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特表2024-539298電気化学装置及びそれを含む電子装置
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  • 特表-電気化学装置及びそれを含む電子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】電気化学装置及びそれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20241018BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241018BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0567
H01M10/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524756
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2022075970
(87)【国際公開番号】W WO2023070988
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/126213
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周▲墨▼林
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ08
5H029HJ13
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA08
5H050HA13
5H050HA17
(57)【要約】
本発明は、電気化学装置及びそれを含む電子装置に関するものである。本発明の電気化学装置は、正極、負極、セパレータ、及び電解液を含む。ここで、正極は、第1正極材料、及び第2正極材料を含む。第1正極材料は、良好なサイクル安定性、及び高い初回クーロン効率を有し、第2正極材料は、高い初回充電比容量、及び低い初回クーロン効率を有し、SEIの生成による活性リチウムの損失を補充することができる。本発明が提供する電気化学装置は、エネルギー密度が高く、レート特性がよく、サイクル寿命が長いという利点がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び電解液を含む電気化学装置であって、
前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一方の表面に位置する正極材料層を含み、
前記正極材料層は、式(I)で示される第1正極材料、及び式(II)で示される第2正極材料を含み、
【化1】
ここで、x、y、z及びtは、-0.1<x<0.1、0<y≦1、0≦z≦1、0<y+z≦1、0≦t<0.2を満たし、Mは、Ti、Zr、V、及びCrのうちの少なくとも一つを含み、且つAは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含み、
【化2】
ここで、r、pおよびsは、-0.1<r<0.2、0≦p<0.2、0≦s<0.2を満たし、Xは、Fe、Co、Ni、Ti、Zn、Mg、Al、V、Cr、及びZrのうちの少なくとも一つを含み、且つTは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含み、
前記正極は、式(1)を満たし、
【数1】
ここで、Rは、前記正極の抵抗であり、単位がΩであり、Pは、前記正極の圧縮密度であり、単位がg/cmであり、且つQは、前記正極の片面の面密度であり、単位がg/1540.25mmである、電気化学装置。
【請求項2】
前記正極は、式(2)を満たす、
【数2】
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記Rは、R≦3.5Ωを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記Pは、1.6g/cm<P<2.6g/cmを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記Qは、0.16g/1540.25mm<Q<0.45g/1540.25mmを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記第2正極材料に対する前記第1正極材料の質量比は、5:1~99:1である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極材料層の全質量に対して、前記第1正極材料の質量含有量は、80%~98%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記第2正極材料のX線回折スペクトルは、
15°~16°の範囲において特徴的な回折ピークAを有する、及び/又は、
18°~19°の範囲において特徴的な回折ピークBを有し、
特徴的な回折ピークAの強度Iと特徴的な回折ピークBの強度Iとの比I/Iは、式(3)を満たす、
【数3】
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記第2正極材料の1サイクル目の充電後のX線回折スペクトルにおいて、特徴的な回折ピークA及び特徴的な回折ピークBは、いずれも低角度方向へシフトし、シフト幅は、シフト幅<0.5°を満たす、請求項8に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記第1正極材料は、LiFePO、LiFe0.5Mn0.5PO、Li0.9Fe0.5Mn0.45Ti0.05PO、Li0.9Fe0.5Mn0.45Ti0.04Zr0.01PO、及びLi0.95FePO3.950.05のうちの少なくとも一つを含む、及び/又は、
前記第2正極材料は、LiMnO、LiMn0.9Ni0.1、LiMn0.9Ni0.05Cr0.05、Li0.95MnO1.950.05、及びLi0.95MnO1.90.050.05のうちの少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項11】
前記電解液は、ビニレンカーボネートを含み、
前記電解液の全質量に対して、前記ビニレンカーボネートの質量含有量は、0.05%~5%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的には、電気化学装置及びそれを含む電子装置、特にリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の産業化規模の拡大、及び関連技術の発展に伴い、リチウムイオン電池のエネルギー密度は、ますます多くの注目、及び挑戦に臨んでいる。リチウムイオン二次電池は、初回の充放電の過程で、負極の表面に固体電解質界面(SEI)が形成され、不可逆的な容量損失が発生し、リチウムイオンエネルギー貯蔵デバイスのエネルギー密度が低下する。負極として黒鉛を用いたリチウムイオンエネルギー貯蔵デバイスにおいて、初回のサイクルは、約10%の活性リチウム源を消費する。負極として、例えば、合金類(シリコン、スズなど)、酸化物類(酸化シリコン、酸化スズ)、及び非晶質炭素などの、比容量が高い負極材料を採用する場合、活性リチウム源の消費は、さらに激化する。したがって、リチウムイオンエネルギー貯蔵デバイスのエネルギー密度をさらに向上させるために、好適なリチウム補充の方法は重要である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、先行技術における問題をある程度で解決するために、サイクル特性及びエネルギー密度を向上させる電気化学装置及び電子装置を提供する。
【0004】
一つの実施例において、本発明は、正極、負極、及び電解液を含む電気化学装置を提供する。上記正極は、正極集電体、及び上記正極集電体の少なくとも一方の表面に位置する正極材料層を含む。上記正極材料層は、式(I)で示される第1正極材料、及び式(II)で示される第2正極材料を含む。
【化1】
【0005】
ここで、x、y、z及びtは、-0.1<x<0.1、0<y≦1、0≦z≦1、0<y+z≦1、0≦t<0.2を満たし、Mは、Ti、Zr、V、及びCrのうちの少なくとも一つを含み、且つAは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含む。
【化2】
【0006】
ここで、r、pおよびsは、-0.1<r<0.2、0≦p<0.2、0≦s<0.2を満たし、Xは、Fe、Co、Ni、Ti、Zn、Mg、Al、V、Cr、及びZrのうちの少なくとも一つを含み、且つTは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含む。
【0007】
上記正極は、式(1)を満たす。
【数1】
【0008】
ここで、Rは、上記正極の抵抗であり、単位がΩであり、Pは、上記正極の圧縮密度(Compaction density)であり、単位がg/cmであり、且つQは、上記正極の片面の面密度であり、単位がg/1540.25mmである。
【0009】
いくつかの実施例において、上記正極は、式(2)を満たす。
【数2】
【0010】
いくつかの実施例において、Rは、R≦3.5Ωを満たす。
【0011】
いくつかの実施例において、Pは、1.6g/cm<P<2.6g/cmを満たす。
【0012】
いくつかの実施例において、Qは、0.16g/1540.25mm<Q<0.45g/1540.25mmを満たす。
【0013】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料に対する上記第1正極材料の質量比は、5:1~99:1である。
【0014】
いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記第1正極材料の質量含有量は、80%~98%である。
【0015】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料のX線回折スペクトルは、
15°~16°の範囲において特徴的な回折ピークAを有する、及び/又は、
18°~19°の範囲において特徴的な回折ピークBを有し、
特徴的な回折ピークAの強度Iと特徴的な回折ピークBの強度Iとの比I/Iは、式(3)を満たす。
【数3】
【0016】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料の1サイクル目の充電後のX線回折スペクトルにおいて、特徴的な回折ピークA、及び特徴的な回折ピークBは、いずれも低角度方向へシフトし、シフト幅は、シフト幅<0.5°を満たす。
【0017】
いくつかの実施例において、上記電解液は、ビニレンカーボネートを含み、上記電解液の全質量に対して、上記ビニレンカーボネートの質量含有量は、0.05%~5%である。
【0018】
他の実施例において、本発明は、本発明の実施例に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0019】
本発明は、正極リチウム補充材料を含むリチウムイオン二次電池を提供する。第一に、本発明に採用された第2正極材料の表面に遊離リチウムの含有量が低いため、加工性に優れている。また、当該第2正極材料は、第1正極材料に比べて、比容量が高く、初回の充電の場合、多くのリチウムイオンを放出して活性リチウムを補充することができる。当該第2正極材料を第1正極材料と組み合わせることで、電池のエネルギー密度、及びサイクル寿命を効果的に向上させることができる。第二に、本発明は、正極のシート抵抗、圧縮密度、及び面密度を総合的に設計することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命、及びエネルギー密度を著しく向上させることができる。第三に、電解液に添加剤としてビニレンカーボネートを添加することにより、負極により均一で緻密なSEI膜が形成され、活性リチウムの持続的な損失を抑制し、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命をより一層向上させることができる。
【0020】
本発明の他の態様及び利点について、以下の内容に部分的に説明し、図示し、又は本発明の実施例の実施を通じて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1における第2正極材料の1サイクル目の充電前後のXRDスペクトルを示す。
図2図2は、図1の部分拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例に対して詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0023】
なお、本明細書において、量、比率、及びその他の数値を範囲形式で示す場合がある。このような範囲形式は、利便性と簡潔性のために使用されることを理解すべきである。当該範囲形式は、範囲制限として明確に指定される数値を含むだけでなく、上記範囲に含まれるすべての各々の数値又はサブ範囲を、各々の数値又はサブ範囲が明示的に指定されるように含むことを柔軟に理解すべきである。
【0024】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、用語「のうちの一つ」、「のうちの1個」、「のうちの1種」、又は他の類似な用語によって接続された項目のリストは、リストされた項目のうちのいずれかを意味することができる。例えば、項目Aと項目Bがリストされている場合、「AとBのうちの一つ」という短句は、Aのみ、又はBのみを意味する。他の実例において、項目A、項目B、及び項目Cがリストされている場合、「A、B、及びCのうちの一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、又はCのみを意味する。項目Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。項目Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。項目Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。
【0025】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、用語「のうちの少なくとも一つ」、「のうちの少なくとも1個」、「のうちの少なくとも1種」、又は他の類似な用語によって接続された項目のリストは、リストされた項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目Aと項目Bがリストされている場合、「AとBのうちの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、又はAとBを意味する。他の実例において、項目A、項目B、及び項目Cがリストされている場合、「A、B、及びCのうちの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとB(Cを除く)、AとC(Bを除く)、BとC(Aを除く)、又はAとBとCのすべてを意味する。項目Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。項目Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。項目Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでいてもよい。
【0026】
一、電気化学装置
いくつかの実施例において、本発明は、正極、負極、及び電解液を含む電気化学装置を提供する。
【0027】
1、正極
いくつかの実施例において、上記正極は、正極集電体、及び上記正極集電体の少なくとも一方の表面に位置する正極材料層を含み、上記正極材料層は、式(I)で示される第1正極材料、及び式(II)で示される第2正極材料を含む。
【化3】
【0028】
ここで、x、y、z及びtは、-0.1<x<0.1、0<y≦1、0≦z≦1、0<y+z≦1、0≦t<0.2を満たし、Mは、Ti、Zr、V、及びCrのうちの少なくとも一つを含み、且つAは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含む。
【化4】
【0029】
ここで、r、pおよびsは、-0.1<r<0.2、0≦p<0.2、0≦s<0.2を満たし、Xは、Fe、Co、Ni、Ti、Zn、Mg、Al、V、Cr、及びZrのうちの少なくとも一つを含み、且つTは、S、N、F、Cl、及びBrのうちの少なくとも一つを含む。
【0030】
上記正極は、式(1)を満たす。
【数4】
【0031】
ここで、Rは、上記正極の抵抗であり、単位がΩであり、Pは、上記正極の圧縮密度であり、単位がg/cmであり、且つQは、上記正極の片面の面密度であり、単位がg/1540.25mmである。
【0032】
本明細書において、R・P/Qの計算は、数値の計算にのみ関し、例を挙げると、正極の抵抗Rが0.5Ωであり、圧縮密度Pが2.2g/cmであり、正極の片面の面密度Qが0.3g/1540.25mmである場合、R・P/Q=3.7である。
【0033】
正極の抵抗Rは、直流二探針法による抵抗値であり、ここで、探針と正極との接触面積は、49πmmである。一例として、正極の上下側を極片抵抗試験機の二つの導電端子の間に挟み込み、圧力を加えて固定し、導電端子の直径は、14mmであり、加えられた圧力は、15MPa~27MPaである。正極抵抗試験機は、日置社BT3562型内部抵抗試験機である。
【0034】
正極の圧縮密度は、計算式P=m/vにより算出することができ、式中、mは、正極材料層の重量であり、単位がgであり、vは、正極材料層の体積であり、単位がcmである。ここで、正極材料層の体積vは、正極材料層の面積Aと正極材料層の厚さとの積であってもよい。
【0035】
正極の片面の面密度Qは、計算式Q=1540.25m/Aにより算出することができ、式中、mは、正極材料層の重量であり、単位がgであり、Aは、正極材料層の面積であり、単位がmmである。
【0036】
いくつかの実施例において、上記正極材料層は、上記正極集電体の一方の表面に位置する。いくつかの実施例において、上記正極材料層は、上記正極集電体の両方の表面に位置する。
【0037】
いくつかの実施例において、上記第1正極材料は、LiFePO、LiFe0.5Mn0.5PO、Li0.9Fe0.5Mn0.45Ti0.05PO、Li0.9Fe0.5Mn0.45Ti0.04Zr0.01PO、及びLi0.95FePO3.950.05のうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施例において、上記第2正極材料は、LiMnO、LiMn0.9Ni0.1、LiMn0.9Ni0.05Cr0.05、Li0.95MnO1.950.05、及びLi0.95MnO1.90.050.05のうちの少なくとも一つを含む。
【0038】
いくつかの実施例において、R、PおよびQは、1.5≦R×P/Q≦10を満たす。いくつかの実施例において、R×P/Qの値は、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、もしくは16であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0039】
いくつかの実施例において、Rは、R≦3.5Ωを満たす。いくつかの実施例において、Rは、0.2Ω、0.5Ω、1Ω、1.2Ω、1.5Ω、1.8Ω、2.0Ω、2.2Ω、2.5Ω、3.0Ω、3.2Ω、もしくは3.5Ωであり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。Rが上記範囲にある場合、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、及びレート特性の向上に有利である。
【0040】
いくつかの実施例において、Pは、1.6g/cm<P<2.6g/cmを満たす。いくつかの実施例において、Pは、1.6g/cm、1.8g/cm、2.0g/cm、2.2g/cm、2.4g/cm、もしくは2.6g/cmであり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。Pが上記範囲にある場合、正極における電子及びイオンの移動に寄与し、これにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させる。
【0041】
いくつかの実施例において、Qは、0.16g/1540.25mm<Q<0.45g/1540.25mmを満たす。いくつかの実施例において、Qは、0.16g/1540.25mm、0.18g/1540.25mm、0.2g/1540.25mm、0.25g/1540.25mm、0.28g/1540.25mm、0.30g/1540.25mm、0.34g/1540.25mm、0.36g/1540.25mm、0.38g/1540.25mm、0.40g/1540.25mm、0.42g/1540.25mm、もしくは0.45g/1540.25mmであり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。Qが上記範囲にある場合、充放電容量を確保するとともに、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、及びレート特性を向上させることができる。
【0042】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料に対する上記第1正極材料の質量比は、5:1~99:1である。いくつかの実施例において、上記第2正極材料に対する上記第1正極材料の質量比は、5:1、9:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、45:1、50:1、55:1、60:1、65:1、70:1、75:1、80:1、85:1、90:1、95:1、もしくは99:1であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。上記第2正極材料に対する第1正極材料の質量比が上記範囲内にある場合、正極に含まれる第1正極材料の含有量が高いので、正極がより高い構造安定性を有し、正極材料の構造の破壊による容量の損失及びインピーダンスの増加を減少させることができ、これにより、リチウムイオン電池のサイクル安定性及び動力学的性能を維持することができる。
【0043】
いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記第1正極材料の質量含有量は、80%~98%である。いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記第1正極材料の質量含有量は、80%、82%、84%、85%、88%、90%、92%、94%、96%、もしくは98%であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0044】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料のX線回折スペクトルは、15°~16°の範囲において特徴的な回折ピークAを有する、及び/又は18°~19°の範囲において特徴的な回折ピークBを有し、特徴的な回折ピークAの強度Iと特徴的な回折ピークBの強度Iとの比I/Iは、式(3)を満たす。
【数5】
【0045】
いくつかの実施例において、I/Iの値は、0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、もしくは0.2であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0046】
いくつかの実施例において、上記第2正極材料の1サイクル目の充電後のX線回折スペクトルにおいて、特徴的な回折ピークA及び特徴的な回折ピークBは、いずれも低角度方向へシフトし、シフト幅は、シフト幅<0.5°を満たす。いくつかの実施例において、シフト幅は、0.1°、0.2°、0.3°、0.4°、もしくは0.45°であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0047】
いくつかの実施例において、上記正極材料層は、導電剤を含む。いくつかの実施例において、上記導電剤は、黒鉛、超電導炭素、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット(Carbon Dots)、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含む。
【0048】
いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記導電剤の質量含有量は、0.5~20%である。いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記導電剤の質量含有量は、0.5%、1%、5%、8%、10%、12%、14%、16%、18%、もしくは20%であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0049】
いくつかの実施例において、上記正極材料層は、バインダーを含む。いくつかの実施例において、上記バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリビニルアルコール(PVA)のうちの少なくとも一つを含む。
【0050】
いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記バインダーの質量含有量は、0.1~2.5%である。いくつかの実施例において、上記正極材料層の全質量に対して、上記バインダーの質量含有量は、0.1%、0.2%、0.5%、0.8%、1%、1.2%、1.5%、1.8%、2%、もしくは2.5%であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0051】
いくつかの実施例において、上記正極集電体は、金属箔、又は多孔質金属板を含む。いくつかの実施例において、上記正極集電体は、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又は銀などの金属、或いはそれらの合金の箔や多孔質板を含む。いくつかの実施例において、上記正極集電体は、銅箔、及びアルミニウム箔のうちの少なくとも一つを含む。
【0052】
いくつかの実施例において、上記正極集電体の厚さは、5μm~20μmである。いくつかの実施例において、上記正極集電体の厚さは、5μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm、もしくは20μmであり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0053】
いくつかの実施例において、上記正極は、正極活物質、導電剤、及びバインダーを溶媒中で混合して活物質組成物を調製し、当該活物質組成物を集電体上に塗布することにより得られる。いくつかの実施例において、上記溶媒は、N-メチルピロリドンを含んでもよいが、これに限定されない。
【0054】
本発明の正極は、第1正極材料と、第2正極材料との間の相乗効果を十分に発揮することができる。一方、1サイクル目の充電の場合、第2正極材料の初回充電比容量が高く、初回効率が低いという特性を利用することにより、SEIの生成による活性リチウムの損失を効果的に補い、初回の放電の場合、十分なリチウムイオンが第1正極材料に戻されて吸蔵され、電池のエネルギー密度を効果的に向上させる。他方、本発明が採用する第1正極材料は、構造が安定であり、充放電の過程での体積の変化が小さく、サイクル安定性に優れている。また、正極のシート抵抗、圧縮密度、及び面密度を設計することにより、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度、レート特性、及びサイクル寿命をさらに向上させることができる。そのため、本発明の正極によれば、高いエネルギー密度、良好なレート特性、及び長いサイクル寿命を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0055】
なお、正極のシート抵抗、圧縮密度、及び片面の面密度は、リチウムイオン二次電池の設計、及び製造における重要なパラメータである。正極のシート抵抗が大きすぎると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、及びレート特性が悪化する。圧縮密度が大きすぎても小さすぎても、電池のサイクル特性、及びレート特性が悪くなる。正極の片面の面密度が大きすぎると、電池のサイクル寿命が低下し、電解液の浸透にも影響を与え、さらに電池のレート特性に影響を与え、特に電池の高レートでの放電容量を低下させる。正極の片面の面密度が小さすぎると、同じ電池容量で集電体、及びセパレータの長さが増加することを意味し、電池のオーミック内部抵抗が増大する。
【0056】
本発明は、正極が第1正極材料、及び第2正極材料を同時に含む場合、正極のシート抵抗、圧縮密度、及び片面の面密度などのパラメータを総合的に設計することにより、リチウムイオン二次電池の電気化学性能を所望の結果にする。
【0057】
2、電解液
いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、電解質、及び当該電解質を溶解する溶媒を含む。いくつかの実施例において、上記電解液は、添加剤を含み、上記添加剤は、ビニレンカーボネートを含み、ここで、上記電解液の全質量に対して、上記ビニレンカーボネートの質量含有量は、0.05%~5%である。
【0058】
いくつかの実施例において、上記ビニレンカーボネートの含有量は、0.05%、1%、2%、3%、4%、もしくは5%であり、又はこれらの値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0059】
電解液における添加剤の含有量が本発明の範囲内にある場合、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、及びエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0060】
いくつかの実施例において、上記電解液は、特に制限されなく、必要に応じて、リチウムイオン二次電池の添加剤として用いられる、任意の他の添加剤をさらに含んでもよい。いくつかの実施例において、他の添加剤は、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、スクシノニトリル(SN)、アジポニトリル(AND)、1,3-プロペンスルトン(PST)、スルホン酸エステル環状第四級アンモニウム塩、トリス(トリメチルシリル)ホスファート(TMSP)、及びトリス(トリメチルシリル)ボラート(TMSB)のうちの少なくとも一つを含む。
【0061】
いくつかの実施例において、上記電解液は、電解液の溶媒として使用され得る任意の非水溶媒をさらに含む。
【0062】
いくつかの実施例において、上記非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒、及び芳香族フッ素含有溶媒のうちの一つ、又は複数を含むが、これらに限定されない。
【0063】
いくつかの実施例において、上記非水溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)、及びジエチルスルホン(ESE)のうちの少なくとも一つを含む。
【0064】
電解質は、特に制限はない。いくつかの実施例において、リチウム二次電池の場合、電解質は、リチウム塩を含む。電解質の実例は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスファート(LiDFOP)、及びリチウムテトラフルオロ(オキサレート)ホスファート(LiTFOP)を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0065】
電解質の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はない。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、0.3mol/L以上超、0.4mol/L超、又は0.5mol/L超である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、3mol/L未満、2.5mol/L未満、又は2.0mol/L未満である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、上記値のいずれか二つからなる範囲にある。電解質の濃度が上記範囲にある場合、荷電粒子であるリチウムが少なすぎることがなく、且つ粘度を適切な範囲にすることができるため、良好な導電率を確保しやすくなる。
【0066】
3、負極
いくつかの実施例において、負極は、負極集電体、及び上記負極集電体の一方、又は両方の表面に位置する負極活物質層を含む。上記負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、単層、又は多層であってもよく、多層の負極活物質の各層は、同じ、又は異なる負極活物質を含んでもよい。負極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵・放出できる任意の物質である。いくつかの実施例において、負極活物質の充電可能容量は、充電中にリチウム金属が意図せずに負極上に析出することを防ぐために、負極活物質の放電容量より大きい。
【0067】
負極活物質を保持する集電体として、負極集電体の実例は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼などの金属材料を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は、銅である。
【0068】
負極集電体が金属材料である場合、負極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属ストリップロール、金属板、金属フィルム、メタルラス、打ち抜金属、発泡金属などを含んでもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は、金属フィルムである。いくつかの実施例において、負極集電体は、銅箔である。いくつかの実施例において、負極集電体は、圧延法による圧延銅箔、又は電解法による電解銅箔である。
【0069】
いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、1μm超、又は5μm超である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、100μm未満、又は50μm未満である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、上記値のいずれか二つからなる範囲にある。
【0070】
負極活物質は、特に制限はなく、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できればよい。負極活物質の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料、シリコン(Si)、スズ(Sn)などの金属、又はSi、Snなどの金属元素の酸化物などを含んでもよいが、これらに限定されない。負極活物質は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0071】
いくつかの実施例において、負極活物質層は、負極バインダーをさらに含んでもよい。負極バインダーは、負極活物質粒子同士の結合、及び負極活物質と集電体との結合を向上させることができる。負極バインダーの種類は、特に制限はなく、電解液や電極の製造に使用される溶媒に対して安定な材料であればよい。いくつかの実施例において、負極バインダーは、樹脂バインダーを含む。樹脂バインダーの実例は、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル酸系樹脂、ポリオレフィン樹脂などを含んでもよいが、これらに限定されない。水系溶媒を使用して負極合剤スラリーを調製する場合、負極バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを含むが、これらに限定されない。
【0072】
いくつかの実施例において、負極は、負極活物質、樹脂バインダーなどを含む負極合剤スラリーを負極集電体に塗布して乾燥した後、圧延して負極集電体の両方に負極活物質層を形成することで、調製することができる。
【0073】
4、セパレータ
いくつかの実施例において、短絡を防止するために、通常、正極と負極との間にセパレータが設けられている。この場合、本発明の電解液は、通常、当該セパレータに浸透して使用される。
【0074】
セパレータの材料、及び形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限はない。上記セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料からなる樹脂、ガラス繊維、無機物などであってもよい。いくつかの実施例において、上記セパレータは、保液性に優れた多孔質シート、又は不織布状の形態の物質などを含む。樹脂又はガラス繊維セパレータの材料の実例は、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホンなどを含んでもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、上記ポリオレフィンは、ポリエチレン、又はポリプロピレンである。いくつかの実施例において、上記ポリオレフィンは、ポリプロピレンである。上記セパレータの材料は、単独で、又は任意に組み合わせて使用することができる。
【0075】
上記セパレータは、上記材料を積層してなる材料であってもよく、その実例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンをこの順で積層してなる3層のセパレータなどを含むが、これらに限定されない。
【0076】
無機物の材料の実例は、アルミナ、シリカなどの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物、硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなど)を含んでもよいが、これらに限定されない。無機物の形態は、粒子状、又は繊維状を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0077】
上記セパレータの形態は、フィルムの形態であってもよく、その実例は、不織布、織布、微多孔質フィルムなどを含むが、これらに限定されない。フィルムの形態では、上記セパレータは、孔径が0.01μm~1μmであり、厚さが5μm~50μmである。上記独立したフィルム状セパレータ以外に、樹脂系バインダーを使用して正極及び/又は負極の表面に上記無機物の粒子を含む複合多孔質層を形成することにより形成されたセパレータ、例えば、フッ素樹脂をバインダーとして使用して90%粒子径が1μm未満であるアルミナ粒子を正極の両面に多孔質層を形成することにより形成されたセパレータを使用することもできる。
【0078】
上記セパレータの厚さは、任意である。いくつかの実施例において、上記セパレータの厚さは、1μm超、5μm超、又は8μm超である。いくつかの実施例において、上記セパレータの厚さは、50μm未満、40μm未満、又は30μm未満である。いくつかの実施例において、上記セパレータの厚さは、上記値のいずれか二つからなる範囲にある。上記セパレータの厚さが上記範囲にある場合、絶縁性、及び機械的強度が確保され、且つ電気化学装置のレート特性、及びエネルギー密度が確保される。
【0079】
セパレータとして、多孔質シート、又は不織布などの多孔質材料を使用する場合、セパレータの空隙率は、任意である。いくつかの実施例において、上記セパレータの空隙率は、10%超、15%超、又は20%超である。いくつかの実施例において、上記セパレータの空隙率は、60%未満、50%未満、又は45%未満である。いくつかの実施例において、上記セパレータの空隙率は、上記値のいずれか二つからなる範囲にある。上記セパレータの空隙率が上記範囲にある場合、絶縁性、及び機械的強度が確保され、且つシート抵抗が抑制され、電気化学装置を良好な安全特性を有するものとする。
【0080】
上記セパレータの平均孔径も、任意である。いくつかの実施例において、上記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満、又は0.2μm未満である。いくつかの実施例において、上記セパレータの平均孔径は、0.05μm超である。いくつかの実施例において、上記セパレータの平均孔径は、上記値のいずれか二つからなる範囲にある。上記セパレータの平均孔径が上記範囲を超えると、短絡が発生しやすくなる。上記セパレータの平均孔径が上記範囲にある場合、電気化学装置を良好な安全特性を有するものとする。
【0081】
5、電気化学装置
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が起こる任意の装置を含み、その具体例は、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又はキャパシタを含む。特に、当該電気化学装置は、リチウム金属二次電池、又はリチウムイオン二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0082】
本発明は、さらに、本発明に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0083】
本発明の電気化学装置の用途は、特に制限はなく、先行技術における公知の任意の電子装置に用いられ得る。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、電動アシスト自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどに用いられ得るが、これらに限定されない。
【0084】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げて、具体的な実施例を参照して、リチウムイオン電池の調製を説明する。当業者は、本発明に記載された調製方法が例示であるだけで、他のあらゆる好適な調製方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0085】
実施例
以下では、本発明によるリチウムイオン電池の実施例及び比較例については、説明して性能評価を行う。
一、リチウムイオン電池の調製
実施例1
1、負極の調製
負極活物質としての人造黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)と、バインダー(SBR)と、導電性カーボンブラックとを95.7:1.0:1.8:1.5の質量比で混合し、脱イオン水を加え、真空ブレンダーで負極スラリーを得た。負極集電体である銅箔に負極スラリーを均一に塗布した。そして、オーブンに移送して乾燥させ、乾燥温度は120℃であった。さらにコールドプレス、切断を経てタブを溶接し、負極を得た。
【0086】
2、正極の調製
第1正極材料であるLiFePOと、第2正極材料であるLiMnOと、バインダーであるPVDFと、導電性カーボンブラックとを混合し、ここで、LiFePOと、LiMnOと、PVDFと、導電性カーボンブラックとの質量比を90.4:6.0:2.1:1.5とし、溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を加え、真空ブレンダーで均一で透明な系になるまで撹拌し、正極スラリーを得た。正極集電体であるアルミニウム箔に正極スラリーを均一に塗布した後、オーブンに移送して乾燥させ、乾燥温度は120℃であった。さらにコールドプレス、切断を経てタブを溶接し、正極を得た。ここで、上記正極材料層の全質量に対して、第1正極材料であるLiFePOの質量含有量は、90.4%であり、第2正極材料であるLiMnOの含有量は、6.0%であった。
【0087】
3、電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを1:1:1の体積比で均一に混合し、有機溶媒を得た。LiPFを上記有機溶媒に溶解して基本電解液を得、ここで、基本電解液におけるLiPFの濃度は、1mol/Lであった。当該基本電解液にビニレンカーボネートを加え、均一に混合し、電解液を得た。当該電解液の全質量に対して、ビニレンカーボネートの質量含有量は、3%であった。
【0088】
4、セパレータの調製
アルミナコーティングを有するポリエチレン多孔質膜をセパレータとして使用し、その厚さは、9μmであった。
【0089】
5、リチウムイオン電池の調製
得られた正極、セパレータ、及び負極を順番に巻き、外装箔に入れ、注液口を残した。注液口から電解液を注入し、パッケージし、さらにフォーメーション(formation)、容量グレーディング(capacity grading)などの工程を経てリチウムイオン電池を製造した。
【0090】
実施例2~16:
実施例2~16と、実施例1との相違点は、正極材料の種類、関連する性能パラメータ、及び電解液における添加剤の含有量が異なることにあり、詳細は表1に示した。
【0091】
比較例1:
比較例1と、実施例1との相違点は、比較例1における正極材料がLiFePOのみを含むことにあった。
【0092】
比較例2:
比較例2と、実施例1との相違点は、比較例2における正極材料がLiMnOのみを含むことにあった。
【0093】
比較例3~4:
比較例3~4と、実施例1との相違点は、正極における第2正極材料に対する第1正極材料の質量比が異なることにあり、詳細は表1に示した。
【0094】
比較例5~6:
比較例5~6と、実施例1との相違点は、正極のシート抵抗、圧縮密度、及び片面の面密度が異なることにあり、詳細は表1に示した。
【0095】
比較例7~8:
比較例7~8と、実施例1との相違点は、電解液におけるビニレンカーボネートの質量百分率が異なることにあり、詳細は表1に示した。
【0096】
二、測定方法
1、正極のシート抵抗の測定方法
日置社BT3562型抵抗試験機を使用して正極のシート抵抗を測定した。測定方法は、正極を内部抵抗試験機の二つの導電端子の間に挟み込み、圧力を加えて固定し、正極の抵抗Rを測定することを含み、ここで、導電端子の直径は、14mmであり、加えられた圧力は、15MPa~27MPaであり、サンプリング時間の範囲は、5s~17sであった。
【0097】
2、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性の測定方法
60℃で、リチウムイオン二次電池を1Cのレートで4.2Vまで定電流充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、さらに、1Cのレートで2.5Vまで定電流放電することを1回の充放電サイクルとし、リチウムイオン二次電池の初回のサイクルの放電容量を記録した。
【0098】
上記方法に従ってリチウムイオン二次電池に対して充放電サイクルを行い、リチウムイオン二次電池の放電容量が初回のサイクルの放電容量の80%に減衰するまで各サイクルの放電容量を記録し、この時点での充放電サイクルの回数を記録した。
【0099】
3、リチウムイオン二次電池のレート特性の測定方法
25℃で、リチウムイオン二次電池を、0.5Cのレートで4.2Vまで定電流充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、さらに、0.5Cのレートで2.5Vまで定電流放電し、0.5Cのレートでの放電容量を記録した。
【0100】
25℃で、リチウムイオン二次電池を、0.5Cのレートで4.2Vまで定電流充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧充電し、さらに、2Cのレートで2.5Vまで定電流放電し、2Cのレートでの放電容量を記録した。
【0101】
リチウムイオン二次電池の2Cのレートでの放電容量維持率(%)=2Cのレートでの放電容量/0.5Cのレートでの放電容量×100%。
【0102】
4、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の測定方法
25℃で、リチウムイオン二次電池を、0.2Cのレートで4.2Vまで定電流充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧充電した後、30分静置し、さらに、0.2Cのレートで2.5Vまで定電流放電し、リチウムイオン二次電池の0.2Cのレートでの放電容量D(Ah)、及び放電プラットフォームV(V)を記録した。リチウムイオン電池の重量を計量し、m(kg)と記した。
【0103】
以下の計算式に従ってリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を計算した。
【数6】
【0104】
三、測定結果
表1に、比較例1~8、及び実施例1~16における正極の組成、関連する性能パラメータ、並びに電解液における添加剤の種類及び含有量が示されている。ここで、第1正極材料、及び第2正極材料の含有量は、正極材料層の全質量に基づいて計算して得られ、且つ電解液におけるビニレンカーボネートの含有量は、電解液の全質量に基づいて計算して得られる。
【0105】
【表1】
【0106】
表2に、比較例1~8、及び実施例1~16におけるリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性、レート特性、及びエネルギー密度が示されている。
【0107】
【表2】
【0108】
上記実施例と比較例との比較から分かるように、正極が第1正極材料、又は第2正極材料のみを含むリチウムイオン電池に比べて、正極が第1正極材料、及び第2正極材料の両方を含むリチウムイオン電池は、著しく向上された高温サイクル特性及びエネルギー密度を有するが、レート特性が著しく変化しない。これで分かるように、第1正極材料、及び第2正極材料を併用すると、相乗効果が得られる。理論に拘束されるものではないが、上記相乗効果は、以下の複数の理由により発生する可能性がある。第一に、本発明に採用された第2正極材料の表面に遊離リチウムの含有量が極めて低いため、当該第2正極材料を正極に加えると、得られたスラリーが良好な安定性、及び優れた加工性を有する。第二に、本発明に採用された第2正極材料の初回充電比容量が高く、初回効率が低いため、SEIの生成による活性リチウムの損失をより適切に補い、放電の場合、より多くのリチウムイオンが第1正極材料の格子に戻されて吸蔵され、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を効果的に向上させる。そして、第三に、第1正極材料は、構造が安定でサイクル特性に優れているため、正極のシート抵抗R、圧縮密度P、及び片面の面密度Qを本発明の範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池を良好なサイクル特性及びレート特性を有するものとすることができる。
【0109】
また、比較例7と実施例1との比較から分かるように、電解液に加えられたビニレンカーボネートは、第1正極材料及び第2正極材料の両方を含む正極と相乗効果を発揮することができる。これは、以下の理由からである。初回の充電の場合、第2正極材料から放出された大量の活性リチウムが負極に吸蔵されるため、負極の実電位(real potential)がさらに低下し、電解液における溶媒が持続的に還元され、サイクル特性に影響を及ぼす。添加剤としてビニレンカーボネートを使用すると、より緻密で薄いSEI層の形成を誘導し、電解液の持続的な消費を阻止することができる。
【0110】
明細書全体において、「いくつかの実施例」、「実施例の一部」、「一つの実施例」、「別の一例」、「例」、「具体例」、又は「例の一部」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例、又は例が、当該実施例、又は例に記載した特定の特徴、構造、材料、又は特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」、又は「例」は、必ずしも本発明における同じ実施例、又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0111】
例示的な実施例が記載及び説明されたが、当業者は、上述した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、且つ、本発明の思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換、及び変更が可能であることを理解すべきである。
図1
図2
【国際調査報告】