(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】液晶デバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20241018BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20241018BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20241018BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20241018BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20241018BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
G02F1/1343
G02F1/01 D
G02B5/18
G02B5/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525990
(86)(22)【出願日】2022-10-10
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 GB2022052563
(87)【国際公開番号】W WO2023079258
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】サンドフォード オニ-ル,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ソルター,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】モリス,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】エルストン,スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】ブース,マ-ティン
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2H189
2H249
2K102
【Fターム(参考)】
2H088EA47
2H088EA48
2H088EA55
2H088GA02
2H088GA10
2H088HA02
2H088HA03
2H088JA11
2H088MA20
2H092GA03
2H092GA13
2H092HA04
2H092NA25
2H092PA02
2H092QA15
2H092RA10
2H189AA04
2H189CA08
2H189HA16
2H189JA11
2H189LA03
2H189LA05
2H189MA15
2H249AA02
2H249AA12
2H249CA05
2H249CA08
2H249CA15
2K102AA21
2K102BA05
2K102BB04
2K102BC04
2K102DC09
2K102DD01
2K102DD02
2K102EA02
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB20
(57)【要約】
液晶デバイス(400)は、ある厚さを有する液晶層を備え、液晶層は、液晶材料および、重合された液晶材料を含む複数のポリマー構造(414a,414b)を含む。各ポリマー構造(414a,414b)は、液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられる。液晶層に電界を印加するように構成された電極が設けられる。各ポリマー構造(414a,414b)は、異なる選択されたロックイン液晶状態を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある厚さを有する液晶層であって、液晶材料および、重合された液晶材料を含む複数のポリマー構造を含み、各ポリマー構造は、液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられる、液晶層と、
該液晶層に電界を印加するように構成された電極と、を備え、
各ポリマー構造は、異なる選択されたロックイン液晶状態を有する、液晶デバイス。
【請求項2】
ポリマー構造のうち少なくとも2つが、液晶層の厚さを通って延びる方向に、互いに少なくとも部分的に空間的に重なり合う、請求項1に記載の液晶デバイス。
【請求項3】
各ポリマー構造は、デバイスに入射する光の異なる空間位相変調を提供するように構成される、請求項1または2に記載の液晶デバイス。
【請求項4】
電極は、液晶層の少なくとも一部を横切って電界を印加するように構成される、請求項1~3のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項5】
液晶層の厚さを横切って電界を印加するように構成された第1電極および第2電極をさらに備える、請求項4に記載の液晶デバイス。
【請求項6】
電極は、実質的に均一な電界を印加するように動作可能である、請求項4または請求項5に記載の液晶デバイス。
【請求項7】
電極のうち少なくとも1つが、個別にアドレス指定可能な複数の電極エレメントを含む、請求項4~6のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項8】
ポリマー構造の様々な液晶状態の各々が、異なる予め定めた電界強度における液晶材料の状態に対応する、請求項1~7のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項9】
ポリマー構造の少なくとも1つが、重合された液晶材料の複数の領域を含む、請求項1~8のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項10】
ポリマー構造の少なくとも1つが、回折光学素子であり、または回折光学素子を含む、請求項1~9のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項11】
ポリマー構造の少なくとも1つが、回折格子であり、または回折格子を含む、請求項10に記載の液晶デバイス。
【請求項12】
少なくとも1つの回折格子が、六方回折パターンを生成するように構成され、必要に応じて、少なくとも1つの回折格子が、三角形メッシュを含む、請求項11に記載の液晶デバイス。
【請求項13】
少なくとも1つの回折格子が、1次元回折パターンを生成するように構成され、必要に応じて、少なくとも1つの回折格子が、複数の柱または壁を含む、請求項11または請求項12に記載の液晶デバイス。
【請求項14】
ポリマー構造の少なくとも1つが、ホログラムであり、またはホログラムを含む、請求項10に記載の液晶デバイス。
【請求項15】
第1基板および第2基板をさらに備え、ポリマー構造の少なくとも1つが、第1基板または第2基板に連結され、または固定される、請求項1~14のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項16】
複数のポリマー構造は、第1基板に連結され、または固定された第1ポリマー構造と、第2基板に連結され、または固定された第2ポリマー構造とを含む、請求項15に記載の液晶デバイス。
【請求項17】
ポリマー構造の少なくとも1つが、1つ以上の他のポリマー構造に少なくとも部分的に連結され、または固定される、請求項1~16のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の液晶デバイスを備える、収差補正装置。
【請求項19】
請求項18に記載の装置を備える、光学デバイス。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかに記載の液晶デバイスを備える、距離センシングおよび/または深度マッピングデバイス。
【請求項21】
ポリマー構造の各々は、異なる構造化光照明パターンを作成するように構成される、請求項20に記載の距離センシングおよび/または深度マッピングデバイス。
【請求項22】
請求項13に記載の液晶デバイスを備える、ホログラフィック表示デバイス。
【請求項23】
請求項1~17のいずれかに記載の液晶デバイス、または請求項18に記載の装置を備える、仮想現実または拡張現実表示デバイス。
【請求項24】
請求項1~17のいずれかに記載の液晶デバイス、または請求項18に記載の装置を備える、ビームステアリングおよびビームシェイピングデバイス。
【請求項25】
ある厚さを有する液晶層と、該液晶層に電界を印加するための電極と、を備えるデバイスに入射する光の空間位相変調を電気的に制御する方法であって、
該液晶層は、液晶材料および、重合された液晶材料を含む複数のポリマー構造を含み、各ポリマー構造は、液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられ、
該方法は、液晶層を横切って電界を印加して、デバイスに入射する光の空間位相変調を選択的に制御するステップを含み、
各ポリマー構造は、異なる選択されたロックイン液晶状態を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶デバイスに関し、特に、以下に限定されないが、光の空間分布を操作するための液晶デバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子(DOE)は、光の空間分布を操作するために設計された光学コンポーネントである。DOEは、光ビームを複数の回折光ビームに分割する簡単な格子から、認識可能な画像に光を回折させるコンピュータ合成ホログラム(CGH)まで多岐に渡る。DOEのアプリケーションは、多数の産業に及んでおり、ホログラフィックディスプレイ、拡張現実(AR)および仮想現実(VR)、分光法、収差補正、ビームステアリング、ビームシェイピング、3D深度センシングを含む。
【0003】
外部電場に対して高い複屈折性および感度の組合せに起因して、液晶(LC)は、空間光変調器および単一画素DOEにおいて切り替え可能な光学材料としての使用を見出した。
【0004】
LCOS(Liquid Crystal on Silicon)SLMは、数ミリ秒の切り替え速度で任意の画素化DOE設計の切り替えを可能にする。しかしながら、これらの画素化デバイスは複雑であり、LC層の個々の画素を駆動するためにCMOSバックプレーン電子回路を必要とする。
【0005】
多くのタスクでは、単一画素LC-DOEを使用するのがより便利である。しかしながら、従来の単一画素デバイスは、簡単なデバイスアーキテクチャを有し、SLMよりもかなり低い柔軟性を提供し、典型的にはオフ状態と単一のオン状態の間の切り替えだけが可能である。こうした光学素子の最も初期の実装は、種々の従来のリソグラフィ方法を採用して、表面レリーフ構造を標準のネガ型フォトレジストにパターン形成し、そして、屈折率が整合した液晶材料の層を追加することによってアクティブデバイスに変換した。しかしながら、この原理を用いた有用なデバイスの製造は、必要とされる複雑で多ステップの製造プロセスによって制限される。さらに、製造されたポリマー構造上でのLCの整合を制御する際に課題が存在しており、望ましくない欠陥がデバイスの性能を阻害する。
【0006】
1つのオン/オフ切り替え可能LC-DOE技術が、ホログラフィックポリマー分散LC(H-PDLC)であり、これは、LCと感光性等方性モノマーの混合物を含むデバイスをUV干渉パターンに露出させることによって形成される。H-PDLCの大きな欠点が、バルクLCと比較して、マイクロメートルまたはナノメートルのサイズを有する液滴の中へのLCの閉じ込めに起因して、回折をオフに切り替えるために大きな電界(15~20V/μm)が必要になることである。
【0007】
これに応えて、POLICRYPS(Polymer Liquid CRYstal Polymer Slices)と呼ばれるH-PDLCのバリエーションがCaputaらによって開発され、これは、わずか数V/μmの外部電界で切り替わり、高い回折効率を提供するものである。H-PDLC/POLICRYPSのための干渉リソグラフィ製造プロセスは、柔軟性があり高速であるが、印加電界が存在しない場合にオンである(即ち、回折パターンを生成する)格子の生産に制限される。AR/VRを含むいくつかの光学アプリケーションでは、オフ状態で電力を消費せず、従って、隠れており、逆転モード(デフォルトでは0Vで非回折)で動作する格子を使用することが望ましい。H-PDLC/POLICRYPS技術は、現時点でこうしたアプリケーションに解決策を提供することができない。
【0008】
以前に報告された逆転モードLC-DOEは、UVレーザの干渉を用いて製造されており、UV感度を有する重合可能なLC/反応性メソゲン混合物を含むデバイスに直接にエンコードされる変調された強度パターンを生成する。製造後に、これらのデバイスに電圧を印加することにより、未重合チャネル内のLCが再配向して、ポリマー構造とLCとの間に屈折率の不一致を生じさせ、結果として回折を生じさせる。しかしながら、こうしたホログラフィック干渉製造方法を採用すると、格子設計は簡単な周期構造に制限される。こうした制約の中で、こうして作成される最も複雑なLC-DOEは、マイクロピラーの2次元(2D)六方格子である。
【0009】
本発明は、上記を考慮して考案されたものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様によれば、液晶デバイスが提供される。液晶デバイスは、ある厚さを有する液晶層を備えてもよい。液晶層は、液晶材料を含んでもよい。液晶層はまた、重合された液晶材料を含む複数のポリマー構造を含んでもよい。各ポリマー構造は、液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられてもよい。液晶デバイスはまた、液晶層に電界を印加するように構成された電極を備えてもよい。
【0011】
ポリマー構造の深さは、ポリマー構造の体積の重心の深さでもよい。各ポリマー構造は、例えば、液晶層の厚さを通して、液晶層の別個または区別されるサブ層の中に形成されてもよく、またはサブ層を含んでもよい。
【0012】
単一の液晶デバイス内に複数のポリマー構造を書き込むことは、デバイスの機能性および実用性を増強できる。デバイスは、単にオンとオフの間ではなく、複数の異なるアクティブ状態の間で切り替え可能でもよい。各ポリマー構造は、別個のアクティブ状態を提供したり、またはこれに対応してもよい。追加または代替として、複数のポリマー構造が、互いに連携して動作し、デバイスに入射する光の空間位相変調を調整または制御できる。
【0013】
この増強された機能性は、切り替え可能なSLMで通常必要とされる複雑なバックプレーン電子回路を使用するのではなく、デバイスにまたはデバイスを横切って印加される電圧を増加または減少させることによって簡単に制御できる。この機能性は、完全にプログラム可能なSLMデバイスと、固定された光学素子との間の妥協案を提供でき、幅広いアプリケーションで採用可能である。デバイスはまた、複数の動作モード、例えば、従来モード動作(印加電圧なしの下でデフォルトで光学的にアクティブ)、そして逆転モード動作(印加電圧なし状態で光学的に非アクティブ)などをサポートすることができる。
【0014】
ポリマー構造のうち少なくとも2つが、液晶層の厚さを通って延びる方向に、互いに少なくとも部分的に空間的に重なり合ってもよい。
【0015】
2つ以上のポリマー構造は、異なる選択されたロックイン(locked-in:閉じ込め)液晶状態を有してもよい。必要に応じて、各ポリマー構造は、異なる選択された、ロックイン液晶状態を有してもよい。代替として、2つ以上のポリマー構造は、同じロックイン液晶状態を有してもよい。
【0016】
ポリマー構造が液晶組成物の厚さにおいて異なる深さに配置されることにより、デバイスのフットプリント(実装面積)を増加させることなく、デバイスの機能性を提供できる。ポリマー構造の2つ以上が、液晶層の厚さを通って延びる方向に互いに少なくとも部分的に重なり合う場合は、フットプリントは減少または最小化できる。
【0017】
各ポリマー構造は、デバイスに入射する光の異なる空間位相変調を提供するように構成できる。これにより、デバイスによって提供される様々な(例えば、区別できる)光学状態または機能の数を増加できる。追加または代替として、2つ以上のポリマー構造によって提供される空間位相変調が共に動作して、単一の光学状態または機能を提供できる。
【0018】
電極は、液晶層の少なくとも一部を横切って電界を印加するように構成されてもよい。電極は、液晶層の厚さを横切って電界を印加するように構成された第1電極および第2電極を含んでもよい。
【0019】
電極は、実質的に均一な電界を印加するように動作可能である。
【0020】
電極のうちの少なくとも1つが、個別にアドレス指定可能な複数の電極エレメントを含んでもよい。各電極エレメントは、液晶層の異なる部分を横切って電界を印加するように構成できる。電極のうちの少なくとも1つが、パターン化電極を含んでもよく、または電極アレイを含んでもよい。パターン化電極アレイまたは電極アレイは、複数の同心リングでもよく、またはこれを含んでもよい。
【0021】
ポリマー構造の様々な液晶状態の各々が、異なる予め定めた電界強度における液晶材料の状態に対応してもよい。
【0022】
ポリマー構造の少なくとも1つが、重合された液晶材料の複数の領域を含んでもよい。
【0023】
ポリマー構造の少なくとも1つが、回折光学素子でもよく、または回折光学素子を含んでもよい。ポリマー構造の2つ以上が、互いに組み合わせて動作し、単一の回折光学素子として機能してもよい。
【0024】
ポリマー構造の少なくとも1つが、回折光学素子でもよく、または回折光学素子を含んでもよい。少なくとも1つの回折格子は、六方回折パターンを生成するように構成されてもよい。少なくとも1つの回折格子は、三角形メッシュでもよく、または三角形メッシュを含んでもよい。追加または代替として、少なくとも1つの回折格子が、1次元(1-D)回折パターンを生成するように構成されてもよい。少なくとも1つの回折格子は、複数の柱または壁でもよく、または複数の柱または壁を含んでもよい。
【0025】
ポリマー構造の少なくとも1つが、ホログラムでもよく、またはホログラムを含んでもよい。
【0026】
ポリマー構造は、液晶デバイスの厚さを通して複数の積層された層またはサブ層でもよく、または複数の積層された層またはサブ層を含んでもよい。1つ以上の層が、実質的に連続した層でもよく、または実質的に連続した層を含んでもよい。追加または代替として、1つ以上の層が、不連続層でもよく、または不連続層を含んでもよい。2つ以上の層が、互いに実質的に直接接触していてもよい。ポリマー構造は、複数の積層されたディスクでもよく、または積層されたディスクを含んでもよい。代替として、ポリマー構造は、複数の同心円状リングでもよく、または複数の同心円状リングを含んでもよい。各リングは、異なる高さまたは厚さを有してもよく、または異なる高さまたは厚さを含んでもよい。
【0027】
液晶デバイスはさらに、第1基板および第2基板を備えてもよい。ポリマー構造の少なくとも1つが、第1基板または第2基板に連結され、または固定されてもよい。複数のポリマー構造は、第1基板に連結され、または固定された第1ポリマー構造と、第2基板に連結され、または固定された第2ポリマー構造とを含んでもよい。第1ポリマー構造は、第1深さにあり、第2ポリマー構造は、異なる第2深さにあってもよい。代替または追加として、1つ以上のポリマー構造が、他のポリマー構造の1つ以上に少なくとも部分的に連結され、または固定されてもよい。
【0028】
第2態様によれば、第1態様の液晶デバイスを備える光学収差補正装置が提供される。これにより、異なる(例えば、区別できる)位相プロファイル間の切り替えが可能になり、例えば、様々な収差モードを補正できる。その動作は、印加電圧を増加または減少させ、様々な位相プロファイル間で切り替えることによって制御でき、SLMなど、従来のデバイスよりも著しく簡単な制御を可能にする。追加または代替として、それにより、位相プロファイルによって提供される位相変調の大きさの可変制御が可能になり、例えば、1つ以上の収差モードを補正できる。さらに、その動作は、印加電圧を増加または減少させ、該位相プロファイルによって提供される位相変調の大きさを調整することによって制御できる。
【0029】
第3態様によれば、第2態様の装置を備える光学デバイスが提供される。光学デバイスは、レンズ、顕微鏡、望遠鏡、双眼鏡、または任意の適切な光学デバイスでもよい。
【0030】
第4態様によれば、第1態様の液晶デバイスを備える、距離センシングおよび/または深度マッピングデバイスが提供される。
【0031】
ポリマー構造の各々は、異なる構造化光照明パターンを作成するように構成できる。距離センシングおよび/または深度マッピング技術を使用する多くのアプリケーションでは、デバイスが、大幅な小型化を必要とし、厳しい電力消費要件を有する。従って、本開示の切り替え可能な液晶デバイスにおいて複数の光学機能の組合せにより、減少したフットプリントを有するコンパクトなデバイス構造内で選択可能な複数のアクティブ状態を有するデバイスを提供できる。
【0032】
第5態様によれば、第1態様の液晶デバイスを備えるホログラフィック表示デバイスが提供される。スタック式またはカスケード式のホログラムは、多重化情報表示、カラー画像、多波長光相互接続を含むアプリケーション用に使用されている。さらに、スタック式ホログラムは、従来の単層ホログラムに比べて画像分解能および回折効率を改善するために採用される。第1態様の液晶デバイスは、印加電圧を調整することによって容易に制御可能な単一デバイス内でこうした利点を提供できる。
【0033】
第6態様によれば、第1態様の液晶デバイスおよび/または第2態様の光学収差補正装置を備える、仮想現実または拡張現実デバイスが提供される。
【0034】
第7態様によれば、第1態様の液晶デバイスおよび/または第2態様の収差補正装置を備える、ビームステアリングおよび/またはビームシェイピングデバイスが提供される。
【0035】
第8態様によれば、液晶デバイスに入射する光の空間位相変調を電気的に制御する方法が提供される。液晶デバイスは、ある厚さを有する液晶層と、該液晶層に電界を印加するための電極とを備えてもよい。液晶層は、液晶材料を含んでもよい。液晶層は、重合された液晶材料を含む複数のポリマー構造を含んでもよい。各ポリマー構造は、液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられてもよい。この方法は、液晶層を横切って電界を印加して、デバイスに入射する光の空間位相変調を選択的に制御するステップを含んでもよい。
【0036】
第8態様の方法は、第1態様の液晶デバイス上で、または液晶デバイスを用いて実行できる。
【0037】
本発明の個別の態様および実施形態の文脈で説明される構成は、可能な限り一緒に使用でき、および/または、交換可能にできる。同様に、簡潔のために単一の実施形態の文脈で構成が説明されている場合、それらの構成は、別々に、または任意のサブ組合せでも提供できる。第1態様の液晶デバイスに関連して説明した構成は、第2~第7態様の装置および第8態様の方法に関して定義可能な対応する構成を有してもよく、その逆も同様であり、それらの実施形態は具体的に想定される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
ここで、本発明について添付図面を参照して、例示のみを目的として説明する。
【0039】
【
図2A】0Vの印加電圧下で、単層回折格子を含む液晶デバイスの概略図を示し、液晶分子の配向を含む。
【
図2B】10Vの印加電圧下で、単層回折格子を含む液晶デバイスの概略図を示し、液晶分子の配向を含む。
【
図2C】
図2Aに示す液晶デバイスの偏光光学顕微鏡画像を示す。
【
図2D】
図2Bに示す液晶デバイスの偏光光学顕微鏡画像を示す。
【
図2E】10Vの印加電圧下で、
図2Aと
図2Bの液晶デバイスについて位置の関数(μm)としての画素強度を示す。
【
図2F】10Vの印加電圧下で、
図2Aと
図2Bの液晶デバイスにおいてポリマー壁の位置(μm)とピーク数との関係を示す。
【
図2G】0V~10Vの印加電圧の範囲下で、
図2Aと
図2Bの液晶デバイスによって生成される遠視野回折パターンを示す。
【
図3A】0Vの印加電圧下で、単層回折格子を含む他の液晶デバイスの概略図を示し、液晶分子の配向を含む。
【
図3B】10Vの印加電圧下で、単層回折格子を含む他の液晶デバイスの概略図を示し、液晶分子の配向を含む。
【
図3C】
図3Aに示す液晶デバイスの偏光光学顕微鏡画像を示す。
【
図3D】
図3Bに示す液晶デバイスの偏光光学顕微鏡画像を示す。
【
図3E】0.5V~9.5Vの印加電圧の範囲下で、
図3Aと
図3Bの液晶デバイスによって生成される遠視野回折パターンを示す。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る、2つの回折格子を備えた他の液晶デバイスの概略図を示す。
【
図4B】製造プロセス時の
図4Aの液晶デバイス400の概略断面図を示す。
【
図4C】製造プロセス時の
図4Aの液晶デバイス400の概略断面図を示す。
【
図4D】
図4Aの液晶デバイスのスイッチング挙動の概略図を示す。
【
図4E】
図4Aの液晶デバイスのスイッチング挙動の概略図を示す。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る他の液晶デバイスについて透過率のプロットを電圧の関数として示す。
【
図5B】液晶デバイスを通過する光について位相のプロットを電圧の関数として示す。
【
図5C】2つの回折格子の製造後に、
図5Aと
図5Bに特徴付けられた液晶デバイスについての偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係る、2つの回折格子を備えた他の液晶デバイスについての偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示す。
【
図7A】本発明の一実施形態に係る、2つのコンピュータ合成ホログラムを備えた他の液晶デバイスの製造を示す。
【
図7B】本発明の一実施形態に係る、2つのコンピュータ合成ホログラムを備えた他の液晶デバイスの製造を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に係る、2つのコンピュータ合成ホログラムを含む他の液晶デバイスについての偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示す。
【
図9】液晶デバイスを特性評価するために使用した光学セットアップを示す。
【
図10A】同心リングの配列を形成する複数のポリマー構造を備えた他の液晶デバイスを示す。
【
図10B】同心リングの配列を形成する複数のポリマー構造を備えた他の液晶デバイスを示す。
【0040】
種々の図面内の同様の参照番号および指定は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、ここで説明する実施例で使用される液晶デバイス100の概略図を示す。デバイス100は、スペーサビーズを用いて互いに離隔した透明基板105a,105bを備える。基板105a,105bには、平面配向層がコーティングされている。液晶組成物110が、基板105a,105bの間に設けられる。液晶組成物110の少なくともいくつかが重合され、選択されたロックイン(閉じ込め)液晶状態を有するポリマー構造112を形成する。デバイス100は、基板105a,105bの間に電界を印加するように構成された透明電極115a,115bを備える。図示の例では、電極115a,115bは、基板105a,105bの外側(例えば、液晶組成物110に対して基板105a,105bの反対側)に配置されるが、これは必須ではない。代替として、電極115a,115bは、基板105a,105bの内側に配置されてもよい。
【0042】
図示の例では、液晶組成物110は、ネマチック液晶ホスト、反応性メソゲン(mesogen)、および光開始剤の混合物を含む。特定の例では、液晶ホストはE7であるが、代わりに別の材料または組成物が使用できる。反応性メソゲンは、約30重量%の濃度RM257(Merck社)であるが、液晶ホストのダイレクタ(director)が電界の存在下で再配向できる場合、別の組成および/または濃度が使用できる。光開始剤は、約1重量%の濃度のIrgacure 819(Merck社)であるが、代わりに別の組成および/または濃度が使用できる。
【0043】
図示の例では、透明基板105a,105bはガラスを含むが、代わりに任意の透明材料が使用できる。基板105a,105bは、スペーサビーズ(不図示)によって離隔され、基板105a,105bの間にギャップを形成する。配向層は、液晶材料を均質な平面配向に配置するために、反平行方向(基板105a,105b上に設けた矢印で示す)に擦られる(ラビング)が、これは必須ではない。配向層は、ポリイミドを含むが、代わりに任意の適切な材料または組成物が使用できる。電極115a,115bは、インジウムスズ酸化物(ITO)を含むが、代わりに任意の透明電極材料が使用できる。図示の例では、デバイス100は、インステック(Instec Inc.)社によって製造された反平行ラビング液晶セルを含むが、代わりに別のセルが使用できる。
【0044】
図示の例では、重合性液晶組成物110は、毛細管充填によって透明基板105a,105bの間に配置して、液晶セルを形成した。液晶組成物110は、基板105a,105bの間に配置される前に、実質的に70℃での熱混合によって調製したが、これは必須ではない。
【0045】
ポリマー構造を液晶デバイス100内に直接形成するために、直接レーザ書き込み(DLW: direct laser writing)システムを使用した。液晶デバイス100は、並進ステージ上に搭載され、波形発生器に接続され、デバイス100内のポリマー構造の製造時にデバイス100に電界を印加できるようにした。ポリマー構造112を液晶デバイス100内に直接形成することによって、レーザビームへの露光の正確な瞬間における液晶分子の特定の配向(ダイレクタとして知られる単位ベクトルによって記述される)が制御できる。これは、ダイレクタプロファイルが基板105a,105bでの配向層によってのみ制御される場合よりも、DLWプロセスによって保持または固定できる、より広範囲のダイレクタプロファイルへのアクセスを提供する。
【0046】
DLWプロセスは、80MHzの繰り返しレートで、波長780nmで発光する、Spectra-Physics社Tsunamiチタンサファイア発振器から100fsのパルス幅を持つフェムト秒レーザパルスを使用した。レーザパルスは、オリンパス社0.46NA対物レンズを用いて液晶組成物の中に集光した。ここで説明する例で使用した製造レーザのパワーは、重合閾値(重合のためにサンプルに最低の必要なエネルギーを供給する)をわずかに上回っており、実験的に100μm/sの書き込み速度で41mWであることが判明した。レーザの偏光は、半波長板の支援とともにデバイス100のラビング方向に対して垂直になるように配向した。デバイス100は、1nmの位置決め分解能を備えた高分解能ステージのスタック(エアロテック社ANT-95XYおよびANT95V-3)の上に搭載した。550nmロングパスフィルタを備えたハロゲン光源を使用して、デバイスの透過照明を提供し、光硬化プロセスに影響を与えることなく、カラーCCDを使用して製造をその場で(in-situ)監視できるようにした。ポリマー壁は、100μm/sの速度で、パルスレーザビームへの連続露光の下でサンプルを移動させることによって製造した。ポリマー構造112の製造時には、任意波形ファンクションジェネレータ(Tektronix社AFG3021)を使用して、1kHzの周波数を持つ矩形波AC電圧をデバイス100に印加した。
【0047】
DLWプロセス時にレーザパルスが液晶組成物110に入射した場合、光開始剤による2光子吸収により、フリーラジカル重合反応を介して反応性メソゲンの架橋を誘発し、それは、レーザビームへの露光時にポリマーネットワークの形成を経由して液晶の分子配列を安定化する。重合された液晶組成物110は、露光時に液晶分子の電圧依存ダイレクタを保持または固定して、ポリマー構造112を形成する。DLWプロセス時に液晶デバイス100を様々な電圧振幅に露出することによって、様々な液晶配列を保持または固定できる。未重合の周囲のバルク液晶材料は、製造後に印加電界の存在で、自由に再編成または再配向される。
【0048】
レーザパルスが液晶組成物に入射する場合に発生する2光子吸収プロセスにより、ボクセルと呼ばれる小さな体積内のレーザの焦点内で専ら発生する吸収をもたらす。レーザ焦点に対してサンプルを並進させることによって、ボクセル単位で3次元構造を構築できる。
【0049】
図2Aと
図2Bは、上述したDLWプロセスによって製造される単層回折格子212を含む液晶デバイス200の概略図を示す。回折格子212は、5μmの周期を持つ複数の平行なポリマー壁214を含む。隠れモードまたは逆転モードの回折格子を生成するために、壁は、0Vの書き込み電圧で製造した。この場合、デフォルト状態では回折を提供しない。
図2Aは、0Vの印加電圧での液晶デバイス200を示し、一方、
図2Bは、10Vの印加電圧での液晶デバイス200を示す。
【0050】
図2Aと
図2Bは、図示した切り替え可能な回折格子の背後にある理想的な動作原理を示す。印加電圧がない場合、重合領域と未重合領域との間で液晶配向には差がないことが予想される(
図2Aを参照)。この状態では、デバイス200は、均一な複屈折層として挙動し、回折は発生しない。ある閾値を超える電圧が印加されると、未重合領域が切り替わり、電圧が増加すると、液晶ダイレクタ(液晶の平均分子配向を記述するベクトル)が垂直に近づく傾向がある(
図2Bを参照)。この切り替え状態では、ラビング方向に対して平行に偏光した光は、有効屈折率n
effの変調を見ることになり、重合領域ではn
effの値が高くなり、未重合切り替え領域ではn
effの値が低くなる。無限大の電圧では、ダイレクタが完全に垂直である場合、未重合領域はn
o(通常の屈折率)になる傾向がある。光がデバイス200に入射した場合、屈折率のこの空間変調の結果として回折が発生するようになる。ラビング方向に対して垂直に偏光した光では回折は発生しないことに留意されよう。この幾何形状では、印加電圧に関係なく、光は、デバイス200全体で通常の屈折率n
oを見ることになる。こうして屈折率の空間変調はなく、回折は発生しない。
【0051】
図2Cと
図2Dは、それぞれ0Vおよび10Vにおけるデバイス200中の回折格子12の50倍での偏光光学顕微鏡(POM)画像を示す。
図2Cの右下隅のスケールバーは50μmである。
図2Aと
図2Bは、それぞれ
図2Cと
図2Dに挿入されており、回折格子212内の液晶分子の配向を示す(網掛け部分はポリマー壁214に対応するポリマーネットワークを示す)。
【0052】
顕微鏡観察は、光電管に取り付けられたQlmaging社Retiga R6カメラを備えたオリンパス社BX51偏光光学顕微鏡を使用して実施した。オリンパス対物レンズを使用し、カバーガラス補正環を液晶デバイス200のガラス基板の厚さに設定して、収差の低減により画像の品質を改善した。カットオフ波長550nmのロングパスフィルタをハロゲン電球とサンプルの間に挿入して、反応していない反応性メソゲン分子の重合反応を回避した。デバイス200は、サンプルを明るい状態が見つかるまで回転させることによって、交差した偏光子の透過軸(
図2C中の白い矢印で示す)に対してラビング方向が45°になるように配向した。MATLAB(登録商標)スクリプトを作成して、SCPIコマンドを用いて任意ファンクションジェネレータ(Tektronix社AFG3021)を制御することによって、様々な電圧の範囲で顕微鏡画像を取得するプロセスを自動化した。顕微鏡カメラは、製造者によって提供されるコマンドライブラリによって制御した。
【0053】
POM画像は、壁自体の幅が約0.9μmであるままで、壁の間隔が極めて均一であることを示している。0Vにおいてデバイス200は、実質的に均一な複屈折層として挙動し、ポリマー壁214は、周囲の未重合液晶組成物とは実質的に区別ができず、回折はほとんど発生しないこともPOM画像は示している。しかしながら、10Vにおいて、ポリマー壁214のアンカー固定が打開され、ダイレクタはほぼ垂直になる。ポリマー壁214内の均質な平面ダイレクタ状態の固定に起因して、周囲の重合していない液晶組成物が垂直状態に切り替っても、ポリマー壁214は複屈折性状態のままである。従って、回折格子212は、10Vでアクティブ状態になり、屈折率の空間変調に起因して回折が発生する。
【0054】
画像解析を実施して、壁の均一性および幅を評価した。画像解析は、
図2Dに示すように、10Vの印加電界の下で回折格子212のグレースケール版のPOM画像を横断して水平ラインスキャンを実施することによって行った。これらのラインスキャンは、ノイズを低減するために平均化し、その結果は、
図2Eにプロットしており、各ポリマー壁214はピークで表現される。スケールは、エッチングしたスケールを備えた顕微鏡の校正スライドを用いて校正した。MATLAB関数「findpeaks」を使用してピークの場所を見つけて、
図2Fに示すように、それらの値をピーク番号に対してプロットしている。そして、半隆起におけるピークの全幅を計算する「findpeaks」関数からのオプション出力を用いて、ポリマー壁幅の推定値を取得した。
【0055】
図2Fに示す直線性は、回折格子212の一部を形成する各ポリマー壁214の間に一定の間隔が存在することを示す。隣接する壁214間の距離の平均は5.00μmであり、標準偏差は0.08μmであり、これは、0.09μm/画素の画像の分解能のオーダーである。
図2Eのピーク自体の均一性は、ポリマー壁214が高い均一な構造を有することを示す。ポリマー壁214の推定幅を平均すると、0.87μmとなり、標準偏差は僅かに0.02μmとなり、ポリマー壁214の極めて高い均一性を示す。
【0056】
図2Gは、デバイス200によって生成され、0V~10Vの範囲で1V増分の印加電圧においてスクリーン上に投影された遠視野回折パターンを示し、一方、
図2Hは、電圧の関数として最初の4つの回折次数の回折効率を示す。回折効率は、ここでは回折次数の強度と入射強度の比率として定義される。0Vのオフ状態では、ポリマー壁214中のポリマーネットワークは、未重合液晶組成物と同じ状態であるため、有効屈折率にコントラストが無く、回折も発生しない。電圧が増加すると、未重合液晶組成物が切り替えを開始し、ポリマー壁214と未重合液晶組成物との間に屈折率コントラストを生成して、回折パターンが現れる。回折格子212は、ラマン-ナス領域の特性のために、複数の回折次数を明確に生成する。33.2%という1次の最大回折効率は、UV干渉によって製造されたポリマー安定化逆モードLCグレーティングについてKossyrevらが以前に報告した約34%の値に匹敵する。
【0057】
低い電圧(<1V)での回折次数の挙動を調べると、1次および2次に関連する低い非ゼロ強度が存在することが判る。このことは、ポリマー壁214内のポリマーネットワークの形成により、液晶の整列を僅かに攪乱し、0Vにおける重合していない液晶組成物から有効屈折率を減少させたことを意味する。その結果、ポリマー壁214と未重合液晶組成物との間のneffの差が小さいため、0Vにおいて弱い回折を生じさせる。電圧が増加すると、1.2Vにおいて1次が消失して、未重合液晶組成物が切り替えを開始し、ポリマー壁214のneffと一致することを意味する。このことは、ポリマーネットワークの形成により、ポリマー壁214内のneffを僅かに減少させることを意味する。
【0058】
フレデリック(Freedericksz)転移の研究により、液晶組成物のスイッチング挙動に対するポリマー壁214の弾性的影響を観察することが可能になる。製造されたデバイス200では、有効フレデリック閾値電圧は1.2Vであり、これは重合前値の0.7Vよりも高い。このことは、ポリマー壁214の影響により、液晶ダイレクタを再配向するために必要な電界の大きさを増加させることを示す。
【0059】
図3Aと
図3Bは、上述したDLWプロセスによって製造された単層回折格子312を含む他の液晶デバイス300の概略図を示す。回折格子312は、5μmの周期を持つ複数の平行なポリマー壁314を備え、前述したデバイス200と実質的に類似する。しかしながら、ポリマー壁314は、0Vで回折が生成される従来モードの回折格子を提供するために、1.55Vの書き込み電圧で製造した。
図3Aは、0Vの印加電圧における液晶デバイス300を示し、一方、
図3Bは、1.55Vの印加電圧における液晶デバイスを示す。
【0060】
電圧が印加されていない場合、重合領域と未重合領域の間で液晶の整列に差がある(
図3Aを参照)。この状態では、ラビング方向に対して平行に偏光した光は、未重合液晶組成物のn
effのより高い値およびポリマー壁314のn
effのより低い値を備えた有効屈折率の変調を見るようになる。1.55Vの電圧(ポリマー壁314の書き込み電圧とほぼ等しい)が印加された場合、重合領域と未重合領域との間で液晶の整列に差は存在しない(
図3Bを参照)。この段階では、デバイス300は、均一な複屈折層として挙動し、実質的に回折は発生しない。
【0061】
図3Cと
図3Dは、それぞれ0Vおよび1.55Vにおけるデバイス200の回折格子212の50倍での偏光光学顕微鏡(POM)画像を示す。
図3Cの右下隅のスケールバーは50μmである。
図3Aと
図3Bは、それぞれ
図2Cと
図2Dに挿入されており、回折格子312内の液晶分子の配向を示す(網掛け部分はポリマー壁314に対応するポリマーネットワークを示す)。デバイス200と同様に、回折格子312は、5μmの周期を有する。
【0062】
図3Eは、デバイス300によって生成され、0.5V~9.5Vの範囲で1V増分の電圧においてスクリーン上に投影された遠視野回折パターンを示し、一方、
図3Fは、電圧の関数として最初の4つの回折次数の回折効率を示す。回折効率は、ここでは回折次数の強度と入射強度の比率として定義される。約1.5V(1.55V)のオフ状態では、ポリマー壁314内のポリマーネットワークは、未重合液晶組成物と同じ状態であるため、有効屈折率にコントラストが無く、回折も発生しない。印加電圧が1.55Vのオフ状態から増加または減少すると、未重合液晶組成物が切り替えを開始し、ポリマー壁314と未重合液晶組成物との間に屈折率コントラストを生成して、回折パターンが現れる。回折格子312は、ラマン-ナス領域の特性のために、複数の回折次数を明確に生成する。
【0063】
図4Aは、他の液晶デバイス400を示す。液晶デバイス400は、上述した液晶デバイス200,300と構造が類似している。しかしながら、液晶デバイス400は、第1回折格子412aと第2回折格子412bを備え、それぞれが複数の平行なポリマー壁414a,414bを備える。図示の実施形態では、回折格子412a,412bは互いに直交している。この構成は、各回折格子412a,412bからの回折パターンを解明するのが容易であり、これらの直交性が非常に明白であるため好都合である。しかしながら、回折格子412a,412bが互いに直交していることは必須ではない。
【0064】
図示の実施形態では、第1回折格子412aのポリマー壁414aは、液晶デバイス400の第1の透明基板405aに連結されるように(例えば、その上に製作されるように)製造される。第2回折格子412bのポリマー壁414bは、液晶デバイスの第2透明基板405bに連結されるように(例えば、その上に製作されるように)製造される。基板405a,405bは、厚さdだけ分離している。しかしながら、これは必須ではなく、回折格子412a,412bの一方または両方のポリマー壁414a,414bは、基板に連結されずに、基板405a,405b間の液晶組成物の厚さdを通る中間位置に形成されてもよい。例えば、各回折格子412a,412bのポリマー壁414a,414bの1つ以上が、別の回折格子412a,412bのポリマー壁414a,414bの1つ以上に少なくとも部分的に連結または固定されてもよい。基板405a,405b間の液晶組成物の厚さdを通る様々な深さに様々なポリマー構造、例えば、ポリマー壁のセットなどを形成することにより、様々なポリマー構造を、デバイス400の同じエリアまたは領域に形成できるとともに、ポリマー構造が互いに独立して動作(例えば、デバイスに入射する光の位相を空間的に変調する)できるようにする。各ポリマー構造は、液晶層(例えば、基板405a,405b間に配置された液晶層)の別個または区別されるサブ層内に形成されるか、またはこのサブ層を含むことができる。
【0065】
図4Bと
図4Cは、製造プロセス時の液晶デバイス400の概略断面図を示す。ポリマー壁414a,414bを対向する基板405a,405bに連結するために、製造時にレーザの焦点深度が変化する。0.46NAの対物レンズを使用すると、約11μmの予想されるボクセルサイズを生じさせる。個々の基板405a,405bへのポリマー壁414a,414bの強い連結を確保するために、製造レーザの焦点深度を調整して、ボクセルの約半分が基板405a,405b内に入るようにした。しかしながら、上述のように、ポリマー壁414a,414bが基板405a,405bに連結されることは必須ではない。製造高さの変化に加えて、液晶組成物に印加される電圧もプロセス中に変化し、各回折格子を含むポリマー壁414a,414bが様々な電圧で書き込まれる。明確化のために、図示の例では、第2回折格子412bは、0Vで書き込まれ、第1回折格子412aは、デバイス400のフレデリック閾値電圧を超える任意の電圧で書き込まれることを示す。しかしながら、製造電圧の1つが0Vである必要はなく、第1および第2回折格子412a,412bは、充分に異なる任意の2つの電圧で書き込まれてもよい。
【0066】
図4Dと
図4Eは、2つの回折格子412a,412bの製造後の二層回折格子デバイス400のスイッチング挙動を示す。第2回折格子412bの書き込み電圧(0V)では、第1回折格子412aのポリマー壁414aがロックインした非ゼロ電圧の液晶状態を有するため、第1回折格子412aはアクティブである。これにより、ポリマー壁414aと未重合液晶組成物との間にある第1回折格子412aの屈折率変調を生成し、一方、第2回折格子412bでは、方向の整合は、ポリマー壁414bと未重合液晶組成物の両方に渡って均一である。第2回折格子412bに切り替えたり、またはアクティブ化するために、第1回折格子412aのための書き込み電圧に等しい大きさを持つ印加電圧が、デバイス400に印加される。これにより第1回折格子412aを非アクティブにし(第1回折格子412aでの均一な液晶ダイレクタ配向のため)、第2回折格子412bをアクティブ状態に切り替える。未重合液晶組成物は、第1回折格子412aのポリマー壁414aの液晶状態と同じ液晶状態にあるため、第1回折格子412aのための屈折率変調は存在しない。しかしながら、ポリマー壁414bと、切り替えされた未重合液晶組成物との間のダイレクタ配向の違いにより、第2回折格子412bのための屈折率変調が存在する。
【0067】
デバイス400の第1および第2回折格子412a,412bを製造するために使用される個々の書き込み電圧は、各格子412a,412bの回折効率を最大化するように選択できるが、これは必須ではない。例えば、バイナリ位相回折格子での最大回折効率では、位相差はπに等しくする必要がある。デバイス400の位相と電圧の関係を解明することによって、デバイス400のポリマー構造または回折格子412a,412bは、πに等しい位相差を持つ2つの異なる電圧で書き込み可能である。位相と電圧の関係は、入射光の波長、液晶デバイス400の厚さ、液晶組成物の複屈折など、いくつかの変数に依存する。デバイス400の位相と電圧の関係は、ポリマー壁414a,414bが書き込まれる前に、交差した偏光子の間に配向された場合のデバイス400の透過挙動を研究することによって、実験的に単刀直入に確立できる。
【0068】
図5Aと
図5Bは、ポリマー壁514a,514bが書き込まれる前の液晶デバイス500の電気光学特性を示す。図示の実施形態では、デバイス500は、液晶デバイス400と実質的に同一の構造を有し、同様の参照番号は同様の構成を示す。図示の実施形態では、デバイス500は、20μmの厚さ(基板505a,505b間の距離d)を有する。これにより、基板505a,505bに垂直な方向で第1回折格子512aと第2回折格子512bの空間的分離が可能になるが、これは必須ではない。20μmの厚さを有し、波長635nmで照射されるデバイス500では、回折効率を最大化するために、第1および第2回折格子412a,412bについて3.7Vおよび6.7Vの書き込み電圧をそれぞれ選択したが、これは必須ではない。
【0069】
図5Aは、交差した偏光子の間に配向されたデバイス500について透過率のプロットを電圧の関数として示す。デバイス500は、光軸が偏光子に対して45°であるように配向し、波長635nmを有するレーザダイオード(Thorlabs PL202)を用いて照射した。透過率対電圧のプロットにおいてピークと谷の電圧が選択される。ピークは、デバイス500が半波長板として有効に機能している場所を示し、偏光は、偏光子軸から検光子軸まで90°だけ回転している。谷は、デバイス500が全波長板(ラムダ板)として有効に機能し、偏光方向が偏光子の元の方向から変化しておらず、検光子の後で消滅する場所を示す。
【0070】
光学軸が偏光子軸に対して45°であり、交差した偏光子間の複屈折層の透過率Tは、式T=sin
2(φ/2)による位相φと関連付け可能である。この関係では、透過率は、デバイスを通過する最大透過率に対して正規化される。この式を使用すると、
図5Aに示す電圧の関数として、透過率のプロットから位相が抽出できる。
図5Bは、デバイス500を通過する光について位相のプロットを電圧の関数として示し、635nmの波長を使用して照射されたデバイス400では、3.7Vと6.7Vの電圧で位相差πが生じることを示す。
【0071】
図5Cは、様々な印加電圧条件(0V~9Vの範囲で1V増分、3.7Vおよび6.7Vでの追加画像とともに)での液晶デバイス500の偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示し、対応する回折パターンの挿入画像を備える。第2基板505bに連結された第2回折格子512bは、格子周期20μmを用いて3.7Vで書き込まれ、ポリマー壁514bは、POM画像内で垂直に配向していた。第1基板505aに連結された第1回折格子512aは、格子周期10μmを用いて6.7Vで書き込まれ、ポリマー壁514aは、POM画像内で水平方向に配向していた。従って、第1および第2回折格子512a,512bのポリマー壁514a,514bは、互いに直交して配置される(ただし、これは必須ではない)。しかしながら、ポリマー壁514a,514bは、他の電圧、または0Vで書き込まれてもよいことは理解されよう。0Vでの画像の右下隅のスケールバーは、50μmである。
【0072】
第2回折格子512bの書き込み電圧(3.7V)に近い印加電圧では、ポリマー壁514bのダイレクタ配向と未重合液晶組成物との間の均一性に起因して、第2回折格子はPOM画像において目に見えない。第1回折格子512aは、これらの電圧においてPOM画像で目に見える。その理由は、ポリマー壁514aが6.7Vで書き込まれ、未重合液晶組成物のダイレクタプロファイルとは異なるロックイン(閉じ込め)ダイレクタプロファイルを有するためである。第1回折格子512aの水平配向ポリマー壁514aは、
図5において3.7V付近の電圧で明確に見えている。
【0073】
第1回折格子512aの書き込み電圧(6.7V)に近い印加電圧では、未重合液晶組成物とポリマー壁514aのダイレクタ配向が同じであるため、第1回折格子512aは見えなくなる。従って、これらの電圧では、ポリマー壁514bと未重合液晶組成物での異なるダイレクタ配向に起因して、第2回折格子512bの垂直配向ポリマー壁514bが目に見えている。
【0074】
詳しく調べると、第2回折格子512bによって生成される回折パターンは、実際には3.7Vの書き込み電圧ではなく、3.0Vで最もよく見えることが判る。この効果は、6.7Vで書き込まれた第1回折格子512aのポリマー壁514aによって生ずるようになり、デバイス500内の未重合液晶組成物に弾性影響を及ぼしている。より高い電圧でロックインされたダイレクタ配向は、デバイス500内にアンカー表面を作成でき、未重合液晶組成物が6.7Vでの配列と一致するように影響を与え、第2回折格子512bの屈折率マッチング電圧を効果的に低下させる可能性がある。
【0075】
図6は、他の液晶デバイス600の偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示す。液晶デバイス600は、上記のデバイス500と類似しており、同様の参照番号は同様の構成を示す。デバイス600では、第2回折格子612bは、遠視野において六方回折パターンを生成するポリマー壁614bの三角形メッシュを含む。第1回折格子612aは、上述のように、ポリマー壁614aを含む従来の1次元回折格子である。上記のデバイス500では、同じセル厚および書き込み電圧を使用した。第2回折格子612bは、3.7Vで書き込まれ、5μmのピッチを持つ周期的な三角形エレメントを備え、一方、第1回折格子612aは、6.7Vで書き込まれ、5μmの格子周期を持つ複数のポリマー壁614aを備える。しかしながら、ポリマー壁614a,614bは、他の適切な電圧、または0Vで書き込まれてもよいことは理解されよう。0Vでの画像の右下隅のスケールバーは、50μmである。
【0076】
三角形の第2回折格子612bの書き込み電圧(3.7V)に近い印加電圧では、第1回折格子612aによって生成された1D回折パターンだけが目に見える。印加電圧が、第1回折格子612aの書き込み電圧(6.7V)に向けて増加すると、観測される回折パターンは、第2回折格子612bによって生成される六方回折パターンに変化する。
【0077】
図7Aと
図7Bは、他の液晶デバイス700の製造を示す。液晶デバイス700は、上記のデバイス500,600と類似しており、同様の参照番号は同様の構成を示す。しかしながら、デバイス700は、第1および第2回折格子の代わりに、第1および第2ホログラム712a,712bを備える。ホログラムは、遠視野回折パターンで認識可能な画像を生成する回折光学素子である。ホログラムを定義する位相マップは、非常に非周期的である。上述した直接レーザ書き込みプロセスは、書き込みレーザの露光パターンを任意に制御する能力に起因して、こうした構造を製造するタスクによく適している。
【0078】
製造手順は、デバイス500に関して上述したものと実質的に同じである。最初に、電圧V1がデバイス700に印加され、第2バイナリ位相コンピュータ合成ホログラム(CGH)712b(Aとも表記)が製造される。図示の実施形態では、第2CGH712bの画素を表すポリマー構造は、第2基板705aに連結されるが、これは必須ではない。これに続いて、電圧V2がデバイス700に印加され、レーザ焦点の位置が上側に調整され、第1バイナリ位相CGH(712a(Bとも表記))が製造できる。図示の実施形態では、第1CGH712aの画素を表すポリマー構造は、第1基板705aに連結されるが、これは必須ではない。電圧の印加により液晶組成物内のダイレクタ配向を変化させ、そして所定の電圧においてポリマーネットワークが形成されると、その状態でダイレクタ配向を安定化する。
【0079】
製造後、液晶組成物の光軸に対して平行な方向に直線偏光したコリメートされたレーザビームを用いてデバイスを照射することによって、デバイス700は動作する。遠視野回折パターンは、スクリーン上で観察して研究できる。
図7Cと
図7Dに示すように、電圧V1がデバイス700に印加された場合、V1で書き込まれた第2CGH712bの重合化画素と未重合液晶組成物との間でダイレクタ配向にコントラストは存在しない。従って、入射光は、第2CGH712bについて均一な屈折率プロファイルを認識することになり、回折は発生しない。これに対して印加電圧V1では、第1CGH712aの重合化画素と未重合液晶組成物との間にダイレクタ配向に差が存在する。このことは、入射光が、第1CGH712aの空間的に変化する有効屈折率を認識し、遠視野において第1CGH712aに対応する回折パターンを生成するものとして明らかになる。
【0080】
逆に、印加電圧V2では、状況が逆転して、第1CGH712aは非アクティブであり、第2CGH712bはアクティブとなり、遠視野回折パターンは、第2CGH712bだけによって生成されるパターンに切り替わる。このようにしてデバイス700は、製造に使用された書き込み電圧をデバイス700に単に印加することによって、製造後に2つの異なる回折パターン間で切り替え可能である。
【0081】
図8は、様々な印加電圧条件(0Vから9Vまで1V増分で、追加画像3.7Vおよび6.7Vとともに)の下での他の液晶デバイス800の偏光光学顕微鏡画像のシーケンスを示す。液晶デバイス800は、上記のデバイス700と同様に、2つのバイナリCGH812a,812bを備える。CGHによって生成された対応する回折パターンまたは画像は、画像中に挿入されている。
【0082】
第2CGH812bは、オックスフォード大学のロゴの画像を再現するように設計され、3.7Vで書き込まれた。一方、第1CGH812aは、サマービルカレッジの紋章の画像を再現するように設計され、6.7Vで書き込まれ。ただし、CGH812a,812bは、3.7Vおよび6.7V以外の電圧で書き込まれてもよいことは理解されよう。デバイス800は、
図7A~
図7Dに概略的に示す上述したデバイス700の実在の例を示す。
【0083】
デバイス800の動作は、上述し、
図5~
図7に示したデバイス500~700と類似しており、CGHのための書き込み電圧を印加することにより、それを非アクティブにする。第2CGH812bの書き込み電圧に近い印加電圧では、第1CGH812aからの回折パターンだけが見える(サマービルカレッジの紋章の画像)。第1CGH812aの書き込み電圧に近い印加電圧では、遠視野において第2CGH812bからの回折パターンだけが見える(オックスフォード大学のロゴの画像)。このようにデバイス800によって生成される回折パターンまたは画像は、デバイス800に印加される電圧の大きさを変化させることによって、2つの異なる画像間で切り替え可能である。
【0084】
図示の実施形態では、MATLABに実装されたGerchberg-Saxton(GS)アルゴリズムを使用してCGHを生成した。二重層CGHのターゲット画像は、オックスフォード大学のロゴの512×512画素の画像と、サマービルカレッジの紋章の300×300画素の画像であった。これらの画像は、256×256画素の黒色画像の左上隅に配置される前に、128×128画素の画像にサイズ変更した。GSアルゴリズムへの入力の上隅に所望のターゲットを配置する理由は、再生フィールドにおいてゼロ次スポットおよび共役画像との重なり合いを防止するためである。GSアルゴリズムの出力は、256×256画素のバイナリホログラムであった。ホログラムは、上述した直接レーザ書き込みプロセスを使用して、1024×1024μmのエリアに渡って書き込まれ、その結果、ホログラムの各画素は、4×4μmのサイズであった。製造は、20μmの基板間隔または厚さを有するデバイスで実行した。MATLABスクリプトは、ホログラム設計をAeroBasic製造スクリプトに変換し、これは、隣接する行間で1μmの間隔で行ごとにホログラムを書き込んだ。再生フィールドは、フーリエレンズを使用して取り込まれ、遠視野回折パターンをCCDの平面に届けた。ただし、CGHは、任意の適切な方法を使用して生成できることは理解されよう。
【0085】
上述したデバイス200~800の回折構造またはDOEは、
図9に示すカスタム構築した光学セットアップ900を使用して特性評価した。光源は、ビーム径3mm、光出力1mWを有する635nmレーザダイオード902(Thorlabs社PL202)であった。デバイス内の特定のDOEを選択的に照射するために、望遠鏡構成の2つのレンズ904a,904bによってビームを縮小した。極めて小さいエリアに書き込まれる幾つかのDOEでは、ある構造の領域内に完全に適合するのに充分に小さいビームサイズを生成するために、ビームは、300mmレンズを用いて集光させる必要があった。レーザダイオードの出力パワーは、可変NDフィルタを用いて100μWに減少させ、CCDおよびフォトダイオードにとって適切なパワーを供給した。レーザビームのターゲット設定と位置決めを可能にするために、サンプルは、x方向とy方向で25mmの移動範囲を持つ精密な手動並進ステージ(Thorlabs社PT1)のスタックに搭載した。デバイス内のDDEの位置設定および識別を支援するために、ファイバ結合の660nm LED906によって提供される照明を備えた、簡素な光学顕微鏡を構築した。635nmレーザダイオード902の光学径路は、
図9の赤色の線で示され、一方、660nmLED906の照明径路は、
図9の紫色の破線で示される。フルカラーCCDカメラ908(Thorlabs社DCC1240C)を使用して、デバイスの拡大画像を提供し、正しい位置に移動できるようにした。回折パターンは、i)カメラレンズを取り付けたフルカラーCCD912(Thorlabs社DCU224C)を使用して、スクリーン910の画像を撮影すること、または、ii)フォトダイオード914(Thorlabs社PDA36A-EC)を使用して、回折強度を直接に記録すること、のいずれかによって記録できた。MATLABスクリプトは、電圧スイープを実行し、DOEから回折データを取得する実験プロセスを自動化するために作成した。任意のファンクションジェネレータ916(Tektronix社AFG 3021)は、DOEにAC駆動電圧を供給するように制御し、データは、スクリーン910に焦点を合わせたCCD912またはフォトダイオード914のいずれかによって記録した。後者の方法では、各回折次数ごとに電圧スイープを繰り返し、各測定間でフォトダイオード914を再調整した。MATLABスクリプトは、.NETライブラリを介して、CCDカメラ912とインタフェース接続し、一方、フォトダイオード914は、デジタルオシロスコープ(Tektronix社TDS2024C)に接続して、SCPIコマンドを介して読み取られ、フォトダイオード914からの電圧信号を返した。
【0086】
上述した液晶デバイス500~800は、1つのデバイス内に複数の回折構造または回折光学素子(DOE)を書き込むことにより、デバイスの機能性および実用性がどのように増加させるかを示している。デバイス500~800は、従来の液晶切り替え可能回折光学系のように、単純にオンとオフ(即ち、回折パターンを生成するか、回折パターンを生成しないか)を切り替えるのではなく、むしろ複数の異なる回折状態の間で切り替え可能である。上述したデバイス500~800はそれぞれ、異なる電圧で書き込まれた2つのDOEを備えるが、3つ以上の回折構造またはDOEが、異なる書き込み電圧でデバイス内に書き込みできることは理解されよう。この増加した機能性は、切り替え可能なSLMによって通常必要とされる複雑なバックプレーン電子回路ではなく、デバイスに印加される電圧を増加または減少させることによって、回折状態間で切り替える簡単な制御によっても提供できる。2つ以上のポリマー構造(同じまたは異なる選択されたロックイン液晶状態を有する)からの空間位相変調寄与を組み合わせた中間状態も達成できる。さらに、各DOEのポリマー構造をデバイス内の液晶組成物の厚さの異なる深さに書き込むことによって、デバイスのフットプリント(実装面積)を増加させることなく、その増加した機能性を提供できる。回折構造は、デバイスの厚さを通って延びる方向に、互いに少なくとも部分的に空間的に重なり合ってもよい。
【0087】
上述した切り替え可能なデバイス500~800の他の利点が、複数の動作モードをサポートできる点である。H-PDLC技術を含む、多くの以前に報告された液晶回折格子では、製造されたデバイスはデフォルトで(即ち、電圧が印加されていない状態で)光学的にアクティブであるため、デバイスをオフに切り替えるにはある電圧が必要になる。これは、従来モード動作として知られている。この制限は、H-PDLCデバイスがオフ状態で電力を消費することを意味し、これは、電力消費が重要な設計パラメータである多くのアプリケーションにとって望ましくない特性となることがある。これに対して上述した切り替え可能なデバイスでは、製造時にポリマー構造を0Vで書き込むことによって、逆転モードで動作し、印加電圧なしで光学的に不活性になるように回折構造を設計できる。さらに、上述したデバイスは、フレデリック閾値を超える印加電圧においてポリマー構造を製造することによって、従来モード(デフォルトで0Vで回折が生成される)で動作するように設計された回折構造も含むことがある。
【0088】
ここで説明する液晶デバイスの潜在的な用途は、3D距離センシングおよび/または深度マッピングを含み、回折格子を使用して構造化光照明パターンを作成する。Apple社のFace IDシステムやMicrosoft社のKinectなどの従来の深度マッピング技術は、場面を照射するために固定のドットグリッドを生成する。個々の指の動きや顔表情の微妙な変化を処理するために必要な高分解能の深度センシングのために、数千の赤外線ドットの照射グリッドが対象場面に投写され、カメラおよび専用ASICによって処理される。上述した液晶デバイスは、ある場面に2つの異なる照射パターンを投写できる切り替え可能なドットプロジェクタとして採用できる。3D深度マッピング技術を使用する多くのアプリケーション(ヘッドマウントディスプレイを含む)は、大幅な小型化を必要とし、厳しい消費電力要件を有するため、複数の光学機能を1つの切り替え可能デバイスに組み合せることが好都合になる場合がある。
【0089】
また、上述した液晶デバイスは、高度なアプリケーションにおいてホログラフィーの使用について大きな可能性がある。スタック式またはカスケード式のCGHは、多重化情報表示、カラー画像、多波長光相互接続を含むアプリケーション用に使用されている。さらに、スタック式CGHは、従来の単層CGHに比べて画像分解能および回折効率を改善するために採用される。本開示の液晶デバイスは、印加電圧を調整することによって容易に制御可能な単一デバイス内でこうした利点を提供できる。
【0090】
上述した液晶デバイスの他の可能性ある用途は、収差補正であり、均一に印加された電圧を用いて異なる位相プロファイル間の切り替えにより、例えば、従来のSLMにおいて画素を駆動するのに必要な複雑なアクティブマトリクスバックプレーン電子回路に比べて、こうしたデバイスの動作を著しく簡素化する。液晶デバイスは、光学デバイス(例えば、レンズ、顕微鏡など)に組み込んだり、または光学デバイスと併せて使用したりでき、これらの光学デバイスに収差補正を提供できる。液晶デバイス内の各回折素子は、異なる収差モードに対処するように構成でき、必要に応じて印加電圧を制御することによって、選択的にアクティブ化および/または非アクティブ化できる。
【0091】
図10Aは、他の液晶デバイス1000の概略図を示す。液晶デバイス1000は、上述したデバイス500~800と類似しており、同様の参照番号は同様の機能を示す。デバイス1000は、複数のポリマー構造1012a~1012dを備える。各ポリマー構造1012a~1012dは、基板1005a,1005bの間に配置された液晶層の厚さにおいて異なる深さに設けられる。各ポリマー構造1012a~1012dは、代替として、液晶層内の別個または異なるサブ層内に形成され、またはサブ層を含むと考えてもよい。図示の実施形態では、複数のポリマー構造1012a~1012dは、変化する直径および厚さの複数の積層されたプレートまたはディスク、および/または、異なる高さまたは厚さをそれぞれ有する同心リングの配列(
図10Bの平面図で示す)を共に形成するものと考えることもできる。しかしながら、それは必須ではなく、ポリマー構造の他の配列も使用できる。図示の実施形態では、ポリマー構造1012aは、第1基板1005aに連結され、ポリマー構造1012dは、第2基板1005bに連結される。ポリマー構造1012bは、ポリマー構造1012a,1012cに連結され、ポリマー構造1012cは、ポリマー構造1012b,1012dに連結される。
【0092】
しかしながら、デバイス1000において、ポリマー構造1012a~1012d内の液晶分子によって共有される共通ダイレクタ配向によって示されるように、ポリマー構造1012a~1012dの各々は、同じ電圧で書き込まれる(上述したデバイス500~800の場合のように異なる電圧ではない)。図示の実施形態では、ポリマー構造1012a~1012dの各々は、0Vで書き込まれるが、代替として、ポリマー構造1012a~1012dは、任意の適切な電圧で書き込まれてもよい。
【0093】
印加電圧を変化させることによって様々なアクティブ状態の間を切り替えるのではなく、デバイス1000は、デバイス1000内の様々なエリアにおいて可変位相変化を提供するように構成される。デバイス1000を横切って電圧が印加された場合、未重合液晶組成物内の液晶分子は印加電圧に応じて再配向する。図示の実施形態では、ポリマー構造1012a~1012dの配列により、デバイス1000内の各横方向または半径方向の位置(例えば、
図10Aに示すx方向)において、重合された液晶組成物の異なる厚さを有効に提供する。各位置における重合された液晶組成物の様々な厚さは、デバイス100に入射する光の位相を各位置において異なる量だけ変調するように構成される。さらに、デバイス1000を横切って印加される電圧を調整(例えば、増加または減少)することによって、位相変調の大きさが調整(例えば、増加または減少)できる。しかし、各位置における重合された液晶組成物と未重合液晶組成物の厚さの比率に起因して、異なる位置の各々の間の位相変調の相対量は一定のままになる場合がある。従って、ポリマー構造1012a~1012dは、互いに連携して動作し、デバイスに入射する光の空間位相変調を調整または制御できる。ポリマー構造1012a~1012dは、回折光学素子を共に形成できる。
【0094】
デバイス1000は、1つ以上の特定の収差モード、例えば、1つ以上のゼルニケ(Zernike)モードを補正するために使用できる。上述のように、ポリマー構造を製造する際の柔軟性により、デバイス1000は、特定の光学システムに固有の1つ以上の収差モードを補正するように製造することが可能になる。
【0095】
電極1015a,1015bの一方または両方は、代替として、複数の個別にアドレス指定可能な電極エレメントを含んでもよい。例えば、電極1015a,1015bの一方または両方は、単一の平面電極ではなく、パターン化された電極または電極アレイを備えてもよい。例えば、電極1015a,1015bの一方または両方は、上述したポリマー構造1012a~1012dによって形成された同心リングに実質的に対応する同心リングのアレイでもよく、またはそれを含んでもよい。しかし、代替として、任意の適切な電極アレイを使用してもよい。アレイまたはパターン化された電極の各要素(例えば、リングなど)は、別個にまたは個別にアドレス指定可能でもよい。これによりデバイス1000の一部だけを横切って電圧を印加することが可能となり、デバイス1000内の各半径方向または横方向の位置における位相変調の大きさのより微細な空間制御が可能になる。電極アレイは、任意の適切な形状、配列、および/または、サイズを有する要素でもよく、またはそれらを含んでもよく、ポリマー構造の形状、配列、および/またはサイズを実質的に補完してもよく、またはそれらに対応してもよい。
【0096】
代替として、デバイス1000は、2つの複数のポリマー構造を備えてもよい。例えば、第1の複数のポリマー構造1012a~1012dは、第1電圧(例えば、上述のように0V)で書き込んでもよい。第2の複数のポリマー構造は、デバイス500~800に関して上述したものと実質的に同様に、第1電圧とは異なる第2電圧で書き込んでもよい。第1の複数のポリマー構造は、液晶層の厚さにおいて第1の複数の異なる深さに書き込まれてもよい。第2の複数のポリマー構造は、第2の複数の異なる深さで書き込まれてもよいが、これは必須ではない。第2の複数の異なる深さは、第1の複数の異なる深さと異なってもよい。第2の複数のポリマー構造は、第1の複数のポリマー構造によって対処されるものとは異なる1つ以上の特定の収差モードを補正するように機能できる。複数のポリマー構造のうちの1つの書き込み電圧に等しい電圧を、デバイス1000を横切って印加することによって、上述したもの実質的に同様に、該複数のポリマー構造を光学的に非アクティブにできる。これによりデバイス1000は、デバイス500~800について上述したものと実質的に同様に、様々なアクティブ状態(例えば、収差補正)の間で切り替え可能にできる。
【0097】
上述した液晶デバイスの他の可能性のある用途は、拡張現実(AR)および/または仮想現実(VR)アプリケーション、ビームステアリングおよびビームシェイピング、分光法などを含む。
【0098】
ここで説明する多層DOEデバイスは、簡単な単一画素液晶デバイスにおいて複数の様々な位相パターンの切り替えを可能にする。この機能性は、完全にプログラム可能なSLMデバイスと、固定された回折光学素子との間に存在する重要な隙間を埋めることができ、幅広いアプリケーションで採用可能である。
【0099】
本開示の読解により、別の変形および変更が当業者にとって明らかになるであろう。こうした変形および変更は、液晶デバイスの分野で既に知られている同等および別の構成を含んでもよく、これらは、ここで既に説明した構成の代わりに、またはそれに加えて使用できる。
【0100】
添付の請求項は、特定の構成の組合せに関するものであるが、本発明の開示の範囲は、明示的または暗黙的にここに開示された任意の新規な構成または任意の新規な構成の組合せ、またはその一般化も含むことを理解すべきであり、それがいずれかの請求項で現在請求されているものと同じ発明に関連するかどうか、そして本発明と同じ技術的課題の一部または全てを軽減するかどうかに関わらない。
【0101】
別個の実施形態の文脈で説明されている構成は、単一の実施形態において組合せで提供されてもよい。逆に、簡潔性のために、単一の実施形態の文脈で説明されている種々の構成は、別々に、または任意の適切なサブ組合せで提供されてもよい。本出願人は、本願または本願から派生した更なる出願の審査の際に、新しい請求項がこうした構成および/またはこうした構成の組合せに編成できることをここに通知する。
【0102】
完全性のために、用語「備える、含む(comprising)」は、他の要素またはステップを排除するものではなく、用語"a"または"an"は、複数を排除するものではなく、単一のプロセッサまたは他のユニットが、請求項に記載されている複数の手段の機能を履行でき、請求項内の参照符号は、請求項の範囲を制限するものとして解釈すべきでないことも明言される。
【国際調査報告】