(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末の調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07H 11/00 20060101AFI20241018BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20241018BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07H11/00
A61K9/127
A61P35/00
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524670
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2022079695
(87)【国際公開番号】W WO2023072890
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305008042
【氏名又は名称】サンド・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ズパンシク,ボルト
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
【Fターム(参考)】
4C057AA14
4C057BB03
4C057DD02
4C057GG02
4C076AA19
4C076CC27
4C076DD68
4C076FF68
(57)【要約】
本発明は、スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を調製する方法であって、TASOS溶液と極性有機溶媒及びトリエチルアミンとを組み合わせ、それによってTASOS溶液、極性有機溶媒及びトリエチルアミンを得る工程;前記TASOS溶液を濃縮する工程;それを2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン並びにトリエチルアミンと組み合わせ、それによって混合物を得る工程;並びに白色のTASOS粉末が得られるまで前記混合物を撹拌する工程を含む方法に関する。
本発明はまた、少なくとも96%の純度を有するスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末、医薬組成物を調製するためのスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末の使用、及びTASOS粉末を調製するための貧溶媒としてのテトラヒドロフラン又は2-メチルテトラヒドロフランの使用に関する。
最後に、本発明は、本発明のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を使用して調製された医薬組成物、及びがんの処置に使用するための医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を調製する方法であって、
a)TASOS溶液を提供する工程であって、
前記TASOS溶液が、
極性有機溶媒のうちの少なくとも1つが2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランよりも高い極性を有する、極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物;
7よりも高いpH値を確保するためのトリエチルアミン;及び
任意選択的に水;
を含む工程と;
b)工程a)の前記TASOS溶液を、水(存在する場合)及び任意選択的に前記極性有機溶媒若しくは極性有機溶媒の混合物を除去することによって濃縮して;又は、水が存在しない場合、工程a)の前記TASOS溶液を、前記極性有機溶媒もしくは前記極性有機溶媒の混合物を除去することによって任意選択的に濃縮して;それによってスラリー又は溶液を得る工程と;
c)工程a)において水が存在する場合、同一若しくは異なる極性有機溶媒又は同一若しくは異なる極性有機溶媒の混合物を使用して、工程a)及びb)を1回以上繰り返す工程と;
d)工程a)からのさらなる量の極性有機溶媒を前記スラリーに添加し、それによってTASOS溶液を得る工程と;
e)工程a)、工程b)、又は工程d)のTASOS溶液を、
2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン;並びに
7よりも高いpH値を確保するためのトリエチルアミン;と組み合わせ、
それによって混合物を得る工程と;
f)工程e)のTASOS混合物を濃縮する工程と;
g)工程e)及びf)を1回以上繰り返す工程と;
h)さらなる量の2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランを添加して、それによって混合物を得る工程と;
i)得られた混合物を、TASOS粉末が得られるまで撹拌する工程と;
j)任意選択的に、工程i)のTASOS粉末を濾過及び洗浄する工程と;
k)任意選択的に、TASOS粉末を乾燥させる工程と;を含む方法。
【請求項2】
工程a)の前記TASOS溶液中に水が存在する場合、工程a)における1つ以上の、好ましくはすべての有機溶媒が水と共沸混合物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)における前記極性有機溶媒又は前記極性有機溶媒の混合物が、アセトニトリル、エタノール及びメタノールからなる群から選択され、並びに/又は工程e)における前記極性有機溶媒が、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)が、減圧下で、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)において、溶媒の45%~95%、好ましくは溶媒の50%~90%、より好ましくは60%~80%、最も好ましくは約75%が除去され;
好ましくは、濃縮工程b)において、及び濃縮工程f)において、溶媒の45%~95%、好ましくは50%~90%、より好ましくは60%~80%、最も好ましくは約75%が除去される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水が存在する場合、工程a)及びb)、並びに工程e)及びf)が、又は
工程a)で水が存在しない場合、工程e)及びf)のみが、
1回~20回、好ましくは2回~15回、より好ましくは3回~10回、最も好ましくは5回繰り返される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程e)において、有機溶媒及びトリエチルアミンが、TASOS溶液と、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約40℃の範囲、好ましくは約20℃~約30℃の範囲、より好ましくは約25℃の温度で組み合わされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程e)において、得られたTASOS溶液が、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で撹拌される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程e)及び/若しくはh)において、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランが、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で添加され;
好ましくは、工程e)及びh)において、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランが、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で添加され;
並びに/又は
工程i)において、撹拌が、10~25時間、好ましくは12~20時間、より好ましくは約14~18時間、最も好ましくは約16時間の間にわたって、約10℃~約40℃の範囲、好ましくは約20℃~約30℃の範囲、より好ましくは約25℃の温度で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)によって測定された少なくとも96面積%、好ましくは少なくとも97面積%、より好ましくは少なくとも98面積%の純度を有するスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末。
【請求項11】
i)マルバーン・マスターサイザーによって測定された50~120μmの粒径分布(PSD)d90及び/若しくは3~10μmのd10及び/若しくは15~60μmのd50;並びに/又は
ii)ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定された、好ましくは1%未満若しくは4000ppm未満の2-メチルテトラヒドロフラン若しくはテトラヒドロフランの残留溶媒含有量;並びに/又は
iii)少なくとも0.20m
2/gのBET比表面積;並びに/又は
iv)1.0g/mL未満、好ましくは0.80g/mL未満、より好ましくは0.70g/mL未満、最も好ましくは0.60g/mL未満のタップ密度;
を有する、請求項10に記載のTASOS粉末。
【請求項12】
医薬組成物を調製するための、請求項10又は11に記載のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末の使用。
【請求項13】
TASOS粉末を調製するための貧溶媒としての、2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランの使用。
【請求項14】
請求項10又は11に記載のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を使用することによって調製される医薬組成物。
【請求項15】
がん、好ましくは膵臓がん、結腸がん及び/又は小細胞肺がんの処置に使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を調製する方法であって、TASOS溶液と極性有機溶媒及びトリエチルアミンとを組み合わせ、それによってTASOS溶液、極性有機溶媒及びトリエチルアミンを得る工程;前記TASOS溶液を濃縮する工程;それを2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン並びにトリエチルアミンと組み合わせ、それによって混合物を得る工程;並びに白色のTASOS粉末が得られるまで前記混合物を撹拌する工程を含む方法に関する。
【0002】
本発明はまた、少なくとも96%の純度を有するスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末、医薬組成物を調製するためのスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末の使用、及びTASOS粉末を調製するための貧溶媒としてのテトラヒドロフラン又は2-メチルテトラヒドロフランの使用に関する。
【0003】
最後に、本発明は、本発明のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を使用して調製された医薬組成物、及びがんの処置に使用するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
スクロース八硫酸は、すべてのヒドロキシ基が硫酸によってエステル化されている、スクロースのエステルである。酸性形態自体は安定ではなく、置換の少ない化合物に急速に加水分解される。ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩のような塩はより安定であり、長時間安定性を有する結晶性化合物として単離することができる。スクラルファートとして公知のスクロース八硫酸とのアルミニウム錯体は、胃食道逆流症の処置剤として使用される。
【0005】
最近、様々ながんの処置のために、イリノテカンのスクロースオクタサルフェート塩が開発された。イリノテカン(7-エチル-10-[4-(1-ピペリジノ)-1-ピペリジノ]カルボニルオキシカンポテシン)は、がん化学療法に用いられる水溶性カンプトテシン誘導体である。イリノテカンの薬理学は複雑であり、その薬物動態及び体内分布を改善するために、安定な薬学的パッケージング技術を提供することが望ましい。リポソームベースのナノ粒子(リポソーム小胞/リポソーム生成物)にイリノテカンをカプセル化すると、所望の安定性が得られることが見出された。
【0006】
様々ながんを処置するために開発された医薬品中のイリノテカンスクロースオクタサルフェートはリポソーム製品であり、ここで、すべてのイリノテカンスクロースオクタサルフェートはリポソーム小胞の内部にパッケージングされている。リポソーム小胞への塩の蓄積は、小胞膜を容易に通過するスクロース八硫酸とアニオンとの塩によって調製される。トリエチルアンモニウム塩が最も適切な塩として認識された。
【0007】
これまで、スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)は、ナトリウム塩又はカリウム塩からカラム内でのイオン交換によって調製されていた。所望の体積及び所望の濃度を調整するために、得られたTASOS水溶液は部分的に蒸発された。しかしながら、水中での操作は、エステルの部分的な分解をもたらし、それによって置換の少ないサルフェートを形成し、最終的に望ましくない分解生成物、特にヘプタサルフェート不純物をもたらす。水を含むTASOS溶液の最終的な貯蔵は、さらに不純物の濃度を高める一因となり得、これは、スクロースオクタサルフェートを含む製品の調製、特にリポソーム製品の調製を困難にし得る。
【0008】
さらに、操作時間を短縮するために(製品を汚染するリスクを低減するために)、TASOS溶液を調製するこの化学的過程を医薬品製造プラントに移送する必要があり、無菌性は極めて困難な条件である。TASOSの固体安定形態は、これらの課題に対する解決策である。
【0009】
これに関して、US4990610は、水性混合物からの固体スクロースオクタサルフェートアンモニウム塩の調製を開示している。記載された手順は、水性条件が存在し、TASOSの固化を可能にしないので、TASOS粉末調製には適用できない。
【0010】
Ochi ら(Chem.Pharm.Bull.1980,28,638)は、結晶性スクロースオクタサルフェート塩の調製を記載している。使用される塩は、ナトリウム、カリウム、バリウム、ルビジウム、セシウム及びアンモニウムである。結晶性スクロースオクタサルフェートはメタノール水溶液から調製される。記載された手順は、TASOS粉末調製には水性条件が存在するため、この手順は適用できない。これは、TASOSを固化させることができないからである。
【0011】
US10456360、US2017319573、US2018296484、US2020069586及びWO2017066726はそれぞれ、スクロースオクタサルフェートトリエチルアンモニウム塩及びスクロースオクタサルフェートジエチルアンモニウム水溶液の調製を開示している。この場合もまた、TASOS粉末調製には水性条件が存在するため、記載された手順は、適用できない。これは、TASOSを固化させることができないからである。
【0012】
Yang ら(Biomater.Sci.2019,7,419)は、US10456360と同様のスクロースオクタサルフェートトリエチルアンモニウム塩水溶液の調製を記載している。
【0013】
Drummond ら(Cancer Research 2006,66,3271)は、US10456360と同様のスクロースオクタサルフェートトリエチルアンモニウム塩水溶液の調製を記載している。
【0014】
しかしながら、先行技術の方法は、水性又はアルコール性溶液から使用可能な粒子を調製することを意図していたが、得られたゲル状又はガム状固体生成物のために完全に失敗した。したがって、医薬組成物に使用するのに適したTASOS粉末の調製方法、並びにそのような改善されたTASOS粉末自体の必要性が依然として存在し、このTASOS粉末は、例えば純度及び/又は安定性に関して、例えば硫酸化不純物の低減に関して改善される。
【0015】
したがって、本発明の目的は、スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)溶液から出発する、TASOS粉末を調製するための工業的に適用可能で経済的に許容される方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4990610号明細書
【特許文献2】米国特許第10456360号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/319573号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2018/296484号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/069586号明細書
【特許文献6】国際公開第2017/066726号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Ochi et al.(Chem.Pharm.Bull.1980,28,638)
【非特許文献2】Yang et al.(Biomater.Sci.2019,7,419)
【非特許文献3】Drummond et al.(Cancer Research 2006,66,3271)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の先行技術の調製手順によれば、TASOSは溶液から調製される。TASOSは、その性質上、いくつかの欠点を有し、例えば、非常に吸湿性であり、したがって、わずかな水しか存在しないとしても、ゴム状材料が得られる。しかし、溶液中に水が含まれていなくても、安定性の欠如のために、先行技術の調製方法でTASOSを調製すると、比較的高レベルの不純物を示す固体TASOSがもたらされる。
【0019】
したがって、先行技術の方法は、医薬品グレードの固体TASOSの形成を可能にしない。
【0020】
したがって、先行技術に記載される手順によって得られるTASOSは、溶液(例えば、水溶液)として、又は不純物を含有する固体として単離される。したがって、この固体TASOSは医薬品グレードではなく、例えば(わずか)90面積%の純度を有する。
【0021】
これらすべての課題に対する解決策は、固体安定形態のTASOSである。固体材料はまた、取り扱いがより容易であり、その結果、最終剤形(FDF)過程においてより正確な投与が可能である。
【0022】
本発明は、本明細書に記載の方法を使用することによって、そのような固体安定形態のTASOSを提供することができるという予想外の発見に基づいている。
【0023】
医薬品製造に使用するのに適格でない市販の固体TASOSを本発明の方法に供した場合、得られたTASOS粉末は、例えば、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)によって測定して少なくとも96面積%の純度を有することがさらに見出された。したがって、得られたTASOS粉末は、医薬品に使用するのに適している。最も注目すべきは、TASOS微粉末が本発明に従って単離される場合、主要なヘプタサルフェート不純物が有意に低減されることである:HS1(ヘプタサルフェート不純物)が約55~60%低減され、HS2が完全に除去され、HS3が約45~50%低減される。MS分析に基づいて不純物を同定した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、無水環境におけるTASOSの固化に基づく。本発明の方法の第1の工程では、水が蒸発によって除去されるか、又は溶媒交換が行われ、それによってTASOS溶液が得られる。このTASOS溶液中に存在する溶媒は、第2の工程において貧溶媒として使用される溶媒よりも極性が高い。第2の工程では、第1の工程で使用された溶媒が、低極性溶媒のテトラヒドロフラン又は2-メチルテトラヒドロフランによって段階的にゆっくりと交換され、それによって粉末、好ましくは白色粉末としてTASOSの沈殿をもたらす。濃縮工程及び溶媒再添加工程を含むそれぞれの溶媒交換工程を少なくとも1回繰り返すことは、薬学的グレードの純度を示す白色粉末としてTASOSを得ること、同様に7よりも高い、好ましくは9よりも高いpH値を確保することができる。
【0025】
水が出発材料中に存在する場合、粉末として固体TASOSを得るための1つの重要な要因は、効率的な水除去である。これは、アセトニトリル又は他の極性有機溶媒への溶媒交換に際して共沸除去によって確保される。溶液中に微量の水が依然として存在する場合、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランへの溶媒交換中にさらに除去される。これらは、TASOSの沈殿を担う貧溶媒(又は貧溶媒混合物)でもある。溶媒交換中の別の重要な要因は、7よりも高い、好ましくは9よりも高いpHを確保するためのトリエチルアミンの添加であり、これは固化過程中のTASOSの分解を防ぐ。
【0026】
この方法では、例えばアセトニトリルの代わりに、水と共沸混合物を形成することができる他の極性有機溶媒(例えばエタノール)及び溶媒も使用することができる。これは、水と共沸混合物を形成しない溶媒(例えば、メタノール)である。水と共沸混合物を形成しない溶媒を使用する場合、溶媒を貧溶媒2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランと交換する第2の工程で水を効率的に除去する必要がある。
【0027】
したがって、本発明は特許請求の範囲に記載のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末をTASOS溶液から調製する方法に関する。
【0028】
TASOS粉末を得ることができないTASOS溶液から出発して、本方法の目的は、TASOS粉末を沈殿させることができるTASOS溶液を提供することである。TASOS溶液、特に水を含むTASOS溶液から出発する場合に、TASOS粉末をどのようにして沈殿させることができるかが予想外に見出された。
【0029】
水はTASOSの沈殿を妨げるので、本発明の方法では、水は意図的に添加されるものではないが、例えばTASOS自体を調製する方法からの不純物として存在し得る。この場合、水がTASOS溶液中に存在する場合、本発明の方法で除去されなければならない。この場合、水はアセトニトリルなどの極性有機溶媒で置換される。特に、貧溶媒2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランの添加が最終的にTASOS粉末の沈殿をもたらすために、水を十分な程度まで、すなわち低い水濃度まで除去しなければならない。沈殿工程に際した水の濃度は、沈殿を可能にするために可能な限り低くなければならない。沈殿工程に際して、水は完全に除去されることが好ましい。
【0030】
不純物として水が存在しない場合、本発明の方法もまた、TASOS粉末を沈殿させることができるTASOS溶液を提供可能にする。この場合、1つ以上の極性有機溶媒を含む溶媒中のTASOS溶液を濃縮して、スラリー又はTASOS溶液、好ましくは透明なTASOS溶液のいずれかを得ることができる。スラリーに極性溶媒を添加して、TASOS溶液、好ましくは透明なTASOS溶液を提供することができる。得られたTASOS溶液は、好ましくは、工程a)のTASOS溶液よりも濃縮される。この濃縮工程は、TASOS粉末が最終的に沈殿する2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランとの溶媒交換を可能にするメチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランへの溶媒交換の一部である。
【0031】
スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)の構造は以下の通りである。
【0032】
【0033】
本発明の方法の工程a)によれば、極性有機溶媒又は極性有機溶媒、トリエチルアミン及び任意選択的に水の混合物を含むTASOS溶液が提供される。極性有機溶媒の少なくとも1つ、又は極性有機溶媒の混合物は、本発明の方法において後にどの溶媒が貧溶媒として使用されるかに応じて、2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランの極性よりも高い極性を有する。好ましい実施形態では、2-メチルテトラヒドロフランが貧溶媒として使用される場合、極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物の少なくとも1つは、2-メチルテトラヒドロフランより高い極性を有し、テトラヒドロフランが貧溶媒として使用される場合、極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物の少なくとも1つは、テトラヒドロフランより高い極性を有する。
【0034】
トリエチルアミンが存在し、7よりも高いpH値、好ましくは9よりも高いpH値が確保されると、そのTASOSはオクタキストリエチルアンモニウム塩として安定に存在する。トリエチルアミンの使用量は、好ましくは最大5%、好ましくは2%である。工程a)及びe)、並びに工程a)及びe)を繰り返す場合に使用されるトリエチルアミンの量は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、有機溶媒又は有機溶媒の混合物の量に基づいて、最大約5重量%、好ましくは約2重量%である。
【0035】
工程a)のTASOS溶液は、スクロースオクタスルホン酸及びその塩、例えばそのアンモニウム塩(スクロースオクタサルフェートトリエチルアンモニウム塩)、そのナトリウム塩(スクロースオクタサルフェートナトリウム)又はそのカリウム塩(スクロースオクタサルフェートカリウム(KSOS))から得ることができる。
【0036】
TASOS溶液が、スクロースオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)以外のスクロースオクタスルホン酸及びその塩から得られる場合、請求項1に記載の工程a)の前にカチオン交換工程を実施しなければならない。実施例4は、KSOSからTASOSを得るためのカチオン交換を記載する。さらに、医薬品グレードではない従来技術のTASOS固体を使用して、例えば室温、例えば20~25℃で、特許請求の範囲に記載の1つ以上の極性有機溶媒に溶解することもできる。使用されるTASOSが既に溶液の形態である場合、特許請求の範囲に記載の1つ以上の追加の極性有機溶媒を添加することができる。最初にTASOS溶液から溶媒を除去し、次いで、特許請求の範囲に記載の1つ以上の極性有機溶媒を添加することも可能である。
【0037】
工程a)のTASOS溶液中に水が存在する場合、次の工程b)及びc)において、水を除去するために溶媒交換工程が実施される。溶媒交換後、本質的に水を含まないTASOS溶液が得られる。無水有機溶媒中の水の最大量は、好ましくはTASOS溶液の0.5重量%、特に工程a)において極性有機溶媒としてアセトニトリルを使用する場合は0.5%、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランを使用する場合は0.2%である。
【0038】
工程a)における極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物の量は、沈殿物の形成なしにTASOS溶液を維持するように選択され、例えば、TASOS溶液は100gのTASOS/200mLのアセトニトリルであり得る。
【0039】
工程b)の極性有機溶媒は、水と共沸混合物を形成する溶媒であっても、水と共沸混合物を形成しない溶媒であってもよい。工程b)における極性有機溶媒の混合物では、各溶媒が、水と共沸混合物を形成する溶媒であっても、水と共沸混合物を形成しない溶媒であっても、いずれであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、極性有機溶媒は、水と共沸混合物を形成する溶媒である。別の好ましい実施形態では、有機溶媒の第1の混合物は、水と共沸混合物を形成する少なくとも1つの溶媒を含有し、さらに好ましくは、混合物は、水と共沸混合物を形成する溶媒のみを含有する。
【0040】
工程b)の有機溶媒の極性は、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランの極性よりも高い。好ましくは、溶媒の極性は、25℃における双極子モーメント(D)に基づいて記載の誘電率に基づくデバイ方程式から測定することができる。溶媒の誘電率は、“Dielektrizitatskonstante(DK-Wert)Kompendium”,version available on 22 October 2021,at https://docplayer.org/53720533-Dielektrizitaetskonstante-dk-wert-kompendium.htmlに列挙されている。2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン及び極性有機溶媒の双極子モーメント/誘電率は、値が比較可能であるように同じ方法を用いて測定/測定(determined)される。
【0041】
工程a)において水が存在する場合、水を効率的に除去するために、同一若しくは異なる極性有機溶媒又は同一若しくは異なる極性有機溶媒の混合物を使用して、工程a)及びb)を1回以上繰り返す必要がある。これを本明細書では「第1の溶媒交換工程」と呼ぶ。各繰り返しの後に含水量を測定する必要はない。むしろ、水が出発物質中に存在するかどうかは、方法の開始時に測定されなければならない。次いで、工程a)及びb)の濃縮度及び繰り返し回数が、TASOS粉末を最終的に達成することができる十分に低い水濃度を提供するように、方法を適合させなければならない。2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランへの溶媒交換(これを本明細書では第2の溶媒交換工程と呼ぶ)を実施する際にも水を除去することができるため、第1の溶媒交換工程において最終含水量まで水を除去する必要はない。例えば、工程a)の出発溶液中に水が存在する場合、この水は第1の溶媒交換工程で完全に除去される必要はなく、残りの水は第2の溶媒交換工程で除去することができる。
【0042】
水が存在しない場合、工程a)及びb)を繰り返す必要はない。もちろん、前記工程を繰り返すことも可能である。
【0043】
工程a)で提供されたTASOS溶液中に水が存在しない場合、濃縮工程b)を実施することは必須ではない(しかし、可能である)。したがって、工程a)のTASOS溶液の濃縮は任意選択である。濃縮工程b)を行うことも可能であり、濃縮工程b)を行わないことも可能である。濃縮工程が実施されない場合、工程a)のTASOS溶液を、貧溶媒2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランと直接組み合わせる。この場合、工程a)の後、工程e)が実施される。濃縮工程が実施される場合、工程b)の濃縮溶液を、貧溶媒2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランと組み合わせる。この場合、工程b)の後、工程e)が実施される。しかしながら、工程e)を実施する前に工程d)を実施することも可能である。
【0044】
工程d)において、工程a)からのさらなる量の極性有機溶媒がスラリーに添加され、それによって、好ましくは透明なTASOS溶液が得られる。
【0045】
TASOS溶液が水を含有せず、工程b)で単に濃縮される場合、工程d)のさらなる量の極性有機溶媒は必ずしも添加しなくてよい。
【0046】
工程e)において、工程a)(工程a)で提供された溶液中に水が存在しない場合)、工程b)又は工程d)のTASOS溶液、好ましくは透明なTASOS溶液を、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン、並びに7よりも高い、好ましくは9よりも高いpH値を確保し、それによって混合物を得るために、トリエチルアミンと組み合わせる(第2の溶媒を低極性有機溶媒に交換する)。貧溶媒(2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン)の存在に起因して、TASOSは既に沈殿を開始する可能性があり、混合物は粒子(沈殿物)を含む。特に、TASOS溶液が貧溶媒2-メチルテトラヒドロフランと組み合わされる場合、TASOSの沈殿が既に開始され得、それによって混合物が形成される。
【0047】
工程e)において、有機溶媒(2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン)及びトリエチルアミンを、好ましくは透明なTASOS溶液と、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約40℃の範囲、好ましくは約20℃~30℃の範囲、より好ましくは約25℃の温度で組み合わせる。TASOS溶液を有機溶媒、特に2-メチルテトラヒドロフランと合わせると、沈殿物が形成され得る。
【0048】
工程f)において、工程e)のTASOS組合せを再度濃縮してスラリーを得る。
【0049】
工程g)では、工程e)及びf)を1回以上繰り返す。これは、必要な溶媒交換を達成し、最終的に所望のTASOS粉末を沈殿させるために重要である。本発明によれば、少なくとも工程a/b又はe/fが1回以上繰り返されることが好ましい。さらに好ましい工程a)及びb)並びにe)及びf)の両方が、1回以上繰り返されることが好ましい。
【0050】
次いで、工程h)において、さらなる量の2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランを、濃縮されたTASOSの組み合わせに添加し、それによって混合物を得る。
【0051】
得られたTASOS混合物は、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で撹拌することができる。
【0052】
工程e)及び/若しくはh)において、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランは、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で添加され;
好ましくは、工程e)及びh)において、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランは、0.5~2時間、好ましくは0.75~1.5時間、より好ましくは約1時間の間にわたって、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で添加される。
【0053】
工程i)において、得られた混合物を、TASOS粉末が得られるまで、すなわち沈殿するまで撹拌する。撹拌は、10~25時間、好ましくは12~20時間、より好ましくは約14~18時間、最も好ましくは約16時間の間にわたって、約10℃~約40℃の範囲、好ましくは約20℃~約30℃の範囲、より好ましくは約25℃の温度で実施することができる。TASOS固体は濾過可能な微粉末として得られる。
【0054】
好ましい実施形態では、このTASOS粉末は白色であり、これは得られたTASOS粉末の有益な純度を示す。
【0055】
工程j)において、工程i)のTASOS粉末は、任意選択的に濾別し、洗浄することができる。
【0056】
工程k)において、TASOS粉末は、任意選択的に乾燥させることができる。
【0057】
得られたTASOS粉末は非晶質形態である。
【0058】
以下では、第1の溶媒交換に使用される溶媒についてより詳細に説明する。
【0059】
工程a)のTASOS溶液中に水が存在する場合、工程a)における1つ以上の、好ましくはすべての有機溶媒が水と共沸混合物を形成する。
【0060】
非共沸有機溶媒を使用する場合、濃縮工程b)で水(存在する場合)を除去するために、有機溶媒の沸点は一般に水の沸点より高くなければならない。
【0061】
工程a)における極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物は、好ましくは、アセトニトリル、エタノール及びメタノールからなる群から選択され、好ましくは極性有機溶媒はアセトニトリル又はエタノールであり、より好ましくは極性有機溶媒はアセトニトリルである。
【0062】
工程e)における極性有機溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン、好ましくは2-メチルテトラヒドロフランである。
【0063】
一実施形態では、工程a)及び工程d)の溶媒は同一溶媒である。好ましくは、工程d)の溶媒はアセトニトリルであり、さらに好ましくは工程a)及び工程d)の溶媒はアセトニトリルである。
【0064】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)は、好ましくは減圧下で、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で実施され;
好ましくは、濃縮工程b)及び濃縮工程f)は、減圧下、約10℃~約75℃の範囲、好ましくは約20℃~約50℃の範囲、より好ましくは約20℃~約40℃の範囲、最も好ましくは約25℃の温度で実施される。
【0065】
アセトニトリルへの溶媒交換は、10℃~40℃の温度で、好ましくは20℃~30℃の範囲で、最も好ましくは25℃で行われることが好ましい。蒸発は、好ましくはゆっくりと行われる。
【0066】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)において、溶媒の45%~95%、好ましくは溶媒の50%~90%、より好ましくは60%~80%、最も好ましくは約75%が好ましくは除去され;
さらに好ましくは、濃縮工程b)において、及び濃縮工程f)において、溶媒の45%~95%、好ましくは50%~90%、より好ましくは60%~80%、最も好ましくは約75%が除去される。
【0067】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)は、蒸発工程であり得る。
【0068】
本発明の予想外の知見は、工程a/b及び/又はe/fを繰り返すことにより、TASOS非晶質粉末の沈殿に特に適したTASOS溶液が提供されることである。
【0069】
沈殿によって非晶質化合物を精製することは一般的ではない。その理由は、非晶質粉末の場合、沈殿が高純度の生成物をもたらすかどうかを確実に予測することができないからである。これに対して、結晶化による精製は、高純度を示す生成物をもたらすと予想される。したがって、本発明では、驚くべきことに、特許請求の範囲に記載の方法が、得られたTASOSが非晶質形態であるにもかかわらず、医薬品グレードを示すTASOS粉末をもたらすことが見出された。
【0070】
好ましい実施形態では、本方法において、
水が存在する場合、工程a)及びb)、並びに工程e)及びf)が、又は
工程a)で提供されたTASOS溶液中に水が存在しない場合、工程e)及びf)のみが、
1回~20回、好ましくは2回~15回、より好ましくは3回~10回、最も好ましくは5回繰り返される。
【0071】
本発明による方法の第2の溶媒交換工程では、工程e)から開始して、TASOSは、このようにして得られた固体生成物の固化過程及び濾過に際して精製される。TASOS溶液合成中、置換が少ないサルフェート不純物、主にヘプタサルフェート不純物が形成される。8つの位置異性体候補が形成される可能性があり、それらのうちの3つの主要なものが、面積%で規定されるクロマトグラフィーピークとして同定される:ヘプタサルフェート不純物1(HS1)、ヘプタサルフェート不純物2(HS2)及びヘプタサルフェート不純物3(HS3)。3つすべての主要な不純物の量は、TASOS非晶質粉末調製の過程中に減少する。典型的には、HS1は55~60%減少し、HS2は完全に除去され、HS3は45~50%減少する。
【0072】
したがって、本発明はまた、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)によって測定して少なくとも96面積%、好ましくは少なくとも97面積%、より好ましくは少なくとも98面積%の純度を有するスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末に関する。
【0073】
TASOS粉末は、50~120μmの粒径分布(PSD)d90及び/又は3~10μmのd10及び/又は15~60μmのd50を有し得る。PSDは、例えば、体積測定動的レーザ光散乱法を使用することによって、好ましくはMalvern Instruments,Ltd.(マルバーン ・インスツルメンツ・リミテッド)(Malvern,UK)の機器、好ましくはMalvern Mastersizer(マルバーン・マスターサイザー) 3000を使用することによって測定することができる。
【0074】
TASOS粉末は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定して、好ましくは1%未満又は4000ppm未満の2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランの残留溶媒含有量を有し得る。
【0075】
TASOS粉末は、少なくとも0.20m2/gのBET比表面積を有し得る。BET表面積の測定は、例えば、窒素を用いたISO 9277:2010(E)規格に従って、例えば、静的体積測定及び多点法を用いて行うことができる。
【0076】
TASOS粉末は、1.0g/mL未満、好ましくは0.80g/mL未満、より好ましくは0.70g/mL未満、最も好ましくは0.60g/mL未満のタップ密度を有し得る。
【0077】
本発明はまた、医薬組成物を調製するための、本明細書に開示されるスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末の使用に関する。
【0078】
本明細書に開示されるスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末は、医薬組成物、好ましくはリポソーム組成物を調製するために使用することができる。例えば、本発明のTASOS粉末は、組成物の調製に使用することができる。
【0079】
本発明はまた、TASOS粉末を調製するための貧溶媒としての、2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランの使用に関する。
【0080】
本発明はまた、本明細書に開示されるスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を使用することによって調製される医薬組成物に関する。医薬組成物は、リポソームと、リポソーム内に捕捉されたイリノテカン及び薬物捕捉剤としてスクロースオクタサルフェート(SOS)とを含む。
【0081】
本発明はまた、本明細書に記載の方法を適用することによって得られるTASOS粉末に関する。
【0082】
最後に、本発明は、がん、好ましくは膵臓がん、結腸がん及び/又は小細胞肺がんの処置に使用するための、本明細書に開示される医薬組成物に関する。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
アセトニトリル中TASOS溶液の調製
TASOS(100g)水溶液(1L)にアセトニトリル(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を加え、得られた混合物を25℃で濃縮した。得られたスラリーにアセトニトリル(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を添加し、25℃で濃縮した。この工程を5回繰り返した。最後の濃縮工程の後、アセトニトリル(2%トリエチルアミンを含む、200mL)を添加して、TASOS溶液を得た。
【0084】
[実施例2]
アセトニトリル溶液からTASOS白色粉末の調製
すべての操作を窒素雰囲気下で行った:TASOS(100g)にアセトニトリル(200mL)を添加した。得られた透明溶液に、2-メチルテトラヒドロフラン(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を25℃で1時間かけて添加した。得られた混合物を25℃で1時間撹拌し、次いで、溶媒の約75%を25℃で蒸発させた。この混合物に、2-メチルテトラヒドロフラン(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を25℃で1時間かけて添加した。得られた混合物を25℃で1時間撹拌し、次いで、溶媒の約75%を25℃で蒸発させた。この工程を5回繰り返した。最後の蒸発後、2-メチルテトラヒドロフラン(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を25℃で1時間かけて添加し、得られた混合物を25℃で16時間撹拌した。得られた白色粉末を濾過し、2-メチルテトラヒドロフラン(2%トリエチルアミンを含む、250mL)で洗浄し、25℃で真空中で乾燥させて、TASOSを白色非晶質粉末として得た(92.4g、92%)。UPLC分析:スクロースオクタサルフェート98.14面積%、HS1 0.99面積%、HS2<DL、HS3 0.34面積%、サルフェート0.52面積%。
【0085】
出発TASOSのUPLC分析:スクロースオクタサルフェート97.04面積%、HS1 1.25面積%、HS2 0.39面積%、HS3 0.63面積%、サルフェート0.68面積%。
【0086】
PSD分析(Malvern):d10 5.6μm、d50 30.1μm、d90 78.8μm
残留溶媒:MeTHF 2291ppm
SSA:0.29m2/g
タップ密度:0.51g/mL
【0087】
[実施例3]
スクロースオクタサルフェートカリウム(KSOS)の調製
反応器(6L)に、20℃で無水ピリジン(1.90L)を充填し、続いてピリジン三酸化硫黄(619g、3.89モル)を充填した。有意な温度変化を伴わずに白色懸濁液が形成された。混合物を45℃に加熱し、スクロース(164g、0.48モル)を添加した。15分後、反応温度を80℃に上昇させた。樹脂状生成物を分離した。混合物を6時間撹拌した。撹拌を停止し、温度を20℃に下げ、浸漬管を介して上清(1.20kg)の大部分を吸引除去した。固化生成物を20℃の水(2.0L)に溶解させた。すべてが溶解したら、10% KOH(水溶液)をpH9.0まで(約2.5L)ゆっくり添加した。メタノール(1.5L)を30分かけて添加した。懸濁液が形成された。さらに15分間撹拌した後、沈殿物を真空濾過によって単離し、反応器及び濾過ケークをメタノール/水(1:1、2×1L)、メタノール(0.5L)で洗浄し、減圧下50℃で一晩乾燥させてKSOS粗生成物を得た(613g)。
【0088】
反応器(20L)にKSOS粗生成物(613g)及び水(5.5L)を充填した。懸濁液を25℃で撹拌して透明溶液になるまで溶解した。メタノール(5.5L)を、25℃で一定流量で3時間添加した。得られた懸濁液を1時間撹拌し、生成物を濾過によって単離し、濾過ケークをメタノール(1L)で洗浄した。50℃で減圧下で乾燥させ、白色粉末(557g、全体収率91%;HPLCによる純度99.85面積%)を得た。
【0089】
[実施例4]
KSOSからのTASOSの調製
KSOS(100g、78mmol;S-LIP-1-313-03)を水で1Lに希釈し、懸濁液を溶解が達成されるまで室温で撹拌した。少量の不溶物を濾過によって除去する。次いで、この溶液を、Biotage Isoleraにおいて再生Dowexカラムに水との1:1希釈(50g/L、アイソクラティック)を使用して、50mL/分の流速で流す(KSOSの消費時に、そのフラスコ及びシステムを100mLの水で洗浄した)。最初の100mLを廃棄する。画分を、6mLのトリエチルアミンを含有する100mLフラスコに回収した。画分を組み合わせ、減圧下(約10mbar)で30℃において、10mLのトリエチルアミンを30分毎に添加して蒸発させて、粘性無色油(pH8.67、HPLC分析で98.36面積%SOS)を得た。
【0090】
この粘性油にアセトニトリル(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を添加し、得られた溶液を25℃で濃縮した。得られたスラリーにアセトニトリル(2%トリエチルアミンを含む、750mL)を添加し、25℃で濃縮した。この工程を5回繰り返して、特許請求の範囲に記載され、実施例2に例示される方法のTASOS固化工程の準備が整ったTASOSを得た。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を調製する方法であって、
a)TASOS溶液を提供する工程であって、
前記TASOS溶液が、
極性有機溶媒のうちの少なくとも1つが2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランよりも高い極性を有する、極性有機溶媒又は極性有機溶媒の混合物;
7よりも高いpH値を確保するためのトリエチルアミン;及び
任意選択的に水;
を含む工程と;
b)工程a)の前記TASOS溶液を、水(存在する場合)及び任意選択的に前記極性有機溶媒若しくは極性有機溶媒の混合物を除去することによって濃縮して;又は、水が存在しない場合、工程a)の前記TASOS溶液を、前記極性有機溶媒もしくは前記極性有機溶媒の混合物を除去することによって任意選択的に濃縮して;それによってスラリー又は溶液を得る工程と;
c)工程a)において水が存在する場合、同一若しくは異なる極性有機溶媒又は同一若しくは異なる極性有機溶媒の混合物を使用して、工程a)及びb)を1回以上繰り返す工程と;
d)工程a)からのさらなる量の極性有機溶媒を前記スラリーに添加し、それによってTASOS溶液を得る工程と;
e)工程a)、工程b)、又は工程d)のTASOS溶液を、
2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフラン;並びに
7よりも高いpH値を確保するためのトリエチルアミン;と組み合わせ、
それによって混合物を得る工程と;
f)工程e)のTASOS混合物を濃縮する工程と;
g)工程e)及びf)を1回以上繰り返す工程と;
h)さらなる量の2-メチルテトラヒドロフラン及び/又はテトラヒドロフランを添加して、それによって混合物を得る工程と;
i)得られた混合物を、TASOS粉末が得られるまで撹拌する工程と;
j)任意選択的に、工程i)のTASOS粉末を濾過及び洗浄する工程と;
k)任意選択的に、TASOS粉末を乾燥させる工程と;を含む方法。
【請求項2】
工程a)の前記TASOS溶液中に水が存在する場合、工程a)における1つ以上
の有機溶媒が水と共沸混合物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)における前記極性有機溶媒又は前記極性有機溶媒の混合物が、アセトニトリル、エタノール及びメタノールからなる群から選択され、並びに/又は工程e)における前記極性有機溶媒が、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランである、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)が、減圧下で、約10℃~約75℃の範
囲の温度で実施される、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
濃縮工程b)及び/又は濃縮工程f)において、溶媒の45%~95
%が除去さ
れる、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
水が存在する場合、工程a)及びb)、並びに工程e)及びf)が、又は
工程a)で水が存在しない場合、工程e)及びf)のみが、
1回~20
回繰り返される、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
工程e)において、有機溶媒及びトリエチルアミンが、TASOS溶液と、0.5~2時
間の間にわたって、約10℃~約40℃の範
囲の温度で組み合わされる、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
工程e)において、得られたTASOS溶液が、0.5~2時
間の間にわたって、約10℃~約75℃の範
囲の温度で撹拌される、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
工程e)及び/若しくはh)において、2-メチルテトラヒドロフラン及び/若しくはテトラヒドロフランが、0.5~2時
間の間にわたって、約10℃~約75℃の範
囲温度で添加され
;
並びに/又は
工程i)において、撹拌が、10~25時
間の間にわたって、約10℃~約40℃の範
囲の温度で実施される、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)によって測定された少なくとも96面積
%の純度を有するスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末。
【請求項11】
i)マルバーン・マスターサイザーによって測定された50~120μmの粒径分布(PSD)d90及び/若しくは3~10μmのd10及び/若しくは15~60μmのd50;並びに/又は
ii)ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定され
た1%未満若しくは4000ppm未満の2-メチルテトラヒドロフラン若しくはテトラヒドロフランの残留溶媒含有量;並びに/又は
iii)少なくとも0.20m
2/gのBET比表面積;並びに/又は
iv)1.0g/mL未
満のタップ密度;
を有する、請求項10に記載のTASOS粉末。
【請求項12】
(a)医薬組成物を調製するための、請求項1
0に記載のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末
を提供する工程と;
(b)リポソームを提供する工程と;
(c)(a)及び(b)から医薬組成物を調製する工程と;
を含む、医薬組成物を調製する方法。
【請求項13】
(a)貧溶媒とし
て2-メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフラン
を提供する工程と;
(b)固化過程を行う工程と;
(c)TASOS粉末を得る工程と;
を含む、TASOS粉末を調製する方法。
【請求項14】
請求項1
0に記載のスクロースオクタサルフェートオクタキストリエチルアンモニウム塩(TASOS)粉末を使用することによって調製される医薬組成物。
【請求項15】
が
んの処置
のための、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記がんは、膵臓がん、結腸がん、及び/又は小細胞肺がんである、請求項15に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】