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特表2024-539354ウェット路面シミュレーション用タイヤモデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ウェット路面シミュレーション用タイヤモデル
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20241018BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
B60C19/00 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525740
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2022080338
(87)【国際公開番号】W WO2023073227
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21205836.6
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】アルフレード コロラーロ
(72)【発明者】
【氏名】カルロ アルベルト マリノ
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA22
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】ウェット路面でのシミュレーション用タイヤモデルを提供する。
【解決手段】
ウェット路面における車両タイヤの挙動を予測するコンピュータ実装方法であって、当該方法は、コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップと、前記タイヤモデルに、タイヤ垂直荷重(F)およびタイヤ前後速度(v)を入力するステップと、前記コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、横荷重依存摩擦係数(μ)が前記タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつ前記タイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤグリップ予測値を計算するステップと、前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤグリップ予測値を出力するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェット路面における車両タイヤの挙動を予測するコンピュータ実装方法であって、当該方法は、
コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップと、
前記タイヤモデルに、タイヤ垂直荷重(F)およびタイヤ前後速度(v)を入力するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、横荷重依存摩擦係数(μ)が前記タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつ前記タイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤグリップ予測値を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤグリップ予測値を出力するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に一次従属および/または非一次従属する別の項と、に基づいて計算する、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する別の項と、に基づいて計算する、請求項1または2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)と前記タイヤ前後速度(v)との積に依存する混合項に基づいて計算する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、前記タイヤ垂直荷重(F)および前記タイヤ前後速度(v)に依存するコーナリング剛性予測値を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記コーナリング剛性予測値を出力するステップと、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記コーナリング剛性を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に一次従属する第2項と、に基づいて計算する、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
前記コーナリング剛性を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項と、に基づいて計算する、請求項5または6に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、前記横荷重依存摩擦係数(μ)および前記コーナリング剛性(K)の両方が、前記タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつ前記タイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤコーナリングフォース予測値(F)を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤコーナリングフォース予測値(F)を出力するステップと、
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
ウェット路面における所与のタイヤについて収集された実験データに基づいて事前に計算された、1つ以上の無次元係数を含む、コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
前記1つ以上の無次元係数が、ウェット路面における所与のタイヤについて、複数の異なるタイヤ前後速度で収集された実験データに基づいて事前に計算されている、請求項9に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
タイヤ前後速度(v)をリアルタイムで前記タイヤモデルに入力するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤグリップ予測値をリアルタイムで出力するステップと、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のウェット路面における車両タイヤの挙動を予測する方法を実行するための手段を備える、コンピュータシステム。
【請求項13】
前記手段が、プロセッサと、当該プロセッサによって実行されると前記コンピュータシステムに当該方法を実施させるコンピュータ実行可能命令を記憶する、有形のメモリと、を備える、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項14】
請求項12または13に記載のコンピュータシステムを備える、車両運転シミュレータ。
【請求項15】
コンピュータによってプログラムが実行されると、請求項1~11のいずれかに記載の方法をコンピュータに実施させる命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット路面での車両タイヤの挙動を予測するコンピュータ実装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1987年に出版された著書『Tyre and Vehicle Dynamics』の中で、ハンス・B・パセイカ(Hans B. Pacejka)教授が、車両タイヤと路面との相互作用をモデル化するための、今ではよく知られた「マジックフォーミュラ(Magic Formula)」を提示していることは既知である。この経験則に基づくモデルは、縦方向および横方向のスリップ、垂直荷重、ならびにキャンバー角に依存する、ブレーキ/トラクションおよびコーナリングフォースを予測する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乗り心地性能およびハンドリング性能を評価するための車両シミュレーションを行うにあたっては、様々な市販のソフトウェア製品が利用可能であり、それらは、パセイカのマジックフォーミュラに基づく半経験的なタイヤ性能モデルである。これらの車両シミュレーションは、ドライ路面での性能のみに限定されている。マジックフォーミュラのアプローチでは、ウェット路面を走行するタイヤの実験結果との相関関係が良くないことが分かっている。
【0004】
例えば、流体力学的潤滑のような複雑な現象を考慮に入れるなど、低係数路面でのタイヤ力を予測するために、いくつかの複雑なモデルが文献で提案されている。ウェット路面でのタイヤの挙動を合理的に、しかもリアルタイムでシミュレートできるような、実用的なタイヤモデリングへの取り組みが求められている。
【0005】
本発明は、ウェット路面でのタイヤの挙動を予測するモデルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、ウェット路面における車両タイヤの挙動を予測するコンピュータ実装方法を提供する。当該方法は、コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップと、当該タイヤモデルに、タイヤ垂直荷重(F)およびタイヤ前後速度(v)を入力するステップと、当該コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、横荷重依存摩擦係数(μ)がタイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつタイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤグリップ予測値を計算するステップと、上記コンピュータ実装タイヤモデルから当該タイヤグリップ予測値を出力するステップと、を含む。
【0007】
このように、横荷重依存摩擦係数(μ)がタイヤ前後速度(v)およびタイヤ垂直荷重(F)に依存して計算される場合、このようなコンピュータ実装タイヤモデルによってタイヤグリップの予測精度が向上することが分かった。この方法では、タイヤ前後速度(v)をタイヤモデルへの直接入力として取得し、タイヤグリップを速度に応じて修正する。したがって、車速を表すタイヤ前後速度(v)が、ウェット路面との接地面においてタイヤに加わる横力を変化させ、ひいてはウェット路面におけるタイヤグリップを変化させる直接的な要因であることが認識されている。これは、現在のマジックフォーミュラによるアプローチでは考慮されていない。
【0008】
コンピュータ実装タイヤモデルから出力されるタイヤグリップ予測値を車両シミュレーションに使用することで、これまで実現できなかったウェット路面におけるタイヤの挙動を予測することができる。これにより、タイヤの物理的な試験を減らすことができる。
【0009】
少なくともいくつかの実施形態では、横荷重依存摩擦係数(μ)を、タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、タイヤ前後速度(v)に一次従属および/または非一次従属する別の項と、に基づいて計算する。例えば、当該別の項は、タイヤ前後速度(v)に一次従属する第2項とすることができる。例えば、付加的または代替的に、当該別の項は、タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項であってもよい。例えば、付加的または代替的に、当該別の項は、タイヤ前後速度(v)に対して高次(すなわち、n>2)の非一次従属性を有していてもよい。したがって、ウェット路面におけるタイヤグリップは、タイヤ前後速度の一次関数および/または非一次関数として修正され得ることが認識されている。いくつかの好適な実施形態では、第3項が常に計算に含まれているが、これは、ウェット路面におけるタイヤグリップについて、車速に対する強い二次従属性が観察されているためである。
【0010】
少なくともいくつかの実施形態では、付加的または代替的に、横荷重依存摩擦係数(μ)を、タイヤ垂直荷重(F)とタイヤ前後速度(v)との積に依存する混合項に基づいて計算する。このように、ウェット路面におけるタイヤグリップは、この混合項の関数として修正され得ることが認識されている。これは、ウェット路面におけるタイヤグリップが、車速に応じてタイヤ垂直荷重の関数として増減する、という実際のデータからの観察に基づいている。
【0011】
上記いずれの実施形態においても、横荷重依存摩擦係数(μ)は、第1項、第2項、第3項および混合項のうちの1つまたは複数の合計として計算することができる。
【0012】
また、このようなコンピュータ実装タイヤモデルでは、モデルへの入力としてタイヤ前後速度(v)を考慮すると、コーナリング剛性の予測精度が向上することが分かった。
【0013】
少なくともいくつかの実施形態では、付加的または代替的に、当該方法は、コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、タイヤ垂直荷重(F)およびタイヤ前後速度(v)に依存するコーナリング剛性予測値を計算するステップと、コンピュータ実装タイヤモデルから当該コーナリング剛性予測値を出力するステップと、を含む。このように、車速を表すタイヤ前後速度(v)が、ウェット走行時のコーナリング剛性を変化させる直接的な原因であることが認識されている。これもまた、現在のマジックフォーミュラによるアプローチから大きく逸脱している。
【0014】
少なくともいくつかの実施形態では、コーナリング剛性を、タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、タイヤ前後速度(v)に一次従属する第2項と、任意に、タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項と、に基づいて計算する。このように、ウェット路面でのコーナリング剛性が、タイヤ前後速度の一次関数および/または非一次関数として修正され得ることが認識されている。いくつかの実施形態では、ウェット路面でのコーナリング剛性について、車速に対する強い非一次従属性が観察されていないため、第3項は計算から省略される。
【0015】
上記のいずれの実施形態においても、コーナリング剛性は、第1項、第2項、第3項のうちの1つまたは複数の合計として計算する。
【0016】
上記の様々な実施形態を組み合わせることで、当該コンピュータ実装タイヤモデルは、グリップの代名詞である横荷重依存摩擦係数(μ)と、コーナリング剛性と、の両方を予測できることが分かる。その結果、当該方法は、コーナリングフォース全体の予測に特に適している。したがって、いくつかの好適な実施形態において、当該方法は、コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、横荷重依存摩擦係数(μ)およびコーナリング剛性(K)の両方が、タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつタイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤコーナリングフォース予測値を計算するステップと、コンピュータ実装タイヤモデルから当該タイヤコーナリングフォース予測値を出力するステップと、を含む。
【0017】
少なくともいくつかの実施形態において、当該方法は、コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、コンピュータ実装タイヤモデルにタイヤ温度を入力することなく、タイヤグリップ予測値(任意に、コーナリング剛性予測値)を計算する。このように、ウェット路面においてはタイヤ温度が支配的でないことが分かっているため、タイヤ温度を考慮せずに車速に直接的に依存することにより、タイヤグリップ(任意に、コーナリング剛性)の予測が改善することが認識されている。
【0018】
少なくともいくつかの実施形態において、当該方法は、ウェット路面における所与のタイヤについて収集された実験データに基づいて事前に計算された、1つ以上の無次元係数を含む、コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップを含む。さらに、これらの無次元係数は、ウェット路面における所与のタイヤについて、複数の異なるタイヤ前後速度で収集された実験データに基づいて事前に計算されていてもよい。
【0019】
いくつかの例において、横荷重依存摩擦係数(μ)は、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された第1の無次元係数(“第1のグリップミクロパラメータ”)の積として、タイヤ前後速度(v)に一次従属性を有する第2項と、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された第2の無次元係数(“第2のグリップミクロパラメータ”)の積として、タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項と、に基づいて計算する。例えば、横荷重依存摩擦係数(μ)は、タイヤ垂直荷重(F)、タイヤ前後速度(v)、およびウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された第3の無次元係数(“第3のグリップミクロパラメータ”)の積に依存する、混合項に基づいて計算する。このように、いくつかの例において、コンピュータ実装タイヤモデルは、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された、グリップに関する少なくとも3つの無次元係数を含むことができ、したがって、既存のマジックフォーミュラに含まれる無次元係数とは異なる。
【0020】
いくつかの例において、コーナリング剛性は、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された第1の無次元係数(“第1の剛性ミクロパラメータ”)の積として、タイヤ前後速度(v)に一次従属性を有する第2項と、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された第2の無次元係数(“第3の剛性ミクロパラメータ”)の積として、タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項と、に基づいて計算する。このように、コンピュータ実装タイヤモデルは、ウェット路面におけるタイヤについて収集された実験データに基づいて計算された、コーナリング剛性に関する1つまたは2つの無次元係数を含むことができ、したがって、既存のマジックフォーミュラに含まれる無次元係数とは異なる。
【0021】
少なくともいくつかの実施形態において、1つ以上の無次元係数はタイヤタイプに依存する。タイヤタイプには、タイヤサイズ、タイヤ製造者、タイヤ年数、タイヤトレッドパターン(および、そのデザイン)、タイヤ仕上げ等の少なくとも1つが含まれる。1つ以上の無次元係数は、ウェット路面における特定のタイヤタイプについて収集された実験データに基づいて計算されたものとすることができる。
【0022】
本明細書で開示する方法は、車両シミュレーションや、人間のドライバーがウェット路面上で車両を仮想的に運転できるドライビングシミュレータなど、様々な目的に利用できる。当該方法は、車速をタイヤモデルへの入力とするため、この方法が提供する出力は、車速の変化にリアルタイムに適応することができる。このように、少なくともいくつかの実施形態において、当該方法は、タイヤ前後速度(v)をリアルタイムでタイヤモデルに入力するステップと、コンピュータ実装タイヤモデルからタイヤグリップ予測値をリアルタイムで出力するステップと、を含む。任意に、コーナリング剛性の予測値もまた、コンピュータ実装タイヤモデルからリアルタイムで出力される。
【0023】
本明細書に開示されるコンピュータ実装タイヤモデルは、ウェット路面でのタイヤについて得られた実験データと比較した場合、典型的な車速の範囲にわたって正確な出力を提供していることが分かった。少なくともいくつかの実施形態において、タイヤモデルへのタイヤ前後速度(v)の入力には、タイヤ前後速度(v)を時速30~70km/hの範囲で選択することを含む。
【0024】
本開示において、ウェット路面とは、2.0mmの均一かつ一定の水層で覆われた路面を意味する。
【0025】
本発明の第2の態様では、ウェット路面における車両タイヤの挙動を予測する、本明細書に記載の方法を実行するためのコンピュータシステムを提供する。コンピュータシステムは、プロセッサと、当該プロセッサによって実行されると本明細書に記載されるいずれかの方法をシステムに実施させるコンピュータ実行可能命令を記憶する、有形のメモリと、を備えることができる。
【0026】
本発明のさらに別の態様では、そのようなコンピュータシステムを備える、車両運転シミュレータを提供する。上述したように、少なくともいくつかの実施形態では、車速をリアルタイムでタイヤモデルに入力することができる。少なくともいくつかの実施形態において、車両運転シミュレータは、人間のドライバーが車速をリアルタイムでコンピュータシステムに入力するように構成されたドライバインタフェースを備えていてもよい。この車速は、コンピュータシステム(すなわち、そのプロセッサ)によって取得され、タイヤ前後速度(v)をリアルタイムでタイヤモデルに入力するために使用される。
【0027】
本発明のさらに別の態様では、本明細書に開示された方法のいずれかを実施するように構成された、コンピュータソフトウェア製品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】車両タイヤと、コンピュータ実装タイヤモデルの主なパラメータと、を示す図である。
図2】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、パセイカによるタイヤモデルの元の定式化(1987年)と比較して示す図である。
図3】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、本発明の第1の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図4】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、本発明の第2の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図5】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、本発明の第3の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図6】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、本発明の第4の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図7】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、コーナリング剛性に関して、本発明の別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図8】ウェット路面において第1のタイヤタイプについて収集した実験データを、コーナリング剛性に関して、本発明のさらに別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図9】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、パセイカによるタイヤモデルの元の定式化(1987年)と比較して示す図である。
図10】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、本発明の第1の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図11】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、本発明の第2の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図12】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、本発明の第3の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図13】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、本発明の第4の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図14】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、コーナリング剛性に関して、本発明の別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
図15】ウェット路面における第2のタイプについて収集した実験データを、コーナリング剛性に関して、本発明のさらに別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、ウェット路面における車両タイヤが、タイヤ垂直荷重Fの影響を受け、車速によって決まるタイヤ前後速度vを有する様子が示されている。横力Fは、横荷重依存摩擦係数μを介してタイヤ垂直荷重Fと連動し、路面に対するタイヤのグリップ力を決定する。横力Fは、コーナリングフォースとも呼ばれる。本明細書に記載の方法では、コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつタイヤ前後速度(v)に依存する、横荷重依存摩擦係数(μ)からタイヤグリップ予測値を計算する。タイヤ前後速度vは、タイヤ角速度ωとは異なることがわかる。
【0030】
図2図8は、ウェット路面において第1のタイヤタイプ(ブリヂストンタイヤタイプ1)について収集した実験データを、様々なタイヤモデルと比較して示す図である。
【0031】
図2は、当該実験データを、パセイカによるタイヤモデルの元の定式化(1987年)、すなわち、所謂「マジックフォーミュラ」([数1]参照)と比較して示している。
【0032】
【数1】
【0033】
このタイヤモデルは、横荷重依存摩擦係数(μ)がタイヤ垂直荷重(f)およびキャンバー角(γ)に依存し、車速には依存しない、という条件で、タイヤグリップを予測している。スケーリングファクタλμyも存在する。図2から分かるように、このタイヤモデルは、ウェット路面で収集された実験データとうまく適合していない。
【0034】
図3は、上記実験データを、本発明の第1の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。この第1の実施例では、タイヤモデルは、横荷重依存摩擦係数μがタイヤ垂直荷重fの一次関数であり、かつタイヤ前後速度vの一次関数である、という条件で、タイヤグリップを予測している。
【0035】
【数2】
【0036】
この第1の実施例では、タイヤモデルは、タイヤ垂直荷重fに一次従属する第1項と、タイヤ前後速度vに一次従属する第2項と、を含む。図2と比較すると、このタイヤモデルでは、ウェット路面で収集された実験データとの適合性が若干向上している。
【0037】
図4は、上記実験データを、本発明の第2の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。この第2の実施例では、タイヤモデルは、横荷重依存摩擦係数μがタイヤ垂直荷重fの一次関数であり、かつ一次成分および非一次成分を含むタイヤ前後速度vの関数である、という条件で、タイヤグリップを予測している。
【0038】
【数3】
【0039】
この第2の実施例では、タイヤモデルは、タイヤ垂直荷重fに一次従属する第1項と、タイヤ前後速度vに一次従属する第2項と、タイヤ前後速度vに二次従属性を有する第3項と、を含む。図2と比較すると、このタイヤモデルでは、ウェット路面で収集された実験データとの適合性が向上している。
【0040】
図5は、上記実験データを、本発明の第3の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。この第3の実施例では、タイヤモデルは、横荷重依存摩擦係数μがタイヤ垂直荷重fおよびタイヤ前後速度vの一次関数であり、混合項も含む、という条件で、タイヤグリップを予測している。
【0041】
【数4】
【0042】
この第3の実施例では、タイヤモデルは、タイヤ垂直荷重fに一次従属する第1項と、タイヤ前後速度vに一次従属する第2項と、タイヤ垂直荷重fとタイヤ前後速度vとの積に依存する混合項と、を含む。図2と比較すると、このタイヤモデルでは、ウェット路面で収集された実験データとの適合性が向上している。
【0043】
図6は、上記実験データを、本発明の第4の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。この第3の実施例では、タイヤモデルは、横荷重依存摩擦係数μがタイヤ垂直荷重fの一次関数であり、タイヤ前後速度vの一次関数および非一次関数であり、さらにタイヤ垂直荷重fとタイヤ前後速度vとの積に依存する混合項を含む、という条件で、タイヤグリップを予測している。
【0044】
【数5】
【0045】
この第4の実施例では、タイヤモデルは、上述の第1項、第2項、第3項、および混合項を含む。図2と比較すると、このタイヤモデルが、ウェット路面で収集された実験データと非常によく適合していることがわかる。
【0046】
上記の各式1~5には、タイヤ垂直荷重fに依存する無次元係数pDy1、pDy2、pDy3が第1項に含まれている。このような無次元係数が「マジックフォーミュラ」に基づくタイヤモデルに含まれることは既に知られているが、従来、これらの係数は、ドライ路面で収集された実験データに基づいて事前に計算されていた。本実施例では,無次元係数pDy1、pDy2、pDy3が,ウェット路面における所与のタイヤタイプについて収集された実験データに基づいて事前に計算されており,「マジックフォーミュラ」に基づくタイヤモデルについて既知のものとは異なる。これは、ドライ路面とウェット路面とではタイヤのグリップレベル(すなわち、横方向の摩擦係数)が異なるため、ドライ路面とウェット路面とでタイヤをテストした場合、これらの係数の絶対値は変化する、という認識からきている。これらの無次元係数を事前に計算するために使用される実験データは、単一の車速に関するものであっても、複数の車速、例えば、少なくとも3つの異なる車速に関するものであってもよい。
【0047】
上記式2~式5の各々において、追加の速度依存項にはさらにいくつかの無次元係数pvdy1、pvdy2、pvdy3が含まれ、pvdy1は第2の(一次)項に、pvdy2は第3の(非一次)項に、pvdy3は混合項に含まれている。これらのさらなる無次元係数は、ウェット路面において特定のタイヤタイプについて収集された実験データに基づいて事前に計算される。さらに、これらの追加項の速度依存性のために、これらの無次元係数を事前に計算するために使用される実験データは、複数の車速、例えば、少なくとも3つの異なる車速に関するものであってもよい。
【0048】
このような無次元係数を実験データから事前に計算する方法は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、最小二乗フィッティングや他の反復フィッティング技法を採用することができる。
【0049】
図7は、上記実験データを、コーナリング剛性Kに関して、本発明の別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。当技術分野ではよく知られているように、コーナリング剛性は、原点におけるコーナリングフォースの傾きとして定義される。本実施例において、タイヤモデルは、タイヤ垂直荷重Fに一次従属する第1項(マジックフォーミュラと同様)と、タイヤ前後速度vに一次従属する第2項と、に基づいてコーナリング剛性Kを予測している。
【0050】
【数6】
【0051】
図7から、第1項に第2項を加えると、ウェット路面で収集された実験データによく適合することがわかる。
【0052】
図8は、上記実験データを、コーナリング剛性Kに関して、本発明のさらに別の実施例によるコンピュータ実装タイヤモデルと比較して示している。本実施例において、タイヤモデルは、タイヤ垂直荷重Fに一次従属する第1項(マジックフォーミュラと同様)と、タイヤ前後速度vに一次従属する第2項と、タイヤ前後速度vに二次従属性を有する第3項と、に基づいて、コーナリング剛性Kを予測している。
【0053】
【数7】
【0054】
図8から、第2項および第3項を第1項に加えると、ウェット路面で収集された実験データによく適合することがわかる。
【0055】
上記の数式6および数式7では,タイヤ垂直荷重Fに依存する第1項に無次元係数pKy1、pKy2、pKy3が含まれている。このような無次元係数が「マジックフォーミュラ」に基づくタイヤモデルに含まれることは既に知られているが、従来、これらの係数は、ドライ路面で収集された実験データに基づいて事前に計算されていた。本実施例では,無次元係数pKy1、pKy2、pKy3が,ウェット路面における所与のタイヤタイプについて収集された実験データに基づいて事前に計算されており、「マジックフォーミュラ」に基づくタイヤモデルについて既知のものとは異なる。これは、ドライ路面とウェット路面とではタイヤのグリップレベル(すなわち、横方向の摩擦係数)が異なるため、ドライ路面とウェット路面とでタイヤをテストした場合、これらの係数の絶対値は変化する、という認識からきている。これらの無次元係数を事前に計算するために使用される実験データは、単一の車速に関するものであっても、複数の車速、例えば、少なくとも3つの異なる車速に関するものであってもよい。
【0056】
数式6では、速度依存項である第2(一次)項に、さらなる無次元係数pvKdy1が含まれている。数式7では、速度依存項である第3(二次)項にさらに無次元係数pvKdy2が含まれている。これらのさらなる無次元係数は、ウェット路面において特定のタイヤタイプについて収集された実験データに基づいて事前に計算される。さらに、第2項および第3項の速度依存性のため、これらの無次元係数を事前に計算するために使用される実験データは、複数の車速、例えば、少なくとも3つの異なる車速に関連していてもよい。
【0057】
上述したように、このような無次元係数を実験データから事前に計算する方法は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、最小二乗フィッティングや他の反復フィッティング技法を採用することができる。
【0058】
図9図15は、パターン設計とサイズが異なる第2のタイヤタイプ(ブリヂストンタイヤタイプ2)についてウェット路面で収集した実験データを、図2~8に関して前述したのと同じタイヤモデルと比較したものである。これらの図から、数式2~数式7を用いたタイヤモデルは、この異なるタイプのタイヤについても、ウェット路面で収集された実験データと良好に適合していることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェット路面における車両タイヤの挙動を予測するコンピュータ実装方法であって、当該方法は、
コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップと、
前記タイヤモデルに、タイヤ垂直荷重(F)およびタイヤ前後速度(v)を入力するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、横荷重依存摩擦係数(μ)が前記タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつ前記タイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤグリップ予測値を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤグリップ予測値を出力するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に一次従属および/または非一次従属する別の項と、に基づいて計算する、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する別の項と、に基づいて計算する、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
前記横荷重依存摩擦係数(μ)を、前記タイヤ垂直荷重(F)と前記タイヤ前後速度(v)との積に依存する混合項に基づいて計算する、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、前記タイヤ垂直荷重(F)および前記タイヤ前後速度(v)に依存するコーナリング剛性予測値を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記コーナリング剛性予測値を出力するステップと、
を含む、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記コーナリング剛性を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に一次従属する第2項と、に基づいて計算する、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
前記コーナリング剛性を、前記タイヤ垂直荷重(F)に一次従属する第1項と、前記タイヤ前後速度(v)に二次従属性を有する第3項と、に基づいて計算する、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
コンピュータ実装タイヤモデルを使用して、前記横荷重依存摩擦係数(μ)および前記コーナリング剛性(K)の両方が、前記タイヤ垂直荷重(F)に依存し、かつ前記タイヤ前後速度(v)に依存する、という条件でタイヤコーナリングフォース予測値(F)を計算するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤコーナリングフォース予測値(F)を出力するステップと、
を含む、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
ウェット路面における所与のタイヤについて収集された実験データに基づいて事前に計算された、1つ以上の無次元係数を含む、コンピュータ実装タイヤモデルを提供するステップを含む、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
前記1つ以上の無次元係数が、ウェット路面における所与のタイヤについて、複数の異なるタイヤ前後速度で収集された実験データに基づいて事前に計算されている、請求項9に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
タイヤ前後速度(v)をリアルタイムで前記タイヤモデルに入力するステップと、
前記コンピュータ実装タイヤモデルから前記タイヤグリップ予測値をリアルタイムで出力するステップと、
を含む、請求項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項12】
請求項に記載のウェット路面における車両タイヤの挙動を予測する方法を実行するための手段を備える、コンピュータシステム。
【請求項13】
前記手段が、プロセッサと、当該プロセッサによって実行されると前記コンピュータシステムに当該方法を実施させるコンピュータ実行可能命令を記憶する、有形のメモリと、を備える、請求項12に記載のコンピュータシステム。
【請求項14】
請求項12に記載のコンピュータシステムを備える、車両運転シミュレータ。
【請求項15】
コンピュータによってプログラムが実行されると、請求項1~11のいずれかに記載の方法をコンピュータに実施させる命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【国際調査報告】