
【氏名又は名称】中石化石油化工科学研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】王廷
(72)【発明者】
【氏名】侯煥▲ディ▼
(72)【発明者】
【氏名】董明
(72)【発明者】
【氏名】陶夢瑩
(72)【発明者】
【氏名】申海平
(72)【発明者】
【氏名】龍軍
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA28B
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4G169BC59B
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4G169BC68B
4G169BC69A
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4G169DA05
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4H129CA01
4H129CA04
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4H129KD15Y
4H129KD19Y
4H129KD24Y
4H129NA14
4H129NA15
(57)【要約】
本開示は、非担持水素化触媒、その調製およびその応用であり、非担持水素化触媒は、金属中心原子または中心イオンと有機リガンドとが配位結合を介して結合することにより形成される錯体からなり、金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、有機リガンドは、ヒドロカルビル部分および配位基からなり、酸素原子を介して金属中心原子または中心イオンと配位結合を形成する。非担持水素化触媒は、炭化水素の水素化反応に用いることができ、高い油溶性、分散性および水素化活性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属中心原子または中心イオンと有機リガンドとが配位結合を介して結合することにより形成される錯体から構成され、前記金属が、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記有機リガンドが、ヒドロカルビル部分および-C(=O)-O基である配位基を含み、かつ酸素原子を介して金属中心原子または中心イオンと配位結合を形成する、非担持水素化触媒であって、
700~1000cm
-1、1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す、非担持水素化触媒。
【請求項2】
式(I)で表される概略組成を有し:
MO
a[R(COO)
x]
b (I)
ここでMは前記金属を表し、R(COO)
xは前記有機リガンドを表し、Rは前記有機リガンドの前記ヒドロカルビル部分を表し、COOは前記有機リガンドの配位基を表し、xは前記有機リガンド中の配位基の数を表し、aは前記金属Mに非配位結合を介して結合した酸素原子の前記金属Mに対するモル比を表し、bは前記有機リガンドの前記金属Mに対するモル比を表し:
Rは、C3~C19ヒドロカルビル基であり、好ましくは、C5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキル、C6~C12アリール、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;
xは1、2または3であり、好ましくは1または2であり;
aは0~3、好ましくは1~3の正数であり;ならびに
bは1~6、好ましくは2~5の正数である、請求項1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項3】
前記触媒中の錯体の少なくとも一部が式(I-1)で表される構造を有し、:
【化1】
ここで、M
1は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される1種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは前記有機リガンドの配位基数を表し、1、2または3、好ましくは1または2であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;ならびに
yは、非配位結合を介して前記金属M
1に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である、請求項1または2に記載の非担持水素化触媒。
【請求項4】
前記触媒の赤外スペクトルにおいて、1350~1450cm
-1の位置にある特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置にある特性ピークとの間の距離が、145cm
-1未満である、請求項3に記載の非担持水素化触媒。
【請求項5】
前記触媒中の錯体の少なくとも一部が式(I-2)で表される構造を有し:
【化2】
ここで、M
2は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される少なくとも2種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは前記有機リガンドの配位基数を表し、1または2、好ましくは1であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;
zは、非配位結合を介して前記金属M
2に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒。
【請求項6】
前記触媒の赤外スペクトルにおいて、1350~1450cm
-1の位置にある特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置にある特性ピークとの間の距離が、145cm
-1を超える、請求項5に記載の非担持水素化触媒。
【請求項7】
前記水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属が、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ru、Ni、CuおよびPdからなる群から選択され、好ましくはMo、Ni、W、Fe、VおよびCoからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒。
【請求項8】
前記有機リガンドがC4~C20有機カルボン酸、好ましくはC4~C20ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上、より好ましくは、C6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸およびフェニル酢酸からなる群から選択される1種以上、から誘導される、請求項1~7のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒。
【請求項9】
前記触媒が、5%から35%、好ましくは8%から30%、より好ましくは10%から25%、特に好ましくは10%から20%の、金属を基準として前記触媒の重量に対して計算された金属含有量を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒。
【請求項10】
水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属もしくはそれらの組合せから選択される元素金属、その酸化物、その水酸化物、その金属オキシ酸、および/またはその金属無機塩と、C4~C20有機カルボン酸から選択される有機リガンド化合物、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせ、から選択される有機リガンド化合物、より好ましくはC6~C12ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機リガンド化合物、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機リガンド化合物と、を直接反応させることによって得られる、請求項1~9のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒を調製する方法であって、以下の工程:
1)金属源またはその分散液を有機リガンド化合物と混合する工程;
2)工程1)で得られた混合物を100~350℃で1~8時間反応させる工程;および
3)得られた液体生成物を回収する工程、を含み、
ここで、前記金属源は、元素状金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ酸、金属無機塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記金属源中の金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属およびそれらの組み合わせからなる群から選択され;
前記有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸またはその無水物からなる群から選択され、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、その無水物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;ならびに
前記金属源中の金属に対する前記有機リガンド化合物のモル比は1~10:1である、方法。
【請求項12】
工程1)で得られた混合物が、前記金属源および前記有機リガンド化合物からなる;または
工程1)で得られた混合物が、前記金属源、前記金属源を分散させるための分散媒、および前記有機リガンド化合物からなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程1)において、前記金属源の分散液を使用し、前記分散液中の分散媒が、水、炭酸、塩酸、硫酸またはリン酸から選択される無機分散媒、またはエタノール、トルエン、キシレン、石油エーテル、ガソリン、ディーゼル油もしくはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機分散媒であり;
好ましくは分散媒と金属源との重量比が1~25:1であり、より好ましくは2~8:1である、請求項11~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程2)において、反応温度が160~260℃であり、反応時間が2~5時間である、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒と、少なくとも1種の有機リガンド化合物および/または少なくとも1種の有機溶媒とを含む水素化触媒組成物であって、
前記有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸から選択され、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくはC6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸からなる群から選択され、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;
前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはトルエン、ガソリン、エタノール、ディーゼル油またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項16】
前記有機リガンド化合物の少なくとも1種を含み、700~1000cm
-1、1350~1450cm
-1、1500~1610cm
-1および1700~1750cm
-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
組成物の重量に基づいて、前記非担持水素化触媒が、50%から95%、好ましくは80%から95%の量で存在し、かつ有機リガンド化合物および有機溶媒の合計量が、5%から50%、好ましくは5%から20%である、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
炭化水素の水素化における、請求項1~10のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒または請求項15~17のいずれか1項に記載の水素化触媒組成物の使用であって、炭化水素原料が、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、アルキルアントラセンなどの、不飽和炭化水素化合物;または原油、ガソリン、ディーゼル油、真空ガス油、残渣油などの、不飽和炭化水素化合物を含む混合物である、使用。
【請求項19】
重量%で、10%から45%の水素化触媒成分、45%から80%の分散媒、および1.0%から10%の活性化剤を含む、重質油の水素化に適した非担持触媒組成物であって、ここで
前記水素化触媒成分は、請求項1~10のいずれか1項に記載の非担持水素化触媒、および任意にC4~C20有機カルボン酸から選択される有機リガンド化合物からなり、
前記分散媒は、有機溶媒、石油留分、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記石油留分は、蒸留範囲が150~524℃の蒸留油、または沸点が524℃を超える残留油成分から選択され、
前記活性化剤は、元素状硫黄、硫黄含有化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはチオール、チオエーテル、二硫化炭素、硫黄、チオフェン化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項20】
前記有機リガンド化合物が、C4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはC6~C12ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の非担持触媒組成物。
【請求項21】
前記水素化触媒成分の重量に基づいて、前記水素化触媒成分が5%~35%、好ましくは8%~30%、より好ましくは10%~25%、特に好ましくは10%~20%の金属含有量、および0%~50%、好ましくは5%~50%、より好ましくは5%~20%の有機リガンド化合物含有量を有する、請求項19または20に記載の非担持触媒組成物。
【請求項22】
前記水素化触媒成分が、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法によって得られる液体生成物である、請求項19~21のいずれか1項に記載の非担持触媒組成物。
【請求項23】
重質油のハイドロアップグレーディングにおける、請求項19~22のいずれか1項に記載の非担持触媒組成物の使用。
【請求項24】
重質油原料を、水素および、任意に予備硫黄化されている、請求項19~22のいずれか1項に記載の非担持触媒組成物の存在下、加熱条件下でハイドロアップグレーディング反応に供する工程を含む、重質油のハイドロアップグレーディングのためのプロセス。
【請求項25】
前記ハイドロアップグレーディングの条件として、50~10000μg/gの、金属を基準として重質油原料の重量に対して計算した前記非担持触媒組成物の量、5~20MPaの初期水素圧、360~480℃の反応温度、0.05~2.0h
-1の液空間速度、および300~2000の水素対油の体積比が含まれ;
好ましくは、前記ハイドロアップグレーディングの条件として、50~3000μg/gの、金属を基準として重質油原料の重量に対して計算した前記非担持触媒組成物の量、5~15MPaの初期水素圧、390~450℃の反応温度、0.05~1.0h
-1の液空間速度、500~1500の水素対油の体積比が含まれる、請求項23に記載の使用または請求項24に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化触媒の分野に関し、特に非担持水素化触媒の調製およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、担持触媒は炭化水素化合物を処理する水素化触媒として、最も長く研究され、最も多くの工業用途に広く応用されている。担持触媒は、触媒活性成分、助触媒活性成分および担体から構成され、触媒活性成分および助触媒活性成分は主に金属であり、担体はアルミナ、シリカ、カオリン、モレキュラーシーブ、および他のシリカ-アルミナ材料または多孔質材料である。例えば、バイメタル接触改質触媒では、活性成分としてPt、促進成分としてReまたはSn、担体としてAl2O3が使われる。担体は担持触媒の重要な構成要素であり、触媒の性能に影響を与える重要な要因のひとつであることが研究により明らかになっている。石油生成物の水素化処理では、プロセスおよび反応の触媒の流動化特性、機械的強度などに関する要求を満たすために、担体は活性成分の骨格となり、水素化処理に要求される形状、粒度、および機械的強度を満たす触媒が得られる。第二に、活性中心の比表面積は比較的小さく、担体の比表面積は比較的大きい。このことから、活性成分の利用率を向上させるために、多くの研究者が、比表面積の大きい担体の表面に活性成分を均一に分散させることを提案している。これにより、単位質量当たりの活性成分の表面積を顕著に増大させることができ、活性成分の機能を十分に発揮させることができる。第三に、担体と活性成分との間の相互作用は、活性成分の幾何学的配置および触媒活性に影響を与え、新しい活性構造を形成することにより、種のオーバーフローなどを発生させる可能性がある。そのため、近年、金属成分と担体との間の相互作用に関する研究が、蒸留油または重質油の水素化用触媒の開発において注目されている。これは影響因子を調節することにより、触媒の触媒性能を向上させることを目的としている。
【0003】
炭化水素化合物または混合物が反応条件下では液体の油性材料の形態で存在する一方で、担持触媒は通常固体である。したがって、このような触媒によって触媒される水素化反応は、不均一系触媒反応に属する7つの段階を含む:すなわち、原料の分子が触媒の外表面に拡散する→原料の分子が触媒の細孔チャネルに拡散する→原料の分子が触媒の活性中心に吸着する→原料の分子が触媒の活性中心との表面触媒反応を受ける→反応生成物が触媒の活性中心の表面から脱離する→反応生成物が触媒の細孔チャネルから外部に拡散する→反応生成物が触媒の外表面から液相系に拡散する。これらの段階のうち、拡散段階は担持触媒が炭化水素化合物または混合物の反応を触媒するために不可欠な段階であり、触媒反応の発生確率と効率に影響を与える。そのため多くの研究者が、触媒の活性成分への原料分子のアクセス性を向上させるために、担体の性能の調節や担体と活性金属との間の相互作用に着目し、反応要件を満たすまたは目的生成物の収率や選択性を向上させることができる、水素化触媒を開発している。
【0004】
国際出願公開第WO200528106A1号には、大きな細孔容積、大きな比表面積、および多数のメソ細孔を有し、活性金属Mo、W、NiおよびCoが担持されたアルミナ担体が開示されており、これにより重質炭化水素の軽質炭化水素への分解反応が顕著に促進される。
【0005】
中国特許出願公開第CN101632938A号には、プレート状ミセル法により効率的に合成された高シリコンβ型モレキュラーシーブ、ならびに酸性成分および担体として、IA族金属により修飾および担持されている修飾Y型モレキュラーシーブを使用することにより得られる、水素化分解触媒が開示されている。この触媒を重質油の水素化分解プロセスに使用すると、高い水素化分解活性と中間留分選択性を示す。
【0006】
担持触媒と炭化水素原料は2つの異なる相に属するため、触媒反応には常に7つの段階が含まれ、触媒の反応性能が制限される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、非担持水素化触媒、その調製およびその応用を提供することである。当該触媒は油相分散性が高く、炭化水素化合物の水素化反応の触媒として使用する場合、反応は均一系触媒反応に属し、それによって不均一系触媒反応の拡散段階を排除し、水素化活性を向上させるのに有益である。
【0008】
上記目的を達成するために、一態様において本発明は、金属の中心原子または中心イオンと有機リガンドとが配位結合を介して結合することにより形成される錯体からなる、非担持水素化触媒を提供し、ここで当該金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、当該有機リガンドは、ヒドロカルビル部分および-C(=O)-O基である配位基を含み、かつ酸素原子を介して金属中心原子または中心イオンと配位結合を形成し、当該触媒は、700~1000cm-1、1350~1450cm-1および1500~1610cm-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す。
【0009】
別の態様において、本発明は、非担持水素化触媒を調製する方法であって、以下の工程:
1)金属源またはその分散液を有機リガンド化合物と混合する工程;
2)工程1)で得られた混合物を100~350℃で1~8時間反応させる工程;および
3)得られた液体生成物を回収する工程、を含む方法を提供し、
ここで、金属源は、元素状金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ酸、金属無機塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、金属源中の金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され;
有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸またはその無水物からなる群から選択され;ならびに
金属源中の金属に対する有機リガンド化合物のモル比は1~10:1である。
【0010】
さらに別の態様において、本発明は、本発明による非担持水素化触媒と、少なくとも1種の有機リガンド化合物および/または少なくとも1種の有機溶媒とを含み、有機リガンド化合物がC4~C20有機カルボン酸から選択され、有機溶媒が脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、水素化触媒組成物を提供する。
【0011】
さらに別の態様において、炭化水素の水素化における、本発明による非担持水素化触媒または水素化触媒組成物の使用が提供される。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、重量%で、10%~45%の水素化触媒成分、45%~80%の分散媒、および1.0%~10%の活性化剤を含む、非担持触媒組成物を提供し、ここで
水素化触媒成分は、本発明による非担持水素化触媒、および任意にC4~C20有機カルボン酸から選択される有機リガンド化合物からなり、
分散媒は、有機溶媒、石油留分、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、石油留分は、蒸留範囲が150~524℃の蒸留油、または沸点が524℃を超える残留油成分から選択され、
活性化剤は、元素状硫黄、硫黄含有化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0013】
さらに別の態様において、重質油のハイドロアップグレーディングにおける、本発明の非担持触媒組成物の使用が提供される。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、重質油原料を、水素および本発明による非担持触媒組成物の存在下、加熱条件下でハイドロアップグレーディング反応に供する工程を含む、重質油のハイドロアップグレーディングのためのプロセスを提供する。
【0015】
本発明による非担持水素化触媒およびその組成物は、炭化水素の水素化反応に使用した場合に、より高い油相分散性および水素化活性を有する。本発明による触媒の調製方法は、少ない原料数、簡単な調製プロセス、材料およびエネルギーの消費の低さ、およびグリーンで効率的な調製手順という利点を有する。
【0016】
さらに、本発明による非担持触媒組成物は、油溶性および高分散性も有し、錯体活性化剤をさらに含む。重質油および残渣油の水素化および水素化分解処理に使用した場合、組成物は、その場でナノサイズの水素化活性中心を生成し、縮合反応を顕著に抑制し、アスファルテンアップグレードを促進し、システムの安定性を向上させることができ、低コーキング率、高残渣油転化率およびアスファルテンアップグレード率の利点を有し、システムの安定性の向上および装置の長周期安定運転に有益である。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点については、以下の詳細な説明において詳述する。
本明細書の一部を構成する図面は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、限定的なものとみなされるべきではない。本発明は、本明細書における以下の詳細な説明と組み合わせて図面を参照して解釈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例3で得られた触媒の正イオンESI高分解能質量分析テストのスペクトルである
【
図2】実施例1で得られた触媒のIRスペクトルである。
【
図3】実施例2で得られた触媒のIRスペクトルである。
【
図4】実施例3~5で得られた触媒のIRスペクトルである。
【
図5】実施例1で得られた触媒をディーゼル燃料に溶解させた結果を示す画像である。
【
図6】実施例3で得られた触媒をトルエンに溶解した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面およびその具体的な実施形態を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の具体的な実施形態は、例示のみを目的として提供されるものであり、いかなる意味においても限定を意図するものではないことに留意されたい。
【0020】
本発明の文脈において記述される数値範囲の端点を含む任意の特定の数値は、その正確な値に限定されるものではなく、さらに当該正確な値に近いすべての値、例えば当該正確な値の±5%以内のすべての値を包含すると解釈されるべきである。さらに、本明細書に記載された任意の数値範囲に関して、範囲の端点間、各端点と範囲内の任意の特定の値との間、または範囲内の任意の2つの特定の値との間で任意の組み合わせを行い、1つ以上の新しい数値範囲を提供することができ、当該新しい数値範囲も本願明細書に具体的に記載されているとみなされるべきである。
【0021】
別段の記載がない限り、本明細書で使用される用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有し、用語が本明細書で定義され、その定義が当技術分野における通常の理解と異なる場合、本明細書で提供される定義が優先されるものとする。
【0022】
本発明の文脈において、明示的に記載された事項に加えて、記載されていない事項または事柄は、何ら変更されることなく、当該技術分野において公知のものと同じであるとみなされる。さらに、本明細書に記載された実施形態のいずれかを、本明細書に記載された別の1つまたは複数の実施形態と自由に組み合わせることができ、このようにして得られた技術的解決策またはアイデアは、本願の当初の開示または当初の説明の一部とみなされ、そのような組み合わせが明らかに不合理であることが当業者にとって明らかでない限り、本明細書に開示または予期されていない新規事項であるとみなされるべきではない。
【0023】
参考書や雑誌記事を含むがこれに限定されない、本明細書で引用した特許および非特許文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0024】
上述した通り、第1の態様において、本発明は、金属中心原子または中心イオンと有機リガンドとが配位結合を介して結合することにより形成される錯体から構成される、非担持水素化触媒を提供し、ここで当該金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属、またはこれらの組み合わせからなる群から選択され、当該有機リガンドは、ヒドロカルビル部分、ならびに炭素原子および酸素原子からなる配位基を含み、かつ酸素原子を介して金属中心原子または中心イオンと配位結合を形成し、当該触媒は、700~1000cm-1、1350~1450cm-1および1500~1610cm-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す。
【0025】
本発明によれば、非担持水素化触媒は錯体のみからなり、固体担体成分を含まない。しかしながら、所望により、本発明の非担持水素化触媒は、有機溶媒および有機リガンド化合物などの、触媒を分散させることができる液体成分を有する組成物の形態で、存在および使用することもできる。
【0026】
本発明によれば、本発明の錯体において水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属は、使用する金属に応じて、中心原子の形態であっても中心イオンの形態であってもよい。
【0027】
好ましい実施形態では、配位基は-C(=O)-O基であり得る。
【0028】
好ましい実施形態では、触媒は式(I)で表される概略組成を有し:
MOa[R(COO)x]b (i)
ここで、Mは金属を表し、R(COO)xは有機リガンドを表し、Rは有機リガンドのヒドロカルビル部分を表し、COOは有機リガンドの配位基を表し、xは有機リガンド中の配位基の数を表し、aは金属Mに非配位結合を介して結合した酸素原子の金属Mに対するモル比を表し、bは有機リガンドの金属Mに対するモル比を表す:
Rは、C3~C19ヒドロカルビル基であり、好ましくは、C5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキル、C6~C12アリール、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;
xは有機リガンドの配位基数を表し、1、2または3、好ましくは1または2であり;
aは0~3、好ましくは1~3の正数であり;ならびに
bは1~6、好ましくは2~5の正数である。
【0029】
本発明によれば、非担持水素化触媒は、複数の異なる錯体の混合物であってもよく、触媒組成物中の金属Mに対する酸素原子および有機リガンドのモル比aおよびbは、金属含有量および元素組成等の分析に基づく計算値であるため、非整数であってもよい。また、Mが1種類の金属の場合、モル比aおよびbはその金属に対するモル比であり、Mが2種類以上の金属の組み合わせの場合、モル比aおよびbは全ての金属の合計量に対するモル比である。また、触媒組成に示される金属M(例えばMoNi、MoCoVなど)は、どの金属が存在するかを示すだけであり、金属間のモル比を示すものではない。
【0030】
いくつかのさらに好ましい実施形態において、触媒中の錯体の少なくとも一部は、式(I-1)で表される構造を有し:
【化1】
ここで、M
1は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される1種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは有機リガンドの配位基数を表し、1、2または3、好ましくは1または2であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;ならびに
yは、非配位結合を介して金属M
1に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である。
【0031】
さらなる好ましい実施形態において、触媒のIRスペクトルにおいて、1350~1450cm
-1の位置の特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置の特性ピークとの間の距離は、145cm
-1未満である。いくつかのさらに好ましい実施形態において、触媒中の錯体の少なくとも一部は、式(I-2)で表される構造を有し:
【化2】
ここで、M
2は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される少なくとも2種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは有機リガンドの配位基数を表し、1または2、好ましくは1であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;
zは、非配位結合を介して金属M
2に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である。
【0032】
本発明によれば、式(I-2)において非配位結合を介して金属M2に連結された酸素原子は、錯体分子中の1つの金属原子/イオンのみに連結された酸素原子(例えば、M=O結合を形成する酸素原子)と、錯体分子中の2つの金属原子/イオンの間に連結された酸素原子(例えば、M-O-M’結合を形成する酸素原子)の両方を含む。
【0033】
さらに好ましい実施形態において、触媒のIRスペクトルにおいて、1350~1450cm-1の位置の特性ピークと1500~1610cm-1の位置の特性ピークとの間の距離は、145cm-1を超える。
【0034】
好ましい実施形態において、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属は、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ru、Ni、CuおよびPdからなる群から選択され、より好ましくはMo、Ni、W、Fe、VおよびCoからなる群から選択される。
【0035】
本発明において、用語「C3~C19ヒドロカルビル」は、3~19個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を指し、このヒドロカルビル基は飽和または不飽和であってよく、ノルマルヒドロカルビル、異性体ヒドロカルビル、またはシクロアルキル部分を有するヒドロカルビルであってよく、C3~C19ノルマルアルキル、C3~C19異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C19アルキル、およびC6~C19アリールを含むがこれらに限定されない。
【0036】
本発明において、用語「C3~C19ノルマルアルキル」は、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシルなどの、3~19個の炭素原子、好ましくは5~11個の炭素原子を有するノルマルアルキル基を指す。
【0037】
本発明において、用語「C3~C19異性体アルキル」は、イソペンチル、イソヘキシル、イソヘプチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル、イソウンデシルなどの、3~19個の炭素原子、好ましくは5~11個の炭素原子を有する異性体アルキル基を指す。
【0038】
本発明において、用語「シクロアルキル部分を有するC5~C19アルキル」は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、デカヒドロナフチル、メチルデカヒドロナフチル、エチルデカヒドロナフチルなどの、飽和炭素環を含む5~19個の炭素原子、好ましくは5~12個の炭素原子を有する飽和ヒドロカルビル基を指す。
【0039】
本発明において、用語「C6~C19アリール」は、フェニル、ナフチル、アントラシル、p-トリル、ベンジル、メチルナフチル、メチルアントラセニルなどの、芳香環を含む6~19個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を指し、好ましくは6~12個の炭素原子を有するアリール基である。
【0040】
本発明によれば、C3~C19ヒドロカルビル基、C3~C19ノルマルアルキル基、C3~C19異性体アルキル基、シクロアルキル部分を有するC5~C19アルキル基、およびC6~C19アリール基は、例えば任意に置換されていてもよく、非置換であってもよく、またはハロ、ニトロ、スルホン酸基などから選択される1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、錯体中の有機リガンドは、C4~C20有機カルボン酸から誘導され、好ましくはC4~C20ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上から誘導され、より好ましくはC6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上から誘導され、さらに好ましくは、コハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、およびフェニル酢酸からなる群から選択される1種以上から選択される。
【0042】
好ましい実施形態において、非担持水素化触媒は、5%から35%、好ましくは8%から30%、より好ましくは10%から25%、特に好ましくは10%から20%の、金属を基準として触媒の重量に対して計算された金属含有量を有する。
【0043】
第2の態様において、本発明は、非担持水素化触媒を調製するための方法であって、以下の工程:
1)金属源またはその分散液を有機リガンド化合物と混合する工程;
2)工程1)で得られた混合物を100~350℃で1~8時間反応させる工程;および
3)得られた液体生成物を回収する工程、を含み、
ここで、金属源は、元素状金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ酸、金属無機塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、金属源中の金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され;
有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸またはその無水物からなる群から選択され;ならびに
金属源中の金属に対する有機リガンド化合物のモル比は1~10:1である、方法を提供する。
【0044】
好ましい実施形態において、工程1)で得られた混合物は、金属源および有機リガンド化合物からなるか、または金属源、金属源を分散させるための分散媒、および有機リガンド化合物からなる。
【0045】
いくつかの特定の実施形態において、本方法は以下の工程を含む:
i)金属源を分散媒に分散させて金属源分散液を得る工程;
ii)得られた金属源分散液に有機リガンド化合物を添加し、100~350℃に加熱し、1~8時間反応させる工程;および
iii)反応終了後に冷却し、得られた液体生成物を回収する工程。
【0046】
他の特定の実施形態において、本方法は以下の工程を含む:
i)金属源を有機リガンド化合物に直接分散させる工程;
ii)100~350℃に加熱し、1~8時間反応させる工程;および
iii)反応終了後に冷却し、得られた液体生成物を回収する工程。
【0047】
好ましい実施形態において、金属源は、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属炭酸塩、金属オキシ酸、金属オキシ酸の塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、例えばV、Mo、W、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩および炭酸塩、モリブデン酸、タングステン酸、様々な形態のモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0048】
好ましい実施形態において、有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸から選択され、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0049】
本発明によれば、用語「C4~C20ノルマルアルキルカルボン酸」は、酪酸、コハク酸、吉草酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、トリデカン酸、オレイン酸などの、ノルマルアルカンに1つ以上のカルボキシル基を連結して得られる4~20個の炭素原子を有するカルボン酸を指す。
【0050】
本発明によれば、用語「C4~C20異性体アルキルカルボン酸」は、イソ酪酸、イソ吉草酸、イソヘキサン酸、エチルヘキサン酸などの、異性体アルカンに1つ以上のカルボキシル基を連結することによって得られる4~20個の炭素原子を有するカルボン酸を指す。
【0051】
本発明によれば、用語「飽和炭素環からなるC6~C20ナフテンカルボン酸」は、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロ-ナフトエ酸、デカヒドロ-ナフトエ酸ジカルボン酸などの、飽和炭素環を含むアルカン化合物に1つ以上のカルボキシル基を連結することによって得られる6~20個の炭素原子を有するカルボン酸を指す。
【0052】
本発明によれば、用語「芳香環からなるC7~C20芳香族カルボン酸」は、安息香酸、フェニル酢酸、フタル酸、フェニルプロピオン酸などの、芳香族炭化水素すなわち芳香環を含む炭化水素化合物に1つ以上のカルボキシル基を連結することによって得られる7~20個の炭素原子を有するカルボン酸を指す。
【0053】
さらに好ましい実施形態において、有機リガンド化合物は、C6~C12ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、さらに好ましくは、コハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0054】
好ましい実施形態において、金属源分散液中の分散媒は、無機分散媒または有機分散媒であってもよく、無機分散媒は、水、炭酸、塩酸、硫酸、またはリン酸からなる群から選択されてもよく;有機分散媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されてよく、より好ましくは、エタノール、トルエン、キシレン、石油エーテル、ガソリン、ディーゼル油、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0055】
さらに好ましい実施形態において、分散媒と分散液中の金属源との重量比は1~25:1であり、より好ましくは2~8:1である。
【0056】
好ましい実施形態においては、工程2)において、反応温度は160~260℃、反応時間は2~5時間である。
【0057】
本発明によれば、工程2)で使用する圧力および反応雰囲気は特に限定されず、例えば、反応圧力は大気圧であってもよく、反応雰囲気は空気、窒素または不活性雰囲気であってもよい。
【0058】
第3の態様において、本発明は、本発明による非担持水素化触媒と、少なくとも1種の有機リガンド化合物および/または少なくとも1種の有機溶媒とを含み、有機リガンド化合物がC4~C20有機カルボン酸から選択される、水素化触媒組成物を提供する。
【0059】
好ましい実施形態において、有機リガンド化合物は、C4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環からなるC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環からなるC7~C20芳香族カルボン酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはC6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸からなる群から選択され、より好ましくは、コハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
本発明において、有機溶媒は、非担持水素化触媒と分散または混和し得る限り特に限定されず、例えば脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒またはこれらの組み合わせであってよく、好ましくはトルエン、ガソリン、エタノール、ディーゼル油またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0061】
好ましい実施形態において、組成物の重量に基づいて、非担持水素化触媒は、50%から95%、好ましくは80%から95%の量で存在し、かつ有機リガンド化合物および有機溶媒の合計量は、5%から50%、好ましくは5%から20%である。
【0062】
好ましい実施形態において、組成物は、少なくとも1つの有機リガンド化合物を含み、かつ組成物は、700~1000cm-1、1350~1450cm-1、1500~1610cm-1および1700~1750cm-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示し、ここで700~1000cm-1、1350~1450cm-1および1500~1610cm-1の位置の特性ピークは、有機金属錯体の特性ピークであり、1700~1750cm-1の位置の特性ピークは、有機リガンド化合物の特性ピークである。
【0063】
さらに好ましい実施形態において、水素化触媒組成物は、非担持水素化触媒および少なくとも1種の有機リガンド化合物からなる。この場合、水素化触媒組成物の組成は、式(I)、MOa[R(COO)x]bを用いて模式的に表すこともでき、式中、M、a、Rおよびxは上記で定義した通りであり、bは、金属Mに対する有機リガンドおよび有機リガンド化合物の合計量のモル比を表す。
【0064】
いくつかの特定の実施形態において、水素化触媒組成物は、油溶解性、貯蔵安定性、および耐酸化性を改善するための他の成分、例えば、ギ酸、シュウ酸、ホルムアルデヒド、エチレンジアミン、オレイルアミンなどの還元性および安定性の能力を有する有機材料をさらに含んでもよく、前記他の成分は、組成物の0重量%から80重量%、好ましくは0重量%から50重量%の量で存在してもよい。
【0065】
第4の態様において、炭化水素の水素化における、本発明による非担持水素化触媒または水素化触媒組成物の使用が提供される。
【0066】
第5の態様において、炭化水素原料を水素化処理するためのプロセスであって、炭化水素質供給原料を、本発明による非担持水素化触媒または水素化触媒組成物と接触させて水素化反応させる工程を含む、プロセスが提供される。
【0067】
本発明によれば、炭化水素原料は、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、アルキルアントラセンなどの様々な不飽和炭化水素化合物;または原油、ガソリン、ディーゼル油、真空ガス油、残渣油などの不飽和炭化水素化合物の混合物とすることができる。
【0068】
好ましい実施形態では、水素化反応の条件は、380~430℃の反応温度、5~20MPaの初期水素圧、0.05~1.0h-1の新鮮な供給液の液空間速度、および全供給に対して50~10000μg/gの触媒濃度(金属に基づいて計算)を含む。
【0069】
第6の態様において、本発明は、10重量%から45重量%の水素化触媒成分、45重量%から80重量%の分散媒および1.0重量%から10重量%の活性化剤を含む非担持触媒組成物を提供し、水素化触媒成分は、本発明の非担持水素化触媒および任意に有機リガンド化合物からなり、有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸から選択される。
【0070】
本発明によれば、有機リガンド化合物として水素化触媒成分中に含まれ得るC4~C20有機カルボン酸は、本発明の第1の態様に具体的に記載されたものであり得、その詳細な説明は本明細書においては省略する。
【0071】
本発明によれば、非担持触媒組成物に使用するのに適した分散媒は、非担持水素化触媒中の有機金属錯体の溶解、分散を促進することができる任意の液体材料であることができ、これには、触媒を分散可能かまたは触媒と混和し得る、有機溶媒および石油留分が含まれるが、これらに限定されない。有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され得、好ましくは脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、またはそれらの組み合わせ、例えばn-オクタン、シクロヘキサン、トルエン、およびデカヒドロナフタレンからなる群から選択され得、より好ましくは芳香族炭化水素溶媒であり得る。石油留分は、溶剤ガソリン、AGO留分、LCO、油スラリー、フルフラール抽出物、常圧残渣、および真空残渣などの、蒸留範囲が150~524℃の蒸留油または沸点が524℃を超える残留油成分から選択され得、好ましくは芳香族に富む石油留分である。
【0072】
本発明によれば、非担持触媒組成物に好適な活性化剤は、非担持水素化触媒の有機金属錯体中のM-O結合を活性化して、水素化活性相中にM-S結合を形成することができる材料であり、例えば元素状硫黄、硫黄含有化合物、硫黄含有化合物の混合物、またはそれらの組み合わせであることができ、好ましくはチオール、チオエーテル、二硫化炭素、硫黄、チオフェン系化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0073】
好ましい実施形態において、非担持触媒組成物の重量を基準として、水素化触媒成分は10%~45%、好ましくは10%~30%の量で存在し、分散媒は45%~80%、好ましくは60%~80%の量で存在し、活性化剤は1.0%~10%、好ましくは3.0%~10.0%の量で存在する。
【0074】
第7の態様において、重質油のハイドロアップグレーディングにおける本発明の非担持触媒組成物の使用が提供される。
【0075】
第8の態様において、本発明は、重質油原料を、水素および本発明の非担持水素化触媒組成物の存在下、加熱条件下でハイドロアップグレーディング反応に供する工程を含む、重質油のハイドロアップグレーディングのためのプロセスを提供し、この非担持水素化触媒組成物は、任意に予備硫黄化されている。
【0076】
好ましい実施形態において、ハイドロアップグレーディングの条件は以下を含む:50~10000μg/g、好ましくは50~3000μg/gの、重質油原料の重量に対して金属を基準として計算した非担持触媒組成物の量;5~20MPa、好ましくは5~15MPaの初期水素圧;360~480℃、好ましくは390~450℃の反応温度;0.05~2.0h-1、好ましくは0.05~1.0h-1の液体時間空間速度;および300~2000、好ましくは500~1500の水素対油の体積比。
【実施例】
【0077】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
以下の実施例において、特に断りのない限り、使用される試薬および原料は、化学的に純粋な市販の製品である。
【0079】
以下の実施例において、得られた生成物の金属含有量は、SPECTRO ARCOS SOPプラズマ発光分光分析装置を用い、光学チャンバーを密閉してアルゴンガスを封入し、波長130~770nmの垂直観察下で測定する条件で、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定した。
【0080】
以下の実施例において、得られた生成物の元素組成は以下の通り決定した:元素C、Hの含有量は、イタリア製Cara Erba EA1110元素分析装置を用いて、SH0656法に従って決定した;元素Sの含有量は、エネルギー分散X蛍光分光法GB 17040法に従って測定した;元素Oの含有量は、O-含有量法によって測定した。
【0081】
以下の実施例において、得られた生成物の正イオンESI高分解能質量分析試験のスペクトルは、Bruker社のフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR MS)を用いて、磁場強度15T、エレクトロスプレーイオン化源、負イオンモードの条件で測定した。
【0082】
以下の実施例において、得られた生成物の赤外スペクトルは、Thermo Fisher社のNICOLET IS50分光計を用い、走査波長400~4000cm-1、走査回数16回で測定した。ZnSe結晶とHgCdTe赤外線検出器を併用し、試料の減衰全反射率(ATR)を4cm-1の分解能で測定した。
【0083】
実施例1~7
表1に示す量の化合物を秤量し、三口フラスコに入れ、表1に示す条件で反応させた。反応終了後、実施例1~5のフラスコ中の金属化合物は完全に溶解し、一方で実施例6~7のフラスコ中には未反応の金属化合物が残存した。実施例1~5で得られたフラスコ内の液体反応生成物を注出して目的生成物を得、実施例6~7の生成物を濾過して未反応の金属化合物を除去し、液体生成物を目的生成物として得た。得られた生成物の金属含有量を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いて測定し、得られた生成物の元素組成を対応する方法に従って測定し、金属含有量および元素組成の測定結果に応じて生成物の組成を決定した。使用した原料、反応条件および実施例1~7の試験結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
表1に示す通り、本発明の非担持水素化触媒または水素化触媒組成物の金属含有量は12.75%~33.3%とすることができ、触媒中の金属に対する有機リガンドのモル比、または触媒組成物中の金属に対する、有機リガンドおよび有機リガンド化合物の合計のモル比は2.0~3.56とすることができる。
【0086】
実施例3で得られた生成物の正イオンESI高分解能質量分析試験のスペクトルをFT ICR MS分析により測定し、得られた生成物中のモリブデン-ニッケル-エチルヘキサン酸錯体の分子量分布を求めた結果を
図1に示す。分子量のデータフィッティングから理解される通り、実施例3で得られた生成物は、配位数2のモリブデン-ニッケル-エチルヘキサン酸錯体(MoNi)O
3(i-C
7H
16COO)
2と、配位数4のモリブデン-ニッケル-エチルヘキサン酸錯体(MoNi)O
3(i-C
7H
16COO)
4との両方を含む。
【0087】
実施例1~5で得られた生成物のIRスペクトルを
図2~4に示す。
図2~4から理解される通り、これらすべての実施例の生成物は、700~1000cm
-1、1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に特性ピークを示す。
【0088】
図2に示す通り、実施例1の生成物は、700~1000cm
-1の位置にM-O、M=O振動の特性ピークを、ならびに1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に-C(=O)-O基と金属との間の配位の特性ピークを示す。また、1350~1450cm
-1の位置の特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置の特性ピークとの間の距離(すなわち、これらのピークの頂点の位置に対応する波数の差)が145cm
-1未満であることから、下記式で表されるモノメタリック二座配位構造を有する錯体が生成物中に存在することがわかる:
【化3】
【0089】
図4に示す通り、実施例3~5の触媒は、700~1000cm
-1の位置にM-O、M=O振動の特性ピークを、ならびに1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に-C(=O)-O基と金属との間の配位の特性ピークを示す。また1350~1450cm
-1の位置にある特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置にある特性ピークとの間の距離が145cm
-1を超えることから、下記式で表されるバイメタルまたはポリメタル単座配位構造を有する錯体が生成物中に存在することがわかる:
【化4】
【0090】
図3に示す通り、実施例2で得られた触媒は、1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に-C(=O)-O基と金属との間の配位の特性ピークを示し、このうち1500~1610cm
-1の位置に2つの特性ピークが存在し、2つの特性ピークの一方と1350~1450cm
-1の位置の特性ピークとの間の距離は145cm
-1未満である。また、当該2つの特性ピークの他方と1350~1450cm
-1の位置の特性ピークとの間の距離は145cm
-1を超えることから、二座配位構造の錯体と一座配位構造の錯体の両方が触媒中に存在することが示され、その構造式はそれぞれ上記の通りである。
【0091】
実施例8~9
本発明の方法で得られた非担持水素化触媒の油溶解性を評価するために、実施例1および実施例3で得られた触媒生成物をそれぞれディーゼル油およびトルエンに分散させた。実施例1および実施例3の生成物のディーゼル油およびトルエンへの溶解および分散結果をそれぞれ
図5および
図6に示し、図の左側に溶解前のディーゼル油およびトルエンを示し、図の右側に実施例1の生成物の溶解後のディーゼル油および実施例3の生成物の溶解後のトルエンを示す。
図5および
図6から理解される通り、本発明に従って合成された非担持水素化触媒は、ディーゼル油およびトルエンと完全に混和しており、非担持水素化触媒が良好な油溶解性を有することがわかる。
【0092】
実施例10~11
実施例1および5で得られた生成物を芳香族炭化水素、すなわちピレンの水素化触媒として使用し、溶媒としてテトラリンを使用し、全反応物10g中のピレンの質量分率(ピレン+溶媒)を10%とし、100mlの連続攪拌式オートクレーブ中で、9MPaの初期水素圧、420℃の反応温度、180分の反応時間、2500μg/gの全反応物の重量に対する触媒濃度(金属を基準として算出)、の条件を含む試験条件で反応を行った。試験結果を表2に示す。
【0093】
比較例1
実施例1で得られた生成物を従来の担持触媒(残渣油水素化用Ni-Mo担持触媒、Mo含有量9.3質量%、Ni含有量2.52質量%)に金属量換算で等価置換した以外は、実施例10と同様に試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2の結果から、本発明の非担持水素化触媒および水素化触媒組成物は、担持触媒と比較して、ピレンの転化率および深部水素化生成物(deep-hydrogenated product)の収率が高く、水素消費量が多いことがわかり、本発明の触媒がより高い触媒活性を有することがわかる。
【0096】
実施例12~14
実施例1で得られた生成物と有機リガンド化合物(ヘキサン酸エチル)とを、質量比95:5で組成物に配合した。当該組成物、実施例3で得られた生成物、および実施例6で得られた生成物をそれぞれ触媒として用い、アルキル置換芳香族炭化水素すなわちドデシルピレンの水素化分解反応を行った。ここで、溶媒としてデカヒドロナフタレンを用い、全反応物(ドデシルピレン+溶媒)10g中のドデシルピレンの質量分率は10%であった。当該反応は、100mlオートクレーブ中で、9Mpaの初期水素圧、420℃の反応温度、60分の反応時間、および2500μg/gの全反応物の重量に対する触媒濃度(金属に基づいて計算)、の条件を含む試験条件下で実施した。試験結果を表3に示す。
【0097】
【0098】
表3の結果から、本発明の非担持水素化触媒およびその組成物は両方とも、97%を超えるドデシルピレンの分解転化率、およびゼロのドデシルピレン縮合率を達成した。実施例6の非担持水素化触媒生成物と比較して、有機リガンド化合物を含むか、またはさらに添加された触媒組成物は、より高いドデシルピレン転化率および水素消費量を示し、本発明の触媒組成物は、触媒それ自体と比較して、より優れたコークス阻害活性および分解促進活性を有することがわかる。
【0099】
実施例15~17および比較例2
アスファルテン含有率14%、コンラドソン残留炭素価26.4%、重金属(Ni+V)含有率210μg/gを有する真空残渣A 200gを原料として、表4に示す触媒および反応条件のもと、2Lバッチ式オートクレーブで残渣油の接触熱水転化試験を実施した。試験結果を表4に示す。
【0100】
【0101】
表4の結果から理解される通り、本発明の非担持水素化触媒およびその組成物は、従来の担持触媒と比較して、同じ反応条件下で、残渣油の分解率が高く、コークス率が低く、蒸留油の収率が高い。
【0102】
実施例18~20
実施例1および6の触媒生成物、分散媒、ならびに活性化剤を用いて、非担持水素化触媒組成物を形成し、得られた非担持水素化触媒組成物中の各成分の含有量を表5に示す。
【0103】
【0104】
実施例21
実施例19で得られた触媒組成物を、360℃の反応温度、5MPaの初期水素圧、30分の反応時間で予備硫化処理を行い、試験終了後に反応生成物を回収した。
【0105】
実施例22~25
実施例19、20および21の触媒組成物生成物ならびに実施例1の触媒生成物をそれぞれ、アスファルテン含有量12.8%、コンラドソン残留炭素価26.3%および重金属(Ni+V)含有量220μg/gを有する真空残渣B原料200gと混合し、2Lのバッチ式オートクレーブ中で撹拌しながら、425℃の反応温度、9MPaの初期水素圧、および130分の反応時間で真空残渣水熱転化試験に供した。試験結果を表6に示す。
【0106】
【0107】
表6に示す実施例23および実施例22の結果の比較から、活性化剤を含有する実施例19の非担持触媒組成物は、活性化剤を含有しない比較例1の生成物と比較して、残渣油転化率がやや高く、アスファルテンアップグレード率が高く、コークス率が低く、縮合率が48%低下しており、アスファルテン縮合反応抑制性能が優れていることがわかる。
【0108】
一方、表6に示す実施例24および実施例22の結果の比較から理解される通り、有機リガンド化合物(すなわち、エチルヘキサン酸)を含む実施例19の非担持触媒組成物は、有機リガンド化合物を含まない実施例20の非担持触媒組成物に比べて、残渣油転化率及びアスファルテンアップグレード率が高く、コークス率が低いことがわかる。
【0109】
さらに、表6に示す実施例25および実施例22の結果の比較から理解される通り、実施例19の非担持触媒組成物生成物に予備硫化処理を施した場合、残渣油転化率およびアスファルテンアップグレード率をさらに向上させることができ、コークス率をさらに低減させることができる。
【0110】
本発明は、好ましい実施形態を参照して本明細書上において詳細に例示されているが、これらの実施形態に限定されることを意図するものではない。本発明の発明概念に従って様々な変更を行うことができ、これらの変更は本発明の範囲内であるものとする。
【0111】
上記の実施形態で説明した様々な技術的特徴は、矛盾することなく任意の適切な方法で組み合わせることができることに留意すべきであり、不必要な繰り返しを避けるために、様々な可能性のある組み合わせは本願明細書には記載していないが、そのような組み合わせも本願明細書の範囲内とする。
【0112】
さらに、本発明の様々な実施形態は、その組み合わせが本発明の精神から逸脱しない限り、任意に組み合わせることができ、そのような組み合わせた実施形態は、本発明の開示とみなされるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属中心原子または中心イオンと有機リガンドとが配位結合を介して結合することにより形成される錯体から構成され、前記金属が、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記有機リガンドが、ヒドロカルビル部分および-C(=O)-O基である配位基を含み、かつ酸素原子を介して金属中心原子または中心イオンと配位結合を形成する、非担持水素化触媒であって、
700~1000cm
-1、1350~1450cm
-1および1500~1610cm
-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す、非担持水素化触媒。
【請求項2】
式(I)で表される概略組成を有し:
MO
a[R(COO)
x]
b (I)
ここでMは前記金属を表し、R(COO)
xは前記有機リガンドを表し、Rは前記有機リガンドの前記ヒドロカルビル部分を表し、COOは前記有機リガンドの配位基を表し、xは前記有機リガンド中の配位基の数を表し、aは前記金属Mに非配位結合を介して結合した酸素原子の前記金属Mに対するモル比を表し、bは前記有機リガンドの前記金属Mに対するモル比を表し:
Rは、C3~C19ヒドロカルビル基であり、好ましくは、C5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキル、C6~C12アリール、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;
xは1、2または3であり、好ましくは1または2であり;
aは0~3、好ましくは1~3の正数であり;ならびに
bは1~6、好ましくは2~5の正数である、請求項1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項3】
前記触媒中の錯体の少なくとも一部が式(I-1)で表される構造を有し、:
【化1】
ここで、M
1は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される1種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは前記有機リガンドの配位基数を表し、1、2または3、好ましくは1または2であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;ならびに
yは、非配位結合を介して前記金属M
1に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項4】
前記触媒の赤外スペクトルにおいて、1350~1450cm
-1の位置にある特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置にある特性ピークとの間の距離が、145cm
-1未満である、請求項3に記載の非担持水素化触媒。
【請求項5】
前記触媒中の錯体の少なくとも一部が式(I-2)で表される構造を有し:
【化2】
ここで、M
2は金属を表し、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属からなる群から選択される少なくとも2種であり;
→は配位結合を表し;
RはC3~C19ヒドロカルビル基を表し、好ましくはC5~C11ノルマルアルキル、C5~C11異性体アルキル、シクロアルキル部分を有するC5~C12アルキルおよびC6~C12アリールからなる群から選択され;
xは前記有機リガンドの配位基数を表し、1または2、好ましくは1であり;
nは配位数を表し、1~6、好ましくは2~5の正数であり;
zは、非配位結合を介して前記金属M
2に連結している酸素原子の数を表し、0~3、好ましくは1~3の正数である、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項6】
前記触媒の赤外スペクトルにおいて、1350~1450cm
-1の位置にある特性ピークと、1500~1610cm
-1の位置にある特性ピークとの間の距離が、145cm
-1を超える、請求項5に記載の非担持水素化触媒。
【請求項7】
前記水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属およびIB族金属が、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ru、Ni、CuおよびPdからなる群から選択され、好ましくはMo、Ni、W、Fe、VおよびCoからなる群から選択される、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項8】
前記有機リガンドがC4~C20有機カルボン酸、好ましくはC4~C20ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上、より好ましくは、C6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、および芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸からなる群から選択される1種以上、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸およびフェニル酢酸からなる群から選択される1種以上、から誘導される、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項9】
前記触媒が、5%から35%、好ましくは8%から30%、より好ましくは10%から25%、特に好ましくは10%から20%の、金属を基準として前記触媒の重量に対して計算された金属含有量を有する、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項10】
水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属もしくはそれらの組合せから選択される元素金属、その酸化物、その水酸化物、その金属オキシ酸、および/またはその金属無機塩と、C4~C20有機カルボン酸から選択される有機リガンド化合物、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせ、から選択される有機リガンド化合物、より好ましくはC6~C12ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機リガンド化合物、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機リガンド化合物と、を直接反応させることによって得られる、請求項
1に記載の非担持水素化触媒。
【請求項11】
請求項
1に記載の非担持水素化触媒を調製する方法であって、以下の工程:
1)金属源またはその分散液を有機リガンド化合物と混合する工程;
2)工程1)で得られた混合物を100~350℃で1~8時間反応させる工程;および
3)得られた液体生成物を回収する工程、を含み、
ここで、前記金属源は、元素状金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ酸、金属無機塩、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記金属源中の金属は、水素化活性を有するVB族金属、VIB族金属、VIII族金属、IB族金属およびそれらの組み合わせからなる群から選択され;
前記有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸またはその無水物からなる群から選択され、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、その無水物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;ならびに
前記金属源中の金属に対する前記有機リガンド化合物のモル比は1~10:1である、方法。
【請求項12】
工程1)で得られた混合物が、前記金属源および前記有機リガンド化合物からなる;または
工程1)で得られた混合物が、前記金属源、前記金属源を分散させるための分散媒、および前記有機リガンド化合物からなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程1)において、前記金属源の分散液を使用し、前記分散液中の分散媒が、水、炭酸、塩酸、硫酸またはリン酸から選択される無機分散媒、またはエタノール、トルエン、キシレン、石油エーテル、ガソリン、ディーゼル油もしくはそれらの組み合わせからなる群から選択される有機分散媒であり;
好ましくは分散媒と金属源との重量比が1~25:1であり、より好ましくは2~8:1である、請求項1
1に記載の方法。
【請求項14】
工程2)において、反応温度が160~260℃であり、反応時間が2~5時間である、請求項1
1に記載の方法。
【請求項15】
請求項
1に記載の非担持水素化触媒と、少なくとも1種の有機リガンド化合物および/または少なくとも1種の有機溶媒とを含む水素化触媒組成物であって、
前記有機リガンド化合物は、C4~C20有機カルボン酸から選択され、好ましくはC4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくはC6~C12ノルマルまたは異性体アルキルカルボン酸からなる群から選択され、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;
前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはトルエン、ガソリン、エタノール、ディーゼル油またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項16】
前記有機リガンド化合物の少なくとも1種を含み、700~1000cm
-1、1350~1450cm
-1、1500~1610cm
-1および1700~1750cm
-1の位置に特性ピークを有する赤外スペクトルを示す、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
組成物の重量に基づいて、前記非担持水素化触媒が、50%から95%、好ましくは80%から95%の量で存在し、かつ有機リガンド化合物および有機溶媒の合計量が、5%から50%、好ましくは5%から20%である、請求項1
5に記載の組成物。
【請求項18】
炭化水素の水素化における、請求項
1に記載の非担持水素化触
媒の使用であって、炭化水素原料が、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、アルキルアントラセンなどの、不飽和炭化水素化合物;または原油、ガソリン、ディーゼル油、真空ガス油、残渣油などの、不飽和炭化水素化合物を含む混合物である、使用。
【請求項19】
重量%で、10%から45%の水素化触媒成分、45%から80%の分散媒、および1.0%から10%の活性化剤を含む、重質油の水素化に適した非担持触媒組成物であって、ここで
前記水素化触媒成分は、請求項
1に記載の非担持水素化触媒、および任意にC4~C20有機カルボン酸から選択される有機リガンド化合物からなり、
前記分散媒は、有機溶媒、石油留分、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記石油留分は、蒸留範囲が150~524℃の蒸留油、または沸点が524℃を超える残留油成分から選択され、
前記活性化剤は、元素状硫黄、硫黄含有化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはチオール、チオエーテル、二硫化炭素、硫黄、チオフェン化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項20】
前記有機リガンド化合物が、C4~C20ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C20ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C20芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはC6~C12ノルマルもしくは異性体アルキルカルボン酸、飽和炭素環を含むC6~C13ナフテンカルボン酸、芳香環を含むC7~C13芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され、さらに好ましくはコハク酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、エチルヘキサン酸、オレイン酸、石油酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の非担持触媒組成物。
【請求項21】
前記水素化触媒成分の重量に基づいて、前記水素化触媒成分が5%~35%、好ましくは8%~30%、より好ましくは10%~25%、特に好ましくは10%~20%の金属含有量、および0%~50%、好ましくは5%~50%、より好ましくは5%~20%の有機リガンド化合物含有量を有する、請求項1
9に記載の非担持触媒組成物。
【請求項22】
前記水素化触媒成分が、請求項1
1に記載の方法によって得られる液体生成物である、請求項1
9に記載の非担持触媒組成物。
【請求項23】
重質油のハイドロアップグレーディングにおける、請求項1
9に記載の非担持触媒組成物の使用。
【請求項24】
重質油原料を、水素および、任意に予備硫黄化されている、請求項1
9に記載の非担持触媒組成物の存在下、加熱条件下でハイドロアップグレーディング反応に供する工程を含む、重質油のハイドロアップグレーディングのためのプロセス。
【請求項25】
前記ハイドロアップグレーディングの条件として、50~10000μg/gの、金属を基準として重質油原料の重量に対して計算した前記非担持触媒組成物の量、5~20MPaの初期水素圧、360~480℃の反応温度、0.05~2.0h
-1の液空間速度、および300~2000の水素対油の体積比が含まれ;
好ましくは、前記ハイドロアップグレーディングの条件として、50~3000μg/gの、金属を基準として重質油原料の重量に対して計算した前記非担持触媒組成物の量、5~15MPaの初期水素圧、390~450℃の反応温度、0.05~1.0h
-1の液空間速度、500~1500の水素対油の体積比が含まれる、請求項23に記載の使
用。
【国際調査報告】