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特表2024-539400紡績リングまたは加撚リングならびに付属するリング/トラベラおよびリング/トラベラシステム
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  • 特表-紡績リングまたは加撚リングならびに付属するリング/トラベラおよびリング/トラベラシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】紡績リングまたは加撚リングならびに付属するリング/トラベラおよびリング/トラベラシステム
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/60 20060101AFI20241018BHJP
   D01H 1/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
D01H7/60 B
D01H7/60 C
D01H1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526854
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2022080288
(87)【国際公開番号】W WO2023073212
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】70475/2021
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524166363
【氏名又は名称】ブレッカー アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Braecker AG
【住所又は居所原語表記】Obermattstrasse 65, 8330 Pfaeffikon-Zuerich, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴァディム ヴェルロツキー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ディッペル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ディアク ゲルケン
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA02
4L056BD01
4L056BD02
4L056BD48
4L056BD54
4L056FA01
(57)【要約】
本発明は、リング紡績機またはリング加撚機用の紡績リング(8)であって、ウェブ(15)とリングフランジ(14)とを備え、このリングフランジ(14)は、少なくとも部分的に、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っている、紡績リング(8)に関する。さらに、本発明は、HSS鋼から成るリングトラベラを備えるリング/トラベラシステムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング紡績機またはリング加撚機用の紡績リング(8)であって、ウェブ(15)とリングフランジ(14)とを備える、紡績リング(8)において、前記リングフランジ(14)は、少なくとも部分的に、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っていることを特徴とする、紡績リング(8)。
【請求項2】
前記リングフランジ(14)全体が、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っていることを特徴とする、請求項1記載の紡績リング(8)。
【請求項3】
前記紡績リング(8)は、前記ウェブ(15)の、前記リングフランジ(14)と反対の側に基礎フランジ(17)が設けられていることを特徴とする、請求項1または2記載の紡績リング(8)。
【請求項4】
前記タングステン焼結材料はW97Ni2Fe1であることを特徴とする、請求項1から3までの少なくとも1項記載の紡績リング(8)。
【請求項5】
前記基礎フランジ(17)および/または前記ウェブ(15)は銅または銅合金から成っていることを特徴とする、請求項1から4までの少なくとも1項記載の紡績リング(8)。
【請求項6】
前記銅合金はアルミニウム青銅、好適にはニッケルアルミニウム青銅CuAl10Ni5Fe4であることを特徴とする、請求項5記載の紡績リング(8)。
【請求項7】
前記基礎フランジ(17)および/または前記ウェブ(15)は鋼から成っていることを特徴とする、請求項1から4までの少なくとも1項記載の紡績リング(8)。
【請求項8】
前記紡績リング(8)の、前記タングステン焼結材料から製作された部分は、前記リングフランジ(14)または前記ウェブ(15)にろう接プロセスによって被着されていることを特徴とする、請求項1から7までの少なくとも1項記載の紡績リング(8)。
【請求項9】
前記紡績リング(8)は、全体として、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っていることを特徴とする、請求項1から7までの少なくとも1項記載の紡績リング(8)。
【請求項10】
リング/トラベラシステムにおいて、請求項1から9までのいずれか1項記載の紡績リング(8)と、高速度鋼(HSS)製の線材から成るリングトラベラ(10)とが設けられており、該リングトラベラ(10)は60HRCの最小硬さを有することを特徴とする、リング/トラベラシステム。
【請求項11】
前記高速度鋼は、材料名HS6・5-2Cを有する、DIN EN ISO 4957(2018-11)に準ずる材料1.3343に相当していることを特徴とする、請求項10記載のリング/トラベラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング紡績機またはリング加撚機用のリングおよびリング/トラベラシステムに関する。リングは、紡績リングとして、いわゆるリング紡績機に使用されるか、または加撚リングとして、いわゆる加撚機に使用される。結果として、紡績リングおよび加撚リングは「紡績リング」という概念にまとめられる。この紡績リングは、被せられたリングトラベラと協働する。リングトラベラは、このリングトラベラにより保持された糸によって連れ回されて、紡績リングの上側、いわゆるリングフランジに対して高い速度で回転する。これによって、リングトラベラと紡績リングのリングフランジとの間の接触面に高い負荷がかけられる。紡績リングを機械内に固定するために、リングフランジに続くウェブが設けられている。このウェブは基礎フランジで終端していてもよい。リングフランジと基礎フランジとは、または基礎フランジがない場合にはウェブは、多様な構成で製作され、それぞれ形態および幾何学形状に関して、相応の機械の要件ならびに紡績リングを固定する規定の構造の要件に合わせて製作される。紡績リングは、機械内で、いわゆるリングフレームに保持される。
【0002】
運転中には、紡績リングとリングトラベラとの間の摩擦によって、接触面ひいては糸も加熱される。紡績リングに対するリングトラベラの迅速な周回によって、リング/トラベラシステムに運転上の限界を定めてしまう400℃超の温度が局所的に発生することがある。この機械的な状況に基づき、今日一般的なリング直径では、リングトラベラまたは糸に損傷を与えないように、リングトラベラの回転数が毎分30,000回転を上回ることはない。紡績リングおよびリングトラベラの構造の改良によって、この速度はますます高められており、今日では、確実な紡績の最高値が、木綿の場合には約42m/sに達しており、ポリエステルの場合には約32m/sに達している。材料の分野における開発は、紡績リングおよびリングトラベラの基材にはほとんど影響を与えておらず、両者の表面に影響を与えている。紡績リングおよびリングトラベラ用の基材の開発は、19世紀のリング紡績機の発明以来ほとんど考慮されていない。相変わらず、両方の構成要素用の慣用の材料は、焼入れされた炭素鋼である。紡績リングおよびリングトラベラ用の多種のコーティングが開発されている。これらのコーティングは、すでに構成要素の寿命の大幅な延長をもたらしている。それにもかかわらず、リングトラベラの速度の大幅な増加はコーティングによって達成できていない。少なくとも接触面の領域における特殊なコーティングによって、滑り特性が改善されていて、ひいては、確かに寿命が延ばされてはいるが、リングトラベラの回転数の増加はほとんど達成されていない。
【0003】
先行技術に基づき、紡績リングまたはリングトラベラのコーティングの種々異なる構成が公知である。例えば、欧州特許出願公開第1066419号明細書には、リン酸塩でコーティングされたトラベラが開示されている。これによって、リングに対するリングトラベラのより少ない摩耗が達成される。欧州特許出願公開第3052684号明細書には、窒化ホウ素が取り込まれたクロムコーティングを備えた紡績リングが開示されている。これによって、同じくリングトラベラの摩耗がより少なくなる。米国特許出願公開第200020162315号明細書には、窒化されたトラベラが開示されている。窒化によって、より高い耐摩耗性と滑り特性の改善とが達成される。米国特許第4677817号明細書には、摩耗を減じかつ寿命を延ばすために、セラミックでコーティングされたリングトラベラが開示されている。さらに、米国特許第2,970,425号明細書には、ニッケルでコーティングされた紡績リングが開示されている。これによって、均一な表面が得られ、ひいては、摩擦係数を減じることができる。
【0004】
一方の構成要素の、先行技術に示されているような摩耗低減は比較的簡単に達成することができ、この構成要素(例えば紡績リング)は、可能な限り硬質の層でコーティングされなければならないかまたは極端に硬質の材料から製作されなければならない。この場合には、これによって、他方の構成要素(例えばリングトラベラ)が尚更より迅速に摩耗してしまうという欠点がある。この場合、摩擦箇所もしくは接触面の温度が悪影響を及ぼす。この温度は、紡績リングよりもリングトラベラの方が高く、ひいては、最も硬質のコーティングにもかかわらず、リングトラベラの摩耗を加速させてしまう。
【0005】
したがって、本発明の課題は、リングトラベラの今日の速度でのより長い寿命と、リングトラベラの速度の達成すべき上限の向上とを可能にする紡績リングを提供することである。
【0006】
また、本発明の課題は、50m/s超(木綿の場合)のリングトラベラの速度限界の向上を可能にするリング/トラベラシステムを提供することでもある。
【0007】
この課題は、請求項の特徴を有する紡績リングおよびリング/トラベラシステムによって解決される。
【0008】
課題を解決するために、リング紡績機またはリング加撚機用の紡績リングであって、ウェブとリングフランジとを備え、このリングフランジが、少なくとも部分的に、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っている、紡績リングが提案される。リングフランジをタングステン表面により部分的に形成することによって、先行技術に基づき公知の、例えば鋼、クロム、炭化クロム、ニッケルリンおよび別種のものから成る表面に比べて、一連の有利な特性が得られる。焼結材料を形成するタングステン粒は約450HVの硬さを有している。これによって、より硬いリングトラベラにおけるアブレシブ摩耗が阻止されるが、硬さは十分に高く、これによって、それ自体アブレシブ摩耗に良好に耐えることができる。今日慣用の紡績リング表面は、最大1000HVまでの硬さに達している。このことは、リングトラベラの高い摩耗に繋がる。さらに、タングステン粒は約180W/mKの高い熱伝導率を有している。これは、慣用の材料およびコーティングに比べて、ほぼ2倍に等しい。高められた熱伝導率は、紡績リング表面の改善された熱導出ひいては冷却の向上に繋がる。また、タングステン粒が約3400℃の溶融温度を有しているのに対して、従来の材料における溶融温度は約1900℃である。高い溶融温度は微小溶接の傾向を低下させる。これによって、滑り表面の破壊を少なくとも遅らせることができる。
【0009】
タングステン焼結材料が乾燥摩擦に曝されると、酸化タングステンが形成される。この酸化タングステンは粉末状かつ軟質であると共に容易に溶融可能であり、基材に対して弱い付着力を有している。これに基づき、滑り特性の改善に寄与する自己潤滑効果が生じる。これに対して、コーティングされた従来の紡績リングでは、乾燥摩擦時に自己潤滑効果は生じない。なぜならば、例えばクロムでコーティングされた紡績リングでは、形成される酸化クロムが固形かつ硬質であり、強く付着している連続的な被膜をクロム表面に形成するからである。
【0010】
こういった状況下では、タングステン焼結材料製の紡績リングの使用が、公知のあらゆるリングトラベラの摩耗にプラスの影響を与える。達成することができる改善の程度は、種々異なるリングトラベラ表面において、それぞれ異なっている。ニッケルめっきされたリングトラベラの使用では、最も少ない改善を確認することができる。炭素鋼から成るコーティングされていない鋼製リングトラベラ、窒化されたリングトラベラおよびCVDコーティングされたリングトラベラ(CrC、TiCコーティング)では、摩耗特性の改善に加え、10~15%超の速度利点を得ることができた。
【0011】
好ましくは、リングフランジ全体が、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っている。リングフランジへの限定的な挿入に代わるリングフランジ全体の構成によって、紡績リングの製作が簡単になる。
【0012】
代替的な実施形態では、紡績リングが、ウェブの、リングフランジと反対の側に基礎フランジを備える。2つのリングフランジを備えた紡績リングに至るまで、種々異なる構造形態の紡績リングが存在する。ウェブを備えた紡績リングの構成またはウェブと基礎フランジとを備えた紡績リングの構成は、紡績機または紡績加撚機内への紡績リングの固定の構造次第である。
【0013】
好ましくは、タングステン焼結材料がW97Ni2Feである。タングステン焼結合金として、基本的には、入手可能なあらゆるW-Ni-Fe焼結材料が使用されてもよい。しかしながら、18.5g/cmの密度を有する材料W97Ni2Fe1を使用すると、最良の結果を得ることができることが判った。
【0014】
さらに、基礎フランジおよび/またはウェブが銅または銅合金から成っていると有利である。銅または銅合金は、紡績リングとして使用した場合、高い熱伝導率と、動的な運転に基づき良好なフレキシビリティと、相応の形状安定性とをもたらす。さらに、これによって、紡績リングの、タングステン焼結材料から製作された部分を、好ましくは、リングフランジまたはウェブにろう接プロセスによって被着することもできる。
【0015】
特定の用途では、基礎フランジおよび/またはウェブがアルミニウム青銅、好適にはニッケルアルミニウム青銅(CuAl10Ni5Fe4)から成っていると有利である場合がある。このような本発明による実施形態に相応する紡績リングは、特に廉価に製作することができると同時に、高い耐食性および機械的な能力と同時に十分に高い熱伝導率の点で優れている。また、このような材料ペアリングは、紡績リングに対するリングトラベラの視覚的な認識可能性も高める。このことは、一般的に、銅または銅合金製の基礎フランジおよび/またはウェブを備えた紡績リングの本発明による実施形態に当てはまる。このような高められた視覚的な認識可能性によって、検査および場合によりリングトラベラの交換も簡単になる。
【0016】
特定の用途では、基礎フランジおよび/またはウェブが鋼から成っていると有利である場合がある。良熱伝導性を有する紡績リングは、基礎フランジおよび/またはウェブが炭素鋼、特に100Cr6から成っている場合に得ることができる。また、本発明に係る紡績リングの規定の実施形態の基礎フランジおよび/またはウェブへのフェライト系特殊鋼(1.2083)または二相系特殊鋼(1.1462)の使用も有利である。
【0017】
好ましくは、紡績リングが、全体として、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成っている。これによって、複数の部分から成る紡績リングを製作する必要性および部分同士を、例えばろう接プロセスによって互いに結合する必要性がなくなる。タングステン焼結材料からの紡績リング全体の製作では、従来の鋼製紡績リングとタングステン焼結合金製の紡績リングとの間に原理的な違いはない。なぜならば、両者とも、素材から旋削加工されるかもしくは切削加工法によって製作されるからである。複数の部分から組み合わされる紡績リングの事例でも、完成した紡績リングは、予めろう接され合った管状の素材から製作される。しかしながら、鋼製の紡績リングと異なり、タングステン製紡績リングは旋削加工直後に使用可能状態にあり、通常の後続の製作プロセス、例えば焼入れ、擦り磨き、艶出しおよびクロムめっきが不要となる。
【0018】
さらに、リング紡績機またはリング加撚機用のリング/トラベラシステムであって、前述した記載による紡績リングと、高速度鋼(HSS)製の線材から成るリングトラベラとが設けられており、このリングトラベラが60HRCの最小硬さを有する、リング/トラベラシステムが提案される。リングトラベラの速度の最大の増加を達成するためには、紡績リングの摩耗を高めることなく、リングトラベラの摩耗を減じる必要があるかまたはその逆も然りである。このことは、紡績リングの接触面およびリングフランジの接触面ひいては両方の摩擦表面をペアと見なし、最適化しなければならないことを意味している。この最適化には、構成要素の表面硬さの適合だけでなく、別の観点、例えば摩擦箇所からの熱導出の改善または摩擦時に進んでしまうことがある化学的なプロセス(例えば酸化)も含まれる。最適化により達成することができるリングトラベラの回転数もしくは速度の増加は、紡績機の生産性の相応の向上に繋がる。
【0019】
HSS製リングトラベラは、線材の形態で存在する既知のあらゆる高速度鋼から製作されてもよい。リングトラベラ製作は、炭素鋼からの従来のリングトラベラ製作に類似しているものの、焼鈍し、焼入れおよび焼戻しのプロセスが別の条件で行われるといった違いがある。各々のHSS材料には、材料固有の既知の焼入れパラメータが適用されなければならない。得られる基本硬さは、使用される高速度鋼に応じて、850~1000HVの範囲内にある。HSS製リングトラベラは基本的にコーティングを必要とせず、擦り磨きおよび艶出し後に使用可能状態にある。
【0020】
炭素鋼製トラベラに対するHSS製トラベラの利点は、主として、著しく高い高温硬さによって得られる。焼入れされた炭素鋼は、約300℃以降かなり迅速に軟化するのに対して、焼入れされた高速度鋼は、約550℃まで、その当初の高い硬さを維持している。紡績運転時には、通常、リングトラベラ摩擦面における温度が300℃を上回る。したがって、HSS鋼によって、より高い速度に対するリングトラベラの使用可能性が拡張されている。しかしながら、300℃未満の温度範囲内でも、HSS鋼は、炭素鋼よりも著しく高い硬さおよび強度を提供している。高速度鋼は最大の硬さにおいて炭素鋼ほど脆性ではないため、HSS製リングトラベラは、室温でも慣用のリングトラベラよりも200HV超の硬さを有することができる。炭素鋼製のリングトラベラは700HVよりも硬くてはならない。なぜならば、さもないと、炭素鋼製のリングトラベラが紡績リングへの被せ時に壊れてしまうからである。これに対して、HSS製リングトラベラは、紡績リングへの被せ時に約950HVの硬さ以降に初めて壊れる。
【0021】
従来の紡績リングと比較したタングステン製紡績リング同様、HSS製リングトラベラは、実際、考えられるあらゆる紡績リングと組み合わせて使用した場合、慣用のあらゆる炭素鋼製リングトラベラを凌駕している。しかしながら、ここでも、最大の効果はタングステン製リングでしか得られなかった。個々の事例においてどの程度の増速が達成されたかを以下の使用例によって示す。
【0022】
好ましくは、高速度鋼は、材料名HS6・5-2Cを有する、DIN EN ISO 4957(2018-11)に準ずる材料1.3343に相当している。この材料の使用は特に有利であると判った。
【0023】
タングステン焼結材料製の紡績リングと高速度鋼製のリングトラベラ(HSS製リングトラベラ)との組合せでは、20%超のリングトラベラの増速を達成することができた。
【0024】
少なくとも部分的にタングステン焼結材料から製作されたリングフランジを備えた紡績リング(タングステン製紡績リング)と、慣用のリングトラベラとの組合せの個々の事例においてどの程度の増速を達成することができたかを以下の使用例によって示し、列挙した名称は本出願人の製品カタログに基づくものであり、市販のリングトラベラに相当している。
【0025】
一連の試験の開始に先だって、全ての紡績リングの相応のリングトラベラが低い速度(23~34m/s)で数時間すり合わせ運転された。一連の試験は複数回の同一の試験から成っており、この場合、後続の各試験は一連の試験の範囲内で幾らか高い速度(リングトラベラ回転数)で実施された。速度およびリングトラベラごとの1回の試験の実施時間は1時間であった(各試験では新たなリングトラベラが使用された)。摩耗度を検出するために、試験前および試験後に全てのリングトラベラが秤量された(約0.01mgの測定精度)。一連の試験中、速度が1回のステップで0.6m/s段階的に高められた。比較の基準点として、0.2mgのリングトラベラ摩耗の規定の尺度が定められており、0.2mgよりも大きな摩耗を有するリングトラベラは摩耗ありと見なされた。一連のうちの最初のリングトラベラが60分間の試験で摩耗したときのリングトラベラ速度において、最大限可能な速度限界が設定された。全ての試験において、紡績リングの測定可能な摩耗は確認されなかった。全ての使用例は、SER.MA.TESの16スピンドル紡績機を用いたラボテストに該当している。全てのテストにおいて、新規の構成要素(タングステン製紡績リングおよび/またはHSS製リングトラベラ)が、先行技術に基づく幾何学的に同一の参照構成要素と一緒に同時にテストされた。これによって、同じ条件で従来の構成要素と新規の構成要素との間の直接的な比較が実現された。組み合わされたタングステン製紡績リングは、銅製のウェブにろう接された焼結材料W97Ni2Fe1製のリングフランジから成っていた。HSS製リングトラベラは高速度鋼1.3343(M2)から製作された。最大限到達可能なリングトラベラ回転数は、同じ運転時間の範囲内で、比較すべき紡績リング/リングトラベラペアリングにおける参照リングトラベラ回転数と同じ摩耗がリングトラベラに生じる回転数に相当している。
【0026】
例1 炭素鋼製のコーティングされていないリングトラベラとの使用に際して、タングステン製紡績リングが、クロムめっきされた鋼製紡績リングと比較された。
紡績リングのタイプ:Tフランジリングφ47×38
リングトラベラのタイプ:C1ELMudrISO35.5mg
紡績パラメータ:木綿、Ne30、撚り=1000、緻密でない
鋼製紡績リングにおける参照リングトラベラ回転数:20,000回転/分(39.8m/s)
タングステン製紡績リングにおける最大リングトラベラ回転数:23,300回転/分(46.3m/s)
この結果、16.3%の増速ひいては生産向上が達成される。
【0027】
例2 炭素鋼製の窒化されたリングトラベラとの使用に際して、タングステン製紡績リングが、クロムめっきされた鋼製紡績リングと比較された。
紡績リングのタイプ:Tフランジリングφ47×38
リングトラベラのタイプ:C1SELudrISO31.5mg
紡績パラメータ:木綿、Ne30、撚り=922、緻密
鋼製紡績リングにおける参照リングトラベラ回転数:22,000回転/分(43.8m/s)
タングステン製紡績リングにおける最大リングトラベラ回転数:25,300回転/分(50.3m/s)
この結果、14.9%の増速ひいては生産向上が達成される。
【0028】
例3 HSS製リングトラベラを備えたタングステン製紡績リングの使用が、コーティングされていない炭素鋼製リングトラベラを備えたクロムめっきされた鋼製紡績リングの使用と比較された。
紡績リングのタイプ:Tフランジリングφ47×38
リングトラベラのタイプ:C1ELudrISO18.0mg
紡績パラメータ:木綿、Ne46、撚り=1000、緻密でない
鋼製紡績リングにおける参照リングトラベラ回転数:22,000回転/分(43.8m/s)
タングステン製紡績リングに被せられたHSS製リングトラベラにおける最大リングトラベラ回転数:27,000回転/分(53.7m/s)
この結果、22.6%の増速ひいては生産向上が達成される。
【0029】
例4 HSS製リングトラベラを備えたタングステン製紡績リングの使用が、コーティングされていない炭素鋼製リングトラベラを備えたクロムめっきされた鋼製紡績リングの使用と比較された。
紡績リングのタイプ:Tフランジリングφ47×38
リングトラベラのタイプ:C1MMudrISO63.0mg
紡績パラメータ:木綿、Ne20、撚り=705、緻密でない
参照リングトラベラ回転数:14,300回転/分(28.4m/s)
タングステン製紡績リングに被せられたHSS製リングトラベラにおける最大リングトラベラ回転数:17,300回転/分(34.4m/s)
この結果、21.1%の増速ひいては生産向上が達成される。
【0030】
以下に、本発明を例示的な実施形態に基づき説明し、図面によって詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】リング紡績機の紡績ユニットの概略図である。
図2】リングトラベラを含めた紡績リングの概略図である。
図3図2に準ずる拡大図である。
図4】紡績リングの第2および第3の実施形態の概略図である。
【0032】
図1には、リング紡績機の紡績ユニットが概略図で示してある。今日のリング紡績機は、最大2,000またはそれを上回る数のこのような紡績ユニットを有している。リング紡績機では、繊維束、いわゆるスライバ1がドラフト装置2に供給される。スライバ1は、ドラフト装置2によって引き伸ばされた結果、糸3になる。図示のドラフト装置2は、通常では木綿に使用される、いわゆるエプロンドラフト装置である。先行技術に基づき、用途に応じて、多様な構造形態のドラフト装置2が公知である。糸3は、ドラフト装置2の下流側で糸ガイド4を介してリングトラベラ10に案内される。このリングトラベラ10を通過した後、糸3は撚糸ボビン5に巻き取られる。この撚糸ボビン5は駆動装置7によって回転6させられる。撚糸ボビン5のこの回転6に基づき、糸3によってリングトラベラ10が連れ回される。これによって、糸3に撚りが加えられ、ひいては、撚糸が形成される。リングトラベラ10が紡績リング8に保持されることによって、リングトラベラ10は強制的に撚糸ボビン5を周回する。紡績リング8はリングフレーム9に不動に保持されている。
【0033】
図2には、リングトラベラ10が被せられた紡績リング8が概略図で示してある。例示した紡績リング8は、リングフランジ14と、このリングフランジ14に続くウェブ15とから成っている。このウェブ15は、紡績リング8を紡績機に固定するために用いられる。リングトラベラ10はリングフランジ14に被せられていて、このリングフランジ14を部分的に取り囲んでいる。この場合、リングトラベラ10はその形状に関して、リングフランジ14からのリングトラベラ10の落下が起こることはないが、リングフランジ14に対するリングトラベラ10の可能な限り大きな運動自由度は得られる程度にリングフランジ14を取り囲んで形成されている。先行技術に基づき、リングフランジ14およびリングトラベラ10の数多くの形状および構成が公知である。糸3によりリングトラベラ10に伝達される回転運動によって、リングトラベラ10がトラベラ回転11の方向で紡績リング8を周回する。この周回によって、やはり、リングトラベラ10に影響を与える遠心力12が発生する。この遠心力12は、リングトラベラ10を紡績リング8もしくはリングフランジ14の内面に押し付ける。
【0034】
図3には、この状況が拡大して示してある。リングトラベラ10は紡績リング8に沿って滑動し、このとき、接触面13が生じる。少なくともこの接触面13の領域では、リングトラベラ10が紡績リング8に対して良好な滑り特性を有していることを気にかける必要がある。少なくとも接触面13の領域でのリングフランジ14の相応の材料選択によって、紡績リング8とリングトラベラ10との間の滑りペアリングが促進される。リングフランジ14は、接触面13の領域に、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から成るインサート16を備えて図示してある。このインサートは、基材、例えば銅に対してろう接工程によってリングフランジに結合されている。
【0035】
図4には、本発明に係る紡績リング8の第2および第3の実施形態の概略図が示してある。図面は二分割されており、左側の構成にも、右側の構成にも、それぞれリングフランジ14と、ウェブ15と、このウェブ15の、リングフランジ14と反対側に配置された基礎フランジ17とを備えた紡績リング8が示してある。基礎フランジ17は、紡績リング8を紡績機に固定するために用いられる。右側の構成では、リングフランジ14が、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から製作されており、紡績リング8の残りの部分、つまり、ウェブ15と基礎フランジ17とは、標準材料、例えば銅、銅合金、鋼または軽金属から製作されている。リングフランジ14は、ろう接または溶接工程によってウェブ15に結合されている。これと異なり、左側の構成では、紡績リング8全体が、少なくとも90%のタングステンを含むタングステン焼結材料から製作されている。
【0036】
本発明は、図説した実施例に限定されるものではない。特許請求の範囲内での変更が、種々異なる実施例にて図説してある場合でも、特徴の組合せと同様に可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 スライバ
2 ドラフト装置
3 糸
4 糸ガイド
5 撚糸ボビン
6 回転
7 駆動装置
8 紡績リング
9 リングレール
10 リングトラベラ
11 トラベラ回転
12 遠心力
13 接触面
14 リングフランジ
15 ウェブ
16 インサート
17 基礎フランジ
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】